●連載124監修=安川力髙橋寛二104加齢黄斑変性:視力低下者への対応郷渡有子尾花明聖隷浜松病院眼科滲出型加齢黄斑変性に対する抗VEGF治療の長期経過例では,通院と医療費の負担から,いつまで治療を継続するかが問題になる.とくに,視力低下の進行した高齢患者への対応は悩ましい.本稿では,視力低下例への対応について自験例をもとに概説する.はじめに2009年にラニビズマブが承認されて十数年が経過した.抗VEGF治療により脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)が鎮静化し,長期間良好な視力を維持できる患者がいる一方,治療にもかかわらず出血・滲出を繰り返し,視力が低下する患者も増加してきた.なかでも高齢患者では頻回通院と治療費が大きな負担となるので,治療間隔やいつまで継続するかをよく考える必要がある.一般的に,抗VEGF治療の臨床試験は視力が0.1~0.5程度の治療歴のない患者を対象に行われ,それらの症例における治療レジメと視力予後は多数報告されている.しかし,視力が0.1未満の患者の治療レジメや効果に関する前向き比較対照研究は筆者らの知るかぎりはない.そこで,本稿では当科の現状を紹介し,低視力者のロービジョンケアについて簡単に触れる.抗VEGF治療にもかかわらず視力が高度に低下する場合CNVが網膜色素上皮層を越えて感覚網膜下に進展(2型CNV)すると,出血・滲出によって視細胞は高度に破壊されて急激な視力低下を生じる.さらに,抗VEGF治療で出血・滲出が軽快しても,CNVの線維化が進むために感覚網膜下に瘢痕組織が形成されて視細胞は消失する.抗VEGF治療で0.1未満の視力になる症例は,このように2型CNVから瘢痕病巣に至ったものが多い.過去に老人性円盤状黄斑変性とよばれた病態である.また,大きな漿液性網膜色素上皮.離(retinalpigmentepithelialdetachment:PED)を伴う眼では,治療によるCNVの収縮で網膜色素上皮裂孔が形成されると急激に線維化が進む.このとき,瘢痕組織が中心窩下にできれば高度の視力低下に至る.線維性瘢痕のある眼では治療による視力改善は困難だが,中心窩に網膜内液(intraretinal.uid:IRF)が再燃したときや,瘢痕病巣辺縁に活動性CNVが発生した場合は治療対象となる.(75)網膜色素上皮と視細胞が萎縮して地図状萎縮に至った場合は治療対象にならない.中心窩の感覚網膜下瘢痕組織により視力が低下した眼に対する治療対象眼がラストアイか否かで対応が変わる.①僚眼の視力も不良な場合は,少しでも対象眼の見え方を維持・改善するために治療を継続する.②僚眼の視力が良好な場合は,患者が生活上どの程度の見え方を望むかをよく聞き,予測される治療効果を説明したうえで,基本的には患者の希望に従う.たとえば,僚眼の視力が良好で対象眼の視力が0.1以下の場合,僚眼の視機能で日常を過ごしていると考えられ,不良眼の視力が多少下がっても実際の生活には変化はないので,その旨を説明して積極的には治療を勧めない(図1).しかし,筆者らの経験では,患者はさらなる悪化を恐れて治療継続を望む傾向にある.また,なかには片眼が低視力でも両眼で見ているほうが歩きやすいという患者がいるので,実際に抗VEGF治療を試し,治療後にどの程度の効果が実感できたかを患者に尋ねて今後の治療を考えることがある.ただし,強い変視のために対象眼を遮蔽したほうが楽になるという患者もおり,この場合は治療を行わない.このように,不良眼の必要度が患者によって異なるので,本人の考えをよく聞くことが重要である.低視力眼は必要時治療(prorenata)で対応されるのが一般的と思われる.治療は二つの場合に行う.一つは線維性瘢痕組織に接した感覚網膜内にIRFが再燃した場合で,視力が低下したり,視力は不変でも患者は自覚的悪化を訴える(図2).多くは抗VEGF治療でIRFが軽快し,自覚的に改善する.ただし,比較的短期間で再発する場合が多く,その都度患者の考えを聞きながら治療を継続する.IRFが軽快しない場合は,慢性化して.胞様変性に至っていると考えられ,治療を継続しても効果はない.もう一つは,線維性瘢痕病巣の辺縁に活動性のCNVが発生した場合である.瘢痕病巣の辺縁に網膜あたらしい眼科Vol.39,No.10,202213670910-1810/22/\100/頁/JCOPY右眼左眼左眼図1症例1(76歳,男性)右眼は.brovascularPEDがあるが滲出性変化はなく,矯正視力は0.8,左眼は中心窩に線維性瘢痕組織があり矯正視力は0.08である.1年ぶりの受診で,左眼視力は前年の0.2から大きく低下しているが,本人は悪化に気づいていない.すなわち,日常生活は右眼の視機能に依存していると考えられ,左眼の治療は行わなかった.OCTは水平断.右眼b図3症例3(84歳,男性)右眼はminimallyclassictypeの典型AMDで,初診から7年余りの間にアフリベルセプト硝子体内注射を19回施行した.徐々に線維化が進行し,矯正視力は0.4から0.2に低下したものの,前回の治療から1年間病態は鎮静化していた.しかし,再診時に瘢痕病巣の下方辺縁部に出血性PEDと網膜下出血が出現した(a,b:).OCTはaの→に沿う断層.この角膜上皮.離部位にレーザー光凝固(c:)とアフリベルセプト硝子体内注射を施行した.下出血が出現したり,ポリープによる橙赤色隆起病巣や出血性PEDが発生する(図3).再発CNV自体は中心窩外にできるので視力は変化しないが,ときに大出血を生じて完全に失明する患者もいるので治療を勧めている.とくに抗凝固薬・抗血小板薬使用例や高血圧患者で,大出血を生じた経験がある.病巣は中心窩外に位置するのでレーザー光凝固と抗VEGF薬の併用治療を行うことが多い.通常は1回の治療で治まり,その後は経過観察を継続する.1368あたらしい眼科Vol.39,No.10,2022図2症例2(67歳,女性)左眼の抗VEGF治療を9年にわたって繰り返すも徐々に病状が進行し,矯正視力は0.15である.右眼矯正視力は1.2.約2カ月後に網膜内液(IRF)が増加し,視力は変わらないが本人はぼやけの悪化を訴えた.アフリベルセプト硝子体内注射の1カ月後IRFは減少した.視力は0.1だが,本人は見やすくなったと述べる.OCTは水平断.ロービジョンケアの実際加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対するロービジョンケアの詳細は本セミナー「抗VEGF療法とロービジョンケア」1)をお読みいただきたい.本稿では筆者らの施設における要点だけを述べる.1)ニーズの確認:読み書きのニーズが高いので,読みたい字の大きさを確認する.2)視機能評価:遠・近見視力測定,Humphrey視野検査やAmslerチャート検査で暗点の位置と大きさを確認し,MNREAD-Jチャートで臨界文字サイズと最大読書速度を測定する.3)エイド合わせ:①眼鏡処方.一般的には単焦点レンズを薦める.②補装具紹介.希望の文字サイズと臨界文字サイズから必要な倍率を計算し,拡大鏡(Eschenbachなど)を処方する.電子ルーペ(クローバー,iPadなど)も有用だが,高齢者の使用実績は少ない.拡大読書器は読書に集中したい人に有用である.対象物に近づいてみると中心暗点は小さくなり見やすくなる.その際には頭の影にならないように照明を工夫する.ライト付き拡大鏡が喜ばれる.4)遮光眼鏡:光による酸化ストレスがAMDの発症要因の一つと考えられるので,進行抑制目的で遮光眼鏡を処方する.通常は晴れた日の屋外用を作る.帽子や日傘と併用するように指導する.5)福祉制度の紹介:身体障害者手帳の申請を行う.文献1)斉之平真弓:抗VEGF療法とロービジョンケア.あたらしい眼科35:1093-1094,2018(76)