視神経はどこまで再生するのか―外的因子と内的因子栗本拓治軸索再生を阻害する外的因子と内的因子視神経は,網膜神経節細胞(retinalganglioncells:RGCs)の軸索の集合体であり,中枢神経であるため,いったん損傷を受けると再生しません.しかしながら,Aguyaoのグループの一連の視神経断端への末梢神経移植を用いた先駆的研究により,損傷軸索は再生可能であることが明らかにされました.また,Schwabのグループは脊髄損傷モデルを用いて,ミエリン蛋白に対する中和抗体により損傷軸索が再生することを明らかにし,以降,軸索周囲のオリゴデンドロサイトに発現する突起伸展抑制因子として,NogoA,MAG(myelinassociatedglycoprotein),OMpg(oligodendrocyteassociatedglycoprotein)が同定されています.他にSema-phorin5A,4DやEphrins,グリア瘢痕に発現するCSPGs(chondroitinsulfateproteoglycans)やKSPGs(keratansul-fateproteoglycans)なども突起伸展抑制因子として明らかにされ,現在,これらの抑制因子が,軸索再生を阻害する外的因子として考えられています.多くの外的因子は下流の細胞内シグナルとしてRhoファミリーG蛋白の一つであるRhoAを介していることが明らかになっており,C3ribosyl-transferaseによるRhoA阻害による視神経再生効果も明らかにされています.一方,軸索がいったん損傷を受けると,神経栄養因子に対する反応性低下や細胞内cAMP発現レベルの低下,アポトー図1軸索再生を阻害する外神経細胞的因子と内的因子外的因子として,オリゴデンドロサイトのミエリンに発現するNogoA,MAG,OMgpは成長円錐に発現するPirBやNgRを介して,また,グリア瘢痕に発現するCSPGs,KSPGsはPTPSを,そして,EphrinsはEphRを介して,低分子量GTP結合蛋白のRhoAが活性化され細胞骨格蛋白に作用し,成長円錐を虚脱させる.内的因子,外的内的因子神戸大学大学院医学研究科外科系講座眼科学分野シス関連因子の活性化などが起こり,軸索再生を困難にしています.これらの細胞体,軸索内の変化が内的因子として考えられています.神経細胞に対し,PTEN遺伝子欠損によるmTOR経路活性化,SOCS3遺伝子欠損によるJAK-STAT経路活性化,cAMPアナログ投与,Toll-like受容体刺激,KLF(Kruppel-likefamily)転写因子欠損などにより,良好な再生効果が得られています(図1).視神経疾患ではどうか?残念ながら,上記の基礎研究データをもとにしたヒト視神経疾患への臨床応用は行われていません.しかしながら,外的因子,内的因子に対する複合的なアプローチにより,マウスの損傷視神経線維を強力に再生させ,視中枢の上丘まで到達させ,わずかではありますが電気生理学的,行動学的に視機能が回復することが明らかにされています.今後の展望近年では,RGCsをiPS細胞から誘導することが可能となり,iPS誘導RGCsの軸索伸長や眼内移植の研究が精力的に行われ,RGCs補充療法への発展が期待されています.しかしながら,動物モデルでは,損傷視神経線維を視中枢まで到達させることは可能になりましたが,良好な視機能回復には至っていません.今後,機能的なシナプス形成促進,網膜部位再現の再構築など,大きな課題が残されています.OMpgMAGNogoAEphrins外的因子・神経栄養因子に対する反応性低下突起伸展抑制因子因子に対しさまざまな試みが・細胞内cAMP低下・ミエリン:NogoA,MAG.OMpgなされ,軸索再生効果が明ら・アポトーシスetc・グリア瘢痕:CSPG,KSPGかにされている(太矢印).・Semaphorin5A,EphrinsetcPTPS:proteintyrosine・mTOR経路/JAK-STAT経路活性化phosphataseS,PirB:・cAMPアナログ・C3ribosyltransferaseによるpairedimmunoglobulin-like・Toll-like受容体アゴニストRhoAの不活化・KLF転写因子抑制・NgR遺伝子欠損receptorB.・ChondroitinaseABC(89)あたらしい眼科Vol.35,No.12,201816650910-1810/18/\100/頁/JCOPY