———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLSの間などに落ち着いて考えを整理する.それでも判断がつかない場合は採血や画像の検査を予定し,さらに検討する.ただし,眼球運動制限と散瞳を伴い,脳動脈瘤が疑われる場合は急を要する.この作業は,眼瞼下垂の診察に慣れていない場合や,高頻度にみられる下垂以外のものに遭遇した場合に特に有用である.所見の有無は白黒はっきりできるものばかりとは限らず,また典型的な所見を呈する症例ばかりでもない.重症はじめに開瞼に携わるのは,動眼神経支配の眼瞼挙筋と交感神経支配のMuller筋であり,閉瞼に携わるのは顔面神経支配の眼輪筋である.また,眼瞼挙筋と上直筋は動眼神経の同じ由来の枝にて支配されている.I4ステップ眼瞼下垂の患者を診るときには表1の4つのステップにておおよその分類をし,さらに細かい所見をとって診断を進める.それぞれのステップを正確に速くこなすには,それなりの経験が必要となる.一般眼科,神経眼科,眼瞼眼窩診察の経験が必要であり,ステップ4では測定の手技が必要である.実際には外来でみる眼瞼下垂で最も高頻度なのは腱膜性,ついで先天性である.この2つについてはlevatorfunctionの測定(図1)と問診で判断することができる.しかし常に頻度の低い眼瞼下垂も疑い,表1の4つのステップを怠ってはならない.IIチェックリスト眼瞼下垂の診断に必要な所見を見逃さずに能率よくおさえていくためのチェックリストを表2に示す.これだけの所見がとられていれば,他の眼科医に相談する際の材料としても十分であろう.眼瞼下垂の患者に遭遇し鑑別診断の必要を感じた場合,まずは項目を忠実に埋め,写真を撮影し,散瞳待ち(51)1601表1診断のための4ステップte1te2のte3te4Levatorfunctionの垂れた眼科的・眼瞼眼窩所見Step1Step3Step4Step2異常No正常正常低下正常Yes異常腱膜性下垂神経原性・筋原性下垂小さい頃からあったか眼球運動・瞳孔所見Levatorfunction偽下垂機械的下垂先天性下垂*MikaNoda:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕野田実香:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室特集とっても近な神経眼科あたらしい眼科24(12):16011605,2007垂れたまぶたの対処法ExaminationofDroopyEyelids野田実香*———————————————————————-Page21602あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(52)表2チェックリスト重要項目発症時期幼少時より数年前数カ月前数日前複視の自覚ありなしLevatorfunctionmm/mm瞼裂幅mm/mm眼球運動制限ありなし瞳孔不同(明室,暗室で)ありなし上下斜視ありなし眼瞼腫瘍,眼窩腫瘍の触知ありなし図に記入瞳孔と上眼瞼縁との位置関係重瞼線の位置(瞼縁より何mmか)弛緩した皮膚が睫毛に被さっているか睫毛・睫毛根瞳孔反射眉毛の位置問診眼瞼下垂感軽度・重度外傷の既往あり(昔最近)なし眼科手術の既往ありなしコンタクトレンズ(CL)装用経験あり(HCL・SCL年間)なし日内変動ありなし糖尿病ありなし高血圧ありなし喫煙するしない(本年)(先天性の場合)下垂が改善する行動ありなし(先天性の場合)逆内眼角贅皮ありなし一般眼科的所見細隙灯検査充血ありなし白内障ありなし角膜上皮障害ありなし前房内炎症ありなし結膜異物ありなし眼瞼の診察眼瞼けいれんありなし閉瞼不全ありなし眼瞼腫脹・発赤ありなし眼球突出・変位あり(mm/mm())なし眉毛固定試験(痙攣を疑うとき)改善あり改善なし検査写真撮影(上方視・正面視・下方視・閉瞼)済未抗アセチルコリン(Ach)レセプター抗体測定済未不要(Levatorfunctionが低いとき,複視を伴うとき)CT済未不要MRI済未不要———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071603(53)チェックリストにて所見を取り終わったら,重要な所見を念頭において再度4ステップにて検討する.そして眼瞼下垂のどの種類に当てはまるか検討する.III眼瞼下垂の種類それでは4ステップで大まかな分類ができ,リストにて十分に所見を取り終わった時点で,眼瞼下垂の診断をどのように下すかにつき述べる.列挙された疾患のうち,最も近い疾患に絞り込み,必要な検査があれば追加する.1.偽眼瞼下垂・機械的下垂a.前眼部の異常眼表面の不快感をひき起こすような所見を伴う場合,反射的に閉瞼傾向になり,下垂のような外観を呈することがある.結膜炎,結膜異物,角膜上皮炎,ぶどう膜炎による羞明がよい例である.これらの所見を伴う場合,まずそれらが治療の対象になる.b.眼瞼皮膚弛緩症患者の多くが眼瞼下垂感を訴えて受診するためか,真の下垂と判断してしまいがちである.一重瞼の患者に多い.睫毛根が露出するまで皮膚のみを上方に挙上して,真の瞼縁と瞳孔の関係を把握する.皮膚だけが問題であるなら,皮膚切除術を行う.c.小眼球・眼球陥凹眼球表面の位置が奥まっている場合,眼瞼挙筋から瞼板にうまく力が伝わらず,下垂を呈することがある.眼窩吹き抜け骨折の既往についても問診する.d.眼瞼けいれん患者本人にけいれんの自覚がない場合,見分けるのが困難な場合がある.眼瞼下垂の患者は開瞼のために常に眉毛を挙上していることが多いが,眼瞼けいれんの患者の多くは眉毛付近の眼輪筋の収縮を伴うため,眉毛は下垂していることが多い.眉毛固定試験にて,閉瞼傾向が軽快するなら疑わしい.治療は眉毛挙上手術やボトックス注射である.e.顔面神経麻痺眼輪筋麻痺により,上眼瞼皮膚が被り,重量感を訴える.閉瞼不全を伴う.眉毛下垂,口唇下垂(口を水でゆ筋無力症でも日内変動を示さないものがあり,腱膜性下垂でも疲労により夕刻のほうが下垂が著しい例もある.重要項目を中心に,疑わしい疾患の裏づけとなる所見にて肉付けしていき,診断にたどりつくことができる.図1Levatorfunctionの測定左手にスケールを持ち,眉毛直上にあてがい,骨の方向に押し付けて眉毛を固定する.決して下方に押し下げない.右手でペンライトを持ち,それを上下に動かして指標にする.「上を見てください」といった口頭での指示では不十分である.a:ペンライトを上方に掲げて上方視をさせ,スケールにて瞼縁の位置を読み取る.スケールを瞼縁ぎりぎりまで近づけ,瞳孔の位置で計測する.瞳孔以外の位置で行うと,func-tionを低く見積もる結果になる.b:ペンライトを下方に移して下方視をさせ,同様に瞼縁の位置を読み取る.閉瞼時ではない.上方視時との差をlevatorfunctionとする.図ではスケールの目盛りは40と52であり,levatorfunc-tionは12mmである.———————————————————————-Page41604あたらしい眼科Vol.24,No.12,2007(54)MarcusGunn現象では,開口にて下垂の程度が軽快する.3.神経性・筋原性下垂瞳孔異常,眼球運動制限を伴う場合に疑われる.複視を伴う症例の詳細は,本特集の前項に譲る.a.Horner症候群交感神経障害からなる瞼裂狭小・縮瞳・眼球陥凹を三徴とする.瞳孔不同は暗所で顕著となる.1%ネオシネジン点眼にて眼瞼の異常は消失する.上眼瞼下垂とともに下眼瞼挙上がみられ,上方視時に著明になる.内科に依頼する.b.動眼神経麻痺眼球運動制限を伴う.上方枝のみの障害では,上転制限と下垂のみ出現する.糖尿病に伴う抹梢性の血管障害が多い.散瞳を伴わない場合,内科に依頼する.c.脳動脈瘤による動眼神経麻痺内頸動脈後交通動脈分岐部に生じた脳動脈瘤では,下垂・眼球運動制限・散瞳が数日のうちに発症,進行する.動眼神経単独の麻痺による眼球運動制限を呈する.ただちに脳外科に依頼し,MRA(磁気共鳴血管撮影法)などを行う.d.重症筋無力症しばしば眼球運動制限を伴う.日内変動や眼外症状がないことも珍しくない.採血により抗Ach(アセチルコリン)レセプター抗体の計測で診断できる.テンシロンテストより定量性があり,アナフィラキシーショックの心配がないこともあり,少しでも可能性があったら検査しておくとよい.内分泌内科に依頼する(図2).e.CPEO(慢性進行性外眼筋麻痺)両側性,慢性進行性の眼瞼下垂と眼球運動制限を呈する.しばしば複視を伴わない.MRI(磁気共鳴画像)にて外眼筋の萎縮を認める.神経内科に依頼する.f.CCF(内頸動脈海綿静脈洞瘻)上眼静脈(眼窩内で眼球上方を前後に走る静脈)の圧が亢進し,結膜血管怒張,結膜浮腫,眼圧上昇,眼球突出,眼球運動制限を伴う.眼窩CT(コンピュータ断層撮影)水平断にて上眼静脈の怒張を認め,通常線状にしか写らないものが視神経と同じ程度の太さに認められすげない)を伴えばなお疑わしい.神経内科・耳鼻科に依頼する.f.機械的下垂眼瞼腫瘍,眼窩腫瘍,外傷,炎症に伴う眼瞼眼窩腫脹による下垂である.触診や眼球突出・変位から疑い,画像検査にて確定する.原疾患の治療を行う.2.先天性下垂生まれつきの下垂で,levatorfunctionの低下を認める.10%の頻度で上直筋の機能低下を伴う.一重瞼であることが多い.小児で瞳孔が覆われており,視力不良がある場合は早めに手術する.軽度でも整容面改善の希望が強ければ手術を行う.軽度の先天性下垂があり,放置したまま成人した場合,levatorfunctionは低く,先天性下垂に準じた治療が必要となる.瞼裂縮小症は,両眼瞼下垂,瞼裂狭小,逆内眼角贅皮,内眼角間開大を四徴とする先天性下垂の一種である.希望に応じて手術する.先天性神経支配異常である図2Levatorfunctionの低下した例眼瞼の上下動の幅が小さい.挙筋機能の計測結果は3mmであった.抗アセチルコリンレセプター抗体が高値で,重症筋無力症と診断された.a:上方視時,b:下方視時.ab———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.12,20071605文献1)CallahanM,BeardC著,井出醇訳:眼瞼下垂.メディカル葵出版,19982)久保田伸枝:眼瞼下垂.文光堂,20003)菅澤淳:Horner症候群.月刊眼科診療プラクティス58,瞳孔とその異常,p48-51,文光堂,20004)藤野貞:神経眼科臨床のために,第2版.医学書院,20015)TyersAG,CollinJRO:ColourAtlasofOphthalmicPlasticSurgery2nded.Butterworth-HeinemannMedical,NewYork,2001る.脳外科に依頼する.4.腱膜性下垂Levatorfunctionが正常で,既出の疾患に当てはまらないものは腱膜性と考えてよいであろう.眉毛挙上,重瞼線の上昇,上眼瞼溝の陥凹はしばしば認められる.高齢,手術・外傷の既往,コンタクトレンズ(CL)装用経験があればさらに疑わしい.非常に高度に進行した例ではlevatorfunctionが低下することがあるので,発症時期と進行の様子をよく問診して判断する.原因が何であれ,治療は手術である.IV診断に必要な手技診断の決め手となりうる手技は,事前に健常者を相手に練習して確立しておきたい.1.Levatorfunctionの測定眉毛を骨に押し付けて固定し,ペンライトにて上下方視をさせて上眼瞼縁の上下動の幅を観察する.1014mmが正常とされる.筋機能がまったくない症例でも挙筋以外の組織の動きから,23mmの動きがみられる.2.遮閉検査(図3)斜視,もう片眼の瞼裂開大などによる患眼への影響を排除して診察できる.軽んじてはならない検査である.3.眉毛固定試験眼瞼下垂に眉毛下垂を伴う症例で,眉毛を挙上してテープで額に固定する試験.眼瞼けいれんの場合,閉瞼傾向は改善する.皮膚弛緩症の場合,真の瞼縁を観察しやすくなる.(55)図3上下斜視に対する遮閉検査a:正面視.一見して右眼の眼瞼下垂に見える.b:左眼を遮閉し右眼で固視させると,瞳孔と上眼瞼縁の位置関係は正しいことがわかる.左眼はやや上転位をとり,上下斜視であったことがわかった.このことは遮閉検査なしではわかりづらく,省略してはならない検査である.ab

