特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):233.240,2016特集●OCTを使いこなす2016あたらしい眼科33(2):233.240,2016緑内障ClinicalApplicationofOCTinGlaucomaManagement福地健郎*はじめに光干渉断層法(opticalcoherencetomography:OCT)はもともと,網膜,脈絡膜を含む眼内組織の形態を断面像として観察し,病的な変化を画像としてとらえることを目的として開発された.タイムドメイン方式,スペクトラルドメイン方式と性能が向上し,形態変化の観察だけでなく,形態計測,さらには層別計測が可能となって,現在に至っている.緑内障の領域では,視神経乳頭陥凹や乳頭周囲網膜神経線維層厚を量的に評価する,いわゆる形態計測は古くから行われてきた研究領域で,代表的な測定装置として視神経乳頭解析装置(Heidelbergretinatomography:HRT)や神経線維層厚測定装置(GDx)などがある.これらの装置に対して,OCTは日常臨床においてさまざまな疾患に汎用することが可能で,加えて黄斑部解析が可能となった.昨今では,緑内障に関するほとんどの一般臨床データ,形態計測の研究データにOCTが用いられている.OCTは前眼部の形態観察,形態計測にも応用されている(前眼部OCT).さらに視神経乳頭内,視神経乳頭周囲組織,脈絡膜,網膜などで,これまでにはとらえることのできなかった緑内障に伴うさまざまな形態変化が検出されている.OCTangiographyによって血管の形態観察が可能となっている.I緑内障性視神経症の診断への活用1.OCTによる緑内障性視神経症の観察と診断OCTが一般に用いられるようになった現在においても,緑内障性視神経症(glaucomatousopticneuropathy:GON)の診断と鑑別診断には視神経乳頭所見,網膜神経線維層(retinalnervefiberlayer:RNFL)所見が重要である1,2).視神経乳頭はサイズを含めて,個体差が大きい.さらに近年では,近視の進行に伴って乳頭形態が後天的に変化してくることも明らかになっている.GONは網膜神経節細胞とその軸索が障害され,消失する疾患である.視神経乳頭は組織学的に複雑で,GONで乳頭陥凹拡大にも,篩状板の後方への湾曲など視神経線維の消失以外の要素が含まれる.したがって,乳頭陥凹拡大の量的変化によるGON診断や進行判定には限界と問題がある.一方,RNFLの組織構造はシンプルで,結果的に“厚さ”というパラメータでみた場合,個体差が少なく,正常範囲(正常値)を設定し,それと比較する方法により適している(図1a)3,4).さらに,OCTはタイムドメイン方式からフーリエドメイン方式に移行したことによって,分解能は20μmから5μmに向上し,さらにスキャン速度も向上した.その結果,網膜の層構造をより鮮明に分離できるようになり,従来の乳頭周囲網膜神経線維層厚の測定精度は向上し,さらには黄斑部の網膜神経節細胞層に関連した網膜内層厚の評価が可能になった(図1b)5).その結果,*TakeoFukuchi:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)〔別刷請求先〕福地健郎:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(73)233234あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(74)ばHumphrey視野24/30-2プログラムの結果に対応し,黄斑部神経節細胞複合体厚の判定は,同じく10-2プログラムの結果に対応する.図2はCarlZeiss社のForumGlaucomaWorkPlaceの①視神経乳頭解析の結果とHFA24-2のコンビネーション表示(図2a),②黄斑部解析の結果とHFA10-2のコンビネーション表示(図2b)である.この方法では,それぞれのクラスタ(領域)に応じたOCTによるデータが付属しており,研究的にも有用な方法である.現状においてこのような解析は診断的な意義が大きい.今後,さらに発展させていくことよって,形態と機能の進行過程が総合的に判定される可能性があり,また進行の予測,予後の予測に繋がっていく可能性が考えられる.緑内障眼ではこれまで認識されていた以上に早期から黄斑部付近に障害が生じていることが明らかとなり,治療や管理の方法や考え方に大きく影響を与えている.2.視野所見とOCT所見のコンビネーションそれ以前には,いわゆる「形態」,つまり緑内障における網膜,視神経乳頭の眼底所見は診断としての重要性が高く,それに対して管理としての意義は限られていた.現在,OCTが普及したことによって,「機能」である視野とともに,「形態」による管理が加わり,さらに互いにその情報が相加されることによって,より精度の高いより多彩な臨床情報を得ることが可能である.原理的に乳頭周囲網膜神経線維層厚の判定は,たとえab図1OCTによる視神経乳頭解析と黄斑部解析a:視神経乳頭解析によって乳頭周囲網膜神経線維層(RNFL)厚を測定し,正常データベースと比較してRNFLの菲薄化した領域を検出する.b:黄斑部解析では網膜内層厚,つまりRNFL厚,網膜神経節細胞層厚,内網状層厚を測定し,同様に正常眼データベースと比較し,菲薄化した領域を検出する.ab図1OCTによる視神経乳頭解析と黄斑部解析a:視神経乳頭解析によって乳頭周囲網膜神経線維層(RNFL)厚を測定し,正常データベースと比較してRNFLの菲薄化した領域を検出する.b:黄斑部解析では網膜内層厚,つまりRNFL厚,網膜神経節細胞層厚,内網状層厚を測定し,同様に正常眼データベースと比較し,菲薄化した領域を検出する.ab図2OCT所見と視野所見のコンビネーション緑内障の診断にはOCTによる形態所見と,視野による機能所見を照らし合わせることが重要である.一般に形態所見が機能所見に先行し,したがって視野検査上で感度異常がみられなくてもOCTで変化がみられた場合には,将来,その領域に視野欠損が生ずる可能性があることを考え,管理および経過観察していくことが必要である.a:視神経乳頭解析とHumphrey視野30-2のコンビネーション表示.b:黄斑部解析とHumphrey視野10-2のコンビネーション表示.236あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(76)適正な位置(距離)で撮影されているかどうかを確認する.部分的にスケールオーバーしてしまうと,その領域は計測されない.b.OCTによるGON診断そのものに適さない症例①網膜前膜を伴う例,②ぶどう膜炎のように視神経乳頭および周囲網膜の浮腫を伴う例などでは,緑内障以外の要素が加わり網膜厚は変化する.網膜内層厚の測定によるGON診断はあくまで“正常範囲との比較”であって,別な要素による形態変化が加わった場合には,適切な診断は不可能と認識するべきである.さらに,③しばしば上下RNFL厚のピークが内側にずれる症例がある.④一般のOCTでは.6Dの近視までが正常範囲との比較の対象であり,それより強い近視眼の判定には注意を要する.眼軸長補正によって正確に判定される機能をもつ装置もある.3.適切な判定のために必要なことOCTによる形態計測によってGONを適切に診断するには,さまざまなポイントを確認する必要がある.以下のような条件がすべて満たされたことを前提としてOCTによるGONの診断が可能であるということに留意しなければならない.a.撮影と計測が適切に行われたかどうかのチェックたとえば,撮影および撮影条件に伴うアーチファクトとして,①まず,画像の質についてチェックする.たとえば白内障の進行に伴って画像の質は低下し,網膜内層厚は薄く判定される.②乳頭周囲網膜神経線維層厚測定では,乳頭中心からの距離で正常範囲が設定されており,これがずれると正常範囲が異なるので正確な判定は不可である.③網膜各層のセグメンテーションが適切に行われているか確認する.眼球運動や瞬目などによってセグメンテーションが適切に行われていないことがある.その場合には手動で修正する.④計測範囲の全体が図3検眼鏡的に明らかなNFLDは観察されなかったが,OCTによってRNFLの菲薄化が検出され,preperimetricglaucomaと診断できた症例72歳,女性.左眼に比べて右眼の乳頭陥凹がより拡大しているが,右眼の乳頭周辺部(リム)は全周で保たれており,明らかな神経線維厚欠損(NFLD)は検出されない.OCTでの観察では,右眼は乳頭耳側上方に向かって広いNFLDが検出され(a),黄斑部解析でもこれに一致する網膜内層厚の菲薄化が認められた(b).「人間の眼」ではとらえることのむずかしい網膜神経線維層(RNFL)の菲薄化の所見を「機械の眼」のアシストによって検出できた症例である.abb図3検眼鏡的に明らかなNFLDは観察されなかったが,OCTによってRNFLの菲薄化が検出され,preperimetricglaucomaと診断できた症例72歳,女性.左眼に比べて右眼の乳頭陥凹がより拡大しているが,右眼の乳頭周辺部(リム)は全周で保たれており,明らかな神経線維厚欠損(NFLD)は検出されない.OCTでの観察では,右眼は乳頭耳側上方に向かって広いNFLDが検出され(a),黄斑部解析でもこれに一致する網膜内層厚の菲薄化が認められた(b).「人間の眼」ではとらえることのむずかしい網膜神経線維層(RNFL)の菲薄化の所見を「機械の眼」のアシストによって検出できた症例である.3.適切な判定のために必要なことOCTによる形態計測によってGONを適切に診断するには,さまざまなポイントを確認する必要がある.以下のような条件がすべて満たされたことを前提としてOCTによるGONの診断が可能であるということに留意しなければならない.a.撮影と計測が適切に行われたかどうかのチェックたとえば,撮影および撮影条件に伴うアーチファクトとして,①まず,画像の質についてチェックする.たとえば白内障の進行に伴って画像の質は低下し,網膜内層厚は薄く判定される.②乳頭周囲網膜神経線維層厚測定では,乳頭中心からの距離で正常範囲が設定されており,これがずれると正常範囲が異なるので正確な判定は不可である.③網膜各層のセグメンテーションが適切に行われているか確認する.眼球運動や瞬目などによってセグメンテーションが適切に行われていないことがある.その場合には手動で修正する.④計測範囲の全体が適正な位置(距離)で撮影されているかどうかを確認する.部分的にスケールオーバーしてしまうと,その領域は計測されない.b.OCTによるGON診断そのものに適さない症例①網膜前膜を伴う例,②ぶどう膜炎のように視神経乳頭および周囲網膜の浮腫を伴う例などでは,緑内障以外の要素が加わり網膜厚は変化する.網膜内層厚の測定によるGON診断はあくまで“正常範囲との比較”であって,別な要素による形態変化が加わった場合には,適切な診断は不可能と認識するべきである.さらに,③しばしば上下RNFL厚のピークが内側にずれる症例がある.④一般のOCTでは.6Dの近視までが正常範囲との比較の対象であり,それより強い近視眼の判定には注意を要する.眼軸長補正によって正確に判定される機能をもつ装置もある.236あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(76)図4前眼部OCT眼底用のOCTよりも長い波長(1,310nm)の近赤外光を用いることで,非接触で広い範囲の画像を取得することが可能で,角膜の形状や性状,前房および隅角の形状の観察,さらには量的な形態計測が可能である.238あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(78)構造7.9)(図5b)やpitなどの所見が観察され,GONの進行との関連について議論されている.とはいえ,血管より後方組織の観察は不可能で,解像度的にはまだ十分とはいえない.今後,さらに研究が進展することが期待される.2.SS.OCTとEnface画像による観察波長掃引レーザー(sweptsource:SS)を用いるOCT方式をSS-OCTという.SS-OCTの利点として,SD-OCTよりもさらに高速化が可能なこと,深さによる感度の減衰が少ないことがあげられる.より高速化の利点は,より多数の画像を取得することによってより繊細な画像取得が可能である.SS-OCTを撮影しEnface画像として観察することで,視神経乳頭周囲から黄斑部付近の網膜神経線維束,水平縫線の観察が可能である10)(図6a).また,GONを含むさまざまな視神経疾患に伴って,ときに黄斑部付近の網膜内顆粒層にMME(microcysticmacularedema)とよばれる変化を生ず部を撮影する方法が開発されたことによって,人緑内障眼の篩状板における変化を観察することが可能となった.篩状板孔の変化や変形を断層像としてとらえることができる6)(図5a).また,視神経乳頭の断層像から,篩状板厚の変化や,laminarbreakとよばれる切痕状の図6SS.OCTのEnface画像による緑内障眼の観察a:視神経乳頭周囲から黄斑部の網膜神経線維層(RNFL)および神経線維厚欠損(NFLD)(※)が明瞭に観察される.b,c:ときに網膜内顆粒層内に認められるMME(microcysticmacularedema)とよばれる変化(.)とその領域(.)が明瞭に観察される.c:断層像.abcab図5SD.OCTによる緑内障における篩状板変化の観察SD-OCTによって,人緑内障眼の篩状板の変化を観察することが可能となった.a:篩状板孔の変化や変形を断層像としてとらえることができる.b:視神経乳頭の断層像からときにlaminarbreakとよばれる切痕状の構造が観察される(.).図6SS.OCTのEnface画像による緑内障眼の観察a:視神経乳頭周囲から黄斑部の網膜神経線維層(RNFL)および神経線維厚欠損(NFLD)(※)が明瞭に観察される.b,c:ときに網膜内顆粒層内に認められるMME(microcysticmacularedema)とよばれる変化(.)とその領域(.)が明瞭に観察される.c:断層像.abcab図5SD.OCTによる緑内障における篩状板変化の観察SD-OCTによって,人緑内障眼の篩状板の変化を観察することが可能となった.a:篩状板孔の変化や変形を断層像としてとらえることができる.b:視神経乳頭の断層像からときにlaminarbreakとよばれる切痕状の構造が観察される(.).ababAngio/OCT-NerveHeadAngio/OCT-RadialPeripapillarCapillaries図7OCTangiographyによる緑内障眼の視神経乳頭内,乳頭周囲毛細血管網の観察OCTangiographyによって非侵襲的に,短時間で視神経乳頭部,黄斑部の血管構築を観察することが可能である.a:視神経乳頭内毛細血管網の消失(.).b:乳頭周囲放射状毛細血管網の消失(※).240あたらしい眼科Vol.33,No.2,2016(80)imagesthanonOCTretinalnervefiberlayerthicknessmaps.InvestOphthalmolVisSci56:6208-6216,201511)HasegawaT,AkagiT,YoshikawaMetal:Microcysticinnernuclearlayerchangesandretinalnervefiberlayerdefectsineyeswithglaucoma.PLoSOne10:e0130175,201512)LiuL,JiaY,TakusagawaHLetal:Opticalcoherencetomographyangiographyoftheperipapillaryretinainglaucoma.JAMAOphthalmol133:1045-1052,2015