———————————————————————-Page1あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???0910-1810/07/\100/頁/JCLS■眼科領域の緑膿菌感染術後眼感染症の起因菌はグラム陽性菌によるものが大部分でグラム陰性菌によるものは少ないとされている.しかし,Hanらの研究では5.9%3),原らでは20%4),湯口らでは40%5)と,報告者によってグラム陰性菌による頻度が大きく異なっている.この違いは,グラム陰性菌のうち緑膿菌をはじめとするブドウ糖非発酵菌群は,高齢者,糖尿病および悪性腫瘍などを基礎に有する患者に感染例が多いことより,各報告施設の患者背景が大きく影響していることが考えられる.また,?????????????????????(セパシア菌)などでは,グルコン酸クロルヘキシジンに耐性獲得をした院内感染事例の報告も多いことより,術野および手術時手指消毒に用いる消毒薬の種類も陰性菌感染要因の一つと考えられる.一方,眼科外来市中感染においては,緑膿菌による角膜炎がコンタクトレンズ(CL)装着者に多くみられるが,その原因としてはCLの消毒操作の不備とCL装着によって眼表面のムチン層が破壊されやすくなることにより緑膿菌の角膜に対する親和性が高まるためと考えられる6~10).■多剤耐性緑膿菌(multi-drugresistant???????????????????????:MDRP)とはMDRPの定義を表1に示したが,緑膿菌のなかでカルバペネム系薬剤,アミノ配糖体系薬剤,フルオロキノロン系薬剤の3系統の薬剤に対して同時耐性を示す緑膿菌がMDRPと定義される.本菌は,五類感染症に指定されているため基幹定点に勤務している医師がMDRPによる「感染症患者」を診察した場合は保健所に届出をしなければならない.耐性機序は,緑膿菌の細胞膜透過性の低下によるもの,抗菌薬の汲みだし(排出)によるもの,メタロb-ラクタマーゼ産生(抗菌薬を加水分解し失活させる)という3つの耐性機構による.■材料の採取と塗抹検査1.材料の採取方法と輸送眼感染症は感染部位が狭い範囲に限られており採取できる材料も少ない.このため,検査実施時には,周囲菌の汚染に注意を払い確実に感染部位の材料を採取する.塗抹用検体は綿球の細いダクロン綿棒を用い培養検体とは区別して採取した後,保存培地を含有しない滅菌試験管に入れ検査室に提出するか,直接塗抹したスライドガラスを提出する.眼内レンズ(IOL)装着後感染患者の検体採取は,前房水をシリンジで穿刺した後,ただちに検査室へ提出する.ただちに提出できない場合はケンキポーターなど嫌気性菌の保存が可能な滅菌済み容器に採取・保存する.また,滅菌スパーテルなどで採取した角膜擦過材料などは滅菌試験管に入れ検査室へ提出する.2.塗抹検査塗抹標本の作製は,採取した材料中の貪食細胞や赤血球の物理的な損傷を防ぐため,綿棒や擦過材料をスライドガラスに優しく塗布した後,アルコール固定を行う.前房水やCL保存液などの液性の検査材料は,基本的には遠心分離後の沈渣をスライドガラスに塗布した後,アルコール固定を行う.塗抹検鏡は,白血球数や貪食像,白血球の核の状態,フィブリン析出の有無などを観察する(図1).緑膿菌のグラム染色像は短桿菌から桿状に観察されることが多(93)48.多剤耐性緑膿菌(MDRP)眼感染症セミナー─クライシスコントロール講座─●連載?監修=浅利誠志井上幸次大橋裕一山本剛西神戸医療センター臨床検査技術部術後眼感染症の発症は,周術期における術野の感染リスクをどのように低減できるか否かに大きく左右される.特に緑膿菌をはじめとするブドウ糖非発酵菌群による眼感染症は,術前後の長期抗菌薬投与による菌交代現象などによって患者自身の腸管内,眼周囲皮膚,鼻腔および上咽頭などに定着した菌に起因する内因性感染と院内環境からおもに医療従事者の手指を介した外因性感染により起こる.近年は多剤耐性緑膿菌(multi-drugresistant??????????????????????:MDRP)の院内感染事例も多く報告1,2)されているため手術部位感染の管理はきわめて重要である.———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007く,連鎖形成や細胞集塊は形成しない.緑膿菌の菌体はやや丸みを帯びており,淡い染色性を示すのが特徴的であるが,日常からグラム染色像を見慣れておかなければ,腸内細菌やインフルエンザ菌など他のグラム陰性桿菌との鑑別はむずかしい.■培養検査緑膿菌は血液寒天培地などの分離培地により35℃好気培養で容易に発育する.しかし,眼科材料の菌量は少ない場合が多いため,チオグリコレート(TGC)培地などの増菌培地を用い増菌培養を併用する.偏性好気性菌である緑膿菌は,増菌培地の上層部に菌が発育する.緑膿菌は緑色色素であるピオシアニン産生,オキシダーゼ試験陽性など特徴的な性状を示すため,最終同定結果を待つことなく菌種の推定が可能である.このため,検体提出の翌日には検査室からの一次(中間)報告を受け取ることも可能である.■薬剤感受性試験の実施起因菌が緑膿菌の場合,抗緑膿菌作用のある抗菌薬を(94)表1多剤耐性緑膿菌(multi-drugresistant???????????????????????:MDRP)の定義14)(1)定義広域b-ラクタム剤,アミノ配糖体,フルオロキノロンの3系統の薬剤に対して耐性を示す緑膿菌による感染症である.(2)臨床的特徴感染防御機能の低下した患者や抗菌薬長期使用中の患者に日和見感染し,敗血症や骨髄,気道,尿路,皮膚,軟部組織,耳,眼などに多彩な感染症を起こす.(3)届出基準ア患者(確定例)指定届出機関の管理者は,当該指定届出機関の医師が,(2)の臨床的特徴を有する者を診察した結果,症状や所見から薬剤耐性緑膿菌感染症が疑われ,かつ,(4)の表の左欄に掲げる検査方法により,薬剤耐性緑膿菌感染症患者と診断した場合には,法第14条第2項の規定による届出を月単位で,翌月の初日に届け出なければならない.この場合において,検査材料は,同欄に掲げる検査方法の区分ごとに,それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること.イ感染症死亡者の死体指定届出機関の管理者は,当該指定届出機関の医師が,(2)の臨床的特徴を有する死体を検案した結果,症状や所見から,薬剤耐性緑膿菌感染症が疑われ,かつ,(4)の表の左欄に掲げる検査方法により,薬剤耐性緑膿菌感染症により死亡したと判断した場合には,法第14条第2項の規定による届出を月単位で,翌月の初日に届け出なければならない.この場合において,検査材料は,同欄に掲げる検査方法の区分ごとに,それぞれ同表の右欄に定めるもののいずれかを用いること.(4)届出のために必要な検査所見検査方法検査材料分離・同定による病原体の検出(敗血症・心内膜炎,腹膜炎,胸膜炎,髄膜炎,骨髄炎)及び以下の検査室での判断基準を満たすもの(検査室での判断基準は,以下の3つの条件を全て満たした場合である)アイミペネムのMIC≧16?g/m?又は,イミペネムの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が13mm以下イアミカシンのMIC≧32?g/m?又は,アミカシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が14mm以下ウシプロフロキサシンのMIC≧4?g/m?又は,シプロフロキサシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が15mm以下)血液,腹水,胸水,髄液,通常は無菌的であるべき臨床検体分離・同定による病原体の検出,かつ,感染症の起因菌と判定された場合(呼吸器感染症,肝・胆道系感染症,創傷感染症,腎盂腎炎・複雑性尿路感染症,扁桃炎,細菌性中耳炎・副鼻腔炎,皮膚・軟部組織感染症)及び以下の検査室での判断基準を満たすもの(検査室での判断基準は,以下の3つの条件を全て満たした場合である)アイミペネムのMIC≧16?g/m?又は,イミペネムの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が13mm以下イアミカシンのMIC≧32?g/m?又は,アミカシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が14mm以下ウシプロフロキサシンのMIC≧4?g/m?又は,シプロフロキサシンの感受性ディスク(KB)の阻止円の直径が15mm以下)喀痰,膿,尿,便,無菌的ではない検体MIC:最小発育阻止濃度.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???マーゼ産生菌である.メタロb-ラクタマーゼ産生機構はプラスミドにより菌種を超えて耐性伝播するため,早期に発見し院内での拡大を未然に防ぐ必要がある.MDRPの3つの耐性機序は感受性検査結果より推測が可能であり,典型的な感受性パターンを図2に示した.現在,メタロb-ラクタマーゼの確認試験として2-メルカプトプロピオン酸添加による阻害確認試験(2-MPA法)が広く用いられている.この方法は特別な器材を必要とせず,ディスク拡散法によりメタロb-ラクタマーゼの検出が可能である.方法は感受性培地上にIPMとセフタジジム(CAZ)の感受性ディスク,2-MPAを浸漬させたディスクを25mm間隔で置き,翌日に2-MPAの阻害作用により形成される阻止帯の形成を判定する(図3).■治療薬の選択緑膿菌による眼感染症は基本的に点眼薬による治療を優先する.治療薬としては,PIPC,CAZ,MEPM,TOB,イセパマイシン(ISP),LVFXのなかで感受性を示した薬剤を単剤または併用で用いるが,点眼薬としてはTOB,LVFXが第一選択薬となる.メタロb-ラクタマーゼを産生するMDRPに対しては,CL単剤またはアミノ配糖体系薬剤を中心にフルオロキノロン系薬剤かカルバペネム系薬剤を併用する.症例によっては感受中心に感受性検査を実施する.第一選択薬のアミノ配糖体系薬剤(アミカシン:AMK,ゲンタマイシン:GM,トブラマイシン:TOBなど),第二選択薬のフルオロキノロン系薬剤(オフロキサシン:OFLX,レボフロキサシン:LVFX,ガチフロキサシン:GFLXなど)の感受性試験11)は必須である.また,重症の眼内炎症例においては前述した点眼薬に加えて注射用抗菌薬の併用が有効な場合も報告されているため11)カルバペネム系薬剤(イミペネム:IPM,メロペネム:MEPMなど)やピペラシリン:PIPC,アズトレオナム:AZTなど抗緑膿菌作用のあるb-ラクタム系薬剤の感受性検査も併せて実施する.■メタロb-ラクタマーゼ産生耐性菌の判定MDRPは3つの耐性機序をもち合わせているが,院内感染対策上,特に問題となるものがメタロb-ラクタ(95)図2多剤耐性緑膿菌の感受性パターンによる耐性機序の推測(典型例)①外膜透過性の低下によるもの耐性:IPM感受性:MEPMやCAZ②薬剤の排泄によるもの耐性:IPM,CAZ,LVFX感受性:特にない③メタロb-ラクタマーゼ耐性:IPM,MEPM,CAZ感受性:PIPC,AZT図1結膜分泌物の塗抹所見上皮細胞(中央右)の周りに赤くフィブリンが染色されている.一部白血球と思われる物質(中央左)も確認できる.菌量が少ないため塗抹所見では確認できないが感染が疑われる症例である.図32-メルカプトプロピオン酸の阻害によるメタロb-ラクタマーゼの確認IPM含有のディスクを培地の左右に置き中央に2-MPA含有ディスクを置く.翌日IPM含有ディスクの単独(図左)では阻止円が認められないが,2-MPA含有ディスクのほうには阻害帯が確認できる.IPMIPM2-MPA———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007性結果を基に自施設で点眼薬を用事調整することも必要である.また,ホスホマイシン(FOM)は単独では抗菌作用が弱いが,細胞壁合成の第一段階に作用するため,後続の抗菌薬の効果を上げる働きがある.このためFOMを先行投与し,投与終了後30分でフルオロキノロン系薬剤または抗緑膿菌作用のあるb-ラクタム系薬(スルバクタム:SBT/セフォペラゾン:CPZ,CAZなど)を投与する方法も1法である.副島らはFOM+OFLXの場合は相乗作用が90%,林らはFOM+SBT/CPZの場合は相乗作用が47%であったと報告している12).さらに,宮尾らはラットを用いカルバペネム系薬剤4剤について前房水中の濃度について検討しているが,MEPMが最も良好な結果を示したと報告している13).文献1)徳川英樹,井上幸次,前田直之ほか:白内障手術にあたり多剤耐性緑膿菌が検出された一例.第37回日本眼感染症学会抄録集,20002)宮永嘉隆:細菌性眼感染症の主要起炎菌にはどんなものがあるのでしょうか.あたらしい眼科17(臨増):3-4,20003)HanDP,WisniewskiSR,WilsonLAetal:Spectrumandsusceptibilitiesofmicrobiologicisolateintheendophthal-mitisvitrectomystudy.???????????????122:1-17,19964)原二郎:起炎菌の変遷の術前消毒の効果.眼科手術11:159-164,19985)湯口琢磨,山田真,海谷忠良:IOL挿入術と眼内炎.眼科手術12:85-90,19906)連続装用シリコンハイドロゲルレンズと緑膿菌角膜炎.http://infohitomi.biz.archives/000025.html7)日本コンタクトレンズ学会コンタクトレンズ診療ガイドライン編集委員会編:CL合併症.日眼会誌109:654-656,20058)日本コンタクトレンズ学会コンタクトレンズ診療ガイドライン編集委員会編:基礎知識.日眼会誌109:661-665,20059)山本英津子,堀尾直市,寺崎浩子:眼内レンズ挿入術後眼内炎の起炎菌.臨眼56:135-140,200210)FleiszigSM,ZaidiTS,RamphalRetal:Modulationof??????????????????????adherencetothecornealsurfacebymucus.????????????62:1799-1804,199411)松本光希:細菌性角膜炎の治療方針について教えてください.あたらしい眼科17(臨増):61-63,200012)清水喜八郎監修:ホスホマイシン新たなる展開.中外医薬社,199513)宮尾益也,阿部達也,本山まり子ほか:抗菌薬の薬動力学パラメーターと眼科感染症に対する臨床効果─カルバペネム薬─.あたらしい眼科13:423-426,199614)感染症の予防及び感染症患者に対する医療に関する法律.平成18年4月(96)☆☆☆◎検査室から眼科医へ◎MDRPをはじめとする耐性菌による感染症は治療に難渋する症例が多いため,その発生を未然に防ぐ工夫と同時に院内への二次感染拡大を防止することが大切です.このため検査室から結果報告と同時に発信される耐性菌警告「多剤耐性緑膿菌:メタロb-ラクタマーゼ産生菌.院内感染に注意して下さい」に対し,眼科医は迅速な患者隔離やスタッフの標準予防策の再徹底などのルールを決めているのでしょうか?また,臨床症状や経過よりMDRPが疑われる症例は診断できるのでしょうか?◎眼科医から検査室へ◎術後感染症の起炎菌としての頻度がそれほど高くないこともあって,眼科医にとってMDRPはMRSAほどのインパクトはまだないようです.したがって,MRSAのように,患者への具体的な対応指針が眼科医の間で普及していないのが現状です.眼科領域で緑膿菌感染といえば,CL装用者に見られる角膜炎ですが,私の知る限りにおいて,MDRPが分離された報告はこれまでにありません.これは,起炎菌がおもにレンズケース(家庭の洗面所などの水場)に由来しているため,院内環境との関連の深いMDRPとの接点が希薄だからではないかと思うのですが確信はありません.ただ,病原性は同一でしょうから,通常の緑膿菌とは臨床所見からの見分けはつかないはずです.CL装用者の緑膿菌角膜炎においても,フルオロキノロンとアミノ配糖体の点眼治療効果は今のところ良好ですが,眼科領域においても,MDRPの出現に絶えず注意を払っておく必要があります.愛媛大学医学部眼科大橋裕一