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眼科医のための先端医療 155.点眼と視機能:毎回の点眼が見え方に与える影響は?

2013年11月30日 土曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第155回◆眼科医のための先端医療山下英俊点眼と視機能:毎回の点眼が見え方に与える影響は?高静花(大阪大学大学院医学系研究科眼科学教室)はじめに点眼薬は眼科治療においてなくてはならないものであり,それぞれのエビデンスある治療効果を眼科医も患者も期待しています.一般に周術期あるいは感染症治療などでは,点眼薬は一定期間のみ使われますが,ドライアイや緑内障などの慢性疾患においては,点眼薬は1日に数回,毎日,長年にわたって用いるものです.そうなると,「疾患を治し(悪化させず),良好な見え方を保つ長期効果」だけでなく,毎回の点眼による「見え方」への影響も気になるところです.ドライアイにおける点眼と見え方ドライアイにおいて点眼治療は,自覚症状の軽減,涙液安定性の改善,角結膜上皮障害の改善,および眼表面の保護という目的で行われます.ひとたび点眼薬を目に入れると涙液安定性が一時的にもたらされて視機能の向上が得られるようなイメージがありますが,逆に涙液量の増加,分布の不均一により一時的な霧視を自覚するイメージもあります.また,点眼薬そのものの性状による影響も考えられます.点眼が視機能に及ぼす影響については,角膜トポグラファー,コントラスト感度の測定,波面センサーなどを用いて客観的な評価を行うことが可能であり,正常眼やドライアイにおいて1回の点眼が視機能に及ぼす影響を調べたものはこれまでにもさまざまな報告がなされています.ドライアイの重症度,用いた点眼薬,測定のタイミングなどがみな異なるため一律に比較するのはむずかしいのですが,1回の点眼で視機能の改善がみられるという一方で,点眼前後では変わらない,あるいはむしろ悪化するといわれており,結果はさまざまです.ドライアイ点眼が高次収差,散乱に及ぼす影響今現在,日本でドライアイ治療として用いられている(83)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYもののなかで,0.3%ヒアルロン酸ナトリウム点眼は粘度が著明に高く,また懸濁液であるレバミピド点眼は濁度が著明に高く,実際にそれらを点眼したときに「見えにくさ」を訴えることは日常外来でも経験されます1.4).一般に,眼の光学的特性の影響を与えるものとしては収差,散乱,回折,反射があげられますが,眼表面,角膜疾患において光学的に大きく影響しうるものは,前者2つ,すなわち不正乱視による収差(高次収差)と混濁による散乱があげられます.筆者らは,各種ドライアイ点眼が高次収差および前方散乱に及ぼす影響の定量評価を行いました5).高次収差は従来の視力検査では検出できない不正乱視,また前方散乱は眼内に入る光の散乱を数値として表したものです.ドライアイのない正常眼においては,0.3%ヒアルロン酸ナトリウムの点眼直後に著明に高次収差が増加しましたが,点眼5分後には点眼前の状態に戻りました.ジクアホソルナトリウム点眼,レバミピド点眼の点眼直後でも点眼前に比べると高次収差は増加しましたが,高次収差の変化量は0.3%ヒアルロン酸ナトリウムが他の2剤に比べて有意に大きくなっていました(図1).また,レバミピド点眼の点眼直後では著明に前方散乱が増加しましたが,他の薬剤では点眼による前方散乱の変化は認められませんでした(図2).レバミピドは懸濁液で白濁しており,これが涙液と混ざって眼表面上に存在すると前方散乱が引き起こされ,その結果,視機能の低下が起きたと考えられます.一方,0.3%ヒアルロン酸ナトリ眼球高次収差(μm)0.3%ヒアルロン酸ナトリウムジクアホソルナトリウムレバミピド防腐剤無添加人工涙液0.400.350.300.250.200.150.100.050.00p<0.001p=0.036p=0.003p<0.001p<0.001p<0.001点眼前点眼1分後点眼5分後点眼10分後時間図1点眼後の眼球高次収差の変化の経過縦軸は眼球高次収差,横軸は時間を示す.0.3%ヒアルロン酸ナトリウムの点眼直後で著明な増加が認めるが,5分後には点眼前の値に回復している.(文献5より改変)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131575 0.3%ヒアルロン酸ナトリウム1.61.41.21.00.80.60.4ジクアホソルナトリウムレバミピド防腐剤無添加人工涙液p<0.001p<0.001p<0.001p<0.001Straylightlog[s]点眼前点眼1分後点眼5分後点眼10分後時間図2点眼後の前方散乱の変化の経過縦軸は前方散乱の指標であるStraylight,横軸は時間を示す.レバミピドの点眼直後で著明な増加が認めるが,5分後には点眼前の値に回復している.(文献5より改変)ウムはほかの点眼薬に比べると粘度が40倍程度高く,点眼後,一時的に涙液層の分布が不均一になることにより高次収差が増大したと考えられます.このことより,少なくとも正常眼では,ドライアイ点眼はいずれも異なるメカニズムで一過性に視機能に影響を与えると考えられます.しかし,涙液動態の異なるドライアイでは,また違った結果が得られるのかもしれません.緑内障点眼が高次収差,散乱に及ぼす影響多数ある緑内障点眼薬のなかでも,ゲル化点眼は粘度が著明に高く,また懸濁液であるブリンゾラミド点眼は濁度が著明に高く,いずれも点眼後の「見えにくさ」を訴えることは日常外来でも経験されます.これらの視機能低下についても,コントラスト感度,高次収差,後方散乱の測定を行い定量評価を行った研究が知られています6).両点眼薬とも点眼2分後のコントラスト感度の低下,点眼2分,5分後における高次収差の増加がみられ,またブリンゾラミドのみ2分後に後方散乱が有意に増加すると報告されています.おわりに高次収差,散乱の測定によって定量的に評価できた「点眼による見えにくさ」は,点眼がqualityofvision(QOV)に与える影響を表しますが,生涯にわたって点眼治療が必要な患者にとっては,qualityoflife(QOL)の一部にあたるといえるでしょう.点眼を処方するときに,その薬剤の主たる治療効果はもちろん最優先ですが,慢性の眼科疾患においては毎回の点眼がQOV,QOLにも影響をもたらすという視点をもってもいいのかもしれません.文献1)RidderWH3rd,LaMotteJ,HallJQJretal:Contrastsensitivityandtearlayeraberrometryindryeyepatients.OptomVisSci86:1059-1068,20092)BergerJS,HeadKR,SalmonTO:Comparisonoftwoartificialtearformulationsusingaberrometry.ClinExpOptom92:206-211,20093)IshiokaM,KatoN,TakanoYetal:Thequantitativedetectionofblurringofvisionaftereyedropinstillationusingafunctionalvisualacuitysystem.ActaOphthalmol87:574-575,20094)KohS,InoueY,SugimotoTetal:Effectofrebamipideophthalmicsuspensiononopticalqualityintheshortbreak-uptimetypeofdryeye.Cornea32:1219-1223,20135)KohS,MaedaN,IkedaCetal:Effectofinstillationofeyedropsfordryeyeonopticalquality.InvestOphthalmolVisSci54:4927-4933,20136)HiraokaT,DaitoM,OkamotoFetal:Contrastsensitivityandopticalqualityoftheeyeafterinstillationoftimololmaleategel-formingsolutionandbrinzolamideophthalmicsuspension.Ophthalmology117:2080-2087,2010■「点眼と視機能:毎回の点眼が見え方に与える影響は?」を読んで■過去20年間にわたり,眼科臨床における多くの症判定されるには,自覚症状の改善という主観的評価状が定量化されてきました.現在,抗血管内皮増殖因と,客観的な改善という評価が揃うことが不可欠で子(VEGF)薬が,網膜疾患の治療を一変させつつあす.以前から,視力という主観的な評価は可能でしります.この薬が,眼科臨床に導入されるプロセスにた.しかし,従来の眼底像や蛍光眼底検査というファは,光干渉断層計(OCT)による網膜厚の「定量化」ジーな評価では,再現性の高い客観的評価は不可能でが大きな役割を果たしました.一般に,治療が有効とした.ところが,抗VEGF薬の臨床評価計画が立て1576あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(84) られたのとほぼ時を同じくしてOCTが臨床に導入さのように,再現性の高い定量化が可能になると,点眼れたために,抗VEGF薬の効果を客観的に評価する後の目のかすみというファジーな症状が,客観的現象ことが可能になったのです.OCTがなければ,抗として描出されます.そうなれば,問題点の把握も容VEGF薬の認可はずっと時間がかかったといわれる易になりますし,その解決も可能となります.のはそのためです.つまり,OCTによる「定量化」抗VEGF薬が臨床に導入されて,治療法が一変しが新しい眼科治療学の領域を開拓したことになったのたと先ほど書きましたが,現在はつぎの段階に移ってです.きています.抗VEGF薬が広く使われるようになる今回,高先生が解説された点眼後の視機能の「定量と,その効果の差がわかってきて,遺伝子の問題,さ化」は,上記を想起させる研究です.点眼後しばらくらなる病型の問題,免疫学の問題など,学問としても目がかすむというのは,ある意味当たり前のことです大きく広がりつつあります.点眼後の視機能の定量化が,患者さんの身になれば,笑ってすまされる問題でも,新たな学問の領域を広げる大きな可能性をもったはありません.しかし,患者さんの主観的判断では,研究です.具体的に点眼薬のどの因子によって引き起こされるか鹿児島大学眼科坂本泰二は解析不可能であり,解決法も期待できません.今回☆☆☆(85)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131577

新しい治療と検査シリーズ 211.アイシャンプー

2013年11月30日 土曜日

新しい治療と検査シリーズ211.アイシャンプープレゼンテーション:川島素子慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:戸田郁子南青山アイクリニック.バックグラウンド【マイボーム腺機能不全とリッドハイジーン】マイボーム腺(瞼板腺)は,上下の眼瞼縁に数十個の開口部をもつ脂腺である.マイボーム腺から分泌される脂質は,眼瞼縁や涙液最表層に分布して,涙液蒸発の抑制,涙液安定性の維持,眼瞼縁における涙液の皮膚への流出の抑制などの役割を果たしていると考えられている.このマイボーム腺の機能異常をきたした状態が「マイボーム腺機能不全」であり,比較的高頻度にみられる疾患である(表1)1).マイボーム腺機能不全の症状は,充血,乾燥感,異物感,灼熱感,掻痒感や一時的な霧視など多様で,眼表面の所見が軽度でも,訴えは強く頑固であることが多い.マイボーム腺に細菌が感染した結果,変性した脂質は,非常に刺激性の強いものになる.マイボーム腺機能不全や眼瞼炎の治療のひとつとして,「リッドハイジーン」が有効である2).これは,マイボーム腺脂質の排出,固形化した脂質や角化組織の除去,および菌量の減少を目的とした治療方法である.従来,希釈したベビーシャンプーを綿棒につけてマイボーム腺開口部を清拭するという方法が薦められてきたが,表1マイボーム腺機能不全の定義と分類【マイボーム腺機能不全の定義】さまざまな原因によってマイボーム腺の機能が瀰漫性に異常をきたした状態であり,慢性の眼不快感を伴う.【分類】2.分泌減少型①原発性(閉塞性,萎縮性,先天性)②続発性(アトピー,Stevens-Johnson症候群,移植片対宿主病,トラコーマ,などに続発する)2.分泌増加型①原発性②続発性(眼感染症,脂漏性皮膚炎などに続発する)(マイボーム腺機能不全の定義と診断基準:あたらしい眼科27:627631,2010)場合によっては病的なマイボーム腺部位をベビーシャンプーで清拭することはマイボーム腺および涙液層にかえって異常をきたすことがあること,含有成分により眼に刺激症状を与える可能性があり,またベビーシャンプーを薄めて綿棒につけるという操作はコンプライアンスが悪いこともあると報告されており,いくつか問題点もあった3,4)..新しい治療法【アイシャンプー】(図1)ここ最近の化粧の流行の影響により,眼の大きさを強調するテクニックとして,睫毛エクステンションや睫毛パーマを施行したり,まぶたの際の粘膜にアイラインを塗ったりする化粧法を行う女性が増えてきた.この弊害として,アイメイク製品によりマイボーム腺の開口部を塞いだり,通常のメイク落としではメイクが完全に落としづらく,あるいはエクステンションの効果を長持ちさせるためにメイク落としをおろそかにしたりする結果,図1アイシャンプー1,260円60mlhttp://eyeshampoo.com/index.html(81)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315730910-1810/13/\100/頁/JCOPY 眼瞼縁に化粧が残ったり不潔になったりして,眼瞼炎やマイボーム腺機能不全に陥るといった症例もみられるようになっていた.一方で,洗浄力の強いメイク落としは目に刺激があるという欠点もあったため,アイメイク専用のメイク落としで落としきれなかったメイクを目に優しく洗浄する後づかい製品として開発されたのがアイシャンプーである.アイシャンプーは,当初の開発コンセプトであるアイメイク落としの2度使い用としてだけではなく,洗浄力が弱いものの低刺激で使用しやすいことから,既存のベビーシャンプーを使用したリッドハイジーンの欠点をカバーでき,マイボーム腺機能不全患者に対するリッドハイジーンでの使用としても魅力がある..使用方法(実際のやり方)1.通常のクレンジングを行う(女性の場合).2.アイシャンプーを10円玉大ほど手またはコットンに取り,目元にやさしく伸ばす.アイメイクや汚れがひどいときは,綿棒にアイシャンプーを数滴つけて,眼瞼縁を洗浄した後,水でよくすすぐ.3.1日1回から2回程度行う..本方法の良い点アイシャンプーは,目に刺激が少ない弱アルカリ性,浸透圧で設計しているため,目にしみない.マイボーム腺機能不全は慢性疾患であり,また完治が得られにくいので,治療が長期にわたるため患者に根気よく治療を続けてもらう必要があり,抵抗なく「歯磨きのように毎日目を洗うという」習慣をつけるためにも使用感の良さは重要な利点である.また,本来の洗浄機能に加えて,目元の炎症を整える抗炎症・抗菌作用を併せもつ低刺激高性能クレンジング料とうたっているので,そのあたりの効果も期待できるかもしれない.文献1)天野史郎,マイボーム腺機能不全ワーキンググループ:マイボーム腺機能不全の定義と診断基準.あたらしい眼科27:627-631,20102)川島素子:ドライアイ基本講座基本手技シリーズ「リッドハイジーン─患者さんへの教育・説明を含めて─」FrontiersinDryEye7:56-61,20123)WittpennJR,EyeScrub:Simplifyingthemanagementofblepharitis.JOphthalmicNursTechnol14:25-28,19954)KeyJE:Acomparativestudyofeyelidcleaningregimensinchronicblepharitis.CLAOJ22:209-212,1996.本治療薬に対するコメント.マイボーム腺機能不全(MGD)は「眼の不快感」の海外では眼瞼専用のシャンプーは何種類か販売され主要な原因のひとつと考えられており,多くの場合,ているが,わが国においては,浸透圧やpHなどを涙蒸発型ドライアイを合併している.その治療方法は,液と同等にした「しみない」眼瞼専用シャンプーはなリッドハイジーン,温罨法,ドライアイ点眼,油性点く,当アイシャンプーは初めての製品としてリッドハ眼,眼軟膏,抗生薬内服,サプリメント(オメガ3),イジーンに対する有用性が期待される.しかし,洗浄マイボーム腺閉塞部の機械的圧出,などがあるが,中力は強くないことと,MGDに対する効果についてはでもリッドハイジーン習慣は慢性疾患である本症の治科学的データが未だないため,今後の臨床研究が待た療の基本である.れるところである.☆☆☆1574あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(82)

私の緑内障薬チョイス 6.キサラタン®

2013年11月30日 土曜日

連載⑥私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑥私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也6.キサラタンR石田恭子岐阜大学大学院医学系研究科眼科学最初に使い出す点眼薬で,充血が強い,しみるなどの副作用が出た場合,患者は薬を中断してしまう可能性がある.最初の導入点眼に失敗しないためにも,眼圧下降効果の強さ,副作用の少なさ,アドヒアランスを重視して,プロスタグランジン製剤のうち,もっともバランスのとれたキサラタンを筆者は第一選択とすることが多い.第一選択薬のプロスタグランジン製剤トラフピークプラセボベタキソロールチモロールラタノプロストトラボプロストビマトプロストブリモニジンブリンゾラミド3530眼圧下降率(%)外来で緑内障と診断した患者に対して眼圧下降薬を投与する場合,筆者は①眼圧下降効果が高いこと,②副作用が少ないこと,③アドヒアランスを上げること,を重視して薬物を選択している.25201510501.眼圧下降効果緑内障視神経症の進行を遅延または緩徐にするための唯一確実な方法は眼圧下降であり,メタアナリシス(図1)1)のデータから考慮すると,眼圧がもっとも高いピーク時においても,また眼圧がもっとも低いトラフ時においても,プロスト系プロスタグランジン製剤がもっとも眼圧下降効果が高く,ついでb遮断薬,a2刺激薬,炭酸脱水酵素阻害薬の順となる.2.副作用眼圧下降効果がいかに高くとも,副作用が強い薬の処方は医師としてためらわれる.とくに高齢患者が多い緑内障では,呼吸器や循環器に影響を与えうる薬の使用は慎重にならざるをえない.一方,プロスタグランジン製剤,炭酸脱水酵素阻害薬の副作用はおもに局所に限られるため比較的選択しやすい.3.アドヒアランス医師がどのように良い薬を処方しても,患者が実際に使用してくれなければ意味がない.慢性疾患である緑内障では,アドヒアランスができるだけ上がるように医師として配慮が必要である.アドヒアランスに影響を与える因子としては,①年齢(若い人のほうがアドヒアランスは悪い),②重症度(緑内障疑いや初期のほうがアドヒアランスは悪い),③知識レベル(高いほうがアドヒアランスは良い),④点眼回数と点眼本数(少ないほうがアドヒアランスは良い)などがある.緑内障や点眼の重要性について患者に説明し,患者の知識レベルを上げ(77)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1各点眼薬の眼圧下降効果の比較ランダム化比較試験データ(6,953人)のメタ解析では,ピーク時(赤),トラフ時(青)ともに橙枠のようにプロスト系プロスタグランジン製剤の眼圧下降効果が高い.(文献1より改変)ることと,できるだけ点眼本数と回数が少なくなる薬を処方することが肝要である.以上のように,眼圧下降効果に優れ,全身の副作用が少なく,アドヒアランスの面からも点眼回数が1日1回のプロスト系プロスタグランジン製剤を第一選択薬と考える.キサラタンRプロスタグランジン関連薬には,1日2回点眼が必要なプロストン系のレスキュラと,1日1回点眼のプロスト系のキサラタン,トラバタンズ,タプロス,ルミガンがある(図2)が,効果,特徴,副作用はそれぞれ異なる.以下はプロスト系薬剤について述べる.眼圧下降効果についてはキサラタン,トラバタンズ,タプロスが同本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131569 HOOOTravoprostHOOOTravoprostPGF2aisopropylesterOOHOCF3OHOOHHOOHIsopropylUnoprostoneTafluprostHOHOOOOHHOOOOOFF図3トラバタンズ点眼による充血例図4ルミガン点眼による右眼上眼瞼溝深化症例右眼のみルミガン点眼を行った症例で,黒印のように右眼に上眼瞼溝深化を認める.等で,ルミガンは同等かやや強い.充血(図3)頻度はキサラタンがもっとも少なく,トラバタンズ,タプロスと続き,ルミガンがもっとも多い.上眼瞼溝深化(眼窩脂肪組織の萎縮)(図4)は,キサラタンがもっとも少なく,タプロス,トラバタンズ,ルミガンの順で起こりやすい.点眼液のpHはしみるなど点眼時不快感とつながることがある.ルミガン(pH6.9.7.5),キサラタン(pH6.5.6.9)と比較し,トラバタンズはpH5.7,タプ1570あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013LatanoprostHOOO図2プロスタグランジン関連薬の構造式と点眼ボトHOOHルプロスタグランジン関連薬には,プロストン系のレスキュラと,プBimatoprostロスト系のキサラタン,トラバタンズ,タHONHプロス,ルミガンがあOる.HOOHロスはpH5.7.6.3でやや酸性である.患者は初めて緑内障と診断され,最初に使い出す点眼薬で,充血が強い,しみるなどの副作用が出た場合,薬を中断してしまう可能性がある.最初の導入点眼に失敗しないためにも,もっともバランスのとれたキサラタンを筆者は第一選択とする.ただし,ドライアイなど角膜障害が起きやすい患者には塩化ベンザルコニウムを含まないトラバタンズを,正常眼圧緑内障の中でもベースライン眼圧が非常に低く血流障害の可能性がある症例にはタプロスを処方する.また,各々のプロスタグランジン製剤に対して十分眼圧下降効果がみられない症例,いわゆるノンレスポンダーが存在することはよく知られている.そのため,いったん点眼を開始しても,眼圧下降が不十分な症例にはアドヒアランスを確認し,プロスタグランジン製剤のなかで(たとえばキサラタンからルミガンへなどのように)スイッチングを行う.一度プロスタグランジン製剤を使用し始めると,より充血が起こりやすいほかのプロスタグランジン薬に変えても患者が認容できることが多い.文献1)vanderValkR,WebersCA,SchoutenJSetal:Intraocularpressure-loweringeffectsofallcommonlyusedglaucomadrugs:ameta-analysisofrandomizedclinicaltrials.Ophthalmology112:1177-1185,2005(78)

抗VEGF治療:ラニビズマブ(ルセンティス®)の維持期の治療計画

2013年11月30日 土曜日

●連載⑱抗VEGF治療セミナー─使用方法─監修=安川力髙橋寛二8.ラニビズマブ(ルセンティスR)の山本亜希子岡田アナベルあやめ杏林大学医学部眼科学教室維持期の治療計画滲出型加齢黄斑変性(AMD)に対するラニビズマブ(ルセンティスR)治療の有効性が広く知られるようになった.しかし,すべての症例にまったく同じ治療方針が良いという訳ではない.視力改善・維持のためには維持期の綿密な診察とそれぞれの症例に対する個別化治療が必要である.本稿では筆者らの経験に基づいたラニビズマブ治療の維持期の考えについて述べる.はじめに算すると約7文字の改善が得られた4).1年目の平均投ラニビズマブが認可されてから滲出型加齢黄斑変性与回数は6.0回,2年目は3.5回であった.1年目の投(age-relatedmaculardegeneration:AMD)への有効性与回数はPrONTO試験に比べやや多いものの,2年目が報告されているが漫然と使用していただけでは皆がその投与回数は少なくなっており,筆者らの経験から初めのような結果を得られるわけではなく,維持期の治療計にドライな状態を作ることが視力維持にも重要であり,画が非常に大切である.本稿では,ラニビズマブ治療の再発の頻度も減らすことができるのではないかと考えて維持期におけるもっとも重要なポイントを紹介したい.いる.3回投与を終えた時点で滲出が残存していても,再投与基準反応不十分な症例として投与を中断するのではなく,投与後の反応が得られている間は,10回以上の投与が必ラニビズマブの毎月投与で有意な視力改善が得られる要であっても継続することが良いと考える.という報告がなされているが,それは患者,医療従事者また,視力の変化は再投与に考慮するも客観性のあるの両側に大きな負担になり現実的にはむずかしい場合がOCT所見をより重視すべきである.たとえば,わずか多い.そこで必要時に投与する(prorenata:PRN)とな滲出がまだ残存している場合,前回診察と比べ視力低いう考えに基づいたPrONTO試験が行われた1).この下をきたしていないことが多く,視力低下がないから悪研究では毎月投与より少ない回数で,1年目は9.3文字,化していないとするのは病態の把握としては不十分であ2年目も11.1文字の視力改善がみられた.これは,毎月る.滲出変化が再発すると少し遅れて視力が悪化してく投与を行ったANCHOR試験2)とほぼ同等の成績である.ることが多く,さらに一度下がった視力はなかなか改善しかし,この研究の再投与基準を見直してみると,5文しない.そのため視力低下をきたす前に投与をすること字以上の視力低下かつ光干渉断層検査(OCT)で黄斑内が視力維持にとって大切なポイントでなかろうかと考えに滲出液を認めた場合,網膜厚が100μm以上の増加とる.いう基準が設けられていた.このため,滲出が残存して毎月診察の重要性と投与のタイミングいるにもかかわらず投与しない場合があり,活動性を抑えるのに不十分であった可能性が指摘されていた.そこどのような症例で投与回数が多く,どのような症例でで最近の臨床試験の場合,たとえばHARBOR試験3)で投与回数が少ないのか,まだ明確な答えはない.筆者らは,スペクトラルドメインOCTで滲出液など病変の活の経験では,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA)に動性が認められる場合は,視力低下がなくとも投与するおいてクラシック成分が多いものや病変サイズが小さい基準となっており,網膜厚の数値の設定もされていない.症例では治療回数が少ないという結果が得られている杏林アイセンターでは,以前より視力にかかわらず滲が,治療開始時点で予後が予測できない場合が多い.そ出性変化の残存がみられた場合に再投与している.2年のため少なくとも最終治療から1年間は毎月の診察が必間の経過観察を終えた治療歴のない48例の治療成績で要であろうと考える.そのようにすることで再発のタイはlogMAR0.35から0.21と改善しており,文字数に換ミングや治療効果の現れ方などが大体つかめるようにな(75)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315670910-1810/13/\100/頁/JCOPY り,治療計画を立てるのに役立つ.とくに網膜内血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)の症例でよくみられるが,早いステージでは最初に数回投与すると反応は非常に良いが.その後頻繁に再発することがある.そのため治療の反応が良くてもある程度の期間は毎月診察し,再発に対する再投与のタイミングを逃さないようにすべきである.毎月投与をしていても,投与のタイミングがずれていたのであれば,有効な治療ができているとはいえない.SUSTAIN試験5)のサブ解析においても,投与間隔が延長するにつれて視力改善が得られなくなるという結果が示されており,治療のタイミングを逃さないことがこの治療においては非常に大切である.筆者らも患者が治療を迷っている2週間の間に広範囲に出血が広がり,不可逆的な視力低下をきたした症例を経験している(図1,2)最善を尽くしても効果が得られにくい場合があるが,医療体制によりタイミングを逃すということはできるだけさけたい.治療効果が得られにくい場合に,その薬剤への反応が不良であったと判断する前に,投与のタイミングはずれていなかったのか確認してみることも必要であろう.おわりにラニビズマブ治療が可能となり,視力改善あるいは維持できる症例が増えたことは事実である.しかし,治療1568あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013図1眼底写真とOCT画像74歳,男性.前医では(1.0)であったが,当院受診時すでに視力は(0.7)まで低下していた.OCTでは網膜色素上皮.離の周囲に網膜下液が貯留している.治療開始を勧めるも自覚症状に乏しいとのことで決断ができなかった.図2眼底写真とOCT画像2週間後に来院した際には網膜下出血が出現し,網膜色素上皮.離も拡大しており,視力は(0.5)まで低下した.自覚症状も明らかとなり,その後ラニビズマブ治療を開始するも治療後も視力は(0.5)に止まった.をする側が治療方針をしっかり立てなければ,同じ薬剤を使用していたとしても患者の視力予後を変えてしまう可能性がある.一人でも多くの患者のQOLを保つために,どのような治療方針がその方にはベストであるかを考えながら治療に当たることが必要でなかろうか.文献1)LalwaniGA,RosenfeldPJ,FungAEetal:Avariabledosingregimenwithintravitrealranibizumabforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Year2ofthePrONTOStudy.AmJOphthalmol148:43-58,20092)BrownDM,MichelsM,KaiserPKetal:ANCHORStudyGroup:Ranibizumabversusverteporfinphotodynamictherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:Two-yearresultsoftheANCHORstudy.Ophthalmology116:57-65.e5,20093)BusbeeBG,HoAC,BrownDMetal:TheHARBORstudygroup:Twelve-monthefficacyandsafetyof0.5mgor2.0mgranibizumabinpatientswithsubfovealneovascularage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology120:1046-1056,20134)YamamotoA,OkadaAA,SugitaniAetal:Two-yearoutcomesofprorenataranibizumabmonotherapyforexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.ClinOphthalmol7:757-763,20135)HolzFG,AmoakuW,DonateJetal:OnbehalfoftheSUSTAINStudyGroup.Safetyandefficacyofaflexibledosingregimenofranibizumabinneovascularage-relatedmaculardegeneration:theSUSTAINstudy.Ophthalmology118:663-671,2011(76)

緑内障:急性緑内障発作眼に対する白内障手術のコツ

2013年11月30日 土曜日

●連載161緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也161.急性緑内障発作眼に対する新明康弘北海道大学大学院医学研究科眼科学分野白内障手術のコツ閉塞隅角による急性緑内障発作に対して白内障手術を選択する場合,術前眼圧が高ければ,あらかじめ硝子体切除を行い,眼圧を正常化する.さらに視認性を改善するため前.染色を行う.急性緑内障発作眼ではZinn小帯脆弱がある場合が多く,術後の前.収縮も起こりやすい.術中に悪性緑内障が発症する可能性も念頭におくべきである.薬物療法で解除できない閉塞隅角による急性緑内障発作に対しては,隅角を閉塞させる原因の大半は膨化もしくは前方に移動した水晶体なので,水晶体を摘出するのがもっとも根本的な治療である1).しかし,急性緑内障発作眼の白内障手術では,いくつかのポイントを踏まえて手術に臨まなければ,たとえ白内障手術に十分習熟した術者でも,思わぬ落とし穴にはまることになる.●注意すべきポイント急性緑内障発作眼で,白内障手術手技をむずかしくしている要素をそれぞれ示す(表1).とくに急性緑内障発作眼の白内障手術では視認性の悪いなか,術中に後.が上がってきやすいことを意識するべきである.●手術の工夫(私はこうしている)1.毛様体扁平部にポートを作製する術前の眼圧が40mmHg以上あるような症例では,まず硝子体カッターを入れて硝子体を切除する2).眼圧は高いので切除中に灌流の必要はなく,1ポートでよく,筆者は25ゲージ(G)のトロッカールを使っている.ただし最初に硝子体を切除しすぎると,白内障手術時に水晶体が沈み込み,フェイコに苦労することになるので,表1急性緑内障発作眼の白内障手術をむずかしくするポイント!1.角膜浮腫によって前房内の視認性が悪い2.角膜内皮細胞が減少している3.前房深度が浅い4.Zinn小帯の脆弱があることが多い5.硝子体圧が上昇している6.悪性緑内障が発症することがあるあまり眼圧を下げすぎてもいけない.硝子体切除中は,指で眼球に触れて眼圧を確認する(図1).このポートは後述するように,術中の悪性緑内障発症時にも役に立つ.2.前.染色する前房穿刺や硝子体を取るなどして眼圧を下げると角膜上皮浮腫は急速に引き,眼内の視認性は改善してくるが,発作から時間が経ったものでは浮腫が引きにくい.その場合は前.染色を行うと連続環状.切開(continouscurvilinearcapsulorrhexis:CCC)を行ううえで助けになる.ただし,Zinn小帯の脆弱がある場合,染色液が硝子体側に回ることも起こり得る.そのため,前.染色を行うときには,トレパンブルーやインドシアニングリーンではなく,網膜毒性がないブリリアントブルーG図1緑内障発作眼の白内障手術術前の眼圧は60mmHgを超えており,角膜上皮浮腫がある.白内障手術に先立ち25ゲージのトロッカールを設置する.硝子体カッターを眼内に入れ,先端を見ながら,指で眼球に触れて眼圧を確認し,硝子体切除を行って眼圧を正常化する.(73)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315650910-1810/13/\100/頁/JCOPY を使うほうが安全である.3.角膜内皮保護前房形成に粘弾性物質を使用する際には,ヒーロンVRなど,ビスコアダプティブ型のものを選択したほうが,前房深度が得られやすく,内皮保護の効果も期待できる.術前に角膜浮腫のため内皮計測ができない症例では,すでに内皮数の減少が起きているという前提で手術に臨むことになる.緊急避難的な手術ではあるが,あらかじめ手術後の水疱性角膜症の発症リスクについては十分に説明しておく必要がある.4.核処理の工夫膨化するような水晶体は,核も固い症例が多い.核の処理ではD&Cを行うよりもフェイコチョップのほうが,Zinn小帯にかかる負担が少ない点で有利である.CCCはやや大きめにしたほうが核片を脱臼させやすく,処理中にZinn小帯にかかる力が少なくてすむ.Zinn小帯が脆弱な症例では,核の分割後にバックと核片の間に適宜,粘弾性物質を入れてやると,吸引中にバックが寄ってくることをある程度防ぐことができる.症例によっては水晶体.拡張リングも有効である3).筆者は,それでもフェイコが不可能なくらい水晶体がグラグラしている症例は,.内摘出(intracapsularcataractextraction:ICCE)へコンバートしており,その際には耳側に11mmの強角膜創を作り直して,鼻側と耳側に通糸してIOL縫着を行っている.5.将来の緑内障手術に備える万が一,白内障手術後にも眼圧が下がらない場合には,緑内障手術も追加しなければならない.なるべく将来の濾過手術のために上方結膜は温存したい.そこで白内障手術は強角膜切開で行うよりも角膜切開で行うようにしている.あえて強角膜切開を行うなら,せめて耳側で行うべきである.6.悪性緑内障への対処水晶体の処理が終わり,後.が上がってくるときに,まれに灌流液が硝子体側に回って前房が消失することがある.前房形成に粘弾性物質を入れても,すべて逆流するような場合には,最初に作った毛様体扁平部の1ポートから硝子体カッターを入れて,再び硝子体を切除して圧を下げてやるとよい.さらに前方の硝子体を処理するなら,IOLを入れた後のほうがカッターによる破.の危険が少ない.灌流は角膜のサイドポートから行ってよい.7.術後前.収縮の予防Zinn小帯脆弱例では,IOL挿入後にCCCがゆがんだ円になっていたり,最初に作製した位置から偏位していることがある4).この場合,術後3カ月くらいの間,急速に前.収縮が生じて,ときには前.が閉鎖してしまう症例もある.発作による角膜内皮の減少を考えると,できれば術後にYAGレーザーによる前.切開は行いたくない.そのため,CCCに前述の所見があれば,IOL挿入後,前.に減張切開を4カ所程度入れている.●予後急性緑内障発作眼を白内障手術後に検査すると,高眼圧の時期が長く続いたと思われる症例でも比較的視力や視野が保たれていることがある.一方で,瞳孔麻痺はほとんどの症例で回復しない.虹彩組織は高眼圧による虚血に対して脆弱な組織と考えられ,術後数カ月で萎縮が進む.●まとめこのように緑内障発作眼に対する白内障手術は,技術的にむずかしい部分も多く,さまざまな術中合併症も生じやすい.しかし,正確な白内障手術手技を行い,合併症に対する知識をもっていれば,十分安全に行えるものと考えている.文献1)高井祐輔,佐藤里奈,久保田綾恵ほか:急性原発閉塞隅角緑内障に対する超音波乳化吸引術と虹彩切開術との比較.あたらしい眼科30:397-400,20132)家木良彰,田中康裕:急性緑内障発作に対するcorevitrectomy併用超音波白内障手術成績.臨床眼科60:335-339,20063)稲村幹夫,徳田芳浩:【眼内レンズ手術:難症例への対処法】Zinn小帯断裂例,水晶体亜脱臼・脱臼例.あたらしい眼科29:163-168,20124)HwangYH,KimYY,KirtiKatal:Capsulewrinklingduringcapsulorhexisinpatientswithprimaryangle-closureglaucomaandcataract.JpnJOphthalmol54:401406,20101566あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(74)

屈折矯正手術:多焦点眼内レンズ挿入眼への追加屈折矯正手術

2013年11月30日 土曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載162大橋裕一坪田一男162.多焦点眼内レンズ挿入眼への渥美一成セントラルアイクリニック追加屈折矯正手術多焦点眼内レンズ挿入眼362眼中,残余屈折異常に対して追加屈折矯正手術を施行した52眼について検討した.手術方法はi-LASIK:41眼,amoilsPRK:10眼である.追加屈折矯正手術をした多焦点眼内レンズは,ReZoom:7眼,ReSTOR:24眼,TecnisMulti:20眼,Lentis:1眼である.術後の裸眼視力および患者満足度とも,術前より良好であった.追加屈折矯正手術が前提であれば,多焦点眼内レンズ挿入術は有用な手術であると思われた.●目的多焦点眼内レンズ挿入眼の残余屈折異常に対する追加屈折矯正術の有用性について検討した.●方法対象は術後3カ月以上経過した多焦点眼内レンズ眼230名362眼(ReZoom[NXG1]:33名43眼,ReSTOR:75名137眼,TecnisMulti:93名118眼,LentisMplus:22名37眼,iSii:7名7眼)のうち,裸眼視力不良のため追加屈折矯正手術を希望した51眼である.追加屈折矯正手術方法は,wavescanで測定し,イントラレースでフラップを作製し,STARS4-IRで照射したi-LASIK(41眼)と,電動ブラシで角膜上皮を除去し,STARS4-IRで実質を切除したamoilsPRK(10眼)である.Wavwfront使用は回折型44眼のうち37眼,conventionalは屈折型全例7眼および回折型7眼の計14眼,LASIK後の多焦点挿入眼のリフティング後の切除が4眼である.検査方法は遠方近方裸眼視力,遠方矯正視力,遠方矯正下近方視力,等価球面度数,乱視度数,患者満足度(術後3カ月)を検討した.●結果多焦点前の等価球面度数は.5.0±5.5D(+9..19D),乱視は.1.1±0.8D(+1.5..4.6D),IOL度数が6D未満で術後近視が残ることがあらかじめわかっていた症例は9眼(18%),1D以上の乱視は30眼(59%),(71)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYLASIK後の多焦点4眼(8%),逆に乱視1D以内,IOL度数6D以上は15眼(29%)であった.追加屈折矯正前の視機能は等価球面度数.0.24±1.1D(.4.6.+1.5),乱視度数.1.3±0.71D(.0.25..3.5),裸眼遠方視力0.46±0.30(0.05.1.6),裸眼遠方矯正視力1.43±0.03(0.8.2.0),裸眼近方視力0.9±0.13(0.8.1.0),裸眼遠方矯正近方視力1.0±0(1.0)であった.追加屈折矯正後の視機能(6カ月)は等価球面度数.0.17±0.35D(p<0.001),乱視度数.0.23±0.21D(p<0.001),裸眼遠方視力1.2±0.24,裸眼遠方矯正視力1.5±0.2,裸眼近方視力0.9±0.13,裸眼遠方矯正近方視力1.0±0であった.追加矯正術後の遠方近方裸眼視力経過は術翌日より術前より良好で3カ月でプラトーに達した(図1).追加矯正術後矯正視力は術翌日より良好であった.i-LASIKとamoilsPRKでは遠方裸眼視力は術後1週までの視力でPRKが有意に悪かった.近方は1カ月近く有意に低かったが,裸眼視力それ以外では差を認めなかった(図2,3).IOLタイプによる差は遠方,近方裸眼視力とも有意差を認めなかった(図4,5).Lentisは1眼のみ,iSiiは再手術はないため,図は省いた.表1の患者満足度アンケートを追加屈折矯正術前後に施行し,術前21.9±3.5.術後35.4±2.1(p<0.0001)と有意に上昇した.●結論および考察多焦点前の角膜乱視1D未満,IOL度数が6D以上の範囲であれば,追加屈折矯正は4.4%と非常に少なかっあたらしい眼科Vol.30,No.11,20131563 0.10.40.71.01.3視力■遠方裸眼視力0.81.01.11.21.21.2■近方裸眼視力0.60.80.80.90.90.91D1W1M3M6M1Y0.10.40.71.01.3視力■遠方裸眼視力0.81.01.11.21.21.2■近方裸眼視力0.60.80.80.90.90.91D1W1M3M6M1Y■LASIK■PRK※p<0.0010.10.40.71.01.3裸眼視力0.760.971.031.171.201.240.650.831.131.181.261.061D1W1M3M6M1Y※※術後経過図1多焦点後追加屈折矯正術後の全症例裸眼視力経過※※※※p<0.0010.10.40.71.0視力0.620.770.850.890.940.920.470.620.670.920.830.831D1W1M3M6M1Y■LASIK■PRK術後経過図3追加屈折矯正術式別の裸眼近方視力経過0.10.40.71.01.3視力術後経過■NXGI0.60.70.80.90.80.7■ReSTOR0.50.70.80.90.90.9■TM0.70.80.90.91.01.01D1W1M3M6M1Y図5眼内レンズ別追加屈折矯正術後の裸眼近方視力経過た.一方,追加屈折矯正手術の87%で,多焦点前に眼内レンズの度数が6D未満(10眼)あるいは角膜乱視が1D以上(36眼)であった.多焦点IOL挿入後の追加屈折矯正術後の裸眼遠方近方視力は術翌日より有意に上昇した.また患者満足度も1564あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013術後期間図2追加屈折矯正術式別の裸眼遠方視力経過術後経過0.10.40.71.01.3視力0.81.21.01.21.31.30.70.91.11.11.21.20.70.91.01.21.21.11D1W1M3M6M1Y■NXGI■ReSTOR■TM図4眼内レンズ別追加屈折矯正術後の裸眼遠方視力経過表1多焦点眼内レンズ満足度アンケート1.眼鏡を掛けずに遠くのものが見えますか?2.眼鏡を掛けずに読書や,近くのものをみたりするのに不便がないですか?3.日常生活において遠方眼鏡使用頻度はどのくらいですか?4.日常生活において近方眼鏡使用頻度はどのくらいですか?5.夜間の見え方は満足ですか?6.夜間のハロー・グレアは気になりますか?7.この手術をしてよかったと思いますか?8.この手術を他の人にも勧めたいと思いますか?5段階評価満足度低い<1,2,3,4,5<満足度高い有意に上昇した.術後の視力経過は手術方法,挿入IOLの差もなく非常に良好であり,乱視が強くても術後の追加屈折矯正手術を施行すれば多焦点眼内レンズ挿入は可能であった.多焦点術後に追加屈折矯正をする前提であれば,角膜乱視1D以上あるいは多焦点術後に近視が残る症例であっても切除可能な角膜厚があれば問題ないと思われた.(72)

眼内レンズ:0.25%ポビドンヨード術中洗浄による感染症予防

2013年11月30日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎327.0.25%ポビドンヨード術中洗浄による感染症予防島田宏之駿河台日本大学病院眼科10%ポビドンヨードを生理食塩水で40倍希釈して調製した0.25%ポビドンヨードを用い,術中に眼表面を繰り返し洗浄する感染症予防法を紹介する.生理食塩水による洗浄効果と,ポビドンヨードの殺菌効果を加えた洗浄法である.耐性菌の心配がなく,殺菌に要する時間が短く,有効性と安全性が確認された方法である.白内障手術では眼表面液を介して眼内に細菌が迷入しやすい.眼内炎予防のためには,眼表面の常在細菌の「減菌化」から,一歩進んで「一時的な無菌化」に努めることが必要である.ポビドンヨードの眼内組織に安全で殺菌効果の高い濃度は0.05.0.5%(20.200倍希釈)であり,この中央値0.25%(40倍希釈)を使用する1).開瞼器を設置した後,0.25%ポビドンヨードで術野を洗浄し,30秒待ってから手術を開始する(図1).手術中は,20秒に一度,結膜.にヨードを溜めるように洗浄する.超音波乳化吸引時に角膜上にヨードを滴下すると,ヨードは直ちに結膜.に移行するため視認性の妨げにはならない(図2).自動滴下装置で数秒ごとに角膜にヨード滴下すると,稀に角膜上皮障害が生じるため0.125%(80倍希釈)を用いる.乳化吸引後に前房内に注入した粘弾性物質は創から結膜上に脱出している(図3).眼内レンズをインジェクターで前房に挿入する際,粘弾性物質は前房にpushbackされる(図4).術野のヨード洗浄によって,前部硝子体バリヤーの破壊や後.破損に伴って細菌が硝子体に迷入するリスクを減らすことができる.ヨード洗浄しても前房への細菌迷入をゼロにはできないため,眼内レンズ挿入後には十分な前房洗浄を行う.手術終了時には,ヨード洗浄した状態で手術を終了する.10%ポビドンヨードを希釈する際には,生理食塩水,灌流液を用いる.精製水(蒸留水)で希釈すると,低浸透圧による角膜上皮障害が生じるので用いてはならない.ヨードは希釈すると安定性が低下し,殺菌効果も徐々に減弱するので,室温で使用する際には半日に1度作製したほうが望ましい.生理食塩水のボトルに10%ヨード原液を注入して,先端に洗浄ノズルを付けて用いると便利で,殺菌効果の減弱も少ない(図5).調製した溶液は,使用時にボトルから手術台の容器に適量を移し,そこからシリンジで必要量を採取して用いる(図6).2%ポリビニールアルコール・ヨード(PA・ヨード)の8倍希釈液は,10%ポビドンヨードの40倍希釈液と同じヨウ素濃度であり,同等の殺菌効果を示す.PA・図1手術開始図2超音波乳化吸引(69)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315610910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図3結膜上への粘弾性物質脱出(矢印)図4粘弾性物質の前房へのpushbuck図50.25%ポビドンヨード調製ヨード液は眼表面洗浄には問題ないと考える.しかし,眼内に迷入した際の角膜内皮細胞や網膜障害についての研究は行われていないため,使用に際しては注意が必要である.図60.25%ポビドンヨード使用文献1)ShimadaH,AraiS,NakashizukaHetal:Reductionofanteriorchambercontaminationrateaftercataractsurgerybyintraoperativeirrigationwith0.25%povidoneiodine.AmJOphthalmol151:11-17,2011

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療のギモン⑥

2013年11月30日 土曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ診療のギモン②6本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.オートレフケラトメーターの測定時に気をつけるべきことを教えてください.講師梶田雅義梶田眼科オートレフラクトメーター(オートレフ)は誰が操作しても同じデータが得られるというものではない.筆者の経験では同一被検眼を測定しても,測定者が異なると1.50D程度の差が生じることがある.なぜ,このような差が生じるかというと,被検眼は生体であり,屈折値は調節によって常に揺れ動いているためである.オートレフで極力適切なデータを取得するためには,つぎのような注意が必要である.1.装置の設定購入したばかりのオートレフは,測定時間を短縮するためのクイック測定モードに設定されていることが多い.この設定では,1回雲霧機構が作動した後に数回の屈折値を測定して終了するため,雲霧が十分に機能しない可能性がある.測定に少し時間を要するが,通常測定モードに設定することが大切である.この測定モードでは,1回雲霧が作動した後に1回だけ測定を行い,これを数回繰り返して測定を終了する.測定値がばらつけば調節の介入が強く,適切な屈折値が測定されていないという判断もできる.2.測定時に心がけること①提示視標の真ん中を見るように指示する装置の覗き窓の奥に見える視標の真ん中を見るように指示することが大切である.固視標の真ん中を見ることによって,視線方向の屈折値を測定できる.自覚的屈折検査に必要なのは視線方向の屈折値である.②眼瞼や睫毛が測定系を遮らない測定系を遮る物があると測定光が屈折して,測定エ(67)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1オートレフラクトメーターのモニター画面瞳孔の中央に見える光のリングがマイヤーリングである.ラーを生じ,正しい測定結果が得られない.③マイヤーリングに乱れがない角膜に映し出されたマイヤーリングを観察しながら測定し,マイヤーリングに不整が確認されたときのデータは採用しない(図1).④オートトラッキングを頼らない最近のオートレフではオートトラッキングやオートスタート機能が装備されているが,オートトラッキングに頼って測定すると正しいデータが得られないことがある.オートトラッキングが作動しないように検者が正しくトラッキングすることが大切である.⑤瞳孔の動きを観察するオートレフの雲霧機構が作動すると,瞳孔は一瞬小さくなる.その後,速やかに散瞳したときに測定されたデータは信頼度が高い.調節緊張が介入する場合にはスムーズに散瞳しない.縮瞳したままの状態で測定されたデータは信頼できない.このような注意を払って数回測定した結果にバラツキがない場合には,測定結果の信頼度は高いと考えてよい.あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131559 最近,メガネ・コンタクトレンズ(CL)で近視過矯正の症例が多いと聞きます.過矯正をつくらないためには,どのようなことに気をつけたらよいでしょうか.近視過矯正を見つけた場合,どのように対処したらよいでしょうか.講師梶田雅義梶田眼科屈折は調節の一部分を取り出した値である.屈折値は常に揺れ動いているので,正確に測定することが困難である.また,調節は自律神経に支配されており,遠くへのピント合わせは交感神経が,近くへのピント合わせは副交感神経が担当している.そして,どこを見るともなくボーッと見ているときには,調節安静位と呼ばれている1.0Dくらい調節した状態にある(図2).したがって,片眼で行う矯正視力測定では,調節安静位の屈折値を求めている可能性が高い.両眼同時雲霧法では測定時に距離感が失われないため,遠方への調節が働き,自覚遠点屈折値を測定できる可能性が高くなる.1.両眼同時雲霧の手法①自覚的屈折検査で得られた円柱レンズを検眼枠に装入する.②自覚的屈折検査で得られた球面度数におよそ+3.00Dを加えた検眼レンズを両眼に装入する.③両眼視での視力値を確認しながら,レンズ交換法で両眼を同時に検眼レンズ度数を0.5Dずつマイナス側に換える.④両眼視での矯正視力値が0.5.0.7程度に達した時点で,左右眼を交互に遮蔽し,左右眼のバランスを調整する.この際,最初は見やすいと答えた方の検眼レンズ度数をプラス側に変えてバランスを取る.それでも同じほうの眼が見やすいと答えたときには,つぎからは見づらいほうの眼の矯正を.0.25D調節安静位自覚遠点他覚遠点他覚近点自覚近点遠点自覚的調節域調節リード調節ラグ負の調節正の調節(交感神経支配)(副交感神経支配)(他覚的調節域)図2屈折と調節の名称とイメージ完全な調節麻痺下での屈折値は遠点である.ピントが合う最も遠い距離が自覚遠点,最も近い距離が自覚近点である.他覚的に検出できる最も低い屈折値は他覚遠点屈折値で,最も高い屈折値は他覚近点屈折値である.空白視野では調節安静位にある.他覚屈折値と自覚屈折値の遠方へのずれは調節リード(調節の進み),近方へのずれは調節ラグ(調節の遅れ)と呼ばれる.加えて調整する.0.25Dの差で,左右眼の見え方のバランスが反転する場合には,日常視で利き目と考えられる方の眼が見やすい状態を採用する.⑤左右眼のバランスを調整した後は,両眼同時に.0.25Dずつレンズ交換法を継続して,両眼視の状態で最良視力が得られる最弱屈折値を求める.この値が眼鏡レンズで快適な矯正度数になる.⑥コンタクトレンズの処方では頂点間距離補正と涙液レンズ効果を考慮して眼鏡レンズで快適な矯正度数をコンタクトレンズの度数に換算する.2.過矯正を見つけたらどうするか過矯正に慣れ親しんだ眼は,適正矯正度数を提供しても,最初は十分な視力が得られず,不満が生じる.不快を感じない程度に徐々に度数を下げる必要がある.この場合,両眼の度数を同時に下げると矯正視力に不満が生じることがあるので,モノビジョン矯正を取り入れて,まず非利き目の度数を下げると,視力不足に対する不満が生じることなく,矯正度数を低下させることができる.もちろん,モノビジョン矯正であることをしっかり伝えておくことが大切である.1560あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(00)

写真:中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)

2013年11月30日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦354.中心性漿液性脈絡網膜症竹田一徳京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学(CSC)済生会滋賀県病院眼科②①③図2図1のシェーマ①:漿液性網膜.離②:黄白色斑(フィブリン沈着)③:多数の黄白色点状沈着物図1中心性漿液性脈絡網膜症(CSC)黄斑部に限局性の漿液性網膜.離,黄白色斑(フィブリン沈着)を認める.多数の黄白色点状沈着物もみられる.図3フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)中心窩上方のフィブリン沈着部に一致して造影早期(左写真,0分50秒)には漿液性網膜.離内に点状蛍光漏出点がみられ,経時的に徐々に拡大している(右写真,10分53秒).図4光干渉断層計像(OCT)水平断中心窩を含む網膜.離を認める.網膜.離がある程度遷延すると視細胞外節が延長し,.離網膜外面に高反射組織がみられる(矢頭).(65)あたらしい眼科Vol.30,No.11,201315570910-1810/13/\100/頁/JCOPY 図5OCT深部強調画像(EDIOCT)EDIOCTでは脈絡膜と強膜の境界が描出され(矢頭),脈絡膜肥厚が認められる.中心性漿液性脈絡網膜症(centralserouschori-oretinopathy:CSC)は脈絡膜血管の透過性亢進が生じ,二次的に網膜色素上皮が障害されることでバリア機能が破綻し,脈絡膜側から網膜下へ漏出が起こり漿液性網膜.離を生じる疾患である1).検眼鏡的には,黄斑部に限局した境界明瞭な円板状漿液性網膜.離,蛍光漏出点に一致した黄白色斑,ときに小型の網膜色素上皮.離を認める.遷延例では網膜下や網膜色素上皮上に黄白色点状沈着物(プレチピテートやyellowdepositとも呼ばれる)や(図1,2),下方周辺部に網膜色素上皮萎縮(atrophictract)がみられることもある.フルオレセイン蛍光眼底造影(FA)は,造影早期に網膜色素上皮レベルから1.数カ所の点状蛍光漏出がみられ,徐々に噴煙状に拡散もしくはしみ状に円形に拡大する(図3).インドシアニングリーン蛍光眼底造影(IA)は病態評価や他疾患との鑑別に有用で,脈絡膜血管の循環障害により造影初期には脈絡膜の充盈遅延,中期からは脈絡膜血管の拡張・透過性亢進を認める.この脈絡膜所見はFAで異常所見がみられない部位や無症状の僚眼にも認めることがあり,また再発は脈絡膜血管病変部位から起こりやすい2).光干渉断層計(OCT)では網膜下液の貯留を認める..離期間が長くなると,網膜色素上皮細胞で視細胞外節の貪食が行われず視細胞外節延長が起こり,これが.離網膜下や網膜色素上皮上に突出した高反射所見として認められる3)(図4).2008年にSpaideら4)が市販のOCT装置で脈絡膜を観察する深部強調画像(EDIOCT)を報告し(図5),CSCでは中心窩下の脈絡膜肥厚を認めることが明らかとなった.治療は一般的にFAでの漏出点への網膜光凝固を行うが,漏出部位が中心窩下にある症例やびまん性漏出を示す症例では光線力学的療法(PDT)が有効である.網膜光凝固後の脈絡膜厚は変化がみられないが,PDT後(ベルテポルフィン半量PDT)は肥厚した脈絡膜が改善した報告5)があり,長期経過において再発を抑制する効果が期待されている.文献1)GuyerDR,YannuzziLA,SlakterJSetal:Digitalindocyaninegreenvideoangiographyofcentralserouschorioretinopathy.ArchOphthalmol112:1057-1062,19942)IidaT,KishiS,HagimuraNetal:Persistentandbilateralchoroidalvascularabnormalitiesincentralserouschorioretinopathy.Retina19:508-512,19993)MatsumotoH,KishiS,OtaniTetal:Elongationofphotoreceptoroutersegmentincentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol145:162-168,20084)SpaideRF,KoizumiH,PozzoniMC:Enhanceddepthimagingspectral-domainopticalcoherencetomography.AmJOphthalmol146:496-500,20085)飯田知弘:黄斑疾患の病態画像診断による形態と機能解析.日眼会誌115:238-275,20111558(00)あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013

頭蓋内疾患と緑内障

2013年11月30日 土曜日

特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1547.1555,2013特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1547.1555,2013【各論】頭蓋内疾患と緑内障CentralNervousSystemDisordersasGlaucomaMimickers中馬秀樹*はじめにとする視神経疾患である.中枢性疾患も,視野欠損を特緑内障は,視神経乳頭の垂直C/D比の増大を典型と徴とする.したがって,緑内障に間違われやすい臨床状する視神経乳頭の変化,神経線維束欠損(nervefiber況が現れる.もちろんこれらは治療や緊急性が異なり,layerdefect:NFLD),それに一致した視野欠損を特徴眼科医としては区別して診断できることが必要である.図1症例1の視神経乳頭(a:上段)および,視野(b:下段)(文献4より)*HidekiChuman:宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野〔別刷請求先〕中馬秀樹:〒889-1692宮崎市清武町木原5200宮崎大学医学部感覚運動医学講座眼科学分野0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(55)1547 中毒性緑内障視神経低遺伝性圧迫性形成などの先天性ビタミン欠乏性虚血性図2網膜神経線維束の流れの分布とNFLDの型および好発する視神経疾患(文献5より)まとめて述べるよりも本誌の目的に沿うために,今回は実際筆者が経験した症例を順次紹介したい.症例呈示1.症例1最初の症例は,45歳,男性.視力両眼1.2.前眼部に異常なし.職場からの転落事故で頭部外傷をうけ,その治療中に真菌性眼内炎を発症し,治療にて改善した症例である.加療中に一過性の高眼圧をきたし,図1に示すように視神経乳頭陥凹の拡大と視野欠損を呈していた.そのため,眼圧下降後も正常眼圧緑内障として点眼加療されていた.しかしこの視野は,緑内障には非典型的である.視神経疾患では,ある程度疾患特異的なNFLDの型が存在する.そこで,基礎知識として,網膜神経線維束の分布と,NFLDの型と,好発する視神経疾患を図2に示す.緑内障は,神経線維束欠損型の視野欠損を示す代表的疾患である.つまり,弓状で,水平経線を境界とする1).一方,中枢性,ここでは視交叉以降の病変を意味するが,網膜の中心窩を通る垂直経線よりも鼻側からの線維は視交叉で交差し,耳側の線維は交差せずに外側膝状体へと至り,そこでシナプスを形成して後頭葉視皮質へと至る(図3a).したがって,視交叉での障害は両耳側半1548あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013図3a神経線維の視交叉,視索,外側膝状体,それ以降が障害されたときの視野欠損(文献5より)同名半盲両耳側半盲視交叉外側膝状体視放線視皮質視索鼻側網膜耳側網膜耳側網膜OpticnervedefectOpticnerveRIGITLEFT図3b症例1の頭部CT脳挫傷(赤丸)がみられる.(文献4より)盲を呈し,視交叉以降での障害は同名半盲を呈する.その際,注目すべきは,必ず垂直経線で境界されるという点である2).ここで症例の視野をもう一度見てみると,垂直経線を境界とする視野欠損を呈しており,しかも同名性である(図1b).これは,中枢性の視野欠損の特徴である.原則として水平経線を境界とする(図2),緑内障の特徴とは異なっている.この症例の視野欠損は,緑内障によるものではなく,外傷性の脳挫傷による視野欠損で,視放線の先端部が障害されたことによるものであった(図3b).この症例のように生理的に陥凹の大きな視神経乳頭もあり,視野欠損があったからといって安易に緑内障と診断してはならない.緑内障では,乳頭のneuroretinalrimが欠損しており,乳頭所見と視野が一致して水平経線で境界されていなければならない1).(56) 図4緑内障に似た圧迫性視神経症(文献6より)また,もう一度図2に注目していただきたいが,同様理由は,似た視野欠損を呈することに加え,陥凹拡大をに神経線維欠損型の視野欠損を示すものに,圧迫性視神形成してくるからである3).その鑑別は,緑内障では初経症がある.これも緑内障に間違われやすい視神経疾患期には視機能の低下を自覚せず,よほどの左右差がないの代表である3).代表例を図4に示す.間違われやすい限りrelativeafferentpupillarydefect(RAPD)が陰性(57)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131549 下垂体腫瘍視交叉下垂体腫瘍視交叉図5症例2a(上段):症例2の最初に測定された視野.b(下段):頭部MRI.腫瘍と視交叉は接していない.であり,リムの色がオレンジを保つ.一方,圧迫性視神経症は視機能の低下を自覚し,初期からRAPDが陽性となり,リムの色が蒼白化するのが特徴である.これらは治療や管理がまったく異なり,また,圧迫性視神経症は治療が早いほど予後がよいため,正確で迅速な診断が大切である.2.症例2つぎの症例は,下垂体腫瘍で視野検査依頼のあった76歳の症例である.視力は両眼1.2.前眼部に異常なし.眼底写真と最初に測定された視野を図5,6に示す.視野検査では垂直経線で境界されており,あたかも中枢性の視野変化のようである.しかし,MRI(磁気共鳴画像)で見てみると,腫瘍と視交叉は接していない(図5b).眼底(図6a)を見ると,下方のリムが欠損しており,緑内障が疑われる.そこで,その情報を提示した後の視野が図6bである.状況にもよるが,視能訓練士は眼底の情報が不十分な状態で検査をすることがあり,その際,下垂体腫瘍の情報はあるわけであるから,垂直経線を念頭において検査する.したがって緑内障で視野欠損があれば,図5aのような視野欠損になりうる.大切なことは,眼科医がMRIを含めきちんとチェックして結果の整合性を確かめなくてはならない.脳外科医であればこの視野をみて下垂体腫瘍による視野欠損と判断し,手術適応とするかもしれない.また,この症例に手術が施行された場合,手術により視野欠損が修飾されることがあり,一方,緑内障は長期の進行性の視野欠損をきたす疾患であるから,後の視野進行の評価がむずかしくなる可1550あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(58) 図6症例2の視神経乳頭(a:上段)および,情報を得た後に測定された視野(b:下段)能性も考えられる.したがって,初診時に正確な視野検査をしておくことは重要である.3.症例3つぎの症例は,上半分が見えないとして受診した63歳の症例である.視力は両眼1.2.前眼部に異常なし.視野検査を図7aに供覧する.視野だけを見ると,水平経線で境界されており,緑内障様である.しかし,視神経乳頭(図7b)を観察するとC/D比の拡大は呈しておらず,上方の水平視野に対応する下方のリムの欠損がみられない.したがって,この症例は緑内障と考えにくい.本症例は,左後頭葉の脳梗塞の既往が以前にあり(図8),今回右の後頭葉の脳梗塞が起こったために水平性の視野欠損を呈したものである(図9).中枢疾患は原則として垂直経線を境界とする視野欠損となるが,このように後頭葉病変では両側に起こると緑内障類似の視野欠損をきたすこともある.何度も繰り返すが,緑内障では,視神経乳頭所見と視野が一致していなければならず,確認が必要である.4.症例4つぎの症例は,67歳の女性である.2002年,検診で視野異常を指摘され,近医眼科を受診して緑内障と診断され,点眼を処方された.2009年12月に眼圧上昇がみられ,合剤へ点眼変更された.しかし,眼が痛く,再診し,点状表層角膜症を指摘された.セカンドオピニオン目的で2010年5月自己受診した.1990年に髄膜腫の手術既往がある.視力は両眼1.0.眼圧は両眼14mmHg.RAPDは陰性.両眼とも点状表層角膜症であった.眼底写真,視野,opticalcoherencetomograph(OCT)を図10に示す.確かに眼底写真ではC/D比の拡大を認め,OCTで神経線維の欠損があり,神経線維(59)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131551 図7症例3の視野(a:上段)および,視神経乳頭(b:下段)(文献4より)図8症例3の頭部MRI両側性の脳梗塞を認める.(文献4より)束欠損型の視野欠損のように見える.疾患である.特にNFLDは,以前は,よほど熟達したここで注意が必要である.緑内障は,視神経乳頭の垂人でなければ見えなかった微細なものがOCTの出現に直C/D比の増大を典型とする視神経乳頭の変化,より誰でも可視化できるようになった.しかし一方,視NFLD,それに一致した視野欠損,を特徴とする視神経交叉以降も,外側膝状体までは網膜神経節細胞からの神1552あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(60) 図9症例3の過去の視野から両側性の脳梗塞により自覚したときの視野変化(文献4より)右経線維(軸索)であるため,ここに障害が起こると,逆行性にNLFに萎縮が生じることは知っておくべきである.しかも,この,逆行性のNFLの萎縮も,OCTを用いることにより,容易に可視化できるようになった.神経線維の視交叉,視索,外側膝状体までの走行と,それぞれが障害されたときの視野欠損を含む臨床的特徴と網膜神経線維の流れを図11,12に示す.図11に示したように,視交叉では,両眼の中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維(交叉線維)が障害される.中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維は視神経乳頭の耳鼻側に集まる(図12a)ため,視交叉病変では乳頭を横切る視神経萎縮とNFLDが観察される(図12b).一方,視索では,対側眼の中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維(交叉線維)と,同側眼の中心窩を通る垂直経線より耳側の神経線維(非交叉線維)が障害される.中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維は視神経乳頭の耳鼻側に集まり,耳側の神経線維は視神経乳頭の上下に集まるため,視索病変では,対側眼では乳頭を横左図10症例4の視神経乳頭とOCT(a:上段)および,視野(b:下段)(文献5より)(61)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131553 視野RAPD視神経萎縮視神経単眼性++視交叉両耳側-+視索同名++外側膝状体同名-+より後方同名--同名半盲両耳側半盲視交叉外側膝状体視放線視皮質視索OpticnervedefectOpticnerveTemporalretinaTemporalretinaNasalretinaRIGITLEFTPrimaryvisualcortex図11神経線維の視交叉,視索,外側膝状体,それ以降が障害されたときの臨床的特徴(文献5より)切る視神経萎縮とNFLDが観察され,同側眼では乳頭の上下にNFLDが観察される(図12c).ここでまた症例に戻ってみると,視野欠損(図10b)の形は,同名性の変化に見えないだろうか?また,緑内障の視野欠損は,頂点がMariotte盲点に向かうのに対し,本症例では視野欠損の頂点が中心に向かっている.これは中枢性の視野欠損の特徴である.診療録を調べてみると,髄膜腫は側脳室三角部,前脈絡叢動脈栄養であったことと,髄膜腫の手術後に視野欠損を自覚したということであった.そこで図11,12cを見てみよう.外側膝状体障害のパターンに一致しているのがわかるであろう.つまり,この視野欠損は,外側膝状体障害に特徴的な水平区画性同名半盲で,RAPDが陰性,病変の対側眼では乳頭を横切るNFLD,同側眼では乳頭の上下にNFLDが観察されるパターンと,すべて一致している.当時のGoldmann視野と比較しても,進行しておらず(図13),この視野変化は緑内障でなく,以前の視野欠損の残存と考え,点眼を中止,角膜病変,痛みは1554あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013abc図12障害部位別の視神経萎縮のパターン(文献5より)a:網膜神経線維の流れの分布.中心窩を通る垂直経線より耳側の神経線維は視神経乳頭の上下に集まり,一方,中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維は視神経乳頭の耳鼻側に集まる.b:視交叉病変での視神経萎縮とNFLD.中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維は視神経乳頭の耳鼻側に集まるため,視交叉病変では乳頭を横切る視神経萎縮とNFLDとなる.c:視索,外側膝状体での視神経萎縮とNFLD.視索と外側膝状体病変では,対側眼の中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維(交叉線維)と,同側眼の中心窩を通る垂直経線より耳側の神経線維(非交叉線維)が障害される.中心窩を通る垂直経線より鼻側の神経線維は視神経乳頭の耳鼻側に集まり,耳側の神経線維は視神経乳頭の上下に集まるため,視索病変では,対側眼では乳頭を横切る視神経萎縮とNFLDが観察され,同側眼では乳頭の上下にNFLDが観察される.消失し,経過観察している.このような症例は,OCTでNFLDが容易に観察できるようになったため,逆に緑内障と診断しがちであるが,機器の発達とともに神経眼科的な確かな知識も必要になってくることを示していると考える.(62) 左右図13髄膜腫術直後のGoldmann視野と現在の視野比較しても,進行していない.(文献5より)おわりにいかがだったであろうか?生理的乳頭陥凹の拡大のある視放線障害症例,乳頭陥凹の拡大のある圧迫性視神経症症例,視交叉障害と間違われかけた緑内障症例,緑内障性視野欠損に似た両側後頭葉梗塞症例,緑内障性視野欠損に加え,OCTにても緑内障性神経線維束欠損に似た形を呈した外側膝状体障害症例を紹介した.大切なことは,視神経乳頭のリムの欠損部位や程度と視野欠損が合致するか,また,OCTの発達により,外側膝状体までの障害であれば逆行性の神経線維萎縮が表現されることと,そのパターンを知って,常に1例1例,確認することが大切であろう.文献1)PaneA,BurdonM,MillerNR:Blurredvisionorfieldloss.TheNeuro-ophthalmologySurvivalGuide.p27-112,Mosby,Elsevier,20072)中馬秀樹:【視野】視路疾患と視野病巣診断のための視路の解剖.眼科プラクティス15:180-187,20073)Bianchi-MarzoliS,RizzoJFIII,BrancatoR:Quantitativeanalysisofopticdisccuppingincompressingopticneuropathy.Ophthalmology102:436-440,19954)中馬秀樹:緑内障セミナー緑内障に間違われやすい中枢性疾患.あたらしい眼科29:1647-1648,20125)中馬秀樹:つけよう!神経眼科力OCTの神経眼科への応用.臨眼65:604-614,20116)中馬秀樹:緑内障セミナー緑内障に間違われやすい視神経疾患.あたらしい眼科29:1517-1518,2012(63)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131555