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成人の非炎症性涙道疾患 涙点から鼻涙管までの狭窄や閉塞-鼻涙管チューブ留置に役立つ画像診断

2015年12月31日 木曜日

成人の非炎症性涙道疾患涙点から鼻涙管までの狭窄や閉塞─鼻涙管チューブ留置に役立つ画像診断─Non-inflammatoryLacrimalDisordersinAdultsCTandCT-DacryocystographyforPatientSelectioninNasolacrimalDuctIntubation鈴木亨*はじめに非炎症性の涙道閉塞・狭窄の治療方針は,日本では涙洗が通るなら鼻涙管チューブ留置(nasolacrimalductintubation:NLDI)を施行し,涙洗が通らないならNLDIか涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)から選択するという考え方が一般的である.涙道内視鏡を使える状況であれば,涙道内視鏡検査1,2)を試み,その結果で術式選択することで問題ない.しかし,涙道内視鏡はすべての施設で使用できる状況にはない.正しい涙道治療の方向としては,画像検査も参考にしながら,内視鏡が使用できない状況や内視鏡の限界を補いながら進むことであろう.涙道手術の術式選択や術後評価において,画像診断の有用性はいうまでもない.通常では涙.造影X線撮影(dacryocystography:DCG),CT単純撮影,およびCT涙.造影撮影(CT-DCG)の3つが可能である.涙道腫瘍や涙.憩室炎の診断にはMRI撮影が必要で,機能性流涙症の診断には涙.シンチグラムが標準とされる3).また,涙小管や涙.の超音波生体計測や,OCTを利用した涙点と涙小管近位の計測など,さまざまな画像診断の試みもある.本稿では,DCGを中心とした通常の画像診断について解説する.I涙.造影DCGEwingが1909年に涙道の造影写真を撮影する方法を始めて報告4)して以来,DCGは造影剤や,カニューラを用いた造影剤注入方法の工夫5)と撮影方法の改良が加えられ,今でも生き残る検査法である.DCGは,正面と側面から撮影することで涙道全体像を見るのに有用である(図1).涙道閉塞においては閉塞レベル(局在)を決定したりするのに有用である.しかし,簡便なX線撮影では背景の骨組織が造影剤の陰影と重なるためノイズが多く,また設備の問題から,臨床ではスキップされることが多いのが国を問わず実情である.閉塞レベルの決定は,臨床的には涙洗と診断的プロービング,あるいは施設によっては涙道内視鏡検査などでおおむね可能である.ただし,涙道手術研究を続けるにあたっては,今でもDCGによる診断の考え方には学ぶべき大切な点がある.また,CTと組み合わせることで,今後もDCGは涙道手術の術前検査として有用であり続けることは間違いない.1.涙道通過障害診断の基本涙洗で完全閉塞と判断されても,造影剤が鼻腔へ到達している様子が撮影される症例は少なくない.これは狭窄と閉塞の診断が検査方法で異なることを示唆している.したがって,術前の造影検査をスキップして手術結果を示した論文と,造影検査で患者を選択して手術結果を示した論文では,研究対象が異なる可能性を理解する必要がある.造影検査をスキップした場合は,閉塞のみならず狭窄も含むより軽症例の患者集団についての研究と考えられる.このことは,研究間で手術結果を比較する場合には必ず考慮されなければならない.また,涙道閉塞のレベル診断が最近の論文でもpresaccalobstructionとpostsaccalobstructionという言葉が散見される.これらは造影剤が涙?まで入っているかどうかの区別であり,前者は涙小管閉塞,後者は鼻涙管閉塞と訳して差し支えない.つまり,涙道閉塞は最初に造影剤がせき止められる部位で診断を決めるのが基本という考え方であり,涙道内視鏡所見で診断する場合もこれを踏まえる必要がある.たとえば,涙小管閉塞を内視鏡で穿破し,それより遠位に鼻涙管閉塞所見が得られた場合,これは仮に造影検査をした場合の診断にならって涙小管閉塞症として分類する必要がある.これを鼻涙管閉塞症に涙小管病変が合併したものとする考え方は,涙道内視鏡を用いない国内外の大多数の研究との整合性に欠け,結果の比較を困難にする.2.撮影法の改良Gallowayは1984年に,涙道を満たす造影剤以外のノイズを画像処理でキャンセルしてクリアな涙道の姿を映し出す差分涙?造影撮影法(digitalsubtractiondacryocystography:DS-DCG)を初めて報告した6).涙小管にカニューラを挿入し,ここから造影剤を持続注入しながら1秒に1枚ずつX線写真を撮影して画像処理を行う.涙道の姿がよくわかる利点は大きいが,要点は単純撮影と違いはなく,むしろ特別な解析ソフトが必要になるので施行できる施設がさらに限られてくる点が問題ともいえる.3.最新の工夫Wongらは2014年に,鼻涙管の開口部から逆行性に造影剤を注入してCT撮影を行う逆行性涙?造影法(CTretrogradeintubationdacryocystography:CT-RIDC)を報告した7).涙小管の手術では,手術選択の際に涙?と鼻涙管の状態を考慮することがある8,9).しかし,涙小管が閉塞している場合は造影剤がそれより遠位に到達しないので,通常の方法では涙?と鼻涙管の情報は得られない.逆行性涙?造影は,これを解決するための方法で,今後,涙小管閉塞の術前検査として発展することが期待される.4.コーンビームCTの登場CTは骨組織の構造を見るのに大変に有用である.涙道は眼表面から涙?窩に沿って上顎骨を貫き,鼻腔に到達する.したがって,涙道は骨組織と密着した器官であり,CTは涙道術前検査として有用である.しかし,被曝や利便性の問題から眼科診療ではこれまで限定的な使用しかされておらず,十分に普及した検査とはいいがたい.ところが近年,コンピュータの高速化に伴ってCTの技術革新があり,従来と比較してはるかに低被曝,低価格,そして設置面積の狭い座位撮影のCT(conebeamCT:CBCT)が市販されるようになった(図2).Mozzoらが1998年に歯科領域でのCBCT使用について報告10)して以来,頭頸部領域で徐々に臨床応用されるようになっており,米国では歯科・口腔外科・耳鼻咽喉科科の診療所で普及が進んでいる11).日本でもインプラント手術を行う歯科診療所ではすでに普及し,鼓室形成を行う耳鼻科診療所でもCBCTを設置するところが現れるようになってきた.眼科でのCBCTの応用はまだ報告12,13)が少ないものの,その安全性と有用性のみならず,眼科外来でも簡単な工事で設置可能なほどコンパクトであり,上級機種CBCTでも最近の超音波白内障手術装置や超広角眼底撮影装置より低価格であるという利点から,今後は涙道手術を行う眼科診療所で術前ルーチン検査として発展する可能性が十分ある.5.最新の涙?造影と今後の展望Tschoppらは2014年に,CBCTを用いた涙?造影(CBCT-DCG)を行って10例の涙道閉塞患者の閉塞レベル診断を行って報告13)した.彼らは造影剤を患者に投与する方法として,カニューラで造影剤を涙道に注入する従来の方法と,造影剤を点眼するだけの方法の2種類を用いており,いずれもよく造影され閉塞診断が可能であったと述べている.また,被爆リスクに対しての配慮は述べながらも,いくつかの文献12,14,15)のレビューからCBCTで必要な放射線量が従来のマルチスライスCTと比較して十分に低い量と結論づけている.実際,撮影範囲の設定にもよるが,涙道の撮影であれば放射線照射はおおむね10分の1程度の量ですむ.さらに,CBCTの利点の一つに座位で撮影が行われる点をあげ,造影剤の点眼が涙道の造影に十分な効果があった点と合わせて,涙液排泄動態の異常をみる機能性流涙の診断においてCBCT-DCGが涙道シンチグラムの代わりになる検査としての可能性についても言及している.この点については,国内外で機能性流涙症の話題が涙道手術の関心の一つである昨今,とくに日本においては期待が大きい.Chanらは機能性流涙症について,涙?シンチグラムの結果でpresaccaldelay,postsaccaldelay,nodelayに分けて病態を考えることを提唱3),海外ではこれが認知され論議の前提となっている.これまで日本では涙道シンチグラムの実績がなかったが,今後は造影剤の点眼によるCBCT-DCGの結果でこれら病態の区別が可能となり,海外との整合性が取れた国内論議が可能になると考えられる.II鼻涙管チューブ留置を選択する際に注意すべきCT所見筆者の診療所(常勤医師1名,常勤スタッフ6名,そのほか非常勤)ではCBCT(3DAccuitomoF17,モリタ製作所)を設置しており,2015年6月から運用を始めた.5m視力検査を3m視力検査に変更して2m四方を稼ぎだし,CBCT検査室を作った.OCT(RTVue-100,Optview社)の設置に必要な面積より,少し広い程度と考えてよい.放射線技師は必要なく,操作が簡単なので当院の職員は誰でも患者の位置合わせができるようになっている.患者の位置が決まれば医師が17秒間の撮影を行う.三次元のCT値データは専用サーバーに取り込まれ,診察室,手術室,および医局に設置した専用ソフトでそれを再構築して見たい切片を自由に見ることができるシステムである.これによって,骨鼻涙管の屈曲や傾斜が直接見えるので,鼻涙管閉塞のNLDIで仮道留置を避けられるかどうかが予想できるようになった.また,CBCT-DCGの画像がDCRの術前と術中にどこでも利用できるようになった.すべての涙道術前患者にCT検査が必要なわけではないが,CTはわれわれに涙道手術の術式選択に大変に参考となる情報を与えてくれる.本稿後半では,NLDIを選択する場合に注意すべきCT所見について述べる.1.DCRかNLDIか冒頭で述べたように,非炎症性の涙道閉塞・狭窄の治療はDCRとNLDIから選択される.筆者は涙道内視鏡所見のほか,必要に応じてCTの結果も考慮しながら治療選択を行って治療成績向上を狙っている.筆者の基本姿勢は,簡単にすむNLDIを優先しながらも,リスクを抱える症例は積極的にDCR適応とし,NLDIの低侵襲性と有効性,安全性を損なわないことである.そのためには,安易にNLDIが低侵襲と思い込むのではなく,鼻涙管にモノを差し込む操作が涙道にとっては侵襲の高い手技となるような解剖学的リスク要因の存在を知っておく必要がある.以下,CTで診断できる4つのリスク要因について述べる.2.顔面の構造NLDIを施行する場合,顔面の骨構造が手術のしやすさに大きな影響をもつ.白人種では,前頭同が発達して眼窩上縁が“ひさし”のように突出している(図3a).この構造では,涙?まで差し込むプローブの角度と鼻涙管の傾斜角度が大きく違っており(anteriortype16)の極端な例),涙道内視鏡やチューブの誘導プローブが鼻涙管を進む際に涙道粘膜を傷害する.これは欧米で,鼻涙管に異常のない涙小管閉塞症においてさえも,鼻涙管内の手術操作を避けてDCRを優先する考え方の根拠と推察される.また,白人種でも,眼窩上縁が発達してくる前の小児期であれば,プローブ挿入角度と鼻涙管傾斜角度が近いため,プローブ挿入における鼻涙管粘膜障害のリスクは最小限と考えられる.そのため,白人種でも小児に対してはプロービングやNLDIの実績が多数あるのであろう.一方アジア人種は,成人でも眼窩上縁が発達していない(図3b).このため,白人種の幼児期と同様に涙点から鼻涙管へのアクセスが良好かつ安全であり,日本を含む東アジア諸国においてはNLDIの人気が高い.しかし,日本人でも,少数ではあるが白人型の顔面構造がみられることがある.筆者はその場合には,NLDIは避けてDCRを選択している.このほか,骨鼻涙管が途中でくの字型に後方屈曲する鼻涙管閉塞でも,NLDIでは仮道留置となる可能性が高いと判断してDCRを選択している.鼻涙管閉塞では,仮に涙道内視鏡を使用しても,いったんSEPやDEPで線維組織内に潜り込むとどの方向で仮道が避けられるのかは判断不可能である.内視鏡が組織内を進むうちに鼻涙管内に残存する開存部分に出合う場合は運が良い.しかし,しばしば仮道に潜り込んで広範型鼻涙管閉塞と誤診したり,骨鼻涙管の壁に行き当って「硬い閉塞」と感じたり,あるいは骨鼻涙管壁に沿って鼻腔に導かれたりする.線維組織内での内視鏡操作には限界があり,無理な治療で解剖学的リスクを負うとNLDIの低侵襲性と有効性を損なう.あらかじめ骨鼻涙管の走行を理解することで,そのリスクを避けることができる.涙小管閉塞では,涙?と鼻涙管にはまったく異常がないか限局性狭窄のみの症例(通常鼻涙管型涙小管閉塞)の方が多い.涙道内視鏡検査でそれが確認できれば,骨鼻涙管の傾斜や屈曲にかかわらず仮道留置を避けることは簡単であるので,CT所見に関係なくNLDIを第一選択に考える.3.骨鼻涙管の太さ解剖研究では,骨鼻涙管の内径は部位によって均一ではないが,眼窩における入口部でおおむね6mm程度とされる17).多数のCTをみた臨床的な経験からは,日本人流涙患者の場合はおおむね4~5mm程度の印象である.稀にほぼ全長にわたって内径の極端に小さい骨鼻涙管をもつ症例があり,この場合はNLDIの適応から除外したほうが無難と考えている.萩野らは2014年の日本涙道・涙液学会総会において,内径2mmにも満たない骨鼻涙管の鼻涙管閉塞症でNLDIを試みたところ,症状が改善せず後日DCRを施行したと報告した(フォーサム2014東京,プログラム・講演抄録集p139).鼻涙管拡張治療が不成功であった患者群の骨鼻涙管径は,成功例の患者群のそれより小さかったとの報告もある18).骨鼻涙管の内径はNLDIの有効性を担保するよい指標になる可能性があるので,今後CBCTを用いた鼻涙管径の研究が進むことを期待している.4.涙?結石涙?炎の場合は,鼻涙管の開存性にかかわらず正しい治療法はDCRである.DCRであれば,涙?結石の有無は問題ではない.しかし,実際の臨床では,DCR紹介病院がない地域や,患者側の事情でNLDIに頼らざるを得ない場合がある.このとき,少なくとも涙?結石や異物(涙点プラグ,停留チューブ)を伴う涙?炎はNLDIの禁忌であり,これを除外する必要がある.チューブ挿入の際に涙?結石などを仮道に押し込めば,海外の論文で散見されるような術後の急性炎症を生じる可能性があり,NLDIの安全性を損なう.涙?結石の診断には涙道内視鏡検査が最適であるが,涙道内視鏡がない場合,やむを得ず涙?炎にNLDIを検討する際には必ずCT-DCGを施行すべきである(図4,5).涙?炎のない症例でも涙?結石は存在する.図6に示したように,筆者の最近約1年の術前涙道内視鏡検査の結果では,連続227例中15例(7%)が涙小管炎以外の結石陥頓症例で,そのうち12例が涙?結石であった.筆者は涙?炎症例には術前涙道内視鏡検査を行わずにDCRを選択するので,この結果は涙?炎でない症例が対象と考えてよい.その涙?結石症例12例のうち5例では,涙洗逆流には分泌物がみられなかった.さらにその5例中3例は,逆流が微弱で機能性流涙を疑われて検査した症例であった.涙洗で涙?炎がないから,さらには逆流が微弱であるからという理由では涙?結石は否定できないことがわかった.NLDIの術前には,涙道内視鏡検査かCT-DCGでこれを除外診断すべきである.5.総涙小管偏位涙道内視鏡検査で総涙小管閉塞と診断する症例では,閉塞膜にディンプルかピンホールのみられる症例が多い.この場合は,これを目標にしてDEPあるいはSEPを施行すれば,高い確率で穿破に引き続いて涙?内腔粘膜が観察でき,その結果,仮道留置を避けてNLDIを終えることができる.しかし,ディンプルなどがみられない場合,しばしば閉塞は硬く,穿破に引き続いて涙?内腔粘膜が観察できない症例をときどき経験する.これは涙?内癒着の可能性も否定はできないが,むしろ涙道内視鏡が総涙小管壁そのものに突き当たっており,そのまま涙?外側壁の粘膜下繊維組織内に潜り込む仮道形成の所見として重要である.筆者は,涙?内腔が確認できない症例ではDCRか涙小管形成術を選択する.ディンプルなどがない場合は,内視鏡で閉塞膜のようにみえている行き止まりが図7に示したように前方に強く屈曲した総涙小管壁そのものであることがあり,これが仮道形成の原因のひとつとなる.総涙小管閉塞は本来,狭窄の目(ディンプルやピンホール)をもった柔らかい薄膜である.ディンプルのない症例や硬い症例ではCBCT-DCGで総涙小管の走行を評価することで仮道リスクを知ることが可能である.まとめDCGは,必ずしも施行しなければならない涙道検査ではない.しかし,造影剤がどこまで入るかという概念は涙道閉塞の診断の基礎であり,涙道内視鏡に頼った診療においてもこの概念は尊重されるべきである.CBCTは座位で行う簡便な検査で小規模眼科診療所においても十分に運用可能であり,今後の涙道診療においてはさまざまな有用性が期待できる.この10余年,日本の涙道手術研究は涙道内視鏡による診断と治療が主流であるかのようにもみえたが,本来は科を問わず,内視鏡検査と画像検査はお互いの弱点を補い合って患者に利益をもたらすものである.文献1)鈴木亨:涙道ファイバースコピーの実際.眼科45:2015-2023,20032)鈴木亨,白石敦,大橋裕一ほか:涙道内視鏡実践ガイド.あたらしい眼科32:1293-1296,20153)ChanW,MalhotraR,SelvaDetal:Perspective:Whatdoesthetermfunctionalepiphorameaninthetextofepiphora?.ClinExpOphthalol40:749-753,20124)EwingAE:Roentgenrayofthelacrimalabscesscavity.AmJOphthalmpl24:1,19095)LloydGAS,JonesBR,WelhamRAN:Intubationmacrodacryocystography.BrJOphthalmol56:600,19726)GallowayJE,KavieTA,RafloGT:Digitalsubtractionmacrodacryocystography:anewmethodoflacrimalsystemimaging.Ophtalmol91:956-962,19847)WangT,TooH,ZhangJetal:PrimarystudyonCTretrogradeintubationdacryocystography(CT-RIDC)anditsimpactfactors.ChinJOphthalmol50:766-771,20148)BusseH,Meyer-RuusenbergHW,KrollP:Canaliculodacryocyctotomy.Orbit4:69-72,19859)鈴木亨:涙小管閉塞症の顕微鏡下手術における術式選択.眼科手術24:231-236,201110)MozzoP,ProcacciC,TacconiAetal:AnewvolumetricCTmachinefordentalimagingbasedonthecone-beamtechnique:preliminaryresults.EurRadiol8:1558-1564,199811)小川洋:コーンビームCT活用法(耳鼻科領域での活用法).耳鼻咽喉科・頭頸部外科85:244-265,201312)WilhelmKE,RudorfH,GreschusSetal:Cone-beamcomputedtomography(CBCT)dacryocystographyforimagingofthenasolacrimalductsystem.KlinNeuroradial19:283-289,200913)TschoppM,BornsteinMM,SendiPetal:DacryocystographyusingconebeamCTinpatientswithlacrimaldrainagesystemobstruction.OphthalPlastReconstrSurg30:486-491,201414)LoubeleM,BogaertsR,VanDijckEetal:ComparisionbetweeneffectiveradiationdoseofCBCTandMSCTscannersfordentomaxillofacialapplication.EurJRadiol71:461-468,200915)PauwelsR,BeinsbergerJ,CollaretBetal:SEDENTEXCTprojectconsortium.effectivedoserangefordentalconebeamcomputedtomographyscanners.EurJRadiol81:267-271,201216)NariokaJ,MatsudaS,OhashiY:Inclinationofthesuperomedialorbitalriminrelationtothatofthenasolacrimaldrainagesystem.Ophthalsurg,laser&imaging39:167-170,200817)KakizakiH:AnatomyofthenasolacrimalDuct(NLD)andCanal.PrinciplesandPracticeofLacrimalSurgery(JavedAliMJ:ed).p23-26.Springer.NewDelhi,Heidelberg,NewYork,Dordrecht,London,201518)JanssenAG,MansourK,CastelijinsJAetal:Diameterofthebonylacrimalcanal:normalvaluesandvaluesrelatedtonasolacrimalductobstruction:assessmentwithCT.AmJNeuroradiol22:645-850,2001*ToruSuzuki:鈴木眼科クリニック〔別刷請求先〕鈴木亨:〒808-0102福岡県北九州市若松区東二島4丁目-7-1鈴木眼科クリニック0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(41)1673abab図1涙.造影右涙道の検査結果の1例で,異常はみられなかった.上涙点に造影剤注入のためのカテーテルを挿入し,造影剤を加圧注入しながら撮影した.この撮影方法はintubationdacryocystographyとよばれ,涙道の詳細構造を明らかにする方法として有用である.a:正面像で上下の涙小管が合流して涙.へ接合する様子が見える.涙.は細く見える.b:側面像では涙.が前後に幅広く写っており,涙道内視鏡検査におけるスリットサインと一致する.また,鼻涙管が後方へ傾斜している様子がわかる.(美濃市立美濃病院岩崎雄二先生のご厚意による)図2座位で撮影するコーンビームCT専用の椅子に患者を座らせ,椅子の位置を微調節することで狙った範囲を撮影する.椅子に座ることができない患者や,極端に身長の高い患者では撮影できないことがある.II鼻涙管チューブ留置を選択する際に注意すべきCT所見筆者の診療所(常勤医師1名,常勤スタッフ6名,そのほか非常勤)ではCBCT(3DAccuitomoF17,モリタ製作所)を設置しており,2015年6月から運用を始めた.5m視力検査を3m視力検査に変更して2m四方を稼ぎだし,CBCT検査室を作った.OCT(RTVue100,Optview社)の設置に必要な面積より,少し広い程度と考えてよい.放射線技師は必要なく,操作が簡単なので当院の職員は誰でも患者の位置合わせができるようになっている.患者の位置が決まれば医師が17秒間の撮影を行う.三次元のCT値データは専用サーバーに取り込まれ,診察室,手術室,および医局に設置した専用ソフトでそれを再構築して見たい切片を自由に見ることができるシステムである.これによって,骨鼻涙管の屈曲や傾斜が直接見えるので,鼻涙管閉塞のNLDIで仮道留置を避けられるかどうかが予想できるようになった.また,CBCT-DCGの画像がDCRの術前と術中にどこでも利用できるようになった.すべての涙道術前患者にCT検査が必要なわけではないが,CTはわれわれに涙道手術の術式選択に大変に参考となる情報を与えてくれる.本稿後半では,NLDIを選択する場合に注意すべきCT所見について述べる.1.DCRかNLDIか冒頭で述べたように,非炎症性の涙道閉塞・狭窄の治療はDCRとNLDIから選択される.筆者は涙道内視鏡所見のほか,必要に応じてCTの結果も考慮しながら治療選択を行って治療成績向上を狙っている.筆者の基本姿勢は,簡単にすむNLDIを優先しながらも,リスクを抱える症例は積極的にDCR適応とし,NLDIの低侵襲性と有効性,安全性を損なわないことである.そのためには,安易にNLDIが低侵襲と思い込むのではなく,鼻涙管にモノを差し込む操作が涙道にとっては侵襲の高い手技となるような解剖学的リスク要因の存在を知っておく必要がある.以下,CTで診断できる4つのリスク要因について述べる.鼻涙管鼻涙管ab図3白人種とアジア人種の顔面構造a:白人種(ドイツ系アメリカ人男性)の矢状断CBCT像.眼窩上縁が発達しているため,鼻涙管にはプローブを入れることが困難.したがってNLDIは侵襲が高いと考えられ,涙小管閉塞でも標準的にDCRが選択されることは合理的である.b:アジア人種(日本人女性)の矢状断CBCT像.顔が平面的なため,鼻涙管へプローブが無理なく挿入できる.低侵襲NLDIが可能であるので,鼻涙管閉塞でも涙.炎がなければNLDIが第一選択となり得る.1676あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(44)2.顔面の構造NLDIを施行する場合,顔面の骨構造が手術のしやすさに大きな影響をもつ.白人種では,前頭同が発達して眼窩上縁が“ひさし”のように突出している(図3a).この構造では,涙.まで差し込むプローブの角度と鼻涙管の傾斜角度が大きく違っており(anteriortype16)の極端な例),涙道内視鏡やチューブの誘導プローブが鼻涙管を進む際に涙道粘膜を傷害する.これは欧米で,鼻涙管に異常のない涙小管閉塞症においてさえも,鼻涙管内の手術操作を避けてDCRを優先する考え方の根拠と推察される.また,白人種でも,眼窩上縁が発達してくる前の小児期であれば,プローブ挿入角度と鼻涙管傾斜角度が近いため,プローブ挿入における鼻涙管粘膜障害のリスクは最小限と考えられる.そのため,白人種でも小児に対してはプロービングやNLDIの実績が多数あるのであろう.一方アジア人種は,成人でも眼窩上縁が発達していない(図3b).このため,白人種の幼児期と同様に涙点から鼻涙管へのアクセスが良好かつ安全であり,日本を含む東アジア諸国においてはNLDIの人気が高い.しかし,日本人でも,少数ではあるが白人型の顔面構造がみられることがある.筆者はその場合には,NLDIは避けてDCRを選択している.このほか,骨鼻涙管が途中でくの字型に後方屈曲する鼻涙管閉塞でも,NLDIでは仮道留置となる可能性が高いと判断してDCRを選択している.鼻涙管閉塞では,仮に涙道内視鏡を使用しても,いったんSEPやDEPで線維組織内に潜り込むとどの方向で仮道が避けられるのかは判断不可能である.内視鏡が組織内を進むうちに鼻涙管内に残存する開存部分に出合う場合は運が良い.しかし,しばしば仮道に潜り込んで広範型鼻涙管閉塞と誤診したり,骨鼻涙管の壁に行き当って「硬い閉塞」と感じたり,あるいは骨鼻涙管壁に沿って鼻腔に導かれたりする.線維組織内での内視鏡操作には限界があり,無理な治療で解剖学的リスクを負うとNLDIの低侵襲性と有効性を損なう.あらかじめ骨鼻涙管の走行を理解することで,そのリスクを避けることができる.涙小管閉塞では,涙.と鼻涙管にはまったく異常がないか限局性狭窄のみの症例(通常鼻涙管型涙小管(45)閉塞)の方が多い.涙道内視鏡検査でそれが確認できれば,骨鼻涙管の傾斜や屈曲にかかわらず仮道留置を避けることは簡単であるので,CT所見に関係なくNLDIを第一選択に考える.3.骨鼻涙管の太さ解剖研究では,骨鼻涙管の内径は部位によって均一ではないが,眼窩における入口部でおおむね6mm程度とされる17).多数のCTをみた臨床的な経験からは,日本人流涙患者の場合はおおむね4.5mm程度の印象である.稀にほぼ全長にわたって内径の極端に小さい骨鼻涙管をもつ症例があり,この場合はNLDIの適応から除外したほうが無難と考えている.萩野らは2014年の日本涙道・涙液学会総会において,内径2mmにも満たない骨鼻涙管の鼻涙管閉塞症でNLDIを試みたところ,症状が改善せず後日DCRを施行したと報告した(フォーサム2014東京,プログラム・講演抄録集p139).鼻涙管拡張治療が不成功であった患者群の骨鼻涙管径は,成功例の患者群のそれより小さかったとの報告もある18).骨鼻涙管の内径はNLDIの有効性を担保するよい指標になる可能性があるので,今後CBCTを用いた鼻涙管径の研究が進むことを期待している.4.涙.結石涙.炎の場合は,鼻涙管の開存性にかかわらず正しい治療法はDCRである.DCRであれば,涙.結石の有無は問題ではない.しかし,実際の臨床では,DCR紹介病院がない地域や,患者側の事情でNLDIに頼らざるを得ない場合がある.このとき,少なくとも涙.結石や異物(涙点プラグ,停留チューブ)を伴う涙.炎はNLDIの禁忌であり,これを除外する必要がある.チューブ挿入の際に涙.結石などを仮道に押し込めば,海外の論文で散見されるような術後の急性炎症を生じる可能性があり,NLDIの安全性を損なう.涙.結石の診断には涙道内視鏡検査が最適であるが,涙道内視鏡がない場合,やむを得ず涙.炎にNLDIを検討する際には必ずCT-DCGを施行すべきである(図4,5).涙.炎のない症例でも涙.結石は存在する.図6に示したように,筆者の最近約1年の術前涙道内視鏡検査のあたらしい眼科Vol.32,No.12,20151677abcabc図4右涙.結石症のCBCT.DCG矢状断(a),冠状断(b),エアーバブル(→),結石(→),水平断(c)のそれぞれで右涙.に結石による充盈欠損が見られる.造影剤はイオパミロン370の5倍希釈液を使用した.39%4%7%12%6%涙小管閉塞・狭窄涙小管炎涙道内の結石機能性流涙涙.腫瘍涙.不明その他鼻涙管の閉塞・狭窄1例のみN=227図6涙道内視鏡検査の結果対象から涙.炎症例は除外した.涙小管炎と合わせて,涙道内の結石を取り除く必要のある症例は11%存在した.涙.結石涙.壁26%6%図5涙.結石症の涙道内視鏡所見図4に示した症例の涙道内視鏡写真.内視鏡視野からはみ出す大きさの結石が見える.aab図7左総涙小管偏位のCBCT.DCG70歳,女性.3年前から左の流涙.涙洗では通水なく上下交通あり.膿の逆流なし.涙道内視鏡診断はディンプルのない総涙小管閉塞であったが,CBCT-DCGでは鼻涙管狭窄であった.a:前顎断.左の上下涙小管と涙.鼻涙管も造影されている.b:矢状断.涙.・鼻涙管は総涙小管よりも前方に造影されている.c:水平断の拡大.左の総涙小管が前方へ90°向きを変えて走行するのが見える.涙道内視鏡では正面しか見えないので,前方への屈曲はわからなかった.

成人の炎症性涙道疾患 慢性涙囊炎-レーザー涙嚢鼻腔吻合術

2015年12月31日 木曜日

成人の炎症性涙道疾患慢性涙.炎─レーザー涙.鼻腔吻合術InflammatoryLacrimalDisordersinAdultsChronicDacryocystitis─TranscanalicularLaser-assistedDacryocystorhinostomy宮久保純子*Iレーザー涙.鼻腔吻合術わが国で行われているレーザー涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)には,経涙小管レーザーDCRとDCR下鼻道法がある.II経涙小管レーザー涙.鼻腔吻合術特発性鼻涙管閉塞あるいは慢性涙.炎の根治手術として,涙.と鼻腔に吻合孔を作製する涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)が行われている.その吻合孔の作製を,涙小管から挿入したレーザーを涙.から鼻腔に向けて照射することで行う術式を,経涙小管レーザー涙.鼻腔吻合術(transcanalicularlaser-assisteddacryocystorhinostomy:TCL-DCR)(図1)とよぶ.皮膚を切開して行うDCR鼻外法や,鼻腔から吻合孔を作製するDCR鼻内法は,涙.や鼻粘膜からの多量の出血や骨窓作製時のドリルやノミの振動など侵襲が大きい.TCL-DCRは,低侵襲手術であり,出血も少ない.従来のDCRと比較して長期手術成績が悪かったが,近年,半導体レーザーやMMCR(MitomycinC:MMC)の使用などにより,徐々に手術成績は改善してきている.わが国のTCL-DCRの報告は少なく1,2),臨床報告は宮久保らの報告3)のみである.1.半導体レーザーわが国で使用可能な半導体レーザーは波長810nmの黄色は半導体レーザー黄色は半導体レーザーや高周波メス青は涙道内視鏡やブジー図1経涙小管レーザーDCR(左)とDCR下鼻道法(左)2機種と,波長980nmの1機種がある(図2).波長810nmのものは,最大出力5Wの「オサダライトサージスクエア5R」と最大出力30Wの「ユニサージ30R」(ともにオサダメディカル)の半導体レーザーである.810nm波長は水への吸収はやや悪いが,メラニンへの吸収は良好で,軟組織の切開にすぐれている.耳鼻咽喉科領域や産婦人科領域の生体軟組織の切開,止血,凝固および蒸散などで医療機器としての承諾を得ているレーザーである.眼科用に,小さく扱いやすい専用*SumikoMiyakubo:宮久保眼科〔別刷請求先〕宮久保純子:〒371-0044前橋市荒牧町2-3-15宮久保眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(33)1665オサダライトサージスクエア5R本体(オサダメディカル)波長810nm,出力5Wで使用図2半導体レーザーEVOLVER本体(biolotec社製)波長980nm,出力8Wで使用abc図3半導体レーザーのファイバーa:オサダライトサージスクエア5Rのホルダb:EVOLVERの金属カニューラとプローブc:レーザーファイバーがホルダや金属カニューラの先端から5mm出ていることが重要である(→).ファイバーの先端が折れたり,固定が緩んでファイバーがホルダや金属カニューラの中に入ると,照射中金属が高温になり,涙小管を障害する.のホルダーがついている.「ライトサージスクエア5R」のほうは比較的安価であるが,出力が5Wと弱く,骨に当たったときにファイバーの先端が専用のホルダーの出口で折れることがあるので注意が必要である.後者は発売されたばかりで筆者は使用経験がないが,出力が大きく期待できる.波長980nmのものは,「EVOLVER」(biolitec社)である.980nm波長の特性から水と酸化ヘモグロビンへの吸収がバランスよく,粘膜を炭化させずに凝固,止血が可能で,最大出力15W(DCRは8Wで使用)と高出力のため骨の蒸散も容易で,先端が折れることもない.ただし高価で,手に入りにくい欠点がある.「オサダライトサージスクエア5R」はレーザーファイバーを専用の金属製のホルダーに通し使用する(図3).「EVOLVER」はレーザーファイバーを専用のプローブと金属カニューラに通して使用する.いずれも,ファイバーの先端をホルダーあるいはカューラから5mmほど出して固定する(それぞれ,ファイバーの先端が動かないように固定できる)(図3).術中にレーザーファイバーの先端が折れたり,固定が緩むなどして,ファイバーの先端が金属製のホルダーや金属カニューラの中に入った状態で照射すると,金属が高温になり周囲組織を損傷する.常にファイバー先端に留意することが重要である.2.適応涙小管閉塞がない鼻涙管閉塞例と慢性涙.炎症例に対し,涙道内視鏡を閉塞部まで挿入して観察した涙道内視鏡と鼻内視鏡所見を基に適応を決める.また,鼻腔にレーザーや鼻内視鏡を挿入するスペースがある症例がよい.1666あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(34)abcabc図4TCL.DCRの手術適応a:涙.と鼻腔の間の骨が厚い場合は,TCL-DCRの適応ではない.b:涙.下部.鼻涙管上部と鼻腔の間の骨が薄い症例は,好適応である.c:前篩骨洞が前方に張り出し,涙.下部.鼻涙管上部と鼻腔の間にある症例は骨が薄く,好適応である.図5TCL.DCRの手術適応右の鼻内視鏡写真:涙小管閉塞がなく,涙.内に挿入した涙道内視鏡の光源が中鼻甲介の下方,Maxillaryline(点線)の後方にピンポイントに見え,鼻腔の広い鼻涙管閉塞,とくに慢性涙.炎症例が最適応である.右上の映像は涙道内視鏡の閉塞部の映像.abab図6TCL.DCRの手術適応左の鼻内視鏡写真.a:DCR鼻外法後閉鎖した吻合孔(.).b:TCL-DCRにより広げた吻合孔.吻合孔周囲に骨がないため,レーザーで容易に広げることができる.血管収縮薬をしみこませたガーゼを中鼻道に挿入して鼻粘膜麻酔を行った後,鼻粘膜に麻酔を注射する.半導体レーザーの先端を正しく鼻涙管閉塞部の直上に入れる.そのために,18ゲージ(G)のエラスター針外筒(長さ約3cm)をシースとして使用し,シースを装着した涙道内視鏡を涙道の閉塞部まで正しく挿入する.その後,シースを残したまま涙道内視鏡を抜き,レーザーファイバーをシースの中へ挿入するとよい.レーザー照射で吻合孔を作製するが,レーザーの光が鼻腔側からピンポイントに見える位置で照射して,まずレーザーの先端を鼻腔内に出す(図7a).その後,レーザーの先端を涙.の中まで戻さずに,先に周囲鼻粘膜を取り除き(図7b),できるだけ視野を確保してから骨を照射し(図7c),最後に涙道を照射する(図7d).レーザーの先端が見えない状態で盲目的に照射すると,涙道耳側壁も照射し涙道全体や眼窩内を損傷したり,熱がこもり周囲組織を損傷する可能性がある.鼻粘膜を蒸散するとき,鼻粘膜はほとんど出血なく溶けるように蒸散する(図7b).薄い骨を照射するときは,骨が強く光り,灰色の色調になるのを観察しながら,また骨を押す硬い感触を確認しながら骨窓を広げる(図7c).ときに,鼻粘膜を除去した後,前篩骨洞が出ることがある(図4c,8).前篩骨洞の粘膜は薄く,前篩骨洞と涙道の間に薄い骨があるのみで,骨窓は容易に広げられる.涙.あるいは鼻涙管の外壁が現れたら,レーザーファイバーを少し引き抜き,方向を変えて涙..鼻涙管に入れなおして(図7d),涙道を縦に焼き広げる.常に,涙道の耳側壁に熱が伝わらないように,レーザーの方向を鼻側に向ける.また,レーザーを照射中に引き抜きすぎると,総涙小管を焼いてしまうので十分に気を付ける.吻合孔が開いた後,綿球にしみこませたMMCRを吻合孔周囲に塗布し,3.5分前後して生理食塩水で洗う.生理食塩水は吸引管で吸引する.涙管チューブを2本留置し,デカドロン0.3mlを吻合孔周囲に注射し,手術を終了する.終了時,ほぼ止血しているので鼻ガーゼ留置は不要である.4.術後処置涙管チューブは約6カ月で抜去する.その間,1週間.1カ月ごとに涙管洗浄と鼻内視鏡による吻合孔の観察を行う.とくに,手術直後は分泌物が多く,涙管チューブに多量の分泌物が付着するので,定期的に鼻内視鏡検査を行い,汚れを取り除く.術後の生活は,手術翌日から洗顔,洗髪が可能で,ほぼ普通の生活ができる.手術直後は,マスク着用を勧めている.1668あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(36)abcdabcd図7TCL.DCRの手術方法①右の鼻内視鏡写真.a:鼻涙管閉塞部直上まで正しく挿入した半導体レーザーを照射し,ファイバー先端を鼻腔内に出す.*は中鼻甲介.光はレーザーの先端.b:鼻粘膜にレーザーを照射して,吻合孔に相当する鼻粘膜を十分に焼き広げる.鼻粘膜は出血することなく,溶けるように蒸散する(.).白矢印は中鼻甲介を圧排している吸引管.c:鼻涙管の鼻側壁の紙状の薄い骨を蒸散.骨は硬い感触で,照射すると灰白色となる(.).d:骨を除去し骨窓(点線)を作製後,レーザーファイバーを少し引き,鼻涙管の中に入れなおす..の光は鼻涙管内のレーザーの光源.鼻涙管の中からレーザーを外に向かって照射して切り開く.ファイバー先端を鼻腔に出し,鼻粘膜を焼き広げてから骨を照射する順に骨窓を作製することで,盲目的操作による周囲組織の損傷を防ぐ.総涙小管の損傷は重大な合併症である.図8TCL.DCRの手術方法②左の鼻内視鏡写真:鼻粘膜(.)を焼き広げた後,広い前篩骨洞が出た症例.光沢のある前篩骨洞の耳側壁粘膜が見える(*).骨が薄く,好適応である.*5.まとめTCL-DCRは,侵襲の少ない術式で,術中の出血が少なく,抗凝固薬使用例でも手術可能で,術後涙管チューブ挿入術とほぼ同じ経過で社会復帰ができる利点がある.一方,手術適応が狭く吻合孔が安定するのに時間がかかり,使用可能な半導体レーザーが限られているという欠点がある.安易に行うと,涙小管閉塞という重篤な合併症を生じる危険性がある.骨が厚いときは,周囲組織の損傷を起す可能性があるので,無理せず他のDCRを行う.今後,手術方法を改良することで,手術適応を広げ,手術成績を上げられるか検討の余地があり,わが国でも低侵襲の有用なDCRの一方法となることが期待できる.IIIDCR下鼻道法DCR下鼻道法(inferiormeataldacryorhinotomy)は,鼻涙管開口部附近の鼻涙管閉塞症例で,鼻内視鏡で観察しながら,下鼻道外側壁にある鼻涙管下鼻道部の粘膜と鼻粘膜を切って,閉塞を除去する方法である(図1).鼻涙管下方の骨性鼻涙管を出て下鼻道外側壁を前方に向かっている部位を鼻涙管下鼻道部とよび,多くはスリット状の形態の下部開口となる(図9).鼻涙管下鼻道部から下部開口附近のみ閉塞している鼻涙管閉塞では,涙.から鼻涙管上部にかけ吻合孔を作製する従来のDCRでは,吻合孔の下方に鼻涙管が盲管として残り,膿が溜まる「ため池症候群」を生じることがある.このことから,下部開口周囲の鼻涙管下鼻道部閉塞症例ではDCR下鼻道法が適応となる.DCR下鼻道法手術時,下鼻道に鼻内視鏡と吸引管,半導体レーザーや高周波メスを挿入する必要があり,下鼻道がある程度広いことが必要である.使用器具としては,半導体レーザー(ライトサージ3000V,オサダメディカル)や高周波メス(R-7L,エルマン)4)などを使用する.1.手術方法術前に,滑車下神経ブロック,涙道内麻酔,麻酔薬と血管収縮薬をしみこませたガーゼを下鼻道あるいは下鼻甲介付け根あたりに挿入して鼻粘膜麻酔を行う.さらに1670あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015麻酔薬と血管収縮薬をしみこませた細い綿棒を1.2本下鼻道に挿入した後,下鼻道外側壁の鼻粘膜に麻酔の注射を行う.シースを使用するなどして,涙道内視鏡を正しく鼻涙管下鼻道部の閉塞部まで挿入する.半導体レーザーを使用する場合,涙道内視鏡の先端で鼻粘膜をテント状に張り,開口部周囲の鼻粘膜に半導体レーザーを照射して閉塞した鼻涙管を開放する.半導体レーザーでは鼻涙管を線状に切ることがむずかしく,下部開口から鼻涙管下部周囲を照射して粘膜を除去するように行う.このとき,涙道内視鏡の先端を損傷しないように注意する.そのために,涙道内視鏡を閉塞部より進めて下鼻道に突き抜けさせ,レーザーを涙道内視鏡の先端に当てないよう照射する(図10).または,麻酔後,シースを残して涙道内視鏡を抜き,代わりに07のブジー(先端を涙道内視鏡と同様に曲げた)をシース内に挿入して,粘膜を焼灼する.高周波メスを使用する場合は,閉塞部の直下の粘膜を線状に約2.4mm切開する4).涙管チューブを1ないし2本挿入して,手術を終了する.鼻ガーゼ留置は不要である.2.術後処置術後は3.4週間ごとに涙管洗浄を行い,1.2カ月後にチューブを抜去する.半導体レーザーを使用した場合,照射部に壊死した粘膜や分泌物がつくことがあり,鼻内視鏡で観察しながら除去する.3.まとめDCR下鼻道法は,DCR鼻外法や鼻内法のような骨を削る操作がなく,出血が少ない低侵襲な手術で,手術翌日から涙管チューブ挿入術と同等の社会生活ができる利点がある.一方,狭い下鼻道での操作はやりにくく,出血すると吸引しても視認性が悪く,広く開放できないと再閉塞するなどの欠点がある.しかし,利点と手術目的の合理性を考慮すると,鼻涙管下鼻道部から下部開口のみの鼻涙管閉塞症例の第一選択の治療はDCR下鼻道法といえる.(38)**図9鼻涙管下鼻道部左の鼻内視鏡写真:鼻涙管下鼻道部は下鼻道外側壁を前方に走り(.),下鼻道に開口する..は下鼻道,*は下鼻甲介.**ab図10DCR下鼻道法手術右下鼻道の鼻内視鏡写真.a:半導体レーザーを照射する際,涙道内視鏡の先端を傷つけないように注意する.涙道内視鏡(.)を下鼻道まで突き抜けさせて,先端にレーザー(*)を当てないようにしながら照射して鼻涙管を開放する.b:下部開口が開放され,中の膿が流れ出た.出血は少ない.文献30:207-209,20133)宮久保純子,岩崎明美,森寺威之:経涙小管レーザー涙.1)栗橋克昭:DCR涙小管法(中鼻道法).涙.鼻腔吻合術と眼鼻腔吻合術.あたらしい眼科30:1289-1293,2013瞼下垂手術.I涙.鼻腔吻合術,p50-53,メデイカル葵出4)佐々木次壽:Q7涙.鼻腔吻合術下鼻道法について教えてく版,2008ださい.あたらしい眼科30:203-206,20132)岩崎明美,森寺威之,宮久保純子:Q8レーザーを用いた涙.鼻腔吻合術について教えてください.あたらしい眼科(39)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151671

成人の炎症性涙道疾患 慢性涙囊炎-涙囊鼻腔吻合術 鼻内法

2015年12月31日 木曜日

成人の炎症性涙道疾患慢性涙.炎─涙.鼻腔吻合術鼻内法InflammatoryLacrimalDisordersinAdultsChronicDacryocystitis─EndoscopicEndonasalDacryocystorhinostomy鶴丸修士*鈴木亨**I鼻内法総論はじめに涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)とその応用術式(conjunctivodacryocystorhinostomy:CDCR)は,涙道閉塞のみならず鼻涙管狭窄や機能性流涙などを含む幅広い涙道疾患に適応があり,涙道治療のための標準術式である.バルーンによる鼻涙管拡張や鼻涙管チューブ留置などのDCR代替治療法でも短期経過がよい症例は多いが,それらの治療法では長期での治療効果の漸減が宿命である.これに対し,DCRの治療効果には漸減がない.また,涙.に化膿性分泌物貯留のみられる病型の涙道閉塞(涙.炎)に対して著効を示すという点で他の代替治療法とは一線を画する.このDCRには顔面皮膚からアプローチする鼻外法と,鼻内視鏡を用いて鼻内からアプローチする鼻内法がある.解剖の理解のしやすさや術中止血作業の容易さから鼻外法が基本であるが,現在国内外で話題の多いのは鼻内法である.1.電動ドリルDCRとマニュアルDCR鼻内法は1980年代後半に鼻内視鏡が導入されて以来,本格的な発展が始まった.当初は術後成績にばらつきが多く,1990年代までは習得のむずかしい手術とされていた.しかし,2000年代に入り,解剖知識の深まりと手術デバイスの革命が鼻内法を変えた.WormaldとTsirbasは電動ドリルを用いて中鼻甲介の付け根部分よりさらに上方に削り上がり,涙.の上の方(fundus)まで探り出した.そして涙.全体を切開すると涙.粘膜がまるで花弁のように展開し,内腔が完全に露出することを示した(marsupialization)1).これによって鼻内法の成績は著しく向上し安定した.2000年以前は,涙.はlacrimalridgeの裏にあると考えられており,実際はそれより上にさらに涙.の続きがあるという認識がないまま手術を終わらせていたのであろう.つまり,解剖学的理解が十分でなかったため開かれない涙.内腔が残り,結果として成績が安定しなかったと考えられる.しかし,この電動ドリルDCRは煩雑な手術準備と高額なディスポーザル部品によるランニングコストで術者を悩ませる.これに対し,コストをかけず簡素な道具で,しかし同様の手術効果を実現した鼻内法もある.Codereらは電動ドリルを用いず,利き手の握力で操るケリソンロンジャーだけで上方へ削り上がってmarsupializationを完成させ,電動ドリルDCRと同様の成績を示した2).彼の功績によって,手術成績に貢献する要因はデバイスではなく,涙.がどこにあるのか,どこまで続いているのかという解剖理解であったことが明らかになった.このマニュアルDCR(電動ドリルに頼らない手動のDCR)は医療コストに制限のある国でも応用可能であるため,電動ドリルDCRよりも普遍性がある.この点でマニュアルDCRはアメリカ眼科学会でも評価され,毎年のスキルトランスファーにはアジア・欧米各国から候補者が集まる.*NaoshiTsurumaru:公立八女総合病院眼科**ToruSuzuki:鈴木眼科クリニック〔別刷請求先〕鶴丸修士:〒834-0034福岡県八女市高塚540-2公立八女総合病院眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(23)1655白人1日本人症例2日本人症例1日本人症例3図1涙.窩における上顎骨の厚み白人と日本人の頭部CT水平断の比較.左上は白人種の例(造影剤なし),右上と下段は日本人の例.いずれも涙.窩における中鼻甲介起始部レベルでの切片を示す.日本人では上顎骨が厚い.日本人症例3が最大であり,厚さ7mmと計測された.2.アジアにおける鼻内法われわれアジアの医師は,マニュアルDCRには落とし穴があることを知らなければならない.Codereはカナダを拠点としておもに白人種の患者にこの手術を行って業績を上げた.アジアでは少し工夫が必要になる.Wooらは,CTを用いたDCR患者の上顎骨の研究で,アジア人種ではその厚みが大きいことを示した3).実際,われわれの臨床でもとくに中鼻甲介の付け根付近では上顎骨が厚い(図1).そのため白人種の手術のようにケリソンロンジャーだけで涙.fundusが見えるまで削り上がることには限界がある.適宜,ノミを利用しながら削り上がることが必要になるし,たとえノミを使用したとしても十分な開窓はできない場合もある.また,厚い部分を削って広く露出した上顎骨には肉芽も生じる.したがって,これを抑制する工夫も必要になる.II鼻内法各論1.適応と禁忌もっともよい適応は,よく拡張した涙.をもつ慢性涙1656あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015.炎である.急性涙.炎の場合,筆者らはまず抗菌薬点滴治療で消炎を図ったうえで手術を行っている.大きな涙.結石があれば,術後はすべての症例でリノストミーが巨大に仕上がるので,初心者には絶好の機会となる.涙.が小さい場合や涙小管閉塞では難易度が高い.再建が不可能な重症涙小管閉塞ではJonestubeの使用が必須となる(CDCR).禁忌としては,肺線維症患者,脳梗塞や心筋梗塞など重症循環器疾患の回復直後の患者,INRが2.5以上のワーファリン使用患者などであるが,いずれも鼻内法特有というものではない.小児のDCRでは,3.4歳以上で鼻内法の報告が多数ある.2.鼻内法の利点と欠点利点は,術者の疲労が少なく,手術時間が短く,出血量が少ない(通常10ml以下)ことである.皮膚に瘢痕を残さない点を利点にあげる場合もあるが,鼻外法でも瘢痕が問題になることは稀である.欠点は,患者側の疼痛や恐怖感は強いので全身麻酔が必要な点である.3.術前検査a.涙.炎診断のための簡単な検査視診と触診で涙.部がelastichardに膨隆し,内側眼瞼腱(medialcanthustendon:MCT)が上方へ押し上げられていれば涙.炎と診断できるので,DCRの適応である(図2).この場合,涙小管閉塞を合併しているが,膨隆が始まって後数カ月程度であれば涙小管はまだ器質閉塞には至っておらず,簡単なブジー操作で術中に,あるいは何もしなくても術後に閉塞は解除される.しかし,1年を超える症例ではすでに硬い器質的閉塞となっていることが多く,涙小管閉塞に対する専門的手技が必要になる.したがって,涙.の膨隆所見があれば早く手術したほうがよい.通常,涙.炎患者は涙.を押すと粘液が逆流することを知っており,いつから逆流しなくなったか問診することで涙小管の状態を予想することができる.ただし,涙.炎と鑑別すべき眼瞼腫脹もあるので注意が必要である.腫れている部位が内眼角から眼瞼全体に及ぶ場合(図3)や下眼瞼に限局する場合(図4)は,他疾患である.涙.炎のようなMCTの偏位がないことが,(24)他疾患を示唆する所見である.また,膨隆部位がstonelikehardであったりMCTより上方であったりする場合は,重篤な副鼻腔疾患のことがあり,必ず耳鼻咽喉科に相談する.視診で膨隆がない場合,繰り返す結膜炎や慢性の流涙症状があれば涙.の圧迫試験を行う(図5).圧迫で涙.内に貯留した粘液の逆流をはっきりと認めれば涙.炎で,DCRの適応である.また,圧迫試験が陰性でも涙洗では膿の逆流を認める場合があり,これもDCR適応である.このような症例の中には造影や涙洗で鼻涙管の開存を証明する場合もあるが,DCR適応として問題ない.これらの簡単な検査で,DCRの適応判断が可能である.しかし,DCRをもし鼻内法で行った場合にその利点を生かせるかどうか考えるには,さらに専門的な検査が必要になる.上下段とも右の慢性涙.炎症例で圧迫しても逆流なし.触診では,上段はelastichard,下段はelastic.ともに骨のようなゴツゴツ感(stonelikehard)はない.図2涙.の膨隆所見LacrimalsacCyst図3副鼻腔炎の症例流涙症で眼瞼が腫れてきたので涙.炎を疑われ,紹介された.左眼瞼において,涙.部に限局しない眼瞼全体の腫脹があり,MCT偏位はみられない.涙洗では涙小管閉塞Grade1と診断したが,CTで前篩骨洞の粘膜肥厚所見が認めた.抗菌薬内服で腫脹は消失し,涙道も自然に再開通した.(25)図4涙.憩室炎の症例慢性涙.炎に対して鼻涙管チューブ留置治療を行ったが再発し紹介された.左眼瞼において下眼瞼を中心に腫脹がありMCT偏位はみられない.涙道内視鏡検査では異常がみられず,MRI(九州大学高木健一先生のご厚意による)で涙.に接する.胞がみられた..胞を涙.ごと摘出し治癒した.涙道は涙小管と鼻粘膜を吻合して一期的に再建した.あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151657図5涙.の圧迫試験慢性涙.炎において涙小管に異常がない場合,涙.部を検者の指で圧迫すると粘液逆流がみられる.これを細隙灯で確かめるのがmicro-refluxtest(MRT).ただし,下部鼻涙管閉塞症においてはこの試験で逆流がみられない場合がある.また,総涙小管閉塞でマイエル洞が拡張している場合,総涙小管内に粘液が貯留することがあるので,わずかな逆流では涙.炎とは確定診断できない.涙小管炎でも少量の混濁の強い膿性逆流を認める.(あたらしい眼科32:1294,2015,図1より引用転載)図7中鼻甲介の大きい症例右の中鼻道内視鏡写真中鼻甲介は大きなaircellを含んでおり,中鼻道一杯に広がっている.DCRのためには,すべて切除する必要はない.縦に鼻粘膜切開を入れて外側半分のaircellを除去すれば,術野を確保できる.図6さまざまな鼻腔の広さすべて右の中鼻道内視鏡写真.鼻腔の広い順番は,左上,右上,左下,右下.上段は鼻内法適応.下段は鼻外法適応.鼻中隔形成術を併用すれば下段でも鼻内法が可能である.海外ではDCRは一般眼科の仕事ではなく,眼球疾患を取り扱わない眼形成手術専門領域の仕事であり,鼻中隔形成併用DCRは珍しくない.図8中鼻甲介の高さいずれも右の中鼻道内視鏡写真.左:中鼻甲介の付け根が天蓋に近い.内総涙点から涙.に水平に差し込んだ涙道内視鏡の照明光が中鼻甲介より低い位置に透けてみえる.この涙.と中鼻甲介の位置関係はlowsacpositionともよばれる.初心者には鼻内法の絶好の機会となる.右:中鼻甲介の付け根が天蓋から遠い(低い).Highsacpossessionともよばれる.Maxillarylineを開窓しても鼻涙管しかない.涙.は中鼻甲介より上方にある.涙道内視鏡がなくても,鼻内視鏡のみで判断可能.図9CT.涙.造影左:左涙.の大きい症例.右:右涙.の小さい症例.いずれもイオパミロン370を生食で5倍希釈して造影.左の症例はEDCRを選択した.右の症例は涙.が拡張していないのでmarsupializationがむずかしく,しかも患者が高齢で全身疾患もあるため,まずは鼻涙管チューブ留置治療で様子をみることにした.図10ケリソンロンジャーとノミの使い方左:ケリソンロンジャーの使い方.内視鏡は上,道具が下.これが鼻内視鏡下手術の基本である.こうすると内視鏡先端レンズ面の血液汚れが少なくなるので,出し入れの必要が減って手術が早くなる.ロンジャーは利き手で操作するので,左手効きの術者は患者の左側に立つ.右:ノミの使い方.ノミを助手が叩くので,変則的に内視鏡が下でノミが上.内視鏡の血液汚れはやむを得ない.図11上顎骨露出面の肉芽形成左上:上顎骨の露出面が残ったまま手術を終了.右上:術後2週間.右下:術後1カ月でまだ鼻粘膜が生えていない.左下:術後2カ月で同部位に肉芽形成がみられた.トリアムシノロン注射やマイトマイシンC塗布などで治療すれば成績には影響しないが,通院の手間がかかって鼻内法の利点が損なわれる.図12長いチューブの使い方上段:涙小管からのチューブを鼻孔の外へ引き出すことで涙.前弁が前方にたくし上げられている.下段:そのままガーゼパッキングを行うことで,ガーゼによる術者の意図しない前弁押し込みが防止できる.余ったチューブは適宜はさみで切断する(左下).図13Marsupializationを確実にする粘膜弁縫合上段:7-0青ナイロン糸(7mm,3/8circle,松田医科器械)を用いて鼻粘膜と涙.前弁を縫合する.後弁同士は,並べて置くだけで自己血液中のフィブリンで互いに張りつく.下段:術後1カ月.骨露出部分がなく,リノストミーが完成した.このようにできあがると涙.炎が完治し,狭窄も生じないので術後治療を終了できる.あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151663(31)位を術者自ら直接圧迫する.この圧迫法で数分から十数分で止血する.b.術後鼻出血鼻内外法にかかわらず,術後10日目前後に突然に鼻出血を生じる場合がある.筆者らの経験では1,000例中3.4例の頻度である.その場合には夜中でもすぐに医療機関に連絡するよう退院時に指導しておく.患者の連絡があれば,軽いうつ向きの姿勢をとって鼻翼を圧迫させ,口に溜まる血液は吐き出させる.また,同時に血管収縮目的で,創部付近を冷却させる.これで15分様子をみて止血しなければ,救急受診させてガーゼパッキングを行う.手術椅子に患者を座らせ,頭がヘッドレストで抑えられた状態でガーゼを押し込むのがコツである.遠方の患者で夜間連絡の場合は,15分の様子見の間にインターネットで地域の夜間診療機関を探し,術者自ら電話で対応をお願いする.アプローチ方法の違いにかかわらず,DCRを施行する場合は,常に緊急連絡を受けることができるよう体制を整えておく必要がある.おわりにDCRは,鼻内法に限らずいかに涙.を展開しきるか(marsupialization)が勝負である.「バイパスを作る」という概念のうちは,結局は鳥の巣箱のようなリノストミーに終わり,DCR代替治療法と似た治療効果減弱に悩むことになる.その先は,DCRの本領を知らないまま,これなら鼻涙管チューブ留置治療でもケッコウイケテルのではないかという逃げの方向に流れ始める(筆者の自己経験).バイパスからmarsupializationへの発想の転換こそ,筆者をDCRに引き戻してくれたアイデアである.また,これこそが世界標準の涙道閉塞治療法を習得する第一歩である.文献1)TsirbasA,WormaldPJ:Endonasaldacryocystorhinosto-mywithmucosalflaps.BrJOphthalmol87:43-47,20032)CodereF,DentonP,CoronaJ:Endonasaldacryocystorhi-nostomy:Amodifiedtechniquewithpreservationofthenasalandlacrimalmucosa.OphthalPlastReconstrSurg26:161-164,20103)WooKI,MeangHS,KimYD:characteristicsofintranasalstructuresforendonasaldacryocystorhinostomyinasians.AJO152:491-498,20114)鈴木亨:涙.鼻腔吻合術鼻内法における最近の術式とラーニングカーブ.眼科手術24:167-175,20115)松山浩子,宮崎知佳:涙.鼻腔吻合術鼻内法の主述成績.眼科手術24:495-498,2011

成人の炎症性涙道疾患 慢性涙囊炎-涙嚢鼻腔吻合術 鼻外法

2015年12月31日 木曜日

成人の炎症性涙道疾患慢性涙.炎─涙.鼻腔吻合術鼻外法InflammatoryLacrimalDisordersinAdultsChronicDacryocystitis─ExternalDacryocystorhinostomy嘉鳥信忠*,**はじめに涙道の外科治療のもっとも基本ともいえる手技が,鼻外法である.その歴史も古く,1904年にTotiにより報告されて以来,100年以上経過しても未だ現役の手術法である.I手術適応鼻外法は,涙小管から涙.までの導涙機能が正常であれば,症例を問わず適応することができる.鼻内法ではややむずかしい,鼻中隔弯曲症を伴うような狭鼻腔などにも対応可能である.しかし,後述のように,篩骨蜂巣が涙.窩の鼻側に及んでいる場合は,鼻腔と蜂巣を誤認しやすく,手術プランニングの際には注意が必要である.II手術プランニング1.涙道内視鏡涙道閉塞している部位や状況を確認するために,涙道内視鏡検査は今や必須であろう.その結果,チューブ留置しても改善は見込まれないと判断される場合,もしくは留置したが後日再閉塞となってしまったなどの場合は手術適応となるわけだが,その閉塞部が出口付近(膜性鼻涙管部)のみである場合は,鼻内法が好適応となる場合もあるため,どの部分が原因となっているかを見きわめることが重要である.また,まれに腫瘍や涙石による閉塞,涙道そのものは問題なくても副鼻腔由来の腫瘍や.胞〈図1〉による外的圧排による閉塞症例も散見されるため,涙道内視鏡検査所見はきわめて重要である.2.画像検査CTやMRIによる画像検査は,可能であれば全例行うほうがよい.涙石,腫瘍や副鼻腔病変の病態鑑別診断に有用であることはいうまでもないが,篩骨蜂巣の張り出しが強い際には,涙.と鼻腔側に介在する篩骨蜂巣の処理(蜂巣を削除するのか,避けて骨窓を作製するのか)などを,あらかじめ検討しておくことができる(図1~4).ときに先天的疾患(顔面裂や口唇口蓋裂)などに合併して,鼻涙管の欠損や骨性閉塞を認める場合もあり,骨窓作製にかなり難渋する場合がある.3.麻酔選択全身麻酔・局所麻酔のいずれの方法でも可能であるが,はじめは全身麻酔で解剖や術式に慣れてから,局所麻酔を行うほうがスマートであろう.III手術1.鼻内処置はじめに鼻内に5,000倍エピネフリンガーゼ,もしくは同液に4%キシロカイン混合したガーゼ(コメガーゼ)を鼻内に充.する.これは止血や麻酔目的であるが,もNobutadaKatori:*聖隷浜松病院眼形成眼窩外科**大浜第一病院形成眼窩外科〔別刷請求先〕嘉鳥信忠:〒430-8558浜松市中区住吉2-12-12聖隷浜松病院眼形成眼窩外科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(15)1647図1篩骨洞粘液.胞mucoceleによる涙道閉塞左:CT,右MRI.図2一般的なCT冠状断像図3鼻中隔肥厚・弯曲・狭鼻腔右鼻腔が狭く,鼻内法ではやや困難な症例.図4高位篩骨蜂巣高位まで篩骨蜂巣があり,粘膜弁作製困難が予測される.4.皮膚切開メスを持つ手の反対側の母指や示指,中指で切開線の両サイドに緊張をもたせるようにしながら,No15メスで真皮までの切開を終えると,皮膚の緊張感がなくなり眼輪筋があらわになる.このとき,止血操作を終えるまでは圧迫している指をそのままにしておくとよい.出血源の血管をバイポーラによって丁寧に凝固止血しておくと,以後の作業が楽になる.5.眼輪筋処理取りかかりは内眥靭帯の上から始めるとわかりやすい.先端が鈍となっているメイヨー剪刃を用いて,眼輪筋を線維に沿って開くようにすると,簡単に内眥靭帯まで達することができる.その層を延長するように下方に向かって眼輪筋を分ければ,難なく骨膜は露出する.眼輪筋の付着部などはずれにくい部分は,バイポーラを用いて焼灼すると,簡単に切離できる.この際,内眼角静脈に遭遇した場合は,鼻側に避けるようにすればよいが,損傷した場合は,バイポーラで確実に止血する.6.創展開中村氏式釣り針フック4.6本を用いて,眼輪筋を左右に展開すると,手を放しても内眥靭帯から鼻涙管直上骨膜まで展開できる.7.骨膜切開内眥靭帯下縁と鼻涙管直上まで,骨膜を前涙.稜に沿うように5mm離れた部位をNo15メスでおおよそ20mmI型切開する(図6).8.骨膜.離先端が鋭になっている骨膜.離子を用いて,できるだけ骨膜を損傷することなく.離し,涙.窩まで到達する.すると涙.窩から涙.に直接流入する小さな血管があるので,これも丁寧に凝固止血ののち切離しておく.涙.窩の底部を涙.全長にわたって前涙.稜まで展開しておくことがポイントである.なぜなら,大きく展開することによって,骨窓作製時にワーキングスペースを広げることになるからである(図7).(17)また,鼻側の骨膜も2.3mm.離展開しておくことも忘れてはいけない.この際,ちょうど骨膜切開線直下に骨溝を形成しながら存在する無名動脈に注目したい.後述の骨窓作製時には,この血管溝まで骨削するので,メルクマールとなるからである.9.骨窓の作製準備筆者は好んで超音波骨削器SONOPETRを用いているが,これを使用する場合,吸引嘴管と接触すると金属屑が出るため,吸引嘴管に合うサイズのネラトンチューブを適当な長さに切って装用し,これを防ぐようにする(図8).もちろん,本機がなくともドリルや,ノミやスタンチェ,ケリソンパンチなどでも十分可能である.ドリルは回転するため,周囲の組織やガーゼの巻き込みに注意し,ノミは一度に深く打ち込み過ぎると頭蓋底などに思わぬ副損傷をきたす可能性があるので留意する.10.骨窓の作製サイズは,上方は内眥靭帯下縁から,鼻側への奥行きは前涙.稜に沿って約5mm(前述の無名動脈まで),下方は鼻涙管入口部と同じ高さまでの約10mmが骨窓の全長となる.深さは涙.窩と同じ高さとなるが,涙.窩底部の骨も削ってしまっても問題ない.SONOPETRを使用する場合は,粘膜にほとんど影響しないため,できるだけ粘膜の表面についている薄く残った骨もきれいに除去できるが,ドリルなどその他の器具を用いる場合は,ある程度のところで鋭匙やスタンチェを用いて丁寧に骨をはずさないと,粘膜がボロボロになってしまうので注意を要する.11.粘膜弁の作製鼻外法の場合,粘膜弁を作製するか否かに関しては諸説ある.作製しても,しなくても結果に変わりはないいう報告1)や前弁だけでよいという報告2)がある一方で,最近,鼻内法において粘膜弁を作製する意義についても見直されている3).筆者は可能な限り粘膜弁を作製し吻合している.なお,縫合糸は,エチコン(ジョンソンアンドジョンソン社)のプロノバ7-0(非吸収糸)を用いている.使用理由は非吸収糸のモノフィラメントであることと,適度な強度をもった小ぶりな針であるため,狭い術野でも取り回しがよいためである.12.2弁法の作製(鼻腔側)まず,鼻腔粘膜側から切開を行う.No.11メスもしくは眼内手術用メスを用いて,涙?窩底部に沿って上方から下方へできるだけ長く大きくかつ一気に切開を行う(図9).鼻腔粘膜は3mmほどの厚みがあり(図10),あまりに薄い場合は篩骨洞粘膜かもしれないので注意する.次に切開した粘膜の上方および下方端を皮膚側に向かって垂直に切り上げる.できるだけ鼻骨の裏側までしっかり切開することで,弁の伸展性が増す.この操作によって,鼻骨側(皮膚側)に茎をもつ矩形の粘膜弁ができる.粘膜弁の先端を,愛護的に把持し挙上すると,はじめに充?したガーゼが確認できるので,この時点で鼻腔内からガーゼを抜去する.13.2弁法の作製(涙?側)次に涙?側の弁作製を行う.はじめに上涙小管よりブジーなどを挿入し,涙?壁をtentingしておくと切開しやすい(図11).涙?側の粘膜弁はその作製位置の自由度が高いので,鼻腔側の弁との距離を感じながら,相応の高さを設定したのち,No.11メスで小切開する.涙?壁が全層で切開されていることを確認したら,残りはスプリング剪刃で涙?を縦切していく.できるだけ大きく切開したほうが望ましい.次に上方と下方端をそれぞれ涙?窩底部に向かって垂直に切り下ろす.この操作によって,涙?後面に茎をもつ粘膜弁が完成する.14.後弁の縫合作製された涙?側粘膜弁(後弁)を鼻腔側粘膜切開部に縫合する.通常7-0ナイロン糸を用いているが,狭い術野のため,針ができるだけ小さいものが使いやすい.涙?粘膜,鼻腔粘膜の順で通糸し,針は一度鼻腔内に落とし込むくらい確実に貫通させてから,針を拾い上げると粘膜断裂を防ぐことができる.通常,上下端の2針程度縫合する(図12).15.チューブ留置涙小管や総涙小管にも閉塞があった場合など,同時にチューブ留置する際には,この時点で挿入留置する.直接目視できるので,留置は容易である.16.シリコーンスポンジ挿入固定吻合部のスペーサーとして,筆者は網膜?離修復術に用いられる505シリコーンスポンジを使用している(図13).この適応に関しても諸説あるが,前弁と後弁部分には粘膜は存在するが,上方と下方には骨が露出した状態になるため,筆者は肉芽や創傷治癒過程に生じる瘢痕収縮などによる吻合部狭窄を少しでも防ぐ目的で使用している(図14).挿入方法は吻合部から鼻内に向けて入れても,鼻腔から吻合部に引き出しても,どちらでもよい.挿入後,シリコーンスポンジの先端部と内眥靭帯下端を,7-0ナイロン糸を用いて脱落防止目的で固定しておく.わずかに掛ける程度でよく,術後1カ月に,鼻内から抜去する際に簡単に切れる程度の固定でよい.また,あまりにきつく固定すると,内総涙点にスポンジの先端部が当たり肉芽を形成する場合があるため,あくまでも吻合部の開存目的であることを忘れないでほしい.17.鼻軟膏ガーゼの充?前弁を縫合する前に鼻軟膏ガーゼを詰める.軟膏ガーゼは耳鼻科手術でよく用いられるもので,20mm×300mm程度のコメガーゼにゲンタシンR軟膏を塗布し,それを折りたたんだものを使用している.キチンを含んだベスキチンFRなどを用いてもよい.術後出血を最小限にするためには重要な工程であるので,鼻内および術野からよく観察して必要かつ十分な充?を行う.この際,前述のシリコーンスポンジやチューブの位置がずれていないかどうかをチェックする.この操作でもっとも大切なことは,詰めたガーゼの枚数を必ず記録することである.3日後にガーゼ抜去する際に枚数確認することはもちろん,不意に脱落した場合も枚数の確認は必ず行うようにする.18.前弁の縫合挙上した鼻腔粘膜弁と涙?切開部を縫合するのは,術野の深い後弁に比べれば容易である.通常7?0ナイロン糸で2?3針縫合する(図15).19.骨膜の縫合最後に,切開?離していた骨膜を,6?0ナイロン糸で3?5針縫合する.以上で,吻合部は完成する(図16).20.皮膚の縫合眼輪筋はそのまま寄せるだけで十分である.皮膚縫合は若年者や皮膚緊張の強いケースには真皮縫合をするが,元来しわの多い高齢者などのケースでは,そのまま縫合してもよい(図17).術後血腫および出血予防目的で圧迫ガーゼを貼付し,終了する.抜糸は1週間後に行う.IV術後処置術後3日目……鼻腔ガーゼ抜去術後1週間……皮膚縫合部抜糸術後1カ月……鼻内よりスポンジガーゼ抜去.このときより涙管通水検査などを行う.術後2カ月……チューブ抜去おわりに鼻外法は涙道手術の基本かつ第一選択にも最終選択にもなり得る手術である.鼻内法だけではわかりにくい解剖学的構造を理解できるのみならず,鼻内法の適応困難症例などにも対応できるため,とくに初心者はまず鼻外法をマスターするところからはじめるのがよい.文献1)TakahashiY:Externaldacryocystorhinostomywithorwithoutdoublemucosalflapanastomoses:comparisonofsurgicaloutcomes.JCraniofacSurg26:1290-1293,20152)DirimB:Comparisonofmodificationsinflapanastomosespatternsandskinincisiontypesforexternaldacryocystorhinostomy:Anterior-onlyflapanastomoseswithWskinincisionversusanteriorandposteriorflapanastomoseswithlinearskinincision.ScientificWorldJournal,20153)KansuL:Comparisonofsurgicaloutcomesofendonasaldacryocystorhinostomywithorwithoutmucosalflaps.AurisNasusLarynx36:555-559,2009参考文献1)佐々木次壽:涙?鼻腔吻合術鼻外法.眼科47:425-430,20052)鈴木亨:後天性涙道閉塞の診断と治療.あたらしい眼科24:579-585,2007図5鼻外法皮膚切開デザイン図6骨膜切開約20mmの弧状線.2本線は内眥靭帯の位置を示す.前涙.稜に沿って約20mmのI字切開.図7骨膜.離図8超音波骨削器SONOPETRで骨窓作製骨膜.離して涙.窩全体を露出する.金属屑飛散予防として吸引嘴管にネラトンチューブを装着している.図9鼻腔粘膜側の切開(骨窓のサイズは長さ10~15mm)図10挙上された鼻腔粘膜弁できるだけ骨窓いっぱいのサイズで,粘膜弁を作製する.約3mmほどの厚みを有する.図11涙.側粘膜の切開図12後弁(涙.側粘膜弁)を鼻腔粘膜側切開断端に縫合ブジー(⇔)を用いて涙.を内腔からtentingし,メスで切開.ナイロン糸が見える.図13シリコーンスポンジの挿入固定スペーサーとしてのシリコーンスポンジを内眥靭帯に軽く固定する.スポンジの上に鼻腔粘膜弁(前弁)が被っている.図15骨膜縫合の準備前弁(鼻腔粘膜弁)と涙.側切開断端を縫合後,前弁縫合したナイロン糸が見える.図142弁法術後1年(鼻内より),中央は内総涙点点線部分はそれぞれ前弁と後弁を示す.⇔は弁のない部分が拘縮していることを示す.粘膜弁の存在が再閉塞や狭窄予防になる.図16骨膜縫合下方の白い部分は内眥靭帯.図17術終了時

成人の炎症性涙道疾患 涙小管炎の診療

2015年12月31日 木曜日

成人の炎症性涙道疾患涙小管炎の診療InflammatoryLacrimalDisordersinAdultsLacrimalCanaliculits植田芳樹*佐々木次壽**はじめに涙道で生じるおもな感染には,涙.炎と涙小管炎がある.涙小管炎の診療でもっとも重要なことは,「疑うこと」である.診断がつけば治療により症状は劇的に改善する.I涙小管炎とは涙小管炎は比較的稀な涙道疾患である.起炎菌は放線菌Actinomycesなどの嫌気性菌であることが多いが,真菌や他の菌も原因となる1).また,涙点プラグ迷入による涙小管炎も報告されている2).通常は片眼性で,中年以降の女性に多く,左右,上下涙小管の差はないとされる.放線菌はグラム陽性の嫌気性菌であり,通常は口腔内常在菌として存在する.涙小管炎は,口腔内の放線菌が鼻腔経由で逆行性に,または唾液などから結膜経由で涙小管内に移行し生じると考えられている3,4).涙小管炎は菌石(菌塊,結石などの言い方もあるが,本稿では菌石で統一する)が存在する症例がほとんどである(図1).菌石は放線菌が構成成分の主体であり,周囲の共生細菌を取り込んで塊となる.そこにカルシウムが沈着し固くなったものもある4).菌石の量はさまざまであるが,想像以上に多くの菌石が拡張した涙小管内に存在することがある.また,多くの場合,涙小管内には肉芽を認め,憩室が存在する(図2).肉芽は慢性炎症によるもの,憩室は菌石が大きくな図1菌石色は淡緑色や淡黄色など症例により異なる.菌石肉芽図2涙小管のシェーマ涙小管内径が5mm程度まで拡張し,さらに憩室内に菌石がはまり込むように存在することがある.り涙小管内壁に潰瘍が生じたものと考えられている4,5).*YoshikiUeta:真生会富山病院アイセンター**TsugihisaSasaki:佐々木眼科〔別刷請求先〕植田芳樹:〒939-0243富山県射水市下若89-10真生会富山病院アイセンター0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(11)1643 II診断涙小管炎の患者は多くの場合,片眼性の流涙,眼脂および充血を主訴に受診する.そのため,初診時に結膜炎と診断され,抗菌薬の点眼で治療されることが多い.点眼で症状は軽度に改善するが治癒しないので,慢性結膜炎として何年も加療されている例もある.抗菌薬の点眼で治らない結膜炎では,涙小管炎を疑うことが重要である.涙点プラグ挿入の既往も問診しておく.診察のポイントは,マクロと細隙灯顕微鏡による結膜・涙点の観察および涙管通水検査(以下通水検査)である.その所見は,瞼結膜の全体的な発赤,充血,小型の乳頭増殖および膿性の眼脂であり(図3),涙点は充図3右上下涙小管炎噴火口様の涙点,膿性眼脂,結膜全体の発赤腫脹を認める.図5涙点よりの肉芽血,拡大,隆起(噴火口様と表現される)し(図4),涙点から肉芽が出ていることもある(図5).涙小管部を圧迫すると,小さい菌石が出てくることもある.霰粒腫の涙小管穿破も同部の眼瞼腫脹を示すが,通水検査と結膜所見で鑑別可能である.上記所見があれば通水検査を施行する.通水検査では多くの例で疎通性と膿や小菌石の逆流を示す.涙小管が拡張しているので,涙管洗浄針を入れると手応えのなさや菌石に針の先端が当たるざらざらした感触を得ることがある.菌石が逆流物として排出される場合があり,涙小管炎と診断できる.疎通性がなく膿性逆流を伴う場合は,むしろ慢性涙.炎を疑う.また,涙小管内の肉芽は易出血性であり,通水検査中の出血も涙小管炎を疑わせる.正常症例で通水検査中に出血を生じることはない.点眼麻酔下の通水検査は上手に行えばほぼ無痛であるが,涙小管炎患者は痛みを訴えることが多い.ab図4右下涙小管炎(a),左上涙小管炎(b)軽症例では涙点近傍だけの発赤,腫脹と涙小管部圧迫での膿逆流を認める.1644あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(12) 図6涙小管鼻側切開図7菌石の圧出涙点拡張針か太いブジーをまな板代わりにして涙小管を切ソープ氏鑷子や綿棒などで涙小管をやさしく絞るように菌開する.石を圧出させる.図8涙小管内腔の確認図9菌石のグラム染色MQARを涙小管内に入れ,血液を吸引しながら菌石を探す.グラム+の糸状の菌体をもつ.Bar:20μm. と挟むようにして涙.側から涙点へと圧出する(図7).鋭匙で掻爬する場合は,涙点に近いほうから菌石を取り出し,菌石を奥に押し入れないようにする.涙小管炎では内腔が拡張しており,菌石の量は予想以上に多いことがあり,大きさもさまざまである.菌石は涙小管垂直部から7mm以内の涙小管水平部に存在しうるので,手の向きで取り残しがないよう注意する.掻爬をやめる目安は,菌石が出なくなり掻爬時のごりごりした手応えがなくなること,涙管洗浄により菌石の逆流を認めなくなることである.涙小管内腔には肉芽組織があり,鋭匙による過剰な掻爬は癒着を生じさせる場合がある.また,肉芽は掻爬により容易に出血するため,強く擦りすぎないよう注意する.涙点から脱出した肉芽は根本で切除するが,涙小管内の肉芽組織は無理に除去する必要はなく,炎症が治まればやがて消退する.最後に菌石の取り残しがないかを確認する.涙小管切開をしている場合は,顕微鏡で涙小管垂直部から水平部までの内腔を観察する(図8).水平部を可及的に観察するには患者の顔を健側に傾け,顕微鏡を反対側に傾け耳側より観察すれば涙点より約7mmまで観察できる.切開した涙小管を鑷子やMQARなどで展開するとよい.小切開で行う場合は,涙道内視鏡で確認するが,憩室内の確認は困難なことおよび涙道内視鏡でも観察の限界がある.菌石が視認される場合や通水検査で菌石の逆流が少しでもあれば,掻爬を追加する.涙点に異常がみられなくても菌石が存在する場合があるので,涙道内視鏡を用いる場合は,対側(上涙小管炎なら下涙小管)涙小管も観察しておくのが望ましい.切開した涙小管の縫合は不要である.止血を確認して終了する.チューブ留置は意見が分かれるが,通常は必要ない.総涙小管閉塞などの涙道閉塞合併例や上下の涙小管炎の場合にはチューブ留置を行い,1.2カ月後に抜去する.必須ではないが,起炎菌の同定のためには菌石の培養と病理検査を行う.放線菌は嫌気性菌であり,菌石を採取後速やかに嫌気ポーターに入れ嫌気培養を約1カ月行うが,検出率は必ずしも高くない.菌体の検出率がもっ1646あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015とも高いのは菌石のグラム染色と病理検査であり,必ずしも診断に培養を要しないとされる6,7).菌石をスライドガラス上でつぶしてグラム染色を行い,グラム陽性の糸状の菌体(図9)が観察されれば放線菌によるものと診断してよいと考えられる7).ただし同じ嫌気性菌であるPropionibacteriumpropionicusやPropionibacteriumacnesも同様のグラム陽性桿菌の形態を示す.注意深く行っても歯石が残存することはありえるため,残存・再手術の可能性は術前に説明をしておく.IV術後管理術翌日には,眼脂の症状はほぼ消失する.術後点眼は抗菌薬と0.1%フルオロメトロンの点眼を1週間行う.抗菌薬の内服は行わない.点眼中止1週間後に眼脂や涙小管部の圧迫で膿逆流がある場合には,菌石の残存を考える.菌石を取り残した場合でも,症状は劇的に改善し,患者の信頼を損ねることはないため再手術にも応じてもらいやすい.おわりに涙小管炎は診断がつけば治療はむずかしくない.片眼性の眼脂,充血をみたら涙小管炎を鑑別にあげ涙点を観察すること,菌石を完全に除去することが重要である.文献1)久保勝文:涙小管炎病因精査での涙小管結石の病理検査の有用性.眼科手術21:399-402,20082)RumeltS:Siliconepunctalplugmigrationresultingindacryocystitisandcanaliculitis,Cornea16:377-379,19973)PineL:Mycoticfloraofthelacrimalduct,AmJOphthalmol52:619-625,19614)水戸毅:憩室を形成した涙小管放線菌症の1例.眼紀56:349-354,20055)岩崎雄二:涙道内視鏡所見による涙小管炎の結石形成と治療の考察.眼科手術24:367-371,20116)亀山和子:放線菌による涙小管炎の20例.臨眼78:826831,19847)VeirsEA:Thelacrimalsystem.Canaliculus.In:WilsonLA(ed):ExternalDiseaseoftheEye.134-138,Harper&Row,Hagerstown.1979(14)

小児涙道疾患の外科的治療

2015年12月31日 木曜日

小児涙道疾患の外科的治療SurgicalTreatmentforPediatricLacrimalDuctDisorders松村望*はじめに小児涙道疾患でもっとも多い疾患は先天鼻涙管閉塞(図1)である.先天鼻涙管閉塞は自然治癒率が高く,治療の時期と方法に関しては議論がある.また,小児涙道疾患には,先天鼻涙管閉塞以外の疾患や複数の病態の合併も少なくない.おもな小児の涙道疾患とその治療について,新しい知見を交えて述べる.I小児涙道疾患の診断小児涙道疾患の診断にはまず問診と視診が最重要で,続いて色素残留試験(蛍光色素消失試験)(用語解説参照,図2)と細隙灯顕微鏡検査を行う.問診は発症時期,流行性角結膜炎の既往歴,家族歴などが重要である.視診は眼脂やメニスカスの高さ,涙.皮膚瘻,眼瞼炎などの局所所見に加え,発育,顔面奇形や遺伝性疾患の有無,眼位や眼球の大きさ,屈折異常などに注意する.涙管通水検査(後述)は涙道閉塞の診断に有用であるが,侵襲的な検査であり,プロービングを行わない場合は必ずしも行う必要はない.II小児涙道疾患の治療1.先天鼻涙管閉塞a.自然治癒と治療の時期先天鼻涙管閉塞は,鼻涙管開口部が先天的に下鼻道に開放していないものである(図1).生後まもなくから流涙と眼脂がみられ,抗生物質の点眼を使用すると眼脂は鼻涙管下涙小管上涙小管総涙小管内総涙点涙.図1先天鼻涙管閉塞閉塞部位(.)は鼻涙管下端の開口部である.図2先天鼻涙管閉塞(右)の色素残留試験フローレス色素を両眼に点眼して15分後.右眼のみフローレス色素が眼表面に残留している.*NozomiMatsumura:神奈川県立こども医療センター眼科〔別刷請求先〕松村望:〒232-8555横浜市南区六ッ川2-138-4神奈川県立こども医療センター眼科0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(3)1635 図3プロービングa:代表的な器具.左から涙管洗浄1段針(曲),2段針(曲),バンガーター針,涙点拡張針,ボーマン氏ブジー,三宅式ブジー,涙道内視鏡(先端径0.9mm,1万画素,プローブサンプル),涙道内視鏡(先端径0.7mm,3,000画素)b:ブジーによるプロービング(催眠鎮静下).看護師2名が覚醒時に備えて頭部を抑えている.体幹部はバスタオルで巻き,抑制帯で固定している.減るがやめると増える,などの症状を繰り返す.Youngらの大規模前向き研究では,新生児の6.20%にみられ,96%が1歳までに自然治癒したと報告されている1).この研究結果が国内外で1歳まで治療を待つ方針の根拠のひとつとなっているが,一部の重症例(新生児急性涙.炎や高度な眼瞼炎の合併など)はこの研究から除外されている.つまり,すべての症例で1歳まで待つことが推奨されているわけではなく,症例ごとに重症度を見きわめて治療時期を検討することが大切である.また,PediatricEyeDiseaseInvestigatorGroupは,先天鼻涙管閉塞に対する局所麻酔下での早期プロービング(生後6.9カ月)と半年待機してからの全身麻酔下での晩期プロービングをランダム化比較試験により比較し,治療成績に有意差がないことを示した2).このことから,1歳まで待っても治療成績は低下しないと考えてよい.ただし1歳以降は全身麻酔が必要になる.局所麻酔下での治療は,体動制御のむずかしさや精神発達に与える影響(虐待とみなされる可能性)を考慮すると,原則として1歳未満に限られるべきであろう.治療の時期は麻酔方法もあわせて考慮する必要があり,そのほか,保護者の希望も踏まえて個別に選択すべきである.a筆者の施設では,局所麻酔下での治療や早期(1歳未満)プロービングを希望する場合は,生後6.12カ月頃に催眠鎮静下でブジーを行っている.待機的な治療を希望する場合は,2歳頃に全身麻酔下で涙道内視鏡を用いて治療を行っている.また,経過観察を行うにあたっては,自然治癒しなかった場合の治療方針を麻酔方法も含めてあらかじめ保護者に説明しておくべきである.b.涙管洗浄とブジー初回の外科的治療は,プロービング(閉塞部位の穿破)が標準治療である3).使用される器具には種類があるが(図3a),ここではブジーによるプロービングのポイントを述べる.①術前の準備合併症として,稀ではあるが敗血症などの術後感染症が報告されている4).直前に予防接種をしない,当日に体温測定を行う,心疾患の既往を確認するなど体調を管理し,感染症の予防に努める.手術の際は顔面と体両方の制御が重要であるが,頭部は強く抑えすぎないよう注意する(図3).下顎をしっかりと抑えることがコツである.b1636あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(4) 図4プロービング不成功の例①内総涙点の隆起を損傷.②内総涙点のやや固い隆起を対側涙.壁と誤認し,涙.に入る前にブジーを立ててしまう.③対側の涙.壁から粘膜下に誤挿入.④涙.から鼻涙管の屈曲部で耳側,鼻側,腹側,背側などに誤挿入.⑤鼻涙管下端で穿破の方向性の誤り. ab図5先天鼻涙管閉塞の涙道造影a:側面像(写真左が腹側)①涙.の走行.②鼻涙管の走行.①に対して②は,腹側に傾いている(写真の角度は16°).この角度は背側に大きく傾いている症例もあり,個体差が大きい.①の角度のまま直針プローブを進めると鼻涙管背側壁に突き当たり(),②の赤のラインに方向を変える必要がある.②のラインを頭側に延長すると涙.からはずれ,前額部に当たり(破線),この角度では挿入できないことがわかる.涙.から鼻涙管下端を1本の直線に収めることはできず,直針プローブではプロービング困難な症例.b:正面像(右)①涙.の走行.②鼻涙管の走行.①に対して②は鼻側に傾いている(写真の角度は27°). abcd1d2e1e2f図6涙道内視鏡a:涙道内視鏡プローブの例(ベントタイプ).b:小児の涙道内視鏡手術(全身麻酔).c~f:涙道内視鏡画像.c:小児の正常なスリット状の鼻涙管開口部.d:先天鼻涙管閉塞の閉塞部位.d.1:穿破前.涙道粘膜が涙道内腔から連続して膜状に鼻涙管開口部を覆っている.閉塞部はやや暗く見える.d.2:穿破後.d.1の膜状閉鎖を丁寧に切り開くように処理すると,本来のスリット状の開口部があらわれる.e:先天鼻涙管閉塞の閉塞部位.e.1:穿破前.鼻涙管開口部はスリット状に形成されているが,開口不全の状態で白色の薄い線維性の膜状物によって覆われている.e.2:穿破中.閉塞部を押すと,はがれるように開口部が開く.f:先天鼻涙管閉塞の小児(2歳)の鼻涙管内にみられた淡黄色の涙石.表1神奈川県立こども医療センター眼科における涙道内視鏡手術の治療成績疾患群症例数/眼数平均月齢治療成績(%)※チューブ使用(%)治癒軽快不変先天涙道閉塞25例29側26.7±10.129(100)0(0)0(0)26(90)後天涙道閉塞7例7側72.0±31.27(100)0(0)0(0)7(100)先天奇形症候群,顔面異常14例23側106.1±71.510(44)8(35)5(22)19(83)合計46例59側57.8±55.046(78)8(14)5(9)52(88)※治癒:症状なし,軽快:症状軽度あり(涙.炎なし),不変:症状あり.表2涙道内視鏡による小児涙道疾患の閉塞部位疾患群症例数/眼数部分的な閉塞(眼数)(重複あり)広範な閉塞涙点・涙小管内総涙点涙.鼻涙管移行部鼻涙管下端先天涙道閉塞25例29側400270後天涙道閉塞(流行性角結膜炎後)5例5側02300後天涙道閉塞(その他,原因不明)2例2側00020先天奇形症候群・顔面異常14例23側158034(7)あたらしい眼科Vol.32,No.12,20151639 abdc1c2abdc1c2図7涙管チューブa:涙管チューブの例(LacrifastRショートタイプ,カネカ).盲目的に挿入する場合は付属ブジーを曲げて使用する(写真上,青ハンドル).涙道内視鏡とシースを用いてSGI,G-SGIなどの手技で挿入する場合は,曲げずにそのまま使用する(写真下,白ハンドル).b:涙管チューブ(.)が挿入されている状態.c:涙道内視鏡による鼻涙管内の涙管チューブ確認.c.1:正しく挿入されている涙管チューブ(t).*は涙道粘膜.c.2:涙管チューブによって形成された粘膜ブリッジ().チューブ(t)が涙道粘膜をひっかけており,チューブ内に出血がみられる.d:涙管チューブの抜去.鑷子などで容易に抜去できる.道の閉塞部位を表2に示す.涙道内視鏡を用いることで,閉塞部位を可視下に診断し,正確に治療することが可能となった.涙管チューブ(図7)を挿入する場合は,涙道内視鏡を使用すると正確に挿入できる.盲目的操作での挿入も可能であるが,粘膜ブリッジなどの涙道粘膜の損傷(図7c.2)や,粘膜外への誤挿入をしばしば起こす.小児は内総涙点や鼻涙管開口部が狭い症例が多く,盲目的操作で全例に正しく挿入することは困難であり,SGI,G-SGIなどのシースを使用した挿入方法が必要になる.小児は外来で涙道内視鏡による涙管チューブの確認や修正を行うことがむずかしいため,可能であれば術中にチューブが正しく挿入されているか確認することが望ましい(図7c).チューブは数週間.数カ月(筆者の施設では約1カ月)後に抜去する.抜去は,小児の場合はチューブを涙点側から鑷子で把持して引き抜くと容易に抜去できる(図7d).涙管チューブの必要性や挿入期間については今後の検討が必要である.涙道内視鏡を使用した先天鼻涙管閉塞開放術と涙管チューブ挿入術は大変有用な治療法であるが,手技に習熟する必要があり,初心者が小児に対して安易に行うべきではない.d.涙.鼻腔吻合術(DCR)涙.鼻腔吻合術(dacryocystorhinostomy:DCR)は鼻涙管閉塞の基本手術である.プロービングや涙管チューブ挿入で治療困難な症例,鼻涙管の骨性閉塞などが適応となる.骨切除を行い,涙道と鼻腔との間にバイパスを作る.皮膚切開を行うDCR鼻外法と行わないDCR鼻内法がある.DCR鼻内法は,骨切除量が少なく皮膚1640あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(8)ab図8先天涙.ヘルニアa:内眼角内下方に暗青色の隆起がみられる(.).b:先天涙.ヘルニアのMRI冠状断(T2強調画像).鼻涙管尾側端は鼻腔内に大きく拡張して膜状に閉鎖している(.).■用語解説■色素残留試験(蛍光色素消失試験):生理食塩水で濡らしたフルオレセイン試験紙を結膜.に接触後,こすらないように指示して5.15分程度放置し,眼表面の残留状態を診る方法(図2).簡便で,非侵襲的で,感度が90%以上と高く,導涙性流涙のスクリーニングに適している.

序説:涙道疾患の外科的治療 2015

2015年12月31日 木曜日

涙道疾患の外科的治療2015ReconstructiveSurgeriesforLacrimalPassageDisordersin2015鈴木亨*荒木美治**大橋裕一***涙道再建外科の治療目的には涙小管炎と涙.炎の治療に加え,流涙症状の改善がある,2つの問題は切り離すことはできないが,おおむね炎症性(感染性)疾患治療と非炎症性疾患治療に分けることができる.治療においてはそれぞれにふさわしい考え方がある.また,小児では再燃治癒も考慮して治療方針を決める必要がある.その点を明確にして最近の手術のアップデートを図りたい.感染の治療では減菌が目標となる.涙小管炎を外科的(涙小管内の菌石掻破)に治すことは広く受け入れられており,問題点は診断をいかに行うかである.とくに涙.炎治療目的で紹介されてくる患者のなかには一定割合の涙小管炎が含まれており,涙道内視鏡による鑑別診断は重要であろう.基本的な治療について植田芳樹先生,佐々木次壽先生に解説していただいた.涙.炎については,正しい治療法は涙.鼻腔吻合術(DCR)である.DCRでは,涙.炎における眼表面の減菌化のエビデンスが確立されている1).これに対して鼻涙管チューブ留置治療では滅菌のエビデンスが未確立であるので,涙.炎に鼻涙管チューブ留置治療を適用することはエビデンスのない実験をするに等しい.まずはDCRの基本手技である鼻外からのアプローチ(鼻外法)について学ぶことが涙.炎治療の第一歩である.解剖の理解という面からも,これがすべての涙道手術の基礎となる.ここは嘉鳥信忠先生に解説していただいた.若い術者は,まず迷うことなくこれらの2つの論文を何回も読んで,涙道再建外科の基本を頭に刷り込んで欲しい.また,世界のDCRの流れでは,2000年を過ぎてからは鼻内からアプローチするDCR(鼻内法)への関心が集中しており,今回ここでも取り上げた.日本でも最近になってかなり上手い術者が出てきたが,日本の眼科ではmarsupializationの勉強が海外に比して約10年遅れており,鼻内法は現在は国内トップの術者たちが汗をかいている宿題分野といえる.この手術は技術のみならず理屈もむずかしく,まずは鼻外法での解剖の理解がなければ立ち入ることはできない.実際にマンツーマン指導のもとに習得しなければならないような,道具に応じた内視鏡の使い方もある.紙面で具体的な手技解説を行うのはナンセンスである.したがって,今回は症例選択や手術の考え方に焦点を置いて,鶴丸修士先生と筆者(鈴木亨)が解説した.世界のDCRにはもう一つの流れがある.1990年代に始まった,経涙小管的にレーザープローブを涙.に誘導して行うレーザーDCRがそれである.*ToruSuzuki:鈴木眼科クリニック**BijiAraki:愛生会山科病院眼科***YuichiOhashi:愛媛大学大学院感覚機能医学講座視覚機能外科学分野(眼科学)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(1)1633 1634あたらしい眼科Vol.32,No.12,2015(2)これは,涙.と鼻腔を吻合するという点で,2005年に佐々木次壽先生が独自に発表したレーザー手術inferiormeataldacryorhinotomy(スペルがDCRと異なるのは脱字ではない,日本では下鼻道法とよばれている)とは異なる.日本でも,最近になってレーザーDCRの勉強が始まり,その成果を示す術者が現れ始めたので,今回,佐々木次壽先生の手術と同時に紹介した.宮久保純子先生に解説いただいた.これでようやく,日本のDCRは世界の同僚たちと同じ土俵に立つことができたといえる.感染のない非炎症性涙道閉塞の治療では,流涙症状の改善が目標となる.本来,涙洗で排膿がない涙道閉塞であれば,眼表面の衛生状態は生理的なものと変わらない2).また,涙液で眼球の健康が害されることもない.この点で炎症性涙道疾患と決定的に異なっており,治療は患者の希望次第でよい.ただし,いったん涙道治療を行うと判断すれば,治療の選択は考えねばならない.低侵襲優先でまずチューブを入れてみることが一般的であるが,その治療においてリスクを抱える患者は,あらかじめ検査で除外しておくことが大切である.涙道内視鏡検査がもっとも適当ではあるが,すべての施設でこれを使用できるとは限らず,その場合には画像検査が有用である.これについて筆者(鈴木亨)が解説した.チューブ治療そのものについては三村真士先生に解説をお願いした.三村先生の論文はチューブ治療の限界を明らかにしてくれており,これまで涙道内視鏡を信じすぎて殻に閉じこもってしまった日本の涙道手術の新たな出発点となりそうである.日本製涙道内視鏡が本当に優れる点は,診断面である.治療面では日本製チューブを正しく入れられるという以上には利点がないので,涙道内視鏡手術の開祖KHEmmerichの後塵を拝する.診断面の強さは,どの症例でもとりあえず鼻涙管の入口までは必ず見せてくれるという性能で保障されており,Emmerichに負けない.この性能は機能性流涙症や小児涙道疾患において力を発揮する.それぞれ藤本雅大先生,松村望先生に解説していただいた.日本では,1993年のヌンチャクチューブ発表と2002年の涙道内視鏡認可の後,10年以上もチューブを正しく鼻涙管に入れる技術の発展に力を尽くしてきた.しかし,いくら正しく入れてもその治療効果の限界は当然みえてきているし,またその間に他国ではDCRの洗練や日本とは別の涙道内視鏡手術の発展があり,ある意味で,日本はこのままガラパゴス化するかどうか瀬戸際である.この特集が,これを打開する方向で若い術者たちを印象付け,そしてひとりでも多くの涙道閉塞患者が治るようになることを願っている.文献1)OwjiN,KhaliliMR:NormalizationofconjunctivalFloraafterdacryocystorhinostomy.OphthalPlastReconstrSurg25:136-138,20092)HartikainenJ,LethonenOP,SaariKM:Bacteriologyoflacrimaductobstructioninadults.BrJOphthalmol81:37-40,1997

手持式フリッカー網膜電位計レチバル(RETevalTM)の 使用経験

2015年11月30日 月曜日

き,測定が5分以内と短時間でできるため,暗室や閉所で長時間安静にすることが困難な場合や,移乗不可能な症例にも検査可能である.レチバルは患者のみならず,測定者の負担も少なく,臨床において有用である.わが国では,本機を用いて得られた測定結果や評価データは多くない2).また,測定条件や測定の留意点,臨床で多く使用される角膜電極ERGと同等の評価ができるかなど,まだ不明な点がある.そこで,筆者らはさまざまな網膜疾患に対してのレチバルの使用経験を報告する.I対象および方法対象は,2014年1月.3月に産業医科大学病院眼科を受診した11例22眼(6.81歳)で,網膜静脈閉塞症2例,家族性滲出性硝子体網膜症(familialexudativevitreoretinopa-thy:FEVR)2例,糖尿病網膜症2例,真菌性眼内炎,網膜前膜,網膜色素変性症,錐体ジストロフィ,朝顔症候群,網膜分離症,屈折異常弱視が各1例であった(表1).今回は,実用性を評価するために,7例は無散瞳下で4例は散瞳後に測定した.レチバル(ver1.1.10)を使用し,プラス,マイナス,グランドが一体の単回使用の皮膚電極を両下眼瞼に貼り付け,本体と接続し刺激光を患者に固視させて行った.今回は,無散瞳で記録するモード,つまり瞳孔面積を測定しながら一定の刺激を眼内に照射し記録するモードで測定した.刺激光は8Td・sの光強度で,刺激周波数約28.3Hzのフリッカー刺激で測定した.測定は,通常の明るさの視力検査室にて,全例座位で行った.日本人の正常値はまだ確立されていないが,LKC社提供データでは,アメリカ人の正常者の正常範囲は潜時29.9.36.5msec,振幅6.2.21.8μVで,平均値は潜時33.18msec,振幅13.6μVであった.そこで,今回は潜時を37msec以上の延長を異常値とし(福尾ほか,第20回日本糖尿病眼科学会総会,2015),振幅は4μV以下を異常値とした.また,典型的で,錐体異常を示すと思われる症例で,成人と若年者を1例ずつ選び,レチバルの測定値とLE-1000,LE-3000(TOMEY,愛知)の測定値を比較した.2症例ともトロピカミド・フェニレフリン(ミドリンPR)で散瞳し,仰臥位にて,明順応を10分行った後に測定した.刺激強度10cd・s/m2,背景光輝度25cd/m2,刺激頻度30Hz,加算回数30回で測定した.測定はシールドルームにて行った.II代.表.症.例両眼若年性網膜分離症,9歳,男児(症例8).2007年5月,外斜視精査目的で近医受診.両網膜に皺襞を認め,同年8月に全身麻酔下で眼底検査施行.両眼に黄斑部を含んだ網膜皺襞,下方に白線化血管,硝子体変性,網膜表1各症例の疾患名と矯正視力とレチバルの潜時・振幅症例年齢(歳)性別疾患矯正視力レチバル潜時msレチバル振幅μV散瞳右左右左右左160男性右眼)網膜中心静脈閉塞症0.61.535.5341.55.7有281女性両眼)糖尿病網膜症右眼)網膜静脈分枝閉塞症左眼)網膜中心静脈閉塞症0.5p0.8p37.9計不1.40.22有354男性両眼)真菌性眼内炎右眼)網膜前膜0.71.53833.31.16.3有472男性両眼)網膜色素変性症0.90.8p計不計不0.070.2有56女性両眼)屈折異常弱視0.5p0.630.931.17.38.4無623男性両眼)朝顔症候群左眼)網膜.離1.20.0432計不4.10.14無771男性両眼)糖尿病網膜症0.30.437.937.64.62.8無89男性両眼)網膜分離症0.150.242.5391.92.6無920男性両眼)錐体ジストロフィ1.51.532.533.40.443.9無1033女性右眼)家族性滲出性硝子体網膜症1.21.538.135.98.113.5無1120女性両眼)家族性滲出性硝子体網膜症0.90.1540.640.42.52.7無平均33.2625.883.04.2計不:著しく振幅が減弱しており数値化できず,フラットの状態.計測不能と機械に表記された.下線:異常値(111)あたらしい眼科Vol.32,No.11,201516233振幅(μV)210振幅(μV)210-1-2-3-4020406080100120020406080100120時間(ms)時間(ms)波形基本周波数波形基本周波数右眼:潜時42.5msec,振幅1.9μV左眼:潜時39.0msec,振幅2.6μV図1症例8のLE.1000で記録したフリッカーERG(上)とレチバルで記録したフリッカーERG(下)LE-1000では両眼の潜時が延長,振幅の減弱がみられた.レチバルでも両眼の潜時の延長,振幅の減弱がみられた.測定に際しては,眼振があったが問題なく測定できた.※レチバルver1.1.10は,左右眼の数値の結果で,縦軸スケールが変動する.分離症を認めた.2009年5月,ボールが左眼に当たり硝子体出血,網膜.離の疑いとのことで同院再診し,精査加療目的にて当院を紹介された.2010年9月に左眼硝子体手術を行い経過観察中であった.視力は,右眼(0.15×sph+6.0D(cyl.1.5DAx160°),左眼(0.2×sph+6.0D(cyl.3.5DAx180°),眼底は両眼とも黄斑部を含んだ網膜皺襞を認め,光干渉断層計(OCT)検査では典型的な網膜分離の所見を認めた.また,第一眼位で水平眼振があり,左方視にて眼振増強を認めた.レチバルでは,両眼の潜時の延長(右眼:42.5msec,左眼:39.0msec)と,振幅の減弱(右眼:1.9μV,左眼:2.6μV)がみられた(図1下).LE-1000でも,両眼の潜時の延長(右眼:41.5msec,左眼:40.0msec)と,振幅の減弱(右眼:40.75μV,左眼:35.0μV)がみられた(図1上).本症例は両眼の網膜分離症があり,レチバル,LE-1000でも両眼の潜時の延長と,振幅の減弱を示した.III結果表1に各症例の結果のまとめを示す.症例1.4は,散瞳後でも問題なく測定可能であった.レチバルは,無散瞳下での使用を推奨されているが,瞳孔散大時でも,測定時間は両眼で3分程度と,無散瞳下での測定時間と大差はなかった.症例1,右眼網膜中心静脈閉塞症は,潜時の延長はみられなかったが,右眼の振幅が減弱した.症例2は糖尿病網膜症であり,右眼は黄斑浮腫と網膜静脈分枝閉塞症を発症していた.左眼は網膜中心静脈閉塞症があり,振幅は著しく減弱し,潜時が数値化できず計測不能となった.両眼ともに潜時・振幅で異常値を示した.症例3は両眼の真菌性眼内炎と右眼網膜前膜があり,右眼のみ潜時・振幅の異常値を示した.症例4,網膜色素変性症は,レチバルで振幅が減弱し,潜時は計測不能であった.症例5,屈折異常弱視による視力不良例は,潜時・振幅ともに正常値であった.症例6は左眼網膜.離のため振幅が減弱し,潜時は計測不能となった.症例7は両眼ともに潜時・振幅が異常値であったが,左眼の振幅が著しく減弱し,異常値を示した.左眼は蛍光眼底所見で無灌流領域が広範囲にみられ,毛細血管瘤が多発し,眼底所見に左右差がみられた.症例9,10,11は,視力良好であったが,潜時・振幅いずれかで,異常値を示す症例があった.症例9の錐体ジストロフィでは,レチバルで,潜時(右:32.5msec,左:33.4msec),振幅(右:0.44μV,左:3.9μV)と,潜時は両眼ともに延長を認めなかったが,右眼の顕著な振幅の減弱を認めた(図2下).LE-3000では,潜時(右:44.75msec,左:(112)1振幅(μV)0.5-0.5振幅(μV)6420-20-1-4右眼:潜時32.5ms,振幅0.44μV左眼:潜時33.4ms,振幅3.9μV図2症例9のLE.3000で記録したフリッカーERG(上)とレチバルで記録したフリッカーERG(下)フリッカーERG,レチバルともに右眼振幅が著明に減弱した.※レチバルver1.1.10は,左右眼の数値の結果で,縦軸スケールが変動する.020406080100120時間(ms)波形基本周波数020406080100120時間(ms)波形基本周波数37.75msec),振幅(右:11.5μV,左:33.5μV)で,潜時は右眼が左眼より7.2msec延長した.振幅は右眼が左眼より21.5μV減弱を認めた(図2上).症例10は右眼FEVRで,視力(1.2)と良好にもかかわらず,潜時の延長を認め,錐体機能の異常を示した.症例11は両眼FEVRで,右眼(0.9),左眼(0.15)と右眼視力は比較的良好であったが,レチバルでは潜時・振幅ともに左右同様の異常値を示した.IV考按レチバルの無散瞳モードは無散瞳下で使用するモードであるが,今回は散瞳後でも問題なく測定可能であった.しかし,9mm大に極大散瞳した場合は,瞳孔を認識せず測定不能となる場合がある.今回,散瞳後に測定した患者の瞳孔径は9mm以下であり,測定可能であったと考えられる.振幅は全例測定可能であったが,潜時の計測不能例が3例4眼あった.使用したバージョン(ver1.1.10)はノイズが大きい場合と振幅が著しく減弱している場合に計測不能と表示される.今回,計測不能となった症例は,固視良好でありノイズの影響は考えにくい.また,振幅が著しく減弱した場合に,潜時が測定されても,その測定値は正確に測定できていない可能性があり,逆に,潜時が計測不能の症例は,振幅の測定値の信頼性は低いと考えられる.今回,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症(症例1,2,7)などの循環障害でみられるフリッカー応答の潜時の延長,振幅の減弱をレチバルで測定可能であった3,4).レチバルは,コンタクトレンズ型電極の装用が困難な小児の症例(症例5)や,眼振のある症例(症例8)においても簡便に検査可能であった.LE-1000,LE-3000のフリッカー刺激は眩しいため閉瞼しようとして,Bell反射により眼球が上転して,コンタクト電極が角膜頂点からはずれ振幅が減弱することがある5).また,コンタクト型電極を装用した状態での固視確認は困難である.それに対し,レチバルは,瞳孔追尾機能と,測定者がモニターで固視確認ができるため,固視に依存しない測定が可能である.レチバルは小児の症例において,LE-1000,LE-3000よりも信頼できる場合があると考えられる.角膜電極ERGとレチバルの結果を比較した症例が2例あった.症例8は,LE-1000とレチバルともに潜時・振幅が測定できた.両者で潜時は延長し,振幅は減弱を示し,錐体異常を検出したことから,同等の結果が得られたと考えられる.症例9ではLE-3000とレチバルともに,潜時・振幅の測定はできたが,両者で右眼の潜時の測定結果が一致しなかった.レチバルの潜時は短縮を示し,一見正常だが,振幅が1.0μV以下と著しく減弱していることから,計測不能の場合と同様に,潜時の値は信頼性が低いと考えた.LE-3000でも振幅は11.5μVと顕著に減弱しており,正確に潜時を測(113)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151625定できていない可能性も考えられ,両者の結果の比較はできないと考えた.角膜電極ERGとレチバルで結果を比較する際は,まず振幅がある程度測定できており,信頼性のある結果かを判断すべきである.今回は,2例と検討数が少なく,1例は同等の評価ができたが,もう1例は振幅値が著しく減弱しており,評価が困難であった.また,錐体細胞の応答を記録するためには,杆体細胞が飽和状態となり反応できないとされる30Hz付近の光刺激で測定を行う.レチバルでは28.3Hzで測定を行うが,皮膚電極と角膜電極の違いや,瞳孔面積を使用した光強度の違い(Td・sとcd・s/m2)により直接比較はできない.また,レチバルは,視力良好の症例においても,網錐体機能の異常を鋭敏に検出することが可能であった(症例9,10,11).LE-1000,LE-3000は,左右同じスケールで波形が表示される.これに対し,今回測定に使用したバージョン(ver1.1.10)でのレチバルの結果は,振幅数値により,縦軸の振幅スケールが自動で変動する.そのため,波形のみでの評価は困難であり,振幅の数値を確認する必要がある.ただし,新しいバージョン(ver.2.3.1)では振幅の最小スケールが固定されている.レチバルで,フリッカーERGを測定するためには,センサーストリップ電極の貼り付けが確実にできていなければならない.実際に検査をしてみて感じた注意すべき点をあげる.固視を良好にするためには,非測定眼の遮閉が有用であった.今回,患者の手で遮閉したが,手が使えない場合は,アイパッチを使用するとよい.また,機器が測定眼から離れた状態で測ると,周辺の明るさや背景が視野に入り固視がむずかしくなり,刺激光が網膜全体に行き渡らない恐れがあるため,測定眼を完全に覆うように機器を当てて測定するとよい.センサーストリップの接着部は3カ所あり,これが皮膚からはずれてしまうと測定できない.年齢,性別によって骨格が違うため,確実に装着できているか確認する必要がある.自験例では女性の場合で,化粧によりセンサーストリップ接着部が貼り付かないことがあった.貼り付け前に,ウエットティッシュまたはアルコール綿で化粧をふき取ることが望ましい.レチバルは多くの利点を有し,臨床において患者,検者とも負担が少なく,簡便に錐体機能を評価できる機器である.レチバルは2013年日本に導入された機器であり,臨床報告が少ない.現在,日本人の潜時と振幅の正常値が確立していないことから,レチバル単独での評価はむずかしいと考えられる.今後は健常人の測定数を増やし,日本人の正常値を検討していく必要がある.今回の検討で,レチバルで網膜錐体機能低下の有無を評価することができ,診断に有用であった.文献1)KatoK,KondoM,SugimotoMetal:E.ectofpupilsizeon.ickerERGsrecordedwithRETevalsystem:Newmydriasis-freefull-.eldERGsystem.InvestOphthalmolVisSci56:3684-3690,20152)YasudaS,KachiS,UenoSetal:Flickerelectroretino-gramsbeforeandafterintravitrealranibizumabinjectionineyeswithcentralretinalveinocclusion.ActaOphthal-mol93:1-4,20153)安田俊介:後天性疾患.どうとる?どう読む?ERG(山本修一編),p138-140,メジカルビュー社,20154)永井紀博:後天性疾患.どうとる?どう読む?ERG(山本修一編),p142,メジカルビュー社,20155)新井三樹:基本のERG.どうとる?どう読む?ERG(山本修一編),p36-57,メジカルビュー社,2015***(114)

妊娠初期のVogt-小柳-原田病にステロイドパルス療法を施行した1例

2015年11月30日 月曜日

1.28001.060矯正視力40200b図3初診から11カ月後の眼底写真a:右眼,b:左眼.両眼とも滲出性網膜.離は軽快した.病内科を受診し,インスリン治療を並行して行うこととなった.経過良好のため12月上旬に退院した後,外来通院にて眼科の定期検査を行った.経過中,原田病の再燃はなく,また胎児の発育に問題はなく,インスリン治療も続けたが,HbA1Cは5%前後で推移していた.ステロイドの内服は翌年5月上旬まで続いた.平成26年5月中旬,妊娠38週において2,850gの女児を無事に出産した.その後も原田病の再燃はなく(図3),同年12月現在,矯正視力は両眼とも(1.2)となっている(図4).II考按妊娠中に原田病に罹患した症例の過去の報告によれば,妊娠前期においてはステロイド点眼や結膜下注射,また後部Tenon.下注射などの局所療法を行い,炎症が鎮静化したという報告が多い3).しかし,妊娠中期や後期になると,局所療法の場合もあるが,プレドニゾロン200mg程度からの大量漸減療法を行うことが多く4,5),出産後にパルス療法を行った,という症例も報告されている6).また,無事に出産11月12月1月2月3月4月中旬中旬中旬中旬中旬中旬5月中旬出産図4治療経過したという報告がほとんどであるが,子宮内胎児発育不良の報告や7),胎児が死亡した報告も存在する8).前者については原田病そのものが胎盤の発育不全に関与していた可能性がある,と述べられており,後者についても原田病そのものが妊娠に影響を及ぼす可能性も否定できず,胎児死亡とステロイドとの関連については判断できない,と述べられている.一方,妊婦とステロイド投与についてみると,プレドニゾロンは,胎盤に存在する11bhydroxysteroiddehydroge-naseにより不活性型に変化されやすく,デキサメタゾン,ベタメタゾンなどの胎盤移行性が高いステロイドに比べると胎児に対する影響が少ないとされている10).また,プレドニゾロンは,妊娠と医薬品の安全性に関する米国のFDA分類ではカテゴリーC,同様のオーストラリア基準ではカテゴリーAに分類され,比較的安全と考えられているが,ステロイドを大量投与した場合に胎児に口蓋裂のリスクが増える可能性が示唆されていたり,下垂体.副腎系の機能が抑制される可能性が指摘されているものの,胎盤透過性の観点からはプレドニゾロンが比較的安全であり,プレドニゾロンで20mg/日の投与であれば,ほぼ安全であろうというのが一般的見解である,と述べられている9,11).本症例について考えてみると,原田病に罹患したのが妊娠初期であったが,視力低下に対する不安や,頭痛の訴えが非常に強かったため,局所療法では治療が困難と考え,ステロイドの全身投与を選択した.ところが,妊娠中に罹患した原田病に対して全身投与を行う場合,大量漸減療法を行うべきであるのか,パルス療法を行うべきであるのかについての明確な指針は存在せず,過去の報告では大量漸減療法を行っている場合が多いため,当科でステロイドの投与方法について議論を行った.そのなかで,通常の原田病の場合は,パルス療法と大量漸減療法を比較すると,北明らのようにパルス療法のほうが夕焼け状眼底になる頻度は少ないものの,再発率や遷延率には差がなかったという報告もある一方で,パルス療法のほうが夕焼け状眼底になる割合や複数回の再発,再燃を生じる割合が少ないという報告や13),パルス療法では再発1620あたらしい眼科Vol.32,No.11,2015(108)率や夕焼け状眼底になる割合が少なく,視力予後が良好であるとする報告があること14),また,夕焼け状眼底となった群では,ならなかった群と比較して有意に髄液中の細胞数が多いとの報告や15),本症例とほぼ同じ妊娠時期に原田病を発症し,パルス療法を行った結果,無事に出産した症例が最近報告されていること2),などを参考に,患者本人と家族,産婦人科の医師と相談した結果,今回はパルス療法を選択することになった.さらに,本症例では既往歴に妊娠高血圧症候群があったが,妊娠高血圧症候群に漿液性網膜.離を合併した報告も散見されることから16),より診断を確実なものにするために患者の同意の下に髄液検査を施行し,髄液中のリンパ球優位の細胞増多を確認したうえで原田病と最終的に診断し,治療を開始した.ステロイドの投与期間については,パルス療法後は,前述のように安全域とされているプレドニゾロン20mg/日以内に比較的早期に減量するように配慮した.しかし,10.15mg/日以下に減量する頃に再燃することが多いことから1),20mg/日以下の期間を十分に取るように考慮し,また,投薬期間が6カ月未満でも炎症の再発率が高いことから17),全体で6カ月程度になるように投薬期間を計画し,治療を行った.最後に,妊娠中に罹患した原田病に対してパルス療法を行った報告はいまだにわずかしかなく,今回の治療が妥当なものであったかどうかについては,議論の余地がある.今後は,同様の報告が増加し,結果が蓄積されてくるものと予想されるので,パルス療法の安全性や有効性について,さらなる検討が必要であると思われる.また,今回幸いにも経過中に原田病の再燃はなかったが,ステロイドの漸減途中に炎症が再燃した場合にステロイドの投与量を再度増加するべきなのかどうか,トリアムシノロンの後部Tenon.下注射を併用するべきかどうか,などについての報告や検討は,筆者らが調べた限りではなく,今後の課題であると考える.本論文の要旨については,第48回日本眼炎症学会にて発表した.文献1)奥貫陽子,後藤浩:Vogt-小柳-原田病.眼科54:1345-1352,20122)富永明子,越智亮介,張野正誉ほか:妊娠14週でステロイドパルス療法を施行した原田病の1例.臨眼66:1229-1234,20123)松本美保,中西秀雄,喜多美穂里:トリアムシノロンアセトニドのテノン.下注射で治癒した妊婦の原田病の1例.眼紀57:614-617,20064)山上聡,望月学,安藤一彦:妊娠中に発症したVogt-小柳-原田病─ステロイド投与法を中心として─.眼臨医85:52-55,19915)MiyataN,SugitaM,NakamuraSetal:TeratmentofVogt-Koyanagi-Harada’sdiseaseduringpregnancy.JpnJOphthalmol45:177-180,20016)大河原百合子,牧野伸二:妊娠37週に発症し,分娩遂行後にステロイド全身投与を行ったVogt-小柳-原田病の1例.眼臨紀2:616-619,20097)河野照子,深田幸仁,伊東敬之ほか:妊娠11週に原田病を発症し子宮内胎児発育遅延を伴った一症例.日産婦関東連会報42:421-425,20058)太田浩一,後藤謙元,米澤博文ほか:Vogt-小柳-原田病を発症した妊婦に対する副腎皮質ステロイド薬治療中の胎児死亡例.日眼会誌111:959-964,20079)宇佐俊郎,江口勝美:妊婦に対するステロイド使用の注意点.ModernPhysician29:664-666,200910)福嶋恒太郎,加藤聖子:妊娠・授乳婦におけるステロイド療法.臨牀と研究91:531-534,201411)濱田洋実:医薬品添付文書とFDA分類,オーストラリア分類との比較.産科と婦人科74:293-300,200712)北明大洲,寺山亜希子,南場研一ほか:Vogt-小柳-原田病新鮮例に対するステロイド大量療法とパルス療法の比較.臨眼58:369-372,200413)井上留美子,田口千香子,河原澄枝ほか:15年間のVogt-小柳-原田病の検討.臨眼65:1431-1434,201114)MiyanagaM,KawaguchiT,ShimizuKetal:In.uenceofearlycerebrospinal.uid-guideddiagnosisandearlyhigh-dosecorticosteroidtherapyonocularoutcomesofVogt-Koyanagi-Haradadisease.IntOphthalmol27:183-188,200715)KeinoH,GotoH,MoriHetal:Associationbetweenseverityofin.ammationinCNSanddevelopmentofsun-setglowfundusinVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol141:1140-1142,200616)中山靖夫,高見雅司,深井博ほか:妊娠高血圧症候群に合併した漿液性網膜.離の1例.産科と婦人科75:1825-1829,200817)LaiTY,ChanRP,ChanCKetal:E.ectsofthedurationofinitialoralcorticosteroidtreatmentontherecurrenceofin.ammationinVogt-Koyanagi-Haradadisease.Eye(Lond)23:543-548,2009***(109)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151621

眼内レンズ縫着術後に再縫着を要した症例の検討

2015年11月30日 月曜日

した.I対象および方法対象は京都市立病院において2004年4月.2014年12月に白内障手術後のIOL脱臼に対して,IOL縫着術を行った46例52眼とした.そのうち,IOL縫着術後にIOL位置不良とならずに単回の縫着術のみで経過している45眼(単回縫着眼)と,IOL縫着術後にIOL位置不良となり,再度IOL縫着術が施行された7眼(再縫着眼)の2郡に分けて検討を行った.IOL縫着術は初回縫着,再縫着ともすべて同一術者によって,同一術式で施行されており,各症例で術式の差異による影響はないものとして検討した.縫着糸はすべて10-0ポリプロピレン糸を使用し,10-0ポリプロピレンのloop糸,直針を用いて,対面通糸(abexterno法)を行った.眼内レンズとの結紮は,IOLのハプティクスを角膜切開創から眼外に出してcowhitch縫合で行った.強膜通糸位置は2-8時または4-10時で輪部から2mmとし,縫着糸の強膜結紮固定は,強膜半層縦切開をし,そこからクレッセントナイフで水平に強膜ポケットを作製して埋没させた(図1).IOLは基本的には7mmのfoldable1ピースレンズ[VA-70ADR(HOYA,東京)]を使用し,もともと径7mmのfoldable1ピースレンズが使用されていた場合はそのまま入れ替えをせずに縫着し,それ以外のIOLの場合は切断して取り出して入れ替えを行った.これら単回縫着45眼と再縫着7眼について,①性別,②術眼,③白内障手術時年齢,④縫着術時年齢,⑤白内障手術から縫着術までの期間,⑥眼軸長,⑦患者因子として基礎疾患と眼手術既往などについて比較検討した.また,⑧白内障術後のIOL脱臼の状態について調べ,⑨再縫着眼について,白内障手術から初回縫着術までの期間と初回縫着術から再縫着術までの期間を比較検討した.II結果①性別は単回縫着眼が男性41人に対し,女性は4人であり,再縫着眼では男性6人に対し,女性は1人であった.②術眼は単回縫着眼では右眼が22眼,左眼が23眼で,再縫着眼では右眼が2眼,左眼が5眼であった.③白内障手術時年齢は単回縫着眼では49.7±15.9歳(平均値±標準偏差),再縫着眼では44.4±10.5歳(平均値±標準偏差)となり有意差は認めなかった.ただ,当院で2007年10月.12月の3カ月間に白内障手術を施行した228眼の平均年齢は73.6±9.9歳(平均値±標準偏差)であり,これと比較すると単回縫着眼と再縫着眼のどちらも白内障手術を受ける年齢としては有意に若年であった(p<0.01).④縫着時の平均年齢は単回縫着眼では58.0±14.7歳(平均cb値±標準偏差),再縫着眼では初回縫着時の年齢として55.4±12.3歳(平均値±標準偏差)となり有意差は認めなかった.⑤白内障手術から縫着術までの期間は単回縫着眼では8.4±5.2年(平均値±標準偏差),再縫着眼では白内障手術から初回縫着時までの期間として11.0±5.1年(平均値±標準偏差)で有意差は認めなかった.⑥眼軸長は単回縫着眼では24.8±1.8mm(平均値±標準偏差)で再縫着眼では26.4±3.4mm(平均値±標準偏差)であり,有意差は認めなかった(表1).⑦患者因子については,単回縫着眼ではアトピー性皮膚炎のみが5眼(11.1%),アトピー性皮膚炎と網膜.離で硝子体手術の既往が5眼(11.1%),網膜.離で硝子体手術の既往のみが4眼(8.8%),PE症候群のみが3眼(6.7%),PE症候群と網膜.離で硝子体手術の既往が2眼(4.4%),外傷の既往のみが2眼(4.4%),網膜.離以外での硝子体手術の既往と外傷の既往が2眼(4.4%),網膜.離で硝子体手術以外の治療を受けた既往のみが2眼(4.4%),眼軸長27mm以上が1眼(2.2%),外傷の既往と眼軸長27mm以上が1眼(2.2%),網膜.離で硝子体手術の既往と眼軸長27mm以上が1眼(2.2%),アトピー性皮膚炎と網膜.離で硝子体手術の既往と外傷の既往が1眼,今回調査した因子をもたない明らかな因子なしの眼は16眼(35.6%)であった.再縫着眼では,アトピー性皮膚炎のみが3眼(42.9%),網膜.離で硝子体手術の既往のみが2眼(28.6%),眼軸長27mm以上のみが1眼,今回調査した因子をもたない明らかな因子なしは1眼(14.3%)であった(表2).⑧白内障術後のIOL脱臼の状態は,単回縫着眼と再縫着眼を合わせた52眼のうち,水晶体.は固定されたままIOLが.外に脱臼したものが1眼で,その他の51眼はすべて水晶体.ごとの脱臼であった.⑨再縫着眼における白内障手術から初回縫着術までの期間は11.0±5.1年(平均値±標準偏差)に対して,初回縫着術から再縫着術までの期間は1.7±1.3年(平均値±標準偏差)と有意に短くなっていた(p<0.01).(103)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151615表1単回縫着眼と再縫着眼の患者背景の比較単回縫着眼再縫着眼p値眼球数457─性別(男性/女性)41/46/1─右/左22/232/5─白内障手術時平均年齢(歳)49.7±15.944.4±10.50.40§初回縫着平均年齢(歳)58.0±14.755.4±12.30.66§白内障手術から初回縫着までの期間(年)8.4±5.211.0±5.10.23§眼軸長(mm)24.8±1.826.4±3.40.29§§統計的に有意差なし(t-検定)III考按わが国ではIOL縫着術の手術手技や使用器具は施設,あるいは術者によって異なるが,過去の報告によると,使用する糸は10-0ポリプロピレン糸がもっとも多く,通糸方法はabexterno法がもっとも多く,眼内レンズとの結紮はcowhitch法がもっとも多く,強膜ポケット作製は三角フラップ作製についで2番目に多い4)とのことであり,当施設でのIOL縫着術はわが国で多く行われている術式から大きく逸脱するものではないと考えられる.本調査結果での白内障手術後のIOL脱臼の状態としては,.外へのIOL脱臼眼よりも水晶体.ごとのIOL脱臼眼のほうが多かった.過去の報告でも近年は.外への脱臼の症例数が減ってきているとの報告があり2,5),.外への脱臼の場合,そのリスクとしては破.などの術中合併症や,成熟白内障であることが報告されている2).実際,当院での.外へのIOL脱臼眼も,成熟白内障で超音波乳化吸引術予定であったが.外摘出術へ変更された症例であった.本調査を行った動機の一つとして,京都市立病院での白内障手術後のIOL脱臼による縫着術症例は,高齢者よりも比較的若年者が多い印象があり,そしてPE症候群についてはそれほど多い印象はなかったことがある.PE症候群については他の患者因子との重複も含めると単回縫着眼では5眼で11.1%(5/45眼),再縫着眼では0眼であった.本調査対象はPE症候群の既往のない単回縫着眼1眼を除いて,すべて水晶体.ごとのIOL脱臼眼であり,水晶体.ごとの脱臼眼に限ったとしてもPE症候群は単回縫着眼で11.3%(5/44眼)となり,過去の,水晶体.ごとのIOL脱臼で約40%がPE症候群との報告2)と比べると,やはり少なかった.また,単回縫着眼と再縫着眼とでは,両者とも京都市立病院でのある一定期間に白内障手術を施行した患者全体の平均年齢よりも有意に若かった.このことは,再縫着眼については,アトピー性皮膚炎の既往が3眼(3/7,42.9%)ともっとも多い患者因子であることが一因と思われた.アトピー性皮膚炎は,慢性のあるいは慢性的に増悪を繰り返す掻痒感を伴った皮膚表2単回縫着眼と再縫着眼の患者因子(既往歴)の比較単回縫着眼再縫着眼患者因子(既往歴)(n=45)(n=7)AD5(11.1%)3(42.9%)AD,RD,PPV5(11.1%)0RD,PPV4(8.8%)2(28.6%)PE3(6.7%)0PE,RD,PPV2(4.4%)0trauma2(4.4%)0PPV,trauma2(4.4%)0RD2(4.4%)0myopia1(2.2%)1(14.3%)trauma,myopia1(2.2%)0RD,PPV,myopia1(2.2%)0AD,RD,PPV,trauma1(2.2%)0明らかな因子なし16(35.6%)1(14.3%)AD:アトピー性皮膚炎,RD:網膜.離の既往,PPV:硝子体手術既往,PE:偽落屑症候群,trauma:外傷の既往,myo-pia:眼軸長≧27mm炎であり,近年その有病率は上昇傾向で,治療による掻痒感のコントロールが十分でないと顔面や眼周囲の掻痒感で,繰り返し眼周囲を掻いたり,叩いたりすることにより,アトピー性白内障や網膜.離につながると考えられている6).アトピー性皮膚炎で顔面に湿疹があること,眼周囲をこすることが白内障の進行を早める7)との報告もある.アトピー性皮膚炎の有病率は小児期に高く,年齢が高くなると少なくなってくる6).単回縫着眼と再縫着眼では白内障手術後からIOL脱臼までの期間には有意差はなかった.しかし,再縫着眼における初回縫着術後から再縫着術までの期間は白内障手術後から初回縫着術までの期間より有意に短かった.再縫着眼の縫合糸の断裂の原因として外力によるものと,そして経年劣化も考慮される.過去の報告では10-0ポリプロピレン糸の劣化によるIOL脱臼は縫着術後4,5年で起こってくる8)とのことだが,今回の検討結果からは初回縫着術から再縫着術までは1.7±1.3年(平均値±標準偏差)という短期間であり,経年劣化の影響はそれほど大きくないように思われる.再縫着眼は女性よりも男性のほうが多く,また再縫着眼では単回縫着眼よりもアトピー性皮膚炎が多かったことは,アトピー性皮膚炎による掻痒感で眼窩部を叩くなどの行為が,縫合糸の断裂の原因として大きい可能性も考えられる.再縫着眼ではPE症候群や外傷の既往をもつ眼はなかった.これは当然ではあるがZinn小帯の脆弱性は初回縫着後にはもはや影響がなくなるため,再縫着のリスク因子とはならないからだと考えられる.つまりこれまで報告されてきた白内障術後にIOL脱臼に至るリスク因子と,縫着術後に縫着糸が断裂するリスク因子とは異なるといえる.(104)以上より今回の結果からは,IOL縫着術後にIOL位置不良となり再縫着を要するリスク因子としては,これまで白内障術後にIOL脱臼を起こしやすいといわれていたリスク因子とは異なり,アトピー性皮膚炎の既往をもち,若年で白内障手術を施行され,その後IOL脱臼に至りIOL縫着術を施行された男性患者であることと考えられた.そして,そのような症例に対してIOL縫着術を施行する際は10-0ポリプロピレン糸では強度不足である可能性が高い.強度の点においては縫着糸として10-0糸よりも9-0糸,8-0糸が優れている9)との報告があり,実際に10-0以上の太さのポリプロピレン糸を使用したIOL縫着術は施行されている.ただし,糸が太くなると,より縫合部分が大きくなり強結膜を突き破らないようにするための工夫がそれだけ必要になる8).強膜ポケットをより強膜深層に作製するなどの工夫を行う必要があると思われる.また,最近ではIOL強膜内固定術も施行され始めている.IOL強膜内固定術の一番の利点としてIOL支持部が強膜内に固定されるために,IOLの眼内での固定はより強固であるとともに,IOLの偏心や傾斜をほとんど認めないことがあげられる.もう一つの大きな利点として,術後に打撲などによりIOL偏位を認めても,容易に整復可能なことがあげられる10).眼内レンズ強膜内固定術は2007年に初めて報告され10),長期予後はまだ明らかでない部分もあるが,とくに上記の特徴をもつ患者については現段階で有効な手術法の一つであると考えられる.白内障手術は各種手術機器が進歩し,術中合併症の可能性も少なくなっているため,若年であっても施行されることも多いが,上記の特徴をもつ患者についてはIOL脱臼のリスクについて考慮し,またそのリスクについて術前の十分な説明が重要と考えられる.文献1)PueringerSL,HodgeDO,ErieJC:Riskoflateintraocularlensdislocationaftercataractsurgery,1980-2009:Apopulation-basedstudy.AmJOphthalmol152:618-623,20112)HayashiK,HirataA,HayashiH:Possiblepredisposingfactorsforin-the-bagandout-of-the-bagintraocularlensdislocationandoutcomesofintraocularlensexchangesur-gery.Ophthalmology114:969-975,20073)Fernandes-BuenagaR,AlioJL,Perez-ArdoyALetal:Latein-the-bagintraocularlensdislocationrequiringexplantation:riskfactorsandoutcomes.Eye27:795-802,20134)一色佳彦,森哲,大久保朋美ほか:北九州市における眼内レンズ縫着術の実態調査.あたらしい眼科29:391-394,20125)田中最高,吉永和歌子,喜井裕哉ほか:眼内レンズ脱臼の原因と臨床所見.あたらしい眼科27:391-394,20106)FukueM,ChibaT,TakeuchiS:CurrentstatusofatopicdermatitisinJapan.AsiaPacAllergy1:64-72,20117)NagakiY,HayasakaS,KadoiC:Cataractprogressioninpatientswithatopicdermatitis.JCataractRefractSurg25:96-99,19998)BuckleyEG:Long-terme.cacyandsafetyoftranss-cleralsuturedintraocularlensesinchildren.TransAmOphthalmolSoc105:294-311,20079)秋山奈津子,西村栄一,薄井隆宏ほか:縫着糸の強膜床結紮部の強度測定.IOL&RS25:217-222,201110)太田俊彦:眼内レンズ強膜内固定術.日本の眼科6:783-784,2014***(105)あたらしい眼科Vol.32,No.11,20151617