———————————————————————-Page10910-1810/08/\100/頁/JCLS2型ヘルパーT(Th2)細胞の感作が起こる.Th2細胞から指示を受けたB細胞は,抗原特異的免疫グロブリンE(IgE)を分泌する.抗原特異的IgEは,結膜肥満細胞上に結合し,再び侵入した抗原により架橋され,肥満細はじめに現在,アレルギー性角結膜疾患の発症機序は,I型アレルギー反応が主体と考えられている.その機序は図1のように概観される.結膜局所の抗原提示細胞により,(37)171*MayumiUeta:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕上田真由美:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集眼アレルギーの知識はいまあたらしい眼科25(2):171176,2008上皮細胞によるアレルギー炎症制御RegulationofAllergicInammationbyEpithelialCells上田真由美*図1アレルギー性角結膜疾患の発症機序結膜局所の抗原提示細胞により,Th2細胞の感作が起こる.Th2細胞から指示を受けたB細胞は,抗原特異的IgEを分泌する.抗原特異的IgEは,結膜肥満細胞上に結合し,再び侵入した抗原により架橋され,肥満細胞の脱顆粒をひき起こす.そして,肥満細胞からヒスタミン,血小板活性化因子(PAF),ロイコトリエンB4(LTB4),プロスタグランジンD2(PGD2)などが放出される.抗原曝露数十分以内に生じる即時相の反応である結膜浮腫,充血,痒みは,肥満細胞の脱顆粒によって放出されたヒスタミンによりひき起こされる.また,抗原曝露824時間後に結膜局所への好酸球の浸潤を主体とする遅発相の炎症反応が生じる.結膜局所への好酸球浸潤には,肥満細胞のほか,線維芽細胞やT細胞が関与している.舁浴舁浴蛆??????????????????舁鉄??舁浴粳貼?????略朿鉄??匹???????????悗???昱???朖???????揺辣??????????????????????????????舁浴———————————————————————-Page2172あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008(38)十分以内に即時相の反応として生じる結膜浮腫,充血,痒み,眼瞼浮腫,粘液性の眼脂である.これらは,肥満細胞の脱顆粒によって放出されたヒスタミンにより主としてひき起こされる.一方,これに引き続いて824時間後に遅発相の炎症反応が生じる.これは,結膜局所への好酸球の浸潤を主体とする.アレルギー性角結膜疾患の遅発相は,角結膜炎の病態形成に大きく関与する.春季カタルやアトピー性角結膜炎などの組織障害を伴うアレルギー性角結膜疾患は,I型アレルギー遅発相がその病態の主体と考えられている(図2).現在のアレルギー性角結膜疾患の治療として,肥満細胞を標的にした化学伝達物質遊離抑制作用のある抗アレルギー薬や,ヒスタミン受容体を標的としたヒスタミン拮抗作用のある抗アレルギー薬,そしてステロイド点眼薬,免疫抑制薬であるシクロスポリンの点眼薬などが用いられている.Iアレルギー炎症と上皮細胞遅発相の好酸球浸潤は,肥満細胞によって誘導されると長年にわたって考えられてきた.しかし,最近では,好酸球浸潤に線維芽細胞が重要な役割を担うという報告1)や,T細胞が重要であるという報告2)が出てきた.筆者らも,マウスアレルギー性結膜炎モデルを用いた解析により,肥満細胞欠損マウスにおいても,アレルギー性結膜炎遅発相に結膜好酸球浸潤が生じることを解明した3)(図3).このことは,アレルギー性結膜炎遅発相の結膜好酸球浸潤に肥満細胞以外の細胞が大きく関与していることを示唆するものである.近年,上述の機序に加えて,アレルギー疾患における上皮細胞の関与が報告されはじめている.2002年,上皮細胞に発現しているthymicstromallymphopoietin(TSLP)が樹状細胞を活性化し,その結果,Th2細胞が誘導されることが報告された4).アトピー性皮膚炎患者の表皮細胞では,このTSLPの発現が亢進していることも報告され,上皮細胞がTSLPを介して,アレルギー性炎症を制御していることが示された4).2005年には,気管支喘息においても気管上皮と肺胞上皮に発現しているTSLPが重要な働きを担うことが報告された5).胞の脱顆粒をひき起こす.肥満細胞の脱顆粒により,ヒスタミン,ロイコトリエン,プロスタグランジン(PG)などの化学伝達物質や,種々のサイトカインが放出される.アレルギー性結膜炎の一般的な症状は,抗原曝露数図2春季カタルの患者眼脂眼瞼結膜に巨大乳頭(A)を伴う春季カタル患者の眼脂(B)をギムザ染色にて観察すると,好酸球の集積(C)を認める.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008173(39)IIアレルギー炎症とプロスタグランジンさらに,近年,アレルギー疾患の病態を調節する因子として,プロスタノイドが報告されている.プロスタノイドとは,PGとトロンボキサン(TX)からなり,さまざまな刺激に伴い,種々の細胞によって合成される生理活性物質である.これらには,PGD2,PGE2,PGF2a,PGI2,TXA2の5種類がわかっており,それぞれに対する特異的な受容体として,DP,EP(EP1,EP2,EP3,EP4),FP,IP,TPが存在する6)(図4).このうち,アレルギー疾患への強い関与が報告されているのは,PGD2ならびにその受容体であるDP,そしてPGE2ならびにその受容体の一つであるEP3である.図3肥満細胞欠損マウスにおけるアレルギー性結膜炎遅発相の結膜好酸球浸潤トルイジンブルー染色にて,野生型マウスには結膜に多数の肥満細胞が確認できるが,肥満細胞欠損マウスには,肥満細胞は存在しない(A).これらのマウスに,ブタクサ花粉(RW)を用いてアレルギー性結膜炎を誘発したところ,肥満細胞欠損マウスでも,野生型マウスと同様に,結膜に好酸球浸潤を生じる(B).眼瞼の定量PCR(polymerasechainreaction)により,肥満細胞欠損マウスでも,野生型マウスと同様に抗原点眼によりエオタキシンの発現が有意に上昇する(C).(文献3より)(Ratioofeotaxin/GAPDHmRNA)RWRW基剤基剤点眼**00.20.60.811.2*p<0.050.4野生型マウス肥満細胞欠損マウストルイジンブルー染色野生型マウス肥満細胞欠損マウス(RW感作後)RW感作→RW点眼24時間後の結膜組織マウス眼瞼の定量PCRWBB6F1(+/+)WBB6F-W/Wv?????ABCルナ染色??悗??50μm図4プロスタノイドの生合成経路:アラキドン酸カスケードアラキドン酸から合成されるプロスタノイドには,PGD2,PGE2,PGF2a,PGI2,TXA2の5種類があり,それぞれに対する特異的な受容体として,DP,EP(EP1,EP2,EP3,EP4),FP,IP,TP受容体が存在する.EP2アラキドン酸PGH2PGD2PGE2PGF2aPGI2TXA2DPEP4COX-1,COX-2EP1EP3TPIPFP———————————————————————-Page4174あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008EP3受容体が,ともに気管上皮・肺胞上皮に存在することである.このように,アレルギー性喘息においては,その病態における上皮細胞の役割が着目されはじめている.III眼表面上皮細胞の免疫機構筆者らは,長年,眼表面上皮細胞の免疫学的特性に着目してきた.眼表面は,角膜上皮細胞と結膜上皮細胞でPGD2については,以前より,I型アレルギー反応において肥満細胞が脱顆粒を生じるときに大量に放出されることが知られていたが,その作用については明らかではなかった.しかし,2000年に気管支喘息モデルを用いてPGD2の役割が解析された.野生型マウスを卵白アルブミンの腹腔内投与により感作した後,気道へ抗原曝露を行うと,気道過敏性や気道粘液産生増加などの気管支喘息特有の病態が誘発された.しかし,DP欠損マウスでは,この気道過敏性や気道粘液産生増加の出現が認められなかった.気管支喘息に特徴的な,好酸球やリンパ球の組織浸潤や気道滲出液中への漏出を検討すると,DP欠損マウスでは野生型マウスに比し,これらの細胞の浸潤と漏出が著明に低下していた.さらに,これらの細胞の組織への誘導にはTh2サイトカインが重要であることから,その気管支肺胞洗浄液中の濃度が定量された.その結果,DP欠損マウスでは野生型マウスに比しTh2サイトカイン濃度の低値が観察された.このような結果から,PGD2ならびにその受容体であるDPは,アレルギー反応を促進する方向に働くことが明らかとなった.さらに,DPは,気道への抗原曝露により気道上皮や肺胞上皮に強く発現することが確認された7).続いて2005年,同じく気管支喘息モデルを用いてPGE2ならびにその受容体であるEP3の役割が解析された.EP3欠損マウスでは,気管支喘息に特徴的な,好酸球,好中球そしてリンパ球の組織浸潤と気道滲出液中への漏出が,野生型マウスに比し,著明に増加していた(図5A).Th2サイトカインの気管支肺胞洗浄液中の濃度も,野生型マウスに比し有意に高値を示した.このような結果から,PGE2ならびにその受容体であるEP3は,アレルギー反応を抑制する方向に働くことが明らかとなった.EP3は,炎症細胞ではなく,気管上皮や肺胞上皮に発現していることが示された8)(図5B).さらに,EP3アゴニストのアレルギー性喘息に対する治療効果も報告されている.EP3アゴニストの投与により,好酸球,好中球,リンパ球の肺組織への浸潤が激減し,即時相においても,肥満細胞からのヒスタミン,ロイコトリエンの放出が抑制された8).大変興味深いことは,気管支喘息モデルにおいて,I型アレルギー反応を促進させるDP受容体,抑制する(40)野生型マウスEP3受容体欠損マウス野生型マウスEP3受容体欠損マウスEP3受容体欠損マウスEP3受容体欠損マウスAB気管上皮炎症細胞浸潤部位図5気管上皮に発現しているEP3気管支喘息マウスモデルにおいて,EP3受容体欠損マウスでは,野生型マウスと比較して,肺組織への炎症細胞浸潤が有意に増加する(A).EP3遺伝子を欠損させ,その代わりにb-galactosidase,lacZ遺伝子を導入したEP3受容体欠損マウスの肺組織にX-gal染色を行うと,気管上皮が青く染まり(矢印),EP3が気道上皮に発現していることがわかる(B).一方,肺組織に浸潤している炎症細胞(矢尻)をX-gal染色しても,炎症細胞には,EP3の発現は確認できない(B).Bar=50μm.(文献8より)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.25,No.2,2008175おわりに現在,筆者らは,アレルギー炎症を抑制するPGE2受容体サブタイプEP3に着目し,EP3を介したアレルギー性結膜炎の制御機構を解析している.その結果,アレルギー性結膜炎においても,気管支喘息モデル同様に,EP3を介してアレルギー炎症が抑制されることがわかってきた.EP3受容体が眼表面上皮細胞に発現していることも確認している.眼表面上皮細胞によるアレルギー炎症制御機構が解明されれば,現在の治療薬である肥満細胞や肥満細胞から放出されるヒスタミンを標的にした抗アレルギー薬に加えて,上皮細胞を標的にした新しい治療薬の開発へ進展する可能性があり,今後の発展が大きく期待される(図6).文献1)KumagaiN,FukudaK,FujitsuYetal:Roleofstructuralcellsofthecorneaandconjunctivainthepathogenesisofvernalkeratoconjunctivitis.ProgRetinEyeRes25:165-187,20062)FukushimaA,OzakiA,JianZetal:Dissectionofanti-gen-specichumoralandcellularimmuneresponsesforthedevelopmentofexperimentalimmune-mediatedble-pharoconjunctivitisinC57BL/6mice.CurrEyeRes30:241-248,20053)UetaM,NakamuraT,TanakaSetal:Developmentofeosinophilicconjunctivalinammationatlate-phasereac-tioninmastcell-decientmice.JAllergyClinImmunol120:476-478,2007構成され,常に外界と接触し,外界からの異物や微生物の侵入の危険にさらされている.一方,眼表面には,表皮ブドウ球菌やアクネ菌などの常在細菌も存在する9).従来,眼表面上皮をはじめとする粘膜上皮細胞は主として物理的バリアとして働くとみなされてきたが,最近では,粘膜上皮細胞そのものが各種サイトカインや抗菌物質を産生し,生体防御の第一線を担っていることがわかってきた.実際,眼表面の粘膜上皮細胞である角膜上皮細胞や結膜上皮細胞はIL-6,IL-8などの炎症性サイトカインやケモカインを産生する1012).その一方,眼表面には,他の粘膜組織と同様に,不必要な炎症による組織傷害を回避するための炎症制御機構が存在すると考えられる.マクロファージなどの免疫担当細胞は,細菌,真菌,ウイルスなどの各種菌体成分を認識して炎症性サイトカインを産生する.しかし,健常な状態では,眼表面上皮は,常在細菌の存在にもかかわらず炎症を生じない.また,培養角膜上皮細胞や培養結膜上皮細胞は,グラム陰性菌の細胞壁成分であるリポ多糖(LPS)やグラム陽性菌の細胞壁に多量に含まれるペプチドグリカンに対して炎症性サイトカインを産生しない12).このことは,マクロファージなどの免疫担当細胞と常在細菌と接する眼表面上皮の免疫機構は大きく異なることを示している1012).このように眼表面上皮には,炎症を制御する能力があると想像される.(41)図6上皮細胞をターゲットにした新しい治療薬の可能性アレルギー性結膜炎遅発相の結膜好酸球浸潤には,肥満細胞,T細胞,線維芽細胞以外に,眼表面上皮細胞が関与している可能性がある.眼表面上皮細胞のアレルギー炎症制御機構の解明は,眼表面上皮細胞をターゲットにした新しい治療薬の開発へ進展する可能性がある.???????悗???昱???朖???PAF,LTB4,PGD2etcT??????????濯???濯????濯??渧?呆癪?煖??躬———————————————————————-Page6176あたらしい眼科Vol.25,No.2,20089)UetaM,IidaT,SakamotoMetal:PolyclonalityofStaphy-lococcusepidermidisresidingonthehealthyocularsur-face.JMedMicrobiol56:77-82,200710)HozonoY,UetaM,HamuroJetal:Humancornealepi-thelialcellsrespondtoocular-pathogenic,butnottononpathogenic-agellin.BiochemBiophysResCommun347:238-247,200611)UetaM,HamuroJ,KiyonoHetal:TriggeringofTLR3bypolyI:Cinhumancornealepithelialcellstoinduceinammatorycytokines.BiochemBiophysResCommun331:285-294,200512)UetaM,NochiT,JangMHetal:Intracellularlyexpress-edTLR2sandTLR4scontributiontoanimmunosilentenvironmentattheocularmucosalepithelium.JImmunol173:3337-3347,20044)SoumelisV,RechePA,KanzlerHetal:HumanepithelialcellstriggerdendriticcellmediatedallergicinammationbyproducingTSLP.NatImmunol3:673-680,20025)ZhouB,ComeauMR,DeSmedtTetal:Thymicstromallymphopoietinasakeyinitiatorofallergicairwayinam-mationinmice.NatImmunol6:1047-1053,20056)NarumiyaS,FitzGeraldGA:Geneticandpharmacologicalanalysisofprostanoidreceptorfunction.JClinInvest108:25-30,20017)MatsuokaT,HirataM,TanakaHetal:ProstaglandinD2asamediatorofallergicasthma.Science287:2013-2017,20008)KunikataT,YamaneH,SegiEetal:Suppressionofaller-gicinammationbytheprostaglandinEreceptorsubtypeEP3.NatImmunol6:524-531,2005(42)