———————————————————————-Page10910-1810/09/\100/頁/JCLSは至らなかった.近年,乳幼児用の接触型広画角デジタル眼底カメラ(RetCamR)が開発され,ベッドサイドにて仰臥位で簡便に広範囲の眼底撮影をすることが可能となった.解像度や立体感はやや劣るが,画角が120°(RetCam120R)~130°(RetCamIIR)と広く,未熟児網膜症の周辺部病変の撮影にも適している.RetCamRは未熟児の眼底所はじめに蛍光眼底造影は,網膜の血管病態を捕らえるために必須の検査として成人に汎用されているが,未熟児網膜症に対しては,これまで簡便な撮影方法がなく日常診療における応用がむずかしかった.近年,広画角デジタル眼底カメラ〔RetCamR(MassieResarchLaboratories,Inc.,Pleasanton,CA)〕が開発され,未熟児の眼底記録のみならず,蛍光眼底撮影も容易に施行することが可能となり,病態解析や治療適応・効果の評価に非常に有用な手段となっている.本稿では,RetCam120Rを用いた蛍光眼底造影を未熟児網膜症の臨床に応用した結果を提示し,重症未熟児網膜症に対するよりよい治療について考察したい.I未熟児の蛍光眼底撮影法1.蛍光眼底撮影法の変遷未熟児網膜症に対する蛍光眼底造影に関しては1969~1977年に眼底カメラを用いて122例を撮影したFlynnの報告1)がある.わが国では手持眼底カメラ(倒像法)を用いた木村2),上原3)の報告,眼底カメラ(直像法)を用いた高木4)の報告などがあり,病態の解明に有用と評価されたが,鎮静や全身麻酔を要し,目的とする部位を撮影するために体幹・頭位や眼球の固定を要すること,網膜症の一部分しか撮影できないこと,短時間に連続撮影が必要であるが焦点を合わせにくく検者,介助者ともに熟練を要することから,臨床に広く普及するに(23)455achioishina眼15785352101眼特集●未熟児網膜症診療―最近の考え方あたらしい眼科26(4):455~460,2009蛍光眼底造影による病態解析FundusFluoresceinAngiographyforInvestigatingPathologyinRetinopathyofPrematurity仁科幸子*図1RetCamRを用いたベッドサイドでの蛍光眼底造影———————————————————————-Page2456あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(24)を主とする新生血管増殖因子が過剰に放出され異常血管吻合・新生血管の増生が起こる網膜症の病態と活動性,自然治癒または治療による鎮静化の過程について詳しく解析することが可能となった.2.I型網膜症I型網膜症では,一般に国際分類のzone,stage,plusdiseaseの有無に基づいたprethresholdROPを基準に光凝固治療の適応・時期を判断する9).しかし重症瘢痕(瘢痕期3度以上)のみならず,牽引乳頭(瘢痕期2度)の形成を防止し,より良好な視力予後を獲得するには,II型の鑑別はもとより,I型に対しても重症型にはより早期の治療が望ましい.蛍光眼底造影を行うと,網膜血管の発達が全域にわたってよく描出され,重症化しやすいzoneIROPが一部でも発症していないか,早期に判別することができる(図2).I型では,網膜血管が正常に構築されて発達するが,国際分類stage2になると,境界線の後極側の毛細血管が拡張し,細動静脈の吻合と周囲の毛細血管網の消失が起こり,ridgeやtuftに蛍光漏出像を認めるようになる.Stage3になると,さらに分岐した周辺血管が拡張して血管透過性が亢進し,硝子体へ向かう線維血管増殖組織から著明な漏出を認めるようになる.硝子体血管から漏出を認めることもあり,網膜症が進行しやすい.後極部の静脈拡張・動脈蛇行も増加する.検眼鏡的にzoneIIで治療適応を決める際には増殖病変の程度,位置,範囲も重要な所見であり,鼻側や後極側の増殖病変の有無,硝子体への立ち上がり,融合,厚み,充血,網膜との接面をよく観察することが大切である.蛍光眼底造影によって後極側の網膜血管の変化,硝子体血管の残存,増殖病変の蛍光漏出を検出すると,血管の活動性をより的確に評価できるため,光凝固の適応,凝固条件,凝固部位(後極側有血管野の凝固の必要性)の決定に有用である(図3).光凝固治療を行うと新生血管増殖因子の放出が抑制され,I型では約1週間で活動性が低下するが,血管の拡張・蛇行が軽快せず,線維血管増殖が残存し充血しているときは追加凝固を行う.検眼鏡的には退縮しているように見えても,蛍光眼底造影を行うと,残存した増殖組見の記録,眼底スクリーニング,telemedicineなどに利用されているが5,6),蛍光眼底造影を観察し撮影することもできるため,簡便な撮影法として普及しつつある(図1).2.RetCamRを用いた蛍光眼底造影7,8)RetCamRの蛍光眼底造影ユニットを用い,フルオレセインナトリウム0.1ml/kgを静脈内投与(生理食塩水3.0mlでフラッシュ)して撮影を行う.仰臥位で未熟児用開瞼器を用い,ヒドロキシエチルセルロース(スコピゾルR)を十分に角膜に滴下して手持ちカメラ部を接触させ,ディスプレイの画像を見ながらフットスイッチで焦点を調節して連続撮影する.一般に未熟児ではフルオレセインが網膜中心動脈に達する時間に遅延やばらつきがある.また硝子体血管の残存,新生血管からの漏出が著しい場合には,ごく短時間(約2~3分)のうちに左右眼の目的とする病変を捕らえて撮影しなくてはならない.あらかじめ撮影する順番や部位を確認しておくことが肝要である.これまでフルオレセインによる重篤な副作用は認めていないが,患児の全身状態を十分に考慮し,家族のインフォームド・コンセントを得て,新生児科医師の管理のもと施行すべきである.II未熟児網膜症の蛍光眼底所見と病態1.蛍光眼底造影の有用性未熟児網膜症に対する治療の基本は,未熟児の眼底所見を的確に捕らえて病型・病期を診断し,至適時期に網膜レーザー光凝固を施行することである.特に厚生省分類II型(aggressiveposteriorretinopathyofprematu-rity:AP-ROP)では,初期に診断してただちに光凝固を行うのが鉄則であり,I型でも重症化する兆候を早期に見きわめて検査間隔,治療時期を決めることが大切である.蛍光眼底造影は,検眼鏡所見に比して微細な血管変化を明瞭に観察できるため,早期診断・治療に有用である.また蛍光眼底造影によって,網膜の血管構築の未熟性,虚血による血管収縮,毛細血管消失・無灌流域の形成,続いてVEGF(vascularendothelialgrowthfactor)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009457(25)芽病変を生じていたり,血管の拡張・蛇行を起こしはじめていたら,ただちに光凝固を実施する.2,3日のうちに網膜血管の著明な蛇行・怒張が起こり,滲出および増殖性変化が急速に進んで光凝固治療が困難となってしまう.しかし,初期には網膜血管が細く,眼底の色調が淡く,無血管野を区別しにくいうえ,しばしば硝子体血管や水晶体血管膜が残存し,異常所見を十分に観察しにく織に蛍光漏出(血管活動性)を認め,凝固不足の領域(skiparea)を容易に検出できる.3.II型網膜症II型網膜症10~12)では,初期兆候として網膜血管はむしろ細く発育不良である.網膜血管の先端領域に異常吻合や走行異常,出血を認め,鼻側や後極側に境界線や発ab2ZoneI,stage3ROP(在胎24週,690g出生,修正35週,左眼)a:眼底所見.硝子体血管残存のためhazyであるが,耳側にridgeおよび線維血管増殖を形成.b:蛍光眼底所見.周辺血管が分岐・拡張し,周囲の毛細血管網が消失.耳側弯入部はzoneIに蛍光漏出を伴う増殖病変を形成していることがわかる.硝子体血管からの漏出も認める.光凝固治療の適応.ab3ZoneII,stage3ROPwithplusdisease(在胎31週,578g出生─IUGR(intrauterinegrowthretardation),修正40週,右眼)a:眼底所見.耳側に線維血管増殖を形成し,後極部血管の拡張・蛇行を認める.b:蛍光眼底所見.幅広く融合した線維血管増殖に顕著な蛍光漏出を認める.後極側の血管の拡張・蛇行も明瞭に観察される.光凝固治療の適応.———————————————————————-Page4458あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(26)であり,治療後に鎮静化しても後極部血管の構築に異常が残る3,13).したがって,新生血管増殖因子の著明な放出を抑制して高度の血管活動性を低下させるためには,初期に無血管野のみならず有血管野にも広汎に光凝固を施行する必要がある.初回に未凝固部位が残らないように全周を密に強力に凝固し,周辺部網膜まで十分に凝固,有血管野も後極側の異常血管吻合や増殖を含めて広汎に凝固すい.全身状態が不良であると施行できないが,蛍光眼底造影を行うと,網膜血管の発育不全,狭細化,異常吻合・走行異常,新生血管の増殖を早期に検出することができる.さらに蛍光眼底造影によってII型網膜症(AP-ROP)では広汎な無血管野の存在のみならず,後極部網膜の血管構築の異常が特徴的であることが明らかとなった(図4)13).II型では初期に後極側の有血管野に広汎な毛細血管網の消失がみられ,異常吻合や走行異常が顕著ab4II型網膜症の初期像(在胎27週,920g出生,修正33週,右眼)a:眼底所見.眼底の色調が淡く判別しにくいが,鼻側の血管がzoneIで途絶し,異常吻合や小出血がみられる.b:蛍光眼底所見.後極部血管の異常吻合や走行異常が顕著であり,広汎な毛細血管網の消失がみられる.ただちに光凝固.ab5II型網膜症,光凝固治療後の所見(在胎28週,2,118g出生─胎児水腫,修正32週,左眼)a:眼底所見.光凝固治療後3日目,最周辺部から後極側まで全周に光凝固を施行したが,後極部上方に顕著な異常血管吻合が残存している.b:蛍光眼底所見.後極部上方に蛍光漏出を認め,凝固不足の領域が明瞭となった.ただちに追加凝固を施行.全周無血管野を密に凝固,有血管野をさらに後極側まで凝固した.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009459(27)のみで鎮静化することが困難である.II型では,光凝固が奏効せずに増殖が立ち上がり始めたら1~2週間のうちに硝子体手術を実施する必要がある14).I型でも,少しでも牽引性変化を生じたら(stage4A初期),光凝固治療は無効であり,無理に凝固すると裂孔を形成する.早期に硝子体手術や輪状締結術の適応を検討する.蛍光眼底造影を行うと,術前の増殖組織の範囲や活動性(蛍光漏出),血管の拡張・蛇行,異常血管吻合の存在が明瞭に描出されるが,早期硝子体手術後1~2週以内に蛍光漏出や血管拡張が消失し,活動性が著しく低下することがわかる(図6).蛍光眼底造影によって硝子体る.また通常1回の凝固では十分な効果が得られないため,毎日または隔日検査して網膜症の悪化をみたら,ただちに追加凝固を実施する.蛍光眼底造影を行うと,検眼鏡的に判別困難な増殖病変や異常血管吻合部の蛍光漏出(血管活動性)を検出できるため,追加凝固の際にも有用である(図5).4.早期硝子体手術の適応と効果II型網膜症では,初期の光凝固治療が奏効していったん鎮静化しても,修正34~42週頃にしばしば再増殖を起こし追加凝固が奏効しにくい.また最重症型は光凝固cdab6早期硝子体手術前後の所見(在胎24週,428g出生,修正40週にて手術,左眼)a:眼底所見(術前).光凝固瘢痕部に耳側半周にわたる線維血管増殖が立ち上がり,硝子体手術目的で紹介された.b:蛍光眼底所見(術前).耳側の増殖組織に著明な蛍光漏出を認め,上方の網膜血管の拡張・蛇行がみられる.c:眼底所見(術後2週).増殖組織が退縮し瘢痕化している.d:蛍光眼底所見(術後2週).蛍光漏出は消失し,血管拡張も軽減した.———————————————————————-Page6460あたらしい眼科Vol.26,No.4,2009(28)5)SchwartzSD,HarrisonSA,FerronePJetal:Telemedicalevaluationandmanagementofretinopathyofprematurityusingberopicdigitalfunduscamera.Ophthalmology107:25-28,20006)RothDB,MoralesD,FeuerWJetal:Screeningforretin-opathyofprematurityemployingtheRetCam120:sensi-tivityandspecicity.ArchOphthalmol119:268-272,20017)NgEYJ,LaniganB,O’KeefeM:Fundusuoresceinangiographyinthescreeningforandmanagementofretinopathyofprematurity.JPediatrOphthalmolStrabis-mus43:85-90,20068)AzadR,ChandraP,KhanMAetal:Roleofintravenousuoresceinangiographyinearlydetectionandregressionofretinopathyofprematurity.JPediatrOphthalmolStra-bismus45:36-39,20089)EarlyTreatmentforRetinopathyofPrematurityCoopera-tiveGroup:Revisitedindicationforthetreatmentofretinopathyofprematurity.ArchOphthalmol121:1684-1696,200310)植村恭夫,塚原勇,永田誠ほか:未熟児網膜症の診断および治療に関する研究─厚生省特別研究費補助金昭和49年度研究報告.日本の眼科46:553-559,197511)森実秀子:未熟児網膜症II型(劇症型)の初期像及び臨床経過について.日眼会誌80:54-61,197612)植村恭夫,塚原勇,永田誠ほか:未熟児網膜症の分類(厚生省未熟児網膜症診断基準,昭和49年度報告)の再検討について.眼紀34:1940-1944,198313)YokoiT,HiraokaM,MiyamotoMetal:Vascularabnor-malitiesinaggressiveposteriorretinopathyofprematuritydetectedbyuoresceinangiography.Ophthalmology,inpress14)AzumaN,IshikawaK,HamaYetal:Earlyvitreoussur-geryforaggressiveposteriorretinopathyofprematurity.AmJOphthalmol142:636-643,2006手術や輪状締結術の治療適応や効果を評価することができる.III今後の展望RetCamRを用いた蛍光眼底造影の導入によって,未熟児網膜症の血管病態がより明瞭に捕らえられるようになった.重症網膜症の病態の解明,光凝固治療や硝子体手術治療のよりよい適応,さらには今後の抗VEGF治療の適応や効果を検討するためにも,蛍光眼底造影は必須の手段であると考えられる.重症未熟児網膜症に対するこの数年の治療の進歩はめざましく,より高度な未熟児診療が要求される昨今のNICU(新生児集中治療室)においてRetCamRの普及は急務である.現在RetCamIIRが入手可能であるが,高額機器のため一般の施設では設備しにくい.この撮影技術の有用性が十分に評価され,広く応用されることが今後の第一の課題である.文献1)FlynnJT,CassadyJ,EssnerDetal:Fluoresceinangiog-raphyinretrolentalbroplasia:experiencefrom1969-1977.Ophthalmology86:1700-1723,19792)木村肇二郎:倒像螢光眼底撮影法による未熟児網膜症の臨床的研究.臨眼30:207-215,19763)上原雅美,上野明広,糸田川誠也:未熟児網膜症の蛍光眼底撮影による研究.日眼会誌80:1204-1215,19764)高木郁江,岡義祐,西村みえ子:未熟児網膜症の進行と治癒─蛍光眼底撮影所見による検討─.日眼会誌81:950-957,1977