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現場発,病院と患者のためのシステム 30.どこでも診療

2014年7月31日 木曜日

連載現場発,病院と患者のためのシステム連載現場発,病院と患者のためのシステム患者はかかりつけ以外のどこの医療機関に行っても,そこの医師に自分の過去の診療情報を見てもらえる環境が理想的です.技術的には特別な問題はありませんが,なかなかその環境にならないどこでも診察*杉浦和史のはどうしてでしょう.それはベンダ(システム開発,提供会社)の仕様(機能,扱う情報,画面遷移,レイアウト,操作性など)が統一されてい.はじめに北欧のある国では患者の情報が共有されており,どこで診察を受けても,支障なく適切な治療を受けることができるという大手ベンダのコマーシャルを見たことがあります.素晴らしいことだと思いますが,実はとても簡単です.すべての医療機関が同じベンダのアプリケーション(システム)を使えば当たり前にできるからです.東日本大震災で大きな被害を受けた医療機関が多数あり,システム環境も壊滅的なダメージを受けました.これをきっかけに,内閣府に医療イノベーション室ができ,医療機関の間で情報の共有ができるようにと,“どこでも診察”ができるようにとの方針が出されました.例えば,電子カルテシステムからのデータを受け取って請求額を計算する医事会計システムの場合,各社各様ではなく,統一した仕様があれば,どのベンダの医事会計システムでも面倒な処理を必要とせずデータを渡すことができます.しかし,シェアをもつ大手ベンダは,仕様の統一には総論賛成,各論反対.診察,手術,会計,検査など医療機関運営に必要な機能を自社の製品で統一させようと,ないことが大きな要因です.“どこでも診察”に関し,基礎的な知識を紹介します.必要な情報をどうやって医事会計システムへ渡すのでしょう.送受信の方法(接続仕様)につき,ベンダ間で打ち合わせが必要になります.データを渡す側は,「この順番(データストリ.ム)と形式(英数字,カナ漢字,画像など)でデータを渡すので受け取りをお願いします」といい,受け取る側は,「自社の医事会計システムの画面から入力されたデータを受け取るのと同じように送ってください」などといいます(図1参照).医事会計システムA病院B病院C病院X社製Y社製Z社製Z社仕様X社仕様Y社仕様M社電子カルテシステムしのぎを削っている(いた)という話を耳にしたことがあります.どうして1社の製品で,と思うのでしょう.統一されたら優位性が崩れる,などいろいろ考えられますが,異なるシステム間でデータ授受をするための共通接続インターフェイス開発に,多くの手間を要することが大きな要因ではないかと思われます..接続の手間1.他社製品との接続電子カルテシステムがM社の製品のとき,医事会計システムが同社の製品ではなく,X社,Y社,Z社の製品だった場合,電子カルテシステムがもっている請求に(87)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY図1逐一接続仕様を決めなければならないRどちらがどちらに合わすのかはともかく,自社の製品の中身を公開することにもなりかねないので,嫌がるのが常で,とても面倒な作業です.2.統一された仕様での接続統一された接続仕様があり,業界内でオーソライズされていれば,手間のかかる異なるベンダ間の接続仕様を検討することなく,連携がスムーズに進みます(図2参照).しかし,総論賛成各論反対にあって議して決せずの状態が続いています.*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141013 医事会計システムA病院B病院C病院X社製Y社製Z社製統一仕様統一仕様統一仕様M社電子カルテシステム医事会計システムA病院B病院C病院X社製Y社製Z社製統一仕様統一仕様統一仕様M社電子カルテシステム図2どのシステムでも接続できる共通仕様R日本医師会が無償で提供しているORCA(オルカ)と呼ばれる医事会計システムは,接続仕様が公開され,情報授受のためのインターフェイスも公開されているので,他社製品と接続するよりもストレスがありません(図3参照).医事会計システムA病院B病院C病院ORCAORCAORCAORCA接続仕様ORCA接続仕様ORCA接続仕様M社電子カルテシステム図3ORCAの提供する接続仕様を利用Rしかし,最もストレスがないのは,自社の医事会計システムであることはいうまでもありません(図4参照).自社製品なので,データ授受に関する情報は細大漏らさず入手でき,誤解もなく,動作の齟齬もありません.もっとも,国レベルで一つのベンダ製品に統一されてしまうと,競争相手がなくなり,切磋琢磨して製品を良くする機会がなくなってしまいます.気をつけるべきことだと思います.医事会計システムA病院B病院C病院M社製M社製M社製M社電子カルテシステム図4自社製品同士の場合R以上,電子カルテシステムと医事会計システムとの接続を例にしましたが,院内には数多くの部門システムがあり,これらを相互に支障なく接続し,情報授受を行うには膨大な手間がかかります.これを他社製品を考慮す1014あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014ることなく,1社の製品で統一すれば簡単にトータルシステムができ上がります.どこに行っても自分の診療情報を参照でき,適切な治療を受けられるという,“どこでも診察”ができる北欧の環境は,1社のベンダの製品で統一されているからという単純なものであることがご理解いただけたと思います.しかし,本来は図2のようなデータ授受のための共通インターフェイスを作り,異なるベンダ製品間でもストレスなく情報交換できる環境が望ましいことはいうまでもありません.3.どこでも診察環境“どこでも診察”は,データが紙ではなく電子的に取り扱われるようになっていることが前提です.個人の身体情報,診察履歴,投薬履歴,手術履歴,すなわちHearthRecordsを一元的に,かつ電子的に管理し,必要に応じて適宜利用する環境を構築.この下で,個人の健康の維持管理や病気,事故遭遇時に,どこでも適切で迅速な診察治療を可能とすることができます.その環境を図5に示します.診療所診療所中堅病院中堅病院拠点病院拠点病院EHR(診診連携)EHR(病診連携)EHR(病診連携)EHR(病病連携)EHR(病病連携)EHR(病病連携)EMREMR患者個人(PHR)EMREMREMREMR図5EMR,EHR,PHR概念図REMR/ElectronicMedicalRecord(診療情報を扱うシステム)HER/ElectronicHealthRecord(異なる医療機関同士での診療情報の相互交換,共有システム)PHR/PersonalHealthRecord(患者個人の健康,診療情報蓄積・管理・活用システム)モバイル機器と無線環境の普及で,自分の診療情報をいつでもどこでも見られるというユビキタス環境も整ってきています.一方,この便利さを享受するために,アクセスを許している箇所が随所にあり,ここから情報が漏えいする危険があります.便利さと危うさが共存しますが,セキュリティを確かにして便利さを感じるシステム環境を整備したいものです.(88)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 134.特発性黄斑円孔の成因(研究編)

2014年7月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載134134特発性黄斑円孔の成因(研究編)池田恒彦大阪医科大学眼科手術の実際とは少し離れるが,この連載では,筆者らが行っている硝子体手術に関連する臨床あるいは基礎研究も不定期に紹介させていただこうと思う.今回はその第1回目である.●特発性黄斑円孔の成因は硝子体牽引だけで説明できるか?特発性黄斑円孔は,後部硝子体皮質前ポケットの後壁の硝子体皮質の牽引により,中心窩網膜が牽引されることで発症する1).しかし,黄斑円孔がなぜ経過とともに同心円状に拡大していくのか,硝子体手術によって黄斑円孔が閉鎖した後,中心窩の形態が変化しないにもかかわらず,なぜ視力が向上し続けるかなど,疑問点も多い.筆者は以前から,中心窩に未分化な幹細胞様の網膜グリア細胞が存在するのではないかという仮説のもとに種々の研究を行ってきた2).●中心窩には幹細胞様の未分化な細胞が存在する?網膜の主要なグリアであるMuller細胞は脱分化をきたし,網膜前駆細胞になることが報告されている3,4).一方,網膜幹細胞はCMZ(ciliarymarginalzone)に存在し5),神経細胞,グリア細胞,視細胞に分化することが知られている.サル眼を用いた筆者らの研究の結果,中心窩網膜にはNestin陽性の細胞が他の部位より多く認められた(図1)6).また,黄斑円孔患者の硝子体中にはキマーゼというセリンプロテアーゼの活性が上昇していることを見いだした7).キマーゼはアンジオテンシン変換酵素(ACE)とは別の経路でアンジオテンシンIをIIに変換する作用を有し,組織の線維化やリモデリングに関与するが,アポトーシス作用も有している.実際,サル眼の硝子体にキマーゼを注入すると,中心窩にTunnel陽性細胞が出現する(図2)6).(85)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYa赤道部A,C周辺部D図1サル眼網膜におけるNestin陽性の細胞b2.5(/0.2mm2)ADa:黄斑部における25Nestin陽性細胞の免22.5疫染色.b:黄斑部は20他の部位と比較して17.515BCENestin陽性細胞が多12.510Meam±SD(N=5)く認められる.(文献2より引用)7.550黄斑部B黄斑と赤道の中間E図2サル眼の中心窩におけるTunnelControlChymase陽性細胞硝子体にキマーゼを注入すると,中心窩にTUNEL染色Tunnel陽性細胞が出現する.(文献6より引用)●特発性黄斑円孔の成因に関する新しい仮説なぜ黄斑円孔で硝子体中のキマーゼ活性が上昇するかについては不明であるが,毛様体,脈絡膜などに存在する肥満細胞がなんらかのきっかけでキマーゼ産生を亢進させるのかもしれない(網膜には肥満細胞は存在しない).OCTでみられる黄斑円孔部位の網膜分離様所見も,中心窩のMuller細胞が機能不全をきたした結果生じている可能性がある.中心窩にこのような未分化な細胞が存在するとしたら,黄斑円孔だけでなく黄斑上膜や黄斑浮腫などの種々の黄斑疾患の病態解明に繋がるかもしれない.文献1)KishiS,HagimuraN,ShimizuK:AmJOphthalmol122:622-628,19962)池田恒彦:日眼会誌107:785-812,20033)FischerAJ,RehTA:NatNeurosci4:247-252,20014)OotoS,AkagiT,KageyamaRetal:ProcNatlAcadSci101:13654-13659,20045)TropepeV,ColesBL,ChiassonBJetal:Science287:2032-2036,20006)SugiyamaT,KatsumuraK,NakamuraKetal:OphthalmicRes38:201-208,20067)MaruichiM,OkuH,TakaiSetal:CurrEyeRes29:321-325,2004あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141011

眼科医のための先端医療 163.ストレスシグナル制御による神経保護治療の可能性

2014年7月31日 木曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第163回◆眼科医のための先端医療山下英俊物理化学的ストレスストレスシグナル制御による神経保護治療の可能性香留崇(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部眼科学分野)ストレス応答性MAPキナーゼ経路とASK1個々の細胞は絶えず外界からのストレスに曝されており,そのストレスの種類や程度に応じて細胞周期の停止,DNA修復,アポトーシス,サイトカイン産生など,さまざまな応答を示します.その応答には細胞内のシグナル伝達が重要な役割を担っており,とくにMAP(mitogen-activatedprotein)キナーゼ(MAPK)経路の役割が注目されています1).MAPK経路は3つの階層のキナーゼ(MAPKKK,MAPKK,MAPK)から構成され,酵母から哺乳類に至るまできわめてよく保存されています.Apoptosissignal-regulatingkinase1(ASK1)はストレスによって活性化され,下流のc-JunN-terminalkinase(JNK)経路とp38MAPK経路を通じてアポトーシスを制御しているMAPKKKとして報告されました2)(図1).ASK1のノックアウト(KO)マウスはいずれも正常に発生・発育し,明らかな形態や行動の異常は認められませんでした.しかし,ヒトの疾患モデルとなるようなさまざまなストレス刺激をKOマウスに加えると,個体レベルでの応答に異常が認められます.これまでのASK1KOマウスを使った解析から,とくにアルツハイマー病などの神経疾患とASK1との関連が示唆されています3~6).細胞質MAPKKKMAPKKMKK4/7MKK3/6MAPKASK1JNKp38MARKアポトーシス図1ASK1を介するシグナル伝達経路ASK1はMAPKKKとして,MKK4/MKK7→JNKおよびMKK3/MKK6→p38という2つのストレス応答MAPK経路を活性化し,さまざまな細胞に細胞死を誘導する.これらの結果を踏まえ,筆者らは,視神経損傷後にはASK1が過剰に活性化して,網膜神経節細胞死が増加するのではないかと推測し,視神経外傷によるASK1の役割と薬物治療の可能性について検討した7)ので,その結果を解説します.ASK1KOマウスによる神経細胞死の抑制マウスに麻酔をかけ,眼球の後ろ約3mmの部位の視神経を軽くピンセットで数秒間圧迫して神経軸索を損傷すると,網膜神経節細胞死が起こり,網膜内層は変性します.この手法を用いて,野生型(wildtype:WT)マウスとASK1KOマウスに視神経外傷処置を行い,7日後および14日後に眼球を摘出し,網膜の形態をヘマトキシリン・エオジン染色にて観察し,網膜内層厚および視神経外傷前7日後14日後図2aASK1ノックアウトGCL(KO)マウスにおけるINL神経細胞死の抑制野生型マウス視神経外傷後マウスの摘出網ONL膜のヘマトキシリン・エオジン染色像.すぐ下には網膜神経節細胞層の拡大像.ASK1KOマウスでは野生型マウスGCLと比較して,視神経損傷後のINL網膜神経節細胞死が抑制さASK1NOれ,網膜内層の厚みも保たれマウスONLているのがわかる.IRL(81)あたらしい眼科Vol.31,No.7,201410070910-1810/14/\100/頁/JCOPY 野生型マウスASK1NOマウス0362403624経過時間(外傷後より)phospho-p38totalp38phospho-JNKtotalJNK図2b視神経外傷によるp38MAPKの活性化WTマウスでは視神経外傷後3時間後をピークとするp38MAPKの活性化が認められた一方で,ASKlKOマウスでは視神経外傷後もp38MAPKのリン酸化は抑制されており,ほとんど観察できなかった.ASK1の下流でp38MAPKと同様に細胞死を誘導するとされるJNKの発現に変化は認められなかった.totalp38:p38MAPKの全体量,phospo-p38:活性化したp38MAPK,totalJNK:JNKの全体量,phospo-JNK:活性化したJNK視神経外傷前7日後14日後GCLコントロールINLONL(PBSの眼球内投与)GCL外傷5分後にp38MAPKINL阻害剤の眼球内投与ONLIRL図2cp38MAPK阻害剤による神経細胞死の抑制OCTを用いた同一個体における網膜断層像.上段はPBS(薬剤を溶かす溶液)を眼球内に投与したコントロール.下段は受傷の5分後にp38MAPK阻害剤を眼球内に投与した個体.p38MAPK阻害剤を投与した網膜では,その後14日間にわたって,網膜内層の厚みが保たれていることがわかる.GCL:ganglioncelllayer(神経節細胞層),INL:innernuclearlayer(内顆粒層),ONL:outernuclearlayer(外顆粒層),IRL:innerretinallayer(網膜内層)(図2a~c:文献7より許可を得て転載,一部改変)網膜神経節細胞数の定量化を行ったところ,WTマウス制されており,ほとんど観察できませんでした.ASK1では網膜内層の非薄化と網膜神経節細胞の減少を認めまの下流でp38MAPKと同様に細胞死を誘導するとされした.しかし,ASK1KOマウスでは網膜内層の非薄化とるJNKの発現に変化は認められませんでした(図2b).網膜神経節細胞の減少は有意に抑制されており,視神経以上の結果は,視神経外傷による網膜神経節細胞死の外傷による網膜変性の軽症化が確認されました(図2a).誘導には,ASK1からp38MAPKに至る経路が主に関次にp38MAPKの活性の変化を定量的に評価する目与することを示しています.的で,網膜全体から精製した蛋白質を用いたWesternblottingを行いました.WTマウスでは視神経外傷後にp38MAPKの活性化が認められた一方で,ASK1KOマウスでは視神経外傷後もp38MAPKのリン酸化は抑そこで,筆者らは実験用試薬として汎用されているp38MAPK阻害剤による視神経外傷後の網膜変性の軽症化1008あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(82) p38MAPK阻害剤を眼内に投与することで,視神経外傷後の網膜変性の軽症化が可能かどうか検証しました.摘出網膜による組織学的な検討で,p38MAPK阻害剤による網膜神経細胞死が抑制されることを確認しました.そこで,同一個体における経時的変化を観察するため,光干渉断層計(OCT)を使用してp38MAPK阻害剤の効果を検討しました.その結果,視神経外傷の5分後にp38MAPK阻害剤を投与したマウスでは,受傷後7日後と14日後においても網膜内層厚の減少が抑制されることが確認されました(図2c).今後の展望本稿では,視神経外傷と細胞死誘導因子であるASK1の関連について解説しました.視神経外傷後のASK1p38MAPKシグナル伝達経路を遮断することで網膜変性を抑制することが明らかとなり,同経路が神経保護治療のターゲットになり得る可能性を示しました.視神経外傷はいわば急性の視神経変性疾患でありますが,一般的に緩徐に進行する慢性の神経変性疾患である緑内障などにおいても,ストレスシグナルによって誘導される神経細胞死を抑制することが,神経保護に有効な可能性を示したともいえます.このような知見は,ストレスシグナルの破綻が疾患の発症・病態に大きくかかわっていることを物語っており,今後もストレス応答の機能解析を進めることで,ストレスシグナルを標的とした新たな創薬基盤の開発や医療への還元へとつながるものと期待されます.文献1)KyriakisJM,AvruchJ:Mammalianmitogen-activatedproteinkinasesignaltransductionpathwaysactivatedbystressandinflammation.PhysiolRev81:807-869,20012)IchijoH,NishidaH,IrieKetal:InductionofapoptosisbyASK1,amammalianMAPKKKthatactivatesSAPK/JNKandp38signalingpathways.Science275:90-94,19973)KadowakiH,NishitohH,UranoFetal:AmyloidbetainducesneuronalcelldeaththroughROS-mediatedASK1activation.CellDeathDiffer12:19-24,20054)NishitohH,KadowakiH,NagaiAetal:ALS-linkedmutantSOD1inducesERstress-andASK1-dependentmotorneurondeathbytargetingDerlin-1.GenesDev22:1451-1464,20085)HaradaC,NakamuraK,NamekataKetal:Roleofapoptosissignal-regulatingkinase1instress-inducedneuralcellapoptosisinvivo.AmJPathol16:261-269,20066)HaradaC,NamekataK,GuoXetal:ASK1deficiencyattenuatesneuralcelldeathinGLAST-deficientmice,amodelofnormaltensionglaucoma.CellDeathDiffer17:1751-1759,20107)KatomeT,NamekataK,GuoXetal:InhibitionofASK1p38pathwaypreventsneuralcelldeathfollowingopticnerveinjury.CellDeathDiffer20:270-280,2013■「ストレスシグナル制御による神経保護治療の可能性」を読んで■ストレスが疾患や老化の原因であることが広く知ら体的には,アポトーシス,炎症,形態再構築などの現れるようになり,ストレス緩和のためのサプリメント象がそれにあたります.従来から,ストレス反応伝達摂取が,現在大きなブームになっています.しかし,経路の代表的分子であるASK1は,p38MAPKおよストレスという概念は,紫外線,外傷,炎症など,あびJNKを誘導することが報告されていました.しかりとあらゆるものを含むため,効果的対策が立てにくし,細胞内シグナル伝達経路においては,特定の分子いのも事実です.サイエンスとは,曖昧な現象を分析が活性化されても,その下流にいくつかの異なるシグして実態を明らかにすることですから,サイエンスとナルを伝達するので,最終的な細胞反応までの経路をしての医学の立場からは,生体のストレス経路を明ら明らかにしないと,あまり意味はありません.そのこかにすることが必要です.そして,そこをコントローとを理解すると,外傷という具体的なストレスから,ルすることこそが治療につながります.網膜細胞死という最終現象までの経路を解明できたと今回,香留先生が述べられたことは,その意味からいう今回の研究の意義の大きさがわかると思います.きわめて重要なことです.生体ストレスには,小胞体そして,その発見を,治療に結びつけることができたストレス,サイトカイン,紫外線,浸透圧,温度,虚ことは,さらにすばらしい成果です.もちろん,この血,機械的刺激などさまざまなものがあります.細胞経路は自然免疫にも関連していますので,ただちに臨はそれらのストレスに反応して,ASK1,MEKK1,床に結びつくとは限りませんが,外傷後の組織傷害のTAK1,MTK1などの多くの分子群を活性化させ,防止やその薬物治療についての道を開いた先駆的研究さらにその下流のp38MAPKやJNKなど分子経路をであることは間違いありません.介して,ストレスへの応答現象を引き起こします.具鹿児島大学眼科坂本泰二(83)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141009

私の緑内障薬チョイス 14.病期とPG製剤チョイス

2014年7月31日 木曜日

連載⑭私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也連載⑭私の緑内障薬チョイス企画・監修山本哲也14.病期とPG製剤チョイス原岳橋本尚子原眼科病院プロスタグランジン(PG)製剤は「強い眼圧下降」作用が魅力だが,「眼局所の副作用」が多様であることも広く知られている.両者にはおおむね「眼圧下降が強ければ,局所副作用も強い」という関係があると思われる.早期の症例では「眼局所副作用の強くない」治療がアドヒアランスを良好にすると思われ,中,末期の症例では「眼圧下降を優先」した治療が患者の理解,支持を受けると思われる.症例139歳,女性.LASIK希望.初診時視力は右0.04(1.2×.8.75cyl(0.75A180°),左0.05(1.2×.8.0cyl(1.0A170°),眼圧は右19mmHg,左18mmHgであった.両眼ともに視神経乳頭陥凹が認められ(図1),右眼は下方に網膜神経線維層欠損(nervefiberlayerdefect:NFLD)が認められた.OCTの黄斑部神経節細胞層厚(GCA)(図2)には両眼の菲薄化が観察され,視野検査図1症例1の初診時の視神経乳頭近視変化によるコーヌスが認められるが,右眼に神経線維層欠損が認められる.図2症例1の初診時のGCA両眼ともにGCAは菲薄化しているが,右眼は上下の厚さに差があり,より下方が薄いことがわかる.左眼も全体的にGCAの菲薄化が観察されるが,右眼ほどではなく,上下の差も右眼ほど顕著ではない.図3症例1のHumphrey静的視野検査30.2の結果右眼はOCTの結果に一致して上方の感度低下が始まっている.左眼は顕著な感度低下は観察されず.結果(図3)では右眼のNFLDと一致する視野異常が認められた.症例256歳,男性.半年前より視力低下を自覚し初診.初診時視力は右0.06(1.0×.5.25Dcyl(1.0DA170°),左0.02(0.2×.4.0Dcyl(1.0DA170°),眼圧は右15mmHg,左15mmHgであった.眼科治療歴はなく,視神経乳頭は両眼ともに広い陥凹を示し(図4),左眼はとくに萎縮所見が強かった.視野検査では(図5),左眼は図4症例2の初診時の視神経乳頭写真両眼ともに近視乳頭.すでに広い陥凹がみられ,左眼はとくに萎縮変化が強い.本欄の記載内容は,執筆者の個人的見解であり,関連する企業とは一切関係ありません(編集部).(79)あたらしい眼科Vol.31,No.7,201410050910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図5症例2の静的視野検査30.2の結果左眼(.24.85dB)はすでに中心視野に至る全体の感度低下.右眼(.12.76dB)は上方が顕著な感度低下,下方の中心視野は保たれている.すでに中心30°の視野は全体に感度低下をきたしていた.右眼は上方の感度低下が顕著であったが,下方の中心視野は保たれていた.眼圧下降作用と副作用の関係PG製剤の眼圧下降作用は,おおまかにビマトプロスト>トラボプロスト>ラタノプロストの順で眼圧下降効果が強く,タフルプロストはラタノプロストと同等かやや眼圧下降が強い,という報告がある.一方,充血や眼瞼溝深化(deepeningoftheuppereyelidsulcus:DUES)などの局所副作用は,ラタノプロストに比し,ビマトプロストやトラボプロストのほうが強い,との報告があり,PG製剤には「眼圧下降が強い=局所副作用も強い」という傾向があるといえる.病識と副作用許容の関係緑内障患者の治療上重要な因子のひとつに「病識」がある.点眼をしても視野が広がるわけでなく,点眼を忘れても翌日何も変化はないため,点眼のモチベーションを維持しにくいのが特徴である.緑内障患者の唯一のモチベーションは「放置したら失明する」という「病識」という名の危機感である.患者の病識が低ければ点眼後の充血は我慢できないし,病識が強ければDUESを生じても,アドヒアランスは良好になる.症例の検討症例1は近視眼の正常眼圧緑内障(normaltensionglaucoma:NTG)で,視野障害の自覚症状はないため,病識は低い.一方,視神経乳頭の陥凹は右>左で,NFLDが右下方に観察される.GCAは両眼ともに近視の影響もあり薄いが,全体に左に比べて右が薄く,さらに上方に比べて下方の菲薄化が顕著である.視野検査で1006あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014は右上方ビエルム領域に感度低下が出現し,今後も進行する可能性があると思われ,治療意義がある.このような症例では,PG製剤を第1選択で使用するが,病識が低いため,副作用の強くないラタノプロストを選択した.眼圧は12~13mmHgに低下し,経過観察中である.無治療時の眼圧が15mmHg以下であったらタフルプロストから開始したかもしれない.症例2は,症例1と同様の近視眼であるが,視野障害が顕著で,すでに本人も左眼の視力低下を自覚している.視力検査で視力が低下しているだけでなく,視野検査を行い,左眼のみならず右眼にも視野障害が出ていることを知り,本人は愕然としていた.さらに,緑内障性視野障害は不可逆性であるだけでなく,今後さらに進行する可能性があることを知らされ,緑内障進行の危機感がさらに強くなった.本症例では,眼局所の副作用よりも眼圧下降を最優先し,ビマトプロストを選択した.眼圧は両眼ともに11~12mmHgに下降した.点眼使用開始後,両眼結膜に顕著な充血が生じた.さらに眼瞼色素増加,DUESも出現しているが,本人は眼圧下降,中心視野の確保を優先して望んでおり,受診のたびに眼圧,視野検査結果などを熱心に確認している.まとめ緑内障治療の唯一のエビデンスは眼圧下降であるから,治療は眼圧下降を最優先に考えるのが当然であり,それがPG製剤が第1選択となっている最大の理由である.しかし,PG製剤には他の薬剤よりも眼局所の副作用が多様であり,それが理由でアドヒアランスが低下し,なかには治療を途中でやめてしまう例も出かねないのが実情である.患者の病識が高ければ,眼局所の副作用を許容し,治療を継続することが可能である.早期の症例では眼局所の副作用の強くないものを選択し,点眼を継続させることにも配慮が必要である.中・末期の患者はおおむね病識が高く,緑内障悪化に対する危機感があり,局所副作用を許容することができるため,より眼圧下降を優先することができると筆者は考えている.当然ながら,全体の傾向はあっても「個人差」があるので,眼圧下降も局所副作用も使用後の降下の確認が最重要である.(80)

抗VEGF治療:抗VEGF薬硝子体内注射による眼合併症

2014年7月31日 木曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二6.抗VEGF薬硝子体内注射服部知明名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学による眼合併症抗VEGF薬が国内で認可されて5年が経過した.適応疾患は当初,滲出型加齢黄斑変性であったが,現在では近視性脈絡膜新生血管や網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症に伴う黄斑浮腫と拡大し,注射数の増加に伴う合併症の増加が懸念されている.今回は抗VEGF薬硝子体内注射による眼合併症について解説する.はじめに2008年にマクジェンRが日本で使用されるようになって以来,抗VEGF薬はルセンティスR,アイリーアRと続々と発売され,適応疾患もはじめは滲出型加齢黄斑変性に伴う脈絡膜新生血管のみであったが,現在では,近視性脈絡膜新生血管,網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫,糖尿病黄斑浮腫と徐々に適応拡大され,注射数の劇的な増加による合併症の増加が危惧されている.国内外で抗VEGF薬硝子体内注射による眼合併症が報告されており,なかでも眼内炎は,頻度こそ低いもののその後の視機能に重大な影響を及ぼすことから,予防と対策が非常に重要である.そのほか,当施設で起きた合併症も含めて解説する.網膜裂孔・黄斑円孔硝子体内注射手技の際に,刺入する針の動きと硝子体内に流入する薬液の影響で,硝子体の移動による網膜の牽引が起こったり,まれにではあるが長い針の刺入し過ぎや眼球の上転などの影響で針先が網膜に接触したりすることにより,網膜に医原性の裂孔や円孔を形成してしまう場合がある.飯島らの報告によると0.02%であった1).完全に予防することは困難であるが,当施設では術者が気をつけて行う点として,①眼球に垂直に刺入すること,②刺入後は眼球内での注射針の方向変換など無用な操作を行わずに,そのまま垂直に注射針を抜去することとしている.また,③薬剤のジェット水流による裂孔形成の報告もあるので,ゆっくりとした薬剤注入が推奨される.眼内への刺入は7.10mmぐらいでよいので,針の長さが10mm程度の30ゲージ針を用いると安全である.(77)0910-1810/14/\100/頁/JCOPY水晶体損傷有水晶体眼への硝子体内注射の場合,手技的に水晶体後.を損傷する場合がある.注射針の刺入時よりも抜去時に針先が水晶体後面に接触する場合が多いように思われる.飯島ら1)は,0.06%と報告しており当院でも現在までに2例(0.08%)を経験しているが,いずれも抜去時に水晶体損傷を起こしている(図1).予防としては網膜裂孔の項目と同じだが,抜去時に注意して刺入時と同じルートを通って垂直に抜去するように心がけるとよい.手技に不安があれば,硝子体内注射ガイド(M.E.Technica)を使用すると安全に施行できる.水晶体後.を損傷してしまった場合は,高い確率でその後,外傷性白内障が進行し手術となる.このときは,すでに後.が破損していることを前提に手術を行う必要があり,患者への説明が重要である.また,(前部)硝子体切除を行図1水晶体損傷例80歳,男性.4回目の硝子体注射時に発生した.経過観察していたが徐々に白内障の進行を認めたため,3カ月後に白内障手術を施行した.術前からの後.破損のため眼内レンズは.外固定となった.あたらしい眼科Vol.31,No.7,20141003 図2眼内炎例74歳,男性.初回の硝子体注射のあと,4日目で発症した.同日に硝子体手術を施行となった.うことは,その後の抗VEGF薬の眼内滞留性を低下させて,治療がむずかしくなってくる場合があるので,やはり水晶体損傷には十分な注意をはらう必要がある.眼内炎抗VEGF薬に限らず,硝子体内注射における最も重大な合併症である.国内外の報告を調べると,個々の抗VEGF薬の注射における眼内炎の発生頻度は,飯島らは0.04%1)と報告し,MARINA試験2)でも0.04%であった.筆者らの施設でも2,488注射中1眼(0.04%)が眼内炎を発症した(図2).この頻度は白内障手術時の眼内炎の発症率と比較しても,ほぼ同等と考えられるものの,1人の患者が多いときは10回以上注射を行うこともあり,相対的に眼内炎のリスクが上がっていくと考えられるため,可能な限りの眼内炎の予防および早期発見が大切である.予防として,まず注射3日前から抗菌薬の点眼を行う.術前の消毒・洗眼に関しては300以上の論文を検証した報告において,ヨード製剤による消毒が術後眼内炎予防に最も高いエビデンスを有すると評価している3).したがって筆者らの施設では,眼瞼周囲の皮膚消毒を10%のヨード製剤で行い,結膜.の洗眼・消毒を4倍希釈のPA・ヨードで行っている.そのほか,当院では手術室を利用しているが,外来処置室で行うとしても,マスクと手袋の着用が推奨される.睫毛の常在菌の侵入を阻止するため,睫毛よけ機能1004あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014図3EzSpecR睫毛をシーリングすることができ,使い捨てのため清潔が保てる.の付いた使い捨ての開瞼器(EzSpecR:HOYA)を全例に使用している(図3).針先をどこかに触れないように気をつけるのも大切である.おわりに抗VEGF薬硝子体内注射による眼合併症のなかで,追加治療が必要となるおもな合併症を取りあげた.抗VEGF薬の硝子体内注射は最近の適応拡大に伴って,今後,劇的に増加する可能性が考えられる.注射数の増加により必然的に合併症をきたす絶対数も増加する.これをできる限り減らすために,手技的な合併症を極力減らし,最大の合併症である眼内炎をどのように予防するかが重要である.今後も眼内炎予防の知識を眼科医同士で共有し,可能な限りの予防措置を講じ,また,眼内炎発生時に迅速な対応ができるように患者説明や設備やスタッフの準備をしておくべきである.文献1)飯島裕幸,今澤光宏:ベバシズマブ硝子体注射に関する全国調査.眼科51:927-933,20092)RosenfeldPJ,BrownDM,HeierJSetal:Ranibizumabfornaovascularage-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed355:1419-1431,20063)CiullaTA,StarrMB,MasketS:Bacterialendophthalmitisprophylaxisforcataractsurgery:anevidence-basedupdate.Ophthalmology109:13-24,2002(78)

緑内障:新しいOCTによる乳頭篩状板観察

2014年7月31日 木曜日

●連載169緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也169.新しいOCTによる乳頭篩状板観察庄司拓平埼玉医科大学医学部眼科学教室SD-OCTの登場により,網膜分層構造の解析が可能になり,緑内障における網膜内層の構造変化をより詳細に捉えることが可能になった.現在,次世代OCTの試作機はいくつか報告されているが,本稿ではモードロックレーザーを用いた広帯域光源OCTによる視神経乳頭・篩状板像を紹介する.●緑内障の画像診断の進歩緑内障の画像診断は,スペクトラルドメイン光干渉断層計(spectral-domainopticalcoherencetomography:SD-OCT)の登場により解像度が向上し,網膜分層構造の定量的評価が可能になった.スキャンスピードが飛躍的に向上したため,重ね合わせによるスペックルノイズ除去や,ラスタースキャンによるBスキャン像の大量取得も可能となった.従来の画像診断機器による緑内障の定量的評価は,乳頭形状や乳頭周囲の網膜神経線維層(nervefiberlayer:NFL)を測定するのが主流であったが,これらの評価方法に加え,黄斑部内層網膜厚の評価が可能となった.2012年には世界初のスウェプトソースOCT(sweptsourceOCT:SS-OCT)が市販された.異なる波長の干渉信号をFourier変換して画像を構築する点において両者は共通であるが(Fourier-domainOCT:FD-OCTと呼ばれる),波長掃引レーザーを光源とするSS-OCTは,従来の光源よりも長い1,050nm帯を中心波長とするため,より深達度の高い(しかし縦方向分解能はややSD-OCTに劣る)画像が取得可能となった.●生体篩状板観察緑内障の病態に視神経乳頭篩状板が重要な役割を果たしていることは,従来から指摘されていた.緑内障が進行するにつれ,篩状板が後方へ押し出され菲薄化することは剖検眼で確認され,生体眼では篩状板孔が透見可能となり(laminardotsign),さらには篩状板孔が変形することも眼底写真を評価することで報告されていた1).ただし,硝子体側からは,篩状板の手前には血管や神経線維も集まってくるため,観察が困難となることが少な(75)0910-1810/14/\100/頁/JCOPYくない.また,従来のOCTで観察を試みても,これらの組織により信号が減衰してしまい,明瞭な画像を得ることがむずかしかった.しかし,SD-OCTのEDI法やSS-OCTにより篩状板が確認可能となり,近年,生体篩状板の構造や乳頭辺縁の微細構造の報告が急増している.●広帯域レーザー光源を用いた新たなOCT筆者らの施設(埼玉医科大学先端レーザー医学センター)では,モードロックレーザーを用いた広帯域光源のOCTを開発した2,3).FD-OCTにおいてはOCTの縦方向分解能(axialresolution)は光源の波長幅により規定され,光源波長幅が広いほど解像度は向上する.本OCTは,従来のSLD光源を使用した波長幅の3.4倍にあたる200nmの波長幅をもつことにより,解像度2μmを実現した.さらに,ラスタースキャンの間隔を狭め,撮影部位の異なるBスキャン画像を連続取得した.この画像を再構築すれば,乳頭篩状板をはじめとする視神経乳頭深部の3次元情報を取得することが可能になり,任意の平面での切片画像がイメージングでき,さまざまな深さでのC-scan画像(en-face画像)を取得することも可能になった(図1).●今後の画像診断次世代OCTとしては,超広帯域光源を利用するものだけではなく,補償光学(adaptiveoptics:AO)を組み合わせた補償光学走査型レーザー検眼鏡(AO-SLO)やAO-OCT,組織の複屈折性を利用し,網膜内の物性変化を捉えようと試みられている偏光OCT,光学的なドップラー効果を利用し,血流量を測定するドップラOCTなどがある.いずれもいまだ市販化はされていなあたらしい眼科Vol.31,No.7,20141001 図1視神経乳頭の3次元断面像60歳,男性の正常眼画像を3次元構築した像.任意の高さにおける3次元像を構築することが可能となった.硝子体側からはlaminaporeは確認できないが(左),断面の高さを変えることで篩状板の構造が明瞭に確認できる.いが,生体眼での画像取得・解析結果はすでに報告されている.緑内障の視野障害発症パターンからも先述のとおり,視神経篩状板部の網膜神経線維束が最も重要な働きをしていることが強く示唆されている.これらの機器を応用することにより,詳細な生体乳頭篩状板の構造と機能が明らかになり,さらなる病態解明が期待される.文献1)MillerKM,QuigleyHA:Theclinicalappearanceofthelaminacribrosaasafunctionoftheextentofglaucomatousopticnervedamage.Ophthalmology95:135-138,19882)KurodaH,BabaM,SuzukiMetal:Ahighspeedthree-dimensionalspectraldomainopticalcoherencetomographywith<2μmaxialresolutionusingwidebandwidthfemtosecondmode-lockedlaser.AppliedPhysicsLetters102:251102,20133)KurodaH,BabaM,SuzukiMetal:Ultra-highsensitiveandhighresolutionopticalcoherencetomographyusingalaserinducedelectromagneticdipole.AppliedPhysicsLetters103:141118,2013☆☆☆1002あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(76)

屈折矯正手術:Hole ICL

2014年7月31日 木曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載170大橋裕一坪田一男小島隆司170.HoleICL岐阜赤十字病院眼科,名古屋アイクリニックICLの光学部中央に小さな貫通孔をもつHoleICLは,虹彩切除など瞳孔ブロック予防の処置が必要なくなることが特徴である.房水がICL下を流れるので併発白内障予防にも効果が期待される.光学的には通常のICLと差がないことが報告されている.●HoleICLとはImplantablecollamerlens(ICL)は後房型の有水晶体眼内レンズである.日本では2010年にICL,2011年にトーリックICL,2012年にHoleICLが厚生労働省に認可されている.安全性,有効性,予測性に優れる手術で,中等度.高度近視に対してはレーシック(LASIK)よりも術後視機能が優れることが報告されている1).乱視矯正効果においても,3D以上の乱視症例の乱視矯正効果はトーリックICLのほうがレーシックより優れていると報告されている2).後房型の特徴として,レンズが瞳孔領を塞いでしまうために,瞳孔ブロック予防のために術前にlaseriridotomy(LI),もしくは術中にperipheraliridectomy(PI)が必ず必要になる.術前のLIは患者にとっても負担であり,また現在までに報告はないが,レーザーによる角膜内皮細胞障害のリスクとなりうる.PIはICLの挿入後に行うが,通常ICL手術ではしっかりと散瞳した後に手術を行うため,その状態で縮瞳させる場合は十分な縮瞳が得られるまでに時間がかかる場合がある.HoleICL(ICLV4c)は,このICLの中央部分に0.36mmの貫通孔をもつもので,この穴を通して房水が後房から前房へと回るために,LIやPIは必要なくなる.現在ではヨーロッパにおいては通常型のICLよりも年間の埋植数は多くなっている現状である(STAARSurgical社内資料).●HoleICL手術HoleICLは通常のICL手術とほぼ同じように施行できる.レンズのカートリッジへのセッティングは従来と同じであるが,ICLは生理食塩水に浸漬しており,HoleICLはBSSに浸漬している.この違いにより,Hole(73)ICLは今までのICLよりも含水率が高くなっており,セッティングする際に,やや柔らかい印象がある.手術手順を図1に示す.従来のICLは裏側に粘弾性物質が残るが,HoleICLではHole周辺から粘弾性物質が抜けていくのが顕微鏡下で確認できる.●HoleICL挿入後の視機能光学部中央の貫通孔がどのように視機能に影響を与えるかは非常に重要なポイントである.Uozatoらは,モデル眼において0.36mmの中心孔をもつHoleICLは,臨床的に問題となるようなmodulationtransferfunction(MTF)の低下を引き起こさないことを報告している3).Shimizuらは,片眼にHoleICLを,もう一方に通常のICLを挿入して比較した術後早期成績を報告している4).この報告によると,HoleICLと従来型のICLでは術後の惹起高次収差に差がなく,コントラスト感度は両群間に差がなかったとしている.また,夜間のグレアやハローなどの症状も両群で差がなかったと報告している.Kamiyaらも年齢マッチングさせたHoleICL群と通常のICL群に対してopticalqualityanalysissystemを用いた比較をしている5).この報告では,両群においてMTFのcutoff周波数,Strehlratio,前方散乱に関するインデックスなど,視覚の質に関係する値に差がなかったとしている.●HoleICLがもたらす影響HoleICLによってLIやPIなどの処置が必要なくなる.LIやPIは術後の羞明の原因になることがある.また,LIは術後に塞がってしまったり,開いていても径が小さかったりすると瞳孔ブロックを起こすことがあり,ICL手術を始めたばかりの術者で起こしやすい合併症の一つである.PIも同様で,視機能への影響を小さあたらしい眼科Vol.31,No.7,20149990910-1810/14/\100/頁/JCOPY 図1HoleICL手術の流れ①サイドポート作製.②粘弾性物質置換.③3mm耳側角膜切開.④ICL挿入.⑤ハプティクスを虹彩下へ挿入(白矢印:中心の貫通孔).⑥IAを粘弾性物質を除去(白矢印:Holeへ向かう水流を確認できる).くするためにできるだけ小さいPIを作製しようとすると,前葉のみが切除され後葉が残ることがある.この場合は術後に瞳孔ブロックを起こし,緊急でYAGレーザーなどを用いてPIを開通させる処置が必要になる.また,瞳孔ブロックを起こさなくても術後早期に眼圧上昇することがあるが,その原因は粘弾性物質の残留によることが多いと考えられている.従来はICLと水晶体の隙間に残存した粘弾性物質を手術中に完全に吸引除去することは困難であったが,HoleICLは,貫通孔を通じて粘弾性物質の直接除去が可能で,術後の一過性眼圧上昇が非常に少ない.従来のICLは,前述したように生理食塩水に浸漬しているために,眼内に埋植されると膨張し,手術中は問題ないと思われても,術後のvault(ICLと水晶体前面の距離)が意外と高かったり低かったりすることがある.HoleICLはBSSに浸漬しているために,手術中とその後のvaultの変化が起こりにくい.ICL手術の術後合併症として併発白内障があげられる.この原因としては,手術による侵襲もあるが,その大半は房水の循環不全による代謝障害によると考えられている.HoleICLを使用することによって,房水が後房から前房へと生理的なルートと同じように流れるようになる.Shirataniらが報告するように,動物実験では水晶体への影響は通常のICLより小さく6),HoleICLによってこの併発白内障のリスクを大幅に減らせる可能1000あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014性がある.現時点ではHoleICLを使用して白内障を発症した症例の報告はなく,今後,長期経過観察の報告が待たれる.文献1)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Comparisonofcollamertoricimplantable[corrected]contactlensimplantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisforhighmyopicastigmatism.JCataractRefractSurg34:1687-1693,20082)HasegawaA,KojimaT,IsogaiNetal:Astigmatismcorrection:Laserinsitukeratomileusisversusposteriorchambercollagencopolymertoricphakicintraocularlensimplantation.JCataractRefractSurg38:574-581,20123)UozatoH,ShimizuK,KawamoritaTetal:Modulationtransferfunctionofintraocularcollamerlenswithacentralartificialhole.GraefesArchClinExpOphthalmol249:1081-1085,20114)ShimizuK,KamiyaK,IgarashiAetal:Intraindividualcomparisonofvisualperformanceafterposteriorchamberphakicintraocularlenswithandwithoutacentralholeimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthalmol154:486-494,20125)KamiyaK,ShimizuK,SaitoA:Comparisonofopticalqualityandintraocularscatteringafterposteriorchamberphakicintraocularlenswithandwithoutacentralhole(HoleICLandConventionalICL)implantationusingthedouble-passinstrument.PLoSOne8:e66846,20136)ShirataniT,ShimizuK,FujisawaKetal:CrystallinelenschangesinporcineeyeswithimplantedphakicIOL(ICL)withacentralhole.GraefesArchClinExpOphthalmol246:719-728,2008(74)

コンタクトレンズ:ソフトコンタクトレンズ-素材,装用期間,装用方法,乱視,老視,カラー-

2014年7月31日 木曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一2.ソフトコンタクトレンズ糸井素純道玄坂糸井眼科医院―素材,装用期間,装用方法,乱視,老視,カラー―●特徴ソフトコンタクトレンズ(softcontactlens:SCL)の最も大きな特徴は,ハードコンタクトレンズ(hardcontactlens:HCL)に比べて,装用感がよいということである.とくに装用開始当初の装用感には大きな差がある.その他にも,充血が目立ちにくい,レンズがずれにくい,紛失が少ない,激しいスポーツでも装用可能であるなどのメリットがある.その反面,角膜に傷ができても,そのバンデージ効果により,痛みが抑えられ,結果として,重篤な眼合併症(角膜潰瘍,眼内炎)へと進展することがある.眼への酸素供給のメカニズムも異なる.HCLはおもに瞬目によるレンズの動きに伴う涙液交換により行われ,SCL装用下の酸素供給はおもに素材を通過する酸素による.そのためSCLでは素材の酸素透過性が高いことが安全に装用するための必要条件となる.また,強度近視用,遠視用,乱視用,遠近両用などのレンズでは,レンズ厚が厚くなるため酸素供給量が低下する.素材だけではなく,レンズデザイン,度数により眼への酸素透過供給が大きく異なるのもSCLの大きな特徴である.また,眼の表面での形状保持性がHCLよりも劣り,円錐角膜などの角膜不正乱視,強度角膜乱視が矯正できない.●素材SCLには,大きく分けて2つの素材がある.ハイドロゲルと新素材であるシリコーンハイドロゲルである.ハイドロゲルコンタクトレンズ(CL)の酸素透過性はレンズ素材の含水性に依存され,含水性が高い素材ほど酸素透過性は高くなる.しかし,水に依存した酸素透過性には限界がある.一方,シリコーンは水とは比べものに表1日本で現在販売されているシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ種類デザインレンズ名発売日発売元頻回交換SCL球面アキュビューRオアシスR2007年3月ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)ビジョンケアカンパニー頻回交換SCL球面アキュビューRアドバンスR2007年3月ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)ビジョンケアカンパニー頻回交換SCL球面2WEEKメニコンプレミオ2007年8月(株)メニコン頻回交換SCL乱視用アキュビューRオアシスR乱視用2008年3月ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)ビジョンケアカンパニー頻回交換SCL乱視用エアオプティクスR乱視用2009年3月日本アルコン(株)1カ月交換SCL球面HOYAエアリーワンマンス2009年4月HOYA(株)アイケア事業部頻回交換SCL乱視用2WEEKメニコンプレミオトーリック2009年8月(株)メニコン頻回交換SCL遠近両用エアオプティクスRアクア遠近両用2009年10月日本アルコン(株)1日使い捨てSCL球面ワンデーアキュビューRトゥルーアイTM2010年4月ジョンソン・エンド・ジョンソン(株)ビジョンケアカンパニー頻回交換SCL遠近両用メダリストプレミアマルチフォーカル2010年4月ボシュロム・ジャパン(株)頻回交換SCL球面エアオプティクスRアクア2010年7月日本アルコン(株)頻回交換SCL球面バイオフィニティR2011年6月クーパービジョン・ジャパン(株)頻回交換SCL球面メダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト2012年6月ボシュロム・ジャパン(株)頻回交換SCL乱視用メダリストフレッシュフィットコンフォートモイスト〈乱視用〉2012年6月ボシュロム・ジャパン(株)頻回交換SCL球面エアオプティクスREXアクア2012年8月日本アルコン(株)頻回交換SCL乱視用バイオフィニティRトーリック2012年11月クーパービジョン・ジャパン(株)頻回交換SCL球面ロートモイストアイR2014年2月ロート製薬(株)頻回交換SCL乱視用ロートモイストアイR(トーリック)2014年2月ロート製薬(株)(71)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20149970910-1810/14/\100/頁/JCOPY 998あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(00)ならないほど高い酸素透過性をもつ.シリコーンとハイドロゲルを融合させることにより,ハイドロゲルCLのメリットをそのまま生かした非常に酸素透過性の高いシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)が開発されるようになった(表1).SCLの市場はハイドロゲルCLからSHCLに急速に移りつつある.現在は,SHCLの主流は頻回交換SHCLで,CL使い捨てSHCLは1種類しか日本で販売されていないが,海外ではすでに4種類以上が販売されており,日本でも乱視用,遠近両用,カラーCLを含め1日使い捨てSHCLを選択できる時代がくるのは,そう遠くはない.●装用期間日本では,1990年までは従来型SCLのみがSCLとして販売されていたが,1991年に1週間連続装用使い捨てSCLが登場,その後,1994年に頻回(2週間)交換SCL,1995年に1日使い捨てSCLが登場した.現在は,従来型SCL,1日使い捨てSCL,1週間連続装用SCL,頻回交換SCL,定期(1.6カ月)交換SCLが販売されている.日本のCLの市場は大きくシフトし,1日使い捨てSCLと頻回交換SCLが現在の主流となっており,SCL装用者がCL装用者の8割強と考えられている(図1).従来型SCLの寿命は,一般的には1.2年と考えられている.●装用方法RGPCLと同様,終日装用と連続装用がある.終日装用は就寝前までには必ずCLをはずす使用方法,連続装用はCLを就寝中もはずさずに連続して装用する使用方法をいう.●乱視用一般に乱視用のCLはトーリックCLとよばれる.トーリックCLは,角膜上でレンズの軸が適正な位置に安定することが必要である.角膜上でのレンズ回転を抑制し,軸を安定させるためのレンズデザインとして,プリズムバラスト,ダブルスラブオフ,後面トーリックの3つがある.●老視用日本では現在のところ,HCLと異なり,SCLは同時視型のみが販売されている.度数の分布では,レンズの中心部が遠見度数のものと近見度数のものがある.●カラーコンタクトレンズ整容用と美容用があり,整容用は虹彩付きSCLともよばれ,角膜白斑,無虹彩症などに処方されている.美容用には,虹彩の色を変える虹彩着色タイプ,黒目を拡大してみせるサークルタイプがある.文献1)MorganPB,WoodsCA,TranoudisIGetal:Internationalcontactlensprescribingin2013.ContactLensSpectrumJanuary:30-35,2014ZS932図1日本のコンタクトレンズ市場,コンタクトレンズの処方割合,コンタクトレンズレンズの種類50454035302520151050(%)20032004200520062007200820092010201120122013HCL1日使い捨て1週間連続装用2週間交換1カ月交換3~6カ月交換1年以上

写真:LASIK術後のepithelial ingrowth

2014年7月31日 木曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦362.LASIK術後のepithelialingrowth宮本佳菜絵*1,2稗田牧*2*1バプテスト眼科クリニック*2京都府立医科大学眼科学教室epithelialingrowthepithelialingrowth図2図1のシェーマ図1初診時前眼部所見瞳孔領にかかる層間の混濁を認める(矯正視力0.7).図3スクレラルスキャッタリング図4フルオレセイン染色図5術後2年時の前眼部所見スクレラルスキャッタリングでは,層間層間混濁と連続した部位(10時方向)にEpithelialingrowthの再発は認めないの混濁がより鮮明に観察できる.フルオレセイン貯留を認める.(矯正視力1.2).(69)あたらしい眼科Vol.31,No.7,20149950910-1810/14/\100/頁/JCOPY 2000年に厚生労働省が「エキシマレーザーによる屈折矯正手術」を認可して以降,約14年が経過し,わが国におけるLASIKの累積手術件数はすでに200万件を超えると推定されている.LASIKが長期的に安全かつ有効な手術であることについては近年多数の報告がなされている1,2)が,フラップを作製する手術であるため,頻度は低いものの,epithelialingrowthやdiffuselamellarkeratitis,マイクロストリエといった特異的な合併症が生じることがある.Epithelialingrowthは,フラップ下に上皮細胞が迷入し増殖することで層間に混濁をきたすもので,術中角膜上皮.離を生じた場合3)やフラップ下に異物が残存する場合,また外傷やLASIK再手術などでフラップを契機に生じることが多い.術後数%の確率で生じるが,視機能に影響を与えないものがほとんどである4).Epithelialingrowthは,フラップの端から連続して伸びている「連続型」と,孤立して島状になっている「弧発型」に分類される.弧発型では上皮細胞の供給がないため,フラップエッジの上皮化に伴い自然経過で消退が期待できるが,連続型では進行することがあるため,視機能に影響を及ぼす前にフラップ下を洗浄し迷入上皮を除去する必要がある.また,機械的に除去した後には,フラップ層間の接着を強め上皮細胞の再迷入を防ぐために,ソフトコンタクトレンズを装用させることが治療の重要なポイントである.さらに,フラップが伸展しにくい症例や再発しやすい症例には角膜フラップ縫合を追加して,より強固なフラップの伸展と接着をはかることが重要であると考えられる.本症例は,LASIK術後8年時に木の枝で右眼を受傷し,フラップの.離を生じた.同日近医でフラップ整復術を受けたが,術後徐々に角膜混濁が増加し,前医で層間洗浄を行ったものの,その後さらに混濁の増加による視力低下をきたしたためバプテスト眼科クリニック(以下,当院)を受診した.当院初診時,瞳孔領を含めた広範囲にepithelialingrowthを認め,矯正視力は0.7まで低下していたため(図1~4),再度フラップ下の洗浄を行った.上皮組織はフラップ裏側および角膜ベッド側の両側に広く増殖しており,残存のないよう入念に除去した後に,フラップを整復した.さらに本症例では10時方向にフルオレセインの沈着を認め,外傷によるフラップの断裂が生じ,そこから上皮細胞が迷入したと考えられたため,上皮が完全に修復するまで約1カ月の間ソフトコンタクトレンズの装用を行った.現在術後2年経過するが,再発は認めず良好な視力を維持している(図5).文献1)DiraniM,CouperT,YauJetal:Long-termrefractiveoutcomesandstabilityafterexcimerlasersurgeryformyopia.JCataractRefractSurg10:1709-1717,20102)AlioJL,OrtizD,MuftuogluOetal:Tenyearsafterphotorefractivekeratectomy(PRK)andlaserinsitukeratomileusis(LASIK)formoderatetohighmyopia(controlmatchedstudy).BrJOphthalmol10:1313-1318,20093)FilatovV,Vidaurri-LealJS,TalamoJH:Selectedcomplicationsofradialkeatotomy,photorefractivekeratectomy,andlaserinsitukeratomileusis.lntOphthalmolClin37:123-148,19974)WangMY,MaloneyRK:Epithelialingrowthafterlaserinsitukeratomileusis.AmOphthalmol1291746-1291751,2000996あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(00)

視野検査の今後

2014年7月31日 木曜日

特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):987~993,2014特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):987~993,2014視野検査の今後FutureofPerimetry松本長太*はじめにヒトは,外界の情報の約8~9割を視覚から得ているといわれている.視野の定義が,「視覚の感度分布」であるように,視野検査は,眼球から視中枢にわたり外界の視覚情報が正しく中枢へ伝達しているかを評価するうえで欠かすことのできない重要な検査である.視野検査は,緑内障,神経眼科疾患,網膜疾患をはじめとする多くの疾患の機能評価として眼科診療において広く普及している.視野の歴史を振り返ると,量的視野検査が確立したGoldmann視野計の登場からすでに69年,自動視野計による静的視野測定が臨床に導入されてからすでに37年もの歳月が経っている1,2).昨今の光干渉断層計(OCT)の進歩に比べると,視野測定法やその解析の技術は,ある一定のレベルでの標準化が確立しているとも考えられる.これはとくに緑内障など数十年にわたる経過観察が必要な症例を扱う場合には大きな利点となる.しかし,残念ながら現在の視野検査法がわれわれ臨床医の満足いく姿に完成されたものであるということではなく,現実には多くの改善すべき課題を抱えていることも事実である.本稿では,現在の視野検査の抱えるおもな問題点を取り上げ,今後の視野検査のあるべき姿を含め考えてみたい.I現在の視野検査の抱える問題点1.自覚検査としての限界眼科診療において主流となっている自動視野計による静的視野測定は,呈示された検査視標を確認したらボタンを押して応答する自覚検査である.そのため,自覚検査であることに起因するさまざまな制約が存在する.閾値検査において検査視標が見えたか見えなかったかを判断する場合,心理物理学の基本となる視覚確率曲線の特性に従うことになる.そのため,閾値にはある程度の生理的変動幅が存在し,視野検査の結果のばらつきの要因となっている.さらに,自覚検査であるために,間違ってボタンを押したり,押さなかったりする偽陽性,偽陰性応答,検査中の固視の位置ずれ,検査の不慣れから生じる学習効果,疲労現象,個体で異なる長期変動などが存在する.しかしながら,この自覚検査であるという点は必ずしも視野検査の決定的なマイナス要因ではない.視野検査を通してわれわれが知りたい最も重要な情報の一つは,「患者は実際どこが見えて,どこが見えていないか」というqualityofvision(QOV)に直結する情報である.自覚的検査である視野検査から得られる情報は,将来,他覚的に視機能が推定できる技術革新が進んでも,他の手法に置き換えることはできない,あるいは置き換えるべきではない情報と考える.2.測定点配置現在の静的視野測定における閾値検査では,Humphrey視野計プログラム30-2に代表される中心30°内を6°間隔で約70点あまり測定する手法が主流となって*ChotaMatsumoto:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕松本長太:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(61)987 いる.臨床的には,さらに周辺視野を含めた全視野の情報や,固視点近傍のより高密度な視野情報も非常に重要であるが,現実的には検査時間との兼ね合いから,各種疾患において最も異常が出現しやすい中心30°内に重点をおいたプログラム配置が採用されている.しかしながら,この測定点配置は,網膜神経節細胞の解剖学的分布を考えたうえでも非常に粗い配列であり,自動視野計による緑内障早期視野障害の検出感度が,構造的評価に劣る一つの理由ともなっている.3.視標サイズ現在の自動視野計による静的視野測定では,標準で視標サイズ3(視角0.431°)が採用されている.Goldmann視野計ではおもにサイズ1が用いられてきたわけであるが,これをサイズ3に変更した理由には,静的視野としての視野のダイナミックレンジの確保が最も大きい.さらに中間透光体などの光学的侵襲に対する影響を軽減する目的もあった.実際,視標サイズ3は,閾値変動,固視微動を含め一般的な臨床において,確かに安定した使いやすいサイズであるといえる.しかしながら,疾患の早期を検出するという観点からは,とくに中心10°以内では網膜神経節細胞の解剖学的密度に比べ視標サイズが大きすぎ,視野の高い機能的余剰性を生む原因となっている.また,周辺視野では逆にサイズが小さすぎ,視野障害が進行した場合のダイナミックレンジ不足や障害部位における大きな閾値変動の原因ともなっている.4.測定時間視野検査は,眼科の自覚検査のなかでも最も時間のかかる検査の一つである.自動視野計を用いた閾値測定法にはいくつかの測定アルゴリズムが存在する.自動視野計の導入当初は,4~2dBの比較的単純なbracketing法による閾値測定が主流であった.しかし,この手法では片眼70点あまりの測定点を検査するのに20分近い検査時間を要していた.そのため,Swedishinteractivethresholdingalgorithm(SITA),Dynamicstrategy,Tendency-orientedperimetry(TOP),Zippyestimationbysequentialtesting(ZEST)などさまざまな時間短縮プログラムが考案され,現在では検査時間を従来の988あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014半分以下に短縮することが可能となっている.しかし,このような時間短縮プログラムが導入されても,たとえば広く普及しているSITAStandardでも被検者の検査準備や休憩時間を含めると,やはり両眼で30分近い検査時間が必要となる.われわれの日常の眼科診療臨床における視野測定を必要とする対象症例数から考えると,装置の台数,検査員の数,医療経済などさまざまな物理的制約に阻まれ,個々の症例の理想的なきめ細かな経過観察は決して容易ではないのが現状である.5.測定精度現在の視野検査の異常検出感度は,たとえば緑内障性視神経障害を例にとっても,決して満足のいくものではない.多くの研究において構造的変化が視野変化に先行することが知られている.さらに自覚検査のところでも触れたが,自動視野計による視野の測定結果を評価する場合,常に閾値の変動,アーチファクトが問題となる.閾値は短期変動,長期変動以外にも,偽陽性,偽陰性応答,固視不良,練習効果,疲労,矯正レンズ枠,頭位,眼瞼など非常にさまざまな原因で影響をうける.これらの閾値変動要因はノイズとなり視野障害の判定に影響を及ぼしている.一方,視野検査には,各種生体信号を利用した他覚的視野検査法として多局所ERG(網膜電図),VEP(視覚誘発電位),瞳孔視野などがある.しかし,現時点ではこれら他覚的視野検査の精度はまだ十分とはいえず,その臨床応用は多局所ERGを除き限定的である.II視野検査の今後1.測定点配置静的視野測定の場合,測定点をどのように配置するかは,異常検出感度の根幹にかかわる非常に重要な項目である.現在のHumphrey視野計で標準的に用いられている30-2を代表とする6°間隔の格子状配列は,導入されてからの歴史も長く,視野による長期経過を考えるうえでも容易には変更が困難である.しかし,この網膜の解剖学的構造とは無関係な格子状配列は,とくに黄斑部における網膜神経節細胞の分布密度を考えた場合,大きな問題となる.そこで実際の臨床では,これを補うため(62) 10-2などのより密度の高い測定点を中心部に追加測定しているのが現状である.しかし,測定点配置を変更することは,とくに視野による経過観察において大きな問題となる.検査時間の問題点は残るが,従来の測定点は維持しつつ,10°内へ新たな測定点を追加配置する手法が過去のデータの有効利用を考えたうえでも最も現実的な方法ではないかと考える.一方,規定の測定点以外に,初期の視野異常がはじまっている部位,構造的に異常が検出されている部位にさらに測定点を追加する方法も,機能的障害を早期に検出するうえで有用と考える.この場合,テーラーメイドになるため,追加点に関しては患者間での比較はむずかしくなるが,実際の臨床において個々の患者を前に治療方針を決定する場合は,有益な方法と考える.2.視標サイズ現在の静的視野測定は,shortwavelengthautomatedperimetry(SWAP)を除き視標サイズ3が標準的に用いられている.確かにサイズ3は中心30°内の視野を評価する場合において視野のダイナミックレンジ,中間透光体,屈折による光学的侵襲の問題などを総合的に考えると妥当な大きさであると考えられる.しかしながら網膜神経節細胞の受容野サイズは均一ではなく周辺視野では大きく中心へいくにつれ小さくなる.筆者らは,固視点近傍の視野測定にはより小さな視標サイズが有用であることを述べてきた3).また近年,小視標の有用性を支持する報告も多い4).さらに逆により大きな視標を用いることの有用性も報告されている5).大きな視標サイズは視野の変動を大幅に減らすことができる.理論的にはサイズが大きいと複数の受容野を刺激するため異常検出感度は大幅に低下する.しかし短期変動,長期変動が減少するため逆にそのメリットのほうが大きいとする考え方である.視野の中心部は小さな視標サイズ,周辺部は大きな視標サイズを用いて評価する考え方は,網膜の解剖学的構造からも,視野のダイナミックレンジ,変動幅などを考慮した生理学的な背景からも理にかなっていると考える.視標サイズなどの基本的な検査条件を変えることに関しては,過去のデータとの互換性,検査条件としての標準化との問題が常に論じられる.しかし,測定(63)部位,障害の程度に応じて柔軟に対応していくことも今後視野に入れる必要があると考える.3.全視野の評価現在の視野検査では,検査時間の制限もあり各種疾患において視野異常が好発する中心30°内が重点的に評価されている.しかし一方では,後期緑内障をはじめ神経眼科疾患,網膜疾患視覚などにおいて視野の全体像を把握することは臨床上非常に重要であることもよく知られている.とくに視野障害が進行した症例では,現在でもGoldmann視野計による動的視野測定の結果なしには患者の視野の正確な全体像の把握は困難である.周辺視野は,中心視野に比べ視野のダイナミックレンジが狭くまた閾値変動も大きいため,現在の中心30°内に最適化されている閾値測定アルゴリズムをそのまま流用することには問題がある.静的で測定する場合は,視標サイズをはじめ,より周辺視野に最適化されたアルゴリズムの開発が望まれる.また,自動視野計を用いた動的視野測定も全視野のパターンを効率よく評価するための有力候補と考える.4.視野の進行評価視野検査の重要な目的の一つに,視野障害の進行評価がある.とくに緑内障など慢性進行性疾患の経過観察において,視野による進行評価は欠かすことができない.自動視野計が導入され静的視野測定で閾値を数値として捉えることができるようになり,さまざまな視野進行解析方法が提唱されてきた.とくに,視野進行をエンドポイントとしたさまざまな臨床試験を通して,MD(meandeviation)スロープなど複数の視野を時系列に並べ直線回帰などの統計学的解析を行うトレンド解析,GlaucomaProgressionAnalysis(GPA)を代表とするベースラインの視野に対し,一定の判定基準を設け評価対象の視野の進行を判定するイベント解析をはじめ,多くの視野進行解析法が考案されてきた6).しかし,いまだにすべての局面に対応可能な視野進行評価の標準となる手法は確立されていない.さらに緑内障の分野では,視野進行は,眼底所見など構造的障害の進行とは一致しないことが知られている.そのため,OCTなどで得られた構造あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014989 図1コーワAP.7000左:コーワAP-7000本体.右:眼底対応視野測定では,視神経乳頭ならびに中心窩を基準にして眼底写真と視野測定の結果を対応させることができる.的障害の進行と視野から得られて機能的進行を同時に評価可能なアプリケーションや指標も多数考案されている.今後もこのような機能と構造の両面における評価がますます重要視されていくと考える.5.眼底視野計眼底直視下での視野検査は視野検査の一つの理想形である.眼底視野計はわが国が世界に先駆けて古くから多くの研究が盛んに行われてきた7).そして走査型レーザー検眼鏡をベースにしたSLO(ローデンストック)やその進化型であるMAIATM(トプコン)やトラッキング技術に支えられたMP-1TM(ニデック)ならびに現在開発中のMP-3TM(ニデック)などによるマイクロペリメトリは,網膜疾患の眼底病変に対する詳細な機能的対応を評価可能としている.とくにこれらの眼底視野計は,中心固視が問題となる黄斑疾患をはじめとした固視点近傍に病変を有する疾患において非常に有用である.また,中心固視が保たれている症例では,AP-7000のような眼底写真やOCT像などを盲点と中心窩を基準に視野と合成させ対応させる眼底対応視野計も有用であり,日常広く用いられている視野検査機器をそのまま応用できる利点がある(図1).とくに近年急速に進歩しているOCT技術と視野検査の融合は今後最も注目される分野990あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014で,機能的変化,構造的変化の対応を症例,同一機器でシームレスに評価可能とすることはきわめて重要であると考える.6.機能選択的視野検査これまでに,frequencydoublingtechnology(FDT),flickerperimetry,flickerdefinedform(FDF)perimetry,SWAPをはじめ実に多くの機能選択的視野検査法が開発されてきた.これらは従来の視野検査に比べとくに緑内障性視野障害をより早期から検出することが知られている8).これらの機能選択的視野検査法の問題点は,測定結果の変動がやや大きいこと,視野検査としてのダイナミックレンジが狭いこと,視野進行評価に対する有益なエビデンスが少ないことがあげられる.しかし,感覚網膜を構成する各種視細胞,網膜神経節細胞の機能的評価を選択的に行うという考え方は,疾患の早期発見のみならず,機能面からの病態解明においても重要な検査手法であり,さらなる検査手法の改良,新たな視覚刺激方法の開発が期待される.7.両眼開放視野検査視野検査の重要な役割の一つに日常生活にけるQOVの評価がある.その際,常に議論される問題点として両(64) 図2Octopus600視野計の設計として,両眼開放でも固視監視が可能となるように開発されている.眼開放下での視野検査があげられる.現在多くの研究では,左右単眼視野をbestlocation法で算術的に合成し両眼開放視野をシミュレーションして用いる手法が採用されている9).この方法は,われわれが日常診療で用いている検査結果をそのまま利用できるという大きな利点を有している.実際にMDなど視野指標レベルでは,両眼開放で測定された視野とよく相関する.しかし,健常者でも視野における両眼加算は存在し,さらに個々の測定点における疾患別,障害程度別の両眼加算の程度に関してはまだ不明な点が多い.そのため,個々の症例で視野の各部位の詳細な評価を行うためには,両眼開放下で実際に視野を測定することがやはり必要であると考える.さらに新規対象者の視野によるQOV評価では,逆に両眼開放でのみ測定することで検査時間の短縮も得られる.現在の視野計でも基本的には両眼開放下で視野測定を行うことができるが,検査中の固視に関してはまったく配慮されていないのが現状である.固視不良を評価する代表的な手法であるHumphrey視野計のHeijl-Krakau法は盲点刺激をその原理に用いているため,両眼開放下ではまったく機能しない.Octopus600では検査中に両眼の瞳孔を同時モニター可能で,はじめから両眼視野を意識した設計となっている(図2).両眼開放視野検査の固視監視に関しては,技術的にはさほどむずかしいことではなく,これから新規に導入されるモデルについては,はじめから両眼開放下での固視監視を可能とする対応が期待される.8.自宅での機能評価現在の視野検査は,ほぼすべて医療機関にて行われている.しかし,現実的には対象患者数の増加に比べ,視野計の台数,検査員の数,検査スペース,医療経済など多くの要因が背景となり,臨床的に理想的な検査回数をすべての患者に提供することはむずかしいのが現状である.一方,視野検査そのものを家庭で行う試みも進められている.小型の検査機器を患者に貸出し測定結果をインターネット経由で集積する方法として,加齢黄斑変性をターゲットとした家庭版のhyperacuityperimeterであるForeseeHomeTMがある.ForeseeHomeTMを用いて変視症の変化を評価することで,現在急速に頻度が増加している抗VEGF(血管内皮増殖因子)治療の追加投与のタイミングを自宅でも把握できる可能性がある10)(図3).装置そのものはまだ比較的高価なため,患者が購入するのではなく医療機関が貸し出す形が多いと考えるが,一つのホームペリメトリの形と考え,一般的な視野検査への応用も望まれる.一方,家庭に存在する民生機器を利用して視野検査を行う試みも進められている.視野検査を正確に行うためには,視標呈示装置,機器のキャリブレーション,測定環境,インストラクションなどいくつかの重要な要因が(65)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014991 図3ForeseeHomeTM自宅での使用を目的に開発されたhyperacuityperimeter.加齢黄斑変性患者のモニターとして用いられている.ある.近年の電子機器の進歩は目覚しいものがあり,視標呈示装置に関しては,家庭用機器でも十分対応できる環境が整いつつある.大型ディスプレイ,3Dディスプレイ,高解像度,高輝度コンピュータディスプレイ,高性能ゲーム機器,多機能携帯端末,iPadなどにみるユーザーインターフェースの進歩,高速無線通信環境の整備など,どれをとっても自動視野計が生まれた1970年代では考えられなかった環境が驚くほどのスピードで整備されつつある.米国ではインターネット上のWebサイトで視野検査を行い,リーディングセンターへデータを送信,その診断結果をメールで受け取るシステムもすでに試みられている.南カルフォニア大学を中心に行なわれているPeristatTM,MacustatTMは簡単な登録でだれでもインターネット経由で視野障害の診断を受けることができる.これらの自宅における視野検査(ホームペリメトリ)の概念は,今後の視野検査の一つの方向性を示していると考える11)(図4).992あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014図4PeristatTM自宅でコンピュータ上で検査を行う,インターネット経由の視野検査ツールを提供している.おわりに現在の視野検査が抱えている種々の問題点をあげ,眼科診療における視野検査の今後の方向性について述べた.今回掲げた内容は,すでに基盤となるさまざまな基礎研究が,世界の視野研究に携わっている研究者により進められている.これらの多くができるだけ早くわれわれの臨床へのフィードバックがなされることを期待する.文献1)GoldmannH:EinselbstregistrierendesProjektionskugelperimeter.Ophthalmologica71-79,19452)FankhauserF,KochP,RoulierA:Onautomationofperimetry.AlbrechtVonGraefesArchKlinExpOphthalmol184:126-150,19723)MatsumotoC,UyamaK,OkuyamaSetal:Studyoftheinfluenceoftargetsizeonthepericentralvisualfield.InPerimetryUpdate1990/1991.MillsRPandHeijlA(Eds)1991,p153-159,KuglerPubl,Amsterdam/NewYork4)FrisenL:New,sensitivewindowonabnormalspatialvision:rarebitprobing.VisionRes42:1931-1939,20025)WallM,BritoCF,WoodwardKRetal:Totaldeviationprobabilityplotsforstimulussizevperimetry:acomparisonwithsizeIIIstimuli.ArchOphthalmol126:473-479,20086)HeijlA.LeskeMC,BengtssonBetal:Reductionofintraocularpressureandglaucomaprogression:resultsfromtheEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol(66) 120:1268-1279,20027)NishidaY,MurataT,YoshidaKetal:Anautomatedmeasuringsystemforfundusperimetry.JpnJOphthalmol46:627-633,20028)NomotoH,MatsumotoC,TakadaSetal:DetectabilityofglaucomatouschangesusingSAP,FDT,flickerperimetry,andOCT.JGlaucoma18:165-171,20099)Nelson-QuiggJM,CelloK,JohnsonCA:Predictingbinocularvisualfieldsensitivityfrommonocularvisualfieldresults.InvestOphthalmolVisSci41:2212-2221,200010)AREDS2-HOMEStudyResearchGroup,ChewEY,ClemonsTEetal:RandomizedtrialofahomemonitoringsystemforearlydetectionofchoroidalneovascularizationhomemonitoringoftheEye(HOME)study.Ophthalmology121:535-544,201411)IanchulevT,PhamP,MakarovVetal:Peristat:acomputer-basedperimetryself-testforcost-effectivepopulationscreeningofglaucoma.CurrEyeRes30:1-6,2005(67)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014993