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眼窩蜂巣炎の対処法

2018年12月31日 月曜日

眼窩蜂巣炎の対処法HowtoDealwithOrbitalCellulitis山中亜規子*渡辺彰英*はじめに眼窩蜂巣炎とは,眼窩軟部組織に生じる急性化膿性炎症である.眼窩内は眼窩脂肪などの非常に粗な軟部組織から構成されているため,一度眼窩内に感染が波及すると,容易に外眼筋や神経,血管を巻き込みながら急速に進展し,眼球運動障害や視神経障害といったさまざまな視機能障害をきたす.今日では抗生物質の普及により比較的まれな疾患となったが,過去には重症化して感染が頭蓋内に波及した症例や,敗血症で死亡した症例も報告されている.診断は臨床所見や眼所見,および画像診断により可能なことが多いものの,治療が遅れると非常に重篤な状態を招く可能性があるため,本疾患を疑った場合は適切かつ速やかな対処が求められる.さらに,病態によっては耳鼻咽喉科や脳神経外科をはじめとする他科との連携が必要になることも特徴である.CI原因眼窩蜂巣炎の感染経路は,1)眼窩周囲の細菌性炎症が眼窩内へ波及する場合,2)遠隔の感染巣から血行性に眼窩内へ炎症が波及する場合,そしてC3)外傷によって異物が眼窩内に入って炎症が起こる場合のC3種類に大別される(表1).眼窩を取り囲む眼窩骨壁は非常に薄いため,副鼻腔からの炎症は眼窩内へ波及しやすい.起因菌はグラム陽性球菌,とくに黄色ブドウ球菌(Staphylococcusaureus)の頻度が高いとされ,化膿性レンサ球菌(Streptococcuspyogenes),肺炎球菌(Strep-tococcuspneumoniae)なども多いとされるが,小児ではインフルエンザ菌(Haemophilusin.uenzae)が起因菌となることがある.また,副鼻腔や口腔内疾患からの炎症波及が疑われる場合は嫌気性菌が原因となることもある.頻度は低いものの易感染性を認める症例などでは真菌が原因となるケースもあり,そのほか,梅毒や結核,寄生虫が原因となることもあるとされる1).CII自覚症状強い眼窩部痛を伴う眼窩部の腫脹,複視,視機能低下などを主訴に受診することが多い.また,悪心・嘔吐や発熱,全身倦怠感,食欲不振を伴うこともある.CIII他覚所見診察時に片眼性の眼瞼腫脹や発赤,眼瞼下垂,眼球突出,眼球偏位,眼球運動障害などを認め,眼瞼腫脹が強い場合は開瞼が困難になる(図1).眼周囲に外傷や手術の創がないかも初診時に確認しておく(本人に外傷の記憶がない場合もある).前眼部所見では結膜充血および浮腫を認め,著しい結膜浮腫をきたすと閉瞼困難になる場合もある.炎症が眼窩先端部に波及している場合は,視神経障害により視*AkikoYamanaka&*AkihideWatanabe:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕山中亜規子:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町C465京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(65)C1641表1感染経路眼窩周囲の細菌性炎症が眼窩内へ波及する場合・副鼻腔炎(最多)・涙.炎・涙腺炎・麦粒腫・歯牙・歯肉疾患など遠隔の感染巣から血行性に眼窩内へ炎症が波及する場合・尿路感染・肝膿瘍・心内膜炎など外傷によって異物が眼窩内に入って炎症が起こる場合・草木,ガラス片,金属片,石など・眼窩骨折術後※金属片の眼窩内異物が疑われる場合は,CMRI検査に注意が必要図1眼窩蜂巣炎73歳,男性.眼窩蜂巣炎による有痛性の右眼瞼腫脹・発赤および開瞼困難を認める.表2診察所見外眼部所見(基本的には片眼性)・眼瞼の腫脹,発赤・眼瞼下垂・眼球突出・眼球偏位・眼球運動障害前眼部所見(眼瞼腫脹が強い場合,開瞼困難な場合もある)・結膜充血・結膜浮腫・視神経障害がある場合,CRAPD陽性や対光反射異常を認めることがある眼底所見眼窩内圧の上昇により,視神経乳頭腫脹や網膜皺襞,網膜静脈の拡張や蛇行を認めることがある全身状態発熱や頻脈などバイタルサインの異常がないか確認しておく(重症例では敗血症をきたす可能性があるため)表3必要な検査表4治療方法画像検査(必須)・CCT:眼窩骨や副鼻腔と,炎症部位との位置関係を評価できる・MRI:炎症部位そのものの描出に優れる血液検査・白血球数の増多,好中球増多・CRP上昇・赤沈の亢進治療開始後も炎症反応の改善を評価するため定期的に行う培養検査・眼脂培養・排膿液の培養(膿瘍からの排膿が可能な場合)・血液培養(敗血症の可能性)眼科検査・視力検査・眼圧検査(眼窩内圧上昇により眼圧上昇を認める場合がある)・前眼部細隙灯検査・眼底検査・中心フリッカー試験・Hess赤緑試験・視野検査《薬物療法》・抗生物質投与(第一選択)広域スペクトルをもつ抗生物質から開始↓起因菌が同定できれば適宜薬剤を変更・ステロイド(炎症が強い場合に使用を検討する)《外科的治療》・膿瘍部の切開排膿薬物治療だけでは感染をコントロールできない場合に行う部位や原因病巣によっては他科との連携が必要表5他科との連携図2特発性眼窩内炎症56歳,女性.右眼の特発性眼窩内炎症により右眼瞼腫脹および眼球突出を認めた.図4甲状腺眼症64歳,女性.片眼性の甲状腺眼症により右眼の眼球突出,眼瞼腫脹をきたしている.MRI画像では右眼の下直筋・内直筋・上直筋の炎症性肥大を認め,左眼の内直筋,下直筋にも軽度炎症を伴う肥大を認める.図3悪性リンパ腫81歳,女性.左涙腺部のCMALTリンパ腫により眼瞼下垂・無痛性の眼瞼腫脹を認めた.図5IgG4関連眼疾患39歳,女性.IgG4関連眼疾患による両眼性の無痛性の涙腺部腫脹を認めた.同症例では両顎下腺の腫大も認めた.

白内障手術における周術期抗菌薬使用法と術後眼内炎対策

2018年12月31日 月曜日

白内障手術における周術期抗菌薬使用法と術後眼内炎対策PerioperativeProphylacticAntibioticsApplicationandTherapeuticStrategyforPostoperativeEndophthalmitisinCataractSurgery松浦一貴*はじめにわが国の白内障術後眼内炎は5,000~10,000例に1例とまれな合併症となった1)が,周術期の抗菌薬の投与が前提となっている.世界的な抗菌薬の乱用による耐性菌の爆発的な増加が懸念され,2015年の世界保健機関(WorldHealthOrganization:WHO)総会で薬剤耐性(antimicrobialresistance:AMR)に対するアクションプランが採択された.翌年にはわが国でもアクションプランが採択され,今後は明確なエビデンスをもたない予防的な抗菌薬投与に厳しい目が向けられる.これからの白内障術者は,予防的抗菌薬を減量したうえで感染リスクを減少させることが求められる.I筆者らの術後感染予防調査日本の術後感染予防について筆者らが2016年に行った調査では,術前抗菌薬点眼(98%),ヨード製剤による術前の皮膚消毒(97%),術後抗菌薬点眼(100%),前房内抗菌薬投与(7%)であった.具体的なヨード製剤の使用法,抗菌薬の結膜下注射や抗菌薬入り灌流液の使用,術後抗菌薬点眼の開始のタイミングや使用期間など,地域ごとの特徴はあるが,千差万別であった1).わが国では抗菌薬の術前点眼が術野の汚染度を優位に減少させる研究がよく知られており,白内障術前の抗菌薬点眼は多くの術者に採用されている2).2014年にBehndigらはヨーロッパの白内障周術期感染予防法についてまとめた(表1)3).ヨード製剤による消毒は共通していたが,抗菌薬点眼の使用法,前房内投与の普及度はまちまちであった.前房内投与はスウェーデンは90%,イギリスは61%であったが,フランス,ドイツ,オランダ,イタリアは50%未満であった.ドイツ,オランダ,イタリアでは術前および術後点眼が一般的であるが,イギリス,フランスでは術後点眼のみが行われ,術前点眼はほとんど行われていない.スウェーデンでは術前点眼のみでなく術後点眼すら行われていない3).筆者らはヨーロッパ以外の各国1人ずつがレポートをまとめる形での調査を行った(表2)4).ここでもヨード製剤による消毒は共通していた.抗菌薬前房内投与はオセアニアでは78%,米国,カナダ,南アフリカ共和国では20~40%程度であったが,中国,日本では一般的とはいえない.中国やアルゼンチン,米国では日本と同様に術前および術後点眼が広く用いられているが,カナダ,オセアニア,南アフリカでは術前点眼は一般的ではない.眼内炎は発症率が高くないうえに多くの因子が絡んでいることから,特定の因子(消毒法など)の有用性を証明することはむずかしい.仮にエビデンスが確立されていなくても,理論的によいと思われることを(安全で現実的であるならば)積極的に取り入れる姿勢が大切である.以下に筆者らの感染予防の考え方を述べる.*KazukiMatsuura:野島病院眼科〔別刷請求先〕松浦一貴:〒682-0863鳥取県倉吉市瀬崎町2714-1野島病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(55)1631表1ヨーロッパにおける白内障術後感染予防法前房内投与術前点眼術前消毒眼内炎率スウェーデンイギリスドイツフランスオランダイタリア90%61%20%以下40%27%20%行われていない6~9%100%行われていない100%76%不明不明5%ヨード5~10%ヨード5~10%ヨード5~10%ヨード0.02%0.03%~0.20%0.06~0.07%0.03~0.06%0.03%0.05~0.35%(文献3より作成)表2ヨーロッパ以外の国における白内障術後感染予防法前房内投与術前点眼術前消毒眼内炎率日本米国カナダオセアニアアルゼンチン中華人民共和国南アフリカ共和国7%42%30%78%20%普及していない30%99%88%54%33%99%100%行われてない10%ヨード5%ヨード5%ヨード?ヨード5~10%ヨード5%ヨード不明0.05%0.05~0.20%0.03~0.15%0.06%不明0.06%不明(文献4より作成)(ppm)イソジン液10%(原液):有効ヨウ素濃度1%100=10有効ヨウ素量(ppm)101001,0001,0000イソジン液希釈倍率(倍)1,00010原液ポビドンヨード濃度(%)0.010.1110イソジン液希釈時の遊離ヨウ素濃度=図1ヨード希釈倍率と消毒効果ヨードの殺菌効果は溶液中の遊離ヨウ素によるものであり100倍希釈で最大となる.汎用されているヨード製剤だが,このような基礎知識は案外知られていない.遊離ヨウ素濃度図2IOL挿入された.の断面図のイメージIOL裏は空間をもつイメージでとらえられることが多いが(a),実際には手術直後からIOL後面と後.は広い面積で密着しており,わずかに皺の中に隙間を残すのみとなる(b).すなわちIOL後面は閉鎖空間となるため,ここに取り残された細菌は排出されず,薬液も行き届かない.図3豚眼による.内洗浄実験摘出豚眼にミルクで着色した粘弾性物質(OVD)を注入しCIAにて洗浄する(Ca).チップを前房内で固定した場合,.内のCOVDは除去されない(Cb).IOLをタッピングしてもCOVDは除去されにくい(Cc).チップをCIOL裏に挿入した場合ですら,反対側のOVDは残存する(Cd).十分な洗浄効果を得るにはCIOLを回転させながら多方向にチップを挿入する必要がある(Ce).abcde図4フラッシュ法5Cmlシリンジから水を出しながら(Ca),前房内に鈍針を挿入し,数秒間,灌流する(Cb).IOLエッジを捕まえて.内も灌流する(Cc).もう一度前房内を灌流する(Cd).水流は常に出した状態である(Ce).表3国内26施設でのモキシフロキサシン前房内投与成績MFLX投与症例数眼内炎眼内炎発症率CWithoutMFLX22,828例10例0.043%CWithMFLX47,058例3例C0.006%CWithMFLX(1C00~C300Cμg/ml)10,705例1例C0.009%CWithMFLX(5C00Cμg/ml)36,353例2例C0.006%CWithMFLX(.ushing)32,996例1例C0.003%CWithMFLX(.ushing500Cμg/ml)25,542例0例C0%Cは,前房内投与に適した薬剤である.なかでもCMFLXは市販点眼液(ベガモックスCR)が防腐剤を含まず等張性であるため,前房内投与に使用できる.Arshino.ら22)は,MFLXを前房内投与されたC35,141例でC1例の眼内炎という良好な結果を報告している.MFLX前房内投与によると思われる重篤な合併症は現在まで報告されていない.Ce.適切な濃度は前房移行が良好とされるCMFLXですら頻回点眼後の前房内濃度は約C1.8Cμg/mlである23).ヒトでの結膜下注射後の前房内濃度は約C3.0Cμg/mlである24).眼内炎起因菌のC90%最小発育阻止濃度(MIC90)はアクネ菌がC0.25μg/ml,腸球菌がC0.5Cμg/ml,緑膿菌がC4Cμg/ml,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌がC4~16μg/mlとされる.MIC90がC32Cμg/mlに及ぶコアグラーゼ陰性ブドウ球菌も報告されている25).ウサギではCMFLXの前房内の半減期はC1時間強であった26).500Cμg/mlのフラッシュ法によって前房内が90%置換されるとすれば,投与直後の濃度はC450Cμg/mlとなる.半減期をC1時間とするとC2時間後の濃度はC113μg/mlとなる.この濃度は高度耐性菌を含めたほぼすべての菌をカバーする.著しい高濃度投与では潜在的な組織障害の懸念がある.Harukiら27)は培養角膜内皮細胞においてC500Cμg/mlまではほぼ影響がないと結論づけている.多くの臨床報告においてもC500~1,500Cμg/mlの投与で明らかな障害を認めていない19,22,28~31).筆者らのC26施設の調査でもC500Cμg/mlのC36,353例において合併症を認めていない.Cf.少量投与法とフラッシュ法の違い欧米での前房内投与は,原液~5倍希釈の高濃度液を0.05~0.2Cml投与する少量投与法である.一方,フラッシュ法は水晶体.内を含む前房内全置換法であり,大鹿らもレボフロキサシンによる前房内全置換法を報告している.少量投与法は前房内濃度が不安定になりやすいが,前房内全置換法では前房内濃度が安定する.手術直後の前房内はC5~45%の症例において汚染されているとの報告もあるが,前房内全置換法ではC90%以上を置換し,そのままハイドレーションして手術を終了するため再汚染の危険性も少ない.I/Aチップによる眼内洗浄の後,前房形成のためCBSSを眼内に注入した際に,しばしば小核片やCdebrisなどが舞い上がるのを観察する.I/Aチップによる眼内洗浄のみでは水晶体.内の洗浄を徹底することは必ずしも容易ではない.フラッシュ法は意図的にCIOL裏を含む.内を灌流するため,.内の洗浄および薬液注入が可能になる.セフロキシムを含めれば,世界ですでに数十万という症例での眼内炎発症抑制効果が報告されている前房内投与は,安全性の裏づけがなされつつある.また,抗菌薬前房内投与を行うかぎり,術前点眼の有用性が統計的に認められないという報告もある.十分な情報が得られる環境になれば,わが国でも多くの術者が選択すべき手技だと考えている.Cg.よくある質問質問C1:前房内に投与するだけではだめか.フラッシュ法は必要か.解答C1:IOLを挿入した豚眼にコンデンスミルクを注入し,サイドポートからCBSSで前房内を灌流し観察した.前房内に注入されたCBSSはCCCCとCIOLの間隙を通過して.内に行きわたるイメージがあるが,.内に拡散しない.前房内圧によってCCCCがCIOLに押し付けられ,水晶体.内が閉鎖空間となるためである.質問2:500Cμg/mlでのCMFLX前房内投与は安全か.解答2:MFLXによるCTASSを懸念する声を聞くが,現在まで明らかなCTASSの報告を受けていない.むしろCMFLX前房内投与症例では術翌日の炎症が少ないといわれている.Arbisser31)はCMFLX投与症例で炎症スコアが少ないことを報告した.筆者らはCMFLX投与症例で術後の角膜厚の変化が有意に抑えられたことを報告した32).川本らも前房内のセル,フレア値が有意に低いことを報告している33).炎症の少ない理由としては以下の可能性が考えられる.①あまり知られていないが,MFLXを含むフルオロキノロンには薬理活性として抗菌作用によらない抗炎症作用がある34).②術翌日にサブクリニカルな感染がしばしば発症し,気づかれないまま治癒しているのかもしれない.マイル1636あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(60)ドな感染による炎症はCMFLXの抗菌作用で抑えられる.③フラッシュの物理的な希釈洗浄によって,前房内に残存した微細な皮質や不純物による炎症が抑制される.細菌が希釈されることによる効果の可能性もある.CIIIDroplesssurgery近年,点眼をほとんど用いないCdroplesssurgeryの概念が提唱され始めている35).術前および術後点眼を用いずに,TORI-MOXIというトリアムシノロンとMFLXの合剤を硝子体注入して手術を終える方法がある.サイドポートから鈍針の先端を虹彩下に挿入し,Zinn小帯経由で硝子体内に薬液を注入する.Chttp://www.nweyes.com/dropless-cataract-surgeryChttps://www.youtube.com/watch?v=VKALpBhBZSAChttps://eyetube.net/video/trimoxivanc-injections/2017年のCAmericanSocietyofCataractandRefrac-tiveSurgery(ASCRS)の調査では,7%の術者が手術終了時に抗菌薬を硝子体投与すると回答した.また,2018年C9月現在,web上でC100以上の記載を見つけることができる.患者が点眼しなくてよいことによるメリットは,患者のコンプライアンスに影響されない,コストの低減,点眼指導にかけるスタッフの負担軽減になることである.CIV白内障術後眼内炎細菌同定などによる確定診断を待っていては治療の好機を逃しかねない.眼内炎は発症時期によって起炎菌,経過に特徴があるため,診断や治療方針決定の一助となる.C1.急性眼内炎黄色ブドウ球菌,緑膿菌,肺炎球菌や腸球菌は,術後1~3日に発症することが多い.急激に進行し激烈な炎症を引き起こし,わずかな治療の遅れが重大な結果につながる.ときに非感染性炎症との鑑別は容易ではないが,術後C48時間以内に通常と異なる炎症を認めたときには,硝子体手術の準備をしながらC2~3時間ごとの密な観察を行う.わずかでも悪化傾向を認めた場合は,ためらわずに硝子体手術を行う.EVSstudyでは抗菌薬の硝子体内注射と差がないとされているが,急性眼内炎においては,抗菌薬硝子体注射は硝子体手術までに時間を要する場合のつなぎと考えたほうがよい.C2.亜急性眼内炎コアグラーゼ陰性ブドウ球菌が多く,術後C1~2週間に発症する.診断,治療は急性眼内炎に準ずるが,それよりは緩慢に進行し,適切な治療を受ければ比較的良好な経過となる場合が多い.硝子体手術による根治治療が望ましいが,炎症が比較的軽度な場合は,硝子体内注射で経過をみることも可能である.その際は,少なくとも数日は毎日の診察が必要である.C3.遅発性眼内炎アクネ菌が多く,術後C1カ月以降に発症する.ステロイドに反応した場合でも再発し,ときにぶどう膜炎との鑑別がむずかしい.急激に進行し,重篤となることは考えにくいが,遷延する場合は治療的,診断的な意味で硝子体手術を行う.CV治療の実際1.外科的治療a.硝子体内注射バンコマイシンC0.5Cg,セフタジジムC1Cgをそれぞれ50Cml生理食塩水で溶解したものを,それぞれC0.1Cml硝子体内注入する.希釈後であればC0.2Cmlを混注してもよい.Cb.硝子体手術a液1CmlをC500Cmlの灌流液に加えて使用する.まず,虹彩前面および後面のフィブリンを十分に処理して散瞳を確保する.混濁した硝子体,網膜面上の沈着物を可及的に除去し,a液を硝子体内注射して終了する.劇症の急性眼内炎ではCIOLの摘出は必須である.IOLを温存する場合にはCIOL後面の.を大きく切開することが必要である.Cc.前房内洗浄炎症が比較的軽微で前房内に留まっている場合に行う.硝子体手術と同じ灌流液を用い,シムコ針でフィブリンを十分に処理したのち,IOLと水晶体.を.離して(61)あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018C1637.内の十分な洗浄を行う.a液を硝子体内注射して終了する.C2.役に立つ豆知識外科的治療の際は,必ず前房水,硝子体液の両方を採取する.一方のみから感染が証明されることもある.前房水はC27G針,硝子体液はC25G針を用いて採取する.検体が少量の場合はシリンジごと速やかに検査室に提出する.硝子体手術の際は,カッターの吸引ラインを三方活栓につなぎ,灌流を行わずに硝子体液C1.0Cmlを採取する.培養による確定診断は急性期の治療には間に合わないが,炎症が再燃,遷延した場合に重要となるため施行しておきたい.余った検体や摘出したCIOLなどは捨てずにC.40°で保存しておく.まとめ日本白内障屈折矯正手術学会とCASCRSのC2014年の調査によると,白内障の術後点眼はわが国ではC1カ月以上がC8割であるが,米国ではC1週間が標準であった.NejimaらはC1カ月の術後点眼ではC1週間点眼群に比べて術後の細菌叢の耐性化が大きいことを示し,術後C1週間の点眼を推奨している36).米国の硝子体内投与のガイドラインには,抗菌薬の術前点眼を用いないことが明記されており,術中のヨード製剤使用が推奨されている.わが国では,白内障手術に加えて硝子体内投与においても抗菌薬術前点眼が前提であるが,術中にヨード製剤を用いれば点眼を用いなくとも清潔な術野を得られる可能性がある.合併症のない手術にまでルーチンに抗菌薬硝子体内投与を行うことは,点眼を減らせるとしても,わが国では受け入れられないだろう.実際にアンケートをしてみると,抗菌薬の使用法には地域ごとの特徴があった.先輩からの教えを守って抗菌薬を使ってきたともいえる.今まではそれでも決して悪くなかった.わが国の眼内炎発症率は非常に低く目的は達成できている.しかし,時代は変わった.今後はエビデンスに基づいた理にかなった点眼へのかかわり方を見出す必要がある.術中ヨード製剤の適正使用,抗菌薬前房内投与などを駆使した手術期の抗菌薬使用の見直しが迫られている.文献1)松浦一貴,宮本武,田中茂登ほか:臨床研究日本国内での白内障周術期の消毒法および抗菌薬投与法の現況調査.日眼会誌121:521-528,C20172)InoueCY,CUsuiCM,COhashiCYCetal:PreoperativeCdisinfec-tionCofCtheCconjunctivalCsacCwithCantibioticsCandCiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmolC52:151-161,C20083)BehndigCA,CCochenerCB,CGuellCJLCetal:EndophthalmitisCprophylaxisCinCcataractsurgery:overviewCofCcurrentCpracticeCpatternsCinC9CEuropeanCcountries.CJCCataractCRefractSurgC39:1421-143,C20134)GrzybowskiCA,CSchwartzCSG,CMatsuuraCKCetal:EndoC-phthalmitisCprophylaxisCinCcataractsurgery:overviewCofCcurrentpracticepatternsaroundtheworld.Currentphar-maceuticaldesignC23:565-573,C20175)島田宏之:ポビドンヨードを用いた術後眼内炎予防.IOLC&RS27:48-54,C20136)SpeakerCMG,CMilchCFA,CShahCMKCetal:RoleCofCexternalCbacterialC.oraCinCtheCpathogenesisCofCacuteCpostoperativeCendophthalmitis.COphthalmologyC98:639-649,CdiscussionC650,C19917)ShimadaCH,CAraiCS,CNakashizukaCHCetal:ReductionCofCanteriorCchamberCcontaminationCrateCafterCcataractCsur-gerybyintraoperativesurfaceirrigationwith0.25%povi-done-iodine.AmJCOphthalmolC151:11-17,e11,C20118)秦野寛:感染症の予防と治療~消毒薬の可能性~.NANOOPHTHALMOLOGY42:21-24,C20129)FernandesCM,CPathengayA:ReductionCofCanteriorCcham-berCcontaminationCrateCafterCcataractCsurgeryCbyCintraop-erativesurfaceirrigationwith0.25%povidone-iodine.AmJOphthalmolC152:320;authorreply320-321,201110)松浦一貴,寺坂祐樹,佐々木慎一ほか:PAヨードを間欠的に用いる白内障術中消毒法の角膜上皮,角膜内皮への影響.眼科手術27:451-455,C201411)秦野寛:緑膿菌性眼内炎の実験的研究─前房内接種における菌株と病原性について(第C86回日本眼科学会総会報告).日眼会誌86:839-845,C198212)SuzukiT,WadaT,KozaiSetal:ContributionofsecretedproteasesCtoCtheCpathogenesisCofCpostoperativeCEnterococ-cusCfaecalisCendophthalmitis.CJCataractCRefractCSurgC34:C1776-1784,C200813)OshikaCT,COhashiY:EndophthalmitisCafterCcataractCsur-gery:e.ectCofCbehind-the-lensCwashout.CJCCataractCRefractSurgC43:1399-1405,C201714)松浦一貴,三好輝行,吉田博則ほか:水晶体.と眼内レンズは密着している.IOL&RS27:63-66,C201315)MatsuuraCK,CSutoCC,CAkuraCJCetal:BagCandCchamber.ushing:aCnewCmethodCofCusingCintracameralCmoxi.oxacintoirrigatetheanteriorchamberandtheareabehindCtheCintraocularClens.CGraefesCArchCClinCExpCOph-thalmolC251:81-87,C20131638あたらしい眼科Vol.35,No.12,2018(62)

感染性ぶどう膜炎

2018年12月31日 月曜日

感染性ぶどう膜炎InfectiousUveitis岩橋千春*大黒伸行**はじめに感染性ぶどう膜炎にステロイドのみを投与すると感染の制御ができず症状が増悪するため,ぶどう膜炎の治療方針をたてる段階で,感染性ぶどう膜炎の存在を常に念頭に置いて,非感染性ぶどう膜炎と注意深く鑑別することが非常に重要である.そのためには,代表的な各種感染性ぶどう膜炎の典型的な所見を知っておくことが手助けとなる.本稿では代表的な感染性ぶどう膜炎としてヘルペスウイルス感染によるヘルペス虹彩毛様体炎,急性網膜壊死,古くて新しい感染症である結核性ぶどう膜炎および梅毒性ぶどう膜炎について,臨床所見とその対処法を概説する.CIヘルペス虹彩毛様体炎ヘルペス虹彩毛様体炎は,2009年に日本眼炎症学会が調査を行ったわが国におけるぶどう膜炎の原因疾患の調査1)においてC4.2%(5位)を占めている疾患群であり,感染性ぶどう膜炎のなかでは日常臨床でもっともよく遭遇する疾患であるといえる.一度感染したヘルペスウイルスが三叉神経節に潜伏感染し,感冒,ストレス,免疫力の低下などを誘因として再活性化が起きることで発症する.従来は単純ヘルペスウイルス(herpesCsimplexvirus:HSV)-1,HSV-2,水痘帯状疱疹ウイルス(vari-cella-zostervirus:VZV)によるものが広く知られていたが,近年,サイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)も虹彩毛様体炎の原因の一つであることがポリメラーゼ連鎖反応(polymeraseCchainreaction:PCR)による検査により明らかになった2).これまでCPosner-Schlossman症候群あるいはCFuchs虹彩異色性毛様体炎と診断されていた疾患のなかにCCMV虹彩炎が含まれているものと思われる3).ヘルペス虹彩毛様体炎は片眼性が多く,角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KPs)を伴うことが多い(図1).また,眼圧上昇を伴いやすく,続発緑内障に留意する必要がある.HSVによる前部ぶどう膜炎(HSV-ante-rioruveitis:HSV-AU),VZVによる前部ぶどう膜炎(VZV-anterioruveitis:VZV-AU),CMVによる前部ぶどう膜炎(CMV-anterioruveiris:CMV-AU)の臨床的特徴を比較した高瀬らの報告4)によると,HSV-AUとCVZV-AUは共通した特徴を有しており,比較的急性の経過で大きなCKPsがみられることが多い.とくにVZV-AUは前房内フレアが強く,部分的な虹彩萎縮(図2)がみられ,前房内のウイルス量が多いといったように,激しい炎症がみられることが多い.一方,CMV-AUは眼内の炎症は比較的穏やかであるが,角膜内皮密度の減少や眼圧上昇はCHSV-AUとCVZV-AUと比べて顕著であると報告されている.以下にCHSV/VZV-AUとCCMV-AUに分けて臨床所見と治療を述べる.C1.HSV.VZV.AUHSV,VZVともに小児~若年成人期に初感染するこ*ChiharuIwahashi:住友病院眼科**NobuyukiOhguro:JCHO大阪病院眼科〔別刷請求先〕岩橋千春:〒530-0005大阪市北区中之島C5-3-20住友病院眼科C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(49)C1625図1単純ヘルペスウイルス(HSV)虹彩毛様体炎の前眼部写真図2水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)虹彩毛様体炎の前眼部写真大小不同の角膜後面沈着物がみられる.部分的な虹彩萎縮がみられる.図3サイトメガロウイルス(CMV)虹彩毛様体炎の前眼部写真図4急性網膜壊死(ARN)の前眼部写真Coinlesion(→)がみられる.豚脂様角膜後面沈着物がみられる.図5急性網膜壊死(ARN)の眼底写真網膜周辺部に黄白色顆粒状病変を認める.図6結核性強膜炎の前眼部写真図7結核性網膜血管炎の眼底写真ステロイド抵抗性の強膜炎として紹介受診された.周辺網膜に白鞘血管および網膜出血を認める.図8梅毒性ぶどう膜炎図9図8の蛍光眼底造影写真硝子体混濁を伴っている.網膜血管からのびまん性の漏出を認める.–

ヘルペス性角膜炎

2018年12月31日 月曜日

ヘルペス性角膜炎HerpeticKeratitis井上智之*はじめにヒトヘルペスウイルスよる角膜炎をヘルペス性角膜炎とよび,病変の部位によって,角膜上皮病変,角膜実質病変,角膜内皮病変と異なるさまざまな病態の角膜炎を引き起こすことが知られている1).本稿では,単純ヘルペスウイルス(herpesCsimplexvirus:HSV)および水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zostervirus:VZV)による角膜炎の多様な臨床病型を示し,その診断および治療について述べる.CI単純ヘルペス角膜炎HSVによる角膜炎は角膜ヘルペスあるいは単純ヘルペス角膜炎とよばれる.HSVはCaヘルペス属のCDNAウイルスで,1型(HSV-1)とC2型(HSV-2)があり,角膜病変の関与はC1型が多い.2型は性器ヘルペスの関与が多いが,角膜炎を起こすこともある.単純ヘルペス角膜炎は,おもな病変の部位によって,上皮型,実質型,内皮型の病型が存在する.C1.上皮型ほとんどの人が幼児期にCHSV-1に初感染し,眼症状なく三叉神経節に潜伏感染し,成人期にストレス,発熱,紫外線暴露などがきっかけとなり,潜伏感染ウイルスが再活性化して,三叉神経節から角膜上皮に到達し,HSVが増殖して上皮型単純ヘルペス角膜炎が起こる.片眼性の異物感と充血を主訴とし,臨床病型は角膜上皮欠損の程度によって,樹枝状角膜炎と地図状角膜炎がある.樹枝状角膜炎では,細隙灯顕微鏡所見にて特徴的な樹の枝のような角膜びらんである樹枝状病変を示す(図1).フルオレセイン染色に高輝度で染まり,枝の先端部が瘤状のターミナルバルブを示す.樹枝状病変は線状びらん病変で,さらに面状に拡大すると地図状角膜炎を示す(図2).単純性の機械的角膜びらんの辺縁は直線的であるのに対して,角膜びらんの辺縁が不規則な凹凸を示す樹枝状辺縁を呈する.また,角膜上皮の進展が阻害され,二次的に遷延性角膜上皮欠損を示すこともある(図3).このような典型的病型ばかりでなく,多彩な非典型病変が存在しうるので注意が必要である.樹枝状病変の前駆段階としては,点状の星芒状病変(図4)が認められるが,これはCHSV病変だけでなく,Tygeson点状表層角膜炎や後述の帯状ヘルペスなどでも起こりうる.診断は,角膜ヘルペスが再発性病態であることから,繰り返す角膜炎の既往が参考になる.また,本症眼は角膜知覚の低下を示すので,Cochet-Bonnet角膜知覚計にて計測する.40Cmm未満が知覚低下疑いとされているが,両眼の知覚が低下している場合があるので,病眼と反対眼の値に左右差が存在することを加えて評価する.また,実験室検査としては,病変の角膜上皮擦過物からのHSV分離が確定診断となる.しかし,ウイルス分離は煩雑で実際に施行している施設は限られる.角膜上皮擦過物に対してイムノクロマト法キット(ヘルペスアイ,わかもと製薬)を使用して,角膜上皮細胞中のCHSV抗*TomoyukiInoue:多根記念眼科病院〔別刷請求先〕井上智之:〒550-0024大阪市西区境川C1-1-39多根記念眼科病院C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(43)C1619図1樹枝状角膜炎図2地図状角膜炎樹の枝分かれのような角膜上皮びらんを認める.樹枝状辺縁を伴う面状上皮びらんを認める.図3遷延性角膜上皮欠損図4角膜クラックHSV角膜炎後に角膜上皮進展障害に陥った病変を認める.創傷治癒の過程で生じる線状上皮病変を認める.図5円板状角膜炎図6壊死性角膜炎角膜中央部に角膜浮腫による混濁病変を認める.角膜内血管侵入および脂肪沈着を伴う角膜実質瘢痕病変を認める.図7角膜内皮炎による角膜浮腫図8水痘帯状疱疹ウイルス皮膚病変角膜内皮細胞の機能不全によるCDescemet膜皺壁を伴う角膜浮三叉神経第一枝領域に一致した特徴的な皮膚病変を認める.腫と角膜後面沈着物を認める.

アカントアメーバ角膜炎

2018年12月31日 月曜日

アカントアメーバ角膜炎AcanthamoebaKeratitis石橋康久*はじめにアカントアメーバ角膜炎(Acanthamoebakeratitis)は,原生動物であるアカントアメーバが角膜の障害された部位より侵入増殖して起こる感染症である.コンタクトレンズ(contactlens:CL)やオルソケラトロジーレンズ装用による角膜障害や外傷により損傷された部位より角膜に侵入して増殖する.およそ90%がCL装用によるもので,残りの約10%は外傷が原因である1,2).CLのなかではソフトCLがおよそ90%で,残りの10%がハードCLとされる.また,最近ではオルソケラトロジーレンズ装用による症例が散見される.CLでもっとも問題となるのが2週間交換の使い捨てレンズであり,CL保存ケースの汚染が問題である.もっとも大きな要因は,多目的溶剤(multi-purposesolvent:MPS)であり,これは保存液と消毒液を兼ねたものであるが,アメーバに対する消毒効果は非常に低く,ほとんどが洗い流すことによる効果のみであるが,この事実が使用者に伝わっておらず,漬けておくだけで使う装用者が多いため問題となっていた.このためわが国でも,アカントアメーバ角膜炎が大流行し多数の患者がみられた1,2).装用者に対する一時的な情報伝達により下火になっているが,根本的な対策は取られていないため,再燃する可能性があり注意が必要である.Iアカントアメーバ角膜炎の診断診断は,発症の特徴と臨床経過および臨床所見などより疑いをもち,病巣部のアメーバの寄生増殖を証明することで行われる.1.発症の特徴と臨床経過本症を発症するには,角膜の上皮が損傷されると同時にアメーバが存在する必要があり,そのため外傷やCL装用などによる障害が先行する.当初はもっとも多い細菌性の角膜炎として治療されるが,それには反応せずステロイドの点眼なども処方される.2~3カ所の眼科を受診し,難治の角膜炎として紹介などで受診することが多い.2.臨床所見臨床所見は初期,移行期,完成期と分けるのがよい(石橋の分類)3).a.初期本症の初期には,CL装用や外傷による角膜障害があり,そのためもっとも頻度の高い細菌性の角膜炎として治療される.しかし,この治療には反応しない.炎症が強いため,ほとんどの症例でステロイドが投与される.しばらくすると,流行性角結膜炎後にみられるような斑状,線状,点状などの上皮下混濁やヘルペス角膜炎の際の樹枝状角膜炎を思わせる所見が出現する.また,本症の特徴の一つとされる角膜実質中層に角膜輪部から中央に向かう角膜神経に沿った炎症細胞の浸潤がみられることがある〔放射状角膜神経炎(radialkeratoneuritis),*YasuhisaIshibashi:筑波病院眼科〔別刷請求先〕石橋康久:〒305-0043茨城県つくば市大角豆1716筑波病院眼科0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(37)1613図1アカントアメーバ角膜炎の初期輪部から中央に向かう角膜神経に沿った炎症細胞の浸潤がみられる〔放射状角膜神経炎(radialkeratoneuritis),→〕.病変の程度の割には強い結膜毛様充血や高度の輪部浮腫がみられる.図3アカントアメーバ角膜炎の完成期本症の完成期の像である.角膜中央に楕円形の円盤状の強い混濁がみられる.輪部には強い浮腫があり,毛様充血も強い.ときに前房蓄膿がみられる.図2アカントアメーバ角膜炎の移行期角膜輪部と平行にリング状の浸潤がみられる.リングは角膜と相似形となる.これがみられる時期は非常に短いが,本症にもっとも特徴的とされる.初期よりも強い毛様充血や輪部浮腫などが出現する.図4パーカーインクKOH法により青く染まったアカントア図5パパニコロウ染色で外壁が青く,内側がピンクに染まっメーバたアカントアメーバアメーバのみが青くみえるので鑑別は容易である.アメーバの角膜上皮細胞の核と同じサイズだが,染色により鑑別は容易で大きさは直径がC10~15Cμmである.ある.アメーバの直径は約C10Cμmである.図6グラム染色で染色されたアカントアメーバグラム陽性であるため,全体が青く染まる.アメーバの直径は約C10Cμmである.図7培養4日後のアカントアメーバの顕微鏡写真無栄養寒天培地に納豆菌を塗布した培地で培養して,早ければC4~5日後にはトロホゾイトが観察される.進行方向にアカントポディアとよばれる突起状のものを出しながらゆっくりと動く.縦径がC25~30Cμmである.図8培養2週間後のアカントアメーバの顕微鏡写真2週間ほどで餌となる細菌がなくなると,アメーバはC2重壁をしたシストに変化する.これは環境が悪化したときに生き延びるための方法であり,薬剤に対する抵抗も非常に強く,本症の治療がむずかしいのも生存条件が悪くなると,この状態に変化するためである.直径は約C10~15Cμmである.図9レーザー共焦点顕微鏡により観察された角膜内のアカントアメーバ白い円形の直径約C10Cμmのものが多数みられた.直接検鏡および,培養でアカントアメーバが証明された症例である(バーはC50Cμm).(文献C4より引用)表1アカントアメーバ角膜炎に対する三者併用療法処置治療効果1.角膜掻爬大病巣部の角膜を擦って,上皮や実質内のアメーバを除去するのが目的である.初期には,アメーバが上皮内に寄生増殖しているので,この治療がもっとも効果が大きい.アメーバが寄生する病的な上皮は,擦ると容易に.離するので,そのような上皮は輪部を残してすべて除去する.移行期,完成期では,アメーバは実質に寄生するので,実質表層を切除するように掻爬する.実質が治癒してくると,その上に健常な上皮が張るようになり,容易には.離できなくなる.2.点眼抗真菌薬中1%ボリコナゾール(ブイフェンドCR),C0.1%ミカファンギン(ファンガードCR),C0.1%ミコナゾール(フロリードCFCR),0C.1%アムビゾームCR,5%ピマリシンCRなど上記よりC1~C2種類を選ぶ.消毒薬より選択したC1種と合わせ,合計C2~C3種類を点眼する.C2種類であれば,各々にC1番,C2番と番号を付け,それをC30~C60分ごとに交互に,C1,C2,C1,C2と起床時から就寝時まで点眼する.C3種では,C1,C2,C3と同様に順番に点眼する.就寝時にはC1%ピマリシン眼軟膏を点入する.消毒薬0.02%クロルヘキシジン,C0.02%ポリヘキサメチレンビグアナイド(CPHMB),C0.05%CPAヨード点眼よりC1種類を選んで,抗真菌薬の点眼と合わせて点眼する.手に入るのであればC1%ピマリシン眼軟膏の代わりにブロレンCR眼軟膏を点入するのも可.3.抗真菌薬全身投与小ミカファンギン点滴(ファンガードCR,C1日C150~3C00mg),ボリコナゾール内服または点滴(ブイフェンドCR,1日C200~4C00mg),イトラコナゾール内服または点滴(イトリゾールCR,1日C200~4C00mg)投与前に血液検査する.投与開始後はC1~C2週ごとに副作用のチェックを行い,異常があれば中止する.点眼で投与するものと違う種類を選択する.-

真菌性角膜炎

2018年12月31日 月曜日

真菌性角膜炎FungalKeratitis鈴木崇*大橋裕一**はじめに真菌性角膜炎は,頻度こそ決して高くはないが,多様な臨床所見を呈するため,診断のむずかしい角膜感染症の一つである.ときには治療に抵抗を示して角膜穿孔や眼内炎に至ることもあるほか,たとえ治癒したとしても,強い実質瘢痕を残すため,高度の視力低下を引き起こすことが多い.真菌性角膜炎には大きく分けて,酵母菌によるものと糸状菌によるものがあり,誘因をはじめ,臨床所見や治療経過も両者間で異なる1).本稿では,真菌性角膜炎の臨床所見,診断,治療について,酵母菌と糸状菌に分けて解説する.CI誘因・臨床所見1.酵母菌真菌性角膜炎から分離される酵母菌は,そのほとんどが皮膚や口腔など生体内に存在するCCandida属である.Candida属による真菌性角膜炎の誘因として,角膜移植後などで角膜上皮欠損があり,かつステロイド点眼の使用によって局所的に免疫力が低下している場合やコンタクトレンズ装用に伴って発症する場合が多い.角膜炎を引き起こすCCandida属としては,C.Calbi-cansやCC.parapsilosisがあげられる.Candida属による真菌性角膜炎の臨床所見としては,カラーボタン様の境界明瞭な類円形病巣を形成し,病巣中心に角膜浮腫を認める2)(図1).しかしながら,眼表面疾患に合併した場合など,臨床所見が修飾され,病巣が明確でない場合もある.病状が進行すれば,前房蓄膿が出現し,さらに角膜穿孔を引き起こす場合もある(図2).また,Candi-da属による真菌性角膜炎の病巣を触ると柔らかい場合が多い.ごくまれに,酵母菌であるCCryptococcus属や二形性の酵母菌(生体内では菌糸形,培地上では酵母形)であるCMalassezia属も角膜炎を引き起こすが,その臨床像は症例数も限られており,明らかになっていない3)(図3).C2.糸状菌糸状菌による真菌性角膜炎は草木・土壌が関連する外傷で発症することが多いが,角膜移植後,翼状片手術後,コンタクトレンズ装用など,眼表面の障害を誘因として発症する場合もある.おもな原因糸状菌としてはFusarium属,Aspergillus属,Penicillium属,Alter-naria属,Paecilomyces属があげられるが,Fusarium属がもっとも多く検出される3).臨床所見は原因糸状菌によって異なるが,すべての糸状菌による真菌性角膜炎の共通かつ特徴的な所見として,病巣周辺部に羽毛状の細胞浸潤を伴う灰白色の角膜潰瘍(hyphateulcer)があげられる1)(図4).他方,感染病巣の深さと進展度は,原因糸状菌によって異なる4).たとえば,Fusarium属,Aspergillus属,Paecilomyces属による真菌性角膜炎においては,角膜全層に淡い角膜細胞浸潤があり,前房内に菌糸が達すると,角膜内皮面にCendothelialplaqueと*TakashiSuzuki:東邦大学医療センター大森病院眼科**YuichiOhashi:愛媛大学〔別刷請求先〕鈴木崇:〒143-8541東京都大田区大森西C6-11-1東邦大学医療センター大森病院眼科C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(31)C1607図1Candida属による角膜炎の1例図2Candida属による角膜炎の1例類円系角膜細胞浸潤と病巣周辺の浮腫を認める.不正な角膜細胞浸潤と前房蓄膿を認める.図3Malassezia属による角膜炎の1例図4コンタクトレンズ装用者に認められたFusarium属に生体では菌糸状に増殖するため,淡い角膜細胞浸潤を示す.よる角膜炎の1例淡い角膜細胞浸潤を認める.図5植物外傷によるFusarium属による角膜炎の1例図6白内障手術時の創口部に発症したAspergillus属による淡い角膜細胞浸潤とCendothelialplaqueを認める.角膜炎の1例淡い角膜細胞浸潤とCendothelialplaqueを認める.図8図5の症例の前眼部OCT写真Endothelialplaqueと角膜内皮の境界(.)が不明瞭である.図7Alternaria属による角膜炎の1例角膜表層に限局する淡い角膜細胞浸潤を認める.図10真菌性角膜炎(図7の症例)の角膜擦過物の塗抹標本(ファンギフローラ染色,1,000倍)図9真菌性角膜炎の角膜擦過物の塗抹標本(グラム染色,分節を有する菌糸(Alternaria属)を認める.C1,000倍)仮性菌糸を有する酵母菌(Candida属)を認める.-

細菌性角膜炎

2018年12月31日 月曜日

細菌性角膜炎BacterialKeratitis北澤耕司*外園千恵**はじめに感染性角膜炎は抗菌薬の開発に伴い,以前と比べて予後が改善してきた.その一方で,多彩な所見を呈することから,角膜所見だけでなく,発症背景および経過に基づいて起炎菌を推測することが重要である.感染性角膜炎は臨床所見の適期な判断と幅広い知識をもった臨床力が試されるため,眼科医としては腕の見せ所となる.基本的な治療方針としては,初期治療ではCempiricalther-apyをしていき,塗抹検鏡と分離培養を行い,起炎菌を同定したあとはCde.nitivetherapyに変えていく.日本眼感染症学会による『感染性角膜炎診療ガイドライン』第2版1)によると,急激な発症で,充血・眼脂・眼痛・視力低下などの強い自覚症状,および外傷の既往,コンタクトレンズ装用の有無といった背景因子,さらに角膜の浸潤・膿瘍・潰瘍といった化膿性病変を認めた場合は感染性角膜炎を疑う.そのとき角膜病巣所見のパターンでグラム陽性球菌かグラム陰性桿菌かを推定して治療を開始し,直接塗抹検鏡および分離培養を行う.初期治療としては抗菌点眼薬頻回投与を行い,重症例では抗菌薬全身投与を併用することが推奨されている.しかし,治療に反応しない場合はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantCStaphylococcusaureus:MRSA)を含む耐性菌の可能性および真菌感染などの可能性も考え,治療を修正していくことが望ましい(図1).最終目標は治癒であるが,速やかに治療することで,角膜の透明性を維持し,および瘢痕治癒による角膜変形を最小限にとどめることは,視力予後の改善に重要である.本稿では,pathogenicbacteriaとして,緑膿菌,CcommensalbacteriaとしてCMRSA,メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistantcoaguC-lasenegativeStaphylococci:MRCNS),非定型抗酸菌,キノロン耐性コリネバクテリウムに絞って臨床診断および治療のポイントについて解説する.CI緑膿菌性角膜炎緑膿菌(Pseudomonasaeruginosa)はグラム陰性桿菌で,健常者には通常,病原性を示さない弱毒細菌の一つで日和見感染菌である.流し台などの「水回り」からしばしば分離される常在菌であるため,院内感染を生じやすいことが知られている.眼科領域においてはコンタクトレンズ関連による角膜炎の代表的な起因菌である.細菌性角膜炎の原因となる緑膿菌は,米国ではC6~39%,南インドではC8~21%を占めていると報告されている.緑膿菌は各種の抗菌薬に耐性を示す傾向が強く,耐性菌についても問題となっていたが,アミノグリコシド系抗菌薬やニューキノロン系抗菌薬の開発により,近年は減少傾向である.緑膿菌の病原因子は細胞の蛋白合成を阻害するエキソトキシンCAやエキソエンザイムCSなどの外毒素,エラスターゼやアルカリプロテアーゼなどの蛋白分解酵素,内毒素(リポ多糖)などがある.このためいったん感染すると,これらの酵素によりコラーゲンやプロテオグリ*KojiKitazawa:京都府立医科大学附属北部医療センター眼科**ChieSotozono:京都府立医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学〔別刷請求先〕北澤耕司:〒629-2261京都府与謝郡与謝野町男山C481京都府立医科大学附属北部医療センター眼科C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(23)C1599図1感染性角膜炎の診断・治療のフローチャート(感染性角膜炎診療ガイドライン第C2版を一部改変)図2緑膿菌性角膜炎図3緑膿菌性角膜炎19歳,女性.カラーコンタクト使用.多発性の角膜浸潤とす34歳,男性.2ウィークコンタクトレンズを使用中.感染巣りガラス状の角膜混濁を認める.右側臥位であったため,前房周囲にすりガラス状の角膜混濁を伴う角膜膿瘍を認めた.蓄膿が耳側に移動している.図4屈折矯正術後のキノロン耐性メチシリン感受性ブド図5角膜移植後のメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌角膜炎ウ球菌角膜炎52歳,女性.エピレーシック術後C2日に発症.実質層間ドナー角膜周辺部C3時方向に円形,境界明瞭な感染巣をに感染巣があるために抗菌薬が届きにくく難治である.認め,前房蓄膿を認める.縫合糸の緩みが契機となり発症した.図6非定型抗酸菌性角膜炎64歳,男性.屈折矯正手術後に発症.実質内に境界不明瞭な花弁状の浸潤病巣が出現した.図7帯状角膜変性に対する治療的レーザー表層角膜切除術後の角膜感染症64歳,女性.帯状角膜変性に対する治療的レーザー表層角膜図8コリネバクテリウム性角膜炎の塗抹検鏡切除術後,フルオロキノロン点眼薬使用中に角膜感染症を発角膜病巣擦過物の塗抹検鏡で,好中球に貪食される多数のグラ症した症例.(文献C11より許可を得て転載)ム陽性桿菌を認めた.(文献C11より許可を得て転載)-

細菌性結膜炎

2018年12月31日 月曜日

細菌性結膜炎BacterialCornealInfection佐々木香る*はじめに結膜炎とは,細菌が結膜上皮細胞に感染し,炎症を生じた状態である.細菌性結膜炎は,乳幼児・学童と高齢者に多くみられる.その起因菌として,インフルエンザ菌,肺炎球菌,黄色ブドウ球菌,淋菌のC4種を知っておきたい.このうち,乳幼児・学童では,インフルエンザ菌(図1)と肺炎球菌(図2)が圧倒的に多い.冬期にいわゆる鼻風邪に伴い発症する.眼脂とともに,ほんのり充血するため,「ピンクアイ」と称される.また,高齢者では黄色ブドウ球菌が多く,この菌はしばしば結膜.と鼻腔に常在している.近年,細菌の薬剤耐性が問題となっているが,小児科領域ではインフルエンザ菌,肺炎球菌はペニシリン耐性が問題となっている.また,ブドウ球菌ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusCepidermidis:MRSE)やメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphC-ylococcusaureus:MRSA)の割合が増加している.また,本来常在菌であり非病原性とされてきたコリネバクテリウムがキノロン耐性となり,結膜炎の起因菌として報告が増えていることにも注意すべきである.CI特徴的な臨床像と検査項目細菌性結膜炎の臨床像としては,なによりも粘液膿性眼脂(図3)が特徴的である.もちろん,結膜充血や浮腫を伴う.この膿性眼脂は黄色で粘性の眼脂であり,主として好中球からなる.塗抹検鏡(用語解説参照)では,この好中球が細菌を貪食している像をみることができる.乳幼児・学童に多い,インフルエンザ菌と肺炎球菌は小児の上気道に常在する菌であり,これらによる結膜炎は,冬期にいわゆる鼻風邪に伴い発症する.眼脂とともに,ほんのり充血するため,「ピンクアイ」と称される.一方,高齢者にみられるブドウ球菌性結膜炎(図4)は眼瞼炎も伴うことが多く,睫毛の脱落やカラレット,眼瞼縁の発赤,不整,びらんなどを認める.二次的にマイボーム腺の梗塞を認めることも多い.眼脂には,膿性眼脂のほかに,漿液性眼脂(図5)がある.漿液性眼脂とは,水っぽく透明,涙のような分泌物であり,涙腺や副涙腺からの反応性分泌亢進によるもので,アレルギー性結膜炎やウイルス性結膜炎でみられる.結膜炎の診断には,この眼脂の性状が大変大きな手がかりとなるので,まずは必ず肉眼で眼脂の性状を観察することをお勧めする.とくに乳幼児の場合,泣かせてしまうと観察が困難となる.診察場所を工夫するなどして,泣いていない状況での観察をすることで,より多くの情報を得ることができる.点眼薬は全身投与薬に比して,濃度が高いため,たとえ耐性菌であっても奏効することも多いが,今後キノロンの乱用が継続されると,高度耐性菌(用語解説参照)が増加する可能性が懸念される.現在のところ,結膜炎の起因菌別の薬剤選択の推奨は表1のとおりである.ただし,ブドウ球菌性結膜炎で,すでに長期間点眼が投与*KaoruSasaki:JCHO星ヶ丘医療センター眼科〔別刷請求先〕佐々木香る:〒573-8511大阪府枚方市星丘C4-8-1JCHO星ヶ丘医療センター眼科C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(15)C1591aa図1鼻風邪とともに生じたインフルエンザによる結膜炎図2肺炎球菌による結膜炎球結膜,瞼結膜がピンク色を呈し,眼脂を認める(Ca).結膜.結膜は淡いピンク色を呈し,眼脂を認める(Ca).結膜.擦擦過物の塗抹検鏡(Cb).インフルエンザ桿菌が検出された.過物の塗抹検鏡(Cb).好中球とともに,莢膜に包まれた双球菌である肺炎球菌を認める.図3細菌性結膜炎にみられた粘液膿性眼脂好中球を主体とする黄色で粘性のある眼脂.図5アデノウイルス結膜炎にみられた漿液性眼脂図4ブドウ球菌性眼瞼結膜炎結膜充血,眼脂とともに,眼瞼にはカラレットを認める(Ca).涙腺・副涙腺からの反応性分泌が主体となるさらさらした眼脂.結膜.擦過物の塗抹検鏡(Cb).上皮細胞とともに,ブドウ球菌を認める.表1結膜炎の起因菌別の薬剤選択起炎菌耐性報告選択薬剤乳幼児・学童インフルエンザ菌C肺炎球菌bラクタム系耐性(ペニシリン系)(セフェム系)アミノグリコシド耐性キノロン系耐性キノロン系点眼>セフメノキシム点眼セフメノキシム点眼>キノロン系点眼高齢者黄色ブドウ球菌コリネバクテリウムメチシリン耐性Cbラクタム系耐性(ペニシリン系)(セフェム系)キノロン系耐性マクロライド系耐性アミノグリコシド系耐性キノロン系耐性キノロン系点眼=セフメノキシム点眼*MRSAの場合はクロラムフェニコール点眼オフサロンCR点眼>バンコマイシン眼軟膏セフメノキシム点眼性年齢(年齢幅は拡大傾向)淋菌キノロン系耐性(セフメノキシム点眼)+セフトリアキソン静注単回A>Bは,いずれも有効であるが,まずCBよりCAの投与が好ましいことを示す.図6キノロン系点眼常用者に認めたコリネバクテリウムによる結膜炎膿性眼脂とともに,眼脂,充血を認める(Ca).結膜.の塗抹検鏡(Cb).コリネバクテリウムに特徴的な松葉状のグラム陽性桿菌を認める.図8レンサ球菌による結膜炎生後数週間の乳児に,眼脂,充血を認めた(Ca).眼脂の塗抹検鏡(Cb).好中球に貪食されたレンサ球菌を認める.図94カ月の幼児に認めた結膜炎結膜充血は認めないが,片眼性の眼脂を認める.生下時より鼻涙管閉塞を指摘されている(Ca).結膜.の塗抹検鏡(Cb).結膜上皮とともに,レンサ球菌を認める.図10高齢者に生じた涙小管炎鼻側結膜充血と,涙点の膨隆と排膿を特徴とする(Ca).摘出した菌石の塗抹検鏡(Cb).放線菌を認める.培養にてアクチノマイセスと判明した.図11抗菌薬点眼,緑内障点眼を常用していた患者に生じた偽眼類天疱瘡結膜充血,眼脂に加えて,瞼球癒着を認める.図12アレルギー性結膜炎にみられた眼瞼皮膚の苔癬化図13単純ヘルペスによる眼瞼結膜炎皮膚の雛襞を認める.眼瞼に臍窩を伴う水疱を認める.表2細菌性結膜炎と鑑別の必要な膿性眼脂を示す疾患疾患まずすべきこと次にすべきこと充血改善後にすべきこと鼻涙管閉塞・抗菌薬点眼,3日間(結膜充血がなければ不要)・涙.マッサージ・人工涙液で眼表面洗浄涙小管炎・涙点切開により菌石摘出・抗菌薬点眼,3日間・通水洗浄・人工涙液で眼表面洗浄眼類天疱瘡・結膜.常在菌の確認・局所投与:プレドニゾロン眼軟膏:抗菌薬眼軟膏:人工涙液頻回・全身投与:ステロイド:シクロスポリン・人工涙液頻回・プレドニゾロン点眼(症状に応じて漸減)■用語解説■塗抹検鏡:塗抹検鏡は,結膜.を睫毛鑷子などで擦過し,採取した検体を直接スライドグラス上に塗抹・染色して標本を作製し,顕微鏡で菌の有無を調べる検査.塗抹検査は迅速に結果がわかる点で便利で,起因菌の検出,菌量の把握や治療経過の評価などに有用である.しかし,検出にはある程度の菌量が必要で,生菌と死菌の区別ができないこと,また薬剤感受性検査には供用できないなどが欠点である.耐性菌:抗菌薬に対する抵抗性が著しく高くなった細菌.耐性菌の出現にはいくつかの機構がある.1)抗菌薬が標的とする細菌の酵素あるいは蛋白質に突然変異が起きる,2)細菌が抗菌薬を不活性化する能力を獲得(Cb-ラクタマーゼ産生など),3)抗菌薬を能動的に排出する機構,4)膜蛋白の変異・減少により抗菌薬の透過性が低下する機構などがある.薬剤耐性を支配する遺伝子はプラスミド(細胞質にある環状のデオキシリボ核酸DNA)上にある場合が多く,接合により細菌から細菌に伝達されやすい.

クラミジア結膜炎

2018年12月31日 月曜日

クラミジア結膜炎ManagementofChlamydialConjunctivitis中川尚*I疾患概念と歴史トラコーマの病原体として古くから知られてきたCChlamydiatrachomatis(以下,クラミジア)は細菌に分類される偏性細胞内寄生体で,1907年,Prowazekらにより上皮細胞の細胞質内に「封入体」の形で発見された.クラミジア感染症は,眼のサイクルで起こるトラコーマのほか泌尿生殖器間のサイクルがあり,ここから伝播して起こる軽症の結膜炎はトラコーマと区別して封入体結膜炎とよばれた.トラコーマは衛生環境の改善と有効な抗菌薬の登場により激減したが,1980年代から性器クラミジア感染症の増加に伴って封入体結膜炎がリバイバルした.両者の臨床像の差はCChlamydiaCtrachoma-tisの血清型の違い(A,B,Cの血清型がトラコーマを起こす)によるとされていたが,その後,トラコーマの臨床像は血清型の差ではなく,感染反復による免疫反応が本態であることが明らかとなっている.近年は「封入体結膜炎」の名称はほとんど用いられず,ほかの結膜炎と同様に「原因微生物+結膜炎」の形で「クラミジア結膜炎」の用語が用いられることがほとんどである.CII臨床所見クラミジア結膜炎は,青壮年にみられる成人クラミジア結膜炎(成人型封入体結膜炎)と新生児クラミジア結膜炎(新生児封入体結膜炎)とに分けられる.1.成人成人のクラミジア結膜炎は,尿道炎,子宮頸管炎などの性器クラミジア感染症から手指などを介して伝播して起こる.潜伏期は約C1週間~10日で,充血,眼脂,眼瞼腫脹などの症状で発症し,耳前リンパ節腫脹を伴った急性濾胞性結膜炎を示す.もっとも特徴的な所見は結膜円蓋部から瞼結膜にかけてみられる濾胞で,発病からC3~4週間で徐々に大きく充実性となり,融合して堤防状を呈するようになる(図1).眼脂は粘液膿性である.上輪部浸潤(図2)や軽度の表層性血管侵入(マイクロパンヌス)を合併することも多い.経過中,上方角膜にアデノウイルスによる点状上皮下浸潤に類似した点状混濁を認めることもある(図2).罹病期間が長くなると,上瞼結膜には乳頭増殖が目立つようになる.発病からC1~2週間は前述したような特徴的な濾胞はまだ形成されていないため,ウイルス性の濾胞性結膜炎との鑑別がむずかしい(図3).眼脂が粘液膿性であること,濾胞が大型であること,上輪部浸潤を合併すること,などが鑑別点となる(表1).結膜炎患者の半数が,感染源と考えられる泌尿生殖器のクラミジア感染を合併する.そのほか咽頭感染の合併も多く,無症状の軽症のものから腫瘍を思わせる増殖性炎症まで幅広い臨床像を示す1,2).治療に際してはこれらの全身合併症の存在を考慮する必要がある.*HisashiNakagawa:徳島診療所〔別刷請求先〕中川尚:〒189-0024東京都東村山市富士見町C1-2-14徳島診療所C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(9)C1585図1クラミジア結膜炎(成人)瞼結膜から円蓋部にみられる濾胞が特徴的である.Ca:濾胞.発症C3週間の症例.Cb:濾胞.発症C10週間の症例.濾胞は大型,充実性で,融合傾向を示す.典型的な濾胞になるまで2~3週間以上を要する.図2輪部・角膜所見(成人)a:クラミジア結膜炎では上輪部に浸潤を伴うことが多い.Cb:また点状の角膜浸潤,混濁がみられることも多い.アデノウイルスと異なり,上方角膜に限局して認められるのが特徴である.図3クラミジア結膜炎(成人,発症10日の症例)発病初期は濾胞形成が軽度で,アデノウイルス結膜炎との鑑別がむずかしい.表1クラミジア結膜炎とアデノウイルス性結膜炎の鑑別点クラミジアアデノウイルス濾胞大型,充実性経過とともに増大・融合中等度の濾胞充血,浮腫などの炎症所見が強い上輪部浸潤,表層性血管侵入C─角膜上方周辺部に点状浸潤全面に点状浸潤塗抹所見好中球優位封入体,Leber細胞,形質細胞リンパ球優位(70%以上)図4クラミジア結膜炎(新生児)a:瞼結膜のビロード状の充血・浮腫.膿性眼脂を伴って,瞼結膜の充血,浮腫,混濁が起こり,ビロード状を呈する.Cb:偽膜性結膜炎.偽膜形成を伴うことも多い.表2代表的なクラミジア同定法同定法検査法・キット特徴封入体の同定ギムザ染色古典的,低感度抗原検出法CIDEIAPCE感度,特異度とも良核酸増幅法アプティマCCombo2プローブテックコバスC4800システム高感度,高特異性図5塗抹所見(結膜擦過物,ギムザ染色)結膜上皮細胞の細胞質に封入体(Prowazek小体)()が観察される.Leber細胞(貪食中のマクロファージ,)もクラミジア感染の特徴的所見の一つである.表3クラミジア結膜炎の治療*クラミジア結膜炎の治療薬として保険適用あり.他の薬剤は適用なし.図6アジスロマイシン内服2g,1回投与による治療例(成人)a:内服前.Cb:内服後C1カ月.内服後約C1週間で充血,眼脂は減少し,PCRでクラミジアは陰性となった.約C1カ月で円蓋部の軽度の濾胞を残してほぼ治癒している.

アデノウイルス角結膜炎-新型と最近の臨床像-

2018年12月31日 月曜日

アデノウイルス角結膜炎─新型と最近の臨床像─AdenoviralKeratoconjunctivitis─NovelTypeandRecentClinicalFeatures─内尾英一*はじめにアデノウイルス(adenovirus)はウイルス性結膜炎の主たる病因であり,臨床的にアデノウイルス結膜炎は流行性角結膜炎(epidemickeratoconjunctivitis:EKC)と咽頭結膜熱(pharyngoconjunctivalfever:PCF)とがある.近年,アデノウイルス結膜炎の原因として,新型のアデノウイルスが注目を集めている.本稿ではアデノウイルス結膜炎の最近の傾向と,その中心にある「新型」について解説する.Iアデノウイルス角結膜炎の現状国立感染症研究所感染症疫学センターのホームページには,EKCから分離されたウイルスの年ごとの割合が報告されている.(https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/230-iasr/iasr-data/199-virus-graph2.html)2014~2018年の5年間の各年の型別検出頻度を図1に示す.2014年には3型と37型が多かったが,2015年には54型が約40%ともっとも多くなり,この状況は2016年以降も続き,54型と次に多い3型でほぼ半分を占めるという状況だった.しかも,2017年からその他のアデノウイルス型(otheradeno)とその他が増加している.これらの傾向のなかで,54型と,頻度はそれほど多くはないが53型と56型がどの年にも一定程度検出されている.これらが新型とされている52型以降の型である.また,その他のアデノウイルス型の中にも後述するようなこれら以外の新型のアデノウイルスが含まれている.今や新型アデノウイルスによるEKCはとくに珍しい現象ではなくなっているのである.II新型アデノウイルスはどういうものなのか新型のウイルスといえば,インフルエンザがしばしば話題にあげられる.インフルエンザウイルスにはA,BおよびCの三つの型があり,ヒトに大きな流行を起こすのはA型とB型である.A型インフルエンザは抗原性の異なる亜型(subtype)がヒトの間に出現することによって大流行を引き起こすことがあり,このような変異様式は不連続変異とよばれるが,新型ではない.A型インフルエンザの亜型は鳥類に数多くみられるが,トリインフルエンザウイルスがなんらかの理由によってヒトからヒトへの感染性を獲得し,爆発的な世界規模の大流行を生じるのがインフルエンザパンデミックであり,新型インフルエンザとよばれる現象である.ウイルス学的にはH7N9亜型といわれるものである.しかし,アデノウイルスの新型というのはインフルエンザウイルスとはまったく異なっている.そもそもDNAウイルスであるアデノウイルスは,RNAウイルスであるインフルエンザウイルスに比べると変異ははるかに生じにくい.急性出血性結膜炎のエンテロウイルスの変異速度の高さと比較しても同様である.アデノウイルスの分類法として,かつては血清型(serotype)が用いられていた.1~51型までは血清型で*EiichiUchio:福岡大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕内尾英一:〒814-0180福岡市城南区七隈7-45-1福岡大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)15792018年2017年2015年2014年図1流行性角結膜炎から分離された型の年別分布(感染症疫学センターホームページより)2016年■Otheradeno■CoxsackievirusA24■その他■Adenovirus54Adenovirus3Adenovirus64(19a)Adenovirus37Adenovirus56Adenovirus53Adenovirus4図2アデノウイルスの構造表1ヒトアデノウイルスの分類12,C18,C31,C61C3,7,11,14,C16,C21,C34,C35,C50,C55,C66,C76,C77,C78,C79C1,2,5,6,57,89C8,9,10,13,15,17,19,20,22-30,C32,C33,C36,C37,C38,C39,C42-49,C51,C53,54,56,C58,C59,C60,C62,C63,C64,C65,C67,C68,C69,C70,C71,C72,C73,C74,C75,C80,C81,C82,C83,C84,C85,C86,C87,C88,C90C440,C41C52CACBCCCDCECFCGC主要な角結膜炎起炎型を太字で示す.下線の型は角結膜炎の症例が報告されているものを示す.図3アデノウイルス7型の遺伝子型制限酵素で切断したパターンによって,複数の遺伝子型が区別される.表2角結膜炎を生じるD種アデノウイルス型とウイルス学的形質型ペントンベースヘキソンファイバー報告年新型発見由来国C891015223753545664858型9型10型15型22型37型37型54型56型22型37型8型9型10型15型22型37型22型54型15型19型19型8型C9型C10型C15型C22型C37型C8型8型9型37型8型2005年2000年2008年1993年2015年ドイツC日本CフランスC米国C日本太字が新型を示す.図4アデノウイルス結膜炎の角膜びらん図5アデノウイルス結膜炎に合併した角膜上皮病変36歳,男性.アデノウイルスC54型による.LASIK後眼で経過49歳,女性.アデノウイルスC54型による.発症後C3カ月を経中に角膜全びらんとなった.過しても上皮病変が遷延していた.■用語解説■バイオインフォマティクス:生命科学と情報科学の融合分野の一つであり,DNAやCRNA,蛋白質の構造などの生命がもっている「情報」を,情報科学や統計学などの分野のアルゴリズムを用いて分析することで生命について解き明かしていく学問である.生物情報科学やシステム生物学ともいわれる.人工知能(arti.cialintelligence:AI)との親和性も高く,脚光を浴びている.バイオインフォマティクスの手法として多用されるものの一つが相同性検索であり,アデノウイルスの型別に応用されている.簡単な説明ではあるが,結膜拭い液から抽出し,PCR法で得られたゲノムの塩基配列をCNCBI(NationalCCenterCforCBiotechnologyInformation)のCGenBankなどに登録してあるすべてのアデノウイルスの型の塩基配列データベースと照合し,もっとも相同性が高いものによって型が決定される.既存の型のどれとも相同性が低ければ新型となるわけである.実際に研究室に標準株などがなくても,データベースだけでウイルス学的研究ができるので,バイオインフォマティクスの研究者はコンピューター科学からの参入がほとんどである.臨床を必ずしも知らなくても,アデノウイルスの遺伝子の局在はすべてすでにわかっているので,多くの研究発表が行われている.しかし,臨床分離株の蓄積に基づかない米国を中心とするコンピューター解析に偏った研究が必ずしも広く許容されているわけではない.