●シリーズ後期臨床研修医日記旭川医科大学眼科学講座海野茂樹旭川医科大学眼科学講座では現在,後期臨床研修医2年目として大学病院で1人,関連病院で2人が研修を積んでいます.吉田晃敏学長をはじめ各分野の専門の先生方やORTなどのスタッフの皆さんに指導していただきながら,しっかりとした知識と技術を身につけ,北海道の眼科医療に貢献すべく頑張っています.当講座では初期臨床研修病院を大学選択にすると約1年間の眼科選択が可能であり,初期研修時代に眼科医としての一歩をすでに踏み出しています.基礎的な診察方法や疾患に対する知識・手術の際の外科的技術などを習得し,後期研修1年目では関連病院で一般的な外来診療や手術の経験を積み,再び大学病院に戻りさらに専門的な知識・経験を身につけていくというのが当講座の研修のおおまかな流れです.また,研究分野に興味がある場合には大学院生として大学病院に戻り,研究の道を選択することも可能です.今回は当講座の北海道ならではの特徴なども含めてご紹介したいと思います.外来編外来でのおもな仕事は初診担当,教授診の陪席などです.もちろん初めから一人で初診の患者さんの担当などできるわけもなく,はじめは上級医の先生の外来に陪席しながら問診の取り方や検査オーダーの仕方,所見の書き方などを教わっていきます.そうして一通り所見を取り検査を終えたあとに,教授に診察していただき,足りない検査の追加指示や各専門外来の先生と相談するようにとの指示をいただいたりします.当科には旭川市内はもちろん北海道各地から紹介の患者さんが集まってくるほか,当科での診察を希望されて飛び込みで受診される患者さんも数多くいらっしゃるので,てきぱきと進めていかないとすぐに外来が患者さんであふれてしまいます.当科には眼循環や糖尿病,黄斑疾患,緑内障,斜視弱視,角膜などの各種専門外来があり,前眼部OCTやSD-OCTなどの新しい検査機器も多数揃っているため,担当の患者さんに合ったそれぞれの外来の先生にご指導をいただきながら,より専門的な検査・診察を進めていくことができることは大学病院の強みであるなと感じています.また,毎週月曜日は吉田学長の外来に陪席するのですが,実習の学生も見学しており,モニターに映し出される画像の解説などもします.今でこそそれなりに説明することができるようになりましたが,初期研修のころは「自分でもわかっていないのに学生に説明するなんて…」と思いながら大嘘だけはつかないように何とか頑張っていました.病棟編旭川医科大学病院の眼科病棟は約40床ですが,基本的には予定入院の方で埋まってしまい,網膜.離や外傷などの緊急入院でベッドが足りなくなると他病棟に借りるほどで,常時ほぼ満床以上となっています.当院の眼写真1眼科医局吉田学長を中心に当講座の先生方です.(89)あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014890910-1810/14/\100/頁/JCOPY写真2診察室にて(筆者)科の手術日は原則として火曜日と木曜日となっているため,その前日の月曜と水曜に多くの患者さんが入院してきます.私たちは交代で病棟当番をすることになっていますが,院内各階に当科の患者さんが入院することもあり,入院時の指示出しや糖尿病がある方のインスリン指示など,患者さんのいるフロアを順番に訪問しながら間違いがないように進めていくのはなかなか大変です.眼科はどこもそうだと思いますが,基本的には入院期間が短い患者さんが多いので,入院時の指示出しや検査値の確認,入退院サマリーなどの書類の作成といった諸々の雑務が短期のサイクルで押し寄せます.大変な業務ですが,これをやらないと当科の業務全体が回らなくなると考えると,とても責任重大でありおろそかにはできないのが病棟係の仕事です.手術編前述のように,当院では原則的に火曜日と木曜日が眼科の手術割り当て日となっており,一般の手術室が2列と,病棟手術室が2列の計4列で手術を行っています.一般手術室では硝子体手術や角膜移植術,斜視手術などが行われており,病棟手術室では白内障手術や翼状片手術などが行われています.1日に約20件,年間で約1,600件の手術が行われていますが,件数だけでなく疾患の種類も多様であり,助手としてそれらの症例を経験できることは今後にとって大きなプラスとなると思います.そのように忙しいなかでも,翼状片手術や白内障手術の部分ごとの指導から完投までの指導,テーマごとの手術勉強会などをしていただいております.気が付けば,今までに執刀医として白内障手術150例,翼状片そのほかの手術15例もの経験を積むことができました.また,当科にはおもに道北・道東から臨時手術が必要90あたらしい眼科Vol.31,No.1,2014写真3朝の手術勉強会のひとコマな患者さんが紹介されてくることもあり,非常に広い地域をカバーしているため,手術日ではない日でも何かしらの臨時手術を行っていることが多いです.遠方から来院するということもあり,到着が遅い時刻となれば手術の開始時刻も遅くなり,ときにはすべての科のなかでも最後まで手術室に残っているという日もあります.当講座ではここ数年で看護師さんやメディカルクラークさんのさらなる協力が得られ,研修医や若手医師の雑務の負担がだいぶ軽減されてきました.もちろんそれでも忙しいことに変わりはないのですが,少しでも診療技術や知識の習得に充てる時間が増えていることは,とてもありがたいことだと感じています.出張は小旅行並み後期研修医として大学病院に戻ってきてからは道内の関連病院への外来応援の出張や学校検診が当たるなど学外での勤務も増え,いろいろな環境で診療を進めていくことに対応することが求められます.普段,大学では当たり前にオーダーしているOCTやHFAなどもどこにでもあるものではありません.そういった検査機器を備えていない施設では,いつも以上に問診や眼底所見の観察をしっかりと行うことが大切であるということを実感します.また,そのような検査が必要となった場合でも,最寄りの大きな病院までは100km以上ということも珍しくはありません.患者さんもいろいろな事情がありますし,冬の北海道では移動そのものが困難であるため,なかなかすぐには受診できないということがあります.そのようなときでも,できるだけ受診を促すために検査の必要性を含めしっかりと疾患のことを説明できる(90)ように,自分自身の疾患に対する理解を深めていくことの大切さを感じています.このような環境下ですので,いわゆる一般的な外勤出張のイメージとはだいぶ様相の異なる展開となることがあります.旭川は北海道の中心に位置するのですが,道内各地への出張には鉄道や飛行機やマイカー,離島に行く際にはフェリーまで使うこととなります.私は先日まで道東の釧路に赴任していましたが,旭川.釧路間は陸路では約300km・6時間ほどであり,大学から応援に来ていただく先生方は前日の仕事を終えたあと,夕方に旭川を出発して鉄道や空路で出張に来ていただいていました.また,常任の眼科医がいない地域の学校検診などもさせてもらいますが,先日もやはり300kmの移動があり,このときは自分の車で移動しました.私はもともと本州出身ですので,入局した当初は先輩の先生方が「これから18時のJRで出張行くんだよね(目的地は200km先…)」とか「雪がひどくて飛行機もJRも怪しいから,とりあえず行けるところまで行っておくわ」などと当然のように話していることに驚いていました.本州に住んでいたころは300kmの移動となれば相当な距離と思っていましたが,北海道での生活が長くなるにつれて不思議となんでもないことのように感じてきて,今では自分も道内のあちこちに行かせていただいています.また,このような出張の際には,仕事の合間や移動の際に観光地を巡ったり,夜はその土地の美味しいものをいただいたりと,普段は忙しくてなかなか旅行などに行けない分の穴埋め以上に楽しい経験もしています.おわりに『後期臨床研修医日記』というタイトルからはやや外れてしまったような内容ですが,当講座の紹介をさせていただきました.今現在は大学病院に戻ってきましたが,戻ってからは臨床経験だけではなく学術分野での経験も積ませてもらっています.昨年は韓国プサンでのAPAOで発表をしましたし,それをもとに論文も執筆中です.また,今年東京で開かれるWOCにも演題を出しており,今から楽しみにしています.眼科医としては,まだはじめの一歩を踏み出したばかりですが,外来診療,手術,研究とそれぞれに熱い先輩方にご指導をいただきながら,多忙ながらも楽しい日々を過ごしています.〈プロフィール〉海野茂樹(かいのしげき)平成12年東北大学法学部卒業.平成22年旭川医科大学卒業.旭川医科大学病院にて初期研修修了後,平成24年4月旭川医科大学眼科学講座入局.後期研修医.指導医からのメッセージ―「高い志,深い配慮」それが,後期臨床研修医の将来を決める―現在,旭川医科大学眼科には,後期臨床研修医の2年目として3名が在籍しており,大学病院で日夜奮闘しているのが海野先生であり,大学院に進学した宋先生,関連病院で活躍している川口先生,それぞれの道でとてもよく頑張っている.初期臨床研修制度が平成16年にスタートしてから,地方の大学では眼科入局者が減少している.当教室も例外ではないが,プログラムを工夫した.すなわち,大学選択の研修にすると,初期臨床研修の2年間で約1年間の眼科選択が可能となる.これによって,本学では,6年生のときに眼科を選んでくれた初期臨床研修医は,海野先生のように,2年間ですでに眼科医としての基礎的なトレーニングを始めている.さらに,後期研修1年目では通常は関連病院で一般的な外来診療や手術の経験を積み,再び本学病院に戻りさらに専門的な眼科学を学ぶのが当科の研修方針である.「鉄は熱いうちに打て」とはよくいわれることだが,私は,この時期の1年1年は本当に大事な時期であり,「高い志,深い配慮」,それが後期臨床研修医の将来を決めると思って,海野先生をはじめこの3名に心から期待している.そして,全国から研修医が集まるようなプログラムも用意している.私の研修医の頃と比べると今の環境は,素晴らしくバージョンアップされており,多くの学生や若い医師に自信をもって眼科学を学ぶことを勧めていきたい.(旭川医科大学眼科学講座教授吉田晃敏)(91)あたらしい眼科Vol.31,No.1,201491