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緑内障:緑内障における前房容積(ペンタカムRによる解析)

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSペンタカム?(オクルス社)はScheimp?ugカメラの原理を利用した多機能型3D前眼部解析測定装置である(図1).ペンタカム?はギリシャ語で5(ペンタ)から由来するが,実際本装置は5つの機能を有する.すなわち,Scheimp?ug画像,前房の3D解析,水晶体(白内障)のデンシトメトリー,パキメトリー,角膜形状解析である.(53)●連載○68緑内障セミナー監修=東郁郎岩田和雄68.緑内障における前房容積(ペンタカム?による解析)結城賢弥大竹雄一郎慶應義塾大学医学部眼科ペンタカム?(オクルス社)はScheimp?ugカメラの原理を利用した多機能型3D前眼部解析装置である.ペンタカム?は約2秒間という短時間に前房容積,前房深度,隅角角度などの前房の状態を定量的に測定することができ,閉塞隅角緑内障のスクリーニングなど,さまざまな病態の把握に有用であると期待される.図1ペンタカム?の外観右が撮影部であり,左が操作用のラップトップパソコンである.他の前眼部解析装置に比較すると設置に必要なスペースは少ない.暗室座位にて測定し,測定時間は約2秒間である.固視追跡カメラを有しており固視がある程度不良でも撮影は可能である.図23Dスキャンの撮影図解Scheimp?ugカメラが眼球周囲を回転し0?から180?の範囲でSchei-mp?ug画像を撮影する.それにより中心部に測定ポイントが集中する.最大25,000点を測定することができる.図3白内障のScheimp?ug画像とデンシトメトリーScheimp?ug画像を解析することにより角膜や前房の状態を定量的に測定する.右は角膜,水晶体のデンシトメトリーである.デンシトメトリーにより白内障の進行を数値としてとらえることができる.図4各測定点における前房深度前房深度,角膜曲率半径などを各測定点ごとに表示することも可能である.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006ペンタカム?は患者の瞳孔サイズと固視状態を監視する中心カメラと,回転しながら角膜や前眼部の撮影をするScheimp?ugカメラを内蔵しており,0~180?の角度で回転しながら前眼部を撮影する(図2,3).約2秒間で最大25,000ポイントを測定し,前房容積,任意の点における前房深度,角膜厚,角膜前面ならびに後面の曲率半径,屈折力などを計測する(図4).アジアにおいては,原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)が他地域に比較して頻度が多く重要な失明原因となっている1).わが国においても,PACGの頻度は開放隅角緑内障(open-angleglaucoma:OAG)には及ばないものの,いったん発症すれば重篤な視機能障害を生じる急性疾患であるため,そのスクリーニングと予防が重要であると認識されている2).これまでのPACGのスクリーニングとしては超音波AモードやScheimp?ug画像による前房深度の測定などが試みられ3,4),最近ではSPAC(scanningperiph-eralanteriorchamberdepthanalyzer)による周辺隅角深度測定なども期待されている5).筆者らはペンタカム?を用いてOAG17例33眼とPACG4例7眼の前房容積,前房深度を比較した.OAG眼の平均前房容積は141.55±43.97mm3,前房深度は2.69±0.46mm,PACG眼の平均前房容積は66.40±7.12mm3,前房深度は1.75±0.19mmであり,PACG眼で有意に前房容積,前房深度が少なかった.また,筆者らはOAG眼において散瞳により前房深度だけでなく前房容積も約10%程度増加することを報告した(第59回日本臨床眼科学会).ペンタカム?は約2秒間という短時間に前房容積,前房深度,隅角角度などの前房の状態を定量的に測定することができ,PACGのスクリーニングだけでなく,さまざまな病態の把握に有用であると期待される.文献1)AllinghamRR,DamjiK,FreedmanSetal:Puppillary-blockglaucomas.Shields?TextbookofGlaucoma,5thed,p217-234,Lippincott・Williams&Wilkins,Philadelphia,20052)ThomasR,ParikfR,MuliyilJetal:Five-yearriskofprogressionofprimaryangleclosuretoprimaryangleclo-sureglaugoma:apopulation-basedstudy.??????????????????????81:480-485,20033)NolanWP,BaasanhuJ,UranchimegDetal:ScreeningforprimaryangleclosureinMongolia:arandomisedcon-trolledtrialtodeterminewhetherscreeningandprophy-lactictreatmentwillreducetheincidenceofprimaryangleclosureglaucomainaneastAsianpopulation.???????????????87:271-274,20034)AungT,NolanWP,MachinDetal:Anteriorchamberdepthandtheriskofprimaryangleclosurein2EastAsianpopulations.???????????????123:527-532,20055)KashiwagiK,AbeK,TsukaharaS:Quantitativeevalua-tionofchangesinanteriorsegmentbiometrybyperipher-allaseriridotomyusingnewlydevelopedscanningperiph-eralanteriorchamberdepthanalyzer.???????????????88:1036-1041,2004(54)☆☆☆表1OAG眼とPACG眼の前房容積,前房深度OAG眼PACG眼前房容積(mm3)141.55±43.9766.40±7.12p<0.0002前房深度(mm)2.69±0.461.75±0.19p<0.0003

屈折矯正手術:Epi-LASIKの現状

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLSエキシマレーザーを使用した屈折矯正手術は,PRK(photorefractivekeratectomy),LASEK(laseras-sistedsubepitherialkeratectomy),LASIK(laser???????keratomileusis)など,その手技手法に工夫がなされ,技術の進歩とともにその安全性と安定性を確立してきた.現在,手術手技の主流はLASIKであるが,フラップ作製に伴う合併症はいまだ皆無ではなく,また角膜厚と屈折量の関係より,角膜が薄い症例や強度の近視では適応から外れることがある.今まではこれらの症例に対しtPRK(transepitherialphotorefractivekeratectomy)やLASEKを行ってきたが,LASIKに比較すると,術後早期の裸眼視力や術後の疼痛などの面で劣るところがあった.これらの症例に対し筆者らは昨年より新たに登場したEpi-LASIKを行っている1,2).Epi-LASIKは,epikeratomeを用いて角膜上皮フラップを作製し,Bow-man膜より直接レーザー照射を行い,再度フラップを戻す手術方法である.この上皮フラップには角膜上皮基(51)●連載○69屈折矯正手術セミナー監修=木下茂大橋裕一坪田一男69.Epi-LASIKの現状中井義典稗田牧バプテスト眼科クリニックEpikeratomeを用いた新しい屈折矯正手術Epi-LASIKを施行した術後早期の印象と,現在使用可能な各社のepikeratomeの使用経験について述べる.現状のEpi-LASIKは,当初期待されたように,LASIKに取って代わる手技には至っていない.術後早期の裸眼視力や術後の疼痛などにおいてはこれまで行われてきたtPRKやLASEKと類似した経過をみており,今後新しい手術手技の開発と術後長期の観察が望まれる.表1各種epikeratomeの特徴Norwood/EyecareGebauer/VisiJetMoriaAMO名称CenturionSESEpiLiftEpi-KAmadeusⅡセパレーターPMMAステンレスステンレスプラスチックOscillationrate(rpm)9,000~12,0005,000~20,00015,00011,000以上速度(mm/sec)0.5~3.00.4~3.00.5~3.51.5以下リングサイズ(mm)9.0,10.08.5,9.0,9.5,10.08.5,9.5,10.08.5,9.0,9.5,10.0ヒンジ位置鼻側鼻側鼻側鼻側PMMA:ポリメチルメタクリレート.図1CenturionSES(Norwood/Eyecare)図2EpiLift(Gebauer/VisiJet)図4AmadeusⅡ(AMO)図3Epi-K(Moria)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006底膜が残されており,これが上皮フラップの生着を促し,炎症や疼痛を抑制するとされている.tPRKと比べると,正確に上皮のみを除いた状態で屈折矯正のためのレーザー照射を開始するため,より術後の球面収差の増加を減らすことができると考えられる.また上皮フラップはepikeratomeによって機械的に作製されるため,LASEKで懸念されるようなアルコールによる角膜障害も考えられない.Epi-LASIKに使用できるepikeratomeは現在3種類が発売されており,各社の特徴は表1のようになっている.Centurion(Norwood/Eyecare)(図1)は,最も早くアメリカでFDA(食品医薬品局)の認可を得た機種で,フラップ作製時に強い吸引圧がかからないため,フラップの伸びが少ないようである.切除速度が速く,通常のLASIKで使用するマイクロケラトームと比べて時間的に違和感が少ない.またヘッドが小さく扱いやすい印象がある.EpiLift(Gebauer/VisiJet)(図2)は当院ではじめに使用した機種である.他機種に比べてややフラップが薄い印象がある.そのためかフラップの伸びがやや大きく,レーザー照射後フラップを戻す際に,これの処置に工夫がいるようである.Epi-K(Moria)(図3)の特徴は,切除速度を3段階に変化させるところにある.低スピードで切除をはじめ,途中から速度を上げていく.時間はかかるが見ていて安心感がある.この機種のみヘッドがディスポーザブルになっている.AmadeusⅡ(AMO)(図4)はまだ臨床での使用経験はない.現状でのEpi-LASIKは,上皮フラップの生着を一部では認めるものの(図5),術後早期の裸眼視力や術後の疼痛についてはLASIKのようにはいかず,上皮の修復までに要する日数や術後上皮下混濁(haze)の出現についても,これまで行ってきたtPRKに類似した経過をみており,術後の点眼も長期間必要である.今後上皮フラップの生着について取り扱いにさらに工夫が必要であろう.文献1)PallikarisIG,NaoumidiII,KalyvianakiMIetal:Epi-LASIK:comparativehistologicalevaluationofmechanicalandalcohol-assistedepithelialseparation.???????????????????????29:1496-1501,20032)PallikarisIG,KalyvianakiMI,KatsanevakiVJetal:Epi-LASIK:preliminaryclinicalresultsofanalternativesur-faceablationprocedure.???????????????????????31:879-885,2005(52)図5Epi-LASIK術後3日の角膜所見☆☆☆

眼内レンズ:完全嚢内固定2枚アクリル眼内レンズ間血管新生

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS症例は68歳,女性.右眼の白内障手術目的にて当院を紹介された.眼軸長15.81mmの小眼球で,正視化眼内レンズ(IOL)度数はSTK/T式で50.0D.5.5mm光学径アクリルIOL(アクリソフ?MA30BA,日本アルコン)の20.0Dと30.0Dを?内固定した.術後,紹介医にてフォロー中,約3年弱(33カ月)で血管新生を伴うIOL光学部間の後発白内障を認めた(図1,2).再び当院紹介となったが,新生血管は瞳孔領中心に及んでおらず,何ら自覚的訴えがなかったので,とりあえず経過観察とした.その約3カ月後に新生血管は破綻性出血をきたし,前置IOLの後面は均一な凝固血で覆われたため(図3),止むなく前置IOLを摘出した.本症例では,初回白内障手術時に浅前房を伴う全周虹彩後癒着を認めたため,術中に12時部の全幅虹彩切開と再縫合を行っている.IOL摘出の再手術時に術野を確保するため,同じ場所を再切開したが,このとき,虹彩(49)德田芳浩井上眼科病院眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎234.完全?内固定2枚アクリル眼内レンズ間血管新生短眼軸長眼で,2枚のアクリル眼内レンズを完全?内固定したところ,オプティクス間に血管新生をきたした症例を経験した.図1IOL間新生血管スリットの直接法で,IOL間の膜様増殖物と10時から3時に向かう太い新生血管が観察できる.図2IOL新生血管徹照法による観察.血管を複数本認めるが,瞳孔領中央部には及んでいない.図3破綻性出血前置IOLの後面に赤黒い無構造物があり,それより後方は透見不能.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006(00)裏面と前?切開縁の強い癒着を認め,さらにその癒着?離によって,前?切開縁裏面のドーナツ状線維性増殖膜と虹彩裏面とに連続性があることが判明した(図4).従来,前?切開縁後面のドーナツ状線維性増殖は通常の白内障例でもよくみられる現象であり,アクリルIOL間の上皮増殖もすでに複数の報告がある1,2).しかし,IOL間への新生血管増殖にまで至った症例の報告はいまのところみあたらない.本症例では短眼軸長眼で前?虹彩間距離が狭いという状況に加えて,2枚のIOLを完全?内固定したため,前?と虹彩裏面が術後も接触したままとなっていた.前?切開径は術後の瞳孔径よりも大きいので,術後に発生する前?裏面の水晶体上皮線維性増殖膜と近接した虹彩裏面との間に,組織学的な連続性が発生したものと推定した.新生血管はこの線維性増殖膜を足がかりとして前?裏面から?内に侵入し,さらにそこに連続性をもったIOL光学部間上皮増殖組織(IOL間後発白内障)に伸展したものと考えられる.アクリルIOLの2枚目を挿入する場合,光学部間後発白内障を防ぐために,あえて?外に固定するという選択もあるが,本症例のように前眼部構造がきわめて狭い症例で?外に固定すると,虹彩への接触による炎症惹起や虹彩の前方移動による隅角の狭細化(いずれ前癒着による閉塞)などが懸念される.1枚で40~60Dを超えるIOLも理論的には作製可能であるが,ほとんど需要がなく度数が増すほど収差も強くなるとの理由でメーカーは対応していない.しかし,本症例のように特注のハイパワーIOLが必要な症例ほど,眼軸長が短く前眼部構造も小さいことを考えれば,収差と採算性を犠牲にしても,そういうIOLがあることが望ましいと考える.文献1)GaytonJL,AppleDJ,PengQetal:Interlenticularopaci?-cation:clinicopathologicalcorrelationofacomplicationofposteriorchamberpiggybackintraocularlenses.???????????????????????26:330-336,20002)SpencerTS,MamalisN,LaneSS:Interlenticularopaci?-cationofpiggybackacrylicintraocularlenses.???????????????????????28:1287-1290,2002図4増殖性組織の広がり前?と虹彩裏面が接触.かつ,前?縁は瞳孔縁より外側.a:虹彩後面組織,b:前?切開縁裏面増殖組織,c:?赤道部からIOL光学部間への増殖組織の3者が連絡することで新生血管の伸展が起こり得たと推定される.aaccbb

コンタクトレンズ:コンタクトレンズによる視力補正(3)-定期検査時における視力補正-

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS定期検査で視力測定を行った際に前回の結果と異なることがある.患者が見え方の悪さを訴える場合にはコンタクトレンズ(CL)の度数を変更しなければならないが,その原因を明らかにすることが大切である.●CL処方時の屈折検査CL処方時には調節が入らない正確な自覚的屈折値が求められるが,現実にはむずかしい.その結果,不適切な度数のCLを処方することがある.特に,近視眼の場合,患者が使用していた眼鏡やCLが過矯正であることが多い.図1に示す症例は,他覚的屈折検査(オートレフラクトメータによる検査)では両眼とも-5.25~-5.50Dの近視と-0.50Dの乱視であったが,雲霧法による自覚的屈折検査では両眼とも-4.50Dの近視であった.患者が使用している眼鏡は1カ月前に眼鏡店で購入したもので,眼鏡による視力は両眼とも1.5であったが,1.00Dの過矯正であった.患者には眼鏡の度が合っていないことを十分に説明したうえで,やや低矯正ぎみにソフトコンタクトレンズ(SCL)を処方したが,2週間後の定期検査ではSCLはまだ両眼とも0.50Dの過矯正であったため再処方した.●CLの汚れ,乾燥に伴う視力変化CLの表面が汚れていたり乾燥したりすると,レンズの光学性が低下して十分な矯正効果が得られないことがある.表1に示す症例は,初診時に2週間頻回交換SCLを処方したが,6カ月の定期検査に来院したときに両眼の視力低下を訴えた.実際に検査すると両眼とも0.6~0.7で,-0.25~-0.50Dの追加矯正で1.2の視力が得られたが,レンズを洗浄して再度視力検査をすると,1.2の視力が得られた.患者にはレンズケアの指導と人工涙液の頻回点眼の指導を行った.平成12年2~4月の3カ月間に当院を受診したディスポーザブルSCL,および2週間頻回交換SCLの装用者3,921名に対して,前回の受診時と3カ月後の定期検査でどう視力とレンズ度数が変化したのかを調べたところ,視力が低下したものが34.5%,視力がアップしたものが20.1%,視力が変化しなかったものが45.4%であった.レンズの洗浄や新しいレンズによる再検査をし(47)植田喜一ウエダ眼科コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純TOPICS&FITTINGTECHNICS260.コンタクトレンズによる視力補正(3)─定期検査時における視力補正─表1レンズの汚れが原因で視力低下を生じたと思われる症例初診:頻回交換型SCL処方VD=0.3(1.2×SCL)8.7mm/-0.50D/14.0mmVS=0.4(1.2×SCL)8.7mm/-0.50D/14.0mm6カ月後:両眼の視力低下VD=(0.6×SCL)(1.2×SCL-0.50D)VS=(0.7×SCL)(1.2×SCL-0.25D)?SCL洗浄後VD=(1.2×SCL)VS=(1.2×SCL)?レンズケアの指導?人工涙液の点眼を指導図1使用している眼鏡による矯正が不適切であったためSCLの度数を変更した症例———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006(00)て実際に度数の変更をしたものは,8.4%ときわめて少ないことがわかった.●角膜形状変化に伴う視力変化CLの装用によって角膜形状が変化することがある.したがって,オートレフラクトメータで屈折値をみるだけでなく,オートケラトメータで角膜乱視の変化をみることも大切である.角膜形状の変化はビデオケラトスコープで観察すると詳細な情報を得ることができる.特に,ハードコンタクトレンズ(HCL)の装用者は角膜形状が大きく変化することがあるので,十分な観察が必要である(図2).角膜形状の変化に伴って涙液レンズが変化した結果,HCLによる視力が変動することがある(図3).●CLの形状変化に伴う視力変化CLを長時間装用するとレンズの形状が変化することがある.表2はHCLを処方して1年後に眼精疲労を訴えて来院した近視の患者である.右眼のHCLは1.50Dの過矯正であった.処方時のベースカーブは角膜形状に対してパラレルなもの(7.85mm)を選択したが,計測すると8.15mmと0.30mm(6段階)扁平化していた.角膜形状はほとんど変化していなかったため,このHCLを装用すると涙液レンズは-0.25×6=-1.50Dとして働き,結果的に+1.50Dの過矯正になっていたわけである.CLの形状変化にも注意を要する.安易な検査で単純に屈折異常が変化したと判断して,不適切な度数のレンズを再処方しないようにしなければならない.患者の見え方が変化した原因を明らかにして,適切な対応を図ることが求められる.調節の問題で見え方が悪いようであれば,日にちを変えて,改めて屈折検査を行うか,調節麻痺剤の点眼による屈折検査を行って,適切なレンズ度数を選択する必要がある.表2長期装用に伴うHCLの形状変化により,過矯正の状態になった症例初診:HCLの装用を希望VD=(1.0×HCL)7.85mm/-6.25D/8.8mmVS=(1.0×HCL)7.85mm/-5.50D/8.8mm1年後:眼精疲労VD=(1.2×HCL)(1.2×HCL+1.50D)8.15mm/-6.25D/8.8mmVS=(1.0×HCL)7.85mm/-5.50D/8.8mmHCLのBCが7.85mmから8.15mmに扁平化したことにより,涙液レンズが-1.50Dに変化し,その結果1.50Dの過矯正となった.図2HCLの装用に伴う角膜形状変化を生じた症例a:装用前,b:装用24日後.ab図3角膜形状変化に伴う涙液レンズの変化HCLと角膜がパラレルな関係であるときは涙液レンズは0Dとして働くが,角膜曲率半径が0.10mm(2段階)扁平化すると,涙液レンズは+0.50D(2段階)として働く.

強膜化角膜

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS(45)加治優一筑波大学臨床医学系眼科写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦261.強膜化角膜図1強膜化角膜の前眼部所見生下時より片眼の角膜が白濁していた.眼圧は正常.角膜はびまん性に混濁し,強膜との境界は不明瞭となっている.電気生理学的には網膜機能は保たれていたが,視刺激遮断性弱視,廃用性斜視,眼振を認める.虹彩の色が透見される血管侵入本来の角膜と強膜の境界と考えられるところ図2図1のシェーマ図3強膜化角膜のUBM所見Descemet膜の反射が減弱している.前房は浅く,虹彩は萎縮性であり,隅角の発達異常も示唆される.図4限局性の強膜化角膜限局性の強膜化角膜(peripheralsclerocornea)を両眼性に認めた症例.視軸の透明性は保たれているので,視機能には大きな問題はない.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006(00)強膜化角膜(sclerocornea)は,角膜実質が強膜様の組織と置き換わることにより混濁を生じる先天異常である.強膜化角膜の病態はいまだ明らかではない.胎生7週ごろに,角膜組織と強膜組織への分化がはじまるが,その発生異常によると考えられる.●眼所見角膜全体が混濁するtotalsclerocornea(図1,2)から,角膜周辺部の一部が混濁するperipheralsclerocornea(図4)まで程度はさまざまである.細隙灯では,混濁した角膜のなかに強膜から続く血管が観察される.Pali-sadesofVogt(POV)を見出すことは困難であるが,上皮だけは結膜と置き換わっていないようである.●合併症強膜化角膜は以下のようなさまざまな眼・全身合併症をもつことがある.角膜:扁平角膜,小角膜,Descemet膜~内皮の異常,posteriorembryotoxon.前眼部:無虹彩,虹彩萎縮,隅角発達異常(図3),Axenfeld症候群,Rieger症候群.眼球:コロボーマ,小眼球,緑内障,弱視,斜視,眼振.全身:Dandy-Walker症候群,17q-10q転位,Wolf症候群(4p-)など.強膜化角膜は,角膜にとどまらず,より広範な発生異常における所見の一つと考えることができる.また,上記のようなさまざまな合併症をもつことにより,視力予後は悪い.●診断特徴的な角膜所見により診断は比較的容易である.眼内の透見が困難なことが多いために,角膜以外の合併症の有無の検出にはUBM(ultrasoundbiomicroscope)が便利である.先天性の角膜混濁を生じるという点で,先天緑内障や先天遺伝性角膜内皮変性症も鑑別にあげられる.角膜は浮腫性の肥厚ではないこと,輪部に近いほど混濁が強いこと,強膜より続く血管が侵入していることより鑑別できる.●病理角膜の深層側およそ2/3の角膜実質の薄葉構造は乱れ,コラーゲン線維の間隔が大小不同となっている.Descemet膜は菲薄化している.角膜内皮細胞も変性している.不思議なことに,角膜上皮は結膜と置き換わっていないようである.ただし,Bowman層は認められない.●治療法・予後角膜混濁が視軸にかかっていない場合や片眼性の場合には積極的な治療は行わず,審美的な観点から虹彩つきソフトコンタクトレンズあるいは義眼を装用させる.両眼性で角膜全体が混濁している場合には,全層角膜移植術の適応となることがある.概して視力予後は不良である.

時の人

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???0910-1810/06/\100/頁/JCLS名古屋大学医学部眼科学教室は現在,名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座眼科学と改称されているが,120年余の伝統と実績を誇る.本眼科学教室の第11代の教授として,寺崎浩子先生が平成17年7月に就任された.寺崎先生は昭和55年3月に金沢大学医学部卒業後,同年4月に名古屋大学医学部眼科学教室へ入局された.昭和59年3月,名古屋大学大学院(錐体機能の心理物理学的研究)を修了,糖尿病網膜症患者の青錐体系機能についての研究で学位を取得された.昭和59年10月に静岡済生会病院に勤務され,同63年3月まで多数の眼内レンズ手術を行い,また硝子体手術を手がけられた.昭和63年4月に名古屋大学医学部助手として帰局,平成3年7月に名古屋大学医学部附属病院講師となられた.この頃から多数の重症例の硝子体手術に取り組まれ,平成4年日本網膜硝子体学会において「内視鏡手術」について特集講演を行われた.平成9年4月にはハーバード大学客員講師,6月からボストンに留学して,「網膜電気生理の研究」をされる一方,当時難手術といわれていた「未熟児網膜症の硝子体手術」に一層の研鑽を積まれた.平成10年9月には名古屋大学医学部眼科学助教授に昇進され,多数の硝子体手術を手がけるなかで,網膜機能との関係に注目した研究に従事された.平成11年10月には,国の「大学院重点化」により,名古屋大学大学院医学研究科感覚器障害制御学の教授となられた.平成13年の日本眼科学会総会において,田野保雄教授の座長のもと,硝子体の病態生理というテーマにおいて,「硝子体手術における形態と機能の関わり」という題で宿題報告を行われた.その頃から,多数例の加齢黄斑変性に対する手術をはじめとした治療に従事され,現在その網膜機能の研究と新しい治療開発の研究を続けておられる.さらに,平成17年12月には,日本網膜硝子体学会において「黄斑治療─機能・形態評価か(43)らのメッセージ」という題で特別講演をされた.*寺崎先生は大学を卒業される時に,名古屋大学では手術や臨床を活発にやっていると聞いておられ,それに憧れて名古屋大学に入られたとお伺いした.入局から大学院を卒業されるまでは,黄斑疾患(変性)を色覚や心理物理学的に解析することがご専門の故市川宏教授に指導を受けられた.その後,眼科学教室は粟屋忍教授と助教授の三宅養三先生の2本の柱で教室は運営されていたといわれ,その粟屋先生に当時第一線の病院に出ておられた寺崎先生は帰局を強く勧められたとのことである.寺崎先生のご専門である黄斑変性や網膜の生理学的研究,小児眼科を基盤とした臨床は,入局以来過ごしてきた伝統ある教室のテーマを継いだものであると自負されておられる.また,前任の三宅養三教授がそれまで基礎系の教室に頼っていた分子生物学的研究を眼科学教室の中に立ち上げられた.さらに,寺崎先生が感覚器制御学の教授に就任されてからは,画像診断の研究にも力を入れ,現在,教室の研究の柱は,網膜電気生理,分子生物,画像,小児眼科,角膜の5グループとなっている.*寺崎先生は,信条というなどたいそうなものではありませんがと謙遜されつつ,患者さんを大切にし,治療に際しては自分と同じように患者さんにも理解してほしいので,一生懸命説明し,治療の選択は患者さんや家族にできるだけ任せるようにしているとおっしゃる.研究は臨床に根づいたものを基本にしつつ,基礎研究もいずれ臨床研究の礎となると思うので,積極的に推進したい,と抱負を述べられた.最後に,よき臨床医,外科医であるための寺崎先生流のpolicyをもっておられ,医師として当たり前と思う事柄を,教室の忙しい先生方に受け入れてもらえるかどうか,ちょっぴり不安を述べられた.人の時名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座眼科学教授寺??崎??浩??子?先生

術中合併症に対する眼内レンズ挿入

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSり,おもに本稿ではもともと他に疾患をもたない白内障手術時に合併症を生じた際の,IOL挿入の是非についてevidence-basedmedicine(EBM)の観点から,文献的考察を行う.I研究目的白内障手術の術中合併症発生後の,IOL挿入の利点と問題点についてEBMの観点から評価する.II研究方法1.分析対象文献白内障術中合併症について検討された論文について幅広く検索することを目的として,医学中央雑誌Web版Ver.3(以下,医中誌)およびMedlineを用いて検索をはじめに白内障手術が超音波水晶体乳化吸引術+眼内レンズ挿入術(PEA+IOL)になり久しい.各種術式・機器などの進歩により,安全に手術を行うことに加えて,視覚の質すなわちqualityofvision(QOV)が問われるようになっている.手術を受ける患者の期待も高いこのような状況では,水晶体摘出のみだけでは白内障の手術を施行したとはいえないようになっている.しかし,臨床の場ではさまざまな理由で眼内レンズ(IOL)の挿入が困難な場合や,挿入時に合併症をひき起こす場合など,通常どおりにIOL挿入を続行可能か否か判断に苦慮するときがある.そこで,過去の報告をもとに術中合併症に遭遇した場合のIOL挿入の適応について考証する.疾患のある症例に対しての白内障手術については他稿に譲(35)???*TakuyaShiba:東京慈恵会医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕柴琢也:〒105-8461東京都港区西新橋3-19-18東京慈恵会医科大学眼科学教室特集●眼内レンズの適応を再考証するあたらしい眼科23(2):173~180,2006術中合併症例に対する眼内レンズ挿入????????????????????????????????????????????????????????????????????????????柴琢也*表1検索に用いたキーワード医学中央雑誌Medline検索に用いたキーワード(早期穿孔)and(白内障)(early-perforation)and(cataract)(前?切開)and(白内障)(capsulorhexis)and(cataract)(後?破損)and(白内障)(posterior-capsule-rupture)and(cataract)(創口熱傷)and(白内障)(thermal-burn)and(cataract)(虹彩断裂)and(白内障)(irisrupture)and(cataract)(Zinn小帯断裂)and(白内障)(zonular-rupture)and(cataract)(インジェクター)and(眼内レンズ)(injector)and(intraocular-lens)(眼内レンズ挿入)and(合併症)(intraocular-lens-implantation)and(complication)(Descemet膜?離)and(白内障)(Descemet?s-membrane)and(cataract)医学中史雑誌は左側の,Medlineは右側のキーワードを用いて文献検索を行った.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006行った.医中誌は1983~2004年までの文献を,Med-lineは1980~2004年までの英語の文献を検索対象とした.検索に用いたキーワードを表1に示す.検索に用いたキーワードは,白内障手術時のIOL挿入前の各過程〔1.創口作製時(早期穿孔),2.前?切開時(前?切開失敗),3.水晶体摘出時(後?破損,創口熱傷,虹彩断裂,Zinn小帯断裂),4.IOL挿入時(インジェクターによる合併症,Descemet膜?離)〕の代表的なものである.しかし,実際の手術では必ずしも特定の過程のみで生じ得ないことをお断りしておく.さらに,上記検索で得られた文献のうちタイトル,抄録から判断して,明らかに本研究の目的と異なると考えられる文献は除外した.2.分析方法対象文献から,術中合併症が生じた症例に対して,IOL挿入を行った術後予後について比較検討した.III結果医中誌およびMedlineによる各キーワードの検索文献数を表2に示す.このなかより,白内障手術中合併症後のIOL挿入について述べている文献について報告する.1.早期穿孔医中誌(キーワード:早期穿孔,白内障)およびMed-line(キーワード:early-perforation,cataract)の検索結果では,計7編の文献が検索されたが,その後のIOL挿入について述べたものはなかった.2.前?切開Medline(キーワード:capsulorhexis,cataract)の検索結果では,5編の文献がIOL挿入について述べていた.Haighらは,連続環状?切開(continuouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)の切開縁に亀裂が入った症例の術後経過を報告しているが,亀裂部位に対してIOLの位置を慎重に決めれば術後に問題は生じないとしている1).AssiaらやWassermanらは,それぞれ白内障手術の既往のある死亡摘出眼のIOLの固定状況についての報告をしている2,3).これによると,前?切開縁に亀裂が入った症例にIOLを?内固定した場合も,瞳孔領からレンズ光学部が外れることはなかったとしている.HansenらやMasketは,小さすぎる前?切開では術後に前?収縮をきたすことがあるとしているが,そのことがIOL挿入の禁忌になるとはしていない4,5).3.後?破損医中誌(キーワード:後?破損,白内障)およびMed-line(キーワード:posterior-capsule-rupture,cataract)(36)表2検索文献数医学中央雑誌Medlineキーワード検索数キーワード検索数(早期穿孔)and(白内障)5(early-perforation)and(cataract)2(前?切開)and(白内障)200(capsulorhexis)and(cataract)531(後?破損)and(白内障)97(posterior-capsule-rupture)and(cataract)82(創口熱傷)and(白内障)4(thermal-burn)and(cataract)5(虹彩断裂)and(白内障)1(irisrupture)and(cataract)0(Zinn小帯断裂)and(白内障)20(zonular-rupture)and(cataract)17(インジェクター)and(眼内レンズ)10(injector)and(intraocular-lens)31(眼内レンズ挿入)and(合併症)200(intraocular-lens-implantation)and(complication)235(Descemet膜?離)and(白内障)8(Descemet?s-membrane)and(cataract)101キーワードごとの検索文献数を表示する.キーワードにより検索文献数が異なるが,医学中史雑誌とMedlineで同様の傾向であった.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???の検索結果では,それぞれ6編および4編の文献がIOL挿入について述べていた(表3).永本らは,後?破損をきたした場合は,残余水晶体?の支持能力が十分であると判断される際に限っては,IOL挿入を行っても術後合併症は少なく,視力予後も良好であるとしている6).?胞様黄斑浮腫(CME)の発生率は,後?破損後にIOL挿入を行わなかった症例よりも,IOL挿入を行った症例のほうが低いとのことである.佐藤らは,後?破損をきたした場合は,残留核,皮質,脱出硝子体の処理を適切に行えば,IOL挿入を行ってもCMEの発生が52眼中3眼で生じているものの,他に重篤な合併症を認めていないとしている7).高瀬らは,後?破損をきたした症例に,経毛様体扁平部水晶体切除術と硝子体切除術とを行った後にIOL挿入を行った2症例について報告している8,9).術後最良視力を得るまでの期間は,術中合併症をきたさなかった症例に比べて数日遅延する傾向があったが,それ以外に重篤な術後合併症はきたさなかったとしている.鬼塚らは,後?破損をきたした症例に,前部硝子体切除を行った後にIOLを?外固定した11眼について報告している.これによると,全症例ともに術後視力は術前に比べて2段階以上改善しており,重篤な合併症はきたさなかったとのことである10).Yapらは,後?破損をきたした症例の術後経過を報告している.術後早期には角膜浮腫,眼圧上昇などを生じたとしている.しかし,IOLを挿入していても術中に適切な処置が行われていれば,平均26カ月後まで経過を追っても重篤な術後合併症はみられないとのことである11).原らは,後?破損をきたした症例に,IOL挿入を行った54眼中1眼にIOLの硝子体への落下を認めたと報告している12).しかし,その詳細については述べられていない.また,後?破損を生じた後にIOL挿入を行った症例と,術中合併症を生じなかった症例間の術後予後に差を認めないとのことである.Changらは,後?破損をきたした症例に対して,粘弾性物質を毛様体扁平部より注入して,水晶体の硝子体(37)表3後?破損についての文献の比較著者眼数術操作についての記載術後視機能についての記載問題点についての記載永本ら6)15眼内レンズ挿入の条件1.後?破損と前?の亀裂がつながっているのが1カ所以内2.Zinn小帯断裂が60?以内術後視力0.8以上眼内レンズ挿入群75.0%眼内レンズ非挿入群42.9%?胞様黄斑浮腫(CME)1/15眼佐藤ら7)52硝子体カッターを用いて前部硝子体の切除を行う術後視力は全例術前より改善CME3/52眼高瀬ら8,9)2経毛様体扁平部水晶体切除術と硝子体切除術を行う術後視力1.0術後最良視力を得るまでの期間が3~4日延長鬼塚ら10)11硝子体カッターを用いて前部硝子体の切除を行う術後視力は全例術前より改善硝子体が創口に嵌頓3/11眼瞳孔偏位1/11眼眼内レンズ偏位2/11眼Yapら11)44硝子体カッターを用いて前部硝子体の切除を行う長期予後は良好術後早期のみ角膜浮腫26/44眼原ら12)58術後視力は合併症のない症例と同様眼内レンズ硝子体中落下1/54眼Changら13)8粘弾性物質を毛様体扁平部より注入して硝子体への核落下を防止しながら水晶体や前部硝子体を行う術後視力0.5以上重篤な術後合併症なしOlsenら14)23重篤な術後合併症なしChanら15)155硝子体カッターを用いて前部硝子体の切除を行う前房レンズ挿入に比べて後房レンズのほうが視力予後が良い後?破損後にIOL挿入を行っても予後は総じて良好であるとの報告が多かった.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006腔内への落下を防ぎながら,水晶体や前部硝子体の処理を行う方法を報告している13).その後に引き続いてIOL挿入を行い,最低18カ月以上の経過観察を行っているが,重篤な術後合併症は認めなかったとしている.Olsenらは,白内障手術の1.6%の症例に後?破損を認めたとしている14).その後IOL挿入を行っているが,そのことが術後合併症の発生に寄与するとはしていない.Chanらは,後?破損をきたした症例の早期経過について報告している15).それによると,術後視機能が損なわれる要因の一つに前房レンズ挿入をあげているが,後房レンズに関しては前房の脱出硝子体の処理などを確実に行えば術後経過は良好とのことである.4.創口熱傷医中誌(キーワード:創口熱傷,白内障)およびMed-line(キーワード:thermal-burn,cataract)の検索結果では,計9編の文献が検索されたが,その後のIOL挿入について述べたものはなかった.5.虹彩断裂医中誌(キーワード:虹彩断裂,白内障)では1編の文献が検索されたが,その後のIOL挿入については述べていなかった.6.Zinn小帯断裂医中誌(キーワード:Zinn小帯断裂,白内障)およびMedline(キーワード:zonular-rupture,cataract)の検索結果では,それぞれ1編および2編の文献がIOL挿入について述べていた(表4).原らは,術中にZinn小帯断裂をきたした症例に対して,IOLを挿入した22眼について報告している.合併症に対して適切な処置を行えば,術後視力は合併症のない症例に比べて差がないとのことである12).Olsenらは,白内障手術の1.2%の症例に術中Zinn小帯断裂を認めたとしている14).その後IOL挿入を行っているが,そのことが術後合併症の発生に寄与するとはしていない.Avramidesらは,水晶体落屑症候群に対する白内障小手術において,術中13.09%の症例にZinn小帯断裂を認めたとしている16).IOL挿入が術後合併症の発生に起因するとはしていないが,このような症例に対しては適切な処置を行える技量のある術者が手術を行うことが望ましいとしている.7.インジェクターによる合併症医中誌(キーワード:眼内レンズ,インジェクター)およびMedline(キーワード:intraocular-lens,injec-tor)の検索結果では,それぞれ1編および4編の文献がIOL挿入について述べていた(表5).岩城らは,インジェクターを用いたIOL挿入時の合併症について報告している17).これによると,1.9%の症例にIOL損傷などの合併症が発生したとしている.その対処としては,支持部の損傷が軽度であった症例はそのまま眼内に留置し,それ以外の症例は摘出を行い,新しいIOL挿入を行ったとのことである.Olsonらは,インジェクターにてIOL挿入を行った際に,毛様溝に支持部が入ってしまった症例を報告しているが,すぐに安全に?内に挿入可能であったとしている18).Habibらは,インジェクターを用いたIOL挿入時に合併症を生じた5症例について報告している19).そのう(38)表4Zinn小帯断裂についての文献の比較著者眼数術操作についての記載術後視機能についての記載問題点についての記載原ら12)22術後視力は合併症のない症例と同様眼内レンズ硝子体中落下1/54眼Olsenら14)17重篤な術後合併症なしAvramidesら16)11適切な処置を行える技量のある術者が手術を行うことが望ましい術後視力7/10~10/10Zinn小帯断裂後にIOL挿入を行っても予後は総じて良好であるとの報告が多かった.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???ち4症例はIOLの損傷で,いずれも摘出し新しいIOL挿入を行い,1症例は前房内にレンズが脱出してしまったが,すぐに後房内に挿入可能であったとのことである.Gohillらは,202眼にインジェクターを用いてIOL挿入を行い,そのうちの3眼にIOL損傷をきたし,1眼はレンズ挿入時に後?破損をきたしたと報告している20).しかし,レンズの損傷した症例に対しては新しいレンズを挿入し,後?破損をきたした症例に対しては硝子体の処理後にレンズ挿入を施行し,いずれも術後に重篤な合併症は認めなかったとのことである.8.Descemet膜?離医中誌(キーワード:Descemet膜?離,白内障)およびMedline(キーワード:Descemet?s-membrane,cataract)の検索結果では,それぞれ1編および8編の文献がIOL挿入について述べていた(表6).渡部らやPahorらは,白内障術後にDescemet膜?離が明らかになった症例に対して,ナイロン糸を用いてDescemet膜を角膜実質に縫着することで整復術を行い,良好な結果を得た症例について報告している21,22).Vastineらは,白内障術中にDescemet膜?離が明らかになった症例に対して,ナイロン糸を用いて整復術を行い,良好な結果を得た症例について報告している23).Nouriらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,IOLを挿入した後に,縫合による整復および前房内への空気注入を行った症例について報告しているが,術後早期に軽度の角膜浮腫を認めたのみで,良好な術後視力が得られたとしている24).Boothらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,(39)表5インジェクターによる合併症についての文献の比較著者眼数術操作についての記載術後視機能についての記載問題点についての記載岩城ら17)24支持部の損傷が軽度の症例はそのまま眼内に留置それ以外の症例は摘出し新しい眼内レンズを挿入Olsonら18)1毛様溝に支持部が入り,すぐに?内に挿入可能重篤な術後合併症なしHabibら19)5レンズの損傷した症例はすべて交換した前房内にレンズが脱出した症例は後房に戻した術後視力は全例術前より改善Gohillら20)4レンズの損傷した症例はすべて交換した後?破損をきたした症例に対しては硝子体の処理後にレンズを挿入術後視力6/6重篤な術後合併症なしインジェクターによる術中合併症に関する文献は,インジェクターによるIOL破損についての報告がほとんどであった.表6Descemet膜?離についての文献の比較著者眼数術操作についての記載術後視機能についての記載問題点についての記載渡部ら21)1空気・粘弾性物質を前房内に注入ナイロン糸による縫合術後視力1.0Pahorら22)1ナイロン糸による縫合術後視力0.9Vastineら23)3ナイロン糸による縫合重篤な術後合併症なしNouriら24)1ナイロン糸による縫合空気を前房内に注入術後視力20/25術後早期に軽度の角膜浮腫Boothら25)1空気を前房内に注入術後視力6/9Marconら26)15SF6を前房内に注入重篤な術後合併症なしMacsaiら27)3C3F8を前房内に注入重篤な術後合併症なしKremerら28)3SF6・粘弾性物質を前房内に注入重篤な術後合併症なしAssiaら29)1自然治癒Descemet膜?離後にIOL挿入を行っても予後は総じて良好であるとの報告が多かった.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006IOLを挿入した後に空気を前房内に注入することにより治癒可能としている25).Marconらは,強角膜切開に比べて角膜切開でDes-cemet膜?離の発生率が高いとしている26).しかし,IOLを挿入してSF6(sulfurhexa?uoride)を前房内に注入することにより治癒可能としている.Macsaiらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,IOLを挿入した後にC3F8(per?uoropropane)を前房内に注入することにより治癒可能としている27).Kremerらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,IOLを挿入した後に粘弾性物質とSF6を前房内に注入することにより治癒可能としている28).Assiaらは,白内障術中にDescemet膜?離をきたし,IOLを挿入した症例が,数カ月後にDescemet膜?離が自然治癒した症例を報告している29).IV考察1.前?切開の失敗について今回検索した文献で,前?切開縁に亀裂が入った後にIOL挿入が禁忌であるという報告はなかった.CCCの成功はその後の術操作を安全に行うために必須と思われ,CCCが直接的・間接的に他の術中合併症の原因になる可能性がある.いずれの対象文献も安全にIOL挿入を行うためには,適切に核処理を行い,IOLを適切な方向に挿入すべきとしている.つまり,CCCの失敗が他の術中合併症の原因にならないよう十分な注意が必要と思われる.また,亀裂がその後の術操作によってより広がらないようにすることも同様に重要であろう.2.後?破損について対象文献のほとんどは,水晶体超音波乳化吸引中に後?破損をきたした症例についての報告であった.これらを比較すると,いずれの文献も後?破損後にIOLを挿入することを禁忌であるとはしていない.原らの報告で術後にIOLが硝子体中に落下したとの記載がある12)が,詳細については述べられていない.永本らの文献6)による,後?破損後にIOL挿入を行う条件を満たさない症例に,IOLを挿入した可能性も示唆される.各文献ともに,後?破損をきたしたときに重要なことは,①それ以上後?破損を広げない,②水晶体皮質・核を完全に取りきる,③前房内に脱出した硝子体を完全に処理する,④IOLを安全な位置に挿入する,というところでは概ね一致している.またChanらは,後房レンズ挿入は硝子体を硝子体腔内に留める意味からも,なるべく挿入したほうがよいとしている15).3.Zinn小帯断裂について参考文献のほとんどは,後?破損を生じたときと同様に,適切な処理を行った後に,しかるべき位置にIOLを挿入すれば術後に重篤な合併症をきたさないとしている.しかし,その適切な処理が確実に行えるかが重要であり,それ以上断裂の範囲を広げることなく,水晶体摘出を行うには十分な知識・技量が必要であろう.また,手術のどの段階でZinn小帯断裂が生じるかも,その後の操作中に別の術中合併症を併発する危険性を左右するものと思われる.4.インジェクターによる合併症について現在はさまざまなインジェクターが各IOL向けに開発されていて,従来は折りたたんで挿入されることの多かったfoldableIOLも,しだいにインジェクターにより挿入する機会が増えてきている.その利点として,鑷子を用いるときと比べて,①切開幅が小さい,②感染の予防を期待できる,③挿入時の前房の維持がしやすい,④術者が意図する位置にレンズを導きやすいなどがあげられている30)が,今回検討したようにインジェクター特有の合併症もある.そのインジェクターによる合併症についての文献は,眼球に対する損傷をきたしたものよりもIOL自体の破損をきたした報告が多かった.各文献ともIOLを交換する必要がある症例では,すべて無事に新しいIOLに交換可能であったとしていた.したがって,このような事態が生じた際には,損傷したIOLを摘出するだけでなく,新しいIOLを挿入することが望ましいと思われる.また,これら文献は2000年以前のものがほとんどで,それ以降はインジェクターによる合併症に関する発表はほとんど検索されなかった.このことは,現在は当時よりはインジェクターも改良されたことと,術者がインジェクターの取り扱いに慣れてきて(40)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???いることも関係しているものと考えられる.5.Descemet膜?離今回の対象文献は,いずれもDescemet膜?離後にIOLを挿入することを禁忌であるとはしていない.その対処としては,ナイロン糸でDescemet膜を角膜実質に縫着させるものや,手術終了時にタンポナーデ効果を期待して前房内に空気・ガス・粘弾性物質などを留置する方法が報告されている.いずれの報告も,重篤な術後合併症なく経過しているとしている.Descemet膜?離は白内障手術のどの過程でも生じうる合併症である.水晶体摘出中に器具の出し入れなどで創口断面に負荷がかかっている場合は,その時点までは術中合併症が顕著でなくても,その後のIOL挿入の操作自体がDescemet膜?離をひき起こす可能性があるので注意が必要であると考えられる.白内障手術は,さまざまな過程から構成されている.したがって,その術中合併症は多岐にわたる.今回は,一般的な術中合併症のみに焦点を当てて,それが生じた際のIOL挿入についての文献的考察を行った.その結果,合併症の種類は違っていてもそれに対する適切な処置を行うことが可能であれば,その後にIOLを挿入することが致命的な術後合併症の原因になるとの報告は今回検討した1,549編の文献中1編もなかった.問題がないとすれば,むしろ術後のQOVを重視すれば,適切な合併症に対する対処のもとにIOLを挿入したほうがよいであろう.検索を行うキーワードの設定により,他に検討する必要のある文献が多少ともあると思われる.今後さらなる検討を行いたい.おわりに医中誌およびMedlineによる文献的検証を行ったところ,白内障手術中に合併症を起こした場合に,合併症に対する適切な処置を行うことができれば,その後のIOL挿入を禁忌とするevidenceは認めなかった.文献1)HaighPM,LloydIC,LavinMJ:Implantationoffoldableintraocularlensesinthepresenceofanteriorcapsulartears.???9:442-445,19952)AssiaEI,LeglerUF,MerrillCetal:Clinicopathologicstudyofthee?ectofradialtearsandloop?xationonintraocularlensdecentration.?????????????100:153-158,19933)WassermanD,AppleDJ,CastanedaVEetal:Anteriorcapsulartearsandloop?xationofposteriorchamberintraocularlenses.?????????????98:425-431,19914)MasketS:Postoperativecomplicationsofcapsulorhexis.???????????????????????19:721-724,19935)HansenSO,CrandallAS,OlsonRJ:Progressiveconstric-tionoftheanteriorcapsularopeningfollowingintactcap-sulorhexis.???????????????????????19:77-82,19936)永本敏之,宮島弘子,木村肇二郎:後?破損・チン氏帯断裂と後房レンズ挿入について.???4:171-180,19907)佐藤宏,上条由美,高良由紀子ほか:後?破損後の処置と予後.眼科手術8:113-116,19958)高瀬正郎,矢那瀬淳一,栗原秀行:白内障手術時の後?破損に対する経毛様体扁平部処理.臨眼56:1143-1146,20029)高瀬正郎,矢那瀬淳一,譲原大輔ほか:白内障手術時における後?破損とその処理について.眼科手術13:421-425,200010)鬼塚尚子,久保田敏昭,松浦敏恵ほか:超音波白内障手術中に後?破損し前部硝子体切除を行った症例の術後成績.あたらしい眼科18:1551-1553,200111)YapEY,HengWJ:Visualoutcomeandcomplicationsafterposteriorcapsuleruptureduringphacoemulsi?cationsurgery.??????????????23:57-60,199912)原修哉,市川一夫,加賀達志ほか:耳側角膜小切開による日帰り白内障手術の術中合併症.臨眼57:743-746,200313)ChangDF,PackardRB:PosteriorassistedlevitationfornucleusretrievalusingViscoatafterposteriorcapsulerupture.???????????????????????29:1860-1865,200314)OlsenT,BargumR:Outcomemonitoringincataractsur-gery.?????????????????????73:433-437,199515)ChanFM,MathurR,KuJJetal:Short-termoutcomesineyeswithposteriorcapsuleruptureduringcataractsur-gery.???????????????????????29:537-541,200316)AvramidesS,TraianidisP,SakkiasG:Cataractsurgeryandlensimplantationineyeswithexfoliationsyndrome.???????????????????????23:583-587,199717)岩城久泰,宇多重員:Unfolderの問題点.眼科手術11:501-503,199818)OlsonR,CameronR,HovisTetal:ClinicalevaluationoftheUnfolder.???????????????????????23:1384-1389,199719)HabibNE,SinghJ,AdamsADetal:Crackedcartridgesduringfoldableintraocularlensimplantation.???????????????????????22:630-632,199620)GohillJ,BhamraJ:Unfolderlensinjectionsystemwithacrylicintraocularlenses:retrospectivestudy.???????????(41)———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006????????????29:980-982,200321)渡部通史,堀田喜裕,陳秀郁ほか:白内障手術中に発生したDescemet膜?離の1症例.あたらしい眼科8:1801-1803,199122)PahorD,GracnerB:SurgicalrepairofDescemet?smem-branedetachment.?????????????25(Suppl):13-16,200123)VastineDW,WeinbergRS,SugarJetal:StrippingofDescemet?smembraneassociatedwithintraocularlensimplantation.???????????????101:1042-1045,198324)NouriM,PinedaRJr,AzarD:Descemetmembranetearaftercataractsurgery.????????????????17:115-119,200225)BoothFM,KurdianP,LiuH:RepositioningofDescemet?smembrane:acasereport.?????????????????12:341-343,198426)MarconAS,RapuanoCJ,JonesMRetal:Descemet?smembranedetachmentaftercataractsurgery:manage-mentandoutcome.?????????????109:2325-2330,200227)MacsaiMS,GainerKM,ChisholmL:RepairofDescemet?smembranedetachmentwithper?uoropropane(C3F8).??????17:129-134,199828)KremerI,StiebelH,YassurYetal:Sulfurhexa?uorideinjectionforDescemet?smembranedetachmentincata-ractsurgery.???????????????????????23:1449-1453,199729)AssiaEI,Levkovich-VerbinH,BlumenthalM:Manage-mentofDescemet?smembranedetachment.???????????????????????21:714-717,199530)谷口重雄:foldableIOL挿入法.超音波白内障手術ABC(大鹿哲郎編),p114-119,メジカルビュー社,2002(42)眼科学【監修】眞鍋禮三(大阪大学名誉教授)I.総論VIII.ぶどう膜XV.屈折・調節異常II.眼科診療室にてIX.水晶体XVI.光覚・色覚の異常III.眼瞼X.網膜硝子体XVII.全身疾患と眼IV.涙器(涙腺,涙道)XI.視路,瞳孔,眼球運動XVIII.眼のプライマリーケアV.結膜XII.眼窩XIX.眼治療学総論VI.角膜XIII.緑内障XX.付録VII.強膜XIV.斜視,弱視A.眼科略語集/B.眼科関連法律(法令)/C.リハビリテーション/D.主な眼科雑誌の紹介基礎と臨床との関連性を強く前面に打ち出し、単に眼科学の知識の羅列でなく、何故そうなるのかがわかる記載を心がけた。また、基礎編の記載でも必ず臨床を念頭においた書き方に努めることとした。教科書の内容になじまないトピックス的なものにも触れようと囲み記事として随所に配したが、勉強中の息抜きの読み物として楽しんでもらえれば幸いである。楽しみながら、そして考えながら「眼科学」を身につけることができる教科書として、広く親しまれることを願ってやまない次第である。(あとがきより)B5判2色刷り総674頁カラー写真・図・表多数収録定価23,100円(本体22,000円+税5%)メディカル葵出版〒113─0033東京都文京区本郷2─39─5片岡ビル5F振替00100─5─69315電話(03)3811─0544■内容内容■考える診療のために!あの名著が更にUp-To-Dateな情報を盛り込んで!待望の改訂版、登場!■疾患とその基礎■<改訂版>株式会社

網膜硝子体疾患

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS網膜硝子体疾患に関連する眼内レンズの適応に関する記載は,昭和62年の「眼内レンズ適応検討委員会」の答申に基づき,表1のようになっている.具体的には,進行性の糖尿病網膜症,虹彩新生血管や網膜?離眼には眼内レンズ挿入の適応はなく,黄斑変性,糖尿病網膜症,網膜?離の既往,色素変性や高度近視(-6.0D以上)があれば,眼内レンズ挿入には慎重を要すると記載されている.水晶体?外摘出術(extracapsularcataractextrac-tion:ECCE)が全盛時代の昭和62年当初では,きわめて妥当な見解であろうと思われるが,約20年経過して超音波白内障手術が主流となった現在では,答申の内容と眼内レンズの適応の実際にかなりの隔たりがある.手術技量の進歩と眼内レンズの材質や形状の改良によって,眼内レンズ挿入の安全性が向上した現在では,禁忌や慎重を要するとされる網膜硝子体疾患眼のなかには,実際に眼内レンズ挿入を試みたところ,良好な術後経過を得て,患者が視機能の回復に大変満足している症例がはじめに近年の超音波白内障手術(phacoemulsi?cationandaspiration:PEA)と硝子体手術のめざましい進歩によって,両者の相乗効果ともいうべき白内障・硝子体同時手術の適応疾患が拡大の一途にある.これに伴い,眼内レンズの材質や形状の改良によって,従来では眼内レンズ挿入が禁忌とされてきた増殖糖尿病網膜症,難治性網膜?離,あるいは増殖硝子体網膜症などの重症例においても,眼内レンズ挿入の適応は,同時挿入と二次挿入のいずれのタイミングを選択するにせよ,同時手術の普及とともに拡大してきているのが現状である.最近では,網膜硝子体疾患においても,眼内レンズ挿入の是非を問うことより,良好な視機能の維持と回復の観点に重きをおき,どのタイミングで,どのような材質や形状の眼内レンズを選択するかが重要となってきている.本稿では,網膜?離,増殖糖尿病網膜症や炎症性疾患を含む増殖硝子体網膜症などの種々の網膜硝子体疾患に対する白内障単独手術,白内障・硝子体同時手術における眼内レンズの適応の現状と問題点について述べ,さらに現時点でもなお慎重・禁忌と考えざるを得ない病態について再考したい.I網膜硝子体疾患における眼内レンズ適応の現状と使用説明の記載内容との乖離現在一般に市販されている各社の眼内レンズの使用説明書をみると,眼内レンズの材質や形状にかかわらず,(27)???*YusukeOshima:大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)〔別刷請求先〕大島佑介:〒565-0871吹田市山田丘2-2(Rm.E7)大阪大学大学院医学系研究科脳神経感覚器外科学(眼科学)特集●眼内レンズの適応を再考証するあたらしい眼科23(2):165~171,2006網膜硝子体疾患?????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????????大島佑介*表1網膜硝子体疾患に関わる眼内レンズ挿入の適応の答申(昭和62年)禁忌:進行性の糖尿病網膜症虹彩新生血管網膜?離慎重:黄斑変性糖尿病網膜症網膜?離の既往強度近視色素変性———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006少なくないことは周知の事実である.また,壮高年者の硝子体手術に際して,わが国では白内障手術を同時に行うことが標準的な術式となりつつある現状では,網膜硝子体疾患眼における眼内レンズの適応は,今後ますます拡大するものと考えられる.医療論争が何かと注目されている現代の社会的背景を考慮すれば,眼内レンズ挿入に関するガイドラインを新たに作成することを視野に入れて,眼内レンズ挿入の適応について再考証することが必要不可欠である.II網膜硝子体疾患における眼内レンズ適応の是非網膜硝子体疾患眼における眼内レンズ挿入の目的には,(1)網膜硝子体疾患が完全に沈静化された状態の眼に対する視力改善を目的とした眼内レンズ挿入と,(2)進行性や活動期にある網膜硝子体疾患において,眼底疾患の治療の一環もしくは長期的な視力維持を目的とした眼内レンズ挿入の二つが考えられる.したがって,眼内レンズの適応の是非を問うには,単に疾患群別にその是非を論じるのではなく,病期が活動期か,休止期か,術式が白内障単独手術か,硝子体同時手術か,によってその適応が変わる.上記(1)を目的とした場合,網膜機能(視機能)さえあれば,どんな疾患に対しても100%の眼内レンズ適応があるので,術前の網膜機能を含めた視機能の評価が重要であろう.一方,上記(2)が目的であれば,眼底治療の一環としての白内障手術のタイミングが重要となり,硝子体手術との同時手術の是非や病期によっては眼内レンズ挿入の時期(同時移植か,二次挿入か)が問題となる.本稿では(2)について,わが国での報告ならびに自験例のデータを踏まえながら,頻度的に高い疾患群別に適応の現状について述べる.A.白内障単独手術と眼内レンズの適応活動性のある網膜硝子体疾患においても,初回より硝子体手術を適応しなければならないほどの進行例でなければ,視力障害の原因もしくは網膜硝子体疾患の治療の妨げとなる白内障に対する単独手術と眼内レンズ挿入は,眼底疾患の管理と治療に必要な一連の治療手段と考えるべきであり,具体例を以下に示す.1.加齢黄斑症(age-relatedmaculopathy:ARD)と眼内レンズの適応欧米先進国における社会的失明原因の第1位である加齢黄斑症は,生活様式の欧米化と人口の高齢化の一途をたどるわが国においても次第に増加している.最近の疫学的調査によれば,白内障の進行や白内障手術が加齢黄斑症の有病と病気進行の危険因子として話題になっている.これに対して白内障手術と眼内レンズ挿入が白内障単独例以上に,進行した加齢黄斑症患者におけるquali-tyofvision(QOV)の改善に重要であるとする報告もある1,2).とりわけ,白内障を有する加齢黄斑症患者への眼内レンズ適応は,患者自身のQOVの改善と眼底透見性の向上が眼底疾患の治療の一助となることを考えれば,たとえ活動性の小休止例や進行例であっても,眼内レンズを適応すべきである.図1のように活動性の脈絡膜新生血管を有する白内障眼では,超音波白内障手術と眼内レンズ挿入を行った後に速やかに光線力学的療法を行って,良好な視力予後を得ている.2.糖尿病網膜症と眼内レンズの適応糖尿病網膜症を有する症例での白内障手術(おもにECCE)は,手術侵襲が前房炎症を惹起するのみならず,網膜血液関門に破綻をきたすことで増殖糖尿病網膜症が増悪することが過去に報告されて,これまでの眼内レンズの適応に対する慎重論の背景となっていた3,4).しかし,超音波白内障手術が主流となった最近では,手術成績や網膜症の進行度は非糖尿病網膜症眼に比較して差がないとする報告のほうがむしろ多い5,6).現在では,単純糖尿病網膜症や増殖前糖尿病網膜症に白内障を合併した場合には,むしろ積極的に混濁水晶体を眼内レンズに置き換え,しっかりした眼底観察を行うことが進行の早期発見に有効であり,また,硝子体手術に至らない程度の増殖糖尿病網膜症では,必要に応じて白内障術前・術後に網膜光凝固を行って網膜症の活動性を抑えながら,タイミングを逸さずに白内障手術ならびに眼内レンズ挿入することによって,厳重な眼底管理を連続して行えることがむしろ網膜症の進行を抑えることに重要ではないかと考えられている.最近では増殖糖尿病網膜症に対する眼内レンズ挿入眼(28)———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???の硝子体手術の成績は比較的に良好であるとの報告が多い7~9).自験例においても,95%以上の症例においてlogMAR(minimumangleofresolution)換算視力で2段階(0.2)以上の視力改善を得ている(表2).これらの症例では,硝子体手術において,術中に眼内レンズの摘出を要した症例がなかったこと,硝子体手術がいったん成功したにもかかわらず,術後に一定の割合で血管新生緑内障が生じることなどから,手術成績を左右する要因は眼内レンズではなく,術前の網膜光凝固の程度や網膜症の活動性の高さにあることが,有水晶体眼の場合と何ら変わりはないことを強調したい.B.白内障・硝子体同時手術と眼内レンズの適応網膜硝子体疾患に対する白内障・硝子体同時手術における眼内レンズの適応は,術式の変遷によって大きく変わってきている.経毛様体扁平部水晶体除去の時代においては,眼内レンズは?外固定となり,とりわけ増殖性疾患などの重症例を中心に手術が行われるがために,眼内レンズ挿入には慎重を要した.その後の?外摘出の時代を経て,超音波水晶体乳化吸引が主流となっている現在では,重症例のみならず,硝子体術後の白内障の進行という術後合併症の問題を解決する意味でも,わが国では種々の網膜硝子体疾患に対して積極的に同時手術を行う傾向にある10~13).これに伴って,現在の同時手術における眼内レンズの役割は,術後早期に視機能が回復すると期待できる軽症例と増殖硝子体疾患などの重症例とでは若干異なる.すなわち,硝子体手術も白内障手術と同様に視力回復をめざした低侵襲手術となりつつある最(29)表2増殖糖尿病網膜症における白内障術後(眼内レンズ挿入眼)の硝子体手術成績対象:32例40眼(平均年齢63.1歳)観察期間:平均11.2カ月(3~24カ月)疾患の内訳:硝子体手術24眼(60%)牽引性網膜?離12眼(30%)びまん性黄斑浮腫4眼(10%)術式:硝子体単独手術(汎網膜光凝固追加)結果:視力改善(logMAR0.2以上)38眼(95%)平均手術回数1.15回(最大2回)術後合併症血管新生緑内障2眼(5%)再増殖2眼(5%)術中の眼内レンズ摘出0眼図1白内障に加齢黄斑変性症を伴う症例A:白内障のため眼底の透見性が不良である(矯正視力0.2).D:超音波水晶体乳化吸引ならびに眼内レンズ挿入を行った.C:眼底検査ならびに蛍光眼底造影検査にて脈絡膜新生血管(pre-dominantclassicCNV)を検出した(矯正視力0.3).直ちに光線力学的療法(PDT)を行った.D:PDT施行1カ月後の眼底写真.脈絡膜新生血管が退縮し,矯正視力0.6に改善した.ABCDVA=0.2GLD2,400?m———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006近では,軽症例では術後早期の視力回復をめざした眼内レンズの同時挿入が主たる目的であるが,従来の重症例においては,白内障手術は混濁水晶体の除去の意味合いのほか,術中視認性を向上することによる硝子体手術の安全性を高める目的が重要であり,眼内レンズの挿入は術後の視機能の確保ができるかどうかによって,同時挿入か二次挿入かのタイミングを図ることが必要となる.1.白内障・硝子体同時手術における眼内レンズ挿入の頻度当科での白内障・硝子体手術の最近の動向を検証すれば,表3に示すように,術後1年以上経過観察できた平成15年4月から平成16年3月の1年間において,硝子体・白内障同時手術は有水晶体眼356眼中の306眼(86%)に行われており,増殖性疾患も含めて眼内レンズの同時挿入は94%の症例に行われている.経過観察期間中を含めて,再手術例で眼内レンズの摘出を余儀なく行われた症例は全体の1%(302眼中3眼)にとどまり,二次挿入例を含めると,硝子体術中に水晶体除去を施行すれば,最終的には98%の症例で眼内レンズ挿入の適応があったという結果になる.最近では,25ゲージや23ゲージ経結膜硝子体手術などの新しい手術技術の開発によって,早期の視力改善を目指した低侵襲手術が普及しつつある14~16).しかしながら,これら低侵襲手術においても,術後の白内障の進行が約80%に認められ,これまでの20ゲージ手術と発症率に差がないことがわかってきた17).最近に当科において行われた25ゲージによる経結膜手術の連続150眼において,代表例(図2)に示すように全例で眼内レンズの同時挿入が行われており,各疾患群とも良好な視力改善を得られている18).良質な視力改善を目指す術式であればこそ,積極的に眼内レンズを適応していく必然性が生まれるし,また硝子体手術の質の向上が眼内レンズ挿入の適応の拡大を押し上げている結果ともいえる.2.眼内レンズ挿入のタイミングと問題点眼内レンズの固定部位に関して,いうまでもなく本来の生理的位置である?内固定が最も望ましく,術者の技量にもよるが大抵の場合では初回手術時に眼内レンズ同時挿入を行わなければ,後日に?内固定を完遂することはむずかしい.初回手術で水晶体?を完全に除去した症例での眼内レンズ適応は,もはや毛様溝に眼内レンズを縫着することしか方法はなく,たとえ水晶体?を一部残存して?外固定を行っても,虹彩癒着をはじめとするさまざまな付随する術後合併症を生じることが少なくない19,20).また二次挿入では眼内レンズの偏心や傾斜といった問題も残るので,高次収差の面において見え方の質が?内固定に比較してやや劣ることも否定できない(図(30)表3最近の白内障・硝子体同時手術の適応の実際期間:平成15年4月から平成16年3月同時手術眼:306眼(86%)平均年齢:61.3±10.4歳(25~85歳)対象の内訳:黄斑部疾患66眼(23%)増殖糖尿病網膜症60眼(21%)裂孔原性網膜?離58眼(19%)網膜静脈閉塞症52眼(17%)黄斑移動術36眼(12%)炎症性疾患18眼(6%)外傷・その他16眼(2%)眼内レンズ挿入:同時挿入290眼(94%)二次挿入12眼(4%)挿入せず5眼(2%)(注)上記のうち,再手術時に眼内レンズ摘出を行った症例(3眼)は増殖硝子体網膜症2眼,桐沢ぶどう膜炎1眼.図225ゲージ経結膜硝子体・白内障同時手術の術翌日所見A,B:角膜切開創の閉鎖が良く,眼内レンズが?内固定されている.C,D:耳上側,鼻上側の強膜切開創(矢印)が自己閉鎖され,創口はすでに不明瞭になっている.ABCD———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???3).一方,眼内レンズの同時挿入の問題点として,黄斑?離を伴う裂孔原性網膜?離眼における眼内レンズ度数の決定の問題や増殖性疾患における眼内レンズによって惹起される炎症反応が懸念される.黄斑?離眼での眼内レンズ度数決定には,術前の屈折値に左右差の少ない症例では僚眼の測定結果を参考に算出することもあり,過去の報告によれば狙い誤差は1.0~2.0ジオプトリーにとどまっている13,21).幸い裂孔原性網膜?離の症例では,術前より近視度数の強いほうに多いためか,表3の自験例においても眼内レンズ度数のずれのために眼内レンズ摘出や入れ替えに至った症例はなかったが,術直後に不(31)図3眼内レンズ同時挿入眼(A,B)と二次挿入(縫着)眼(C,D)のレンズ傾斜と高次収差の比較Scheimp?ugイメージ(A,C)では,眼内レンズの?内固定のほうがレンズ縫着に比べて,眼内レンズの中心軸が視軸によく一致しており,偏心と傾斜のいずれも軽度である.高次収差測定(B,D)の結果もScheimp?ugイメージに一致して,レンズ縫着眼のほうが角膜の収差が少ないのにもかかわらず,眼球内部(internal)のコマ収差(赤□)が増加しており,眼内レンズの傾斜による影響を示唆している.ABCD———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006同視に悩まされる患者も実際に存在していたことから,黄斑?離眼におけるより正確な度数決定が今後の解決すべき課題と考えている.重度の増殖硝子体網膜症をきたした症例,とりわけ増殖糖尿病網膜症との合併例や炎症疾患が背景にあるような症例では,現段階においても初回手術だけで治癒することがむずかしく,白内障・硝子体同時手術における眼内レンズの同時挿入には慎重を要すると思われる.活動性の低い症例では比較的に良好な予後をたどる場合もあるが,桐沢ぶどう膜炎に代表されるような予後不良なケースも少なくなく,これらの重篤疾患においては網膜機能の保持を得たうえでの眼内レンズの適応が望ましいだろう.3.白内障手術(眼内レンズ適応)にきわめて慎重を要する疾患:若年性糖尿病網膜症網膜硝子体疾患における硝子体手術に,白内障手術(眼内レンズ挿入)との併設が主流となっている背景には,術後白内障の進行防止という目的以外に,重症例では水晶体除去を行うことでより徹底した硝子体切除が行いやすい術者側の理由が少なからず存在している.最近では,増殖性疾患の重症例だからといって,40歳未満の若年者における白内障・硝子体同時手術の施行が多く報告されているが,水晶体除去がかえって病勢を増悪させる要因になりかねない疾患が存在することを念頭におかなければならない.若年性糖尿病網膜症に関する最近の手術成績をみれば,同時手術の施行後の新生血管緑内障の発症率(10~45%)は決して少なくない22~24).自験例の連続13眼での手術結果でも,4眼(30%)で術後6カ月以内に新生血管緑内障を生じ,1眼(7.7%)で眼圧コントロールに濾過手術を要した.同時期の単独手術例10眼での新生血管緑内障の症例が1眼(10%)であったことを考えると,白内障同時手術の施行は個々の症例においてきわめて慎重を要するといわざるを得ない.若年者の糖尿病網膜症に対する硝子体手術に際しての同時手術の是非には,今後の前向きの比較研究による結論づけが待たれるところである.まとめ近年の超音波白内障手術と硝子体手術のめざましい進歩によって,限られた進行性の重症増殖性疾患を除き,眼内レンズ挿入の方法や挿入のタイミングの違いこそあるが,水晶体除去を行えば,ほとんどの網膜硝子体疾患において,眼内レンズ挿入の適応があると考えている.しかし,視機能回復を望めない陳旧性もしくは重症度の高い増殖硝子体網膜症を合併した病態には慎重を要し,若年者の増殖疾患においては,水晶体除去の是非の問題を含め,今後の前向き研究による検討が必要と考える.文献1)KleinR,KleinBE,WongTYetal:Theassociationofcat-aractandcataractsurgerywiththelong-termincidenceofage-relatedmaculopathy:theBeaverDameyestudy.???????????????120:1551-1558,20022)WangJJ,KleinR,SmithWetal:Cataractsurgeryandthe5-yearincidenceoflate-stageage-relatedmaculopa-thy:pooled?ndingsfromtheBeaverDamandBlueMountainseyestudies.?????????????110:1960-1967,20033)PollackA,DotanS,OliverM:Progressionofdiabeticreti-nopathyaftercataractextraction.???????????????75:547-551,19914)今井雅仁,加藤祐造,安部圭哲ほか:眼内レンズ挿入術による糖尿病網膜症の進行.臨眼49:675-678,19955)深田祐加,加藤聡,堀貞夫ほか:糖尿病症例の白内障手術に対する超音波乳化吸引術の網膜症への影響.眼臨92:895-898,19986)鈴木幸彦:糖尿病網膜症による失明防止と到達目標白内障・硝子体手術による視力改善.眼紀55:343-349,20047)増田明俊,小椋祐一郎,内田雅仁ほか:偽水晶体眼の増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術.眼科手術7:443-446,19948)伊藤幸子,加藤整,大島健司:偽水晶体眼の増殖糖尿病網膜症の硝子体手術.臨眼52:843-845,19989)岩城正佳:糖尿病網膜症硝子体トリプル手術vs白内障・硝子体分割手術.眼科手術13:27-31,200010)荻野誠周,内田英哉:糖尿病網膜症に対する硝子体手術,水晶体除去および眼内レンズ挿入同時手術の成績.日眼会誌98:672-678,199411)恵美和幸:糖尿病網膜症の早期硝子体手術.臨眼49:1513-1517,199412)荻野誠周:黄斑円孔に対する硝子体手術の成績.臨眼48:1475-1480,199413)大島佑介,恵美和幸,本倉雅信ほか:裂孔原性網膜?離に対する一次的硝子体手術の適応と手術成績.日眼会誌102:389-394,1998(32)———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???14)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Anew25-gaugeinstrumentsystemfortransconjunctivalsuturelessvitrectomysurgery.?????????????109:1807-1812,200215)LakhanpalRR,HumayunMS,deJuanEJretal:Out-comesof140consecutivecasesof25-gaugetransconjunc-tivalsurgeryforposteriorsegmentdisease.??????????????112:817-824,200516)EckardtC:Transconjunctivalsutureless23-gaugevitrec-tomy.??????25:208-211,200517)IbarraMS,HermelM,PrennerJLetal:Longer-termoutcomesoftransconjunctivalsutureless25-gaugevitrec-tomy.???????????????139:831-836,200518)ShinodaK,O?hiraA,IshidaSetal:Posteriorsynechiaoftheirisaftercombinedparsplanavitrectomy,phacoemul-si?cation,andintraocularlensimplantation.?????????????????45:276-280,2001(33)19)有澤武士,堀田一樹:水晶体,硝子体同時手術後の二次的眼内レンズ挿入術.臨眼58:295-299,200420)OshimaY,OhjiM,TanoY:Surgicaloutcomesof25-gaugetransconjunctivalvitrectomycombinedwithcata-ractsurgeryforvitreoretinaldiseases.???????????????????????35:inpress,200621)川路隆博,中尾功,小川邦子ほか.黄斑?離眼に対する白内障硝子体同時手術における術後屈折値と予測値との差.????????16:194-197,200222)三上尚子,鈴木幸彦,吉岡由貴ほか:若年者糖尿病網膜症に対する白内障硝子体同時手術の成績.眼紀52:14-18,200123)三上尚子,鈴木幸彦,中沢満ほか:重症な若年者増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術.臨眼55:439-442,200124)早川宏一,増山千佳子,阿部徹ほか:若年者増殖糖尿病網膜症の硝子体手術成績.眼臨98:378-380,2004眼科領域に関する症候群のすべてを収録したわが国で初の辞典の増補改訂版!〒113-0033東京都文京区本郷2-39-5片岡ビル5F振替00100-5-69315電話(03)3811-0544メディカル葵出版株式会社A5判美装・堅牢総360頁収録項目数:509症候群定価6,930円(本体6,600円+税)眼科症候群辞典<増補改訂版>内田幸男(東京女子医科大学名誉教授)【監修】堀貞夫(東京女子医科大学教授・眼科)本書は眼科に関連した症候群の,単なる眼症状の羅列ではなく,疾患自体の概要や全身症状について簡潔にのべてあり,また一部には原因,治療,予後などの解説が加えられている.比較的珍しい名前の症候群や疾患のみならず,著名な疾患の場合でも,その概要や眼症状などを知ろうとして文献や教科書を探索すると,意外に手間のかかるものである.あらたに追補したのは95項目で,Medlineや医学中央雑誌から拾いあげた.執筆に当たっては,眼科系の雑誌や教科書とともに,内科系の症候群辞典も参考にさせていただいた.本書が第1版発行の時と同じように,多くの眼科医に携えられることを期待する.(改訂版への序文より)1.眼科領域で扱われている症候群をアルファベット順にすべて収録(総509症候群).2.各症候群の「眼所見」については,重点的に解説.3.他科の実地医家にも十分役立つよう歴史・由来・全身症状・治療法など,広範な解説.4.各症候群に関する最新の,入手可能な文献をも収載.■本書の特色■

ぶどう膜炎

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLSたずらに慎重であることはもはや現実にそぐわないことも事実である.本稿では,ぶどう膜炎併発白内障における眼内レンズ挿入術を含めた手術療法の現状と,治療成績,問題点などについて述べたい.Iぶどう膜炎併発白内障における眼内レンズ挿入術の実態門田らによって1997年と2002年の過去2回にわたり実施されたぶどう膜炎併発白内障に対する眼内レンズ挿入術の全国アンケート調査6,7)によると,最近では国内のほとんどの施設で積極的に眼内レンズの挿入が行われていることが明らかにされている(表1).眼内レンズ挿入の対象疾患についても,ほぼすべてのぶどう膜炎とはじめにぶどう膜炎にみられるさまざまな眼合併症のなかでも白内障の頻度は高く,視機能の低下した症例に対して手術が行われる機会も少なくない.白内障の手術療法については,今日では超音波水晶体乳化吸引術(phacoemul-si?cationandaspiration:PEA)を行ったうえで,特別な理由がない限り眼内レンズを挿入することが常識となっているが,ぶどう膜炎症例に対する眼内レンズの挿入については長い間,慎重な対応が求められてきた.実際,昭和62年の眼内レンズ適応検討委員会から日本眼科学会への答申では,ぶどう膜炎患者への眼内レンズの挿入は禁忌と定められていた.術式についても水晶体?外摘出術と眼内レンズ挿入術が全盛であった頃,ぶどう膜炎症例では?内摘出術のほうが好ましいと考えられていた時期があった.その後,白内障手術の技術革新や素材としての眼内レンズの進化に歩調を合わせるように,眼内レンズ挿入術の適応は徐々に拡大し,ぶどう膜炎の併発白内障に対してもこれを禁忌とする考えは徐々に影を潜め,すでに多くの実績と良好な臨床成績が報告されている1~5).白内障手術に限らずとも,ぶどう膜炎の合併症に対する外科的治療においては,手術侵襲に伴う炎症の再燃や増悪などの危険性がつねに問題となる.生体にとって異物である眼内レンズの挿入に関しては今日でもなお,慎重かつ客観的な評価を継続していかなければならない.しかし,炎症眼に対する眼内レンズの挿入に関して,い(21)???*HiroshiGoto:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕後藤浩:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室特集●眼内レンズの適応を再考証するあたらしい眼科23(2):159~164,2006ぶどう膜炎???????????????????????????????????????????????????????????????????????????????後藤浩*表1眼内レンズ挿入術の実施1997年2002年積極的に挿入16%30%症例を選んで挿入68%59%陳旧例のみ挿入14%10%挿入していない1%1%(文献6,7より)表2眼内レンズ挿入術の適応となるぶどう膜炎1997年2002年すべてのぶどう膜炎61%69%Beh?et病を除く32%24%(文献6,7より)———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006考えている施設が増加している.反対に,慎重に対処すべき代表的な疾患の一つであるBeh?et病には挿入しないという施設は減少傾向にある(表2).使用される眼内レンズについては,以前はポリメタクリル酸メチル(polymethylmethacrylate:PMMA)製レンズが主流であったが,最近では小切開手術に対応して多くの施設でアクリルレンズが使用されている.一時はレンズ表面にヘパリン処理が施されたPMMAレンズが注目されたことがあったが,期待されたほどの臨床的効果は実感されず,生体適合性の側面からはむしろアクリルレンズのほうが優れているとの報告もみられる8).このようにぶどう膜炎併発白内障においても,眼内レンズ挿入術の実施は既成事実として定着しているのが現状であり,小切開手術の普及とともにフォールダブルレンズの挿入が主流となっている.その最大の理由は,眼内レンズ挿入術によるqualityofvision,qualityoflifeの向上が,挿入に伴う弊害を遥かに上回ることが明らかとなり,定着してきたことにほかならない.IIぶどう膜炎併発白内障手術の適応1.手術適応の原則今日の洗練された手術手技と眼内レンズの素材をもってすれば,ぶどう膜炎の併発白内障に対しても侵襲の少ない,安全確実な手術が遂行可能なことが多いのは紛れもない事実である.眼内に炎症を示唆する所見がなく,ぶどう膜炎としての活動性が終焉した状態の症例ならば,原疾患の如何にかかわらず白内障手術と眼内レンズ挿入術自体が問題となることはほとんどない.一方,術前に活動性の炎症が存在する場合は原疾患によってかなり事情が異なってくる.たとえば,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎のように眼内の炎症が存在していても手術によるトラブルのきわめて少ない疾患もあれば9~11),若年性関節リウマチに伴う小児の虹彩毛様体炎のように,いかなる注意を払っても術後の炎症や眼圧上昇に悩まされる疾患もある11~13).活動期にある肉芽腫性ぶどう膜炎も中長期的には術後にさまざまな合併症を生じる可能性がある.小児ぶどう膜炎や炎症としての活動性が高い成人のぶどう膜炎では,副腎皮質ステロイド薬(ステロイド薬)の局所あるいは全身投与によって炎症の消退を図り,少なくとも2~3カ月以上にわたって消炎が維持されていることを確認したうえで手術に踏み切ることが望ましい.一方,ぶどう膜炎症例では少なくとも全体の60%以上が特定の病名をつけることのできない,いわゆる同定不能群に該当するため,手術の適応や術前後の対策を立てにくいことも多い.いずれにしても手術の施行にあたっては原疾患により術後経過が大きく異なることを認識しておくことは必要であり,そのためには術前から病歴を含めた臨床像を整理し,疾患の特定には至らないにしてもどのようなタイプの炎症であるのか把握しておきたい.具体的には肉芽腫性炎症か否か,炎症発作はどのような頻度,周期で生じているのか,硝子体や眼底の状態から推察される視機能回復の見込みはどうか,といった事項について可能な限り把握しておく.これらの内容については術前のインフォームド・コンセントにも反映させる必要がある.2.眼内炎症に対する活動性の評価検眼鏡的に眼内炎症の程度を評価可能な場合は問題ないが,ぶどう膜炎では一見落ち着いた状態のようにみえてもsubclinicalに炎症が持続している場合がある.そのような眼内炎症に対する客観的な術前評価方法の一つに前房フレア値の測定がある.むろん,フレアの測定結果のみで手術の可否が決められるわけではないが,術前のフレア値が高いほど術後視力が芳しくないという一定の傾向があることは知っておくべきであろう(図1).自験例の検討では,手術直前のフレア値が50photoncounts/msec以上の症例では視力予後が不良なことが多(22)r=-0.524p<0.001n=6610術後視力1.00.50.120304050術前フレア値607080図1術前の前房フレア値と術後視力の関係———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???く,要注意と考えている14).術後のフレア値の推移については,活動性のない陳旧性ぶどう膜炎では加齢白内障と大差はないが,活動性のあるぶどう膜炎では不安定な値で推移していくことが多い(図2).III手術療法の実際1.切開創術後も局所ステロイド療法を長期にわたって続ける可能性のあるぶどう膜炎では,結膜組織で切開創を確実に被覆しておくことが望ましい.したがって,術前に眼圧上昇の既往や周辺虹彩前癒着などがなく,将来的にも緑内障手術を実施する可能性が低いと判断される場合は角膜切開ではなく,結膜切開のもとに強角膜トンネル切開を行う.ただし,この場合も結膜の切開と?離範囲は最小限にとどめておく.2.小瞳孔に対する術野の確保ぶどう膜炎のなかには術中,縮瞳傾向を示すことがある.Continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)やPEAを安全確実に行うために,散瞳の維持を目的として潅流液中にエピネフリン(ボスミン?)0.3mg/500m?を加えることがある.虹彩後癒着に対しては左右のサイドポートからチストトームやSinskeyフックなどを用いて?離していく.瞳孔膜が存在する場合は剪刀で切開し,切除する.瞳孔の拡張方法にはフックによる虹彩伸展,虹彩リトラクターやBeehler瞳孔拡張器などを利用する方法,剪刀による放射状瞳孔括約筋切開などがある.虹彩リトラクターを使用した場合は術後に麻痺性散瞳の状態となる傾向がある.粘度順応性の粘弾性物質も適宜利用して,確実に術野を確保する.3.後?CCCと前部硝子体切除若年性関節リウマチに伴う慢性ぶどう膜炎や女児に多い特発性虹彩毛様体炎(chroniciridocyclitisinyounggirls)など,小児に対する併発白内障手術の後には多くの症例で後?混濁が生じてくる.また,しばしば前部硝子体の混濁も観察される.後発白内障に対するNd:YAGレーザーによる後?切開術は年齢によっては実施が困難なことから,PEAと皮質吸引に引き続いて後?にもCCCを施し,さらにその開窓部から硝子体カッターで前部硝子体を切除しておく.このような処置を行うことにより中間透光体の透明性が維持されるとともに,眼内レンズの前方偏位(虹彩捕獲)を防ぐことも可能となる.IV術後炎症への対応術後の消炎対策として,手術終了時には抗生物質とともにリンデロン?の結膜下注射,あるいはトリアムシノロンアセトニド(ケナコルト?)の後部Tenon?下注射を行う.術前から激しい後眼部炎症や?胞様黄斑浮腫の存在している非感染性ぶどう膜炎では,手術終了時にケナコルト?を毛様体扁平部から硝子体腔内に投与することもある.ただし,ケナコルト?のTenon?下注射や硝子体腔内注射は,ステロイド点眼による眼圧上昇の既往がない症例に限って行う.その後の消炎療法については,原疾患の特徴や罹病期間,最終炎症発作からの期間などによっても異なるが,抗菌薬,ベタメタゾン(リンデロン?など),ジクロフェナクナトリウム(ジクロード?など),散瞳薬(ミドリンM?など)の点眼とともに,術翌日の炎症の程度に応じてステロイド薬の全身投与も考慮する(プレドニゾロン換算で30~40mg/日から漸減).点眼薬のうち,散瞳薬(ミドリンM?)については少なくとも就寝前の点眼をやや長目に使用する.V手術成績原則として上記のような術式と注意事項を踏襲し,術(23)術前1日3日1週2週前房フレア値(photoncounts/msec)1カ月3カ月6カ月ぶどう膜炎(活動性あり)ぶどう膜炎(活動性なし)加齢白内障経過期間12010080604020図2術後の前房フレア値の推移(文献14より)———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006後炎症への対応を行った結果としての筆者らの施設におけるぶどう膜炎併発白内障手術の治療成績について述べる.対象は1993~2004年までの12年間に東京医科大学病院眼科でぶどう膜炎併発白内障の診断のもとに手術療法が行われた294例392眼である.平均年齢は59.1±16.6歳,性別は男性107例131眼,女性187例261眼,経過観察期間は最短6カ月から最長12年である.ぶどう膜炎の内訳は表3に示したように,同定可能な疾患のなかではサルコイドーシスが最も多く,ついでBeh?et病,Vogt-小柳?原田病,Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎の順であった.術式はPEAが382眼(97.4%),計画的?外摘出術が9眼2.3(%),?内摘出術が1眼(0.2%)であった.眼内レンズの挿入は388眼(99.2%)に行われた(表4).挿入された眼内レンズはアクリルレンズが最も多く(表5),特に最近5年間ではほぼすべての症例にアクリルレンズが使用された.手術前後の視力変化については表6のごとく,2段階以上の改善が全体の78.7%に得られ,反対に2段階以上低下した症例は4.1%にとどまり,平均視力も術前の0.096から術後は0.504に上昇した(表6).図3に全症例の術前ならびに術後視力の変化を示す.なお,術後の視力は白内障手術後,最低6カ月間以上経過観察を行った後の最高視力を示してある.VI術後合併症術後合併症としては,明らかな炎症の再燃が24.4%,後発白内障(Nd:YAGレーザーによる後?切開術施行例)が12.1%,虹彩後癒着が6.7%,視機能に影響を及ぼすほど,あるいは眼内レンズの偏位をきたすほどの?(24)表3疾患の内訳症例数%サルコイドーシス5217.7Beh?et病3812.9Vogt-小柳?原田病237.8Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎134.4HLA-B27関連ぶどう膜炎41.4眼トキソカラ症31.0その他155.1同定不能14649.7294100.0表4手術方法と眼内レンズ挿入の有無PEA382眼(97.4%)ECCE9眼(2.3%)ICCE1眼(0.2%)IOL挿入(+)388眼(99.2%)IOL挿入(-)4眼(0.8%)PEA:水晶体乳化吸引術,ECCE:計画的?外摘出術,ICCE:?内摘出術,IOL:眼内レンズ.表5眼内レンズの種類Acryl291眼(74.8%)HSM*PMMA70眼(18.0%)PMMAほか28眼(7.2%)*HSM:heparinsurface-modi?ed.表6視力予後2段階以上の上昇306眼(78.7%)不変70眼(17.9%)2段階以上の低下16眼(4.1%)術前平均視力-1.011±0.779(0.096)術後平均視力-0.297±0.600(0.504)表7おもな術後合併症と頻度合併症眼数(%)炎症の再燃95(24.4)後発白内障*47(12.1)虹彩後癒着26(6.7)?の異常収縮15(3.9)*Nd:YAGレーザー施行例.0.01sl+sl-0.11.0術後視力術前視力1.00.10.01sl+sl-図3術前および術後視力———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???の異常収縮が3.9%にみられた(表7).VII眼内レンズにまつわる諸問題表7に示した術後合併症以外にも,ぶどう膜炎併発白内障の術後にはさまざまな問題が生じる可能性があり,眼内レンズに対する細胞生物学的な反応もその一つである.図4は同定不能ぶどう膜炎の術後4日目および20日目の前眼部写真であるが,特に術後炎症の再燃などがないにもかかわらず,わずか2週間の経過で多数の細胞やdebrisが眼内レンズの表面に付着している様子がわかる.図5は後発白内障に対するNd:YAGレーザー後?切開術の直後と3カ月後の前眼部写真である.後?切開後も前部硝子体を中心に混濁が生じ,やがてレンズ後面にシート状の細胞増殖が起こり,切開部分がまったくわからなくなってしまっている.このような現象は炎症の再燃をくり返すサルコイドーシスやVogt-小柳?原田病など,活動性の高い肉芽腫性ぶどう膜炎症例に多くみられる傾向がある.虹彩後癒着はおもに術前から癒着が存在していた症例にみられる.その多くは瞳孔縁と前?の癒着であり,眼内レンズ自体に癒着することは少ない.このような事実(25)図4手術直後(A)にはみられない眼内レンズの表面の細胞やdebrisの付着(B)AB図5Nd:YAGレーザー施行直後(A)と3カ月後(B)眼内レンズの後面に新たな膜が形成されている.前部硝子体の混濁も著しい.AB図6?の異常収縮———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006から,術後の虹彩後癒着や眼内レンズの偏位を防ぐには,はじめからレンズを?外に固定したほうがよいという報告もみられる15).?の異常収縮もときに高度となり(図6),症例によっては瞳孔領が閉鎖してしまうこともある.VIII術前の消炎対策眼内レンズの挿入に伴うさまざまな細胞反応を防ぐには,術後の炎症のコントロールとともに術前の消炎が重要となってくる.一定期間,活動性の炎症のないことを確認したうえで手術計画を立てることが肝要であることは前述したとおりであるが,術前からの予防的なステロイド投与については議論のあるところである.ぶどう膜炎併発白内障手術を予定している症例を対象に,術前30分前からメチルプレドニゾロン15mg/kgの点滴静注を行った群と,術前2週間前からプレドニゾロン0.5mg/kgの内服を行った群に分けて検討したところ,視力予後には両群間に差はなかったものの,血液?眼関門の破綻の程度は後者のほうが有意に軽度であったとする報告がある16).ぶどう膜炎の併発白内障手術に際して全例に予防的ステロイド薬の投与を行う必要性はないが,一定期間にわたって消炎を図った後に手術に踏み切ることの重要性はこの報告からも理解できよう.おわりに現状ではぶどう膜炎の併発白内障における視機能の回復には,他の白内障と同様,手術治療を選択せざるを得ない13).活動性の眼内炎症が存在する時期に外科的侵襲を加えることは,原疾患であるぶどう膜炎の悪化や新たな合併症をひき起こすことにもなりかねないが,疾患によっては適切な薬物療法を行い,一定の消炎期間を確認したうえで手術を行うのであれば,手術侵襲に伴う悪影響は最小限にとどまることが多いのも事実である.眼内レンズ挿入術を前提とした白内障手術をより安全に行うには,あらかじめぶどう膜炎の原因検索を十分に行って疾患の同定や病型の把握に努め,白内障手術がもたらす影響をある程度予測をしておくことも重要なポイントとなる.ぶどう膜炎併発白内障の治療は,術前の診療と術後の消炎療法を含めた包括的な医療の提供と認識すべきであろう.文献1)Uveitis.FundamentalsandClinicalPractice(edbyNus-senblattRBetal),p279-288,Mosby,StLouis,19962)富樫実和子,後藤浩,深井徹ほか:ぶどう膜炎患者に対する眼内レンズ挿入術.眼科手術9:351-355,19963)平岡美依奈,藤野雄次郎:ベーチェット病の併発白内障に対する手術成績.日眼会誌103:119-123,19994)合田千穂,小竹聡,笹本洋一ほか:ベーチェット病の併発白内障に対する手術成績.臨眼54:1272-1276,20005)沖波聡:ぶどう膜炎の合併症に対する手術療法.眼紀52:361-376,20016)門田遊,有馬加津子,池田秀子ほか:ぶどう膜炎患者の白内障手術に対するIOL挿入術の全国アンケート調査.臨眼52:1160-1163,19987)門田遊:眼内レンズアンケート調査.眼科45:1803-1812,20038)TognettoD,TotoL,MinutolaDetal:Hydrophobicacryl-icversusheparinsurface-modi?edpolymethylmethacry-lateintraocularlens:abiocompatibilitystudy.????????????????????????????????241:625-630,20039)BudakK,AydinY,AkovaAetal:CataractsurgeryinpatientswithFuchs?heterochromiciridocyclitis.????????????????43:308-311,199910)RamJ,KaushikS,BrarGSetal:Phacoemulsi?cationinpatientswithFuchs?heterochromicuveitis.???????????????????????28:1372-1378,200211)後藤浩:ぶどう膜炎併発白内障.臨眼58(増刊):259-263,200412)ProbstLE,HollandEJ:Intraocularlensimplantationinpatientswithjuvenilerheumatoidarthritis.????????????????122:161-170,199613)後藤浩:ぶどう膜炎による白内障.眼科45:1299-1305,200314)毛塚剛司:ぶどう膜炎における手術の適応・手技・予後.あたらしい眼科21:7-11,200415)HollandGN,VanHornSD,MargolisTPetal:Cataractsurgerywithciliarysulcus?xationofintraocularlensesinpatientswithuveitis.???????????????128:21-30,199916)MeacockWR,SpartonDJ,BenderLetal:Steroidpro-phylaxisineyeswithuveitisundergoingphacoemulsi?ca-tion.???????????????88:1122-1124,2004(26)

緑内障眼と眼内レンズ挿入術

2006年2月28日 火曜日

———————————————————————-Page10910-1810/06/\100/頁/JCLS障眼へのIOL挿入の是非を検討するために,今後IOLを意図的に挿入しない症例を増やすことは現実的でない.そこで,本稿の目的である「緑内障眼へのIOL挿入術の正当性を述べる」ために,IOL挿入を伴わない白内障手術症例との比較を行うことは事実上困難であるので,今回は,①緑内障眼の超音波水晶体乳化吸引術(pha-coemulsi?cationandaspiration:PEA)+IOL挿入術が,術後の眼圧コントロールに不利に働くのかどうか,②trabeculectomy単独手術例に比べてtrabeculectomy+PEA+IOL同時手術例の眼圧コントロールが劣るのかどうかを比較し,逆に,③IOLを挿入しないことが緑内障患者にとって不利にならないかどうかを検討することによって,IOL挿入の正当性を推論することとした.なお,結果の解釈に関しては,それがIOL挿入に起因するものか,白内障手術そのものに起因するものかの区別は容易ではない.そこで,おおまかな目安として,IOL挿入時に生じた合併症,たとえば挿入時のZinn小帯断裂や後?破損に伴うものを除いて,術中や術後早期の合併症は白内障手術自体に起因するものであり,術後数週間経ってから出現する合併症は,IOL挿入に伴うものである可能性が高いとして,本稿では考えていきたい.一方,比較的術後早期から生じてそれが何カ月も継続する場合,たとえば前房内炎症の遷延化などは,白内障手術による影響だけでなく,IOL挿入によって増強された可能性も否定できない.はじめに緑内障眼への眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入に問題があるかどうかを論じるには,IOL挿入によって眼圧コントロールの悪化が生じるのか否か,あるいはIOL挿入に伴って合併症頻度が増加するのか否か,などを検討しなければならない.そのためには,同じような背景の患者で,IOLを挿入した場合としない場合の術後の眼圧コントロール状況や合併症の発生頻度を調べる必要がある.しかし現実的には,緑内障だからという理由で(つまり添付文書通りに),白内障手術時にIOL挿入を避ける施設はほとんどないのではないだろうか?少なくとも,北里大学病院(以下,当院)において過去3年間に行われた緑内障眼の白内障手術例(緑内障との同時手術を含む)185眼を見直してみても,落屑緑内障や外傷による続発緑内障においてZinn小帯の脆弱化や断裂があり,やむを得ず「IOLが挿入できなかった症例」を除いては,ルーチンにIOL挿入が行われていた.また,一次的な挿入が無理であった症例でも,眼内の炎症や眼圧が落ち着いた後に,日を改めて二次的に縫着術が行われる場合がほとんどである.これは,すでに白内障手術がIOL挿入までを含めたものとして医師側にも患者側にも認識されているからであり,IOLの度数が多少ずれただけで患者の大きな不満が聞かれる現状では,IOLを挿入せずに分厚い眼鏡による矯正が必要という状況になると,あたかも手術が失敗したかのような受け取られ方をされるのはほぼ間違いない.したがって,緑内(15)???*NobuyukiShoji:北里大学医療衛生学部視覚機能療法学〔別刷請求先〕庄司信行:〒228-8555相模原市北里1-15-1北里大学医療衛生学部視覚機能療法学特集●眼内レンズの適応を再考証するあたらしい眼科23(2):153~158,2006緑内障眼と眼内レンズ挿入術???????????????????????????????????????????????????????庄司信行*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006〔検討〕検討1:緑内障眼のIOL挿入術当院においてPEA+IOL施行後,3カ月以上緑内障専門外来での定期観察が可能であった症例66眼において,術後視力や合併症の発生頻度を検討した.対象の病型は,狭義の原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)24眼,正常眼圧緑内障(normal-tensionglaucoma:NTG)9眼,原発閉塞隅角緑内障(primaryangle-closureglaucoma:PACG)20眼,高眼圧症8眼,落屑緑内障5眼である.a.視力まず,術後3カ月以内における最高矯正視力の内訳を表1に示す.1.0以上得られた症例は72.7%であり,残りの症例は1.0に満たなかった.しかし,視力の改善度からみると,92.4%の症例が2段階以上の視力改善を示し,視力が2段階以上悪化した症例はみられなかった.したがって,ほとんどの症例で視力改善が得られ,少なくともIOL挿入によって矯正視力が低下することはなかった.b.視野視野に関しては,術前と術後6~12カ月目に測定した静的量的視野計における平均網膜感度(meandevia-tion:MD)値の変化をみると,平均1.32±3.17dBの上昇がみられた(n=27)が,8.84~-5.43dBと症例によりばらつきが大きく,3dB以上低下した症例も2例存在した(表2).これらの2症例はいずれも術直後から眼圧が上昇し,1~3週間高眼圧が持続したことによると考えられ,これはIOLそのものよりも白内障手術による可能性が高い.一方,眼圧が安定した後は,視野の進行も停止し,その後のMD値にほとんど変化はみられない.したがって,術後1年以内の検討に関しては,網膜感度の面からみるとほとんどの症例で白内障手術+IOL挿入術後は維持もしくは改善することがわかった.しかし,なかには術後の眼圧上昇の持続により感度が低下した症例も存在し,少なくとも術中合併症などで術後炎症の遷延化やそれに伴う眼圧上昇が生じないように細心の注意を払うことが大切である.c.眼圧つぎに,IOL挿入眼の眼圧経過であるが,これは術後早期に生じた場合と,中長期的に生じた場合を分けて考えた.早期の眼圧上昇に関しては表3のとおりである.特にPOAGの症例では眼圧上昇をきたす可能性が高いことがわかる.これは,POAGはもともと房水流出抵抗が高いために眼圧上昇をきたしている可能性が高く,術後の房水の変化(=二次房水),つまり房水蛋白の増加や粘弾性物質の多少の残留により,通常よりもさらに房(16)表1緑内障眼のIOL挿入術における術後視力(n=66)術後最高矯正視力の内訳(3カ月以内)1.0以上72.7(%)0.7以上12.10.7未満15.2視力改善度2段階以上改善92.4(%)±1段階7.62段階以上低下0表2MD値が3dB以上悪化した症例症例154歳,男性.POAG,術前眼圧16mmHg術直後から1週間の間,眼圧上昇(28~30mmHg)→内服・点眼で2週目に14mmHgに下降し維持MD値は-8.90dB→-13.49dB(7カ月目)-13.79dB(2年6カ月目)症例265歳,女性.POAG,術前眼圧16mmHg超音波による角膜創のburnが生じ,角膜創を1針縫合術翌日,角膜創からの房水漏出を認めたため角膜再縫合翌日から20台後半の眼圧が継続.1カ月目以降は14mmHgと安定MD値は-13.50dB→-18.93dB(術後1年目),-17.81dB(2年目)POAG:原発開放隅角緑内障.表3IOL挿入と眼圧術後眼圧上昇例(>21mmHg)術翌日10眼POAG7眼,PACG2眼,OH1眼術後1週間11眼POAG8眼,PACG1眼,OH2眼緑内障手術が必要になった症例数3眼POAG3眼(すべてtrabeculectomy)POAG:原発開放隅角緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障,OH:高眼圧症.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???水は流出しにくい状況に陥り,眼圧が上昇すると考えられる.ちなみに,当院ではPOAG眼に対して白内障手術を行う場合,内服禁忌の症例を除いては,術後帰室時に炭酸脱水酵素阻害薬の内服をルーチンに行っている.一方,数カ月単位での眼圧変動をみた場合は図1のとおり,多くの症例で術前と同程度の眼圧レベルを維持しているかむしろ下降がみられた.3年間の平均眼圧の推移としては,14.9mmHg(術前)から13.4mmHg(3年目)と1.5mmHg程度の下降がみられた.病型別にみると(表4),眼数の関係から1年目の眼圧を検討した場合,POAGではほとんど差はないが,PACGは約3mmHg,NTGでは約1.5mmHg下降していた.緑内障眼で水晶体除去を行うと1.5~2.5mmHg程度の眼圧下降が得られるとの報告1,2)があり,この眼圧下降効果は少なくとも2,3年は継続するとの報告3,4)もあるが,今後3年,5年といったより長期的な検討は必要である.なお,ほとんどの症例は一過性の眼圧上昇であったが,なかには薬剤の追加などでも眼圧が下降せず,緑内障手術が必要になった症例も3眼存在した.いずれもPOAG眼であった(表3).したがって,過度の眼圧下降を期待して緑内障眼に対する白内障手術を行うことは,慎重に判断すべきであると考える.d.IOLパワー設定における注意点緑内障眼のIOL挿入術における注意すべき事項としては,眼軸長の問題がある.一般にPACGでは短眼軸の症例が多く,術後予測屈折値に誤差が生じやすい.今回の症例においても,術後屈折異常はPOAG眼で平均-0.36Dであったのに対し,PACG眼では平均0.13Dとプラス側にずれ,PACG眼はPOAG眼より約0.5Dプラス寄りになることがわかった(図2).ちなみに,今回使用したIOL換算式はSRK/T式であるので,予測前房深度の影響が大きいと考えられる.病型あるいは眼軸長による換算式は,各施設で十分検討しておいたほうがよい.以上の結果から考えると,緑内障眼の白内障手術に関しては,少なくともIOLを挿入することによる著しい不利は生じないと考えられるが,その手術に際しては,緑内障の病型ごとに適応や対応策をたてておくべきと考えられる.①POAG眼に対しては,術後早期の眼圧上昇に対する対策をたてておくだけでなく,眼圧上昇の持続によって著しい視野障害,特に中心視野の喪失が危惧される場合には,同時手術も視野に入れて手術計画を立てたほうがよい.②PACGは水晶体の除去によって隅角が開大し,房水流出量が増加することによって眼圧下降が期待できる可能性がある.ただし,IOLパワーの計算(17)表4術前と1年目眼圧の病型別比較術前術後1年目p値(paired-?test)全体(49)15.313.80.0003POAG(19)14.814.50.6861PACG(13)15.512.40.0003NTG(9)15.113.60.0081OH(5)16.814.6─落屑(3)15.014.0─():眼数,単位:mmHg,─:検定せず.図1IOL挿入と眼圧記載はnが5以上の観察期のみとした.Pre1W1M3M6M12M18M24M30M36M観察期間n=53:全例:POAG:NTG:PACG眼圧(mmHg)211917151311975-0.36±0.630.13±0.72*POAG群n=20PACG群n=17PACG群の53%がプラス側にずれ(D)0.50-0.5IOL計算式:SRK/T平均眼軸長(mm)POAG:24.77±2.15PACG:22.09±0.64図2術後屈折異常値の病型による違い*p<0.05(Mann-WhitneyU検定).———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006には注意が必要である.③NTGは術直後の眼圧上昇の頻度は低く,むしろ平均値は下降することもあるが,もし術中合併症や粘弾性物質の残留による眼圧上昇が生じると,著しい視野障害が生じる可能性があることを念頭に置いておく必要がある.④なお,将来的に緑内障手術の必要性が生じる場合を考えて,極力結膜を温存する術式での白内障手術を心がけることはいうまでもない.検討2:TrabeculectomyにおけるIOL挿入つぎに,trabeculectomyに対するIOL挿入術の功罪を検討した.対象は,PEA+IOL+trabeculectomy施行例(以下,同時手術群)とtrabeculectomy単独手術施行例(以下,単独手術群)である.それぞれの患者背景は以下のとおりである.単独手術群は33例38眼(男性22例,女性12例),平均年齢は61.2±9.6歳(31~76歳)であり,同時手術群は28例34眼(男性12例,女性16例),平均年齢は70.0±8.7歳(46~82歳)であった.年齢に関しては,やはり同時手術群のほうが有意に高かった(p=0.00008,Mann-WhitneyU検定).両群において,視力,眼圧,合併症に関しての比較を行った.視力まず,術後視力の内訳は表5のとおりである.術後3カ月目での比較である.同時手術群のほうが若干低いように思われるが,両群間に有意差はなかった(c2検定).しかし,視力改善度をみると,単独手術群では約9割の症例で視力の変化がほとんどなかったのに対し,同時手術群では4割の症例で改善がみられ,両群間に有意差を認め(p<0.01,Fisher直接確率法),視力改善の面からみれば,同時手術のほうが有利であることがわかる.しかし半数の症例は不変であり,さらに約1割の症例で悪化しているので,術前の視野障害の程度や部位によっては過度の期待が禁物であることがわかる.悪化した症例の状況をさらに詳しくみてみると,単独手術例の視力回復不良例2例3眼のうち1例(2眼)は,先にPEA+IOLが施行されており,白内障術直後に40mmHg前後の眼圧上昇がみられ,trabeculectomy直後には両眼とも矯正視力が0.8から0.4に低下した.しかしその後,6カ月目には両眼とも1.0に回復した(表5は,術後3カ月での判定である).もう1眼は,31歳のPOAGの症例で,残念ながら中心視野が消失したと考えられる症例である.術前視力は0.7,等価球面値で-11.25Dの強度近視を認めた.眼圧は点眼薬を3種類使用して20mmHg,Humphrey自動視野計におけるMD値が-26.52dBと高度の視野障害をすでに認めていた.若年者で強度近視眼は,低眼圧黄斑症の発症頻度が高いことが知られている5)が,本症例も術後1週目から眼圧が2mmHgと低下し,その後半年間5mmHg以下が持続し,自己血注入などの処置で眼圧が10mmHgを超えても矯正視力は0.1まで改善していない.一方,同時手術群の視力低下例は,NTG,PACG各1眼であった.NTGの症例は,術前から特に固視点付近の視野障害が高度で,術前矯正視力は0.6であったが,術後0.4に低下した.術前のMD値は-10.18dBで術後1年目のMD値も-10.08dBとほとんど変化なかったが,これまで視力は改善していない.PACGの症例は,術直後に前房出血が生じ,20mmHgを超える眼圧上昇が10日間ほど持続した症例である.術前視力は0.9であったが,中心視野障害が高度で,術後視力は0.4のまま改善していない.これら2例の視力低下の原因を検討してみると,IOL挿入が原因であると積極的に疑わせる所見はみあたらない.むしろ,悪化した症例の割合は単独手術群と同程度であるので,白内障手術やIOL挿入による悪化というよりも,やはり緑内障手術自体の侵襲によるものと考えてもよいのではないだろうか.なお,単独手術例では,術後3年の観察期間中に白内障進行によりPEA+IOLを施行した症例は1眼のみで,(18)表5Trabeculectomy後の視力(術後3カ月目)術後視力の内訳≧1.0≧0.70.7>単独手術群(n=38)60.521.118.4同時手術群(n=34)45.421.233.3有意差なし(c2検定)視力改善度改善±1段階悪化単独手術群(n=38)2.689.57.9同時手術群(n=34)39.454.56.1p<0.01(Fisher直接確率法)———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006???これは,当院では比較的積極的に白内障手術の併施を行っているため,と考えられる.つぎに,眼圧の経過を比較すると,図3のとおり,3年目を除いて両群間に有意差はみられなかった.合併症に関しては表6のとおりで,単独手術群のほうがいわゆる浅前房や脈絡膜?離が多く,同時手術群では一過性の眼圧上昇を生じた症例が多い傾向にあると思われる.これは前者では水晶体を残存したために前房が浅くなりやすく,後者はやはり手術手技が煩雑になったために侵襲が大きくなり,術後炎症が持続したためと推測している.なお,再手術に関しては,needlingも再手術と考えた場合は両群とも7眼ずつであったが,needlingをlasersuturelysisと同様に考え,いわゆるtrabeculecto-myの再施行やbleb再建術のような結膜切開を伴うものを再手術とした場合は,単独手術群2眼,同時手術群3眼であった.いずれの解釈においても両群間に差はないと考えられる.以上の結果からtrabeculectomyにおいて,IOLの挿入が手術成績に不利に働くとは考えにくいと思われた.検討3:IOLを挿入しないときの見え方は?最後に,白内障手術のみでIOL挿入を行わなかった場合を考えてみた.眼圧経過や合併症に関しては検討するデータがないので何ともいえないが,見え方に関しては大きなハンデを生じることが容易に推測される.10年以上前は今よりも人工的無水晶体眼の患者が多かったが,視野障害を有しない眼であっても,10Dを超える分厚いレンズによる眼鏡を装用した場合,周辺視野のゆがみが生じ,特に階段の昇降などで不自由を訴えられることが多かったものである.ましてやわずかな中心視野と周辺視野が残存するような症例においては(図4),中心視野を生かすために眼鏡矯正をした場合,周辺のゆがみはさらに強調される可能性が高い.これは,高度の視野障害を有する患者ほど顕著であると考えられ,コントロール不良のぶどう膜炎など,IOLを挿入することで明らかなマイナスが予測される症例を除いて,むしろIOLは挿入したほうが緑内障患者のqualityofvisionにはよいのではないかと筆者は考えている.おわりに今回の検討から,IOLを挿入することによるデメリットは少ないが,挿入しないことによるデメリットは大きいと思われる.したがって,緑内障眼へのIOL挿入は総じて適切であると考えられる.しかし,手技的に簡単になったからといって,安易に同時手術を行うことは慎(19)Pre1W(38)(38)(36)(30)(27)(19)(16)(12)[9][7][14][19][29][32][34][34]*1M3M6M12M18M24M30M36M観察期間眼圧(mmHg)302520151050:単独手術群(n=38):同時手術群(n=34)図3眼圧コントロールの比較─単独手術群vs同時手術群─()内:単独手術群の眼数,[]内:同時手術群の眼数.*p<0.05(Mann-WhitneyU検定).図4高度の視野障害を有する無水晶体眼の眼鏡矯正(イメージ)表6合併症の比較合併症単独手術群(38)同時手術群(34)術中合併症00術後合併症浅前房30脈絡膜?離30眼圧上昇36前房出血22———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.23,No.2,2006むべきである.しっかりと計画性をもって,同時に行った場合のほうが二期的に行った場合よりも利点が多いと判断したときのみ行うべきと考える.文献1)松村美代,溝口尚則,黒田真一郎ほか:原発開放隅角緑内障における超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術の眼圧経過への影響.日眼会誌100:885-889,19962)MathaloneN,HyamsM,NeimanSetal:Long-termintraocularpressurecontrolafterclearcornealphacoemul-(20)si?cationinglaucomapatients.???????????????????????31:479-483,20053)HayashiK,HayashiH,NakaoFetal:Effectofcataractsurgeryonintraocularpressurecontrolinglaucomapatients.???????????????????????27:1779-1786,20014)PohjalainenT,VestiE,UusitaloRJetal:Phacoemulsi?ca-tionandintraocularlensimplantationineyeswithopen-angleglaucoma.?????????????????????79:313-316,20015)FanninLA,SchiffmanJC,BudenzDL:Riskfactorsforhypotonymaculopathy.?????????????110:1185-1191,2003