特集●角膜診療MinimumRequirementsあたらしい眼科31(3):331~337,2014特集●角膜診療MinimumRequirementsあたらしい眼科31(3):331~337,2014角膜浸潤をみたらPerspectivesonCornealInfiltration佐々木香る*I角膜浸潤と混濁の違い角膜浸潤を考える前に,まず浸潤と混濁を明確に鑑別することが大切である.いずれも角膜の薄い白色の濁りとして捉えられるが,浸潤は角膜実質に炎症細胞が侵入している状態で,混濁は角膜実質の線維の走行が乱れた状態である.つまり,角膜浸潤には消炎が必要であるが,角膜混濁は消炎の必要ない瘢痕といえる(図1a,b).なお,実質型ヘルペスや移行期アメーバのように円板状の実質浮腫を伴うもの,角膜フリクテンや壊死性ヘルペスなど血管侵入を伴うもの,細菌・真菌感染など膿瘍を伴ったものは,この項では角膜浸潤から外して考える.他書を参考にされたい.日常臨床でよく遭遇する,比較的小さな円形,不整形の角膜浸潤に的を絞って解説する.角膜浸潤は炎症細胞が集積しているため,境界は比較的不明瞭であるが,一方,角膜混濁は境界鮮明である.また浸潤は炎症を伴うため,軽度の毛様充血を伴うことが多いが,混濁は瘢痕であるので,基本的には充血は認めない(ただし,二次的に上皮欠損などをきたして充血を生じる場合もある).つまり,本項での角膜浸潤のイメージは,円形~不整形の小さめで,辺縁不明瞭な,充血を伴う薄い角膜白濁と捉えてほしい.II浸潤の部位角膜浸潤は周辺部に認められる疾患と中央部に認められる疾患に分類される.周辺部の角膜浸潤として具体的に考えられる疾患は,多い順に1)カタル性角膜浸潤,2)自己免疫疾患(膠原病やMooren潰瘍)である.中間周辺部にみられる角膜浸潤としては,1)ブドウ球菌性角膜浸潤,2)ソフトコンタクトレンズによる角膜浸潤,3)角膜縫合糸による角膜浸潤などがある.そして中央部もしくは全体に広がる角膜浸潤としては,ウイルス性角膜炎(アデノウイルス感染後多発性上皮下浸潤,Thygeson表層角膜炎,単純ヘルペス角膜炎,帯状ヘルペス角膜炎)が多い.上記のように,周辺部のものは好中球の浸潤によるものが多く,中央部のものはリンパ球の浸潤によることが多い.III各論1.周辺部の角膜浸潤a.カタル性角膜浸潤眼瞼に常在するブドウ球菌に対するアレルギー反応であるため,眼瞼が汚れる年齢つまり中年の女性に多い.菌に対する抗原抗体複合物により,好中球が浸潤する.そのため,以下の特徴を呈する.①眼瞼に存在する菌に対する反応であるので,眼瞼と角膜が接触する2時,4時,8時,10時の角膜に好発し,輪部と病変部に連続性はなく,透明帯とよばれる部分が存在する(図2a).②輪部血管から炎症細胞が浸潤するため,輪部に平行*KaoruSasaki:星ヶ丘厚生年金病院眼科〔別刷請求先〕佐々木香る:〒573-0013枚方市星丘4-8-1星ヶ丘厚生年金病院眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(27)331図1a浸潤.ブドウ球菌による角膜浸潤.小円形の濃い浸潤を認め,充血を伴う.図2aカタル性角膜浸潤.4時方向に輪部に平行な浸潤を認める.輪部と病変部には透明帯が存在する.の形状を呈する(図2a).高度になれば弧状につながった形状を示す(図3).③炎症細胞浸潤が主体で上皮破壊は生じにくいため,浸潤病巣に比して上皮欠損が非常に細い,あるいは小さいという特徴がある(図2b).これはカタル性角膜浸潤の一番大きな特徴であり,細菌性角膜炎との鑑別となる.ただし,逆にそのフルオレセイン所見の形状からヘルペスとの鑑別がむずかしい.ヘルペスに特徴的なterminalbulbの有無と,浸潤と上皮欠損の大きさの比率により判断する.b.自己免疫疾患Mooren潰瘍や関節リウマチのような自己免疫疾患で332あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014図1b混濁.図1aの治癒後.小円形の均一な薄い濁りとなり,充血を認めない.図2b図2aのフルオレセイン所見.浸潤に比較して上皮欠損(フルオレセイン陽性部分)が小さい.は,周辺部角膜潰瘍を認める.初期には浸潤から発症し,炎症の増悪とともに潰瘍へと進行する.Mooren潰瘍では,角膜上皮の基底膜に対する抗体が輪部から供給され,抗原抗体反応をきたす.また関節リウマチでは高度の強膜炎に伴って免疫複合体が輪部から角膜に沈着し,好中球が浸潤する(これを硬化性角膜炎とよぶこともある).そのため,以下の特徴を呈する.①カタル性角膜潰瘍と同様に輪部に平行に弧状の病変を呈するが,輪部血管から直接角膜に免疫複合体が沈着するため,カタル性角膜潰瘍でみられる透明帯が存在せず,角膜が存在する輪部に接して,病変が発症する(図(28)4a).②免疫複合体が沈着し,好中球を遊走させるため,進行すると角膜実質が融解し,深掘れの潰瘍を呈する(図4b).2.中間周辺部の角膜浸潤a.ブドウ球菌性角膜浸潤基本的には,カタル性角膜浸潤と同じ機序で発症し,同義と捉えられる.ただし,眼表面に存在する常在菌(ブドウ球菌)に対するアレルギー反応のため,必ずしも眼瞼と接する部位に生じるとは限らない.通常,中間周辺部に多く,正円形の角膜浸潤を呈する(図5a).DSCL(disposablesoftcontactlens)に付着したブドウ球菌によって生じることも多く,次項のソフトコンタクトレンズ装用に伴う角膜浸潤とも一部重なる.注意すべきは,DSCL装用下に発生した緑膿菌による角膜感染症との鑑別である.従来の緑膿菌に典型的とされる輪状膿瘍と異なり,小円形あるいは小さな不整形で,ブドウ球菌性角膜浸潤に類似した所見を呈する(図5b).b.ソフトコンタクトレンズ装用に伴う角膜浸潤コールド滅菌を施行しているソフトコンタクトレンズ装用者に認められる浸潤である.コンタクトレンズに使用されるmultiplepurposesolution(MPS)に対してアレルギー反応が生じる場合と,前項のようにソフトコンタクトレンズに付着したブドウ球菌のような常在菌に対してアレルギー反応が生じる場合がある.MPSに対するものは,角膜の全面あるいは周辺に点状の染色として観察される(図6).またブドウ球菌に対するものは,通常のブドウ球菌性角膜浸潤と同様に,境界明瞭な円形の細胞浸潤として,部位に限らず生じる.いずれも免疫反応が主体であり,カタル性角膜浸潤と同じく,上皮欠損は少なく,浸潤が主体となる.c.角膜縫合糸の無菌性角膜浸潤白内障術後や角膜移植後の角膜縫合糸の周囲に,一時的に浸潤を生じる場合がある.感染症の初期や弱毒常在菌による感染もあるが,糸に対する反応性の無菌性浸潤図3カタル性角膜浸潤.高度な場合は輪部に沿って弧状を呈する.図4aMooren潰瘍.輪部と病変の間には透明帯は存在しない.図4bMooren潰瘍.Underminedとよばれる深掘れした潰瘍を呈する.(29)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014333図5aブドウ球菌性角膜浸潤.中間周辺部に小円形の病巣を呈する.図6MPSアレルギー.輪部にそった点状の浸潤を認める.である場合も多い.判断がむずかしいので,無治療あるいは抗菌薬点眼のみで経過観察し,その進行具合で鑑別する.3.中央部の角膜浸潤主としてウイルスによるものを考える.いずれも浸潤主体で,その浸潤の大きさに比して小さな上皮欠損をきたすか,あるいは上皮欠損を認めない.単純ヘルペス角膜炎.典型的な上皮型角膜ヘルペスでは樹枝状角膜炎とよばれるterminalbulbを有する特徴的な上皮障害を生じるが,その辺縁部に上皮下浸潤が認められる.細隙灯顕微鏡所見では角膜浸潤と捉えられる334あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014図5bDSCL装用者の緑膿菌による角膜感染症.ブ菌性角膜浸潤に似ているが,やや大きめの不整形の浸潤,潰瘍を呈する.が,フルオレセイン染色を行うと鑑別は容易である(図7a,b).なお,実質型の円板状角膜炎は浸潤とともに実質浮腫を伴うので,「浮腫」の項を参照されたい.なお,上皮型や実質型が治癒した後も,多発性斑状の上皮下浸潤が生じることがある.帯状ヘルペス角膜炎では,三叉神経第1枝領域の皮疹が特徴的で,皮疹は2週間以内に鎮静化するが,その後,長期にわたり,角膜上皮下浸潤が持続することがある.単純ヘルペス角膜炎と違い,偽樹枝状病変発症時の上皮下の浸潤は少ない.しかし,帯状ヘルペス治癒後も,季節や体調によって,多発性斑状の上皮下浸潤が,しばしば再発する(図8a,b).Thygeson点状表層角膜炎は,いまだ原因ウイルスは特定されていないが,何らかのウイルス感染が原因で,両眼性に角膜上皮に多発する点状浸潤を特徴とする.小さい点状病変が集合したような白灰色の上皮内浸潤が散在性に角膜全体に認められる.病巣はフルオレセインで点状に染色される.アデノウイルスによる結膜炎に続発するものは,発症約1週間後に小さめの円形,角膜上皮下浸潤で,角膜の全面にわたって生じる(図9).さらに,数カ月たっても,再燃することがある.(30)図7a単純ヘルペスウイルス角膜炎.樹枝状病変の辺縁に上皮下浸潤を伴う.図8a帯状ヘルペス角膜炎.多発性斑状の上皮下浸潤を認める.IV注意本項でとりあげた角膜浸潤は,上記のとおり免疫反応が主体となっていることが多く,その治療はステロイド主体となる.しかし,注意をしておかなければならないものは,アカントアメーバ角膜炎である.初期に,不均一な浸潤を認めることがあり(図10),これに対してステロイドは禁忌である.1)偽樹枝状病変はないか,2)神経炎は存在しないか,3)浸潤が不均一でないか,そして4)コンタクトレンズ装用の既往はないか,などに注意して鑑別する.(31)図7b図7aのフルオレセイン所見.Terminalbulb(末端肥大部)を認める.図8b図8aのフルオレセイン所見.多発性星芒状の染色所見を認める.前述の角膜浸潤をきたす疾患のイメージ図を図11に示す.V治療1.角膜浸潤の治療の基本上記のように,角膜浸潤は,好中球やリンパ球が主体の病態であるため,治療の基本はステロイドが主体となる.程度に応じて,0.1%フルメトロン点眼~0.1%リンデロン点眼を選択する.何度も繰り返すが,本項でとり扱ったような角膜浸潤において,ステロイドが禁忌であるのは,上皮型の単純ヘルペス角膜炎と初期のアカントあたらしい眼科Vol.31,No.3,2014335図9アデノウイルス結膜炎.角膜全面にわたって,多発性角膜上皮下浸潤を認める.図10アカントアメーバ角膜炎(初期).偽樹枝状病変を認め,不均一な浸潤を伴う.3時方向には神経炎も観察される.アメーバ角膜炎である.これだけはまずはしっかりと鑑別して治療を開始する.なお,免疫反応が高度の場合,また薬剤毒性やステロイド性眼圧上昇などでステロイド点眼が困難な場合には,ステロイド内服も考慮する.2.治療の補足・ステロイド点眼の漸減は急激に行うと,再発することが多い.2週間ごとに1回ずつ回数を減らすペースで漸減する.・菌がアレルギーの原因であるものは抗菌薬点眼を,336あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014カタル性角膜浸潤Mooren潰瘍による浸潤ブドウ球菌性角膜浸潤ソフトコンタクトレンズ装用に伴うMPSによる角膜浸潤帯状ヘルペス治癒後の多発性角膜浸潤アデノウイルス結膜炎後の多発性角膜上皮下浸潤図11角膜浸潤をきたす疾患のイメージ一覧ヘルペスが原因であるものは,抗ウイルス薬を予防投与する.ただし,アシクロビル眼軟膏は毒性も生じやすいため,症例によっては,回数を減らすことも考慮する.・カタル性角膜浸潤などで,マイボーム腺炎を認めるものは,ミノサイクリン内服を投与する・ブドウ球菌性角膜浸潤とコンタクトレンズによる緑膿菌性角膜炎の鑑別が困難なときには,まず抗菌薬点眼を処方して経過観察したのち,ステロイド点眼の必要性を検討するという時間差投与が好ましい.・ステロイド点眼中止に伴い,どうしても再発するア(32)デノウイルス結膜炎後の多発性上皮下浸潤に対しては,オフラベルになるがシクロスポリン点眼も奏効する.以下にカタル性角膜浸潤と帯状ヘルペスによる角膜浸潤の処方例を示す.VI処方例カタル性角膜浸潤(図2)に対し以下の処方で治癒した.0.1%フルオロメトロン点×4セフメノキシム点×4帯状ヘルペスによる多発性斑状角膜浸潤(図8)に対し,以下の処方で治癒した.0.1%フルオロメトロン点×4ゾビラックス眼軟膏×1(あるいはバルトレックス1錠内服継続)文献1)井上幸次:角膜浸潤.眼感染症の謎を解く(大橋裕一編),p35-37,文光堂,20092)岡本茂樹,大橋裕一,井上幸次:角膜浸潤.角膜クリニック第二版(真鍋禮三,木下茂,大橋裕一編),p65-70,医学書院,20033)中澤徹,西田幸二:角膜浸潤,前眼部アトラス(大鹿哲郎編),p127-128,文光堂,20074)岡本茂樹:角膜浸潤.月刊眼科診療プラクテイス,前眼部疾患のトラブルシューテイング,p52-56,文光堂,20035)高村悦子:眼部帯状ヘルペス.月刊眼科診療プラクテイス,ウイルス性眼疾患の診療,p32-34,文光堂,2003(33)あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014337