‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

とくに注意したい病態の眼鏡処方 強度近視・病的近視

2022年3月31日 木曜日

とくに注意したい病態の眼鏡処方強度近視・病的近視PrescriptionofEyeglassesforHighMyopiaandPathologicMyopia古森美和*佐藤美保*はじめに近視の分類には,原因から先天性近視と後天性近視,発生成因から屈折性近視と軸性近視,臨床的には単純近視と病的近視に分類される.また,程度分類では,弱度,中等度,強度,最強度,極強度などがある.報告者によって定義は異なるが,日本近視学会ガイドライン,日本弱視斜視学会では,①弱度近視:-0.5D以上-3.0D未満の近視,②中等度近視:-3.0D以上-6.0D未満の近視,③強度近視:-6.0D以上の近視と分類している.一方,近視は成長とともに進行するため,年齢によって基準とする屈折度を変更すべきとも考えられる.1987年に厚生省特定疾患網膜脈絡膜萎縮症調査研究班で作成した「病的近視診断の手びき」では,①5歳以下では-4.00Dを超えるもの,②6~8歳では-6.00Dを超えるもの,③9歳以上は-8.00Dを超えるものを診断基準として提案している.また,所1)は,6~8歳で眼軸長24.5mm以上,9~12歳で26.0mm以上,13歳以降では26.5mm以上を病的近視と提唱している.強度近視・病的近視では,眼軸の延長による後極部の眼底変化に加え,網膜変性疾患や網膜.離,緑内障などにより視力が出にくいこともあるため,器質的疾患がないかどうかを確認することが重要である.器質的疾患を認めた場合でも,その治療と並行して,屈折異常については適切な度数の眼鏡による弱視訓練を行うようにする.また,視力が出にくい小児に対しては,早期からの療育相談を検討する.支援学校や支援学級に進学するかどうかにかかわらず,早期から支援学校の先生と連携をとることで,養育や進学についてのアドバイスを受けたり,家族の不安解消につながったりするため,当科では積極的に療育相談やロービジョン外来への受診を進めている.I強度近視・病的近視の眼鏡処方眼鏡処方にあたっては,まず小児の視力検査の特徴を理解して検査を行う必要がある.小児の視機能は成長過程にあり,見えにくい場合でも,大人と違って見えていないことを自覚していない.そのため,屈折異常がある場合は,早期から適切な度数の眼鏡を処方することで視機能発達を促す必要がある.視機能が未発達な小児や視力が不良な小児の場合は,字づまり視力表では読み分け困難が生じ,視力を正しく評価できない可能性があるため,字ひとつ視標を用いて視力検査を行う.一方,日常生活では,黒板の字や教科書など字づまりで書かれているため,実際にどの程度見えているかを評価するうえでは,字づまり視力表が有効なこともある.視力が出にくい患者では,ものを近づけてみる習慣があるため,近見に合わせた眼鏡が適している場合もある.就学前や低学年の小児は,おもちゃや絵本などを見ることが多いため,近見に重点をおき,度数を下げて処方することもある.このため,遠見視力だけでなく近見*MiwaKomori&MihoSato:浜松医科大学眼科学講座〔別刷請求先〕古森美和:〒431-3192浜松市東区半田山1-20-1浜松医科大学眼科学講座0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(23)285①真ん丸の大きいフレームの例②小型の楕円のフレームの例図1眼鏡のフレーム強度近視ではbのフレームのほうが適している.=---=---図2症例1の眼底写真とOCT画像眼底所見では豹紋状眼底,近視性の視神経所見を認めた.OCT画像では両眼とも異常を認めなかった.=--=---=----=-図3症例2の眼底写真とOCT画像左眼は網膜光凝固術後の瘢痕が黄斑部近くまで及び,OCT画像でも黄斑部の萎縮性病変を認める.--=--=-=---ある場合は,良いほうの眼の度数に合わせて視力の出ないほうの度数を調整して処方する場合もある.3.完全矯正度数での眼鏡装用が不可であった症例(症例3)患者:小学1年生(6歳11カ月)の女児他覚的屈折検査(調節麻痺薬点眼後にオートレフラクトメータで検査)RE:S-12.25DC-2.25DAx180°LE:S-13.00DC-2.75DAx180°自覚的屈折検査(字ひとつ視標にて測定)RV=(1.2×S-11.00D:C-2.25DAx180°)LV=(1.2×S-11.75D:C-2.50DAx180°)眼軸:右眼28.02m,左眼28.07mmこの症例では,矯正視力は両眼1.2と良好であるが,患児は完全矯正の度数ではクラクラしてかけられないため,下記のように処方度数を落とし,①弱い度数と②強い度数の二つの眼鏡を使い分けて生活していた.①弱い度数の眼鏡右眼:-8.00DC-1.00DA180°左眼:-8.00DC-1.00DA180°RV=(0.1×JB)LV=(0.08×JB)nRV=(1.0×JB)nLV=(1.0×JB)②強い度数の眼鏡右眼:-10.00DC-1.00DA180°左眼:-10.00DC-1.00DA180°RV=(0.4×JB)LV=(0.1×JB)nRV=(0.9×JB)nLV=(0.9×JB)小学1年生では,黒板の字も大きいため,一番前の席であれば使用中の低矯正眼鏡で大きな支障はないと考えるが,なるべく授業中は強いほうの眼鏡を掛けるよう指導した.その後も度の強い眼鏡ではクラクラして装用できず,母親がハードコンタクトレン(hardcontactlens:HCL)装用者であり,HCL装用の希望があったため,小学3年生(8歳2カ月)時にHCLを試すこととした.トライアルHCL(TCL)RV.BC7.80mm/P-3.0D/直径8.9mmLR.BC7.65mm/P-3.0D/直径8.9mm上記を装用し,球面度数を加入しながら視力検査を施行した.自覚的屈折検査(字ひとつ視標にて測定)RV=(0.6×TCL×S-8.50D)*(0.8×TCL×S-9.00D)(1.0×TCL×S-9.50D)LV=(0.6×TCL×S-9.50D)*(0.7×TCL×S-9.75D)(1.0p×TCL×S-10.00D)母親から(0.6)くらいに合わせて欲しいとの希望であったため,*(下線)のレンズを選択した.この際,TCLに4D以上の球面度数を加入する場合は,眼鏡の球面度数からCL度数への換算が必要となるため,換算表を用いて度数を決定した.右眼:眼鏡の球面度数-8.50D→換算表でのCL度数-7.75DTCL-3.0D+(-7.75D)→HCL度数-10.75D左眼:眼鏡の球面度数-9.50D→換算表でのCL度数-8.50DTCL-3.0D+(-8.50D)→処方するHCL度数-11.50D上記のように度数を決定し,下記のHCLを処方した.*HCL処方箋右眼BC7.80mm/P-10.75D/直径8.9mm左眼BC7.65mm/P-11.50D/直径8.9mmRV=(0.6×HCL)LV=(0.6×HCL)現在は,弱い度数と強い度数の眼鏡,およびHCLを使い分けている.この症例のように,度数が強くなると,クラクラしたり気持ち悪くなったりして装用できない場合は,患者の装用感を確認しながら度数を下げて処方することもある.その際,CLであれば度数が強くても装用可能な場合もあるため,試してみることも検討する.その場合は,CLの管理ができるかどうかの確認も必要である.(27)あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022289C右眼左眼=--図4症例4の眼底写真とOCT画像眼底写真およびOCT画像では異常所見を認めなかった.=--正常者症例480160160240240μVμV20-20-40-4011404020202200050100150ms050100150msμV-20-20-40-40杆体.錐体最大応答-60-60-80-80-100-100msμV5050114040223030050100150050100150ms20μV2010μV10錐体応答00-10-10-20-20-20msms1150504022403030020406080-20020406080μV20μV20フリッカ応答100100-10-10msms図5正常者と症例4のRETeval結果それぞれ2回ずつ施行した.症例4では先天停在性夜盲(不全型)が疑われた.020406080100020406080100==--=--====

とくに注意したい病態の眼鏡処方 斜視を伴う小児近視の眼鏡処方

2022年3月31日 木曜日

とくに注意したい病態の眼鏡処方斜視を伴う小児近視の眼鏡処方GlassesforMyopiawithStrabismusinChildren杉山能子*はじめに斜視治療においては,屈折矯正は大変重要である.小児の斜視治療を開始するにあたって,まず弱視はないか,屈折異常はないかを調べる必要がある.また,小児の屈折を評価するには調節の介入を必ず念頭におかなければならず,調節麻痺下での屈折検査が必須である.調節麻痺下での屈折値を把握したうえで,屈折矯正後,眼位は改善するか変化しないか,あるいは増悪するかなどを評価し,治療方針を決めることとなる.また,斜視手術後に良好な眼位を保つためにも適切な眼鏡装用が重要となるが,小児は成長期であり,屈折値も変化していく.こまめな視力,屈折,眼位,両眼視機能の検査を行い,常に適切な眼鏡装用が必要となる.I弱視を伴う斜視の眼鏡処方弱視がある場合は,弱視治療を優先する.屈折検査は,基本は1%アトロピン点眼による調節麻痺下で行う(表1).しかし,外斜視,年長児であれば,初回はサイプレジン調節麻痺下での屈折検査を行い,経過がよくなければアトロピン調節麻痺下での屈折再評価を行う.不同視弱視や屈折異常弱視など屈折異常が原因の弱視が存在する場合や斜視が原因の斜視弱視がある場合,あるいはそれらが合併している場合があるが,基本的には調節麻痺下で得られた屈折値そのもので眼鏡処方を行う.視力に左右差がある場合は健眼遮閉を併用することもある.斜視手術が必要な場合は弱視治療後に行い,斜視手術後も屈折矯正を行うことで弱視の再発を防ぎ,良好な眼位の維持が可能となる.つまり,手術後も眼鏡装用が重要である.II弱視を伴わない斜視の近視眼鏡処方1.外斜視a.間欠性外斜視小児では間欠性外斜視であっても,調節麻痺下での屈折検査は必須である.年少児は1%アトロピン点眼,年長児はサイプレジン調節麻痺下で屈折検査を行い,調節麻痺下での屈折値を得る.調節麻痺効果が完全になくなってから,得られた屈折値をもとに視力検査を行い,眼鏡装用テストをする.30分間テスト眼鏡を装用後,眼位検査を行う.視力が一番よく,斜視角も小さく,斜位の状態が遠近ともに多い度数が理想である.山下らは小学生から高校生の屈折値と眼位異常の調査をした結果,近視の増加とともに外斜視の頻度も増加すると報告した1).両眼近視があり,裸眼近見視力は良好であるが,裸眼遠見視力が不良である場合は,遠見で外斜視が顕性化することがある.これは,遠見での像のボケが生じ融像性輻湊が弱くなったことが原因であると考えられるため,眼鏡で近視矯正することにより,遠見外斜視の頻度や角度が改善する(図1).また,両眼近視では調節性輻湊が少なくなり,その状態を長期間続けると輻湊不全型の外斜視となることもあるので,適切な近視眼鏡の装用によ*YoshikoSugiyama:金沢大学附属病院眼科〔別刷請求先〕杉山能子:〒920-8641石川県金沢市宝町13-1金沢大学附属病院眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(17)279表1調節麻痺薬麻痺効果効果最大時間効果持続期間副作用アトロピン完全7日2.3週間発熱顔面紅潮サイプレジン(1C.0%シクロペントレート)不完全0.+1.5D(AT値と比べて)60.C120分2日幻覚一過性運動失調1%アトロピンは調節麻痺の効果は完全だが,C7日間点眼が必要で,点眼終了後も効果消失までにC2.C3週間かかる.サイプレジンは,アトロピンに比べ調節麻痺の効果は不完全だが,外来でのC2回点眼で,2日間で効果が消失する.裸眼--近視矯正図1近視を伴う外斜視の小児眼鏡で近視矯正すると,遠見外斜視の頻度や角度が改善した.SCASCA+0.00-0.75799-0.50-0.25929+0.00-0.75809-0.50-0.25899図2斜位近視(術前)+0.00-0.75789-0.50-0.25919据え置き型オートレフラクトメータで片眼ず+0.00-0.75809-0.50-0.25869つ検査した屈折値.C+0.25-0.75809-0.50-0.25879+0.25-0.75799-0.50-0.25889AvgAvg+0.00-0.7580-0.50-0.2589〈片眼視時〉〈両眼視時〉右眼左眼図3斜位近視(術前)スポットビジョンスクリーナーでの検査結果は,片眼を遮閉して検査した屈折値は据え置き型オートレフラクトメータの値とほぼ一致していたが,両眼視した状態では,左右眼ともに近視化している.〈片眼視時〉〈両眼視時〉右眼左眼図4斜位近視(術後)スポットビジョンスクリーナーでの検査結果は,片眼遮閉で検査した屈折値と,両眼視した状態での左右眼の屈折値がほぼ一致している.術前のように両眼視時に近視化することはない.累進多屈折力レンズ二重焦点レンズ図5非屈折性部分調節性内斜視の眼鏡レンズ遠用部はアトロピン調節麻痺下の屈折値で,近用部に+3.0D程度の凸レンズを加入する.累進多屈折力レンズは,遠近の境目がないので見た目は普通の眼鏡レンズと変わりないが,遠近が使い分けしにくいという小児もいる.二重焦点レンズは遠近の境目が目立つので特殊なレンズであるということが見た目でわかってしまうので装用したくないという小児も多い.近視眼鏡なし近視眼鏡を装用-図6近視の小児がスマートフォンに熱中している状態近視眼鏡を装用していないときは,スマートフォンと眼の距離が近くなっている.内斜視正位外斜視図7斜視の瞳孔間距離の測り方(仮)被検者に遠方の目標を見てもらい,まず,固視眼(右眼)の耳側輪部を定規のゼロに合わせ(),固視眼を遮閉して斜視眼(左眼)で固視させ,左眼の鼻則輪部の位置()の定規の目盛りを読みとると瞳孔間距離()が計測できる.図8膜プリズム眼鏡の右眼レンズに膜プリズムを基底外方に貼った内斜視治療.

低矯正眼鏡か完全矯正眼鏡か─現在までの知見

2022年3月31日 木曜日

低矯正眼鏡か完全矯正眼鏡か─現在までの知見Under-CorrectionorFullCorrectionofMyopia?AnalysisoftheCurrentKnowledge佐倉達朗*五十嵐多恵**はじめに小児の近視眼鏡の処方に際しては,低矯正眼鏡を処方するか完全矯正眼鏡を処方するかは長らく議論の対象となってきた.低矯正眼鏡と完全矯正眼鏡どちらを処方するべきか,現在までの知見をまとめる.I完全矯正眼鏡と低矯正眼鏡に関する比較試験完全矯正と低矯正眼鏡のどちらが近視進行予防に対して効果的かを明確にするために,数々の後ろ向きあるいは前向き研究が実施されてきた1~10).表1にその詳細をまとめる.II完全矯正眼鏡と低矯正眼鏡に関する研究のメタアナリシス2020年には過去の研究報告の中から,適確性が評価された6論文を用いたメタアナリシスの結果が報告された(表2)11).眼鏡の矯正量の判定に,サイプレジン調節麻痺下屈折検査を用いた研究が2つあり,非調節麻痺下検査での研究が4論文ある.非調節麻痺下検査での研究では,非調節麻痺下で最高視力を得るためにもっともプラス寄りで処方した眼鏡を完全矯正眼鏡としている.メタアナリシスは,調節麻痺下検査を用いた研究と,非調節麻痺下検査を用いた研究の二つのサブグループに分けて解析されている.フォレストプロット(図1)で示された完全矯正眼鏡と低矯正眼鏡の近視進行量の差の統計学的統合結果は,調節麻痺下屈折検査を用いた研究で-0.26D(95%信頼区間-0.24~-0.29)であり,低矯正眼鏡のほうが近視進行予防に有利とする結果であった.一方,非調節麻痺下検査を用いた研究は,0.15D(95%信頼区間-0.10~-0.21)であり,完全矯正眼鏡のほうが近視進行予防に有利とする結果であった.なお,メタアナリシスのエビデンスの質を低下させる原因の一つである,研究間の結果の非一貫性を評価する指標には,CochranのQ検定と,ばらつきの程度を%で表すI2検定がある.CochranのQ検定でp<0.05の場合や,I2検定が50%を超える場合,研究間の異質性がかなり高く,メタアナリシスによる統合結果のエビデンスが弱いと判断される.非調節麻痺下屈折検査を用いたサブグループ解析では,CochranのQ検定は1.48(p=0.686),I2検定=0.000であるが,調節麻痺下屈折検査を用いたサブグループ解析ではCochranのQ検定が6.99(p=0.008),I2検定=85.69であり,異質性がかなり高い.このことから低矯正眼鏡のほうが近視進行予防に有利とする調節麻痺下屈折検査を用いたサブグループ解析の結果は,調節麻痺下屈折検査を用いた今後の研究の蓄積後に再評価される必要がある.以上から,現時点では,非調節麻痺下で小児の近視眼鏡を処方する場合は,最高視力を得るためにもっともプラス寄りで処方した完全矯正眼鏡が,低矯正眼鏡と比較して近視の進行予防に有利と考えられる.しかし,小児の近視の屈折検査のゴールドスタンダードであるサイプ*TatsuroSakura:川口市立医療センター眼科**TaeIgarashi-Yokoi:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕五十嵐多恵:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(11)273表1完全矯正眼鏡と低矯正眼鏡の年間の近視進行量に関する過去の比較解析結論研究者発表年対象数年齢屈折度数群分け年間近視進行量CA群:完全矯正眼鏡常用(低矯正量C1.0D未満,完全矯正,過矯正)CB群:低矯正眼鏡常用A群:0C.75D/年1所C196520名7~1C5歳全体-4~+1D(低矯正量C1.0D以上を常用もしくは眼鏡非装用の-1D以下B群:0C.54D/年C群:0C.62D/年Cの近視),CC群:完全矯正眼鏡(Aに準じる)非常用2C完全矯正のほうが近視進行が早いRobertsC1967396名CNACNAA群:完全矯正眼鏡常用群,CB群:低矯正眼鏡(C0.37D以下)常用群A群:0C.45D/年B群:0C.40D/年Cモノビジョン眼鏡矯正CA群:3CPhillipsC200518名10~1C3歳全体-3.0~-1.0CD優位眼遠方矯正(遠方視力6/6),B群:非優位眼2CD以A群:0C.72D/年B群:0C.32D/年C上の低矯正4CSunC2017121名12~1C3歳A群:-3.03±1.13DB群:-1.31±0.60DA群:完全矯正眼鏡(低矯正量0.5D未満)常用,CB群:眼鏡非装用A群:0C.52D/年B群:0C.38D/年CA群:眼鏡常用群,CB群:遠5OngC199943名C10.7±0.39歳CNA用のみ装用から常用に移行群,C群:遠用のみ装用群,CD群:A群:C0.46DD群:C0.17DC装用なし群6C差なしCLiC2015253名12歳A群:-3.121±1.29DB群:-3.75±1.23DA群:完全矯正眼鏡常用群,CB群:低矯正眼鏡群(C0D<低矯正量.0.5D,C0.5D<低矯正量C.1.0D,1.0D<低矯正量C.1.5D,低矯正量>1C.5D)A群:0C.68D/年B群:0C.64D/年CA群:完全矯正眼鏡常用群,CBA群:1C.48D/37Pa.rssinenC1989237名9~1C1歳全体:-3.0~-0.35CD群:完全矯正眼鏡C/遠方視時のみ使用群,CC群:二重焦点眼年,B群:1C.76D/3年,C群:鏡常用群1.67D/3年CA群(左右差C1D以内の両眼性近視度数が不変8CAngiC199642名1~4歳全体:-6.06±3.67D近視):1C8名,B群(左右差1D以上の両眼性近視):C15名,または近視が軽減した割合:CAC群(片眼近視+片眼遠視):C9群61%,B群名に完全矯正眼鏡を常用73%,C群C77%C9C低矯正のほうが近視進行がChungC200294名9~1C4歳A群:-2.68±1.17DB群:-2.68±1.41DA群:完全矯正眼鏡常用群,CB群:低矯正眼鏡(低矯正量0.75D)常用群A群C0.38D/年B群C0.50D/年C10C早いCAdlerC200648名6~1C5歳A群:-2.82±1.06DB群:-2.95±1.25DA群:完全矯正眼鏡常用群,CB群:低矯正眼鏡(低矯正量0.5D)常用群A群C0.55D/年B群C0.66D/年CA群:完全矯正眼鏡常用群,CBA群:0C.20D/年11CVasudevanC201476名11~3C3歳全体:-3.09±2.11D群:低矯正眼鏡常用群(低矯正量:C0.13D,C0.25D,C0.37D,B群:C0.28D,0.29D,C0.29D,0.50D)0.45D/年C11CChenC2014132名12~1C8歳A群:-3.96±0.59DB群:-4.11±0.74DA群:完全矯正眼鏡常用群,CB群:低矯正眼鏡(低矯正量C0.25-0.5D)常用群A群C0.52D/年B群C0.60D/年表2メタアナリシスに用いられた研究の詳細著者標本数年齢(歳)サイプレジン測定機器低矯正の程度結果CDAdler(C2006)全体(48)完全矯正(23)低矯正(25)6~C15なしレチノスコピー-0.50D完全矯正のほうがわずかに進みにくい(有意差なし)CKChung(C2002)全体(94)完全矯正(47)低矯正(47)9~C14なしレチノスコピー-0.75D完全矯正のほうが進みにくいCSYLi(C2015)全体(2C53)完全矯正(1C33)低矯正(1C20)C12ありオートレフラクトメータC≦-0.50D屈折,眼軸長に有意差なしCBVasudevan(C2014)全体(1C75)完全矯正(1C25)低矯正(1C50)11~C33なしオートレフラクトメータ-0.50D完全矯正のほうがわずかに進みにくいCYYSun(C2017)全体(1C21)完全矯正(56)低矯正(65)C12-13ありオートレフラクトメータ-0.50D低矯正のほうが進みにくいCYHChen(C2014)全体(1C32)完全矯正(77)低矯正(55)12~C18なしレチノスコピー-0.50D完全矯正のほうが進みにくい(文献C11より改変引用)Di.erenceinmeansand95%ClGroupbyStudynameStatisticsforeachstudyUsingcycloplegicDi.erenceInmeansLowerlimitUpperlimitp.ValuecycloplegicLi-0.06-0.210.090.44cycloplegicSun-0.27-0.24-0.290.00cycloplegicTotal-0.26-0.24-0.290.00Non.cycloplegic(MPMVA)Chung0.23-2.512.790.86Non.cycloplegic(MPMVA)Adler0.170.110.220.00Non.cycloplegic(MPMVA)Vasudevan0.25-3.283.780.88Non.cycloplegic(MPMVA)Chen0.07-0.080.220.35Non.cycloplegic(MPMVA)Total0.1560.100.210.00MPMVA=MaximumPlustoMaximumVisualAcuity.-4.00-2.000.002.004.00FavoursUnder.correctionFavoursfull.correction図1完全矯正眼鏡と低矯正眼鏡の近視進行量の差の比較完全矯正眼鏡と低矯正眼鏡の近視進行量の差を,調節麻痺下検査を用いた研究と,非調節麻痺下検査を用いた研究の二つのサブグループに分けてメタアナリシスした結果は,調節麻痺下屈折検査を用いた研究では,低矯正眼鏡のほうが近視進行予防に有利とする結果であった.一方,非調節麻痺下検査での研究は,完全矯正眼鏡のほうが近視進行予防に有利とする結果であった.しかし,調節麻痺下屈折検査を用いたサブグループ解析の結果は研究間の異質性がかなり高く,エビデンスが弱い.調節麻痺下屈折検査を用いた処方に関しては今後,再評価する必要があり,現時点では解釈に注意が必要である.(文献C11より改変引用)レジン調節麻痺下屈折値を用いた場合の処方では,完全矯正眼鏡と低矯正眼鏡との近視の進行量の差に関して結論を出すには,今後さらなる研究の蓄積が必要である.CIII完全矯正眼鏡と低矯正眼鏡のどちらを処方すべきか1.非調節麻痺下検査で完全矯正眼鏡か1D未満の低矯正眼鏡を処方する場合メタアナリシスの結果,調節麻痺下屈折検査を用いるか否かで結果が異なるものの,完全矯正眼鏡と低矯正眼鏡では統計学的に有意な近視進行量の差が生じることが示されている.しかし,その差は両者ともにわずかであり,臨床的に意味のある差ではないとも結論づけられている.実際に表1にある非調節麻痺下検査で眼鏡処方を行った過去の報告のうち,エビデンスレベルの高い無作為化比較試験であるCChungらの報告では5),完全矯正眼鏡群の年間近視進行量はC0.38D/年である一方,0.75Dまでの低矯正眼鏡群ではC0.5D/年であり,完全矯正と低矯正眼鏡の年間近視進行量の差はC0.14D/年である.また,同じく無作為化比較試験であるCAdlerらの報告でも6),完全矯正眼鏡群での年間近視進行量はC0.55D/年である一方,0.5Dまでの低矯正眼鏡群ではC0.66D/年であり,年間近視進行量の差はC0.11D/年程度である.統計学的には有意な差とはいえ,少なくともC1D未満の低矯正眼鏡と完全矯正眼鏡との近視進行量の差はわずかである.完全矯正眼鏡の装用に問題がない小児の場合は,基本的に完全矯正眼鏡でよいと考えられる.しかし,初めての眼鏡や,眼鏡に慣れない小児,完全矯正眼鏡装用が困難な小児や,近業時に霧視や眼精疲労,複視を訴える小児では,低矯正眼鏡や,場合によっては累進屈折力レンズの処方がよい.これらの小児では,完全矯正眼鏡を装用することで近業での調節必要量が増し,近見時に内斜位が生じ,輻湊と調節の相互作用から調節反応量が低下し(調節ラグ),霧視などが生じる.これらが眼精疲労の原因と考えられる.低矯正眼鏡や累進屈折力レンズを処方することで調節性輻湊が軽減し,これらの症状を解消することができる.しかし,累進屈折力レンズでは効果が不十分という報告もあるため,完全矯正眼鏡がむずかしい場合は,第一選択として低矯正眼鏡を処方したほうがよいと考えられる12).C2.1D以上の低矯正眼鏡や眼鏡を装用させない場合2015年のCLiらのサイプレジン調節麻痺下検査を用いた研究では8),低矯正量の程度に応じて群分されたサブグループの年間の近視進行量を詳細に解析している.興味深いことに低矯正量が大きくなるほど近視の進行量が減少しており(図2),1.5Dを超える低矯正眼鏡群では,完全矯正眼鏡群と比較して,近視の進行が年間C0.26Dまで少なくなっている.一般的に一定期間の小児の近視の進行量は近視の程度が強いほど大きいことが知られているが,この研究では低矯正量が強い群ほど近視の程度も強くなっている.このためCLiらは,1Dを超える低矯正状態は,程度の強い近視の進行を代償する以上に,近視を抑制する効果がある可能性を指摘している.さらにLiらは,Chung,Adlerらの無作為化比較試験では,低矯正眼鏡の低矯正量がC1.0D以下であったため,近視性デフォーカスの刺激が近視進行抑制効果を発揮するほどの低矯正量が確保されていなかった可能性があると考察している.また,Liらと同じグループのCSunらはC2017年に,同様のコホートスタディに参加した中学C1年生(平均C12.7歳)の,56名の完全矯正眼鏡(低矯正量C0.5D未満)常用の近視学童と,65名の眼鏡非装用の近視学童(-3.0~-0.5D)のC2年間の経過を解析した9).この結果,完全矯正群での年間近視進行量と眼軸伸展量はそれぞれ0.52D/年,0.27Cmm/年である一方,眼鏡非装用群では0.38D/年,0.23Cmm/年であり,眼鏡非装用群のほうが近視進行量と眼軸伸展量ともに軽度であることが示された.この報告では,非眼鏡装用では近視の程度が強くなればなるほど,全体としては近視の年間進行量が減少していることが示されている(図3).しかし,1Dを超える低矯正であっても,年間C1Dを超えて進行する症例もあり,非眼鏡装用による近視抑制効果は個々の症例によってばらつきが多いと考えられる.低矯正眼鏡を処方することで近視の進行を遅らせようとするならば,Liらの考察から十分な近視性デフォーカスを得るためにC1.5Dを超える低矯正眼鏡を装用させ276あたらしい眼科Vol.39,No.3,2022(14)0.81.000.70.60.50.40.30.20.1年間の近視進行量(D)図3眼鏡を装用していない近視小児の近視非矯正量と年間の近視進行量の関係(文献C10より改変引用)図2完全矯正眼鏡と低矯正量の程度別にサブグループ分類した低矯正眼鏡群の年間近視進行量の比較(文献C9より改変引用)眼鏡視力1.00.50.2012345678瞳孔径(mm)図4低矯正の程度と裸眼視力の関係(文献C13より引用)’C

小児の近視の眼鏡処方の基本

2022年3月31日 木曜日

小児の近視の眼鏡処方の基本BasicGuidelinesforthePrescriptionofSpectacleLensesinChildrenwithMyopia松岡真未*仁科幸子*はじめに小児の近視の多くは単純近視で,学童期に発症して進行する.年齢や生活・学習環境によって違いがあり,軽度近視の就学前の小児であれば眼鏡を必要としない場合が多い.一方,小学校中学年となれば,軽度近視でも眼鏡が必要となる場面がある.一方,先天発症や乳幼児期に発症する近視,近視性乱視,近視性不同視には,病的近視や眼疾患や全身疾患に伴う症候性の近視が多いため,鑑別に注意を要する.一般に近見に焦点が合う近視は非矯正でも弱視の原因となりにくいが,2歳を超えると遠方視を使う活動が増える.強度の近視であれば,視覚および心身の発達のため,精密屈折検査を行って,眼鏡矯正の適否を検討する必要がある.本稿では年齢に応じた眼鏡処方の基本と,とくに低年齢の小児に適した眼鏡の選び方について述べる.I小児の眼鏡の処方乳幼児期の近視に対する眼鏡矯正のめやすを表1に示す1).視機能が順調に発達した5歳以降の近視に対しては,視力,眼位,随伴疾患の有無,学習環境などを考慮して処方を検討する.眼鏡処方に際して注意すべきことは,過矯正を避けることである.小児は調節力が強く,5歳で14D,10歳で12D,15歳で10Dといわれている2).したがって,学童期以降も,精密屈折検査には調節麻痺薬の使用が不可欠である.過矯正が引き起こすデメリットとして,網膜上の遠視性デフォーカスが近視の進行の危険因子3)であることがあげられる.また,過度な調節努力により,調節性輻湊が生じて近見の内斜視が起こり,複視や眼精疲労の原因となる.1.調節麻痺薬調節麻痺薬にはアトロピン硫酸塩(アトロピン),シクロペントラート塩酸塩(サイプレジン),トロピカミド・フェニレフリン塩酸塩(ミドリン)点眼薬があるが,薬剤により作用効果,副作用,点眼方法の違いがあり,使い分けが必要となる.3種類の点眼薬のなかで,完全な調節麻痺効果を得て正確な屈折値を求めるには1%アトロピンがもっともよい.3~15歳までの小児において,サイプレジンに比べ,アトロピンのほうが平均+0.45D遠視側に測定されるとの報告がある4).しかし,アトロピンは効果の発現が遅いことや作用時間の長いこと,副作用が多いことなどから,内斜視や高度の調節けいれんの患者以外は,サイプレジンが一般的に用いられる.斜視のない近視の小児には,サイプレジンを用いることで,過矯正を避けるために適切な屈折検査ができる.以下,各点眼薬の使用法と注意点,副作用を述べる.a.サイプレジン1%点眼液5分おきに2回点眼し,初めの点眼から60分後に検*MamiMatsuoka&SachikoNishina:国立成育医療研究センター眼科〔別刷請求先〕松岡真未:〒157-8535東京都世田谷区大蔵2-10-1国立成育医療研究センター眼科0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(3)265表1乳幼児期の近視・乱視・不同視に対する眼鏡矯正のめやす年齢~1歳1~2歳2~3歳3~4歳近視5.00D以上4.00D以上3.00D以上2.50D以上近視性不同視(斜視なし)4.00D以上3.00D以上3.00D以上2.50D以上乱視3.00D以上2.50D以上2.00D以上1.50D以上乱視性不同視(斜視なし)2.50D以上2.00D以上2.00D以上1.50D以上図2近見の瞳孔間距離(PD)の測定方法ペンライトとディスタントメータを用い近見のPDを測定する.図1さまざまなサイズの掛け枠a:サージカルテープでレンズと掛け枠を固定させる.b:装用テスト用フレーム:カラフルな掛け枠は子どもの興味を引きやすい.-図3ディスタントメータで遠見の瞳孔間距離(PD)を測定する場合a:右眼の角膜中央を0に合わせ,左眼の角膜中央が示す値をPDとする.b:右眼の角膜内縁を0に合わせ,左眼の角膜外縁が示す値をPDとする.c:斜視のある症例では片眼ずつ遮閉しPDを測定する.×小さい○ちょうどいい×大きいツインタイプセパレートタイプ図4眼鏡フレームの選択図5シリコーン製鼻パッドの種類顔幅に合わせたフレームを選ぶ.(提供:こどもメガネアンファン)(提供:こどもメガネアンファン)図6短すぎるテンプルの例テンプルが短く眼鏡が持ち上がっており光学中心を使えていない.図7長すぎるテンプルの例テンプルが長く眼鏡サイズが大きいため,鼻メガネの状態である.-図8モダンモダンは耳の形に合わせ掛けやすいものを選ぶ.(提供:こどもメガネアンファン)図9適切な眼鏡フレームと頂点間距離,前傾角図10左右で耳の形が異なる患児右側のモダンをカットしている.

序説:子どもの近視の眼鏡処方

2022年3月31日 木曜日

子どもの近視の眼鏡処方GuidelinesforPrescribingSpectacleLensesinChildrenwithMyopia大野京子*五十嵐多恵*文部科学省の学校保健統計では,日本の児童生徒の「裸眼視力1.0未満の者の割合」は年々増加しており,近視の増加が原因と考えられている.また,COVID-19のパンデミックに伴う自粛政策とICT教育の加速から,今後,この傾向はますます強まると予測される.一方で,小児の近視は適切な眼鏡処方さえすればよいとする考えから,将来の視覚障害者の増加を阻止するために,たとえ1ジオプトリーであっても小児期の近視進行は予防すべきだとする考えに,世界はシフトしており,有効な一次予防対策が国家規模で実施され,さまざまなエビデンスのある近視進行予防治療が世界各国で提供されるようになっている.かつてないほど小児の近視に対する社会の関心が高まっている今だからこそ,小児の近視管理の基本となる眼鏡処方にまつわる重要事項を確認しておく必要がある.小児では,調節麻痺薬の使用や雲霧法を用いた適切な度数決定のプロセスが実施されていなければ,完全矯正や低矯正眼鏡を処方しているつもりでも,過矯正眼鏡を処方し,近視を増悪させてしまう.実際に,日常診療で過矯正眼鏡が処方されている近視の小児に遭遇する機会は多い.また,小児は眼鏡の取り扱いが雑であり,転んでフレームが歪むなども日常茶飯事である.眼科医療者側が,小児が装用することに適したフレームデザインのポイントを抑え,選択させることも重要である.なお,現時点までのエビデンスでは,非調節麻痺下で小児の近視眼鏡を処方する場合に限れば,最高視力を得るためにもっともプラス寄りで処方した完全矯正眼鏡が,低矯正眼鏡と比較して近視の進行予防に有利と考えられている.しかし,そのようなエビデンスが示されているから小児の近視眼鏡は完全矯正眼鏡でよいとは,単純には言い切れない.視機能の発達段階にある小児では,考慮すべき病態や訴えがさまざまあるからである.年齢や,眼位,輻湊,調節機能などを考慮したうえで,適切な処方度数を決定する必要がある.本特集では,まず「小児の近視の眼鏡処方の基本」を抑えたうえで,とくに注意したい病態として,「斜視を伴う近視」「強度近視・病的近視」「不同視を伴う近視」「調節の異常・心因性視覚障害を伴う近視」に分けて,小児眼科分野のエキスパートの先生に総説をご執筆いただい.どのような点に注意して,どのように対処すべきかを実例を交えながら,大変わかりやすく解説されている.また,近年,話題となっている近視進行予防眼鏡に関する最新の知見も,この分野の第一人者の先生にご執筆いただいた.今後,このようなエビデンスのある近視*KyokoOhono-Matsui&TaeIgarashi-Yokoi:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(1)263

健康成人を対象としたビルベリー/松樹皮抽出物配合食品摂取 による眼圧への影響の検討

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):251.257,2022c健康成人を対象としたビルベリー/松樹皮抽出物配合食品摂取による眼圧への影響の検討髙木泰孝*1島田久生*2沖上裕美*3庄司信行*4*1参天製薬株式会社日本事業開発統括部日本メディカルアフェアーズグループ*2参天製薬株式会社研究開発本部臨床開発統括部臨床開発グループ*3参天製薬株式会社研究開発本部製剤技術統括部*4北里大学医学部眼科学COcularHypotensiveE.ectofaSupplementContainingBilberryandMaritimePineBarkCombinationExtractsinJapaneseHealthyVolunteersYasutakaTakagi1)CHisaoShimada2)CHiromiOkigami3)andNobuyukiShoji4),,1)JapanMedicalA.airsGroup,JapanBusinessDivision,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)ClinicalDevelopmentGroup,ResearchandDevelopmentDivision,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,3)PharmaceuticalTechnologyDevelopmentDivision,ResearchandDevelopmentDivision,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,4)DepartmentofOphthalmology,FacultyofMedicine,KitasatoUniversityCビルベリー/松樹皮抽出物配合食品(被験食品)の眼圧に対する影響を検討するため,眼圧C20CmmHg以上の健康成人において,無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験を実施した.被験者C47名に被験食品とプラセボ食品を無作為に割付し,1日C1回C1粒C12週間摂取させた.眼圧は来院時のC9.11時に非接触型眼圧計で測定した.被験食品群,プラセボ群の両群で,無作為化後の全測定時点において摂取前に比べ統計学的に有意な眼圧下降が認められた.前値で補正した眼圧変化値は,4週後のみ両群間に統計学的な有意差がみられ,被験食品群で大きかった.被験食品と因果関係なしと判断された有害事象がC1件(下痢/胃腸障害)に認められた.ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品は忍容性もよく眼圧下降が認められた.ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品は,眼圧を下降させることで眼の健康維持に貢献する可能性が示唆された.CPurpose:ToCevaluateCtheCe.ectsCofCaCsupplementCcontainingCtheCcombinationCofCbilberryCandCmaritimeCpineCbarkCextractsConCintraocularpressure(IOP)C,CaCrandomized,Cdouble-blind,Cplacebo-controlled,CparallelCstudyCwasCconductedinJapanesehealthyvolunteerswhoseIOPwasover20CmmHg.Methods:Thisstudyinvolved47eligi-blevolunteersubjectswhowererandomlyselectedtoundergoextract-supplementtesting(testgroup)orplacebocontrol(controlgroup)onceCdailyCforC12weeks(1Cgraineach)C.CAtCeachCvisit,CIOPCwasCmeasuredCbyCnon-contactCtonometeratbetween9-o’clockAMto11-o’clockAM.Results:Inboththetestandcontrolgroup,theIOPwassigni.cantlyCdecreasedCfromCthatCatCbaselineCatCallCmeasuringCpointsCafterCrandomization.CIOPCchangesCfromCbase-lineadjustedbybaselineIOPwassigni.cantlydi.erentbetweenthetwogroupsonlyat4weeks,andwasgreaterintestgroup.Therewerenoadversereactionswithnocausalrelationtothetestgroup.Conclusion:Thesupple-mentcontainingextractsofbilberryandmaritimepinebarkcombinationiswell-toleratedandhasanocularhypo-tensivee.ect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(2):251.257,C2022〕Keywords:ビルベリー抽出物,松樹皮抽出物,サプリメント,眼圧,健康成人.bilberryextract,barkofthemaritimepineextract,supplement,intraocularpressure,healthyvolunteer.Cはじめに生活できる年齢をさす「健康寿命」は,2016年時点で男性日本人の平均寿命は年々伸びており,2018年では男性は72.14歳,女性は74.79歳(2016年の平均寿命は男性81.25歳,女性はC87.32歳となっている1).一方,自立して80.98歳,女性C87.14歳)となっており,平均寿命とは男性〔別刷請求先〕髙木泰孝:〒530-8552大阪府大阪市北区大深町C4-20参天製薬株式会社日本事業開発統括部日本メディカルアフェアーズReprintrequests:YasutakaTakagi,Ph.D.,JapanMedicalA.airsGroup,MedicalA.airs,JapanBusinessDivision.SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,4-20Ofukacho,Kitaku,Osaka,Osaka530-8552,JAPANCでC8年,女性でC11年以上と大きな開きがある2).「健康寿命」を伸ばすため,加齢に伴う種々の身体機能の低下を抑制するアンチエイジングのセルフケアに対する関心が高まり,セルフケアの方法の一つとしてサプリメントが位置づけられてきている.また,アンチエイジングのセルフケアとしてだけではなく,疾患に対する治療を受けつつ,その治療をサポートし,治療効果を高めるために,サプリメントを用いるという考え方も受け入れられつつある.加齢により眼も同様に機能低下が進行する(眼精疲労,老視など).また,加齢性の眼疾患(白内障,緑内障,加齢黄斑変性など)も知られている.眼の機能低下に対しては,現在,ブルーベリーアントシアニン,ゼアキサンチン,アスタキサンチンが視力回復やピント調節のために,ルテインがブルーライトからの保護や加齢黄斑変性の予防に機能性表示食品として用いられている.一方,眼疾患に対しては,海外での大規模臨床試験の結果,治療に組み込まれているサプリメントが存在する疾患領域(加齢黄斑変性)と,緑内障のようにサプリメントのエビデンスが不足していることで明確に推奨されず,また機能性表示食品として製品が存在しない疾患領域が存在する.今回使用するアントシアニンC36%以上で規格化されたビルベリー抽出物食品(Mirtoselect)とプロシアニジンC70C±5%で規格化された松樹皮抽出物食品(Pycnogenol,HorphagResearch社,スイス)の配合食品ミルトジェノール(Indena社,イタリア)は,1日C2回(1日C2粒)摂取により眼圧下降が得られること3),1日C1回3)あるいはC1日C2回4)の摂取によりラタノプロストの眼圧下降に対し上乗せ効果があるとともに網膜中心動脈の収縮期血流を増加させること5,6)が報告されている.この配合食品の主成分である松樹皮抽出物のピクノジェノールは,網膜血流を改善させること7)や神経分化モデル細胞であるCPC12細胞での細胞死を抑制することが報告されている8).一方,ビルベリー抽出物の含有成分は,ビルベリーの産地や収穫時期により大きく異なり,市販されているビルベリー抽出物の成分・含量が大きく異なることが知られており9),また,摂取前眼圧が日本人の平均眼圧より高いことから,海外で確認されているビルベリー/松樹皮抽出物配合食品による眼圧下降効果4,5)がそのまま日本人でも示されるかどうかは不明である.そこで,眼圧がC20CmmHg以上の高眼圧症や緑内障とは診断されていない日本人健康成人を対象に,無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験でビルベリー/松樹皮抽出物配合食品ミルトジェノールの眼圧下降を検討した.I対象および方法1.対象対象はC20歳以上C74歳以下の男女で,おもな除外基準は,緑内障性の視神経乳頭障害が認められる者,眼圧ならびに眼圧測定に影響する疾患(炎症性疾患,角膜疾患など)を有する者,眼圧に影響する薬剤(ステロイド,眼圧下降薬,ED治療薬,向精神薬)の過去C4週間以内の使用歴がある者,抗酸化を標榜するサプリメント(松樹皮抽出物,ビルベリー,カシス,ルテイン,アスタキサンチン,ビタミンCE)の継続的な摂取習慣のある者とした.この条件を満たす志願者のなかから,試験責任医師が試験参加妥当と判断し,摂取前(Visit-2)において少なくとも片眼の眼圧値がC20CmmHg以上の者C40名を対象とした.本研究は,「ある程度の高眼圧状態を有し,眼圧下降に関して無治療の健康成人」というきわめて限定的な対象者を被験者としたため,探索的であり,被験食品とプラセボ食品の群間の有意差検出を目的とした例数設計は実施せず,根拠となる既報もないことから,実施可能性を考慮し必要例数を設定した.なお,本研究は「ヘルシンキ宣言(人間を対象とする医学研究の倫理的原則)」「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」およびその他関連規制や試験研究所を遵守し実施し,試験実施医療機関の治験審査委員会で承認された同意説明文書での説明後,文書による同意を得て行われた.C2.被験薬品被験食品はアントシアニンC36%以上で規格化されたビルベリー抽出物食品(Mirtoselect)90CmgとプロシアニジンC70C±5%で規格化された松樹皮抽出物食品(Pycnogenol)40Cmgを含む配合食品C1粒である.ビルベリー抽出物,松樹皮抽出物を含まないプラセボ食品を対照とした.C3.試験方法試験スケジュールを図1に示す.本研究は,無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験で,被験者はビルベリー/松樹皮抽出物配合食品(被験食品群)あるいはプラセボ食品(プラセボ群)のC12週摂取に無作為に割付られた.なお,被験食品は,1粒をC1日量として設定した.割付は,割付責任者が行い,識別不能性を確認したのち,試験食品対応表ならびにエマージェンシーキーを作製し,厳封のまま開鍵まで割付責任者が保管した.被験者は事前検査(Visit-1),摂取前(Visit-2),摂取4,8,12週後(それぞれCVisit-3,Visit-4,Visit-5)に来院し,眼圧検査は全来院時に,血圧,脈拍,血液検査,尿検査はCVisit-1およびCVisit-5に,被験者背景,眼科検査(細隙灯顕微鏡検査,眼底検査)はCVitit-1に施行した.眼圧は,非接触型眼圧計を用いて,各来院時のC9時.11時の間に測定した.なお,眼圧の評価眼は,摂取前検査時(Visit-2)で眼圧の高いほうの眼とし,両眼の眼圧が同じVisit-1事前検査Visit-3Visit-4Visit-5Visit-2摂取前(Visit-2)への登録割付→摂取前摂取4週後摂取8週後摂取12週後本試験への選抜被験者の割付/試験食品の配布場合は右眼を評価眼とした.被験食品の摂取状況および有害事象調査には被験者日誌を用いた.C4.評価方法・統計解析統計解析は,SASCsoftwareCVer9.4(SASCinstituteCInc.,USA)またはCSPSSCStatisticsCVerC19Cforwindows(日本IBM)を用いた.有効性の主要評価項目は,12週時点における摂取前眼圧からの変化値および変化率とした.副次的評価項目は,4週,8週時点における摂取前眼圧からの変化値および変化率,12週までの「眼圧変化値・時間曲線下面積」,12週時点の眼圧が「2CmmHg以上」「3CmmHg以上」「10%以上」「15%以上」低下した人数とした.摂取前からの変化値および変化率については,群間比較および摂取前後の比較を行った.「眼圧変化値C.時間曲線下面積(CΔCAUC0-12w)」は,台形法を用いて,摂取前からの眼圧変化値の時間曲線下面積を算出し,群間比較を行った.なお,作用機序の考察や副次効果の説明の観点から,相関関係の解析や層別解析などさまざま統計解析を行えるものとした.眼圧値および摂取前からの眼圧変化値の経時比較には対応のあるCt検定を,群間比較には対応のないCt検定を,前値で補正した眼圧変化値の群間比較には共分散分析を使用し,有意水準は5%とした.安全性の主要評価項目は,副作用の集計(発現件数,発現率(副作用発現例数/解析対象例数))とし,副次的評価項目は,有害事象の発現件数,発現率(有害事象発現例数/解析対象例数),生理学検査ならびに生化学検査の異常変動の有無とした.安全性項目の経時比較に対応のあるCt検定,群間比較に対応のないCt検定を使用し,有意水準はC5%とした.有害事象は,責任医師が被験食品との因果関係を「なし」「多分なし」「多分あり」「あり」のC4段階に判定し,「多分あり」「あり」と判定された有害事象を副作用とした10).判定基準の詳細は以下のとおりである.「なし」:時間的に明白な関係がほとんどないと考えられる場合,他の要因(合併症,併用薬,併用食品など)の可能性が明確に考えられる場合.「多分関連なし」:否定しきれないが,時間的な関係が明確でないか,他の要因(合併症,併用薬,併用食品など)の可能性が大きいと考えられる場合.「多分関連あり」:時間的に明白な関係があり,そのうえ他の要因(合併症,併用薬,併用食品など)の関与がほぼ除外される場合.「関連あり」:時間的に明白な関係があり,そのうえ他の要因(合併症,併用薬,併用食品など)の関与が明確に除外される場合.なお,所定の試験スケジュールや内容をすべて終了した被験者のうち,試験食品の摂取率がC80%以下の場合や,検査結果やデータの信頼性に大きな問題が生じた場合は該当被験者を解析対象から除外することとした.CII結果1.被験者背景試験期間はC2017年C1.6月で,被験食品群C23例(男性C13例,女性C10例,平均年齢C53.6C±11.4歳),プラセボ群C24例(男性C10例,女性C14例,平均年齢C49.0C±10.2歳)が試験に組み入れられ,全例が試験を完了した.被験者背景(年齢,性別)は,群間に差がなかった.被験者日誌で確認された試験期間中の摂取状況は,1回摂取忘れがC2例,2回摂取忘れがC1例であり,摂取率は全例でC95%以上であった.また,検査結果やデータの信頼性に大きな問題が生じた被験者はなく,有効性のCPPS解析は全例を解析対象とした.安全性解析(FAS解析)は,割付け後のデータがない者を除くとしていたため,全被験者C47例を解析対象とした.C2.眼圧摂取前眼圧には,両群に有意な差は認められなかった(p=0.578,対応のないCt検定).被験食品群の眼圧は,摂取前のC21.90C±0.38CmmHgから,4週後C19.96C±0.48CmmHg,8週後C20.23C±0.34CmmHg,12週後C19.83C±0.51CmmHgといずれも摂取前に比べ統計学的に有意(p<0.001,対応あるCt検定)に低下し,プラセボ群の眼圧は,摂取前のC22.18C±0.32mmHgから,4週後C21.16C±0.38mmHg,8週後C20.74C±0.43CmmHg,12週後C20.53C±0.44CmmHgといずれも投与前に比べ統計学的に有意(p<0.001,対応あるCt検定)に低下した.摂取前からの眼圧変化値は,被験食品群およびプラセボ群ともいずれの測定点でも負の値となり,統計学的に有意(p<0.01,対応あるCt検定)であった(図2).被験食品群の眼圧変化幅は,いずれの測定点でもプラセボ食品群の眼圧変化幅より大きかったが,群間に統計学的に有意な差は認められなかった(t検定).摂取前からの眼圧変化値について前値補正(共分散分析)を行ったところ,摂取C4週後では被験食品群がプラセボ群に比して統計学的に有意な(p=0.0410)低値を示すことが確認された(表1)が,摂取C8週およびC12週では群間に統計学的に有意な差は認められなかった.被験食品群の眼圧変化率は,4週後C.8.8±1.8%,8週後C.7.2±1.8%,12週後でC.9.3±2.2%であったが,群間差は認められなかった(対応あるCt検定).摂取C12週までの眼圧値・時間曲線下面積は,プラセボ群眼圧変化値(mmhg)1.00プラセボ食品(n=24)被験食品(n=23)0.00**-1.00**#****平均値±標準誤差-2.00******:p<0.001(vs摂取前,対応のあるt検定)#:p<0.05(vsプラセボ食品,共分散分析)-3.00摂取前4週後8週後12週後図2眼圧変化値の推移眼圧は,被験食品あるいはプラセボ食品の摂取前,摂取後C4週,8週およびC12週後に非接触型眼圧計を用いて測定した.のC253.01C±4.28mmHg・weekに対し,被験食品群ではC244.23±4.14CmmHg・weekであり,眼圧変化値・時間曲線下面積は,プラセボ群のC.18.57±3.44CmmHg・weekに対し,被験食品群では.13.13±2.76mmHg・weekであった.12週時の眼圧が「2CmmHg以上低下」「3CmmHg以上低下」「10%以上低下」「15%以上低下」した人数は,被験食品群23例中それぞれC9例,8例,9例,6例であり,プラセボ群24例中それぞれ,12例,7例,10例,3例であった.摂取前眼圧と摂取C12週後眼圧の散布図から得られた回帰直線は,評価眼ではCy=0.5873x+6.964(RC2=0.1946)で,非評価眼ではCy=0.3362x+11.935(RC2=0.0578)であった(図3).C3.安全性有害事象は被験食品群のC23例中C7例(30.4%)8件(34.8%),プラセボ群のC24例中C6例(25.0%)6件(25.0%)に認められ,被験食品群の有害事象は眼障害C2件(8.7%),感染症C4件(17.4%),胃腸障害C2件(8.7%),プラセボ群の有害事象は感染症C5件(20.8%),迷路障害C1件(4.2%)であった.摂取食品との因果関係が「あり」「たぶんあり」とされた副作用は認められず,重篤な有害事象も認められなかった.摂取食品との因果関係が完全には否定できない有害事象(「たぶんなし」)としては下痢がC1件発生した.下痢の程度は軽度,症状はC2日間継続したが,被験食品摂取を継続し無処置で回復した.被験食品群では摂取前に比べ,拡張期血圧,体重,平均赤血球容積(MCV),平均赤血球血色素量(MCH),平均赤血球血色素濃度(MCHC),g-グルタミルトランスペプチダーゼが有意に減少し,グルコヘモグロビン(HbA1c)が有意に増加した(表2).プラセボ群では摂取前に比べ,血圧(拡張期,収縮期),脈拍,MCV,MCH,MCHC,総コレステロール,低比重リポプロテイン(LDL)コレステロールが有意に減少し,HbA1cが有意に増加した(表2).CIII考按本研究では,眼圧C20CmmHg以上の日本人健康成人において,ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品摂取により,摂取前表1眼圧変化値の推移被験食品群(n=23)p値1)プラセボ群(n=24)p値1)p値2)摂取C4週後C.1.94±0.38C0.0000C.1.02±0.26C0.0007C0.0410摂取C8週後C.1.67±0.41C0.0006C.1.44±0.35C0.0004C0.4659摂取C12週後C.2.07±0.48C0.0003C.1.65±0.36C0.0002C0.3833(平均値±標準誤差)1)Vs摂取前,対応のあるCt検定.2)ベースライン眼圧値を共変量とした共分散分析.眼圧は,被験食品あるいはプラセボ食品の摂取前,摂取後C4週,8週およびC12週後に非接触型眼圧計を用いて測定した.表2変動が認められた臨床検査値一覧被験食品群プラセボ群摂取前摂取後C12週摂取前摂取後C12週収縮期血圧(mmHg)C124.2±3.5C120.7±3.41)C124.2±3.5C120.7±3.41)拡張期血圧(mmHg)C81.3±3.0C79.9±2.8C76.3±2.7C74.0±2.71)脈拍(回/分)C68.0±2.5C67.1±2.4C71.8±2.2C68.8±2.31)体重(kg)C3.12±1.99C62.93±2.00C55.42±2.122)C55.23±2.112)平均赤血球容積(fL)C91.30±1.01C91.73±1.021)C91.05±0.82C91.55±0.781)平均赤血球血色素量(pg)C30.50±0.42C30.15±0.411)C30.38±0.29C30.10±0.271)平均赤血球血色素濃度(%)C33.40±0.19C32.84±0.161)C33.38±0.14C32.90±0.131)Cg-グルタミルトランスペプチダーゼ(U/L)C43.8±7.9C37.9±7.61)C28.0±5.8C26.1±5.2グルコヘモグロビン(%)C5.59±0.11C5.75±0.111)C5.48±0.11C5.64±0.121)総コレステロール(mg/dL)C223.5±7.1C217.5±6.9C213.5±6.3C204.3±6.21)低比重リポプロテインC132.0±5.1C131.3±5.1C118.0±6.4C113.8±6.32)(平均値±標準誤差)1)Vs摂取前,対応のあるCt検定.2)Vs被験食品群摂取C12週後,t検定.と比較して眼圧を低下させることが明らかとなった.眼圧下降幅はC4週後のみ両群間に統計学的な有意差がみられ,被験食品群で大きかった.ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品の眼圧下降に関する海外の報告は,緑内障あるいは高眼圧症の患者を対象としたものであり,健康成人での眼圧下降の報告はない.本報告は,健康成人におけるビルベリー/松樹皮抽出物配合食品の眼圧下降の初めての報告となる.本研究はエビデンスレベルの高い無作為化二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験であり,本研究にて健康食品による眼圧下降が健康成人で示せたことは意義があると考える.本研究では,プラセボ群の眼圧が摂取前に比べ有意に下降していた.プラセボによる変動は一般にプラセボ効果と知られており,今回のプラセボ群での変動(1.6CmmHg)はプラセボ効果の範囲内と考えられる.今回は,対象が眼圧測定経験の少ない健常人であること,健常人としては眼圧が高めであったことが,プラセボ効果が大きくなった可能性があると考える.ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品の摂取により,いずれの測定点でも摂取前に比べ有意に眼圧が下降し,その下降は10%未満であった.また,プラセボ群との比較ではC1測定点でのみ有意差が認められ,その眼圧下降幅はいずれの測定点でもプラセボ食品群より大きく,すべてC1CmmHg以上であった.これらのことから,眼圧下降作用のプラセボに対する優越性や実薬対照との非劣性で承認される眼圧下降薬と比べると,ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品の眼圧下降は,継続しているものの弱いことが推定される.したがって,ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品は,眼圧は下降させるものの緑内障の治療には不十分であり,あくまで眼圧が高めの人の眼圧を下げることにより眼の健康維持に役立つサプリメントとして認知されるものと考える.一方,点眼以外で眼圧が下降する食品であるため,点眼を忘れがちな患者や点眼操作がうまくできていない可能性がある患者など,点眼治療のみではコンプライアンス不良が疑われる患者などで,点眼薬の眼圧下降を補助するような使い方もあるかもしれない.ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品の成分であるピクノジェノールまたはその代謝物が一酸化窒素(NO)産生を促進すること11,12),一酸化窒素が主経路からの房水流出を促進すること3)が報告されている.したがって,一酸化窒素が主経路による房水流出を促進させることにより,眼圧が下降する可能性が示唆されているが,詳細は不明である.本研究では,ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品の眼圧下降作用が摂取前眼圧に依存するかを検討するため作成した摂取前眼圧と摂取後眼圧から得られた回帰直線から,評価眼,非評価はともに摂取前眼圧値が高いほど被験物質の摂取後の眼圧下降効果が強いことが示され,摂取前眼圧がC18CmmHg以下など比較的眼圧が低い場合は眼圧下降が得られにくい可能性が示唆されている(図3).このため,ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品は,眼圧が高めの健康成人が眼の健康維持のためセルフケアとして摂取すると眼圧下降効果が得られる可能性が考えられる.一方,緑内障患者では全身の抗酸化能が低下しているとの報告もあり13),ビルベリーや松樹皮エキスの抗酸化作用により全身の抗酸化能を改善させ,緑内障の病態の改善を期待できるかもしれない.また,海外では,眼圧下降薬のラタノプロストやドルゾラミドを使用している高眼圧症患者の摂取において,眼圧下降が報告されている5,14).よって,緑内障の治療を受けている患者で,薬剤による眼圧摂取後眼圧(mmHg)摂取後眼圧(mmHg)2826242220181616182022242628摂取前眼圧(mmHg)2826242220181616182022242628b:非評価眼y=0.3362x+11.935r2=0.0578摂取前眼圧(mmHg)図3摂取前眼圧および摂取後眼圧の分布評価眼(Ca),非評価眼(Cb)(それぞれC23眼)の摂取前と摂取C12週後の眼圧実測値から作成.下降をサポートするための摂取も一つのオプションとなるかもしれない.今後の研究により,ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品を摂取すべき対象や摂取が望ましい疾患などが明らかになっていくことを期待する.ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品のC12週の摂取では,副作用は認められなかった.ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品は購入者が自分の意思で摂取するものであるが,軽微な副作用が起こりうることを購入者には知らせておく必要があると思われる.本研究には,被験食品の眼圧下降作用を検出するための例数設計がされておらず,被験食品の摂取時間および摂取後の眼圧測定までの時間を規定していないという制限がある.眼圧下降作用の詳細については,さらなる研究が必要と考える.ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品の日本人における眼圧の下降が確認されたものの,その下降幅は緑内障治療薬に比べ弱いため,緑内障治療薬の代替えとしてではなく,眼圧上昇を防ぐ可能性のある眼の健康維持を目的とする健康補助食品として使用されることが推奨されると考えられる.CIV結論ビルベリー/松樹皮抽出物配合食品のC12週摂取により,日本人健康成人において摂取前に比べ有意に眼圧が下降した.ビルベリー抽出物/松樹皮抽出物配合食品は,忍容性もよく,眼圧を下降させることで眼の健康維持に貢献する可能性が示唆された.利益相反本臨床試験は,参天製薬株式会社の資金提供により実施された.筆者の髙木泰孝,島田久生,沖上裕美は参天製薬株式会社の社員である.筆者の庄司信行は,参天製薬のアドバイザーである.謝辞:本稿の作成にあたり,試験実施を担当いただいた医療法人社団信濃会信濃坂クリニック院長(試験担当医師)武士仁彦先生,スタッフの皆様,一連のモニタリング業務を担当していただいた株式会社CTESホールディングス臨床研究事業本部臨床試験管理部管理室の早川優子氏,統計解析計画を監修いただいた関西福祉科学大学健康福祉学部福祉栄養学科講師の竹田竜嗣博士に深く感謝いたします.本試験に関与した参天製薬の社員に感謝いたします.文献1)厚生労働省:平成C30年簡易生命表の概況(政府の統計令和元年C7月C30日).https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/Chw/life/life18/dl/life18-15.pdf2)厚生労働省:健康寿命のあり方に関する有識者研究会,「健康寿命のあり方に関する有識者研究会報告書」(2019年C3月).Chttps://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000495323.Cpdf3)SteigerwaltCJrCRD,CBelcaroCG,CMorazzoniCPCetal:E.ectsCofMirtogenolonocularblood.owandintraocularhyper-tensionCinCasymptomaticCsubjects.CMolCVisC14:1288-1292,C20084)SteigerwaltCJrCRD,CBelcaroCG,CMorazzoniCPCetal:Mirto-genolpotentiateslatanoprostinloweringintraocularpres-sureCandCimprovesCocularCbloodC.owCinCasymptomaticCsubjects.ClinOphthalmol,C2010:471-476,C20105)SteigerwaltR,BelcaroG,CesaroneMRetal:OcularandretrobulbarCbloodC.owCinCocularChypertensivesCtreatedCwithCtopicalCtimolol,CbetaxololCandCcarteolol.CJCOculCPhar-macolTherC25:537-540,C20096)GaoCB,CChangCC,CZhouCJCetal:PycnogenolCprotectsCagainstCrotenone-inducedCneurotoxicityCinCPC12CcellsCthroughregulatingNF-kB-iNOSsignalingpathway.DNACellBiolC34:643-649,C20157)CollaborativeCNormal-TensionCGlaucomaStudyCGroup:ComparisonCofCglaucomatousCprogressionCbetweenCuntreatedCpatientsCwithCnormal-tensionCglaucomaCandCpatientsCwithCtherapeuticallyCreducedCintraocularCpres-sures.AmJOphthalmolC126:498-505,C19988)KayserCOCandCWarzechaH:PharmaceuticalCbiotechnolo-gy:DrugCdiscoveryCandCclinicalCapplications.CJohnCWileyC&Sons,Inc.,NJ,USA,20129)関澤春仁,野上紀恵,河野圭助:ベリー類のアントシアニン含量の比較.東北農業研究60:225-226,C200710)吉富克則,古川裕之,宮本謙一:臨床試験において収集される有害事象情報の実態調査.臨床薬理39:99-104,C200811)NishiokaCK,CHidakaCT,CNakamuraCSCetal:Pycnogenol,CFrenchCmaritimeCpineCbarkCextract,CaugmentsCendotheli-um-dependentCvasodilationCinChumans.CHypertensionCResC30:775-780,C200712)UhlenhutCK,CHoggerP:FacilitatedCcellularCuptakeCandCsuppressionofinduciblenitricoxidesynthasebyametab-oliteCofCmaritimeCpineCbarkextract(Pycnogenol)C.CFreeCRadicBiolMedC53:305-313,C201213)TanitoCM,CKaidzuCS,CTakaiCYCetal:StatusCofCsystemicCoxidativeCstressesCinCpatientsCwithCprimaryCopen-angleCglaucomaandpseudoexfoliationsyndrome.PLoSOneC7:Ce49680,C201214)GizziC,Torno-RodriguezP,BelcaroGetal:MirtogenolRCsupplementationCinCassociationCwithCdorzolamide-timololCorClatanoprostCimprovesCtheCretinalCmicrocirculationCinCasymptomaticCpatientsCwithCincreasedCocularCpressure.CEurRevMedPharmacolSciC21:4720-4725,C2017***

Bangerter フィルター装用下の両眼加算の検討

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):248.250,2022cBangerterフィルター装用下の両眼加算の検討本居快服部玲奈杉浦巧知愛知淑徳大学心理医療科学研究科心理医療科学専攻視覚科学専修CExaminationofBinocularSummationbyUseoftheBangerterOcclusionFoilFilterKaiMotoori,RenaHattoriandTakutoSugiuraCDepartmentofVisualScience,MajorofPsychologyandMedicalSciences,GraduateSchoolofPsychologyandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversityC両眼加算現象の視覚系への影響を調べるために,正常な視力を有するC3人の被験者の視力を,優位眼,非優位眼,両眼のC3とおりの条件で測定した.測定にはCBangerterフィルターを用いてC3種類の濃度(フィルターなし,1.0,0.4)で両眼加算現象を検討した.他覚的屈折矯正と瞳孔径を統制することで,両眼加算現象の視覚系への影響のみを抽出することができた.その結果,Bangerterフィルターの有無にかかわらず,両眼視の視力は単眼視の視力に比べて有意に高くないことが示された.また,フィルター濃度の違いは両眼加算効果の程度にも影響を与えなかった.CInCthisCstudy,CweCinvestigatedCtheCe.ectCofCbinocularCsummationConCtheCvisualCsystem,CandCtestedCtheCvisualCsummationCofC3CsubjectsCwithCnormalCvisualacuity(VA)usingCtheCBangerterCOcclusionCFoilC.lterCinCthreeCdensi-ties.CInCallC3Csubjects,CVACwasCmeasuredCunderCthreeconditions:1)dominantCeye,2)non-dominantCeye,Cand3)CbinocularCeyes.CWithCtheCobjectiveCrefractiveCcorrectionCandCpupilCdiametersCcontrolled,CitCwasCpossibleCtoCsolelyCextractthee.ectofbinocularsummationonthevisualsystem.Theresultsshowedthateveninthenon-.ltercon-dition,binocularVAwasnotsigni.cantlyhigherthanmonocularVA.Moreover,di.erencesin.lterdensityhadnoa.ectonthelevelofthebinocularsummatione.ect.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(2):248.250,C2022〕Keywords:両眼加算,視力,他覚的完全矯正,屈折統制,バンガーターフィルター.binocularsummation,visualacuity,objectiverefraction,refractioncontrol,Bangerter.lter.Cはじめに日常場面において,われわれは両眼を用いて外界の視覚情報を入手している.眼科臨床では視覚の情報処理能力を評価する際,もっとも基礎的で重要な機能として空間分解能(視力)を指標に用いている.視力を評価する際,通常は,片眼を遮閉することで各眼の屈折度数を独立に評価している.しかし,単眼視より両眼視の視力が向上する報告は多く存在し,単眼よりも両眼での機能が高くなる現象として両眼加算現象がある1).この現象に寄与する要因として,おもに視覚系要因,光学系要因,刺激要因の三つが指摘されている.視覚系要因としては,弱視などによって脳内の処理系が未発達であることが影響して両眼視機能が成立していない実験参加者を用いた場合,加算効果が減弱したと報告されている2).光学系要因としては,両眼視より単眼視のほうが瞳孔の収縮による収差の影響を受けにくく視力が向上するとの報告3,4),瞳孔径自体の面積が大きいほうが網膜照度との関係で加算効果は高くなるなどの影響が報告されている5).また,刺激要因としては,視標コントラストの低下や6),凸レンズによる網膜像のピンボケ7)により,加算効果が向上することが報告されている.また,視覚系要因と刺激要因の相互作用の効果も生じ,片眼弱視患者は日常視状況では加算効果が低いが,健眼にCNDC.lterを用いることで,加算効果が高くなるとの報告もある8).このように両眼加算は,三つの要因が複雑に相互作用することによって生じている.これらの両眼加算に関する従来の研究報告では,実験に用いた独立変数の効果だけでなく,さまざまな要因の影響につ〔別刷請求先〕本居快:〒460-1197愛知県長久手市片平C2-9愛知淑徳大学心理医療科学研究科視覚科学専修Reprintrequests:KaiMotoori,C.O.,DepartmentofVisualScience,GraduateSchoolofPsychologyandMedicalSciences,AichiShukutokuUniversity,2-9Katahira,Nagakutecity,Aichi460-1197,JAPANC248(116)0910-1810/22/\100/頁/JCOPY(116)C2480910-1810/22/\100/頁/JCOPYいても同時に指摘しており,本現象に直接的な影響を及ぼす本質的な要因は特定されていない.そこで本研究では,視覚系要因における視力の加算効果の有無について,基礎的なデータを測定し,確定することを目的とした.この点を検討するにあたって,光学系要因の統制が重要となる.晴眼者を用いた両眼加算について報告している先行研究の屈折統制は,「logMAR0.0以上の視覚機能をもつ被験者」という記述が多くみられる.眼科臨床において使用される視力表は,一般的にClogMARC.0.3(小数視力2.0)までのものが多く,視力矯正をする際の上限視力が決まっている.しかし,人間の分解能を最大限まで計測すると,小数視力C2.0以上が観察される場合も報告もされており9),上述した,「logMAR0.0以上の視覚機能をもつ被験者」を光学系統制に用いた研究方法では,単眼視力が最大限に引き出されておらず,純粋に両眼視力との比較ができていない可能性がある.また,視力を従属変数とする研究では,自覚的屈折値ではなく,網膜に焦点が結像している他覚的な保証が必要であろう.さらに,両眼加算は,瞳孔径の影響3.5)も示唆されており,光学系要因を排除するためには,ピンホールを用いて瞳孔径の統制を行う必要がある.このように光学系要因を統制することで,視覚系要因の検討が可能となる.加えて,視覚系要因と刺激要因の相互作用についても検討する.本研究は,刺激要因として,両眼にCBangerterフィルターを挿入することにより,視覚が不利な状況を想定した.視覚が不利になると両眼加算が向上することが報告されており,このことは視覚系が何らかの処理の重みづけすることを意味する7).本研究では,光学系統制をしたうえで,不利になった視覚を補完するように,加算効果が生じるのかについても検討した.CI対象および方法対象は,軽度屈折異常以外に眼科系の器質的疾患を有さない実験参加者C3名(23.66C±0.94歳)である.3名とも視力はlogMAR0.0以上で,立体視はCTNOステレオテストがC15秒で,本筆者である.本実験は,愛知淑徳大学心理医療科学研究科倫理委員会の規定に基づき行われた(承認番号:2020-08).本実験の屈折統制は,自覚的屈折検査に基づいた完全矯正ではなく,他覚的完全矯正であった.実験参加者の他覚的完全矯正は,ソフトコンタクトレンズを装用してオートレフラクトメーターによる測定を用いて球面度数と乱視度数の調整を行った(等価球面度数の絶対値平均:RC0.00DC±0.14,LC0.08D±0.07).また,瞳孔収縮による視力値に対する影響を減衰させるために,人工瞳孔としてピンホール(3Cmm)を装用した.視距離はC7.5Cmとし,視力測定時には実験参加者の頭部を顔面固定器(竹井機器)で固定した.測定は明室で行い,MacBookAir(macOSCCatalineCver.C10.15.7,解像度C2,560C×1,600Cpix,リフレッシュレート60CHz)で刺激を制御し呈示した.刺激は,PsychoPy(ver3.0.7)10)で作製したCLandolt環刺激を用いた視力検査プログラムを使用した.モニター画面中央に刺激を配置し,サイズは,logMAR1.0.C.1.0間でClogMAR0.1刻みで設定した.背景は白地(sRGB:0,C0,0)で平均輝度C218.62Ccd/mC2,Landolt環刺激色は黒色(sRGB:255,0,0)で輝度はC2.92Ccd/Cm2,刺激輝度コントラストはC97.36%であった.視力は「優位眼視」「非優位眼視」「両眼視」のC3条件で測定した.また,フィルター要因として,Bangerterフィルターを使用しない「NonFilter」と,Bangerterフィルター濃度値C1.0の「Filter1.0」,同C0.4の「Filter0.4」のC3種類の条件を設定した.つまり本実験は,呈示眼要因(3種類)とフィルター要因(3種類)のC2要因分散分析モデル実験計画であった.実験参加者の優位眼は,Miles&PortaTestsを用いて決定した11,12).実験参加者にはCLandolt環の切れ目の方向を回答するよう教示した.刺激呈示時間の制限はなかった.実験は,臨床的視力検査ではなく極限法の完全上下法を用いて行った.各実験条件をランダマイズしC16回の繰り返しを行った.CII結果図1に測定の結果を示した.NonFilter条件では,一般的に使用される視力値の下限であるClogMAR.0.3に達しており,他覚的完全矯正が自覚的にも保証された.また,呈示眼要因とフィルター要因のC2要因分散分析の結果,呈示眼要因とフィルター要因の交互作用は認められなかった(NS).また,フィルター要因の主効果が認められ(F(2,207)=191.77,p<0.001),多重比較を行った結果,すべてのフィルター条件間で有意差が認められ(p<0.001),Filter0.4条件>Filter1.0条件>NonFilter条件の順に,有意な視力低下が確認された(図1).また,呈示眼要因の主効果が認められた(F(2,207)=13.02,p<0.001).多重比較を行った結果,両眼視と優位眼視条件は非優位眼視条件よりも有意に視力が高く(p<0.001),優位眼視条件は,非優位眼視条件より有意差傾向だが視力が高いことが示唆された(p=0.06).また,両眼視と優位眼視では,両眼視のほうが視力値が高い結果ではあったが,統計的な有意差は生じなかった(NS).CIII考按本実験の結果,他覚的に光学系要因(屈折矯正,瞳孔径)を統制した場合,優位眼視力を有意に超える両眼視力は生じなかった.この結果は,実験参加者を自覚的屈折視力検査にて,限界視力まで矯正・測定したとき,両眼加算が生じない(117)あたらしい眼科Vol.39,No.2,2022C249視力(logMAR)0.0-0.2-0.4NonFilter1.0FilterBangerterフィルター濃度図1フィルター濃度別・測定眼別のlogMAR値エラーバーは標準誤差を示す.との報告9)と同様の結果であった.このことは,自覚的または他覚的に単眼視力を限界まで屈折矯正した場合,優位眼視力を有意に超える両眼視力は生じない可能性を示唆する.本所見は,完全屈折統制下で両眼加算現象に関する実験を行うことの重要性を示唆する結果でもある.また,視覚が不利になると両眼加算が向上するとの報告7)から,フィルター要因の検討において,フィルターが濃くなることにより,加算効果が向上し,視覚の補完が生じることが予測された.しかし,有意な両眼視力の向上が認められなかった.視覚系による両眼加算はレンズ付加による網膜像のピンボケを補正するとの報告7)は,自然瞳孔で行っているなど光学系の統制が厳格ではなかった.両眼加算は,両眼視時に光学系が介入することによって影響が大きくなることが報告されており3.5),これらを考慮すると,視覚系が網膜像のピンボケを補正するとの報告7)は,両眼加算による視覚系の補正効果ではなく,光学系の影響が介入している可能性も否定できない.また,網膜像のピンボケは,焦点が中心窩に結像していないことから,瞳孔径による焦点深度の影響などが介入している可能性や,フィルターによるボケは焦点が中心窩に結像している点,刺激の質が異なる可能性がある.この点については,光学系統制を行ったうえで,今後検討する必要がある.上記のとおり,光学系要因を統制したとき,優位眼と比較して,有意な両眼視力の向上は生じないことが示された.両眼加算現象は,視覚系による効果が弱く,光学系の介入が大きい可能性がある.両眼加算の視覚系の影響を検討するためには,瞳孔径の統制に加えて,他覚的屈折矯正によって各片眼の屈折値を統制する重要性が示された.本論文に関して,開示すべき利益相反関連事項はない.本論文の提出にあたり,ご指導をいただいた愛知淑徳大学健康医療科学部,高橋啓介教授に,感謝の意を表します.文献1)CambelFW,GreenDG:Monocularversusbinocularvisu-alacuity.Nature,C208:191-192,C19652)VedamurthyCI,CSuttleCCM,CAlexanderCJCetal:InterocularCinter-actionsCduringCacuityCmeasurementCinCchildrenCandCadults,andinadultswithamblyopia.VisionResC47:179-188,C20073)魚里博,川守田拓志:両眼視と単眼視下の視機能に及ぼす瞳孔径と収差の影響.あたらしい眼科22:93-95,C20054)鈴木任里江,魚里博,石川均ほか:検査距離が両眼加算に及ぼす影響.あたらしい眼科C26:857-860,C20095)MedinaJM,JimenezJR,JimenezdelBarcoL:Thee.ectofCpupilCsizeConCbinocularCsummationCatCsuprathresholdCconditions.CurrEyeResC26:327-334,C20036)BearseMA,FreemenRD:Binocularsummationinorien-tationCdiscriminationCdependsConCstimulusCcontrastCandCduration.VisionResC34:19-29,C19947)SotirisCP,CDionysiaCP,CTrisevgeniCGCetal:BinocularCsum-mationCimprovesCperformanceCtoCdefocus-inducedCblur.CInvestOphthalmolVisSciC52:2784-2789,C20118)BakerCDH,CMeeseCTS,CMansouriCBCetal:BinocularCsum-mationofcontrastremainsintactinstrabismicamblyopia.InvestOphthalmolVisSciC48:5532-5538,C20079)鈴木賢治,新井田孝裕,山田徹人ほか:青年健常者の視力の分布.眼臨紀C7:421-425,C201410)BeckyCT,CKatieCR,CImogenCRCetal:BUILDINGEXPER-MENTSCPsychopy.SAGEpublicationsLtd.,201811)CrovitzCHF,CZenerK:ACgroup-testCforCassessingChand-andeye-dominance.AmJPsycholC75:271-276,C196212)MilesWR:Oculardominanceinhumanadults.JournalofGeneralPsychologyC3:412-420,C1930***(118)

右外転神経麻痺後に左動眼神経麻痺,右動眼神経麻痺を 呈した頭蓋底腫瘍の1 例

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):244.247,2022c右外転神経麻痺後に左動眼神経麻痺,右動眼神経麻痺を呈した頭蓋底腫瘍の1例鈴木綜馬*1,2井田洋輔*2日景史人*2伊藤格*1橋本雅人*3大黒浩*2*1市立室蘭総合病院眼科*2札幌医科大学眼科学講座*3中村記念病院眼科CACaseofaSkullBaseTumorthatCausedAbnormalitiesofOcularMotilitySoumaSuzuki1,2),YosukeIda2),FumihitoHikage2),KakuItoh1),MasatoHashimoto3)andHiroshiOhguro2)1)DepartmentofOphthalmology,MuroranCityGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,3)DepartmentofOphthalmology,NakamuraMemorialHospitalC三叉神経腫瘍の増大,および末梢性CT細胞リンパ腫(PTCL)の髄膜播種に付随して多彩な眼球運動障害を呈した症例を経験した.症例はC76歳,女性.20XX年,複視を自覚し当科を受診した.既往歴で左三叉神経腫瘍およびPTCLがあった.初診時に右外転神経麻痺を認めたが,1カ月後に自然軽快と同時に左動眼神経麻痺を認めた.頭部MRIで左三叉神経腫瘍の海綿静脈洞への拡大がみられ,ガンマナイフにより左動眼神経麻痺は改善した.その後,右動眼神経麻痺が出現した.全身精査にてCPTCLの髄膜播種を含めた多発転移が確認された.眼球運動障害が多彩に変化した原因として三叉神経腫瘍増大とCPTCLの髄膜播種が関連したと考えられた.CPurpose:Toreportacaseofskullbasetumorthatcausedabnormalitiesofocularmotility.Case:A76-year-oldCwomanCwithCaChistoryCofCleftCtrigeminalCnerveCtumorCandCperipheralCT-celllymphoma(PTCL)presentedCinC20XXwiththeprimarycomplaintofdiplopia.Atinitialpresentation,shehadrightsixth-nervepalsy,yet1-monthlateritresolvedwithouttreatment.However,shesimultaneouslyhadleftthird-nervepalsy.AheadMRIexamina-tionrevealedanenlargedlefttrigeminalnervetumorinvadingthecavernoussinus.TreatmentwithGammaKniferadiosurgeryCreducedCtheCtumorCsize,CandCtheCleftCthird-nerveCpalsyCresolved.CHowever,CimmediatelyCafterwards,Cshepresentedwithrightthird-nervepalsy.Asubsequentwholebodyexaminationrevealedmeningealdissemina-tionofPTCL.Conclusion:Inthiscase,ourdiagnosisrevealedthattheenlargementoflefttrigeminalnervetumorandmeningealdisseminationofPTCLcausedabnormalitiesofocularmotility.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)39(2):244.247,C2022〕Keywords:三叉神経腫瘍,末梢性CT細胞リンパ腫(PTCL),眼球運動障害,ガンマナイフ,髄膜播種.trigeminalnervetumor,peripheralT-celllymphoma(PTCL),ocularmovementabnormalities,gammaknifetherapy,menin-gealdissemination.Cはじめに末梢性CT細胞リンパ腫(peripheralCT-celllymphomas:PTCL)は,胸腺での分化成熟を経て末梢組織に移動したCT細胞に由来する種々のリンパ系腫瘍の総称であり,aggres-sivelymphomasに分類される1).PTCLはわが国ではリンパ系腫瘍の約C10%を占め1),病変部位としては末梢のリンパ節が多いが,骨髄,肝臓,脾臓などにも浸潤を認めることがある.節外病変では,皮膚や消化管が多い.化学療法抵抗性であり,5年生存率C20.30%と予後不良である2).今回,筆者らは縦隔原発のCPTCLで髄腔内播種に伴い,多彩な眼球運動障害をきたした症例を経験したので報告するCI症例患者:76歳,女性.主訴:複視,眼位異常.全身既往歴:特記事項なし.〔別刷請求先〕鈴木綜馬:〒060-8543北海道札幌市中央区南C1条西C17丁目札幌医科大学眼科学講座Reprintrequests:SoumaSuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SapporoMedicalUniversity,17Chome,Minami1Jonishi,Chuoku,Sapporo-shi,Hokkaido060-8543,JAPANC244(112)家族歴:特記事項なし.眼既往歴:白内障.現病歴:20XX年,縦隔原発のステージCIVのCPTCLと診断され,他院血液内科で化学療法を受け寛解状態であった.1年後に左顔面のしびれを自覚し,脳神経外科で海綿静脈洞付近の左三叉神経腫瘍を指摘された.当時,脳神経外科ではPTCL寛解からC1年程度経過していたこと,三叉神経腫瘤は脳外科的に良性腫瘤のことが圧倒的に多く,その場合にはガンマナイフ治療が非常に効果的であるため3),ガンマナイフ治療を検討されていた.同年C9月末にC2週間前からの複視および眼位異常を主訴に当科を受診した.初診時所見:視力:右眼C0.03(n.c.),左眼C0.2(0.4C×1.25D(cyl.1.0DAx65°),眼圧は右眼15mmHg,左眼18mmHg,前眼部は両眼に帯状角膜変性,中間透光体は両眼にCEmery-Little分類CIII度程度の白内障,左眼の眼底には異常を認めず,右眼に網脈絡膜萎縮および後部ぶどう腫を認めた.相対的瞳孔求心路障害は陰性で,瞳孔は左右同大であり,眼球運動は右眼の外転障害を認めた.臨床経過:脳神経外科受診よりC2週間後の受診であり,新規の頭蓋内腫瘍や動脈瘤の発生の可能性は低いと考え,原因不明の右外転神経麻痺と診断し,経過観察とした.初診から4週間後に,左眼瞼下垂を自覚し再度受診した.眼球運動は,右外転障害は改善していたが,左眼は上,下,内転ともに制限を認め左動眼神経麻痺を認めた.相対的瞳孔求心路障害は左眼で陽性であった.左三叉神経腫瘍をフォローしていた脳神経外科での頭蓋内精査を依頼した.脳神経外科受診時のMRI画像(図1)で,くも膜下腔を走行する両側の動眼神経が確認でき,さらに左三叉神経腫瘍が海綿静脈洞後部に浸潤し,左動眼神経を障害している所見を認めた.したがって,左動眼神経麻痺の原因は左三叉神経腫瘍の海綿静脈洞浸潤にガンマナイフ開始時よるものと診断した.脳神経外科で行われたガンマナイフ治療により,治療前にみられた左三叉神経腫瘍は照射からC2カ月後の時点で著明に縮小した(図2).ガンマナイフ治療C1週間後の受診時,左動眼神経麻痺は一部改善し,眼瞼下垂も軽減していたが,右眼において眼瞼下垂・眼球運動障害を認め,右動眼神経麻痺を認めた.この時点で,初診時より右外転神経麻痺,左動眼神経麻痺,右動眼神経麻痺を発症しており,眼球運動障害の原因神経が多彩な変化をきたしていたため,頭蓋内の再精査を脳神経外科・血液内科に依頼した.全身検索の結果,PET-CTで頭蓋底に集積所見が指摘され,さらに髄液細胞診では,変性膨化した異型リンパ球の小集団が認められ,PTCLの所見と一致した(図3).以上の所見か図1脳神経外科受診時の0.7mm厚の薄スライス高速グラジエントフィールドエコー法(CISS)による頭部冠状断連続写真くも膜下腔を走行する両側の動眼神経(C.)が描出され,海綿静脈洞後部まで追跡可能である.また,左三叉神経腫瘍が海綿静脈洞後部に浸潤する所見があり,左動眼神経を障害している.ガンマナイフ治療2カ月後図2初診から4週間後に行われたガンマナイフ治療前後のCISS画像所見脳神経外科で行われた左三叉神経腫瘍へのガンマナイフ治療により,治療前にみられた左三叉神経腫瘍が照射からC2カ月後の時点で著明に縮小している.図3髄液細胞診像左は異型リンパ球の小集団が認められ,リンパ球の核にくびれを認め(C.),PTCLの所見と一致した.右の画像では変性膨化したリンパ腫様の細胞集団を認め,PTCLの髄腔内播種が強く示唆された.ら,PTCLの髄腔内播種と診断した.その後,血液内科にてメトトレキサートの髄注,および大量メトトレキサート療法を行ったが,全身状態の悪化に伴い,現在はホスピスに転院されている.CII考按本症においては,右外転神経麻痺に続き左動眼神経,右動眼神経麻痺が連続して出現した.一般的に動眼神経麻痺の病因としては,糖尿病,脂質異常症などによる神経栄養血管の虚血によるものがもっとも多く,交通事故などの重度の頭部外傷,脳動脈瘤,脳内出血,脳腫瘍などでも発症し,まれではあるが先天性のものなども存在する.また,外転神経麻痺の病因は動眼神経麻痺と同じく虚血性のものが多いが,外転神経は解剖学的に橋─延髄移行部から斜台に至る長い距離を上行することから,単に脳腫瘍など遠隔病変による脳圧亢進や感染によっても発症する.しかしながら,本症における眼症状は左右および障害神経が経時的に変化したことから,虚血や脳圧亢進,感染などで一元的に説明することは困難である.まれではあるが,動眼神経麻痺と外転神経麻痺を同時発症する疾患としてCoculomotor-abducenssynkinesis(OAS)がある.OASは異なる外眼筋が協調して同時に収縮することで生じるとされている.過去の報告では脳幹出血を起こし,外転神経麻痺に拮抗する内直筋の異常な神経支配が生じた17歳,男性症例3)や右外転時に右外直筋と上眼瞼挙筋の同時収縮を認めたC4歳,男児の症例が報告されている4).しかし,OASは頭部外傷を契機に発症することが多く,本症例の経過にはそぐわないと考えられた.Meckel腔に発生する腫瘍は,三叉神経由来の良性腫瘍である三叉神経鞘腫が一般的である.三叉神経腫瘍は良性腫瘍のことが圧倒的に多く,その場合ガンマナイフが非常に効果的であるため3),全摘出術よりガンマナイフが選択されることが多い.ガンマナイフの三叉神経鞘腫に対する反応はきわめて遅く,12.18カ月横ばいで推移して,その後縮小していくが3),本症例は腫瘍がC1カ月程度で縮小しており,三叉神経鞘腫としては結果が合致しなかった.一方,中枢神経の悪性リンパ腫に対するガンマナイフの効果は数カ月で急速に縮小し,場合によっては消失するなど両疾患で違いが認められる4,5).本症例の三叉神経腫瘍はガンマナイフによりC2カ月余りで縮小したこと,その直後に髄腔内播種として再発したことから,三叉神経鞘腫の可能性は低く,リンパ腫(PTCL)であった可能性が高いと推察した.悪性リンパ腫の脳神経の単神経発症はまれであるが,動眼神経と三叉神経の発症が多いとされている4).また,悪性リンパ腫全体では頭蓋内から末梢への進展以外にも,本症例のように頭蓋外から中枢側へ進展した報告もある6,7).頭蓋外から進展するケースでは初期にCMeckel腔の異常を画像にて指摘された報告もあり7,8),本症例も眼科受診前から三叉神経腫瘍を指摘されていた.Meckel腔に発生する悪性リンパ腫に関しては,中枢性原発悪性リンパ腫の報告はあるが,本症例のようなCPTCLの頭蓋底転移はきわめてまれである.CIII結語多彩な眼球運動障害を呈した症例を経験した.元来指摘されていた三叉神経腫瘍と眼球運動障害が,PTCLの髄腔内播種で一元的に説明できると考えられた.文献1)LymphomaCStudyCGroupCofCJapanesePathologist:TheCworldChealthCorganizationCclassi.cationCofCmalignantClym-phomainJapan:incidenceofrecentlyrecognizedentities.PatholIntC50:696-702,C20002)直江知樹,朝長万左男,中村栄男ほか:WHO血液腫瘍分類─CWHO分類C2008をうまく活用するために.医薬ジャーナル社,20103)山本昌昭:ガンマナイフの適応と治療成績.神経研究の進歩C57:664-678,C20014)赤座実穂,常深泰司,三條伸夫ほか:左三叉神経障害にて発症したと思われる悪性リンパ腫のC1例.臨床神経C49:C432-436,C20095)NakatomiH,SasakiT,KawamotoSetal:Primarycarve-nousCsinusCmalignantClymphomaCtreatedCbyCgammmaCkniferadiosurgery:caseCreportCandCreviewCofCtheClitera-ture.SurgeNeurolC46:272-279,C19966)IplikciogluAC,DincC,BikmazKetal:Primalylympho-maofthetrigeminalnerve.BrJNeurosurgC20:103-105,C20067)LaineCFJ,CBraunCIF,CJensenCMECetal:PerineuralCtumorCextensionCthroughCtheCforamenovale:evaluationCwithCMRimaging.RadiologyC174:65-71,C19908)AbdleAzizKM,vanLoverenHR:PrimarylymphomaofMeckel’sCcaveCmimickingCtrigeminalschwannnoma:caseCreport.NeurosurgeryC44:859-862,C1999***

全層角膜移植を施行したAxenfeld-Rieger 症候群の4 例

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):239.243,2022c全層角膜移植を施行したAxenfeld-Rieger症候群の4例島優作内野裕一三田村浩人片山泰一郎平山オサマ根岸一乃榛村重人慶應義塾大学医学部眼科学教室CPenetratingKeratoplastyinFourCasesofAxenfeld-RiegerSyndromeYusakuShima,YuichiUchino,HirotoMitamura,TaiichiroKatayama,OsamaHirayama,KazunoNegeshiandShigetoShimmuraCDepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicineCAxenfeld-Rieger症候群(ARS)は前眼部形成異常を特徴とする先天疾患であり,臨床上は治療抵抗性の緑内障や水疱性角膜症(BK)による視力低下が問題となる.今回,ARS患者に生じたCBKに対して,全層角膜移植(PKP)を施行したC4症例C5眼の長期経過を報告する.症例は平均年齢C57C±4.0歳,観察期間はC7カ月からC20年.全例で緑内障を発症し,緑内障手術を施行した.5眼中C4眼でCPKP後にCBKが再発し,複数回のCPKPを施行した.全例でCPKP術後は良好な視力回復を得た.ARS患者に生じたCBKに対するCPKPは一時的な視機能回復には効果があるが,PKPは,BKの再発により複数回の手術を繰り返す可能性が高く,慎重かつ十分なインフォームド・コンセントのもとに治療方針を決定すべきである.Axenfeld-Riegersyndrome(ARS)isacongenitaldiseasecharacterizedbyanteriorsegmentdysplasia,whichisCassociatedCwithCtreatment-resistantCglaucomaCandClossCofCvisionCdueCtoCbullouskeratopathy(BK)C.CThisCstudyCinvolved5eyesof4ARSpatients(meanage:57C±4.0years)thatunderwentpenetratingkeratoplasty(PKP)forBK,withafollow-upperiodrangingfrom7monthsto20years.Allpatientswerediagnosedwithglaucoma,andsubsequentlyunderwentglaucomasurgery.In4ofthe5eyes,BKrecurredafterPKPandmultiplePKPwereper-formed,CandCallCpatientsChadCgoodCvisualCrecoveryCafterCPKP.CAlthoughCPKPCforCBKCinCpatientsCwithCARSCisCe.ectiveintemporarilyrestoringvisualfunction,PKPislikelytoberepeatedmultipletimesduetoBKrecurrence,andthetreatmentplanshouldbedecidedundercarefulandsu.cientinformedconsent.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(2):239.243,C2022〕Keywords:Axenfeld-Rieger症候群,前眼部形成異常,全層角膜移植,水疱性角膜症,続発緑内障.Axenfeld-Riegersyndrome,anteriorsegmentdysgenesis,penetratingkeratoplasty,bullouskeratopathy,secondaryglaucoma.CはじめにAxenfeld-Rieger症候群(Axenfeld-RiegerCsyndrome:ARS)は前眼部の両眼性の形成異常と,歯牙,顔面骨,四肢の異常といった全身合併症を伴う先天性疾患である1.5).前眼部所見としてはCSchwalbe線の前方偏位である後部胎生環,瞳孔偏位,偽多瞳孔,irisstrandなどが特徴的である.神経堤細胞の遊走・分化の異常が原因と考えられており6),その発症率はC20万人にC1人と報告され,常染色体優性遺伝の形式をとる2,4,7).臨床上,緑内障と水疱性角膜症(bullouskeratopathy:BK)が好発することが知られており,ARSの約C50%が緑内障を発症するとされ1,2,4),治療抵抗性であることが多く,臨床上もっとも問題となる8).ARSはその希少性ゆえに,外科的治療の予後を検討した報告はきわめて少ない8).今回筆者らは,ARSを有する患者に生じたCBKに対して全層角膜移植(penetratingCkeratoplasty:PKP)を施行した4症例,5眼の長期経過を報告する.CI症例〔症例1〕53歳,女性.〔別刷請求先〕島優作:〒160-8582東京都新宿区信濃町C35慶應義塾大学医学部眼科学教室Reprintrequests:YusakuShima,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,35Shinanomachi,Shinjuku-ku,Tokyo160-8582,JAPANC図1症例1の左眼所見a:2008年C4月.BK再発時.角膜浮腫を認める.Cb:2008年C4月.PKP術直後.良好な視力回復(0.7)を得た.Cab図2症例2の右眼所見a:2017年C2月.当院初診時.著明な角膜浮腫と視力低下(0.05)を認める.Cb:2018年9月.2回目のPKP術後.良好な視力回復(1.2)を得た.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記すべき事項なし.現病歴:出生時から両眼の視力低下を認め,前医にてARSと診断された.前医にてC34歳時に左眼の小角膜,36歳時に左眼のCBKに対してそれぞれCPKPを施行したのち,薬物治療に抵抗性の左眼高眼圧(40CmmHg程度)が持続するため,緑内障手術施行目的にC36歳時に慶應義塾大学病院(以下,当院)紹介受診となった.経過:当院初診時,両眼の瞳孔偏位,偽多瞳孔,隅角全周閉塞を認めた.眼以外に明らかな全身合併症は認めなかった.矯正視力は右眼(0.6),左眼(0.4),眼圧は右眼C10mmHg,左眼C40CmmHg.36歳時に左眼線維柱帯切除術を施行し眼圧下降を得た.しかし,その後も左眼のCBKの再発に対し,PKPをC42.48歳時に合計4回施行した(図1).52歳時に再度左眼のCBKを再発し,そのときの眼圧が27CmmHgであり,同年に左アーメド緑内障バルブ手術を施行した.53歳時の最終診察時の左眼の矯正視力は(0.05),眼圧はC10CmmHgで,Goldmann視野計で左鼻上側の視野障害を認めた(湖崎分類CIII-a相当).現在はC5回目のCPKPに向けてドナー待ちの状態である.〔症例2〕61歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記すべき事項なし.現病歴:55歳時に左眼の角膜潰瘍(詳細不明)にて前医受診し,ARSと両眼続発緑内障と診断された.56歳時に左眼線維柱帯切除術を施行した.57歳時に左眼白内障手術を施行し,術後にCBKを発症した.同年に左眼の角膜移植目的に当院初診となった.経過:当院初診時,矯正視力は右眼(0.05),左眼(0.01),両眼とも著明な角膜浮腫を認め,両眼CBKと診断した(図2).眼以外に明らかな全身合併症は認めなかった.57歳時に両眼のCPKPを施行した.その後右眼は白内障の進行とC21.22CmmHg程度の高眼圧を認めたため,他院にてC58.59歳時に右眼の白内障手術と線維柱帯切除術を施行した.59図3症例3の右眼所見a:2020年C1月.当院初診時.瞳孔偏位,全周性の周辺虹彩前癒着を認める.Cb:2020年C3月.PKP術後.良好な視力回復(1.0)を得た.歳時に再度両眼の視力低下を認め,当院を受診した.このとき,矯正視力は右眼(0.15),左眼(0.01),両眼の角膜浮腫を認めCBKの再発と診断した.同年に両眼に対してそれぞれ2回目のCPKPを施行した.61歳時の最終受診時に左眼のBK再発を認め,矯正視力は右眼(0.9),左眼(0.01),眼圧は右眼C15CmHg,左眼C12CmmHgで,Humphrey視野計で右眼は鼻側C2象限,左眼は全周性の視野障害を認めたが,中心視野は残存していた.現在はC3回目のCPKPに向けてドナー待ちの状態である.〔症例3〕61歳,男性.主訴:右眼視力低下.既往歴:3回の内斜視手術.現病歴:前医にて両眼前眼部形成異常と内斜視で経過観察されていた.60歳時から右眼の視力低下を自覚し,右眼CBKと診断され,角膜移植施行目的に当院紹介となった.経過:当院初診時,右眼矯正視力は(0.1),瞳孔偏位,全周性の周辺虹彩前癒着,著明な角膜浮腫を認めCARSと診断した(図3).61歳時に右眼CPKPを施行した(図4).PKP後は右眼矯正視力(1.0)と良好な視力回復を得たものの,術後の右眼眼圧はC36.38CmmHgで推移し,降圧点眼にも反応しなかったため,61歳時にアーメド緑内障バルブ手術と白内障手術の同時手術を施行した.同年の最終診察時の左眼の矯正視力は(0.9),眼圧はC32CmmHgで,Goldmann視野計では明らかな視野障害の進行はみられなかった(湖崎分類CI相当).〔症例4〕53歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:特記すべき事項なし.現病歴:生下時より両眼前眼部形成異常を指摘され近医にて経過観察されていた.15歳時に両眼視力低下を自覚し,当院紹介受診となった.図4症例4の右眼所見2012年C2月.2回目のCPKP術後.良好な視力回復(0.8)を得た.経過:当院初診時,右眼矯正視力は(0.7),後部胎生環,偽多瞳孔,瞳孔変異を認め,ARSと診断した.また,続発緑内障と診断し,点眼治療を開始した.その後点眼のみでは眼圧コントロールがつかず,26歳時に右眼,36歳時に左眼に線維柱帯切除術を施行した.36歳時から右眼視力低下を自覚し,BKと診断した.37歳時に右眼CPKP,38歳時に右眼白内障手術を施行した.術後は右眼矯正視力(0.8)程度で良好な視力回復を得たものの,44歳時に再度視力低下を自覚し,右眼矯正視力は(0.1),角膜浮腫を認めCBKと診断した.45歳時にC2回目の右眼CPKPを施行した(図4).その後右眼眼圧はC11.27CmmHgで推移し,点眼治療では眼圧コントロールがつかず,46歳時に右眼バルベルト緑内障インプラント手術を施行した.53歳時の最終診察時の右眼の矯正視力は(0.4),眼圧はC13CmmHgで,Goldmann視野計で左鼻上側の視野障害を認めた(湖崎分類CIII-a相当).表14症例のまとめ症例C153歳,女性症例C261歳,男性症例C361歳,男性症例C453歳,男性部位左眼右眼左眼右眼右眼観察期間20年2カ月5年11カ月9カ月38年緑内障有有有有緑内障手術線維柱帯切除術アーメド線維柱帯切除術線維柱帯切除術アーメド線維柱帯切除術バルベルトPKP回数6回2回2回1回2回PKP後のCBK再発回数5回1回2回0回1回最終診察時視力・眼圧(0C.05)C/10CmmHg(0C.9)C/15CrnmHg(0C.01)C/12CmmHg(0C.9)C/32CmmHg(0C.4)C/13CmmHg最終診察時視野湖崎分類CIII-a鼻側C2象限視野障害*全周性視野障害中心視野残存*湖崎分類CI湖崎分類CIII-aアーメド:アーメド緑内障バルブ手術,バルベルト:バルベルト緑内障インプラント手術,PKP:全層角膜移植,BK:水疱性角膜症.*Humphrey視野計で施行.4症例C5眼の臨床経過を表1に示す.経過中に全例で緑内障を発症し,緑内障手術(線維柱帯切除術もしくはチューブシャント術)を施行した.5眼中C2眼は初回CPKP術前に,4眼はCPKP後に緑内障手術を施行した.5眼中C4眼でCPKP後にCBKが再発し,複数回のCPKPを施行した.全例でCPKP後は良好な視力回復が得られ,拒絶反応や感染を生じた症例は認めなかった.PKP施行からCBK再発までの期間はばらつきがあり,最短ではC10カ月,最長で約C7年であった.CII考按ARSを有する患者に生じたCBKに対して,PKPを施行したC4症例の経過について報告した.いずれもCPKP施行後は良好な視力回復が得られ,グラフトの拒絶反応や感染を生じた症例は認められなかった.一方で,経過のなかでCBKの再発がしばしば生じ,複数回のCPKPを要した.ARSの原因遺伝子として前眼部の発生に深くかかわる転写因子をコードするCPITX2やCFOXC1などが同定されている.ARSにおける角膜内皮異常についてCShieldsらは,典型的には軽度の大きさ・形態のばらつきを伴う程度であり,加齢や緑内障,内眼手術の既往があるとその傾向が目立つと報告している2,4).ARSにおける内皮細胞密度減少の機序は明らかになっていないが,PITX2の変異と内皮細胞異常の関連を示したCARSの家系調査も複数存在し9,10),神経堤細胞の遊走・分化の異常による前眼部の構造異常が一因として考慮される.ARS患者に生じたCBKに対する治療として,PKPのほかに角膜内皮移植(DSAEK,DMEK)も考慮されうる.しかし,前眼部の形態異常(とくに虹彩異常)による手術操作,空気タンポナーデの可否や,線維柱帯切除術による濾過胞の有無などを含め,患者ごとに適応を慎重に検討する必要がある.また,本症例のなかには術後の眼圧コントロールに苦慮したケースが多く含まれる.一般に,PKP後は周辺虹彩前癒着による狭隅角や,長期のステロイド点眼による続発緑内障が問題となることが多い11,12).ARS患者における眼圧上昇の機序としてはCirisstrandによる房水流出抵抗の増加や,線維柱帯を含めた隅角の形成不全など複数の原因が考えられる.開放隅角と閉塞隅角の両方の要素の眼圧上昇を伴い,多くの症例で薬物治療に抵抗し,眼圧コントロールに複数回の外科的治療を要すると報告されている2,8).緑内障手術の術式は,ARSの場合,隅角形成不全を伴うことから線維柱帯切開術は選択されにくく,高い眼圧下降効果を期待し濾過手術(線維柱帯切除術もしくはチューブシャント術)が選択されることが多い.本疾患のように複数回の角膜移植を必要とする患者には,人工角膜移植が考慮される.現在もっとも普及しているCBostonCkeratoprosthesistype1(BostonKPro)は,わが国では未承認であるが,複数の報告で数年の経過においてC9割程度の高い生着率が報告されている13,14).人工角膜移植はCPKPと比較し,移植回数の減少を期待できる一方で,通常の眼圧測定ができず術後の緑内障の管理がむずかしい点や,増殖膜の増生が問題として考えられる.また,比較的若年から角膜移植を要し,長期経過をたどることの多いCARS患者においては,長期予後のさらなる検討が必要である.以上から,ARS患者に生じたCBKに対するCPKPは一時的な視機能回復には効果があるが,PKPは,BKの再発により複数回の手術を繰り返す可能性が高く,慎重かつ十分なインフォームド・コンセントのもとに治療方針を決定すべきであるといえる.文献1)FitchCN,CKabackM:TheCAxenfeldCsyndromeCandCtheCRiegersyndrome.JMedGenetC15:30-34,C19782)ShieldsCMB,CBuckleyCE,CKlintworthCGKCetal:Axenfeld-Riegersyndrome.Aspectrumofdevelopmentaldisorders.SurvOphthalmolC29:387-409,C19853)WaringCGO,CRodriguesCMM,CLaibsonPR:AnteriorCcham-berCcleavageCsyndrome.CACstepladderCclassi.cation.CSurvCOphthalmolC20:3-27,C19754)ShieldsMB:Axenfeld-RiegerCsyndrome:aCtheoryCofCmechanismanddistinctionsfromtheiridocornealendothe-lialCsyndrome.CTransCAmCOphthalmolCSocC81:736-784,C19835)Sei.CM,CWalterMA:Axenfeld-RiegerCsyndrome.CClinCGenetC93:1123-1130,C20186)WilsonME:CongenitalCirisCectropionCandCaCnewCclassi.cationCforCanteriorCsegmentCdysgenesis.CJCPediatrCOphthalmolStrabismusC27:48-55,C19907)ChildersCNK,CWrightJT:DentalCandCcraniofacialCanoma-liesofAxenfeld-Riegersyndrome.JOralPatholC15:534-539,C1986C8)ZepedaCEM,CBranhamCK,CMoroiCSECetal:SurgicalCout-comesCofCglaucomaCassociatedCwithCAxenfeld-RiegerCsyn-drome.BMCOphthalmolC20:172,C20209)KniestedtCC,CTaralczakCM,CThielCMACetal:ACnovelCPITX2CmutationCandCaCpolymorphismCinCaC5-generationCfamilyCwithCAxenfeld-RiegerCanomalyCandCcoexistingCFuchs’CendothelialCdystrophy.COphthalmologyC113:1791,C200610)QinCY,CGaoCP,CYuCSCetal:AClargeCdeletionCspanningCPITX2CandCPANCRCinCaCChineseCfamilyCwithCAxenfeldCRiegersyndrome.MolVisC4:670-678,C202011)AyyalaRS:Penetratingkeratoplastyandglaucoma.SurvOphthalmolC45:91-105,C200012)山田直之,森重直行,柳井亮二ほか:原因疾患と角膜移植後眼圧上昇の相関.臨眼C56:1355-1360,C200213)GoinsKM,KitzmannAS,GreinerMAetal:Bostontype1keratoprosthesis:VisualCoutcomes,CdeviceCretention,Candcomplications.CorneaC35:1165-1174,C201614)AravenaCC,CYuCF,CAldaveAJ:Long-termCvisualCout-comes,Ccomplications,CandCretentionCofCtheCBostonCtypeCICkeratoprosthesis.CorneaC37:3-10,C2018***

眼内レンズ縫着術後の縫着糸による壊死性強膜炎の1 例

2022年2月28日 月曜日

《原著》あたらしい眼科39(2):235.238,2022c眼内レンズ縫着術後の縫着糸による壊死性強膜炎の1例山岡正卓*1五十嵐勉*1有馬武志*1國重智之*1岩崎優子*2高瀬博*2高橋浩*1*1日本医科大学眼科学教室*2東京医科歯科大学大学院医歯学研究科眼科学CACaseofScleromalaciaPerforansafterSutureFixationofIntraocularLensMasatakaYamaoka1),TsutomuIgarashi1),TakeshiArima1),TomoyukiKunishige1),YukoIwasaki2),HiroshiTakase2)andHiroshiTakahashi1)1)DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,2)DepartmentofOphthalmology&VisualScience,GraduateSchoolofTokyoMedicalandDentalUniversityC緒言:左眼黄斑円孔に対して硝子体手術および眼内レンズ縫着術施行後,露出した縫着糸断端による強膜炎および強膜融解を発症した症例に対して強膜移植が有効であったC1例を報告する.症例:80歳,女性.2010年,前医にて左黄斑円孔に対して硝子体手術および眼内レンズ縫着術を施行.2018年C11月,左眼耳側の縫着糸断端の露出と周囲の強膜充血を認め抗菌薬点眼で加療するも,2019年C2月,強膜融解,豚脂様角膜後面沈着物が認められた.抗菌点眼薬C2剤,ステロイド点眼でいったん症状改善したが症状再燃し,強膜移植目的に日本医科大学付属病院眼科を紹介受診した.当科初診時,右眼視力(1.0),左眼視力(0.4),右眼眼圧C14.5CmmHg,左眼眼圧C13.5CmmHg.8月に融解強膜部位に保存強膜移植を施行した.術後,抗菌薬・ステロイド点眼,およびステロイド内服C30Cmgから漸減投与にシクロスポリンC100Cmg内服を併用,1年後シクロスポリンC50Cmgのみでグラフトは生着良好で経過している.結論:眼内レンズ縫着後に発症した強膜融解に保存強膜移植は有効であった.CPurpose:Toreportararecaseinwhichscleraltransplantationwase.ectiveforscleromalaciaperforansduetoCanCexposedCintraocularlens(IOL).xationCsuture.CCaseReport:AnC80-year-oldCwomanCwhoChadCundergoneCvitrectomyformacularholeandIOL.xationatanotherhospitalin2010wasreferredtoourclinicwithscleroma-laciaperforansduetoanexposed.xationsutureinJuly2019.Attheotherhospital,therootoftheexposedsuturehadbeencuto.,andseveralantibioticsandbetamethasonesodiumphosphatemedicationswereprescribed,whichresultedinnoimprovement.InAugust2019,preservedscleraltransplantationwasperformedatthemeltedscleralsite.Postoperatively,antibacterialandsteroideyedrops,startedwithoralsteroids30Cmgandthen100Cmgofcyclo-sporine,CwereCalsoCprescribed.CToCdate,CtheCgraftChasCbeenCsuccessfullyCattachedCwithConlyC50CmgCofCcyclosporine.CConclusion:TheCpreservedCscleralCtransplantationCwasCe.ectiveCforCscleromalaciaCperforansCdueCtoCanCexposedC.xationsuture.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C39(2):235.238,C2022〕Keywords:保存強膜移植,強膜融解,露出縫着糸断端.preservedscleraltransplantation,scleromalaciaperfo-rans,exposed.xationsuture.Cはじめに壊死性強膜炎は比較的まれな疾患であるが,そのC40%が失明に至るといわれている1).壊死性強膜炎に伴う組織穿孔に対しては強膜や羊膜を用いた移植治療が一般的であり,その有効性についてはすでにいくつか報告されているが,わが国における報告は,そのほとんどが関節リウマチなどの全身疾患に合併したものか,白内障や翼状片などの前眼部手術後に発症したものである2,3).今回,左眼黄斑円孔に対して硝子体手術および眼内レンズ縫着術施行後,露出した縫着糸の断端露出を契機に生じた壊死性強膜炎に対して,強膜移植が〔別刷請求先〕山岡正卓:〒113-8602東京都文京区千駄木C1-1-5日本医科大学付属病院眼科Reprintrequests:MasatakaYamaoka,M.D.,DepartmentofOphthalmology,NipponMedicalSchool,1-1-5,Sendagi,Bunkyo-ku,Tokyo113-8602,JAPANC図1前医2018年11月菲薄化した強膜が透見される.有効であったC1例を経験したので報告する.CI症例患者:80歳,女性.主訴:左眼疼痛.現病歴:2010年前医にて左眼特発性黄斑円孔に対して硝子体手術および眼内レンズ毛様溝縫着術を施行された.2018年C11月,左眼耳側に術中使用された縫着糸である10-0ポリプロピレン糸断端の露出と周囲の強膜充血が出現,感染性強膜炎を疑い抗菌薬点眼で加療したが,2019年C2月,局所強膜は融解し,豚脂様角膜後面沈着物を伴う虹彩炎を認めた.露出縫合糸根部を切離し,塗沫培養で陰性.抗菌点眼薬C2剤(セフメノキシム塩酸塩C4回/日,1.5%レボフロキサシンC4回/日),ステロイド点眼(ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムC4回/日)で軽度の改善示すも,同年C7月に強膜充血が再発し,融解傾向が増悪したため,外科的治療目的に同年C8月C1日,日本医科大学付属病院眼科(以下,当科)紹介受診となった.既往歴:2型糖尿病(HbA1c:7.2%,57歳で指摘),自己免疫疾患の指摘なし.家族歴:母:糖尿病.初診時眼科的所見:視力は右眼C0.4(1.0pC×sph.1.00D(cyl.2.00DAx60°),左眼0.06(0.4pC×sph.2.00D(cylC.6.00DAx40°),眼圧は右眼14mmHg,左眼13mmHgであった.左眼前房内に炎症細胞C1+程度あり,豚脂様角膜後面沈着物が認められた.左眼耳側強膜に充血あり,縫合糸断端部分より強膜融解が認められていた.中間透光体,後眼部には特記すべき異常所見は認められなかった.前医C2018年再診時(図1)と当科C2019年初診時(図2)の前眼部写真を示す.図22019年当科初診時強膜菲薄化に加え壊死の進行,融解を認める.CII経過2019年C8月C13日,当科入院のうえ,同日,穿孔部位に対して保存強膜移植術施行した.病変部結膜を切除したところ,強膜は菲薄化しており融解を認め,ぶどう膜の露出が認められた.強膜切除による穿孔のリスクを鑑みて今回は強膜切除を行わなかった.その後,保存強角膜から強膜グラフトを病変サイズ(7CmmC×5mm)に合わせて切離して作製し(図3),10-0ナイロン糸にて被覆縫合し,結膜は完全被覆された(図4)4).なお,前医にて露出縫合糸の根部で切離した経緯があり,本手術では断端を確認することができなかったため,術中の改めての処理は行わなかった.術翌日退院とし,外来にて経過観察となった.術翌日から点眼としてC1.5%レボフロキサシン・0.1%ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムをC4回/日,プレドニゾロン内服C30Cmgから開始し術後管理を行った.グラフト生着が良好だったため,術後C3週までにプレドニゾロン内服を終了とした.術後C9日からシクロスポリンC100Cmg内服を開始し,術後C1年経過した現在までにトラフ値を計測しながらシクロスポリンC50Cmgまで漸減した.移植片は生着良好であり,移植片上には結膜被覆を認め安定的に経過している.また,前房・硝子体にも炎症所見はなく,眼底にも異常所見を認めていない.2020年C7月C16日現在,視力は右眼(0.8CpC×sph.0.50D(cyl.2.00DCAx80°),左眼(0.5CpC×sph.2.50D(cyl.2.00DAx65°),眼圧は右眼C15mmHg,左眼C15CmmHgである.本症例では術前・術後で検眼鏡的に明らかな眼内レンズの偏移は認めらなかったが,角膜の形状もほぼ変化なく,術後C9カ月後に乱視軸は安定した.前眼部COCTなどの検査機器が導入されておらず,術前・術後の乱視軸の変化の原因については画像情報は得られていないが,検眼鏡的には明らかなではなかった眼内レンズの偏位が起きていたものと推測される.術後経過を示した図3術中写真①保存強膜から病変サイズ(7CmmC×5Cmm)にグラフト作製した.図5術後ステロイド内服終了時移植片の拒絶反応を認めず,移植片上には結膜が被覆している.前眼部写真を図5,6に示す.CIII考察強膜炎は,重症度の違いにより軽症のものから順に,びまん性,結節性,壊死性のC3病型に分類される.びまん性,結節性はステロイド治療が有効であるが,壊死性強膜炎にまで進行すると治療困難例が多く,予後不良である5).本症例のような外因性を除く内因性強膜炎の発症機序はCIII型アレルギー反応によると考えられている6).本症例では前医にて抗菌薬点眼およびステロイド点眼にて加療されていたが治癒には至らず,その炎症の遷延にはC20年来の糖尿病の影響も否定できないが,縫合糸の位置から壊死が始まっていたため,縫合糸が直接の誘因と考えられた.発症から時間が経過していることもあり,保存的に治療しても改善が見込めないと判図4術中写真②保存強膜をC10-0ナイロンC7針で強膜縫合した.図6術1年後拒絶反応なく,結膜充血が消失している.断し,手術治療が選択された.壊死性強膜炎に対する外科的治療では,①周辺健常部まで含めた強膜壊死巣の除去,②保存強膜による病巣部の修復補.,③移植強膜片の結膜による完全被覆が重要であると考えられる.①は強膜壊死の再発,進行防止と,移植片を確実に縫着し縫合糸の術後早期の脱落を防ぐために必要であり,③は機械的な刺激から移植片を保護するのみならず,血流の供給による移植片の生着,同化を促進し,術後早期の消炎と眼表面の安定した再構築のために貢献する.強膜欠損部を補.する方法としては新鮮角膜,保存角膜,保存強膜,羊膜,硬膜がある7).比較的入手しやすい組織は保存角膜,保存強膜,羊膜であったが,本症例では強膜融解部が広範であることに加え,当院では羊膜移植の認定施設ではないため,保存強膜による強膜移植で対応した.保存強膜は,エチルアルコール,グリセリン,ホルマリンなどの固定液で保存されたものと,冷凍保存強膜に大別され使用されている.本症例で使用した冷凍強膜は,ホルマリンなどで懸念される組織毒性もなく,拒絶反応の可能性も少ない.また,解凍までの時間もC1時間前後と短くてすみ,冷凍保存強膜が強膜補.材料として最適なものと考えられた1).ただし,術後縫合糸の脱落とともに移植片の露出や,減張を行っても結膜の完全な被覆が不可能なこともあり,その場合には自己結膜移植や羊膜移植の追加も有効であると考えられる6).重篤な壊死性強膜炎に対して移植術を行った場合,強膜壊死再発により移植片の癒着が満足に進まない場合もあり,術後早期からの免疫抑制薬使用を推奨する報告もある8).その点,本症例ではシクロスポリン内服が有効であったと考えられる.本症例のように薬物治療への反応が乏しく,亜急性に進行する壊死性強膜炎に対しては,急速な進行を示す壊死性強膜炎と同様に,積極的な早期手術が有効な治療法であるといえる.文献1)WatsonCPG,CHayrehSS:ScleritisCandCepischleritis.CBrJOphthalmolC60:163-191,C19762)酒井義生,山之内叶一,中塚和夫:強角膜軟化症に対する強膜移植術のC3例.眼紀41:717-721,C19903)宮坂英世,後藤晋,中村桂三ほか:白内障術後に発症した強角膜軟化症に対する治療,日眼会誌C99:735-738,C19974)菅野彰,西塚弘一:白内障術後に生じた穿孔性強膜軟化症.あたらしい眼科30:83-84,C20135)湯浅武之助:強膜炎.外眼部・前眼部疾患C2(真鍋礼三,市川宏編).新臨床眼科全書C6B,p142-156,金原出版,C19926)後藤晋,星田美和,小林義治:感染性壊死性強膜炎に対する保存強膜移植術,眼科手術13:117-121,C20007)椋野洋和,牛島美和,片上千加子:保存強膜移植術と施行した強膜穿孔のC1症例.眼紀53:847-850,C20028)楠哲夫,志賀早苗,下村嘉一ほか:両眼白内障術後に発症した穿孔性強膜軟化症のC1例.眼科手術C10:543-547,C19979)生野恭司:強膜炎.文光堂,眼感染症治療戦略(大橋裕一編),眼科診療プラクティスC21,p138-141,1996***