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抗VEGF治療:抗VEGF療法と病診連携:大学病院の立場から

2020年10月31日 土曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二80.抗VEGF療法と病診連携:齋藤昌晃弘前大学大学院医学研究科眼科学講座大学病院の立場から滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対しての第一選択治療は抗CVEGF薬硝子体内注射であるが,基本的にはAMD自体は完治しないため,その治療は長期化してしまう.そのため,大学病院などの拠点病院と,市中病院,開業医との連携が重要になってくる.本稿では大学病院の立場からCAMD治療での連携における留意点について概説する.はじめに大学病院などの拠点病院(以下,診断拠点病院)に,適切なタイミングで患者を紹介することはなかなかむずかしいが,未治療の場合と治療中あるいは治療歴のある場合とに分けて述べる.未治療患者の場合加齢黄斑変性(age-relatedCmaculardegeneration:AMD)治療において大事な点は,ベースラインの視力が良いと最終視力も良かったという報告があるよう図1網膜下出血を伴う加齢黄斑変性(61歳,男性)a:初診時カラー眼底写真で左眼黄斑部に網膜下出血を認める.視力は矯正C1.0.Cb:初診時COCT水平断で網膜下に出血による高輝度反射と,網膜色素上皮の急峻な隆起()を認める(ポリープ状脈絡膜血管症と考えられる).造影検査や治療は施されず,経過観察となった(AMD専門医へのコンサルトが推奨される).c:初診からC2週間後.左眼矯正視力はC0.9だが網膜下出血の器質化が進む.に1),いかに早く治療を開始できるかということである(図1,2).そのため診断拠点病院では,まず受け入れの体制作りが重要である.常日頃から地域の眼科医とのコミュニケーションをとり,紹介しやすい環境を作ることが大事である.患者を紹介する側は,AMDが疑われた時点で行うことで,初期治療のタイミングを逃さないことにつながると思われる.視力良好であっても,患者本人に自覚症状があれば治療の十分な対象になる2).また,多くの施設で導入されている光干渉断層計(opticalCcoherencetomograpgy:OCT)で網膜内液,網膜下液が認められれば重要な所見になる.もちろん,治療に当たっては網膜静脈分枝閉塞症,糖尿病黄斑浮腫,黄斑部毛細血管拡張症などの鑑別が必要になってくるが,そういった鑑別および確定診断は診断拠点病院の役割である.また,受け入れの際にはCFAXによる病診連携を行う施設が多いと思われるが,当科でも導入する簡単なチェックリストを設けることで,重症度区別が簡単にでき,お互いの連携の効率化が図られる(図3).AMDの診断後,その治療が遅れてしまうとC1年後の視力が悪くなるという報告もあるように3),診断拠点病図2図1と同一症例の最終受診時所見初診からC1カ月後のカラー眼底写真(Ca)で網膜下出血は吸収傾向にあるが,OCT(Cb:水平断,Cc:垂直断)で中心窩の視細胞層の障害を認める.矯正視力はC0.1に低下した.(99)あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020C12750910-1810/20/\100/頁/JCOPY項目矯正視力OCT所見:異常出血車の運転受診C3日前からの抗菌薬の点眼指導備考右ありありするあり左なしなししないなし図3弘前大学の紹介チェックリスト(黄斑疾患の例)病診連携時に本チェックリストに記入をお願いしている.このリストによって,患者の眼の状態と生活状況が簡単にわかる.その結果,個々の緊急度が容易に判断でき,受診日の調整を行える.また,注射前の抗菌薬の点眼薬の使用状況によっては,紹介受診当日の加療も可能になる.院でもCAMDの診断と適した治療を早急に行える環境作りは必須である.AMDのサブタイプの鑑別にはフルオレセイン蛍光造影,インドシアニングリーン蛍光造影が必要になってくるので,同日あるいは近日に検査が施行できるよう,そしてスムーズに抗CVEGF療法に移行できるようなシステム作りが重要である.治療中あるいは治療歴のある患者の場合診断拠点病院で治療方針が決まり,その後,逆紹介されて加療および経過観察中の場合と,自院で診断し加療中の場合があると思われる.いずれも診断拠点病院への紹介のタイミングとしては,網膜下出血の出現や増大,さらには硝子体出血などの明らかな所見の増悪変化が生じた場合のみならず,視力の維持が不安定になったり,OCTで網膜内液,網膜下液などC.uidコントロールの不良が認められるなど,治療の効果が減弱した場合にも,躊躇なく紹介すべきと思われる.診断拠点病院から紹介元への逆紹介AMDの加療は長期化するため,すべてのCAMD患者の治療を診断拠点病院で継続することは現実的に不可能である.そのため紹介元に逆紹介することになるが,その際に明確かつ具体的な治療方針を示すことが大事である.先に述べたように,症状が悪化した場合には再度診断拠点病院で再評価する必要があるので,そういった連携しやすい環境づくりが重要である.現在多くの施設でCAMD治療の維持期は,抗CVEGF薬硝子体内注射のCtreatandextend(TAE)法が主流にC1276あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020なっていると思われる.しかし,治療間隔の増減には所見の判定および評価が必要であり,AMD非専門医には負担になってしまうと考える.そのため当科ではCtreatCandCextend-thenC.xedCregimenの考えで治療を行い,紹介元への逆紹介時にはC2~4カ月ごとの定期的な硝子体内注射か,定期検査のみのいずれかの状態で診ていただくかたちで行い,少しでも負担を軽減するように考えている.AMDの状態が変化するような場合には先に述べたように診断拠点病院で治療の再評価を行うようにする.おわりにAMDはわが国でも増大している疾患であり,この先の日本では超高齢社会に移行するためさらに増えていくことが強く予想されている.2020年C3月C25日には新たな抗CVEGF薬であるブロルシズマブ(ベオビュ)がわが国でも承認された.臨床試験のデータより新たな期待のもてる薬剤ではあるが4),現在おもに使用されているラニビズマブ,アフリベルセプトとの違いや使い分けが必要になってくると思われる.診断拠点病院の役割として,こういった新しい薬剤の効果や使用方法,これまでの薬剤との違いや使い分けを発信し続けること,そして本稿で述べた病診連携をしっかりと行っていくことが,AMD治療における長期的な視力の維持のために重要と思われる.文献1)WritingCCommitteeCforCtheCUKCAge-RelatedCMacularCDegenerationCEMRCUsersGroup:TheCneovascularCage-relatedmaculardegenerationdatabase:multicenterstudyofC92976Cranibizumabinjections:report1:visualCacuity.OphthalmologyC121:1092-1101,C20142)SaitoCM,CIidaCT,CKanoM:IntravitrealCranibizumabCforCexudativeCage-relatedCmacularCdegenerationCwithCgoodCbaselinevisualacuity.RetinaC32:1250-1259,C20123)TakahashiCH,COhkuboCY,CSatoCACetal:RelationshipCbetweenCvisualCprognosisCandCdelayCofCintravitrealCinjec-tionCofCranibizumabCwhenCtreatingCage-relatedCmacularCdegeneration.RetinaC35:1331-1338,C20154)DugelCPU,CKohCA,COguraCYCetal:HAWKCandCHARRI-ER:phase3,multicenter,randomized,double-maskedtri-alsCofCbrolucizumabCforCneovascularCage-relatedCmacularCdegeneration.Ophthalmology127:72-84,C2020(100)

緑内障:プロスタグランジン関連薬と瞳孔間距離

2020年10月31日 土曜日

●連載244監修=山本哲也福地健郎244.プロスタグランジン関連薬と瞳孔間距離善岡尊文旭川医科大学眼科学講座伊野田悟髙橋秀徳自治医科大学眼科学講座プロスタグランジン(PG)関連薬は,緑内障治療薬の第一選択薬として広く使用されている.しかし,臨床的にはCPG関連の局所的な副作用として,プロスタグランジン関連眼窩周囲症(PAP)が認められる.今回,PAPの定量指標として瞳孔間距離の変化について概説する.●はじめにプロスタグランジン(prostaglandin:PG)関連薬は,全身性の副作用がなく,眼圧下降効果に優れ,さらに点眼回数も少ないことから,緑内障の第一選択薬として広く使用されており,わが国では,ビマトプロスト,ラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロストのC4種類が臨床使用されている.しかし,PG関連薬は眼瞼色素沈着,上眼瞼溝深化(deepeningCofCupperCeyelidCsul-cus:DUSE),上眼瞼下垂,眼窩周囲脂肪萎縮などの局所的な副作用が生じることに注意しなければならない.これらの同時に発生するいくつかの症状は,プロスタグランジン関連眼窩周囲症(prostaglandin-associatedperiorbitopathy:PAP)として認識される1).PAPは,眼窩周囲の美容上の問題や点眼アドヒアランスに関係する.また,近年では緑内障に対してもっとも広く施行される手術の一つである線維柱帯切除術の術後成績に与える影響も報告されている2).その報告によると,線維柱帯術切除後の眼圧再上昇を死亡と定義し,Kaplan-Meier法を用いてCDUES(+)群とCDUES(-)群を比較したところ,術後C24カ月の生存率はCDUES(+)群で統計的優位に少なかった.また,点眼薬の種類やその他の因数について多変量解析を行った結果では,ビマトプロストのみが有意に関連する因子として選択されたという.しかしながら,PAP評価というものは困難である.いくつかのCDUESに関連した既報はあるが,前述の既報での評価を含めて,経時的な眼窩周囲写真での評価となり1,3,4),客観性と定量的評価は困難である.MRIによる評価はこういった点では優れているが,経時的に何度も撮影するのは時間・費用対効果から困難である.最近佐野らは,PG関連薬に伴うCPAPの定量的評価として,瞳孔間距離(pupillarydistance:PD)に着目し,比較検討を行った5)ので概説する.C●試験の概要対象は,中心視野を失うことなく両眼視力がC0.5以上,初回CPG関連薬点眼開始からC2カ月以上経過観察ができ,PDを測定できたこととした.除外基準として,局所・全身ステロイドまたは非ステロイド性抗炎症薬の使用,経過観察期間内の眼内または眼窩周辺の手術歴,甲状腺機能異常,中枢神経系機能障害など,眼の位置に影響を与える可能性のある疾患歴とした.コントロールとして,同様の除外基準のほか緑内障点眼を使用していないものとした.眼圧はCGoldmann圧平眼圧計を測定し,屈折誤差とともにCPDはオートレフラクトメーターを測定した.C●結果PG関連薬投与群はC152人,コントロール群はC61人であった.PG関連薬のうち,ビマトプロストC14人,トラボプロストC25人,ラタノプロストC55人,タフルプロストC58人であり,投与前・投与後の測定間のCPG関連薬投与平均期間はC12C±5.6カ月であり各CPG関連薬の投与期間に有意差はみられなかった(p=0.38).PG関連薬投与群の投与前CPDおよび投与後CPDの平均は,それぞれC63.1C±3.0Cmm,62.3C±3.2mmであり,有意に短縮を認めた(p<0.001).ビマトプロスト,ラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロスト投与群のそれそれのCPD変化は,-2.20±0.97Cmm(p<0.001),-0.84±1.6mm(p=0.008),-0.74±2.4mm(p=0.012),-0.49±2.0Cmm(p=0.035)であった.ビマトプロスト投与群のCPD短縮は,他C3剤と比較して統計的有意に認められた(p=0.007).(97)あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020C12730910-1810/20/\100/頁/JCOPY図1眼球陥凹により瞳孔間距離が短縮する機序解剖学的に眼窩は正中に平行ではなく,やや外向きになっているため,眼窩脂肪萎縮により瞳孔間距離が狭小化する.コントロール群ではCPDの減少は認められなかったとのことである.C●PG関連薬投与でなぜPDが短縮するのかPAPのおもな症状である眼球陥凹やCDUESは,眼窩脂肪組織の変化であると考えられている.PG関連薬に起因するプロスタグランジン受容体の活性化による眼窩脂肪組織での脂肪生成の減少であると考えられている6~8).生理的に両側の眼窩間の距離は,前方方向に向かって長くなっているため,眼窩脂肪組織が減少すればその分眼球が陥凹し,PDは同時に短くなると考えられる(図1,2).C●瞳孔間距離の短縮PAPは美容上の問題を生じ,またそれが点眼アドヒアランスに関連し,さらには緑内障手術の術後経過にも関連する可能性があり,PG関連薬処方中は必ず注意しなければならないことの一つである.PAPの一つにCPDの短縮がありえるという今回の結果は,将来的なCPAPの定量的な評価として有用である可能性がある.日常臨床においては,PDが短縮すれば眼鏡処方の変更が必要となる.また,PDの変化は私たち眼科医にとっては細隙灯顕微鏡検査でのCPDの変更や,手術などに重要な両眼視機能へ影響を与える可能性もある.今後のさらなる検討は必要であるが,興味をもってい図2PG関連薬による副作用a:点眼前,Cb:点眼後.PG関連薬の副作用により,点眼前後で眼窩脂肪萎縮による眼球陥凹()と瞳孔間距離の短縮()を認める.ただいた方は,まずはCPG関連薬処方後数カ月経過した患者に,眼鏡の具合を確認してみてはいかがだろうか.文献1)SakataR,ShiratoS,MiyataKetal:Incidenceofdeepen-ingoftheuppereyelidsulcusinprostaglandin-associatedperiorbitopathyCwithCaClatanoprostCophthalmicCsolution.Eye(Lond)C28:1446-1451,C20142)MikiT,NaitoT,FujiwaraMetal:E.ectsofpre-surgicaladministrationofprostaglandinanalogsoftheoutcomesoftrabeclectomy.PLoSONEC12:e0181550,C20173)JayaprakasamA,Ghazi-NouriS:Periorbitalfatatrophy:CanCunfamiliarCsideCe.ectCofCprostaglandinCanalogs.COrbiC29:357-359,C20104)PeplinskiCLS,CAlbianCSmithK:DeepeningCofClidCsulcusCfromtopicalbimatoprosttherapy.OptomVisSci81:574-577,C20045)SanoI,TakahashiH,InodaSetal:Shorteningofinterpu-pillaryCdistanceCafterCinstillationCofCtopicalCprostaglandinCanalogeyedrop.AmJOphtalmol206:11-16,C20196)CasimirCDA,CMillerCCW,CNtambiJM:PreadipocyteCdi.erentiationCblockedCbyCprostaglandinCstimulationCofCprostanoidCFP2CreceptorCinCmurineC3T3-L1Ccells.CDi.erentiationC60:203-210,C19967)MillerCCW,CCasimirCDA,CNtambiJM:TheCmechanismCofCinhibitionCofC3T3-L1CpreadipocyteCdi.erentiationCbyCpros-taglandinF2alpha.EndocrinologyC137:5641-5650,C19968)SerreroG,LepakNM:ProstaglandinF2alphareceptor(FPreceptor)agonistsarepotentadiposedi.erentiationinhibi-torsCforCprimaryCcultureCofCadipocyteCprecursorsCinCde.nedCmedium.CBiochemCBiophysCResCCommunC233:C200-202,C1997C1274あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020(98)

屈折矯正手術:トーリックICLのレンズ回旋

2020年10月31日 土曜日

監修=木下茂●連載245大橋裕一坪田一男245.トーリックICLのレンズ回旋北澤世志博サピアタワーアイクリニック東京ICLはレーシックに替わる屈折矯正手術として注目されており,ノントーリックCICLとトーリックCICLとがある.トーリックCICLで乱視を正確に矯正するためには,適切なサイズ選択と手術中の軸合わせが重要である.●はじめにImplantablecollamerlens(ICL)はレンズの中心に穴のない時代には術後に眼圧上昇や白内障が起こることがあったが,ホールCICL(VisianCICLKS-AquaPORT)の普及により術後合併症は激減した.筆者がC2012年C12月.2019年C10月に施行したホールCICL3,198例C6,309眼の臨床結果では,術後C6カ月で裸眼視力C1.0以上C94.8%,1.5以上C82.5%,矯正精度はC±0.25D以内C75.9%,C±0.50D以内C95.0%ときわめて良好な結果であった.また,術後追加処置は,トーリックCICLの回旋補正がC35例C39眼(1.43%)ともっとも頻度が高く,ついでサイズや度数交換C20例C43眼(0.68%),抜去C8例C16眼(0.25%),LASIK追加6例7眼(0.11%),眼内炎1例1眼(0.02%),白内障や緑内障C0眼(0%)であった.本稿ではトーリックCICLのレンズ回旋の原因および対処方法について述べる.C●トーリックICLのレンズ回旋の原因トーリックCICLで乱視矯正が不十分である原因は,手術中の軸合わせ不良による軸ずれとレンズのサイズが小さいために起こるレンズ回旋である.トーリックCICLの軸ずれはC5°以内であれば問題ないが,10°ずれると約30%乱視矯正効果が落ち1)術後裸眼視力に影響するので,正確な軸合わせが重要である.C●乱視軸合わせの方法トーリックCICLの軸合わせで汎用される方法は,術前にC0-180°の水平線にサージカルマーカーで印をつけ(図1),手術中にこのマーキングをもとに乱視軸を合わせる方法である.この方法はもっとも簡単であるが,マーキング時に顔が傾いていると水平線がずれ,マーキングも必ずしもC0-180°とは限らないため軸ずれを起こしやすい.これを改善する方法がCaxisregistration2)であり,前述のマーキングを角膜形状解析装置に取り込んで基準点とし,術中に基準点をもとにトーリックゲージ(95)C0910-1810/20/\100/頁/JCOPYで乱視軸を合わせる方法である(図2).ただし手間がかかり基準点を取り込む角膜形状解析装置が必要なため,最近は白内障手術時に使用するCsurgicalguidanceで軸合わせをする方法(図3)が,正確かつ簡便で好まれている.C●ICLのサイズ決定と術後vault水晶体前面とCICLとの距離をCvaultというが,適正vaultはC250.750Cμmで,250Cμm未満をClowvault,逆にC750Cμmを超えるとChighvaultとよぶ.ICLのサイズはC12.1,12.6,13.2,13.7CmmのC4種類であり,前房深度と角膜径の値をCSTAARSURGICAL社のインターネットオンラインのCOCOS(OnlineCCalculationC&COrderingSystem)に入力すると推奨サイズが表示されるが,近年は術後のChighvaultやClowvaultの症例を減らすために前眼部解析装置CCASIA2(トーメーコーポレーション)に内蔵されているCNK式3)やKS式4)(図4)を使用する術者が多い.しかし,これらの推奨サイズを使用しても約C20%はChighvaultまたはClowvaultとなる.レンズサイズが小さく術後CvaultがC50Cμm以下のような極端なClowvault時は,水平固定したレンズが経時的に垂直方向に回旋するため,乱視が倍増し裸眼視力が低下する.この場合はレンズ回旋を直しても再び回旋してしまうので,大きいサイズのレンズへの交換が必要になる.C●ICL軸ずれ再固定の手技と臨床成績軸ずれ再固定では,初回手術時のようなC3Cmmの創口を作製する必要はなく,1Cmmスリットナイフによる創口で十分である.次に粘弾性物質を前房に注入してマニュピレーターで回旋補正後,BSSPLUSを灌流しながら粘弾性物質を排出すればよい.さらに慣れてくると,粘弾性物質を使用しなくてもCBSSPLUSのみで回旋補正することも可能である.トーリックCICLで軸ずれ再固定を施行した症例C28例31眼の臨床成績を(図5)に示す.初回手術後C1週間の円柱および等価球面屈折度は-1.31±0.55Dおよび-あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020C1271図1細隙灯顕微鏡下でのマーキング顔が傾かないように固定し,スリット光を横にしてサージカルマーカーでC0-180°に印をつける.図3サージカルガイダンスによる軸合わせCALLISTeye(CarlZeiss社)使用.本症例は回旋C0°固定で,サージカルガイダンスのC0-180°にトーリックCICLのマークを合わせた.15141312111098765432100.1眼数(眼)0.20.30.40.50.60.70.80.91.01.21.52.0裸眼視力図5軸ずれ補正前後の裸眼視力の変化0.16±0.36Dであった.再固定C1カ月後の円柱および等価球面屈折度は-0.58±0.32Dおよび+0.01±0.39Dと改善し,裸眼視力も全例C1.0以上に向上した.C●おわりにICLの執刀にはライセンスの取得が必要であるが,2020年C6月末時点でC250名のライセンス取得医師がおり,白内障手術でトーリックCIOLを使用している術者も多い.しかし,ICLの手術対象は眼鏡やコンタクトレC1272あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020図2基準点の同定とトーリックゲージでの軸合わせ角膜形状解析装置(TMS-4)では,左眼鼻側はマーキング上がC180°,耳側はマーキング中央がC0°になっている.図4前眼部解析装置CASIA2(トーメーコーポレーション)に内蔵されているNK式とKS式両式での推奨サイズと術後予想Cvaultが表示される.ンズでしっかり見えている若年者で,わずかの残余乱視でも見にくさを訴えるので,白内障手術時のトーリックIOL以上に軸合わせが重要である.本稿がトーリックICLの軸ずれやレンズ回旋で悩む術者の手助けになれば幸いである.文献1)ShimizuCK,CMisawaCA,CSuzukiY:ToricCintraocularClens-es:CorrectingCastigmatismCwhileCcontrollingCaxisCshift.CJcataractRefractSurgC20:523-526,C19942)MiyataK,MiyaiT,MinamiKetal:Limbalrelaxinginci-sionsCusingCaCreferenceCpointCandCcornealCtopographyCforCintraoperativeCidenti.cationCofCtheCsteepestCmeridian.CJRefractSurg27:339-344,C20113)IgarashiA,ShimizuK,KatoSetal:PredictabilityofthevaultCafterCposteriorCchamberCphakicCintraocularClensCimplantationCusingCanteriorCsegmentCopticalCcoherenceCtomography.CJCataractC&CRefractCSurgC45:1099-1104,C20194)NakamuraT,IsogaiN,KojimaTetal:Implantablecolla-merClensCsizingCmethodCbasedConCSwept-SourceCanteriorCsegmentopticalcoherencetomography.AmJOphthalmolC187:99-107,C2018(96)

コンタクトレンズ:ハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識 HCL処方-ベースカーブの決定

2020年10月31日 土曜日

・・提供コンタクトレンズセミナー今だからハードコンタクトを見直すハードコンタクトレンズ処方のための基礎知識小玉裕司小玉眼科医院5.HCL処方-ベースカーブの決定■はじめにハードコンタクトレンズ(HCL)を処方するには,前回解説したレンズサイズの決定の次に,ベースカーブ(basecurve:BC)を決定しなくてはならない.BCの決定方法はいくつか考えられるが,基本的な考え方から説明する.■角膜曲率半径の中間値弱主経線と強主経線の曲率半径の中間値をBCにする方法が一般的であるが,筆者はそれよりも1~2段階フラットな値(0.05~0.10mmを加えた値)を選択することが多い.その理由は,オフサルモメーター(ケラトメーター)にて計測しているのは角膜中央部の3mm程度の角膜曲率半径であり,周辺部の扁平化は考慮されていないからである.たとえば弱主経線の曲率半径が7.99mmで強主経線の曲率半径が7.83mmの場合,中間値は7.91mmとなるが,筆者は1段階フラットにして7.95mm,あるいは2段階フラットにして8.00mmをBCとして選択する(図1).また,弱主経線の曲率半径と強主経線の曲率半径との差が大きい場合は,両者の中間値と弱主経線との中間値をBCにする.たとえば弱7.83m強主経線角膜曲率半径7.91mm強弱主経線角膜曲率半径の中間値7.99mm弱主経線角膜曲率半径図1弱主経線と強主経線の角膜曲率半径の中間値主経線の曲率半径が8.12mmで強主経線の曲率半径が7.66mmの場合,両者の中間値は7.89mmとなる.この値と8.12mmの中間値は8.005mmとなるので8.00mmをBCにする(図2).このように弱主経線と強主経線の曲率半径を元にしてBCを選択すれば,当たらずとも遠からずのフィッティングが得られることが多い.あとはフルオレセインパターンを参考にしてBCの最終決定をする.■レンズサイズがBCに与える影響レンズサイズを大きくすると,サジタルデプス(sagit-taldepth.図3)は深くなる.また,レンズエッジは角膜周辺部扁平化が次第に大きくなる箇所に及んでくる.そのために同じBCではスティープになるので,レンズサイズを大きくした分だけBCはフラットにしなくてはならない.■角膜周辺部の扁平化がBCに与える影響本セミナー第1回で述べたように,同じデザインのHCLを周辺部の扁平化が異なる角膜に装用させた場合,周辺部の扁平化が平均的な角膜ではベストフィッティン7.66mm強主経線角膜曲率半径7.89mm強弱主経線角膜曲率半径の中間値8.0005mm強弱主経線角膜曲率半径の中間値と弱主経線角膜曲率半径との中間値8.12mm弱主経線角膜曲率半径図2弱主経線と強主経線の角膜曲率半径の中間値と弱主経線の角膜曲率半径の中間値(91)あたらしい眼科Vol.37,No.10,202012670910-1810/20/\100/頁/JCOPY図3サジタルデプスBCをなす曲面の中央部とエッジを結ぶ平面までの距離.ApicalClearanceParallelApicalTauch図4角膜周辺部扁平化とHCLフィッティング平均的な周辺部の扁平化においてはベストフィッティング(パラレル)となるが,周辺部の扁平化が平均より大きくなるとスティープ(アピカルクリアランス)に,平均より小さくなるとフラット(アピカルタッチ)になる.グが得られても,周辺部扁平化が小さい角膜ではフラット(アピカルタッチ)になり,周辺部扁平化が大きな角膜ではスティープ(アピカルクリアランス)になる(図4).よって,角膜周辺部扁平化が平均的な角膜ではパラレルであっても,周辺部扁平化が小さい角膜においてはBCをスティープに,また周辺部扁平化が大きな角膜においてはBCをフラットにしなければならない.ただし,サイズの変更をしたくない場合は,ベベル・図5角膜の周辺部扁平化が小さい角膜への対応ベベル幅が狭くてエッジの浮き上がりが小さいデザインのベベル・エッジ部位.図6角膜の周辺部扁平化が大きい角膜への対応ベベル幅が広くてエッジの浮き上がりが大きいデザインのベベル・エッジ部分.エッジデザインに種類があるHCLによって対応することができる.角膜周辺部扁平化が小さい角膜には,ベベル幅が狭くてエッジの浮き上がりが小さいデザインのもの(図5)を,角膜周辺部扁平化が大きい角膜にはベベル幅が広くてエッジの浮き上がりが大きいもの(図6)を処方する.

写真:角膜入墨術後長期経過した症例

2020年10月31日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦437.角膜入墨術後長期経過した症例伊部友洋福岡秀記京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学図2図1のシェーマ①角膜白斑②角膜中央部から輪部方向に拡散した顔料図1初診時の前眼部写真74歳,男性.角膜中央部に角膜白斑と放射状の色素沈着を認めた.図4前眼部OCT角膜中央部の肥厚と虹彩前癒着を認めた.ところどころ色素でブロックされていた.図3初診時のフルオレセイン染色角膜上皮びらんを認めない.(89)あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020C12650910-1810/20/\100/頁/JCOPY角膜入墨術は外傷や感染後の角膜白斑,虹彩欠損などの整容性を改善する目的や,羞明・複視などの症状を軽減する目的,あるいは擬似的に虹彩の色調を変更する美容目的などで角膜実質内に色素を注入し染色する手法である.英語ではCkeratopigmentationあるいはCcornealtattooと表記される.角膜移植術の進歩や虹彩付きコンタクトレンズの登場により現在日本で施行されることが少ない手法ではあるが,海外では現在でもしばしば行われている.近年ではフェムトセカンドレーザーを用いた角膜入墨術も登場しており,手術方法の進歩や新しい色素の開発により安全性・安定性は向上している1).一度施術されれば虹彩付きコンタクトレンズの費用や装用の手間もかからないメリットがあるため,近年でも海外の研究や症例は多数報告されている.症例はC74歳,男性.もともと近医で白内障の経過観察をされていたが,徐々に見えにくさが進行したため他院を受診.その際に右眼の角膜混濁と色素沈着を認めたため感染症なども疑われ,京都府立医科大学附属病院を紹介受診した.細隙灯顕微鏡所見により角膜入墨術後と考えられたため,病歴を再度聴取した.詳細は不明であるが幼少期より角膜白斑があり,50年ほど前に就職した際に同僚の勧めで角膜入墨術を受けたとのことであった.細隙灯顕微鏡での観察では角膜中央部に角膜白斑を認め,そこから輪部方向にかけて放射状の黒色色素沈着を認め(図1,2),角膜入墨術直後には中央部に円形に注入されていた色素が,年月を経て徐々に輪部方向に拡散していったことが示唆された2).フルオレセイン染色では角膜上皮びらんを認めなかった(図3).前眼部COCTでは角膜中央部の肥厚と虹彩前癒着を認め,色素と思われる部位で不透光となっている所見が認められた(図4).角膜入墨術には以前は皮膚用の顔料などが用いられていたが,近年では専用の顔料が用いられることが多く,合併症も減少しているとの報告もある3).さまざまな手法があるが,瞳孔領にあたる部分から周辺部に向けて角膜実質内を切開していき,確保した空間に顔料を注入して染色する方法が一般的である.ある程度実質浅層の透明性が保たれた症例では,フェムトセカンドレーザーを用いて実質の切開をより正確に行うことが可能である.前述の通り角膜入墨術は現在日本で行われることはまれであり,日常診療において施術後の患者を診察する機会も少ない.施術後の症例では経年変化により色素が輪部方向に拡散した状態になっていると推察される.幼少期からの角膜白斑や虹彩欠損とそれによる視力不良のエピソードがあり,色素が周辺に拡散することで褪色している所見から判断できるため,典型的な前眼部写真を確認し,常に念頭に置くことは日常診療の一助となると考えられる.文献1)AlioCJL,CRodriguezCAE,CElCBahrawyCMCetal:Keratopig-mentationCtoCchangeCtheCapparentCcolorCofCtheChumaneye:Anovelindicationforcornealtattooing.CorneaC35:C431-437,C20162)町田龍三:角膜内に注入した色素の排出径路に就いて.日医大誌28:172-183,C19613)AlioJL,Al-ShymaliO,AmestyMAetal:Keratopigmen-tationCwithCmicronisedCmineralpigments:complicationsCandCoutcomesCinCaCseriesCofC234Ceyes.CBrJCOphthalmolC102:742-747,C2018

MIGSの予後は予測可能か

2020年10月31日 土曜日

MIGSの予後は予測可能かMinimallyInvasiveGlaucomaSurgery:ApproachesforPredictingOutcomes成田亜希子*はじめに低侵襲緑内障手術(minimallyinvasiveglaucomasur-gery:MIGS)は,緑内障治療において重要な役割を果たしている.当初は,点眼アドヒアランスが不良であったり,薬剤毒性などで緑内障点眼治療ができない初期から中期の緑内障患者に点眼治療に代わる選択肢として認識されていたが,有効性と安全性が報告され,さらに種類が増えたことから適応が拡大した.現在,日本で承認されているMIGSはすべて房水主流出路がターゲットで,最大房水流出抵抗部位である傍Schlemm管結合組織とSchlemm管内壁の流出抵抗を軽減させるのが目的である.現時点で日本で施行されているMIGSのデバイスを図1に示した1).しかし,房水主流出路をターゲットとするMIGSには限界がある.上強膜静脈圧レベルまで眼圧を下降させることは困難であり,目標眼圧が低い症例には適さない.また,術前に非常に高い眼圧が持続していた症例には十分な効果を得られないことが多い.治療効果はSchlemm管とそれ以降の房水流出路に依存し,病型や術前眼圧が同じであっても患者によって効果に差があることをしばしば経験する.個々の患者に最適なMIGSの選択,最大の効果を得るための手術部位の選択,そしてMIGSの予後予測は可能か,といった疑問から,房水流出力学への関心が高まり,MIGSの予後を予測する方法についての研究がなされてきた.本稿では,まず房水流出に関する解剖生理について解説し,さらにMIGSの予後を予測する試みを紹介する.I房水流出に関する解剖生理MIGSによる眼圧下降を理解するためには,まず正常の房水流出路に関する解剖生理と緑内障における変化を理解する必要がある.房水主流出路は,おもに線維柱帯,傍Schlemm管結合組織,Schlemm管,集合管,房水静脈で構成されている.1.線維柱帯,傍Schlemm管結合組織最大の房水流出抵抗は傍Schlemm管結合組織に存在し,Schlemm管内壁によって調節されていると考えられている2).細胞外マトリックス(extracellularmatrix:ECM)の産生と分解のバランスが房水流出抵抗や眼圧の制御に重要な役割を果たしている3).無治療の原発開放隅角緑内障眼で,傍Schlemm管結合組織にECMの異常な蓄積がみられたと報告されていることから,ECMの蓄積が初期の病態生理学的変化であると考えられる4).ECMの異常な蓄積により,線維柱帯は薄く,硬くなり,柔軟性,可動性も低下する5).摘出人眼を用いた実験で,トラベクロトミーで全周切開した場合,灌流圧7mmHg(摘出眼の正常眼圧)で49%の房水流出抵抗が除去され,灌流圧25mmHgでは71%が除去されたと報告された6,7).このことから,線維柱帯とSchlemm管では,房水流出抵抗が圧依存性に変化することが示唆された.また,エキシマレーザーで*AkikoNarita:岡山済生会総合病院眼科〔別刷請求先〕成田亜希子:〒700-8511岡山市北区国体町2-25岡山済生会総合病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(77)1253abd図1日本で用いられているMIGSのデバイスa:トラベクトーム(画像提供元:興和).b:iStentトラベキュラーマイクロバイパスステント(画像提供元:グラウコス・ジャパン).c:KahookDualBlade(画像提供元:JFCセールスプラン).d:谷戸式abinternoトラベクロトミーマイクロフック(画像提供元:イナミ).e:Suturetrabeculotomyabinterno(文献1より改変引用)b図2線維柱帯以降の房水流出路のシェーマ(a)と集合管の分布(三次元マイクロコンピュータ断層画像,b)a:房水は,集合管から深部強膜静脈叢,強膜内静脈叢と呼ばれる屈曲蛇行した通過システムを経由し,上強膜静脈に流入するか,あるいは集合管から房水静脈を経由して上強膜静脈に合流する(文献9より改変引用).b:約30本の集合管はSchlemm管に沿ってランダムに分布し,鼻下側象限にもっとも多く,次に耳上側象限に多い(文献10より改変引用).Schlemm管外壁と強膜から1clockhourの範囲の組織を切除した場合,10mmHgの灌流圧で35%の房水流出抵抗が除去されたと報告された8).これらの研究から,房水流出抵抗の1/3.1/2はSchlemm管内壁以降に存在することが示唆された.2.Schlemm管Schlemm管の管腔は直接静脈系に接続している9)(図2a).通常Schlemm管内に血液はみられず,眼圧が上強膜静脈圧以下に下降するか,フランジ付きの隅角鏡で角膜縁の血管を圧迫した際に血液の逆流を認める(図7).Schlemm管の断面は楕円形で,Schlemm管の内壁は傍Schlemm管結合組織に,外壁は強膜に隣接している.3.集合管約30本の集合管はSchlemm管に沿ってランダムに分布し,鼻下側象限にもっとも多く,次に多いのが耳上側象限である10)(図2b).房水は,集合管から深部強膜静脈叢,強膜内静脈叢といった屈曲蛇行した血管を経由して上強膜静脈に流入するか,あるいは房水静脈を経由して直接上強膜静脈に合流する(図2a).4.房水静脈房水静脈は集合管と直接接続していて,深部強膜静脈叢,強膜内静脈叢を迂回して上強膜静脈に合流する(図2a).房水静脈の起始部では,集合管からの透明な房水で内腔が満たされているが,上強膜静脈に合流すると血液を含むようになる.合流点付近では内腔の中央に透明な房水のゾーンがあり,両側を血液のゾーンで囲まれている血管を結膜表層に認める(図10a).眼圧の変動により,合流点での房水と血液の割合は変化する.これらの変化を直接観察することで,眼圧下降を目的とした薬剤や手術の効果を評価できる11).細隙灯顕微鏡検査で通常2.3本,最大6本の房水静脈が観察できる.分布は不均等で,鼻下側象限にもっとも多く認められる.房水静脈には,房水流出を促進する「拍動性のフロー」により動的な均衡が存在する.拍動性のフローは,心拍動や瞬目,そして傍Schlemm管結合組織,Sch-lemm管内壁からSchlemm管への流入路と,集合管,房水静脈を経由する流出路によって生じる周期性の圧縮力から起こる.緑内障患者では,正常者に比べ拍動性のフローが減少する12,13).これは線維柱帯の弾性の生理学的変化により説明でき,房水が前房からSchlemm管へ流れるためには線維柱帯が動的な圧力や房水の流入,流出による容積変化に対して変形可能でなければならないが,緑内障患者では線維柱帯の弾性が低下しているためと考えられている.5.房水流出パターン房水流出は周方向に不均一でセグメンタルであり14)(図3a),鼻下象限には集合管,房水静脈がもっとも多く分布し,房水流出が最大となる.共焦点顕微鏡を用いた研究では,集合管開口部に隣接した線維柱帯にトレーサーが強く集積し,優先的な流出路の存在が示唆され14,15)(図3b),その領域の色素が濃いことから,線維柱帯の色素は活発なフローを有する部位を同定するマーカーとなるかもしれない.6.眼圧上昇によるSchlemm管の虚脱と線維柱帯の集合管開口部への嵌頓摘出人眼を光学顕微鏡で観察した研究において,正常眼の眼圧を急激に上昇させると,Schlemm管が虚脱し,線維柱帯組織が集合管の開口部に嵌頓して集合管開口部が閉塞し,房水流出が低下するが,眼圧を下降させると正常化し,これらの変化が可逆性であることが示された16,17)(図4a).原発開放隅角緑内障(primaryopenangleglaucoma:POAG)患者では,正常眼に比べSch-lemm管の虚脱や集合管開口部の閉塞が多く認められ,眼圧を0mmHgまで下降させてもそれらの所見に変化がなかったと報告された.このことから,高眼圧が長期間持続すると,Schlemm管の虚脱や集合管開口部の閉塞が不可逆性となる可能性が示唆された17,18)(図4b).IIMIGSの予後予測に関する研究さまざまな方法で房水主流出路の可視化,機能評価が試みられてきた.前眼部光干渉断層計(opticalcoherencetomogra-phy:OCT),前眼部OCTアンギオグラフィー(OCT(79)あたらしい眼科Vol.37,No.10,20201255図3正常眼のセグメンタルな房水流出パターン(a,b)と正常眼の共焦点顕微鏡画像(c,d)a:Schlemm管内のトレーサーの分布から,房水流出は周方向に不均一でセグメンタルであることがわかる.b:トレーサーのセグメンタルな分布は強膜静脈にも認められた.c:集合管開口部に近い線維柱帯にトレーサーが強く集積し,優先的な流出路の存在が示唆された.d:集合管開口部が近くにない領域の線維柱帯には,トレーサーの集積を認めなかった.CC:集合管,SC:Schlemm管,TM:線維柱帯.(文献17より改変引用).-正常眼正常眼POAG眼図4正常眼における集合管開口部の光学顕微鏡像(a~c)と正常眼と緑内障眼の集合管開口部の光学顕微鏡像の比較(d,e)a:急激に眼圧を上昇させ45mmHgで維持すると,Schlemm管は虚脱し,線維柱帯の嵌頓により集合管開口部が閉塞した.b:最初眼圧を45mmHgまで上昇させ,その後7mmHgまで下降させると,aでみられた線維柱帯の集合管開口部への嵌頓は解除され,線維柱帯の変形だけが残った.Schlemm管の幅は,眼圧を45mmHgで維持した場合より広かった.c:眼圧を7mmHgで維持した場合,Schlemm管は開放し,集合管開口部に嵌頓を認めなかった.d:正常眼:Schlemm管は開放し,集合管開口部に嵌頓を認めなかった.e:POAG眼:集合管開口部に隣接したSchlemm管は虚脱し,内壁と外壁が部分的に癒着していた.さらに,Schlemm管内壁と傍Schlemm管結合組織が集合管開口部に嵌頓していた.(文献11より改変引用)POAG:原発開放隅角緑内障,CC:集合管,SC:Schlemm管,TM:線維柱帯.a図5OCTを用いた房水流出路の可視化a:enhanced-depthimagingOCTによる集合管の微細構造のバリエーション.白矢印:集合管(文献C30より改変引用).Cb,c:トラベクトーム手術後CSS-OCT画像.Cb:トラベクトーム術後に,前眼部COCTを用いて観察し,線維柱帯,Schlemm管内壁が除去されている()のを確認した.Cc:術後の脈絡膜.離()の発症を確認できた.前眼部OCTA画像(深層)ab表層深層房水流出路造影画像図6前眼部OCTAを用いた強結膜血流の可視化a:前眼部COCTA画像(全体像).強結膜の表層と深層の血管構築を層別に解析することが可能.Cb:深層の前眼部COCTA画像と房水流出路造影画像との比較.同一症例の比較ではないが,両者が類似していることが示された.*角膜(文献C31より改変引用)グレード1グレード2グレード3図7Schlemm管内の血液逆流の評価(provocativegonioscopy)術中に眼圧を上強膜静脈圧以下に下降させることで,前毛様体静脈から集合管を経由して血液をCSchlemm管内に逆流させ,逆流の程度を隅角鏡で観察しながら評価し,3群に分類した(グレードC1:Schlemm管に血液逆流なし,グレード2:不完全な血液逆流,グレード3:完全な血液逆流).(文献C33より改変引用)図8Episcleralvenous.uidwave(EVFW)a:前房内灌流前.b:前房内灌流後.トラベクトーム手術で線維柱帯とCSchlemm管内壁を除去した後に,前房内を灌流して前房内圧を上昇させ,上強膜静脈内の血液がウオッシュアウトされて強膜が白色化する現象(EVFW).EVFWの範囲,程度はともに,術後C3カ月までの眼圧と相関を認めた.(文献C36より改変引用)iStentinject挿入前iStentinject挿入後abcd図9房水流出路造影a:フルオレセインを用いた房水流出路造影.上方,下方,鼻側,耳側の造影パターン(左眼).セグメンタルな房水流出パターンを認めた(文献C39より改変引用).b~d:MIGS施行前後の造影効果の比較.iStentinject挿入前にインドシアニングリーンを用いて造影,挿入後にフルオレセインを用いて造影を行い,以下のC3パターンがあることを示した(文献C41より改変引用).b:術前造影されなかった房水流出路に術後造影効果が認められ,房水流出路が開通したことが確認されたパターン.Cc:既存の房水流出路の流速,流量が術後に増加したパターン.Cd:術前後とも造影効果が認められなかったパターン.:iStentinject挿入部位.:造影信号を認めた領域.:造影信号を認めなかった領域.:造影信号を認めた鼻側領域.abintensityoftransmittedlight(computermodel)図10ヘモグロビンビデオイメージングによる房水動態の観察a:ヘモグロビンの吸収スペクトルを用いて赤血球とその周囲とのコントラストを増強させ,明るい背景に対し赤血球は暗い対象物として表示される.房水が暗い静脈内で白く抜けて見える(房水カラム).:上強膜静脈内の房水カラム.b:房水静脈との合流点の上流で,上強膜静脈断面の房水カラム径(Cd)を測定した.(文献C44より改変引用)C’C4)RohenCJW,CLutjen-DrecollCE,CFlugelCCCetal:Ultrastruc-tureCofCtheCtrabecularCmeshworkCinCuntreatedCcasesCofCpri-maryopen-angleCglaucoma(POAG)C.CExpCEyeCResC56:683-692,C19935)CarreonT,vanderMerweE,FellmanRLetal:Aqueousout.owC-aCcontinuumCfromCtrabecularCmeshworkCtoCepi-scleralveins.ProgRetinEyeResC57:108-133,C20176)RosenquistR,EpsteinD,MelamedSetal:Out.owresis-tanceofenucleatedhumaneyesattwodi.erentperfusionpressuresCandCdi.erentCextentsCofCtrabeculotomy.CCurrCEyeRes8:1233-1240,C198977)GrantWM:ExperimentalCaqueousCperfusionCinCenucleat-edhumaneyes.ArchOphthalmol69:783-801,C19638)SchumanJS,ChangW,Wangetal:Excimerlasere.ectsonCout.owCfacilityCandCout.owCpathwayCmorphology.CInvestOphthalmolVisSciC40:1676-1680,C19999)GongCH,CFrancisA:SchlemmC’sCcanalCandCcollectorCchan-nelsCasCtherapeuticCtargets,CIn.CSurgicalCinnovationsCinglaucoma(SamplesJR,AhmedI,eds)C.p10,Springer,NewYork,201410)HannCCR,CBentleyCMD,CVercnockeCACetal:ImagingCtheCaqueoushumorout.owpathwayinhumaneyesbythree-dimensionalmicro-computedtomography(3Dmicro-CT).ExpCEyeResC92:104-111,C201111)JohnstoneMA:TheCaqueousCout.owCsystemCasCaCmechanicalpump:evidenceCfromCexaminationCofCtissueCandCaqueousCmovementCinChumanCandCnon-humanCpri-mates.CJGlaucomaC13:421-438,C200412)KleinertH:Thevisible.owofaqueoushumorintheepi-bulbarCveins.CII.CTheCpulsatingCbloodCvesselsCofCtheCaque-oushumor.CAlbrechtVonGraefesArchOphthalmolC152:C587-608,C195213)KleinertH:TheCcompensationmaximum:aCnewCglauco-masigninaqueousveins.ArchCOphthalmolC46:618,C195114)GongCH,CFrancisA:SchlemmC’sCcanalCandCcollectorCchan-nelsCasCtherapeuticCtargets,CIn.CSurgicalCinnovationsCinglaucoma(SamplesJR,AhmedI,eds)C.p12,Springer,NewYork,201415)BattistaCSA,CLuCZ,CHofmannCSCetal:ReductionCofCtheCavailableareaforaqueoushumorout.owandincreaseinmeshworkCherniationsCintoCcollectorCchannelsCfollowingCacuteIOPelevationinbovineeyes.InvestOphthalmolVisSciC49:5346-5352,C200816)ZhuCJ,CGongH:MorphologicalCchangesCcontributingCtoCdecreasedout.owfacilityfollowingacuteIOPelevationinnormalChumanCeyes.CInvestCOphthalmolCVisCSciC49:1639,C200817)GongCH,CFrancisA:SchlemmC’sCcanalCandCcollectorCchan-nelsCasCtherapeuticCtargets,CIn.CSurgicalCinnovationsCinglaucoma(SamplesJR,AhmedI,eds)C.p17,Springer,NewYork,201418)GongCH,CFreddoCTF,CZhangY:NewCmorphologicalC.ndingsCinCprimaryCopen-angleCglaucoma.CInvestCOphthal-molVisSci48:2079,C200719)UjiA,MuraokaY,YoshimuraN:Invivoidenti.cationoftheposttrabecularaqueousout.owpathwayusingswept-sourceCopticalCcoherenceCtomography.CInvestCOphthalmolCVisSciC57:4162-4169,C201620)ChenZ,SunJ,LiMetal:E.ectofageonthemorpholo-giesCofCtheChumanCSchlemm’sCcanalCandCtrabecularCmesh-workCmeasuredCwithCswept-sourceCopticalCcoherencetomography.Eye(Lond)C32:1621-1628,C201821)LiCP,CButtCA,CChienCJLCetal:CharacteristicsCandCvaria-tionsCofCinCvivoCSchlemm’sCcanalCandCcollectorCchannelCmicrostructuresinenhanced-depthimagingopticalcoher-encetomography.BrJOphthalmol101:808-813,C201722)RenJ,GilleHK,WuJ,YangC:Exvivoopticalcoherencetomographyimagingofcollectorchannelswithascanningendoscopicprobe.InvestOphthalmolVisSciC6:52,C3921-3925,C201123)XinCC,CChenCX,CLiCMCetal:ImagingCcollectorCchannelCentranceCwithCaCnewCintraocularCmicro-probeCswept-sourceCopticalCcoherenceCtomography.CActaCOphthalmolC95:602-607,C201724)KagemannCL,CWangCB,CWollsteinCGCetal:IOPCelevationCreducesSchlemm’scanalcross-sectionalarea.InvestOph-thalmolVisSciC55:1805-1809,C201425)HongJ,XuJ,WeiAetal:Spectral-domainopticalcoher-enceCtomographicCassessmentCofCSchlemm’sCcanalCinCChi-neseCsubjectsCwithCprimaryCopen-angleCglaucoma.COph-thalmologyC120:709-715.C201326)SiebelmannS,CursiefenC,LappasAetal:Intraoperativeopticalcoherencetomographyenablesnoncontactimagingduringcanaloplasty.CJGlaucoma25:236-238,C201627)Paulaviciute-BaikstieneCD,CVaiciulieneCR,CJasinskasCVCetal:EvaluationCofCout.owCstructuresCinCvivoCafterCtheCphacocanaloplasty.CJOphthalmol2016:4519846,C201628)FuestCM,CKuertenCD,CKochCECetal:EvaluationCofCearlyCanatomicalCchangesCfollowingCcanaloplastyCwithCanteriorCsegmentCspectral-domainCopticalCcoherenceCtomographyCandCultrasoundCbiomicroscopy.CActaCOphthalmolC94:Ce287-e292,C201629)KuertenD,PlangeN,BeckerJetal:Evaluationoflong-termanatomicchangesfollowingcanaloplastywithanteri-orsegmentspectral-domainopticalcoherencetomographyCandCultrasoundCbiomicroscopy.CJGlaucomaC27:87-93,C201830)SkaletAH,LiY,LuCDetal:Opticalcoherencetomogra-phyCangiographyCcharacteristicsCofCirisCmelanocyticCtumors.OphthalmologyC124:197-204,C201731)AkagiCT,CUjiCA,CHuangCASCetal:ConjunctivalCandCintra-scleralvasculaturesassessedusinganteriorsegmentopti-calCcoherenceCtomographyCangiographyCinCnormalCeyes.CAmJOphthalmolC196:1-9,C201832)AkagiT,UjiA,OkamotoYetal:Anteriorsegmentopti-calCcoherenceCtomographyCangiographyCimagingCofCcon-(87)あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020C1263

First-line SLT Study(LiGHT Trial)がもたらしたもの

2020年10月31日 土曜日

First-lineSLTStudy(LiGHTTrial)がもたらしたものWhattheFirst-lineSLTStudy(LiGHTTrial)HasPresented片井麻貴*ISLTとは選択的レーザー線維柱帯形成術(selectivelasertra-beculoplasty:SLT)は,アルゴンレーザー線維柱帯形成術(argonlasertrabeculoplasty:ALT)と異なり,線維柱帯の熱変性やSchlemm管の障害を生じにくい低侵襲な方法であり,反復照射も可能とされている1).選択的光加熱分解論に基づいた照射エネルギーによる周囲に拡散しない短時間照射が特徴であるため,合併症が少ない.近年,他のレーザー線維柱帯形成術であるマイクロパルスダイオードレーザー線維柱帯形成術(micro-pulsediodelasertrabeculoplasty:MDLT),パターンレーザー線維柱帯形成術(patternedlasertrabeculo-plasty:PLT)も施行されており,眼圧下降効果もほぼ同等との報告がみられる.しかし,周囲の線維柱帯無色素細胞に熱変性を生じさせずに,選択的にメラニン色素含有細胞のみに作用させる照射時間は1μs以内とされているため,この条件を満たすのはSLTに限られる2,3)(表1).緑内障診療における治療の順序として,一般的には薬物→レーザー→手術という図式が成り立っている.しかし,第一選択肢とされている薬物には副作用やアレルギー反応が存在し,低い確率ではあるものの避けて通ることはできない.ほかにさし心地や点眼本数,あるいは回数によるアドヒアランスの問題や,妊娠中などで薬物治療が継続できない場合,また患者自身が薬物治療そのものを望まない場合などはSLTの適応があると考えられ,早い段階での施行を考えなければならない.IISLTの作用機序とタイミングSLTの作用機序は,レーザー照射によりサイトカインが放出され4),また活性化されたフリーラジカルが抗炎症細胞貪食能を増大5)させ,Schlemm管内細胞の空胞が増加し透過性が亢進することにより房水流出抵抗が減少するというものである(図1).線維柱帯切開術のような流出路再建術においてもそうだが,SLTの効果を期待するにはSchlemm管以降の流出路を担う集合管の開口やその数も重要になってくる.SLTの効果を判定する指標として眼圧下降率のほかにout.owpressure改善率(ΔOP)(%)を用いることが多い.ΔOPは上強膜静脈圧を10mmHgとし,ΔOP=(SLT前眼圧-SLT後眼圧)/(SLT前眼圧-10)×100(%)の式から求め,20%以上を反応群とする.Songら6)は不成功(=ΔOP<20%)率をSLT前の点眼数が0剤の場合で50%,4剤の場合で73%とし,齋藤ら7)は6カ月有効率がSLT前最大耐用薬治療下では約半数と報告,新田ら8)はSLT1カ月後で反応群の割合がSLT前点眼0剤で92.5%と報告している.これらより,SLTのタイミングは早期のほうが効果的であると予想される.その理由として,①病期が進行し線維柱帯の抵抗異常が慢性化すると線維柱帯細胞数が減少し,同時にSLTのターゲットであるメラニン色素含有細胞も減少*MakiKatai:NTT東日本札幌病院眼科〔別刷請求先〕片井麻貴:〒060-0061札幌市中央区南1条西15丁目NTT東日本札幌病院眼科0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(69)1245表1各種レーザー線維柱帯形成術の違いとSLTの特徴サイトカイン放出・フリーラジカルが抗炎症細胞貪食能↑波長(nm)サイズ(μm)時間SLT5324003nsMDLT577/810300100μsSchlemm管内細胞の空胞↑PLT532/5771005msALT488/51450200ms透過性↑選択的に線維柱帯のメラニン色素含有細胞のみに作用させる場合の照射時間≦1μsSLT:selectivelasertrabeculoplasty,MDLT:micropulsediodelasertrabeculoplasty,PLT:patternedlasertrabeculoplasty,ALT:argonlasertrabeculoplasty.房水流出抵抗↓図1SLTの作用機序照射によりサイトカインが放出され,また活性化されたフリーラジカルが抗炎症細胞貪食能を増大させ,Schlemm管内細胞の空胞が増加し透過性が亢進し,房水流出抵抗が減少する.-=表2LiGHTtrialの患者背景点眼群(n=362)SLT群(n=356)施設ムーアフィールズ眼科病院ハンティンドン病院ガイズアンドセントトーマス病院クイーンズ大学ベルファストノーフォークおよびノーリッチ大学病院ヨーク病院平均年齢(歳)性別男性女性人種アジア人黒人白人その他診断開放隅角緑内障(OAG)高眼圧症(OHT)既往歴喘息高血圧狭心症不整脈187(C51.7%)41(C11.3%)55(C15.2%)15(4C.1%)46(C12.7%)18(5C.0%)62.7(C11.6%)197(C54.4%)165(C45.6%)28(7C.7%)69(C19.1%)258(C71.3%)7(1C.9%)282(C77.9%)80(C22.1%)45(C12.4%)119(C32.9%)11(3C.0%)20(5C.5%)187(C52.5%)41(C11.5%)51(C14.3%)15(4C.2%)43(C12.1%)19(5C.3%)63.4(C12.0%)200(C56.2%)156(C43.8%)23(6C.5%)77(C21.6%)243(C68.3%)13(3C.7%)273(C76.7%)83(C23.3%)48(C13.5%)132(C37.1%)10(2C.8%)17(4C.8%)(文献C11より改変引用)表3LiGHTtrialの対象眼の背景点眼SLT(C362例C622眼)C(C356例C613眼)診断OHT185(C29.7%)195(C31.8%)初期COAG325(C52.3%)311(C50.7%)中期COAG77(C12.4%)67(C10.9%)後期COAG35(5C.6%)40(6C.5%)屈折誤差(球面D)-0.2(C2.7)-0.3(C3.2)視力0.1(C0.1)0.1(C0.2)視野検査CMD値(dB)-3.0(C3.6)-3.0(C3.4)HRTリム面積(mmC2)1.1(C0.4)1.2(C0.4)眼圧(mmHg)24.4(C5.0)24.5(C5.2)中心角膜厚(Cμm)551.6(C36.2)550.7(C38.1)偽落屑12(1C.9%)5(0C.8%)偽水晶体眼33(5C.3%)39(6C.4%)データはCn(%)または平均(SD).HRT:ハイデルベルグレチナトモグラフ.(文献C11より改変引用)表4LiGHTtrialの36カ月後の健康に関連する生活の質(HRQoL)EQ-5D0.96n平均(SD)Cn平均(SD)CEQ-5DC3360.89(0.18)C3370.90(0.16)C0.230CGUIC2990.89(0.13)C3030.89(0.13)〃CGSSC28183.3(17.3)C29483.1(17.7)〃CGQL-15C29719.8(7.8)C30419.8(7.2)〃CQALYC2632.70(0.42)C2612.74(0.37)C0.289QALY(割引)C2632.62(0.41)C2612.65(0.36)C0.286GUI:緑内障ユーティリティインデックス.スコアが高いほどHRQoLがよいことを示す.GSS:緑内障の症状のスケール.GQL-15:緑内障CQOL15.スコアが高いほどCHRQoLが悪いことを示す割引:長期間にわたる解析の際に将来発生する費用を現在の価値に換算したもの.(文献C11より改変引用)CGUI0.960.840.8400061218243036061218243036GSSGQL-1590220.940.94平均GSSスコア平均EQ-5Dスコア0.92平均GQL-15スコア平均GUIスコア0.920.900.900.880.880.860.8688218620841982188017006121824303600618301224Follow-up(months)Follow-up(months)図2LiGHTtrialの36カ月後のEQ-5D,GUI,GSSおよびGQL-15の平均スコア両群間に有意差はなかったがCGUI,GSS,GQL-15はCSLT群のほうがよりよい健康に関する生活の質(HRQoL)を示した.(文献C11より改変引用)表5LiGHTtrialの目標眼圧における治療効果点眼群SLT群36カ月後の眼圧16.3(C3.87)16.6(C3.62)36カ月後の目標眼圧における1眼あたりの薬剤数点眼なし16(3C.0%)419(C78.2%)1剤346(C64.6%)64(C12.0%)2剤99(C18.5%)21(3C.9%)3剤35(6C.5%)4(0C.8%)4剤3(0C.6%)1(0C.2%)36カ月で目標眼圧達成眼499(C93.1%)509(C95.0%)線維柱帯切除術追加要11(1C.8%)0(0%)データはCn(%)または平均(SD).36カ月の時点でCSLT群の78.2%は点眼なしで目標眼圧が達成された.追加で線維柱帯切除術を要したのはCSLT群でC0眼であるのに対し,点眼群では11眼であった.(文献C11より改変引用)表6LiGHTtrialの有害事象点眼群(n=362)SLT群(n=356)イベント数症例数(%)イベント数症例数(%)有害事象C単純ヘルペス角膜炎Cぶどう膜炎C点眼薬の審美的副作用*C点眼薬のアレルギー反応CSLT関連SLT後の炎症CSLT後の眼圧スパイクC§Cその他の一時的なイベント¶C1,196260(C71.8%)C11(0C.3%)C11(0C.3%)C11756(C15.5%)C3317(4C.7%)C─C─C─C─C21(0C.3%)C906261(C73.3%)11(0C.3%)22(0C.6%)127(2C.0%)1813(3C.7%)11(0C.3%)66(1C.7%)171122(C34.4%)*点眼薬の審美的副作用:過剰な睫毛の成長,眼周囲の色素沈着,虹彩の色調変化を含む§眼圧>5CmmHgをスパイクと定義.C¶一過性の不快感,かすみ目,光恐怖症,充血を含む.(文献C11より改変引用)2020年第C124回日本眼科学会ランチョンセミナーを例にあげる.これまでの研究会などで寄せられた数々の質問に数人の演者が回答した.以下に抜粋する.Q1:SLTの線維柱帯に与える影響は?SLT施行後は線維柱帯が硬くなっている印象があるか?回答:・症例によっては硬いと思う.SLT後の症例でCiStentを挿入して,そう感じたことがある.・硬くなっている気もいくらかする程度,意識しない.・硬いか否かの検証は困難だと思う.SLT後に行う従来の線維柱帯切開術ではとくに障壁はない.・硬くなるかどうかは不明だが,少なからず線維柱帯組織に影響は与えていると思う.Q2:緑内障診療ガイドラインでは第一選択治療になっていないが?回答:・最新のガイドラインには,「一般的に,眼圧コントロールに多剤(3剤以上)の薬剤を要するときは,レーザー治療も考慮」とあり,SLTの位置づけが後ろのほうである.次のガイドライン改訂のためには日本人のデータが重要.・欧米に比べて日本ではCSLTの認知度が低いことがその理由の一つと考えられる.また,SLTのノンレスポンダーが存在するので第一選択治療としては逡巡されていたのかもしれない.・日本人のCNTGに対する第一選択治療CSLTの報告は新田論文8)しかない.現在,新田先生を中心に多施設共同研究が進められている.Q3:第一選択治療としてのCSLTを早期から施行しているが“Lancet”を読んでやっぱりそうかと思ったか?回答:・2003年に日眼会誌に自施設の結果を報告8)しているが,“Lancet”でも同様の報告が出たことはすごくうれしい.以前から自分がマネージしてセミナーをやっているが,“Lancet”が出て雰囲気が変わってきた.・人種間の差があるために,日本人において“Lancet”に類似したデータとなるのかをぜひ検証したい.Q4:15年ほど前に導入されていったん消えたが,また脚光を浴びているのはなぜか?回答:・導入当初はフル点眼の症例で,さらなる治療強化の手段として手術を回避する目的でCSLTを施行していたので,効果が限定的であり注目されなかった.ALTに比べて侵襲も少ないので期待されていたが,患者側のレーザーに対する恐れもあった.第一選択治療としてのSLTが効果的であると考えている.低侵襲緑内障手術(minimalinvasiveglaucomasurgery:MIGS)や配合剤が出たことで,そちらに注目されていた面もある.・効果に関する論文も年々数多となり,点眼薬の多様化に伴い点眼剤アレルギーやアドヒアランス不良の患者にとってはよりよい適応となる.・MIGSやリパスジル点眼などで流出路への関心が高まったせいだと思う.・MIGSの出現が大きいと思う.効果は強くなくても低侵襲である術式に関心が高まったことがあると思う.これらの質問をみると,LiGHTtrialの影響もあり,わが国でも再注目されている治療法であることがうかがえる.しかし,英国と日本では医療保険制度も異なるため単純に費用対効果の評価の比較はむずかしい.やはり今後日本人でのデータを増やすことが重要であると思われる.CVどのような症例に有効か一方でCSLTの効果は薄いとする近年の文献もある.Khawajaら12)は英国におけるCSLT施行例C831眼に対するコホート研究の成績をC2020年に報告した.結論は,同じ英国でのCLiGHTtrialとは異なり,ほとんどの症例は施行後早期に反応を示したものの,多くはC1年以内に効かなくなるというものであった.両者の結論に違いが生じた理由として,LiGHTtrialの対象は未治療患者であったのに対し,Khawajaらの研究では大多数が緑内障点眼薬使用中であったことをあげている.これらのことより,SLTは現在のレーザー治療の位置づけとは異なり,できるだけ初期段階での照射や,点眼治療継続が困難な場合の第一選択治療法として,あるいは点眼C2剤目を追加する前など,早い段階での症例への効果が期待される.SLTの効果が大きい症例についての見解はさまざま1250あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020(74)■用語解説■EQ-5D(EuroQol5Dimension):医療技術の経済評価において質調整生存年(quality-adjustedClifeyear:QALY)の算出に用いるためのCQOL値を提供することができるC5項目からなる質問票.欧州のCEuroQolグループが開発し,102の言語バージョンが存在し,世界各国で用いられている.「完全な健康==0」と基準化された健康状態のスコアが算出可能.質調整生存年(quality-adjustedlife-year:QALY):医療行為に対しての費用対効果を経済的に評価する技法.」「死亡C1C-’C’C

緑内障治療の将来-ドラッグデリバリーシステム

2020年10月31日 土曜日

緑内障治療の将来─ドラッグデリバリーシステムFutureDrugDeliverySystemsfortheTreatmentofGlaucoma池田華子*はじめに緑内障治療におけるドラッグデリバリーシステムは,点眼頻度を低下させるため眼表面への滞留時間の増加をめざすもの,眼内への吸収性を改善しバイオアベイラビリティー(生物学的利用能)の向上をめざすもの,中長期の薬剤放出持続をめざすデバイスに大別される.点眼頻度の増加は患者のアドヒアランスの低下につながることから,とくに多剤併用においては,少しでも点眼の回数が少なくなるほうが好ましい.眼表面への滞留時間を増加させる目的,あるいは直接眼内で薬剤を徐放させる目的で,近年は薬剤徐放性のデバイス開発が多数進められており,米国ではすでに食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)にて認可されたものもある.点眼薬用のドラッグデリバリーおよびデバイスを用いたドラッグデリバリーに関して,おもなものを紹介する.I眼表面への薬剤の接触を延長する工夫点眼薬において,接着性・粘性を高めて,眼表面での薬剤の滞在性を高めることにより,より長い時間,眼表面から眼内への薬剤の吸収を期待する.1.ゲル化剤ゲルとは,架橋構造をつくることによって,高い粘性をもち,流動性を失い,固体状になったものをさす.点眼薬においては,液体を点眼し,眼表面で広がった後にゲル化することが理想である.pHの変化,イオン強度の変化,温度の変化でゲル化するポリマーの開発研究が多数行われている(図1).たとえば,眼表面のpHは7.4付近であるため,この付近のpHでゲル化するポリマーを用いることで,ブリモニジンの1回点眼による眼圧下降が通常点眼よりも良好であり,かつ全身への吸収が少ないとの家兎を用いた研究結果が報告されている.また,カリウム,ナトリウム,カルシウム,マグネシウムなど,涙液に含まれるイオンによってゲル化するポリマーを用いて,ブリンゾラミドの眼圧降下作用が持続するとの家兎での研究結果もある.室温では液体であり,34℃付近でゲル化するポリマーも眼表面への点眼薬として有用と考えられる.近年では,pHとイオン強度など,複数の刺激によりゲル化するポリマーの開発が行われている.臨床応用の際には点眼時の刺激性,異物感,霧視などを軽減することが必要であると考えられる.2.リポソームリポソームは,脂質の二重膜をもつ球形の小胞で,内側は親水性であり,二重膜の間隙は疎水性になっている(図2).薬剤のデリバリーに優れ,すでに抗癌剤のデリバリーとして使用を認可されているものもある.眼科用薬剤としても,前眼部疾患から後眼部疾患に対する開発研究が多数進められている.緑内障治療薬としては,たとえばラタノプロストをリポソームに含有させ,結膜下投与することで,90日間にわたって眼圧降下作用が得*HanakoIkeda:京都大学大学院医学研究科眼科学〔別刷請求先〕池田華子:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科眼科学0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(61)1237図2リポソーム脂質二十膜構造をとり,内側には親水性の薬剤を,膜間には疎水性の薬剤を包含することができる.液体ゲル温度/pH/イオンゲル化図1ゲル化液体状のポリマーにpH,イオン強度,温度などの変化を加え架橋構造を作らせることで,ゲル化させる.ゲルとは,高い粘性をもち,流動性を失い,固体状になったものをさす.水膨張図3ハイドロゲル水を含むと膨張し,三次元の立体的な網目構造をとり,中に薬剤を包含することができる.図4デンドリマー中心から規則的に分枝した構造をもつ樹枝状の高分子で,内腔に薬剤を包含することが可能である.先端部分の官能基(ピンクや緑四角で表現)をさまざまに変更することで,可溶性を高めたり,粘性を上げたりすることができる.図5ビマトプロストを含有させたリング直径C24.29Cmmのリングで,ビマトプロストを徐放する.結膜円蓋部結膜上に挿入する.(https://www.youtube.com/watch?reload=9&v=hQNlPpu31kYより)図6涙点プラグトラバプロストを吸収性の涙点プラグに充.したもの(OTX-TP,OcularTherapeutix社).(https://www.slideshare.net/Healthegy/ophthalmology-innovation-showcase-1-ocular-therapeutixより)図7L字型の涙点プラグラタノプロストを充.したCL字型の涙点プラグ(Evolute,MatiTherapeutics社).(https://www.slideshare.net/Healthegy/anterior-segment-company-showcase-mati-therapeuticsより)図8吸収型眼内インプラントビマトプロスト徐放性吸収性眼内インプラント(Durysta,Allergan社).プレフィルドになっており,前房内に挿入する.米国でC2020年C3月に承認された.(https://www.durystahcp.com/Documents/DUR133814_Interactive_Admin_Guide_V10.pdfより).図9線維柱帯部設置型インプラント線維柱帯部に設置する,薬剤徐放性のインプラント(iDose,Glaukos社).(https://www.slideshare.net/glaukos/glaukos-january-2018-presentationhttps://sec.report/Document/0001558370-20-000149/ex-99d1.htmより)C-

緑内障眼におけるOCTA活用法

2020年10月31日 土曜日

緑内障眼におけるOCTA活用法ApplicationofOCTAfortheTreatmentofPatientswithGlaucoma面高宗子*はじめに緑内障はわが国の中途失明原因第一位の疾患である.その有病率は40歳以上で約5.0%であり,年齢とともに有病率は増加することが知られている1).今後,いっそう高齢化が進むわが国において,高齢者が良好な視機能を保ち,自立した生活を営み続けられるように,疾患の進行を抑えるべき重要な眼疾患といえる.日本緑内障学会の「緑内障診療ガイドライン」は緑内障診療の現状を踏まえて随時改定作業がなされている.このガイドラインの第4版では,「緑内障は,視神経と視野に特徴的変化を有し,通常,眼圧を十分に下降させることにより視神経障害を改善もしくは抑制しうる眼の機能的構造的異常を特徴とする疾患である」と定義している.緑内障の視神経障害および視野障害は,基本的には非可逆的であり,患者の自覚なしに障害が徐々に進行するため,緑内障による失明を予防するためには,早期発見および早期治療が重要となる.現在,緑内障に対するエビデンスに基づいた唯一確実な治療法は眼圧下降である.眼圧下降の有用性に基づいた緑内障に対する眼圧下降治療には,薬物療法,レーザー治療,手術療法などの選択肢が増えている.しかし,今なお緑内障はわが国の中途失明原因の第一位である現状がある.緑内障では,いったん障害された視機能が回復することがむずかしいため,早期発見と,治療できる原因があればその原因治療,そして患者ごとに適した眼圧下降治療が大切であるが,その基本に沿って診療にあたっても十分な眼圧下降を得ることがむずかしい症例や,眼圧が十分低いにもかかわらず視野進行を認める症例にも遭遇する.緑内障は多因子疾患であり,緑内障による失明を防ぐためには,眼圧以外の危険因子の解明と治療薬の開発も望まれている.そのような中,眼循環障害は緑内障病態の眼圧非依存因子の一つとして注目されてきた.近年まで,日常診療で眼底の循環を測定することは困難であったが,簡便に再現性よく測定が可能なレーザースペックルフローグラフィー(laserspeckle.owgraphy:LSFG)や本稿で紹介する光干渉断層血管撮影(opticalcoherencetomographyangiography:OCTA)が登場した.これにより,日常診療における眼循環評価が可能となり,緑内障における眼循環の評価が劇的に進歩したといえる.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)はレーザー光による光干渉の原理を応用し,眼底では視神経乳頭部や網脈絡膜などの構造的な変化をとらえることができる.緑内障の診断においては,機能と構造の変化の対応を確認することが重要であることから,構造変化を詳細にかつ簡便に観察できるOCTは臨床の場で非常に役立ち,広く普及してきた.さらには近年,眼底の血流の可視化を可能とするOCTAや,ドップラー現象を活用した眼底血流測定,複屈折を定量化してコラーゲンなどの配向性を定量可能な偏光OCTなども加わり2),緑内障診療におけるOCTの必要性が高まり,不動の地位を得るに至っている.本稿では緑内障と眼循環に関す*KazukoOmodaka:東北大学大学院医学系研究科感覚器病態学講座眼科学分野〔別刷請求先〕面高宗子:980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科感覚器病態学講座眼科学分野0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(53)1229正常眼緑内障眼図1レーザースペックルフローグラフィー(LSFG)による眼血流の測定左:視神経乳頭眼底写真.右:LSFGカラーマップ.緑内障眼では視神経乳頭部が寒色系であり,眼血流が低下している.の進行により軸索が消失し,神経線維における需要が低下したために,微小血管が脱落していった結果であるとする説である.眼血流の測定を行うと,現状では緑内障性障害に伴う廃用性に血管が脱落した影響を含んだ結果を得ることとなるため,眼血流が緑内障性変化に及ぼす直接的な影響を探りづらい.そのため,緑内障性変化に伴う廃用性の循環低下の影響を除いたうえで,眼循環低下が視神経乳頭に及ぼす影響を浮き彫りにすることを目的として,筆者らはCLSFGを用いて視神経乳頭の血流を測定し,影響を与える因子を調べた.すると,緑内障の重症度・近視・血圧・性別などが関連するパラメータとして浮かび上がった.これらの因子で視神経乳頭の循環の値を補正したうえで,視神経乳頭の循環が低下している症例の特徴を観察すると,興味深いことに,大きな乳頭陥凹を有し,黄斑部の障害が引き起こされやすいことがわかった12).一方,眼循環の改善が緑内障患者の治療になるのかに関しては,まだエビデンスが少ない.関連する報告としては,正常眼圧緑内障(normalCtensionglaucoma:NTG)145例を対象とした多施設研究であるCCollabora-tiveCNormalCTensionCGlaucomaStudy(CNTGS)において,片頭痛のある女性は眼圧下降作用の効果が得られにくいと報告された13).また,33名のCNTG患者を対象とした.3年間の前向き研究において,カルシウム拮抗薬の一つであるニルバジピン内服が眼循環を改善させ,視野進行を抑制させたという報告がある14).この研究はNTG症例に絞っているために症例数は少ないものの,眼循環改善がCNTGの視野進行を抑制できる可能性を示唆している.また,筆者らも漢方薬である当帰芍薬散により,NTG症例で著明に眼循環を改善し,視野進行を抑制した症例報告を行った15).今後は眼循環依存性緑内障を層別化し,多施設かつ前向き研究を行うことで,眼循環改善による視野進行抑制効果について明らかにしていく必要がある.CII緑内障診療におけるOCTAの活用法眼循環について議論がなされる中,近年,OCTAの登場により,視神経乳頭,網膜,脈絡膜の血流を非侵襲的に簡便に抽出することが可能となった.Jiaらは,splitCspectrumCamplitudeCdecorrelationCangiography(SSADA)の原理を用いて,高速撮影された同一部位のOCT画像を比較し,静止している部分(組織)と動きのある部分(血流)を判別するアルゴリズムを提唱した16).同一部位を撮像した際に,時間差によって異なる画像が得られた.変化した部位は,動きのあるもの,つまり血管内を流れる血流に相当するのではないか,という解釈である.この技術により,OCTの撮像で,詳細な網脈絡膜血流を反映するCOCTAが可能となった.OCTAは面としての情報に加え,深い部位までの観察も可能であり,さらに深さ方向の情報も得られるため,眼血流の三次元データを取得し,層別に血管を描出し,異常血管の存在する層を確認できる.このため,診断や治療の効果判定にも用いやすい.また,OCTAの画像は,血流を可視化し,詳細な血管構造の描出が可能である.網膜新生血管など,蛍光眼底造影検査では漏出した造影剤でかくれてしまう血管でも鮮明な描出が可能である.一方,蛍光眼底造影検査では血管透過性亢進を判定できるが,OCTAでは透過性亢進を観察することができないという性質も知っておく必要がある(図2).OCTA画像をみる際には,OCTA特有のさまざまなアーチファクトに注意する必要がある.中間透光体の混濁によるCOCT信号強度の減衰による抽出不良,眼球運動によるアーチファクト,網膜層のセグメンテーション不良によるアーチファクトなどが存在する.また,プロジェクションアーチファクトとよばれるCOCTAに特徴的なアーチファクトには,とくに注意が必要である(図3).前述のように,OCTAは,OCTビームの反射光が赤血球の有無で変化することから,その変化量を差分として画像化している.反射することでより深層に落ちた影も画像化され,あたかもそこに血管があるかのように画像化されてしまう.最近ではプロジェクションアーチファクトを除去するアルゴリズムも登場している.機器によるトラッキングも強化され,層構造別に詳細な眼底血管が描出できるCOCTAの強みをいかし,目覚ましい進歩がある.緑内障診療においては,網膜神経線維層に存在する放射状乳頭周囲毛細血管(radialperipapillarycapillary:RPC)や視神経乳頭深部の血管構造,さらに乳頭周囲脈絡網膜萎縮(parapapillaryCatrophy:PPA)(55)あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020C1231図2蛍光眼底造影検査とOCTAの比較a:糖尿病網膜症の眼底写真.b:同一症例の蛍光眼底造影検査後期像.c:同一症例のCOCTA画像.網膜新生血管など,蛍光眼底造影検査では漏出した造影剤でかくれてしまう血管でも,OCTAでは鮮明に描出できる.一方,OCTAでは血管透過性亢進の観察がむずかしい.a図3OCTAのプロジェクションアーチファクトa:OCTAのCBスキャン画像.b:同症例のCRPCスラブの画像.c:脈絡膜層スラブに映り込んだ表層血管.Cd:プロジェクションアーチファクトを除いた脈絡膜層の画像.血管は下方にシャドーを引くため,網膜深層の血管描出でそこより表層の血管も映り込んでしまう.ソフトの開発で表層血管の映り込みをなくす画像を表示することが可能となった.正常眼緑内障眼図4OCTAによる放射状乳頭周囲毛細血管(RPC)上段:RPC.中段:脈絡膜層.下段:黄斑部CFAZ.緑内障眼では,網膜神経線維層の欠損部位に一致したCRPCの脱落(上段黄色点線)を認め,乳頭周囲網脈絡膜萎縮(中段黄色点線)には,無血管領域(microvasculardropout:MvD)がみられる.黄斑部のCFAZは緑内障で拡大しいびつな形状になる(下段黄色実線).流が減少している症例では,その後の中心視野の進行と関連することを報告している28).このように,OCTAによる深部血流の詳細な観察が可能となったことで,PPA内の深部血流の低下は中心視野進行を示唆する所見であることや,その成因には眼圧や眼軸長などの物理的変化や全身血流動態が関与していることなどがわかってきた.C4.緑内障眼における黄斑部の血管密度の変化黄斑部では黄斑部毛細血管密度や中心窩無血管帯(fovealCavascularzone:FAZ)が測定可能である(図4下段).黄斑部の血管密度は,網膜神経線維層厚によく相関することから,検査範囲をC6C×6Cmmなど広い範囲にすると,緑内障の好発部位である黄斑部下方の障害が含まれやすくなり,緑内障の検出が高まる29).病型別での検討は,高眼圧緑内障においては,網膜視細胞近傍の深さの深層毛細血管の脱落が認められていることが報告されている30).この変化は眼圧が正常範囲内のCNTGではみられないとされる.FAZに関しては,定量方法として円形率・面積・円周距離などが用いられ,それぞれ緑内障診療に有用であることが報告されている31).黄斑部をC3C×3Cmmの範囲でCOCTAの撮像をすると,解像度が良好であり,FAZの詳細な変化をとらえやすくなる.緑内障でも,症例ごとに視野障害の出現部位が異なるが,FAZのパラメータは,中心視野障害を伴う緑内障の検出に有用であることが示され,とくに円形率はもっとも診断力が高いとされる.NTG眼では健常眼に比べ,FAZの面積が大きいことが示され,高眼圧緑内障眼でも大きい傾向にある32).FAZの面積は視野の重症度との相関を認めている31,33).わが国からのデータでは,FAZの面積は静的視野検査の中心C10°内の視野障害の程度やCOCTによる黄斑部の内層厚の菲薄化程度ともよく相関する34).黄斑部は検査時の固視が比較的よいために,OCTAによる良質な画像を得られやすい.OCTによる厚みの評価は緑内障の後期では底値となりうるため,緑内障の病初期から中期に強いとされてきたが,OCTAによる毛細血管の減少は,緑内障病後期に至るまで変化しつづけると報告されていることから,幅広い病期に対し有用な可能性がある.緑内障評価におけるCOCTAが今後さらに活用されると考えられる.おわりに本稿ではCOCTAの特徴や注意点,緑内障診療におけるCOCTAの活用について最新情報をまとめた.OCTAの登場によって,日常診療で非侵襲的に,かつ簡便に詳細な血管構造が可視化できるようになったことで,緑内障の病態と眼血流の関連についてエビデンスがさらに積み重ねられることが期待される.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20042)YamanariCM,CTsudaCS,CKokubunCTCetal:Fiber-basedCpolarization-sensitiveCOCTCforCbirefringenceCimagingCofCtheCanteriorCeyeCsegment.CBiomedCOptCExpress6:369-389,C20153)AizawaN,YokoyamaY,ChibaNetal:ReproducibilityofretinalCcirculationCmeasurementsCobtainedCusingClaserCspeckle.owgraphy-NAVIinpatientswithglaucoma.ClinOphthalmolC5:1171-1176,C20114)WangCL,CCullCGA,CPiperCCCetal:AnteriorCandCposteriorCopticnerveheadblood.owinnonhumanprimateexperi-mentalCglaucomaCmodelCmeasuredCbyClaserCspeckleCimag-ingtechniqueandmicrospheremethod.InvestOphthalmolVisSciC53:8303-8309,C20125)ShigaCY,CKunikataCH,CAizawaCNCetal:OpticCnerveCheadCbloodC.ow,CasCmeasuredCbyClaserCspeckleC.owgraphy,CisCsigni.cantlyreducedinpreperimetricglaucoma.CurrEyeResC41:1447-1453,C20166)ShigaY,AizawaN,TsudaSetal;PreperimetricGlauco-maProspectiveCStudy(PPGPS):PredictingCvisualC.eldCprogressionwithbasalopticnerveheadblood.owinnor-motensivePPGeyes.TranslCVisSciTechnol7:11,C20187)NakazawaT:OcularCbloodC.owCandCin.uencingCfactorsCforCglaucoma.CAsiaCPacCJOphthalmol(Phila)C5:38-44,C20168)ZhaoCD,CChoCJ,CKimCMHCetal:TheCassociationCofCbloodpressureandprimaryopen-angleglaucoma:ameta-anal-ysis.AmJOphthalmolC158:615-627Ce619,C20149)MemarzadehCF,CYing-LaiCM,CChungCJCetal:BloodCpres-sure,CperfusionCpressure,Candopen-angleCglaucoma:theCLosAngelesLatinoEyeStudy.InvestOphthalmolVisSciC51:2872-2877,C201010)ZhaoCD,CChoCJ,CKimCMHCetal:Diabetes,CfastingCglucose,andtheriskofglaucoma:ameta-analysis.Ophthalmology(59)あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020C1235–

人工知能を利用した緑内障画像診断

2020年10月31日 土曜日

人工知能を利用した緑内障画像診断ApplicationofArti.cialIntelligenceforGlaucoma─Imaging三木篤也*はじめに人工知能(arti.cialintelligence:AI)(用語解説参照)は近年大きく進歩し,迷惑メールの振り分けからスマートフォンの音声入力,自動車の自動運転に至るまで,社会のさまざまな分野に急速に浸透してきた.今やニュースにおいても日常生活においても,AIが活用された機器やシステムを目にしない日はない.AIの発展は,ビッグデータやIoT(モノのインターネット)などと並んで第四次産業革命ともよばれ,単なるコンピューター技術の進歩にとどまらず,社会構造の大きな変化を起こそうとしている.医療分野もその例外ではなく,診断,治療,教育,医療施設運営や医療従事者の業務補助など,多岐にわたる分野にAIの応用が試みられている.眼科学の分野では,これまでも検眼鏡から始まって細隙灯顕微鏡,レーザー光線,手術用顕微鏡,そして光干渉断層計(opticalcoherencetomogrphy:OCT)など科学技術の発展をいち早く取り入れて進歩してきた.AIの医療応用においても,眼科学は最先端を走っている.最近のAI発展に中心的な役割を果たした深層学習(deeplearning)(用語解説参照)は,従来の機械学習(machinelearning)と比較して画像の解析能力が格段に向上したため,眼科学にとってとくに重要な画像診断との相性がよく,AIの導入による眼画像診断の発展が大いに期待されている.実際に,AI解析により眼底写真から糖尿病網膜症を自動スクリーニングするシステムが,AI診断機器としては世界で初めて米国の食品医薬品局(FoodandDrugAdministration:FDA)の認可を受けたことは記憶に新しい.AI研究,AI医療の対象としては,有病率が高く,画像診断が重要な役割を果たしている疾患が最適であり,眼科疾患では,糖尿病網膜症以外に緑内障や加齢黄斑変性への応用がとくに期待されている.本稿では最初にAIとその医療応用について簡単に解説し,その後AIを利用した緑内障画像診断について,これまでの進歩や今後の見通しを述べる.IAIとはAIという言葉の定義は漠然としており,シーンにより若干異なる意味で用いられていると思われるが(たとえばAI搭載と称する玩具や家電製品は,本項で述べるような高度なAIを搭載しているわけではなく,単に自動で動くという程度の意味しかないものも多い),現在注目されているAIとは,「人間の頭脳活動をシミュレートしたコンピューターにより,なんらかの意思決定を行うシステム」と考えてよいだろう.AI研究の歴史は意外と古く,1950年代から行われている.1980年代には第二次ブームを迎え,医療応用も含めていくつかの産業領域に実際に応用されたことをご記憶の方もいらっしゃるであろう.今回のAIブームは第三次ブームといえるが,その牽引力となっているのがトロント大学のHirton教授らにより開発された深層学習であり,これまではどちらかというと浮世離れしたマニアの研究といった趣のあったAIが,現実に役立つ技術として急速に*AtsuyaMiki:大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室・視覚先端医学寄附講座〔別刷請求先〕三木篤也:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室0910-1810/20/\100/頁/JCOPY(47)1223重み付け訓練(学習)出力出力(診断)(診断)入力入力(データ)(データ)図2機械学習による訓練入力層隠れ層訓練により,各入力の重みを機械が自動で調整し,出力の図1ニューラルネットワーク精度を高くするよう最適化する.入力層,隠れ層,出力層からなる.==労力が必要であり,多分野に応用するのは労力的に困難な部分があった.しかし,深層学習の場合は機械が自ら特徴量の抽出まで行うので,画像のような膨大で非定型的なデータの学習にも対応できる.とくに画像の学習には,畳み込みニューラルネットワーク(convolutionalCneuralnetwork:CNN)(用語解説参照)という深層学習のアルゴリズムが有用である.技術的な詳細は省くが,畳み込みニューラルネットワークは,網膜,脳における視覚情報処理をモデルにして作られた機械学習モデルなので,画像の処理に適している.このように,深層学習,とくに畳み込みニューラルネットワークは画像診断などの複雑なタスクの学習に優れているが,深層学習で高い精度を得るには,非常に多くのデータを用いて学習することが大前提になる.OCTのノーマティブデータなどはだいたい何百という単位の正常者のデータに基づいていることが多いが,深層学習の場合,通常は万単位のデータを要する.また,それだけの多量の画像データを処理するには,非常に高い性能のコンピューターシステムが必要である(ただし,これは学習するためのコンピューターの問題で,できあがったシステムを搭載するにはそこまでの高い能力は要しない).つまり,深層学習の基礎には,これまでのCinformationtechnology(IT)技術やビッグデータの発展が不可欠ということになる.機械学習は,大きく教師あり学習(用語解説参照)と教師なし学習(用語解説参照)に分けることができる.教師あり学習は,エキスパートによる診断などの正解を機械に与えて学習させるのに対し,教師なし学習では正解を与えずに,データの中にある何らかの規則を機械自らに発見させる手法である.教師なし学習は,これまで人間の眼では見つけられなかった病気の新たな特徴をとらえることができる可能性があるのでとても魅力的だが,臨床的意義が不明なので意義の検証が必要になること,要求されるデータ量が膨大になること,真の疾患の特徴ではなくアーチファクトをとらえているにすぎない可能性が高いことなど課題が多く,現時点で医療応用に近づいているのはほとんどが教師あり学習である.教師あり学習は教師(エキスパートの診断など)を超えることはないので,既存の診断の精度を上げることではなく,エキスパートの仕事を代行あるいは補助することが主目的になることは知っておかねばならない.ここまでの部分をまとめると,昨今のCAIの発展は,機械学習の一分野であるニューラルネットワークの一種である深層学習が中心的な役割を果たしており,画像診断にはその一種である畳み込みニューラルネットワークが有用である.深層学習の発展には,コンピューターの処理能力の向上やビッグデータの構築が,基盤として不可欠である.CIIAIの医療応用AIの医療応用の可能性は多岐に及ぶが,眼科領域でもっとも期待されているのは深層学習を活用した画像診断である.この分野で先行しているのは,眼底写真のAI解析による糖尿病網膜症の自動スクリーニングである.眼底写真のCAI解析により,referable(専門医の受診が必要)な糖尿病網膜症を検出することができることが一流雑誌に報告され,眼科のみならず全医療業界,AI業界に大きなインパクトを与えた1).さらに,眼底写真のCAI解析による糖尿病網膜症スクリーニングシステム(IDx-DR)は,2018年にCAIによる自動画像診断機器として初めて米国CFDAの承認を受け,眼底写真のAI解析が研究レベルではなく,すでに臨床応用可能なレベルに至っていることを示した.画像のCAI解析によるスクリーニングについては,皮膚写真による皮膚癌の診断,心電図解析による不整脈の診断,病理組織の解析による大腸癌や肺癌の診断などが次々と一流雑誌に掲載され,注目されている.これらの自動診断は,これまでより診断の精度を上げるものではなく,AI医療により医師の仕事を代行することを目的としており,発展途上国などの医師が不足している状況でとくに期待される一方で,AIが医師の仕事を奪うのではないかといった議論もよんでいる.また,AIによる診断システムが誤診した場合に誰が責任を取るのかといった社会的問題もあり,日本では今のところCAI医療機器はあくまで医師の補助をするのみという位置づけ(つまり最終的な責任は医師にかかる)だが,それだと医師不足の解消という意義が薄れてしまうので,スクリーニング機器は医師から独立して動くというのが世界的(49)あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020C1225な流れになっていると思われる.これはもはやCAIや画像診断のみで解決される問題ではなく,医療システムや社会的な状況に基づいて,これから解決せねばならない課題だといえる.AIの医療応用は画像診断にとどまらない.手術補助,薬剤アドヒアランス監視,在宅での持続的モニタリングなどの医療部門,電子カルテの入力補助や診療報酬管理,病名管理や医師,医療スタッフの労務管理などの管理的な部門,医師や医療スタッフの教育,創薬や臨床研究補助などの研究部門など,多岐にわたる分野でCAIの医療応用が進んでいる.それらのすべてが医療者にとってプラスの効果をよぶものではなく,むしろマイナスに働くものもあるので,専門家以外の医療者もCAIの医療応用について注視していく必要がある.CIIIAIを利用した緑内障画像診断緑内障は眼科領域では有病率が高い疾患の一つであり,わが国における中途失明原因の首位を占める疾患なので,緑内障へのCAIの応用は大いに期待されている.まず糖尿病網膜症と同様に,眼底写真のCAI解析による緑内障診断の研究が行われ,わが国を含めて多くの成果が報告されている2).しかし,眼底写真のCAI解析による緑内障診断は,糖尿病網膜症のスクリーニングのようにすぐに臨床応用可能なレベルには達していない.眼底写真を見て糖尿病網膜症と緑内障を診断する状況を想定していただければ,専門医に紹介しなければいけないレベルの糖尿病網膜症を眼底写真からスクリーニングすることは,それほど困難ではなく,おそらく経験数年の眼科専攻医でもほぼ可能な課題と思われる.しかし,緑内障を眼底写真から診断するには,専門医でなければ高い精度は望めないことは多くの読者が日常感じられていると思うし,研究でも証明されている.OCTを用いた機械学習による緑内障診断も多くのグループから報告されているが,こちらも臨床応用可能なレベルに達しているといえるものはまだ出ていない.このように,眼底写真やCOCTのみからCAI解析により緑内障を自動診断するのは,現在の技術ではまだまだ厳しい状況だが,もう少し別のアプローチでCAIを応用する研究も盛んに行われている.AIによる緑内障の自動診断がうまくいかないのは,教師あり学習の教師データに当たるエキスパートの診断そのものが主観的で個人間のばらつきが大きいこと,エキスパートが緑内障を診断する際には,眼底写真やCOCTのみから診断しているわけではなく,視野や眼圧,全身的な危険因子などを総合して判断していることが大きな理由である(これは,重症糖尿病網膜症がほぼ写真だけで診断できるのと比較すると明らかであろう).これらの問題は,AIの問題というよりは緑内障診断そのものの問題である.そこで,自動診断ではなく,もう少し別のアプローチでCAIを生かす試みも行われている.たとえば,眼底写真のCAI解析により,OCTで測定したCRNFL厚などのパラメータを予測する3),あるいはCOCTのCAI解析から視野を予測する4)などのアプローチがある.こうしたアプローチは,AIの出力(答え)を,緑内障の診断という精度の低いものではなく,もっと定量的なCOCTパラメータや視野感度を出力にすることで精度を上げることをめざしている.このようなアプローチは,緑内障の自動診断より精度を上げることは理論的に可能だが,それ自体で診断できるというものではないので,社会的インパクトには劣る.また,前眼部画像診断の結果から閉塞隅角を予測する研究も行われている5).こちらも比較的高い精度を達成しているが,眼圧上昇や視神経障害などの臨床症状に直結する結果が得られるわけではなく,隅角閉塞が予測できるに過ぎないので,自動診断とよべるものではない.画像診断以外に,視野検査のCAI解析も盛んに行われており,視野異常の自動検出,これまでのクライテリアやインデックスより早く視野異常を検出するアルゴリズム,視野進行を予測するアルゴリズムなどが研究,報告されている.さらに別のアプローチとして,AIを用いて画像診断の精度を高める試みがある.眼底写真の自動診断においても,画像の質が診断精度に大きく影響することが報告されている2).筆者らのグループは,深層学習アルゴリズムによって,OCTの画質を改善する手法を報告した6).また,OCTによるパラメータ計測は,機器間で互換性がないことが大きな課題の一つだが,人工知能による,OCT機器に依存しない網膜層セグメンテーショ1226あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020(50)ンも報告されている.こうした技術は,自動診断と比較して社会的な注目は受けにくいが,現在の画像診断の課題を基礎的な部分から一つひとつ解決していくことにより,緑内障画像診断の質の向上につながっていくものと考えられる.緑内障のCAI解析の現状をまとめると,糖尿病網膜症の眼底写真スクリーニングのように,現時点ですぐに臨床応用可能な自動診断はまだ確立されていない.それは,AIの問題というよりは,緑内障の診断そのものの非定量性,主観性の問題なので,一朝一夕に解決されるものではないと考えられる.一方で,眼底写真,OCT,視野検査,前眼部画像診断などから,OCTパラメータや視野感度,隅角閉塞など,緑内障の診断より定量的もしくは客観的な指標を予測するアルゴリズムは,現時点でかなりの精度に達してきている.また,OCTの画質やセグメンテーション能を高めることで,間接的に緑内障診断力を高めるアプローチも現実的に有用である.こと緑内障に関する限り,社会的インパクトの大きい自動診断に飛びつくよりは,もっと地道な努力を積み重ねることが,AIの力を活用して緑内障の診断力を上げていくことにつながるのではないかと考えられる.CIVAI医療の課題これまでの各項目でも触れてきたが,AIの医療応用は,長所だけではなく多くの潜在的短所を含んでいる.まず,深層学習は特徴量の抽出や重みづけに人間のインプットを必要としないので,多量のデータを処理できる長所がある反面,診断のプロセスがブラックボックス化されてしまうことが短所として指摘される.深層学習により見かけ上高い診断精度を得ていたとしても,疾患の真の特徴ではなくアーチファクトをとらえているに過ぎない可能性があり,これを見破ることができないと大きな誤りにつながる可能性がある.たとえば,緑内障と正常対照の眼底写真を元に,AIで緑内障を自動判定するアルゴリズムを作成する場合に,緑内障患者は病院で,正常対照は健診センターで検査を受けているという状況を仮定しよう.この場合,深層学習アルゴリズムが,視神経乳頭陥凹拡大などの真に緑内障に特異的な変化ではなく,病院と健診センターの眼底カメラの違いを元に緑内障を診断している可能性がある.このような可能性を避けるため,深層学習アルゴリズムが画像のどこに着目して判定を行っているかを可視化する手法がある(ヒートマップ)(用語解説参照).AIの医療応用においては,このような手法を用いて解析をなるべく可視化することが,誤りを避けるために必須になるだろう.また,ほとんどの臨床医がCAIの細かい技術に関する知識をもたないので,AIを元にした研究や医療技術を正確に評価できる人材やシステムが不足していることも問題である.最近,C“NewCEnglandCJournalCofCMedi-cine”および“Lancet”に掲載された新型コロナウイルスに対する薬剤の効果を解析した論文が取り下げられたという問題が一般ニュースでも大きく報道された7).これは,電子カルテから自動取得されたビッグデータの解析に基づく研究だが,解析の元になる自動取得データの信頼度が疑われた結果である.コロナウイルスの社会的インパクトの大きさと速報性の重要さから,一流雑誌といえどもビッグデータの信頼度の検証がおろそかになったという教訓になりそうである.また,AIの研究にはビッグデータが不可欠だが,医療ビッグデータは個人情報であり,セキュリティをどのように管理するのかという問題がある.また,電子カルテなどから得られたビッグデータは,収集した時点では想定されなかったような新しい研究に役立つ可能性があるが,データ収集の時点で,被験者または患者にどこまで用途を示さねばならないのかという問題も生じている.純粋に学術的な研究の場合はともかく,AI研究は営利企業にとって有利な成果をもたらすこともあるので,そのような場合にデータの持ち主は誰なのかという法律的,倫理的,経済的な問題が発生する.これらの問題については,今後社会的にルールが整備されて行かねばならないが,医療者も傍観するだけでなく積極的にルール作りに参加することが求められるだろう.おわりに緑内障をはじめとして,AIは医療に急速に浸透してきており,好むと好まざるとにかかわらず,これからの医療はCAIなしには考えられない.われわれ医療者は,一般社会が飛びつきやすい自動診断などのインパクトの(51)あたらしい眼科Vol.37,No.10,2020C1227■用語解説■人工知能(arti.cialintelligence:AI):人間の頭脳活動をシミュレートすることにより,意思決定を行うコンピューターシステム.深層学習(deeplearning):複数(多くの場合多数)の隠れ層を含むニューラルネットワーク.機械学習(machinelearning):与えられた入力から分類,回帰などの課題を果たすために,訓練(training)により,正解を導き出すプロセスをコンピューター自らが最適化(学習)できるようなシステム.ニューラルネットワーク:人間の神経系をシミュレートする機械学習システム.入力層,隠れ層,出力層に分かれる.畳み込みニューラルネットワーク(convolutionalneu-ralnetwork):人間の視覚系をシミュレートしたニューラルネットワーク.局所受容野(画像の一部に着目する)をもち,隠れ層に畳み込み層とプーリング層をもつことが特徴.画像認識にとくに優れている.教師あり学習(supervisedlearning):機械学習において,訓練データにあらかじめ正解(ラベル)を与え,正解を導くためにアルゴリズムを最適化させるようなシステム.教師なし学習(unsupervisedlearning):機械学習において,あらかじめ正解を与えず,アルゴリズム自身でデータに含まれる規則性を学習するようなシステム.ヒートマップ:深層学習,とくに畳み込みニューラルネットワークにおいて,画像中の各部位が出力に及ぼす影響の大きさを,変化の大きさ(gradient)のヒートマップ(変化が大きいほど暖色になる寒暖表示)にして示すもの.深層学習の可視化法.