特集●視神経炎と視神経症:全身と眼の架け橋あたらしい眼科33(5):639〜643,2016視神経脊髄炎に関連した視神経炎(抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎)の治療の現状StrategiesforEffectiveTreatmentofAnti-Aquaporin-4Antibody-PositiveOpticNeuritis植木智志*はじめに本稿では,眼科領域では抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎として知られている視神経脊髄炎に関連した視神経炎の治療について,現在行われている治療方法および眼科の臨床からみた現在行われている治療方法の問題点についてとくに焦点を当てて述べる.まず,用語について解説する.視神経脊髄炎(neuromyelitisoptica:NMO):従来はDevic病とよばれていた炎症性中枢神経系疾患.疾患に特異的な自己抗体である抗アクアポリン4抗体の発見により2006年に診断基準が改訂された.この診断基準の必須項目は視神経炎および急性脊髄炎である.Neuromyelitisopticaspectrumdisorder(NMOSD):視神経脊髄炎の診断基準を満たさないが抗アクアポリン4抗体が陽性である視神経炎単独の症例や急性脊髄炎単独の症例などが注目されるようになり,2015年に新たな診断基準が作成された1).抗アクアポリン4抗体:MayoClinicCollegeofMedicineのLennonらが2004年にNMOにみられる自己抗体として報告し2),その後2005年に認識抗原がアクアポリン4であることを明らかにした3).アクアポリン4:アストロサイトなどに分布する中枢神経系の水チャネル.INMOSDとしての抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎2015年に新たにNMOSDの診断基準が提唱された1).この診断基準は抗アクアポリン4抗体が陽性であることをその中核に位置付けており,抗アクアポリン4抗体が陽性で視神経炎や急性脊髄炎などの主要な臨床的特徴が1つ以上あり,他疾患が除外された症例はNMOSDと診断される.抗アクアポリン4抗体が陽性であるものの視神経炎単独の症例は,この診断基準によりNMOSDと診断される.ロンドン大学のToosyらによる視神経炎の分類では,この抗アクアポリン4抗体が陽性であるものの視神経炎単独の症例は,非典型的視神経炎のなかのNMOに関連した視神経炎に分類される4).日本国内では2009年の新潟大学の高木らによる抗アクアポリン4抗体が陽性であるもののNMOの診断基準は満たさない3症例の症例報告から5),抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎とよばれている.2014年には抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドラインが作成された6).抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドラインにも記載されているように,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎は視力予後が不良であることが知られている.新潟大学の高木らの臨床研究によると,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の臨床的特徴は以下のごとくである.・血清中アクアポリン4抗体陽性・圧倒的に女性に多く,比較的高齢に発症・重症で視機能予後不良(最低視力:中央値手動弁,最終視力:中央値0.1)・再発が多い.・高率の自己抗体出現海外の報告でも,視機能予後不良の傾向がみられる.Pirkoらによると,再発性視神経炎のうち,NMOに移行した症例は多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)に移行した症例に比べて最終視力が低かった(平均経過観察期間2.3年)7).これらの臨床的特徴から抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の治療は急性期の視力改善のための治療と,亜急性期から慢性期の再発予防のための治療の2つに区別するべきであることが示唆される.また,Matielloらの報告によると,抗アクアポリン4抗体陽性の再発性視神経炎のうち,50%の症例が経過観察期間の中央値約9年で脊髄炎を発症しており8),抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎では将来の脊髄炎の発症に注意しなければならない.II抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の治療抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドラインには表1のような治療方法が記載されている.これらの治療方法の選択肢をどのように組み立てれば良いだろうか.ドイツの神経内科医を中心とするTheNeuromyelitisOpticaStudyGroup(NEMOS)はNMOおよびNMOSDの治療について以下のように推奨している9).1.急性期の視力改善のための治療・まずはステロイドパルス療法・ステロイドパルス療法で改善傾向がみられない,もしくは増悪傾向がみられたら,血漿交換療法(以前に血液浄化療法が奏効した症例ではまず血漿交換療法を行う)2.慢性期の再発予防のための治療・ファーストラインとしてアザチオプリンやリツキシマブを推奨・セカンドラインとしてMycophenolateMofetilやミトキサントロンやメトトレキサートを推奨・サードラインとしてステロイド内服に加えてシクロスポリンAもしくはメトトレキサートもしくはアザチオプリンのコンビネーション治療,免疫抑制薬内服に加えて間欠的に血漿交換療法を行うコンビネーション治療,リツキシマブに加えてメトトレキサートもしくは免疫グロブリン大量点滴静注療法を行うコンビネーション治療,トシリズマブ.JohnsHopkins大学のKimbrough,Levyら,東北大の藤原らは,NMOおよびNMOSDの治療として,急性期の治療のスタンダードはステロイドパルス療法,効果が不十分であれば血漿交換療法,それらの治療にも抵抗性であればシクロフォスファミド静注を推奨している.再発予防のための治療としては,アザチオプリン,リツキシマブ,MycophenolateMofetil,メトトレキサート,プレドニゾン,ミトキサントロンのうちの1種類の投与を推奨している10).上記を踏まえて,治療方法の組み立てについての筆者の考えを述べる.現状では,急性期の視力改善のための治療としてはやはりステロイドパルス療法が第一の選択肢となるだろう.治療前視力が不良な症例や視野障害の程度が強い症例は積極的に抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎を疑い,抗アクアポリン4抗体検査の結果が到着する前からステロイドパルス療法を行うべきである.ステロイドパルス療法を行っても視力の改善が得られない症例では血液浄化療法が選択肢となるが,自験例ではステロイドパルス療法後数週以上経過してから視力が改善してくる例もみられるため,どの時点で血液浄化療法を行うべきかについては今後の研究が必要である.血液浄化療法についての最近の報告では,KleiterらによるNMO142症例,NMOSD43症例のレトロスペクティブな解析で,脊髄炎単独のNMOSD症例は血漿交換療法もしくは免疫吸着療法にステロイドパルス療法よりも良く反応することが示されている11).急性期の視力改善のための治療方法としての免疫グロブリン大量静注療法について,現在国内で治験が進行中である.海外では,Viswanathanらが免疫グロブリン大量静注療法を行ったNMOおよびNMOSD症例をレトロスペクティブに解析し,年間再発率(annualizedrelapserates)の減少がみられたと報告している12).亜急性期から慢性期の再発予防のための治療としては,当施設ではプレドニゾロン少量内服(10mg/日~10mg/隔日程度)単独,もしくはそれに加えてのアザチオプリン内服のどちらかを行っている.急性期のステロイドパルス療法後からプレドニゾロン少量内服に至るまでは,数カ月以上かけてゆっくりとプレドニゾロン内服量を漸減するべきである.これらの治療は副作用の管理の点から,また将来の脊髄炎の発症のリスクの点からも,神経内科との連携が必須である.しかし,NEMOSの推奨する治療では,プレドニゾロン少量内服単独に加えてのアザチオプリン内服がサードラインの治療であり,プレドニゾロン少量内服単独は選択肢にあげられていない.Kimbrough,Levyら,東北大の藤原らの推奨する治療ではプレドニゾロン少量内服は選択肢にあげられている.今後はNEMOSの推奨するファーストラインの治療であるアザチオプリンやリツキシマブを積極的に取り入れていくべきだと考えられるが,現状の治療との比較など今後の研究が必要である.Shermanらによるreviewでは,リツキシマブとMycophenolateMofetilの年間再発率(annualrelapserates)の減少効果は同等だが,両者ともアザチオプリンに勝るとしている13).眼科の臨床からみた現在行われている治療方法のもっとも重要な問題点は,眼科単独では行いにくい治療方法である血漿交換療法をどのように他科と連携し速やかに行うか,また,プレドニゾロンや免疫抑制薬の長期内服における副作用の管理をどのように行うかであるといえる.眼科医が抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の存在を知り速やかに診断し,治療開始早期から他科と連携することが現状での唯一の対処方法であろう.III抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の治療―自験例―1.症例1:前医眼科初診時54歳,女性.X年2月8日2日前からの左眼中心暗点を主訴に前医眼科初診.初診時左眼視力=手動弁.左球後視神経炎の診断でステロイドパルス療法を1クール行われたが,ステロイドパルス療法開始から約1カ月後の左矯正視力=(0.3)と不良.同年5月14日両眼視力低下を主訴に前医眼科再診.右眼矯正視力=(1.2),左眼視力=光覚弁.3日後には右眼矯正視力=(0.08),左眼視力=光覚なしとなった.同日緊急造影MRIを行い,視交叉右側,左視神経に造影効果がみられた.同日緊急入院,ステロイドパルス療法開始(合計3クール施行).入院後の血液検査で抗アクアポリン4抗体陽性が判明(cell-basedassay法).左眼視力に改善はみられず光覚なしのままであったが,右眼矯正視力は徐々に改善し,ステロイドパルス療法1クール目開始から約2カ月後に(1.2)となった.X+1年5月12日より新潟大学医歯学総合病院眼科(当科)で経過観察開始.無治療で経過観察を行っていたが,X+3年5月16日より再発予防を目的としてプレドニゾロン10mg内服開始.現在まで視神経炎の再発および脊髄炎の発症なく経過している.本症例は,左視神経炎を2回,右視神経炎を1回発症しており,左眼視力は2回目の左視神経炎発症後に光覚なしとなったが,右視神経炎発症後の右眼視力は2カ月近く経過してから(1.2)に改善した.本症例から,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎ではステロイドパルス療法のみで良好な視力が得られる可能性もあるが,同側視神経に再発を繰り返すと視力予後がより厳しくなることが示唆される.2.症例2:当科初診時48歳,女性.X年3月29日1週前からの左視力低下を主訴に当科初診.初診時左眼視力=光覚なし.緊急造影MRIで左視神経に造影効果あり.左球後視神経炎の診断で同日緊急入院.翌日からステロイドパルス療法開始(合計3クール施行).入院後の血液検査で抗アクアポリン4抗体陽性が判明(cell-basedassay法).ステロイド治療に対する反応は乏しく,ステロイドパルス療法3クール終了時の左眼視力=0.01であった.血液浄化療法について検討するも患者本人が希望せず退院となった.その後,プレドニゾロン内服はゆっくりと漸減し,10mg隔日内服で経過観察を行っていた.X+5年3月15日予約日に再診した際に,右眼視野検査で下方の感度低下がみられた(図1a).右眼矯正視力=(1.2)であった.緊急造影MRIで右視神経にわずかに造影効果がみられたため,右視神経炎としての再発と考え,翌日から当科入院の上ステロイドパルス療法を開始した.ステロイドパルス療法開始直前の視野検査の結果は前日と比べて増悪していた(図1b).その後,視野障害は徐々に改善した.予約日に再診した際には,本人の自覚症状はわずかな眼球運動痛以外なかった.本症例では,プレドニゾロン少量内服治療を行っていたが,左視神経炎の発症から5年後に右視神経炎としての再発がみられた.本症例から,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎における再発予防のための治療の重要性,また速やかに再発を疑い診断することの重要性が示唆される.おわりに眼科領域では抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎として知られている視神経脊髄炎に関連した視神経炎の治療の現状について,自験例を含めて述べた.現在行うことができる抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の治療を眼科のみでは行うことは難しい.本稿が眼科と他科の連携を進める架け橋になってほしいと願う.文献1)WingerchukDM,BanwellB,BennetJLetal:Internationalconsensusdiagnosticcriteriaforneuromyelitisopticaspectrumdisorders.Neurology85:177-189,20152)LennonVA,WingerchukDM,KryzerTJetal:Aserumautoantibodymarkerofneuromyelitisoptica:distinctionfrommultiplesclerosis.Lancet364:2106-2112,20043)LennonVA,KryzerTJ,PittockSJetal:IgGmarkerofoptic-spinalmultiplesclerosisbindstotheaquaporin-4waterchannel.JExpMed202:473-477,20054)ToosyAT,MasonDF,MillerDH:Opticneuritis.LancetNeurol13:83-99,20145)TakagiM,TanakaK,SuzukiTetal:Anti-aquaporin-4antibody-positiveopticneuritis.ActaOphthalmol70:2197-2200,20096)抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドライン作成委員会:抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドライン.日眼会誌118:446-460,20147)PirkoI,BlauwetLA,LensnickTGetal:Thenaturalhistoryofrecurrentopticneuritis.ArchNeurol61:1401-1405,20048)MatielloM,LennonVA,JacobAetal:NMO-IgGpredictstheoutcomeofrecurrentopticneuritis.Neurology70:2197-2200,20089)TrebstC,JariusS,BertheleAetal:Updateonthediagnosisandtreatmentofneuromyelitisoptica:recommendationsoftheNeuromyelitisOpticaStudyGroup(NEMOS).JNeurol261:1-16,201410)KimbroughDJ,FujiharaK,JacobAetal:Treatmentofneuromyelitisoptica:reviewandrecommendations.MultSclerRelatDisord1:180-187,201211)KleiterI,GahlenA,BorisowAetal:Neuromyelitisoptica:evaluationof871attacksand1,153treatmentcourses.AnnNeurol79:206-216,201612)ViswanathanS,WongAHY,QuekAMLetal:Intravenousimmunoglobulinmayreducerelapsefrequencyinneuromyelitisoptica.JNeuroimmunol282:92-96,201513)ShermanE,HanMH:Acuteandchronicmanagementofneuromyelitisopticaspectrumdisorder.CurrTreatOptionsNeurol17:48,2015*SatoshiUeki:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)〔別刷請求先〕植木智志:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)表1抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の治療方法6)急性期の視力改善のための治療・ステロイドパルス療法・血液浄化療法(血漿交換療法,二重膜濾過法,免疫吸着療法)・免疫グロブリン大量静注療法・分子標的薬慢性期の再発予防のための治療・プレドニゾロン内服・免疫抑制薬(タクロリムス,アザチオプリン,シクロスポリン)・血液浄化療法・分子標的薬図1症例2のHumphrey視野計a:症例2の右視神経炎再発を疑った際のHumphrey視野計による右眼視野.下方にMariotte盲点と連続する感度低下がみられる.b:症例2の右視神経炎再発と診断しステロイドパルス療法を行う直前のHumphrey視野計による右眼視野.1日で視野障害は増悪した.0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(15)639640あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(16)(17)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016641642あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(18)(19)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016643