眼窩蜂巣炎の対処法HowtoDealwithOrbitalCellulitis山中亜規子*渡辺彰英*はじめに眼窩蜂巣炎とは,眼窩軟部組織に生じる急性化膿性炎症である.眼窩内は眼窩脂肪などの非常に粗な軟部組織から構成されているため,一度眼窩内に感染が波及すると,容易に外眼筋や神経,血管を巻き込みながら急速に進展し,眼球運動障害や視神経障害といったさまざまな視機能障害をきたす.今日では抗生物質の普及により比較的まれな疾患となったが,過去には重症化して感染が頭蓋内に波及した症例や,敗血症で死亡した症例も報告されている.診断は臨床所見や眼所見,および画像診断により可能なことが多いものの,治療が遅れると非常に重篤な状態を招く可能性があるため,本疾患を疑った場合は適切かつ速やかな対処が求められる.さらに,病態によっては耳鼻咽喉科や脳神経外科をはじめとする他科との連携が必要になることも特徴である.CI原因眼窩蜂巣炎の感染経路は,1)眼窩周囲の細菌性炎症が眼窩内へ波及する場合,2)遠隔の感染巣から血行性に眼窩内へ炎症が波及する場合,そしてC3)外傷によって異物が眼窩内に入って炎症が起こる場合のC3種類に大別される(表1).眼窩を取り囲む眼窩骨壁は非常に薄いため,副鼻腔からの炎症は眼窩内へ波及しやすい.起因菌はグラム陽性球菌,とくに黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus)の頻度が高いとされ,化膿性レンサ球菌(Streptococcuspyogenes),肺炎球菌(Strep-tococcuspneumoniae)なども多いとされるが,小児ではインフルエンザ菌(Haemophilusin.uenzae)が起因菌となることがある.また,副鼻腔や口腔内疾患からの炎症波及が疑われる場合は嫌気性菌が原因となることもある.頻度は低いものの易感染性を認める症例などでは真菌が原因となるケースもあり,そのほか,梅毒や結核,寄生虫が原因となることもあるとされる1).CII自覚症状強い眼窩部痛を伴う眼窩部の腫脹,複視,視機能低下などを主訴に受診することが多い.また,悪心・嘔吐や発熱,全身倦怠感,食欲不振を伴うこともある.CIII他覚所見診察時に片眼性の眼瞼腫脹や発赤,眼瞼下垂,眼球突出,眼球偏位,眼球運動障害などを認め,眼瞼腫脹が強い場合は開瞼が困難になる(図1).眼周囲に外傷や手術の創がないかも初診時に確認しておく(本人に外傷の記憶がない場合もある).前眼部所見では結膜充血および浮腫を認め,著しい結膜浮腫をきたすと閉瞼困難になる場合もある.炎症が眼窩先端部に波及している場合は,視神経障害により視*AkikoYamanaka&*AkihideWatanabe:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕山中亜規子:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(65)C1641表1感染経路眼窩周囲の細菌性炎症が眼窩内へ波及する場合・副鼻腔炎(最多)・涙.炎・涙腺炎・麦粒腫・歯牙・歯肉疾患など遠隔の感染巣から血行性に眼窩内へ炎症が波及する場合・尿路感染・肝膿瘍・心内膜炎など外傷によって異物が眼窩内に入って炎症が起こる場合・草木,ガラス片,金属片,石など・眼窩骨折術後※金属片の眼窩内異物が疑われる場合は,CMRI検査に注意が必要図1眼窩蜂巣炎73歳,男性.眼窩蜂巣炎による有痛性の右眼瞼腫脹・発赤および開瞼困難を認める.表2診察所見外眼部所見(基本的には片眼性)・眼瞼の腫脹,発赤・眼瞼下垂・眼球突出・眼球偏位・眼球運動障害前眼部所見(眼瞼腫脹が強い場合,開瞼困難な場合もある)・結膜充血・結膜浮腫・視神経障害がある場合,CRAPD陽性や対光反射異常を認めることがある眼底所見眼窩内圧の上昇により,視神経乳頭腫脹や網膜皺襞,網膜静脈の拡張や蛇行を認めることがある全身状態発熱や頻脈などバイタルサインの異常がないか確認しておく(重症例では敗血症をきたす可能性があるため)表3必要な検査表4治療方法画像検査(必須)・CCT:眼窩骨や副鼻腔と,炎症部位との位置関係を評価できる・MRI:炎症部位そのものの描出に優れる血液検査・白血球数の増多,好中球増多・CRP上昇・赤沈の亢進治療開始後も炎症反応の改善を評価するため定期的に行う培養検査・眼脂培養・排膿液の培養(膿瘍からの排膿が可能な場合)・血液培養(敗血症の可能性)眼科検査・視力検査・眼圧検査(眼窩内圧上昇により眼圧上昇を認める場合がある)・前眼部細隙灯検査・眼底検査・中心フリッカー試験・Hess赤緑試験・視野検査《薬物療法》・抗生物質投与(第一選択)広域スペクトルをもつ抗生物質から開始↓起因菌が同定できれば適宜薬剤を変更・ステロイド(炎症が強い場合に使用を検討する)《外科的治療》・膿瘍部の切開排膿薬物治療だけでは感染をコントロールできない場合に行う部位や原因病巣によっては他科との連携が必要表5他科との連携図2特発性眼窩内炎症56歳,女性.右眼の特発性眼窩内炎症により右眼瞼腫脹および眼球突出を認めた.図4甲状腺眼症64歳,女性.片眼性の甲状腺眼症により右眼の眼球突出,眼瞼腫脹をきたしている.MRI画像では右眼の下直筋・内直筋・上直筋の炎症性肥大を認め,左眼の内直筋,下直筋にも軽度炎症を伴う肥大を認める.図3悪性リンパ腫81歳,女性.左涙腺部のCMALTリンパ腫により眼瞼下垂・無痛性の眼瞼腫脹を認めた.図5IgG4関連眼疾患39歳,女性.IgG4関連眼疾患による両眼性の無痛性の涙腺部腫脹を認めた.同症例では両顎下腺の腫大も認めた.