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0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1185.1194,2013c0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE111点眼液)の原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたタフルプロスト点眼液0.0015%およびタフルプロスト点眼液0.0015%/チモロール0.5%点眼液併用との第III相二重盲検比較試験桑山泰明*:DE-111共同試験グループ*福島アイクリニックPhaseIIIDouble-MaskedStudyofFixedCombinationTafluprost0.0015%/Timolol0.5%(DE-111)VersusTafluprost0.0015%AloneorGivenConcomitantlywithTimolol0.5%inPrimaryOpenAngleGlaucomaandOcularHypertensionYasuakiKuwayama1):DE-111CollaborativeTrialGroup1)FukushimaEyeClinic0.0015%タフルプロスト/0.5%チモロール配合点眼液(DE-111)の有効性と安全性を検討するため,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者488例を対象に,タフルプロスト単剤またはタフルプロストとチモロールの併用を対照とした多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施した.タフルプロスト4週間点眼後の眼圧が18mmHg以上の被験者を,DE-111群,タフルプロスト群,併用群に割り付け,治療期として4週間点眼した.治療期終了時の平均日中眼圧は治療期0週に比べ,DE-111群で2.6±1.8mmHg,タフルプロスト群で0.9±1.7mmHg,併用群で2.2±1.8mmHg下降し,タフルプロストに対する優越性,併用に対する非劣性が検証された.副作用発現率は,群間に有意差は認められなかった.DE-111点眼液は緑内障治療における多剤併用療法の選択肢として,有用性の高い配合点眼液である.Theaimofthisstudywastocomparetheefficacyandsafetyofthefixedcombinationophthalmicsolutionoftafluprost0.0015%/timolol0.5%(DE-111)tothatoftafluprost0.0015%ophthalmicsolution(tafluprost)ortafluprost0.0015%andtimolol0.5%ophthalmicsolutiongivenconcomitantly(concomitant)in488patientswithprimaryopenangleglaucoma(POAG)orocularhypertension(OH),inarandomized,double-masked,parallel-groupandmulticenterstudy.Patientswithintraocularpressure(IOP)≧18mmHgaftertafluprostinstillationfor4weekswererandomlyassignedtoeithertheDE-111,tafluprostorconcomitantgroup,withthedruginstilledfor4weeks.Attheendoftreatment,meandiurnalIOPreductionfrombaselinewas2.6±1.8mmHgintheDE-111group,0.9±1.7mmHginthetafluprostgroupand2.2±1.8mmHgintheconcomitantgroup,DE-111beingsuperiortotafluprostandnotinferiortoconcomitant.Nointergroupdifferenceswereseeninadversedrugreactionincidencerates.TheseresultsindicatethatDE-111isclinicallyusefulinmultidrugtherapyforglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1185.1194,2013〕Keywords:緑内障,配合点眼液,タフルプロスト,チモロール,多剤併用,DE-111.glaucoma,fixedcombination,tafluprost,timolol,concomitant,DE-111.〔別刷請求先〕桑山泰明:〒553-0003大阪市福島区福島5-6-16ラグザ大阪サウスオフィス4F福島アイクリニックReprintrequests:YasuakiKuwayama,M.D.,FukushimaEyeClinic,4FLaxaOsakaSouthOffice,5-6-16Fukushima,Fukushimaku,Osaka553-0003,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(141)1185 はじめに緑内障に対する現在唯一確実な治療法は眼圧下降であり,通常薬物治療が第一選択となる.薬物治療では良好なアドヒアランスを維持することが治療の成否を左右する.しかし,単剤による眼圧コントロールが不十分なため多剤併用療法が必要な患者が少なからず存在しており,アドヒアランスを良好に維持することが困難な場合も多い.このようななか,近年いくつかの配合点眼液が開発されており,緑内障診療ガイドライン1)では,『多剤併用療法の際には配合点眼薬の使用により,患者のアドヒアランスやQOLの向上も考慮すべきである』と,配合点眼液の意義について述べている.DE-111点眼液は,プロスタグランジン(PG)関連薬のタフルプロストとb遮断薬のチモロールを含有する1日1回点眼の配合点眼液であり,両点眼液の併用治療に比べて患者の利便性,アドヒアランスおよびqualityoflife(QOL)を改善し,緑内障の治療効果を高めることが期待される.一方で,PG関連薬とb遮断薬の配合点眼液は,両薬剤の併用治療と比較するとb遮断薬の点眼回数が1日2回から1日1回に減るため,眼圧下降効果が弱い可能性が危惧される.しかし,これまで国内では,PG関連薬とb遮断薬の配合点眼液についてはPG関連薬単剤治療を対照とした比較試験が第III相臨床試験として行われてきたが,PG関連薬とb遮断薬の併用治療を対照とした二重盲検比較試験は行われていなかった.今回,DE-111点眼液の第III相試験として,原発開放隅角緑内障または高眼圧症患者を対象に,DE-111点眼液の有効成分の一つであるタフルプロスト点眼液0.0015%単剤投与との比較のみならず,タフルプロスト点眼液0.0015%とチモロール点眼液0.5%の併用との比較を目的とした多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験を実施したので,その結果を報告する.なお,本試験はヘルシンキ宣言に基づく原則に従い,薬事法第14条第3項および第80条の2ならびに「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」を遵守し実施された.I対象および方法1.実施医療機関および試験責任医師本臨床試験は全国58医療機関において各医療機関の試験責任医師のもとに実施された(表1).試験の実施に先立ち,各医療機関の臨床試験審査委員会において試験の倫理的および科学的妥当性が審査され,承認を得た.2.目的DE-111点眼液のタフルプロスト点眼液に対する優越性,タフルプロスト点眼液とチモロール点眼液0.5%の併用に対する非劣性を検証することを目的とした.3.対象対象は両眼が原発開放隅角緑内障または高眼圧症と診断され,タフルプロスト点眼液点眼下で少なくとも片眼の眼圧が18mmHg以上であり,選択基準を満たし除外基準に抵触しない患者とした.なお,表2におもな選択基準および除外基準を示した.試験開始前に,すべての被験者に対して試験の内容および予想される副作用などを十分に説明し,理解を得たうえで,文書による同意を取得した.4.方法a.試験デザイン・投与方法本試験は多施設共同無作為化二重盲検並行群間比較試験として実施した.被験者から文書による同意取得後,緑内障前治療薬の影響を消失させタフルプロスト点眼液の効果が一定となる期間として,導入期を4週間と設定した.導入期にはタフルプロスト点眼液を1日1回朝両眼に治療期0週まで点眼した.治療期0週当日朝はタフルプロスト点眼液を点眼せず来院し,点眼前の眼圧が18mmHg以上の被験者を対象として症例登録を行い,4週間の治療期に移行した.治療期では被験者はDE-111群,タフルプロスト群,併用群に1対1対1に無作為に割り付けられた.DE-111群はDE-111点眼液を1日1回朝両眼点眼およびプラセボ点眼液を1日2回朝夜両眼点眼,タフルプロスト群はタフルプロスト点眼液を1日1回朝両眼点眼およびプラセボ点眼液を1日2回朝夜両眼点眼,併用群はタフルプロスト点眼液を1日1回朝両眼点眼,およびチモロール点眼液0.5%を1日2回朝夜両眼点眼した.試験デザインを図1に示した.なお,点眼はいずれも1回1滴とするよう指導した.b.試験薬剤被験薬であるDE-111点眼液は,1ml中にタフルプロストを0.015mgおよびチモロールを5mg含有する無色澄明の水性点眼液である.DE-111点眼液とタフルプロスト点眼液,そしてチモロール点眼液0.5%とプラセボ点眼液はそれぞれ同一の容器を使用し,盲検性を確保した.試験薬の識別不能性は試験薬割付責任者が確認した.試験薬の割付は,試験薬割付責任者が置換ブロック法による無作為化により行い,キーコードは開鍵時まで封入し試験薬割付責任者が保管した.5.検査・観察項目試験期間中は検査・観察を表3のとおり行った.a.被験者背景性別,生年月日,合併症(眼および眼以外),既往歴などの被験者背景は,試験薬投与開始前に調査・確認した.b.試験薬の点眼状況治療期以降の来院ごとに,前回の来院直後からの点眼遵守状況について問診で確認した.1186あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(142) 表1DE-111共同試験グループ試験実施医療機関一覧(順不同)医療機関名試験責任医師名医療機関名試験責任医師名医療法人大谷地共立眼科医療法人社団慈眼会環状通り眼科さど眼科医療法人社団さくら有鄰堂板橋眼科医院眼科君塚医院ののやま眼科医療法人社団いとう眼科医療法人秀緑会高山眼科緑町医院春日部市立病院医療法人社団豊栄会さだまつ眼科クリニック医療法人社団秀光会かわばた眼科医療法人社団仁香会しすい眼科医院丹羽眼科財団法人厚生年金事業振興団東京厚生年金病院日本赤十字社医療センター吉川眼科クリニック医療法人社団聖愛会中込眼科医療法人社団みすまるのさと会アイ・ローズクリニック医療法人社団善春会若葉眼科病院医療法人社団高友会立川通クリニック道玄坂加藤眼科成城クリニック大橋眼科クリニック医療法人社団高瀬会たかせ眼科平町クリニック医療法人社団慶緑会あまきクリニック医療法人松鵠会みたに眼科クリニック医療法人社団湯田医院きくな湯田眼科医療法人社団律心会辻眼科クリニック戸塚駅前鈴木眼科特定医療法人丸山会丸子中央総合病院曽根聡秋葉純佐渡一成板橋隆三君塚佳宏野々山智仁伊藤睦子高山秀男水木健二貞松良成川端秀仁呉輔仁丹羽康雄藤野雄次郎濱中輝彦吉川啓司中込豊安達京吉野啓髙橋義徳加藤卓次松崎栄島﨑美奈子高瀬正郎小林幸三谷貴一郎湯田兼次辻一夫鈴木高佳野原雅彦国立大学法人岐阜大学医学部附属病院川瀬和秀医療法人社団秀浩会花崎眼科医院花﨑秀敏医療法人社団優あい会小野眼科クリニック小野純治医療法人社団緑泉会南波眼科南波久斌吉村眼科内科医院吉村弦医療法人安間眼科安間正子医療法人大雄会大雄会クリニック伊藤康雄医療法人高橋眼科髙橋研一独立行政法人労働者健康福祉機構淺野俊哉中部労災病院医療法人湖崎会湖崎眼科湖崎淳医療法人創正会イワサキ眼科医院岩崎直樹尾上眼科医院尾上晋吾杉浦眼科杉浦寅男医療法人岩下眼科岩下憲四郎医療法人菅澤眼科医院菅澤啓二地方独立行政法人神戸市民病院機構栗本康夫神戸市立医療センター中央市民病院長田眼科肱黒和子医療法人眼科康誠会井上眼科井上康広島県厚生農業協同組合連合会廣島総合病院二井宏紀山口県厚生農業協同組合連合会小郡第一総合病院榎美穂医療法人広田眼科広田篤林眼科病院林研新井眼科医院新井三樹医療法人蔵田眼科クリニック蔵田善規医療法人しらお眼科医院白尾真日本赤十字社長崎原爆病院脇山はるみ医療法人出田会出田眼科病院川崎勉健康保険組合連合会大阪中央病院井上由美子表2おもな選択基準および除外基準1)おもな選択基準(1)20歳以上(2)性別:不問(3)入院・外来の別:外来(4)導入期終了日(9時30分±30分)の少なくとも片眼の眼圧が18mmHg以上,両眼とも34mmHg以下2)おもな除外基準(1)以下の①.③のいずれかに該当する〔①気管支喘息,またはその既往を有する,②気管支痙攣,重篤な慢性閉塞性肺疾患を有する,③心不全,洞性徐脈,房室ブロック(II,III度),心原性ショックを有する〕(2)角膜屈折矯正手術の既往を有する(3)緑内障手術(レーザー線維柱帯形成術,濾過手術,線維柱帯切開術など)の既往を有する(4)試験期間中にコンタクトレンズの装用を必要とする(5)安全性上不適格と判断される合併症または臨床検査値異常を有する(6)試験責任医師・試験分担医師が本試験の対象として不適当と判断する同意取得導入期登録/割付け治療期4週間4週間二重盲検DE-111群タフルプロスト点眼液タフルプロスト群併用群【導入期】・タフルプロスト点眼液:1日1回(朝)両眼点眼【治療期】・DE-111群プラセボ点眼液:1日2回(朝,夜)両眼点眼DE-111点眼液:1日1回(朝)両眼点眼・タフルプロスト群プラセボ点眼液:1日2回(朝,夜)両眼点眼タフルプロスト点眼液:1日1回(朝)両眼点眼・併用群チモロール点眼液0.5%:1日2回(朝,夜)両眼点眼タフルプロスト点眼液:1日1回(朝)両眼点眼図1試験デザイン(143)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131187 表3検査・観察スケジュール観察項目導入期治療期中止時導入期開始時(.4週)0週2週4週文書同意●被験者背景●点眼遵守状況●●●●血圧・脈拍数測定●●●●●細隙灯顕微鏡検査●●●●●視力検査●●●眼圧測定午前中(12時まで)●●9時30分±30分●●●点眼2時間後±30分●●点眼8時間後±30分●●隅角検査●視野検査●眼底検査●●●臨床検査(血液・尿)●●●有害事象●c.各種検査・測定血圧・脈拍数測定,細隙灯顕微鏡検査,視力検査,眼圧測定,隅角検査,視野検査,眼底検査および臨床検査(血液・尿)を表3のスケジュールで実施した.眼圧測定は,導入期開始時,治療期0週,2週および4週または中止時の眼圧をGoldmann圧平眼圧計にて測定した.眼圧測定時刻は,導入期開始時では午前中,治療期0週および4週では朝点眼前の午前9.10時,朝点眼2時間後±30分および朝点眼8時間後±30分,治療期2週では朝点眼前の午前9.10時とした.中止時の眼圧測定時刻は規定しなかった.d.有害事象試験期間中に発現・悪化したすべての好ましくない,または意図しない疾病,またはその徴候を収集した.6.併用禁止薬および併用禁止療法試験期間を通じて,人工涙液,白内障治療剤およびビタミンB12製剤を除くすべての眼局所投与製剤,経口および静注投与の眼圧下降剤,すべてのb遮断薬,副腎皮質ステロイド薬および他の臨床試験薬の投与を禁止した.また,試験期間中の,眼科レーザー手術,コンタクトレンズの装用などを禁止した.7.評価方法a.有効性の評価有効性評価眼は,治療期0週(朝点眼前)の眼圧の高いほうの眼(左右が同値の場合は右眼)とした.主要評価項目は,治療期終了時(治療期4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧の変化量とした.なお,平均日中眼圧は,朝点眼前,点眼2時間後および点眼8時間後の平均値と定義した.また,副次評価項目は,各測定時点における治療期0週からの眼圧変化量および眼圧変化率とした.b.安全性の評価有害事象,臨床検査,血圧・脈拍数および眼科的検査をもとに安全性を評価した.8.解析方法a.有効性解析対象有効性は,最大の解析対象集団(FullAnalysisSet:FAS集団)を対象として検討した.また,試験実施計画書に適合した解析対象集団(PerProtocolSet:PPS集団)についても解析し,FAS集団との相違について考察した.b.安全性解析対象安全性は,被験薬または対照薬を少なくとも1回点眼し,安全性に関する何らかの情報が得られている被験者(安全性解析対象集団)を対象とした.c.データの取り扱い検査・観察時期が許容範囲から外れた場合,検査前日の点眼をしていない場合,検査当日の朝の点眼を眼圧測定の前に行った場合,および治療期0週以降の眼圧測定時刻が許容範囲から外れた場合は,当該検査日の眼圧データをPPS集団から除外した.1188あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(144) d.解析方法主要評価および副次評価の解析には,投与群別に対応のあるt検定を行った.群間比較には,投与群を要因,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析を用いた.眼圧下降率20%の症例割合についてはFisherの直接法により群間比較を行った.安全性の解析のうち,有害事象については,発現例数と発現率を集計し,全体の発現率についてFisherの直接法を用いて群間の比較を行った.また,臨床検査値については,各検査項目別の異常変動の発現例数と発現率を集計し,連続量データについては,対応のあるt検定を,順序尺度データに関しては符号検定を行った.血圧・脈拍数については対応のあるt検定を行った.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)については符号検定を行った.検定の有意水準は両側5%とし,区間推定の信頼係数は両側95%とした.解析ソフトはSASversion9.2(株式会社SASインスティチュートジャパン)を用いた.II結果1.被験者の構成被験者の内訳を図2に示した.文書同意を得て試験に組入れられた被験者は574例で,導入期が開始された被験者は558例,治療期が開始された被験者は489例であり,無作為にDE-111群161例,タフルプロスト群164例,併用群164例に割り付けられた.治療期中に5例が試験を中止し(DE-111群2例,タフルプロスト群2例,併用群1例),484例が試験を完了した(DE-111群159例,タフルプロスト群162例,併用群163例).無作為化された症例のうち,治療期用試験薬が投与されなかった1例を除く488例(DE-111群161例,タフルプロスト群164例,併用群163例)を安全性解析対象集団とした.さらに,ベースライン眼圧(治療期0週)が得られなかった1例を除く487例(DE-111群161例,タフルプロスト群163例,併用群163例)をFAS集団に,併用禁止薬使用などにより眼圧値が不採用となった13例を除く474例(DE111群156例,タフルプロスト群159例,併用群159例)をPPS集団とした.FAS集団における被験者背景を表4に示した.いずれの背景因子についても,群間に偏りはみられなかった.2.有効性FAS集団における平均日中眼圧や,その変化量の推移を図3と表5に,平均日中眼圧変化量の群間比較を表6に示した.治療期0週の平均日中眼圧は,DE-111群で19.6±2.0mmHg,タフルプロスト群で19.2±2.1mmHg,併用群で19.3±2.2mmHgであり,治療期終了時(4週または中止時)には,DE-111群で17.0±2.4mmHg,タフルプロスト群で18.3±2.8mmHg,併用群で17.1±2.5mmHgであった.文書同意を得た被験者:574例導入期の試験薬が投薬された被験者:558例無作為割付された被験者:489例DE-111群:161例タフルプロスト群:164例併用群:164例治療期の試験薬が投薬された被験者:488例DE-111群:161例タフルプロスト群:164例併用群:163例試験を完了した被験者:484例DE-111群:159例タフルプロスト群:162例併用群:163例導入期の試験薬未投与例:16例試験開始後に不適格が判明:10例試験継続の拒否:6例導入期中止例:69例有害事象発現:13例試験開始後に不適格が判明:51例転院,転居,多忙:5例治療期の試験薬未投与例:1例併用群:1例治療期に中止した被験者:4例有害事象発現:1例(DE-111群)通院が不可能:1例(DE-111群)転院,転居,多忙:1例(タフルプロスト群)試験開始後に不適格が判明:1例(タフルプロスト群)図2被験者の内訳(145)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131189 表4被験者背景項目分類DE-111群タフルプロスト群併用群合計例数161163163487診断名原発開放隅角緑内障高眼圧症90(55.9)71(44.1)84(51.5)79(48.5)73(44.8)90(55.2)247(50.7)240(49.3)男85(52.8)68(41.7)82(50.3)235(48.3)性別女76(47.2)95(58.3)81(49.7)252(51.7)年齢平均値±標準偏差最小.最大65歳未満65歳以上61.6±11.626.8592(57.1)69(42.9)63.0±12.623.8581(49.7)82(50.3)60.6±13.623.8487(53.4)76(46.6)61.7±12.723.85260(53.4)227(46.6)緑内障前治療薬なしあり28(17.4)133(82.6)27(16.6)136(83.4)31(19.0)132(81.0)86(17.7)401(82.3)合併症なしあり17(10.6)144(89.4)18(11.0)145(89.0)21(12.9)142(87.1)56(11.5)431(88.5)導入期の隅角(Shaffer分類)3437(23.0)124(77.0)46(28.2)117(71.8)40(24.5)123(75.5)123(25.3)364(74.7)導入期の緑内障性視野異常異常なし異常あり89(55.3)72(44.7)94(57.7)69(42.3)101(62.0)62(38.0)284(58.3)203(41.7)導入期の緑内障性眼底異常異常なし異常あり71(44.1)90(55.9)74(45.4)89(54.6)88(54.0)75(46.0)233(47.8)254(52.2)導入期終了時の平均日中眼圧(mmHg)平均値±標準偏差最小.最大19.6±2.016.0.27.319.2±2.115.0.27.319.3±2.215.3.30.319.4±2.115.0.30.3導入期終了時のトラフ眼圧(mmHg)平均値±標準偏差最小.最大20.1±1.918.0.29.019.8±1.918.0.27.019.9±2.118.0.32.019.9±2.018.0.32.0例数(%).10-1-2-3眼圧変化量(mmHg)**NS**-4-50週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.**:p<0.001,NS:有意差なし(p>0.05).主要評価である治療期終了時(4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧の変化量(平均値±標準偏差)は,DE-111群で.2.6±1.8mmHg,タフルプロスト群で.0.9±1.7mmHg,併用群で.2.2±1.8mmHgであり,いずれの群も0週からの有意な眼圧下降を示した(p<0.001).また,DE-111群とタフルプロスト群の平均日中眼圧変化量の群間差(DE-111群.タフルプロスト群)は.1.7±0.21190あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013:DE-111群:タフルプロスト群:併用群0週治療期終了時図3平均日中眼圧変化量(平均値±標準偏差)mmHgであり,DE-111群はタフルプロスト群と比較して有意な眼圧下降を示した(p<0.001).DE-111群と併用群の平均日中眼圧変化量の群間差(DE-111群.併用群)は.0.3±0.2mmHg,95%信頼区間は.0.7.0.1mmHgであり,上限は事前に設定した非劣性マージン1.5mmHgを超えなかったことから,DE-111群の併用群に対する非劣性が証明された.副次評価である治療期2週(朝点眼前),4週(朝点眼前,点眼2時間後,点眼8時間後)の各測定時点における治療期0週からの眼圧変化量(平均値±標準偏差)は表7と図4に示した.DE-111群とタフルプロスト群の群間比較では,DE111群はすべての測定時点において有意な眼圧下降を示した(p<0.001).DE-111群と併用群の群間比較では,DE-111群は治療期4週朝点眼前を含め,すべての測定時点において劣らない眼圧下降を示した(表8).なお,PPS集団を対象とした解析でもFAS集団の有効性と相違のない結果が得られた.治療期終了時(4週または中止時)の治療期0週に対する平均日中眼圧の眼圧下降率が20%以上であった症例の割合は,DE-111群で19.9%,併用群で13.5%,タフルプロスト群で5.5%(図5)とDE-111群が最も大きく,タフルプロス(146) 表5平均日中眼圧とその変化量時期DE-111群タフルプロスト群併用群平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)平均日中眼圧(mmHg)変化量(mmHg)Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値0週19.6±2.0(161)..19.2±2.1(163)..19.3±2.2(163)..治療期終了時17.0±2.4(161).2.6±1.8(161)<0.00118.3±2.8(163).0.9±1.7(163)<0.00117.1±2.5(163).2.2±1.8(163)<0.001Mean±SD:平均値±標準偏差,p値:対応のあるt検定.表6平均日中眼圧変化量の群間比較DE-111群.タフルプロスト群(mmHg)DE-111群.併用群(mmHg)Mean±SE95%信頼区間p値Mean±SE95%信頼区間p値.1.7±0.2.2.1..1.3<0.001.0.3±0.2.0.7.0.10.098Mean±SE:平均値±標準誤差,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.表7眼圧実測値の推移および変化量時期DE-111群タフルプロスト群併用群眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)眼圧(mmHg)治療期0週からの変化量(mmHg)Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値Mean±SD(例数)Mean±SD(例数)p値0週朝点眼前20.1±1.9(161)..19.8±1.9(163)..19.9±2.1(163)..0週点眼2時間後19.8±2.4(161)..19.3±2.5(163)..19.3±2.4(163)..0週点眼8時間後18.9±2.4(161)..18.5±2.6(163)..18.6±2.7(163)..2週朝点眼前17.4±2.4(160).2.7±2.0(160)<0.00118.3±2.7(163).1.5±1.9(163)<0.00117.3±2.8(163).2.7±2.3(163)<0.0014週朝点眼前17.0±2.4(160).3.1±2.2(160)<0.00118.5±2.9(163).1.3±2.0(163)<0.00117.2±2.6(163).2.7±2.2(163)<0.0014週点眼2時間後17.0±2.5(160).2.8±2.1(160)<0.00118.4±3.1(162).0.9±2.1(162)<0.00117.0±2.6(163).2.4±2.1(163)<0.0014週点眼8時間後17.0±2.9(159).1.9±2.3(159)<0.00118.1±3.1(162).0.4±2.2(162)0.01417.0±3.0(163).1.6±2.2(163)<0.001Mean±SD:平均値±標準偏差,p値:対応のあるt検定.ト群と比較して有意であった(p<0.001).併用群との間には有意差はなかった.3.安全性a.有害事象および副作用安全性解析対象集団は,DE-111群161例,タフルプロスト群164例,併用群163例の計488例であった.治療期中に発現した有害事象と副作用の発現例数および発(147)現率を表9に,副作用一覧を表10に示した.有害事象は,DE-111群で23.0%(37/161例),タフルプロスト群で19.5%(32/164例),併用群で12.3%(20/163例)であった.そのうち,試験薬との因果関係が否定できない副作用は,DE-111群で10.6%(17/161例),タフルプロスト群で7.9%(13/164例),併用群で8.6%(14/163例)であった.有害事象の発現率は群間に有意差が認められたが,副作用の発あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131191 2322212019181716151413時間後0時間後時間後4時間後**************:DE-111群:タフルプロスト群:併用群図4眼圧実測値(平均値±標準偏差)0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.DE-111群とタフルプロスト群との比較:いずれもp<0.001(**).併用群とタフルプロスト群との比較:いずれもp<0.001(**).DE-111群と併用群との比較:いずれも有意差なし(p>0.05).症例割合(%)眼圧(mmHg)**表8眼圧実測値変化量の群間比較時期DE-111群.タフルプロスト群(mmHg)DE-111群.併用群(mmHg)Mean±SE95%信頼区間p値Mean±SE95%信頼区間p値2週朝点眼前.1.2±0.2.1.6..0.7<0.0010.0±0.2.0.4.0.50.9054週朝点眼前.1.7±0.2.2.2..1.3<0.001.0.3±0.2.0.8.0.10.1474週点眼2時間後.1.7±0.2.2.2..1.3<0.001.0.3±0.2.0.7.0.10.1864週点眼8時間後.1.4±0.2.1.8..0.9<0.001.0.2±0.2.0.7.0.30.384Mean±SE:平均値±標準誤差,0週の眼圧値を共変量とした共分散分析に基づく群間比較.3020100DE-111群タフル併用群プロスト群19.9%(32/161)5.5%(9/163)13.5%(22/163)図5治療期終了時に眼圧下降率20%以上であった症例の割合1192あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013現率は群間に有意差は認められなかった(有害事象:p=0.035,副作用:p=0.707).DE-111群のおもな副作用は,点状角膜炎(3.7%,6/161例)および結膜充血(3.1%,5/161例),タフルプロスト群のおもな副作用は,点状角膜炎(2.4%,4/164例)および結膜充血(2.4%,4/164例),併用群のおもな副作用は点状角膜炎(3.1%,5/163例)および結膜充血(1.8%,3/163例)と,共通の副作用が認められ,発現頻度に大きな差はなかった.いずれの群においても,副作用はすべて眼障害で重症度は軽度であり,試験中あるいは試験終了後に軽快または回復した.DE-111群の副作用により試験中止に至った被験者は,点状角膜炎を発現した1例(0.6%)で,軽度であり,試験薬の投与中止後に回復した.b.臨床検査DE-111群で総ビリルビン,総蛋白およびアルブミンが,(148) 表9治療期にみられた有害事象と副作用の発現例数および発現率DE-111群タフルプロスト群併用群検定(Fisherの直接法)例数161164163有害事象発現例数(%)37(23.0)32(19.5)20(12.3)p=0.035副作用発現例数(%)17(10.6)13(7.9)14(8.6)p=0.707表10副作用一覧DE-111群タフルプロスト群併用群例数161164163副作用発現例数(%)17(10.6)13(7.9)14(8.6)眼精疲労1(0.6)──眼瞼色素沈着──1(0.6)眼瞼炎──1(0.6)結膜炎─1(0.6)─眼瞼紅斑1(0.6)──眼刺激2(1.2)1(0.6)1(0.6)眼痛1(0.6)──眼充血2(1.2)─2(1.2)羞明──1(0.6)点状角膜炎6(3.7)4(2.4)5(3.1)霧視─1(0.6)─睫毛の成長──1(0.6)眼の異物感─1(0.6)─結膜充血5(3.1)4(2.4)3(1.8)眼瞼.痒症──1(0.6)眼.痒症1(0.6)1(0.6)2(1.2)例数(%).タフルプロスト群で血小板が,併用群で好酸球,総蛋白およびアルブミンが,投与前に比し有意な変動を示したが,これらの変動に関連する有害事象は認められなかった.また,薬剤との因果関係が否定できないとされた臨床検査値の異常変動は,DE-111群で0.6%(1/161例,項目:尿糖)に認められたが,試験終了後に基準値内へ回復した.c.血圧・脈拍数収縮期血圧,拡張期血圧について,0週と比較して有意な変動はいずれの群においても認められなかった.脈拍数について,0週と比較して有意な下降がDE-111群で2週(平均値±標準偏差,.2.0±7.5拍/分,p=0.001)および4週(.1.3±7.9拍/分,p=0.034)に,併用群で2週(.5.3±7.6拍/分,p<0.001)および4週(.5.3±8.6拍/分,p<0.001)に認められた.タフルプロスト群では,0週と比較して有意な変動は認められなかった.これらの脈拍数の変動は,臨床的に問題となるものではなかった.また,関連する有害事象は認められなかった.d.眼科的検査(細隙灯顕微鏡検査,視力検査)細隙灯顕微鏡検査所見について,0週と比較して有意なス(149)コアの上昇がDE-111群で4週の角膜フルオレセイン染色スコア(左眼:p=0.012)に認められたが,その他の項目に有意なスコアの変動は認められなかった.タフルプロスト群と併用群では,有意なスコアの変動は認められなかった.また,本スコアの変動について,関連する有害事象は認められたものの,すべて軽度であった.視力検査について,いずれの群でも有意な変動は認められなかった.III考察現在,わが国において発売されているPG関連薬とb遮断薬の配合点眼剤には,ラタノプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(ザラカムR配合点眼液),およびトラボプロストとチモロールマレイン酸塩の配合点眼液(デュオトラバR配合点眼液)がある.これらの点眼液についてPG関連薬単剤を対照とした臨床試験は,国内外で実施されており配合点眼剤の優越性が検証されている2.6)が,PG関連薬とb遮断薬の併用治療を対照とした臨床試験(二重盲検群間比較試験)は国内に報告がない.海外では併用治療を対照とした臨床試験の報告があり,非劣性が検証された報告7)もあるが,一部の測定時点で非劣性が検証されなかったり,配合点眼液の眼圧下降効果が併用治療を有意に下回ったとの報告8.10)もある.今回,DE-111点眼液のタフルプロスト点眼液単剤投与に対する優越性と,タフルプロスト点眼液およびチモロール点眼液0.5%(1日2回点眼)の併用治療との非劣性を同一試験で検証した.本試験では,主要評価である治療期終了時(4週または中止時)における治療期0週からの平均日中眼圧変化量において,DE-111群はタフルプロスト群と比較して有意な眼圧下降を示した.また,併用群と比較して劣らない眼圧下降を示し,PG関連薬とb遮断薬の併用治療に対する配合点眼液の非劣性が,国内で初めて検証された.各眼圧測定時刻について比較しても,朝点眼前(トラフ値),点眼2時間後および点眼8時間後のすべての眼圧測定時刻において,DE-111群は併用群と比較して劣らない眼圧下降を示した.DE-111点眼液は,PG関連薬とb遮断薬の併用治療に比べるとb遮断薬の点眼回数が1日2回から1日1回に減るが,DE-111点眼液によって眼圧が1日中コントロール可能であることが確認された.チモロールはpHなあたらしい眼科Vol.30,No.8,20131193 どさまざまな条件により眼内移行が変化することが知られており11),配合点眼液の製剤設計の違いが効果の持続性に影響する可能性が考えられる.また,眼圧下降達成率で比較して20%以上の眼圧下降が得られた症例の割合は,DE-111群で19.9%,併用群で13.5%,タフルプロスト群で5.5%と,DE-111群が最も大きく,タフルプロスト群と比較して有意差が認められた.安全性について,有害事象は,DE-111群で23.0%(37/161例),タフルプロスト群で19.5%(32/164例),併用群で12.3%(20/163例)に認められ,群間に有意差が認められたものの,DE-111群では鼻咽頭炎(3.7%,6/161例)などの試験薬との因果関係が否定されたものが多く,副作用発現率では群間に差はなかった.いずれの群においても副作用はすべて眼局所のもので,かつ軽度で,試験中あるいは試験終了後に軽快または回復した.また,いずれの群でも,重篤な副作用はみられなかった.DE-111群のおもな副作用は,点状角膜炎(3.7%,6/161例),結膜充血(3.1%,5/161例)であるが,これらの副作用はタフルプロスト点眼液および0.5%チモロール点眼液の副作用情報において既知のものであり,各単剤の安全性プロファイルを超えるものではなかった.よって,配合による副作用増大の懸念はないと考えられた.以上の結果から,PG関連薬単剤で眼圧下降効果が不十分な場合に,DE-111点眼液に変更することで,薬剤数および点眼回数を増やすことなく治療効果の増大が期待できる.また,すでにPG関連薬とb遮断薬を併用している場合には,DE-111点眼液に変更することで併用治療に劣らない治療効果が維持できるだけでなく,薬剤数および点眼回数が減ることで,アドヒアランス不良の患者ではより優れた治療効果が期待できる.以上,DE-111点眼液は緑内障治療において有用性の高い配合点眼液である.利益相反:広田篤(カテゴリーI:参天製薬)文献1)緑内障診療ガイドライン(第3版):日眼会誌116:3-46,20122)北澤克明,KP2035共同試験グループ:原発開放隅角緑内障および高眼圧症を対象としたラタノプロスト・チモロール配合剤(KP2035)の第III相二重盲検比較試験.臨眼63:807-815,20093)清野歩,佐々木英之,山田啓二:緑内障・高眼圧症治療剤トラボプロスト/チモロールマレイン酸塩配合点眼液「デュオトラバR配合点眼液」.眼薬理25:22-26,20114)PfeifferN:Acomparisonofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwithitsindividualcomponents.GraefesArchClinExpOphthalmol240:893-899,20025)HigginbothamEJ,FeldmanR,StilesMetal:Latanoprostandtimololcombinationtherapyvsmonotherapy.ArchOphthalmol120:915-922,20026)DiestelhorstM,AlmegardB:Comparisonoftwofixedcombinationsoflatanoprostandtimololinopen-angleglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol236:577581,19987)DiestelhorstM,LarssonL-I,forTheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12-week,randomized,double-masked,multicenterstudyofthefixedcombinationoflatanoprostandtimololintheeveningversustheindividualcomponents.Ophthalmology113:70-76,20068)DiestelhorstM,LarssonL-I,forTheEuropeanLatanoprostFixedCombinationStudyGroup:A12weekstudycomparingthefixedcombinationoflatanoprostandtimololwiththeconcomitantuseoftheindividualcomponentsinpatientswithopenangleglaucomaandocularhypertension.BrJOphthalmol88:199-203,20049)SchumanJS,KatzGJ,LewisRAetal:Efficacyandsafetyoffixedcombinationoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutiononcedailyforopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol140:242-250,200510)HughesBA,BacharachJ,CravenERetal:Athree-month,multicenter,double-maskedstudyofthesafetyandefficacyoftravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolutioncomparedtotravoprost0.004%ophthalmicsolutionandtimolol0.5%dosedconcomitantlyinsubjectswithopenangleglaucomaorocularhypertension.JGlaucoma14:392-399,200511)KyyronenK,UrttiA:EffectsofepinephrinepretreatmentandsolutionpHonocularandsystemicabsorptionofocularlyappliedtimololinrabbits.JPharmSci79:688-691,1990***1194あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(150)

25ゲージ黄斑円孔手術におけるアキュラス®とコンステレーション®の比較

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1181.1184,2013c25ゲージ黄斑円孔手術におけるアキュラスRとコンステレーションRの比較安藤友梨田中秀典谷川篤弘桜井良太堀口正之藤田保健衛生大学医学部眼科学教室PerformanceComparisonofAccurusRandConstellationRin25-GaugeMacularHoleSurgeryYuriAndo,HidenoriTanaka,AtsuhiroTanikwa,RyotaSakuraiandMasayukiHoriguchiDepartmentofOphthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicine目的:アキュラスRとコンステレーションR(ともにアルコン社)を25ゲージ黄斑円孔手術において比較することを目的とした.方法:特発黄斑円孔(stage3)38例を対象として,アキュラスRとコンステレーションRを用いて手術を行い,水晶体核乳化吸引時間(PEA),水晶体皮質吸引時間(I/A),硝子体.離作製時間(PVD),硝子体切除時間(VIT),液-空気置換時間(FAX),総手術時間をビデオより計測した.アキュラス群(A群)は20例,コンステレーション群(C群)は18例であり,角膜曲率半径,眼軸長,年齢に有意差はなかった.男女比のみに差があった(p=0.02)が,今回測定した手術時間には影響はないと考えた.結果:PEA,I/A,PVDは2群で有意差はなかった.VIT,FAX,総手術時間は有意にC群で短かった.VIT:A群5分38秒±37秒,C群4分11秒±52秒(p<0.01),FAX:A群2分1秒±28秒,C群1分27秒±30秒(p<0.01),総手術時間:A群29分52秒±1分52秒,C群27分31秒±2分35秒(p=0.01).結論:コンステレーションRの硝子体切除装置はカッター,吸引装置を中心として多くの点で改良が加えられており,25ゲージ手術に適した器械であると考えた.Purpose:TocomparetheperformanceofAccurusR(Alcon)andConstellationR(Alcon)in25-gaugemacularholesurgery.SubjectsandMethods:Weoperatedon38patientswithidiopathicmacularhole(stage3),usingeitherAccurusRorConstellationR,andmeasuredthedurationofphacoemulsification(PEA),cortexaspirationwithirrigationandaspiration(I/A),posteriorvitreousdetachmentformation(PVD),vitrectomy,fluid-airexchange(FAE)andtotalsurgerydurationfromthevideofilmofthesurgery.TheAccurusgroupincluded20patientsandtheConstellationgroup18patients.Wefoundnostatisticallysignificantdifferencebetweenthe2groupsincornealcurvatureradius,axiallengthorage,butdidfindasignificantdifference(p=0.02)inrelationtogenderthatseemedtohavelittleeffectonourresults.Results:WefoundnostatisticallysignificantdifferenceindurationofPEA,I/AandPVD,butdidfindasignificantdifferenceinthedurationofvitrectomyandFAE,asfollows:vitrectomy:Accurusgroup:5m38s±37s,Constellationgroup:4m11s±52s,(p<0.01);FAE:Accurusgroup:2m1s±28s,ConstellationRgroup:1m27s±30s(p<0.01).Fortotalsurgery,thedurationwas:Accurusgroup:29m52s±1m52s,Constellationgroup:27m31s±2m35s(p=0.01).Conclusion:OurresultssuggestthatConstellationRimprovestheefficacyofvitreouscuttingandaspiration,whichissuitablefor25-gaugevitrectomy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1181.1184,2013〕Keywords:アキュラスR,コンステレーションR,硝子体手術,黄斑円孔,25ゲージ.AccurusR,ConstellationR,vitrectomy,macularhole,25-gauge.はじめにた1).1980年代には23ゲージの器具が開発され,小児の硝20ゲージの硝子体切除システムは1970年代より標準的な子体手術に使用された2).器具として使用され,結膜切開と強膜創作製が行われてき2002年にFujiiらにより,25ゲージの経結膜無縫合硝子〔別刷請求先〕堀口正之:〒470-1192愛知県豊明市沓掛町田楽ヶ窪1-98藤田保健衛生大学医学部眼科学教室Reprintrequests:MasayukiHoriguchi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,FujitaHealthUniversitySchoolofMedicine,1-98Dengakugakubo,Kutsukake-cho,ToyoakeCity,Aichi470-1192,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(137)1181 体手術(transconunctivalsuturelessvitrectomysurgery)が発表された3).手術時間の短縮や強膜縫合や結膜縫合がないことなどの利点があり,手術後の疼痛が少なく創傷治癒も早いとされた.しかし,20ゲージに比較して多くのメリットがある一方,吸引孔が小さいので,吸引が弱く,硝子体切除や出血の除去などには多くの時間を要するという欠点がある.最近になって,最高5,000cpm(cutsperminute)のカットレイトが可能であり,dutycycleが変更できる器械(コンステレーションR,アルコン社)が発売された.Dutycycle(カッターの吸引口が開いている時間比率)を長くすることにより吸引はよくなり,カットレイトを速くすることにより網膜にかかる牽引は減少する.筆者らは,コンステレーションRとアキュラスR(アルコン社製で,カットレイトが最高2,500cpmであり,dutycycleが不変)を使用し,25ゲージ黄斑円孔手術を行った.手術手技にかかる時間を比較した.I対象および方法この研究はレトロスペクティブに行われた.1.対象2011年1月から2012年4月までに,一人の術者が25ゲ表1対象の背景Accurus群Constellation群p値症例数2018─性別(男性/女性)4/1610/80.02*平均年齢(歳)64.9±7.267.9±5.50.15**平均角膜曲率半径(mm)7.61±0.247.67±0.190.44**眼軸長(mm)23.43±0.9023.48±0.710.85**硝子体切除腔容積(ml)4.87±1.034.68±0.360.48***:c2検定,**:t検定.数値は平均値±標準偏差.ージシステムを用いて白内障硝子体同時手術を行った特発黄斑円孔症例38例(全例stage3)を対象として調査した.手術中に網膜裂孔ができた症例は除外した.除外した症例数はアキュラスRを使用した群(アキュラス群)で3例,コンステレーションRを使用した群(コンステレーション群)で4例であった.それぞれの器械を用いて手術を行った時期は以下のとおりである.アキュラス群:20症例.2011年1月から2012年3月.コンステレーション群:18症例.2012年4月から9月.男女比,年齢,角膜曲率半径,眼軸長は表1に示した.2.手術手技手術前にすべての症例から手術についての同意を得た.球後麻酔を行った後,角膜切開を行い,CCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)を完成し,水晶体核を乳化吸引し,I/A(灌流・吸引)handpiece(+双手吸引法)4)により皮質を吸引した.25ゲージトロッカーにて3ポートを作製し(クロージャーバルブのないもの),硝子体手術を開始した.カッターにて後部硝子体.離を作製し,OFFISS(opticalfiber-freeintravitrealsurgeysystem)120D5,6)を用いて硝子体を周辺まで除去した.トリアムシノロンにて内境界膜を.離した7).ここで眼内レンズを挿入した.その後に液-空気置換を行い,0.8.1.2mlの100%SF6(六フッ化硫黄)を注入した.PEAとI/A,硝子体切除の器械の設定は表2に示した.3.時間測定方法ビデオをみて手技の時間(水晶体核乳化吸引,皮質吸引,後部硝子体.離作製,硝子体切除,液-空気置換)を測定した.2群間の比較はc2検定とt検定を用いて検定した.p<0.05を有意差ありとした.II結果両群で黄斑円孔は閉鎖した.表2装置の設定Accurus群Constellation群PEAチップストレートストレート灌流圧(cmH2O)7575吸引圧(mmHg)180280I/A灌流圧(cmH2O)7575吸引圧(mmHg)500550硝子体切除灌流圧(mmHg)3535カッターの最大吸引圧(mmHg)600650カットレート(cpm)固定2,5005,000Dutycycle(%)2550FAE灌流圧(mmHg)3030最大吸引圧(mmHg)400450cpm:cutsperminute,dutycycle:吸引孔が開いている時間比率.1182あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(138) NS30:00:Accurus群p=0.01■:Constellation群35:0029:52±1:5227:31±2:352:001:37±0:231:38±0:20NS1:06±0:281:12±0:25時間(分:秒)25:001:4520:00:Accurus群時間(分:秒)1:30■:Constellation群15:001:1510:001:005:000:450:300:00Accurus群Constellation群0:15図3総手術時間の比較0:00水晶体核乳化吸引皮質吸引総手術時間は,コンステレーション群で有意に短かった.図1水晶体核乳化吸引,皮質吸引に要した時間の比較水晶体核乳化吸引時間,皮質吸引時間ともに有意差はなかった.NS:notsignificant.水晶体核乳化吸引時間,皮質吸引時間の結果を図1に示した.水晶体核乳化吸引時間はアキュラス群で1分37秒±23秒,コンステレーション群で1分38秒±20秒であり,有意差はなかった.皮質吸引時間はアキュラス群で1分6秒±28秒,コンステレーション群で1分12秒±25秒であり,有意差はなかった.後部硝子体.離作製時間,硝子体切除時間,液-空気置換時間を図2に示した.後部硝子体.離作製時間はアキュラス群で20秒±13秒,コンステレーション群で22秒±11秒であり,有意差はなかった.硝子体切除時間はアキュラス群で5分38秒±37秒,コンステレーション群で4分11秒±52秒であり,有意にコンステレーション群で短かった(p<0.01).液-空気置換時間は,アキュラス群で2分1秒±28秒,コンステレーション群で1分27秒±30秒であり,有意にコンステレーション群で短かった(p<0.01).総手術時間を図3に示した.アキュラス群で29分52秒±1分52秒,コンステレーション群で27分31秒±2分35秒であり,有意にコンステレーション群で短かった(p=0.01).III考按Rizzoら8)によりstandardcutterとultrahigh-speedcutterの比較が報告され,アキュラスRとコンステレーションRの比較は,柳田ら9)によって行われている.ともに複数の疾患に対して手術を行っており,ultrahigh-speedcutterとコンステレーションの優位性を結論している.筆者らは,stage3の黄斑円孔手術のみを対象とし,裂孔形成などの症例を除外して,手術手技に要する時間を分析した.疾患とstageを限定したほうが,2群の病態の差は少なくなり,より正確な比較が可能であると考えたからである.表1に示したように,2群間で,角膜曲率半径と眼軸長に差はなく,眼p<0.01:Accurus群■:Constellation群5:38±0:376:00硝子体.離作製液-空気置換NS硝子体切除0:20±0:130:22±0:114:11±0:522:01±0:281:27±0:30p<0.01図2硝子体.離作製,硝子体切除,液.空気置換に要した時間の比較5:305:004:304:003:303:002:302:001:301:000:300:00時間(分:秒)後部硝子体.離作製時間は差がなかったが,硝子体切除時間,液-空気置換時間ではコンステレーション群で有意に短かった.NS:notsignificant.(139)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131183 球の大きさにも差がないと推測される.男女比に差があったが,結果に差を及ぼすものではないと考えられる.白内障手術では,核乳化吸引と皮質除去時間に有意差がなかった.両群ともにストレートチップを同様の条件で行っているからであろう.コンステレーションRではKelmanチップなども使用できるので,さらに効率化できる可能性がある.しかし,黄斑円孔手術の白内障手術は,将来の白内障進行に対する予防手術の側面もあり,硬い水晶体核は少ないので差がでにくい可能性もある.硝子体切除時間は,コンステレーション群のほうが有意に短く,これは切除吸引効率の良さを示している.アキュラスRのカッターをはじめ多くの硝子体カッターは,閉鎖は空気圧で行い,開放はバネで行われる.このシステムでは閉鎖するときにバネが収縮するので,空気圧による閉鎖のトルクが減少する.コンステレーションRでは閉鎖も開放も空気圧で行われるので,閉鎖時に空気圧のトルクが減少することが少なくカッターの内刃に伝えられると思われる.このシステムはカットレイトを上げられるのみでなく,カッターの切れを良くすることができるであろう.高いカットレイトと良好な切れは手術者に安心感を与え,硝子体切除のストレスが減少する.コンステレーションRには,IOP(眼圧)コントロールという新しい装置が装備されている.灌流チューブ内圧から眼内圧を推測して,灌流圧を変化させ眼内圧を一定に保持することができる.このシステムにより眼球の虚脱を予防することができる.黄斑円孔手術では,カットを停止してカッターを用いて吸引のみ行う手技,つまり硝子体.離作製に有効である.硝子体.離作製では,視神経乳頭上,あるいは網膜上にカッターを位置し,カットを停止して吸引圧を上げ硝子体を吸引孔に嵌頓させる.つぎに,乳頭から離れる方向にカッターを動かし物理的に硝子体を網膜から.がす.虚脱の危険がないので術者は安心して吸引圧を上昇させることができる.しかし,今回の硝子体.離作製時間には差がなかった.これは吸引口を開放してから吸引をはじめ,硝子体が吸引孔に嵌頓するまでの時間がわずかであるからであろう.さらに,内境界膜.離時にはカットを停止して吸引のみで余剰のトリアムシノロン除去を行う.しかし,注入するトリアムシノロンの量が一定でないので,今回の分析では時間を計測しなかった.液-空気置換の時間は,コンステレーション群で有意に短かった.空気置換時にはIOPコントロールは作動せず,アキュラス群と同じシステムを用いている.空気灌流圧は30mmHgであり,液吸引圧にも大きな差はない.この結果は,コンステレーションRの吸引チャンバーのサイズや吸引カセットなどに多くの工夫がなされているからと思われる.黄斑円孔手術の網膜裂孔の形成に関しては,Rizzoの報告では,standardsystemで12症例中3症例,ultrahighspeedcutterでは11症例中0症例であった.筆者らはアキュラス群で20症例中3例,コンステレーション群で18症例中4例であった.筆者らの手術では,吸引のみによって硝子体.離を赤道部まで作製するため,裂孔の形成がカッターの優劣に左右されにくいと思われる.以上より,コンステレーションRの硝子体切除装置はカッター,吸引装置を中心として多くの点で改良が加えられており,25ゲージ手術の弱点である吸引効率の低さを補うものであると考えた.文献1)O’MallyC,HeintzRMSr:Vitrectomywithanalternativeinstrumentsystem.AnnOphthalmol7:585-588,591598,19752)PeymanGA:Aminiaturizedvitrectomysystemforvitreousandretinalbiopsy.CanJOphthalmol25:285-286,19903)FujiiGY,DeJuanEJr,HumayunMSetal:Initialexperienceusingthetransconjunctivalsuturelessvitrectomysystemforvitreoretinalsurgery.Ophthalmology109:1814-1820,20024)HoriguchiM:Instrumentationforsuperiorcortexremoval.ArchOphthalmol109:1170-1171,19915)HoriguchiM,KojimaY,ShimadaY:Newsystemforfiberopic-freebimanualvitreoussurgery.ArchOphthalmol120:491-494,20026)矢田弘一郎,谷川篤弘,中田大介ほか:手術用顕微鏡OMS800-OFFISSと120D観察レンズを用いた広角観察システムの使用経験.臨眼63:211-215,20097)HorioN,HoriguchiM,YamamotoN:Triamcinoloneassistedinternallimitingmembranepeelingduringidiopathicmacularholesurgery.ArchOphthalmol123:96-99,20058)RizzoS,Genovesi-EbertF,BeltingC:Comparativestudybetweenastandard25-gaugevitrectomysystemandanewultrahigh-speed25-gaugesystemwithdutycyclecontrolinthetreatmentofvariousvitreoretinaldiseases.Retina31:2007-2013,20119)柳田智彦,清水公也:25ゲージ硝子体手術におけるアキュラスRとコンステレーションRの硝子体切除時間の比較.あたらしい眼科29:869-871,2012***1184あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(140)

硝子体手術用眼内照明を用いた顕微鏡下強膜内陥術

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1177.1180,2013c硝子体手術用眼内照明を用いた顕微鏡下強膜内陥術櫻井寿也木下太賀草場喜一郎繪野亜矢子田野良太郎福岡佐知子高岡源真野富也多根記念眼科病院ScleralBucklingProcedurewithTwin27-GaugeIlluminationFibersforRhegmatogenousRetinalDetachmentToshiyaSakurai,TaigaKinoshita,KiichiroKusaba,AyakoEno,RyotaroTano,SachikoFukuoka,GenTakaokaandTomiyaManoTaneMemorialEyeHospital目的:これまで,裂孔原性網膜.離(RRD)に対する強膜内陥術は,顕微鏡と双眼倒像鏡を使い分けて使用する必要があった.そこで,双眼倒像鏡で行っていた裂孔の位置決めと冷凍凝固の工程を顕微鏡下で施行できれば,この手術方法を簡素化し,顕微鏡直視下で裂孔閉鎖を確実に施行できることが考えられる.今回,有水晶体眼内レンズ挿入眼にRRDが生じた症例を経験し,顕微鏡のみで強膜内陥術を行ったので報告する.対象および手術方法:36歳,女性.強度近視のため,1年前に両眼に有水晶体眼内レンズ挿入術を受けていた.1週間前からの右眼視野欠損のため,近医を受診し,RRDの診断を受け当院紹介となる.初診時所見として,前房に虹彩支持型の前房型アルチザンレンズが挿入されていた.眼底所見は上方からのRRDを認めた.VD=(1.0×sph.0.75D(cyl.0.5DAx65°).手術方法は網膜復位を得るため強膜内陥術を選択した.硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア光源を下方強膜に設置し,顕微鏡下でマーキングおよび冷凍凝固を行い,顕微鏡下でのみ強膜内陥術を完遂した.結果:術後,網膜は復位し,術2カ月後にはVD=(1.0×sph.0.75D(cyl.0.75DAx160°)を得た.結論:前房型アルチザンレンズが挿入されたRRDに対する強膜内陥術施行時の硝子体手術用眼内照明を用いた顕微鏡下手術は有用であった.今後,適応の検討は必要であるが,今回の方法は強膜内陥術施行時に積極的に活用する手技の一つになる可能性が示唆された.Purpose:Itiscommonlyacknowledgedthatscleralbucklingprocedure(SBP)forrhegmatogenousretinaldetachment(RRD)requiresbothmicroscopeandbinocularindirectophthalmoscope.Useofthemicroscopealoneformarkingretinalbreaksandperformingcryopexy,however,mightsimplifythesurgeryitselfandefficientlyachievecompletesealingoftears.WereportacaseinwhichSBPwasperformedusingonlyamicroscopeforRRDinaneyecontainingaphakicintraocularlens(IOL).Case:Thepatient,a36-year-oldfemale,hadahistoryofphakicIOLsurgeryinbotheyes1yearbefore.Sheconsultedanophthalmologistbecauseshehadvisualfieldlossinherrighteyefromaweekpreviously.Diagnosedwithretinaldetachment,shewasreferredtoourhospital.Intheinitialobservation,aniris-fixatedArtisananteriorchamberIOLwasinserted.Fundusobservationdisclosedretinaldetachmentatthesuperiorportion.Visualacuity(VA)ofherrighteyewas1.0×sph.0.75D(cyl.0.5DAx65°.SBPwasperformedwithtwin27-gaugechandelierilluminationinsertedattheinferiorsclera.Markingattheposterioroftheretinaltearandcryopexywereconductedunderamicroscopewithchandelierillumination.Results:Retinopexywasobtainedaftersurgery;at2monthsaftersurgery,VAinherrighteyemaintained1.0×sph.0.75D(cyl.0.75DAx160°.Conclusions:SBPperformedusingilluminationfibersunderamicroscopewasefficientfortreatingRRDinaneyecontaininganiris-fixatedArtisananteriorchamberIOL.Althoughitisnecessarytoconsidersuchadaptation,itissuggestedthatthismethodmightbecomeanoptionforproactiveuseinSBP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1177.1180,2013〕Keywords:裂孔原性網膜.離,強膜内陥術,シャンデリア照明.rhegmatogenousretinaldetachiment,scleralbacklingprocegure,chandelierillumination.〔別刷請求先〕櫻井寿也:〒550-0024大阪市西区境川1-1-39多根記念眼科病院Reprintrequests:ToshiyaSakurai,M.D.,TaneMemorialEyeHospital,1-1-39Sakaigawa,Nishi-ku,Osaka550-0024,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(133)1177 はじめに近年,硝子体手術機器の発達に伴い,特に顕微鏡をはじめとする観察系の進歩にはめざましいものがある1,2).これまで裂孔原性網膜.離(RRD)に対する強膜内陥術は術中に顕微鏡と双眼倒像鏡を使い分けて使用する必要があった.したがってこの手技は煩雑で,双眼倒像鏡を用いた眼底検査の熟練を要する.そこでこれまで双眼倒像鏡で行っていた裂孔の位置決めと冷凍凝固の工程を顕微鏡下でできることになれば,この手術方法を簡素化し,顕微鏡直視下での裂孔閉鎖を確実に施行しうることが考えられる.今回,有水晶体眼内レンズ挿入眼にRRDが生じた症例を経験し,術中に双眼倒像鏡を使用せず顕微鏡のみで強膜内陥術を行ったので報告する.I症例患者:36歳,女性.既往歴:強度近視のため,平成22年10月ごろに,両眼の有水晶体眼内レンズ挿入術を受けていた.現病歴:平成23年12月3日約1週間前からの右眼視野欠損のため近医を受診し,RRDの診断を受け,当院紹介となる.初診時所見:視力はVD=(1.0×sph.0.75D(cyl.0.5DAx65°),VS=(1.0×sph.0.25D),眼圧はRT=15mmHg,LT=17mmHg.前房に虹彩支持型の前房型アルチザンレンズが挿入されていた(図1).右眼眼底所見は上方2時方向格子状変性後極側に小さな弁状裂孔による胞状の網膜.離を認めた..離の範囲は上方アーケード血管近くまで認めたが,黄斑部に.離は及んでいなかった(図2).治療方法の選択は網膜を復位させ,可能ならば前房型アルチザンレンズと水晶体を温存すること,屈折度数の大幅な変化がないことが求められる.硝子体手術を施行すると術中視図1虹彩支持型の前房型アルチザンレンズ図2初診時眼底写真図3硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア眼内照明図4顕微鏡下網膜冷凍凝固の様子1178あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(134) 認性の問題や,術後白内障の進行などの点から硝子体手術ではなく強膜内陥術を選択した.通常の強膜内陥術では虹彩支持型有水晶体眼内レンズのため散瞳もやや不十分であり,周辺部眼底検査が問題となる.この点を解決するため,今回,双眼倒像鏡で行う裂孔の位置決めと冷凍凝固を顕微鏡下で行う方法を試みた.眼底観察用の光源は硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア眼内照明を用い,硝子体手術用レンズを通して裂孔の位置を観察する方法を考案した.経過:翌日にRRDに対し今回,考案した強膜内陥術を施行した.手術方法は球後麻酔の後,結膜切開,4直筋に牽引糸を付け,硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア眼内照明を裂孔の反対側である下方(6時)に輪部から4mmの強膜に装着(図3).双眼倒像鏡を使用せず,顕微鏡下にて裂孔の位置決め,冷凍凝固を行った(図4).一旦,眼内照明を抜去し,刺入部は8-0バイクリル糸で仮縫合を行った.5-0ダクロン糸による強膜マットレス縫合を設置.マットレス縫合は上直筋,外直筋付着部を周辺側とし,幅約8mmで通糸した.その後,経強膜的に網膜下液を排液し,シリコーンタイヤ(#220)を仮縫合した.再度眼内照明を設置し,顕微鏡下で裂孔と強膜内陥の位置を確認した後,本結紮し,結膜を8-0吸収糸で縫合し手術を終了した.II結果術後経過は翌日には網膜下液は吸収され,裂孔の閉鎖を認めた.術2カ月後の視力と屈折値はVD=(1.0×sph.0.75D(cyl.0.75DAx160°)と屈折度数に関しては術前と大きな変化はなかった.術後9カ月,網膜.離の再発および合併症は認めていない.III考察これまで強膜内陥術を施行する際には双眼倒像鏡を用いるのが通常であった.しかし,この方法は顕微鏡との併用で手術手技も煩雑であり,双眼倒像鏡を普段から使用し熟練する必要がある.裂孔原性網膜.離に対する治療方法として,特に最近の硝子体手術の発展に伴い,主たる治療方法が硝子体手術に移行しており3.7),強膜内陥術は限られた症例に対する治療法となっている.双眼倒像鏡を用いた強膜内陥術は必ず習得すべき手術手技であることは言うまでもないが,その施行機会そのものが減少している傾向にある.すなわち,顕微鏡単独で網膜.離手術を施行する機会が増えている現状がある.今回の特殊な症例に対し,強膜内陥術を施行する際に硝子体手術用27ゲージツインシャンデリア眼内照明を利用し双眼倒像鏡を用いず,顕微鏡単独での強膜内陥術手技を試みた.この方法の利点は,1)網膜硝子体手術可能な装備であれば新たな器具は必要としない,2)顕微鏡単独の方法のため(135)従来の双眼倒像鏡併用方法に比べ術式が簡便である,3)顕微鏡広角観察システムを用いればさらに簡便になる可能性がある,4)硝子体手術に慣れた術者への強膜内陥術の教育などが考えられる.特に,若年者の格子状変性に伴った萎縮円孔による網膜.離など強膜内陥術の適応例は存在し,強膜内陥術の手術手技は,網膜硝子体術者では必ず習得すべき手術手技である.日常診療の場から双眼倒像鏡に慣れ親しむことにより,術中の双眼倒像鏡使用への抵抗はないが,今回の手技であれば,顕微鏡手術による硝子体手術を習得できた術者にとっては利用しやすい手技となっている.したがって,強膜内陥術の教育という点でも,今回の手技は術者だけでなく,指導医がアシスタントを行う場合,裂孔の位置決めや冷凍凝固の手技を顕微鏡下で確認しあえることは大変有用なことと考えられる.問題点としては,今回の顕微鏡下での強膜圧迫は接触型プリズムレンズを使用したことで,通常の双眼倒像鏡や広角観察システムを使用する場合に比べ,網膜周辺部観察にはより強い強膜内陥が要求される.さらに眼底観察の範囲が狭く,裂孔の同定や発見がしにくいことも考えられる.一度設置された眼内照明も,冷凍凝固後の強膜への操作,強膜通糸,網膜下液の排液,バックル材料の設置の際には一旦除去し,眼底観察の際に再設置しなければならないなど,手技の煩雑さや感染の懸念など問題点もある.今回の症例の場合,実際には,まず,双眼倒像鏡での観察を行ったが,前房型アルチザンレンズが挿入されていることで詳細な眼底観察が困難であった.広角観察システムも用いたが,開瞼器,広角観察用前置レンズ,冷凍凝固プローブの位置関係や不慣れな操作に問題があり,眼底観察時間の超過で角膜乾燥による視認性の低下をきたしたために,接触型プリズムレンズを最終的に使用した.今後は,広角観察システムを用い,開瞼器をより大きく開瞼できるものへの変更や角膜リングを設置し角膜乾燥予防に努めるなどの工夫を凝らすことで,より視認性,視野の点で接触型プリズムレンズよりも有用ではないかと考えられる.眼内照明の必要性については,顕微鏡照明では,まず光源から網膜,つぎに網膜からの反射光と前房型アルチザンレンズを光が往復2回通過することになる.けれども,眼内照明の場合には眼内からの光による片方向のみであることから眼内照明を用いることでより正確な観察が可能ではないかと推測した.眼内照明の種類の選択は,今回の症例では網膜.離の範囲から,トロッカーに挿入するシャンデリア照明ではなくツインシャンデリアを用いたが,結果的には,一連の網膜.離に対する強膜への操作や,眼球コントロールを考えると,トロッカータイプのほうが優れていた可能性は否定できない.最後に,あくまで一般的な強膜内陥術の適応症例には,双眼倒像鏡を用いた手術が行われるべきであるが,今回のようあたらしい眼科Vol.30,No.8,20131179 な症例に対する強膜内陥術施行時には,眼内照明を用いた顕微鏡下手術は有用であった.今後,広角観察システムの活用により,術者の経験や適応の検討は必要であるが,強膜内陥術施行時に積極的に活用する手技の一つになる可能性が示唆された.本論文の要旨は第82回九州眼科学会にて発表した.文献1)GeorgeAW:27-Gaugetwinlightchandelierilluminationsystemforbimanualtransconjunctivalvitrectomy.Retina28:518-519,20082)井上さつき,中野紀子,堀井崇弘ほか:ワイドビューイングシステムを用いた裂孔原性網膜.離の手術成績.臨眼63:1135-1138,20093)樋田哲夫,荻野誠周(編):特集裂孔原生網膜.離─硝子体手術vs.強膜バックリング.眼科手術12:273-303,19994)河野眞一郎:術式の選択.眼科診療プラクティス69,裂孔原性網膜.離(丸尾敏夫ほか編),p30-33,文光堂,20015)AhmadiehH,MoradianS,FaghihiHetal:Anatomicandvisualoutcomesofscleralbucklingversusprimaryvitrectomyinpseudophakicandaphakicretinaldetachment:six-monthfollow-upresultsofasingleoperation─reportno.1.Ophthalmology112:1421-1429,20056)荻野誠周:裂孔原性網膜.離の硝子体手術成績─強膜バックリング法との比較.眼臨82:964-966,19887)大島佑介,恵美和幸,本倉雅信ほか:裂孔原性網膜.離に対する一次的硝子体手術の適応と手術成績.日眼会誌102:389-394,1998***1180あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(136)

線維柱帯切除術後の遷延性脈絡膜.離に対して白内障手術が効果的であったと思われる2症例3眼

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1174.1176,2013c線維柱帯切除術後の遷延性脈絡膜.離に対して白内障手術が効果的であったと思われる2症例3眼定秀文子竹中丈二望月英毅木内良明広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学EffectsofCataractSurgeryforPersistentChoroidalDetachmentafterTrabeculectomyAyakoSadahide,JojiTakenaka,HidekiMochizukiandYoshiakiKiuchiDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalScience,HiroshimaUniversity線維柱帯切除術(TLE)後に遷延性脈絡膜.離(CD)をきたした3眼の治療経過を報告する.症例1は53歳,男性.TLE術後3カ月目の眼圧は両眼とも4.6mmHgでCDが出現した.白内障も進行したため右眼白内障手術と強膜縫合を行った.左眼は白内障手術のみを行った.術後眼圧は両眼とも8mmHgになりCDは消失した.右眼の視力はTLE前より改善し左眼はTLE術前と同様になった.症例2は74歳,男性.左眼のTLE術後眼圧は6.10mmHgであったが,術後11日目からCDが生じて白内障が進行した.左眼白内障手術と脈絡膜下液排除を行った.術後眼圧は10mmHgでCDは消失し,左眼の視力は(1.2)になった.TLE後の遷延性CDに対して白内障手術単独,あるいは強膜縫合,脈絡膜下液排除を組み合わせて行いCDは消失した.TLE後に遷延したCDには白内障手術を中心とした治療が有用であると思われた.Wereporton3eyesof2patientswithpersistentchoroidaldetachment(CD)aftertrabeculectomy(TLE).Case1:A-53-year-oldmaleunderwentTLEinoculusuterque(OU).Postoperativeintraocularpressure(IOP)decreasedto4.6mmHg;CDoccurred3monthsafterTLE.CataractsurgerywasperformedinOU,withscleralflapsuturinginoculusdexter(OD).Afterthesurgery,CDresolvedandIOPincreased8mmHginOU.Visualacuity(VA)improvedinOD,butreturnedtopre-TLElevelinoculussinister(OS).Case2:A-74-year-oldmaleunderwentTLEinOS.PostoperativeIOPdecreasedto6.10mmHg.Onday7,CDoccurred.At14monthsafterTLE,cataractsurgerywithsubchoroidalfluiddrainagewasperformed.PostoperativeIOPwas10mmHg;CDgraduallydisappeared.CorrectedVAwasimprovedto1.2.CataractsurgerycanbeusefulasameansoftreatingpersistentCDafterTLE.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1174.1176,2013〕Keywords:線維柱帯切除術,白内障手術,脈絡膜.離.trabeculectomy,cataractsurgery,choroidaldetachment.はじめに線維柱帯切除術(TLE)は術後早期の合併症が少なくない.術後早期の濾過過剰に伴う浅前房,脈絡膜.離を避けるために強膜弁を強めに縫合し,濾過量が不足するときにはレーザー切糸術を併用して眼圧を調整する.術後早期に生じた脈絡膜.離の治療としてはアトロピン点眼,房水産生阻害薬の投与,ステロイド薬の点眼,内服が推奨され,外科的な処置としては空気や粘弾性物質の注入,脈絡膜下液排除などを行うことが教科書的に記載されている1).ところが遅延した脈絡膜.離に対する明確な治療法は今のところ確立されていない.今回線維柱帯切除術後に脈絡膜.離が遷延した3眼を経験した.白内障手術〔PEA(水晶体乳化吸引術)+IOL(眼内レンズ)〕単独,あるいは白内障手術に強膜弁縫合,または脈絡膜下液排除を組み合わせて行ったのでその治療経過を含めて報告する.I症例〔症例1〕53歳,男性.主訴は両眼の視力低下である.1997年頃両眼の開放隅角緑内障と診断された.点眼治療を行っていたが,2008年頃〔別刷請求先〕定秀文子:〒734-8551広島市南区霞1-2-3広島大学大学院医歯薬総合研究科視覚病態学Reprintrequests:AyakoSadahide,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,GraduateSchoolofBiomedicalScience,HiroshimaUniversity,1-2-3Kasumi,Minami-ku,Hiroshima734-8551,JAPAN117411741174あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(130)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY から両眼の視力低下が進行したため2008年4月に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時の視力は右眼0.1(0.7×sph.3.75D),左眼0.08(0.6×sph.3.25D(cyl.1.25DAx85°),眼圧は右眼22mmHg,左眼19mmHgであった.両眼Emery-Little分類でI度の白内障があった.眼軸長は右眼23.98mm,左眼23.86mmであった.両眼視神経乳頭は蒼白で陥凹拡大あり,開放隅角緑内障と診断した.治療と経過:2008年6月に左眼のTLE,2008年7月に右眼のTLEを行った.退院時の眼圧は右眼10mmHg,左眼10mmHgで,眼底に異常所見はなかった.2008年9月受診時(右眼術後2カ月目)の眼圧は右眼4mmHg,左眼6mmHgで,右眼の前房深度は浅く鼻下側に脈絡膜.離が出現していたため炭酸脱水酵素阻害薬(アセタゾラミド)の内服と散瞳薬(アトロピン・トロピカミドフェニレフリン塩酸塩)点眼を開始した.このときの左眼の前房深度は十分で脈絡膜.離はなかった.右眼の経過:2カ月経過しても右眼の前房は浅いままで脈絡膜.離が進行し3象限に及んだ.光干渉断層計(OCT)で:眼圧(mmHg):視力02468101214(1.0)(0.6)(0.2)脈絡膜.離出現PEA+IOL+強膜弁縫合眼圧(mmHg)181614121086420術後期間(カ月)図1症例1右眼の術後の眼圧と視力は低眼圧黄斑症はなかった.また,水晶体はEmery-Little分類でII度,後.下混濁も出現し白内障が進行した.右眼視力は0.02(0.1×sph.5.00D(cyl.1.00DAx10°)まで低下した.2008年11月(右眼術後4カ月目)右眼PEA+IOL+強膜弁縫合術を行った.PEA+IOL+強膜弁縫合術後1週間で脈絡膜.離はほぼ消失した.右眼眼圧は6.8mmHgで推移し脈絡膜.離の再発はなかった.視力も徐々に改善し術後3カ月目に(1.0×sph.6.00D(cyl.2.00DAx10°)となり,緑内障手術前より上がった(図1).左眼の経過:術後6カ月目の受診時の左眼眼圧は4mmHgであった.前房深度は1.77mmと浅く鼻下側に脈絡膜.離が出現していた.OCTで低眼圧黄斑症はなかった.薬物治療を行ったが,脈絡膜.離は2カ月間遷延した.水晶体はEmery-Little分類でII度,後.下混濁も出現し白内障が進行した.左眼視力は(0.3×sph.5.50D(cyl.1.25DAx20°)まで低下した.白内障手術による炎症で眼圧が上昇し脈絡膜.離が改善することを期待し2009年2月(左眼術後8カ月目)に左眼PEA+IOLを行った.眼圧は7.9mmHgで推移して脈絡膜.離は消失した.PEA+IOL術後5カ月で左眼の視力はTLE術前時の(0.6×sph.4.50D(cyl.3.00DAx10°)まで戻った(図2).〔症例2〕74歳,男性.主訴は両眼の視野狭窄である.1995年に両眼の開放隅角緑内障と診断され点眼治療を行っていた.2007年頃から両眼の眼圧のコントロールが不良となり左眼の視野障害も進行するため2008年4月に広島大学病院眼科に紹介されて受診した.初診時の視力は1.0(1.2×sph+2.25D(cyl.3.00DAx85°),左眼0.8(1.5×sph+0.75D(cyl.1.25DAx95°),眼圧は右眼18mmHg,左眼19mmHgであった.水晶体は両眼Emery-Little分類でⅠ度の白内障があった.眼軸長は右眼24.03mm,左眼23.56mmであった.両眼とも視神経乳頭は陥凹拡大があり開放隅角緑内障と診断した.治療と経過:2008年5月に左眼TLEを行った.術後7日:眼圧(mmHg):視力02468101214(1.0)眼圧(mmHg)1614121086420PEA+IOL脈絡膜.離出現(0.2)(0.6):眼圧(mmHg):視力0102030405060術後期間(カ月)眼圧(mmHg)20181614121086420脈絡膜下液排除+PEA+IOL脈絡膜.離出現(1.0)(0.6)(0.2)(1.5)術後期間(カ月)図2症例1左眼の術後の眼圧と視力図3症例2左眼の術後の眼圧と視力(131)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131175 表1まとめ症例1右眼左眼症例2視力術前術後(0.2)(1.0)(0.3)(0.6)(0.1)(1.2)眼圧術前術後4mmHg8mmHg4mmHg7mmHg6mmHg9mmHgCD発症時期術後3カ月術後6カ月術後11日目CD発症から白内障手術までの期間2カ月後2カ月後13カ月後CD:脈絡膜.離.目の左眼の視力は0.8(1.2×sph+0.50D(cyl.1.25DAx40°),眼圧は10mmHgであった.術後11日目の再診時には左眼眼圧は6mmHgで前房は浅くなり,鼻上側と鼻下側に脈絡膜.離が出現していた.眼圧は8mmHg前後で経過したが脈絡膜.離が進行した.検眼鏡検査では黄斑部に網膜皺襞はなかった.3象限にわたる脈絡膜.離が13カ月の間改善せず白内障が進行した.左眼の視力は(0.2×sph+0.50D(cyl.2.00DAx10°)に低下した.2009年7月(術後14カ月目)に左眼のPEA+IOLと脈絡膜下液排除術を行った.術後脈絡膜.離は徐々に改善し2カ月後左眼の眼圧は9mmHgで脈絡膜.離は消失した.術後左眼の視力は6カ月目に(1.2×sph.1.50D)になり,現在まで脈絡膜.離の再発はない(図3,表1).II考按線維柱帯切除術後の脈絡膜.離発症には過剰濾過や房水漏出などによる術後低眼圧あるいは眼内炎症が関与すると考えられている.多くが術後早期(1カ月以内)に出現し眼圧の上昇に伴い自然治癒し,外科的治療を要することは少ない1,2).しかし,遷延する脈絡膜.離,低眼圧黄斑症は視力障害をきたすことがあるため何らかの外科的治療が必要になる.眼圧を正常化させるための処置として,圧迫縫合(compressionsuture)や自己血注入,強膜弁縫合などがある.また,内眼手術を行うことで炎症が生じ濾過胞の縮小,眼圧上昇をきたすことがあることが知られている.原田ら3)の報告によれば,線維柱帯切除術の既往のある眼に白内障手術を行った12眼中2眼で術後眼圧が上昇し緑内障再手術が必要となっている.また,Rebolledaら4)は線維柱帯切除術後の眼に白内障手術を行った67眼中2眼は6カ月以内に緑内障再手術が必要になったと報告している.他にもKlinkら5)によれば線維柱帯切除術後の眼に白内障手術を行った30眼において1年後の眼圧は平均で約2mmHg上昇し,30眼中151176あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013眼は2mmHg以上眼圧が上昇したと報告している.AwaiKasaokaら6)は線維柱帯切除術後1年以内に白内障手術を行うと有意に眼圧が上昇すると報告している.Sibayanら7)は線維柱帯切除術後の低眼圧黄斑症に対して白内障手術が有効であった症例を報告している.白内障手術により炎症が起こることで濾過胞の瘢痕化,濾過機能の減弱を招きそれに伴い眼圧が上昇し低眼圧黄斑症が改善した.また,彼らは白内障がある線維柱帯切除術後の低眼圧黄斑症に対して,白内障の程度や低眼圧の期間に関係なく白内障手術が有益だと述べている.これを応用して線維柱帯切除術後の遷延する脈絡膜.離に対して白内障手術が有効であるとの報告がある8).筆者らはそれにならい遷延する脈絡膜.離に対して白内障手術を中心とした治療を行った.症例1の右眼にはPEA+IOL+強膜縫合,左眼にはPEA+IOLを単独で行った.症例2は左眼PEA+IOLと脈絡膜下液排除を行い3眼とも脈絡膜.離の改善,視力の改善が得られた.強膜弁の追加縫合や脈絡膜下液排除がどこまで有効であったかわからない.中崎ら9)は線維柱帯切除術後の脈絡膜出血に対して下液排除だけでは再発を繰り返す症例を報告している.線維柱帯切除術の術後に遷延する脈絡膜.離に対しては白内障手術を中心とした治療が有効であるといえる.遷延する脈絡膜.離の要因,適切な追加手術の時期など今後解明すべき点は多い.文献1)丸山勝彦:線維柱帯切除術後早期管理.眼科手術24:138142,20112)新田憲和,田原昭彦,岩崎常人ほか:線維柱帯切除術後の脈絡膜.離に関する臨床経過の検討.あたらしい眼科27:1731-1735,20103)原田陽介,望月英毅,高松倫也ほか:緑内障眼における白内障手術の眼圧経過への影響.あたらしい眼科25:10311034,20084)RebolledaG,Munoz-NegreteFJ:Phacoemulsificationineyeswithfunctioningfilteringblebs.aprospectivestudy.Ophthalmology109:2248-2255,20025)KlinkJ,SchmitzB,LiebWEetal:Filteringblebfunctionafterclearcorneaphacoemulsification.aprospectivestudy.BrJOphthalmol89:597-601,20056)Awai-KasaokaN,InoueT,TakiharaYetal:ImpactofphacoemulsificationonfailureoftrabeculectomywithmitomycinC.JCataractRefractSurg38:419-424,20127)SibayanSA,IgarashiS,KasaharaNetal:Cataractextractionasameansoftreatingpostfiltrationhypotonymaculopathy.OphthalmicSurgLasers28:241-243,19978)狩野廉:線維柱帯切除術中長期管理.眼科手術24:143148,20119)中崎徳子,原田陽介,戸田良太郎ほか:線維柱帯切除術後の上脈絡膜出血にシリコーンオイルのタンポナーデが奏功した2例.臨眼66:1537-1542,2012(132)

他のプロスタグランジン製剤が効果不十分であった症例に対するトラボプロスト点眼液の有効性の検討

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1171.1173,2013c他のプロスタグランジン製剤が効果不十分であった症例に対するトラボプロスト点眼液の有効性の検討橋爪公平*1,2長澤真奈*1,2黒坂大次郎*2*1北上済生会病院眼科*2岩手医科大学医学部眼科学講座EfficacyofTravoprostinPatientsUnresponsivetoOtherProstaglandinsKouheiHashizume1,2),ManaNagasawa1,2)andDaijiroKurosaka2)1)DepartmentofOphthalmology,KitakamiSaiseikaiHospital,2)DepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicineプロスタグランジン(PG)製剤は緑内障治療の第一選択薬であるが,ノンレスポンダーの存在も知られている.今回,他のPG製剤で効果不十分であった症例におけるトラボプロスト点眼液への切り替え効果について検討した.北上済生会病院に通院中の広義の開放隅角緑内障患者のうち,他のPG製剤が効果不十分でトラボプロスト点眼へ切り替えた症例を対象とした.効果不十分とは,①ベースラインから10%以下の眼圧下降,②視野欠損の進行のいずれかに当てはまることと定義した.切り替え前後の眼圧について,診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.対象症例は34例65眼であった.眼圧は切り替え前14.0±3.6mmHg,切り替え後13.3±3.4mmHgで,トラボプロスト点眼液への切り替えにより眼圧が有意に低下していた(pairedt-test:p=0.012).他のPG製剤が効果不十分であった症例に対して,トラボプロスト点眼液への切り替えが有効である可能性が考えられた.Prostaglandin(PG)ophthalmicsolutionsareconsideredthefirst-choiceforglaucomatreatment,butsomepatientsdonotrespondtoPGanalogues.WestudiedtheeffectsofswitchingtotravoprostinpatientsunresponsivetootherPGs.ThesubjectswerepatientsatKitakamiSaiseikaiHospitalwhohadopenangleglaucomaandswitchedtotravoprostduetoinsufficientresponsetootherPGs.Insufficientresponsewasdefinedaseitheri)intraocularpressure(IOP)reductionof<10%ofthebaselineorii)progressionofvisualfielddefect.IOPrecordswereretrospectivelyexaminedbeforeandafterswitching.Atotalof65eyesof34patientswereexamined.IOPswere14.0±3.6mmHgbeforeand13.3±3.4mmHgafterswitching,asignificantreductioninIOPafterswitchingtotravoprosteyedrops(pairedt-test,p=0.012).TheresultssuggestedthatswitchingtotravoprosteyedropsiseffectiveinpatientsunresponsivetootherPGs.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1171.1173,2013〕Keywords:プロスタグランジン製剤,トラボプロスト,ノンレスポンダー,切り替え,開放隅角緑内障.prostaglandin,travoprost,non-responder,switching,openangleglaucoma.はじめに緑内障はわが国においては中途失明2位を占める疾患で,その有病率は40歳以上で約5%と比較的高い疾患である.緑内障に対する治療はおもに点眼による薬物療法で,眼圧を下降させることにより視野欠損の進行リスクが軽減される1).プロスタグランジン(PG)製剤はプロスト系製剤とプロストン系製剤の2つに大別される.プロスト系PG製剤は強力な眼圧下降作用を有し,1日に1回の点眼で終日の眼圧下降が得られ,また全身の副作用がないことから,緑内障治療薬の第一選択薬となっている.現在わが国で4種のプロスト系PG製剤が承認されているが,そのうちラタノプロスト,タフルプロスト,トラボプロストの眼圧下降作用は同等で,およそ25.30%の眼圧下降作用を示すとされている2,3)が,その程度には個体差があり,眼圧下降が10%以下のいわゆるノンレスポンダーという症例も存在する.そこで今回は,他のPG製剤が効果不十分であった症例で,その点眼をトラボ〔別刷請求先〕橋爪公平:〒020-8505盛岡市内丸19-1岩手医科大学医学部眼科学講座Reprintrequests:KouheiHashizume,M.D.,DepartmentofOphthalmology,IwateMedicalUniversitySchoolofMedicine,19-1Uchimaru,MoriokaCity020-8505,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(127)1171 プロスト点眼液に切り替えた症例の眼圧の変化について検討したので報告する.I対象および方法対象は平成24年1月から6月に北上済生会病院を受診した広義の開放隅角緑内障患者のうち,過去に他のPG製剤(ラタノプロストまたはタフルプロスト)が効果不十分でトラボプロスト点眼へ切り替えたことがある症例を対象とした.本研究における「効果不十分」とは,①ベースラインから10%以下の眼圧下降作用しか得られていないこと,②点眼を継続しているにもかかわらず視野欠損が進行していることのいずれかに該当する症例と定義した.診療録をもとにレトロスペクティブに検討した.眼圧は通常の外来診療における任意の時間帯(8:30.17:00)に非接触眼圧測定装置(NIDEK社RKT-7700)を用いて測定した.低信頼度データを除く3メーターの測定値を平均し,その日の値とした.測定は切り替え直前・直後の連続する3回の受診時の計測値の平均をそれぞれ切り替え前眼圧,切り替え後眼圧とした.切り替え前後の眼圧をpairedt-testで統計学的に検討した.II結果他のPG製剤単剤からトラボプロスト点眼液単剤への切り替えを行った症例は34例65眼で,このうちラタノプロスト点眼液からの切り替えが23例46眼,タフルプロスト点眼液からの切り替えが11例19眼であった.また,他の緑内障点眼薬を併用し,その併用薬を変えずにPG製剤のみトラボプロスト点眼液へ切り替えた症例は15例28眼であった.他のPG製剤単剤からトラボプロスト点眼液単剤へ切り替えた症例では,眼圧は切り替え前14.0±3.6mmHg,切り替え後13.3±3.4mmHgで,切り替えによって眼圧が有意に低下していた(p=0.0078,図1).また,単剤同士の切り替え65眼中23眼(35%)で2mmHg以上の眼圧下降作用が得られた.さらに併用薬を変えずにPG製剤のみトラボプロスト点眼液へ切り替えた症例では,眼圧が切り替え前15.7±3.4mmHg,切り替え後14.7±2.6mmHgで,切り替えによって眼圧が有意に低下していた(p=0.025,図2).併用薬あり例の切り替え28眼中7眼(25%)で2mmHg以上の眼圧下降作用が得られた.III考按今回の検討では他のPG製剤で効果不十分でトラボプロストへ切り替えた症例を対象に検討した.そのなかで,効果不十分例は,ベースラインから10%以下の眼圧下降作用しか得られていない,いわゆるノンレスポンダーといわれる症例,あるいは視野欠損が進行している症例とし,日常の診療において点眼液の変更や追加が必要となる症例である.今回トラボプロストへの切り替えによる眼圧を比較し,単剤同士の切り替え・併用薬がある場合での切り替えともに有意に眼圧が低下した.このことから他のPG製剤で加療して効果が不十分であった症例に対して,bブロッカーや炭酸脱水酵素阻害薬などの他剤を追加する前にトラボプロストへの切り替えを試すことが治療の選択肢の一つになりうると考えられた.今回の検討では他のPG製剤(ラタノプロストとタフルプロスト)単剤からトラボプロスト単剤への切り替えにより,35%の症例で2mmHg以上の眼圧下降が得られた.ラタノプロスト単独投与からトラボプロスト単独投与への切り替え後の眼圧下降効果についてはすでにいくつかの報告がある.海外ではトラボプロストはラタノプロストなどの他のPG製剤と比較して,同等あるいはそれ以上の眼圧下降作用が得られたと報告されている4.6).わが国では湖崎らはラタノプロストからトラボプロストへの切り替えで約30%の症例で2mmHg以上の眼圧下降がみられたと報告し7),佐藤らは同じくラタノプロストからトラボプロストへの切り替えで36%の症例で2mmHgを超える眼圧下降が得られたと報告している8).今回の検討はこれらの報告と同等の結果と考えられる.15.7±3.42020014.0±3.613.3±3.4切り替え前切り替え後14.7±2.6眼圧(mmHg)眼圧(mmHg)15151050105切り替え前切り替え後図1単剤使用例の切り替えによる眼圧の変化図2併用薬あり例の切り替えによる眼圧の変化眼圧は切り替え前14.0±3.6mmHg,切り替え後13.3±3.4眼圧は切り替え前15.7±3.4mmHg,切り替え後14.7±2.6mmHgで,切り替えによって眼圧が有意に低下した(pairedmmHgで,切り替えによって眼圧が有意に低下した(pairedt-test:p=0.0078).t-test:p=0.025).1172あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(128) 今回の検討では眼圧に関してのみ比較検討を行った.緑内障治療における目標は視野欠損進行の抑制であるので,今後切り替え前後の視野欠損の進行速度についてさらなる検討が必要である.また,眼圧測定を非接触眼圧計にて行ったが,より正確な眼圧測定のためには,Goldmannアプラネーショントノメーターによる測定が望ましい.さらに点眼の切り替えによって,患者のアドヒアランスが一時的に向上した可能性は否定できない.これらの課題を含めたさらなる検討が今後必要である.他のPG製剤が効果不十分であった症例におけるトラボプロスト点眼液への切り替え効果について検討した.結果,トラボプロスト点眼液への切り替えが眼圧下降に有効である可能性が考えられた.本論文の要旨は第335回岩手眼科集談会(2013年,1月)にて発表した.文献1)LeskeMC,HejilA,HusseinMetal:Factorforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,20032)AptelF,CucheratM,DenisP:Efficacyandtolerabilityofprostaglandinanalogs:ameta-analysisofrandomizedcontrolledclinicaltrials.JGlaucoma17:667-673,20083)MansbergerSL,HughesBA,GordonMOetal:Comparisonofinitialintraocularpressureresponsewithtopicalbeta-adrenergicantagonistsandprostaglandinanaloguesinAfricanAmericanandwhiteindividualsintheOcularHypertensionTreatmentStudy.ArchOphthalmol125:454-459,20074)NetlandPA,LandryT,SullivanEKetal:Travoprostcomparedwithlatanoprostandtimololinpatientswithopen-angleglaucomaorocularhypertension.AmJOphthalmol132:472-484,20015)ParrishRK,PalmbergP,SheuWP:Acomparisonoflatanoprost,bimatoprost,andtravoprostinpatientswithelevatedintraocularpressure:a12-week,randomized,masked-evaluatormulticenterstudy.AmJOphthalmol135:688-703,20036)KabackM,GeanonJ,KatzGetal:Ocularhypertensiveefficacyoftravoprostinpatientsunsuccessfullytreatedwithlatanoprost.CurrMedResOpin21:1341-1345,20047)湖崎淳,大谷伸一郎,鵜木和彦ほか:トラボプロスト点眼液の臨床使用成績─眼表面への影響.あたらしい眼科26:101-104,20098)佐藤里奈,野崎実穂,高井祐輔ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの切替え効果.臨眼64:1117-1120,2010***(129)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131173

プロスト系プロスタグランジン関連薬からビマトプロストへ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度

2013年8月31日 土曜日

《原著》あたらしい眼科30(8):1165.1170,2013cプロスト系プロスタグランジン関連薬からビマトプロストへ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度松原彩来徳田直人金成真由井上順高木均上野聰樹聖マリアンナ医科大学眼科学教室IntraocularPressureChangeafterSwitchingtoBimatoprostfromOtherProstaglandinAnaloguesandFrequencyofAdverseEffectSairaMatsubara,NaotoTokuda,MayuKanari,JunInoue,HitoshiTakagiandSatokiUenoDepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine目的:プロスト系プロスタグランジン関連薬(以下,PG関連薬)からビマトプロスト(以下,ビマト)へ切り替え後の眼圧推移と副作用発現頻度を検討した.対象および方法:対象はラタノプロスト(以下,ラタノ),トラボプロスト(以下,トラボ),タフルプロスト(以下,タフル)のいずれかを使用中の患者50例50眼(平均59.7歳).使用中のPG関連薬をビマトへ切り替えた際の眼圧の推移,生存分析,副作用発現頻度について12カ月間観察し検討した.比較対照群はラタノからトラボまたはタフルへ切り替えた患者75例75眼(平均61.0歳)とした.結果:ビマトへの切り替え前後で眼圧は18.8mmHgから15.6mmHgへと有意に下降した(p<0.01:pairedt-test).切り替え後12カ月での生存率はビマト群54.0%に対し,比較対照群は38.7%であった(Logranktestp=0.19).ビマトへ切り替え後,重瞼ラインの深化(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES)が憎悪し点眼中止とした症例が3眼(6.0%)存在した.結論:PG関連薬からビマトへの切り替えにより更なる眼圧下降が持続的に得られることもあるが,DUESが悪化する症例も存在する.Purpose:Toevaluateintraocularpressure(IOP)changeandadverseeffectsafterswitchingfromotherprostaglandinanalogues(PG)tobimatoprost(Bimato).Method:Subjectscomprised50eyesof50patients(meanage:59.7years)whohadbeentreatedwitheithertravoprost(Travo),tafluprost(Taflu)orlatanoprost(Latano).WeexaminedIOPchange,survivalanalysisandadverseeffectsofBimatoafterswitchingfrom12monthsofotherPG.Thecontlolgroupcomprised75eyesof75patients(meanage:61.0years)whoswitchedfromLatanotoTravoorTaflu.Result:ResultsshowedsignificantIOPdecreaseintheBimatogroupaveragingfrom18.8mmHgto15.6mmHg(p<0.01:pairedt-test)at1monthafterswitching.At12monthsafterswitching,weobservedasurvivalrateof54.0%intheBimatogroupand38.7%inthecontrolgroup(Logranktestp=0.19).Threepatients(6.0%)withdrewfromthestudyduetodeepeninguppereyelidsulcus(DUES)thatwasworsening.Conclusion:WeobservedfurtherIOPdecreasewithswitchfromotherPGtoBimato,andworseningofDUES.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1165.1170,2013〕Keywords:プロスタグランジン関連薬,ビマトプロスト,点眼切り替え,緑内障点眼薬副作用,重瞼ラインの深化(DUES).prostaglandinanalogues,bimatoprost,switching,adverseeffectsoftopicalocularhypotensivedrug,deepeninguppereyelidsulcus(DUES).はじめにプロストがある.ビマトプロストは2001年からすでに米国今日の眼科臨床においてわが国で使用可能なプロスト系プでは使用されており,眼圧下降効果や安全性について多くのロスタグランジン関連薬(以下,PG関連薬)には,ラタノ報告がある1.8).ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト,そしてビマトプロストはプロスタグランジンF2a誘導体(以下,PGF2a誘〔別刷請求先〕松原彩来:〒216-8511川崎市宮前区菅生2-16-1聖マリアンナ医科大学眼科学教室Reprintrequests:SairaMatsubara,M.D.,DepartmentofOphthalmology,StMariannaUniversitySchoolofMedicine,2-16-1Sugao,Miyamae-ku,Kawasaki-shi216-8851,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(121)1165 導体)でありFP受容体に作用するのに対し,ビマトプロストはプロスタマイドF2a誘導体でありプロスタマイド受容体に作用する点で前者3剤と異なる.このため,ビマトプロスト以外のPG関連薬を使用中の症例に対してビマトプロストへの切り替えを行うことにより更なる眼圧下降が期待できる可能性がある.わが国でもラタノプロストからビマトプロストへの切り替えにより眼圧下降効果を示したという報告9.11)はあるが,ビマトプロストへの切り替え後12カ月まで調査し,眼圧下降効果の持続性について検討した報告はない.そこで今回筆者らは,日本人を対象としてビマトプロスト以外のPG関連薬を使用中の状態からビマトプロストへ切り替えを行い,その後の眼圧下降効果とその持続性,副作用発現頻度についてレトロスペクティブに検討したので報告する.I対象および方法対象は,ラタノプロスト(製品名:キサラタンR点眼液0.005%,ファイザー株式会社),トラボプロスト(製品名:トラバタンズR点眼液0.004%,日本アルコン株式会社),タフルプロスト(製品名:タプロスR点眼液0.005%,参天製薬株式会社)のいずれかを使用中の緑内障患者50例50眼(原発開放隅角緑内障29例,落屑緑内障6例,続発緑内障6例,正常眼圧緑内障5例,混合緑内障4例)で,平均年齢は59.7±12.9歳である.対象の50例のうち,PG関連薬単剤のものが9例であり,残りの41例は多剤併用症例であった.対象の切り替え前の詳細を表1に示す.使用中のPG関連薬をウォッシュアウト期間なしでビマトプロスト(製品名:ルミガンR点眼液0.03%,千寿製薬株式会社)へ切り替え後の眼圧の推移,副作用出現頻度について検討した.比較対照群は,ラタノプロストからトラボプロス表1ビマトプロスト変更前の抗緑内障点眼の詳細単剤/多剤(症例数)切り替え前抗緑内障点眼薬症例数単剤ラタノプロスト7例トラボプロスト1例(9例)タフルプロスト1例ラタノプロスト+b遮断薬9例ラタノプロスト+CAI1例2剤併用トラボプロスト+b遮断薬5例(22例)トラボプロスト+CAI3例タフルプロスト+b遮断薬1例多剤併用タフルプロスト+CAI3例(41例)ラタノプロスト+b遮断薬+CAI4例3剤併用ラタノプロスト+b遮断薬+a1遮断薬1例(16例)トラボプロスト+b遮断薬+CAI5例タフルプロスト+b遮断薬+CAI6例4剤併用(3例)トラボプロスト+b遮断薬+CAI+a1遮断薬3例CAI:炭酸脱水酵素阻害薬.表2ラタノプロストをトラボプロストまたはタフルプロストに変更後の抗緑内障点眼の詳細単剤/多剤(症例数)切り替え後抗緑内障点眼薬症例数単剤(22例)トラボプロストタフルプロスト12例10例トラボプロスト+b遮断薬17例2剤併用トラボプロスト+CAI2例(26例)タフルプロスト+b遮断薬4例多剤併用(53例)タフルプロスト+CAI3例トラボプロスト+b遮断薬+CAI15例3剤併用(27例)トラボプロスト+b遮断薬+a1遮断薬2例タフルプロスト+b遮断薬+CAI10例1166あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(122) トまたはタフルプロストへ切り替えた75例75眼(原発開放隅角緑内障47例,落屑緑内障5例,続発緑内障1例,正常眼圧緑内障13例,混合緑内障2例,原発閉塞隅角緑内障7例)で,平均年齢は61.0±14.3歳であった.比較対照群については,75例中PG関連薬単剤からの切り替えが23例,多剤併用症例からの切り替えが52例であった.比較対照群の切り替え前の詳細を表2に示す.多剤併用例については,併用薬はそのまま継続とした.なお,コンタクトレンズ装用者,過去1年以内に眼科手術の既往がある者は対象から除外した.眼圧は,Goldmann圧平式眼圧計で測定を行い,点眼切り替え前3回の眼圧平均値をベースライン眼圧とした.経過観察期間は点眼切り替え後12カ月間とし,点眼変更後1カ月ごとに眼圧測定を行い,点眼切り替え前の眼圧と点眼切り替え後の眼圧についてはpairedt-testにより検定した.群間の比較についてはTukey検定を行った.眼圧下降率については,以下の計算式から算出した.眼圧下降率(%)=(IOPpre.IOPpost)×100IOPpreIOPpre:切り替え前眼圧,IOPpost:切り替え後眼圧.点眼変更後の眼圧下降効果の持続性について,KaplanMeier生存分析により検討した.死亡定義は2回連続で切り替え前の眼圧と同等,または上回る時点,またはレーザー治療を含めた手術加療を行った時点とし,Logrank-testにより検定を行った.眼圧(mmHg)252015100II結果1.眼圧図1にビマトプロストへの切り替え前後の眼圧推移と比較対照群の眼圧推移を示す.ビマトプロストへの切り替え前の平均眼圧は18.7±3.0mmHgが,切り替え後2カ月で16.9±3.4mmHg,切り替え後6カ月で16.4±4.2mmHg,切り替え後12カ月で15.6±2.9mmHgと各測定点で有意な眼圧下降を示した(p<0.01:pairedt-test).比較対照群における点眼薬切り替え前の平均眼圧は17.4±3.6mmHgであり,切り替え後2カ月で16.2±3.3mmHg,切り替え後6カ月で15.8±3.1mmHg,切り替え後12カ月で15.6±3.3mmHgと,こちらも各測定点で有意な眼圧下降を示した(p<0.01:pairedt-test).なお,ビマトプロストに変更後1カ月以内に,1mmHg以上の眼圧上昇を認めた症例が3例存在したが,3例とも1mmHgの上昇であった.そのうちの1例は2カ月後に重瞼ラインの深化(deepeningofuppereyelidsulcus:DUES)出現につき中止,その他の2例はともに8カ月後に眼圧コントロール不良を理由に点眼変更となった.図2にビマトプロスト切り替え群と比較対照群の眼圧下降率の推移を示す.ビマトプロスト切り替え群の眼圧下降率は切り替え後,2.4カ月,6.8カ月,10カ月の時点で比較対照群に比し有意な眼圧下降率を示した(unpairedt-test).2.累積生存率図3にビマトプロストへの切り替え後12カ月の累積生存率について示す.比較対照群の切り替え後の累積生存率が38.7%に対して,ビマトプロスト切り替え群は54.0%************************切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後2カ月4カ月6カ月8カ月10カ月12カ月経過観察期間図1ビマトプロスト切り替え群と比較対照群の眼圧推移の比較:ビマトプロスト切り替え群,:比較対照群.*:p<0.01:pairedt-test,すべての観察点において有意差を認めた.(123)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131167 眼圧下降率(%)50403020100切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後切り替え後************2カ月4カ月6カ月8カ月10カ月12カ月経過観察期間図2ビマトプロスト切り替え群と比較対照群の眼圧下降率の推移:ビマトプロスト切り替え群,:比較対照群.*:p<0.05:unpairedt-test,**:p<0.01:unpairedt-test.54.0%0246810121.00.80.60.40.2038.7%累積生存率生存期間(カ月)図3ビマトプロスト切り替え群と比較対照群の累積生存率の比較:ビマトプロスト切り替え群,:比較対照群.Logranktestp=0.19.(Logranktestp=0.19)と有意差は認めないものの,ビマトプロスト切り替え群のほうが長期間眼圧下降を維持する傾向がみられた.3.副作用表3にビマトプロストへの切り替え後の副作用出現頻度について示す.ビマトプロスト切り替え群の副作用発現頻度は28.0%であり,比較対照群9.4%より有意に多く発症した(c2検定p=0.013).特に,ビマトプロスト切り替え群でDUESを10例に認め,そのうちDUES増悪のため点眼中止とした症例が3例存在した.それらの症例については点眼中止により速やかに症状の改善が得られた.その他,眼瞼色素沈着,結膜充血,睫毛増加,三叉神経痛が認められる症例が存在1168あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013表3点眼切り替え後の副作用症例の内訳ビマトプロスト切り替え群副作用出現症例比較対照群副作用50例中14例(28.0%)(副作用出現頻度)(うち2例は副作用重複*)75例中9例(9.4%)DUES10例(20.0%)0例(0.0%)眼瞼色素沈着2例(4.0%)0例(0.0%)結膜充血2例(4.0%)2例(2.7%)睫毛増加1例(2.0%)0例(0.0%)三叉神経痛1例(2.0%)0例(0.0%)眼刺激症状0例(0.0%)3例(4.0%)掻痒感0例(0.0%)2例(2.7%)*:ビマトプロスト切り替え群のうち2例は,DUESと眼瞼色素沈着,DUESと三叉神経痛を合併.した.III考按緑内障診療ガイドライン12)の緑内障治療薬の項でも,薬剤の効果が不十分な場合は,まず薬剤の変更を考慮することが推奨されている.ビマトプロストが使用可能となって以降,ラタノプロストなどのPGF2a誘導体を使用中で眼圧下降が不十分な症例に対して,ビマトプロストへの切り替えを試みたところ,更なる降圧が得られた症例を多く経験した.しかし,薬剤の切り替え時にはアドヒアランスの向上などにより薬効が過大評価されることがあるため,点眼切り替え後の眼圧下降効果を評価するためには,ある程度長期的な観察が必要と考え,点眼切り替え後1年間の経過観察期間についても検討した.以下,結果について考察する.眼圧下降率については,ビマトプロストの眼圧下降率は既(124) 報では22.6.36.0%4.7)とされている.特にCantorらの報告4)では原発開放隅角緑内障あるいは高眼圧症患者14例に対しビマトプロストを6カ月間投与したところ,6カ月後の眼圧下降率は34.0.36.0%とされており,優れた眼圧下降とその持続性を指摘している.これらの報告と比較し今回の筆者らの検討では,ウォッシュアウト期間なしでPG関連薬からビマトプロストへの切り替えを行っていること,多剤併用症例からのビマトプロストへの切り替え投与としていること,ビマトプロストへの切り替え前の眼圧が11.5.23.5mmHgと多岐にわたっていたこともあるため,単純な比較はできないが,正常眼圧緑内障が多い日本人を対象としている背景も考慮すると,既報に劣らず,十分な眼圧下降効果が得られたといえるのではないかと考える.ビマトプロストへの切り替え後の眼圧下降効果の維持については,広田ら11)はラタノプロストで効果不十分であった症例について,ビマトプロストへの切り替え後6カ月までの眼圧推移を示し,眼圧下降効果が維持されたことを報告している.今回の比較対照群としたラタノプロストからトラボプロストへ,ラタノプロストからタフルプロストへの切り替えについてはいくつかの報告13,14)はあるが,経過観察期間が6カ月以下と短いうえ,眼圧下降効果の持続性について言及している報告は筆者らが検索した限りではみられなかった.抗緑内障点眼薬は多くの場合で長期間使用することが多いため,眼圧下降効果の持続性は重要であると考えられる.そこで今回の検討では,眼圧下降効果の持続性について厳密に検討する目的で,生命分析を利用して評価した.その結果,ビマトプロスト切り替え群の1年生存率は54.0%と有意差は認めないものの,比較対照群に比べ高い生存率を示していた.ビマトプロストへの切り替え後に眼圧下降が維持できた症例が半数以上存在したということは,ビマトプロスト以外のPG関連薬からビマトプロストへの切り替えによる更なる降圧の可能性を示唆する結果とも考えられる.この結果についての関連因子を検討する目的で生存症例27例と,死亡症例23例でその背景因子を比較したところ,病型,年齢,切り替え前眼圧,併用薬剤数ともに統計学的有意差は認められなかった.PG関連薬においては,眼圧下降効果が得られにくい,いわゆるノンレスポンダーが存在するといわれている.過去の報告では,眼圧下降率10.0%以下をノンレスポンダーと定義した場合,ラタノプロストでは15.0.30.0%15,16)に,タフルプロストでは12.8.18.2%17)認められたとしており,ノンレスポンダーがある一定の割合で存在することを指摘している.Gandolfiら18)はラタノプロストのノンレスポンダーに対してビマトプロストに切り替えた15例中13眼で切り替え後20%以上の眼圧下降を得た,と報告している.今回の対象でもビマトプロスト切り替え前のPGF2a誘導体の眼圧下(125)降率が10%未満の症例がどの程度存在したかを調査してみたが,ラタノプロストを使用前にすでに交感神経b遮断薬などが使われている場合や,多剤併用の症例が多く,純粋なノンレスポンダーを抽出することは不可能であった.しかし,今回の対象のなかにはPGF2a誘導体により10%以上眼圧下降が得られた症例も多く含まれており,これらの症例においてもビマトプロストへの切り替えで更なる眼圧下降が得られた可能性が示唆されたという事実は,日常臨床において,治療経過中に視野異常の悪化などにより目標眼圧をさらに低く設定し直す際にもビマトプロストへの切り替えは一つのよい選択肢となりうると考える.副作用に関しては,ビマトプロストへの切り替え群で副作用出現率が多く生じたという印象であった.比較対照群との目立った相違点は,ビマトプロストへの切り替え群ではDUESが10例と多く出現した点である.DUESについて日本人を対象とした報告ではAiharaら19)が25例中11例でDUES陽性であったとしており,今回の筆者らの報告よりもさらに高い頻度であった.また,丸山ら20)は,各種PG関連薬のDUES発生頻度については差がある可能性についても指摘している.今回の症例では,ビマトプロストへ切り替え後,DUES増悪のため,点眼中止とした3例については点眼中止により速やかに症状は改善したが,今後この変化がどの程度で不可逆性の変化になるのかについては注意深い観察を要すると考える.以上,PGF2a誘導体を使用中の状態からビマトプロストへ切り替えを行った症例についてレトロスペクティブな検討を報告した.ビマトプロストへの切り替えにより更なる眼圧下降が持続的に得られる可能性が示唆されたが,DUESなどの副作用についても十分な配慮が必要であると考える.今後はビマトプロストへの切り替え後も無効であった症例についての検討なども含めて,更なる長期的な検討を行っていく予定である.本論文の要旨は第22回日本緑内障学会(2011年)で発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)BrandtJD,VanDenburghAM,ChenKetal:Comparisonofonce-ortwice-dailybimatoprostwithtwice-dailytimololinpatientswithelevatedIOP.A3-monthclinicaltrial.Ophthalmology108:1023-1032,20012)CantorLB,HoopJ,MorganLetal:Intraocularpressurloweringefficacyofbimatoprost0.03%andtravoprost0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol90:1370-1373,2006あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131169 3)WhitcupSM,CantorLB,VanDenburghAMetal:Arandomizeddoublemasked,multicentreclinicaltrialcomparingbimatoprostandtimololforthetreatmentofglaucomaorocularhypertension.BrJOphthalmol87:57-62,20034)CantorLB,WuDunnD,CortesAetal:Ocularhypertensiveefficacyofbimatoprost0.03%andtravoprost0.004%inpatientswithglaucomaorocularhypertension.SurvOphthalmol49(Suppl1):S12-S18,20045)ChenMJ,ChengCY,ChenYCetal:Effectsofbimatoprost0.03%onocularhemodynamicsinnormaltensionglaucoma.JOculPharmacolTher22:188-193,20066)ZeitzO,MatthiessenET,ReussJetal:Effectsofglaucomadrugsonocularhemodynamicsinnormaltensionglaucoma:arandmizedtrialcomparingbimatoprostandlatanoprostwithdorzolamide.BMCOphthalmol5:6,20057)DirksM,NoeckerR,EarlM:A3-monthclinicaltrialcomparingtheIOP-loweringefficacyofbimatoprostandlatanoprostinpatientswithnormaltensionglaucoma.AdvTher23:385-394,20068)SantyS,DonthamsettiV,VangipuramGetal:LongtermIOPloweringwithbimatoprostinopen-angleglaucomapatientspoorlyresponsivetolatanoprost.JOculPharmacolTher24:517-520,20089)北澤克明,米虫節夫:ビマトプロスト点眼剤の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とする0.005%ラタノプロスト点眼剤との無作為化単盲検群間比較試験.あたらしい眼科27:401-410,201010)南野麻美,谷野富彦,中込豊ほか:各種プロスタグランジン関連薬の0.03%ビマトプロスト点眼液への切替えによる眼圧下降効果.あたらしい眼科28:1629-1634,201111)広田篤,井上康,永山幹夫ほか:ラタノプロスト効果不十分例の点眼をビマトプロストに切替えたときの眼圧下降効果と安全性の検討.あたらしい眼科29:259-265,201212)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第3版).日眼会誌116:5-46,201213)南野桂三,安藤彰,松岡雅人ほか:ラタノプロストからトラボプロストへの切り替えによる眼圧下降効果.あたらしい眼科29:415-418,201214)安達京:ラタノプロスト単独療法におけるタフルプロスト点眼変更による眼圧下降効果の検討.臨眼65:85-89,201115)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼759:553-557,200516)中元兼二,安田典子,南野麻美ほか:正常眼圧緑内障の眼圧日内変動におけるラタノプロストとゲル基剤チモロールの効果比較.日眼会誌108:401-407,200417)曽根聡,勝島晴美,船橋謙二ほか:正常眼圧緑内障に対するタフルプロスト点眼液の眼圧下降効果・安全性に関する検討.あたらしい眼科28:568-570,201118)GandolfiSA,CiminoL:Effectofbimatoprostonpatientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhoarenonresponderstolatanoprost.Ophthalmology110:609-614,200319)AiharaM,ShiratoS,SakataR:Incidenceofdeepeningoftheuppereyelidsulcusafterswitchingfromlatanoprosttobimatoprost.JpnJOphthalmol55:600-604,201120)丸山勝彦:プロスタグランジン関連薬による上眼瞼溝深化(DUES).眼科54:47-52,2012***1170あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(126)

Goldmann動的視野検査がHumphrey静的視野検査(30-2)よりも早期発見に有効であった緑内障の3例

2013年8月31日 土曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(8):1160.1164,2013cGoldmann動的視野検査がHumphrey静的視野検査(30-2)よりも早期発見に有効であった緑内障の3例石垣さやか*1新明康弘*1山口淑子*2溝口亜矢子*1阿部朋子*1大口剛司*1宇野友絵*1辻野奈緒子*1陳進輝*1石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2ひらぎし眼科クリニックThreeCasesofGlaucomaDetectioninWhichGoldmannPerimeterWasMoreEffectivethanHumphreyFieldAnalyzer(30-2SITA-Standard)SayakaIshigaki1),YasuhiroShinmei1),ToshikoYamaguchi2),AyakoMizoguchi1),TomokoAbe1),TakeshiOhguchi1),TomoeUno1),NaokoTsujino1),ShinkiChin1)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)HiragishiEyeClinic目的:緑内障の早期発見におけるGoldmann動的視野検査(GP)の有用性を検討する.対象および方法:Hum-phrey静的視野検査(HFA)中心30-2プログラムでは,緑内障の診断に至らなかったが,GPによって緑内障性視野変化が確認でき,緑内障の診断となった3症例について,GPとHFA中心30-2SITA-Standardおよび中心10-2SITA-Standardの結果を比較する.結論:緑内障の早期発見には,GPがHFA中心30-2プログラムよりも,緑内障性視野変化の早期発見に有効な場合がある.HFA中心30-2で緑内障の診断に迷ったときには,GPを行い,さらに中心10-2を追加するとよいと思われる.Purpose:ToevaluatetheeffectivenessoftheGoldmannperimeter(GP)intheearlydetectionofglaucoma.SubjectsandMethods:ThreepatientswerediagnosedashavingglaucomawithGP,butnotwiththeHumphreyFieldAnalyzer(HFA)(30-2SITA-Standard).WecomparedthevisualfieldswithGP,HFA30-2andHFA10-2.Conclusions:TherearecasesinwhichGPismoreeffectivethanHFA30-2intheearlydetectionofglaucoma.WhenHFA30-2doesnotappeartoreachadefinitediagnosisofglaucoma,GPshouldbeusedincombinationwithHFA10-2,tosecurelydetectearlyvisualfielddefectinglaucoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1160.1164,2013〕Keywords:緑内障,Humphrey静的視野計,中心30-2プログラム,中心10-2プログラム,Goldmann動的視野計.glaucoma,HumphreyFieldAnalyzer,30-2SITA-Standard,10-2SITA-Standard,Goldmannperimeter.はじめに眼底所見などから緑内障が疑われた場合,視野検査によって,緑内障性視神経症の存在を証明する必要がある1).Humphrey静的視野計(HFA)は,わが国において最も普及している自動視野計であり,さまざまな測定プログラムのうち,中心30-2プログラムは,緑内障を含む視神経疾患の診断に広く用いられている.さらにSITA-Standard,SITAFastなどでは,アルゴリズムに工夫を加えることで,測定時間を短縮し,患者の肉体的な負担の軽減を図っている2).しかし,これらの進化にもかかわらず,HFAがすべての点でGPに対して優れているとまでいえるとは限らない.今回筆者らは,Goldmann動的視野検査(GP)がHFA中心30-2SITA-Standardプログラムよりも,緑内障性視野変化の早期発見に有効であった症例を経験したので報告する.I対象および方法北海道大学病院眼科外来通院中の患者で,HFA中心30-2SITA-Standardプログラムでは,緑内障の診断に至らなかったが,GPによって緑内障性視野変化が確認でき,緑内障〔別刷請求先〕石垣さやか:〒060-8638札幌市北区北15条西7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:SayakaIshigaki,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,N-15,W-7,Kita-ku,Sapporo060-8638,JAPAN116011601160あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(116)(00)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY の診断となった3症例について検討を行った.HFAの機種はHFA750を使用し,固視状態はHeijlKrakau法だけではなく,アイモニタにて検者が常時監視を行った.GPは北海道大学病院(以下,当院)の2名の視能訓練士が測定し,症例1は経験年数25年,症例2と3は経験年数10年目の者が行い,固視状態は良好であった.HFAとGPともに,患者の理解度は十分であった.II結果〔症例1〕73歳,女性.右網膜裂孔で網膜光凝固治療を行ったのちの経過観察中に,視神経乳頭所見から右眼の緑内障が疑われた.左眼眼底には緑内障性変化はみられなかった.視力は右眼(0.9×+0.50D(cyl.1.00DAx90°),左眼(0.9×+0.25D(cyl.1.00DAx100°),眼圧は右眼13mmHg,左眼13mmHgであった.眼底所見は右眼乳頭耳側下方の切痕(notching)と一致する部位に網膜神経線維層欠損(nervefiberbundlelayerdefect:NFLD)が認められ,C/D(陥凹乳頭)比は右眼0.7,左眼0.5.両眼に皮質白内障がみられた.HFA中心30-2では,右眼の上方に感度の低下が検出されたが,自動判定プログラムではボーダーラインと判定された(図1A).上眼瞼と白内障の影響を考えGPを行ったところ,鼻側の感度低下とMariotte盲点から繋がる中心10°.15°内の上方に弓状暗点が検出された(図1B).HFA中心10-2を行うと,GPに一致する弓状暗点が検出された(図1C).HFA中心30-2でははっきりせず,GPで明確にとらえられた暗点は,HFA中心10-2で再び深い暗点として検出された.〔症例2〕71歳,女性.右眼原発開放隅角緑内障で5年間にわたり,経過観察中.当初は,左眼には緑内障性変化は認められなかった.視力は右眼(1.0×.5.25D(cyl.1.00DAx100°),左眼(1.2×.3.25D(cyl.0.75DAx100°),眼圧は右眼13mmHg,左眼18mmHgであった.眼底所見は右眼下方の視神経乳頭辺縁部(neuroretinalrim)がなく,耳側下方にNFLDが認められ,左眼は乳頭耳側下方に線状出血がみられた.C/D比は右眼0.4,左眼0.7であった.HFA中心30-2で左眼に中心上方の感度の低下が検出された(図2A).GPでは鼻側の感度低下とI/1,I/2にて中心10°内に暗点がみられ(図2B),HFA中心10-2では,中心上方にGPと一致する暗点が検出された(図2C).HFA中心30-2でわずかにとらえられた暗点は,GPではっきり検出され,HFA中心10-2でも再現性をもって確認された.〔症例3〕51歳,女性.複視を主訴に受診.初診時の視神経乳頭所見から右眼緑内障が疑われた.左眼眼底には緑内障性変化は認められなかった.視力は両眼1.5(矯正不能),眼圧は右眼17mmHg,左図1症例1右眼A:HFA30-2,B:GP,C:HFA10-2.眼18mmHgであった.眼底所見は右眼乳頭耳側上方にNFLDが認められ,C/D比は右眼0.7,左眼0.5であった.右眼はHFA中心30-2では自動判定プログラムにて両正常(117)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131161 図2症例2左眼図3症例3右眼A:HFA30-2,B:GP,C:HFA10-2.A:HFA30-2,B:GP,C:HFA10-2.1162あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(118) 範囲内と判定されたが,下方に感度の低下が検出されている(図3A).GPでは中心下方にMariotte盲点の拡大から繋がる弓状暗点が検出され(図3B),HFA中心10-2ではGPに一致する中心下方の暗点をより明確に検出できた(図3C).III考按今日,多くの眼科施設で用いられているのは,コンピュータによる静的視野検査であり,検者がマニュアルで操作するGPよりも,一般的に緑内障早期発見に優れているとされている3.5).当院ではHumphreyFieldAnalyzer(HFAII750)を使用しているが,同機種には早期緑内障検出に有効であるといわれているBlue-on-yellowperimetry(B/Yperimetry)のプログラムも搭載されている6).しかし筆者らは検査時間の長さや,過去のデータとの比較の点で利点が少ないと判断しており,その使用頻度はきわめて低い状態である.現在のところ,検査時間と緑内障性視野変化の検出力などのバランスを考慮し,緑内障スクリーニングテストとして中心30-2SITA-Standardを選択的に行っている.その測定時間は,個人差はあるが,片眼で約7分であり,GPの約20分と比較して半分以下である.過去の報告によるGPとHFAの比較では,GPとHFAでは,78%が同様な視野異常を示し,HFAで視野異常が検出される緑内障あるいは高眼圧の患者のうち,21%はGPで異常が出ない3)との報告や,GPと比較してHFA中心30-2の感度は90%,特異度は91%4)との報告がある.また水流らは,HFAでAulhorn分類ステージ1と判定された48.6%,同ステージ2と判定された36.0%の症例でGoldmann視野計測では異常が検出されなかったと報告している5).一方で,GPでは周辺視野を把握できるとともに,視標をマニュアルで提示することから,中心視野を静的と動的の両方で測定できる利点もある.HFAですべてGPを代用できるかというと,決してそうではない.特に,固視不良例,周【HFA中心30-2プログラム】【HFA中心10-2プログラム】10103030°の範囲を5分割しているので,測定点の間隔は6°で76点(10°内に測定点は12点).10°の範囲を5分割しているので,測定点の間隔は2°で68点.図4HFA中心30-2と10-2のプログラムによる提示視標の違い(119)辺視野に変化がある場合,中心付近の小さな暗点がある場合にはGPとHFA中心30-2の結果が乖離することがある7).HFA中心30-2と中心10-2プログラムの違いであるが,HFA中心30-2は30°の範囲を5分割しているので,測定点の間隔は6°で合計76点あり,10°内に測定点は12点である(図4左).HFA中心10-2では10°の範囲を5分割しているので,測定点の間隔は2°で合計68点ある(図4右).HFA中心30-2を行った際,測定点の間隔(6°)よりも小さな暗点がある場合には検出されない可能性があるが,HFA中心10-2では暗点の検出ができる.HFA中心30-2に比較して,GPでは常に患者の固視状態を監視しながら視標を出し,HFA中心30-2の測定点以外の箇所も測定することができるために,孤立暗点や沈下をみつけやすい8).しかし,HFAは反応の悪い高齢者などでは異常の検出が困難なことがある.今回提示した症例1は,HFA中心30-2では上眼瞼や白内障の影響を除外できず,明らかな緑内障性視野変化と判定するのはむずかしかった.緑内障性の暗点なのか,アーチファクトととらえるかの判断はしばしば困難なこともある.症例2と3においては,HFA中心30-2により暗点自体は検出できているが,感度低下を示すドットの数が少なく,HFA中心30-2単独では明らかな緑内障性視野変化として判定するのはむずかしかった.これは早期の緑内障性視野変化で,中心付近の暗点が比較的小さいことによると考えられた.一方,HFA中心10-2では,視神経線維の走行に従って,多数の感度低下を示す連続的なドットが検出されている.症例3では症例2よりも,より早期の緑内障性視野変化が検出されたと考えられた.緑内障の早期発見には,GPがHFA中心30-2よりも有効な場合があり,中心30-2で緑内障の診断に迷ったときにはGPを行い,さらに中心10-2を追加するとよいと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:緑内障ガイドライン(第3版).日眼会誌116:3-46,20122)BengtssonB,HeijlA:SITAFast,anewrapidperimetricthresholdtest.Descriptionofmethodsandevaluationinpatientswithmanifestandsuspectglaucoma.ActaOphthalmolScand76:431-437,19983)BeckRW,BergstromTJ,LichterPRetal:Aclinicalcomparisonofvisualfieldtestingwithanewautomatedperimeter,theHumphreyFieldAnalyzer,andtheGoldmannperimeter.Ophthalmology92:77-82,1985あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131163 4)TropeGE,BrittonR:AcomparisonofGoldmannandofprimaryopen-angleglaucoma.InvestOphthalmolVisHumphreyautomatedperimetryinpatientswithglauco-Sci31:1869-1875,1990ma.BrJOphthalmol71:489-493,19877)梶原喜久子,山口直子,御宿真理子ほか:自動視野計閾値5)水流忠彦,大久保彰,宮倉幹夫ほか:緑内障眼の網膜感検査で見逃された興味ある緑内障症例.日本視能訓練士協度HumphreyFieldAnalyzerによる網膜閾値測定(1)会誌20:138-142,1992Goldmann視野計測との比較.眼紀39:1343-1352,19888)勝島晴美:Goldmann視野計による診断.眼科診療プラク6)SamplePA,WeinrebRN:Colorperimetryforassessmentティス28,視野のすべて,p16-21,文光堂,1997***1164あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(120)

落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の長期成績

2013年8月31日 土曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(8):1155.1159,2013c落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術の長期成績福本敦子松村美代黒田真一郎永田眼科Long-TermOutcomeafterTrabeculotomyCombinedwithSinusotomyforExfoliationGlaucomaAtsukoFukumoto,MiyoMatsumuraandShinichiroKurodaNagataEyeClinic目的:落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術(LOT)の長期成績報告.対象および方法:対象は,1998年から2005年の間に永田眼科で落屑緑内障に対する初回の観血的緑内障手術としてLOTを施行した128眼のうち,術後3年以上経過観察が可能であった98眼(追跡率76.6%).同時群(白内障手術併用LOT)は74眼,単独群(有水晶体眼単独LOT)は24眼で,1)眼圧,点眼スコア,2)眼圧20mmHgおよび15mmHg以下への生存率,3)観血的緑内障手術の追加を要した症例の割合(再手術率),の3項目について検討した.結果:1)眼圧(同時群/単独群)は,術前22.2±5.6/25.3±4.9mmHg,術後6年14.0±2.3/16.9±6.9mmHg,薬剤スコアは,術前1.9±1.4/2.7±1.2,術後6年1.0±1.0/1.4±0.9で,各群とも術前より眼圧および薬剤スコアが長期にわたり下降していた.2)生存率は,20mmHgで6年生存率93.8%/62.8%,15mmHgで6年生存率61.8%/25.0%で,いずれの眼圧でも同時群の生存率が有意に高かった(p=0.001).3)再手術率は,10.8%/58.3%と同時群が有意に低かった(p<0.001).結論:落屑緑内障に対するLOTは,術後3年以上でも有効な術式であった.特に,白内障手術併用の場合は,より強い効果が期待できる.Purpose:Toevaluatethelong-termoutcomeoftrabeculotomycombinedwithsinusotomy(LOT)forexfoliationglaucoma(EG).Methods:From1998to2005,128eyeswithEGunderwentLOTasthefirstglaucomasurgery.Thisstudywascarriedouton98of128eyeswhichwerefollowedupforatleast3yearsafterLOT.Weclassified98eyesintotheLOTcombinedwithcataractsurgery(phaco-LOT)group(74eyes)andtheLOT-onlygroup(24phakiceyes).Wethenexaminedthreeoutcomes,asfollows:1)thechangeinintraocularpressure(IOP)andglaucomamedicationscores,2)TheKaplan-MeiersurvivalcurveatIOPlessthan20or15mmHgand3)rateofreopration.Results:1)BothgroupshadreducedmeanIOPandglaucomamedicationscorelongafterLOT.2)TheKaplan-Meiersurvivalcurveinthephaco-LOTgroupwasstatisticallyhigerthanintheLOT-onlygroup.3)Therateofreoperationinthephaco-LOTgroupwasstatisticallylowerthanintheLOT-onlygroup.Conclusions:LOTforEGwaseffectiveformorethan3years.Phaco-LOTinparticularmaybemoreeffectiveforlong-lastingreductionofIOP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1155.1159,2013〕Keywords:落屑緑内障,サイヌソトミー併用線維柱帯切開術,長期成績.exfoliationglaucoma,trabeculotomycombinedwithsinusotomy,long-termeffect.はじめに通過障害が生じて起こる緑内障であり,治療に抵抗する難治落屑緑内障とは,眼組織から産生された線維性細胞外物質性緑内障として知られる1)が,観血的治療として線維柱帯切すなわち落屑物質が流出路組織に沈着することによって房水開術が奏効することもすでに報告されている2,3).しかし,〔別刷請求先〕福本敦子:〒631-0844奈良市宝来町北山田1147永田眼科Reprintrequests:AtsukoFukumoto,M.D.,NagataEyeClinic,1147Kitayamada,Hourai-cyo,Nara-shi,Nara631-0844,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(111)1155 これまでの報告は,術後平均観察期間が長い場合でも約3年であり,加齢とともに増加する落屑物質によって経年変化で悪化が推測される本疾患にとって,どれほどの期間にわたって眼圧下降効果が期待できるのかは不明であった.そこで,今回,当院で施行した落屑緑内障に対するサイヌソトミー併用線維柱帯切開術(以下,LOT)について,術後3年以上の長期成績を検討した.I対象および方法1.対象対象は,1998年から2005年の間に永田眼科で落屑緑内障に対する初回観血的緑内障手術としてLOTを施行した128眼(白内障同時手術例を含む)のうち,術後3年以上経過観察が可能であった73例98眼(追跡率76.6%,内眼手術の既往例は除外)とした.対象となった98眼のうち,白内障手術併用LOT(以下,同時群)は74眼(男性31眼,女性43眼),有水晶体眼単独LOT(以下,単独群)は24眼(男性14眼,女性10眼)であり,各群(同時群/単独群)における平均年齢は74.7±6.4/64.2±7.1歳,術後の平均観察期間は6年8カ月(3年4カ月.12年6カ月)/9年(3年10カ月.12年9カ月)であった.平均年齢,観察期間はいずれも両群間で有意差を認めた(p<0.001,Welchのt検定).2.方法(検討項目)1)各群における術前および術後(3カ月,6カ月,1年,以後1年ごと)の眼圧および点眼スコア.いずれも各観察時期前後2回の平均値とした.点眼スコアは,緑内障点眼1剤を1点,炭酸脱水酵素阻害薬の内服は2点で換算した.2)各群における眼圧20mmHg以下および15mmHg以下への生存率:2回連続して各眼圧を越えた最初の時期をエンドポイント(死亡)とした.3)観血的緑内障手術(LOTまたは濾過手術)の追加を要した症例(再手術例)の検討:再手術率および再手術までの期間を両群間で比較した.II結果1.眼圧および点眼スコア眼圧(同時群/単独群)は,術前22.2±5.6/25.3±4.9mmHgであったものが,術後3カ月12.5±3.1/15.7±3.5mmHg,術後6カ月12.7±2.9/15.0±2.8mmHg,術後1年13.1±2.5/15.4±2.8mmHg,術後2年13.5±2.8/15.9±3.8mmHg,術後3年14.1±3.0/17.0±3.3mmHg,術後4年13.8±3.6/15.1±2.8mmHg,術後5年14.0±2.7/15.3±3.0mmHg,術後6年14.0±2.3/16.9±6.9mmHg,術後7年13.5±2.5/14.7±2.0mmHgとなっており,同時群では術後10年まで,単独群では術後8年まで術前より有意に眼圧が下降していた(図1).薬剤スコアは,術前1.9±1.4/2.7±1.2であったものが,術後3カ月0.2±0.5/0.6±0.6,術後6カ月0.2±0.5/1.0±0.9,術後1年0.4±0.6/1.1±0.9,術後2年0.5±0.7/1.3±0.7,術後3年0.6±0.8/1.3±0.7,術後4年0.7±0.9/1.4±0.7,術後5年0.9±0.9/1.6±0.7,術後6年1.0±1.0/1.4±眼圧(mmHg)30.025.020.015.010.05.00.0術前361224364860728496108120:同時群:単独群747473737270675641251274同時群眼数242424231815111096422単独群眼数*************************************************************観察期間(月)図1眼圧経過同時群:白内障手術併用LOT群,単独群:有水晶体眼LOT群.***:p<0.0001,**:p<0.001,*:p<0.01(pairedttest,各群における術前眼圧との比較).1156あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(112) 0.9,術後7年1.0±1.1/1.8±0.8となっており,同時群では術後7年まで,単独群では術後6年まで術前より有意に薬剤スコアが減少していた(図2).両群間の比較においては,眼圧および点眼スコアいずれも有意差を認めなかった.2.眼圧20mmHg以下および15mmHg以下の生存率眼圧20mmHg以下の生存率(同時群/単独群)は,術後1年で98.6%/100%,術後2年で97.3%/90.9%,術後3年で97.3%/70.7%,術後4年で95.8%/70.7%,術後5年で95.8%/70.7%,術後6年で93.8%/62.8%,術後7年で93.8%/62.8%であった.眼圧15mmHg以下の生存率は,術後1年で82.4%/62.5%,術後2年で75.7%/45.8%,術後3年で71.6%/37.5%,術後4年で70.2%/37.5%,術後5年で63.9%/31.3%,術後6年で61.8%/25.0%,術後7年で61.8%/25.0%であった.いずれの眼圧においても,同時群が有意に高い生存率(p=0.001,Logrank検定)であった(図3a,b).3.観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)の検討初回LOT後,濾過手術を含めて何らかの観血的緑内障手術の追加を要した症例(再手術例)は,同時群で8/74眼(10.8%),単独群で14/24眼(58.3%)あり,同時群が有意に低い再手術率であった(p<0.001,Mann-Whitney検定).初回LOTから再手術までの期間は,同時群で平均4年9カ月(5カ月.8年3カ月),単独群で3年9カ月(1年.7年3カ月)と両群間での有意差はなかった.III考按落屑緑内障に対する初回の観血的緑内障手術としては,現:同時群:単独群****************************************点眼スコア(点)4.03.02.01.00.0在,線維柱帯切開術に代表される流出路再建術と線維柱帯切除術に代表される濾過手術とがあげられるが,いずれの術式を選択するかの基準は明確ではなく,術者や施設によって異なるのが現状である.さらに,適応によっては各術式に白内障手術を併用することもあるため,術式選択基準はいっそう複雑である.線維柱帯切開術の単独手術または白内障同時手術の有効性については,松村ら2)やHonjoら3)によって過去に報告されており,当院では,サイヌソトミー併用あるいは深層強膜弁切除および内皮網除去術併用といった細部における術式や手術部位の変遷4)はあるものの,20年以上,本疾患に対する初回手術の第一選択は線維柱帯切開術と考えて現在に至っている.なかでも,緑内障手術の適応時期に白内障の進行も認める症例に対しては,積極的に白内障手術を併用する方針としている.しかし,術後経過が5年,あるいは10年以上の症例が増b:15mmHg10.90.8術前361224364860728496108120観察期間(月)図2点眼スコア同時群:白内障手術併用LOT群,単独群:有水晶体眼LOT群.各群の眼数は図1と同じ.***:p<0.0001,**:p<0.001,*:p<0.01(pairedttest,各群における術前点眼スコアとの比較).a:20mmHg10.90.8(**:p=0.001,Logrank検定)(**):同時群:単独群生存率(**)(**:p=0.001,Logrank検定):同時群:単独群0.70.70.60.50.40.60.50.4生存率0.30.30.20.100.20.1001224364860728496108120観察期間(月)01224364860728496108120観察期間(月)図3生存率曲線Kaplan-Meier分析による生存率.a:眼圧20mmHg以下への生存率,b:眼圧15mmHg以下への生存率.同時群:白内障手術併用LOT群,単独群:有水晶体眼LOT群.各群の眼数は図1と同じ.(113)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131157 加するに従い,なかには濾過手術を含めた手術加療を複数回では手術部位による経過の差がないことが報告されてお行っても眼圧コントロールが困難で治療に難渋する症例も散り7),今回の検討では区別はしなかった.現在,当院ではサ見するようになり,改めて本疾患の長期経過という観点からイヌソトミー,深層強膜弁切除,内皮網除去いずれも併用す線維柱帯切開術の位置付けを確認すべく,検討を行った.る術式に変わり,手術部位は単独,同時手術いずれも下方が検討項目1)の同時群,単独群それぞれにおける眼圧およ第一選択となっており,この術式での成績は,今後改めて検び点眼スコアについては,過去の報告や筆者らのclinical討する.impressionのとおり,白内障同時手術でも単独手術でも,最後に,今回の検討項目ではないが,術式選択の一助とし線維柱帯切開術が本疾患に有効な術式であることが再確認でて本疾患に対する濾過手術との比較について述べておきたきた.術後7年までは確実に,またそれ以上の長期では症例い.数が少なくなるが両群ともおおむね15mmHg前後で推移し近年,落屑緑内障においては線維柱帯切開術が濾過手術とており,術式の有効性が示唆された.比較して遜色ない結果であったという報告があり,2011年検討項目2)では,眼圧20mmHgおよび15mmHg以下にFukuchiら8)は,落屑緑内障眼に対する白内障手術併用線への生存率を同時群と単独群で比較し,いずれの眼圧でも経維柱帯切開術施行群が,白内障手術併用または単独のマイト過観察中において同時群が単独群よりも有意に生存率が高いマイシンC併用線維柱帯切除術施行群と同等の眼圧下降効結果となった.落屑症候群または落屑緑内障に対する白内障果があったとして,白内障を有する落屑緑内障眼に対する第単独手術によって眼圧下降効果が期待できることは過去に報一選択の術式に,筆者らと同様に白内障手術併用線維柱帯切告されている5)が,今回の検討では,線維柱帯切開術と白内開術を推奨している.さらに,同年,Shingletonら9)が報告障手術を同時に行った場合,それぞれの術式として相加的にした落屑緑内障138眼に対する白内障手術併用線維柱帯切眼圧下降効果を発揮しうることが示唆され,同時群での20除術の長期経過(観察期間4.7±3.7年)においても,眼圧(術mmHg以下への生存率は術後3年で97.3%,術後6年で前/術後5年)は,21.5±7.2/14.9±6.0mmHg,点眼スコア93.8%,術後10年で86.0%,15mmHg以下への生存率に(術前/術後5年)は,2.3±1.1/0.8±1.1,再手術率は13.8%おいても術後3年で71.6%,術後6年以降(.術後10年)と報告しており,この結果は,当院での白内障手術併用線維で61.8%と良好な成績であった.とはいえ,一般に落屑症柱帯切開術とほぼ同等であった.候群を有する眼に対する白内障手術は,Zinn小帯断裂,後以上から,落屑緑内障に対する線維柱帯切開術は,術後3.破損といった術中合併症のリスクが通常の症例よりも高い年以上の長期においても有効な術式といえる.特に,白内障ことで知られる6)ため,白内障手術を併用するかの判断は各手術併用の場合は,より長期に眼圧下降が期待でき,初回の症例における白内障の進行程度や術者の熟練などの要素を考観血的緑内障手術として積極的に第一選択としてよい術式と慮すべきと思われる.考える.検討項目3)では,初回の線維柱帯切開術後に濾過手術も含めた何らかの観血的緑内障手術の追加を要した症例,すなわち,再手術例について,同時群と単独群を比較した.単独利益相反:利益相反公表基準に該当なし群の再手術率は,同時群よりも有意に高かったが,同時群に比べて単独群の手術時平均年齢が若年で,かつ,術後観察期文献間も長期であったことからは妥当な結果といえる.つまり,1)布田龍佑:落屑症候群および落屑緑内障の診断と治療.あ単独群は,いわば若年発症型の落屑緑内障ともよぶべき症例たらしい眼科25:961-968,2008が多く,長期経過においては治療が難渋するであろうことが2)松村美代,永田誠,池田定嗣ほか:水晶体偽落屑症候群この結果から推測される.しかし,再手術までの期間は両群に伴う開放隅角緑内障に対するトラベクロトミーの有効性間に差はなかったことから,いわゆる若年発症型であったとと術後の眼圧値.あたらしい眼科9:817-820,19923)HonjoM,TaniharaH,InataniMetal:Phacoemulsificaしても,単独手術によって一定期間の眼圧下降を期待するこtion,intraocularlensimplantation,andtrabeculotomytoとができると思われる.treatpseudoexfoliationsyndrome.JCataractRefractSurgなお,今回の対象症例における術式は全例サイヌソトミー24:781-786,1998併用線維柱帯切開術であり,深層強膜弁切除および内皮網除4)黒田真一郎:緑内障眼に対する白内障手術緑内障白内障同時手術.IOL&RS20:101-105,2006去術は施行していない.手術部位は,同時群で白内障手術切5)友寄絵厘子,新城百代,酒井寛ほか:偽落屑症候群を有開創との上方同一創が71眼,別創(LOTを下方,白内障手する症例の白内障手術後の眼圧経過.眼科手術17:381術を上方角膜切開創で施行)が3眼,単独群で上方が11眼,384,2004下方が13眼あったが,サイヌソトミー併用線維柱帯切開術6)家木良彰,三浦真二,西村衛ほか:落屑症候群に対する1158あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(114) 白内障手術は非落屑症候群に比べて何倍合併症が多いのか.implantationandsinusotomyforexfoliationglaucoma.Jpn臨眼63:1263-1267,2009JOphthalmol55:205-212,20117)南部裕之,城信雄,畔満喜ほか:下半周で行った初回9)ShingletonBJ,WoolerKB,BourneCIetal:CombinedSchlemm管外壁開放術併用線維柱帯切開術の術後長期成cataractandtrabeculectomysurgeryineyeswithpseudo績.日眼会誌116:740-750,2012exfoliationglaucoma.JCataractRefractSurg37:19618)FukuchiT,UedeJ,NakatsueTetal:Trebeculotomy1970,2011combinedwithphacoemulsification,intraocularlens***(115)あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131159

炭酸脱水酵素阻害薬長期点眼による角膜内皮への影響

2013年8月31日 土曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(8):1151.1154,2013c炭酸脱水酵素阻害薬長期点眼による角膜内皮への影響舘野寛子*1城信雄*1南野桂三*2安藤彰*3南部裕之*1,4松村美代*4髙橋寛二*1*1関西医科大学附属枚方病院眼科*2関西医科大学附属滝井病院眼科*3あんどう眼科クリニック*4永田眼科Long-TermInfluenceofCarbonicAnhydraseInhibitorEyedropsonCornealEndotheliumHirokoTateno1),NobuoJo1),KeizoMinamino2),AkiraAndo3),HiroyukiNambu1,4),MiyoMatsumura4)andKanjiTakahashi1)1)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityTakiiHospital,3)AndoEyeClinic,4)NagataEyeClinic炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)点眼の長期継続による角膜内皮への影響を検討した.対象はCAI点眼を6年以上継続し,経過中に内眼手術やレーザー治療歴がなく,経過観察中に眼圧が21mmHgを超えなかった原発開放隅角緑内障10例14眼.平均観察期間±標準偏差89.1±13.4カ月,平均年齢±標準偏差61.3±11.3歳.角膜内皮細胞密度は,点眼開始前2,698±429個/mm2,最終観察時2,575±526個/mm2で,1年当たりの平均減少率は0.58%であり,正常な成人の角膜内皮細胞密度の減少の報告と差はなかった.ただし,2%/年以上の減少を認めた例が6眼あり,手術既往のないものも4眼あった.症例によってはCAIの長期点眼による角膜内皮細胞密度減少の可能性が示唆され,定期的な内皮測定を行う必要があると思われた.Wereviewedtheeffectofcarbonicanhydraseinhibitor(CAI)eyedropsoncornealendotheliumoverlong-termadministration.Reviewedwere14eyesof10cases;averageagewas61.3years.Innormaltensionglaucomaandprimaryopenangleglaucoma,CAIeyedropswerecontinuedformorethan6years,duringacoursewithnohistoryofintraocularsurgeryorlaser;intraocularpressuredidnotexceed21mmHg.Themeanobservationperiodwas89.1months.Themeancornealendothelialcelldensitywas2,698±429/mm2beforeeyedropinitiationand2,575±526/mm2atlastobservation.Although6eyesshowedadensitydecreaseofmorethan2%/year,theaveragereductionrateperyearwas0.58%,whichwaswithintherangeofthenaturalreductionrate.However,endothelialcelldensitywasreducedbymorethan2%peryearinthe4cases,withoutsurgicalhistory.Insomecases,decreaseincornealendotheliumseemedduetolong-termuseofCAIeyedrops.Withlong-termuseofCAIeyedrops,itisnecessarytoperiodicallymeasurethecornealendothelium.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1151.1154,2013〕Keywords:炭酸脱水酵素阻害薬点眼,角膜内皮細胞密度.carbonicanhydraseinhibitor,cornealendothelium.はじめに炭酸脱水酵素阻害薬(carbonicanhydraseinhibitor:CAI)の点眼薬であるドルゾラミド〔トルソプトR,MSD(株)〕は発売後約14年,ブリンゾラミド〔エイゾプトR,日本アルコン(株)〕は同約10年経過し,緑内障治療薬のなかで追加点眼薬として広く使用されている.CAI点眼薬の角膜内皮への影響については複数報告1.10)されているが,いずれも2年以内の短期間の報告であり,短期間では影響はなかったと結論づけられている.しかし,長期間の影響は報告されておらず,また不可逆性の角膜浮腫に至った症例の報告5,11)もあることから,CAIの長期点眼による影響を検討するため筆者らはCAI点眼薬発売から現在までCAIを連続して点眼し,定期的に経過観察できている症例を検出し,そのなかでCAI点眼開始前に角膜内皮細胞密度を測定していた症例に今回角膜内皮細胞密度を測定し,CAIの角膜内皮への影響を検討した.〔別刷請求先〕舘野寛子:〒573-1191枚方市新町2-3-1関西医科大学枚方病院眼科Reprintrequests:HirokoTateno,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital,2-3-1Shinmachi,Hirakata-city,Osaka573-1191,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(107)1151 I対象および方法2001年から2006年の間に関西医科大学附属病院でCAI点眼薬(ドルゾラミドもしくはブリンゾラミド)による治療を開始され,治療開始時に角膜内皮細胞密度を測定し,かつ以下の4条件をすべて満たした10例14眼(男性7例10眼,女性3例4眼)を対象とした.①原発開放隅角緑内障(POAG)および正常眼圧緑内障(NTG),②CAI点眼薬を6年以上継続して点眼していること,③治療開始後に内眼手術やレーザー治療,眼外傷歴がないこと,④CAI点眼薬使用中に眼圧が21mmHgを超えていないこと.症例はPOAG12眼,NTG2眼で,観察期間は73.128カ月(平均89.1カ月),点眼開始時の年齢は37.70歳(平均61.3歳)であった.CAI点眼薬開始前に投与されていた点眼はマレイン酸チモロール7眼,塩酸カルテオロール4眼,ラタノプロスト11眼で,点眼を複数併用していた症例があった(表1)が,CAI点眼開始後にさらに追加された点眼薬はなかった.CAI点眼薬開始前の手術既往は,線維柱帯切除術+白内障手術が3眼,線維柱帯切開術+白内障手術が1眼,水晶体.外摘出術が1眼あったが,すべて2年以上前に施行されていた.角膜内皮細胞数は,非接触型スぺキュラーマイクロスコープ(トプコン社SP2000-P)にて測定した.CAI点眼薬開始前と最終観察時に患者の中央部角膜内皮を撮影し,CAI点眼薬開始前と最終観察時で角膜内皮細胞密度を対応のあるt検定で比較した.表1CAI点眼開始前に使用していた点眼薬塩酸カルテオロール単独3眼ラタノプロスト単独2眼塩酸カルテオロール+ラタノプロスト2眼マレイン酸チモロール+ラタノプロスト7眼角膜内皮細胞密度(個/mm2)4,0003,5003,0002,5002,0001,5001,000500035II結果1.CAI点眼薬開始前と最終観察時の角膜皮細胞密度の変化(図1)角膜内皮細胞密度は,点眼開始前2,698±429個/mm2,最終観察時2,575±526個/mm2であり,点眼開始前と最終観察時で有意差はなかった(p=0.47).1年当たりの平均減少率は0.58%であった.すべての症例で糖尿病,コンタクトレンズ装用歴はなかった.しかし,6眼に2%/年以上の角膜内皮細胞密度の減少が認められた.それらは全例60歳以上で,2眼に緑内障,白内障の手術歴があった(表2).2.CAI点眼薬開始前後の眼圧変化眼圧±標準偏差は,CAI点眼開始前は平均18.5±2.70mmHg(12.24mmHg),最終観察時は平均14.8±3.26mmHg(12.20mmHg)であった.経過中に21mmHgを超えた症例はなかった.3.手術既往の有無での検討(図2)CAI点眼開始前に手術既往がある5眼の角膜内皮細胞密度は,点眼開始前2,594±495個/mm2,最終観察時2,384±593個/mm2で,1年間の平均減少率は0.92%/年であった.手術既往がない9眼は,点眼開始前2,804±397個/mm2,最終観察時2,551±4,283個/mm2で,平均減少率は0.01%/年であった.対応のあるt検定では手術既往の有無でこの2群に有意差はなかった(p=0.62)が,手術既往のあるほうが減少する傾向がみられた.III考按CAI点眼薬は,毛様体無色素上皮に存在する炭酸脱水酵素のII型アイソザイムを阻害することにより,房水産生を抑制し眼圧を下降させる抗緑内障薬である.その一方,角膜実質内からの水分の流入を調節するポンプ作用をする炭酸脱水酵素のアイソザイムも減弱させるため,角膜含水量が増加年齢(歳)455565758595:CAI開始前:最終観察時:2%/年以上の減少図1全症例のCAI点眼開始前と最終観察時の角膜内皮細胞密度の変化1152あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(108) 表2角膜内皮細胞密度減少率の高かった6症例症例点眼開始年齢(歳)性別CAI点眼開始前内皮細胞密度(個/mm2)最終観察時内皮細胞密度(個/mm2)点眼年数(カ月)1年当たりの減少率手術既往併用点眼166男3,1392,439992.78%なしなし(塩酸カルテオロール中止)261男3,1252,540842.57%なし塩酸カルテオロールラタノプロスト361男3,2882,543843.14%なし塩酸カルテオロールラタノプロスト463女2,7401,857934.57%CAI点眼開始3年前に線維柱帯切開術+PEA+IOLマレイン酸チモロールラタノプロスト565男2,8872,467732.33%なしマレイン酸チモロールラタノプロスト667男2,9162,220962.87%CAI点眼開始3年前に線維柱帯切除術+PEA+IOL1年前に線維柱帯切除術塩酸カルテオロール角膜内皮細胞密度(個/mm2)2,804±3972,5002,0001,5001,00050002,594±4952,384±5932,551±4,283CAI点眼最終CAI点眼最終開始前観察時開始前観察時手術既往あり5眼手術既往なし9眼図2手術既往の有無による角膜内皮細胞密度の変化の比較し,角膜内皮障害をきたしたとの報告がある5).一方で,CAI点眼薬開始後2年以内の報告では角膜内皮細胞密度の有意な減少はなかったとも報告されている10).今回の検討では6年以上CAI点眼薬を継続点眼している症例であっても,CAI点眼前後で角膜内皮細胞密度に有意な減少を認めなかった.正常なヒト中央角膜内皮細胞密度は1年当たり平均約0.3.1.0%減少するとの報告があり12.17),今回は平均0.58%と成人の自然減少率と差がなかった.橋本ら10)は,内眼手術既往例に角膜内皮細胞密度が著明に減少した症例があったと報告しており,安藤ら11)が報告した不可逆性の浮腫で報告された症例も内眼手術既往例であり,角膜内皮細胞密度は1,100個/mm2程度に減少した症例であった.本報告では内眼手術既往の有無で有意差はなかったが,CAI点眼開始前に手術既往があるほうが角膜内皮細胞密度は減少する傾向がみられた.手術既往眼では手術侵襲による内皮障害の影響がある可能性もあるので,CAI点眼薬使用時には角膜内皮を確認し,内皮細胞密度が1,000個/mm2以下に減少しているなど,水疱性角膜症を発症する可能性が考えられる症例では違う点眼薬を使用したほうがよいと思われた.一方で,今回(109)手術既往のない症例でも年2%以上の角膜内皮細胞密度が減少した例が4眼あった.これらの症例で糖尿病,コンタクトレンズ装用,眼圧上昇など他に角膜内皮細胞密度減少の原因となるものはなかったが,2%/年以上の減少率を認めたのは全例60歳以上であった.今回は症例数が少なく,年齢による精密な検討はできなかったが,高齢でCAI点眼薬を長期使用した際に角膜内皮細胞密度が減少している傾向がみられたことから,今後さらに症例数を増やし,年齢による検定を行うなど,どのような症例で角膜内皮に影響を及ぼしやすいのかも具体的に検討する必要があると思われた.今回の検討ではドルゾラミドとブリンゾラミドを切り替えて継続使用していた症例も含んでおり,2剤を分けて検討はしていないが,過去に報告されているかぎり,両薬剤間で角膜内皮への短期の影響については著明な差はないようである.また,併用していたbブロッカーやラタノプロストについては,角膜内皮への薬理作用ははっきりしておらず,過去の報告ではそれぞれ単剤使用や,CAIとの併用でも短期では点眼角膜内皮細胞密度に影響はなかったとの報告が多い18.23)が,CAI自体が臨床的に緑内障点眼のなかでも追加薬剤として使用されるため,単剤での効果を検討することは困難であるのが現状である.今回の検討では,角膜内皮の測定は点眼開始前および最終観察時にそれぞれ1回ずつしか測定しておらず,誤差があると考えられるため,さらに症例数を増やして検討する必要があると思われた.IV結論CAI点眼薬を6年以上継続使用している症例においても平均の角膜内皮細胞密度の減少率は自然減少の範囲内であり,正常の内皮細胞密度の症例に使用するには影響はないとあたらしい眼科Vol.30,No.8,20131153 考えられるが,高齢者や手術既往例などの症例によってはCAI点眼薬の長期点眼により角膜内皮細胞密度が減少する可能性が示唆された.CAI点眼薬を長期間投与する際には,自然減少率を超える内皮細胞の減少がないかをCAI点眼投与前と投与後に1年に1回など定期的に角膜内皮細胞密度を測定し,自然減少率を超える内皮細胞の減少が認められた場合は点眼の変更を検討する必要があると思われた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)WilkersonM,MarshallC,ErikAetal:Four-weeksafetyandefficacystudyofdorzolamide,anovel,activetopicalcarbonicanhydraseinhibitor.ArchOphthalmol111:1343-1350,19932)CatberineAE,DavvidOH,JayWMetal:Effectofdorzolamideoncornealendotherialfunctioninnormalhumaneyes.InvestOphthalmolVisSci39:23-29,19973)KaminskiS,HommerA,KoyuncuDetal:Influenceofdorzolamideoncornealthickness,endotherialcellcountandcornealsensibility.ActaOphthalmolScand76:78-79,19984)JonathanHL,SamerAK,JaurenceJKetal:Adouble-masked,randomized,1-yearstudycomparingthecornealeffectsofdorzolamide,timolol,andbetaxolol.ArchOphthalmol116:1003-1010,19985)KonowalA,MorrisonJC,BrownSVetal:Irreversiblecornealdecompensationinpatientstreatedwithtopicaldorzolamide.AmJOphthalmol127:403-406,19996)ClaudeJD,TuanQT,HeleneMBetal:Dorzolamideandcornealrecoveryfromedemainpatientswithglaucomaoroccularhypertention.AmJOphthalmol129:144-150,19997)SrinivasSP,OngA,ZhaiCBetal:Inhibitionofcarbonicanhydraseactivityinculturedbovinecornealendotherialcellsbydorzolamide.InvestOphthalmolVisSci43:32733278,20028)InoueK,OkugawaK,OshitaTetal:Influenceofdorzolamideoncornealendothelium.JpnJOphthalmol47:129133,20039)井上賢治,庄司治代,若倉雅登ほか:ブリンゾラミドの角膜内皮への影響.臨眼60:183-187,200610)橋本尚子,原岳,青木由紀ほか:ブリンゾラミド長期点眼による角膜への影響.あたらしい眼科25:711-713,200811)安藤彰,宮崎秀行,福井智恵子ほか:炭酸脱水酵素阻害薬点眼後に不可逆的な角膜浮腫をきたした1例.臨眼59:1571-1573,200512)MurphyC,AlvaradoJ,JusterRetal:Prenatalandpostnatalcellularityofthehumancornealendothelium.Aquantitativehistologicstudy.InvestOphthalmolVisSci25:312-322,198413)ChengH,JacobsPM,McPhersonKetal:Precisionofcelldensityestimatesandendothelialcelllosswithage.ArchOphthalmol103:1478-1481,198514)AmbroseVM,WaltersRF,BatterburyMetal:Longtermendothelialcelllossandbreakdownoftheblood-aqueousbarrierincataractsurgery.JCataractRefractSurg17:622-627,199115)NumaA,NakamuraJ,TakashimaMetal:Long-termcornealendothelialchangesafterintraocularlensimplantation.Anteriorvsposteriorchamberlenses.JpnJOphthalmol37:78-87,199316)BourneWM,NelsonLR,HodgeDO:Centralcornealendotherialcellchangesoveraten-yearperiod.InvestOphthalmolVisSci38:779-782,199717)HatouS,ShimmuraS,ShimazakiJetal:MathematicalprojectionmodelofvisuallossduetoFuchscornealdystrophy.InvestOphthalmolVisSci52:7888-7893,201118)AlankoHI,AiraksinenPJ:Effectoftopicaltimololoncornalsendotherialcellmorphologyinvivo.AmJOphthalmol96:615-621,198319)LassJH,ErikssonGL,OsterlingLetal:Comparisonofthecornealeffectsoflatanoprost,fixedcombinationlatanoprost-timolol,andtimolol:Adouble-masked,randomized,one-yearstudy.Ophthalmology108:264-271,200120)MiuraK,ItoK,OkawaCetal:Comparisonofocularhypotensiveeffectandsafetyofbrinzolamideandtimololaddedtolatanoprost.JGlaucoma17:233-237,200821)星野美佐子,山田利津子,真鍋雄一ほか:開放隅角緑内障に対するピロカルピン及びチモロール点眼治療の角膜内皮に及ぼす影響.眼臨88:1842-1844,199422)井上賢治,増本美枝子,若倉雅登ほか:ラタノプロスト,ウノプロストン,水溶性チモロール点眼の角膜内皮への影響.眼臨紀1:1210-1215,200823)山田英里,山田晴彦,山崎有加里ほか:リズモンTGTMによると考えられる重症角膜障害の1例.眼紀53:800-803,2002***1154あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(110)

タフルプロスト連続点眼の正常眼視神経乳頭血流に与える影響:点眼後24 時間の検討

2013年8月31日 土曜日

《第23回日本緑内障学会原著》あたらしい眼科30(8):1147.1150,2013cタフルプロスト連続点眼の正常眼視神経乳頭血流に与える影響:点眼後24時間の検討岡本美瑞*1間山千尋*1石井清*2新家眞*1,3*1東京大学医学部附属病院眼科*2さいたま赤十字病院眼科*3公立学校共済組合関東中央病院EffectandDurationofTopicalTafluprostonOpticNerveHeadBloodFlowinHealthyVolunteersMizuOkamoto1),ChihiroMayama1),KiyoshiIshii2)andMakotoAraie1,3)1)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoGraduatesSchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,SaitamaRedCrossHospital,3)KantoCentralHospital,TheMutualAidAssociationofPublicSchoolTeachers目的:タフルプロスト点眼後の視神経乳頭(ONH)血流を点眼後24時間にわたり評価し,ONH血流に与える影響と持続時間を検討する.対象および方法:健常人6名(28.5±3.4歳,等価球面度数.3.1±2.1diopter;平均±標準偏差)を対象とし,無作為に選んだ片眼にタフルプロスト(0.0015%)を12時に1日1回14日間連続点眼した.最終点眼の直前,4,24時間後に両眼のONH血流をレーザースペックル法を用いてnormalizedblur(NB)値として眼圧,血圧,心拍数と同時に測定し,点眼前の同時刻または非点眼側の測定値と比較検討した.結果:点眼側NB値は,最終点眼直前,4時間後に点眼前同時刻の値より20.9±18.9%(平均±標準偏差),20.8±15.9%有意に増加し(p<0.05),NB変化率は最終点眼24時間後に有意な変化のなかった対照眼と有意差を認めた(p<0.05).結論:タフルプロストの点眼後,健常人眼のONH血流は点眼側で有意に増加し,その効果は点眼後24時間にわたり維持される可能性が示唆された.Purpose:Toevaluateeffectanddurationoftopicaltafluprostonopticnervehead(ONH)bloodflowinhumannormaleyes.Method:Adropof0.0015%tafluprostwasinstilledonce-daily(12o’clock)for14daysunilaterallyin6healthyvolunteers.TissuebloodvelocityintheONH(NBONH)wasmeasuredusingthelaserspecklemethodat0,4and24hafterinstillationandcomparedwithmeasurementsbeforeinstillationinthesametimecourse,orbetweenfelloweyes.Results:NBONHincreasedsignificantlyinthetreatedeyesonly(by20.9±18.9%,20.8±15.9%;mean±standarddeviation;p<0.05)at0and4hafterinstillation.TherewasasignificantdifferenceinNBONHchangebetweenfelloweyesat24hafterinstillation(p<0.05).Conclusions:TopicaltafluprostsignificantlyincreasedONHbloodflowinhumaneyesfor24hafterinstillation,suggestingthattheeffectcanbemaintainedalldaywithonce-dailyapplication.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(8):1147.1150,2013〕Keywords:タフルプロスト,眼血流,視神経乳頭,レーザースペックル法,緑内障.tafluprost,ocularbloodflow,opticnervehead,laserspecklemethod,glaucoma.はじめに緑内障眼において視神経乳頭(ONH)の循環障害があることが推測されており,眼圧下降以外の緑内障治療の機序として,点眼薬による眼循環の改善,眼血流の増加作用が期待されている.これまでに多くの緑内障治療薬で眼血流増加作用が報告され,そのなかには現在緑内障治療の第一選択薬となっているプロスタグランジン(PG)関連薬も含まれる1.5)が,多くは単回点眼や点眼後短時間の検討にとどまり,連続点眼の効果や血流への作用持続時間に関しての検討は少ない.今回筆者らは,健常人眼において,タフルプロストの14日間連続点眼後のONH血流を点眼後24時間にわたり評価し,眼血流に与える影響とその持続時間を検討した.〔別刷請求先〕岡本美瑞:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MizuOkamoto,M.D.,DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoGraduatesSchoolofMedicine,7-3-1Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(103)1147 :測定:タフルプロスト点眼12時16時12時12時16時12時(0h)(4h)(24h)(0h)(4h)(24h)2日目初回点眼1日目16日目最終点眼15日目3~14日目……図1点眼・測定のスケジュールI対象および方法本研究は研究実施施設における治験審査委員会の承認を得て実施した.対象の選択基準は両眼で.8diopter(D)<等価球面度数<+3D,矯正視力≧0.8,同意取得時の年齢が20.60歳の日本人で,本試験の参加にあたり十分な説明を受け本人の自由意思による文書同意が得られたものである.除外基準は,眼圧≧21mmHg,眼疾患・内眼手術の既往,眼圧・眼血流に影響しうる全身疾患・薬剤使用の既往,習慣的な喫煙,妊娠・授乳中の女性とした.1日目午前中に事前に募集した12名のボランティアに対して,スクリーニング検査として問診,血圧,屈折,視力,眼圧,眼軸長,角膜厚の測定,前眼部細隙灯顕微鏡検査,眼底検査を施行し,前述の基準を満たし固視の良好な6名の男性を対象として選択した.1日目午後に,12時(午後0時)を基準として0,4,24時間後に両眼のONH血流,およびその直後に眼圧,血圧・心拍数をこの順で測定した.2日目12時の測定終了後に,症例ごとに無作為に選ばれた片眼にタフルプロスト(0.0015%)の点眼を開始した.点眼方法を説明した後,翌日より通常の生活下で1日1回12時に片眼に自己点眼を継続し,9日目に点眼方法の確認,診察・問診による点眼薬の副作用と有害事象の確認,点眼薬の残量確認を行った.15日目に点眼せずに来院し,副作用と有害事象の確認後,12時に点眼直前の測定をした後に最終点眼を行い,4,24時間後に1.2日目と同様のスケジュールと方法値として,ONHのrimの表面血管のない部位で点眼側を知らされていない検者が測定した(NBONH).眼圧はpneuma-tonograph(PTG,Model30Classicpneumotonometer,ReichertTechnologies,Depew,NY),血圧・心拍数は自動血圧計(HEM-773DE,オムロンヘルスケア,京都),角膜厚は(SP-100,TOMEY,名古屋),眼軸長は(AL-2000,1148あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013TOMEY,名古屋)を用いて測定し,平均血圧を(拡張期血圧)+1/3×(収縮期血圧.拡張期血圧)として算出した.各項目において,点眼開始前の測定値を基準として同時刻の点眼前後での変化,あるいは各時点での両眼(点眼側と非点眼側)の変化率の差を検討した.統計学的検討は対応のあるt検定を用い,p<0.05を統計学的有意水準として採用した.II結果対象は6例12眼,年齢28.5±3.4歳(平均±標準偏差),等価球面度数.3.1±2.1D(両眼での平均±標準偏差,以下同様),眼軸長24.9±0.6mm,中心角膜厚525.3±16.9μmであり,各因子においてタフルプロスト点眼側と非点眼側との間に有意な差は認めなかった(p>0.45)(表1).タフルプロストの点眼後,眼圧は非点眼側では有意な眼圧の変化を認めなかった(p>0.16)のに対し,タフルプロスト点眼側では表1症例の背景因子タフルプロスト点眼側非点眼側両眼等価球面度数(D)眼軸長(mm)中心角膜厚(μm).3.1±2.124.9±0.5524.2±21.4.3.1±2.1.3.1±2.124.9±0.724.9±0.6526.3±12.9525.3±16.9平均±標準偏差.2015*眼圧(mmHg)で測定を行った(図1).各種測定は事前に0.5%トロピカミド(ミドリンMR,参天製薬,大阪)を1回点眼し散瞳した状態で行った.ONH血流はレーザースペックル法6)を用いて既報にならい,組織血流速度の相対的指数であるnormalizedblur(NB)**105012時16時12時12時16時12時1日目2日目15日目16日目図2眼圧の変化◯:対照,▲:タフルプロスト点眼側(n=6),値は平均値±標準偏差.*:p<0.05,対応のあるt検定,対点眼前の同時刻の測定値.(104) %NBONH140**120†12時16時12時12時16時12時1日目2日目15日目16日目図3視神経乳頭血流の変化%NBONH:レーザースペックル法で測定した視神経乳頭血流.1日目12時の測定値を100として標準化して表す.◯:対照,▲:タフルプロスト点眼側(n=6),値は平均値±標準偏差.*:p<0.05,対応のあるt検定,対点眼前の同時刻の測定値.†:p<0.05,対応のあるt検定,対照との比較.最終点眼直前,4時間後,24時間後で22.0±17.9%(p=0.02),19.9±13.1%(p=0.01),23.0±4.7%(p<0.001)と,すべての測定時点で点眼前の同時刻の値より有意な眼圧下降を認めた(図2).NBONHはタフルプロスト点眼側で最終点眼の直前および4時間後の時点で点眼開始前よりそれぞれ20.9±18.9%(p=0.04),20.8±15.9%(p=0.03)と有意に増加した.各時点での両眼のNBONHの変化率では,最終点眼24時間後に有意差を認めた(p=0.04)(図3).平均血圧・心拍数にはともに点眼開始前後で有意な変化を認めなかった(p>0.05).III考按ラタノプロストに代表されるプロスト系のPG関連薬は,眼圧下降効果の持続時間が長いために1日1回の点眼で24時間の眼圧下降効果作用が維持できる.タフルプロストは炭素15位の水酸基が2つのフッ素で置換されているために安定性が高いと考えられ5,7),その眼圧下降作用はラタノプロストと同等と報告されている8).長期点眼の効果を検討するためにはできるだけ長い点眼期間が望ましいが,タフルプロスト4週間点眼後の副作用発現率は40%と報告されており8),本研究の対象は健常人であることも踏まえて点眼期間は14日間とした.PG関連薬のONH血流に与える影響について,Ishiiら1)は健常人眼において0.005%ラタノプロストの1日1回7日間点眼後,点眼側のONH血流量が点眼後270分まで有意に増加したと報告している.しかし,点眼直前(点眼24時間後)の時点では有意な変化を認めておらず,ラタノプロスト(105)のONH血流に対する効果は24時間持続しないと考えられる.Ohashiら2)は,家兎において7日間の点眼後,トラボプロストでは点眼後24時間,ウノプロストンでは点眼後12時間にわたり点眼前に比べてONH血流量が有意に増加したと報告している.血流増加の機序は不明だが,血管平滑筋細胞内へのカルシウムイオン流入の阻害9,10),エンドセリン-1の阻害5),また,内因性PG産生機序の関連1.3)が推測されている.本研究ではタフルプロスト点眼後に血圧,心拍数の有意な変化は認めなかった.眼灌流圧について(眼灌流圧)=2/3(上腕平均血圧).(眼圧)として計算すると,点眼側の眼灌流圧は,点眼後すべての時点で,非点眼側に比べ有意に大きかった(p≦0.004)が,点眼前後で有意な変化を認めなかった(p>0.5).少なくとも正常眼において,通常の眼圧,血圧の範囲内でONH血流には自動調節能があると考えられ11),また,サル緑内障モデルを用いた既報においてはタフルプロスト点眼後に眼灌流圧に影響されないONH血流の増加がみられた3)ことから,タフルプロスト点眼によるONH血流増加作用は後眼部に到達した薬剤による局所の直接的な薬理作用によるものと推測される.タフルプロストに関しては,Mayamaら3)が,サルにおいて0.0015%タフルプロストの1日1回7日間点眼後,60分後に点眼前に比べてONH血流量の有意な増加を認めたと報告している.Akaishiら4)は,家兎において0.005%ラタノプロスト,0.004%トラボプロスト,0.0015%タフルプロストの1日1回28日間の片眼点眼後,0,30,60分後にすべての投与群でONH血流の増加を認めており,60分後の時点ではタフルプロストの作用が最も強かったと報告している.Kurashimaら5)は家兎眼においてタフルプロスト,ラタノプロスト,トラボプロストの,エンドセリン-1による毛様動脈収縮に対する抑制効果の持続時間を検討し,タフルプロストが点眼後最も長時間(240分までの検討)にわたって抑制効果を示すことを報告している.ヒト眼では,杉山ら12)が緑内障眼において6カ月点眼後のラタノプロストとタフルプロストの比較を行い,眼圧下降においては両者に差はなかったが,タフルプロスト点眼群でのみONH血流が有意に増加したと報告している.すなわち,タフルプロストの作用時間は他のPG関連薬に比べ長いことが期待されるが,眼血流に対する効果の持続時間および持続的な効果を発揮するために必要な点眼回数についての検討はほとんどみられない.本研究では,6名という少ない対象症例数だが0.0015%タフルプロストの1日1回14日間の連続点眼後,点眼後24時間にわたって点眼前より有意なONH血流の増加,あるいは非点眼側に比べて有意に高いONH血流変化率を認めた.通常の眼圧下降治療と同じ1日1回点眼により眼血流への効あたらしい眼科Vol.30,No.8,20131149 果が24時間にわたり持続する可能性が示唆されたことの臨床的意義は大きい.今後緑内障患者を対象として,視機能に与える影響の評価を含めた長期間の検討が行われることが期待される.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)IshiiK,TomidokoroA,NagaharaMetal:Effectsoftopicallatanoprostonopticnerveheadcirculationinrabbits,monkeys,andhumans.InvestOphthalmolVisSci42:2957-2963,20012)OhashiM,MayamaC,IshiiKetal:Effectsoftopicaltravoprostandunoprostoneonopticnerveheadcirculationinnormalrabbits.CurrEyeRes32:743-749,20073)MayamaC,IshiiK,SaekiTetal:Effectsoftopicalphenylephrineandtafluprostonopticnerveheadcirculationinmonkeyswithunilateralexperimentalglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4117-4124,20104)AkaishiT,KurashimaH,Odani-KawabataNetal:Effectsofrepeatedadministrationsoftafluprost,latanoprost,andtravoprostonopticnerveheadbloodflowinconsciousnormalrabbits.JOculPharmacolTher26:181-186,20105)KurashimaH,WatabeH,SatoNetal:EffectsofprostaglandinF2aanaloguesonendothelin-1-inducedimpairmentofrabbitocularbloodflow:Comparisonamongtafluprost,travoprost,andlatanoprost.ExpEyeRes91:853-859,20106)TamakiY,AraieM,KawamotoEetal:Non-contact,two-dimensionalmeasurementoftissuecirculationinchoroidandopticnerveheadusinglaserspecklephenomenon.ExpEyeRes60:373-383,19957)AiharaM:Clinicalappraisaloftafluprostinthereductionofelevatedintraocularpressure(IOP)inopen-angleglaucomaandocularhypertension.ClinOphthalmol4:163170,20108)桑山泰明,米虫節夫:0.0015%DE-085(タフルプロスト)の原発開放隅角緑内障または高眼圧症を対象とした0.005%ラタノプロストとの第Ⅲ相検証的試験.あたらしい眼科25:1595-1602,20089)AbeS,WatabeH,TakasekiSetal:TheeffectsofprostaglandinanaloguesonintracellularCa2+incillaryarteriesofwild-typeandprostanoidreceptor-deficientmice.JOculPharmacolTher29:55-60,201310)DongY,WatabeH,SuGetal:Relaxingeffectandmechanismoftafluprostonisolatedrabbitciliaryarteries.ExpEyeRes87:251-256,200811)TakayamaJ,TomidokoroA,IshiiKetal:Timecourseofthechangeinopticnerveheadcirculationafteranacuteincreaseinintraocularpressure.InvestOphthalmolVisSci44:3977-3985,200312)杉山哲也,柴田真帆,小嶌祥太ほか:タフルプロスト点眼による原発開放隅角緑内障眼の視神経乳頭血流変化.臨眼65:475-479,2011***1150あたらしい眼科Vol.30,No.8,2013(106)