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眼科医のための先端医療87.補助シグナルによる免疫制御と眼免疫とのかかわり

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083410910-1810/08/\100/頁/JCLSマウスヒトキメラ抗体の開発が成功して以来,今日ではつぎつぎに抗体医薬が開発され眼科領域においても抗体治療が脚光を浴びています.抗血管内皮増殖因子(VEGF)抗体(ベバシズマブ)や抗tumornecrosisfactor-a(TNF-a)抗体(インフリキシマブ)がその代表です.今後10年間で医療市場には○○マブといった製剤が溢れかえっているかもしれません.本稿では,抗体療法の標的として今後注目されている補助シグナルを解説し,新規補助シグナル分子とそのリガンドを標的とする抗体治療の動物実験における結果や,眼内における補助シグナル分子の役割を解説しながら抗体を用いた免疫治療の可能性について述べていきます.補助シグナルとは免疫応答はT細胞,B細胞,抗原提示細胞である樹状細胞,マクロファージなどの相互作用によるネットワークにより調節されています.多種多様な免疫の相互作用は抗原特異的レセプターを介するシグナル(第1シグナル)に加え,数多くの細胞表面分子間を介したシグナルにより決定されます.このようなシグナルを総称して補助シグナルといい,広義にはインテグリンファミリーによる多くの接着分子群,さらにはサイトカインやケモカインにより誘導されるシグナルも補助シグナルに含まれます.補助シグナルは特に抗原提示細胞とT細胞においてよく調べられ,免疫反応を増大させる活性型補助シグナルと減弱させる抑制型補助シグナルがあり,それぞれの局面でふさわしい免疫応答が誘導され,収束することで恒常性が保たれ免疫反応を調節しています(図1).補助シグナルによる免疫療法補助シグナル分子を人為的に調節することにより自己免疫疾患,臓器移植,アレルギー,癌,感染症などの原因となる抗原特異的T細胞の制御が可能になるため,現在では新規免疫治療薬としての補助シグナル分子の臨床研究が行われています.ヒトぶどう膜炎の動物モデルである実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)では最も古典的な補助シグナル経路であるCD28-CD80/86経路を阻害することにより病気の発症を抑制することができます1)が,CD28分子がほぼ恒常的に健常人や眼Behcet病の患者リンパ球に発現しているため臨床応用がむずかしいとされています.しかし,近年発見された新規の補助シグナル分子であるinducibleco-stimulator(ICOS)は,CD28と比較して抗原刺激を受けたことのないT細胞上にはほとんど発現がみられず,活性化に伴って発現が上昇することからICOSは病気がすでに起こっている状態において重要であると考えられていま(67)シリーズ第87回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊(東京医科大学眼科)補助シグナルによる免疫制御と眼免疫とのかかわり図1T細胞と抗原提示細胞の相互作用に関する補助シグナル分子群舁浴蛆???T??CTLA-4CD28ICOSPD-1BTLACD274-1BBOX40RANKCD40B7-1(CD80)B7-2(CD86)B7RP-1B7-H1HVEMCD704-1BBLOX40LTRANCECD40LB7-DCB7-H3B7-H4???B7-CD28familyTNF-TNFRfamily———————————————————————-Page2342あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008す.実際,筆者らはICOSが炎症時にのみ炎症局所の病原T細胞に発現していることから,そのリガンドの抗体である抗B7RP-1抗体を投与し,EAUの発症期にICOS/B7RP-1経路を阻害することでEAUの完成後における臨床症状と病理組織所見の軽減化,インターフェロン(IFN)-g産生の抑制効果,病原T細胞の増殖反応低下などを認めました2).また,眼炎症のある活動期Behcet病患者末梢血CD4+T細胞上のICOSは非活動期Behcet病患者や健常人のそれに比べ有意に発現が高く3),今後の難治性ヒトぶどう膜炎の治療において可能性が示唆されました.さらに,他の活性型補助シグナル分子であるOX40/OX40Lにおいては,マウス角膜移植モデルでこの経路を阻害することにより有意に生着が延長されることがわかりました4).そしてOX40-OX40L経路は動脈硬化発症に直接関与することも証明されているので,免疫疾患のみならず生活習慣病などの治療にも応用範囲は広くなると思われます5).眼局所における補助シグナル分子の役割本シリーズ第61回における東京医科歯科大学の杉田直先生の眼色素上皮細胞の免疫学的抑制機構において,マウス虹彩色素上皮細胞に古典的な補助シグナル分子であるCD86が発現し,cytotoxicTlymphocyte-associ-atedantigen(CTLA)-4を発現している活性化T細胞を抑制しサイトカイン産生を制御していることが掲載されましたが,これも眼局所において補助シグナル分子が関与している例です6).また,近年筆者らは新規の抑制型補助シグナル分子PD-1のリガンドであるPDL1がヒト網膜色素上皮細胞に発現し眼局所における免疫抑制機構に関与していることを認めました7).さらに正常細胞のみならず,ヒト網膜芽細胞腫の細胞株においてもPDL1の発現を認め,ケモカインを介して抗腫瘍T細胞反応を抑制している可能性や,活性型補助シグナル分子であるCD40を発現させることによって癌免疫療法の可能性があることもわかりました8).このように免疫細胞のみならず眼局所の細胞に補助シグナル分子が発現していることは大変興味深く,今後の研究の進展が期待されます.補助シグナル研究のめざすもの抗原特異的なシグナル(第1シグナル)を阻害する治療は,その病気の抗原が同定されている場合は可能ですが,応用がきわめて限られています.また,CD3などのT細胞受容体(TCR)などの治療法も試みられていますが,サイトカインストームやアポトーシスによるT細胞破壊で起きる免疫不全などが問題とされています.これに対して補助シグナル分子の阻害は抗原特異性,主要組織適合抗原複合体(MHC)拘束性がなくどのような免疫応答にも使用できる可能性があります.また,活性型の補助シグナル分子が存在しない状況において,T細胞は抗原を認識したうえでの抗原特異的不応答状態になるため補助シグナルの欠如によるT細胞不応答はT細胞が活性化されないだけでなくその後につづく同一抗原刺激に対しても無反応となるため,抗体を用いた補助シグナル阻害は免疫療法を行ううえで抗体治療中だけでなく投与後も効果が持続するという利点があり,今後の臨床応用が期待されています.実際,T細胞の活性化に必須である補助シグナル分子のCD28を介するシグナルを阻害するCTLA-4-Ig融合蛋白質のアバタセプトは2006年に米国で承認され,わが国でも第Ⅱ相臨床試験が進行しています.補助シグナル分子の研究は抗体医薬の臨床応用が究極の目標でありますが,それだけでなく眼局所における補助シグナル分子が各眼疾患の病態や病因の解明に大きなヒントを与えつつあります.今後,補助シグナル分子の基礎研究と臨床応用へのトランスレーションが眼疾患の解明や治療にさらなる進歩をもたらすことを期待したいと思います.文献1)FukaiT,OkadaAA,SakaiJetal:Theroleofcostimula-torymoleculesB7-1andB7-2inmicewithexperimentalautoimmuneuveoretinitis.GraefesArchClinExpOphthal-mol237:928-933,19992)UsuiY,AkibaH,TakeuchiMetal:TheroleoftheICOS/B7RP-1Tcellcostimulatorypathwayinmurineexperimentalautoimmuneuveoretinitis.EurJImmunol36:3071-3081,20063)臼井正彦:実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(EAU)のトランスレーショナルリサーチ.日眼会誌111:137-159,20074)HattoriT,UsuiY,OkunukiYetal:BlockadeofOX40ligandprolongscornealallograftsurvival.EurJImmunol37:3597-3604,20075)WangX,RiaM,KelmensonPMetal:Positionalindenti-cationofTNFSF4,encodingOX40ligand,asagenethatinuencesatherosclerosissusceptibility.NatGenet37:365-372,20056)杉田直:眼科医のための先端医療眼色素上皮細胞の免疫学的抑制機構.あたらしい眼科23:63-64,20067)UsuiY,OkunukiY,HattoriHetal:Functionalexpres-(68)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008343(69)ulatorymoleculesonhumanretinoblastomacellsY-79:functionalexpressionofCD40andB7H1.InvestOphthal-molVisSci47:4607-4613,2006sionofB7H1onretinalpigmentepithelialcells.ExpEyeRes86:52-59,20088)UsuiY,OkunukiY,HattoriTetal:Expressionofcostim-■「補助シグナルによる免疫制御と眼免疫とのかかわり」を読んでかは抗ざのりとのに「抗の」にるとわすの抗抗です抗抗ののは療をよに眼療をもものとわすか抗抗はに作用るので眼局所の免疫制御療には作用のかにりす抗抗ではに抗抗ににでるもりす臼井嘉彦るよに補助シグナルを制御するとでよりめ細かでをに療をとです細は本文によすのですの抗療はより局をわわのにはと研究分をとです分子のをかにする研究には用すは所とる免疫をもでり分子のにおける作用はのかするとかでんで分子のにおけるの作用をるめには療にですで分子をすよとはわかはにるものではりんか抗療によりににお分子をするととのですは抗の療に療研究にをもすものですと抗抗を用の眼をの眼の制御にのよにかかわるかにのわかりすでるはでものをはるかにするをわわにもすでのを用に療法にるでの文はの眼の用をにするものとす文献1)HaerDA:Cytokinesandinterventionalimmunology.NatureRevImmunol7:423,2007鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

新しい治療と検査シリーズ180.角膜クロスリンキング

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083390910-1810/08/\100/頁/JCLS角膜厚が400μmに満たない症例では角膜内皮細胞への影響が懸念される4).したがって,上皮細胞層を除いた角膜中心部厚が400μm以上(上皮細胞層を入れると約450μm以上)の症例のみが適応とされる.実際の手術方法(表1)角膜に点眼麻酔を施した後,6mm径にて角膜上皮を離する.0.1%リボフラビン水溶液を3分ごとに約30分間点眼する.いったん細隙灯顕微鏡にて観察し,リボフラビンが離した上皮の縁から0.5mm以上角膜輪部新しい治療と検シリーズ(65)バックグラウンド円錐角膜は,角膜実質の脆弱性を特徴とする先天性の疾患である.大部分の症例は思春期に発症し,成長とともに疾患は進行し,角膜の前方突出・菲薄化と近視度数の進行と不正乱視の増加をみる.しかし,成人してしばらくすると円錐角膜の進行は停止することが多い.この機序として,日常生活で角膜が紫外線に曝露されることにより,角膜実質のコラーゲン線維間の架橋が強まり角膜強度が増すためであると考えられる.角膜クロスリンキングは,Seilerらのグループにより開発された円錐角膜の治療法で,角膜実質のコラーゲン線維間の架橋を加速させることにより円錐角膜の進行を早期に停止することを目的としている.同グループは,1990年代から角膜実質のコラーゲン線維の架橋に関する基礎研究報告を行ってきており1,2),それを元に,2003年に初めてヒト円錐角膜眼に対して施術を行い有効性と安全性を報告した3).以後,各国から高い関心が寄せられており,特にヨーロッパ諸国で本方法を導入する施設が増加している.現在,スイス,イタリアなどを中心とした欧米諸国で多施設研究がスタートし,症例が積み重ねられている段階である.原理角膜にリボフラビン(ビタミンB2)を点眼しながら370nmの長波長紫外線を角膜に照射する.リボフラビンはフォトセンシタイザー(光増感性物質)として働き,紫外線の照射により活性酸素を発生する.この活性酸素がコラーゲン線維間の架橋を増加させると考えられている(図1).長波長紫外線照射により,角膜実質のコラーゲンが架橋するほかに,細胞はアポトーシスに陥る.この影響は,照射表面から400μm程度まで及ぶとされており,180.角膜クロスリンキングプレゼンテーション:加藤直子慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:西田幸二久保田享東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科・視覚科学分野1.リボフラビン点眼と長波長紫外線照射長波長紫外線照射2.活性酸素の発生3.コラーゲン架橋形成コラーゲン線維コラーゲン線維OHOOOO?POHH2CH2CCH2H3CH3CO2-CHOHCHOHCHOHNNNHNリボフラビン(ビタミンB2)CH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH21角膜クロスリンキングの原理リボフラビンに紫外線照射をすると活性酸素が産生される.産生された活性酸素の作用でコラーゲン線維間に架橋が生じると考えられている.(出典;WollensakG:Crosslinkingtreat-mentofprogressivekeratoconus.CurrOpinOphthalmol17:356-360,2006,Figure2より)———————————————————————-Page2340あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008側へ浸透していることと前房水内にまで到達していることを確認する.その後,370nmの長波長紫外線を3.0mW/cm2の強度で30分間照射する(図2).照射中も5分ごとにリボフラビンの点眼を続行する.術後は,治療用ソフトコンタクトレンズを装用させ,ステロイド点眼薬,非ステロイド系抗炎症薬,抗生物質の点眼を行う.本方法の良い点従来角膜移植を行うしか治療方法のなかった円錐角膜眼に対して,進行する前に予防的に措置を行えることが最大の利点である.施術は点眼麻酔のみで行うことが可能で,術後の炎症も非常に少ない.現在の時点では,世界的にも重篤な副作用の報告はまだ1例もない.また,手術の導入という観点からも利点は多い.本方法で用意すべきものは紫外線照射装置とリボフラビン溶液のみであり,高額な機器の設置などは不要である.また,上皮を離した後は,点眼しながら紫外線を照射するだけで,手術操作も非常に簡単である.先天性の円錐角膜のみならず,角膜屈折矯正手術後の角膜拡張症の予防・治療方法としても,今後の発展と普及が期待されている.文献1)SpoerlE,HuhleM,SeilerT:Inductionofcross-linksincornealtissue.ExpEyeRes66:97-103,19982)SpoerlE,SeilerT:Techniquesforstieningthecornea.JRefractSurg15:711-713,19993)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboavin/ultraviolet-A-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,20034)WollensakG,SpoerlE,WilschMetal:Endothelialcelldamageafterriboavin-ultraviolet-Atreatmentintherabbit.JCataractRefractSurg29:1786-1790,2003(66)防止するということであって,すでに生じてしまった形状異常を修復するものではない.円錐角膜の進行症例では角膜厚が薄くなっており,本方法に角膜厚が400μm以上必要であることから症例が限られてしまうことは問題である.また,紫外線による角膜内皮細胞への長期的な影響も検討が待たれるところである.しかし,本方法を発展させていけば有効な治療法になる可能性があり,今後の継続的な検討が期待される.円錐角膜の治療の考え方としては,初期の場合は矯正効果と進行防止を目的としてハードコンタクトレンズ処方を行い,形状異常が高度であったり角膜混濁により視力低下をきたしたりしている症例では角膜移植を行うのが標準的である.本方法は,角膜実質のコラーゲンを架橋により強化させ円錐角膜の防止の目的で行う方法であり新しいものといえる.しかし,本法の目的は架橋によって実質の強度を向上させて進行を本方法に対するコント2角膜に紫外線を照射しているところリボフラビンを点眼して十分に前眼部に浸透させた後に,長波長紫外線を30分間角膜に照射する.(写真提供:南青山アイクリニック)表1角膜クロスリンキングの手順点直リラン点リランとリランのに紫外線照射とにリランを点し術治療コンクトンズ点

眼感染アレルギー:ぶどう膜炎と眼の免疫

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083370910-1810/08/\100/頁/JCLSぶどう膜炎とは,本来はぶどう膜を構成する虹彩,毛様体,脈絡膜に起因する炎症と考えられるが,日常の臨床では眼内における炎症性疾患すべてに対して使われている用語である.そのため,「uveitis(ぶどう膜炎)」より「intraocularinammation(内眼炎)」のほうが適切であるという見解もあり,InternationalOcu-larInammationSocietyにより提唱されたが,uveitis(ぶどう膜炎)という用語がすでに定着していること,intraocularinammation(内眼炎)は感染性眼内炎(endophthalmitis)との混同を招くおそれがあるなどの問題から,今なお両用語が用いられている.ぶどう膜炎は,「感染性」と「非感染性」に大別され,「非感染性」の原因としては自己の組織に対して反応性を有する免疫異常,「自己免疫」の関与が指摘されている.内の特異な免疫機構ぶどう膜炎を考えるとき,眼の特異な免疫機構を知っておくことは大切である.眼にはその透明性を維持するために血管,リンパ管がなく,血液眼関門とよばれるバリアも存在し,全身の免疫系が働きにくい組織になっている.そのため,他臓器にはみられないユニークな免疫機構が備わっている.1.血液眼関門(バリア)毛様体上皮細胞,網膜色素上皮細胞,網膜血管内皮細胞により構成され,病原微生物はもとより,善玉,悪玉を問わず免疫担当細胞の侵入をも封ずる.しかし,これは両刃の剣であり,何らかの原因により細菌,ウイルスが眼内に侵入してしまうとそこは絶好の繁殖環境となってしまう.2.房水内の免疫抑制物質房水中には種々の液性因子が存在し(表1),炎症性細胞を直接,または樹状細胞などの抗原提示細胞を介して間接的に抑制することが知られている13).3.免疫調節作用を有する眼組織細胞近年の研究で,角膜内皮細胞,虹彩・毛様体上皮細胞,網膜色素上皮細胞にはCD95L,CD86,galectin-1,MHCclassIb,B7-H12,4,5)などの免疫反応を負に制御する分子が発現していることが明らかになっている.4.前房関連免疫偏位(anteriorchamber-associatedimmunedeviation:ACAID)前房内に投与された抗原は虹彩・毛様体に存在する抗原提示細胞に取り込まれ,血流を介して脾臓に達し,その抗原に特異的な制御性T細胞を分化・誘導する.この制御性T細胞により,前房内投与された抗原に対す(63)眼感染アレルーー感染症と生体御●連載③監修=木下茂大橋裕一3.ぶどう膜炎と眼の免疫竹内大東京医科大学眼科ぶどう膜炎は,眼内における炎症の総称であり,「感染性」と「非感染性」に大別される.一方,眼にはその透明性を維持するために血管,リンパ管がなく,全身の免疫系が働きにくい組織であるが,他臓器にはみられないユニークな免疫機構を有しその恒常性は維持されている.ぶどう膜炎の発症は眼の免疫機構の破綻に起因し,主体の浸潤細胞により特徴的な眼所見を呈する.表1免疫反応を負に制御する眼内の液性因子子作用b2T細胞,NK細胞,マクロファージの活性抑制,および制御性抗原提示細胞の誘導a-MSH制御性T細胞への分化誘導VIPT細胞の分化・活性抑制CGRPT細胞,マクロファージの活性抑制,および制御性抗原提示細胞の誘導TSP制御性抗原提示細胞の誘導MIFNK細胞の抑制IL-1RaIL-1a/bの抑制CD46,CD55,andCD59補体活性抑制CD95L活性化T細胞のアポトーシス誘導TGF-b2:transforminggrowthfactor-b2.a-MSH:a-melanocytestimulatinghormone.VIP:vasoactiveintestinalpolypeptide.CGRP:calcitoningene-relatedpeptide.TSP:thrombospondin.MIF:macrophagemigrationinhibitoryfactor.IL:interleukin.NK:naturalkiller.———————————————————————-Page2338あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008る遅延型過敏反応,免疫グロブリンG(IgG)2a産生は特異的に抑制される6).どう膜炎にみられる眼所見ぶどう膜炎にみられる眼所見は炎症に伴う血液眼関門の破綻が原因であり,形作られる病像は主体の浸潤細胞の種類により決定される(表2).浸潤細胞の主体がマクロファージ,リンパ球であると肉芽腫性ぶどう膜炎となり,好中球,リンパ球であると非肉芽腫性ぶどう膜炎を呈する.炎症により毛様体上皮細胞のバリアが破綻すると前房細胞,角膜後面沈着物,前部硝子体細胞といった眼所見がみられ,肉芽腫性では豚脂様角膜後面沈着物,虹彩結節,隅角結節,非肉芽腫性では白色微細角膜後面沈着物,前房蓄膿を呈する.血管炎により網膜血管内皮細胞のバリアが障害されると,肉芽腫性では結節性血管炎,非肉芽腫性ではびまん性血管炎を生じ,蛍光眼底造影における蛍光漏出が局所性分節性かびまん性かにより判別される.肉芽腫性,非肉芽腫性ぶどう膜炎ともに形状に違いがみられるものの血管内成分が網膜に浸潤し,出血,滲出斑を呈する.また,網膜色素上皮細胞が障害されると網膜深層の滲出斑,滲出性網膜離などの所見がみられる.どう膜炎をきたす免疫反応疾患の発症機序,病態の解明,治療法の確立には動物を用いた疾患モデルが不可欠であり,ぶどう膜炎の研究においてもその開発が進められてきた.1965年にWackerらが網膜蛋白質に強いぶどう膜網膜炎惹起能があることを報告し,その後,その代表的な蛋白質は網膜視細胞層に存在するS抗原と光受容体間レチノイド結合蛋白質(interphotoreceptorretinoidbindingpro-tein:IRBP)であることが明らかになった.S抗原,またはIRBPを免疫強化剤である完全フロインドアジュバント(CFA)とともに感受性の高い動物に免疫すると高頻度にぶどう膜炎が発症し,このぶどう膜炎は実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(experimentalautoimmuneuveoretinitis:EAU)と名付けられた7).EAUでは,CFAによりマクロファージ,好中球を中心とした抗原非特異的な免疫反応(自然免疫)が活性化され,活性化された自然免疫により血液眼関門の破綻,網膜局在抗原の曝露,抗原提示細胞による網膜抗原特異的T細胞の活性化(抗原特異的な獲得免疫の活性化)が免疫部位,眼内で生じ,ぶどう膜網膜炎の発症に至ると考えられる.どう膜炎の病態からされること非感染性ぶどう膜炎は,疾患により急性,慢性さまざまな経過をたどるが,概して自然寛解傾向がみられる.再発,再燃をくり返す病態は,炎症を惹起する免疫異常と炎症を消退させようとする上記の眼特異的免疫機構の凌ぎ合いが反映されている結果であろう.文献1)TakeuchiM,AlardP,StreileinJW:TGF-betapromotesimmunedeviationbyalteringaccessorysignalsofanti-gen-presentingcells.JImmunol160:1589-1597,19982)StreileinJW:Ocularimmuneprivilege:therapeuticopportunitiesfromanexperimentofnature.NatRevImmunol3:879-889,20033)KezukaT,TakeuchiM,KeinoHetal:Peritonealexudatecellstreatedwithcalcitoningene-relatedpeptidesuppressmurineexperimentalautoimmuneuveoretinitisviaIL-10.JImmunol173:1454-1462,20044)SugitaS,StreileinJW:IrispigmentepitheliumexpressingCD86(B7-2)directlysuppressesTcellactivationinvitroviabindingtocytotoxicTlymphocyte-associatedantigen4.JExpMed198:161-171,20035)HoriJ,WangM,MiyashitaMetal:B7-H1-inducedapoptosisasamechanismofimmuneprivilegeofcornealallografts.JImmunol177:5928-5935,20066)StreileinJW,NiederkornJY:Inductionofanteriorcham-ber-associatedimmunedeviationrequiresanintact,func-tionalspleen.JExpMed153:1058-1067,19817)DeKozakY,UsuiM,FaureJP:Experimentalautoim-muneuveoretinitis.Ultrastructureofchorioretinallesionsinducedinguineapigsbyimmunizationagainsttheouterrodsofthebovineretina.ArchOphthalmol(Paris)36:231-248,1976(64)表2肉芽腫性ぶどう膜炎と非肉芽腫性ぶどう膜炎の相違肉芽腫性ぶどう膜炎非肉芽腫性ぶどう膜炎の細胞リリ前眼所見膜物節節細膜物リ前房子の性をうことる性血炎節性性膜

ベーチェット病の眼病変:インフリキシマブ治療前の必須検査,副作用

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083350910-1810/08/\100/頁/JCLSインフリキシマブ(商品名:レミケードR)はあらゆる炎症の起点となるサイトカイン腫瘍壊死因子a(TNF-a)に対する抗体製剤で,マウス由来抗ヒトTNF-aモノクローナル抗体のうち,TNF-aへの結合部(可変部)のみを残し,定常領域をヒトIgG(免疫グロブリンG)に変換したキメラ抗体である.TNF-aを無力化するだけでなく,TNF-a産生細胞をも傷害することにより,炎症を抑制する1).インフリキシマブが2007年1月にベーチェット病による網膜ぶどう膜炎に適応承認されて以来,各施設で難治性の眼ベーチェット病患者に順次導入され,結果報告が出てきつつある.それによると概ね眼発作の頻度は激減し,眼科的には著効しているといえるようである.われわれ眼科の世界ではぶどう膜炎の病勢がどうなるかにばかり目が向きがちであるが,インフリキシマブはいわゆる生物学的製剤とよばれる新しい治療薬であり,また全身投与をする以上,投与前には投与可能かどうかの全身検査が必須であり,また投与後も全身的な副作用につねに注意を払うことが必要である.以下にインフリキシマブ投与前の必須検査と,その副作用について述べる.与前の必須検査まず本製剤ならびにマウス由来蛋白質に対する過敏症の既往歴,脱随疾患およびその既往歴,うっ血性心不全,重篤な感染症,活動性結核,がある場合は投与禁忌となっている.これらを確認した後,以下に進む.①結核:問診で結核既往歴を聴取し,ツベルクリン反応の検査を行う.また胸部X線,必要に応じて胸部CT(コンピュータ断層撮影)も追加する.これらの検査の結果,既感染が疑われる場合には必要に応じて抗結核薬の同時投与も検討しなければならない.②肝炎:B型肝炎ウイルスキャリアの患者においてB型肝炎ウイルスの再活性化が報告されている.HBs抗原を調べ,陽性であった場合には定期的な肝機能検査や(61)肝炎ウイルスマーカーのモニターを行う.C型肝炎も同様である.③その他の感染症:採血を行い,白血球やリンパ球の上昇があったり,またb-d-グルカン陽性がみられたら感染症のリスクが高くなる.感染症の早期発見に努め,必要に応じて早期治療を行う.作用つぎに副作用について述べる.副作用の種類としては,抗体製剤であることによる副作用と,TNF-aを抑制することによる副作用,の2つに大別される.1.抗体製剤であることによる副作用a.Infusionreaction(投与時反応)即時型過敏症のことで,投与開始から投与後2時間以内に認められた副作用をいう.頭痛,発熱,めまい,血圧上昇,痒,嘔吐などがある.5.4%で起こると報告されている2).軽度のものでは点滴速度を下げるなどで対応するが,中等度以上のものでは点滴中止や抗ヒスタミン薬やステロイド薬追加投与などで対応し,場合によっては気道確保なども必要なこともある.b.遅発性過敏症前回投与から一定期間置いて再投与する場合に,投与後3日以上経過して発現する過敏症をいう.筋肉痛,発疹,発熱,関節痛などがある.発現率は0.6%と報告されている2).2.TNFaを抑制することによる副作用TNF-aは多くの炎症性疾患の元凶となってはいるが,本来正常な作用では,腫瘍の増殖を抑制したり,また感染防御機構の一翼を担っている.したがって,TNF-aを極端に抑制すると,腫瘍増大や感染症をひき起こす危険性が高まる.a.感染症の発症関節リウマチにおける日本での調査では,細菌性肺炎の発症率は2.2%,結核の発症率は0.3%となっている.肱岡邦明園田康平九州大学大学院医学研究院眼科ベーチェット病の眼病変ミナー監修/岡田アナベルあやめ園田康平2.インフリキシマブ治療前の必須検査,副作用インフリキシマブ2よりベーチェット病による治性に応インフリキシマブ製剤とイプの治療であり,投与を必とするの投与前にを,投与後の副作用にに,こにに製———————————————————————-Page2336あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(62)結核は投与前のスクリーニングや抗結核薬の予防投与により発症を抑えることができる.b.悪性腫瘍の発症,悪化悪性リンパ腫や皮膚癌などが報告されてはいるが,自然発症頻度と差はなく,関連性は明らかではない.c.ループス様症候群海外で結節性紅斑の悪化例3)や,抗dsDNA抗体の上昇例が報告されている4).投与後のループス様症候群を思わせる徴候が認められ,さらに抗dsDNA抗体陽性化が認められた場合には投与を中止しなければならない.d.脱随疾患既往がある場合は投与禁忌であり,疑いの場合は必要に応じて画像診断などを行う.作用の1例以下に当院で起こった,レミケードRが原因と思われる副作用の1例を示す.症例は35歳,男性.28歳でベーチェット病を発症し,以後コルヒチン,プレドニゾロン内服治療を行ったが,眼発作をくり返した.シクロスポリン内服は神経ベーチェットの発症を恐れる本人の承諾が得られず行っていない.2006年には眼発作の頻度はますます高くなるとともに発作の重症度も重くなり,視力低下が進行した(図1)ため,レミケードR導入となった.初回投与後,2週,6週,以後8週間隔でレミケードR投与を行っている.投与後はこれまでのところ発作を2回起こしてはいるが,その頻度は激減し,その重症度も非常に軽いものであった(図2).2007年11月2日にレミケードR投与を行い,特に問題なく退院となっていたが,翌日朝より39℃を超える発熱と頭痛が出現し,当院内科受診,髄膜炎を疑われ入院となった.髄液検査で髄膜炎は否定され,腹部CTと大腸カメラから急性感染性腸炎と診断され,抗生物質点滴が行われ,速やかに解熱し炎症反応も軽快したため,11月17日退院となった.レミケードR投与による易感染性が原因と考えられた.しかし,リスクと効果のバランスを検討し,内科医との十分な連携のもと,現在,レミケードRを再開している.おわりにベーチェット病の患者は比較的年齢が若く,全身的にも問題ない場合が多いので,関節リウマチ患者などに比較すると副作用は起こりにくい印象ではあるが,このような例も存在することを認識してレミケードR投与を行っていくことが必要である.文献1)稲森由美子,水木信久:ベーチェット病の抗TNFa抗体療法.眼科48:489-503,20062)ChefetzA,SmedleyM,MartinSetal:Theincidenceandmanagementofinfusionreactionstoiniximab:alargecenterexperience.AmJGastroentenol98:1315-1324,20033)YuselAE,Kart-KoseogluH,AkovaYatal:Failureofiniximabtreatmentandoccurrenceoferythemanodo-sumduringtherapyintwopatientswithBehcet’sdisease.Rheumatology43:394-396,20044)KatsiariCG,TheodossiadisPG,KaklamanisPGetal:Suc-cesfullong-termtreatmentofrefractoryAdamantiades-Behcet’sdisease(ABD)withiniximab.AdvExpMedBiol528:551-555,2003図1インフリキシマブ投与前の眼発作眼底後極部の激しい出血,白斑を認め,網膜離も起こっている.視力は著しく低下していた.インフリキシマブ投与前にはこのような大発作を頻回に起こした.図2インフリキシマブ投与後の眼発作眼底後極部に白斑を1個認めるが,視力は障害されていない.インフリキシマブ投与後はこのようなごく軽微な発作は複数回あったものの,投与前に比べその頻度は激減し,発作の重症度も非常に軽微となっている.

緑内障:Heidelberg Retina Tomographによる緑内障診断

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083330910-1810/08/\100/頁/JCLS代表的な共焦点走査型レーザー検眼鏡であるHeidel-bergRetinaTomograph(HRT,HeidelbergEngineering社)は,乳頭陥凹を三次元的に解析し,視神経所見を定量的かつ客観的に評価することが可能であり,現在緑内障診断を中心に臨床応用されている1,2).本稿では,HRTによる各種緑内障診断法について述べる.性的診断HRTでは,複数の二次元断層画像をもとに,topog-raphyimageとreectivityimageとよばれる2つの解析画像が作成され,モニターに表示される(図1).前者は各測定点における眼底表面の高さをカラーコード化し,突出部を暗色,陥凹部を明色で表示したもので,後者は各測定点の反射率を表示したものである.Topog-raphyimageにおいては,検者が乳頭縁を決定すると,標準基準面やcurvedsurfaceとよばれる基準面が自動的に定義され,これらの面と眼底表面の高さとの位置関係に応じて緑色,青色,赤色が示される(図1).Topo-graphyimageやreectivityimageを観察することにより,定性的な緑内障診断が可能である.また,乳頭縁の高さのグラフ表示(図1)では,正常眼では上下側で高い二峰性を示すが,緑内障眼では障害の進行に伴ってこの二峰性パターンが消失する.頭パラメータを用いた診断HRTの最新のソフトウエア(version3.0)では,算出された各種乳頭パラメータ(表1)は,内蔵された正常データベースと比較され,有意水準が同時に算出される.HeidelbergEngineering社では,特に重要なパラメータとして,rimarea,rimvolume(RV),cupshapemeasure(CSM),heightvariationcontour(HVC),meanRNFLthicknessの5つをあげている.FSMclassication乳頭パラメータのうち,正常眼と緑内障眼との鑑別に鋭敏とされるCSM,RV,HVCの3つのパラメータと年齢を用いた判別式により,乳頭の緑内障性変化の有無を判定するものである3,4).以下に判別式を示す.CorrectedCSM(corCSM)=CSM+〔0.001981×(50age)〕A=(RV×1.951)+(HVC×30.125)+(28.521×corCSM)10.083B=(9.039×RV)+(HVC×37.370)+(15.442×corCSM)7.4211(59)緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄93.HeidelbergRetinaTomographによる緑内障診断八百枝潔白柏基宏新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野共焦点走査型レーザー検眼鏡であるHeidelbergRetinaTomograph(HRT)は,視神経乳頭(乳頭)陥凹を三次元的に解析し,視神経所見を定量的かつ客観的に評価することが可能である.本装置にはいくつかの緑内障診断プログラムが内蔵されており,その有用性については広く知られている.図1HRTIIによる解析結果の一例検者が決定したcontourline(乳頭縁)の高さは,左から耳側,上側,鼻側,下側の順に展開した曲線としてグラフ表示される(図下).図左上には3色で示されたtopographyimageが,図右上にはrefractivityimageが表示される.前者は各測定点における眼底表面の高さをカラーコード化し,突出部を暗色,陥凹部を明色で表示したもので,後者は各測定点の反射率を表示したものである.Topographyimageにおいては,検者が乳頭縁を決定すると,標準基準面やcurvedsurfaceとよばれる基準面が自動的に定義され,これらの面と眼底表面の高さとの位置関係に応じて緑色,青色,赤色が示される(図右上).———————————————————————-Page2334あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008A-B>0→正常B-A<0→緑内障Mooreldsregressionclassication本プログラムでは,乳頭を60°ずつの6セクターに分割し,乳頭全体と各セクターにおける乳頭辺縁部面積(乳頭面積で補正)を評価することにより,乳頭の緑内障性変化の有無を判定する5)(図2).すなわち,正常データベースとの比較によって,withinnormallimits(95%の信頼区間)が緑色のチェックマーク,borderline(95~99.9%の信頼区間)が黄色の感嘆符,outsidenor-(60)mallimits(99.9%の信頼区間)が赤色のバツ印で示される.GlaucomaprobabilityscoreSwindaleら6)により提唱された新しい緑内障診断プログラムである(図3).本プログラムでは,健常および緑内障眼各々の乳頭/網膜神経線維層モデルから導かれた乳頭/網膜神経線維層パラメータを,非線形最小二乗法を用いて個々の乳頭形状に適合させ,別なパラメータを算出,それらのパラメータをコンピュータに学習させ,確率密度関数を算出し,緑内障診断を行う.文献1)八百枝潔,白柏基宏,阿部春樹:HeidelbergRetinaTomograph(HRT).図説よくわかる緑内障検査法(三嶋弘,阿部春樹,新家眞ほか編),p70-79,メディカルレビュー社,20032)NakatsueT,ShirakashiM,YaoedaKetal:Opticdisctopographyasmeasuredbyconfocalscanninglaseroph-thalmoscopyandvisualeldlossinJapanesepatientswithprimaryopen-angleornormal-tensionglaucoma.JGlaucoma13:291-298,20033)MikelbergFS,ParttCM,SwindaleNVetal:AbilityoftheHeidelbergRetinaTomographtodetectearlyglau-comatousvisualeldloss.JGlaucoma4:242-247,19954)IesterM,MikelbergFS,DranceSM:TheeectofopticdiscsizeondiagnosticprecisionwiththeHeidelbergReti-naTomograph.Ophthalmology104:545-548,19975)WollsteinG,Garway-HeathDF,HitchingRA:Identi-cationofearlyglaucomacaseswiththescanninglaserophthalmoscope.Ophthalmology105:1557-1563,19986)SwindaleNV,StjepanovicG,ChinAetal:Automatedanalysisofnormalandglaucomatousopticnerveheadtopographyimages.InvestOphthalmolVisSci41:1730-1742,2000表1代表的なHRTの乳頭パラメータ乳頭乳頭乳頭乳頭乳頭ののの乳頭乳頭よ下の乳頭ののよ下の乳頭ののよ下の乳頭のののにる乳頭のの×contourline(乳頭縁)の長さ(mm2)図2Mooreldsregressionanalysisによる解析結果図3Glaucomaprobabilityscoreによる解析結果

屈折矯正手術:多焦点IOL術後のタッチアップ

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083310910-1810/08/\100/頁/JCLS遠方視,近方視とも眼鏡に依存せずにすむようになることを目的として多焦点眼内レンズ(IOL)が使用されてから,約20年が経った.しかし,多焦点IOLには屈折型と回折型があるが,屈折型は良好な夜間のハローやグレアがでやすい,回折型はコントラスト感度の低下が大きな問題であったため,あまり普及してこなかったが近年開発された新世代の多焦点IOLでは光学部のデザインの改良により屈折型,回折型それぞれの欠点が低減されてきており注目されている.しかし,多焦点IOLは,屈折型,回折型とも角膜乱視や術後の屈折誤差が大きい場合には,十分な裸眼視力が遠方近方とも得られず本来の目的である眼鏡に依存しないことを成し遂げられないことがある.多焦点IOL挿入後の屈折誤差矯正の一つの方法としてLASIK(laserinsitukera-tomileusis)を行う(タッチアップ)ことが提唱されているが,これにより良好な結果を得た症例を紹介する.屈折誤差としては,遠視性乱視,近視性乱視,混合乱視それぞれの可能性があるが,現在のエキシマレーザーではどれも矯正することが可能である.今回は,回折型多焦点IOL(AMO社,ZM900)を挿入後,マイクロケラトーム(AMO社,アマデウス),エキシマレーザー(AMO社,StarS4)を用いて行った.例1:61歳,女性.両眼に回折型多焦点IOLを挿入.術後1カ月での視力は,遠方VD=0.6(1.2×0.5D(cyl0.5DAx150°)VS=0.3(1.0×0.75D(cyl0.5DAx80°)近方NVD=0.7(1.2×0.5D(cyl0.5DAx150°)NVS=0.5(1.0×0.75D(cyl0.5DAx80°)であった.本人の希望にて,白内障手術後6カ月目に左眼のLASIKを施行した(図1).LASIK後の左眼の視力は,遠方VS=0.9(1.2×+0.5D(cyl0.5DAx80°)近方NVS=0.7(1.0×+0.5D(cyl0.5DAx80°)に改善した.右眼のLASIKは施行しなかったが,右眼で中間が見え,両眼ですべての距離が見えるので,満足しており,このまま経過観察とした.例2:60歳,男性.両眼に回折型多焦点IOLを挿入.術後1カ月での視力は,遠方VD=0.7(1.2×+1.25D(cyl0.5DAx180°)VS=0.9(1.2×+1.0D(cyl0.5DAx180°)近方NVD=0.3(0.7×+2.0D(cyl0.5DAx180°)NVS=0.4(0.8×+1.5D(cyl0.5DAx180°)(57)屈折矯正手術ースキアップ●連載監修=木下茂大橋裕一坪田一男94.多焦点IOL術後のタッチアップ中村邦彦たなし中村眼科クリニック新世代の多焦点眼内レンズ(IOL)により,良好な遠方および近方視力が得られ患者の眼鏡依存度を減少させることができるようになったが,術後の屈折誤差によっては十分な裸眼視力が得られず,眼鏡依存度も高いため患者が不満を訴える.このような症例に対し,LASIK(laserinsitukeratomileusis)による屈折誤差矯正を行った結果を報告する.LASIK前LASIK後図1近視性乱視のタッチアップ角膜中央部の軽度のフラット化がみられる.———————————————————————-Page2332あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008であった.本人の希望にて,白内障手術後5カ月目に右眼のLASIKを施行した(図2).LASIK後の右眼の視力は,遠方VS=0.9(1.2×+0.75D(cyl0.75DAx90°)近方NVS=0.5(0.9×+0.75D(cyl0.75DAx90°)に改善した.左眼のLASIKは施行しなかったが,満足しており,このまま経過観察とした.症例3:48歳,女性.両眼に回折型多焦点IOLの挿入を希望していたが,白内障手術前の検査にて,両眼の2.5Dの角膜乱視を指摘されていた.術後に乱視矯正の必要を考慮して,本人の同意のもと白内障手術前にマイクロケラトームにて角膜フラップを作製しておいた.術後1カ月での視力は,遠方VD=0.7(1.2×+0.75D(cyl3.75DAx165°)VS=0.6(1.0×+0.25D(cyl2.5DAx180°)近方NVD=0.7(0.8×+0.75D(cyl3.75DAx165°)NVS=0.7(0.8×+0.25D(cyl2.5DAx180°)であった.白内障手術後1カ月目に両眼のLASIKを施行した(図3).LASIK後の視力は,遠方VD=1.2(矯正不能)VS=0.8(1.2×-0.25D(cyl0.75DAx90°)近方NVD=1.0(1.2×+0.50D)NVS=0.8(1.2×+0.25D(cyl0.75DAx90°)に改善した.LASIK後は,まったく眼鏡を使用せず満足している.症例のごとく近視性乱視,遠視性乱視,混合乱視のいずれについても,タッチアップは有効である.しかし,症例3のように前もって乱視が強く矯正が必要なことが予測される場合は角膜実質の切除量を考慮して,IOLをやや近見狙いにて挿入するとともに先に角膜フラップを作製しておくのがよい.また症例1や2のように,両眼に屈折誤差があっても片眼のLASIKだけで満足を得ることも多いので,裸眼視力に不満があるほうの眼だけを行い,僚眼はその後の状況に応じて検討するのがよい.(58)☆☆☆LASIK前LASIK後図2遠視性乱視のタッチアップ角膜中央部の軽度のスティープ化がみられる.LASIK前LASIK後LASIK前LASIK後右眼左眼図3乱視の強い場合のタッチアップIOLが近見狙いとなっているので,フラット化のablationとなっている.

眼内レンズ:Wound-assisted法による眼内レンズ挿入

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083290910-1810/08/\100/頁/JCLS極小切開白内障手術の進歩により,BimanualPhaco法を用いれば1.0~1.4mmの創口から,MicroCo-axialPhaco法であれば2.0~2.4mmの創口から水晶体を摘出することが可能になった.それに伴って,現在市販されている眼内レンズ(IOL)をできるだけ小さな創口から挿入する工夫が試みられてきた.インジェクターシステムを用いてIOLを挿入する場合,従来はカートリッジ先端を前房内にまで確実に入(55)れ,プランジャーを回転させながらレンズ光学部が眼内に出てくる状況に従ってカートリッジを回転させ,IOLが傾かないようにさせる必要があった.カートリッジ先端を完全に眼内に入れ込むため,創口はカートリッジの外径よりもかなり大きい幅が必要であった.Wound-assisted法は,カートリッジ先端を完全には眼内に入れず,創口に押し付けるだけとし,創口のトンネルをカートリッジの延長部分とみなしてIOLを通過させること常岡寛東京慈恵会医科大学眼科眼内レンズナー監修/大鹿哲郎259.Wound-assisted法による眼内レンズ挿入Wound-assisted法は,カートリッジの先端を完全に眼内に入れずに創口に押し付け,できるだけ小さな創口から眼内レンズを挿入させるための手技である.カートリッジ先端で創口の角膜内方弁を持ち上げ,創口トンネルをカートリッジの延長になるようにして眼内レンズを通過させる必要がある.図1カートリップ先端の押し付けサイドポート角膜内方弁カートリッジカートリッジ先端2角膜内方弁の持ち上げ3IOLの挿入4ループ起始部を内へループ起始部前?縁———————————————————————-Page2により,IOL挿入に必要な創口幅を減少させる挿入法である1,2).この挿入法を実現させるためには,インジェクターの操作を片手でできるシステムが必要となる.なぜなら,カートリッジを創口に押し付けてIOLを挿入する際に,眼球が動いてしまうのを防ぐため,反対の手で眼球を固定する必要があるからである.現時点で,安全確実にwound-assisted法で挿入可能なインジェクターはASICO社製スプリング付きRoyaleⅡインジェクター(AE-9045-S)のみである.モナークⅡCおよびモナークⅢDカートリッジを用いて,光学径6.0mmのアルコン社製シングルピース・アクリソフR(AcrySofSA・SN60ATRおよび60WFR)を2.0~2.4mmの極小切開創から挿入可能である.最初に,モナーク・カートリッジ先端の斜めになっている開口部だけを創口に食い込ませ,先端が角膜内方弁を越える位置にまでもっていき,カートリッジの筒の部分は眼外に残しておく(図1).そして,インジェクターを水平に寝かせるようにしてカートリッジの開口部先端で角膜切開創内方弁の上の壁を押し上げ,開口部の根元で創口外方弁の下の壁を押し下げるようにする.このようにすることによって,創口の内面組織がトンネルを形成することになり(図2),創口のトンネルがカートリッジの延長部分となるので,カートリッジの筒を眼内にまで挿入しなくても,IOLを挿入することが可能になる.しかし,カートリッジの先端で創口をしっかりと持ち上げてからプランジャーを押さないと,IOLの先端部分が創口内に入っていかない.カートリッジ先端を確実に内方弁の位置までもっていく必要がある.小さな創口からIOLを挿入するには,強角膜切開では創口付近の組織を鑷子で把持して眼球を固定すればよいが,角膜切開の場合にはサイドポートから挿入した腰の強い器具によって,挿入時に眼球を創口方向に軽く押すとよい.その際,サイドポートからかける力の方向を誤ると眼球が回旋してしまうため,確実に創口へ向かうプレッシャーをかける必要がある.プランジャーでIOLを押し進める際には,カートリッジ開口部先端を少し持ち上げ,開口部根元を押し下げながら,つねにカートリッジが創口に対して直角であるよう意識しながら,眼球を反対の手で固定して,プランジャーをゆっくり押すようにする.球面IOLであるAcrySofSA・SN60ATRは,モナークⅡCカートリッジを用いて1.9~2.0mmの強角膜創,2.2~2.4mmの角膜創から挿入することが可能であり(図3),非球面IOLである60WFRは,モナークⅢDカートリッジを用いて1.8~2.0mmの強角膜創,2.0~2.2mmの角膜創から挿入することが可能である.適切な方法で行えば,挿入に際してプランジャーをあまり強く押さなくても,IOLはゆっくり眼内に入っていく.強い力を入れないとIOLが前進しない場合には,挿入方法が不適切である可能性が高いので,やり直したほうがよい.勢いよく押し込むとIOLが一気に内に飛び出し,Zinn小帯を損傷したり後を破ってしまう危険性がある.IOLの光学部前半が眼内に挿入されたら,角度を調節して内に入るよう誘導していく.ついで,IOLの光学部後半も眼内に挿入されたら,畳まれたループがIOL光学部から離れる前にIOL後半部の上をサイドポートからの器具で押さえ付け,ループの起始部が内に入るように誘導する(図4).60ATRでは光学部が水平に挿入されることが多いが,60WFRでは光学部が90°右方向に回転して挿入される場合が多いので,フックで光学部を水平になるよう回転させる必要がある.モナークⅢDカートリッジは,先端の外径がCカートリッジよりも細くなっているので,より小さな創口から挿入可能であるが,眼内に挿入された際,90°回転していることが多いので反転しないよう注意しなければならない.文献1)TsuneokaH,HayamaA,TakahamaM:Ultrasmallinci-sionbimanualphacosurgeryandAcrysofSA30ALimplantationthrough2.2mmincision.JCataractRefractSurg29:1070-1076,20032)常岡寛:白内障手術2mm切開創時代のIOL挿入.眼科手術18:481-487,2005

コンタクトレンズ:円錐角膜へのハードコンタクトレンズ処方(3)-ベベル修正-

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083270910-1810/08/\100/頁/JCLS円錐角膜形状はハードコンタクトレンズ(HCL)のオルソケラトロジー効果によって刻々と変化する.HCL終日装用の場合,円錐角膜形状は日内変動しているといってもよい.したがって,処方時には良いフィッティングで動きも良かった症例であっても,経過観察中にレンズが固着をしたり,動きが悪くなって角膜上皮障害を起こしたりすることが珍しくない.今回は,こうしたケースのトラブルシューティングであるHCLのベベル修正について述べる.HCLのベベル修正などと書くと,むずかしく考えられたり,なかには修正するところを見たこともないという先生もおられると思うので,写真を多用して解説する(図1).HCLの固着理由を考える円錐角膜へのHCLフィッティングにかかわるファクターとして,個々のさまざまな角膜形状,角膜厚(角膜後面形状),剛性に加えて,眼圧や眼瞼圧,瞼裂幅を考えてレンズを処方することが大切であることを前回述べた.しかしながら,精一杯の,最大限のイマジネーショ(53)ンを働かせて処方したにもかかわらず,1週間後の検査でレンズが固着していることが,円錐角膜ではある.これはオルソケラトロジー効果による角膜の変形によるものであるが,これには大きく分けて2つのケースがある.1つは,レンズが予想した変形後の角膜形状よりもスティープであった場合で,角膜上に固着していることが多い.もう1つは,予想した角膜形状よりもフラットな場合で,こちらは角膜輪部を越えて強角膜に固着していることが多い.これらの場合,まず同じレンズで規格を変えて対処するが,それでも固着が改善されない場合には,レンズ研磨機でベベル幅を広くエッジをリフトアップすることになる(図2,3).HCLの材料特性を知り,削れかたを体感するHCL材料には酸素透過性をほとんどもたないポリメチルメタクリレートから,最新の高酸素透過性の含フッ素系やシリコーン系のものまでさまざまなものがある.研磨機によるレンズの削れ具合は,一般に酸素透過性が高い材料ほど,軟らかく削れやすいので注意が必要であ黒石川誠佐野研二東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純修1ベベルチェック中の筆者(黒石川)2ベベル調整前レンズエッジから角膜への圧力が狭いベベルに集中している.3ベベル調整後ベベル幅が広くなり,メカニカルストレスが分散されている.———————————————————————-Page2328あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(00)る.これに加えて,架橋剤の種類や架橋密度によっても削れかたが思いのほか異なるので,これはレンズの種類ごとにトライアンドエラーして身体に覚えさせるしかない.一般に研磨に向いているHCLは,低酸素透過性で親水性の表面処理を行っていないものとされているが,筆者らはプラズマ処理のされている高酸素透過性のHCLも含めて,ベベルを削ってフィッティングを調整している(図4,5).ベベルという非常に狭い領域の研磨であるので,表面性状の変化よりもメカニカルストレスの軽減の効果が勝っているためか,臨床的に問題になった経験はない.また,研磨剤の濃度によっても削れかたは異なるので,こちらは注意が必要である.筆者らは,研磨剤の濃度を一定にしたいため,クレンザーや車磨きなどのコンパウンドを多用し,最後は研磨剤入りHCL用クリーナーで仕上げるようにしている.なお,この研磨機はサンコンタクトレンズ社から発売されており,オプション込みで30万円もあれば一式揃う.眼科顕微鏡手術器具2,3本の値段で,CLスペシャリストとして差別化ができると考えれば安いと思う.同社では切削研磨のセミナーも有料で行っているので,これを利用するとよい.4ベベルの幅を広げているところHCL材料の種類や研磨剤によって削れかたが思いのほか異なる.筆者らは最後に研磨剤入りHCL用クリーナーで仕上げている.5エッジを研磨しているところ力の入れかたがむずかしいが,まずはやってみることである.

写真:ソフトコンタクトレンズ装用により生じる球結膜染色

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.25,No.3,20083250910-1810/08/\100/頁/JCLS(51)丸山邦夫横井則彦京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学セミー監修/島﨑潤横井則彦286.ソフトコンタクトレンズ装用により生じる球結膜染色2図1のシェーマ弧状の球結膜染色は,SCLのレンズエッジ部に一致している.4図3のシェーマ図2と同様,弧状の球結膜染色は,SCLのレンズエッジ部に一致している.1ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用眼の球結膜染色(フルオレセイン染色)SCLのレンズエッジ部に一致して,フルオレセインによる弧状の球結膜染色像が観察される.細隙灯顕微鏡による観察では,投光系にコバルトブルーフィルターを,受光系にイエローフィルター(もしくはブルーフリーフィルター)を用いることにより,より明瞭となる.3SCL装用眼の球結膜染色(リサミングリーン染色)リサミングリーン染色でも球結膜染色は容易に観察できる.———————————————————————-Page2326あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(00)コンタクトレンズ(CL)の装用は,オキュラーサーフェスにさまざまな影響を及ぼし,その影響は,角膜や眼瞼結膜に対するだけでなく,球結膜にも及ぶ.球結膜への影響としては,杯細胞の減少や紡錘形細胞の出現などのサブクリニカルな変化1)が知られているが,それ以外に細隙灯顕微鏡で容易に検出される球結膜染色2)も知られている(図1,2).この球結膜染色は,フルオレセイン染色下で,コバルトブルーフィルターにイエローフィルター(もしくはブルーフリーフィルター)を組み合わせることにより,細隙灯顕微鏡で明瞭に観察できる3).また,リサミングリーン染色4)を用いても容易に観察できる(図3,4).この球結膜の染色像は,ソフトコンタクトレンズ(SCL)のエッジ部に一致して,弧状に観察されることから,SCLのエッジと球結膜との機械的な摩擦が原因で発生しているのではないかと考えられている.また,球結膜染色が,SCL装用者の62%に発生しうる2)ことや,タイトフィットなどでSCLの動きが少ない場合に発生しやすいことも知られている5).さらに,球結膜染色がエッジの形状が滑らかなSCLよりも鋭利なSCLで生じやすい7)ことや,従来のハイドロゲルタイプのSCLに比べて,含水率が低く硬い素材のシリコーンハイドロゲルSCLにおいて高頻度で発生する6)ことから,球結膜染色の発生には,SCLのエッジと球結膜との間の機械的な摩擦の影響が大きく関与していると考えられる.一方,SCL装用者の球結膜染色の程度と乾燥感との間に有意な相関がみられる2)ことは,SCLのエッジと球結膜との機械的な摩擦がSCL装用眼の乾燥感の原因となることを意味していると考えられる.SCL装用眼に認められる球結膜染色が乾燥感に関係することから,逆に,乾燥感を訴えるSCL装用眼では,積極的に球結膜染色の有無を観察して,それがあれば,SCLのフィッティングがタイトではないか再度確認することや,軟らかい素材や滑らかなエッジのSCLに変更してみる必要があるのではないかと思われる.文献1)CakmakSS,UnluMK,KaracaCetal:Eectsofsoftcon-tactlensesonconjunctivalsurface.EyeContactLens29:230-233,20032)LakkisC,BrennanNA:Bulbarconjunctivaluoresceinstaininginhydrogelcontactlenswearers.CLAOJ22:189-194,19963)大野建治,野田徹:蛍光濾過フィルターを用いた細隙灯顕微鏡による角結膜フルオレセイン染色所見の観察・撮影法.眼紀58:202-204,20024)NornMS:Lissaminegreenvitalstainingofcorneaandconjunctiva.ActaOphthalmol51:483-491,19735)RobboyMW,CoxIG:Patientfactorsinuencingconjunc-tivalstainingwithsoftcontactlenswearers.OptomVisSci68:163,19916)CoveyM,SweeneyDF,TerryRetal:Hypoxiceectsontheanterioreyeofhigh-Dksoftcontactlenswearersarenegligible.OptomVisSci78:95-99,20017)LofstromT,KruseA:Aconjunctivalresponsetosiliconehydrogellenswear.ContactLensSpectrum,September:42-44,2005

網膜硝子体疾患(感染性疾患)

2008年3月31日 月曜日

———————————————————————-Page1/08/\100/頁/JCLS炎,髄膜炎などがあげられる1).外因性眼内炎のなかでも術後眼内炎の起炎菌は,術後早期の発症例では結膜やマイボーム腺の常在菌である黄色ブドウ球菌のほか,腸球菌などのグラム陽性球菌,緑膿菌などのグラム陰性菌であることが多い.遅発性眼内炎では弱毒菌であるPropionibacteriumacnes(P.acnes)や表皮ブドウ球菌が起炎菌となることが多い.外傷後の眼内炎ではコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)などのグラム陽性菌や緑膿菌による場合が多いはじめに細菌,真菌,寄生虫,ウイルスは外傷創や手術創から,あるいは体内から血行性,さらには視神経を介して網膜硝子体に直接感染するとともに,免疫反応を同時に惹起することによって眼内に炎症を生じる.治療については病因を同定し,適切な薬物治療を行っていくことが原則であるが,その目星をつけるためには血液や眼内液の検索だけでなく,患者背景を含めた病歴の聴取などが重要である.また,当初は広域スペクトルを有する薬剤を選択したとしても,臨床経過や検査結果に合わせて適宜薬剤を変更し,過剰な炎症反応に対しては副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)を使用するなど,臨機応変な対応が必要となる.I細菌感染症1.細菌性眼内炎(図1)細菌性眼内炎は起炎菌が外界から入る外因性(全体の69%)と,全身の他臓器から眼内に血行性に移行,感染する内因性(全体の31%)に分けられる1).外因性では外傷によるものが31%,手術後の症例が31%を占め,その他に角膜潰瘍の穿孔によるものなどがある1).術後眼内炎には内眼手術後1週間以内に発症する急性発症例と,10日~数カ月後に発症する遅発性眼内炎がある.一方,内因性の細菌性眼内炎では基礎疾患として悪性腫瘍,糖尿病,膠原病が発症の危険因子として知られ,感染源として泌尿器,消化器および呼吸器感染症,心内膜(43)317*JunSuzuki:東京医科大学八王子医療センター眼科**HiroshiGoto:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕鈴木潤:〒193-0998東京都八王子市館町1163番地東京医科大学八王子医療センター眼科特集眼科薬物治療トレンド2008あたらしい眼科25(3):317~323,2008網膜硝子体疾患(感染性疾患)VitreoretinalDisease(InfectiousDisease)鈴木潤*後藤浩**図1細菌性眼内炎54歳,男性.強角膜創からの感染と思われる白内障術後眼内炎.前房水より溶血性レンサ球菌が検出されたため,眼内レンズの摘出,硝子体切除術,バンコマイシン,モダシン硝子体注入を行った.———————————————————————-Page2$$$あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(44)2.結核性ぶどう膜網膜炎,網膜血管炎(図2)幸いにもわが国における結核の新規登録患者数は,平成11年の緊急事態宣言以降は6年連続で減少傾向にある5).一方で結核性ぶどう膜炎の頻度は筆者らの1990年代の調査では0.4%前後であった6)のが,2002年に実施された全国調査では0.7%と増加している7).病型としてはわが国では閉塞性の網膜血管炎を主徴とする症例が多く,サルコイドーシスやBehcet病,網膜中心静脈分枝閉塞症などとの鑑別が問題となる.また,ツベルクリン反応陽性の事実が必ずしも結核感染の関与を意味しないこともあるため,抗結核薬が治療的診断法の一環として使用される場合もある8).治療については,たとえば全身結核に対して世界保健機関(WHO)では3~4剤の抗結核薬による併用療法を推奨しているが,ストレプトマイシンには聴神経麻痺,エタンブトールには視神経炎といった副作用があるため,結核による眼病変単独の病態にはイソニアジドとリファンピシンの2剤で十分と考えている.イソニアジド300mg/日(分3)とリファンピシン450mg/日(朝1回)を3~6カ月間にわたり投与する.眼内の炎症が強い場合にはステロイド薬の全身投与(プレドニゾロン30が,土が混入している場合にはBacilluscereusの可能性もある.内因性眼内炎ではKlebsiellapneumoniaeや大腸菌などのグラム陰性菌が主体である.眼内炎の治療については,最近ではやや見直しの必要性を示唆する報告も散見されるが,1995年に報告されたEndophthalmitisVitrectomyStudy(EVS)2)による指針が広く知られている.EVSのなかで中心となっている治療法はバンコマイシンとアミカシンの眼内投与である.バンコマイシンはグラム陽性菌に対して幅広い抗菌スペクトルを有しており,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌にも効果がある.アミカシンはグラム陰性菌に対して有効で,緑膿菌をはじめとしてバンコマイシンでは不十分な抗菌作用を補うことができる.なお,現在は網膜毒性への配慮から,アミカシンに代わってセフタジジムが用いられることが多い.具体的には臨床的に眼内炎が疑われた時点でただちにバンコマイシン(塩酸バンコマイシンR1.0mg/0.1ml)とセフタジジム(モダシンR2.0mg/0.1ml)の硝子体腔内注射を行う.必要性の是非はともかく,点眼や結膜下注射については先述したバンコマイシンとセフタジジムを同じ濃度で用いることができ,残余分を利用することも可能である.これら薬剤の調整方法については簡潔にまとめた報告がある3).EVSによれば,抗菌薬の全身投与については効果がないと結論づけている.しかし,全身投与の効用を完全に否定する根拠も少なく,補助的な目的で使用する分には構わないという考えもあろう.また,炎症を早期に軽減する目的でステロイド薬の使用が考えられるが,抗菌療法の効果が十分に確認できない段階での使用は慎重であるべきである.ステロイド薬の硝子体腔内投与の有効性を示す報告4)もみられるが,その是非については症例や起炎菌にもよると思われる.EVSでは視力が光覚弁まで低下している症例に対しては硝子体手術を選択すべきとしているが,視力予後が必ずしも良好ではない本疾患では硝子体手術の適応をもう少し拡大し,疑わしきは機を逃さずに積極的に手術を実施すべきとの考えもある.図2結核性ぶどう膜炎22歳,男性.閉塞性の網膜血管炎と出血を認め,ツベルクリン反応強陽性,抗TBGL抗体陽性の検査結果より結核性ぶどう膜炎と診断した.イソニアジド,リファンピシンの2剤で加療し,無血管野に対しては網膜光凝固を行った.———————————————————————-Page3Kh`MJy7PM|/P|yy319(45)II真菌感染症(図3)内因性真菌性眼内炎は,悪性腫瘍や手術療法後などの重症疾患に対する全身管理の向上,広域抗生物質やステロイド薬などの長期投与,経静脈的高カロリー輸液(intravenoushyperalimentation:IVH)の普及などに伴い増加傾向にあったが,抗真菌薬の予防的投与の定着により,一時より減少傾向の印象もある.いずれにしてもIVHについては真菌血症の感染源となるリスクは高く,真菌性眼内炎の90%がIVH挿入例であったという報告もある11).わが国ではCandida属(C.albicans,C.tropicalisなど)が全真菌性眼内炎の起因菌の9割を占めるとされ11),眼内炎はカンジダ血症患者の26~45%に続発するとされる12).幸い近年ではさまざまな抗真菌薬が開発され,真菌性眼内炎の視力予後は改善されつつある.一方で,カンジダ血症の死亡率は34~57%と報告されており12),単に眼内炎の治療のみならず,感染源の同定や患者背景を検索することも非常に重要である.治療については黄斑部に病変が存在する場合や網膜剥離を生じている場合には硝子体手術の適応となるが,そのような場合を除けばまずは抗真菌薬の全身投与を行う.わが国の深在性真菌症のガイドライン13)では,アmg/日程度から漸減)を行うが,診断の確認も兼ねて抗結核薬の投与を先行して行い,治療に対する反応を見きわめた後に投与することが望ましい.また,しばしば閉塞性血管炎の進行に伴って網膜無血管野が広がり,新生血管が発生することがある.放置すれば硝子体出血の原因にもなるため,上記の薬物治療に加え,蛍光眼底造影で確認しながら網膜光凝固を適宜行うことが大切である.3.梅毒によるぶどう膜網膜炎梅毒性ぶどう膜網膜炎は多彩な臨床症状を呈するため,ぶどう膜炎をみた際には常に鑑別の一つとして念頭におかなければならない疾患である.先天梅毒と後天梅毒があり,ぶどう膜炎は後天梅毒の第2期もしくは第3期にみられる.虹彩毛様体炎,網脈絡膜炎,網膜血管炎(特に網膜細動脈炎),視神経炎などを呈するが,特異的な所見に乏しく,さらに近年では全身症状を欠く症例やhumanimmnunodeciencyvirus(HIV)感染に伴う症例の報告9)もみられ,問題となっている.治療の基本はペニシリン系抗生物質の投与で,アンピシリン1,500mg/日やアモキシリン1,500mg/日の内服,ベンジルペニシリンカリウム(ペニシリンGR)120~180万単位/日の点滴を2~4週間行う.ペニシリン系抗生物質に対してアレルギーがある場合にはマクロライド系やテトラサイクリン系抗生物質を用いる.ニューキノロン系やアミノグリコシド系は無効である.治療効果の判定は,治療開始後に改めて梅毒血清反応であるRPR(rapidplasmareagin)法の定量検査を行い,8倍以下もしくは治療前の1/4に改善していることが目安とされる.しかし,梅毒定量検査の変化は眼所見の改善より遅れてみられることも多いため,血清反応だけを目安とするのではなく,眼所見の推移をみながら治療効果を判定する必要がある10).以上のようにペニシリン療法が主体となるが,眼炎症所見が強い場合にはステロイド薬の全身投与,すなわちプレドニゾロン30~40mg/日程度から併用し,徐々に減量していくこともある.図3真菌性眼内炎64歳,男性.中咽頭癌に対して化学療法が行われており,動脈血培養でカンジダが検出された.ホスホフルコナゾール点滴加療400mg/日を行うも硝子体混濁が増強したため硝子体手術を行った.———————————————————————-Page4$$$あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(46)者では非典型的な臨床所見や経過を示すことがあるため,注意が必要である.治療にはマクロライド系抗生物質であるアセチルスピラマイシン(アセチルスピラマイシンR)が用いられることが多い.800~1,200mgを分4~6で内服し,4~6週間を1クールとして投与する.1クール投与終了後に病巣の消退がみられない場合にはさらに1クールを追加するか,薬剤の変更を考慮する.アセチルスピラマイシンが無効な場合にはクリンダマイシン(ダラシンR)を600mg分3で,あるいは900mgを分4で投与する15).炎症所見の強い場合には,これらの抗トキソプラズマ薬とともにステロイド薬をプレドニゾロン30mg程度から併用投与し,漸減していく.2.眼トキソカラ症トキソカラ症はイヌ蛔虫もしくはネコ蛔虫の虫卵や幼虫が人体に侵入し,幼虫の状態で体内を移行することによってさまざまな症状を生じる疾患である(幼虫移行症).イヌ蛔虫は生後2~3カ月までの仔イヌに寄生しており,その虫卵は糞便中に排泄されて土壌を汚染する.ヒトには土壌から手指などを介して,あるいは家畜の生肉や肝臓を摂食することによって経口感染すると考えられている.昨今のペットブームやグルメブームによる感ムホテリシンB,フルコナゾール,ミコナゾール,イトラコナゾール,ミカファンギンの全身投与が推奨されている.アムホテリシンB(ファンギゾンR)は最も幅広い抗真菌スペクトルを有するが,腎障害などの副作用が強いため現在ではフルコナゾールが第一選択となっている.フルコナゾールは眼内炎の起炎菌の多くを占めるカンジダ属に有効であり,ジフルカンRまたはプロドラッグであるホスホフルコナゾール(プロジフR)を1日200~400mg投与する.経口投与よりも可能であれば点滴静注が望ましい.また,ジフルカンRは注射液をそのまま点眼液,結膜下注射に使用することが可能である.ミコナゾール(フロリードR)は1,200~1,800mg/日で投与されるが,腎障害が少ない利点があるものの眼内移行はやや劣る.イトラコナゾール(イトリゾールR)は200mg/日で用いられるが,経口投与に限られるため吸収性に難がある.ミカファンギン(ファンガードR)は新しいキャンディン系抗真菌薬で,真菌細胞壁の主要構成成分である1-3-b-d-glucanの合成を阻害し,Asper-gillus属にも強い制菌力を示す.通常,50~300mg/日を点滴静注で投与する.このほかにも新規アズール系抗真菌薬であるボリコナゾール(ブイフェンドR)についても全身投与や硝子体内投与の有効例が報告されており14),キャンディン系とともに今後さらなる適応の拡大が期待される.これらの全身薬物療法を1週間継続しても臨床所見の改善傾向がみられなければ,アムホテリシンBの硝子体注射(5~10μg/0.1ml)や,硝子体手術を検討する.硝子体手術を行う際には灌流液にフルコナゾール10μg/ml,ミコナゾール10μg/ml,あるいはアムホテリシンB10μg/mlのいずれかを混入し,実施する.III寄生虫感染1.眼トキソプラズマ症(図4)トキソプラズマはネコを終宿主とする寄生虫であり,感染経路としてはネコとの接触歴,ブタやヒツジなどの生肉の摂取による経口感染,さらには母体の血液を介した胎盤感染(先天感染)がある.わが国では成人の20~30%が感染していると考えられているが,そのほとんどが不顕性感染である.高齢者や免疫抑制状態にある患図4眼トキソプラズマ症42歳,女性.ブラジル出身.アセチルスピラマイシンを投与するも再発をくり返したためクリンダマイシン600mg/日で加療し,沈静化を得た.———————————————————————-Page5Kh`MJy7PM|/P|yy321(47)()11015m138網膜網膜性70142()3000m3VVHVVVHV10b(フェロンR)300万国際単位/日の点滴静注を1日3回,7日間併用することもある18).ただし,インターフェロン-bについては保険の適用はない.急性期の激しい炎症に対しては抗炎症療法としてベタメタゾン(リンデロンR)6~8mgより全身投与を開始し,1カ月以上かけて徐々に減量,中止していく.ARNでは閉塞性血管炎により主幹動脈の閉塞や白線化が高率にみられる.この閉塞性血管炎に対する抗血栓療法としてアスピリン(バイアスピリンR)100mgを1日1錠併用する.本症に対する手術時期に関しての一定の見解は得られていないが,網膜剥離に対してはただちに,あるいは剥離は生じていなくても後部硝子体剥離をきたし,網膜への牽引が加わりそうになった時点で,これらの薬物治療に加えて外科的治療を速やかに行う.2.サイトメガロウイルス網膜炎(図5)サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)に対しては日本人の90%が不顕性感染をきたしているとされるが,悪性腫瘍や臓器移植後,後天性免疫不全症候群(acquiredimmunodeciencysyndrome:AIDS)などにより免疫能の低下した状態では,日和見感染症として諸臓器に感染症をひき起こす可能性がある.特に末梢血中のCD4陽性Tリンパ球数が50/mm3未満の状態で染の機会の増加により,注目されるぶどう膜炎の一つとなっている.本症の病態は死滅した虫体に対する免疫反応と推察されているため,治療にはステロイド薬の全身投与が推奨されている.プレドニゾロンを30~40mg/日程度より投与し,漸減していく16).駆虫薬の併用の是非については議論の分かれるところであるが,眼症状発症の時点で体内に侵入したすべての幼虫が死滅しているか否かについては不明であることに加え,眼炎症に関してもステロイド薬のみでは再発をくり返し,駆虫薬を併用することで消炎が得られる症例が存在することも事実である15).駆虫薬としてはジエチルカルバマジン(スパトニンR)などが用いられる.虫体の死滅による急性アレルギー症状を予防するために,比較的少量から投与を開始する.すなわち,最初の3日間は100mg(小児50mg)を夕食後に内服,つぎの3日間は300mg/日(小児150mg)を分3で内服,ついで週1回300mg/日(小児150mg)を分3で8週間継続する.駆虫薬としてはその他にもサイアメンダゾール(ミンテゾールR)やメベンダゾール(メベンダゾールR)がある.一方で,駆虫薬やステロイド薬をまったく使用しなくても自然治癒する症例があり,眼トキソカラ症に対する薬物療法についてはいまだ明確な指針が確立されているとは言い難い.IVウイルス感染症1.急性網膜壊死(桐沢型ぶどう膜炎)単純ヘルペスウイルス(herpessimplexvirus:HSV-1もしくはHSV-2)や水痘帯状疱疹ウイルス(varicellazostervirus:VZV)が網膜に感染して発症する疾患として急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis:ARN)がある.通常,全身状態に何ら問題のない個体に突然発症する予後不良な疾患である.ウイルスの感染経路や発症機序については依然として不明な点が多く残されている.治療の要点はできるだけ早く的確な治療を行うこと(assoonaspossible:ASAP),すなわち;A:acyclovir(抗ウイルス療法),S:steroid(抗炎症療法),A:aspirin(抗血栓療法),P:prophylaxisfortheretinaldetach-ment(網膜剥離の予防)を実施することにある17).抗ウイルス療法としてはアシクロビルの全身投与が行———————————————————————-Page6$$$あたらしい眼科Vol.25,No.3,2008(48)を1日3回,または1回90mg/kgを1日2回点滴静注し,維持療法は1回90~120mg/kgを1日1回行う.硝子体腔内注射を行う場合はガンシクロビル400~1,000μgを週に1回,毛様体扁平部から投与する.抗CMV治療の中止時期については症例に応じて考慮すべきであるが,AIDS患者では免疫能が低下したままの状態で中止すると網膜炎が再発する危険性がある.一般的には日和見感染症であるCMV網膜炎の治療を先行させた後に抗HIV治療を行うのが原則であるが,抗HIV治療により末梢血中のCD4陽性Tリンパ球数が100/mm3以上に回復すると網膜炎の再燃は少ないとされている20).近年,CMV網膜炎治療後にHIVに対する多剤併用療法(highlyactiveantiretroviraltherapy:HAART)を行い,免疫状態が改善した際に生じるimmunereco-veryuveitis(IRU)が問題となっている21).IRUは眼内に残存するCMV抗原に対する炎症反応と考えられており,前房内や硝子体中の炎症細のほか,類胞様黄斑浮腫や網膜前膜の形成などさまざまな眼所見を呈することがある.IRUに対しては無治療で軽快するものもある.過剰な免疫反応に対してはステロイド薬の局所投与で対処できることが多いが,抗CMV薬による治療が必要となる場合もある.3.HumanTcelllymphotropicvirustype1(HTLV-1)関連ぶどう膜炎HTLV-1キャリアは南九州,南西諸島,太平洋西岸地域など,一定の地域に多く集積している.このHTLV-1キャリアに発症するHTLV-1関連ぶどう膜炎(HTLV-1associateduveitis:HAU)もこれらの地域に多く,九州の施設では全ぶどう膜炎の3.9%を占めており22),九州地方は他の地域と比較して明らかに頻度の高いことが明らかにされている7).本症は顆粒状,ベール状の硝子体混濁を特徴とし,軽度から中等度の霧視,飛蚊症を訴える.通常,ステロイド薬による治療によく反応し,軽度の炎症であればステロイド薬の点眼薬のみで,中等度以上の硝子体混濁で視力低下をきたしている場合はステロイド薬の眼局所注射を,高度の硝子体混濁や網膜血管炎がは高率に発症することが知られている19).CMV網膜炎はHIV感染によるAIDS患者の増加に伴い増加していったが,幸いAIDSに対する治療の進歩に伴って最近はやや減少傾向にある.治療に用いられる抗CMV薬には,点滴静注薬としてガンシクロビル(デノシンR)やホスカルネットナトリウム(ホスカビルR),内服薬ではバルガンシクロビル(バリキサR)がある.デノシンRは硝子体腔内注入の形でも用いることができる.通常はバリキサRが第一選択となることが多いが,何らかの理由で内服が困難な場合にはガンシクロビルやホスカビルRによる点滴治療を行う.副作用としてガンシクロビルとバルガンシクロビルには骨髄抑制(白血球減少,血小板減少,貧血)が,ホスカビルには腎機能障害があるため,副作用により治療の継続が困難となった場合には別の薬剤への切り替えや,ガンシクロビルの硝子体腔内注射が選択される.全身投与には初期治療と維持療法があり,一般に初期治療を3週間行った後に維持療法に移行する.バルガンシクロビルの場合は初期治療には1日4錠を分2で,維持療法としては1日2錠を分1で投与する.ガンシクロビルを用いる場合は1回5mg/kgの点滴静注を1日2回に分けて行い,その後は同量を1日1回,週5日行う.ホスカルネットナトリウムの場合は1回60mg/kg図5サイトメガロウイルス網膜炎41歳,男性.HIV抗体陽性.前房水よりCMV-DNAを検出.バルガンシクロビル内服の初期治療および維持療法を行ったところ病変は退縮したが,後に網膜剥離を生じた.———————————————————————-Page7Kh`MJy7PM|/P|yy3237)otoHochiuiamaietalpiemioloicalsurveyointraocularinammationinapan.51:41-44,20078)鈴木潤:結核性.眼科46:1523-1528,20049)HodgeWG,SeiSR,MargolisTP:OcularopportunisticinfectionincidencesamongpatientswhoareHIVpositivecomparedtopatientswhoareHIVnegative.Ophthalmolo-gy105:895-900,199810)後藤浩:性感染症と眼.眼科45:335-342,200311)松本聖子,藤沢佐代子,石橋康久ほか:わが国における内因性真菌性眼内炎─1987~1993年末の報告例の集計─.あたらしい眼科12:646-648,199512)風間逸郎,古川恵一:カンジダ血症の原因,合併症,治療法について.EBMジャーナル5:690-693,200413)深在性真菌症のガイドライン作成委員会:深在性真菌症の診断・治療ガイドライン.医歯薬出版,200314)BreitSM,HariprasadSM,MielerWFetal:Managementofendogenousfungalendophthalmitiswithvoriconazoleandcaspofungin.AmJOphthalmol139:135-140,200515)横井克俊:抗寄生虫薬の使い方.臨眼57:322-325,200316)ForresterJV,OkadaAA,BenEzraDetal:Toxocariasis.Posteriorsegmentintraoculari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