屈折矯正RefractiveCorrection清水有紀子*はじめに斜視の治療といわれると,まずプリズムや手術が思い浮かぶのではないだろうか.しかし,成書には「斜視診療の基本は適切な屈折矯正である」と書かれている.これは調節性内斜視患者の遠視矯正だけでなく近視にも当てはまるが,あまり意識されていないように思う.本稿では斜視手術を検討する前に確認しておきたい屈折矯正,とくに小児の間欠性外斜視症例に対する屈折矯正について私見を述べる.I屈折矯正と眼位両眼で一つの物体を見るときに,脳は左右それぞれの眼に映った二つの像を同時に受け止め(同時視),少しずれているそれらの像を一つの同じ物として認識し(感覚性融像),その差を利用して凹凸や距離を感じている(立体視).この機能が発揮できる範囲内に,約6cm離れた左右眼からの二つの像を得る必要がある.そのために,中心窩と像の距離を検知して外眼筋にフィードバックし,それぞれの中心窩に像が投影されるように眼球を動かす働きが運動性融像である.眼位ずれが大きくなると,網膜の離れた場所に投影された左右眼の像を一つの物として感じられなくなり,複視を生じたり片眼を無視(抑制)したりするようになる.逆にもともと眼位がよく,像の位置には問題がなくても,左右の像の質が異なるために融像できなくなると斜視になる.外傷などで片眼視力が著しく低下した場合に起こる感覚性斜視(廃用性斜視)がその典型例である.このように,眼位と網膜像は密接な関係があり,両眼の融像には鮮明な網膜像が重要だが,屈折異常によってそれがぼやけると,融像が妨げられて眼位が不安定になる.もう一つの大きな要素は,調節と輻湊の相互関係が眼位に及ぼす影響である.小児の遠視が調節性内斜視に大きく関係しており,屈折矯正によって眼位が改善することはよく知られている.これは遠視のために必要な調節量が大きくなり,同時に起こる輻湊が対象物までの距離対して過剰となって内斜視となる.逆に間欠性外斜視の患者では,眼位を維持するための輻湊に伴って過剰な調節が起こり,近視の状態(斜位近視)になったりする(図1).このように,調節と輻湊は眼位に深くかかわっていることからも,屈折矯正が眼位に与える影響の大きさが理解できる.II間欠性外斜視に対する屈折矯正の必要性日常診療で,斜視の悪化を訴えて受診する間欠性外斜視の小児のなかに,裸眼視力が低いにもかかわらず屈折異常(多くは近視)が未矯正のケースが一定数みられる.眼科クリニックからの手術を目的とした紹介例でも,眼鏡を処方されていなかったり,処方後に近視が進行して眼鏡度数が合っていなかったりして,遠見がはっきりと見えない状態で生活している場合がある.これらのなかには適切な眼鏡を装用させるだけで,間欠性外斜視のコントロール(斜視となる頻度,時間的割合や斜位への戻*YukikoShimizu:ツカザキ病院眼科〔別刷請求先〕清水有紀子:〒671-1227兵庫県姫路市網干区和久68-1ツカザキ病院眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(71)925abd図1斜位近視を伴う大角度の間欠性外斜視症例APCT:遠見72ΔX(T)&4ΔRH(T),近見95ΔX(T)’&4ΔRH(T)’,BV=0.5(裸眼),RV=1.2(1.5×C.2.75D175°),LV=0.8(1.2×C.1.25D180°).両眼視力が片眼視力より不良である.自覚的にも「両眼で見ようとするとぼやける」症状があったが斜視手術後に改善した.a:遮閉前眼位:融像して斜位に持ち込んでいる.b:融像時のスポットビジョンスクリーナー.輻湊性調節によって近視となっている状態.単眼で計測した屈折値より近視が強いことから斜位近視と診断できる.c:遮閉後眼位:大角度の外斜視.d:斜視の時のスポットビジョンスクリーナー.輻湊していない状態の球面度数は遠視であることがわかる.e:オートレフラクトメータのデータ.片眼ずつ測定するために輻湊性調節が働かず,球面度数は遠視である.表1診察室での間欠性外斜視のコントロール評価30秒間観察評価方法基準スコア1.片眼C10秒遮閉後除去2.僚眼にも施行1秒以内(phoria)0(良)偏位なし3.回復の遅かったほうの眼にC3回目を施行1-5秒C1遮閉除去後に融像が回復するまでの秒数を計測し,3回中最長の秒数からスコアを決定5秒より長いC2<50%C3偏位あり斜視となっている時間の割合でスコアを決定>50%C4恒常性5(不良)固視目標:遠見はC3.mのテレビスクリーン,近見はC33.cmで調節視標を使用する.最初に診察室でC30秒間眼位を観察して,自然に偏位するかで大きく分ける.偏位しない場合は片眼をC10秒遮閉後除去して,眼位が戻るまでにかかる秒数を計測する.僚眼にも同様に施行し,3回目は眼位の戻りが遅いほうの眼で行う.3回の計測値のもっとも長い秒数でスコアを決定する.初めのC30秒間に遮閉なしで斜視となる場合は,斜視となっている時間を計測し,15秒を基準としてスコアを決定する.近見では融像できるが遠見では恒常性の場合がスコアC5でもっとも不良と評価する.(文献C11より引用)表2軽度の近視矯正のみでコントロールと近見眼位が改善した6歳の間欠性外斜視症例(症例1)年齢日常の視力眼位(APCT)屈折矯正の状態自覚症状.遠見コントロールスコア初診6歳0カ月RVC0.4(裸眼)CLV0.4(裸眼)遠見2C5CΔX(T)近見C18CΔX(T)C’近視は未矯正.裸眼で生活眼鏡装用を開始.スコアC36歳11カ月1.0(眼鏡)C1.02C5CΔX(T)C10CΔX(T)C’「斜視が目立たなくなった」「手術は希望しない」.スコアC29歳2カ月0.6(眼鏡)C0.52C5CΔX(T)C40CΔX(T)C’近視が進行し眼鏡視力が低下複視を自覚する.スコアC310歳4カ月1.5(眼鏡)C1.02C0CΔX(T)C12CΔX(T)C’眼鏡度数変更後複視なし.スコアC2CRV=0.5(1.2C×S.1.25D),LV=0.5(1.2C×S.1.25D).TST40秒.近見斜視角は日常視力に伴って変動している.遠見斜視角は変わらないが,日常視力のよいときは複視の自覚が減少し,コントロールスコア(斜視となる頻度)11)も改善している.ab図2中等度遠視の矯正により立体視が改善した6歳の間欠性外斜視症例(症例2)RV=1.2(1.2C×sph+1.5D(C.0.75DCAx180°),LV=0.8(1.2C×sph+2.25D(C.1.25DAx180°).APCT:遠見35CΔX(T),近見C45CΔX(T)’,TST:all(C.),Bagolini線状レンズ試験(StriatedGlasses:SG):左眼抑制,チトマス立体試験(TST):.y(C.)と立体視は不良であった.Ca:第一眼位.恒常性に近い間欠性外斜視.遠見は写真のように眼位がよいときもあるが,50%以上の時間で斜視になり,コントロールスコアはC4.Cb:屈折未矯正時の輻湊位:左眼の輻湊が不良.Cc:眼鏡常用後の輻湊位.弱いながらも輻湊は可能となった.両眼視はCTST:Fly(+)A(3/3),C(6/9),SG:交代抑制まで改善した.斜視手術後にはCTSTはC40秒まで向上し,SGも抑制なく融像可能となった.果のばらつき,評価基準の違い,症例数が少ないなどの理由で「眼鏡装用は両眼視不良の予防としての効果はありそうだが,斜視の予防効果は明言できない」と結論されている4).CVOverminuslenstherapy屈折矯正度数を意図的にずらす治療の一つに,間欠性外斜視の小児に対して,最良視力を得られる屈折矯正度数に凹レンズ(マイナスレンズ)を付加した眼鏡を処方するCoverminusClenstherapyがある.これは調節性輻湊を誘導して眼位を改善する治療で,60年以上前から報告されてきた5.9).これらの研究ではC46.75%の症例に眼位や融像の改善があり,近視の進行の加速はなく7),装用終了後にも効果が維持される6,9)など非常に良好な結果を示し,治療が推奨されている.しかし,いずれも症例数が少なかったり,さまざまなバイアスがあったり,エビデンスとしては不十分であった.このCover-minusClenstherapyについてCPediatricCEyeCDiseaseInvestigatorCGroup(PEDIG)が多施設共同ランダム化比較試験を行っており,2021年に報告10)されたその結果を紹介する.3歳以上C11歳未満の間欠性外斜視で遠見CAPCTC15Δ以上,遠見コントロールスコア(表1)11)がC2以上の症例に,overminuslens(近視の過矯正または遠視の低矯正眼鏡)を装用させて(以下,マイナス付加群とする),調節性輻湊によって間欠性外斜視のコントロールが改善するかを,通常の眼鏡を装用させた対照群と比較検討した研究である.56施設の,屈折が+1D.C.6Dの間欠性外斜視患者386例をC2群に分けて,対照群には研究期間を通して調節麻痺下屈折値を矯正する通常眼鏡を装用させた.マイナス付加群は調節麻痺下屈折値から左右ともにC2.5D減じた眼鏡をC12カ月装用し,その後C1.25D減じた眼鏡に変更してC3カ月装用し,その後に通常眼鏡をC3カ月装用させて対照群と比較している.評価項目は,12カ月後とC18カ月後の診察室での間欠性外斜視のコントロールスコア(0.5で数値が低いほうが良好)および開始C12カ月後の屈折変化の群間比較である.結果は,12カ月後の遠見スコアはマイナス付加群のほうが有意に良好(1.8Cvs2.8)であったが,通常眼鏡に戻したC3カ月後の開始C18カ月後には両群のスコアに差がなかった.これは,マイナス付加眼鏡装用中は外斜視のコントロールが改善されるが,通常眼鏡に戻すとその効果が失われることを示す.近視化についてはC12カ月後にマイナス付加群のほうが大きく(C.0.42DCvsC.0.04D),1D以上の近視化はマイナス付加群C189例中33例C17%に対して,対照群ではC169例中C2例C1%でリスク比はC15倍であった.中間解析でマイナス付加群の強い近視化が判明し,患児の不利益として以後の装用が中止されていることからも,そのインパクトの強さがわかる.眼鏡由来の症状は,眼痛が対照群C22%に対してマイナス付加群C38%と有意に多かった.結論では,外斜視の遠見コントロールスコアはマイナス付加群のほうが改善したが,漸減後には効果が維持されず,有意な近視化を伴うために適応は限定されるとしている.実際の臨床では漸減をゆっくり行うことで,外斜視のコントロールを維持できるのではないかとまとめられている.この研究では,開始時の屈折異常別にもその変化を検討しており,近視例に遠視例よりも大きな近視化が起こったと報告している.鮮明な網膜像を得るために近視の矯正は重要であるが,過矯正になると眼位は改善しても近視化が進行することが示され,結果的に網膜像がぼやける悪循環が起こりうる.近視の間欠性外斜視患者に対しては,過矯正を避けて適切な矯正が重要であると考えらえる.近視例には適さない一方で,近視化が進むのであれば,遠視症例を低矯正にして遠視度数の減少を期待したくなる.しかし,この研究では近視症例に起こる大きな近視化に対して,遠視症例に起こる近視化はわずかであったとされている.中国からも遠視の間欠性外斜視症例を対象としたCoverminusClenstherapyの結果が報告されている12).この研究はプリズムも併用しており,C.2.5D付加かつ組み込みプリズム眼鏡装用群と屈折矯正のみの群に分けて,装用C12カ月後を比較している,遠視症例に限ったこの研究でも,マイナス付加群において外斜視は有意に改善したが,屈折変化は両群で差がなく,期待した遠視の減少はみられなかった.(75)あたらしい眼科Vol.C39,No.7,2022C929abc図3Overminuslensを処方した強度遠視の遠見外斜視かつ裸眼では調節性内斜視症例RV=1.2(1.5C×sph+6.5D(C.0.50DAx170°),LV=1.0(1.5C×sph+7.25D(C.1.00DAx170°).最良視力の矯正度数でのCAPCT:遠見C16CΔXT,近見C6CΔX’.a:非調節麻痺のオートレフラクトメータ.両眼+7Dを超える強い遠視.Cb:スポットビジョンスクリーナーの結果,裸眼では調節性内斜視.裸眼でのCAPCT:遠見C16CΔET,近見C10CΔE(T)C’.C10ΔX(T)’の間で変動する.調節によって球面度数も+3Dと低くなっている.Cc:Overminuslens(C.1.75D付加)装用眼位は外斜位.処方眼鏡でのAPCT:遠見C4CΔX,近見C2CΔX.’