特集●抗VEGF薬による治療あたらしい眼科32(8):1105~1111,2015特集●抗VEGF薬による治療あたらしい眼科32(8):1105~1111,2015アフリベルセプトによる加齢黄斑変性の治療AfliberceptTherapyforAge-RelatedMacularDegeneration古泉英貴*はじめにアフリベルセプト(VEGFTrap-Eye,アイリーアR)は滲出型加齢黄斑変性(age-relatedmaculardegeneration:AMD)に対する現在使用可能なもっとも新しい抗血管内皮増殖因子(vascularendothelialgrowthfactor:VEGF)薬である.可溶化したVEGF受容体の人工合成物であり,VEGFへの高い親和性を有することが知られている1,2).従来の抗VEGF薬でのターゲットであったVEGF-Aに加えて,胎盤成長因子(placentalgrowthfactor:PlGF)やVEGF-Bにも結合する.アフリベルセプトに関する多施設二重盲検試験であるVIEW試験3)は,北米でのVIEW1試験とヨーロッパ,アジア太平洋,日本,ラテンアメリカでのVIEW2試験からなり,同じプロトコールで行われた(図1).VIEW試験では症例を4群,すなわち①アフリベルセプト2mgを4週ごと,②アフリベルセプト0.5mgを4週ごと,③アフリベルセプト2mgを最初の3回4週ごとに投与後,8週ごと,④ラニビズマブ0.5mgを4週ごと,に分けて比較している.52週目に主評価項目である視力が改善した割合では,すべてのアフリベルセプト群においてラニビズマブ群と比較して非劣勢が認められた.平均視力においても,現在滲出型AMDに対して推奨されている方法であるアフリベルセプト2mgを最初の3回4週ごとに投与後,8週ごとに投与を行っても12カ月後にVIEW1試験で7.9文字,VIEW2試験で8.9文字の改善がみられ,視力改善に毎月の経過観察を必要としない可能性が示唆された(図1).わが国においても2012年11月より滲出型AMDに対してアフリベルセプトの使用が可能となり,現在までさまざまなエビデンスが蓄積してきている.本稿ではおもにこれまで報告された国内での治療成績を中心に概説する.I既存の抗VEGF薬からの切り替え効果まず既存の抗VEGF薬,具体的にはラニビズマブに対する治療反応不良例,あるいは治療早期に滲出性変化の改善がみられたものの時間経過とともに治療効果が減弱する,いわゆるタキフィラキシーを生じた症例に対し,アフリベルセプトへの切り替えにより滲出性変化の改善が得られたという報告がなされた4~6).Miuraら4)はラニビズマブ治療に対しタキフィラキシーを生じたポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)10眼において,アフリベルセプトに切り替えたところ,その12週後には有意に網膜厚が改善したと報告している.また,Saitoら5)はラニビズマブ治療を12カ月以上行い,連続3回のラニビズマブ投与においても滲出性変化が残存したPCV43眼においてアフリベルセプトへの切り替えを行い,以降3カ月間の治療成績を検討した.その結果,平均logMAR視力において,アフリベルセプトへの切り替え時の0.38から3カ月後には0.34に改善,中心窩網膜厚も245μmから131μmに改善した.切り替え時にインドシアニングリーン蛍光*HidekiKoizumi:東京女子医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕古泉英貴:〒162-8666東京都新宿区河田町8-1東京女子医科大学眼科学教室0910-1810/15/\100/頁/JCOPY(39)11051106あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(40)このように,ラニビズマブに治療抵抗性,あるいはタキフィラキシーを示す滲出型AMD,とりわけわが国で頻度の高いPCVにおいて,アフリベルセプトへの切り替えにより良好な治療経過が得られたことは朗報といえる.IITreatment.naive症例に対する効果前述のVIEW2試験において,日本人コホートにおいても中心窩下に脈絡膜新生血管(choroidalneovascularization:CNV)を有する滲出型AMDに対するアフリベルセプトの視力維持・改善効果が示された.しかし,VIEW試験では患者組み入れやフォローアップにIA検査を行うことを義務づけておらず,滲出型AMDのサブタイプ,具体的には典型AMD,PCV,網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)のそれぞれに対するアフリベルセプトの治療効果は明らか造影(indocyaninegreenangiography:IA)でポリープ状病巣を認めた30眼において,3カ月後には15眼(50%)でポリープ状病巣の完全消失が得られたと報告している.Kawashimaら6)はラニビズマブに治療抵抗性を示す典型AMD15眼およびPCV26眼に対してアフリベルセプトへの切り替えを行い,6カ月間の治療成績を検討した.その結果,PCVでは平均logMAR視力で0.40から0.31と有意に改善したのに対し,典型AMDでは中心窩網膜厚が202μmから131μmと有意に改善したにもかかわらず,平均logMAR視力は0.41から0.42と変化はみられなかった.黄斑部の網膜滲出性変化消失(drymacula)率においても,PCVでは80.8%に得られたのに対し,典型AMDでは46.7%であった.AMD発症と関連するARMS2A69S,CFH402H,CFHI62Vの各遺伝子におけるリスクアレルの存在と治療成績に関連はなかったと報告している.524844403632282420161284012108642052weekweek4844403632282420161284012108642010.9*2q48.1Rq47.92q86.90.5q49.70.5q49.4Rq48.92q87.62q4VIEW2VIEW1ETDRSlettersETDRSlettersab図1VIEW試験北米で行われたVIEW1試験とヨーロッパ,アジア太平洋,日本,ラテンアメリカで行われたVIEW2試験において,52週目の時点でアフリベルセプト2mgを4週ごとに投与した群(2q4),アフリベルセプト0.5mgを4週ごとに投与した群(0.5q4),アフリベルセプト2mgを最初の3回4週ごと投与後,8週ごとに投与した群(2q8),のいずれにおいてもラニビズマブ0.5mgを4週ごとに投与した群(Rq4)と同等の平均視力の改善が得られた.ETDRS:EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(文献3より引用)524844403632282420161284012108642052weekweek4844403632282420161284012108642010.9*2q48.1Rq47.92q86.90.5q49.70.5q49.4Rq48.92q87.62q4VIEW2VIEW1ETDRSlettersETDRSlettersab図1VIEW試験北米で行われたVIEW1試験とヨーロッパ,アジア太平洋,日本,ラテンアメリカで行われたVIEW2試験において,52週目の時点でアフリベルセプト2mgを4週ごとに投与した群(2q4),アフリベルセプト0.5mgを4週ごとに投与した群(0.5q4),アフリベルセプト2mgを最初の3回4週ごと投与後,8週ごとに投与した群(2q8),のいずれにおいてもラニビズマブ0.5mgを4週ごとに投与した群(Rq4)と同等の平均視力の改善が得られた.ETDRS:EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(文献3より引用)あたらしい眼科Vol.32,No.8,20151107(41)塞率を示している.以上の結果より,アフリベルセプトはPDTには及ばないものの,ラニビズマブと比較した場合,ポリープ状病巣の閉塞に関してはより効果が高いものと考えられる(図2).PCV以外のサブタイプに対するアフリベルセプトの治療成績に関してはOishiら11)が報告しており,前述のPCV42眼に加えて,典型AMD46眼,RAP10眼においても検討している.その結果,すべてのサブタイプで同様の平均視力改善がみられたが,典型AMDと比較してPCVのほうが12カ月後の視力がより良好であったこと,治療効果の予測因子として治療前の光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)での外境界膜の健常性,小さな病変サイズ,PCVが良好な視力経過と関連していたとしている.これらのわが国における報告は,すべて導入期治療として月1回,3カ月連続でアフリベルセプトの投与を行い,その後隔月での追加投与を行うVIEW試験と同様のプロトコールを用いたものである.すなわち,治療方針としてはやや画一的な面があるのは否めない.今後は必要時に追加投与を行うPRN(prorenata)方式17)や,疾患活動性に応じて診察および投与間隔の短縮と延長を行うtreatandextend方式18)といった異なる治療戦略を用いた場合の成績との比較を含め,さらに多数例および長期間の経過観察による検討が必要であろう.III脈絡膜血管透過性亢進所見との関連脈絡膜血管透過性亢進(choroidalvascularhyperではなかった.とりわけPCVにおいてはラニビズマブ治療においてポリープ状病巣の閉塞効果が弱いという報告が散見され,アフリベルセプトの治療効果がとくに期待された.PCVに対するアフリベルセプトの治療効果に関するわが国での既報7~12)のまとめを表1に示す.アジアで行われたEVEREST試験13)は光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)単独療法,PDTとラニビズマブの併用療法,ラニビズマブ単独療法の成績を比較する,現在まで行われたPCVに関する唯一の多施設無作為臨床試験であるが,PDT単独療法,PDTとラニビズマブの併用療法において治療開始6カ月後におけるポリープ状病巣の完全閉塞率はそれぞれ71.4%および77.8%であったのに対し,ラニビズマブ単独療法ではわずか28.6%であった.わが国においてPCVに対しラニビズマブ単独療法を行った報告における12カ月後のポリープ状病巣の完全閉塞率に関しては,Moriら14)は19%(平均投与回数4.7回),Hikichiら15)は40%(平均投与回数4.2回)と報告している.これらのラニビズマブによる結果と比較してみると,アフリベルセプトにおいてはOishiら11)の報告での69.2%,筆者らの報告12)における55.4%(平均投与回数7.1回)のほうが高いポリープ状病巣の閉塞率を示している.もちろん,コホートや投与回数の差異を考慮する必要はあるが,投与回数によるバイアスのかからない月1回,3カ月連続での導入期治療後においてもラニビズマブでのポリープ状病巣の完全閉塞率は18.0~26.0%14~16)であり,アフリベルセプトにおける47.8~48.5%7,8)のほうが高い閉表1治療既往のないPCVに対するアフリベルセプト治療のわが国での既報のまとめIjiriら7)Koizumiら8)Inoueら9)Hosokawaら10)Oishiら11)Yamamotoら12)眼数339116184290投与方法3×Q43×Q43×Q4+Q83×Q4+Q83×Q4+Q83×Q4+Q8観察期間3カ月3カ月6カ月6カ月12カ月12カ月ベースライン視力(logMAR)0.400.310.360.410.36*0.31最終視力(logMAR)0.220.210.260.300.21*0.17ポリープ状病巣の変化完全閉塞48.5%47.8%75.0%77.8%69.2%55.4%部分退縮27.2%31.1%12.5%22.2%12.8%32.5%Q4:4週ごと投与,Q8:8週ごと投与.*PCV42眼に加え,典型AMD46眼,RAP10眼の計98眼における平均視力.表1治療既往のないPCVに対するアフリベルセプト治療のわが国での既報のまとめIjiriら7)Koizumiら8)Inoueら9)Hosokawaら10)Oishiら11)Yamamotoら12)眼数339116184290投与方法3×Q43×Q43×Q4+Q83×Q4+Q83×Q4+Q83×Q4+Q8観察期間3カ月3カ月6カ月6カ月12カ月12カ月ベースライン視力(logMAR)0.400.310.360.410.36*0.31最終視力(logMAR)0.220.210.260.300.21*0.17ポリープ状病巣の変化完全閉塞48.5%47.8%75.0%77.8%69.2%55.4%部分退縮27.2%31.1%12.5%22.2%12.8%32.5%Q4:4週ごと投与,Q8:8週ごと投与.*PCV42眼に加え,典型AMD46眼,RAP10眼の計98眼における平均視力.図2PCVに対するアフリベルセプトの治療効果79歳,右眼PCV.治療前(左)のIAで多数のポリープ状病巣およびOCTで黄斑部の出血性色素上皮.離を認める.月1回,3カ月連続でのアフリベルセプト投与後(右),IAでのポリープ状病巣は完全に消失,OCTでも滲出性変化を認めない.視力も0.8から1.0に改善した.図3IAでのCVH65歳,男性.右眼PCV.黄斑部にポリープ状病巣()を伴う新生血管病変を認め,その周囲に多巣性の脈絡膜内蛍光漏出所見(.)がみられる.(文献21より引用)1110あたらしい眼科Vol.32,No.8,2015(44)3)HeierJS,BrownDM,ChongVetal:Intravitrealaflibercept(VEGFtrap-eye)inwetage-relatedmaculardegeneration.Ophthalmology119:2537-2548,20124)MiuraM,IwasakiT,GotoH:Intravitrealafliberceptforpolypoidalchoroidalvasculopathyafterdevelopingranibizumabtachyphylaxis.ClinOphthalmol7:1591-1595,20135)SaitoM,KanoM,ItagakiKetal:Switchingtointravitrealafliberceptinjectionforpolypoidalchoroidalvasculopathyrefractorytoranibizumab.Retina34:2192-2201,20146)KawashimaY,OishiA,TsujikawaAetal:Effectsofafliberceptforranibizumab-resistantneovascularage-relatedmaculardegenerationandpolypoidalchoroidalvasculopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol,inpress7)IjiriS,SugiyamaK:Short-termefficacyofintravitrealafliberceptforpatientswithtreatment-naivepolypoidalchoroidalvasculopathy.GraefesArchClinExpOphthalmol253:351-357,20158)KoizumiH,KanoM,YamamotoAetal:Aflibercepttherapyforpolypoidalchoroidalvasculopathy:short-termresultsofamulticentrestudy.BrJOphthalmol,inpress9)InoueM,ArakawaA,YamaneSetal:Short-termefficacyofintravitrealafliberceptintreatment-naivepatientswithpolypoidalchoroidalvasculopathy.Retina34:2178-2184,2014絡膜に対する薬理作用が治療効果と関連している可能性があり,今後の研究が注目される.おわりに大規模臨床試験であるVIEW試験の結果を受けて,わが国で滲出型AMDに対するアフリベルセプトの使用が可能となってから2年以上が経過した.とくに既存の抗VEGF薬に対する治療抵抗例やPCVに対する治療効果の高さは注目に値する.今後,より多数例,長期間の治療成績の検討により有効性および安全性の確認が必要であるが,アフリベルセプトの登場が我々のAMD治療に対するアプローチを大きく変化させたことは,どうやら間違いなさそうである.文献1)BrowningDJ,KaiserPK,RosenfeldPJetal:Afliberceptforage-relatedmaculardegeneration:agame-changerorquietaddition?AmJOphthalmol154:222-226,20122)StewartMW:Aflibercept(VEGFTrap-eye):thenewestanti-VEGFdrug.BrJOphthalmol96:1157-1158,2012SuperiorInferiorSuperior317μm217μm308μm217μm182μm256μmInferior図4アフリベルセプト治療前後の脈絡膜厚の変化54歳,男性.右眼典型AMD.脈絡膜厚は治療前(上)と比較して3カ月後(下)には中心窩のみならず,上方3mm,下方3mmの部位でも同様に減少している.(文献32より引用)SuperiorInferiorSuperior317μm217μm308μm217μm182μm256μmInferior図4アフリベルセプト治療前後の脈絡膜厚の変化54歳,男性.右眼典型AMD.脈絡膜厚は治療前(上)と比較して3カ月後(下)には中心窩のみならず,上方3mm,下方3mmの部位でも同様に減少している.(文献32より引用)