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EX-PRESS併用濾過手術の術後中期成績

2019年6月30日 日曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(6):810.815,2019cEX-PRESS併用濾過手術の術後中期成績柴田真帆豊川紀子木村英也黒田真一郎永田眼科CMid-termOutcomesofEX-PRESSGlaucomaFilteringSurgeryMahoShibata,NorikoToyokawa,HideyaKimuraandShinichiroKurodaCNagataEyeClinicC目的:EX-PRESS併用濾過手術の術後中期成績の検討.対象および方法:2012年C11月以降,永田眼科においてEX-PRESS併用濾過手術(単独手術)を施行した連続症例C85例C97眼を対象とし,術後C3年までの眼圧,緑内障点眼数,目標眼圧ごとのC3年生存率を病型別に検討した.結果:病型は開放隅角緑内障(POAG)21眼,落屑緑内障(EXG)40眼,続発開放隅角緑内障C23眼,血管新生緑内障C12眼,混合緑内障C1眼であった.全症例の術前眼圧はC28.7±9.7mmHg,術C3年後の眼圧はC14.7±6.0CmmHgであり,45.1±3.2%の眼圧下降率を認め,全病型で有意な眼圧下降を認めた.点眼スコアは全病型で術後有意に減少した.点眼加療を含む目標眼圧(12CmmHg,14CmmHg)ごとのC3年生存率は,POAGでそれぞれC53.3,69.6%,EXGでC16.8%,29.2%であり,POAGに比較してCEXGの生存率が有意に低かった.結論:EX-PRESS併用濾過手術において術後C3年までどの病型においても有効な眼圧下降が得られた.EXGはCPOAGに比較して術後生存率が有意に不良であった.CPurpose:Toevaluatemid-termoutcomesofEX-PRESSglaucomaC.lteringsurgery.Subjectsandmethods:CTheCmedicalCrecordsCofCglaucomaCpatientsCwhoCunderwentCconsecutiveCEX-PRESSC.lteringCsurgeryCafterC2012werereviewed.Analyzedwere97eyesof85subjects.Weinvestigatedintraocularpressure(IOP),glaucomamedi-cationsCandCadditionalCinterventionsCbyCglaucomaCtypes.CSurgicalCsuccessCwasCde.nedCasCIOPC.12CmmHgCandC14CmmHgwithorwithoutglaucomamedications.Results:Includedwere21eyeswithprimaryopen-angleglauco-ma(POAG),40eyeswithexfoliationglaucoma(EXG),12eyeswithneovascularglaucoma,23eyeswithsecondaryglaucoma(SG),andConeCeyeCwithCcombinedCglaucoma.CTheCoverallCmeanCIOPCdecreasedCfromC28.7±9.7toC14.7±6.0CmmHg,Cwith45.1%CIOPCreduction.CTheCmeanCpostoperativeCIOPCwasCsigni.cantlyCreducedCinCeachCglaucomaCtype,comparedtobaselineIOP.Surgicalsuccessratesat3yearswere53.3and69.6%inPOAG,16.8and29.2%inCEXG,CandC39.1and52.1%inSG.Conclusion:AfterCEX-PRESSCimplantation,Csigni.cantCIOPCreductionCwasCfoundineachglaucomatype.SurgicalsuccessratesinEXGwerelowercomparedtoPOAG.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(6):810.815,C2019〕Keywords:エクスプレス,濾過手術,眼圧,病型別比較.EX-PRESS,C.lteringsurgery,intraocularpressure,comparisonbetweenglaucomatypes.CはじめにEX-PRESSGlaucomaFiltrationDevice(Alcon社,以下,EX-PRESS)は調節弁をもたないステンレス製のCglaucomadrainagedeviceである.EX-PRESS併用濾過手術は,強膜弁下から前房内へCEX-PRESSを穿刺留置することで,EX-PRESSを通して前房水を結膜下に導き,新たな房水流出路を形成して眼圧を下降させる術式である.従来の線維柱帯切除術と比較して術中の前房開放時間が短く,流出路の大きさを標準化でき,虹彩切除が不要であることから,線維柱帯切除術に伴う術中の眼球虚脱や術後の過剰濾過や前房内出血といった合併症を軽減できるとされる1).術後眼圧下降効果について,海外ではCEX-PRESS併用濾過手術と線維柱帯切除術の比較検討で両者はほぼ同等と報告されている1.3).国内の報告でも線維柱帯切除術と同様の眼圧下降効果が報告されているが,術後短期成績についての報告が多い.EX-PRESSを通しての流出路は流出量が一定に〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPANC810(106)制限されることから,術後の過剰濾過が防げる一方,流出量が少ないため長期では濾過不全が起こる可能性がある.今回,EX-PRESS併用濾過手術の術後中期成績として,術後3年の眼圧下降効果について病型別に検討した.CI対象および方法2012年C11月以降,永田眼科においてCEX-PRESS併用濾過手術(単独手術)を施行した連続症例C85例C97眼を対象とした.診療録から後ろ向きに,術後C3年までの眼圧,緑内障点眼数,手術既往歴,術後追加手術介入の有無を調査し,術後眼圧,緑内障点眼数,目標眼圧ごとのC3年生存率を病型・手術既往別に検討した.本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.EX-PRESS併用濾過手術の術式を以下に記す.上方円蓋部基底結膜切開後,3.0.3.5CmmC×3.0.3.5Cmmの強膜C1/3層強膜弁を作製した.0.04%マイトマイシンCCをC4分塗布し生理食塩水で洗浄後,強膜弁下にC25CG針で虹彩と平行に前房内へ穿刺し,同穿刺部よりCEX-PRESSを挿入した.強膜弁はC4針縫合とし,結膜を角膜輪部で水平縫合,閉創した.検討項目を以下に示す.EX-PRESS併用濾過手術前の眼圧と緑内障点眼数,術後C1,3,6,9,12,18,24,30,36カ月後の眼圧と緑内障点眼数,目標眼圧(12,14,20mmHg)ごとのC3年生存率を病型別に検討した.緑内障点眼数について,炭酸脱水酵素阻害薬内服はC1剤,配合剤はC2剤と計算し,合計点数を点眼スコアとした.さらに手術既往別(白内障手術のみ,白内障と緑内障手術)に目標眼圧(12,14mmHg)ごとのC3年生存率を検討した.生存率における死亡の定義は,緑内障点眼薬の有無にかかわらず,術後C1カ月以降C2回連続する観察時点でそれぞれの目標眼圧を超えた時点,もしくは濾過胞再建術を含む追加観血的手術が施行された時点とした.術後のレーザー切糸とニードリングは死亡に含めず,眼圧値は処置前の値を採用した.解析方法として,病型間の比較にはCKruskal-Wallis検定とCc2検定を用い,術後眼圧と点眼スコアの推移についてはCone-wayanalysisofvariance(ANOVA)とCDunnettの多重比較を行った.生存率についてはCKaplan-Meier法を用いて生存曲線を作成し,群間の生存率比較にはCLog-rank検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.CII結果表1に全症例の患者背景を示した.男性C46例C57眼,女性C39例C40眼,平均年齢C74.6C±10.9歳,術前平均眼圧C28.7C±9.7CmmHg,術前平均点眼スコアC3.3C±1.0剤(平均C±標準偏差)であった.手術既往歴として白内障手術,緑内障手術,硝子体手術既往のあるものを含み,手術既往眼はC97眼中C94眼であった.緑内障病型は原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleCglaucoma:POAG)21眼,落屑緑内障(exfolia-tionglaucoma:EXG)40眼,血管新生緑内障(neovascularglaucoma:NVG)12眼,続発開放隅角緑内障(secondaryopen-angleCglaucoma:SG)23眼,混合緑内障C1眼であった.表2に緑内障病型の内訳を示した.術前平均眼圧,術前平均点眼スコア,緑内障手術既往歴は病型間で有意差を認めなかった.混合緑内障はC1眼であり,以降の病型別検討から除いた.図1に病型別の眼圧経過を示した.眼圧値は濾過胞再建術もしくは追加観血的手術が施行された場合はそれまでの値を採用した.術後眼圧は,いずれの病型でも術前と比較してすべての観察期間で有意な下降を認めた(p<0.01,CANOVA+Dunnett’stest).すべての病型を含む全症例の術C3年後の平均眼圧はC14.7C±6.0CmmHg,平均眼圧下降率はC45.1%であった.術後の緑内障点眼スコアは,いずれの病型でも術前と比較表1患者背景平均年齢(歳)C74.6±10.9(42.92)男/女46例57眼/39例40眼術前眼圧(mmHg)C28.7±9.7(14.65)術前点眼スコア*C3.3±1.0(0.6)手術既往眼なし/あり3眼/94眼白内障手術94眼(IOL92眼,無水晶体眼C2眼)濾過手術9眼流出路再建術32眼硝子体手術17眼(重複あり)緑内障病型POAG/EXG/NVG/SG/混合緑内障21眼C/40眼C/12眼C/23眼C/1眼IOL:intraocularClens,POAG:primaryCopen-angleCglaucoma,EXG:exfoliationCglau-coma,NVG:neovascularglaucoma,SG:secondaryopen-angleglaucoma.*:炭酸脱水酵素阻害薬内服をC1剤,配合剤をC2剤と計算した.表2緑内障病型内訳緑内障病型CPOAGCEXGCNVGCSGp値眼数C21C40C12C23年齢(歳)C72.5±12.1C80.9±6.3C61.2±8.9C71.2±9.8<C0.001*術前眼圧(mmHg)C25.7±8.7C28.5±9.3C35.0±12.7C28.3±8.6C0.06*点眼スコアC3.2±1.1C3.3±1.3C3.3±0.9C3.5±0.7C0.88*緑内障手術既往眼(%)11(52)20(50)2(17)6(26)C0.06†濾過手術既往眼C3C2C2C2流出路再建術既往眼C8C18C0C4硝子体手術既往眼(%)4(19)0(0)6(50)7(30)<C0.001C†*:Kruskal-Wallis検定,C†:c2検定.Ca100151005101520253035405生存期間(月)080生存率(%)眼圧(mmHg)306025402020術前1M3M6M9M12M18M24M30M36M観察期間(月)図1病型別眼圧経過術後,いずれの病型でも術前と比較してすべての観察期間で有意な眼圧下降を認めた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).生存率(%)8060402000510152025303540生存期間(月)図2病型別生存曲線生存率(%)a:術後眼圧C12CmmHg以下.術C3年後の生存率はCPOAG,C40SG,EXGでそれぞれC53.3%,39.1%,16.8%であり,POAG群とCEXG群間で有意差を認めた(p=0.013,Log-ranktest).20b:術後眼圧C14CmmHg以下.術C3年後の生存率はCPOAG,C0SG,EXGでそれぞれC69.6%,52.1%,29.2%であり,POAG群とCEXG群間で有意差を認めた(p=0.019,CLog-ranktest).図3病型別生存曲線%であり,POAG群とCEXG群間で有意差を認めた(p=0.013,C0510152025303540生存期間(月)術後眼圧C20CmmHg以下とした生存曲線を示した.術C3年後の生存率はCPOAG,EXG,SG,NVGでそれぞれC89.4%,79.8%,78.2%,75.0%であり,病型別に有意差を認めなかった(p=0.74,Log-ranktest).しすべての観察期間で有意な減少を認めた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).すべての病型を含む全症例の術C3年後の平均点眼スコアはC0.99C±1.2であった.図2にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧(12,14CmmHg)ごとの生存曲線を病型(POAG,SG,EXG)別に示した.成功基準をC12CmmHg以下とした場合,術C3年後の生存率はCPOAG,SG,EXGでそれぞれC53.3%,39.1%,16.8Log-ranktest)(図2a).成功基準をC14CmmHg以下とした場合,術C3年後の生存率はCPOAG,SG,EXGでそれぞれ69.6%,52.1%,29.2%であり,POAG群とCEXG群間で有意差を認めた(p=0.019,Log-ranktest)(図2b).図3に成功基準をC20CmmHg以下とした生存曲線を示した.術C3年後の生存率はCPOAG,EXG,SG,NVGでそれぞれ89.4%,79.8%,78.2%,75.0%であり,病型別に有意差を認めなかった(p=0.74,Log-ranktest).表3に手術既往別(白内障手術のみ,白内障と緑内障手術既往)の眼数と術前後の眼圧を示した.手術既往として白内障手術のみのもの(以下,白内障手術群)はC40眼,白内障表3手術既往別内訳術前眼圧最終眼圧病型内訳(眼)既往手術眼数(mmHg)(mmHg)CPOAGCEXGCNVGCSG混合緑内障白内障C40C26.8±8.6C15.4±7.27C2058C0白内障+緑内障C36C30.6±11.4C13.8±5.59C2015C1Cと緑内障手術既往眼(以下,白内障緑内障手術群)はC36眼Ca100であった.過去の緑内障手術は下方流出路再建術がC29眼,C80濾過手術がC7眼であった.無水晶体眼・硝子体手術既往眼・緑内障硝子体手術既往眼は手術既往別検討から除いた.今回の症例に水晶体.外摘出術既往眼は含まれていなかった.白内障手術群の術前眼圧はC26.8C±8.6CmmHg,術C3年後の平均眼圧はC15.4C±7.2CmmHgであり,すべての観察期間で有意な眼圧下降を認めた(p<0.01,ANOVA+Dunnett’stest).白内障緑内障手術群の術前眼圧はC30.6C±11.4CmmHg,術3年後の平均眼圧はC13.8C±5.5CmmHgであり,すべての観察期間生存率(%)40200生存期間(月)b100010203040で有意な眼圧下降を認めた(p<0.01,CANOVA+Dunnett’sCtest).白内障手術群と白内障緑内障手術群の病型内訳に有意差を認めなかった(p=0.35,Cc2検定).図4にCKaplan-Meier生命表解析を用いた目標眼圧(12,生存率(%)14CmmHg)ごとの生存曲線を手術既往別に示した.成功基準をC12CmmHg以下とした場合,術C3年後の生存率は白内障群,白内障緑内障群でそれぞれC30.4%,40.2%であり,有意差を認めなかった(p=0.43,CLog-ranktest)(図4a).成功基準をC14CmmHg以下とした場合,術C3年後の生存率は白内障群,白内障緑内障群でそれぞれC43.8%,45.8%であり,有意差を認めなかった(p=0.86,Log-ranktest)(図4b).CIII考按EX-PRESS併用濾過手術の術後C3年成績を検討した.点眼加療を含むC3年後の平均眼圧はC14.7C±6.0CmmHg,平均眼圧下降率はC45.1%であり,術前と比較し有意な眼圧下降を認め,既報と矛盾しない結果2.5)であった.3年後の点眼スコアはC0.99C±1.2であり,術前と比較し有意な減少を認め,既報と矛盾しない結果1.3)であった.病型別検討では,今回検討したCPOAG,EXG,SG,NVGのすべての病型において期間中有意な眼圧下降効果が示された.病型別生存率について,わが国における術後中期成績としてCIshidaら6)はC15CmmHg以下のC2年生存率はCPOAGでC79.4%と報告し,今回のCPOAGの結果は既報に矛盾しないと考える.病型別生存率の比較において,12,14CmmHg以下の生存率はCEXGがCPOAGに比較して有意に低い結果であった.EX-PRESSの予後不良因子として緑内障手術歴が報告され,結膜瘢痕による濾過胞形成不全によることが示唆されている7)が,今回検討したCPOAG,EXGとCSGで緑内障手00510152025303540生存期間(月)図4手術既往別生存曲線a:術後眼圧C12CmmHg以下.術C3年後の生存率は白内障群,白内障緑内障群でそれぞれC30.4%,40.2%であり,有意差を認めなかった(p=0.43,Log-ranktest).Cb:術後眼圧C14CmmHg以下.術C3年後の生存率は白内障群,白内障緑内障群でそれぞれC43.8%,45.8%であり,有意差を認めなかった(p=0.86,Log-ranktest).CP+I:phacoemulsi.cationCandCaspiration+intraocularClensCimplantation,CP+I+gla:phacoemulsi.cationCandCaspiration+intraocularlensimplantation+glaucomasurgery.術既往眼数(濾過手術既往眼数,流出路再建術既往眼数)に有意差を認めなかった(それぞれCp=0.45,p=0.08,Cc2検定).今回の結果に緑内障手術既往の関与は少ないと考える.これまでCEX-PRESSの術後成績を病型別に検討した報告は少ない.横佐古ら8)はCEX-PRESS術後短期成績ではあるが多変量解析でCEXGが予後不良因子の一つであったとしている.一方,線維柱帯切除術においてCEXGはCPOAGに比較して術後成績が不良であるという報告が散見される9.12).Limら10)は線維柱帯切除術後C1年の術後成績にはCPOAGとCEXGで差がないが,5年の長期成績ではCEXGの成績が有意に不良であったと報告している.EXGでは前房内生理活性物質であるCtransformingCgrowthfactor-betaの前房内濃度上昇の報告13.15),線維柱帯切除術後Cblood-aqueousbarrierの破綻が大きいという報告16)があり,これらが線維柱帯切除術の術後結膜瘢痕,ひいては術後成績に影響する可能性が示唆されている.さらにCIgarashiら11)はCEXGで前房内に炎症性サイトカインであるCautotaxin濃度が高く,これが濾過胞線維化を促進し,線維柱帯切除後の濾過胞維持不全の一因であったと報告している.筆者らの検討はCEX-PRESS術後であるが,同じ濾過手術の一つとして考えるならば,POAGに比較してCEXGの成績が不良であったことは,これらによる濾過胞維持不全が一因である可能性が考えられる.今回の病型別検討でCNVGにおけるC20CmmHg以下の術後3年生存率はC75.0%であり,POAG,EXGやCSGと有意差を認めなかった.既報では,術後短期ではあるがCNVGに対するCEX-PRESS術後C6カ月のC21CmmHg未満生存率はC78%であり,硝子体手術既往眼は予後不良であったとしている17).また,線維柱帯切除術においてCNVGに対する術後C2年のC21mmHg未満生存率はC58.2%であり,やはり硝子体手術既往眼が予後不良であったとしている18).筆者らの結果は既報と比較して良好であるが,今回のCNVG症例は少数であり,全症例に術前抗血管内皮増殖因子の硝子体注射が施行されていること,硝子体手術既往眼は半数(12眼中C6眼)であること,術後にも抗血管内皮増殖因子の硝子体注射や網膜光凝固術の施行があったこと,糖尿病網膜症など原疾患鎮静化の程度など患者背景が多岐にわたり,背景因子との関連についての検討はむずかしいと考えられた.今後さらなる臨床データの蓄積が必要であると考える.今回の手術既往別検討では,緑内障手術既往の有無はCEX-PRESSの術後成績に影響しなかった.EX-PRESSの術後成績に関する予後不良因子として緑内障手術歴が報告7)されているが,これは緑内障手術後の上方結膜瘢痕による濾過胞形成不全によることが示唆されている.今回の検討のうち白内障緑内障手術群C36眼中C29眼(81%)が下方からの流出路再建術の術後であった.今回の検討では上方結膜が温存されていた症例が多かったため,EX-PRESSの術後成績に影響が少なかったと考えられ,下方からの流出路再建術はCEX-PRESSの術後成績に影響しない可能性が示唆された.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.EX-PRESS併用濾過手術の適応,術後眼圧下降効果不十分による追加点眼や追加観血的手術介入の適応と時期を含め,これらは病型と病期に基づく主治医の判断によるものであり,評価判定が統一されていない.また,手術既往が多様な症例を含むため,背景因子との詳細な関連についても今後多数例での検証が必要であり,本研究の結果の解釈には限界があると考える.EX-PRESS併用濾過手術の術後C3年までは,どの病型においても有効な眼圧下降効果が得られた.術後眼圧C12CmmHg,14CmmHg以下のC3年生存率は,EXGがCPOAGに比較して有意に低かった.今後,さらに長期の経過について検討が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)NetlandCPA,CSarkisianCSRCJr,CMosterCMRCetal:Random-ized,Cprospective,CcomparativeCtrialCofCEX-PRESSCglauco-maC.ltrationCdeviceCversustrabeculectomy(XVTstudy)C.AmJOphthalmolC157:433-440,C20142)deJongL,LafumaA,AguadeASetal:Five-yearexten-sionofaclinicaltrialcomparingtheEX-PRESSglaucomaC.ltrationCdeviceCandCtrabeculectomyCinCprimaryCopen-angleglaucoma.ClinOphthalmolC5:527-533,C20113)Gonzalez-RodribuezCJM,CTropeCGE,CDrori-WagschalCLCetal:ComparisonCofC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ラタノプロスト+カルテオロールからラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与

2019年6月30日 日曜日

《第29回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科36(6):804.809,2019cラタノプロスト+カルテオロールからラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬への変更による長期投与正井智子*1井上賢治*1塩川美菜子*1岩佐真弓*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科CLong-termE.cacyandSafetyofaLatanoprost/CarteololFixedCombinationSwitchedfromConcomitantTherapySatokoMasai1),KenjiInoue1),MinakoShiokawa1),MayumiIwasa1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenterC目的:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(LCFC)の長期効果と安全性を前向きに検討した.対象および方法:ラタノプロストと持続性カルテオロールを併用中の原発開放隅角緑内障,高眼圧症C43例C43眼を対象とした.両点眼薬を中止しCLCFCに変更した.変更前と変更C12カ月後までの眼圧,視野のCmeandeviation(MD)値,涙液層破壊時間(BUT),角膜上皮障害,血圧,脈拍数を測定し,比較した.また,副作用と中止例を調査した.結果:眼圧は変更前C15.0±2.6CmmHg,変更C1カ月後C15.1±2.4CmmHg,3カ月後C15.0±2.4CmmHg,6カ月後C14.7±2.2CmmHg,12カ月後C14.7±1.9CmmHgで同等だった.角膜上皮障害とCBUTは有意に改善した.MD値,血圧,脈拍数は同等だった.副作用はC3例(7.0%)(異物感,眼瞼炎,結膜充血)で出現し,中止例はC5例(11.6%)だった.結論:ラタノプロストと持続性カルテオロール点眼薬をCLCFCへ変更したところ,12カ月間にわたり眼圧を維持でき,視野に変化を認めず,安全性も良好だった.CPurpose:Toprospectivelyinvestigatethelong-terme.cacyandsafetyoflatanoprost/carteololC.xedcombi-nation(LCFC).SubjectsandMethods:Subjectswere43patients(43eyes)withprimaryopen-angleglaucomaorocularChypertensionCwhoCwereCusingClatanoprostCandCcarteolol.CAllCwereCswitchedCtoCLCFC.CIntraocularCpressure(IOP),meandeviation(MD)value,CtearC.lmCbreak-uptime(BUT),super.cialCpunctateCkeratopathy(SPK),sys-temicbloodpressureandpulseratewerecomparedwithbaselineuntil12monthsafterswitching.Adversereac-tionsanddropoutswereinvestigated.Results:Therewasnosigni.cantdi.erencebetweenIOPatbaseline(15.0C±2.6CmmHg)andCatC1month(15.1±2.4CmmHg),3months(15.0±2.4CmmHg),6months(14.7±2.2CmmHg)andC12months(14.7±1.9mmHg)afterswitching.SPKandBUTweresigni.cantlyimproved.Therewasnodi.erenceinMD,bloodpressureorpulseratebetweenbeforeandafterswitching.Adversereactionsoccurredinthreepatients(7.0%)(foreignCbodyCsensation,Cblepharitis,CandconjunctivalChyperemia).Fivepatients(11.6%)discontinuedCtheCstudy.Conclusion:IOPandvisualC.eldweremaintainedsafelyfor12monthsbyswitchingfromconcomitantther-apytoLCFC.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)36(6):804.809,C2019〕Keywords:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬,眼圧,副作用,視野障害,長期.latanoprost/carteololC.xedcombination,intraocularpressure,adversereaction,visualC.elddefect,long-term.Cはじめに眼薬の治験ではラタノプロスト点眼薬からの変更,あるいは2017年C1月よりラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオ持続性カルテオロール点眼薬からの変更で眼圧が有意に下降ロールを含有するラタノプロスト/チモロール配合点眼薬がした1).また,持続性カルテオロール点眼薬からラタノプロ使用可能となった.ラタノプロスト/カルテオロール配合点スト/カルテオロール配合点眼薬へ変更した症例と,持続性〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPANC804(100)カルテオロール点眼薬にラタノプロスト点眼薬を追加して併用した症例の眼圧下降効果は同等だった.しかし,ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を中止して,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更した際の眼圧下降効果と安全性についての報告はなく,詳細は不明であった.そこで筆者らはラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を中止して,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬へ変更した患者を対象として,変更後C3カ月間の短期的な眼圧下降効果と安全性を報告した2).眼圧は変更前後で同等で,安全性も良好だった.しかしこのような変更による長期的な眼圧下降効果と安全性の報告は過去になく,不明だった.今回ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を使用中の原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症患者を対象に,両点眼薬を中止してラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更した際の長期的な眼圧下降効果,視野への影響,安全性を前向きに検討した.CI対象および方法2017年C1.9月に井上眼科病院に通院中の外来患者を対象とした.本研究はヘルシンキ宣言を含む関連法規を遵守しており,井上眼科病院の倫理委員会で承認を得た.臨床試験登録システムCUMIN-CTRに登録し,UMIN試験CIDとしてUMIN000026224を取得した.研究の趣旨と内容を患者に説明し,患者の同意を文書で得た後に検査などを行った.C1.対象原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症で,ラタノプロスト点眼薬(キサラタンCR,ファイザー)(夜C1回点眼)と持続性カルテオロール点眼薬(ミケランCRLA,大塚製薬)(朝C1回点眼)をC1カ月間以上併用治療しており,試験開始前の点眼状況がときどき忘れた程度の良好に点眼を行っているC20歳以上の原発開放隅角緑内障と高眼圧症患者を対象とした.炭酸脱水酵素阻害薬,Ca1遮断薬,Ca2作動薬,ROCK阻害薬の併用も可能とするが,試験開始前からC1カ月間以上同一薬剤で治療中の症例とした.エントリー除外基準は次のとおりである.①角膜の異常または角膜疾患を有する.②角膜屈折矯正手術の既往を有する.③活動性の外眼部疾患,眼あるいは眼瞼の炎症,感染症を有する.④緑内障手術(レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術など)の既往を有する.⑤試験開始前C3カ月以内に前眼部または内眼手術を施行.⑥試験期間中に併用禁止薬の使用または併用禁止療法を施行する予定がある.併用禁止薬は,緑内障治療点眼薬,経口および静注投与の眼圧下降薬,副腎皮質ステロイド(眼周辺部以外の皮膚局所投与は可)である.また併用禁止療法は,眼に対するレーザー治療,観血的手術である.試験期間中に使用する予定の薬剤および試験薬の種類に対し,薬物アレルギーの既往を有する.⑧Cb遮断薬が禁忌の患者(気管支喘息,コントロール不十分な心不全のある患者など).⑨妊婦,授乳中,妊娠をしている可能性がある女性.⑩研究責任者または研究分担者が不適格と判断した場合.C2.薬剤ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬を中止し,washout期間なしでラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(朝C1回点眼)(ミケルナCR,大塚製薬)に変更した.他に使用中の点眼薬は継続した.C3.方法変更前と変更C1,3,6,12カ月後の眼圧,結膜充血,角膜上皮障害(NEI分類),涙液層破壊時間(tearbreakuptime:BUT),血圧,脈拍数を測定した.また,変更前,変更C6,12カ月後にCHumphrey視野プログラム中心C30-2SITAstandard検査を測定した.変更C1カ月後に使用感に関するアンケート調査(図1)を実施した.来院時ごとに副作用と投与中止例を調査した.C4.有効性の評価眼圧変化量,視野への影響,有害事象とした.主要評価である眼圧下降効果(眼圧変化量)は変更前と変更C1,3,6,12カ月後に眼圧をCGoldmann圧平眼圧計で症例ごとにほぼ同時刻に測定し,比較した.眼圧は続けてC2回測定し,その平均値を算出し,解析に用いた.視野への影響は,変更前と変更C6,12カ月後に施行したCHumphrey視野検査のCmeandeviation(MD)値を比較した.統計学的解析はC1例C1眼で行った.両眼該当症例は投与前眼圧の高い眼,眼圧が同値の場合は右眼,片眼該当症例は患眼を解析に用いた.C5.安全性の評価血圧,脈拍数を自動血圧計(UDEXsuperTYPE,エルクエスト)で変更前と変更C1,3,6,12カ月後に測定し,変更前後で比較した.変更C12カ月後までの角膜上皮障害,結膜充血,BUTおよび副作用,投与中止例を調査した.角膜上皮障害の評価にはCNEI分類3)を用いた.具体的には角膜C5カ所(中央部,上部,下部,耳側部,鼻側部)の角膜上皮障害をC4段階スコア(0:障害なし,1:ドット数C1.5,2:ドット数C6.15,3:ドット数C16以上,もしくはC1Cmm以上の染色部位やフィラメント状の染色部位がC1カ所以上存在する)のC15点満点で評価した.結膜充血の評価はアレルギー性結膜疾患ガイドライン(第C2版)に基づき評価した4).数本の血管拡張を軽度,多数の血管拡張を中等度,全体の血管拡張を高度と評価し,標準写真を用いて評価した.C6.使用感の評価変更C1カ月後に使用感に関するアンケート調査を行った(図1).問C1①ミケルナCRに変更して,最近C1週間に点眼を忘れてしまったことはありましたか?□はい何回忘れましたか?□C1回ぐらい□C2回ぐらい□C3回ぐらい□C4回以上□いいえ②ミケルナRに変更して,前投薬(キサラタンCR,ミケランCRLA)に比べて点眼忘れは減りましたか?□減った□変わらない□増えた③その理由をお聞かせください.問2変更する前と比べて,目の症状に変化はありましたか?①充血は?□前より赤くならない□前と同じ□前より赤くなる②刺激は?□前よりしみない□前と同じ□前よりしみる③かゆみは?□前よりかゆくない□前と同じ□前よりかゆい④痛みは?□前より痛くない□前と同じ□前より痛い⑤かすみは?□前よりかすまない□前と同じ□前よりかすむ問C3①変更する前(ミケランCRLA)と比べて,ミケルナCRの点眼瓶の使いやすさ(開けやすさ,押す力など)に変化はありましたか?□前より使いやすい□どちらも同じ□前より使いにくい問C4①変更する前と後では,どちらの点眼瓶がよいですか?□変更した後のほうがよい□同じ□変更する前のほうがよい②その理由をお聞かせください(複数回答可)□充血しない□しみない□かゆくない□痛くない□かすまない□C1日の点眼回数が少ない□点眼瓶が使いやすい□薬代が安い□その他図1アンケート調査表1対象緑内障病型原発開放隅角緑内障(狭義)C25例正常眼圧緑内障C17例高眼圧症C1例男性:女性21例:2C2例平均年齢C67.9±11.1歳(C38.C90歳)眼圧C15.0±2.6CmmHg(9.2C1mmHg)MeanDeviation値C.6.95±4.58CdB(C.16.53.C0.75CdB)平均使用薬剤数C2.5±0.7剤(2.4剤)7.解.析.方.法変更前と変更C1,3,6,12カ月後の眼圧,血圧,脈拍数,BUT,角膜上皮障害スコアの比較にはCANOVA,Bonferro-niCandDunn検定を用いた.結膜充血スコアの比較にはCc2検定を用いた.統計学的検討における有意水準はCp<0.05とした.CII結果1.対象対象はC43例C43眼で,性別は男性C21例,女性C22例,年齢はC67.9C±11.1歳(平均値C±標準偏差),38.90歳だった(表眼圧(mmHg)N.S.201816141215.0±2.615.1±2.415.0±2.414.7±2.214.7±1.91086420変更前変更変更変更変更1カ月後3カ月後6カ月後12カ月後図2変更前後の眼圧1).病型は原発開放隅角緑内障(狭義)25例,正常眼圧緑内障C17例,高眼圧症C1例だった.使用点眼薬数はC2.5C±0.7剤,2.4剤だった.MD値はC.6.95±4.58CdB,C.16.53.+0.75CdBだった.投与中止となったのはC5例で,そのため眼圧の評価は,変更1カ月後は41例,3カ月後は40例,6カ月後は39例,12カ月後はC38例で行った.2mmHg以上2mmHg以上2mmHg以上2mmHg以上上昇,4例,下降,4例,上昇,9例,下降,4例,9.8%9.8%22.5%10.0%変更1カ月後変更3カ月後2mmHg以上2mmHg以上2mmHg以上2mmHg以上上昇,9例,下降,3例,上昇,8例,下降,3例,23.1%7.7%21.1%7.9%変更6カ月後変更12カ月後図3変更後の眼圧変化量表2変更前後の血圧と脈拍数血圧変更前変更C1カ月後変更C3カ月後変更C6カ月後変更C12カ月後p値収縮期血圧(mmHg)C128.8±24.8C124.9±20.0C124.9±20.8C126.2±18.8C125.8±23.9C0.83拡張期血圧(mmHg)C71.7±12.6C71.1±11.7C70.2±12.3C69.7±11.5C69.6±12.7C0.99脈拍数変更前変更C1カ月後変更C3カ月後変更C6カ月後変更C12カ月後p値C(拍/分)69.4±8.8C70.6±10.3C69.6±10.9C69.2±10.0C70.4±10.6C0.742.眼圧眼圧は変更C1カ月後C15.1C±2.4CmmHg,3カ月後C15.0C±2.4mmHg,6カ月後C14.7C±2.2CmmHg,12カ月後C14.7C±1.9CmmHgで,変更前C15.0C±2.6CmmHgと同等だった(p=0.13)(図2).変更後の眼圧がC2CmmHg以上上昇,2CmmHg以上下降,2mmHg未満の上昇・下降の症例に分けたところ,変更C1,3,6,12カ月後いずれでもC2CmmHg未満の上昇・下降症例がもっとも多かった(図3).しかしC2CmmHg以上上昇した症例が変更C1カ月後C9.8%,3カ月後C22.5%,6カ月後C23.1%,12カ月後C21.1%存在した.C3.視野MD値は変更C6カ月後C.6.37±4.46dB,12カ月後C.7.05C±4.13CdBで,変更前C.6.95±4.58CdBと同等だった(p=0.23).C4.使用感アンケート調査は,2例は変更C1カ月以前に投与中止とな(103)ったために施行せず,41例で解析した.結果は問C1C①(ミケルナRに変更して,最近C1週間に点眼を忘れてしまったことはありましたか?)に対しては,はいC2例(4.9%),いいえC39例(95.1%),はいと答えた人の忘れた回数はいずれも「1回ぐらい」だった.②(ミケルナCRに変更して,前投薬に比べて点眼忘れは減りましたか?)に対しては,減ったC19例(46.3%),変わらないC22例(53.7%),増えたC0例(0.0%)だった.③(その理由)については,減った理由は,夜点眼が忘れやすかった,朝C1回だけ,1日C1回など点眼回数の減少に関する理由がC15例(36.6%)で,未回答はC4例(9.7%)だった.変わらない理由は,元々忘れない,習慣化している6例(14.6%),その他C2例(4.9%)で,未回答はC14例(34.2%)だった.問C2(変更する前と比べて,目の症状に変化はありましたかC?)に対しては,①充血は?②刺激は?③かゆみは?④痛みは?⑤かすみは?ともに変更前後で変化ない(前と同じ)が多かった(表2).問C3(変更する前と比べて,ミケルナCRの点眼瓶の使いやすさ(開けやすさ,押す力など)に変化はありましたか?)に対しては,前より使いやすいC29例(70.7%),どちらも同じC11例(26.8%),前より使いにくいC1例(2.4%)だった.問C4C①(変更する前と後では,どちらの点眼薬がよいですか?)に対しては,変更した後のほうがよいC33例(80.5%),どちらも同じC5例(12.2%),変更する前のほうがよいC3例(7.3%)だった.②(その理由をお聞かせください〔複数回答可〕)に対しては,変更後がよい理由として点眼回数が少ないC31例,点眼瓶が使いやすいC14例,しみないC6例などで,変更前がよい理由は,かゆくないC1例だった.C5.安全性血圧は収縮期血圧,拡張期血圧ともに変更前と変更C1,3,6,12カ月後で同等だった(p=0.83,Cp=0.99)(表2).脈拍数は変更前と変更C1,3,6,12カ月後で同等だった(p=0.74).結膜充血は変更前にC2例で軽度出現していたが,各々変更C1カ月後,12カ月後に消失した.1例が変更前に結膜充血がなく,変更C6カ月後に結膜充血が軽度出現した.角膜上皮障害(NEI分類)平均スコアは,変更C1カ月後C0.6C±0.9,3カ月後C0.5C±0.7,6カ月後C0.7C±1.2,12カ月後C0.8C±1.5で,変更前C1.2C±1.4に比べて有意に改善した(p<0.05).BUTは変更C1カ月後C8.1C±3.0秒,3カ月後C8.6C±2.8秒,6カ月後C8.9±2.5秒,12カ月後C8.6C±2.6秒で,変更前C7.6C±2.4秒に比べて変更C3,6,12カ月後に有意に延長した(変更C3カ月後,12カ月後p<0.05,6カ月後p<0.0001).副作用はC3例(7.0%)で出現し,内訳は変更C5日後に異物感,変更C3カ月後に眼瞼炎,変更C6カ月後に結膜充血の各C1例だった.異物感の症例はラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬を中止し,ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬に戻したところ消失した.眼瞼炎の症例はラタノプロスト点眼薬のみに変更したところ消失した.投与中止例はC5例(11.6%)だった.内訳は副作用が上記のC3例,その他に変更C9日後に被験者都合がC1例,変更C3カ月後に眼圧上昇(変更前C16CmmHgが変更C3カ月後C22CmmHg)がC1例だった.眼圧が上昇した症例では,ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬に戻したところ眼圧は14CmmHgに下降した.CIII考按緑内障診療ガイドライン5)では薬剤の選択の項目に「多剤併用時においては,配合点眼薬はアドヒアランス向上に有用である.」と記載されている.また,「アドヒアランス不良は緑内障が進行する重要な要因の一つ」とも記載されている.そこで今回,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が使用可能となったので,アドヒアランスを考慮して併用療法から配合点眼薬への変更試験を行った.筆者らはラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の処方パターンをラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が使用可能となった初期C4カ月間のデータより解析した6).ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬から変更された症例がC52.3%(33例/66例)で最多だった.そこで今回は,症例数を増やすためにラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が使用可能となった時期からC9カ月間の症例を前向きに検討した.今回の調査での平均眼圧は変更前後で変化はなかったが,個々の症例で検討すると眼圧がC2CmmHg以上上昇した症例がC9.8.23.1%,2CmmHg未満の上昇あるいは下降した症例がC67.5.80.4%,2CmmHg以上下降した症例がC7.7.10.0%みられた.さらに眼圧上昇によりラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬が中止となった症例もC1例存在した.同様の結果はラタノプロスト点眼薬とゲル化チモロール点眼薬からラタノプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更し,1年間の経過観察を行った報告7)でもみられた.眼圧下降効果に関しては今回の調査と同様だった.その報告7)ではCMD値は変更前と変更C12カ月後で変化なく,今回の調査と同様だった.しかし,視野障害は緩徐に進行するので今後もさらに長期的に検討する必要がある.今回の調査では変更後に角膜上皮障害がCNEI分類で有意に改善し,BUTは変更C1カ月後を除いて有意に延長した.原因としてベンザルコニウム塩化物(benzalkoniumCchlo-ride:BAC)の細胞毒性が考えられる.ラタノプロスト点眼薬には防腐剤としてCBACが高濃度に含まれている.一方,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬では防腐剤はBACではなくCEDTAが使用されている.EDTAはCBACより細胞毒性が低い8,9)と報告されており,そのことが角膜上皮障害の改善,BUTの延長に寄与していると考えられる.収縮期血圧,拡張期血圧,脈拍数ともに変更前後で変化はなかった.今回は変更前後で点眼薬の基材は同じであることが影響していると考えられる.結膜充血は変更前に軽度みられたC2例で変更後に消失し,変更前に出現がなかったC1例で変更後に軽度出現した.変更前に結膜充血が出現していた症例が少なかったので詳細な評価はできなかった.ラタノプロスト点眼薬とゲル化チモロール点眼薬からラタノプロスト/チモロール配合点眼薬へ変更し,1年間経過観察した報告7)では,19.1%(31例/162例)の症例が投与中止となった.中止例の内訳は,眼圧下降不十分C20例(12.3%)と副作用出現C11例(6.8%)だった.副作用の内訳は,眼痛3例,掻痒感C2例,刺激感C2例,羞明C1例,異物感C1例,頭痛・嘔気C1例,不快感C1例だった.今回の変更後C12カ月間の副作用はC7.0%に出現し,過去の報告7)と出現頻度は同等だった.また,副作用の内訳は今回は異物感,眼瞼炎,結膜充血であったが重篤な症例はなく,過去の報告7)とほぼ同様で安全性は高いと考えられる.眼圧上昇による中止例は過去の報告7)のC20例(12.3%)と比べて今回はC1例(2.3%)と少なかった.これは,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬に含有するチモロール点眼薬は本来C1日C2回点眼であるが,ラタノプロスト/チモロール配合点眼薬ではC1日C1回点眼となり,チモロールの効果が減弱する可能性が考えられる.一方,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に含有するカルテオロール点眼薬はC1日C1回点眼の持続性カルテオロール点眼薬が使用されており,点眼回数減少による眼圧下降効果減弱は少ないと思われる.今回のアンケート調査では,1日の点眼薬の点眼回数がC2回からC1回へ減少したことで,点眼忘れの減少(アドヒアランス向上)がみられた.充血,刺激,かゆみ,痛み,かすみの自覚症状は変更前後で同等だった.ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬とラタノプロスト点眼薬や持続性カルテオロール点眼薬の点眼瓶の開けやすさや押す力を聞いたところ,ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬のほうが使いやすいと答えた症例がC70.7%で,点眼薬の好みも変更後のラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬(80.5%)が多かった.変更後の点眼薬がよい理由として,点眼回数の少なさ,点眼瓶の使いやすさ,しみないがあげられた.点眼瓶の使いやすさやさし心地もアドヒアランスの向上に重要であると考えられる.ラタノプロスト点眼薬と持続性カルテオロール点眼薬をラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬に変更し,12カ月間の経過観察を行ったところ,眼圧を維持することができ,視野に変化を認めず,アドヒアランスは向上し,安全性も良好だった.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)YamamotoCT,CIkegamiCT,CIshikawaCYCetal:Randomized,Ccontrolled,CphaseC3trialsCofCcarteololC/ClatanoprostC.xesCcombinationCinCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.AmJOphthalmolC171:35-46,C20162)InoueK,ShiokawaM,IwasaMetal:Short-terne.cacyandCsafetyCofCaClatanoprost/carteololC.xedCcombinationCswitchedCfromCconcomitantCtherapyCtoCinCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglaucomaCorCocularChypertension.CJGlaucomaC27:1175-1180,C20183)LampMA:ReportCofCtheCnationalCeyeCinstitute/industryCworkshoponclinicaltrialsindryeyes.CLAOJC21:221-232,C19954)アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン編集委員会:アレルギー性結膜疾患診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌C114:833-870,C20105)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第C4版).日眼会誌C122:5-53,C20186)杉原瑶子,井上賢治,石田恭子ほか:ラタノプロスト/カルテオロール配合点眼薬の処方パターンと眼圧下降効果,安全性.眼臨紀C11:657-662,C20187)InoueK,OkayamaR,HigaRetal:AssessmentofocularhypotensiveCe.ectCandCsafetyC12monthsCafterCchangingCfromCanCun.xedCcombinationCtoCaClatanoprost0.005%+timololCmaleate0.5%C.xedCcombination.CClinCOphthalmolC6:607-612,C20128)BurgalassiCS,CChetoniCP,CMontiCDCetal:CytotoxicityCofCpotentialocularpermeationenhancersevaluatedonrabbitandhumancornealepithelialcelllines.ToxicolLettC122:C1-8,C20019)UematsuCM,CKumagamiCT,CShimodaCKCetal:PolyoxyethC-yleneChydrogenatedCcastorCoilCmodulatesCbenzalkoniumCchloridetoxicity:ComparisonCofCacuteCcornealCbarrierCdysfunctionCinducedCbyCtravoprostCZCandCtravoprost.CJOculPharmacolTherC27:437-444,C2011***

ビマトプロスト点眼液(ルミガン®点眼液0.03%)の使用成績調査(サブ解析)

2019年4月30日 火曜日

《原著》あたらしい眼科36(4):537.543,2019cビマトプロスト点眼液(ルミガンR点眼液0.03%)の使用成績調査(サブ解析)末信敏秀*1石黒美香*1北尾尚子*1川瀬和秀*2山本哲也*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部*2岐阜大学大学院医学系研究科眼科学CSubanalysisofPost-marketingStudyofBimatoprostOphthalmicSolution(LUMIGANROphthalmicSolution0.03%)ToshihideSuenobu1),MikaIshikuro1),NaokoKitao1),KazuhideKawase2)andTetsuyaYamamoto2)1)MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicineC本研究は,ビマトプロスト点眼液(ルミガンCR点眼液C0.03%)使用成績調査のサブ解析である.対象は,1年超の経過観察症例C3,219例のうち,プロスタグランジン関連薬+他の緑内障治療薬による前治療が,ビマトプロストへ切り替えられたC778例とした.その結果,前治療プロスタグランジン関連薬は,ラタノプロストC432例,トラボプロスト192例,タフルプロストC154例であった.ラタノプロスト+b遮断薬+炭酸脱水酵素阻害薬の組み合わせがC184例でもっとも多く,このうちラタノプロストのみがビマトプロストに切替えられたC177例では,切替時眼圧C16.8C±5.4CmmHgがC1カ月後にC14.6C±4.2CmmHgと有意に低下した.他の組み合わせからのビマトプロストへの切替え例においても,おおむね,統計学的に有意な眼圧下降が認められた.ビマトプロスト点眼液は,他のプロスタグランジン関連薬からの切替によって,さらなる眼圧下降効果が期待される薬剤であると考えられた.CThisCstudyCisCaCsubanalysisCofCtheCresultsCofCaCbimatoprostCophthalmicsolution(LUMIGANCRCophthalmicCsolu-tion0.03%)investigation.Among3,219casesfollowed-upformorethan1year,thetargetwas778casesinwhompretreatmentCwithCprostaglandinCanaloguesCandCotherCglaucomaCtherapeuticCdrugsCwasCswitchedCtoCbimatoprost.CThepretreatmentprostaglandinanalogueswerelatanoprostin432cases,travoprostin192cases,andta.uprostin154cases.Latanoprostplusbetablockerpluscarbonicanhydraseinhibitorwasthemostcommon,in184cases.Inthe177patientsinwhomonlylatanoprostwasswitchedtobimatoprost,therewassigni.cantdecreaseinintraocu-larpressure:16.8C±5.4CmmHgCatCtheCtimeCofCswitchingCandC14.6±4.2CmmHgCatConeCmonthClater.CStatisticallyCsigni.cantdecreaseinintraocularpressurewasalsoobservedinmanycasesofswitchingtobimatoprostfromoth-erCcombinations.CTheseCresultsCsuggestCthatCbimatoprostCmayChaveCanCadditionalCocularChypotensiveCe.ectCwhenCswitchingfromotherprostaglandinanaloguesandothercombinations.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C36(4):537.543,C2019〕Keywords:ビマトプロスト,ルミガンCR点眼液C0.03%,プロスタグランジン,安全性,有効性,眼圧.bimato-prost,LUMIGANRophthalmicsolution0.03%,prostaglandin,safety,e.cacy,intraocularpressure.はじめに緑内障は,わが国における主たる失明原因の一つであり,眼圧下降が唯一のエビデンスに基づく確実な治療法である1).眼圧下降の手段としては,薬物治療,レーザー治療,手術治療があげられるが,初期治療の第一選択は薬物治療である.なかでも,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬は優れた眼圧下降効果を有し,全身性の副作用が少ないことから,第一選択薬として汎用されて久しい.PG関連薬による眼圧下降が,緑内障治療の第一義である視野障害進行抑制に有効であることが報告2)され,改めて眼圧下降の重要性が認識された.一方,PG関連薬に対するレスポンスには個体差が存在す〔別刷請求先〕末信敏秀:〒650-0047神戸市中央区港島南町C6-4-3千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部Reprintrequests:ToshihideSuenobu,MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,6-4-3Minatojima-Minamimachi,Chuo-ku,Kobe-shi,Hyogo650-0047,JAPANCるとともに,眼圧下降による視野障害進行の程度にも個体差が認められ,さまざまな治療選択肢を駆使しても視野障害が進行する例が存在する.PG関連薬であるラタノプロスト点眼液,トラボプロスト点眼液およびタフルプロスト点眼液においても,7.7.15.0%の割合でノンレスポンダーの存在が報告されている3).このようななか,ビマトプロスト点眼液(ルミガンCR点眼液C0.03%,以下,ビマトプロスト)がC2009年に新たな選択肢に加わり,上市後に実施した使用成績調査(2009年C10月.2015年C12月)において,その眼圧下降効果が証明された4).すなわち,原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG),正常眼圧緑内障(normalCtensionCglau-coma:NTG),原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureglaucoma:PACG),続発緑内障(secondaryCglaucoma:SG)および高眼圧症(ocularhypertension:OH)の病型別,新規単剤投与および前治療薬別,開始時眼圧値別のいずれにおいても投与C1カ月後に有意な眼圧下降が得られた.今回筆者らは,PG関連薬+他の緑内障薬による前治療が,ビマトプロストによる治療へ切替られた症例における眼圧推移に着目し,使用成績調査対象例のサブ解析(以下,本研究)を行ったので報告する.CI対象および方法1.研究デザイン本研究は,ビマトプロストの使用成績調査(以下,調査)にて集積された症例におけるサブ解析である.調査は,本剤の使用経験のない緑内障・高眼圧症患者を対象とし,中央登録方式でプロスペクティブに実施したものであり,調査方法の詳細,全般的な結果はすでに報告した4).調査では,投与開始後C1年を超える経過観察症例としてC3,219例,観察期間は原則C12カ月以上,最長C24カ月とし,投与開始日からC3カ月後,12カ月後およびC24カ月後までのC3分冊の調査票を各観察期間終了後に回収した.なお,医薬品医療機器総合機構によるプロトコルの審査を経て,調査を実施した.C2.解析対象集団ビマトプロスト投与開始時および投与後C24カ月後までに1時点以上の眼圧が測定された症例のうち,前治療としてPG関連薬(ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト)+b受容体遮断薬(以下,Cb遮断薬),PG関連薬+炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicCanhydraseinhibitor:CAI)またはCPG関連薬+b遮断薬+CAIが投与され,このうちCPG関連薬がビマトプロストに切り替えられた症例,ならびにビマトプロスト単剤治療に切り替えられた症例を対象とした.なお,PG関連薬,Cb遮断薬およびCCAI以外の緑内障薬が併用された症例は除外した.評価眼はC1症例C1眼とし,両眼投与の場合は投与開始時の眼圧が高い眼,開始時眼圧が同値の場合は右眼とした.ただし,投与期間中に内眼手術(レーザー治療を含む)を施行した眼は除外し,休薬期間がある場合は休薬前まで,中止症例は中止時までの眼圧値を評価対象とした.眼圧値は平均C±標準偏差を算出し,投与開始時と各経過観察時の眼圧を,Dunnett型の多重性調整を行った対応のあるCt検定で比較した.また,(開始時眼圧C.投与後眼圧)/開始時眼圧C×100(%)として,投与C1カ月後,3カ月後およびC24カ月後の眼圧下降率を算出した.本研究は事後解析であり,統計解析は千寿製薬にて行った.統計解析ソフトはCSAS9.4(SASInstituteInc.)を用い,有意水準は両側5%とした.CII結果1.解析対象集団の構成本研究の選択基準に該当する症例はC778例であった.患者背景は表1に示すとおりであり,性別,年齢および病型分布については調査全体4)と同様の傾向であった.また,図1に示したとおり,前治療として投与されていたCPG関連薬+b遮断薬Cand/orCAIの組み合わせのうち,ラタノプロスト+b遮断薬+CAIがC23.7%(184/778)でもっとも多かった.同様に,トラボプロストおよびタフルプロストにおいても,+b遮断薬+CAIの構成比がもっとも高かった.+CAIの組み合わせが,いずれのCPG関連薬においてももっとも少なかった.切替時の眼圧は,ラタノプロスト+b遮断薬でもっとも低く(15.9C±3.7CmmHg),タフルプロスト+CAIでもっとも高かった(19.1C±6.0CmmHg)(表2).これら解析対象の多くにおいて,PG関連薬のみがビマトプロストに切り替えられていたが,ビマトプロスト単剤に変更された症例が散見された.すなわち,ラタノプロスト前投与でC11.6%(50/432),トラボプロスト前投与でC8.9%(17/192),タフルプロスト前投与でC5.8%(9/154)がビマトプロスト単剤に変更されていた.PG関連薬のみが変更された症例におけるC1カ月後の眼圧下降率は,ラタノプロスト前投与,トラボプロスト前投与およびタフルプロスト前投与で,それぞれC12.6.14.3%,9.3.14.1%およびC15.2.16.4%であった.同様に,24カ月後の眼圧下降率は,それぞれC11.3.16.1%,11.7.16.9%およびC12.7.33.0%であった.また,ビマトプロスト単剤への切替例におけるC1カ月およびC24カ月後の眼圧下降率は,10.5%およびC8.0%であった.C2.眼.圧.推.移ラタノプロストのみがビマトプロストへ切替られた症例におけるC24カ月目までの眼圧推移は図2に示したとおりであり,+b遮断薬,+CAI,+b遮断薬+CAIいずれの群にお表1患者背景症例数(%)患者背景項目本研究(n=778)調査全体*(n=4,680)性別男性女性362(C46.5)416(C53.5)2,249(C48.1)2,430(C51.9)年齢(投与開始時)平均C±SDC最小.最大69.7±11.5歳C16.9C8歳67.9±12.8歳11.9C8歳病型(本剤投与眼)緑内障719(92.4)4,260(91.0)POAG(狭義)446(57.3)2,008(42.9)C│┌NTG176(22.6)1,752(37.4)C│CPACG34(4.4)185(4.0)C│CSG61(7.8)306(6.5)C└その他の緑内障2(0.3)9(0.2)COH27(3.5)216(4.6)その他(複数の使用理由を含む)32(4.1)204(4.4)POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障,SG:続発緑内障,OH:高眼圧症.*:文献4)より改変して引用(性別の調査不能C1例が存在したが本表では除外).タフルプロスト前投与n=154,19.8%ラタノプロスト前投与n=432,55.5%図1前治療いても投与開始C1カ月以降,24カ月後までのすべての経過観察時点において,切替時に比べ有意な眼圧下降(p<0.05)を認めた.トラボプロストのみがビマトプロストへ切替られた症例におけるC24カ月後までの眼圧推移は図3に示したとおりであり,+b遮断薬+CAIにおいては,21カ月後を除く経過観察時点において,切替時に比べ有意な眼圧下降を認めた.一方,+b遮断薬ではC9カ月,18カ月およびC24カ月後でのみ有意な眼圧下降を認め,+CAIでは切替以降いずれの観察時点においても有意な眼圧下降を認めなかった.タフルプロストのみがビマトプロストへ切替られた症例におけるC24カ月後までの眼圧推移は図4に示したとおりであり,+b遮断薬ではC1カ月およびC9カ月後を除く観察時点において切替時に比べ有意な眼圧下降を認めた.また,+b遮断薬+CAIにおいては,24カ月後を除く経過観察時点において,有意な眼圧下降を認めた.一方,+CAIでは2カ月,表2追加解析対象一覧切替時眼圧切替後治療内容1カ月後眼圧3カ月後眼圧24カ月後眼圧前治療内容(成分)(平均C±SD)(成分)症例数平均C±SD下降率平均C±SD下降率平均C±SD下降率(mmHg)(mmHg)(%)(mmHg)(%)(mmHg)(%)LAT+b遮断薬C15.9±3.7BIM+b遮断薬C127C13.9±3.5C12.6C14.0±3.1C11.9C14.1±3.2C11.3CLAT+CAIC16.8±5.0BIM+CAIC78C14.4±4.3C14.3C14.7±3.7C12.5C14.2±4.1C15.5CLAT+b遮断薬+CAIC16.8±5.4BIM+b遮断薬+CAIC177C14.6±4.2C13.1C15.2±4.3C9.5C14.1±4.3C16.1CTRA+b遮断薬C16.6±3.0BIM+b遮断薬C33C15.0±3.6C9.6C14.8±2.5C10.8C13.8±2.6C16.9CTRA+CAIC16.2±4.5BIM+CAIC35C14.7±4.2C9.3C14.9±3.1C8.0C14.3±2.9C11.7CTRA+b遮断薬+CAIC17.7±4.3BIM+b遮断薬+CAIC107C15.2±4.1C14.1C15.1±3.9C14.7C15.5±4.1C12.4CTAF+b遮断薬C18.3±7.2BIM+b遮断薬C43C15.3±4.4C16.4C14.5±3.5C20.8C14.8±3.6C19.1CTAF+CAIC19.1±6.0BIM+CAIC23C16.2±4.0C15.2C16.5±4.5C13.6C12.8±3.2C33.0CTAF+b遮断薬+CAIC18.1±5.4BIM+b遮断薬+CAIC79C15.3±4.7C15.5C15.1±4.5C16.6C15.8±5.8C12.7CPG関連薬+b遮断薬Cor/andCAIC16.2±4.1BIM単剤C76C14.5±3.7C10.5C13.6±3.1C16.0C14.9±4.3C8.0C┌CLAT+b遮断薬C32C│CLAT+CAIC11C│CLAT+b遮断薬+CAIC7C│CTRA+b遮断薬C10C│CTRA+CAIC2C│CTRA+b遮断薬+CAIC5C│CTAF+b遮断薬C4C│TAF+CAIC2C└CTAF+b遮断薬+CAIC3C計C778CLAT:ラタノプロスト,TRA:トラボプロスト,TAF:タフルプロスト,BIM:ビマトプロスト.:トラボプロスト+b遮断薬→ビマトプロスト+b遮断薬:トラボプロスト+CAI→ビマトプロスト+CAI25眼圧(mmHg)201510123691215182124経過観察期間(月)123691215182124経過観察期間(月)図2ラタノプロストからビマトプロストに切り替えられた症例の眼圧推移図3トラボプロストからビマトプロストに切り替えられた症例の眼圧推移:タフルプロスト+b遮断薬→ビマトプロスト+b遮断薬:タフルプロスト+CAI→ビマトプロスト+CAI2520眼圧(mmHg)2015151010123691215182124経過観察期間(月)123691215182124経過観察期間(月)図4タフルプロストからビマトプロストに切り替えられた症例の眼圧推移12カ月,18カ月,21カ月およびC24カ月後で有意な眼圧下降を認めた.PG関連薬+b遮断薬Cand/orCAIのうち,76例がビマトプロスト単剤へ切替られ,以降の眼圧推移は図5に示したとおりである.すなわち,投与C1カ月.15カ月後まで有意な眼圧下降を認めた.CIII考按ラタノプロスト前治療からビマトプロストへの切替例では,+b遮断薬,+CAI,+b遮断薬+CAIのすべてのパターンにおいて,切替C1カ月以降C24カ月後まで有意な眼圧下降が認められた.ラタノプロストからビマトプロストへの切替による眼圧下降効果については多くの既報がある.Imasa-waら5)は,ラタノプロストからビマトプロスト切替C6週後図5PG関連薬+b遮断薬and/orCAIからビマトプロスト単剤に切り替えられた症例の眼圧推移の眼圧下降値はC1.7CmmHg(下降率:10.3%)であったと報告しており,本研究のC1カ月後の眼圧下降値であるC2.0.2.4mmHg(下降率:12.6.14.3%)は同程度であった.3カ月後の眼圧下降値はC1.6.2.1CmmHg(下降率:9.5.12.5%)であったことから,既報におけるC1.6CmmHg(下降率:9.4%)5),1.9CmmHg(下降率:11.9%)6),1.6CmmHg(下降率:12.1%)7)と同等であった.さらに,24カ月後の眼圧下降値はC1.8.2.7mmHg(下降率:11.3.16.1%)であり,有意な眼圧下降が認められた.Sontyら8)は,同様にラタノプロストからビマトプロストへの切替後の長期成績について報告しており,切替C24カ月後の眼圧下降値はC4.9.5.3CmmHg(下降率:21.2.23.8%)であり,切替時に比して有意であったと報告している.このようにビマトプロストは,さらなる眼圧下降を必要とするラタノプロスト治療例に対して,よい選択肢となりうると考えられる.トラボプロスト前治療からの切替例では,+b遮断薬の観察期間中に統計学的に有意な眼圧下降が認められた観察時点は,投与C9カ月,18カ月およびC24カ月後のみであり,ビマトプロストへの切替による効果は限定的であった.また,+CAIでの切替C1カ月,3カ月およびC24カ月後の眼圧下降率はC8.0.11.7%であったが,観察期間中を通じて統計学的に有意な眼圧下降は認められなかった.一方,+b遮断薬+CAI例では,切替C1カ月後の眼圧下降値はC2.5CmmHg(下降率:14.1%)で統計学的に有意であった.また,投与C21カ月後を除き,24カ月までの観察期間中を通じて有意な眼圧下降が認められた.ビマトプロストとトラボプロストの眼圧下降作用については,ビマトプロストが優れているとする報告9,10)が散見されるが,本研究のようにトラボプロストからビマトプロストへの切替後の眼圧推移に関する報告は見あたらない.一方,ビマトプロストからトラボプロスト/チモロール配合剤への切替時の眼圧推移については,ビマトプロストのノンレスポンダーからの切替C12週後の眼圧下降値はC3.8mmHgで有意であったとする報告11)のほか,PG関連薬(ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,ビマトプロスト)単剤からトラボプロスト/チモロール配合剤への切替後の眼圧はビマトプロスト前投与以外では有意に低下したとする報告12),さらには同配合剤とビマトプロスト単剤の眼圧下降効果は同等とする報告13)などがある.本研究においては,トラボプロスト+b遮断薬(33例)およびトラボプロスト+CAI(35例)の症例数が少なかったものの,トラボプロスト+b遮断薬+CAIはC107例が集積され,切替C1カ月以降,有意な眼圧下降が認められたことから,さらなる眼圧下降を必要とするトラボプロスト治療例に対しても,一定の効果が期待されるものと考える.タフルプロスト前治療からの切替例では,+b遮断薬の観察期間中では,投与C1カ月およびC9カ月後を除き,統計学的に有意な眼圧下降が認められた.また,+CAIでの眼圧下降率はC13.6.33.0%であったが,統計学的に有意な眼圧下降は一部の観察時点でのみしか認められなかった.一方,+b遮断薬+CAIでは,切替C1カ月後の眼圧下降値はC2.8CmmHg(下降率:15.5%)で統計学的に有意であった.また,投与24カ月後を除き,有意な眼圧下降が認められた.Rannoら14)は,PG関連薬からタフルプロストへの切替C3カ月後の眼圧値は,ラタノプロストおよびトラボプロスト前投与例では同等であったが,ビマトプロストからの切替例では有意に眼圧が上昇したと報告している.Hommerら15)は,PG関連薬からタフルプロストへの切替C12週後の眼圧値は,ラタノプロストおよびトラボプロスト前投与例では有意に下降したが,ビマトプロストからの切替例のみ有意な低下を認めなかったことを報告している.このように,さらなる眼圧下降を必要とするタフルプロスト治療例に対しても,一定の効果が期待される.PG関連薬+b遮断薬Cand/or+CAIからビマトプロスト単剤への切替例では,投与C1カ月後の眼圧下降値はC1.7CmmHg(下降率:10.5%)で統計学的に有意であった.したがって,多剤併用によってアドヒアランスの低下が疑われる症例については,ビマトプロスト単剤による治療に切替えることも選択肢として考慮される.このように,ビマトプロストによる眼圧下降効果については,現存するCPG関連薬からの切替時において一定の効果が期待される.一方,先の報告4)を含め,ビマトプロストは結膜充血やCDUES(deepeningCofCupperCeyelidsulcus)が一定頻度で発現することから,アドヒアランス低下を防止する意味でも注意深い経過観察が必要である.本研究は,ビマトプロスト投与期間中の観察記録データのサブ解析であり,ビマトプロストを他のCPG関連薬に切替えた際の眼圧推移については検討されていない.したがって,本研究の対象とした切替例における眼圧下降効果については,ビマトプロストに限定されるものと言及することはできない.また,先の報告4)のとおり,投与開始C1カ月時点の判定であるが,ビマトプロストの新規単剤投与例のC15.7%は眼圧下降率がC10%未満であり,他のCPG関連薬のよい適応であった可能性が示唆される.このほか,本研究の結果は,薬剤変更によるアドヒアランスの向上,十分な眼圧下降が得られた症例のみが評価された可能性などを考慮する必要はあるが,切替後C24カ月にわたって一定の持続的な眼圧下降が認められ,ビマトプロストは緑内障薬物治療の有用な選択肢であると考えられる.謝辞:調査に協力を賜り,データを提供いただきました全国の先生方に,深謝申し上げます.利益相反:本稿は,千寿製薬株式会社により実施された使用成績調査結果に基づき報告された.末信敏秀,石黒美香,北尾尚子は千寿製薬株式会社の社員である.山本哲也は本使用成績調査の医学専門家である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C4版).日眼会誌122:5-53,C20182)Garway-HeathDF,CrabbDP,BunceCetal:Latanoprostforopen-angleCglaucoma(UKGTS):aCrandomised,Cmulti-centre,Cplacebo-controlledCtrial.CLancetC385:1295-1304,C20153)InoueCk,CSetogawaCA,CTomitaG:NonrespondersCtoCpros-taglandinanalogsamongnormal-tensionglaucomapatients.CJOculPharmacolTherC32:90-96,C20164)石黒美香,北尾尚子,末信敏秀ほか:ビマトプロスト点眼液(ルミガン点眼液C0.03%)の使用成績調査.あたらしい眼科35:399-409,C20185)ImasawaCM,CTanabeCJ,CKashiwagiCFCetal:E.cacyCandCsafetyCofCswitchingClatanoprostCmonotherapyCtoCbimato-prostCmonotherapyCorCcombinationCofCbrinzolamideCandClatanoprost.OpenOphthalmolJC7:94-102,C20166)SatoCS,CHirookaCK,CBabaCTCetal:E.cacyCandCsafetyCofCswitchingfromtopicallatanoprosttobimatoprostinpatientswithCnormal-tensionCglaucoma.CJCOculCPharmacolCTherC27:499-502,C20117)MaruyamaY,IkedaY,MoriKetal:Comparisonbetweenbimatoprostandlatanoprost-timolol.xedcombinationfore.cacyCandCsafetyCafterCswitchingCpatientsCfromClatano-prost.ClinOphthalmolC9:1429-1436,C20158)SontyCS,CDonthamsettiCV,CVangipuramCGCetal:Long-termCIOPCloweringCwithCbimatoprostCinCopen-angleCglau-comaCpatientsCpoorlyCresponsiveCtoClatanoprost.CJCOculCPharmacolTherC24:517-520,C20089)NoeckerRJ,EarlML,MundorfTKetal:Comparingbima-toprostCandtravoprostinblackAmericans.CurrMedResOpinC22:2175-2180,C200610)CantorLB,HoopJ,MorganLetal:Intraocularpressure-loweringCe.cacyCofCbimatoprost0.03%CandCtravoprostC0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmolC90:1370-1373,C200611)SchnoberCD,CHubatschCDA,CScherzerML:E.cacyCandCsafetyof.xed-combinationtravoprost0.004%/timolol0.5%inpatientstransitioningfrombimatoprost0.03%/timo-lol0.5%CcombinationCtherapy.CClinCOphthalmolC9:825-832,C201512)NakanoT,MizoueS,FuseNetal:FixedcombinationoftravoprostCandCtimololCmaleateCreducesCintraocularCpres-sureCinCJapaneseCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglau-comaCorCocularhypertension:analysisCbyCprostaglandinCanalogue.ClinOphthalmolC11:55-61,C201713)西村宗作,伊藤初夏,中西正典ほか:DynamicCContourTonometerを用いたトラボプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液とビマトプロスト点眼液の眼圧下降率の比較.あたらしい眼科31:1535-1539,C201414)RannoS,SacchiM,BrancatoCetal:AprospectivestudyevaluatingCIOPCchangesCafterCswitchingCfromCaCtherapyCwithCprostaglandinCeyeCdropsCcontainingCpreservativesCtoCnonpreservedta.uprostinglaucomapatients.SciWorldJ2012:804730,C201215)HommerCA,CKimmichF:SwitchingCpatientsCfromCpre-servedCprostaglandin-analogCmonotherapyCtoCpreserva-tive-freeta.uprost.ClinOphthalmolC5:623-631,C2011***

重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術の初期成績

2018年12月31日 月曜日

《原著》あたらしい眼科35(12):1692.1695,2018c重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術の初期成績髙木理那小林未奈田中克明豊田文彦榛村真智子木下望髙野博子梯彰弘自治医科大学附属さいたま医療センター眼科CShort-termClinicalOutcomeswithAhmedGlaucomaValveImplantationintotheVitreousCavityRinaTakagi,MinaKobayashi,YoshiakiTanaka,FumihikoToyoda,MachikoShimmura,NozomiKinoshita,HirokoTakanoandAkihiroKakehashiCDepartmentofOphthalmology,JichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenterC目的:重症緑内障に対するアーメド緑内障バルブインプラント術(以下,アーメド)の初期手術成績を,バルベルト緑内障インプラント術(以下,バルベルト)と比較検討する.対象および方法:眼圧コントロール不良の重症緑内障症例に対しアーメドをC16眼に,バルベルトをC11眼に施行し,眼圧下降効果と術後合併症をC2群で比較検討した.結果:眼圧は,アーメド施行群で術後C1週間・術後C4カ月ともに術前に比べ有意に低下した(p<0.0001).バルベルト施行群においても術後C1週間・術後C4カ月ともに術前に比べ有意に低下した(p<0.05).また,術後合併症はバルベルト施行群でC5眼に認められたが,アーメド施行群では皆無であった(p<0.01).結論:アーメド,バルベルトともに術後早期より良好な眼圧下降が得られた.しかしながら術後合併症は,アーメドがバルベルトに対し有意に少なく,優れた術式と考えられた.CPurpose:Toinvestigatetheinitiale.ectofimplantingAhmedglaucomavalveimplanttubingintothevitre-ousCcavityCinCpatientsCwithCadvancedCglaucoma.CPatientsandMethods:AhmedCglaucomaCvalveCimplantCtubing(AGV)waspositionedinthevitreouscavityin16eyeswithpoorlycontrolledglaucoma.Thestudyalsoincluded11controleyestreatedwithaBaerveldtglaucomaimplant(BGI)C.Intraocularpressure(IOP)changesandpostop-erativeCcomplicationsCwereCevaluatedCinCbothCgroups.CResults:TheCIOPsCdecreasedCsigni.cantlyCwithCAGVCatC1weekand4monthspostoperatively,aswasseenalsointheBaerveldtgroup.Postoperativecomplicationsoccurredin5eyesCinCtheCBGICgroup,CbutCthereCwereCnoCcomplicationsCinCtheCAGVCgroup,CaCdi.erenceCthatCreachedCsigni.cance.Conclusions:IOPreductionswereachievedwithbothimplantsimmediatelypostoperatively.Howev-er,fewercomplicationsoccurredinassociationwithAGVthanwithBGI.TheAGVseemssuperiortotheBGIintreatingadvancedglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(12):1692.1695,C2018〕Keywords:アーメド緑内障バルブ,バルベルト緑内障インプラント,緑内障,眼圧,合併症.AhmedCglaucomaCvalve,Baerveldtglaucomaimplant,glaucoma,intraocularpressure,complications.Cはじめに眼圧コントロール不良の緑内障には最終的にトラベクレクトミーなどの濾過手術が施行されることが多い.しかしながら複数回のトラベクレクトミー施行眼や血管新生緑内障,ぶどう膜炎に続発する緑内障などの重症な緑内障ではブレブの維持が困難で,その結果,眼圧をコントロールすることが困難となる.当センターではこのような重症な緑内障に対し,より強く長期間の眼圧降下作用を求め,2014年よりバルベルト緑内障インプラント(BaerveldtglaucomaCimplant:BGI)を使用したチューブシャント手術を開始し,BGIによ〔別刷請求先〕髙木理那:〒330-8503埼玉県さいたま市大宮区天沼町C1-847自治医科大学附属さいたま医療センター眼科Reprintrequests:RinaTakagi,M.D.,DepartmentofOphthalmologyJichiMedicalUniversitySaitamaMedicalCenter,1-847Amanuma-chou,Omiya-ku,Saitama-shi,Saitama330-8503,JAPANC1692(116)るチューブシャント手術の良好な眼圧下降を示した初期成績(術後観察期間平均C100日)を報告した1).しかし,その後の長期成績をみると,術後CBGIのCHo.mannelbowやチューブが露出する合併症が多く,管理に苦慮する症例が出てきた.アーメド緑内障バルブ(AhmedCglaucomavalve:AGV)はC1993年より米国で使用され,2014年に日本で認可されたが,当センターではCBGIによるチューブシャント手術に代わるデバイスとしてC2016年より使用を開始した.AGIの種類としては前房内チューブ挿入用と硝子体腔内チューブ挿入用のC2種類があるが2),さまざまな合併症をもつ重症緑内障での前房内チューブ挿入法は角膜内皮障害などの危険性があると考え,当センターではより安全な眼圧下降をめざし,前房内チューブ挿入用のデバイスを硝子体腔内にチューブを挿入,留置する方法で手術を施行している.海外ではparsplanaclipを装着している硝子体腔挿入用アーメドバルブが販売されているが,日本では認可がなく,前房挿入用チューブを各々の施設の倫理委員会で承認を得て硝子体腔用に使用している.当センターも臨床倫理委員会で承認を得て使用している.今回はC2016年C2月.2017年C2月のCAGVによるチューブシャント手術の初期成績を,BGIによるチューブシャント手術と比較し報告する.CI対象および方法1.対象AGVによるチューブシャント手術の対象は,当センターにおいて,2016年C2月.2017年C2月に手術を受けたC15症例C16眼である.症例の内訳は男性C8人,女性C7人.平均年齢C59.1歳.原因疾患は続発緑内障がC8例と最多で,血管新生緑内障C5例,事故による失明後の高眼圧症と開放隅角緑内障がそれぞれC1例ずつであった.BGIによるチューブシャント手術の対象は,当センターにおいてC2014年C8月.2015年C12月に手術を受けたC11症例C11眼である.原因疾患は血管新生緑内障がC6例と最多で,続発性緑内障がC4例,開放隅角緑内障がC1例であった.C2.AGVによる手術方法有水晶体眼は白内障手術,有硝子体眼は硝子体手術施行後,上耳側の角膜輪部基底の約C6C×7Cmm半層強膜フラップを作製し,角膜輪部よりC3.5Cmmの毛様扁平部に挿入口を設けた.原則チューブ留置孔を含めC25CGのC3ポートを設置した.硝子体手術施行眼であってもチューブ留置付近の周辺部硝子体は極力切除郭清した.角膜輪部から約C10Cmmの位置でプレート部をC5-0ポリエステル糸で強膜に縫着した.挿入口をC20CGVランスでチューブ挿入可能な大きさまで広げた後,先端を鋭角に切断し長さを調節したチューブを挿入口より硝子体腔内に挿入した.強膜フラップをC9-0ナイロン糸で閉鎖し,8-0吸収糸でCTenon.被覆,結膜被覆縫合し終了とした.C3.BGIによる手術方法AGVと同様に有水晶体眼は白内障手術,有硝子体眼は硝子体手術施行後,角膜輪部基底において半層強膜フラップを作製し,角膜輪部よりC3.5Cmmの毛様扁平部に挿入口を設けた.挿入口をチューブ挿入可能な大きさまで広げた後,Ho.-mannelbowをつなげたチューブを硝子体腔内に挿入した.CHo.mannelbowはC9-0ナイロン糸で強膜床に縫着し,プレート両翼を外直筋・上直筋下に位置させ,強膜にC5C.0ポリエステル糸で輪部から約C10Cmmの所で縫着した.フラップ外のチューブはC8C.0吸収糸で結紮し,結紮部より輪部側のチューブにスリット状の穴を開けた(Sherwoodslit).強膜フラップをC9-0ナイロン糸で閉鎖し,8C.0吸収糸でCTenon.被覆,結膜被覆縫合した.CII結果AGV16症例の術後経過の内訳は,降圧点眼が必要な症例がC6例(38%)(平均追加点眼C0.8C±1.2剤)あったが,術後合併症やCAGV抜去が必要な症例はなかった.1症例は術後観察期間内に原因疾患である悪性リンパ腫で死亡した.術前および術後C4カ月経過観察期間で,AGV15症例の平均眼圧は術前C37.9C±14.3CmmHg,術後1週間8.9C±3.9CmmHg,術後4カ月C16.5C±7.2CmmHgであり,統計学的には術後C1週間後(p<0.0001,Cpairedt-test),術後C4カ月(p<0.0001,pairedt-test)とも有意に降下した.CBGI11症例の術後経過の内訳は,術後降圧点眼追加が必要な症例がC6例(55%)(平均追加点眼C0.5C±0.7剤),Ho.-mannelbowやチューブの露出した症例がC4例(3例はCBGI抜去),チューブ結紮糸切除も行ったが,眼圧下降が悪くAGVに入れ替えを行った症例がC1例,合併症発症率はC11眼中C5眼(45%)であった.点眼の追加などの問題なく経過した症例はC3例のみであった.チューブが露出した症例は数回結膜縫合を施行したが,縫合後チューブ再露出が続き,BGIを抜去しCAGV入れ替え施行となった.また,Ho.mannelbowが露出した症例も保存強膜で被覆を行ったが,再度露出となりCAGV入れ替え施行となった.術前および術後C4カ月の経過観察期間でCBGI8症例の平均眼圧は術前C35.9C±13.5CmmHg,術後C1週間C17.0C±13.5CmmHg,術後C4カ月C16.5C±4.5CmmHgであり,統計学的には術後C1週間後の眼圧低下(p<0.05,Cpairedt-test),術後C4カ月の眼圧低下(p<0.05,Cpairedt-test)両者とも有意であった.AGV(図1)とCBGI(図2)の術後眼圧推移を比較すると(表1),術後C4カ月での眼圧下降は両者で大きな変化は認めなかった.AGVでは多くの症例で術直後より眼圧下降が認められた.一方CBGIはCAGVに比べ眼圧下降が緩やかであり,またCBGIは症例によりばらつきがあるという結果が得7060605000眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)40302010図1アーメド緑内障バルブインプラント術15症例の眼圧推移図2バルベルト緑内障インプラント術11症例の眼圧推移表1AGVとBGIの術前,術後眼圧の比較(単位mmHg)表2AGVとBGIの合併症数の比較術前眼圧術後C1週間眼圧術後C4カ月眼圧CAGV(1C5症例)C37.9±14.3C8.9±3.9C16.5±7.2CBGI(8症例)C35.9±13.5C17.0±13.5C16.5±4.5合併症なし合併症あり合計(症例)CAGVC16C0C16CBGIC6C5C11合計C22C5C27られた.しかし,統計学的には治療C1週間後における眼圧の低下度はCAGV群とCBGI群では有意差は認めず(p=0.1758,Cunpairedt-test),治療C4カ月後でも有意差は認められなかった(p=0.7637,unpairedt-test).合併症発症はCAGBで有意に少なかった(p<0.01,Cc2検定)(表2).CIII考按AGVが日本で認可されてからCAGVを用いたチューブシャント手術の成績が報告されている3).また,海外ではCAGVとCBGIのチューブシャント手術の成績を比較した報告も多い2).本研究では,術後眼圧の推移は,図1,2に示されたように両者間で大きな違いはなかったが,BGIはCAGVに比べ眼圧下降が緩やかで,かつ症例によりばらつきがあるという結果が得られた.AGVとCBGIの大きな違いは圧調節機能の有無である.AGVには弁がついており,原則術後の低眼圧や高眼圧をきたすことはない.一方CBGIでは弁の機能がないため,チューブ結紮やチューブにスリット状の穴を開けるCSherwoodslitで初期の高眼圧に対応している.また,BGIの眼圧下降はチューブ結紮糸が解けた後に起こるため,AGVより時間がかかることが特徴である.これは図1,2の術後眼圧推移でCAVGの眼圧下降が術直後から起き,BGIは緩やかに起こることに一致している.BGI11例中,半数は術後に降圧点眼の追加が必要であったが,AGVでは点眼薬追加はC16例中C6例と少ない傾向が認められ,問題なく眼圧が下降した症例が多かったが,有意ではなかった(p=0.3811,Cc2検定).本研究ではC4カ月という短期間での比較調査であるが,BGIよりもCAGVのほうがより早期に安定した眼圧下降が得られるという結果を得た.合併症については,BGI症例でCHo.mannelbowやチューブ露出例がC4例(3例はCBGI抜去)あり,そのうちチューブ露出例では数回結膜縫合後もチューブ再露出が続いた(図3).また,Ho.mannelbow露出例(図4)も保存強膜で被覆を行ったが,再度露出となった.一方CAGV症例での合併症は当院では皆無であった.緑内障チューブシャント術のチューブ露出に関しては多くの報告がなされている.Meenakshiらはチューブ露出には年齢(若年者)と術前の炎症が関与していると報告している4).本研究のCBGI症例の平均年齢はC58.63±9.32歳,露出例は平均C56.75C±7.26歳,非露出例は平均C59.71C±9.51歳であり,両群の年齢には有意差が認められなかった(p=0.7042,Cunpairedt-test).また,露出例は網膜.離に対するシリコーンオイル充.硝子体手術後のシリコーンオイル抜去後の続発緑内障C1例と増殖糖尿病網膜症(PDR)に伴う緑内障C3例であった.他報告では血管新生緑内障も露出の危険因子にあげられている5).鼻側下方にプレート移植した場合は,上方に移植したものより露出例が多いことも多く報告されている6,7).筆者らは全例上耳側に移植しており,移植位置による違いは判断できなかった.当センターではCAGVによる露出例は現時点でも確認されていないが,AGVによる露出例も報告されており7),WilliamらはCAGV,BGIでは露出頻度に差はないと報告している8).当センターではCAGVとCBGIの露出に大きな差が出た.その要因としてCHo.mannelbowの存在が考えられた.BGIには硝子体挿入のためのCHo.mannelbowが存在する.海外ではAGVにもCHo.mannelbowに対応するCparsplanaCclipが販売されているが,日本ではまだ認可されていない.そのため,筆者らは院内の臨床倫理委員会で承認を得て前房挿入,留置用を硝子体腔内挿入,留置を施行している.プレートから出るチューブを強膜フラップ下で直接硝子体腔内に挿入することで異物のボリュームを減らすことができ,露出の危険性が減少すると考えられた.CIV結論筆者らの研究は術後C4カ月という短期間でのCAGVとCBGIの比較であったが,AVG硝体腔内チューブ挿入法は術直後の確実な眼圧下降が得られ,またチューブ露出などの合併症も皆無であった.白内障手術および硝子体手術の併用が必要ではあるが,parsplanaclipを使用せずチューブのみを硝子体に挿入,留置するほうが,むしろデバイス露出の可能性を減らすことができ,安全な方法と期待される.早期に眼圧下降を必要とする重症緑内障症例には最適な手術と考えられた.本研究はC16例と症例数が少ないため,今後より大規模な研究でCAGVの有用性を検討する必要性があると考えられた.文献1)上原志保,田中克明,太田有夕美ほか:増殖糖尿病網膜症に続発する血管新生緑内障に対する毛様体扁平部バルベルト緑内障インプラントの初期成績.あたらしい眼科C33:C291-294,C20162)ChristakisPG,KalenakJW,TsaiJC:TheAhmedVersusBaerveldtStudy:Five-yearCtreatmentCoutcomes.COph-thalmologyC123:2093-2102,C20163)植木麻理,小嶌祥太,河本良輔ほか:インプラントの種類による経毛様体扁平部チューブシャント手術の成績の比較.あたらしい眼科34:1165-1168,C20174)ChakuMC,NetlandPA,IshidaKetal:RiskfactorsfortubeexposureasalatecomplicationofglaucomadrainageCimplantsurgery.ClinOphthalmolC10:547-553,C20165)KovalCMS,CElCSayyadCFF,CBellCNPCetal:RiskCfactorsCforCtubeCshuntexposure:aCmatchedCcaseCcontrolCstudy.CJOphthalmolC2013:196215,C20136)LevinsonCJD,CGiangiacomoCAL,CBeckCADCetal:GlaucomaCdrainagedevices:riskCofCexposureCandCinfection.CAmJOphthalmolC160:516-521,C20157)Ge.enCN,CBuysCYM,CSmithCMCetal:ConjunctivalCcompli-cationsCrelatedCtoCAhmedCglaucomaCvalveCinsertion.CJGlaucomaC23:109-114,C20148)StewartCWC,CKristo.ersenCCJ,CDemonsCCMCetal:Inci-denceCofCconjunctivalCexposureCfollowingCdrainageCdeviceCimplantationinpatientswithglaucoma.EurJOphthalmolC20:124-130,C2010***

緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討

2018年5月31日 木曜日

《第28回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科35(5):684.688,2018c緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討柴田真帆豊川紀子黒田真一郎永田眼科CE.cacyandSafetyofRipasudilOphthalmicSolutionasAdjunctiveTherapyinGlaucomaPatientsMahoShibata,NorikoToyokawaandShinichiroKurodaCNagataEyeClinic目的:リパスジル点眼液追加投与の眼圧下降効果と安全性の検討.対象および方法:2016年C4.6月にリパスジル点眼液を追加投与した緑内障患者C55例C77眼を対象とした.診療録から後ろ向きに検討し,追加前眼圧と追加後C1,C3,6,9,12カ月の眼圧値,経過中の有害事象につき検討した.結果:12カ月以上点眼継続例はC39眼(51%)であり,眼圧はC18.0±5.4CmmHgからそれぞれC14.9±3.1,15.2±3.1,15.5±3.7,15.1±4.4,14.9±3.7CmmHgと有意に下降し(1,3カ月p<0.05,6,9,12カ月p<0.01,ANOVA),平均眼圧下降率はC13.6%であった.追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認めた.途中中止例C28眼の原因は有害事象(眼瞼炎とアレルギー性結膜炎)がC12眼,手術施行がC10眼,効果不十分がC6眼であった.併用点眼変更例C4眼と内服追加例C6眼については継続例から除外した.結論:リパスジル点眼液追加投与により眼圧下降効果を認め継続点眼したものは全体のC51%であった.眼局所の有害事象による点眼中止をC16%に認めた.CPurpose:Toevaluatethee.cacyandsafetyofripasudilophthalmicsolutionasadjunctivetherapyinglauco-ma.SubjectsandMethods:Intraocularpressure(IOP)changeandadversee.ectafteradjunctiveuseofripasudilwereCretrospectivelyCstudiedCinC77CeyesCofC55CglaucomaCpatients.CResults:AnCaverageCofC2.8±0.7Canti-glaucomamedicationswereinuseatstartup;39eyesreceivedcontinuoustreatmentfor12months.IOPatbaselineandat1,3,6,9and12monthsafterripasudiladditionwas18.0±5.4,C14.9±3.1,C15.2±3.1,C15.5±3.7,C15.1±4.4CandC14.9±3.7CmmHg,respectively,withsigni.cantIOPreductionatalltimeperiods.Therewassigni.cantpositivecorrelationbetweenCIOPCchangeCandCbaseline.CRegimenCwasCdiscontinuedCinC28CeyesCbecauseCofCblepharitis(9Ceyes),Callergicconjunctivitis(3),CglaucomaCsurgery(10)andCnoCIOP-loweringCe.ect(6).CPatientsCwhoCreceivedCadditionalCoralmedications(6)orCchangedCtoCotherCglaucomaCeyedrops(4)wereCexcludedCfromCtheCcontinuousCtreatmentCgroup.CConclusion:In51%ofthetotal,instillationwascontinuedwithIOP-loweringe.ect.Adversee.ects(16%)wereblepharitisandallergicconjunctivitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(5):684.688,C2018〕Keywords:リパスジル点眼液,追加投与,眼圧,安全性.ripasudilophthalmicsolution,adjunctivetherapy,in-traocularpressure,safety.Cはじめにトリクスの産生抑制,傍CSchlemm管内皮細胞の透過性亢進リパスジル塩酸塩水和物点眼液(以下,リパスジル点眼液)により,主経路からの房水流出を促進して眼圧を下降させるは,Rhoキナーゼ(ROCK)阻害薬の緑内障点眼薬である.ものである1.3).緑内障治療において眼圧下降効果が唯一効その作用機序は,線維柱帯細胞の細胞骨格の変化や細胞外マ果の認められている緑内障進行阻止方法であることから,新〔別刷請求先〕柴田真帆:〒631-0844奈良市宝来町北山田C1147永田眼科Reprintrequests:MahoShibata,M.D.,Ph.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Horai,Nara-city,Nara631-0844,JAPAN684(120)たな眼圧下降機序による緑内障点眼は治療の選択肢を増やし,追加点眼として選択薬の一つとなりうる.しかし,これまでの報告は緑内障病型と対象患者を限ったものであり,実際の臨床に基づく眼圧下降効果と安全性についての報告は少ない.今回,緑内障病型を問わずリパスジル点眼液の追加処方症例における眼圧下降効果と有害事象発生率について検討した.CI対象および方法永田眼科に通院中の緑内障患者で,緑内障病型は問わず,2016年C4月C1日.6月C30日までにリパスジル点眼液を追加処方した全症例を診療録から後ろ向きに検討した.なお,本研究は永田眼科倫理委員会で承認された.リパスジル点眼液追加前の眼圧と,処方C1,3,6,9,12カ月後の眼圧と有害事象を調査し,点眼継続例と途中中止例に分類した.継続例については眼圧下降効果を検討し,中止例についてはその原因を検索した.眼圧はCGoldmann圧平眼圧計で診療時間内に測定した.配合剤はC2剤として計算した.解析方法として,unpairedCt-test,CpairedCt-test,CKruskal-WallisCtest,chi-squareCtest,PearsonC’sCcorrelationCcoe.cientCtest,one-wayCanalysisCofCvariance(ANOVA)を用い,ANOVAで有意差がみられた場合はCDunnettの多重比較を行った.有意水準はp<0.05とした.CII結果表1に全症例と継続例の患者背景を示した.全症例C61例86眼のうち,自己都合で点眼しなかったC2例C4眼と来院のなかったC4例C5眼を除き,55例C77眼を対象とした.内訳は男性C29例C41眼,女性C26例C36眼,平均年齢C68.7C±12.1歳,追加前平均眼圧C18.8C±4.9CmmHg,平均緑内障点眼数C2.8C±0.7剤(meanC±SD)であった.このうち,12カ月以上点眼継続可能例はC39/77眼(51%)であった.途中リパスジル点眼圧(mmHg)201918171615141312前1M3M6M9M12M投与期間(mean±SE)図1継続例の眼圧経過点眼追加前に比較して全観察期間で有意な眼圧下降を認めた.*:p<0.05,**:p<0.01,one-wayANOVA+Dunnett’stestC眼液を継続しながら併用点眼の変更があったC4眼と,内服薬の追加処方があったC6眼の計C10眼(13%)は継続例の検討から除いた.図1に継続例C39眼における眼圧経過を示した.リパスジル点眼追加前の眼圧はC18.0C±5.4CmmHgであり,追加後C1,3,6,C9,C12カ月の眼圧は,それぞれC14.9C±3.1CmmHg,15.2C±3.1CmmHg,15.5C±3.7CmmHg,15.1C±4.4CmmHg,14.9C±3.7mmHgとすべての観察期間で有意に低下していた(1,3カ月p<0.05,6,9,12カ月p<0.01,one-wayANOVA+Dun-nett’sCtest).期間中の平均眼圧下降幅はC2.8C±0.3CmmHg,平均眼圧下降率はC13.6C±1.0%であった.図2に継続例C39眼におけるC12カ月後の眼圧下降率の分布を示した.開放隅角緑内障(primaryCopenCangleCglauco-ma:POAG),正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG),落屑緑内障(exfoliationCglaucoma:EXG),続発緑内障(secondaryCglaucoma:SG),混合緑内障(combined)の病型別では,眼圧下降率がC30%以上であったのはC3眼(7%;POAG2眼,EXG1眼),20.30%未満C12眼(31%;表1患者背景全症例継続例症例数55例77眼28例39眼性別男性29例41眼11例15眼女性26例36眼17例24眼年齢C68.7±12.1歳C69.7±10.1歳追加前眼圧C18.8±4.9CmmHgC18.0±5.4CmmHg点眼剤数*C2.8±0.7(1.4剤)C2.8C±0.6(2.4剤)内眼手術既往なし35眼17眼あり**42眼22眼緑内障病期初期13眼7眼中期22眼10眼後期42眼22眼*配合剤はC2剤として計算.(mean±SD)**すべての症例で術後C3カ月以上が経過.図2継続例における12カ月後の眼圧下降率の分布12カ月後の眼圧下降率がC30%以上であったのは継続例39眼中3眼,20.30%未満12眼,10.20%未満12眼,10%未満C12眼であった.C6M12M-5051015-5051015眼圧下降幅(mmHg)眼圧下降幅(mmHg)図3継続例における点眼追加前眼圧と眼圧下降幅リパスジル点眼追加C6カ月後,12カ月後とも点眼追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認めた.6カ月後p<0.001,r=0.735,12カ月後Cp<0.001,r=0.719,PearsonC’sCcorrelationcoe.cienttest.CPOAG8眼,NTG1眼,SG3眼),10.20%未満C12眼(31%;POAG7眼,NTG3眼,EXG1眼,SG1眼),10%未満C12眼(31%;POAG6眼,NTG4眼,EXGC1眼,com-binedC1眼)であった.眼圧下降率に病型別で有意差を認めなかった(p=0.67,chi-squaretest).図3にリパスジル点眼液追加前眼圧と眼圧下降幅の相関を示した.点眼前眼圧と眼圧下降幅に正の相関を認めた(6カ月p<0.001,r=0.735,12カ月Cp<0.001,r=0.719,PearsonC’scorrelationCcoe.cientCtest).さらに,年齢とC6カ月後の眼圧下降幅に正の相関を認めた(p<0.01,r=0.534,PearsonC’scorrelationcoe.cienttest).継続例を併用薬剤数別に分類すると,追加前平均眼圧はC2剤併用群C16.3C±4.1CmmHg,3剤C18.8C±5.1CmmHg,4剤C18.5C±10.3CmmHgと追加前眼圧に有意差なく(p=0.22,Krus-kal-WallisCtest),リパスジル点眼追加後の平均眼圧下降率はそれぞれC14.0C±3.8%,13.1C±3.4%,13.8C±4.1%であり,併用薬剤数別の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.87,Kruskal-Wallistest).途中点眼中止例はC28/77眼(36%)であった.有害事象による点眼中止はC12/77眼(16%)であり,内訳は眼瞼炎C9眼(追加1カ月後中止1眼,6カ月4眼,8カ月2眼,12カ月2眼),アレルギー性結膜炎C3眼(6カ月C3眼)であった.眼瞼炎とアレルギー性結膜炎に対する局所加療を継続しながらリパスジル点眼を継続したものはなかった.有害事象による中止例C12眼の平均緑内障点眼数はC2.4C±0.8剤であり,それ以外C55眼の平均緑内障点眼数C2.7C±0.6剤と有意差を認めなかった(p=0.24,unpairedt-test).手術施行による点眼中止がC10眼(POAG2眼,NTG1眼,EXGC5眼,SGC1眼,発達緑内障C1眼),無効と判断され点眼中止となったものがC6眼(POAGC3眼,NTGC1眼,EXG1眼,SGC1眼)であった.手術施行による点眼中止例C10眼の追加前眼圧はC21.1C±4.0mmHg,追加後C1,3,6,9カ月の眼圧はそれぞれC22.0C±7.6CmmHg(10眼),17.2C±2.3CmmHg(5眼),18.0C±3.4CmmHg(4眼),17.0C±5.7CmmHg(2眼)であり,有意な眼圧下降を認めなかった(それぞれCp=0.68,p=0.09,p=0.40,p=0.80,pairedCt-test).無効中止例C6眼の追加前眼圧はC17.3C±2.1CmmHg,追加後C1,3カ月の眼圧はそれぞれC16.2C±2.3CmmHg(6眼),17.5C±2.0CmmHg(4眼)であり,有意な眼圧下降を認めなかった(それぞれCp=0.21,p=0.72,pairedt-test).副作用として眼瞼炎とアレルギー性結膜炎以外の結膜充血がC7/77眼(9%),表層角膜炎については点眼追加前から認めるものがC22/77眼(29%),そのうち点眼追加による悪化がC5/77眼(6%)あったが,いずれも中止となる症例はなく,全身の副作用も認めなかった.CIII考按今回,緑内障点眼加療中の患者に対するリパスジル点眼液の追加投与により,有意な眼圧下降が得られることが示された.平均眼圧下降幅はC2.8CmmHg,平均眼圧下降率はC13.6%であった.これらの結果は,従来の報告4.8)と矛盾しないものであり,多剤併用におけるリパスジル点眼液追加加療の眼圧下降効果が確認できたと考える.眼圧下降率に病型別で有意差を認めなかったことは,今回の研究にあるような病型においては追加点眼でさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられるが,今回の対象眼には手術既往眼を含むため,病型と眼圧下降効果の正確な評価には多数例での検討を要すると考える.今回の研究で,点眼追加前眼圧と眼圧下降幅に有意な正の相関を認め,追加前眼圧の高いほうがより大きな眼圧下降を得られることが示された.これは過去の報告5,6)と矛盾しないと考える.さらに,今回は年齢と眼圧下降幅に有意な正の相関がみられた.過去にも同様の報告9)がなされているが,これについてはCROCK阻害薬のターゲット細胞としての線維柱帯細胞が減少していない病期や罹患期間を考慮する必要があると考えられ,今後多数例での検討が必要であると考える.リパスジル点眼を追加薬として評価するために,併用薬剤数の影響を検討した.今回C2.4剤の併用薬剤があったが,併用薬剤数別の眼圧下降効果に有意差を認めなかった.リパスジルの点眼追加効果は過去の報告10)同様,併用薬剤数の影響を受けにくいと考えられる.これはリパスジル点眼の新しい眼圧下降機序によるものと考えられ,多剤併用下における追加点眼として選択薬の一つとなりうることを示すと考える.今回の研究で点眼継続が中止となった有害事象は眼瞼炎とアレルギー性結膜炎であり,すべてリパスジル点眼の中止と眼局所加療によって軽快が得られた.その発現率はC16%であり,過去の報告4)と同様であった.発現時期はC1.12カ月とばらつきがあったが,点眼追加後C1カ月で眼瞼炎が発症した症例以外はC6カ月後以降の発症であった.過去の報告において,点眼追加後C3カ月の経過観察では眼瞼炎やアレルギー性結膜炎の発症による中止例は少なく5.8),点眼追加後C8週以降での発症が多いとする報告4)があることから,今回の研究のようにアレルギー性結膜炎や眼瞼炎は追加C6カ月後以降も発症し,眼瞼炎においてはC12カ月後も発症する傾向にあり,長期使用において念頭に置くべき副作用であると考えられる.また,これら有害事象による点眼中止症例の緑内障点眼数がそれ以外の症例と有意差を認めなかったことは,併用点眼数の多さが眼瞼炎とアレルギー性結膜炎の発症に関連しない可能性を示唆すると考えられた.有害事象の発現は診療時間内の他覚所見で判断したため,もっとも多いと考えられる一過性結膜充血に関しては評価できなかった.今回の充血症例は持続充血であると考えられ,過去の報告4,6)より少なく正確に評価できていない可能性があるが,充血による継続中止例は認めなかった.角膜上皮障害については,すでに多剤併用療法による角膜炎がみられたものの悪化症例については過去の報告5)と同様であり,角膜炎悪化による点眼中止症例はなく,多剤併用症例にも追加可能であると考えられた.今回点眼継続例と途中中止例に分類して検討したため,12カ月以上点眼が継続できたのは全体のC51%と約半数であったが,これは併用薬剤数が多く手術加療を検討しているような症例にリパスジル点眼液が追加されたことが要因の一つであると考えられる.つまり経過中の手術施行による点眼中止と炭酸脱水酵素阻害薬の内服追加による継続例からの除外をC16眼(21%)に認めた.手術施行以外に効果不十分・無効として中止となったものはC6眼(8%)であったが,手術介入の時期を含めこれらは主治医の判断によるものであり,点眼効果不十分の判断,点眼継続と中止の基準において評価判定が統一されていなかったため,無効例の検討については今後多数例での検証が必要であると考えられる.本研究は後ろ向き研究であり,その性質上結果の解釈には注意を要する.継続例と中止例の判断,有害事象発現率については上記のように正確に評価されていない可能性があるが,今回の検討では新たな眼圧下降機序をもつリパスジル点眼液の追加投与によって,多剤併用においてもさらなる眼圧下降が得られる可能性があると考えられた.CIV結論リパスジル点眼液は多剤併用中でも追加投与によってさらなる眼圧下降を得る可能性のある薬剤であると考えられた.有害事象は眼局所であり重篤なものはなかったが,長期にわたりその発現に注意すべきと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectofrho-asso-ciatedCproteinCkinaseCinhibitorCY-27632ConCintraocularCpressureCandCout.owCfacility.CInvestCOphthalomolCVisCSciC42:137-144,C20012)KogaCT,CKogaCT,CAwaiCMCetCal:Rho-associatedCproteinCkinaseCinhibitor,CY-27632,CinducesCalterationCinCadhesion,CcontractionCandCmobilityCinCculturedChumanCtrabecularCmeshworkcells.ExpEyeResC82:362-370,C20063)InoueT,TaniharaH:Rho-associatedkinaseinhibitors:anovelCglaucomaCtherapy.CProgCRetinCEyeCResC37:1-12,C20134)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calCevaluationCofC0.4%Cripasudil(K-115)inCpatientsCwithCopen-angleCglaucomaCandCocularChypertention.CActaCOph-thalmolC94:e26-e34,C20165)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,Cbブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンのC4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液追加処方.あたらしい眼科33:1063-1065,C20166)吉谷栄人,坂田礼,沼賀二郎ほか:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科33:1187-1190,C20167)杉山哲也,清水恵美子,中村元ほか:リパスジル点眼液の原発開放隅角緑内障に対する短期成績:眼圧・視神経乳頭血流に対する効果.あたらしい眼科33:1191-1195,C20168)InataniCH,CKobayashiCS,CAnzaiCYCetCal:E.cacyCofCaddi-pilotstudy.ClinDrugInvestigC37:535-539,CDOIC10.1007CtionalCuseCofCripasudil,CaCRho-kinaseCinhibitor,CinCpatientsC/s40261-017-0509-0,C2017withCglaucomaCinadequatelyCcontrolledCunderCmaximumC10)InoueCK,COkayamaCR,CShiokawaCMCetCal:E.cacyCandCmedicaltherapy.JGlaucomaC26:96-100,C2017safetyofaddingripasudiltoexistingtreatmentregiments9)MatsumuraCR,CInoueCT,CMatsumuraCACetCal:E.cacyCofCforCreducingCintraocularCpressure.CIntCOphthalmol:DOIripasudilasasecond-linemedicationinadditiontoapros-10.1007/s10792-016-0427-9,C2017taglandinCanalogCinCpatientsCwithCexfoliationCglaucoma:aC***

ビマトプロスト点眼液(ルミガン®点眼液0.03%)の使用成績調査

2018年3月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科35(3):399.409,2018cビマトプロスト点眼液(ルミガンR点眼液0.03%)の使用成績調査石黒美香*1北尾尚子*1末信敏秀*1川瀬和秀*2山本哲也*2*1千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部*2岐阜大学大学院医学系研究科眼科学Post-marketingStudyofBimatoprostOphthalmicSolution(LUMIGANROphthalmicSolution0.03%)MikaIshikuro1),NaokoKitao1),ToshihideSuenobu1),KazuhideKawase2)andTetsuyaYamamoto2)1)MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofOphthalmology,GifuUniversityGraduateSchoolofMedicineビマトプロスト点眼液(ルミガンCR点眼液C0.03%)の使用実態下における安全性,有効性の確認および問題点の検出などを目的として,ビマトプロスト点眼液が新たに投与された緑内障・高眼圧症患者を対象に,プロスペクティブな中央登録方式で使用成績調査を実施した.最長C24か月の観察において,副作用はC4,680例中C2,310例(49.36%)に認められ,おもな副作用は結膜充血C27.05%などの眼局所の事象であった.眼圧評価対象C4,396例における平均眼圧は投与開始時C18.8C±6.2CmmHgで,投与開始C1か月目以降のすべての観察時点において有意(p<0.0001)な下降を示し,24か月目の平均眼圧下降率はC18.2C±19.1%であった.また,いずれの病型においても投与C1か月目以降,有意な眼圧下降を示した.ビマトプロスト点眼液は副作用が一定程度発現するが,持続的な眼圧下降効果が認められ,有用な薬剤であると考えられた.Thisprospectivestudyaimstoevaluatethesafetyande.cacyoftopicalbimatoprost(LUMIGANCRCophthalmicsolution0.03%)onpatientswithglaucomaorocularhypertension(OH)C.Weenrolledpatientswhoreceivedanini-tialdoseofbimatoprost.Adversedrugreactions(ADRs)wereobservedin2,310outof4,680patientsduringthestudyperiod(upto24months).Oculareventssuchasconjunctivalhyperemia(incidencerate27.05%)comprisedtheCmajority.CMeanCintraocularCpressure(IOP)inC4,396CpatientsCwasC18.8C±6.2CmmHgCatCbaseline,Cdecreasingsigni.cantlyCatCallCobservationCpointsCafterC1Cmonth(p<0.0001)C.CAverageCIOPCreductionCrateCatC24CmonthsCwasC18.2±19.1%.CSigni.cantCIOPCreductionCwithCbimatoprostCwasCnotCassociatedCwithCanyCglaucomaCtypeCorCOH.CAlthoughsomeADRswereobservedwithitsuse,bimatoprostshowedsigni.canthypotensivee.ectinpersistent-ly.TheseresultssuggestthattopicalbimatoprostisanalternativetreatmentforglaucomaandOH.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(3):399.409,C2018〕Keywords:ビマトプロスト,ルミガンCR点眼液C0.03%,プロスタグランジン,安全性,有効性,眼圧.bimato-prost,LUMIGANRophthalmicsolution0.03%,prostaglandin,safety,e.cacy,intraocularpressure.はじめに緑内障治療の目的は視機能の維持であり,眼圧下降がエビデンスに基づく唯一の確実な治療法である1).1CmmHgの眼圧下降により緑内障性視野障害の進行リスクは約C10%低減する2).眼圧下降には,薬物治療,レーザー治療,観血的手術治療の選択肢があるが,通常は点眼薬による治療が開始される.すでに多くの緑内障治療点眼薬が存在するなかで,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬は優れた眼圧下降効果を有し,全身性の副作用が少ないことから,第一選択薬として使用されている.国内では,1994年にイソプロピルウノプロストン点眼液が発売されて以降,ラタノプロスト点眼液,トラボプロスト点眼液,タフルプロスト点眼液が〔別刷請求先〕石黒美香:〒541-0048大阪市中央区瓦町C3-1-9千寿製薬株式会社研究開発本部育薬研究推進部Reprintrequests:MikaIshikuro,MedicalScienceDepartment,SenjuPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-1-9,Kawara-machi,Chuo-ku,Osaka541-0048,JAPAN上市され汎用されており,PG関連薬による眼圧下降治療が視野障害進行の抑制に有効であったことがプラセボを対照としたランダム化比較試験により立証されている3).このように,眼圧下降を目的とした薬物治療は欠かせないものとなる一方で,薬剤の効果には個人差があり,PG関連薬を使用しても十分な眼圧下降が得られない,いわゆるノンレスポンダーが,いずれの薬剤においても一定の割合で存在することが知られている.2009年に発売されたビマトプロスト点眼液(ルミガンCR点眼液C0.03%,以下,本剤)は,新規に合成されたプロスタマイド誘導体で,強力な眼圧下降作用をもつCPG関連薬であり,緑内障治療における第一選択薬に新たな選択肢として加わった.一方,医薬品開発段階の臨床試験(治験)では,厳格なクライテリアに基づき患者が選択され,併用薬などについても厳格に管理されるが,臨床現場においては,年齢,合併症,併用薬など,さまざまな点で治験の様相と異なることから,治験で得られた情報だけでは十分とはいえず,市販後においても安全性,有効性の情報を収集・評価し,医療関係者へ提供することにより,適正使用の確保を図ることが重要となる.そこで今回,製造販売後の使用実態下における安全性,有効性の確認および問題点の検出などを目的として,2009年10月.2015年C12月まで使用成績調査(以下,本調査)を実施し,本剤の安全性および有効性(眼圧下降効果)について検討したので報告する.CI対象および方法1.調.査.方.法本調査は,本剤の使用経験のない緑内障・高眼圧症患者を対象とし,「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」(厚生労働省令第C171号)に則り,プロスペクティブな中央登録方式で実施した.2009年C10月.2012年C11月の症例登録期間に,契約医療機関において新たに本剤を投与開始した症例について,投与開始日からC14日以内に中央登録センターにCFAXすることで症例登録した.目標症例数は投与開始後C1年を超える経過観察症例として3,000例,観察期間は原則C12か月以上,最長C24か月とし,投与開始日からC3か月目,12か月目およびC24か月目までの3分冊の調査票を各観察期間終了後に回収した.調査項目は,性別,年齢,病型,合併症,本剤の投与状況,前治療薬(本剤投与前C1か月以内に使用した薬剤),併用薬,併用療法(薬物以外の療法),臨床経過(他覚所見,眼科検査),有害事象,有効性評価などとし,他覚所見および眼科検査には,結膜充血スコア,角膜フルオレセイン染色スコア,眼瞼色素沈着/虹彩色素沈着/睫毛異常の有無と推移,視力値,眼圧値,視野障害の進行有無を設定して,イベント発生を検出した.また,有害事象が発現し本剤投与を中止または終了した症例は,原則C6か月後に回復性(転帰)を確認した.なお,本調査は介入を行わない観察研究であるため,治療歴,併用する薬剤および療法,眼科検査の測定機器や測定方法などに制限は設けなかった.本調査は,医薬品医療機器総合機構による調査計画書の審査を経て,実施されたものである.C2.評.価.方.法安全性の評価対象は,投与開始以降C3か月目までに再来院のあった症例とした.本剤投与中あるいは投与後に発現した医学的に好ましくない事象(疾患,自他覚症状,臨床検査値の異常変動)を有害事象として収集し,そのうち本剤との因果関係を否定できないと判断されたものを副作用として取り扱った.副作用は,ICH国際医薬用語集日本語版(MedicalDictionaryCforCRegulatoryCActivities/J:MedDRA/J)ver-sionC20.0に基づき下層語にて分類し,発現数および発現頻度を算出した.また,重篤な副作用を検討した.主要な副作用については,1か月目,2か月目,3か月目,6か月目,12か月目およびC24か月目時点における累積発現率ならびに発現症例における本剤中止率を検討した.さらに,PG関連薬の特徴的な副作用であるくぼんだ眼(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES)について,発現ならびに本剤中止後の転帰に影響を及ぼす患者背景等因子を探索するため,Cox比例ハザードモデルによる多変量解析で検討し,ハザード比およびC95%信頼区間を求めた.転帰は,担当医師による,回復,軽快,未回復,回復したが後遺症あり,死亡および不明のC6区分での判定とした.眼圧下降効果の評価は,安全性評価対象症例のうち,投与開始時および投与後C24か月目までにC1時点以上の眼圧が測定された症例を対象に,眼圧の推移を検討した.評価眼はC1症例C1眼とし,両眼投与の場合は投与開始時の眼圧が高い眼,開始時眼圧が同値の場合は右眼とした.ただし,投与期間中に眼手術を施行した眼は除外し,休薬期間がある場合は休薬前まで,中止症例は中止時までの眼圧値を評価対象とした.眼圧の推移は,眼圧評価対象全例に加え,病型別,治療薬の使用状況別,開始時眼圧値別にも検討した.眼圧および眼圧下降率は平均±標準偏差を算出し,投与開始時と各経過観察時の眼圧を,Dunnett型の多重性調整を行った対応のあるCt検定で比較した.なお,眼圧下降率は,(開始時眼圧C.投与後眼圧)/開始時眼圧C×100(%)として算出した.統計解析は,本調査計画に則り株式会社CCACクロアで実施した.副作用の発現と転帰に影響を及ぼす因子の検討(Cox比例ハザードモデルによる多変量解析)については,解析計画策定以降に検討の必要があると判断し,千寿製薬にて追加解析を行った.統計解析ソフトはCSASC9.2およびSAS9.3(SASInstituteInc.)を用い,有意水準は両側5%とした.CII結果1.症.例.構.成528施設C1,288名の医師と契約締結し,504施設からC5,083例の調査票を収集した.このうち初診時以降に再来院がなかった症例などのC403例を除いたC4,680例を安全性評価対象症例,さらに,4,396例を眼圧評価対象症例とした(図1).C2.患.者.背.景安全性評価対象症例の患者背景を表1に示した.男性48.1%,女性C51.9%,平均年齢C67.9C±12.8歳,病型(担当医師に基づく診断名)は,狭義の原発開放隅角緑内障(primaryopenCangleCglaucoma:POAG)42.9%,正常眼圧緑内障(normalCtensionCglaucoma:NTG)37.4%,原発閉塞隅角緑内障(primaryCangleCclosureCglaucoma:PACG)4.0%,続発緑内障(secondaryCglaucoma:SG)6.5%,高眼圧症(ocu-larhypertension:OH)4.6%で,原発開放隅角緑内障(広義)がC80.3%を占めた.本剤投与前に緑内障治療点眼薬を使用していた症例は58.9%(2,758/4,680例)で,2,422例がCPG関連薬で前治療を行っており,そのうち,53.7%(1,301例)がラタノプロストからの切替え症例であった.一方,点眼治療をしていなかった症例はC39.1%であった.また,投与期間中にC43.4%の症例で他の緑内障治療点眼薬が併用された.平均投与期間はC491.7C±270.7日で,12か月(360日)以上投与された症例はC67.2%(3,143/4,680例)であった.1,859例において,24か月目までの観察期間中に投与中止または終了したことが報告され,中止理由の内訳は「転院または来院なし」45.6%(847例)「有害事象」31.8%(591例),「効果不十分」11.7%(217例),などであった(表2).C3.安全性安全性評価対象症例C4,680例のうち,49.36%(2,310例)に副作用が認められた(図1).発現率C0.1%以上の副作用は表3に示したとおりで,主要な副作用は,結膜充血C1,266件,眼瞼色素沈着C704件,睫毛の成長C655件,点状角膜炎および虹彩色素過剰が各C376件,DUES163件,睫毛剛毛化C158件,角膜びらんC157件,眼圧上昇C129件などの眼局所における事象であった.重篤な副作用としては,眼圧上昇C13件,視力低下C2件,角膜びらん,水疱性角膜症,白内障,白内障増悪,ぶどう膜炎,網膜静脈分枝閉塞,網膜中心静脈閉塞,ポスナー・シュロスマン症候群,前立腺癌,うつ病の増悪,脳梗塞およびてんかん各C1件が認められた.3.0%以上認められた副作用について,初発発現時期ならびに発現症例における本剤中止率を表4に示した.結膜充血のC59.4%が投与後C1か月目までに発現し,3か月目までには,眼瞼色素沈着,睫毛の成長,点状角膜炎,睫毛剛毛化,および角膜びらんの約C50%が発現した.投与を中止または終了した症例は,結膜充血の発現例でC44.6%(565/1,266例),眼瞼色素沈着の発現例でC39.2%(276/704例),睫毛の成長の発現例でC31.9%(209/655例),点状角膜炎の発現例で37.5%(141/376例),虹彩色素過剰の発現例でC30.3%(114/376例),DUES発現例でC74.8%(122/163例),睫毛剛毛化の発現例でC29.1%(46/158例),および角膜びらん発現例でC38.9%(61/157例)であった.DUES発現例で中止率が高く,このうち「有害事象」を理由として投与中止された割合はC70.6%(115/163例)であった.また,122例の投与中止例のうち,72.1%(88例)でCDUESの回復・軽快が確認され,最長C775日の追跡調査における未回復の割合は15.6%(19例)であった.DUESの発現ならびに本剤中止後の転帰(回復・軽快)に影響を及ぼす患者背景等因子について,Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析での検討結果を表5および表6に示した.発現への影響が想定される因子として,性別,年齢,全身性の主要合併症(高血圧,糖尿病および高脂血症)の有無,前治療CPG関連薬の有無を検討項目とし,一方,転帰に関しては,本剤投与期間も検討因子とした.DUES発現に関連する因子として,女性(ハザード比2.40,p<0.0001),糖尿病(ハザード比0.50,p=0.0298),および前治療CPG関連薬(ハザード比C0.50,p<0.0001)に有意差を認め,DUESの回復・軽快に関連する因子としては,本剤投与期間(ハザード比C0.81,p=0.0010)に有意差を認めた.C4.眼圧下降効果眼圧評価対象症例C4,396例の投与開始時の眼圧(平均C±標準偏差)は,18.8C±6.2CmmHgであった.開始時以降C24か月目までの眼圧推移は図2に示したとおりであり,投与開始C1か月目以降すべての経過観察時点において,投与開始時に比べ有意な眼圧下降を認め(p<0.0001),24か月目の眼圧は表1患者背景患者背景項目症例数(%)男性2,249(C48.1)性別女性2,430(C51.9)調査不能1(0C.0)年齢(投与開始時)病型(本剤投与眼)投与期間40歳未満40歳以上C65歳未満65歳以上C75歳未満75歳以上平均値±標準偏差C最小.最大緑内障POAG(狭義)NTGPACGSGその他の緑内障OHその他(複数の使用理由を含む)30日未満30日以上C60日未満60日以上C90日未満90日以上C180日未満180日以上C360日未満360日以上C540日未満540日以上C720日未満720日以上不明平均値±標準偏差C145(3.1)1,477(31.6)1,475(31.5)1,583(33.8)67.9±12.811.984,260(91.0)2,008(42.9)C1,752(37.4)C185(4.0)C306(6.5)9(0.2)C216(4.6)204(4.4)1,577(33.7)3,103(66.3)3,281(70.1)1,399(29.9)70(1.5)3,869(82.7)741(15.8)68(1.5)3,874(82.8)738(15.8)1,798(38.4)2,340(50.0)542(11.6)1,094(23.4)1,328(28.4)336(7.2)1,829(39.1)93(2.0)1,301(53.7)531(21.9)520(21.5)70(2.9)あり2,032(43.4)なし2,648(56.6)443(9.5)4,212(90.0)25(0.5)225(4.8)228(4.9)214(4.6)420(9.0)450(9.6)376(8.0)1,614(34.5)1,153(24.6)0(0.0)491.7±270.7眼手術歴(本剤投与眼)合併症(眼疾患)合併症(肝疾患)合併症(腎疾患)合併症(その他の疾患)本剤投与前の緑内障点眼治療本剤へ切替え前のPG関連薬(多剤併用を含む)緑内障治療の併用点眼薬(本剤投与眼)併用療法(非薬物療法)ありなしありなしありなし不明ありなし不明ありなし不明PG関連薬(配合剤を含む)PG関連薬+PG関連薬以外PG関連薬以外前治療なし不明他ラタノプロスト(配合剤を含む)トラボプロスト(配合剤を含む)タフルプロストイソプロピルウノプロストンありなし不明POAG:原発開放隅角緑内障,NTG:正常眼圧緑内障,PACG:原発閉塞隅角緑内障,SG:続発緑内障,OH:高眼圧症,PG:プロスタグランジン.402あたらしい眼科Vol.35,No.3,2018(120)表2投与中止理由表3副作用発現状況(0.1%以上発現した副作用)中止理由症例数*構成比(%)転院または来院なしC847C45.6有害事象C591C31.8効果不十分C217C11.7その他C180C9.7複数の理由C24C1.3計C1,859C100.0*両眼投与例では,両眼ともに中止した症例.14.4±3.9CmmHg,眼圧下降率(平均C±標準偏差)はC18.2C±19.1%であった.病型別では,POAG,NTG,PACG,SG,OHのいずれにおいても,投与開始C1か月目以降のすべての観察時点で有意に眼圧が下降し,24か月目の下降率はC15.7.24.7%であった(図3).緑内障治療点眼薬の使用状況別の眼圧推移は,図4に示したとおりであり,点眼前治療がなく観察期間中を通して本剤単剤が投与された新規単剤投与群,PG関連薬から本剤単剤への切替え群,Cb受容体遮断薬(以下,Cb遮断薬)単剤から本剤単剤への切替え群,ならびにCb遮断薬への本剤単剤追加群において,各観察時点の眼圧は有意に下降した.24か月目の眼圧下降率は,新規単剤投与群およびCb遮断薬単剤から本剤単剤切替え群でC23.4%,Cb遮断薬への本剤単剤追加群でC22.5%,PG関連薬から本剤単剤切替え群で13.8%であった.さらに新規単剤投与症例を投与開始時の眼圧値別に検討したところ,開始時眼圧が20mmHg以上,15CmmHg以上C20CmmHg未満およびC15CmmHg未満のいずれの症例群でも,投与開始C1か月目以降すべての観察時点で有意な眼圧下降を示し,開始時眼圧が高い症例ほど眼圧下降率が高い傾向を認めた(図5).新規単剤投与症例において,投与開始後C1か月目の眼圧下降率がC10%未満であった症例はC181例(15.7%)存在した.病型別ではCNTGおよびCOH,開始時眼圧別では開始時眼圧の低い症例群ほど,眼圧下降率C10%未満の割合が高かった(表7).CIII考按本調査は,本剤の販売開始に伴いC2009年C10月.2015年12月に実施し,全国の医療機関より安全性評価対象症例としてC4,680例,眼圧評価対象症例としてC4,396例を集積した.24か月の観察において副作用は,安全性評価対象C4,680例中C2,310例C49.36%と高頻度に認められた.副作用発現件数はC4,635件であり,そのうちC4,586件C98.9%が眼局所の副作用であった.PG関連薬は全身性の副作用が少ない反面,眼局所に特徴的な副作用が発現する.PG関連薬の代表的な眼局所副作用として,結膜充血,眼瞼や虹彩の色素沈着,睫(121)C副作用の種類発現数(%)眼局所の副作用C4,586結膜充血1,266(27.05)眼瞼色素沈着704(15.04)睫毛の成長655(14.00)点状角膜炎376(8.03)虹彩色素過剰376(8.03)くぼんだ眼(DUES)163(3.48)睫毛剛毛化158(3.38)角膜びらん157(3.35)眼圧上昇129(2.76)睫毛乱生56(1.20)眼そう痒症49(1.05)眼乾燥40(0.85)眼刺激36(0.77)眼瞼炎28(0.60)眼痛28(0.60)結膜炎27(0.58)眼の異物感25(0.53)視力低下24(0.51)アレルギー性結膜炎18(0.38)眼の違和感18(0.38)眼瞼の多毛症17(0.36)眼の異常感13(0.28)白内障12(0.26)眼精疲労11(0.24)霧視11(0.24)眼瞼皮膚炎10(0.21)眼瞼紅斑10(0.21)黄斑浮腫10(0.21)眼瞼そう痒症10(0.21)眼瞼浮腫9(0.19)眼瞼縁炎9(0.19)眼乾燥感8(0.17)糸状角膜炎8(0.17)白内障増悪7(0.15)結膜下出血7(0.15)眼脂5(0.11)*麦粒腫5(0.11)虹彩炎5(0.11)乾性角結膜炎5(0.11)ぶどう膜炎5(0.11)その他(<0.10%)C76眼局所以外の副作用C49頭痛6(0.13)その他(<0.10%)C43*:添付文書の「使用上の注意」から予測できない副作用(2015年C7月改訂の添付文書に基づく)毛の伸長・増加,prostaglandinCassociatedCperiorbitopathy(PAP)などが報告されており4),本剤にも含有される防腐剤のベンザルコニウム塩化物の長期曝露により,角膜上皮障害が生じることも知られている.本調査で認められた主要な副表4副作用発現時期と中止率累積発現率*(%)有害事象を副作用の種類発現数中止率(%)理由とする1か月2か月3か月6か月12か月24か月中止率(%)結膜充血C1,266C59.4C72.3C81.2C91.4C96.3C100.0C44.6C24.5眼瞼色素沈着C704C17.8C34.2C52.0C74.3C88.1C100.0C39.2C25.3睫毛の成長C655C10.8C27.3C46.9C73.1C89.6C100.0C31.9C16.2点状角膜炎C376C24.0C37.6C49.9C65.9C84.8C100.0C37.5C17.6虹彩色素過剰C376C13.4C25.5C39.4C67.3C85.3C100.0C30.3C11.7CDUESC163C16.0C21.8C36.5C59.6C76.3C100.0C74.8C70.6睫毛剛毛化C158C17.9C35.9C51.3C73.7C93.6C100.0C29.1C14.6角膜びらんC157C26.8C40.1C52.9C71.3C89.8C100.0C38.9C21.0*:発現時期不明の症例を除外して算出.表5Cox比例ハザードモデル分析によるDUES発現に影響する因子の検討因子リファレンスハザード比95%信頼区間p値性別男性C2.401.64.3.50<0.0001年齢連続量(10歳あたり)C1.060.92.1.21C0.4389高血圧なしC1.130.75.1.69C0.5702糖尿病なしC0.500.27.0.94C0.0298高脂血症なしC1.140.61.2.16C0.6781前治療(PG関連薬)なしC0.500.35.0.70<0.0001表6Cox比例ハザードモデル分析によるDUESの回復・軽快に影響する因子の検討因子リファレンスハザード比95%信頼区間p値性別男性C0.670.38.C1.16C0.1484年齢連続量(1C0歳あたり)C1.010.81.C1.25C0.9481高血圧なしC1.240.64.C2.41C0.5180糖尿病なしC0.930.28.C3.07C0.8987高脂血症なしC0.970.36.C2.66C0.9591前治療(PG関連薬)なしC0.630.39.C1.04C0.0699本剤投与期間連続量(9C0日あたり)C0.810.71.C0.92C0.0010C作用は,結膜充血C27.05%,眼瞼色素沈着C15.04%,睫毛の成長C14.00%,点状角膜炎C8.03%,虹彩色素過剰8.03%,DUES3.48%,睫毛剛毛化C3.38%,角膜びらんC3.35%などであり,おおむね既報と同様であった.重篤な副作用がC27件あったが,そのうち眼圧上昇および視力低下については,半数において効果不十分によるものと判定されており,原疾患の進行によるものと推察された.また,その他の重篤事象も含め,投与後の発症あるいは判定不能などの理由により,因果関係を否定されなかったものが大部分であり,本剤との関連性が明確な事象は少なかった.投与開始からの初発時期は,結膜充血の約C60%がC1か月目まで,眼瞼色素沈着,睫毛の成長,点状角膜炎,睫毛剛毛化および角膜びらんの約C50%がC3か月目までに認められた.虹彩色素過剰およびCDUESを含めた主要な眼局所の副作用において,累積発現率はC6か月目までに約C60%以上を示し,以降C24か月目まで経時的に発現率が上昇していることから,投与期間中を通じた観察が重要であり,とくに投与早期は注意深く経過観察する必要があると考えられる.24か月目までにC1,859例と多数の症例で本剤の投与中止・終了が報告され,その中止理由の内訳は「転院または来院なし」(847例)がもっとも多く,ついで「有害事象」(591例)が多かった.「転院または来院なし」では,そのC41.0%(347例)がC3か月目までの投与開始早期に中止となっていた.また,847例中C444例が本剤投与前に緑内障の点眼治療を行っていない新規症例であり,新規症例で投与早期に来院が途絶えた割合が高かった.来院が途絶えた真の理由は定かではないが,自己判断で中止した症例の存在が推察され,患者自身が本剤による治療の必要性を理解し納得したうえで治療を継3025201510眼圧(mmHg)0開始時12369121518212424か月目経過観察期間(月)眼圧下降率n=(4,396)(3,412)(2,731)(3,420)(2,680)(2,799)(2,191)(2,130)(2,015)(1,812)18.2±19.1%(2,795)*:p<0.0001(vs開始時)図2眼圧評価対象全例の眼圧推移30252015100眼圧(mmHg)POAG(1,981)(1,542)(1,276)(1,278)(1,604)(1,278)(1,336)(1,048)(1,004)(964)(868)経過観察期間(月)24か月目眼圧下降率19.4±19.9%NTG(1,704)(1,310)(1,076)(1,008)(1,291)(1,000)(1,037)(828)(816)(757)(703)15.7±16.5%PACG(170)(139)(106)(109)(127)(97)(108)(85)(82)(78)(66)17.2±25.2%SG(303)(249)(205)(198)(227)(177)(173)(130)(127)(123)(86)24.7±23.2%OH(217)(156)(120)(125)(156)(119)(131)(91)(92)(83)(83)21.0±17.1%*:p<0.0001(vs開始時)図3病型別の眼圧推移30252015100眼圧(mmHg)新規単剤(1,443)(846)(1,020)(744)(760)(588)(563)(555)(494)(1,151)(797)PG関連薬/開始時12369121518212424か月目経過観察期間(月)眼圧下降率23.4±16.3%本剤切替えb遮断薬/本剤切替えb遮断薬に本剤追加(850)(624)(530)(545)(653)(522)(529)(422)(416)(363)(339)13.8±17.6%(100)(79)(59)(62)(67)(50)(55)(38)(37)(35)(33)23.4±13.5%(48)(33)(37)(26)(34)(32)(32)(23)(26)(22)(21)22.5±17.4%*:p<0.0001,††:p<0.001(vs開始時)図4緑内障治療点眼薬の使用状況別の眼圧推移3025開始時123691215182124眼圧(mmHg)201510020mmHg以上(549)(430)(296)(302)(388)(280)(296)(218)(212)(210)(182)15mmHg以上経過観察期間(月)24か月目眼圧下降率31.6±14.9%(565)(455)(346)(302)(412)(297)(303)(237)(232)(227)(203)20.6±13.9%20mmHg未満15mmHg未満(329)(266)(204)(193)(220)(167)(161)(133)(119)(118)(109)14.8±16.7%*:p<0.0001(vs開始時)図5開始時眼圧値別の眼圧推移(新規単剤投与症例)表7新規単剤投与症例の1か月目の眼圧下降率眼圧(mmHg)眼圧下降率眼圧下降率開始時1か月目(%)10%未満新規単剤投与全例C18.7±5.8C13.7±3.7C24.7±15.815.7%(C181/1,151)病型CPOAGC21.8±5.0C15.5±3.6C28.3±15.111.0%(C41/372)CNTGC15.5±2.8C12.1±2.5C21.2±14.418.8%(C120/638)CPACGC20.3±4.9C14.3±3.5C26.3±12.213.0%(C3/23)CSGC27.6±9.7C15.6±5.3C38.6±21.29.8%(C5/51)COHC24.6±4.3C17.6±4.4C28.1±19.118.8%(C12/64)開始時眼圧20CmmHg以上C24.4±5.0C16.3±3.8C32.1±15.47.2%(C31/430)15CmmHg以上C20CmmHg未満C16.8±1.4C13.0±2.4C22.6±13.415.4%(C70/455)15CmmHg未満C12.5±1.5C10.5±2.2C16.5±15.430.1%(C80/266)続し,経過観察のために定期的に受診すること,すなわちアドヒアランス改善の必要性が示唆された.「有害事象」を理由に中止した症例においては,1か月目までの中止がC171例(28.9%)と突出して多く,このうちC109例が結膜充血の発現症例であった.すなわち,投与開始早期に好発する結膜充血を理由に治療から脱落する症例が多いことが示唆された.一方,副作用発現例について述べると,結膜充血および眼瞼色素沈着を発現した症例では,約C25%が有害事象を理由に本剤を中止した.結膜充血は点眼開始時にとくに強く,投与継続により症状が軽減することが多い.Arcieriらは,ラタノプロスト,ビマトプロストおよびトラボプロストの投与群で,結膜充血スコアは投与C1週間後に有意に上昇し,15日後に最大となり,1か月後に低下しはじめたと報告している5).また,眼瞼色素沈着は洗顔前に点眼することで発現を抑制できる可能性がある.したがって,治療開始時に患者への副作用の説明や点眼指導を十分に行うことにより,有害事象による脱落を低減できる余地があると考える.日本人のCDUES発現頻度は,投与前後の写真を比較した結果によると,ビマトプロストのC1.6か月投与でC44.60%6),3か月以上投与でC60%7)と報告されているが,本調査ではC3.48%であり大きく乖離していた.その要因として,治験時の発現頻度がC2.17%(7/323例)であり,調査開始当時は現在と比較しCDUESの認知度が低かったこと,ならびに脱落症例が多かったことが考えられた.また,患者自身による自覚と写真による客観的判定とは一致率が低く7),自覚できないほど軽度の変化も写真では検出されることから,写真判定による緻密な評価を調査項目としなかったことが発現率の乖離にもっとも強く影響したと考えられた.Aiharaらは,ラタノプロストからビマトプロストへ変更した症例でCDUES発現群と非発現群の背景因子を比較した結果,高年齢および非近視眼でCDUESの発現頻度が高く,性別および眼圧下降値は関連がなかったと報告している6).今回,DUES発現に影響する因子の検討において,性別,糖尿病の有無,前治療CPG関連薬の有無に有意差があった.一方,DUESの回復・軽快に関連する有意な因子は,本剤投与期間のみであった.女性の発現リスクが男性のC2.4倍であった結果は既報と相違していたが,写真判定をしていないこと,およびCDUESが美容的な副作用であることを勘案すると,美容上の変化に敏感な女性における自覚症状の訴えが強く反映された可能性がある.また,糖尿病症例はCDUES発現のハザード比が低かった.糖尿病患者は概してCBMIが高いため,眼瞼の変化が不明瞭であった可能性や,糖尿病治療薬の使用による影響などが推察されるが,当該症例群に関する周辺情報の収集が不十分であり,詳細を検討することはできなかった.前治療CPG関連薬の使用例では発現リスクが低下し,回復・軽快のハザード比も,有意差はないが低い傾向にあった.前治療にCPG関連薬を使用していた症例のなかには,認識の有無にかかわらず,本剤開始時点ですでに眼瞼の変化が出現していた症例が存在し,本剤投与後の眼瞼の変化量が小さかったことにより,DUES検出率が低下した可能性が考えられた.ただし,いったんイベントと判断される変化が生じたときは,PG関連薬の非使用例よりも回復しづらいと推察される.本剤中止後にはCDUESのC72.1%が回復・軽快したが,本剤投与期間についての回復・軽快のハザード比はC0.81であり,投与の長期化に伴い回復しづらくなる傾向が示唆された.なお,中止後の使用薬剤は調査しておらず,その関連は不明であった.前治療CPG関連薬の有無別での副作用発現率は,結膜充血20.89%およびC34.32%,眼瞼色素沈着C12.72%およびC18.01%,虹彩色素過剰C6.36%およびC10.02%,睫毛の成長C11.81%およびC16.81%,睫毛剛毛化C2.81%およびC4.06%,睫毛乱生C0.70%およびC1.71%であり,いずれの事象も前治療にCPG関連薬を使用した症例,すなわち他のCPG関連薬からの切替え例で発現率が低かった.ラタノプロスト治療後にビマトプロストを投与した集団で,結膜充血の発現が有意に低かった報告8)があり,本調査でも結膜充血は同じ傾向であった.また,結膜充血を含めこれらの事象はCPG関連薬の代表的副作用であり,発現に対する前治療CPG関連薬の影響は,前述のDUESと同様であると思われた.ビマトプロストの長期投与時の眼圧下降効果は,これまでに複数報告されている.投与前眼圧C25.0CmmHgの患者で点眼C24か月の眼圧下降値がC7.8CmmHg9),新たにCPOAGと診断され,投与前眼圧C24.7CmmHgの患者でC2年後の眼圧下降率がC32.0%10),投与前眼圧C16.7CmmHgのCNTG患者でC24か月後の眼圧下降率がC18.6%11),ラタノプロストで効果不十分なためビマトプロストに変更した,投与前眼圧が右眼C23.1mmHg,左眼C22.3CmmHgの患者では6.24か月後の眼圧下降率が右眼C17.8.22.0%,左眼C15.0.24.0%12)であり,いずれの報告もC24か月以上の長期にわたり眼圧下降効果が認められたことを示しているが,200例未満を対象とした評価結果であった.今回,眼圧評価対象C4,396例における眼圧下降効果を検討したところ,開始時眼圧はC18.8CmmHgで,投与開始C1か月目以降のすべての観察時点で有意に眼圧が下降し,24か月目の眼圧下降率はC18.2%であった.病型別,緑内障治療点眼薬の使用状況別,ならびに新規単剤投与症例の投与開始時の眼圧値別で眼圧推移を検討した結果,いずれも有意な眼圧下降を認め,緑内障病型や開始時眼圧を問わず,他の緑内障治療点眼薬からの切替えおよび併用でもC24か月目まで眼圧下降効果は継続した.なお,治療効果を判定するには無治療時の眼圧を把握することが重要であり,無治療時の眼圧が低いほど目標眼圧を低く設定1)し治療が進められる.すなわち,本調査において,とくに新規単剤投与で投与開始時C15CmmHg未満の症例においても,1か月後に有意な眼圧下降が認められたことの意義は大きい.本調査では,ウノプロストンもCPG関連薬として取り扱った.また,PG関連薬とCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤とを明確に区別することができなかった.よって,緑内障治療点眼薬の使用状況別の検討における「PG関連薬から本剤単剤への切替え」群の眼圧推移は,ウノプロストンからの切替え症例およびCPG関連薬/Cb遮断薬配合剤からの切替え症例を含む結果である.また,Cb遮断薬から本剤へ切替えた群と本剤を追加した群とのC24か月目の眼圧下降率が同程度であったが,両群の患者背景などに相違があったためと推察された.新規単剤投与症例では,投与開始C1か月目において眼圧下降率C10%未満の症例がC15.7%あり,その割合は,病型別ではCNTGおよびCOH,開始時眼圧別では開始時眼圧が低い症例群で高い傾向が認められた.PG関連薬のノンレスポンダーを検討した報告では,眼圧下降率C10.0%未満をノンレスポンダーと定義した場合,ラタノプロストのC1.6か月投与でC14.3.20.9%13,14),タフルプロストのC12.48週投与で12.8.18.2%15)であったとされ,直接比較はできないが,本剤においてもノンレスポンダーは同程度存在することが推察された.しかしながら,ノンレスポンダーの定義は明確ではなく,1か月目の眼圧下降率のみで判定することは困難であり,アドヒアランス不良の可能性などもあることから,判定にはさらなる検討が必要である.緑内障は慢性に経過する進行性の疾患であり,視野障害の進行を抑制するためには,長期間にわたって眼圧を良好にコントロールする必要がある.今回の検討結果は,前治療の効果や反応性,薬剤変更によるアドヒアランスの向上,目標眼圧が達成された症例のみが評価された可能性など,さまざまなバイアスの存在が考えられるものの,本剤投与によりC24か月にわたって一定の持続的な眼圧下降が認められ,新規単剤投与例でのC24か月目の眼圧下降率がC23.4%であったことは,視野維持への寄与が十分に期待できる結果と考えられる.また,緑内障薬物治療の原則は必要最小限の薬剤と副作用で最大の効果を得ること1)であり,単剤での治療をめざすため,ノンレスポンダーを含め効果が不十分な場合,薬剤耐性が生じた場合は,他の薬剤への変更が検討されることとなる.本調査でCPG関連薬からの切替え症例においても有意な付加的眼圧下降が認められたことから,他のCPG関連薬の投与症例で薬剤変更が必要となった場合にも,本剤は有用な選択肢となると考えられた.一方で,副作用が高頻度に発現することが改めて確認された.副作用の種類はおおむね従来の報告から推定される範囲にあると判断されるが,主要な副作用の発現例ではC29.1.74.8%が投与中止に至っており,投与に際しては引き続き注意深く経過観察を行い,眼圧下降と副作用のバランスを図りながら総合的に投与継続の可否を判断する必要があると考える.謝辞:本調査にご協力を賜り,貴重なデータをご提供いただきました全国の先生方に,深謝申し上げます.利益相反:本稿は,千寿製薬株式会社により実施された使用成績調査結果に基づき報告された.石黒美香,北尾尚子,末信敏秀は千寿製薬株式会社の社員である.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン(第C3版).日眼会誌116:3-46,C20122)LeskeCMC,CHeijlCA,CHusseinCMCetCal:FactorsCforCglauco-maCprogressionCandCtheCe.ectCofCtreatment:theCearlyCmanifestCglaucomaCtrial.CArchCOphthalmolC121:48-56,C20033)Garway-HeathDF,CrabbDP,BunceCetal:LatanoprostforCopen-angleCglaucoma(UKGTS):aCrandomised,Cmulti-centre,Cplacebo-controlledCtrial.CLancetC385:1295-1304,20154)地庵浩司,木内良明:プロスタグランジン関連薬の臨床.眼科C58:1435-1440,C20165)ArcieriCES,CSantanaCA,CRochaCFNCetCal:Blood-aqueousCbarrierCchangesCafterCtheCuseCofCprostaglandinCanaloguesinCpatientsCwithCpseudophakiaCandCaphakia:aC6-monthCrandomizedtrial.ArchOphthalmolC123:186-192,C20056)AiharaM,ShiratoS,SakataR:IncidenceofdeepeningoftheCupperCeyelidCsulcusCafterCswitchingCfromClatanoprostCtobimatoprost.JpnJOphthalmolC55:600-604,C20117)InoueCK,CShiokawaCM,CWakakuraCMCetCal:DeepeningCofCtheCupperCeyelidCsulcusCcausedCbyC5CtypesCofCprostaglan-dinanalogs.JGlaucomaC22:626-631,C20138)KurtzCS,CMannCO:IncidenceCofChyperemiaCassociatedCwithbimatoprosttreatmentinnaivesubjectsandinsub-jectsCpreviouslyCtreatedCwithClatanoprost.CEurCJCOphthal-molC19:400-403,C20099)CohenCJS,CGrossCRL,CCheethamCJKCetCal:Two-yearCdou-ble-maskedCcomparisonCofCbimatoprostCwithCtimololCinCpatientswithglaucomaorocularhypertension.SurvOph-thalmolC49:S45-S52,C200410)KaraCC,C.enCEM,CElginCKUCetCal:DoesCtheCintraocularCpressure-loweringCe.ectCofCprostaglandinCanaloguesCcon-tinueCoverCtheClongCterm?CIntCOphthalmolC37:619-626,C201711)InoueCK,CShiokawaCM,CFujimotoCTCetCal:E.ectsCofCtreat-mentwithbimatoprost0.03%for3yearsinpatientswithnormal-tensionglaucoma.ClinOphthalmolC8:1179-1183,C201412)SontyCS,CDonthamsettiCV,CVangipuramCGCetCal:Long-termCIOPCloweringCwithCbimatoprostCinCopen-angleCglau-comaCpatientsCpoorlyCresponsiveCtoClatanoprost.CJCOculCPharmacolTherC24:517-520,C200813)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼C59:553-557,C200514)小松務,上野脩幸:広義の原発開放隅角緑内障に対するラタノプロスト点眼の眼圧下降効果.眼臨C100:492-495,C200615)中内正志,岡見豊一,山岸和矢:正常眼圧緑内障患者におけるタフルプロスト点眼液の長期眼圧下降効果.あたらしい眼科C28:1161-1165,C2011C***

久留米大学における若年者の緑内障に対する線維柱帯切開術の成績

2017年12月31日 日曜日

《原著》あたらしい眼科34(12):1765.1770,2017c久留米大学における若年者の緑内障に対する線維柱帯切開術の成績照屋健一*1山川良治*2*1出田眼科病院*2久留米大学医学部眼科学講座CResultsofTrabeculotomyforTreatmentofGlaucomainYoungPatientsatKurumeUniversityHospitalKenichiTeruya1)andRyojiYamakawa2)1)IdetaEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KurumeUniversitySchoolofMedicine20歳未満に発症した若年者の緑内障における線維柱帯切開術について検討した.初回手術に線維柱帯切開術を施行し,術後C6カ月以上経過観察できたC24例C39眼を対象とした.発症がC3歳未満の早発型発達緑内障C5例C9眼をCI群,3歳以降の遅発型発達緑内障C11例C18眼をCII群,隅角以外の眼異常を伴う緑内障とステロイド緑内障を合わせたC8例12眼をCIII群とした.各群の術前平均眼圧は,I群がC28.9C±11.2CmmHg,II群がC33.0C±10.1CmmHg,III群がC31.6C±7.4mmHgで,平均経過観察期間は,I群がC8.8C±1.6年,II群がC3.1C±1.8年,III群がC4.1C±2.6年であった.初回手術の成功率は,I群はC100%,II群はC72.2%,III群はC91.7%,全体ではC84.6%であった.39眼中C6眼(15.4%)に追加手術を施行した.若年者の緑内障において,線維柱帯切開術は有効と確認された.CWeCreviewedCtheCsurgicalCoutcomeCofCtrabeculotomyCforCglaucomaCinCyoungCpatientsCatCKurumeCUniversityCHospital.Subjectscomprised39eyesof24patientswithmorethan6months’follow-up,whohadundergonetra-beculotomyCasCtheCprimaryCsurgery.CWeCclassi.edCtheCpatientsCintoC3Cgroups:GroupCI,CdevelopmentalCglaucoma,included9eyesof5patientswithonsetwithin3yearsofage;GroupII,developmentalglaucoma,included18eyesof11patientswithonsetafter3yearsofage;GroupIII,glaucomaassociatedwithotherocularanomaliesandste-roidCglaucoma,CincludedC12CeyesCofC8Cpatients.CTheCaverageCintraocularCpressure(IOP)beforeC.rstCtrabeculotomyCwas28.9±11.2CmmHginGroupI,33.0±10.1CmmHginGroupIIand31.6±7.4CmmHginGroupIII.ThesuccessrateforCinitialCtrabeculotomyCwasC100%CinCGroupCI,C72.2%CinCGroupCII,C91.7%CinCGroupCIIICandC84.6%CinCtotal.CSixCeyes(15.4%)underwentadditionalsurgeries.Trabeculotomyiscom.rmedasusefulforglaucomainyoungpatients.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C34(12):1765.1770,C2017〕Keywords:若年者,発達緑内障,線維柱帯切開術,眼圧,手術成績.youngpatients,developmentalglaucoma,trabeculotomy,intraocularpressure,surgicale.ect.Cはじめに若年者の緑内障は,発達緑内障と続発緑内障がおもなものと考えられる.発達緑内障は隅角のみの形成異常による発達緑内障と隅角以外の先天異常を伴う発達緑内障に大別される.発達緑内障は先天的な隅角の発育異常により生じる房水流出障害が病因ゆえ,原則として外科的治療が主体になる1).また,小児の緑内障では各種検査が成人同様には行えないなどの側面から診断が遅れる場合も少なくない.さらに,角膜混濁や隅角発生異常,他の眼異常を伴うなど,手術の難度を高くする要素が多い.本疾患は早期の診断と早期手術が重要で,その成否が患児の将来を左右することはいうまでもない.若年者の緑内障の手術療法としては,濾過手術やCtubeshunt手術は術後管理がむずかしく,第一選択の術式として,術後管理が容易な線維柱帯切開術が行われている.今回,筆者らは久留米大学病院眼科(以下,当科)におけ〔別刷請求先〕照屋健一:〒860-0027熊本市中央区西唐人町C39出田眼科病院Reprintrequests:KenichiTeruya,M.D.,IdetaEyeHospital,39Nishitoujin-Machi,Chuo-ku,KumamotoCity860-0027,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(127)C1765る若年者の緑内障の初回手術としての線維柱帯切開術の成績を検討したので報告する.CI対象および方法対象は,20歳未満で発症した緑内障で,1999年C2月.2009年C12月に当科で初回手術として線維柱帯切開術を施行し,6カ月以上経過観察できたC24例C39眼(男性C15例C23眼,女性C9例C16眼)である.初診時平均年齢は,11.0C±8.2歳(1.9カ月.22.5歳)であった.病型の分類は,隅角のみの異常にとどまる発達緑内障のうち,Gorinの分類2)により,3歳未満発症の早発型をCI群,3歳以降発症の遅発型をCII群,隅角以外の眼異常を伴う発達緑内障と続発緑内障をCIII群とした.I群5例9眼,II群11例18眼,III群8例12眼であった.III群の内訳は,Sturge-Weber症候群C2例C2眼,Axen-feld-Rieger症候群C1例C1眼,無虹彩症C2例C4眼,ステロイド緑内障C3例C5眼であった.なお,II群のC3例C5眼は,初診時C20歳を超えていたが,問診や前医からの診療情報から発症はC20歳未満と推測され,さらに隅角所見が全C5眼とも高位付着を認めたため,遅発型発達緑内障と診断した.手術時の平均年齢は,I群でC0.8C±0.9(0.2.3.3)歳,II群でC19.8C±3.9(13.2.26.1)歳,III群でC10.4C±7.5(0.3.20.4)歳であった.術前の平均眼圧は,I群はC28.9C±11.2mmHg,II群はC33.0±10.1CmmHg,III群はC31.6C±7.4CmmHg,術後平均経過観察期間は,I群でC8.8C±1.6年,II群でC3.1C±1.8年,III群でC4.1±2.6年であった(表1).I群で受診の契機になったのはC5例中C4例が片眼の角膜混濁で,そのうちC2眼はCDescemet膜断裂(Haabs線)を認め,反対眼も含めてC9眼すべて角膜径は月齢の基準と比較して拡大していた(表2).他に角膜径の測定を行ったのは,II群の2眼,III群のCSturge-Weber症候群のC2眼であった.II群の2眼はC11.5Cmmで正常であったが,III群のC2眼は,それぞれC12.5CmmとC14Cmmで拡大を認めた.初回手術は熟練した同一術者により,全例に線維柱帯切開術を施行した.初回手術が奏効せず,反対眼は初回から線維柱帯切除術を行ったC1眼と術前すでに視機能がなく,初回から毛様体冷凍凝固術を行ったC1眼,そして初回の緑内障手術を他施設で行っていたC1眼は除外した.また,初回線維柱帯切開術の部位は,I群C9眼すべてとCII群のC1眼,III群のC3眼に対して上方から,他のC26眼は下方から行った.表1対象I群II群III群(n=9眼)(n=18眼)(n=12眼)手術時年齢(歳)C0.8±0.9C19.8±3.9C10.4±7.5術前眼圧(mmHg)C28.9±11.2C33.0±10.1C31.6±7.4術後経過観察期間(年)C8.8±1.6C3.1±1.8C4.1±2.61766あたらしい眼科Vol.34,No.12,2017眼圧は,覚醒状態で測定できる場合は覚醒下にCGoldmann圧平式眼圧計にて測定し,覚醒状態での測定が無理な場合は,全身麻酔またはトリクロホスナトリウム(トリクロリール)と抱水クロラール(エスクレ)投与下で,入眠下にTono-penXLおよびCPerkins眼圧計にて測定した.両測定機器の眼圧値に大きな差がないことを確認し,また差があった場合は,角膜浮腫や角膜径の拡大の有無や視神経乳頭陥凹拡大の程度なども考慮して,おもにCPerkins眼圧計の測定値を採用した.眼圧の評価は,緑内障点眼薬の併用も含めて,覚醒時でC21CmmHg以下,入眠時でC15CmmHg以下を成功とし,2診察日以上連続してその基準値を上回ったとき,または,追加手術をした場合,その時点で不成功とした.手術の適応は,眼圧のほか,視神経乳頭陥凹の拡大の有無,角膜径の拡大の有無,可能な症例では視野の程度などを加味して決定した.初回手術の成功率,術前所見と初回線維柱帯切開術の手術成績,合併症,手術回数,最終成績について,後ろ向きに検討した.CII結果初回手術の成功率は,I群はC100%(9眼中C9眼),II群は72.2%(18眼中C13眼),III群はC91.7%(12眼中C11眼),全体では,84.6%であった(表3).I群のC9眼すべて,初回手術のみで,緑内障点眼薬なしで眼圧コントロールできた.II群では術後C6カ月でC3眼が追加手術となり,2眼は術後C3年で追加手術となった.III群は,生後C3カ月発症のCSturge-Weber症候群のC1眼が,初回手術のC6年後に追加手術となった.その結果,全C39眼の初回手術成績の累積生存率をKaplan-Meier法により生存分析したところ,初回手術後C6カ月累積生存率はC92.2%,3年後はC84.1%,6年後はC75.7%,10年累積生存率はC75.7%であった(図1).術前所見と初回線維柱帯切開術の手術成績について検討した(表4).発症が生後C3カ月未満の早期発症例はC5眼(I群1例C2眼とCIII群CSturge-Weber症候群のC1眼,無虹彩症のC1例C2眼)であったが,成功率はC5眼中C4眼(80%)で,3カ表2I群の術前プロフィール症例発症(月)症状角膜径(mm)Haabs線C1C6角膜混濁C13.0(+)C.無(僚眼)C12.5(.)C2C4角膜混濁C14.5(+)C3C6角膜混濁C13.5(.)C.無(僚眼)C13.5(.)C4C2睫毛内反C13.0(.)C2睫毛内反C12.5(.)C5C6角膜混濁C13.0(.)C.無(僚眼)C12.0(.)表3初回手術成功率(成功眼/眼数)100I群II群III群合計8075.7%(n=9眼)(n=18眼)(n=12眼)(n=39眼)100%72.2%91.7%84.6%60(9/9)(13/18)(11/12)(33/39)4020表4術前所見と初回手術成績0024681012成功数/眼数p値生存期間(年)累積生存率(%)発症3カ月未満C発症3カ月以上C4/529/34C0.588図1全症例の初回線維柱帯切開術の生存率眼圧C30CmmHg以上C眼圧C30CmmHg未満C0.47820/2313/16CFisher’sexactprobabilitytest.表6手術回数手術回数I群II群III群(n=9眼)(n=18眼)(n=12眼)表5初回線維柱帯切開術の合併症1回9C13112回C.31I群II群III群3回C.1C.(n=9眼)(n=18眼)(n=12眼)4回C.1C.Descemet膜.離C..1(8.3%)平均(群別)C1.0C1.4C1.1低眼圧C.2(11.1%)C.一過性高眼圧C.3(16.7%)C.合計(群別)0(0.0%)5(27.8%)1(8.3%)表7最終手術成績I群(n=9眼)II群(n=18眼)III群(n=12眼)手術回数(平均)術前眼圧(mmHg)C最終眼圧(mmHg)C最終成功眼数(成功率)1(1C.0)28.9±11.2Cp=0.03113.2±4.1C9(1C00%)1.4(1C.4)33.0±10.1Cp<C0.000117.6±3.3C15(C83.3%)1.2(1C.1)31.6±7.4p<C0.000114.3±2.112(1C00%)Paired-tCtest(p値<0.05)C月以降群のC34眼中C29眼(85.3%)に対して有意差はなかった.術前眼圧をC30CmmHgで分けてみて検討したが,統計学的有意差はなかった.角膜径に関しては,平均年齢が高いCII群とCIII群では,測定した眼数が各々C2眼ずつと少なく,統計学的に論じることは困難だが,角膜径がC12.5Cmm以上の10眼中C9眼(90%)が初回手術で眼圧コントロールされた.12.5mm以上群で追加手術が必要になったC1眼は角膜径12.5Cmmの早期発症例のCSturge-Weber症候群であった.初回線維柱帯切開術の合併症を表5に示す.II群のC2眼(11.1%)で脈絡膜.離を伴う低眼圧とC3眼(16.7%)に一過性眼圧上昇を認め,III群のC1眼(8.3%)にCDescemet膜.離を認めた.低眼圧をきたしたC2眼は術後C2週までに,眼圧上昇のC3眼はC2カ月までに正常化した.Descemet膜.離のC1眼は視機能に影響することなく経過した.手術回数を表6に示す.全症例眼数C39眼のうちC6眼(15.4%)に対して追加手術を行った.6眼の内訳は,II群C4例C5眼,III群のCSturge-Weber症候群のC1例C1眼であった.ステロイド緑内障は初回手術で全症例で眼圧コントロールできた.II群のC2眼は初回手術のC3年後に線維柱帯切開術をC1回追加し,眼圧コントロールできたが,1例C2眼は,1眼にC4回(初回手術のC6カ月後に線維柱帯切開術C1回,その後,線維柱帯切除術C1回,濾過胞再建術をC1回),1眼はC2回(初回手術のC6カ月後に線維柱帯切除術C1回)の手術を行った.他のCII群のC1眼は,3回(初回手術のC6カ月後に線維柱帯切除術C1回,その後濾過胞再建術をC1回)の手術を行った.III群のCSturge-Weber症候群のC1眼は,初回手術のC6年後に線維柱切開術をC1回追加し,その後C2年最終経過観察時点まで眼圧コントロールできた.最終手術成績の結果を表7に示す.I群は,最終平均眼圧C13.2±4.1mmHg,II群で術後C17.6C±3.3mmHg,III群で術後C14.3C±2.1CmmHgとC3群とも術前に比較して,有意に低下した.全症例C39眼中C21眼(53.8%)が緑内障点眼薬なしで眼圧コントロールが可能となった.I群のC9眼全例,III群は無虹彩症のC2例C4眼を除くC8眼は緑内障点眼薬なしで眼圧コントロールが得られた.I群は初回手術のみでC100%,II群とCIII群は追加手術も含めて,最終成功率はそれぞれCII群がC83.3%,III群がC100%,全体でC92.3%であった.CIII考按若年者の緑内障の分類はさまざまな分類2,3)があり,既報4.11)での分類もばらついているが,3歳未満で発症する場合,眼圧上昇により眼球拡大をきたしやすい側面があり,今回筆者らも隅角発生異常のみの発達緑内障に関しては,I群とCII群をC3歳で区切って,治療成績・予後をまとめた.覚醒時の眼圧測定が困難な症例に対しては,入眠時の眼圧を参考にした.全身麻酔下での眼圧に影響を与える因子としては,麻酔薬,麻酔深度,前投薬,麻酔方法があげられるが,これらの要因がどの程度,眼圧に影響を与えているかを正確に判定することは困難と考えられている12).臨床的には,条件を一定にして測定し,結果を比較するという方法がとられている.全身麻酔下の眼圧は既報12,13)によれば,5.7mmHg低めに出るとされ,そのため,入眠時眼圧の基準を15CmmHgを上限とした既報が多いと考えられる.今回の検討では,トリクロホスナトリウムの入眠下でのCPerkins眼圧計での測定を基準にしてC15CmmHgを上限値とした.若年者の緑内障の手術は,一般的に線維柱帯切開術か隅角切開術が選択されることが多く,当科では,初回手術は全例線維柱切開術を施行している.発達緑内障に対する線維柱帯切開術と隅角切開術の成績はCAndersoCn4)によれば,いずれも熟練した術者が行えば,同等の成績が得られるとしている.若年者の線維柱帯切開術において,Schlemm管の位置や形状は症例によってさまざまで,とくに乳児の強膜は成人と違って柔らかく,Schlemm管の同定が困難なことがある.Schlemm管を探すため,わずかな強膜層を残して毛様体が透見できるように強膜弁を作製するのがこつと考えている.Schlemm管あるいはそれらしいものが見つかれば,トラベクロトームを挿入するときにスムーズに入ること,そして可能であればCPosner診断/手術用ゴニオプリズムで挿入されているか確認する.トラベクロトームを回転するときはある程度抵抗があって,かつ前房にスムーズに出てきて,bloodre.uxがあると成功と考えている.Schlemm管らしきものがなく,トラベクロトームが挿入できない,挿入してもすぐ前房に穿孔する症例は,線維柱帯切除術に切り替えざるをえないと考えているが,今回の症例ではなかった.3歳未満発症の早発型発達緑内障の線維柱帯切開術の初回手術成績は,永田らはC75%5),藤田らがC79%6)と報告している.今回筆者らのCI群ではC9眼という少数例ではあるが,全例角膜径がC12Cmm以上に延長していたにもかかわらず,平均経過観察期間C8.8(6.6.11.8)年という長期間において,初回の線維柱帯切開術で,最終的に緑内障点眼薬なしで全症例眼圧コントロールできた.既報7.11,14,15)では,生後2.3カ月未満の早期発症例は難治で予後不良とするものが多い.筆者らの検討では,早期発症のC5眼中C4眼(80%)が初回手術でコントロールできた.早期発症のCI群のC1例C2眼はC10年,無虹彩のC1例C2眼はC3年,最終経過まで初回手術でコントロールできた.早期発症のCSturge-Weber症候群のC1眼は追加手術を要したが,初回手術のC6年後に線維柱帯切開術をC1回追加することで長期のコントロールが得られた.既報9,14)では,2.3カ月未満の早期発症例は,初回線維柱帯切開術が奏効しても,10.15年で再度眼圧上昇をきたす症例が散見され,今後も慎重な経過観察が必要と考えている.その一方で,Akimotoら7)の大規模症例での検討では,2カ月.2歳未満の最終手術成績はC96.3%と非常に高い奏効率を示している.永田ら14)は,このグループの早期診断と治療の成否こそがもっとも決定的に患児の将来の大きな意味をもつとしている.3歳未満の発症例では,高眼圧への曝露期間が長くなると,角膜径拡大に伴いCSchlemm管が伸展し,手術時にCSchlemm管の同定が困難になり,成人例より難度が高くなるとされる14,15).それゆえ,本疾患においては,線維柱帯切開術に熟練した術者が手術を行うべきと考えている.また,確実に線維柱帯切開術を遂行すればかなり長期間にわたって眼圧コントロールが得られることをふまえて,筆者らは,初回の線維柱帯切開術において確実に手術を遂行させることを優先して,年齢によって術野条件のよい上方からのアプローチを行った.角膜径がC14.5Cmmと極端に拡大していたCI群の症例C2や,生後C2カ月発症の早期発症のCI群症例C4など,Schlemm管を同定することがかなり困難な症例が含まれていた.しかし,Schlemm管と同定あるいは考えられた部位にトラベクロトームを挿入・回転することで,初回手術で長期の眼圧コントロールが得られた.追加手術が必要になったC6眼のうち,初回手術後C3年以上(II群のC2眼がC3年,III群CSturge-Weber症候群C1眼がC6年)コントロールできたC3眼は,線維柱帯切開術をC1回追加することで長期にわたる眼圧コントロールが可能であったが,他のC3眼(すべてCII群)はすべて初回手術が奏効せず,半年で追加手術に至り,最終的に線維柱帯切除術まで至った.若年者の線維柱帯切除術は既報16,17)でもCTenon.が厚いことや術後に瘢痕形成しやすいなどの問題が指摘されているように,今回のC3眼はいずれも濾過胞の縮小傾向がみられ,コントロール困難であった.Akimotoら7)の検討でも,2歳以降発症群の最終眼圧コントロール率はC76.4%と,2カ月.2歳発症群のC96.3%に比べて,やや劣る結果となっているが,その理由は検討されていない.これは,Sha.erら18)の原発先天緑内障への隅角切開術においても,2歳までの発症例の成功率がC94%に対して,2歳以降発症例がC38%と極端に不良な結果になっており,2歳以降の発症例のなかに,線維柱帯切開術や隅角切開術に抵抗性を示す症例が存在することを示唆している.今回の筆者らの検討でのCII群も,最終手術成績がC18眼中C15眼(83.3%)と既報と比較しても良好な結果であったが,追加手術になったC5眼中C3眼は最終的にコントロールが困難であった.これに対する考察として,3歳以上の症例は,角膜混濁や角膜径拡大に伴う流涙などの症状をきたしにくく,自覚症状に乏しい面があり,受診に至るまでに長期間経過し,Schlemm管の二次的な変化をきたしていた可能性が考えられた.既報5,14)では,初回の線維柱帯切開術が奏効しない症例でも追加の同手術を行うことで眼圧コントロールが得られる症例が存在するとしているが,今回の筆者らの検討では,初回手術で全例確実に線維柱帯切開術を施行したにもかかわらず,術後眼圧下降が得られなかったC3眼のうちC1眼は,追加で線維柱帯切開術を施行したが奏効しなかった.これらの症例に対する追加術式については今後も検討を要すると考えられた.III群に関しては,さまざまな病態が関与するため,既報でも成績がばらついており,また,ステロイド緑内障を含んでいることから一概に評価することは困難だが,隅角以外の異常を伴う発達緑内障は,隅角のみの異常にとどまる症例に比べて,成績が劣るとされている8,19).筆者らのCIII群のうち,成績のよいステロイド緑内障を除いても,隅角以外の眼異常を合併したC7眼中追加手術を行ったのがC1眼のみで,既報に比べてもきわめて良好な結果であった.追加手術になったSturge-Weber症候群のC1眼は,初回手術がC6年奏効した.本疾患は,眼圧上昇の機序にCSchlemm管,線維柱帯のみでなく,上強膜静脈圧の上昇まで関与するといわれているが,眼圧上昇の機転の主座がどの病巣にあるかを術前から予測することは困難で,また濾過手術での脈絡膜出血やCuveale.usionなどのリスクや術後管理などを考慮すると,やはり初回手術は線維柱帯切開術が望ましいと考えられた.ステロイド緑内障に関しては,治療の原則はステロイドの中止となるが,全身疾患に対する治療の必要性からステロイドの長期投与を余儀なくされ,中止が困難なケースも少なくない.それらのケースで点眼治療が奏効しない場合,外科的治療が必要となる.既報20,21)での若年発症のステロイド緑内障に対する線維柱帯切開術の成績は,いずれも良好な成績となっており,今回のステロイド緑内障C5眼も初回手術で全例コントロールが得られた.今回の検討から,若年者の緑内障のうち,隅角のみの異常にとどまる発達緑内障に関しては,線維柱帯切開術は原因治療であり,奏効した場合は長期の眼圧コントロールが得られることが示された.また,隅角以外の形成異常を伴う発達緑内障とステロイド緑内障に関しても,重篤な合併症が少ないことや術後管理が容易な点からも,若年者において,線維柱帯切開術が第一選択の有効な術式であることが確認できた.文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障診療ガイドライン第C3版.日眼会誌116:3-46,C20122)GorinG:Developmentalglaucoma.AmJOphthalmol58:C572-580,C19643)HoskinsCHDCJr,CSha.erCRN,CHetheringtonCJ:AnatomicalCclassi.cationCofCtheCdevelopmentalCglaucoma.CArchCOph-thalmol102:1331-1336,C19844)AndersonCDR:TrabeculotomyCcomparedCtoCgoniotomyCforCglaucomaCinCchildren.COphthalmologyC90:805-806,C19835)永田誠:乳児期先天緑内障の診断と治療.眼臨C85:568-573,C19916)藤田久仁彦,山岸和矢,三木弘彦ほか:先天緑内障の手術成績.眼臨86:1402-1407,C19927)AkimotoM,TaniharaH,NegiAetal:SurgicalresultsoftrabeculotomyCabCexternoCforCdevelopmentalCglaucoma.CArchOphthalmol112:1540-1544,C19948)太田亜希子,中枝智子,船木繁雄ほか:原発先天緑内障に対する線維柱帯切開術の手術成績.眼紀C51:1031-1034,C20009)IkedaH,IshigookaH,MutoTetal:Long-termoutcomeoftrabeculotomyforthetreatmentofdevelopmentalglau-coma.ArchOphthalmol122:1122-1128,C200410)小坂晃一,大竹雄一郎,谷野富彦ほか:先天緑内障の長期手術成績.あたらしい眼科19:925-927,C200211)原田洋介,望月英毅,高松倫也ほか:発達緑内障における線維柱帯切開術の手術成績.眼科手術23:469-472,C201012)坪田一男,平形明人,益田律子ほか:小児の全身麻酔下眼圧の正常範囲について.眼科26:1515-1519,C198413)奥山美智子,佐藤憲夫,佐藤浩章ほか:全身麻酔下における眼圧の変動.臨眼60:733-735,C200614)永田誠:発達緑内障臨床の問題点.あたらしい眼科C23:C505-508,C200615)根木昭:小児緑内障の診断と治療.あたらしい眼科C27:C1387-1401,C201016)野村耕治:小児期緑内障とトラベクレクトミー.眼臨97:C120-125,C200317)SidotiCPA,CBelmonteCSJ,CLiebmannCJMCetCal:Trabeculec-tomyCwithCmitomycin-CCinCtheCtreatmentCofCpediatricCglaucoma.Ophthalmology107:422-429,C200018)Sha.erRN:Prognosisofgoniotomyinprimaryglaucoma(trabeculodysgenesis)C.CTransCAmCOphthalmolCSocC80:C321-325,C1982C19)大島崇:血管腫を伴う先天緑内障の治療経験.眼臨C81:C1992142-145,C198721)河野友里,徳田直人,宗正泰成ほか:若年発症緑内障に対20)竹内麗子,桑山泰明,志賀早苗ほか:ステロイド緑内障にする線維柱帯切開術の成績.眼科手術28:619-623,C2015対するトラベクロトミー.あたらしい眼科C9:1181-1183,***

携帯式眼圧計アイケアHOMEの精度と再現性の検討

2017年11月30日 木曜日

《原著》あたらしい眼科34(11):1610.1616,2017c携帯式眼圧計アイケアHOMEの精度と再現性の検討塩川美菜子*1方倉聖基*1井上賢治*1狩野廉*2桑山泰明*2*1井上眼科病院*2福島アイクリニックCEvaluatingthePrecisionandReproducibilityofSelf-measuredIntraocularPressurewithIcareHOMEReboundTonometerMinakoShiokawa1),SeikiKatakura1),KenjiInoue1),KiyoshiKano2)andYasuakiKuwayama2)1)InouyeEyeHospital,2)FukushimaEyeClinic目的:アイケアCHOMEによる眼圧自己測定の精度と再現性,問題点を検討する.対象および方法:井上眼科病院と福島アイクリニックの有志職員C67例C134眼(平均年齢C31.8±10.7歳,利き手:右C61例,左C6例)を対象とした.アイケアCHOMEによる眼圧自己測定を左右各々C5回の測定値が得られるまで連続で行い,平均眼圧とCGoldmann圧平式眼圧計(GAT)による眼圧を比較した.測定値の変動幅と変動係数により再現性を評価した.測定エラーの回数を記録した.結果:アイケアCHOMEの測定値はCGATの測定値より右眼でC1.5CmmHg,左眼はC1.2CmmHg過小評価だった.変動係数は右眼C8.7±5.8%,左眼C10.5±6.8%,変動幅は右眼C2.3±1.7CmmHg,左眼C2.9±1.9CmmHgで左眼が有意に大きかった(p=0.0194).エラー回数は右眼がC1.8±3.5回,左眼がC3.3±4.8回で左眼が有意に多かった(p=0.0161).結論:アイケアCHOMEによる眼圧自己測定の精度は比較的良好だが,左眼の測定が課題である.CPurpose:Toevaluatetheprecision,variationandproblemsofself-measuringintraocularpressure(IOP)withIcareHOMEreboundtonometer.MethodsandSubjects:Botheyesof67normativevolunteersfromInouyeEyeHospitalCandCFukushimaCEyeCClinicCwereCenrolled.CIOPsCwereCself-measuredCusingCtheCIcareCHOME.CAllCsubjectsCcontinuedtomeasureuntilthecompletionof5measurements.Additionally,IOPwithGoldmannapplanationtonom-etry(GAT)wasCrecorded,CasCwereCtheCnumberCofCmeasurementCerrors.CResults:TheCmeanCdi.erenceCbetweenIcareCHOMECandCGATCmeasurementsCofCRightCeye(R)andCLeftCeye(L)wereC.1.5CmmHgCandC.1.2CmmHg,respectively.IcareHOMEunderestimatedIOPincomparisonwithGAT.Thecoe.cientofvariation(CV)was8.7C±5.8%(R)andC10.5±6.8%(L).CMeasurementCerrorCincidencesCweC1.8±3.5(R)andC3.3±4.8(L),Cmeasurementerrorsoccurringmorefrequentlywiththelefteyethanwiththeright(p=0.0161).CConclusion:IcareHOMEmaybeCusefulCasCequipmentCenablingCpatientsCtoCself-measureCIOP.CHowever,Cself-measuringCtheCIOPCofCtheCleftCeyeCrequirestraining.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(11):1610.1616,C2017〕Keywords:アイケアHOME,眼圧,自己測定,変動,測定エラー.IcareHOMEreboundtonometer,intraocularpressure,self-measurement,variation,measurementerrors.CはじめにアイケアCHOME(icareCFinland社製)は眼科医の指導のもと,患者自身による眼圧自己測定を目的に開発された携帯式眼圧計である.先行のアイケアCONEに改良を加えた機器で,わが国ではC2014年C10月に承認され,2015年C2月に発売された.アイケア1,2)(icareCFinland社製)と同様のCreboundtonometerで,プローブが角膜にあたったときの動きを電気信号へ変換することで眼圧を測定する.点眼麻酔不要で測定でき,プローブの先端が小さいため瞼裂が狭い症例や小児でも測定が可能である.アイケアCHOMEの外観を図1aに,背面パネルを図1bに示す.大きさはC11×8×3cm,重さはC150gでアイケアCONEと変わらない.測定方法もアイケアCONEと同様に直径C1.73mmのプラスチック製のヘッドがついているディスポーザブ〔別刷請求先〕塩川美菜子:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台C4-3井上眼科病院Reprintrequests:MinakoShiokawa,M.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN1610(126)b図1アイケアHOMEの外観a:全体,b:背面パネル.Cルのプローブを本体にセットし,ヘッドが被験者の角膜頂点からC4.8Cmmに位置するように額,頬あてを調整のうえ,被験者自身が壁掛け鏡を見ながらプローブが角膜中央に正面から垂直にあたるようにアイケアCHOMEを保持し,測定ボタンを押す.測定はC1回モードと通常モードがある.通常モードではC6回測定(角膜にC6回,プローブのヘッドがあたる)をC1セットとし,6回すべてが正しく測定され,測定値が安定していれば測定が完了し本体背面パネルの「DONE」の上方にチェックマークが緑で点灯し,測定結果が本体に内蔵されたメモリに日時とともに記録される.睫毛にプローブがあたる,ポジションが悪いなどにより正しく測定できていないときや測定結果にばらつきがあると,背面パネルの「REPEAT」の上方に繰り返しを示す矢印が橙色で点灯,あるいは背面パネルのどこにも点灯,点滅しない状態で測定エラーとなり,結果は記録されず再測定となる.アイケアCONEからの改良点は,センサーで左右の測定眼を自動で識別する機能と測定位置が正しいかをプローブベースのCLEDで知らせる機能(正しければ緑が点灯し測定可,正しくなければ赤が点灯し測定不可)が加わったことである.反対にアイケアCONEでは内蔵メモリに測定結果が保存されるほかに,本体背面パネルにも眼圧(5.50CmmHg)をC11段階に分けて表示されるので,検者,被験者はおおよその眼圧測定結果をその場で知ることができたが,アイケアCHOMEでは測定結果は本体のパネルに表示されないため,IcareLinkソフトウエアを使用してパソコンで確認しない限り測定結果を知ることはできない.アイケアCONEはCGoldmann圧平式眼圧計(GoldmannCappla-nationCtonometer:GAT)との互換性が報告されており3,4),筆者らも健常者を対象にアイケアCONEを用いてC24時間眼圧自己測定を行い報告した5).今回はアイケアCHOMEによる眼圧自己測定を行い,その精度,再現性と問題点を検討した.CI対象および方法本研究の趣旨に賛同のうえ,2015年C3.8月に文書で同意を得た全身疾患,眼疾患を有しない井上眼科病院および福島アイクリニックの職員C67例C134眼を対象とした.屈折矯正手術の既往がある症例は除外した.性別は男性C19例,女性48例,年齢はC20.67歳(平均年齢C31.8C±10.7歳)であった.方法は,まず被験者に合わせてアイケアCHOMEの額,頬あてを調整し,操作と測定方法を口頭で指導した後に眼圧自己測定を数回練習し測定ができることを確認した.指導と練習は医師あるいは視能訓練士が行った.その後,右眼,左眼の順で通常モードで測定を開始しC5回測定が完了するまで連続で測定を繰り返した.さらにC5回の測定が完了するまでの測定エラーの回数を記録した.アイケアCHOMEによる眼圧自己測定時間の前あるいは後,15分以内にCGATによる眼圧測定をC1回行った.GATによる眼圧測定は井上眼科病院ではC2名,福島アイクリニックではC1名の眼科医が行った.背景因子として矯正視力,屈折,中心角膜厚(centralcor-nealthickness:CCT),瞼裂幅の測定と利き手を調査した.CCTの測定はポータブル超音波角膜厚測定装置で行い,井上眼科病院はCTOMEY社製CAL4000,福島アイクリニックはCTOMEY社製CSP100を用いた.全測定終了後にアイケアCHOMEによる眼圧自己測定についてアンケート調査を行った.項目は以下のとおりである.1)操作,取扱いはどうでしたか①簡単,②どちらかといえば簡単,③どちらかといえば難しい,④難しい2)測定は簡単でしたか①簡単,②どちらかといえば簡単,③どちらかといえば難しい,④難しい3)測定は怖かったですか①怖い,②怖くない4)左右どちらが測定しやすかったですか①右,②左,③どちらでもない5)患者でも自己測定が可能であると思いますか①できる,②できない6)自由記載測定結果の分析は以下について行った.1)アイケアCHOMEの測定値とCGATの測定値の比較アイケアCHOMEのC5回の測定結果から平均眼圧(以下,アイケア平均眼圧)を算出し,GATによる眼圧測定値と比較した.統計学的検討はCSpearman順位相関の係数を求め,さらにCBland-AltmanPlotsのC95%信頼区間を用いて評価した.2)アイケアCHOMEの再現性アイケアCHOMEによる眼圧自己測定値の再現性を検討するために変動幅(最高眼圧値C.最低眼圧値)と変動係数((標準偏差/平均値)C×100)を求めた.さらに左右眼の変動幅と変動係数を比較した.統計学的検討は対応のあるCt検定を用いた.3)測定エラーの回数測定エラーの回数を左右眼で比較した.統計学的検討には対応のあるCt検定を用いた.4)アイケアCHOMEによる眼圧自己測定の測定エラーの回数,変動幅と背景因子との相関測定エラーの回数と年齢,測定エラーの回数と変動幅,測定エラーの回数と瞼裂幅,変動幅と年齢,変動幅と瞼裂幅についてCSpearman順位相関の係数を求めた.5)アイケア平均眼圧とCCCTアイケア平均眼圧とCCCTについてCSpearman順位相関の係数を求めた.いずれにおいても左右眼の比較についての統計解析は対応のあるCt検定を用い,有意水準はCp<0.05とした.なお本研究は井上眼科病院倫理委員会の承認を得て行った.CII結果1.背.景.因.子矯正視力,屈折値,瞼裂幅,CCT,GATによる眼圧を表1に示す.矯正視力はClogMAR視力で右眼C.0.07±0.03,左眼.0.04±0.25,屈折値は右眼C.2.9±2.8D,左眼C.2.7±3.1D,瞼裂幅は右眼C9.9C±1.4mm,左眼C9.7C±1.3Cmmであった.CCTは右眼C541.9C±40.9μm,左眼C547.1C±36.0Cμm,GATによる眼圧は右眼C13.4C±1.9CmmHg,左眼C13.2C±1.9CmmHgであった.瞼裂幅が右眼のほうが左眼に比べて有意に大きいほかは左右眼に差はなかった.利き手は右がC61例,左がC6例であった.C2.アイケア平均眼圧とGATによる眼圧測定値の比較アイケア平均眼圧とCGATの眼圧は右眼が相関係数(corre-lationCcoe.cient:以下,r)r=0.455,p<0.0001,左眼がCr=0.491,p<0.0001でいずれも中等度の有意な相関があった(図2).Bland-Altman解析を図3に示す.右眼は平均がC.1.5CmmHg,95%信頼区間はC.6.8.3.9CmmHg,左眼は平均が.1.2mmHg,95%信頼区間はC.6.3.3.8CmmHgであり,右眼,左眼ともにアイケアCHOMEがCGATよりも過小評価表1症例の背景因子右眼左眼p矯正視力(logMAR)C.0.07±0.03(C.0.08.C0.05)C*.0.04±0.25(C.0.08.C2.0)0.5002屈折値(D)C.2.9±2.8(+1.5.C.11.5)C.2.7±3.1(+5.25.C.11.75)C0.5152瞼裂幅(mm)C9.9±1.4(6.12)C9.7±1.3(6.12)C0.0064CCT(Cμm)C541.9±40.9(4C03.6C88)C547.1±36.0(4C72.6C61)C0.0839GATによる眼圧(mmHg)C13.4±1.9(9.19)C13.2±1.9(9.18)C0.1024*弱視C1眼を含む.右眼左眼20r=0.455p<0.0001r=0.491p<0.0001n=6720アイケ平均眼圧(mmHg)151015105551015205101520GAT(mmHg)GAT(mmHg)図2アイケアHOMEとGATの眼圧測定値の相関(128)右眼左眼アイケア平均-GAT(mmHg)86420-2-4-6-8-1061116(GAT+アイケア平均)/2(mmHg)図3Bland.Altman解析によるアイケアHOMEとGATの眼圧測定値の比較右眼左眼右眼左眼6~10mmHg5mmHg4.5%0mmHg6~10mmHg0mmHg1.5%1.5%5mmHg7.5%1.5%4mmHg7.5%7.5%4回1.5%平均:1.8±3.5回平均:3.3±4.8回**p=0.0161対応のあるt検定図4アイケアHOMEによる5回の眼圧自己測定の変動幅表2測定エラーの回数および測定値の変動幅と年齢,瞼裂幅の関係右眼左眼Cprprエラー回数と変動幅C0.2858C.0.133C0.7780C0.035エラー回数と瞼裂幅C0.4741C.0.089C0.3048C0.128エラー回数と年齢C0.1848C.0.164C0.3561C.0.115変動幅と瞼裂幅C0.4474C.0.095C0.1938C.0.161変動幅と年齢C0.1258C0.189C0.0191C0.285であった.C3.アイケアHOMEによる眼圧自己測定値の再現性アイケア平均眼圧は右眼C11.9C±3.0mmHg,左眼C12.0C±2.9mmHgであった.眼圧変動幅がC0.2CmmHgと少なかった症例は右眼で約C70%であった.左眼はC50%に満たなかった(図4).平均変動幅は右眼C2.3C±1.7mmHg,左眼C2.9C±1.9mmHgで左眼が有意に大きかった(p<0.0194).平均変動係数は右眼C8.7C±5.8%,左眼C10.5C±6.8%,変動係数C10%以図5アイケアHOMEによる5回の眼圧自己測定における測定エラーの回数下の症例は右眼でC74.6%,左眼でC55.2%であった.C4.測定エラーの回数測定エラーの回数は右眼がC1.8C±3.5回,左眼がC3.3C±4.8回で左眼が有意に多かった(p=0.0161,図5).C5.測定エラーの回数および変動幅と背景因子の相関(表2)測定エラーの回数と変動幅,瞼裂幅,年齢,および変動幅と瞼裂幅の間に有意な相関はなかった.変動幅と年齢では右眼は相関がなかったが,左眼に有意な弱い相関があった(r=0.281,p<0.05).右利き(n=61)の症例では右眼はC1.8C±3.5回,左眼はC3.5C±5.0回と左眼の測定エラー回数が有意に多かった(p<0.05).左利きの症例(n=6)では右眼はC1.0C±1.7回,左眼はC1.2C±1.2回で有意差はなかった.C6.アイケア平均眼圧とCCT(図6)アイケア平均眼圧とCCCTは右眼においてはCr=0.004,p=0.9758で相関はなかった.左眼においてはCr=0.256,p=0.0361で弱い相関があった.右眼左眼p=0.9758r=0.00420p=0.0361r=0.256201818y=0.0039x+9.8282y=0.0207x+0.7058アイケア平均眼圧(mmHg)16141210864アイケア平均眼圧(mmHg)161412108642200400500600700400500600700中心角膜厚(μm)中心角膜厚(μm)図6アイケア平均眼圧とCCTの関係■簡単操作,取り扱いはどうか■どちらかといえば簡単■どちらかといえば難しい測定は簡単か■難しい0%50%100%■怖くない測定は怖かったか■怖い0%50%100%■右左右どちらが■どちらでもない測定しやすいか■左0%50%100%患者でも自己■できる測定できるか■できない0%50%100%図7眼圧自己測定後のアンケート調査結果7.アンケート調査(図7)60例から回答を得た.1)「操作,取扱い」については約C80%の症例が難しくないと回答した.2)「測定」についてはC70%の症例が測定は難しくないと回答した.3)測定は「怖くなかった」がC45例C75%であった.4)測定しやすかったのは「右眼」または「どちらでもない」が大多数を占めた.5)「患者でも自己測定できる」との回答はC34例C56.7%であった.自由記載で多かった意見として,「高齢者や視機能障害者による眼圧自己測定は困難と思う」(28例),「慣れれば眼圧自己測定は容易」(24例),「裸眼視力が悪いので位置をあわせるのが難しい」(11例)「眼圧自己測定は他者の監視下で行うほうがよい」(8例)など,があった.CIII考按緑内障診療を行ううえで眼圧日内変動を把握することは有益である.しかし,日内変動を知るためには患者を入院という非日常の環境においたうえでC24時間の眼圧測定を行わなければならず,医師にとっても患者にとっても負担を強いるため容易ではない.携帯式眼圧計による眼圧自己測定ができれば,簡便に眼圧日内変動を知ることが可能になるが,実際に緑内障患者に眼圧自己測定を行ってもらうためには使用する眼圧計の安全性,再現性,操作性と精度を検証する必要がある.さらに種々の背景因子と眼圧自己測定結果の関連を知ることは患者の眼圧自己測定の可否,結果の信憑性を評価するうえで参考となる.本研究においてアイケアCHOMEの測定値とCGATの測定値には有意な相関があったが,アイケアCHOMEの測定値はGATの測定値よりも過小評価される傾向にあった.GATとアイケアCHOMEの眼圧測定値を比較した研究は調べた限りではまだ少ない6.9).DabasiaらはC76例を対象にアイケアHOMEを用いて検者による眼圧測定と眼圧自己測定をC3回ずつ行い,GATによる眼圧測定と比較しアイケアCHOMEの眼圧自己測定値はCGATの測定値よりもC0.3CmmHg過小評価であったと報告している6).Termuhlenらは緑内障患者を含むC154例を対象にアイケアCHOME,アイケアCONEを用いた医師による眼圧測定と患者による眼圧自己測定,GATによる眼圧測定を比較した研究で,アイケアCHOMEによる医師による眼圧測定と患者による眼圧自己測定の結果は同等で,アイケアCHOMEの医師による眼圧測定とCGATの測定結果を比較するとアイケアCHOMEはCGATよりもC0.82mmHg過小評価であったと報告している7).Noguchiらは若年健常者C43例を対象にC8.18時までC2時間ごとにアイケア,GATによる測定とアイケアCHOMEによる眼圧自己測定を行った研究で,アイケアCHOMEの眼圧自己測定値はCGATの測定値よりもC1.03CmmHgの過小評価であったと報告している8).Mudieらは緑内障患者(疑いを含む)189例を対象にアイケアによる眼圧測定とアイケアCHOMEによる眼圧自己測定,GATによる眼圧測定を行い,すべての測定が可能であった164例を解析した結果,アイケアCHOMEの眼圧自己測定値はCGATの測定値よりもC0.33CmmHgの過小評価であったと報告している9).眼圧測定値の差は報告によって異なるが,これまでのところアイケアCHOMEの眼圧測定値はCGATの眼圧測定値よりも過小評価であるという点は一致しており,本研究結果も既報と同様であった.アイケアCHOMEの測定値がCGATの測定値よりも過小評価となる一因として,プローブが角膜中央に正確にあたっていなかった可能性がある.アイケアCHOMEの測定ボタンはアイケアと異なり図1に示したように本体の上方に位置している.タッチ式ではないためボタンを押すために力を加えた際に本体の保持が不安定であると,本体ごとプローブが下方に移動する.それによりプローブが角膜中央にあたらず,プローブと角膜の距離も変わるため反跳に変化が生じたと考えた.アイケアCHOMEの眼圧自己測定値の再現性では,平均変動幅は左眼が有意に大きく,平均変動係数は左右差があり,測定エラーの回数は左眼が有意に多かった.Mudieらは,アイケアCHOMEでC3回眼圧自己測定を行い,変動係数は最初のC2回の測定ではC7.02%,3回すべての測定ではC8.20%であったと報告しており9),本研究のほうが変動係数は高かった.Mudieらの研究は対象がC1例C1眼で,測定回数も異なるため一概に比較はできないが,Mudieらの研究でC2回の測定よりもC3回の測定で変動係数が高くなっていたこと,本研究の測定回数がC5回であったことから,本研究における変動係数は右眼についてはCMudieらの研究とほぼ同等と推察された.左眼の再現性が低く測定エラーが多い要因としては,左眼の測定時に機器保持が不安定になりやすいことが考えられた.本研究では測定時のアイケアCHOMEの把持は各被験者に一任したため,右眼は右手,左眼は左手で把持,両眼とも利き手で把持,両眼とも両手で把持など被験者により異なったため角膜中央にプローブが正確にあたっていなかった症例もあったと考えられた.また,優位眼が右眼の場合に左眼の位置決めが不正確になることも一因と考えられた.本研究では調査しなかったが,今後は優位眼と測定エラーの関連についても検討する必要がある.測定エラーの回数と変動幅,測定エラーの回数と瞼裂幅,測定エラーの回数と年齢,変動幅と瞼裂幅に相関はなかった.アイケアCHOMEはプローブの先端が小さいため瞼裂幅が狭い症例でも測定が可能であることが機器の長所の一つであり,今回の結果からも瞼裂幅にかかわらず自己測定が可能であることが示唆された.変動幅と年齢では統計学的には左眼のみに有意な弱い相関があったが,左眼は測定エラー,変動が多く測定自体が右眼よりも不正確であると考えられることから信頼性に乏しいと解釈した.年齢については,比較的若年者では自己測定が可能な症例が多いと思われるが,本研究の対象は高齢者がほとんど含まれていなかったため,今後高齢者に対する調査が必要である.アイケア平均眼圧とCCCTは右眼では相関がなかったが左眼では弱い相関があったCDabasiaらの報告ではCCCTがC500μmより薄い症例ではアイケアCHOMEはCGATよりもC1.9mmHgの過小評価,500.600CμmではアイケアCHOMEはGATよりもC0.1CmmHgの過大評価,600Cμmより厚い症例ではアイケアCHOMEはCGATよりもC1.0CmmHgの過小評価となっている6).Termuhlenらの報告では右眼においてアイケアCHOMEの測定値と中心角膜厚の相関はなかったが,左眼では有意な正の相関があったとしている7).CCTとアイケアCHOMEの眼圧測定値の関連については症例数を増やしてさらに検討が必要である.アンケート調査では約C80%の症例が操作,取扱い,測定は難しくないと回答し,70%の症例が測定は難しくないと回答した.アイケアCHOMEの眼圧自己測定はCDabasiaらの報告6)ではC84%,Noguchiらの報告8)ではC86%が難しくないと回答しており本研究結果と同様であった.これらのことからアイケアCHOMEは比較的簡便に眼圧自己測定を施行できる機器であると考えられた.一方で,25%の症例は測定が怖いと回答しており,自己測定にあたっては事前に十分に練習を行って機器に慣れる必要があることも示唆された.本研究結果からアイケアCHOMEはCGATよりも過小評価であるが相関があり,比較的簡便に眼圧自己測定を可能にする携帯式眼圧計として一定レベルの有用性が期待できると考えた.しかし,左眼は変動幅が大きく測定エラー回数も多かったことから左眼の測定は課題であり,これらの原因究明と測定精度を向上させるための練習や測定の要領を見出す必要があると考えた.さらにアンケート調査でも高齢者や視機能障害者による眼圧自己測定は困難,裸眼視力が悪いので位置をあわせるのが難しい,眼圧自己測定は他者の監視下で行うほうがよいなどの意見があった.緑内障患者でC24時間眼圧自己測定を完了するにはプローブをプローブベースにセットする作業や機器の操作,測定を医療従事者の監視なしですべて患者自身が行わなければならないため.アイケアCHOMEによるC24時間眼圧自己測定の可否には裸眼視力,屈折,視野障害の程度やパターン,年齢,さらには手指の関節や筋力の状態,使用経験のない機械への苦手意識,自己測定への意欲など種々の要因を考慮しなければならないと考えられる.本研究は健常者を対象に行ったが,今後は緑内障患者を対象に自己測定を行い,さらなる検証を進めたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)中村誠:新しい眼圧計アイケア.あたらしい眼科C23:893-894,C20062)坂田礼:アイケア眼圧計の使い方について教えてください.あたらしい眼科27(臨増):176-178,C20103)GandhiCNG,CPrakalapakornCSG,CEL-DairiCMACetCal:IcareCONEreboundversusGoldmannapplanationtonometryinchildrenCwithCknownCorCsuspectedCglaucoma.CAmCJCOph-thalmolC154:843-849,C20124)SakamotoM,KanamoriA,FujiharaMetal:AssessmentofIcareONEreboundtonometerforself-measuringintra-ocularpressure.ActaOphthalmolC92:243-248,C20145)塩川美菜子,方倉聖基,井上賢治ほか:携帯式眼圧計アイケアCONECRによるC24時間眼圧自己測定の検討.あたらしい眼科C32:1173-1178,C20156)DabasiaCPL,CLawrensonCJG,CMurdochCIE:EvaluationCofCaCnewreboundtonometerforself-measurementofintraocu-larpressure.BrJOphthalmolC100:1139-1143,C20167)TermuhlenCJ,CMihailovicCN,CAlnawaisehCMCetCal:Accura-cyCofCMeasurementsCWithCtheCiCareCHOMECReboundCTonometer.JGlaucomaC25:533-538,C20168)NoguchiA,NakakuraS,FujioYetal:ApilotevaluationassessingCtheCeaseCofCuseCandCaccuracyCofCtheCnewCself/Chome-tonometerCIcareCHOMECinChealthyCyoungCsubjects.CJGlaucomaC25:835-841,C20169)MudieL,LaBarreS,VaradarajVetal:TheIcareHOME(TA022)studyCperformanceCofCanCintraocularCpressureCmeasuringCdeviceCforCself-tonometryCbyCglaucomaCpatients.OphthalmologyC123:1675-1684,C2016***

0.1%ブロムフェナクナトリウム点眼液のNd:YAGレーザー後囊切開術後の炎症抑制効果

2017年9月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科34(9):1318.1322,2017c0.1%ブロムフェナクナトリウム点眼液のNd:YAGレーザー後.切開術後の炎症抑制効果小溝崇史*1寺田裕紀子*2森洋斉*1子島良平*1宮田和典*1*1宮田眼科病院*2東京都健康長寿医療センターComparisonofAnti-in.ammatoryE.ectofTopical0.1%Bromfenacand0.1%BetamethasoneafterNd:YAGLaserCapsulotomyTakashiKomizo1),YukikoTerada2),YosaiMori1),RyoheiNejima1)andKazunoriMiyata1)1)MiyataEyeHospital,2)TokyoMetropolitanGeriatricHospitalandInstituteofGerontology目的:0.1%ブロムフェナク点眼液のCNd:YAGレーザー後.切開術後の抗炎症効果をC0.1%ベタメタゾン点眼液と比較する.方法:後発白内障に対するCNd:YAGレーザー後.切開術施行例を対象とした無作為化比較試験.患者をC2群に分け,術後にブロムフェナクC1日C2回,またはベタメタゾンC1日C4回,各C1週間点眼した.眼圧,フレア値,視力,中心窩網膜厚を測定し,混合効果モデルで解析し比較した.結果:有効性解析対象はブロムフェナク群C43例C43眼,ベタメタゾン群C46例C46眼で,両群ともに,術前と比較して,眼圧,フレア値,中心窩網膜厚はほぼ増加せず,術後視力は著明に改善した.薬剤間の比較では,眼圧はブロムフェナク群で,中心窩網膜厚はベタメタゾン群で有意に減少した.両群に有害事象はなかった.結論:0.1%ブロムフェナク点眼液はCNd:YAGレーザー後.切開術後炎症に対しC0.1%ベタメタゾン点眼液と同等の効果を示す.CPurpose:ToCcompareCtheCanti-in.ammatoryCe.ectCofCtopicalC0.1%CbromfenacCandC0.1%CbetamethasoneCinpatientsCafterCNd:YAGClaserCcapsulotomy.CMethods:PatientsCwereCprospectivelyCrandomizedCintoCeitherCthebromfenac(n=43)orCbetamethasone(n=46)group.CAfterCcapsulotomy,CtheCrespectiveCgroupsCwereCadministered0.1%bromfenactwicedailyor0.1%betamethasonefourtimesdaily,for1week.Intraocularpressure(IOP),ante-riorchamber.are,visualacuityandfovealthicknesswereevaluatedpreoperativelyandpostoperatively.Amixede.ectCmodelCwasCusedCforCanalysis.CResults:InCbothCgroups,CthereCwasCnoCsigni.cantCdi.erenceCinCIOP,CanteriorCchamberC.areCorCfovealCthicknessCbetweenCpreoperativeCandCpostoperativeCvalues,CwhileCvisualCacuityCimprovedCsigni.cantly.Comparingthetwogroups,IOPwassigni.cantlylowerinthebromfenacgroup,andfovealthicknesswassigni.cantlylowerinthebetamethasonegroup.Conclusion:Theanti-in.ammatorye.ectof0.1%bromfenacwassimilartothatof0.1%betamethasoneinpatientsafterNd:YAGlasercapsulotomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(9):1318.1322,C2017〕Keywords:YAGレーザー後.切開術,眼圧,フレア値,中心窩網膜厚,ブロムフェナク.Nd:YAGlasercapsu-lotomy,IOP,anteriorchamber.are,fovealthickness,bromfenac.Cはじめに後発白内障は,比較的頻度の高い白内障手術後の合併症であり,術後に一部残存する水晶体上皮細胞の増殖,線維性物質の進展により引き起こされた後.面上の混濁である.海外のメタアナリシスによると,発生率は白内障術後C1年で11.8%,3年でC20.7%,5年でC28.4%と報告され1),国内でもほぼ同様の発生率となっている2).後.混濁が瞳孔領に発生すると視機能に影響を及ぼすことから,その発生を予防するためにレンズ形状の改良や非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalanti-in.ammatorydrugs:NSAIDs)の点眼などさまざまな対策が検討されている3).しかしながら,後.混濁の発生を完全に抑制することはできず,発生した場合には,neodymium:YAG(Nd:YAG)レーザーによる後.切開が行われるのが一般的である.〔別刷請求先〕小溝崇史:〒885-0051宮崎県都城市蔵原C6-3宮田眼科病院Reprintrequest:TakashiKomizo,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara,Miyakonojo-shi,Miyazaki885-0051,JAPAN1318(106)後発白内障に対するCNd:YAGレーザー後.切開術後の合併症としては,眼圧上昇,黄斑浮腫,網膜.離などが知られている4).なかでも眼圧上昇は良く知られた合併症であり,その発生頻度は,後.切開術後に眼圧下降薬を使用することで少なくなったものの,無水晶体眼や緑内障眼など眼圧上昇のリスクが高い症例も存在することから,注意すべき合併症の一つである.Altamiranoら5)は,眼圧上昇は切開時に飛散した後.の破片が線維柱帯を目詰まりさせることがおもな原因と報告したが,眼圧と術後のフレア値には弱いながらも相関があるとも報告しており,炎症反応が眼圧上昇に少なからず影響を及ぼしている可能性がある.また,これら合併症は,後.切開時の総エネルギー照射量が高いと発生率がより高まる6,7)ことから,手術侵襲に伴う炎症を抑制することは重要である.日常診療において,後発白内障に対するCNd:YAGレーザー後.切開術後の炎症抑制にステロイド点眼薬が使用されている7).しかし,ステロイド点眼薬は眼圧上昇の副作用が報告されており,眼圧上昇の副作用のないCNSAIDsが代替となるのが望ましいものの,その効果を直接比較した報告は過去には見当たらない.そこで,内眼手術後の抗炎症効果がステロイド点眼薬と同等8,9)であり,眼圧も上昇させないC0.1%ブロムフェナク点眼液(ブロナックCR点眼液C0.1%)のNd:YAGレーザー後.切開術後の炎症に対する抑制効果を,0.1%ベタメタゾン点眼液(リンデロンCR点眼・点耳・点鼻液0.1%)と比較した.CI対象および方法1.対象本研究は,宮田眼科病院(以下,当院)倫理審査委員会で承認された後,対象者に文書による十分な説明を行い,文書による同意を得て実施した.対象は,2012年C12月.2015年C3月に当院で後発白内障に対するCNd:YAGレーザー後.切開術を施行した患者である.また,1)糖尿病で中心窩網膜厚がC250Cμm以上の患者,2)糖尿病網膜症を有する患者,3)緑内障を有する患者,4)偽落屑症候群の確定診断を受けた患者,5)ぶどう膜炎を有する患者,6)角膜上皮.離または角膜潰瘍のある患者,7)ウイルス性結膜・角膜疾患,結核性眼疾患,真菌性眼疾患あるいは化膿性眼疾患のある患者,8)白内障を除く内眼手術の既往を有する患者,9)NSAIDsおよびステロイド薬に対して過敏症を有する患者,10)アスピリン喘息を含む気管支喘息,その他慢性呼吸器疾患の合併症を有する患者,は除外した.C2.方法基準を満たした患者を無作為にブロムフェナク群またはベタメタゾン群に割り付けた.ブロムフェナク群は,0.1%ブロムフェナク点眼液を術当日の術後にC1回,その後C1週間は1日C2回点眼し,ベタメタゾン群はC0.1%ベタメタゾン点眼液を術当日の術後にC2回,その後C1週間はC1日C4回点眼した.すべての患者にC1%アプラクロニジン点眼液(アイオピジンRUD点眼液C1%)を術前後C1時間に各C1回点眼した.散瞳薬,麻酔薬は必要に応じて使用することとし,試験薬以外のステロイド薬あるいはCNSAIDsは剤形を問わず使用しないこととした.眼圧をCGoldmann圧平眼圧計で,前房フレア値はレーザーフレアセルメータで,術前,術C1日後,1週後,2週後,4週後に測定した.視力は術前,術C1週後,2週後,4週後に測定し,中心窩網膜厚は光干渉断層計で術前,術C1週後,4週後に測定した.また,観察期間を通じて有害事象を収集した.解析は,ITT解析集団で解析した.患者背景の比較には,t-test,FisherC’sCexactCtestを使用し,平均値C±標準偏差で表示した.評価項目の各観察時期における術前との比較および群間比較は,観察時期,治療,観察時期と治療との相互作用を固定効果,症例を変量効果とした混合効果モデルで推定した.モデル平均値およびC95%信頼区間で表示した.p<0.05の場合に有意差ありと判定した.CII結果107例C107眼が登録され,89例C89眼が有効性解析対象となった.内訳は,男性C32例,女性C57例,年齢(平均値C±標準偏差)はC76.4C±8.7歳であった.ブロムフェナク群はC43例,ベタメタゾン群はC46例であり,年齢,性別,Nd:YAGレーザーの平均総照射熱量に両群で差はなかった(表1).網膜厚がC250Cμm未満の糖尿病合併例はブロムフェナク群でC4例,デキサメタゾン群でC4例あった.術前のモデル平均眼圧はブロムフェナク群でC13.35CmmHg(95%信頼区間:12.49.14.21CmmHg),ベタメタゾン群で13.63CmmHg(95%信頼区間:12.80.14.46CmmHg)で,両群間に差はなかった(図1).術後の眼圧を術前と比較したところ,ブロムフェナク群では,術C1日後,1週後に有意に下降し,ベタメタゾン群では術C1日後に有意に下降した.両群間の比較では,術C1日後およびC1週後でブロムフェナク群が有意に低かった.術前のモデル平均フレア値はブロムフェナク群でC6.63photonCcounts/msec(95%信頼区間:5.47.7.80Cphotoncounts/msec),ベタメタゾン群でC5.76CphotonCcounts/msec(95%信頼区間:4.64.6.89Cphotoncounts/msec)で,両群間に差はなかった(図2).術後のフレア値を術前と比較したところ,両群で術C1日後に有意に下降した.両群間に差はなかった.術前のモデル平均矯正視力(logMAR)はブロムフェナク表1患者背景ブロムフェナク群(43例)ベタメタゾン群(46例)年齢(範囲)C75.6±7.4歳(55.89歳)C74.2±9.6歳(54.89歳)男性/女性16/27例16/30例総照射熱量(範囲)C53.7±22.5CmJ(19.8.116.8CmJ)C56.8±32.5CmJ(12.0.179.4CmJ)t-test.男性/女性のみCFisher’sexacttest.1218フレア値(photoncounts/msec)108642161412108642眼圧(mmHg)0術前1日1週2週4週術後経過期間図1眼圧の推移グラフはモデル平均値±95%信頼区間を示す.術前と比較し,両群ともに有意に下降した(C†p<0.05,C†††p<0.001,混合効果モデル).両群間の比較では,ブロムフェナク群が有意に低かった(*p<0.05,**p<0.01,混合効果モデル).C0.250術前1日1週2週4週術後経過期間図2フレア値の推移グラフはモデル平均値±95%信頼区間を示す.術前と比較し,両群ともに有意に下降した(C††p<0.01,C†††p<0.001,混合効果モデル).両群間に差はなかった.C300-0.200図3矯正視力(logMAR)の推移図4中心窩網膜厚の推移グラフはモデル平均値±95%信頼区間を示す.術前と比較し,グラフはモデル平均値±95%信頼区間を示す.術前と比較し,両群ともに有意に改善した(C†††p<0.001,混合効果モデル),ブロムフェナク群では変化せず,ベタメタゾン群では有意に減両群間で差はなかった.少した(C†p<0.05,C†††p<0.001,混合効果モデル).両群間の比較では,ベタメタゾン群で有意に減少した(*p<0.05,混合効果モデル).0.202500.15矯正視力(logMAR)2000.100.050.00150100-0.05-0.10-0.1550群でC0.150(95%信頼区間:0.106.0.195),ベタメタゾン群でC0.156(95%信頼区間:0.112.0.200)で,両群間に差はなかった(図3).両群ともに,術前と比べて有意に改善し,両群間で差はなかった.術前のモデル平均中心窩網膜厚はブロムフェナク群で241.10Cμm(95%信頼区間:231.11.251.08Cμm),ベタメタゾン群でC229.63μm(95%信頼区間:220.09.239.17μm)で,両群間に差はなかった(図4).術後の中心窩網膜厚を術前と比較したところ,ブロムフェナク群では観察期間を通して差はなかったが,ベタメタゾン群では術C1週後,4週後に有意に減少した.両群間の比較では,術C1週後,4週後でブロムフェナク群とベタメタゾン群に有意差があった.観察期間を通して,両群ともに有害事象の報告はなかった.CIII考察後発白内障に対しCNd:YAGレーザー後.切開術を施行後,0.1%ブロムフェナク点眼液をC1日C2回C1週間またはC0.1%ベタメタゾン点眼液をC1日C4回C1週間点眼し,眼圧および術後炎症に対する影響をC4週間にわたって比較検討した.NSAIDsのなかでC0.1%ブロムフェナク点眼液を選択したのは,過去に筆者らが行った白内障術後炎症に対する抗炎症効果の比較にてC0.1%ジクロフェナク点眼液よりも効果が高く9),点眼回数がC1日C2回と少ないなど,汎用性が高いと判断したためである.Nd:YAGレーザー後.切開術後には,眼圧上昇,黄斑浮腫,網膜.離などの合併症が知られている4).後.切開により生成された破片が線維柱帯に目詰まりすることにより,または術後の眼内炎症反応により眼圧が上昇すると考えられる5,10).Ariら7)は,レーザー総照射熱量が高いほど眼圧は上昇し,中心窩網膜厚も増加することから,総照射熱量をC80mJ以下にすることが望ましいと報告している.また,三木ら11)は,術後C24時間以内にC50%の症例で眼圧がC5CmmHg以上上昇し,その原因の一つとして総照射熱量がC200CmJ以上であることをあげている.これらのことから,総照射熱量が大きいと,術後早期から眼圧上昇が発生することは明白である.今回,術後の眼圧は,ブロムフェナク群,ベタメタゾン群ともに術前よりも上昇することはなかった.これは,総照射熱量が,ブロムフェナク群でC53.7C±22.5CmJ,ベタメタゾン群でC56.8C±32.5CmJと,両群ともにC80CmJよりも低く,眼圧下降薬であるアプラクロニジンを併用していることから,妥当な結果である.しかしながら,ベタメタゾン群の眼圧は,ブロムフェナク群と比較し,術C1日後とC1週後で有意に高かった.同時期に,抗炎症効果の指標であるフレア値は両群で差はなく,術C1週後までは抗炎症薬を点眼していたことから,ステロイド薬の副作用である眼圧上昇が発現した可能性もある.しかし,ベタメタゾン群で極端に眼圧上昇をきたした症例,いわゆるステロイドレスポンダーはなく,眼圧差は術C1日後の早期から認められていることから,両剤の作用発現メカニズムの違いが影響を及ぼした可能性が高いと考えられる.ステロイド薬は,細胞質内のグルココルチコイド受容体に結合した後,核内へ移行し,シクロオキシゲナーゼ(COX)-2の誘導抑制や多くのサイトカイン,ケモカインの産生を抑制し,抗炎症作用を示す12).一方,ブロムフェナクのようなCNSAIDsはCCOXを阻害することにより13,14),細胞質および核膜でのプロスタグランジン合成を抑制し,抗炎症作用を示すことが知られており,効果発現までの時間はステロイド薬よりもCNSAIDsのほうが短いと考えられている.ウサギ前房内フレア上昇モデルにおいてC0.1%ブロムフェナク点眼液とC0.1%デキサメタゾン点眼液の効果発現時間は,それぞれ単回点眼C0.5.3時間後,2.7時間後と報告されている15).また,Nd:YAGレーザー後.切開術後の炎症に関する基礎研究では,術C1時間後で炎症性メディエーターであるプロスタグランジンCE濃度の上昇が観察され16),臨床では術C18時間後にフレアの上昇が観察されている5).これらのことから,眼圧上昇を引き起こす眼内炎症反応は術直後から始まっており,ベタメタゾンとブロムフェナクの作用発現までの時間差が,術後の眼圧に差を生じさせたと考えられる.つぎに,術後の中心窩網膜厚は,ブロムフェナク群,ベタメタゾン群ともに術前と比べて増加は認められなかった.今回の検討では,先に示したとおり,本研究の総照射熱量が低いため,両群とも中心窩網膜厚の増加を十分に抑制できたと考えられる.そのうえで,ブロムフェナク群では術前後で変化がなかったが,ベタメタゾン群では術前に比べて術C1週後,4週後に有意に減少した.Ruiz-Casasら17)は,Nd:YAGレーザー後.切開術後の網膜厚を検討し,その際にNSAIDsであるケトロラクを点眼している.それによると,レーザー総照射熱量がC82.13CmJと比較的高いものの,網膜厚に変化はなく,ブロムフェナク群とほぼ同様の結果であった.一方,ステロイド薬点眼後では,網膜厚は術前と変わらないか増加すると報告されている7,18.21).しかし,ほとんどの報告ではプレドニゾロンを点眼しており,抗炎症作用がより強いベタメタゾン群の結果と比較するのはむずかしい.中心窩網膜厚の増減に影響を与える因子として眼内炎症があげられるが,網膜厚がC250Cμm以上の糖尿病やぶどう膜炎などの炎症性疾患は今回の試験対象から除外されており,またレーザー後.切開術後の後炎症前房フレア値の推移に両群で差はなかったことから,炎症による関与は少ないと考えられる.一方,Leeら22)は,0.1%ベタメタゾン点眼下において,白内障術後の眼圧と網膜厚には負の相関があると報告している.Nd:YAGレーザー後.切開術後でも同様のことが起こった可能性もあるが,この相関については検討をしていないため不明であり,ベタメタゾン群で中心窩網膜厚が減少した原因を特定することはできなかった.Nd:YAGレーザー後.切開術後の炎症の抑制を目的に,0.1%ブロムフェナク点眼液C1日C2回投与が治療の選択肢となりうるか,0.1%ベタメタゾン点眼液C1日C4回投与と比較し検討した.両薬剤ともにC1週間の点眼により,術後視力を有意に改善し,Nd:YAGレーザー後.切開術後の合併症として知られる眼圧上昇や前房内炎症,中心窩網膜厚増加を抑制し,.胞様黄斑浮腫の発生もなかったことから,ともに有用であり,0.1%ベタメタゾン点眼液と並んでC0.1%ブロムフェナク点眼液はCNd:YAGレーザー後.切開術後の治療薬となりうる.(本研究費の一部は千寿製薬株式会社から助成を受けた)利益相反:宮田和典(カテゴリーCF:参天製薬株式会社,日本アルコン株式会社)文献1)SchaumbergCDA,CDanaCMR,CChristenCWGCetCal:ACsys-tematicCoverviewCofCtheCincidenceCofCposteriorCcapsuleCopaci.cation.Ophthalmology105:1213-1221,C19982)安藤展代,大鹿哲郎,木村博和:後発白内障の発生に関与する多因子の検討.臨眼53:91-97,C19993)松島博之:前.収縮・後発白内障.日本白内障学会誌C23:C13-18,C20114)西恭代,根岸一乃:ND:YAGレーザーによる後発白内障手術.あたらしい眼科31:799-803,C20145)AltamiranoCD,CMermoudCA,CPittetCNCetCal:AqueoushumorCanalysisCafterCNd:YAGClaserCcapsulotomyCwithCtheClaserC.are-cellCmeter.CJCCataractCRefractCSurgC18:C554-558,C19926)BhargavaR,KumarP,PhogatHetal:Neodymium-yttri-umaluminiumgarnetlasercapsulotomyenergylevelsforposteriorcapsuleopaci.cation.JOphthalmicVisResC10:C37-42,C20157)AriS,CinguAK,SahinAetal:Thee.ectsofNd:YAGlaserposteriorcapsulotomyonmacularthickness,intraoc-ularCpressure,CandCvisualCacuity.COphthalmicCSurgCLasersCImagingC43:395-400,C20128)EndoN,KatoS,HaruyamaKetal:E.cacyofbromfenacsodiumophthalmicsolutioninpreventingcystoidmacularoedemaCafterCcataractCsurgeryCinCpatientsCwithCdiabetes.CActaOphthalmolC88:896-900,C20109)MiyanagaCM,CMiyaiCT,CNejimaCRCetCal:E.ectCofCbromfe-nacCophthalmicCsolutionConCocularCin.ammationCfollowingCcataractsurgery.ActaOphthalmolC87:300-305,C200910)GimbelCHV,CVanCWestenbruggeCJA,CSandersCDRCetCal:CE.ectCofCsulcusCvsCcapsularC.xationConCYAG-inducedCpressurerisesfollowingposteriorcapsulotomy.ArchOph-thalmolC108:1126-1129,C199011)三木恵美子,永本敏之,石田晋ほか:Nd:YAGレーザーによる後.切開術後合併症.眼科手術6:517-521,C199312)平澤典保:ステロイド薬の基礎.アレルギーC60:193-198,C201113)山田昌和:眼表面疾患とCCOX1,COX2.眼薬理18:64-68,C200414)岡野光博:好酸球性鼻・副鼻腔炎症におけるプロスタグランジンCD2/E2代謝の位置付けと治療の展望.耳鼻・頭頸外科78:437-447,C200615)HayasakaY,HayasakaS,ZhangXYetal:E.ectsoftopi-calCcorticosteroidsCandCnonsteroidalCanti-in.ammatoryCdrugsConCprostaglandinCe2-inducedCaqueousC.areCeleva-tionCinCpigmentedCrabbits.COphthalmicCResC35:341-344,C200316)KaoCGW,CPangCMP,CPeymanCGACetCal:ProstaglandinCE2andCproteinCreleaseCfollowingCNd:YAGClaserCapplicationCtoCtheCanteriorCcapsuleCofCrabbitClens.COphthalmicCSurgC19:339-343,C198817)Ruiz-CasasD,BarrancosC,AlioJLetal:E.ectofposteC-riorCneodymium:YAGCcapsulotomy.CSafetyCevaluationCofCmacularCfovealCthickness,CintraocularCpressureCandCendo-thelialCcellClossCinCpseudophakicCpatientsCwithCposteriorCcapsuleopaci.cation.ArchSocEspOftalmolC88:415-422,C201318)Y.lmazU,KucukE,UlusoyDMetal:Theassessmentofchangesinmacularthicknessindiabeticandnon-diabeticpatients:theCe.ectCofCtopicalCketorolacConCmacularCthickC-nessCchangeCafterCND:YAGClaserCcapsulotomy.CCutanCOculToxicol31:58-61,C201619)Yuvac..,PangalE,YuceYetal:Opticcoherencetomog-raphyCmeasurementCofCchoroidalCandCretinalCthicknessesCafterCuncomplicatedCYAGClaserCcapsulotomy.CArqCBrasCOftalmolC78:344-347,C201520)KarahanCE,CTuncerCI,CZenginCMO:TheCe.ectCofCND:CYAGlaserposteriorcapsulotomysizeonrefraction,intra-ocularCpressure,CandCmacularCthickness.CJCOphthalmolC2014:846385,C201421)ArtunayCO,CYuzbasiogluCE,CUnalCMCetCal:Bimatoprost0.03%CversusCbrimonidineC0.2%CinCtheCpreventionCofintraocularCpressureCspikeCfollowingCneodymium:yttri-um-aluminum-garnetClaserCposteriorCcapsulotomy.CJCOculCPharmacolTherC26:513-517,C201022)LeeCYC,CChungCFL,CChenCCC:IntraocularCpressureCandCfovealCthicknessCafterCphacoemulsi.cation.CAmCJCOphthal-molC144:203-208,C2007***

ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬への変更

2017年7月31日 月曜日

《第27回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科34(7):1031.1034,2017cブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬への変更井上賢治*1塩川美菜子*1比嘉利沙子*1永井瑞希*1石田恭子*2富田剛司*2*1井上眼科病院*2東邦大学医療センター大橋病院眼科E.cacyandSafetyofSwitchingfromBrimonidinetoRipasudilKenjiInoue1),MinakoShiokawa1),RisakoHiga1),MizukiNagai1),KyokoIshida2)andGojiTomita2)1)InouyeEyeHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOhashiMedicalCenter目的:ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬に変更した症例の眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討する.対象および方法:ブリモニジン点眼薬を中止してwashout期間なしでリパスジル点眼薬に変更した原発開放隅角緑内障38例38眼を対象とした.変更理由から眼圧下降不十分群と副作用出現群に分けて,変更前と変更1.2,3.4カ月後の眼圧を調査し,比較した.また,変更後の副作用,中止例を調査した.結果:眼圧は眼圧下降不十分群(19例),副作用出現群(19例)ともに,変更後に有意に下降した(p<0.05).眼圧下降幅と眼圧下降率は眼圧下降不十分群1.1.1.4mmHgと6.1.7.7%,副作用出現群1.7.2.3mmHgと8.4.11.8%だった.変更後の副作用は4例(10.5%),中止例は3例(7.9%)で,鼻出血,咽頭痛,レーザー治療施行各1例だった.結論:ブリモニジン点眼薬投与で眼圧下降が不十分であった患者および副作用が出現した患者に対しては,リパスジル点眼薬への変更が眼圧下降効果と安全性の面から有用である.Purpose:Weretrospectivelyinvestigatedthesafetyande.cacyofswitchingfrombrimonidinetoripasudil.Methods:Thirty-eighteyeswithprimaryopen-angleglaucomathatdiscontinuedbrimonidineandimmediatelybeganusingripasudilwereincluded.Intraocularpressure(IOP)at1-2monthsand3-4monthsafterswitchingwascomparedwithbaselineIOP.Patientsweredividedintotwogroupsbasedonreasonsforswitching:insu.cientIOPreductionoradversereactions.Adversereactionsandpatientswhodroppedoutofthestudywerealsoexamined.Results:Atotalof19patientshadinsu.cientIOPreductionand19patientsexperiencedadversereactions.IOPwassigni.cantlylowerinallpatientsafterswitching(p<0.05).Fourpatients(10.5%)hadadversereactionsand3patients(7.9%)droppedoutofthestudybecauseofnasalbleeding,sorethroatorlasersurgery.Conclusion:Incaseswithinsu.cientIOPreductionoradversereactions,switchingfrombrimonidinetoripasudilmaybeuseful.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)34(7):1031.1034,2017〕Keywords:ブリモニジン,リパスジル,眼圧,副作用,変更.brimonidine,ripasudil,intraocularpressure,ad-versereactions,switching.はじめに線維柱帯-Schlemm管を介する主経路からの房水流出促進作用を有する1)リパスジル点眼薬が使用可能となった.リパスジル点眼薬の治験では,単剤投与,プロスタグランジン関連点眼薬,b遮断点眼薬,プロスタグランジン/チモロール配合点眼薬への追加投与が行われ,良好な眼圧下降効果と安全性が示されている2.6).また,臨床現場においても多剤併用症例でのリパスジル点眼薬の追加投与による良好な眼圧下降効果と安全性が報告されている7.10).緑内障治療では点眼薬を使用しても眼圧下降が不十分な(目標眼圧に達しない)症例では他の点眼薬の追加,あるいは他の点眼薬への変更が推奨されている.また,点眼薬で副作用が出現した症例では,その点眼薬を中止し,他の点眼薬へ変更する.筆者らはリパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景を調査し報告した11).リパスジル点眼薬が他の点眼薬から変更された21症例の前治療薬は,ブリモニジン点眼薬〔別刷請求先〕井上賢治:〒101-0062東京都千代田区神田駿河台4-3井上眼科病院Reprintrequests:KenjiInoue,M.D.,Ph.D.,InouyeEyeHospital,4-3Kanda-Surugadai,Chiyoda-ku,Tokyo101-0062,JAPAN0910-1810/17/\100/頁/JCOPY(115)103110例(47.6%)が最多だった.リパスジル点眼薬を他の点眼薬から変更した際の眼圧下降効果,安全性の報告は過去にない.そこで今回,ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬に変更した症例の眼圧下降効果と安全性を後ろ向きに検討した.I対象および方法2014年12月.2016年3月に井上眼科病院に通院中の原発開放隅角緑内障患者で,ブリモニジン点眼薬がリパスジル点眼薬へ変更となった38例38眼を対象とした.男性15例,女性23例,年齢は66.7±11.9歳(平均値±標準偏差),42.87歳だった.変更理由は眼圧下降不十分群19例,副作用出現群19例だった.副作用の内訳はアレルギー性結膜炎11例,結膜充血3例,眼痛3例,傾眠2例だった.変更前使用点眼薬数は3.4±0.9剤だった.1剤が1例(2.6%),2剤が5例(13.2%),3剤が12例(31.6%),4剤が18例(47.4%),5剤が2例(5.3%)だった(表1).配合点眼薬は2剤,アセタゾラミド内服は錠数にかかわらず1剤として解析した.変更前眼圧は17.1±3.3mmHg,11.28mmHgだった.変更前のHumphrey視野検査プログラム中心30-2SITAStan-dardのmeandeviation値は.9.66±6.37dB,.26.92..1.97dBだった.ブリモニジン点眼薬の使用期間は8.2±8.1カ月間,1.32カ月間だった.ブリモニジン点眼薬を中止して,washout期間なしでリパスジル点眼薬(0.4%グラナテックR,1日2回点眼)に変更した.変更前と変更1.2カ月後,3.4カ月後の眼圧を調査し,比較した.変更1カ月後あるいは,3カ月後の眼圧を測定している症例ではその値を,変更1カ月後あるいは,3カ月後の眼圧を測定していない症例では各々変更2カ月後あるいは,4カ月後の眼圧を解析に用いた.変更後の眼圧下降幅,眼圧下降率を算出した.変更前と変表1変更前使用点眼薬使用薬剤数使用薬剤症例数1剤ブリモニジン1例2剤ブリモニジン+PG5例3剤ブリモニジン+PG/b配合剤4例ブリモニジン+PG+b3例ブリモニジン+PG+CAI3例ブリモニジン+b+CAI1例ブリモニジン+PG+/CAI/b配合剤1例4剤ブリモニジン+PG+CAI/b配合剤14例ブリモニジン+CAI点眼+PG/b配合剤1例ブリモニジン+CAI内服+CAI/b配合剤1例ブリモニジン+PG+b+a11例ブリモニジン+a1+PG/b配合剤1例5剤ブリモニジン+PG+CAI内服+CAI/b配合剤1例ブリモニジン+CAI点眼+a1+PG/b配合剤1例更1.2カ月後,3.4カ月後の眼圧を比較するためにスキャッタープロット/散布図を用いて解析した.変更後の眼圧下降幅を2mmHg以上下降,±1mmHg以内,2mmHg以上上昇の3群に分けた.変更理由をもとに対象を眼圧下降不十分群と副作用出現群の2群に分け,各々で変更前後の眼圧を比較した.変更後の副作用,中止例を調査した.両眼該当症例は右眼,片眼該当症例は患眼を解析に用いた.変更前後の眼圧の比較にはANOVA,Bonferroni/Dunn検定を用いた.有意水準はp<0.05とした.II結果全症例(38例)の眼圧は変更前17.1±3.3mmHg,変更1.2カ月後15.7±2.7mmHg,変更3.4カ月後15.6±3.3mmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.0001).眼圧下降幅は変更1.2カ月後は1.2±1.7mmHgで,内訳は2mmHg以上下降14例(37.8%),±1mmHg以内21例(56.8%),2mmHg以上上昇2例(5.4%),変更3.4カ月後は1.8±2.1mmHgで,内訳は2mmHg以上下降15例(53.5%),±1mmHg以内12例(42.9%),2mmHg以上上昇1例(3.6%)だった(図1).眼圧下降不十分群(19例)の眼圧は変更前18.2±3.1mmHg,変更1.2カ月後16.5±2.4mmHg,変更3.4カ月後16.7±3.4mmHgで,変更後に有意に下降した(p<0.01).変更前と変更1.2カ月後,3.4カ月後の眼圧分布を図2に示す.眼圧が変更1.2カ月後に変更前と比べて上昇したのは4例(10.7%),不変だったのは8例(21.7%),下降したのは25例(67.6%)だった.眼圧が変更3.4カ月後に変更前に比べて上昇したのは4例(14.3%),不変だったのは4例(14.3%),下降したのは20例(71.4%)だった.眼圧下降幅は変更1.2カ月後は1.4±2.1mmHgで,内訳は2mmHg以上下降9例(50.0%),±1mmHg以内7例(38.9%),2mmHg以上上昇2例(11.1%),変更3.4カ月後は2.2±2.6mmHgで,内訳は2mmHg以上下降8例(66.7%),±1mmHg以変更1~2カ月後変更3~4カ月後2mmHg以上上昇,2mmHg以上上昇,2例,5.4%1例,3.6%図1眼圧下降幅(全症例)1032あたらしい眼科Vol.34,No.7,2017(116)変更前と変更1~2カ月後変更前と変更3~4カ月後変更1~2カ月後眼圧(mmHg)0051015202530変更前眼圧(mmHg)図2変更前後の眼圧変更1~2カ月後変更3~4カ月後変更1~2カ月後変更3~4カ月後2mmHg以上上昇,2mmHg以上上昇,0051015202530変更前眼圧(mmHg)2例,11.1%1例,8.3%図3眼圧下降幅(眼圧下降不十分群)内3例(25.0%),2mmHg以上上昇1例(8.3%)だった(図3).眼圧下降率は変更1.2カ月後6.8±12.1%,変更3.4カ月後11.0±12.7%だった.副作用出現群(19例)の眼圧は変更前16.1±3.2mmHg,変更1.2カ月後15.0±2.8mmHg,変更3.4カ月後14.9±3.0mmHgで,変更後は有意に下降した(p<0.05).眼圧下降幅は変更1.2カ月後は1.1±1.3mmHgで,内訳は2mmHg以上下降5例(26.3%),±1mmHg以内14例(73.7%),変更3.4カ月後は1.4±1.7mmHgで,内訳は2mmHg以上下降7例(43.8%),±1mmHg以内9例(56.2%)だった(図4).眼圧下降率は変更1.2カ月後6.1±7.6%,変更3.4カ月後8.1±10.4%だった.変更前にブリモニジン点眼薬により出現していた副作用は変更後に全症例で軽快あるいは消失した.変更後の副作用は4例(10.5%)で出現した.内訳は変更1カ月後に掻痒感,変更1カ月後に鼻出血,変更2カ月後に咽頭痛,変更3カ月後にアレルギー性結膜炎が各1例だった.変更後の中止例は3例(7.9%)だった.内訳は変更1カ月後に鼻出血,変更2カ月後に咽頭痛,変更3カ月後にレー図4眼圧下降幅(副作用出現群)ザー治療(選択的レーザー線維柱帯形成術)施行が各1例だった.III考按ブリモニジン点眼薬の眼圧下降率は単剤投与では20.9.23.6%12),プロスタグランジン関連点眼薬への2剤目としての追加投与では11.8.18.2%12.14),3剤以上の多剤併用症例への追加投与では6.9.14.3%15,16)と報告されている.一方,リパスジル点眼薬の眼圧下降率は単剤投与では7.5.29.0%2.5),プロスタグランジン関連点眼薬への2剤目としての追加投与では8.0.18.4%5,6),3剤以上の多剤併用症例への追加投与では15.5.21.5%7.10)と報告されている.緑内障病型,症例数,薬剤投与期間,投与前眼圧などが異なるので両剤を単純には比較できないが,両剤の眼圧下降効果はほぼ同等と考えられる.今回ブリモニジン点眼薬からリパスジル点眼薬への変更で眼圧下降不十分群,副作用出現群ともに眼圧が有意に下降した.変更前眼圧が高い症例のほうが眼圧下降が良好な場合が多いが,今回は図2に示すように,変更前眼圧の高低にかかわらず,良好な眼圧下降を示した.その理由として点眼薬の変更によりアドヒアランスが向上した,副作用が軽減したためにアドヒアランスが向上した,ブリモニジ(117)あたらしい眼科Vol.34,No.7,20171033ン点眼薬のノンレスポンダーの症例だった,あるいはリパスジル点眼薬の眼圧下降の作用機序がブリモニジン点眼薬と異なることなどが考えらえる.しかし,今回は前治療薬であるブリモニジン点眼薬の点眼アドヒアランスや眼圧下降効果は後ろ向き研究のため不明である.さらに眼圧測定時間は,患者ごとにはリパスジル点眼薬変更前後で同時刻としたが,リパスジル点眼薬の投与時間は患者ごとに一定ではなく,眼圧値がピーク値なのかトラフ値なのかは不明である.今後,前向き研究が必要と考える.リパスジル点眼薬の副作用は10.5%,中止例は7.9%で出現した.リパスジル点眼薬の治験では副作用として結膜充血,眼瞼炎,アレルギー性結膜炎,眼刺激感,結膜炎,掻痒感,角膜炎が出現し,また,中止例は0.35.8%だった2.6).副作用のうち,とくに結膜充血は55.9.96.4%と高頻度に出現した1,3.5)が,今回は出現しなかった.結膜充血は点眼後に一過性に出現するために診察時には出現していなかった,あるいは結膜充血が点眼後にほとんどの症例で一過性に出現すると説明したために患者が気にしなかった可能性がある.また,出現した副作用のアレルギー性結膜炎,掻痒感は治験や臨床報告にもみられたが,鼻出血と咽頭痛は報告がなく,リパスジル点眼薬との因果関係は不明である.しかし,両症例ともにリパスジル点眼薬の継続使用を望まず,点眼中止となり,その後症状は消失した.ブリモニジン点眼薬による副作用(アレルギー性結膜炎,結膜充血,眼痛,傾眠)はブリモニジン点眼薬中止後に全例で軽快,あるいは消失した.副作用出現症例ではその原因となる点眼薬を中止することが基本であり今回も効果的だった.また,リパスジル点眼薬使用後にアレルギー性結膜炎が出現した1例は,眼圧下降効果不十分群だった.両点眼薬でのアレルギー性結膜炎の発症機序は異なると考えられる.しかし,リパスジル点眼薬によるアレルギー性結膜炎は通常数カ月間使用後に出現するので,今回の3.4カ月間の短期の経過観察期間では過小評価された可能性がある.ブリモニジン点眼薬を使用中で眼圧下降不十分症例やブリモニジン点眼薬による副作用出現群では,リパスジル点眼薬への変更が眼圧下降効果と安全性の面から有用である.しかし今回は3.4カ月間という短期の経過観察期間であったので,今後も長期的な経過観察が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:E.ectsofRho-associatedproteinkinaseinhibitorY-27632onintraocularpressureandout.owfacility.InvestOphthalmolVisSci42:137-144,20012)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase1clinicaltrialsofaselectiveRhokinaseinhibitor,K-115.JAMAOphthalmol131:1288-1295,20133)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Phase2ran-domizedclinicalstudyofaRhokinaseinhibitor,K-115,inprimaryopen-angleglaucomaandocularhypertension.AmJOphthalmol156:731-736,20134)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Intra-ocularpressure-loweringe.ectsofaRhokinaseinhibitor,ripa-sudil(K-115),over24hoursinprimaryopen-angleglau-comaandocularhypertension:arandomized,open-label,crossoverstudy.ActaOphthalmol93:e254-e260,20155)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:One-yearclini-calevaluationof0.4%ripasudil(K-115)inpatientswithopen-angleglaucomaandocularhypertension.ActaOph-thalmol94:e26-e34,20166)TaniharaH,InoueT,YamamotoTetal:Additiveintra-ocularpressure-loweringe.ectsoftheRhokinaseinhibi-torripasudil(K-115)combinedwithtimololorlatano-prost:Areportof2randomizedclinicaltrials.JAMAOphthalmol133:755-761,20137)中谷雄介,杉山和久:プロスタグランジン薬,bブロッカー,炭酸脱水酵素阻害薬,ブリモニジンの4剤併用でコントロール不十分な緑内障症例に対するリパスジル点眼液の追加処方.あたらしい眼科33:1063-1065,20168)吉谷栄人,坂田礼,沼賀二郎ほか:緑内障患者に対するリパスジル塩酸塩水和物点眼液の眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科33:1187-1190,20169)SatoS,HirookaK,NittaEetal:Additiveintraocularpressureloweringe.ectsoftheRhokinaseinhibitor,ripa-sudilinglaucomapatientsnotabletoobtainadequatecontrolafterothermaximaltoleratedmedicaltherapy.AdvTher33:1628-1634,201610)InazakiH,KobayashiS,AnzaiYetal:E.cacyoftheadditionaluseofripasudil,aRho-kinaseinhibitor,inpatientswithglaucomainadequatelycontrolledundermaximummedicaltherapy.JGlaucoma26:96-100,201711)井上賢治,瀬戸川章,石田恭子ほか:リパスジル点眼薬の処方パターンと患者背景および眼圧下降効果.あたらしい眼科33:1774-1778,201612)新家眞,山崎芳夫,杉山和久ほか:ブリモニジン点眼液の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした長期投与試験.あたらしい眼科29:679-686,201213)山本智恵子,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬のプロスタグランジン関連点眼薬への追加効果.あたらしい眼科31:899-902,201414)林泰博,林福子:プロスタグランジン関連薬へのブリモニジン点眼液追加後1年間における有効性と安全性.あたらしい眼科69:499-503,201515)中島佑至,井上賢治,富田剛司:ブリモニジン酒石酸塩点眼薬の追加投与による眼圧下降効果と安全性.臨眼68:967-971,201416)森山侑子,田辺晶代,中山奈緒美ほか:多剤併用中の原発開放隅角緑内障に対するブリモニジン酒石酸塩点眼液追加投与の短期成績.臨眼68:1749-1753,20141034あたらしい眼科Vol.34,No.7,2017(118)