あたらしい眼科29(8):1075.1094,2012c総説第22回日本緑内障学会須田記念講演緑内障と超音波検査GlaucomaandUltrasonography宇治幸隆*はじめに須田記念講演のテーマを決めるにあたり,今日まで筆者と共同研究者が緑内障診療の発展にどのように関われたか,どのような貢献ができたかを検討した.その結果,超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)や超音波カラードプラ(colorDopplerimaging:CDI)などの超音波診断が急速に発展する時期に,超音波検査を積極的に緑内障診療に導入してきたことに気づき,このテーマについてまとめた.わが国では,1970年代から太根節直先生が前房隅角の定量計測をはじめさまざまな超音波診断の研究を進められ,また,UBMが登場して間がない1995年に澤田惇先生が,そして2006年に近藤武久先生が須田記念講演のなかで超音波診断に触れておられ,今回,講演内容をまとめるにあたり,諸先生の業績は大いに参考となった.I緑内障診療への超音波検査の関与図1は,緑内障の本態である網膜神経節細胞のapoptosisを起こす原因として高眼圧,虚血,遺伝,免疫などが考えられるが,それらに対する現状の検査,治療の関与を示している.緑内障診断のなかでも隅角検査は緑内障の病型を決め,治療方針を立てるうえできわめて重要であるが,それに関して超音波検査はUBMの登場以来,隅角観察の強力な補助となってきた.一方,緑内障図1緑内障診療の発展にどのように関われたか超音波検査UBMによる精度の高い隅角検査,球後血流検査CDIによる点眼薬の効果測定と,それら薬物の摘出灌流眼球における眼灌流量と電気生理学的反応への影響の研究などが,緑内障の本態である視神経障害を阻止するための診療にどのように関わるかを考察.NOapoptosis①②(UBM)CDIERG*YukitakaUji:東京医療センター感覚器センター/三重大学〔別刷請求先〕宇治幸隆:〒152-8902東京都目黒区東が丘2-5-1東京医療センター感覚器センター0910-1810/12/\100/頁/JCOPY(49)1075の原因の一つと考えられる慢性的な虚血に関しては,CDIによる眼血流測定が,さらには治療薬の眼血流への効果検証に有用な検査法として貢献してきた.筆者は緑内障治療薬の視神経保護効果の観点から,ネコ摘出灌流眼球を用いた実験系で緑内障治療点眼薬の眼灌流量への効果と電気生理学的な検討を行い,CDIの結果と対比させた.緑内障眼の超音波検査による隅角や眼血流の研究については,他の多くの施設からも優れた報告があり,それらを凌駕する内容を得られなかったが,筆者らは超音波検査技術や画像解析の質を向上させることに貢献できたのではないかと思う.II眼科超音波検査超音波の医学的利用は1950年代から始まり,2MHz以上の周波数が使われ,眼科では5.20MHzが一般的である.超音波には動的利用と通信利用があり,前者はエネルギーとして治療に応用されるが,検査に使われる超音波は通信利用と同じ出力をもつものでなければならず,Aslowasreasonablyachievable(ALARA)の精神に則り,最大出力係数を小さくして熱的および力学的バイオエフェクトを抑制することが重要である.そうでなければ繰り返し人体の検査に使うことができない.前眼部用のUBM機器は出力係数が0.4以下に低く抑えられているが,CDIに使われる機器は眼球以外の臓器を対象としたプローブを使うので,画面の出力係数が1.0を超える機種は避けるべきであり,さらに照射時間をできるかぎり短縮することが必要である.超音波検査の特徴については,以下のようなものがあげられる.1)断面像を得ることができる,2)観察光によって修飾を受けない(暗所における観察可能),3)角膜や中間透光体の異常や,解剖学的な理由で透見できない部分の観察が可能である,4)動的な変化も記録できる,5)無侵襲で繰り返し検査できる,である.上記の3)については,病的な状態として角膜混濁,白内障,硝子体出血混濁などがあげられ,解剖学的に眼窩,球後,視神経内,強膜内,虹彩内部,毛様体内部,脈絡膜内部などが観察困難な部位である.図2にその有用性が如実に示されたUBM画像の典型を示すが,このように,「断面像」と「暗所における観察」は超音波検査の大きな特徴である.光によって変化する虹彩と隅角を有する眼球においては,暗所の断面像は緑内障診療にきわめて有用な情報である.1076あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012図2UBM像相対的瞳孔ブロックとプラトー虹彩のUBM像.明所から暗所へのUBM像の変化.III超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)かつてBarkanは,Koeppeレンズを用いて高倍率の詳細な隅角観察を行い,緑内障を隅角所見から2型に分類したが,彼の論文のなかで図3のような三次元的な隅角図を発表している1).このように隅角を断面的に捉えようとした最初の報告ではないかと思う.この流れがその後の虹彩と角膜のなす角度で隅角の広狭を分類したShaffer分類2)や,周辺虹彩の形状や虹彩根部の付着部を詳細に分類したSpaethの分類3)に受け継がれることになる.Spaethの分類はShafferの分類に比べて眼科医に浸透していないが,前眼部隅角を断面像として捉えたいという思いがUBMに発展したのではなかろうか4).そして,1990年UBMがPavlinら5,6)によって発表され,かつてBarkanが想像して描いた前眼部の高解像度断面像が得られるようになった.1.UBM画像計測前房隅角を二次元的に断面として描出できることは,計測が行いやすく,隅角の広狭の判断に有用である.最初Pavlinら6,7)がscleralspurを基準点にした隅角計測法を報告したが,隅角の広狭を表す指標angleopeningdistance(AOD)250,その後AOD500とtrabecular(50)UBM図3UBM像とBarkanの論文における隅角図(右図は文献1から許可を得て転載)Schwalbe’slineScleralspurARA750μm図4UBM像における新しい隅角計測法Scleralspurから750μm離れた角膜内面の点を求める.その点とscleralspurとを結ぶ直線に垂直な線を虹彩に向かって下す.この線と角膜内面,隅角底,虹彩表面によって作られる面積をanglerecessarea(ARA)とした.(文献8から許可を得て転載)irisangle(q1)が広く採用されるところとなった.しかし,Ishikawaら8)が虹彩が膨隆して隅角底が狭い症例でも,隅角底から離れたAOD500が同じであることを指摘し,その矛盾を改良する目的で,scleralspurから750μm離れた角膜内面の点を求め,その点とscleralspurを結ぶ直線に垂直な線を虹彩に向かって下し,この線と角膜内面,隅角底,虹彩表面によって作られる面積(anglerecessarea:ARA)を指標にすることを提案した(図4).そして,このARAを使えば,複数のパラメータを使わずとも,隅角の広狭を表現できることを証明した.またscleralspurを基準点とすることで,自動的にARAやAODが算出される解析ソフトUBMpro2000も考案した.その後このソフトは他のUBM機器や,最近では前眼部光干渉断層計(OCT)の画像解析にも採用され,ARAを指標とした解析結果が報告されるようになっている9).2.日本人正常眼の隅角計測筆者らはARAの応用として,眼科的異常を有さない日本人65例(男性30例,女性35例)のUBM像の解析を行った10).今までさまざまな年齢層の隅角の解析結果は報告されてきたが,本研究のように正常人を対象としたUBMによる解析は少ない.まず年齢層を若年(20.39歳),中年(40.59歳),高年(60歳以上)の3群に分け,隅角の加齢による変化をARAを指標に検討した.他の全身的因子や眼球計測値との相関も検討した.その結果ARAは前房深度,眼軸長,年齢,身長,屈折値と正または負の相関があることがわかった(表1).さらに4象限ごとのARAを計測し,加齢との変化を検討した.上側,下側,鼻側,耳側とも年齢が高くなるにつれARAが減少するが,特に,若年から中年になる段階で有意にARAが狭くなることが判明した.特に上側隅角は高年で他の象限よりもさらに狭くなる傾向がわかった(図5).このことは閉塞隅角緑内障では周辺虹彩前癒着が上側から生じるという報告11)や,狭隅角眼の上側(51)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121077表1ARAと他のパラメータとの関係(Pairwiseanalysis)パラメータ相関係数p値前房深度0.68<0.001眼軸長0.58<0.001年齢.0.49<0.001身長0.370.003屈折異常.0.360.003性別.0.230.06水晶体厚.0.230.07体重0.210.09(文献10から許可を得て転載のうえ改変)隅角が有意に狭いというその後のKunimatsuら12)の報告とも相応すると思われる.そして,現在の日本社会の生活環境,日本人の身長や屈折値の動向から考えて,将来は高年者の隅角は現在よりは広く保たれ,日本人の閉塞隅角緑内障は減少するのではないかと推測された.3.体位による隅角変化のUBMによる解析狭隅角眼において,腹臥位による水晶体の前方移動によって誘発される瞳孔ブロックが,眼圧上昇メカニズムとの観点から,従来から多くの研究が続けられてきたが,腹臥位での前眼部の観察は困難なことから結果は統一されたものではなかった.しかし,UBMの登場とプローブの工夫により,体位変換による前房隅角全般の変化を捉えることができるようになった13).筆者らは,Zinn小帯の脆弱性から水晶体偏位が生じやすい落屑症候群において,腹臥位の及ぼす影響を検討した.表2に示すように,仰臥位から腹臥位への体位変換によって,前房深度と耳側および上側のARA,AOD500の有意の変化がみられた14).これは,耳側と上側から落屑物質に*0.400.350.300.250.200.150.100.050.00図5年齢で3群に分けられたグループの4象限ごとのARAの相違I(20.39歳),II(40.59歳),III(60歳以上).*p<0.01,#p<0.05,エラーバー=標準偏差,▲:上側象限,▼:下側象限,●:鼻側象限,◆:耳側象限.(文献10から許可を得て転載のうえ改変)よる変化が生じやすいという報告と一致した15,16).4.圧迫隅角UBMUBMの特徴は,超音波検査の特徴として既述したものと同じであるが,なかでも1)暗所での検査ができること,2)高解像度隅角断面像が得られることは,房水の流出部位の診断に重要である.ただ隅角鏡検査で重要な診断法である圧迫隅角検査がUBMでできない欠点があった.そこで,アイカップに角膜を圧迫する圧迫部を付けて,観察したい隅角の対側の角膜を圧迫部で押すことで圧迫隅角UBM検査が可能になった.同様のことは,ARA(mm2)年齢層ⅠⅡⅢ*****###表2体位変換によるUBM像の隅角変化仰臥位腹臥位p値変化量変化率(%)ACD(mm)2.91±0.342.84±0.35<0.00010.07±0.032.6±1.1上側0.18±0.090.14±0.070.0270.04±0.0519.0±27.4ARA下側0.19±0.090.16±0.080.080.02±0.0410.5±23.5(mm2)耳側0.23±0.080.17±0.07<0.00010.06±0.0226.6±8.9鼻側0.20±0.080.17±0.070.080.02±0.046.1±24.6上側0.25±0.110.21±0.100.0430.04±0.0615.4±25.9AOD500下側0.26±0.120.23±0.110.20.03±0.075.7±33.7(mm)耳側0.34±0.120.24±0.09<0.00010.10±0.0628.7±13.7鼻側0.30±0.120.26±0.090.110.04±0.070.40±37.5平均値±標準偏差.ACD:anteriorchamberdepth,AOD500:angleopeningdistance500,ARA:anglerecessarea.(文献14から許可を得て転載)1078あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(52)5mm17mm30mm5mm17mm30mm12mm22mm29mmA12mm16mm27mm9mmBC通常のアイカップ小型のアイカップ圧迫部付きアイカップ図6通常のアイカップ,小型のアイカップ,圧迫部付きアイカップによる圧迫隅角UBM像Cの写真中,黒矢印は隅角閉塞を,白矢印は虹彩の形状を示す.C:角膜,CB:毛様体,S:強膜.(文献17から許可を得て転載)圧迫前圧迫中小型のアイカップを用いても可能であるが,圧迫部付きアイカップのほうが,有意に隅角を開大させることができた(図6)17).図7にrelativepupillaryblock(RPB),peripheralRPBanteriorsynechia(PAS),plateauirisconfiguration(PIC)の圧迫隅角UBM像を示す.多数例での圧迫隅角UBM像におけるAOD500とARAの変化を表3に示す18).圧迫前は3グループ間に差はないが,圧迫後ではすべてのグループで隅角は有意に開大する.しかし,RPBは他2グループに比べその変化は有意に大きいことがわかる.PASにおいては隅角癒着のために変化はPAS少ないが,癒着のないPICにおいてもdoublehumpsignとよばれる虹彩形状を反映してPAS同様大きな変化がみられないことが示されたことは興味深い.PIC図7Relativepupillaryblock(RPB),peripheralanteriorsynechia(PAS),plateauirisconfiguration(PIC)の圧迫前後の隅角UBM像(53)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121079表3Relativepupillaryblock(RPB),peripheralanteriorsynechia(PAS),plateauirisconfiguration(PIC)の圧迫前後のUBM像における平均angleopeningdistance500(AOD500)と平均anglerecessarea(ARA)の変化圧迫前と圧迫中の平均AOD500(mm)圧迫前圧迫中p値*AOD500変化量RPB(mean±SD)0.04±0.05†0.35±0.18<0.0010.31±0.16‡PAS(mean±SD)0.02±0.04†0.12±0.130.00050.11±0.12‡PIC(mean±SD)0.04±0.05†0.16±0.11<0.00010.12±0.10†圧迫前と圧迫中の平均ARA(mm2)圧迫前圧迫中p値*ARA変化量RPB(mean±SD)0.03±0.03†0.21±0.11<0.0010.18±0.10‡PAS(mean±SD)0.02±0.02†0.07±0.060.00030.06±0.06‡PIC(mean±SD)0.03±0.03†0.12±0.10<0.00010.09±0.10†*Pairedt-test:beforevs.withindentaion,†Mann-Whitneytest:p>0.05,‡Mann-Whitneytest:p<0.01.(文献18から許可を得て転載のうえ改変)PMMAMirrorHalfmirrorIndexPMMAⅠⅡⅢ図8インデックス付きゴニオレンズ隅角鏡の内部にハーフミラーとインデックスを内蔵.15°角でスリット光を入射した場合の線維柱帯表面と根部付近虹彩面とのなす角度10°(I),20°(II),45°(III)別に描いたインデックス.(文献20から許可を得て転載)5.UBM画像計測による隅角鏡所見の検証緑内障診療における隅角観察は基本的には隅角鏡によるものであるので,日ごろから隅角鏡検査に習熟することは重要である.ただ,得られた隅角鏡所見の正確さを検証することは必要であり,どのようなベテランにも常に要求される.以前,vanHerick法で2°以下の狭隅角を隅角鏡検査に習熟した眼科医によるShaffer分類と,UBMのAOD500とARA計測結果を比較したことがある.その結果はShaffer分類1と2に分類された隅角で,上側と鼻側でUBM計測値において有意な差が検出されたが,他の部位は熟練した眼科医でも明瞭な分類が困難なことを示す結果であった19).おそらく対象にShaffer分類1と2の境界のような隅角が含まれていて,明瞭な差が出なかった可能性があるが,狭隅角で角度10°以下かそれより広くて20°以下かの判定がいかにむずかしいかが示された.筆者らは隅角鏡の内部に種々のインデックスを内蔵させ,それをハーフミラーで隅角に投影して計測を行うインデックス付きゴニオレンズを開発している20)が,ゴニオレンズの一つに,15°角でスリット光を入射した場合の線維柱帯表面と虹彩面とのなす角度が10°(I),20°(II),45°(III)のときのスリット光の状態を示したインデックス内蔵がある(図8).それを使って,同一眼でインデックス付き隅角鏡による隅角広狭の判定とUBM測定値の関係を検討した.その結果,細隙灯顕微鏡ではスリット光が横方向からの入射のみなので隅角上側と下側の観察に限られるが,表4に示すように,Shaffer分類1080あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(54)表4インデックス付きゴニオレンズによる隅角広狭の判定とUBM測定値の関係象限ゴンオレンズによる分類ARA(mm2)AOD500(mm)上側1以下0.02±0.03*0.03±0.06*上側20.08±0.040.11±0.06下側1以下0.05±0.03*0.08±0.05*下側20.08±0.040.12±0.04*:p<0.01unpairedt-test.がUBM計測結果で有意な差として検証された.インデックス内蔵隅角鏡を使えば,隅角の狭さの分類が行いやすいことを示す結果である.6.暗所における隅角観察の必要性ArchivesOphthalmologyに掲載されたPambeg21)のeditorialcommentをはじめ,狭隅角を見逃す理由について種々指摘されているが,なかでも暗所で検査せずに,瞳孔にスリット光を入れないように注意しないのが問題と指摘されている.たとえば,Barkanaら22)は暗所での隅角鏡検査では94%のappositionalangleclosureは明所では56%の診断率に低下することを,佐久間ら23)は暗所でのUBM検査が機能的隅角閉塞の診断に必要であることを,そしてIshikawaら8)も明所でのUBMで開放隅角と判断されたものが,暗所では55.6%がiridotrabecularappositionであったと報告している.すなわち,隅角鏡で隅角の広狭を判断するには,瞳孔にスリット光を入れないように,暗所で行うことが必要でUBM隅角鏡明所暗所白色光赤色光図9白色光と赤外光による隅角鏡所見の比較上段に明所,暗所のUBM像を,下段に暗所で白色光と赤外光による隅角鏡所見を示す.(文献24から許可を得て転載)ある.そこで,暗所で,スリット光に赤外光を使った隅角観察を行い,それを赤外線撮影用カメラで隅角を捉える方法を考案した24).完全な暗所下の隅角鏡検査である.この方法により図9のように暗所下の赤外光観察と同一眼のUBM像を比較することは,隅角所見の理解に大きな助けとなる.また以前,白色LED(発光ダイオード)を内蔵させた隅角鏡を開発したが,これを赤外LEDにすることによって,さらに簡単に赤外光隅角鏡検査ができることがわかり,実用化をめざしている.つぎに,赤外光隅角鏡検査の有用性を検討した.vanHerick法で2°以下浅前房症例5例10眼において,明所と,暗所で1mm以下にスリット光源を絞って瞳孔に光表5浅前房眼の隅角鏡検査における照明条件による相違明所1mm光源下暗所完全な暗所上側下側鼻側耳側上側下側鼻側耳側上側下側鼻側耳側症例1R++++.+……L++++.++…..症例2R.++..++…..L.++..++…..症例3R…………L…………症例4R.+……….L++.+……..症例5R.++..+……L.+……….明所,暗所で1mm以下のスリット光源使用,完全な暗所(赤外光スリットランプ)を使用したときのtrabecularmeshworkの観察状態.+:Trabecularmeshworkが観察できる..:Trabecularmeshworkが観察できない.(55)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121081表6UD.6010とModel840のシステムの比較UD-6010Model840(トーメー)(Zeiss-Humphrey)振動子周波数40MHz50MHz走査方式電磁式・リニアスキャンメカニカル・リニアスキャン観察範囲幅9mm×深さ6mm幅5mm×深さ5mm表示分解能50×50μm50×50μmフレームレート10枚/秒8枚/秒プローブ保護キャップ+─アイカップの大きさ>定量解析ソフト標準装備画像保存コンパクトメモリーフラッシュを入れないように観察した場合と,完全な暗所で赤外光スリットランプを使った方法の比較を行った.表5に示すように,Scheie分類grade3以上に相当するtrabecularmeshworkが観察できない部位は,明所で21/40箇所(53%),暗所下1mm幅スリット光で32/40箇所(80%),完全な暗所で40/40箇所(100%)となった.しかも1mmスリット光では隅角の観察は困難であるが,赤外光では広い範囲の隅角を見ることができることも再確認された.以上の結果から,機能的隅角閉塞の診断率向上に,赤外光スリットランプシステムが有用であることが示された.また,これらの研究を進めるうえで,UBM像が大きな助けになると思われた.7.国産UBMUBM検査は日本でも広く採用され,緑内障診療にいわゆる一つの革命をもたらしたと思う.しかし,UBM検査に大きな転機が訪れた.一つはHumphrey社の市場撤退とParadigm社への技術移転がなされたことで,日本でUBM機器が手に入りにくくなった.もう一つは前眼部OCTの登場である.そこで,国産でModel840と同等のUBM機器が必要になった.筆者らはトーメー社が新しいUBM機器を製作する機会に参画でき,期待に沿うUD-6010が誕生した.もう一つのOCTの登場については,非接触のOCTは術後の観察に適し,高解像度など多くの優れた点をもつ25)が,現時点では圧迫隅角OCTや伏臥位OCTはなく,UBMのように毛様体は完全に描出できず,UBMの価値が下がったとは思われない.国産UBM機器は眼球後部の観察が主であった従来からあるUD-1000に前眼部用に高周波数のUD-6010を1082あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(文献26から許可を得て転載のうえ改変)装備したものである.表6にModel840との比較を示す26).特徴はアイカップは大きいがプローブは保護キャップで包まれ安全性が増したこと,コンパクトメモリーフラッシュによる画像保存であること,そして幅9mm×深さ6mmの広い画像が得られ,図10のように瞳孔縁から毛様体まで一度に観察できる点である.さらに最近,60MHzの高周波UBMプローブUD-8060が市場に出たが,これはアイカップ不要でプローブ先端が柔らかい保護キャップで覆われているので,どのような体位でも検査ができることから,伏臥位UBMの研究の進展を期待したい.今後はUD-6010による結果が蓄積することになるが,従来からModel840で得られたデータも膨大で貴重であり,両者による画像の計測値の関係を検討した.同一眼,同一条件でAOD250,AOD500,ARAを比較したとUD-6010Model840明所暗所図10UBMプローブUD.6010によるUBM像と,Model840によるUBM像(56)ころ,AOD500はほぼ同等であるが,AOD250とARAはUD-6010のほうがModel840より小さい傾向がみられた.特に狭隅角眼でその傾向がみられることから,隅角底付近の画像の違いが関係していると考えられた.隅角底から離れた箇所の垂直の計測であるAOD500で差が出ないことの説明になるかもしれない.この結果から,経時的な変化をみるには同一機器で解析をしたほうがよいと思われた.8.毛様体観察の有用性UBMの特徴の一つに毛様体観察に適していることがある.通常では透見できない部分が観察できるという超音波の特徴が発揮できる領域である.たとえば,原田病をはじめ毛様体脈絡膜に異常をきたす疾患において,UBMによる毛様体.離の観察が治療経過を判断する有力な所見となることが報告されている27).緑内障濾過手術後の低眼圧と脈絡膜.離は知られている所見であるが,筆者らは眼底鏡で明瞭な脈絡膜.離が観察されない症例においても,そのような所見が認められるかをUBMで観察した.図11は濾過手術後の毛様体のUBMでの経過観察である.トラベクレクトミー術後濾過胞が形成され,術前にはなかったsupraciliochoroidalfluid(SCF)が観察されるが,術後16日目には消失したことを示している.そして術後,眼底検査で脈絡膜.離を観察できないが,UBMでSCFが40%にみられることを報告した28).SCFは1象限から全周に及ぶものもあり,SCFが観察される間は低眼圧で,消失すると眼圧が上昇し,消失する時期は4週間以内が多かった.また,濾過胞がなくても眼圧コントロールが良好の症例にもしばしば遭遇する.筆者らは,濾過胞形成がなく術後眼圧15mmHg未満(5.14mmHg)の症例8眼(術後6.53週)中5眼(63%)において,UBMで90.360°にわたりSCFを認めている29).濾過手術後の眼圧下降機序としては,1)結膜濾過胞への房水流出,2)毛様体.離(毛様体上腔液貯留),3)強膜内への房水吸収,4)Schlemm管断端からSchlemm管内への房水流出,5)増殖抑制薬による房水産生低下などが考えられるが,2)による低眼圧発生機序として,つぎのような原因が考えられる.手術侵襲によって毛様体筋束の流出抵抗低下が生じ,毛様体強膜間隙に房水が流出して低眼圧が生じる.眼圧が毛様体静脈圧より低いため,この毛様体上腔液はそのまま貯留し,さらに房水産生低下を起こし低眼圧になるという悪循環である.しかし,もしUBMで観察されたような毛様体への適度の房水流出であれば,適度な低眼圧にできるのではないかと考えられる.そして80年以上前から今日まで永続的に房水を毛様体上腔に流す目的で,さまざまな材質のシャントが試されてきた.最近では前房と毛様体上腔をつなぐ金材質のgoldmicroshuntが報告され30),長期の結果報告が待たれるところである.このような毛様体に関係する治療が広がれば,その効果の検証および経過観察にUBMは必須ではないかと考えられる.それでは,もう一つの超音波検査CDIに話を移す.SCF図11UBMで観察されたトラベクレクトミー後の毛様体上腔液の経過A:術前.B:術後8日目,SCFの貯留.C:術後16日目,SCFは消失.(文献28から許可を得て転載)(57)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121083IV超音波カラードプラ(colorDopplerimaging:CDI)1.緑内障における血流測定の意義1970年にDranceら31)は,慢性の緑内障において,視神経乳頭の局所虚血を示すsectorhemorrhageと弓状暗点を伴った症例を報告し,乳頭の血流状態と緑内障の進行に深い関係があることを報告した.これは眼科医の眼を眼圧以外の血流というものに向けさせた一つの大きな発見であった.その後のGlasterをはじめとした数々の報告32.34)から,乳頭出血は緑内障の進行因子であり,高眼圧より低眼圧緑内障に多くみられることがわかり,高眼圧が主たる原因とする機械的障害説に対峙する血管障害説の登場となり,その後,normaltensionglaucoma(NTG)の循環動態を主とする全身因子の検討や,血流の研究に動きだすことになった.NTGの危険因子として,眼圧,近視,遺伝,自己免疫因子や,血流に関するものとして乳頭出血,乳頭周囲脈絡膜萎縮,夜間血圧低下など全身血圧の異常,片頭痛,血液凝固亢進,冷水負荷試験陽性などがあげられ,眼血流に関する論文も多数にのぼる.しかし,常に指摘される問題として,血管障害説の根拠はいずれも間接的なものであり,ヒトの緑内障のような長期にわたって進行する動物モデルがないことが弱点である.それを補うにはさらに多くの検討を重ねるしかないと思われる.また,緑内障眼の眼血流の課題としては,1)緑内障点眼によって血流改善があるのか,2)測定結果は視神経障害を反映するのか,3)血流パラメータを改善することができれば神経保護につながるのか,これらも今後検討を重ねるしかない.2.眼血流測定眼血流研究の実験方法に,以下のような3つの方法がある.1)摘出された血管を直接調べる方法,2)摘出された眼球全体で調べる方法,3)臨床的に多くの人が取り組んでいる生体で測定する方法,である.1)の摘出血管の動態をみる方法には,Yuら35),吉冨らが行っているような,血管自体の薬物への反応をみる方法がある.2)の摘出眼球を用いた実験は温血動物と冷血動物で方法は違うが,温血動物の眼球においては,灌流によって機能を維持しながら行う方法である.そして3)の生体での方法は,球後血流を測定するCDIと眼底カメ1084あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012ラで眼底の血管をみながら測定する方法に分類される.前者は網膜全体や脈絡膜を含めた後眼部全体の血流を観察できるが,眼底の血流はその結果から類推することになり,後者は眼底局所の血流測定で,太い眼動脈や眼球全体の血流は推測することになる.すなわち,眼血流に関するあらゆる血管を一度に検査できる方法は今のところない.ここでは,筆者らが行っているCDIを紹介し,得られた結果について述べる.3.CDIの特徴CDIは基本的には仰臥位で,閉瞼し,低周波のプローブを眼瞼の上からそっと当てて検査を行う.測定対象は眼動脈(ophthalmicartery:OA),網膜中心動脈(centralretinalartery:CRA),短後毛様動脈(shortposteriorciliaryartery:PCA)で,PCAに関しては,鼻側のPCA(NPCA)と耳側のPCA(TPCA)に分けて測定することが多い.CDIの特徴を列挙すると,1)眼窩の血管の血流測定ができる,2)眼球に向かってくる血管の血流測定に適している,3)血流方向と拍動が一目で把握できる,4)眼球との位置関係から血管を同定できる,5)理学的な侵襲がなく,比較的短時間で検査できる,6)ドプラシフト周波数を高速Fourier変換(FFT)し,血流速度をリアルタイム表示する.測定はカラーフロー画面で血管を同定し,拍動にカーソルを合わせ,その部分の血流速度はFFTドプラ画像に表示される,である.図12のように,緑内障に深く関わる篩板前部および乳頭循環乳頭表層篩板前部篩板短後毛様動脈篩板後部網膜中心動脈図12視神経乳頭の血流支配(58)篩板はPCAから直接に,またPCAによって血液供給を受けている乳頭周囲脈絡膜からの分枝によって養われる.視神経乳頭表層や篩板後部はCRAの分枝によって血液供給を受けている.眼血流は血管が細く,速度が遅いことから,超音波による測定は困難であるが,最近のテクノロジーの進歩はそれを可能にした.使用される超音波の波長は100.700μmであり,赤血球一つの直径は8.9μmであるので,血球一つひとつを捉えることは不可能であるが,500万/mm2個が不規則に分布して塊のように流れるためにドプラシフトを捉えられる.また,発信周波数の10万分の1の変化を捉えられることから,眼血流も高い精度で検査できるようになっている.まず全身の血圧,眼圧,脈拍を測定する.従来から血圧,眼圧から眼灌流圧(ocularperfusionpressure:OPP)を以下の式,図13短後毛様動脈のCDI上段はRIの高いFFTドプラ.下段はRIの低いFFTドプラ.(59)2/3{最低血圧+1/3(最高血圧.最低血圧)}.眼圧によって求め,眼循環動態の指標とすることが行われてきた.CDIでは,前述した血管の最高流速(peaksystolicvelocity:PSV),最低流速(enddiastolicvelocity:EDV),平均流速(meanenvelopedflowvelocity:MFV)を測定する.循環動態を正確に捉えるためには血流量,血管径の測定が必要であるが,CDIでは不可能か不正確である.そこで,血流速度から,以下の式で末梢血管抵抗を計算し,眼循環動態の指標とする.抵抗指数(resistanceindex:RI)=(PSV.EDV)/PSVあるいは,抵抗指数(pulsatilityresistiveindex:PI)=(PSV.EDV)/MFVRIの高い例と低い例を示す(図13).末梢血管抵抗が高い例では,最高流速から急峻に血流速度が落ちて低い最低流速になり,血管に弾力性がないことが示される.一方,RIが低い例では,最低流速の低下は緩やかで,最低流速は比較的高く,すなわち眼循環動態は良く,したがって血流量も多いという推測ができる.4.緑内障眼のCDICDIによる緑内障眼の血流異常の報告は多い.その内容は,眼血流速度がprimaryopenangleglaucoma(POAG)進行例やNTGで遅いということを示したものがほとんどで,多くの報告の結果をまとめると以下のごとくになる.1)報告によって,対照となる血管がさまざま,2)全般的に緑内障では眼血流は悪い,3)緑内障視神経障害が強いほど異常,4)一般にNTGのほうが血流異常が大きい,5)負荷テストをするとより顕著になる,である.さらにチモロール点眼薬全盛の時代に,Harrisら36)がCDIで点眼による眼血流への影響を比較し,ベタキソロールはNTGにおいてチモロールと異なり眼圧の有意な低下を起こさなかったが,4血管の平均EDVを30%増加させ,平均RIを低下させることを報告した.その結果,緑内障治療点眼薬の選択には,全身副作用だけでなく,眼血流に良い点眼を,特に血流の悪い緑内障眼に対しては血流改善を念頭において治療することが勧められるようになった.あたらしい眼科Vol.29,No.8,201210855.緑内障治療点眼薬の眼血流への影響筆者らが緑内障治療点眼薬の眼血流への影響をCDIで測定した結果を報告する.誌面の関係で,結果のみを示す.a.プロスタグランジン関連薬ラタノプロスト(商品名:キサラタン)NTG患者10例(平均年齢58.6±4.8歳)への点眼2時間後と4週間連続点眼後のCDIの結果は,PCA,CRAの血流速度は点眼2時間後で有意に増加したが,4週間後では有意な変化は消失した.両測定時のRIの変化はなかった.また,両測定時とも血圧,脈拍の変化はなく,眼圧の有意の低下があったことから,OPPの有意の増加がみられた.この結果の解釈として,RIが変化しなかったことから,ラタノプロストには末梢血管抵抗を下げる効果はないと考えられる.しかし,強力な眼圧下降効果により,OPPは増加する.一方,代謝型プロスタグランジン系治療薬ウノプロストンはラタノプロストと異なり,最低流速を増加させ,RIを低下させることから37,38),多くの研究が報告しているようにNO(一酸化窒素)によって,血流増加が期待できる.OACRA6050403020100201510500.90.80.70.60.50.40.3Wilcoxonsigned-ranksumtest,*:p<0.05ResistanceindexEDV(cm/sec)PSV(cm/sec)b.ab.adrenergicantagonistニプラジロール(商品名:ハイパジール)NTG患者10例(平均年齢58.9±9.3歳)への点眼2時間後と4週間連続点眼後のCDIの結果は,CRAでは,2時間後も4週間後もEDVの増加,PCAは2時間後にEDVが増加,RIはCRA,PCAとも両測定時に有意の低下がみられた.また,眼圧の有意の低下と点眼2時間後にはOPPの増加がみられた39).特にRIの低下がみられたことから,点眼薬が球後に到達し,NOによる血管拡張によって末梢血管抵抗が低下したと考えられる40,41)(図14).c.b1.selectiveadrenergicantagonist塩酸ベタキソロール(商品名:ベトプティック)POAG患者21例,ocularhypertension(OH)患者12例(平均年齢61.7±13.2歳)への点眼2時間後と12カ月間連続点眼後のCDIの結果は,両測定時とも,CRA,PCAにおいてEDVの有意の増加があり,PIの有意の低下がみられた.また眼圧の有意の低下はあるが,血圧などには変化はみられなかった42).この結果はHarrisら36)の報告と一致し,塩酸ベタキソロールのもつカルNPCATPCANipradilol**************0510152002468100.30.40.50.60.70.80.90246810051015200.30.40.50.60.70.80.9051015200246810Before2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeksBefore2hrs4weeks0.30.40.50.60.70.80.9図14NTGにおけるニプラジロール点眼2時間後,4週間連続点眼後のCDI1086あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(60)シウム拮抗作用によるものと推察された.d.b1b2.adrenergicantagonist塩酸カルテオロール(商品名:ミケラン)NTG患者10例(平均年齢63.5±4.8歳)への点眼2時間後と4週間連続点眼後のCDIの結果は,点眼2時間後においてPCAのRIの有意の低下はあったが,4週間後にはその変化は消失していた.また,眼圧は有意の低下を示したが,血圧の低下が同時にあり,その結果,OPPの減少を認めた.e.a1.adrenergicantagonist塩酸ブナゾシン(商品名:デタントール)NTG患者10例(平均年齢60.3±7.2歳)への点眼2時間後と,4週間連続点眼後のCDIの結果は球後の眼血流には有意の変化はなかった.また,有意の眼圧低下と血圧低下があったが,OPPに変化はなかった.V摘出灌流眼球における研究1.摘出灌流眼球実験の特徴さて,CDIの結果と比較するために,緑内障治療点眼薬のネコ摘出灌流眼球の灌流状態と電気生理学的反応への影響を検討した.哺乳類の眼球を用いた実験で薬理学的な作用の研究に適していると考えられる摘出灌流眼球を用いる方法の特徴は以下のようになる.1)灌流液の組成や生物物理学的性質の正確なコントロールができる,2)実験動物の血圧,ホルモン,電解質の変動や中枢神経系からの影響が排除できる,3)灌流システムの物理的および化学的条件を変動させたり,薬物を投与したとき,それに対応した結果を把握しやすく,投与された薬物は短時間にwashoutできる,4)心臓の拍動や呼吸による体動などがなく,細胞内誘導による電気生理学的実験に適している,である.つまりinvivoとinvitroの両方の特徴をもった実験系といえる.実験系の詳細は他の論文で発表されている43.45)ので,簡略に述べる(図15).全身麻酔下でネコの眼球を摘出後速やかにophthalmociliaryarteryにカニューレを入れ,酸素を飽和させた灌流液で眼球を灌流する.通常,温血動物では眼球は摘出後,機能は急速に消失し回復は不可能であるが,10数分以内に灌流を開始できれば,その後10時間以上にわたって電気生理学的な機能は維持でき,電子顕微鏡的にも細胞形態の維持が証明されている.灌流状態が安定したら,正確な濃度,注入速度のコントロール下に,一定時間薬物を灌流液に投与し,灌FlowmeterPerfusateDrugONRERGVortexveinLightOphthalmociliaryartery図15摘出灌流眼球における灌流量測定とERGおよびONRの測定システム流量への影響と,網膜電図(ERG),視神経電位(opticnerveresponse:ONR)への効果を測定記録する.灌流液の酸素(O2)分圧,温度,pH,酸塩基平衡,glucose濃度などによって電気生理学的反応は影響されるが,それらが一定に調整されれば,灌流量に比例して反応は増減する.灌流液中に薬物が投与されたにもかかわらず,灌流量の変化なしにERGなどの変化が生じれば,その薬物が電気生理学的反応の発生部位に作用した結果であると解釈できる.つまり薬物に対する受容体の存在を意味する.それでは,以下に筆者らが緑内障治療点眼薬で検討した結果について紹介する.2.緑内障治療点眼薬の灌流量と電気生理学的反応への影響a.b1.selectiveadrenergicantagonist塩酸ベタキソロール(商品名:ベトプティック)ネコ摘出灌流眼球にb1-selectiveadrenergicantagonist塩酸ベタキソロールを10分間投与すると,図16のようにERG反応は増大し,投与を終了すると徐々に元の電位に減弱する.ベタキソロールによって灌流量は増加するが,特に50μM以上で顕著であった(図17).ERGb波,a波とも増加したが,いずれも濃度依存性であった46)(図18).これはベタキソロールのもつCa拮抗作用による網膜血管の拡張によって灌流量が増加し47.49),ERGの増大が生じたと解釈された.この結果はCDIの結果と合致している.(61)あたらしい眼科Vol.29,No.8,201210872402202001800min48200ms10080010203040506011.5濃度(μM)220ERGb波振幅(%)ERGa波振幅(%)160140120132001801601401850120100μV1000102030405060図16摘出灌流眼球におけるベタキソロール30μM10分間濃度(μM)投与による暗順応ERGの経過図18ベタキソール濃度別の暗順応ERGa波振幅,ERG左側の数字はベタキソロール投与開始からの時間.b波振幅の投与前(100%とする)からの最大変化(文献46から許可を得て転載)(文献46から許可を得て転載のうえ改変)16テオロールのもつendotheliumderivedrelaxingfactor14121086420-2(EDRF)やintrinsicsympathomimeticactivity(ISA)の働きで網膜の灌流量が増加してERGを増大させた可能性や,ISAによって網膜内のb受容体が刺激されて52),ERGが増大した可能性が考えられる.ところで,オートラジオグラフィを使って点眼されたカルテオロールの血行を介する後眼部への移行が報告されていて53),灌流量変化率(%)-4010203040506070濃度(μM)図17ベタキソロール濃度別の灌流量最大変化率(文献46から許可を得て転載のうえ改変)b.b1b2.adrenergicantagonist塩酸カルテオロール(商品名:ミケラン)同様の実験系でb1b2-adrenergicantagonist塩酸カルテオロールについて検討した.カルテオロールは有意な灌流量増加をきたさなかったが,濃度依存性に杆体系および錐体系ERGb波を増大させた50,51).この結果からつぎの二つのことが推測できる.一つは網膜血流は元来少ないので,網膜レベルでは灌流量が増加していても全体の灌流増加には反映されていないこと.しかし,カル1088あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012本実験のような灌流液への投与による効果は点眼による網膜への影響を示唆するものである.なお,データの提示は省略するが,b-adrenergicantagonistのプロプラノロールについては,少し灌流量を増加させる傾向はあるが,チモロールは灌流量を増加させず,ERGやONRも変化を起こさなかった.これは灌流量に変化をきたさないのか,網膜には到達しにくいのか,あるいは網膜内のb受容体に作用するような因子をもっていないのか,などが考えられた.網膜内のb受容体については以前から研究が続けられ,受容体の部位の同定がなされ54),最近ではbantagonistの作用に関して,ERGの減弱により有害性の報告55)や,逆に神経保護効果の報告もなされ,研究の継続が必要であるが,そのb受容体に作用するb(62)agonistはかつては網膜色素変性症の治療に考えられたこともあった.さらに網膜の電気生理学的反応を増加させる56,57)ことから,今後ドラッグデリバリーの進歩によって,b-agonistを網膜に作用させて,治療薬として使うような時代がくるかもしれない.c.a1.adrenergicantagonist塩酸ブナゾシン(商品名:デタントール)a1-adrenergicantagonistの塩酸ブナゾシンや塩酸プラゾシンの摘出灌流眼球における作用を検討した.毛様20:ブナゾシン:プラゾシン1510動脈をはじめ眼血流に関わる血管でのa1受容体の存在58,59)や,レーザードプラ血流計など他の方法によるブナゾシンの眼血流増加作用60,61),さらに神経保護効果の報告がある62,63).しかし,摘出灌流眼球ではブナゾシンもプラゾシンも5%程度の灌流量の変化を起こすだけで,灌流量への影響は小さかった(図19).一方,ERGとONRを濃度依存性に減弱させた(図20,21).網膜,脈絡膜,色素上皮,Muller細胞などにa1受容体の存在が報告されている64.66)ので,それらに作用し電気生理学的活動を低下させたのではないかと思われる.したがって,ブナゾシン点眼においては,血流改善効果と神経保護効果を発揮させる投与方法を検討していく必要がある.灌流量変化率(%)y=0.2613x-3.40655R2=0.32760-5y=-0.2663x+0.4773R2=0.5104-10-15-200510152025濃度(μM)3.CDI結果と摘出灌流眼球実験結果との比較筆者らが行った緑内障治療点眼薬のCDIで測定した眼血流への影響と,摘出灌流眼球における直接的な薬剤の投与による灌流量や,電気生理学的活動への効果をまとめると表7のようになる.おおむね合理的な結果が得られていると思う.これらの結果を参考にしながらNTGにおける点眼治療を考えていく必要がある.ただCDIについては,筆者らと他の施設からの報告が異なる点があるが,これはつぎに述べるような問題が解決されていないことと関係があると考えている.図19摘出灌流眼球におけるプラゾシンおよびブナゾシンの濃度別の灌流量最大変化率min0図20摘出灌流眼球におけるプラ200ms30y=-1.0148x+92.359R2=0.6567100959085807570656001020100μV濃度(μM)(63)あたらしい眼科Vol.29,No.8,20121089ゾシン投与によるERGの変化ERGb波振幅(%)左:プラゾシン5.3μM10分間投与による暗順応ERGの経過.左側の数字はプラゾシン投与開始12からの時間.右:プラゾシン濃度別の暗順応ERGb波振幅の投与前(100%とする)からの最大変化.min400ms100ONRon振幅(%)y=-1.0412x+99.582R2=0.822395図21摘出灌流眼球におけるプラゾシン投90与によるONRの変化85左:プラゾシン10μM10分間投与による暗順応ONRの経過.左側の数字はプラゾ80シン投与開始からの時間.75右:プラゾシン濃度別の暗順応ONRon振幅の投与前(100%とする)からの最大変化.706560100μV濃度(μM)01020表7点眼薬別の,CDIにおける球後血流変化と,摘出灌流眼球CDIの場合,レーザードプラやレーザースペックルの実験における灌流量,ERGの変化の対比ように,眼底カメラで測定部位を見ながらの測定ではなCDI摘出灌流眼球実験いので,連続した測定でない場合,確実に同じ部位にカ血流灌流量ERGーソルを合わせる技術が必要となる.ベタキソロール↑↑検者がCDIの熟練者と初心者でどれだけの差が生じ↑るかを検証した.熟練者と初心者で,正常被検者を対象→チモロール→→→にした10分間隔のCDI測定結果を比較検討した.各被ブナゾシン→→↓プラゾシン検者におけるOA,CRA,PCAのPSV,EDVを測定し,RIを算出した.再現性の検討にはつぎの2係数による検討を行った.VICDIの精度1)Kappa係数(k):級内相関係数(intraclasscorre緑内障における眼血流の研究は国内外を問わず,さまlationcoefficient)による検討.これはN名i番目の人ざまな施設で行われてきたが,共通する問題として,以の1回目測定値をXi1,2回目の測定値をXi2とし,Ti下のようなことがあると考える.1)個々の研究で変化=Xi1+Xi2,Di=Xi1.Xi2,差の平均をDav,Ti,Diのなしの結果は報告されない傾向がある,2)対象とする標準偏差をsT,sDとするときk=sT2.sD2/{sT2+sD2血管は乳頭上血管,網膜血管,球後血管とさまざまで,+2/N(NDav2.sD2)}で求められる.結果として,0.75統一的な見解が得られにくい,3)大規模(多施設)で長≦kは卓越した一致,0.4≦k<0.75はかなり良い一致,期にわたる研究がない,4)血流測定には高度な技術がk<0.4はあまり一致していないと考えられる.必要であるが技術の統一化が十分されていない,などで2)再現性係数(coefficientsofreproducibility)によるある.検討.これは最初の測定値をV1,第2測定点での測定CDI測定においては被検者が常に精神的な理由も含値をV2とすると,|V1.V2|/{(V1+V2)/2}として算め安静状態である保証はなく,生体であるがゆえの周期出されるもの.要するに級内相関係数は高い値ほど再現的な変動もある.前者には検査側ができる限りの配慮を性が良いと判断され,再現性係数はその数値が低いほど行って被検者の安静に努めるしかない.後者には,同一再現性が良いと判断される.測定ポイントで6.7波形の平均をとることで対処する.表8に示したように,熟練者のkは,ほとんどの項カルテオロール1090あたらしい眼科Vol.29,No.8,2012(64)表8熟練者と初心者のCDIにおける測定値の再現性10分間隔の再現性:熟練者10分間隔の再現性:初心者CoefficientsofCoefficientsofkkreproducibilityreproducibilityCRACRAPSV0.900.07±0.06PSV0.620.11±0.11EDV0.840.12±0.11EDV0.060.34±0.30RI0.750.04±0.03RI0.040.12±0.08OAOAPSV0.890.11±0.05PSV0.770.17±0.12EDV0.910.18±0.10EDV0.790.22±0.26RI0.780.04±0.02RI0.530.04±0.02TPCATPCAPSV0.820.12±0.08PSV0.220.19±0.16EDV0.780.16±0.13EDV0.190.28±0.22RI0.780.05±0.04RI0.140.10±0.09NPCANPCAPSV0.890.09±0.08PSV0.800.16±0.10EDV0.760.12±0.10EDV0.710.24±0.13RI0.560.04±0.02RI0.240.13±0.0816熟練者16初心者p=0.002目で0.75以上であるのに対し,初心者の成績は悪い.また,再現性係数は,0.1以下が再現性が良いといわれるが,初心者は特に流速が低い最低流速の測定がむずかしく再現性が悪く,そのため,RIが0.1以上となっているが,熟練者はすべての項目で再現性が良く,RIは0.05以下で,再現性が良いといえる.この相違はどのような理由によるかを考えると,測定位置のずれも無視眼圧(mmHg)121213.012.011.78811.344できないが,初心者は血管の描出に集中するがあまり,0測定前測定後0測定前測定後眼球を圧迫するのが主たる原因と考えられる.熟練者と図22熟練者と初心者のCDI測定前後の眼圧変化初心者で被検眼の眼圧をCDIの前後で測定すると図22のように有意に眼圧低下がみられる.意図的に眼球に圧cm/seccm/seccm/sec迫をかけCDIを行うと,図23のように血流速度の低下が生じ,したがってRIの上昇も有意にみられる.この解決方法は,CDIに熟練するしかない.さらに,緑内障の眼血流について信頼に足る結果を導くには,多施設で二重盲検比較試験のようなことを行う必要があり,そのためには,CDIだけに限らず血流測定技術の統一が必要で,検者がトレーニングセンターのようなところに2017.51512.5107.552.50p=0.028PSV2017.51512.5107.552.50p=0.005EDV2017.51512.5107.552.50p=0.005RI圧迫前圧迫中圧迫前圧迫中圧迫前圧迫中一堂に会し,技術を磨き,一定の誤差内に収まるような技術の養成が必要である.もう一つの方法は,検者の技量を要しないほとんど自動化した機器の開発であるが,これは今後の課題である.そして,眼血流測定の目標の一つの点眼治療によって眼血流改善がなされるかについては,一定の成果を出せる状態になったが,以下の二つ,(65)図23CDI測定時における眼球圧迫前後でのCRAの血流パラメータの変化1)測定結果は緑内障の神経障害の原因を反映するか,2)血流パラメータを改善すれば,緑内障の神経保護につながるか,は血流測定の精度を上げて,長期にわたっあたらしい眼科Vol.29,No.8,20121091て大規模な研究が必要と考えられる67).おわりに超音波検査の眼科診療への貢献はきわめて高い.微細な構造をもち,光学的検査が不可能な部分をもつ眼球を無侵襲で検査できることの意義は大きい.ただ,まだ技術的に検査がむずかしいという点は残る.しかし,テクノロジーの発展はそれを乗り越えていくと信じる.vonGraefeが虹彩切除を発表したのは検眼鏡,視野計などの発明がなされた約150年前,その後さらに50年近く経過して,眼圧計,隅角鏡の発明があり,1970年前後からやっと,今日の緑内障診療に使われるレーザー治療,チモロール点眼,トラベクレクトミー術などが登場することとなった.しかし,この150年間の緑内障治療は眼圧下降に心血が注がれてきた.つぎの150年は何に向かって進むのか.おそらく,視神経保護,視神経再生,緑内障発症予防など眼圧下降以外の治療になると愚考する.その際,眼血流測定は重要な意味をもち,緑内障診断に必須の隅角検査もその重要性は失われていないと考えられる.そして本稿で述べた超音波検査技術はさらに進歩し,汎用される検査となっていくと思われる.精巧な検査法の発展が緑内障診療を支えることは間違いないと信じる.謝辞:名誉ある講演の機会をお与えくださいました第22回日本緑内障学会会長吉冨健志先生ならびに日本緑内障学会理事長新家眞先生をはじめ日本緑内障学会理事,評議員,会員の皆様に厚くお礼申しあげます.また,長年にわたりご指導を賜りました三重大学名誉教授横山實先生,三重大学眼科学教室の諸先輩ならびに三重県眼科医会の諸先生,摘出灌流眼球実験のご指導を賜りましたチューリッヒ大学名誉教授GunterNiemeyer先生,日本臨床視覚電気生理学会の諸先生に厚くお礼を申しあげます.最後に,本稿で紹介した研究成果は,診療の合間を縫って研究を続けてくれた三重大学眼科学教室員の努力の賜物であることを明記し,心より感謝を致します.文献1)BarkanO,BoyleSF,MaislerS:Onthegenesisofglaucoma:animprovedmethodbasedonslitlampmicroscopyoftheangleoftheanteriorchamber.AmJOphthalmol19:209-215,19362)ShafferRN:Primaryglaucoma.Gonioscopy,ophthalmoscopyandperimetry.TransAmAcadOphthalmolOtolaryngol64:112-127,19603)SpaethGL:Thenormaldevelopmentofthehumananteriorchamberangle:anewsystemofdescriptivegrading.TransOphthalmolSocUK91:709-739,19714)SpaethGL,AruajoS,AzuaraA:Comparisonoftheconfigurationofthehumananteriorchamberangle,asdeterminedbytheSpaethgonioscopicgradingsystemandultrasoundbiomicroscopy.TransAmOphthalmolSoc93:337-347,19955)PavlinCJ,SherarMD,FosterFSetal:Subsurfaceultrasoundmicroscopicimagingoftheintacteye.Ophthalmology97:244-250,19906)PavlinCJ,HarasiewiczK,SherarMDetal:Clinicaluseofultrasoundbiomicroscopy.Ophthalmology98:287-295,19917)PavlinCJ,HarasiewiczK,EngPetal:Ultrasoundbiomicroscopyofanteriorsegmentstructuresinnormalandglaucomatouseyes.AmJOphthalmol113:381-389,19928)IshikawaH,EsakiK,LiebmannJMetal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