特集●加齢黄斑変性診療ガイドあたらしい眼科30(12):1651.1660,2013特集●加齢黄斑変性診療ガイドあたらしい眼科30(12):1651.1660,2013前駆病変と萎縮型加齢黄斑変性の管理と予防的治療ManagementandProphylacticTreatmentsforEarlyStageandAdvancedDryFormofAge-RelatedMacularDegeneration安川力*はじめに加齢黄斑変性(AMD)は,脈絡膜新生血管(CNV)の発生を主病態とする滲出型AMDと,視細胞,網膜色素上皮(RPE),脈絡膜毛細血管が徐々に萎縮(地図状萎縮)に至る萎縮型AMDに分類される.欧米では萎縮型AMDの割合が多いのに対し,わが国では滲出型AMDがほとんどで萎縮型AMDは少ない.滲出型AMDは発症すると数カ月で視力低下し放置すると約6.7割の症例で矯正視力が悪化し,しばしば0.1未満となってしまうが,最近は,抗血管内皮増殖因子(VEGF)療法と光線力学的療法(PDT)により長期的に視力維持できる症例も多くなった.一方,萎縮型AMDは国内には少ないが海外では罹病率は高く,徐々に視力低下してしまうが,有効な治療法がない.また,最近の海外の報告によると,滲出型AMDにおいても抗VEGF療法で治療している症例のほとんどで地図状萎縮が発生し,中心窩下に及ぶと不可逆的視力低下の原因となり,CNV由来の線維性瘢痕と並んで重要である.萎縮型AMDは,滲出型AMDにおけるCNV発生という比較的急性の病態を伴わず,ドルーゼンや色素上皮異常などの前駆病変が増悪していき,徐々に地図状萎縮の発生,拡大を認め,持続的な光線曝露の環境下にある眼の加齢変化の病的段階と考えられる.眼の最初の加齢変化は,RPE細胞内へのリポフスチン蓄積である1).光を感受する視細胞外節は光線曝露の環境下で酸化変性して傷むため,皮膚と同様,常に内節側から再生して,古くなった先端をRPE細胞が日常的に貪食しているが,酸化変性した物質はライソゾーム内での消化処理や物質輸送に抵抗しがちで,その溶け残りがリポフスチンとして蓄積してくる.リポフスチンは自発蛍光を有することから,近年,蛍光眼底造影機器で観察が可能となっている.特に,眼底自発蛍光の特徴的な異常所見はAMDの発症や増悪を予見する前駆所見であり,臨床上,重要である2,3).リポフスチンの蓄積は生後から始まり徐々に進行して細胞質内をおよそ満たす30代ぐらいになると,つぎの加齢変化として,RPE直下に脂質沈着を認めるようになり,Bruch膜は徐々に肥厚し,水の透過率が低下してくる4).滞留した脂質は酸化して,フリーラジカルの発生源となりRPEの細胞膜を障害したり接着障害を引き起こしたりする5,6).また,補体の活性化やマクロファージが受容体を介して過酸化脂質を認識することでVEGFなどの炎症性サイトカインを産生して慢性炎症が持続することとなる.リポフスチンを蓄えたRPEは光障害を受けやすく,このような状況で,RPEの色素異常やドルーゼンが臨床上,観察されるようになり,これらは統計上,AMDの危険因子であることから,「AMDの前駆病変」とよばれる7.9)(図1,表1).このような眼の加齢変化を抑えることは,AMD発症予防につながりうる.光線曝露による脂質沈着と酸化ストレスによる慢性炎症が病態背景にあるため,酸化ストレスを助長していると考える喫煙は明らかな危険因子で*TsutomuYasukawa:名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学〔別刷請求先〕安川力:〒467-8601名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1名古屋市立大学大学院医学研究科視覚科学0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(3)1651若年時30歳代40歳代メラニン頼粒Bruch膜網膜網膜色素上皮(RPE)脈絡膜毛細血管視細胞外節RPE脈絡膜毛細血管リポフスチン蓄積リポフスチン蓄積脂質沈着眼底自発蛍光(リポフスチンに由来)異常眼底自発蛍光(加齢黄斑変性前駆所見)小型(硬性)ドルーゼン50歳代以降:加齢黄斑変性前駆病変RPE色素異常(脱色素/色素沈着)大型(軟性)ドルーゼン網膜色素上皮.離図1黄斑部の加齢現象と前駆病変網膜の外層にある視細胞の外節が光線を感受して電気信号に変換している.光線曝露と脈絡膜からの酸素曝露による酸化ストレス環境下で,変性した視細胞外節を網膜色素上皮(RPE)が貪食してメンテナンスしているが,消化しきれないものが難溶性で自発蛍光を有するリポフスチンとして蓄積し始める.30歳代以降,RPE下に脂質沈着が始まり,時に,小型ドルーゼンが観察されるようになる.50歳代以降,加齢黄斑変性の前駆病変が出現すると加齢黄斑変性の発症に注意が必要である.(文献9より)1652あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(4)表1加齢黄斑変性の国内診断基準とAREDSカテゴリーと診療方針国内診断基準前駆病変萎縮型AMD滲出型AMDドルーゼン(サイズ:μm)中.大(63≦)1個≦PED(サイズ:乳頭径)漿液性(<1乳頭径)漿液性(≧1乳頭径)出血性その他の病態RPE色素異常中心窩外GA中心窩下GACNVAREDSカテゴリー12(早期AMD)3(中期AMD)4(晩期AMD)ドルーゼン*(サイズ:μm)小(<63)<5個5個≦中(63≦,<125)1個≦<20個20個≦大(125≦)1個≦AREDSサプリメント推奨診療方針生活スタイルの改善**CNVの治療*AREDSでは,ドルーゼンのサイズと総面積でカテゴリー分類されている.個数は総面積の目安.**生活スタイルの改善:①禁煙,②緑黄色野菜摂取,③血圧コントロール,④肥満解消.AMD:age-relatedmaculardegeneration(加齢黄斑変性),CNV:choroidalneovascularization(脈絡膜新生血管),GA:geographicatrophy(地図状萎縮),PED:pigmentepithelialdetachment(色素上皮.離).あり禁煙が推奨され,また,抗酸化物質と光毒性の強い青色光を遮断する黄色色素(ルテインやゼアキサンチン)が予防効果を発揮しうる7).ただし,サプリメントは確かなエビデンスがなく販売されているものも多く,現在のところ,米国NIH(NationalInstituteofHealth)のNationalEyeInstitute(NEI)主導の大規模臨床試験Age-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)の2001年の報告と,2013年のAREDS2の報告に基づき,AMDの前駆病変に対してと,片眼ですでにAMDを罹患している患者に対して,ビタミンC,E,亜鉛,ルテイン/ゼアキサンチンを含有するサプリメントを推奨すべきである10,11).その他,高血圧のコントロールや肥満の解消など生活スタイルの改善も間接的に重要であるとされている12,13).I加齢黄斑変性の前駆病変(図1,表1)1.ドルーゼン成人の検診で実施されることが多い眼底カメラによる眼底検査でしばしば認めるのが,山吹色の顆粒状の沈着物であるドルーゼンである.40歳ぐらいから直径63μm(網膜中心静脈の起始部の直径125μmの半分が目安)未満の境界明瞭な小型(硬性)ドルーゼンが眼底にみられるようになる.さらに,50歳以上の7人に1人に,やや境界不鮮明で直径63μm以上の中型.大型(軟性)ドルーゼンやRPEの色素異常を認めるようになる.大型ドルーゼンが中心窩から2乳頭径以内に1個でも存在すると,AMD発症率が有意に高く7),わが国の診断基準の「前駆病変」の一つである8).ドルーゼンが存在するだけの段階では自覚症状がない場合が多いが,網膜感度を調べるとドルーゼンの直上や近傍の網膜感度が低下している.便宜上,サイズでドルーゼンは分けられることが多いが,小型と大型では性状が異なる.小型(硬性)ドルーゼンは,組織学的にはPAS(過ヨウ素酸Schiff)染色陽性でヒアリン質の均一内容物の風船様の沈着物で,びまん性にRPEと基底膜の間に蓄積してくるbasallaminardepositと似ていて,リポフスチン蓄積と脂質沈着による酸化ストレス下で,RPEが基底部側で障害を受け,細胞質がちぎれて(segmentation,budding,shedding)形成され,RPEのストレスの状況を反映していると考えられる.小型ドルーゼンの直上のRPE細胞は細胞質を失いドルーゼンに押しやられて伸展して,おそらく前述の貪食機能などが障害され,(5)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131653視細胞外節が処理されずに,限局性に,徐々に萎縮してくるものと考えられる14).したがって,単発の小型ドルーゼンは視機能に影響を与えないが,多発している部位では,時に,RPE/視細胞の萎縮が融合して地図状萎縮(萎縮型AMD)に進展する.最近,偽ドルーゼン(網膜下ドルーゼン様沈着物)とよばれる網膜下の顆粒状沈着物の存在が光干渉断層計(OCT)で確認されるようになった.ドルーゼンと内容物は近似していて,異所性に発生した小型ドルーゼンと考えられる.一方,大型(軟性)ドルーゼンは,組織学的にはRPEの基底膜とBruch膜の内膠原線維層の間にびまん性に蓄積してくるbasallineardepositと同様に膜性沈着物と脂質に富んだ内容物であったり,小さな網膜色素上皮.離(PED)であったりする.大型ドルーゼンが1つでも存在する状況は,前述の加齢変化としてのBruch膜への脂質沈着が高度であることを示唆していて,大型ドルーゼン自体よりも,むしろ,このような背景がAMD発症に密接に関与していると考えられる.軟性ドルーゼンが黄斑部に多発している場合,偽ドルーゼンや後述の異常眼底自発蛍光の網状パターンをしばしば併発し,網膜血管腫状増殖(RAP)と萎縮型AMDの発症率が高い.2.RPEの色素異常(色素沈着・脱色素)ドルーゼンと比べると,見逃されがちであるが,中心窩から2乳頭径以内のRPEの色素異常も統計的にAMDの危険因子であり,前駆病変と診断される重要な所見である7,8).色素沈着や脱色素斑,または色素むらとして観察される.眼底写真ではっきりしない場合でも,蛍光眼底造影上,色素沈着はインドシアニングリーン蛍光眼底造影で低蛍光,脱色素斑はフルオレセイン蛍光眼底造影でwindowdefectによる過蛍光として確認できる.ドルーゼンは加齢変化として出現する沈着物であるのに対し,RPEの色素異常はそういった加齢変化を背景に実際にRPE細胞が局所性に器質的障害を受けた状態であり,喫煙が密接に関与しているため,わが国では喫煙率の男女差を反映して男性に多い.外側血液網膜関門が破綻しやすい状況であり,AMDや中心性漿液性脈絡網膜症の病態に関与しうる.やはり自覚症状を認めない場合が多いが,色素沈着や脱色素の部位も網膜感1654あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013度の低下がみられ,中心窩下に認めると視力低下の原因となりうる.萎縮が進行してRPE細胞の欠損が生じた状態が地図状萎縮であり,徐々に拡大傾向を認める場合が多い.3.1乳頭径未満の漿液性網膜色素上皮.離直径1,500μm(視神経乳頭の直径が目安)未満の小さな漿液性PEDを認め,CNVが明らかでない場合,国内の診断基準でAMDの前駆病変と診断される8).前述のように,大型ドルーゼンの一部は組織的には小さな漿液性PEDであることからわかるように,PEDは,蛍光眼底造影上,CNVを認めない場合も多い.Bruch膜への脂質沈着とRPEの基底部側の障害により,加齢眼のRPEは接着障害を起こしやすく,いったんPEDが生じるとRPEとBruch膜に囲まれた空間内の膠質浸透圧により,緊満な.離状態になり改善のきっかけが得られにくい.蛍光眼底造影で後期に過蛍光になってくるPEDでは抗VEGF薬や光線力学的療法が奏効する場合がある.おそらく,このような症例では,CNVやポリープ血管が潜在していて,Bruch膜を破壊して侵入した透過性亢進血管からの滲出圧がPED発生のおもな駆動力であるためと考えられる.一方で,Bruch膜が保存されているPEDの発生には閉鎖空間内の膠質浸透圧の要因が強くなり,治療に反応しないことが多いのではないかと推測する.PEDの存在は,滲出型AMDの発症や増悪の温床となり,また,CNVに起因する色素上皮裂孔は併発しにくいとしても,徐々に.離したRPEは萎縮してくるので厄介な病態である.黄斑下に存在すると,軽度の遠視化や変視症の原因となるがPEDのみでは矯正視力は良好であるため治療開始の決断がむずかしい.中心窩下に漿液性網膜.離を併発し遷延したり,RPEが萎縮したりしてくると視力低下してくる.数カ月.数年後に自然消失する場合もあれば,さらに拡大する場合もある.4.異常眼底自発蛍光近年の画像機器の進歩により,微弱な眼底自発蛍光を加算平均することによりノイズを減らして測定することが可能となり,2012年に眼底自発蛍光検査は保険収載(6)された.低侵襲で簡便な検査であり,加齢黄斑変性や網膜色素変性の診断,病状の把握に有用である.前述のごとく,生後より蓄積してくるRPE内のリポフスチンがおもな過蛍光物質であり,生理的な加齢変化として均一な背景蛍光として観察される(図1)1,15).しかし,ドルーゼンなどを認める時期以降に,minimal,focalincrease,patchy,focalplaque-like,linear,lace-like,reticular,speckledなど,特徴的なパターンを示す異常な眼底自発蛍光(過蛍光)を認める場合があり,このような眼では後に滲出型AMDや地図状萎縮を発症したり,既存の病変が拡大したりすることが明らかになっている2,3).つまり,異常眼底自発蛍光はAMDの前駆所見として重要である.たとえば,patchy,focalplaque-likeを認める眼は高率に滲出型AMDを発症し,linear,lace-likeは地図状萎縮に進展する可能性があり,reticularパターンはRAPと萎縮型AMDのリスクである3,16).異常眼底自発蛍光を示す部位にはドルーゼンが存在する場合としない場合がある.Patchyパターンは大型ドルーゼンと同じ局在を示す場合が多く,またreticularパターンもRAP特有の集簇性の大型ドルーゼンを伴う場合が多いが,一方,linear,lace-likeパターンは眼底所見に乏しい場合があり,地図状萎縮の前駆所見として重要である.II地図状萎縮(図2)RPEの萎縮が進行するともはや細胞間の接着が保てabcd図2地図状萎縮と眼底自発蛍光77歳,男性.両眼性に黄斑部に集簇する軟性ドルーゼンを認め,萎縮型AMDと網膜血管腫状増殖の発症に注意すべき症例である.a,b:右眼の眼底写真と眼底自発蛍光.眼底写真上は軟性ドルーゼンを多数認め,一部,融合している.地図状萎縮ははっきりしないが,眼底自発蛍光では斑状の低蛍光領域として地図状萎縮を確認できる.低蛍光領域の周囲には軟性ドルーゼンと一致して,patchyパターンの異常眼底自発蛍光(過蛍光)を認める.c,d:3年後の同一眼.ドルーゼンは消退傾向であるが,異常眼底自発蛍光を認めた部位に向かって地図状萎縮の拡大を認める.(7)あたらしい眼科Vol.30,No.12,20131655なくなり,円形.地図状の欠損が生じる.RPEは生理的にVEGFを分泌し脈絡膜毛細血管を保持しているので,RPE欠損部位では脈絡膜毛細血管は萎縮していく.視細胞はしばらく生存している可能性があるが,脈絡膜毛細血管の萎縮による酸素,栄養補給の枯渇により,またRPEに貪食されるべき外節の停滞により,徐々に萎縮していく.最終的には,Bruch膜の加齢性沈着物も排除され,網膜のグリア細胞が瘢痕形成に動員されて網膜と脈絡膜組織は癒着し,時に,網膜内に.胞を形成することとなるが,大抵,視細胞萎縮が先行していて暗点内の病変につき治療意義は乏しくなる.前述の自発蛍光検査は過蛍光異常所見をとらえるだけでなく,低蛍光所見を観察するのに有用である.萎縮型AMDの地図状萎縮部位や網膜色素変性で視野欠損部位などに一致して,RPEの欠損,リポフスチンの消失による低蛍光を認める(図2)17).視野欠損など視機能の低下部位と一致し,これらは徐々に拡大傾向を示し,病気の進行の把握,視野欠損などの視機能の状態に対する客観的評価のために有用である.ただし,RPEの欠損だけでなく,キサントフィル,新鮮な網膜.離,色素沈着,硬性白斑,フィブリンや,新鮮出血などでも蛍光ブロックによる低蛍光所見を呈するので注意を要する.IIIAREDS推奨サプリメント(表2)1.AREDSによるAMD病期カテゴリーAMDに対する抗酸化サプリメントの有効性を調べるために,AREDSでは,被験者のAMDの発症リスクの高さを,前駆病変の有無などをもとにカテゴリー1.4に分類している(表1)10).カテゴリー2を早期AMD,カテゴリー3を中期AMD,カテゴリー4を晩期AMDとよぶ場合があり,国内では独自にカテゴリー2と3のドルーゼンの所見を認めれば「AMD前駆病変」,地図状萎縮を認める場合,中心窩下を含むかを問わず「萎縮型AMD」,脈絡膜新生血管を認める場合と1乳頭径以上の漿液性色素上皮.離,大きさを問わず出血性色素上皮.離を認める場合,「滲出型AMD」と分類している8).AREDSでの結果では,5年間のAMDの発症率はカテゴリー1.4でそれぞれ0.4%,1.3%,18%,43%であり,カテゴリー3,4のAMD発症率が高い.すなわち,大型ドルーゼンを認める場合と地図状萎縮を認める場合,特にAMD発症眼の僚眼においてAMD発症率は高く,抗酸化サプリメント摂取が推奨される.表2AREDS,AREDS2推奨サプリメントと国内製品の成分表スタディ名AREDSAREDS2製品名プリザービジョンプリザービジョン+ルテインオキュバイト+ルテインルタックス15販売会社わかもとわかもとわかもと参天ビタミンCビタミンEb-カロテン亜鉛銅500mg400IU15mg80mg2mg500mg400IU─25mg2mg408mg241.6mg15.75mg30mg1.5mg408mg241.6mg─30mg1.5mg300mg60mg1.2mg9mg0.6mg288mg150mg─9mg1.2mgルテインゼアキサンチンDHAEPA10mg2mg(350mg)*(650mg)*9mg6mg15mgその他ビタミンB2ナイアシンセレンマンガンDHA:docosahexaenoicacid(ドコサヘキサエン酸),EPA:eicosapentaenoicacid(エイコサペンタエン酸).*DHA,EPAの追加効果は認められなかった.1656あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013(8)2.AREDSとAREDS2AMD予防にサプリメントを推奨する根拠として,2001年に報告されたAREDSと2013年に追試されたAREDS2の報告が重要である10,11).AREDSの多施設無作為臨床試験により,抗酸化物質としてビタミンC,ビタミンE,およびb-カロテン,抗酸化ミネラルとして亜鉛(貧血予防に銅も摂取)の効果が調査された10).AMD発症率の高いカテゴリー3と4,つまり大型のドルーゼンを認める眼や片眼がAMDを発症している僚眼においては,5年間のAMD発症率はプラセボ群で28%に対して,抗酸化物質群23%,亜鉛群22%,抗酸化物質+亜鉛群20%で,プラセボ群に対するオッズ比は,抗酸化物質投与群0.71(p=0.03),亜鉛群0.70(p=0.005),抗酸化物質+亜鉛群0.66(p=0.001)で,亜鉛投与群と抗酸化物質+亜鉛群で有意にAMDの発症予防効果を認めた.一方で,AREDSの調査中に,調査成分であるb-カロテン摂取が喫煙者の肺癌のリスクを高めると他の臨床研究で報告され18,19),また,同類のカロテノイドである黄斑色素(ルテイン・ゼアキサンチン)と競合して取り込みを阻害している可能性が示唆された20).その他,高用量の亜鉛は胃炎,貧血,地図状萎縮の助長などの可能性が懸念された.そこで,AREDS2として,AREDSで推奨されているサプリメント摂取を基本として,黄斑色素であるルテイン・ゼアキサンチンと,近年,有効性が報告されているw-3多価不飽和脂肪酸(ドコサヘキサエン酸,エイコサペンタエン酸)の追加効果と,b-カロテン削除と亜鉛減量の可能性について検討された11).結果,5年のAMD発症率へのルテイン・ゼアキサンチンやw-3脂肪酸追加効果は認めなかった.ただ,サブ解析で,b-カロテンの代わりにルテイン・ゼアキサンチンを加えることの意義は示唆された.b-カロテン削除と亜鉛の減量はどちらもAMD発症率の結果に影響しなかった.このように,w-3脂肪酸に関しては,AREDSが推奨する従来のサプリメントに追加する意義が示されない結果となった.亜鉛に関してはもともと国内で販売されているサプリメントは含有量が低く設定されているが,今回の結果から判断すると問題ないと考えられる.よって,現時点では,ビタミンC,E,亜鉛に,(9)b-カロテンの代わりにルテイン・ゼアキサンチンを含むサプリメントが推奨される.国内で販売されている商品のなかでは,オキュバイトプリザービジョン+ルテイン(わかもと製薬)とサンテルタックス15+ビタミン&ミネラル(参天製薬)が適切なものと考えられる(表2).IVその他の生活指導(図3,表3)海外の治療指針に基づき,生活様式の改善として,禁煙,緑黄色野菜の摂取,血圧コントロール,体脂肪率の改善が,前駆病変.AMD発症患者(カテゴリー2.4)に推奨される12,13).喫煙はAMD発症リスクを3.4倍高めると報告されているので,できる限り禁煙指導に努めるべきである21,22).カテゴリー2,すなわち中型ドルーゼンや色素異常のみの患者に対しては,厳密にはサプリメントを推奨する必要はないが,5年間で約30%の患者がカテゴリー3,4に移行することがわかっている10).したがって,より早期からの予防の試みとして,食生活改善,すなわち肉食よりw-3脂肪酸を含む魚の摂取,抗酸化ビタミンを含む緑黄色野菜摂取などを推奨すると良いと考える.高血圧と肥満はAMD発症率を少し高める可能性がある22,23).AMD患者の約半数以上は高血圧の治療を行っており,抗VEGF薬硝子体内注射で血圧上昇するという報告もある.また,PCVの患者において高血圧は網膜下出血のリスクとなりうる.このように,高血圧の病態への関与は不明な点が多いがコントロールすべきであろう.高脂血症はBruch膜に蓄積した脂質の排除を間接的に妨げる要因となりうる.脂質関連遺伝子の遺伝子多型がAMDに関与すると,最近,報告されている24,25).肥満とAMDの関係は海外を中心に報告されている.スタチンがAMDに有効である可能性が以前報告されたこともあり,体脂肪率の改善に努めるのが無難であろう.その他,アルコール摂取に関しては,ビールの大量摂取は萎縮型AMDのリスクであるという報告がある.一方,赤ワインはポリフェノールの影響か予防効果が報告されている.飲酒は過剰摂取でなければそれほど問題でないと説明すると良い26).滲出型AMDは高齢者の疾患であるので,白内障手術を検討すべき状況をしばしば経験するが,滲出型AMDあたらしい眼科Vol.30,No.12,20131657(50歳以上,)中心窩から2乳頭径の範囲に:前駆病変a)軟性(中型・大型)ドルーゼン:直径63μm以上,1個以上b)網膜色素上皮(RPE)異常:色素沈着,脱色素,色素むらc)1乳頭径未満の漿液性網膜色素上皮.離(PED)前駆病変関連所見d)異常眼底自発蛍光(minimal,focal,patchy,plaque-like,linear,lace-like,reticular,speckled)萎縮型AMDe)地図状萎縮(geographicatrophy:GA)診療方針/生活指導.4~6カ月ごとに経過観察(視力,OCT,眼底カメラ).AREDSサプリメント推奨〔特に大型ドルーゼン(125μm以上),PED,異常眼底自発蛍光,GAを認める場合〕.禁煙~無理ならできるだけ減煙(特に重要).緑黄色野菜摂取/血圧コントロール/肥満解消.光線曝露避ける(サングラス着用/暗所でのテレビ鑑賞,スマートフォン使用を控える)注意所見/方針白内障手術方針.OCTのRPEの凹凸の変化.生活(運転免許)に支障認める場合のみ検討.眼底カメラでドルーゼンの増加.ハイリスク眼(両眼の多数大型ドルーゼン,PED,.眼底自発蛍光の変化reticular)は片眼のみまず手術.診察間隔を1~3カ月ごとに短縮.着色眼内レンズ挿入.適宜,蛍光眼底造影検査.術後消炎徹底(適宜,抗VEGF薬使用).術後6~12カ月はAMD発症注意図3前駆病変と萎縮型AMDの診療方針表3AMDの危険因子とおよそのオッズ比因子オッズ比現在の喫煙3.4過去の喫煙2.3高血圧.3高コレステロール血症/高BMI.4ビール摂取.3赤ワイン摂取0.7.アウトドア活動.2偽水晶体眼2.4AREDSサプリメント0.7BMI:bodymassindex.をすでに発症している眼において,白内障手術は病態を悪化させたり,再燃させたりすることがあるので注意が必要である.滲出型AMD眼で白内障手術を計画する具体的なタイミングは,まず,運転免許が更新できないなど生活に支障がでる状況で,白内障手術が視力改善の可1658あたらしい眼科Vol.30,No.12,2013能性がある場合である.それ以外は,白内障のためOCT測定が困難になってきた場合や,体調不良が危惧される80歳以上の患者,両眼AMDの末期で視力改善は困難であるが視野が明るくなることが期待できる場合などである.それ以外は手術を控えるべきであろう.眼底が落ち着いていても,白内障手術と抗VEGF薬硝子体内注射を併用するのが無難であろう.また,術後6.12カ月ほどはOCTによる注意深い観察が必要である.エビデンスがないが透明眼内レンズよりも着色(黄色)眼内レンズを挿入しておくと術後のbluelighthazardを軽減できて無難であろう.では,前駆病変,萎縮型AMDの眼に対してはどうするべきか?過去の疫学調査で,眼内レンズ挿入眼は,有水晶体眼に比べ,AMDの発症リスクが約3倍上昇することがわかっている27,28).したがって,もともとカテゴリー3や4のハイリスク眼,すなわち,大型ドルーゼンや色素上皮.離を認める眼や,AMD発症眼の僚眼に対しては,運転免許更新に関わるか,生活に支障をきたしていない限りは,できる(10)だけ白内障手術は急がないほうが無難である.また,RAPのリスクである多数の大型ドルーゼンやreticularパターンの眼底自発蛍光を両眼に認めるような眼では,不同視の問題がなければ,両眼同時期に白内障手術をしてしまわないで,術後の反応を見きわめるため半年以上の間隔を開けるのも無難である.その他,術前眼底透見不可であった白内障の術後は必ず眼底病変の有無を確認し,前駆病変を認める場合はしばらく注意深い経過観察を行うべきであろう.また,白内障手術時の後.破損は,それに伴う前部硝子体切除が抗VEGF薬の眼内滞留期間を短縮させて,抗VEGF療法が効きにくくなる場合があるので,前駆病変,CNV,糖尿病網膜症,黄斑浮腫の眼に対しては後.破損しないようくれぐれも注意が必要である.おわりにAMDの前駆病変は50歳以上の7人に1人の割合で認めるもので,視機能に影響していないため,日常診療では軽視しがちである.しかし,AMD発症リスクの高い状態で,眼底からの警告シグナルであることを忘れてはならない.AMDは,PDTや抗VEGF薬をもってしても,長期的には視力維持が困難であり,地図状萎縮に対しては治療法がない現状であるので,予防に努めるべきであろう.特に,わが国のAMDは喫煙が関与している場合が多く,禁煙指導は重要である.AMDの患者に禁煙指導を行わないのは,糖尿病網膜症の患者に血糖コントロールを促さないのと同じことであろう.サプリメントで推奨できるのはAREDS,AREDS2の報告に基づく製品のみであるが,その他の抗酸化作用を有するものは数多く存在する.それらの単独効果は否定できないが,AREDS2でw-3多価不飽和脂肪酸の追加効果がなかったという結果が出たように,推奨されるサプリメントを服用している人に対しては追加摂取する必要はない可能性が高い.逆に,経済事情で推奨サプリメントの購入も困難な場合は,緑黄色野菜の摂取で十分補えることも説明すべきである.文献1)OkuboA,RosaRHJr,BunceCVetal:Therelationships(11)ofagechangesinretinalpigmentepitheliumandBruch’smembrane.InvestOphthalmolVisSci40:443-449,19992)BindewaldA,BirdAC,DandekarSSetal:Classificationoffundusautofluorescencepatternsinearlyage-relatedmaculardisease.InvestOphthalmolVisSci46:33093314,20053)EinbockW,MoessnerA,SchnurrbuschUEetal;FAMStudyGroup:Changesinfundusautofluorescenceinpatientsage-relatedmaculopathy.Correlationtovisualfunction:aprospectivestudy.GraefesArchClinExpOphthalmol243:300-305,20054)MooreDJ,HussainAA,MarshallJ:Age-relatedvariationinthehydraulicconductivityofBruch’smembrane.InvestOphthalmolVisSci36:1290-1297,19955)WeismannD,HartvigsenK,LauerNetal:ComplementfactorHbindsmalondialdehydeepitopesandprotectsfromoxidativestress.Nature478:76-81,20116)Espinosa-HeidmannDG,SunerIJ,CatanutoPetal:Cigarettesmoke-relatedoxidantsandthedevelopmentofsub-RPEdepositsinanexperimentalanimalmodelofdryAMD.InvestOphthalmolVisSci47:729-737,20067)EvansJR:Riskfactorsforage-relatedmaculardegeneration.ProgRetinEyeRes20:227-253,20018)髙橋寛二,石橋達朗,小椋祐一郎ほか:加齢黄斑変性の分類と診断基準.日眼会誌112:1076-1084,20089)安川力:加齢黄斑変性の前駆病変とその症状.老年医学49:409-412,201110)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss.ArchOphthalmol119:1417-1436,200111)TheAge-RelatedEyeDiseaseStudy2ResearchGroup:Lutein+zeaxanthinandomega-3fattyacidsforage-relatedmaculardegeneration.TheAge-RelatedEyeDiseaseStudy2(AREDS2)randomizedclinicaltrial.JAMA309:2005-2015,201312)髙橋寛二,小椋祐一郎,石橋達朗ほか:加齢黄斑変性の治療指針.日眼会誌116:1150-1155,201213)JagerRD,MielerWF,MillerJW:Age-relatedmaculardegeneration.NEnglJMed358:2606-2617,200814)JohnsonPT,LewisGP,TalagaKCetal:Drusen-associateddegenerationintheretina.InvestOphthalmolVisSci44:4481-4488,200315)YasukawaT:Inflammationinage-relatedmaculardegeneration:pathologicalorphysiological?ExpertRevOphthalmol4:107-112,200916)Ueda-ArakawaN,OotoS,NakataIetal:Prevalenceandgenomicassociationofreticularpseudodruseninage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol155:260-269,201317)OishiA,OginoK,MakiyamaYetal:Wide-fieldfundusautofluorescenceimagingofretinitispigmentosa.Ophthalあたらしい眼科Vol.30,No.12,20131659mology120:1827-1834,201318)OmennGS,GoodmanGE,ThornquistMDetal:EffectsofacombinationofbetacaroteneandvitaminAonlungcancerandcardiovasculardisease.NEnglJMed334:1150-1155,199619)TheAlpha-Tocopherol,BetaCaroteneCancerPreventionStudyGroup:TheeffectofvitaminEandbetacaroteneontheincidenceoflungcancerandothercancersinmalesmokers.NEnglJMed330:1029-1035,199420)ReboulE,AbouL,MikailCetal:LuteintransportbyCaco-2TC-7cellsoccurspartlybyafacilitatedprocessinvolvingthescavengerreceptorclassBtypeI(SR-BI).BiochemJ387:455-461,200521)YasudaM,KiyoharaY,HataYetal:Nine-yearincidenceandriskfactorsforage-relatedmaculardegenerationinadefinedJapanesepopulationtheHisayamastudy.Ophthalmology116:2135-214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