———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSイレーター)による拡張に努めたい.結膜義眼床がよほど小さいものでない限り,患者がその気になればわずか2週間の施行で相当の拡張が得られるはずである.結膜義眼床の拡張のために部分的な植皮を行うことはできるだけ避けたい.義眼床が汚染され分泌液が増加し,外観が不潔で悪臭を放ち,患者は大変惨めな思いを強いられるからである.植皮が必要な場合は義眼床全体に行うのがよい(skinsocketordrysocket).1.義眼床拡張器(ソケットダイレーター)による拡大一時フットボール型のダイレーターを使用していたが安定が悪く,固定に難渋した(図1b)1).現在のたかつき型(Sタイプ)は安定がよく使いやすい.なお,大小2個のたかつき型を1個にまとめたつづみ型(Dタイプ)は義眼床の拡大を逐次進めていく際にさらに便利である(図2).「注1」ダイレーターの使用法:適当な大きさのダイレーターを選ぶ.たかつきの皿の部分を義眼床粘膜にあてがい,台の部分をテープでできるだけ強く圧迫固定しておく.この圧迫が大切なのである.圧迫がなければ単なる義眼装着と変わらないので拡張効果は著しく劣る.2~3週間で義眼床が拡大すると逐次大きいダイレーターに替えていく(図3).「注2」急速拡大を図った義眼床は再縮小する傾向が強いので,義眼床が安定するまでは昼間は義眼,夜間はダイレーター装着を交互に行う.この方法で義眼の早期装着も,また早期の社会復帰も可能となる.はじめに義眼床再建の対象疾患には腫瘍,外傷,先天奇形などいろいろあり,その症状の軽重も実にさまざまである.そのなかでも幼児網膜芽細胞腫摘出後の放射線照射症例の再建をとりあげて筆者なりの治療法を解説することにした.具体的にはまず義眼が収まる部屋(義眼床)を作らねばならない.義眼を入れると下眼瞼が沈むのでその補強(耳介軟骨移植)が必要となる.さらに義眼床の入り口(瞼裂)はしばしば狭いのでその水平方向の延長を図り,また義眼が奥にあるため,眼窩に詰め物をして義眼を前方に移動させることも必要となる.たとえば瞼裂狭小症(blepharophimosis)と眼球陥凹症(enophthal-mos)の治療も重なってくる.そうしてでき上がった眼を健側と比較してみるとやはり不自然さが目立つ.かくしてようやく眼瞼,特に内眥,外眥の修正を主とする仕上げの手術が始まることになる.以上の長期にわたる複雑な再建治療にあたって,筆者は一貫して他の部位の身体の損傷を極力避ける愛護的治療と社会復帰が可能な顔に仕上げることに努力してきたつもりである.そして多くの試行錯誤の結果?rstchoiceとすべき治療法や原則として用いるべき術式もいくつか選択できたので,それに沿った義眼床再建の術式を述べることとした.I義眼床の拡大義眼床の結膜がなにがしか残っている限りは(con-junctivesocket)できるだけ義眼床拡張器(ソケットダ(63)???*RyosukeFujimori:冨士森形成外科〔別刷請求先〕冨士森良輔:〒600-8327京都市下京区西洞院通塩小路上る東塩小路町608-9日生三哲ビル2F冨士森形成外科特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):601~609,2007義眼床の再建???-??????????????冨士森良輔*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007「注3」ダイレーターは楕円形なので義眼床内で90?回転させるとさらなる拡張が可能となる.2.遊離植皮術による拡大(図4参照)厚めの分層皮片を採取し,真皮面を外側にして約3×3.5cmの袋をつくる.その中にコンホーマーを縫い込めて瞼裂より眼窩内に埋植する.2週間以降に瞼裂を再び切開して皮膚の袋(義眼床)を開放する.コンホーマーは厚さ約2mmのシリコーン板を用いる.眼球下垂防止用(高研)が手頃である.コンホーマーは作製したい義眼床より少し大きめにトリミングすることと,辺縁3~4mmの幅を残して中央をくりぬいておくことが大切である.コンホーマーの出し入れ,義眼床の清掃,管理を容易にするためである2).「注1」埋植後約2週間目の瞼裂の切開は瞼裂の長さの半分くらいに止める.移植皮膚の拡張効果を弱めず収縮を予防するためである.露出したコンホーマーは取り出すことなく,ときどき洗浄しながらこの新しい義眼床内に少なくとも3カ月間は留置して移植皮膚の安定を待ち義眼床の拘縮を防ぐ.必要があれば,コンホーマーの上に薄い義眼を重ねても良い.「注2」移植皮膚の拘縮を防止するためには,従来から国を問わず実にさまざまな試みがなされてきたが,そのすべてはいかに長期間義眼床を拡張状態に保持するかの工夫である3).(64)図1義眼床拡張器による拡大a:2歳,女児,小眼球症.b:フットボール型ダイレーター使用.c,d:14歳,拡大した義眼床と義眼装着の状態.abcd図2義眼床拡張器(ソケットダイレーター)下段のたかつき型Sタイプ(singletype)は乳児から成人用の10種類のサイズがある.上段のつづみ型Dタイプ(doubletype)はそれぞれ大小2個のSタイプを1個にまとめた新型でサイズの選択に便利である.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(65)abcde図3義眼床拡張器による拡大a:16歳,男子,術前.b:術前の義眼床.下円蓋が消失して義眼が落ちやすい.c:Sタイプ・ダイレーターの使用状態.d:義眼床下円蓋は早期に,容易に拡大した.e:義眼装着の状態.abc図4遊離植皮術による拡大a:縮小した義眼床.b:皮膚の袋を作り,真皮面を外にして中にコンホーマーを縫い込める.コンホーマーは厚さ約2mmのシリコーン板を用いる(本文参照).この袋を眼窩に埋植する.c:2週間前後で瞼裂を切開して皮膚の袋(義眼床)を開放する.中に露出したコンホーマーが見えている.ab図5Belt?apによる瞼裂の延長a:植皮後3カ月を過ぎて内眥,外眥に細長い皮弁を作製する.b:その細い皮弁を折り曲げて義眼床結膜または義眼床皮膚に縫着する.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007II瞼裂水平方向の延長原則としてベルト皮弁(belt?ap)を用いる.延長手術の後しばしば再拘縮を見るが,ベルト皮弁はそれを防止するのに優れた効果を示す(図5).III下眼瞼の補強義眼床を作製し義眼を装着してみて下眼瞼が沈下する症例では腱または軟骨によって下眼瞼を補強しなければならない.しかし腱での吊り上げでは下眼瞼は吊り橋のように中央がたわむ(図7b)4).その点耳介軟骨を推奨したい5).弾力もあり,薄い眼瞼に最適である(図6).「注意」1:耳介軟骨は長さ3.5cm以上が必要.2:軟骨は瞼板に密着させ,また瞼縁にも十分密接させて軟骨両端では内・外眥靱帯に,また中央で瞼板の3カ所にしっかり縫合固定し,さらにボルスターで結膜─軟骨─皮膚とサンドイッチ固定(図7a,8,9).IV眼球陥凹の修正幼児期網膜芽細胞腫摘出と術後放射線照射に伴う成長障害では骨の萎縮と,軟部組織の不足が著明である.しかしその再建にあたって患者の骨,肋軟骨,皮弁などによる充?を図るのでは身体に与える損傷が大きく,特に小児,若い女性にとってその苦痛は無視できないものがある.特に眼窩内へ移植された肋軟骨は後日義眼床の結膜あるいは皮膚と固着して?離困難となり,再建操作を妨げることがあり,結局取り除くことになる.そのとき(66)abcd図6耳介軟骨移植による下眼瞼の補強a:外傷による義眼床欠損例.術前.b,c:義眼床を作製し義眼を装着したが下眼瞼沈下.d:耳介軟骨移植で補強した.図7下眼瞼の補強a:耳介軟骨を採取し下眼瞼に移植する.b:腱と軟骨の支持力の比較.(a)(c)(b)ab———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(67)の患者の悔しさは想像に余りある.著者は,骨の欠損はセラミック人工骨で,その他の軟部組織の充?は原則として吸引脂肪の注入で補っている6).1.脂肪吸引,注入下腹部(採取部)の局所麻酔は型どおりに行う.さらに脂肪層には生理食塩水で5~10倍に薄めた局所麻酔剤を採取予定量の約10倍量注入する(tumescentpro-cedure).皮膚切開は臍部に入れると創痕が目立たない.ついで吸引用カニューラを皮下脂肪層に挿入し,注射器に陰圧をかけながら前後運動させて脂肪を吸引する.陰圧保持用のストッパーが市販されている.採取脂肪は生理食塩水で洗浄後,線維質を剪刀でこまかく切断した後1m?注射器に吸引し16ゲージの鈍針などで患部に注入する.1カ所の注入量は0.2m?前後が適当であろう(図10,11).図10bに使用中のような注射筒は大きすぎるので注意が必要.図8上下眼瞼縁が脆弱だと義眼床拘縮は容易に進行するa,b,c:耳介軟骨の補強がなければ義眼床,眼瞼は拘縮し,瞼裂はとめどなく開大していく.cba図9耳介軟骨による上,下眼瞼の補強a,b:神経線維腫(左義眼).上下眼瞼に軟骨を移植することによってシャープな眼の形を保持することができた.bacba図10陥凹に対する脂肪注入術a,b,c:上眼瞼の陥凹に脂肪注入.術前(a),術中(b),術後(c).———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(68)「注1」注入脂肪の生着率をさほど問題にする必要はない.脂肪の採取,注入はほとんど創痕を残さないし,吸引・注入は何回も可能である.さらに一度に大量注入しないことが原則であるから必要あれば期間を空けて何回でも注入をくり返せばよい.眼瞼,眼窩を合わせて1回注入量は一応10m?前後であろうか?注入脂肪が一部吸収され再注入をするかどうかを判断する時期は前回注入後約3カ月以降である.「注2」陥凹眼窩の充?には骨,軟骨,真皮,側頭腱膜,各種義眼台,ガラス球,シリコーン球など実にさまざまなものが用いられたが,再度の補充の困難なもの,排出されるもの,瘢痕を残すものなどの問題が残り,結局は吸引脂肪注入術に落ち着いた.図11陥凹に対する脂肪注入術a:幼児期網膜芽細胞腫の手術および術後放射線照射後の変形.b:下眼瞼軟骨移植後の脂肪注入術を眼瞼・眼窩に合計3回施行した.1回量:眼瞼2m?,眼窩8m?前後か.c,b:術前術後の仰角.abcd図12皮弁移植による陥凹修復例a,b,c:幼児期網膜芽細胞腫の手術および術後放射線照射後の変形.局所皮弁で義眼床の拡張と陥凹の充?を図った.cba———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(69)2.皮弁法義眼床の拡大と眼球陥凹の充?を同時に行う効果的方法で現在最も広く行われているが,患者に大きな犠牲を強いることになり,できるだけ避けたいものである.特に眼瞼周囲からの局所皮弁は,後述するように最後の外表面の仕上げ手術に必要になることが多い.その大切な皮膚を義眼で隠れる部分に消費するのはもったいない(図12).V仕上げの手術眼の形の再建にあたって重要なポイントは,まず内眥をきちんと整えることであり,そのことは,われわれ日図13眼の再建のポイントは内眥と外眥の再建a:幼児期網膜芽細胞腫の手術および術後放射線照射を受けた.b:一応の再建手術は終了したが右眼(患側)の形が不自然である.c:ちなみに内眥,外眥に墨を入れてみると違和感のない眼となった.内眥,外眥形成のポイントを教えられた症例である.cba図14内眥の再建a:幼児期網膜芽細胞腫にて術後放射線照射を受けた.b:特有の著明な変形に対して既述の再建術を行ってきた.c:前進皮弁の作図.ポイント1)皮弁は末広がりの形であること,2)皮弁先端は内眼角より数mm内下方に進めて縫合すること,3)後戻りを防ぐため皮弁は眼窩上縁の骨膜や外眥靱帯にしっかり埋没糸で固定しておくことである.d:術後.abcd———————————————————————-Page8???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(70)図15内眥の再建a,b:外傷による変形,義眼装着症例.Z?形成術により内眥を再建した.ab図16外眥の再建a:幼児期網膜芽細胞腫の手術および術後放射線照射を受けた.術前.b:外眥の組織欠損変形.c,d:外眥皮弁の作図と縫合.e:術後.cbaed図17外眥の再建a:幼児期網膜芽細胞腫の術後放射線照射症例.b:外眥形成術術前の状態.c,d:YVZ-作図.点aをa¢に,点bをb¢に移動させて縫合する.e:術後.上眼瞼が下眼瞼に被さった状態が再建された.a?ab?bcbaed———————————————————————-Page9あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(71)本人にとってはスッキリした内眼角贅皮の再建といえる(図13).さらに注意すべきは内眥部,外眥部ともに,上眼瞼を下眼瞼の上に覆い被さった状態に仕上げることである.1.内眥形成術ポイントは原則として前進皮弁,症例によってはZ-形成術を用いて内眼角贅皮を作製する(図13~15).2.外眥形成術1)外眥皮弁(仮称).上眼瞼の小さい組織欠損に有効(図16).2)YVZ?形成術(仮称)上眼瞼が下眼瞼の上に被さる状態を作るための作図(図17).3)回転皮弁(rotation?ap)+Z-形成術(図18).文献1)秋山太一郎:萎縮した結膜?を自動的に拡大する方法.形成外科11:215-220,19682)冨士森良輔:義眼床の再建.眼の形成外科(添田周吾編),p189,克誠堂出版,19933)AntinaNH:Malignantcontractureoftheeyesocket.???????????????????74:293,19844)VistnesLM,IversonRE:Theanophthalmicorbit.????????????????????52:346-351,19735)冨士森良輔:結膜?または義眼床形成術.アトラス眼の形成外科手術書(一色信彦編),p228,金原出版,19886)冨士森良輔:脂肪注入術.形成外科38:33-38,1995adcb図18外眥の再建a:幼児期網膜芽細胞腫の手術および術後放射線照射症例.b:一応の義眼床再建が終わり外眥形成術前の状態.c:回転皮弁で上眼瞼皮膚の余裕を作る.その際外眥部に生じたdogearに小さいZ-形成術を加えて仕上げる.d:術後の状態.