特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):977.986,2014特集●視野検査の最前線あたらしい眼科31(7):977.986,2014OCTと視野検査の融合─主に緑内障眼について─CombinationJudgmentofStructureandFunction─GlaucomaEye─岩瀬愛子*IOCTによる視神経乳頭解析と黄斑解析に技術の発展とともにtime-domain,spectral-domain,対応する視野異常の判定swept-sourceと解像度とスキャン速度が向上し網膜の構造変化の診断能力は飛躍的に向上している.OCTにOpticalcoherencetomography(OCT)は,画像解析より非侵襲的に網膜の微細構造の評価が可能となり,黄視神経乳頭解析結果視神経乳頭周囲神経線維厚図1CirrusRによるCP.RNFL解析および視神経乳頭解析の各種パラメータ*AikoIwase:たじみ岩瀬眼科〔別刷請求先〕岩瀬愛子:〒507-0033岐阜県多治見市本町3-101-1クリスタルプラザ多治見4Fたじみ岩瀬眼科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(51)977AB図2.1TopconのGCC(ganglioncellcomplex)解析A.黄斑解析.神経線維厚(NFL),神経節細胞層(GCL),内網膜層(IPL)の判別をし,上下比較をして対称性の崩れを診断に利用する.B.Hamphrey視野計10-2の結果.978あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(52)1mmx1.2mm4mmx4.8mm1mmx1.2mm4mmx4.8mm図2.2CirrusHDカールツアイスのGCA(ganglioncellanalysis)解析は,GCL+IPLの解析である.斑疾患における層認識,緑内障診断において重要な網膜神経線維層の菲薄化の検出と視神経乳頭陥凹拡大の三次元評価などが客観的かつ定量的に短時間で可能となった.とくにOCTによる緑内障の検出のための乳頭周囲の網膜神経線維層厚(circum-papillaryretinalnervefiberlayerthickness:CP-RNFLthickness)の測定方法は,time-domainOCT(TD-OCT)の時代にはサークルスキャンのみであったが,spectral-domainOCT(SDOCT)になり撮影速度が向上し視神経乳頭を中心とした三次元画像を高速に同時に撮影可能となり,乳頭周囲の直径3.4mm円周のみではなく撮影後に観察場所を変えた解析を可能にする方法となった.視神経乳頭形状の解析としては,視神経のdisc面積,rim面積,視神経乳頭陥凹のパラメータ(垂直CD比,水平CD比,cupvolume)などを算出する視神経形状立体評価の手法が使用される(図1).さらに血管などの組織が集中する視神経と比較して,組織の均一な黄斑部解析は黄斑疾患だけではなく,早期緑内障診断に有用とされるようになった.これは,網膜神経線維節細胞の50%が黄斑部に集中しており1),緑内障性変化を検出しやすいとするもので,網膜全層厚,黄斑部網膜神経線維層厚,神経節細胞,内網状層の組み合わせによる解析を,正常眼データベースと比較したdeviationmapやsignificancemapで表示可能となった(図2).Swept-sourceOCT(SDOCT)においては篩状板構造の解明,網膜神経線維走行の検出,緑内障近縁疾患である強度近視の視神経所見,黄斑部所見などの情報を得ることが可能となった(図3).緑内障による視野異常の検出には,視野異常の部位と視神経線維束欠損が対応するかどうかが重要な鑑別診断のポイントである.従来,眼底写真による肉眼的な網膜(53)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014979強度近視例のOCT-2000(SpectraldomainOCT)による画像同一例のTopconSweptSourceOCTによる網膜神経線維画像,視野は正常範囲内であるがNFLの画像ではNFLDをとらえている強度近視例のOCT-2000(SpectraldomainOCT)による画像同一例のTopconSweptSourceOCTによる網膜神経線維画像,視野は正常範囲内であるがNFLの画像ではNFLDをとらえている図3強度近視眼正常視野,右眼.17D.神経線維の走行・網膜神経線維束欠損(NFLD)・視野検査で使用される検査点の配置の対応関係のセクター分類が報告されてきた2.5).これらのセクター分類は,OCT所見が検出している視神経線維束欠損と視野異常の対応にも応用され,視野異常が眼底のどこの部位のNFLDに対応するものであるか?あるいは,NFLDと相関のない脈絡膜・網膜・視神経疾患などの他の病変の結果であるのか,あるいは眼疾患による視野異常であるのかないのかなどの判定に有用である.例えば,カールツアイス社のOCT&Humphrey視野計の結果解析経過管理ソフトForumでは,OCT所見と視野所見を同時に表示する機能があり有用である.中心30°以内の視野検査点と画像解析所見の対応をみるには,GarwayHeathらによるHumphrey視野計の検査点と視神経乳頭のセクター分類を利用し,中心10°以内の視野検査結果と画像解析所見の対応をみるには,網膜神経線維層のデータが同時に表示して臨床的に短時間での視野とOCT検査結果の同時評価を容易にしている(ComboReport)(図4)II経過観察時のOCTと視野検査の対応OCTと視野検査の同時評価は,確定診断時のみではなく,治療開始後の進行の判定にも有用である.とくにSD-OCT以降の世代となり,OCTの測定における再現性が向上し6),さらに眼底のオートトラッキング機能なども加わり,経過観察用に過去に撮影した部位と同じ部980あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(54)Garway-Heathのセクター解析を使用30°,10°ともに、データベースから判定した確立マップをカラー表示している図4ForumComboreport中心30°,中心10°の例.セクター解析により解剖学的変化と機能が対比しやすい.位の撮影も可能となったことで,視野検査におけるのと同様に,経過観察用ソフトによる統計学的評価ができるようになった.図5に示すのは,CirrusHD-OCTの経過観察用ソフトGuidedProgressionAnalysis(GPA)forassessingRNFLandOpticdiscChangeで,視野検査で使用されているのと同じ手法によるイベント解析,トレンド解析が可能となった.構造と機能は同時にパラレルに進行するのではなく,進行速度や進行のタイミングには差があり,OCTの結果と視野検査結果ともに,GlobalIndexなどで全体像のみをとらえる指標を使用して経過をみるのではなく,少なくとも上下のセクター解析と上下半視野解析,OCTの視神経の分割指標と視野におけるセクター解析などを常に三次元時間軸で評価するべきである(図5).HFAFiles(Beeline)では,従来よりMDLineだけではなく,totaldeviationの平均値を使用して緑内障特有の上下視野の進行速度の違いを利用した半視野解析機能があったが,最新ソフト「HFAFiles緑内障Pro」で(55)はセクター分類を利用した解析を強化しているなど,OCTによる画像解析情報に対応した判定方法が有用である(図6).OCTが検出しているのは各部位の構造に過ぎず,その部位が,検出された厚さとなった原因まで明らかにしているわけではない.構造の変化は視野の変化に先行し,構造の異常の検出が通常臨床で使用される視野検査方法に先行して疾患をとらえる事実がある一方で,いわゆるNFLDあるいは網膜神経線維層の菲薄化を検出したとしても,その原因が,ただちに治療すべき「緑内障である」ことと同一ではない.緑内障は,非可逆的に慢性に進行し失明に至る病気であり,早期検出が重要であることはいうまでもないが,同時に,慢性的に緩徐に進行する例も多いことから,早期検出を重要視するあまり,鑑別診断をおろそかにして治療開始するべきではない.「経過観察」という選択肢にこうした時系列の判定は非常に有用である.視野検査に異常があっても,その結果が構造異常と一致しないならば,これも鑑別診断を慎重にすべきでああたらしい眼科Vol.31,No.7,2014981HFAFilesによるMDLineとTotalDeviation半視野解析図5GuidedProgressionAnalysis(GPA)forassessingRNFLandOpticdiscchange上下に分けた視神経線維厚のイベント解析とトレンド解析が可能である.トレンド解析は治療の変更に伴いbaselineを設定しなおして進行をみる.図6HFAfiles「緑内障Pro」による解析全体,半視野とセクター分類を使用して,進行の判定をする.進行しやすい部位を注意することで,進行検出の感度が上がる.982あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(56)る.眼底所見だけでは説明できない視野異常,すなわちもっと中枢性の視野異常,あるいは,被験者側の要因,環境要因なども,その鑑別診断に加えるべきである.OCTによる画像診断結果と視野測定結果を対比して診断する方法は,飛躍的に伸びてきている.しかし,まだ医師の眼で見た眼底所見との総合判断は重要である.診断にあたってはOCTなどの画像解析所見と視野検査所見を補助診断として,時間軸の判定と現在の判定を同時に総合判断で行うこととなるが,そこに肉眼的な眼底検査情報あるいは眼底写真による情報(視神経から黄斑部を含む広角写真,視神経を中心にした45°,30°の写真,視神経乳頭の立体写真など)は常に有用である.また,画像解析装置は器械の発展とともに機種に依存した屈折補正前屈折正後データとなり,各データの互換性が取れなくなることも多い.緑内障のような慢性疾患を長期に経過観察する場合は,とくに過去の治療の記録とともに,画像や視野検査結果のデータの時系列解析のための互換性は重要である.視野検査においては,動的量的視野検査・静的量的視野検査ともに,機種を変えない限り今のところ互換性は保たれているが,10年ほど前に使用していた三次元画像解析装置は,今,臨床的にほとんど姿を消そうとしているように,今後も飛躍的に発展をすることが予想される.画像解析装置の進化の中で,OCTにおいて今後も長期継続したデータの互換性の保証はない.医師の眼で見た画像情報に近い画像,すなわち各角度の眼底写真,視神経乳頭の立体写真などは,OCTの検査結果・左視野右視野図7正常眼近視(R:-7D,L:-6D)トプコンは屈折補正することで計測結果をより実例に近づける.この症例では,視神経乳頭解析結果が修正され偽陽性が改善された.(57)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014983正常眼データベース判定GCC長眼軸長眼データベース判定GCC図8POAG男性.RV=0.07(1.2×S.12.5D).眼軸:26.27mm(長眼軸長).NIDEKのGCC黄斑解析.視野検査結果とともに常に普遍的な記録として残しておくべきであると考える.それは,さらに機能を向上させた画像解析と視野検査から新しく緑内障が定義されるようになるまでの間必須であると考える.IIIデータベースと機種による判定の違い視野検査結果は,各器械専用に集められた正常眼データにより判定される.Humphrey視野計の場合,FullThreshold法による検査方法,統計学的短縮法のSITAStandard,SITAFast法,Blue-on-Yellowなど,日本を含む世界の各国から集めた別々のデータベースを元に結果の解析方法が考案されている.これは,他のどの視984あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(大久保真司先生のご厚意による)野計においても同様で,このデータベースの質が診断の質を決めている.OCTにおいても,これは同様であり,基準となっているデータベースは,日本を含む世界の各国から集めて構築されているが,機種が異なれば判定結果が微妙に異なる場合もあるのは,このデータベースの違いによることもある.可能な限り多くの年代のデータが収集されており,統計学的処理を用いられてはいるが,10代のデータは少ない.また,人種によって基準を変える必要がある場合もある.さらに多くのデータベースはcrosssectionalなデータであり,個人の加齢変化や疾病の早期の変化は全体のばらつきの中に隠されてしまう場合がある.日本をはじめアジアにおいて緑内障(58)OD:wRGC=318000CSFI=62%OS:wRGC=503000CSFI=38%OD:wRGC=318000CSFI=62%OS:wRGC=503000CSFI=38%図9CombininedIndexStructureandfunction(CSFI)とtheweightedRetinalGanglionCellcount(wRGC)を添付されたForumComboReportと近視性視神経症ともいうべき病態との鑑別診断は最近のトピックとなっているが,OCTの機種によって,屈折異常に対応する補正機能は異なり,例えばトプコン社3D-OCT2000では画像を屈折データの入力をして補正をすることで実測値の改善を図り,ニデック社は強度近視には長眼軸長データベースを判定に採用することで誤判定を防いでいる.図7は強度近視眼だが,視野は正常であり,屈折補正なしでは神経線維束欠損があるように見えるも,補正すると正常範囲となる.視神経所見からも緑内障ではない.図8は,緑内障眼ではあるが,長眼軸長データベースを適用する前には,視神経線維束欠損が多くみられるように判定されるが,適用後では視野異常に一致した神経線維束欠損がみられるのみである.IV網膜神経節細胞数評価と早期緑内障診断緑内障による視野異常の検出は,視神経乳様所見,網膜神経線維束所見,網膜神経節細胞の構造的変化による検出よりかなり遅れて検出可能となると報告されている.Quigleyらの報告7)では,自動視野計による感度低下と網膜神経節細胞の障害の関係は,.5dBで20%,.10dBで40%とされる.Harwerthら8),GarwayHeathら1)の報告においても,網膜神経節細胞の余剰性についての報告があり,緑内障の診断と経過観察を機能と構造の両面からの定量指標を用いて判定する方法も考案されている(theStructureFunctionIndex).緑内障性視神経症の画像解析の主役がHRT(HeidelbergRetinalTomograph)であった頃よりこの方法は試行されてきているが9),Medeirosらは,Harwerthらの計算式を応用して,SD-OCT(CirrusHD)とHumphrey視野計の結果より指標を計算しcombinedindexofstructureandfunction(CSFI)を考案した.この指標により,構造と機能を同時にひとつの指標で把握できるとされ,いわゆるpreperimetricglaucomaや,視野の重症度分類(Staging)に適していると報告している(図9)10,11).文献1)Garway-Heath,CaprioliJ,FitzkeFWetal:Scalingthehillofvision:Thephysiologicalrelationshipbetweenlight(59)あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014985sensitivityandganglioncellnumbers.IOVS41:17741782,20002)Garway-HeathDF,Poinoosawmy,FitzkeFWetal:Mappingthevisualfieldtotheopticdiscinnormaltensionglaucomaeyes.Ophthalmology107:1809-1815,20003)WernerEB,BishopKI,KoelleJetal:Acomparisonofexperiencedclinicalobserversandstatisticaltestsindetectionofprogressivevisualfieldlossinglaucomausingautomatedperimetry.ArchOphthalmol106:619-623,19884)WirtschafterJD,BeckerWL,HoweJDetal:Glaucomavisualfieldanalysisbycomputedprofileofneverfiberfunctioninopticdiscsectors.Ophthalmology89:155-167,19825)SuzukiY,AraieM,OhashiY:Sectorizationofthecentral30degreesvisualfieldinglaucoma.Ophthalmology100:69-75,19936)AraieM:Test-retestvariabilityinstructuralparametersmeasuredwithglaucomaimagingdevices.JpnJOphthalmol57:1-24,20137)QuigleyHA,DunkelbergerGR,GreenWR:Retinalganglioncellatrophycorrelatedwithautomatedperimteryinhumaneyeswithglaucoma.AmJOphthalmol107:453464,19898)HarworthRS,SmithEL3,ChandlerM:Progresivevisualfielddefectsfromexperimentalglaucoma:measurementwithwhiteandcoloredstimuli.OptomVisSCi76:558570,19999)BolandMV,QuiglewHA:Evaluationofacombinedindexofopticnervestructureandfunctionforglaucomadiagnosis.BMCOophthalmology11:6,201110)MedeirosFM,LisboaR,WeinrebRNetal:Acombinedindexofstructureandfunctionforstagingglaucomatousdamage.ArchOphthalmol130:1107-1116,201111)MedeirosFM,ZangwillLM,BowdCetal:Thestructureandfunctionrelationshipinglaucoma:Implicationsfordetectionofprogressionandmeasurementofratesofchnges.IOVS53:6939-6946,2012986あたらしい眼科Vol.31,No.7,2014(60)