———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLSはじめに重症アレルギー性結膜疾患は一般的な花粉症などによるアレルギー性結膜炎と異なり,角膜に炎症や潰瘍を伴い,激しい疼痛や視力低下を伴う疾患である.本稿では重症アレルギー性結膜疾患の概念と臨床像を紹介したうえで,手術適応と手術方法を紹介する.外科的治療は非常に即効性があり,保存療法で軽快しない症例にはぜひ勧めたい治療法の一つである.外科的治療の後で免疫抑制薬点眼を使用すれば再発率も低くなり効果的である.また,最後に長期にわたる角膜炎症で遷延性角膜上皮欠損を認める症例への角膜上皮障害の治療についても紹介する.I重症アレルギー性結膜疾患の概念一般的な花粉などによるアレルギー性結膜炎の治療はヒスタミンH1拮抗点眼薬やメディエーター遊離抑制点眼薬が効果的である1).一方,重症アレルギー性結膜疾患とはアレルギー性結膜炎でも角膜に炎症や潰瘍を伴い,激しい疼痛や視力低下を伴う疾患である.本疾患は多くは非常に治療抵抗性である.重症アレルギー性結膜疾患の代表的疾患は春季カタルであるが,日本のガイドラインではアトピー性皮膚炎の有無は問わない.一方,世界で大半の国々の眼アレルギー疾患の分類にはアトピー性皮膚炎を伴う患者に起こる慢性のアレルギー性結膜炎がアトピー性角結膜炎として独立しており,結膜巨大乳頭などの増殖性変化(図1)(15)149*HiroshiFujishima:国際医療福祉大学三田病院眼科〔別刷請求先〕藤島浩:〒108-8329東京都港区三田1-4-3国際医療福祉大学三田病院眼科特眼アレルギーのはいまあたらしい眼科25(2):149153,2008外科的治療の適応と方法SurgicalTreatmentforSevereOcularAllergicDiseases藤島浩*図1アトピー性角結膜炎─結膜乳頭増殖典型的な重症例結膜乳頭増殖と眼脂を認める.さらに閉瞼も不完全となり,外から乳頭増殖がみえる場合がある.図2輪部型春季カタル角膜輪部の炎症———————————————————————-Page2150あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(16)眼は重症アレルギー疾患に非常に有効な場合がある.特に角膜輪部型の春季カタルに非常に有効である(図3).本点眼薬を使用しても,またステロイド点眼を併用しても角膜潰瘍などの重症アレルギー疾患に伴う症状が進行する症例にはステロイド内服やステロイド結膜下注射を期間限定で行う必要が出てくる.しかし春季カタルなどは基本的に児童に多く,ステロイド緑内障の問題があり,発達期の患者にステロイドを全身投与することの是非の議論は依然絶えない.そこでこういった患者に今回紹介する外科的療法があるわけである.適応(1)保存的治療ですでに何週間も経過している患者は早期の改善を望まれることが多い.たとえば,ステロイドやシクロスポリン点眼を中心にした保存的治療にて1カ月経過しても症状が軽快せず,角膜潰瘍などが進行する症例に対しては適応である.(2)本疾患が若年者に多く,疼痛や視力低下が患者の社会生活にも影響を与える.痛みが強く,患者の生活スタイルに支障をきたす症例では本法は保存的治療1カ月を待たずに適応となる.(3)再発例で非常に劇症であり,本人が早期の外科的療法を望んだ場合(再発をくり返す症例でも,しばらくの間は自覚的にも他覚的にも著効を示す4)).(4)乳頭増殖が眼瞼縁を越えて外から見える程度になる症例もある.こういった症例には外見上の意味からも適応となる.III外科的治療の方法1.麻酔(1)まずベノキシールを点眼後,白内障手術の際に用いられる4%キシロカイン点眼を行う.(2)点眼麻酔を何回か行った後に2%キシロカインを結膜下に注射し(図4),十分マッサージする.この方法だと結膜下注射の痛みが少なく,小児でも手術可能である.麻酔液は冷蔵庫から取り出してすぐのものではなく,体温程度まで暖めてから使用すると痛みが少ない.(3)挟瞼器を用いて止血を行う場合には上眼瞼皮下にも注射する.その際にはアムスラーテープなどで,事前を伴う症例は難治性アレルギー疾患の代表的疾患である.いずれにしても結膜巨大乳頭を伴うものや,輪部結膜の腫脹や堤防状隆起を認める場合もある(図2).これら難治性アレルギー疾患は高率に角膜病変を伴う.それは軽度なものから点状表層角膜炎,落屑様角膜炎,遷延性角膜上皮欠損,角膜潰瘍,角膜プラークである2,3).春季カタルは10歳代の男性に多く,加齢に伴い減少する.原因抗原としてはハウスダスト,ダニが多い.アトピー性角結膜炎の重症型は20歳代にピークが認められる.外科的治療は両者に有効であるが,アトピー性角結膜炎の重症型は再発率も高くなる傾向がある.アトピー性角結膜炎重症型の多くは眼瞼にも炎症を認め,より強い痒みがあることが一つの理由であるかもしれないが,やはり高率に認められる眼瞼炎もその理由であるかもしれない.角膜所見ではトランタス斑や角膜輪部の堤防状隆起を認めることもある(図2).シールド潰瘍は角膜潰瘍底に好酸球などの沈着物が堆積したものと考えられ,外科的治療(角膜潰瘍掻爬術)の適応の一つである2,3).II外科的治療の適応最近はこういった重症例には保存療法として免疫抑制薬点眼がある(別項参照).現在発売されているシクロスポリン点眼はT細胞の活性化を選択的に抑制する薬剤で,本剤の眼圧への影響はない.このシクロスポリン点図3シクロスポリン治療後角膜輪部は綺麗になる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008151(17)4.術後(1)術当日は鎮痛剤を処方する.(2)術翌日から抗アレルギー点眼,シクロスポリン点眼,ステロイド点眼を主体とした点眼治療を行う.(3)この方法で,術翌日には結膜や角膜は劇的に改善する.結膜は約1週間で新しい正常結膜が張っているようである6).5.術後の副作用(1)痛みが継続する症例は現在までない.(2)現在まで最長15年の経過観察で眼瞼などに異常をきたした症例は認めていない(図7).(3)前述したように,アトピー性角結膜炎の場合は再に皮膚表面麻酔を行っておくと痛みが少なくてよい.(4)全身麻酔が必要な症例では,事前に何も行う必要はない.2.結膜切除(1)右利きの術者で,右眼上眼瞼結膜なら,耳側結膜から乳頭をいっしょに,できるだけ広く鼻側へ結膜を切除する(図5).(2)出血が強い場合はボスミンガーゼなどを使用してもよい.(3)乳頭や炎症の強い結膜部分を十分切除し,できるだけ取り残しのないようにする(図6).(4)切除の深さは瞼板があるので,それ以上は深くしない.(5)線維化した組織も切除する.(6)細かい乳頭も刃先で擦るように切除する.3.切除後(1)可能であれば術後に0.05%マイトマイシンを使用して再発を予防する5).スポンゼルに浸して5分間切除面に浸す.(2)その後生理的食塩水500mlで角膜を含めて十分洗浄する.(3)術後は圧迫と軟膏である.結膜上皮の移植や止血機具を用いた止血などの処置を追加しない.(4)抗生物質の眼軟膏を入れて圧迫して止血を待つ.図427ゲージ針による麻酔点眼麻酔のあとで結膜下に注入する.図5結膜乳頭切除1右利きなら結膜を向かって右側より切除し,できるだけ乳頭を残さない(手術顕微鏡で頭側よりみた図).(文献4より)図6結膜乳頭切除2大きな乳頭は茎を切断する.———————————————————————-Page4152あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(18)発をみる場合がある.再発防止のためにシクロスポリン点眼は長期に用いる(図8).IV角膜上皮障害の治療重症アレルギー性結膜疾患では,眼表面の炎症が遷延化したために角膜上皮を冒して角膜上皮障害を起こす場合がある.上皮障害には点状表層角膜炎から角膜びらん,角膜潰瘍,遷延性上皮欠損に至るまでさまざまである.特にアトピー性角結膜炎の患者は角膜上皮,とりわけ周辺輪部も注意深く観察することが重要である.治療は点状表層角膜炎などにはヒアルロン酸入りの点眼などから使用し,高度の上皮障害には血清点眼も有効である.血清中には上皮の成長因子などが含まれ,血清点眼は角膜上皮障害に非常に有効である.プラークは切除しないと良好な上皮化に時間が必要であるので,結膜切除図9アトピー性角結膜炎患者の角膜潰瘍(a)と羊膜移植後の正常化した角膜(b)(文献7より)図7手術前後の写真(左側:術前,右側:術後)A:大きな乳頭,C:細かい乳頭,E:角膜潰瘍と結膜充血,G:角膜潰瘍の染色像.(文献4より)図8結膜乳頭を雑草にたとえた図本治療の意義のまとめである.外科的治療で雑草を除去し,一度綺麗にする.そのままでは再発するので,再び生えてこないための草取り剤としてシクロスポリン点眼を使用.結膜切除とシクロスポリン点眼療法結膜切除とシクロスポリン点眼療法———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008153(19)cellsinbrushcytologysamplescorrelatewiththeseverityofcorneallesionsinatopickeratoconjunctivitis.BrJOph-thalmol88:1504-1505,20044)FujishimaH,FukagawaK,SatakeYetal:Combinedmedicalandsurgicaltreatmentofseverevernalkerato-conjunctivitis.JpnJOphthalmol44:511-515,20005)FujishimaH,SaitoI,TakeuchiTetal:Immunologicalcharacteristicsofpatientsvernalkeratoconjunctivitis.JpnJOphthalmol46:244-248,20026)TanakaM,TakanoY,DogruMetal:AcomparativeevaluationoftheecacyofintraoperativemitomycinCuseaftertheexcisionofcobblestone-likepapillaeinsevereatopicandvernalkeratoconjunctivitis.Cornea23:326-329,20047)TakanoY,FukagawaK,Miyake-KashimaMetal:Dra-matichealingofanallergiccornealulcerpersistentfor6monthsbyamnioticmembranepatchinginapatientwithatopickeratoconjunctivitis:acasereport.Cornea23:723-725,2004の後でぜひ角膜潰瘍掻爬術を追加して欲しい.アレルギー疾患の治療に併せてこれらの角膜上皮外科治療を併用する.春季カタルなどが原因で角膜輪部に障害が及ぶと遷延性上皮欠損を起こし,角膜上皮のステムセル(幹細胞)障害の治療が必要になる.一部輪部機能が残っていれば血清や羊膜移植などで治療が可能である(図9).文献1)Miyake-KashimaM,TakanoY,TanakaMetal:Compari-sonof0.1%bromfenacsodiumand0.1%pemirolastpotassiumforthetreatmentofallergicconjunctivitis.JpnJOphthalmol48:587-590,20042)TanakaM,DogruM,FujishimaHetal:Therelationofconjunctivalandcornealndingsinsevereocularaller-gies.Cornea23:464-467,20043)TakanoY,FukagawaK,DogruMetal:Inammatoryお申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.メディカル葵出版年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科HFFNVol.25月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・眼感染アレルギーなど)/新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■株式会社〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544http://www.medical-aoi.co.jp