10.脂腺癌の臨床渡辺彰英京都府立医科大学眼科脂腺癌は眼瞼悪性腫瘍のなかでも比較的悪性度が高く,遠隔転移をきたしやすい.臨床像から結節型のnodu-lartypeとびまん性結膜炎様のdiffusetypeに分けられ,diffusetypeは日本人では頻度が低いが発見が遅れがちであり注意を要する.●はじめに眼瞼原発悪性腫瘍のなかで頻度の高い腫瘍として,基底細胞癌,脂腺癌(sebaceouscellcarcinoma),扁平上皮癌といった上皮性悪性腫瘍があげられる.わが国では基底細胞癌の頻度が欧米に比べて低く,脂腺癌の頻度は高く,基底細胞癌と脂腺癌が日本の2大眼瞼原発悪性腫瘍となっている.脂腺癌は眼瞼悪性腫瘍の30~40%を占めるとされている.脂腺癌は基底細胞癌,扁平上皮癌と比較して局所再発やリンパ節転移・遠隔転移が多く,悪性度が高いため,早期発見,早期治療が重要である1).●脂腺癌の臨床像脂腺癌は,眼瞼の皮脂腺であるMeibom腺,Zeis腺,まれに涙丘より生じる悪性腫瘍であり,その多くがMeibom腺より発生する.Meibom腺の数が上眼瞼に多いため,脂腺癌も上眼瞼に多い.瞼板内またはMeibom腺開口部から発生し,黄色~白色の結節状の病変として瞼結膜や瞼縁に隆起してくる場合や,瞼板内の硬い腫瘤として触れ,霰粒腫と鑑別困難な場合もある.常に結節性の腫瘤(nodulartype)(図1)を呈するわけではく,瞼結膜側に乳頭腫様の増殖を示す場合(papillomatoustype)(図2)や,びまん性の眼瞼肥厚,慢性結膜炎様の所見を呈するdiffusetype(図3)も一定の割合で存在する.diffusetypeは,pagetoidspread(腫瘍細胞の上皮内浸潤)(図4)をきたしていることが多い.脂腺癌は比較的発育が早く,高齢者で霰粒腫として切除されすぐに再発してくるケースは脂腺癌であることが多い.典型的な霰粒腫と異なるような例では必ず病理組織診断を依頼する.●脂腺癌の人種差筆者らの日本人の脂腺癌63例の検討では,nodulartypeが61例,うち乳頭腫様が1例で,diffusetypeは2例であった2).欧米人ではdiffusetypeの占める割合が50%以上と非常に高く,脂腺癌の臨床所見には明らかな人種差がある3).図1nodulartype図2papillomatoustype●脂腺癌の治療脂腺癌は眼瞼後葉より発生する悪性腫瘍であるため,治療は眼瞼全層での腫瘍完全切除である.基本的には(85)あたらしい眼科Vol.32,No.12,201517170910-1810/15/\100/頁/JCOPY100μm100μm表1眼瞼切除範囲に応じた再建法小さい(1/4~1/3未満)大きい(1/3以上)前葉1.縫縮(直接縫合)2.局所皮弁3.眼輪筋皮弁1.局所皮弁2.筋皮弁(眼輪筋皮弁など)3.動脈皮弁(lateralorbitalflapなど)4.植皮5.遊離組織移植後葉1.硬口蓋粘膜2.鼻中隔軟骨+粘膜3.耳介軟骨+粘膜4.Hughesflap全層1.眼瞼全層弁(switchflap,Cutler-Beardなど)2.眼瞼全層遊離複合移植切除範囲safetymarginを5mm以上とり,術中迅速病理診断ですべての断端に腫瘍細胞がないことを確認した後,眼瞼の再建を行う.断端陽性であれば,陰性になるまで追加切除する.眼瞼の再建では,悪性腫瘍の切除に伴う組織欠損範囲によって再建方法が異なる.表1に筆者らの治療方針を示す.眼瞼悪性腫瘍の場合は,瞼板を含む眼瞼全層切除となることがほとんどである.基底細胞癌などでは前葉のみの欠損となることがあるが,この場合,多1718あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015図3diffusetype図4diffusetypeのpagetoidspreadくは局所皮弁で再建可能である.眼瞼全層欠損となった場合は,欠損部が1/3未満であれば後葉の再建は必要とせず,直接縫合もしくは外眥切開の追加で縫縮可能であるが,悪性腫瘍の切除でsafetymarginを腫瘍から数mmずつ取れば,1/3以上の欠損となることがほとんどである.欠損部が1/3以上の場合は後葉の再建を要する.粘膜を有し眼表面への機械的影響が少ないこと,瞼板に類似した強度をもつこと,採取手技が容易であることの観点から,口蓋粘膜が後葉の再建材料として利用しやすい.眼窩内浸潤例では眼窩内容除去を要する.手術不可能な場合や,転移例には放射線治療や化学療法が選択されるが,予後不良である.脂腺癌の死亡率は6~30%とされる.文献1)中山智佳,渡辺彰英,上田幸典ほか:眼瞼脂腺癌34例の臨床像と組織学的検討.あたらしい眼科30:1739-1743,20132)WatanabeA,SunMT,PirbhaiAetal:SebaceouscarcinomainJapanesepatients:clinicalpresentation,stagingandoutcomes.BrJOphthalmol97:1459-1463,20133)ShieldsJA,DemirciH,MarrBPetal:Sebaceouscarcinomaoftheeyelids:personalexperiencewith60cases.Ophthalmology111:2151-2157,2004(86)