———————————————————————-Page10910-1810/07/\100/頁/JCLS候を把握する.眼窩壁骨折の症状・症候は,眼瞼腫脹,眼球運動障害,複視,眼球運動時痛,眼球陥凹,?部のしびれや知覚低下などであるが,緊急手術を要する可能性の高い症状・症候としては,嘔気,嘔吐,頭痛,非常に強い眼球運動障害と眼球運動時痛がある.眼瞼腫脹は,外傷そのものによる場合の他に,受傷後に鼻を強くかんだための眼窩内気腫による場合もある.その場合,同時に眼球突出や複視の出現もしくは悪化をきたすことがあり,初診時に,約1カ月間は強く鼻をかまないことを患者に指導する.眼球運動障害,複視,眼球運動時痛は,その骨折の部位や程度,外眼筋や筋周囲の眼窩内組織の眼窩外への脱出量や絞扼の有無によって程度はさまざまであるが,一般的には開放型骨折で多量の眼窩内組織の脱出,閉鎖型骨折で筋の絞扼がある場合に症状が強い.特に閉鎖型骨折で筋が絞扼されている場合は,迷走神経反射のため前述したように嘔吐,嘔気,頭痛も伴い,救急受診した医療機関で眼窩壁骨折を見逃され,脳外科や消化器内科でしばらく入院し精査されたといった症例もしばしば経験する.眼球陥凹は,骨折によって眼窩内容積が増大することで生じ,特に内壁骨折では外見上陥凹を認めやすいが,受傷後すぐでは外傷による腫脹のためにわかりづらく,経過観察中に目立ってくることもしばしばである.片側性の?部,上口唇の知覚低下は,下壁骨折で三叉神経第2枝が傷害されることにより生じ,受傷後約半年から1年くらいかけて徐々にはじめに眼窩壁骨折は,眼科日常診療でしばしば経験する疾患であるが,初診時の診察機会の多い眼科医が眼窩壁骨折の診断を下した後,患者は形成外科や耳鼻咽喉科に紹介され,眼科医の知らないところで手術が施行され,その後の経過もわからないままになっていることが多いのが実情である.しかし,眼窩壁骨折治療の大原則は「正常な眼球運動を目指す」ことであり,Hesschartや両眼単一視領域などの眼球運動の検査を施行し,適切な検査結果診断が可能なのはやはり眼科医であることも事実である.眼窩壁骨折が患者のQOL(qualityoflife)を著しく低下させる可能性がある疾患である以上,その診断,治療(手術),その後の経過観察を一貫して眼科医の手で行えるのがベストと筆者は考えている.本稿では,眼科臨床医の眼窩壁骨折診療の一助となるべく,その診断,手術適応,術式および術後経過観察上のポイントについて紹介する.I診断1.初診時の診察眼部,眼部周囲の外傷により眼窩壁骨折がひき起こされるが,初診時の診察では,受傷時の状況を詳細に問診する必要がある.受傷日,受傷機転(スポーツ,喧嘩,交通事故,転倒,偶発的接触などが多い1)),受傷後から現在までの自覚症状とその変化などを問診し,患者の視診を行う.眼内病変の有無について検査し,症状・症(49)???*AkihideWatanabe:京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕渡辺彰英:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院視覚機能再生外科学特集●眼科臨床医のための眼形成・眼窩外科あたらしい眼科24(5):587~593,2007眼窩壁骨折????????????????????????渡辺彰英*———————————————————————-Page2???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007改善することが多い.2.検査症状・症候を把握し,視力,眼圧,細隙灯検査,眼底検査などの眼科一般検査の後,Hesschart(図1),両眼単一視領域(図2)の検査を行う.Hesschartは,必ず30?の枠まで検査する.著明な眼球運動障害の患者では15?の枠でも変化がでるが,15?以上30?未満の眼球運動障害を検出しなければ,多くの眼窩壁骨折の患者の眼球運動障害を正確に診断することはできない.また,最低限上下左右で30?以上は単一視可能な視野がなければ日常生活レベルでも複視を自覚し不自由なことが多い.眼窩壁骨折に限らず,Hesschartは30?まで施行することを原則として考えたい.両眼単一視領域の検査は30?以上での複視の検出に有効である.また,日常的な単一視の範囲を調べるのに有効で,単一視可能な範囲を容易に把握できる2).Goldmann視野計のV-4eで測定する3).牽引試験(forcedductiontest)は,古くから眼窩壁骨折の診断に用いられていたが,CT(コンピュータ断層撮影)などの画像診断による骨折部の詳細な把握が可能となった現在,牽引試験は無意味なだけではなく,患者に強い痛みを強いるうえ,筋絞扼型ではさらなる筋の挫滅を生じる危険性があり,外来では禁忌である2).全身麻酔下での手術直前に抵抗の程度を判断するために初めて行うべきものである.画像検査は,骨折の診断および手術適応の決定に必須である.単純X線で詳細な骨折部の把握は困難であるため,眼窩壁骨折を疑えば,迷わずCTをオーダーす(50)図1Hesschart必ず30?の枠まで検査する.左:左眼窩下壁開放型骨折術前,右:術後.図2両眼単一視領域Hesschartでは検出できない複視を検出できる.左:左眼窩下壁開放型骨折術前,右:術後.———————————————————————-Page3あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???る.眼窩上縁から上顎下縁までの範囲をできるだけ細かいスライス(2mm以下)で撮影し,冠状断と矢状断を再構成する.再構成に時間がかかるような施設であれば,まずは水平断および冠状断をそれぞれ撮影し,手術を行う場合は手術までには矢状断を再構成してもらうのが望ましい.しかし,directcoronalscanは歯にかぶせた金属がある場合,artifactが強くでる4).水平断は内壁骨折の診断はしやすい反面,下壁骨折の診断は慣れるまではややむずかしいが,左右の上顎洞の形状を見比べながらみていくとわかりやすい.また,骨折している場合は上顎洞内に出血していることが多く,左右の上顎洞内の血液貯留も比べてみると良い.冠状断は内壁,下壁とも診断しやすく,矢状断は下壁骨折の奥行きを把握しやすい.2次手術の症例や受傷から相当な時間が経過した症例などで,眼窩内組織の状態を詳細に把握したいとき,たとえば壁と眼窩内組織の癒着などをみたいときには,MRI(磁気共鳴画像法)が有用である.特にcinemodeMRIは眼球を動かしながら撮影する方法で,筋の伸縮の程度や眼窩組織の癒着の有無などを動画で評価することができる.3.画像診断および治療方針眼窩骨折を疑い,CTを撮影したら眼窩壁骨折の有無や程度を診断するが,その際,眼窩以外の部位の骨折を見逃さないことが重要である.?骨骨折,頭蓋底骨折,鼻骨骨折,前頭骨骨折,下顎骨折,顔面多発骨折,視神経管骨折,頭蓋内出血を合併していないか,必ずチェックする.顔面の骨折は,可能であれば3D-CTを撮影すると評価しやすい.頭部外傷も合併している場合は,頭部CTも必ず撮影する.外傷の部位や顔貌の変化,髄液漏(透明な鼻水が継続している)の有無などを考慮して,CTをオーダーすることが重要である.眼窩壁骨折の診断は,通常の軟部組織陰影を中心としたsofttissuewindowでわかりやすいが,頭蓋底骨折などは骨陰影を中心としたbonewindowのほうがわかりやすいこともある.頭蓋内病変,頭蓋底骨折,髄液漏などの合併を認めれば,ただちに脳神経外科へコンサルトする.眼窩壁骨折よりもそれらの治療が優先されるからである.?骨骨折,鼻骨骨折などの顔面骨折を認めれば,形成外科も(51)図3左眼窩下壁開放型骨折左上下:術前,右上下:術翌日.上段:冠状断,下段:矢状断.人工骨(アパセラムシート)およびシリコーンプレートを用いて整復.———————————————————————-Page4???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007しくは耳鼻科にそれらの骨折の治療方針についてコンサルトし,眼窩壁骨折の治療と合わせて合同手術もしくは主となる科による単独治療かを相談する.眼窩壁骨折は開放型と閉鎖型に分類される.部位では,眼窩下壁骨折,内壁骨折,内下壁骨折に分類でき,眼窩下壁骨折の好発部位は眼窩下神経溝の内側である.ここでは,開放型骨折,閉鎖型骨折に分けてその画像所見の特徴および手術を行うべきか経過観察するべきかの判断のポイントを述べる.a.開放型骨折開放型骨折(図3,4)では,骨片の転位,眼窩内組織の脱出を認める.眼窩内容の脱出や筋の偏位が軽度であれば,眼球運動はそれほど障害されていない場合もある.軟部組織や筋の腫脹,浮腫や眼窩内気腫のみの場合は,可逆的変化であり,経過観察できる.眼窩内容が多量に脱出している場合は,骨片は大きく転位し,筋の偏位の程度も大きいため,日常生活に支障をきたす眼球運動障害を残すことが多い.脱出した眼窩内組織が瘢痕化をきたす以前の,受傷後1週間以内の手術が望ましい.1週間以上経過していても,可能な限り早期に(できれば2週間以内)手術を行い,眼窩内組織を整復し筋の走行を正常化することでHesschart上は正常となることも多い.手術を行うべきか否かは,受診時のHesschart,両眼単一視領域,CT,受傷からの経過日数などから総合的に判断するが,Hesschartで異常が認められる,つまり両眼単一視領域が30?未満の場合は,軽度の骨折でCT上可逆的変化のみ認める場合を除いて,通常手術適応であり,2週間以内の手術が望ましい.また,おもに内壁骨折では眼球陥凹が受傷後の腫脹軽減とともに目立ってくる場合が多く,眼球運動が正常であっても,陥凹改善のために手術を行うこともある.b.閉鎖型骨折閉鎖型骨折は,骨に弾力のある小児に起こりやすい5).一旦骨折し副鼻腔側へ吹き抜けた瞬間に眼窩内組織が脱出したが,骨片がその弾力によって元の位置に戻ることで,脱出した眼窩内組織を絞扼した状態である.外傷で眼部打撲の後に,強い嘔気,嘔吐,頭痛,眼球運動時痛を呈している場合は要注意である.特に筋自体が絞扼されている場合は著明な眼球運動障害を示す.閉鎖型骨折では,結合組織(connectivetissueofsepta)のみが絞扼されている場合と,筋まで絞扼されている場合(図5)があり,いずれも手術が必要であるが,特に筋まで絞扼されている場合は手術が遅れれば筋組織の壊死が進行し,重篤な眼球運動障害を残すため緊急手術を要する.典型的な画像はmissingrectusといい,CTで筋陰影が正常の走行部位から途中消失している所見である.(52)図4左眼窩内壁開放型骨折左:術前,右:術翌日.術前眼窩内気腫を認める.人工骨(アパセラムシート)およびシリコーンプレートを用いて整復.———————————————————————-Page5あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???II手術の実際骨折部の不可逆的な変化による眼球運動障害および眼球陥凹が手術の適応である.全身麻酔下にまずforcedductiontestを施行し,整復前の眼球運動時の抵抗をみる.術終了時に,同様に行い,その改善を確認する.眼科用顕微鏡では骨折深部を観察するのが非常に困難であるため,コントラバス型の,角度を自由に変えることができるような顕微鏡が望ましい.顕微鏡およびベッドの角度を調整しながら行えば,眼窩深部の骨折であっても必ず観察できる.手術方法は,原則的に経眼窩縁アプローチで行う.経副鼻腔アプローチによるバルーン留置による手術方法は,骨膜が保たれている症例ではうまくいくことがあっても,骨膜が破綻している場合がほとんどであり,副鼻腔から脱出した眼窩内組織をきちんと整復し,術後の癒着を防ぐことは経眼窩縁アプローチと比較して困難であることは明白であり,その適応は慎重でなければならない.手術の目的は,正常な眼球運動への回復を目指すことが大原則であり,決して画像上の骨折部の正常化のみではない.眼窩下壁骨折の展開は,下眼瞼睫毛下約3mm下方に自然皺に沿った皮膚切開から,内壁骨折の展開は前涙?稜から滑車付近のrimに沿った皮膚切開からアプローチする.下壁では眼輪筋と眼窩隔膜の間を鈍的に?離し,内壁では眼輪筋および眼輪筋下の結合組織を分け,骨膜へ到達する.いずれも眼窩隔膜を穿孔し眼窩脂肪が脱出すると手術がやりにくくなるため注意する.骨膜を切開し,?離する.骨折部に到達すると眼窩内組織が脱出していることが確認できるが,やみくもに組織を引き上げるのではなく,まずは骨折縁の周囲の?離を進め,残った骨膜ごと組織を引き上げるようにすると,眼窩内組織を痛めずに整復できることが多い.マイクロ鑷子,バイポーラ,剪刀,鋭匙,糸つき小綿などと吸引嘴管を組み合わせて整復する.受傷後間もない場合は整復もしやすいが,陳旧例では瘢痕化が進行しており,バイポーラで凝固止血,切断をくり返しながら丁寧に組織を分離する1).骨折縁の全周を確認できたら,整復した組織が再度脱出しないように,また骨との癒着を防ぐためにシリコーンプレートを骨折縁の全周を覆うように挿入する.閉鎖型骨折などで骨膜が縫合可能な場合は不要である.シリコーンプレートを使用することについては国内外でいろいろな意見があるが,手に入れやすく,症例に合わせた形状のトリミングも簡便であり,非常によい人工材料であると筆者は考えている.異物であるため術後に線維性被膜がプレート周囲に形成されるが,それが破綻した骨膜の代わりとなる.術後の眼球運動の回復は良好であ(53)図5左眼窩下壁閉鎖型骨折左:冠状断,右:矢状断.筋絞扼を認め,嘔吐,頭痛,眼球運動障害が著明であり,緊急手術の適応である.———————————————————————-Page6???あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007(54)り,シリコーンプレート周囲に形成される血腫の問題は2次的に抜去すれば解決する6).シリコーンプレートを挿入した後,転位した骨片を引き上げる.骨片が小さく粉砕してしまっている場合や,強度が低下してしまっている場合は,人工骨(アパセラムシート)や厚めのシリコーンプレート(1mm)を用いて骨壁を再建する.上顎洞の側壁まで骨折が及んでいる場合,アパセラムシートがうまく固定できないこともしばしばであるが,そのような場合はKirschner鋼線を用いて下壁の直下でアパセラムシートを支持している(図6).眼窩壁骨折の初回手術は大変重要であり,初回手術で術後の眼球運動の予後が決まるといっても過言ではない.それは,やむを得ず2次手術になった症例の経験から明らかである.眼窩壁骨折の程度は症例によってさまざまであり,当然手術の難易度も異なってくるため,初回手術を行う場合はその適応を慎重に判断し,難易度の高い症例については専門施設へ紹介する選択肢も常に念頭においておく必要がある.III術後の経過観察術後は眼球運動の回復目的にリハビリを指導する.指を上下,左右方向へ動かし両眼で追わせる追視運動,ベッド上でぶら下げたコインを動かし両眼で追わせるコインリハビリを指導し,退院後も少なくとも指の追視運動は自宅や外出先で継続するよう指導する.術後の眼球運動は,骨折の部位や程度,年齢によって個人差はあるが一般的に3カ月から半年くらいかけて徐々に改善することが多く,その間のリハビリは眼球運動の回復に非常に重要である.外来ではHesschart,両眼単一視領域検査を行いながらフォローする.シリコーンプレートを挿入した場合,約3カ月以降で2次的に抜去するのが望ましい6).術後早期から中期,晩期に至るまで常にシリコーンプレート周囲に血腫形成図7シリコーンプレート周囲の血腫眼窩骨折整復術後約2年で血腫形成した症例.突然の眼位上昇で来院した.シリコーンプレート抜去および血腫吸引を行った.図6Kirschner鋼線固定広範囲の骨折や複雑な骨折の場合に,人工骨を固定する目的で刺入する.先端は蝶形洞内にある.約3カ月後に抜去する.———————————————————————-Page7あたらしい眼科Vol.24,No.5,2007???(図7)の可能性がある.特に若年者の場合,将来的に血腫を形成し眼位上昇,眼球運動障害をくり返すのは必発であり,予防的に抜去を勧めるべきであると筆者は考えている.シリコーンプレートの抜去は眼窩縁近傍のシリコーンプレート周囲の被膜に切開を入れ,シリコーンプレートのみ抜去してしまえば,周囲の線維性被膜は保たれたまま血腫は二度と形成されない.シリコーンプレート抜去後は骨折の一連の治療も終了できるうえ,シリコーンプレートを抜去することでさらに眼球運動が改善する症例も筆者は多く経験している6).おわりに眼窩壁骨折の治療は,その目的が眼球運動の正常化である以上,眼科医によって行われることが望ましいと筆者は考えている.眼科医の手によって眼窩壁骨折を適切に治療できる施設はまだ全国的には少数であるが,将来的には各都道府県に1施設以上眼窩壁骨折の治療可能な眼科があれば,眼窩壁骨折の診療レベルは飛躍的に向上すると考えられ,将来眼窩壁骨折の治療に携わる眼科医の増加が期待される.文献1)荒木美治,中村泰久:眼窩壁骨折,損傷.あたらしい眼科20:1653-1658,20032)荒木美治:初期診療と治療への展開.あたらしい眼科21:1597-1602,20043)中村泰久,小野一郎:眼窩部の骨折.新図説臨床眼科講座眼部救急医療/腫瘍(中村泰久編),p122-151,メジカルビュー社,19994)嘉鳥信忠,柿崎裕彦:眼窩壁骨折の画像診断.あたらしい眼科21:1603-1609,20045)JordanDR,AllenLH,WhiteJetal:Interventionwithindaysforsomeorbital?oorfractures;Thewhite-eyedblowout.???????????????????????????14:379-390,19986)渡辺彰英,嘉鳥信忠:眼窩壁骨折整復術後のシリコーンプレート抜去術施行症例の検討.聖隷浜松病院医学雑誌6:22-25,2006(55)