特集●デジタル眼科あたらしい眼科30(9):1233.1238,2013特集●デジタル眼科あたらしい眼科30(9):1233.1238,2013手術ビデオ記録・編集SurgeryVideoRecordingandEditing平原修一郎*吉田宗徳*小椋祐一郎*はじめに近年のデジタル技術の進歩はめざましく,ハイビジョン画像や3D映像がわれわれに非常に身近な存在となってきている.現在の眼科手術の記録は,顕微鏡にビデオカメラを設置することにより,術者の視点からみた手術映像をDVD(DigitalVersatileDisc)などに記録する方法が一般的と考えらえるが,眼科手術の記録もより高画質な映像での記録が求められつつある.顕微鏡に設置するビデオカメラをハイビジョン対応のものとすることにより高精細な画像を記録することが可能であるが,撮影した画像の信号の伝達,保存などに規格の統一がなく,設定には工夫を要する.一般にこれらの動画処理に用いられる機器は高価であり,さらに眼科手術の3D映像の撮影・録画に関してはいまだ方法は確立されていないため,より安価で容易に撮影できる方法が模索されている.本稿では当院において採用している,可能な限り民生用の機器を用いた3D手術映像の記録方法の提案とともに,ハイビジョン画質の映像の記録,保存,編集方法について述べる.IハイビジョンとはハイビジョンはHighDefinitionTelevision,高精細テレビジョンの略称でHDTVあるいは単にHDと表記されることが多い.このHDとはもともとNHKが高画質のテレビ放送用の規格として考えたものである.すなわち,従来のテレビ画像に対して走査線の数を増やして画面を構成する粒子,いわばピクセル数を増やして精細な画像を表示するということを意味し,一般的にハイビジョンといわれるFullHDはアスペクト比(縦横比)16:9で,1,920×1,080ピクセルの解像度を有する.非常に多くの情報量をもっているので,通常はMPEG(MovingPictureExpertsGroup)2やMPEG4(H.264)形式に圧縮されて利用されていることが多い.IIハイビジョンカメラの選択現在のところは,IkegamiとSONYのカメラが,眼科手術顕微鏡用のハイビジョンカメラとして使用することが可能で,それぞれの特徴を以下に述べる(図1).IkegamiからはMKC300HDRやMKC500HDR(映像信号出力1,080/59.94i)といったフルハイビジョンカメラがあり,Ikegamiのカメラアダプターを使うとオートアイリス,オートフォーカス機能が働き,3D映像を記録する場合,左右がずれて,違和感を覚える可能性がある.そこでZeiss社のカメラアダプターを使用することにより左右カメラのフォーカスや絞りのずれの心配はなくなる.SONYのPMW-10MDR(映像信号出力1,080/59.94i)はカメラアダプターを用いることにより顕微鏡の三眼部や接眼部などにカメラを接続でき,オートアイリス機能のないものを使用し,絞り6mm固定にすることにより硝子体手術においても焦点深度を深くして周辺部までピ*ShuichiroHirahara,MunenoriYoshida&YuichiroOgura:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕平原修一郎:〒467-8602名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(33)1233図1眼科手術用顕微鏡へのハイビジョンカメラの取り付け3D録画に対応するため,左右両方にそれぞれハイビジョンカメラを取り付けてある(矢印).ントが合うようにすることが可能である.また,SONY3DHDVideoCameraMCC-3000MTRを用いれば,最初から2台のカメラを1台のカメラコントロールユニットで操作することが可能である(図2).ビームスプリッターは術者用顕微鏡に設置し,光量は術者:カメラが50:50とする.III手術用顕微鏡と広角眼底観察システムの違いによる相違点硝子体手術のときに最近では広角眼底観察システムが広く使われている.広角眼底観察システムの代表的なものとして,ResightR(Zeiss社)とOFFISSR(TOPCON社)がある.これらを用いると画像に反転が生じるため,さらに画像を反転させるインバーターが用いられる.ResightRとOFFISSRでは,インバーターとビームスプリッターの位置が異なるため,3Dの手術画像を記録する際,注意が必要である.OFFISSRではインバーターがビームスプリッターよりも対物レンズ寄りにあるため,術者が広角観察システムを作動させればカメラ画像も自動で反転するが,ResightRの場合はビームスプリッターが対物レンズとインバーターの間に入るため,画像信号を何らかの方法で反転させる必要があり,3Dの手術画像を作成する場合は,左右の画像信号も反転させる必要がある.当院ではResightRを使用しているため,1234あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013ab図2カメラコントロールユニットと左右画像反転装置a:左右画像反転装置(Lucina).b:カメラコントロールユニットSONY3DHDVideoCameraMCC-3000MTR.図2のような,左右の画像を反転させる装置を使用している.IV手術映像記録装置眼科手術映像をハイビジョン録画する方法を以下に述べる.眼科手術映像をハイビジョン撮影する際,カメラ自体はFullHDでの撮影が可能だが,このHD映像を転送するHD-SDI(HighDefinition-SerialDigitalInterface)という規格に沿った入力装置がレコーダー側になく,結局S(Separate)ビデオ(アナログ)の映像入力を用いざるをえず,画質の劣化を招くこととなってしまい,カメラだけをハイビジョンにしてもハイビジョン録画ができないという事態が生じていた.そこで,2Dのハイビジョンを簡便に撮影する方法として,パナソニックのメモリーカードポータブルレコーダーAG-HMR10RとHD-SDIケーブルで接続する方法(34)を,筆者らの施設では以前より使用している.AGHMR10RはAVCHD(AdvancedVideoCodecHighDefinition)という規格を用い,MPEG4(H.264)で記録をする装置である.記録媒体としてはSD(SecureDigital)メモリーカードを用いる.レコーダーからはHDMI(HighDefinitionMultimediaInterface)ケーブルでディスプレイに接続することができる.この方法の良い点はFullHDの画質のまま録画ができるのはもちろんだが,レコーダーが非常にコンパクトであること,記録媒体がSDカードで持ち運びが便利であることである.欠点として,高速に読み書きできる高品質なSDカードはやや高価なこと,撮影時に術式などの情報が記入できないことなどがある.2012年にJVC(ビクター)からHD-SDI入力端子を備えた業務用BD(Blu-rayDisc)レコーダーSR-HD2500Rが発売され,ハイビジョン録画が可能となった.コーデックはMPEG2とMPEG4(H.264)が選択でき,このレコーダーでの編集も可能である.現状ではこの選択もよいかもしれない.現在筆者らは,パソコンを用いた手術記録も行っている.パソコンを用いて動画を記録するメリットとしては,そのまま動画データを編集ソフトで編集することが可能な点で,手術施行日や内容の記入が容易である.BDなどに記録した際は,動画を編集したいときにはパソコンで編集可能なファイルに変換が必要となることなどの手間がかかるうえ,変換に伴うデータの劣化も避けられない.手術動画の記録にも対応したビデオキャプチャーボードはいくつかあるが,3Dの手術動画の録画に対応した,BlackmagicDesign社DeckLinkExtreme3DRを採用した方法を筆者らは以前報告した1).このキャプチャーボードを通して,右と左のFullHD動画を,左右を同期させてそれぞれハードディスク(HDD:Harddiskdrive)に記録することができる.ただし,非圧縮で録画をすると,1分当たり約10GBという膨大なデータ量となるため,そのまま保存することは非現実的であり,何らかの方法で圧縮する必要がある.Microsoft社のWindowsのシステムを使用する場合1),図3MacBookProRを用いた3D録画システムの1例(35)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131235MotionJPEGのAVI(AudioVideoInterleaving)ファイルで保存することにより,1分当たり約1GBのデータ量となる.これはMPEG2形式の約10倍,MPEG4(H.264)形式の約5倍の大きさである.Apple社のMacintoshを使用する場合(図3)は,QuickTimeProRes4:2:2(HQ)というファイル形式で録画が可能で,1分当たり約1.8GBで録画が可能である.MotionJPEGやProResは,フレーム間の圧縮を行わないので圧縮率は低くなるものの,のちのちMPEG2などへの圧縮・展開が容易で,sidebysideやtopandbottom(水平方向や上下方向に圧縮した左眼用,右眼用画像を1枚のフレームとして記録・送信する方法)への変換も可能であり,編集を容易に行うことができる.BlackmagicDesign社の3Dビデオキャプチャーボードで左右のハイビジョン映像を同時録画するには150MB/sec以上の書き込みスピードが必要であるが,Windowsの場合,OSWindowsR7にCPU(CentralProcessingUnit)としてintelCorei72700KR,メモリに16GB,マザーボードとしてASUSP8Z68Vを組み込んだパソコンにて200MB/secの書き込みが可能で,3D動画録画に対応していることを実践している1).Windowsの場合は,パソコン内にビデオキャプチャーボードを組み込む必要があるが,Macintoshの場合はThunderbolt.という高速の通信ケーブルを用いることによって,市販のMacBookProRと外付けのBlackmagicDesign社のビデオキャプチャーボード(UltraStudio3DR)(図4)に接続し,そこからさらにUSB3.0接続のポータブルHDDにデータを保存することも可能である.当院では現在,このMacintoshのシステムを採用しており,ThunderboltTMを通じて,6TB程度の外付けHDDへデータを保存し,そこからポータブルHDDにデータを移動させて管理している(図5).BDやDVDに録画する場合は,MPEG2などのファイルで1分当たり約0.2GBのデータ量で録画可能で,3D動画として,sidebysideで録画が可能だが,左右のカメラ画像をsidebysideに変換する器械が必要となる.BlackmagicDesign社のビデオキャプチャーボードからはsidebysideの信号が出ているため,3D再生用1236あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013図4外付けのビデオキャプチャーボードUltraStudio3DR(BlackmagicDesign社)のモニターにつなげばそのまま3D動画を再生することが可能であり,デジタルビデオコンバーターからiLinkケーブルを介してBlu-rayなどの市販ビデオデッキに記録することもできる.V動画の編集WindowsとMacintoshとでは記録形式が異なるため,編集用ソフトも異なったソフトが必要となる.まず,Windowsの場合は,ファイルの種類はMotionJPEG/59.94iで記録されており,AdobePremierProR(Adobe社)を,ビデオ編集ソフトとして使用できる(図6).MotionJPEG/59.94iの形式のままであれば編集に伴う画像の劣化は起こらないが,MPEG2などへ圧縮後に編集を繰り返していくと,画質の劣化が免れない.最良の画質を得るためには,編集を施した最後に,使用する用途に合わせてMPEG2やMPEG4(H.264)などへ圧縮して書き出すとよいと考えられる.Macintoshの場合は,ファイル形式はQuickTimeProRes4:2:2(HQ)で録画されており,編集ソフトとしてはFinalCutProR(Apple社)をビデオ編集ソフトとして使用可能である.左右の動画をそれぞれ2Dとして使用することはもちろん,左右の画像をそれぞれ横に50%に圧縮して書き出すことでsidebysideの3Dファイルを作成することができる.Linebylineと異な(36)顕微鏡ビームスプリッターハイビジョンカメラハイビジョンカメラBlackmagicvideocaptureboardカメラコントロールユニット3D対応ハイビジョンモニター内視鏡切り替えスイッチBlu-rayHDDレコーダーハイビジョンモニターMacBookPro外付けHDD内視鏡カメラThunderboltTMHD-SDIHDMIsidebyside信号HD-SDIアナログ接続アナログ接続a顕微鏡ビームスプリッターハイビジョンカメラハイビジョンカメラBlackmagicvideocaptureboardカメラコントロールユニット3D対応ハイビジョンモニター内視鏡切り替えスイッチBlu-rayHDDレコーダーハイビジョンモニターMacBookPro外付けHDD内視鏡カメラThunderboltTMHD-SDIHDMIsidebyside信号HD-SDIアナログ接続アナログ接続a図5当院で採用している3Dハイビジョン撮影の一例a:系統図.ビデオキャプチャーボードからの左右のハイビジョン撮影データは,ThunderboltTMを通してパソコンで管理録画し,HDMI端子からsidebysideの信号が出ているため,3D対応モニター(b)に接続し,手術をリアルタイムに3Dでみることが可能となっている.HD-SDI端子はBlu-rayDisc録画用として内視鏡切り替えスイッチ(c)を通して保存しているが,内視鏡との切り替えスイッチにHDMI出力がないため,アナログ接続となり,やむなく画質が低下してしまうこととなっている.c:内視鏡切り替えスイッチSONYAVSELECTORSB-V55Ab:3D対応ハイビジョンモニターり,sidebysideの場合,水平方向に圧縮された画像となるため,画質は劣化しハーフHDとなるため,厳密にはフルハイビジョンではなくなるが,通常の視聴にはあまり問題のないレベルである.おわりに手術動画を,高画質で撮影して記録することは,手術図6AdobePremierProR編集画像(37)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131237中のより詳細な情報を記録するという点で意義深い.さらに3Dで手術動画を記録することは,今まで,術者と介助者のみしか見ることのできなかった映像を,多くの人々と共有することが可能であり,教育的にも大いに意義のあることであると考えられる.だが,現在,手術動画の記録方法には確定した方法はなく,今回述べた録画方法は筆者らの施設で考える記録方法の一例である.現状としては,録画後の2D,3D動画のデータ編集を考えると,画質の劣化を起こさないためにも可能な限り高画質で録画をすることが有利で,高容量のHDDへの記録が有効と考える.今後3,840×2,160の4K(ピクセル数がFullHDの4倍),7,680×4,320のスーパーハイビジョン(同16倍)が開発される予定とされているが,より高画質で,なおかつ安価に誰しもが利用することのできる手術動画記録方法が発展することが望まれる.謝辞:本稿執筆において,焼津こがわ眼科の原田隆文先生に数多くのアドバイスをいただきましたことに,深く御礼申し上げます.文献1)平原修一郎,野崎実穂:ハイビジョンの記録媒体とビデオ編集.特集:眼科手術におけるハイビジョンと3D画像の利用.眼科手術25:371-374,20121238あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(38)