———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLS光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は1997年に日本に導入され,その後,機器の性能も向上し,現在では黄斑疾患の診療には欠かせないものとなっている.OCTを用いることで,定量的に網膜厚や黄斑体積の評価を行えるようになり,治療効果を瞬時に把握できるようになった.Z軸方向の変化を把握することが可能となり,中心窩の陥凹や黄斑部の肥厚の程度などが詳細に観察できるようになったのは画期的な進はじめに網膜の表面はMuller細胞の基底膜である内境界膜によって覆われている.硝子体皮質は内境界膜に接し,網膜と硝子体の境界面を形成している.硝子体皮質は硝子体ゲルの最外層であるが,黄斑部では硝子体皮質の前方に液化腔(後部硝子体皮質前ポケット)1)(図1上)があり,硝子体皮質がポケットの後壁を構成している.黄斑上膜は黄斑部を中心に網膜上に残存した硝子体皮質が内境界膜上で細胞増殖と線維性結合組織を形成して肥厚・収縮する疾患である.偽黄斑円孔は,黄斑上膜の収縮により中心窩の陥凹が深くなり,一見黄斑円孔のようにみえるが,偽円孔の底の網膜外層は保たれており,網膜色素上皮は露出していない.細隙光を当てると円孔ではくびれを自覚するが,偽円孔では均一の幅の細隙光として認識される(Watz-ke-Allentest).黄斑上膜のほとんどは後部硝子体離(posteriorvit-reousdetachment:PVD)を伴う.この場合,PVDの際に網膜側に残存した硝子体皮質が前膜の骨格となる(図1下左).PVDがない場合でも黄斑前皮質はコラーゲン線維膜として存在しているので,それが前膜としてふるまえば,特発性黄斑上膜となりうる(図1下右).硝子体黄斑牽引症候群は,黄斑部において硝子体皮質が黄斑で癒着し,その周囲でPVDが生じ,中心窩が前後方向に牽引されることによるもので,不完全なPVDを伴った黄斑上膜の病態と同様である(図1下中).(11)59146786021特集●光干渉断層計(OCT)はこう読む!あたらしい眼科26(5):591595,2009黄斑上膜はこうOpticalCoherenceTomographyinEpimacularMembrane平野佳男*図1黄斑上膜と後部硝子体皮質前ポケット上:後部硝子体皮質前ポケット.下左:PVDの際に,ポケット後壁が網膜に残存して黄斑上膜の骨格になる.下中:不完全PVDの場合は硝子体黄斑牽引症候群と同じ病態になる.下右:PVDがなくてもポケット後壁が黄斑上膜としてふるまえば黄斑上膜が発症する.———————————————————————-Page2592あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(12)から黄斑上膜の立体的な構造や範囲を把握することが可能で,きっかけを作る場所を術前より想定することができ,手術の戦略を立てやすい(図4).術後のOCTを図5に示す.網膜上に認められた黄斑上膜は除去されている.この症例では中心窩の陥凹が回復し,術後視力も良好だが網膜の肥厚は残存している.Niwaらは,特発性黄斑上膜の術後に視力は改善し,浮腫が軽減するが,浮腫は依然残存し,多局所網膜電図で僚眼の90%以上にまで回復したものは29眼中3眼にす歩である.硝子体は生体内では眼球運動に伴い絶えず動いており,スキャン速度の遅い初期のOCTでは後部硝子体膜を描出することが容易ではなかった.近年発売されたspectraldomainOCTではスキャン速度が高速化され,後部硝子体膜を描出する性能が格段に向上した.また,3D網膜厚マップでは疑似カラーで網膜厚が表示される.暖色系(赤や白)ほど厚く,寒色系(青や黒)ほど薄いことを示す.3D網膜厚マップで網膜の厚みだけでなく,黄斑上膜の範囲も同定することができる.内境界膜と網膜色素上皮を分離して3D表示するカラーセグメンテーションマップもあり,内境界膜と網膜色素上皮の変化もマップで表示される.以下に黄斑上膜,偽黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群のOCT所見を供覧し,解説する.なお,今回掲載したOCT画像はすべてシラスHD-OCT(CarlZeissMeditec)によるものである.I黄斑上膜OCTでは網膜表面に肥厚した膜様組織がみられ,網膜が肥厚し,中心窩の陥凹が消失する(図2).網膜皺襞を伴っている場合には,波打つ内境界膜の各頂点に黄斑上膜が癒着するようにみえる.通常網膜内層の変化が主で網膜外層に影響が及ぶことは少ない.偽黄斑円孔は黄斑上膜の収縮に伴い黄斑の端が肥厚し,中心窩の陥凹が深くなったもの2)だが,偽円孔の底の網膜外層は保たれており,視力は比較的良好である(図3).黄斑上膜の治療は手術により膜を離することが原則である.通常黄斑上膜離においてはmicro-hookedneedleを使用し,膜組織を引っかけてきっかけを作り,その後,鉗子で把持して離を行う.手術に際しては,きっかけ作りが重要である.きっかけを作る部位は膜の境界がわかればそこから,わからなければ網膜皺襞や膜の肥厚が高度の部位より行うが,OCTを用いると術前図271歳,男性の特発性黄斑上膜視力(0.7).網膜表面に黄斑上膜がみられ,網膜は肥厚し中心窩の陥凹が消失している.黄斑上膜は波打つ内境界膜(網膜皺襞)の各頂点に癒着している.図379歳,女性の偽黄斑円孔視力(0.8).中心窩以外の部分に黄斑上膜がある.黄斑の端は肥厚し,中心窩の陥凹が円筒形に深くなっている.偽円孔の底の網膜外層は保たれている.図4図2と同一症例A:網膜表面に肥厚した黄斑上膜があり,その辺縁では網膜から分離している(矢印).B:共焦点画像と網膜厚マップの重ね合わせ画像.眼底上に疑似カラーで網膜厚が表示され,網膜の肥厚が高度な場所(矢印)がわかる.C:3D網膜厚マップ.疑似カラーで網膜厚が表示される.黄斑上膜の立体的な広がりがわかる.矢印の所は急峻な立ち上がりがあり,黄斑上膜が網膜(内境界膜)から分離しているものと推測される.網膜色素上皮にはほとんど変化はみられない.D:この症例においては中心窩の耳側に網膜から分離した黄斑上膜の断端があり,中心窩の下方が網膜の肥厚の強い所であることがわかる.そういった場所から膜離を開始していこうという手術戦略が立てられる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009593(13)AILMRPEILM-RPE500um400um300um200um100umBD図4図2と同一症例(図説明はp.592参照)———————————————————————-Page4594あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009(14)硝子体皮質が黄斑部を前後方向に牽引する.その結果,黄斑部に胞様変化や網膜離を合併する疾患である(図6).硝子体黄斑牽引症候群が黄斑上膜を伴うものがあり,また黄斑上膜で硝子体黄斑牽引症候群を伴うものもあり,重なりのある疾患であると考えられている4)(図7).OCTでは一見すると派手にみえるが,網膜外層が保たれていれば視力障害はそれほど顕著ではない.術後のOCT(図6C)では硝子体の牽引が除去され,網膜離が消失している.網膜内の胞様変化が減弱し,中心窩の陥凹も認められるようになっている.おわりに以上,黄斑上膜,偽黄斑円孔,硝子体黄斑牽引症候群のOCT所見について解説した.ぎなかったと報告している3).II硝子体黄斑牽引症候群硝子体黄斑牽引症候群はPVDの進行が黄斑近傍で停止すると,後部硝子体皮質前ポケットの後壁である薄いABC図5図4の症例の術後1カ月A:網膜表面にあった黄斑上膜は取り除かれ中心窩の陥凹が回復している.網膜皺襞も軽快している.視力(1.5).B:術後1カ月の3D網膜厚マップ.図4Cと比較すると暖色系(網膜の厚い所)の部分は減ってはいるが,僚眼と比較すると依然として網膜が肥厚していることがわかる.また内境界膜の皺も残存している.C:同一症例の僚眼の3D網膜厚マップ.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.5,2009595(15)これらの疾患の診療に関しては,OCTの登場で,構造的な評価はかなりのレベルで可能となったが,微小視野計,多局所網膜電図などを含めた機能的な評価も組み合わせ,病態を評価していくことが必要である.文献1)KishiS,ShimizuK:Posteriorprecorticalvitreouspocket.ArchOphthalmol108:979-982,19902)WilkinsJR,PuliatoCA,HeeMRetal:Characterizationofepiretinalmembraneusingopticalcoherencetomogra-phy.Ophthalmology103:2142-2151,19963)NiwaT,TerasakiH,KondoMetal:Functionandmor-phologyofmaculabeforeandafterremovalofidiopathicepiretinalmembrane.InvestOphthalmolVisSci44:1652-1656,20034)LegarretaJE,GregoriG,KnightonRWetal:Three-dimentionalspectral-domainopticalcoherencetomogra-phyimagesoftheretinainthepresenceofepiretinalmembranes.AmJOphthalmol145:1023-1030,2008ACB667歳,男性の硝子体黄斑牽引症候群A:視力(0.2).硝子体が黄斑を前方に牽引している.それに伴い,網膜内に胞様変化と網膜離(*)がみられる.B:眼底写真.C:術後1カ月.視力(1.5).黄斑の牽引が解除され,中心窩の陥凹が回復している.網膜離は消失しているが,胞様変化が軽度残存している.AB748歳,女性の硝子体黄斑牽引症候群偽黄斑円孔を伴っている.A:視力(0.9).硝子体が黄斑を前方に牽引している(矢印).網膜表面に黄斑上膜がみられ(矢頭),網膜内には胞様変化がみられるが,網膜離はなく,網膜外層も保たれている.B:眼底写真.