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序説:眼の先制医療

2016年4月30日 土曜日

●序説あたらしい眼科33(4):483,2016眼の先制医療PreemptiveMedicineforEyeDiseases木下茂*大野京子**先制医療(preemptivemedicine)とは,病気が発症する前になんらかの手段で高い確率でそれを予測し,適切な対策と介入により発症を遅らせる,あるいは疾患の重症化を抑えるような医療の概念を示した言葉である.これは個の医療(personalizedmedicine)あるいは個別化医療(precisionmedicine)などとも共通した考え方であり,治療や介護にかかる全体的な費用を抑制する取り組みでもあるとされている.この先制医療は医学・医療の方向として論理的であるのみならず,健康長寿社会をめざすわが国の近未来の医療政策としても必須の取り組みとなってくる.先制医療のターゲットとなる疾患としては,高齢者の生活の質を低下させ,介護を必要な状態とさせる非感染性疾患(non-communicabledisease:NCD),たとえば高血圧,動脈硬化,糖尿病などが代表的であり,遺伝素因と環境素因の研究からこれら疾病の先制医療的解決の糸口が見いだされつつある.このNCDは,全身疾患では生活習慣病ともよばれており,眼科領域で考えれば加齢黄斑変性,緑内障,糖尿病網膜症などが当てはまると思われる.さて,今回の特集では,まず,先制医療の提唱者である井村裕夫先生(元京都大学総長)にその概念を全身疾患の代表例などから紹介していただき,先制医療と従来の予防医療との違いなどについて解説していただいた.さらに,この概念が医療政策として必要な理由についても触れていただいた.緑内障の先制医療については田代啓先生(京都府立医科大学ゲノム医学)に,緑内障にかかわる一般的な遺伝素因のみならず,最近発見された原発開放隅角緑内障にかかわるいくつかの重要なSNPs(singlenucleotidepolymorphisms)などを紹介していただき,発症前診断,進行予測などに使用するSNPs解析の重要性について解説いただいた.加齢黄斑変性の先制医療については,山城健児先生(京都大学)に加齢黄斑変性にかかわるいくつかの重要なSNPsについて,人種差間による表現型の違い,発症前診断,進行予測などを解説いただいた.Stevens-Johnson症候群の発症予測は上田真由美先生(京都府立医科大学)にお願いした.内容はStevens-Johnson症候群の発症にかかわるHLA,自然免疫系にかかわるSNPs,人種差,発症前予測などに使用可能なSNPsなどであり,そのチップ開発の重要性についても解説いただいた.角膜内皮疾患の代表であるFuchs角膜内皮ジストロフィについては奥村直毅先生(同志社大学)に責任遺伝子の要約とともに,最近注目を集めているTCF4を代表とする感受性遺伝子を見すえた近未来的な治療法の取り組みなどを提言していただいた.ドライアイの先制医療については川島素子先生,坪田一男先生(慶応義塾大学)にドライアイ全般の先制医療について概説していただき,抗酸化的アプローチなどのさまざまな抗加齢医学的治療法を紹介いただいた.強度近視の先制医療については長岡奈都子先生,諸星計先生,大野京子先生(東京医科歯科大学)に強度近視の感受性遺伝子,強度近視のリスクや対処法などを解説いただいた.ぶどう膜炎の治療については現時点で先制医療に結びつくと考えられるものは少ないが,河越龍方先生,水木信久先生(横浜市立大学)に,交感性眼炎ならびにVogt-小柳-原田病と関与の深いHLA型を紹介いただき,これら疾患の発症予測などについて先制医療的に解説していただいた.さらに丸山和一先生(東北大学)には眼サルコイドーシスについて常在細菌と考えられていたアクネ菌などの疾患への関与,そしてホスト感受性についても論じていただいた.この特集をとおして,先制医療という言葉が読者に新鮮なものとして伝わり,先制医療という概念が近未来を見すえた医療として読者に受け止められることを期待する.*ShigeruKinoshita:京都府立医科大学感覚器未来医療学**KyokoOhno-Matsui:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野(1)4830910-1810/16/¥100/頁/JCOPY

調節機能測定ソフトウェアAA-2の臨床応用

2016年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(3):467.476,2016c調節機能測定ソフトウェアAA-2の臨床応用梶田雅義梶田眼科ClinicalApplicationofAccommodationAnalyzerAA-2MasayoshiKajitaKajitaEyeClinic目的:調節機能測定ソフトウェアAA-2(ニデック社)の最新バージョンは,瞳孔径の同時測定機能と調節機能状態を分類する補助機能,さらに短時間で測定できるLITE測定モードが新しく加わった.調節機能の状態別によるFkmap(Fluctuationofkineticrefraction-map)の傾向を確認するとともに,補助機能の検証とLITE測定の調節異常検知力の検証を行ったので報告する.対象および方法:眼精疲労および不定愁訴を主訴に梶田眼科を受診した症例514名である.LITE測定の調節異常検知力については,同27名で行った.結果:検査結果の傾向で分類した各症例群のFk-mapは,正常群に対して調節反応量およびHFC値に有意差があった.LITE測定と従来のSTD測定における調節機能の「正常」と「異常の可能性あり」の2分類での結果は一致していた(k=0.6828,p<0.001).結論:Fk-mapには調節異常症例毎の違いが現れ,LITE測定の調節機能状態の検知力はSTD測定と同等と考えられた.Method:Giventhecurrentincreaseinmyopiaandfatigabilityofeyes,thisstudywasconductedon514patientswhowereconsideredtobesufferingfromaccommodativedysfunctionasdeterminedusingtheconventionalSTDmeasurementmodeofthelatestversionoftheAccommodationAnalyzerAA-2(NIDEKCo.,Ltd.).ThepatientswerealsoexaminedwiththeLITEmeasurementmode,whichiscapableofrapidmeasurement.Results:TheFk-mapforeachcasegroupwascomparedwiththecontrolgroupafterbeingcategorizedby“Patterns,”oneofthedisplayfunctionsformeasurementresults.Consequently,significantdifferenceswerefoundbothintheaccommodationreactionvalueandtheHFCvalue.TheresultsforthepossiblepresenceofaccommodationdysfunctionwerefoundtobeidenticalfortheLITEmeasurementmodeandtheSTDmeasurementmode;thatis,k=0.6828,p<0.001.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):467.476,2016〕Keywords:調節機能,眼精疲労,調節異常,Fk-map.accommodation,asthenopia,accommodativedysfunction,Fk-map.はじめに調節検査は近方視力を知ることが目的とされ,調節力が発揮できない老視眼や,単焦点眼内レンズ(IOL)挿入眼などでは必要のない検査とされていた.また,調節力の測定だけでは調節機能の異常を診断することができない.加えて,調節検査は自覚検査ゆえに被検眼の検査対応力に依存し,検査結果は調節機能の実態を表すものとは必ずしもいえない.情報化と高齢化が急激に進んでいる現代社会においては,近方視力の重要度と相まって調節機能を診断する必要が高まっている.さらに高次の調節機能を適切に検知することが必要になっている.静止視標を固視した際,自覚的には静止した屈折状態にあると認識されるが,他覚的屈折値を経時的に記録すると,静止しておらず絶えず揺れ動いている.これを調節微動とよぶ1.3).調節微動に関する研究は,Cambellが赤外線オプトメーターを考案して,経時的な他覚的屈折値の変化を記録したことに始まった1).Charmanは,調節微動が調節刺激量によって変化するとし,調節微動の意味ある周波数として,遅い揺らぎ成分であ〔別刷請求先〕梶田雅義:〒108-0023東京都港区芝浦3-6-3協栄ビル4F梶田眼科Reprintrequests:MasayoshiKajita,M.D.,Ph.D.,KajitaEyeClinic,6-3,3Chome#4FShibaura,Minato-ku,Tokyo108-0023,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(137)467 刺激視標位置瞳孔径(破線)ステップ毎の調節反応量信頼性目安(レフ測定値)図1正常者のFk-mapる低周波成分と速い揺らぎ成分である高周波成分とがあると報告した3).低周波成分と高周波成分の定義は報告により若干の差はあるものの,低周波成分は0.6Hz未満,高周波成分は1.0.2.1または2.3Hzくらいとされている2,3).低周波成分は,調節系においてピント位置調節という本来の調節制御に関与する重要な役割を担い,高周波成分は,振幅が小さく不安定に変化することから,水晶体とその支持組織の弾性的・機械的性質から,雑音であるといわれた4).しかし,高周波成分は,調節刺激により増加することから,水晶体とその支持組織の活動,すなわち毛様体筋の収縮時に生じる震顫が水晶体に伝わり屈折力の揺らぎとなって表れ,間接的に毛様体筋の活動状態を表現していると考えられている4).前述に加えて,高周波成分は調節負荷2.5Dを超えると徐々に飽和に近づくこと,調節安静位が存在すると考えられている付近で極小値となること5,6),調節負荷の程度によって高周波成分の出現頻度に差が生じることが確認されている7).この調節負荷量と高周波成分の出現頻度の関係を観察可能な測定・表示方法が開発された8).オートレフラクトメータを利用した検査方法には,目の前に何もない状態で見るときに比べて,何かを覗き込むときのほうが屈折値がマイナスよりになること(器械近視)が知られており,検査結果には注意を払わなければならないが,水晶体やその支持組織の活動状況を客観的に予測できる可能性があることが報告されている.調節微動は,他覚的屈折値を短いサンプリング時間で測定し,経時計測することで評価する.調節機能測定ソフトウェアAA-2(ニデック社)は,2015年にバージョンアップした.今回,このAA-2最新バージョン(Ver3)を用いて,調節機468あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016図2調節機能測定ソフトウェアAA-2(ニデック社)能状態の検査結果への表れ方を確認するとともに,症例分類の適切性および短時間で検査する新しい測定モード(LITE測定)の評価を行ったので,その結果を報告する.I調節機能測定測定準備段階にオートレフケラトメータで得られた屈折値(HOME値)を基準に,視標位置を+0.5D..3.0Dを0.5D間隔で8段階にステップ状に切り換えて,それぞれ位置における静止視標を12秒または20秒間注視させ,このときの静的特性を計測する.調節応答波形を高速フーリエ変換して得た周波数スペクトルを対数に変換し,これを1.0.2.3Hz帯で積分して高周波成分の出現頻度(highfrequencycomponent:HFC)として評価する8).なお,HFCは相対値であるため,単位をもたせていない.調節反応量,刺激視標位置,高周波成分の出現頻度をカラーグラフ表示することによって,被検者の毛様体筋の活動状況を客観的に予測できる.このグラフをFk-map(Fluctuationofkineticrefraction-map)とよぶ(図1).このグラフのX軸は視標位置,グラフのY軸は調節反応量で,バー上端は被検眼の屈折値を示す.一つの視標位置に対して11本のバーがあり,X軸は右側に行くに従って時間の推移を示す.バーの表示色はHFC値を示し,正常成人の測定結果5)から極度に高い値70を赤色とし,低い値50を緑色として,これらを最大,最小値としてその間を直線的にグラデーション色にして表す.破線は視標位置を示し,これとバー上端とのズレは,調節リードまたは調節ラグである.1.調節機能測定ソフトウェアAA-2AA-2(図2)は,パーソナルコンピュータにインストールし,これをニデック社オートレフケラトメータARK-1sまたはARK-1aに接続することで他覚的に調節機能を測定する.AA-2の最新バージョンは,瞳孔径も同時に測定し,調(138) 節機能測定結果,および自身の治療経験とFk-map所見に基づいて考案した基準に基づき分類した眼の傾向とともに表示する.また,従来のSTD測定モードに加えて,LITE測定モードが新しく装備された.このLITE測定モードは,調節異常の有無を確認するうえで主要な位置3カ所に特化して測定することで,測定時間が1眼38秒となり,STD測定モード1眼131秒に対して約1/3の測定時間に短縮を実現した.調節安静位は,毛様体筋が生理的な緊張平衡状態となると考えてられている位置として,遠点位置から.0.75D..1.25D付近に存在すると考えられている9).この調節安静位は,調節異常や調節疲労により近方移動する例が存在すること10),スクリーンゲームを長時間行った後ではHFC値の最小値が検出しにくくなること7)などから,調節安静位付近でのHFC値が極小値とならない場合には,調節異常や調節疲労を生じている可能性があると推定できる.これらと,既報5,11)に基づいて調節安静位は他覚的屈折値.1.0Dと仮定すると,被検眼に調節異常がなければSTD測定の第四ステップ付近に調節安静位があると予測される.LITE測定では,このように仮定した第四ステップを測定の基軸として,負の調節,正の調節において,それぞれ1ステップずつを計測する.被検者の刺激視標の追従しやすさに配慮し,視標の切り替えステップが同一となる位置として第二と第六ステップを抽出した.また,各ステップにおけるHFC値を即時把握できるように,視標位置を象徴する図形を,その検査結果に応じた色で表示する.2.検査結果例Fk-mapは調節機能の状態それぞれで異なる傾向を示す(表1).調節異常眼には,治療と矯正が適宜必要である.調節緊張および調節痙攣は軽度から重度へ,またある状態から別の病型へ遷移する場合もあり,読影は問診および経過観察を必要とする.a.正常眼HFC値は遠方視標においては低い値をとる.調節力が十分にある正常眼では,視標位置が近づくとそれに応じて調節応答量が増加するが,HFC値は高くはならない.調節反応量は,遠方付近の視標位置では若干プラスよりの屈折度(調節リード)を示し,視標位置が近方になるに従ってマイナスよりの屈折度(調節ラグ)が生じる.また,静止視標を固視している間の調節反応量の変化は少なく,安定した調節状態にあることをあらわしている.視標位置が33cm程度に近づくとわずかに高値を示す場合もある.b.IT眼症調節反応はほぼ正常に行われる.1Mよりも遠方視標に対しては正常眼と同等のHFC値をとるが,それよりも近方で(139)は,調節緊張症と同様に高いHFC値となる.日常生活では異常をまったく感じないのに,VDT作業や机上学習を始めると急激に眼の痛みや頭痛が生じると訴える.作業時に作業用眼鏡,または累進屈折力レンズ眼鏡を常用が奏効する.c.潜伏遠視検査準備段階で測定したオートレフ値を基準に測定しているが,それよりもプラスよりの屈折度が得られている.オートレフ値に調節緊張が含まれたためと考える.眼の疲れを訴えるが,調節異常はない.常用の矯正レンズがあれば,この装用を中止すると主訴がなくなる場合もある.d.調節緊張傾向呈示視標に対する調節反応量はほぼ正常だが,遠方視標でもわずかにHFC値が上昇し,中間距離より近方におけるHFC値が高い値となる.完全矯正下では遠方と近方視力ともに良好で年齢相応以上の調節力を有するが,眼の疲労を訴えることが多い.肩こりや頭痛の訴えのある場合は,年齢に関係なく累進屈折力レンズ眼鏡の装用が奏効する.遠方視でHFCがもう少し高値を示す場合は,低濃度サイプレジン点眼薬の併用が奏効する.e.重度調節緊張症調節反応は視標位置の移動に追従しているが,近方視標においても調節リードがある.すべての視標位置においてHFC値は正常より高い値となる.このような所見は若年者に多く,急激な視力低下の原因となっている.一定期間低濃度ミドリンM点眼が奏効する場合が多く,Fk-mapが正常に復してから眼鏡処方を慎重に行う.f.軽度調節痙攣視標が雲霧状態(HOME値+0.5D)にあるとき,HFC値は高値を呈する.また,調節安静位と考えられる視標位置以外において高いHFC値を呈する.調節応答はほぼ正常だが,視標が静止している間,調節反応量を固持できていない.低濃度サイプレジン点眼を使用し,緊張緩和を促すが,低濃度サイプレジン点眼の装用中止で眼精疲労が再発する場合は,累進屈折力レンズ眼鏡の常用を促す.g.重度調節痙攣調節反応が正しく行われておらず,HFC値も非常に高値を呈する.測定時間の間,調節反応量を維持できず,急激に強く近視側にシフトして,強い眼精疲労の訴えを伴う.この症例の場合は,他覚的屈折測定を複数回行うと,安定した測定値が得られない場合がある.急激な視力低下や,眼の疲れ,頭痛があるが,低濃度アトロピンが奏効する.h.調節パニック視標が近方に近づいているのに,調節反応はかえって遠方に移動する.調節反応量がAR値に近づくにつれてHFC値は低値を呈するはずだが,逆にHFC値は高くなる.基本的には調節痙攣の範疇であり,交通事故などによるむあたらしい眼科Vol.33,No.3,2016469 表1症例と処方例症例STD測定LITE測定処方点眼眼鏡軽度調節痙攣サイプレジン累進屈折力レンズ重度調節痙攣サイプレジン累進屈折力レンズアトロピン調節パニックサイプレジン累進屈折力レンズ調節衰弱・老視近方視対策累進屈折力レンズ老視の調節緊張サイプレジン累進屈折力レンズ症例STD測定LITE測定処方点眼眼鏡正常IT眼症作業用潜伏遠視装用中止調節緊張傾向サイプレジン累進屈折力レンズ重度調節緊張症ミドリンM累進屈折力レンズ(16才男性)(21才女性)(26才女性)(26才女性)(38才女性)(38才女性)(37才男性)(37才男性)(52才男性)(52才男性)(33才男性)(33才男性)(53才男性)(53才男性)470あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(140) ち打ち症によって生じるBarre-Lieou(バレ・リュー)症候群にみられることが多い.この場合には,非常に激しい眼の奥の痛みや頭痛を訴え,日常生活にも支障をきたしている.低濃度サイプレジン点眼と累進屈折力レンズ眼鏡の常用がよく奏効する.i.調節衰弱・老視視標が近接しても調節反応量が小さく,HFC値は低い値を呈する.完全矯正下で遠方視力は良好であるが近方視力が不良である.45歳以上であれば正常老視の判別が必要となる.このグラフを呈する場合,若年では調節衰弱,高齢であれは老視を疑う.j.老視の調節緊張調節反応は調節衰弱・老視に酷似だが,遠方視標において比較的高いHFC値を示す.これまでの眼科学の常識では老視は調節応答を起こさないと考えられていたが,老視眼でも調節微動が確認される症例がある.また,IOL挿入眼で同様のFk-mapを呈する症例もあり,完全.内固定の症例に散見される.おそらく,ピントを合わせようと毛様体筋が収縮するが,要求どおりの屈折変化が得られないので過剰に毛様体筋が収縮するためと考えられる.サイプレジン点眼薬と累進屈折力レンズの併用が奏効する.II対象および方法1.傾向分類眼精疲労および不定愁訴を主訴に,梶田眼科を受診した症例514名930眼である.年齢は7.80歳(平均41.8±13.9歳)であった.測定はAA-2を用い,AA-2に接続するオートレフラクトメータは,ARK-560A(168名286眼:2008/7/8.8/25)とARK-1s(351名644眼:2014/2/24.10/20,2015/08/08)を用いた.検査結果の調節状態の分類はAA2Ver3の調節機能状態の分類に従い,グループ別に検査結果を比較した.2.LITE測定繰り返し再現性健常眼ボランティア17名優位眼17眼である.年齢は25.50歳(平均32.6±6.67歳)であった.STD測定とLITE測定において,繰り返し再現性を確認した.検者1名が異なる日3日の同一時間帯にそれぞれの測定モードを1回ずつ,計3回ずつ測定した.3.LITE測定とSTD測定比較眼精疲労および不定愁訴を主訴に,梶田眼科を受診した症例27名54眼である.年齢は21.63歳(平均40.5±10.99歳)であった.同一日にLITE測定とSTD測定を1回ずつ測定した.測定の間は,調節残効を排除するため,休憩時間を1.5分以上設け,目を休めるよう指示した.各測定モードの検査結果として表示される被検眼の調節機能状態をもとに「正常」と「異常の可能性あり」の2種に分け,LITE測定とSTD測定の調節機能状態の識別力を比較した.III結果1.傾向分類1)調節反応量AA-2Ver3の調節機能状態の分類に従い,検査結果をグループ分けした.この分類によって得られた正常群と各グループにおける,調節反応量の比較を行った(表2).調節反応量は,各症例の測定ステップの屈折度とHOMEとの差とした.なお,調節衰弱・老視群および老視の調節緊張群については正常群の第二ステップを基準に第四ステップも合わせて比較を行った.a.IT眼症調節反応量は,第一から第七ステップすべてにおいて有意な差はなかった(p>0.05t検定).第八ステップのみ正常群と比較して有意に小さかった(正常群第八ステップ.1.48±0.31,IT眼症群第八.1.30±0.62,p<0.05t検定)調節リードおよびラグなど調節反応量は視標位置40cmまでは正常群と同等であり,視標位置33cmでは屈折度が小さい傾向にあるといえる.b.調節緊張(軽度)遠方時の調節反応量は正常群と同等であり,呈示視標位置が近方になるにつれて屈折度は近方よりの値となった.第三から第七ステップにおいて有意な差があり,とくに第四ステップにおいて有意に差があり〔正常群第四ステップ.0.15±0.19,調節緊張(軽度)群第四.0.26±0.27,p<0.001,正常群第三.0.04±0.17,第五.0.39±0.26,第六.0.71±0.29,調節緊張(軽度)群第三.0.10±0.22,第五.0.50±0.36,第六.0.84±0.44,p<0.01,正常群第七.1.08±0.29,調節緊張(軽度)群第七.1.17±0.53,p<0.05t検定〕,その差は0.1D程度だった.つまり,遠方や近方時の調節リードは正常群とほぼ同等だが,その間の調節安静位の前後で調節ラグがわずかではあるが大きくなり,過緊張の状態を示唆していると考えられる.c.調節緊張(重度)症例が1眼しかなく検定はできなかったが,この1例においては,調節安静位(第四ステップ)付近を境に調節リードから調節ラグに切り替わるはずだが,呈示視標位置すべてにおいて調節リードがあった.正常群との調節反応量の差は,視標が近方になるにつれて大きくなった.このことから,調節緊張(重度)は,調節刺激が近づくにつれて,調節緊張が過剰に働く可能性があると考えられる.(141)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016471 表2調節反応量とHFC(症例別・STD測定ステップ別)472あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(142)眼正常95IT眼症(軽度)83p値1調節緊張(重度)262p値1調節緊張(軽度)1p値1調節痙攣(重度)44p値1調節痙攣28p値1調節パニック1p値1調節衰弱・老視249p値2老視の調節緊張169p値2調節反応量第一ステップ.0.01±0.15.0.01±0.200.00±0.19.0.44-.0.14±1.50.0.10±0.41.1.67-.0.01±0.10.0.02±0.18第二ステップ.0.01±0.15.0.01±0.21.0.03±0.20.0.42-0.01±1.01.0.02±0.52.1.21-.0.01±0.11.0.03±0.20第三ステップ.0.04±0.17.0.05±0.22.0.10±0.22**.0.57-0.20±0.66.0.17±0.72.1.39-.0.01±0.11.0.02±0.19第四ステップ.0.15±0.19.0.19±0.27.0.26±0.27***.0.6-0.19±0.66.0.28±0.81.1.28-.0.04±0.13.0.06±0.23第五ステップ.0.39±0.26.0.38±0.34.0.50±0.36**.0.62-0.16±0.68.0.31±0.60.0.28-.0.08±0.17*.0.08±0.27第六ステップ.0.71±0.29.0.66±0.43.0.84±0.44**.0.88-0.04±0.69.0.47±0.69.0.04-.0.13±0.21.0.11±0.30第七ステップ.1.08±0.29.0.98±0.52.1.17±0.53*.1.03-0.08±0.66.0.74±0.70*0.62-.0.18±0.25.0.14±0.31第八ステップ.1.48±0.31.1.30±0.62*.1.52±0.62.1.27-.0.17±0.71.1.05±0.68**0.38-.0.22±0.29**.0.18±0.36HFC第一ステップ46.06±4.4847.29±5.5052.41±5.08***67.67-61.54±7.80***64.74±8.41***76.36-46.38±4.5252.77±5.55***第二ステップ45.79±4.0145.83±3.7153.04±4.73***67.82-56.63±8.33***64.51±9.29***73.3-45.79±3.7953.79±4.82***第三ステップ45.13±4.6346.22±3.8254.48±4.78***67.69-56.37±5.44***64.41±9.53***76.4-46.04±3.8954.66±5.19***第四ステップ47.64±4.2251.21±6.00***55.82±6.24***67.23-56.21±6.00***64.41±8.07***71.29-47.19±4.8653.98±4.76***第五ステップ50.96±4.9155.04±7.56***57.86±6.09***66.5-58.33±6.54***63.98±6.41***73.54-47.57±5.19**53.96±5.26***第六ステップ55.33±5.6857.15±7.6560.93±5.84***67.33-59.32±5.18***65.79±6.74***72.72-48.52±4.6053.92±5.17***第七ステップ57.48±5.8159.48±7.6462.40±5.92***69.45-62.57±6.74***67.54±7.00***69.31-48.99±4.8354.26±4.88***第八ステップ59.99±6.8460.82±7.9364.29±5.83***68.85-63.22±6.79*67.92±5.53***68.63-49.77±5.25***54.73±4.91***1Two-sidedWelch’st-testfortesting,2Dunnett’stest,*:p<0.05,**:p<0.01,***:p<0.001.調節反応量は,各検査結果のステップごとの屈折度と,HOME値の差とした.また,調節反応量とHFC値は,各検査においてステップごとの平均値を求め,各グループ内での平均値とSDを算出した.これを,各ステップについて正常群に対して検定を行った.なお,調節衰弱・老視群と老視の緊張群は,第一.第四のステップは正常群の第二ステップに対して第五.第八ステップは正常群第四ステップに対して行った. d.調節痙攣(軽度)調節反応量の平均値に有意な差はなかったが(p>0.05t検定),第三ステップで差が約0.2Dとなり,視標位置が近づくにつれて徐々にその差が小さくなった.また,分散に有意差があった(p<0.001F検定)ことから,調節痙攣(軽度)は正常群に比べて調節維持が不安定といえる.e.調節痙攣(重度)調節反応量の平均値は,第七・第八ステップにおいて有意に差があった(正常群第七ステップ.1.08±0.29,調節痙攣(重度)群第七.0.74±0.70,p<0.05,正常群第八.1.48±0.31,調節痙攣(重度)群第八.1.05±0.68,p<0.01t検定).さらに,測定ステップ内の調節反応量の分散は,第一から第八ステップすべてにおいて有意差があった(p<0.001F検定)すべての視標位置において十分に調節追従されておらず,また,測定ステップ内の調節反応量のバラつきがあったと考えられる.f.調節パニック症例が1眼しかなく検定はできなかったが,この1例においては,第六ステップ以降でHOMEよりプラスよりの屈折度となった.HOME測定時に調節緊張が含まれたと考えられる.g.調節衰弱・老視調節反応量は,第一から第四ステップにおいて正常群第二ステップと有意な差はなく(p>0.05t検定),第五から第八ステップにおいては差があった(p<0.001t検定).本群では,調節負荷に対して調節応答の量が比較的少なく,調節ラグの増大が読み取れ,調節機能が脆弱していると考えられる.調節機能測定の視標移動に対する調節幅は約0.2Dであり,正常群でこれと同量の調節反応量を示すステップは第四または第五ステップに当たる.調節衰弱・老視群の第五ステップ以降を正常群第四ステップと比較すると,第六,第七ステップでは有意差がなかった(p>0.05t検定).h.老視の調節緊張調節反応量は,第一から第八ステップすべてにおいて正常群第二ステップと有意な差がなかった(p>0.05t検定).2)HFC値正常群と各グループにおける,HFC値の比較を行った.なお,調節衰弱・老視群および老視の調節緊張群については正常群の第二ステップを基準に第四ステップも合わせて比較を行った.a.IT眼症第四・第五ステップにおいて有意に高く(正常群第四ステップ47.64±4.22,第五50.96±4.91,IT眼症群第四51.21±6.00,第五55.04±7.56,p<0.001t検定),その差はわずかなステップもあったが,IT眼症群のほうがすべてのステップで高値を呈した.調節安静位付近から近方でHFC値が高く,過緊張の状態にあるといえる.b.調節緊張(軽度)第一から第八ステップすべての視標位置において有意に高く〔正常群第一ステップ46.06±4.48,第二45.79±4.01,第三45.13±4.63,第四47.64±4.22,第五50.96±4.91,第六55.33±5.68,第七54.48±5.81,第八59.99±6.84,調節緊張(軽度)群第一52.41±5.08,第二53.04±4.73,第三54.48±4.78,第四55.82±6.24,第五57.86±6.24,第六60.93±5.84,第七62.40±5.92,第八64.29±5.83,p<0.001t検定〕,もっとも遠方および近方で+6および+4となり,視標位置が2Mでもっとも高く+9を呈した.先項の結果(近方になるに従って調節ラグがわずかではあるが小さいこと)に鑑みて,近方になるに従って過緊張の状態を示唆していると考えられる.c.調節緊張(重度)症例が1例しかなく検定はできなかったが,この1例については,すべての視標位置において高値を呈し,とくに遠方の視標位置において約+10以上,1Mでは+20と高値を呈した.視標位置が近づくに連れて,調節緊張が過剰に働く可能性があると考えられる.d.調節痙攣(軽度)第一から第八ステップすべての視標位置において有意に高値を呈した〔正常群第一ステップ46.06±4.48,第二45.79±4.01,第三45.13±4.63,第四47.64±4.22,第五50.96±4.91,第六55.33±5.68,第七54.48±5.81,調節痙攣(軽度)群第一61.54±7.80,第二56.63±8.33,第三56.37±5.44,第四56.21±6.00,第五58.33±6.54,第六59.32±5.18,第七62.57±6.74,p<0.001,正常群第八59.99±6.84,調節痙攣(軽度)群第八63.22±6.79,p<0.05t検定〕.視標位置が遠方のほうが高値を呈し,とくに雲霧状態にあるときに正常群よりHFC値は+15となった.e.調節痙攣(重度)第一から第八ステップすべての視標位置において有意に高値を呈し〔正常群第一ステップ46.06±4.48,第二45.79±4.01,第三45.13±4.63,第四47.64±4.22,第五50.96±4.91,第六55.33±5.68,第七57.48±5.81,第八59.99±6.84,調節痙攣(重度)群第一64.74±8.41,第二64.51±9.29,第三64.41±9.53,第四64.41±8.07,第五63.98±6.41,第六65.79±6.74,第七67.54±7.00,第八67.92±5.53,p<0.001t検定〕,もっとも最小の差となった近方でも約+8,とくに視標が遠方から1Mの間にあるときに高い値約+20となった.このことから,調節痙攣(重度)は常に過緊張の状態にあるといえる.(143)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016473 f.調節パニック症例が1眼しかなく検定はできなかったが,この1例においては,すべてのステップにおいて高値を示した.g.調節衰弱・老視視標位置が近くなるにつれて高値となったが,第四ステップまでは有意な差はなく,第五ステップ以降においては有意に高かった(正常群第二ステップ45.79±4.01,調節衰弱・老視群第五47.57±5.19,第六48.52±4.60,第七48.99±4.83,第八49.77±5.25,p<0.001t検定).先項の結果に準じて,調節反応量0.2Dを示す正常群第四ステップのHFC値と比較した.第五から第七ステップでは有意差がみられなったが,第八ステップでは調節衰弱・老視群が有意に小さかった(正常群第四47.64±4.22,調節衰弱・老視群49.77±5.25,p<0.001t検定).言い換えると,調節衰弱・老視群では,正常眼と同等の調節応答量を得てもHFCが小さくあらわれる傾向があるといえる.h.老視の調節緊張調節緊張群と同様に,第一から第八ステップすべてのステップにおいて有意に高かった(正常群第二ステップ45.79±4.01,老視の緊張群第一52.77±5.55,第二53.79±4.82,第三54.66±5.19,第四53.98±4.76,第五53.96±5.26,第六53.92±5.17,第七54.26±4.88,第八54.73±4.91,p<0.001t検定).2.LITE測定繰り返し再現性図3は,眼精疲労を訴える33歳男性のSTD測定とLITE測定の検査結果である.この症例は,事務職で常時パソコンを使用しており,通勤中は電車内でスマホで情報収集をしている.LITE測定の結果,Step4ではFk-mapは黄色を,Step6では赤色を呈し,調節機能異常の疑いが示唆された.STD測定の第四ステップ以降からHFCが高値となった.LITE測定のStep4およびStep6に対応するSTD測定の第四ステップおよび第六ステップはともに同等のHFCを示しており,LITE測定で調節異常の簡易検知ができる可能性があると考えた.VDT作業用眼鏡を処方し,経過を観察した.初診時に比べて3カ月後のHFCは低値となり正常眼のFk-mapに近くなり(図表なし),調節緊張が低減したと考えられる.他の病型についても,検査結果と処方例を表1に並示する.HFCの変動係数は10%前後であった(図4).両測定モードともに対応ステップでのHFCの再現性は一定で,同様のバラつきを含むと考えられる.3.LITE測定とSTD測定比較STD測定とLITE測定のBland-Altmanplotを図5,6に示す.両モードの調節反応量は必ずしも一致せず,相関係数は高くなかった(Step2:r=0.363,Step4:r=0.586,Step6:r=0.872).HFCの相関係数も同等に高くなかった(Step2:r=0.580,Step4:r=0445,Step6:r=0.818).しかし,他覚的測定値は調節微動により常に変動しており,一定値ではない1.3).症例によりその変動幅は異なり,1.03Dの変動があったとの報告もある7).これら既報も考慮すると,本実験でも対象の測定値そのものに揺らぎがあった可能性があり,両検査結果の相関係数が高くなかった原因の一つと考えられる.LITE測定とSTD測定における調節機能状態の「正常」と「異常の可能性あり」の2分類での結果は一致していた(k=0.6828,p<0.001,表3)ことから,両測定の検査結果は完全に一致しなくとも,調節機能状態の検知力は同等の能力をもつと考えられた.LITESTD図3IT眼症のFk-map474あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(144) 0.60.2-0.21.0-0.6-1.0STDLITEHFCMeanofCV303070706525652560206020HFCMeanofCVHFC55155010545変動係数平均値(%)HFC55155010455変動係数平均値(%)40040012345678246ステップステップ図4調節刺激と変動係数1.01.01.0Step2Step4Step6(LITE+STD)/2[D](LITE+STD)/2[D](LITE+STD)/2[D]図5STD測定とLITE測定の調節反応量比較Step2Step4Step6404550556065707580202020-0.640455055606570758015151511.810109.410-0.7-1.0LITE-STD[D]LITE-STD[D]-1.0-1.0404550556065707580LITE-STD[D]0.32-0.08-0.470.25-0.02-0.30LITE-STDLITE-STDLITE-STD55500-0.50-5-5-5-8.8-10-10-10.7-10-13.1-15-15-15-20(LITE+STD)/2-20(LITE+STD)/2-20(LITE+STD)/2図6STD測定とLITE測定のHFC値比較IV考按表3STD測定とLITE測定の調節機能状態の一致率(眼)調節を考える場合,調節安静位が重要であることが報告されている9).調節安静位はこれまでemptyfieldやdarkfocusなどの調節無刺激状態での測定と定義されてきた.emptyfieldやdarkfocusを臨床的に汎用することは,検査環境の問題や固視目標が存在しないため固視が維持しづらく安定した計測ができないなど問題がある.本研究で確認したLITESTD正常異常の可能性あり正常0.3(16)0.06(3)異常の可能性あり0.09(5)0.56(30)検査方法は,固視目標がしっかりしているために比較的安定した計測が可能である.正常眼グループでは,STD測定第四ステップまでのHFCが比較的低値を示したことに対し,調節緊張や調節痙攣症では第一ステップから高値をとり,(145)Cohen’skappacoefficient:K=0.6828(p<0.001)〔調節機能状態の分類〕で[正常][調節衰弱・老視]と分類された症例を“正常”に,[IT眼症][調節緊張(重/軽度)][調節痙攣(重/軽度)][老視の緊張]と分類された症例を“異常の可能性あり”とした.あたらしい眼科Vol.33,No.3,20164750.60.2-0.21.0-1.0-0.60.60.2-0.21.0-1.0-0.6 IT眼症においては第四・五ステップで高値となった.本研究は,調節安静位がAR測定値から.1.0D付近にあると仮定して行ったが,第四ステップおよびそれより遠方でHFCに差が生じた.このことから,遠方から調節安静位付近を含む調節域のHFCは眼の疲労感など患者の主訴の原因を模索する際の指針となりえ,調節緊張の異常判断に有用であると考えられる.また,近方でのHFCと調節反応量も併せて確認することで,調節機能の異常を確認することができ,概判定するのに役立つことが示唆された.調節緊張症や調節痙攣,IT眼症など,不定愁訴のある症例,また調節麻痺薬点眼後に評価することで,点眼薬の効能の確認も可能である.さらに,調節異常のない被検者においては,調節安静位はオートレフラクトメータによる他覚的屈折値から略推できると考えられる.HFCの極小値が明確に確認できない場合,またはHFCの極小値が調節安静位があると予測される位置に確認できない場合は,調節異常の可能性がある.このなかには,従来の他覚的調節反応量の測定だけでは見出せなかった,交感神経と副交感神経のバランスが崩れている症例も含まれ,調節異常の掘り起こしに有用であると思われる.また,調節衰弱の症例においても調節機能検査が必要となる場合や小児など短時間に検査を行いたい場合がある.これまで,調節機能検査はその検査の性質上検査時間が比較的長く,一定時間の視標への注視など患者の検査への協力が必須であった.LITE測定は,調節異常の有無の検知力がSTD測定と同等であったことから,これら症例における検査時間の短縮化とともに概判定が可能と考えられる.眼精疲労の治療には調節微動をコントロールすることが重要である.調節微動の強弱および治療に対する反応は個人差があるので,症例ごとに調節機能を観察し,激しい調節微動を抑制するように,調節の機能状態に応じて有効な治療法を選択することが必要である.情報化社会は加速度的な発展を続けており,あらゆる距離に視覚情報源が存在する.とくにスマホなど携帯端末は小型精細化しており,調節に大きな負担が強いられる環境にある12).日常生活でピントを合わせる動作は無意識のうちに行われている.この無意識の動作が毛様体筋にどれほどの負担をもたらしているかを的確に推測することは調節異常の判断と治療には不可欠である.Fk-mapは,慢性疲労症候群(chronicfatiguesyndrome:CFS)やIT眼症の診断・評価に有用13)との報告が散見されつつあり,今後の臨床応用が期待される.さらに,正常眼や調節異常眼,年代別や眼疲労のない状態との差異の評価など,臨床応用に有用なデータベースの構築を切望する.また,視標は光学的な内部視標を用いた単眼視での測定であるため,調節がしにくく,日常視から遠い問題がある.そのため,両眼視下にて外部視標を用いた調節反応の測定機器の開発が切望される.文献1)CambellFW,RobsonJ,WestheimerG:Fluctuationsofaccommodationundersteadyviewingconditions.JPhysical145:579-594,19592)WinnB,PughJR,GilmartinBetal:Thefrequencycharacteristicofaccommodativemicrofluctuationsforcentralandperipheralzonesofthehumancrystallinelens.VisionRes30:1093-1099,19903)CharmanWN,HeronG.:Fluctuationsinaccommodation:areview.OphthalmicPhysiolOpt8:153-164,19884)GrayLS,WinnB,GilmartinB:Effectoftargetluminanceonmicrofluctuationofaccommodation.OpthalmicPhysiolOpt13:258-265,19935)梶田雅義,伊藤由美子,佐藤浩之ほか:調節微動による調節安静位の検出.日眼会誌101:413-416,19976)KajitaM,OnoM,SuzukiSetal:Accommodativemicrofluctuationinasthenopiacausedbyaccommodativespasm.FukushimaJMedSci47:13-20,20017)梶田雅義:調節微動の臨床的意義.視覚の科学16:107113,19958)鈴木説子,梶田雅義,加藤桂一郎:調節微動の高周波成分による調節機能の評価.視覚の科学22:93-97,20019)RabbettsRB:7Accommodationandnearvision.theinadequate-stimulusmyopias.In:BennettandRabbatt’ClinicalVisualOpticsthirdedition,p113-141,Butterwoth-Heinemann,Oxford,199810)MiwaT,TokoroT:Darkfocusofaccommodationinchildrenwithaccommodativeesotropiaandhyperopicanisometropia.ActaOphthalmol71:819-824,199311)梶田雅義,伊藤由美子,山田文子:調節疲労と調節微動.視覚の科学17:66-71,199612)野原尚美,松井康樹,説田雅典:携帯電話・スマートフォン使用時および書籍読書時における視距離の比較検討.あたらしい眼科32:163-166,201513)中山奈々美,川守田拓志,魚里博:調節微動と外斜位の偏位量との関係.視覚の科学26:110-113,2005***476あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(146)

両眼開放のVisual Field ScoreとFunctional Field ScoreのいずれがNational Eye Institute Visual Functioning Questionnaire25(VFQ25)とより関連するか?

2016年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(3):461.466,2016c両眼開放のVisualFieldScoreとFunctionalFieldScoreのいずれがNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire25(VFQ25)とより関連するか?加茂純子*1原田亮*1瀬戸寛子*2大島裕司*3*1甲府共立病院*2九州大学病院*3九州大学大学院医学研究院眼科WhichCorrelatesMoreHighlytotheNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire25(VFQ25):BinocularVisualFieldScoreorFunctionalFieldScore?JunkoKamo1),RyoHarada1),HirokoSeto2)andYujiOshima3)1)KofuKyoritsuHospital,2)KyushuUniversityHospital,3)DepartmentofOphthalmology,GraduateSchoolofMedicalSciences,KyushuUniversity目的:両眼加重平均加重平均視野スコアであるFunctionalFieldScore(FFS)と,両眼開放視野スコアであるbinocularVisualFieldScore(bVFS)の,いずれが視覚関連qualityoflife(QOL)と関連があるか調査する.対象および方法:緑内障16例,糖尿病網膜症5例,加齢黄斑変性4例,網膜色素変性2例,網脈絡膜萎縮2例,同名半盲1例など,視野に障害のある32例を研究の対象とした.Humphrey視野計のカスタムプログラムColenbrandergridtest(CGT)を行い,VisualFieldScore(VFS)を測定.各眼で測定したVFSを,片眼に20%,両眼に60%の比率を置いた計算式を用いて,FFSを求めた.両眼開放でCGTを測定したスコアをbVFSとした.CGTには信頼性基準を設け,固視不良20%未満,偽陰性と偽陽性33%未満を信頼性良好とした.視力からFFSと同様の計算式で,FunctionalAcuityScore(FAS)を求めた.FFS,bVFS,FASと,theNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire-25(VFQ25)との関連を,共分散構造解析(パス解析)を用いて危険率5%未満を有意差ありと判定した.結果:CGTの信頼性が良好と判定されたのは21例であった.信頼性良好群のFFS,bVFS,FASとVFQ各尺度のパス解析の結果,総合スコアVFQ25(11)との関連は,FFSが標準化推定値(係数)0.744(R2=0.568),bVFSは係数0.647(R2=0.428)で,いずれも有意差が得られた.下位尺度についても,周辺視覚,自立,心の健康,社会生活機能,役割制限,遠見視覚,全体的見え方で,有意差が得られ,周辺視覚以外はFFSの係数のほうがbVFSよりも高かった.FASとVFQ25(11)は係数0.093で有意差はなかった.結論:FFSのほうがVFQ25に対して関連が強いことが示唆された.FFSにより,片眼の視野と両眼開放の視野を両方評価することで,その人のqualityofvision(QOV)をより反映しやすくなると考えられた.Purpose:ToinvestigatewhethertheFunctionalFieldScore(FFS)orthebinocularVisualFieldScore(bVFS)correlatesmorehighlytotheNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire-25(VFQ25).Subjectsandmethods:Subjectswere32cases,including16glaucoma,5diabeticretinopathy,4age-relatedmaculardegeneration,2retinitispigmentosa,2chorioretinalatrophy,1hemianopiaetc.UsingacustomprogramoftheHumphreyFieldAnalyzercalledColenbrandergridtest(CGT),VisualFieldScore(VFS)weremeasured.FromtheresultantVFSofeacheye,wecalculatedFFSusingtheformula(20%VFSod+20%VFSos+60%VFSou).WealsomeasuredbinocularVFS(bVFS)byCGTwithbotheyesopen.Wesetthereliancestandardasfixationlossunder20%,falsepositiveunder33%andfalsenegative33%.Casesthatsatisfiedthestandardweredesignatedthegoodreliancegroup,theremanderthebadreliancegroup.FunctionalAcuityScore(FAS)wascalculatedviaasimilarformulafromVisualAcuityScore.WeanalyzedtherelationshipofFFS,bVFSandFASversusVFQ25withstructuralequationmodeling(SEM).Wesetasignificantdifferenceriskrateoflessthan5%.Results:Thecasesjudged〔別刷請求先〕加茂純子:〒400-0034甲府市宝1-9-1甲府共立病院眼科Reprintrequests:JunkoKamo,M.D.,KofuKyoritsuHospital,1-9-1Takara,Kofu400-0034,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(131)461 tobeofgoodreliancebyCGTnumbered21.TheresultbyPASSanalysisshowedstandardizedestimates(coefficient)betweenVFQ25(11)andFFSof0.744(R2=0.568)andbVFS0.647(R2=0.428).Bothshowedsignificantcorrelation(p<0.001).Astothesubscales,suchasPeripheralVision,Dependence,Mentalhealth,Socialfunction,Rolelimitation,DistanceVisionandGeneralVision,significantcorrelationwasobserved.TheCoefficientvaluewasalwayshigherinFFS,exceptfordistancevision.ThecoefficientbetweenFASandVFQ25(11)was0.093andnosignificantcorrelationwasnoted.Conclusion:FFShadbettercorrelationtoVFQ25.NotonlybinocularVFS,butalsoeachVFSreflectedtheQOVoftheindividual.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):461.466,2016〕Keywords:FunctionalFieldScore,binocularVisualFieldScore,VFQ25,FunctionalAcuityScore.FunctionalFieldScore,binocularVisualFieldScore,VFQ25,FunctionalAcuityScore.はじめに視機能を判定する基準として,AmericanMedicalAssociation(AMA)では2002年まではGoldmann視野計III/4e(以下,GP)を用いる視能率と,EstermanDisabilityScore(EDS)が併用されていた1,2).しかし,加齢黄斑変性,糖尿病黄斑症などの中心視野障害が起こる病気の増加に伴い,それ以前の米国の視機能基準では対応できないとして,Colenbranderが1990年代初頭にFunctionalVisionScore(FVS)を考案した3).米国では2001年以降,このFVSが視機能基準として推奨され使われている4,5).FVSは,AMAをはじめ,InternationalCouncilofOphthalmology(ICO),InternationalSocietyforLowVisionResearchandRehabilitation(ISLRR)によっても推奨されており,視機能判定の国際基準となっている6),URL1).FVSは,視力から計算されるFunctionalAcuityScore(FAS)と,視野から計算されるFunctionalFieldScore(FFS)の2つのスコアを統合して算出される(図1).FVSという疾患を超えた単一のimpairmentscore(障害の程度)から,disability(障害があることでどのくらいできないか)の見積もりを行政に提供することが可能となる.FVSは特右眼OD,左眼OS,両眼OUその人の見積もられる視機能測定した視機能VisualAcuityScore(VAS)FunctionalAcuityScore(FAS)=認識された文字を数える*は以下の組み合わせ:または=100+50*log10(VA)60%OU+20%OD+20%OSVisualFieldScore(VFS)FunctionalFieldScore(FFS)=検出された点を数えるは以下の組み合わせ:60%OU+20%OD+20%OS他の視覚問題があればFunctionalVisionScore(FVS)オプション調整(15点まで)視覚の総合的能力が見積もられる(両眼視,立体視,グレア,:FAS×FFS/100(-15)色覚など記載する)図1FVSの計算過程462あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016定の疾患の進行をモニターするものではない.FFSを算出するにあたって,VisualFieldScore(VFS)を求める必要がある.GPの結果からはColenbrandergrid(図2)をカウントすることで求める7),URL1).しかし,近年の自動視野計の普及に伴い,Goldman視野計を保有する眼科医療機関は減少しており,測定のできる技術者自体も減少傾向にある.そこで筆者らは,自動視野計でVFSを測定することを考えた.筆者らはCarlZeiss(東京)に依頼して,HumphreyFieldAnalyzer(HFA)のカスタムプログラムで,VFSをカウントするためのColenbranderグリッドテスト(CGT)を作った.CGTは視標サイズIII,輝度10dBの閾上刺激を用いたスクリーニングテストである.このCGTを用いて,視野に障害のある44名について,CGTの結果と,GPの結果を比較すると,相関係数はr=0.931(p<0.0001)と非常によく相関した8).両眼開放で測定したbinocularVFS(bVFS)についても筆者らは検討を行った.視野に障害のある36名のbVFSと図2Colenbrandergrid25,65,115,155,195,225,255,285,315,345°の経線上にそれぞれ10点(最周辺部である65°のオプションを加えると11点),全体で100(110)点のドットが配置されている.正常者のVFSは100になる.半径10°以内に50点,周辺に50点,上方に40点,下方に60点と下方に重みがつけられている.(132) (片眼ずつを重ね合わせて合成した両眼視野)VFSouを比較した結果,両者の間に統計学的有意差はなく,ほぼ等しいことが確かめられた9).しかし,FFSはbVFS,VFSouと比較して有意に低い値となった.FFSは計算式が示すように,各眼に20%,両眼に60%の比率で計算され,両眼視を重視し,片眼の欠損も評価する.FFSとbVFSのいずれが患者のqualityofvision(QOV)をより反映しているかについて検討した研究はまだない.そこで今回筆者らは,CGTを用いてFFS,bVFS,およびFASと,theNationalEyeInstituteVisualFunctioningQuestionnaire-25(VFQ25)日本語版10)との関連について調べた.I対象および方法対象は甲府共立病院と九州大学病院の倫理委員会で承認を受けたうえで,視野に欠損のある患者に研究内容についての説明を行い,同意を得た32名(男性18名,女性14名)で,平均年齢は71±13(33.95)歳である.疾患内訳は緑内障16例,糖尿病網膜症(黄斑症)5例,加齢黄斑変性4例,網膜色素変性2例,網膜静脈分枝閉塞2例,網脈絡膜萎縮2例,同名半盲1例であった.症例の選択には,病態が落ち着いており,内眼手術やレーザー,硝子体注射を直近の6カ月以内に施行していないこと,1年以内にlogMAR視力表で3段階落ちていないことを前提とした.視力は万国式試視力表を用いて左右眼の矯正視力を測定した.右眼視力からVisualAcuityScore(VASod),左眼視力からVASos,そして矯正視力の良いほうの眼(良眼)の視力を両眼開放視力として代用して,VASouに換算した.視力値をVASに換算するには,換算表を用いるか4,5),小数視力を計算式に代入することでも可能であるが(図1),これを容易にするための筆者らが開発したColenbrander-KamoFVS計算EXCELシート(FVSシート)を使用したURL2).HFA740のCGTを使用して,右眼でVFSod,左眼でVFSos,両眼開放でbVFSを測定した.VFSod,VFSosの結果より,どちらか一方の眼で見えている点は両眼でも見えているものとしてカウントし,左右眼の視野を重ね合わせたスコアであるVFSouを合成した.CGTは視野の中心10°以内と,10°より周辺部にプログラムが分かれているため,中心視野と周辺視野は分けて測定した.したがって,すべてのVFSは中心と周辺それぞれのVFSを加えて算出した.これらの値をFVSシートに代入して,FFSを算出した.CGTの結果の信頼性について基準を設け,良好例の定義は各眼,中心,周辺通して固視不良が20%未満,偽陽性,偽陰性が33%未満をすべて満たすものとした.bVFS測定の際には視野計の機構上固視監視ができないために,検査の信頼性は偽陽性,偽陰性で評価した.(133)VFQ25は12項目の下位尺度にそれぞれ1.4個の質問があり,全部で25個の質問がある.下位尺度と略語(質問数)はつぎのとおりである.全体的健康感GH(1),全体的見え方GV(1),目の痛みOP(1),近見視覚による行動NV(2),遠見視覚による行動DV(3),見え方による社会生活機能SF(3),見え方による心の健康MH(4),見え方による役割制限RL(3),見え方による自立DP(3),運転DR(2),色覚CV(1),周辺視覚PV(1),以上が12項目の下位尺度である.下位尺度のうち,全体的健康感GHを除いた11項目の総合スコアがVFQ25(11)である.VFQ25は原則として自己記入,自己記入が不可能な者には面接式として得た.なお,解析はOP,CVを除く10項目の下位尺度と,VFQ25(11)を対象とした.統計解析は,平均の差の検定,および完全逐次モデルによる共分散構造分析(パス解析)を行った.検定の多重共線性を避けるため,FFS,FASを独立変数にVFQ各項目を従属変数としたパス解析と,bVFS,FASを独立変数にVFQ各項目を従属変数としたパス解析に分けて行った.その際,視力と中心視野の多重共線性を避けるため,FFSとbVFSには中心暗点ルール7),URL3)を適用した.解析ソフトにはRforwindowsver3.2.1(RProject)のパッケージlavaanを使用し,統計学的水準として,危険率5%未満を有意差ありと判定した.II結果検査の信頼性良好と判定されたのは21例,不良と判定されたのは11例であった.信頼性の良好,不良に疾患を分けると表1のようになる.加齢黄斑変性,糖尿病黄斑症,網膜静脈分枝閉塞,同名半盲など,中心視野に暗点がある疾患が不良群となった.信頼性不良のおもな理由は固視不良であった.片眼logMAR,両眼logMAR,FAS,VFS,VFSou,bVFS,FFSの結果を表2に示す.信頼性良好群と不良群で平均の差の検定をすると,FASとVFSと両眼logMARはp<0.01,片眼logMARはp<0.001の有意差が検出された.各群のVFQ25の平均値を表したものが図3である.信頼性良好群と不良群で平均の差の検定をすると,運転DRはp<0.001,近見視覚NV,社会生活機能SF,自立DP,VFQ25(11)はp<0.01,遠見視覚DV,心の健康MH,役割制限RL,周辺視覚PVはp<0.05で有意差が検出された.信頼性良好群のFFS,bVFSとVFQ25各尺度に対する共分散構造分析の結果が表3である.FFSとVFQ25各尺度の標準化推定値(係数)は,周辺視覚がもっとも高く0.800〔決定係数(R2)=0.684〕,VFQ25(11)は0.744(R2=0.568)で,いずれも有意差が検出された(p<0.001).なお,適合度については自由度0の完全逐次モデルを用いたため,解析対象あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016463 表1信頼性良好群と不良群の疾患内訳および,不良群となった理由疾患集計全対象信頼性片眼での不良群例数と理由(重複あり)両眼開放での不良群例数と理由良好群不良群緑内障加齢黄斑変性糖尿病黄斑症網脈絡膜萎縮網膜色素変性網膜静脈分枝閉塞同名半盲糖尿病網膜症16442221114022210024200111固視不良2固視不良4,偽陰性1固視不良1,偽陰性200固視不良1固視不良1偽陰性100偽陰性100000計322111VFQ25各尺度片眼性,両眼性で分けて示した.両眼では固視チェックをoffとしているので,偽陰性,偽陽性しかチェックできない.表2各群の片眼logMAR,両眼logMAR,FAS,VFS,VFSou,bVFS,FFS片眼logMAR***両眼logMAR**FAS**VFS**VFSoubVFSFFS信頼性良好群0.25±0.44(.0.08.1.52)0.13±0.31(.0.08.1.00)91.0±15.1(46.104)74.1±19.4(23.98)86.3±17.9(37.100)86.4±17.2(37.100)81.5±18.1(34.97)信頼性不良群0.87±0.78(0.00.2.00)0.52±0.57(0.00.1.98)66.0±28.0(1.100)58.7±21.8(0.96)76.7±15.3(50.96)75.2±19.7(32.98)69.5±14.5(44.86)平均値と標準偏差,()内は最低値と最高値を記載.*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001.90.080.070.060.050.040.030.020.010.0***************GVNVDVSFMHRLDPDRPV(11)bVFSとVFQ25各尺度の係数は,FFSと同様周辺視覚PVがもっとも高く0.800(R2=0.661),VFQ25(11)は0.647(R2=0.428)で,有意差が検出された(p<0.001).他に5%確率で有意差のあった尺度と係数は,自立DPが0.651(R2=0.421),心の健康MHが0.627(R2=0.388),社会生活機能SFが0.658(R2=0.455),役割制限RLが0.431(R2=0.194),遠見視覚DVが0.510(R2=0.409),全体的見え方GVが0.472(R2=0.229)であった.信頼性不良群のFFS,bVFS,FASとVFQ25(11)の係数は,FASが係数0.608と強く影響し,視野スコアではbVFSは係数0.439,R2は0.531で,いずれも有意差があっスコア0.0信頼性良好群■信頼性不良群た(p<0.05).FFSは係数0.353で有意差は検出されなかっ図3VFQ25各尺度の結果*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001.GV:一般的見え方,NV:近見視覚,DV:遠見視覚,SF:社会生活機能,MH:心の健康,RL:役割制限,DP:自立,DR:運転,PV:周辺視覚,VFQ25(11):痛みと色覚を除いた総合スコア.とならなかった.他に5%確率で有意差のあった尺度と係数は,自立DPが0.757(R2=0.575),心の健康MHが0.704(R2=0.495),社会生活機能SFが0.731(R2=0.562),役割制限RLが0.542(R2=0.304),遠見視覚DVが0.603(R2=0.516),全体的見え方GVが0.561(R2=0.322)であった.FASとVFQ25各尺度の解析では,遠見視覚DVのみ係数0.365で有意な結果が得られた(p<0.05).464あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016た.III考察FFS,FVSとVFQ25の相関について述べた論文は,加齢黄斑変性を主とした研究でFuhrら11)が,網膜色素変性でSeoら12)が,緑内障をもつ運転手では筆者ら13)により報告されている.また柳澤らもI/4e,およびI/2eの視能率の判定はVFQ25と相関しないが,FFSは相関することを示した(2010年臨床眼科学会).VFQ25の妥当性については,古くはMassofら14,15),日本語版では鈴鴨ら10)に続き,わが国でも多数の論文がすでに出版されている.今回筆者らは両眼開放の視野スコアであるbVFSと,両眼加重平均を用いた(134) 表3bVFS,FFS,FASとVFQ25の各尺度に対する標準化推定値と決定係数(R2)全体的見え方GV近見視覚NV遠見視覚DV社会生活機能SF心の健康MHFFS0.561**0.2190.603**0.731***0.704***bVFS0.472*0.1600.510**0.658***0.627***FAS0.068(0.038)0.341(0.333)0.365*(0.333*)0.136(0.093).0.023(.0.064)決定係数(R2)0.322(0.229)0.171(0.148)0.516(0.409)0.562(0.455)0.495(0.388)役割制限RL自立DP運転DR周辺視覚PV総合スコアVFQ25(11)FFS0.542**0.757***0.2290.800***0.744***bVFS0.431*0.651***0.2290.800***0.647***FAS0.080(0.055)0.021(.0.020)0.192(0.179)0.136(0.080)0.093(0.051)決定係数(R2)0.304(0.194)0.575(0.421)0.133(0.094)0.684(0.661)0.568(0.428)検定の多重共線性を避けるため,FFS,FASを独立変数にVFQ各項目を従属変数としたパス解析と,bVFS,FASを独立変数にVFQ各項目を従属変数としたパス解析に分けて行った.()内の数値はbVFS,FAS,VFQ各項目のパス解析で得られたFASの係数とR2である.*p<0.05,**p<0.01,***p<0.001.FFSで,どちらがVFQ25の関連因子であるかを検討した.今回の信頼性良好群において,FFS,bVFSと,VFQ25各尺度に対する係数は,FFSのほうがやや高い値となった.同じパスで解析をすることができないため,係数の間接的な比較しかできないが,bVFSよりはFFSのほうが患者のQOVに関連する因子であることが示唆されたと考える.しかし,QOVに明らかに影響するはずの視力スコアであるFASが,近見視覚以外は視野スコアに比べて低い係数となり,遠見視覚DV以外は有意差も検出されなかった.この原因として考えられるのは,検査の信頼性良好群は視力良好群であり,正常か比較的軽度の視力障害の者が多かったことがあげられる.近見視覚NVと視野スコアの関連が低いのは,中心暗点ルールが適応されないほどの視力(小数視力で0.67以上)にもかかわらず,中心視野に欠損がある症例が少なかったことが考えられる.Fuhrら11)の研究では黄斑疾患が38%と多く,FFSの相関係数も0.45と高い.筆者らの症例は信頼性良好群21例のうち,緑内障が14例と多く,視力障害が主体である網膜循環障害や黄斑疾患は少数であった.信頼性不良群ではVFQ25(11)とFASとの関連がみられたが,これは視力不良例が多かったことが原因であると考えられる.信頼性良好群の下位尺度のうち,視野に関する質問である周辺視覚PVと視野スコアが当然のことながら高い係数を示した反面,同じく視野が関係するはずの運転DRと視野スコアの間には,有意差は検出されなかった.今回の対象は高齢者が多く,運転免許を所持したことがない者も多くいたこと,視力自体は良好な者が多かったこと,R2=0.094という決定係数から視覚以外の原因が大きく関係していることが考えられる.周辺視覚PVについてはbVFSもFFSも係数は同値であった.これは周りの物に気付くかどうかという,大まかな質問に対しては差が生じなかったことが考えられる.しかし,社会生活機能SF,心の健康MH,役割制限RL,自立DRの4つの下位尺度,つまり精神的安定や社会生活を反映した下位尺度ではFFSの係数が高くなった.これは両眼で見えているとされる視野よりも,片眼の視野障害も考慮に入れることで,実生活における種々の自覚的な困難を反映しやすくなったのではないかと考える.両眼開放で測定するbVFSのほうが簡便であり,日常の視野を評価しているという点では,こちらを採用するという考え方も確かにある.しかし,両眼開放視野は正常と判定されるが,片眼に欠損があり,反対の眼で補っているというケースについても考慮に入れる必要があると筆者らは考えている.たとえば緑内障で鼻側視野欠損やBjerrum(ビエルム)暗点があっても,欠損部位や暗点が重ならなければ,両眼開放で視野を測定すると正常視野が検出されるケースは珍しくない.しかし,患者に聞き取りを行うと,日常生活のなかでも視野異常のある部位に見えづらさを感じていると答える人がいる.両眼開放視野については,両眼の網膜対応点における加算現象であるbinocularsummation16)が知られている.とくに中心視野では加算が起こりやすく,両眼同程度の感度であれば,片眼で見るよりも感度が上昇する.また,対応点の視野感度に左右差がある場合,加算が減少することが報告されている17).このことから,片眼の感度低下が両眼開放の視野にも影響を及ぼすことがわかる.閾上刺激を用いるCGTでは,閾値の変化は捉えていないため,片眼に感度低下があったとしても,両眼で10dBが見えればその点は正常であるとみなされる.しかし,両眼で10dBが見えたとしても,片眼に感度低下があれば加算現象は起こりにくくなるため,見え方の質が同じであるとはいえないであろう.この点からも,両眼視野だけではなく,片眼の視野も評価すること(135)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016465 が必要であると考える.さらにFVSでは,視力,視野のみで表現できないにもかかわらず,就労の継続が困難になる視機能,たとえば,片眼の機能低下による立体視の喪失,後天的錐体機能障害による色覚欠損などに対し,オプションで15点引くことができる.今回の研究の結果,FFSのほうがVFQ25に対して関連が強いことが示唆された.FFSにより,片眼の視野と両眼開放の視野を両方評価することで,その人のQOVをより反映しやすくなると考えられた.現行の身体障害者等級判定法は,5級ではI/4e,4級以下ならI/2eによる視野の広さを基準としているが,イソプター内側の視野障害は評価の対象とならない.FFSではIII/4eイソプター内側の中心暗点やBjerrum暗点なども評価の対象となる.また,CGTは測定範囲が広い割には,片眼の標準的な測定時間が6分程度と比較的短時間で行えるという利点もある8).計算過程がやや複雑であるが,今後筆者らは自動視野計にFFSの算出プログラムを搭載することを考えている.視野計に視力値を入力すればFASが計算され,CGTを測定すればFFS,FVSまで自動で計算をしてくれるようになれば,複雑な計算の必要はなくなる.簡便で患者の負担が少なく,かつQOVとの関連が深いFFSについて,今後も検討を重ねていきたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)AmericanMedicalAssociation:Section6,Evaluationofpermanentvisualimpairment.In:WeisbeckerCA,FraufelderFT,RheeDetal(eds),Physicians’DeskReferenceforOphthalmology,28thed,p66,MedicalEconomicsCo,Montvale,20002)DouglasRA,VincentMP:Visualimpairmentanddisability.In:CravenL(ed),AutomatedStaticPerimetry,2nded,p237-241,CVMosby,StLouis,19993)ColenbranderA:Thefunctionalvisionscore─Acoordinatedscoringsystemforvisualimpairments,disabilities,andhandicaps.In:KooijmanAC,LooijestijinPL,WellingJAetal(eds),ResearchandNewDevelopmentsinRehabilitation.StudiesinHealthTechnologyandInformatics,11LowVision,p552-561,IOSPress,Amsterdam,19944)ColenbranderA:Chapter12,Thevisualsystem.In:CochiarelliL,AndersonGBA(eds),GuidestotheEvaluationofPermanentImpairments.5thed,p277-304,AmericanMedicalAssociation,Chicago,20015)ColenbranderA:Chapter12,Thevisualsystem.In:RondinelliRD(ed),GuidestotheEvaluationofPermanentImpairment.6thed,p281-319,AmericanMedicalAssociation,Chicago,20086)ColenbranderA:Assessmentoffunctionalvisionanditsrehabilitation.ActaOphthalmol88:163-173,20107)加茂純子:身体障害認定における視覚障害評価.VisualAcuityScore(VAS)とVisualFieldScore(VFS)の測定の実際.日本の眼科82:755-775,20118)加茂純子,原田亮,宇田川さち子ほか:AmericanMedicalAssociationのVisualFieldScoreのHumphrey視野計のカスタムプログラムによる静的視野とGoldmann視野の結果の比較の試行.臨眼65:1243-1249,20119)原田亮,加茂純子,瀬戸寛子ほか:Colenbranderグリッドスコアの右左合成両眼と両眼開放,FFSの関係.臨眼68:1161-1166,201410)鈴鴨よしみ,大鹿哲郎,大木孝太郎ほか:NEI-VFQ25日本語版の開発と信頼性・妥当性の検討.日眼会誌107:297,200311)FuhrPSW,HolmesLD,FletcherDCetal:TheAMAGuidesFunctionalVisionScoreisabetterpredictorofvision-targetedqualityoflifethantraditionalmeasuresofvisualacuityorvisualfieldextent.VisImpairmentRes5:137-146,200312)SeoJH,YuHG,LeeBJ:Assessmentoffunctionalvisionscoreandvision-specificqualityoflifeinindividualswithretinitispigmentosa.KoreanJOphthalmol23:164-168,200913)加茂純子,原田亮,松本行弘ほか:緑内障のある運転手のBinocularEstermanScore対FunctionalFieldScoreのThe25-itemNationalEyeInstituteVisualFunctionQuestionnaireへの関連.日ロービジョン会誌13:11-15,201314)MassofRW,FletcherDC:EvaluationoftheNEIVisualFunctioningQuestionnaireasanintervalmeasureofvisualabilityinlowvision.VisRes41:397-413,200115)MassofRW:Themeasurementofvisiondisability.OptomVisSci79:516-552,200216)若山暁美,松本長太,楠部亨ほか:両眼視野におけるBinocularSummationについて正常者における融像刺激に対する検討.眼臨93:1057-1060,199917)PardhanS,WhitakerA:Binocularsummationinthefoveaandperipheralfieldofanisometropicamblyopes.CurrEyeRes20:35-44,2000URL1)http://www.icoph.org/downloads/visualstandardsreport.pdf2)http://mayeyeclinic.sharepoint.com/Pages/ColenbranderKamoFVScalculationsheet.aspx3)http://mayeyeclinic.sharepoint.com/Pages/central_scotoma_rule.aspx***466あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(136)

ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の点眼時間による眼圧下降効果の比較

2016年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(3):455.459,2016cラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液の点眼時間による眼圧下降効果の比較武田暢生宇田川さち子東出朋巳大久保真司竹本裕子杉山和久金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学ComparisonofIntraocularPressure-reducingEffectofMorningvs.EveningDosingofLatanoprostandTimololNobuoTakeda,SachikoUdagawa,TomomiHigashide,ShinjiOhkubo,YukoTakemotoandKazuhisaSugiyamaDepartmentofOphthalmologyandVisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScienceラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)は1日1回点眼であるが,朝夜のいずれに点眼するのがより効果的か検討した.対象は,金沢大学附属病院眼科にて抗緑内障点眼薬治療を受けている原発開放隅角緑内障(広義)患者,高眼圧症患者25例25眼.1カ月以上の観察期間を経てザラカムR配合点眼液に変更し,計6カ月間の点眼を行った.ランダム割り付け表に従い,点眼時間帯を3カ月ごとに朝から夜へ,または夜から朝へと切り替える2群に割り付けた.朝・夜点眼期間終了時点の眼圧は,それぞれ,12.9±2.9mmHg,13.1±3.6mmHgであり,観察期間終了時の眼圧14.1±3.2mmHgからの変化量は,朝点眼と夜点眼とで有意差はなかった(p=0.7).同時に行ったアンケートでは,朝・夜点眼で有害事象に似た傾向がみられ,アドヒアランスは朝・夜点眼ともに良好だった.以上より,ザラカムR配合点眼液は,朝点眼も選択肢の一つになると考えられた.Weevaluatedtheefficacyofmorningversuseveningdosingoflatanoprostandtimolol(LTFC;XalacomR)in25patientswithprimaryopen-angleglaucomaorocularhypertensionwhohadinstilledantiglaucomadropsforatleast1month,thenswitchedtoLTFC.TheywererandomizedtoeithermorningoreveningdosingofLTFCfor3months,thencrossedovertotheoppositeadministrationtimeschedulesforthenext3months.MeanIOPsattheendpointofmorningtreatmentwere12.9±2.9mmHg,and13.1±3.6mmHgofeveningtreatment.TherewasnosignificantdifferenceinIOPsfrombaselinebetweenthetwodosings(p=0.7).JudgingfromtheresultsofaquestionnairesurveyperformedatthetimeofIOPmeasurement,adherencewasgoodinbothmorningandeveningtreatment.ThisstudyrevealedthatmorningapplicationofLTFCoffersanotherchoiceforpatientswithglaucomaorocularhypertension.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):455.459,2016〕Keywords:ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液,眼圧,朝点眼,夜点眼,ランダム化クロスオーバー前向き比較試験.latanoprostandtimolol,intraocularpressure,morningdose,eveningdose,randomizedprospectivecrossovertrial.はじめにプロスタグランジン関連点眼薬とb遮断点眼薬の配合剤の点眼回数は1日1回であり,これらの併用と比較して,点眼回数を減らすことでアドヒアランスの向上が期待できる.これらの配合剤の効果的な点眼時間帯については,Takmazら1)は,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)に関し,朝点眼と夜点眼を比較して夜点眼のほうが効果的であるとしているが,まだ定まった見解はない.そこで今回,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液(ザラカムR配合点眼液)について,朝と夜のいずれに点眼するのが効果的か,アドヒアランスや有害事象に関するアンケートとともにランダム化クロスオーバー前向き比較試験により検討した.〔別刷請求先〕武田暢生:〒920-8641金沢市宝町13番1号金沢大学医薬保健研究域医学系視覚科学Reprintrequests:NobuoTakeda,M.D.,DepartmentofOphthalmology&VisualScience,KanazawaUniversityGraduateSchoolofMedicalScience,13-1Takara-machi,Kanazawa-shi,Ishikawa920-8641,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(125)455 実施期間評価項目ザラカム.単剤の点眼時間帯観察期間投薬(点眼)期間点眼中の点眼を継続眼圧測定アンケート眼圧測定アンケート眼圧測定アンケート1日1回朝点眼(AM8:00±2:00)1日1回朝点眼(AM8:00±2:00)1日1回夜点眼(PM8:00±2:00)1日1回夜点眼(PM8:00±2:00)1M~1M2M3M4M5M6Mザラカム.点眼なし実施期間評価項目ザラカム.単剤の点眼時間帯観察期間投薬(点眼)期間点眼中の点眼を継続眼圧測定アンケート眼圧測定アンケート眼圧測定アンケート1日1回朝点眼(AM8:00±2:00)1日1回朝点眼(AM8:00±2:00)1日1回夜点眼(PM8:00±2:00)1日1回夜点眼(PM8:00±2:00)1M~1M2M3M4M5M6Mザラカム.点眼なし*眼圧測定は10時±1時間に行う図1試験のアウトラインI対象および方法1.対象対象は,金沢大学附属病院眼科に外来通院中の患者のうち,プロスタグランジン関連点眼薬単剤,プロスタグランジン関連点眼薬と他の点眼薬の2剤併用療法,またはラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼液以外の配合点眼薬で1カ月以上治療している原発開放隅角緑内障(広義)患者,高眼圧症患者である.試験組み入れ時での眼圧測定値が21mmHg以下,3カ月以内に測定したHumphrey自動視野計中心30-2または24-2Swedishinteractivethresholdalgorithm(SITA)standardにて,meandeviation(MD)値が.10dB以上の20.75歳を対象とした.両眼とも基準を満たす場合は,試験組み入れ時の眼圧の高い眼を,左右の眼圧が同じ場合は右眼を対象とした.2.方法同意取得後に,1カ月以上の観察期間を設け,その間は点眼中の点眼薬を継続とした.その後,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸塩配合点眼薬へと変更し,6カ月間点眼を行った.試験デザインは単盲検,ランダム化クロスオーバー前向き比較試験とし,既定の割り付け表にしたがって,3カ月ごとに点眼時間帯を朝(午前8時±2時間)から夜(午後8時±2時間)へ,または夜から朝へと切り替える2群に割り付けた.ベースライン(観察期間終了時点),朝点眼期間終了時点,夜点眼期間終了時点の眼圧を,それぞれ外来受診時にGoldmannapplanationtonometer(GAT)にて測定し,同時に,有害事象,点眼アドヒアランスに関するアンケートを実施した(図1).眼圧の測定時間は,日内変動の影響を避けるため,午前10時±1時間とした.朝点眼期間終了時点と夜点眼期間終了時点の眼圧を,それぞれベースライン眼圧からの変化量で比較した.検定には対応のあるt検定を用い,p<0.05を統計学的有意とした.本研究は,金沢大学医学倫理審査委員会で承認され,対象456あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016患者に本研究の主旨および内容を説明し,書面による同意を得て施行した.また,本研究は,2013年7月25日UMIN臨床試験に登録された(UMIN000011275).II結果25例25眼が解析の対象となった.内訳は,男性14例,女性11例,平均年齢は55.3±11.9歳だった.また,原発開放隅角緑内障患者(広義)が20例,高眼圧症患者が5例だった.使用していた抗緑内障点眼薬は,プロスタグランジン関連点眼薬単剤が20例,プロスタグランジン関連点眼薬と他の点眼薬の2剤併用が5例(併用点眼薬は5例ともb遮断薬)であり,配合点眼薬を使用している患者はいなかった.ベースラインでの平均眼圧は14.1±3.2mmHgであった(表1).朝・夜点眼期間終了時点の眼圧は,それぞれ,12.9±2.9mmHg,13.1±3.6mmHgであり(表2),ベースラインからの眼圧変化量は,朝点眼(.1.2±2.4mmHg)と夜点眼(.1.1±2.2mmHg)とで有意差はなかった(p=0.7)(表3).また,個々の患者に対して,朝点眼での眼圧と夜点眼での眼圧の差を検討したが,朝点眼のほうが3mmHg以上眼圧が高かった患者と,夜点眼のほうが3mmHg以上眼圧が高かった患者がともに3例であったのに対し,朝・夜点眼の眼圧差の大きさが3mmHg未満となった患者が19例と多数(76%)を占めた.アンケート結果を表4に示す.点眼を忘れたことがあるかという質問に対して,忘れたことはないと答えた人は,朝点眼期間後で16例,夜点眼期間後で13例であり,朝点眼のほうが3例多かった.逆に,だびたび忘れると答えた人は,朝点眼期間後で9例,夜点眼期間後で12例であり,夜点眼のほうが3例多かった.被験者別のデータをみてみると,朝点眼のときに“忘れたことはない”と答えた同一の3人の被験者が,夜点眼に切り替わって,“たびたび忘れる”と答えており,夜点眼のときにのみ“忘れたことはない”と答えた被験者はいなかった.現在の点眼を続けたいかという質問に(126) 表1患者の背景関しては,続けたいと答えた人は朝点眼で16例,夜点眼で患者数25例15例であった.また,1日の点眼回数(1回)は満足してい性別るかという質問に関して,満足していると答えた人は,朝・男性14例(56%)夜点眼期間後でそれぞれ21例,20例と朝・夜点眼で差はな女性11例(34%)く,多数(84%,80%)を占めた.点眼しやすい回数につい年齢55.3±11.9歳(33.75歳)ても,1日1回と答えた人が各時点とも多数を占めた.気に視力1.18±0.07(1.1.2)なった有害事象に関する複数回答のアンケートでは,朝・夜HFA30-2または24-2MD.3.8±2.8dB(1.3..9.6dB)点眼期間とも,眼がしみると答えた人が14例と最多であり,ベースライン眼圧14.1±3.2mmHg(9.21mmHg)眼の充血と答えたものはそれぞれ5例,3例,眼がゴロゴロ病型原発開放隅角緑内障(広義)20例(80%)表2各測定時点の眼圧高眼圧症5例(20%)使用薬剤ベースライン朝点眼期間後夜点眼期間後PG関連点眼薬単剤20例(80%)14.1±3.2mmHg12.9±2.9mmHg13.1±3.6mmHgPG関連点眼薬と他の5例(20%)点眼薬の2剤併用(併用薬剤はすべてb遮断薬)表3ベースラインからの眼圧変化量朝点眼期間後の眼圧変化量夜点眼期間後の眼圧変化量p値(t検定).1.2±2.4mmHg.1.1±2.2mmHg0.7表4アンケート結果(例)観察期間後朝点眼期間後夜点眼期間後点眼を忘れたことがあるか忘れたことはない14(56%)16(64%)13(52%)たびたび忘れる11(44%)9(36%)12(48%)ほとんど忘れている0(0%)0(0%)0(0%)いつも忘れている0(0%)0(0%)0(0%)現在の点眼治療を続けたいか続けたい.16(64%)15(60%)たぶん続ける.8(32%)8(32%)続けたくない.1(4%)2(8%)1日の点眼回数(1回)は満足しているか満足している17(68%)21(84%)20(80%)やや満足している6(24%)3(12%)3(12%)満足していない2(8%)1(4%)2(8%)点眼しやすい回数は何回か1日1回22(88%)24(96%)23(92%)1日2回2(8%)0(0%)1(4%)1日3回0(0%)0(0%)0(0%)1日4回1(4%)1(4%)1(4%)点眼を開始して気になった有害事象(複数回答)眼の充血.5(20%)3(12%)眼がゴロゴロする.3(12%)4(16%)眼がしみる.14(54%)14(54%)眼がかゆくなる.1(4%)2(8%)睫毛が伸びる.1(4%)0(0%)眼の下が黒くなる.2(8%)3(12%)(127)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016457 すると答えたものは,それぞれ3例,4例であった.III考按プロスタグランジン関連点眼薬のラタノプロストは,ぶどう膜強膜流出路からの房水流出量を増加させることによって優れた眼圧下降効果を示すが2),朝点眼よりも夜点眼のほうが眼圧の日内変動幅を減少させるため,有利であるとされる3).一方,b遮断薬であるチモロールマレイン酸点眼薬は,房水産生を抑制することで眼圧下降作用を示すが4),夜間はb受容体の活性が低下し房水量が減少するため,1日1回点眼である持続性のb遮断薬は朝に点眼することが一般的であり,1日に2回点眼するその他のb遮断薬も夜間より朝から日中の効果が高いとされている5).これらの配合点眼薬については,朝夜のいずれに点眼するのが効果的か,結論は出ていないが,Takmazら1)は,30例60眼の原発開放隅角緑内障患者を朝点眼群と夜点眼群に分け,4週間点眼後の眼圧日内変動を比較し,夜点眼群のほうが,朝から日中の眼圧が有意に低く,日内変動幅も小さいと報告している.また,Konstasら6)は,36例の原発開放隅角緑内障,高眼圧症の患者を対象としたラタノプロストとチモロールマレイン酸点眼薬の併用療法に関して,朝・夜点眼での眼圧日内変動を比較した結果,夜点眼のほうが朝6時の眼圧が有意に低いものの,日中の眼圧に有意差はみられないとしている.同じくプロスタグランジン関連点眼薬とb遮断点眼薬の合剤であるトラボプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液に関しては,Denisら7)は,朝点眼と夜点眼で眼圧下降効果に差はないとしているが,Konstasら8)は,夜点眼のほうが効果的であるとしている.また,石田ら9)は,トラボプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液の夜点眼と朝点眼で眼圧下降効果に有意差はなかったが,配合点眼薬に切り替える前の眼圧と切り替え後の眼圧の比較では,朝点眼で有意に眼圧が上昇したのに対して夜点眼では有意差がなかったことから,夜点眼のほうがやや効果的であったと報告している.これらの研究結果を踏まえ,現在,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液は,夜点眼が推奨されている.しかし,本研究では,原発開放隅角緑内障患者,高眼圧症患者を対象としたランダム化クロスオーバー前向き比較試験によって,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液の朝点眼と夜点眼では,朝の眼圧下降効果に有意差はみられなかった.眼圧の測定値には日内変動があるため,異なる時間帯での眼圧下降効果の比較は困難であるが,本研究の眼圧測定時刻は10時±1時間であり,同じくラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液の朝・夜点眼の比較を行い,夜点眼群のほうが朝から日中の眼圧が有意に低いとしたTakmazら1)の報告とは異なる結果となった.458あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016Takmazら1)の報告と異なる要因としては,Takmazら1)の研究は並行群間試験であり,本研究とは試験デザインが異なることが影響した可能性が考えられた.並行群間試験は異なる被験者間の比較であるため,被験者間のばらつきによる誤差がある.本研究は,クロスオーバー試験であり,個人内の朝夜点眼の比較が可能であった.ただ,クロスオーバー試験の場合は,持ち越し効果(carry-overeffect)を生じる可能性があるため,2つの治療期間の間に十分な休薬期間(washoutperiod)をおかないと結果にバイアスがかかる危険性がある.ラタノプロストとチモロールマレイン酸配合点眼液の併用療法を比較したKonstasら6)の研究は,2週間の休薬期間を設定している.本研究では,朝点眼と夜点眼の間に休薬期間を設けなかったが,それぞれの点眼を3カ月間行った後に眼圧の測定を行ったため,持ち越し効果の影響を回避するには十分であったと考えられた.その他の要因として,対象疾患の違いも考えられる.Takmazら1)は,対象を原発開放隅角緑内障患者としたのに対して,本研究は開放隅角緑内障患者(広義)と高眼圧症患者とした.無治療の高眼圧症患者と緑内障患者の眼圧日内変動の比較を行ったGrippoら10)の研究では,姿勢にかかわらず高眼圧症患者,緑内障患者ともに,よく似た眼圧日内変動パターンを示すことが報告されているものの,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液の眼圧下降効果に関して,高眼圧症患者と緑内障患者を比較した報告はまだなく,対象の違いが結果に影響した可能性も否定はできない.なお,本研究は異なる時間帯での眼圧測定は行っていないため,朝・夜点眼の眼圧日内変動への影響を検討することはできなかった.しかし,Asraniら11)の報告によると,日中の眼圧日内変動の幅が大きいほど視野進行が速いことが知られており,朝・夜点眼の違いが眼圧日内変動パターンや変動幅に影響し,緑内障視野障害の進行を左右する可能性もある.いまだ眼圧日内変動を考慮した同一被験者によるラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液の朝夜点眼を比較したクロスオーバー試験は実施されておらず,今後検討が必要と思われる.朝・夜点眼の違いがアドヒアランスに与える影響に関しては,石田ら9)は,時間的余裕から夜点眼を希望するものが多数だったと報告しているが,この研究ではアドヒアランスに関する直接的なアンケートは実施されていない.本研究で行ったアンケートでは,朝点眼のときには忘れたことがないと答えていたのに,夜点眼に切り替わってたびたび忘れると答えた人が25人中3人おり,その逆のケースはなかった.このことから,夜点眼は朝点眼に比べてアドヒアランスが良好とはいえないと考えられた.緑内障は長期間の治療継続が必要となる慢性疾患であるため,アドヒアランスの違いが長期的な眼圧コントロールや予後に影響を与える可能性があり,(128) アドヒアランスへの影響も無視できない.点眼回数に関しては,1日1回点眼は,朝夜点眼にかかわらず満足度が高く,合剤による利点の一つと考えられた.以上,ラタノプロスト・チモロールマレイン酸配合点眼液は,朝夜点眼で午前の眼圧下降効果は同等であり,アドヒアランスは夜点眼も朝点眼もともに良好であることから,従来の夜点眼の推奨にとらわれず,朝点眼も選択肢の一つになると考えられた.利益相反:杉山和久(カテゴリーF:ファイザー株式会社)文献:1)TakmazT,A.ikS,Kurkcuo.luPetal:Comparisonofintraocularpressureloweringeffectofoncedailymorningvseveningdosingoflatanoprost/timololmaleatecombination.EurJOphthalmol18:80-85,20082)NilssonSFE,SamuelssonM,BillAetal:IncreaseduveoscleraloutflowasapossiblemechanismofocularhypotensioncausedbyprostaglandinF2a-1-isopropylesterinthecynomolgusmonkey.ExpEyeRes48:707-716,19893)KonstasAG,MaltezosAC,GandiSetal:Comparisonof24-hourintraocularpressurereductionwithtwodosingregimensoflatanoprostandtimololmaleateinpatientswithprimaryopen-angleglaucoma.AmJOphthalmol128:15-20,19994)HoyngPF,RuloA,GreveEetal:Theadditiveintraocularpressure-loweringeffectoflatanoprostincombinedtherapywithotherocularhypotensiveagents.SurvOphthalmol41(Suppl2):93-98,19975)TopperJE,BrubakerRF:Effectsoftimolol,epinephrine,andacetazolamideonaqueousflowduringsleep.InvOphthalmolVisSci26:1315-1319,19856)KonstasAG,NakosE,TersisIetal:AComparisonofonce-dailymorningvseveningdosingofconcomitantlatanoprost/timolol.AmJOphthalmol133:753-757,20027)DenisP,AndrewR,WellsDetal:Acomparisonofmorningandeveninginstillationofacombinationtravoprost0.004%/timolol0.5%ophthalmicsolution.EurJEophthalmol16:407-415,20068)KonstasAG,TsironiS,VakalisANetal:Intraocularpressurecontrolover24hoursusingtravoprostandtimololfixedcombinationadministeredinthemorningoreveninginprimaryopen-angleandexfoliativeglaucoma.ActaOphthalmol87:71-76,20099)石田理,杉山哲也,植木麻理ほか:抗緑内障配合点眼液の朝点眼と夜点眼による効果の比較.あたらしい眼科29:975-978,201210)GrippoTM,LiuJH,ZebardastNetal:Twenty-fourhourpatternofintraocularpressureinuntreatedpatientswithocularhypertension.InvOphthalmolVisSci54:512-517,201311)AsraniS,ZeimerR,WilenskyJetal:Largediurnalfluctuationsinintraocularpressureareanindependentriskfactorinpatientswithglaucoma.JGlaucoma9:134142,2009***(129)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016459

眼所見から診断されたStevens-Johnson症候群の1例

2016年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(3):451.454,2016c眼所見から診断されたStevens-Johnson症候群の1例鈴木智浩*1大口剛司*1北尾仁奈*1木嶋理紀*1岩田大樹*1水内一臣*1野村友希子*2田川義継*3石田晋*1*1北海道大学大学院医学研究科眼科学分野*2北海道大学大学院医学研究科皮膚科学分野*3北1条田川眼科ACaseofStevens-JohnsonSyndromeDiagnosedbyOcularFindingsTomohiroSuzuki1),TakeshiOhguchi1),NinaKitao1),RikiKijima1),DaijuIwata1),KazuomiMizuuchi1),YukikoNomura2),YoshitsuguTagawa3)andSusumuIshida1)1)DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,2)UniversityGraduateSchoolofMedicine,3)TagawaEyeClinicDepartmentofDermatology,Hokkaido目的:皮膚病変を伴わず眼所見を中心に粘膜病変のみを呈したStevens-Johnson症候群(SJS)の1例について報告する.症例:20歳,女性.当院初診の10日前,発熱と両眼の充血,眼脂を自覚し総合感冒薬を内服.3日後内科を受診し,咽頭結膜熱の診断でアセトアミノフェン内服処方された.同日眼科を受診し,アデノウイルス結膜炎の診断で点眼処方されるも炎症所見が徐々に増悪したため当院紹介となった.両眼瞼結膜に偽膜形成,瞼球癒着,角膜びらんがみられ,SJSが疑われた.皮膚科を受診し,口腔内に粘膜疹を認めたが皮膚病変はみられなかった.しかし,発熱・粘膜病変および眼所見よりSJSと診断し,即日ステロイドパルス療法が開始された.その後徐々に充血,偽膜,瞼球癒着,角膜びらんは改善した.結論:SJSは皮膚病変を伴わず,眼症状を含めた粘膜病変のみを呈することがあり,十分な注意が必要である.Purpose:WereportacaseofStevens-Johnsonsyndrome(SJS)thatmainlydevelopedocularfindingswithoutskinlesions.Case:A20-year-oldfemalehada3-dayhistoryoffever,eyerednessanddischarge.Althoughshetookacetaminophen,thesymptomswerenotresolved.Inaneyeclinic,adenovirusconjunctivitiswassuspectedandshewastreatedwithtopicaltreatments,buthersymptomswereexacerbated.Onherfirstvisittoourhospital,shehadbilateralpseudomembranousconjunctivitis,symblepharonandcornealerosion.Oralmucousmembranedisorderwasalsodetected,butnoteruptionofskin.AdiagnosisofSJSwasestablishedbasedontheseobservations.Methylprednisolonepulsetherapywasinitiatedandhersymptomsgraduallyimproved.Conclusion:MostSJSpatientshaveocularfindingsandmucousmembranedisorder;somelackskineruption.Thediagnosisshouldbecarefullyestablishedforapatientwithoutskinlesions.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):451.454,2016〕Keywords:Stevens-Jonson症候群,ステロイドパルス療法,瞼球癒着,角膜びらん,アセトアミノフェン.Stevens-Jonsonsyndrome,steroidpulsetherapy,symblepharon,cornealerosion,acetaminophen.はじめにStevens-Johnson症候群(SJS)は発熱を伴って全身の皮膚および粘膜にびらんと水疱を生じる,急性の全身性皮膚粘膜疾患である.SJSの発症頻度は人口100万人当たり1.6人である1).その原因のほとんどは薬剤によるものであるが,ウイルス感染などで発症することもある.今回筆者らは皮膚病変を伴わず,眼所見および他の粘膜病変のみを呈したSJSの1例を経験したので報告する.I症例患者:20歳,女性.主訴:両眼痛,開瞼困難.現病歴:当院初診の10日前,38℃の発熱があり市販の総合感冒薬を内服.その後両眼の充血,眼脂を自覚した.3日後内科を受診したところ咽頭結膜熱の診断でアセトアミノフェン内服処方された.同日眼科を受診し,アデノウイルス〔別刷請求先〕鈴木智浩:〒060-8638札幌市北区北15条7丁目北海道大学大学院医学研究科眼科学分野Reprintrequests:TomohiroSuzuki,M.D.,DepartmentofOphthalmology,HokkaidoUniversityGraduateSchoolofMedicine,Kita15,Nishi7,Kita-ku,Sapporo,Hokkaido060-8638,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(121)451 結膜炎の診断で0.1%フルオロメトロン,1.5%レボフロキサシン点眼処方されるも眼症状改善なく0.01%リン酸ベタメタゾン点眼に変更された.しかし,前眼部の炎症所見が徐々に増悪したため当院紹介となった.既往歴:特記すべき事項なし.家族歴:特記すべき事項なし.初診時所見:両眼とも結膜充血著明で濾胞形成なく,瞼結膜に偽膜形成,瞼球癒着,広範な角膜びらんを認めた(図1).開瞼不可のため視力は測定できなかった.全身検査所見:WBC6,300/μl,CRP2.75mg/dlでCRPが軽度上昇していた.肝機能,腎機能,電解質,血糖に異常は認めなかった.HSV,VZVのIgM,IgGは上昇なし,マイコプラズマ抗体価は初診日80倍,3週間後80倍でペア血清の上昇はなし,寒冷凝集素検査は8倍で基準範囲内であった.HLA遺伝子型はHLA-A*24:02,A*33:01,B*44:03,B*46:01であった.リンパ球刺激試験ではアセトアミノフェンの陽性率が415%と陽性を示した(表1).経過(図2):現病歴,眼所見よりSJSを疑い,皮膚科にて診察したところ,口腔内と肛門周囲にわずかに粘膜疹がみられた(図3).全身に皮疹はなかったが,発熱,重篤な眼所見,口腔内と肛門周囲に粘膜疹を認めたことからSJSと診断した.ただちにステロイドパルス療法〔メチルプレドニゾロン(mPSL)1日1g3日間〕を開始した.点眼は0.1%リ表1リンパ球刺激試験薬剤名成分名陽性率(%)ペアコール錠R無水カフェイン122カンゾウエキス104キキョウエキス95アセトアミノフェン415地竜乾燥エキス散109d-クロルフェニラミンマレイン散141図1初診時前眼部写真両眼とも結膜充血が著明で,瞼球癒着,角膜に広範なびらんをmPSL1g/日PSL60mg/日頻回点眼6×4×3×頻回点眼6×4×2×1×6×陽性:陽性率200%以上,疑陽性:180.199%,陰性点眼治療認めた.179%以下PSL50mg/日PSL40mg/日PSL30mg/日PSL25mg/日PSL20mg/日偽膜除去ベタメタゾンレボフロキサシンヒアルロン酸角膜びらん結膜充血瞼球癒着上眼瞼偽膜角膜上皮下混濁初診日1週間後1カ月後図2臨床経過452あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(122) 図3口腔内写真口腔内にびらんを認めた.ン酸ベタメタゾン,抗菌薬を1時間ごと,ステロイド眼軟膏を就寝前に点入し,偽膜除去,瞼球癒着.離を連日施行した.初診3日後の視力は右眼0.2(矯正不能),左眼0.07(0.1),眼圧は右眼9mmHg,左眼9mmHgであった.ステロイドパルス療法が奏効し,角膜びらん,上眼瞼の偽膜,他の粘膜病変は速やかに消失し,PSL60mgから漸減した.結膜充血は徐々に改善し,角膜上皮下混濁と瞼球癒着は軽度残存あるも改善を認めた(図4).その後視力も徐々に改善し,初診2週間後の視力は右眼0.7(1.0),左眼0.1(0.5)となった.初診2カ月後の視力は右眼(1.2),左眼(1.5)で炎症所見は鎮静化しており(図5),ステロイド内服は中止となり,その後再燃もなく経過している.II考按皮膚病変を伴わず眼所見を中心に粘膜病変のみを呈したSJSの症例を経験した.SJSは突然の高熱,紅斑,水疱などの皮膚症状と,口腔,眼球結膜などの粘膜疹やびらん所見が特徴である.しかし,まれではあるが皮膚病変を伴わず,粘膜病変のみを呈したSJSの報告がおもに小児科領域から散見される2.4).これらの報告では小児のマイコプラズマ感染に起因するSJSに多いが,本症例では検査結果よりマイコプラズマ既感染で急性期ではないと考えられ,リンパ球刺激試験でアセトアミノフェンが陽性を示したことから,アセトアミノフェンが原因と考えられた.また,近年HLA解析でHLA-A*02:06とHLA-B*44:03は感冒薬(アセトアミノフェンも含む)に関連して発症した重篤な眼合併症を伴うSJSに特異的な遺伝子素因であることが示唆されており5),本症例でもHLA-B*44:03を認めた.このことから,何らかの遺伝的背景の関与も示唆された.SJSの治療はステロイド治療と点眼での局所治療が有用とされている.本症例では当院初診日よりステロイドパルス療法と局所治療を行い,所見の改善が得られた.SJSで急性期(123)図4初診1週間後の前眼部写真結膜充血,角膜びらんの改善を認めた.図5初診2カ月後の前眼部写真結膜充血は消失している.角膜混濁は軽度残存している.視力右眼(1.2),左眼(1.0).あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016453 に角膜上皮幹細胞が消失すると遷延性上皮欠損に陥り,慢性期には上皮欠損部は周囲から伸展する結膜組織に覆われ視力障害をきたす.過去に発症から4日以内にステロイドパルス療法およびステロイド点眼治療を行った10眼の検討で,全症例で6週以内に偽膜は消失し角膜上皮は修復され発症から1年後視力(1.0)以上だった報告があり6),早期の治療が視力予後に影響すると考えられる.またSJSの死亡率は3%,重症型である中毒性表皮壊死症に進展すると19%,死亡原因は敗血症などの感染症,多臓器不全であり7),このことからもいかに早期に治療開始するかが重要となる.本症例は皮膚病変を伴わず眼所見を中心に粘膜病変のみ呈した非典型的なSJSであったが,早期に治療を行うことにより良好な経過が得られた.発熱に続く充血,角膜障害をみた場合,アデノウイルス結膜炎と診断されることが多いが,SJSである可能性を考慮する必要がある.粘膜病変のみを呈するSJSは稀だが,眼所見より診断される例があり,眼科医の役割は重要である.文献1)RoujeauJ,KellyJ,NaldiL:MedicationuseandtheriskofStevens-Johnsonsyndromeortoxicepidermalnecrolysis.NEnglJMed333:1600-1607,19952)LatschK,GirschickH,Abele-HornM:Stevens-Johnsonsyndromewithoutskinlesions.JMedMicrobiol56:16961699,20073)高峰文江,立元千帆,渡辺雅子:マイコプラズマ感染により発症し,粘膜症状のみを呈した非典型的なStevens-Johnson症候群の1例.小児科診療76:1157-1161,20134)牧田英士,黒田早恵,羽鳥誉之:重篤な眼病変を認めた皮疹のないStevens-Johnson症候群の1例.小児科臨床67:1511-1515,20145)UetaM,KaniwaN,SotozonoC:IndependentstrongassociationofHLA-A*02:06andHLA-B*44:03withcoldmedicine-relatedStevens-Johnsonsyndromewithseveremucosalinvolvement.SciRep4:4862,20146)ArakiY,SotozonoC,InatomiT:SuccessfultreatmentofStevens-Johnsonsyndromewithsteroidpulsetherapyatdiseaseonset.AmJOphthalmol147:1004-1011,20097)末木博彦:Stevens-JohnsonSyndrome/ToxicEpidermalNecrolysis─What’sNew?JEnvironDermatolCutanAllergol7:6-13,2013***454あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(124)

ドライアイに対するレバミピド懸濁点眼液(ムコスタ®点眼液UD2%) の有効性と安全性─製造販売後調査結果─

2016年3月31日 木曜日

《原著》あたらしい眼科33(3):443.449,2016cドライアイに対するレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の有効性と安全性─製造販売後調査結果─増成彰*1安田守良*1曽我綾華*1板東孝介*1福田泰彦*1木下茂*2*1大塚製薬株式会社ファーマコヴィジランス部*2京都府立医科大学感覚器未来医療学EffectivenessandSafetyofRebamipideOphthalmicSuspension(MucostaROphthalmicSuspensionUD2%)inPatientswithDryEyeSyndrome─ResultsofPost-MarketingSurveillance─AkiraMasunari1),MoriyoshiYasuda1),AyakaSoga1),KosukeBando1),YasuhikoFukuda1)andShigeruKinoshita2)1)PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,2)DepartmentofFrontierMedicalScienceandTechnologyforOphthalmology,KyotoPrefecturalUniversityofMedicineドライアイ治療薬「ムコスタR点眼液UD2%」の使用実態下における観察期間1年の特定使用成績調査を実施し,916例の有効性と安全性の結果をまとめた.その結果,生体染色スコアは投与開始時3.1±2.3点から4週目に1.8±1.8点への改善が認められた(p<0.001).涙液層破壊時間(tearfilmbreak-uptime:BUT)では開始時3.0±1.6秒から4週目に4.0±2.1秒への改善が認められた(p<0.001).自覚症状(異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視)のいずれのスコアについても,開始時に比べて有意な改善が認められた(p<0.001).安全性の指標とした副作用の発現率は14.6%であり,おもな副作用は本剤の物性に起因すると思われる味覚異常をはじめ,霧視,アレルギー性結膜炎,結膜炎,眼瞼炎,眼痛などであった.最終観察時点の評価判定は有効85.7%,無効4.9%であった.以上よりレバミピド懸濁点眼液の実臨床下における有効性と安全性が確認された.Weconductedaone-yearpost-marketingsurveillancestudytoinvestigatetheeffectivenessandsafetyofMucostaROphthalmicSuspensionUD2%forpatientswithdryeyesyndrome.Wereportthefinalresultfrom916patients.Asaneffectivenessmeasurement,fluoresceincornealstainingscorewasimprovedfrom3.1±2.3atbaselineto1.8±1.8atweek-4.Andtearfilmbreak-uptimewasimprovedfrom3.0±1.6secondsatbaselineto4.0±2.1secondsatweek-4.Dryeye-relatedocularsymptoms,suchasforeignbodysensation,dryness,photophobia,eyepain,andvisionblurred,werealsoimproved.Aprevalenceofadversedrugreactionwas14.6%.Frequentlyreportedeventsweredysgeusiaduetocharacteristicsofrebamipide,visionblurred,conjunctivitisallergic,conjunctivitis,blepharitis,eyepain.Intheoverallimprovementrating,85.7%waseffectiveand4.9%wasineffective.Theresultsindicatetheeffectivenessandsafetyofrebamipideophthalmicsuspensionwereconfirmedintherealworldsettings.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):443.449,2016〕Keywords:レバミピド,ドライアイ,製造販売後調査,有効性,安全性.rebamipide,dryeye,post-marketingsurveillance,effectiveness,safety.はじめにレバミピドは胃粘膜の保護・修復作用を有し,1990年に胃潰瘍の治療薬として発売された薬剤である.その後,レバミピドが眼表面においても粘膜機能を改善すること1),ドライアイに対し臨床的に有効であることが確認され2,3),2012年1月にレバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%,以下,本剤)はドライアイ治療薬として発売された.筆者らは全国の眼科専門医の協力により,本剤の長期使用時の使用実態下における有効性および安全性を検討する目的で特定使用成績調査(調査期間:2012年8月.2015年1月)を実施〔別刷請求先〕増成彰:〒540-0021大阪府大阪市中央区大手通3-2-27大塚製薬株式会社医薬品事業部ファーマコヴィジランス部Reprintrequests:AkiraMasunari,PharmacovigilanceDepartment,OtsukaPharmaceuticalCo.,Ltd.,3-2-27,Otedori,Chuo-ku,Osaka-shi,Osaka540-0021,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(113)443 した.本稿では,本特定使用成績調査の解析結果から有効性と安全性について報告する.I対象および方法1.調査方法本調査は治療内容に介入しないプロスペクティブな観察研究であり,日本全国の眼科を標榜する医療機関と事前に契約を交わして実施した.対象患者はドライアイと診断された患者とし,過去に本剤の使用経験がある患者は除外した.目標症例を1,000例とした.症例登録は中央登録方式とした.観察期間は1年間とし,観察期間中の情報を調査担当医師が調査票に記入した.なお,観察中に投与中止した場合はその時点で観察終了とし,調査票を記入することとした.本調査にあたっては,「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令:平成16年12月20日厚生労働省令第171号(GPSP省令)」を遵守した.なお,本調査は観察的研究であることから患者への説明と同意,医療機関における倫理委員会による審査は必須とはしなかった.2.調査項目調査項目として以下の情報を収集した.患者背景:性別,年齢,コンタクトレンズの使用状況,対象眼の重症度,罹病期間,ドライアイの原因,合併症など.投与状況:投与期間,中止理由,1日点眼回数など.有効性評価のための調査項目:以下の情報を収集した.投与開始時および観察期間中に実施された生体染色スコア(フルオレセイン,リサミングリーン,ローズベンガル),涙液層破壊時間(tearfilmbreak-uptime:BUT),Schirmerテストの結果,自覚症状5項目スコア.生体染色スコアは耳側球結膜,角膜,鼻側球結膜における染色の程度をそれぞれ3点,合算9点満点で判定した.また,自覚症状5項目(異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視)について(0:症状なし,1:弱い症状あり,2:中くらいの症状あり,3:強い症状あり,4:非常に強い症状あり)の5段階のスコアで患者からの聞き取りにより評価した.以上の結果を総合的に判断し,有効,無効,判定不能の3分類で担当医師が効果判定を行った.安全性評価のための調査項目:本剤投与開始後の有害事象(臨床検査値の異常変動を含む)を収集した.3.解析方法有効性評価として,生体染色スコア,BUT,自覚症状5項目スコアについて,投与開始時および投与後の数値の推移を検討した.また,投与開始時重症度別の評価として,開始時の生体染色スコアによって「0.3点:軽症」「4.6点:中等症」「7.9点:重症」の3群に分け,「開始時染色スコア別」にて各評価項目の数値の推移を検討した.なお,Schirmer444あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016テストについては,本剤投与後に実施された症例数が少なかったため十分な評価ができなかった.安全性評価として,本剤投与後に発現した副作用(本剤との因果関係が否定できないと判断された有害事象)について集計し,発現率を算出した.有効性の解析は平均値と標準偏差を算出し,対応のあるt-検定を実施して投与開始時との比較を行った.自覚症状の解析では,投与開始時に症状がある患者のみを解析対象とした.すべての解析で欠測値の補完はしなかった.副作用の集計には「ICH国際医薬用語集日本語版」(MedDRA/J:MedicalDictionaryforRegulatoryActivities/J,version17.1)の基本語を使用した.統計解析はシミックPMS株式会社,エイツーヘルスケア株式会社でSASを用いて実施した.II結果1.解析対象患者全国の159施設より1,073人が登録され,158施設より1,068例の調査票を回収した.そのうち一度も診察がなかった151例と本剤が投与されなかった1例を除外した916例を安全性・有効性解析対象とした.2.患者背景表1に患者背景を示す.年齢の平均値は63±16歳であった.医師判定に基づく投与開始時のドライアイ重症度は軽症41.4%,中等症50.9%と,軽症から中等症が大半を占めた.投与開始時の生体染色スコアは9点満点中3点以下(0点を含む)の低スコアが59.1%であった.一方,投与開始時BUTが5秒以下の異常値を示す患者は,不明を除く744例中708例(95.2%)と大半であった.投与開始時Schirmerテストでは5mm超と5mm以下の割合はほぼ同じであった.ドライアイの原因別では乾燥などの環境因子が44.5%ともっとも多かった.3.投与状況表2に投与状況を示す.添付文書通りの1日4回投与が93.2%であった.12カ月(360日)を超えて投与された症例は337例(36.8%)であった.観察期間の中央値は294日,平均値は243±155日であった.本剤投与中に一度でも併用された薬剤を集計したところ,ヒアルロン酸点眼がもっとも多く約半数の患者(51.2%)で併用されていた.また,中止理由を複数選択可で調査した結果,「来院せず」がもっとも多く240例,「患者または家族の希望」が95例,「有害事象発現」が77例の順であった.4.有効性a.生体染色スコア図1に生体染色スコアの推移を示す.投与開始時に3.1±2.3点であったスコアは4週目に1.8±1.8点と有意に改善し(p<0.001),そのスコアは52週目には1.3±1.4点(p<(114) 表1患者背景(n=916)表2投与状況(n=916)項目分類n(%)性別男性148(16.2%)女性768(83.8%)<209(1.0%)年齢(歳)Mean63±1620.2931(3.4%)30.3952(5.7%)Min3Median66Max9740.4987(9.5%)50.59135(14.7%)60.69223(24.3%)≧70379(41.4%)ドライアイ重症度(医師判定)軽症379(41.4%)中等症466(50.9%)重症71(7.8%)生体染色スコア0120(13.1%)(フルオレセイン882例,ローズベンガル1例,リサミングリーン2例,フルオレセイン+1.3421(46.0%)4.6279(30.5%)7.966(7.2%)リサミングリーン1例)不明30(3.3%)>536(3.9%)BUT(秒)>1,≦5592(64.6%)≦1116(12.7%)不明172(18.8%)>5146(15.9%)Schirmerテスト>2,≦589(9.7%)(mm)≦253(5.8%)不明628(68.6%)1年未満85(9.3%)2年未満43(4.7%)罹病期間(年)3年未満31(3.4%)3年以上135(14.7%)不明622(67.9%)環境因子408(44.5%)合併症112(12.2%)ドライアイの原因眼手術84(9.2%)コンタクトレンズ51(5.6%)薬剤30(3.3%)その他336(36.7%)白内障159(17.4%)緑内障110(12.0%)合併症アレルギー性結膜炎106(11.6%)結膜炎53(5.8%)Sjogren症候群51(5.8%)Stevens-Johnson症候群0(0.0%)コンタクトレンズなし843(92.0%)あり63(6.9%)コンタクトレンズのタイプソフト44*(4.8%)ハード19*(2.1%)ソフト・ハード不明1(0.1%)前治療薬(本剤投与前のドライアイ治療薬)ヒアルロン酸点眼114(12.4%)ジクアホソルナトリウム点眼121(13.2%)ステロイド点眼43(4.7%)人工涙液12(1.3%)*ソフト+ハード1例を含む.項目分類n(%)4回未満58(6.3%)1日投与回数4回854(93.2%)4回超3(0.3%)不明1(0.1%)≦30100(10.9%)観察期間(日)Mean243±155Min2Median294Max61231.6089(9.7%)61.120119(13.0%)121.240111(12.1%)241.360159(17.4%)≧361337(36.8%)不明1(0.1%)ヒアルロン酸点眼469(51.2%)併用薬ステロイド点眼163(17.8%)ジクアホソルナトリウム点眼101(11.0%)人工涙液75(8.2%)来院せず240患者または家族の希望95中止理由(複数選択可)有害事象発現77効果不十分17転院7病態悪化3その他250.001)と効果が継続していた.「開始時染色スコア別」の推移を検討した結果,投与開始時のスコアにかかわらず有意に生体染色スコアの改善が認められた(図2).b.BUT図3にBUTの推移を示す.投与開始時3.0±1.6秒,4週目には4.0±2.1秒と有意に延長し(p<0.001),その後も52週目に4.5±2.2秒と有意な延長は継続していた(p<0.001).図4に「開始時染色スコア別」のBUTの推移を示す.投与開始時の生体染色スコアにかかわらずBUTは有意に延長した.c.自覚症状スコア(5項目)図5に自覚症状5項目のスコアの推移を示す.異物感,乾燥感,羞明,眼痛,霧視それぞれのスコアは,投与開始時2.0±1.0,2.1±1.0,1.8±0.9,1.9±0.9,1.7±0.9と比べて,4週目には1.0±0.9,1.2±0.9,0.9±0.8,0.8±0.9,0.9±0.9とすべての項目で統計学的に有意な自覚症状スコアの改善が認められ,52週目には0.4±0.7,0.6±0.8,0.4±0.6,0.3±0.6,0.5±0.9と改善は継続していた(いずれもp<0.001).図6に「開始時染色スコア別」の自覚症状スコア5項目の合(115)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016445 生体染色スコア生体染色スコア生体染色スコア6543210開始時481216202428323640444852観察時期(week)平均値+SD*p<0.001*************n=88650838939998765432104812317259257262221図1生体染色スコアの推移1620242832観察時期(week)219187182179203*3640444852開始時染色スコア:7~9開始時染色スコア:4~6開始時染色スコア:0~3開始時平均値+SD*p<0.001**************************************開始時4週目8週目12週目16週目20週目24週目28週目32週目36週目40週目44週目48週目52週目開始時染色スコア:7.96635264325193926212521142031開始時染色スコア:4.6279155139131108888783747864626068開始時染色スコア:0.354131822422518415213115312611610210699104図2開始時染色スコア別生体染色スコアの推移(n=886)計点の推移を示す.投与開始時の生体染色スコアにかかわら(85.7%),無効45例(4.9%),判定不能86例(9.4%)であず自覚症状スコアの合計点は有意に低下した.った.d.効果判定5.安全性最終観察時点の担当医師による効果判定は,有効785例安全性解析対象症例916例のうち副作用は14.6%(134例)446あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(116) BUT(秒)BUT(秒)BUT(秒)876543210開始時481216202428323640444852平均値+SD*p<0.001*************観察時期(week)n=744334237256205142142169134137114108106114図3BUTの推移109876543210481216202428323640444852観察時期(week)**開始時染色スコア:7~9開始時染色スコア:4~6開始時染色スコア:0~3開始時平均値+SD*p<0.001***********開始時4週目8週目12週目16週目20週目24週目28週目32週目36週目40週目44週目48週目52週目開始時染色スコア:7.95621131915914161112981212開始時染色スコア:4.6235106818377474855505341433839開始時染色スコア:0.3447206141151112857695716862565460図4開始時染色スコア別BUTの推移(n=738)で認められた.表3に2例以上に発現した副作用の一覧を示例中9.2%(84例)であった.おもなものの発現頻度は味覚す.多く認められた副作用は味覚異常9.3%(85例),霧視異常4.6%(42例),霧視1.2%(11例),眼痛0.6%(5例),3.2%(29例),アレルギー性結膜炎0.7%(6例),結膜炎,眼そう痒症0.4%(4例),眼瞼炎0.3%(3例)の順であった.眼瞼炎,眼痛がそれぞれ0.6%(各5例)などであった.重篤な副作用の報告はなかった.III考察本剤の投与中止に至った副作用は安全性解析対象症例916本剤のドライアイに対する有効性は,製造販売前の治験時(117)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016447 異物感乾燥感羞明眼痛霧視平均値+SD*p<0.001自覚症状スコア48121620242832364044開始時4852*************異物感乾燥感羞明眼痛霧視平均値+SD*p<0.001自覚症状スコア48121620242832364044開始時4852*************3210観察時期(week)開始時4週目8週目12週目16週目20週目24週目28週目32週目36週目40週目44週目48週目52週目異物感724413338343272221237228176194165158154176乾燥感717409321333268220227228167187161151152175羞明371214180179149119134123859580797897眼痛4802732282151891401591541061111019799106霧視367208177177143109129118909484828893図5自覚症状スコア(5項目)の推移(異物感:n=724,乾燥感:n=717,羞明:n=371,眼痛:n=480,霧視:n=367)14開始時染色スコア:7~9開始時染色スコア:4~6開始時染色スコア:0~3481216202428323640開始時平均値+SD*p<0.001***************************************自覚症状スコア合計点121086420444852観察時期(week)開始時4週目8週目12週目16週目20週目24週目28週目32週目36週目40週目44週目48週目52週目開始時染色スコア:7.96132254123183825182320141727開始時染色スコア:4.6259143126125101838178697163615967開始時染色スコア:0.346527720219416713512714210310792989398図6開始時染色スコア別自覚症状スコア合計点の推移(n=785)448あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(118) に複数の二重盲検比較試験により検証されている2,3).しかし,治験ではいくつかの患者登録基準を設定していたこと,併用薬が制限されていたことから,必ずしも臨床現場の実態を反映しているとはかぎらない.実際に,第3相試験では対象患者をフルオレセイン染色スコア4点以上(15点満点)としたことから軽症患者が除外されていたと考えられる.本調査では染色スコア3点以下(9点満点)が59.1%と軽症患者が過半数であり,治験時の患者よりも角膜上皮障害としては軽症の患者に使用されていたと考えられる.一方,投与前のBUTを測定された744人中708人(95.2%)がBUT5秒以下の患者であった.このような患者を対象とした本調査において,生体染色スコア,BUTともに4週目には統計学的に有意に改善し,4週目以降も継続していたことから,本剤は長期に継続することでより大きな効果を得られる可能性があると考えられた.また,調査した自覚症状スコアは5項目すべてについて,投与開始時に比べて投与52週目では統計学的に有意な改善が認められた.以上のことから,治験で確認された本剤の有効性が実際の臨床現場においても確認することができたと考えられる.安全性については,もっとも多く報告された副作用は味覚異常であり,発現率は9.3%であった.これらはいずれも「苦味」の事象名にて報告されており,本剤の有効成分の苦味に由来するものと考えられた.また,次に多かった霧視の発現率は3.2%であり,本剤が懸濁製剤であることに由来すると考えられた.承認前の国内52週間長期投与試験で報告された味覚異常および霧視の副作用発現率は13.6%および3.6%であり4),実臨床においてもほぼ同様の発現状況であった.本剤発売後,本剤の投与により涙道閉塞,涙.炎が発現する可能性が指摘されているが,本調査では涙道閉塞の副作用は報告されず,涙.炎の副作用は1例報告された.涙道閉塞,涙.炎の副作用の発現メカニズムはいまだ明確ではない5).発現率は低いものの,本剤を用いる際にはこれらの副作用に注意して使用する必要があるものと考えられる.本剤の製造販売後調査結果より,さまざまな制限のある治験と同様に,実臨床においても,本剤がドライアイ患者の治療に有効な薬剤であることを確認することができた.なお,本研究では併用薬としてジクアホソルナトリウムが11.0%の患者で併用されていた.ジクアホソルナトリウムは本剤と類似する薬効をもつものの,その薬理作用は異なって表3副作用一覧表(2例以上に発現した副作用)副作用名発現率味覚異常9.3%(85/916)霧視3.2%(29/916)アレルギー性結膜炎0.7%(6/916)結膜炎,眼瞼炎,眼痛0.6%(5/916)眼そう痒症0.4%(4/916)悪心0.3%(3/916)結膜出血,眼脂,眼瞼痛0.2%(2/916)MedDRA/Jver17.1のPTで集計おり,両剤の特徴を考慮した使い分け,あるいは併用が有用であるかどうかは今後の研究課題と考えられる.謝辞:本報告にあたり,調査にご協力いただいた先生方に厚くお礼申し上げます.利益相反:本稿は,大塚製薬株式会社により実施された調査結果に基づいて報告された.本報告に関連し,開示すべきCOIは木下茂(委託研究費,技術指導料,講師謝礼)である.文献1)中嶋英雄,浦島博樹,竹治康広ほか:ウサギ眼表面ムチン被覆障害モデルにおける角結膜障害に対するレバミピド点眼液の効果.あたらしい眼科29:1147-1151,20122)KinoshitaS,AwamuraS,OshidenKetal:Rebamipide(OPC-12759)inthetreatmentofdryeye:Arandomized,double-masked,multicenter,placebo-controlledphaseIIstudy.Ophthalmology119:2471-2478,20123)KinoshitaS,OshidenK,AwamuraSetal:Arandomized,multicenterphase3studycomparing2%rebamipide(OPC-12759)with0.1%sodiumhyaluronateinthetreatmentofdryeye.Ophthalmology120:1158-1165,20134)KinoshitaS,AwamuraS,NakamichiNetal:Amulticenter,open-label,52-weekstudyof2%rebamipide(OPC-12759)ophthalmicsuspensioninpatientswithdryeye.AmJOphthalmol157:576-583,20145)杉本夕奈,福田泰彦,坪田一男ほか:レバミピド懸濁点眼液(ムコスタR点眼液UD2%)の投与にかかわる涙道閉塞,涙.炎および眼表面・涙道などにおける異物症例のレトロスペクティブ検討.あたらしい眼科32:1741-1747,2015***(119)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016449

電撃傷により白内障とぶどう膜炎,中心窩裂隙が生じた1例

2016年3月31日 木曜日

《第49回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科33(3):439.442,2016c電撃傷により白内障とぶどう膜炎,中心窩裂隙が生じた1例高砂縁*1村田晶子*1,2曽我部由香*2辻川明孝*1*1香川大学医学部眼科学講座*2三豊総合病院ACaseofElectricalInjurywithCataract,UveitisandRetinalBreakofMaculaYukariTakasago1),AkikoMurata1,2),YukaSogabe2)andAkitakaTsujikawa1)1)DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MitoyoGeneralHospital電撃傷受傷から約2カ月経って,白内障とぶどう膜炎,中心窩裂隙が生じた1例を経験したので報告する.症例は19歳,男性であった.2014年7月,仕事中に6,600Vの電圧機器に触れ,意識消失したため救急搬送された.受傷後約2カ月経って,左眼の充血,疼痛が出現したため眼科受診となった.矯正視力は右眼(0.7),左眼(0.1)に低下し,両眼白内障,左眼結膜充血と毛様充血および前房内フィブリン析出を認めた.光干渉断層計では両眼に中心窩裂隙を認め,電撃傷に伴う左眼虹彩炎と診断し,ステロイド点眼治療を開始した.点眼治療により,受傷3カ月後には炎症所見は消失した.また,中心窩裂隙は自然閉鎖し,受傷6カ月後には矯正視力は右眼(1.2),左眼(1.0)に改善した.Wereportacasethatdevelopedcataract,uveitis,andfovealbreaks2monthsafterelectricalinjury.A19-year-oldmalevisitedaclinicwithhyperemiaandeyepaininhislefteye2monthsafteranelectricalinjury.Best-correctedvisualacuitybyLandoltchartwas0.7righteyeand0.1lefteye.Therewerecataractsinbotheyesandciliaryinjectionandfibrinformationintheanteriorchamberofthelefteye.Fluoresceinangiographydemonstratedhyperfluorescenceinperipheralretinalvesselsinbotheyes.Opticalcoherencetomographyshowedsmallfull-thicknessfovealbreaksinbotheyes.Hewastreatedwithtopicalsteroid.Inflammationfindingshaddisappearedby3monthsafterinjury.Withoutanysurgicaltreatment,thefovealbreakshadcompletelyclosedby6monthsafterinjury.Visualacuityimprovedto1.2righteyeand1.0lefteye.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):439.442,2016〕Keywords:電撃傷,白内障,ぶどう膜炎,中心窩裂隙,黄斑円孔.electricalinjury,cataract,uveitis,retinalbreakofmacula,macularhole.はじめに電撃傷とは,感電,落雷,電気スパーク,孤光(アーク)などによる電気的損傷であり,6.6kV以上の高電圧で起こり,通電により局所に熱作用が発生し臓器損傷が起こるものである1).症状には,皮膚の熱傷,内臓および筋組織の傷害,不整脈,意識障害など多数あり,頭部に通電した場合は眼球に損傷が起こるとされる.眼障害のなかでは電撃白内障がもっとも多く,その他に結膜炎,ぶどう膜炎,黄斑浮腫,黄斑円孔,視神経障害などが報告されている2.4).電撃傷により白内障が生じた報告は多数あるが,ぶどう膜炎や中心窩裂隙が生じた報告は少ない.今回,受傷の約2カ月後に,白内障とぶどう膜炎,中心窩裂隙を認めた症例を経験したので報告する.I症例患者:19歳,男性.主訴:左眼の充血,疼痛.既往歴:特記事項なし.家族歴:特記事項なし.現病歴:2014年7月,仕事中に6,600Vの電圧機器に触れ,意識消失し前医へ救急搬送された.ICUに入院となったが,徐々に全身状態は回復し,後遺症もなく退院した.その間,眼症状の訴えはなく,眼科受診はしなかった.受傷2カ月後の9月になって左眼の充血,疼痛が出現し,前医眼科〔別刷請求先〕高砂縁:〒761-0793香川県木田郡三木町池戸1750-1香川大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YukariTakasago,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KagawaUniversityFacultyofMedicine,1750-1Ikenobe,Miki-cho,Kita-gun,Kagawa761-0793,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(109)439 図1初診時の眼底写真とOCT像図2フルオレセイン蛍光眼底造影写真を受診した.右眼視力=0.4(0.7×.0.75D(cyl.0.25DAx120°),左眼視力=0.1(n.c.),両眼白内障,左眼結膜充血と毛様充血および前房内フィブリン析出を認めた.また,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)にて両眼に中心窩裂隙を認めた.電撃傷に伴う左眼虹彩炎と診断され,0.1%ベタメタゾン点眼治療が開始された.その後炎症は改善していき,前医初診の1週間後に自宅から近い三豊総合病院へ紹介となった.初診時所見:右眼視力=0.4(0.8×.0.5D),左眼視力=0.4(0.5p×+0.5D(cyl.1.0DAx180°),両眼後.下白内障,左眼の軽度毛様充血と前房内炎症細胞を認めたがフィブリンは消失していた.OCTでは両眼の中心窩裂隙を呈し,フルオレセイン蛍光眼底造影検査(fluoresceinangiography:FA)では造影初期に左眼中心窩にわずかに過蛍光を認めた.また,両眼とも周辺血管から蛍光漏出を認めた(図1,2).経過:0.1%ベタメタゾン点眼治療を継続し,炎症は徐々に軽減したため,受傷約3カ月後に右眼,約4カ月後に左眼の点眼を0.1%フルオロメトロンに変更した.その後消炎し,受傷約5カ月後に点眼を中止したが,炎症の再燃はみられなかった.中心窩裂隙は自然に閉鎖していき,受傷6カ月後には完全に閉鎖した(図3).視力は右眼=(1.2),左眼=(1.0)まで改善し,後.下白内障はあるものの本人の視力低下の訴えもなく,終診となった.II考按電撃傷による損傷には,電流そのものによる損傷だけでなく,生体内でのジュール熱発生による損傷,また直接接触しなくても接近することでフラッシュオーバー現象により起こるアーク放電による損傷があるとされる.落雷による眼障害の機序として,電流による直接の組織損傷,電流が抵抗により変換された熱による組織損傷,衝撃波による組織構造の変化,局所の炎症による組織の機能不全の4つが考えられている5).なかでも虹彩や水晶体.,中心窩付近の網膜色素上皮は眼内組織のなかで電気抵抗が大きく熱障害を受けやすいとされており,虹彩炎や白内障,黄斑円孔や黄斑浮腫が生じや440あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(110) 右目左眼2014/10/17VD=(0.7),VS=(0.5)2014/10/31VD=(1.0),VS=(0.6)2014/11/21VD=(1.2),VS=(0.8)2015/1/30VD=(1.2),VS=(1.0)図3OCT像と視力の経過すいと考えられている5).本症例でも,電気抵抗の高い虹彩,水晶体.が障害され,ぶどう膜炎や白内障が生じたと考えられた.中心窩裂隙の発生については中心窩付近の網膜色素上皮の熱障害だけでは説明しにくい.OCT上中心窩付近のellipsoidzoneやinterdigitationzoneなどの網膜外層が障害されていたものの,色素上皮は形態的には異常を示していなかったからである.初診時,FAの造影初期で左眼中心窩にわずかに過蛍光を認め,右眼には認めなかったが,これは右眼の中心窩裂隙があまりにも小さかったためで,欠損の大きかった左眼の中心窩裂隙にのみ背景蛍光のブロックによる過蛍光が認められたと考えられた.すなわち両眼とも中心窩近辺の網膜色素上皮細胞はFA,OCT所見上あまり障害を受けていなかったと推測される.したがって,中心窩裂隙の閉鎖はOCTでのみ確認しFAでは確認していないとはいえ,裂隙閉鎖後にFAを施行していたとしたら,初診時にみられた左眼の過蛍光は消失していたと考えられた.電撃傷による黄斑円孔に関しては,黄斑円孔発症約2週間後に硝子体手術を施行し,黄斑円孔の閉鎖を確認したという報告5)がある.しかし,本症例では外境界膜が連続し,わずかな中心窩裂隙のみであったため,自然閉鎖を期待して経過観察としたところ,徐々に裂隙は閉鎖していき,受傷6カ月後には完全閉鎖し視力の回復もみられた.外傷性黄斑円孔は特発性黄斑円孔に比べて自然閉鎖率が高い6)ため,すぐに手術をせずに経過観察をすることが多い.外傷性黄斑円孔の発生機序はいまだ解明されていないが,打撃による眼球の変形や網脈絡膜に波及した強い衝撃により黄斑部網膜に断裂を生じるという説,急激な後部硝子体.離によるという説などがある7).今回の症例の中心窩裂隙の発症機序については,電撃という強い衝撃が中心窩の網膜にも波及し裂隙が生じた可能性と,明らかな後部硝子体.離の所見は認めなかったが,ぶどう膜炎が前眼部と周辺後眼部にみられたことから,電撃の衝撃や熱損傷が眼球赤道部より前に強く加わったと推測され,周辺部硝子体の収縮が中心窩に対して接線方向に牽引する力となった,という2つの力学的な機序の可能性が考えられた.電撃傷による黄斑円孔の場合も,外傷性黄斑円孔と同様に自然閉鎖率が高い可能性があり,しばらく経過観察してもよいのではないかと考えた.本症例では,受傷直後には眼症状はみられなかったが,ぶどう膜炎は受傷後約2カ月経ってから出現し,白内障は経過観察中に後.下混濁の拡大や前.下混濁もみられるようになり,徐々に進行した.また,初診時には,ぶどう膜炎所見が軽度であった右眼の視力も0.8に低下していたが,視力の回復の経過から,その原因は白内障ではなく中心窩裂隙であったと考えられた.同様に左眼の発症時の視力低下の原因は虹彩炎と中心窩裂隙の両方であったと考えられ,両眼の各経過から,中心窩裂隙の発症も,受傷直後よりはぶどう膜炎が出現した受傷後2カ月に近い時期ではないかと推測された.これまでの電撃傷や雷撃傷の報告には,受傷直後から虹彩毛様体炎,視神経炎がみられ,受傷1カ月後に黄斑円孔がみられたという報告5)や,受傷約3週間後に著明なぶどう膜炎がみられたという報告8)があり,電撃傷や雷撃傷による症状やその出現時期はさまざまである9,10).電撃傷は,通電により生体自身から発生したジュール熱による臓器の損傷であるといえ,時間が経過すると,局所深部の損傷が拡大していくこと(111)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016441 もしばしばあるとされる1).そのため,受傷直後にはみられなかった所見が,時間が経過するとともに出現したり進行したりすることがあると考えられた.また,遅発性のぶどう膜炎の発症に関しては,電撃傷受傷時に直接損傷された虹彩や網膜色素上皮に対して,遅発性の免疫反応が起こり炎症が生じた可能性も考えられた.電撃傷により電撃白内障が生じた報告はわが国でもよくみられるが,白内障以外のぶどう膜炎や中心窩裂隙,黄斑円孔などが生じたという報告は少ない.今回,電撃傷受傷の約2カ月後に,白内障とぶどう膜炎,中心窩裂隙を認めた非常にまれな症例を経験した.電撃傷による眼症状は,受傷直後だけでなく遅発性に起こってくることもあるため,長期の経過観察が必要となる.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)木所昭夫:電撃傷・雷撃傷.救急・集中治療19:11131117,20072)SonyP,VenkateshP,TewariHKetal:Bilateralmacularcystsfollowingelectricburn.ClinExpOphthalmol33:78-80,20053)KrasnyJ,BrozL,KripnerJ:Anterioruveitiscausedbyelectricaldischargeinwholebodyinjuries.CeskSlovOftalmol69:158-163,20134)KornBS,KikkawaDO:Ocularmanifestationofelectricalburn.NEnglJMed370:e6,20145)白井威人,福地祐子,中田亙ほか:落雷により黄斑円孔,視神経症,虹彩毛様体炎を生じた一症例.眼臨紀2:11801183,20096)YamadaH,SasakiA,YamadaEetal:Spontaneousclosureoftraumaticmacularhole.AmJOphthalmol134:340-347,20027)長嶺紀良,友寄絵厘子,目取真興道ほか:外傷性黄斑円孔に対する硝子体手術成績.あたらしい眼科24:1121-1124,20078)福田由美,杉谷倫子,玉田裕治ほか:電撃傷により著明なぶどう膜炎および白内障を発症した1例.臨眼57:881884,20039)佐久間健彦,神尾一憲,玉井信:落雷による過剰電流の眼内組織に及ぼす影響.臨眼45:601-603,199110)DattaH,SarkarK,ChatterjeePRetal:Anunusualcaseoflateocularchangesafterlightninginjury.IndianJOphthalmol50:224-225,2002***442あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(112)

長期にわたり視機能が安定した精巣腫瘍関連網膜症の1例

2016年3月31日 木曜日

《第49回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科33(3):435.438,2016c長期にわたり視機能が安定した精巣腫瘍関連網膜症の1例今井弘毅*1太田浩一*2菊池孝信*3*1信州大学医学部眼科学教室*2松本歯科大学病院眼科*3信州大学ヒト環境科学研究支援センターLong-termFollow-upforaCaseofSeminoma-associatedRetinopathyHirokiImai1),KouichiOhta2)andTakanobuKikuchi3)1)DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversitySchoolofMedicine,2)DepartmentofOphthalmology,MatsumotoDentalUniversity,3)DepartmentofInstrumentalAnalysisResearchCenterforHumanandEnvironmentalScience,ShinshuUniversity精巣腫瘍関連網膜症において5年余り進行が停止している症例を報告する.43歳,男性.左眼の霧視を主訴に近医でぶどう膜炎と診断,ステロイド治療を受けた.同時期に泌尿器科で精巣腫瘍を摘出された.その後,両眼の羞明,視野障害を自覚し,癌関連網膜症(cancerassociated-retinopathy:CAR)が疑われ,前医でステロイドパルス療法が施行された.しかし,ステロイドの副作用のため治療継続が困難となり,信州大学医学部附属病院眼科を受診した.矯正視力は右眼(1.2),左眼(1.5),網膜電図では30Hzフリッカーの振幅減少,視野検査で両眼の輪状暗点,ウェスタンブロットで抗網膜抗体の存在,免疫染色で視細胞層の陽性所見からCARと診断した.免疫グロブリン療法を施行し,ステロイド内服を2年で漸減,中止した.以降,視力は維持され,輪状暗点の改善も認めた.原発巣切除,ステロイド治療,免疫グロブリン療法が長期にわたり,視機能の維持に有効であったと考えられた.Wereportacaseofseminoma-associatedretinopathythathasremainedstablewithvisualfunctionsfor5years.Thepatient,a43-year-oldmalewhohadcomplainedofblurredvisioninhislefteye,hadbeendiagnosedwithuveitisandtreatedwithoralsteroid.Duringthesameperiod,hehadundergoneorchiectomyandbeendiagnosedwithseminoma.Subsequently,hecomplainedofbilateralblurredvisionandvisualfieldloss.Cancerassociated-retinopathy(CAR)wassuspectedandhereceivedsteroidpulsetherapy,followedbyoralsteroidtherapy.However,hereferredtouswithadverseeventsfromsteroid.Electroretinographyrevealedbilateraldecreaseofamplitudein30Hz-flickerflash.Humphreyperimetryshowedbilateralringscotoma.Laboratorytechniquesforhisseradisclosed41kDantiretinalautoantibodiesinthephotoreceptorlayer.Onthebasisofthesefindings,wediagnosedtheCAR.Intravenousimmunoglobulinimprovedvisualfieldloss,andvisualfunctionshavebeenretainedformorethantwoyearsbeyondterminationofsteroidtherapy.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):435.438,2016〕Keywords:癌関連網膜症,精巣腫瘍,ステロイド,免疫グロブリン療法,原発巣切除.cancerassociated-retinopathy,seminoma,steroid,intravenousimmunoglobulin,orchiectomy.はじめに癌関連網膜症(cancerassociated-retinopathy:CAR)は,上皮由来の悪性腫瘍の直接浸潤や転移ではなく,自己免疫機序により視細胞が傷害され,急速進行性に両眼の視力,視野障害をきたし,治療によっても視機能の予後が不良なケースの多い疾患である.以前,精巣腫瘍が誘因となって発症したと考えられたCARを初めて報告したが1),その長期経過について報告する.I症例患者:43歳,男性.主訴:両眼の羞明および視野障害.現病歴:2009年11月に左眼の霧視を自覚し,近医でぶどう膜炎と診断され,ステロイド治療を受けていた.同時期に泌尿器科で精巣腫瘍を指摘,摘出術が施行され,病理組織学的に精巣腫瘍(stageI)の確定診断となった.その後,両眼の羞明,視野障害が出現したためCARが疑〔別刷請求先〕今井弘毅:〒390-8621長野県松本市旭3-1-1信州大学医学部眼科学教室Reprintrequests:HirokiImai,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,ShinshuUniversity,3-1-1Asahi,Matsumoto-city,Nagano390-8621,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(105)435 平均黄斑部網膜厚MDPSL(μm)(dB)(mg)MDPSL(μm)(dB)(mg)①2009/11/25腫瘍摘出術④2010/2/8~10⑤2010/4/28~5/3④⑤①②③②2009/12/24両トリアムシノロン球後注射③2010/2/5両トリアムシノロン球後注射60ステロイドパルス療法40免疫グロブリン療法2000-10-20-30右眼左眼2602502402302009/1/12010/1/12011/1/12012/1/12013/1/12014/1/12015/1/1図1臨床経過上段:プレドニゾロン(PSL)内服量,CARに対するその他の治療,中段:Humphrey視野検査のmeandeviation(MD)値,下段:OCTの平均黄斑部網膜厚.MD値は治療により両眼とも改善し,治療後.感度低下は残るものの,維持された(初回:右眼.21.85dB,左眼.19.57dB,5年後:右眼.7.07dB,左眼.7.87dB).平均黄斑部網膜厚は両眼とも治療中,治療後も徐々に菲薄化しており,5年の経過で約10μmほど菲薄化した(初回:右眼258μm,左眼256μm,5年後:右眼247μm,左眼243μm).図2Humphrey視野検査上段:初回,下段:5年後.両眼とも輪状暗点の改善を認めた.われ,同年12月,両トリアムシノロンアセトニド球後注射,プレドニゾロン(PSL)60mg/日の内服(以降漸減)が開始された.2010年2月,前医に紹介となり,ステロイドパルス療法およびPSL60mg/日からの漸減投与が行われた.視野障害の進行は抑制できていたが,耐糖能異常,血圧上昇,右下葉肺動脈血栓塞栓症,下肢静脈血栓,帯状疱疹,眼圧上昇などのステロイドの副作用が出現し,治療継続が困難となり,同436あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016年4月,信州大学医学部附属病院眼科に紹介受診となった.初診時所見:視力は右眼0.6(1.2×sph.1.0D),左眼0.8(1.5×sph.0.75D).眼圧は右眼21mmHg,左眼24mmHgと軽度の眼圧上昇を認めた.前眼部,中間透光体に異常なく,両眼底に黄斑部周囲の脈絡膜血管の透見性増加,視神経乳頭の軽度色調不良,網膜血管の軽度狭細化を認めた.光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)では黄斑部周囲網膜の,とくに外層の菲薄化を認めた.Humphrey視野検査で両輪状暗点を認め,網膜電図(electroretinography:ERG)では30Hzフリッカーの振幅が減弱していた.患者血清を用いたマウス蛋白に対するウェスタンブロットにて41kDに網膜に特異的なバンドを認め,免疫染色では視細胞層に強い反応を認めた.経過:臨床所見,眼科検査所見,免疫生化学・組織検査より精巣腫瘍関連網膜症と診断した.治療経過とHumphrey視野検査による網膜感度および黄斑部網膜厚の推移については図1に示した.当院では脳神経内科で免疫グロブリン療法(intravenousimmunoglobulin:IVIg)を施行され,視野障害は徐々に改善した.PSL内服も徐々に減量し,2013年2月に終了としたが,現在に至るまでHumphrey視野検査で網膜感度の低下部位は認めるものの(図2),MD(meandeviation)値はほぼ維持された(図1).視力は両眼とも(1.5)と良好で,眼圧は両眼とも14mmHgと正常範囲内に保たれた.ERGは2012年4月が最終検査であったが,初回検査時(106) フラッシュERGフリッカーERG図3フラッシュERGとフリッカーERG上段:初回,下段:2年後.フラッシュERGはほぼ正常,フリッカーERGの振幅はやや減弱していたが,2年間機能は維持されていた.と比較しても悪化はなかった(図3).II考按CARは夜盲,視野狭窄,光視症といった症状で受診し,両眼性の求心性視野狭窄,輪状暗点やERGでa波,b波の著しい振幅の減弱,OCTで網膜外層の異常が認められることが多いとされている.本症例では両輪状暗点,網膜外層の異常を認めたが,視力低下はなく,ERGでも30Hzフリッカーの振幅の減弱のみと比較的視機能障害が軽微であった.また,今回41kDの抗網膜抗体が同定されたが,過去に同分子量の抗網膜抗体としてphotoreceptorcell-specificnuclearreceptorが報告されている.しかし,免疫染色で内顆粒層,外顆粒層に反応がみられており,この症例では異なる抗網膜抗体と考えられた2).今回,CARとしては比較的視機能が良好な時期に原発巣が摘出され,再発がなく,ステロイド治療を行うことで視野障害の進行は止めることができていた.しかし,視野障害の改善には乏しく,ステロイドの副作用により治療継続が困難となった.そこでIVIgを行った結果,視野障害は改善し,その後ステロイドを漸減中止したが,視機能は治療終了後2年以上維持することができた.このことから,CARによる視機能障害の改善にIVIgが有効であったと考えられた.ただし,菲薄化した網膜の形態学的な改善は得られず,両眼の輪状暗点の改善には限界があった(図1).精巣と同様に免疫特権部位である卵巣や脳の腫瘍に伴うCARは過去に報告例があり3.7),治療により視機能が改善した症例もあった.しかし,治療に抵抗し,悪化した症例が多い3.6).視機能が改善した症例は14歳と若年であり,原発巣治療後に再発がなく,CARに対してステロイド投与,IVIg,リツキシマブ投与といった強力な治療が行われていたことが要因と考えられた7).そのため腫瘍の発症部位による視力予後の相違はないと考えられる.今回の症例で5年間の長期にわたり良好な視機能を維持できたのは,治療開始時の視力が良好で,ERGの異常が比較的軽微な段階にあり,その時期に原発巣切除,ステロイド治療,IVIgを行い,腫瘍の再発もなく経過していることが要因ではないかと考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)ImaiH,OhtaK,KikuchiTetal:Cancer-associatedretinopathyinapatientwithseminoma.RetinCasesBriefRep6:159-162,20122)EichenJG,DalmauJ,DemopoulosAetal:Thephotoreceptorcell-specificnuclearreceptorisanautoantigenofparaneoplasticretinopathy.JNeuroophthalmol21:168172,20013)YoonYH,ChoEH,SohnJetal:Anunusualtypeofcancer-associatedretinopathyinapatientwithovariancancer.KoreanJOphthalmol13:43-48,19994)HarmonJP,PurvinVA,GuyJetal:Cancer-associated(107)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016437 retinopathyinapatientwithadvancedepithelialovarianovariancancer.OculImmunolInflamm18:107-109,carcinoma.GynecolOncol73:430-432,199920105)山添健二,福島敦樹,上野脩幸:頭蓋内悪性リンパ腫に伴7)TurakaK,KietzD,KrishnamurtiLetal:CarcinomaったCARの1例.眼臨紀1:565-568,2008associatedretinopathyinayoungteenagerwithimma6)KimSJ,TomaHS,ThirkillCEetal:Cancer-associatedtureteratomaoftheovary.JAAPOS18:396-398,2014retinopathywithretinalperiphlebitisinapatientwith***438あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(108)

前房水細胞診で肺癌と同型細胞(classV)が検出された難治性ぶどう膜炎の1例

2016年3月31日 木曜日

432あたらしい眼科Vol.6103,23,No.3(102)4320910-1810/16/\100/頁/JCOPY《第49回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科33(3):432.434,2016cはじめに仮面症候群をきたす疾患として,成人では悪性リンパ腫と転移性腫瘍が多く,小児では網膜芽細胞腫と白血病が多い1).転移性腫瘍のほとんどは脈絡膜転移で,腫瘤を形成することが多い.一方,虹彩毛様体に転移している場合は前部ぶどう膜炎症状を呈することがある.今回,急激な眼圧上昇を伴うぶどう膜炎と診断した症例が,腫瘤病変をきたさない肺癌転移による仮面症候群であっ〔別刷請求先〕岡部智子:〒143-8541東京都大田区大森西7-5-23東邦大学医療センター大森病院眼科Reprintrequests:TomokoOkabe,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter,7-5-23Omorinishi,Ota-ku,Tokyo143-8541,JAPAN前房水細胞診で肺癌と同型細胞(classV)が検出された難治性ぶどう膜炎の1例岡部智子*1丸山貴大*2岡島行伸*1山口由佳*1鈴木佑佳*1若山恵*3堀裕一*1*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2済生会横浜市東部病院*3東邦大学医療センター大森病院病理学講座ACaseofIntractableUveitisinWhichaCellTypeSimilartoLungCancerWasDetectedbyCytodiagnosisoftheAnteriorAqueousTomokoOkabe1),TakahiroMaruyama2),YukinobuOkajima1),YukaYamaguchi1),YukaSuzuki1),MegumiWakayama3)andYuichiHori1)1)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter,2)SaiseikaiYokohamashiTobuHospital,3)DepartmentofPathology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter目的:肺癌からの仮面症候群であった腫瘍性病変を認めない難治性ぶどう膜炎の症例を報告する.症例:78歳の男性.肺腺癌で化学療法中の2014年5月,左眼の視力低下にて近医を受診した.ぶどう膜炎,眼圧上昇に対して点眼薬および点滴を繰り返したが奏効せず,東邦大学医療センター大森病院に紹介された.初診時,左眼視力手動弁,左眼圧50mmHg,角膜全面の浮腫・瞳孔縁にフィブリン様の膜が付着し,眼底は透見できなかった.ぶどう膜炎による続発緑内障として,ステロイド系のTenon.下注射を行ったが改善しなかったため,緑内障治療用インプラント挿入術を施行した.前房中の細胞診にて肺癌の組織型と同じ腺癌細胞が検出された.片眼性の急激な高度な眼圧上昇を伴うぶどう膜炎においては,固形癌による仮面症候群の可能性も留意する必要がある.Purpose:Toreportacaseofintractableuveitisinwhichaneoplasticlesionwasfoundtobeacaseofmas-queradesyndromefromlungcancer.Case:A78-year-oldmaleundergoingchemotherapyforapulmonaryadeno-carcinomahadpresentedwithblurringofvisioninhislefteyefromMay2014.Hewasdiagnosedwithuveitisandhadhighintraocularpressure.Herepeatedlyreceivedeyedropsandintravenousfeeding,butintraocularpressurecontrolwasbad.Medicaltreatmentsurgerywasperformed.Initialmedicalexaminationofhislefteyeshowedcor-rectedvisualacuityofhandmotion,intraocularpressure50mmHgandcorneaedema,fibrin-likefilmtopupilbor-derandnonvisiblefundus.Secondaryglaucomaduetouveitiswasdoubtedandsub-Tenon’scapsuleinjectionofcorticosteroidwasperformed,buttherewasnoimprovement.Hethenreceivedimplantforglaucomatreatmentofintraocularpressure.Adenocarcinomaofthesametypeaslungcancerwasdetectedbycytodiagnosisofananteri-oraqueousfloater.Inuveitiswithunilateralsuddenriseinhighintraocularpressure,thepossibilityofmasqueradesyndromeduetosolidcarcinomashouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):432.434,2016〕Keywords:難治性ぶどう膜炎,肺癌,仮面症候群,前房水の細胞診.intractableuveitis,lungcancer,masquer-adesyndrome,cytodiagnosisofanterioraqueous.432(102)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY6103,23,No.3(102)4320910-1810/16/\100/頁/JCOPY《第49回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科33(3):432.434,2016cはじめに仮面症候群をきたす疾患として,成人では悪性リンパ腫と転移性腫瘍が多く,小児では網膜芽細胞腫と白血病が多い1).転移性腫瘍のほとんどは脈絡膜転移で,腫瘤を形成することが多い.一方,虹彩毛様体に転移している場合は前部ぶどう膜炎症状を呈することがある.今回,急激な眼圧上昇を伴うぶどう膜炎と診断した症例が,腫瘤病変をきたさない肺癌転移による仮面症候群であっ〔別刷請求先〕岡部智子:〒143-8541東京都大田区大森西7-5-23東邦大学医療センター大森病院眼科Reprintrequests:TomokoOkabe,DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter,7-5-23Omorinishi,Ota-ku,Tokyo143-8541,JAPAN前房水細胞診で肺癌と同型細胞(classV)が検出された難治性ぶどう膜炎の1例岡部智子*1丸山貴大*2岡島行伸*1山口由佳*1鈴木佑佳*1若山恵*3堀裕一*1*1東邦大学医療センター大森病院眼科*2済生会横浜市東部病院*3東邦大学医療センター大森病院病理学講座ACaseofIntractableUveitisinWhichaCellTypeSimilartoLungCancerWasDetectedbyCytodiagnosisoftheAnteriorAqueousTomokoOkabe1),TakahiroMaruyama2),YukinobuOkajima1),YukaYamaguchi1),YukaSuzuki1),MegumiWakayama3)andYuichiHori1)1)DepartmentofOphthalmology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter,2)SaiseikaiYokohamashiTobuHospital,3)DepartmentofPathology,TohoUniversityOmoriMedicalCenter目的:肺癌からの仮面症候群であった腫瘍性病変を認めない難治性ぶどう膜炎の症例を報告する.症例:78歳の男性.肺腺癌で化学療法中の2014年5月,左眼の視力低下にて近医を受診した.ぶどう膜炎,眼圧上昇に対して点眼薬および点滴を繰り返したが奏効せず,東邦大学医療センター大森病院に紹介された.初診時,左眼視力手動弁,左眼圧50mmHg,角膜全面の浮腫・瞳孔縁にフィブリン様の膜が付着し,眼底は透見できなかった.ぶどう膜炎による続発緑内障として,ステロイド系のTenon.下注射を行ったが改善しなかったため,緑内障治療用インプラント挿入術を施行した.前房中の細胞診にて肺癌の組織型と同じ腺癌細胞が検出された.片眼性の急激な高度な眼圧上昇を伴うぶどう膜炎においては,固形癌による仮面症候群の可能性も留意する必要がある.Purpose:Toreportacaseofintractableuveitisinwhichaneoplasticlesionwasfoundtobeacaseofmas-queradesyndromefromlungcancer.Case:A78-year-oldmaleundergoingchemotherapyforapulmonaryadeno-carcinomahadpresentedwithblurringofvisioninhislefteyefromMay2014.Hewasdiagnosedwithuveitisandhadhighintraocularpressure.Herepeatedlyreceivedeyedropsandintravenousfeeding,butintraocularpressurecontrolwasbad.Medicaltreatmentsurgerywasperformed.Initialmedicalexaminationofhislefteyeshowedcor-rectedvisualacuityofhandmotion,intraocularpressure50mmHgandcorneaedema,fibrin-likefilmtopupilbor-derandnonvisiblefundus.Secondaryglaucomaduetouveitiswasdoubtedandsub-Tenon’scapsuleinjectionofcorticosteroidwasperformed,buttherewasnoimprovement.Hethenreceivedimplantforglaucomatreatmentofintraocularpressure.Adenocarcinomaofthesametypeaslungcancerwasdetectedbycytodiagnosisofananteri-oraqueousfloater.Inuveitiswithunilateralsuddenriseinhighintraocularpressure,thepossibilityofmasqueradesyndromeduetosolidcarcinomashouldbeconsidered.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):432.434,2016〕Keywords:難治性ぶどう膜炎,肺癌,仮面症候群,前房水の細胞診.intractableuveitis,lungcancer,masquer-adesyndrome,cytodiagnosisofanterioraqueous.432(102)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図1初診時の左眼の前眼部写真前房は深く,瞳孔は中等度散大.角膜浮腫が強く前房内炎症細胞や角膜後面沈着物は不詳だが,瞳孔縁にフィブリンが検出していた.た症例を経験したので報告する.I症例患者は78歳,男性で,主訴は眼痛および嘔気である.2014年5月上旬に左眼の視力低下を自覚し,近医を受診した.左眼のぶどう膜炎および眼圧上昇を認め,タフルプロストを処方された.その後も眼圧は下がらず,ブリンゾラミド・チモロールマレイン酸塩・ベタメタゾンの点眼追加およびアセタゾラミド内服を開始したが眼圧下降せず,2.3日おきにグリセオール点滴を繰り返していた.6月5日,東邦大学医療センター大森病院に紹介された.初診時視力は,右眼0.08(1.2×.3.0D(cyl.0.75DAx100°),左眼手動弁(矯正不能),眼圧は,右眼18mmHg,左眼50mmHgであった.前眼部所見は左眼に強い角膜浮腫があり,前房は深く,瞳孔は中等度散大していた.前房内炎症細胞や角膜後面沈着物は角膜浮腫のため不明であったが,瞳孔縁にフィブリンを認めた(図1).眼底は透見できなかった.肺腺癌に対する化学療法中の末期で,前立腺肥大症,逆流性食道炎,糖尿病があった.眼科的には72歳時に両眼の白内障手術を受けた.初診時,前房水のPCR(polymerasechainreaction)検査では単純ヘルペスウイルス(HSV),水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV),サイトメガロウイルス(CMV)のDNAは検出されなかった.ベタメタゾンリン酸エステルナトリウムのTenon.下注射を施行したが,眼所見は改善しなかった.その後も眼圧高値が続き,嘔気・嘔吐で体力を消耗していたため,6月7日左眼緑内障治療用インプラント挿入術(バルベルト緑内障インプラント使用)を施行した.術後眼圧は3.17mmHgで推移した.術後診察にて眼底には明らかな病図2緑内障インプラント挿入術後4日目の左眼の前眼部写真前房内全体に浮遊物を認めた.バルベルトチューブは前房内に挿入した.図3前房水の細胞診標本(Papanicolau染色,対物100倍)核腫大と核形不整を認め,核小体が目立ち,核偏在性で泡沫状の細胞質を有す異型細胞を小集塊状・散在性に認める.変はなかった.術後,前房内の白色・綿花状の浮遊物が次第に増加してきたため(図2),術後5日目に左眼の前房洗浄を施行した.前房水および前房内浮遊物の細胞診(図3)では,核腫大,核形不整,核小体の目立つ異型細胞(classV)が小集塊から散在性にみられた.これらの異型細胞は核小体が目立ち,核偏在性で細胞質が泡沫状であることから腺癌を考えるとの診断結果で肺癌の組織型(腺癌)と一致していた.その後,患者は7月上旬に死亡した.(103)あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016433 II考按今回の症例は,急激で高度な眼圧上昇をきたす難治性ぶどう膜炎が肺癌転移の仮面症候群であった.仮面症候群をきたす原因疾患は,眼CNS悪性リンパ腫や全身性悪性リンパ腫を代表とするが,ほかにも,転移性眼内腫瘍や網膜芽細胞腫などがあり,良性腫瘍や眼内異物などでも仮面症候群となりえる2,3).仮面症候群の多くで硝子体混濁や前部ぶどう膜炎などの所見を伴っているが,眼圧が上昇している症例報告は少なく,眼内悪性リンパ腫による仮面症候群で新生血管緑内障が発症し,線維柱帯切除術を施行し改善した症例4)や,バーキットリンパ腫による仮面症候群で虹彩腫瘤・毛様体腫脹を生じ,眼圧47mmHgと上昇し放射線治療で改善した症例5)などの報告がある.今回の症例では,グリセオール点滴にて眼圧が一時的に下降しても同日の夜には眼痛・嘔気が出現しており,すでに癌末期であり体力がなく,連日の通院は困難であった.そのため,強い炎症がある状態で敢えて手術療法を選択した.緑内障手術の術式としては線維柱帯切除術も検討したが,術後の眼圧コントロールの煩雑性と患者の体力を考えて,より安定すると思われた緑内障治療用インプラント挿入術(バルベルト緑内障インプラント)を選択した.インプラント術後に前房内の炎症細胞の増加は目立たなかったが,次第に白色・綿花状の浮遊物が出現し,沈殿することはなく前房内全体に増加してきたため,前房洗浄とその細胞診を行った.前房洗浄では吸引にて容易に除去できるものもあれば,虹彩に張り付いているようで鑷子ではがすようなものもあった.この時点で初めて癌転移の可能性が強いと考えて細胞診を行った.病歴から仮面症候群についてもう少し検討するべきであったと痛感している.肺癌によるぶどう膜転移部位については,上野らは83%が脈絡膜,16%が虹彩,1%が毛様体と報告6)し,坂本らは85%が脈絡膜,15%が虹彩と報告7)しており,毛様体への転移はまれである.今回,前眼部超音波検査は施行しておらず,毛様体の詳細は明らかではないが,毛様体に転移していた可能性が考えられる.本症例における眼圧上昇の原因としては,毛様体の腫脹により虹彩が後ろから圧迫され隅角が閉塞されて高度の眼圧上昇を招いた可能性,腫瘍細胞による線維柱帯が目詰まりを起こした可能性が考えられた.改めて隅角鏡や超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM)での隅角検査の重要性を痛感した.片眼性の急激で高度な眼圧上昇を伴うぶどう膜炎において,腫瘍性病変を認めなくても,仮面症候群の原因として肺癌などの固形癌も考慮することが必要である.その診断には細胞診が不可欠である.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)岩田大樹,北市伸義,石田晋ほか:仮面症候群.臨眼64:1650-1655,20102)中尾久美子:仮面症候群.臨眼68:66-72,20143)鈴木参郎助:仮面症候群.日本の眼科69:1155-1158,19984)降旗叶恵,仲村佳已,仲村優子ほか:仮面症候群と思われるブドウ膜炎に続発した血管新生緑内障の1症例.眼臨94:551-552,20005)菅原美香,園田康平,吉川洋ほか:造血器悪性腫瘍に伴い特異な虹彩腫瘤,毛様体腫脹を呈した仮面症候群2例.眼紀57:609-613,20066)上野脩幸,玉井嗣彦,野田幸作ほか:胞状網膜.離で発症した肺癌のぶどう膜転移例─本邦における各種癌のぶどう膜転移例についての考察─.眼紀37:560-568,19867)坂本純平,後藤浩:転移性ぶどう膜腫瘍28例の臨床的検討.眼臨101:180-182,2007***(104)

漿液性網膜剝離を主症状とした眼内悪性リンパ腫の1例

2016年3月31日 木曜日

《第49回日本眼炎症学会原著》あたらしい眼科33(3):427.431,2016c漿液性網膜.離を主症状とした眼内悪性リンパ腫の1例曽我拓嗣*1稲用和也*2戸塚清人*1杉本宏一郎*1本田紘嗣*1陳逸寧*1田中理恵*3蕪城俊克*3野本洋平*1*1旭中央病院眼科*2東京警察病院眼科*3東京大学医学部附属病院眼科ACaseofBilateralIntraocularLymphomawithRapidProgressionofSerousRetinalDetachmentHirotsuguSoga1),KazuyaInamochi2),KiyohitoTotsuka1),KoichiroSugimoto1),KojiHonda1),Yi-NingChen1),RieTanaka3),ToshikatsuKaburaki3)andYoheiNomoto1)1)DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,TokyoMetropolitanPoliceHospital,3)DepartmentofOphthalmology,TheUniversityofTokyoHospital経過中に急激な漿液性網膜.離の進行を認めた眼内悪性リンパ腫の1例を経験した.症例は73歳,男性.中枢神経原発悪性リンパ腫に対してメトトレキサート大量療法を施行され,寛解していたが,3年後に右眼の視力低下を自覚.矯正視力は右眼指数弁,左眼1.0.初診から2週間後に右眼下方に胞状の漿液性網膜.離が出現し,4週間後には全.離となった.左眼の後極部にも漿液性網膜.離を生じ,矯正視力は0.02に低下した.右眼生検の結果,硝子体細胞診classIII,IL10は80,500pg/mlと高値を示し,中枢神経原発悪性リンパ腫の既往から,眼内悪性リンパ腫と診断した.メトトレキサート硝子体注射10回,メトトレキサートとデキサメサゾンの髄腔内注射3回施行し,両眼の漿液性網膜.離は速やかに消失した.漿液性網膜.離をみた場合には,眼内悪性リンパ腫の可能性を忘れてはならない.メトトレキサート硝子体注射はその治療に有効であった.A73-year-oldmalewhohadbeendiagnosedwithmalignantlymphomawastreatedwithhigh-dosemethotrexateandachievedcompleteremission.Threeyearslater,henoticeddecreasedvisioninhisrighteye.Twoweeksafterthat,serousretinaldetachmentoccurredintherighteye;by4weeksafter,totalretinaldetachmenthadoccurred.Serousretinaldetachmentalsooccurredintheposteriorpoleofthelefteye.CytologyofthesubretinalfluidshowedclassIIIandhighconcentrationofinterleukin-10inthevitreousfluid,stronglysuggestingintraocularmalignantlymphoma.Weadministered10intravitrealinjectionsofmethotrexateinbotheyesand3intraspinalinjectionsofmethotrexateanddexamethasone.Theserousretinaldetachmentdisappearedrapidlyafterthetreatment.Bilateralserousretinaldetachmentwasobservedinacaseofintraocularmalignantlymphoma.Intravitrealmethotrexateinjectionwaseffectiveforthetreatmentofserousdetachmentassociatedwithintraocularlymphoma.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)33(3):427.431,2016〕Keywords:眼内悪性リンパ腫,漿液性網膜.離,メトトレキサート,硝子体注射.intraocularlymphoma,serousdetachment,methotrexate,intravitrealinjection.はじめに眼内悪性リンパ腫(intraocularlymphoma:IOL)はB細胞型リンパ腫がほとんどで,ぶどう膜炎に類似した眼所見を呈するため誤診されやすく,仮面症候群ともよばれ,注意すべき疾患である.悪性度は高く,とくに脳中枢神経系に播種しやすい.IOLは,眼・中枢神経系原発悪性リンパ腫(82%)とその他の臓器原発の眼への播種(18%)に分けられ,前者は眼内のみに留まるもの(15%)と脳中枢神経に播種するもの(68%)があるとされている1).IOLの50.80%は,診断時またはその後数年以内に中枢神経系悪性リンパ腫を発症する2.5).そのため,IOLは眼科疾患のなかでも生命予後の悪い疾患として知られている.元来まれな疾患とされていたが,近年は世界的に発症率の増加が報告されており,わが国においても2009年に基幹病院に初診したぶどう膜炎患者の〔別刷請求先〕曽我拓嗣:〒289-2511千葉県旭市イ1326旭中央病院眼科Reprintrequests:HirotsuguSoga,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahiGeneralHospital,1326I,Asahi,Chiba289-2511,JAPAN0910-1810/16/\100/頁/JCOPY(97)427 2.5%を占めるようになっている6).IOLにおける眼所見は,硝子体混濁(91%),網膜下浸潤病変(57%),虹彩炎(31%),角膜後面沈着物(25%)などが多いとされているが,漿液性網膜.離を呈することはまれである2).今回,急激な漿液性網膜.離の進行をきたし,診断に苦慮した眼内悪性リンパ腫の1症例を経験したので報告する.I症例患者:73歳,男性.2011年2月頭痛を訴え,近医内科を受診し,同月旭中央病院脳神経外科を紹介された.頭部MRIを施行したところ,右前頭葉・側頭葉に造影効果を伴う病変を認めた.抗血小板薬を内服中であり,構音障害,左上下肢の不全麻痺などの症状の進行が速かったため,脳病変の組織生検は施行されなか図1初診時(2014年5月27日)眼底写真,光干渉断層計(OCT)像,蛍光眼底造影検査(FA)上段:眼底写真.右眼の後極部網膜に網膜下白色滲出病変,左眼の黄斑部の下耳側に白点の網膜滲出物(.)がみられた.中段:OCT.右眼は滲出性網膜.離を認める,左眼には異常を認めない.下段:FA.右眼の網膜下白色滲出病変部に沿って蛍光漏出による過蛍光,周辺部血管からも蛍光漏出による過蛍光を認める.左眼には異常を認めない.428あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016(98) 図2初診から10日目(2015年6月6日)の右眼眼底写真とOCT像下方に胞状の漿液性網膜.離が出現した.図3初診から27日目(2015年6月23日)の眼底写真とOCT像右眼漿液性網膜.離が拡大し全.離となり,視力は手動弁に低下.左眼も漿液性網膜.離が進行し,左眼視力は(0.02)と著明に低下.った.MRIの造影所見から中枢神経原性悪性リンパ腫と診断し,当院内科で2011年2.9月にメトトレキサート(MTX)大量療法(5,000mg)を施行され,2011年9月には頭部MRI所見から寛解状態と診断されていた.家族歴,既往歴には特記すべきことはない.2014年5月16日頃から右眼の視力低下を自覚し,近医眼科を受診した.5月27日近医眼科より右眼ぶどう膜炎の精査加療目的で旭中央病院を紹介され受診した.初診時矯正視(99)力は右眼20cm/指数弁(矯正不能),左眼0.7(1.0×sph+1.75D(cyl.0.50DAx120°).眼圧は右眼8mmHg,左眼5mmHgであった.両眼とも白内障(Emery-Littlegrade2)があるのみで,角膜後面沈着物や前房炎症はみられなかった.右眼の後極部網膜に網膜下白色滲出病変,左眼の黄斑部の下耳側に白点の網膜滲出物を認めた(図1).蛍光眼底造影では右眼後極部に強い蛍光漏出を,そして周辺部の毛細血管からも軽度の蛍光漏出を認めた(図1).眼所見から,内因性あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016429 図4MTX4回終了後(2015年8月5日)両眼の漿液性網膜.離は消失した.右眼上耳側部の出血部は網膜下組織採取部位である.ぶどう膜炎,感染性ぶどう膜炎,眼内悪性リンパ腫の可能性が考えられた.5月30日,感染性ぶどう膜炎の鑑別のため,右眼前房穿刺を施行し,ヘルペスウイルスDNAに対するpolymerasechainreaction(PCR)検査と細菌培養検査を行った.単純ヘルペスウイルス,帯状ヘルペスウイルス,サイトメガロウイルスDNAのPCR検査はすべて陰性.細菌培養検査も陰性であった.5月29日,頭部MRI,6月2日,PETを施行したが,脳悪性リンパ腫の再発はみられなかった.6月6日,右眼底下方に胞状の漿液性網膜.離が出現し,右眼視力は手動弁に低下した(図2).眼内悪性リンパ腫の可能性を考え,6月9日,再度右眼前房穿刺を施行し,細胞診を行ったが,細胞成分は検出されず判定不能であった.同日,左眼矯正視力は1.0であったが,網膜に白色斑点増加,硝子体混濁が出現した.6月23日,右眼漿液性網膜.離が拡大して全.離となり(図3),右眼矯正視力は手動弁に低下した.また,左眼の後極部にも漿液性網膜.離が出現し,左眼の矯正視力も0.02と著明に低下した.眼内悪性リンパ腫,感染性ぶどう膜炎の可能性を考え,6月23日,右眼硝子体手術を施行した.手術は硝子体液の生検を目的とし,23Gシステムで2portを設置し,無還流で無希釈硝子体液を約1.8ml採取した.硝子体液の病理細胞診の判定はclassIで430あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016あった.IL-10,IL-6は測定していなかった.6月30日(初診より34日目),右眼の漿液性.離に加えて硝子体混濁の増強を認めた.眼内悪性リンパ腫を強く疑い,確定診断のために右眼に対し23Gシステムにて経毛様体扁平部水晶体切除術+硝子体茎離断術+経網膜的網膜下組織生検+シリコーンオイル注入術を施行した.今回は硝子体切除のみならず,網膜下液,網膜下組織の採取も行った.網膜病巣部は黄白色で軽度の平坦な隆起がみられた.網膜下組織は,右眼上耳側の.離網膜部位に医原性裂孔を作製し,23G鉗子と垂直剪刀を用いて採取した.その結果,硝子体細胞診はclassII,網膜下液細胞診はclassIII,網膜下液と硝子体液の細菌培養は陰性,網膜下組織の病理組織診は好酸球を主体とするアレルギー性の変化との判定であった.一方,右眼硝子体中のIL-10は80,500pg/ml,IL-6は366pg/mlとIL-10が著明に高値であった.右眼の網膜下液細胞診がclassIIIであること,硝子体中のIL-10が著明に高値であること,脳悪性リンパ腫の既往があることから,眼内悪性リンパ腫と診断した.両眼に対してMTX0.4mg硝子体注射(1週間ごと8回,その後1カ月ごと2回)を開始した.一方,7月9日に髄液検査の結果,髄液細胞数8/μl,髄液細胞診はclassIIであり,髄液中に明らかな悪性細胞は検出されなかった.しかし,細(100) 胞数は増加していたため,悪性リンパ腫の髄腔内浸潤を考慮し,MTX15mg+デキサメサゾン(DEX)3.3mgの髄腔内注射を毎月1回,合計3回施行した.MTX硝子体注射治療を開始後,両眼の漿液性網膜.離は速やかに減少し,約4週間後にはほぼ消失した.8月5日,矯正視力右眼手動弁,左眼0.04.両眼の漿液性網膜.離は消失していた(図4).両眼にMTX硝子体注射4回目を施行した.10月22日,矯正視力右眼手動弁,左眼0.01であった.両眼にMTX硝子体注射10回目を施行し,同時に両眼から前房水採取し,IL-10,IL-6濃度測定を行ったところ,右眼IL-10:10pg/ml,IL-6:101pg/ml(IL-10/IL-6比=0.09),左眼IL-10:4pg/ml以下,IL-6:484pg/ml(IL10/IL-6比=0.008)であった.眼内の炎症所見や漿液性網膜.離は消失したため,両眼とも眼内悪性リンパ腫の寛解が得られたと判定した.その後,眼内,頭蓋内ともに悪性リンパ腫の再燃を認めなかった.2015年2月19日,小脳,延髄梗塞後の肺炎で永眠された.II考按漿液性網膜.離を生じた眼内悪性リンパ腫の報告としては,草場ら7)の自覚症状出現から約5カ月後に下方の漿液性網膜.離を生じた眼内悪性リンパ腫の症例や,山本ら8)の自覚症状出現から2カ月後に漿液性網膜.離を生じたびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の症例がある.また,木村らはわが国の眼内悪性リンパ腫症例217例について多施設研究で臨床像の検討を行い,網膜.離を2例(0.9%)に認めた,と報告している2).今回の症例は自覚症状出現から1カ月以内に漿液性網膜.離を生じており,既報に比べても急激な進行であったといえる.MTX硝子体注射治療を開始後に両眼の漿液性網膜.離は速やかに減少し,4週間後には消失した.MTX硝子体注射は眼内悪性リンパ腫に伴う漿液性網膜.離の治療に有効であった.本症のような漿液性網膜.離は眼内悪性リンパ腫ではまれであるが,硝子体混濁や黄白色の網膜下浸潤病変を伴う漿液性網膜.離の症例は眼内悪性リンパ腫の可能性がある.CNSリンパ腫が全身化学療法でいったん寛解しても,その後眼内に再発することはしばしばある.眼内悪性リンパ腫は脳播種を起こしやすいことが知られており,脳播種を起こすと生命予後は不良となりやすい9).したがって,本症のような症例では,積極的に眼内悪性リンパ腫を疑って硝子体生検を施行し,確定診断をめざす必要があると考えられた.確定診断は硝子体の細胞診にIL-10/IL-6濃度の測定や,異型リンパ球の単クローン性を免疫組織学的に証明することなどの補助的な診断を組み合わせて行われることが多い10).今回の症例では硝子体の細胞診および網膜下組織生検では確(101)定診断には至らなかったが,硝子体液のIL-10/IL-6濃度比を優先し,臨床所見を考慮したうえで眼内悪性リンパ腫と診断し,メトトレキサート硝子体注射に踏み切ったところ,著効が得られた.文献2に記載されているように,細胞診による眼内リンパ腫の検出率(44.5%)は,IL-10/IL-6ratioによる検出率(91.7%)に劣っていることがわかっている.本症例で眼内悪性リンパ腫を疑って硝子体原液を採取した際には,検体を遠心分離し,上澄みをIL-10/IL-6ratio測定に用い,沈渣を細胞診に用いるべきであった.本症例は悪性リンパ腫の既往があるものの,全身化学療法で寛解しており,今回も全身的な再発はないと診断されていた.他臓器での悪性リンパ腫の既往も眼内悪性リンパ腫を疑う重要な根拠の一つとなると考えられた.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)CorriveauC,EasterbrookM,PayneD:Lymphomasimulatinguveitis(masqueradesyndrome).CanJOphthalmol21:144-149,19862)KimuraK,UsuiY,GotoH:Clinicalfeaturesanddiagnosticsignificanceoftheintraocularfluidof217patientswithintraocularlymphoma.JpnJOphthalmol56:383389,20123)DeangelisLM,HormigoA:Treatmentofprimarycentralnervoussystemlymphoma.SeminOncol31:684-692,20044)PetersonK,GordonKB,HeinemannMHetal:Theclinicalspectrumofocularlymphoma.Cancer72:843-849,19935)AkpekEK,AhmedI,HochbergFHetal:Intraocularcentralnervoussystemlymphoma:clinicalfeatures,diagnosis,andoutcomes.Ophthalmology106:1805-1810,19996)OhguroN,SonodaKH,TakeuchiMetal:The2009prospectivemulti-centerepidemiologicsurveyofuveitisinJapan.JpnJOphthalmol56:432-435,20127)草場留美子,田口千香子,吉村浩一ほか:経過中に特異な眼底所見を呈した眼内悪性リンパ腫の1例.臨眼59:17931798,20048)山本紗也香,杉田直,岩永洋一ほか:メトトレキセート硝子体注射が著効した滲出性網膜.離を伴う網膜下増殖型のびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の1例.臨眼62:14951500,20089)FerreriAJ,BlayJY,ReniMetal:Relevanceofintraocularinvolvementinthemanagementofprimarycentralnervoussystemlymphomas.AnnOncol13:531-538,200210)横田真子,高瀬博,今井康久ほか:眼内悪性リンパ腫が疑われた1例に対する遺伝子解析とサイトカイン測定.日眼会誌107:287-291,2003あたらしい眼科Vol.33,No.3,2016431