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眼瞼・結膜:アトピー性結核膜炎と春季カタル

2015年6月30日 火曜日

眼瞼・結膜セミナー監修/稲富勉・小幡博人高村悦子6.アトピー性角結膜炎と春季カタル東京女子医科大学眼科学教室春季カタルはアトピー体質の学童の男児に好発し,アトピー性角結膜炎は顔面のアトピー性皮膚炎に合併して起こる慢性の角結膜炎である.アトピー性皮膚炎は春季カタルの症例でも合併している場合があり,アトピー性角結膜炎との鑑別がむずかしい症例も存在する.●はじめにアトピー性角結膜炎も春季カタルも,アレルギー性結膜疾患のなかでも重症型に位置づけられる.その理由は,結膜の増殖性変化や瘢痕といった結膜の器質的変化や角膜上皮障害を伴うことがあり,治療にも苦慮する場合が多いからである.●春季カタルの臨床像アトピー体質の学童,とくに男児に好発する.症状は通年性にみられるが,悪化時には,激しい眼掻痒感や角膜上皮障害のため,異物感,眼痛,視力低下を自覚する.上眼瞼結膜の石垣状乳頭増殖(図1)や,角膜輪部にはTrantas斑とよばれる炎症細胞の浸潤による白色の小隆起や堤防状隆起(図2)など,結膜の増殖性変化が認められる.また,角膜には,点状表層角膜炎,潰瘍底に堆積物が沈着し遷延性の角膜上皮欠損を伴うシールド(shield:盾型)潰瘍,潰瘍内の堆積物が蓄積し角膜面よりやや隆起して観察される角膜プラークなど多彩な所見を呈する.●アトピー性角結膜炎の臨床像アトピー性角結膜炎とは,アトピー性皮膚炎,なかでも顔面のアトピー性皮膚炎に合併して起こる慢性の角結膜炎であり,1952年にアトピー性皮膚炎に伴う特徴的な角結膜病変として,Hogan1)によって最初に報告された.顔面を中心に皮膚炎の増悪化が起こる思春期以降のアトピー性皮膚炎患者に認められる場合が多い.臨床像はバリエーションが多く,瞼結膜の乳頭増殖が目立たないものから,春季カタルに類似した石垣状乳頭を呈するものまでさまざまである.瞼結膜は全体に肥厚し,結膜下の線維化によると思われる白色の瘢痕を特徴とする2).瘢痕形成により,乳頭増殖は春季カタルに比べ突出が目立たない場合もある(図3).これらの瞼結膜の特徴的な所見は,上眼瞼のみならず下方の瞼結膜にも観察図1春季カタルの上眼瞼結膜所見石垣状乳頭増殖.図2輪部型春季カタル輪部の堤防状隆起.(77)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158410910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図3アトピー性角結膜炎の上眼瞼結膜所見瞼結膜は全体に肥厚し,結膜下の線維化によると思われる白色の瘢痕を特徴とする.される.また,結膜の線維化による結膜.短縮を伴うことがある.角膜所見として,点状表層角膜炎,血管進入,混濁,結膜の侵入などを認める.アトピー性角結膜炎の重症化には,アトピー性眼瞼炎の悪化が関与している3).難治性のアトピー性眼瞼炎では,眼瞼は硬く腫脹し,閉瞼不全を生じている場合が多い.これにより,眼表面は乾燥し涙液,瞬目によるアレルゲン,炎症細胞などの洗い流し効果が減少することが考えられる.また,アトピー性眼瞼炎には,ブドウ球菌,レンサ球菌,単純ヘルペスウイルスなどの感染を伴いやすく,これらも角結膜所見の悪化に関与する.文献1)HoganMJ:Atopickeratoconjunctivitis.TransAmOphthalmolSoc50:265-281,19522)FosterCS,CalongeM:Atopickeratoconjunctivitis.Ophthalmology97:992-1000,19903)高村悦子,野村圭子,中川尚ほか:アトピー性皮膚炎患者の角結膜病変.眼紀48:1382-1386,1997☆☆☆842あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(78)

抗VEGF治療:抗VEGF薬と脈絡膜厚

2015年6月30日 火曜日

●連載抗VEGF治療セミナー監修=安川力髙橋寛二17.抗VEGF薬と脈絡膜厚古泉英貴東京女子医科大学眼科学近年,各種黄斑疾患に対する抗VEGF治療後に,脈絡膜厚が減少することが相次いで報告されている.脈絡膜厚の減少の程度は薬剤の種類によっても異なると考えられ,最近では治療成績の予測因子としての脈絡膜厚の役割も注目されている.はじめに抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)治療は脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を有する滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)や病的近視,糖尿病網膜症や網膜中心静脈閉塞症(centralretinalveinocclusion:CRVO),網膜静脈分枝閉塞症に伴う黄斑浮腫に対して広く用いられている.抗VEGF薬はCNVや黄斑浮腫といった視機能低下に直結する病態への直接作用のみならず,さらに深部にある脈絡膜にも形態的な変化をもたらすことが近年相次いで報告されている.本稿では抗VEGF治療と脈絡膜厚に関する現時点での知見につき概説する.滲出型加齢黄斑変性(AMD)VEGFがその発生と進展に重要な役割を演じているCNVへの直接の薬理作用により治療効果を発揮するが,抗VEGF治療後には脈絡膜厚が変化することが報告されている.筆者らは滲出型AMD40眼に対しラニビズマブを治療導入期に月1回,3カ月連続で投与し,以降は毎月経過観察のうえ,必要に応じて追加投与を行った.その結果,平均中心窩下脈絡膜厚(subfovealchoroidalthickness:SCT)は治療前の244μmから3カ月後には226μmと有意に減少し,その減少率は7.4%であった1).3カ月後以降は追加治療を行ってもSCTの変化はほぼプラトーであった.SCTの減少程度と治療回数の相関はみられず,滲出型AMDのサブタイプおよび過去のAMD治療歴にかかわらず同様の減少傾向がみられた.その一方,治療を行わなかった僚眼ではSCTの変化はみられなかった.抗VEGF治療後の脈絡膜厚の減少の理由として,脈絡膜血管からの透過性の減少,あるいはVEGF阻害による直接的な脈絡膜血管収縮,および一酸化窒素阻害などを介した間接的な脈絡膜血管収縮などが推察される.しかし,Ellabbanら2),小笠原ら3)(75)0910-1810/15/\100/頁/JCOPYは同様の検討を行い,平均SCTの減少率は最終経過観察時においてそれぞれ1.4%,3.1%であり,治療前と比較して有意な差がみられなかったとしている.したがって,ラニビズマブの脈絡膜厚に与える影響はコンセンサスが得られていないのが現状である.最近では脈絡膜厚の予後予測因子としての役割も注目されている.Kangら4)はラニビズマブ治療を6カ月間行った典型AMD40眼の治療成績と治療前SCTの関連につき検討している.同報告では筆者らの報告1)と同様に,治療前と比較して平均SCTは減少し,さらに治療前のSCTが厚いほど有意に網膜形態の改善と視力経過が良好であったとしている.典型AMDでは正常眼と比較して平均SCTがやや薄いことが知られており,ラニビズマブ治療によりさらに脈絡膜が菲薄化することが,治療成績が不良であることと関連している可能性がある.治療前アフリベルセプト3回投与後図1典型AMDに対するアフリベルセプト治療前(上),治療後(下)SCTは217μmから182μmへと減少している.あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015839 より新しい抗VEGF薬であるアフリベルセプト治療後の脈絡膜厚変化はどうであろうか?筆者らは治療既往のない滲出型AMD102眼に対しアフリベルセプトを月1回,3カ月連続で投与し,3カ月間の脈絡膜厚の変化を検討した5).その結果,平均SCTは252μmから3カ月後には218μmとなり,減少率13.5%とラニビズマブの場合と比較して大きいことを報告している(図1).アフリベルセプトはポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)に対し,既存の抗VEGF薬と比較して治療レスポンスが高いとされているが,もともと脈絡膜が肥厚する場合が多いPCVにおいて,アフリベルセプトの脈絡膜に対する薬理作用が治療効果と関連している可能性があり,今後の研究が注目される.糖尿病黄斑浮腫(DME)近年,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)に対してもラニビズマブ,アフリベルセプトが適応拡大され,その治療戦略は新たな局面を迎えている.DME眼においては,脈絡膜厚は肥厚するという報告や逆に菲薄化するという報告もあり,見解の一致はみられていない.抗VEGF治療と脈絡膜厚に関してはいくつかの報告がなされており,Lainsら6)はDMEに対し,ベガプタニブ,ベバシズマブおよびラニビズマブを用いて治療を行った結果,抗VEGF治療を行った25眼ではSCTが有意に減少したのに対し,黄斑部のレーザー治療のみを行った25眼ではSCTに有意な変化がみられなかったとしている.Yiuら7)はDME59眼において,33眼でベバシズマブあるいはラニビズマブの投与を行い,26眼では治療を行わず経過観察のみとした.抗VEGF治療を行った群では平均SCTは治療前247μmから6カ月後には225μmに減少した一方,治療を行わなかった群ではSCTの変化がみられなかったとしている.治療眼におけるSCTの変化は注射回数,視力変化,中心窩網膜厚の変化とは相関がみられなかった.DMEにおいても治療成績の予測因子としての脈絡膜厚の役割が模索されている.Rayessら8)はDME53眼においてベバシズマブあるいはラニビズマブによる治療を行ったところ,3カ月後には平均SCTは225μmから201μmに減少し,治療前のSCTが厚いほうが網膜の解剖学的改善および視力改善の程度が良好であったとしている.網膜中心静脈閉塞症(CRVO)Tsuikiら9)は黄斑浮腫を伴う片眼性のCRVOに対してベバシズマブによる加療を行い,SCTの変化につい840あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015て検討している.同報告ではCRVO36例において,患眼での平均SCTは257μmであり,CRVOのない僚眼での223μmと比較して有意に肥厚していた.CRVO眼では眼内のVEGFが高値であり,VEGFによる脈絡膜血管拡張作用などの影響が推察される.そのうち22眼のCRVOに対しベバシズマブによる加療を行ったところ,平均SCTは治療前の267μmから治療後には228μmまで減少した.おわりに各種黄斑疾患における抗VEGF治療後には脈絡膜厚が減少しうる.脈絡膜厚と病態との関連や予後予測因子としての役割は今後ますます明らかになっていくものと考えられ,網膜所見のみならず,脈絡膜所見をも包括的にとらえて黄斑疾患診療を行う時代は,もうそこまで来ているのかもしれない.文献1)YamazakiT,KoizumiH,YamagishiTetal:Subfovealchoroidalthicknessafterranibizumabtherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration:12-monthresults.Ophthalmology119:1621-1627,20122)EllabbanAA,TsujikawaA,OginoKetal:Choroidalthicknessafterintravitrealranibizumabinjectionsforchoroidalneovascularization.ClinOphthalmol6:837-844,20123)小笠原雅,丸子一朗,菅野幸紀ほか:加齢黄斑変性に対するラニビズマブ硝子体内注入後の網脈絡膜厚変化.日眼会誌116:643-649,20124)KangHM,KwonHJ,YiJHetal:Subfovealchoroidalthicknessasapotentialpredictorofvisualoutcomeandtreatmentresponseafterintravitrealranibizumabinjectionsfortypicalexudativeage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol157:1013-1021,20145)KoizumiH,KanoM,YamamotoAetal:Short-termchangesinchoroidalthicknessafteraflibercepttherapyforneovascularage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol159:627-633,20156)LainsI,FigueiraJ,SantosARetal:Choroidalthicknessindiabeticretinopathy:theinfluenceofantiangiogenictherapy.Retina34:1199-1207,20147)YiuG,ManjunathV,ChiuSJetal:Effectofanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyonchoroidalthicknessindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol158:745751,20148)RayessN,RahimyE,YingGSetal:Baselinechoroidalthicknessasapredictorforresponsetoanti-vascularendothelialgrowthfactortherapyindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol159:85-91,20159)TsuikiE,SuzumaK,UekiRetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidincentralretinalveinocclusion.AmJOphthalmol156:543-547,2013(76)

緑内障:交通事故と緑内障

2015年6月30日 火曜日

●連載180緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也180.交通事故と緑内障結城賢弥ハーバード大学医学部ボストン小児病院わが国では平成26年度に約4,113人が交通事故により亡くなっており,交通事故は社会が克服すべき大きな問題である.筆者らの研究では,後期緑内障患者は,視野に異常のないものと比較し,交通事故を経験している頻度が有意に高かった.交通事故と緑内障に関し,さらなる研究が必要である.●はじめにわが国における平成26年度の交通事故件数は約57万件であり,交通事故死者数は4,113人である.交通事故は疾病による死亡と異なり100%予防可能な死である.それゆえに社会にとってきわめて重要な問題である.●交通事故と後期緑内障McGwinらは,視野障害の悪い眼のAGISscoreが6以上の中期緑内障患者は,視野障害がない緑内障患者と比較し約3.6倍,AGISscoreが12以上の後期緑内障患者では約4.4倍,交通事故を起こすリスクが高かったと報告している.筆者らの多施設共同研究では,緑内障患者199名,対照群187名に対し,過去5年間に経験した交通事故を聴取し解析した結果,対照群の事故経験率は16.0%,初期緑内障18.5%,中期緑内障23.2%,後期緑内障29.8%と,視野障害が悪化するとともに交通事故経験率が有意に増加した(傾向検定p=0.03)(図1)1,2).後期緑内障患者の対照群に対する交通事故経験に関するオッズ比は2.3であった.また,視野障害以外の交通事故に関する危険因子は,若年(10歳年をとるごとに26%リスク低下)と長距離の運転(週の運転距離が10km増すごとに2%リスク増加)であった.後期緑内障患者が交通事故を経験する可能性は,視野障害がない者と比較すると高いと考えられる.●後期緑内障患者は運転をやめたほうがよい?では,後期緑内障患者は運転をやめたほうが良いのであろうか?車の運転は生活と密接に関連しており,車の運転をやめることで失職する可能性もある.高齢者の運転の制限はうつ,介護施設への入所や早期の死亡と関連しており,過剰な運転の制限は緑内障患者のQOLの障害につながる.2.510,000km運転当たりの交通事故件数10,000km運転当たりの交通事故件数3.53.02.52.02.01.51.00.50.50初期緑内障群中期緑内障群後期緑内障群対照群1.51.0(n=187)(n=92)(n=60)(n=47)0012345図1緑内障重症度と交通事故頻度の関係悪いほうの眼のMD値が.6dB以上を初期緑内障,.6~.12dBを中期緑内障,.12dB以下を後期緑内障とした.視野重症度の悪化に伴い,有意に交通事故率が増加した(p=0.03傾向検定).縦軸は1万km運転当たりの交通事故件数(平均±標準誤差).(73)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY運転を制限する状況の数図2運転制限数と交通事故頻度の関係男性緑内障患者において,夜間,霧中,雨天,高速道路,車線変更の5つの運転環境を避ける頻度が高いほど,交通事故率が減少した(p=0.01傾向検定).縦軸は1万km運転当たりの交通事故件数(平均±標準誤差).あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015837 10,000km運転当たりの交通事故件数3.53.02.52.01.51.00.50対照群初期緑内障群中期緑内障群後期緑内障群(n=187)(n=165)(n=20)(n=6)図3両眼重ね合わせ視野による重症度と交通事故頻度の関係両眼重ね合わせ視野MD値が.6dB以上を初期緑内障,.6~.12dBを中期緑内障,.12dB以下を後期緑内障とした.視野障害が悪化しても交通事故頻度の間には明らかな関係は認められない(p=0.12傾向検定).縦軸は1万km運転当たりの交通事故件数(平均±標準誤差).筆者らは夜間,雨天,霧中,高速道路の運転や車線変更を日常の運転において避けているかという質問を行い,それらと交通事故経験率との関係を解析した.男性緑内障患者において一つも運転制限を行っていない者の交通事故経験率は30.8%であり,一つでも制限している者は13.6%と有意に低く(p=0.01),年齢,運転距離などで補正後の数値でも,前者の交通事故経験率は後者の約2.3倍であった(図2).また,運転制限の数が一つ増えるごとに約60%交通事故経験率が低下した3).とくに夜間の運転を控えている者は有意に交通事故経験率が低値であった(未発表データ).本研究から緑内障患者で視野障害があったとしても,夜間等の運転を控えることにより,交通事故リスクを低下させることできる可能性があると考えられた.また筆者らは,視野障害のどの部位が交通事故と関連しているかの検討を,両眼重ね合わせ視野を用いて解析を行った.興味深いことに,McGwinらの研究と筆者らの2つの研究では,悪いほうの眼の視野障害が交通事故に関係していると報告している.片方の眼に視野障害があっても,もう片眼が正常であれば,交通事故を起こすリスクはあまり上がらないのではないかと考えるのが一般的と思われる.そこで両眼重ね合わせ視野を作成し,交通事故経験者と非経験者の間で視野52点の一点一点を比較したが,視野障害のいずれの部位も交通事故と明らかな関係がなかった4).また,IVF値により重症度を分けた表と交通事故率からも明らかな関係は見出せない(図3).この結果はやはり筆者らやMcGwinらの悪いほうの眼の視野障害が交通事故とより関連しているという結果と矛盾しない.運転はきわめて複雑な行為であり,単純に見えない部分があるから交通事故を起こすというものではない可能性がある.●まとめ緑内障と交通事故の関係は,今後もさらに追加の研究が必要である.現在,筆者は視野障害を有する緑内障患者に運転に関するアドバイスを求められた場合,視野障害の自覚がない場合にはまずどの部分が見えないのかを自覚してもらい,運転の際にその部分が見えていない可能性があることを意識すること,ならびに可能であれば夜間の運転や不慣れな場所の運転は避けることを勧めている.近年の自動運転技術の発達は,緑内障患者への福音に思える.文献1)TanabeS,YukiK,OzekiNetal:Theassociationbetweenprimaryopen-angleglaucomaandmotorvehiclecollisions.InvestOphthalmolVisSci52:4177-4181,20112)OnoT,YukiK,Awano-TanabeSetal:GlaucomatousvisualfielddefectseverityandtheprevalenceofmotorvehiclecollisionsinJapanese:ahospital/clinic-basedcross-sectionalstudy.JournalofOphthalmology:497067,20153)OnoT,YukiK,Awano-TanabeSetal:Drivingself-restrictionandmotorvehiclecollisionoccurrenceinglaucoma.OptomVisSci92:357-364,20144)YukiK,AsaokaR,TsubotaK:Therelationshipbetweencentralvisualfielddamageandmotorvehiclecollisionsinprimaryopen-angleglaucomapatients.PLoSOne29:e115572,2014☆☆☆838あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(74)

屈折矯正手術:多焦点眼内レンズ挿入眼でのwavefront-guided LASIKによる屈折誤差矯正

2015年6月30日 火曜日

屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載181大橋裕一坪田一男181.多焦点眼内レンズ挿入眼でのwavefront.guided中村邦彦たなし中村眼科クリニックLASIKによる屈折誤差矯正回折型多焦点眼内レンズ挿入眼での屈折誤差矯正において,wavefront-guidedLASIKの有用性が期待されている.新しい波面収差解析装置iDesignを使用したwavefront-guidedLASIKによる屈折誤差矯正では,con-ventionalLASIKより高次収差増加が抑制される.●多焦点IOL挿入眼でのtouchupの意義多焦点眼内レンズ(intraocularlens:IOL)挿入眼において,大きな屈折誤差は遠方,近方とも裸眼視力を低下させ,多焦点IOLの性能を半減させる結果となる.この屈折誤差は眼鏡装用にて矯正可能だが,多焦点IOLの挿入を希望する患者では,裸眼での生活を強く期待することが少なくない.IOLマスターをはじめとする光学式眼軸測定が普及してIOL度数選択の精度は高くなり,屈折誤差の主体は乱視が占めるようになった.トーリックIOLであれば乱視にも対処できるが,多焦点IOLではまだ一部のモデルにしかない.このため,多焦点IOL挿入後の術後屈折誤差に対してlaserinsitukeratomileusis(LASIK)による屈折誤差矯正(touchup)が行われているが,精度も高く,球面度数と乱視両方の屈折誤差を矯正できる.また,現在の多焦点IOLは,単焦点IOLに比べてレンズパワーの作製範囲が狭く,高度近視の症例などで,最小のレンズパワーを選択しても残余近視が生じる場合があるが,このような場合でもtouchupは有効である.多焦点IOLには屈折型と回折型があるが,屈折型は裸眼視力が角膜乱視の影響を比較的受けにくい傾向がある.適切なレンズパワーがないときは別として,多くは回折型挿入眼がtouchupの適応となる.●Wavefront.guidedLASIKによるtouchupの意義回折型多焦点IOL挿入眼では,以前のモデルのときより改善しているが,単焦点IOLと比較してコントラスト感度の低下が生じることが知られている.また,LASIK施行眼では角膜収差が増加することが知られて(71)いる1,2).多くの場合,IOL挿入後のLASIKによる屈折誤差矯正はわずかな矯正量にとどまるので,LASIKによる角膜収差の増加はそれほど大きくはないと思われる.しかし,回折型多焦点IOL挿入眼で軽度のコントラスト感度の低下が生じているところに,LASIKを加えることにより,角膜収差を増加させ,コントラスト感度をさらに低下させることが懸念される.実際にはconventionalLASIKでもtouchupにおける矯正量はわずかで,患者がLASIK後にコントラスト感度の低下を訴えるようなことはない.しかし,この点でwavefront-guidedLASIKによる屈折誤差矯正は角膜の高次収差の増加を避けることに寄与できる可能性があり,信頼できるデータが得られれば施行したほうがよいと思われる3).ConventionalLASIKでは自覚的屈折誤差をもとに矯正量を設定して照射することで問題はないが,wavefront-guidedLASIKではまず波面収差解析装置で座位にて測定解析を行う.屈折型多焦点IOLでは波面収差解析装置での値は信頼性がないが,回折型多焦点IOLでは測定が可能であれば有効である.回折型では光学部の回折構造により入射光が2つに振り分けられるが,通常,波面収差解析装置では遠方視を反映した眼内からの出射光をもとにHartmann-Shackイメージを作製する.念のため,測定された結果を自覚の屈折誤差と近似しているかを確認してから使用するのがよい.次に解析結果をエキシマレーザー装置に入力して照射を行う.Touchupでは矯正量はわずかであるが,乱視が矯正の主体であるので虹彩紋理認証(irisregistration:IR)による廻旋補正は有効性が高く,wavefront-guidedLASIKの効果を十分に得るためにも,可能であれば積極的に使用するのがよい4).新しい波面収差解析装置Abbott社製iDesignRアドあたらしい眼科Vol.32,No.6,20158350910-1810/15/\100/頁/JCOPY 等価球面度数絶対値円柱度数絶対値(D)0.550.17※0.710.25※(D)後前1.460.30※0.30※1.41後前2.02.01.01.00前後前後0(※Wilcoxon検定p<0.05)■Wevefront-guidedLASIKConventionalLASIK図1回折型多焦点IOL挿入眼でのTouchup前後での屈折の変化LASIK後に等価球面度数,円柱度数とも絶対値は減少している.Wavefront-guidedLASIKconventionalLASIKとconventionalLASIK間に差はない.(μm)0.120.090.080.120.220.150.100.080.080.50.40.30.20.10Rootmeansquare※※(Tukey多重比較検定p=0.0013)Conventional-LASIK■Wavescan■iDesign図3全眼球高次収差比較3次,4次では差はないが全高次収差でiDesignがconventionalLASIKより良好である.バンストウェイブスキャン(iDesign)は最大波面収差解析箇所数1,275となっており,前機種のウェイブスキャンウェイブフロントRシステム(WaveScan)が240箇所であったのと比較すると,約5倍に増加している.また,虹彩紋理,輪部認識機能の向上が図られており,IR下でのwavefront-guidedLASIK可能率の増加が期待される.●Wavefront.guidedLASIKによるtouchupの成績回折型多焦点IOL挿入眼でのwavefront-guidedLASIKによるtouchup前後での屈折誤差の変化をみると,LASIK後に等価球面度数,円柱度数とも絶対値は減少した(図1).Wavefront-guidedLASIK後に裸眼視力は遠方,近方とも改善した(図2).WavefrontguidedLASIKとconventionalLASIKの比較では,屈836あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015裸眼遠方視力裸眼近方視力1.01.00.10.1(※Wilcoxon検定p<0.05)■Wevefront-guidedLASIKConventionalLASIK図2回折型多焦点IOL挿入眼でのtouchup前後での裸眼視力の変化LASIK後に遠方,近方とも裸眼視力は改善している.Wavefront-guidedLASIKconventionalLASIKとconventionalLASIK間に差はない.折,視力には差はなく,コントラスト感度も両者とも全周波数において正常範囲内で差はなかった.しかし,高次収差については,WavescanではconventionalLASIKと差がなかったが,iDesignでは全高次収差でconventionalLASIKより良好であった(図3).Wavefront-guidedLASIKのtouchupにおける有用性は,これまであまり明確ではなかったが,新しい波面収差解析装置iDesign使用によるwavefront-guidedLASIKでは,波面収差解析機能向上と合わせてIR率向上が高次収差増加抑制に寄与でき,積極的な使用が薦められる.文献1)YamaneN,MiyataK,Samejimaetal:Ocularhigher-orderaberrationsandcontrastsensitivityafterconventionallaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci45:3986-3990,20042)OshikaT,TokunagaT,SamejimaTetal:Influenceofpupildiameterontherelationbetweenocularhigher-orderaberrationandcontrastsensitivityafterlaserinsitukeratomileusis.InvestOphthalmolVisSci47:1334-1338,20063)JendritzaBB,KnorzMC,MortonSetal:WavefrontguidedLASIKissafeandeffectiveindiffractivemultifocalIOLstocorrectresidualrefractiveerror,buthigherorderaberrationsdidnotimprove.JRefractSurg24:274-279,20084)KhalifaM,El-KatebM,ShaheenMS:Irisregistrationinwavefront-guidedLASIKtocorrectmixedastigmatism.JCataractRefractSurg35:433-437,2009(72)1.000.49※1.010.58※0.590.38※0.640.48※前後前後前後前後

眼内レンズ:前部円錐水晶体例

2015年6月30日 火曜日

眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎・佐々木洋344.前部円錐水晶体例溝手秀秋*1野間一列*2*1みぞて眼科*2のま眼科医院腎炎,難聴がなく,家族歴もない両眼性の前部円錐水晶体に対して白内障手術を行ったので報告する.前部円錐水晶体の診断には波面収差解析が有用であった.Continuouscurvilinearcapsulorrhexis(CCC)の際に前.が脆弱で,CCCが困難であった.前部円錐水晶体の白内障手術の際には,CCCに十分に注意することが重要である.●はじめに水晶体の前面の中央が突出している状態を前部円錐水晶体という.Alport症候群は前部円錐水晶体を合併することが多く1),IV型コラーゲンa鎖遺伝子の異常により,糸球体腎炎,感音性難聴,さまざまな眼症状を主症状とする2).今回,腎炎,難聴がなく,家族歴もない両眼性の前部円錐水晶体に対して白内障手術を行ったので報告する.●症例症例:69歳,男性.主訴:両眼視力低下.既往歴:肺気腫.家族歴:特記事項なし.現病歴:1年前から両眼視力低下を自覚し,2012年5月14日当院を受診した.初診時所見:視力は右眼0.05(0.5×.7.50D),左眼0.05(0.6×.7.75D(cyl.0.50DAx70o).眼圧は右眼11mmHg,左眼9mmHg.角膜曲率半径は右眼7.34mm7.44mm,左眼7.30mm7.44mm.IOLマスターR(ZEISS)による眼軸長は右眼22.83mm,左眼22.69mm.両眼とも角膜,虹彩,前房に異常なく,水晶体前面は中央で凸型に突出し,軽度の核硬化があった(図1).眼底は両眼とも血管アーケード内の網膜に白点が散在していた.OPD-ScanIII(NIDEK)で波面収差解析を行った結果,両眼とも眼屈折,眼内屈折は瞳孔の中央で強く近視化し,高次収差が著明に増加しており(図2),水晶体前面中央の突出が原因と考えられたため,前部円錐水晶体と診断した.軽度の核混濁とretrodots以外に図1初診時前眼部写真(左:右眼,右:左眼)(69)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158330910-1810/15/\100/頁/JCOPY 図2初診時波面収差解析結果(上:右眼,下:左眼)は視機能に影響する混濁がなかったため,視力低下の主因は高次収差の増加と考えた.経過:2012年6月中旬,両眼水晶体超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術を行った.左眼はオペガンハイRを前房内に注入して,チストトームでCCCを行った.右眼はビスコートRとオペガンハイRを前房に注入して,河合式鑷子でCCCを行った.両眼ともCCCの際に前.が脆弱で,滑らかな円形にならず,ギザギザした前.切開縁となった.また,水晶体前面が突出していたため,CCCが赤道部に流れやすい傾向にあった.後.には異常なく,眼内レンズは.内固定とした(図3).術後視力は右眼1.2(矯正不能),左眼1.2(矯正不能)で,その後2年6カ月間良好な視力を維持している.図3術後の前眼部写真(左:右眼,右:左眼)●考察前部円錐水晶体の診断には波面収差解析が有用であり,白内障手術前のルーティン検査の一つに採用すれば,水晶体形状異常も検出しやすいと思われる.本疾患では水晶体中央部の突出により水晶体中央の屈折力増加および高度の高次収差増加を生じるため,水晶体混濁がなくても近視化と視力障害を生じる.また,Alport症候群では前.が薄く脆弱で,CCCが困難である3)が,本症例もCCCが困難であった.腎炎,難聴がなく,家族歴もない両眼前部円錐水晶体の白内障手術でも,Alport症候群の前部円錐水晶体の白内障手術と同様にCCCには十分に注意することが重要である.文献1)HentatiN,SellamiD,MakniKetal:OcularfindingsinAlportsyndrome:32casestudies.JFrOphthalmol31:597-604,20082)貝藤裕史,野津寛大:Alport症候群.安田隆,平和伸仁,小山雄太(編):臨床腎臓内科学,第1版,p719-722,南山堂,20133)鈴木香,鈴木幸彦,中澤満:片眼性の成熟白内障でみつかった両眼性前部円錐水晶体の家系.眼科手術21:507511,2008

コンタクトレンズ:患者指導2(レンズケア)

2015年6月30日 火曜日

提供コンタクトレンズセミナーコンタクトレンズ処方はじめの一歩監修/下村嘉一13.患者指導2(レンズケア)●はじめに初めてコンタクトレンズ(CL)を処方するときは,CLの取り扱いについて説明し,同時に,正しいケアの方法を指導しておくことが非常に重要である.●ケアの必要性(なぜケアが必要なのか)もっとも大きな理由は,レンズやケースに微生物が付着し,角膜に上皮障害があれば,汚染されたCLを装着することによって角膜感染症が成立する1)ということを予防するためで,蛋白質や脂質などの汚れが付着するのを防ぐためでもある.そのため,前号で述べたが,手洗いを正しく行い,それとともにレンズやケースを清潔にしておくことが重要である.●ケア用品の種類当然,ハードコンタクトレンズ(HCL)とソフトコンタクトレンズ(SCL)とではケア用品が異なるが,なかには両者に使用可能なケア用品も存在する.これらのケア用品についていくつか問題点はある2)が,HCLの場合は,レンズを洗浄し保存するための液,蛋白除去剤,アルコールの入った洗浄液,研磨剤の入った洗浄剤などを用いる.SCLの場合は,1本で洗浄,保存,消毒,す宮本裕子アイアイ眼科医院すぎを行うマルチパーパスソリューション(MPS)が簡便でもっともよく使用されているが,過酸化水素製剤,ポビドンヨード製剤のほうが微生物に対する消毒効果は高い.SCLに対しても,蛋白除去剤,アルコール入り洗浄液,研磨剤入り洗浄剤を併用することもある.●レンズの基本的なケア方法HCLの場合は,レンズをはずしたあと,こすり洗いを行うが,手のひらにHCLを乗せ,(表面処理されていないレンズの場合は研磨剤入りの)洗浄剤でレンズをこする(図1).図2のように,3本の指ではさんで洗浄する方法もある.その後,水道水ですすいでレンズホルダーに正しく入れ,洗浄保存液に浸けて保存する.さらに,必要に応じて蛋白除去剤を使用する.レンズを装着するときは,再度洗浄保存液でこすり洗いと十分なすすぎを行ってからレンズを装着する.洗浄は毎日行うが,月に1度,強力蛋白除去を行うとより良い.一方,SCLの場合は,レンズをはずしたのち,MPSあるいはすすぎ液で図3のようにレンズの表と裏を各20~30回こすって洗う.爪を立てずに指の腹でこするが,回転させるとレンズが破れることがあるので,前後にこするようにする.その後は図4のように勢いよく液図1ハードコンタクトレンズの洗浄方法(手のひらの上で)図2ハードコンタクトレンズの洗浄方法(3本の指で)(67)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158310910-1810/15/\100/頁/JCOPY 832あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(00)をかけてすすぐが,水道水は使えない.MPSの場合は,レンズをケースに入れ浸漬させる.そのとき,レンズの一部が液面から出ていると,蓋を閉めるときにレンズを挟んでしまったり,乾燥の原因になったりするので,必ず十分な量のMPSを入れ,レンズ全体を液内に沈めておくことが重要である.過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤の場合は,すすぎ液(MPSでも可)でレンズのこすり洗いをしてすすいでから,指定されたレンズケースホルダーにレンズを入れ,所定の消毒液と中和剤(液)を入れる.過酸化水素水を中和するためには,白金ディスクを用いる場合と0.5%チオ硫酸ナトリウムやカタラーゼを使用する方法がある.白金ディスクが必要な場合,指定外のケースを使用すると中和されないため,過酸化水素水が直接目に入る危険性がある3).また,2ステップのものは,消毒のあと,中和の作業を忘れずに行う.さらに気をつけることは,消毒終了後効果が持続しないので,中和後24時間以上経っていれば,レンズ使用前に再度消毒を行う必要がある.●レンズケースのケアレンズを装着している間は,レンズケースを洗浄し乾燥させることが非常に大切である.HCLのケースは複雑なので,可能な限り分解して水道水で洗浄し乾燥させる.SCLのケースも水道水でこすり洗いし,乾燥させる.両者とも,定期的に新しいケースと交換することも大切である.●おわりに近年,とくにカラーCL使用者に多いのが,ケア方法の指導を受けないままレンズを使っている例である.なかにはケア自体を知らない例もある3).最初に正しいケア方法を指導し,さらに定期検査のときに正しいケアができているか確認することが,眼障害を減らすために非常に重要である.文献1)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20062)宮本裕子:今日のコンタクトレンズ診療.1.コンタクトレンズ洗浄保存液の諸問題.眼科54:585-593,20123)宮本裕子:「CLバトルロイヤルサードステージ」第38回ソフトコンタクトレンズケア用品の選択.日コレ誌56:289-293,2014ZS943図3ソフトコンタクトレンズの洗浄方法(前後にこする)図4ソフトコンタクトレンズのすすぎ方(00)をかけてすすぐが,水道水は使えない.MPSの場合は,レンズをケースに入れ浸漬させる.そのとき,レンズの一部が液面から出ていると,蓋を閉めるときにレンズを挟んでしまったり,乾燥の原因になったりするので,必ず十分な量のMPSを入れ,レンズ全体を液内に沈めておくことが重要である.過酸化水素製剤やポビドンヨード製剤の場合は,すすぎ液(MPSでも可)でレンズのこすり洗いをしてすすいでから,指定されたレンズケースホルダーにレンズを入れ,所定の消毒液と中和剤(液)を入れる.過酸化水素水を中和するためには,白金ディスクを用いる場合と0.5%チオ硫酸ナトリウムやカタラーゼを使用する方法がある.白金ディスクが必要な場合,指定外のケースを使用すると中和されないため,過酸化水素水が直接目に入る危険性がある3).また,2ステップのものは,消毒のあと,中和の作業を忘れずに行う.さらに気をつけることは,消毒終了後効果が持続しないので,中和後24時間以上経っていれば,レンズ使用前に再度消毒を行う必要がある.●レンズケースのケアレンズを装着している間は,レンズケースを洗浄し乾燥させることが非常に大切である.HCLのケースは複雑なので,可能な限り分解して水道水で洗浄し乾燥させる.SCLのケースも水道水でこすり洗いし,乾燥させる.両者とも,定期的に新しいケースと交換することも大切である.●おわりに近年,とくにカラーCL使用者に多いのが,ケア方法の指導を受けないままレンズを使っている例である.なかにはケア自体を知らない例もある3).最初に正しいケア方法を指導し,さらに定期検査のときに正しいケアができているか確認することが,眼障害を減らすために非常に重要である.文献1)大橋裕一,鈴木崇,原祐子ほか:コンタクトレンズ関連細菌性角膜炎の発症メカニズム.日コレ誌48:60-67,20062)宮本裕子:今日のコンタクトレンズ診療.1.コンタクトレンズ洗浄保存液の諸問題.眼科54:585-593,20123)宮本裕子:「CLバトルロイヤルサードステージ」第38回ソフトコンタクトレンズケア用品の選択.日コレ誌56:289-293,2014ZS943図3ソフトコンタクトレンズの洗浄方法(前後にこする)図4ソフトコンタクトレンズのすすぎ方

写真:Schnyder角膜ジストロフィ

2015年6月30日 火曜日

写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦373.Schnyder角膜ジストロフィ加藤久美子三重大学大学院医学系研究科臨床医学系講座眼科学図2図1のシェーマ①角膜中央部に輪状の結晶沈着,②角膜周辺部には老人環様の強い混濁がみられる.図1SCCDの60代女性の前眼部所見角膜中央部に輪状の結晶沈着,角膜周辺部には老人環様の強い混濁がみられる.図3図1の子(40代女性)の前眼部所見角膜中央部の実質浅層に結晶沈着,角膜周辺部には老人環様の淡い混濁が観察される.図4図1の孫(幼児)の前眼部所見角膜中央部の実質浅層に微細な結晶沈着がみられる.(65)あたらしい眼科Vol.32,No.6,20158290910-1810/15/\100/頁/JCOPY Schnyder角膜ジストロフィ(Schnydercrystallinecornealdystrophy:SCCD)は,角膜に脂質が沈着することにより両眼の角膜混濁をきたす実質ジストロフィであり,わが国では非常にまれな常染色体優性遺伝の疾患である.SCCDの原因遺伝子は第1染色体短腕に存在するUBIAD1遺伝子(コレステロールの代謝に関連すると考えられている)の変異である1).角膜混濁は幼少期から始まるが,進行は緩徐であり,30代以降に診断される例が多い.SCCDはアメリカやヨーロッパ,台湾,トルコ,日本などあらゆる人種において家系が報告されている.細隙灯顕微鏡では,角膜中央部に円盤状またはリング状の混濁が観察される.SCCDの約50%で針状結晶を伴う2).混濁はBowman膜から実質浅層にかけて生じることが多いが,進行例では実質深層にまで混濁がみられる.通常,角膜への血管侵入はみられない.また,進行例では角膜知覚が低下すると報告されているが,これはコレステロールの沈着により角膜上皮下の神経叢が障害されるためと考えられている3).SCCDの患者では高脂血症を合併していることが多いと報告されている2)が,高脂血症の重症度と角膜混濁の程度とは相関しないようである4).診断は細隙灯顕微鏡所見と家族歴から行う.鑑別疾患として脂質代謝異常症(魚眼病,LCAT(lecithincholesterol-acyltransferase)欠損症,Tangier病など)があるが,遺伝形式が常染色体劣性遺伝であること,高脂血症以外の検査値の異常を呈する疾患であるため鑑別は比較的容易である.また,先に述べたUBIAD1遺伝子検査も診断に有用である.SCCDの患者では,初期には全般的に視力は保たれるが,やがて明所での視力が羞明のために低下する.進行して混濁が角膜深層にまで及ぶと,暗所での視力も低下する.視力低下が著しい場合には深層あるいは全層角膜移植術が必要となるが,角膜混濁は再発する5).筆者は3世代にわたってSCCDの発症がみられている1家系を経験したが,幼少期の軽度の角膜混濁から,中年期の中等度角膜混濁,老年期の強い角膜混濁へと,まるで1人の患者を時系列的にみているようで非常に興味深かった.なお,全層角膜移術を施行したSCCD患者(図1)では,術後約3年で角膜中央部に結晶様の角膜混濁が出現した.文献1)WeissJS,KruthHS,KuvaniemiHetal:MutationinUB1AD1geneinchromosomeshortarm1,region36,causeSchnydercrystallinecornealdystrophy.InvestOphthalmolVisSci48:5007-5012,20072)WeissJS:Schnyderdystrophyofthecornea.ASwede-Finnconnection.Cornea11:93-101,19923)VasaluomaMH,LinnaTU,SankilaEMetal:InvivoconfocalmicroscopyofafamilywithSchnydercrystallinecornealdystrophy.Ophthalmology106:944-951,19994)LischW,WeidleEG,LischCetal:Schnyder’sdystrophy.Progressionandmetabolism.OphthalmicPaediatrGenet7:45-56,19865)WeissJS:Visualmorbidityin34familieswithSchnydercrystallinecornealdystrophy(AnAmericanOphthalmologicalSocietythesis).TransAmOpthalmolSoc105:616-648,2007830

時の人 相原 一 先生

2015年6月30日 火曜日

人の時東京大学医学部眼科学教室教授相あい原はら一まこと先生人の時東京大学医学部眼科学教室教授相あい原はら一まこと先生本年3月,人々の耳目をあつめる東京大学医学部眼科学教室の第11代教授に相原一先生が就任した.*相原先生は1963年,鹿児島県生まれの51歳.名門,ラ・サール高校から東大に進み,1989年に同大医学部を卒業し……と書くと,いかにも順当にレールの上を走ってきたようにみえるが,実は,中学卒業までに8回も転居転校を経験した“苦労人”なのだ.しかし,そのおかげで「新しい環境になじむ能力と,幅広い視野を身につけた」そうだから,たび重なる転居や転校は相原少年の成長に大いに寄与したことになる.ただし「同じ環境には飽きやすくなったかもしれない」とのこと.半分は冗談だとしても,その言葉の奥には,現状に甘んじることを潔(いさぎよ)しとしない,先生の前向きな姿勢がみられる.さて,先生は医学部卒業後,増田寛次郎・第8代東大眼科学教室教授の元で助手,医局長として腕を磨いたのち,大学院生化学教室で生理活性脂質と中枢神経系の基礎研究に励んだ.その後,新家眞・第9代教授の元でも医局長を務め,2000年から3年間,カリフォルニア大学サンディエゴ校ハミルトン緑内障センターで臨床と基礎研究に従事した.帰国後,東大に戻って講師,准教授を歴任したが,2012年に大学を辞し,四谷しらと眼科に移った.そこで副院長として診療にあたる傍ら,多くの病院で緑内障の臨床と研究指導を行い,そしてこのたび,教授として古巣の東大眼科に戻ったわけである.*相原先生の専門は緑内障である.学生の頃から神経系が好みで,2年生のときに当時,東京逓信病院部長だった小澤哲磨先生に神経眼科・斜視弱視を学んだことと,4年生のときに東大講師だった白土城照先生に緑内障の魅力を教えられたことから,迷わず緑内障に決めた.ただし「細かい手術が好き」なので,今でもジャンルを問わず「いろんな手術をしたい」のだそうだ.(63)0910-1810/15/\100/頁/JCOPY緑内障は今はまだ治せる疾患ではないが,先生は「患者さんの視野を一生残せるようにと願い,長いつきあいを大事に」診療に当たっている.研究面では「大学院で神経と生理活性脂質を学んだおかげで,その後,緑内障の第一選択薬となったプロスタグランジン関連にとくに興味があります」とのこと.先生は,米国留学中にマウスの眼圧測定方法を確立したことをきっかけに,緑内障のモデル動物の開発とそれを用いた基礎研究で多くの業績を上げてきた.また,緑内障薬物治療と薬理学的研究,手術方法や創傷治癒に重点を置いた研究で業績を上げている.今後の研究の方向性について先生は「緑内障の最大の危険因子であると同時に,眼球構造を保ち視機能を維持するために必要な眼圧,この眼圧の制御機序を解明することが生涯のテーマです」と語っておられた.先生に医師としての信条を伺った.「それは,やはり患者と向き合う“お医者さん”でありたいということと,患者さんから学び,それを研究して患者さんに還元することです.これは開業医でも大学にいても,どのような環境でも自分次第で実行できるはずです」「私は幼少時から転居が多く,どんなところでも適応して頑張ってきましたし,また,多くの人々とのご縁があって,ここまで育てていただいたという思いもありますから,今の立場なら何をやるべきか,目標をもって向き合うことが大事だと思っています」.では,東大眼科学教授という立場では何を?「このポストの責任はきわめて重いです.私はまず,若い先生たちが伸び伸びと成長できるように診療・臨床教育・研究体制を改善し,そして大学や日本の眼科のために役立つことを焦らず,着実に実行してきたいと思います」.先生の趣味は自然に囲まれて風景写真を撮ったり,渓流釣りや昆虫採集をしたり,山に登ること.しかし,そのような自由な暮らしは,まだまだ先になりそうだ.あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015827

緑内障の古典手術の新知識

2015年6月30日 火曜日

特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):821~826,2015特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):821~826,2015緑内障の古典手術の新知識CuttingEdgeTechniquesforConventionalGlaucomaSurgeries井上俊洋*はじめに近年多くのMIGS(micro-invasiveglaucomasurgery)やチューブシャント手術が開発,臨床応用され,それらの発展や新知見の報告には眼をみはるものがある.一方で,それら以外のトラベクレクトミーやトラベクロトミーといった緑内障の古典手術に対する研究も新しい診断機器や治療手段との組み合わせなどにより,新たな知見が得られている.これらの知識は緑内障の古典手術の理解を深めるのみならず,新しい術式を理解するうえでも有意義な点が多い.本稿ではこれら緑内障の古典手術における新知見を紹介する.I観察手段の進歩トラベクレクトミーは房水を結膜下に導く濾過手術の一種である.結膜下に溜まった房水はブレブを形成し,ブレブ壁からの吸収や経結膜的な涙液への房水流出によって眼圧が下降すると考えられている.したがって,ブレブの構造は眼圧コントロールと密接に関連しており,これを詳細に観察することが術後成績の評価に重要と考えられる.この観点から前眼部写真や超音波生体顕微鏡などを用いてブレブの観察が古くから試みられてきたが,近年,三次元前眼部光干渉断層計(anteriorsegmentopticalcoherencetomography:AS-OCT)を用いて得られたデータの蓄積により,新たな知見が得られてきた.三次元AS-OCTの利点は,短時間で非侵襲的にブレブ内部まで観察でき,高解像度で三次元再構築が可能な点である(図1).筆者らはこれを用いてブレブ内部の強膜フラップ下から液腔に連続する低輝度領域が存在することを見出し,これが房水の通過経路であることを症例報告で示した1).また,この経路が機能的ブレブの9割以上で観察可能であることを横断的研究で示し,強膜フラップ縁における開口部の分布が結膜フラップの基底方向に影響を受けることを明らかにした2).さらに前向き研究によって,この強膜フラップ縁における開口部は経時的に閉塞すること(図2),術後早期の開口部の幅がその後の眼圧コントロールと関連していることを示した3).これらの知見は三次元AS-OCTを用いることで初めて得られるものであり,表面からブレブを観察しているだけでは将来的な眼圧コントロールは予測がむずかしいことを示唆している.近年,偏光感受型AS-OCTを用いて膠原線維を検出可能な機器が試作されている4~6).この機器は複屈折サンプルから集められた光の偏光特性を測定することが可能である.複屈折とは,特定の材料が光を2つの偏光状態に分解し,一方に光学的遅延を与えることをいい,生体ではコラーゲンやケラチンが強い複屈折性をもつため,これを検出することが筋肉や皮膚の構造を把握するために有用であることが知られている.ブレブの瘢痕化組織にはコラーゲンが多く含まれていることから,偏光感受型OCTを用いることでブレブ内部の瘢痕化組織を非侵襲的に描出することが可能とされており,さらに新*ToshihiroInoue:熊本大学大学院生命科学研究部眼科学分野〔別刷請求先〕井上俊洋:〒860-8556熊本市本荘1-1-1熊本大学大学院生命科学研究部眼科学分野0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(57)821 2週3カ月房水通過経路と思われる開口部6カ月1年図2強膜フラップ縁における開口部が経時的に閉塞することを示したシェーマ(文献3より許可を得て転載,改変)図13次元AS.OCTによって撮影されたトラベクレクトミー術後ブレブの3次元再構築図断面図内に房水の通過経路と思われる開口部(矢印)がみえる.(文献3より許可を得て転載) 表1近年報告されたトラベクレクトミー成績のリスク因子文献番号症例数対象リスク因子9195トラベクレクトミーもしくは水晶体再建術既往の症例円蓋部基底結膜弁1030内眼手術既往のない開放隅角緑内障高濃度の房水MCP-11156急性閉塞隅角症/PACG高濃度の房水MCP-1とMCP-31464小児緑内障Tenon.切除なし15165POAG/PACGマイトマイシンCの結膜下塗布(vs強膜フラップ下塗布)PACG:原発閉塞隅角緑内障,POAG:原発開放隅角緑内障.的新しい緑内障点眼についても,この点注意が必要かもしれない.原発開放隅角緑内障(primaryopen-angleglaucoma:POAG)と比較して,血管新生緑内障においてはVEGFのみならず,複数の炎症性サイトカインの房水内濃度が高く,抗VEGF治療ではその濃度は高くなることこそあれ,下降させることはできないということを筆者らはみいだしている13).炎症性サイトカインが慢性的に存在すると,創部への炎症細胞の誘導が遷延化し,過剰な瘢痕化につながる可能性が考えられる(図3).抗VEGF治療とトラベクレクトミーとの組み合わせによって手術成績を向上させようとする試みについては後述するが,術後経過のメカニズムを考えるとき,VEGF以外の炎症性サイトカインについても考慮に入れる必要があることが示唆される.その他の論点としては,小児の緑内障に対するトラベクレクトミーにおいて,Tenon.切除を行うと成績が良いという無作為化臨床比較試験(randomizedcontrolledtrial:RCT)の報告や14),マイトマイシンC塗布を結膜下群と強膜フラップ下群とに分けた後ろ向き研究で前者の成績が良好であったという報告もある15).これらの論点の結論については必ずしもコンセンサスが得られたわけではないが,考慮に入れるべき知見と思われる.III分子標的薬の応用眼科領域において,分子標的薬は加齢黄斑変性症などの網膜硝子体疾患に対する抗VEGF治療の急速な普及によって広く知られることとなった.緑内障手術治療に関しては,抗TGF-b抗体による手術成績改善の試みが有名である.TGF-bは創傷治癒過程において中心的な毛様体強膜水晶体角膜ブレブ生理活性物質房水の流れ図3トラベクレクトミー術後に,房水内の生理活性物質がブレブに及ぼす影響を示したモデル図役割を果たす分子の一つであり,線維芽細胞を筋線維芽細胞に分化誘導する作用がある.筋線維芽細胞に分化すると細胞増殖,細胞外マトリックス(コラーゲンなど)産生,組織収縮などが促進され,瘢痕形成に寄与する.瘢痕形成の反応が過剰に作用することでブレブの瘢痕化に伴う濾過機能の低下を導くと推測されており,これをコントロールすることができれば手術成績が改善するこ(59)あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015823 824あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(60)ング期と経過することが知られている.増殖期の組織は線維芽細胞由来の新生細胞外マトリックスが主となるが,ここに新生血管を誘導するためにVEGFが重要な働きを担っている.したがって,ブレブの形跡過程にもVEGFが少なからず寄与していると考えられており,おもに抗VEGF治療薬を結膜下注射することで血管新生緑内障以外の緑内障に対するトラベクレクトミーに応用する試みも報告されている.マイトマイシンC塗布の代わりにラニビズマブ結膜下注射を用いた1年間のRCTでは,ラニビズマブ群がより多くの追加手術を要している21).同様にマイトマイシンC塗布とベバシズマブ結膜下注射を比較したRCTでは,術後(平均7~8カ月後)眼圧が後者で有意に高かった22).また,5FUの代わりにベバシズマブ結膜下注射を用いた非無作為化前向き研究では,やはり同群が1年後により多くの術後緑内障点眼を必要としている23).以上の結果から,抗VEGF抗体の結膜下注射をマイトマイシンC塗布の代用として良好なトラベクレクトミー成績を得ることはむずかしいことが示唆される.一方で抗VEGF治療をマイトマイシンCに追加した場合の効果については,FakhraieらはPOAGおよび落屑緑内障を対象にベバシズマブ前房内投与追加群のRCTを行い,平均10カ月観察したところ,眼圧コントロールは優るものの術後房水漏出の合併症頻度が約3.7倍と高率であったと報告している24).一方でKiddeeらの報告によると,POAGを対象にしたベバシズマブ結膜下注射追加群のRCTで,1年後の眼圧コントロールに有意差はなかったとしている25).ベバシズマブ結膜下注射を2回目のトラベクレクトミーに併用したRCTでも,2年間の術後成績に有意差が認められていない26).マイトマイシンC併用ニードリングにおけるRCTではベバシズマブ結膜下注射追加群は,6カ月後の眼圧に有意差がないものの,より無血管で広い範囲のブレブが形成されたと報告している27).以上のことから,抗VEGF治療薬を結膜下注射の形でマイトマイシンCに併用した場合に,理論的に有用である可能性は否定できないが,短期間の成績をみるかぎその効果は限定的で,さらなる投与手段や投与回数の検討が必要と考えられる.抗VEGF治療の効果としては前述のようにブレブにとが期待される.これらのことから,トラベクレクトミーに抗TGF-b抗体治療を組み合わせることは理にかなった選択肢と考えられたが,大規模臨床治験の結果では有意差が出なかったと報告されている16).近年,網膜硝子体疾患に対して盛んに行われるようになった抗VEGF治療を,トラベクレクトミーに組み合わせて手術成績を改善させる,あるいは安全性を向上させる試みが多く報告されている.血管新生緑内障において,虹彩や隅角の新生血管が豊富であると,術中,術後の前房出血の原因となり,視力低下や眼圧上昇をきたす可能性がある.新生血管を強力に誘導するVEGFに対して,抗VEGF治療薬を前房もしくは硝子体注射することで虹彩や隅角の新生血管を一時的に消退させることが可能である.この効果により,トラベクレクトミーの術前に抗VEGF治療を行うことによって,トラベクレクトミーに伴う術中,術後の前房出血の合併症を減らすことが報告されている17).ただし,一般的に抗VEGF治療の効果は一過性であるため,トラベクレクトミーとの組み合わせによって長期の眼圧コントロールを改善することができるかどうかについては報告によって異なり,まだ一定の見解が得られていない17~20).一般的な創傷治癒過程は,炎症期,増殖期,リモデリ抗VEGF治療薬VEGF線維芽細胞の活性化血管新生創傷治癒/瘢痕化図4術後創傷治癒の過程にVEGFと抗VEGF治療薬が及ぼす影響を示したモデル図抗VEGF治療薬VEGF線維芽細胞の活性化血管新生創傷治癒/瘢痕化図4術後創傷治癒の過程にVEGFと抗VEGF治療薬が及ぼす影響を示したモデル図 あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015825(61)ているかもしれない.しかしながら,古典的トラベクロトミーはMIGSの先駆けであり,これらの知識はトラベクロトミーに限らず,近年隆興している複数のSchlemm管シャント手術の理解にも応用できる可能性がある.おわりに以上,緑内障の古典手術における新知識をある程度フォーカスを絞った形でいくつかまとめてみた.これらの知識は緑内障の古典手術の理解を深めるのみならず,新しい術式を理解するうえでも有意義な点が多いと推測される.本稿が手術の効果と安全性を高める上で一助となれば幸いである.文献1)KojimaS,InoueT,KawajiTetal:Filtrationblebrevisionguidedbythree-dimensionalanteriorsegmentopticalcoherencetomography.JGlaucoma23:312-315,20142)InoueT,MatsumuraR,KurodaUetal:Preciseidentificationoffiltrationopeningsonthescleralflapbythree-dimensionalanteriorsegmentopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci53:8288-8294,20123)KojimaS,InoueT,NakashimaKetal:Filteringblebsusing3-dimensionalanterior-segmentopticalcoherencetomography:aprospectiveinvestigation.JAMAOphthalmol133:148-156,20154)TsudaS,KunikataH,YamanariMetal:Associationbetweenhistologicalfindingsandpolarization-sensitiveopticalcoherencetomographyanalysisofapost-trabeculectomyhumaneye.ClinExperimentOphthalmol,inpress5)YamanariM,TsudaS,KokubunTetal:Fiber-basedpolarization-sensitiveOCTforbirefringenceimagingoftheanterioreyesegment.BiomedOptExpress6:369389,20156)FukudaS,BeheregarayS,KasaragodDetal:Noninvasiveevaluationofphaseretardationinblebsafterglaucomasurgeryusinganteriorsegmentpolarization-sensitiveopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci55:5200-5206,20147)KumarRS,JariwalaMU,SathideviAVetal:Apilotstudyonfeasibilityandeffectivenessofintraoperativespectral-domainopticalcoherencetomographyinglaucomaprocedures.TranslVisSciTechnol4:2,20158)ZeppaL,AmbrosoneL,GuerraGetal:Usingcanalographytovisualizetheinvivoaqueoushumoroutflowconventionalpathwayinhumans.JAMAOphthalmol132:1281,2014おける血管新生の抑制が期待されるが,これに加えて線維芽細胞のコラーゲン産生や細胞増殖28),さらにはTGF-b1とTGF-b2の発現を抑制することも報告されており29),線維芽細胞の機能そのものに対する作用も期待できるかもしれない(図4).また,TGF-bシグナルの下流で働くp38MAPキナーゼの阻害薬や30),VEGFやPDGFなどの複数の受容体をターゲットにした薬剤Sunitinibも動物実験レベルで有用性が報告されており31),この分野における有用な薬物の探索はしばらく続くと思われる.IVトラベクロトミーの新知見Iwaoらは17の日本の施設を対象に後ろ向きに調査を行った結果を報告している32).これによると,42例のステロイド緑内障と108例のPOAGにトラベクロトミーが行われ,基準眼圧を21mmHgとした場合にそれぞれの3年後の成功確率は78.1%と55.8%であった.基準眼圧を18mmHgとした場合はそれぞれ56.4%と30.6%であり,いずれもステロイド緑内障の成績が有意に良好であった.ステロイド緑内障においては,基準眼圧21mmHgにかぎるとこの成績はトラベクレクトミーの成功率と同等であった.ステロイド緑内障に対するトラベクロトミーのリスク因子は硝子体手術既往と,ステロイドの全身投与の既往であった.また,Amariらはトラベクロトミー術後,眼圧コントロール不良となった眼に対してトラベクレクトミーを行い,このときに切除した線維柱帯,Schlemm管組織を病理学的に詳細に観察し,全13眼のうち2眼についてはSchlemm管内腔が前房側に開放されていた33).したがって,これらの症例ではSchlemm管内皮と線維柱帯の房水流出抵抗は十分下降しているにもかかわらず,眼圧コントロールが不良となっていることを示唆している.近年のSchlemm管マイクロシャント手術においても眼圧下降が不十分な症例が少なくないことから,Schlemm管以降にも房水流出抵抗が存在することが推測される.古典的なトラベクロトミーに関する新知見はトラベクレクトミーのそれと比較して少ないが,これは欧米におけるトラベクロトミーの手術件数が少ないことも関連し 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緑内障の新手術2:MIGSとこれに関連した新しい術式

2015年6月30日 火曜日

特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):813.820,2015特集●最新の緑内障治療あたらしい眼科32(6):813.820,2015緑内障の新手術2:MIGSとこれに関連した新しい術式NewSurgeryforGlaucoma2:MIGSandRelatedNewProcedures庄司信行*はじめに近年,低侵襲の緑内障手術としてMIGSという名称が知られるようになってきた.ただし,MIGSという名称は,microinvasiveglaucomasurgeryの略だといわれたり,minimallyinvasiveglaucomasurgeryあるいはmicroincisionalglaucomasurgeryの略だともいわれ,まちまちである.MIGSという名称の名付け親はIkeAhmedといわれている1)が,時が経つにつれてMIGSの意味するところも変化してきている.Ahmedらのグループは,MIGSは基本的に以下のような特徴をもった術式であると述べている1).1)小切開による眼内からのアプローチによるもの.角膜小切開により結膜への侵襲を加えないため,将来の濾過手術に影響を与えない.眼内からのアプローチは,隅角を直視下に見ながら手術を行うことを可能とし,白内障手術との同時施行も容易である.小切開のために前房は安定し,眼球の形状を保ち,屈折への影響も少ない.2)組織への侵襲が少ない.術後炎症は少なく,術後の回復も早い.解剖学的にも生理的にも房水流出経路を維持することができる.そのため,濾過手術のような低眼圧に起因する合併症を防ぐことができる.3)中等度の効果が得られる.他の濾過手術やチューブシャント手術と比べて高い効果は得られないものの,その分危険性は低い.4)何よりも重要なのは安全性の高い術式ということである.眼外からのアプローチで行われる従来の術式で経験するような低眼圧や脈絡膜滲出,上脈絡膜腔出血,浅前房や白内障の進行,濾過胞感染などの重篤な合併症を避けることができる.5)患者のQOLへの影響が少なく,手術からの回復が早いため,術後の早期社会復帰が見込める.緑内障専門家だけでなく一般の眼科医にも使いやすく,直接的なアプローチが可能な手術なので,白内障のような他の術式と組み合わせて施行しやすい.このように,MIGSという名称は特定の術式を指すのではなく,さまざまな術式を含んだ総括的な名称ということができる.今後もさまざまな器具や術式が考案される可能性があるが,眼圧下降を得るメカニズムとして,基本的には表1に示したように,①線維柱帯におけるバイパスの作製,②Schlemm管の拡張,③上脈絡膜腔への房水流出路の作製,④結膜下への房水流出路の作製,⑤毛様体における房水産生の抑制,に分けられる.現在,わが国で使えるMIGSはTrabectome手術のみであるが,米国のFoodandDrugAdministration(FDA)の認可を受けていないものも含め,近い将来,日本でも使えるようになる可能性が高いと考えられるものを本稿で取り上げた.なお,MIGSの多くは開放隅角緑内障が対象だが,線維柱帯やSchlemm管に操作を加える術式の場合,上強膜静脈圧の亢進が疑われる疾患は適応外である.*NobuyukiShoji:北里大学医療衛生学部視覚機能療法学〔別刷請求先〕庄司信行:〒252-0373相模原市南区北里1-15-1北里大学医療衛生学部視覚機能療法学0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(49)813 814あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(50)った2).これがtrabectomeであり,米国では2004年にFDAの認可を得ている(米国のNeoMedix社,Tustin,CA).フットプレートの先端で電気焼灼が可能であり,線維柱帯を幅広く切除できるだけでなく,先端部分は多層ポリマー加工によって絶縁されており,Schlemm管内壁や集合管の開口部を損傷しないように工夫されている(図1a,b).さらに,術中に生じる逆流性出血による視認性の悪化に対処し,かつ前房深度を保ちながら対側の隅角へのアプローチを容易にするために,灌流と吸引を行いながら操作することができる.直視下で隅角を90.120°の範囲で切開するため(図1c),隅角鏡による隅角の観察が可能な開放隅角緑内障が適応であり,15.16mmHg程度の眼圧が目標と考えられる症例が対象となる.b.術後の成績と合併症緑内障点眼薬に関しては,術後すべてやめるのではなく,眼圧に応じて漸減することが推奨されている.2013年末までに当院で施行した101例117眼の経過をまとめると,平均15.2カ月の観察で,術前の平均眼圧31.6mmHg(点眼スコア約5)が術後15.16mmHg(同約3)で経過し,追加手術や眼圧21mmHgをカットオフとする生命表解析では,2年間で約70%の生存率であった.病型としては,続発緑内障,とくに落屑緑内障やステロイド緑内障は80%近い生存率を維持していたが,原発開放隅角緑内障で不良であった.水晶体温存例もあまり成績は良くなかった.全例に前房出血がみられI線維柱帯におけるバイパスを作製する術式房水の80%前後は古典的流出路である線維柱帯からSchlemm管に流出する.とくにSchlemm管に接する傍Schlemm管組織で房水流出抵抗がもっとも強いことが知られている.そこで,この傍Schlemm管組織を含めて線維柱帯を切開すれば,房水が流出しやすくなり,眼圧下降が期待される.この目的で古くから隅角切開術や眼外から行う線維柱帯切開術が行われてきた.とくに後者はわが国で広く行われている術式であるが,結膜切開や強膜弁の作製など,侵襲は決して少なくない.そこで,必要最小限の角膜切開創から眼内にアプローチし,線維柱帯にバイパスを作製する方法がいくつか考案された.眼内から線維柱帯を切開して開放する方法としてtrabectome手術が知られ,線維柱帯からSchlemm管内に器具を刺入する方法としてはiStentが知られている.1.Trabectomea.術式の概要先に述べたように,眼内からアプローチして線維柱帯を切開する方法に隅角切開術があるが,Schlemm管の内壁や集合管を傷つけずに線維柱帯を切開・開放することはむずかしい.そこでBaerveldtらは,線維柱帯を切開してSchlemm管に挿入する器具の先端部分をフットプレート状にすることによって,Schlemm管内壁を傷つけたり強膜まで切開が及ぶことのないような工夫を行表1おもなMIGSの分類器具を留置する器具を留置しない線維柱帯におけるバイパスの作製iStentTrabecularMicro-Bypass,iStentInject,TrabecutomeSchlemm管の拡張HydrusMicrostent上脈絡膜腔への房水流出路の作製GoldMicro-Shunt,STARfloGlaucomaDrainageImplant,Aquashunt,CyPassMicro-Stent,iStentsupra結膜下への房水流出路の作製AquesysXENglaucomaimplant,InnFocusMicroshunt毛様体における房水産生の抑制EndoscopicCyclophotocoagulation(ECP)表1おもなMIGSの分類器具を留置する器具を留置しない線維柱帯におけるバイパスの作製iStentTrabecularMicro-Bypass,iStentInject,TrabecutomeSchlemm管の拡張HydrusMicrostent上脈絡膜腔への房水流出路の作製GoldMicro-Shunt,STARfloGlaucomaDrainageImplant,Aquashunt,CyPassMicro-Stent,iStentsupra結膜下への房水流出路の作製AquesysXENglaucomaimplant,InnFocusMicroshunt毛様体における房水産生の抑制EndoscopicCyclophotocoagulation(ECP) a.ハンドピースの先端のフットプレートの形状b.線維柱帯切開のシェーマc.フットプレートがSchlemm管内に入り,線維柱帯を切開している様子図1トラベクトーム この部分が前房側に出ているこの部分がSchlemm管内に入るSchlemm管の外壁側は開放されていて,集合管への流れを妨げないように設計されている.この部分が前房側に出ているこの部分がSchlemm管内に入るSchlemm管の外壁側は開放されていて,集合管への流れを妨げないように設計されている.a.iStentのシェーマb.インサーターの先端部に装着されたiStentc.第二世代のiStent(iStentInject)d.インサーターに装着されたiStentInject図2iStentTrabecularMicro.Bypass 1.器具の概要HydrusMicrostentはScaffold-likeimplantとよばれ,湾曲した筒状の骨組みのような構造の器具である.イメージとしては,刀の鞘のような形で,後面(つまり刀の刃が向いているほう)は集合管を塞がないように開放してあり,湾曲の内側(つまり刀のみねに当たるほうで線維柱帯側)には大きな3つの開口部がある.片方の端は湾曲をややきつく設計してあり,Schlemm管から前房に顔を出すようになっていて,房水が流入しやすいように設計されている.Schlemm管の拡張だけでなく,直接前房との交通を作ることによって房水が流出しやすいように作られた器具ということになる(http://www.ivantisinc.com/).素材は心血管のインプラントとして用いられている弾性の高い,生体適合性の高いニッケルとチタンの合金で,全長8mmの器具である.専用のインサーターを利用して眼内からSchlemm管内に挿入・留置する.現在,FDAの認可に向けて臨床試験中である.2.おもな手術成績と合併症術前の眼圧が21.6mmHg(点眼スコア1.7)であったのが,1年で17.9mmHg(点眼スコア0.2)と報告されている.1年間の検討では,低眼圧や角膜機能不全,眼内炎などの重篤な合併症はみられず,器具の脱落や組織障害もみられなかった.一方,全長8mmということは,Schlemm管の約1/4周を占めることになる.はたして金属製の器具がSchlemm管内できちんと固定されるのか,また,眼球のゆがみや長年の圧迫でSchlemm管から突き出たり抜けたり,あるいは強膜を損傷しないのかなどの懸念もある.生体適合性に関しては,サル眼の実験でSchlemm管やその周囲の組織に慢性炎症や線維化,変性などの所見はみられないことが報告されているが,やはり長期的な観察が必要である.III上脈絡膜腔への流出を促進する術式ぶどう膜強膜流出路は,毛様体と上脈絡膜腔,脈絡膜,強膜から構成されている.前房から上脈絡膜腔への流出は,両者の間の圧較差および,上脈絡膜腔における高い吸収力によるといわれている.近年,生体適合性の(53)高い素材や,小型のステント,シャントなどの開発により,これらの器具を上脈絡膜腔に挿入してぶどう膜強膜流出路を利用する術式の研究が盛んになってきた.GoldMicro-Shunt(SOLX社,Waltham,MA,USA),CyPassMicro-Stent(TranscendMedical,MenloPark,CA,USA),STARfloGlaucomaDrainageImplant(DeviceTechnologies,Belrose,NewSouthWales,Australia),Aquashunt(OpkoHealth,Inc,Miami,FL,USA),iStentSupra(GlaukosCorporation,LagunaHills,CA,USA)などである.MIGSの現在の解釈では,これらのうち眼内から挿入するCyPassMicro-StentとiStentSupraがMIGSに該当すると思われるが,GoldMicro-Shuntはよく知られたデバイスなので,簡単に触れることとする.1.CyPassMicro.Stent(CyPass)a.器具・術式の概要CyPassは,長さ6.35mm,外径は約500μm,内腔が300μmで,根元の部分に襟のようなストッパーがついたポリイミド製の筒状の器具である.イメージとしては,やや湾曲した縦笛という感じである.CyPassを貫いているガイドワイヤの先端を強膜岬と虹彩根部に刺入し,根元の襟にあたるような太い部分を隅角に残した状態でガイドワイヤを引き抜き,CyPassを留置する(http://www.transcendmedical.com/).現時点では,米国での臨床使用はまだ認可されていない.b.おもな成績ヨーロッパからのデータ(CyCLEstudy)をみると,術後1年でCyPass単独手術例は26%の眼圧下降と33%の点眼スコアの減少,白内障との同時手術例(238眼)では33%の下降と50%の減少が得られたと報告されている.軽度の前房出血と浅前房がみられたものの,脈絡膜下出血,網膜.離などの重篤なものはみられなかった.ただし,一部の症例ではCyPassが被膜に覆われ,眼圧下降効果が失われたことから,その原因や対処法などの検討が必要であろう.2.iStentSupraImplantiStentの第3世代にあたるもので,眼内から上脈絡膜あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015817 818あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(54)CyPassと同様に浅前房や前房出血,炎症の遷延化などがみられたとのことである.米国ではFDAの認可待ちである.3.GoldMicro.Shunt(GMS)GMSは強膜内に挿入して用いるが,サイズが大きいため,結膜や強膜に切開を加えなければならない.したがって,冒頭に述べた現在のMIGSの概念からははずれてしまうが,MIGSの一つとして取り上げられることも多いようだ.また,米国ではまだ認可されていないものの,カナダやヨーロッパのいくつかの国で使用されており,比較的早い時期にわが国にも導入される可能性が高い.a.器具・術式の概要GMSは,前房と上脈絡膜の間に交通を作るプレート状の器具で,2枚の純金の板を貼り合わせたものである.生体適合性の良い金を用いることで,フィンブリン反応などによる房水流出の阻害を防ぐ.内面は図4aのとおりである.デバイス本体の全長は5.2mm,幅3.2mm,厚さ44μmである.厚めの強膜弁を作製後,専用のインサーターを用いて半円形の部分を強膜側の上脈絡膜腔腔に挿入し,房水流出を促す器具である.長さ4mm,内腔165μmの筒状で,Polyethersulfoneの本体とチタン製のスリーブからなる.先述したCyPassの形状と似た筒状で,胴体部分には抜けないように返しがついている(図3).専用の使い捨てインジェクターを用いて隅角を観察しながら挿入する.現時点では欧州連合(EU)で使用可能であり,1年の経過ではほとんどの症例で20%以上の眼圧下降が得られ,点眼を1剤以上減らすことができたと報告されている.合併症に関しては,a.2枚の板をはがしたときのGMSの内面.この面同士を貼り合わせた形をしていて,丸い形状の先端を上脈絡膜腔に,ひれのような形状の方が前房内に顔を出すように,強膜下に挿入する.GMS内部を通ってさまざまな方向に房水が流出していくことが考えられる.b.GMSが挿入された隅角のシェーマ.GMSの一部は前房側に顔を出しているが,本体の大部分は上脈絡膜腔に留置される.図4GoldMicro.Shunt図3iStentSupraチタン製のスリーブをもったポリエーテルスルフォンで作られており,透明な部分が上脈絡膜腔に挿入される.a.2枚の板をはがしたときのGMSの内面.この面同士を貼り合わせた形をしていて,丸い形状の先端を上脈絡膜腔に,ひれのような形状の方が前房内に顔を出すように,強膜下に挿入する.GMS内部を通ってさまざまな方向に房水が流出していくことが考えられる.b.GMSが挿入された隅角のシェーマ.GMSの一部は前房側に顔を出しているが,本体の大部分は上脈絡膜腔に留置される.図4GoldMicro.Shunt図3iStentSupraチタン製のスリーブをもったポリエーテルスルフォンで作られており,透明な部分が上脈絡膜腔に挿入される. あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015819(55)に差し込み,ひれのような出っ張りがあるほうを前房内に挿入する(古いモデルは逆にデザインされている)(図4b).貼り合わせる面にはいくつもの突起が出ていて,その間隙を房水が上脈絡膜腔のさまざまな方向に流れるようになっている.GMSの前房側には20個ほどのチャンネルが設けてあり,もともと開放しているのは10個ほどで,眼圧コントロールが不良の場合にはレーザーで穿孔することにより,残ったチャンネルを開放することが可能である.b.おもな成績と合併症術後1年の成績は,緑内障点眼ありで79%の症例が5.22mmHgの範囲の眼圧に落ち着き,平均眼圧は術前27.6mmHgから術後18.2mmHgに下降したと報告されている.合併症でもっとも多かったのは前房出血(38眼中8眼)だったが,一過性であったとのことである.難治緑内障に対するAhmedglaucomavalveとの比較試験でも,5年間でほぼ同等の成績が得られたと報告されている.手術が不成功に終わり,チューブシャント手術を行った症例で摘出したGMSを調べたところ,前房側にも上脈絡膜腔側にもCyPassでもみられたような線維性被膜が厚く覆っていたと報告されており,本術式の大きな課題である.IV結膜下への房水流出路の作製冒頭に記載したように,濾過胞関連の合併症を防ぐことがMIGSの目的の一つであれば,結膜下への濾過をめざした手術はこれに該当しないが,眼内からのアプローチで小さな切開ですむため,MIGSの一つとして取り上げられることが多い.1.TheXENGlaucomaImplant(XEN)a.器具・術式の概要XENはゲル・ステントともよばれ,生体内での異物反応が少ないゼラチンでできた軟らかい円筒形の器具である.全長は6mmで,内腔の大きさはモデルにより異なる.XEN専用インサーターは25Gまたは27Gの針が用いられており,内部にはXENが納められている.強膜岬とシュワルベ線の間の適当な部位にインサーターを刺入し,強膜内のトンネルが2.5.3.5mm程度になるように調節して,インサーターの先端部を結膜下に出す.そして,眼内レンズを挿入するときのような要領でXENを留置し,インサーターを抜去する.ZENが正しい位置に留置されれば,インサーターを取り除くと同時に房水が結膜下に流れるのが観察される.再手術例などの難治例でなければマイトマイシンCは使用しない.周辺虹彩切除も不要である.b.手術成績と合併症米国やその他の国が参加して行われた臨床試験では,107眼の手術成績が報告され,術前21.9mmHg(点眼約3剤)の眼圧が術後1年で15.9mmHg(点眼約1剤)に下降し,その後も大体14.15mmHgの眼圧で推移していた.重篤な合併症は報告されていない.2.InnFocusMicroshunt冠動脈疾患で用いられる薬物溶出ステントの素材として,生体に使用して10年以上の実績があるSIBS(Sty-rene-block-IsoButylene-block-Styrene)を用いており,全長8.5mm,直径0.35mm,内腔の直径0.07mmの軟らかい直針様の器具である.先端から4.5mm位のところに幅1.1mmの菱形の突起が出ていて,翼状針を小さくしたようなデザインである.術式に関する詳しい情報はないものの,InnFocus社のホームページ上のシェーマ(http://innfocusinc.com/index.php/microshunt/whathappens/)をみると,結膜を切開・.離して眼外から隅角に差し込むようである.後端の部分は円蓋部側の結膜・Tenon.下に挿入している.ヨーロッパで行われた79眼のレポートでは,術前23.0mmHgが術後3年まで11.12mmHgまで下降し,点眼スコアも術前平均2.8が術後平均0.5程度に減少したと報告されている.重篤な合併症は報告されていない.現在米国では第I相の試験が終わった段階で,現時点ではまだ臨床使用の認可は下りていない.V毛様体における房水産生を抑制する術式侵襲という意味では決して小さいとはいえない毛様体破壊術も,眼内からのアプローチが可能な手技,とくに白内障手術と同時施行が可能なものはMIGSの範疇に 820あたらしい眼科Vol.32,No.6,2015(56)含むと考えられている.Endocyclophotocoagulation(ECP)がそれで,経強膜毛様体破壊術(transscleralcyclophotocoagulation:TSCPC)に比べて,眼圧コントロールが容易でしかも合併症が少ないと報告されている.EndoOptiksInc(LittleSilver,NJ)が開発したエンドスコープシステムは,キセノンを光源とし,810nmの波長のダイオードレーザーを用いている.プローブの太さが3種類あり,太さによって照射できる範囲や焦点深度が異なる.白内障手術との同時使用時にはおよそ270°の範囲で照射ができるので,創口から離れた部位に1.5mmのサイドポートを作製すれば,360°の照射が可能となる.最大耐用量の薬物治療下での眼圧が35mmHgを超えていた症例を対象としたアーメド・バルブとの比較試験では,術後2年の眼圧(約14mmHg)や成功率(約74%)はほぼ同等であったが,ECP群では脈絡膜.離が少なく,前房出血はやや多かったことが報告されている.おわりに以上述べてきたように,MIGSは特定の術式をさすのではなく,さまざまな術式を含んだ総括的な名称ということができるが,前房内での操作が多いことから,内眼手術に慣れている白内障術者を中心に広まりつつあるように感じられる.しかし,眼圧下降を目的として行われる緑内障手術であるからには,緑内障専門医による評価も重要である.とくに高眼圧による緑内障が多い海外では評価が高いものの,術後の眼圧はおおむね15mmHg前後と報告されている.わが国で頻度の高い正常眼圧緑内障に対して,どの程度の効果があるかは慎重に考える必要があり,前向きの検討が必要であることを強調しておきたい.文献1)KahookMY(編).MIGSadvancedinglaucomasurgery.p13-55,SLACKIncoporated.NJ,20142)MincklerDS,BaerveldtG,AlfaroMRetal:Clinicalresultswiththetrabectomefortreatmentofopen-angleglaucoma.Ophthalmology112:962-967,20053)CravenER,KatzLJ,WellsJMetal;iStentstudygroup:Cataractsurgerywithtrabecularmicro-bypassstentimplantationinpatientswithmild-to-moderateopen-angleglaucomaandcataract:two-yearfollow-up.JCata-ractRefractiveSurg38:1339-1345,2012