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現場発,病院と患者のためのシステム 20.情報セキュリティ

2013年9月30日 月曜日

連載⑳現場発,病院と患者のためのシステム連載⑳現場発,病院と患者のためのシステム厚生労働省から,医療情報システムに関するガイドラインが出されています.医療に限らず,財産を扱う銀行のシステム,生命にかかわる航空管制システムなど,情報システムの機能,情報が質量ともに増えるに伴い,作る側,使う側ともに守るべきことが多くなります.とりわけ,他人には知られたくない最たる個人情報である診療情報を情報セキュリティ杉浦和史*.情報の漏洩経路図1に示すように,多種多様な出口からの漏洩が考えられます.これらに対応する監視ツールを導入することで,「見張られている」という抑止力が働くことが期待されます.扱う医療情報システムには,守るべきことがたくさんあります.しかし,簡単にいえば“情報を漏洩させない”,これだけです.例を挙げ,簡単に説明しましょう.図1情報漏洩経路の例.情報の保護情報の保護は,一般的に操作者を認証し,そのシステム,機能,情報を扱う資格があるかをチェックしてから操作させることで実現します.許可された操作者であっても,禁止されている操作を行っていないか,アクセスが禁止されているファイルを開こうとしたかなどがわかるよう,操作履歴を採っておくことも可能です.しかし,疑えばキリがなく,何でも記録しておく設定では採取されるデータ量も膨大になるので(図2),監視対象パソコンを選択し,コピー操作など,外部持ち出しになりそうな操作をした場合の履歴を採取するのが一般的です.気をつけなければならないのは,当該情報にアクセスを許可された者に悪魔がささやき,処罰を承知のうえで情報を持ち出すことです.厳重な監視が行われている銀行や通信サービス会社でも情報漏洩事件が起き,問題に(75)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY指定した参照条件で29000000件のデータが見つかりました。表示しますか?はい(Y)いいえ(N)図2条件を緩くすると膨大な量がヒットなることがあります.待遇への不満や,反社会的勢力に脅されてというケースがあるようですが,十重二十重の対策も,最終的には人に帰結します.きめ細かな監視ができるツールを導入したり,厳しい罰則を就業規則に盛り込んでも,処罰覚悟の確信犯に対しては無力です.経験からいえば,基本的な監視ツールを導入し,抑止力とした後は,働きやすい職場環境,楽しく仕事できる雰囲気が醸成できていれば,自分はもちろん,親しい同僚達の働く職場を失うような所業をする気には“なりにくい”ということです.非科学的ではありますが,最も効果的ではないかと考えています..情報漏洩防止の例医療スタッフには門外漢の情報セキュリティの仕組みですが,発想は簡単です.何を操作したのか?この情報を収集,蓄積して適宜利用するだけです.ただし,前出のように,おしなべて観るのではなく,重要な情報を扱う部門にフォーカスし,狙いを定めて監視するのがポ*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131275 イントです.医療機関においては,医事会計,検査,診察,手術室,病棟など,ほとんどすべての部内が対象になりますが,全操作を観るのではなく,情報漏洩につながりそうな操作をしたケースだけを抽出するほうが効率的です.筆者が,セキュリティソフト開発のコンサルティングをしていたときに試作した監視ツールの事例を紹介します.どんな操作が情報漏洩に結びつくかを調べ実用的なものを列挙し,どこまで管理するかのセキュリティポリシーに従い,適宜選択する仕組みです.禁止されている操作をしたケースが検出され,情報漏洩を防いでいることを示しています(図3).外部記憶装置書き出し禁止ネットワークフォルダ書き出し禁止OutlookExpress/Outlookでのファイル添付禁止Webメールでのファイル添付禁止印刷禁止PrtScrn操作禁止設定ポリシー設定McosoPowerPonファイルを保存できません。この保存場所は書き込み禁止に設定されています。終了OK名前を付けて保存保存先(I):ファイル名(N):保存(S):キャンセルファイルの種類(T):ローカルディスク(D:)テストプレゼンテーション図3情報漏洩の懸念がある操作種類の指定と検出結果の例図3に示した,情報の外部流失につながるUSBメモリなど,外部記憶装置へのコピー操作を監視する機能はポピュラーなもので,どの監視ツールにもある機能です.意外に忘れられているのが,メールに添付して送るという抜け道です.筆者は,この抜け道を塞ぐための機能を試作をしたことがあります.紹介しましょう.図4に示すように,ファイルを添付する操作を行い,つぎ送信操作を行います.①添付②送信をクリック送信東工大.ppt(5.07MB)ファイル名(N):ファイルの種類(T):このファイルへのショートカットを作成する(S)東工大すべてのファイル(*.*)添付(A)キャンセル日本OR学会図4ファイル添付操作とそれを送信する操作メールソフトに細工をして(フックをかけるといいます),外部への送信を許可されたファイルかを聞き,許可された者しか知らないパスワードを入力しないと送ることができない仕掛けです.OutookExpress情報漏洩監視“杉浦技術士事務所”を使用してメールを送信中…メッセージの送信中(1/1)…完了時に接続を切断する(F)送信中のメールに添付ファイルがあります。添付ファイルを送信するにはパスワードを入力して下さい。パスワード確定送信中止0/1のタスクが完了しました表示しない(H)〈〈詳細(D)停止(S)図5送ろうとしたファイルが許可されているかをチェックパスワードを知らない不正に送ろうとした者は,やむを得ず,送信中止をするしかありません.この間の操作は誰がいつ行ったのかの操作履歴が採られており,操作者は管理者から操作の事実を示されたうえ,説明を求められることになります.なお,このメッセージを見て,慌ててシャットダウンをしても,履歴は保存されているので隠しようがありません.もちろん,履歴を保存しているファイルを削除することはできない仕掛けです..その他米国政府機関の情報収集が問題になっていますが,一般的には,外部からのアタックによって情報が持ち出された例はきわめて少なく,図6に示すように,大半は内部的要因であることも知っておいて損はありません.なお,盗難は内部の管理が疎かになっているということで,内部的要因に入れています.内部的要因93%紛失置き忘れ盗難不正持ち出し内部犯罪設定ミス目的外使用不正アクセスセキュリティホールウイルス不明図6情報漏洩要因(出典:日本ネットワークセキュリティ協会データを編集)1276あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(76)

タブレット型PCの眼科領域での応用 16.デジタルコミュニケーションツールとしての活用-その2-

2013年9月30日 月曜日

シリーズ⑯シリーズ⑯タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第16章デジタルコミュニケーションツールとしての活用─その2─■タブレット型PCのコミュニケーションツールとしての意義第16章で取り上げる端末は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているタブレット型PC“iPadRetinaディスプレイモデル(米国AppleInc.)”と“iPadmini(米国AppleInc.)”のiOSバージョン6.1.3です.この章ではタブレット型PCの聴覚障害の患者に対するデジタルコミュニケーションツールとしての活用法とその意義について,患者の声とともに紹介していきます.■私のデジタルコミュ二ケーションツール活用法「聴覚障害者編」タブレット型PCを臨床業務へ導入する以前,私は難聴の患者に対してホワイトボードを使用して症状の説明や,必要な点眼薬の処方の確認などの意思疎通を図っていました.眼科外来に通院する患者の半数は高齢者であり,聴覚の低下を自覚している方も多いことを実感していましたが,難聴の患者へのコミュニケーションを向上さる手段をもっていませんでした.しかし,タブレット型PCの臨床業務への導入後は,聴覚に障害をもつ患者に対する意思疎通の方法は大きく変化しました.2013年7月現在,私の外来ではタブレット型PCの聴覚障害者向けのアプリケーションソフトウェア(以下アプリ)や,マイク機能を利用したコミュニケーションツールとしての活用法を,患者や患者家族とのデジタルコミュケーションツールとして紹介しています.①手書き筆談アプリの活用タブレット型PCには多数の手書き入力アプリが存在しています.なかには筆談に特化したアプリもありま(73)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1手書き入力アプリを利用して,難聴の患者と意思疎通を図っている様子(筆談パット:開発CatalystwoLimited)す.このアプリを起動すると,上下に二分割されたシンプルな記載画面が表示されます.患者と医療スタッフの間にタブレット型PCを配置することで,双方がフリーハンドで記載した内容がリアルタイムに反転されて相手側に表示されます(図1).ホワイトボードのように向きを変える必要などがなく自然な会話の流れのなかで難聴の患者とコミュニケーションをとることが可能なため,患者との関係性は向上します.実際の患者の声には以下のようなものがあります.「暗い部屋でも先生の言葉を,文字として見えるのでとても安心できます.」「シンプルなアプリだから家でも使えて,おじいちゃんも満足そうです.」シンプルなアプリであるために患者と患者家族のコミュニケーションにも利用することが可能であり,私の外来では実際にこのアプリが自宅でのタブレット型PC導入の契機となった症例を多く経験しています.あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131273 図2ワイヤレスのイアフォンに付属したマイクで,テキストを音声入力して患者にリアルタイムに言葉をテキスト化して表示している(アクセシビリティ機能:色の反転およびテキストを大きな文字で表示56pt)②音声入力システムの活用タブレット型PCの音声によるテキスト入力機能とマイク機能付きのイアフォンとを組み合わせることで,医療スタッフがマイクに向かって話した内容を即時テキストとして表示することが可能です.アプリの文字表示サイズの設定を大きめに設定しておくことで,実際に会話をするように聴覚と視覚に障害をもつ患者とも意思疎通を図ることが可能となります.タブレット型PCでは背景色や文字の色および書体などを任意に設定することができるため,患者はもっとも視認性のよい状態で医療スタッフの言葉を視認できます.音声入力システムの導入を始めた患者の声には以下のようなものがあります.「言葉が口動きとともに文字として見えるので,まるで先生の声が聞こえるような感覚になります.」「先生の言葉に字幕がついているみたいで,とても心に伝わります.」今後,このような活用法に特化したアプリが登場すれば,音声入力システムとタブレット型PCをディスプレイとして利用することで,日常会話にリアルタイムに簡易式の字幕をつけることが可能な環境が実現できると私は考えています.本章ではおもに聴覚に障害をもつ患者や患者家族に,タブレット型PCを用いた筆談アプリと音声入力システムの活用法とその意義について簡単に紹介しました.聴覚障害という音声情報の入力障害に伴う不便さに対して,適切なアプリの導入を行うことで患者と患者家族,そして医師患者間の相互理解は格段に向上します.これまでに紹介したようにタブレット型PCやスマートフォンは,視機能障害の程度によらず活用の可能性をもっています.しかし,タブレット型PCを実用的なエイドとして活用を継続して行くための条件が存在します.それは患者と周囲の人々とのつながりの重要性です.すなわち,家族や仲間の存在がなく孤立した生活環境の症例では,タブレット型PCやスマートフォンの導入はきわめて困難であるといえます.今回紹介したアプリのように患者と患者家族間や患者と患者の友人間で利用できるシンプルなアプリの存在は,これらデバイスをエイドとして活用していくうえで最も大切なことなのだと私は考えます.本文の内容や各種セミナーの詳細に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」よりいつでも受けつけていますので,お気軽に連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆1274あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(74)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 124.ブリリアントブルーGを用いた特発性黄斑上膜に対する硝子体手術(初級編)

2013年9月30日 月曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載124124ブリリアントブルーGを用いた特発性黄斑上膜に対する硝子体手術(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●ブリリアントブルーGの有用性Enaidaらにより開発されたブリリアントブルーG(BBG)は,網膜面に塗布することで内境界膜を染色でき,黄斑円孔手術時などの内境界膜.離を容易に施行できる有用な手術補助剤である1).従来のインドシアニングリーン(ICG)に比較して網膜毒性が低いこともあり,近年急速に普及してきている.●BBGの黄斑上膜手術への応用内境界膜はMuller細胞の基底膜であり細胞増殖の足場になることから,特発性黄斑上膜の膜.離時に内境界膜.離を併用することで術後の黄斑上膜の再発を予防できると考えられる.黄斑上膜が存在する部位はBBGを塗布しても染色されないので,黄斑上膜.離後に再度BBGを塗布して内境界膜.離を施行する方法が報告されている2,3).●黄斑上膜.離の切っ掛けをBBGで作る黄斑上膜のなかには非常に薄く透明で,膜.離の切っ掛けを作りにくい症例に遭遇することがある.慣れないとこの際にピックで網膜を損傷してしまうこともある.このような症例に対して筆者はBBGで黄斑上膜周囲の内境界膜を染色し,黄斑上膜の範囲を確実に同定するとともに,黄斑上膜の周囲から内境界膜.離を開始し,これに連続する黄斑上膜を.離する方法を行っている.この方法は,内境界膜.離に慣れている術者であれば,内境界膜と一緒に黄斑上膜も確実に.離できる.黄斑上膜.離部位でも内境界膜と網膜の癒着(通常.離部位のラインが見える)が確認できるので,再度BBGを塗布する必要は少ない.(71)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1BBG塗布黄斑上膜.離前に網膜面にBBGを塗布する.図2内境界膜.離BBGで染色された黄斑上膜周囲の内境界膜から膜.離を開始する.図3黄斑上膜.離内境界膜に連続した黄斑上膜を.離する.この際に.離部位にラインが観察され,内境界膜も同時に.離されているのが確認できる.文献1)EnaidaH,HisatomiT,HataYetal:BrilliantblueGselectivelystainstheinternallimitingmembrane/brilliantblueG-assistedmembranepeeling.Retina26:631-636,20062)KifukuK,HataY,KohnoRIetal:Residualinternallimitingmembraneinepiretinalmembranesurgery.BrJOphthalmol93:1016-1019,20093)ShimadaH,NakashizukaH,HattoriTetal:DoublestainingwithbrilliantblueGanddoublepeelingforepiretinalmembranes.Ophthalmology116:1370-1376,2009あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131271

眼科医のための先端医療 153.古くて新しい感染症の治療:ファージを用いた眼感染症の治療

2013年9月30日 月曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第153回◆眼科医のための先端医療山下英俊古くて新しい感染症の治療:ファージを用いた眼感染症の治療福田憲(高知大学医学部眼科学講座)はじめに現在,感染性眼疾患に対し,多くの抗微生物薬が治療に用いられていますが,迅速な診断と適切な治療がなされない場合は未だ視機能障害を残します.細菌感染による眼疾患では,治療が奏効しない原因は2つ考えられます.1つは起炎菌がわからず感受性のある適切な薬物が投与されていない場合,もう1つは起炎菌は同定されているが薬剤耐性菌であるために薬物が奏効しない場合です.現在でもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を代表とする薬剤耐性菌による眼感染性疾患は治療に苦慮しますが,今後他科で報告されているような多剤に対して高度の薬剤耐性を示す細菌が眼疾患をひき起こすことが予想されます.したがって,従来の抗菌薬に依存しない治療法の開発が重要です.本稿では,細菌に感染し破壊するウイルスであるバクテリオファージ(ファージ)の溶菌活性を利用する「ファージ療法」の眼感染症の治療への応用の可能性について紹介します.バクテリオファージとは「バクテリオファージ」とは「細菌を食べるもの」という意味ですが,その名のとおり細菌に感染し菌体を溶かして増殖するウイルスです.細菌への寄生に特異性があり,それぞれ特定の細菌種にのみ感染します.たとえば,緑膿菌に対するファージはブドウ球菌には寄生しません.ファージは土壌,河川,海洋,食物などの自然環境やヒトを含んだ動物の腸管など至るところに普遍に存在し,地球上最も多く存在する微生物ともいわれています.ファージは感染後の菌体内での増殖様式から,溶菌型と溶原化型の2つに大別されます.ファージは頭部と尾部からなりますが,尾を使って細菌の細胞壁や莢膜を突破し,細胞内に核酸を送り込みます.溶菌型ファージは,感染すると細菌内で増殖し,細菌を破壊(溶菌)して多数の子ファージを放出します(図1).ファージの多くはこの溶菌型です.一方,溶原化型ファージは細菌へ感染しても細菌の染色体と共存したまま細菌も生存し,DNAを複製するプロファージといわれる状態になります.ファージの発見は古く,1915年にバクテリアを溶かしてしまうウイルスとして偶然発見されました.その後ファージのもつ溶菌活性を利用して抗菌薬として用いる,いわゆるファージ療法の研究が始まりました.しかしながら,1929年に最初の抗生物質であるペニシリンが発見されてから,次々と新しい抗生物質が開発されたため,抗菌薬としての主役は完全に抗生物質に奪われることとなりました.ファージを用いた感染症の治療は,おもに旧ソ連と東欧に限って続けられていましたが,その後抗生物質の濫用により薬剤耐性菌が出現した1980年代になって西欧諸国でも米国を中心とする研究者のグループによりファージ療法の研究が再開されました1).これまでマウスなどを用いた動物実験でMRSA,バンコマイシン耐性腸球菌,多剤耐性緑膿菌などの感染症にDNA図1バクテリオファージの溶菌サイクルファージ感染は,まず宿主の細菌表面に吸着し,尾を使って細菌の細胞壁や莢膜を突破しゲノム核酸を細菌へ注入する.その後ファージは細菌内で菌の増殖の約50倍の速度で増殖し,ファージ由来の溶菌酵素により細菌の菌体が破壊され多数の子ファージが放出され,隣接する細菌に再び感染するという溶菌サイクルを繰り返す.(67)あたらしい眼科Vol.30,No.9,201312670910-1810/13/\100/頁/JCOPY 43210135対照群ファージ群角膜臨床スコア3210135対照群ファージ群角膜臨床スコア感染後A対照群Bファージ点眼群C角膜スコアの日数1日3日5日図2バクテリオファージ点眼のマウス緑膿菌角膜炎への効果緑膿菌を角膜に感染させると,経時的に角膜混濁が増悪し穿孔をきたす(対照群点眼).ファージを1回点眼すると,感染後の日数角膜混濁は経時的に軽減した.対するファージ療法の有効性が報告されています2).さらに東欧から多くのファージ療法の臨床的有効性が報告されています3).眼科領域のファージ療法の報告はブドウ球菌による結膜炎の治療が報告されているのみで,ほとんどありません.マウス緑膿菌性角膜炎への応用筆者らは高知大学医学部微生物学講座と共同で,薬剤耐性菌による角膜潰瘍や眼内炎などの眼疾患の治療にファージが応用できないか研究をしています.まず緑膿菌による角膜潰瘍に対するファージの効果を検討しました4).緑膿菌特異的ファージKPP12は高知大学の近くの河川水を,緑膿菌を生やした培地に塗抹することで分離しました.分離されたファージを増殖させた後,宿主(緑膿菌)由来の核酸を除去し,密度勾配超遠心により精製しました.マウスの緑膿菌性角膜炎は,角膜に針で傷をつけた後に高知大学医学部附属病院での臨床分離株の緑膿菌を点眼して作製し,感染後に精製したファージKPP12を点眼してその効果を対照群と比較しました.その結果,対照群では感染後角膜混濁が経時的に増悪し,3日後にはほとんどすべてのマウスで角膜穿孔がみられたのに対し,ファージを1回点眼したマウスは,経時的に角膜混濁が軽減しました(図2).また,感染5日後に角膜内の生細菌数を測定すると対照群ではすべてのマウスで105/ml以上の緑膿菌が検出されましたが,ファージ点眼群では1匹を除いて緑膿菌は検出されず,検出されたマウスでも60/mlと非常に低い細菌数でした.この結果は,細菌性角膜炎に対するファージ療法の1268あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(文献4より引用・改変)臨床応用の可能性を示唆する結果といえます.筆者らは現在MRSA特異的ファージや腸球菌特異的ファージなどが感染性眼内炎の治療に応用できないか,またファージそのものではなくファージが産生する溶菌酵素,たとえばMRSA特異的溶菌酵素などの眼感染症の治療への応用を目ざして研究しています.臨床応用に向けてアメリカの食品医薬品局は,すでに2006年にリステリア菌に対するファージを食肉の添加物として認可し,翌2007年にはすべての食品に対してこのファージを認可しています.今後,感染症の治療として用いられるようになるのもそう遠い未来ではないでしょう.ファージを用いた細菌感染の制御の利点は,1)大量に安価に調整できる(今回用いたファージは大学の近くの河川から分離),2)病原菌が存在すればファージの生体内増殖が期待でき,病原菌が死滅すればファージも死滅する(ファージの投与回数が少なくてすむ),3)ヒトの細胞には感染しない(安全性が高い),4)宿主菌に対する特異性があるので病原菌以外の常在細菌叢に影響を与えない,などの点があげられます.一方,欠点は宿主菌の特異性が高いことがあげられます.すなわち,特定の菌にしか感染しないため,原則的には起炎菌が同定されてからの投与となります.また,同じ種の細菌でも,株によって特定のファージが感染するものとしないものがあります.今回,研究に用いたファージKPP12は,眼感染症からでた緑膿菌株5株のうち4株で溶菌効果を示しました.これらの欠点を補い,感染初期の治療に用(68) いるためには,眼感染症から分離した菌株に広く感染能力を有するファージの組み合わせを準備しておくことや,眼内炎の4大起炎菌のファージのカクテルを投与する,などの工夫が今後必要となるでしょう.すでに緑膿菌を標的とするファージの混合物が開発され,薬剤耐性緑膿菌による慢性耳炎に対する臨床試験が行われ,安全性と有効性が報告されています5).角膜炎や眼内炎などの感染性眼疾患は,ファージの投与が点眼や硝子体内投与など他の臓器に比して比較的簡単であり,また効果の判定もわかりやすいので,眼球はファージ療法の臨床応用をしやすい臓器であるといえます.今後,多剤耐性菌による眼感染性疾患の増加が予想され,それに比例して抗生物質による治療が困難な症例が増加すると思われます.本稿で紹介したファージ療法は,多剤耐性菌に対する有望な代替療法の一つになると思います.人類が開発した武器である抗生物質によって生み出された薬剤耐性菌に対して,昔からある自然由来の細菌の天敵を治療に用いることになるのは皮肉な感じがします.文献1)MerrilCR,SchollD,AdhyaSL:TheprospectforbacteriophagetherapyinWesternmedicine.NatRevDrugDiscov2:489-497,20032)MatsuzakiS,YasudaM,NishikawaHetal:ExperimentalprotectionofmiceagainstlethalStaphylococcusaureusinfectionbynovelbacteriophagephiMR11.JInfectDis187:613-624,20033)Weber-DabrowskaB,MulczykM,GorskiA:Bacteriophagetherapyofbacterialinfections:anupdateofourinstitute’sexperience.ArchImmunolTherExp(Warsz)48:547-551,20004)FukudaK,IshidaW,UchiyamaJetal:Pseudomonasaeruginosakeratitisinmice:effectsoftopicalbacteriophageKPP12administration.PloSOne7:e47742,20125)WrightA,HawkinsCH,AnggardEEetal:Acontrolledclinicaltrialofatherapeuticbacteriophagepreparationinchronicotitisduetoantibiotic-resistantPseudomonasaeruginosa;apreliminaryreportofefficacy.ClinOtolaryngol34:349-357,2009■「古くて新しい感染症の治療:ファージを用いた眼感染症の治療」を読んで■今回の福田憲先生(高知大学眼科)のファージをされれば,より多くの眼科医が安全で有効な治療を患用いた細菌感染症の治療は,まさにわれわれ眼科医が者に提供できるようになると考えられます.ファージ待ち望んでいる多剤耐性菌に対する治療法です.それを用いた治療法が抗生物質で一度はすたれたものを,を「昔からある自然由来の細菌の天敵を治療に用いる薬剤耐性菌が出現ののち利用するという新たな命を吹ことになる」(本文から)というきわめてユニークな方き込んだことにより再度研究が進められるというのは法での解決を明解にわかりやすく紹介していただきま大変に教訓的なことと考えます.医学,医療は,いうした.医療が高度化し種々の疾患が錯綜している現代までもなくこれまでの先人の大きな努力とその生み出の医療では,福田先生が本文中でも述べていらっしゃしてきた膨大な知識,データに基づいて行われていまるように,「今後他科で報告されているような多剤にす.生物学的に意味がきちんとある治療法も多くあり対して高度の薬剤耐性を示す細菌が眼疾患をひき起こます.人類の大きな財産としてこの先人の業績をきちす」状態に遭遇することがきわめて多くなると考えらんと保持することで新しい状態に対応することができれます.角膜感染は日常臨床でも遭遇する機会が多いる新しい治療法を手に入れることができるかもしれま疾患であり,治療に苦慮することも多々あります.抗せん.古きを訪ね新しきを知る(温故知新)をまさに生物質と細菌の耐性獲得のイタチごっこのなかで不安最高の形で提示していただいたことになります.このを感じているのはすべての眼科医といっても過言ではような発想が出てくる素地は,研究者の優秀さにあるありません.その問題に福田先生の研究は大きな光明と考えます.マニュアルではなく,医学的な知識のいを投げかけていただきました.いわれてみればなるほわば真髄,本当に意味,意義を熟知していることからど,という合理性とユニークさが痛快ですらありま新しい発想が出てくるのではないでしょうか?医学す.原因菌をそのゲノム解析により行い,原因菌が同教育においても大切なポイントになると考えます.定されれば抗生物質に加えてきわめて特異的な効能を山形大学医学部眼科山下英俊もつファージを用いた治療を行うといった方式が確立(69)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131269

私の緑内障薬チョイス 4.コソプト®

2013年9月30日 月曜日

連載④私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載④私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也4.コソプトR谷戸正樹島根大学医学部眼科学講座コソプトRは,確実な眼圧下降が必要とされる3剤以上の併用療法時に,より少ない点眼ボトル数・点眼回数での眼圧管理が可能となる薬剤である.多剤併用療法において,患者への負担を軽減することができる.患者にも医師にもやさしい処方が可能なコソプトRコソプトRは,現在国内で唯一使用可能なb遮断薬と炭酸脱水酵素阻害薬の合剤である(図1).1998年に米国などで承認されて以降,世界約90カ国で使用されている(図2).日本では0.5%チモロールと1%ドルゾラミドを含む製剤が承認されているが,海外では2%ドルゾラミドを含む製剤が主流である.コソプトRの魅力は,併用療法時の処方のシンプルさにある.プロスタグランジン製剤(PG),b遮断薬(b),炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)による3剤併用療法時の点眼ボトル数と1日の点眼回数を表1に示す.PGと1日2回点眼のb,1日2.3回点眼のCAIを併用した場合に比べPG+コソプトRを処方した場合には,点眼ボトル数が減り,点眼回数も半分ですむ.点眼ボトル数・点眼回数の多寡は,患者の理解や患者が実際に点眼するかどうかに直結するため,筆者は可能な限り合剤を併用することにしている.また,医師の側からみても,点眼ボトル数を減らすことで,点眼指導や処方に費やす時間を短縮することが可能であり,この点においてもコソプトRを使用することに利点を感じている.より確実な眼圧下降が必要とされる多剤併用療法現在一般的には,PGを第一選択として使用し,視野の障害度や進行速度を加味して目標眼圧を設定し,必要に応じて薬剤を変更・追加することが行われている.コソプトRが考慮される状況では,少なくとも3剤の併用が必要と判断されるときであるため,単剤で治療されている状況と比較して,視野障害の程度が強い,視野障害の進行速度が速い,眼圧がより高度に上昇しているといった状況が想定される.そのような状況では,より確実(65)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY図1コソプトRのボトル形状・外観コソプトRの点眼ボトルはキャップの形状に特徴がある.メビウスの輪をイメージしたデザインで,1日2回点眼を示唆する2コブの形状を採用したとのことである.患者からの病歴聴取で,「オレンジでとがったキャップ+濁った薬液」ならエイゾプトR,「オレンジで8の時のキャップ+透明な薬液」ならコソプトRである.(MSD株式会社提供)な眼圧下降を得るために,bの持続効果が懸念されるPG/b合剤+CAIによる併用療法ではなく,PG+コソプトRによる併用療法が好ましいと筆者は考えている.PG/b合剤は,CAIなどの他の薬剤との併用ではなく合剤単独で使用すること(1日1回点眼)に最大の利点があるように思う.術後の眼圧下降薬として相性の良いコソプトR硝子体手術や白内障手術などの内眼手術の後に眼圧上昇をきたすことがある.そのような場合に,炎症の増悪が懸念されないコソプトRを使用することが多い.筆者本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131265 1998年承認アメリカイギリスフランススイスデンマークブラジルメキシコなど24カ国1999年承認アイスランドノルウェーカナダオーストラリアペルー南アフリカなど25カ国2000年承認スペインルーマニアハンガリーなど6カ国2001年承認エジプトサウジアラビアタイなど16カ国2002年以降承認フィリピンマレーシアインドロシア日本など17カ国1998年承認アメリカイギリスフランススイスデンマークブラジルメキシコなど24カ国1999年承認アイスランドノルウェーカナダオーストラリアペルー南アフリカなど25カ国2000年承認スペインルーマニアハンガリーなど6カ国2001年承認エジプトサウジアラビアタイなど16カ国2002年以降承認フィリピンマレーシアインドロシア日本など17カ国図2世界におけるコソプトRの承認状況(MSD株式会社提供)表1プロスタグランジン製剤(PG),b遮断薬(b),炭酸脱水酵素阻害薬(CAI)の併用療法時の点眼ボトル数と1日の点眼回数PG+b+CAIPG+持続型b+CAIPG/b合剤+CAIPG+コソプトR点眼ボトル数点眼回数/日35.634.523.423の印象でしかないが,房水産生抑制薬であるコソプトRのほうが,房水流出量を増加させる薬剤より,術後炎症に伴う眼圧上昇に対してシャープな眼圧下降効果を得ることができるような気がしている.また,トラベクロトミーなどの流出路再建術後の眼圧上昇に対しても,相性の良さと期待される眼圧下降効果からコソプトRを使用することが多い.●●●1266あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(66)

抗VEGF治療:抗VEGF薬の安全性と使用方法

2013年9月30日 月曜日

●連載⑯抗VEGF治療セミナー─使用方法─監修=安川力髙橋寛二6.抗VEGF薬の安全性と使用方法大島裕司九州大学大学院医学研究院眼科学分野滲出型加齢黄斑変性(AMD)に伴う脈絡膜新生血管に対する治療は,抗VEGF薬の登場により劇的に変革し,第一選択の治療法となっている.わが国においても抗VEGF薬による治療が開始されて約4年が過ぎ,その治療効果が示されてきている反面,反復投与による合併症が短期的にも長期的にも危惧されている.本稿では抗VEGF薬の安全性と使用方法について概説する.はじめに滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に伴う脈絡膜新生血管に対する治療は,ペガプタニブ(マクジェンR),ラニビズマブ(ルセンティスR)に代表される抗VEGF薬の登場により劇的に変革し,さらにアフリベルセプト(アイリーアR)の登場によりその選択範囲が広がった.これら抗VEGF薬の投与方法は導入期として最初の3回毎月連続投与後,維持期として毎月投与(monthlyinjection)に代表される固定投与(fixeddosing)や,わが国で広く用いられている病状が悪化したときに投与を行う必要時投与(prorenata:PRN)がある.治療効果を維持するためには,抗VEGF薬投与が長期化,および投与回数が膨大になることも少なくなく,眼科医として眼局所の合併症のみならず,全身への影響をも留意しなければならない.ラニビズマブ(ルセンティスR)多数の臨床試験の結果から,ラニビズマブ月1回の硝子体内投与がスタンダードとなったが,毎月の投与は患者側,医療者側とも負担が大きいため,わが国を含め実臨床の場でおもに行われているのが病状悪化時に投与するPRNである.この方法では毎月投与ほどの効果は得られないことが多いが,視力を比較的維持できている症例が多いことが知られている.しかし,毎月固定投与(monthlyfixeddosing)とPRN,およびラニビズマブとアバスチンを比較したCATT試験では,両薬の間では治療後の視力変化は同等であったが,PRNは毎月投与に劣ると報告されている1).また,種々の臨床試験から同じPRNでもOCT(opticalcoherencetomography,光干渉断層計)でわずかでも滲出がある場合,加療を行(63)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYったほうが視力予後良好であることが知られるようになり,PRNでも最近では以前に比して注射回数が増加していると推察される.Curtisらは,40,841名の抗VEGF療法を受けた患者(ベバシズマブ21,815名,ラニビズマブ19,026名)を後ろ向きに調査し,その全身合併症のリスクを報告している.それによるとベバシズマブのほうが有意に脳卒中(HR:0.78,95%信頼区間:0.64.0.96),および死亡率(HR:0.86,95%信頼区間:0.75.0.98)のリスクを上昇させると報告している2).その理由の一つとして考えられるのが,薬剤の血中への移行である.Carneiroらは,ラニビズマブもしくはベバシズマブを投与された患者の治療後血中VEGF濃度を測定し,導入期終了後1カ月後においてラニビズマブ群は有意な低下は認められなかった(0.7%の低下,p=0.198)が,ベバシズマブ群は有意に血中VEGF濃度が低下していた(42%の低下p=0.0002)と報告している3).この理由は,ラニビズマブは生成過程において,糖化されていないため,元来静注用抗癌剤で糖化蛋白として生成されているベバシズマブに比べて血中で分解されやすい特徴があり,ベバシズマブのほうが血中に残存しやすいためであると推測される.これらのことより,ラニビズマブはベバシズマブに比べて安全性が高いと考えられるが,安全性に問題がないわけではない.Bresslerらは,ANCHOR,MARINA,PIER,SAILORなどの大規模臨床試験のメタアナリシスを行い,元々,心血管イベントのリスクが高い症例では,コントロール群に比べて,ラニビズマブ投与で心血管イベントの発症が有意に高かったことを報告している(OR:7.7,p=0.03)4).眼局所の短期的な合併症は,以前より眼内炎,外傷性白内障,硝子体出血,網膜裂孔,網膜.離などが報告さあたらしい眼科Vol.30,No.9,20131263 図1抗VEGF療法後黄斑萎縮が認められた症例a:治療前,b:治療開始後4年.71歳,男性.左)網膜血管腫状増殖(RAP)の診断にてラニビズマブ硝子体内投与を32回施行.黄斑部に萎縮病巣が認められる.視力は治療前(0.15),治療開始4年(0.2)と不変である.れているが,RofaghaらはANCHOR,MARINA,HORIZONなどの7年間の長期成績を報告し,そのなかで自発蛍光による黄斑萎縮が98%に認められ,視力低下の有意な原因になっていたと報告している(p<0.0001)5)(図1).以上のことより,ラニビズマブはベバシズマブより安全性が高いと考えられるが,ハイリスク症例に対しては留意しなければならない.ペガプタニブ(マクジェンR)VEGFアイソフォームのVEGF165を選択的に抑制するペガプタニブの大規模臨床試験にはVISION試験があるが,その臨床効果は,視力維持は可能であったが改善効果に乏しいものであった.3年間の経過観察において心血管イベントの発症はわずか3%で,重篤な出血性イベントも認められていない6).この安全性から,他剤導入期治療によって改善した視力を維持する目的で,維持期にペガプタニブ固定投与を行うというLEVEL試験が行われ,良好な結果が得られている.アフリベルセプト(アイリーアR)アフリベルセプトは,VEGFの受容体とIgGのFcの融合蛋白でVEGFのすべてのアイソフォームのみならず胎盤成長因子をも抑制する.アフリベルセプトはわが国でも2012年に認可されたばかりで大規模臨床試験であるVIEW試験以外の報告はまだ少ない.VIEW試験では,維持期におけるアフリベルセプトの2カ月毎投与は,ラニビズマブ毎月投与に比して非劣性が示された.1264あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013合併症に関しては,心血管イベントおよび高血圧や重篤な出血性イベントもラニビズマブ毎月投与と比べて有意な差は認められなかった7).しかし,ラニビズマブ同様の心血管イベントが発症するリスクは予想され,特にハイリスク症例への投与は慎重を要する.おわりにAMDに対する抗VEGF薬硝子体内投与は治療のゴールデンスタンダードとなっている.視力予後を考えると定期的にproactiveな状態で投与するほうが良好な結果が得られる可能性が高いが,それに伴い,全身的,局所的な合併症のリスクが増加することが懸念され,特にハイリスク症例には注意を要する.われわれ眼科医は,治療のベネフィットと合併症発症リスクを考慮に入れ,慎重に加療し,合併症を可能な限り起こさないように留意しなければならない.文献1)MartinDF,MaguireMG,FineSLetal:Ranibizumabandbevacizumabfortreatmentofneovascularage-relatedmaculardegeneration:two-yearresults.Ophthalmology119:1388-1398,20122)CurtisLH,HammillBG,SchulmanKAetal:Risksofmortality,myocardialinfarction,bleeding,andstrokeassociatedwiththerapiesforage-relatedmaculardegeneration.ArchOphthalmol128:1273-1279,20103)CarneiroAM,CostaR,FalcaoMSetal:Vascularendothelialgrowthfactorplasmalevelsbeforeandaftertreatmentofneovascularage-relatedmaculardegenerationwithbevacizumaborranibizumab.ActaOphthalmol90:e25-e30,20114)BresslerNM,BoyerDS,WilliamsDFetal:Cerebrovascularaccidentsinpatientstreatedforchoroidalneovascularizationwithranibizumabinrandomizedcontrolledtrials.Retina32:1821-1828,20125)RofaghaS,BhisitkulRB,BoyerDSetal:SEVEN-UPStudyGroup.Seven-yearoutcomesinranibizumab-treatedpatientsinANCHOR,MARINA,andHORIZON:AMulticenterCohortStudy(SEVEN-UP).Ophthalmology.2013.doi:10.1016/j.ophtha.2013.03.046.[Epub]6)SingermanLJ,MasonsonH,PatelMetal:Pegaptanibsodiumforneovascularage-relatedmaculardegeneration:third-yearsafetyresultsoftheVEGFInhibitionStudyinOcularNeovascularisation(VISION)trial.BrJOphthalmol92:1606-1611,20087)HeierJS,BrownDM,ChongVetal:Intravitrealaflibercept(VEGFtrap-eye)inwetage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology119:2537-2548,2012(64)

緑内障:緑内障視野の進行判定

2013年9月30日 月曜日

●連載159緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也159.緑内障視野の進行判定溝上志朗愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻視機能再生学講座緑内障視野の進行判定法にはトレンド解析とイベント解析があるが,両者は相補的関係にあり,症例に応じて総合的に判断することが望ましい.患者の検査への慣れ,白内障の進行,および眼底疾患や視路病変の合併など,緑内障の進行と誤認しやすい場合があるので注意が必要である.緑内障治療の目的は患者に残された視機能を生涯不自由のないように維持することにある.患者の視機能を評価する手段は現時点で視野計測しかなく,特にその進行判定は治療プランの決定や変更にかかわるため患者の予後を左右する.よって緑内障診療に携わるすべての眼科医には的確な進行判定を行うスキルが求められる.●進行判定の方法視野障害の進行を判定する方法は,大きく2つに分類される.一つはトレンド解析であり,もう一つはイベント解析である.トレンド解析とは,経過中のパラメータをすべてプロットし,その回帰直線の有意性を判定する方法である.一般的にはMD(meandeviation)スロープが用いられる.トレンド解析は,測定結果に変動がなく,かつ連続的に悪化する場合には鋭敏な判定が期待できる.しかし,結果の変動が大きい場合には判定に時間トレンド解析-3-4MD-5(HFA)-6-7-0.02dB/Y±0.05(ns)-4.7-6.09-4.21-4.16-4.16-5.05-5.12-6.63-3.7-4.44-4.59-0.02dB/Y±0.05SD=0.88CC=-0.06DF=9TS=0.18MD-4.59dBを要する欠点がある.一方,イベント解析はベースラインデータから一定の低下を示した時点で進行と判定する方法であり,代表的なものにGPA(glaucomaprogressionanalysis)がある.GPAでは測定点ごとにイベント解析を行うが,これは局所の進行を判定するのは鋭敏であるのに対し,ベースライン視野の信頼性により判定が左右されるという欠点がある.実際の臨床では,どちらか一方の結果のみで進行を判定するのではなく,両者の長所と短所をよく理解したうえで,総合的に判断するのが望ましい(図1).●理想的な視野検査間隔緑内障視野の進行を診断するための理想的な検査間隔に関する最近の報告がある1).これによると,MD値が1年で.2.0dBと急速に進行しているケースで,検査データが中等度に変動する,と仮定した場合,進行判定GPA:2回連続悪化:3回以上連続悪化MD-4.16dB判定:進行の可能性あり図1トレンド解析では進行がないものの,GPAで進行と判定された例ある正常眼圧緑内障患者の6年間の視野の経過.トレンド解析とイベント解析は,どちらか一方の結果だけで判定せず,総合的に判断する.(61)あたらしい眼科Vol.30,No.9,201312610910-1810/13/\100/頁/JCOPY に必要な期間は,検査が半年間隔で行われる場合でも3年を要し,さらに1年間隔になると実に6年もかかることが明らかにされた.一方,検査間隔を4カ月にすると,2年間で判定できることから,進行速度をより短期間で見きわめるために4カ月ごとの視野測定を提唱している.しかしながら実際の臨床では,MDスロープの傾きの有意性が確認されるまで経過を追っていては治療の開始や方針の変更のタイミングが遅きに失する恐れがある.そこで,経過中のMD値の連続悪化を目安に予測するのも一法である.視野の長期経過を観察できた218眼(平均経過観察期間6.6年,平均検査回数約12.6回)を調査した筆者らのデータでは,MDスロープが将来的に有意に悪化するリスクは,MD値が3回連続して悪化すると,連続悪化がみられない症例よりも約2.6倍高くなり,さらに4回連続して悪化すると約4倍になると試算された.●本当に緑内障による悪化なのか?正確な検査結果を得るうえで,患者の視野検査への慣れは重要である.まだ検査慣れしていない時期は,一般的に固視不良や疑陽性反応が多く信頼性に劣るが,その後,検査に習熟するにつれて,信頼性が徐々に改善してくるケースが多い.しかしこの過程で,緑内障視野の進行と誤認されることもあり注意が必要である(図2).また,白内障の進行にも注意が必要である.経過観察期間が長期に及ぶと,白内障が視野に影響を及ぼすことも多い.しかしこの場合,緑内障の進行とは異なるパターンを示すことから,ある程度の鑑別は可能である.つまり白内障による感度低下は,多くの場合,トータル合併前合併後初回固視不良13/213カ月後固視不良7/23約1年後固視不良4/23図2固視改善による見かけ上の視野悪化が疑われる症例ある正常眼圧緑内障の経過.進行判定には視野の信頼性のチェックも重要である.偏差の悪化が目立つのに対し,パターン偏差には大きな変化がみられない.その理由としては,トータル偏差が実測視野感度の健常人の年齢別正常感度からの差であること,そしてパターン偏差は白内障や縮瞳などによる全体的な感度低下をトータル偏差から差し引いていることによる.これら以外にも,眼圧コントロールが良好であるのに,急速な進行を認めたり,非定型的な進行パターンを示したりする場合は,眼底や視路疾患の合併を念頭に置いて精査することが望ましい(図3).文献1)ChauhanBC,Garway-HeathDF,GoniFJetal:Practicalrecommendationsformeasuringratesofvisualfieldchangeinglaucoma.BrJOphthalmol92:569-573,2008図3緑内障に網膜中心静脈分枝閉塞症を合併した例70歳,女性.原発開放隅角緑内障.網膜中心静脈分枝閉塞症による下方の視野障害が緑内障の進行と誤認されやすいので,注意が必要である.1262あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(62)

屈折矯正手術:隅角支持型有水晶体眼内レンズ

2013年9月30日 月曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載160大橋裕一坪田一男160.隅角支持型有水晶体眼内レンズ根岸一乃慶應義塾大学医学部眼科学有水晶体眼内レンズは,中等度.強度の近視の手術矯正法として有効性と安全性が確立しつつあり,(1)隅角支持型,(2)虹彩支持型,(3)後房型の3種類がある.近年,おもにヨーロッパで使用されている前房隅角支持型のレンズ(AcrySofRCachetR)の術後3年までの成績は良好であるが,安全性については長期経過を待つべきである.はじめに近年,有水晶体眼内レンズは,角膜屈折矯正手術の適応外である中等度.強度の近視の手術矯正法として有効性と安全性が確立しつつある.有水晶体眼内レンズは大きく分けて(1)隅角支持型,(2)虹彩支持型,(3)後房型の3種類があり,それぞれに利点と欠点がある.ここでは,隅角支持型有水晶体眼内レンズについて述べる.●歴史有水晶体眼内レンズの第一世代は1954年にStrampelliによって導入され前房隅角支持型のレンズである1).これらは角膜浮腫,慢性虹彩炎,Uveitis-Glaucoma-Hyphema症候群などのさまざまな合併症のために使用が中止された.隅角支持型のレンズは,その後もデザインが改良され,Baikofflens(ZB,ZB5M,NuVita),ZSAL-4andZSAL4-Pluslenses(MorcherGmbH,Stuttgart,Germany)が使用されたが,ポリメチルメタクリレート(PMMA)製で切開幅が大きくなるため,現在は使用されていない1).現在使用されているのは,3mm以下の切開創から挿入可能なフォルダブルレンズで,CEマークを取得しているのはKelmanDuetlens(TekiaInc.,Irvine,Calif)とAcrySofR(AlconInc.)のみである.そのほか,ヨーロッパとロシアでThinPhAc(ThinOpt-X)とVisionMembrane(VisionMembraneTechnology)の臨床試験が行われた1)が,その成績についてはPubMedで検索した限りは見つからなかった.KelmanDuetlensはシリコーン製の光学部と,PMMA製の支持部の独立した2つの部品からなるレン(59)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYズで2.5mm幅の切開から挿入し,眼内でフックを使用して組み立てる.術後1年の角膜内皮細胞密度減少率は5.43%と報告されている2)が,それ以降の長期経過の報告はない.最も新しい隅角支持型有水晶体眼内レンズはAcrySofRCachetRである.AcrySofRCachetRは日本では治験中である.以下,AcrySofRCachetRについて解説する.●AcrySofRCachetRAcrySofRCachetRは疎水性アクリル製のシングルピースレンズで,屈折率1.55,直径6.0mmのメニスカス形状の光学部をもつ(図1).レンズ度数は.6.00..16.50D,全長は12.0.14.0mmまであり,解剖学的計測値によってどのレンズを選択するか決定する.1.術前検査術前検査は他の屈折矯正手術と同様,自覚屈折,調節麻痺下屈折,裸眼および矯正視力,瞳孔径,眼圧,前房深度,角膜形状,角膜厚,角膜内皮細胞密度,眼底検査などを行う.現状での適応と除外基準は原則として他の有水図1術後の前眼部写真(AcrySofRCachetR)あたらしい眼科Vol.30,No.9,20131259 a.眼内にインジェクターで挿入b.後方支持部はフックで挿入図2手術手技晶体眼内レンズと同様であるが,AcrySofRCachetRの場合は前房深度が角膜内皮から測定して2.7mmを超えないものは適応外となる.眼内レンズ度数の計算はVanderHeijdeやFechnerらによる既存式を元に,メーカーがノモグラムを加えた推奨の計算法を提供しているので,それに従う.眼内レンズのサイズはwhiteto-white計測値より0.5.1.0mmほど大きいものを使用する2).2.手術術前に縮瞳させたのち(術者により灌流液にアセチルコリンを使用することもある),点眼麻酔下で2.6.3.2mm切開(使用カートリッジにより異なる)3)を行い粘弾性物質で前房を保ちつつインジェクターで眼内レンズの後方支持部以外の部分を挿入する(図2a).眼外に残った後方支持部はフックで挿入する(図2b).支持部は4点すべてが隅角にはいるようにする.その後サイドポートから粘弾性物質を除去する.虹彩切除の必要はない.3.手術成績・合併症3年以上経過観察した104例の患者(360例の患者に挿入)に対する国際多施設研究の結果4)では,裸眼視力は101例(97.1%)で0.5以上,48例(46.2%)で1.0以上であった.矯正視力は103例(99%)で0.625以上,84例(80.8%)で1.0以上であった.術後6カ月から3年における中央および周辺の年間角膜内皮細胞密度減少率はそれぞれ0.41%と1.11%で,瞳孔の変形,瞳孔ブロックおよび網膜.離の合併症はなし,と非常に良好な成績が報告されている.しかしながら,安全性の評価については,さらに長期の成績を待たなければならない.文献1)AlioJL,ToffahaBT:Refractivesurgerywithphakicintraocularlens:anupdate.IntOphthalmolClin53:91-110,20132)AlioJL,PineroD,BernabeuGetal:TheKelmanDuetphakicintraocularlens:1-yearresults.JRefractSurg23:868-879,20073)GuellJL,MorralM,KookDetal:Phakicintraocularlenspart1:historicaloverview,currentmodels,selectioncriteria,andsurgicaltechniques.JCataractRefractSurg36:1976-1993,20104)KnorzMC,LaneSS,HollandSP:Angle-supportedphakicintraocularlensforcorrectionofmoderatetohighmyopia:three-yearinterimresultsininternationalmulticenterstudies.JCataractRefractSurg37:469-480,2011☆☆☆1260あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(60)

眼内レンズ:水晶体嚢内前房内フラッシュ法

2013年9月30日 月曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎325.水晶体.内前房内フラッシュ法松浦一貴野島病院眼科前房内の予定最終濃度に希釈したモキシフロキサシンを用いて前房内を全置換し,眼内レンズ裏を含む水晶体.内も意識的に灌流するフラッシュ法を紹介する.耐性菌を含む眼内炎起因菌の最小発育阻止濃度を凌駕する濃度の抗菌薬の安定した投与が可能である.欧州を中心に白内障術後感染予防を目的とした前房内投与が一般的となっている1).筆者らは,水晶体.内前房内フラッシュ法(以下,フラッシュ法)2)による前房内投与を行っており,その特長を述べる.手術終了時の前房内には10.40%に細菌が存在するといわれているが,前房内には生理的・免疫的な抗菌作用があるため意外と感染が成立しにくいとされる.一方,眼内レンズ(IOL)裏や水晶体.赤道部などに閉じ込められ前房と隔離された細菌は,強毒菌であれば硝子体に波及し急性眼内炎の原因となるし,弱毒菌であれば長く.内にとどまり晩期感染をひき起こす.そこで感染予防のためには術中のIOL裏の洗浄が重要となるが,筆者らは粘弾性物質(OVD)除去の際にI/A(irrigation/aspiration)チップをIOL裏に挿入してもIOLタッピングを行っても,必ずしも十分な.内洗浄が行われていないことを示した3).IOLと後.は術後早期から密着しているため,術中にこのエリアに細菌が取り残された場合に菌の排出が行われず,十分な薬液の到達も望めない.すなわち,IOL裏は術中に洗浄および投薬図1前房内を全置換し,IOL裏を含む水晶体.内も意識的に灌流するフラッシュ法水を噴出しながらサイドポートより挿入し,前房内を数秒フラッシュする(a,b).反対側もしくはサイドのレンズエッジを持ち上げてIOL裏にも水流を回す(c).さらに前房内を数秒フラッシュし水を出しながらサイドポートより針を引き抜く(d,e).abcdeされる必要があるといえる.欧米で一般化している前房内投与法は高濃度セフロキシムの少量(0.1ml)投与である.これに対して,筆者らは前房内の予定最終濃度に希釈したモキシフロキサシンを用いてIOL裏を含む水晶体.内前房内を灌流し全置換する投与方法を採用している(図1).前房内に注入された灌流液は.内にも灌流するイメージがあるが,必ずしもそうではない.摘出豚眼の前房内にコンデンスミルクを注入したのち,前房内のみを灌流する実験を行ったが,前房圧によってCCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)はIOLに押し付けられて閉鎖するため.内は灌流されなかった(図2).このため.内の十分な洗浄および投薬のためにはIOLエッジを持ち上げて意図的にIOL裏に薬液を灌流させる必要があった.フラッシュ法を用いれば,仮に手術終了時の前房内が汚染されていたとしても約20秒の注入で前房内がほぼ全置換されることがわかっている2).さらに少量投与法に比べて安定した濃度が得られる利点もある.(57)あたらしい眼科Vol.30,No.9,201312570910-1810/13/\100/頁/JCOPY aabdeセフロキシムは腸球菌に効果をもたず,また時間依存性の薬剤であるため薬液のターンオーバーの速い前房内には適しているとは言い難い.一方,モキシフロキサシンやレボフロキサシンなどのフルオロキノロンは濃度依存性であり,2時間程度有効濃度を保つことができれば効果があるとされている4).筆者らはハイドロダイセクションなどすべての操作を5mlシリンジに取り分けたモキシフロキサシン希釈液で行っている.わが国では大鹿らもレボフロキサシン希釈液を用いてハイドロダイセクションや手術終了時の前房形成,ハイドレーションを行っていると報告している.点眼や内服などによる投与は前房内への吸収や移行という生理的な制約を受けるが,前房内に直接投与する方法であれば術者の任意の前房内濃度を実現することが可能である.MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を含む眼内炎起因菌の最小発育阻止濃度を凌駕する濃度の抗菌薬の投与を安定して行うことが可能であるフラッcf図2摘出豚眼にコンデンスミルクを注入したのち前房内のみを灌流する方法前房内に迷入した泡を通してIOL裏が観察可能であった(a).前房内のミルクは希釈されていくが,IOL裏の皺の中に取り残されたミルクは.内に隔離されており,希釈・排出されない(b,c).サイドのレンズエッジを持ち上げて意図的にIOL裏にも水流を回すことで初めてミルクは希釈洗浄される(d,e).シュ法による前房内投与は,術後感染予防の切り札となりうる手法である.文献1)FrilingE,LundstromM,SteneviUetal:Six-yearincidenceofendophthalmitisaftercataractsurgery:Swedishnationalstudy.JCataractRefractSurg39:1521,20132)MatsuuraK,SutoC,AkuraJetal:Bagandchamberflushing:anewmethodofusingintracameralmoxifloxacintoirrigatetheanteriorchamberandtheareabehindtheintraocularlens.GraefesArchOphthalmol251:81-87,20133)松浦一貴,三好輝行,吉田博則ほか:水晶体.と眼内レンズは密着している.IOL&RS27:63-66,20134)O’BrienTP,ArshinoffSA,MahFS:Perspectivesonantibioticsforpostoperativeendophthalmitisprophylaxis:potentialroleofmoxifloxacin.JCataractRefractSurg33:1790-1800,2007

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ診療のギモン④

2013年9月30日 月曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ診療のギモン②4本コーナーでは,コンタクトレンズ診療に関する読者の疑問に,臨床経験豊富なTVCI※講師がわかりやすくお答えします.※TVCIは「ジョンソン・エンド・ジョンソンビジョンケアインスティテュート」の略称です.眼科医および視能訓練士を対象とするコンタクトレンズ講習会を開催しています.眼精疲労には「弱めの度数」が良い,というのは本当でしょうか?講師梶田雅義梶田眼科眼の疲れの多くはピント合わせのための毛様体筋にかかる負担が過剰になって起こる.眼を休めることによって,疲れが改善すれば良いが,眼を休めても疲れが回復せずに重積すると,眼精疲労に進展する.遠視眼や近視眼で遠くがよく見えるように矯正された眼が,長時間近方視作業をし続けたときには,毛様体筋にかかる負担が大きく,眼精疲労を生じることが多い.このような場合に,「弱めの度数」すなわち,遠くは少し見づらくなるが,近方視作業を行うときにピント合わせの努力を軽減できるように弱めの度数の眼鏡やコンタクトレンズを用いれば,眼精疲労を軽減することができる.つまり,近方視作業が多い人では“Yes”である.しかし,近方視はあまり行わず,長時間遠くをしっかり見なければならないパイロットやドライバーでは,遠くがよく見えないと,もう少ししっかり見ようと思い,毛様体筋に力を入れることになる.すると毛様体筋が収縮して,ピント位置をさらに近くに引き寄せてしまい,ますます遠くは見づらくなる.結果として,遠くの視力はさらに低下する.これを繰り返すことによって,眼精図1明視できる範囲遠点が無限遠に位置するように矯正したとき,調節安静位は約1mの位置にある.それよりも遠方に向かう調節は「負の調節」,近方に向かう調節は「正の調節」とよばれる.疲労は改善するどころか,さらに増強する結果になる.このように遠くをよく見なければならない人では“No”である.これは調節機能を考えると容易に判断できる.毛様体筋は無限遠を見ているときでも完全に弛緩している状態にはなく,つねに緊張した状態にある.そして,私たちがどこを見るともなくぼーっと見ているときには,調節安静位(あるいは生理的緊張状態)といって,正視眼で1mくらいの位置にピントが合っている状態にある.この調節安静位から近方にピント合わせをする動きは正の調節(調節),反対に調節安静位から遠くへピント合わせをする動きは負の調節とよばれている(図1).毛様体筋はピント位置が調節安静位から離れるほど疲れやすくなる.一般的には1mくらいの距離に調節安静位が位置するような矯正が適切で,この状態は完全矯正の状態である.しかし,1日の大半を75cmくらいに位置するディスプレイ画面を長時間見ているVDT(visualdisplayterminal)作業者では,調節安静位でディスプレイ画面にピントが合うような少し弱めの度数の矯正を行えば,疲れは少なくなる.反対に,100m先をずっと注視しなければならない機関士では,少し強めのほうが疲れないことになる.しかし,これは作業中に限ってのことであり,勤務から解放されたら,生活環境にあわせた度数の眼鏡に掛け替えるのが望ましい.(55)あたらしい眼科Vol.30,No.9,201312550910-1810/13/\100/頁/JCOPY いきなり乱視を矯正すると眼が疲れるというのは本当ですか?講師梶田雅義梶田眼科ある人では“Yes”,ある人では“No”である.眼の疲れはピント合わせを行う毛様体筋が関与することが多い.毛様体筋は近くを見るときに収縮し,収縮している時間が長くなると疲れを生じる.乱視には正乱視と不正乱視があるが,ここでは正乱視について説明する.乱視では光は焦点ではなく,焦線として収束する.直交する2経線方向で焦線位置は異なり,レンズに近いほうを前焦線,レンズから遠いほうを後焦線とよぶ(図2).前焦線と後焦線の間には2経線方向のぼけが均等になる位置(最小錯乱円)が存在する.生体は光を網膜で捕らえるが,映像を認識しているのは大脳である.網膜面では多少ぼけ像であっても,大脳で処理された結果,クリアな像として認識されていることが多い.近視性の直乱視眼の網膜には前焦線位置の結像は縦方向が鮮明で,横方向がぼけて投影される.反対に後焦線位置の結像は横方向が鮮明で,縦方向がぼけて投影される.そして,その中間にある最小錯乱円位置の結像は縦方向と横方向が均等にぼけて投影される(図3).前焦線と後焦線の間にある網膜像を大脳が処理して,生活に支障のないクリアな像として認識されれば,前焦線から後図2乱視の結像レンズに近いほうが前焦線,遠いほうが後焦線,均等にぼける位置が最小錯乱円である.後焦線最小錯乱円前焦線縦線横線図3近視性直乱視が作る網膜像眼に近いほうが前焦線位置,遠いほうが後焦線位置,中間に最小錯乱円位置がある.焦線の間は調節を行わないでピントが合う範囲ということになる.これを乱視による偽調節とよぶ.調節努力を行わなくても済むので,毛様体筋に疲労を生じない.このような乱視眼が後焦線位置が焦点になるように矯正されると,乱視を矯正していなかったときに比べて,後焦線位置の網膜像は鮮明になるが,そのままでは前焦線位置の網膜像はぼけるために,ピント合わせをしなければならない.乱視未矯正のときにほとんどピント合わせをしないで生活できていたのが,いきなりピント合わせをしなければならなくなり,ほとんど使っていなかった毛様体筋をむりに働かせて疲れが生じる.一方,前焦線から後焦線の間にある網膜像を大脳が処理して,生活に支障が生じる不快なぼけ像として認識されると,大脳はピントを合わせるために毛様体筋を収縮させてみたり弛緩させてみたりと試行錯誤を繰り返す.しかし,乱視によるぼけ像は水晶体の屈折力を変えても解消はできないので,毛様体筋には疲労が蓄積してしまう.このような乱視眼では後焦線位置にピントが合うように矯正を行うことによって,後焦線位置の網膜像は鮮明になる.もちろん,前焦線位置の網膜像はぼけるが,調節を行い水晶体が屈折力を変えることで,前焦線位置にもピントを合わせることができる.乱視を矯正していなかったときに無駄な努力をして疲れていた毛様体筋は合目的な運動ができるようになり,疲労は解消する.1256あたらしい眼科Vol.30,No.9,2013(00)