‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(Free-flap Advanced NPT)の手術成績

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1700あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(00)19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):700704,2009cはじめにAdvancednon-penetratingtrabeculectomy(ad-NPT)は,トラベクレクトミーと比較して重篤な合併症が少なく,比較的行いやすい術式であるが,術後の眼圧コントロールはトラベクレクトミーと比較するとやや劣るとの報告15)が多い.以前,筆者らはad-NPTの効果・安全性を維持しつつ,より良好な術後濾過胞の形成を目指して,強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(free-apadvancedNPT)を考案し,その手術成績を報告6)した.このときは,術後の前房形成不良の危険を最小限にするため,すべて白内障との同時手術の症例を対象としたが,特に重篤な合併症などはみられなかったため,今回は単独手術も施行した.札幌医科大学眼科(以下,当科)で行ったfree-apadvancedNPTの手術成績および単独手術と同時手術の比較検討を合わせて報告する.I対象および方法1.対象対象は,緑内障手術既往を問わない原発開放隅角緑内障で,当科でfree-apadvancedNPTを行い,1カ月以上経過観察できた18例27眼とした.年齢は平均68.1±5.4(60〔別刷請求先〕田中祥恵:〒060-8543札幌市中央区南1条西16丁目札幌医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:SachieTanaka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine,S1W16,Chuo-ku,Sapporo,Hokkaido060-8543,JAPAN強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(Free-apAdvancedNPT)の手術成績田中祥恵鶴田みどり片井麻貴石川太大黒幾代大黒浩札幌医科大学医学部眼科学教室OutcomesofFree-apAdvancedNon-penetratingTrabeculectomySachieTanaka,MidoriTsuruta,MakiKatai,FutoshiIshikawa,IkuyoOhguroandHiroshiOhguroDepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversitySchoolofMedicine強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(free-apadvancedNPT)を行い,その手術成績および単独手術と同時手術の比較について検討した.対象は術後1カ月以上経過観察できた原発開放隅角緑内障18例27眼(単独手術8例10眼,白内障手術との同時手術12例17眼).年齢は平均68.1±5.4(6081)歳,術後経過観察期間は11.6±7.6(124)カ月であった.平均眼圧は術前17.0±3.2mmHgであったのに対し,術後1,6,12カ月の眼圧は13.0±3.9mmHg,13.1±2.5mmHg,13.7±3.2mmHgと有意に低下し,術後12カ月での14mmHg以下へのコントロール率は70.6%であった.単独手術と同時手術では,手術成績に有意差はみられなかった.Weevaluatedthesurgicaloutcomeafterfree-apadvancednon-penetratingtrabeculectomy(NPT)andcom-paredfree-apadvancedNPTonlywithfree-apadvancedNPTplusphacoemulsicationandintraocularlensimplantation(combinedsurgery).Free-apadvancedNPTwasperformedin18eyesof27primaryopen-angleglaucomapatients(10eyesof8patientsunderwentfree-apadvancedNPTonly,17eyesof12patientsunder-wentcombinedsurgery).Meanagewas68.1±5.4years;meanfollow-upperiodwas11.6±7.6months.intraocularpressure(IOP)at1,6and12monthspostoperativelywas13.0±3.9mmHg,13.1±2.5mmHg,and13.7±3.2mmHg,respectively,signicantlylowerthanthebaselineIOPof17.0±3.2mmHg.TheprobabilityofIOPsuccessfullyreaching14mmHgat12monthswas70.6%.TherewasnosignicantdierenceineciencyofIOPreductionbetweenthefree-apadvancedNPTonlygroupandthecombinedsurgerygroup.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):700704,2009〕Keywords:強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー,手術成績,同時手術.free-apadvancedNPT,surgicaloutcome,combinedsurgery.700(120)0910-1810/09/\100/頁/JCLS———————————————————————-Page2あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009701(121)81)歳,術後経過観察期間は11.6±7.6(124)カ月であった.そのうち単独手術は8例10眼,白内障手術との同時手術は12例17眼であった(表1).2.術式手術方法を表2に示す.強膜内方弁切除までは,従来のマイトマイシンC(MMC)併用ad-NPTと同じである.その後,従来のad-NPTでは強膜外方弁を縫合するが,free-apadvancedNPTでは,縫合せずに整復するのみとした.手術終了時に前房深度を確認し,前房形成が不良の場合は,サイドポートよりbalancedsalinesolusion(BSS)を注入して前房を形成した.3.検討項目a)全体(単独手術+同時手術),単独手術,同時手術それぞれについて,術前後の眼圧,抗緑内障薬点眼数,術後処置,合併症につき検討した.眼圧はGoldmann圧平眼圧計を用いて,術後1,3,6(以後3カ月ごと)カ月に測定した.眼圧経過の判定は,術前後の平均眼圧を対応のあるt-検定を用いて検定した.また,眼圧下降率,眼圧コントロール率についても検討した.眼圧下降率(%)は術前眼圧術後眼圧/術前眼圧×100の式を用いて算出し,眼圧コントロール率はKaplan-Meier法を用いて検討した.そのエンドポイントは,①2回連続して14mmHgを超えた最初の時点,または②アセタゾラミドの内服や追加の緑内障手術を行った時点とした.抗緑内障点眼薬数の増減の判定は,術前の平均点眼薬数に対して,術後の平均点眼薬数をWilcoxonsignedranktestを用いて検定した.b)上記a)のそれぞれの項目について,単独手術と同時手術の比較を行った.2群間の統計学的検討方法は,平均眼圧の比較には対応のないt-検定,眼圧コントロール率の比較にはlog-ranktestを用い,抗緑内障点眼薬数の減少程度の比較には分散分析,術後処置・合併症の頻度の比較にはc2検定を用いた.II結果a),b)合わせて示す.1.眼圧経過術前後の眼圧経過を表3と図1に示す.全体において術前17.0±3.2mmHgの眼圧が,術後1カ月で13.0±3.9mmHg,3カ月で13.4±3.3mmHg,6カ月で13.1±2.5mmHg,12カ月後には13.7±2.7mmHg,最終観察時には14.0±3.6mmHgと有意に低下した(p<0.05).単独手術と同時手術の比較においては,同時手術のほうが単独手術よりも術後眼圧が低い傾向を示したが,統計学的な有意差は認めなかった.2.眼圧下降率術後の眼圧下降率を表4に示す.最終観察時における眼圧下降率は,全体では17.3±17.2%,単独手術では13.7±13.1%,同時手術では19.3±19.3%であった.表1患者背景全体18例27眼単独手術8例10眼同時手術12例17眼p値病型POAGPOAGPOAG年齢(歳)68.1±5.4(6081)65.6±2.5(6167)69.6±6.1(6081)<0.05術前眼圧(mmHg)17.0±3.2(1426)18.1±4.4(1426)16.2±2.0(1422)術後観察期間(カ月)11.6±7.6(124)10.6±6.5(121)12.1±8.4(124)手術既往*症例の重複含むLEC2眼PEA-IOL+VCS1眼ICCE1眼ECCE-IOL1眼PEA-IOL1眼ALT1眼SLT2眼LEC1眼LOT1眼POAG:原発開放隅角緑内障,LEC:トラベクレクトミー,PEA-IOL:超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,VCS:ビスコカナロストミー,ICCE:水晶体内摘出術,ECCE:水晶体外摘出術,ALT:レーザー線維柱帯形成術,SLT:選択的レーザー線維柱帯形成術,LOT:トラベクロトミー.表2術式1.結膜切開(fornix-base)2.強膜外方弁作製(4×4mmの四角形)3.0.02%マイトマイシンC塗布(3分間)4.生理食塩水250mlで洗浄5.同時手術ではPEA-IOL(角膜切開)6.強膜内方弁作製(4×3mmの四角形)7.線維柱帯内皮網擦過8.強膜内方弁を角膜側Descemet膜まで進める9.強膜内方弁切除10.強膜外方弁を整復(強膜弁は縫合しない)11.結膜縫合fornix-base:円蓋部基底,PEA-IOL:超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術.———————————————————————-Page3702あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(122)3.眼圧コントロール率眼圧コントロール率を図2に示す.術後12カ月の時点での14mmHg以下へのコントロール率は全体で70.6%,単独手術45.0%,同時手術88.3%であった.単独手術と同時手術において統計学的な有意差はみられなかった.4.抗緑内障点眼薬数(表5)点眼薬数は,単独手術,同時手術ともに,術後抗緑内障点眼薬数は有意に減少した(p<0.05).単独手術と同時手術では有意な差はみられなかった.5.術後処置(表6)YAG-laserによるgonio-punctureを施行して,眼圧調整をしたものは全体では16眼(59.3%)で,術後平均7.9±10.5(124)日に施行されていた.単独手術と同時手術においてgonio-punctureの施行率に有意差はみられなかった.Gonio-punctureの施行時期は,同時手術のほうが単独手術表3術前後の眼圧術前1カ月3カ月6カ月12カ月最終観察時全体17.0±3.213.0±3.9**13.4±3.3*13.1±2.5**13.7±2.7**14.0±3.6**単独手術18.4±4.4(n=10)14.6±4.5(n=10)13.8±4.2*(n=9)13.6±2.2**(n=8)15.2±3.4(n=6)15.7±3.6同時手術16.2±2.0(n=17)12.1±3.3**(n=17)13.3±2.7**(n=13)12.7±2.7**(n=12)12.8±1.9**(n=10)13.0±3.3***p<0.05,**p<0.01.(mmHg)全体においては,術前に比べ術後有意に眼圧は下降した.単独手術と同時手術の比較においては,同時手術のほうが単独手術よりも術後眼圧が低い傾向を示したが,統計学的な有意差はみられなかった.表4眼圧下降率(%)の推移術後1カ月3カ月6カ月12カ月最終観察時全体23.2±20.018.4±17.317.9±14.914.7±13.617.3±17.2単独手術19.6±22.3(n=10)21.0±18.8(n=10)17.1±13.7(n=9)12.4±16.8(n=8)13.7±13.1(n=6)同時手術25.3±18.9(n=17)16.7±16.7(n=17)18.5±16.3(n=13)16.1±12.1(n=12)19.3±19.3(n=10)0510152025術前13612眼圧(mmHg)経過観察期間(月):全体:単独手術:同時手術図1術前後の眼圧経過率術後経過術術図2眼圧コントロール率術後12カ月での14mmHg以下へのコントロール率は全体で70.6%,単独手術45.0%,同時手術88.3%であった.表5抗緑内障点眼薬数全体単独手術同時手術術前3.7±1.14.3±1.33.3±0.7術後(最終観察時)0.9±1.11.4±1.20.5±0.8(剤)単独手術,同時手術ともに,術後抗緑内障点眼薬数は有意に減少した(Wilcoxonsignedranktest).2群間において有意な差はみられなかった(分散分析).表6術後処置:YAG-lasergonio-puncture全体単独手術同時手術眼数施行時(日)16(59.3%)7.9±10.56(60%)2.3±1.5(15)10(58.8%)11.3±12.2(124)単独手術と同時手術において有意な差はみられなかった(c2検定).***———————————————————————-Page4あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009703(123)よりも遅かった.Gonio-puncture施行後の眼圧推移を図3に示す.同時手術群はgonio-puncture直後より有意に眼圧下降が得られたが,単独手術群は翌日になると眼圧が再上昇し,その後下降していく傾向がみられた.6.術後併発症術後併発症を表7に示す.全体としては,術後早期併発症として軽度中等度の浅前房を4眼(29.3%),軽度中等度の前房出血を3眼(11.1%),5mmHg以下の低眼圧を2眼(7.4%)に認めたが,いずれも保存療法で数日のうちに軽快した.また経過観察中1眼(3.7%)にgonio-puncture部位に虹彩嵌頓を認めたが,嵌頓虹彩へのYAG-laserおよびlasergonioplastyにて解除され,以後眼圧コントロールも良好であった.輪部結膜切開部位から房水漏出がみられたものが3眼(11.1%)あったが,いずれもヒアルロン酸製剤の点眼で軽快した.単独手術と同時手術の比較では,前房出血のみ,単独手術と同時手術とで発症率に有意差がみられた(p<0.05).III考按筆者らはad-NPTの安全性を維持しつつ,より良好な濾過胞形成を目指して,free-apadvancedNPTを考案し,その手術成績を報告した6).その手術成績から,free-apadvancedNPTはad-NPT同様の眼圧下降効果および安全性を有すること,下降した眼圧を維持するためには,適宜YAGlasertrabeculopuncture(YLT)を施行して濾過量を調整していくことが必要であることがわかった.Free-apadvancedNPTでは強膜弁を縫合しないため,術後のlasersuturelysisが不要であるため,術後処置が軽減されるという利点をもつ.その反面,術後の過剰濾過・前房形成不良などの併発症が増すことが懸念される.このため,前回はすべて白内障との同時手術で行ったが,術後重篤な合併症などを認めなかったため,今回はfree-apadvancedNPTの単独手術も施行し,同時手術と単独手術の比較検討も行った.ad-NPTの術後眼圧については,黒田1)が術後12カ月で,単独手術13.4mmHg,白内障との同時手術では13.0mmHgと報告している.溝口2)は単独手術で術後6カ月13.9mmHg,12カ月13.6mmHg,山本ら7)は3カ月で,単独手術,同時手術合わせて13.5mmHgと報告している.Free-apadvancedNPTの術後眼圧については,前回,筆者らは同時手術では,術後3カ月で12.9mmHgと報告6)した.今回のfree-apadvancedNPTの結果は,術後12カ月の眼圧13.7mmHgとこれまでのad-NPTの報告1,2,7)と同等であり,また前回の筆者らの報告とも同等であった.しかしながら,14mmHg以下へのコントロール率は全体で70.6%と穿孔性トラベクレクトミー4,8)には及ばなかった.ad-NPTにおける単独手術と白内障との同時手術の術後眼圧に関しては,Kurodaら9)は単独手術と同時手術では,術後眼圧コントロール率に有意差はなかったと報告している.今回筆者らの行ったfree-apadvancedNPT単独手術と同時手術の比較では,統計学的な有意差はなかったが,同時手術のほうが単独手術よりも術後眼圧が低い傾向を示した.この理由としては,単独手術群のほうに緑内障手術既往例が多いことが関係している可能性が考えられた.抗緑内障薬点眼数に関しては,術前に比べ,術後有意に減少しており,これまでのad-NPTでの報告1,2,7)と同様であった.術後gonio-punctureの施行に関しては,初期の報告においては,黒田1)が4/56眼(7.1%),溝口2)は2/32眼(6.3%)と報告しているが,積極的に施行した場合では,山本ら7)は9/14眼(64.3%)と報告し,前回の筆者らのデータでも5/10眼(50%)程度であった.今回も,眼圧上昇傾向や,濾過胞の縮小傾向がみられた場合に積極的に施行したため,施行率が60%程度になったと思われる.単独手術と同時手術の比較では,施行率に差はなかったが,施行時期に関しては,同時手術のほうが遅かった.術後の併発症に関しては,単独手術で,同時手術に比べて,前房出血が多くみられた.症例数が少なく,原因は不明であるが,今後症例数を増やして,再度検討が必要と考えている.懸念された前房形成不全はみられず,free-ap表7術後併発症全体単独手術同時手術p値浅前房4(29.3%)04前房出血3(11.1%)30<0.01低眼圧(5mmHg以下)2(7.4%)02虹彩嵌頓1(3.7%)01Seidel陽性3(11.1%)21前房出血のみ,単独手術と同時手術とで発症率に有意差がみられた(c2検定).前直後翌日1W1M経過観察期間3M6M9M12M*p<0.0135302520151050眼圧(mmHg):全体:単独:同時*****図3Gonio-puncture施行後の眼圧の推移同時手術群はgonio-puncture直後より有意に眼圧下降が得られたが,単独手術群は翌日になると眼圧が再上昇し,その後下降していく傾向がみられた.———————————————————————-Page5704あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(124)advancedNPTは単独手術,同時手術ともにad-NPT同様,術後併発症の少ない安全な術式と思われた.文献1)黒田真一郎,溝口尚則,寺内博夫ほか:Non-PenetratingTrabeculectomyを改良した緑内障手術(advancedNPT:仮称)の評価.あたらしい眼科17:845-849,20002)溝口博夫:AdvancedNPT─テクニックと中期成績─.眼科手術14:305-309,20013)福地健郎,阿部春樹:非穿孔性線維柱帯切除術(NPT)術式と中期成績.眼科手術14:311-314,20014)FukuchiT,SudaK,HaraHetal:MidtermresultandtheproblemsofnonpenetratinglamellartrabeculectomywithmitomycinCforJapaneseglaucomapatients.JpnJOph-thalmol51:34-40,20075)川嶋美和子,山崎芳夫,水木健二ほか:原発開放隅角緑内障に対する非穿孔性線維柱帯切除術の術後成績の検討.日眼会誌108:103-109,20046)大黒浩,大黒幾代,山崎仁志ほか:理想的な術後濾過胞形成を目指した強膜弁無縫合非穿孔性トラベクレクトミー(Free-apAdvancedNPT)の手術成績.あたらしい眼科23:515-518,20067)山本陽子,大黒幾代,大黒浩ほか:弘前大学眼科における改良非穿孔トラベクレクトミーの手術成績.あたらしい眼科22:813-816,20058)FontanaH,Nouri-MahdaviK,LumbaJetal:Trabeculec-tomywithmitomycinC.Ophthalmology113:930-936,20069)KurodaS,MizoguchiT,TerauchiHetal:Advancednon-penetratingtrabeculectomy(advancedNPT)andcom-binedsurgeryofadvancedNPTandphacoemulsicationandintraocularlensimplantation.SeminOphthalmol16:172-176,2001***

Dynamic Contour Tonometerによる眼圧測定と緑内障治療

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(115)6950910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):695699,2009cはじめに現在,精密眼圧測定にはGoldmann圧平眼圧計(GAT)が一般的に使用されている.しかし,圧平式眼圧計は角膜厚や前眼部のさまざまな影響を受けることが知られている1,2).近年,角膜厚・形状の影響をほとんど受けない眼圧計としてdynamiccontourtonometer(DCT)が開発された.緑内障の視神経障害の機序は,いまだに詳細不明であるが,眼圧下降によって視野障害の進行を阻止することができるとされている35).現在の臨床において眼圧測定の標準はGATである.DCTがより真の眼内圧に近い眼圧を測定しても,GATと同様に緑内障治療において安定して眼圧を計測できなければ意味がない.これまでDCTの有用性についてGATと比較した報告はいくつかなされており,DCTはGATより高い眼圧値を示しさらに中心角膜厚の影響が少ないとされている69).また,角膜屈折矯正手術の術前後でDCTとGATの眼圧値を比較した報告もあり,GATでは術前と比べ術後低い眼圧値を示したがDCTでは術前後で差を認めなかったとされている10,11).今回筆者らは,DCTを用いて健常眼および緑内障眼の治療前後で眼圧を測定し,同時に測定したGATの眼圧値と比較し検討した.〔別刷請求先〕山口泰孝:〒526-8580長浜市大戌亥町313市立長浜病院眼科Reprintrequests:YasutakaYamaguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospital,313Ohinui-cho,Nagahama526-8580,JAPANDynamicContourTonometerによる眼圧測定と緑内障治療山口泰孝梅基光良木村忠貴植田良樹市立長浜病院眼科DynamicContourTonometerUseinGlaucomaTherapyYasutakaYamaguchi,MitsuyoshiUmemoto,TadakiKimuraandYoshikiUedaDepartmentofOphthalmology,NagahamaCityHospitalDynamiccontourtonometer(DCT)で測定した眼圧値の緑内障治療における有用性につき,Goldmann圧平眼圧計(GAT)と比較し検討した.対象は,健常眼50例100眼,トラベクロトミーを施行した緑内障16例18眼および緑内障点眼(ラタノプロスト,チモロール)を使用する緑内障72例125眼である.緑内障治療眼ではDCT眼圧測定値はGATと同様に有意な下降を認めた.健常眼と比較し無治療緑内障眼で眼球脈波(OPA)は有意に高値を示し,トラベクロトミー術後とラタノプロスト点眼後に有意に下降した.チモロール点眼後は有意な変動を示さなかった.DCTは緑内障眼の眼圧測定において,GATと同様に用いることができた.Theaimofthisstudywastoinvestigatethereliabilityofintraocularpressuremeasurementusingthedynamiccontourtonometer(DCT),incomparisontotheGoldmannapplanationtonometer(GAT),specicallyasusedinglaucomatherapy.Thesubjectscomprised50normaleyesof100patients,18glaucomatouseyesof16patientsthathadundergonetrabeculotomyand125glaucomatouseyesof72patientsthathadreceivedmonotherapywithlatanoprostortimolol.Followingtreatmentbyallmethods,bothDCTandGATmeasurementsshowedsignicantlowering.Theocularpulseamplitude(OPA)oftheglaucomatouseyeswasremarkablyhigherthanthatofthenor-maleyes.OPAdecreasedsignicantlyaftertrabeculotomyortreatmentwithlatanoprost,whiletimololelicitednosignicantchange.BothDCTandGATwereusefulinmeasuringintraocularpressureinglaucomatouseyes.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):695699,2009〕Keywords:ダイナミックカンタートノメーター,Goldmann圧平眼圧計,トラベクロトミー,ラタノプロスト,チモロール.dynamiccontourtonometer,Goldmannapplanationtonometer,trabeculotomy,latanoprost,timolol.———————————————————————-Page2696あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(116)I対象および方法対象は,白内障以外の内眼疾患を有さない健常眼50例100眼(男性22例,女性28例,平均年齢72.4±1.1歳),トラベクロトミーを施行した緑内障16例18眼(男性8例,女性8例,平均年齢69.2±3.8歳)および緑内障点眼(ラタノプロスト,チモロール)を使用する隅角の開放した緑内障72例125眼(男性36例,女性36例,平均年齢68.5±1.0歳)である.緑内障眼は視神経乳頭所見および視野から診断された.各症例でdynamiccontourtonometer(PascalR,ZeimerOphthalmic社)を用いて眼圧ならびに眼球脈波(ocularpulseamplitude:OPA)を測定し(信頼度の高いQ=13を用いた),同時にGAT(Haag-Streit社)でも眼圧を測定し比較した.また,各症例の角膜厚は,超音波角膜厚測定装置(AL-1000,TOMEY社)によって測定した.各値の相関は直線回帰分析によって解析し,Pearsonの相関係数を求めた.検定はt検定を用い,有意水準は5%とした.トラベクロトミー症例は術前日と術翌日午前に眼圧を測定した.術前点眼数は平均2.2±0.3剤で,術後は無点眼下で測定した.症例の内訳は,正常眼圧緑内障3眼,原発開放隅角緑内障4眼,落屑緑内障5眼,ステロイド緑内障4眼および続発緑内障2眼であった.緑内障点眼はwashout後,24週間の点眼期間を設け,その前後で眼圧を測定した.症例の内訳は,正常眼圧緑内障89眼,狭義の原発性開放隅角緑内障26眼および落屑緑内障10眼であった.また,視野欠損の進行した症例はすでに緑内障手術を施行されているものが多いため,今回はGold-mann型動的視野計において湖崎分類IIaIIIbを示す内眼手術の既往のない症例103眼と偽水晶体眼22眼とを対象とした.II結果1.健常眼におけるDCT今回筆者らの計測した健常眼100眼の平均値はGAT眼圧測定値13.9±0.3mmHg,DCT眼圧測定値18.9±0.3mmHg,OPA2.4±0.1mmHg,中心角膜厚536.0±3.4μmであった.GATとDCTの眼圧測定値は強い相関(r=0.61,p<0.0001,図1a)があった.中心角膜厚はGAT測定値に影響(r=0.29,p=0.003,図1b)したが,DCT測定値には影響しないようであった(r=0.002,p=0.98,図1c).中心角膜厚値が小さいほど,DCT測定値はGAT測定値より高くなった(図1d).また,OPAは1.53.0mmHgに多く分布し,DCT測3025201510551015GAT測定値(mmHg)202530DCT測定値(mmHg)図1a健常眼のGAT測定値とDCT測定値中心角膜厚測定値図1c健常眼の中心角膜厚とDCT測定値測定値図1e健常眼のDCT測定値とOPA30252015105400450500m550600650GAT測定mm図1b健常眼の中心角膜厚とGAT測定値中心角膜厚測定値図1d健常眼の中心角膜厚とDCT,GAT測定値の差———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009697(117)定値と弱い相関があった(r=0.31,p=0.02,図1e).2.緑内障眼におけるDCT今回緑内障点眼の対象となった125眼の無点眼下での値について検討した.平均値はGAT眼圧測定値17.9±0.4mmHg,DCT眼圧測定値23.6±0.4mmHg,OPA2.9±0.1mmHgであり,いずれの値も健常眼より有意に高かった(p<0.0001,p<0.0001,p<0.0001).中心角膜厚は521.1±3.5μmであり,健常眼より角膜は有意に薄かった(p<0.0001).健常眼と同様に,GATとDCTの測定値は強い相関(r=0.85,p<0.0001,図2a)があった.無治療緑内障眼でもOPAはDCT測定値と弱い相関があった(r=0.26,p=0.003,図2b).DCT測定値の同一範囲内(26.8mmHg以下)で比較しても健常眼に比べ緑内障眼は有意にOPAが高値であり(p=0.0007),これは特に眼圧の低い症例で顕著であった.3.緑内障治療前後の比較DCTによる眼圧測定値は,トラベクロトミー術前31.7±2.4mmHgから術後20.6±1.3mmHg(p<0.0001)に,緑内障点眼は点眼前23.6±0.5mmHgからラタノプロスト点眼後19.5±0.4mmHg(p<0.0001)に,またチモロール点眼後20.7±0.4mmHg(p<0.0001)に,いずれの治療でも治療後で有意な下降を認めた(図3a).GAT測定でも各治療で有意な眼圧下降を認めた(図3b).OPAはトラベクロトミー術前3.6±0.3mmHgから術後2.6±0.3mmHg(p=0.0006)に有意に下降した.緑内障点眼は点眼前2.9±0.1mmHgからラタノプロスト点眼後2.5±0.1mmHgに下降した(p<0.0001).一方,チモロール点眼後は2.8±0.1mmHgと下降する傾向があったが有意差はなかった(p=0.08,図3c).また,各治療前後のDCT測定値とOPAの関係を比較した(図3d,各症例の分布は数が多く煩雑なため,回帰線のみ示した).トラベクロトミー術後およびラタノプロスト点眼後は健常眼の分布に近づく傾向にあった.チモロール点眼後はDCT測定値は下降するもののOPAの明らかな変化はみられなかった.4.緑内障点眼の比較ラタノプロスト点眼とチモロール点眼について,DCTお453525155515GAT測定値(mmHg)253545DCT測定値(mmHg)図2a緑内障眼のGAT測定値とDCT測定値測定値図2b緑内障眼のDCT測定値とOPA403020100治療治療<0.0001p<0.0001p<0.0001チモロールGAT測定値(mmHg)図3b各治療前後のGAT測定値治療前治療後<0.0001p<0.0001NSチモロールOPA(mmHg)図3c各治療前後のOPA403020100治療治療<0.0001p<0.0001p<0.0001チモロールDCT測定値(mmHg)図3a各治療前後のDCT測定値———————————————————————-Page4698あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(118)よびGATによる眼圧測定値の眼圧下降率を図4a,bに示した.ほぼ同様の分布と思われた.DCT測定での30%および20%眼圧下降の達成率は,ラタノプロスト単剤使用でそれぞれ17%と41%,チモロール単剤使用では8%と21%であった(図4c,d).また,2剤とも有効がそれぞれ5%と14%であり,2剤とも無効が80%と52%であった.III考按DCTは角膜カーブに合わせた凹型のセンサーチップを用いることで,圧平時の角膜の歪みや変形を最小限にし,角膜厚・角膜剛性の影響を受けずに眼圧を直接測定するよう理論づけられている.Kniestedtら12)は,摘出眼の検討で直接測定した真の眼内圧は,GAT測定値よりもDCT測定値により近かったと報告している.角膜形状とチップ先端形状の完全な一致は困難と考えられるが,今回の筆者らの検討でもDCTによる眼圧測定値はGATに比べ角膜厚の影響が少ないことが改めて確認され,DCTはより正確に眼内圧を計測していると考えられる.今回の検討で,DCTは緑内障治療前後における眼圧の相対的変動の指標として,GATと同様に用いることができた.緑内障眼の眼圧管理において,視野の欠損に応じた目標眼圧の設定が望ましいといわれており13,14),DCTの眼圧測定値86420OPA(mmHg)5103020405060DCT測定値(mmHg)トラベクロトミー:健常眼:治療前:治療後86420OPA(mmHg)5103020405060DCT測定値(mmHg)ラタノプロスト:健常眼:治療前:治療後6420OPA(mmHg)5103020405060DCT測定値(mmHg)チモロール:健常眼:治療前:治療後図3d各治療前後のDCTOPA分布60-400-20ラタノプロストチモロール2040606040020-20-40-60図4aDCT測定による眼圧下降率(%)ラタノプロストチモロール有効有効1280(%)35n=125無効無効図4c30%眼圧下降達成率(DCT)60-400-20ラタノプロストチモロール2040606040020-20-40-60図4bGAT測定による眼圧下降率(%)ラタノプロストチモロール有効有効2752(%)714n=125無効無効図4d20%眼圧下降達成率(DCT)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009699(119)がより真の眼内圧に近い値であるのならば,DCTを用いて,改めて視神経障害の程度に合わせた目標眼圧を検討せねばならない.今後もDCTのデータを重ねて,長期的に眼圧の変動と視野の変化の関わりを解析することで,さらにDCTを有効に利用できると考えられる.ただし,眼圧は緑内障のリスクファクターとして大きい35)とはいえ,特に日本人において正常眼圧緑内障が多いとの報告15)もあり,今後はより症例の状態を細分化したうえでの検討にならざるをえないと思われる.DCTは眼圧と同時にOPAも測定できる.今回の検討では,緑内障眼のOPAは健常眼より有意に高値を示した.またOPAの変動は治療法により異なることが明らかになった.血液動態や循環系に作用があると考えられるb-blockerでOPAへの作用がより少なかったが,その機序は不明である.各種薬剤の眼圧下降機構は詳細に解析されているわけではなく,OPAへの作用を介して点眼の作用機構や治療効果の解析が可能となるかもしれない.文献1)WolfsRC,KlaverCC,VingerlingJRetal:Distributionofcentralcornealthicknessanditsassociationwithintraocu-larpressure.TheRotterdamStudy.AmJOphthalmol123:767-772,19972)GunvantP,BaskaranM,VijayaLetal:EfectofcornealparametersonmeasurementsusingthepulsatileocularbloodlowtonographandGoldmannapplanationtonome-ter.BrJOphthalmol88:518-522,20043)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:Compari-sonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormal-tensionglaucomaandpatientswith-therapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOph-thalmol126:487-497,19984)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudy:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19985)GordonMO,KassMA:TheOcularHypertensionTreat-mentStudy:designandbaselinedescriptionofthepar-ticipants.ArchOphthalmol117:573-583,19996)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:ComparisonofdynamiccontourtonometrywithGoldmannapplanationtonometry.InvestOphthalmolVisSci45:3118-3121,20047)KotechaA,WhiteET,ShewryJMetal:TherelativeefectsofcornealthicknessandageonGoldmannapplana-tiontonometryanddynamiccontourtonometry.BrJOphthalmol89:1572-1575,20058)FrancisBA,HsiehA,LaiMYetal:Efectsofcornealthickness,cornealcarvature,andintraocularpressurelevelonGoldmannapplanationtonometryanddynamiccontourtonometry.Ophthalmology114:20-26,20079)冨山浩志,石川修作,新垣淑邦ほか:DynamicContourTonometer(DCT)とGoldmann圧平眼圧計,非接触型眼圧計の比較.あたらしい眼科25:1022-1026,200810)KaufmannC,BachmannLM,ThielMA:Intraocularpres-suremeasurementsusingdynamiccontourtonometryafterlaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci44:3790-3794,200311)SiganosDS,PapastegioiuGI,MoedasC:AssessmentofthePascaldynamiccontourtonometerinmonitouringintraocularpressureinunoperatedeyesandeyesafterLASIK.JCataractRefractSurg30:746-751,200412)KniestedtC,MichelleN,StamperRL:Dynamiccontourtonometry:acomparativestudyonhumancadavereyes.ArchOphthalmol122:1287-1293,200413)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,199214)TheAdvancedGlaucomaInterventionStudyInvestiga-tors:AdvancedGlaucomaInterventionStudy:2.Visualeldtestscoringandreliability.Ophthalmology101:1445-1455,199415)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,2004***

超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(109)6890910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):689694,2009c〔別刷請求先〕西野和明:〒062-0020札幌市豊平区月寒中央通10-4-1回明堂眼科医院Reprintrequests:KazuakiNishino,M.D.,KaimeidohOphthalmicClinic,10-4-1,Tsukisamuchu-o-dori,Toyohiraku,Sapporo062-0020,JAPAN超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を第一選択の治療とした急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障西野和明*1吉田富士子*1齋藤三恵子*1齋藤一宇*1山本登紀子*2岡崎裕子*3木村早百合*4*1医療法人社団ひとみ会回明堂眼科医院*2山本内科・眼科クリニック*3江別市立病院眼科*4西岡眼科クリニックPrimaryPhacoemulsicationandAspirationandIntraocularLensImplantationforAcutePrimaryAngle-ClosureandAcutePrimaryAngle-ClosureGlaucomaKazuakiNishino1),FujikoYoshida1),MiekoSaitoh1),KazuuchiSaitoh1),TokikoYamamoto2),HirokoOkazaki3)andSayuriKimura4)1)KaimeidohOphthalmicClinic,2)YamamotoInternalMedcine&OphthalmicClinic,3)DepartmentofOphthalmology,EbetsuCityHospital,4)NishiokaOphthalmicClinic目的:急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障に対し初回手術として,超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入術を行った症例について,手術の有効性と安全性につき検討した.対象および方法:急性原発閉塞隅角症4例6眼および急性原発閉塞隅角緑内障1例1眼の合計5例7眼(男性1例2眼,女性4例5眼).平均年齢69.6±8.4歳.平均観察期間7.6±8.2カ月.術前,術後の眼圧,視力,角膜内皮細胞密度,周辺前房深度(vanHerick法)などを比較検討するとともに,術後の合併症についても検討した.結果:発作時の眼圧58.7±14.7mmHgは,術翌日14.7±4.0mmHgに低下,さらに最終観察日の眼圧も9.9±1.8mmHgと良好な結果が得られた.また,術前の矯正視力0.63±0.24は術後0.93±0.11に改善(p<0.05).角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は,術前2,587.3±548.3が,術後2,278.4±657.9へと大きな減少は認められなかったものの(p=0.25),54%の減少が1眼,20%の減少が1眼に認められた.周辺前房深度は十分に深くなり(p<0.00005),隅角も開大した.しかしながら,手術時間が22±7.7分とやや長いこと,また眼内レンズ挿入後に円形の前切開の変形(楕円)が4眼に認められたほか,術後,中等度の角膜浮腫が2眼,前房内に中等度のフィブリン析出が2眼に認められた.結論:急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障に対する第一選択の超音波水晶体乳化吸引術は,前房深度や隅角の開大により眼圧を正常化する有用な方法の一つと考えられるが,角膜内皮細胞密度の減少や術後の炎症などに注意する必要がある.Toevaluatetheecacyandsafetyofprimaryphacoemulsicationandaspiration(PEA)andintraocularlens(IOL)implantationforacuteprimaryangle-closureandacuteprimaryangle-closureglaucoma,weanalyzed5eyesof4Japanesefemalepatientsand2eyesof1Japanesemalepatientwho,undertopicalanesthesia,hadundergoneprimaryPEA+IOLforacuteprimaryangle-closure(6eyesof4patients)andacuteprimaryangle-closureglauco-ma(1eyeof1patient),withoutlaseriridotomy.Averageagewas69.6±8.4;meanfollowupdurationwas7.6±8.2months.Outcomessuchasvisualacuity,intraocularpressure(IOP),endothelialcelldensity,depthofperipheralanteriorchamber(vanHerick)andinammationwerecomparedpre-andpostoperatively.PreoperativeIOP,58.7±14.7mmHg,decreasedto14.7±4.0mmHgontherstpostoperativeday.ThenalobservedIOPwas9.9±1.8mmHg.Meanpreoperativebestcorrectedvisualacuity,0.63±0.24,improvedto0.93±0.11postoperatively(p<0.05).Meanpreoperativeendothelialcelldensityof2,587.3±548.3cells/mm2showedanon-signicantdecreaseto2,278.4±657.9cells/mm2postoperatively(p=0.25),but54%decreasein1eyeand20%decreasein1eyewere———————————————————————-Page2690あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(110)はじめに急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障は視神経に緑内障性の変化が認められるかどうかで区別される1)が,それぞれで治療が異なるわけではない.初期治療として点眼,点滴などを十分に行った後,レーザー虹彩切開術(laseriri-dotomy:LI)あるいは,観血的な虹彩切除術が行われるのが一般的である.急激な眼圧上昇を早期に改善する必要があるため,LIは比較的簡単でかつ有効な治療法であるが,施行した後に問題がないわけではない.軽症なものでは虹彩後癒着や白内障の進行から,重篤なものでは内皮細胞密度の減少から水疱性角膜症をきたし失明につながる疾患までさまざまである2,3).また近年,急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障のメカニズムは,単純ではなく,相対的な瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,虹彩水晶体隔壁の前進などが複雑に絡み合って発症すると考えられるようになり4),LI単独だけでは,解決しない場合があることがわかってきた.つまり隅角を開大する目的のLI後にも,暗室うつむき試験が陰性化せず,機能的閉塞が残存し,周辺虹彩前癒着(peripheralanteriorsynechia:PAS)の拡大が停止しないことなどは,それらの複雑なメカニズムによるものと思われる.そこで近年,十分に前房および隅角を開大することで,それらのメカニズムをまとめて解決する有用な方法として,最初から超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsicationandaspiration:PEA)を選択する報告がみられるようになり,しかも良好な結果が得られている58).しかし急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障は,極端な浅前房,Zinn小帯の脆弱性,散瞳が不十分,眼軸が短く度数の高い厚めの眼内レンズ(intraocularlens:IOL)を挿入しなければならないなど,技術的にはむずかしい手術と考えられ,有効性はもちろんのこと,合併症の有無や頻度について冷静で詳細な検討が必要になる.そこで今回筆者らは,急性原発閉塞隅角症および急性原発閉塞隅角緑内障に対し,LIを行わず,最初からPEAおよびIOL挿入術(PEA+IOL)を施行した症例を経験したので,その安全性や有効性など臨床経過につき報告する.I対象および方法2006年12月から2008年9月までの間,回明堂眼科医院(当院)で,LIを行わず,PEA+IOLを治療の第一選択とした,急性原発閉塞隅角症(4例6眼)および急性原発閉塞隅角緑内障(1例1眼)の合計5例7眼(男性1例2眼,女性4例5眼).発作時の平均年齢は69.6±8.4(標準偏差)歳,平均観察期間7.6±8.2カ月.主訴,既往歴などについては表1に別記した.各眼の眼軸長の平均は22.13±0.62mm,等価球面度数の平均は0.75±1.79D(diopters)と軽度の近視であった.白内障の核硬度の程度はEmery-Little分類で平均2以下と軽度であった(表2).眼圧(mmHg)は発作日,手術日,手術翌日,最終観察日に,矯正視力(少数視力)は手術日,最終観察日に,角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は手術前日,最終観察日に,周辺前房深度(vanHerick法)は手術日,最終観察日にそれぞれ測定し比較検討した.予想屈折度と術後屈折度の差についても検討した.使用機種はすべてAlcon社製INFINITITM(OZILTM)であるが,症例1の両眼と他の症例では,異なる超音波振動を用いたため,手術の侵襲を検討する際の超音波積算値(cumula-tivedissipatedenergy:CDE)をつぎのように計算した.従来の縦振動の超音波のみを使用した症例2から症例5では,CDE=平均超音波パワー(%)×超音波使用時間(秒)として計算,症例1では縦振動の超音波とtorsional(横振動)を併用したので,CDE=平均超音波パワー×超音波使用時間+0.4×(torsionalパワー×torsional使用時間)として計算した.すべての患者にLIおよびPEA+IOLの利点,合併症などを説明した後,PEA+IOLを初回手術として選択することの同意を得た.手術はすべて同一術者(K.N.)により行われた.今回の対象となる症例数はごくわずかであり,統計学的な解析をするには不十分ではあるが,参考までに検討した.視力はWilcoxon符号付順位和検定,その他はそれぞれ対応のfound.Peripheralanteriorchamberdepthimprovedinalleyes(p<0.00005).Meanoperationtime,22±7.7minutes,wasslightlylong;continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)in4eyeswastransformedtoovalafterIOLimplantation.Middlecornealedemawasfoundin2eyesandmiddlebrinofanteriorchamberwasfoundin2eyes.PEA+IOLmightbeaneectiveprimaryprocedureforacuteprimaryangle-closureandacuteprimaryangle-clo-sureglaucoma,butitisnecessarytopayattentiontoinammationoftheanteriorsegmentanddecreaseinendothelialcelldensity.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):689694,2009〕Keywords:急性原発閉塞隅角症,急性原発閉塞隅角緑内障,第一選択の治療,超音波水晶体乳化吸引術,眼内レンズ挿入術.acuteprimaryangle-closure,acuteprimaryangle-closureglaucoma,primaryprocedure,phacoemulsi-cationandaspiration(PEA),intraocularlensimplantation(IOL).———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009691(111)あるt検定を用いた.危険率5%未満を有意差ありと判定した.II結果手術時のデータを表3に示した.手術は塩酸リドカインの局所麻酔下に,PEA+IOLを行った.切開はやや角膜よりの強膜切開で行い,粘弾性物質は通常のヒアルロン酸ナトリウムのほか,角膜内皮細胞の保護を目的としてヒアルロン酸ナトリウム・コンドロイチン硫酸ナトリウム配合(ビスコートR)を使用した.Continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)の際には前染色としてindocyaninegreen(ICG)を全例に使用.散瞳不良の症例1の左眼と虹彩後癒着がみら表1患者の背景症例12345年齢(発作発症時)(歳)5678747268性別女性女性女性女性男性患眼両眼左眼右眼左眼両眼診断APACAPACAPACGAPACAPAC主訴頭痛眼痛視力低下頭痛充血充血充血違和感霧視嘔気霧視過去の発作様所見2カ月前3カ月前既往歴統合失調症左耳下腺腫瘍切除観察期間(月)226532APAC=acuteprimaryangle-closure:急性原発閉塞隅角症.APACG=acuteprimaryangle-closureglaucoma:急性原発閉塞隅角緑内障.表2各眼の術前のデータ症例1右1左2左3右4左5右5左等価球面度数(D)0.880.2540.9201.25術前中央前房深度(mm)2.12n.r.2.322.062.442.082.09水晶体厚(mm)5.36n.r.5.345.865.275.895.71眼軸長(mm)21.621.622.922.721.322.522.3白内障の核硬度1.51.522.521.51.5術前中央前房深度や眼軸長は角膜後面からの距離.使用機種はTOMEY社製AL-1000.n.r.=記録なし.白内障の核硬度はEmery-Little分類を用いた.表3手術時のデータ症例1右1左2左3右4左5右5左手術日06.12.1206.12.1908.4.2208.5.708.7.208.8.608.8.19発作から手術日までの日数(日)6370172114ICG使用使用使用使用使用使用使用瞳孔拡張せず施行せずせずせず癒着解除せず超音波振動横と縦横と縦縦縦縦縦縦CDE31.0719.8017.2211.749.745.4IOLパワー(D)2727.523.523.525.525.524.5手術時間(分)14151919223233ICG=indocyaninegreen.縦=従来の縦振動の超音波(phaco).横=横振動の超音波(torsional).CDE=cumulativedissipatedenergy(超音波積算値).———————————————————————-Page4692あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(112)れた症例5の右眼に対しては機械的に瞳孔を拡張した.手術時間が22±7.7分と通常よりやや長めであった.各眼の術前術後の眼圧の推移(図1a)およびその平均値と標準偏差(図1b)を示した.観察期間が2カ月から22カ月とばらつきがあり,しかも平均観察期間が7.6±8.2カ月と短かったため,最終受診日を最終観察日とした.発作日の高眼圧(58.7±14.7mmHg)は点眼などの初期処置により,術直前には正常化した(12.9±2.7mmHg).術翌日は術後の炎症などでやや眼圧が上昇したものの(14.7±4.0mmHg),最終観察日には落ち着いている(9.9±1.8mmHg).症例3のみ緑内障で,視野がAulhorn分類Greve変法のstage5と進行した緑内障であったため,ラタノプロストを点眼中である.各眼の術前術後の視力を比較した結果を図2に示した.手術前の矯正視力0.63±0.24は,手術後0.93±0.11と有意に改善している(p<0.05:Wilcoxon符号付順位和検定).症例3は緑内障による暗点が中心部まで及んでいるためか,視力の回復が十分でない.各眼の術前術後の角膜内皮細胞密度を比較した結果を図380706050403020100眼圧(mmHg)発作日術直前術翌日最終観察日経過観察:症例1右:症例1左:症例2左:症例3右:症例4左:症例5右:症例5左図1a各眼の眼圧の推移術後術前図2各眼の白内障手術前後の矯正視力の比較術前術後の少数視力をlogMARに換算して比較検討した.(p<0.05:Wilcoxon符号付順位和検定)80706050403020100眼圧(mmHg)発作日術直前術翌日最終観察日経過観察図1b眼圧の推移(平均値と標準偏差)3,5003,0002,5002,0001,5001,0005000術後(cells/mm2)05001,0003,5002,5003,0002,0001,500術前(cells/mm2)#1#2図3白内障手術前後の角膜内皮細胞密度の比較#1:症例3の右眼(約54%減少),#2:症例5の左眼(約20%減少).表4周辺前房深度(vanHerick法)の術後の比較1右1左2左3右4左5右5左術前1111111術後4443343周辺前房深度はvanHerick法により,Grade0からGrade4までに分類.手術直前のvanHerickは1/4未満であったので,Grade1として統計処理した.周辺前房深度は十分に深くなり隅角も開大した(p<0.00005:対応のあるt検定).表5術後の合併症症例1右1左2左3右4左5右5左角膜浮腫なしなしなし少中中少前房フィブリンなしなしなし少中中少CCCの変形なしなしなし楕円楕円楕円楕円瞳孔変形なしなしなしなしなし散大なし角膜浮腫の少は,その程度が角膜の1/3以下,中は角膜の1/32/3と定義した.フィブリンの少は,その程度が瞳孔領域内,中は瞳孔領域を超えるが全体に及んでないと定義した.CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)の変形とは,ほぼ円形であったCCCが,IOL挿入後に,CCCが楕円形に変形したことを意味する.症例5の右眼の瞳孔変形は,左眼に対して2mm以上の麻痺性散大していることを意味する.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009693(113)に示した.術前の角膜内皮細胞密度(cells/mm2)は2,587.3±548.3で,術後2,278.4±657.9と全体では大きな減少は認められなかった(p=0.25:対応のあるt検定).しかし症例3では約54%,症例5の左眼では約20%減少している.各眼の術前術後の周辺前房深度(vanHerick法)を比較した結果を表4に示した.術後の合併症を表5に,予想屈折度と術後屈折度の比較を表6に示した.III考按急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障に対する治療は従来,LIあるいは観血的な虹彩切除術が一般的であった.ところが近年,初回手術としてPEA+IOLを行い良好な結果が得られているとの報告が相ついでいる59).これは白内障手術の技術的な進歩にもよるが,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)などの各種検査機器の発達により,急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障のメカニズムが単純ではなく,相対的な瞳孔ブロック,プラトー虹彩形状,虹彩水晶体隔壁の前進などが複雑に絡み合って発症すると考えられようになり4),LI単独では,解決しない場合があるという考え方が大きな背景となっている.今回の筆者らの経験では,すべての症例で周辺前房深度や隅角が広がり,眼圧も翌日には,正常化するという良好な手術成績が得られた.さらに視力が改善しただけでなく,術後の屈折度も予想と変わらず,軽度の近視が得られたことで,副産物的な患者の満足感も得られた.そのなかで一番重要なのは,術後に多少の角膜浮腫や前房の炎症は認められたものの,早期に眼圧下降という目的が達成されたということである.しかしその一方で,角膜内皮細胞密度がかなり減少する症例も経験した.症例3では約54%,症例5の左眼では約20%の減少で,短期間にこのような合併症を経験し,急性原発閉塞隅角症と急性原発閉塞隅角緑内障に対する手術の危険性を改めて痛感した.ただいずれの症例も,とりわけトラブルのない手術であっただけに,角膜内皮細胞密度のほとんど減少していない症例と減少した症例のどこに違いがあったのか疑問が残る.そこでその要因として,中央前房深度,水晶体厚,眼軸長,白内障の核硬度(表2)や発症から手術までの期間,CDE,手術時間(表3)などを考え,角膜内皮細胞密度の減少との関係についても検討してみた.その結果,症例3と症例5の左眼で,中央前房深度が2.1mm以下,水晶体厚が5.7mm以上という共通点がみられた.症例5の右眼も同様の共通点をもつが,減少はみられない.これは症例3で角膜内皮細胞密度の減少という経験をし,術者がビスコートRを増量して使用するなど工夫したためと思われる.もちろん角膜内皮細胞に及ぼす影響は単一ではなく,白内障の核硬度,CDE,手術時間などが複合的に関与すると思うが,とりわけ術前の検査で中央前房深度が2mm近く,水晶体厚が6mm近い症例では手術の侵襲が,角膜内皮細胞に及ぼす影響が大きいと考え,相当の注意が必要であると考えた.術後の隅角鏡検査で,症例3以外の4例6眼ではPASを認めなかったことから,LIも眼圧を正常化させるという目的では結果的には成功したと思われる.しかしながら症例3のように3/4以上のPASが存在するような症例では,長期的にみればLI単独では十分な効果は得られなかったであろう.一方,このようなPASの多い症例に対しては,白内障手術だけでは不十分で,PEA+IOLと同時に隅角癒着解離術の併用を行うことが有効であるとの報告もある9).今回の症例3では,術前かなりのPASを認めたが,その詳細な範囲がはっきりせず,術後に詳細な隅角鏡検査をしたうえで,隅角癒着解離術の適否を検討することにしたため,最初から併用を行わなかった.また,隅角癒着解離術そのものにも,前房出血やそれに伴う一過性の眼圧上昇など,合併症が発症する可能性もあると考えたことも併用しなかった理由である.仮に解除しないPASが存在しても,術後の眼圧が安定していれば,経過観察するか,あるいは眼圧の推移をみながら,追加の手術として隅角癒着解離術を検討してもよいと思われる.症例3は,今後の眼圧の推移を注意深く見守りながら,隅角癒着解離術の適否を検討していきたい.今後は手術の技術的な議論だけでなく,手術をしなければわからない急性発作のメカニズムも検討していく必要があると思われる.今回の手術で感じたのは「Zinn小帯の脆弱性も急性発作に関与しているのではないか」ということである.今回のすべての症例でCCCの際,水晶体表面の張りが少なく,また7眼中4眼で,ほぼ円形であったCCCがIOL挿入後に楕円形に変形した事実は,Zinn小帯が脆弱であったことを意味すると思う.この脆弱性は急性発作の後遺症と考えることもできるが,発作以前からZinn小帯が何らかの原因で脆弱化していたとすれば,その結果,水晶体が前方に移動し,瞳孔ブロックをひき起こしたと考えることもでき,メカニズムを知るうえで貴重な経験であったと思う.急性ではない原発閉塞隅角症あるいは原発閉塞隅角緑内障に対してでさえ,LIとPEA+IOLのいずれを選択するべきか,議論の多いところである1012).なぜならこのような症例に対するPEA+IOLは,利点は多いものの,やはりLIと比較すれば,危険性も高く,ある程度以上の技術が必要にな表6予想屈折度(D)と術後屈折度(D)の比較症例1右1左2左3右4左5右5左予想屈折度(D)1.471.21.311.370.941.631.61術後屈折度(D)111.251.750.751.752術前の予想屈折度(D)は1.36±0.24Dで,術後は1.35±0.24Dと有意差を認めなかった(p=0.97:対応のあるt検定).———————————————————————-Page6694あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(114)るためと思われる.ましてや症例が急性である場合や,白内障がわずかな症例であれば,初回手術としてPEA+IOLを選択するという考え方に対する批判は多くなるかもしれない.もちろん筆者らが経験した症例数はわずかであり,しかも短期間の経過観察であったので,どちらの立場を支持するというレベルにはない.急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内障の発症機序は複雑であり,しかも来院時の状況は千差万別である.今後さらに症例を追加し,長期の経過観察をするとともに,従来,当院で行っていた,「LIを治療の第一選択とした群や,LIを最初に施行し,後日白内障が進行した場合にPEA+IOLを行った群」と比較検討する予定である.そのうえで急性原発閉塞隅角症あるいは急性原発閉塞隅角緑内症に対するより安全でかつ有効な治療法につきさらに検討していきたい.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,20062)島潤:レーザー虹彩切開術後水疱性角膜症─国内外の状況─.あたらしい眼科24:851-853,20073)澤口昭一:レーザーか手術か:古くて新しい問題─レーザー虹彩切開術の問題点と白内障手術(clearlensectomyを含む)─.あたらしい眼科23:1013-1018,20064)上田潤:閉塞隅角の画像診断:瞳孔ブロックと非瞳孔ブロックメカニズム.あたらしい眼科24:999-1003,20075)ZhiZM,LimASM,WongTY:Apilotstudyoflensextractioninthemanagementofacuteprimaryangle-clo-sureglaucoma.AmJOphthamol135:534-536,20036)JacobiPC,DietleinTS,LuekeCetal:Primaryphaco-emulsicationandintraocularlensimplantationforacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology109:1597-1603,20027)MiuraS,IekiY,OginoKetal:Primaryphacoemulsi-cationandaspirationcombinedwith25-gaugesingle-portvitrectomyformanagementofacuteangleclosure.EurJOphthamol18:450-452,20088)LamDSC,LeungDYL,ThamCCYetal:Randomizedtrialofearlyphacoemulsicationversusperipheraliridoto-mytopreventintraocularpressureriseafteracuteprima-ryangleclosure.Ophthalmology115:1134-1140,20089)大江敬子,秦裕子,塩田洋ほか:ヒーロンVRを用いた隅角癒着解離術の成績.眼科手術21:251-254,200810)野中淳之:原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:PEA+IOL推進の立場から.あたらしい眼科24:1027-1032,200711)大鳥安正:原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術か水晶体再建術(PEA+IOL)か?.あたらしい眼科24:1015-1020,200712)山本哲也:原発閉塞隅角緑内障治療の第一選択はレーザー虹彩切開術かPEA+IOLか?:レーザー虹彩切開術擁護の立場から.あたらしい眼科24:1021-1025,2007***

正常人での眼圧の季節変動

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(105)6850910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):685688,2009cはじめに眼圧には季節変動があるといわれている.正常人の眼圧の季節変動に関しては多数の報告15)があるが,プロスペクティブに検討した報告1)は少ない(表1).これらの報告に共通しているのは,正常眼の眼圧には季節変動があり,12月から2月にかけて高く,7月から9月にかけて低いことである.しかし眼圧の測定方法は,Schiotz眼圧計1),Goldmann圧平式眼圧計24),非接触型眼圧計5)とそれぞれ異なる.また対象は同一症例を1年間にわたって経過観察した報告は少なく1),健康診断などでその期間に得られた多数例の結果をレトロスペクティブに検討している報告が多い25).眼圧の季節変動を検討する際は個人差を排除する必要があり,そのためには同一症例での比較が好ましいと考える.そこで今回筆者らはプロスペクティブに,正常人の同一症例を1年間にわたり毎月眼圧を測定し,眼圧の季節変動を検討した.I対象および方法2007年1月から12月まで,毎月眼圧を測定できた正常人48例48眼を対象とした.男性22例,女性26例,年齢は〔別刷請求先〕設楽恭子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KyokoShidara,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN正常人での眼圧の季節変動設楽恭子*1井上賢治*1若倉雅登*1井上治郎*1富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医学部眼科学第二講座SeasonalVariationofIntraocularPressureinNormalSubjectsKyokoShidara1),KenjiInoue1),MasatoWakakura1),JiroInouye1)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)2ndDepartmentofOphthalmology,TohoUniversitySchoolofMedicine目的:プロスペクティブに,正常人における眼圧の季節変動の有無を検討する.対象および方法:2007年1月から12月に毎月眼圧を測定できた正常人48例48眼を対象とした.眼圧は毎月20±3日にGoldmann圧平式眼圧計で測定した.季節の振り分けは春35月,夏68月,秋911月,冬122月とし,各季節の平均眼圧値を比較した.さらに年間の眼圧変動幅が小さい(4mmHg以下,13例)症例と大きい(5mmHg以上,35例)症例に分け,各季節の平均眼圧値を比較した.結果:各季節の眼圧は全症例では春14.4±2.7mmHg,夏14.1±2.5mmHg,秋13.4±2.5mmHg,冬14.5±2.9mmHgで,秋の眼圧が有意に低かった.眼圧変動幅が小さい症例では各季節の眼圧に差がなく,大きい症例では秋の眼圧が有意に低かった.結論:正常人の眼圧には季節変動がある.眼圧は秋に低い傾向が認められた.Weprospectivelyinvestigatedtheintraocularpressure(IOP)in48eyesof48normalsubjects(males:22eyes,females:26eyes;meanage:39.1±10.0yrs).WecheckedIOPviaGoldmannapplanationtonometeronthe20thofeverymonth(±3days)for1yearandcomparedthemeanIOPsoftheseasons.WedenedspringasMarchtoMay,summerasJunetoAugust,autumnasSeptembertoNovemberandwinterasDecembertoFebru-ary.Wedividedthesubjectsintotwogroups(IOPvariationmorethan5mmHgorlessthan4mmHg)andcom-paredthemeanIOPforeachseason.ThemeanseasonalIOPsforallsubjectswerespring:14.4±2.7mmHg,sum-mer:14.1±2.5mmHg,autumn:13.4±2.5mmHgandwinter:14.5±2.9mmHg.ThemeanIOPforautumnwassignicantlylowerthanthemeansforotherseasons;itwasalsosignicantlylowerthanforotherseasonsinsub-jectswhoseIOPvariedmorethan5mmHg.ThisstudysuggeststhatIOPofnormaleyesundergoesseasonalvaria-tion.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):685688,2009〕Keywords:季節変動,眼圧,前向き試験,正常人.seasonalvariation,intraocularpressure,prospective,normalsubjects.———————————————————————-Page2686あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(106)2258歳,39.1±10.0歳(平均±標準偏差)であった.正常人の判定は,近視や乱視以外の眼科的疾患を有さず,眼底検査で視神経乳頭陥凹拡大など緑内障性の変化を認めず,Humphrey静的視野検査で異常がなく,かつ初回眼圧値が21mmHg以下とした.眼圧の測定方法は毎月20±3日の午前中に,Goldmann圧平式眼圧計で同一検者が同一の細隙灯顕微鏡を用いて測定した.眼圧は両眼測定したが,解析には右眼のデータを用いた.なお,検者には対象の前月までの眼圧値がわからない状況とした.1年間にわたり測定された眼圧値を以下の3項目で検討した.1)全例での年間の眼圧変動の有無.2)全例での眼圧の季節変動の有無.3)年間の眼圧の変動幅が4mmHg以下と5mmHg以上に分け,眼圧の季節変動の有無.季節の振り分けは気象庁のホームページと過去の報告3)により春は35月,夏は68月,秋は911月,冬は122月とした.ただし,年間の眼圧の変動幅は1年間で月別の眼圧の最高値と最低値の差とした.検定方法はANOVA(analysisofvari-ance,分散分析)およびBonferroni/Dunnet法を用いた.調査の実施にあたり対象には調査の主旨を説明し,インフォームド・コンセントを得た.II結果全症例での年間の眼圧変動はなかった(図1).全症例での各季節の眼圧は春14.4±2.7mmHg,夏14.1±2.5mmHg,秋13.4±2.5mmHg,冬14.5±2.9mmHgであった(図2).秋の眼圧は春,夏,冬に比べて有意に低かった(p<0.0001).年間の変動幅が4mmHg以下の症例は13例(27.1%),男性3例,女性10例,年齢は2251歳,34.0±10.6歳であった.各季節の眼圧は春13.5±2.9mmHg,夏13.8±2.9mmHg,秋13.3±3.0mmHg,冬13.4±2.9mmHgであった(図3).季節ごとで変動はなかった.年間の眼圧の変動幅が5mmHg以上の症例は35例(72.9%),男性19例,女性16例,年齢は2358歳,40.9±9.2歳であった.各季節の眼圧は,春14.9±2.9mmHg,夏14.3±2.4mmHg,秋13.4±2.4mmHg,冬15.0±2.9mmHgであった(図4).季節ごとの眼圧変動を認め,秋が春,夏,冬に比べて有意に低かった(p<0.0001).表1正常眼の眼圧変動地域対象(人)最高眼圧(mmHg)時期最低眼圧(mmHg)時期Blumenthal1)イスラエル6317.7±0.51,2月14.1±0.47,8月Klein2)アメリカ4,92615.714月15.279月逸見3)山梨県1915.72,4月13.69月Giufre4)イタリア1,06215.4±4.4冬14.3±3.4秋森5)岩手県6,33612.1±2.712月11.0±2.58月01月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月2月眼圧(mmHg)201816141210図1年間の眼圧変動眼圧図3年間の変動幅が4mmHg以下の症例での各季節の眼圧***眼圧図2全症例での各季節の眼圧*p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009687(107)III考按正常人の眼圧の季節変動に関する報告がある15).Blu-menthalら1)はイスラエルで63人の正常人の眼圧をSchiotz眼圧計で1年間のうち8回以上は測定して比較した.眼圧は11月から2月にかけて有意に高く,7月と8月が低かった.Kleinら2)はアメリカで住民健診での4,926人(男性2,135人,女性2,721人)の眼圧をGoldmann圧平式眼圧計で測定して比較した.眼圧は1月から4月にかけて有意に高く,7月から9月にかけて低かった.Giufreら4)はイタリアで住民健診での1,062人(男性474人,女性588人)の眼圧をGold-mann圧平式眼圧計で測定して比較した.眼圧は冬が春,夏,秋に比べて有意に高かった.日本では逸見ら3)は19人の正常人の眼圧をGoldmann圧平式眼圧計で測定して比較した.眼圧は2月と4月が高く,7月から9月にかけて低かった.森ら5)は集団検診で6,336人(男性3,687人,女性2,649人)の眼圧を非接触型眼圧計で測定して比較した.眼圧は12月が高く,8月が低かった.12月の眼圧は11月を除いた4月から10月までのすべての月に対して有意に高かった.しかし対象月は4月から12月までで,1月から3月までは調査から除外されていた.いずれの報告15)も眼圧は季節変動を有し,冬が高かった.今回の1年間にわたる正常人48名の眼圧変動は各月ごとには差はなかったが,9月から12月にかけて眼圧が低い傾向を認めた.これは眼圧には季節変動を呈するという過去の報告15)と一致するが,冬に眼圧が高くはなく,秋に眼圧が低かった.さらに,今回は年間の眼圧の変動幅での季節変動を検討した.年間の眼圧の変動幅が5mmHg以上の変動の大きい症例では眼圧は季節変動を呈しており,そのような症例が72.9%存在した.しかし,今回は症例数が少なく,また60歳以上の高齢者が対象に含まれていないため今後さらなる検討が必要である.ヒトの眼圧調整機序については自律神経機能が深く関与していると考えられ,第一は,交感神経のa受容体刺激により毛様体血管が収縮して限外濾過が減少する.第二は,毛様体のb受容体を介してATP(アデノシン三リン酸)よりサイクリックAMP(アデノシン一リン酸)を生じる過程が房水産生に重要な役割を果たし,b遮断薬が房水産生を抑制する.第三は,副交感神経刺激により毛様体筋が収縮し線維柱帯間隙を拡大することによって房水排出率を増加させることが知られている6).交感神経機能は寒冷にさらされたときに亢進し,血中および尿中カテコラミン含量は冬に有意な上昇が認められ,そのため冬に交感神経機能が亢進すると考えられている.その結果,カテコラミンの上昇がb受容体を介した房水産生を増加させ,寒冷期に眼圧が上昇すると考えられている7,8).気象庁から発表されたデータによると,2007年の年平均気温は全国的に高く,東京も同様で,さらに記録的な暖冬であった9).特に,1月,2月,8月,9月は例年に比し平均気温は1.5度高く,4月と7月は低温であった.今回,季節の振り分けを春は35月,夏は68月,秋は911月,冬は122月としており,春の気温は例年通りであり,夏は7月が低く8月が高かったことから気温は例年通り,秋は9月が例年以上に気温が高く,冬も1月,2月に気温が高かったことから1年を通してみると,例年よりも秋と冬の気温が高かったことがわかる.このことが,今回秋の眼圧が他の季節に比して低かったことの一因と考えられる.また,冬は過去の報告15)と同様に眼圧が高い傾向は認めたが,有意差がなかったのは,冬が例年より気温が高かったことが影響していると考えられる.逸見ら3)によると過去の報告で眼圧の季節変動を認めているのはいずれも年間の平均気温の差が15℃以上の地域である.2007年の東京の年平均気温は,最低気温は2月の8.6℃,最高気温は8月の29.0℃で,最高と最低気温で15℃以上の差がある.日本では年間の寒暖の差があり,冬に気温が下がるので眼圧の季節変動が起こりやすいと考えられる.今回筆者らは,プロスペクティブに正常人の眼圧変動を調査した.正常人には従来から指摘されているとおり眼圧の季節変動があり,秋に低かった.今後は緑内障患者での眼圧の季節変動を検討する予定である.文献1)BlumenthalM,BlumenthalR,PeritzEetal:Seasonalvariationinintraocularpressure.AmJOphthalmol69:608-610,19702)KleinBEK,KleinR,LintonKLPetal:Intraocularpres-sureinanAmericancommunity.InvestOphthalmolVisSci33:2224-2228,19923)逸見知弘,山林茂樹,古田仁志ほか:眼圧の季節変動.日眼会誌98:782-786,19944)GiufreG,GiammancoR,DardanoniGetal:Prevalenceofglaucomaanddistributionofintraocularpressureinapopulation.ActaOphthalmolScand73:222-225,19955)森敏郎,谷藤泰寛,玉田康房ほか:集団検診受診者から***0春秋冬夏眼圧(mmHg)201816141210図4年間の変動幅が5mmHg以上の症例での各季節の眼圧*p<0.0001,ANOVAおよびBonferroni/Dunnet.———————————————————————-Page4688あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(108)測定した眼圧の分析.あたらしい眼科14:437-439,19976)BartelesSP,RothO,JumbrattMMetal:Pharmacologicalefectsoftopicaltimololintherabbiteye.InvestOphthal-molVisSci19:1189-1197,19807)長滝重智,比嘉敏明:房水産生機構.緑内障の薬物療法(東郁郎編),p12-19,ミクス,19908)古賀貴久,谷原秀信:緑内障と眼圧の季節変動.臨眼55:1519-1522,20019)気象庁.平成20年報道発表資料.気象統計情報:http://www.date.jma.go.jp***

角膜サイドポートからの鑷子を用いた周辺虹彩切除の試み

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(101)6810910-1810/09/\100/頁/JCLS19回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科26(5):681684,2009cはじめに周辺虹彩切除術は1857年のVonGraefeによる報告に始まり1),閉塞隅角緑内障に対して確立されてきた重要な術式である.しかしレーザー虹彩切開術の広がりとともに施行される機会は減少し,いざ必要となった際には経験のない術者には心理的な負担を伴う.また基本的に結膜や強角膜切開を行うため2),将来濾過手術が必要となった場合に障害となる可能性がある.欧米では以前から結膜切開を行わず角膜切開創から鑷子を用いて行う周辺虹彩切除の報告3,4)があり,わが国では角膜から硝子体カッターを挿入して行った報告4)はあるが,鑷子によるものは見受けられない.そこで筆者らは角膜サイドポートよりイリデクトミー鑷子を用いて周辺虹彩切除を行ったので,その2症例を報告する.I症例〔症例1〕50歳,女性.主訴:緑内障精査加療希望.既往歴・家族歴:特記事項なし.現病歴:幼少時より両眼の視力低下があり,6歳時で0.4程度であった.平成8年から近医眼科で両眼滴状角膜,視神経萎縮,高眼圧症の診断で点眼加療されるも徐々に眼圧が20mmHgを超えるようになり,2007年10月31日に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼0.2(0.4×+1.25D(cyl1.50DAx45°),左眼0.2(0.3×+0.75D(cyl+1.25DAx50°)で,眼圧は眼圧下降点眼を用いず3%食塩水点眼使用して右眼21mmHg,左眼20mmHgであった.両眼ともに角膜は中央に軽度な実質の浮腫と混濁を認め,前房は浅く隅角は〔別刷請求先〕河原純一:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学Reprintrequests:JunichiKawahara,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN角膜サイドポートからの鑷子を用いた周辺虹彩切除の試み河原純一杉本洋輔望月英毅木内良明広島大学大学院医歯薬学総合研究科視覚病態学PeripheralIridectomyUsingTranscornealIridectomyForcepsJunichiKawahara,YosukeSugimoto,HidekiMochizukiandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalSciences,HiroshimaUniversity周辺虹彩切除はわが国では一般に結膜,強角膜切開で行われるが,今回角膜サイドポートからイリデクトミー鑷子を用いて周辺虹彩切除術を行ったので報告する.症例1は50歳,女性で,閉塞隅角緑内障に滴状角膜を合併しており,角膜から周辺虹彩切除を単独で行った.症例2は60歳,男性で,色素緑内障があり,線維柱帯切開術に周辺虹彩切除を組み合わせた.両症例とも十分な大きさの虹彩切除が作製され,合併症は認めなかった.本術式は手技が比較的容易で習得しやすく,結膜が温存できる,他の術式と組み合わせやすいといった利点があると考えられた.InJapan,peripheraliridectomygenerallyrequiresconjunctivalandsclerocornealincision.Weherereporttwocasesofperipheraliridectomyusingtranscornealiridectomyforceps.Incase1,a50-year-oldfemalewhohadangle-closureglaucomaandcornealguttata,weperformedonlytranscornealperipheraliridectomy.Incase2,a60-year-oldmalewhohadpigmentaryglaucoma,wecombinedtrabeculotomyandperipheraliridectomy.Bothcas-eshadsucientlysizediridectomycolobomas,andnocomplications.Thistechniquecanbeacquiredrelativelyeas-ilyandoferstheadvantagesofconjunctivalpreservationandeasycombinationwithothermethods.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):681684,2009〕Keywords:周辺虹彩切除,角膜サイドポート,イリデクトミー鑷子.peripheraliridectomy,transcorneal,iridec-tomyforceps.———————————————————————-Page2682あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(102)Shafer分類2度,Scheie分類III度であった.周辺虹彩前癒着は存在せず,水晶体はわずかに前皮質混濁を認めた.非接触型スペキュラーマイクロスコープでは,角膜内皮細胞は個々の同定ができないほどに減少しており,光学的な角膜厚測定はできなかった.眼底の透見は角膜混濁のため不良で,視神経乳頭は耳側が蒼白でC/D(cup/disc)比は0.7であった.Goldmann視野検査は湖崎分類で右眼IIb,左眼IIaであり,Humphrey視野検査は中心30-2プログラムで両眼とも全体的な感度低下を認めた.以上より両眼の滴状角膜,閉塞隅角緑内障と診断し,角膜内皮細胞が減少したことによる角膜の混濁,浮腫が視力低下の原因と考えた.経過:閉塞隅角緑内障への対策として両眼ともに周辺虹彩切除を選択することにした.手術はTenon下麻酔の後に11時の角膜輪部に20ゲージサイドポートを作製し(図1a)粘弾性物質を注入して前房を確保した.つぎに,サイドポートよりアリオ氏イリデクトミー鑷子(アシコ社)を挿入して(図1b)虹彩を掴み出し鑷子で切除した(図1c).虹彩を整復し(図1d),粘弾性物質を除去して終了した.術後は十分な大きさの虹彩切除が形成され,結膜は切開されていないため無侵襲で保存された(図2).術後炎症は軽度で0.1%フルオロメトロン点眼のみで速やかに消炎され,術後眼圧は両眼とも眼圧下降点眼を用いず1819mmHgであった.術後8カ月の時点で,虹彩切除創は閉塞せず経過していた.〔症例2〕60歳,男性.主訴:緑内障精査加療希望.既往歴・家族歴:特記事項なし.現病歴:平成13年から近医で緑内障の診断で点眼加療されてきたが,徐々に眼圧が上昇するために,2008年3月5図1術中写真(症例1)a:20ゲージサイドポートを作製.b:アリオ氏イリデクトミー鑷子で虹彩を把持.c:引き出した虹彩を切除.d:虹彩を整復.図2術後前眼部写真(症例1)a:右眼,b:左眼.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009683(103)日に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時所見:視力は右眼0.1(1.2×3.00D),左眼0.1(1.2×2.50D(cyl1.50DAx90°)で,眼圧はラタノプロスト,0.5%チモロール,0.1%ジピベフリン点眼使用して右眼23mmHg,左眼18mmHgであった.両眼ともに角膜後面には紡錘形ではないが多くの色素が付着し,前房は深く隅角はShafer分類4度,Scheie分類0度で高度の色素沈着を認めた.水晶体はわずかに前皮質の混濁を認めた.超音波生体顕微鏡(UBM)では虹彩が後方に屈曲しreversepupillaryblockが観察された(図3).虹彩のtransilluminationdefectはみられなかった.視神経乳頭のC/D比は右眼0.7,左眼0.6で,Goldmann視野検査は湖崎分類で右眼IIIa,左眼Ia,Humphrey視野検査は中心30-2プログラムで右眼にBjer-rum領域の感度低下があり,左眼は正常範囲内であった.以上の所見を総合して両眼の色素緑内障と診断した.経過:眼圧が高く視野障害も進行していた右眼に対して,線維柱帯切開術と周辺虹彩切除を行うこととした.手術はまず外下方より通常の線維柱帯切開術を行い,その後に症例1と同様に11時の角膜に20ゲージサイドポートを作製し,アリオ氏イリデクトミー鑷子で虹彩を掴み出し切除した.その際に虹彩前葉は切除されたが後葉が残ったため,後葉のみ鑷子で掴み出して除去した.今回,粘弾性物質は使用しなかった.術後は後葉が一部残存していたが十分な周辺虹彩切除となっていた(図4).術後のUBMでは後方に屈曲していた虹彩形状が平坦化し(図5),前後房の圧格差が改善しているようであった.術後4カ月後の時点で右眼眼圧は眼圧下降点眼を用いず20mmHgとなっており,虹彩切除部の閉塞はなかった.II考按閉塞隅角緑内障の治療としてレーザー虹彩切開が広く行われるようになり,周辺虹彩切除術を行う機会は減少した.さらに白内障手術が小切開の超音波水晶体乳化吸引術に進化して,白内障手術時にも周辺虹彩切除は行われなくなった.周辺虹彩切除術は眼科医として習得すべき基本の術式の一つと認識されるものの,強角膜輪部に垂直に切り込む機会がほとんどないために,その施行をためらい,ときには忌避されることがある.一方,透明角膜にサイドポートを作製することは小切開白内障手術のときに常時行っている慣れた操作である.そこで多くの術者にとって手慣れた切開層から周辺虹彩切除を行うことができないか,その有用性と新たな手技に伴う前眼部組織の挙動を検討してみた.症例1は両眼の滴状角膜を伴う閉塞隅角緑内障であった.閉塞隅角緑内障の管理として白内障手術,レーザー虹彩切開術,周辺虹彩切除術をそれぞれ検討したが,滴状角膜で高度の角膜内皮障害があるため白内障手術とレーザー虹彩切開術は角膜内皮への影響6)が避けられず将来の内皮障害進行が危惧されたため,周辺虹彩切除を行った.症例2では色素緑内障に対してレーザー虹彩切開術は有効である7)との報告がある一方,それのみでは長期間の眼圧コントロールは困難であ図3術前UBM(症例2)虹彩が後方に屈曲しreversepupillaryblockが観察された.図5術後UBM(症例2)虹彩形状が平坦化している.図4術後前眼部写真(症例2)一部に虹彩後葉が残っているが,十分な切除が行われている.———————————————————————-Page4684あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(104)る8)との報告があるため,眼圧下降とreversepupillaryblockの両者の改善を狙って線維柱帯切開術と周辺虹彩切除を組み合わせて行った.術後は両症例とも十分な大きさの虹彩切除となり,機能的に満足のできるものであると考えた.本術式は角膜サイドポートから行うことにより新たな結膜や強膜の切開が不要となるため,将来の濾過手術に備えて術野を保存することができ,異なった手術と組み合わせる場合でも有効である.また角膜サイドポートを通した手技は白内障手術時に多くの術者が経験しており,新たな技術習得を要せず比較的簡便に行えるというのも,術者の負担を減少させる大きな利点である.今回はアリオ氏イリデクトミー鑷子を用いたが,一般的に使用されている前切開鑷子のように角膜サイドポートから挿入できる器具であれば,虹彩の把持は可能で代用できると考える.注意点としては,把持できる虹彩幅が小さいために一度に虹彩全層を切除することはむずかしく,後葉が残った際には鑷子で確実に除去しておくことがあげられる.前葉が切除されていれば,残った後葉は鑷子で容易にがし取ることができるため,小切開からでも確実な全層切除が行える.切除がなされているかどうかは,徹照させて確認することが望ましい.またサイドポートを作製する際に,角膜内の走行が長くなると輪部近くの虹彩が把持できず瞳孔中央に近い切除になってしまう.虹彩切除術は文字通り虹彩周辺部で行われるべき術式であり,なるべく短い角膜創で前房に到達する必要がある.粘弾性物質に関しては症例1では初めての症例ということもあり使用した.術中の操作は容易であったが,前房に残った粘弾性物質を除去する際に前房が不安定になり,かえって角膜内皮の損傷が危惧された.そのため症例2では粘弾性物質を使用しなかったが,前房保持が不安定になることはなかった.むしろ粘弾性物質を使用しないほうが,虹彩が創に嵌頓しやすく,虹彩切除が容易になった.症例1は浅前房で症例2は十分な前房深度があるという違いがあり,粘弾性物質の使用に関しては個々の症例で検討されるべきである.また今回は本来最も周辺虹彩切除術の適応になる急性緑内障発作眼に試みることができなかったため,その適応につき今後の検討課題としたい.角膜サイドポートから鑷子を用いて行う周辺虹彩切除術は,手技が比較的容易で合併症がなく有効な方法であった.今後,急性緑内障発作眼でも適応の可否を検討していくとともに,輪部切開による周辺虹彩切除とそれぞれの優劣を比較検討する予定である.文献1)VonGraefeA:UeberdieIridectomiebeiGlaucomundueberdenglaucomatosenProcess.ArchOphthalmol3:456-555,18572)黒田真一郎:緑内障手術手技周辺虹彩切除術.臨眼58:1140-1144,20043)AhmadN:Transcornealperipheraliridectomy.Ophthal-micSurg11:124-127,19804)HoferKJ:Pigmentvacuumiridectomyforphakicrefrac-tivelensimplantation.JCataractRefractSurg27:1166-1168,20015)岩脇卓司,山城健児,野中淳之ほか:偽水晶体眼に対する硝子体カッターによる周辺虹彩切除.眼科手術19:109-112,20066)松永卓二,阿部達也,笹川智幸ほか:アルゴンレーザー虹彩切開術後の水疱性角膜症の検討.眼紀52:1011-1015,20017)KarickhofJR:Pigmentarydispersionsyndromeandpig-mentaryglaucoma:anewmechanismconcept,anewtreatment,andanewtechnique.OphthalmicSurg23:269-277,19928)ReistadCE,ShieldsMB,CampbellDGetal:Theinu-enceofperipheraliridotomyontheintraocularpressurecourseinpatientswithpigmentaryglaucoma.JGlaucoma14:255-259,2005***

遺伝性白内障ICR/fラットの水晶体混濁におけるインターロイキン18およびDNA分解酵素の関与

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(95)6750910-1810/09/\100/頁/JCLS28回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科26(5):675680,2009cはじめに白内障とは水晶体が白く混濁するすべての現象をいい,現在まで数多くの研究がなされている1).白内障は全世界の失明の約40%を占めており,罹患率は加齢に伴って増加し,80歳以上の高齢者ではほとんどが何らかの形で白内障の症状を示すことが報告されている2).この白内障のおもな発症〔別刷請求先〕伊藤吉將:〒577-8502東大阪市小若江3-4-1近畿大学薬学部製剤学研究室Reprintrequests:YoshimasaIto,Ph.D.,SchoolofPharmacy,KindaiUniversity,3-4-1Kowakae,Higashi-Osaka,Osaka577-8502,JAPAN遺伝性白内障ICR/fラットの水晶体混濁におけるインターロイキン18およびDNA分解酵素の関与長井紀章*1伊藤吉將*1,2竹内典子*3臼井茂之*4平野和行*4*1近畿大学薬学部製剤学研究室*2同薬学総合研究所*3名城大学薬学部生理学研究室*4岐阜薬科大学薬剤学研究室InvolvementofInterleukin18andDNaseII-likeAcidDNaseinCataractFormationinICR/fRatNoriakiNagai1),YoshimasaIto1,2),NorikoTakeuchi3),ShigeyukiUsui4)andKazuyukiHirano4)1)SchoolofPharmacy,2)PharmaceutialResearchandTechnologyInstitute,KindaiUniversity,3)SectionofBiochemistry,FacultyofPharmacy,MeijoUniversity,4)LaboratoryofPharmaceutics,GifuPharmaceuticalUniversityIharacataractrat(ICR/fラット)はヒト加齢白内障に類似した水晶体混濁を示す遺伝性白内障モデル動物である.本研究ではこのICR/fラット白内障発症機構を明らかにするために,近年白内障発症の要因として報告されたインターロイキン18(IL-18)およびDNA分解酵素(DNaseII-likeacidDNase:DLAD)のICR/fラット水晶体混濁における関与について検討した.2263日齢の間ではICR/fラット水晶体は透明性を維持し,混濁は認められなかった.しかしながら,77日齢より水晶体混濁が開始し,91日齢では成熟白内障に達した.水晶体混濁開始直前の63日齢および成熟白内障時の91日齢では22日齢のICR/fラット水晶体と比較しIL-18活性化関連遺伝子(IL-18,IL-18Rおよびcaspase-1)および成熟型IL-18蛋白発現量の上昇が認められた.一方,DLAD遺伝子発現量は,いずれの日齢においても変化はみられず,ICR/fラット水晶体核部への未切断ゲノムDNA残存も認められなかった.これらの結果はIL-18がICR/fラット水晶体混濁に関与する可能性を強く示唆した.また,ICR/fラット水晶体ではDNA分解酵素の低下や核部へのゲノムDNA残存が起こらないことを明らかとした.TheIharacataractrat(ICR/frat)isarecessivehereditarycataractstrainwhosemechanismofcataractdevelopmentissimilartothatofsenilecataractsinhuman.Inthisstudy,wedemonstratedtheinvolvementofinterleukin18(IL-18),whichleadstointerferon-gamma,andDNaseII-likeacidDNase(alsocalledDNaseIIb,DLAD)inthelensesofICR/fratsduringcataractdevelopment.AlthoughthelensesofICR/fratsweretranspar-entatage22to63days,lensopacicationstartedat77days,thelensesof91-day-oldICR/fratsbecomingentire-lyopaque.ThegeneexpressionlevelscausingIL-18activation(IL-18,IL-18receptorandcaspase-1)increasedat63daysofage;theexpressionofmatureIL-18proteinintheICR/fratlensesalsoincreaseswithage.Ontheoth-erhand,theDLADmRNAexpressionlevelsdidnotchangewithage,whileundigestedDNAwasdegradedinthelensnucleiof91-day-oldICR/frats.TheseresultssuggestthatincreasedIL-18activityisrelatedtocataractdevelopment.Inaddition,DLADdysfunctionandaccumulationofundigestedDNAwerenotobservedincataractdevelopmentinICR/frats.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):675680,2009〕Keywords:白内障,ICR/fラット,インターロイキン18,DNA分解酵素,未切断DNA.cataract,Iharacataractrat,interleukin18,DNaseII-likeacidDNase,undigestedDNA.———————————————————————-Page2676あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(96)機構としては,紫外線などにより誘導される酸化的ストレスが水晶体上皮細胞に傷害を与えることで細胞内恒常性が破綻をきたし水晶体中カルシウムイオン(Ca2+)量の上昇を導くことが起因とされている3,4).さらに,この水晶体中Ca2+量上昇によりCa2+依存性蛋白分解酵素であるカルパインが活性化され,これによりクリスタリン蛋白質が分解・凝集され水晶体が白く混濁するという報告がなされている3,4).また,近年ではDNA分解酵素の欠乏が水晶体核部へのゲノムDNA残存をひき起こし,このゲノムDNA残存が水晶体混濁につながるといった機構が注目されている5).筆者らはこれまで急速に水晶体混濁がみられる遺伝性白内障動物UPLラットを用い,水晶体混濁以前に強力なインターフェロン-gの産生誘導,ナチュラルキラー細胞活性化,誘導型一酸化窒素合成酵素の誘導能などの生理活性を有することが知られているインターロイキン18(IL-18)が発現すること6)や,水晶体混濁時に核部でのゲノムDNA残存が認められることを明らかとしてきた7).このUPLラットは寿命,体重曲線,血液学的パラメータ,血液生理学的パラメータ,血糖値において正常ラットと変わらないことが確認されており,眼異常を除く生物学的特性はほぼ正常であることが明らかとなっている8).したがって,UPLラットは白内障発症機構の解明を行ううえできわめて適切なモデルであると考えられている.しかしながら,UPLラットの水晶体混濁は短期間で急速に認められることから,その水晶体混濁機構解明を目指した研究では有効だが,抗白内障薬の有効性における研究には不向きであり,ヒト加齢白内障のように水晶体混濁化がゆっくりと進行するモデル動物の開発が望ましいと考えられた.Iharacataractrat(ICR/fラット)は遺伝性白内障発症動物であり,その発症率は100%である9).これまでの研究から,生後75日頃から水晶体の混濁が徐々に進行し,生後90日頃には成熟白内障に達する9).また,水晶体混濁時のCa2+濃度は透明時のそれと比較し約10倍に上昇し,水晶体中カルパインの活性化およびクリスタリン蛋白質の分解・凝集も確認されている9).したがって,ICR/fラットは,抗白内障薬の有効性検討を行ううえで適切なモデルであると考えられた.本研究ではUPLラットと比較し徐々に水晶体混濁化が進行するICR/fラット白内障発症における,IL-18およびDNA分解酵素(DNaseII-likeacidDNase:DLAD)の関与ついて検討した.I対象および方法1.実験動物実験には名城大学から分与された2291日齢のICR/fラットを用いた.ICR/fラットはともに25℃に保たれた環境下で飼育し,飼料(飼育繁殖固形飼料CE-2,日本クレア)および水は自由に摂取させた.2.前眼部画像解析22,63および91日齢のICR/fラットの前眼部スリット像の撮影は,前眼部画像解析装置EAS-1000(ニデック社製)を用いて行った.3.遺伝子発現量の測定摘出した水晶体よりインビトロジェン社製Trizol試薬(1ml)を用いてAcidguanidium-phenol-chloroform法により全RNAを抽出し,RNAPCRkit(AWVVer2.1,タカラ社製)を用い1μgの全RNAからcDNAを合成した.合成したcDNAにGenBankTMからのデータベースより設計した各遺伝子特異的プライマーを加え,半定量および定量poly-merasechainreaction(PCR法)を行った.半定量PCR法表1定量RTPCR法における各種プライマー塩基配列PrimerSequence(5′-3′)GenBankAccessionNo.IL-18FORCGCAGTAATACGGAGCATAAATGACNM_019165REVGGTAGACATCCTTCCATCCTTCACIL-18RaFORAGCAGAAAGAGACGAGACACTAACXM_237088REVCTCCACCAGGCACCACATCIL-18RbFORGACCACAGGATTTAACCATTCAGCAJ550893REVAGCAGGACCTAGTGTTGATGATGIL-18BPFORTTGGTGGGTCCTGCTTCTATATGAF154569REVGGTCAGCGTTCCATTCAGTGCaspase-1FORTGAAGATGATGGCATTAAGAAGGCNM_012762REVCAAGTCACAAGACCAGGCATATTCDLADFORTTGCTCTTCGTTGCCCTGTCAF178974REVTCCTCTGCTGGTCCTTCTGGGAPDHFORACGGCACAGTCAAGGCTGAGANM_017008REVCGCTCCTGGAAGATGGTGAT———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009677(97)は以下のプライマーを用い30cycleにて行った.5′-TCAGATGTGTGCCAAGTCCAGTGCCTC-3′および5′-AATACAGGTCCAGCGAGCCTGAGAGTC-3′(DLAD,GenBankaccessionNo.AF178974);5′-GGTGCTGAGTATGTCGTGGAGTCTAC-3′および5′-CATGTAGGCCATGAGGTCCACCACC-3′(glyceraldehyde-3-phosophatedehydrogenase(GAPDH),GenBankaccessionNo.NM_017008).これにより得られたPCR生成物は1.5%アガロースゲルにて泳動後,エチジウムブロマイド照射によって撮影された.定量PCR法は,LightCycler(ロシュ社製)を用い遺伝子発現量の測定を行った.表1には今回使用した各種プライマー塩基配列を示した.本研究では各種遺伝子発現量はGAPDHに対する比から求めた.4.ウエスタンブロッティングICR/fラットの水晶体に生理食塩水200μlを加え氷中でホモジナイズした.水晶体ホモジネートは20分間氷中で超音波処理後,遠心分離(1,500rpm,10min,4℃)により上清を採取した.この上清に等量のLoadin緩衝液(12.5mmol/lTris-HCl,pH6.8,0.4%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS),2%グリセロール,1%2-メルカプトエタノール,0.004%ブロモフェノールブルー)を加え,3分間煮沸することで標品を作製した.この標品(10μg)を15%ポリアクリルアミドSDSゲルで100V,90min泳動することで分離し,SEMI-DRYTRANSFERCELL(BIO-RAD社製)を用い,蛋白質をポリビニルデンフッ化メンブラン(BIO-RAD社製)に転写した(20V,2.0A,50min).転写後,トリス緩衝液(20mMTris-HCl,500mMNaCl,pH7.5)で5分間洗浄し,さらにメンブランの非特異部位をブロッキングするため,3%低脂肪粉ミルク含有トリス緩衝液中に8時間浸した.ウエスタンブロッティングは2時間室温で15μg/lgoatanti-ratIL-18ポリクロナール抗体(プロメガ社製)で標識した.2次抗体には15μg/lanti-goatIgG(1:7000希釈,プロメガ社製)を用いて2時間室温で反応させた.その後,アルカリホスファターゼ(プロメガ社製)に対する基質10mlとともに15minインキュベートすることで発色させた.5.水晶体中ゲノムDNAの測定ICR/fラットから摘出した水晶体を皮質部と核部に分離後試料とした.ゲノムDNA抽出にはQuickPickTMgDNAkit(BIO-NOBILE社製)を用いた.DNA抽出後,サンプルを1.0%アガロースゲルに添加し,Mupid-21ミニゲル電気泳動槽(コスモバイオ)を用いて電気泳動(100V,40min)を行った.泳動後,エチジウムブロマイド溶液(0.5μg/ml)にて25min染色しdiethylpyrocarbonate(DEPC)水にて15min洗浄した.写真は泳動終了後ImageMaster-CLを用い,ゲルに紫外線を照射することで確認されるバンドを撮影した.II結果1.水晶体混濁に伴うICR/fラット水晶体中IL18遺伝子および蛋白発現量の変化図1にはEAS-1000によるICR/fラット水晶体の前眼部スリット像を示した.2263日齢のICR/fラット水晶体は透明であり混濁は認められなかったが,77日齢では水晶体の混濁の開始が認められ,91日齢のICR/fラット水晶体は成熟白内障であった.図2には22,63および91日齢のICR/fラット水晶体中IL-18の活性化関連遺伝子(IL-18,IL-18Ra,IL-18Rb,IL-18BPおよびcaspase-1)遺伝子発現量の変化について示した.IL-18Raはいずれの週齢においても変化はみられなかった.一方,水晶体混濁開始直前の63日齢および水晶体混濁時の91日齢では22日齢のICR/fラット水晶体と比較しIL-18,IL-18Rb,IL-18BPおよびcaspase-1の上昇がみられた.さらに,18kDaのIL-18蛋白も水晶体混濁直前の63日齢および成熟白内障時である91日齢でその発現上昇が認められた(図3).2.水晶体混濁に伴うICR/fラット水晶体中DLAD遺伝子およびゲノムDNAの変化図4に水晶体中DLAD遺伝子発現量を示した.22,63および91日齢のICR/fラットいずれにおいても水晶体中DLAD遺伝子発現量は一定であった.図5には22および91日齢ICR/fラット水晶体皮質部および核部におけるゲノムDNA残存性について示した.ICR/fラット水晶体皮質部では,日齢にかかわらず未切断DNAが高度に存在しており,核部では未切断ゲノムDNAは認められなかった.774963229135days図1ICR/fラットにおける水晶体前眼部スリット像———————————————————————-Page4678あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(98)III考按前眼部画像解析装置EAS-1000は,動物を殺傷せずに経時的に水晶体混濁の測定が可能である.本研究でははじめに,この前眼部画像解析装置EAS-1000を用いICR/fラットの水晶体混濁発現時期について検討した.その結果,22および63日齢のICR/fラット水晶体は透明性を維持しており,混濁は認められなかったが,77日齢では混濁開始が認められ,91日齢のICR/fラット水晶体は成熟白内障であった.この結果から本研究では22日齢を透明な水晶体,63日齢を水晶体混濁直前の水晶体,そして91日齢を成熟白内障水晶体とし,ICR/fラット白内障発症へのIL-18およびDNA分解酵素の関与について検討した.IL-18の塩基配列から推測される蛋白質は分子量24kDのIL-18前駆体であることが知られている.この24kDの22day63day91day20kDa15kDa図3ICR/fラットにおける成熟型IL18蛋白発現量IL-18BPmRNACaspase-1mRNAIL-18RbmRNAIL-18RamRNAIL-18mRNA912263Age(days)9101234567891002468101214012345670123456780.50.51.01.52.02.53.03.5IL-18/GAPDH(×10-3)IL-18Ra/GAPDH(×10-5)IL-18Rb/GAPDH(×10-5)IL-18BP/GAPDH(×10-3)Caspase-1/GAPDH(×10-4)図2ICR/fラットにおけるIL18,IL18Ra,IL18Rb,IL18BPおよびcaspase1遺伝子発現量の変化(n=34)BAAge(days)400bp300bp0510152025226322day91day91DLAD/GAPDH(×10-2)図4ICR/fラットにおけるDLAD遺伝子発現量の変化A:半定量PCR法,B:定量PCR法.(n=34)10kb3kb22dayCorNuc91dayCorNuc図5ICR/fラット水晶体皮質部(Cor)および核部(Nuc)における未切断ゲノムDNA———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009679(99)IL-18前駆体は一般の分泌蛋白に存在するリーダーペプチドをもっておらず,生理活性も有していない.近年,この24kDaのIL-18前駆体がcaspase-1によるプロセッシングを受け,生理活性をもつ18kDaの分子(成熟型IL-18)になることが明らかとされた10).また,成熟型IL-18がIL-18レセプター(IL-18R)に作用することで,インターフェロン-g(IFN-g)誘導などの生理活性を発現することが明らかとされている.このIL-18RにはIL-18Ra鎖(IL-1Rrp)およびIL-18Rb鎖(AcPL)が存在し,IL-18Ra鎖とIL-18Rb鎖はヘテロ二量体のIL-18R複合体である.IL-18はIL-18Ra鎖に結合し,IL-18Rb鎖の作用活性を増強する10).特にIL-18Rb鎖はIL-1receptor-associatedkinase(IRAK)など,その後の生理活性作用増強と活性化に不可欠の物質として知られる10).そこで本研究では22,63および91日齢のICR/fラット水晶体におけるIL-18活性化関連遺伝子(IL-18,IL-18Ra,IL-18Rb,IL-18BPおよびcaspase-1)発現量の変化について示した.IL-18aはいずれの週齢においても変化はみられなかったが,水晶体混濁開始直前の63日齢および水晶体混濁時の91日齢では22日齢のICR/fラット水晶体と比較しIL-18,IL-18Rbおよびcaspase-1遺伝子発現量および成熟型IL-18蛋白発現量上昇がみられICR/fラット水晶体混濁にIL-18発現が関与することが強く示唆された.一方,IL-18の特異的内因性阻害薬であるIL-18bindingprotein(IL-18BP)11,12)も63および91日齢水晶体において上昇が認められた.Hurginらは,IFN-gの増加はIL-18BP発現を誘発することを明らかとしている13).したがって,ICR/fラット水晶体中IL-18BP発現量の増加は,IL-18の活性化を介したIFN-g過剰産生によりひき起こされるのではないかと示唆された.他の白内障発症要因として,水晶体の線維化不全が注目されている5).水晶体は,通常の組織にみられるように基底膜上に上皮細胞があるのではなく,水晶体が周囲を覆いその内側に上皮細胞が存在する.細胞分裂は増殖帯でのみ観察され,分化した細胞は新たに分化した細胞に押され水晶体中心部に移動する.この水晶体中心部で水晶体核を形成している線維細胞は核をもっておらず,線維細胞の脱核は細胞分化が起こり伸展した線維細胞からなる水晶体皮質が中心部へ移動する過程で起こるとされている.このように線維細胞の分化は細胞内小器官などの消失を伴うことが知られており,特に細胞核を含む細胞内小器官の消失は,水晶体に透明性をもたらす重要な変化であると考えられている.近年,DLADが水晶体線維化過程ゲノムDNAの消失を担っており,このDLADが欠損すると,本来除去されるはずのゲノムDNAが核部に残存し,水晶体が混濁する原因になると報告された5).そこで先のICR/fラットにおける水晶体混濁と水晶体中ゲノムDNA残存性について検討を行った.その結果,ICR/fラット水晶体皮質部では,日齢にかかわらず未切断DNAが高度に存在しており,核部では未切断ゲノムDNAは認められなかった.したがって,DNA分解酵素の低下や核部へのゲノムDNA残存はICR/fラット水晶体混濁には影響しないことが明らかとなった.IL-18産生はUPLラットおよびICR/fラットでともに認められたのに対し,DNA分解酵素の低下や核部へのゲノムDNA残存はUPLラットのみで認められ,ICR/fラット水晶体混濁には関与しなかったことから,UPLラット白内障にはICR/fラットと比較し,より複数の要因が関与し発症するものと示唆された.これらの結果は,UPLラットは多角的な視点による水晶体混濁機構解明を目指した研究に有効であり,ICR/fラット白内障はヒト加齢白内障と類似していることから,抗白内障薬の有効性における研究に適していると考えられた.これらIL-18活性発現と水晶体混濁の関連性を明確にするためにはさらなる研究が必要である.したがって,現在筆者らはIL-18阻害薬がICR/fラット水晶体混濁へ与える影響について検討しているところである.以上,本研究ではIL-18産生がICR/fラット水晶体混濁に関与する可能性を強く示唆した.また,ICR/fラットではDNA分解酵素の低下や核部へのゲノムDNA残存がないことを明らかとした.これらの報告は今後の抗白内障薬開発研究の確立に有用であるものと考える.文献1)HardingJJ:Cataract;biochemistry,epidemiologyandpharmacology.ChapmanandHall,London,19912)佐々木一之:白内障.医学と薬学33:1271-1277,19953)ShearerTR,DavidLL,AndersonRSetal:Reviewofsel-enitecataract.CurrEyeRes11:357-369,19924)SpecterA:Oxidativestress-inducedcataract:mecha-nismofaction.FASEBJ9:1173-1182,19955)NishimotoS,KawaneK,WatanabeFRetal:Nuclearcat-aractcausedbyalackofDNAdegradationinthemouseeyelens.Nature424:1071-1074,20036)NagaiN,ItoY,OkamuraH:Involvementofinterleukin18incataractdevelopmentinhereditarycataractUPLrats.JBiochem(Tokyo)142:597-603,20077)NagaiN,TakeuchiN,KameiAetal:InvolvementofDNaseII-likeacidDNaseinthecataractformationoftheUPLratandtheShumiyacataractrat.BiolPharmBull29:2367-2371,20068)NabekuraT,KoizumiY,NakaoMetal:DelayofcataractdevelopmentinhereditarycataractUPLratsbydisul-ramandaminoguanidine.ExpEyeRes76:169-174,20039)NagaiN,ItoY,TakeuchiN:InhibitiveeectsofenhancedlipidperoxidationonCa(2+)-ATPaseinlensesofheredi-tarycataractICR/frats.Toxicology247:139-144,200810)GuY,KuidaK,TsutsuiHetal:Activationofinterferon-gammainducingfactormediatedbyinterleukin-1beta———————————————————————-Page6680あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(100)convertingenzyme.Science275:206-209,199711)NakanishiK,YoshimotoT,TsutsuiHetal:Interleu-kin-18regulatesbothTh1andTh2responses.AnnuRevImmunol19:423-474,200112)AizawaY,AkitaK,TaniaiMetal:Cloningandexpres-sionofinterleukin-18bindingprotein.FEBSLett445:338-342,199913)HurginV,NovickD,RubinsteinM:ThepromoterofIL-18bindingprotein:activationbyanIFN-gamma-inducedcomplexofIFNregulatoryfactor1andCCAAT/enhancerbindingproteinbeta.ProcNatlAcadSciUSA99:16957-16962,2002***

マウスのアレルギー性結膜炎モデルに対する脂質メディエーター関連化合物の効果

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1(91)6710910-1810/09/\100/頁/JCLS28回日本眼薬理学会原著》あたらしい眼科26(5):671674,2009cはじめにアレルギー性結膜炎は,眼部の掻痒感,充血,結膜浮腫および上眼瞼結膜乳頭を主徴とする眼瞼結膜のⅠ型アレルギー性疾患である1).特に,掻痒感は患者の自覚症状として現れ,qualityoflife(QOL)を低下させる要因となっている.ヒスタミンは掻痒感を誘発させる因子として最も強力な関与があるとされている2,3).しかし,抗ヒスタミン薬だけではアレルギー性結膜炎の症状を完全には抑制しない例も報告46)されており,ヒスタミン以外のメディエーターの関与が示唆されている.そこで,BALB/c系雌性マウスを用いて,卵白アルブミン(OVA)を抗原として全身感作した後,眼部にOVAを直接点眼投与する局所感作を連続的に行うことにより,マウスのアレルギー性結膜炎モデルの作製を試みた.さらに,この実験モデルを用いて,ヒスタミン以外の脂質メディエーターのアレルギー性結膜炎に対する関与を明らかにする目的で,〔別刷請求先〕亀井千晃:〒700-8530岡山市津島中1-1-1岡山大学大学院医歯薬学総合研究科薬効解析学教室Reprintrequests:ChiakiKamei,Ph.D.,DepartmentofMedicinalPharmacology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences,1-1-1Tsushima-Naka,Okayama700-8530,JAPANマウスのアレルギー性結膜炎モデルに対する脂質メディエーター関連化合物の効果西藤俊輔杉本幸雄亀井千晃岡山大学大学院医歯薬学総合研究科薬効解析学教室EectsofLipidMediator-AssociatedCompoundsonAllergicConjunctivitisinMiceShunsukeSaito,YukioSugimotoandChiakiKameiDepartmentofMedicinalPharmacology,OkayamaUniversityGraduateSchoolofMedicine,DentistryandPharmaceuticalSciences本研究では,アレルギー性結膜炎における脂質メディエーター関連化合物の効果について検討した.まず,マウスにくり返し抗原(卵白アルブミン)を点眼投与することにより眼部引っ掻き行動の増加およびアレルギー症状が認められるアレルギー性結膜炎モデルを作製した.作製したモデルを用いて,H1受容体拮抗薬であるセチリジン,シクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択的阻害薬であるエトドラクおよび5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるAA-861の効果を検討した.その結果,セチリジンおよびエトドラクの投与により,抗原誘発眼部引っ掻き行動が有意に抑制された.また,セチリジンおよびAA-861の投与により,抗原誘発アレルギー症状が有意に抑制された.以上の成績から,アレルギー性結膜炎の痒みにはH1受容体拮抗薬およびCOX-2選択的阻害薬,アレルギー症状にはH1受容体拮抗薬および5-リポキシゲナーゼ阻害薬が有効であることが示唆された.Thepurposeofthisstudywastoinvestigatetheeectsoflipidmediator-associatedcompoundsonallergicconjunctivitisinmice.Repeatedtopicalapplicationofantigen(ovalbumin)causedincreaseineye-scratchingbehav-iorandallergicsymptoms,suchashyperemiaandedema,insensitizedanimals.Cetirizine(H1receptorantagonist)andetodolac(selectivecyclooxygenase(COX)-2inhibitor)causedinhibitionofeye-scratchingbehaviorinducedbytopicalsensitization,inadose-relatedmanner.Inaddition,cetirizineandAA-861(5-lipoxygenaseinhibitor)causedinhibitionofallergicsymptomsinducedbytopicalsensitization,inadose-relatedmanner.TheseresultsindicatethatH1receptorantagonistandselectiveCOX-2inhibitorareusefulforinhibitingitching,whereasH1receptorantagonistand5-lipoxygenazeinhibitorareusefulforinhibitingallergicsymptomsofallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)26(5):671674,2009〕Keywords:アレルギー性結膜炎,痒,H1受容体拮抗薬,COX-2選択的阻害薬,5-リポキシゲナーゼ阻害薬.allergicconjunctivitis,itching,H1receptorantagonist,selectiveCOX-2inhibitor,5-lipoxygenazeinhibitor.———————————————————————-Page2672あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(92)シクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択的阻害薬であるエトドラクおよび5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるAA-861の効果を検討した.I実験方法1.マウスのアレルギー性結膜炎モデルの作製BALB/c系雌性マウスを以下に示す方法により感作した.OVA(Sigma)1μgおよび水酸化アルミニウムゲル(LSL)100μgを生理食塩液0.2mlに懸濁し初回感作から0,5,14および21日目に腹腔内投与することにより全身感作を行った.さらに初回感作から28日目以降,局所感作として1週間に3回OVA(100mg/ml)を両眼にマイクロピペットで2μlずつ点眼した.2.眼部引っ掻き行動の測定マウスを観察用ケージ(幅31cm,奥行18cm,高さ25cm)に入れ,10分間環境に馴化させた後,OVAまたはヒスタミンを両眼にマイクロピペットで2μl/site点眼した際に誘発される後肢による眼部引っ掻き行動の回数を30分間計測することにより行った.3.アレルギー症状のスコア化発赤もしくは浮腫の症状をそれぞれ以下のスコアで判定し,浮腫と発赤のtotalscoreをアレルギー症状の指標とした.両眼で症状が異なる場合はより重症度の高いものを指標として用いた.0=無症状1=軽度の発赤または浮腫2=中等度の発赤または浮腫3=重度の発赤または浮腫4.Passivecutaneousanaphylaxis(PCA)抗体価の測定法感作したマウスの腹部大静脈から採取した血液を遠心分離して得られた血清成分を20℃で凍結保存した.血清は,未感作および初回感作から140日目のものを使用した.PCA反応は血清を2倍希釈系列とし,ラットの背部に0.1mlずつ皮内注射した.48時間後,1%Evansblue溶液とOVA5mg/ml溶液を等量混合した溶液を2ml/kgになるようにラットの尾静脈内に注射した.30分後,エーテルにより致死させ,背部皮膚を剥離し,色素斑の直径が5mm以上の場合を陽性と判定した.5.各種薬物の投与作製したモデルを用いて5%アラビアゴムに懸濁したセチリジン,エトドラクおよびAA-861を経口投与し,1時間後にOVA(100mg/ml)を2μl/site点眼投与した.6.統計処理実験データはすべて平均値±標準誤差で示した.統計学的検討は,眼部引っ掻き行動では2群間の比較にStudentのt検定を,多群間の比較にはDunnett法を用いた.アレルギー症状はMann-WhitneyUtest法およびKruskal-Wallis法を用い,危険率5%未満の場合を有意差ありと判定した.II実験成績1.マウスのOVA誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状の経時的変化感作したマウスにOVAを点眼した際に誘発される眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状の経時的変化を図1に示した.局所感作を行うことにより感作35日目以降対照群と比較して有意な眼部引っ掻き行動の増加が誘発された(図1a).感作42日目以降は,対照群と比較して有意なアレルギー症状が誘発された(図1b).2.感作マウスにおけるPCA抗体価の測定未感作および感作したマウスにおける,血中の卵白アルブミンに対する特異的IgE(免疫グロブリンE)抗体価を,PCA反応により測定した結果を図2に示した.感作マウスではPCA抗体価は128512倍まで上昇しており,抗原特異的抗体価が上昇していることが確認された.一方,未感作マウスでは抗体価の上昇はみられなかった.(a)(b)感作後日数感作後日数705642281269811284847056422898112126123045スコア030252015105眼部引っ掻き行動(回数/30分)***********************************************図1抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状の変化a:眼部引っ掻き行動,b:アレルギー症状.○:Saline,●:OVA.*:p<0.05,**:p<0.01,n=10.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009673(93)3.ヒスタミンおよびOVAの感受性の変化初回感作から0,28,56および84日目のマウスを用いてヒスタミンおよびOVA誘発眼部引っ掻き行動を測定した結果を表1に示した.初回感作から56日目および84日目においてヒスタミンおよびOVA誘発眼部引っ掻き行動は,用量依存的に増加し,ヒスタミン500nmol/siteおよびOVA200μg/siteの用量で,生理食塩液を点眼した場合と比較して有意な眼部引っ掻き行動の増加が認められた.初回感作から84日目においてOVA20μg/site以上の用量で,生理食塩液を点眼した場合と比較して有意な眼部引っ掻き行動の増加が認められた.4.抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状に対する各種薬物の効果感作84日目のマウスを用いて,抗原の点眼により誘発される眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状に対するセチリジン,エトドラクおよびAA-861の効果を表2に示した.セチリジンは,抗原により誘発される眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状を用量依存的に抑制し,いずれの症状に対しても10mg/kgの用量で有意な抑制作用を示した.エトドラクも,抗原により誘発される眼部引っ掻き行動を用量依存的に抑制し,100mg/kgの用量で有意な抑制作用を示した.アレルギー症状に対してはいずれの用量においても有意な抑制作用を示さなかった.AA-861は,抗原により誘発されるアレルギー症状を用量依存的に抑制し,100mg/kgの用量で有意な抑制作用を示した.眼部引っ掻き行動に対しては,いずれの用量においても有意な抑制作用を示さなかった.III考察マウスの鼻炎モデル7)を参考にして,抗原の全身感作および局所感作によるアレルギー性結膜炎モデルの作製を試みた.全身感作の後,両眼に抗原投与を行うことにより,有意な眼部引っ掻き行動の増加が観察された.発赤および浮腫のアレルギー症状も同様に観察された.作製したモデルの表1感作によるヒスタミンおよび卵白アルブミン(OVA)の感受性の変化感作後日数薬物0日28日56日84日ヒスタミンコントロール1.5±0.50.8±0.31.4±0.60.6±0.45nmol/site3.2±1.14.8±1.25.2±1.77.1±1.650nmol/site4.7±1.15.8±1.36.9±1.312.6±2.6500nmol/site6.1±1.29.1±2.712.5±2.7**17.2±2.3**OVAコントロール1.5±0.50.8±0.31.4±0.60.3±0.22μg/site3.2±1.12.6±1.34.4±1.27.4±1.620μg/site4.7±1.14.8±1.18.8±2.018.8±3.0*200μg/site6.2±1.212.9±2.916.5±3.0**20.5±3.5***:p<0.05,**:p<0.01,n=10.表2抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状に対する各種薬物の効果薬物引っ掻き行動スコアセチリジン(p.o.)コントロール24.4±2.54.0±0.51mg/kg20.0±2.83.1±0.53mg/kg19.2±2.32.9±0.610mg/kg15.7±1.9*1.9±0.4*エトドラク(p.o.)コントロール24.4±2.93.6±0.410mg/kg19.9±3.13.2±0.430mg/kg18.1±2.13.4±0.5100mg/kg14.9±2.6*2.8±0.5AA-861(p.o.)コントロール22.7±3.33.6±0.410mg/kg20.3±2.52.6±0.430mg/kg22.6±2.62.6±0.6100mg/kg21.7±2.41.8±0.4**:p<0.05,n=14.図2感作によるPCA抗体価の変化PCA抗体価未感作マウス感作マウス1,0245122561286432168421<1———————————————————————-Page4674あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(94)PCA抗体価を測定した結果,抗原特異的IgE抗体価は著明に上昇していることが確認された.感作後のOVAおよびヒスタミン感受性の変化を検討した結果,感作によりOVAおよびヒスタミンに対する感受性が有意に亢進していることが明らかとなった.ヒトにおいてもアレルギーの発症により,抗原のみならずヒスタミンに対する過敏症が出現することが報告されており8,9),本モデルは臨床症状とも一致する病態を発現していることが明らかとなった.アレルギー性結膜炎における脂質メディエーター関連化合物の効果を検討する目的でCOX-2選択的阻害薬であるエトドラクと5-リポキシゲナーゼ阻害薬であるAA-861を使用し,H1受容体拮抗薬であるセチリジンの効果と比較検討した.その結果,セチリジンの投与により抗原誘発眼部引っ掻き行動およびアレルギー症状はいずれも有意に抑制された.エトドラクは抗原誘発眼部引っ掻き行動を有意に抑制したが,アレルギー症状を抑制しなかった.AA-861は抗原誘発眼部引っ掻き行動を抑制しなかったが,アレルギー症状を有意に抑制した.プロスタグランジンE2およびD2は,モルモットに点眼することにより痒みを誘発することが報告されており3,10),ロイコトリエンC4,D4およびE4は,アレルギー症状の原因となる血管透過性を亢進することが知られている11).これらの知見は,マウスのアレルギー性結膜炎モデルでの本実験成績を支持するものである.以上の成績から,臨床においてアレルギー性結膜炎の痒みにはH1受容体拮抗薬およびCOX-2選択的阻害薬が,アレルギー症状にはH1受容体拮抗薬および5-リポキシゲナーゼ阻害薬が有効である可能性が示唆された.文献1)山口昌彦,大橋裕一:抗ヒスタミン作用のない抗アレルギー薬─アレルギー性結膜炎─.綜合臨床46:680-684,19972)ProudD,SweetJ,SteinPetal:Inammatorymediatorreleaseonconjunctivalprovocationofallergicsubjectswithallergen.JAllergyClinImmunol85:896-905,19903)WoodwardDF,NievesAL,SpadaCSetal:Characteriza-tionofabehavioralmodelforperipherallyevokeditchsuggestsplatelet-activatingfactorasapotentpruritogen.JPharmacolExpTher272:758-765,19954)HowarthP:Antihistaminesinrhinoconjunctivitis.ClinAllergyImmunol17:179-220,20025)KameiC,IzushiK,NakamuraS:Eectsofcertainantial-lergicdrugsonexperimentalconjunctivitisinguineapigs.BiolPharmBull18:1518-1521,19956)FukushimaY,NabeT,MizutaniNetal:Multiplecedarpollenchallengediminishesinvolvementofhistamineinallergicconjunctivitisofguineapigs.BiolPharmBull26:1696-1700,20037)渡辺雅子,朝倉光司,斎藤博子ほか:鼻アレルギーマウスモデル作成の試み.アレルギー45:1127-1132,19968)浜口富美:鼻アレルギー発症の機構に関する研究.日耳鼻88:492-501,19849)CiprandiG,BuscagliaS,PesceGPetal:Ocularchallengeandhyperresponsivenesstohistamineinpatientswithallergicconjunctivitis.JAllergyClinImmunol91:1227-1230,199310)WoodwardDF,NievesAL,FriedlaenderMH:Character-izationofreceptorsubtypesinvolvedinprostanoid-inducedconjunctivalpruritusandtheirroleinmediatingallergicconjunctivalitching.JPharmacolExpTher279:137-142,199611)GaryRKJr,WoodwardDF,NievesALetal:Character-izationoftheconjunctivalvasopermeabilityresponsetoleukotrienesandtheirinvolvementinimmediatehyper-sensitivity.InvestOphthalmolVisSci29:119-126,1988***

眼科医にすすめる100冊の本-5月の推薦図書-

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096630910-1810/09/\100/頁/JCLSアメリカの住宅バブルがはじけて世界の経済が大変な状況になっている.投資のことなど考えたくない人も多いと思う.僕も本当に損をして(個人的なセンスによるところも多いが),ほとほと嫌になっているのだが,そうした状況のなかでちょっと新しい考えのヒントになった本に出会ったので紹介したい.1999年にアンチエイジングを始めて125歳まで生きると決め,以来“125歳への経済学”をと考えて時間の5%を経済投資に使うことにした.実際には,月の初めに1日だけ投資のことを考える.最近の研究でお金のことをあまり考えすぎると,独立心は旺盛になるものの社会との一体感が損なわれるなどごきげんから遠ざかってしまう可能性が指摘されているので,考える時間はある程度制限したほうがいいようだ.しかしまったく考えないのもよくないので5%にしている.ちょっと前には勝間和代さんの“お金は銀行に預けるな”(光文社新書)を読んで納得した.そうか,銀行じゃだめなんだと思って,投資信託に投資してみたら世界不況になってしまって大損.勝間さんは今では投資の話をせずに“会社に人生を預けるな”(同じく光文社新書)という人生を語る人になってしまった.もちろん投資をしたのは自分であり,すべての責任は自分にあるので勝間さんの責任ではない.何年か前に知り合って講演会などに呼ばれたこともある高橋誠一さんが,昨年“金持ち大家さんになろう”(PHP研究所)を出版され,そのときに本を頂いて読んだ.高橋さんはアパマンショップを立ち上げた日本でも有数の土地建物の投資専門家である.そのときに,なるほど,大家さん経営とはそんなものかと思っていたが,続けて本書“お金持ち大家さんへの道”が出版されて,とても納得してしまった.最初の本を読んで実行した人たちのストーリーがたくさん載っているのだ.本誌第18巻5号の本欄で,ロバートキヨサキの“金持ち父さん,貧乏父さん”をとりあげたが,高橋さんの資産に対する考えもかなり似ている.とにかくキャッシュフローを生み出すものが“資産”であり,お金を生まないものは資産とは言えないというはっきりとした立場で書かれている.マイカー,マイホーム,金,ダイアモンドはお金を生まないので資産ではない.投資信託,株,預金は財産だが,年利で考えたときに0.3%から4%くらいの間なのであまり得策ではない.彼のお奨めはアパート,マンション経営.だいたい710%くらいの年利で回すことができるので資産としては有利だと言う.だいたいアパート経営なんて考えたこともないし,経営するという手間を考えると通常は無理だと思う.ところがこの本のなかに基本的にこうすればよいという方法が紹介されている.1)サブリースを組む2)利回りを710%としっかり考える(そのため中古がお奨め)3)駅から徒歩で15分以内5)自己資本を2,000万円以上それぞれの4項目について本を読んでなるほどと思った.サブリースを組むということはそのアパートを丸ごと20年間にわたって借り上げてもらって自分は何もしなくていいということ.もちろん手数料はとられるが,眼科医を本業とするわれわれには必要だ.こんなシステムがあるとは知らなかったので,とっても便利な世の中になったと思った.2番目の項目,3番目の項目は特に重要.自分が住みたいと思うものではなくて,利回りと駅からの近さで選ぶというのが大切だ.どんなにきれいで素敵なアパートでも駅から遠かったり,バスを使わないとだめなものは絶対にお奨めしないという.さらには(83)■5月の推薦図書■お金持ち大家さんへの道─これで安心!究極の個人年金づくり高橋誠一著(PHP研究所)シリーズ─88◆坪田一男慶應義塾大学医学部眼科———————————————————————-Page2664あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009経済が悪くなったり,金利が上がっても損をしないようにしっかりと自己資本を用意することを奨めている.自己資本が2,000万円あると,2,000万円の借金をして4,000万円くらいのアパートが買える計算になるそうだ.利回りが8%として年間の収入は320万円.サブリースで12%の手数料を払うので実際は270万円.年間130万円を返済にあてたとしても(おおざっぱな計算ですみません.2,000万円を20年ローンで借りると月の返済はこのくらいでしょうか)140万円の収入となる.自己資本2,000万円に対して実際の収入が140万円ならちょうど7%の利回りで回せる計算だ.これなら確かに預金や投資信託より利率がいい.20年たって建物は古くなるが,土地は自分のものになるのでその分もプラスとなる.新しいアパートを建ててもいいし,売却してもいい.本のサブタイトルにあるようにこれは個人年金づくりとも言える.年間140万円ではちょっと生活できないが,高橋さんによれば数棟やればそれなりの金額になってよいという.高橋さんに直接“それじゃ,投資はすべて不動産がいいのですか?”と聞いたら,“坪田先生,もちろんそうですよ.これ以外にありますか?株で皆さん損しているでしょ”とずばっと答えられてしまった.うーん,僕でも知っているポートフォリオという言葉.投資はリスクを分散するためにいろいろなものにしたほうがいいという考え方からすると,すべて不動産というのは少々考えてしまう.しかしまったくやってみないのもつまらないと思い,実は15年間毎月貯めてきた純金積み立てと満期保険金を使って,初の“アパート経営”をやってみようかなと考えているところだ.どうなるかわからないが,125歳まで生きると,65歳の定年から先が60年間もあるのでこれらの経済を今から考えておくことは絶対必要だ.初めての挑戦をプッシュしてくれたという意味で,ちょっと異色ですがここにお奨めの本として紹介します.もし,これを読んで自分も個人年金のためにアパート経営をしてみようと思ったら,あくまで自分のリスクでお願いします.よーく高橋さんの話を聞いて,納得がいったらあくまで自分のリスクで(しつこくてすみせん)やってみてください.(84)☆☆☆

後期臨床研修医日記10.岩手医科大学医学部眼科学講座

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096610910-1810/09/\100/頁/JCLS火曜日火曜日から金曜日までは各専門外来があり,担当の先生方がそれぞれの曜日に月1回ずつ,朝8時から勉強会を開いてくださっています.この日は緑内障グループの勉強会でした.私達が日々疑問に思っていることや,実際の臨床で役立つポイントなどを講義してくださっています.火曜日も午前中は手術で助手に入ります.症例は白内障・緑内障・外眼部・硝子体手術などで,さまざまな症例の助手を経験することができます.午後は病棟当番といって,病棟の雑務とおもに出張などのため不在となる先生方の担当患者さんの診察をしたりします.先輩は大学病院でしか経験できないような症例が多いので頑張るようにとアドバイスをくださいますが,とにかく目の前の患者さんの診察と管理でそんなことを感じる余裕はありません.眼圧が高いけれどこのままでいいのかな,どうしよう,そばにいる先輩に聞いたり,術者に相談したり,はたまた,指示の書き換えができていませんよという看護師さんの声に,思わずうなってしまう毎日です.でも,術者や先輩方の診察所見と自(81)岩手医科大学医学部眼科学講座は,現在後期研修医が7人在籍しています(同期は3人です).決して多い人数とはいえないなかで多くの仕事をこなさなくてはならず,忙しい毎日です.しかし,それだけ豊富な症例に接する環境であるともいえ,各専門の先生方の下,日々切磋琢磨しながら学んでいます.そんな私達の1週間の様子を少しご紹介したいと思います.月曜日毎週月曜日は朝7時45分から抄読会と症例検討会があります.ここでは,その週に行われる予定手術の術前検討を行います.当科では術者と一緒に,担当医としておもに私達研修医が患者さんを受けもっているため,研修医がプレゼンを行います.「本当に手術適応があるのか」「診察所見は合っているか」「なぜその術式を選択したのか」などが検討されますが,私達がその患者・疾患についてちゃんと診察し病態などを正しく理解しているのかが試さる場でもあり,前日の日曜夜には重い気分になります.抄読会の担当と重なると,もう日曜日はパニックです.9時には一般業務が始まるので,症例検討会の前後は入院患者さんの診察のため病棟の診察台は椅子取りゲーム状態です.この日は手術日でもあるので,午前中は手術助手に入るか新患・一般外来に入ります.13時からは教授回診で経過や治療方針,今後の予定をプレゼンし,その後は引き続き手術か外来・病棟業務に戻ります.手術映像は,医局にも同時中継されますが,なかなか見る時間がないのが残念です.夕方6時からは午後のカンファランスです.術後の問題症例,難症例についての検討会が行われます.各学会前には発表練習も行われるため,学会直前はここに間に合わせるため皆必死です.カンファランス後はまた病棟に戻り,手術記録を書き山積みの書類を終えて,ようやく帰路へ…長い長い1日の終了です.後期臨床研修医日記●シリーズ⑩岩手医科大学医学部眼科学講座鎌田有紀▲後期研修医一同(上段左から横山大輔先生,玉田邦房先生,石川陽平先生,西村智治先生,下段左から筆者,早川真奈先生,浦上千佳子先生)———————————————————————-Page2662あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(82)医が輪読会を行っています.自分一人では近づき難く,慣れない英語の教科書のため,少しずつですが皆で読み進めています.こうしてじっくり読んでいるからこそ気づく発見があったり,教授からコメントを頂いたりして,新しい知識を吸収することのできる貴重な時間です.9時からは外来で新患担当です.私達の仕事は,初診の患者さんの問診をとり,診察してカルテに記入し,必要な検査をオーダーすることです.ときには新患担当の上級医の先生からその場で「炎症所見があるからもう一度診察」「どうして☆☆の検査をしてないの?」と注意されます.また,上級医が週1回その週の新患・入院患者のカルテチェックをしてくださり,私達のアナムネの取り方,カルテの記載方法,さらにそれぞれの検査所見の判断のしかたなどいろいろ質問されます.実際の症例の所見をどう考えるか聞かれると,なかなか初めは答えられませんが,実践的で一番勉強になるかもしれません.以上,1週間の流れを簡単にご紹介しました.これら通常業務以外に,角膜摘出当番や,毎日のように訪れる網膜離をはじめ角膜感染症や眼球破裂などの緊急手術の対応にも迫られます.四国と同じ面積(人口は少ないけど)の岩手県中から患者さんが大学病院目指してやって来るのですから,当然といえばそれまでですが….緊急手術は夜遅くまで,日付を越えることもあり,多忙な毎日です.しかし,これらの症例を各専門の先生方の指導の下で経験することができるのは,大学病院にいる今だけであり,貪欲に多くのことを吸収していきたいと思います.分の所見とを比べたり,一緒に見てもらって診察のポイントや適切な処置を教えていただくチャンスでもあるので頑張っています.水曜日水曜日は,私は週に1度の研究日です.本学は,社会人大学院制度を導入しており,後期研修中に臨床もしつつ研究や論文作成を行うことになります.そのため後期研修医は週に1度研究日を頂いているのです.私は現在,基礎の教室にお世話になって研究を行っていますが,臨床研究を行っている同期もいます.もちろんこの日だけでは時間が足りず,日々の診察や業務の終了後に時間をつくっては研究を行っています.臨床と研究を両立させながら充実した日々です…と書きたいのですが,それぞれ波があり,山場が重なってしまうともう大変で同期に手助けしてもらうこともあります.同期がいることのありがたさを感じる瞬間です.木曜日私にとって大学外の病院へ出張の日です.東北の地域医療の医師不足を補うべく,私たちの出張先は岩手県の病院だけでなく秋田県,青森県にまで及んでいます.午前中は外来診察です.患者数は平均60人,多いときは90人近くになることもあります.まだ自分の診断に自信をもてないこともあり,教科書を見て悩みつつ…なんとかこなしています.午後は手術です.おもに外眼部と白内障手術を行っていて,先輩が出張先の病院にまで来て,私たちの手術指導をしてくださっています.震える手を押さえながら,手術中は緊張の連続です.手術終了後,回診をして手術所見や書類を書たりすると,もう帰りの時間.新幹線に飛び乗り,盛岡に戻ったら大学の患者さんの診察をしないと….金曜日金曜日の朝8時からは黒坂大次郎教授と伴に後期研修?プロフィール?鎌田有紀(かまだゆき)平成17年岩手医科大学医学部卒業,岩手県立中央病院で初期臨床研修終了.平成19年4月より岩手医科大学眼科学講座後期研修医.平成20年4月岩手医科大学社会人大学院入学.教授からのメッセージ4年前に赴任し,この間7名の後期研修医が入局した.以前にいたところと大分勝手も違い,教育体制も試行錯誤を繰り返したが,1年くらい前から何とか落ち着いてきた.若い人は,案外と物をよく見,考えているのに驚かされる.そして彼らが驚き,うろたえ,感動する姿に日々励まされている.ただ,彼らはときに狭い視野で物事を捉えてしまうことがあるので,視野を広げるように,あの手この手を駆使しているつもりである.自分の可能性を信じ,凛として立ち,思いっきり活動して欲しい.岩手医科大学医学部眼科学・教授黒坂大次郎

インターネットの眼科応用4.インターネット会議室 

2009年5月31日 日曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.26,No.5,20096590910-1810/09/\100/頁/JCLS六次の隔たり(6degreesofseperation)ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SocialNet-workService:SNS)とよばれるインターネットサービスがあります.この,Web2.0を代表する交流サイトは1997年に登場し,社会的ネットワークをインターネット上で構築し,人と人のつながりを視覚化します.SNSが本格的に普及したのは2002年にスタンフォード大学の卒業生が始めたFriendsterや,Googleの一社員であったOrkutBuyukkoktenが開発したorkutなどからです.現在,世界最大のSNSコミュニティ・サイトはMySpace(マイスペース)です.2008年5月10日現在で2億320万人分のアカウントがあることが発表されています1).SNSに参加する会員は,ブログを書いたり,個々の共通の話題をもつユーザーと交流したり,音声ファイルや画像ファイルを公開したり,会員間でメールを送受信したりすることができます.日本では2004年1月にIT関係者の間で本格的に広がり,mixi,greeが最大手のSNSコミュニティです.SNSを説明する際に,一つのキーワードがあります.「六次の隔たり(6degreesofseperation)」とよばれるものです.「六次の隔たり」とは,世界中の人間は何人の知り合いでつながるか,という問いに対し,「6人でつながりますよ」という仮説です.たとえば,「ある人物Aさんが44人の知り合いをもつとします.Aさんの知り合い(F1)である44人が,Aさんとも互いにも重複しない知り合い(F2)を44人もち,F1の知り合いであるF2さんたちがAさんともF1とも互いにも重複しない知り合いを44人もつ」とすると,Aさんの六次以内の間接的な知り合いは446=7,256,313,856人となり,地球の総人口6,453,581,351人を上回ります(2005年7月13日現在CensusBureauHomePage調べ).つまりAさんは知り合いを6人たどることで,最も遠い距離にいる任意の人物Bさんとも知り合いになれます.ただし,実際にはF1の知り合い(F2)がAさんの知り合い(F1)である可能性もあるため,単純に平均の知り合いの数をもってこの計算を正当化することはできないことに注意が必要です.また同様にAさんたちがもつ「重複しない知り合いの数」が23人であるとすると,236=148,035,889人となり,日本の総人口127,055,025人〔住民基本台帳に基づく人口・人口動態及び世帯数(2006年3月31日現在)調べ〕を上回ります.一般に六次の隔たりを語るうえで多く言及されるのが,Yale大学の心理学者スタンレー・ミルグラム教授によって1967年に行われたスモールワールド実験です.この実験ではネブラスカ州オマハの住人160人を無作為に選び,「同封した写真の人物はボストン在住の株式仲買人です.この顔と名前の人物をご存知でしたらその人のもとへこの手紙をお送り下さい.この人を知らない場合は貴方の住所氏名を書き加えた上で,貴方の友人の中で知っていそうな人にこの手紙を送って下さい」という文面の手紙をそれぞれに送りました.その結果42通(26.25%)が実際に届き,届くまでに経た人数は平均5.83人でした.また,日本のあるバラエティ番組で,「与那国島の日本最西端の地で最初に出会った人に友人を紹介してもらい,何人目で明石家さんまに辿り着くか」という企画が行われたことがあります.結果は7人だったそうです.つまり,知り合いの知り合いをつないで世界とつながることが可能です.SNSという交流サイトの多くが登録に招待制を基本としているのは,その「六次の隔たり」を強く意識しているからでしょう.われわれの医療界に目を移しますと,「重複しない医師の知り合いの数」が100人であれば,日本の医師(23万人)は3人でつながります.「重複しない眼科医の知り合いの数」が50人であれば,3人で日本国中の眼科医(1万人)がつながります.「医療界は三次の隔たり」というのが私の仮設です.これはきわめて現実的な数字と思います.現実世界の知り合いの輪をインターネット(79)インターネットの眼科応用第4章インターネット会議室武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科シリーズ④———————————————————————-Page2660あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009上で視覚化できるのがSNSの魅力です.医療者がSNSを通じてつながることができれば,医療情報の共有がインターネット上で可能になるのではないか,と考えました.狭いはずの医療界で,情報共有が十分になされていないのは社会的損失です.私は,SNSを用いることがその突破口になると考え,2005年8月1日に医師・歯科医師限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpを開設しました.MVC-onlineは,日本でも最も老舗の,職種特化型SNS交流サイトです.現在,全国から1,000人を越える医師・歯科医師に参加いただいています.MVC-onlineに登録すると,所属や専門科を越えてインターネット上でつながり,医療情報の共有が容易になります.また,登録者を医師に限定することで,医療者の視点での議論が可能です.MVConlineでできること①(臨床相談)参加者がエリアを越えて交流できることが,インターネットの魅力です.医師という専門家集団がネット上で交流できると,それまでは学会場でしか相談できなかった内容をオンラインで解決することができます.ディスカッションに参加しなくても,その会話を見聞きするだけで自分の引き出しが増えていきます.MVC-onlineで行われた実際の投稿例を紹介します.Case1:「ケナコルト自主回収」日本赤十字社和歌山医療センターの宮本純孝先生から『整形分野の関節内投与で問題があったらしく,ケナコルトが自主回収されるそうなんですが,なにか良い代用品はあるんですか?教えてください.(原文まま)』という投稿がありました.この投稿に対し5カ所の所属の6人の先生から計22のコメントが寄せられました.タイムリーな話題に対し,さまざまな所属の先生方のノウハウと苦労話が寄せられました.Case2:「マウスの静脈注射」神戸理化学研究所の万代道子先生から『マウスの静注(尾静脈)のやり方,コツを教えてくださる方,あるいは近くの方でやっておられて実際に見せて頂ける方はいませんでしょうか?』という投稿がありました.この投稿に対し,5つの所属の6人の研究医の先生方がお互いのノウハウをもちより,延べ14のコメントが寄せられました.情報が徐々に洗練されて,更新されていく様子は後で振り返ってみても価値の高さを感じます.Case3:「外転障害」愛媛大学の鈴木崇先生(現在留学中)から外転障害の(80)患者について画像付きで相談が寄せられました.この症例に対して所属を越えた互助的な話合いが進みました.すべてインターネット上での出来事です(画像1).このように臨床上の相談事をインターネットでできる時代になりました.MVC-online以外にもさまざまな媒体が登場していますが,MVC-onlineでは互助的な精神を忘れずに,われわれ医療者の知識,ノウハウをインターネット上で共有することを目指します.医師限定のSNSサイトは,インターネットの眼科応用の可能性を示すものであり,Web2.0とよばれる潮流を具現化しています.【追記】医師・歯科医師限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpでは,医療というアナログな行為と眼科という職人的な業を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に共感いただき,k.musashi@mvc-japan.orgにご連絡いただければ,医師限定インターネット会議室「MVC-online」http://mvc-online.jpからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://ja.wikipedia.org/wiki/MySpace画像1:MVConlineで行われた投稿(Case3)例