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眼科医のための先端医療 170.Schlemm管はリンパ管である

2015年2月28日 土曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第170回◆眼科医のための先端医療山下英俊Schlemm管はリンパ管である中尾新太郎(九州大学眼科)はじめに最近,「Schlemm管はリンパ管である」という趣旨の論文が数篇発表されたので,紹介したいと思います1~3).正確に言えば「Schlemm管はリンパ管様の管腔である」という趣旨です.リンパ管眼科医にとってリンパ管はあまり馴染みのないものです.しかし,リンパ管は血管に併走し,われわれの体中で日本列島における道路網のように張り巡らされています.リンパ管は,もともと血管が閉鎖循環系になって初めて発達してきた器官です.つまり,完全な閉鎖循環系は血圧を生むことにより,体内の隅々まで酸素と栄養を送ることができるしくみです.それに伴い,リンパ管は血管から漏出した物質や細胞を再循環させる必要性に応じて発達した系と考えられます.しかし,一部例外があります.脳などは血管が豊富にあるにもかかわらず,リンパ管は存在しないことが知られています.眼も特殊な器官の一つです.角膜は無血管,無リンパ管組織ですし,網膜・脈絡膜は血管が豊富にもかかわらずリンパ管はないとされています.一方,皮膚と同様に結膜はリンパ管が豊富な組織です.その他,角膜輪部,毛様体,涙腺での存在が報告されています4,5).また,疾患へのつながりでは,角膜移植における拒絶反応に血管新生よりリンパ管が重要であるなどの報告もあります5).リンパ管研究は血管研究に遅れを取ってきました.血管が赤血球という色素を有する血球を含むのに対して,リンパ管は赤血球を含まないことから肉眼では観察されなかったこともリンパ管研究が遅れてきた要因です.しかし,近年リンパ管のマーカーや分子メカニズムが解明され,その発達や病態への関与が急速にわかってきました.われわれ眼科医にとってVEGF-Aが重要である血管新生は馴染み深いものになりましたが,リンパ管も一定の条件下ではリンパ管新生が生じ,そのメカニズムにVEGFのファミリーであるVEGF-CとVEGF-Dが重要であることがわかっています.また,リンパ管の発生はPROX1という転写因子の発現により静脈から分化することが解明されています.Schlemm管とリンパ管の類似性房水流出路には経Schlemm管房水流出路と経ぶどう膜強膜房水流出路が存在します6).前者は前房から線維柱帯を通ってSchlemm管に入り,房水静脈から上強膜静脈への経路です.Schlemm管は扁平な一層の内皮細胞に覆われた管腔構造であり,緑内障眼ではSchlemm管が小さいとの報告もあります7).しかし,Schlemm管の発生や起源は不明でした.Schlemm管は水の吸収,静脈への灌流という機能面でリンパ管と共通点があると同時に,解剖学的にも①赤血球を含まない,②扁平な一層の内皮で構成される,③不連続な基底膜,④ペリサイトの欠如など共通点が多くみられます.Schlemm管の発生今回発表された一連の論文は,Schlemm管の発生学的な分子メカニズムを解明し,Schlemm管がリンパ管様組織であると結論づけてます1~3).Schlemm管は上強膜静脈とchoriocapillaris間の静脈から発芽し,管腔を形成する過程においてPROX1発現を伴い成熟化していくようです.PROX1はリンパ管発生時の重要なマスタースイッチです.またVEGF受容体のうち,VEGFR2とVEGFR3の発現がSchlemm管で確認され,VEGF-CがSchlemm管発達に重要であることが示されました.VEGFR3は主にリンパ管に発現し,VEGF-C,VEGF-Dというリンパ管新生促進因子の受容体です.このことからSchlemm管は発生学的にリンパ管に類似することがわかります.しかし,代表的なリンパ管マーカーであるLYVE-1,ポドプラニンの発現は乏しく,Schlemm管=リンパ管とはいえない面もあるようです.さらに論文の一つでは,加齢や緑内障によりPROX1発現が低下し,Schlemm管機能不全が進むことが示唆され,リンパ管様機能低下という緑内障病態も述べられています2).(83)あたらしい眼科Vol.32,No.2,20152550910-1810/15/\100/頁/JCOPY 新しい緑内障治療さらに興味深いことに,今回の報告では緑内障治療への応用も示唆されています1).VEGF-CによりSchlemm管の拡張が誘導され,眼圧下降効果が認められたというものです.現在の薬剤は経ぶどう膜強膜房水流出路に作用するものが主ですが,経Schlemm管房水流出路に作用する薬剤の開発も期待されます.またVEGF-Aでは逆にSchlemm管収縮をきたし,眼圧上昇を示しました.これは血管新生緑内障における眼圧上昇の一つのメカニズムと考えられます.今後の眼リンパ管研究今回,眼のリンパ管に関するトピックを取り上げましたが,眼におけるリンパ管の役割はまだまだ不明な点が多く存在します.免疫が重要なぶどう膜炎や水の出入りが重要な糖尿病黄斑浮腫など後眼部疾患への関与は,これからの解明が必要です.脈絡膜新生血管にはリンパ管新生は観察されませんが,後眼部からリンパ節へのルートはあるようです8).今後,さらなるリンパ管やリンパ管機能を標的とした治療法の開発に期待したいと思います.文献1)AspelundA,TammelaT,AntilaSetal:TheSchlemm’scanalisaVEGF-C/VEGFR-3-responsivelymphatic-likevessel.JClinInvest124:3975-3986,20142)ParkDY,LeeJ,ParkIetal:LymphaticregulatorPROX1determinesSchlemm’scanalintegrityandidentity.JClinInvest124:3960-3974,20143)KizhatilK,RyanM,MarchantJKetal:Schlemm’scanalisauniquevesselwithacombinationofbloodvascularandlymphaticphenotypesthatformsbyanoveldevelopmentalprocess.PLoSBiol12:e1001912,20144)NakaoS,MaruyamaK,ZandiSetal:Lymphangiogenesisandangiogenesis:concurrenceand/ordependence?Studiesininbredmousestrains.FASEBJ24:504-513,20105)NakaoS,Hafezi-MoghadamA,IshibashiT:Lymphaticsandlymphangiogenesisintheeye.JOphthalmol2012:783163,20126)田原昭彦:原発解放隅角緑内障の眼圧上昇機序.あたらしい眼科29:589-594,20127)KagemannL,WollsteinG,IshikawaHetal:IdentificationandassessmentofSchlemm’scanalbyspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci51:4054-4059,20108)NakaoS,ZandiS,KohnoRetal:Lackoflymphaticsandlymphnode-mediatedimmunityinchoroidalneovascularization.InvestOphthalmolVisSci54:3830-3836,2013■「Schlemm管はリンパ管である」を読んで■今回は中尾先生(九州大学眼科)によるとても魅力発への応用です.的なタイトルでの総説です.組織を構成する細胞の起中尾先生の紹介された研究はとてもいろいろな問題源はとてもむずかしい問題ですが,これまでの多くのを提起しているように考えます.まず,われわれは眼先人が積み上げてきた組織マーカーが大きな武器となという組織をかなり特殊な組織であると考えすぎていって,細胞の起源を体系的に追及することができるよます.本来,血管とリンパ管は体循環に双方が必要不うになってきました.中尾先生がおっしゃっているよ可欠であり,眼組織の生理,病態解明にリンパ管を血うに,眼疾患にはがん(癌)があまり多くないので,管新生と並行して考えるということは大変soundなどうしてもリンパ系に注目することが少なかったのか思考法であるといえます.なにごとでも原点に帰るこもしれません.しかし,房水流出についてSchlemmとは必要であることを中尾先生は指摘しておられま管は大きな関与をしていますし,その機能不全は緑内す.そして,このような基礎的な研究が眼科医療にど障という疾患を引き起こします.一連の研究で,管腔のような意義をもつのかを常に考えていることが必要を形成する過程においてPROX1が発現すること,であることも示されました.中尾先生の所属する九州Schlemm管でVEGFR2,VEGFR3,VEGF-Cが発現大学はこのような基礎研究を診療に応用する研究にとすることが明らかになってきて,「Schlemm管はリンても意欲と実績をもち,体系的な取り組みをしてきたパ管である」という説が高い説得力をもって発表されモデル的な大学です.基礎研究は役にたつものでなけたことをわかりやすく解説していただきました.臨床ればならないのではなく,基礎研究をきちんとやる研的な意義としては,新しい発想での緑内障治療薬の開究者には,同時に臨床応用を考えるtranslational256あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(84) researchを担当する臨床医が活躍することが必要とをあげてきました.日本でも,研究組織,研究者,製いうことです.最近の話題はこの基礎的研究→trans-薬会社などの努力を体系化することが今後構築されてlationalresearch→臨床応用(創薬など)をスムーズいくでしょう.に行う組織としてA-MED(いわゆる日本版NIH)を中尾先生の総説は今後の日本における臨床研究の在設立,充実させることです.アメリカ,ヨーロッパのり方を示しているものとも考えられます.諸国は意識してこの研究システムを運用し大きな成果山形大学医学部眼科学山下英俊☆☆☆(85)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015257

新しい治療と検査シリーズ 225.マイボーム腺機能不全(MGD)抗菌薬治療

2015年2月28日 土曜日

新しい治療と検査シリーズ225.マイボーム腺機能不全(MGD)抗菌薬治療プレゼンテーション:鈴木智京都市立病院眼科コメント:近間泰一郎広島大学大学院医歯薬保健学研究院視覚病態学.バックグラウンドマイボーム腺機能不全(meibomianglanddysfunction:MGD)は,もともと,マイボーム腺開口部の過角化(hyperkeratinization)やマイボーム腺分泌脂(meibum)のうっ滞を特徴とし,細菌の関与はほとんどない疾患と定義されていた1).MGDの治療は,MGDに伴う蒸発亢進型ドライアイに対する治療のほか,従来から行われている眼瞼の温罨法,マッサージ,清拭などが中心であり,未だMGDそのものに対する特効薬はなく,治療法も確立されていないのが現状である.しかしながら,MGDで生じるmeibumの質的変化には眼瞼縁に存在する細菌(ブドウ球菌など)の有するリパーゼやエステラーゼが関与していることから,テトラサイクリン系あるいはマクロライド系抗菌薬が,細菌そのものを減少させる目的よりは,細菌のリパーゼを抑制させるために用いられてきた2).図1MRKC角膜上に結節性細胞浸潤と表層性血管侵入を認め,その延長線上にマイボーム腺炎を認める..新しい治療法(原理)マイボーム腺炎角結膜上皮症(meibomitis-relatedkeratoconjunctivitis:MRKC)は,もともと閉塞性MGDがあるところに細菌増殖によるマイボーム腺そのものの炎症(マイボーム腺炎)を生じ,角膜に点状表層角膜症,炎症細胞浸潤,血管侵入などを生じる病態である3)(図1).マイボーム腺内で増殖している細菌は,若年者ではPropionibacteriumacnes(P.acnes)が主体であると推測されている3).そのため,P.acnesに感受性のある抗菌薬を使用し減菌することで,マイボーム腺炎のみならず眼表面炎症も沈静化させることが可能である(図2).MRKCを治療するために,抗菌薬を用いてマイボーム腺内に増殖する細菌を「除菌」することは,胃炎を治療するためにHelicobacterPyloriを「除菌」するという概念と同様のものである..使用方法(実際の治療)MRKCでは,P.acnesに感受性のある抗菌薬(セフェム系やマクロライド系)の内服治療を中心に行う.これ図2MRKCの治療後抗菌薬内服治療により,マイボーム腺炎とともに眼表面炎症も鎮静化することができる.(81)あたらしい眼科Vol.32,No.2,20152530910-1810/15/\100/頁/JCOPY は,マイボーム腺内の抗菌薬濃度を高めるためである.具体的には,殺菌作用のあるフロモックスR内服を1~2週間行い,炎症所見の改善をみながら静菌作用のあるクラリスロマイシン内服に切り替え,1~2カ月かけてマイボーム腺炎を完全に消退させ常在細菌をコントロールする(図2).点眼や眼軟膏の併用についても,ベストロンR点眼やエコリシン眼軟膏Rなどが有用である..本方法の良い点いったんマイボーム腺内の細菌のコントロールができると,meibumの質も改善し,マイボーム腺炎のみならず眼表面を炎症のない状態に保つことができる.抗菌薬を正しく選択し,内服治療を用いることでMRKCを寛解へと導き再発予防も可能である.MGDに細菌がどの程度関与しているかはまだ議論の余地があるが,近年欧米では,エリスロマイシンから派生した新しいマクロライド系抗菌薬であるアジスロマイシンのMGDに対する有用性の報告が相次いでいる.アジスロマイシンは,3日間の内服で効果が1週間持続することが期待できるうえ,その点眼薬(日本では未発売)の組織移行性が非常に良いことから,内服と同等の効果が最近になって報告されている.MRKCと同一の疾患群であると考えられる小児の酒さ性角結膜炎に対する有効性も報告されており4),今後わが国での発売が待たれる.文献1)GutgesellVJ,SternGA,HoodCI:Histopathologyofmeibomianglanddysfunction.AmJOphthalmol4:383-387,19822)DoughertyJM,McCulleyJP,SilvanyREetal:Theroleoftetracyclineinchronicblepharitis.Inhibitionoflipaseproductioninstaphylococci.InvestOphthalmolVisSci32:2970-2975,19913)SuzukiT,MitsuishiY,SanoYetal:Phlyctenularkeratitisassociatedwithmeibomitisinyoungpatients.AmJOphthalmol140:77-82,20054)DoanS,GabisonE,ChiambarettaFetal:Efficacyofazithromycin1.5%eyedropsinchildhoodocularrosaceawithphlyctenularblepharokeratoconjunctivitis.JOphthalmicInflammInfect3:38,2013.「マイボーム腺機能不全(MGD)抗菌薬治療」へのコメント.マイボーム腺炎角結膜上皮症(MRKC)は,一見すにマイボーム腺の観察を怠らないようにすることが必ると病変が角結膜に強く現れているためにそこに目を要である.ただし,この治療は基本的にマイボーム腺奪われてしまい,マイボーム腺の炎症を見過ごし,ドに感染を生じているマイボーム腺炎の治療であり,すライアイやアレルギー性結膜炎として,点眼薬のみにべてのマイボーム腺機能不全症例に有効なわけではなよる角結膜の炎症や上皮障害の治療に集中してしまいことは理解しておく必要がある.い,なかなか治癒せず専門医へ紹介となる症例によく今後,MRKCの各症例において使用する抗菌薬の遭遇する.選択根拠になる確実な検査法や,どのくらいの期間投セフェム系やマクロライド系抗菌薬の内服,点眼,薬を続けるかの判断根拠となる指標が確立することを眼軟膏の併用により著効する症例も多く,MRKCと期待している.いう疾患を理解し,角結膜上皮障害の症例をみたとき☆☆☆254あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(82)

眼瞼・結膜:結膜ムチンと粘膜バリアの重要性

2015年2月28日 土曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人2.結膜ムチンと粘膜バリアの重要性稲富勉京都府立医科大学眼科学教室眼表面では,上皮に発現する膜結合型ムチンと涙液中に存在する分泌型ムチンが粘膜バリアを構成するうえで重要な役割を果たしている.結膜上皮は主として膜結合型ムチンとしてMUC1,MUC4,MUC16,を発現し,結膜杯細胞からはMUC5ACムチンが分泌される.ムチンは感染などに対する粘膜バリアの役割と安定した涙液被覆に役立っている.●はじめに眼表面は細菌やウイルスからの攻撃や眼瞼からの摩擦によるストレスを受ける.眼表面のバリアは上皮間に存在するタイトジャンクションと粘膜バリアにより構成される.近年,眼表面に発現するムチンや粘膜構造については新しい知見が多く得られてきている.粘膜バリアは結膜上皮や杯細胞が主役を担い,ドライアイや感染症など臨床面からも重要な観点である.●眼表面を被覆するムチンとは?体の粘膜には高分子糖蛋白である複数のムチンが発現しており,現在までに21のムチンが同定されMUC1からMUC21まで命名されている.ムチンの構造はコア蛋白と糖鎖からなる.コア蛋白には多数のアミノ酸のリピート構造があり(tandemrepeat),セリンやスレオニンを介してさらに巨大な糖鎖が連続結合し高分子を形成している.分子量の50~80%はこの糖鎖が占め,マイ膜結合型ムチン分泌型ムチンダンデム反復膜貫通ドメインDドメインダンデム反復図1膜結合型ムチンと分泌型ムチンの構造ムチンはコア蛋白と糖鎖よりなり,コア蛋白には特徴的なタンデム反復構造がある.分泌型ムチンはDドメインを介してポリマーを形成している.(79)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYナスに帯電することで親水性の性質をもっている.●結膜上皮に発現する膜結合型ムチンと分泌型ムチンムチンには膜結合型ムチンと分泌型ムチンがあり,分泌型ムチンはゲル形成型ムチンと可溶性ムチンに分類される.膜結合型ムチンは糖鎖の結合した細胞外ドメインと膜貫通部位,さらに細胞内ドメインの3つの構造からなり,結膜上皮にはMUC1,MUC4,MUC16,MUC20が発現する.結膜杯細胞からはMUC5ACムチンが,涙腺からはMUC7ムチンが分泌されている.MUC5ACはDドメインを介してムチン同志がSS結合しポリマーとして涙液中に存在している(図1).●結膜における膜結合型ムチンによる粘膜バリア結膜上皮にはMUC1,MUC4,MUC16,MUC20の3つの膜結合型ムチンが発現し糖衣を形成している(図2).とくにMUC16の分子量は20MDaともっとも大き涙液ムコイド層(分泌型ムチン)糖衣(Glycocalyx)(膜結合型ムチン)微絨毛(Microplicae)角結膜最表層上皮図2最表層上皮構造とムチン膜結合型ムチンは微絨毛には発現し糖衣を形成する.結膜杯細胞からは分泌型ムチンが産生され涙液ムコイド層を構成する.(文献1より改変)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015251 図3眼表面におけるMUC16ムチン図4結膜杯細胞とMUC5ACムチンの発現結膜杯細胞からは分泌型ムチンである最表層上皮に発現し,糖衣を形成し粘MUC5ACが分泌され涙液中に存在す膜バリアとしての役割を担う.る.図6ドライアイでの結膜上皮障害ローズベンガル染色陽性部はMUC16の発現が減少し,粘膜バリアが破綻している.く,細胞表面から500nm以上伸展している(図3).①細菌の眼表面への付着抑制,②バリア機能,③涙液との親和性,④表面シグナル伝達などの機能を担う.またINF-gやTNF-aなどの炎症性サイトカインにより発現がコントロールされている.●結膜杯細胞からはMUC5ACムチンが分泌される結膜杯細胞は分泌型ムチンを分泌するが,この正体はMUC5ACムチンであることが同定された(図4).ポリマーを形成しながら涙液中の不要物や細菌などに結合し浄化作用を担っている.また,保水作用のあるムチン分子はゲルとして潤滑作用により眼表面を保護している.●ムチン分子をとりまく粘膜バリア構造結膜上皮表面に発現するMUC16はさらに複数の糖蛋白と結合することで強固な粘膜バリアを形成している.眼表面ではレクチン結合蛋白であるガラクチン3が二量252あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015図5膜結合型ムチンMUC16とガラクチン3による粘膜バリアMUC16の糖鎖をガラクチン3が結合し粘膜バリアを構築している.(文献3より改変)体を作りながらMUC16の糖鎖に結合している.丈の高い膜結合型ムチンの糖鎖を結びつけることでより強固な粘膜バリアを提供することになる(図5).●ドライアイと結膜ムチンとのかかわりドライアイではムチンの糖鎖や発現量が変化する.Sjogren症候群では結膜杯細胞が減少し,同時にMUC1やMUC5ACムチンの発現が減少する.ローズベンガル染色が陽性となる結膜上皮表層には膜結合型ムチンが欠如し,バリアが破綻している(図6).新しく登場したジクアホソルナトリウムはP2Y2レセプターを介して杯細胞からのムチン発現を促進し,shortBUTタイプドライアイや涙液減少タイプのドライアイ治療薬として注目されている.文献1)BharathiG,GipsonIK:Membrane-tetheredmucinshavemultiplefunctionsontheocularsurface.ExpEyeRes90:655-663,20102)InatomiT,Spurr-MichaudS,TisdaleASetal:Expressionofsecretorymucingenesbyhumanconjunctivalepithelia.InvestOphthalmolVisSci37:1684-1692,19963)ArguesoP:Glycobiologyoftheocularsurface:mucinsandlectins.JpnJOphthalmol57:150-155,20134)GipsonIK,HoriY,ArguesoP:Characterofocularsurfacemucinsandtheiralterationindryeyedisease.TheOcularSurface2:131-148,20045)WoodwardAM,ArguesoP:ExpressionanalysisofthetransmembranemucinMUC20inhumancornealandconjunctivalepithelia.InvestOphthalmolVisSci55:6132-6138,2014(80)

抗VEGF治療:ポリープ状脈絡膜血管症のVEGF治療:隔月投与か必要時投与か

2015年2月28日 土曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二13.ポリープ状脈絡膜血管症の抗VEGF治療:引地泰一大塚眼科病院隔月投与か必要時投与か現在の治療法ではポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)を完治させることはできない.われわれ眼科医はPCVという慢性疾患患者と一生付き合っていかなければならない.PCV患者が天寿をまっとうするまで,なんとか視機能を維持し,ADL(activitiesofdailyliving,日常生活動作)を保つ.これが眼科医の使命である.「隔月投与か必要時投与(prorenata:PRN)か」の治療法選択を含め,PCV患者とどのように向き合うべきかについて,私見を述べる.PCVとの共生PCVは慢性疾患である1).抗VEGF療法や光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)によってポリープ状病変が消失する症例を認めるものの,脈絡膜異常血管網が消失することはない2).治療によりポリープ状病変が消失しても,残存する脈絡膜異常血管網からポリープ状病変が再発する.再発したポリープ状病変は滲出性変化の原因となる.残存する脈絡膜異常血管網の上にある網膜色素上皮(retinalpigmentepithelium:RPE)は変性・脱落し,RPEのバリア機能が低下する.RPEバリア機能の低下は漿液性網膜.離を誘発し,視機能低下を招く.残念ながら現在の治療法ではPCVを完治させることはできない.われわれ眼科医はPCVという慢性疾患を有する患者と一生付き合っていかなければならない.「PCV患者が天寿をまっとうするまでの間,なんとかそこそこの視機能を維持し,そこそこのADLを保つ」.これが眼科医の使命である.患者は「病気(PCV)と共存する・共に生きる」という認識をもつことが大切である.まさに緑内障診療と相通ずるものがある.リアクティブとプロアクティブ療法PCV治療に関するrandomizedcontrolledtrialはいくつか報告されているものの,いずれも1~2年程度の経過観察である3,4).われわれは,PCV患者が天寿をまっとうするまでの間,なんとかそこそこの視機能を維持し,そこそこのADLを保つための治療戦略をまだ知らない.この点が緑内障診療との大きな相違点である.PCV治療において,隔月投与とPRNのどちらがより良い治療戦略なのかについてのエビデンスはない.滲出型ABC図1PCVへのアフリベルセプト隔月投与74歳,女性.右眼のPCVに対し1カ月ごと3回,その後は隔月で,アフリベルセプト硝子体内注射を施行した.A:治療前.複数のポリープ状病変を認める.B:導入期(毎月投与3回)1カ月後.治療前と比べポリープ状病変の数は減少している.C:治療開始1年後.ポリープ状病変は完全に消失したものの,脈絡膜異常血管網は残存している.(77)あたらしい眼科Vol.32,No.2,20152490910-1810/15/\100/頁/JCOPY 表1抗VEGF薬のリアクティブ療法とプロアクティブ療法の比較リアクティブ療法(PRN)プロアクティブ療法(毎月投与・隔月投与・treatandextend)視力おおむね良好,長期的には低下PRNと比べ長期経過での低下が少ない通院回数毎月検査が基本毎月投与以外では通院回数を減らせる投与回数プロアクティブ療法よりも少ないリアクティブ療法よりも多い過剰投与なし想定内治療費プロアクティブ療法よりも少ないリアクティブ療法よりも多い全身合併症プロアクティブ療法よりも少ない?リアクティブ療法よりも多い?AMD治療では毎月投与の成績がPRNよりも良好であることが報告されている5).PRN(リアクティブ療法)では繰り返す滲出性変化の再発や突然の網膜下出血が視力低下を招くリスクを有している.毎月投与・隔月投与といった固定の投与計画は,滲出性変化を再発させないこと(プロアクティブ療法)が目的の一つであり,PRNが有する再発による視力障害のリスクを軽減することができる.一方,プロアクティブ療法では過剰投与を容認せねばならない.投与回数の多さは全身合併症への配慮の必要性を高めることとなる.表1に両療法の利点・欠点をあげる.患者背景を考慮した治療計画PCVの眼底像は多彩で1),抗VEGF療法への反応性も個々の症例でまちまちである2).両眼症例も少なくなく,すでに僚眼の視力が不良な症例も散見される.患者の抗VEGF療法への期待もさまざまである.そこそこのADLを維持しながら患者と一生の付き合いをするには,治療眼の視力や治療経過,僚眼の状態,居住地や患者個人で通院可能か,治療費などにも考慮し,抗VEGF療法の実施計画だけでなく,代替治療としてのPDTの適応も含めて,個々人に合った治療プランを立てる必要がある.文献1)UyamaM,WadaM,NagaiYetal:Polypoidalchoroidalvasculopathy:naturalhistory.AmJOphthalmol133:639-648,20022)HikichiT,HiguchiM,MatsushitaTetal:Resultsof2yearsoftreatmentwithas-neededranibizumabreinjectionforpolypoidalchoroidalvasculopathy.BrJOphthalmol97:617-621,20133)KohA,LeeWK,ChenSJetal:EVERESTstudy:efficacyandsafetyofverteporfinphotodynamictherapyincombinationwithranibizumaboraloneversusranibizumabmonotherapyinpatientswithsymptomaticmacularpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina32:1453-1464,20124)OishiA,KojimaH,MandaiMetal:Comparisonoftheeffectofranibizumabandverteporfinforpolypoidalchoroidalvasculopathy:12-monthLAPTOPstudyresults.AmJOphthalmol156:644-651,20135)ComparisonofAge-relatedMacularDegenerationTreatmentsTrials(CATT)ResearchGroupWritingCommittee:Ranibizumabandbevacizumabfortreatmentofneovascularage-relatedmaculardegeneration.Two-yearresults.Ophthalmology119:1388-1398,2012☆☆☆250あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(78)

緑内障:線維柱帯切除術後の眼瞼下垂

2015年2月28日 土曜日

●連載176緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也176.線維柱帯切除術後の眼瞼下垂丸山勝彦東京医科大学医学部医学科眼科学分野線維柱帯切除術後1カ月.半年で約1割の症例に眼瞼下垂が生じる.視野異常を有する緑内障患者にとって,眼瞼下垂による視野障害が加わることはqualityofvisionの低下に直結する.眼瞼下垂は線維柱帯切除術後の主要な合併症として留意する必要がある.●原因線維柱帯切除術の術後合併症としては角膜乱視やdellen,白内障,濾過胞関連感染症などがよく知られているが,眼瞼下垂(図1)も生じることがわかっている1.4).眼科手術後に生じる眼瞼下垂には,一般的に,麻酔作用による筋原性,神経原性の要因,眼瞼の浮腫や血腫による機械的要因,そして眼瞼挙筋腱膜が牽引され腱板から離開する解剖学的要因が関与するが5,6),筋原性要因や神経原性要因,機械的要因による影響は術後次第に解消するため,恒常的な眼瞼下垂は解剖学的要因に起因する.眼瞼挙筋腱膜の牽引は,制御糸や鑷子による上直筋の牽引や開瞼器による牽引,過度な下転などにより生じるが7.9),線維柱帯切除術ではこれらの操作が多いため,他の術式と比較して術後眼瞼下垂の発症頻度が高いと考えられる.また,代謝拮抗薬の使用,術後の眼球マッサージやニードリングによる侵襲,濾過胞による眼瞼への慢性的な刺激なども影響している可能性がある.●頻度線維柱帯切除術後に眼瞼下垂が生じる頻度は,術後1カ月から数年で8.12%と報告されているが1.4),定量的かつ前向きに検討した報告は唯一である1).この報告では,片眼のみにマイトマイシンC併用線維柱帯切除術単独手術を行った36例36眼(レーザーを含む内眼手術歴なし.眼窩,眼瞼の外眼手術歴なし.眼瞼の形態に影響する内科的,神経学的疾患なし)を対象として,術前と術後3,6カ月目にmarginalreflexdistance(MRD,患者に50cm離れたペンライトを注視させたときの角膜反射から上眼瞼縁までの距離)を計測している.その結果,術眼のMRDは,術前後の比較でも,非術眼との比較でも有意に減少し,眼瞼下垂を「術眼のMRDが術(75)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1線維柱帯切除術後に生じた眼瞼下垂(右眼)線維柱帯切除術と白内障との同時手術後4年で生じた眼瞼下垂.角膜反射が上眼瞼により遮蔽されており,marginreflexdistanceは.1.5mmである.前と比較して術後2mm以上減少した場合」と定義すると,眼瞼下垂の頻度は術後6カ月目で19%であったとしている.この報告は単一施設,比較的少数例での結果であるが,多施設,多数例での検討としては,線維柱帯切除術と点眼治療の開放隅角緑内障に対する第一選択治療としての有効性を比較した無作為比較試験CollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudyにエントリーした症例の中で,線維柱帯切除術が施行された症例の術後早期合併症の頻度を検討した報告がある2).この報告では眼瞼下垂は術後1カ月目で12%に生じたとされているが,465眼というきわめて多数の症例を対象とした研究である反面,眼瞼下垂の判定を検者の主観的な判断により行っており,明確な診断基準が定められていないという欠点がある.なお,長期的な検討はこれまで行われていない.●どのような症例に眼瞼下垂が生じやすいか眼瞼下垂発症の危険因子に関しては,年齢,屈折,術あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015247 abab図2線維柱帯切除術後の眼瞼下垂に対する眼瞼下垂症手術後,結膜損傷をきたした症例a:無血管性濾過胞を有する症例.b:眼瞼下垂症手術時に結膜損傷を生じた.前のMRD,術後6カ月目の眼圧,眼圧下降幅(術前の眼圧と術後6カ月目の眼圧の差)といった背景因子と術前から術後6カ月目のMRDの変化量の関連性を検討したところ,有意な相関はなかったとする報告があるのみで1),十分検討されていない.ハードコンタクトレンズ装用歴,開瞼器の種類,麻酔方法,制御糸を置くか否か,置くとしたらどこに置くか(上直筋付着部か角膜輪部か),結膜切開方法,強膜弁の形状や大きさ,代謝拮抗薬併用の有無,眼球マッサージやニードリングなどの術後処置の方法や頻度などの影響を受ける可能性があり,今後,検証が必要である.●対応線維柱帯切除術後でも通常の眼瞼下垂と同様に,下垂の程度,自覚症状,患者の希望などを総合的に判断して眼瞼下垂症手術を適応する.ただし,無血管性濾過胞を有する症例の場合には,手術操作で結膜損傷を起こさないように注意する必要がある(図2).また,術後の兎眼248あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015図3線維柱帯切除術後の眼瞼下垂に対して眼瞼下垂症手術を行った症例(右眼)右眼の上眼瞼拳上に伴い上耳側の無血管性濾過胞が瞼裂に露出しており,結膜上皮障害が危惧される.は,濾過胞が瞼裂に露出することで結膜上皮障害を引き起こし,濾過胞関連感染症の原因となる可能性もあるので留意する(図3).さらに,Heringの法則により片眼の眼瞼下垂症手術後に僚眼の眼瞼下垂が生じる可能性があるが,僚眼の視野障害が高度な症例では自覚症状が強く生じることがあり,術前の十分な説明が必須である.文献1)TsuchisakaN,MaruyamaK,ArimotoGetal:IncidenceofpostoperativeptosisfollowingtrabeculectomywithmitomycinC.JGlaucoma2014[Epubaheadofprint]2)JampelHD,MuschDC,GillespieBWetal:Perioperativecomplicationsoftrabeculectomyinthecollaborativeinitialglaucomatreatmentstudy(CIGTS).AmJOphthalmol140:16-22,20053)SongMS,ShinDH,SpoorTC:Incidenceofptosisfollowingtrabeculectomy:acomparativestudy.KoreanJOphthalmol10:97-103,19964)AltieriM,TruscottE,KingstonAE:Ptosissecondarytoanteriorsegmentsurgeryanditsrepairinatwo-yearfollowupstudy.Ophthalmologica219:129-135,20055)MehatMS,SoodV,MadgeS:Blepharoptosisfollowinganteriorsegmentsurgery;anewtheoryforanoldproblem.Orbit31:274-278,20126)BeardC:Typeofptosis.In:Ptosis3rdedition(edbyBeardC),p39-76,Mosby,StLouis,19817)LoefflerM,SolomonLD,RenaudM:Postcataractextractionptosis,effectofthebridlesuter.JCataractRefractSurg16:501-504,19898)KaplanLJ,JaffeNS,ClaymanHM:Ptosisandcataractsurgery,amultivariantcomputeranalysisofaprospectivestudy.Ophthalmology92:237-242,19859)AlparJJ,JaffeNS,ClaymanHM:Ptosisfollowingcataractandglaucomasurgery.Glaucoma4:66-68,1982(76)

屈折矯正手術:角膜内リング挿入術後のハードコンタクトレンズ合わせ

2015年2月28日 土曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載177大橋裕一坪田一男177.角膜内リング挿入術後のハードコンタクト山岸景子東原尚代京都府立医科大学眼科レンズ合わせ角膜内リング挿入術後にハードコンタクトレンズ(HCL)を処方する場合には,手術によって角膜中央部が扁平化することを考慮して,レンズ下に涙液が貯留しないようベースカーブを選択することと,リング挿入部をしっかりとレンズの光学領でカバーできるようレンズサイズを大きくすることがポイントである.●はじめに円錐角膜に対して角膜内リング挿入術(intrastoromalcornealringsegments:ICRS)を施行すると,挿入されたリングが角膜の剛性を高めることによって疾患の進行予防が期待されるほか,角膜中央部が平坦化するために近視や乱視が4D程度軽減するとの報告がある1).しかし,すべての症例で裸眼あるいは眼鏡矯正で満足できる生活視力が得られるとは限らない.本稿ではHCLデザインの選択や処方するうえでの注意点について,症例を提示しながら解説する.●逆形状多段階カーブHCLの特徴と処方のポイント京都府立医科大学眼科(以下,当科)では,一般に円錐角膜に対しては,角膜周辺部(とくに上方)の形状に合わせて球面レンズをフラットに処方することが多い2).一方,ICRS術後にHCLを処方する場合は,球面あるいは逆多段階カーブレンズのどちらであっても,角膜中央部の扁平化に合わせてベースカーブを大きくしてレンズ下に涙液が貯留しないよう,かつ,リング挿入部をHCLの光学部で十分に覆うため9.0mm以上の大きなサイズを選択している.もともと軽度の円錐角膜であれば,ICRS術後は角膜中央部がかなり扁平化しやすく,球面レンズよりも逆形状多段階カーブレンズのほうが安定した装用感が得られやすい.一方,術前が比較的強い円錐角膜であれば,ICRS術後は角膜中央部がなだらかになって円錐角膜の重症度が軽減する結果,術前には装用できなかった球面レンズが装用可能になることが多い.当科では,ICRS術後のすべての症例に対して,球面レンズと逆形状多段階カーブレンズの両方を試し,見えかたや装用感を含む自覚症状,HCLの価格などのさ(73)まざまな点で,どちらのHCLを選択すべきか十分に勘案してレンズの種類を決定している.処方の手順は,まず球面レンズを用いてレンズ下に涙液が貯留しない最良のベースカーブをトライアンドエラーにて選択する.小さなベースカーブを選択して角膜中央部に涙液が貯留して瞳孔領にかかってしまうと,羞明や視力不良の原因となるので注意したい.角膜の台形化が強く球面レンズでレンズ下の涙液が抜けない場合は,次に逆形状多段階カーブレンズを試す.逆形状多段階カーブレンズは,球面レンズのベースカーブ値を参考にして0.3mm前後大きなベースカーブを選択するとよい3).レンズサイズやレンズ周辺のデザインは,フルオレセインパターンを参考にして決定する.以下,HCLデザインの選択とその注意点を,症例に即して述べる.●逆形状多段階カーブレンズを処方した症例症例1は52歳女性,軽度の円錐角膜である.術前には球面レンズを2点接触で処方して良好な視力が出ていたが,老後にHCLを装用して生活することへの不安から,眼鏡矯正視力の向上を目的にICRSを希望された.眼鏡矯正視力は,(0.4)から術後(0.7)へと改善したが,さらなる視力改善をめざして術後HCLを処方した.術後のプラチドリング像では,角膜中央部が扁平化していたが(図1a),HCLを処方した2カ月後には,リングが角膜中心部から周辺にかけて同じ間隔で投影されており,角膜形状が大きく改善したのがわかる(図1b).症例1は角膜の扁平化が著明であったために,ツインベルタイプHCLを選択した.試しに術前に装用していた球面レンズと同じベースカーブのツインベルタイプHCLを装用させると,レンズ下に涙液が深く貯留した.タイトなフィッティングとなり眩しさやかすみのために視力あたらしい眼科Vol.32,No.2,20152450910-1810/15/\100/頁/JCOPY abcdabcd図1症例1のICRS術前後のプラチドリング像とHCLフィッティングa:術後3カ月のプラチドリング像.角膜周辺部と中央部のリングの間隔が大きく異なり,角膜中央部が強く扁平化しているのがわかる.b:HCL装用2カ月後のプラチドリング像.逆形状多段階カーブHCLを装用開始すると,角膜中心部のリングが正円に近くきれいに変化して,周辺部まで滑らかにリングが投影されている.c:術後に処方したツインベルタイプHCL(8.0mm/.3.0D/9.3mm)装用時の前眼部写真.レンズ下に涙液が貯留して瞳孔領上半分のクリアランスが低下している.d:術後に処方したツインベルタイプHCL(8.2mm/.3.0D/9.3mm)装用時の前眼部写真.ベースカーブを大きく変更すると,瞳孔領のクリアランスが改善して良好なフィッティングと視力(1.2)が得られた.(東原尚代,稗田牧:円錐角膜,屈折矯正術後の不正乱視の治療.あたらしい眼科32:39-45,2015より転載)は(0.8)と不良だった(図1c)が,大きなベースカーブに変更したところ,(1.0)の良好な視力へと改善した(図1d).●球面レンズを処方した症例症例2は41歳男性.重度の円錐角膜(図2a)で,多段階カーブレンズを装用して(0.9p)の視力であったが,単眼複視が強いうえにHCLが脱落しやすく,不具合を感じていた.その後,他院で左眼ICRSを施行され,角膜形状はいくぶんか改善したものの(図2b),HCLによる矯正視力が低下したとの理由で当科を再診された.術後にも術前のHCLを装用し続けていたために,角膜上皮びらんと血管侵入を認めた(図2c).一般に重症の円錐角膜では,球面レンズのベースカーブを7.0mm前後でレンズサイズを10.0mmと大きくするか,円錐角膜用の多段階カーブレンズを選択する必要があるが,症例246あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015ab図2症例2の前眼部写真a:術後の前眼部写真:当科に再診時,術前に装用していたHCLを無理に装用し続けたため角膜上皮びらんと血管侵入を生じた.b:術後に処方した球面HCL(7.6mm/+4.75D/9.4mm)装用時の前眼部写真.術後に角膜中央部の突出が軽減したことで球面レンズの装用が可能となり,術前ほどではないがLV=(0.5×HCL)の矯正視力が得られ,装用感が大きく改善し,単眼複視が消失した.3の場合は術後に角膜形状がフラット化したため,中等度の円錐角膜に処方するような形で球面レンズを選択し(図2d),LV=(0.5×7.6mm/+4.75D/9.4mm)の比較的良好な視力を得た.術前に装用していた多段階カーブレンズと比較すると矯正視力は低下したが,単眼複視が消失して大きな満足感が得られた.●おわりにICRSは円錐角膜の治療の選択肢の一つであるが,術後の裸眼あるいは眼鏡矯正視力の改善に過度な期待を抱くとICRSに満足できない事態が生じうるため,術後にもHCL装用が必要になる可能性があることをインフォームド・コンセントするのが望ましい.ICRS術後の角膜形状の変化を熟知して最良のHCL合わせを行うため,フィッティングに熟練した医師とICRSを施行する医師が連携を密にして対応する必要がある.ICRS術後に積極的にHCLを処方することで良好な視力が得られるだけでなく,角膜形状の改善も期待できる.文献1)荒井宏幸:特集円錐角膜:円錐角膜に対するICR(IntracornealRing).あたらしい眼科27:449-452,20102)東原尚代:不正乱視に対するハードコンタクトレンズ(HCL)処方─円錐角膜に対するHCL処方.日コレ誌53:180-185,20113)山岸景子,東原尚代,百武洋子ほか:屈折矯正手術後の角膜感染症により生じた高度角膜不正乱視へのガス透過性ハードコンタクトレンズ処方.日コレ誌55:283-288,2013(74)

眼内レンズ:貫通孔付き有水晶体眼内レンズ(Hole ICL)

2015年2月28日 土曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋340.貫通孔付き有水晶体眼内レンズ(HoleICL)神谷和孝北里大学医学部眼科学教室後房型有水晶体眼内レンズの問題点として,術後白内障の発症や,瞳孔ブロック予防を目的とした術前レーザー虹彩切除が必要であることがあげられる.これらの問題を解決すべく,レンズ中央部に直径0.36mmの貫通孔を作製した貫通孔付き有水晶体眼内レンズが開発された.その初期臨床成績は良好であり,術後眼圧上昇や白内障の発症を認めず,従来レンズと比較して高次収差,散乱,コントラスト感度,眼球光学特性もほぼ同等であった.わが国でも2014年3月に認可されており,長期臨床成績は不明であるが,新たな屈折矯正手術の選択肢として今後の普及が期待される.●はじめに後房型有水晶体眼内レンズ(implantablecollamerlens:ICL,後房型phakicIOL)「VisianRICLTM」(STAARSurgical社)は,2010年2月2日に厚生労働省より認可を受けているが,現在の標準術式であるlaserinsitukeratomileusis(LASIK)に比較して,高い安全性・有効性だけでなく術後視機能の優位性が指摘されている1,2).その一方,ICLの課題として術後白内障の発症や瞳孔ブロック予防を目的とした術前レーザー虹彩切除の必要性があげられる.これらの問題を解決すべく,レンズ中央部に直径0.36mmの貫通孔を作製した貫通孔付き有水晶体眼内レンズ(HoleICL)「KS-APTM」(STAARSurgical社)が開発された(図1).本稿では,HoleICLの初期臨床成績や眼球光学特性について概説する.●初期臨床成績と眼球光学特性清水らは,世界に先駆けてHoleICLの初期臨床成績を報告している3).術後6カ月の時点における安全性・有効性・予測性・安定性はいずれも良好であり,術前レーザー虹彩切開を一切行わないにもかかわらず,術後瞳孔ブロックを含む眼圧上昇や白内障は認めなかった.さらに,HoleICLを片眼,従来のICLを僚眼に挿入する無作為化試験を行い,その結果,術後3カ月における高次収差は,3次収差,4次収差,全収差ともに両群間に有意差はなく,コントラスト感度(明所,暗所,暗所グレア下)もほぼ同等の結果が得られた(図2)4).いずれの群もグレア,ハローの自覚症状は約3割に認められ,貫通孔の有無はこれらの自覚症状にほとんど影響し(71)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY図1貫通孔付き有水晶体眼内レンズ(HoleICL)術前虹彩切開の不要化・白内障の発症抑制を目的として開発されたレンズであり,中央部に直径0.36mmの貫通孔を有する.なかった.さらに筆者らは,ICL術後の眼球光学特性は,空間周波数特性,Strehl比,前方散乱のいずれも正常眼との有意差を認めず5),さらにHoleICLと従来のICLの眼球光学特性も本質的に同等であること6)を報告している(図3).以上よりHoleICLでは,①術前レーザー虹彩切開術を行うことなく,瞳孔ブロックを含む眼圧上昇を回避できる,②少なくとも早期臨床データからは白内障の発症抑制が期待できる,③貫通孔の有無が眼球光学特性に及ぼす影響は少なく,臨床的に問題となりにくい.もちろん白内障の発症抑制については,今後,長期的な観点からの検討が待たれる.●おわりに上述したようにHoleICLはわが国で独自に開発され,あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015243 2.5HoleICL術後従来ICL術後HoleICL術前HoleICL術後logcontrastsensitivity従来ICL術前従来ICL術後logcontrastsensitivity21.510.50000.20.40.60.811.21.400.20.40.60.811.21.4logspatialfrequency(cycles/degree)logspatialfrequency(cycles/degree)図2HoleICLと従来ICL術後のコントラスト感度明所におけるコントラスト感度は,HoleICLと従来のICLに有意な差異を認めない.暗所でも同様の結果であった.実用化に至った革新的なテクノロジーの一つである.現状で米国では未認可であるが,欧州ではCEマークを取得し,わが国でも2014年3月に認可に至っている.将来に至るまで白内障の発症が軽減できるかどうかについては,今後,多施設による長期的な検証が必要であるが,注目すべきであろう.前房型phakicIOL(隅角支持型・虹彩支持型)の長期予後が明らかにされつつある現状から,マーケットにおける優位性はより一層明確になっている.理論的な裏付けだけでなく,実際の臨床成績からも期待度は高く,屈折矯正手術におけるパラダイムシフトとなり得るのではなかろうか.さらにLASIKやRefractiveLenticuleextraction(ReLEx)などの角膜屈折矯正手術の位置付けについても見直されるべきであろう.今後HoleICLのシェアは増加すると予想されるが,長期的な経過観察は術者の責務であり,正しい理解のもとで普及していくことを期待したい.文献1)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Four-yearfollow-upofposteriorchamberphakicintraocularlensimplantationformoderatetohighmyopia.ArchOphthalmol127:845-850,20092)KamiyaK,IgarashiA,ShimizuKetal:Visualperformanceafterposteriorchamberphakicintraocularlens図3HoleICL術後と従来ICL術後の眼球光学特性HoleICL術後の眼球光学特性は,従来ICL術後のそれと有意差を認めず,ほぼ同等であった.implantationandwavefront-guidedlaserinsitukeratomileusisforlowtomoderatemyopia.AmJOphthalmol153:1178-1186,20123)ShimizuK,KamiyaK,IgarashiAetal:Earlyclinicaloutcomesofposteriorchamberphakicintraocularlenswithacentralhole(HoleICL)implantationformoderatetohighmyopia.BrJOphthalmol96:409-412,20124)ShimizuK,KamiyaK,IgarashiAetal:Intraindividualcomparisonofvisualperformanceafterposteriorchamberphakicintraocularlenswithandwithoutacentralholeimplantationformoderatetohighmyopia.AmJOphthalmol154:486-494,20125)KamiyaK,ShimizuK,IgarashiAetal:Clinicalevaluationofopticalqualityandintraocularscatteringafterposteriorchamberphakicintraocularlensimplantation.InvestOphthalmolVisSci53:3161-3166,20126)KamiyaK,ShimizuK,SaitoAetal:Comparisonofopticalqualityandintraocularscatteringafterposteriorchamberphakicintraocularlenswithandwithoutacentralhole(HoleICLandConventionalICL)implantationusingthedouble-passinstrument.PLOSONE8:e66846,2013

コンタクトレンズ:フィッティング理論(ハードコンタクトレンズ編)

2015年2月28日 土曜日

あたらしい眼科Vol.32,No.2,20152410910-1810/15/\100/頁/JCOPY●はじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)に比してハードコンタクトレンズ(HCL)は,単に硬いだけでなくサイズが小さい.日本で承認を得ているHCLは角膜レンズといって,角膜径より小さい(9.0mm前後)が,HCLの内面カーブ(basecurve:BC)をいかに角膜形状にうまく合わせるかがポイントとなる.BCと角膜形状(一般に角膜曲率半径)がほぼ一致している場合をパラレル,BCが角膜曲率半径よりも大きい場合をフラット,小さい場合をスティープというが,その評価はフルオレセインで染色して行う.角膜乱視が強いとその評価はむずかしくなり,BCを弱主経線方向の角膜曲率半径に合わせる(パラレル)と,強主経線方向はフラットになる.強度角膜乱視眼に対して球面HCLがうまくフィットしない場合は,弱主経線方向と強主経線方向とで異なるBCをもつ後面トーリック(69)HCLを選択するとよい.一般にHCLのトライアルレンズのサイズは決まっており,多種のBCから角膜形状に適合するものを選択する.しかしながら,BCよりもサイズのほうがフィッティングに影響することが多いので,サイズの選択にも注意を払う必要がある.●HCLの重心角膜上のHCLは常に下方に降りようとする重力が働くが,その重心の位置が前方にあるとHCLは下方にずれやすく,逆に後方にあるほど角膜上での安定性は増す.サイズについていうと,小さいサイズよりも大きいサイズのほうが重心は後方に位置するため安定しやすい.同様にBCの大きいHCLよりも小さいHCLのほうが,プラス度数のHCLよりもマイナス度数のHCLのほうが,厚いHCLよりも薄いHCLのほうが安定しやすい.コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一提供9.フィッティング理論(ハードコンタクトレンズ編)植田喜一ウエダ眼科図1瞼裂幅とレンズサイズ(文献1より引用)a:瞼裂幅の狭い症例ではレンズサイズの違いによりセンタリングが変化することは少ない.b:瞼裂幅の広い症例では大きなレンズサイズを選定しないと良好なセンタリングが得られないことが多い.abサイズ8.5mmサイズ8.8mmサイズ9.1mmサイズ8.5mmサイズ8.8mmサイズ9.1mm提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一9.フィッティング理論(ハードコンタクトレンズ編)●はじめにソフトコンタクトレンズ(SCL)に比してハードコンタクトレンズ(HCL)は,単に硬いだけでなくサイズが小さい.日本で承認を得ているHCLは角膜レンズといって,角膜径より小さい(9.0mm前後)が,HCLの内面カーブ(basecurve:BC)をいかに角膜形状にうまく合わせるかがポイントとなる.BCと角膜形状(一般に角膜曲率半径)がほぼ一致している場合をパラレル,BCが角膜曲率半径よりも大きい場合をフラット,小さい場合をスティープというが,その評価はフルオレセインで染色して行う.角膜乱視が強いとその評価はむずかしくなり,BCを弱主経線方向の角膜曲率半径に合わせる(パラレル)と,強主経線方向はフラットになる.強度角膜乱視眼に対して球面HCLがうまくフィットしない場合は,弱主経線方向と強主経線方向とで異なるBCをもつ後面トーリック植田喜一ウエダ眼科HCLを選択するとよい.一般にHCLのトライアルレンズのサイズは決まっており,多種のBCから角膜形状に適合するものを選択する.しかしながら,BCよりもサイズのほうがフィッティングに影響することが多いので,サイズの選択にも注意を払う必要がある.●HCLの重心角膜上のHCLは常に下方に降りようとする重力が働くが,その重心の位置が前方にあるとHCLは下方にずれやすく,逆に後方にあるほど角膜上での安定性は増す.サイズについていうと,小さいサイズよりも大きいサイズのほうが重心は後方に位置するため安定しやすい.同様にBCの大きいHCLよりも小さいHCLのほうが,プラス度数のHCLよりもマイナス度数のHCLのほうが,厚いHCLよりも薄いHCLのほうが安定しやすい.abサイズ8.5mmサイズ8.8mmサイズ9.1mmサイズ8.5mmサイズ8.8mmサイズ9.1mm図1瞼裂幅とレンズサイズ(文献1より引用)a:瞼裂幅の狭い症例ではレンズサイズの違いによりセンタリングが変化することは少ない.b:瞼裂幅の広い症例では大きなレンズサイズを選定しないと良好なセンタリングが得られないことが多い.(69)あたらしい眼科Vol.32,No.2,20152410910-1810/15/\100/頁/JCOPY 242あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(00)●素材角膜に対する酸素供給を考えると,酸素透過係数(Dk)の高い素材のHCLが好ましいが,高すぎるとレンズが変形,破損しやすい,汚れがつきやすいという問題が生じる.一方,HCLでは瞬目に伴う涙液交換が必要で,Dk値が低くとも涙液交換が十分に行われれば処方は可能である.●眼瞼,角膜とサイズ一般的には角膜曲率半径ならびに角膜径が大きい症例,角膜乱視が強い症例,瞼裂幅の広い症例には大きなサイズを選択する.また,上眼瞼が張り出している症例ではサイズを大きくするとHCLは安定しやすい.逆に,角膜曲率半径ならびに角膜径が小さい症例,角膜乱視が弱い症例,瞼裂幅の狭い症例,下眼瞼が張り出している症例ではサイズを小さくするとよい.上眼瞼がHCLをくわえ込むようにフィットさせるとHCLの安定性は増す.上眼瞼が角膜上部を覆っているような場合は,上眼瞼による保持が期待できるのでHCLの処方は可能であるが,上眼瞼が角膜上部を覆っていない場合はHCLの処方はむずかしい1)(図1).HCLの支点から考えると,角膜直乱視では横楕円形の角膜形状なので,球面のHCLを装用した場合,垂直方向のHCLのエッジは浮き,水平方向は角膜前面に接する.したがって水平方向がHCLの支点として働き,浮いている垂直方向は眼瞼が保持するため,HCLの上下左右ともずれにくく安定しやすい状態である.これに対して,角膜倒乱視では垂直方向がHCLの支点として働くが,HCLは水平方向を支えないため左右にずれやすくなる1)(図2).文献1)植田喜一:レンズサイズの変更で解決の巻(1)その1近視・遠視編─CLフィッティングケースバイケース第38回.日コレ誌53:142-146,2011ZS939図2HCL後面と角膜前面との関係(文献1より引用)直乱視では垂直方向のHCLのエッジの浮きが大きい.水平方向は角膜前面に接するので水平方向がHCLの支点として働く.倒乱視では垂直方向がHCLの支点として働く.角膜乱視強主経線方向弱主経線方向直乱視倒乱視HCLHCLHCLHCL涙液プール角膜前面涙液プール角膜前面涙液プール角膜前面涙液プール角膜前面

写真:抗癌剤TS-1®による遷延性角膜上皮欠損から角膜穿孔に至った1症例

2015年2月28日 土曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦369.抗癌剤TS-1Rによる遷延性角膜上皮細谷比左志*1細谷友雅*2*1JCHO神戸中央病院眼科欠損から角膜穿孔に至った1症例*2兵庫医科大学眼科①図2図1のシェーマ広範囲の角膜上皮欠損がみられる.①角膜上皮欠損部図1初診時2月28日のスリット写真広範囲の角膜上皮欠損を認める.炎症所見はみられなかった.図35月30日角膜穿孔時のスリット写真治療用ソフトコンタクトレンズ装用により角膜上皮欠損はいったん治癒したが,Descemet膜瘤が残り,5月30日に角膜穿孔を生じた.前房は消失し,房水漏出を認める(矢印).図4全層角膜移植術後の前眼部写真6月8日に全層角膜移植術を施行し,視力(1.2)となり経過良好である.(67)あたらしい眼科Vol.32,No.2,20152390910-1810/15/\100/頁/JCOPY 近年,テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS-1R)は,抗癌剤として胃癌,直腸癌,頭頸部癌などに広く用いられ,服用している患者数も多い.しかしながら,眼科領域では角膜上皮障害や涙小管閉塞などの副作用1~3)がみられることが知られている.今回,このTS-1Rが原因と考えられる遷延性角膜上皮欠損を生じたのち,角膜穿孔にまで至った症例を経験した.症例は61歳男性で,胃癌手術後の2010年2月から36カ月間,途中2回,各数カ月間の休薬期間をはさみながらTS-1Rの投与を受けていた.2012年11月23日,右眼視力低下を自覚するも放置.2013年1月下旬,近医受診し,点眼加療(1.5%クラビットR点,エコリシンR点の頻回点眼)を行うも症状は改善しなかった.当時の所見など詳細は不明.症状が改善しないため,2013年2月28日,当科初診.初診時視力:RV=0.01(n.c.),LV=(1.2)であった.右眼には,広範囲に及ぶ角膜上皮欠損がみられた(図1,2).前房は清澄で毛様充血はなく,角膜細胞浸潤など炎症所見はまったくみられなかった.眼痛もなかった.左眼には異常がみられなかった.角膜知覚(Cochet-Bonnet角膜知覚計)は,右眼10mm,左眼55mmと,右眼に著明な角膜知覚低下を認めた.既往として,胃癌の脳転移により右側三叉神経麻痺があることを問診にて確認した.以上の経過より,三叉神経麻痺による神経麻痺性角膜潰瘍がTS-1Rにより修飾されたと推測し,タリビッド眼軟膏R点入と圧迫眼帯による閉瞼治療を開始した.2週後,上皮欠損部は若干縮小したが,治療効果が不十分であったため,治療用ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用を開始した.SCL装用により,徐々に上皮欠損部は縮小し,初診から約3カ月後の5月23日にほぼ上皮で被覆された.しかし,Descemet膜瘤が残存し,5月30日に角膜穿孔を生じた(図3).前房は消失し房水漏出を認めたためSCLを再装用したが,前房形成が不十分のため,6月8日に全層角膜移植術を施行した.術後右眼視力(1.2)を得て拒絶反応もなく経過良好(図4)であったが,癌の多発性肺・肝・骨転移とDICにより,12月9日に死亡した.TS-1Rによる眼科的副作用として,点状表層角膜症やepithelialcracklineなどの角膜上皮障害1,3)および涙小管閉塞2)などが知られている.しかしながら,この症例ほどの重篤な角膜障害は報告されていない.この症例では,背景として三叉神経麻痺による右眼の著明な角膜知覚低下があり,それが引き金となりTS-1Rによる角膜上皮障害という修飾が加わってこのような広範囲の遷延性角膜上皮欠損がもたらされ,ひいては角膜穿孔にまで至ったのであろう.したがって,そういった特殊な環境要因がなければ,普通はここまでの重篤な合併症は起こりにくいと考えてよい.しかし逆を言えば,そういう背景があれば角膜穿孔といった重篤な合併症も引き起こすことがあるという点を眼科医として心に留めておく必要があるということであろう.文献1)細谷友雅,外園千恵,稲富勉ほか:抗癌剤TS-1Rの全身投与が原因と考えられた角膜上皮障害.臨眼61:969-973,20072)EsmaeliB,GolioD,LubeckiLetal:Canalicularandnasolacrimalductblockage:anocularsideeffectassociatedwiththeantineoplasticdrugS-1.AmJOphthalmol140:325-327,20053)伊藤正,田中敦子:経口抗がん剤S-1による角膜障害の3例.日眼会誌110:919-923,2006240

総説:弱視の病態生理に関する最近の知見

2015年2月28日 土曜日

あたらしい眼科32(2):229~237,2015c総説弱視の病態生理に関する最近の知見PathophysiologyofAmblyopia:AnUp-to-DateReviewoftheLiterature大庭紀雄*野原尚美*宮本安住己*はじめに小児の視力不良をきたす病態として屈折異常と並んで大切な弱視(amblyopia)の臨床は,18世紀後半のComteduBuffonから20世紀前半のEmileJavalやClaudWorthに至る研究によって大枠が確立された1).そして,1960~1970年代のHubelとWieselによる一連の研究は,視覚系の発達と弱視の病態にかかわる基本原理を明らかにした.すなわち,脳内視覚系の構造と機能は,出生時までに整備される基盤にたって,出生後の視覚経験によって形成される神経回路網構築と機能促進が加わって発達することを明らかにしてnature.nurture論争に終止符をうった.可塑性に富む発達期において視覚皮質(視覚野)は,外界からの形態刺激に感受性豊かに対応し,両眼からの入力情報に対して協調と競合を示しながら成熟に向かう.円滑な発達に必要な形態刺激に遮断や混乱などの齟齬が生じると,変質したニューロン回路網が構築されて弱視が発生する1~2).こうした基本的知識をふまえて,神経生理学,神経心理学,認知科学,情報科学,医用画像工学を含む脳科学関連の広領域において基礎と臨床の接点となる弱視の諸問題が検討され,みるべき知見が蓄積されてきた.本稿においては,弱視にかかわる最近の臨床病態生理学的知見を重点的に展望する.I視覚発達の感受性期視覚情報処理系の発達は,乳幼児期の視覚経験に依存してcriticalperiod(臨界期)と称する一定期間に進行する.臨界期とほぼ同義のsensitiveperiod(感受性期)においては可塑性(神経可塑性,neuroplasticity)が豊かな視覚野において,外界の形態情報を受け取って神経回路網の構築と機能が整備されていく.こうした感受性が豊かな時期に不適切な情報の入力が続くと,視覚野の円滑な発達が妨げられて弱視が発生する.1.感受性期の多様性感受性期(臨界期)はショウジョウバエからヒトまでユビキタスにみられるが,同一種においても感覚系,知覚系,認知系,運動系といった各システム,および機能ごとにユニークである3~4).視覚系における感覚や知覚や認知の各系につながる諸属性は,それぞれに特有の感受性期に対応した経過をとって発達する.主要な視覚機能の発達を時系列でみると,暗所視光覚機能は生後4カ月,明所視分光応答は生後6カ月,空間周波数識別能は生後18~24カ月,両眼視機能は生後2年までにそれぞれ大枠ができあがる(図1).いわゆる視力の発達をみると,感受性期の多様性を反映して,Vernier視力(副尺視力)あるいはhyperacuity(超視力)は格子縞視力よりもかなり遅れて発達する.字づまり視力は格子縞視力や字ひとつ視力よりも遅れて発達する.年長の弱視児の治療においてVernier視力は改善するが,Snellen視力は改善しないことがある.年長児で字ひとつ視力が成人域に達していても,字づまり視力は未熟でcrowdingphenomenonが顕著なことがある.いずれにせよ,基本的な視覚機能の発達は10歳頃に完了する.その後は視覚野の可塑性が失われるから弱視の治療を試みるのは意味がないという見解が固定し,過去100年以上にわたっ*NorioOhba,*NaomiNoharaand*AzumiMiyamoto:平成医療短期大学リハビリテーション学科視機能療法専攻〔別刷請求先〕大庭紀雄:〒501-1131岐阜市黒野180平成医療短期大学リハビリテーション学科視機能療法専攻0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(57)229 101234510203050100200Age(months)RelativesensitivityCSOKNGratingacuityPatternlinestereoRandomdotstereoVernieracuityGlobalmotion101234510203050100200Age(months)RelativesensitivityCSOKNGratingacuityPatternlinestereoRandomdotstereoVernieracuityGlobalmotion図1視覚機能の属性と感受性期各種視覚属性の感受性期を模型的に示す.CS:コントラスト感度,OKN:視運動性眼振,Gratingacuity:格子縞視力,Patternlinestereo,Randomdotstereo:立体視,Vernieracuity:副尺視力,Globalmotion:大局的運動視知覚.(文献2~4,7,8を参照して作成)てコンセンサスであった.しかし,後述のように,年長児はもとより成人においても可塑性は残存し,弱視を治療する余地があることに留意することが大切である5,6).2.sleepereffect乳幼児期に形態刺激の遮断や混乱があると,後年になって現れる機能の発達が著しく阻害されるsleepereffectと称する事象がみられる7,8).たとえば,濃厚な先天白内障があると生後6カ月までに手術を受けても,2歳過ぎに現れる高帯域空間周波数識別能は不良で,3歳頃から緩徐に発達して10代半ばに成熟する顔全体のパターンを把握する全体的顔認知機能(holisticfaceperception)の発達は不十分である9,10).同様に,7歳~15歳にかけて緩徐に発達する大局的運動視知覚(globalmotionperception)や大局的形態視知覚(globalformperception)の発達は十分ではない.一方,生後4カ月~1年に発症する発達白内障(developmentalcataract)による形態覚遮断弱視においては,大局的運動視知覚や大局的形態視知覚といった高次視機能の発達は順調である7)(図2).こうしたsleepereffectは,典型的には先天白内障に伴う形態覚遮断弱視において観察されるが,斜視弱視その他の病型でも起こる8~10).遅く始まって緩徐に発達する視機能ほど発達異常の程度が大きい.この現象は産業界の格言に擬えてDetroitモデル効果と呼ばれる.先天白内障による形態覚遮断弱視の場合には,比較的早期に発達する低帯域空間周波数識別能は正常レベルまで発達するが,比較的遅く発達する高帯域空間周波数識別能の発達は不良である.たとえ230あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015ば,生後数カ月で成人域に達する高コントラスト正弦波様光刺激に対する時間的周波数識別能(臨界フリッカ値)は正常であるが,4~6歳で成人域に達する高コントラスト格子縞刺激に対する空間周波数識別能は不良である.周辺視野のなかで最も遅れて成熟する耳側周辺部は最も大きな影響を受ける.第1次視覚野(V1野)の下流にあって物の動きや奥行きの認知にかかわるとされる背側視覚経路は,形態覚や色覚にかかわるとされる腹側視覚経路よりも緩徐に発達する.こうした特性に関連して先天白内障性形態覚遮断弱視においては,周辺視機能や大局的運動視知覚の発達障害は,中心視機能や色弁別能や大局的形態視知覚の発達障害よりも大きい11,12).3.片眼性弱視と両眼性弱視先天白内障に伴う形態覚遮断弱視,先天屈折異常に伴う屈折性弱視においては,視力,空間的コントラスト識別能,臨界フリッカ値,周辺部光覚,両眼視機能のどれをとっても,片眼白内障や不同視に伴う片眼性弱視のほうが両眼性弱視よりも不良である.こうした事象は,ニューロン構築にかかわるHebbiancompetitionによって説明される.左右各眼から等質等量の情報が視覚野へ入力されて左右の眼優位性(oculardominance)が均衡した形で視覚野が発達するが,左右どちらかの情報が減弱あるいは変質すると視覚野のニューロン構築と機能促進は左右で不均衡になる.斜視や不同視においては各眼からの情報の同質性と同期性が損なわれて左右眼からの情報に対する応答が競合するだけでなく統合性が乏しくなる.この説明は,実験的形態覚遮断弱視(サル)の第一次視覚野(V1野)の眼優位性コラムの構築を調べると,片眼性瞼裂縫合による弱視のほうが両眼性瞼裂縫合による弱視よりも不良であるという知見に合致する.しかし,こうした通則は,高次視覚野がかかわる視覚の属性については適用できないことがある.たとえば,生後早期からの先天白内障による形態覚遮断弱視の場合,背側視覚経路(V5野)がかかわる大局的運動視知覚の発達は両眼性遮断(両眼白内障)のほうが片眼性遮断(片眼白内障)よりも3倍も不良である.腹側視覚経路(V4野)がかかわる大局的形態視知覚の発達も同様に,両眼性形態覚遮断弱視のほうが片眼性形態覚遮断弱視よりも不良である7)(図2).(58) 図2先天白内障(congenitalcataract),発達白内障(developmentalcataract)に伴う形態覚遮断弱視:高次視知覚の発達,両眼性罹患と片眼性罹患A:大局的運動視知覚(globalmotionperception)の発達.おおまかな物の動き(globalmotion)を知覚する能力を計量的に調べるために用いたパターン刺激.左のパターンは100%coherencemotion:signal視標はすべて(100%)上方へ動く.右のパターンは37%coherencemotionsignal:16個中6個(37%)が上方へ動き,残りはランダムの方向へ動く.coherencesignalsignalの割合を変化させながら応答させて,全体として物が上方に動くかどうか知覚するときの閾値(coherencethreshold)を求める.被検者:両眼性先天白内障(n=8:生後遮断期間は3~8カ月,平均5.0カ月).片眼性先天白内障(n=14:生後遮断期間は1~10カ月,平均5.0カ月).両眼性発達白内障(n=6:両眼の濃厚な白内障発現は生後8~57カ月,平均24カ月).片眼性発達白内障(n=9:片眼の濃厚な白内障発現は生後4~177カ月,平均41カ月).正常対照(n=24).大局的運動視知覚の測定年齢:5.3~22歳.形態覚遮断弱視における大局的形態視知覚閾値(coherencethreshold)の平均(±1SE).先天白内障性弱視の場合,両眼性罹患群では弱視眼,非弱視眼ともに閾値上昇が顕著であるのに対して,片眼性罹患群では軽度の上昇にとどまる.発達白内障性弱視の場合,両眼性罹患,片眼性罹患ともに閾値上昇はみられない.つまり,発達白内障においては視力,その他の低次視覚機能の発達は阻害されるものの,高次視機能は大局的運動視知覚でみる限りでは円滑に発達する.発達白内障の9例中6例の白内障発症は生後4~10カ月である.B:大局的形態視知覚(globalformperception)の発達.大まかな図の形(globalform)を知覚する能力を計量的に求めるための視標パターン.例示した視標パターン:左側,大まかな渦巻きを作るペアは100%.右側のパターンは渦巻き信号50%,ランダムのノイズ信号50%を混在.一定の信号とランダムなノイズの割合を変化させながら,渦巻きを知覚するかどうかの閾値(formthresh6050403020100BilateralUnilateralBilateralUnilateralBettereyeWorseeyeCongenitalMeancoherencethreshold(%)DevelopmentalNormalThreshold(%)NormalMonocularBinocular50403020100100%signal50%signalABold)を測定.被検者:先天白内障治療,両眼性罹患群(n=8:生後からの形態覚遮断期間=3.0~8.8カ月,平均4.6カ月.検査時年齢=平均12.5歳,6.3~20.0歳).片眼性罹患群(n=10:生後からの形態覚遮断期間=1.4~10.4カ月,平均4.6カ月.検査時年齢=10.5歳,範囲6.0~20.0歳).検査結果の平均(±1SE)を示す.両眼性罹患,片眼性罹患ともに大局的形態視知覚の発達は不良である.その場合,両眼性罹患群の発達は片眼性罹患群よりもさらに不良である.引用文献7.出版社からの書面による許可を得て転載(CopyrightElsevier,RightsLinkR.MaurerD,LewisTL,MondlochCJ.Missingsights:consequencesforvisualcognitivedevelopment.TrendsinCognitiveSciences9:144-151,2005.Figure2,Figure3).特性の病型間の差異は発症年齢ではなく病態生理学的メII弱視の病態生理学カニズムの差異を反映すると考えられる13~15).1.視力とコントラスト識別能Vernier視力測定での視標位置識別能,Snellen視力弱視は,視力表視力(Snellen視力,Landolt視力,測定での視標識別能には,それぞれの刺激属性に感受性logMAR視力),格子縞視力,Vernier視力(副尺視力,をもつ特定のニューロンの選択的活性化と感受性をもた超視力)といった空間的周波数識別能,臨界フリッカ値ないニューロンの選択的抑制をもたらす機序,すなわちといった時間的周波数識別能に異常を示す.実地臨床検神経生理心理学的概念の選択的視覚的注意(selective査における弱視の定義になっている各種視力を相互比較visualattention)がかかわる.両眼視機能が不良の弱視すると,病型間にみるべき差異がある.斜視弱視は視力眼に閾上刺激視標(suprathresholdtarget)を多数提示表視力や格子縞視力と比べてVernier視力の不良が際立して視標数を算定させると,高次視知覚である提示図形つ.一方,不同視弱視の各種視力は並行して不良である数算定機能の発達不良のために適切な応答は得られない(図3).こうした事象を説明する目的で発症時期がほぼ16,17)(図4).等しい症例を集めて相互に比較すると,斜視弱視においSnellen視力とコントラスト感度を主成分とした判別てはVernier視力が際立って不良であることから,視力分析を各種病型の弱視を対象として検討すると,斜視を(59)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015231 ABC25Snellenacuity(min)105210.50.1250.250.512510Stimulus25Vernieracuity(min)25Gratingacuity(min)105210.50.1250.250.51251025Vernieracuity(min)Vernieracuity(%resolution)Spatialfrequency(octavebelowresolutionlimit)20010050201043210ABC25Snellenacuity(min)105210.50.1250.250.512510Stimulus25Vernieracuity(min)25Gratingacuity(min)105210.50.1250.250.51251025Vernieracuity(min)Vernieracuity(%resolution)Spatialfrequency(octavebelowresolutionlimit)20010050201043210図3弱視の病型と各種視力A:Snellen視力(縦軸)とVernier視力(横軸)のlog-logプロット.不同視弱視(白丸),斜視弱視(黒丸),混合型弱視(白丸B,不同視+斜視).Vernier視力は分離閾値よりも3octave以下の視標で測定.右下隅はVernier視力測定視標,直線はSnellen視力とVernier視力の4:1関係,すなわちSnellen視力閾値はVernier視力閾値の4倍であることを表す.非弱視眼,不同視弱視眼は正常のSnellen視力/Vernier視力の直線関係を保つが,斜視弱視眼は直線から外れてVernier視力が大幅に不良である.B:格子縞視力(高帯域周波数格子縞視標に対する閾値)とVernier視力の関係.Snellen/Vernier視力関係と同様に,斜視弱視眼はVernier視力が際立って不良である.C:格子縞の空間周波数に対するVernier視力を示す.横軸,縦軸ともに各被検者の格子縞分離閾値を考慮したスケールである.Vernier視力(縦軸)のスケールは格子縞視力のパーセント.格子縞空間周波数(横軸)のスケールは分離閾値以下で0.3logunit.正常のVernier視力閾値は空間周波数の広域で一定で,格子縞空間周波数分離閾値のほぼ16%である(点線).△,☆=不同視弱視.正常と同様の所見を示す.■,●=斜視弱視,Vernier視力は格子縞視力の16%よりもずっと小さい.引用文献13.書面による許可を得て転載(Copyright1982,RightsManagedbyNaturePublishingGroup,RightsLinkR:LeviDM,KleinS.Hyperacuityandamblyopia.Nature298:268-270,1982.Figure1,2,and3.).主徴候とする病型は視力不良の程度の割にコントラスト識別能は良好である.不同視を主徴候とする病型は視力とコントラスト識別能が並行して不良である.眼位異常はないが両眼視機能を欠如する不同視弱視の視機能異常は斜視弱視のそれに類似する.視力と両眼視機能の関係をみると,Snellen視力,Vernier視力は両眼視機能良好の事例は両眼視機能不良の事例よりも良好である.立体視不良の弱視の視力は立体視良好の事例よりも不良である.弱視においてコントラスト識別能が良好であるにもかかわらずSnellen視力は不良であるという事象は,コントラスト識別能には第1次視覚野(V1野)がかかわり,Snellen視力にはV1野に加えて高次視覚野がかかわるとするtwo-stagemodelで説明することができる.この説明は,弱視では高次機能としての視知覚レベルの発達不良があることと合致する18~21).232あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(60) 1008060402000246810PercentcorrectNumberofpatches1008060402000246810PercentcorrectNumberofpatches図4多数図形提示の算定機能いくつかのGaborpatchを配列した図形の中で任意の図形を削除した画面を短時間提示したときに,削除図形の数を正しく答えたかどうかを観察(成人の斜視弱視患者).横軸:Gaborpatchの数.縦軸:正答率.白印:非弱視眼.黒印:弱視眼.正円,三角,四角のデータはそれぞれGaborcarrierfrequency6c/d,10c/d,14c/dを示す.被検者の弱視眼のコントラスト感度は6c/d,10c/dでほぼ正常であるが,算定機能は非弱視眼(健眼)と比較しで明らかに不良である.引用文献16.書面による転載許可を得て転載(NaturePublishingGroup,May1,2000.SharmaV,LeviDM,KleinSA.Undercountingfeaturesandmissingfeatures:evidenceforahigh-leveldeficitinstrabismicamblyopia.NatureNeuroscience3:496-501,2000.).2.両眼間抑制斜視や弱視でみられる抑制(両眼間抑制,interocularIII弱視の神経病態生理学suppression)は古くから詳しく検討されてきたが,そ動物弱視モデルおよびヒト弱視の病態には視覚野の広の本態に迫る神経生理学的研究は乏しかった.カナダい範囲がかかわるとする見解がコンセンサスになっていMcGill大のHessらは,抑制を計量的に測定する方法をる.案出して各種弱視で検討した.すなわち,dichopticmotioncoherencethreshold(両眼分離下大局的視運動1.視覚野の神経病理学方向識別閾値)を正常眼(非弱視眼)や弱視眼で測定し弱視の基本的病変は第1次視覚野(V1野)だけでなた結果は,臨床的両眼視機能検査所見に一致するとともく,高次視覚野においても検出される.すなわち,実験に,抑制の計量値と弱視の程度との間に正の相関がみら的弱視モデルで,各種形態刺激に対する視覚行動を尺度れること,抑制が強いほど弱視の程度(両眼間視力の差として求めた行動視力(behavioralvisualacuity)は,異,立体視不良の程度)が強いことを示した.こうしたV1野のニューロン応答を尺度として求めた神経視力結果からHessらは,弱視の成因には両眼間抑制が積極(neuronalvisualacuity)よりも不良である.神経コン的に寄与するとする仮説を設定し,適当な作業療法によトラスト感度(neuronalcontrastsensitivity)は弱視眼って両眼間抑制を軽減または除去することができれば両と健眼との間に差異はないが,行動コントラスト感度眼視機能だけでなく視力が改善すると考えている22~26).(behavioralcontrastsensitivity)は弱視眼刺激と健眼刺激との間に差異がある.視力と同様に,V1野から視覚3.眼球運動連合野までの活動を反映する行動コントラスト感度の低弱視はさまざまなタイプの眼球運動異常を示す.衝動下が著しい.こうした知見は,弱視の発達障害は第1次性急速運動の潜時と時間経過,滑動性眼球運動(視標追視覚野から視覚連合野まで広く及ぶことを示唆する29,30).従運動)の運動特性に異常がみられる.また,物体の把ヒトの弱視においてもV1野の発達障害に加えて高次持や移動,図形の描画や模写,眼指協調運動(eye-hand視覚野の情報処理に異常があることを指摘する神経心理coordination)といった四肢と眼球の協調運動の発達が学的知見が蓄積している.腹側視覚経路を介して発現す不十分である27,28).るとされる大局的形態視知覚や大局的形状輪郭視知覚の発達不良,混み合い現象の異常がある31,32).背側視覚経路を介して発現するとされる視標位置認知能,大局的運(61)あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015233 動視知覚の発達不良がある.現実空間認知能,視覚的注意機能,提示図形数算定機能,読字機能といった視覚関IV神経可塑性の制御連高次視知覚の発達が不十分である16,17,33~38).視覚発達の感受性期や可塑性のメカニズムの研究が進んで,弱視治療のパラダイム転換を迫る知見が集まって2.視覚野の神経画像分析きた5,6).基礎的研究では,視覚発達期の神経可塑性を脳の形態的および機能的描画分析技術(functional制御する機序が細胞レベル,物質レベルで検討され,齧magneticresonanceimaging:fMRI)の進歩によって,歯類成体弱視モデルにおいて神経化学的操作によって可弱視における視覚野の構造と機能の分析的検討が可能に塑性を再活性化して視機能を回復させる試みが行われてなり,神経生理学的所見および神経心理学的所見に対応いる.臨床的研究では,年長児や成人の弱視であってもした視覚野の広い範囲の発達異常が確認されている39~41).健眼遮蔽やペナリゼーションによって視力が回復する余特記すべきは次の報告である.有名な人物や建築物を提地があることを示すデータが集まってきた.また,弱視示して顔の表情や建物の種類を同定させる作業の試行中の成人において,非弱視眼(健眼)の視力低下を契機とにfMRIを記録すると,顔知覚(faceperception)を司して弱視眼の視力が自然に改善する事例が稀ではなる紡錘状回の反応は異常であるが,建造物の認識にかかい5,6,45,46).わる傍海馬野の反応は正常である42).空間周波数可変の格子縞視標を提示しながら記録したfMRIにおいて,1.可塑性の神経化学V1野の活動は健常であるが,高次視覚野(V4/V8野,中枢神経系の興奮と抑制をアクセルとブレーキに喩えlateraloccipitalcomplex:LOC)の活動性減弱,高帯域て感受性期を時間軸でたどると,生後まもなくアクセル空間周波数刺激でのLOCの活動性減弱を示す43).視標分子が発現して興奮系が活性化されて感受性期のドアがを追従させながらfMRIを記録すると,弱視眼では運動開かれる.次いでブレーキ分子が発現して抑制系が活性視知覚を司るMT野や前頭眼野の活動が減弱する.こ化され,興奮系と抑制系は均衡状態で感受性が維持されの知見は実験的弱視モデル(サル)でみられるMT/V5て視覚野の構築と機能の発達が進行する.やがて抑制系野の活動性減弱と一致する44).が優位になって可塑性が乏しくなって感受性期のドアが閉じられる.視覚野における可塑性の神経化学的機序の検討によるANormalB図5ラット成体の実験的弱視:fluoxetineによる可塑性の再活性化Visualacuity(cyc/dee)Felloweye幼弱ラットで眼瞼縫合によって実験的遮断弱視(片眼)を作製,成体adultvalues31.2Deprivedeyeになってからfluoxetineを長期にわたって投与して格子縞刺激によって視覚誘発反応(VEP)を記録,VEP振幅を尺度とした視力(cycleVisualacuity(cyc/dee)C/IVEPratio210.8*perdegree)を評価.A:C/IVEPratio(非弱視眼刺激と弱視眼刺激のVEP振幅比)によ0.4って眼優位性(両眼性)を検討,成体ラットC/Iratio2.5は交叉線維が優位に多いことを反映.fluoxetine投与によって正常成体ラットの*00C/Iratioは有意に減少,片眼遮断は眼優位性の移動をきたす.ControlFluoxetineControlFluoxetineB,C:fluoxetine投与成体弱視ラットの視力.遮断眼の視力は電気生DFelloweyeNormal理学的検査(B)と行動検査(C)で対照(control)ラットの健眼よりも1.2Deprivedeye3adultvalues低い.だが,fluoxetine投与成体弱視ラットはそうではなく,弱視眼*の機能は健眼と同じになっている.C/IVEPratio0.8*0.421D:fluoxetine長期投与後の成体弱視ラットのC/IVEPratio(非弱視眼刺激と弱視眼刺激のVEP振幅比)は対照の成体ラットのそれよりも大きい.引用文献46.出版社から書面による許可を得て転載(Copyright00ControlFluoxetineControlFluoxetine2008AmericanAssociationfortheAdvancementofScience,Apr182008.MayaVetencourtJF,etal.Theantidepressantfluoxetinerestoresplasticityintheadultvisualcortex.Science320:385-388,2008.Figure).234あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015(62) と,ミエリン鞘関連蛋白,コンドロイチン硫酸プロテオグリカンは神経軸索周囲を取り囲む強固な網状構造体の主成分として,ニューロンの伸長を抑制して可塑性にブレーキをかける.一方,消化酵素chondroitinaseはニューロン伸長を促進して可塑性を活性化あるいは再開させる機能があり,成体弱視モデル(ラット)の脳に注射すると視覚機能が改善する.また,orthodenticlehomeobox2は視覚野の神経軸索周囲の網状構造に結合して可塑性を再開させる.valproicacidはDNA格納蛋白ヒストンをアセチル化して遺伝子発現を制御する.成体弱視モデル(マウス)にvalproicacidを投与すると視機能が改善する47~51).GABA作動性ニューロンを標的とするノルアドレナリン,セロトニン,アセチルコリン,ドーパミンといった神経伝達物質は,可塑性の停止や再開にかかわる.感受性期終了後であっても皮質活動の抑制系を薬物によって減少させることで視覚野の可塑性が再開する.こうした伝達物質の放出を制御する方策が俎上にあがっている.fluoxetineは視覚野の興奮系と抑制系のバランスをリセットして興奮系優位に転換する作用をもつが,これを成体弱視モデル(ラット)に長期投与すると視覚誘発電位と行動視力の回復をもたらす52,53).この場合,脳内にdiazepamを投与するとfluoxetineの効果は妨げられる46)(図5).抗うつ薬としてFDA(米国食品医薬品局)で認可され広く処方されているfluoxetineの成人弱視への臨床試験が行われている54).2.弱視治療法の萌芽実験的弱視モデル(齧歯類)を認知強化学習環境(environmentalenrichment)で飼育すると弱視が回復する.同様に,暗所での長期間飼育,摂取カロリーの制限といった操作によって視力が改善する.成体動物弱視モデルを対象とした実験においても視覚野のニューロン構築のみならず,動物の行動を指標とした検討で弱視が改善することが検証されている.動物弱視モデルの成体においても適当な方策によって可塑性は再活性化するとする見解を支持する所見である.また,可塑性を活性化させた状態の成体動物(齧歯類)においては,幼弱期と同じように実験的弱視を作製することができる.こうした知見は,視覚系が成熟した段階においても可塑性が維持されることを示唆し,視覚野の発達が完了した動物成体では弱視が新規に発生することはないというパラダイ(63)ムの転換を余儀なくされる6,55,56).臨床的には,年長児や成人の弱視において,上記の両眼間抑制計量測定装置を用いた作業,視覚的知覚学習やアクションゲームによる視覚的作業療法,経頭蓋磁気刺激療法など新しい治療の萌芽がある6,57).Vコメント弱視の病態について最近20年間に具体的理解が着実に進んだ.弱視の基本的病態は,視覚の発達期に与えられた不適切な視覚刺激(情報)に対応して第1次視覚野から高次視覚野まで広く病的神経回路網が構築されることである.弱視の診断や治療,経過や転帰の評価には視力,コントラスト識別能,両眼視機能はもとより,高次視覚野がかかわる視知覚の異常にも視点を広げていくことが大切になるだろう.視覚の発達と成熟にかかわる視覚野の可塑性の基礎的および臨床的知見の集積は目覚ましく,年長児や成人の弱視の治療についてもパラダイムの転換を迫られようとしていることに留意したい.文献1)大庭紀雄,宮本安住己,野原尚美ほか:弱視の治療:歴史的展望.眼臨紀18:1-10,20152)HubelDH,WieselTN:Theperiodofsusceptibilitytothephysiologicaleffectsofunilateraleyeclosureinkittens.JPhysiol206:419-436,19703)LewisTL,MaurerD:Multiplesensitiveperiodsinhumanvisualdevelopment:Evidencefromvisuallydeprivedchildren.DevPsychobiol46:163-183,20054)HarwerthRS,SmithEL3rd,DuncanGCetal:Multiplesensitiveperiodsinthedevelopmentoftheprimatevisualsystem.Science232:235-238,19865)ThompsonB:Thechangingfaceofamblyopia.CanJOphthalmol47:391-392,20126)大庭紀雄,宮本安住己,野原尚美:弱視の治療に関する最近の知見.眼臨紀2015(受理印刷中)7)MaurerD,LewisTL,MondlochCJ:Missingsights:consequencesforvisualcognitivedevelopment.TrendsCognitSci9:144-151,20058)MaurerD,MondlochCJ,LewisTL:Sleepereffects.DevelopSci10:40-47,20079)LeGrandR,MondlochCJ,MaurerDetal:Earlyvisualexperienceandfaceprocessing.Nature410:890,200110)LeGrandR,MondlochCJ,MaurerDetal:Expertfaceprocessingrequiresvisualinputtotherighthemisphereduringinfancy.NatureNeurosci6:1108-1112,200311)EllembergD,LewisTL,MaurerDetal:Spatialandtemporalvisioninpatientstreatedfrombilateralcongenitalcataracts.VisionRes39:3480-3489,199912)EllembergD,LewisTL,MaurerDetal:Influenceofmonoculardeprivationduringinfancyonthelaterdevelopmentofspatialandtemporalvision.VisionRes40:あたらしい眼科Vol.32,No.2,2015235 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