‘記事’ カテゴリーのアーカイブ

写真:Haab’s striae

2016年4月30日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦383.Haab’sstriae細谷比左志JCHO神戸中央病院眼科図2図1のシェーマ角膜内皮側Descemet膜レベルに,2本の線状のゆるやかなカーブを描く混濁(⇨)を認める.図1Haab’sstriaeの症例(19歳,男性)角膜内面にやや斜めに走る帯状の混濁がみられる.一部は瞳孔領にかかっているが,視力はよい.生後5カ月のときにトラベクロトミー手術を受け,眼圧は正常に保たれ,現在まで良好な経過をたどっている.図3同じ症例の左眼内皮スペキュラー写真角膜中央部(b)では内皮細胞密度が957個/mm2と低下がみられるが,周辺部(c)では,2,197個/mm2と正常とまではいかないが,まだ余力があるようにみられる.(63)あたらしい眼科Vol.33,No.4,20165450910-1810/16/¥100/頁/JCOPYHaab’sstriaeとは,先天緑内障患者の角膜内面にみられる帯状の線状混濁(図1)のことである.図2のように斜めに走る平行する2本の線状混濁であったり,角膜輪部に平行に走る2本の曲線であったり,その形は不整形である.先天緑内障は,最近では早発型発達緑内障とよぶようになった1,2)もので,生後すぐからみられる緑内障である.欧米の教科書では,まだ先天緑内障とよばれていることが多いようである3).ここではわが国のガイドライン2)に従い,早発型発達緑内障とよぶことにする.早発型発達緑内障は非常にまれな疾患で,出生時あるいは遅くとも生後1,2歳までにみられる疾患で,日本では10万人に1人,西欧では1~2万人に1人,中東やスロバキアのロマ人ではもっと頻度が高いといわれている.眼科医が一生で出会う確率が1人程度ともいわれていて,筆者もここで紹介した症例が自ら出会って治療した唯一の症例である.全体の10%程度が常染色体劣性遺伝で,9割が孤発例であるといわれ,6割が男児で両側性が多い.隅角形成異常に基づく疾患であり,房水の流れが障害され眼圧上昇をもたらす.乳児の眼球は柔らかく圧力の上昇に耐えられないので,角膜径増大などにより種々の症状をもたらす.症状は,流涙,羞明,眼瞼けいれんで,所見としては,高眼圧,それによる角膜径増大(角膜径も大きくなり,眼球全体が大きくなり,牛眼とよばれる状態になる),そして角膜が柔らかいため高眼圧に耐え切れずDescemet膜が破裂してできるHaab’sstriaeという特徴的所見,角膜混濁,眼軸長延長,視神経乳頭陥凹などがみられ,適切に治療しないと失明する.治療は,ゴニオトミーやトラベクロトミーなどの手術治療が有効で,薬物治療は無効である.治療は疾患が確定すればすぐにすべきであり,その患児の眼の一生を左右するので重要である.図1~3の症例は,生後5カ月で近医から紹介された男児で,両眼の角膜径は少し増大し,すでにHaab’sstriaeを認め,角膜もやや混濁していた.Haab’sstriaeは2本の平行する線が曲線を描いており,輪部に平行するような線もみられた.眼圧は40mmHg以上あった.眼底には視神経乳頭の陥凹もみられた.診断後すぐに全身麻酔下で両眼のトラベクロトミーを施行した.手術後眼圧は正常になり,角膜径も戻り,視神経乳頭の陥凹もなくなった.Haab’sstriaeは残ったが,幸い角膜の透明度に影響なく,視力は両眼とも1.2を維持している.内皮細胞は,角膜中央部で少し減少がみられる(図3)が,周辺部の内皮細胞にまだ余力があるので,定期的に経過を観察しているところである.現在,患者は19歳になり,現在も定期的に診察をして内皮細胞の減少がないかどうか,注意深く経過を追っているところである.なお,この所見にその名を残すOttoHaabは,1850年生まれのスイスの眼科医.1886年に有名なHornerの後をついでZürich大学の眼科学教授になった.1919年まで教授を務め,1931年に没した.文献1)川瀬和秀:早発型発達緑内障.今日の眼疾患治療指針(大路正人,山田昌和,野田徹編).p375-379,医学書院,20072)日本緑内障学会緑内障診療ガイドライン作成委員会:特集:緑内障診療ガイドライン(第2版):早発型発達緑内障.日眼会誌110:788,20063)AllinghamRR:Primarycongenitalglaucomas.Chapter14Childhoodglaucomas:Clinicalpresentation.InShields’textbookofglaucoma,6thed(AllinghamRR,DamjiKF,FreedmanSetal).p218-227,LippincottWilliams&Wilkins,Philadelphia,2011

眼のサルコイドーシス

2016年4月30日 土曜日

特集●眼の先制医療あたらしい眼科33(4):535〜541,2016眼のサルコイドーシスOcularSarcoidosis丸山和一*はじめにぶどう膜炎は大学病院外来診療の2%を占める.そのなかでサルコイドーシスによるぶどう膜炎は比較的多くみられる疾患であり,診断がつけば治療方針や経過を予測することが可能な疾患である.しかし,他の眼疾患と同様,同じ疾患でも個人間では様相が変化し,さまざまな病態が絡み診断が困難である症例が多々ある.サルコイドーシスは原因が未だ究明されておらず,治療法も現在までステロイド投与などの対症療法しか存在していなかった.しかし近年,眼内液・眼内組織解析により直接的に眼内液の病原体DNA,浸潤細胞分画を確認することで,病態の把握を行い診断する方法が確立されてきている.これらの検査法の発達により,サルコイドーシスぶどう膜炎の原因と考えられる候補が浮上してきた.筆者らはその候補病原体に対する免疫反応をもとに診断・治療を試みている.Iサルコイドーシスの病態と分類サルコイドーシスは,眼・心・皮膚・肺など全身の組織または臓器に非乾酪性肉芽腫を作り,多彩な臨床所見を呈する原因不明の疾患である.肺においては胸部両側肺門リンパ節腫脹(bilateralhilarlymphadenopathy:BHL)を呈し,また肺の線維化を誘導し,間質性肺炎を発症することがある.皮膚では特徴的な痛みを伴わないサルコイドーシス皮膚結節を発症する.心臓においては肉芽腫の伝導障害による不整脈や心室中隔に発症する肉芽腫により,心室中隔の菲薄化が起こり,その結果,大動脈弁閉鎖不全による心不全を誘発することがある.サルコイドーシスによるぶどう膜炎は,全身における炎症の活動性や重症度が低くても,重度なぶどう膜炎を呈することがあり,眼科所見よりサルコイドーシスと判明することもしばしばある.実際,ぶどう膜炎を発症するサルコイドーシスは40~60%とされている.サルコイドーシスの発症率は年齢分布において二峰性であり,好発年齢は20~30代(若年者発症)と50~60代(中高齢者発症)であり,男女比では女性にやや多く,とくにぶどう膜炎を発症する中高齢者発症の多くが女性であることが特徴的である.筆者らは眼所見が主体のものに対してはInternationalWorkshoponOcularSarcoidosis(IWOS)基準1)を使用し,眼サルコイドーシスを分類している.網膜血管炎や硝子体混濁は年齢に関係なく認められるが,筆者らは,若年者発症の場合,前眼部の肉芽形成,視神経肉芽腫や網膜後極部を中心とした血管炎を特徴とするが,それに対して中高年齢発症では,前眼部の肉芽形成は少なく,硝子体混濁が主で網膜周辺部の滲出斑や網膜血管炎を呈する(図1)ことを見いだした.このため年齢により,ぶどう膜炎発症の機序が異なることも示唆される.現在,筆者らはサルコイドーシス患者の眼内液(前房水・硝子体液・摘出した網膜前膜)などの解析を行い,病態の把握を試みている.IIぶどう膜炎の診断法ぶどう膜炎で外来受診する約30%が原因不明に分類されることは,大黒らの報告で明らかになっている2).しかし近年,ぶどう膜炎に対する診断技術や薬物療法・手術療法の向上により,それまで原因不明とされていたぶどう膜炎の原因が究明されてきている.近年の注目すべき眼内液診断法として,眼内液multiplexPCR検査3),サイトカイン解析4),硝子体細胞解析5~8),摘出した組織(黄斑前膜)の解析があげられる.これらはぶどう膜炎研究のなかでは画期的な診断法である.MultiplexPCR(polymerasechainreaction)検査は感染性ぶどう膜炎には有用である.臨床所見のみでは診断に苦慮し,対症療法を施行している症例のなかには,本法により診断結果を得ることがあり,適切な治療へ速やかに移行することができる症例も存在する.実際,筆者らは今までに150例ほど前房水の解析を行ってきたが,今回初めて活動性の高いサルコイドーシス患者の前房水からPropionibacteriumacnes(P.acnes)のDNAを高コピー数で検出した(図2).硝子体手術時に施行される硝子体細胞解析(サイトカイン測定を含む)は,硝子体内に存在する細胞群を解析することで,その疾患の大まかな病態を推測できる.とくにサルコイドーシス内眼炎とその他のぶどう膜炎の診断には有用であると報告されている7,8).以前に筆者らは硝子体手術で得られたサンプルをフローサイトメトリーで解析した結果,サルコイドーシス診断のために施行される肺胞洗浄検査(bronchoalveolarlavagefluid:BALF)で得られるのと同様の検査データを得られることを報告した.BALFでは,炎症が存在する局所にてCD4陽性T細胞の分画がCD8陽性T細胞と比較すると明らかに増加し,CD4/CD8比が高値であることが報告されており,その値が3.5より高値であるならサルコイドーシスと診断される.硝子体内でも同様で,サルコイドーシスと診断可能であった患者から採取した硝子体内CD4/CD8比はかなり高値であった(図3)9).他のぶどう膜炎疾患ではこのような特異的な分画が存在せず,サルコイドーシス内眼炎に特異的な値であることが判明した.サルコイドーシス内眼炎ではCD4/CD8比が比較的高値である(つまりCD4陽性率が高い)ことは,サルコイドーシスの病態が反映しているものと考える.サルコイドーシスは全身に非乾酪性肉芽腫を呈する病態である.この肉芽腫形成に,細菌であるP.acnesとCD4陽性T細胞が関与している可能性がある.以前よりサルコイドーシスの発症には何らかの細菌感染(結核菌を含む)が関与していることが示唆されていた.Hommaらが報告したようにP.acnesは,局所のサルコイドーシス病変部位(とくにリンパ節)を採取し,細菌培養したところ,唯一高い確率で分離できた細菌である10).P.acnesは皮膚常在菌のグラム陽性桿菌であり,皮膚科領域では尋常性挫創,眼科領域では眼瞼炎や術後遅発性眼内炎との関連が示唆されている.P.acnesは,サルコイドーシス患者において組織学的に非乾酪性肉芽腫の中に存在していることが,多くの臓器・組織検査にて証明されている.サルコイドーシスの病態に関与する細菌でP.acnesとよく比較されているのがMycobacterium属の細菌(とくに結核菌)である.しかし,以前のInternationalCollaborativeStudyにおいて,結核菌DNAがサルコイドーシス患者では陽性率が約0~9%に対して結核患者のサンプルからは65~100%となっており,サルコイドーシスの病態に結核菌の関与は少ないと考えられている.さらに本国における大規模な研究においても,サルコイドーシス患者の組織サンプル培養において,約80%からP.acnesが分離され,Mycobacterium属の細菌は検出されていない.これらの研究は2度繰り返されており,さらには皮膚などのP.acnesの遺伝型と異なることを示していて,培養中のコンタミネーションは認めていないと報告されており,組織特異的なP.acnesの感染と考えられている.眼科領域では日本肉芽腫性疾患・サルコイドーシス学会にて,東京医科大学眼科学教室の後藤浩教授が硝子体手術時に得られた黄斑前膜より,肉芽腫とその中に存在するP.acnesを免疫染色にて検出しており11),サルコイドーシによるぶどう膜炎においてもP.acnesが関与していることが判明している.IIIP.acnesの同定Negiらは,P.acnesのmembrane-boundlipoteichoricacid(PAB)とribosome-boundtriggerfactorprotein(TIG)抗体で,P.acnesを免疫染色specificantibody(PABantibody)を用いてサルコイドーシス患者の肺組織とリンパ節を染色した12).その結果,PAB抗体による染色では,気管支生検によるサンプルからは48%,リンパ節からは88%と高い確率で染色されたのとは対照的に,結核患者やその他の肺疾患から得られたサンプルの染色ではまったく免疫染色の反応は認められなかった.このことから,PAB抗体はP.acnesに特異的な抗体であることがわかり,今現在もサルコイドーシスによる肉芽腫におけるP.acnesの存在を確認するため用いられている.IV宿主のP.acnesへの免疫反応ここまででサルコイドーシスの発症にP.acnesが強く関与していることは疑う余地はないが,ではなぜ常在菌であるP.acnesに免疫反応が起こるのかは疑問である.以前よりKveimtestがサルコイドーシスの診断に用いられているが,これはサルコイドーシス患者の肉芽腫を潰して加熱し滅菌した懸濁液を,サルコイドーシスを疑う患者の皮内に注射すると約70~80%の人に1週間以内に丘疹が出現し,4~6週間で最大となる反応である.この注射部分を採取し,サルコイドーシスに類似した肉芽腫の形成を認めれば,丘疹の出現がなくともKveim反応陽性と判定できる.これはIV型アレルギーの一種であるため,抗原が肉芽腫の中に存在しなければ本テストのように遅延型過敏反応は起こらない.このことから肉芽腫のなかには抗原であるP.acnesが存在していることが推測される.近年はサルコイドーシス患者の肉芽腫が入手困難となっているため,Kveimtestを施行する頻度が低下している.P.acnes抗原に対する過敏性の反応は誰にでも発生するものではなく,以前からサルコイドーシスではホストの要因が病因よりも重要であることが報告されている.先にも述べたがKveim反応は正常の人間や他疾患に罹患している人には起こらず,サルコイドーシス患者のみにみられる反応である.サルコイドーシス患者の炎症反応には,多くのT細胞(とくにCD4細胞)やマクロファージからのTh1型の炎症性サイトカイン産生が関与している.そのため,サルコイドーシス患者でP.acnes感染がサルコイドーシスの病態に関与しているなら,P.acnesに対するTh1反応が強く認められると考えられる.Ebeらはサルコイドーシス患者のみが免疫反応をしめすPropionibacterium属の抗原を探索し,RP35という蛋白をサルコイドーシス患者から見いだし,RP35がサルコイドーシス患者のPBMC(peripheralbloodmononuclearcell)の増殖を促進させることを報告した13).さらにFurusawaらはP.acnesの生菌を用いてサルコイドーシス患者のPBMCによるIL-2の産生について検討を行った結果,サルコイドーシス患者のPBMCからのIL-2産生が,コントロール群よりも有意に高い値であったことを報告している14).他の研究においても,サルコイドーシス患者より集めた気管支肺胞洗浄液をP.acnesで刺激したところ,IL-2の産生が増加したとの報告もある.実際サルコイドーシス患者の肺胞洗浄液よりP.acnesのDNAが確認されたのは70%にのぼり,コントロールの23%と比較すると有意な差があると考えられる.これらの結果より,やはりサルコイドーシスの病態にはP.acnesが関与していることが示唆される.Th1effector細胞はINF-gを産生し細胞内感染に対する免疫反応を誘導し,逆にTh17細胞はIL-17を産生し細菌感染に対する免疫反応から守る役割をもっている.サルコイドーシス患者では,PBMCからのIL-2の産生が増加しているため,Th17細胞の誘導が抑制されている(IL-2はTh17細胞の誘導を抑制)ことが考えられる.実際,サルコイドーシス患者ではTh17細胞の誘導が抑制されており,細菌感染に対する免疫反応が障害されていることが報告されている14).また,サルコイドーシス患者の肺胞洗浄液より採取したCD4陽性T細胞は,多くはTh1タイプのサイトカインであるIL-2やIFN-g,TNF-aを産生するが,いくつかはTh2サイトカインを産生することも知られている.サルコイドーシスの病態である肉芽腫形成にはこのTh1/Th2バランスが関与するとの報告がある.つまりTh2サイトカインである線維化を誘導するIL-4などが,Th1サイトカインであるIFN-gさらにはTNF-aにより抑制されていることがわかっている.V眼科領域(硝子体)における免疫反応筆者らは,現在までにサルコイドーシス内眼炎の硝子体液をフローサイトメトリーやmultiplexELISA(enzyme-linkedimmunosorbentassay)にて測定した値を報告してきた15).その結果,CD4陽性細胞が多く,種々の炎症性サイトカインがサルコイドーシス内眼炎における硝子体液中で高いことが判明した.そのなかでも硝子体中,血清中ともにコントロールと比較すると高値であったのがケモカインの一種であるIP-10である.IP-10は,以前からサルコイドーシスに罹患した患者血清で上昇することが知られている.働きとしては活性化Th1細胞に関連して,さらなるTh1細胞の遊走を促進する16).このことから,今後の診療でサルコイドーシス内眼炎を疑う場合,硝子体液や血清のIP-10を測定することが診断の補助になる可能性がある.しかし,他のぶどう膜炎でも硝子体内のサイトカイン濃度は上昇するため,さらに疾患を集めサルコイドーシスに特異的なサイトカインを探索する必要がある.残念ながら,現在のところ硝子体液よりバイオマーカーとなるサイトカインは発見されていないが,臨床所見と照らし合わせると.興味深い発見ができた.それは臨床所見と硝子体液中で上昇するサイトカインの種類を照らし合せ,病態におけるサイトカインの種類が,病期に関与する可能性である.ぶどう膜炎では視力予後に黄斑浮腫の有無が重要になる.黄斑浮腫が軽度のものでは,急性期サイトカインであるIL-1ra,IL-4,IL-8,IFNgamma,IP-10,MIP-1beta,RANTEsなどが高値を示すのに対し,黄斑浮腫が高度のものでは(図4),PDGFBB,IL-12,G-CSF,VEGFなど血管透過性亢進するサイトカイン濃度が高い傾向がみられる(図5)15).このことより,網膜血管が破綻する前に手術にて急性期の炎症性サイトカインなどを除去したほうがよいことが考慮される.今回,筆者らはIL-2を測定しておらず,今後,硝子体液においてもIL-2の濃度を測定することが重要であると考える.VI動物実験モデルの検討病態の本質に迫るため,これまで研究者たちは,どのような疾患に対しても,動物実験を用いて病態やその治療法について検討してきた.サルコイドーシスも例外ではなく,現在までに多くの動物実験モデルを試している17).マウスモデルではP.acnesの静脈注射により肝臓の肉芽腫形成を誘導可能であるが肺の病変はみられていない.しかし,ラットやウサギでは静脈注射により肺の病変を誘導できることがわかっている.さらに(熱処理した)P.acnesやRP35の蛋白を用いて免疫をつけたモデルでは肺の肉芽腫をマウスでも観察できることを発見した.元来,正常の肺やリンパ節でもP.acnesがわずかに存在していることが知られている,このためすでにマクロファージ,T細胞などはP.acnesに暴露されておりP.acnesに対する免疫反応が誘導されていると考えられている.そのためP.acnesに感作されたCD4T細胞をnaïveマウスにadoptivetransferすることで,肺に肉芽腫が形成されることが報告されている.つまり常にP.acnesに感作されたT細胞を供給することで,肺に肉芽腫を形成することが可能と考えられる.しかし,未だに眼科領域のモデルはなく,今後種々の実験方法を改良し,ぶどう膜炎を誘導するモデルを作製することが重要であると考える.これらのモデルは治療法の探索にも用いられており,実際にアジスロマイシンやミノサイクリンを投与すると肉芽腫形成が妨げられることが報告されており,モデル動物ができれば治療法の発展に有効であると考える.VII治療法眼科領域では,サルコイドーシス内眼炎の治療にはステロイドを使用している.他の領域でも同様で,約50年にわたり,ステロイドを使用した免疫抑制療法を選択している.しかし,本稿でも述べたようにサルコイドーシスは細菌であるP.acnesの感染による免疫反応であるため,長期間のステロイド投与はさらにP.acnesの感染を増幅させる可能性がある.しかし,潜在的な感染であれば治療することが困難であり,いくら抗菌薬を使用しても炎症が再活性する可能性がある.そこで登場したのがミノサイクリンである.現在ミノサイクリンは尋常性乾癬(ニキビ)の治療に用いられ,有効性があることが報告されている.さらに日本のグループでは,Babaらがミノサイクリンとクラリスロマイシンを併用し,ステロイドで治療困難であった肺病変を改善したと報告している18).眼科領域でもParkらがサルコイドーシス眼瞼炎をミノサイクリンで治療が可能であったと報告しているが19),近年ではTheMarshallprotocolがあり20),これはミノサイクリンにアジスロマイシンまたはクリンダマイシンを使用した治療法であり,約62%のサルコイドーシス患者に有効であったと報告されている.しかし,未だ眼内病変に対する治療は報告されていないため,今後ステロイドにより炎症反応を抑制し,抗菌薬の使用も考慮する必要があるかもしれない.まとめサルコイドーシスによるぶどう膜炎は,種々の検査で診断が可能となってきた.そして近年,サルコイドーシスの発症に関与する可能性のある病原菌が探索された結果,候補となる病原菌を特定することができた.その病原菌がぶどう膜炎をも引き起こす可能性があるため,今後は詳細な検討を行い,サルコイドーシスによるぶどう膜炎の診断・治療に一石を投じたい.文献1)HerbortCP,RaoNA,MochizukiM:Internationalcriteriaforthediagnosisofocularsarcoidosis:resultsofthefirstInternationalWorkshopOnOcularSarcoidosis(IWOS).OculImmunolInflamm17:160-169,20092)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20123)SugitaS,OgawaM,ShimizuNetal:Useofacomprehensivepolymerasechainreactionsystemfordiagnosisofocularinfectiousdiseases.Ophthalmology120:1761-1768,20134)NagataK,MaruyamaK,UnoKetal:Simultaneousanalysisofmultiplecytokinesinthevitreousofpatientswithsarcoiduveitis.InvestOphthalmolVisSci53:3827-3833,20125)DavisJL,ChanCC,NussenblattRB:Diagnosticvitrectomyinintermediateuveitis.DevOphthalmol23:120-132,19226)DavisJL,MillerDM,RuizP:Diagnostictestingofvitrectomyspecimens.AmJOphthalmol140:822-829,20057)DavisJL,VicianaAL,RuizP:Diagnosisofintraocularlymphomabyflowcytometry.AmJOphthalmol124:362-372,19978)KojimaK,MaruyamaK,InabaTetal:TheCD4/CD8ratioinvitreousfluidisofhighdiagnosticvalueinsarcoidosis.Ophthalmology119:2386-2392,20129)KojimaK,MaruyamaK,InabaTetal:TheCD4/CD8ratioinvitreousfluidisofhighdiagnosticvalueinsarcoidosis.Ophthalmology119:2386-2392,201210)HommaJY,AbeC,ChosaHetal:Bacteriologicalinvestigationonbiopsyspecimensfrompatientswithsarcoidosis.JpnJExpMed48:251-255,197811)後藤浩,馬詰朗比古,江石義信:眼サルコイドーシスの眼内病変におけるP.acnesの検出.日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会雑誌34:50-52,201412)NegiM,TakemuraT,GuzmanJetal:Localizationofpropionibacteriumacnesingranulomassupportsapossibleetiologiclinkbetweensarcoidosisandthebacterium.ModPathol25:1284-1297,201213)EbeY,IkushimaS,YamaguchiTetal:ProliferativeresponseofperipheralbloodmononuclearcellsandlevelsofantibodytorecombinantproteinfromPropionibacteri-umacnesDNAexpressionlibraryinJapanesepatientswithsarcoidosis.SarcoidosisVascDiffuseLungDis17:256-265,200014)FurusawaH,SuzukiY,MiyazakiYetal:Th1andTh17immuneresponsestoviablePropionibacteriumacnesinpatientswithsarcoidosis.RespirInvestig50:104-109,201215)NagataK,MaruyamaK,UnoKetal:Simultaneousanalysisofmultiplecytokinesinthevitreousofpatientswithsarcoiduveitis.InvestophthalmolVisSci53:3827-3833,201216)AgostiniC,CassatellaM,ZambelloRetal:InvolvementoftheIP-10chemokineinsarcoidgranulomatousreactions.JImmunol161:6413-6420,199817)EishiY:EtiologiclinkbetweensarcoidosisandPropionibacteriumacnes.RespirInvestig51:56-68,201318)BabaK,YamaguchiE,MatsuiSetal:Acaseofsarcoidosiswithmultipleendobronchialmasslesionsthatdisappearedwithantibiotics.SarcoidosisVascDiffuseLungDis23:78-79,200619)ParkDJ,WoogJJ,PulidoJSetal:Minocyclineforthetreatmentofocularandocularadnexalsarcoidosis.ArchOphthalmol125:705-709,200720)MarshallTG,MarshallFE:Sarcoidosissuccumbstoantibiotics–implicationsforautoimmunedisease.AutoimmunRev3:295-300,2004*KazuichiMaruyama:東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科・視覚科学分野〔別刷請求先〕丸山和一:〒980-8674仙台市青葉区星陵町1-1東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座眼科・視覚科学分野0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(53)535図1サルコイドーシス内眼炎の眼底写真周辺部網膜に滲出斑を認める.図2サルコイドーシス内眼炎の前眼部写真豚脂様角膜後面沈着物を多数認める.前房水からP.acnesDNAを確認できた.536あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(54)図3サルコイドーシス内眼炎における硝子体液解析の結果硝子体液をフローサイトメトリーにて解析.CD4/CD8比がnonsarcoidosisよりもsarcoidosis群で高値であることがわかる.(文献9の図を改変し転載)(55)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016537538あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(56)図4サルコイドーシス内眼炎における黄斑浮腫多数回のステロイドTenon囊下注射を施行した慢性期の状態.黄斑部に囊胞様変化を認める図5慢性期サルコイドーシス内眼炎の硝子体内サイトカイン解析結果黄斑浮腫が高度な状態における硝子体内サイトカイン.PDGF-BB,G-CSF,IL-12,VEGFといった血管透過性亢進に関連したサイトカインの上昇を認める.(文献15の図を改変し転載)(57)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016539540あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(58)(59)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016541

Vogt-小柳-原田病および交感性眼炎とHLA

2016年4月30日 土曜日

特集●眼の先制医療あたらしい眼科33(4):529〜533,2016Vogt-小柳-原田病および交感性眼炎とHLAHLAAssociationsinVogt-Koyanagi-HaradaSyndromeandSympatheticOphthalmia河越龍方*水木信久*はじめにVogt-小柳-原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease:VKH)および交感性眼炎は,自己のメラノサイトに対して免疫反応が起きる疾患であると考えられている.以前よりHLA(humanleukocyteantigencomplex)と疾患の濃厚な関与がわかっている.最近になり,大規模集団を対象とした遺伝子研究も報告されはじめている.本稿では,現在までに遺伝子解析によりわかってきた知見について概説し,最後に先制医療の可能性についても考察する.IHLAとVKH・交感性眼炎1.HLAについてHLAはヒトの主要組織適合遺伝子複合体で,第6染色体短腕上約400万塩基対の領域にコードされる遺伝子群である.この領域は遺伝子密度および遺伝的多型がきわめて高い領域である.HLAは自己と非自己を認識する機能をもち,免疫応答の誘導に深くかかわり,感染症・癌・自己免疫疾患・移植片拒絶反応において中心的な役割をしている.HLAは古典的クラスI(HLA-A,B,C),非古典的クラスI(HLA-E,F,G),およびクラスII(HLA-DR,DQ,DP)などに大別される.HLAは遺伝的多型に富むため,その組み合わせによってさまざまなハプロタイプ(1個の染色体上に存在する連鎖している対立遺伝子のセット)を形成している.減数分裂時のHLA遺伝子領域での組み換え率は低く,通常では両親のハプロタイプはそのまま子に受け継がれる.HLAクラスI分子はほぼすべての細胞に発現し,HLAクラスII分子は樹状細胞,マクロファージ,B細胞といったプロフェッショナル抗原提示細胞に発現する.HLAクラスI分子は内在性抗原ペプチドをCD8陽性キラーT細胞に,HLAクラスII分子は外来性抗原ペプチドをCD4陽性ヘルパーT細胞に抗原提示し免疫応答が起こる.HLA型の同定には既知のHLA抗血清を用いた血清学的方法がとられていたが,1980年代後半から1990年代にかけてDNAタイピングが行われるようになり,さらに最近ではシークエンスも行われるようになり,遺伝子レベルでのより詳細なHLA分類が可能となった.2.VKHとHLAぶどう膜炎に関しては古くよりHLA解析が行われており1),VKHにおいても強い相関をもつことがわかっている2,3).現在ではHLAクラスIIのHLA-DRのうちHLADRB1(HLA-DRの細胞外ドメインはaとbからなり,b1ドメインはDRB1によりコードされる)に疾患感受性があるとわかっている(図1).日本人VKHおよび交感性眼炎を対象としたHLA解析の報告を表にまとめた(表1).新藤らは日本人VKH患者集団を対象とした解析で,VKH63例中全例でHLA-DR4(DRB1*0405が95.2%,DRB1*0410が7.9%)を認めたことを報告した4).また,強い連鎖不平衡のためHLA-DQB1*0401も92.1%で認められた.イスラムらは日本人VKH患者の臨床病型とHLA型との相関を調べている5).VKH患者54例中,遷延化型27例,非遷延化型15例,経過観察が短かったために分類できなかったもの12例を対象とした.全症例中92.5%でHLA-DR4が陽性であった.遷延化型では,27例中全例でHLA-DR4(DRB1*0405が25例,DRB1*0410が2例)陽性であった.非遷延化型では,15例のうち13例でHLA-DR4陽性,2例で陰性であった.HLADR4陽性非遷延化型13例のうちDRB1*0405およびDRB1*0410とも陰性例が4例存在した.DRB1*0405およびDRB1*0410陽性患者では遷延化型になる傾向があった.堀江らは,日本人VKH患者87例を調べ,81.6%でHLA-DR4陽性(DRB1*0405が70.1%,DRB1*0410が11.5%,DRB1*0403が3.4%,DRB1*0406が2.3%)であったと報告している6).雪田らは,日本人VKH患者21例を対象とした調査で,DRB1*0405が90.5%において,DRB1*0410が23.8%において認め,すべての症例においてDRB1*0405またはDRB1*0410のいずれかあるいは両方を有していたと報告した7).表には載せていないが,VKHはおもにモンゴロイドに発症する疾患であり,韓国人,中国人,ヒスパニックなどにおいてもHLA-DR4が疾患と強い相関があると報告されている8).3.交感性眼炎とHLA交感性眼炎は片眼の穿孔性眼外傷あるいは内眼手術後に,両眼性にぶどう膜炎を生じる疾患であり,眼症状以外もVKHと類似の病態をきたす.VKH同様にHLAの関与が大きいことがわかっている9~11).英国人交感性眼炎27例を対象とした調査ではDRB1*0405ではなくDRB1*0404に相関があった(DRB1*0404は患者18.5%に対し健常人3.9%)11).日本人交感性眼炎患者16例を調べた調査では,HLA-DR4が93.3%に認められた(DRB1*0405が81.3%,DRB1*0410が6.3%)12).この結果は遺伝学的にも交感性眼炎とVKHが類似の疾患であることを示している.IIその他疾患感受性遺伝子1999年ヒトの全塩基配列情報が明らかにされて以来,1塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)解析研究が,以前よりも盛んに行われるようになった.SNPはDNA上に数百万カ所存在すると考えられ,ヒト集団内で高頻度に存在するSNPは,疾患関連遺伝子の目的変異位置を特定するためのマーカーとして使用される.大規模な疾患群と健常者群のサンプルを用い,全DNA上のSNPを網羅的に調べ比較検討するゲノムワイド関連解析(genomewideassociationstudy:GWAS)は,2000年代半ばころより爆発的に行われて,数多くの疾患特異的な遺伝的多型が報告されている.VKHは,眼,皮膚,内耳,髄膜といったメラニンを含む組織に発症し色素の脱失を伴うこと,また病理組織像から,自己のメラノサイトを標的とした疾患と考えられている.メラノサイトでは,チロシナーゼの働きによりチロシンからドーパを経て最終的にメラニンが生成される.そこでチロシナーゼ遺伝子ファミリーのSNP検索が行われたが,遺伝子自体には健常人との間に差はみつからなかった6).2014年中国人VKH患者集団を対象として,VKHでは初の大規模GWASの結果が報告された13).IL23RC1orf141,ADO-ZNF365-EGR2,HLA-DRB1/DQA1の3領域が同定された.IL23Rに関しては,リスクSNPを保有することにより,そのmRNA発現が低下することがわかった.日本人集団を対象としたGWAS解析結果はまだ報告されておらず,その解析結果が待たれるところである.IIIその他因子とVKH胸腺でのT細胞の分化において,自己抗原に対しては負の選択が働き,本来は自己の抗原には反応しない状態(免疫寛容状態)が誘導されている.しかしVKHでは,何らかの理由で自己免疫寛容状態が崩れ,自己のメラノサイトに対して免疫応答が生じると考えられる.山木らは,チロシナーゼおよびそのファミリー分子由来のペプチドが,VKH患者末梢血中リンパ球を活性化させることを示した(HLA-DRB1*0405陽性の健常人でもこの反応は示さなかった)14).自己免疫寛容状態が崩れる理由として,何らかの病原体由来抗原と自己抗原が類似することにより,病原体抗原だけでなく自己に対しても交叉反応するという分子擬態の機序が発症にかかわっていることも疑われる.杉田らは,VKH患者には,メラノサイトに発現するチロシナーゼやgp100を,HLA-DRB1*0405を介して認識するCD4陽性T細胞が存在するということを示した15).また,データベーススクリーニングによって,チロシナーゼとCMVのエンベロープ蛋白において,類似性のあるペプチド領域が存在することを示した.両ペプチドともHLA-DRB1*0405拘束性であり,実際にこれら2つのペプチドを同時に抗原として認識するT細胞クローンがVKH患者には存在することも示された.この事実よりVKHとCMVの関係性を調べた結果,VKH患者の前房水・血清・髄液中にはCMVそのものは検出できなかった.しかし,VKHではCMVに対する血清抗体の陽性率が高いことがわかっている(VKHで98%,その他では80%).これらの研究により,交叉反応によりCMVがトリガーとなりVKHが発症する可能性が示された.しかし,HLA-DRB1*0405とCMV感染は通常みられることであり,通常はこのことだけでVKHが発症することはない.他の因子が何なのか,どのようにして交叉反応が引き起こされるかはわかっていない.おわりにHLA-DR4はVKHあるいは交感性眼炎と強い相関を示すが,ほかにも関節リウマチやインスリン依存型糖尿病にも関与していることが知られている.HLA-DR4は日本人集団において珍しいHLA型ではなく,一般的にみられるものである(遺伝子頻度はHLA-DRB1*0405で13.515%,HLA-DRB1*0410で2.117%:HLA研究所)(HLA-DRB1*0405で13.27%,HLADRB1*0410で2.09%:中央骨髄データセンター).最近の中国人VKH患者を対象としたGWASで明らかになったHLA以外のIL23Rなどの疾患感受性遺伝子についても,その変異だけで疾患が発症するものではない.VKHでは,HLA-DR4を保有し,ほかの免疫関連遺伝子に変異が存在し,微生物感染など環境因子に暴露する,これらのリスク因子が重なると発症するという多因子疾患の機序が予測される(図2).VKHや交感性眼炎における先制医療の可能性を考えると,上述のようにDRB1*0405とDRB1*0410は決して稀な型でないため,HLAのジェノタイピングだけでは発症予測や予防といったことはできない.しかし以前の報告では,遷延例においてDRB1*0405とDRB1*0410を保有する割合が高いことがわかっているため,疾患発症後の治療方針には役立つ可能性もある.これから,高速シークエンスの登場により,全ゲノム(あるいは全エキソン)の解読による,より詳細な疾患関連遺伝子探索も行われていくであろう.疾病にかかわる変異の多くが生物学的に比較的最近発生したとも考えられており,GWAS解析では扱われていなかった希少変異(レアバリアント)が,今後高速シークエンスによって明らかになり,これまで考えられなかったような結果がもたらされることも考えられる.今後さらなる遺伝子解析で新たな疾患感受性遺伝子が明らかにされれば,それらを複合したVKH患者個人個人のオーダーメイド医療が実現できる可能性もある.文献1)ScharfY,ZonisS:Histocompatibilityantigens(HLA)anduveitis.SurvOphthalmol24:220-228,19802)TagawaJ,SugiuraS,YakuraHetal:HLAandVogt-Koyanagi-HaradaSyndrome.NEnglJMed295:173,19763)TagawaJ,SugiuraS,YakuraHetal:HLAandVogt-Koyanagi-HaradaSyndrome.JpnJOphthalmol21:22-27,19774)ShindoY,OhnoS,YamamotoTetal:CompleteassociationoftheHLA-DRB1*04and-DQB1*04alleleswithVogt-Koyanagi-Harada’sdisease.HumImmunol39:169-176,19945)イスラムSM,モノワルール,沼賀二郎ほか:フォークト-小柳-原田病の臨床経過とHLA-DR4サブタイプ.日眼会誌98:797-800,19946)HorieY,TakemotoY,MiyazakiAetal:TyrosinasegenefamilyandVogt-Koyanagi-HaradadiseaseinJapanesepatients.MolVis12:1601-1605,20067)雪田昌克,阿部俊明,高橋秀肇ほか:Vogt-小柳-原田病におけるHLA-DRB1*040501検出の頻度.あたらしい眼科27:129-132,20108)ShiT,LvW,ZhangLetal:AssociationofHLA-DR4/HLA-DRB1*04withVogt-Koyanagi-Haradadisease:asystematicreviewandmeta-analysis.SciRep4:6887,20149)OhnoS,IchibayashiY,IchiishiAetal:SympatheticophthalmiaandHLA.HLAinAsia-Oceania,740-742,Hokkai-doUnivercityPress,198610)DavisJL,MittalKK,FreidlinVetal:HLAassociationsandancestryinVogt-Koyanagi-Haradadiseaseandsympatheticophthalmia.Ophthalmology97:1137-1142,199011)KilmartinDJ,WilsonD,LiversidgeJetal:ImmunogeneticsandclinicalphenotypeofsympatheticophthalmiainBritishandIrishpatients.BrJOphthalmol85:281-286,200112)ShindoY,OhnoS,UsuiHetal:Immunogeneticstudyofsympatheticophthalmia.TissueAntigens49:111-115,199713)HouS,DuL,LeiBetal:Genome-wideassociationanalysisofVogt-Koyanagi-Haradasyndromeidentifiestwonewsusceptibilitylociat1p31.2and10q21.3.NatGenet46:1007-1011,201414)YamakiK,GochoK,HayakawaKetal:TyrosinasefamilyproteinsareantigensspecifictoVogt-Koyanagi-Haradadisease.JImmunol165:7323-7329,200015)杉田直:Vogt-小柳-原田病発症機構─メラノサイト自己抗原に対するTリンパ球反応.日眼会誌112:953-964,2008*TatsukataKawagoe&*NobuhisaMizuki:横浜市立大学学術院医学群医学部眼科学〔別刷請求先〕河越龍方:〒236-0004横浜市金沢区福浦3-9横浜市立大学学術院医学群医学部眼科学0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(47)529図1HLAクラスII分子HLAクラスII分子は取り込まれた外来抗原のペプチドを先端部分に収納し,CD4陽性T細胞に提示する.細胞外ドメインはa鎖とb鎖からなる.そのうちb1ドメインはHLA-DRB1によりコードされる.表1日本人Vogt-小柳-原田病(VKH)および交感性眼炎(SO)を対象としたHLA-DR4とサブタイプの頻度VKH著者/発表年HLA-DR4DRB1*0405(上段)DRB1*0410(下段)患者対照患者対照Shindoetal/1994100.0%50.0%95.2%7.9%26.7%0%イスラムら/199492.5%43.0%遷延化型非遷延化型93%7%53%13%28%6%Horieetal/200681.6%28.7%70.1%11.5%28.7%1.6%雪田ら/2010──90.5%23.8%─SOShindoetal/199793.3%42.0%81.3%6.3%26.0%2.0%患者群および対象群内におけるHLA-DR4の保有率と,ジェノタイプ(DRB1*0405とDRB1*0401の割合)を示す.530あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(48)(49)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016531図2VKH発症メカニズム(推測)1つの遺伝子により発症するわけではなく,多因子性に発症すると予測される.532あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(50)(51)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016533

強度近視の先制医療

2016年4月30日 土曜日

特集●眼の先制医療あたらしい眼科33(4):521〜527,2016強度近視の先制医療PrecisionMedicineinPathologicMyopia長岡奈都子*諸星計*大野京子*はじめに病的近視はわが国の主要な失明原因であり,平成17年度厚労省網膜脈絡膜・視神経萎縮症調査研究班報告書では,視覚障害認定(等級6級以上)の原因疾患として緑内障・糖尿病網膜症・網膜色素変性症・黄斑変性症についで5番目の原因であった.また,失明原因(視覚障害等級1級)では緑内障・糖尿病網膜症・網膜色素変性についで4位であった1).病的近視による視覚障害は,眼軸延長や後部強膜ぶどう腫形成に伴って眼底後極部に生じてくるさまざまな近視性眼底病変に起因する.本稿では強度近視に伴う合併症のリスクおよびその対処法を述べるとともに,近年における近視の予防療法や原因遺伝子の探索も紹介する.I強度近視および病的近視の定義強度近視および病的近視の定義は国際的にはいまだ確立されておらず,わが国ではおもに以下の項目が用いられる.眼軸長による定義の場合,カットオフ値は26mm以上からさまざまであるが,久山町研究によると正視眼(屈折度±0.5D以内)の眼軸長は23.3mmであり,正視眼の標準偏差より3倍以上長い眼軸長は26.8mmである.また,屈折度のカットオフ値も−6D,−8Dとさまざまであるが,所らの厚生省(現厚生労働省)網脈絡膜萎縮症調査研究班によると病的近視は「正視眼の眼軸長より標準偏差の3倍以上長い眼」と定義されており,それを屈折度に換算した−8Dが用いられることが多い2).その他,とくに病的近視に関しては,眼軸長・屈折度に加え眼底変化,定義,眼球形状との組み合わせによる定義が検討されている.筆者らは3D-MRIを用いて多数の強度近視眼の眼球形状を解析した結果,病的近視の眼球はおもに樽型,紡錘型,鼻側偏位型,耳側偏位型に分類できることを報告した3).近年ではOCTの進歩に伴ってより広範囲の撮影が可能となり,後部強膜ぶどう腫の判定や眼球形状解析への応用が期待されている.現時点では小児への適応も考慮し,年齢層に分けた眼軸長のカットオフ値および副次的な値として屈折度のカットオフ値の設定が望ましいと考えられる.II病的近視の病因・病態病的近視の病態の主体は眼軸延長と後部強膜ぶどう腫にあり,さまざまな近視性黄斑部病変や近視性視神経症が生じる原因となる.病的近視の眼球は前後方向の伸展だけではなく,眼底後極部の一部が後方に突出して後部ぶどう腫を形成することによりいびつに変形する.後部ぶどう腫は「眼球後部にみられる異なる曲率をもった突出」とSpaideにより定義されている眼球の形態異常である4)(図1).後部ぶどう腫は40歳頃から顕在化し,とくに視神経乳頭耳側に隆起(ridge)が形成されると,乳頭および黄斑部への機械的伸展が生じて視神経障害や黄斑部の牽引性変化が増強する.すなわち加齢に伴う後部強膜の形状変化により,視神経および黄斑部の病的変化が惹起されると考えられる.先述した3D-MRIを用いて強度近視眼の眼球構造を調べると,眼球全体が樽のように長くなり角膜周辺部,眼球赤道部,後極部のすべてが伸展しているものから,ほぼ正視眼に近い球形の眼球に明瞭な境界を有するぶどう腫が付随するものまで,その形状にはさまざまなバリエーションがある.これまで後部ぶどう腫の分類にはCurtinによる10のタイプが用いられ,I~Vの基本タイプと,複数のぶどう腫が混在する複合型であるVI~Xのタイプとに分類されてきた5).近年,筆者らは3D-MRIと広角眼底撮影を用いた解析をもとに新たなぶどう腫の分類(広域で黄斑を含む後部ぶどう腫,狭域で黄斑を含む後部ぶどう腫,視神経乳頭周囲後部ぶどう腫,鼻側後部ぶどう腫,下方ぶどう腫,その他)を提唱している6).III近視性脈絡膜新生血管近視性脈絡膜新生血管(myopicchoroidalneovascularization:mCNV)は,強度近視患者の視力障害の原因としてもっとも重要である.筆者らの施設で強度近視患者を3年以上経過観察したところ,約10%に新たなmCNVの発症がみられ,また片眼発症例の1/3は約半年を経て僚眼にもCNVの発症が認められた7).現在行われているmCNVのおもな治療法は抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)療法であり,ラニビズマブ(ルセンティス®)もしくはアフリベルセプト(アイリーア®)が用いられる.一般に短期の治療成績は良好であるが,長期経過では中心窩下のCNVの場合,線維性瘢痕組織として残存し,CNV周囲の黄斑部萎縮が拡大するため視力予後は徐々に低下する(図2).現在のところ黄斑部萎縮の発症および拡大を予防する手段はなく,mCNVにおける先制医療の次なる目標として今後の研究に期待される.IV近視性牽引黄斑症近視性牽引黄斑症(myopictractionmaculopathy:MTM)は,強度近視眼にみられる牽引に伴った黄斑部網膜の障害を示す総称であり,眼軸延長に伴う網膜の機械的な伸展と硝子体による網膜の牽引により生じると考えられている8).筆者らの施設では網膜分離の有無と範囲,また黄斑前膜,硝子体黄斑牽引,黄斑部網膜剝離,黄斑内層分層円孔といった合併症の有無に基づいてMTMを分類している9).黄斑部網膜剝離や全層黄斑円孔,黄斑円孔網膜剝離といったより重篤な合併病変への進行予防やその治療のために,MTMに対する硝子体手術が広く施行されている(図3).MTMの初期や,すでに近視性眼底病変により変視症や視力低下をきたしている症例では自覚症状を伴わない場合が多く,適切な手術時期を逃さないためにも強度近視眼では定期的にOCTを施行しておくことが望ましい.V近視性視神経症(または近視緑内障)強度近視眼ではしばしば眼底病変では説明できない視野欠損が認められる.また,視神経乳頭はさまざまな形状を呈し,巨大乳頭や小乳頭,傾斜乳頭のほかに顕著な眼球形状変化に伴い視神経乳頭自体の観察が検眼的に困難な症例も散見される(図4).強度近視眼での視神経は乳頭および周囲の形状変化により機械的障害をきたしていると考えられるため,緑内障性障害の診断が困難である症例も多く,近視性視神経症(または近視緑内障)という疾患概念が提唱されている.筆者らの施設で強度近視患者を5年以上経過観察したところ,全体の13.2%に新たな視野欠損が出現し,経過観察中に74%に有意な視野欠損の進行がみられた10).また,強度近視眼の視神経乳頭をBeijingEyeStudyの基準をもとに巨大乳頭,正常乳頭,小乳頭に分類し検討したところ,視神経乳頭面積が3.8mm2以上の巨大乳頭の症例では緑内障の頻度が高く,巨大乳頭の症例は正常もしくは小乳頭の症例と比較して緑内障性視神経症のリスクが3.2倍高いという結果であった11,12).近視性視神経症(または近視緑内障)では初期より黄斑線維束が障害される症例も比較的多いとされており,早期の発見が進行予防のために必要である.現在では緑内障に準じた眼圧下降や眼循環改善の治療が行われているが,一部の症例では治療しても徐々に視野欠損が拡大し,確立した治療法はない.VI近視発症における環境因子と遺伝的要因これまでに病的近視の病態や合併症について述べたが,先制医療の目標とすべきところは病的近視の発症そのものの解明および予防の手段と考える.一般に近視の発症には環境因子と遺伝的要因が関連することは広く知られている.まず環境因子に関する検討であるが,小児の近視進行に関するコホート研究として代表的なものにOrindaLongitudinalStudyofMyopia(OLSM),SingaporeCohortStudyoftheRiskFactorsforMyopia,SydneyMyopiaStudyなどがある13~16).これまでに近業や学歴の高さ,戸外活動の少なさが近視発症や進行に関連していると報告された.近業が近視化を促進する機序には調節が関与していると考えられてきたが,さらに近年では視軸中央ではなく周辺部の屈折が近視化に関与している可能性が示唆されている.Hungらはサルの実験近視モデルを用いて,周辺部の遠視が眼軸延長のボケシグナルとして働くことを示した17).Chenらは視軸中央と周辺の屈折度を測定した結果,近視眼では正視眼と比べ周辺部がより遠視側にシフトしていることを示した18).そこで近年では近視進行に関して,調節ラグ理論のほかに軸外収差理論が提唱されている.また,近視に抑制的に働くと示された屋外活動は近業の軽減に関与すると考えられるが,Wangらはモルモットを白色光,緑色光,青緑色光下で飼育した結果,緑色光の群では松果体で産生されるメラトニン産生が抑制され近視化傾向があったと報告し,波長の違いとの関連性を示唆した19).日光,波長が近視化と関連していることを示唆する研究でありさらなる解析を要する.ついで遺伝的要因に関して,福下は多数の強度近視患者の臨床遺伝様式を解析し,常染色体優性遺伝と劣性遺伝とがあり,遺伝形式による臨床像の違いについて報告した20).常染色体優性遺伝では矯正視力と眼軸長の相関が強く,後極部眼底変化は若年者で比較的軽く加齢に伴い網脈絡膜萎縮病変が進行していく傾向があった.また,劣性遺伝では発症年齢が低く,矯正視力と屈折度や眼軸長との相関はみられず,早期から眼軸延長と高度の眼底変化がみられた.SydneyMyopiaStudyでは両親の少なくとも片方が近視である子供もしくは両方が近視である子供は,そうでない子供に比べそれぞれ2倍もしくは8倍近視になると報告している.そのほかにも両親の近視の有無と子供の近視発症の相関を示す数多くの報告がある.VII近視の遺伝子解析そこで近視の遺伝子解析が行われるようになり,近年解析技術の進歩から格段に進んできた.近視発症関連遺伝子座の報告はまず連鎖解析で行われ,MYP1~MYP19という遺伝子座位が報告された.MYP2領域に存在する強膜構成要素のラミニンのサブユニットをコードするalphasubunitoflaminin(LAMA),実験近視関連遺伝子TGF-bの誘導にかかわるTGIFやMYP3領域に存在し強膜のプロテオグリカン成分となるLUM,またMYP5領域には細胞外基質コラーゲンをコードするCOL1A1などの候補遺伝子に対し研究が進められた.しかし,ヒトゲノム計画が2003年に完了し,眼科領域でもゲノムワイド関連解析(genome-wideassociationstudies:GWAS)を用いた感受性遺伝子の研究が行われるようになった.近年ヨーロッパおよびアジアでそれぞれ大規模なコホートを用いたGWASが行われてきた21~27).Soloukiらは15q14の遺伝子上に近視に関連するSNPの存在を報告した.網膜に発現しているGJD2はギャップ結合の構成蛋白であるconnexin36蛋白をコードする遺伝子である.また,Hysiらは15q25遺伝子上に屈折異常と相関する領域を報告した.同領域には神経細胞や網膜に高度に発現しているRASGRIF1の転写開始領域が存在している.Liらの解析では5q15の染色体上に位置するCTNND2遺伝子上の2つのSNPがアジア人の強度近視と強い相関を示した.これは網膜形成,接着分子の制御による網膜のintegrityの維持に関与する.Soloukiらの解析で示唆された15q14領域の関与は日本人の研究者らにおいても関与が証明されている28).また,MiyakeらによりWNT7Bが病的近視の発症に関与していることが報告された29).今後の研究の進展により病的近視および重篤な視力障害の原因となる近視性黄斑症や視神経症などの合併症発症にかかわる遺伝子の同定,それに伴う病的近視の発症機序の解明および予防的治療手段の開発が望まれる.VIII近視の予防以上から,近視の発症および進行には環境因子と遺伝的要因の両方が重要であることは確かである.学童近視と病的近視が同じ延長線上にあるのかは現在意見の分かれるところであるが,まずは一般的な近視の進行予防アプローチについて述べる.先述のごとく,これまでの疫学研究では環境要因として都市の住人であること,近業時間が長いことがあげられており,また近視化しにくい要因としてスポーツなどの屋外活動が多いことが明らかにされている.したがって,近視の予防には環境因子の改善すなわち長時間の近業を避けること,戸外での活動を増やすことのほか,ストレスの除去や適切な照明などが望ましいと提唱されてきた.次に光学的治療法であるが,おもに眼鏡やコンタクトレンズが用いられる.進行予防のために低矯正がよいか完全矯正がよいかは古くから議論の分かれるところであり,現在もエビデンスは確立していない.また近年,実験近視動物モデルでは,中心窩における網膜後方へのデフォーカス(調節ラグ)および周辺部におけるデフォーカス(軸外収差)により,眼軸の延長が促進されることが示された30).そこで,近視進行防止の眼鏡として調節ラグを軽減する目的の小児用累進多焦点眼鏡が開発され,続いて軸外収差を抑制する眼鏡がCarlZeiss社で開発された(MyoVisionTM).通常の眼鏡やコンタクトレンズでは網膜周辺部で遠視性のボケが生じていると考えられ,軸外収差抑制眼鏡では全方向に累進加入をすることにより周辺部にも焦点があうように設計されている.また,眼鏡だけではなく,オルソケラトロジーや遠近両用ソフトコンタクトレンズも近視進行抑制療法として施行されている.また,薬物療法では,これまでに1%アトロピン点眼,2%ピレンゼピン眼軟膏(ゲル化剤)の効果が検討されてきた.2016年にHuangらが近視抑制におけるrandomizedcontrolledtrials(RCT)(治療期間1年以上)の結果を用いてネットワークメタ解析を行い,16の介入研究の有効性について報告した31).その結果,アトロピン点眼(高濃度>低濃度),ピレンゼピン眼軟膏,オルソケラトロジー,治療用ソフトコンタクトレンズ(周辺部デフォーカス型),累進眼鏡の順に,屈折度および眼軸長において統計学的に有意な近視抑制効果を示した.RGPCL(rigidgas-permeablecontactlens)や従来型ソフトコンタクトレンズ,チモロール点眼,低矯正単焦点眼鏡は小児の近視進行抑制効果が得られなかった.ただし臨床で治療を導入するには,アトロピン点眼(1%)にみられる副作用やオルソケラトロジーなどにおける費用や手段の煩雑さ,そして眼鏡装用では効果が限定的であるなど,解決しなければいけない点が残されている.現在のところ副作用の軽減された低濃度アトロピン点眼(0.01%),ピレンゼピン眼軟膏,治療用ソフトコンタクトレンズ(周辺部デフォーカス型)が施行しやすい有効な手段と報告されており,また近視進行抑制効果はやや弱いが安全面では累進眼鏡の選択が考慮される.以上にあげたような学童近視を抑制する治療の発展が期待される反面,それが将来の病的近視の発生抑制につながるのかはいまだ明らかにはされていない.筆者らは初診時15歳以下の強度近視患者で20年以上の長期経過観察が可能であった症例を対象に,最終受診時の近視性黄斑症の性状から非病的近視群と病的近視群に分類し,若年期の病的近視眼の特徴を検討した.病的近視群では若年期より乳頭周囲の軽微なびまん性萎縮や,peripapillaryatrophy(PPA)gammazoneの形成がみられており,成人後に近視性黄斑症の進行を示唆する所見として重要であると考えられた.すなわち学童近視の延長と病的近視の発症には遺伝要因を含め異なる背景がある可能性が示唆された.そこで,別のアプローチからの近視進行予防治療も期待されている.前述したように近視の本態は眼軸延長や後部ぶどう腫などの眼球形状変化であり,近視の進行には強膜の変化が大きく関与している.後部ぶどう腫では強膜は菲薄化しており,電子顕微鏡的にコラーゲン線維は直径が細くまばらとなって線維束の間が拡大し,また強膜内の弾性線維の減少もみられる.強膜の硬度を促進し変化を抑制することができれば近視の進行の抑制にもつながると考えられ,ここに焦点をあてた研究が近年注目を集めている.近年,円錐角膜などの角膜の形状変化に対する治療として角膜クロスリンキングという治療が行われている32).角膜クロスリンキングとはコラーゲン線維同士の架橋を紫外線照射により促進させるというものであり,結果的に角膜の硬度が増加し,形状変化に対して抑制的な効果を与える.同様の手法を用いて強膜にクロスリンキングを誘導する研究がなされている.Wollensakらは,ヒト摘出眼球および豚眼の強膜を用いて紫外線照射によるクロスリンキング導入で硬度増加を得たと報告し,また長期的な効果については同グループがウサギ強膜に対するクロスリンキング導入後の効果を報告しており,5倍以上の硬度増加が8カ月後も得られたと報告している33,34).今後は実際に実験近視動物モデルを用いた強膜クロスリンキングによる近視進行抑制効果の研究が期待される.おわりに病的近視の病態や,近視性黄斑症や視神経症など重篤な視力障害を生じる合併症の診断および治療は年々進歩している.しかしながらいまだに病的近視の発症に関与する確実な遺伝子レベルの解明や,病的近視そのものの発症および進行予防の治療方法に至っていないのが現状である.今後ともさらなる病的近視の解明と発症および進行予防の治療の発展が期待される.文献1)中江公裕,増田寛次郎,妹尾正ほか:わが国における視覚障害の現状.厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業,網膜脈絡膜・視神経萎縮症に関する研究,平成17年度総括・分担研究報告書,主任研究者:石橋達朗,平成18年3月2)所敬,丸尾敏夫,金井淳ほか:特定疾患網膜脈絡膜萎縮症調査研究班報告書.病的近視の手引き,19873)MoriyamaM,Ohno-MatsuiK,HayashiKetal:Topographicanalysesofshapeofeyeswithpathologicmyopiabyhigh-resolutionthree-dimensionalmagneticresonanceimaging.Ophthalmology118:1626-1637,20114)SpaideRF:Staphyloma:Part1.In(SpaideRF,Ohno-MatsuiK,YannuzziLA,ed),PathologicMyopia.p167-176,Springer,NewYork,20135)CurtinBJ:Theposteriorstaphylomaofpathologicmyopia.TransAmOphthalmolSoc75:67-86,19776)Ohno-MatsuiK:Proposedclassificationofposteriorstaphylomasbasedonanalysesofeyeshapebythreedimensionalmagneticresonanceimagingandwide-fieldfundusimaging.Ophthalmology121:1798-1809,20147)Ohno-MatsuiK,YoshidaT,FutagamiSetal:Patchyatrophyandlacquercrackspredisposetothedevelopmentofchoroidalneovascularisationinpathologicalmyopia.BrJOphthalmol87:570-573,20038)PanozzoG,MercantiA:Opticalcoherencetomographyfindingsinmyopictractionmaculopathy.ArchOphthalmol122:1455-1460,20049)島田典明:近視─基礎と臨床─(所敬,大野京子編集)p140-146,金原出版,201210)Ohno-MatsuiK,ShimadaN,YasuzumiKetal:Longtermdevelopmentofsignificantvisualfielddefectsinhighlymyopiceyes.AmJOphthalmol152:256-265,201111)XuL,WangY,WangSetal:HighmyopiaandglaucomasusceptibilitytheBeijingEyeStudy.Ophthalmology114:216–220,200712)NagaokaN,JonasJB,MorohoshiKetal:Glaucomatoustypeopticdiscsinhighmyopia.PLoSOne1:10,201513)MuttiDO,MitchellGL,MoeschbergerMLetal:Parentalmyopia,nearwork,schoolachievement,andchildren’srefractiveerror.InvestOphthalmolVisSci43:3633-3640,200214)JonesLA,SinnottLT,MuttiDOetal:Parentalhistoryofmyopia,sportsandoutdooractivities,andfuturemyopia.InvestOphthalmolVisSci48:3524-3532,200715)SawSM,ShankarA,TanSBetal:AcohortstudyofincidentmyopiainSingaporeanchildren.InvestOphthalmolVisSci47:1839-1844,200616)IpJM,SawSM,RoseKAetal:Roleofnearworkinmyopia:findingsinasampleofAustralianschoolchildren.InvestOphthalmolVisSci49:2903-2910,200817)HungLF,RamamirthamR,HuangJetal:Peripheralrefractioninnormalinfantrhesusmonkeys.InvestOphthalmolVisSci49:3747-3757,200818)ChenX,SankaridurgP,DonovanLetal:Characteristicsofperipheralrefractiveerrorsofmyopicandnon-myopicChineseeyes.VisionRes50:31-35,201019)WangF,ZhouJ,LuYetal:Effectsof530nmgreenlightonrefractivestatus,melatonin,MT1receptor,andmelanopsinintheguineapig.CurrEyeRes36:103-111,201120)福下公子:強度近視眼の臨床遺伝学的研究.日眼会誌86:239-254,198221)SoloukiAM,VerhoevenVJ,vanDuijnCMetal:Agenome-wideassociationstudyidentifiesasusceptibilitylocusforrefractiveerrorsandmyopiaat15q14.NatGenet42:897–901,201022)HysiPG,YoungTL,MackeyDAetal:Agenome-wideassociationstudyformyopiaandrefractiveerroridentifiesasusceptibilitylocusat15q25.NatGenet42:902-905,201023)LiYJ,GohL,KhorCCetal:Genome-wideassociationstudiesrevealgeneticvariantsinCTNND2forhighmyopiainSingaporeChinese.Ophthalmology118:368-375,201124)NakanishiH,YamadaR,GotohNetal:Agenome-wideassociationanalysisidentifiedanovelsusceptiblelocusforpathologicalmyopiaat11q24.1.PLoSGenet5:e1000660,200925)LiZ,QuJ,XuXetal:Agenome-wideassociationstudyrevealsassociationbetweencommonvariantsinanintergenicregionof4q25andhigh-grademyopiaintheChineseHanpopulation.HumMolGenet20:2861-2868,201126)ShiY,QuJ,ZhangDetal:Geneticvariantsat13q12.12areassociatedwithhighmyopiaintheHanChinesepopulation.AmJHumGenet88:805-813,201127)FanQ,BarathiVA,ChengCYetal:Geneticvariantsonchromosome1q41influenceocularaxiallengthandhighmyopia.PLoSGenet8:e1002753,201228)HayashiH,YamashiroK,NakanishiHetal:Associationof15q14and15q25withhighmyopiainJapanese.InvestOphthalmolVisSci52:4853-4858,201129)MiyakeM,YamashiroK,TabaraYetal:Identificationofmyopia-associatedWNT7Bpolymorphismsprovidesinsightsintothemechanismunderlyingthedevelopmentofmyopia.NatCommun6:6689,201530)SmithEL3rd,HungLF,HuangJ:Relativeperipheralhyperopicdefocusalterscentralrefractivedevelopmentininfantmonkeys.VisionRes49:2386-2392,200931)HuangJ,WenD,WangQetal:Efficacycomparisonof16interventionsformyopiacontrolinchildren:Anetworkmeta-analysis.Ophthalmologypii:S0161-6420(15)01356-1,2016[Epubaheadofprint]32)WollensakG,SpoerlE,SeilerT:Riboflavin/ultraviolet-ainducedcollagencrosslinkingforthetreatmentofkeratoconus.AmJOphthalmol135:620-627,200333)WollensakG,SpoerlE:Collagencrosslinkingofhumanandporcinesclera.JCataractRefractSurg30:689-695,200434)WollensakG,IomdinaE:Long-termbiomechanicalpropertiesofrabbitscleraaftercollagencrosslinkingusingriboflavinandultravioletA(UVA).ActaOphthalmol87:193-198,2009*NatsukoNagaoka,*KeiMorohoshi,*KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕長岡奈都子:113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(39)521図1後部ぶどう腫のシェーマaは正常眼,bでは眼軸延長はあるが眼球後部の曲率半径r1は単一である.cではr1と異なる曲率半径r2を有する突出があり後部ぶどう腫と定義される.dでは複数の曲率半径は有しないが鼻側に偏位した形状を呈しており,これもぶどう腫と定義される.(文献4より引用)図2近視性脈絡膜新生血管に対する抗VEGF療法mCNVに対し抗VEGF療法を施行(a)し,mCNVの瘢痕化とともに周囲の網脈絡膜萎縮拡大を認めた(b).522あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(40)図3近視性牽引黄斑症に対する手術療法網膜分離および全層黄斑円孔網膜剝離を伴う症例に対し硝子体手術を施行し(a),黄斑円孔閉鎖および網膜復位を得た(b).(41)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016523図4強度近視眼の視神経乳頭形状さまざまな視神経乳頭形状変化を呈する.524あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(42)(43)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016525526あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(44)(45)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016527

ドライアイの先制医療

2016年4月30日 土曜日

特集●眼の先制医療あたらしい眼科33(4):517〜519,2016ドライアイの先制医療PreemptiveMedicineforDryEyeDisease川島素子*坪田一男*Iドライアイとはドライアイは,涙液および眼表面の複合的な病態であり,眼の不快感や視力低下感を生じ,著しくQOV(qualityoflife)を低下させる罹患率の高い疾患である.とくに最近では,涙液層破壊時間(tearfilmbreakuptime:BUT)短縮型ドライアイといって,角膜上皮表面の水濡れ性,あるいは涙液層の安定性が悪いために角膜上の涙液が容易に破綻し,角結膜上皮障害が認められなくても,視機能の低下や眼不快感などの自覚症状が強いタイプのドライアイが多いことがわかってきた.その背景は複雑であるが,VDT(visualdisplayterminals)やコンタクトレンズ装用がリスクファクターとして有名である.加齢も重要なリスクファクターの一つであり,高齢化社会の進行や,スマートフォンの普及に代表されるような全世代でのIT化をはじめとした生活習慣の変化などとあいまって,ドライアイ患者がさらに増加していくことが懸念されている.ドライアイの治療の基本は点眼である.新規メカニズムのドライアイ治療薬であるジクアス®とムコスタ®点眼薬の登場を契機として,涙液不安定性の原因を層別に診断したうえで,それらの異常に適した点眼・環境因子の改善を含めた適切な治療を選択し,涙液層の安定性を高め,より効果的な治療を行うという概念が広まっている(tearfilmorientedtherapy:TFOT).さらに,ドライアイを加齢的な変化と捉える観点からは,層ごとの治療ではなく,一括して介入するアンチエイジングアプローチも今後有効な選択肢の一つになってくると期待される.II先制医療としてのアンチエイジングアプローチの可能性筆者らが行ったドライアイの横断研究において,メタボリックシンドローム群では,同年代での非メタボリックシンドローム群と比較して,有意に涙液分泌量が低いこと,運動習慣の少ないほどドライアイが多い,睡眠障害がある方がドライアイが多い,うつ症状がある方がドライアイの自覚症状が強いなどの結果が得られている1,2).これらの知見からも,メタボリックシンドロームやホルモン分泌の影響なども把握し,ライフスタイルに対する積極的な介入など,包括的なアンチエイジングアプローチが期待される(図1).アンチエイジングの研究において,多くの加齢に伴う疾患の背景に「酸化ストレス」の関与があることが認識されている.ドライアイにおいても,SOD1ノックアウトマウスやMev1変異マウスなど複数のドライアイマウスモデルの結果や臨床研究結果により,酸化ストレスが発症および病態形成に大きくかかわっていることが強く支持されている3,4).臨床的にも,ドライアイ患者の涙液中の活性酸素は増大しており,一部のドライアイ患者では涙液中の酸化ストレス制御蛋白の一つであるセレノプロテインP濃度やラクトフェリン濃度が低いことや,Sjögren症候群で眼表面の酸化ストレスマーカーの発現が亢進していることも報告されている.これらより,アンチエイジングアプローチとして,酸化ストレスに対する防御機構として生体内の抗酸化システムをあげる,もしくは防御作用がある抗酸化物質を体外から摂取することにより,この防御システムをできるだけ有効に維持し,ドライアイを治療(予防)することが期待できる.すでに現在普及している治療のなかにも,実は抗酸化剤としての働きが関与しているものが複数ある.たとえば,重症ドライアイの治療に用いられる自己血清点眼の有効成分中にセレノプロテインPという抗酸化物質が存在していることや,ヒアルロン酸点眼液中のヒアルロン酸に抗酸化作用があることが報告されている.また,レバミピドがマウスのUVB(UltravioletB)誘発角膜損傷に対して,ヒドロキシラジカル捕捉効果も示したことから,抗酸化作用がムコスタ®点眼薬の奏効機序のひとつと考えられている.また,抗酸化関連物は経口的に摂取可能なものもあり,複合抗酸化サプリメント,機能性食品として利用することができる.現在,各種抗酸化物質,機能性食品の探索研究が積極的に行われており,ドライアイの眼所見改善や自覚症状の改善などのポジティブな介入結果を集めつつあり,国内でもドライアイ用に開発された複合サプリメント(オプティエイドDE,わかもと製薬)が販売開始されている5).III先制医療としてのドライアイのバイオマーカーの探索ドライアイの適切な治療方針を決めるためには,病気の重症度の目印になる臨床的に使用できる「バイオマーカー」が求められている.ドライアイのバイオマーカーの探索に関しては,最近の微量検体の測定技術の革新的進展に伴い,急速に報告が増えてきている状況にある.簡易に低侵襲で測定可能な検査として開発されたものに,涙液浸透圧測定(tearosmolarity)があげられる.ドライアイの重症度と涙液浸透圧が相関するという既報はあるものの6,7),相関しないとの報告も多く,現在では,涙液浸透圧単一の検査でドライアイの有無および重症度を把握することには無理があると考えられている.また,国内未承認であるが海外で販売されているドライアイ検査キットとしては,炎症マーカーのひとつであるMMP-9の検出キット(INFLAMMADRY®,RPS,Sarasota,FL)8,9)やSjögren診断キット(Sjö®,ボシュロム社)10)があげられる.INFLAMMADRY®は,ドライアイでMMP-9が上昇するという報告をもとに開発されており,とくにレーシック(LASIK)術前の無症候ドライアイの検出に有用であると主張している.Sjögren症候群の確定診断は,現時点では侵襲的なものを含む多くの試験の結果を総合して判断するため,確定診断までに複数年を要し,しばしば困難である.この現状に対しsalivaryglandprotein-1,parotidsecretoryprotein,carbonicanhydraseVIが他疾患と鑑別できうるSjögren症候群のマーカーとしてキット化され,早期診断が期待できるようになっている.このように,簡易に測定できるキットが複数開発されてきている状況にあり,その臨床的価値の検討を含め,今後のさらなる臨床応用が期待される.その他,研究報告としては,涙液中および眼表面の脂質酸化マーカー(4-HNE,MDA)がドライアイの重症度をみるのに有用であるという報告11)や,iTRAQという手法でバイオマーカーを探索した報告12)などがある.ほかにも,Lacrimalprolinerich4(LPRR4)proteinがすべてのタイプのドライアイで減少することや疾患重症度と関連すること13),涙液中のmalatedehydrogenase2活性がマイルドなドライアイの角膜障害で上昇すること14),涙液中のラクトフェリン減少が閉経後女性のドライアイのマーカーとして可能性があること15),涙液中および眼表面のCXCL11やCCL5などの炎症関連マーカーがドライアイの臨床パラメータと相関すること16,17),結膜上皮のムチンの発現(MUC1)減少がドライアイと関連すること18),涙液中のセロトニン濃度が自覚症状のある涙液減少型のドライアイで上昇すること19)などがドライアイのマーカーの可能性として多数あげられており,今後の研究の発展が非常に期待される.文献1)KawashimaM,UchinoMYN,UchinoYetal:Decreasedtearvolumeinpatientswithmetabolicsyndrome:theOsakastudy.BJOphthalmol98:418-420,20132)KawashimaM,UchinoM,YokoiNetal:Theassociationbetweendryeyediseaseandphysicalactivityaswellassedentarybehavior:ResultsfromtheOsakaStudy.JOphthalmol2014:943786,20143)UchinoY,KawakitaT,MiyazawaMetal:Oxidativestressinducedinflammationinitiatesfunctionaldeclineoftearproduction.PloSOne7:e45805,20124)KojimaT,WakamatsuTH,DogruMetal:Age-relateddysfunctionofthelacrimalglandandoxidativestress:EvidencefromtheCu,Zn-superoxidedismutase-1(Sod1)knockoutmice.AmJPathol180:1879-1896,20125)KawashimaM,NakamuraS,IzutaYetal:Dietarysupplementationwithacombinationoflactoferrin,fishoil,andenterococcusfaeciumWB2000fortreatingdryeye:Aratmodelandhumanclinicalstudy.TheOcularSurface,Epubaheadofprint,20166)SuzukiM,MassingaleML,YeFetal:Tearosmolarityasabiomarkerfordryeyediseaseseverity.InvestOphthalmolVisSci51:4557-4561,20107)NaKS,YooYS,HwangKYetal:Tearosmolarityandocularsurfaceparametersasdiagnosticmarkersofoculargraft-versus-hostdisease.AmJOphthalmol160:143-149,e141,20158)SamburskyR,DavittWF3rd,LatkanyRetal:Sensitivityandspecificityofapoint-of-carematrixmetalloproteinase9immunoassayfordiagnosinginflammationrelatedtodryeye.JAMAOphthalmol131:24-28,20139)SamburskyR,DavittWF3rd,FriedbergMetal:Prospective,multicenter,clinicalevaluationofpoint-of-carematrixmetalloproteinase-9testforconfirmingdryeyedisease.Cornea33:812-818,201410)BeckmanKA,LuchsJ,MilnerMS:MakingthediagnosisofSjögren’ssyndromeinpatientswithdryeye.ClinOphthalmol10:43-53,201611)ChoiW,LianC,YingLetal:Expressionoflipidperoxidationmarkersinthetearfilmandocularsurfaceofpatientswithnon-Sjögrensyndrome:Potentialbiomarkersfordryeyedisease.CurrEyeRes5:1-7,201612)ZhouL,BeuermanRW,ChanCMetal:IdentificationoftearfluidbiomarkersindryeyesyndromeusingiTRAQquantitativeproteomics.JProteomeRes8:4889-4905,200913)AluruSV,AgarwalS,SrinivasanBetal:Lacrimalprolinerich4(LPRR4)proteininthetearfluidisapotentialbiomarkerofdryeyesyndrome.PloSOne7:e51979,201214)GuoQ,HuangH,PiYetal:Evaluationoftearmalatedehydrogenase2inmilddryeyedisease.EyeSci29:204-208,201415)CarebaI,ChivaA,TotirMetal:Tearlipocalin,lysozymeandlactoferrinconcentrationsinpostmenopausalwomen.JMedLife8SpecIssue:94-98,201516)YoonKC,ParkCS,YouICetal:ExpressionofCXCL9,-10,-11,andCXCR3inthetearfilmandocularsurfaceofpatientswithdryeyesyndrome.InvestOphthalmolVisSci51:643-650,201017)ChoiW,LiZ,OhHJetal:ExpressionofCCR5anditsligandsCCL3,-4,and-5inthetearfilmandocularsurfaceofpatientswithdryeyedisease.CurrEyeRes37:12-17,201218)CorralesRM,NarayananS,FernandezIetal:Ocularmucingeneexpressionlevelsasbiomarkersforthediagnosisofdryeyesyndrome.InvestOphthalmolVisSci52:8363-8369,201119)ChhadvaP,LeeT,SarantopoulosCDetal:Humantearserotoninlevelscorrelatewithsymptomsandsignsofdryeye.Ophthalmology122:1675-1680,2015*MotokoKawashima&*KazuoTsubota:慶應義塾大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕川島素子:〒160-8582東京都新宿区信濃町35慶應義塾大学医学部眼科学教室0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(35)517図1ドライアイとアンチエイジングアプローチ518あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(36)(37)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016519

Fuchs角膜内皮ジストロフィ治療の未来像

2016年4月30日 土曜日

特集●眼の先制医療あたらしい眼科33(4):511〜516,2016Fuchs角膜内皮ジストロフィ治療の未来像FuturePerspectiveonTreatmentofFuchsEndothelialCornealDystrophy奥村直毅*はじめにFuchs角膜内皮ジストロフィは,欧米においては40歳以上の約5%が罹患するとされるもっとも頻度の高い遺伝性角膜疾患である.わが国では欧米と比較するとまれな疾患であるが,欧米では罹患率の高さに対応して,角膜移植の原因第1位である.EyebankAssociationofAmerica(EBAA)によると,2014年に全米のアイバンクが提供した角膜グラフト69,833個のうち,角膜内皮疾患に対するものが28,064個であり,そのうちFuchs角膜内皮ジストロフィに対して用いられたものは15,013個であった(表1)1).角膜移植が必要となるような重篤な視力障害の大きなウエイトを占めており,先制医療により角膜移植を回避できるようになれば大きな社会的意義がある.本稿ではFuchs角膜内皮ジストロフィに対して,先制医療を行うことが将来的に可能であるのかということについて,個人的見解を交えて述べる.IFuchs角膜内皮ジストロフィとはFuchs角膜内皮ジストロフィは,1910年にErnstFuchsにより報告された両眼性かつ進行性の角膜内皮疾患である.早期ではguttaeとよばれるDescemet膜から前房側に突出して形成される細かな疣が細隙灯顕微鏡やスペキュラーマイクロスコープにより観察される.進行してくるとguttaeがより著明に観察され,角膜内皮障害が進み,角膜実質浮腫,角膜上皮浮腫をきたす(図1).50代で発症し,20~30年かけてゆっくりと進行する.一方で,より早期に発症するFuchs角膜内皮ジストロフィの家系の報告があるためにearlyonsetとlateonsetとして分類される.Fuchs角膜内皮ジストロフィとして眼科医が一般的に診察している患者はlateonsetである.発症を抑制するような有効な治療法がないために,早期発見された場合でも経過観察をするほかに選択肢はなく,将来的に角膜内皮障害が進行して視力障害が生じると角膜移植を行うというのが現在のスタンダードである.先制医療という本号の特集テーマとは残念ながらかけ離れた状況であると認めざるを得ない.しかし,筆者は一気にこの状況は改善すると考えている.すなわち,将来的には血液検査などによるリスク判定を行い,高リスクな場合には早期から薬物などによる発症の遅延や防止を行い,最終的に角膜移植が必要となる程度まで進行することをできるかぎり回避することができるようになるのではないかと信じている.II先制医療に向けて発症前の予測は可能か1.EarlyonsetのFuchs角膜内皮ジストロフィ連鎖解析により,earlyonsetのFuchs角膜内皮ジストロフィは1番染色体の短腕と関連することが報告されていた.Biswasらはearlyonsetの患者家系を解析する中で1番染色体の短腕に6-7cMintervalがあることを見いだした2).さらに,このintervalに関連する遺伝子の中から,Descemet膜の主たる構成成分であるVIII型コラーゲンをコードするCOL8A2遺伝子(collagen,typeVIII,alpha-2gene)に着目することでp.Gln-455Lys(455番目のグルタミンがリシンに置換されている)のミスセンス変異を有するとFuchs角膜内皮ジストロフィを発症することを突き止めた.さらに,別のグループからもp.Leu450Trpおよびp.Gln455Valのミスセンス変異が別の2家系から発見された3,4).まだ,明らかになっていない変異や遺伝子異常がある可能性はあるものの,少なくともCOL8A2遺伝子の複数のミスセンス変異がearlyonsetのFuchs角膜内皮ジストロフィの原因であることが明らかにされている.Fuchs角膜内皮ジストロフィ患者全体から考えるとわずかな患者数ではあるが,遺伝子検査により現在でもリスク判定が可能といえる.2.LateonsetのFuchs角膜内皮ジストロフィa.SLC4A11(Solutecarrierfamily4,sodiumboratetransporter,member11gene)SLC4A11遺伝子が先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(congenitalhereditaryendothelialdystrophy:CHED)の原因遺伝子であることが特定されたことを受けて,Fuchs角膜内皮ジストロフィにおいてもSLC4A11が調べられた.ミスセンス突然変異が発症に関与する可能性が示された一方で,SLC4A11がコードされる20番染色体は連鎖解析によりFuchs角膜内皮ジストロフィへの関連が認めておらず,原因遺伝子としては懐疑的な意見もある5,6).まだコンセンサスが得られるには至っていない状況である.b.ZEB1(zincfingerE︲boxbindinghomeobox1gene)ZEB1遺伝子のフレームシフトが後部多形性角膜ジストロフィ(posteriorpolymorphouscornealdystrophy:PPCD)の原因となることから,Fuchs角膜内皮ジストロフィ患者においてもZEB1の変異が調べられた7).Mehtaらは74名中2名においてZEB1遺伝子上のバリアントを認めたのみで原因とはいえないことを報告した9).一方で,Riazuddinらは5種類のZEB1のミスセンス突然変異を384名中7名の患者に認め,Fuchs角膜内皮ジストロフィの原因となりうると報告した8).とくにp.Q840Pの変異を有する1名は家族性発症であり,家族を調査することで12名がFuchs角膜内皮ジストロフィであることが判明した.しかしながら,SLC4A11遺伝子同様まだはっきりとしない状況である.c.TCF4(transcriptionfactor4gene)ごく一部の患者ではSLC4A11やZEB1の遺伝子変異が発症の原因となりうる可能性が報告されたが,やはり依然として大多数の患者では原因遺伝子についてはまったく不明であった.しかし,2010年MayoClinicのBaratzらはゲノムワイド関連解析(genome-wideassociationstudy:GWAS)による解析を行い,TCF4遺伝子の一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)(rs613872)がFuchs角膜内皮ジストロフィと強く関連することを報告した9).複数の研究グループによって別の患者集団においてもTCF4遺伝子における一塩基多型の再現性が確認された.さらに2012年には,Wieben,BaratzらはTCF4遺伝子の第3イントロンに3塩基の繰り返し配列の延長があることを発見した10).TCF4遺伝子の第3イントロンには正常者でもTGCの3塩基の繰り返し配列が認められるが,Fuchs角膜内皮ジストロフィ患者においてはTGCの繰り返し回数が伸長していたのである.彼らの報告では,正常者では63名中2名(3%)で50回以上のTGCの繰り返しを認めたのに対して,Fuchs角膜内皮ジストロフィ患者では66名中52名(79%)であった.さらに別の集団でもやや頻度は低いものの,同様に繰り返し回数の伸長が患者群で多く認められた.筆者らもWieben,Baratzらとの共同研究により,日本人のFuchs角膜内皮ジストロフィ患者においても47名中12名(26%)に繰り返し回数の伸長が認められることを確認した(図2)11).現在までのところ,TCF4遺伝子の第3イントロンのTGCの3塩基の繰り返し配列の伸長が人種を超えて認められることは間違いなさそうである.3.先制医療に向けて発症前の予測は可能か眼科の一般診療の中で,Fuchs角膜内皮ジストロフィが細隙灯顕微鏡により視力低下を生じる前に偶然発見されることもある.内眼手術に際してスペキュラーマイクロスコープにより角膜内皮の検査を行い発見されることも多い(図3).一般診療のなかで低侵襲に発見が可能であるというのは,先制医療という観点からはアドバンテージである.さらに積極的に発症リスクを評価するということを考えると,採血などによる遺伝子診断ということになるであろう.さまざまな疾患は遺伝因子と環境因子が相まって発症すると考えられている(図4).また,疾患によりどちらの因子のウエイトが大きいのかということもわかってきつつある.Fuchs角膜内皮ジストロフィは長らく孤発性の疾患と考えられてきたが,現在ではもっとも頻度の高い遺伝性角膜ジストロフィであるとされている.今後のさらなる検討が必要ではあるが,Fuchs角膜内皮ジストロフィは図4の右の絵のように遺伝因子が大きい疾患である可能性が高く,遺伝子診断よるリスク判定に適した疾患であるかもしれない.上述のように,TCF4遺伝子の3塩基の繰り返し配列の伸長が26~79%の患者において認められることが明らかになってきた.採算面との兼ね合いではあるが,血液ゲノムのシークエンス解析を行うことで一定の割合の患者については発症リスクが高いことを予測できる.いうまでもなく,より大多数の患者,健常者において同様の検討を行い,繰り返し伸長があることで本当にリスクが上がるのか,どの程度上がるのかといったことを明らかにする必要がある.さらに,TCF4の繰り返し伸長を有さない患者における遺伝子異常の発見も大きな課題である.現在でも,インターネットで申し込み,唾液や血液を送付することで,数万~10万円程度の費用で,いくつかの疾患の発症リスクを予測しようという試みがなされている.まだまだ真のリスク判定とは程遠いという厳しい指摘がなされているが,将来的には精度が高まってくることが予測される.近い将来に,Fuchs角膜内皮ジストロフィやその他の現在リスク判定の対象でない多くの疾患に対するリスク判定が一度に可能になる時代が来るのではないか.「先制医療に向けて発症前の予測は可能か」という問いに対する筆者自身の回答は「現状でもTCF4の繰り返し伸長を調べることでそれなりに可能で,近い将来に低コストでかなりの精度で可能になると考えられる」というものである.あまりに楽観的であろうか.米国のオバマ大統領は2015年1月20日にプレシジョン・メディスンを推し進める計画を発表した.これはアメリカ人の医療記録や遺伝情報を集め,数百万人の規模の大規模データベースを作成し,疾患とそれを発症させる原因となる遺伝子との関係を明らかにしようというものである.Fuchs角膜内皮ジストロフィについてもこのようないわゆるビッグデータに基づき,リスクとなる遺伝子についての解明が加速することが予測される.III薬物療法による進行抑制は可能か現在のところ有効な薬物療法は存在しない.筆者らは,発症予防を可能にする治療薬の開発をめざして,病態の解明を進めている.Erlangen大学(ドイツ)のKruse,Schlötzer-Schrehardtらとの共同研究によりFuchs角膜内皮ジストロフィ患者の角膜内皮をDMEK(Descemet’smembraneendothelialkeratoplasty)の際に採取して培養し,不死化することで疾患モデル細胞の樹立に成功した12).疾患モデル細胞はフィブロネクチンやI型コラーゲンなどの生体内でguttaeやDescemet膜肥厚の原因となる細胞外マトリックスを過剰に産生することが判明した.さらに,TGFbシグナルの活性化により,細胞外マトリックス関連蛋白質を産生し,過剰な細胞外マトリックス関連蛋白質の一部は正常な高次構造に折り畳まれず変性蛋白質として小胞体に蓄積することが明らかになった.さらには小胞体に蓄積した変性蛋白質は,小胞体ストレスを介して細胞死を誘導することを確認している.さらに詳細な検討が必要であるが,長らく不明点の多かった病態メカニズムが明らかになりつつある.このことは創薬ターゲットの発見,薬物治療の開発に今後大きく寄与しうることを示している.興味深いことに,疾患モデル細胞のレベルではあるが,すでに複数の薬剤がこれらの病態メカニズムのいくつかの作用ポイントに働くことで細胞死を抑制できることを見いだしている.まだ臨床応用には時間がかかりそうではあるが,Fuchs角膜内皮ジストロフィの発症を抑制する薬物の開発は夢物語ではないと考えている.細胞を用いた研究のレベルでは,CRISPR-Cas9などゲノム編集技術の発明もあり,ゲノム編集が飛躍的に簡単にできるようになっている.Fuchs角膜内皮ジストロフィの原因となる遺伝子異常をゲノム診断により発見し,原因となる遺伝子変異を「編集」することで,一度の治療で完全に治癒させることも可能になるかもしれない.おわりに近年ではDSEK(Descemetstrippingendothelialkeratoplasty)やDMEKという角膜内皮移植の普及により角膜全層移植と比べて,低侵襲に治療できるようになったが,依然としてFuchs角膜内皮ジストロフィによる角膜内皮障害の唯一の治療法は,ドナー角膜を用いた角膜移植である.これは1904年に行われた初めての角膜移植以来変わっていない.しかしながら,本稿で述べたように,発症前の予測,発症の抑制が可能になる時代がすぐ近くまで来ている(図5).謝辞:本稿を執筆するにあたり,内容のご確認,ご指導をいただきました京都府立医科大学分子医科学教室(ゲノム医科学部門)の中野正和准教授に深謝申し上げます.文献1)EyebankAssociationofAmerica:EyeBankingStatisticalReport.Washington,DC,20142)BiswasS,MunierFL,YardleyJetal:MissensemutationsinCOL8A2,thegeneencodingthealpha2chainoftypeVIIIcollagen,causetwoformsofcornealendothelialdystrophy.HumMolGenet10:2415-2423,20013)GottschJD,SundinOH,LiuSHetal:InheritanceofanovelCOL8A2mutationdefinesadistinctearly-onsetsubtypeoffuchscornealdystrophy.InvestOphthalmolVisSci46:1934-1939,20054)MokJW,KimHS,JooCK:Q455VmutationinCOL8A2isassociatedwithFuchs’cornealdystrophyinKoreanpatients.Eye23:895-903,20095)VithanaEN,MorganPE,RamprasadVetal:SLC4A11mutationsinFuchsendothelialcornealdystrophy.HumMolGenet17:656-666,20086)AldaveAJ,HanJ,FraustoRF:Geneticsofthecornealendothelialdystrophies:anevidence-basedreview.ClinGenet84:109-119,20137)MehtaJS,VithanaEN,TanDTetal:Analysisoftheposteriorpolymorphouscornealdystrophy3gene,TCF8,inlate-onsetFuchsendothelialcornealdystrophy.InvestOphthalmolVisSci49:184-188,20088)RiazuddinSA,ZaghloulNA,Al-SaifAetal:MissensemutationsinTCF8causelate-onsetFuchscornealdystrophyandinteractwithFCD4onchromosome9p.AmJHumGenet86:45-53,20109)BaratzKH,TosakulwongN,RyuEetal:E2-2proteinandFuchs’scornealdystrophy.NEnglJMed36:1016-1024,201010)WiebenED,AleffRA,TosakulwongNetal:Acommontrinucleotiderepeatexpansionwithinthetranscriptionfactor4(TCF4,E2-2)genepredictsFuchscornealdystrophy.PloSOne7:e49083,201211)NakanoM*,OkumuraN*,NakagawaHetal:TrinucleotiderepeatexpansionintheTCF4geneinFuchs’endothelialcornealdystrophyinJapanese.InvestOphthalmolVisSci56:4865-4869,2015(*co-firstauthors)12)OkumuraN,MinamiyamaR,HoLetal:InvolvementofZEB1andSnail1inexcessiveproductionofextracellularmatrixintheFuchsendothelialcornealdystrophy.LabInvest95:1291-304,2015表1角膜移植の原因疾患原因診断症例数診断別の割合(%)障害部位別の割合(%)角膜内皮疾患Fuchs角膜内皮ジストロフィ15,01321.5白内障手術後8,52912.250.0角膜内皮疾患,その他4,5226.5Regraft6,8119.8角膜実質疾患円錐角膜6,98110.022.1その他8,47912.1不明19,49827.927.9合計69,833100100全米のアイバンクが2014年に提供した角膜グラフトによる角膜移植の原因のまとめ.(EyeBankingStatisticalReport2014より改変)*NaokiOkumura:同志社大学生命医科学部医工学科〔別刷請求先〕奥村直毅:〒610-0394京都府京田辺市多々羅都谷1-3同志社大学生命医科学部医工学科0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(29)511図1Fuchs角膜内皮ジストロフィの前眼部写真軽度の角膜実質浮腫と角膜上皮浮腫を認める.(あたらしい眼科31:349,2014より転載)図2正常者の血液ゲノムのシークエンス解析結果第3イントロンにTGCの反復配列を認める.本例は正常者であり12回の繰り返しを認めるが,Fuchs角膜内皮ジストロフィ患者の多くでは繰り返し回数が50回以上と伸長する.(あたらしい眼科32:53-57,2015より転載)図3非接触スペキュラーマイクロスコープ像角膜内皮細胞密度の低下とguttae(写真で黒く抜けて見える)が観察される.(あたらしい眼科32:53-57,2015より転載)図4疾患発症における遺伝因子と環境因子疾患によりどちらの因子のウエイトが大きいのかということがわかってきつつある.図5Fuchs角膜内皮ジストロフィの先制医療のイメージ(31)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016513514あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(32)(33)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016515516あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(34)

重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群の発症予測

2016年4月30日 土曜日

特集●眼の先制医療あたらしい眼科33(4):501〜510,2016重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群の発症予測PossibilityofPreemptiveMedicineforStevens-JohnsonSyndromewithSevereOcularComplications上田真由美*はじめに近年,病気の発症前にそれを予測し,予防的な対策を行うことにより病気の発症を予防する,あるいは遅らせるための先制医療が着目されている.本稿では,重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群(Stevens-Johnsonsyndrome:SJS)について,筆者らが10年以上かけて解明してきた本症候群の病態ならびに遺伝素因を解説し,先制医療への応用の可能性を述べる.I重篤な眼合併症を伴うStevens-Johnson症候群SJSは,突然の高熱,口内炎,結膜炎,皮膚の小さな発疹につづいて,全身の皮膚と粘膜に水疱とびらんを生じる急性の皮膚粘膜疾患である.中毒性表皮壊死症(toxicepidermalnecrolysis:TEN)の一部はSJSの重症型と考えられ,日本では皮疹の面積が10%未満のものをSJS,それ以上のものをTENとよぶ1).1年あたり百万人に数人が発症する大変まれな疾患であるが,小児を含めあらゆる年齢に発症する.急性期に重篤な眼合併症(図1:偽膜ならびに角結膜上皮欠損の両方を認める重篤な結膜炎)を伴うのはSJS/TEN全体の約40%と報告されているが,その多くは慢性期に重篤な眼後遺症を生じる.重篤な眼後遺症としては,重症ドライアイ,睫毛乱生,眼瞼結膜の瘢痕形成,瞼球癒着,症例によっては角膜への結膜侵入または眼表面の角化による重度の視力障害があげられる(図2).眼合併症ならびに眼後遺症を生じているSJSとTENの眼所見は類似し,急性期ならびに慢性期をとおして,眼所見から両者を鑑別することは困難である.眼科では,瘢痕性角結膜上皮症に至った慢性期の患者を診ることが多く,重篤な眼合併症を伴うSJSとTENを併せて広義のStevens-Johnson症候群と呼称している2).IISJS⊘TENの原因薬剤とHLASJS/TENは,薬剤の投与が誘因となって発症することが多く,皮膚科からは,抗痛風薬であるアロプリノールや抗てんかん薬であるカルバマゼピンなどが代表的な原因薬剤として報告されている.しかし,アロプリノールで重篤な眼合併症を生じることは少なく3),カルバマゼピンによる重篤な眼合併症も多くはない.筆者らが,重篤な眼合併症・眼後遺症を伴うSJS/TEN患者を対象に行った調査では,約8割の患者が感冒様症状を自覚し,感冒様症状に対する薬剤投与が誘因となって発症していた4~6).また,大変興味深いことに,諸外国のSJS/TENのヒト白血球型抗原(humanleucocyteantigen:HLA)解析の結果報告から,原因薬剤によりその遺伝素因が異なることもわかってきた.抗痛風薬であるアロプリノールによるSJS/TEN発症には,漢民族7),欧米人8),日本人9)でHLA-B*58:01と強い関連があることが報告されている.また,抗てんかん薬であるカルマバゼピンによるSJS/TEN発症には,漢民族ではHLA-B*15:0210)と関連があることが,欧米人,日本人ではHLA-A*31:01と関連することが報告されている11,12).また,京都府立医科大学で診療するSJS/TEN患者のうち,抗てんかん薬による発症はわずか5%であった13).薬剤によって遺伝素因や眼合併症の有無が異なることは,それぞれの病態が異なる可能性を示している.つまり,現在,SJS/TENと診断されている患者は,複数の病態の集まりである可能性が示唆される(図3).III感冒薬関連眼合併型SJSのHLA筆者らは,感冒薬に関連して発症し,重篤な眼合併症・眼後遺症を伴うSJS/TEN(以下,感冒薬関連眼合併型SJS)日本人患者151名ならびに健康コントロール639名を対象にHLA解析を行い,HLA-A*02:06とHLA-B*44:03が感冒薬関連眼合併型SJSと有意に関連することを明らかにした5).とくにHLA-A*02:06では,p値2.7×10−20,オッズ比5.6と強い関連が示された5).大変興味深いことに,HLA-A*02:06ならびにHLA-B*44:03と感冒薬関連眼合併型SJSとの有意な関連は,同じ感冒薬に関連して発症していても,重篤な眼合併症・眼後遺症を伴わない症例では関連を認めなかった5).また,重篤な眼合併症を伴っていても,感冒薬以外の薬剤による発症患者ではHLA-A*02:06またはHLA-B*44:03との関連を認めなかった5).このことは,HLA-A*02:06とHLA-B*44:03との有意な関連は,感冒薬関連眼合併型SJSに特異的な遺伝素因であることを示唆している5).続いて,韓国人,インド人,ブラジル人感冒薬関連眼合併型SJSサンプルを用いてHLA-A*02:06またはHLA-B*44:03との関連についての検証を行ったところ,韓国人感冒薬関連眼合併型SJSではHLA-A*02:06と関連があり,インド人ならびにブラジル人(とくに欧米系ブラジル人)感冒薬関連眼合併型SJSでは,HLA-B*44:03と強い関連が示された(表1)14).インド人は,民族的には欧米人と同じCaucasianに属する.このことは,HLA-B*44:03と感冒薬関連眼合併型SJSとの関連は欧米人でも認められる可能性が高いことを示しており,今後の解析が急がれる.IV感冒薬関連眼合併型SJSの疾患関連遺伝子上述のように感冒薬関連眼合併型SJS発症には,HLA-A*02:06とHLA-B*44:03が有意に関連し,本発症には遺伝素因が大きく関与することが示唆された.そこで,筆者らは,HLA解析に加えて,感冒薬関連眼合併型SJSを対象に遺伝子多型解析を行った.感冒薬関連眼合併型SJSでは,薬剤投与の前にウイルス感染症やマイコプラズマ感染症を思わせる感冒様症状を呈することが多い.また,急性期・慢性期ともにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA),メチシリン耐性表皮ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusepidermidis:MRSE)を高率に保菌し,眼表面炎症と感染症を生じやすい15).このことより,筆者は,感冒薬関連眼合併型SJS発症の素因として自然免疫応答異常が関与している可能性を考えた.そこで,まず自然免疫関連遺伝子を候補遺伝子とした解析を行った.その結果,ウイルス感染に対する生体防御に大きく関与しているtolllikereceptor3(TLR3)の遺伝子多型との有意な関連が確認された16).また,マウスモデルを用いた解析で,このTLR3は眼表面炎症ならびに皮膚炎症を促進していることがわかった.さらにその炎症促進には上皮系細胞が大きく関与していることが明らかとなった17,18).第1回目の全ゲノム関連解析では,プロスタグランジン(prostaglandin:PG)E2の受容体の一つであるEP3の遺伝子PTGER3の遺伝子多型との関連が確認された4).このEP3については,マウスモデルを用いた解析により,眼表面上皮細胞や気道上皮,表皮細胞に強く発現しており,眼表面炎症や気道炎症,皮膚炎症を抑制していることが明らかとなっている19~21).さらに,ヒト結膜組織のEP3の免疫染色を行ったところ,正常結膜ならびに結膜弛緩症,翼状片,化学外傷患者の結膜組織において,このEP3は結膜上皮に蛋白発現が強く認められるのとは対照的に,重篤な眼合併症を伴うSJS患者の結膜では著しくその蛋白発現は減弱していた(図4)22).これらのことから,重篤な眼合併症を伴うSJS患者眼表面におけるEP3の発現の減弱が,慢性期にも継続するSJSの眼表面炎症に関与していることが推測される.さらに,感冒薬関連眼合併型SJSがさまざまな感冒薬で発症していることより,感冒薬(非ステロイド抗炎症薬やアセトアミノフェンなど)共通の作用機序であるPG抑制作用がその発症に大きく関与している可能性が示唆される.発症の遺伝素因がない人では,なんらかの微生物感染が生じても,正常の自然免疫応答が生じ,薬剤服用後に解熱・消炎が促進され,感冒は治癒する.しかし,発症にかかわる遺伝素因がある人に,なんらかの微生物感染が生じると異常な自然免疫応答が生じ,さらに薬剤服用が加わって,異常な免疫応答が助長され,重篤な眼合併症を伴うSJSを発症するのではないかと筆者は考えている(図5)15,23).続いて筆者らは,アジア人向けに開発されたChipを用いて,感冒薬関連眼合併型SJS日本人患者117名ならびに健康コントロール691名を対象に再度全ゲノム関連解析を行った.その結果,感冒薬関連眼合併型SJSの発症に,IKZF1遺伝子が強く関与していることが明らかとなった(図6a)6).韓国人,インド人感冒薬関連眼合併型SJSでもその有意な関連は確認されており,国際的に共通の疾患関連遺伝子であることがわかっている(図6b)6).さらに,IKZF1遺伝子の遺伝子多型の機能解析を行ったところ,感冒薬関連眼合併型SJS患者に多い遺伝子型では,ドミナントネガティブ型のスプライシングバリアントの発現比率が低下することが示唆され,感冒薬関連眼合併型SJSの病態にIKZF1の機能亢進が関与している可能性が示唆された(図7)6).感冒薬関連眼合併型SJSの病態へのIKZF1遺伝子の関連については,さらなる研究を継続している.V遺伝子間相互作用解析大変興味深いことに,HLA-A*02:06とTLR3rs3775296TTの両方をもつとオッズ比は,35以上に上昇することが明らかとなった24).そのため,ほかの組み合わせを模索したところ,HLA-A*02:06とPTGER3rs1327464GAまたはAAの両方をもつとオッズ比は,10以上に上昇することがわかってきた25).さらに,最近見つかった新規疾患関連遺伝子多型では,HLA-A*02:06と両方をもつと,オッズ比は100以上に上昇することも示唆されている.これらの複数の遺伝子多型が組み合わさることにより,発症リスクが高まることを,遺伝子間相互作用があるという.筆者は,この遺伝子間相互作用を応用して,感冒薬関連眼合併型SJSの発症予測,つまり前もってハイリスクの人を予測することが可能になるのではないかと考え,研究を継続している(図8).さらに,本疾患の発症に有意に関連することがわかっているいくつかの複数の疾患関連遺伝子には,機能的な相互作用があることも明らかとなっている.たとえば,EP3はTLR3を介した炎症を抑制していることが明らかとなっている(図9a)26).また,ほかの疾患関連遺伝子についても,TLR3によって誘導されることもわかってきている.以上のことより,感冒薬関連眼合併型SJSの発症に複数の疾患関連遺伝子,ならびに,それらの遺伝子間相互作用が大きく関与している可能性が示唆される15).つまり,生体内で複数の疾患関連遺伝子が遺伝子間ネットワークを構成し,ネットワークのバランスが良好であれば安定した生体内の恒常性が維持され,複数のリスク遺伝子多型を有する生体内ではネットワークのバランスが不安定になり,発症リスクにつながるのではないかと,筆者は考えている(図9b).おわりに今後,さらに感冒薬関連眼合併型SJSの遺伝素因の解明を進めることにより,ハイリスクの人を前もって見つけだし,予防的な対策を行うことにより病気の発症を予防する先制医療,そして個人の遺伝情報に応じた最適な医療(オーダーメイド医療)が可能となることが期待される.また,同定された疾患関連遺伝子がどのように相互作用して本疾患の発症機序に関与しているかを明らかにすることは,疾患発症予防法ならびに新しい治療法の開発に大きく貢献するものと期待される.文献1)北見周,渡辺秀晃,末木博彦ほか:Stevens-Johnson症候群ならびに中毒性表皮壊死症の全国疫学調査─平成20年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)重症多形滲出性紅斑に関する調査研究─,日皮会誌:121:2467-2482,20112)上田真由美,外園千恵,木下茂:“難病”診療の最前線Stevens-Johnson症候群の診療ならびに病態解析.京都府立医科大学雑誌117:793-799,20083)LeeHS,UetaM,KimMKetal:Analysisofocularmanifestationandgeneticassociationofallopurinol-inducedStevens-JohnsonsyndromeandtoxicepidermalnecrolysisinSouthKorea.Cornea35:199-204,20164)UetaM,SotozonoC,NakanoMetal:AssociationbetweenprostaglandinEreceptor3polymorphismsandStevens-Johnsonsyndromeidentifiedbymeansofagenome-wideassociationstudy.JAllergyClinImmunol126:1218-1225,20105)UetaM,KaniwaN,SotozonoCetal:IndependentstrongassociationofHLA-A*02:06andHLA-B*44:03withcoldmedicine-relatedStevens-Johnsonsyndromewithseveremucosalinvolvement.SciRep4:4862,20146)UetaM,SawaiH,SotozonoCetal:Newsusceptibilitygene,IKZF1,forcoldmedicine–relatedStevens-Johnsonsyndrome/toxicepidermalnecrolysiswithseveremucosalinvolvements.JAllergyClinImmunol135:1538-1545,20157)HungSI,ChungWH,LiouLBetal:HLA-B*5801alleleasageneticmarkerforseverecutaneousadversereactionscausedbyallopurinol.ProcNatlAcadSciUSA102:4134-4139,20058)LonjouC,BorotN,SekulaPetal:AEuropeanstudyofHLA-BinStevens-Johnsonsyndromeandtoxicepidermalnecrolysisrelatedtofivehigh-riskdrugs.PharmacogenetGenomics18:99-107,20089)TohkinM,KaniwaN,SaitoYetal:Awhole-genomeassociationstudyofmajordeterminantsforallopurinolrelatedStevens-JohnsonsyndromeandtoxicepidermalnecrolysisinJapanesepatients.PharmacogenomicsJ13:60-69,201310)ChungWH,HungSI,HongHSetal:Medicalgenetics:amarkerforStevens-Johnsonsyndrome.Nature428:486,200411)McCormackM,AlfirevecA,BourgeoisSetal:HLA-A*3101andcarbamazepine-inducedhypersensitivityreactionsinEuropeans.NEnglJMed364:1134-1143,201112)OzekiT,MushirodaT,YowangAetal:Genome-wideassociationstudyidentifiesHLA-A*3101alleleasageneticriskfactorforcarbamazepine-inducedcutaneousadversedrugreactionsinJapanesepopulation.HumMolGenet20:1034-1041,201113)UetaM:Stevens-Johnsonsyndromewithocularcomplication.biopharmaceuticsanddrughypersensitivity(MossilloP,PinziniJeds.)p129-150.NovaSciencePublishers,NewYork,201014)UetaM,KannabiranC,WakamatsuTHetal:Trans-ethnicstudyconfirmedindependentassociationsofHLA-A*02:06andHLA-B*44:03withcoldmedicine-relatedStevens-Johnsonsyndromewithsevereocularsurfacecomplications.SciRep4:5981,201415)UetaM,KinoshitaS:Ocularsurfaceinflammationisregulatedbyinnateimmunity.ProgRetinEyeRes31:551-575,201216)UetaM,SotozonoC,InatomiTetal:Tolllikereceptor3genepolymorphismsinJapanesepatientswithStevens-Johnsonsyndrome.BrJOphthalmol91:962-965,200717)UetaM,UematsuS,AkiraSetal:Toll-likereceptor3enhanceslate-phasereactionofexperimentalallergicconjunctivitis.JAllergyClinImmunol123:1187-1189,200918)NakamuraN,Tamagawa-MineokaR,UetaMetal:Tolllikereceptor3increasesallergicandirritantcontactdermatitis.JInvestDermatol135:411-417,201519)UetaM,MatsuokaT,NarumiyaSetal:ProstaglandinEreceptorsubtypeEP3inconjunctivalepitheliumregulateslate-phasereactionofexperimentalallergicconjunctivitis.JAllergyClinImmunol123:466-471,200920)KunikataT,YamaneH,SegiEetal:SuppressionofallergicinflammationbytheprostaglandinEreceptorsubtypeEP3.NatImmunol6:524-531,200521)HondaT,MatsuokaT,UetaMetal:ProstaglandinE(2)-EP(3)signalingsuppressesskininflammationinmurinecontacthypersensitivity.JAllergyClinImmunol124:809-818,200922)UetaM,SotozonoC,YokoiNetal:ProstaglandinEreceptorsubtypeEP3expressioninhumanconjunctivalepitheliumanditschangesinvariousocularsurfacedisorders.PLoSOne6:e25209,201123)上田真由美:眼科におけるStevens-Johnson症候群の病型ならびに遺伝素因.あたらしい眼科32:59-67,201524)UetaM,TokunagaK,SotozonoCetal:HLA-A*0206withTLR3polymorphismsexertsmorethanadditiveeffectsinStevens-Johnsonsyndromewithsevereocularsurfacecomplications.PLoSOne7:e43650,201225)UetaM,KaniwaN,SotozonoCetal:HLA-A*02:06andPTGER3polymorphismexertsadditiveeffectsincoldmedicine-relatedStevens-Johnsonsyndromewithsevereocularcomplications.HumanGenomeVariation2,Articlenumber:15023,201526)UetaM,TomiyaG,TokunagaKetal:EpistaticinteractionbetweenToll-likereceptor3(TLR3)andprostaglandinEreceptor3(PTGER3)genes.JAllergyClinImmunol129:1413-1416,2012501*MayumiUeta:京都府立医科大学感覚器未来医療学〔別刷請求先〕上田真由美:〒602-0841京都市上京区河原町広小路上ル梶井町465京都府立医科大学感覚器未来医療学0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY図1眼後遺症を残す重篤な眼合併症を伴うSJS/TENの急性期の眼所見皮疹,粘膜疹とほぼ同時に両眼性の重度の結膜充血(a),角結膜上皮欠損(b),偽膜形成(c)を生じる.(文献23より転載)図2重篤な眼合併症を伴うSJS/TENの眼後遺症重篤な眼後遺症として,重症ドライアイ(a,b),眼瞼結膜の瘢痕形成(c),瞼球癒着(d),睫毛乱生(e:黄色矢印),症例によっては角膜への結膜侵入(f)または眼表面の角化(g)による重度の視力障害があげられる.502あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(20)図3原因薬剤によりSJS⊘TENの遺伝素因が異なる(文献6より転載)表1重篤な眼合併症を伴う感冒薬関連SJSとHLAとの関連(文献5,14を改変して転載)a.日本人感冒薬関連合併型SJSと健常コントロールとの比較HLAgenotype保持者頻度(%)重篤な眼合併症を伴う感冒薬関連SJS健常コントロールpOddsratio(95%CI)A*02:0671/151(47.0%)87/639(13.6%)2.72E-205.63(3.81-8.33)B*44:0339/151(25.8%)95/639(14.9%)0.001251.99(1.30-3.05)b.国際サンプル(インド,ブラジル,韓国)を用いた検証HLA-A*02:06EthnicgroupCarrierfrequency(%)DominantmodelanalysisCM-SJS/TENwithSOCControlpOddsratio(95%CI)Indian1/20(5.0%)3/55(5.5%)0.9380.91(0.09-9.31)Brazilian0/39(0.00%)0/134(0.00%)──Korean11/31(35.5%)14/90(15.6%)0.01813.00(1.18-7.57)HLA-B*44:03EthnicgroupCarrierfrequency(%)DominantmodelanalysisCM-SJS/TENwithSOCControlpOddsratio(95%CI)Indian12/20(60.0%)6/55(10.9%)1.07.E-0512.25(3.57-42.01)Brazilian10/39(25.6%)15/134(11.2%)0.02392.74(1.12-6.71)Korean6/31(19.4%)18/90(20.0%)0.9380.96(0.34-2.69)BrazilianCaucasian6⊘15(40.0%)⊘6⊘62(9.6%)⊘p=0.0037,OR=6.22(21)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016503結膜弛緩症患者の結膜慢性期SJS患者の結膜慢性期化学外傷患者の結膜亜急性期SJS患者の結膜図4重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN患者の眼表面組織におけるEP3蛋白発現の減弱結膜弛緩症,化学外傷患者の結膜組織においてEP3蛋白は結膜上皮に強く認められるのとは対照的に,重篤な眼合併症を伴うSJS/TEN患者の結膜では著しくその蛋白発現は減弱している.(文献22より転載)504あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(22)図5重篤な眼合併症を伴うSJS⊘TENの発症機序についての仮説発症の遺伝子素因がない人では,なんらかの微生物感染が生じても,正常の自然免疫応答が生じ,薬剤服用後に解熱・消炎が促進され,感冒は治癒する.しかし,発症の遺伝子素因がある人に,なんらかの微生物感染が生じると異常な自然免疫応答が生じ,さらに薬剤服用が加わって,異常な免疫応答が助長され,SJSを発症する.(文献23より転載)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016505rs4917014遺伝子多型:発症しやすい高リスクタイプ(TT)を持つ人の観点から図6IKZF1遺伝子多型の機能解析a:感冒薬関連眼合併型SJS日本人患者117名ならびに健康コントロール691名を対象にした全ゲノム関連解析の結果(マンハッタンプロット).既報のHLA領域に加えて,IKZF1遺伝子に強い関連を認めた.b:韓国人,インド人感冒薬関連眼合併型SJSでもその有意な関連が確認された.(文献6より転載)506あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(24)IKZF1は,遺伝子発現のときに複数のスプライシングバリアントが存在する図7感冒薬関連眼合併型SJS発症関連遺伝子IKZF1a:IKZF1遺伝子の代表的なスプライシングバリアント(IK1~IK4).b:感冒薬関連眼合併型SJS患者に多い遺伝子型では,ドミナントネガティブ型のスプライシングバリアントの発現比率が低下している.(文献6より転載)疾患関連遺伝子の相互作用解析発症リスクを著明に上昇させるリスク遺伝子多型の組み合わせ図8遺伝子間相互作用を応用した感冒薬関連眼合併型SJSの発症予測HLA-A*02:06とTLR3rs3775296TTの両方をもつとオッズ比は35以上に上昇,HLA-A*02:06とPTGER3rs1327464GAまたはAAの両方をもつとオッズ比は10以上に上昇する.さらに,今後,新たに見つかる新規疾患関連遺伝子の組合せにより,さらにハイリスクの人の予測が可能となることが期待される.図9疾患関連遺伝子の相互作用a:EP3は,TLR3を介して産生されるさまざまな炎症性サイトカインの発現ならびに産生を抑制することにより炎症を抑制している.b:生体内で複数の疾患関連遺伝子が遺伝子間ネットワークを構成し,ネットワークのバランスが良好だと安定した生体内の恒常性が維持され,複数のリスク遺伝子多型を有すると,ネットワークのバランスが不安定になり,発症リスクにつながる.

加齢黄斑変性のゲノム発症予測

2016年4月30日 土曜日

特集●眼の先制医療あたらしい眼科33(4):497〜500,2016加齢黄斑変性のゲノム発症予測PredictionofAge-RelatedMacularDegenerationbyGenomicStudy山城健児*はじめに加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)は高齢者の50~100人に1人にみられる疾患であり,臨床医がその発症に遺伝的な背景があることを感じとることはあまりないのではないかと思う.しかし,AMDの発症に関与する遺伝子を発見するための研究は1990年代から広く行われてきており,2005年にはCFH遺伝子がその発症確率を2.5倍以上に上昇させる影響をもっている感受性遺伝子であることが発表され,補体系路の因子を対象とした治療薬の開発も始まった.その後の10年間でAMDに関するゲノム研究は飛躍的に進み,治療方法の開発だけではなく,新たな感受性遺伝子の発見が新たな病態解明や発症機序の解明につながり,AMDの表現形の人種差やサブタイプ(ポリープ状脈絡膜血管症;polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV,網膜血管腫様増殖;retinalangiomatousproliferation:RAP)ごとの発症機序の違いを遺伝子によって説明できるのではないかとも期待されている.さらに遺伝子診断による発症予測や,治療反応性を予測できる遺伝子の発見による個別化医療の実現などの臨床応用の可能性も大きい.また,倫理的な問題はあるが複数の感受性遺伝子を調べることでAMD発症のリスクを予測することは可能であり,どういった遺伝子がAMD発症に関与しているのかを知っておくことは眼科医として重要である.I加齢黄斑変性の発症にかかわる遺伝子現在わかっているAMDの発症に関与する遺伝子を表1にまとめた1).補体系遺伝子(CFH,CFI,C9,C2/CFB,C3)や脂質代謝系遺伝子(LIPC,CETP,APOE,TIMP3),新生血管関連遺伝子(ADAMTS9,VEGFA,MMP9)のほかにも,さまざまな遺伝子の多型がAMDの発症に関連していると考えられている.ただし表1に載せた遺伝子の半数近くが2016年の2月に発表されたばかりのもので,これらの遺伝子すべてが本当にAMDの発症に関与しているかどうかについては,まだ追試による検証が必要な段階である.表1にはおもに白人で調べられたオッズ比を記載しており,このオッズ比からはARMS2/HTRA1とCFHがAMDの発症に非常に大きな影響を与えており,次にC9やC2/CFBといった補体系の遺伝子が重要であることがわかる.一方で,アジア人を対象に行った研究結果のなかからオッズ比が高い順に感受性遺伝子を列挙すると,ARMS2/HTRA1とCFHの次に重要な遺伝子は脂質代謝にかかわるCETPとなっている(表2)2,3).この違いが白人とアジア人ではAMDの発症機序に違いがあることを示しているのか,体質や生活習慣の違いがそれぞれのAMD発症に影響を与える遺伝子の違いにつながっているのか,今後の研究で明らかにしていく必要がある.表2中のC6orf223,SLC44A4,FGD6についてはアジア人でのみAMDの発症に関与していると報告されており,白人を対象にした研究ではAMDの感受性遺伝子としては報告されていきていない.まずほかのアジア人サンプルを用いて本当にAMDの感受性遺伝であるのかどうかを検証すべきであり,白人ではこれらの遺伝子が本当にAMDの発症に関与していないのかどうかについても検証されるべきである.これらの遺伝子がアジア人でのみ発見されてきた理由として,アジア人に多いPCVの感受性遺伝子であるという可能性もあり,さらに検討していく必要があるといえる.IIPCVとRAPの感受性遺伝子の特徴PCVはアジア人のAMDの半数近くを占めるサブタイプで,典型的なAMDとは治療反応性が違うことから,発症機序にも違いがあるのではないかと考えられている.そこで,これまでにPCVと典型AMDの違いをゲノム研究であきらかにしようという試みが行われてきている.PCVと典型AMDではARMS2/HTRA1のリスクアレルがPCVのほうが少ないという報告は多数あり4,5),ARMS2/HTRA1がどのようにAMDの発症に関与しているのかが解明されれば,PCVと典型AMDとの決定的な違いが明らかになるのかもしれない.また,PCVと典型AMDの違いを説明できる可能性のある遺伝子としては,ほかにELN6)やCD367,8)が報告されているが,ELNについては表3にまとめるように追試の結果が大幅に異なっており9,10),白人では典型AMDにもPCVにも無関係であることも示されている11)ことから,PCVと典型AMDとの違いを説明できる遺伝子とはいえなさそうである.同様にCD36についてもPCVと典型AMDとの違いを説明できる遺伝子である可能性は低いと考えられる.AMDは白人では女性に多く,アジア人では男性に多いことはよく知られているが,RAPはアジア人でも女性に多く,ほぼ全例が両眼発症をきたすという点で,PCVや典型AMDとは大きく異なる表現形である.このRAP患者についてはARMS2/HTRA1のリスクアレルをほぼ90%がもっているということを複数の研究結果が示しており4,10,12),平均的な日本人ではそのリスクアレルの頻度が40%程度であることを考えると,ARMS2/HTRA1の影響を非常に強く受けていることがわかる.ARMS2/HTRA1に関する基礎研究が進めば,RAPの病態もさらに明らかになっていくかもしれない.III萎縮型加齢黄斑変性と滲出型加齢黄斑変性の違い白人には萎縮型AMDが多く,アジア人には滲出型AMDが多い.しかし,もちろん白人に滲出型AMDが生じることはあり,アジア人に萎縮型AMDが生じることもある.萎縮型,滲出型ともにドルーゼンを元にして生じており,感受性遺伝子も共通していることから,萎縮型AMDが生じる機序と滲出型AMDが生じる機序はどこまでが同じでどこからが違うのかという問題はいまだに解明されていない.最近になって,MMP9が萎縮型AMDの発症には無関係で,滲出型AMDの発症にのみ影響を与えているということが発表された1).追試による検証は必要であるが,萎縮型AMDを発症しやすい眼と滲出型AMDを発症しやすい眼とを見分ける検査方法も開発できるかもしれない.IV僚眼の発症予測現時点でわかっている感受性遺伝子とそのオッズ比から,AMDの発症予測はかなり高い精度で可能である.しかし,発症予測をしたところで,確実に発症を予防できる方法が確立されているわけでもなく,倫理的な問題から発症予測を行うことはできない.一方,片眼発症のAMD患者に対して僚眼の発症予測を行うと,すでに発症しているAMDの治療をどの程度積極的に行うのか,どの程度の頻度で僚眼の眼底検査を行うのかといった治療方針を決定する際の補助となり得る.図1はARMS2遺伝子のA69S多型を調べることで片眼AMD発症患者をGG群,GT群,TT群に分類して僚眼の発症を生存曲線で表したものである13).10年以上経過観察すると,GG群では僚眼発症が10%程度であるのに対して,GTでは50%程度,TT群では70%程度に僚眼発症していることがわかる.さらに図2のようにARMS2,CFH,TNFRSF10A,VEGFA,CFIの5つの遺伝子の多型を調べて,それぞれのオッズ比をもとにGeneticRiskScoreを計算すると,さらにその予測精度を向上させることもできる14).今後は片眼にAMDを発症した患者に対して遺伝子診断を行い,僚眼の発症予測を行って治療方針を決定していくべきであろう.おわりにAMDの感受性遺伝子そのものを研究するゲノム研究はそろそろ終わりそうで,AMD感受性遺伝子の候補はほぼ出揃ったと考えられる.今後はこの遺伝子の診断を臨床的にどう応用するかを検討していく必要があり,ゲノム研究がよりよい医療の提供に役立っていく段階にさしかかっていると考えられる.文献1)FritscheLG,IglW,CookeBaileyJNetal:Alargegenome-wideassociationstudyofage-relatedmaculardegenerationhighlightscontributionsofrareandcommonvariants.NatGenet48:134-1343,20162)ChengCY,YamashiroK,ChenLGetal:Newlociandcodingvariantsconferriskforage-relatedmaculardegenerationinEastAsians.NatCommun6:6063,20153)NakataI,YamashiroK,Akagi-KurashigeYetal:Associationofgeneticvariantson8p21and4q12withagerelatedmaculardegenerationinAsianpopulations.InvestOphthalmolVisSci53:6576-6581,20124)HayashiH,YamashiroK,GotohNetal:CFHandARMS2variationsinage-relatedmaculardegeneration,polypoidalchoroidalvasculopathy,andretinalangiomatousproliferation.InvestOphthalmolVisSci51:5914-5919,20105)MaL,TangFY,ChuWKetal:Associationofgeneticvariantswithpolypoidalchoroidalvasculopathy:Asystematicreviewandupdatedmeta-analysis.Ophthalmology122:1854-1865,20156)KondoN,HondaS,IshibashiKetal:Elastingenepolymorphismsinneovascularage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.InvestOphthalmolVisSci49:1101-1105,20087)KondoN,HondaS,KunoSetal:PositiveassociationofcommonvariantsinCD36withneovascularage-relatedmaculardegeneration.Aging(AlbanyNY)1:266-274,20098)BesshoH,HondaS,KondoNetal:TheassociationofCD36variantswithpolypoidalchoroidalvasculopathycomparedtotypicalneovascularage-relatedmaculardegeneration.MolVis18:121-127,20129)YamashiroK,MoriK,NakataIetal:Associationofelastingenepolymorphismtoage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.InvestOphthalmolVisSci52:8780-8784,201110)TanakaK,NakayamaT,YuzawaMetal:Analysisofcandidategenesforage-relatedmaculardegenerationsubtypesintheJapanesepopulation.MolVis17:2751-2758,201111)LimaLH,MerriamJE,FreundKBetal:Elastinrs2301995polymorphismisnotassociatedwithpolypoidalchoroidalvasculopathyincaucasians.OphthalmicGenet32:80-82,201112)YuzawaM:Polypoidalchoroidalvasculopathy.NihonGankaGakkaiZasshi116:200-231,201213)TamuraH,TsujikawaA,YamashiroKetal:AssociationofARMS2genotypewithbilateralinvolvementofexudativeage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol154:542-548,201214)MiyakeM,YamashiroK,TamuraHetal:Thecontributionofgeneticarchitecturetothe10-yearincidenceofage-relatedmaculardegenerationinthefelloweye.InvestOphthalmolVisSci56:5353-5361,2015*KenjiYamashiro:京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学〔別刷請求先〕山城健児:〒606-8507京都市左京区聖護院川原町54京都大学大学院医学研究科感覚運動系外科学講座眼科学0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(15)497表1加齢黄斑変性の感受性遺伝子染色体遺伝子オッズ比1CFH2.632COL4A31.113ADAMTS9-A21.143COL8A11.594CFI1.155C91.85PRlR-SPEF21.116C2/CFB/SKIV2L1.756VEGFA1.147PILRB/PILRA1.137KMT2E/SRPK21.118TNFRSF10A1.119TGFBR11.149TRPM31.109MIR6130/RORB1.119ABCA11.1110ARMS2/HTRA12.8110ARHGAP211.1112RDH5/CD631.1612ACAD101.5113B3GALTL1.1214RAD51B1.1115LIPC1.1516CETP1.1917TMEM97/VTN1.1017NPLOC4-TSPAN101.1319C31.4319APOE1.4319CNN21.1120MMP91.1820C20orf851.3222SYN3/TIMP31.3022SLC16A81.14表2アジア人の加齢黄斑変性発症に影響を与える遺伝子染色体遺伝子オッズ比10ARMS2/HTRA12.421CFH1.6916CETP1.416C2/CFB1.356C6orf2231.286SLC44A41.278TNFRSF10A1.273ADAMTS91.234CFI1.1719APOE1.1612FGD61.156IER3/DDR11.126VEGFA1.109TGFBR11.10498あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(16)表3ELNと典型AMDおよびPCVとの関連(rs2301995のマイナーアレル頻度比較)Kondo,etalYamashiro,etalTanaka,etal症例数2851,774962対照群vs典型AMD15%vs14%18%vs24%23%vs16%p=0.82p=0.0028p=0.0034対照群vsPCV15%vs26%18%vs19%23%vs20%p=0.0092p=0.47p=0.20図1ARMS2A69S遺伝子多型による僚眼の加齢黄斑変性発症率図2GeneticRiscScoreによる僚眼の加齢黄斑変性発症予測ARMS2,CFH,TNFRSF10A,VEGFA,CFIの5つの遺伝子の多型をもとに算出したGeneticRiskScoreの上位10%(青),中位80%(赤),下位10%(黒)の,それぞれの僚眼発症の割合.(17)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016499500あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(18)

緑内障の先制医療─その夢とハードル─

2016年4月30日 土曜日

特集●眼の先制医療あたらしい眼科33(4):491〜495,2016緑内障の先制医療─その夢とハードル─PreemptiveMedicineinGlaucoma─HopeandHurdles─田代啓*はじめに緑内障の先制医療には大いなる夢もあり,ハードルもある(図1,表1).緑内障は日本人の中途失明原因1位の疾患であり,有病率は加齢に伴って増加し,多治見スタディによると40歳以上で約5%,70歳以上では約10%を占める1).日本人の緑内障の約7割が主病型の広義原発開放隅角緑内障(正常眼圧緑内障と狭義原発開放隅角緑内障からなる)である.本稿では主として広義原発開放隅角緑内障について述べる.I緑内障の先制医療の課題とはQOV(qualityofvision)やQOL(qualityoflife)にかかわる重要性のみならず,高齢者が外傷を負うおもな原因の一つが視野欠損を含む視覚の障害であるところから,高齢者が社会のさまざまな役割を担う必要が議論される昨今,疾病や外傷の後遺症のために高齢者の社会参加が阻まれることを防止するためにも,緑内障の先制医療の実現が強く望まれる疾患である.同様にニーズが高いアルツハイマー(Alzheimer)病の先制医療の実現が,患者のケアと家族への支えの医療福祉負担軽減につながることがおもに期待されるのに対し,緑内障の先制医療の実現は,社会貢献を担う勤労可能な労働人口を増加させることも期待されるという特色を有する.先制医療の必要性が痛切に理解されながらも,利用可能な介入方法候補に乏しい疾患が多いなか,緑内障の先制医療は,すでに主流の緑内障対策のコンセプトになっている早期発見と早期治療を前倒しして発症前の介入をすれば,比較的低侵襲,低コストで先制医療スキームが成り立つのが特色である.緑内障は先制医療の実現までの技術的ハードルが比較的低い疾患の一つである.緑内障の先制医療の実現のために必要なのは,発症リスク予測である.緑内障のゲノム研究の進展によって,発症リスクの予測は原理的には実現可能なレベルに近づいている.視野欠損を起こしていない未病状態での介入開始基準の策定が今後必要である.緑内障薬の発症前投与の安全性に配慮したガイドライン策定と,緑内障薬の発症前投与による長期予後の評価方法の確立も課題である.先制医療の全過程に関するガイドラインなどの制度と倫理の整備性も,7年以上の長期にわたるフォローと評価など,従来の制度や倫理の枠に収まらない部分もあるので,これからの努力によって越えてゆくべき重要なハードルである.発症リスクの予測方法が近い将来に確立されることによって,緑内障の先制医療は実現可能な多くのステップの積み重ねでトータルとして実現可能となる.それは,眼科医とその周辺がこれまでよりも多忙になることを意味するが,眼科学的なQOVとQOLのみならず,社会貢献を担う勤労可能な労働人口を増加させる貢献するという点にも理解を深めて対応されることを願いたい.また,先制医療で緑内障対応を前倒しにすることは,有病率が5%ならば,発症リスク検査の参加者の5%に視野欠損が見いだされ,眼底像や眼圧など諸所見とあわせて緑内障と診断されることが想定され,早期発見,早期治療の充実に直結する(図1).II緑内障の発症のメカニズム広義原発開放隅角緑内障は,網膜の神経節細胞とよばれる1種類のニューロンが死滅することで,その責任範囲の視野欠損が起こる.視野欠損は病態のfinalcommonpathwayであり診断の必須項目でもある.視野欠損緑内障の原因が多因子であっても,網膜の神経節細胞の死滅が共通する発症機序である.網膜の神経節細胞が死滅する原因の一つは,高眼圧である.現在使用されているすべての緑内障点眼薬は根治療法ではなく対症療法であり,眼圧降下を効能としている.高眼圧になると網膜の神経節細胞死が起こる機序は不明である.しかし,眼圧が「teenagerange」といわれる13~19mmHgの「高め」の範囲以下の正常とされる眼圧でも網膜の神経節細胞の死滅は起こり,正常眼圧緑内障を発症するので,眼圧以外の神経節細胞死の原因も想定されるが,現時点ではその詳細は不明である.既存の緑内障点眼薬が,高眼圧の狭義原発開放隅角緑内障のみならず正常眼圧緑内障に対しても視野欠損進行を遅らせることに有効であることも興味深い.神経節細胞死の機序と眼圧を高める機序が一部重複している可能性と,眼圧は正常とされている範囲からさらに低下させると神経節細胞死が減る可能性の2つの仮説が想起されるが詳細は不明である.網膜の神経節細胞死滅の原因が多因子であることが,広義原発開放隅角緑内障を多因子疾患たらしめている本質だと言い換えることができる.網膜の1個1個の神経節細胞死自体は直接に観察または計測不可能であるが,神経節細胞死の結果による眼底像の変化は観察可能と考察されている.また,もともと視神経径や視神経形状には個人差があり,これら眼底所見を総合してある程度の発症リスク予測が可能になることは語られ続けているが,まだ実現していない.III緑内障の病因ほかの多因子疾患と同様,緑内障の病因は,ゲノム寄与と環境寄与に二分できる.緑内障は家族歴,遺伝傾向が古くから知られていて,疫学的にも血縁者の一致率が高いのでゲノム寄与率が高いことが想定される2,3)が,養子縁組が多い欧米諸国での「身長のゲノム寄与率は8割から9割である4)」といったゲノム寄与率の決定に威力を発揮している「双子養子追跡研究」の結果は,緑内障ではまだ報告されていないので,緑内障のゲノム寄与率は未確定である.広義原発開放隅角緑内障の原因遺伝子同定研究は,緑内障を自然発症する遺伝的発症モデル動物が知られていないので,もっぱらヒトでの解析に頼っている.ほかの多因子疾患と同様,2008年以前は,家系を利用するアプローチと候補遺伝子を調べるアプローチによって研究結果がもたらされた.当時話題になったオプチニューリンやミオシリンやWDR36などの緑内障関連遺伝子候補は,大規模ゲノムワイド関連解析(genomewideassociationstudy:GWAS)ではどの人種でも再現されなかった5~10).小集団での疾患とのかかわりが否定されたわけではないが,広汎な緑内障の一般的な変異としては確認されなかった.2009年以降,使用する検体数と関連解析結果の信頼度をオッズ比の関数として算出する検出力計算が,現実を強く反映することがわかってきた.たとえばオッズ比1.4のマーカーsinglenucleotidepolymorphism(SNP,一塩基多型)をGWASで検出した際,それが40%以上の確率で真であるために必要な検体数は2,000例以上である.Affymetrix社とIllumina社は,2004年のヒトゲノム全塩基配列決定プロジェクトとその後のゲノムの個体差同定のためのHapMapProjectの重要な成果であるヒトのSNPの位置の同定結果を素早く反映したマイクロアレイを開発した.それを用いたGWASの結果が,筆者らの2009年の世界初の広義原発開放隅角緑内障のAffymetrix社500Kチップと別集団バリデーションのIllumina社チップを用いた症例1,519例と陰性例857例を解析した本格的GWASの報告を嚆矢として5),2015年までに世界で22論文発表されている6).広義原発開放隅角緑内障とCDKN2B-AS1領域の関連を見いだしたメルボルン大学のBurdonらの報告7),CDKN2B-AS1領域は広義原発開放隅角緑内障全体と正常眼圧緑内障に関連するが,狭義原発開放隅角緑内障には関連しないとする筆者らの報告8)あたりが,正常眼圧緑内障と狭義原発開放隅角緑内障は別疾患なのか,眼圧は異なるが一つの疾患単位なのかという眼科学的課題へのゲノム学からの答えとして学問的に重要である.一方で,例数が多く検出力の計算上は正しい結論を導ける可能性が高い多施設共同研究では,CDKN2B-AS1領域は広義原発開放隅角緑内障全体,正常眼圧緑内障,狭義原発開放隅角緑内障のいずれとも関連するとの結果となる傾向がある9,10).多施設が参加する共同研究では臨床的診断の基準を一定に揃えることが困難で,正常眼圧緑内障,狭義原発開放隅角緑内障の境界が曖昧になった結果を反映してしまっている可能性があるので,今後注意深い議論が必要である.広義原発開放隅角緑内障のGWAS結果は,他の多因子疾患GWAS結果と同様に別研究や別人種で再現性が高く6~10),信頼性が高い.疾患の病因を考察していくうえでの千年後も結果が揺るがない人類にとっての知的な資産として,緑内障SNPマーカーがGWAS研究によって蓄積されつつあるといえる6).しかしながら,ほかの多因子疾患のGWAS結果の活用が地味なのと同様,GWASで得られたSNPマーカーの相互の関係を紡いで緑内障の病因論に寄与することはまだ実現していない.その理由として,他の多因子疾患のGWAS結果と同様,信頼できるGWAS研究の結果同定されたSNPマーカー群の以下の2つの特色がある.①大半がイントロンや遺伝子間領域など非翻訳領域に存在するため,遺伝子にコードされた蛋白質の機能を緑内障の病因説明に使えない.周辺500kbに遺伝子が存在しないことすらある.GWAS研究の結果同定されたSNPマーカーは発現制御にかかわると推察されているが,現時点では制御の対象遺伝子が不明である.CDKN2B-AS1領域の場合も,ノンコーディングなので,なんらかの発現制御をしていると推察されるが詳細は不明である.②同定されたSNPマーカーのオッズ比の平均値は1.1と1.2の間であり,かなり低い.多因子疾患は本当に多因子だと明らかになってきた.実は,CDKN2B-AS1のオッズ比は諸研究で1.6~2.1と報告され6~10),その値は有病率が3%以上の大型多因子疾患のGWASで同定されたSNPマーカーのオッズ比としては最高値なのであるが,それだけでは医学的に有効な発症リスク予測は困難である.それ以外のSNPマーカーは1.4以下のオッズ比であり,平均値は結局1.2以下となる.今後さらに,集団における頻度が低い(minorallelefrequencyが低い)SNPマーカー多数の寄与を念頭に,国際協力を含めたGWAS研究の進展によって同定されるSNPマーカーが増加するとともに,緑内障発症SNPマーカー群と病因との関係が解明されて人類にとっての医学的価値が高まっていくことが期待される.そこには,神経節細胞死阻止などを機序とする新しい治療薬開発のシーズが含まれていることが推察され,今後の展開が待たれる.IV原発開放隅角緑内障の先制的介入法加齢と飲酒と喫煙を除くと,原発開放隅角緑内障の先制的介入に使える生活習慣は現時点では知られていない8).運動や塩分摂取制限のようなほかの多因子疾患で介入に使用される生活習慣の改善指導の候補が,原発開放隅角緑内障では見当たらないので,介入方法としては1日30秒ほどの点眼が中心となる.粘り強い努力を要する生活習慣の改善を求められないということを,むしろメリットと捉えることが可能である.V緑内障に対する先制医療の可能性緑内障の先制医療の実現が有望視される理由(表1)は,安価で簡便で検出力に優れた発症リスク予測の実現が有望であること,フォローで発症と進行を検出・確認する低侵襲で信頼度の高い検査がすでに確立されていること,海外の臨床試験EarlyManifestGlaucomaTrial(EMGT)などの結果から,点眼薬による介入で眼圧を下げることにより長期予後が改善されるとのコンセンサスがあること11),先制的介入に使用できることが大いに期待できる点眼薬が多種類存在することによる.有害事象への対応をしっかりすることを前提に,点眼の侵襲性は,さまざまな他の多因子疾患の先制医療の介入方法に比べて低い部類と考えられることと,その費用が比較的安価であることも実現が有望視される理由である.視野進行をフォロー検査することにより,介入の効果を緑内障の病態のfinalcommonpathwayで診断の定義でもある視野欠損を指標に評価できることも,緑内障の先制医療が他の先制医療に先行して実現して,手本を示すような発展を期待される重要な点である.しかもそれは,患者にとって肝心なQOVとQOLの向上と完全にオーバーラップする.おわりに緑内障先制医療と同様に待ち望まれるアルツハイマー病の先制医療と緑内障の先制医療の展望を比較すると,緑内障の先制医療の実現可能性に向けての立ち位置が恵まれていることが読み取れる(表2).介入方法が存在していて,先制医療にも有効性と安全性を確認したうえで転用できる可能性が大いにあることは意義深い.恵まれた立ち位置にある緑内障の先制医療の実現が期待される.文献1)IwaseA,SuzukiY,AraieMetal:Theprevalenceofprimaryopen-angleglaucomainJapanese:theTajimiStudy.Ophthalmology111:1641-1648,20042)TielschJM,KatzJ,SommerAetal:Familyhistoryandriskofprimaryopenangleglaucoma.TheBaltimoreEyeSurvey.ArchOphthalmol112:69-73,19943)WangX,HarmonJ,ZabrieskieNetal:UsingtheUtahPopulationDatabasetoassessfamilialriskofprimaryopenangleglaucoma.VisionRes50:2391-2395,20104)SilventoinenK,SammalistoS,PerolaMetal:Heritabilityofadultbodyheight:Acomparativestudyoftwincohortsineightcountries.TwinRes6:399-408,20035)NakanoM,IkedaY,TaniguchiTetal:Threesusceptiblelociassociatedwithprimaryopen-angleglaucomaidentifiedbygenome-wideassociationstudyinJapanesepopulation.ProcNatlAcadSciUSA106:12838-12842,20096)Abu-AmeroK,KondkarAA,ChalamKV:Anupdatedreviewonthegeneticsofprimaryopenangleglaucoma.IntJMolSci16:28886-28911,20157)BurdonKP,MacgregorS,HewittAWetal:GenomewideassociationstudyidentifiessusceptibilitylociforopenangleglaucomaatTMCO1andCDKN2B-AS1.NatGenet43:574-578,20118)NakanoM,IkedaY,TokudaYetal:CommonvariantsinCDKN2B-AS1associatedwithoptic-nervevulnerabilityofglaucomaidentifiedbygenome-wideassociationstudiesinJapanese.PLoSOne7:e33389,20129)WiggsJL,YaspanBL,HauserMAetal:Commonvariantsat9p21and8q22areassociatedwithincreasedsusceptibilitytoopticnervedegenerationinglaucoma.PLoSGenet8:e1002654,201210)ChenY,LinY,VithanaENetal:CommonvariantsnearABCA1andinPMM2areassociatedwithprimaryopenangleglaucoma.NatGenet46:1115-1119,201411)LeskeMC,HeijlA,HymanLetal:EarlyManifestGlaucomaTrial:designandbaselinedata.Ophthalmology106:2144-2153,1999*KeiTashiro:京都府立医科大学大学院医学研究科ゲノム医科学〔別刷請求先〕田代啓:〒602-0841京都市上京区河原町通広小路上ル梶井町465京都府立医科大学大学院医学研究科ゲノム医科学0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(9)491先制医療用緑内障発症予測健診は未実現研究進行中発症リスク予測が実現すれば眼科医による眼底検査・視野検査点眼による先制介入既に発症介入せずフィードバック従来通り介入へ発症遅延をモニターする追跡研究発症可能性「低」発症可能性「高」欠損陰性欠損陽性発症可能性「高」or「低」図1緑内障に対する先制医療の可能性492あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(10)表1緑内障の先制医療実現に向けての課題現状と展望発症予測ゲノム検査による発症リスク予測が研究中診断方法発症リスク予測で可能性が高い場合の精密検査として視神経乳頭形状と視野検査がすでにある介入方法緑内障点眼薬がすでに存在する.先制医療での有効性は未検証介入方法の侵襲性比較的低い.安全確保と安全なプロトコール策定が課題介入の有効性検証7〜20年スパンの追跡研究による検証が大切より良い介入方法より良い発症遅延と進行遅延効果を示す新しい点眼薬の開発が望まれる表2緑内障とアルツハイマー病の比較緑内障アルツハイマー病Finalcommonpathway網膜神経節細胞死脳内(コリン作動性)ニューロン死症状視野欠損痴呆ゲノム寄与高有画像眼底像読影MRI,CTによる脳萎縮,老人斑,神経原線維変化のPETスキャンによる画像検査が進歩原因一部で高眼圧アミロイドb質沈着,タウ蛋白質沈着,一部で循環障害予兆一部で高眼圧軽度認知機能障害介入方法点眼薬が存在医薬品が4種類許可されているが,広く有効な介入方法は存在せずより良い介入方法さらに有効な点眼薬開発を期待開発を期待(11)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016493494あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(12)(13)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016495

先制医療とは何か,いまなぜそれが 必要なのか

2016年4月30日 土曜日

特集●眼の先制医療あたらしい眼科33(4):485〜489,2016先制医療とは何か,いまなぜそれが必要なのかPreemptiveMedicine─WhyItisofGreatImportanceNow─井村裕夫*はじめに現在,日本の医療制度は大きな転換期にさしかかっている.それは第二次世界大戦の後に生まれた団塊の世代が,すべて65歳を超え,経済活動から引退し始めているからである.今後10年経過すると,この人たちがすべて75歳以上の後期高齢者となる.75歳を超えると医療費,介護費が急速に増加することが知られている.しかも出生率は低い値にとどまっているので,15~64歳のいわゆる生産年齢人口は減少の一途をたどっていく.現在,生産年齢人口4.7人が1人の75歳以上の高齢者を支えているが,その比率は2025年には3.3人,2055年には1.9人となる.しかも生産年齢人口が減るので,当然GDPは減少し,医療制度,介護制度をどう持続可能なものにしていくかが,深刻な課題となって,われわれの眼前に横たわっている1).医学も当然それに向けて,重点課題を変えていかねばならない.一つの解決法は,いわゆる健康寿命を延伸することによって,医療費,介護費を節減することである.そのためには,高齢者の生活の質(qualityoflife:QOL)を低下させ,介護を必要とする状態にする非感染性疾患(non-communicabledisease:NCD)への対策を進めることである.NCDに対してわが国では,生活習慣病という言葉が広く用いられている.これは人々に生活習慣の改善を促すという意味ではわかりやすいが,学問的にはその範囲を決めることがむずかしい概念である.したがって,本稿では,国際的に広く用いられているNCDを使用することとする.INCDはどのようにして起こるのかNCDは感染症,外傷,中毒以外の疾患の総称で,きわめて範囲が広い.ここでは高齢者に多く,死亡率(mortality)を高めるか,介護を必要とする病態(morbidity)をきたす疾患を対象とする.表1はそのなかで,比較的症例数が多いものを取り上げて示したものである.眼科疾患としては,糖尿病,高血圧,動脈硬化などの全身疾患に伴うものと,加齢黄斑変性,緑内障などの眼科に特有の疾患とがある.NCDは,一般に遺伝素因と環境因子が相互作用して,発症すると考えられている.遺伝素因の研究は,標準ヒトゲノムの解読が終わった今世紀初頭から,活発に展開された.とくに一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNPs)と疾患の関連を解明する全ゲノム関連解析(genewideassociationstudy:GWAS)が,過去10年余りの間に全世界で,ヒトの表現型や疾患を対象として活発に展開された2).ゲノムには図1に示すようにさまざまな多型があるが,そのなかで疾患との関連でもっとも注目されてきたのが,SNPsである.SNPとは1つの塩基(例えばグアニンがシトシンに)置換されたものをいう.こうしたSNPsを指標として,きわめて多くの症例を対象として疾患との関連を検討するのが,GWASである.もし関連を証明できれば,その近傍に病因遺伝子があると考えられるからである.過去10年余りにわたって,さまざまなNCD,あるいは身長,髪の色などの表現型とSNPsの関係について,多くのGWAS研究が行われて,多数の疾患関連SNPsが同定された.しかし,このようにして見出された個々のSNPの影響力は一般に小さいが,そのなかでもかなり高いオッヅ比(病気へのかかりやすさ)をもつSNPsが見出されたのは,アルツハイマー病と加齢黄斑変性である.アルツハイマー病では,アポリポ蛋白Eのe4がリスクを著しく高めるし3),加齢黄斑変性では補体Hの突然変異(第1染色体)とARMS2/HTRA1の多型(第10染色体)を,多くの例がもっていることが明らかになっている4).もちろん両疾患とも,他にも多数の関連するSNPsが報告されている.最近,とくに米国ではインターネットで申し込むと,疾患関連遺伝子を調べるDTC(direct-to-consumer)遺伝子検査が盛んになっており,そのほとんどで加齢黄斑変性の検査が含まれている5).しかし,たとえ陽性であっても,単に疾患へのリスクが高いことを示すものであって,診断に応用できるものではないし,米国眼科学会も推奨していないと聞いている.この2つの疾患を除くと,ほとんどの疾患の場合,多数のSNPsの関連が報告されているが,その影響力は低く,遺伝のごく一部を説明できるに過ぎない.この現象は,見つからない遺伝率(missingheritability)という言葉で表現され,その理由が種々議論されている6).結局,単一遺伝子病を除いて,いわゆるcommondiseaseの遺伝構成(geneticarchitecture)はきわめて複雑で,その解明には,まだ少し時間がかかると考えられる.他方,NCDの発症には環境因子の影響も大きい.たとえば加齢黄斑変性では,喫煙,食事,心血管系疾患,血清脂質などの環境因子が,リスクを高めるとされている7).環境因子の影響がきわめて大きいのは,2型糖尿病(以下単に糖尿病としたのは,2型)である.それは,現在経済発展の著しい東アジア諸国,インド,アラブ諸国などで糖尿病が急増し,糖尿病津波(diabetestsunami)という言葉で,そのインパクトの大きさが表現されていることからも明らかである.環境因子は,人生のさまざまな時期に,おそらく少し違った形で働くものと考えられる.たとえば胎生期,あるいは生後の早期の栄養状態が不良であると,成人になってから肥満しやすく,メタボリック・シンドローム,虚血性心疾患,高血圧,糖尿病,高脂血症,腎疾患などのリスクが増大することが,多くの疫学的研究や動物実験で明らかにされている8,9).これは早期の環境が不良であると,それに適応できるようプログラムされるが,そうした人が後に豊かな環境で生活すると,さまざまな疾患が発生すると理解されている.発展途上国で糖尿病が急増している現象の,少なくとも一部はこのプログラミングで説明できる.現在,この現象はDOHaD(developmentaloriginofhealthanddisease:健康や疾患が発育の過程に起因しているという学説)学説とよばれ,日本でも学会が発足している8,9).眼科に特有の疾患が,このように発育期の環境の影響を受けるか否かは,筆者の知るかぎりまだ知られていない.NCDは遺伝構成と環境因子の複雑な相互関係で起こることは確実であるが,環境因子も人生のそれぞれの時期で,異なった影響を及ぼしている可能性が考えられる.IINCDの自然史NCDの多くは遺伝素因を背景として,環境因子の影響を受けながら,長い経過の後に発症する.そこに加齢という要因も働く場合も少なくない.たとえばアルツハイマー病でも加齢黄斑変性でも,高齢になって発症するものが圧倒的に多い.したがって一般に,長い発症前状態があると考えられる.一例をあげてみよう.糖尿病は,現在糖負荷試験を行って血糖を測定するか,一定期間の血糖値を反映するヘモグロビンA1cを測定して診断する.しかし,糖尿病は遺伝素因を背景として起こり,しかも胎生期など早期な環境の影響を受けることが確実とみられているので,長い発症前状態があると考えられ,これを糖尿病前症(prediabetes)と呼ぶ.しかし,糖尿病前症は,現在のところ,発症してから振り返って(レトロスぺクティブに)しか診断ができない.もし前症の診断が可能となれば,発症防止ができると期待されるので,種々研究が進められている.もう1つ例をあげてみよう.高齢社会の大きな問題は,認知症であるが,そのなかでもっとも数が多いのはアルツハイマー病である.アルツハイマー病の成因はなお完全には解明されていないが,脳内にアミロイドb(Ab)という蛋白質が蓄積し,それによって神経細胞死が誘導されて起こるとする考え方が有力である.アルツハイマー病は,図2に示すように,発症する5年ぐらい前から軽度の認知機能の障害をきたすことが知られており,軽度認知機能障害(mildcognitiveimpairment:MCI)とよばれる.ところがMCIの20年ぐらい前から,脳内にAbが蓄積していることが,神経解剖学的に知られるようになった.これに少し遅れて,タウ蛋白質が脳内に蓄積し,やがてMCIの状態となる1).現在,Abは陽電子断層撮影(positronemissiontomography:PET)によって検出することが可能になっている.また,脳脊髄液中のAb/タウ比を測定することによっても診断が可能である.したがって,心身ともに異常がみられない時期に,発症前アルツハイマー病(preclinicalAlzheimer’disease)を診断することが可能になっている.今後の課題は有効な薬剤の開発であって,現在アメリカでは,一部の薬剤の治験が進められている.図3は,一般的なNCDの自然史を,模式的に示したものである.多くのNCDは遺伝素因に,環境因子が働いて発症するものと考えられる.少なくとも一部の疾患では,早期の環境によってプログラムされ,発症リスクが高まる.そして長い経過のなかで少しずつ進行して,preclinicalな状態となる.もしこの状態で診断可能であれば,介入することによって発症を阻止するか,遅らせることが可能になると考えられる.これが先制医療である.III先制医療とは先制医療は,一種の予防である.しかし,従来の予防が集団の予防であるのとは異なり,個の予防をめざしたものである.もう少し説明すると,NCDの予防についての先駆的研究は,米国のFramingham研究である.第二次世界大戦後,増え続ける心筋梗塞に対処するため,ボストン近郊のFraminghamで,5,000人あまりの住民を対象として,前向きコホート研究が実施された.その結果,心筋梗塞のリスク因子(実はこの言葉もこの研究で生まれたのであるが)として,高コレステロール血症(脂質異常症),高血圧,喫煙,肥満,左室肥大が重要であることが明らかにされた.そこで心筋梗塞の予防法として,これらの因子を避けるか,治療することが試みられ,成果が上げられた.この結果は,集団としてみると正しい.リスクの多い人に心筋梗塞が多いことは確かである.しかし,個々の人についてみると,リスクが多くても発症しない人もあるし,リスクがゼロまたは1つでも,発症する人もある.それが集団の予防法であることの限界であり,予防医学の問題点として残る.これに対して個の予防法である先制医療は,その人の遺伝的特徴,バイオマーカー(病気の進行の程度を示す指標)などを用いて,水面下で進行しつつある病気を予測し,その時点で介入することによって,発症を遅らせるか,防止することをめざしたものである1,2).先に例としてあげたアルツハイマー病では,遺伝子検査である程度ハイリスク群を選別し,臨床症状が現れる前に予測診断することが可能となっている.今後薬剤の開発やその他の手法で介入することができれば,発症を遅らせるか,防ぐことが可能になると期待される.これが先制医療であり,個の予防,あるいは予測診断による医療ということも可能である.今後遺伝子の研究がさらに進み,環境因子の影響も明らかになれば,より正確な予防が可能になる.その意味で,精密予防(preciseprevention)といってよいかもしれない.先制医療には,レベルを考える必要がある場合も存在する9).たとえば冠動脈硬化症という立場からみれば,遺伝素因からハイリスクと考えられる人に対し脂質異常症,高血圧などの治療をするのがレベル1といえる.そして冠動脈血栓の危険を未然に予測して,介入治療するのがレベル2である.血栓に対しもし簡単なバイオマーカーがみつかれば,疑わしい人に画像診断を行って,梗塞を未然に防ぐことが可能となる.心筋梗塞という立場からみれば,このレベル2が先制医療ということになる.同様のことは,骨粗鬆症と骨折の関係として考えることもできる.IV先制医療を実現するために先制医療は究極の医療であるが,それを実現するためにはまださまざまな研究が必要である.第1に,遺伝素因の解明を続けなければならない.現在,次世代シークエンサーが導入されて,ヒトゲノムの全体あるいはエクソームな解析が進みつつある.commondiseaseの遺伝構成はかなり複雑であると考えられるので,まだもう少し時間を必要とするであろう.第2に,遺伝子の発現調節に働くエピジェネティクスの研究は,まだ始まったばかりといってよい.眼科領域でも,まだ研究は少ないであろう.すでに述べた胎生期または生後初期の環境が,後年のNCDに影響するのは,エピジェネテイックな変化によることが動物実験で報告されているし,ヒトのデータも出はじめている.遺伝構成と環境因子の相互作用は,加齢黄斑変性も含め多くの疾患で研究されているが,そのなかでもエピジェネティクスの役割は重要である.第3に,潜在性に進行しているNCDを予測できるバイオマーカーの開発が,不可欠である.血液中の蛋白質,脂質,ヌクレオチドなどの物質だけでなく,PET,MRIなどの画像など,さまざまな指標が用いられるであろう.眼科の場合には直接眼底を見ることができるので,独特のバイオマーカーの開発に期待がもたれている.第4に,前向きコホート研究,とくにゲノム情報を基盤にしたコホート研究は,ゲノムと環境因子の相互作用,発症前に予測できるバイオマーカーの開発,介入方法の有効性の評価など多くの情報を提供してくれるものと期待される.イギリス,中国などで大規模なゲノム・コホート研究が始まっており,米国でもオバマ大統領のお声がかりで100万人ゲノム・コホートの計画が進んでいる.わが国では,東北メディカル・メガバンク構想が進んでいるが,全国的な協力体制が不十分であり,早急に体制を整備する必要がある.というのも人類は小集団が全世界に拡散したため,いわゆる創始者効果(初期の1人の人の遺伝子が集団の中に短時間で広がる現象)が顕著で,集団(人種)の間でかなりの遺伝構成の相違がある可能性が大きいからである.第5に,疾患によって異なるが,新しい薬物の開発が必要になる場合が多いと考えられる.もちろん生活習慣の改善など,被薬物的な介入が望ましいが,それには限界がある場合が多いであろう.今後ゲノム,エピゲノムなどの情報が集積されれば,それに基づいた創薬が期待できる.たとえば加齢黄斑変性のように,有力な病因遺伝子がみつかれば,それを標的とした創薬の道が開ける可能性がある.しかし,その道は決して平坦なものではないであろう.このように先制医療を実現するためには,まだなさねばならないことが多く残されている.しかしバイオマーカーの優れたものがみつからなくてもある程度推測できるし,介入治療も現在の他の疾患に対する治療法を転用すること(repositioning)によって,一定の効果をあげうることも期待できる.高齢化が急速に進むなかで,たとえローテク技術であっても,できるところから手をつけていくことが必要であろう.先制医療はすべてのNCDに対して必要であるが,いったん発症すると回復がむずかしいものに対して,とくに重点化するべきであろう.その代表はアルツハイマー病,パーキンソン病,筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患,閉塞性肺疾患,腎不全などである.眼科疾患でも加齢黄斑変性,緑内障など,回復困難なものが少なくない.また,発症すると生命の危険をもたらし,重篤な後遺症をきたすものとして,心筋梗塞や脳血管障害がある.さらに,直接生命の危険はないとしてもQOLを低下させ,ひいては寿命に影響するものとして骨折がある.V結び―新しいヘルスケアの確立をめざして先制医療を実現し,健康寿命の長い社会を実現するためには,ヘルスケアのあり方を変えていかねばならない.重要な点は,治療医学から予防医学への転換である.現在の医療制度では,医師を含め医療提供者の大部分は病院または診療所で,不調を訴えてくる人を待ちかまえている.いわば,人々が病気になるのを待って,診療行為を行っているわけである.しかしそれでは,先制医療を実現することはできないし,高齢者が要介護状態になるのを防ぐことはできない.医療は,受け身から能動的姿勢に転換することを求められている.それと同時に,先制医療を実現するためには,現在の個人(患者)と医療機関の関係のみでなく,社会のあらゆる組織,自治体,企業,NPO法人が疾患の予防に関与するものにしていかねばならない.政府も段階的に,予防措置に診療報酬を配分するよう考えていかねばならない.健康長寿社会は,社会のすべての人が能動的に参加しなければ成り立たないものであるといってよいであろう.文献1)井村裕夫編:日本の未来を拓く医療─治療医学から先制医療へ─.診断と治療社,20122)井村裕夫,稲垣暢也編:発症前に診断し介入する先制医療実現のための医学研究.羊土社,20153)ChourakiV,SeshadriS:GeneticsofAlzheimer’sdisease.AdvGenet87:245-294,20144)JamesRM,ClarkSJ:Age-relatedmaculardegeneration:genome-wideassociationstudiestotranslation.GenetMedonlinepublication20155)SanfilippoPG,KearusLS,WrightPetal:Currentlandscapeofdirect-to-consumergenetictestinganditsroleinophthalmology:areview.ClinExpOphthalmol43:578-590,20156)ZaitlenN,KraftP:Heritabilityinthegenome-wideassociationera.HumGenet131:1655-1664,20127)SobrinL,SeddonJM:Natureandnurture-genesandenvironment-predictonsetandprogressionofmaculardegeneration.ProgRetinEyeRes40:1-15,20148)ImuraH:Lifecoursehealthcareandpreemptiveapproachinnon-communicablediseases.ProcJpnAcadSerBPhysBiolSci89:462-473,20139)GluckmanP,HansonM:Developmentaloriginofhealthanddisease.CambridgeUnivPress,Cambridge,2006*HirooImura:公益財団法人先端医療振興財団〔別刷請求先〕井村裕夫:〒650-0047兵庫県神戸市中央区港島南町2-2公益財団法人先端医療振興財団0910-1810/16/¥100/頁/JCOPY(3)485表1加齢に伴う慢性疾患(non︲communicablediseases)癌心・血管系疾患糖尿病,高血圧/メタボリック・シンドローム認知症,その他の神経変性疾患閉塞性肺疾患骨・関節疾患,サルコペニア感覚器(眼・耳)疾患ATGGCGTTAATGGCCTTA500ヌクレオチド以上一塩基多型(SNPs)コピー数多型(CopyNumberVariant)その他の多型欠失,挿入,逆位など図1ゲノムの多型の種類図2アルツハイマー病における脳病変の進行の模式図認知症の症状が出た段階を0年とし,さかのぼって表した.脳の構造の変化は明らかな萎縮,PETでのfluorodeoxyglucose(FDG)の取り込みの減少を示す.図3慢性非感染性疾患の一般的な発症の経過遺伝素因,胎生期または生後初期のプログラミングとその後の環境の影響によって次第に進行し,あるレベルに達すると発症する.一次予防は発症前に介入して発症を防ぐもの,二次予防は発症後早期に診断し,疾患の進行を防ぐものである.(日本の未来を拓く医療─治療医学から先制医療へ─.p14,図10,診断と治療社,2012より引用)(5)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016487488あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016(6)(7)あたらしい眼科Vol.33,No.4,2016489