‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

細菌性結膜炎

2018年12月31日 月曜日

細菌性結膜炎BacterialCornealInfection佐々木香る*はじめに結膜炎とは,細菌が結膜上皮細胞に感染し,炎症を生じた状態である.細菌性結膜炎は,乳幼児・学童と高齢者に多くみられる.その起因菌として,インフルエンザ菌,肺炎球菌,黄色ブドウ球菌,淋菌のC4種を知っておきたい.このうち,乳幼児・学童では,インフルエンザ菌(図1)と肺炎球菌(図2)が圧倒的に多い.冬期にいわゆる鼻風邪に伴い発症する.眼脂とともに,ほんのり充血するため,「ピンクアイ」と称される.また,高齢者では黄色ブドウ球菌が多く,この菌はしばしば結膜.と鼻腔に常在している.近年,細菌の薬剤耐性が問題となっているが,小児科領域ではインフルエンザ菌,肺炎球菌はペニシリン耐性が問題となっている.また,ブドウ球菌ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusCepidermidis:MRSE)やメチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphC-ylococcusaureus:MRSA)の割合が増加している.また,本来常在菌であり非病原性とされてきたコリネバクテリウムがキノロン耐性となり,結膜炎の起因菌として報告が増えていることにも注意すべきである.CI特徴的な臨床像と検査項目細菌性結膜炎の臨床像としては,なによりも粘液膿性眼脂(図3)が特徴的である.もちろん,結膜充血や浮腫を伴う.この膿性眼脂は黄色で粘性の眼脂であり,主として好中球からなる.塗抹検鏡(用語解説参照)では,この好中球が細菌を貪食している像をみることができる.乳幼児・学童に多い,インフルエンザ菌と肺炎球菌は小児の上気道に常在する菌であり,これらによる結膜炎は,冬期にいわゆる鼻風邪に伴い発症する.眼脂とともに,ほんのり充血するため,「ピンクアイ」と称される.一方,高齢者にみられるブドウ球菌性結膜炎(図4)は眼瞼炎も伴うことが多く,睫毛の脱落やカラレット,眼瞼縁の発赤,不整,びらんなどを認める.二次的にマイボーム腺の梗塞を認めることも多い.眼脂には,膿性眼脂のほかに,漿液性眼脂(図5)がある.漿液性眼脂とは,水っぽく透明,涙のような分泌物であり,涙腺や副涙腺からの反応性分泌亢進によるもので,アレルギー性結膜炎やウイルス性結膜炎でみられる.結膜炎の診断には,この眼脂の性状が大変大きな手がかりとなるので,まずは必ず肉眼で眼脂の性状を観察することをお勧めする.とくに乳幼児の場合,泣かせてしまうと観察が困難となる.診察場所を工夫するなどして,泣いていない状況での観察をすることで,より多くの情報を得ることができる.点眼薬は全身投与薬に比して,濃度が高いため,たとえ耐性菌であっても奏効することも多いが,今後キノロンの乱用が継続されると,高度耐性菌(用語解説参照)が増加する可能性が懸念される.現在のところ,結膜炎の起因菌別の薬剤選択の推奨は表1のとおりである.ただし,ブドウ球菌性結膜炎で,すでに長期間点眼が投与*KaoruSasaki:JCHO星ヶ丘医療センター眼科〔別刷請求先〕佐々木香る:〒573-8511大阪府枚方市星丘C4-8-1JCHO星ヶ丘医療センター眼科C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(15)C1591aa図1鼻風邪とともに生じたインフルエンザによる結膜炎図2肺炎球菌による結膜炎球結膜,瞼結膜がピンク色を呈し,眼脂を認める(Ca).結膜.結膜は淡いピンク色を呈し,眼脂を認める(Ca).結膜.擦擦過物の塗抹検鏡(Cb).インフルエンザ桿菌が検出された.過物の塗抹検鏡(Cb).好中球とともに,莢膜に包まれた双球菌である肺炎球菌を認める.図3細菌性結膜炎にみられた粘液膿性眼脂好中球を主体とする黄色で粘性のある眼脂.図5アデノウイルス結膜炎にみられた漿液性眼脂図4ブドウ球菌性眼瞼結膜炎結膜充血,眼脂とともに,眼瞼にはカラレットを認める(Ca).涙腺・副涙腺からの反応性分泌が主体となるさらさらした眼脂.結膜.擦過物の塗抹検鏡(Cb).上皮細胞とともに,ブドウ球菌を認める.表1結膜炎の起因菌別の薬剤選択起炎菌耐性報告選択薬剤乳幼児・学童インフルエンザ菌C肺炎球菌bラクタム系耐性(ペニシリン系)(セフェム系)アミノグリコシド耐性キノロン系耐性キノロン系点眼>セフメノキシム点眼セフメノキシム点眼>キノロン系点眼高齢者黄色ブドウ球菌コリネバクテリウムメチシリン耐性Cbラクタム系耐性(ペニシリン系)(セフェム系)キノロン系耐性マクロライド系耐性アミノグリコシド系耐性キノロン系耐性キノロン系点眼=セフメノキシム点眼*MRSAの場合はクロラムフェニコール点眼オフサロンCR点眼>バンコマイシン眼軟膏セフメノキシム点眼性年齢(年齢幅は拡大傾向)淋菌キノロン系耐性(セフメノキシム点眼)+セフトリアキソン静注単回A>Bは,いずれも有効であるが,まずCBよりCAの投与が好ましいことを示す.図6キノロン系点眼常用者に認めたコリネバクテリウムによる結膜炎膿性眼脂とともに,眼脂,充血を認める(Ca).結膜.の塗抹検鏡(Cb).コリネバクテリウムに特徴的な松葉状のグラム陽性桿菌を認める.図8レンサ球菌による結膜炎生後数週間の乳児に,眼脂,充血を認めた(Ca).眼脂の塗抹検鏡(Cb).好中球に貪食されたレンサ球菌を認める.図94カ月の幼児に認めた結膜炎結膜充血は認めないが,片眼性の眼脂を認める.生下時より鼻涙管閉塞を指摘されている(Ca).結膜.の塗抹検鏡(Cb).結膜上皮とともに,レンサ球菌を認める.図10高齢者に生じた涙小管炎鼻側結膜充血と,涙点の膨隆と排膿を特徴とする(Ca).摘出した菌石の塗抹検鏡(Cb).放線菌を認める.培養にてアクチノマイセスと判明した.図11抗菌薬点眼,緑内障点眼を常用していた患者に生じた偽眼類天疱瘡結膜充血,眼脂に加えて,瞼球癒着を認める.図12アレルギー性結膜炎にみられた眼瞼皮膚の苔癬化図13単純ヘルペスによる眼瞼結膜炎皮膚の雛襞を認める.眼瞼に臍窩を伴う水疱を認める.表2細菌性結膜炎と鑑別の必要な膿性眼脂を示す疾患疾患まずすべきこと次にすべきこと充血改善後にすべきこと鼻涙管閉塞・抗菌薬点眼,3日間(結膜充血がなければ不要)・涙.マッサージ・人工涙液で眼表面洗浄涙小管炎・涙点切開により菌石摘出・抗菌薬点眼,3日間・通水洗浄・人工涙液で眼表面洗浄眼類天疱瘡・結膜.常在菌の確認・局所投与:プレドニゾロン眼軟膏:抗菌薬眼軟膏:人工涙液頻回・全身投与:ステロイド:シクロスポリン・人工涙液頻回・プレドニゾロン点眼(症状に応じて漸減)■用語解説■塗抹検鏡:塗抹検鏡は,結膜.を睫毛鑷子などで擦過し,採取した検体を直接スライドグラス上に塗抹・染色して標本を作製し,顕微鏡で菌の有無を調べる検査.塗抹検査は迅速に結果がわかる点で便利で,起因菌の検出,菌量の把握や治療経過の評価などに有用である.しかし,検出にはある程度の菌量が必要で,生菌と死菌の区別ができないこと,また薬剤感受性検査には供用できないなどが欠点である.耐性菌:抗菌薬に対する抵抗性が著しく高くなった細菌.耐性菌の出現にはいくつかの機構がある.1)抗菌薬が標的とする細菌の酵素あるいは蛋白質に突然変異が起きる,2)細菌が抗菌薬を不活性化する能力を獲得(Cb-ラクタマーゼ産生など),3)抗菌薬を能動的に排出する機構,4)膜蛋白の変異・減少により抗菌薬の透過性が低下する機構などがある.薬剤耐性を支配する遺伝子はプラスミド(細胞質にある環状のデオキシリボ核酸DNA)上にある場合が多く,接合により細菌から細菌に伝達されやすい.

クラミジア結膜炎

2018年12月31日 月曜日

クラミジア結膜炎ManagementofChlamydialConjunctivitis中川尚*I疾患概念と歴史トラコーマの病原体として古くから知られてきたCChlamydiatrachomatis(以下,クラミジア)は細菌に分類される偏性細胞内寄生体で,1907年,Prowazekらにより上皮細胞の細胞質内に「封入体」の形で発見された.クラミジア感染症は,眼のサイクルで起こるトラコーマのほか泌尿生殖器間のサイクルがあり,ここから伝播して起こる軽症の結膜炎はトラコーマと区別して封入体結膜炎とよばれた.トラコーマは衛生環境の改善と有効な抗菌薬の登場により激減したが,1980年代から性器クラミジア感染症の増加に伴って封入体結膜炎がリバイバルした.両者の臨床像の差はCChlamydiaCtrachoma-tisの血清型の違い(A,B,Cの血清型がトラコーマを起こす)によるとされていたが,その後,トラコーマの臨床像は血清型の差ではなく,感染反復による免疫反応が本態であることが明らかとなっている.近年は「封入体結膜炎」の名称はほとんど用いられず,ほかの結膜炎と同様に「原因微生物+結膜炎」の形で「クラミジア結膜炎」の用語が用いられることがほとんどである.CII臨床所見クラミジア結膜炎は,青壮年にみられる成人クラミジア結膜炎(成人型封入体結膜炎)と新生児クラミジア結膜炎(新生児封入体結膜炎)とに分けられる.1.成人成人のクラミジア結膜炎は,尿道炎,子宮頸管炎などの性器クラミジア感染症から手指などを介して伝播して起こる.潜伏期は約C1週間~10日で,充血,眼脂,眼瞼腫脹などの症状で発症し,耳前リンパ節腫脹を伴った急性濾胞性結膜炎を示す.もっとも特徴的な所見は結膜円蓋部から瞼結膜にかけてみられる濾胞で,発病からC3~4週間で徐々に大きく充実性となり,融合して堤防状を呈するようになる(図1).眼脂は粘液膿性である.上輪部浸潤(図2)や軽度の表層性血管侵入(マイクロパンヌス)を合併することも多い.経過中,上方角膜にアデノウイルスによる点状上皮下浸潤に類似した点状混濁を認めることもある(図2).罹病期間が長くなると,上瞼結膜には乳頭増殖が目立つようになる.発病からC1~2週間は前述したような特徴的な濾胞はまだ形成されていないため,ウイルス性の濾胞性結膜炎との鑑別がむずかしい(図3).眼脂が粘液膿性であること,濾胞が大型であること,上輪部浸潤を合併すること,などが鑑別点となる(表1).結膜炎患者の半数が,感染源と考えられる泌尿生殖器のクラミジア感染を合併する.そのほか咽頭感染の合併も多く,無症状の軽症のものから腫瘍を思わせる増殖性炎症まで幅広い臨床像を示す1,2).治療に際してはこれらの全身合併症の存在を考慮する必要がある.*HisashiNakagawa:徳島診療所〔別刷請求先〕中川尚:〒189-0024東京都東村山市富士見町C1-2-14徳島診療所C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(9)C1585図1クラミジア結膜炎(成人)瞼結膜から円蓋部にみられる濾胞が特徴的である.Ca:濾胞.発症C3週間の症例.Cb:濾胞.発症C10週間の症例.濾胞は大型,充実性で,融合傾向を示す.典型的な濾胞になるまで2~3週間以上を要する.図2輪部・角膜所見(成人)a:クラミジア結膜炎では上輪部に浸潤を伴うことが多い.Cb:また点状の角膜浸潤,混濁がみられることも多い.アデノウイルスと異なり,上方角膜に限局して認められるのが特徴である.図3クラミジア結膜炎(成人,発症10日の症例)発病初期は濾胞形成が軽度で,アデノウイルス結膜炎との鑑別がむずかしい.表1クラミジア結膜炎とアデノウイルス性結膜炎の鑑別点クラミジアアデノウイルス濾胞大型,充実性経過とともに増大・融合中等度の濾胞充血,浮腫などの炎症所見が強い上輪部浸潤,表層性血管侵入C─角膜上方周辺部に点状浸潤全面に点状浸潤塗抹所見好中球優位封入体,Leber細胞,形質細胞リンパ球優位(70%以上)図4クラミジア結膜炎(新生児)a:瞼結膜のビロード状の充血・浮腫.膿性眼脂を伴って,瞼結膜の充血,浮腫,混濁が起こり,ビロード状を呈する.Cb:偽膜性結膜炎.偽膜形成を伴うことも多い.表2代表的なクラミジア同定法同定法検査法・キット特徴封入体の同定ギムザ染色古典的,低感度抗原検出法CIDEIAPCE感度,特異度とも良核酸増幅法アプティマCCombo2プローブテックコバスC4800システム高感度,高特異性図5塗抹所見(結膜擦過物,ギムザ染色)結膜上皮細胞の細胞質に封入体(Prowazek小体)()が観察される.Leber細胞(貪食中のマクロファージ,)もクラミジア感染の特徴的所見の一つである.表3クラミジア結膜炎の治療*クラミジア結膜炎の治療薬として保険適用あり.他の薬剤は適用なし.図6アジスロマイシン内服2g,1回投与による治療例(成人)a:内服前.Cb:内服後C1カ月.内服後約C1週間で充血,眼脂は減少し,PCRでクラミジアは陰性となった.約C1カ月で円蓋部の軽度の濾胞を残してほぼ治癒している.

アデノウイルス角結膜炎-新型と最近の臨床像-

2018年12月31日 月曜日

アデノウイルス角結膜炎─新型と最近の臨床像─AdenoviralKeratoconjunctivitis─NovelTypeandRecentClinicalFeatures─内尾英一*はじめにアデノウイルス(adenovirus)はウイルス性結膜炎の主たる病因であり,臨床的にアデノウイルス結膜炎は流行性角結膜炎(epidemickeratoconjunctivitis:EKC)と咽頭結膜熱(pharyngoconjunctivalfever:PCF)とがある.近年,アデノウイルス結膜炎の原因として,新型のアデノウイルスが注目を集めている.本稿ではアデノウイルス結膜炎の最近の傾向と,その中心にある「新型」について解説する.Iアデノウイルス角結膜炎の現状国立感染症研究所感染症疫学センターのホームページには,EKCから分離されたウイルスの年ごとの割合が報告されている.(https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/230-iasr/iasr-data/199-virus-graph2.html)2014~2018年の5年間の各年の型別検出頻度を図1に示す.2014年には3型と37型が多かったが,2015年には54型が約40%ともっとも多くなり,この状況は2016年以降も続き,54型と次に多い3型でほぼ半分を占めるという状況だった.しかも,2017年からその他のアデノウイルス型(otheradeno)とその他が増加している.これらの傾向のなかで,54型と,頻度はそれほど多くはないが53型と56型がどの年にも一定程度検出されている.これらが新型とされている52型以降の型である.また,その他のアデノウイルス型の中にも後述するようなこれら以外の新型のアデノウイルスが含まれている.今や新型アデノウイルスによるEKCはとくに珍しい現象ではなくなっているのである.II新型アデノウイルスはどういうものなのか新型のウイルスといえば,インフルエンザがしばしば話題にあげられる.インフルエンザウイルスにはA,BおよびCの三つの型があり,ヒトに大きな流行を起こすのはA型とB型である.A型インフルエンザは抗原性の異なる亜型(subtype)がヒトの間に出現することによって大流行を引き起こすことがあり,このような変異様式は不連続変異とよばれるが,新型ではない.A型インフルエンザの亜型は鳥類に数多くみられるが,トリインフルエンザウイルスがなんらかの理由によってヒトからヒトへの感染性を獲得し,爆発的な世界規模の大流行を生じるのがインフルエンザパンデミックであり,新型インフルエンザとよばれる現象である.ウイルス学的にはH7N9亜型といわれるものである.しかし,アデノウイルスの新型というのはインフルエンザウイルスとはまったく異なっている.そもそもDNAウイルスであるアデノウイルスは,RNAウイルスであるインフルエンザウイルスに比べると変異ははるかに生じにくい.急性出血性結膜炎のエンテロウイルスの変異速度の高さと比較しても同様である.アデノウイルスの分類法として,かつては血清型(serotype)が用いられていた.1~51型までは血清型で*EiichiUchio:福岡大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕内尾英一:〒814-0180福岡市城南区七隈7-45-1福岡大学医学部眼科学教室0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(3)15792018年2017年2015年2014年図1流行性角結膜炎から分離された型の年別分布(感染症疫学センターホームページより)2016年■Otheradeno■CoxsackievirusA24■その他■Adenovirus54Adenovirus3Adenovirus64(19a)Adenovirus37Adenovirus56Adenovirus53Adenovirus4図2アデノウイルスの構造表1ヒトアデノウイルスの分類12,C18,C31,C61C3,7,11,14,C16,C21,C34,C35,C50,C55,C66,C76,C77,C78,C79C1,2,5,6,57,89C8,9,10,13,15,17,19,20,22-30,C32,C33,C36,C37,C38,C39,C42-49,C51,C53,54,56,C58,C59,C60,C62,C63,C64,C65,C67,C68,C69,C70,C71,C72,C73,C74,C75,C80,C81,C82,C83,C84,C85,C86,C87,C88,C90C440,C41C52CACBCCCDCECFCGC主要な角結膜炎起炎型を太字で示す.下線の型は角結膜炎の症例が報告されているものを示す.図3アデノウイルス7型の遺伝子型制限酵素で切断したパターンによって,複数の遺伝子型が区別される.表2角結膜炎を生じるD種アデノウイルス型とウイルス学的形質型ペントンベースヘキソンファイバー報告年新型発見由来国C891015223753545664858型9型10型15型22型37型37型54型56型22型37型8型9型10型15型22型37型22型54型15型19型19型8型C9型C10型C15型C22型C37型C8型8型9型37型8型2005年2000年2008年1993年2015年ドイツC日本CフランスC米国C日本太字が新型を示す.図4アデノウイルス結膜炎の角膜びらん図5アデノウイルス結膜炎に合併した角膜上皮病変36歳,男性.アデノウイルスC54型による.LASIK後眼で経過49歳,女性.アデノウイルスC54型による.発症後C3カ月を経中に角膜全びらんとなった.過しても上皮病変が遷延していた.■用語解説■バイオインフォマティクス:生命科学と情報科学の融合分野の一つであり,DNAやCRNA,蛋白質の構造などの生命がもっている「情報」を,情報科学や統計学などの分野のアルゴリズムを用いて分析することで生命について解き明かしていく学問である.生物情報科学やシステム生物学ともいわれる.人工知能(arti.cialintelligence:AI)との親和性も高く,脚光を浴びている.バイオインフォマティクスの手法として多用されるものの一つが相同性検索であり,アデノウイルスの型別に応用されている.簡単な説明ではあるが,結膜拭い液から抽出し,PCR法で得られたゲノムの塩基配列をCNCBI(NationalCCenterCforCBiotechnologyInformation)のCGenBankなどに登録してあるすべてのアデノウイルスの型の塩基配列データベースと照合し,もっとも相同性が高いものによって型が決定される.既存の型のどれとも相同性が低ければ新型となるわけである.実際に研究室に標準株などがなくても,データベースだけでウイルス学的研究ができるので,バイオインフォマティクスの研究者はコンピューター科学からの参入がほとんどである.臨床を必ずしも知らなくても,アデノウイルスの遺伝子の局在はすべてすでにわかっているので,多くの研究発表が行われている.しかし,臨床分離株の蓄積に基づかない米国を中心とするコンピューター解析に偏った研究が必ずしも広く許容されているわけではない.

序説:日常臨床で遭遇する眼感染症とその対処法

2018年12月31日 月曜日

日常臨床で遭遇する眼感染症とその対処法OcularInfectionsEncounteredinDailyClinicalPracticeandHowtoDealwithThem木下茂*現在の医療は,悪性腫瘍や循環器系疾患,代謝系疾患など,ある意味の加齢に基づくきわめてローグレードの慢性炎症,酸化ストレスなどが関与する疾患群が治療主体となっている.眼科領域でも,加齢に伴う白内障,緑内障,加齢黄斑変性,ドライアイなどはこの範疇の疾患群ともいえる.しかし,近代医療の始まりの時,医療の究極の目的が何であったかを考えてみると,ペストや天然痘などの感染症との闘い,そして戦争や災害などによる外傷への対処ということであったように思われる.実際,CRobertKoch,LouisPasteurや北里柴三郎をはじめとする先達の感染症との闘いは壮絶なものであり,これらの研究から確立されていった感染症学がCPaulEhrlichなどに受け継がれ,近代免疫学の黎明期に結び付いていった1).すなわち,病原体は,その急速な増殖などにより生体を破壊するいわゆる感染症や,あるいは病原体に対する生体応答などからなる感染アレルギーなどを生じうるとする考え方である.感染症としては,とくに新興感染症と再興感染症という二つの大きなグループが重要であると考えられている.新興感染症とは,にわかにその発症が注目されるようになった感染症である.たとえば,重症亜急性呼吸器症候群(SARS),鳥インフルエンザ,エボラ出血熱などである.一方,再興感染症とは,今までにも存在していた感染症で公衆衛生上ほとんど問題となっていなかったが,最近になって再び注目されるようになってきた,あるいは将来問題となる可能性がある感染症のことである.たとえば,結核,黄色ブドウ球菌感染症,マラリアなどがあげられる.眼科領域での新興感染症としては,アカントアメーバ角膜感染症,サイトメガロウイルス角膜内皮炎,エボラ出血熱2)などが報告されてきたし,再興感染症としては結核,梅毒などがぶどう膜炎との絡みで注目されている.さて,この特集では,日常的に遭遇する可能性のある感染症とその病態について,エキスパートによるわかりやすい解説を集めてみた.アデノウイルス角結膜炎は日頃から悩まされる疾患の一つであるが,内尾英一先生に新型のアデノウイルスを含めたウイルス型とそれらの臨床所見などを含めて要約していただいた.ウイルス型により臨床病型も多様に変化する可能性があり,臨床経過をみるうえでも大切な情報である.クラミジア結膜炎については中川尚先生にお願いした.この疾患も眼科医の理解が深まり適切な治療が施されるようになってきたが,その的確な診断と治療となると深い知識が必要となってくる.ここでは,新生児のみならず成人の封入体*ShigeruKinoshita:京都府立医科大学感覚器未来医療学C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(1)C1577

網膜剝離を伴ったサイトメガロウイルス網膜炎の6症例の検討

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1567.1570,2018c網膜.離を伴ったサイトメガロウイルス網膜炎の6症例の検討三股政英石川桂二郎長谷川英一武田篤信園田康平九州大学大学院医学研究院眼科学分野CClinicalFeaturesofSixCasesofCytomegalovirusRetinitisComplicatedwithRetinalDetachmentMasahideMimata,KeijirouIshikawa,EichiHasegawa,AtsunobuTakedaandKoheiSonodaCDepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversityC目的:網膜.離(RD)を伴ったサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の症例の臨床像を検討する.対象および方法:対象は過去C4年間に九州大学医学部付属病院眼科にてCCMV網膜炎と診断したC10症例C13眼のうち,経過中にCRDを認めたC6症例C6眼で,診療録をもとに後ろ向きに検討した.結果:症例は男性C5例C5眼,女性C1例C1眼,平均年齢60.5歳.初診時の平均視力はC0.15で,CMV網膜炎の診断からCRD発症までの平均期間はC4.3カ月であった.RDに対して,強膜内陥術をC1例に,硝子体手術をC5例に行った.最終的にC4例がシリコーンオイルを留置された.最終観察時の平均視力はC0.04であった.結論:CMV網膜炎に伴うCRDは視力予後が不良であり,重篤な視機能障害の原因となる.CMV網膜炎はCRDの発症に留意して治療を行うことが重要である.CPurpose:ToCdescribeCtheCclinicalCfeaturesCinCcasesCofcytomegalovirus(CMV)retinitisCcomplicatedCwithCreti-naldetachment(RD)C.MaterialsandMethods:ThisCstudyCinvolvedCtheCretrospectiveCreviewCofCtheCmedicalCrecordsof6eyesof6CMVretinitispatientscomplicatedwithRDwhovisitedtheDepartmentofOphthalmology,UniversityofKyushuHospitalfrom2013toC2016.CResults:Averagebest-correctedvisualacuityatC.rstvisitwas0.15.CItCtookCanCaverageC4.3monthsCfromCdiagnosisCofCCMVCretinitisCtoConsetCofCRD.COneCcaseCunderwentCscleralbuckling;theothercasesunderwentparsplanavitrectomy,including4casesthatunderwentsiliconeoiltampon-ade.CAverageCbest-correctedCvisualCacuityCatClastCvisitCwasC0.04.CConclusion:CMVCretinitisCcomplicatedCwithCRDCcancauseseverevisualdysfunction.Duringfollow-upofCMVretinitis,theoccurrenceofRDshouldbecarefullymonitored.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1567.1570,C2018〕Keywords:サイトメガロウイルス網膜炎,網膜.離,網膜硝子体手術,網膜前膜,免疫回復ぶどう膜炎.cyto-megalovirusretinitis,retinaldetachment,vitreoretinalsurgery,epiretinalmembrane,immunerecoveryuveitis.Cはじめにサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)網膜炎は,眼科領域では代表的な日和見感染症の一つであり,ぶどう膜炎初診患者のC0.6.0.8%程度を占める1).1990年代後半にCHAART(highlyCactiveCantiretroviraltherapy)が導入されたことにより,AIDS(acquiredCimmunode.ciencyCsyn-drome)に伴うCCMV網膜炎に関しては,発症頻度が導入前のC4分のC1からC5分のC1程度に減少した.しかし一方で,臓器移植後の患者数は年々増加しており,とくに血液腫瘍性疾患に対する造血幹細胞移植後のCCMV網膜炎は増加傾向にあり,近年それらの症例の重要性が増している2).CMV網膜炎の主要な合併症の一つに網膜.離(retinaldetachment:RD)がある.網膜炎が鎮静化した後に生じることが多く3),RDに対して手術を行っても,網膜萎縮のために視力予後不良であると報告されており4),その臨床像の特徴を理解することは重要である.RDを合併したCCMV網〔別刷請求先〕三股政英:〒812-8582福岡市東区馬出C3-1-1九州大学大学院医学研究院眼科学分野Reprintrequests:MasahideMimata,DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity,3-1-1Maidashi,Higashi-ku,Fukuoka812-8582,JAPANC表1患者背景と臨床像症例年齢(歳)性別網膜.離僚眼網膜炎基礎疾患診断からCRD発症までの期間(月)滲出斑の大きさ手術方法C1C39男性左無CAIDSC13<25%CsegmentalbucklingCPPV+SF6C2C64男性右無赤芽球癆C6>50%CPPV+SF6CPPV+SO充.+輪状締結CPPV+SO充.C3C50男性左有選択的CIgM欠損症C3<25%CPPV+SO抜去CPPV+SO充.C4C68男性右無肺結核C4>50%CPPV+SO充.C5C74女性左無ANCA関連血管炎C0<25%CPPV+SO充.CPPV+SO抜去C6C67男性右有悪性リンパ腫C0>50%CPPV+SO充.症例黄斑.離術前視力最終観察時視力血中CMV抗原前房水CPCR硝子体CPCRガンシクロビル硝子体内注射抗ウイルス薬全身投与転帰CERMC1無C0.5C0.2陽性無ガンシクロビル生存不明C有2有0.6C0.1陽性陽性1回無生存有C有C有3無1.5C0.1陽性陽性4回ホスカルネット生存不明C有C4無C0.04Cm.m.陰性陽性無無生存有C5有有C0.01C0.2なし陰性無無生存有C6有C0.09CSL-陽性陽性無無死亡不明AIDS:後天性免疫不全症候群,IgM:免疫グロブリンCM,ANCA:抗好中球細胞質抗体,PCR:ポリメラーゼ連鎖反応,PPV:経毛様体扁平部硝子体切除術,SF6:SF6gas注入,SO:シリコーンオイル,SL:光覚弁,m.m.:手動弁膜炎症例の臨床経過について,海外では多数例での報告があるが,わが国での報告は少ない.今回筆者らは,RDを伴ったCCMV網膜炎のC6症例について臨床像を後ろ向きに検討したので報告する.CI対象および方法対象はC2013年C1月.2016年C12月に,九州大学医学部附属病院眼科(以下,当院)にてCCMV網膜炎と診断したC10症例C13眼のうち,経過中にCRDを認めたC6症例C6眼とした.同症例について,基礎疾患,CMV網膜炎に対する治療,網膜炎の診断からCRD発症までの期間,網膜炎の範囲,施行術式,再.離の有無,最終復位率,視力予後などの臨床的特徴を診療録に基づいて後ろ向きに検討した.CMV網膜炎の診断は,網膜出血,浮腫を伴う黄白色滲出斑,網膜血管炎などのCCMV網膜炎に特徴的な眼底所見に加えて,免疫不全をきたす基礎疾患の存在,CMV抗原血症の有無,PCR(polymeraseCchainreaction)法による前房水,硝子体液中のCCMV-DNAの検出の有無などから総合的に行った.初診時にCRDを生じていた場合,網膜炎の診断からCRD発症までの期間をC0カ月とした.網膜炎の範囲は,診療録の眼底写真やスケッチから,全網膜に対する滲出斑の占有面積の割合をC0.25%,25.50%,50%以上のC3段階に分類した.視力の計算は既報5)に基づき,指数弁はClogMAR(loga-rithmCofCminimalCangleCofresolution)換算C1.85(少数視力0.014),手動弁はClogMAR換算C2.30(少数視力C0.005),光覚ありはClogMAR換算C2.80(少数視力C0.0016),光覚なしはlogMAR換算C2.90(少数視力C0.0012)として行った.CII結果6例の臨床像を表1に示す.症例は,男性C5例C5眼,女性C1例C1眼,平均年齢C60.5C±12.0歳:39.74歳であった.6例の基礎疾患はそれぞれ,後天性免疫不全症候群C1例,白血病C1例,選択的CIgM欠損症C1例,肺結核C1例,ANCA関連血管炎C1例,悪性リンパ腫C1例であった.6例のうち,2例は僚眼にもCCMV網膜炎を認めた.僚眼の網膜炎は抗ウイルス療法により鎮静化し,RDを発症しなかった.網膜炎の範囲は,0.25%の症例がC3例,50%以上の症例がC3例であった.3例で萎縮瘢痕化した滲出斑と正常網膜の境界に網膜前膜(epiretinalmembrane:ERM)を認めた(図1).そのうちC2例と,ERMの存在は不明であったC1例で滲出斑と正常網膜の境界に原因裂孔を認めた.CMV網膜炎の診断からCRD発症までの平均期間はC4.3C±4.4カ月であった.2例は初診時にすでにCCMV網膜炎に伴ってCRDを発症していた.RD発症前のCCMV網膜炎に対する抗ウイルス療法は,1例でホスカルネットの全身投与およびガンシクロビルの硝子体注射を行われた.1例でホスカルネットの全身投与のみ,1例でガンシクロビルの硝子体注射のみを行われた.その他のC3例は手術前の抗ウイルス療法を行われなかった.RDの範囲が周辺部に限局していたC1例のみ強膜内陥術を行い,同症例は術後再.離を認めず経過した.その他C5例に硝子体手術を行った.1例はCSFC6ガス注入を行い,術後C1カ月で再.離を認めた.再度CSFC6ガス注入を行ったが,術後C1週間で再.離を認めたため,シリコーンオイル注入を行った.その他C4例は初回手術でシリコーンオイル注入を行い,そのうちC2例はそれぞれC9カ月後,10カ月後にシリコーンオイルを抜去した.前者は抜去後C2カ月で再.離を認め,再度シリコーンオイル注入を行った.後者はシリコーンオイルの再注入を行わなかった.初診時の平均少数視力はC0.15(logMAR換算C0.80C±0.82),最終観察時の平均視力はC0.04(logMAR換算C1.43C±0.93)であった.CIII考察今回の検討では,CMV網膜炎の全C13眼のうちC6眼(46%)にCRDを発症した.過去の報告では,CMV網膜炎におけるRDの発症率はおおむねC12.18%と報告されており6),本検討では既報と比べて発症率が高い結果となった.HAART導入後,AIDS患者でのCCMV網膜炎におけるCRD発症率は約C1割程度減少したとする報告がある7).一方で,臓器移植後のCCMV網膜炎におけるCRD発症率は約半数と報告されており8),今回の検討では,全C10例のうちCAIDS患者がC1例のみであったため,RD発症率が既報と比べて高くなった可能性がある.また,RDを契機に紹介されたCCMV網膜炎の1例を含め,初診時にすでにCRDを認めた症例がC2例含まれることも,RDの発症率が高かった原因と考えられる.網膜炎の鎮静化後に,萎縮した壊死部網膜と健常網膜の境界の網膜硝子体界面に高率にCERMを認めると報告されている9).同報告では,非活動期のCCMV網膜炎の約C9割の症例で壊死部網膜と健常網膜の境界にCERMが認められた.本検討においても,3例で同部位にCERMを認めた.残りのC3例は,壊死部網膜と健常網膜の境界部を光干渉断層計で撮影していなかった.ERMを認めたC2例と,その他のC1例で壊死部網膜と健常網膜の境界付近に原因裂孔を認めた.このこと症例2症例4図1壊死部網膜と健常網膜の境界に認めたERMのOCT所見周術期のCswept-sourceOCT所見.菲薄化した壊死部網膜と健常網膜の境界にCERM(.)を認める.からも,CMV網膜炎において壊死部網膜と健常網膜の境界でCERMが形成され,その収縮により網膜裂孔が生じ,RDの原因となっている可能性が示唆された.近年,血液腫瘍や臓器移植後に対する抗がん剤や免疫抑制薬による治療後に,免疫能が回復してくる時期に生じる免疫回復ぶどう膜炎(immuneCrecoveryuveitis:IRU)を合併したCCMV網膜炎の重要性が増している.IRUを伴うCCMV網膜炎では,ERM形成のリスクが増加することが報告されており10),RDの発症率が高くなっている一要因と考えられる.CMV網膜炎の病変の大きさがC10%大きくなるとCRD発症率が約C2倍に増加し3),全網膜のC50%以上の症例ではCRD治療後の復位率が有意に低いと報告されている4).本検討においても,シリコーンオイルの留置なしで網膜の復位を得ている症例は,いずれも網膜炎の大きさC25%未満の症例であり,その他の症例はすべてシリコーンオイルを留置する結果となった.すなわち,進行したCCMV網膜炎に伴うCRDは難治であるため,CMV網膜炎の早期診断と治療開始により網膜炎の進展を制御することで,RDの発症ならびに治療予後を改善する可能性がある.CIV結語CMV網膜炎に伴うCRDは視力予後が不良であり,重篤な視機能障害の原因となる.CMV網膜炎は,その進行度がRD発症,ならびに視力予後とかかわっている可能性があるため,視力予後改善のためには早期診断,治療開始が重要である.文献1)芹澤元子,國重智之,伊藤由起子ほか:日本医科大学付属病院眼科におけるC8年間の内眼炎患者の統計的観察.日眼会誌C119:347-353,C20152)高本光子:サイトメガロウイルスぶどう膜炎.臨眼C66:C111-117,C20123)YenM,ChenJ,AusayakhunSetal:RetinaldetachmentassociatedCwithCAIDS-relatedCcytomegalovirusretinitis:CriskCfactorsCinCaCresource-limitedCsetting.CAmCJCOphthal-molC159:185-192,C20154)WongCJX,CWongCEP,CTeohCSCCetal:OutcomesCofCcyto-megalovirusCretinitis-relatedCretinalCdetachmentCsurgeryCinCacquiredCimmunode.ciencyCsyndromeCpatientsCinCanCAsianpopulation.BMCOphthalmolC14:150,C20145)Schulze-BonselCK,CFeltgenCN,CBurauCHCetal:VisualCacu-ities“handCmotion”and“countingC.ngers”canCbeCquanti-.edCwithCtheCFreiburgCvisualCacuityCtest.CInvestCOphthal-molVisSciC47:1236-1240,C20166)柳田淳子,蕪城俊克,田中理恵ほか:近年のサイトメガロウイルス網膜炎の臨床像の検討.あたらしい眼科C32:699-703,C20157)JabsDA:AIDSCandCophthalmology,C2008.CArchCOphthal-molC126:1143-1146,C20088)WagleCAM,CBiswasCJ,CGopalCLCetal:ClinicalCpro.leCandCimmunologicalCstatusCofCcytomegalovirusCretinitisCafterCtransplantation.TransplInfectDisC10:3-18,C20089)BrarCM,CKozakCI,CFreemanCWRCetal:VitreoretinalCinter-faceabnormalitiesinhealedcytomegalovirusretinitis.Ret-inaC30:1262-1266,C201010)KaravellasCMP,CSongCM,CMacdonaldCJCCetal:Long-termCposteriorCandCanteriorCsegmentCcomplicationsCofCimmuneCrecoveryuveitisassociatedwithcytomegalovirusretinitis.AmJOphthalmolC130:57-64,C2000***

眼内リンパ腫の経過中にAZOOR様網膜病変を認めた1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1563.1566,2018c眼内リンパ腫の経過中にAZOOR様網膜病変を認めた1例牧野輝美1,2)小川俊平1,2)中野匡1)酒井勉1,3)*1東京慈恵会医科大学附属病院眼科*2厚木市立病院眼科*3東京慈恵会医科大学附属第三病院眼科CACaseofIntraocularLymphomawithAcuteZonalOccultOuterRetinopathy-likePhenotypeTerumiMakino1,2)C,ShumpeiOgawa1,2)C,TadashiNakano1)andTsutomuSakai1,3)1)DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,AtsugiCityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,JikeiDaisanHospitalC目的:Barileらは,眼内リンパ腫の初期病変として急性帯状潜在性網膜外層症(AZOOR)様網膜病変を報告した.今回筆者らも同様の症例を経験したので報告する.症例:56歳,男性.2011年C6月より硝子体混濁を伴う汎ぶどう膜炎を認め,眼内リンパ腫を疑い硝子体生検を行うも確定診断は得られなかった.2012年C5月,感覚性失語,頭痛が出現し,頭部CMRIにて右側頭葉に腫瘤を認めた.びまん性大細胞型CB細胞リンパ腫と診断され,化学療法と放射線療法が開始された.2014年C2月から光視症,左眼視力低下がみられた.光干渉断層計では黄斑部視細胞内節Cellipsoidzone(EZ)の不明瞭化,多局所網膜電図では黄斑部の応答密度の低下を認めた.2週後,自覚症状の改善,EZの明瞭化が確認された.2015年C2月,右眼にも同症状を認めたが自然寛解した.結論:眼内リンパ腫関連網膜症の表現型の一つとしてCAZOOR類似の網膜症に留意する必要がある.CPurpose:ToCreportCaCcaseCwithCacuteCzonalCoccultCouterretinopathy(AZOOR)C-likeCphenotypeCsecondaryCtoCintraocularlymphoma.Case:A56-year-oldmalepresentedwithpanuveitiswithvitreousopacityfrom2011June.DiagnosticCvitrectomyCwasCperformedCforCexaminationCofCintraocularClymphoma,CbutCtheCresultsCdidCnotCleadCtoCdiagnosisofintraocularlymphoma.In2012May,hecomplainedofheadacheandhadsensoryaphasia.BrainMRIshowedatumorintherighttemporallobe,leadingtodiagnosisofdi.uselargeB-celllymphoma.In2014Febru-ary,CheCcomplainedCofCacuteCreducedCvisionCwithCphotophobiaCinCtheCleftCeye.CFunduscopicCexaminationCofCtheCleftCeyeshowednoabnormallesion.Spectral-domainopticalcoherencetomographyrevealeddisruptionoftheellipsoidzone(EZ)andCmultifocalCelectroretinogramCdemonstratedCaCdecreaseCofCcentralCamplitude,CsuggestingCAZOOR.CTwoCweeksClater,CthereCwasCrecoveryCofCEZ,CwithCresultantCspontaneousCresolutionCofCmacularCmorphologyCandCfunctioninsixmonths.In2015February,therighteyehadthesameconditionandclinicalcourse.Conclusion:CCliniciansshouldbeawareofAZOOR-likephenotypeinatypicalmanifestationsofintraocularlymphoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1563.1566,C2018〕Keywords:眼内リンパ腫,B細胞リンパ腫,急性帯状潜在性網膜外層症,光干渉断層計,多局所網膜電図.intra-ocularlymphoma,Bcelllymphoma,AZOOR,opticalcoherencetomography,multifocalelectroretinogram.Cはじめに眼内リンパ腫には,眼および中枢神経を原発とするものと,全身の悪性リンパ腫の経過中に眼内に病変を生じるものがある.このうちとくに眼に初発するリンパ腫は,眼内原発リンパ腫(primaryintraocularlymphoma:PIOL)とよばれる.PIOLは,組織学的にその大部分が非CHodgkinびまん性大細胞型CB細胞リンパ腫に分類され,悪性度がきわめて高い1,2).加えてCPIOLは,診断に難渋するいわゆる仮面症候群の代表的疾患である.ぶどう膜炎に類似した所見は,いわゆる炎症反応とは異なり腫瘍細胞播種によるものであるが,ステロイドに反応があるため鑑別は容易ではない.眼内リンパ腫の眼底所見として,硝子体混濁,黄白色の網膜下浸潤病変,漿液性網膜.離,.胞様黄斑浮腫様所見,視神経乳頭浮腫,網膜血管炎様所見,黄斑部卵黄様病巣があげ〔別刷請求先〕牧野輝美:〒105-8461東京都港区西新橋C3-25-8東京慈恵会医科大学附属病院眼科Reprintrequests:TerumiMakino,DepartmentofOphthalmology,JikeiUniversitySchoolofMedicine,3-25-8Nishishimbashi,Minato-ku,Tokyo105-8461,JAPANCられる.これらに加えてCBarileらは,2013年にCPIOLの初期病変として急性帯状潜在性網膜外層症(acutezonaloccultouterretinopathy:AZOOR)類似の網膜症が認められたC1症例を報告した3).今回筆者らは,眼内リンパ腫経過中にCAZOOR類似の網膜症が認められた症例を経験したので報告する.CI症例患者:56歳,男性.初診日:2011年C7月6日.主訴:両視力低下,飛蚊症.既往歴:高血圧.現病歴:2011年C6月末より両眼の視力低下,飛蚊症を自覚し,近医で両眼硝子体混濁を指摘され,同年C7月C6日東京慈恵会医科大学附属病院(以下,当院)紹介受診となった.初診時所見:視力はCVD=0.4(1.5C×-0.75D(cyl-1.25DAx95°),VS=0.3(1.5C×.1.25D(cyl.1.00DAx95°)で,眼圧は両眼C18CmmHgであった.両眼に豚脂様角膜後面沈着物,前房内細胞およびオーロラ様硝子体混濁を認めた.採血,胸部CX線に異常はなかった.硝子体混濁の改善がみられなかったため,眼内リンパ腫を疑い,同年C8月C9日左眼硝子体生検を施行した.硝子体液の精査の結果は,細胞診クラスCIII,IL-10:1,310Cpg/dl,IL-6:286Cpg/dlで,IgH再構成は認めなかった.同年C7月のCPET-CT,胸腹部造影CCT,頭部CMRIでは異常はなかった.確定診断が得られなかったこと,右眼硝子体混濁が改善しないことから,2012年C3月6日,右眼の硝子体生検を施行した.硝子体液の精査の結果は,細胞診クラスCIII,IL-10:1,320Cpg/dl,IL-6:324Cpg/dlで,IgH再構成は認めなかった.この時点で,眼内リンパ腫の確定診断は得られなかったが,眼内リンパ腫疑いとして診断した.術後に自覚症状の改善が認められ,全身精査で有意な所見がなかったことから経過観察となった.2012年C6月から頭痛,感覚性失語が出現するようになり,当院脳神経外科を受診した.頭部CMRIにて右側頭葉に約C32mmの腫瘤が指摘され(図1),6月C18日開頭生検を施行し,病理検査からびまん性大細胞型CB細胞リンパ腫(DLBCL)の診断に至った.この結果から,本症例は眼内リンパ腫(PIOL疑い)と診断し,眼病変が脳に転移した可能性を考慮した.7月C3日よりメトトレキサート(MTX)大量投与を開始するも,副作用として肝障害がみられ,2コース目以降投与量をC80%に減量し,計C4コースを行った.9月C7日より全脳照射(眼球含む)40CGy/20Cfrも開始され,11月には脳病変の寛解が得られた.この間,視覚に関する自覚症状はなかった.2014年C2月C19日に左眼視力低下,光視症を自覚し,当院眼科を再診した.再診時視力はCVD=0.4(1.5C×.0.75D(cylC.1.25DAx95°),VS=0.3(0.7C×.1.25D(cyl.1.00DAx95°)で,眼圧は両眼C18CmmHgであった.検眼鏡的に眼底に有意な所見はなかったが,自発蛍光では左眼黄斑部に軽度過蛍光領域がみられた(図2).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)において,ellipsoidCzone(EZ),interdigitationCzone(IZ)の不明瞭化(図3上)を認めたが,網膜色素上皮層には不整な所見を認めなかった.多局所網膜電図では黄斑部の応答密度の著明な低下を認めた(図3下).血液検査にて,自己抗体含め,抗網膜抗体は陰性であった.以上よりCAZOOR類似の網膜症と診断し,経過観察の方針となった.その後,2週で自覚症状および視力の改善,EZの明瞭化を認め,6カ月後に視力(1.0)となり,EZはほぼ復活した(図4).多局所網膜電図でも黄斑部応答密度の改善がみられた(図5).その後も再発なく経過.2015年C2月右眼にも同様の症状,所見を認めたが,自然に寛解した.2016年C3月に精巣への転移,7月には脳病変の再発を認め,その後肺炎を合併し,8月C23日に永眠された.CII考察本症例の特徴は,眼内リンパ腫の経過中に光視症を呈し,OCTでCEZの不明瞭化による網膜外層の形態的障害と,mfERGで応答密度の低下による網膜外層の機能的障害を認めたことであり,眼内リンパ腫の背景がなければCAZOORの診断に合致する点である.AZOORはC1992年にCGassらが報告した原因不明の網膜外層障害疾患群である4).若年から中年の健康な女性の片眼あるいは両眼に好発し,光視症,または視野障害を主症状とする.AZOORの診断は,検眼鏡的に網膜に異常所見はみられず,多局所網膜電図とCOCTで視野異常部位での網膜外層の機能・形態障害を証明することで診断される5).mfERGでは視野異常部位に一致した応答密度の低下が,OCTでは同部位に不明瞭なCEZやCIZが認められる6).また,近年では眼底自発蛍光で視野異常部位に一致して過蛍光所見がみられることが報告されている6).しかし,AZOORの病因はいまだに明らかではない.Gassらは外層網膜へのウイルス感染が原因である可能性を示唆した4).その後,原因として自己免疫性機序と炎症7,8),抗網膜抗体9,10)が重要な役割を担うとされた.これらの自己免疫による網膜の障害は,自己免疫性網膜症(autoimmuneretinopathy;AIR)とよばれる.一方,上皮由来の悪性腫瘍により自己免疫反応を生じ,視細胞を傷害するものは癌関連網膜症(cancerCassoicatedCretinopa-thy:CAR)11)とよばれ,上皮由来以外の悪性腫瘍であるリンパ腫や肉腫などによる視細胞の障害は腫瘍関連網膜症(paraneoplasticretinopathy)とよばれる.病因としては神図1頭部MRI頭部CMRIにて右側頭葉腹側に約C33Cmm大の比較的境界明瞭な腫瘤を認める.水平断(左),冠状断(右).図2眼底自発蛍光写真眼底自発蛍光では黄斑部に軽度過蛍光領域(円内)を認めた.図3多局所網膜電図多局所網膜電図では黄斑部の応答振幅の著明な低下を認めた.図5多局所網膜電図多局所網膜電図で黄斑部応答密度の改善がみられた.経組織に発現している蛋白が腫瘍組織に異所性に発現することにより,腫瘍組織に発現した蛋白と網膜の蛋白がともに非自己と認識され,自己抗体が発現し攻撃を受けることによると考えられている.CARの症状は比較的急速に進行する夜盲と視野狭窄である.AZOORで求心性視野狭窄を生じることはまれで,CARもしくはリンパ腫による腫瘍関連網膜症とは鑑別される.また,本症例において抗網膜抗体は陰性であった.本症例はCAZOORの特徴的な眼所見をすべて有しており,その診断自体は困難ではないが,眼内リンパ腫との関連が不明で,経過観察にあたっては慎重を要した.PIOLにCAZOOR類似の網膜症を呈したという報告は,筆者らが検索したところCBarileらの報告12)のみであった.Barileらの報告は,PIOLにみられた緩徐に進行したCAZOOR類似の網膜症であったが,本症例は急性発症で自然寛解が得られたこと,反対眼にも発症したことが相違点としてあげられる.これらの点から,本症例は眼内リンパ腫関連網膜症の新しい表現型の可能性が示唆される.以上,Barileらの症例と本症例の報告から,AZOORあるいはCAZOOR類似の網膜症が疑われた場合には,眼内リンパ腫の可能性があることも考慮されるべきである.眼内リンパ腫がCAZOOR類似の網膜症を引き起こす病態としては二つのことが考えられる.Barile12)らが推察する自己免疫性機序による視細胞障害の可能性とCKeinoら12)が指摘するCRPEへのリンパ球浸潤によるCRPEの機能障害と視細胞障害の可能性である.Keinoら12)はC13例C21眼の眼内リンパ腫の経時的CSD-OCT所見を検討し,経過中にC47.6%にEZの破綻,33.3%に網膜色素上皮(retinalCpigmentCepithe-lium:RPE)もしくはCRPEより内層にChyper-re.ectivenodulesが認められることを,さらにChyper-re.ectiveCnod-ulesはCMTX治療で減少あるいは消失することを報告した.本症例においては,OCT上CRPEには有意な所見を認めなかったこと,MTX大量療法後の寛解期に本病変を発症し無治療で自然寛解したことから,Barileらの自己免疫性機序による視細胞障害の可能性が疑われる.本症例では,無治療で自然寛解したが,経過観察で視機能障害の悪化が懸念される場合には,積極的な治療が必要になるかもしれない.自己免疫の関与が推察されることから,AZOORに準じて副腎皮質ステロイドや免疫抑制薬の全身治療が有効13,14)である可能性が示唆されるが,抗腫瘍効果を期待してCMTXやリツキシマブの硝子体内注射も考慮される必要があると考える12,15).積極的な抗腫瘍治療は,再発,反対眼の発症,他の臓器への転移を防ぐことで生命予後を改善するかもしれない.謝辞:本研究はCJSPS科研費C17K18131の助成を受けたものです.文献1)CJahnkeCK,CKorfelCA,CKommCJCetal:IntraocularClym-phoma2000-2005:resultsCofCaCretrospectiveCmulticentreCtrial.CGraefesCArchCClinCExpCOphthalmolC244:663-669,C20062)SagooCMS,CMehtaCH,CSwampillaiCAJCetal:PrimaryCintra-ocularlymphoma.SurvOphthalmolC59:503-516,C20143)BarileGR,GargA,HoodDCetal:UnilateralretinopathysecondaryCtoCoccultCprimaryCintraocularClymphoma.CDocCOphthalmolC127:261-269,C20134)GassJD:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.CDondersLecture:TheCNetherlandsCOphthalmologicalCSociety,CMaastricht,CHolland,CJuneC19,C1992.CJCClinCNeuroophthal-molC13:79-97,C19935)MrejenCS,CKhanCS,CGallego-PinazoCRCetal:AcuteCzonalCoccultCouterretinopathy:aCclassi.cationCbasedConCmulti-modalimaging.JAMAOphthalmolC132:1089-1098,C20146)FujiwaraT,ImamuraY,GiovinazzoVJetal:Fundusauto-.uorescenceCandCopticalCcoherenceCtomographicC.ndingsCinacutezonaloccultouterretinopathy.RetinaC30:1206-1216,C20107)JampolLM,WireduA:MEWDS,MFC,PIC,AMN,AIBSE,andAZOOR:OneDiseaseorMany?RetinaC15:373-378,C19958)JampolCLM,CBeckerKG:WhiteCspotCsyndromesCofCtheretina:ahypothesisbasedonthecommongenetichypoth-esisCofCautoimmune/in.ammatoryCdisease.CAmCJCOphthal-molC135:376-379,C20039)TagamiM,MatsumiyaW,ImaiHetal:Autologousanti-bodiestoouterretinainacutezonaloccultouterretinopa-thy.JpnJOphthalmolC58:462-472,C201410)QianCX,WangA,DeMillDLetal:Prevalenceofantiret-inalantibodiesinacutezonaloccultouterretinopathy:Acomprehensivereviewof25cases.AmJOphthalmolC176:C210-218,C201711)SawyerRA,SelhorstJB,ZimmermanLEetal:BlindnesscausedCbyCphotoreceptorCdegenerationCasCaCremoteCe.ectCofcancer.AmJOphthalmolC81:606-613,C197612)KeinoH,OkadaAA,WatanabeTetal:Spectral-domainopticalcoherencetomographypatternsinintraocularlym-phoma.OculImmunolIn.ammC24:268-273,C201613)ChenCSN,CYangCCH,CYangCM:SystemicCcorticosteroidsCtherapyCinCtheCmanagementCofCacuteCzonalCoccultCouterCretinopathy.JOphthalmol793026,C201514)SaitoCS,CSaitoCW,CSaitoCMCetal:AcuteCzonalCoccultCouterCretinopathyCinJapaneseCpatients:clinicalCfeatures,CvisualCfunction,CandCfactorsCa.ectingCvisualCfunction.CPLoSCOneC10:e0125133,C201515)SouCR,COhguroCN,CMaedaCTCetal:TreatmentCofCprimaryCintraocularClymphomaCwithCintravitrealCmethotrexate.CJpnCJOphthalmolC52:167-174,C2008***

黄斑部にEpiretinal Proliferation類似の網膜隆起性病変を認めた1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1560.1562,2018c黄斑部にEpiretinalProliferation類似の網膜隆起性病変を認めた1例戸邉美穂*1,2石田友香*1内田南*1大野京子*1*1東京医科歯科大学医学部附属病院眼科*2多摩南部地域病院眼科CARareCaseofEpiretinalProliferation-likeElevatedLesionintheMacularAreaMihoTobe1,2),TomokaIshida1),MinamiUchida1)andKyokoOhno-Matsui1)1)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,TokyoMedicalandDentalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,TamananbuAreaHospitalCEpiretinalproliferation(ERP)とは,黄斑円孔や分層円孔に伴う増殖性病変である.今回,筆者らは,黄斑円孔や分層円孔の明らかな既往がないCERP類似病変を認めた症例を経験した.症例はC47歳,女性.2010年に左眼の視力低下と歪視を自覚,症状が増悪したためC2015年に東京医科歯科大学医学部附属病院を受診.左眼視力は(0.9),左眼黄斑部に不整形白色病変を認めた.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で病変は後期で淡い過蛍光を呈し,光干渉断層計(OCT)では,周囲の黄斑上膜に一部連なる,内部ほぼ均一の中等度反射を示すCERPに類似した病変を認めた.本症例は,従来報告されているCERPよりも,網膜外層からの増殖組織が硝子体側へ隆起している点で非典型的な症例であった.病変はその後C2年間形態に変化なく,視力も不変であった.CA47-year-oldfemalenoticedvisualobscurationanddistortionofherlefteyein2010andvisitedourhospitalin2015duetoworseningofsymptoms.Herlefteyesightwas0.9.Anirregularlyshapedwhitelesioninthemacu-larregionoftheeyewasobservedinfunduscopy.Fluoresceinangiography(FA)revealedslighthyper.uorescenceatthemacularlesion,indicatedbylatestageFA.Opticalcoherencetomographyrevealedthepresenceofanele-vatedClesionCofChomogenousCmediumCre.ectivity,CwhichChadCadvancedCtoCpartCofCtheCretinaCandCcontinuedCtoCtheCepiretinalmembrane.Thepatienthadnoclearhistoryofexperiencingamacularholeorlamellarhole,andshowedatypicalityinthatthelesionhadelevatedintothevitreousratherthanbeingaprotrusionsimilartoepiretinalpro-liferation.Thelesionhasremainedstableduringthepast2yearsandvisualacuityhasnotchanged.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1560.1562,C2018〕Keywords:黄斑部隆起性病変,網膜上増殖組織,黄斑上膜,分層円孔,グリオーシス.elevatedClesionCofCtheCmaculararea,epiretinalproliferation,epiretinalmembrane,lamellarmacularhole,macularhole,gliosis.CはじめにEpiretinalCproliferationとは,分層円孔,黄斑円孔などの網膜欠損部周囲に認められる網膜上増殖組織で,分層黄斑円孔のC30%,黄斑円孔のC8%に合併するといわれている1).光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で中等度反射を示すが,黄斑上膜(epiretinalmembrane:ERM)よりもCOCTでの輝度がやや低く,厚みを有する点が特徴である1).病理学的にはグリア細胞,網膜色素上皮細胞,硝子体細胞に由来すると考えられている2).合併所見としては,円孔基底部の増殖組織,ellipsoidzoneの欠損,Henle神経線維層の亀裂があり,円孔基底部の増殖組織と結合していることが多いと報告されている1).今回,筆者らは,黄斑部にCepiretinalCproliferation類似の隆起性病変を認めた症例を経験した.黄斑円孔や分層円孔の明らかな既往がなく,従来報告されているCepiretinalprolif-erationよりも,網膜外層からの増殖組織が硝子体側へ隆起している点で非典型的な症例であった.調べた限りで今までそのような報告がなく,今回その所見と経過について報告〔別刷請求先〕戸邉美穂:〒113-8519東京都文京区湯島C1-5-45東京医科歯科大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:MihoTobe,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,TokyoMedicalandDentalUniversity,1-5-45Yushima,Bunkyo-ku,Tokyo113-8519,JAPANC1560(112)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(112)C15600910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1画像検査所見a:左眼カラー眼底写真(50°).b:同拡大図.黄斑部に不整形の白色病変を認める.Cc:左眼フルオレセイン蛍光眼底造影写真(後期).黄斑部に組織染による淡い過蛍光を呈する.d.f:左眼病変部のCOCT所見.外顆粒層から硝子体側へ伸展する隆起性病変が認められ,内部不均一な中等度反射を呈し,一部網膜上にまで伸展している(Cd).別の断面のCOCTでは周囲に黄斑上膜を認め,網膜上で隆起性病変が一部黄斑上膜に連なっているように見える(Ce).病変の一部はCellipsoidCzoneにまで達している(Cf).g:左眼病変部のCenfaceOCT所見.黄斑部に円盤状の隆起性病変を認め,耳側と鼻側に一部伸展し,周囲のCERMとの連なりが認められる.Ch:左眼病変部のCOCTangiographyのCenface画像.病変内部には明らかな血流成分は認められない.し,鑑別も含め考察した.CI症例患者:47歳,女性.主訴:左眼視力低下,歪視.現病歴:5年前から左眼の視力低下と歪視を自覚していたが,症状が悪化したため当院を受診した.既往歴:高血圧.家族歴:特記事項なし.初診時所見:視力は右眼=1.2(1.5×+0.25D(cyl.0.75DAx100°),左眼=0.8(0.9×+0.25D(cyl.0.5DAx65°).眼圧は右眼=17CmmHg,左眼=19CmmHg.前眼部と中間透光体に両眼ともに異常認めなかった.眼底は右眼異常なし,左眼は黄斑部に不整形の白色隆起病変を認めた(図1a,b).両眼ともに周辺部には異常を認めなかった.蛍光眼底造影検査では,黄斑部病変はフルオレセイン蛍光眼底造影(.uoresce-inangiography:FA)早期で異常なく,後期で組織染による淡い過蛍光を呈した(図1c).OCTでは黄斑部に内部ほぼ均一の中等度反射を示す辺縁整の不整形隆起性病変を認めた.病変は網膜内から硝子体側に隆起しており,脈絡膜側は一部がCellipsoidzoneまで貫いていた.周囲にはCERMがあり,硝子体側は一部でCERMと連なっていた(図1d~f).CEnCfaceOCTでは隆起性病変は黄斑部に不整形病変として認められ,耳側と鼻側へ一部伸展し,周囲のCERMとの連なっていた(図1g).検眼鏡的にもCOCTでも後部硝子体.離は黄斑部とその周囲には生じていなかった.また,OCTangiographyでは隆起性病変の内部に明らかな血流成分は認められなかった(図1h).その後,無治療でC2年間経過観察をしたが,視力,OCT所見ともに変化がなかった.(113)あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1561II考按OCTで中等度反射の黄斑上膜に連なる隆起性病変を示す,黄斑部の不整形白色病変を有するC1症例を示した.FAでは淡い組織染を示したが,OCTangigraphyでは内部血流はみられなかった.今回,このような黄斑部隆起性病変の鑑別診断として,腫瘍性,寄生虫感染症,非腫瘍性増殖が考えられた.網膜起源の腫瘍はまれであり,後天性星細胞腫,網膜色素上皮細胞と網膜内細胞の混合性過誤腫,転移性網膜腫瘍,網膜血管腫が挙げられる.後天性星細胞腫は境界明瞭な円形病変を呈し好発部位は乳頭周囲であるため,可能性は低いと考えた.混合性過誤腫は血管蛇行やCOCTで網膜の層構造の乱れを伴うため本症例とは所見が異なっていた.転移性網膜腫瘍や網膜血管腫はやはり無血管野である黄斑に限局した病変を生じる可能性は低いと考えた.つぎに,寄生虫感染症のうち,トキソカラ症は検眼鏡所見やOCT所見が本症例と類似しているが,炎症所見や周囲の浸出斑が認められず,継時的な増悪がないことからも否定的であった.非腫瘍性増殖として,focalpseudoneoplasticCgliosis(特発性のグリア細胞の過形成,通常滲出性変化や網膜牽引を伴わず,増大傾向を認めない3))が鑑別に挙げられ,検眼鏡所見で黄白色病変を示す点は本症例と類似するが,focalpseudoneoplasticCgliosisは辺縁整で円形な病変であること,OCTでシャドーを引くドーム状の隆起を認めること,FAでは後期相で過蛍光を示すことが異なっていた.EpiretinalCproliferationとは,冒頭にも述べたように,黄斑円孔や分層円孔に伴う網膜上増殖組織である.2014年にPangらにより初めて提唱され1),合併所見としては,円孔基底部の増殖組織,ellipsoidzoneの欠損,Henle神経線維層の亀裂があり,円孔基底部の増殖組織と結合していることが多いと報告されている1).Laiらは,epiretinalCprolifera-tionを伴う黄斑円孔が自然閉鎖後,網膜上増殖組織と網膜隆起性病変が残存したという報告4)をしているが,OCT所見が本症例と類似しており,上記の除外診断と合わせて,本症例もCepiretinalCproliferation類似の病変と診断した.なお,FA所見に関しては,既報の論文で報告はなかったため比較はできなかった.本症例は,高輝度病変が分層円孔にはまり込んでいるような形状をしており,視力低下の既往がないことからも黄斑円孔よりも分層円孔が過去に生じていた可能性が高いと思われた.本症例では既報のCepiretinalCproliferationに比べ,合併所見としての網膜外層からの増殖組織が硝子体側まで過剰に隆起している点が非典型的であった.EpiretinalCproliferationは,病理学的にはグリア細胞の増生によるグリオーシスと考えられている5)が,本症例では後部硝子体.離が生じていなかったため後部硝子体膜沿いにグリア細胞増殖が進み,網膜の新生血管のように後部硝子体膜を足場にさらに細胞増殖が進行することで,隆起性病変が形成されたのではないかと推測した.EpiretinalCproliferationは網膜上膜とは異なり,収縮などによる視機能の悪化や急激な増殖の可能性は低く,5年間の経過観察でC97%に形態学的変化を認めなかったとの報告がある1).本症例でも同様にC2年間,OCT所見に変化なく,視力低下や歪視の増悪も認めていない.今回はC1例報告であり経過観察期間も短いため,所見の経時的変化や長期予後については不明であり,今後多数例での長期観察の検討が必要と思われる.文献1)PangCE,SpaideRF,FreundKB:Epiretinalproliferationseeninassociationwithlamellarmacularholes:adistinctclinicalentity.RetinaC34:1513-1523,C20142)KaseS,SaitoW,YokoiMetal:Expressionofglutaminesynthetaseandcellproliferationinhumanidiopathicepiret-inalCmembrane.BrJOphthalmolC90:96-98,C20063)ShieldsJA,BianciottoCG,KivelaTetal:Presumedsoli-taryCcircumscribedCretinalastrocyticCproliferation:theC2010JonathanW.WirtschafterLecture.ArchOphthalmolC129:1189-1194,C20114)LaiCTT,CChenCSN,CYangCM:EpiretinalCproliferationCinClamellarmacularholesandfull-thicknessmacularholes:CclinicalandsurgicalC.ndings.GraefesArchClinExpOph-thalmolC254:629-638,C20155)PangCE,MaberleyDA,FreundKBetal:Lamellarhole-associatedepiretinalproliferationincomparisontoepireti-nalmembranesofmacularpseudoholes.RetinaC36:1408-1412,C2016C***(114)

足立区における糖尿病患者に対する重症化予防への取り組み─ UNDER 7%─

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1554.1559,2018c足立区における糖尿病患者に対する重症化予防への取り組み─UNDER7%─神前賢一*1,2,3杉浦立*4渡邉亨*4山田冬樹*4早川貴美子*4佐藤和義*5鈴木優*6大高秀明*7増田和貴*7高橋伸治*7馬場優子*7千ヶ崎純子*7江川博文*7小林智春*7鳥山律子*7大山悟*7鈴木克己*8伊東貴志*8*1こうざきアイクリニック*2東京慈恵会医科大学*3足立区眼科医会*4足立区医師会*5足立区歯科医師会*6足立区薬剤師会*7足立区衛生部*8足立区区民部CApproachtoPreventingSeverityofUntreatedDiabetesPatientsinAdachiCity─UNDER7%─KenichiKohzaki1,2,3),TatsushiSugiura4),ToruWatanabe4),FuyukiYamada4),KimikoHayakawa4),KazuyoshiSato5),CMasaruSuzuki6)CHideakiOhtaka7),KazuyoshiMasuda7),ShinjiTakahashi7)CYukoBaba7),JunkoChigasaki7),CHirofumiEgawa7),ChiharuKobayashi7),RitsukoToriyama7)CSatoruOhyama7),,KatsumiSuzuki8)andTakashiIto8)1)KohzakiEyeClinicJikeiUniversitySchoolofMedicine,3)iOphthalmologistsAssociation,4)AdachiMedicalAssociation,5)AdachiDentalAssociation,6)AdachiPharmacistsAssociation,7)AdachiCityO.ceHygieneDivision,8)Adachi,2),Adach,CityO.ceCitizensDivisionC緒言:東京都足立区の糖尿病未治療者に対して重症化予防対策を行い,平成C26年度の結果について報告した.対象および方法:足立区国民健康保険に加入し,足立区特定健診を受診したC40.59歳で,ヘモグロビンCA1c7%以上の糖尿病未治療者を対象とした.方法は自宅に訪問通知書を郵送後,保健師と栄養士が自宅訪問し,検診結果を説明し,生活状況を聞き取り,医療機関受診の勧奨を行った.結果:該当者はC231人で,男性C173人,女性C58人であった.自宅面談はC121人,保健センター面談はC13人,電話相談はC35人であり,合計C169人(73.2%)からいずれかの方法で話を聞くことができた.糖尿病診療科への継続受診者は,132人(57.1%)で,中断者はC48人(20.8%),未治療者はC51人(22.1%)であった.眼科受診者はC70人(30.3%),歯科受診者はC81人(35.1%)であった.結語:保健師および栄養士による面談は,医療機関受診の動機づけに有効であると考えられ,保健師,栄養士を含めたメディカルスタッフと患者を交えた連携が重要と考えられた.CPurpose:WepresentaprojectforpreventingseverityinuntreateddiabeticpatientsinAdachicity.Subjectsandmethods:SubjectsCwereCuntreatedCdiabeticCpatientsCwithChemoglobinCA1c7%CorCmore,CagedC40to59,whohaveCjoinedCAdachiCCityCNationalCInsuranceCandCreceivedCspeci.cCcomprehensiveCmedicalCexamination.CAfterCtheCCitymailedavisitnoticetothesubjects,apublichealthnurseandnutritionistvisitedeachhouse.Subjectsweretheninterviewedastotheresultsofthespeci.ccomprehensivemedicalexamination,lifestyleandrecommendingmedicalinstitute.Results:Visitnoticewasmailedto231patients(173males,58females).Ofthe231,169(73.2%)ChadCsomeCformCofCinterviewCbyCaCpublicChealthnurse:121atChome,C13atCaChealthCcenterCandC35byCtelephoneCcounseling.CPeriodicCvisitsCtoCdiabetesCdepartmentCtotaled132(57.1%)patients;cessationsCnumbered48(20.8%).Untreatedpatientsnumbered51(22.1%).Visitstoophthalmologytotaled70(30.3%)patientsandtodentistry81(35.1%).Conclusions:AnCinterviewCbyCpublicChealthCnurseCandCnutritionistCwasCe.ectiveCinCmotivatingCmedicalCinstitution.CCooperationCbetweenCmedicalCsta.,CincludingCpublicChealthCnurse,CnutritionistCandCpatientsCwasCconsid-eredimportant.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1554.1559,C2018〕〔別刷請求先〕神前賢一:〒121-0815東京都足立区島根C3-8-1山一ビル島根CII-2FこうざきアイクリニックReprintrequests:KenichiKohzaki,M.D.,KohzakiEyeClinic,YamaichibuildingShimaneII-2F,3-8-1Shimane,Adachi-ku,Tokyo121-0815,JAPANC1554(106)Keywords:足立区,特定健診,糖尿病,重症化予防,メディカルスタッフ.AdachiCcity,medicalcare,diabetesmellitus,preventionofseverity,medicalsta.Cはじめに生活習慣病は若年時からの生活環境を改善することで,その発症を予防することができるが,むずかしいのも事実である.InternationalCDiabetesFederationによると糖尿病は世界的に増加傾向にあり1),国ごとにさまざまな対策がなされている2.5).また,近年ではさまざまなCIT機器を利用した介入も試みられている6).これは日本においても同様であり,糖尿病の予防,重症化予防,合併症予防のために,各市町村や各地域の医師会などで特定健診7)をはじめとする積極的な取り組みが行われている.東京都足立区は,以前から区民の健康維持増進に取り組んでいたものの,いずれも本質的な改善には至らなかった.糖尿病に関する新たな事業を発足させるにあたり,過去C10年間の健康調査を行ったところ,①足立区国民健康保険における医療費は糖尿病および腎不全が毎年上位を占め,②糖尿病患者一人当たりの医療費は東京C23区内で最高位であり,③糖尿病患者の腎透析に至る割合は,特別区および東京都の平均値を上回り,④区民は糖尿病が重症化するまで放置する傾向にあるということが判明した8).これらのことを踏まえて,平成C25年に足立区は「糖尿病対策アクションプラン」を発足した.このアクションプランには,「野菜を食べる・野菜から食べることを推進する」「乳幼児期からよい生活習慣づくりを推進する」「糖尿病を重症化させない取り組みを推進する」という三つの基本方針が掲げられている.足立区眼科医会は平成C26年度から,糖尿病を重症化させない取り組みである糖尿病重症化予防対策事業に参加を始めた.この事業では,糖尿病の重症化および合併症により区民の生活の質が低下するのを抑制することを目標としている.今回筆者らは,足立区の糖尿病重症化予防対策における平成C26年度の結果について報告する.本研究は,東京慈恵会医科大学倫理委員会の承認を得て行った〔臨床研究CNo.29-334(8950)〕.CI対象および方法足立区国民健康保険に加入し,平成C26年C5月.平成C27年C3月に足立区特定健診7)を受診した区民のうち,年齢が40.59歳,ヘモグロビンCA1c値がC7%以上,糖尿病未治療者を糖尿病重症化予防対策の対象者とした.対象者はC231人で,男性はC173人(40歳代C79人,50歳代C94人),女性58人(40歳代C20人,50歳代C38人)であった.平均年齢は,40歳代でC45.3C±2.8歳,50歳代でC54.7C±2.9歳であった.また,足立区特定健診の検査内容は身長体重,肥満度,腹囲,血圧の計測,胸部CX線,心電図,血液,尿検査であった.はじめに足立区国民健康保険課より対象者の自宅に訪問通知書を発送した.つぎに保健師および栄養士が自宅を訪問し,本人または家族と面談を行った.自宅での面談が困難な場合は保健センターでの面談や電話による相談を行った.面談時の内容は,過去の通院歴や治療内容の把握,特定健診結果の状況および病気の説明,医療機関への受診の必要性などであった.また,個人の生活習慣の把握および改善へのアドバイス,栄養指導なども行った.その後,対象者の追跡調査を行うために,複数回の訪問や面談を行う症例があった.面談後の各診療科への受診状況,糖尿病網膜症や歯周病の有無の判定,継続通院・中断状況などは,足立区国民健康保険課のレセプトデータから抽出し解析した.対象者の特定健診結果は平均値±標準偏差で示し,平成C26年の厚生労働省の国民健康・栄養調査の結果を基準値とし,年代別および性別ごとに血糖値,ヘモグロビンCA1c値,血圧,脂質代謝,腎機能,肥満度を比較検討した.また,網膜症の有無との関連についても検討した.CII結果今回の対象者C231人は,同年代(40.59歳)の足立区特定健診受診者C17,140人のうちのC1.4%であった.自宅にて面談できたのはC231人中C121人で,訪問回数は延べC263回であった.自宅での面談がむずかしく保健センターで面談できたものはC13人で,延べC26回であった.直接の面談が困難で電話による相談となったものはC35人で,その回数はC236回であった.全体でC231人中C169人(73.2%)にいずれかの方法で聞き取り調査ができた.また,訪問時の面談拒否や不在,自宅の特定ができないものがC62人(26.8%)みられた.訪問時の面談拒否の理由としては,「自己管理しているので必要ない」,「医療機関は信用できない」などが聴取できた.また,このC62人に対して不在票をポスティングしたところ,後日C22人(35.5%)から連絡をもらうことができた.足立区国民健康保険課のレセプトデータによる解析では,面談後に眼科受診をしているものはC70人(30.3%)であり,そのうち網膜症あり(以下,DR+群)と診断されたものは43人(61.4%)で,男性C33人,女性C10人であった.一方で網膜症なし(以下,DRC.群)のものはC27人で,男性C17人,女性C10人であった.歯科受診はC81人(35.1%)で,うちC72人(88.9%)は歯周病の診断を受けていた.面談後に糖尿病診療科へ受診し継続中のものはC132人(57.1%)で,治療歴はあるものの通院を中断した者はC48人(20.8%),面談後も未治療だったのはC51人(22.1%)であった(表1).複数回の面談において,中断者C48人の中断理由は,糖尿病に対する理解不足がC22人(45.8%),このうちC6人は外国人であった.残りのC26人(54.2%)は経済的問題,時間的制約,家庭事情などであった.未治療者C51人の理由は,中断者と同様に糖尿病に対する理解不足が原因と考えられるものはC21人(41.2%)であり,30人(58.8%)が医療不信,経済的問題,時間的制約,家庭事情などであった.対象者の特定健診結果の検討(表2)では,空腹時血糖値およびヘモグロビンCA1c値は性別および年代に関係なく基準値を有意に上回っていた.また,血圧,脂質代謝,腎機能および肥満度に関しても,多くの項目で対象者は有意に高値であった.さらに眼科受診をしたC70人を網膜症の有無で比較すると,DR+群の平均血糖値はC236.7C±98.3Cmg/dlで,40歳代C253.2C±104.7mg/dl,50歳代C223.7C±93.2mg/dlであった.一方でCDRC.群はC190.7C±54.2mg/dlで,40歳代C232.8±85.6mg/dl,50歳代C181.2C±41.5mg/dlであった.血糖値においてはC40歳代,50歳代とも基準値と比較して有意に高値であった.DR+群の血糖値は,40歳代とC50歳代ともにCDRC.群に比べ高い傾向を示したが,有意な差はみられなかった(図1a).同様に平均ヘモグロビンCA1c値ではCDR+群はC10.4C±2.5%で,40歳代C10.8C±2.0%,50歳代C10.1C±2.8%であった.DRC.群ではC8.7C±1.5%で,40歳代C10.1C±1.5%,50歳代C8.4C±1.4%であった.ヘモグロビンCA1c値に関しても血糖値と同様にC40歳代,50歳代ともに有意に高値であった.DR+群のヘモグロビンCA1c値もまた,40歳代とC50歳代ともにCDRC.群に比べ高い傾向がみられ,50歳代においては有意差を認めた(図1b).CIII考按以前より,足立区は区民に対して健康維持についての啓発を行っていたが,本質的な改善には至らなかった.足立区民の平均寿命は東京都の平均を下回り,足立区の医療費は糖尿病および腎不全による部分が上位を占めていた.平成C20年における糖尿病外来患者数の全国比較において,東京都は人口C10万人に対してC123件と報告9)され,全国でC41位であった.しかしながら,足立区国民健康保険課が独自に算出した足立区の糖尿病患者レセプト件数は,人口千人に対して継続中132(C57.1)C..治療歴があるが中断48(C20.8)22(C45.8)26(C54.2)未治療51(C22.1)21(C41.2)30(C58.8)中断・未治療の理由受診状況(n=231)人(%)理解不足その他表1面談後の受診状況表2特定健診結果の比較男性女性40歳代50歳代40歳代50歳代対象者基準値対象者基準値対象者基準値対象者基準値血糖値(mg/dl)C206.3±89.0**C93.3±11.4C189.0±82.7**C97.4±13.7C193.8±56.0**C94.9±13.7C198.1±75.3**C97.0±17.9CHbA1c(%)C9.6±2.2**C5.5±0.3C8.8±2.0**C5.6±0.4C9.2±1.9**C5.5±0.4C9.2±2.2**C5.6±0.5収縮期血圧(mmHg)C136.3±23.0**C124.4±12.1C133.4±16.4C132.7±17.9C134.8±21.5**C118.2±14.7C134.4±16.2**C124.0±15.8拡張期血圧(mmHg)C86.0±13.0**C81.2±10.0C83.2±11.2C85.6±11.3C81.3±12.6C75.8±10.2C81.7±10.5*C77.5±10.2LDL(mg/dl)C146.0±44.3**C119.2±27.2C135.0±39.1**C122.0±30.1C129.5±27.9**C110.0±27.5C149.5±36.8**C129.9±31.0中性脂肪(mg/dl)C244.1±302.5C182.1±131.4C223.4±189.7*C177.0±163.8C167.9±117.9*C111.1±100.0C211.3±171.0**C130.2±80.0HDL(mg/dl)C49.5±13.8**C55.9±16.2C50.8±13.4**C58.6±15.5C54.7±11.4**C67.2±15.7C55.9±11.6**C68.6±15.6尿酸(mg/dl)C5.5±1.3**C6.0±1.4C5.4±1.2*C5.8±1.3C4.5±1.0C4.1±1.0C4.5±1.4C4.5±1.0eGFR(ml/min/1.73mC2)C90.7±17.9**C79.3±12.0C84.5±17.7**C73.5±12.8C96.6±25.4*C82.2±13.3C86.4±15.5**C75.3±13.0Cr(mg/dl)C0.8±0.2**C0.9±0.1C0.8±0.2**C0.9±0.5C0.6±0.1C0.6±0.1C0.6±0.1C0.6±0.1腹囲(cm)C96.3±13.2.92.4±13.2.93.9±14.4.95.2±16.4.BMI(kg/mC2)C28.3±5.1**C24.0±3.6C26.2±4.4**C23.9±3.3C28.0±6.1**C22.2±3.6C27.8±5.3**C22.7±3.6CHbA1c:ヘモグロビンCA1c値,LDL:低比重リポ蛋白,HDL:高比重リポ蛋白,eGFR:推算糸球体濾過量,Cr:クレアチニン値,BMI:BodyMassIndex.UnpairedCtCtestCwithCWelch’scorrection*:p<0.05,**:p<0.01.47.9件で,その医療費も患者一人当たりC1143.8円となり,ある.東京都内で最高位となった(図2).そこで足立区は,平成今回の検討で,面談後の継続通院者は全体のC57.1%であ25年に「糖尿病対策アクションプラン」を発足させ,糖尿った.一方で,継続通院できない理由として,自身の問題,病を重症化させないために訪問面談を取り入れた糖尿病重症化予防対策を開始した.Ca400*訪問面談の取り組みは,日常診療と異なる環境で血糖値や****血糖値(mg/dl)300**ヘモグロビンCA1c値の再確認,病気の説明を受けることができ,さらに食生活や生活習慣の改善に向けての相談も可能200である.この訪問面談が動機づけとなり,医療機関へ導き,継続受診につなげることが今回の事業の目的であり,医師,100歯科医師,薬剤師とメディカルスタッフの役割でもある.糖尿病患者の受診に関して,村田10)はメディカルスタッフがC040歳代50歳代受診行動を支援し,同居家族の存在が受診行動継続への動機CDR+群DR-群基準DR+群DR-群基準づけになると報告し,飯野ら11)は,健診後の眼科受診において,十分な説明と患者の納得が重要であることを報告している.実際の面談では,「受診の際に医師からあまり説明がない」という声も聴取されたため,訪問時の面談内容を充実させることが治療への意識改革と受診率の向上につながる可能性があると考えられた.一般的に未治療の糖尿病患者は,まず糖尿病診療科に受診し,その後に眼科や歯科へ紹介となることが多い.しかしながら,受診の動機づけという観点かヘモグロビンA値(%)1Cb15.010.05.00.0らは,眼科や歯科から糖尿病診療科へ紹介するという違った視点の動機づけも必要であると考えられる.2010年に足立区薬剤師会は「糖尿病診断アクセス革命」12,13)を開始した.これは患者が薬局にて自己指先採血を行い,ヘモグロビンA1c値を簡易測定器にて測定し,薬剤師から説明を受けるという内容である.この革命も薬局から医療機関への受診勧奨であり,違った視点の動機づけとなりうる.とくに過去に受診歴や中断歴がある患者に対しては,再診を促す可能性が(円/人)1,20040歳代50歳代DR+群DR-群基準DR+群DR-群基準図1血糖値およびヘモグロビンA1c値の比較40歳代およびC50歳代の平均血糖値(Ca)は,DR+群およびCDRC.群ともに基準値と比較して有意に高値を示した.平均ヘモグロビンCA1c値(Cb)においても,DR+群およびCDR.群ともに基準値と比較して有意に高値を示した.さらに,50歳代においてはCDR+群とCDRC.群との間に有意差を認めた.UnpairedCtCtestwithWelch’scorrection*:p<0.05,**:p<0.01.(件/千人)60.01,10050.01,00040.090030.080020.070010.06000.0足立区特別区東京都A区B区C区D区E区F区G区H区I区J区K区L区M区N区O区P区Q区R区S区T区U区V区図240~74歳における糖尿病に関する比較(平成27年5月)足立区の糖尿病患者件数と医療費は東京都および特別区平均を有意に上回る.A.V区:足立区以外のC23区.データは東京都国民健康保険連合会「特定健診・保健指導支援システム」より足立区国民健康保険課が独自に算出したものである.また,医療費は保険診療のC10割相当分である.サポートの問題,金銭的な問題,時間的制約などがあげられた.藤原ら14)は医療機関を受診しない理由として,健診結果の軽視,生活の変更に対する抵抗感,家族や経済状況などを報告している.平谷ら15)は,保健指導の基本に,「自分の生活を日常的に振り返る習慣を身に着けさせる」ことの重要性を述べている.以前から「糖尿病患者の病識不足」という言葉があげられているが,今回の対象者もしくは家族は糖尿病の病態を詳しく知らなくても,血糖値が高いこと,食生活の乱れ,生活習慣,受診の必要性などについて意識している様子はうかがえた.しかしながら,経済問題,とくに金銭面や仕事に追われる時間的制約は,医療機関への受診を遠ざける要因となる.Hayashinoら16)の報告からも受診には多方面の介入が重要であり,医師やメディカルスタッフだけではなく,患者自身や家族も医療行為の実践者17)であり,今回の事業を継続することで,医療行為のチームの輪が広がれば,糖尿病受診者の増加と中断者の減少が期待できると考えられた.今回の検討において,糖尿病診療科への継続受診者がC132人(57.1%)であったにもかかわらず,眼科受診者はC70人(30.3%),歯科受診者はC81人(35.1%)に留まった.残念ながら,今回の報告はレセプトを利用しての検討であり,眼科検査の詳細は個人情報の問題から不明である.しかし,眼科受診者C70人の比較では,40歳代とC50歳代の血糖値およびヘモグロビンCA1c値はともにCDR+群がCDRC.群より高く,40歳代でその傾向はより強くみられた.DR+群は,平均血糖値がC200Cmg/dl以上または平均ヘモグロビンCA1c値がC10%以上であり,これに当てはまる対象者は網膜症を発症している可能性が高いと考えられ,今後の面談において活用できると思われる.最後に,今後の事業の問題点として,訪問先が不明,面談の拒否,面談内容が医療者側に伝わらないことがあげられる.面談拒否の理由に,「自己管理しているので必要ない」「医療機関は信用できない」などが聴取できた.加藤ら18)は,雑談方式の勉強会においてお互いの顔を覚えることで,医療への心理的なハードルを下げる働きがあると述べている.初回訪問時に反応なく不在票をポスティングしたC62人中C22人(35.5%)から後日連絡があったことから,患者または家族と何らかのかかわりを継続することが重要であると考えられた.一方,医療機関側,おもに糖尿病診療科では,面談時の内容が不明で診察の際の説明に困惑するという意見があげられた.現状では,患者が受診した際に保健師との面談について話さない限り,対象者かどうかは不明である.今後,患者本人の同意が得られれば,面談内容を医療機関へフィードバックする方法も検討中である.患者自身の意識改革や長年続けてきた生活習慣の改善は短時間ではむずかしく,時間をかけて説明を繰り返す必要があり,そこには患者とメディカルスタッフとの十分なコミュニケーション19)が必要であると思われる.今回の事業から,保健師および栄養士による自宅訪問面談は,受診の動機づけとして有効であると考えられた.保健師,栄養士を含めたメディカルスタッフが患者に寄り添い,繰り返し観察・指導していくことが,糖尿病ひいては糖尿病網膜症の重症化予防に大きく貢献すると考えられた.本内容は,第C22回日本糖尿病眼学会にて報告した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)FederationCInternationalDiabetes:IDFCDIABETESCATLASCSeventhCEditionC2015.Chttp://www.diabetesatlas.Corg/2)梶尾裕:世界のなかの糖尿病戦略特に東アジアの糖尿病診療の現状をふまえて.プラクティスC29:516-524,C20123)浅尾啓子:米国の糖尿病事情.プラクティスC29:525-530,C20124)中神朋子:欧州の糖尿病事情デンマークを中心に.プラクティスC29:531-541,C20125)田中治彦,植木浩二郎,門脇孝:世界の糖尿病臨床・研究における日本の位置づけ.プラクティスC29:510-515,C20126)GrockCS,CKuCJH,CKimCJCetal:ACreviewCofCtechnology-assistedCinterventionsCforCdiabetesCprevention.CCurrCDiabCRepC17:107,C20177)厚生労働省:特定健診・特定保健指導について.http://Cwww.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161103.Chtml8)足立区データヘルス計画:妊娠早期から始める生活習慣病予防.www.gikai-adachi.jp/iinkai/shidai/kousei/pdf/2017C0419houkoku4.pdf9)厚生労働省:平成C21年地域保健医療基礎統計.http://www.Cmhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/hoken/kiso/21.html10)村田祐子:糖尿病新規患者の背景が受診継続に影響する要因A病院内科外来における糖尿病新規患者の教育指標を求めて.山口県看護研究学会論文集C2:1-6,C201611)飯野矢住代,井上浩義:糖尿病診断後の網膜症治療状況の実態調査糖尿病網膜症患者の受診行動に影響を及ぼす要因.日本糖尿病教育・看護学会誌C11:150-156,C200712)足立区薬剤師会:http://a1c.umin.jp/index.shtml13)ShonoCA,CKondoCM,CHoshiCSLCetal:Cost-e.ectivenessCofCaNewOpportunisticScreeningStrategyforWalk-inFin-gertipHbA1CCTestingatCommunityPharmaciesinJapan.DiabetesCareC41:1218-1226,C201814)藤原絢子,原祥子:糖尿病が強く疑われる高齢者が受診をしない理由に関する質的研究.島根大学医学部紀要C38:C45-53,C2016C15)平谷恵,中村繁美,中西早百合ほか:特定保健指導の効果に関する検討4年後の状況.日本農村医学会雑誌C64:C34-40,C201516)HayashinoY,SuzukiH,YamazakiKetal:Aclusterran-domizedCtrialConCtheCe.ectCofCaCmultifacetedCinterventionCimprovedthetechnicalqualityofdiabetescarebyprima-ryCcarephysicians:TheCJapanCDiabetesCOutcomeCInter-ventionTrial-2(J-DOIT2)C.DiabetMedC33:599-608,C201617)村上陽一郎:新しい医師・患者関係.jams.med.or.jp/sym-posium/full/100s06.pdf18)加藤公則,上村伯人,布施克也ほか:地域包括糖尿病総合対策新潟県魚沼地域CProject8.内分泌・糖尿病・代謝内科C42:431-437,C201619)西垣悦代,浅井篤,大西基喜ほか:日本人の医療に対する信頼と不信の構造:医師患者関係を中心に.対人社会心理学研究C4:11-20,C2004***

糖尿病黄斑浮腫の治療経過中に両眼の血管新生緑内障を生じた1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1550.1553,2018c糖尿病黄斑浮腫の治療経過中に両眼の血管新生緑内障を生じた1例呉香奈白矢智靖荒木章之加藤聡東京大学医学部附属病院眼科CACaseofBilateralNeovascularGlaucomaduringtheCourseofTreatmentforDiabeticMacularEdemaKanaKure,TomoyasuShiraya,FumiyukiArakiandSatoshiKatoCDepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoHospitalC糖尿病黄斑浮腫の患者(68歳,女性)に対して抗CVEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法を行ったところ,両眼に血管新生緑内障を生じ,治療に苦慮した症例を経験したので報告する.糖尿病網膜症に対し両眼網膜光凝固術を開始し,糖尿病黄斑浮腫の悪化を認めたため,右眼から抗CVEGF療法を開始したところ,先に左眼の血管新生緑内障を発症し,そのC6カ月後に右眼も血管新生緑内障を発症した.その後,網膜光凝固術の追加により鎮静化した.本症例では結果的に透析導入によって糖尿病黄斑浮腫の改善が得られたが,全身状態も踏まえて抗CVEGF療法の適応やタイミングを考慮する必要があると考えられた.また,抗CVEGF治療中も血管新生緑内障の発症について常に念頭に置く必要があると考えられた.CWeencounteredthecaseofa68-year-oldfemalewhodevelopedbilateralneovascularglaucoma(NVG)afterundergoinganti-vascularendothelialgrowthfactor(VEGF)therapyfordiabeticmacularedema(DME),exacerbat-edbyCpanretinalCphotocoagulation(PRP)forCdiabeticCretinopathy.CAfterCanti-VEGFCtherapyCinitiationCinCtheCrightCeye,CtheCleftCeyeCdevelopedNVG;theCrightCeyeCdevelopedCNVGC6monthsClater.CItCsubsidedCafterCadditionalCPRPCwasperformed.WefoundthatC.uorescenceangiographywasusefulinevaluatingthetherapeutice.ectofphotoco-agulation.Also,althoughinthiscaseDMEimprovementwasachievedafterdialysisinitiation,itseemsnecessarytoalsoconsidertheindicationandtimingofanti-VEGFtherapybasedonthegeneralconditionofthepatient.TheriskofNVGmustbekeptinmindwhenplanninganti-VEGFtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1550.1553,C2018〕Keywords:糖尿病黄斑浮腫,血管内皮増殖因子,血管新生緑内障,蛍光眼底造影検査.diabeticmacularedema,vascularendothelialgrowthfactor,neovascularglaucoma,C.uoresceinangiography.Cはじめに抗CVEGF(vascularCendothelialCgrowthfactor)薬の登場によって糖尿病黄斑浮腫の治療は変貌を遂げ,大規模臨床研究では積極的な抗CVEGF薬の投与により,従来のレーザー治療よりも浮腫軽減効果や視力改善について,より良好な成績が示されている1,2).わが国の網膜専門家に対する調査では,70%以上の医師がびまん性糖尿病黄斑浮腫に対する第一選択であると報告されている3).しかし,その一方で臨床研究の結果によるエビデンスと実臨床における治療マネージメントに相違もみられ3),臨床研究のプロトコールに沿った治療を行うことはきわめてむずかしいと考える.今回,筆者らは糖尿病黄斑浮腫の抗CVEGF療法を含めた治療経過中に網膜症が増悪し,汎網膜光凝固術(panretinalphotocoagu-lation:PRP)を行うも不十分であったため,結果として両眼の血管新生緑内障の発症をきたし,治療に苦慮した症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕呉香奈:〒113-8655東京都文京区本郷C7-3-1東京大学医学部附属病院眼科Reprintrequests:KanaKure,M.D.,DepartmentofOphthalmology,UniversityofTokyoHospital,7-3-1,Hongo,Bunkyo-ku,Tokyo113-8655,JAPANC1550(102)図1初診時の前眼部と眼底写真およびOCT所見(2014年2月)図2初診時の蛍光眼底造影写真(2014年3月)両眼に広範囲の無灌流領域が存在し,右眼鼻上側に網膜新生血管を認める.I症例患者:68歳,女性.主訴:両眼の霧視,歪視.眼科既往歴:特記事項なし.全身既往歴:50歳時にC2型糖尿病を指摘される,63歳頃糖尿病性腎症の疑い.家族歴:特記事項なし.現病歴:1カ月前からの両眼の歪視と霧視で近医眼科を受診した.糖尿病による網膜症が疑われ,当院糖尿病代謝内科へ紹介.まもなく血糖コントロール目的で入院,その後網膜症精査目的でC2014年C2月に当科へ紹介となった.全身検査所見:糖尿病代謝内科初診時の採血結果は,総コレステロールC298Cmg/dl,CBUNC17.8Cmg/dl,CCreC0.64Cmg/dl,WBC7,600Cμl,RBC353万Cμl,PLT30.5万Cμl,HbA1cC11.7%.尿糖C4+,尿蛋白C2+,ケトン体(-).血圧はC160/74mmHg.頸動脈エコーでは両側に狭窄性病変なし.糖尿病治療開始後のCHbA1cの推移は,9.8%(2カ月後),7.1%(4カ月後),6.7%(6カ月後),6.4%(8カ月後)であった.当科初診時所見:視力は,右眼C0.2(0.3×+0.50D),左眼0.3(矯正不能),眼圧は右眼C15CmmHg,左眼C15CmmHgであった.両眼に軽度の白内障が認められ,両眼底に点状,しみ状の網膜出血,硬性白斑および軟性白斑が散在し,さらに光干渉断層計(opticalCcoherencetomography:OCT)で漿液性網膜.離を伴う黄斑浮腫を認めた(図1).また,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(.uoresceinangiography:FA)では右眼上鼻側に網膜新生血管,さらに両眼に多象限に及ぶ広範囲の無灌流領域が確認された(図2).CII経過両眼のCPRPを開始したが,左眼C3回,右眼C2回の光凝固が終了した時点で両眼の黄斑浮腫が増悪し(図3),2014年6月には両眼視力が(0.15)まで低下した.検眼鏡的所見でも両眼に一部凝固斑が不足している領域を認めていたが,自覚的にも視力低下が著しく,PRPの完成よりも視力回復を優先し,抗CVEGF療法〔2回+PRN(proCrenata:必要時投与)〕で浮腫を軽減させたのちに再度レーザーを追加する方針とした.しかし,内科での精査受診や家庭の事情もあ図3汎網膜光凝固術開始後の両眼OCT所見(2014年5月)両眼にCPRPを行っている途中で,黄斑浮腫の増悪所見を認めた.図4汎網膜光凝固術後の蛍光眼底造影写真(2015年7月)両眼に無灌流領域が残存している.図5透析導入前(2015年9月:写真左)および透析導入後(2016年4月:写真右)の右眼OCT所見人工透析の導入とともに,速やかに黄斑浮腫の改善がみられた.り,結果的にC3カ月後のC2014年C9月に右眼ラニビズマブ(ルセンティスCR)の硝子体注射(IVR:intravitrealCranibi-zumab)を行った.右眼のCIVR施行C2週間後に左眼の眼圧がC39CmmHgと上昇し,隅角所見は開放隅角,ルベオーシスを認め,また虹彩にもルベオーシスが検出され,血管新生緑内障と診断した.当日左眼のCPRPを完成させ,その後もレーザーを追加し,眼圧は正常化した.また,右眼については予定どおり初回からC1カ月後にC2回目のCIVRを行った.網膜光凝固術の評価目的でCFAを予定したが,血圧の上昇(186/90CmmHg)のほか,両下肢の浮腫,尿量減少,全身倦怠感の出現をきたし,かつ内科入退院を繰り返したため,施行を見送った.その際,右眼の血管新生緑内障の発症リスクを考慮し,PRPを完成させた.その後の隅角検査ではルベオーシスは認めず,また両眼の黄斑浮腫は経過とともに改善傾向にあり,PRPの完成によって網膜症も鎮静化していたと判断した.右眼C2回目CIVRからC4カ月後のC2015年C2月再診時に右眼後.下白内障によって(0.2)から(0.09)へ視力が低下し,かつ眼底の透見も不十分となったため手術を検討したが,体調不良のため実際に手術を予定したのは,さらにそのC5カ月後であった.その後,2015年C7月の右眼白内障手術前日に右眼眼圧が26CmmHgと上昇,隅角所見は開放隅角,ルベオーシスは認めなかったが,虹彩にルベオーシスが確認され,血管新生緑内障と診断した.同日に透見可能な範囲でレーザーを追加し,さらに手術の影響による前房出血や網膜症活動性の上昇を危惧し,右眼にC3回目のCIVRも行った.右眼手術は合併症なく終了し,術後矯正視力は(0.2)まで回復した.全身状態の確認のもとCFAを再検したところ,検眼鏡的にはすでに両眼底にCPRPが完成したと考えられていたが,両眼に無灌流領域が残存しており(図4),この領域にレーザーを追加した.その後虹彩ルベオーシスは完全に消失し,以後眼圧は安定した.腎機能は増悪傾向にあり,2016年C3月に透析導入となったが(右眼白内障手術C9カ月後),右眼のわずかに残存していた黄斑浮腫も改善が得られた(図5).左眼は薬物療法を施行せずに黄斑浮腫が改善,経過中に後.下白内障が進行したため手術を施行し,視力は両眼(0.4)が得られている.CIII考按抗CVEGF療法によって網膜症の改善や新生血管が抑制されることが示されており4,5),本症例においても抗CVEGF療法を行った眼は僚眼と比較して一定期間が経過してから血管新生緑内障を発症しており,網膜症の活動性が抑制されていた可能性が考えられる.すなわち抗CVEGF療法は,治療を中断した際に活動性が再燃することが懸念されるため,虚血網膜の有無に対しても十分に評価することが重要である.また,全身状態が悪化した場合,投与を継続できなくなる可能性も考慮し,網膜光凝固術を早めに行い,虚血の進行を防ぐことが重要であると考えた.血管新生緑内障を発症した場合には徹底的したCPRPが必要とされ6),本症例でも検眼鏡的には完成していた.しかし,FAによって無灌流領域の残存が確認され,その有用性を改めて認識した.ただし,本症例のように高血圧を合併している症例に対してCFAを行う際には,十分に血圧をコントロールすることが勧められている7).しかし,糖尿病患者では,その他にも全身疾患を合併していることもあり,本来必要な情報であるCFAを施行できない場合もある.近年,造影剤を必要としないCOCTangiographyが注目されているが,市販機種の画角は最大C10C×10mmからC12C×9Cmm程度であり,眼底周辺部において十分虚血の評価が可能な技術には至っていない.今後はさらなる広画角化や精度の向上が期待される.本症例では最終的に透析導入によって残存していた右眼黄斑浮腫の改善が得られた.糖尿病腎症による腎機能低下により,全身血管の血漿膠質浸透圧が低下する.透析導入することで浸透圧が改善され,結果的に黄斑浮腫が改善するといわれている.透析導入することでを糖尿病黄斑浮腫を治療するうえで,透析導入が予測される症例については,抗CVEGF療法の適応やタイミングを再考慮する必要があり,また抗VEGF治療中も血管新生緑内障の発症について常に念頭に置き,適宜隅角検査を行う必要があると考えられた.文献1)ElmanCMJ,CAielloCLP,CBresslerCNMCetal:RandomizedCtrialevaluatingranibizumabpluspromptordeferredlaserorCtriamcinoloneCplusCpromptClaserCforCdiabeticCmacularCedema.OphthalmologyC117:1064-1077,C20102)KorobelnikJF,DoDV,Schmidt-ErfurthUetal:Intravit-reala.iberceptfordiabeticmacularedema.Ophthalmolo-gyC121:2247-2254,C20143)OguraY,ShiragaF,TerasakiHetal:Clinicalpracticepat-terninmanagementofdiabeticmacularedemainJapan:CsurveyCresultsCofCJapaneseCretinalCspecialists.CJpnCJCOph-thalmolC61:43-50,C20174)BrownCDM,CNguyenCQD,CMarcusCDMCetal:Long-termCoutcomesCofCranibizumabCtherapyCforCdiabeticCmacularedema:theC36-monthCresultsCfromCtwoCphaseCIIItrials:CRISEandRIDE.OphthalmologyC120:2013-2022,C20135)HeierCJS,CKorobelnikCJF,CBrownCDMCetal:IntravitrealA.iberceptforDiabeticMacularEdema:148-WeekResultsfromtheVISTAandVIVIDStudies.OphthalmologyC123:C2376-2385,C20166)安藤文隆:糖尿病網膜症の治療の進歩血管新生緑内障の治療.眼科C39:41-47,C19977)湯澤美都子,小椋祐一郎,高橋寛二ほか:眼底血管造影実施基準(改訂版).日眼会誌C115:67-75,C2011***

薬剤感受性試験で耐性を示したにもかかわらずレボフロキサシン点眼が著効したノカルジア角膜炎の1例

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1545.1549,2018c薬剤感受性試験で耐性を示したにもかかわらずレボフロキサシン点眼が著効したノカルジア角膜炎の1例飯田将元子島良平小野喬森洋斉野口ゆかり岩崎琢也宮田和典宮田眼科病院CACaseofKeratitiswithNocardiaasteroidesHighlyResistanttoLevo.oxacin(LVFX)InVitro,butShowingGoodResponsetoTopicalLVFXInVivoCMasaharuIida,RyoheiNejima,TakashiOno,YosaiMori,YukariNoguchi,TakuyaIwasakiandKazunoriMiyataCMiyataEyeHospitalC症例はC63歳,男性.2週間前に右眼に土が飛入した後,疼痛・視力低下が出現し当院を受診した.右眼に淡い浸潤を伴う角膜潰瘍を認め,角膜塗抹標本のグラム染色で糸状のグラム陽性菌を検出した.セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの頻回点眼,エリスロマイシン・コリスチン軟膏の結膜.点入を開始したが,眼所見は改善せず,第C4病日の塗抹標本には糸状のグラム陽性菌が多数残存していた.1.5%レボフロキサシン(LVFX)点眼を追加したところ,角膜病巣は縮小し,以後,再発なく経過した.角膜病変からはCNocardiaasteroidesが分離され,LVFX高度耐性を示した.本症例では,起炎株の薬剤感受性と臨床経過に乖離があった.抗菌点眼薬の選択に際しては総合的に判断することが重要と考えられる.CAC63-year-oldCmaleCvisitedCourChospitalCdueCtoCrightCeyeCpainCwithCdecreasedCvisualCacuity,CtwoCweeksCafterCsoilexposure.Slit-lampexaminationdisclosedpatchycornealulceroftherighteye.Gram-stainedsmearofcornealscrapingCshowedCtheCpresenceCofCmanyCGram-positiveC.laments.CFrequentCtopicalCinstillationCofCcefmenoximeCandCerythromycin/colistinCwasCstarted.CHowever,CocularClesionsCdidn’tCbecomeCsmallCandCmanyC.lamentousCbacteriaCremainedonthecornealsmearobtainedonthe4thclinicalday.Wethereforeaddedtopical1.5%LVFXandthecorneallesionshealed.CNocardiaasteroideswasisolatedandshowedhighresistancetoLVFX.ThiscaseillustratestheCdiscrepancyCbetweenClaboratoryCantibiogramCandCclinicalCe.ectivenessCinCocularCinfection.CSelectionCofCtopicalCantibioticsmustbebasedonintegratedinformationfrompatients,laboratorydataandliterature.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1545.1549,C2018〕Keywords:ノカルジア,感染性角膜炎,薬剤耐性,レボフロキサシン.Nocardia,infectiouskeratitis,drugresis-tance,levo.oxacin.Cはじめにノカルジア属細菌は土壌中に生息し,グラム陽性に染色される菌糸体を形成する.日常診療では,病変の擦過検体は塗抹上では最初に放線菌群として認識され,分離結果に基づき最終同定されている.本菌は健常人の皮膚などの体表面感染症ならびに,免疫抑制状態の患者における肺炎,脳膿瘍を生じる.眼科領域のノカルジア感染として角膜炎,強膜炎,眼内炎が報告されているが1,2),わが国におけるノカルジア角膜炎例の報告は少ない3.5).ノカルジア角膜炎の治療には抗菌点眼薬が用いられる.ニューキノロン系抗菌薬に対する感受性は菌種・菌株で大きく異なり1,6.9),初期治療としては選択しにくい.今回,分離株が薬剤感性試験でレボフロキサシン(LVFX)に高度耐性であったにもかかわらず,臨床的にCLVFX感受性を示したノカルジア感染を伴った角膜炎のC1例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕飯田将元:〒885-0051宮崎県都城市蔵原町C6-3宮田眼科病院Reprintrequests:MasaharuIida,M.D.,MiyataEyeHospital,6-3Kurahara-cho,Miyakonojo,Miyazaki885-0051,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(97)C1545cdef図1前眼部病変と擦過塗抹標本a:初診時の前眼部写真.結膜充血および角膜傍中心領域の潰瘍を認める.Cb:病巣部の拡大.膿瘍の形成(.),辺縁部の浸潤病変(.)を認める.Cc:初診時のフルオレセイン染色細隙灯顕微鏡検査.病巣に一致した上皮欠損を認める.Cd:初診時の角膜擦過物の塗抹検鏡.グラム陽性の分岐状糸状菌体とグラム陽性球菌を認める.Ce:治療開始C40日目の細隙灯顕微鏡検査.強い角膜上皮浮腫,実質浮腫を認める.Cf:治療開始C54日目の細隙灯顕微鏡検査.角膜上皮浮腫,実質浮腫の消失を認める.CI症例現病歴:2016年の夏期,草刈り中に右眼に土が飛入した後,徐々に霧視,充血,疼痛,視力低下が進行し,受傷から患者:63歳,男性.約C2週後に当院を受診した.主訴:右眼の視力低下.初診時所見:視力は右眼C0.2(0.7C×cyl.3.0DAx70°),左既往歴:内科的基礎疾患はなく,定期的内服はない.右眼眼C1.0(1.5×+0.50D(cyl.1.5DAx100°)であった.右眼ヘルペス性角膜実質炎にて当院外来通院.には結膜の充血,角膜傍中心部に膿瘍を形成する角膜潰瘍,表1分離菌の薬剤感受性試験結果Nocardiaasteroides分離株コアグラーゼ陰性CStaphylococcus分離株抗菌薬CMIC判定CMIC判定CcefmenoximeC2C8CRCceftriaxone>2CtobramycinCvancomycinCerythromycinCmoxi.oxacinC128C128C18CRCRC64C2C>6C4C64CRCSCRCRCgati.oxacinClevo.oxacinC8C64CR128C>C128CRCRClinezolid<2CS<2CSCimipenemminocyclinC<C0.25C4CSSC<2C8CSCRMIC:minimuminhibitoryconcentration(μg/ml).S:susceptible.R:resistant.潰瘍周辺部の淡い浸潤巣を(図1a~c),前房内に軽度の炎症細胞を認めた.角膜知覚は右眼C20Cmm,左眼C60Cmmと右眼で低下していた.チェックメイトCRヘルペスアイ(わかもと)を用いたイムノクロマト法および,ヘルペス(1・2)FA「生研」,VZV-FA「生研」(デンカ生研)を用いた蛍光抗体法で,単純ヘルペスウイルスC1型・2型,水痘帯状疱疹ウイルス抗原は陰性であった.超音波CBモード断層検査では後眼部の異常は指摘できなかった.経過:所見から感染性角膜炎を疑い,角膜擦過物の塗抹検鏡と培養検査を行った.塗抹標本のグラム染色ではグラム陽性の分岐状糸状菌体とグラム陽性球菌を認めた(図1d).ファンギフローラ染色では真菌は検出せず,放線菌群細菌とグラム陽性球菌による複合感染と診断し,セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンのC1時間毎点眼,エリスロマイシン・コリスチン軟膏の就寝前C1回,ST合剤内服を開始した.上記点眼を開始するも角膜潰瘍は改善しなかったため,第4病日に再度角膜擦過を行った.塗抹検鏡でグラム陽性球菌はほとんどみられなくなったが,放線菌群菌体は依然として多数残存していた.再度,問診を行ったところ,右眼受傷後に自己判断で手持ちのCLVFXを点眼し,LVFXがなくなり,症状が悪化したため当院を受診したという事実が判明した.同日よりC1.5%CLVFXの毎時点眼を追加後,徐々に潰瘍底は浅くなり,潰瘍周辺部の浸潤巣も消退傾向を認めた.初診時の擦過検体から,Nocardiaasteroidesとメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negativeCStaph-ylococcus:CNS)が分離された.LVFXの最小発育阻止濃度(minimumCinhibitoryconcentration:MIC)は両菌とも高値であったが,点眼追加後に角膜所見が改善していることから点眼継続とした(表1).第C27病日には上皮欠損の消失を認めたが,結膜充血,実質浮腫,上皮浮腫は遷延していた.第40病日には実質浮腫,上皮浮腫により右眼視力C20Ccm指数弁と低下したが(図1e),角膜細胞浸潤は軽微であり感染は終息していると考え,消炎を目的にC0.1%フルオロメトロン点眼C4回を追加した.点眼追加後に実質浮腫,上皮浮腫の消退傾向を認め,第C54病日には右眼視力C0.06(0.3C×.5.0D)と改善を認めた(図1f).発症後C9カ月が経過し,角膜病巣3.0D)で角膜炎の再燃C×.5p.は瘢痕化し,右眼視力0.3p(0はなく経過している.CII考按本症例は,角膜へルペスの既往があるものの,全身的な基礎疾患のない成人男性の右眼に,土が飛入した後に発症した細菌性角膜炎のC1例である.角膜病変の擦過標本では,放線菌群の菌とグラム陽性球菌を検出し,細菌培養ではCN.Caster-oidesとCCNSが分離され,当初はこの両者の複合感染による角膜炎と診断した.セフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの点眼と軟膏,ST合剤の内服により,第C4病日にはグラム陽性球菌はほとんど消失するも,角膜所見はほとんど改善せず,塗抹でも多数の放線菌の残存を認め,角膜病変の主たる起因菌はノカルジアと判断した.ノカルジア分離株はCLVFX高度耐性であったが,病歴より効果があると判断しCLVFXの点眼を開始,潰瘍は縮小した.ノカルジア角膜炎は植物との接触を伴う外傷3,5),コンタクトレンズ装用4),角膜屈折矯正手術2,10)に関連した症例が報告されている.本例では,農作業中の土の飛入が発症の契機となっているが,角膜ヘルペスによる角膜知覚低下のため外傷を認識していなかった可能性もある.これまで報告されているノカルジア角膜炎の眼所見は,上皮欠損を伴うリース状,斑状の角膜細胞浸潤を呈し,真菌性角膜炎に類似しているため,真菌性角膜炎として治療が開始されていた症例が多い1,3,5,8).本例でも草刈り後に発生しており,塗微生物学的検査をもし行わなければ,真菌性角膜炎として治療されてしまう可能性があった.角膜病変の診断と治療においては,微生物学的検査,とくに塗抹検査が重要である.ノカルジア角膜炎を引き起こすノカルジア属細菌は複数報告されているが,とくにCN.asteroidesはノカルジア角膜炎のC19.93%で分離され,原因菌種として占める割合が大きい1,6,7,9).しかし,N.asteroidesの薬剤感受性試験で,ペニシリン系,セファロスポリン系,ニューキノロン系,ST合剤に対して,株間で感受性のばらつきが大きく,N.Casteroi-desは薬剤感受性結果に基づき,さらに細分類されている11).本例の分離株は感受性検査でリネゾリド・イミペネムに感受性を有し,フルオロキノロンに耐性を示したことより,狭義のCN.asteroidesあるいはCN.novaに近い菌種と考えられる.本症例では,臨床的に有効性が期待されたセフメノキシム,エリスロマイシン・コリスチンの点眼では角膜病変は改善せず,高度耐性と判定されたCLVFX点眼が有効であった.わが国の既報においても,薬剤感受性試験で有効性が期待されていた抗菌薬で角膜所見が改善せず,点眼変更を余儀なくされた症例が報告されている3,5).薬剤感受性試験と臨床経過の乖離の原因として,Sridharらは培地のCpHや寒天の種類による変化が一因であると考察している7).また,眼科領域の感染症治療では,抗菌点眼薬が全身投与と比較し非常に高濃度であるため,感受性検査で耐性を示すにもかかわらず臨床的に有効性を示す可能性が指摘されている12,13).感染症の治療では,臨床所見や検鏡の結果から起因菌を類推し,効果があると考えられる抗菌薬を投与するCempirictherapyから開始し,起因菌の同定後は,薬剤感受性結果に基づき,抗菌薬を変更するspeci.ctherapyを行うことが一般的である.しかし,眼科領域では,先に述べたように高濃度製剤を局所投与することより,本例のように臨床上の効果と薬剤感受性試験の結果が乖離することも多い.分離株のCMICのみを根拠として抗菌薬を変更するのでなく,自覚症状や角膜所見の変化を考慮し,抗菌薬変更の必要性について総合的に判断する必要がある.また本例では,実質混濁,角膜上皮浮腫の遷延に対して,感染が終息した後にフルオロメトロンの点眼を追加した.角膜感染症に対するステロイド点眼の併用は,実質融解や新生血管の抑制による角膜混濁の軽減といった利点がある一方,上皮化の抑制や感染の増悪といった問題点がある.細菌性角膜炎に対するステロイド点眼併用のランダム化比較試験では,ノカルジア角膜炎に対する初期からのステロイド点眼の併用は最終的な角膜混濁のサイズを有意に増大させ,視力改善にも関連しない一方,ノカルジア以外の細菌性角膜炎では,ステロイド点眼の併用は最終視力を有意に改善させ,角膜混濁の増加も認めないと報告されている9,14).したがって,ノカルジア角膜炎においては通常の細菌性角膜炎のように,初期からのステロイド点眼の併用を行うことは好ましくないと思われる.しかし,本報告のように感染が終息したと判断し,消炎を目的にステロイドを点眼し,角膜浸潤,実質浮腫の改善を認めたノカルジア角膜炎の報告もあり3),角膜所見の悪化に十分注意する必要はあるものの,治療の終盤に消炎を目的にステロイド点眼を使用することは瘢痕の拡大を防ぐ点で有効である可能性がある.CIII結語今回,分離株の薬剤感受性試験では耐性であったCLVFXが著効したノカルジア角膜炎のC1例を経験した.ノカルジア角膜炎では,分離株の薬剤感受性試験の結果と臨床的な薬剤有効性に乖離がみられることがあり,抗菌薬選択に際しては感受性試験の結果だけで判断せず,注意深く臨床所見を観察し,総合的に判断することが重要である.文献1)DeCroosFC,GargP,ReddyAKetal:Optimizingdiagno-sisCandCmanagementCofCNocardiaCkeratitis,Cscleritis,Candendophthalmitis:11-yearmicrobialandclinicaloverview.OphthalmologyC118:1193-1200,C20112)LalithaP,SrinivasanM,RajaramanRetal:NocardiaCker-atitis:ClinicalCcourseCandCe.ectCofCcorticosteroids.CAmJOphthalmolC154:934-939,C20123)菅井哲也,竹林宏,塩田洋:ノカルジアによる角膜潰瘍の1例.眼臨C91:1708-1710,C19974)竹内弘子,近間泰一郎,西田輝夫:ノカルジアによる角膜放線菌感染症のC1例.眼科C41:301-304,C19995)越智理恵,鈴木崇,木村由衣ほか:NocardiaCasteroidesによる角膜炎のC1例.臨眼C60:379-382,C20066)FaramarziA,FeiziS,JavadiMAetal:BilateralCNocardiaCkeratitisCafterCphotorefractiveCkeratectomy.CJCOphthalmicCVisResC7:162-166,C20067)SridharMS,SharmaS,ReddyMKetal:Clinicomicrobiol-igicalCreviewCofCNocardiaCkeratitis.CCorneaC17:17-22,C19988)SridharMS,SharmaS,GargPetal:Treatmentandout-comeofCNocardiaCkeratitis.CorneaC20:458-462,C20019)PatelNR,ReidyJJ,Gonzalez-FernandezF:Nocardiaker-atitisCafterClaserCinCsitukeratomileusis:clinicopathologicCcorrelation.JCataractRefractSurgC31:2012-2015,C200510)LalithaCP,CTiwariCM,CPrajnaCNVCetal:NocardiaCKerati-tis;species,CdrugCsensitivities,CandCclinicalCcorrelation.CCorneaC26:255-259,C200711)Brown-ElliottCBA,CBrownCJM,CConvilleCPSCetal:ClinicalCandClaboratoryCfeaturesCofCtheCNocardiaCspp.CbasedConCcurrentmoleculartaxonomy.ClinMicrobiolRevC19:259-282,C200612)AiharaM,MiyanagaM,MinamiKetal:AcomparisonofC.uoroquinoloneCpenetrationCintoChumanCconjunctivalCtis-sue.JOculPharmacolTherC24:587-591,C200814)SrinivasanCM,CMascarenhasCJ,CRajaramanCRCetal:The13)TouN,NejimaR,IkedaYetal:Clinicalutilityofantimi-steroidsCforCcornealCulcerstrial(SCUT):SecondaryC12-crobialCsusceptibilityCmeasurementCplateCcoveringCformu-monthCclinicalCoutcomesCofCaCrandomizedCcontrolledCtrial.ClatedCconcentrationsCofCvariousCophthalmicCantimicrobialCAmJOphthalmolC157:327-333,C2014Cdrugs.ClinOphthalmolC10:2251-2257,C2016***