特集●屈折矯正を見直す!あたらしい眼科33(6):807.812,2016特集●屈折矯正を見直す!あたらしい眼科33(6):807.812,2016角膜内リング(ICRS)による不正乱視治療TreatmentofIrregularAstigmatismwithIntracornealRingSegments荒井宏幸*はじめに角膜リング治療の目的は,主として突出により高度に変形した角膜の形状を,扁平化させることにより,より正常に近い形状に戻そうとするものである.現在,主として円錐角膜およびLASIK後の角膜エクタジアに応用されている.円錐角膜は基本的に,両眼性・進行性・非炎症性であり,角膜曲率の縮小と角膜の菲薄化を特徴とする疾患である.軽度から中等度の進行例までは,HCL(hardcontactlens)の装用によって矯正視力を確保することが可能であるが,高度の進行例ではHCLの装用が困難なばかりでなく,菲薄部のDescemet膜破裂やHCLとの擦過による瘢痕形成により,矯正視力は著しく不良となる.最近までは,進行した円錐角膜に対する外科的な治療としては,角膜移植(epi-keratoplastyを含む)が唯一の方法であった.ところが2000年にColinらによって,それまで軽度近視に対する手術に用いられていたICRS(intracornealringsegments)を円錐角膜眼に応用した報告があり,それ以降多くの臨床報告がなされるようになった1,2).今回は,筆者らの自験例をもとに,手術の方法や結果なども含めて述べる.また,近年ではリボフラビン(ビタミンB6)を角膜に浸透させ,紫外線を照射することによって,角膜実質コラーゲンの架橋構造を増やす「角膜クロスリンキング法」が開発され,円錐角膜や角膜エクタジアの進行予防に応用されている.しかし,角膜クロスリンキング法では角膜形状は変化しないため,矯正視力の確保には角膜内リングとの併施が必要である.IICRSの種類(図1)1.IntacsRとIntacsRSK(Additiontechnology社)本来,軽度近視(.4.0D未満)に対する屈折矯正手術用に考案・開発された.角膜中心部に侵襲を加えないため,LASIKやPRK(photorefractivekeratectomy)におけるグレアなどの合併症が少ないことが利点として考えられていたが,マニュアル法による手術操作が煩雑なことと,乱視矯正ができないことなどにより普及することはなかった.円錐角膜や角膜屈折矯正手術後の角膜エクタジアに対しての効果が確認されて以降,少しずつ普及し,フェムトセカンドレーザーの出現により,多くの屈折矯正手術施設にて導入され始めている.IntacsRは従来からのモデルで,素材はPMMAであり,2つのリングの内径(オプティカルゾーン)は6.8mmである.2006年より進行性の円錐角膜およびエクタジアに対して使用するIntacsRSKが開発された.PMMAの断面形状を改良し,リングの内径は6.0mmであるため,より強い角膜の扁平化が期待できる.角膜のK値がおおむね55D以上であれば,IntacsRSKを使用するケースが多いが,事前に角膜形状の三次元解析データをAdditiontechnology社に送れば,適切なリングの種類と留置部位をアドバイスしてもらうことが可能である.*HiroyukiArai:みなとみらいアイクリニック〔別刷請求先〕荒井宏幸:〒220-6208神奈川県横浜市西区みなとみらい2-3-5クイーンズタワーC8Fみなとみらいアイクリニック0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(47)807Intacs.Intacs.SKKeraRing./FerraraRing.Intacs.Intacs.SKKeraRing./FerraraRing.図1各ICRSの前眼部写真左上のIntacsRから右上のIntacsRSK,KeraRingR/FerraraRingRの順に光学部径が小さくなっているのがわかる.瞳孔径に近いほど,角膜変形作用は大きくなるが,暗所におけるグレアの起こる頻度も高くなる.2.FerraraRingR(AJL社)とKeraRingR(Mediphacos社)進行性の円錐角膜に対する角膜扁平化を目的として開発されたICRSである.2社から発売されているが,リングそのものは同じものである.リングの長さ,内径の角度にさまざまなバリエーションがある(図2).頻用されるのは,90°または120°で内径が5mmのタイプを1対使用する方法であり,強力な角膜扁平化効果が期待できる一方,リングの留置部位が瞳孔中心に近いため,センタリングや暗所時瞳孔径の判定などを慎重に行わないと,強いグレアを起こす可能性がある.FerraraRingRにおける目標点は,角膜のQ値(離心率)の改善である.Q値の改善により,良好な裸眼視力または眼鏡による矯正視力を得ることがノモグラムの基本原理となっている.808あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016210°160°150°120°90°図2FerraraRingRのバリエーション角膜の変形度に応じて1つまたは1対のリングを用いる.リングの内径は5.6mmである.II手術方法手術方法はIntacsRおよびIntacsRSKでもFerraraRingRでも手順は同じである.以下にその手術方法を述べる.フェムトセカンドレーザーが導入される以前は,マニュアル法により挿入していたが,より正確な深さと(48)図4ICRS術中の挿入時の様子対側はすでに挿入されている.図3フェムトセカンドレーザーによるICRS挿入のためのグルーブ作製の様子紫のラインは挿入方向のマーキングである.図5自験例の術前トポグラフィー下方に特徴的な急峻部を認める.図6図5の症例の術後1カ月のトポグラフィー図7突出度に応じて弱主径線方向に挿入されたICRS瞳孔領は扁平化しており,下方の急峻部は消失している.上下でリングのサイズは異なるものが選択されている.あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016811(51)表1解析の対象症例116例145眼(男性89例109眼,女性27例36眼)手術期間2003年1月.2013年10月観察期間1年.10.7年平均年齢35.6歳手術方法Manual法69眼,Femtosecondlaser法76眼男性の症例が女性の約3倍であった.2009年3月以降はすべてfemtosecondlaser法による.表2対象のStage別症例数Satge1Stage2Stage3Stage4合計円錐角膜11282750116ペルーシド変性321713角膜エクタジア194216合計15393259145病気分類はEdwardsetal.2001による.重傷度の高いStage4の症例数が多いことがわかる.00.511.522.5全症例S1~3S4術前術後角膜形状解析SRI(surfaceregularitiyindex)の変化*****図8角膜形状解析(SRI)の結果SRIはTMSR(トーメーコーポレション社製)による.術前に比べ有意に形状が改善していることがわかる.*p<0.0001**p<0.01t-test00.511.522.533.544.5全症例S1~3S4術前術後角膜形状解析SAI(surfaceasymmetryindex)の変化正常0.41未満異常疑い0.42~0.49異常0.50以上*****図9角膜形状解析(SAI)の結果SAIはTMSR(トーメーコーポレション社製)による.術前に比べ有意に形状が改善していることが正常域とは大きな差がある.*p<0.001**p<0.01t-test0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%2段階以上改善変化なし(+1~-1)2段階以上低下1W1M3M6M1Y2Y3Y4Y5Y6Y7Y8Y9Y10Y図10術後矯正視力の変化術後安定である6カ月以降において,おおむね50%程度の症例に2段階以上の改善が認められている.症例数は各時期にて異なる.術前術後0.01(0.4×-6.0C-4.5×10)0.5(0.8×cyl-3.5DA×50)上方150/160下方250/160図11FerraraRingRによる術前後の形状変化ペンタカムR(Oculus社)による術前後の形状解析である.Q値(離心率)が.1.04から.0.31まで改善し,矯正視力の改善が得られている(Q値の正常値は.0.23付近である).表1解析の対象症例116例145眼(男性89例109眼,女性27例36眼)手術期間2003年1月.2013年10月観察期間1年.10.7年平均年齢35.6歳手術方法Manual法69眼,Femtosecondlaser法76眼男性の症例が女性の約3倍であった.2009年3月以降はすべてfemtosecondlaser法による.表2対象のStage別症例数Satge1Stage2Stage3Stage4合計円錐角膜11282750116ペルーシド変性321713角膜エクタジア194216合計15393259145病気分類はEdwardsetal.2001による.重傷度の高いStage4の症例数が多いことがわかる.00.511.522.5全症例S1~3S4術前術後角膜形状解析SRI(surfaceregularitiyindex)の変化*****図8角膜形状解析(SRI)の結果SRIはTMSR(トーメーコーポレション社製)による.術前に比べ有意に形状が改善していることがわかる.*p<0.0001**p<0.01t-test00.511.522.533.544.5全症例S1~3S4術前術後角膜形状解析SAI(surfaceasymmetryindex)の変化正常0.41未満異常疑い0.42~0.49異常0.50以上*****図9角膜形状解析(SAI)の結果SAIはTMSR(トーメーコーポレション社製)による.術前に比べ有意に形状が改善していることが正常域とは大きな差がある.*p<0.001**p<0.01t-test0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%2段階以上改善変化なし(+1~-1)2段階以上低下1W1M3M6M1Y2Y3Y4Y5Y6Y7Y8Y9Y10Y図10術後矯正視力の変化術後安定である6カ月以降において,おおむね50%程度の症例に2段階以上の改善が認められている.症例数は各時期にて異なる.術前術後0.01(0.4×-6.0C-4.5×10)0.5(0.8×cyl-3.5DA×50)上方150/160下方250/160図11FerraraRingRによる術前後の形状変化ペンタカムR(Oculus社)による術前後の形状解析である.Q値(離心率)が.1.04から.0.31まで改善し,矯正視力の改善が得られている(Q値の正常値は.0.23付近である).812あたらしい眼科Vol.33,No.6,2016(52)という報告もされている4,5).本来であれば,思春期において早期の段階にて診断がつけば,角膜変形による不正乱視を起こす前にクロスリンキング法にて進行を止めることがもっとも有効な手段であろう.また,屈折矯正手術を施術する者にとって,円錐角膜やエクタジアは避けて通れないものであって,ICRSは外科的なアプローチの一つとして必要な手技であると考える.文献1)ColinJ,CochenerB,SavaryGetal:Correctingkerato-cornuswithintracornealrings.JCataractRefractSurg26:1117-1122,20002)SiganosCS,KymionisGD,KartakinsNetal:ManagementofkeratocornuswithIntacs.AmJOphthalmol135:64-70,20033)HellstedtT,MakelaJ,UnsitaloRetal:Treatingkerato-conuswithintacscornealringsegments.JRefractSurg21:236-246,20054)CoskunsevenE,JankovMR2nd,HafeziFetal:Effectoftreatmentsequenceincombinedintrastromalcornealringsandcornealcollagencrosslinkingforkeratocornus.JRefractSurg35:2084-2091,20095)YeungSN,KuJY,LichtingerAetal:Efficacyofsingleorpairedintrastromalringsegmentimplantationcom-binedwithcollagencrosslinkinginkeratocornus.JCata-ractRefractSurg39:1146-1151,2013V考按と今後の展望不正乱視の治療にはHCLが用いられることが一般的であるが,その対象となるのは,円錐角膜およびその類似疾患である.これらの疾患に対してエキシマレーザーは禁忌である.HCL装用が可能であれば問題がないが,コンタクトレンズ不耐となった場合には生活に必要な視力を確保する手段がない.最終的には角膜移植という手段になるが,感染や拒絶反応などの避けられない合併症も存在する.今回紹介したICRSは,術後の視力や角膜形状などの予測性において今後の研究の結果を待たねばならない点も多くあるが,角膜強度の増加による進行予防と角膜中央部の扁平化によるコンタクトレンズ装用の容易化という大きなメリットがあることも事実である.この点はLASIK後のエクタジアにも応用されている.また,前述したように,ICRS挿入により眼鏡矯正視力が良好になれば,phakicIOLを挿入して日常生活に十分な裸眼視力を得る可能性もあり,実際に筆者らの施設ではICRS手術を受けた患者の50%以上がphakicIOLを希望する.また,最近では角膜コラーゲンのクロスリンキング法が確立されつつあり,角膜厚が適応範囲にある円錐角膜やエクタジアに対して,ICRSと組み合わせて行うことによって,より安定した術後経過が得られる