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視神経脊髄炎に関連した視神経炎(抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎)の治療の現状

2016年5月31日 火曜日

特集●視神経炎と視神経症:全身と眼の架け橋あたらしい眼科33(5):639〜643,2016視神経脊髄炎に関連した視神経炎(抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎)の治療の現状StrategiesforEffectiveTreatmentofAnti-Aquaporin-4Antibody-PositiveOpticNeuritis植木智志*はじめに本稿では,眼科領域では抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎として知られている視神経脊髄炎に関連した視神経炎の治療について,現在行われている治療方法および眼科の臨床からみた現在行われている治療方法の問題点についてとくに焦点を当てて述べる.まず,用語について解説する.視神経脊髄炎(neuromyelitisoptica:NMO):従来はDevic病とよばれていた炎症性中枢神経系疾患.疾患に特異的な自己抗体である抗アクアポリン4抗体の発見により2006年に診断基準が改訂された.この診断基準の必須項目は視神経炎および急性脊髄炎である.Neuromyelitisopticaspectrumdisorder(NMOSD):視神経脊髄炎の診断基準を満たさないが抗アクアポリン4抗体が陽性である視神経炎単独の症例や急性脊髄炎単独の症例などが注目されるようになり,2015年に新たな診断基準が作成された1).抗アクアポリン4抗体:MayoClinicCollegeofMedicineのLennonらが2004年にNMOにみられる自己抗体として報告し2),その後2005年に認識抗原がアクアポリン4であることを明らかにした3).アクアポリン4:アストロサイトなどに分布する中枢神経系の水チャネル.INMOSDとしての抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎2015年に新たにNMOSDの診断基準が提唱された1).この診断基準は抗アクアポリン4抗体が陽性であることをその中核に位置付けており,抗アクアポリン4抗体が陽性で視神経炎や急性脊髄炎などの主要な臨床的特徴が1つ以上あり,他疾患が除外された症例はNMOSDと診断される.抗アクアポリン4抗体が陽性であるものの視神経炎単独の症例は,この診断基準によりNMOSDと診断される.ロンドン大学のToosyらによる視神経炎の分類では,この抗アクアポリン4抗体が陽性であるものの視神経炎単独の症例は,非典型的視神経炎のなかのNMOに関連した視神経炎に分類される4).日本国内では2009年の新潟大学の高木らによる抗アクアポリン4抗体が陽性であるもののNMOの診断基準は満たさない3症例の症例報告から5),抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎とよばれている.2014年には抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドラインが作成された6).抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドラインにも記載されているように,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎は視力予後が不良であることが知られている.新潟大学の高木らの臨床研究によると,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の臨床的特徴は以下のごとくである.・血清中アクアポリン4抗体陽性・圧倒的に女性に多く,比較的高齢に発症・重症で視機能予後不良(最低視力:中央値手動弁,最終視力:中央値0.1)・再発が多い.・高率の自己抗体出現海外の報告でも,視機能予後不良の傾向がみられる.Pirkoらによると,再発性視神経炎のうち,NMOに移行した症例は多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)に移行した症例に比べて最終視力が低かった(平均経過観察期間2.3年)7).これらの臨床的特徴から抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の治療は急性期の視力改善のための治療と,亜急性期から慢性期の再発予防のための治療の2つに区別するべきであることが示唆される.また,Matielloらの報告によると,抗アクアポリン4抗体陽性の再発性視神経炎のうち,50%の症例が経過観察期間の中央値約9年で脊髄炎を発症しており8),抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎では将来の脊髄炎の発症に注意しなければならない.II抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の治療抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドラインには表1のような治療方法が記載されている.これらの治療方法の選択肢をどのように組み立てれば良いだろうか.ドイツの神経内科医を中心とするTheNeuromyelitisOpticaStudyGroup(NEMOS)はNMOおよびNMOSDの治療について以下のように推奨している9).1.急性期の視力改善のための治療・まずはステロイドパルス療法・ステロイドパルス療法で改善傾向がみられない,もしくは増悪傾向がみられたら,血漿交換療法(以前に血液浄化療法が奏効した症例ではまず血漿交換療法を行う)2.慢性期の再発予防のための治療・ファーストラインとしてアザチオプリンやリツキシマブを推奨・セカンドラインとしてMycophenolateMofetilやミトキサントロンやメトトレキサートを推奨・サードラインとしてステロイド内服に加えてシクロスポリンAもしくはメトトレキサートもしくはアザチオプリンのコンビネーション治療,免疫抑制薬内服に加えて間欠的に血漿交換療法を行うコンビネーション治療,リツキシマブに加えてメトトレキサートもしくは免疫グロブリン大量点滴静注療法を行うコンビネーション治療,トシリズマブ.JohnsHopkins大学のKimbrough,Levyら,東北大の藤原らは,NMOおよびNMOSDの治療として,急性期の治療のスタンダードはステロイドパルス療法,効果が不十分であれば血漿交換療法,それらの治療にも抵抗性であればシクロフォスファミド静注を推奨している.再発予防のための治療としては,アザチオプリン,リツキシマブ,MycophenolateMofetil,メトトレキサート,プレドニゾン,ミトキサントロンのうちの1種類の投与を推奨している10).上記を踏まえて,治療方法の組み立てについての筆者の考えを述べる.現状では,急性期の視力改善のための治療としてはやはりステロイドパルス療法が第一の選択肢となるだろう.治療前視力が不良な症例や視野障害の程度が強い症例は積極的に抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎を疑い,抗アクアポリン4抗体検査の結果が到着する前からステロイドパルス療法を行うべきである.ステロイドパルス療法を行っても視力の改善が得られない症例では血液浄化療法が選択肢となるが,自験例ではステロイドパルス療法後数週以上経過してから視力が改善してくる例もみられるため,どの時点で血液浄化療法を行うべきかについては今後の研究が必要である.血液浄化療法についての最近の報告では,KleiterらによるNMO142症例,NMOSD43症例のレトロスペクティブな解析で,脊髄炎単独のNMOSD症例は血漿交換療法もしくは免疫吸着療法にステロイドパルス療法よりも良く反応することが示されている11).急性期の視力改善のための治療方法としての免疫グロブリン大量静注療法について,現在国内で治験が進行中である.海外では,Viswanathanらが免疫グロブリン大量静注療法を行ったNMOおよびNMOSD症例をレトロスペクティブに解析し,年間再発率(annualizedrelapserates)の減少がみられたと報告している12).亜急性期から慢性期の再発予防のための治療としては,当施設ではプレドニゾロン少量内服(10mg/日~10mg/隔日程度)単独,もしくはそれに加えてのアザチオプリン内服のどちらかを行っている.急性期のステロイドパルス療法後からプレドニゾロン少量内服に至るまでは,数カ月以上かけてゆっくりとプレドニゾロン内服量を漸減するべきである.これらの治療は副作用の管理の点から,また将来の脊髄炎の発症のリスクの点からも,神経内科との連携が必須である.しかし,NEMOSの推奨する治療では,プレドニゾロン少量内服単独に加えてのアザチオプリン内服がサードラインの治療であり,プレドニゾロン少量内服単独は選択肢にあげられていない.Kimbrough,Levyら,東北大の藤原らの推奨する治療ではプレドニゾロン少量内服は選択肢にあげられている.今後はNEMOSの推奨するファーストラインの治療であるアザチオプリンやリツキシマブを積極的に取り入れていくべきだと考えられるが,現状の治療との比較など今後の研究が必要である.Shermanらによるreviewでは,リツキシマブとMycophenolateMofetilの年間再発率(annualrelapserates)の減少効果は同等だが,両者ともアザチオプリンに勝るとしている13).眼科の臨床からみた現在行われている治療方法のもっとも重要な問題点は,眼科単独では行いにくい治療方法である血漿交換療法をどのように他科と連携し速やかに行うか,また,プレドニゾロンや免疫抑制薬の長期内服における副作用の管理をどのように行うかであるといえる.眼科医が抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の存在を知り速やかに診断し,治療開始早期から他科と連携することが現状での唯一の対処方法であろう.III抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の治療―自験例―1.症例1:前医眼科初診時54歳,女性.X年2月8日2日前からの左眼中心暗点を主訴に前医眼科初診.初診時左眼視力=手動弁.左球後視神経炎の診断でステロイドパルス療法を1クール行われたが,ステロイドパルス療法開始から約1カ月後の左矯正視力=(0.3)と不良.同年5月14日両眼視力低下を主訴に前医眼科再診.右眼矯正視力=(1.2),左眼視力=光覚弁.3日後には右眼矯正視力=(0.08),左眼視力=光覚なしとなった.同日緊急造影MRIを行い,視交叉右側,左視神経に造影効果がみられた.同日緊急入院,ステロイドパルス療法開始(合計3クール施行).入院後の血液検査で抗アクアポリン4抗体陽性が判明(cell-basedassay法).左眼視力に改善はみられず光覚なしのままであったが,右眼矯正視力は徐々に改善し,ステロイドパルス療法1クール目開始から約2カ月後に(1.2)となった.X+1年5月12日より新潟大学医歯学総合病院眼科(当科)で経過観察開始.無治療で経過観察を行っていたが,X+3年5月16日より再発予防を目的としてプレドニゾロン10mg内服開始.現在まで視神経炎の再発および脊髄炎の発症なく経過している.本症例は,左視神経炎を2回,右視神経炎を1回発症しており,左眼視力は2回目の左視神経炎発症後に光覚なしとなったが,右視神経炎発症後の右眼視力は2カ月近く経過してから(1.2)に改善した.本症例から,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎ではステロイドパルス療法のみで良好な視力が得られる可能性もあるが,同側視神経に再発を繰り返すと視力予後がより厳しくなることが示唆される.2.症例2:当科初診時48歳,女性.X年3月29日1週前からの左視力低下を主訴に当科初診.初診時左眼視力=光覚なし.緊急造影MRIで左視神経に造影効果あり.左球後視神経炎の診断で同日緊急入院.翌日からステロイドパルス療法開始(合計3クール施行).入院後の血液検査で抗アクアポリン4抗体陽性が判明(cell-basedassay法).ステロイド治療に対する反応は乏しく,ステロイドパルス療法3クール終了時の左眼視力=0.01であった.血液浄化療法について検討するも患者本人が希望せず退院となった.その後,プレドニゾロン内服はゆっくりと漸減し,10mg隔日内服で経過観察を行っていた.X+5年3月15日予約日に再診した際に,右眼視野検査で下方の感度低下がみられた(図1a).右眼矯正視力=(1.2)であった.緊急造影MRIで右視神経にわずかに造影効果がみられたため,右視神経炎としての再発と考え,翌日から当科入院の上ステロイドパルス療法を開始した.ステロイドパルス療法開始直前の視野検査の結果は前日と比べて増悪していた(図1b).その後,視野障害は徐々に改善した.予約日に再診した際には,本人の自覚症状はわずかな眼球運動痛以外なかった.本症例では,プレドニゾロン少量内服治療を行っていたが,左視神経炎の発症から5年後に右視神経炎としての再発がみられた.本症例から,抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎における再発予防のための治療の重要性,また速やかに再発を疑い診断することの重要性が示唆される.おわりに眼科領域では抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎として知られている視神経脊髄炎に関連した視神経炎の治療の現状について,自験例を含めて述べた.現在行うことができる抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の治療を眼科のみでは行うことは難しい.本稿が眼科と他科の連携を進める架け橋になってほしいと願う.文献1)WingerchukDM,BanwellB,BennetJLetal:Internationalconsensusdiagnosticcriteriaforneuromyelitisopticaspectrumdisorders.Neurology85:177-189,20152)LennonVA,WingerchukDM,KryzerTJetal:Aserumautoantibodymarkerofneuromyelitisoptica:distinctionfrommultiplesclerosis.Lancet364:2106-2112,20043)LennonVA,KryzerTJ,PittockSJetal:IgGmarkerofoptic-spinalmultiplesclerosisbindstotheaquaporin-4waterchannel.JExpMed202:473-477,20054)ToosyAT,MasonDF,MillerDH:Opticneuritis.LancetNeurol13:83-99,20145)TakagiM,TanakaK,SuzukiTetal:Anti-aquaporin-4antibody-positiveopticneuritis.ActaOphthalmol70:2197-2200,20096)抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドライン作成委員会:抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドライン.日眼会誌118:446-460,20147)PirkoI,BlauwetLA,LensnickTGetal:Thenaturalhistoryofrecurrentopticneuritis.ArchNeurol61:1401-1405,20048)MatielloM,LennonVA,JacobAetal:NMO-IgGpredictstheoutcomeofrecurrentopticneuritis.Neurology70:2197-2200,20089)TrebstC,JariusS,BertheleAetal:Updateonthediagnosisandtreatmentofneuromyelitisoptica:recommendationsoftheNeuromyelitisOpticaStudyGroup(NEMOS).JNeurol261:1-16,201410)KimbroughDJ,FujiharaK,JacobAetal:Treatmentofneuromyelitisoptica:reviewandrecommendations.MultSclerRelatDisord1:180-187,201211)KleiterI,GahlenA,BorisowAetal:Neuromyelitisoptica:evaluationof871attacksand1,153treatmentcourses.AnnNeurol79:206-216,201612)ViswanathanS,WongAHY,QuekAMLetal:Intravenousimmunoglobulinmayreducerelapsefrequencyinneuromyelitisoptica.JNeuroimmunol282:92-96,201513)ShermanE,HanMH:Acuteandchronicmanagementofneuromyelitisopticaspectrumdisorder.CurrTreatOptionsNeurol17:48,2015*SatoshiUeki:新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)〔別刷請求先〕植木智志:〒951-8510新潟市旭町通一番町754新潟大学大学院医歯学総合研究科視覚病態学分野(眼科学)表1抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の治療方法6)急性期の視力改善のための治療・ステロイドパルス療法・血液浄化療法(血漿交換療法,二重膜濾過法,免疫吸着療法)・免疫グロブリン大量静注療法・分子標的薬慢性期の再発予防のための治療・プレドニゾロン内服・免疫抑制薬(タクロリムス,アザチオプリン,シクロスポリン)・血液浄化療法・分子標的薬図1症例2のHumphrey視野計a:症例2の右視神経炎再発を疑った際のHumphrey視野計による右眼視野.下方にMariotte盲点と連続する感度低下がみられる.b:症例2の右視神経炎再発と診断しステロイドパルス療法を行う直前のHumphrey視野計による右眼視野.1日で視野障害は増悪した.0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(15)639640あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(16)(17)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016641642あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(18)(19)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016643

神経内科領域疾患における視神経炎─多発性硬化症と視神経脊髄炎を中心に─

2016年5月31日 火曜日

特集●視神経炎と視神経症:全身と眼の架け橋あたらしい眼科33(5):633〜637,2016神経内科領域疾患における視神経炎─多発性硬化症と視神経脊髄炎を中心に─OpticNeuritisinNeurologicalDisorders:MultipleSclerosisandRelatedDisorders赤石哲也*中島一郎*はじめに神経内科領域疾患のうち,以下にあげる多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)およびその類縁疾患では,しばしば視神経炎(opticneuritis:ON)が認められる.①多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)②抗アクアポリン4(aquaporin-4:AQP4)抗体陽性の視神経脊髄炎関連疾患(neuromyelitisopticaspectrumdisorders:NMOSD)③抗myelinoligodendrocyteglycoprotein(MOG)抗体が陽性の急性炎症性脱髄疾患これらの疾患では,病型ごとに最終的な視力予後が異なる.抗MOG抗体陽性の急性炎症性脱髄疾患では発症後,数日から数週以内に視力がほぼ完全に回復するが,NMOSDではステロイドパルス療法を行ったとしても視力が回復せず,失明に至る例が少なくない1).MSでは全患者に占めるONの頻度はやや少なく,急性期の視力低下も先の2病型ほど重度ではない傾向にあるが,急性期のステロイドパルス療法や再発予防療法を適切に行わないと,高度の視力障害にいたる例もある2).急性期にはいずれの疾患もステロイドパルス療法を行うが,慢性期の再発予防治療は疾患ごとに異なるため,病初期の適切な診断が必要である.そのため患者病歴,血清中の自己抗体,眼窩MRI(STIR法,造影T1強調画像),脳MRIおよび脊髄MRIの所見などから複合的に判断することが重要となる.本稿では,上記3疾患ごとに患者背景,臨床像,治療反応性,眼窩MRI所見など,診断の手がかりとして有用と思われる事項を概説する.I多発性硬化症における視神経炎(MSON)MSはおもに50歳以下に発症する炎症性脱髄疾患で,中枢神経系の髄鞘を形成するオリゴデンドロサイトの障害が病態の中心であり,脳の白質,視神経,脊髄に多発性の炎症病巣を認める3).患者の7割前後を女性が占める4).典型的な病巣のひとつは脳室周囲に多発する卵円形の白質病変で“ovoidlesion”とよばれ,急性期にはリング状に造影されることが多い.側脳室に接する病変は,矢状断での指を伸ばしたような分布像から“Dawson’sfingers”などとよばれる.視神経病変は,眼窩内から視交叉,視索にいたる広い範囲で,さまざまな長さのものがみられるが,視神経の腫脹はあっても軽く,腫脹に伴う蛇行もほとんどない.また,視神経への造影剤の取り込みも軽度で,眼窩内脂肪織の炎症像もほとんどみられない.急性期のステロイドパルス療法や,その後の疾患修飾療法(diseasemodifyingtherapy:DMT)が適切に行われれば,後遺症なく経過する例も少なくない.しかし,それらの治療が適切に行われなかった症例を中心に,視力回復があまり得られず,月単位から年単位で視力が徐々に低下し,最終的に矯正視力0.1以下まで低下してしまう症例もみられ,長期的な視力予後は必ずしも良くはない2).また,初回のONではステロイドパルス療法が奏効しても,2回目以降のONが治療に抵抗性で重度の視力障害を残す場合もあるため,適切なDMTが必要である.II抗AQP4抗体(+)視神経脊髄炎における視神経炎(NMOSDON)NMOSDは血清中の抗AQP4抗体が陽性であることで特徴づけられる中枢神経の炎症性疾患であるが,血液脳関門を介した物質輸送に関与するアストロサイトの障害が主体であり,MSとは病態が異なる5).病巣分布は頻度順に,脊髄,視神経,延髄,大脳皮質下白質であり,MSとその特徴が異なる.脊髄炎はおもに頸髄から上位胸髄のレベルにみられ,3椎体以上にまたがる長大な病変(longitudinallyextensivespinalcordlesion:LESCL)が特徴的とされ,しばしば横断性である6).ただしONのみで発症したNMOSD症例の場合,発症当初は脳および脊髄MRIに異常がないことも多く,NMOSDを疑うのが遅れることも少なくない.ONの分布は眼窩内にやや多い傾向はあるが,2~4割の症例では視交叉の病変がみられ,NMOSDに特徴的とされる水平性半盲を呈することがある7).ONの急性期には視神経の腫脹がみられることが多いが,視神経の蛇行や眼窩脂肪織炎などはあまりみられない.急性期のステロイドパルス療法や,その後の長期にわたる少量経口ステロイド内服による再発予防は必須と考えられているが,それらの適切な治療にもかかわらず視力が回復せず,急速に失明に至る症例も少なくない.MSONでは再発エピソードと関係なく経時的に視力障害が進むことがあるが,NMOSDONではほとんどの場合において視力障害は再発エピソードのたびに進むため,長期の経口ステロイドあるいは免疫抑制薬内服による再発予防が重要である8).適切な急性期・慢性期治療が長期視力予後に大きく影響する.III抗MOG抗体(+)NMOSDにおける視神経炎(MOGON)抗MOG抗体はここ数年で注目を集めるようになってきた自己抗体であり,これまで「原因不明の特発性視神経炎」「抗AQP4抗体が陰性の非典型的MS」「急性散在性脳脊髄炎(acutedisseminatedencephalomyelitis:ADEM)」などと診断されていた症例の一部に関与している可能性が示唆されている.抗MOG抗体が病原性を有し発症原因そのものなのか,あるいは他の病態に付随して二次的に上昇しているものなのか,まだ結論は出ていない.しかし,近年になり複数の研究で,抗MOG抗体を有する中枢神経の炎症性疾患が特徴的な臨床像,病変分布,治療反応性が示され,MSおよびNMOSDとは区別すべき一群であることが徐々にわかってきた9).MSやNMOSDが圧倒的に女性に多いのに対し,MOGONはその半数以上を男性が占める.発症年齢は幅広いが,NMOSDに比べてやや若年に偏っている.MOGONの診断は,MSやNMOSDよりも困難な場合がありえる.MSやNMOSDではON以外の脳病変や脊髄病変に神経症状が伴いやすく,神経内科に紹介されるケースが多いと思われるが,MOGONはONが単独で出現する症例が大半を占めるため,原因不明の特発性視神経炎と診断され,眼科で診療されるケースが多い.MOGONは視力予後がMSやNMOSDよりも明らかに良く,従来の眼科的な対応で問題ないケースがほとんどだと思われるが,不十分な治療のために最終的に失明にいたるケースも存在する1).長期的な予後に影響する要因はまだ不明な点が多いが,抗MOG抗体に関連した炎症性脱髄疾患と病初期に診断することは,その後の治療選択を行ううえで重要である.特発性ONが疑われている患者において抗MOG抗体の関与を示唆する所見としては,しばしば両側性の発症がみられる点,眼窩MRIで視神経の腫脹・蛇行を伴った長大な視神経病変を認める点などがあげられる1).MOGONでは最終的な視力予後が良好であるのに,MS,NMOSD,特発性ONと比べて,急性期の眼窩MRIで高度の炎症を認めやすい.また,より長いONを反映してか,MSやNMOSDと比べて急性期に視野異常として中心暗点がよくみられる.診断は血清中の抗MOG抗体価の測定による.Cellbasedassay法による測定とELISA法による測定が可能であるが,現在入手可能なELISAキットは特異性が非常に低く,診断に用いることは不適当である.現在,cell-basedassay法による抗MOG抗体の測定は,東北大学などの研究機関でのみ行われている.IV疾患のまとめと比較ここまで述べた3つの疾患の臨床上および各種検査における特徴を表1にまとめた.性別・発症年齢などの患者背景はこのように疾患ごとに異なっている.図1に示した発症年齢の分布からわかかるとおり,MSONおよびMOGONは若年発症が多いのに比べ,NMOSDONの発症は中年期以降もまれではない.逆に,50歳以降の発症であればMSは考えにくい.図2には疾患ごとの,典型的な眼窩MRI(STIR法)の自検例と特徴を,また図3には眼窩MRI所見の典型像をシェーマ化した.すべての症例がこれらの特徴を満たすわけではないが,とくにMOGONの視神経腫脹と蛇行を伴う画像所見は特異性が高く,病初期に診断するうえで有用な所見である.図4では疾患ごとに,自験例における最終視力をlogMARに換算してプロットした.MOGONのみフォロー期間はやや短いものの,急性期および亜急性期にかぎってみてもMOGONの素早い良好な視力回復は明らかにMSやNMOとは異なっており,有意に良好な視力予後を示すといえる.NMOSDONとMSONでは,最終的な視力障害のレベルはさまざまであるが,NMOSDONのほうがやや悪い傾向にある.おわりに神経内科疾患でみられるONは,急性期のステロイドパルス療法および慢性期の適切な再発予防治療の選択が重要であり,病初期に脳・眼窩MRI,血清抗AQP4抗体,抗MOG抗体などから適確な診断を行うことが望まれる.とくに,特発性ONと診断される症例の多くで抗MOG抗体が陽性になることから,この抗体測定がより一般的になり,保険適用になることが望まれる.文献1)AkaishiT,SatoDK,NakashimaIetal:MRIandretinalabnormalitiesinisolatedopticneuritiswithmyelinoligodendrocyteglycoproteinandaquaporin-4antibodies:acomparativestudy.JNeurolNeurosurgPsychiatry87:446-448,20162)JasseL,VukusicS,Durand-DubiefFetal:Persistentvisualimpairmentinmultiplesclerosis:prevalence,mech-anismsandresultingdisability.MultScler19:1618-1626,20133)LucchinettiC,BrückW,ParisiJetal:Heterogeneityofmultiplesclerosislesions:implicationsforthepathogenesisofdemyelination.AnnNeurol47:707-717,20004)OrtonSM,HerreraBM,YeeIMetal:SexratioofmultiplesclerosisinCanada:alongitudinalstudy.LancetNeurol5:932-936,20065)TakanoR,MisuT,TakahashiTetal:AstrocyticdamageisfarmoreseverethandemyelinationinNMO:aclinicalCSFbiomarkerstudy.Neurology75:208-216,20106)WeinshenkerBG,WingerchukDM,VukusicSetal:NeuromyelitisopticaIgGpredictsrelapseafterlongitudinallyextensivetransversemyelitis.AnnNeurol59:566-569,20067)中尾雄三:抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の臨床的特徴.神眼25:327-342,20088)SatoD,CallegaroD,Lana-PeixotoMAetal:Treatmentofneuromyelitisoptica:anevidencebasedreview.ArgNeuropsiquiatr70:59-66,20129)ReindlM,DiPauliF,RostásyKetal:ThespectrumofMOGautoantibody-associateddemyelinatingdiseases.NatRevNeurol9:455-461,2013表1多発性硬化症および類縁疾患における視神経炎の特徴MSNMOSD抗MOG抗体陽性脱髄疾患特異的自己抗体なし抗AQP4抗体抗MOG抗体女性の比率約70%90〜100%50%以下発症年齢10〜30代10〜70代(やや高齢)10〜70代(やや若年)視神経炎出現率3〜4割6〜8割半数以上?脊髄炎出現率7〜8割8〜9割半数以下?特徴的MRI病巣側脳室周囲小脳脊髄(側索・後索)視交叉延髄背側頸胸髄(中心部)視神経頸髄,腰仙髄急性期治療ステロイドパルス療法など免疫調節療法再発予防治療インターフェロンbフィンゴリモドナタリズマブグラチラマー酢酸塩経口ステロイド免疫抑制薬経口ステロイド急性期の視神経炎の特徴急性期視力さまざま矯正0.1以下が多い矯正0.1以下が多い病変長やや短いさまざま長い特徴的な分布眼窩(5〜7割)視神経管(4〜6割)眼窩(6〜7割)視交叉(2〜4割)視神経管(9〜10割)頭蓋内(9〜10割)視神経腫大少ない多いとても多い眼窩脂肪織炎少ない少ない多い視野障害少ないしばしば(水平性半盲)しばしば(中心暗点)急性期以降の視神経炎の特徴パルスへの反応さまざましばしば無効良い(自然回復も多い)視力の回復さまざま悪いほぼ完全に回復回復までの期間やや遅いやや早い再発リスクやや高い高いやや低い視神経の萎縮やや少ない多い少ない図1病型ごとの発症年齢MSONNMOSDONMOGONやや片側性(再発するうちに両側性へ)やや片側性(再発するうちに両側性へ)やや両側性病変長はやや短い病変長はさまざま病変長は長い眼窩後部~視神経管に多い視神経のごく軽い腫脹眼窩内に多い視神経の腫脹視交叉にも2~4割視神経管,頭蓋内はほぼ必出視神経の強い腫脹と蛇行眼窩脂肪織炎急性期の典型的MRI(STIR)図2病型ごとの典型的な眼窩MRIMSONNMOSDONMOGONさまざま萎縮改善慢性期急性期図3シェーマ(2×3表形式)図4病型ごとの最終的なlogMAR視力の比較*TetsuyaAkaishi&*IchiroNakashima:東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座神経内科学分野〔別刷請求先〕赤石哲也:〒980-8574仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科神経感覚器病態学講座神経内科学分野0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(9)633634あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(10)(11)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016635636あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(12)(13)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016637

眼科臨床における視神経炎と視神経症の位置づけ

2016年5月31日 火曜日

特集●視神経炎と視神経症:全身と眼の架け橋あたらしい眼科33(5):627〜631,2016眼科臨床における視神経炎と視神経症の位置づけRelationshipbetweenOpticNeuritisandOpticNeuropathyinClinicalOphthalmology毛塚剛司*はじめに狭義の視神経疾患は比較的まれな疾患であるが,見逃すと失明につながる恐れがあるばかりか,生命の危機にもつながりかねかい注意すべき疾病でもある.眼科臨床において,広い意味では視神経炎は視神経症の一分症と考えられているが,「視神経炎」と「その他の視神経症」とのカテゴライズがあいまいである.ここでは,眼科臨床でよくみられる症候や疫学なども参考にしつつ,視神経炎とその他の視神経症との違いを明確にしていこうと思う.I全身病の一所見としての視神経症視神経は脳神経の一部であり,脳疾患をきたした場合には視機能に影響を及ぼす.脳疾患は,脱髄性疾患,ウイルスや梅毒などの感染性疾患,脳腫瘍や眼窩内腫瘍などによる圧迫性疾患,虚血性疾患でも視神経症を起こす可能性がある(表1).Leber遺伝性視神経症のように,視神経そのものに遺伝的素因があって視機能障害をきたす場合もある.視神経症の原因にもよるが,視神経症の眼症状は視力障害や視野障害をきたす.われわれ眼科医は,問診や眼所見,ときには画像診断や免疫血清学的診断を介して眼科医だけで対処して良いのか,それとも神経内科医や脳神経外科医の助けを借りなければならないのかを判断する必要がある.ここで注意が必要なのは,視神経疾患がメインではないにもかかわらず視神経腫脹をきたす疾患である.いわゆる視神経網膜炎をきたしやすい疾患としては,Vogt-小柳-原田病,サルコイドーシス,Behçet病,急性網膜壊死,高血圧眼底など枚挙にいとまがない.視神経網膜炎をきたす疾患は視神経乳頭腫脹のみならず,視神経乳頭周囲の血管炎の有無の重要な鑑別点になり得る.このため,視神経乳頭浮腫に併発する網膜血管炎の存在を検眼鏡的に疑ったなら,可能な限り蛍光眼底造影を行うべきである.II視神経炎と視神経症の線引きは?視神経炎は視神経症の一分症のために厳密な線引きは難しい.視神経炎は文字通り視神経の「炎症」のため,MRIで視神経病変に沿って強く造影されるし,中心フリッカ値(criticalflickerfrequency:CFF)の著明な低下がみられる.視神経炎は,その炎症のために眼痛がみられることが多く,脱髄疾患と関連した眼痛や霧視は,運動時や入浴などの体温上昇時にみられる傾向がある(Uhthoff徴候).虚血性視神経症のような一般的な視神経症ではこのような症候は伴わない.ただし,一般的な視神経症もある程度病状が進むと視神経炎末期と臨床的に判別がつかない.たとえば,進行した視神経症ではswinging-flashlighttestによって判定される相対的求心路瞳孔反応障害(relativeafferentpupillarydefect:RAPD)が陽性となり,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)を用いた視神経乳頭所見でも萎縮となり,視神経炎とその他の視神経症では判別がつかなくなる.このように病状が進んだ視神経萎縮期では視神経炎と視神経症との鑑別は不可能であるが,病初期にはある程度鑑別可能なため,視神経疾患では早期発見,早期診断が重要となる.III「全身病と関連する」vs「眼疾患単独」眼科臨床においては,眼科領域だけで帰結するのか,他科と連携して視神経疾患を診断・治療しなければならないのかを判断するのが難しいところである.臨床眼科医が全身をくまなく診て,診断を下すことには無理があるので,まず視神経疾患をきたす全身性疾患をいくつか念頭に置いて,診断に関連する要点だけを問診で聞き出すことが現実的な方法だと思われる.問診を行うには,性別,年齢,両眼性か,再発性かなどを考慮に入れて予想される疾患を絞り込む必要がある.視神経乳頭に腫脹をきたす全身疾患といえば,①多発性硬化症,②脳腫瘍,③梅毒やヘルペスなどの感染症(図1,2),④糖尿病,⑤高血圧眼底,⑥Vogt-小柳-原田病(図3),⑦サルコイドーシス,⑧Behçet病,⑨特発性頭蓋内圧亢進症(idiopathicintracranialhypertension:IIH)(図4),⑩白血病などがあげられる.このなかでも,多発性硬化症は脱髄性疾患であり,視神経炎の重要な原因疾患である.このため,視神経炎を疑ったときには,いつでも「多発性硬化症」をきたしていないかどうか念頭に置く必要がある.表1視神経障害が起きる原因・先天性(視神経低形成など)・遺伝性(Leber遺伝性視神経症など)・緑内障・感染性(梅毒,ヘルペスウイルス,真菌などを含む)・圧迫性(脳腫瘍などを含む)・自己免疫性(多発性視神経症などの脱髄性を含む)・虚血性図1梅毒による視神経症53歳,女性.左眼)矯正視力0.1.血清梅毒反応は,RPRは256倍,TPHAは5,160倍であった.蛍光眼底図2水痘帯状疱疹ウイルスによる視神経症74歳,男性.右眼の視神経乳頭浮腫を認める.初診時の右眼視力は0.7であったが,抗ウイルス薬に抵抗して,最終時視力は矯正0.02となった.図3Vogt︲小柳︲原田病による視神経乳頭腫脹視神経乳頭腫脹の他に漿液性網膜剝離がみられる.図4特発性頭蓋内圧亢進症と思われる症例55歳,男性.右矯正視力は1.2.頭部MRIでは異常を認めない.視野異常はMariotte盲点の拡大のみである.IV視神経障害における「性差」と「年齢」視神経炎にしても一般的な視神経症にしても,特殊な疾患においては男女の比率と年齢は重要な要素となり得る.抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎は9割の患者が女性であり,男性はまれである1).Leber遺伝性視神経症は多くは若年男性の片眼もしくは両眼でみられ,女性発症はまれとされる2).また,虚血性視神経症は視神経炎に比べて高齢者に多い.とくに動脈炎性虚血性視神経症は高齢者に強く3),急激な経過をたどるために迅速な診断が必要である.一方,Vogt-小柳-原田病やBehçet病,サルコイドーシスなどのぶどう膜炎に併発する視神経症は,若年から壮年期にかけて出現することが多く,特発性視神経炎の好発年齢によく似ている.梅毒などの感染症は全年齢にわたり視神経障害を発症する可能性があるが,重症に至るには数年から十数年かかるため,視神経萎縮例は高齢者が多い.ヘルペス感染症による視神経症は比較的高齢者に多いが,急性網膜壊死を合併する場合は若年齢でも起こりえる.また,真菌感染による視神経症は,免疫不全状態の患者は別として高齢者に多い傾向がある.繰り返しになるが,視神経炎,視神経症の患者を問わず,視神経障害の患者が来院したら,まず男性か女性か,若年か壮年か高齢者かを考慮に入れて問診を行う必要がある.V「単発性」vs「再発性」視神経炎もしくは視神経症が一度限りで落ち着くのか,もしくは再発してそのたびに視力障害や視野障害をきたすのか,事前には簡単には判別できない.視神経炎のなかでも抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎や特発性視神経炎に比べて,抗MOG(myelinoligodendrocyteglycoprotein)抗体陽性視神経炎では再発しやすい傾向にある4).このことから,抗アクアポリン4抗体や抗MOG抗体などの神経由来の血清抗体を測定することは,視神経炎の重症度判定,活動性判定のために重要な検査となり得る.一方,虚血性視神経症は単発性のことが多く,再発の可能性は低い.糖尿病による視神経症も単発性のことが多い.ヘルペスや梅毒などの感染症による視神経症は,きちんと感染源に対する治療を行わないと再発することもあり得る.多発性硬化症に関連する視神経炎の場合は,再発寛解型の場合において再発する症例もあるが,多くの例では視神経炎が落ちついた後に,脊髄炎症状など眼外の神経症状が中心になることが多い.Behçet病に併発する視神経腫脹はまれではあるが,再発することが多く,口内炎などの眼外症状と連動して起こる.しかし,再発しやすい視神経炎症例,視神経症疾患においても,適切な診断,治療を行うことにより,再発が抑えられて寛解に持ち込めることもある.VI「片眼性」vs「両眼性」視神経炎と一般的な視神経症の発症は,片眼性で始まり,経過とともに両眼性に移行する症例が多くみられる.多発性硬化症に併発する視神経炎や抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎,抗MOG抗体陽性視神経炎も両眼性のケースが多い.一方,非動脈炎性虚血性視神経症では片眼性で落ち着くことが多い.頭蓋内圧亢進に由来するうっ血乳頭は基本的に両眼性である.梅毒やヘルペスウイルスなどの感染性視神経症は,初期には片眼性に留まっているが,経過を経るにつれて両眼性に移行する.しかし一般的に,感染症に関連する視神経症は片眼性で発見されることが多い.Vogt-小柳-原田病やBehçet病,サルコイドーシスなどのぶどう膜炎に併発する視神経腫脹は,基本的に両眼性である.膠原病関連疾患による視神経症は,両眼性のケースが多い.高血圧眼底は程度の差こそあれ,両眼性である.このように全身性疾患の要素が大きい場合は経過とともに両眼性に移行することが多い.VII「視力障害をきたしている」vs「視力障害をきたしていない」視力障害の程度は,視神経炎か,その他の視神経症なのかを判別するのに有効である.基本的に,視神経炎では視力障害をきたしやすい.視神経炎は,初診時に視力障害をきたしていなくても,2~3日のうちに高度な視力障害を引き起こすことが多い.一方,他の視神経症でも経過とともに視力障害を引き起こすが,動脈炎性虚血性視神経症以外では視神経炎ほどは急激に視力障害を起こさない.IIHなどのうっ血乳頭では,初期には視力障害を引き起こさず(図4),視神経萎縮期のような晩期になってから視力が低下する.若年年齢よりみられる視神経ドルーゼンなどは,視神経乳頭浮腫をきたすこともあるが,視力低下はきたさない.視力低下をきたさない視神経症は視神経内の神経線維への侵襲が少ないが,視力低下をきたす視神経炎・視神経症は視神経内の浮腫が強い,もしくは神経線維へのダメージが大きいことが予想される.視力障害そのものでは疾患の重症度を推し量ることはできないが,視神経障害の型別を推察することができる.VIII「炎症性」vs「非炎症性」視神経炎は先ほど述べたように視神経症の一分症であるが,視神経炎をあえて他から分けるとすれば炎症性かそうでないかに尽きる.この眼炎症も全身由来のものか,視神経独自の特発性のものかを決める必要がある.このため,眼痛や視力低下,視野障害などの自覚症状に加えて,眼外症状の有無についても問診を行う必要がある.眼症状,眼外症状はどちらが先に出現したのか,症状は持続的なのか間欠的なのか,視力低下や視野障害は進行性なのか停止性なのか軽快傾向にあるのかを問診で確認する必要がある.注意が必要な炎症性の場合,症状は持続的で進行性であるといえる.炎症性視神経疾患を想定するならば,補助診断として白血球数増多の有無,CRP(C-reactiveprotein)上昇や赤血球沈降速度の亢進なども確認しておく必要がある.また,帯状疱疹ウイルスや梅毒などの感染による視神経症では,病態として炎症に主座が置かれている.これらの感染性視神経症では,MRIで視神経に沿って造影効果がみられるわけではなく,造影効果がみられるのはほとんど脱髄性に限られている.そう考えると,眼科医が一般的に考えている「視神経炎」とは「脱髄疾患」に絞られているともいえる.「脱髄疾患」には多発性硬化症や抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎,視神経脊髄炎が強く関係している.一方,動脈炎性虚血性視神経症のように,いわゆる「視神経炎」のカテゴリーではないにもかかわらず,血管炎の波及により炎症が強く関与している病態もある.非動脈炎性虚血性視神経症では,ラットモデルにおいて急性期でもほとんど炎症は関与しておらず,純粋に循環障害により視神経乳頭浮腫が起きていると考えられている5).Leber遺伝性視神経症では,まだ炎症機転が関与しているかどうかは明確ではないが,急激に視機能障害をきたす経緯により,病初期には炎症が関係している可能性がある.IX「感染」vs「非感染性」眼科臨床において,視神経疾患が「感染性」か「非感染性」なのか見きわめることは重要である.感染性か,非感染性かにより治療法に大きく影響してくるからである.感染に関連した視神経症は視神経近傍の血管に炎症が波及しやすい.感染性視神経網膜症は静脈炎のみならず,動脈炎をきたしていることもある(図1).感染による視神経症では,ステロイド治療のみ行っていると一時は消炎するが,感染そのものは治療されていないためにすぐに再発してしまう.そのうえ,将来的に治療に抵抗して不可逆的な変化をきたすために,感染症の有無は必ず検査すべき項目である.とくに梅毒性視神経症やヘルペスウイルス感染による視神経症は,ステロイド単独投与により脳にまで感染が波及する可能性がある.このため,視神経乳頭腫脹がみられたら,必ず梅毒血清反応は行うべきである(図1).また,ヘルペス感染症も注意が必要である.ヘルペスウイルス感染が原因となる急性網膜壊死では,症状として周辺網膜の黄白色滲出斑のほかに視神経乳頭腫脹をきたす場合がある(図2).ヘルペスウイルス眼感染症が疑われた場合,血清ウイルス抗体価を数回にわたり測定し(ペア血清),前房水PCR(polymerasechainreaction)検査を行ってヘルペスウイルスDNAを検出することが疾患を確定することにつながる.非感染性の視神経症で,脱髄性でもなく,虚血性,遺伝性でもない疾患に自己免疫性ぶどう膜炎関連疾患があげられる.Vogt-小柳-原田病では両眼性に視神経乳頭腫脹をきたすが(図3),視力低下は視神経炎に比べて緩徐であり,CFF低下も軽度である.Vogt-小柳-原田病では,視神乳頭腫脹に加えて漿液性網膜剝離を合併しやすいのも特徴である(図3).サルコイドーシスでも視神経乳頭腫脹はときどき出現し,その症例では前眼部炎症が乏しいことが多いので鑑別に迷うことがあるが,蛍光眼底造影を行って網膜血管炎の有無をはっきりさせれば診断につながる.おわりに眼科臨床における視神経炎とそのほかの視神経症との相違について,いくつかの症候や疫学的考察を例にとって比較した.視神経炎は視神経症の一分症であるが,中枢神経系の脱髄疾患の一型でもあるので,ほかの視神経症と臨床所見がかなり異なる.重要なことは,詳細な問診を行い,症候をきちんとつかみ取り,それに対応する検査を入念に行って視神経炎やその他の視神経症の確実な診断を心がけることかと思われる.文献1)抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドライン作成委員会:抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎診療ガイドライン.日眼会誌118:446-460,20142)中村誠,三村治,若倉雅登ほか:網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する調査研究班・日本神経眼科学会Leber遺伝性視神経症認定基準.日眼会誌119:339-346,20153)三村治:神経眼科学を学ぶ人のために.p62-66,医学書院,20144)KezukaT,UsuiY,YamakawaNetal:RelationshipbetweenNMO-antibodyandanti-MOGantibodyinopticneuritis.JNeuroophthalmol32:107-110,20125)中馬秀樹:非動脈炎性虚血性視神経症の動物モデルを用いた治療の試み.日眼会誌118:331-361,2014*TakeshiKezuka:東京医科大学臨床医学系眼科学分野〔別刷請求先〕毛塚剛司:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学臨床医学系眼科学分野0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(3)627628あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(4)(5)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016629630あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(6)(7)あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016631

序説:視神経炎と視神経症:全身と眼の架け橋

2016年5月31日 火曜日

●序説あたらしい眼科33(5):625〜626,2016視神経炎と視神経症:全身と眼の架け橋OpticNeuritisandOpticNeuropathy:CrosstalkofOphthalmologyandNeurology山村隆*園田康平**視神経・網膜は脳神経の一部分であり,眼科疾患と神経疾患で共に侵される.視力障害・視野障害といった眼症状は患者の自覚症状として認知されやすく,眼底検査で病変部を直接観察できるため,神経疾患の早期発見や病態評価という観点から眼科検査は大変重要である.眼科医には,日頃からこの眼科検査の特質を自覚し,視神経炎と視神経症を診た場合,眼科のみならず患者の全身に思いをはせる「診療の深み」が求められている.こうした概念のもと,今回の特集は神経内科と眼科がコラボレーションして企画立案したものである.これまで本誌では診療科横断的な企画が少なかったので,きわめて有用な特集になると確信している.最初の2稿は鑑別診断に関するものである.視神経に発赤腫脹を認めた際,視神経炎かその他(虚血性や変性疾患など)に伴う視神経症かを鑑別することは,初期対応を決めるうえで重要なポイントである.東京医科大学眼科・毛塚剛司先生には,この点を念頭におもな視神経疾患について「炎症か?それ以外か?」の鑑別法を解説いただいた.次に視神経炎をきたす神経内科領域疾患として,多発性硬化症,抗アクアポリン4抗体陽性の視神経脊髄炎関連疾患,抗MOG抗体陽性の急性炎症性脱髄疾患の3つが重要である.東北大学神経内科・赤石哲也先生・中島一郎先生にはこの3疾患の診断について,臨床像・治療反応性・MRI所見など,手がかりとして有用な事項について詳しく解説していただいた.次の2稿は,眼科・神経内科を通じて,現在もっとも治療に苦慮している抗アクアポリン4抗体陽性の視神経脊髄炎関連疾患に関するものである.アクアポリン4は脳・脊髄・視神経に多く存在し,血液脳関門の構造にも重要な役割を担うアストロサイトの足突起に豊富に存在する.近年,疾患カテゴリーが確立し,臨床病型の整理が行われ,診断基準が整備されたことは大きな進歩である.一方で,アストロサイトを中心に高度の壊死性病変を伴う本症の視神経炎の予後は非常に悪く,失明に至ることもいまだ珍しくない.本疾患について,多くの症例を経験されている新潟大学眼科・植木智志先生に,眼科で行われている治療について現状をまとめていただいた.また,国立精神・神経医療研究センター・荒木学先生に,神経内科領域で行われている最新の免疫療法について,また今後の各種生物製剤や神経保護・髄鞘再生をめざした治療も含めて解説いただいた.近年眼科領域では,日常検査機器としてOCT(opticalcoherencetomography)が急速に普及した.OCTは非侵襲的に視神経の詳細な変化を観察することが可能で,神経内科領域でも視神経関連疾患の鑑別法としてその有用性が認識されてきた.OCTにより多発性硬化症(multiplesclerosis:MS)の乳頭浮腫などの急性期変化や視神経萎縮の有無と経時的変化(神経変性)を容易に評価できる.また,OCT解析により視神経脊髄炎との鑑別の補助診断として利用できる.さらに,他の解析方法との組み合わせで生体の神経変性機序をとらえることができる.このようなOCTの有用性について,神経内科の視点から順天堂大学脳神経内科・横山和正先生,服部信孝先生に解説いただいた.最後に,炎症以外の機序で発症する代表的な2つの視神経症を取り上げる.虚血性視神経症は動脈炎性と非動脈炎性に大別される.急性・持続性・片眼性の視力低下で発症する非動脈炎性虚血性視神経症は日常診療で多く遭遇する視神経疾患である.臨床所見や自然経過はわかっているが,発症機序は未だ不明であり,臨床方針をアップデートすることが他疾患の鑑別にも重要である.現時点での非動脈炎性虚血性視神経症の考え方について,宮崎大学眼科・中馬秀樹先生に解説いただいた.また,ヒトで初めて発見されたミトコンドリア病であるレーベル遺伝性視神経症は,最近,厚生労働省の難病に指定され,認定基準が策定された.この確定診断にもっとも威力を発揮するのがミトコンドリア遺伝子検査であり,徴候と併せて診断が行われる.近年,ミトコンドリア遺伝子の希少変異も報告される一方で,治療がないとされてきた本疾患に対して,薬物や遺伝子治療に関する臨床研究や治験成績が報告されており,「治療可能な遺伝病」である可能性が指摘されている.レーベル遺伝性視神経症の最新情報を,神戸大学眼科・中村誠先生に解説いただいた.本特集は視神経炎と視神経症を通して,全身と眼の架け橋となるような診療を常に念頭に置くことを再確認する機会になればと願っている.最新情報のアップデートとともに,日常診療の一助になれば幸いである.*TakashiYamamura:国立精神・神経医療研究センター**KoheiSonoda:九州大学大学院医学研究院眼科学分野0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(1)625626あたらしい眼科Vol.33,No.5,2016(2)

眼科単科病院を受診する糖尿病患者の網膜症に対する説明

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):613〜618,2016©眼科単科病院を受診する糖尿病患者の網膜症に対する説明吉崎美香*1安田万佐子*1大須賀敦子*1井出明美*1荒井桂子*1大音清香*2井上賢治*2堀貞夫*1*1医療法人社団済安堂西葛西・井上眼科病院*2医療法人社団済安堂井上眼科病院Nurses’ExplanationtoDiabeticPatientsIsEffectiveinEducationRegardingSeverityStageofDiabeticRetinopathyMikaYoshizaki1),MasakoYasuda1),AtsukoOosuga1),AkemiIde,KeikoArai1),KiyokaOohne2),KenjiInoue2)andSadaoHori1)1)NishikasaiInouyeEyeHospital,2)InoueEyeHospital目的:糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)を活用し,看護師が糖尿病網膜症(以下,網膜症)病期の説明を行うことにより,患者の網膜症に対する知識を高め,定期受診を促す効果を調べること.対象および方法:平成26年6~10月に当院を受診し同意の得られた糖尿病患者で,医師が記載した眼手帳をもとに看護師が網膜症について説明した946名と,再診時(説明後1~4カ月後)に看護師により再度アンケートを実施した199名に対して聞き取り調査を行い,医師による眼底検査で診断された網膜症病期と比較した.対象者は外来を受診した糖尿病患者を無作為に抽出し,医師が記載した糖尿病眼手帳を基に同意の得られた患者とした.井上眼科病院倫理委員会の承認を得て実施した.結果:眼手帳説明時の調査で,当院の患者は,罹病期間は6年以上が77.3%を占め,5年未満の患者は22.2%で長期間罹病患者が多かった.手帳に関して内科用手帳(連携手帳)に比べ眼手帳を知っていると回答した患者は19%と少なかった.自分の網膜症病期を知っていると回答した患者は20.8%で,医師の所見と一致したのは18%であった.説明後再診時の調査が行えた199名のうち,自分の網膜症病期を覚えていた患者は53.7%,医師の所見と一致した患者は38.2%であった.このうち,眼手帳説明時に自分の病期を知っていたのは31名,再診時に病期を覚えていたのは80.6%,医師の所見と一致したのは71.0%,説明時に自分の病期を知らなかった168名のうち,再診時に覚えていたのは48.8%であった.医師の所見と一致したのは33.3%であった.また,自分の患者が網膜症病期を理解していると推測している医師は少なかった.結論:看護師による眼手帳を用いた網膜症病期の説明は,患者に自分の病期に対する関心をもたせる効果があることが示唆された.しかし,一度の説明では理解がむずかしいこともわかった.今後は再診時の調査を行い,再度の説明が必要になると思われた.Purpose:Toevaluatetheeffectofthediabeticeyenotebook(DEN)indeepeningdiabeticpatients’knowledgeofdiabeticretinopathy(DR)andencouragingthemtoreceiveperiodicophthalmicexaminations.SubjectsandMethods:Aninitialquestionnairesurveybynurseswasconductedon946consecutivediabeticpatientswhovisitedourhospitalbetweenJuneandSeptember2014.SeveritystageofDRandophthalmologicalinformation,includingvisualacuityandintraocularpressure,wereconcurrentlydescribedintheDENbyophthalmologists,andnursesexplainedtheseverityofDRineachpatient.After1-4months,asecondsurveywasperformedon199patientswhohadundergonetheinitialsurvey.Theywereaskedtheirseveritystageandwerecomparedtothosediagnosedbyophthalmologists.Results:DRdurationexceeded6yearsin77.3%ofpatients;20.8%ofpatientsansweredthattheyknewtheirownstage,and18.0%agreedwiththestagediagnosedbyophthalmologistsatthetimeofinitialsurvey.Aftertheexplanationbynurses,53.7%ofpatientsansweredthattheyrememberedtheseveritystageatthetimeofsecondsurvey,andtheansweragreedwiththatdiagnosedbyophthalmologistsin38.2%.TheexplanationbynurseswaseffectiveforthepatientsinunderstandingtheirDRstage,thoughitwasnotsatisfactoryenoughforidealpatienteducation.Conclusion:TheexplanationofDRandseveritystagewaseffectiveinenhancingpatients’interestintheirownDR.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):613〜618,2016〕Keywords:糖尿病網膜症,糖尿病眼手帳,アンケート調査,病期説明,患者教育.diabeticretinopathy,diabeticeyenotebook(DEN),questionnairesurvey,explanation,patienteducation.はじめに糖尿病網膜症(以下,網膜症)の発症・進展予防には,内科・眼科の連携,患者自身の病識と定期的な受診が必要である.地域密着型眼科単科の中核病院である西葛西・井上眼科病院(以下,当院)では,糖尿病の患者が多く,緊急を要する場合,内科でのコントロール状況が把握できない状況で手術を行う場合がある.このような状況のなか,眼底検査をして初めて糖尿病と判明する患者や,術前検査で糖尿病が見つかる患者もおり,治療に当たり予期しない全身合併症を発症する場合がある.そこでコメディカルがチーム医療に貢献する準備として,前回,筆者らは当院を受診する糖尿病患者の実態調査を行った1).その結果,①眼合併症の詳しい知識をもつ患者は少なく,自分の網膜症病期を知っていると回答した患者は15%と少なかった.②糖尿病手帳を持っていて内科受診時に利用していた人は42%,眼科受診時に利用していた人は17%と少なかった.③手帳を利用していて自分の網膜症病期を正確に知っていたのは,知っていると回答した患者の30%(全体の約5%)ということがわかった.この結果を踏まえて,今回,医師が記載した糖尿病眼手帳(以下,眼手帳)をもとに,看護師が患者に網膜症病期の説明を行い,その後の再受診時に説明した内容を覚えているか,アンケート調査をしたので報告する.I対象および方法対象:平成26年6~10月に当院を受診し,医師が記載した眼手帳をもとに看護師が網膜症について説明した946名(男性:542名,女性:404名)で,年齢は65.9歳±11.4歳(平均年齢±標準偏差)であった.このうち199名に対し,再受診時(説明後1~4カ月)に看護師により再度アンケート調査をした.また,当院の医師10名に対し,眼手帳配布状況について調査した.調査項目:医師が記載した眼手帳をもとに看護師が説明を行ったときのアンケート(10項目)(表1)と再診時に行ったアンケート(5項目)(表2)の回答を患者から聞き取り,回答欄に看護師が記入した.また,当院の医師10名に対して6項目のアンケート(表3)を行った.さらに,医師による眼底検査で診断された網膜症病期と患者のアンケート調査の結果を比較したII結果1.眼手帳説明時のアンケート調査(表4)罹病期間は6年以上が77.3%,5年未満は22.2%で,長期間罹病患者が多かった.自分が糖尿病であることを認識していないと思われる患者も含まれていた.糖尿病罹患後眼科受診までの期間は1年以内がもっとも多かったが,10年以上を過ぎて初受診する患者も15%にみられた.眼科を受診して糖尿病を診断された患者が6.9%含まれていた.糖尿病と診断されてから眼科を受診し,今でも継続して受診している患者は90.4%であった.内科の糖尿病治療を中断したことのある患者は12.7%で,大部分は継続して治療を受けていた.眼手帳を知っていたのは19.0%,糖尿病連携手帳(以下,連携手帳:内科用)を知っていたのは46.1%,連携手帳を持っていたのは44.3%,このうち診察時に医師に見せていたのは75.2%(全体の33.3%)であった.また,自分の網膜症病期を知っていたのは20.8%,医師から自分の病期の説明を聞いたことがあるのは23.3%であった.2.説明後再診時の調査(表5)帰宅後眼手帳を見た患者は77.3%,自分の網膜症病期を理解できたのは69.8%,自分の病期を覚えていたのは53.7%,今後定期的に眼科受診をすると答えたのは99.0%であった.説明を受けた後の感想では,自分の病期に対する理解と今後の通院に対する積極性がみられた.3.当院の医師に対する質問(表6)眼手帳・連携手帳を活用しているのは9名(90.0%)で,全員に渡しているのは1名だけであった.網膜症が出たときに渡す場合が多く,眼手帳を必ず記入しているのは7人だった.自分の患者が網膜症病期を理解していると推測している医師は少なかった.自分の患者が網膜症病期を理解していないと思う理由として,①人によるが,糖尿病患者は糖尿病の病態をしっかりと理解できていない方が多い.②定期的に受診に来る患者が少ない.③自ら再来時期を指定してきてしかも○年後という患者もいる.という意見があった.4.網膜症病期:患者の申告と眼科医の診断との比較(表7)眼手帳説明時の調査で,自分の網膜症病期を知っていると回答した患者は946人中197人(20.8%)で,医師の眼底所見と一致したのは173人(18%)であった.説明後再診時の調査が行えた199人では,自分の網膜症病期を覚えていると回答した患者は199人中107人(53.7%)で,医師の所見と一致したのは78人(38.2%)であった.手帳説明時に自分の病期を知っていると回答したのは再調査の行えた199人中31人,そのなかで再診時に病期を覚えていると回答したのは25人(80.6%),さらに医師の所見と一致したのは22人(71.0%)であった.説明時に自分の病期を知らなかった168人のうち,再診時に覚えていたのは82人(48.8%),さらに医師の所見と一致したのは56人(33.3%)であった.III考按眼手帳と連携手帳の併用により,患者にも参加してもらう内科・眼科連携が可能であり,それが網膜症の管理につながる.患者に糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらうための十分な情報提供をめざすならば,連携手帳に眼手帳を併用して経過観察すべきである7).といわれている.1.眼手帳説明時のアンケート調査今回の調査で,糖尿病罹病期間は6年以上が77.3%を占め,5年未満の患者は22.2%で長期間罹病患者が多かったが,内科用の手帳を知っていた患者437名(46.2%)に対して,眼手帳を知っていた患者は179名(18.9%)と少なかった.また,手帳を持っていた患者も半数以下と少なかった.網膜症病期の説明を聞いたことがある患者は,23.3%と少なかった.このことからも患者が眼手帳や連携手帳を利用する率は少なく病期を正しく理解できていなかったのではないかと推測される.2.説明後再診時の調査手帳説明後,99%の患者が,今後定期的に眼科を通院しようと思うと回答したことから,定期的な眼科受診の必要性は理解されたと思われ,放置中断を防止するきっかけになるのではないかと思われる.3.当院の医師に対する質問当院の医師に対する調査で,患者の眼手帳を渡しているかの調査で,8割の医師がA1以上になったときに渡すと回答し,また,自分の患者は網膜症病期を理解していないと思っている医師が7割で,医師に対する調査で理解していないと思う理由として,①人によるが,糖尿病患者は糖尿病の病態をしっかりと理解できていない方が多い.②定期的に受診に来る患者が少ない.③自ら再来時期を指定してきて,しかも○年後という患者もいる.という意見であった.患者に糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらうための十分な情報提供をめざすならば,連携手帳に眼手帳を併用してフォローすべきであるという既報の結論からすると,当院では実施できていなかったことから,正しい知識をもっていた患者が少なかったのではないかと推測される.4.網膜症病期:患者の申告と眼科医の診断との比較眼手帳を活用した網膜症病期の説明後,医師の所見と患者の回答した網膜症病期が一致したのは39.1%,最初自分の網膜症病期を知らないと回答した患者の48.8%が自分の病期を覚えていると回答し,医師の所見と一致した患者は56名,網膜症病期を知らないと回答した患者の33.3%が医師の所見と一致した結果であった.手帳を用いて説明を行ったことにより,自分の病期を知らないと回答した患者の33.3%が医師の所見と一致した病期を覚えていたことから,手帳を用いた説明は患者に関心をもたせるきっかけになったと思われる.今回手帳を配布するに当たり,眼手帳にカバーを付けて配布した.内科用の連携手帳を持っている患者には,眼手帳と内科用の手帳をカバーに挟んで合体させ,これを内科・眼科両方の医師に見せるように指導を行った.このようにして配布したことにより,連携手帳を持っていなかった患者のなかには,眼手帳を内科医に見せたことにより,内科医で連携手帳をもらった患者もいた.眼手帳に内科医がHbA1C値を記入してくれていた患者もみられた.このことからも眼手帳が内科・眼科の連携につながるきっかけになっていると思われた.以上の結果より,眼手帳と連携手帳の併用により,患者にも参加してもらう内科・眼科連携が可能であり,それが網膜症の管理につながると考えられる.患者に糖尿病眼合併症の状態や治療内容を正しく理解してもらうための十分な情報提供をめざすならば,連携手帳に眼手帳を併用してフォローすべきであるという既報の結論と一致する7).網膜症を診察していくうえで,内科医とは常に連絡が必要であり,連携手帳・眼手帳を持つ患者については眼科の診察結果を記録する.なかでもとくに密接な連携を必要とするのは,2型糖尿病の初診時,入院して血糖のコントロールをつけるとき,腎症悪化時,眼科手術時である.2型糖尿病の初診時は眼底検査が必要である.罹病期間が特定できないことも多く,内科初診時すでに増殖網膜症となっている場合も珍しくない.当院の調査でも,視機能低下の自覚があり眼科を受診して糖尿病と診断された患者が6.9%いた1).また,すでに重症単純網膜症や増殖前網膜症をきたしている場合は,血糖の急速な正常化により,網膜症の重篤な進行をきたすことがあるといわれている8).眼科医が眼手帳に記入し,内科医に見せてもらうことで,内科医での血糖コントロール時の指標になると思われ,正確に眼所見が内科医に伝わり連携をとれると考える.IV結論看護師による糖尿病眼手帳を用いた網膜症病期の説明は,患者教育に効果があることが示唆された.また,定期的な眼科受診の必要性も理解できた.しかし,一度の説明ではなかなか理解されないこともわかった.今回の調査は,まだ途中経過なので,今後病期説明後再診時の調査を長期にわたり繰り返し行い,再度の説明により患者教育の達成をめざしたい.本稿の要旨は第20回日本糖尿病眼学会にて発表した.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)吉崎美香,安田万佐子,大須賀敦子ほか:眼科単科病院を受診する糖尿病患者実態調査.あたらしい眼科32:269-273,20152)若江美千子,福島夕子,大塚博美ほか:眼科外来に通院する糖尿病患者の認識調査.眼紀51:302-307,20003)菅原岳史,金子能人:岩手糖尿病合併症研究会のトライアル2.眼紀55:197-201,20044)小林厚子,岡部順子,鈴木久美子:内科糖尿病外来患者の眼科受診実態調査.日本糖尿病眼学会誌8:83-85,20035)船津英陽,宮川高一,福田敏雄ほか:糖尿病眼手帳.眼紀56:242-246,20056)中泉知子,善本三和子,加藤聡:患者の意識改革を目指す糖尿病教育の方向性について─患者アンケート調査から─.あたらしい眼科28:113-117,20117)大野敦:糖尿病眼手帳を活用した糖尿病網膜症の管理.日本糖尿病眼学会誌19:32-36,20148)有馬美香,松原央:糖尿病網膜症の管理における病診連携.眼紀51:283-286,2000〔別刷請求先〕吉崎美香:〒134-0088東京都江戸川区西葛西3丁目12-14西葛西・井上眼科病院Reprintrequests:MikaYoshizaki,NishikasaiInouyeEyeHospital,3-12-14Nishikasai,Edogawa-ku,Tokyo134-0088,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(131)613表1糖尿病眼手帳説明時アンケート調査調査日年月日NO.()ID氏名年齢()男・女担当医()1.糖尿病罹病期間2.糖尿病罹患後眼科受診したか3.罹病後眼科受診までの期間4.内科治療を1年以上放置したことがあるか5.糖尿病眼手帳を知っていたか6.糖尿病手帳(内科用)を知っていたか7.糖尿病手帳は持っていたか8.「7」で手帳を持っていると回答した方は,診察時に見せていたか9.自分の網膜症病期を知っていたか10.医師から自分の網膜症の病期の説明を聞いたか表2糖尿病眼手帳を説明し,次回受診後のアンケート調査調査日年月日手帳説明時からアンケート調査までの期間(週・カ月)医師の次回診察の指示は(週・カ月)指示通りに来院しているか1.帰宅後眼手帳を見たか2.自分の網膜症病期が理解できたか3.自分の網膜症病期を覚えていたか4.説明を受けて(手帳をもらって)どのように感じたか(複数回答)5.今後定期的に眼科を受診するか表3医師に対するアンケート調査1.糖尿病手帳・糖尿病眼手帳を活用しているか2.眼手帳を渡しているか3.2.で渡すと回答された方は,どのような患者に渡すか4.どのような時に渡していますか?5.眼手帳を記入するか6.自分の患者が網膜症病期を理解しているか614あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(132)表4眼手帳説明時の調査罹病期間人(%)21年以上26127.611~20年26227.76~10年208222~5年15616.51年以内545.7わからない40.4糖尿病ではない10.1はい(人)(%)いいえ(人)(%)2糖尿病罹患後に眼科受診・治療したか現在も通院中85590.4過去に自己中断歴があるか21525.164074.94内科放置したことがあるか1258215糖尿病眼手帳を知っていたか17919767816糖尿病手帳(内科)を知っていたか43746.150953.87糖尿病手帳を持っていたか41944.352755.78診察時に見せていたか31575.210424.89自分の網膜症病期を知っていたか19720.874979.110医師から自分の病期の説明をきいたか22023.372676.7罹病後眼科受診までの期間人(%)1年以内34538.22~5年17919.86~10年位12013.311~20年位13515覚えていない60.6眼科受診してわかった626.9糖尿病かどうかまだわからない161.8糖尿病ではない242.7(133)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016615表5説明後再診時の調査はい(人)(%)いいえ(人)(%)1帰宅後眼手帳を見たか15477.34522.62自分の網膜症病期が理解できたか13769.86231.13自分の網膜症病期を覚えているか10753.79246.24今後定期的に眼科受診するか1979920.1手帳の説明を受けてどのように感じたか(複数回答)人眼の状況が把握でき良かった111詳しいことがわかり不安になった28血糖のコントロールを頑張ろう86内科・眼科をきちんと通院しよう113表6当院の医師に対する質問はい(人)(%)いいえ(人)(%)1糖尿病眼手帳・連携手帳を活用しているか10100002糖尿病眼手帳を渡しているか9901103眼手帳を記入するか101004自分の患者が網膜症病期を理解しているか330770どのような時に眼手帳を渡すか人%初診時110網膜症発症時660患者にいわれた時330どのような時に手帳記入するか(複数回答あり)人%毎回記入763.6患者から提示された時327.2内科医に伝えたいとき10.9表7網膜症病期:患者の申告と眼科医の診断比較再診時に病期を覚えていた人医師の診断と一致した人人(%)人(%)説明時に自分の病期を知っている31人2580.62271説明時に自分の病期を知らない168人8248.85633.3計199人10753.87839.2616あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(134)(135)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016617618あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(136)

眼虚血症状より内頸動脈狭窄症が発見され,Carotid Artery Stentingを施行した3例

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):606〜612,2016©眼虚血症状より内頸動脈狭窄症が発見され,CarotidArteryStentingを施行した3例佐藤茂*1西田武生*2内堀裕昭*1横田千里*2中島義和*2林仁*1*1市立堺病院眼科*2市立堺病院脳神経外科ThreeCasesofInternalCarotidArteryStenosisDiagnosedfromOcularIschemicSymptomsandTreatedwithCarotidArteryStentingShigeruSato1),TakeoNishida2),HiroakiUchihori1),ChisatoYokota2),YoshikazuNakajima2)andHitoshiHayashi1)1)DepartmentofOphthalmology,SakaiMunicipalHospital,2)DepartmentofNeurosurgery,SakaiMunicipalHospital背景:眼虚血症状から中等度〜高度内頸動脈狭窄症(internalcarotidarterystenosis:ICAS)が発見され,頸動脈ステント留置術(carotidarterystenting:CAS)を施行した3例を報告する.症例報告:症例1は網膜中心動脈閉塞症の精査で可動性プラークを伴う中等度ICASを認めた.CAS後,経過観察期間内には脳虚血発作は発症しなかったが,視機能改善は得られなかった.症例2は急激な視力低下に対する精査で高度ICASを認めたためCASを施行した.術後,眼圧コントロール不良となり線維柱帯切除術を施行した.その結果,視力・視野ともに維持できた.症例3は一過性黒内障の精査で両側高度ICASを認めた.両側にCASを施行したが,術後眼圧コントロール不良となり,両眼に線維柱帯切除術を施行した.その結果,視力・視野ともに維持できた.結論:眼虚血症状を示す症例には,ICASスクリーニングを行うことが重要である.高度ICASでは,短期間に血管新生緑内障を発症することがあるので注意を要する.また,ICASの治療に際しては脳外科と眼科の連携が非常に重要である.Background:Wereportthreecasesdiagnosedwithmoderate/severeICASbasedoneyeischemicsymptomsandtreatedwithCAS.Casereports:Case1:ModerateICASwithmobileplaquewasrevealedbydetailedexaminationofretinalcentralarteryocclusion.AlthoughsubsequentCASsuccessfullypreventedmajorischemicstroke,visualfunctionwasnotimproved.Case2:AfterconfirmationofleftsevereICAS,whichhadcausedseverevisualimpairment,CASwasperformed.IntraocularpressurecontrolbecamepoorafterCAS.Thepatientthenreceivedtrabeculectomy,andvisualfunctionwasmaintained.Case3:BilateralsevereICASwasdetectedbydetailedexaminationofamaurosisfugax.AfterbilateralCAS,bilateralintraocularpressurecontrolbecamepoor.Trabeculectomywasperformedbilaterally.Visualfunctionwasthenmaintained.Conclusion:Carotidarteryscreeningshouldbeconsideredforpatientswithocularischemicsymptoms.PatientswithsevereICASmaydeveloprubeoticglaucomarapidly.ClosecooperationbetweenophthalmologistsandneurosurgeonsisimportantforthemanagementofpatientswithICAS.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):606〜612,2016〕Keywords:内頸動脈狭窄症,眼虚血症候群,血管新生緑内障,網膜中心動脈閉塞症,頸動脈ステント留置術.internalcarotidarterystenosis(ICAS),ocularischemicsyndrome,neovascularglaucoma,retinalcentralarteryocclusion,carotidarterystenting(CAS).はじめに内頸動脈狭窄症(internalcarotidarterystenosis:ICAS)は症状の有無から症候性と無症候性に分類され,血管造影による狭窄の程度からは一般に軽度(30〜49%),中等度(50〜69%),高度(70%以上)とされる(脳神経外科疾患情報ページ,NeuroinfoJapan,http://square.umin.ac.jp/neuroinf/index.html).ICASに伴う眼症状も大きく2つのタイプに分けられる.一つは内頸動脈内壁に形成されたプラークの剝脱に起因する塞栓により急激な視力低下もしくは視野障害を引き起こすタイプ(たとえば,一過性黒内障,網膜動脈閉塞症,虚血性視神経症など),もう一つは慢性の循環不全によるいわゆる眼虚血症候群である1).眼虚血症候群の多彩な眼合併症のなかでもとくに血管新生緑内障が重要で,いったん発症すると治療に抵抗性で,視力予後は非常に悪い1).従来,高度ICASに対しては頸動脈内膜剝離術が標準的治療として行われてきた2).しかし,手術侵襲が大きく,外科的手術リスクあるいは麻酔リスクが高い症例には行えず,適応が限られるという問題点があった.近年,血管内治療の進歩により,より低侵襲の頸動脈ステント留置術(carotidarterystenting:CAS)が導入され,頸動脈内膜剝離術に比して遜色のない手術成績が報告されている3,4).今回,網膜中心動脈閉塞症(retinalcentralarteryocclusion:CRAO)もしくは虹彩新生血管から中等度〜高度ICASが発見され,CASを施行した3例を経験したので報告する.I症例〔症例1〕78歳,男性.主訴:左眼の急激な視力低下.既往歴:2004年12月両眼水晶体再建術,糖尿病,高脂血症,喫煙30本/日×60年,飲酒過多,慢性硬膜外血腫術後,胃潰瘍術後.現病歴:2014年8月,突然左眼の急激な視力低下を自覚した.近医にて左眼のCRAOを指摘され,塞栓源の検索目的にて市立堺病院(以下,当院)眼科へ紹介となり,発症より1週間後に初診となった.初診時所見:矯正視力右眼(1.0),左眼(0.01).眼圧右眼15mmHg,左眼10mmHg.左眼relativeafferentpupillarydefect陽性.前眼部,中間透光体に特記すべき所見は認められなかった.左眼眼底に網膜動脈の高度狭細化と分節状血柱が認められた.また,後極部網膜は浮腫状で,黄斑部はいわゆるcherryredspotを呈し(図1a),フルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA)では静脈注射後1分経過しても周辺の動脈が完全に造影されず,とくに下方の動脈は後期でも造影されなかった(図1b).右眼の眼底および蛍光眼底所見に特記すべき所見は認められなかった.経過:発症後1週間経過しており,動脈閉塞も非常に高度のため,血栓溶解薬の投与は視機能の改善効果よりも副作用のリスクが上回ると判断して見送ることとした.塞栓源の検索のため,心エコーおよび頸部エコーを施行した.心エコーでは有意な所見は認めなかったが,頸部エコーでは,左内頸動脈狭窄率54%(ECST法),peaksystolicvelocity=0.52m/sであり,左頸動脈分岐部で,拍動に一致して動く石灰化を伴う7×4mmの可動性プラークを認めた(図1c).さらに右内頸動脈の狭窄(狭窄率64%,ECST法)も認めた.即座に当院脳神経外科へ紹介したところ,頭部MRIで比較的新しい脳梗塞を認めたため,網膜中心動脈以外にも塞栓が飛んでいるとの判断にて,当院脳神経外科へ緊急入院となった.眼科初診より5日後,左頸動脈に対して,可動性プラークを飛散させないように,バルーン付ガイディングカテーテルを用い総頸動脈血流を遮断かつ血液を逆流させた状態でCASを行った.術後のMRIでは微小脳梗塞を数カ所認めるのみで,神経学的な症状は認められなかった.CAS後の頸部エコーでは可動性プラークがステントで押さえられ,ステント内の血流は良好であることが確認された.しかし,網膜動脈の血行改善は限定的であり(図1d),CAS術後3カ月の左眼視力は指数弁であった.今後右眼のICASに対しても狭窄の進行や症状が出現すればCASを行う予定であり,脳神経外科と眼科で注意深く経過観察する予定にしている.〔症例2〕71歳,男性.主訴:左眼視力低下.既往歴:脳梗塞(2009年),糖尿病,糖尿病網膜症,狭心症(ステント留置後,低用量アスピリン,クロピドグレル内服中),大腸ポリープ,貧血,喫煙(20本/日×54年),飲酒(ビール700〜1,050ml/日)現病歴:2013年末ごろより左眼の霧視を自覚.起床後1時間位はとくに強く感じていた.2014年3月急激な左眼の視力低下を自覚したため近医を受診した.再診時矯正視力右眼(0.9)左眼(0.3),FAにて左腕網膜時間の著明な遅延を認めるとのことで2014年4月当院眼科紹介となった.初診時所見:矯正視力右眼(1.2),左眼(0.5),眼圧右眼16mmHg,左眼20mmHg.前眼部は瞳孔径右眼約2mm,左眼約4mmで左右差を認めた.中間透光体として両眼に核白内障が認められた.右眼底に小さな軟性白斑を1カ所のみ認められたが,左眼に網膜動脈の高度狭細化,しみ状出血,軟性白斑を認められ,左右差が明らかであった(図2a).Goldmann視野計にて左眼の傍中心暗点と鼻側の感度低下を認めた.経過:頸部エコーでは,左ICAは分岐直後より血流信号が乏しく,描出不良で高度狭窄もしくは閉塞が疑われた.右ICAは狭窄があるものの石灰化で狭窄率は評価できないとのことであった.頭部MRIでは左前頭部深部白質に複数の陳旧性ラクナ梗塞を認め,慢性虚血性変化を指摘された.頭部MRAでは左ICAは描出されず,左中大脳動脈は非常に淡く描出されていた.前交通動脈は代償性によく描出されていた.右ICAは石灰化を伴う若干の狭窄を認めるのみであった.5月初旬のFAでは,左眼の腕網膜時間は19秒と延長を認め,網膜内灌流時間の著明な延長を認めた.また,左眼では全周にわたり網膜血管からシダ状の蛍光漏出を認めた.さらに,視神経乳頭も過蛍光を示したが,無灌流領域や網膜新生血管は認めなかった(図2b).右眼に特記すべき所見を認めなかった.以上より,左眼の網膜光凝固開始は,内頸動脈の血行再建が可能か否かの脳外科的判断を待って決めることとした.5月下旬に施行された脳血管撮影では,左内頸動脈は分岐部より99%狭窄しており,眼動脈へは外頸動脈から逆行性かつ遅延して血流が認められた.右内頸動脈は45%の狭窄を認めた.血管造影検査直後から左眼眼痛を自覚し,見えなくなったとのことで同日に眼科を再診された.左眼矯正視力(0.01),左眼眼圧30mmHg.前眼部に著明な結膜充血,瞳孔領に著明な虹彩新生血管と軽度虹彩後癒着が認められた(図2c).隅角検査では下方にanglehyphemaを認め,全周Scheie分類IV度であった.眼底は著変なく,cherryredspotは認められなかった.そのため,チモロール,ブリンゾラミド,ラタノプロスト点眼および汎網膜光凝固を開始した.虹彩後癒着防止目的にてミドリンP®点眼,アトロピン点眼も開始した.翌日には虹彩新生血管は変化ないものの,前房出血は軽度増加した.しかし,左眼矯正視力(0.3),左眼眼圧16mmHgまで改善した.その後,点眼にて眼圧コントロールは可能であった.7日後に2回目の汎網膜光凝固を行い計1,191発施行した.血管造影から8日後脳神経外科にて左CASを施行し,術翌日の頸動脈エコーにて血行再建が確認された.CAS施行6日後に眼科再診したところ,見え方は楽になったとのことであり,左眼矯正視力(0.3)であったが,眼圧が35mmHgまで上昇していた.ブリモニジン点眼を追加するも眼圧下降は得られなかったため,CAS施行21日後左眼に対してマイトマイシンC併用線維柱帯切除術および水晶体再建術を施行した.手術は耳上側円蓋部基底結膜切開とし,強膜弁は3mm×3mm+2.5mm×2.5mmの二重強膜弁で行い,水晶体再建は2.4mm耳側角膜切開で行った.術中,虹彩切除に伴う軽度前房出血を認めた.出血による急速な流出路の閉塞・癒着形成を考慮し,術翌日より積極的にレーザー切糸および眼球マッサージを行った.しかし,最終的にすべての縫合糸を切断しても高眼圧が持続し,濾過胞の形成不良を認めたため,術後1週間にて濾過胞再建術を行った.強膜弁を挙上すると,凝血塊が完全に流出路を塞いでいることが確認できたため,凝血塊を除去し,再度MMCの塗布を行った.再建術後は前房出血もみられず,眼圧も安定した.また,眼圧下降に伴い虹彩新生血管は急速に退縮した.(図2d)CAS施行7カ月後の最終受診時は左眼視力(0.9),眼圧15mmHgであり,抗緑内障薬から離脱できている.網膜のしみ状出血も軽減した(図2e).視野は比較的保たれており,傍中心暗点が消失していた.術後3カ月のFAでは網膜内循環時間が著明に改善し,網膜血管からのシダ状漏出は消失していた(図2f).〔症例3〕65歳,男性.主訴:左眼一過性黒内障.既往歴:2014年4月両眼水晶体再建術,糖尿病,高血圧,慢性心不全,大動脈分岐部慢性閉塞症(Leriche症候群)現病歴:2014年7月左眼の一過性黒内障が日に数回起こるとの訴えがあり,当院循環器内科より同月眼科紹介となった.初診時所見:矯正視力は右眼(1.2),左眼(0.4).眼圧は右眼12mmHg,左眼15mmHgであった.前眼部は瞳孔領を含む虹彩面上には新生血管を認めなかった.中間透光体は特記すべき所見を認めなかった.眼底は右眼に数カ所の点状出血および小さな軟性白斑,左眼には多発する軟性白斑を認めた(図3a,b).ICASを疑うも,すでに循環器内科より頭部MRIおよびMRA検査予約がされていたため,検査後の再診とした.初診より12日後に再診したところ,頭部MRIでは左後頭葉内側を含む多発脳梗塞が指摘され,頭部MRAでは左後大脳動脈末梢がやや描出不良とのことのみであった.しかし,細隙灯顕微鏡検査にて両眼に著明な虹彩新生血管を認めた(図3c,d).眼虚血症候群を強く疑い,両眼の汎網膜光凝固を開始するとともに緊急頸部エコーを施行した.その結果,左右内頸動脈に有意狭窄を認め,右狭窄率51%(ECST法),peaksystolicvelocity=2.3m/s,左狭窄率63.2%(ECST法),peaksystolicvelocity=2.7m/sで加速血流を認めた.速やかに脳神経外科へ紹介し,脳血管撮影による精査を行ったところ,狭窄率はNASCET法にて右83%,左75%と高度狭窄を認めた(図3e).その後,光凝固を追加し,合計右眼864発,左眼865発施行した.初診より19日後の眼圧はドルゾラミド/チモロール点眼1日2回点眼下で,右眼23mmHg,左眼22mmHgであったので,トラボプロスト点眼両1回/日を追加処方した.循環器内科からは高度の弁膜症があり全身麻酔は許可できない状態とのことであった.また,大動脈分岐部慢性閉塞症(Leriche症候群)を合併していたため,通常の大腿動脈からのアプローチは不可能と判断され,両側とも局所麻酔下で右上腕動脈からのアプローチにてCAS(左7月下旬,右8月上旬)が施行された(図3f).左CAS施行2日後に右眼43mmHg,左眼39mmHgと上昇を認めたため,CAS術後右眼232発,左眼54発光凝固を追加し,塩酸ブリモニジン点眼両眼1日2回,アセタゾラミド内服500mgを追加処方した.その結果,右眼眼圧は20台前半,左眼眼圧は20台後半で推移した.両眼の虹彩新生血管は著変を認めなかった.アセタゾラミドを中止すると両眼ともに眼圧が20台後半まで上昇するため,左CAS術後28日目に左眼に対し,右CAS術後28日目に右眼に対して耳上側円蓋部基底結膜切開によるマイトマイシンC併用線維柱帯切除術施行した.強膜弁は3mm×3mm+2.5mm×2.5mmの二重強膜弁で行った.両眼とも虹彩切除による前房出血は非常に軽度であり,速やかに眼圧の下降が得られた.眼圧の下降に伴い両眼とも急速に虹彩新生血管は退縮した.2015年1月の再診時,矯正視力は右眼(1.2)左眼(1.0).眼圧は右眼12mmHg,左眼9mmHgであり,抗緑内障薬から離脱でき,左後頭葉の脳梗塞に伴うと考えられる右下1/4半盲を認めるものの,視野は比較的保たれている.II考按ICASの原因は粥状動脈硬化であり,プラークの剝脱による広範な脳塞栓を起こせば,生命にかかわる疾患である.また,ICASは高度狭窄をきたすまで自覚症状が出にくく5),早期に発見するためには,スクリーニング検査が重要となる.スクリーニングとしては非侵襲検査である頸動脈エコーもしくはMRAが適している.とくに頸部エコーは検者の技量に左右されるという欠点はあるものの,簡便で患者の経済的負担も軽い.MRAに関しては,一般に頭部MRAでは頸部頸動脈は撮影範囲外になるということに注意が必要である.事実,症例3では頭部MRAでは撮影範囲外であったために頸部の高度ICASを発見できなかった.事前に自分が所属する施設のMRA撮影条件や範囲を確認しておくことが重要で,ICASを疑う症例では,頸部頸動脈も適切に検査されているか注意が必要である.症例3では急速に虹彩新生血管が発生した.初診時には虹彩面上には認めなかったにもかかわらず,12日後には両眼に累々と形成された.初診時に隅角検査を行っていないので,隅角にはすでに新生血管の形成があった可能性はある.眼虚血症候群を疑った場合,可能であれば,速やかにFAにて灌流状態を評価すべきである.腕網膜時間の著明な延長やシダ状蛍光漏出など,高度な眼虚血を疑う症例については,頸動脈のスクリーニング検査も併せて行い,治療方針を決定することになるが,治療が一段落するまでは再診の間隔を短くし,虹彩面上および隅角の新生血管の発生を見逃さないよう注意することが特に重要と思われた.症例2,3ともに著明な虹彩新生血管を形成したにもかかわらず,眼圧上昇は比較的軽度で点眼および内服でコントロール可能であった.しかし,CAS直後から眼圧上昇を認めた.これは,既報にもあるように眼虚血により房水産生も低下していたためであり,CASにより血行が再建されると房水産生が回復し急速に眼圧が上昇したと考えられる5,6).虹彩新生血管を伴う症例ではCAS後の急激な眼圧上昇にとくに注意すべきと再認識した.症例3ではCAS術前の眼圧はドルゾラミド/チモロール点眼1日2回点眼下で,右眼23mmHg,左眼22mmHgであったが,CAS後の眼圧上昇を見越してトラボプロスト点眼両眼1回/日追加処方した.しかし,CAS後眼圧はさらに上昇し,そのコントロールには光凝固の追加と最大許容量の投薬が必要であった.CASの術前から最大許容量の眼圧降下薬を処方すべきかどうかついては,今後の検討課題である.症例2,3は,血管新生緑内障を発症したにもかかわらず,CASと線維柱帯切除術の併施にて良好な視機能を維持することができた.しかし,一般に血管新生緑内障は手術成績が悪く,予後が不良であるとされている1,7,8).血管新生緑内障に対しては線維柱帯切除術が標準術式であるが,新生血管からの出血が必発で,流出路を凝血塊が閉塞してしまう.症例2では,強膜弁下に凝血塊が詰まり,濾過胞再建術を1回要したが,症例3では両側とも凝血塊の問題は生じなかった.CASで血行再建を行い,虚血状態を改善してから手術を行ったため,虹彩新生血管の病勢が弱まって,前房出血が少なかった可能性がある.また,最終的な新生血管の退縮は3眼ともに線維柱帯切除術後の眼圧下降に連動していた.以上から,CAS後の眼圧コントロール不良症例には,積極的に線維柱帯切除術を行うべきと考える.近年,抗VEGF抗体などのVEGF抑制作用を有する生物製剤の線維柱帯切除術前投与が手術成績向上に有用であると報告されている8,9).しかし,抗VEGF抗体は脳梗塞症例には注意が必要とされており,高度ICAS症例は脳梗塞を含む全身合併症があることが多く,特段の注意を要する.実際,2例のICASに伴う血管新生緑内障に対して抗VEGF抗体(Avastin®)を硝子体注射したところ,2例ともにCRAOを発症したとの報告もある10).現在のところ,血管新生緑内障に対して保険適応のあるVEGF抑制作用を有する生物製剤は存在しない.以上より,筆者らは今回の症例に対してはVEGF抑制作用を有する生物製剤は使用しなかった.使用せざるを得ない場合には,厳格なインフォームド・コンセントと倫理委員会の承認が必要と考える.近年,線維柱帯切除術以外の術式として,チューブシャント手術が脚光を浴びているが,今後ICASによる血管新生緑内障に対する第一選択の術式となるかは不明である.今回,眼虚血症候群を呈した症例2,3の3眼で汎網膜光凝固を施行した.汎網膜光凝固をどのような症例に行うかの判断はむずかしいが,新生血管を認めない症例や認めても解放隅角期で眼圧上昇がない症例にはCAS術前に積極的に行う必要はないように思われる.しかし,閉塞隅角期に入り眼圧上昇をきたした症例は眼内VEGF濃度を減らすことが重要で,前述のように,眼虚血症候群に対して適応のある抗VEGF製剤が存在しない現状では速やかに汎網膜光凝固を行うべきであると考える.内頸動脈に高度狭窄をきたすような症例の多くは,高齢かつ何らかの全身合併症をもっていることを考えると,CASにより低侵襲で根治療法が行えることは非常に有用である.CASはわが国では2008年4月に保険適応となったが,それ以降もCAS用デバイスの進歩は著しく,さまざまな有用なデバイスやアプローチ法が開発されている.たとえば,本報告の症例1のように可動性プラークがある症例には,比較的目の細かいclosed-cellstentであるCarotidWallStent®が使用され,プラークがステント腔内に突出しないように配慮されている.また,症例3のように胸部や腹部大動脈に何らかの病変があるため従来は大腿動脈アプローチでのCASでは治療が困難と考えられていた症例でも,上腕動脈から治療できるようになってきている.また,CASによる塞栓性合併症の原因は手技中に血管腔内に出てくるデブリであるが,このデブリを回収するデバイスも,狭窄遠位をブロックするバルーンやフィルター,狭窄近位をブロックするバルーンガイディングカテーテルなど複数の選択があり,患者の病態に応じて最適な方法が取られている.症例1では視力改善は困難であったものの,可動性プラークに対してCASを行うことで,生命を脅かす脳梗塞のリスクを回避することができた.中等度〜高度ICASを認めた際には,高齢者や全身合併症のあるハイリスク症例であっても,積極的に脳神経外科へ紹介し,根治術の可能性を探るべきであると考える.最後に,高度〜中等度ICASの加療にあたっては,脳神経外科と眼科の密な連携が非常に重要であることを強調したい.文献1)栂野哲也,福地健郎,太田亜紀子ほか:内頸動脈閉塞症に伴う血管新生緑内障の1例.眼紀55:889-894,20042)GoldsteinLB,AdamsR,AlbertsMJetal:Primarypreventionofischemicstroke:aguidelinefromtheAmericanHeartAssociation/AmericanStrokeAssociationStrokeCouncil:cosponsoredbytheAtheroscleroticPeripheralVascularDiseaseInterdisciplinaryWorkingGroup;CardiovascularNursingCouncil;ClinicalCardiologyCouncil;Nutrition,PhysicalActivity,andMetabolismCouncil;andtheQualityofCareandOutcomesResearchInterdisciplinaryWorkingGroup:theAmericanAcademyofNeurologyaffirmsthevalueofthisguideline.Stroke37:1583-1633,20063)ManteseVA,TimaranCH,ChiuDetal:TheCarotidRevascularizationEndarterectomyversusStentingTrial(CREST):stentingversuscarotidendarterectomyforcarotiddisease.Stroke41:S31-S34,20104)CremonesiA,CastriotaF,SeccoGGetal:Carotidarterystenting:anupdate.EurHeartJ21:1-9,20145)高木麻起子,河原彩,杉山哲也ほか:内頸動脈内膜剝離術後に増悪した血管新生緑内障の1例.臨眼59:349-352,20056)福永健作,井上正則:内頸動脈内膜血栓剝離術後に眼圧上昇をみた眼虚血症候群の1例.1眼紀52:960-964,20017)HavensSJ,GulatiV:Neovascularglaucoma.DevOphthalmol55:196-204,20168)HorsleyMB,KahookMY:Anti-VEGFtherapyforglaucoma.CurrOpinOphthalmol21:112-117,20109)SaitoY,HigashideT,TakedaHetal:Beneficialeffectsofpreoperativeintravitrealbevacizumabontrabeculectomyoutcomesinneovascularglaucoma.ActaOphthalmol88:96-102,201010)HigashideT,MurotaniE,SaitoYetal:Adverseeventsassociatedwithintraocularinjectionsofbevacizumabineyeswithneovascularglaucoma.GraefesArchClinExpOphthalmol250:603-610,2012〔別刷請求先〕佐藤茂:〒593-8304大阪府堺市西区家原寺町1-1-1市立堺病院眼科Reprintrequests:ShigeruSatoM.D.,Ph.D.DepartmentofOphthalmology,SakaiMunicipalHospital,1-1-1Ebaraji-cho,Nishi-ku,SakaiCity,Osaka593-8304,JAPAN606(124)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY図1症例1a:初診時の左眼眼底写真.網膜動脈の高度狭細化と分節状血柱を認める.後極部網膜は浮腫状で,黄斑部はcherryredspotを呈す.b:左眼FA(静注後1分).動脈が完全に造影されていない.c:頸動脈エコーにて,左頸動脈球部に可動性プラークを認める.d:CAS後約1カ月の左眼FA(静注後1分).網膜循環は若干の改善に留まる.(125)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016607図2症例2a:初診時左眼眼底写真.網膜動脈の狭細化,軟性白斑および斑状出血を認める.b:左眼CAS術前FA(静注後1分).静脈はまだ充盈されておらず,網膜内循環時間の著明な延長を認める.c:初診から1カ月後の左眼前眼部写真.虹彩新生血管を認める.d:線維柱帯切除術後,急速に虹彩新生血管は退縮した.e:CAS術後7カ月の眼底写真.軟性白斑の消失と斑状出血の軽減を認める.f:CAS術後3カ月のFA(静注後1分).静脈もすでに充盈されており,明らかな網膜内循環時間の改善を認める.608あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(126)(127)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016609図3症例3a:右眼初診時眼底写真,b:左眼初診時眼底写真.右眼は数カ所の点状出血と小さな軟性白斑を認める.左眼は軟性白斑が多発している.c:右眼前眼部写真,d:左眼前眼部写真.初診より12日後.両眼とも著明な虹彩新生血管を認める.e:右血管造影CAS術前.➡:著明な狭窄を認める.f:CAS術直後.➡:狭窄部位がステントで拡張されていることがわかる.610あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(128)(129)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016611612あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(130)

心房中隔欠損による奇異性塞栓により発症した若年の片眼性網膜中心動脈閉塞症の1例

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):601〜605,2016©心房中隔欠損による奇異性塞栓により発症した若年の片眼性網膜中心動脈閉塞症の1例中村将一朗*1小林謙信*1高山圭*2*1愛知県厚生農業協同組合連合会海南病院眼科*2名古屋大学眼科学・感覚器障害制御学教室CaseofCentralRetinalArteryOcclusioninYoungMale,CausedbyAtrialSeptalDefect-AssociatedParadoxicalEmbolismShoichiroNakamura1),KenshinKobayashi1)andKeiTakayama2)1)DepartmentofOphthalmology,AichiPrefecturalFederationofAgriculturalCooperativesforHealthandWelfareKainanHospital,2)DepartmentofOphthalmology,NagoyaUniversityGraduateSchoolofMedicine目的:心房中隔欠損による奇異性塞栓により発症したと考えられた若年の網膜中心動脈閉塞症の症例を経験したので報告する.症例:17歳,男性.起床時より左眼の視力低下・視野障害が出現し,同日正午過ぎに受診した.全身的既往・眼科的既往はなく,就寝時には自覚症状はなかった.初診時視力は右眼矯正1.0,左眼0.1(矯正不可),眼圧は右眼10mmHg,左眼13mmHg,左眼眼底に網膜の蒼白化と桜実紅斑があった.蛍光眼底造影検査で左眼網膜動脈の循環不全を認めたため左眼網膜中心動脈閉塞症と診断し,眼球マッサージ・ウロキナーゼ製剤とプロスタグランジンE1製剤の点滴・内服加療などを実施し,視力・視野の改善を得られた.採血検査で特記すべき異常はなくMRI検査で頸動脈に異常はなかったが,超音波検査で心房中隔欠損が指摘された.結論:若年者の網膜中心動脈閉塞症の原因として心房中隔欠損による奇異性塞栓を考慮にいれる必要がある.Subject:Toreportacaseofcentralretinalarteryocclusion(CRAO)inayoungmale,causedbyatrialseptaldefect-associatedparadoxicalembolism.Casereport:A17-year-oldmalevisitedourdepartmentbecauseofvisualdefectinhislefteyesincethatmorning.Inhislefteye,visualacuitywas2/20andintraocularpressurewas13mmHg.Cherry-redspotandpaleretinawerefoundintheleftfundus.Fluorescenceangiographyshoweddelayofretinalarteryinfusioninhislefteye;wethereforediagnosedCRAO.Ultrasoundexaminationfoundatrialseptaldefect-associatedparadoxicalembolism,whichwasconsideredtobethecauseoftheCRAO.Conclusion:ItispossiblethatyoungpatientswithCRAOhaveatrialseptaldefect-associatedparadoxicalembolism.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):601〜605,2016〕Keywords:網膜中心動脈閉塞症,若年,心房中隔欠損症,奇異性塞栓.centralretinalarteryocclusion,young,atrialseptaldefect,paradoxicalembolism.はじめに網膜中心動脈閉塞(centralretinalarteryocclusion:CRAO)は,一般的に高血圧や糖尿病・心疾患・頸動脈病変などの基礎疾患を有する中高齢者に多く,若年者に発症することは少ない1).若年者に発症したCRAOは原因疾患として膠原病や血管炎が報告されているが2,3),奇異性塞栓によるものという報告はない.今回,心房中隔欠損(atrialseptaldefect:ASD)による奇異性塞栓が原因となって発症したと考えられる若年者のCRAOの1例を経験したので報告する.I症例17歳,男性.起床時より左眼の視力低下・視野障害が出現し,改善がないため,同日正午過ぎに厚生連海南病院救急外来を受診した.眼科既往歴・全身既往歴に特記すべきものはなかった.左側頭部痛が起床時より出現したが,受診時には改善傾向であった.視力は右眼矯正1.0,左眼0.1(矯正不可),眼圧は右眼10mmHg,左眼13mmHg.瞳孔径は明所にて右眼3.5mm/左眼6.5mmと左眼に散瞳を認め,相対的求心路瞳孔反応障害陽性であった.両眼とも前眼部・中間透光体には異常はなく,右眼眼底に異常はなかったが,左眼は中心窩に桜実紅斑と黄斑部上方以外の網膜の乳白色混濁がみられた(図1).頭部・眼窩部CT検査および採血検査(表1)では特記すべき異常はなかった.フルオレセイン蛍光眼底造影検査で左眼の網膜内循環時間遅延を認め(図2),CRAOと診断し同日緊急入院となった(図3).CRAOの原因精査のため,循環器内科・脳神経外科・膠原病内科で全身精査を行い,超音波検査でASDが指摘された.頸部MRAでは頸動脈に異常所見はなかった.D-マンニトール・アセタゾラミドナトリウム点滴静注,ニトログリセリン舌下内服,眼球マッサージを実施し,診断確定後に線維素溶解療法(ウロキナーゼ24万単位/日とプロスタグランジンE1製剤5μg/日)を7日間実施した.第6病日,検眼鏡的には変化がないが,左眼矯正視力が0.3に改善し,視野も拡大した(図4).蛍光眼底造影検査では網膜内循環時間は正常となった(図4).一般的には動脈硬化性の網膜動脈閉塞症であれば抗血小板薬の内服加療を行うが,今回はASDによる奇異性塞栓が原因として考えられたため,点滴加療より抗凝固薬(ワルファリンカリウム)内服に変更して第12病日に退院となった.第21病日には網膜の乳白色浮腫は消失し正常の色調となり,左眼矯正視力は0.5に改善,視野も拡大し(図5),第146病日では,左眼矯正視力0.4,左眼眼圧14mmHgとなり,視野(図6)はさらに拡大した.網膜光干渉断層計では網膜の乳白色混濁部位で網膜は菲薄化していたが,中心窩の陥凹は浅いが同定できた(図7).II考按網膜動脈閉塞症は,一般に動脈硬化による血栓形成,高血圧症や糖尿病,心臓弁膜症をはじめとする心疾患,内頸動脈閉塞をはじめとする頸動脈病変などの基礎疾患を有する中高齢者に多く,若年者には少ない1).Brownら2)は1967~1979年の13年間のCRAO338人(平均年齢58.5歳)中,30歳未満の患者数は27名であったと報告している.その原因として,中高齢者の場合は網膜細動脈の攣縮,全身の血管病変に関連した血栓症,動脈炎による血栓性閉塞1)やアテローム性血管変化による閉塞がもっとも多く3),若年者では心疾患,血液疾患,膠原病などを基礎疾患とした血管炎4,5),外傷,頸動脈狭窄6)などが報告されているが,原因不明の症例も少なくない.高橋ら7)は,6歳・24歳・29歳の若年者CRAOの3例を報告しているが,いずれの症例も原因不明であった.また,中野ら8)は溶連菌感染症の経過中にCRAOを発症した11歳の例を報告している.若年者では視力予後は中高齢者より比較的良好であるが9,10),予後不良な場合もあり,平均寿命の点からも若年者のCRAOは深刻である.本症例では,原因検索のため頭部・眼窩部CT検査,頸部MRA,採血検査,全身精査をしたが,超音波検査でASDのみを認め,ASDに伴う奇異性塞栓によるものと考えられた.ASDは,胎生期の心房中隔の発達障害により先天的に心房中隔に欠損孔が存在し,欠損孔を通じて左右短絡を生じ右房・右室へ容量負荷をきたすものであり,頻度として全先天性心疾患の約1割前後を占めるといわれている.芳賀らはASDに伴う奇異性塞栓により生じた若年性脳梗塞を報告しているが11),奇異性塞栓によってCRAOが発症したとする報告はなかった.彼らはASDによる奇異性脳塞栓と診断後に組織プラスミノーゲンン活性化因子静注療法を施行して改善を得たが11),本症例でも同様に診断時よりウロキナーゼで加療し,視力が改善し,視野も拡大した.CRAOは網膜循環途絶90~100分で網膜に不可逆性の変化が生じるとされている12).臨床的には発症後48時間以内であれば視機能回復の見込みがあるとされ13),今回の症例では治療開始までの時間が短かったことや,若年者で高血圧・糖尿病・動脈硬化などの他の危険因子がなかったことにより,視力の改善・視野の拡大につながったと考えられる.III結論若年者の網膜中心動脈閉塞症の原因として心房中隔欠損による奇異性塞栓を考慮にいれる必要がある.文献1)堀内二彦:網膜動脈閉塞症.眼科26:1055-1067,19842)BrownGC,MagargalLE,ShieldsJAetal:Retinalarterialobstructioninchildrenandyoungadults.Ophthalmology88:18-25,19813)山之内夘一,小田隆子,高瀬智子:若年者に見られた一側性網膜血行障害について.眼紀22:708-713,19714)BrownGC,MagargalLE:Centralretinalarteryobstructionandvisualacuity.Ophthalmology89:14-19,19825)SorrEM,GoldburgRE:Traumaticcentralretinalarteryocculusionwithsicklecelltrait.AmJOphthalmol80:648-652,19756)張野正誉,三浦玲子,渡辺仁ほか:網膜動脈閉塞における頸動脈病変.眼紀36:2274-2278,19857)高橋寧子,堀内二彦,大野仁ほか:若年者の網膜動脈閉塞症の3例.眼紀41:2258-2262,19908)中野直樹,吉田泰弘,周藤昌行ほか:11歳女児の網膜中心動脈閉塞症.眼紀43:161-164,19929)地場奈実,地場達也,飯島裕幸:若年者の網膜中心動脈閉塞症.眼科44:1837-1843,200210)前田貴美人,鈴木純一,田川博ほか:網膜動脈閉塞症の治療成績.眼紀51:148-152,200011)芳賀智顕,佐光一也,増渕雅広ほか:若年性脳梗塞を契機に診断にいたった心房中隔欠損症の1例.心臓45:195-199,201312)HayrehSS,KolderHE,WeingeistTA:Centralretinalarteryocclusionandretinaltolerancetime.Ophthalmology87:75-78,198013)AugsburgerJJ,MagargalLE:Visualprognosisfollowingtreatmentofacutecentralretinalarteryobstruction.BrJOphthalmol64:913-917,1980〔別刷請求先〕中村将一朗:〒498-8502愛知県弥富市前ケ須町南本田396番地愛知県厚生農業協同組合連合会海南病院眼科Reprintrequests:ShoichiroNakamura,DepartmentofOphthalmology,AichiPrefecturalFederationofAgriculturalCooperativesforHealthandWelfareKainanHospital,396Minamihonda,Maegasu-cho,Yatomicity,Aichi498-8502,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(119)601図1初診時の眼底所見左直接対光反射が減弱していた.前眼部・中間透光体には異常はみられなかったが,左眼黄斑部の桜実紅斑と網膜の乳白色混濁がみられた.表1血液検査の結果総蛋白7.3g/dlPT%87.4%アルブミン4.9g/dlPT秒12.5秒総ビリルビン1.2mg/dlAPTT26.8秒AST21IU/L血清補体価44.5CH50U/mlALT21IU/LC3104mg/dlアルカリフォスファターゼ264IU/LC417mg/dlクリアチニン0.89mg/dl抗核抗体<40尿素窒素14.1mg/dl抗カルジオリピンB2グリコプロテイン複合体抗体(−)血糖値(随時)106mg/dl抗カルジオリピン抗体(−)HbA1C(NGSP)5.6%ループスアンチコアグラント(−)CRP0.02mg/dlC-ANCA(−)総コレステロール量197mg/dlP-ANCA(−)白血球数4800/μl抗SS-A抗体(−)赤血球数512×104/μlリウマトイド因子(−)ヘモグロビン15.1g/dlヘマトクリット値45.9%血小板数21.7×104/μl血沈1mm/時図2初診時の蛍光眼底造影所見フルオレセイン蛍光眼底造影検査で左眼の網膜内循環時間遅延を認めた.602あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(120)図3初診時の左眼視野図4第6病日の左眼カラー・蛍光眼底造影所見と視野フルオレセイン蛍光眼底造影検査で左眼の網膜内循環再灌流を確認.左眼視野も改善がみられた.(121)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016603図5第21病日の左眼カラー眼底所見と視野網膜の乳白色浮腫は消失した.視野の改善がみられた.図6第146病日の左眼視野視野の改善がみられた.604あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(122)図7第146病日の網膜光干渉断層計網膜の乳白色混濁部位で網膜は菲薄化していたが,中心窩の陥凹は浅いが同定できた.(123)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016605

治療経過中に視神経乳頭陥凹・網膜神経線維層厚の変動を認めた急性原発閉塞隅角緑内障の1例

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):597〜600,2016©治療経過中に視神経乳頭陥凹・網膜神経線維層厚の変動を認めた急性原発閉塞隅角緑内障の1例石崎典彦*1大須賀翔*2大野淳子*3木村大作*2佐藤孝樹*2小嶌祥太*4植木麻理*4杉山哲也*5池田恒彦*4*1八尾徳州会総合病院眼科*2高槻赤十字病院眼科*3南大阪病院眼科*4大阪医科大学眼科学教室*5中野眼科医院ChangesinCup-to-DiscRatioandRetinalNerveFiberLayerThicknessinaCaseofAcutePrimaryAngle-ClosureGlaucomaDuringTreatmentNorihikoIshizaki1),ShouOosuka2),JunkoOono3),DaisakuKimura2),TakakiSato2),ShotaKojima4),MariUeki4),TetsuyaSugiyama5)andTsunehikoIkeda4)1)DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TakatsukiRedCrossHospital,3)DepartmentofOphthalmology,MinamiosakaHospital,4)DepartmentofOphthalmology,OsakaMedicalCollege,5)NakanoEyeClinic目的:急性原発閉塞隅角緑内障(APACG)の治療経過中に視神経乳頭陥凹比(C/D),視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFL)が変動した症例の報告.症例:56歳,女性,左眼痛,充血があり,左眼の眼圧は61mmHg,左眼のC/Dは0.7だった.左眼APACGと診断した.投薬で隅角の閉塞が解除され,その後の眼圧は13〜16mmHgだった.初診の1週間後に左眼C/Dが0.5に減少し,治療前と比較して視神経乳頭陥凹底深度が浅化,RNFLが増加した.1カ月後に左眼C/Dが0.7に増加し,左眼RNFLが治療前と比較して減少傾向で,その後も進行した.点眼加療により左眼眼圧は11〜12mmHgとなったが,2〜4カ月後にかけて左眼の視野障害が進行した.結論:APACGは眼圧が正常化しても形態的,機能的変化に注意が必要である.Purpose:Toreportchangesincup-to-disc(C/D)ratioandperipapillaryretinalnervefiberlayer(RNFL)thicknessinapatientwithacuteprimaryangle-closureglaucoma(APACG)duringtreatment.Case:A56-yearoldfemalepresentedwithpainandhyperemiainherlefteye.Intraocularpressure(IOP)inthateyewas61mmHg;C/Dratiowas0.7.WethereforediagnosedAPACG.Afterangle-closureintheeyehadbeenreleasedbymedication,IOPrangedfrom13-16mmHg.C/Dratiointheeyewasreducedto0.5,opticdisccuppingdepthbecameshallowerthanatfirstvisit,andRNFLshowedatendencytodecrease.IOPintheeyewasfurtherdecreasedto11-12mmHgwithmedication,yetvisualfielddefectprogressedfrom2to4monthspost-treatment.Conclusions:CloseattentionshouldbepaidtomorphologicalandfunctionalchangeintheopticnerveofpatientswithAPACG,evenwhenIOPisnormalized.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):597〜600,2016〕Keywords:原発閉塞隅角緑内障,視神経乳頭陥凹比,網膜神経線維層.primaryangle-closureglaucoma,cup-todiscratio,retinalnervefiberlayer.はじめに小児の緑内障では,眼圧の正常化とともに拡大していた視神経乳頭陥凹が縮小することがある1〜3).成人でも同様の現象が報告されている4〜6)が,小児と比較して稀である.今回,急性原発閉塞隅角緑内障(acuteprimaryangle-closureglaucoma:APACG)の治療経過中に視神経乳頭陥凹比(cup-to-discratio:C/D),視神経乳頭周囲網膜神経線維層厚(peripapillaryretinalnervefiberlayerthickness:RNFL)が変動した1例を経験したので報告する.I症例患者:56歳,女性.主訴:左眼の痛み,充血.既往歴:精神発達遅滞,統合失調症,てんかん.現病歴:2013年11月に3日前からの左眼の痛み,充血があり,近医を受診し,左眼の隅角閉塞による眼圧上昇と診断された.同日,加療目的に高槻赤十字病院眼科へ紹介となった.初診時所見:視力は右眼0.5(0.8×sph+2.0D(cyl−0.5DAx90°),左眼0.4(0.6p×sph−0.5D).眼圧は右眼19mmHg,左眼61mmHg.前眼部所見では両眼ともに浅前房,左眼に充血,軽度の角膜浮腫,周辺前房の消失を認めた.左眼の瞳孔は中等度散瞳しており,対光反射は認めなかった.中間透光体は両眼ともに軽度の白内障を認めた.眼底はC/Dが右眼0.4,左眼0.7だった.光干渉断層計(opticalcoherencetomograph:OCT)(カールツァイス社製シラスHD-OCT)では右眼と比較して,陥凹底は左眼が深く,RNFLは左眼が厚かった.経過:20%D-マンニトール400ml,アセタゾラミド500mgの点滴投与を行ったところ,眼圧は右眼5mmHg,左眼12mmHgに低下し,隅角の閉塞が解除された.隅角閉塞の再発予防のために2%ピロカルピン点眼を左眼に開始し,両眼ともに水晶体再建術を予定した.初診後6日後に左眼,20日後に右眼に超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行した.術中,術後合併症はとくになく,手術後の前房深度は正常となり,矯正視力は1.0に改善した.ピロカルピン点眼は中止した.左眼のC/Dは初診後6日後に0.5に減少し,15日後には0.5,49日後以降は0.7と経時的に変化した(図1).左眼のRNFLは初診時から6日後にかけて増加,以降は経時的に減少傾向を示した(図2).Humphrey自動視野計(プログラムSITA-STANDARD)により測定した左眼の視野は49〜128日後にかけて,平均偏差(meandeviation:MD)が低下傾向を示し,視野障害が進行した(図3).手術後の左眼眼圧は13〜16mmHgだった.視野障害の進行を認めたため,128日後からラタノプロスト点眼を左眼に開始し,眼圧は11〜12mmHgに低下した.視野障害がさらに進行したので161日後からラタノプロスト,チモロールマレイン酸塩の配合剤に変更し,眼圧は12mmHg程度となった.161日後以降の視野検査では視野障害の増悪は認めておらず,経過観察中である(図3,4).II考察小児緑内障は,眼圧の上昇により早期に視神経乳頭陥凹が拡大し,眼圧の正常化により陥凹の改善がみられることがある.成人,乳児の検死,献体の実験的研究により,乳児は篩状板のコラーゲン組織が未完成であるため,圧により視神経乳頭組織が圧迫もしくは後方移動すると考えられている7).成人における可逆性視神経乳頭陥凹は,これまでにも複数の報告4〜6)があるが,小児と比較して強膜の伸縮性が低いため稀とされている3).急性原発閉塞隅角症において,眼圧下降後に篩状板,前篩状板組織の位置が前方移動することがOCTにより観察されたと報告されている8).また,暗室うつむき試験により15mmHg以上の眼圧上昇を認めた原発閉塞隅角症疑いにおいて,試験前と比較して試験直後に視神経乳頭陥凹の深さは深化,視神経乳頭陥凹幅は拡大,乳頭リムの幅は縮小に有意な変化がOCTにより観察されたと報告されている9).本症例における初診時の視神経乳頭陥凹の深さ,C/Dの拡大はこれらの現象の極端に大きなものと推測される.急性緑内障の動物実験研究から軸索の水腫変性による視神経乳頭浮腫が4日以内に発生すること10),OCTによる臨床研究からAPACGは発症から3日以内に顕著にRNFLが増加し,その後減少したとの報告11)は,本症例のRNFLの変化と一致している.本症例のC/Dの変化とRNFL変化についてOCT所見,静的視野検査所見より以下のように推測した.初診時は高眼圧により篩状板が後方移動したことによりC/Dが増加していた.高眼圧に伴う視神経乳頭浮腫のためRNFLは増加しており,治療による眼圧の低下に伴って篩状板の位置が戻ったことによりC/Dが減少した.浮腫によりいったん増加していたRNFLは視神経乳頭浮腫の軽減と緑内障性視神経障害の進行に伴い減少し,再度C/Dが増加した.緑内障性と考えられる視野異常が約4カ月間進行したが,以降は停止した.眼圧下降点眼薬の投与により,超音波水晶体乳化吸引術と眼内レンズ挿入術直後の眼圧よりも眼圧の下降が得られたため,自然経過なのか,眼圧の下降による効果なのかは不明である.APACGは眼圧低下後も形態的,機能的変化をきたすことがあり,眼圧が正常化した後も注意が必要である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)KessingSV,GregersenE:Thedistendeddiscinearlystagesofcongenitalglaucoma.ActaOphthalmol(Copenh)55:431-435,19772)QuigleyHA:Childhoodglaucoma:resultswithtrabeculotomyandstudyofreversiblecupping.Ophthalmology89:219-226,19823)MochizukiH,LesleyAG,BrandtJD:Shrinkageofthescleralcanalduringcuppingreversalinchildren.Ophthalmology118:2008-2013,20114)KatzLJ,SpeathGL,CantorLBetal:Reversibleopticdiskcuppingandvisualfieldimprovementinadultswithglaucoma.AmJOphthalmol107:485-492,19895)鈴村弘隆:検眼鏡的に乳頭陥凹の改善をみた続発緑内障の1例.あたらしい眼科23:665-668,20066)KakutaniY,NakamuraM,Nagai-KusuharaAetal:Markedcupreversalpresumablyassociatedwithscleralbiomechanicsinacaseofadultglaucoma.ArchOphthalmol128:139-141,20107)QuigleyHA:Thepathogenesisofreversiblecuppingincongenitalglaucoma.AmJOphthalmol74:358-370,19778)ParkHY,ShinHY,JungKetal:Changesinthelaminaandprelaminaafterintraocularpressurereductioninpatientswithprimaryopen-angleglaucomaandacuteprimaryangle-closure.InvestOphthalmolVisSci55:233-239,20149)JiangR,XuL,LiuXetal:Opticnerveheadchangesaftershort-termintraocularpressureelevationinacuteprimaryangle-closuresuspects.Ophthalmology122:730-737,201510)ZimmermanLE,DeVeneciaG,HamasakiDI:Pathologyoftheopticnerveinexperimentalacuteglaucoma.InvestOphthalmol6:109-125,196711)LiuX,LiM,ZhongYMetal:Damagepatternsofretinalnervefiberlayerinacuteandchronicintraocularpressureelevationinprimaryangleclosureglaucoma.IntJOphthalmol3:152-157,2010〔別刷請求先〕石崎典彦:〒581-0011大阪府八尾市若草町1番17号八尾徳州会総合病院眼科Reprintrequests:NorihikoIshizaki,DepartmentofOphthalmology,YaoTokushukaiGeneralHospital,1-17Wakakusachou,Yao-shi,Osaka581-0011,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(115)597図1左眼視神経乳頭部写真a:初診時乳頭.C/D0.7.b:6日後.C/D0.3.c:15日後.C/D0.5.d:49日後.C/D0.7.図2視神経乳頭部OCTa:初診時.b:6日後.c:15日後.d:79日後.初診時は左眼(OS)の乳頭周囲網膜神経線維層厚(RNFL)が右眼(OD)と比較して厚く,6日後にかけてさらに肥厚した.15日後以降はOSのRNFLは菲薄化した.初診時の視神経乳頭陥凹底は深くなっており,6日後には浅くなっていた.598あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(116)図3左眼Humphrey自動視野計視野異常が初診49〜128日後にかけて悪化傾向を認める.図4左眼の経過(117)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016599600あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(118)

虹彩炎の急性増悪を呈した風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎の1例

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):594〜596,2016©虹彩炎の急性増悪を呈した風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎の1例坪田裕喜子*1藤野雄次郎*1寺尾亮*1杉崎顕史*1田邊樹郎*1蕪城俊克*2*1JCHO東京新宿メディカルセンター眼科*2東京大学医学部眼科学教室ACaseofRubellaVirus-associatedFuchsUveitiswithAcuteExacerbationofIridocyclitisYukikoTsubota1),YujiroFujino1),RyoTerao1),KenjiSugisaki1),TatsuroTanabe1)andToshikatsuKaburaki2)1)DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter,2)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicineandFacultyofMedicine,TheUniversityofTokyo虹彩炎の急性増悪を生じた風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎の1例を報告する.症例は59歳,男性.2011年に左眼の虹彩毛様体炎を発症し,虹彩萎縮や白内障からFuchsぶどう膜炎が疑われた.症状改善後,通院を自己中断していた.ほぼ3年後に左眼の霧視,眼痛,充血を自覚し再受診した.左眼角膜に角膜皺襞と大小不同のびまん性の角膜後面沈着物,虹彩毛様体炎,虹彩萎縮,高度な白内障がみられ,左眼視力は0.02であった.前房水採取時,Amsler’ssign陽性であった.風疹ウイルスの抗体価率(Q値)が49であり,風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎と診断した.ステロイド薬点眼治療で炎症は鎮静化した.本症例は片眼の急性虹彩炎症状を呈したが,虹彩萎縮と白内障がみられ,前房水から高い抗風疹ウイルスIgG抗体が検出されたことから診断を確定できた.Fuchsぶどう膜炎は急性虹彩炎を呈することがあると考えられた.Wereportacaseofrubellavirus-associatedFuchsuveitiswithacuteexacerbationofiridocyclitis.Thepatient,a59-year-oldmale,developedacuteiridocyclitisinhislefteyein2011.WesuspectedFuchsuveitisbecauseofirisatrophyandcataract.Aftersymptomimprovement,hestoppedcomingforcheck-upsonhisownaccord.Threeyearslater,hepresentedwithnephelopsia,ophthalmalgiaandcongestioninthelefteye;healsoexhibitedDescemet’smembranefolds,keraticprecipitates,iridocyclitis,irisatrophyandcataract.WeperformedananteriorchamberpunctureoftheeyeandlookedforAmsler’ssign.TheaqueoushumoursamplewasanalyzedforintraocularantibodyproductionagainstrubellavirusbycalculationoftheGoldmann-Witmercoefficient(GWC=49).Wediagnosedrubellavirus-associatedFuchsuveitis.Thiscasehadacuteiridocyclitis,butwediagnosedFuchsuveitisduetoirisatrophy,cataractandantibodyproductionagainstrubellavirus.ThiscasereportsuggeststhatFuchsuveitiscanoccurwithacuteiridocyclitis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):594〜596,2016〕Keywords:Fuchsぶどう膜炎,急性虹彩炎,風疹ウイルス,風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎.Fuchsuveitis,acuteiridocyclitis,rubellavirus,rubellavirus-associatedFuchsuveitis.はじめにFuchs虹彩異色性毛様体炎(以下,Fuchsぶどう膜炎)は虹彩異色(虹彩萎縮),虹彩毛様体炎,白内障を3主徴とする疾患である.自覚症状は視力低下や霧視,飛蚊症などのことが多く,強い結膜・毛様充血や眼痛などの急性炎症症状は認めないことも特徴の一つとされている1,2).また,近年,本症の原因として風疹ウイルスの関与が指摘されており,眼内液に風疹ウイルスに対する抗体,風疹ウイルスあるいはRT-PCRで風疹ウイルスRNA-陽性が得られた症例については風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎(rubellavirusassociatedFuchsuveitis)とよばれることがある3,4).これまでの5つの報告での合計151例中149例に抗風疹ウイルス抗体が検出されている5).これまで,急性炎症をきたしたFuchsぶどう膜炎症例がいくつかの文献でみられるが,詳細な症例報告はなく,わが国での報告もない.今回,急性虹彩毛様体炎を起こした風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎の1例を経験したので報告する.I症例症例は57歳,男性で,2011年2月,左眼の霧視を自覚し,近医受診.左眼の虹彩炎と続発緑内障(左眼眼圧32mmHg)を指摘され,左眼にベタメタゾン(0.1%)点眼1日4回,カルテオロール(2%)点眼1日1回を処方され,3日後に当科紹介初診された.当科初診時,視力は右眼(1.2×sph−5.25Dcyl−1D70°),左眼0.03(0.5×sph−6Dcyl−1.25D80°).眼圧は右眼16mmHg,左眼15mmHg.右眼は前眼部,中間透光体,眼底とも正常.左眼は全体に分布する細かい角膜後面沈着物と大きな角膜後面沈着物とがみられた.前房内2+の細胞とフレア,虹彩萎縮があり,KoeppeおよびBussaca結節もみられた(図1).隅角は両眼III度開放隅角で,左眼は色素の多い隅角であった.水晶体は核白内障がみられた.眼底は黄斑の下方に網脈絡膜変性巣がみられた.前房水を採取しPCR法にて単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)およびサイトメガロウイルス(CMV)-DNAを調べたが,いずれも陰性であった.血液生化学検査では白血球数が軽度上昇の他は異常なく,抗humanT-cellleukemiavirustype1抗体陰性,抗トキソプラズマ抗体陰性,梅毒血清反応陰性,angiotensinconvertingenzymeは正常範囲であった.既往歴,家族歴はとくになく,口内炎,皮膚疾患,炎症性腸炎,関節炎症状,糖尿病もなかった.風疹ウイルスの予防接種歴はなく,風疹の既往は不明であった.左眼に両点眼を継続し虹彩炎症状はしだいに軽快していったが,患者は2月中のみ受診し,その後は診察を自己中断し,来院しなかった.その約3年後の2013年12月に左眼の霧視,眼痛,結膜充血を自覚し,当院を受診した.患者はこの3年間,左眼の視力低下を自覚していたが眼痛や充血の自覚は一度もなかった.視力は右眼(0.9×sph−3.75D),左眼0.02(n.c.).眼圧は右眼21mmHg,左眼22mmHg.左眼は毛様充血がみられ,角膜に角膜皺襞と大小不同のびまん性の角膜後面沈着物,前房内2+の細胞とフレア,虹彩萎縮,高度の白内障を認めた(図2).軽度の虹彩後癒着もみられたが,散瞳によって解除され,水晶体前囊上に軽度の色素沈着が残った.また前部硝子体混濁と眼底の前回と同じ部位に網脈絡膜萎縮を認めた.前房水を採取したところ前房出血(Amsler’ssign)を認めた.再度,前房水のHSV,VZVおよびCMV-DNAPCRを施行したがいずれも陰性であった.しかしながら前房水の風疹ウイルスの抗体価率(Q値)は49であった.血液生化学検査では前回と同様,白血球数の軽度上昇以外に異常項目はなく,全身の異常もなかった.0.1%ベタメタゾンを2時間おき,トロピカマイド・フェニレフリン1日4回の点眼加療を開始した.点眼加療後,角膜所見,前房内炎症ともに改善を認め,点眼を漸減した.2014年4月に左眼白内障手術を施行し,矯正視力0.9に改善した.術前の角膜内皮細胞数は右眼2,603,左眼2,504/mm2で両眼に差はなかった.以降,急性炎症はなく,術後1年を経過した時点で経過良好である(図3).II考按Fuchsぶどう膜炎の診断は慢性の軽微な虹彩炎,びまん性の虹彩萎縮あるいは虹彩異色,星状の角膜後面沈着物,白内障,前部硝子体混濁の存在,また虹彩後癒着がないことなどから診断される1,2).前房水採取時にみられるAmsler’ssignや眼内の抗風疹ウイルス抗体測定も診断手段として有用である5,6).本症例は,虹彩炎,虹彩萎縮,白内障,硝子体混濁が認められ,Fuchsぶどう膜炎に合致する症状を呈していた.また,Amsler’ssignがみられ,2回目の急性炎症時の前房水検査で抗風疹ウイルス抗体が陽性であり高いQ値を示したことから,本症は風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎と診断した.鑑別診断としては,Posner-Schlossman症候群があげられる.しかしながらPosner-Schlossman症候群も急性炎症症状を起こすことはなく,また眼圧上昇がより高度である.Posner-Schlossman症候群は半数の症例でCMVの関与が指摘されているが,本症例はCMV-DNAが陰性であった7).本症は,最初の急性虹彩炎出現時に,すでに虹彩萎縮を認めていたことから,もともと本人の気付かない慢性の虹彩炎が持続していたうえに虹彩炎の急性増悪が生じたと考えられた.通常,Fuchsぶどう膜炎は慢性の経過を取ることが特徴の一つとされているが,まれに急性炎症を起こすことが報告されている.Jonesらは,Fuchsぶどう膜炎103例中2例は前房中に2+の細胞,1例は3+の細胞がみられたと報告しており,Fuchsぶどう膜炎の臨床症状は従来いわれてきたものより多彩で,当初は急性虹彩炎と似ていることがあるとしている8).Wensingらは風疹ウイルス関連Fuchsぶどう膜炎54例中2例に急性症状が,56例中8例で2+以上の前房内細胞が,55例中4例で虹彩後癒着がみられたと報告している9).このように頻度は少ないがFuchsぶどう膜炎でも急性の炎症症状を伴う症例が存在する.日本人の茶褐色の虹彩では虹彩異色はまれで,虹彩萎縮が虹彩の特徴となるが,虹彩萎縮,白内障,虹彩毛様体炎,硝子体混濁のある症例では,急性炎症症状であってもFuchsぶどう膜炎を念頭に検査をすることが重要であると考えられた.文献1)KimuraSJ,HoganMJ,ThygesonP:Fuchs’syndromeofheterochromiccyclitis.ArchOphthalmol54:179-186,19552)MohamedQ,ZamirE:UpdateonFuchs’uveitissyndrome.CurrOpinOphthalmol16:356-363,20053)QuentinCD,ReiberH:Fuchsheterochromiccyclitis:rubellavirusantibodiesandgenomeinaqueoushumor.AmJOphthalmol138:46-54,20044)deVisserL,BraakenburgA,RothovaAetal:Rubellavirus-associateduveitis:clinicalmanifestationsandvisualprognosis.AmJOphthalmol146:292-297,20085)KrepsEO,DerveauxT,KeyserFDetal:Fuchs’uveitissyndrome:Nolongerasyndrome?OculImmunolInflammAug19:1-10,20156)Bloch-MichelE,FrauE,ChhorSetal:Amsler’ssignassociatedsignificantlywithFuchs’heterochromiccyclitis(FHC).IntOphthal19:169-171,19967)CheeSP,JabA:PresumedfuchsheterochromiciridocyclitisandPosner-Schlossmansyndrome:comparisonofcytomegalovirus-positiveandnegativeeyes.AmJOphthalmol146:883-889,20088)JonesNP:Fuchs’HeterochromicUveitis:areappraisaloftheclinicalspectrum.Eye5:649-661,19919)WensingB,RelvasLM,CaspersLEetal:Comparisonofrubellavirus-andherpesvirus-associatedanterioruveitis:clinicalmanifestationsandvisualprognosis.Ophthalmology118:1905-1910,2011〔別刷請求先〕坪田裕喜子:〒162-8543東京都新宿区津久戸町5-1JCHO東京新宿メディカルセンター眼科Reprintrequests:YukikoTsubota,DepartmentofOphthalmology,JapanCommunityHealthCareOrganizationTokyoShinjukuMedicalCenter,5-1Tsukudo-cho,Shinjuku-ku,Tokyo162-8543,JAPAN594(112)0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY図12011年2月初診時a:虹彩縁にKoeppe結節(矢印①)を認める.またBussaca結節も認める(矢印②).b:角膜には全体に分布する細かい角膜後面沈着物と大きな角膜後面沈着物とがみられる.図22013年12月急性増悪時角膜皺襞と大小不同のびまん性の角膜後面沈着物,前房炎症,虹彩萎縮,高度の白内障を認める.(113)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016595図3白内障術後1年経過時左:僚眼,右:患眼.患眼は虹彩萎縮がみられる.596あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(114)

周術期2%レバミピド点眼液による白内障術前後の眼表面保護効果

2016年4月30日 土曜日

《原著》あたらしい眼科33(4):589〜593,2016©周術期2%レバミピド点眼液による白内障術前後の眼表面保護効果今野公士*1,2山田昌和*2重安千花*2近藤義之*1*1近藤眼科*2杏林大学医学部眼科学教室Effectof2%RebamipideOphthalmicSolutiononOcularSurfaceafterCataractSurgeryKimihitoKonno1,2),MasakazuYamada2),ChikaShigeyasu2)andYoshiyukiKondo1)1)KondoEyeInstitute,2)DepartmentofOphthalmology,KyorinUniversitySchoolofMedicine目的:低侵襲白内障術後でも,角膜上皮障害(SPK)を呈する症例を認める.2%レバミピド点眼液を術前後28日間併用し,眼表面の状態と自覚症状を検討した.対象および方法:無作為抽出した32例47眼(平均年齢76.4±4.9歳,男性13例女性19例)を対象に2%レバミピド点眼液を併用した群(A群)と併用しなかった群(B群)に分けて検討した.Schirmer変法第1法,涙液層破壊時間(BUT),SPKの程度を評価し,自覚症状をDEQS質問表で調査した.結果:Schirmer値は両群に有意な変化を認めなかったが,BUTはA群で術後1週,2週において術前と比較して有意に延長した(p<0.01).SPKスコアはA群で術前と比較して術後1週で有意に減少していた(p<0.01).DEQSは両群ともに術前と比較して術後1週で有意に減少した(A群:p<0.01,B群:p<0.05).考察:DEQSが白内障術後に両群で改善したのは視機能の改善によるものと考えられた.2%レバミピド点眼液を白内障周術期に併用すると,BUTが延長し,SPKの改善に効果があり,周術期の眼表面管理および保護に有用と考えられた.Purpose:Toevaluatetheprotectiveeffectsof2%rebamipideeyedropsonocularsurfacedamagecausedduringandaftercataractsurgery.CasesandMethod:Randomlydividedintotwogroupswere47eyesof32cases(13malesand19females,averageage76.4±4.9yrs)whounderwentcataractsurgery.ThepatientsinGroupAwereprescribed2%rebamipideeyedropsfor28daysaroundtheperioperativeperiod;thepatientsinGroupBdidnotreceiverebamipide.Schirmer’stest,tearfilmbreak-uptime(BUT)andfluoresceincornealstainingscore(FCS)bythescaledNationalEyeInstitutemethodwereexamined.Ocularsymptomswerealsoevaluatedineachpatientbeforeandaftersurgery,usingtheDryEyerelatedQualityofLifeScore(DEQS)questionnaire.Results:TherewerenosignificantdifferencesinSchirmer’stestlevelbetweenthepreoperativeandpostoperativephases,thoughtheTBUTvaluesofGroupAatweeks1and2weresignificantlyextendedincomparisontothepreoperativeperiod(p<0.01).FCSscoresinGroupAweresignificantlylowerthaninGroupBatweeks1and2(p<0.01).DEQSwassignificantlyimprovedcomparedtothevaluebeforedrugadministrationinGroupA(p<0.01)andGroupB(p<0.05).Conclusion:Itisconsideredthat2%rebamipideimprovesBUTandfacilitateshealingofsuperficialpunctatekeratopathycausedbycataractsurgery.Therefore2%rebamipidesolutionhasefficacyforocularsurfaceprotection.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(4):589〜593,2016〕Keywords:2%レバミピド点眼液,白内障周術期,涙液層破壊時間,角膜上皮障害,眼表面保護.2%rebamipideeyedrops,cataractsurgery,tearfilmbreak-uptime,superficialpunctatekeratopathy,ocularsurfaceprotection.はじめに昨今の低侵襲の白内障手術においても,手術時の洗眼や開瞼による乾燥,術前後の点眼薬などにより術後に角膜上皮障害(superficialpunctatekeratopathy:SPK)を呈する症例を時おり認める1~4).白内障術後の矯正視力がそれほど改善しなかった症例,もしくは視力が改善していても不満をもつ症例は,術後のSPKが原因であることも多い.近年,2%レバミピド点眼液(ムコスタ点眼液UD2%,大塚製薬株式会社)は角結膜のムチン増加作用5,6)に加えて,結膜ゴブレット細胞の増加作用7)や角結膜上皮微細構造の修復作用8)などが報告されている.今回筆者らは,合併症のない白内障手術症例において2%レバミピド点眼液を周術期に計28日間併用し,術前後の眼表面の状態および自覚症状についてプロスペクティブに調査,検討したので報告する.I対象2014年6月24日~9月30日に近藤眼科にて白内障手術を施行し,無作為に組み入れを企図した症例42例60眼のうち,術中合併症がなく,10分以内に白内障手術を遂行した症例32例47眼(男性13例,女性19例,平均年齢76.4±4.9歳)を解析対象とした.これらの対象に対し,手術2週前より2%レバミピド点眼液を1日4回点眼併用かつ術後2週まで併用する群をA群とし,2%レバミピド点眼液を併用しない群をB群とに区分けした.今回の点眼投与方法は,従来のドライアイに対する一般的投与方法と同様に1日4回とし,これをレバミピド点眼加療として行った.A群は17例26眼(平均年齢:75.9±5.4歳),B群は15例21眼(平均年齢:76.8±4.5歳)である.術前にドライアイと診断され,人工涙液もしくはヒアルロン酸ナトリウム点眼,3%ジクアホソルナトリウム点眼液,2%レバミピド点眼液をすでに使用されていた患者,眼類天疱瘡,Stevens-Johnson症候群,Sjögren症候群,試験開始6カ月以内の眼手術の既往,コンタクトレンズの使用,試験期間中の放射線療法,前述以外に担当医が不適切と判断した患者は除外した.II方法術前洗眼は10%希釈PAヨードを使用した.白内障手術は2.4mmの角膜切開法を用い,水晶体乳化吸引術および眼内レンズ挿入法を施行した.術前点眼は0.3%トスフロキサシン(トスフロ点眼液0.3%,日東メディック株式会社)を術眼に術日3日前から1日4回使用した.術後点眼は,ジクロフェナックナトリウム点眼(ジクロード点眼液0.5%,わかもと製薬株式会社),レボフロキサシン点眼(クラビット点眼液0.5%,参天製薬株式会社),デキサメタゾン点眼(サンテゾーン点眼液0.1%,参天製薬株式会社)を使用した.検討項目は,Schirmer試験(第1法変法による),涙液層破壊時間(tearfilmbreak-uptime:BUT),SPKはNationalEyeInstitute染色スコアを用いて評価9)した(図1).スコアは点状染色を認めない正常を0点,点状のフルオレセイン染色が隣接せず疎な場合を1点,点状のフルオレセイン染色のほとんどが密に隣接している場合を3点として,1点と3点の中間を2点としてスコア化する.つぎにDryEyerelatedQualityofLifeScore(DEQS)質問票10)を用いて,眼の症状と日常生活への影響を含む自覚症状を解析した.DEQSは眼の症状6項目,日常生活への影響9項目の各々の頻度と程度を問う質問票であり,QOLスコアは,各項目の重症度スコア/有効回答項目数×25で算出する.術前(Pre),術後翌日(1D),術後1週間(1W),2週間(2W)でSchirmer値,BUT,SPKスコア,DEQSの経時的変化と2群間における比較を行った.統計学的検定にはWilcoxonsignedranktestを用い,有意水準は5%とした.III結果Schirmer値(以下,第1法変法の値)はPre:A群8.9±3.7mm,B群12.2±8.8mm,1W:A群8.0±3.8mm,B群10.9±5.9mm,2W:A群7.8±4.4mm,B群9.9±4.4mmで,両群ともに術前後で有意な変化を認めなかった.BUTはPre:A群4.3±2.1秒,B群4.8±1.5秒,1D:A群5.3±2.3秒,B群4.7±1.9秒で両群ともに術前と1Dでは変わらなかった.しかし,1W:A群7.3±2.0秒,B群5.4±2.3秒,2W:A群8.2±2.0秒,B群5.5±2.0秒であり,A群においてのみPreと比較して1W,2Wともに有意に延長した(いずれもp<0.01,Wilcoxonsignedranktest)(図2).SPKスコアはPre:A群3.1±2.4,B群2.3±2.1であり,1D:A群2.8±2.4,B群2.8±2.4,1W:A群1.3±1.8,B群1.8±1.6,2W:A群0.6±1.1,B群1.8±2.5であった(図3).A群においてのみPreと比較して1W,2Wでスコアは有意に減少した(いずれもp<0.01,Wilcoxonsignedranktest).自覚症状スコア(DEQS)は,Pre:A群20.6±19.5,B群11.7±13.2,1W:A群9.6±10.9,B群3.1±3.7,2W:A群4.9±7.3,B群2.6±3.4であった.両群ともに術前と比較して術後1W,2Wで有意に減少した(いずれもp<0.05,Wilcoxonsignedranktest).しかし,A群の2例に術前術後のDEQSがほとんど改善しない症例を認めた.うち1例は,検討項目の4の“眼が疲れる”と6の“眼が赤くなる”,14の“眼の症状のため外出を控えがち”がそれぞれ1点増悪していた.また,他の1例では7の“眼を開けているのがつらい”と,14の“眼の症状のため外出を控えがち”に,それぞれ1点増悪していた.IV考察白内障術後に発症するSPKには,抗菌薬やステロイド,非ステロイド性抗炎症薬など点眼薬の影響,角膜切開による角膜知覚神経の切断,術中の洗眼や開瞼維持による機械的・化学的侵襲,術後の炎症反応などさまざまな要因が関係すると考えられている.要因の多くは術中や術直後に生じるため,SPKも術後比較的早期に出現し,早期に収束に向かうといわれている4).近年普及した小切開白内障手術により,以前に比べて手術侵襲の軽減,手術時間の短縮,術後炎症の軽減が図られている.しかし,術中の合併症なしに短時間で手術を終了した症例においても,術後にSPKを認めることが少なくない.このことは,現代の白内障手術においても手術侵襲や周術期に使用する点眼液が角膜上皮に少なからず影響を及ぼすことを示している.涙液と眼表面上皮は一方が障害されると他方にも影響を及ぼす関係にあるため,手術によってどちらか一方が障害されると両者の関係に悪循環が生じやすくなる11,12).このように白内障周術期の眼表面は短時間でも悪循環が起きやすく,ドライアイに伴う視力低下や眼不快感が発生しやすいといえる.こうした術後ドライアイに対する点眼治療では,水分補給を目的とした人工涙液および水分保持作用をもつヒアルロン酸ナトリウム点眼液が一般に使用されてきた.しかし,人工涙液は水分と電解質を補給するという意味では有効であるが,その効果持続時間は5分程度と短く,症状を抑えるためには頻繁に点眼する必要がある13).ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の主作用である保水効果も持続時間は15分程度であり,涙液量がきわめて少ない場合に頻回点眼すると,ヒアルロン酸ナトリウムが眼表面の少ない水分を吸収して,ドライアイがかえって増悪する可能性があるといわれている14).また,眼表面のバリア機能が低下しているドライアイの患者においては,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液の多くに防腐剤として含まれているベンザルコニウム塩化物が,角膜や結膜に障害を与えると報告されている15,16).一方,ドライアイで角膜や結膜上皮の障害が生じると眼表面上皮のムチンが減少し,それによりムチンが涙液水層を安定化させる機能が障害され,眼表面の涙液層が不安定で均一に維持されない状態にもなる17).この涙液層の不安定化がさらなる角膜・結膜上皮障害をもたらすという悪循環を生じ,ムチン減少がドライアイの発症および悪化として注目されている18~20).ドライアイの発症は視機能にも影響することがわかっている21).このように近年,ドライアイではムチンの役割が重要視されており,ドライアイ患者の角膜および結膜で産生されるムチンを増加させることにより涙液の安定化を図る作用は,角膜・結膜上皮障害および自覚症状を改善する新たな治療につながると期待されている1).涙液の層別治療(tearfilmorientedtherapy:TFOT)という新しい概念22)が最近は提唱されており,それぞれの点眼薬の薬理作用を考慮したTFOTに基づいた治療が行われるようになってきている.レバミピドは,胃粘膜のムチンを増加させる作用があり,以前より胃潰瘍および胃炎の治療薬として承認され,広く臨床に用いられている.こうしたレバミピドのムチン増加作用に注目し,眼ムチン減少モデル動物で検討したところ,ムチンを産生する結膜のゴブレット細胞数を増加させ,角膜および結膜ムチンを増加させ,角膜・結膜上皮障害を改善することが報告されている23).レバミピドを有効成分とする点眼液は,ドライアイ患者の眼表面ムチンを増加させることによって涙液の安定化を図る作用がある.こうした一連のレバミピドの作用がSPKの改善に有効であったとの報告もあり8,24),本検討でもSPKはレバミピドを併用した群において有意に改善していた.また,レバミピド点眼液には防腐剤が入っていないため,薬剤起因性SPKを引き起こす可能性が少ない点も有利と考えられる25).しかし,レバミピドは涙液の増加には寄与しない.ヒアレイン酸ナトリウム点眼液とレバミピドの両群における涙液分泌量をSchirmer検査を用いて測定したところ,両者とも有意な変化を認めなかったという報告がある24).本検討でもSchirmer値と変法の値を直接には比較できないが,レバミピド点眼中のSchirmer値に有意な変化は認めなかった.また,ドライアイ患者154例に2%レバミピド点眼液を1日4回52週間の期間使用したところ,フルオレセイン角膜染色スコア,リサミングリーン結膜染色スコアおよびドライアイ関連眼症状は点眼開始2週後より有意な低下を示し,BUTは点眼開始2週後より有意な延長を示し52週後まで維持できたという報告がある26).本検討例でもSPKとBUTはレバミピドの点眼によって有意に改善した.今回の白内障周術期の検討においても,レバミピド点眼でみられた眼表面検査の変化は薬剤の特性に沿った効果であったと考えられる.本研究では自覚症状についてDEQS質問票を用いて検討したが,両群ともに術後に有意に改善していた.これはドライアイのない白内障手術患者を対象にしており,術前のDEQSが低かったこと,白内障手術を施行することにより視機能が改善したため,術前に認めていた不定愁訴を含むさまざまな自覚症状が改善したものと思われる.よって,本研究ではレバミピドによる自覚症状の改善効果を比較検討することはむずかしいと思われた.なお,レバミピド点眼を使用することで“眼を開けているのがつらい”と“眼の症状のため外出を控えがち”らが増悪した症例があったことは,この点眼液の特性である白い粉の付着や点眼後に感じる苦みからくるもの26)と考察された.本検討から白内障術前術後にレバミピドを点眼することで眼表面の保護効果があることが確認できた.白内障手術2週間前から術後2週間までのレバミピド点眼の併用は,白内障周術期の管理において有用と考えられた.文献1)OhT,JungY,ChangDetal:Changesinthetearfilmandocularsurfaceaftercataractsurgery.JpnJOphthalmol56:113-118,20122)VenincasaVD,GalorA,FeuerWetal:Long-termeffectsofcataractsurgeryontearfilmparameters.ScientificWorldJournal10:643-7,20133)竹下哲二:白内障術後のドライアイに対するジクアホソルナトリウム点眼の効果.臨眼67:327-340,20134)ChoYK,KimMS:Dryeyeaftercataractsurgeryandassociatedintraoperativeriskfactors.KoreanJOphthalmol23:65-73,20095)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,20026)UrashimaH,OkamotoT,TakejiY:Rebamipideincreasestheamountofmucin-likesubstancesontheconjunctivaandcorneaintheN-acetylcysteine-treatedinvivomodel.Cornea23:613-619,20047)UrashimaH,TakejiY,OkamotoT:Rebamipideincreasesmucin-likesubstancecontentsandperiodicacidSchiffreagent-positivecellsdensityinnormalrabbits.JOculPharmacolTher28:264-270,20128)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,20129)LempMA:ReportoftheNationalEyeInstitute/IndustryworkshoponClinicalTrialsinDryEyes.CLAOJ21:221-232,199510)SakaneY,YamaguchiM,YokoiNetal:DevelopmentandvalidationoftheDryEye-RelatedQuality-of-LifeScorequestionnaire.JAMAOphthalmol131:1331-1338,201311)山田昌和:ドライアイ:新しい定義に基づいた疾患概念と病態.治療.日眼会誌113:541-552,200912)横井則彦:眼手術とドライアイ.IOL&RS23:189-194,200913)福田昌彦,下村嘉一:人工涙液.ドライアイ研究会編ドライアイ診療PPP.p194-197,メジカルビュー社,200214)高静花,渡辺仁:ドライアイ点眼治療のコツ.あたらしい眼科20:17-22,200315)BursteinNL:Theeffectsoftopicaldrugsandpreservativesonthetearsandcornealepitheliumindryeye.TransOphthalmolSocUK104:402-409,198516)DeSaintJeanM,BrignoleF,BringuierAFetal:Effectsofbenzalkoniumchlorideongrowthandsurvivalofchangeconjunctivalcells.InvestOphthalmolVisSci40:619-630,199917)AlbertsmeyerA,KakksseryV,Spurr-MichaudSetal:Effectofpro-inflammatorymediatorsonmembrane-associatedmucinsexpressedbyhumanocularsurfaceepithelialcells.ExpEyeRes90:444-551,201018)丸山邦夫,横井則彦:環境と眼の乾き.あたらしい眼科22:311-316,200519)HikichiT,YoshidaA,FukuiYetal:PrevalenceofdryeyeinJapaneseeyecenters.GraefesArchClinExpOphthalmol233:555-558,199520)小野眞史:病態と診断.島崎潤,坪田一男編角膜診療ハンドブック.p34-46,中外医学社,199921)TounakaK,YukiK,KouyamaKetal:DryeyediseaseisassociatedwithdeteriorationofmentalhealthinmaleJapaneseuniversitystaff.TohokuJExpMed233:215-220,201422)横井則彦,坪田一男:ドライアイのコアメカニズム─涙液安定性仮説の考え方.あたらしい眼科28:291-297,201223)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:RebamipideOphthalmicSuspensionPhase3StudyGroup:Arandomized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreatmentofdryeye.Ophthalmology120:1158-1165,201324)高良由起子,高良俊武,高良広美ほか:レバミピド混濁点眼液の点状表層角膜症に対する影響.臨眼67:1217-1222,201325)福田正道,中嶋英雄,春田淳平ほか:レバミピド点眼液の角膜上皮に対する安全性に関する検討.あたらしい眼科30:1467-1471,201326)藤原豊博:眼ムチン産生促進およびゴブレット細胞数増加作用を併せもつ新規ドライアイ治療剤レパミピド懸濁点眼薬(ムコスタ点眼液UD2%)の基礎と臨床.薬理と治療40:1048-1070,2012〔別刷請求先〕今野公士:〒192-0081東京都八王子市横山町22-3メディカルタワー八王子近藤眼科Reprintrequests:KimihitoKonno,M.D.,KondoEyeInstitute,MedicalTowerHachioji,22-3Yokoyamacho,Hachioji-shi,Tokyo192-0081,JAPAN0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(107)589図1NationalEyeInstitute染色スコアを用いた角膜上皮障害(SPK)の評価角膜全体を5つに区分し,各々の領域で点状染色を認めない正常を0点,点状のフルオレセイン染色が隣接せず疎な場合を1点,点状のフルオレセイン染色のほとんどが密に隣接している場合を3点として,1点と3点の中間を2点としてスコア化する.右にスコア9点のSPKの1例を示す.590あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(108)図2BUTの術前と術後1D,1W,2Wの比較1Dでは両群とも術前と変わらなかったが,2%レバミピド点眼液を併用したA群の1W,2Wでは,術前と比較して有意に延長した(*Wilcoxonsignedranktest,p<0.01).2%レバミピド点眼液を併用しなかったB群は1W,2Wでも有意の変化はなかった.図3SPKスコアの術前と術後1D,1W,2Wの比較1Dでは両群とも術前と変わらなかったが,2%レバミピド点眼液を併用したA群の1W,2Wでは,術前と比較して有意に減少した(*Wilcoxonsignedranktest,p<0.01).2%レバミピド点眼液を併用しなかったB群は1W,2Wでも有意の変化はなかった.(109)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016591592あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(110)(111)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016593