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新しい治療と検査シリーズ172.眼筋機能測定装置「Diploment Ver1.0」

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS入が必須であり,必要に応じて近用鏡・矯正眼鏡の上に赤緑眼鏡をオーバーグラスとする.測定はリング状ターゲットの中心に円形カーソルを入れる“玉入れ”法で行うが,リングの真ん中に点を入れるように誘導する.カーソルのサイズは測定点が周辺に移動すると距離に比例して拡大する注1).赤緑眼鏡は既製のHessscreen用(Haag-Streit社製)を用いる.赤・緑が完全に分離できるように被検者の視機能によってカーソル(ときにはターゲットも)のサイズ・輝度・明度を変更する.カーソルのゴーストがあると測定誤差と新しい治療と検査シリーズ(93)?バックグラウンド既報1)による試作器械「Diplomet」に対する多くのアドバイスをもとに改良を加えてVer1.0(以下,Dplとする)を完成させた.改良点は1)検査範囲を拡大するために25.5インチスクリーン(横径551×縦径344mm)を採用し水平方向の25?測定(図1),2)カーソル輝度を検査画面上で可変化,3)椅子にとりつけたヘッドバンドを用いて頭位を固定,4)被検者の疲労を考慮して自動計測では測定点を50cmで23点,35cmで18点とし,任意測定点の追加・再検査で補足,5)結果結線チャートに10?以内は1?間隔で実線,それより周辺では5?間隔で破線を表示,6)結果チャートに作用方向眼筋名を表示,7)ファイルデータをjpg/bmp形式で他の媒体に転送,などである.?装置の概要と検査の留意点装置はノート型PC,25.5インチ液晶ディスプレイ,プリンタ,デュアルマウス,医療用電源装置,電動光学台,頭位固定バンド付き椅子,赤緑眼鏡からなり,液晶画面に反射が入らない程度の暗室で操作する.測定は被検者が50cm・35cm各々の測定距離においてターゲット・カーソルを明瞭に識別できる屈折度の加172.眼筋機能測定装置「DiplometVer1.0」プレゼンテーション:平岡満里1)橋本有紀子1)渋谷英敏2)吉川眞男3)1)小金井眼科クリニック/2)ハナブサ電子工業/3)有)メイヨーコメント:佐藤美保浜松医科大学眼科学講座2520151050510152025151050510152520155051520253025201510505101520253050cm35cm図125.5インチスクリーンと50cm・35cmにおける視角等位線upward2010nasal1020302010downward102030temporalInf.OblSup.RectSup.OblInf.RectMed.RectLat.Rectabupward2010nasal1020302010downward102030temporalInf.OblSup.RectSup.OblInf.RectMed.RectLat.Rect図2測定距離50cm(a)と35cm(b)における正位のDiplometchart測定誤差は1?以内.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007なるので注意が必要である.測定点は“自動”50cmで中心(0点)と5?が8点・15?が8点・水平25?/垂直15?が6点の計23点(図2a),“自動”35cmで中心(0点)と10?が8点・20?が8点の計17点(図2b)とした.検査結果に不足・不明な箇所があれば“追加・再検査”で確認し,点削除で信頼できる結果を選択する.変位角度が大きく画面にカーソルが表示できない点または被検者が応答できない測定点はスキップボタンでスキップして次の測定点に進む.市販の画面では横径は大きいサイズのものがあるが,縦径は25.5インチと変わらない.特に斜筋麻痺では25?を8点計測するのが望ましいが既製品では困難なため,上下25?は測定に加えられなかった.測定点は各視角等位点においたターゲットにあるが,結果チャートには10?以内1?間隔,それより周辺は5?間隔の等間隔経線が記されているので定量的に読み取る.注1)Dplでは各測定点における網膜像の大きさが理論上一定になるようにするために,眼?測定点距離に比例してカーソルサイズを変化させている(表1).たとえば,水平20?・垂直20?で14%拡大する.ただし,この場合の“眼”は左右瞳孔中点においた仮の視点であることと周辺部に呈示するカーソルは中心部に呈示するものと相似な円であることから,真の意味では網膜上の大きさがすべての測定点で一定にはならない.さらに固視が鼻側と耳側でも異なり,平面スクリーンを使用している現段階では周辺は定量測定に限界がある.?測定結果の精度と信頼性中心固視点における交代プリズム遮閉テスト(APCT)を測定距離と同じ50cmで行いDplの変位角と比較すると,図2のAPCT正位では1?以内の誤差で一致していた.左固視APCT4△XP¢の症例で右眼Dpl0点2?外方(図3a),左固視APCT12△XP¢の症例で右眼Dpl0点6?外方(図3b)と,近似値であった.これら非麻痺性斜視では各測定点での変位角度は近似値であり左右差も少なかったが,麻痺性斜視は差がでた.脳内病変が検出されず糖尿病性末?神経障害と考えられた症例(77歳)では,左固視APCT;10△XTL/R6△HTの右眼Dplで0点が6?外方・3?下方変位が検出され,右上直筋・内直筋麻痺であった.この変位角は中心と5?は近似値であったが,周辺15?・25?で麻痺筋の作用方向変位に差があり外上方・外下方はカーソルが画面からはみ出すoverとなった.内下方が測定不能(*)となった理由は不明であった(図4a).中脳小梗塞症例(44歳)では,シノプトフォアで左固視中心;+6△R/L3△ex4?に対して右眼Dpl0点;3?外方・2?上方変位(内直筋・下直筋麻痺)に加えて,10?において下斜筋作用方向の内上方変位が内下方よりも大きく下斜筋麻痺による回旋が検出(94)表1測定点とカーソル拡大率50cm水平角度(?)35cm051015202530垂直角度01.001.001.021.041.061.101.151.001.001.011.031.061.101.1551.001.011.021.041.071.111.161.001.011.021.041.071.111.16101.021.021.031.051.081.121.181.011.021.031.051.081.121.18151.041.041.051.071.111.151.211.031.041.051.071.111.151.21201.061.071.081.111.141.191.261.061.071.081.111.141.191.26251.101.111.121.151.191.251.321.101.111.121.151.191.251.32301.151.161.181.211.261.321.411.151.161.181.211.261.321.41upward2010nasal1020302010downward102030temporalInf.OblSup.RectSup.OblInf.RectMed.RectLat.Rectabupward2010nasal1020302010downward102030temporalInf.OblSup.RectSup.OblInf.RectMed.RectLat.Rect図3斜位におけるAPCTとDiplometcharta:APCT4△XP¢の症例(40歳)で0点;2?外方変位,b:APCT12△XP¢の症例(17歳)で0点;6?外方変位.非麻痺性斜視では各測定点における変位角はほぼ近似値で左右差も少なかった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???された(図4b).35cmは自動で0点・10?・20?であるが,手動で周辺の垂直25?・水平35?まで測定点を呈示することが可能である.しかし周辺では中心固視が不確実であるため定性検査となるので,目的に応じて測定点を追加する.?頭位固定について眼科では顎台に載せて頭位を固定する器械が多くコメンテーターからも指摘された1)が,不自然な頸筋の荷重,頸反射2)および筋固有反射3)の負荷を避けるために敢えて椅子にヘッドバンドをつけて,日常視に近い頭位で測定することとした.測定距離は鼻根部から中心0点ターゲットまでの距離で50cm・35cmとし,椅子と光学台の高さ調整を行った.小児では検者が椅子の後ろから軽く支えて特に横回転に注意した.マウスの操作については5歳ころから可能であり,高齢者では補助が必要な例もあったが検査不能例はなかった.まとめ本器械は,マウス操作が可能であれば僅少の誤差で交代プリズム遮閉テストに匹敵する定量測定が短時間で熟練を要せずに可能であり,定性測定においてもHessscreenのような労力を必要とせず,被検者の負担も少ない.検査結果の他の媒体への保存も可能であり電子カルテへの応用も容易である.また特殊な用途の検査項目が必要であればオプションプログラムの対応も可能であろう.(95)文献1)平岡満里,渋谷英敏,三村治:新しい眼筋機能測定装置「Diplomet」.あたらしい眼科23:59-62,20062)島村宗夫:運動の反射生理学─その基礎と臨床的応用─.p122-123&178,真興交易医書出版部,19763)DavsonH:Proprioceptiveneckre?exes.PhysiologyoftheEye.4thed,p438,AcademicPress,NewYork,1980?本方法に対するコメント?本装置は,コンピュータで記録することによって,Hessチャートを狭い場所でも設置可能になったこと,暗い場所でも記載が容易になったことがメリットである.今回は,スクリーンを大きなものにして,検査範囲を広げたこと,頭部を固定するための椅子をつけたこと,データを他の媒体でみられる形式にしたこと,などの改良が加えられている.確かにこの記録をみると,従来のHessチャートによく似た結果が得られており,一見,従来の装置と同等の結果が得られるようにもみえる.しかし,著者も指摘しているように,スクリーンの縦径が限られているため,斜筋異常などで重要な上下25?の測定が不可能である.麻痺があればともむき筋には,Heringの法則に従った過動がみられるはずなので,多くの症例で振り切れてしまうと思われる.麻痺の診断には,必ず左右眼のチャートを比較することが前提である.装置はコンピュータ化されても,検査結果の判断まではしてくれない.使用にあたっては医師が眼球運動に関する十分な知識を持ち合わせていることが不可欠である.overoverupward2010nasal1020302010downward102030temporalInf.OblSup.RectSup.OblInf.RectMed.RectLat.Rectabupward2010nasal1020302010downward102030temporalInf.OblSup.RectSup.OblInf.RectMed.RectLat.Rect*図4眼筋麻痺症例におけるAPCTとDiplo-metcharta:麻痺性斜視における左固視APCT;10△XTL/R6△HTの糖尿病性末?神経麻痺症例(77歳)でDiplometchartは右眼0点;6?外方・3?下方変位で右上直筋+内直筋麻痺.b:中脳梗塞症例(44歳)におけるシノプトフォアで検出された左固視の右中央眼位;+6△R/L3△ex4?に対してDiplometchart右眼0点;3?外方・2?上方,15?測定点で内上方>内下方3?差変位から右下斜筋・下直筋・内直筋麻痺.

眼感染症:基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ産生菌(ESBLs)

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS■塗抹鏡検での見方のこつ基質特異性拡張型b-ラクタマーゼ産生菌(ESBLs)は,単一の菌種ではなく大腸菌やクレブシエラをはじめとする腸内細菌科の菌種,ブドウ糖非発酵菌,カプノサイトファーガなど多くのグラム陰性桿菌から検出される(表1).塗抹鏡検でESBLsを識別することは困難であるが,第三世代セファロスポリン系薬の治療に抵抗するグラム陰性桿菌感染症や,使用中の患者に発生したグラム陰性桿菌感染症においては,ESBLsやクラスC型b-ラクタマーゼ(AmpC)過剰産生菌,クラスB型b-ラクタマーゼ(メタロb-ラクタマーゼ:MBL)産生菌などの耐性菌を疑う必要がある(図1).■培養法眼感染症からの検体は微量の場合が多く乾燥しやすいため,滅菌密封容器や培地付き綿棒などで乾燥を避けて搬送する.ESBLsは尿,便,喀痰からの検出率が高く,まれに膿汁や血液などからも分離される.■耐性菌判定法ESBLsはクラスA型もしくはクラスD型b-ラクタマーゼの基質特異性が拡張し,セフタジジム(モダシン?;CAZ)やセフォタキシム(クラフォラン?,セフォタックス?;CTX)などのオキシイミノセファロスポリン系薬をも分解しうるようになった菌である1).しかし,一方でb-ラクタマーゼ阻害薬であるクラブラン酸(CVA)によって阻害される特徴を有する2).そのため,日常検査においてESBLsをAmpCやMBL産生菌と鑑別する際にはCVAによる阻害試験を実施する.米国のClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)が推奨するESBLsの判定基準(2007年M100-S16)は表2のごとくであり,現在対象菌種は大腸菌,クレブシエラ属,プロテウス・ミラビリスに限定されている.理由は,エンテロバクターなどでは複数のb-ラクタマーゼを産生する菌があり,耐性パターンが画一的で(89)49.基質特異性拡張型b-ラクタマーゼ産生菌(ESBLs)眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一川上小夜子*1斧康雄*2宮澤幸久*1*1帝京大学医学部附属病院中央検査部*2帝京大学医学部微生物学講座/内科感染症基質特異性拡張型b-ラクタマーゼ産生菌は,大腸菌やクレブシエラ属など多種のグラム陰性桿菌に存在する.第三世代セファロスポリン系抗菌薬の治療に抵抗するグラム陰性桿菌感染症例や使用中に生じたグラム陰性桿菌感染症では,本菌の可能性も考慮する.カルバペネム系薬,一部のセフェム系薬(セファマイシン系,オキサセフェム系),フルオロキノロン系薬,アミノグリコシド系薬などが有効である.表1ESBLsが報告されている菌種大腸菌サルモネラ属クレブシエラ属赤痢菌プロテウス属緑膿菌エンテロバクター属セパシア菌サイトロバクター属アシネトバクター属セラチア・マルセッセンスパラインフルエンザ菌モルガネラ・モルガニーカプノサイトファーガ属図1病巣から採取した膿汁の塗抹写真80歳,女性.12年前に裂孔原生網膜?離で手術.ESBLsではないが緑膿菌によるバックル感染を発症し,網膜復位術を施行.術中にはトブラマイシン(トブラシン?)90mgを静注,術後はホスホマイシン(ホスミシン?)1g/日×6(静注)にて治癒.このようなグラム陰性桿菌感染症で,セフォタジジムやセフォタキシムが無効な症例では,ESBLsなどの耐性菌も考慮する.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007ないため,耐性遺伝子を検索しなければ鑑別できないことによる.■治療薬剤選択大腸菌,クレブシエラ属,プロテウス・ミラビリスのESBLsでは,セファマイシン系薬(注射薬:注),オキサセフェム系薬(注),カルバペネム系薬(注),アミノグリコシド系薬(注,点眼薬:点),フルオロキノロン系薬(注,経口薬:経,点)が治療薬として期待できる3)(表3).しかし,それ以外の菌種のESBLsでは,AmpCも同時に過剰産生する株がみられることから,期待できる薬剤はカルバペネム系薬(注),アミノグリコシド系薬(注,点),フルオロキノロン系薬(注,経,点)になる.フルオロキノロン系薬は幅広い抗菌スペクトルを有し,房水内や眼組織内への移行性が優れることから点眼薬として広く使用されているが,近年分離される各種b-ラクタマーゼ産生菌のなかには,まれにアミノグリコシド系薬やフルオロキノロン系薬にも同時に耐性を示す菌が存在し,注意が必要である.文献1)川上小夜子,斧康雄,山本美和ほか:帝京大学医学部附属病院におけるcefotaxime耐性の????????????????と??????????????????????の検出状況─第1報─.感染症誌73(11):1110-1115,19992)川上小夜子,斧康雄,山本美和ほか:当院で分離された????????????????と?????????????????????の産生するExtended-Spectrumb-Lactamase(ESBL)に関する基礎的研究─第2報─.感染症誌74(1):24-29,20003)荒川宜親:ESBLs産生菌.感染と抗菌薬3(Suppl):37-46,2000次頁へ続く(「検査室から眼科医へ」,「眼科医から検査室へ」)(90)表2ESBLsの判定基準(CLSI:M100-S16)微量液体希釈法MIC(?g/m?)ディスク法阻止円直径(mm)スクリーニング試験スクリーニング試験下記のいずれかの薬剤で判定大腸菌クレブシエラ属プロテウス・ミラビリス下記のいずれかの薬剤で判定大腸菌クレブシエラ属プロテウス・ミラビリスセフポドキシム(CPDX)≧8≧2CPDX(10?g含有)≦17≦22セフタジジム(CAZ)≧2≧2CAZ(30?g含有)≦22≦22セフォタキシム(CTX)≧2≧2CTX(30?g含有)≦27≦27アズトレオナム(AZT)≧2AZT(30?g含有)≦27セフトリアクソン(CTRX)≧2CTRX(30?g含有)≦25確認試験CAZまたはCTXのMICが,クラブラン酸の添加で3管以上下がったらESBLsと判定確認試験CAZまたはCTXの阻止円直径が,クラブラン酸の添加で5mm以上拡大したらESBLsと判定ESBLs産生株は,「臨床的にはペニシリン系薬,セファロスポリン系薬およびAZTに耐性」として報告する.MIC:最小発育阻止濃度.表3b-ラクタマーゼの種類と治療効果が期待できる抗菌薬ESBLsAmpCMBL大腸菌、クレブシエラ属、プロテウス・ミラビリスエンテロバクター属、セラチア属、サイトロバクター属過剰産生腸内細菌科産生腸内細菌科薬剤グループ代表薬剤略語ペニシリン系ABPCRRRR第一世代セファロスポリン系CEZRRRR第二世代セファロスポリン系CTMRRRR第三世代セファロスポリン系CTXRRRR第四世代セファロスポリン系CFPMRRSRセファマイシン系CMZSRRRオキサセフェム系LMOXSRRRモノバクタム系AZTRRRSカルバペネム系IPMSSSRb-ラクタマーゼ阻害薬クラブラン酸AMPC/CVASRRRアミノ配糖体系*AMKSSSSフルオロキノロン系*LVFXSSSSS:susceptible感性,R:resistant耐性.*:薬剤感受性試験結果がSの場合には使用可能.ABPC:アンピシリン,CEZ:セファゾリン,CTM:セフォチアム,CTX:セフォタキシム,CFPM:セフェピム,CMZ:セフメタゾール,LMOX:フロモキセフ,AZT:アズトレオナム,IPM:イミペネム,AMPC/CVA:アモキキシリン/クラブラン酸,AMK:アミカシン,LVFX:レボフロキサシン.(文献3より改変)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???(91)◎検査室から眼科医へ◎眼科領域の市中感染症では,大腸菌やクレブシエラ属などが起炎菌となる頻度は低く,ESBLsなどの耐性菌に遭遇することはまれです.しかし,ICU(集中治療室)に搬入された顔面外傷患者,衛生観念の低い痴呆患者や高齢者および小児などでは,術後の院内感染起炎菌として重要であり,創傷管理に注意が必要です.特に尿や喀痰からESBLsなどの耐性菌が検出されている患者では,患者自身が尿路や口に触れた手で創部に触れて感染する可能性もあるため,患者および医療従事者に接触感染予防対策を徹底させる必要があります.◎眼科医から検査室へ◎眼科ではフルオロキノロン系が主たる局所点眼薬として使用されているため,ESBLsについてはあまり大きな問題となっていませんが,それだけにESBLsに関する知識がわれわれ眼科医にあまりない点は問題です.しかし,大腸菌やクレブシエラは転移性眼内炎の起炎菌として知られていますし,ESBLsが報告されているその他の菌種に角膜炎の起炎菌として問題となっているセラチアや緑膿菌が含まれていることや,近年まれにフルオロキノロン系同時耐性の菌が出てきていることから,われわれ眼科医も注意をしないといけないと感じました.また,眼科手術に伴う術後眼内炎の治療の基本がバンコマイシンとセフタジジムを硝子体内に注射することになっており,これではESBLsには効果がないことになります.眼内炎の場合は,転移性にしろ術後にしろ,対応が遅れると重篤な視力障害を起こしますので,検査室のほうでも検査結果をすみやかに眼科医に知らせてください.鳥取大学医学部視覚病態学井上幸次☆☆☆年間予約購読ご案内眼における現在から未来への情報を提供!あたらしい眼科2007Vol.24月刊/毎月30日発行A4変形判総140頁定価/通常号2,415円(本体2,300円+税)(送料140円)増刊号6,300円(本体6,000円+税)(送料204円)年間予約購読料32,382円(増刊1冊含13冊)(本体30,840円+税)(送料弊社負担)【特集】毎号特集テーマと編集者を定め,基本的事項と境界領域についての解説記事を掲載.【原著】眼科の未来を切り開く原著論文を医学・薬学・理学・工学など多方面から募って掲載.【連載】セミナー(写真・コンタクトレンズ・眼内レンズ・屈折矯正手術・緑内障・光線力学的療法・眼感染症)新しい治療と検査/眼科医のための先端医療他【その他】トピックス・ニュース他■毎号の構成■株式会社メディカル葵出版〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544お申込方法:おとりつけの書店,また,その便宜のない場合は直接弊社あてご注文ください.http://www.medical-aoi.co.jp

光線力学的療法(PDT):治療の実際:Occult with no classic CNV

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLSoccultwithnoclassicCNV(脈絡膜新生血管)は,フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)上classic成分を含まないocculttypeのCNVで,造影早期から顆粒状過蛍光を認め,造影後期には緩慢な蛍光漏出を認める線維血管性色素上皮?離(?brovascularpigmentepi-thelialdetachment:FVPED)と,造影早期には蛍光漏出源は不明で網膜色素上皮(RPE)レベルの点状過蛍光がみられるが,造影後期の蛍光漏出は軽度である起源不明の後期蛍光漏出(late-phaseleakageofundeter-minedsource)の2つのタイプがある.FAにてCNVの境界は不明瞭なことが多い.欧米における光線力学的療法(PDT)の治験で,theVertepor?ninPhotodynamicTherapy(VIP)試験はおもにoccultCNVに対するPDTの効果を調査するプラセボを対照とした多施設二重盲検比較試験であるが,病変部面積が4MPS(MacularPhotocoagulationStudy)discareasより大きく,矯正視力がSnellen視力にて20/50以上の症例に対しては有意な効果を認めていない1,2).また,24カ月の経過中8%がpredominantlyclassicCNV,46%がminimallyclassicCNVに移行し,これらのclassic成分を有する症例に対してはPDTを行うことを考慮しなければならないとされている3).一方,日本における眼科PDT研究会の新ガイドライン作成を目的とした実態調査の速報値によると,occultwithnoclassicCNVについてもPDTが有効であり,視力改善率,蛍光漏出停止率,平均治療回数は病変タイプによる差異がなかったとされている.これは,occultwithnoclassicCNVの所見を示す症例が日本人では欧米人と比較しポリープ状脈絡膜血管症(PCV)が多く,PCVが狭義の加齢黄斑変性(AMD)よりもPDTの効果を得られやすいことが関連していると考えられる.ここでは,occultwithnoclassicCNVの症例にPDTを施行し,治療後1年経過した時点で治療効果があった例,悪化した例について示す.●治療効果があった例(図1)〔症例1〕70歳,男性,右眼PCVの症例で,術前矯正視力(0.4),黄斑部から上方にかけてRPEの萎縮病巣,網膜色素上皮?離(PED)と網膜下出血を認め(図1a),FAでは境界不明瞭なoccultCNVと造影剤の(87)白神千恵子香川大学医学部眼科光線力学的療法(PDT)セミナー監修/石橋達朗湯沢美都子9.治療の実際:OccultwithnoclassicCNV日本人は欧米人よりoccultwithnoclassicCNVに対して光線力学的療法(PDT)が有効である症例が多い.これは,日本人にポリープ状脈絡膜血管症が多いことに関連すると考えられる.しかし,PDTに抵抗を示す症例もあり,他の治療法を考慮しなければならない場合もある.提供aebcdhgf図1治療効果があった例(70歳,男性)a:術前カラー眼底写真,b:術前フルオレセイン蛍光眼底造影写真,c:術前インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)造影早期の写真(長矢印:ポリープ状病巣,短矢印:異常血管網),d:術前光干渉断層検査(OCT),e:術後2カ月目カラー眼底写真(矢頭:網膜色素上皮?離),f:術後1年目カラー眼底写真,g:術後1年目IA造影早期の写真,h:術後1年目OCT.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007poolingによるPEDの過蛍光所見(図1b)を認めた.インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)にて黄斑部にポリープ状病巣とその周囲に異常血管網を認めた(図1c).病変部の最大直径(GLD)は4,107?mで,FAの所見をもとに照射径5,100?mでPDTを施行した.術後2カ月目には網膜下出血と新しい小型のPEDが数カ所に発生した(図1e)が,そのまま経過をみていたところ,出血,PEDともに自然消退し,術後1年目には滲出性病変が完全に消失してIAでもポリープ状病巣が消失していた(図1f,g,h).1年後,矯正視力は(0.7)と改善しており,その後2年の経過にて再発を認めていない.●悪化した例(図2)〔症例2〕73歳,男性,左眼狭義のAMDの症例で,術前矯正視力(0.2),黄斑部に網膜下出血,辺縁不明瞭なRPE下の新生血管膜と,中心窩下に少量の漿液性網膜?離(SRD)を認めた(図2a,d).FAはoccultCNV(88)の所見で(図2b),IAの造影早期ではCNVの明瞭な血管網がみられた(図1c).GLDは3,530?m,照射径4,600?mでPDTを施行したが滲出が持続したため,その後3カ月おきにさらに3回の追加治療を施行した.GLDは2回目3,122?m,3回目2,628?m,4回目4,904?mと,初回治療後1年目には術前よりもGLDが大きくなり,検眼鏡所見(図2e),FA所見(図2f)で認められるCNVの範囲は拡大し,IAの造影早期のCNVの血管網がより明瞭に広範囲に発育している所見がみられた(図2g).光干渉断層検査(OCT)では術前よりもPED,SRDが増強し(図2h),矯正視力は(0.1)に低下していた.OccultwithnoclassicCNVの症例に,PDTが著効を示し初回治療のみで軽快した症例と,数回の再治療をしたにもかかわらず病変部面積が拡大し,滲出性病変が悪化した症例を示した.症例1のように初回治療後滲出が再燃しても,しばらく経過をみることによって自然軽快し,再治療が不要となる症例もある.しかし,PDT後完全に滲出が消失し,しばらく再発しない症例でも1年以上経過して急に滲出が再燃することがあるので継続的なフォローアップが必要である.また,症例2のように,数回PDTを施行したにもかかわらずFAにて蛍光漏出が停止せず,PDTに抵抗を示す症例がある.このような症例に対しては,トリアムシノロンや抗VEGF(vascularendothelialgrowthfac-tor)抗体などの薬剤を用いた他の治療法や,薬剤とPDTの併用療法なども考慮したほうがよいと考える.文献1)Vertepor?nRoundtableParticipants:Guidelinesforusingvertepor?n(Visudyne)inphotodynamictherapyforcho-roidalneovascularizationduetoage-relatedmaculardegenerationandothercauses:update.??????25:119-134,20052)Vertepor?ninPhotodynamicTherapyStudyGroup:Vertepor?ntherapyofsubfovealchoroidalneovasculariza-tioninage-relatedmaculardegeneration:two-yearresultsofarandomizedclinicaltrialincludinglesionswithoccultwithnoclassicchoroidalneovascularization-verte-por?ninphotodynamictherapyreport2.????????????????131:541-560,20013)PieramiciDJ,BresslerSB,KoesterJMetal:Occultwithnoclassicsubfovealchoroidalneovascularlesionsinage-relatedmaculardegeneration:clinicallyrelevantnaturalhistoryinformationinlargerlesionswithgoodvisionfromtheVertepor?ninPhotodynamicTherapy(VIP)Trial:VIPReportNo.4.???????????????124:660-664,2006図2悪化した例(73歳,男性)a:術前カラー眼底写真,b:術前フルオレセイン蛍光眼底造影写真(FA),c:術前インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)造影早期の写真(矢印:CNV),d:術前光干渉断層検査(OCT),e:術後1年目カラー眼底写真,f:術後1年目FA写真,g:術後1年目IA造影早期の写真(矢印:CNV),h:術後1年目OCT.agfedcbh

緑内障:近視と縦長乳頭

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS●近視と乳頭形態近視は緑内障の危険因子で,開放隅角緑内障に近視眼を占める割合が多い1).また近視眼の乳頭では縦長乳頭が多く,乳頭形態の異常性は欧米で注目されている2).緑内障の視神経障害にはさまざまなパターンがあり,乳頭形態で分類することにより緑内障の臨床的特徴も異なる.近視眼の乳頭の特徴として,縦長乳頭,乳頭周囲にコーヌスを伴う,乳頭サイズが小さい,陥凹の浅いものが多い,といわれている.Nicoleraらは緑内障の乳頭形態を4つに分類し,近視型緑内障様乳頭(myopicglau-comatousdiscs)として,耳側コーヌスと緑内障性視神経障害を伴う傾斜した乳頭と定義している3).図1に種々の縦長乳頭の写真を示す.ここではHeidelbergretinatomograph(HRT)を用いた縦長乳頭の形状解析について述べる.近視の緑内障眼1,000眼を,HRTを用いて視神経乳頭の横径/縦径比(XY)で分類してみると,近視が強くなるほど縦長乳頭の比率が高くなる.-2D未満では,XYが0.8未満の縦長乳頭は38.3%であったが,-4D以上では,縦長乳頭の割合は70%を超えている(図2).近視の度数が強くなるほど,縦長乳頭の割合が多くな(85)●連載?緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄84.近視と縦長乳頭井上立州井上洋一オリンピア眼科病院近視は日本をはじめ,東洋人に頻度が高く,乳頭形態の異常性は欧米で注目されている.また,近視眼の乳頭には縦長乳頭が多く,近視の度が強いほど縦長乳頭の割合が増す.近視眼の緑内障は中心視野障害が多く,早期から視機能障害がみられる.図1種々の縦長乳頭a:上方にnotching,神経線維層欠損(NFLD).b:下方にNFLDと乳頭出血.c:LDSが目立ち,上下にNFLD.d:大きな乳頭で全周にPPA.c:小さな乳頭で下方にNFLD.f:下方に幅広いNFLD.g:半月状の乳頭で,PPAを合わせるとほぼ正円.h:耳側にPPAが広がり,耳側のリムがない.i:強度近視眼で,傾斜が強く,PPAが大きい.abcdefghi———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007り,近視の度数と縦長乳頭に関連がみられた.年齢および屈折を一致させた近視眼の正常者(C群)と緑内障患者(G群)を比較した.C群163例239眼,G群182例239眼を,HRTを用いて視神経乳頭のXY,discarea(DA),cuparea(CA),rimarea(RA),peripapillarychorioretinalatrophy(PPA)面積について検討した.XYの分布を図3に示す.正常眼では0.8~0.9にピークがみられるが,緑内障眼では0.7~0.8にピークがあり,0.8未満が,正常群では37.2%,緑内障群では77.4%と縦長乳頭が多くみられた.HRTのパラメータでは,XYはC群で有意に大きく,DA,RAはC群で大きく,CA,PPAはG群で有意に大きかった(表1).緑内障眼では,乳頭が縦長で,乳頭面積は小さく,PPAが大きかった.●縦長乳頭の視野障害縦長乳頭の視野障害のパターンは局所的なものが多く,特に中心障害型が多い4,5).中心障害型では,視力への影響も危惧され,視野検査も中心5?以内に検査点が多いOctopusM2プログラムが有用である.Hum-phrey視野計では,10-2プログラムが中心10?以内の詳細な検査ができる.縦長乳頭では中心障害型が多いため,早期から視機能に対する影響があるので,経過観察を重ね,治療を積極的に行う必要がある.文献1)MitchellP,HourihanF,SandbachJetal:Therelation-shipbetweenglaucomaandmyopia:theBlueMountainsEyeStudy.?????????????106:2010-2015,19992)Cio?GA,PalmbergP,QuigleyHA:Roundtable“Mymostconfusingopticnervehead.”:Glaucomainthenewmillennium.p133-147,KuglerPub.,TheNetherlands,20013)NicoleraMT,DranceSM:Variousglaucomatousopticnerveappearances.Clinicalcorrelations.?????????????103:640-649,19964)AraieM,AraiM,KosekiNetal:In?uenceofmyopicrefractiononvisual?elddefectsinnormaltensionandprimaryopenangleglaucoma.????????????????39:60-64,19955)MayamaC,SuzukiY,AraieMetal:Myopiaandadvancedstageopen-angleglaucoma.?????????????109:2072-2077,2002(86)☆☆☆表1正常眼(C群)と緑内障眼(G群)のHRTパラメータの比較C群G群p値XY0.82±0.110.74±0.09<0.001Discarea(mm2)2.14±0.581.99±0.530.0073Cuparea(mm2)0.67±0.500.92±0.51<0.001Rimarea(mm2)1.47±0.451.07±0.39<0.001PPA面積(mm2)1.22±0.701.70±0.91<0.001図3近視乳頭のXYの分布140120100806040200<0.50.5~0.60.6~0.70.7~0.80.8~0.90.9≦眼数:正常眼:緑内障眼X/Y100806040200≦-2-2~-4-4~-6-6~-8-8~-10-10<屈折(D)縦長乳頭の比率(%)38.353.874.373.977.081.8図2緑内障1,000眼の縦長乳頭の割合

屈折矯正手術:老視治療LASIKの実際

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS加齢に伴う調節力の減少により,完全矯正した状態での近方視に困難を生じた状態が老視であるが,エキシマレーザーによる角膜のmultifocalablationはこれに対して偽調節により近方視の改善を図るものである.Mulitfocalablationはlaser???????keratomileusis(LASIK)あるいはsurfaceablationにおいて角膜に多焦点性をもたせるようなレーザー照射を行う方法であるが,現在主流なのは角膜を同心円状に削り,多焦点性をもたせる方法であり,周辺をフラットにして中央をスティープにする方法と,周辺の屈折力を強くする方法が提唱されている.これらの概念自体はかなり前より存在するが,実際のプロファイリングのむずかしさ,またより精密なablationが必要となるが,エキシマレーザー装置の精度が不十分であったこともあり臨床の場で普及する段階にはなかなか至らなかった.しかし,近年のプロファイリングの開発やエキシマレーザー装置においては眼追従装置の進歩により,良好な成績が得られるようになった.筆者らはAMO社製のエキシマレーザーVISXS4による老視矯正を経験し,良好な結果を得ているので紹介する.●CustomVueTMPresbyopicAblationAMO社製のエキシマレーザーによる老視矯正は波面解析を用いたCustomVueTMというプロファイリングにより行われ,周辺をフラットにして中央をスティープにする方法であり,遠視または遠視性乱視の矯正と一緒にのみ使用できる(図1).残念ながら近視または近視性乱視との組み合わせはできない.このプロファイリングによってもたらされる多焦点性は+1.0Dであり,矯正の最大値は球面度数が+4.5D,円柱度数が+1.5Dで,等価球面度数で+4.5Dまでである.多焦点性を有効に使えるための理想的な瞳孔径は,最小で5mm,最大で7mmとされている.実際のablationには,transitionzoneが必要となるので,レーザー照射面の直径は9.0mm,フラップの直径は9.5mmが必要となる.以上は理論上の話であり,実際に良い候補となる患者は,等価球面度数で+2.0D程度の遠視または遠視性乱視,年齢は50歳以上で遠方,近方とも眼鏡に依存している人となる.また,最終的な屈折の狙いは,正視ではなく-0.25Dとするのが理想であり,照射の際には虹彩紋理による眼追従,irisregistration(IR)を使用するのがよいとされている.以下に,筆者らが行った遠視および老視矯正例のなかから1例を供覧する(図2,3).〔症例〕60歳,女性.術前視力は,遠方VD=0.2(1.2×+2.5Dcyl-0.25DAx120?)VS=0.4(1.5×+1.75Dcyl-0.5DAx40?)近方NVD=0.15(1.0×+5.0Dcyl-0.25DAx120?)(83)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載?監修=木下茂大橋裕一坪田一男85.老視治療LASIKの実際中村邦彦たなし中村眼科クリニック老視に対する手術的アプローチの一つとしてエキシマレーザーによる多焦点照射が,以前より提唱されてきた.これまでさまざまな照射パターンが報告されてきたが,AMO社の同心円状に角膜を多焦点にする方法の実際の結果を紹介する.FarNear図1老視LASIK照射パターン中央が近用ゾーン,外側が遠用ゾーンとなっている.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007NVS=0.15(1.0×+4.5Dcyl-0.5DAx40?)暗室瞳孔径は両眼とも5.75mm.Opticalzone6.0mm,ablationzone9.0mmで,Cus-tomVueTM,IRにて眼球追従のうえ,老視矯正LASIKを行った.術後1週間の視力は,遠方VD=1.0(1.2×cyl-0.5DAx65?)VS=1.0(1.2×cyl-0.5DAx170?)近方NVD=0.6(1.0×+1.5Dcyl-0.5DAx65?)NVS=0.7(1.0×+1.5Dcyl-0.5DAx170?)術後1カ月の視力は,遠方VD=1.0(1.2×cyl-0.5DAx65?)VS=1.2(矯正不能)近方NVD=0.4(1.0×+2.0Dcyl-0.25DAx90?)NVS=0.4(1.0×+2.0D)であった.遠方は眼鏡不要,近方も文庫本や辞書などの細かい文字でなければ日常生活では,眼鏡は不要,新聞は読めるとのことであった.また,角膜に多焦点性をもたせるということは同時に角膜全体では収差を増加させることをも意味するので,コントラスト感度の変化などが懸念されるが,コントラスト視力を測ってみたところ,術前は15%の中間コントラストで0.75,2.5%の低コントラストでは0.5で術後も同様で低下はみられなかった.本症例では,それなりに満足感が得られているが,加入度数が+1D程度なのであまりに期待度が高いと不満がでるかと思われる.多焦点照射のプロファイルもまだ確立したものではないと思われ,今後のさらなる展開が期待される.(84)ODOS図3術後予測屈折度の分布中央部で+1D加入,その外側は正視狙いとなっている.図2Ablationの深度の分布中央部はスティープ,周辺部がフラットになるようにablationされる.ODOS☆☆☆

眼内レンズ:親水性アクリルレンズの混濁

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS親水性アクリルレンズは,支持部がpolymethyl-metacrylate(PMMA),光学部が2-hydroxyeth-ylmethacrylate(HEMA)と6-hydroxyhexylmethacry-late(HoHEXMA)の共重合体からなる親水性アクリル素材の眼内レンズであり,含水率は18%である.親水性アクリルレンズはハイドロジェルレンズともよばれるが,ハイドロジェルとは,水分を吸収すると膨張し,水分を失うと虚脱した状態に戻るポリマーを意味する.親水性アクリルレンズは,高い生体適合性が得られることが期待されていた1)が,2000年以降,眼内で混濁を呈する場合があることが報告され2),わが国でも2003年より親水性アクリルレンズの混濁例の報告が相ついだ(図1)3,4).この混濁は,リン酸カルシウムの沈着(図2)と考えられ,沈着の機序については,糖尿病や虚血性心疾患などの患者側因子および,光学部表面に付着した容器由来の低分子量シリコーンに房水中の脂肪酸が結合,その脂肪酸がリン酸カルシウムを凝集することによってひき起こされる可能性が高いとされた(図3).またWernerらも,数種ある親水性アクリルレンズの混濁はリン酸カルシウムの沈着によって生じ,全例その表面にシリコーン化合物がみられたと報告した5).親水性アクリルレンズの混濁は新容器変更後(2001年11月),発生はない.しかし親水性アクリルレンズの共通素材であるHEMAは,ウサギ筋肉内移植の実験(81)小早川信一郎東邦大学医学部第一眼科眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎250.親水性アクリルレンズの混濁親水性アクリルレンズの混濁について述べた.混濁はリン酸カルシウムの沈着であり,親水性アクリルレンズの共通素材である2-hydroxyethylmethacrylate(HEMA)に起因するものと推測される.親水性アクリルレンズ挿入例は長期にわたる経過観察が必要である.図1白濁した親水性アクリルレンズ図2混濁した親水性アクリルレンズ光学部表面の電顕写真(1,000倍)リン酸カルシウムの沈着による細かい凹凸が見られる.図3親水性アクリルレンズにおけるカルシウム沈着の模式図リン酸カルシウム親水性基脂肪酸疎水性基疎水性シリコーン親水性アクリルレンズ———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(00)において疎水性レンズ(疎水性アクリル,シリコーン,PMMA)と比較し強いカルシウム沈着をきたしたとの報告もあり6),親水性アクリルレンズ挿入例は長期にわたる経過観察が必要であることを強調したい.親水性アクリルレンズの混濁は,多くは術後1~2年で出現する.混濁の初期はごく軽度であると見落としやすいが,眼底の視認性が不明瞭となる中等度以上の混濁では細隙灯顕微鏡検査にて容易に観察され(図4),患者自身が強く霧視感を訴える.一方,混濁の程度が強くても視力は良好に保たれる症例も多い.親水性アクリルレンズ挿入例で,霧視感があり眼底の視認性が低下し,レンズの混濁が認められたら,速やかに摘出および交換術を行う.レンズの摘出は,6mmの切開創を作製するか,可能ならば半切して摘出する.光学部と?の癒着は27ゲージ針などの先端で?がした後,粘弾性物質を注入することで解除される.しかし,ときに支持部が?と強固に癒着しており,?間より引き抜けないことがある.支持部を?間より引き抜く際に?の全体移動がみられたなら,速やかに支持部と光学部を切断して光学部のみを摘出し,支持部を残すことも考慮する.Gashauらは5年間のハイドロジェルレンズ(SC60B-OUV,シングルピース)52眼の治療成績では,12眼(23.1%)にZinn小帯断裂および後?破裂,4眼(7.7%)に?と眼内レンズの全摘出がみられたと報告している6).筆者もPMMA支持部の強固な癒着のため,下半周のZinn小帯断裂をきたした例を経験している.混濁の強い視力良好な症例の手術適応については慎重な対応が望まれる.文献1)SchauersbergerJ,KrugerA,AbelaCetal:Courseofpostoperativein?ammationafterimplantationof4typesoffoldableintraocularlenses.???????????????????????25:1116-1120,19992)WernerL,AppleDJ,Escobar-GomezMetal:Postopera-tivedepositionofcalciumonthesurfacesofahydrogelintraocularlens.?????????????107:2179-2185,20003)小早川信一郎,大井真愛,丸山貴大ほか:白色混濁を呈したハイドロジェル眼内レンズ.眼科手術16:419-426,20034)永本敏之,川真田悦子:摘出交換を要したハイドロビューTM眼内レンズ混濁.日眼会誌109:126-133,20055)WernerL,HunterB,StevensSetal:Roleofsiliconecon-taminationoncalci?cationofhydrophilicacrylicintraocu-larlenses.???????????????141:35-43,20066)BuchenSY,CunananCM,GwonAetal:Assessingintra-ocularlenscalci?cationinananimalmodel.???????????????????????27:1473-1484,20017)GashauAG,AnandA,ChawdharyS:Hydrophilicacrylicintraocularlensexchange:Five-yearexperience.????????????????????????32:1340-1344,2006図4細隙灯顕微鏡で観察される親水性アクリルレンズの混濁

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ装用上の点眼薬(3)

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———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???1)臨床的には,点眼の差し心地や眼障害の有無などをみる,2)有効成分や防腐剤のSCLへの吸着,放出,沈着を測定する,3)pHや浸透圧によるSCLの変型などを測定するなどである.抗アレルギー薬は,各薬剤それぞれ差し心地に違いがある.しみる,ベタベタする,瞼がだるくなる,皮膚炎を起こしやすいなどの特徴がある.処方する際には,どのような差し心地であるかを説明しておくとよい.●副作用が予想される点眼薬副作用が予想される点眼薬とは,裸眼時では副作用はもちろん出ないが,SCLに薬剤が吸着したために起こるドラッグデリバリーシステムによる薬剤の濃縮および効果の増大により副作用が出る点眼薬である.これは,薬剤のSCLへの吸着,放出,沈着を確認しなければならない1,2).筆者は,緑内障治療薬すべてにおいてSCLの上からは点眼させていない.また,ステロイド点眼薬も注意すべきである.●ジェネリック医薬品最近,「ジェネリック医薬品を希望します」というカードを持って受診した患者がいた.小口が,ヒアルロン酸ナトリウムの先発医薬品と後発医薬品について述べ0910-1810/07/\100/頁/JCLS●装用中に使用できる点眼薬ほとんどの点眼薬の注意書には,ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用上からの点眼はしないように書かれている.書かれていないのは,ヒアレイン?ミニ点眼液0.1%,ヒアレイン?ミニ点眼液0.3%,ソフトサンティア,使い捨てユニットドースの人工涙液タイプの点眼薬など少数しかない.いわゆる使い捨てSCL(ディスポーザブルSCLと頻回交換SCL)であれば,レンズに点眼薬が付着しても沈着量は少ないと考えられ,多くの眼科専門医は,使い捨てSCLの上からの一部の点眼薬の点眼を許可している場合が多い.製薬会社の立場としては,SCLとの適合性を確認していないため,ディスポーザブルSCLに使用できるとは書けない.数多くのSCLがあり,すべてを対象に適合試験を行えないからと想像する.したがって,医師の裁量で使用するしかない.医師への情報は,論文や学会発表などであり,?元1),小玉ら2)などの論文がある.眼科医はそれらの知識と臨床での経験で患者に点眼の指導をすることになる.筆者も抗アレルギー薬の頻回交換SCLの上からの点眼についての論文を書いている3)が,点眼の可否の判定は,点眼薬のSCLと眼に対する影響をみなければならない.(79)渡邉潔ワタナベ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS276.コンタクトレンズ装用上の点眼薬(3)表1先発医薬品と後発医薬品の違い会社ABCD有効成分ヒアルロン酸ナトリウムヒアルロン酸ナトリウムヒアルロン酸ナトリウムヒアルロン酸ナトリウム添加物(防腐剤)塩化ナトリウム塩化カリウムe-アミノカプロン酸エデト酸ナトリウム塩化ベンザルコニウム塩化ナトリウム塩化カリウムホウ酸ホウ砂グルコン酸クロルヘキシジン塩化ナトリウムリン酸二水素カリウムリン酸水素ナトリウムエデト酸ナトリウムポリソルベート80塩化ベンベンゼトニウム塩化ナトリウムe-アミノカプロン酸ホウ酸ホウ砂エデト酸ナトリウムpH調整剤パラオキシ安息香酸メチルパラオキシ安息香酸プロピル(出典:各製品の添付文書より改変)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(00)ている4)が,後発医薬品は有効成分が同じでも添加物の種類が異なる(表1).たとえば,防腐剤である塩化ベンザルコニウムは,炭素の数が少ない構造式の含有率が多いほど副作用が少ないといわれている.もちろん,グルコン酸クロルヘキシジンを用いている後発医薬品もある.小口は,わが国の後発医薬品は添加剤が先発医薬品と異なり,しかもヒトでの臨床試験は行われていない点では,安全性は担保されていないとしている.したがって,どの点眼薬でもよいと考えてはいけないであろうし,レンズの上から点眼することも,もう一度考え直さなければならないのかもしれない.●シリコーンハイドロゲルレンズと点眼薬シリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)は,含水性ソフトレンズと区別すべきであると考える.SHCLと消毒液の相性があるといわれているが,点眼薬との相性もある可能性がある.しかし,消毒液の場合はSHCLが約6時間以上浸漬され,吸着量も多いが,点眼薬の場合は吸着する量は比較的少量と考える.今後,それについての論文も出てくるであろう.文献1)?元卓:治療用コンタクトレンズへの防腐剤の吸着.日コレ誌35:177-182,19932)小玉裕司,北浦幸一:ソフトコンタクトレンズ装用上における点眼使用の安全性について.日コレ誌42:9-14,20003)渡邉潔:頻回交換ソフトコンタクトレンズ装用者にみられるアレルギー性結膜炎に対する塩酸レボカバスチン点眼薬の臨床効果.日コレ誌47:54-57,20054)小口芳久:眼科医家のためのメモ─眼科領域に関する後発医薬品.眼科48:1044,2006

写真:円錐角膜に対するICRS(intra corneal ring segments)

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS(77)山本享宏南青山アイクリニック写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦277.円錐角膜に対するICRS(intracornealringsegments)ICRSリング挿入部縫合糸ICRS図2図1のシェーマ図4図3の症例の術後1カ月のトポグラフィー瞳孔領は扁平化しており,下方の急峻部は消失している.図3自験例(35歳,男性)の術前トポグラフィー下方に特徴的な急峻部を認める.図1角膜内に挿入されたICRS円錐角膜に対し,弱主経線方向に挿入されたICRS突出度に応じて,上下で異なるサイズのリングが選択されている.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(00)ICRS(intracornealringsegments)とは,中心角150?のポリメチルメタクリレート(PMMA)製リング状セグメントを瞳孔両側の周辺部角膜実質に挿入するものである(図1,2).これにより2つのセグメントが角膜を押し出し,角膜中央部をフラット化することが可能となる.現在2種類の角膜内リングがあり,それぞれIntacs?,Ferrararings?の商品名で知られている.後者はプリズム状であり,前者はより扁平でより角膜中央部から離れて挿入される.Intacs?は近視治療用として初めて1999年にアメリカ合衆国食品医薬品局(FDA)から承認を受けた.2004年7月にはFDAにより適用範囲が円錐角膜まで拡大され1),Ferrararings?の円錐角膜への適用は現在FDAの承認待ちである.ICRSの円錐角膜への応用を最初に提唱したのはColinら2)である.彼らは円錐角膜10例10眼に対し,ICRSを施行し,術後1年の経過観察では平均裸眼視力が0.1から0.4へ,平均矯正視力が0.4から0.6に改善したという.適応として筆者らは角膜移植の前段階として比較的進行した円錐角膜に対し,コンタクトレンズの装用が可能となるよう,角膜形状の改善を目的とする場合が多い.さらに円錐角膜の進行を予防する効果も期待されている3)(図3,4).現在の角膜移植は非常に安定した手術となったが,感染や拒絶反応などの避けられない合併症も存在するため,今回紹介したICRSは角膜強度の増強による進行予防,角膜中央部のフラット化によるコンタクトレンズ装用の容易化などの点で,角膜移植を選択する前に検討に値する術式であると考えられる.文献1)USFDA,NewHumanitarianDeviceApproval,20042)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkeratoco-nuswithintracornealrings.???????????????????????26:1117-1122,20003)HellstedtT,MakelaJ,UusitaloRetal:Treatingkerato-conuswithintacscornealringsegments.??????????????21:236-246,2005

総説:遺伝子変異解析におけるコツと注意点

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS2.DNA抽出3.プライマー合成4.PCR5.電気泳動6.PCR産物精製7.シーケンス反応・解析8.Validationstudy9.変異の意義についての検討・機能解析1.採血採血は抗凝固剤入りであれば真空採血管,注射器のどちらでもよく,抗凝固剤の種類も特に気にしなくてもよい.採血後はできるだけ速やかにつぎのDNA抽出に移ったほうがよいが,1~2日であれば冷蔵庫で保存することは可能である.得られるゲノムDNAの収量は以下のように見積もることができる.白血球の細胞密度を5,000個/??とすると1m?では5×106個となり,1細胞中のゲノムDNAは約6pgなので,1m?のゲノムDNAは30?gとなる.よって5m?もあれば十分すぎる量のゲノムDNAが得られることになる.小児などで採血が困難な場合,口腔粘膜から採取する方法がある.採取には綿棒でも良いし,産婦人科で使うサイトロジーブラシでも良い.それでも嫌という患者には裏技がある.口をゆすいだあとの水を採取して遠心すると細胞が採取でき,結構な量のゲノムDNAが採取できるのである.またDNAが少ない場合には鎖置換型ポリメラーゼのPhi29を利用したゲノム増幅法2)(アマシャム社からGenomiphiという名で販売されている)で増はじめに遺伝性疾患に関する遺伝子変異の同定は分子生物学の飛躍的進歩によって前世紀の終わりから今世紀初頭にかけピークを迎え,現在単一メンデル遺伝型の遺伝性疾患についてはかなりのものが出そろった状況にあるといえる.研究的視点では常に原因遺伝子の新規同定のみに注目が集まるが,臨床医としての視点からは,いかにしてその結果を臨床に結びつけるかに重きを置くべきであり,既報の遺伝子変異を調べることは患者にとっても,また臨床研究的にも大きな意義をもつ.角膜上皮・実質・内皮の遺伝性疾患についてもすでにさまざまな遺伝子変異が同定されており,これらの成果を臨床に還元することは,われわれ臨床眼科医にとってある意味責務であるといえる.本稿では遺伝子変異全般に関わる技術的な注意点について,できるだけ詳しく,また一般的なテキストには載っていないような私的経験に基づくコツについても記載した.これから遺伝子変異の解析を行おうとする大学院の先生方の参考になれば幸いである.I遺伝子変異解析に必要な機器と実験の流れ遺伝子変異解析を行うには最低限,遠心機,poly-merasechainreaction(PCR)マシン,シーケンサーが必要である.シーケンサーは高価なので持っていないという場合もあろうが,その場合は外注すれば1解析当たり1,000円程度でやってくれる.実験の大まかな流れは以下のごとくで,それぞれについて説明していく.1.採血(65)???*SatoshiKawasaki:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕川崎諭:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学あたらしい眼科24(6):759~769,2007?遺伝子変異解析におけるコツと注意点?????????????????????????????????????????????????川崎諭*総説———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007幅することも可能で,もちろん変異解析に使ってもなんら問題ない.2.DNA抽出DNA抽出は古典的には低張食塩水にて核ゲノムを含まない赤血球を溶血させた後,遠心して有核の白血球を集め,ProteinaseKでタンパク質を消化後,フェノールクロロホルム精製,エタノール沈殿にて抽出する.現在では簡便なキット(たとえばキアゲン社のDNAeasyなど)が数社より市販されているので,キットの手順書に従えば特に原理を知らなくとも抽出することは可能である.ただ血液から直接DNAを採取する一般的な市販キットで取った場合,収量は古典的な方法に比べるとかなり劣るのが普通である.筆者らの施設では,収量が欲しい場合には,低張食塩水にて溶血後に遠心して白血球だけを集め,それを市販キットの流れに乗せている.抽出後は濃度を測定して保存する.濃度測定はどの吸光度計でも良いが,NanodropTechnologies社のNano-dropという機械が微量サンプル(1??)でも測定可能なうえ希釈作業も要らないためきわめて便利である.保存は冷凍庫をお薦めする.特に長期保存には-20℃冷凍庫よりも-80℃冷凍庫が好ましい.4℃で保存することもあるが,これは長鎖DNAとしての解析を目的とする場合にfreezeandthawを避けるためで,PCRが目的なら冷凍庫保存で問題ない.どうしても4℃で保存したいならTris-EDTA(TE)バッファー中で保存して細菌のコンタミを防止するようにする.3.プライマー合成PCRの原理についての詳細は実験書を参照されたい.まずは目的の遺伝子を増幅するためにプライマーを作成する.プライマーは自分でデザインしても良いし,またすでに論文で配列が公開されているのならそれを参考にしても良い.ただ注意していただきたいのは,論文で公開されているプライマー配列にはかなりウソ(記載ミスと信じたいが)が混じっているということである.筆者もだまされたことが数回ある.論文のプライマー配列を採用するなら,少なくとも核酸データベースからダウンロードした配列と比較して〔比較するにはNCBIのBLASTサービスの一つペアワイズアラインメント(Aligntwosequences;http://www.ncbi.nlm.nih.gov/blast/bl2seq/wblast2.cgi)が便利である〕,その配列が正しいことを確認する必要がある.自分で作成する場合,一般的にはプライマー作成ソフト〔有料ソフトとしては有名なOligoやABI社のPrim-erExpress,日立ソフトのDNASISなど,またインターネットの無料サイトとしてはPrimer3(http://frodo.wi.mit.edu/cgi-bin/primer3/primer3_www.cgi)など〕を(66)図1?????遺伝子のゲノム情報をUCSCのGoldenpathで開いたところ遺伝子をクリックすると詳細情報のページが開き,ゲノム配列を得ることができる.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???利用することとなる.まずは解析対象遺伝子のゲノム配列を手に入れることから始めるが,インターネットに無料公開されているデータベースから配列をダウンロードする.サイトとしてはUCSC(カルフォルニア大学サンタクルズ校)で運営されているGoldenpath(http://genome.ucsc.edu/)が使いやすくお薦めである.GeneSymbol(遺伝子の統制語.たとえば?????など)や一般的な遺伝子名(たとえば????-????やkeratoepithelinなど)を入力すると遺伝子のゲノム構造や反復配列の有無などのさまざまな情報がグラフィカルに表示され(図1),遺伝子をクリックするとゲノム配列を得ることができる.その際エクソン,イントロンを分割して表示したり,コード領域を大文字として表示するように設定することもできるので活用したい.変異解析の場合には通常タンパク質コード領域を解析対象とするが,ゲノムDNAではタンパク質コード領域はイントロンにて複数の領域(エクソン)に分断されていることがほとんどであるので,各エクソンを増幅するようにイントロン内にデザインする.その場合,プライマーのすぐ下流からシーケンス解析することが困難なこと(未反応のダイが邪魔するため),エクソン・イントロン境界部の変異が時にスプライシングエラーを起こし疾患をきたすことがあることなどを考慮し,エクソン・イントロン境界部から50~100塩基ほどイントロン内部に作成したほうが良いことが多い(図2).シーケンス解析のクオリティにもよるが,エクソンが長い場合には1つのエクソンを2つの領域に分けて解析しなければならないこともある.これらを考慮すると,市販のプライマー作成ソフトやインターネットの無料ソフトを用いて自動でプライマー作成するのは時に困難であり,配列を片手にソフトに頼らず目で見て作成することも多い.最初のうちはこのようにして作成したプライマーが本当に動くのかと心配になるかもしれないが,PCRの理論から言えばたとえどのようなプライマー配列であっても適度な長さをはさんで向かい合うようにしてやれば増幅するはずなので(もちろん熱力学的に適切なプライマーのほうがPCRの成功率は高いが),ものは試しと思ってデザインしてみることをお薦めする.経験上,プライマー配列に極端な%GCの偏り(%GCが80%以上,あるいは20%以下など)などの問題がなければ,特にPCR条件の検討をしなくともうまくいくことが多い.今一つの注意点としては,ゲノムの特に非コード領域中には高度反復配列(LINE,SINEなど)というものがかなり存在しており,プライマーの配列がこれらと一致するか似ていると特異性が低くなってPCRが失敗する可能性が高いということがあげられる.そのためデザインしたプライマーがそれらと一致するかどうかを合成前に調べる必要がある.先のPrimer3では反復配列データベースを参照して作成することができ便利である.ソフトを用いずに作成した場合はNCBIのBlastサービスでAluデータベースを選んで検索すれば良い.また時にはタンパク質のコード領域に反復配列が存在することもある(アミノ酸の繰り返し構造をもつタンパク質など)が,この場合もうまくPCRがかからないことが多い.このような反復配列を見つけるには,それ自身の配列に対してペアワイズアラインメント(先のAligntwosequencesで)を行うと良い.反復配列がなければ斜めの1本線だけだが,反復配列がある場合には何本もの斜め線が認められる(図3).プライマーはシーケンス反応でも必要である.最も標準的なケースではPCRで使用したプライマーをそのままシーケンス反応でも使うことができる(図2A).ノイ(67)図2変異解析におけるプライマーデザインの実際A:変異解析における標準的なPCR・シーケンス兼用プライマー設計部位.四角はエキソン,細線はイントロンを示す.万全を期すのならエクソン・イントロン境界部から50~100塩基ほどイントロン内部に作成したほうが良い.B:シーケンス用のプライマー(点線矢印)をPCR用のプライマー(実線矢印)と別に設計するとシーケンスクオリティが向上することが多い.C:エキソンが長い場合,領域を分断してPCRを行いシーケンスする.またはD:PCRは1回でエキソン全体を増幅して,内部にシーケンス用のプライマーを設定する方法が取られる.ABCDPCR1PCR250~100bpPCR———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007ズレベルが高い場合は図2BのようにPCRのプライマーとシーケンスのプライマーを別々にすると改善することが多い.またシーケンスはせいぜい700塩基くらいしか正確に読むことができないので(機械のグレードとシーケンス反応に依存するが),エクソンが長い場合は前述したように1回のシーケンスで解析できない.その場合は図2Cのように領域を分断してPCR反応を行うか,図2DのようにPCRは1回で,内部にシーケンス用のプライマーを設定するかのどちらかで対応する.どちらが良いかは状況次第だが,簡便性を取るなら図2Dの方法,正確性を取るなら図2Cの方法を選択する.プライマーが設計できればプライマー合成を依頼する.以前は合成機を使って自分で作成していたらしいが,ベンダー間の過当競争もあいまってプライマーは格段に安くなった.現在では1塩基当たり50円くらいが相場であろうか.ベンダー間の品質差も以前ほど言われなくなったので,価格と納期の早さで決められたらよかろう.注文する際,納品形態(液体か粉末か,液体なら濃度はどれくらいか,精製はどうするかなど)を聞かれるが,通常は液体で濃度は100?M,精製は脱塩グレードとしたらよい.脱塩とはゲル濾過カラム(通常G50グレード)による粗精製を意味するが,経験上PCR,シーケンス反応のどちらもこのグレードで問題となることはない.どうしても気になる人は逆相クロマト精製をすれば良い.これならHPLCやPAGE精製が7,000円ほど余計にかかるのに対してプラス1,000円程度でやってくれる.プライマーが来れば濃度調整をして-20℃冷凍庫に保存し,残りは-80℃冷凍庫に保存する.濃度調整は10?M程度が標準である.PCRだけを目的とするなら向かい合うペアをあらかじめ混合しておいても差し支えないが,変異解析の場合はPCRのあとシーケンス反応をするので,個別に調整することとなろう.4.PCRプライマーが調整できればいよいよPCRである.PCRと一言で言っても星の数ほど(というのは大袈裟だが)条件がある.一般的には酵素の種類と濃度,温度条件,プライマー濃度,マグネシウム濃度,鋳型(サンプルのこと)濃度,添加物の有無などとなろう.これらは細かいことのようにみえるが,実は変異解析において最も重要なのはいかにして特異的なPCRを成功させるかなので,ここを素通りするわけにはいかない.まず酵素であるが,ご存じのとおりPCRに用いるDNAポリメラーゼは好熱菌由来のものである.これにはエラーを訂正する校正活性(proof-reading活性;3¢-5¢exonuclease活性のこと)を持つものと持たないものがある.ポリメラーゼは鋳型DNAの配列を読み取ってそれに対して相補的な塩基を伸ばしていくのだが,間違った塩基を取り込むとそこで止まってしまうことがある.校正活性は間違った塩基を取り除いてポリメラーゼが再び前に進むことができるようにする実にありがたい機能なのである.しかし校正活性が高い酵素のほうが良いかというと必ずしもそうではない.この活性が高すぎるとポリメラーゼが前に進む効率(processibityという)が低下してむしろ増幅効率が低下してしまうのである(前向きより後ろ向きの力が強すぎるわけである).そこで試薬メーカーが考え出したのがブレンド酵素である.すなわち間違いは多いが前に進む力だけは強い???Ⅰ型酵素と,前に進む力は弱いけど校正能力に優れたa型酵素をある割合で混ぜるのである.こうすると2つの酵素の長所が互いの弱点をうまく補い合って増幅効率は著しく改善する.現在ではありとあらゆるブレンド酵素が市販され,筆者らの施設でもさまざまなブレンド酵素を試してきた.別に日本人だからというわけではないが,お薦めはTAKARAの?????である.増幅効率は同等品中トップレベルで,特に条件検討を行わなくとも良い結果が得られることが多い.酵素の濃度は標準量で良いが,PCRのサイクル数が多くなる場合には1.5~2倍量程度入れておいても差し支えない.つぎに温度条件であるが,これも酵素についで重要な(68)図3BLASTのAligntwosequencesによるmRNAの内部リピートの検出Aケラチン12では斜めの1本線しかなく,内部リピートがないことがわかる.Bインボルクリンでは斜めの1本線の他,多数の短い斜め線が認められ,この領域に内部リピートが存在することがわかる.ここにプライマーを作成するとPCRはかからない可能性が高い.2AB1———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???因子である.標準的には94~95℃の熱変性を3~5分ほど最初に行った後,94℃30秒(熱変性),55℃30秒(アニーリング),72℃30~60秒(エクステンション)を25サイクルから35サイクル行い,最後に72℃のエクステンションを5~10分ほど行う.サイクル中のエクステンション時間は通常増幅するDNAの長さによって変えるようにするが,1分/1kbpが目安である.またアニーリング温度は55℃が標準だが,%GCが極端に高い場合や低い場合はTm値(meltingtemperature;二本鎖が一本鎖に分かれる温度)より5℃低く設定する.この標準条件のほか,筆者らはタッチダウン3)という温度条件をしばしば利用している.この温度条件では,最初の熱変性の後,94℃30秒,70℃30秒のサイクルを3サイクル行う.70℃ではアニーリングとエクステンションが同時に起こっている.つぎに94℃30秒,68℃30秒を3サイクル行い,ついで66℃,64℃,62℃と3サイクルごとに2℃ずつ下げていく.そのつぎは94℃30秒,60℃30秒,72℃30秒を3サイクル行う.これは温度が下がったためアニーリングとエクステンションを別々に行うという意味である.ついで94℃30秒,58℃30秒,72℃30秒を3サイクル行い,最後に94℃30秒,55℃30秒,72℃30秒を(筆者らはboostとよんでいる)25~35サイクル行った後,標準条件と同様に72℃のエクステンションを5~10分ほど行う.一見非常に複雑な温度条件にみえるが,要はアニーリング温度が高いほど特異的な増幅が起こるので,増幅の最初のほうで目的の配列の存在比率を増やしておいて,増幅の後ろのほうでドカンと増やすという戦略である.少しずつ敵の陣地に侵入するアメフトにちなんでこの名がついている.特にゲノムDNAに対してPCRを行う場合には効果的であることが多い(経験上80%程度で改善する).プライマー濃度は最終濃度で0.2mMとするのが標準的であるが,1?Mまでは特に問題がないことが多い.基本的に濃度が高いほうが増幅産物の量も多くなる傾向がある.マグネシウム濃度は教科書的には1.5mMが標準であるが,筆者らは2?Mを採用している.1.5mMよりも低くなると増幅効率が極端に悪くなるが,高い分には問題があまりないように思う.高いマグネシウム濃度は塩基の取り込みエラーが誘発するため,わざと変異を起こさせる????????進化実験などで好んで使われる(error-pronePCRという).一見変異解析では良くなさそうに思われるが,変異解析ではPCR産物をクローニングせず直接シーケンスするため,ランダムな部位にエラーが生じても問題とはならない.鋳型は10??のPCR反応の場合,10ngを標準量としている.それより多少多くても問題はないが,一度濃度を間違えて300ng入れたことがあり,そのときは増幅されなかった.後日間違いに気づいて濃度を調整するとちゃんと増幅されたので,多分これくらいの量だと多すぎるのであろう.ヒトゲノムはハプロイド当たり3pgなので,10ngでも3,000コピーほどとなり,十分すぎるくらいの量となるのである.添加物であるが,添加物にはポリメラーゼの活性を阻害する抗体と,二本鎖DNAの間の結合(水素結合である)を弱めるDMSOとベタインがある.まず抗体であるが,実はポリメラーゼは比較的低温でもある程度の活性があり,また低温のときにはプライマーが非特異的に鋳型DNAに結合するため,特に4℃から94℃に上がる最初の温度変化のときに非特異的な伸長反応が起こってしまう.しかもたちの悪いことには,ここでできた非特異的産物は末端にプライマー配列を確実に含むため,以後のサイクルでも効率の良い鋳型となってしまう.すなわち多くの非特異的産物の種がこの最初の温度上昇のときに作られているのである.そこでこの間だけ酵素の活性を抑えると特異性が格段に改善する.これがいわゆるホットスタートPCRである.最も簡便には酵素抜きのPCR反応液を調製して,94℃になってから酵素を加えるだけでよい.また酵素ではなく,マグネシウムやプライマーの後入れでも同様の効果は得られる.初期の頃には熱で溶けるワックスをチューブ内に入れてPCR反応液を2相にして94℃になってから2相が混ざり合うようにしたりもした.現在では抗体でホットスタートを行うことがほとんどである.すなわち抗体はポリメラーゼに結合して活性を抑えているが,熱耐性ではないので94℃になると変性して酵素から離れ酵素活性が復活するという仕組みである.現在では多くのPCR酵素においてホットスタート品がラインアップされ,価格も標準品に比べやや高い程度なので,最初からホットスタート酵素を買うことを強くお薦めする.TAKARAばかりをひいきするわけではないが??????HS(HSとはホットスタートの意味)がお薦めである.もう一つの添加物であるDMSOは分極性の高い分子で,水素結合を壊して二本鎖DNAの結合力を弱める.そのためプライマーの%GCが高い場合や,増幅産物の(69)———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007%GCが高いときに添加すると,Tm(meltingtempera-ture)値が下がってPCRが格段にかかりやすくなる.最終濃度で5%から10%くらいで使用する.%GCが低い場合には逆効果となることがあるので注意されたい.ベタインもほぼ同様の機序で%GCが高い場合のPCRを改善する.最後に機械とPCRチューブについて述べてみたい.PCRは温度変化によって反応を進めているので,この温度変化が確実にPCR反応液に伝わっているかどうかがきわめて重要な因子となる.意外と知られていないことだが,PCRの増幅効率はチューブごとにかなりばらついている.これはPCRマシンとPCRチューブの接点をイメージしてもらうとわかりやすい.いくら世界に名だたる工業国の日本でもプラスティック製品を寸分の狂いもなくつくるのは至難の業である.それゆえチューブごとにPCRマシンとの接触状態がある程度異なることは容易に想像できる.また機械とチューブの間にホコリなどの異物が挟まっていることもある.ほんの些細なことだが,それらは熱伝導の違いとなり,結果としてチューブごとの増幅効率を大きくばらつかせる要因となる.以前PCRがかからなくてどうしたことかとPCRマシンを見ると,小さな虫がメタルブロックの上にたくさん死んでいた(筆者の大学は川の側にあるので特に夏は虫が多い).この事件以後,使わないときはPCRマシンのカバーは必ず閉めるようにし,PCRをかける前にはカメラのブローワーでホコリを飛ばしている.機械そのものにも問題は潜んでいる.現在のPCRマシンのほとんどは96ウエルプレートに対応した96ウエルメタルブロックを採用している.ABI社の場合4枚のペルチエ素子でこの96ウエルメタルブロックの温度制御を行っているが,場所によって多少の温度差が生じることは想像に難くない.また一部のペルチエ素子が壊れたり性能が低下することもまれではない(ABI社のPCRにはセルフチェック機能がついているので,知らないうちに壊れていることはまずないが).これらもまたPCRの増幅効率をばらつかせる要因となる.筆者らは最初にPCRを行うとき,同じ組成の反応液を2~3ウエルに分けてPCRを行い,ウエルポジションによる問題でないことを必ず確認するようにしている.PCRは簡単な場合(増幅しやすいもの)は初心者でも問題なくできると思われるが,むずかしい場合(増幅しにくいもの)にはこれまで述べたような不確定要素に大きく振り回される.昨日はかかったのに今日はかからないなどということは日常茶飯事である.それゆえ,できることは全部やるという姿勢でないとなかなか結果はついてこない.酵素を入れたかどうか覚えがないなどというのはまさに論外で,せめて試薬調整くらいは確実にしないと話にならない.また指導する側も「酵素を入れ忘れたんだろう」などの軽率な言動は慎むべきで,部下を信じ前向きな処方を与えるべきである.5.電気泳動シーケンス反応に進む前に,はやる気持ちを抑えてPCRが成功したかどうか電気泳動で確かめなければならない.電気泳動用のバッファーにはTAE(Tris-ace-tate-EDTA)とTBE(Tris-borate-EDTA)があり,TAEは長い核酸断片の解析に,TBEは比較的短い核酸断片の解析に好んで用いられる.変異解析のPCRでは1kb以下の比較的短い断片を扱うことが多いのでTBEを選択すれば良いが,TAEしかなければそれでも特に問題はない.PCRが成功しているかどうかの判断基準は,シングルバンドであるかどうか,予測されたサイズであるかどうか,の2点である.そのためにはサイズマーカーを忘れずに泳動する.PCR産物のサイズがわずかに予測されるサイズからズレることがあるが,その場合サイズマーカーとの塩濃度の違いが原因である可能性がある.すなわちPCR産物は塩(イオン)を含んでいるので,電場がかかった場合にこのイオン(特に陰イオン)が核酸と競合しあって泳動するのである.よって塩が含まれていると,含まれていない場合に比べて核酸の泳動速度は確実に遅くなる.通常PCRのバッファーに含まれる塩濃度はそれほど高くないが,なかには高塩濃度のものもあり(TAKARAのPrimeStarという酵素の添付バッファーなど),その場合かなりのズレが生じるので,サイズマーカーにも同じ濃度のバッファーを加えるようにする.6.精製PCR反応が首尾よく成功すれば,つぎはいよいよシーケンス反応である.だがその前にPCR産物を精製しておく必要がある.精製の目的は未反応のプライマーと未反応のdNTPを除き,同時にバッファーを交換することにある.要するにそれらが大量に残っているとシーケンス反応で問題が起こるのである.精製の方法はいくつ(70)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???かあり,筆者らの施設でもこれまでに数種類の方法を試してきた.結論を言うと,おそらく現時点で最も簡便なのはアマシャム社のExoSapItという製品である.この製品はexonucleaseIとshrimpalkalinephosphataseの混合品で,exonucleaseIが未反応のプライマーを分解し,shrimpalkalinephosphataseが未反応のdNTPをピロリン酸とdNMPにする.メーカーのプロトコルに従うと1反応当たり約200円と結構いいお値段なのだが,大きな声では言えないが実はかなり薄くしても(1/20程度)問題ない.PCR反応後の電気泳動で複数のバンドが認められた場合,基本的には条件を検討し直してシングルバンドになるまでやったほうが良いが,どうしてもできない場合,予測サイズにバンドがあれば電気泳動後のアガロースゲルから切り出すこともできる.その場合収量がかなり少なくなるのでPCRを多めにかけて(30~50??程度),4~5サンプル分のウエルに電気泳動して切り出す.切り出すときの染色剤は必ずエチジウムブロマイドとし,サイバーグリーンの先染めは避ける.サイバーグリーンは高感度であるが,泳動が乱れやすいという欠点があるため切り出しには不適である.どうしても使いたいなら後染めでやる.切り出すには一般的には紫外線を使うが,実験者への影響(皮膚癌,電気性眼炎など)やPCR産物が分解されるなどの問題がある.筆者らは懐中電灯型の高輝度青色LEDと専用のバリアフィルタを組み合わせてバンドを目視しながら切り出している(図4).エチジウムブロマイドにもサイバーグリーンでも使用でき,また実験者にも安全である.7.シーケンス反応・解析シーケンス反応は現在ではほとんどの場合で,サンガーのダイデオキシ法4)が使われていると思う.サンガー(FrederickSanger)は2回もノーベル化学賞を受賞したほどの偉人(なんと史上初の3回受賞も有力視されているらしい)で,この方法なしにはヒトゲノム計画はまだ終わっていなかったに違いない.簡単に説明すると,この方法で用いるダイデオキシNTPはリボースの3¢末端の通常ヒドロキシル基であるところが水素となっている(図5).そのためポリメラーゼがこの塩基を取(71)図4アガロースゲルからのPCR産物調製A:高輝度青色LEDによるゲルからのバンド切り出しの様子(実際には部屋を暗くする).B:筆者らが愛用している懐中電灯型の高輝度青色LEDライト(商品名BlueNova,アズバイオ).ゲルからの切り出しの他,GFPマウスの選択(一般的にはこちらで使われている)にも有用である.AB図5通常のデオキシTTP(dTTP)(上)とダイデオキシTTP(ddTTP)(下)の化学構造式リボースの3位(矢印)が異なっている.HOOOOOPOOPOPOHOHOHCH2OHCH3HNNOHOOOOOPOOPOPOHOHOHCH2CH3HNNO———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007り込むとそれ以上の伸長反応を行うことができず,伸長反応がそこで終了する.そこでdNTPとこのダイデオキシNTP(ddNTP)の存在下で鋳型DNAをプライマーとポリメラーゼで伸長すると,1塩基ごとに長さの違うDNA断片の集まりが得られる.さらにddNTPを塩基ごとに違う標識をし,1塩基の解像度で分離可能なアクリルアミドゲルで電気泳動すると配列を示すシーケンスラダーが得られる.以前は標識をRIで行っていたため一つの配列を読むのに塩基ごとに違う反応(すなわち4反応)を行い電気泳動も別々に行っていたが,現在ではRI標識は蛍光標識に代わり反応も1配列1回で済むようになった.実際の手順はきわめて簡単で,試薬会社の説明どおりに反応液を調整してPCR産物のシーケンス反応を行う.プライマーはPCRで用いたものでよいが,ノイズが多いようなら内部に作成するとS/N(シグナル/ノイズ)比が改善する.必ずしなくてはいけないわけではないが,両方向からシーケンスすることをお薦めする.また温度条件はメーカーの説明どおりで通常問題ない.お金の話をすると反応液はメーカーの説明どおりに使うと1反応で1,000円ほどかかり,これでは外注したほうが安くなってしまう.筆者の施設では専用の希釈バッファーを用いて反応液を8分の1の濃度とし,さらに反応量を4分の1としているが,特に問題はないようである.これだと実質1反応に30円程度で済み,ポリマーなど諸々を合わせても1解析100円以下に抑えられる.一度試していただきたい.反応後は精製して未反応の標識ddNTPを除く必要がある.ゲル濾過,限外濾過,エタノール沈殿などがあるが,エタノール沈殿で十分である.プレート遠心機があれば96ウェルプレートのままエタノール沈殿することも可能でサンプル数が多いときには重宝する.真偽のほどは明らかではないが,某社のマグネットを利用した精製キットはABI社のキャピラリーシーケンサーには使わないほうが良いらしい.使うとそのうちキャピラリーがダメになってしまうそうである.筆者らの施設でもそれが原因と考えられる問題が発生したことがあり,それ以来マグネットタイプの精製キットは禁止にさせてもらっている.精製後はホルムアミドで溶解するのだが,ホルムアミドのグレードには注意したほうが良い.グレードが悪かったり,変性してしまっていたりすると分離がきわめて悪くなるからである.メーカー純正のシーケンス用ホルムアミドが安心だが,高いというのなら分子生物学グレードのホルムアミドを買って,イオン交換レジン(BioRad社のAG501-X8など)で処理すると比較的安くできる.その場合保存は-20℃で行う.現在の標準型であるキャピラリーシーケンサー(図6)は日々のメンテナンスも楽で,なによりゲルを作らなくて良いのがありがたい.ホルムアミドに溶かしたサンプルを機械にセットして,ソフトを開いてスタートボタンを押せば終わりである.サンプル数にもよるが数時間後には結果は出ている.結果の解析であるが,最も簡単なのは標準で添付のシーケンス解析ソフトで波形データをテキストデータとし,上で述べたペアワイズアラインメントにて正常配列と比較して変異があるか調べる方法である.この場合解析ソフトの設定によってはヘテロの変異が見過ごされてしまう可能性がある.そのため原始的ではあるが波形データを印刷して目視しながら変異があるか調べるほうがヘテロ変異を見逃さずに済む.またお金に余裕があれば,変異の可能性のある部位を示してくれるインテリジェントなソフト(ABI社のSeqScapeなど,図7)を購入するのも良い.データベース機能もあり,変異解析をルーチンにやっていく場合や大量の解析を行う場合にはかなり有用である.8.ValidationstudyValidationstudyはシーケンス反応の結果が正しいかどうかを確認するために行う.方法はいろいろだが,簡(72)図6キャピラリーシーケンサーに使う16連キャピラリーアレイシーケンスサンプルはキャピラリー内部を泳動し,ディテクションセル(矢印)にてレーザーで検出される.———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???便なのは1塩基伸長反応,制限酵素処理などである.それぞれについて説明する.まず1塩基伸長反応であるが,ABI社がSnapShotという名前のキットで販売している.原理は簡単で,反応液のなかに酵素と蛍光標識したダイデオキシNTPが入っている(dNTPは入っていない).ダイデオキシNTPはシーケンス反応でも説明したように,リボースの3¢末端の通常ヒドロキシル基であるところが水素となっている(図5).そのためそれ以上の伸長反応が行われずに,プライマーから1塩基伸びたところで反応が終了する.塩基の種類によって標識している蛍光が違うので,シーケンサーで電気泳動すれば伸長した1塩基がどの塩基なのかがわかるというものである.実際にはまず変異部位の直前までのプライマーを作成する.これはセンス鎖,アンチセンス鎖のどちらでも良いが,慎重を期すのなら両方作成すると良い.変異部位を含むようにPCRを行い,ExoSapItにて精製後に上記プライマーとキットの反応液を混合してメーカーの手順書の温度条件で反応させる.反応後SAP(shrimpalkalinephosphatase)にて処理し,そのまま希釈してホルムアミドに溶解してシーケンサーで電気泳動する.つぎに制限酵素処理についてであるが,これは変異部位を含むようにPCRを行い,変異していないと切断されるが,変異すると切断されなくなる(あるいはその逆でも良い)制限酵素で処理して電気泳動を行う.適切な制限酵素を探すには専用のソフト(DNASIS,MIKE-NORAなど.MIKENORAは第一化学薬品のサイトから無料でダウンロード可,http://www.shiyaku-daiichi.jp/special/mikenora/)を使うかインターネットで無料公開されているサイト(NEBcutter;http://tools.neb.com/NEBcutter2/index.php)を利用すれば良いが,適切な制限酵素が見つからないことも多い.その場合はPCRで制限酵素サイトを導入する方法もあるが,1塩基伸長をするほうが無難であろう.また比較的長い挿入変異や欠失変異の場合には,変異部位を含んだPCRを行い,分離能の高いアクリルアミ(73)図7ABI社Seqscapeソフトによる????遺伝子の変異解析サンプル5において20塩基の挿入変異が見られる.棒(矢印)が立っているところは変異の可能性がある部位で,棒が長いほど変異の可能性が高い.また各塩基についてシーケンスクオリティをQV(qualityvalue)という値として棒グラフ表示し,さらにクオリティの低い部位は黄色や赤で表示しているので,変異なのか単なるシーケンスの問題なのかを判断しやすい.サンプル1は混合塩基表示(YやSなど)が多いが,変異があるのではなく単にノイズレベルが高いということがわかる.———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007ドゲルで電気泳動すると長さの違いによって変異が証明できることもある.シーケンス解析で2カ所にヘテロの変異が認められたとき,それぞれが別々のアリルにある場合はコンパウンドヘテロ接合型の変異5)となる.シーケンス解析だけでは1つのアリルに2つの変異が存在するのか(劣性遺伝疾患ではこの場合は疾患を生じないこととなる),あるいはそれぞれが別々のアリルに存在するかは判断できない.この場合は2つの変異を含むようにPCRを行い(場合によってかなり長くなるが),ゲルから切り出してから精製しプラスミドにTAクローニングしてシーケンスする.TAクローニングのベクター(Tベクターという)は自作もできるが,市販のものを使ったほうが良い.プロメガ社のpGEM-Tが価格も手ごろで青白スクリーニング(PCR産物がきちんとプラスミドに入っているかどうかを簡便に調べる方法)もできるのでお薦めである.9.変異の意義についての検討・機能解析変異が確実となれば,それが意義のある,すなわち疾患を起こしうる変異であるかどうかについて調べなくてはならない.変異が見つかればそれで決まりでしょと思われるかも知れないが,実際はそれほど単純ではない.顔つきや体格,体質が一人一人違うのは疾患を起こさないレベルのゲノム配列変化があるためで,遺伝子内部にもこのような配列変化はかなりの頻度で存在する(多くはSNPsである).そのため変異が見つかっても疾患と関連しないものかどうかよく検討する必要がある.また以下で述べる家系内での疾患と変異の一致が見つかったとしてもまだ確実ではない.単に偶然に一致した可能性,あるいはその遺伝子と物理的に近接した部位の遺伝子ないし非遺伝子配列の変異が疾患の原因である可能性が残っている.物理的に近接した遺伝子同士は配偶子形成時の際に起こる交差(crossover)の影響を受けにくいからである(連鎖不平衡の状態にあるという).最初に調べることはアミノ酸レベルで変異があるかどうかである.ご存じのように遺伝コードは3塩基がコドンという1単位となってアミノ酸に対応するが,43すなわち64種類ある組み合わせに対しアミノ酸およびそれに対応するtRNAは20種類しかないので,コドンの3番目の塩基に対しては対応が甘く(ゆらぎ:wobbleといわれる)なっている.そのため核酸レベルで変異があってもアミノ酸レベルで変異がない場合があり(silentmutation),この場合変異が疾患と関連している可能性はきわめて低い.またアミノ酸レベルで変異があっても同じグループのアミノ酸(たとえばロイシンとイソロイシンなど)に変異した場合は注意が必要である.同じグループのアミノ酸は性質が似ているため,変異しても明らかなタンパク質機能異常を起こさないことがまれではなく,その場合疾患と関連していない可能性が高い.一方,かなり性質が異なるアミノ酸に変異した場合や,終止コドンとなった場合は疾患と関わっている可能性はかなり濃厚である.また挿入変異や欠失変異の場合は挿入,欠失した長さが3の倍数であればその部分のアミノ酸の挿入,欠失となるが,3の倍数でなければフレームシフトが起こるためそれ以降のアミノ酸はまったく異なるものとなり疾患と関連している可能性が高い.またスプライシングに変化が生じるような変異の場合,エクソン単位で欠失が生じたり,イントロンが挿入されたりするので通常アミノ酸レベルでもかなり大規模な変化が生じる可能性が高く,疾患との関連性も高くなる.つぎにすべきことは同一家系内における表現型との一致を調べることである.表現型(疾患)と原因と思われる遺伝子変異が同一家系内で一致していれば,その変異は疾患と関連している可能性が高い.しかし1家系だけの場合はたまたま一致しただけということもあるので,この結果だけに頼りきることはできない.その場合は正常者にそのような変異が見いだされるかどうか(com-monなSNPsかどうか)をSNPsデータベース(NCBIのdbSNPなど,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)で確認する.ただSNPsは民族によっても異なるうえ,データベース自体も現時点では完全とはいえない状況にあるので,データベースになくともSNPsである可能性は否定できない.その場合はできれば自分で正常者のゲノムDNAを調べたほうが良い.上記の検討を行ったとしても,見いだした遺伝子変異が本当に疾患の原因であるかどうかは実はかなりむずかしい問題である.たとえば変異によって終止コドンに変化した場合を考えてみる.その場合変異部位より下流のアミノ酸を欠くこととなるが,その部分がタンパク質の機能にそれほど重要でない場合には,タンパク質機能がやや低下する程度に収まる可能性もある.たとえて言うなら,ハサミの刃の部分が壊れたら使い物にならないが,指を入れる柄の部分が少々欠けたとしても多分それなりに使えるであろうということである.身の回りのも(74)———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???のを見ても,少し故障しているがそれなりに使っているというのは結構あると思う.このように終止コドンに変わった場合ですら,突き詰めて考えるとわからないという結論に到達する.ではどうしたら良いのか?最後の仕事は機能解析である.ご存じのように機能解析はものによってはかなり大変である.実際変異解析の仕事でも機能解析まで踏み込んだ論文は少数派である.比較的簡単にできるものとしては,たとえば変異によってタンパク質の局在に変化が生じる可能性が予測された場合,そのタンパク質をタグ配列(GFP,c-myc,HA,FLAG,V5などたくさんある)と融合した状態で発現するプラスミドを作成して,培養細胞に遺伝子導入することが考えられる.正常タンパク質と変異タンパク質で細胞内の局在に変化があれば,疾患と関連している可能性はきわめて濃厚となる.また改変マウスを作成してヒトで見られた異常がマウスでも認められるかを調べるのも有用な手段である.いずれにせよタンパク質の性質と変異部位によってやるべき機能解析はさまざまで,概してかなりの時間と労力を強いられる.ただ幾多の苦労を乗り越えて機能解析を成功させたとしても,????????の実験では個体レベルの状態を完全に反映しない,マウスとヒトとは違うなどという厳しいことを言い出すと,結局遺伝子変異と疾患の関連性はどこまでやっても完全にはわからないということになる.まあそこまで懐疑主義的になると,おそらく生物の問題は何一つ解けないことになるであろうが….II法的・倫理的側面ここまで実験の技術的な部分を解説してきたが,実際に変異解析を行う際には法的・倫理的側面もきわめて重要となる.血液の採取および研究への使用にあたっては,ヘルシンキ宣言に基づき患者の同意を得ることが最低の条件となる.また施設に倫理委員会がある場合はここの承認をとる必要もある.これらに加えゲノム解析ではゲノム情報が患者の個人情報であるとの見解から,患者が特定できるゲノムデータおよびゲノムサンプルが第三者に漏出しないような措置をとる必要がある.具体的にはサンプルおよびデータは暗号化して患者情報と切り離して管理し,データと患者情報を連結する鍵のデータを第三の管理者に預けておくという方法をとる.これらは2001年に厚生労働省,文部科学省,経済産業省の3省合同で通達されている.詳細は文部科学省のホームページで公開されているpdf書類をダウンロードして確認されたい.おわりに以上,遺伝子変異解析における分子生物学的実験手技およびその背景知識について説明させていただいた.これだけの字数を使っても専門用語の解説や実験の具体的なところまで記述することはできなかったので,実際の実験に際しては標準的な実験書(羊土社のバイオ実験イラストレイテッドが初心者には好評のようである.本格的に知りたいのならManiatis著のMolecularCloningをお薦めする)を参照していただきたい.冒頭でも述べたが,変異解析の実験で最も重要なのはいかにPCRを成功させるかで,そこがうまくいけばあとは何とかなることが多い.PCRは試行錯誤が重要な局面が多く,うまくいかないときにはとにかくいろいろやってみることが重要である.このときのコツは自分が寝ている間に酵素に働いてもらうことである.(要するに夜PCRをかけっぱなしにして帰るということ.機械にはやや悪いという意見もあるが….)大学院生の先生は自分の経験値を上げる意味でもいろいろなPCRに挑戦してほしい.本稿を作成するうえで同僚の松田彰先生に多大なご助言をいただきました.また谷岡秀敏さん,山崎健太さんには本文の構成および図の作成で大変お世話になりました.ここに深謝いたします.文献1)MunierFL,KorvatskaE,DjemaiAetal:Kerato-epithe-linmutationsinfour5q31-linkedcornealdystrophies.?????????15:247-251,19972)DeanFB,HosonoS,FangLetal:Comprehensivehumangenomeampli?cationusingmultipledisplacementampli?-cation.??????????????????????99:5261-5266,20023)DonRH,CoxPT,WainwrightBJetal:‘Touchdown’PCRtocircumventspuriousprimingduringgeneampli?-cation.?????????????????19:4008,19914)SangerF,DonelsonJE,CoulsonARetal:Determinationofanucleotidesequenceinbacteriophagef1DNAbyprimedsynthesiswithDNApolymerase.??????????90:315-333,19745)TianX,FujikiK,LiQetal:CompoundheterozygousmutationsofM1S1geneingelatinousdroplikecornealdystrophy.???????????????137:567-569,2004(75)

マルチパーパスソリューション

2007年6月30日 土曜日

———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSの適合性,眼障害,選択方法について概説する.I日本で販売されているMPSの特徴現在,市販されているMPSの消毒成分は塩化ポリドロニウムあるいはポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)である.上述したStandalonetestはISOで採用されているコンタクトレンズケア用品の消毒評価試験であるが,試験菌のうち細菌(黄色ブドウ球菌ATCC6538,緑膿菌ATCC9027,セラチア菌ATCC13880)に対しては対数減少値が3以上で,真菌(カンジダATCC10231,フザリウムATCC36031)に対しては対数減少値が1以上であると消毒剤は液に漬けておくだけで効果があると判断され,一次基準をクリアしたMPSに分類される.このはじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)は細菌や真菌などの微生物に汚染しやすいため,毎日の消毒が義務づけられている.日本では1972年のSCL発売以来,100℃で20分間の加熱消毒(煮沸消毒)が厚生労働省(旧厚生省)により定められていたが,加熱によるSCLの劣化の防止,簡便性やコンプライアンスの面からコールド消毒(化学消毒)が開発された.1992年には過酸化水素を用いた消毒剤が,1995年には多目的用剤(multipurposesolu-tion:MPS)が,2001年にはポビドンヨードを用いた消毒剤が発売された.MPSは,1剤で洗浄だけでなく,消毒,すすぎ,保存ができることから,誤使用がない,簡便であるがゆえにコンプライアンスが高いなどの特徴があるが,他の消毒法に比べて消毒効果が弱いという問題がある.しかしながら,MPSの消毒効果は近年向上しており,国際標準化機構(ISO)のStandalonetestの一次基準に適合したもの(multipurposedisinfectingsolution:MPDSといわれることもある)も発売された.一方,消毒効果が高くなれば細胞毒性が問題となる症例が生じる.特に,シリコーンハイドロゲルレンズ(SHCL)とMPSおよびMPDSとの適合性が問題視されている1~4).これらに含まれる化学物質によってアレルギー反応を生じることもある5).本稿では,MPDSを含めたものを広くMPSとし,日本で販売されているMPSの特徴を述べた後に,SCLと(53)???*KiichiUeda:山口大学大学院医学系研究科眼科学/ウエダ眼科**RyojiYanai:山口大学大学院医学系研究科眼科学〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科特集●コンタクトレンズの流れを読むあたらしい眼科24(6):747~757,2007マルチパーパスソリューション?????????????????????植田喜一*柳井亮二**図1ISOのStandalonetest(文献6より改変)**:contactlensdisinfectingproduct(コンタクトレンズ消毒液)に分類**:contactlensdisinfectingregimen(コンタクトレンズ消毒システム)に分類Standalonetest不合格一次基準試験合格*試験合格**Regimentest二次基準不合格試験不合格不合格試験不合格合格合格———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007(54)表1市販されているMPSの性状と特徴メーカー日本アルコン日本アルコンエイエムオー・ジャパンエイエムオー・ジャパンチバビジョンロート製薬ロート製薬製品名オプティ・フリー?プラスオプティ・フリー?コンプリート?テンミニッツコンフォートケア?フレッシュルックケア?10ミニッツロートCキューブソフトワンモイスト?ロートCキューブソフトワンクール?外観消毒成分塩化ポリドロニウム(ポリクォッド)(11ppm)塩化ポリドロニウム(ポリクォッド)(11ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)洗浄成分クエン酸テトロニッククエン酸ポロクサマーチロキサポールポロクサマーポロクサマーポロクサマー粘稠剤──HPMCHPMC─HPMCHPMC特徴クエン酸とテトロニックによるデュアルアクション洗浄システムテトロニックによる潤いの持続作用独自の消毒成分ポリクォッドによる高い消毒効果と高い安全性クエン酸による洗浄システム独自の消毒成分ポリクォッドによる高い消毒効果と高い安全性消毒が最短10分で完了HPMCとポロクサマーの働きで優れた潤いクッションポロクサマーとPHMBの働きで優れた洗浄・消毒効果涙液に近い性状で瞳にやさしいしっかり消毒.蛋白汚れの付着も防止レンズに潤いを与える成分をプラス涙液に近い性状だから,目にやさしい1本で,洗浄・すすぎ・消毒・保存がOK消毒,洗浄が最短10分で完了リン酸塩,EDTA,ポロクサマーの3つの成分で相乗的に汚れ除去液体粘性を高めることで,潤いを持続清涼洗浄成分をプラスすることで,爽快なつけ心地を実現メーカーファシル旭化成アイミー旭化成アイミーエイコーエイコー日本油脂日本オプティカル製品名フォレストリーフレンズコートワンボトルケアクリアモイストケアピュアモイストケアピュラクルモイストティアラ外観消毒成分PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)洗浄成分───ポロキサマーポロキサマー─ポロキサマー粘稠剤HPMC─HPMCHPMCHPMC─HPMC特徴PHMBでSCL表面を効果的に消毒HPMCで乾燥を防ぎ,快適な装用感涙液成分(リン脂質)に着目し,開発された潤い成分(リピジュア)配合PHMBでSCL表面を効果的に消毒HPMCで乾燥を防ぎ,快適な装用感乾燥を防ぐ潤い成分HPMC配合洗浄成分ポロキサマーでレンズの汚れを除去乾燥を防ぐ潤い成分HPMC配合洗浄成分ポロキサマーでレンズの汚れを除去涙液成分(リン脂質)に着目し,開発された潤い成分(リピジュア)配合乾燥を防ぐ潤い成分HPMC配合洗浄成分ポロキサマーでレンズの汚れを除去PHMB:ポリヘキサメチレンビグアニド,HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース.(メーカー提供)*ワンボトルケアはフォレストリーフのOEM,モイストティアラはクリアモイストケアのOEM,レンズコートはピュラクルのOEM.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???一次基準をクリアするほどの消毒効果はないものの,二次基準(3種類の細菌に対し対数減少値がそれぞれ1以上,かつその和が5以上を示すとともに,真菌に対して浸漬中に菌数の増加を認めない)に適合する消毒剤はregimentest(用法用量に従った試験)の合格基準(消毒後の菌数の平均がレンズ当たり10コロニーを超えないこと)をクリアした場合はregimen試験適合消毒剤と判断される6,7)(図1).日本でも2003年に,市販されているMPSに対してこのStandalonetestに準拠した方法で,一次基準に合格する消毒効果を有するかどうかを自主点検するようにという内容の行政通知が発出されている6).現在,日本でメーカーが一次基準をクリアしたと公表しているMPS(いわゆるMPDS)はレニュー?,レニュー?マルチプラス,コンプリート?アミノモイスト,エピカコールド,バイオクレン?ワン,バイオクレン?ゼロである.現在市販されているMPSの性状ならびに特徴をまとめたものを表1,2に示す.各製品は消毒成分のほかに洗浄成分(界面活性剤)や保湿成分(粘稠剤)などを添加して付加価値を高めている.IIMPSとSCLとの適合性SCL使用者にMPSを使用すると角膜ステイニングが発生することから,SCLとMPSとの適合性がこれまでにも問題視されていたが,新しい素材であるSHCLにおいても同様の角膜ステイニングが高頻度に発現することが報告されている4).1.短時間使用による角膜ステイニングMPSに浸漬したSCLの短時間装用試験ではMPSに配合される消毒成分によって角膜ステイニングの発生に差があることが報告されている4)が,筆者らも検証を行った8).試験レンズにはSCL2種(2ウィークアキュビュー?,マンスウエア)とSHCL1種(O2オプティクス)を,化学消毒剤にはMPS3種(エピカコールド,レニュー?マルチプラス,オプティ・フリー?プラス)と過酸化水素消毒剤1種(エーオーセプト?)を用いた.2ウィークアキュビュー?はイオン性高含水SCL,マンスウエアは(55)表2市販されているMPDSの性状と特徴メーカーボシュロム・ジャパンボシュロム・ジャパンエイエムオー・ジャパンメニコンオフテクスオフテクス製品名レニュー?マルチプラスレニュー?コンプリート?アミノモイストエピカコールドバイオクレン?ワンバイオクレン?ゼロ外観消毒成分PHMB(1.1ppm)PHMB(0.7ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)PHMB(1ppm)洗浄成分ポロキサミンハイドラネート(蛋白除去成分)ポロキサミンポロクサマーPOE硬化ヒマシ油(植物原料の界面活性剤)ポロクサマーポロクサマーポリリジン(蛋白付着防止)粘稠剤──HPMC──ヒアルロン酸,HPMC特徴ハイドラネートの働きで蛋白除去まで1本でOKPHMB(ダイメッド?)とポロキサミンの働きで優れた洗浄・消毒効果PHMB(ダイメッド?)の働きで優れた消毒効果を発揮ポロキサミンの働きで優れた洗浄効果と潤いの持続3つの潤い成分(PG/HPMC/ポロクサマー)で潤いを長時間キープアミノ酸配合で瞳にやさしい環境をサポートアミノ酸で蛋白変性防止消毒効果と安全性の両立高い脂質洗浄力蛋白付着防止効果2つの潤い成分(POE硬化ヒマシ油/PG)による潤い効果PHMBでしっかり消毒ポロクサマーで高い洗浄効果と潤い効果ヒアルロン酸の効果で潤いを持続ポリリジンで蛋白付着防止POE:ポリオキシエチレン,PG:プロピレングリコール.(メーカー提供)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007非イオン性高含水SCLで,エピカコールドとレニュー?マルチプラスはPHMBを含有し,オプティ・フリー?プラスは塩化ポリドロニウムを含有する.ブリスターケースから取り出した試験レンズを化学消毒剤に16~24時間浸漬した.男性6名,女性9名の計15名を被験者として,片眼には化学消毒剤で処理した試験レンズを装用し,他眼にはブリスターケースから取り出した試験レンズを生理食塩水で十分にすすいだ後に装用した.2時間装用した後に,試験レンズをはずして,角膜所見をフルオレセイン染色下で細隙灯顕微鏡(ブルーフリーフィルターを使用)で観察した所見を宮田の点状表層角膜症の重症度分類〔AD分類(A:area,D:density)〕9)に照らして評価した(表3).化学消毒剤で処理された試験レンズの装用によって生じた角膜ステイニングの代表例を図2に示す.化学消毒剤を使用しない未処理の各レンズにおいても角膜ステイニングが発生したが,程度の軽いものであった.a.SCLの装用による角膜ステイニング2ウィークアキュビュー?ではすべての化学消毒剤においてこれらで処理をしたレンズと未処理のレンズで発生した角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなく,化学消毒剤の種類によって発生した角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなかった(図3).マンスウエアではエピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?で処理されたレンズは未処理のレンズと角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなかったが,レニュー?マルチプラスで処理されたレンズは有意に高かった.エピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?については発生した(56)表3点状表層角膜症の重症度分類〔AD分類(A:area,D:density)〕GradeArea(範囲)Density(密度)0点状染色なし点状染色なし1点状染色の範囲:角膜全体の1/3未満点状染色の密度:疎(離れている)2点状染色の範囲:角膜全体の1/3~2/3点状染色の密度:中程度3点状染色の範囲:角膜全体の2/3以上点状染色の密度:密(ほとんど隣接)図2化学消毒剤で処理されたレンズの装用によって生じた角膜ステイニングの例※:本試験においてA2D3に相当する症例は観察されなかった.(文献8より)A1D1A1D2A1D3A2D1A2D2A3D1A3D2A3D3A2D3※———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???角膜ステイニングの範囲,密度のいずれにおいても有意な差がなかったが,レニュー?マルチプラスは角膜ステイニングの範囲においてエピカコールドおよびエーオーセプト?より有意に程度が高く,密度においてもエピカコールドと有意な差があった(図4).b.SHCLの装用による角膜ステイニングエピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?で処理されたO2オプティクスは未処理のO2オプティクスと角膜ステイニングの範囲および密度に有意な差はなかったが,レニュー?マルチプラスで処理されたO2オプティクスは有意に高かった(図5).エピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?については発生した角膜ステイニングの範囲,密度のいずれにおいても有意な差はなかったが,レニュー?マルチプラスはエピカコールド,オプティ・フリー?プラス,エーオーセプト?より角膜ステイニングの範囲が有意に広く,密度も有意に高かった(図5).SCLについては含水率およびイオン性の異なる2種類の含水性レンズを使用したが,SCLによって角膜ステイニングの発生に違いがあった.非イオン性高含水SCLのマンスウエアでは化学消毒剤の種類によって角膜ステイニングの発生に有意な差を認めたが,イオン性高含水SCLの2ウィークアキュビュー?では有意な差を認めなかった.PHMBはプラスに帯電しているため,(57)図32ウィークアキュビュー?の短時間装用による角膜ステイニング(文献8より改変)0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3図4マンスウエアの短時間装用による角膜ステイニング(文献8より改変)**1*2**2*1*20%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・リー?プラス処理未処理エーオーセプト?密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade31:**p<0.01Mann-WhitneyのU検定2:**p<0.01Steel-Dwass検定1:**p<0.05Mann-WhitneyのU検定2:**p<0.05Steel-Dwass検定———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007マイナスに帯電している2ウィークアキュビュー?とのイオン結合は強く,レンズ内にPHMBは著しく取り込まれる一方で,レンズ外には放出されにくい.そのためPHMBを含むMPSで処理された2ウィークアキュビュー?では角膜ステイニングの発生が少なかったのではないかと推察する8).MPSとSCLの組み合わせによる角膜ステイニングの発生には,PHMBなどの薬剤のSCLへの吸着と放出が関与していると考える.工藤らはPHMBを含有するMPSで処理したO2オプティクスを装用すると高頻度に角膜ステイニングを発生すると報告している4)が,現在市販されているMPSは消毒成分としてPHMBを含有していても,それぞれPHMB以外の配合物を含有するため,これらの作用によって角膜ステイニングの発生が異なると考える.エピカコールドはPHMBを含有するが,その他の成分としてグリコール酸やアミノメチルプロパンジオール(AMPD)が配合されており,これらの相互作用によりイオンバランスが調整され,PHMBの角膜への影響を弱めていると推察する8).化学消毒剤で処理されたSCLの装用による角膜ステイニングは装用後短時間で発生し,その後回復傾向を示す.具体的には装用2時間後に強い角膜ステイニングを認めた症例でも,装用6時間後には軽微となっていることがほとんどであると報告されている4).MPSに含まれる消毒成分やその濃度,さらには他の成分などが角膜上皮細胞に影響を及ぼし,角膜ステイニングを生じたと考えるが,上皮障害そのものの程度は軽いため角膜上皮細胞の伸展,移動で治癒すると推察する.2.継続使用による角膜ステイニング角膜ステイニングはレンズをはずして,フルオレセインで染色してブルーフリーフィルターでわかる程度の軽度の所見が多いが,このステイニングが臨床上問題になるかを確認することを目的として,筆者らはMPSでケアされたレンズを継続使用した症例の角膜所見を評価した.試験レンズにはSCL2種(2ウィークアキュビュー?,マンスウエア)とSHCL1種(O2オプティクス)を,化学消毒剤にはMPS2種(エピカコールド,オプティ・フリー?プラス)を用いた.男性10名,女性24名の計34名の被験者を3群(2ウィークアキュビュー?群:16名,マンスウエア群:8名,O2オプティクス群:10名)に分けて,エピカコールドとオプティ・フリー?プラスをそれぞれ1カ月間使用させて,角膜ステイニングの発生を調べた.フルオレセイン染色下で,細隙灯顕微鏡(ブルーフリーフィルターを使用)で観察した所見をAD分類9)に照らして評価した.レンズの装用時間は10時間以上とした.(58)図5O2オプティクスの短時間装用による角膜ステイニング(文献8より改変)**1**2**2**2**1**2**2**20%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?0%20%40%60%80%100%処理未処理エピカコールド処理未処理レニュー?マルチプラス処理未処理オプティ・フリー?プラス処理未処理エーオーセプト?密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade31:**p<0.01Mann-WhitneyのU検定2:**p<0.01Steel-Dwass検定———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???2ウィークアキュビュー?では,エピカコールドの使用で2名4眼に,オプティ・フリー?プラスの使用で1名2眼に,マンスウエアではエピカコールドの使用で1名2眼に,オプティ・フリー?プラスの使用で1名1眼に,O2オプティクスではエピカコールドの使用で1名2眼に,オプティ・フリー?プラスの使用で2名4眼にMPSによると考えられる角膜ステイニングが観察された.ただし,これらの角膜ステイニングは,いずれのレンズにおいても軽度なものであり,臨床上問題とはならなかった.いずれのレンズにおいても,エピカコールドとオプティ・フリー?プラスで角膜ステイニングの発生に有意な差はなかった(図6~8).エピカコールドとオプティ・フリー?プラスは短時間使用でも角膜ステイニングの発生の少なかったMPSであるが,本試験の結果から継続使用によるMPSの成分の蓄積で角膜ステイニングが悪化する可能性が低いこと(59)図62ウィークアキュビュー?の継続使用による角膜ステイニング0%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラス密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3n=320%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラスn=32図7マンスウエアの継続使用による角膜ステイニング0%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラス密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3n=160%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラスn=16図8O2オプティクスの継続使用による角膜ステイニング0%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラス密度範囲:Grade0:Grade1:Grade2:Grade3n=200%20%40%60%80%100%エピカコールドオプティ・フリー?プラスn=20———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007が示唆された.日本ではSCLの消毒として1992年より化学消毒剤が使用されるようになった.当初,化学消毒剤の製造(輸入)承認申請に際しては,各レンズについて個々の化学消毒剤との組み合わせごとに一定の試験を行いその適合性が評価されていたが,1999年にSCLを原材料ポリマーの含水率およびイオン性により分類(FoodandDrugAdministration:FDA分類)されるようになってからは,4分類(グループⅠ:非イオン性低含水,グループⅡ:非イオン性高含水,グループⅢ:イオン性低含水,グループⅣ:イオン性高含水)のうち,グループⅠおよびⅣに属する任意の代表レンズを各1種類ずつ選択し,そのレンズに対する適合性について必要な試験を行うだけで評価されるようになった.すなわち,レンズと化学消毒剤が1対1の対応から,グループ分類に従って,2種類のレンズを試験することによって,市販されるすべてのレンズについて認可が得られるようになり,煩雑であった申請が簡素化され,多くの化学消毒剤が短期間で認可されるようになった.このFDA分類は含水性SCLに対してはあまり問題になることはなかったが,SHCLについても同様に分類してよいかという問題がある10).SHCLを含む含水性SCLと化学消毒剤の適合性は個別に確認したほうがよいと考える.IIIMPSによる角結膜障害上述した角膜ステイニング以外に注意したいのはアレルギー反応である.両眼に生じた原因不明の角結膜障害(輪部充血,角膜周辺部に多発する小さな角膜浸潤など)を生じた場合(図9)にはMPSによるアレルギー反応を疑う必要がある5).角結膜障害はステロイドの点眼ですぐに治癒するが,MPSを再使用すると同様の障害が生じることで臨床的に診断できる.他の種類のMPSに変更するか,過酸化水素消毒剤,ポビドンヨード消毒剤に変更する.MPSで消毒できない細菌の毒素に対するアレルギー反応が生じることもある.MPSによるこすり洗いを徹底させることや,消毒効果の高いMPSや他の消毒剤に変更する必要がある.最近では細菌がレンズケースに付着してバイオフィルムを形成し,バイオフィルム感染症を生じることがあると報告されている11).レンズを装用したらレンズケースの中の保存液を捨てて汚れを十分に洗浄して自然乾燥させることや,1~3カ月ごとにレンズケースを交換することを指導して,レンズケースが微生物に汚染されないようにしなければならない.IVMPSの選択MPSに求められる条件としては,高い消毒効果と洗浄効果を有すること,生体に対する安全性に優れていること,CLへの影響が少ないこと,などである.これらのバランスがよいものが第一選択となる.1.消毒効果MPSは消毒剤であることから,高い消毒効果を有することが求められる.筆者らはMPSを含む化学消毒剤の微生物に対する消毒効果の有効性を検討した.図10は塩化ポリドロニウム製剤(日本アルコン株式会社),PHMB製剤(AMOジャパン),過酸化水素製剤(AMOジャパン),ポビドンヨード製剤(株式会社オフテクス)の消毒効果を比較したものである.細菌に対してはどの消毒剤も十分な消毒効果を示したが,カンジダ,アカントアメーバ,アデノウイルスに対してはポビドンヨード製剤以外の消毒剤は十分な消毒効果を示さなかった12,13).(60)図9MPSによるアレルギー反応(文献5より)———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???2.生体に対する安全性筆者らはSCLの消毒剤として使用されている消毒成分の安全性を確認するために,培養したヒト角膜上皮細胞を用いてニュートラルレッド法により評価した.すべての消毒成分が濃度依存性に細胞障害性を示していたが,製剤で使用されている濃度では過酸化水素の細胞障害率は90%以上であったのに対して,PHMB製剤は10%程度でPHMBが最も安全性が高かった(図11)14).市販SCL消毒剤の家兎角膜上皮のバリア機能を評価した実験でも,過酸化水素製剤はカルボキシルフルオレセインの取り込み量が有意に増加していたが,塩化ポリドロニウム製剤およびPHMB製剤はコントロールと差がなかった(図12)15).過酸化水素製剤は角膜上皮バリアに影響を与えるが,PHMBは影響を与えないことが(61)図10化学消毒剤の微生物に対する消毒効果(文献12,13より改変)細菌真菌アカントアメーバウイルス緑膿菌黄色ブドウ球菌セラチアフサリウムカンジダアカントアメーバアデノウイルス:ポビドンヨード製剤:過酸化水素製剤:塩化ポリドロニウム製剤:PHMB製剤543210微生物減少値(log個/m?)図11化学消毒剤のヒト角膜上皮細胞に対する影響(文献14より改変)細胞障害率(%)100806040200010201008060402000102010080604020001020(時間)(時間)(時間):0.05%(製剤配合濃度):0.005%(1/10):3%(製剤配合濃度):0.3%(1/10):0.03%(1/100):0.003%(1/1,000):0.1%(1,000倍):0.01%(100倍):0.001%(10倍):0.0001%(製剤配合濃度)ポビドンヨード過酸化水素PHMB図12家兎摘出眼球に対する化学消毒剤の角膜障害性(文献15より改変)0.040.030.020.010カルボキシフルオレセイン取り込み量(nmo?/mm2)*ポビドンヨード製剤過酸化水素製剤塩化ポリドロニウム製剤PHMB製剤コントロールn=3,平均±標準誤差4時間曝露*:Dunnett?stestp<0.05———————————————————————-Page10???あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007示唆され,PHMBの細胞毒性は比較的軽いものと考えられる.3.CLへの影響MPSによってレンズに物理化学的な変化が生じないことは必須である.レンズの物理化学的変化はレンズの光学性の変化,フィッティングの変化,装用感の悪化,角結膜障害につながる.筆者はO2オプティクスを化学消毒剤6種(エーオーセプト?,オプティ・フリー?プラス,コンプリート?・モイストプラス,レニュー?マルチプラス,フレッシュルック?ケア,クレンサイド)で処理した後に,レンズの形状,外観,色調,直径,ベースカーブ,頂点屈折力(パワー),含水率,光線透過率(視感透過率)を測定した.各測定値は厚生労働省告示第349号(2001年10月5日)と医薬発第1097号(2001年10月5日)の基準を満たしていた16)(表4).これらの測定値以外に各種化学消毒剤のレンズ表面の沈着やレンズ内への蓄積に問題がないかなどを検証する必要があると考える.このように各MPSは,製品によって消毒効果や生体への安全性,CLの影響ならびにCLとの適合性(角膜ステイニングの発生など)に違いがある.さらに,蛋白除去などの洗浄効果や潤い効果にも違いがあるため,これらを考慮して製品を選択する必要がある.消毒効果の高いMPSは微生物に強く作用するだけでなく,正常な角膜上皮細胞にも影響を及ぼす可能性がある.頻回交換SCLのように比較的短期間で新しいレンズと交換するのであれば,消毒効果の低いMPSでも臨床上問題になることは少ないと考えるが,従来型SCLや1~3カ月間の定期交換SCLのように長期間使用するのであれば,消毒効果の高いMPSを選択したい.特に角膜感染症の既往のある人では消毒効果の高い化学消毒剤(MPDS,ポビドンヨード製剤,過酸化水素消毒剤)あるいは煮沸消毒を選択する.白内障術後の無水晶体眼で従来型SCLを使用している人に対しては煮沸消毒が第一選択である.おわりにMPSは簡便なレンズケアとして,SCL使用者に広く普及しているが,消毒効果が弱いことや,含水性SCLおよびSHCLとの組み合わせによる角膜ステイニングの発生,MPS特有のアレルギー反応などの問題がある.現在,MPSは多くの製品が販売されているが,これらの特徴を把握してCL使用者に適する製品を選択することが求められる一方,MPSの使用による眼障害を認めた場合はその原因を究明して適切な対応を図ることも求められる.Standalonetestは特定の細菌ならびに真菌,それも特定した菌株に対する消毒効果を評価したものであるため,これをクリアすればすべての細菌ならびに真菌に対して効力があるというわけではない.一次基準をクリアしたMPDSであるにもかかわらず,海外ではフザリウムによる感染を生じた例がある17,18).ウイルスやアメーバなど他の微生物に対する評価法は規定されていない6).MPSはこれらの微生物に対する消毒効果が低いので十分な消毒効果を期待するのならば他の消毒法を選択したほうがよいといえる.MPSの使用にあたってはこすり洗いの徹底とレンズケースの洗浄,乾燥,および短(62)表4O2オプティクスに対する化学消毒剤の影響1.形状,外観,色調内部に気泡,不純物または変色がなかった表面に有害な傷または凹凸がなかったエッジが角膜に障害を与えるような形状になっていなかった2.直径直径の許容差;±0.20mm内であった3.ベースカーブベースカーブの許容差;±0.20mm内であった4.頂点屈折力(パワー)頂点屈折力の許容差;±0.25D内であった5.含水率含水率の許容差;±2%(絶対値)内であった6.光線透過率(視感透過率)視感透過率の許容差;±5%(絶対値)内であった———————————————————————-Page11あたらしい眼科Vol.24,No.6,2007???期間の交換を促すことが重要である.最近のトピックスとして,SHCLとの適合性の観点から角膜ステイニングの発生のことが取り上げられているが,このステイニングがどの程度臨床上問題になるかを検討する必要がある.個人的な意見としては,臨床上大きな問題となる症例は少ないので,軽度なステイニングであれば経過をみていいのではないかと考える.それよりも重篤な角膜感染症を予防するという観点から消毒効果の高いMPSを選択することが優先される.もし中等度以上の角膜ステイニングが発生した場合に他の消毒剤に変更すればよいと考える.そして,MPSの使用者については定期検査の際に角膜ステイニングやアレルギー反応が生じていないかを注意深く観察することと,充血,異物感,眼痛などの自覚症状がある場合にはMPSの使用をやめてすぐに眼科専門医の診察を受けるように指導することが大切である.(各表中に記載した製品名は2007年4月1日現在市販されているものを列挙した.)稿を終えるにあたり,各製品の調査につきまして多大なご協力を賜りました株式会社メニコンの杉本圭司氏,酒井利江子氏に心から謝意を表します.文献1)GarofaloRJ,DassanayakeN,CareyCetal:Cornealstain-ingandsubjectivesymptomswithmultipurposesolutionsasafunctionoftime.????????????????31:166-174,20052)JonesL,MacDougallN,SorbaraGL:Asymptomaticcor-nealstainingassociatedwiththeuseofbala?lconsilicone-hydrogelcontactlensesdisinfectedwithapolyaminopro-pylbiguanide-preservedcareregimen.??????????????79:753-761,20023)AmosC:Performanceofanewmultipurposesolutionusedwithsiliconehydrogels.????????227:18-22,20044)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20055)植田喜一:塩化ポリドロニウム(POLYQUAD?)による角結膜障害が疑われた1例.日コレ誌42:164-166,20006)岡田正司:ソフトコンタクトレンズの消毒の評価法(スタンドアロンテスト).日コレ誌48:93-97,20067)小玉裕司:新しいマルチパーパスソリューション.あたらしい眼科22:1345-1348,20058)植田喜一:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49(2007)(印刷中)9)MiyataK,AmanoS,SawaM:Anovelgradingmethodforsuper?cialpunctatekeratopathymagnitudeanditscorrelationwithcornealepithelialpermeability.????????????????121:1537-1539,200310)佐野研二:FDA分類とSCLケア.日コレ誌47:284-286,200511)工藤昌之:レンズケアと感染症(バイオフィルム感染症).日コレ誌47:224-226,200512)柳井亮二,植田喜一,田尻大治ほか:細菌・真菌に対するポビドンヨード製剤の有効性.日コレ誌47:32-36,200513)柳井亮二,植田喜一,田尻大治ほか:アカントアメーバおよびウイルスに対するポビドンヨード製剤の有効性.日コレ誌47:37-41,200514)YanaiR,YamadaN,UedaKetal:Evaluationofpovi-done-iodineasadisinfectantsolutionforcontactlenses:antimicrobialactivityandcytotoxicityforcornealepitheli-alcells.??????????????????????29:85-91,200615)柳井亮二,植田喜一,戸村淳二ほか:家兎に対するポビドンヨード製剤の安全性.日コレ誌47:120-123,200516)植田喜一:シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズと化学消毒剤との適合性.臨眼60:707-711,200617)LevyB,HeilerD,NortonS:Reportontestingfromaninvestigationof????????keratitisincontactlenswear-ers.????????????????32:256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