特集●抗VEGF薬による治療あたらしい眼科32(8):1127.1132,2015特集●抗VEGF薬による治療あたらしい眼科32(8):1127.1132,2015糖尿病黄斑浮腫AntiVEGFTherapyforDiabeticMacularEdema野々部典枝*寺崎浩子*はじめに糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)は,糖尿病網膜症のすべての病期に生じる可能性があり,比較的若い労働世代の視力低下の要因として増加している.血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)は血管新生と血管透過性亢進作用を有し,他の炎症性サイトカインとともにDMEの病態に深く関与している.これまで,DMEに対しては格子状光凝固,ステロイド薬による治療,硝子体手術などが行われてきたが,抗VEGF薬がDMEに適用となり治療の主流となりつつある.日本では2014年にまずラニビズマブ(ルセンティスR)が,ついでアフリベルセプト(アイリーアR)が適用を獲得し,現在臨床ではこの2種類が使用されている.多数の大規模臨床試験が行われており,比較的長期の経過も報告され,DMEに対する治療効果が証明されている.しかし,実際の臨床現場では抗VEGF薬に抵抗性を示す例もあり,またたとえ視力改善につながることが証明されても大規模試験で行われているような頻回の再投与は患者負担(通院回数,経済的問題,合併症増加のリスクなど)も大きい.今後は抗VEGF薬に抵抗性を示す例への治療方法や,投与回数を減らすための効率的な併用療法などの確立が課題である.I糖尿病黄斑浮腫の診断と治療糖尿病黄斑浮腫にはさまざまな形態1)がみられる(図1).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は黄斑浮腫の診断と治療経過の観察のために不可欠の診断機器である.網膜中層の浮腫や漿液性網膜.離の有無,硬性白斑の位置,毛細血管瘤の位置,視細胞内節・外節などが確認でき,マップ画像(図2)では浮腫の位置や範囲が明瞭にわかる.最近ではOCTangiography(図3)によって造影剤なしに網膜の血管を層別に評価することができるようになってきた.蛍光眼底造影でははっきりしない微小な無灌流域なども描出でき,黄斑部の虚血の状態がわかりやすい.しかし網膜全体の血管病変の描出,灌流状態の評価には,まだ蛍光眼底造影が必要である.DMEの治療戦略を考えるには,蛍光眼底造影とOCTを組み合わせて検討する.周辺部の無灌流域の範囲や新生血管の有無を評価し,汎網膜光凝固が必要か否か判断する.毛細血管瘤からの漏出が明確な局所性の浮腫の場合には,毛細血管瘤の直接凝固が第一選択となる.汎網膜光凝固が必要な場合には,局所浮腫に対処してから全体に光凝固を行う.周辺部に虚血網膜を残しておいては長期的な黄斑浮腫の改善にはならないため,炎症を最小限にとどめるよう慎重に施行する.また,黄斑上膜による牽引が明らかな場合には硝子体手術を検討する.これら以外のびまん性浮腫の場合に抗VEGF薬を選択することが多い.Shimuraら2)はびまん性浮腫のOCT所見に基づいてベバシズマブの効果を検討しており,スポンジ状網膜膨化タイプや.胞様黄斑浮腫タイプに比べて,漿液性.離タイプには抗VEGF薬*NorieNonobe&HirokoTerasaki:名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座眼科学教室〔別刷請求先〕野々部典枝:〒466-8550名古屋市昭和区鶴舞65名古屋大学大学院医学系研究科頭頸部・感覚器外科学講座眼科学教室0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(61)11271128あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(62)っていない.筆者らの施設では,OCTによる浮腫の形態とともに水晶体,視神経の状態も合わせて,ステロイド投与にするか抗VEGFにするかを選択している.ステロイドを反復投与すると白内障の進行や眼圧上昇が危惧されるからである.また,蛍光眼底造影で汎網膜光凝固が必要であれば,初回の抗VEGF薬投与後に行うよが効きにくいと報告している.ステロイドでも同様の検討がなされており,.胞様黄斑浮腫に有効なことが多いが,漿液性.離には効きにくいという報告もある3).一方で漿液性.離タイプの硝子体液中には炎症性サイトカインのひとつであるIL-6が有意に多く存在しているという報告4)もあり,まだ明確な治療プロトコールにはなabcd図1びまん性浮腫の形態a:スポンジ状膨化,b:.胞用黄斑浮腫,c:漿液性.離,d:上記すべてが混在.ab図2局所性浮腫光凝固治療前後のOCTマップ画像(左)では浮腫の局在や範囲が明瞭にわかる.a:治療前,b:治療後.abcd図1びまん性浮腫の形態a:スポンジ状膨化,b:.胞用黄斑浮腫,c:漿液性.離,d:上記すべてが混在.ab図2局所性浮腫光凝固治療前後のOCTマップ画像(左)では浮腫の局在や範囲が明瞭にわかる.a:治療前,b:治療後.図3図2の患者のOCTangiography(黄斑部3mm×3mm)左:網膜浅層.右:網膜深層.上:微細な血管構造がよく描出されている.下:enface画像.1130あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(64)この試験でも光凝固群に対してアフリベルセプト投与群で有意に視力改善がみられた.III抗VEGF薬使用の実際DRCR.netがDMEに対するアフリベルセプト,ベバシズマブ,ラニビズマブの効果を比較検討した研究結果が報告10)されている.3群ともに1年後は視力改善しているが,とくにベースラインの視力が20/50以下では,1年後の視力改善はアフリベルセプトがもっとも良いという結果であった.しかし,20/32.20/40の場合には差がみられなかった.一方,全身の副作用に関しては3群で差はなかった.ただし,臨床試験では全身合併症のリスクが高い症例は除外されており,結果の解釈に注意が必要である.そもそも糖尿病患者は心血管系合併症のリスクを有していることが多く,抗VEGF薬の使用そのものにも慎重となる必要がある.薬剤の特性としてラニビズマブは半減期が短く血中のVEGF濃度の変化が少ない11).アフリベルセプトはVEGFのほかPlGFとも結合する.この特性を踏まえて個々のDME患者の水晶体の状態,黄斑上膜の牽引の有無,両眼か片眼か,心血管系の重篤な既往歴がないかなどを考慮して選択する.ラニビズマブもアフリベルセプトも初回投与で浮腫が消失しない場合があるが,連続投与により改善していくことがあるので,少なくとも3回連続投与を行うようにする.その後は両薬剤ともにOCTで浮腫の再発がない状態を保つように投与間隔を延ばしていく.3回連続投与でもほとんど効果がないと思われるような場合には治療方針を変更し,ステロイド投与や手術も検討する.1.症例1(図4)70歳の男性.数年間内科治療を中断し,HbA1c11%台で右眼の視力低下(硝子体出血)で受診.この時左眼の黄斑浮腫も診断された.初回のラニビズマブ投与後はまだ漿液性.離が残存していたが,2回目の投与後には消失した.3回目の投与後にもまだわずかに浮腫が残存していたため4回目を投与し,その後は再発なく経過観察している.視力も改善がみられている.(prorenata:PRN)投与している.光凝固単独では視力改善が乏しく,またラニビズマブ+光凝固の併用効果はみられなかった.ラニビズマブ単独投与群での投与回数は,1年目が平均7.4回,2年目が平均3.9回,3年目が平均2.9回と徐々に投与回数が減っていた.3.DRCR.netプロトコールI7)米国で行われた第III相多施設無作為臨床試験で,①光凝固群,②ラニビズマブ0.5mg投与+即時光凝固群,③ラニビズマブ0.5mg+24週以上遅らせた光凝固群,④トリアムシノロン4mg投与+即時光凝固群で5年間の経過をみている.ラニビズマブは3回毎月連続投与後PRN投与している.光凝固併用の有無にかかわらずラニビズマブ投与群の視力改善がみられた.注射回数も徐々に減り,5年目には半数以上で投与なしという状況に持ち込めている.眼内レンズ眼に限っては,トリアムシノロン+光凝固群もラニビズマブと同様の視力の改善効果が得られていた.4.DAVINCI試験8)北米とオーストリアで行われた第II相二重盲検多施設無作為試験で,①アフリベルセプト0.5mg毎月投与,②アフリベルセプト2mg毎月投与,③アフリベルセプト2mg3回毎月投与後8週ごと投与,④アフリベルセプト2mg3回毎月投与後PRN,⑤光凝固の5群に分けている.アフリベルセプト投与群では52週の時点で9.7.12文字の有意な視力改善が得られたが,光凝固群では1.3文字の低下がみられた.③の群の解析において16週時点で視力と中心窩網膜厚の一時悪化がみられた.この結果を受けて,第III相試験では導入期に5回毎月投与のプロトコールとなった.5.VIVID.VISTA試験9)アフリベルセプトの第III相無作為大規模試験のうち,日本,ヨーロッパ,オーストラリアで行われたVIVID試験と米国で行われたVISTA試験の1年間の経過が報告されている.①光凝固単独群,②アフリベルセプト2mg毎月投与群,③アフリベルセプト2mg5回毎月投与後8週ごとの3群で比較している.あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151131(65)おわりに黄斑浮腫が遷延すると網膜外層に不可逆的な障害を与えてしまうため,良好な視機能を維持するためにはできるだけ早期の治療により,速やかに浮腫を軽減させる必要がある.すでに網膜外層に障害があり,硬性白斑が沈着している場合(図6)には視力の回復はむずかしい.このような状態になる前に眼科介入できるよう,広く啓2.症例2(図5)76歳の男性.3年ぶりの眼科受診にて右眼の黄斑浮腫を指摘された.網膜厚は非常に厚く,視力も不良であったが,アフリベルセプトの3回連続投与により網膜厚の改善と視力の改善がみられている.現在はtreatandextend方式で投与中で,徐々に投与間隔を延長している.abcdef図4ラニビズマブ投与の例(3カ月連続投与後PRN)a:治療前.(0.4)395μm.b:初回注射1カ月後.(0.4)342μm.c:2回目の注射1カ月後.(0.4)294μm.d:3回目の注射1カ月後(0.5)292μm.4回目を投与した.e:4回目の注射1カ月後.(0.6)247μm.f:4回目の注射後3カ月経過したが浮腫再発なし.(0.8)265μm.abcd図5アフリベルセプト投与の例(3カ月連続投与後treatandextend)a:治療前.(0.25)541μm.b:初回注射1カ月後.(0.5)362μm.c:2回目の注射1カ月後.(0.8)339μm.d:3回目の注射6週間後.(1.0)323μm.abcdef図4ラニビズマブ投与の例(3カ月連続投与後PRN)a:治療前.(0.4)395μm.b:初回注射1カ月後.(0.4)342μm.c:2回目の注射1カ月後.(0.4)294μm.d:3回目の注射1カ月後(0.5)292μm.4回目を投与した.e:4回目の注射1カ月後.(0.6)247μm.f:4回目の注射後3カ月経過したが浮腫再発なし.(0.8)265μm.abcd図5アフリベルセプト投与の例(3カ月連続投与後treatandextend)a:治療前.(0.25)541μm.b:初回注射1カ月後.(0.5)362μm.c:2回目の注射1カ月後.(0.8)339μm.d:3回目の注射6週間後.(1.0)323μm.図6中心窩への硬性白斑沈着浮腫の治療はこのようになる前に行わなければならない.-