分子状水素の眼科応用水素医学の始まり水素の医学応用研究はC2007年に始まりました.水素は直接的にフリーラジカルと反応することで酸化ストレスを抑制し,炎症や病的血管新生の抑制に寄与することから,多くの領域で研究が展開されてきました.筆者らも超音波白内障手術における水素含有眼内灌流液による角膜内皮酸化ストレス抑制効果や,ラットアルカリ外傷モデルにおける水素持続点眼による創傷治癒促進効果1),網膜色素変性症への水素飲用による治療効果2)などを報告してきました.今後も眼科領域のさまざまな分野で水素医学の普及が期待されています.眼科領域における「予防医療」への応用水素持続点眼は,直接的な酸化ストレス抑制以外に,スーパーオキシドディスムターゼ(superoxidedismutase:SOD)の発現を亢進することがわかっています(図1).細胞質に存在するCSODはストレス応答に重要な役割を果たしており,活性化することでフリーラジカルに保護的な役割を示します.興味深いことに,水素持続点眼を事前に投与することでストレス侵襲に対する予防効果を発揮することがわかり,筆者らは水素水の予防投与による角膜の保護効果に関して報告しました(図2)3).今後は水素の術前予防投与に関するさらなる調査が期待されます.順調に進めば予定された侵襲(白内障手術などの予定手術)に対して,術前に水素点眼を施すという新たなルーティンを提唱でき,さらなる低侵襲手術に寄与できる可能性があります.SOD1染色アルカリ外傷後0h有馬武志日本医科大学眼科今後の展望水素のもう一つの特徴として「拡散力」があげられます.分子量が小さい水素は前房内であれば数分,網膜までであればC15分程度の持続投与で最高濃度に到達します.筆者らの実験でも,ラット片眼の角膜に水素を持続投与すると,僚眼でも水素濃度の上昇を認めました.このような水素の拡散特性に着目し,網膜動脈閉塞症の虚血再灌流時に発生するフリーラジカルに水素の持続点眼が検討されています.現在,網膜動脈閉塞症に対する水素点眼の臨床研究が進んでおり,続報が期待されます.また,フリーラジカルに起因した新生血管の抑制という点から,水素は加齢黄斑変性の新たな治療候補になると考えています.水素の拡散力を利用した持続点眼は,現在の標準的治療である硝子体注射に代わる,非侵襲的かつ安価に提供できる抗血管新生治療となる可能性があります.今後さらに水素の治療応用に関する研究が進んで,より普及することを願っております.文献1)ArimaCT,CIgarashiCT,CUchiyamaCMCetal:HydrogenCpro-motestheactivationofCu,ZnsuperoxidedismutaseinaratCcornealCalkali-burnCmodel.CIntCJCOphthalmolC13:6,20202)IgarashiCT,COhsawaCI,CKobayashiCMCetal:DrinkingChydrogenCwaterCimprovesCphotoreceptorCstructureCandCfunctionCinCretinalCdegenerationC6Cmice.CSciCRepC12:C13610,C20223)KasamatsuM,ArimaT,IkebukuroTetal:ProphylacticinstillationCofChydrogen-richCwaterCdecreasesCcornealCin.ammationCandCpromotesCwoundChealingCbyCactivatingCantioxidantCactivityCinCaCratCalkaliCburnCmodel.CIntCJCMolCSci23:9774,C2022C12h0.4角膜上皮欠損の割合arearatio0.30.20.10.00h6h12h18h24h図1水素点眼によるSODの活性化水素水の持続点眼により,抗酸化スト図2水素水の予防点眼による炎症抑制効果レス酵素であるCSOD(..)が角膜上皮水素水(または生理食塩水)を予防点眼してC6時間後にアルカリ外傷を加えてフルオレセ細胞に多く発現している.イン染色で比較したところ,水素予防点眼群が有意に角膜上皮欠損の割合を抑制した.(71)あたらしい眼科Vol.40,No.10,2023C13290910-1810/23/\100/頁/JCOPY