‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

コンタクトレンズの新型ブリスターパックの有効性

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1540.1544,2018cコンタクトレンズの新型ブリスターパックの有効性平田文郷*1熊沢あづさ*2*1平田眼科*2株式会社メニコンCE.cacyofNovelBlisterPackageforContactLensFumisatoHirata1)andAzusaKumazawa2)1)HirataEyeClinic,2)MeniconCo.LtdC目的:1DAYメニコンプレミオに採用された新型ブリスターパック(BP)が従来型CBPと比較し,コンタクトレンズ(CL)の表裏判別,指とCCLの接触時間にどのような影響を与えるかを評価した.方法:CL未経験者C55人に対しBPからソフトコンタクトレンズ(SCL)を取り出した際のCSCL表裏判別容易性を,新型CBPと従来型CBPを用いてリッカート尺度の質問票調査をした.また,CL既装用者C30人に対し,BP開封後CSCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間の評価を新型CBPと従来型CBPを用いて行った.結果:質問票調査のリッカート尺度の中央値は新型CBPではC1,従来型CBPではC2であり統計学的に有意差を認め(p<0.01),新型CBPはCSCLの表裏がわかりやすいことが示された.SCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間の中央値は新型CBPではC9.53秒,従来型CBPではC10.03秒で統計学的な有意差を認めた(p<0.05).結論:新型CBPは従来型CBPと比較し,SCLの表裏がわかりやすく,指とCSCLの接触時間を減らすことができる.CObjectives:ToCcompareCaCnovelCblisterpack(BP)forC1DAYCMeniconCPremioCcontactlenses(CLs)withCtheCconventionalCBPCregardingCcorrect-sideCidenti.cationCeaseCandC.ngerCcontactCtime.CMethods:Correct-sideCidenti.cationeaseofthenovelandconventionalBPsoftCLs(SCLs)wasinvestigatedin55non-CLwearersusingaLikertscale-typequestionnaire.Additionally,thetimerequiredtoplaceanSCLfromthenovelorconventionalBPonaC.ngertiponthecorrectsidewasevaluatedin30CLwearers.Results:Themedianscoreof1forthenov-elBPwassigni.cantlylowerthanthatof2fortheconventionalBP(p<0.01).Therewasastatisticallysigni.cantdi.erenceinthemediantimerequiredtocorrectlyplaceaSCLona.ngertip:9.53and10.03secondsforthenov-elCandCconventionalBP,Crespectively(p<0.05).Conclusion:TheCnovelCBPCenablesCsuperiorCcorrect-sideCSCLCidenti.cationandlessC.ngercontacttimethantheconventionalBP.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1540.1544,2018〕Keywords:ブリスターパック,ソフトコンタクトレンズ,角膜感染症,コンタクトレンズ関連角膜浸潤事象,コンタクトレンズ関連愁訴.blisterpackage,softcontactlens,microbialkeratitis,contactlens-associatedcornealin.l-trativeevents,contactlensdiscomfort.Cはじめにわが国におけるC2007年C4月からC2年かけて行われた重症コンタクトレンズ(contactlens:CL)関連角膜感染症全国調査で,CL装用が原因と考えられる角膜感染症で入院を要した症例はC1日使い捨てソフトCCL(softCcontactlens:SCL)がC7.4%,頻回交換型CSCLがC56%,定期交換型CSCLがC16%であった1).この調査のうちC2007年C4月からC1年間に受診した症例を解析した報告によると,ハードCCLやC1日使い捨てCSCLは他のCCLに比較して有意にCCL関連角膜感染症は少なかった2).SCLのなかではC1日使い捨てCSCLは細菌感染のリスクが低いと考えられている.一方で,1日使い捨てCSCLは微生物による角膜炎のリスクは再使用するCSCLと比較し低下しないが,視力喪失の危険性は低い3)との海外の報告もある.つまりC1日使い捨てCSCLは,入院や視力喪失などの重篤な角膜感染症は少ないと思われるが,角膜感染症はしばしば発生すると考えられる.1日使い捨てCSCLに関連する角膜感染症には装用期間を守らずC1日使い捨てSCLを再使用している例も含まれるが,装用期間を守って〔別刷請求先〕平田文郷:〒486-0845愛知県春日井市瑞穂通C6-22-3平田眼科Reprintrequests:FumisatoHirata,M.D.,HirataEyeClinic,6-22-3Mizuhodori,Kasugai,Aichi486-0845,JAPANC1540(92)abc図1新型BPと従来型BP代表例の写真a:新型CBPはCSCL外面が上になるように封入されておりCCL外面を指でつまんでとる構造.Cb:新型CBPは底面に凸部があり,かつ底面が傾斜している.傾斜の上方(図の右側)でのCBP内の空間上下幅は狭くなっている.Cc:従来型CBPの代表例,メニコンC1DAYのCBPの側面写真.いる人にも生じている.重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査で,1日使い捨てCSCLにおいて装用期間を守っていたのはC46.2%であった1).CLへの指からの微生物の付着を減らすためにはできるだけCCLに触らずに,かつ短時間で装用するのが望ましいと思われる.CL表面に付着した微生物は瞬目や涙液によりCCLから.離し,涙液交換により排出されるが,CL外面と比べCL内面は瞬目の影響も小さく,涙液交換もCCL外面と比べ長時間必要とする.そのためCCL内面の微生物は除去されにくいと考えられ,できるだけCCL内面に触れないことが大切である.その目的を達するためにメニコンはフラットパックというブリスターパック(blisterpackage:BP)を開発した.このCBPは,厚さが約C1Cmmで両面がアルミシートで包まれた超薄型で,SCL外面が上になるように設計されているため必要以上に内面を触ることがなく,メニコンC1DAYフラットパック(Magic*)というレンズに採用された.フラットパックから蛍光ビーズを付着させた手でCSCLを取り出すと,蛍光ビーズの付着が通常のCBPのCSCLと比べて有意に少なかった.また,菌付着評価試験では黄色ブドウ球菌を一定数付着させた手指でCSCLを取り出した際に,フラットパックのCSCLではCSCL外面への付着菌は少なく,内面への付着菌を認めなかった4).しかし,フラットパックに入っている流通保存液(shippingsolution:SS)はごく少量である.近年CLを眼に入れた際の初期快適性を改善する目的で,いろいろな種類のCCLで製造業者がCSSにさまざまな成分を加える場合がある5,6).フラットパックはCSSが少ないため,そのような改良は困難であった.今回新しくメニコンから十分な量のCSSを含み,かつCCL内面を必要以上に触ることがない,底面に凸部と傾斜のある新型CBP(図1a,b)が開発され,1日使い捨てシリコーンハイドロゲルCSCLであるC1DAYメニコンプレミオに採用された.今回筆者らはこの新型CBPに入ったCSCLと,底面に凸部のない従来型CBP(図1c)に入ったCSCLそれぞれにおいて,BPからCSCLを取り出した際のCSCL表裏の判別容易性質問票調査,BP開封からCSCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間評価を行った.*「Magic」は特徴的な包装を表現するものであり,CLの視覚的機能・効果ではありません.CI対象および方法1.BPからSCLを取り出した際のSCL表裏の判別容易性質問票調査a.対象平成29年9月1日.29年12月27日に,平田眼科または小牧平田眼科に受診し,過去にCCLを使用したことがなく従来型CBPが採用されているカラーCCLを除くC1日使い捨てSCLと,新型CBPのC1DAYメニコンプレミオのC2種類のSCL装用を希望し,アンケート調査を承諾されたC55人を対象とした.年齢の中央値,四分位範囲および範囲はC16歳(14.20歳)[12.47歳]である.全対象に文書による説明を行い,本人の自由意思による同意を得た.Cb.方法BPからCSCLを取り出して指に乗せる方法を教示し,さらにCSCLの表裏の判別方法を説明した.2種類のCBPのうち被検者は任意のパッケージから開封し指に乗せ,SCLの表裏を確認後そのCSCLは廃棄した.BP開封からCSCLを指に乗表1質問票調査の従来型BPの内訳従来型BP従来型CBPの内訳例数デイリーズトータルワンRC5C60バイオトゥルーRワンデーC5C■1■2■3■45(人数)マイデイRC5ワンデーアキュビューRトゥルーアイRC3図2BPから取り出したSCLの表裏の判別容易性のリッカート尺度大変わかりやすかった=1,ややわかりやすかった=2,どちらと*もいえない=3,ややわかりにくかった=4,大変わかりにくかっC25た=5.メニコンC1DAYC17ワンデーアキュビューRオアシスRC10ワンデーアキュビューRモイストRC10新型BP時間(秒)せるまでの練習用の仮の度数として,SCLの度数はすべて.3.0Dとした.無記名自記式の質問票にて,「今開封したコ201510ンタクトレンズ容器はコンタクトレンズ装用の際,コンタクトレンズの表裏がわかりやすかったでしょうか?」と質問した.質問票にはC5段階のリッカート尺度(大変わかりやすかった=1,ややわかりやすかった=2,どちらともいえない=3,ややわかりにくかった=4,大変わかりにくかった=5)を用いた.C2.BP開封後SCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間およびSCL反転回数評価a.対象CL既装用者でC60歳未満の成人ボランティアC30人を対象とした.年齢の中央値,四分位範囲および範囲はC34歳(25.41.75歳)[20.53歳]である.全対象に文書による説明を行い,本人の自由意思による同意を得た.Cb.方法メニコンのメニコンC1DAY,およびC1DAYメニコンプレミオの計C2種類のC1日使い捨てCSCLを使用した.Magicと異なり,メニコンC1DAYには従来型CBPが採用されている.1DAYメニコンプレミオには新型CBPが採用されている.SCLの度数はすべてC.3.0Dとした.2種類のSCLのBPともC1個のみに分離した状態で机に置き,被検者にどちらのSCLのCBPを先に開封するか任意で決めてもらいそのCBPを手に触れて待機をさせた.「スタート」の合図で,普段装用しているようにCBPを開封してもらい,SCLを装着できるように正しい向きにCSCLを指に乗せることができたと思った時点で,「ストップ」といってもらい,「スタート」から「ストップ」までの秒数をストップウォッチ(CITIZENLC058-A02)で計測した.「ストップ」の時点でCSCLの表裏が誤っている場合は,正しい向きにCSCLを指に乗せることができるまでストップウォッチでの時間の計測を継続した.また,BP開封後,正しい向きでCSCLを指に乗せるまでに,SCLの表裏を反転して再度指に乗せ換えた回数も調査した.なお50従来型BP新型BP図3BP開封後SCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間新型CBPは従来型CBPと比較し指とCSCLの接触時間が有意に短い(p=0.016).*:p<0.05.新型CBPでは表裏が誤って入っていることはないとの説明は行っていない.C3.統計統計学的解析にはCWilcoxon符号付順位和検定を行い,有意水準は5%とした.CII結果1.BPからSCLを取り出した際のSCL表裏の判別容易性質問票調査質問票調査のリッカート尺度の中央値,四分位範囲および範囲は,1日使い捨てCSCLが入っている従来型CBPではC2(2.3.5)[1.5],1DAYメニコンプレミオの新型CBPではC1(1.2)[1.5]であった(図2).従来型CBPと新型CBPの比較で統計学的に有意差を認めた(p<0.01).従来型CBPの内訳は表1のとおりであった.C2.BP開封後SCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間およびSCL反転回数評価BP開封後CSCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間の中央値,四分位範囲および範囲は,従来型CBPのメニコン1DAYではC10.03秒(8.92.12.95秒)[5.64.19.93秒],新型BPのC1DAYメニコンプレミオではC9.53秒(8.04.10.69秒)[5.83.21.28秒]であり,両者の比較で有意差を認めた(94)(p=0.016)(図3).SCL反転回数はメニコンC1DAYでは,30例のうちC4例でCBP開封後最初に指にCSCLを乗せた際にSCLの内面が指に接触する向きになっていたため,SCLの反転操作を必要とした.1DAYメニコンプレミオではCBP開封後最初に指にCSCLを乗せた際にC30例ともレンズの外面が指に接触する向きになっており,今回の検討では反転操作を必要としなかった.CIII考察1日使い捨てCSCL装用者における微生物による角膜炎の危険因子の検討で,毎日の装用,夜通しの装用,装用前の低頻度の手洗い,喫煙が危険因子と報告されている7).このうち毎日の装用や夜通しの装用によるリスクは使用頻度に依存し,夜通しの装用を避ける説明が必要である.喫煙に関しては,CLを装用する危険性を減らすために禁煙を勧めるのは困難である.手洗いに関しては装用者の理解も得られやすく,十分な説明が大切である.装用前には必ず毎回手洗いを行う必要がある.石鹸と水道水で手洗いはできていても,そのまま手が濡れた状態でCCLを装用している人もいる.CL装用前には手を十分に乾燥させる必要があるが,使い捨てのペーパータオルが使用されている頻度は高くなく,タオルで手をふくことが多いが,そのタオルがどの程度衛生的かは不明である.手指に付着した微生物による角膜感染症を減らすためには,CL使用者への手洗い方法の啓発という方法以外に,手指から微生物が付着しにくいCCLの普及が望まれる.今回筆者らは,CL新規装用者に対して質問票調査を行った.従来型CBPと比べ新型CBPは統計学的に有意にリッカート尺度が低く,新型CBPはCCL新規装用者において感覚的に表裏がわかりやすいことが示された.また,筆者らは,CL既装用者に対して,BP開封からCSCLを指に正しい向きに乗せるまでの時間評価を行った.この検討で従来型CBPと比べ,新型CBPは統計学的に有意に短い時間でCSCLを指に正しい向きに乗せることができることが示された.また,今回の検討では,新型CBPのC30例ではCBP内でのレンズの反転はなく,従来型CBPのC30例ではC4例がCBP内でCCLが反転していた.新型CBPは底面の凸部や傾斜により,BP内でCSCLが反転するのに十分な空間がなく,BP内でのCSCLの製造,輸送,保管中の反転はなかったと推察される.また,従来型BPのC30例のうちC4例はレンズの反転作業を要し,他のC26例と比較しより広い面積でCCLの外面および内面が指に触れていたと思われる.CLと微生物の付着はCCLの素材,微生物の種類,指の微生物付着量,指とCCLの接触時間,指とCLの接触面積などが関与していると考えられる.新型CBPは指とCCLの接触時間を減らすことができ,また接触面積を狭める可能性があり指からCCLへの微生物の付着の軽減が期待できる.シリコーンハイドロゲル素材は十分な酸素を通すことができ,低酸素による角膜障害を減らすことができると思われ今後C1日使い捨てCSCLにおいても,わが国で使用の増加が予想される.しかし,シリコーンハイドロゲル素材は,従来のハイドロゲル素材と比べてCmicrobialkeratitisのリスクを低減させなかった3,8).CL関連角膜浸潤事象(contactClens-associatedcornealin.ltrativeevents:CIEs)にはCmicrobialkeratitis(MK),contactClens-inducedCperipheralCulcer(CLPU),contactlens-inducedacuteredeye(CLARE)などが含まれる.CLPUやCCLAREは非感染性であるが,微生物に対する免疫反応が関与している.CIEsのリスクは,シリコーンハイドロゲルCSCLは,ハイドロゲルCSCLと比較し約C2倍との報告もある9,10).これらの報告はシリコーンハイドロゲルCSCLのなかでも比較的早い段階で開発されたものの報告である.今回の新型CBPに組み合わされたC1DAYメニコンプレミオのように含水率が高くヤング(Young)率が低くて柔らかい新しい世代のシリコーンハイドロゲルCSCLにも当てはまるかは不明であるが,シリコーンハイドロゲルSCLを入れるCBPには,今回報告したような新型CBPや,既報のフラットパックのようなCSCLへの微生物の付着の軽減が期待できるCBPが望ましいと思われる.CLを中断する大きな理由としてCCL関連愁訴(contactClensdiscomfort:CLD)がある11).外部浸潤剤をケア用品やSSに加えることは役立つように思われるが,その利点はC1日のCCLの使用時間のうちのおもにCCL装用後早期の快適性を増すことであると報告されている12).櫻井らは,SSに2-methacryloyloxyethylCphosphorylcholine(MPC)ポリマーを配合することで,よりよい装用感が持続する可能性があると報告している6).新型CBPはCSSをフラットパックと比較し多く含むことができ,今後CMPCポリマーなどの外部浸潤剤をCSSに配合したりするなどさまざまなCSSの変更も可能である.メニコンC1DAYフラットパック(Magic)の素材であるポリC2ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)-グリセロールモノメタクリレート(GMA)にはフラットパックは使用できたが,他のCCL素材ではフラットパックはCSSが少ないため使用が困難な場合があると考えられる.新型CBPはCSSを多く含むことができさまざまなCCL素材に対応可能で汎用性がある.また,今回の報告から新型CBPは感覚的にSCLの表裏がわかりやすく,SCLと指との接触時間を減らすことができると考えられる.新型CBPは感染対策と装用感の対策の両方のバランスをとったCBPといえる.新型CBPはSCLをつまんで取り出す構造のため,爪が極端に長い人には使用が困難な場合がある.新型CBPを使用する場合は実際に練習し,使用可能か確認をすることが望ましい.今回の検討では指とCSCLの接触時間を用いて,SCLへの微生物付着への影響を間接的に検討した.新型CBPを用いたSCLへの微生物付着試験や各種CBPに入ったCSCLの市販後角膜感染症臨床調査など,より直接的な検討を行うことが今後の課題としてあげられる.新型CBPは指からCSCLへの微生物の付着を軽減する可能性がある.1日使い捨てCSCL装用者においても起きる微生物による角膜障害を減少させるために,さまざまな種類のC1日使い捨てCSCLの容器が指からCSCLへの微生物がより付着しにくい構造のCBPに発展していくことが期待される.利益相反:熊沢あづさ(カテゴリーE:株式会社メニコン)文献1)宇野敏彦,福田昌彦,大橋裕一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症全国調査.日眼会誌115:107-115,C20112)稲葉昌丸,井上幸次,植田喜一ほか:重症コンタクトレンズ関連角膜感染症調査からみた危険因子の解析.日コレ誌C52:25-30,C20103)DartJK,RadfordCF,MinassianDetal:RiskfactorsformicrobialCkeratitisCwithCcontemporaryCcontactlenses:aCcase-controlstudy.OphthalmologyC115:1647-1654,C20084)NomachiCM,CSakanishiCK,CIchijimaCHCetal:EvaluationCofCdiminishedmicrobialcontaminationinhandlingofanoveldailyCdisposableC.atCpackCcontactClens.CEyeCContactCLensC39:234-238,C20135)MenziesCKL,CRogersCR,CJonesL:InCvitroCcontactCangleCanalysisCandCphysicalCpropertiesCofCblisterCpackCsolutionsCofCdailyCdisposableCcontactClenses.CEyeCContactCLensC36:C10-18,C20106)櫻井俊輔,島村佳久,宮本幸治ほか:パッケージングソリューションにおけるCMPCポリマーの有用性.日コレ誌C58:C31-38,C20167)StapletonF,NaduvilathT,KeayLetal:RiskfactorsandcausativeCorganismsCinCmicrobialCkeratitisCinCdailyCdispos-ablecontactlenswear.PLoSOneC12:e0181343,20178)StapletonCF,CKeayCL,CEdwardsCKCetal:TheCincidenceCofCcontactClens-relatedCmicrobialCkeratitisCinCAustralia.COph-thalmologyC115:1655-1662,C20089)ChalmersRL,WagnerH,MitchellGLetal:Ageandotherriskfactorsforcornealin.ltrativeandin.ammatoryeventsinyoungsoftcontactlenswearersfromtheContactLensAssessmentCinYouth(CLAY)study.CInvestCOphthalmolCVisSciC52:6690-6696,C201110)ChalmersRL,KeayL,McNallyJetal:Multicentercase-controlstudyoftheroleoflensmaterialsandcareprod-uctsonthedevelopmentofcornealin.ltrates.OptomVisSci89:316-325,C201211)NicholsJJ,WillcoxMD,BronAJetal:TheTFOSInter-nationalCWorkshopConCContactCLensDiscomfort:execu-tiveCsummary.CInvestCOphthalmolCVisCSciC54:TFOS7-TFOS13,201312)PapasEB,CiolinoJB,JacobsDetal:TheTFOSInterna-tionalCWorkshopConCContactCLensDiscomfort:reportCofCtheCmanagementCandCtherapyCsubcommittee.CInvestCOph-thalmolVisSciC54:TFOS183-TFOS203,C2013***

術前に結膜囊より分離されたコリネバクテリウムの薬剤耐性動向調査(2005〜2016 年)

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1536.1539,2018c術前に結膜.より分離されたコリネバクテリウムの薬剤耐性動向調査(2005.2016年)神山幸浩*1北川和子*1萩原健太*1,2柴田伸亮*1佐々木洋*1*1金沢医科大学眼科学講座*2公立宇出津総合病院眼科CAntibacterialResistanceofCorynebacteriumsp.DetectedfromCul-de-sacbeforeOcularsurgeries,2005.2016CYukihiroKoyama1),KazukoKitagawa1),KentaHagihara1,2),ShinsukeShibata1)andHiroshiSasaki1)1)DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,2)DepartmentofOphthalmology,UshitsuGeneralHospitalC術前に結膜.より分離されたコリネバクテリウムの薬剤耐性について,2005.2007年までのC3年間(前期群)と2014年C1月.2016年C6月までのC2年半(後期群)を比較した.前期群,後期群ともペニシリン,セフェム,カルバペネム,テトラサイクリン,アミノ配糖体では感受性が良好であったが,マクロライド,クロラムフェニコールには耐性株が高率にみられた.フルオロキノロンを代表してレボフロキサシンに対する感受性を検討したが,耐性率は後期群で有意に増加していた(前期群:40.1%,後期群:56.7%).コリネバクテリウム耐性株が増加する因子として年齢が関係したが,性別,糖尿病診断歴,およびC1年以内の眼科受診歴については,有意な差は認められなかった.CWeexaminedthedrugresistanceofCCorynebacteriumsp.isolatedfromthecul-de-sacsofpatientsbeforeeyesurgeryduringtheC.rstterm(2005.2007)andthelatterterm(2014.2016),respectively.Duringbothterms,thesensitivitytopenicillins,cephems,carbapenem,tetracyclineandaminoglycosidewasgood.TheresistanceratewashighCinCmacrolideCandCchloramphenicol.CAsCregardsC.uoroquinolones,CweCexaminedCsensitivityCtoClevo.oxacin.CTheCrateofresistancewashighduringbothterms,therateincreasingduringthelatterterm(from40.1%to56.7%).WhenCexaminingCprobableCfactorsCrelatingCtoCthisCincrease,ConlyCagingCwasCsigni.cant,CwithCnoCmeaningfulCdi.erenceregardingsex,presenceofdiabetesorhistoryofeyedoctorconsultationwithinthepreviousyear.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)35(11):1536.1539,C2018〕Keywords:コリネバクテリウム,レボフロキサシン,薬剤耐性,結膜.常在菌,周術期感染予防,糖尿病.Cory-nebacteriumsp.,levo.oxacin,drugresistancy,bacterialC.oraincul-de-sac,preventionofperioperativeperiodinfec-tion,diabetes.Cはじめに白内障術後眼内炎の起炎菌は術前結膜.分離菌と一致することが多く,その薬剤感受性を知ることは眼内炎予防策として重要である.フルオロキノロン系抗菌薬としてオフロキサシン(OFLX)がわが国で初めて上市されたのはC1987年であり,その後さまざまなフルオロキノロン点眼薬が登場している.グラム陽性菌,グラム陰性菌に広い抗菌スペクトルを有していることにより,周術期における結膜.の減菌を目的として単独投与されることが多い1).コリネバクテリウムはグラム陽性桿菌でヒトの皮膚,粘膜,腸内に存在し,結膜.の常在細菌叢として高頻度に認められ,その病原性は低いといわれてきたが,近年結膜炎,眼瞼結膜炎,術後眼内炎などを引き起こすことが報告されており2,3),かつコリネバクテリウムのフルオロキノロン系抗菌薬に対する耐性化が問題となっている4).今回,金沢医科大学病院においてC2005.2007年,2014.2016年の期間に術前患者より分離されたコリネバクテリウムついて,薬剤感受性の経年変化,耐性化率の推移について検討するとともに,耐性株が増加する因子として患者側の要因(年齢,性別,糖尿病診断歴,眼科受診歴)についても着目し,それによる耐性化増加の有無も比較したの〔別刷請求先〕神山幸浩:〒920-0293石川県河北郡内灘町大学C1-1金沢医科大学眼科学講座Reprintrequests:YukihiroKoyama,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KanazawaMedicalUniversity,1-1Daigaku,Uchinada,Kahoku,Ishikawa920-0293,JAPANC1536(88)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(88)C15360910-1810/18/\100/頁/JCOPYで報告する.CI対象および方法1.対象本研究は後方視的観察研究であり,2005年C1月.2007年12月のC3年間(前期群),およびC2014年C1月.2016年C6月のC2年半の間(後期群)に金沢医科大学病院(以下,当院)において術前検査でコリネバクテリウムが検出された患者を対象とした.患者数は,前期群C495名(男性C234名,女性C261名,平均年齢C74.2C±10.1歳)756眼,後期群C85名(男性C43名,女性C42名,平均年齢C77.9C±8.2歳)98眼であった.C2.方法患者カルテより情報を収集した.まず,細菌学的検査でコリネバクテリウムおよびその薬剤感受性について調査した.ちなみに当院での検査法は以下のとおりである.輸送培地(改良アミーズ半流動培地)のスワブを滅菌生理食塩水で湿らせ下結膜.内を拭い,検体を採取した.菌の同定は,増菌培養後のグラム染色でのグラム陽性桿菌の形態確認と,カタラーゼ試験陽性の有無で判定した.薬剤感受性はディスク法で検査し,当院施設基準に基づく阻止円直径値に照らし,感受性(susceptible,17Cmm以上),中間感受性(intermedi-ate,14.16Cmm),耐性(resistant,13Cmm以下)の判定をした.耐性,中間感受性を合わせて耐性率を算出した.当院検査部で採用されている薬剤(抗菌薬名と略号)は以下のとおりであるが,検査時期により若干種類が異なる.なお,上記の患者に対して併せて糖尿病罹患歴の有無および過去C1年以内の眼科受診歴の有無も調査した.統計解析にはCc2検定,多変量ロジスティック回帰分析を用い,解析ソフトはCSPSS(IBMSPSSStatistics,versionC24)を使用した.本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,金沢医科大学医学研究倫理審査委員会の許可を受けて行った(No.1288).C3.検討抗菌薬一覧アンピシリン(ABPC),アンピシリン/スルバクタム(ABPC/SBT),セファクロル(CCL),セフォタキシム(CTX),セフトリアキソン(CTRX),メロペネム(MEPM),ゲンタマイシン(GM),エリスロマイシン(EM),テトラサイクリン(TC),レボフロキサシン(LVFX),クロラムフェニコール(CP),ST合剤(ST).CII結果分離されたコリネバクテリウムの株数は前期群でC756株,後期群でC98株であったが,前期群,後期群ともに各C1株ずつ感受性試験が行えなかったため,薬剤感受性試験に供されたのはそれぞれC755株,97株となった.当院検査部で採用されている薬剤ごとの耐性率を図1に示す.薬剤感受性検査はC2014年C6月C1日にCCPが削除され,バンコマイシン(VCM)が追加されているため,後期群ではCCPについては4例と少数であった.前期群でのそれぞれの抗菌薬に対する耐性率(耐性+中間感受性)は,ABPC:4.2%,ABPC/SBT:0.5%,CCL:0.5%,CTX:1.1%,CTRX:1.1%,MEPM:0.1%,GM:6.9%,EM:52.4%,TC:1.5%,LVFX:40.1%,CP:27.7%,ST:12.3%であった.耐性率の高かったものはCEM(52.4%),LVFX(40.1%),CP(27.7%),ST(12.3%)であり,ペニシリン系およびセフェム系抗菌薬のほとんどに感受性が高かった.後期群ではCABPC:C4.1%,ABPC/SBT:0%,CCL:0%,CTX:0%,CTRX:0%,MEPM:0%,GM:8.2%,EM:63.9%,TC:0%,LVFX:56.7%,CP:75.0%,ST:11.3%,VCM:0%であった.耐性率が高かったものは前期群と同様EM(63.9%),LVFX(56.7%),CP(75.0%),ST(11.3%)であった一方,CCL,CTX,CTRXなどのセフェム系抗菌薬,MEPM,TC,VCMには耐性株はまったく認めなかった.EM,LVFX,CPの耐性率は後期群のほうが有意に高かった(Cc2検定,それぞれp<0.05,p<0.001,p<0.05).年度別にみたCLVFX耐性率を図2に示す.2005年C48.6%,2006年C36.0%,2007年C41.7%であり,前期群全体としては40.1%であったのに対し,後期群ではC56.7%と,有意に増加した(Cc2検定,p<0.05).前期,後期を通してC4つの因子(年齢,性別,糖尿病診断歴,眼科受診歴)およびCLVFX耐性率との関連を多変量ロジスティック回帰分析で解析したところ,年齢のみがリスク因子となった(表1).年齢がC1歳増加することによる調整オッズ比はC1.026(95%信頼区間:1.011.1.042,p=0.001)であった.たとえば,50歳に比べC70歳でのCLVFX耐性化のリスクは約C1.7倍になる.性別(男性),糖尿病診断歴,眼科受診歴の調整オッズ比はそれぞれC0.980(95%信頼区間:0.743.1.292,p=0.884),0.871(95%信頼区間:0.625.1.214,p=0.415),0.802(95%信頼区間:0.558.1.152,Cp=0.232)で,いずれも有意な関連はみられなかった.CIII考按白内障手術をはじめとする内眼手術における細菌性眼内炎の発症原因のほとんどは,術前の消毒により完全に除去されなかった眼瞼皮膚,睫毛,結膜の常在細菌が,手術操作に伴い眼内に侵入し増殖することによるといわれている1,5,6).周術期の感染予防目的として強力な殺菌作用と広い抗菌スペクトルをもつフルオロキノロン系抗菌薬が日常的に使用されているが,常在菌の一つであるコリネバクテリウムのキノロン耐性化の増加が近年問題となっている4).フルオロキノロン薬剤の作用機序は,DNAジャイレース,トポイソメラーゼIVの阻害によるものであり,これにより細胞の増殖を阻害するが,コリネバクテリウムにはCDNAジャイレースだけが(89)あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1537前期群100%■耐性(R)■中間(I)■感受性(S)100%80%80%60%60%40%20%40%0%20%0%48.6%36.0%41.7%56.7%2005年2006年2007年2014~2016年前期群後期群後期群100%80%60%40%20%42株0%■耐性(R)■中間(I)■感受性(S)■耐性(R)■中間(I)■感受性(S)■耐性(R)■感受性(S)図2年度別LVFX耐性率の推移および前期・後期別LVFX耐性率の比較図1薬剤感受性(前期群・後期群)前期群,後期群ともにペニシリン系,セフェム系,テトラサイクリン,バンコマイシンに対してはほぼすべて感受性であったが,ゲンタマイシン,ST合剤で少数耐性,エリスロマイシン,レボフロキサシン,クロラムフェニコールでの耐性率は高度であった.※略語:ABPC(アンピシリン),ABPC/SBT(アンピシリン/スルバクタム),CCL(セファクロル),CTX(セフォタキシム),CTRX(セフトリアキソン),MEPM(メロペネム),GM(ゲンタマイシン),EM(エリスロマイシン),TC(テトラサイクリン),LVFX(レボフロキサシン),CP(クロラムフェニコール),ST(ST合剤),VCM(バンコマイシン).存在することにより,このアミノ酸が変異して耐性メカニズムを獲得しやすいとされる7).今回の検討でも,コリネバクテリウムのCLVFXに対する耐性率は,2005年からのC3年間ではC40.1%,2014年からのC2年半ではC56.7%と有意に増加していたことにより,耐性率が年々増加している可能性が示唆された.フルオロキノロン系抗菌点眼薬の使用はC1987年のCOFLXに始まる.OFLXはラセミ体であり,薬理学的活性体であるCLVFX(50%)とその鏡像異性体であるデキストロフロキサシン(50%)を含んでいることにより,2000年よりCLVFX単独製剤である点眼薬が登場した.その抗菌活性はCOFLXのC2倍となる.OFLXについでCLVFXの薬剤耐性率に関してコリネバクテリウムを含む術前分離菌を検討した報告では,1995.1999年のCOFLX耐性率はC13.5%からC32.8%へと有意に増加,LVFX耐性率はC2000年でC14.5%,2002年にはC20.5%とやはり増加の傾向がみられている8,9).コリネバクテリウムのCLVFX耐性率については結膜炎を含めた前眼部感染症眼からの分離菌の検討(2003.2004年)でC57.1%10),同じ施設の白内障術前分離菌の検討ではC44.3%(2012.2013年)11)であった.術前患者の耐性率に関しては当院の検討結果と併せて鑑みると,2010年代になってもさらに増加傾向にあることが示唆されたが,感染症眼では耐性率がさ上段:LVFX耐性率の年度別比較を示す.2005,2006,2007年度におけるCLVFX耐性率と比較し,2014.2016年では高率に耐性化が増加した(56.7%).下段:前期群と後期群のCLVFX耐性率の比較を示す.前期群は40.1%,後期群はC56.7%と,有意に増加した(Cc2検定,p<0.05).表1リスク因子ごとの多変量ロジスティック回帰分析オッズ比95%信頼区間p値年齢C1.0261.011.C1.042C0.001性別(男性)C0.9800.743.C1.292C0.884糖尿病診断歴C0.8710.625.C1.214C0.415眼科受診歴C0.8020.558.C1.152C0.232Cらに高くなる可能性が考えられた.その理由の一つとして,感染症眼ではフルオロキノロンを中心とする抗菌薬がすでに投与されていることが考えられた.コリネバクテリウムはCLVFX以外ではCEMに対しても高率に耐性菌が存在し,しかも後期群で有意に増加していた(前期群:52.4%,後期群:63.9%).CPに対しても高率に耐性株がみられたが,後期群では検査薬の変更のためC4株のみの検討であることより,増加の可能性が疑われるにとどまった(前期群:27.7%,後期群:75.0%).フルオロキノロン以外にもコリネバクテリウムのCEM耐性率が高いことについては以前から報告されている9,10).今回,前期群,後期群を通してセフェム系薬剤が高い感受性を示したが,これもコリネバクテリウムのセフェム系薬剤に対する高い感受性,フルオロキノロン系薬剤に対する耐性傾向を述べた秦野らの報告4)と一致するものだった.リスク要因として,年齢,性別,糖尿病診断歴,眼科受診歴を選び,コリネバクテリウムのCLVFX耐性率との関係を検討した.性別,糖尿病診断歴,眼科受診歴のいずれにも有意な関連はみられず,唯一年齢のみが有意なリスク因子とな(90)った.既報でも,糖尿病患者においてフルオロキノロン耐性株を多く認めるものの有意でないことが示され10,11),また,80歳以上の群でCLVFX耐性化率が有意に上昇する報告11)がある.今回の結果もそれらと一致するものであった.糖尿病は易感染性が指摘される疾患であるが,コリネバクテリウム耐性化との関係はなく,また眼科受診により菌への接触リスク,抗菌薬投与による耐性化誘発の可能性が予測されたが,今回の結果では否定された結果となった.コリネバクテリウムの保菌リスクとしては,年齢,性別(男性),緑内障点眼薬の使用が独立した保菌リスク因子であるとする報告12)もあり,年齢が保菌リスクとともに耐性リスクを高める因子と考えられた.今回の検討時期はC2005年からのC3年間(前期群)とC2014年からのC2年半(後期群)であるが,このC10年余に分離されたコリネバクテリウムの株数を比較すると前期群のC755株から後期群のC97株へと減少している.この間に培養方法,同定方法,培養期間に変更はないが,眼科での全分離菌を対象とした当院中央検査室のデータでは前期群ではC30.40%を超えてコリネバクテリウムが分離され,後期群ではC10数%台であったことが,その原因と考えられた.分離率になぜそのような変動がみられたのか不明であるが,もともとコリネバクテリウム検出頻度は施設,検査時期により非常にばらつきが大きい13).2016年のCWattersらの同報告では,コリネバクテリウムを含めた主要細菌の分離率をC10編以上の論文を引用して示しておりコリネバクテリウムの比率はC1980.1990年代ではC40.60%以上であったが,2010年代ではC11%,7.6%と低下している13).本研究でも同様に,時代とともに宿主のコリネバクテリウム保菌率の低下していることが示された結果となったが,低下の理由として生活環境の変動とともに結膜.細菌叢に変化が生じた可能性が考えられた.内眼手術の大部分を占める白内障手術は高齢者に行うことが多い手術であることより,結膜.常在菌に対し適切な抗菌薬を選択し,周術期に投与することは術後眼内炎発症の一つの対策として重要である.抗菌薬としてフルオロキノロン系点眼薬が使用される頻度が高いが5),今回の検討結果ではコリネバクテリウムでは半数以上が耐性であった.しかも耐性率は経年的に有意に増加している.ブドウ球菌においてもメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(MRSE)ではC60.80%が耐性であることが判明している11).これらの結果は術前の薬剤感受性結果に基づいて周術期の抗菌薬を選択することの重要性を示すものである.当院ではほぼ全例に術前抗菌薬点眼としてモキシフロキサシン(MFLX)を用いているが,コリネバクテリウムがフルオロキノロン耐性である場合には,感受性のあるセフェム系薬剤を併用している.フルオロキノロン耐性化率はその使(91)用頻度と関連していることより,今後も次第に高率となっていく可能性があるが,上記に示した手順を確実に行うことがコリネバクテリウム関連の眼内炎発症予防に有用であると考える.本論文の要旨はC2017年第C54回日本眼感染症学会(大阪)にて発表した.文献1)矢口智恵美,佐々木香る,子島良平ほか:ガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの点眼による白内障周術期の減菌効果.あたらしい眼科C23:499-503,C20062)JosephCJ,CNirmalkarCK,CMathaiCACetal:ClinicalCfeatures,CmicrobiologicalCpro.leCandCtreatmentCoutcomeCofCpatientsCwithCorynebacteriumendophthalmitis:reviewofadecadefromCaCtertiaryCeyeCcareCcentreCinCsouthernCIndia.CBrJOphthalmolC100:189-194,C20163)井上幸次,大橋裕一,秦野寛ほか:前眼部・外眼部感染症における起炎菌判定:日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査(第一報).日眼会誌C115:C801-813,C20114)秦野寛,井上幸次,大橋裕一ほか:前眼部・外眼部感染症起炎菌の薬剤感受性日本眼感染症学会による眼感染症起炎菌・薬剤感受性多施設調査(第二報).日眼会誌C115:C814-824,C20115)片岡康志,佐々木香る,矢口智恵美ほか:白内障手術予定患者の結膜.内常在菌に対するガチフロキサシンおよびレボフロキサシンの抗菌力.あたらしい眼科C23:1062-1066,C20066)河原温,五十嵐羊羽,今野優:白内障手術術前患者の結膜.常在細菌叢の検討.臨眼C60:287-289,C20067)長谷川麻里子,江口洋:【眼感染症の治療-最近のトピックス-】細菌感染症コリネバクテリウム感染症「キノロン耐性との関係」.医学と薬学C71:2243-2247,C20148)KurokawaN,HayashiK,KonishiMetal:Increasingo.ox-acinCresistanceCofCbacterialC.oraCfromCconjunctivalCsacCofCpreoperativeophthalmicpatientsinJapan.JpnJOphthal-molC46:586-589,C20029)櫻井美晴,林康司,尾羽澤.実ほか:内眼手術術前患者の結膜.細菌叢のレボフロキサシン耐性率.あたらしい眼科C22:97-100,C200510)松尾洋子,柿丸晶子,宮崎大ほか:鳥取大学眼科における分離菌の薬剤感受性・患者背景に関する検討.臨眼C59:C886-890,C200511)大松寛,宮崎大,富長岳史ほか:白内障手術前患者における通常培養による結膜.内細菌検査.臨眼C68:637-643,C201412)HoshiCS,CHashidaCM,CUrabeK:RiskCfactorsCforCaerobicCbacterialconjunctivalC.orainpreoperativecataractpatients.Eye(Lond)C30:1439-1446,C201613)WattersCGA,CTurnbullCPR,CSwiftCSCetal:OcularCsurfaceCmicrobiomeCinCmeibomianCglandCdysfunction.CClinCExpCOphthalmolC45:105-111,C2017あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1539

BUT短縮タイプのドライアイ患者に対するムコスタ点眼液UD2%の有効性と安全性:実臨床下での解析結果

2018年11月30日 金曜日

《原著》あたらしい眼科35(11):1529.1535,2018cBUT短縮タイプのドライアイ患者に対するムコスタ点眼液UD2%の有効性と安全性:実臨床下での解析結果安田守良*1増成彰*1曽我綾華*1坪田一男*2大橋裕一*3木下茂*4*1大塚製薬株式会社ファーマコヴィジランス部*2慶應義塾大学医学部眼科学教室*3愛媛大学*4京都府立医科大学感覚器未来医療学CE.icacyandSafetyofRebamipideEyeDropsinPatientswithDryEyeSyndromeofShortBUTType.ResultsofRealWorldSettingsMoriyoshiYasuda1),AkiraMasunari1),AyakaSoga1),KazuoTsubota2),YuichiOhashi3)andShigeruKinoshita4)1)PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.Ltd,2)DepartmentofOphthalmology,KeioUniversitySchoolofMedicine,3)EhimeUniversity,4)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineC2016年に新しいドライアイ診断基準が公表されたことから,角結膜上皮障害のない涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)短縮タイプのドライアイ患者に対するレバミピド点眼液の有効性と安全性を,実臨床下で実施した製造販売後調査を用いて検討した.登録患者からCBUT5秒以下の患者を選択し,さらに生体染色スコアにより分類したところ,角結膜上皮障害なしまたは軽度のドライアイ患者がC291名,明らかな角結膜上皮障害をもつ患者がC411名であった.これらC2群の患者についてレバミピド点眼液の有効性を比較したところ,点眼前の角結膜上皮障害の程度にかかわらず,BUTの改善,自覚症状の改善が認められた.さらにコンタクトレンズ装用患者,ドライアイの原因が眼手術であった患者のサブグループでもCBUT,自覚症状の改善が認められた.以上の結果より,BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度のドライアイ患者に対するレバミピド点眼液の実臨床下の有効性,安全性を確認した.CInresponsetopublicationofthenewDiagnosticCriteriaforDryEye,weinvestigatedthee.icacyandsafetyofrebamipideophthalmicsuspensioninpatientswithshortBUTandnoormildcorneal/conjunctivalepithelialdis-ordersusingtheresultsofpost-marketingsurveillanceconductedinJapan.AmongallenrolledpatientswithBUTof5secondsorless,411(44.9%)hadcorneal/conjunctivaldisorderand291Cdidnot.Thee.ectivenessofrebamip-ideregardingBUTanddryeyesymptomswerecomparablebetweenthetwogroups.Moreover,inasubgroupofpatientswithcontactlenses,dryeyecausedbyophthalmicsurgeryalsohadsigni.cantimprovementinBUTandtheseverityof.vesubjectivesymptoms.Theseresultsdemonstratedthee.icacyandsafetyinclinicalpracticeofrebamipideophthalmicsuspensionindryeyepatientswithnoormildcorneal/conjunctivaldisorders.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)C35(11):1529.1535,2018〕Keywords:ドライアイ,レバミピド,コンタクトレンズ,眼手術.dryeye,rebamipide,contactlens,ophthalmicsurgery.Cはじめにレバミピド点眼液(商品名:ムコスタ点眼液CUD2%,大塚製薬)はムチン産生促進作用をもつ薬剤で,ヒアルロン酸点眼液との比較試験でその有効性と安全性が証明され,2012年にドライアイに対する治療薬として発売された1).また,最近では抗炎症作用をもつことも報告されている2).さらに,筆者らは実臨床における有効性と安全性の結果をC916名の患者が参加した製造販売後調査の結果としてすでに公表してきた3).ドライアイの診断基準は,2006年に公表された「ドライ〔別刷請求先〕安田守良:〒540-0021大阪府大阪市中央区大手通C3-2-27大塚製薬株式会社ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:MoriyoshiYasuda,Ph.D.,OtsukaPharmaceuticalCo.Ltd.3-2-27,Otedori,Chuo-kuOsaka540-0021,JAPANC0910-1810/18/\100/頁/JCOPY(81)C1529アイ診断基準」においては自覚症状,涙液異常,角結膜上皮障害の三つが併存していることとされていた4).レバミピド点眼液の第CIII相臨床試験はその診断基準を加味し,角膜上皮障害の指標として生体染色スコアC4以上(15点満点)を対象患者として実施し,その結果を用いてレバミピド点眼液は承認されている.しかし,2016年の「ドライアイ診断基準」の改訂により角結膜上皮障害は必須ではなくなり,涙液層破壊時間(break-uptime:BUT)短縮タイプのドライアイ患者も含むと定義された5).そこでレバミピド点眼液で治療を行った製造販売後調査結果を見直したところ,916例全例がなんらかの自覚症状を有しており,BUT5秒超の患者はわずかC36名(3.9%)であった.したがって,ほぼ全例が新しい「ドライアイ診断基準」に該当することが判明した.さらにCBUT5秒以下の患者群を明らかな角結膜上皮障害が認められる患者と,角結膜上皮障害がないまたは軽度な患者に分類したところ,前者はC44.9%(411/916名),後者はC31.8%(291/916名)であった.角結膜上皮障害がないまたは軽度なドライアイ患者は第CIII相臨床試験では除外されていた患者群であったことから,これら患者に対するレバミピド点眼液の有効性と安全性を解析することにした.また,コンタクトレンズ(contactlens:CL)装用はドライアイのリスクファクターであることが知られている.レバミピド点眼液は防腐剤を含まない製剤であり,CL装用者にも広く使用されている.また,眼手術もドライアイのリスクファクターであるとされている.そこでCCL装用者とドライアイの原因が眼手術と報告されていた患者のサブグループ解析も実施したので報告する.CI対象および方法2016年に報告した製造販売後調査3)と同一のデータを新たに解析した.すなわち,合計C916名の製造販売後データを用いて,BUTがC5秒以下(2016年の診断基準によるドライアイ)とC5秒超または不明のC2群に分け,5秒以下の患者群をさらに生体染色スコアがC0,C1,2の患者群とC3以上の患者群のC2群に分け,患者背景を比較した.このときC3以上とした理由はC2006年の「ドライアイ診断基準」を参考にした.患者背景の比較には連続変数はCt検定,カテゴリー変数ではFisherの直接確率法を用いた.また,BUTの推移について投与開始からC52週までの平均値の推移を集計解析した.ドライアイの自覚症状としては調査したC5項目(異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視)それぞれについて(0:症状なし,1:弱い症状あり,2:中くらいの症状あり,3:強い症状あり,4:非常に強い症状あり)のC5段階で患者からの聞き取りにより評価した.これらのスコアの推移を生体染色スコア2以下の患者群とC3以上の患者群で投与開始からC52週までその平均値を集計した.なお,各自覚症状の解析では,投与開始時にスコアがC1以上である患者を解析対象とした.また,生体染色スコアC2以下の患者群からCCL装用者,ドライアイの原因が眼手術と報告されていた患者を抽出してサブグループとした.BUT,各自覚症状の投与開始時からの推移については,症例数が少ないことから最終観察時と比較して投与前後のスコアを比較した.上記すべての解析で,開始時と投与後の比較には対応のあるCt検定を行った.CII結果データを収集した全体C916名中CBUT5秒以下(2016年診断基準によるドライアイ)はC708名,5秒超または不明は208名であった.BUT5秒以下の患者群をさらに生体染色スコアで分類したところ,スコアC2以下はC291名(全体の31.8%),スコアC3以上はC411名(全体のC44.9%),であった(図1).C1.患.者.背.景BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度な患者群と,BUT短縮かつ明らかな角結膜上皮障害をもつ患者について患者背景を比較した.その結果,角結膜上皮障害なしまたは軽度の患者群では,医師が判定した重症度において軽度の患者が多く(64%vs.24%,p<0.0001),BUTが長かった(2.9秒vs.2.7秒,p=0.0078).また,合併症としてはアレルギー性結膜炎の割合が高く(15.5%Cvs.8.3%,p=0.0035),Sjogren症候群の割合が低かった(1.7%vs.8.8%,p<0.0001)(表1).レバミピド点眼液投与前の自覚症状をもつ患者割合と自覚症状スコアの平均値では,染色スコアC2以下の患者群では,調査したC5項目の自覚症状すべてで症状のある割合が低かった(表2a).また,染色スコアC2以下の患者群では,異物感,乾燥感のスコアの平均値が低かった(表2b).C2.BUT・自覚症状の推移角結膜上皮障害の程度別にC2群に分類した患者群について,レバミピド点眼液投与後のCBUTの推移を示した(図2).角結膜障害なしまたは軽度な患者群で,開始時のCBUTはC3.0C±1.3秒であった.4週後にはC4.0C±2.1秒と有意な増加を示し(p<0.001),52週までのすべての観察時点で開始時と比べて有意な増加を示した.最終観察時点の平均値はC4.3C±2.2秒であった.角結膜障害が明らかな患者群(スコアC3以上)では,開始時C2.7C±1.3秒,4週後C3.9C±2.0秒と有意な改善を示し(p<0.001),52週までのすべての観察時点で開始時と比べて有意な増加を示した.最終観察時点の平均値はC4.5C±2.2秒であった.どちらの患者群でも開始時に比べてC4週後以降は有意な改善を示し,レバミピド点眼液の有効性が確認できた.患者ごとに投与前と最終評価時を比較すると,角結膜障害なしまたは軽度の患者群でCBUT改善C55%,変化なし34%,悪化C11%,角結膜障害が明らかな患者群でCBUT改善76%,変化なしC21%,悪化C3.7%であった.図3に角結膜上図1症例構成表1患者背景の比較全体Cn=916BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)(n=291)BUT短縮かつ角結膜上皮障害(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)(n=411)p値性別:女性の割合(%)C83.8C83.9C86.6C0.32861)年齢:平均値(年)C63±16C62±17C63±16C0.66412)重症度(医師判定)軽度(%)中等度(%)重症(%)C41C51C8C64C34C2C24C64C11<C0.0001***C1)BUT(秒)C3.0±1.6C2.9±1.3C2.7±1.3C0.0078**2)染色スコアの平均値C3.1±2.3C0.98±0.82C4.67±1.64<C0.0001***C2)ドライアイの原因環境因子(%)合併症(%)眼手術(%)コンタクトレンズ(%)薬剤(%)その他(%)C44.5C12.2C9.2C5.6C3.3C36.7C46.7C11.0C10.7C7.9C3.1C32.7C47.5C13.4C7.5C4.9C2.9C36.5C0.87821)C0.35541)C0.17701)C0.11091)C1.00001)C0.29741)合併症白内障(%)緑内障(%)アレルギー性結膜炎(%)結膜炎(%)Sjogren症候群(%)C17.4C12.0C11.6C5.8C5.8C15.8C8.3C15.5C7.9C1.7C16.3C10.2C8.3C6.8C8.8C0.91711)C0.43171)C0.0035**1)C0.65841)<C0.0001***C1)コンタクトレンズあり(%)C6.9C9.3C6.6C0.19611)前治療薬ヒアルロン酸(%)ジクアホソルCNa点眼(%)ステロイド(%)人工涙液(%)C12.4C13.2C4.7C1.3C11.7C16.2C4.8C1.4C13.9C13.1C3.9C1.2C0.42611)C0.27621)C0.57411)C1.00001)1)Fisherの正確検定,2)t検定.表2a投与前自覚症状の比較BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)BUT短縮かつ角結膜上皮障害中等度以上(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)p値異物感75.4%(C211/280名)89.4%(C361/404名)<C0.00011)乾燥感77.8%(C217/279名)90.6%(C366/404名)<C0.00011)羞明25.2%(69/274名)54.7%(C217/397名)<C0.00011)眼痛45.0%(C125/278名)60.8%(C245/403名)<C0.00011)霧視25.0%(69/276名)54.0%(C216/400名)<C0.00011)1)Fisherの正確検定.表2b投与前自覚症状のスコアの比較BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)BUT短縮かつ角結膜上皮障害中等度以上(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)p値異物感C1.78±0.86(C211名)C2.10±0.95(C361名)<C0.00012)乾燥感C1.91±0.91(C217名)C2.22±0.97(C366名)C0.00022)羞明C1.65±0.84(69名)C1.80±0.87(C217名)C0.21122)眼痛C1.70±0.90(C125名)C1.85±0.94(C245名)C0.13392)霧視C1.59±0.79(69名)C1.63±0.91(C216名)C0.74202)2)t検定.BUT5秒以下かつ染色スコア2以下BUT5秒以下かつ染色スコア3以上9.08.07.06.05.04.03.02.01.0BUT(秒)スコアC2以下Cn=291C146C93102C75C58C51C68C44C47C37C32C31C44249スコアC3以上Cn=411C176133138119C72C79C91C80C80C66C71C66C64325図2BUTの推移(染色スコア別)皮障害の程度別にC2群に分類した患者群について,レバミピ時と最終観察時点で比較した.24名でCBUTの投与前後の比ド点眼液投与後の自覚症状の平均値の推移を示した.すべて較が可能であった.BUTは開始時C2.9C±1.1秒からC4.0C±1.8の自覚症状について角結膜上皮障害の程度にかかわらず有意秒へ有意な改善が認められた(p<0.01).また,自覚症状C5な改善が認められた.項目について開始時と最終観察時のスコアを比較したとこC3.CL装用者の結果ろ,すべての自覚症状で開始時と比べて有意な改善が認めらBUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度な患者C291れた(すべてp<0.01)(図4).名のうちCCL装用者C27名を抽出し,BUT,自覚症状を開始異物感乾燥感羞明染色スコア2以下染色スコア3以上染色スコア2以下染色スコア3以上染色スコア2以下染色スコア3以上2.52.52.50.50.50.50.00.00.0スコアスコア2.02.02.0スコア1.51.51.51.01.01.0開始時481216202428323640444852開始時481216202428323640444852開始時481216202428323640444852眼痛霧視染色スコア2以下染色スコア3以上染色スコア2以下染色スコア3以上2.52.50.50.50.00.02.02.0スコアスコア1.51.51.01.0開始時481216202428323640444852開始時481216202428323640444852図3自覚症状の推移(生体染色スコア別)BUT(n=24)自覚症状■投与前■最終観察時■投与前■最終観察時6.03.53.05.02.54.0BUT(秒)2.0スコア3.01.52.01.01.00.50.00.010)=n(霧視16)=n(眼痛11)=n(羞明22)=n(21)乾燥感=(n異物感図4コンタクトレンズ装用者のBUTと自覚症状の投与前と最終観察時の比較4.眼手術既往患者の結果秒からC3.4C±1.6秒へ改善傾向が認められたが,統計学的有BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度な患者C291意差はなかった(Cp=0.0761).自覚症状C5項目についても開名のうち眼手術がドライアイの原因であった患者C31名を抽始時と最終観察時のスコアを比較した結果,異物感,乾燥出し,BCUT,自覚症状を開始時と最終観察時点で比較した.感,眼痛は投与開始時に比べて有意な改善を示した(いずれ24名で投与前後のCBUTが比較可能であり,開始時C2.9C±1.4もp<0C.01).一方で,羞明,霧視ではスコアの改善傾向は4.02.05.02.5BUT(秒)3.01.52.01.01.00.50.00.0図5ドライアイの原因が眼手術であった患者のBUTと自覚症状の投与前と最終観察時の比較表3おもな副作用発現率副作用名BUT短縮かつ角結膜上皮障害なしまたは軽度(BUTC5秒以下,染色スコアC2以下)BUT短縮かつ角結膜上皮障害中等度以上(BUTC5秒以下,染色スコアC3以上)味覚異常9.6%(C28/291名)9.5%(C39/411名)霧視3.8%(C11/291名)2.9%(C12/411名)アレルギー性結膜炎0.7%(2/291名)0.7%(3/411名)眼脂0.7%(2/291名)0.0%(0/411名)眼痛0.7%(2/291名)0.7%(3/411名)眼そう痒症0.7%(2/291名)0.2%(1/411名)MedDRA/Jversion20.0で集計.認められたものの有意ではなかった(図5).C5.副作用表3にC0.5%以上報告された副作用を発現率順に示した.もっとも多く報告された副作用は本剤の物性である苦味に起因すると考えられる味覚異常であり,染色スコアC2以下の患者,3以上の患者でそれぞれC9.6%,9.5%であった.次に多く報告された事象は霧視であり,それぞれC3.8%,2.9%であった.なお,副作用の霧視はドライアイの症状としての霧視とは区別して評価した.これらの発現率は製造販売後調査データ全体(916名)の発現率,味覚異常C9.3%(85/916名),霧視C3.2%(29/916名)とほぼ同じであり,差異は認められなかった.CIII考察2016年に新しい「ドライアイ診断基準」が公表されたことから,レバミピド点眼液の製造販売後調査結果を再解析したところ,916例の全例がなんらかの自覚症状を有していた.そしてCBUT5秒超であった患者割合はわずかC3.9%であり,ほとんどの患者がCBUT5秒以下の患者であったと推測された.すなわち,このC916名ほぼ全員が,新しい「ドライアイ診断基準」ではドライアイと確定診断されると考えられる.レバミピド点眼液の承認申請に用いた第CIII相試験では,フルオレセイン染色スコアがC4以上(15点満点)の患者を対象としていた.そのため,角結膜上皮障害がないまたは染色スコアが低い患者に対するレバミピド点眼の有効性・安全性は確認されていなかった.今回,製造販売後調査データから,BUT短縮例のうち,角結膜上皮障害がないまたは軽度な患者と明らかに角結膜上皮障害がある患者の患者背景,有効性を比較した.患者背景の比較から角結膜上皮障害がないまたは軽度な患者では医師判定の重症度が低く,アレルギー性結膜炎の割合が高いという特徴が見いだされた.これは戸田らの報告と一致していた6).有効性の指標としてCBUTの改善を比較したところ,角結膜上皮障害の程度にかかわらずレバミピド点眼液の効果を確認することができた.同様にC5項目の自覚症状についても二つの患者群でともに改善を確認することができた.これらの結果から,レバミピド点眼液は角結膜上皮障害の程度にかかわらず有効性を示すと考えられた.サブグループとしてCCL装用患者の解析も実施した.レバミピド点眼液は防腐剤を含まないユニットドーズ点眼薬であり,防腐剤による眼表面上皮への細胞損傷の可能性が無視できる.今回,筆者らはCCL装用患者でCBUT,自覚症状の改善を確認することができた.CL装用者に対するレバミピド点眼液の有効性については人工涙液との比較でコントラスト感度,BUT,結膜上皮障害スコアが有意に改善することを浅野らが報告している7).今回は比較対象薬がない検討ではあるが,さまざまな治療薬が使用されている実臨床下で開始時と比較してレバミピド点眼液の有効性が示されたことには意義があると考えられる.また,サブグループとして眼手術がドライアイの原因である患者の解析を行ったところ,自覚症状のうち乾燥感,異物感,眼痛で投与後に有意な改善を示した.BUTおよび羞明,霧視という自覚症状では有意傾向を示すものの統計学的有意差が認められなかった.今後,手術の種類や時期などについて詳細に解析,検討する必要がある.なお,副作用の発現状況においても染色スコアC2以下の患者群と染色スコアC3以上の患者群で発現率に大きな違いは認められなかった.副作用のうち味覚異常(苦味)は本剤が鼻涙管を経由して鼻咽頭へ流れ込むこと,霧視は本剤が懸濁製剤であることに起因すると考えられるが,いずれも一過性の事象である.以上,実臨床データを用いた解析から,BUT短縮かつ角結膜上皮障害がなしまたは軽度なドライアイ患者に対しても,レバミピド点眼液の有効性と安全性が示されていることを確認した.謝辞:本報告にあたり,調査にご協力いただいた先生方に厚くお礼申し上げます.また,統計解析を実施していただきましたエイツーヘルスケア株式会社竹田眞様に感謝いたします.文献1)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:ArandomizedmulticenterCphaseC3studyCcomparing2%Crebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreat-mentofdryeye.OphthalmologyC120:1158-1165,C20132)TanakaH,FukudaK,IshidaWetal:Rebamipideincreas-esCbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierfunctionandattenuatesTNFa-inducedbarrierdisruptionandcytokineexpressioninhumancornealepithelialcells.BrJOphthalmolC97:912-916,C20133)増成彰,安田守良,曽我綾華ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタ点眼液CUD2%)の有効性と安全性―製造販売後調査結果─,あたらしい眼科33:101-107,C20164)島崎潤;ドライアイ研究会:2006年ドライアイ診断基準,あたらしい眼科24:181-184,C20075)島﨑潤,横井則彦,渡辺仁ほか;ドライアイ研究会:日本のドライアイの定義と診断基準の改訂(2016年版).あたらしい眼科34:309-313,C20176)TodaCI,CShimazakiCJ,CTsubotaK:DryCeyeCwithConlyCde-creasedCtearCbreak-upCtimeCisCsometimesCassociatedCwithCallergicconjunctivitis.OphthalmologyC102:302-309,C19957)浅野宏規,平岡孝浩,大鹿哲郎:コンタクトレンズ装用眼におけるレバミピド点眼の安全性と有効性.眼臨紀8:155-157,C2015C***

基礎研究コラム 18.緑内障による中枢神経障害について

2018年11月30日 金曜日

緑内障による中枢神経障害について緑内障による中枢神経障害緑内障は,眼球の眼圧が上昇することにより眼球に視神経障害が生じ,その結果として視野障害をきたすことが知られていますが,日本人では,眼圧が正常で緑内障性の視神経障害をきたす正常眼圧緑内障が緑内障患者全体のC70%程度を占めています1).このことから,眼圧以外の因子の検索の必要度はきわめて高いと考えられます.最近では,緑内障は視神経の障害だけではなく,より高次の脳中枢の外側膝状体,上丘や視皮質まで障害されると報告されています.しかしながら実験動物として一般的なマウス,ラットでは脳中枢神経系が未発達であるため詳細な解析が行えず,ヒトやサルで解析を行うしかありませんが,これまでに詳細な検討はなされていません2).実験動物としてのフェレットは,マウスではC5%程度しか非交叉性神経線維がないのに対し,35%程度の非交叉性神経線維が存在するため,緑内障による中枢神経障害をより容易に解析することができます.欧米では実験動物としての社会的なコンセンサスが得られていますが,これまで眼科疾患への応用はありませんでした.しかし,高度な脳中枢をもつメリットを生かせることから,筆者らはファレットを実験動物として用い,世界で初めて緑内障モデルを作製することに成功しました3).フェレット高眼圧モデルを用いた視覚路の検討フェレットの結膜を採取し培養を行い,con.uentとなった結膜培養細胞を前房内に注入すると,結膜細胞が隅角で増殖して隅角閉塞を起こし,閉塞隅角緑内障を発症させること藤代貴志東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学ができました3).図1に示すように,緑内障となった眼球から投射する中枢神経である外側膝状体と上丘で色素の減弱がみられ,視神経だけでなく,外側膝状体,上丘における神経障害をフェレットにおいて証明することができました.さらにこれまでサル,ヒトで解析がむずかしかったCKonio細胞の障害も,フェレットでは外側膝状体の構造がサル,ヒトと異なることから容易に解析できるようになりました.今後の展望今後は外側膝状体,上丘だけでなく,より高次の視皮質の障害を詳しく検討することで,緑内障の中枢神経障害を視覚路の中枢神経全般にわたって詳細に解析できます.これらの神経細胞の障害のメカニズムの解明を進めることで,緑内障での神経障害抑制の手がかりをつかめる可能性があります.そしてこれらの知見から,これまで眼圧下降だけが唯一の選択肢であった緑内障治療において,中枢神経の保護をターゲットとする異なったアプローチによる新しい治療法の開発が期待できます.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofpri-maryCopen-angleCglaucomaCinJapanese:theCTajimiCStudy.OphthalmologyC111:1641-1648,C20042)YucelYH,ZhangQ,WeinrebRNetal:E.ectsofretinalganglioncelllossonmagno-,parvo-,koniocellularpath-waysinthelateralgeniculatenucleusandvisualcortexinglaucoma.ProgRetinEyeResC22:465-481,C20033)FujishiroCT,CKawasakiCH,CAiharaCMCetal:EstablishmentCofCanCexperimentalCferretCocularChypertensionCmodelCforCtheCanalysisCofCcentralCvisualCpathwayCdamage.CSciCRepC4:6501,C2014図1右眼を高眼圧にしたフェレットの脳幹写真LGN:外側膝状体,SC:上丘,OH:高眼圧.左側:Normalフェレットの色素の分布.右眼に赤色素,左眼に緑色素を注入した.中枢神経では,交叉するため,左のCLGN,SCには赤色素が投射さて,右のCLGN,SCには緑色素が投射される.両側ともに色素の減弱はなく,正常に投射が行われている.右側:右眼を緑内障にしたフェレットの色素の分布.Normalフェレットと同様に右眼に赤色素,左眼に緑色素を注入した.右眼から投射される左のCLGN,SCにおいて赤色素の減弱がみられる一方で,左眼から投射される右のCLGN,SCにおいて緑色素はNormalフェレットと同様に投射され,減弱はみられない.以上から,眼球の緑内障の障害が高次の中枢であるCLGN,SCまで及んでいることが確認できた.(71)あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C15190910-1810/18/\100/頁/JCOPY

硝子体手術のワンポイントアドバイス 186.星状硝子体症を伴う黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)

2018年11月30日 金曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載186186星状硝子体症を伴う黄斑円孔に対する硝子体手術(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●はじめに星状硝子体症(asteroidhyalosis:AH)を伴う症例は後部硝子体未.離眼が多く,網膜硝子体癒着が強固で後部硝子体.離(posteriorvitreousdetachment:PVD)作製がむずかしいことが多い.このような解剖学的特徴のため,AHを伴う増殖糖尿病網膜症や裂孔原性網膜.離(retinaldetachment:RD)などでは,硝子体手術の難易度が高いことを本シリーズでも紹介した1,2).AH眼に生じる黄斑合併症としては黄斑浮腫や黄斑上膜などが多く,黄斑円孔(macularhole:MH)はまれである.筆者らは以前にAHを伴うMHを2例経験し,同様に網膜硝子体癒着が強固で,人工的PVD作製時には注意を要することを報告した3).●症例症例1は67歳,女性.中心窩周囲のPVD(perifovealPVD)は生じており(図1a),後極部の人工的PVD作製は容易であった(図1b)が,中間周辺部からは網膜硝子体癒着が面状に強固で,人工的PVD拡大時に下方中間周辺部に医原性裂孔を形成した(図1c).眼内光凝固を施行し術後にRDの発症は認めなかった.症例2は74歳,男性.症例1と同様にperifovealPVDは生じていた(図2a)が,中間周辺部からは網膜硝子体癒着が面状に強固で,人工的PVD作製時に中間周辺部に複数個の医原性裂孔を形成し,術中にRDが生じた.眼内光凝固とガスタンポナーデを施行したが,術後にRDが再発し,複数回の再手術を要した(図2b).●硝子体手術時の注意点AHを伴うMHは,通常のMHと同様にperifovealPVDによって生じるものと考えられる.よって黄斑円孔周囲の硝子体や内境界膜の処理は通常のように問題な図1症例1の術前,術中所見術前のOCTではperifovealPVDが認められ(a),黄斑円孔周囲の人工的PVD作成は容易であったが(b),中間周辺部からは網膜硝子体癒着が強固であった(c).(文献3より引用)図2症例2の術前,術後所見症例1と同様に術前のOCTではperifovealPVDが認められた(a)が,中間周辺部からは網膜硝子体癒着が強固で,人工的PVD作製時に複数の医原性裂孔を形成した(b).(文献3より引用)く施行できることが多いが,中間周辺部からは網膜硝子体癒着が強固で,不用意な硝子体牽引は医原性裂孔形成のリスクが高くなる.人工的PVD作製時は網膜硝子体癒着の境界部位の網膜が線状に挙上される所見が全周で観察されることが多いので,網膜が過度に挙上され,医原性裂孔形成のリスクが高くなると判断された場合には,それ以上の人工的PVD拡大は控えるべきである.文献1)池田恒彦:硝子体手術のワンポイントアドバイス(93)星状硝子体症を伴う増殖糖尿病網膜症の硝子体手術(上級編).あたらしい眼科28:249,20112)池田恒彦:硝子体手術のワンポイントアドバイス(180)星状硝子体症を伴う網膜.離(中級編).あたらしい眼科35:657,20183)KitagakiT,SuzukiH,KohmotoRetal:Idiopathicmacu-larholewithasteroidhyalosis:Twocasereports.Medi-cine97:e11243,2018(69)あたらしい眼科Vol.35,No.11,201815170910-1810/18/\100/頁/JCOPY

眼瞼・結膜:眼瞼ヘルペス

2018年11月30日 金曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人福田昌彦44.眼瞼ヘルペス近畿大学医学部眼科学教室眼瞼ヘルペスの原因は,単純ヘルペスウイルスと水痘・帯状ヘルペスウイルスの2種類がある.両者は似ているところもあるので,しっかり鑑別する必要がある.また,単純ヘルペスがアトピー性皮膚炎に合併すると,広範囲に皮疹を伴うKaposi水痘様発疹症となる.ウイルス性眼瞼炎は結膜炎を合併することも多いので,そちらにも留意する必要がある.●はじめに眼瞼ヘルペスは,単純ヘルペスウイルス(HSV)の初感染,再活性化時,あるいは水痘・帯状ヘルペスウイルス(VZV)の再活性化時(眼部帯状ヘルペス)に発症する.HSVの場合,アトピー性皮膚炎があると皮疹が眼周囲に広範囲に拡大して非常に重症化することがあり,Kaposi水痘様発疹症とよばれ,眼部帯状ヘルペスとの鑑別がむずかしくなるケースもある.●単純ヘルペスウイルス眼瞼炎HSVの初感染,再活性化時に眼周囲にできる眼瞼の皮疹である.頻度としては多いほうではないが,特徴的な所見に注意しておく必要がある.小児の角膜ヘルペス患者は眼瞼ヘルペスを頻回に起こしている場合もあるので,問診上注意が必要である.皮疹の特徴はわずかな発赤として始まり,その上に中央が臍のようにくぼんだ小水疱が集まって発症する.ピリピリした軽度の疼痛を伴い,眼瞼は腫脹,発赤する.上下眼瞼に広がることが多い.初感染,再活性化を問わず,眼瞼炎は片側性の流行性角結膜炎様の強い濾胞性結膜炎を伴うこともある.アトピー性皮膚炎のある患児では皮膚のバリア機能が弱く,皮膚病変に沿って感染が拡大して両眼周囲から顔面全体に広がり,Kaposi水痘様発疹症とよばれる(図1).皮疹は7.14日で痂疲化する.感染のメカニズムへの理解は重要である.初感染は不顕性感染が多く,HSVは三叉神経の第一枝領域に潜伏感染する.潜伏感染ウイルスは発熱,紫外線暴露,ストレス,過労などがきっかけで再活性化する.感染したウイルスの病原性の強弱と個体の免疫力の強弱が発症に関与すると考えられる.診断はHSV-1の証明が必要である.水疱内容から塗(67)0910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1Kaposi水痘様発疹症両眼周囲にHSV眼瞼炎を認める.抹標本を作製し,モノクローナル抗体を用いた蛍光抗体法を行う.ウイルス分離培養は普通の施設ではむずかしい.血清学的診断は発症2週間後のIgGおよびIgMの抗体価を測定する.IgG抗体価は上昇せず,IgM抗体価だけが上昇した場合は初感染と診断できる.治療は抗ヘルペスウイルス薬の内服が中心となる.バラシクロビル,ファムシクロビルのいずれかを5日間投与する.外用薬は皮膚用の5%アシクロビル軟膏が保険適用であるが,眼周囲には使いにくいので,眼科用の3%アシクロビル眼軟膏を2,3回眼瞼に塗布する.ただしこちらは眼瞼ヘルペスへの保険適用はない.●水痘・帯状ヘルペスウイルス眼瞼炎VZVの初感染は水痘であるので,眼周囲に特徴的な眼瞼炎を呈することはない.VZV眼瞼炎は眼部帯状ヘルペスの三叉神経第一枝領域の皮疹に伴う眼瞼炎である.神経痛様の痛みが先行,または同時に発疹を生じる.発疹は片側性,不連続の帯状に分布する.はじめはあたらしい眼科Vol.35,No.11,20181515図2眼部帯状ヘルペス鼻尖や鼻背部に皮疹があり,Hutchinson徴候が認められる.紅斑,ついで赤い丘疹,小水疱,出血性の膿疱と変化し,痂疲を伴い瘢痕治癒する.経過はほぼ2週間である.眼瞼炎を伴った場合,眼瞼の発赤,腫脹が強く,流涙,羞明もある.軽度の結膜炎を合併することが多く,角膜炎,虹彩炎を伴うこともある.HSVは頻繁に再発する例があるが,VZVの再発は通常1回のみとされている.感染メカニズムは,初感染で水痘を発症したVZVは神経節の外套細胞に潜伏し,なんらかの誘因でウイルスの再活性化が起こり,帯状ヘルペスとして再発する.眼瞼炎となるのは三叉神経第一枝領域に再発した場合である.とくに鼻背から鼻尖部に皮疹を認めた場合,眼合併症の頻度が高くなる(図2).これは三叉神経第一枝からの分枝である鼻毛様神経が角膜,強膜,虹彩,毛様体とともに鼻背にも分布しているためで,これをHutchin-son徴候という.診断はHSV-1同様,水疱内容液からの免疫組織化学でVZV抗原が陽性ならば確定診断できる.補体結合反応を用いて測定したVZVの抗体価は,健常人ではほとんどの場合8倍以下を示す.眼部帯状ヘルペス発症後1週間目から16倍以上に上昇し,6カ月間は継続するとされているので,これを参考とすることも可能である.眼部帯状ヘルペスの治療は多くは皮膚科で行われる.皮膚科領域においては,遅くとも皮疹発現後5日以内に抗ウイルス薬による治療を開始することが皮疹の治癒,および帯状ヘルペス後疼痛に対して有効とされている.重症例では入院,アシクロビルの点滴静注も行われる.多くの場合はバラシクロビル,ファムシクロビルいずれ1516あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018かを7日間投与する.HSV-1と比較すると,量は倍で期間は2日長いことになる.●Kaposi水痘様発疹症Kaposi水痘様発疹症はHSVがおもにアトピー患者の皮膚に感染することにより発症する.顔が好発部位であり,乳幼児に多く発症するが,成人にもときに発症する.感染はアトピー性皮膚炎の皮膚病変に沿って広がるので,顔面以外に体幹にも及ぶことがある.前駆症状として感冒様症状や発熱などが多い.中心のくぼんだ小水疱が生じ,まもなく融合し,膿疱,出血性びらん,血痂などが混在するようになる.この状態はあたかも既存の湿疹が悪化したようにみえる.病変は一般に皮膚表層に限局している.経過は2週間ほどで軽快することが多いが,ときに予後不良のことがある.診断,治療はHSV眼瞼炎に準じるが,重症例が多いので皮膚科で入院,点滴治療になることが多い.眼合併症の精査のために眼科対診となることが多い.自験例では眼合併症は50%で,結膜炎は39%,角膜炎は27%,そのうち樹枝状角膜炎は14%であった.HSVの樹枝状角膜炎は通常は片眼性であるが,Kaposi水痘様発疹症に関しては両眼性に認められることがあるのが特徴である.眼合併症を眼部帯状ヘルペスと比較すると,Kaposi水痘様発疹症は頻度,重症度ともにやや少ないといえる.●おわりに眼瞼ヘルペスは結膜炎,角膜炎と密接に関連している.眼周囲に広範囲の皮疹をみた場合は,VZV眼瞼炎かKaposi水痘様発疹症かの鑑別が必要である.また,アレルギー性の眼瞼炎と間違い,ステロイド眼軟膏を処方したりしないように知識の整理が重要である.文献1)内田幸男:水痘・帯状ヘルペスウイルス感染症.眼とヘルペス(真鍋禮三編),p42-51,医学書院,19902)村田恭子,福田昌彦,妙中直子ほか:眼部帯状ヘルペスとカポジ水痘様発疹症の眼合併症.眼科45:97-102,20033)高村悦子:ウイルス性眼瞼炎(HSV/VZV).眼感染症の傾向と対策(下村嘉一,福田昌彦編),p113-117,医学書院,2016(68)

抗VEGF治療:未熟児網膜症における抗VEGF療法

2018年11月30日 金曜日

●連載監修=安川力髙橋寛二58.未熟児網膜症における抗VEGF療法福嶋葉子大阪大学医学系研究科眼科学未熟児網膜症(ROP)に対するベバシズマブの効果を示した前向き無作為比較試験(BEAT-ROPstudy)が報告されてからC5年以上経過し,適応外使用とはいえ,抗CVEGF薬がCROPに有効であることは広く知られるところとなった.その使用に関する知見は徐々に蓄積され,新たな課題も生じている.はじめに未熟児網膜症(retinopathyofprematurity:ROP)では,過剰に産生されたCVEGFにより正常血管の伸展過程が破綻し,血管伸長の停滞と異常血管新生が生じる.そのため,VEGFを抑制する薬剤を用いて治療することは理に適っている.ただし,VEGFは異常血管の原因となる一方で,正常血管の伸展にも必須であるため,その抑制は正常な網膜血管発達にも影響を与えることが懸念される.現在,ROPに対する抗CVEGF薬は適用外使用であるため,各医療機関の倫理委員会の承認を得たうえで,医師の判断により投与されている.治療適応と方法多くの報告では,BEAT-ROP(BevacizumabCElimi-natestheAngiogenicThreatofRetinopathyofPrema-turity)studyに準じて使用されている1).また,病期とは別に,光凝固治療が困難な視認性が悪い症例,麻酔のリスクがある症例には有効な選択肢となる.一方,すでに網膜.離がみられる場合や,円周方向に連続する増殖膜や丈の高い増殖膜に対する投与は控えるべきである.治療方法は,初回治療として抗CVEGF薬を用いるmonotherapy(図1),光凝固と同時に投与するCcom-binedtherapy,光凝固治療後の再燃に対して投与するCsalvagetherapy(図2)があげられる.いずれも数日で効果が出現し,増殖膜ならびにCplusdiseaseは速やかに退縮する.抗CVEGF薬の硝子体内投与は光凝固と比べて施行時間が短く,治療に伴う患児への全身負担は少ない.抗VEGF薬が網膜血管に与える影響Monotherapyでは,増殖組織が退縮した後,血管は周辺網膜に向かって伸長を再開する.しかし,その過程は正常発達から大きく遅延することが明らかになってきた.ベバシズマブ投与後,修正C54週までに最周辺まで血管が到達したものはC9%のみで,1例は最終的に修正108週(暦年齢C1歳C5カ月)まで到達しなかったとの報告がある2).報告によってばらつきはあるが,網膜血管の完成は修正C54週以降に遅延する傾向があることは間違いない3).自験例で網膜最周辺まで血管が伸展した平均時期を調べたところ,発症なし群では修正C41週,発症あり治療なし群では修正C49週であった.この結果から,早産による未熟性だけでなく,抗CVEGF薬が血管伸展の遅延に影響すると考えられる.こうした血管伸展の遅延により,再燃の可能性も継続する.再燃時には,以前の増殖組織の位置あるいは新たに伸展した血管先端の位置に増殖組織が形成されてくる4)(図3).追加治療時期は初回治療からおおむねC3,4カ月後で,光凝固治療と比較すると再燃までの期間は長い3,4).再燃リスクのある期間は毎週診察をするのが望ましいが,通院の負担や脱落の可能性もあり,実臨床では現実的でない.そこで,一定期間が経過しても無血管領域が残存すれば,光凝固を施行しておく方法も選択肢の一つと考えられるようになっている.抗VEGF薬が視機能に与える効果冷凍凝固や光凝固に比較して近視化は有意に少ない3).視野や視力発達についての効果はまだわかっていない.抗CVEGF薬は非常に未熟な児に多い重症CROPに選択されるため,長期的に知的発達障害がみられる頻度は高くなり,年齢相応の視覚評価がむずかしくなる可能性がある.抗VEGF薬が全身に与える影響全身移行による組織発達の影響や精神運動発達への影響が懸念されているが,いまのところ一貫した結論は得られていない3).わが国では極小低出生体重児の救命率が高いため,非常に未熟な重症CROP児の治療に携わる機会が多いと想定される.このため,未熟性の高い児におけるCVEGF抑制のリスクを十分理解しておく必要がある.(65)あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C15130910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1Monotherapy前後の眼底写真a:修正C32週(在胎C24週C6日,出生体重C562g).血管の拡張蛇行が顕著で,明瞭な境界線はみられないが鼻側に増殖組織があり,AP-ROPと判断される.Cb:ベバシズマブ投与C5日で増殖は消退し,血管拡張も改善した.図2Salvagetherapy前後の眼底写真a:修正C36週(在胎C23週C4日,出生体重C740g).Zone1stage3+ROPに対する光凝固後C1カ月.耳側に増殖膜が形成されている.Cb:ベバシズマブ投与C1カ月.増殖は消退し,血管拡張もみられない.おわりにROPに対する抗CVEGF薬治療はさまざまなレジメンが試みられており,統一された方法は確立されていない.抗CVEGF薬適応の追加承認に向けた取り組みとして,ラニビズマブと光凝固術との比較試験が行われており,近い将来には光凝固・抗CVEGF薬の二つの選択肢を生かした標準治療が確立されることが期待される.文献1)Mintz-HittnerCHA,CKennedyCKA,CChuangAZ;BEAT-ROPCooperativeCGroup:E.cacyCofCintravitrealCbevaci-zumabCforCstageC3+retinopathyCofCprematurity.CNEnglJMedC364:603-615,C2011図3抗VEGF薬投与後の再燃投与C1カ月の眼底写真.治療時の境界線()から血管は伸展し,新たにCridgeが形成されている().Ridgeは自然軽快し,再治療は不要であった.(あたらしい眼科35:1229-1236,2018より引用)2)ToyCBC,CSchacharCIH,CTanCGSWCetal:ChronicCvascularCarrestCasCaCpredictorCofCbevacizumabCtreatmentCfailureCinCretinopathyCofCprematurity.COphthalmologyC123:2166-2175,C20163)VanderVeenDK,MeliaM,YangMBetal:Anti-vascularendothelialCgrowthCfactorCtherapyCforCprimaryCtreatmentCofCtypeC1CretinopathyCofprematurity:ACreportCbyCtheCAmericanCAcademyCofCOphthalmology.COphthalmologyC124:619-633,C20174)Mintz-HittnerCHA,CGeloneckCMM,CChuangAZ:ClinicalCmanagementofrecurrentretinopathyofprematurityafterintravitrealCbevacizumabCmonotherapy.COphthalmologyC123:1845-1855,C20161514あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018(66)

緑内障:さらに進歩した緑内障領域におけるOCT angiography

2018年11月30日 金曜日

●連載221監修=岩田和雄山本哲也221.さらに進歩した緑内障領域における新田耕治福井県済生会病院眼科COCTangiography非侵襲的に眼局所の血流動態を観察できるCOCTangiography(OCTA)をC2015年からわが国でも使用できるようになり,緑内障領域でもCOCTAによる新たな知見が増えている.しかし,artifactやトラッキングシステムの欠如による画質不良や位置ずれによる再現性の課題もある.本稿では,Optovue社のCRTVueXRAvantiを取りあげ,OCTAの緑内障領域における有用性と最新の機能について述べる.●OCTangiographyのartifactOCTangiography(OCTA)撮影にはさまざまなCarti-factが出現する1).CProjectionartifactは血管部のシグナル変化の対象となる血球が動くとそれに連動して動く影によるCartifactで,血管組織のない部位でもシグナル変化が抽出され,描出される可能性がある.このCprojectionartifactはとくに網膜色素上皮を光が通過した際に生じることが多く,血管を通過する光は常に変化し,その光の反射が血球の流れとよく似た影を別の層に映し出すことがある.Optovue社のCRTVueCXRAvantiのCOCTAソフトウェアCAngioVueの新バージョンでは,3DCprojectionCarti-factremoval(3DPAR)という新しいアルゴリズムによりCprojectionartifactの軽減が期待される.また,眼球が動いてもCmotionCcorrectiontechnologyにより画像ブレがかなり修正できるが,再現性の欠如した画像となることがある.眼球運動だけでなく,脈拍,呼吸,振戦などでも生じるが,新バージョンではその点を解決するためにトラッキングシステムを搭載したので,画質のさらなる向上が期待できる.良好なCOCTAの画質を得るためには強い強度のシグナルが必要となるが,シグナル強度の弱い領域では,ノイズの変動により一つの画像が次の画像と比較される際に,血流に関する誤った所見を生み出すCfalse.owarti-factを生じる可能性がある.網膜浮腫,萎縮,出血などのほかに,緑内障後期の乳頭周囲の撮像でも同様のことが起きる.このような画像はCsignalCstrengthCindex(SSI)が低く,40以下のことが多い.緑内障進行評価に際し血管密度も参考にするのであれば,SSIがC60以上の画像で比較することが望ましいと思われる.なお,新バージョンではCSSIは廃止され,ScanQuality(SQ)としてC10段階表示されるようになった.SQ7以上の画像にて評価することが望ましい.(63)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPY●緑内障眼におけるOCTAの放射状乳頭周囲毛細血管評価当院にてC2015年C3月より使用しているCbバージョンでは,乳頭周囲は,nervehead(撮影画面上端.内境界膜C150Cμm下方まで),vitreous(撮影画面上端.内境界膜C50Cμm下方まで),radialperipapillarycapillaries(内境界膜.網膜神経線維層まで),choroid/disc(網膜色素上皮よりC75Cμm下方.撮影画像下端まで)のC4区画がセクターごとにデフォルトでCangioC.owdiscとして表示される(図1a).2018年C6月から使用している新バージョンでは,vitreous(画像の上部.内境界膜),super.cial(内境界膜.内網状層),radialCperipapillarycapillaries(内境界膜.網膜神経線維層),choroid/disc(内境界膜.画像の下部)が表示される(図1b).楔状網膜神経線維層欠損(nerveC.berClayerdefect:NFLD)を有する正常眼圧緑内障症例にCOCTAを乳頭中心に撮像してみると,いずれのバージョンの画像においても楔状CNFLDに一致して放射状乳頭周囲毛細血管(radialperipapillaryCcapillaries:RPC)の減少を認め,RPC密度低下領域と視野障害部位もほぼ一致していることがわかる(図1).OCTAを使用した報告では,緑内障眼では病期の進行とともにCRPCの血管密度がびまん性に脱落しており,前視野緑内障>初期緑内障>中期.後期緑内障の順に毛細血管は減少している2).そのほか,緑内障診断や進行評価にCOCTAを使用した解析報告が相次いでおり,その有用性が確認されてきている3.7).さらに新バージョンでは,RPC血管密度カラーマップと網膜神経節細胞複合体(ganglionCcellcomplex:GCC)mapが同時に表示され,しかもそれぞれのマップにセクター別のCGCC厚や血管密度が表示されるようになった(discquickvue表示,図2).これらを生かして新たに血管密度変化のtrendを解析できるようにもなった(disctrendAnaly-あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1511a図1OCTAの各層における毛細血管の分布a:旧バージョンで撮影した緑内障眼.Cb:新バージョンで撮影した同一症例.Caでは,左からCopticCnervehead,vitreous,RPC,choroidの順に表示Cbされている.Cbでは,硝子体側から脈絡膜層へ順番に表示されている.いずれの画像においても楔状CNFLD部位に一致して乳頭周囲の浅層毛細血管が減少していることが確認できる.しかし,aよりCbが血管密度低下領域をより明瞭に表記できている().sis表示)ので,緑内障における治療強化の新たなツールとしてこれらが活用できる可能性がある.文献1)SpaideCRF,CFujimotoCJG,CWaheedNK:ImageCartifactsCinCopticalCcoherenceCtomographyCangiography.CRetinaC35:C2163-2180,C20152)YarmohammadiCA,CZangwillCLM,CDiniz-FilhoCACetal:CRelationshipCbetweenCopticalCcoherenceCtomographyCangi-ographyvesseldensityandseverityofvisual.eldlossinglaucoma.Ophthalmology123:2498-2508,C20163)RaoHL,PradhanZS,WeinrebRNetal:Acomparisonofthediagnosticabilityofvesseldensityandstructuralmea-surementsCofCopticalCcoherenceCtomographyCinCprimaryCopenangleglaucoma.PLoSOneC12:e0173930,C2017図2新バージョンのdiscquickvue表示新バージョンのCdiscCquickvue表示は,OCTAだけでなく,OCTによる乳頭周囲の網膜神経線維厚も同時に撮影し表示される.4)RaoCHL,CPradhanCZS,CWeinrebCRNCetal:VesselCdensityCandCstructuralCmeasurementsCofCopticalCcoherenceCtomog-raphyinprimaryangleclosureandprimaryangleclosureglaucoma.AmJOphthalmol177:106-115,C20175)MansooriCT,CSivaswamyCJ,CGamalapatiCJSCetal:RadialCperipapillaryCcapillaryCdensityCmeasurementCusingCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCinCearlyCglaucoma.CJGlaucomaC26:438-443,C20176)YarmohammadiCA,CZangwillCLM,CDiniz-FilhoCACetal:CPeripapillaryCandCmacularCvesselCdensityCinCpatientsCwithCglaucomaandsingle-hemi.eldvisual.elddefect.Ophthal-mology124:709-719,C20177)AkilH,HuangAS,FrancisBAetal:Retinalvesseldensi-tyCfromCopticalCcoherenceCtomographyCangiographyCtoCdi.erentiateearlyglaucoma,pre-perimetricglaucomaandnormaleyes.PLoSOneC12:e0170476,C20171512あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018(64)

屈折矯正手術:角膜クロスリンキングの適応

2018年11月30日 金曜日

監修=木下茂●連載222大橋裕一坪田一男222.角膜クロスリンキングの適応中村葉四条烏丸眼科小室クリニック角膜クロスリンキングは厚生労働省未認可であるが,効果が認められつつある方法である.適応は,角膜形状解析装置にて円錐角膜またはペルーシド角膜変性と確定診断を受け,2年間で自覚乱視度数やCsteepKのC1.0D以上の増加,またはハードコンタクトレンズのベースカーブのC0.1Cmm以上の減少を認めた場合に適応と判断する.●はじめに角膜クロスリンキング(cornealcross-linking,以下CXL)は,2003年にドイツのドレスデン工科大学のSeilerらにより開発された円錐角膜に対する治療法である1).基本原理としては,長波長紫外線(UV-A)に対するリボフラビン(ビタミンCBC2)感受性を利用し,一重項酸素を発生させることにより角膜実質のコラーゲン線維の架橋(クロスリンク)を強め,剛性を高める方法である.C●適応疾患(円錐角膜およびペルーシド角膜変性)円錐角膜は,角膜中央部が菲薄化し突出する進行性角膜形状異常疾患である.眼をこすることやアトピー性皮膚炎との関連性が指摘されており,遺伝的な要因も検討されているが原因は確定されていない2).円錐角膜の進行はC10歳未満.20歳と若年で生じることが多く,30歳代頃まで進行する症例が多い.若年者で急激な視力低下を生じた場合や強度乱視を認めた場合は,角膜形状解析を行う必要がある(図1,2).CXLによる予防ができるようになるまでは,ハードコンタクトレンズ(hardCcontactlens:HCL)による矯正を行う方法,20歳以上については角膜内リングを挿入する方法も可能であったが,他の治療法を行っても進行してしまい矯正視力が落ちた場合は角膜移植術が行われていた.CXLができるようになった現在でも,基本的にはCHCLによる矯正治療が必要ではあるが,予防ができるようになったため,世界的に円錐角膜に対する角膜移植症例が減少したとの報告も出てきている3).関連疾患としてペルーシド角膜変性がある.下方の角膜周辺部が菲薄化し,菲薄部位の上方がやや下方に垂れたような形状で突出する疾患である.角膜形状解析を行(61)C0910-1810/18/\100/頁/JCOPYうと「かにの爪」や「蝶々の羽」とよばれる形状パターン所見を認める(図1).円錐角膜との合併や家族例なども散見され,円錐角膜類縁疾患と考えられており,円錐角膜同様,原因不明の疾患である.発症は円錐角膜より遅く,20歳頃からであり,頻度は円錐角膜より低い.いずれの疾患も,確定診断をつけるためには角膜形状解析が必要である.角膜前面にプラチドリングを投影させて判定をするCTMS(トーメーコーポレーション)やPR-8000(サンコンタクトレンズ)で確定診断をつけることができるが,初期段階は判定できない場合もある.スリット光を投影させて前後面の形状や角膜厚を測定できるオーブスキャン(ボシュロム),角膜収差も測定の上判定できるCOPD-scan(ニデック),シャインプルーフ像の投影によって角膜前後面,角膜厚も測定できるペンタカム(OCULUS社),光干渉を用いて詳細な形状まで測定できるビサンテ(カールツァイス),カシア(トーメーコーポレーション)など,さまざまな機種がある.後面測定ができる機種は早期診断をつけることができる図1TMS(トーメーコーポレーション製)で測定した円錐角膜とペルーシド角膜変性の症例角膜前面にプラチドリングを投影させて形状を測定する.Ca:円錐角膜症例の角膜前面形状.下方突出を認める.Cb:ペルーシド角膜変性の角膜前面形状.「かにの爪」または「蝶々の羽」とよばれる形状を示している.あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018C1509表1クロスリンキングの適応が,角膜混濁があると測定精度が落ちる場合もある.一方,前面プラチドリング形式は再現性がよいが涙液状態や上皮障害に左右される可能性があるなど,機種により長所短所があるため,可能であれば複数の機種で確認することが望ましい.C●円錐角膜に対する角膜CXLの適応前提として,上記のように角膜形状解析を行い,確定診断がついていることである.そのうえで進行を認めた場合が適応となる.わが国では未認可であるが,若年者の進行例が多いことから,米国食品医薬品局(FDA)では上皮.離を伴うドレスデン法についてC14歳以上を適応年齢としている.進行の指標としては,24カ月以内でCsteepKがC1.0D以上増加,自覚乱視度数がC1.0D以上増加,自覚屈折度数(等価球面)がC1.0D以上増加,HCLのベースカーブがC0.1Cmm以上減少のうち,いずれか一つを満たす場合と考えてよい4)(表1).進行例になると通常のケラトメータでは測定困難になることもあり,角膜形状解析装置によって確認していくこととなる.角膜の厚みがあまりに薄い場合は,紫外線照射による内皮障害が起こることが報告されている.角膜厚は,C1510あたらしい眼科Vol.35,No.11,2018図2カシア(トーメーコーポレーション製)で測定した円錐角膜症例光干渉を用いて前面のみならず後面や隅角の形状も測定可能である.a:円錐角膜である確率.前面後面とも突出していることより94%と算出.Cb:角膜前面ケラトマップ.中央部からやや下方の突出を認める.Cc:角膜厚マップ.最薄点はC423μm.Cd:角膜後面ケラトマップ.中央からやや下方の突出を認める.Ce:角膜後面の各点の接線方向の変化を示したマップ.各地点での細かい変化をとらえやすい.通常のパキメーターではもっとも進行して薄くなっている部分の測定が困難であるため,局所的な角膜厚測定のできるペンタカムやカシアなどを用いて確認することが必要である.角膜のもっとも薄い部分がC450Cμm以上あることが望ましいが,400Cμm以上あれば術中の処置によって通常の方法を行うことが可能になることが多い.角膜厚が大きいほど安全性が高くなるため,進行を認めた場合はCHCLで視力が十分得られていても,できるだけ早期にCCXLを行うことが望ましいと考えられる.C●おわりに近年,CXLの術後成績として多くの報告が集まりつつあり,一定の進行抑制効果が認められてきている.円錐角膜を疑った場合は角膜形状解析を行い,診断がつけば,適切な時期にCCXLを受けていただくことが望ましいと考える.文献1)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Ribo.avin/ultraviolet-a-inducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkerato-conus.AmJOphthalmol135:620-627,C20032)Perez-StraziotaCC,CGasterCRN,CRabinowitzYS:CornealCcross-linkingCforCpediatricCkeratcoconusCreview.CCorneaC37:802-809,C20183)SandvikGF,ThorsrudA,RaenMetal:Doescornealcol-lagenCcross-linkingCreduceCtheCneedCforCkeratoplastiesCinCpatientswithkeratoconus?Cornea34:991-995,C20154)加藤直子:角膜クロスリンキング.角膜・結膜・屈折矯正,眼手術学C4(大鹿哲郎監修),p198-201,文光堂,2013(62)

眼内レンズ:眼表面操作のためのスポンジ麻酔

2018年11月30日 金曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋原岳384.眼表面操作のためのスポンジ麻酔原眼科病院手術開始時,あるいは麻酔時などに結膜を鑷子で把持するとき,患者が痛がることがある.その予防策として筆者がしばしば用いているのが,手術用止血スポンジをキシロカインに浸したものを結膜上に眼瞼と挟むように留置する表面麻酔である.●はじめに〔筆者が大学を卒業した平成元年は,現在のような研修医制度はなく,卒業の翌月には眼科に入局し,すぐに眼科医として外来,病棟で患者の診察を開始した.平成元年末には最初の白内障手術を執刀し,平成3年頃は白土城照講師,新家眞講師が執刀したトラベクレクトミー後の患者をベッド上に並べて毎朝5-FU(5-Fluoro-uracil:術後の線維芽細胞の増殖抑制目的で使用)の結膜下注射を行うのが日課であった.平成5年には大宮(現さいたま)赤十字病院に勤務し,自らがトラベクレクトミーを執刀し始めたが,当時の流儀は白土講師,新家講師に倣って,上直筋付着部に制御糸をかけ,輪部基底結膜辺を作製するために円蓋部結膜を切開していた.上直筋付着部を太い鑷子で結膜上からつまむと痛がる患者がいたため,何とかできないかと考案したのが,今回ご紹介するキシロカインに浸したMQA(MedicalQuickAbsorber,イナミ),通称,「ヒタヒタ」(命名は獨協医科大学の松島博之先生)である.決して筆者自身のオリジナルを主張するものではなく,同様の麻酔方法を用いている先生もいらっしゃると思うが,より多くの先生方に眼表面操作時の患者の疼痛緩和に役立てていただけるように,筆を執った次第である.〕●スポンジ麻酔の手順とその適応(仮)2%キシロカインをシャーレに取り,MQAを切らず(59)0910-1810/18/\100/頁/JCOPYに浸しておく(図1①).線維柱帯切除術の術後に,線維芽細胞増殖抑制の目的でMMC(MitomycinC)に止血用スポンジを浸すのと要領は同じである.このスポンジを上眼瞼と結膜の間に挟んで約1分留置する(図1②).タイミングは皮膚消毒をしている間に留置してもよいし,洗顔後,ドレープをかけてから手術開始前に留置してもよい.スポンジ除去後,洗浄はせずに上直筋付着部を鑷子でつかむと(図1③),痛みが和らぐ.利点は,ベノキシール点眼よりも局所に接して塗布することで,鑷子で把持するときの疼痛を緩和する効果が期待できることである(図1④).最近では,白内障でも緑内障でも上直筋に制御糸をかけることはなくなったので,「スポンジ麻酔」を使用することはなくなっていた.しかしながら,この表面麻酔法は現在でも応用は可能である.若い患者にTenon.下麻酔をするときに,結膜をつまんだだけでも痛がる,あるいは結膜を切開したときに痛がり,その不安が手術中ずっと続いて硝子体圧が高くなったり,閉瞼の緊張が続くことを経験することがあるが,そのような事態を予防するためには有用であるかもしれない.また,適応範囲を拡大して可能性を考えれば,加齢黄斑変性に対する硝子体注射や,ぶどう膜炎の治療でのステロイド結膜下注射,結膜下結石除去など,結膜に接する直前に表面麻酔として応用できるかもしれない.若年者や疼痛に敏感な患者に内眼手術をする際の参考にしていただければ幸いである.あたらしい眼科Vol.35,No.11,20181507図1スポンジ麻酔の実際①2%キシロカインをシャーレにとり,MQAを1枚まるごと浸しておく.②MQAを下眼瞼と結膜の間に留置する.この症例は6時にTenon.麻酔を行う予定である.③Tenon.下麻酔を行うために結膜を把持したところ.疼痛が緩和され,患者の不安を和らげることができた.④上眼瞼,下眼瞼だけでなく,内眼角,外眼角でも応用は可能である.