———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSブロック,さらにⅣ上脈絡膜腔の開大・硝子体の関与について,最近の知見を紹介しながら小括する.I相対的瞳孔ブロック相対的瞳孔ブロックとは言うまでもなく,瞳孔領における虹彩と水晶体の接触のため後房?前房間に圧較差を生じることにより,虹彩全体が前方に彎曲し虹彩根部が前方に押し出され,その結果ただでさえ浅前房で狭かった前房隅角がよりいっそう狭くなる状態である(図1A).アルゴン+YAGレーザーでLIを行い,穿通した瞬間に後房から勢いよく房水が噴出するのをみると,いかに房水が移動できずに貯留していたかが実感される.瞳孔領における接触が強いほど,すなわちMapstone1)が提唱した“pupil-blockingforce”が大きいほど後房から前房への房水の移動が妨げられる.その瞳孔をブロックしようとする力の理論値は,虹彩と水晶体の接点で瞳孔散大方向と収縮方向に向かうベクトルの大きさとなす角で規定され,瞳孔径(散大筋と括約筋の麻痺状態に対しての)と水晶体の相対的位置(眼軸長,水晶体厚,毛様小帯のトーヌスなどが影響する)を計測することによって算出される.浅前房,狭隅角眼をみたときに屈折値と矛盾がないか確認する習慣をつけておくことは重要である.もともとの強度遠視が白内障の進行に伴う近視化によって相殺されて正視化している場合があり,眼軸長を調べなければ病態の把握が困難であるからである.虹彩組織の剛性,しないやすさも前方彎曲の程度に影はじめに外来で急性原発閉塞隅角症(APAC)や高度の浅前房の患者に遭遇し,レーザー虹彩切開術(LI)を施行してほっと一安心,よく目にする光景である.はたして本当に一安心でよいのだろうか.治療後,隅角の器質的癒着の範囲はどの程度?暗室うつむき試験は陰性になった?そもそも本当に相対的瞳孔ブロックが原因だったのか?緊急入院治療や時間外診療から開放された安堵感で思考停止に陥っている自分に気がつく.「閉塞隅角=瞳孔ブロックだから,前後房の交通ができた時点で解決」という誤解が今でも少なからぬ眼科医の常識であり,その結果,内皮細胞密度が500/mm2以下,核硬度E-IV以上,totalPAS(周辺虹彩前癒着)に近く,濾過手術が数回施行されてあるような,きわめて難治緑内障の状態になった患者が紹介されてくることになる.無理なLIでなく周辺虹彩切除が行われていれば,濾過手術でなく水晶体再建術+隅角癒着解離術がされていれば,と後悔してみても,そもそも隅角閉塞機序の理解がなければ治療方針が定まらない.開放隅角緑内障における眼圧上昇の原因が電子顕微鏡所見や組織化学的研究で解明されていくように,閉塞隅角緑内障の隅角閉塞メカニズムは画像診断機器の進歩に伴って少しずつ明らかになってきており,とりわけ超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)が果たしてきた役割は大きいといえよう.本稿では,Ⅰ相対的瞳孔ブロック,および非瞳孔ブロックとしてⅡプラトー虹彩形状,Ⅲ水晶体(15)???*JunUeda:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野〔別刷請求先〕上田潤:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野特集●原発閉塞隅角緑内障のカッティングエッジあたらしい眼科24(8):999~1003,2007閉塞隅角の画像診断:瞳孔ブロックと非瞳孔ブロックメカニズム???????????????????????-??????????????????????????上田潤*———————————————————————-Page2????あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007響するため,閉塞隅角緑内障の地域差・人種差に関係している可能性がある.また,瞳孔領に落屑物質の沈着など房水の移動を妨げる変化が加われば前後房の圧較差が大きくなるため,落屑症候群では閉塞隅角緑内障をきたしやすいことが知られている2).これがさらに,器質的な虹彩後癒着が形成されれば完全瞳孔ブロック,すなわちirisbomb?を発症することになる.さて,純粋な相対的瞳孔ブロックが隅角閉塞の原因であれば,LIもしくは周辺虹彩切除(PI)後,隅角は開大するはずである.ところが,これまでの報告(表1)によると,LI後も多くの症例では暗室うつむき試験が陰性化せず,機能的閉塞が残存し,PASの範囲の拡大が停止しない.このことは,取りも直さず非瞳孔ブロックのメカニズムが,独立あるいは瞳孔ブロックと併存する形で多くの隅角閉塞に関わっていることを示唆している.IIプラトー虹彩形状1990年代UBMが導入される以前の成書では,プラトー虹彩症候群はわが国ではまれな疾患とされてきた.1992年Pavlinら3)がUBMを用いて,それまでブラックボックスであった虹彩よりも後方の前眼部形態を描出したところ,プラトー虹彩症候群の隅角では,前方に偏位した毛様体・毛様突起が虹彩根部を後方から圧排し,毛様溝が消失している(図1B)という本疾患の形態学的特徴が示された.隅角鏡検査で虹彩面が線維柱帯の色素帯よりも高位にあるようなプラトー虹彩形状を有する眼(図2A,B)では,虹彩切開孔が開いていても散瞳時に隅角閉塞が生じて眼圧が上昇する.このような臨床症状を伴った場合をプラトー虹彩症候群と定義し,形態学的所見であるプラトー虹彩形状と区別している.毛様体・毛様突起の位置や形状に焦点をあてて原発閉塞隅角症眼のUBMを撮ると,眼圧上昇の直接の原因とならない程度のプラトー虹彩形状も含めると,1/3から半数近い症例で毛様体の前方偏位が観察される.また,50歳以上の中国人1,405名に対して行われた疫学調査“Liwan(16)図1原発閉塞隅角緑内障のタイプ分類(文献5より改変)B.プラトー虹彩A.相対的瞳孔ブロックC.水晶体ブロック図2隅角の構造とプラトー虹彩形状の虹彩面の高さとの位置関係ABCDSchwalbe線線維柱帯無色素帯線維柱帯色素帯強膜岬毛様体帯表1LI,PI後の慢性閉塞隅角緑内障眼の経過を追った報告HungPTetal1979(年)PI後も52.4%で暗室うつむき試験陽性KarmonGetal1982LI後も38%で暗室うつむき試験陽性ThomasRetal1999LI後も26.6%では隅角が開大せずAlsago?Zetal2000LI後のアジア人では,89.6%で追加治療が,45.8%で濾過手術が必要であったRosmanMetal2002LI後の欧米人では,100%で追加治療が,31.3%で濾過手術が必要であったNonakaAetal2005LI後も38.6%で暗室うつむき試験陽性で,白内障術後は全例で陰性となったChoiJSetal2005LI後5年の経過で,32.2%の症例でPASの範囲が拡大したHeMetal2007LI後19.4%の症例では,3/4周以上の機能的閉塞が残存した———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????EyeStudy”4)での隅角鏡検査所見では,Sha?er分類0度,1度の狭隅角眼では,30%前後の隅角にプラトー虹彩形状がみられたと報告されている.「中央部の前房深度が深い」というプラトー虹彩形状の特徴の一部分を排すれば,毛様体・毛様突起の位置・形状が,単独にまたは瞳孔ブロックなどの他のメカニズムと併存して関与している閉塞隅角は,わが国ではかなり多いことが明らかになってきた(図1)5).プラトー虹彩形状の治療には,侵襲の少ないものから,低濃度のピロカルピン点眼,lasergonioplasty(LGP),水晶体再建術(隅角癒着解離術:GSL併用を含む)がある.自験例で,20眼のLI施行後のプラトー虹彩形状に対して0.5%または1%のピロカルピンを1日1回夕方に点眼し,点眼開始前,点眼開始後1カ月時にUBMで隅角形状を解析した(図3).治療前のangle-openingdistance(AOD)500,trabecular-irisangle(TIA)が,それぞれ60.2±44.9?m,7.4±9.0?であったのが,ピロカルピン点眼開始後は140.4±70.7?m,15.2±8.5?に,著明に開大した.また,隅角底から毛様溝の底に引いた線と線維柱帯がなす角度corneo-sulcusangleが47.3±9.0?から59.6±12.2?に開いたことから,毛様体の後方回旋が起こっていることが明らかとなり,ピロカルピンは縮瞳効果だけでなく,毛様体筋の縦走線維や放射状線維の収縮によってプラトー虹彩形状の改善に効果があることがわかった.LGPは原発閉塞隅角症に対して隅角開大効果があることは多数の報告から明らかだが,毛様体・毛様突起の位置異常に対して何らかの影響を及ぼすか否かに関しては明らかでない.水晶体再建術(GSL併用を含む)は,最も隅角開大効果の高い治療で,自験例ではプラトー虹彩形状9眼に対して水晶体再建術(うち,5眼にGSL,6眼にLGPを併用)を施行したところ,TIA500が術前15.0±6.3?であったのに対し,術後は22.2±9.2?と開大し,術後の隅角開大度はピロカルピン点眼後の15.2±8.5?よりも大きかった.プラトー虹彩の虹彩面の開大効果をみるためTIA2000を計測してみたところ,術前24.2±4.4?であったのに対し,術後は39.4±3.6?とさらに大きく開大しており,隅角開大は純粋に水晶体容積が眼内レンズに置き換わって減少したことによるものと考察した.Nona-kaら6)によると,水晶体再建術によって,前房深度とAOD500が増加するのみでなく,trabecular-ciliaryprocessdistance(TCPD)も0.51±0.09mmから0.69±(17)図3治療開始前および低濃度ピロカルピン点眼開始後1カ月のプラトー虹彩形状のUBM所見すべての症例で隅角の開大がみられた.低濃度ピロカルピン点眼開始後———————————————————————-Page4????あたらしい眼科Vol.24,No.8,20070.12mmに開くことから,毛様突起も後方移動していることがわかった.すなわち,プラトー虹彩形状の改善にも効果がある治療であることが明らかとなった.III水晶体ブロック相対的瞳孔ブロックとプラトー虹彩形状が,単独に,あるいは併存して多くの原発閉塞隅角症の発症メカニズムに関わっているのに比べると,水晶体ブロックの関与する比率は小さいと考えられている(図1).水晶体前面が虹彩を前方に圧排し,高度の浅前房,狭隅角を呈する病態としては,a)外傷性水晶体亜脱臼,b)落屑症候群などのZinn小帯の脆弱化に伴う水晶体亜脱臼,c)膨隆白内障などが代表的で,厳密に言えば原発閉塞隅角症の原因には含めるべきでないかもしれない.高齢化に伴って落屑症候群の有病率は明らかに増加してきており,潜在的に程度の差はあれ水晶体の前後移動を起こしている眼は少なくない可能性がある.a)水晶体亜脱臼の診断には,まず外傷歴や自覚症状の変動など詳細に病歴をとることが重要である.水晶体振盪,白内障の進行,虹彩と水晶体の間隙の左右差,硝子体の脱出,散瞳時の水晶体偏位などの所見があれば,診断は容易である.暗室うつむき試験で陽性,UBMでは,Zinn小帯の断裂した部位で毛様突起と水晶体の距離が広がるのが特徴的である.b)落屑症候群で経過観察中に,片眼の前房深度が浅くなることから本症を疑う.初診であっても,病歴から,急激に患眼だけ近視化したのを自覚している場合が多い.上記の水晶体亜脱臼の所見に加え,瞳孔領や水晶体前面の落屑物質の沈着から診断する.c)過熟白内障と高度の浅前房から本症を診断するが,角膜浮腫で前房の詳細な観察ができない症例では,水晶体起因性緑内障と鑑別が困難な場合がある.いずれの場合でも,水晶体の前方移動が閉塞隅角の原因であるため,水晶体摘出が治療の原則である.水晶体?の安定が悪いため,?内固定にはこだわらず,?と前部硝子体を切除したうえ,毛様溝固定が望ましい場合が多い.IV上脈絡膜腔の開大・硝子体の関与これまで,脈絡膜?離による毛様体前方回旋や悪性緑内障は,炎症に伴うものであったり術後合併症であったり,いわゆる原発閉塞隅角症の原因とは分けて考えられてきた.しかし,白内障手術の際,強度近視眼では前房がきわめて深くなり虹彩がしばしば後方彎曲するのに対し,遠視眼では超音波乳化吸引術が終了した時点でも浅前房が改善しない症例を経験することがある.明らかに,diaphragmaを前方に押し返す力には,近視眼と遠視眼で違いがある.両者における硝子体細胞や基質の発生に違いがないとすれば,硝子体腔の容積が異なれば,硝子体密度や房水透過性に差がでることは容易に理解できる.つまり,原発閉塞隅角症で前眼部形態と水晶体の不均衡から狭隅角が生じるのと同じように,硝子体腔容積と硝子体ゲルの不均衡が,高い硝子体密度の原因となっている可能性がある.一方,Sakaiら7)は501眼の原発閉塞隅角症と156眼の開放隅角緑内障および高眼圧症にUBMを行い,上脈絡膜腔の開大の有無を比較したところ,前者では20%の眼でみられたのに対し,後者ではわずかに1.3%にしかみられなかった.また,上脈絡膜腔の開大を有する原発閉塞隅角症の前房深度(1.92±0.42mm)は,有しないもの(2.06±0.32mm)に比べ有意に前房が浅いことを報告した.この結果は,Quigleyら8)が提唱する原発閉塞隅角症の病態,および悪性緑内障の発症メカニズムの仮説と合致するものである.彼らの仮説8)は,以下の通りである.脈絡膜が眼球に占める容積は約480??と大きいのに対し,前房容積は約150??しかない.仮に脈絡膜が20%浮腫を生じれば約100??に相当し,前房中の房水の2/3を押しのける量にあたる.脈絡膜が膨張した分,硝子体腔のゲルよりも後方の内圧が上昇し,前房圧との間に圧較差を生じる.ここで房水が抵抗なく硝子体ゲルをすり抜けられれば問題ないが,原発閉塞隅角症眼では房水の透過性が低い.前述の硝子体密度が高いうえ,移動する房水が拡散する表面積(di?usionalsurface)が極端に小さい.これは,前部硝子体膜のうち水晶体後面で塞がれていないドーナツ状の部分の表面積にあたり,原発閉塞隅角症では(18)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.8,2007????眼球が小さいうえに相対的に水晶体が大きいため,正常眼の50%程度しかない.以上をまとめると,原発閉塞隅角症眼は図48)に示すように,小眼球,上脈絡膜腔の開大,硝子体ゲルの透過性不良という3つの要素を内包しており,その眼球が極端に小さいものが真性小眼球症,また何らかの原因による脈絡膜浮腫と硝子体の透過性不良のためにdiaphragmaが前方移動して悪循環となるのが悪性緑内障と位置づけている.将来は,Valsalva手技によって全身の静脈環流量を減少させ,UBMで脈絡膜浮腫の起こりやすさや前房深度の減少を確認する新しい負荷試験を行って,内眼手術に際しての前部硝子体切除術併用の適応を決めるようになるかもしれない.おわりに隅角閉塞機序について,相対的瞳孔ブロックとその他の3つのメカニズムに分けて概説した.LIに伴う水疱性角膜症の問題,第一選択の治療としての白内障手術など,原発閉塞隅角緑内障に対する治療を取り巻く議論が熱くなっている.現状ではまだ判然としない部分が多く,病態に関しても治療に関しても,今後大きく流れが変わっていく可能性は少なくない.UBMを初めとする画像診断機器の知見が蓄積され,より的確な診断と,病態に応じた最善の治療指針が確立されていくことを期待したい.文献1)MapstoneR:Mechanicsofpupilblock.????????????????52:19-25,19682)RitchR,Schlotzer-SchrehardtU,KonstasAG:Whyisglaucomaassociatedwithexfoliationsyndrome???????????????????22:253-275,20033)PavlinCJ,RitchR,FosterFS:Ultrasoundbiomicroscopyinplateauirissyndrome.???????????????113:390-395,19924)HeM,FosterPJ,GeJetal:GonioscopyinadultChi-nese:theLiwaneyestudy.?????????????????????????47:4772-4779,20065)近藤武久:前房・隅角の画像解析UBMによる緑内障画像診断.文光堂,20016)NonakaA,KondoT,KikuchiMetal:Anglewideningandalterationofciliaryprocesscon?gurationaftercata-ractsurgeryforprimaryangleclosure.?????????????113:437-441,20067)SakaiH,Morine-ShinjoS,ShinzatoMetal:Uveale?usioninprimaryangle-closureglaucoma.??????????????112:413-419,20058)QuigleyHA,FriedmanDS,CongdonNG:Possiblemecha-nismofprimaryangle-closureandmalignantglaucoma.??????????12:167-180,2003(19)図4原発閉塞隅角症の危険因子(文献8より改変)小眼球,上脈絡膜腔の開大,硝子体ゲルの透過性不良という3つの要素のうち,1つ以上を有している.硝子体ゲルの透過性不良上脈絡膜腔の開大小眼球真性小眼球症悪性緑内障