提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方さらなる一歩監修/下村嘉一46.コンタクトレンズの素材●はじめに日本ではハードコンタクトレンズはC1951年に非含水素材であるポリメチルメタクリレート(polymethyl-methacrylate:PMMA)製が初めて処方された.PMMAは酸素を透過しない素材であり,角膜の酸素不足が起きるため,1970年代末に酸素を通すシリコーン系素材とフッ素系素材によるガス透過性レンズが開発され,1979年に日本でも発売された1).一方,ソフトコンタクトレンズ(SCL)はC1972年に含水性(ハイドロゲル)素材であるメタクリル酸C2-ヒドロキシエチル(2-hydroxyethylCmethacrylate:HEMA)製が発売された1,2).HEMAを用いたハイドロゲルレンズでは,素材中の水を介して酸素が透過するため,含水率を高める(酸素透過性を高める)ためにイオン性および非イオン性モノマー(単量体)と共重合したCSCLが開発された.その後,1998年に疎水性・高酸素透過性のシリコーン成分をハイドロゲル素材に合成したシリコーンハイドロゲルレンズ(siliconeChydrogelCcontactClens:SHCL)が発売された.本稿では,現在もっとも多く処方されているCSCLの素材について解説する.SCLはCFDA分類で表1のように分類される.グループCIIIのレンズは現在,製品として販売されていない.SHCLはグループCVに分類される.ハイドロゲルレンズとCSHCLの大きな違いは,酸素透過性を高めるために含水性素材であるイオン性あるいは非イオン性ポリマーを用いているか,疎水性素材である親油性のシリコーンを用いているかにある.それぞれ大口泰治福島県立医科大学医学部眼科学講座の素材の特性の違いによる特徴を利点と欠点としてまとめると表2のようになる.C●ハイドロゲルレンズとSHCLの臨床における使い分けハイドロゲルレンズとCSHCLの使い分けのイメージを図1に示す.酸素透過性を比較すると,ハイドロゲルレンズは終日装用に必要とされる酸素透過率CDk/t(酸素透過係数CDkをレンズの厚さCtで割った値)=24.1×10.9(cm/sec)・(mlOC2/(ml・mmHg))3)を超えるレンズは少ない.それに対してCSHCLは連続装用で角膜中央部の浮腫が4%未満となるCDk/t=87×10.9(cm/sec)・(mlOC/(ml・mmHg))を超えるレンズがほとんどで,酸素透2過性は表1SCLの分類グループ名含水材料定義CI低含水非イオン性含水率C50%未満イオン性モノマーC1mol%以下CII中~高含水非イオン性含水率C50%以上イオン性モノマーC1mol%以下CIII低含水イオン性含水率C50%未満イオン性モノマーC1mol%超CIV中~高含水イオン性含水率C50%以上イオン性モノマーC1mol%超CV高酸素透過性含水材料CDk=30×10.11(cm2/sec)・(mlOC/(ml・mmHg))以上2Dk:酸素透過係数.グループCVはさらにCV-A,V-B,V-C,V-Cm,V-Crに細分化される.表2ハイドロゲルレンズとSHCLの利点と欠点利点欠点ハイドロゲルレンズレンズの種類,デザインが多い.レンズが柔らかく,装用感がよい.脂質汚れがつきにくい.酸素透過性が劣る.酸素透過性を上げるために含水率を高めると乾燥感が強くなる.CSHCL酸素透過性が高い.乾燥感が少ない.蛋白汚れがつきにくい.レンズの種類,デザインが少ない.レンズが硬い.脂質汚れ,化粧品汚れがつきやすい.巨大乳頭結膜炎,SEALsの発症率がやや高い.SEALs:上部角膜上皮弓状病変.SHCLは角膜上での動きが小さくフィッティングがわかりづらい.(文献C2より改変)(79)あたらしい眼科Vol.35,No.8,2018C10850910-1810/18/\100/頁/JCOPY図1ハイドロゲルレンズとSHCLの使い分けのイメージ圧倒的に優位である.若年者で長期にわたる使用が想定される患者,長時間装用者,レンズが厚くなる強度屈折異常などにはCSHCLが勧められる.硬さ,装用感,乾きやすさについては,一般に高含水になるほど柔らかく,装用感がよくなるが乾きやすくなる.ハイドロゲルレンズは,酸素透過性を高めるために高含水にすると理論上は乾きやすくなる.そのため表面処理を工夫することで乾きにくいレンズが販売されている1)が,その処理でも対応がむずかしく,グループCIVで乾燥感がある際はグループCIへの変更を考える.SHCLは初期の製品は含水率がC24%と低く硬かったため,上部角膜上皮弓状病変(superiorCepithelialCarcuatelesions:SEALs)や異物感,巨大乳頭結膜炎の発症率がやや高めであったが,現在の製品は含水率が上がり,比較的柔らかくなり装用感も改善している.ドライアイに関してCSHCLはよい選択だが,SEALsや異物感の訴え,アレルギーを生じた際は,素材への不適応が考えられるため,ハイドロゲルレンズへの変更が勧められる.蛋白汚れ,脂質(化粧品)汚れについては,ハイドロゲルレンズの蛋白汚れはイオン性高含水であるグループIVのレンズにつきやすいため,問題になる場合は,グループCIか表面処理の工夫により以前より改善しているSHCLへの変更が勧められる.SHCLには洗浄剤(塩酸ポリヘキサニド系のCmultiCpurposeCsolution)と相性により不具合がある場合があるので注意が必要である.とくにCSHCLは脂質汚れがつきやすいので,化粧をする前に装用することが大切である.最近はCSCLのカラーコンタクトも発売されているが種類が少なく,医療用の虹彩付きコンタクトレンズはハイドロゲルレンズのみである.酸素透過性の面から医療用の虹彩付きコンタクトレンズにもCSHCLが待たれる.強度近視や強度遠視には,ハイドロゲルレンズであれば頻回交換型でも.24D~+10Dまで,従来型であればC.25D~+25Dまである.この厚みのあるレンズこそSHCLが有用であると思われるが,現時点では対応する製品がみられないのは残念である.その他,ハイドロゲルレンズは装着しづらく脱着しやすいが,SHCLは装着しやすく脱着しにくいため,変更時は注意を要する.文献1)佐野研二:コンタクトレンズ診療の進歩.コンタクトレンズ素材とその進歩.日コレ誌50:13-23,C20082)木下茂,大橋裕一,村上晶ほか:コンタクトレンズ診療ガイドライン(第C2版).日眼会誌118:557-557,C20143)HoldenCBA,CMertzCGW:CriticalCoxygenClevelsCtoCavoidCcornealedemafordailyandextendedwearcontactlenses.InvestOphthalmolVisSciC25:1161-1167,C1984CPAS108