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術前網膜外層形態からみた糖尿病黄斑症に対する硝子体手術成績

2013年1月31日 木曜日

《第17回日本糖尿病眼学会原著》あたらしい眼科30(1):89.92,2013c術前網膜外層形態からみた糖尿病黄斑症に対する硝子体手術成績水流宏文中村裕介大矢佳美安藤伸朗済生会新潟第二病院眼科AssociationbetweenPreoperativeFovealPhotoreceptorLayerandOperationOutcomesinDiabeticMaculopathyHirofumiTsuru,YusukeNakamura,YoshimiOyaandNoburoAndoDepartmentofOphthalmology,SaiseikaiNiigataDainiHospital目的:糖尿病黄斑症に対する硝子体手術において,術前の網膜外層構造と術後成績との関連を検討する.方法:済生会新潟第二病院で糖尿病黄斑症に対し硝子体手術を施行し,3カ月以上経過観察した32例36眼(平均観察期間10.6カ月)について術前,術後1年または最終観察時に,視力と光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)にて中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定した.また,術前に外境界膜(externallimitingmembrane:ELM),視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnerandoutersegments:IS/OS)をOCTで観察し,水平断画像で中心窩を中心とした1,000μm内にELM,IS/OSの連続性が50%以上あるものをELM,IS/OS陽性とした.A群:ELM・IS/OSともに陽性,B群:ELM陽性かつIS/OS陰性,C群:ELM・IS/OSともに陰性の3群に分類(A群8眼,B群9眼,C群19眼)し,各群の視力,CRTの術後変化を検討した.結果:術後logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力はA,B,C群いずれも有意に改善.CRTはB,C群で有意に減少.小数視力0.7以上を視力良好,0.7未満を不良とすると術後良好眼はA群8眼中5眼,B群9眼中4眼,C群19眼中1眼でC群に比べA,B群では有意に術後視力良好眼が多かった.結論:術前網膜外層構造が保たれている例では,術後視力成績が良好であった.Purpose:Toassesstherelationbetweenpreoperativephotoreceptorlayerandpostoperativeresultsindiabeticretinopathytreatedwithparsplanavitrectomy.Methods:Weretrospectivelystudied36eyesof32patientswithdiabeticmaculopathyonwhomwehadperformedparsplanavitrectomy(PPV).Weassessedvisualacuity(VA)andcentralretinalthickness(CRT),usingspectraldomainopticalcoherencetomography(SD-OCT),beforeandafterPPV.Wemeasuredthepreoperativeintegrityphotoreceptorinnerandoutersegments(IS/OS)andexternallimitingmembrane(ELM)within1,000μmatthecenterofthefovea.Morethan50%existenceof1,000μmwasdefinedas“positive”;lesswasdefinedas“negative.”Wecategorizedthe36eyesinto3groupsaccordingtointegrityofELMandIS/OS:(1)theAgroup,withELMandIS/OSpositive,(2)theBgroup,withELMpositiveandIS/OSnegative,and(3)theCgroup,withELMandIS/OSnegative.Weestimatedthecorrelationbetweenthegroupsandthesurgicalresults.Results:GroupsA,BandCcomprised8,9and19eyes,respectively.AfterPPV,theVAofall3groupswassignificantlyimprovedandtheCRTofgroupsBandCwassignificantlyreduced(B:p<0.05,C:p<0.01).Theproportionofeyeswithdecimalvisualacuityequaltoorgreaterthan0.7wassignificantlyhighingroupswithpreservedphotoreceptorlayer(AandBgroups),comparedwithCgroup(Agroup:p<0.01,Bgroup:p<0.05).Conclusion:EyeswithpreoperativelypreservedphotoreceptorlayerachievebetterVApostoperativelythandoeyeswithoutpreservedphotoreceptorlayer.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)30(1):89.92,2013〕Keywords:糖尿病黄斑症,光干渉断層計,外境界膜,視細胞内節外節接合部,網膜外層構造,経毛様体扁平部硝子体切除術.diabeticmaculopathy,opticalcoherencetomography(OCT),externallimitingmembrane(ELM),photoreceptorinnerandoutersegments(IS/OS),photoreceptorlayer,parsplanavitrectomy.〔別刷請求先〕安藤伸朗:〒950-1104新潟市西区寺地280-7済生会新潟第二病院眼科Reprintrequests:NoburoAndo,M.D.,DepartmentofOphthalmology,SaiseikaiNiigataDainiHospital,280-7Terachi,Nishi-ku,NiigataCity950-1104,JAPAN0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(89)89 はじめに1990年代,Lewisら1)やTachiら2)により糖尿病黄斑症に対して硝子体手術が有効であることが報告されて以来,硝子体手術は糖尿病黄斑症の治療法の一つとして,わが国では多数施行されている.その後,opticalcoherencetomography(OCT)の登場により形態的な評価が可能となり,大谷ら3)は糖尿病黄斑浮腫を基本型に分類した.糖尿病黄斑浮腫の形態と硝子体手術後の視力との関連性が検討されてきたが,浮腫形態に基づく硝子体手術の効果予測には限界があり,術前に術後視力を予測することは困難であった.近年,スペクトラルドメインOCT(SD-OCT)が登場し,外境界膜(externallimitingmembrane:ELM)や視細胞内節外節接合部(photoreceptorinnerandoutersegments:IS/OS)などの網膜外層構造の詳細な評価が可能となり,各種疾患で網膜外層構造と視力との有意な相関が報告されるようになった4,5).糖尿病黄斑浮腫においても,Maheshwaryら6),Murakamiら7),Yanyaliら8)が中心窩のIS/OSやELMの連続性と視力とが相関すると報告している.今回,筆者らは新たな試みとして,糖尿病黄斑症の術前の網膜外層構造が硝子体手術後の成績を反映する指標となりうるのではないかと考え,術前のELM,IS/OSをSD-OCTで評価し,硝子体手術成績との関連性について検討した.I対象および方法対象は2008年1月から2011年3月の間に,済生会新潟第二病院で糖尿病黄斑症に硝子体手術を施行し,3カ月以上経過観察した32例36眼(平均観察期間10.6カ月).症例の1,000μmABLogMAR視力図1OCTにおけるELM・IS/OS評価トプコン社3DOCT-1000MARKIIの白黒表示を用いて,中心窩を中心とした1,000μm内のELM・IS/OSを計測した.A:IS/OS742μmで50%以上の連続性を認める.B:ELM1,000μmで50%以上の連続性を認める.内訳は男性18例21眼,女性14例15眼,Davis分類では増殖前網膜症17眼,増殖網膜症19眼であった.36眼中22眼に白内障手術を施行し,11眼に内境界膜.離を併用した.血管新生緑内障を合併していた4眼および術後網膜.離で追加手術を要した2眼は本検討から除外した.OCTの解析にはトプコン社3DOCT-1000MARKIIを用い,白黒表示にて術前網膜外層を評価し,色素上皮の高反射ラインの直上のラインをIS/OS,その直上のラインをELMと定義した.中心窩を中心とした1,000μm以内のELM,IS/OSを計測し,50%以上連続性が保たれているものをそれぞれ陽性と判定した(図1).ELM,IS/OSの連続性から,ELM・IS/OSともに陽性のA群,ELM陽性・IS/OS陰性のB群,ELM・IS/OSともに陰性のC群に分類した.A,B,Cの3群において術前および術後1年(または最終観察時)に視力と中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)を測定し,その結果を各群で比較検討を行った.II結果OCT所見からA群8眼,B群9眼,C群19眼に分類された.なお,ELM陰性・IS/OS陽性の例は認めなかった.術前logMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力はA群0.36,B群0.60,C群0.83で,A群とC群間で有意差を認めた(p<0.01,Mann-Whitney検定).術後logMAR視力はA群0.14,B群0.40,C群0.70であり,いずれの群も術前に比べて有意に改善を認めた(それぞれp<0.05,対応のあるt検定).A群とC群間では術前後のいずれにおいても有意差を認めた(p<0.01,術前はMannWhitney検定,術後はWelchのt検定)(図2).視力評価はlogMAR視力で術前後0.2以上の変化を視力0術前術後*0.1:A群0.20.36A群0.14ELM(+)IS/OS(+)0.3:B群0.40.60B群*0.40**ELM(+)IS/OS(-)0.5:C群0.6**0.70ELM(-)IS/OS(-)0.70.83C群*p<0.050.8**p<0.010.9*図2術前後のlogMAR視力術前logMAR視力A群:0.36,B群:0.60,C群:0.83.A・C群間で有意差を認めた(A・C群間:p<0.01Mann-Whitney検定).術後logMAR視力A群:0.14,B群:0.40,C群:0.70.A・C群間で有意差を認めた(A・C群間:p<0.01Welchのt検定).術後視力はA,B,C群いずれも有意に改善した(p<0.05対応のあるt検定).90あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(90) 20600550ELM(+)IS/OS(+)15500ELM(+)IS/OS(-)4眼5眼7眼4眼4眼9眼0眼0眼3眼A群B群C群:改善■:不変■:悪化:A群:B群:C群*p<0.05**p<0.01349.5332.3495.4353.8529.6401.3術前術後*******A群B群C群CRT(μm)450400350300250視力改善度10ELM(-)IS/OS(-)50図4術前後のCRT図3術後視力改善度LogMAR視力0.2以上の変化を改善,悪化とした.A群:改善4眼,不変4眼.B群:改善5眼,悪化4眼,C群:改善7眼,不変9眼,悪化3眼.A,B,C群いずれの群においても改善眼を得た.ELM陽性であるA,B群では,ELM陰性のC群に比べて改善眼の割合が高かった.悪化眼はELM陰性のC群のみで認められ,ELM陽性のA,B群では認めなかった.改善・悪化として検討し,全体では改善16眼,不変17眼,悪化3眼であった.各群での検討では,A,B群において改善眼の占める割合がC群より高く,悪化眼はみられなかった.C群では改善眼が19眼中7眼のみであり,3眼の悪化を認めた(図3).術後小数視力0.7以上を良好眼,0.7未満を不良眼に分類して比較したところ,A群では8眼中5眼が良好眼,B群では9眼中4眼が良好眼であるのに対し,C群では19眼中1眼のみが良好眼であり,C群に比べA,B群で有意に視力良好眼が多かった(A群C群間p<0.01,B群C群間p<0.05,Fisherの直接確率計算法).術前CRTはA群349.5μm,B群495.4μm,C群529.6μmで,A群とB群間およびA群とC群間で有意差を認めた(それぞれp<0.01,Studentのt検定).術後CRTはA群332.3μm,B群353.8μm,C群401.3μmであり,B群とC群において術後有意に減少した(B群:p<0.05,Wilcoxon符号付順位和検定,C群:p<0.01,対応のあるt検定).術前に認められたA群とB群間ならびにA群とC群間の有意差は術後には認めなかった(図4).術後の網膜外層構造の変化では,A群は全例でELM,IS/OSともに保たれており,B群ではIS/OS回復例が2眼,不変例が3眼,ELM消失例が4眼であり,C群ではELM回復例が2眼,不変例が17眼でありIS/OS回復眼は得られなかった.III考按Diabeticmacularedema(DME)に対して.胞様黄斑浮腫,漿液性網膜.離などの浮腫形態に基づいて硝子体手術成績が検討されてきたが,硝子体手術効果の予測には限界があ(91)術前A群:349.5μm,術前B群:495.4μm,術前C群:529.6μm.A・C群間,A・B群間で有意差を認めた(A・C群間,A・B群間p<0.05Studentのt検定).術後A群:332.3μm,術後B群:353.8μm,術後C群:401.3μm.B群,C群において術後有意にCRTが低下した(B群:p<0.05,Wilcoxon符号付順位和検定,C群:p<0.01,対応のあるt検定).術前に認められたA群とB群間ならびにA群とC群間の有意差は術後には認めなかった.り,術前に術後視力を予測することは困難であった.近年,SD-OCTの登場で網膜外層構造の評価が可能となり,各種疾患において網膜外層構造と視力との相関が強いとの報告が多数出てきており,DMEにおいても同様の関連性が報告されている6.8).筆者らは黄斑円孔の硝子体手術後の視力を検討し,ELM,IS/OSとの関連性が強いという知見を得た9).今回,DMEにおける硝子体手術後の視力予測因子として網膜外層構造に注目し,術前のELM,IS/OSをSD-OCTで評価し,硝子体手術成績との関連性について検討を行った.Oishiら5)は加齢黄斑変性症において,疾患重症度とELM,IS/OSの関係を検討し,まずIS/OSが消失し,さらに重症化するとELMも消失すると述べている.今回のDMEに関する検討でも加齢黄斑変性症と同様の結果を得た.硝子体手術後の視力はいずれの群でも有意に改善を認めたが,術前に網膜外層破綻が少ないA群では,破綻の進んだC群に比べて有意に術後視力が良好であった.網膜外層破綻が進む前に手術治療を行うことで視力回復が大きくなることを示唆しており,ELMの存在が術後良好な視力を目指す硝子体手術を行ううえで重要である.本検討では網膜外層の評価にOCTを用い,中心窩を中心とした1,000μm以内のELM,IS/OSを計測し,50%以上連続性が保たれているものをそれぞれ陽性と判定した.OCTによる網膜外層の評価に際しては,OCTのshadowingによる検出不能例が問題となり,shadowingにより実際には保たれているIS/OS,ELMを消失と評価してしまう可能性がある.そのため,今回筆者らは網膜浮腫や硬性白斑による局所のshadowingにより,ELM,IS/OSが陰性と誤評価あたらしい眼科Vol.30,No.1,201391 されないように50%以上連続していれば外層構造が保たれていると基準を少し緩く定めることでshadowingの影響を最小限にするよう配慮した.しかし,それでも黄斑浮腫による網膜肥厚の著しい症例では,OCTの機能・特性上,shadowingによる検出不能例は少なからず存在するはずであり,現時点でのOCTの性能の限界である.今後のOCTの性能向上に期待したい.ELMは漿液性網膜.離を伴う例においても判別可能であるという点で有用である.板谷ら10)は漿液性網膜.離を伴う中心性漿液性脈絡網膜症において,IS/OSは網膜色素上皮との正確な判別が困難である一方で,ELMは評価が可能であると報告している.漿液性網膜.離を伴うDME眼においても,IS/OSの同定は困難である一方でELMは判別可能であった.網膜外層構造の破綻が強く,漿液性網膜.離を含めた多形態を示すDMEにおいて,より多くの症例で網膜外層構造を評価しうる点でELMは優れた指標と考えられる.今回,少数例の検討ではあったがIS/OS,ELMが術後視力の予測因子として利用可能であり,特にELMは有用性が高い指標である可能性が示唆された.今後,OCTの進化による分解能,描出力向上により,さらに正確な評価が可能となるはずである.さらなる症例検討を重ねたい.利益相反:利益相反公表基準に該当なし文献1)LewisH,AbramsGW,BlumenkranzMSetal:Vitrectomyfordiabeticmaculartractionandedemaassociatedwithposteriorhyaloidaltraction.Ophthalmology99:753759,19922)TachiN,OginoN:Vitrectomyfordiffusemacularedemaincasesofdiabeticretinopathy.AmJOphthalmol122:258-260,19963)OtaniT,KishiS,MaruyamaY:Patternsofdiabeticmacularedemawithopticalcoherencetomography.AmJOphtalmol127:688-693,19994)MatsumotoH,KishiS,OtaniTetal:Elongationofphotoreceptoroutersegmentincentralserouschorioretinopathy.AmJOphthalmol145:162-168,20085)OishiA,HataM,ShimozonoMetal:Thesignificanceofexternallimitingmembranestatusforvisualacuityinage-relatedmaculardegeneration.AmJOphthalmol150:27-32,20106)MaheshwaryAS,OsterSF,YusonRMetal:Theassociationbetweenpercentdisruptionofthephotoreceptorinnersegment-outersegmentjunctionandvisualacuityindiabeticmacularedema.AmJOphthalmol150:63-67,20107)MurakamiT,NishijimaK,SakamotoAetal:Associationofpathomorphology,photoreceptorstatus,andretinalthicknesswithvisualacuityindiabeticretinopathy.AmJOphthalmol151:310-317,20118)YanyaliA,BozkurtKT,MacinAetal:Quantitativeassessmentofphotoreceptorlayerineyeswithresolovededemaafterparsplanavitrectomywithinternallimitingmembraneremovalfordiabeticmacularedema.Ophthalmologica226:57-63,20119)中村裕介,安藤伸朗:特発性黄斑円孔の術後閉鎖過程の光干渉断層計による観察.臨眼64:1677-1682,201010)板谷正紀,尾島由美子,吉田章子ほか:フーリエドメイン光干渉断層計による中心窩病変出力の検討.日眼会誌111:509-517,2007***92あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(92)

My boom 12.

2013年1月31日 木曜日

監修=大橋裕一連載⑫MyboomMyboom第12回「小堀朗」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す連載⑫MyboomMyboom第12回「小堀朗」本連載「Myboom」は,リレー形式で,全国の眼科医の臨床やプライベートにおけるこだわりを紹介するコーナーです.その先生の意外な側面を垣間見ることができるかも知れません.目標は,全都道府県の眼科医を紹介形式でつなげる!?です.●は掲載済を示す自己紹介小堀朗(こぼり・あきら)福井赤十字病院眼科私は,平成3年に宮崎医科大学眼科に入局し,和歌山赤十字病院で研修.縁あって平成7年に京都大学眼科に転入し,公立豊岡病院を経て平成9年から福井赤十字病院眼科部長を勤めています.15年も同じところに勤めているといろいろなことがあります.公的病院なのになぜかエキシマレーザーを導入してLASIKをしています.電子カルテは創成期に無理矢理導入されてプチノイローゼになりました.スーパーローテイト制度が開始され6人いた眼科医が突然4人になり慌てました.それでも勤務を続けているのは手術に強い興味があったせいと思います.白内障,緑内障,網膜硝子体手術はもちろんですがICLや斜視手術も行っています.LASIK,角膜移植,眼形成手術も以前は手がけていましたが,最近はスタッフみんなで役割分担するようになりました.臨床のmyboom最近,眼内レンズ(IOL)強膜内固定に興味をもっています.2007年にGaborらが報告して以来,徐々に広まり多焦点IOLの固定や小児への挿入も報告されています.IOL縫着術と比較しますと以下のような利点と欠点があります.利点としては,強膜内に固定されるので術後にIOLがブラブラ動くことがありません.IOLループを固定する糸がないので術後に眼内へ感染が起きるリスクが少なく,縫合糸の露出による異物感からも解放されます.今後手術をさらにシンプルな手順にできる可能(83)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY性があります.一方,欠点としては,穿孔創にループが通るので創が大きくなり,出血・漏出・脈絡膜.離が生じやすくなります.眼内でのループ操作が必要なので大きな光学径のIOLは使いづらくなります.手術方法も一つではなく,細かいところは少しずつ違っておりさまざまな方法があります.強膜フラップ作製やトンネル作製,ループを鑷子で取りにいく方法や針の管腔内に入れて取り出す方法もあります.IOLの大きさやループの形状,材質,太さによってもやりやすさが異なります.簡単なようでまだまだ難しいところもある手術です.趣味のmyboomここ十数年スキーが趣味です.特に圧雪していない新雪(powdersnow)を滑ることにハマッています.最初に新雪を滑る楽しさを覚えたのは新潟の新井市です.バブルの頃にできたスペシャルなスキー場がありました.最初は施設の豪華さに惹かれて通っていました.しかし,そこは日本でもトップクラスの豪雪地帯でゲレンデは圧雪してなくて滑りにくいし,しょっちゅう吹雪いて視界は悪いし,斜面は狭くて急だし,どこがいいんだろうと思っていました.それでも懲りずに通っていると新雪の上を少しずつ滑れるようになり楽しくなります.新雪はその約98%が空気だそうです.その上をすべると独特の浮遊感があります.できれば50cm以上の新雪がほしいです.それだけ雪が積もればスキー板の滑るスピードと方向によって雪の上も中も浮きながら滑ることができます.ハマるほど楽しく思えたのはその時からです.実はそのスキー場はpowderskiで有名なところであり,一晩で雪が1m以上積もることもよくありました.そんな日はもう大変です.朝早くから競ってリフトの順番待ちに並び,まっさらな新雪の上にシュあたらしい眼科Vol.30,No.1,201383 〔写真1〕新井のゲレンデ.見える山全部新雪で滑走OK!プールを描いた時はもう最高です.今は残念ながらそのスキー場は潰れてしまいました.雪が大量に積もるには海のすぐそばに高い山が必要になります.日本海側はその条件にぴったり合致しており,世界でも有数の豪雪地帯だそうです.国内にはpowderskiを楽しめる所は沢山あります.自力でスキーを担いで山を登って滑ればどこででもpowdersnowを滑ることができますが,自分にはそんな体力はありません.もっぱらリフトもしくはロープウェイを存分に使ってのpowderskiを楽しんでいます(スキー場のルールは守っていますよ).福井ではスキージャム勝山という大きなスキー場があります.家から1時間ほどで行けるホームゲレンデです.富山の立山ではゴールデンウィーク近くになると室堂周辺や弥陀が原周辺を滑ることができます.有名な雪の大壁のすぐそばを滑ることができます.リフトはないので巡回バスを使い,Tバーリフトで登って滑りま〔写真2〕八甲田山で販売しているステッカー.白い粉=powder=新雪す.青森の八甲田山ではロープウェイを使った山ツアースキーが盛んであり,専門のガイドさんとともに樹氷の中のpowderskiが楽しめます.北海道のニセコではコース内も楽しいですがコース外(気象条件付きですが)はさらに思う存分楽しめます.でも案外有名でないところのほうがpowderskiの競争率も少なく,楽しめることも多いです.そんなところを探して滑るのも楽しみの一つです.次回のプレゼンターは,佐賀県の西村知久先生(美川眼科)です.研修医時代に和歌山で一緒に働きました.最近はトーリックIOLに内視鏡にとアクティブに活躍されています.よろしくお願いします.注)「Myboom」は和製英語であり,正しくは「Myobsession」と表現します.ただ,国内で広く使われているため,本誌ではこの言葉を採用しています.☆☆☆84あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(84)

日米の眼研究の架け橋 Jin H. Kinoshita先生を偲んで 1.Jin先生の思い出

2013年1月31日 木曜日

JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ①責任編集浜松医科大学堀田喜裕JinH.Kinoshita先生を偲んで日米の眼研究の架け橋★シリーズ①責任編集浜松医科大学堀田喜裕Jin先生の思い出矢部(西村)千尋(ChihiroNishimuraYabe)京都府立医科大学大学院医学研究科病態分子薬理学教授1980年京都府立医科大学卒業,同大学院入学.1981年同薬理学教室助手.1984年留学.1988年帰国,国立小児病院小児医療研究センター研究員.1991年同中毒副作用研究室室長.1996年京都府立医科大学薬理学教室教授,2003年同大学院医学研究科病態分子薬理学教授.2007年同国際学術交流センター長,2010年同男女共同参画推進センター長,現在に至る.僭越ながら眼科医でもない私が最初にこのコーナーを執筆させていただくことになりました.私は,JinH.Kinoshita先生(以下,Jin先生)のポスドクとして1984.1988年にNEI(NationalEyeInstitute)に在籍し,先生のライフワークであったaldosereductase(AR)のクローニングをお手伝いした基礎医学の人間です.帰国後もJin先生ご夫妻の自宅やハワイでのARワークショップにて何度かお目にかかりましたが,ここ何年か音信が途絶えておりました.西海岸に出向く機会がないまま一昨年Jin先生の訃報を受け,晩年の先生にお会いする機会を逸したことを知りました.昨年夏,休暇をとって夫とカリフォルニア州SanJoseにあるJin先生のお墓を訪れました.先生の名前の刻印されたパネルを見つけ(写真1),私を含め,多くの研究者のメンターであられた先生にお別れいたしました.私が初めてJin先生にお目にかかったのは大学の2回生の頃だったと思います.同僚のKuwabara(桑原登一郎)先生とともに京都の自宅に立ち寄られた折でした.米国国立保健研究所(NIH)より来客があるから挨拶するようにとの父の指示で,クラブ練習を早々に切り上げて帰宅しました.食堂からは普段家で耳にしないような快活な笑い声が聞こえ,戸を開けると宴もたけなわ,上機嫌の両先生が座っておられました.堅苦しいお役人のような来客を想像し,英語での挨拶に緊張していた私はこれまでに会ったことのない気さくで陽気な日系二世のJin先生に親しみをもちました.とはいえ,私は終始緊張の面持ちだったようです(写真2).6回生の夏休みに父の滞在していたNIHに遊びに行く機会に恵まれ,Kuwabara先生の研究室でゲストワーカーとして走査電顕の使い方を教えていただきました.昼食持参で集まる研究室仲間のミーティングや,帰国研究者のお別れ会ランチョンにも無料参加させてもらい,留学生活のエッセンス写真1Jin先生のネームプレート写真2京都の自宅にて(左より,Jin先生,筆者,Kuwabara先生,筆者の母)(81)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013810910-1810/13/\100/頁/JCOPY 写真3ベセスダ近郊のレストランにて(Jin先生ご夫妻とともに)を体験しました.この「留学体験実習」が私の進路選択に大きく影響しました.なぜなら,卒後最短期間で留学するには基礎医学に進むのが良さそう,という不埒な理由で進路を決めることになったからです.当時,私の大学では長年米国で過ごされ帰国された栗山欣彌教授(現名誉教授)が薬理学教室を主催されており,私のような留学願望の強い身勝手な女子学生を快く受け入れてくださいました.栗山教授より4年余り神経化学のご指導を受け,学位論文「糖尿病性網膜病変に関する薬理学的・神経化学的研究」にて無事博士号をいただきました.そして6回生の夏から5年後,ポスドクとして再びNIHのキャンパスに立ち,私は大海に初めて出航した帆船ように高揚していました.Jin先生は“Iamyourdesignatedfather”とおっしゃって,奥様のKayさんと一緒に,私の新生活万端を文字どおり親身にお世話いただき,よく食事にも誘っていただきました(写真3).銀行口座の開設,車の購入,運転免許取得や保険の加入手続きはもちろん,友達との交際に関すること,例えば際立って親しげに近づいてきた同性はレズかもしれないので警戒すること(?)など,実に細やかなお気遣いをいただきました.ご夫妻で日系二世の親睦会にもたびたびお連れくださり,年代や環境の異なる日系の方々の考え方や生活を知る機会となりました.日系人として差別を受け,逆境の中で互いに助け合い,米国社会で地位を築いてきた仲間との強い絆を感じました.当時,Jin先生はNEIのScientificDirectorとして所員には恐れられる存在でした.Jin先生の率いる白内障グループは優遇されていたと思いますが,研究テーマによっては次年度の継続が認められず,泣く泣く去って行くセクションヘッドやポスドクを目にしました.トップダウンのボスの裁量権82あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013の大きさのみならず,ボトムアップで直属上司を飛び越えてトップに直訴できるダイナミックな組織を目の当たりにしました.当時の実験ノートによるとNEIでの私の最初の仕事は,ELISAによるAR蛋白のアッセイ系の確立でした.しかし,この試みは抗体力価が不十分でうまく実を結びませんでした.このアイデアは帰国後,企業と共同でモノクローナル抗体による2抗体サンドイッチ法を組み立てることにより実現し,ヒトの血液や組織中のARの免疫学的定量が可能となりました(ClinChem40,889-894,1994).Jin先生は眼の領域にとどまらず広く糖尿病合併症全般へのARの関与の可能性を考えておられました.ですから私は網膜・水晶体のみならず,腎臓や末梢神経など幅広い臓器を対象に研究経験を積ませていただきました.また,日本ではまだ黎明期にあった分子生物学の手法をARのクローニングに参画して学ぶことができました.この仕事はもともとJin先生の信頼厚いDebbieCarper博士が担当していましたが,彼女が産休に入る前に私が手伝うことで間断なく進めようとお考えになったようです.最先端の手法に興味があった私は勇んでMania-tisのMolecularCloningを読みふけり,同じフロアで実験している研究仲間にノウハウを聞きまくり,時には調整済みのバッファーまで拝借してクローニングに取組みました.抗体を使ったスクリーニングはうまくいきませんでしたが,N末アミノ酸配列をもとに合成した標識オリゴペプチドによるスクリーニングはbeginner’sluckで成功し,復帰してきたDebbieと二人で無事とりまとめてJin先生の期待に応えることができました(FEBSLett220,209-213,1987;JBiolChem265,9788-9792,1990).4年間の留学生活のなかで最も楽しく,充実した時期でした.NEIでさまざまな実験に携わり,視野が広がったことはその後の私の研究者としての糧となったことはいうまでもありません.帰国後は東京都世田谷区の国立小児病院附属の研究施設(国立成育医療センターの前身)で引き続きARの研究を進め,1996年母校の薬理学教室に帰りました.その折に留学時よりの一連の研究を総説にまとめ(PharmacolRev50,21-33,1998),Jin先生にお褒めいただいたことを思い出します.現在,私はARの発現誘導にもかかわる活性酸素種のシグナリング機構と,その産生酵素であるNADPHオキシダーゼの研究に取り組んでいます.卒後の進路選択から留学時代を通じて私はJin先生より並々ならぬ薫陶を受けたと思います.古巣の薬理学教室に戻り瞬く間に年月が過ぎ,気がつけば私の周りは若い人たちばかりになりました.Jin先生にご教導いただいたことを次世代に伝える責務を感じる今日このごろです.Jin先生,ありがとうございました.ご冥福を心よりお祈り申し上げます.(82)

WOC2014への道:あと15ヶ月

2013年1月31日 木曜日

WOC2014Tokyo新年を迎えました.来年はいよいよWorldOph-thalmologyCongressR(WOC)2014の年です.世界の眼科医が日本にやってきます.ヨーロッパから,アフリカから,中東から,アジア太平洋から,北米から,中南米から.国際眼科学会は,過去150年の間に33回,開かれています.日本での開催は,1978年の京都開催以来,36年ぶりです.今後のローテーションを考えると,次に日本で開催されるのは数十年後でしょうから,前回の京都を経験していない世代の先生(私もです)にとって,2014年はおそらく自国開催のWOCに参加できる唯一の機会ということになると思います.WOCの開催国は,国際眼科評議会(Internation-alCouncilofOphthalmology:ICO)理事会での投票で決まります.開催希望国は多く,毎回激戦となります.WOC開催国となることにどのようなメリットがあるのでしょうか.WOCを成功裡に開催することは,その国の眼科のステータスを大きく高めます.例えば昨年2月のアブダビWOCは,非常に近代的な施設と効率的な集めた2010年のベルリンや2008年の香港でも同様で,WOCの成功は国内的には眼科の地位の向上に,対外的には開催国の眼科に対する国際的な注目度の向上に結びつくといえます.WOC2014は,日本の眼科の発展と独創性を世界に発信する良い機会であるとともに,さまざまな国の先生方と情報交換する絶好の場でもあります.また,アジアの眼科における日本の指導的立場を確立し,日本の眼科医が国際的にリーダーシップを発揮できるようアピールする好機ともなるでしょう.発展途上国,とくにアジアの国々における眼科医療水準の向上に貢献すること,世界の失明予防に寄与することも重要です.日本の先生方への最新医療情報の提供という視点も欠かせません.WOC2014の組織委員会は2009年から準備活動を行ってきました.ICOと緊密に連携しながら準備を行っています(写真).どの国の学会に出席しても感じることですが,運営の細やかさや,もてなしの心において,日本に匹敵する国はありません.日本の誇るソフトパワーとテクノロジーを駆使して,世界の眼科医をお迎えしWOC2014への道あとカ月大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科15WOC2014Tokyo新年を迎えました.来年はいよいよWorldOph-thalmologyCongressR(WOC)2014の年です.世界の眼科医が日本にやってきます.ヨーロッパから,アフリカから,中東から,アジア太平洋から,北米から,中南米から.国際眼科学会は,過去150年の間に33回,開かれています.日本での開催は,1978年の京都開催以来,36年ぶりです.今後のローテーションを考えると,次に日本で開催されるのは数十年後でしょうから,前回の京都を経験していない世代の先生(私もです)にとって,2014年はおそらく自国開催のWOCに参加できる唯一の機会ということになると思います.WOCの開催国は,国際眼科評議会(Internation-alCouncilofOphthalmology:ICO)理事会での投票で決まります.開催希望国は多く,毎回激戦となります.WOC開催国となることにどのようなメリットがあるのでしょうか.WOCを成功裡に開催することは,その国の眼科のステータスを大きく高めます.例えば昨年2月のアブダビWOCは,非常に近代的な施設と効率的な集めた2010年のベルリンや2008年の香港でも同様で,WOCの成功は国内的には眼科の地位の向上に,対外的には開催国の眼科に対する国際的な注目度の向上に結びつくといえます.WOC2014は,日本の眼科の発展と独創性を世界に発信する良い機会であるとともに,さまざまな国の先生方と情報交換する絶好の場でもあります.また,アジアの眼科における日本の指導的立場を確立し,日本の眼科医が国際的にリーダーシップを発揮できるようアピールする好機ともなるでしょう.発展途上国,とくにアジアの国々における眼科医療水準の向上に貢献すること,世界の失明予防に寄与することも重要です.日本の先生方への最新医療情報の提供という視点も欠かせません.WOC2014の組織委員会は2009年から準備活動を行ってきました.ICOと緊密に連携しながら準備を行っています(写真).どの国の学会に出席しても感じることですが,運営の細やかさや,もてなしの心において,日本に匹敵する国はありません.日本の誇るソフトパワーとテクノロジーを駆使して,世界の眼科医をお迎えしWOC2014への道あとカ月大鹿哲郎筑波大学医学医療系眼科15〔写真〕ICOと合同での準備委員会運営で参加者を驚かせました.中東アフリカ地域での初の国際学会として大成功であり,参加した世界中の眼科医に,中東地域の文化や眼科の歴史を鮮烈にイメージ付けました.同国ではセレモニーに王族が参加したこと,またそれまでにない大規模な国際学会であったことから,国民の眼科に対する意識が非常に高まったとのことです.史上最多の参加者をようではありませんか.皆様をお迎えするのは,4月第一週,桜の季節です.東京が一年中で最も美しい季節と言っていいでしょう.世界から多くの眼科医を日本に迎え,日本の文化ともてなしの精神に触れてもらい,我が国のハイテクと伝統の融合を味わってもらいたい,それが我々の願いです.(79)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013790910-1810/13/\100/頁/JCOPY

現場発,病院と患者のためのシステム 12.経営に寄与する情報システム

2013年1月31日 木曜日

連載⑫現場発,病院と患者のためのシステム連載⑫現場発,病院と患者のためのシステムERP(EnterpriseResourcePlanning)と呼ばれ,社内に散在する有形無形のリソースを総合的に管理・活用する機能,情報を提供し,経営に貢献するとしてもてはやされた情報システムがありました.少数の成功事例がセンセーショナルに取り上げられ,これに乗せられ,成功要因を確経営に寄与する情報システム杉浦和史*情報システム導入の成功,失敗の定義はいろいろありますが,経営に寄与したかしないかが,最もシンプルでわかりやすい指標ではないかと思います.当院開発中の院内業務総合電子化システムHayabusaでは,図1の目標を掲げていますが,“経営に具体的に寄与する”が最かめずに安易に導入して失敗した企業は数知れずありました.電子自治体ブームでも同様な傾向がみられましたが,電子カルテシステムを代表とする医療情報システムでも同じことが言えます.終目標です.来院数,新患増加数,手術件数,ベッド稼働率の推移は直接的に経営に貢献する数字として知られています.このうち,大本は来院数でしょう.来院しなければ手術になることはないし,手術をしなければベッドの稼働率を気にする必要もないからです.では来院数を増やすにはどうしたら良いのでしょう.医師の腕であることは論を待ちませんが,これはクリアしているものとして,あとは?看護師をはじめとするコメディカルスタッフの適切で優しい言動と,待ち時間ではないでしょうか.これらは患者満足度という形で現れてきます.この患者満足度の向上が,その病院の評判を高め,再来院率を上げ,ひいては新患を呼び込む要因になると考えられます.優しい言動は,標語を掲げ,朝礼で唱和したりセミナーを受講させたりすることで実現できるものではありません.コメディカルスタッフも人間,疲れている時も気分の優れない時もあり,優しい言動にならない場合もあるはずです.できるだけそのような状況にならないようにするには,職員(スタッフ)満足度という指標を考慮する必要があります.以前,待ち時間を取り上げた号(本誌9月号連載⑧スタッフ満足度,待ち時間)でもこの指標を説明したことがありますが,スタッフが気分よく働けるような機能,情報を提供するシステムを整備すれば,スタッフ満足度を高めることができるのではないかと考えています.このスタッフ満足度,実は,患者満足度と密接な関係(77)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYIntegratedHayabusa患者待ち時間の最小化患者満足度の向上職員の負荷軽減限られたリソースの最適配分各種情報の可視化迅速的確な経営判断経営に具体的に寄与するCopyright2012宮田眼科病院Allrightsreserved図1Hayabusaの目的があります.待ち時間にしびれを切らした患者さんが,「あとどのくらい待てば良いのですか」,「あの人は私より後に来たのに先に診察してもらったのはどうしてですか」などとスタッフに問いかけるシーンは頻繁に見かけます.患者満足度を下げる大きな要因となっているこのような状況への説明,対応は,スタッフの大きなストレスとなっていることは,スタッフの皆さんと話をしたり,現場を観察すれば一目瞭然です.当院では,待ち時間の要因分析を行い,時間そのものの短縮を図るとともに,どんな状態で待っているかがわかり,他の患者さんの待ち状態もわかる情報を提供することで,問いかけやクレームを激減させ(患者満足度向*KazushiSugiura:宮田眼科病院CIO/技術士(情報工学部門)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201377 表1人間がコンピュータ(システム)より優れている点人間が優れている点概要1考えることができる1+1=2という選択の余地がない場合ではなく,どのようにでも判断できる曖昧な場面に遭遇した場合,過去の経験に基づき,また,その時々の状況に応じて,何が最適かを考える能力が人間にはあります.ハムラビ法典のように単純明快ならシステム化された裁判も可能ですが,情状酌量や大岡裁きが必要な現実の裁判には使えません.現実の世界では,1+1が2<(シナジー効果)になったり,2未満になることも頻繁に経験しますが,これはコンピュータの世界ではあり得ないことです.1+1が2以下になる場合でも“損して得取る”の発想で,戦略的にGOサインを出す場合もあります.これは人間にしかできないことでしょう.2直感いくつもの情報を見て判断するのではなく,少ない情報で瞬時に的確な判断する能力.伝説の相場師“是川銀三”の世界.その反面,“見落とし”,“勘違い”というコンピュータではあり得ないことも発生します!3知識・経験を蓄積し活用できる人間は,五官で得られた情報や経験したことを記憶し,必要に応じて利用し,情報量(エントロピー)をアップさせて再記憶し,また再利用し,知識の拡大再生産を行うことができます.記憶できる形式は,音,色,数値,文字,形だけではなく,物理的な環境,情緒的な環境,情景など複雑多岐にわたっており,コンピュータの及ぶところではありません.上),以ってスタッフ満足度も向上させた実績をもっています.一般的に言える人間がコンピュータ(システム)より優れている点を,表1に掲げます.病院には,点眼,処置など人間ならではの作業があります.これらの作業を除いた作業をシステムで代替えすることで,スタッフの肉体的,精神的負荷を軽減させることができます.これによってできたゆとりをもって患者さんに接することで,患者満足度を向上させ,病院の評判を高め,再来院率を上げることができるでしょう.IntegratedHayabusa図2Hayabusaメインメニュー直接的ではなく間接的ではありますが,患者満足度を上げることが病院経営に寄与することは間違いなく,その実現を支援する情報システムは回り回って経営に寄与するシステムと言えるでしょう.当院では,予約業務を主体とするリソースマネジメントシステムM-Magicに続き,人間ならではの作業を除く院内業務を電子的に処理するHayabusaを開発中ですが,経営に寄与するシステムを目指していることはいうまでもありません.昨年同月比の再診患者数の推移来院者数システム稼働後システム稼働前月図3M.Magicの効果78あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(78)

タブレット型PCの眼科領域での応用 8.タブレット型PCのロービジョンエイドとしての臨床導入-その1-

2013年1月31日 木曜日

シリーズ⑧シリーズ⑧タブレット型PCの眼科領域での応用三宅琢(TakuMiyake)永田眼科クリニック第8章タブレット型PCのロービジョンエイドとしての臨床導入─その1─■ロービジョンエイドとしての導入の実際今回は,私が代表を務めるGiftHandsの活動や外来業務で扱っているタブレット型PCである“新しいiPadR(米国AppleInc)”とスマートフォンの“iPhone5R(米国AppleInc)”,iOSバージョン6.01について,実際に臨床の現場に導入する際の注意すべき点やその理由について,タブレット型PCを使用している患者さんたちの生の声を紹介するとともに解説していきます.■私のロービジョンエイド活用法「基本操作編」実際に患者さんにタブレット型PCを勧める際,その操作に関して患者さんの訴えには,次のようなものがあります.「触っていないのに,勝手に画面が動いてしまう」「画面を触っても,アイコンが反応しない」これらの訴えは,タブレット型PCの初心者ではよく認められ,タッチパネル式のタブレット操作に特有の現象であると言えます.原因は,右手でタブレット型PCを操作している際に,タブレット本体を保持する操作をしていない左手の指や手の一部が,無意識に液晶画面に触れてしまうことに起因するものがほとんどです.このような原因による誤作動を最小限にするために,次のような対策をとっています.私は体験セミナーなどで,おもに本体カラーはホワイトモデルのデバイスを用いて体験実習をすることで,液晶画面とフレーム部との視覚的コントラストを向上させます.すなわち,使用者にタッチ操作が可能な液晶画面の範囲を常に意識してもらうことから導入を始めています.次にアプリケーションソフトウェア(以下,アプリ)の選択および起動やアプリ内操作などは,基本的に1本(75)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYの指のみで行う(シングルタッチジェスチャー)ということを強く印象付けています.複数の指や皮膚の一部を同時に液晶画面に接触させた場合,タッチパネル式の入力操作では接触部位が一カ所の場合とは異なり複数の指による操作(マルチタッチジェスチャー)と誤認され,意図する動作とは異なる挙動をプログラムが示すことがあります.マルチタッチジェスチャー操作は慣れてくると非常に有用ですが,特に視覚障害を伴う患者さんのタブレット型PC導入の段階では,操作はとにかくシンプルに統一し,習熟度に合わせて応用編で追加操作の説明を行うように心がけることが大切です.タブレット型PCの液晶画面でのタッチパネル式の操作可能範囲と,その外側にあるタッチ操作に反応しないフレーム部分とを空間的に把握すること,1本指での操作が基本であることの意識付けがタブレット型PC導入で最初の課題であると言えます.■私のロービジョンエイド活用法「シングルタッチジェスチャー操作編」シングルタッチジェスチャーを指導する際に,障壁となる症状は大きく分けて3つあげられます.1)指の可動域が低下して1本だけ指を進展させることが困難,2)タッチパネル操作時の液晶画面を押す力の加減が困難,3)皮膚の乾燥などによるデバイス側のタッチパネルの接触感度の低下,以上の3症状があげられます.これらはいずれも高齢者がタブレット型PCを操作する際には頻回に認められる症状であり,これらに伴う操作性の低下が原因で,脱落する患者さんが多くみられます.ここではこれらの症状に対する現状での対応について紹介していきます.あたらしい眼科Vol.30,No.1,201375 図1指での操作の変わりにタッチペンを使用した操作を指導図2タッチパネル操作が可能な手袋を着用した操作①指の可動域の低下した患者さんへの対応細かな指先の操作が難しい高齢者や視覚障害者も多くいるため,1本の指での操作が不向きな患者さんには導入早期に,タッチペンを用いたタブレット型PCの操作へと指導を変更することで,タッチパネル式の入力の操作性は格段に向上します(図1).②操作時の力加減の調節が低下した患者さんへの対応指先の力加減の認識が困難な患者さんでは,不用意にタブレットの液晶画面に強い力がかかってしまった場合,指先と液晶画面の摩擦抵抗の増加に伴い指先の動きは緩慢となります.それに伴い液晶画面上の一点を長く押した際に発動する長押し機能が,意図せず機能してしまい,希望する動作とは異なる挙動を示すタブレット型PCに困惑する患者さんをよく目にします.この誤操作を繰り返す患者さんでは,液晶画面に摩擦抵抗を低下させる目的で液晶画面保護フィルムを装着することで,誤操作の頻度を低下させることが可能です.しかし,保護フィルムの摩擦係数は一定ではなく商品間で差があること,フィルム装着によりグレア予防や横からの覗き見防止機能のあるフィルムでは,液晶画面のコントラストが低下するものや視認性が大きく下がるものがあるので,フィルムの選択には注意が必要です.また,対応①で示したタッチペンとの相性が非常に悪いフィルムもあるので購入を勧める際は,その患者さんにとって何が一番操作性を下げているかを探求し,そのうえで最小限の対応から始めることも大切であると言えます.③皮膚の乾燥などによりタッチパネルの接触感度が低下した患者さんへの対応タッチパネル操作が可能な手袋を着用することで,使用者の皮膚の状態にかかわらず,滑らかなタッチ操作が可能になります(図2).また,操作に使用しないほうの手にはタッチパネルに反応しない手袋を着用してもらうことで「基本操作編」で紹介した,保持側の手による液晶画面の不用意な接触を防ぐことも可能です.このように実際にタブレット型PCをロービジョンエイドとして導入する際には,非常に細かな個別の指導が必要です.しかし,現状でそのような指導を行える医療機関は少なく,今後も私はGiftHandsの代表として視能訓練士を中心とした指導者セミナーなどを開催する重要性を強く実感しています.この活動を継続して行くことでより多くの視覚障害をもつ方の生活が,少しでも快適なものになると私は信じています.本文中に紹介しているアプリなどはすべてGiftHandsのホームページ内の「新・活用法のページ」に掲載されていますので,ご活用いただけたら幸いです.http://www.gifthands.jp/service/appli/また,本文の内容に関する質問などはGiftHandsのホームページ「問い合わせのページ」にていつでも受けつけていますので,お気軽にご連絡ください.GiftHands:http://www.gifthands.jp/☆☆☆76あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(76)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 116.眼内光凝固による医原性裂孔(中級編)

2013年1月31日 木曜日

硝子体手術のワンポイントアドバイス●連載116116眼内光凝固による医原性裂孔(中級編)池田恒彦大阪医科大学眼科●眼内光凝固による医原性裂孔裂孔原性網膜.離に対して硝子体切除後に気圧伸展網膜復位,眼内光凝固,ガスタンポナーデを施行した後,早期に下方から再.離をきたすと,光凝固施行部位が蜂の巣状の多発裂孔になってしまうことがある(図1).図1術後に生じた光凝固部位の多発裂孔初回手術時の光凝固部位がすべて裂孔になっている.●どのような状況でこのような合併症が生じやすいか周辺部の人工的後部硝子体.離が不十分で,硝子体牽引が強く残存している状況で,無理やり気圧伸展網膜復位術で網膜を復位させ,網膜面がややウェットな状況で過剰凝固を行った際に生じやすい(図2).本合併症はガスタンポナーデの効果が早期に弱くなる下方象限でみられることが多い.最近は強膜バックリングを併用しない硝子体術者が増えているので,裂孔周囲に比較的広範囲に光凝固を施行する傾向にある.このような症例でガスの減少とともに早期に下方から再.離をきたしたときは要注意である.●予防と対策このような合併症を回避するためには,周辺部まで確実に人工的後部硝子体.離を作製し,気圧伸展網膜復位術で網膜を確実に復位させた状況で,適切な光凝固(十分な大きさの凝固径で過剰凝固を避ける)を施行することが重要である.人工的後部硝子体.離が困難な場合には,vitreousshavingでできるだけ残存硝子体牽引を弱くする必要があるが,残存牽引が強いことが予想される場合には,必要に応じて強膜バックルを設置すべきである.不幸にしてこのような合併症が生じた場合には,念入りに周辺部残存硝子体を切除し(図3),気圧伸展網膜復位術後に広範な光凝固を行い,バックル手術を併施する(図4).図2周辺部の残存硝子体図3再手術時の所見(1)図4再手術時の所見(2)初回硝子体手術時,周辺部の硝子体処理が不十分で,強い牽引が残存している.双手法で残存硝子体を処理している.気圧伸展網膜復位術後に,医原性裂孔の生じている範囲に広範な光凝固を施行している.この症例ではこの後に輪状締結術を併用し,長期滞留ガスによるタンポナーデで復位が得られた.(73)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013730910-1810/13/\100/頁/JCOPY

眼科医のための先端医療 145.眼圧値の評価は現行で十分なのか?

2013年1月31日 木曜日

監修=坂本泰二◆シリーズ第145回◆眼科医のための先端医療山下英俊眼圧値の評価は現行で十分なのか?澤田明(岐阜大学大学院医学系研究科神経統御学講座眼科学)はじめに近年,眼圧変動が緑内障性視神経障害の進行に深くかかわっていることが報告され1,2),それに関係した研究が盛んになってきています.しかしながら,“眼圧変動”と一口にいっても,その原因となる因子はさまざま存在します(表1).したがって,各患者においてさまざまな生理的要因に由来する眼圧変動をすべて把握することはきわめて困難なことですが,臨床医として可能な限りそれを把握し,患者に還元しようとする努力は必要であると思われます.眼圧測定眼圧測定には,1959年GoldmannとSchmidtにより報告されたGoldmann式圧平眼圧計を使用するのが,すっかり定着してしまっています.はるか以前Schiotz式圧入眼圧計が主流であった頃には,Goldmann式圧平眼圧計と比較した論文が散見されますが,今や,その定着とともに“眼圧は座位で測定するもの”という固定観念が広がってしまっています.また,その精密性により,よく論文にはその眼圧測定値がgoldstandardと記載されていますが,“その眼圧測定値は絶対の値ではない”ことを臨床家は認識すべきだと思います.実際,Goldmann式圧平眼圧計の欠点として,中心角膜厚や角膜乱視などに代表される角膜などの要因により測定誤差が生じること,点眼麻酔薬が必要であること,前述したように基本的には座位での測定が必須であることなどがあげられます.こうした欠点を踏まえ,近年ではIcarereboundtonometer(Icare)や,あらゆる体位で測定可能となったIcarePRO,dynamiccontourtonometry(DCT)などの第3世代の眼圧計が発展してきています.また,24時間の継続的な眼圧測定が可能なTriggerfishR(Sensimed社)といったdeviceも開発されています.(69)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY表1眼圧変動を生じる生理的条件年齢日内変動,日差変動ホルモン(閉経など)季節調節瞬目運動飲水体位など座位仰臥位30°の逆立ち75°の逆立ち右眼:15.0右眼:16.5右眼:23.8右眼:35.8左眼:15.0左眼:16.4左眼:23.8左眼:36.0図1さまざまな体位による眼圧(単位:mmHg)(文献4より改変)眼圧体位変動表1に示すように眼圧変動を生じる要因はさまざまですが,最も日常診療で比較的簡便に施行することが可能な“眼圧体位変動”を例にとってみることとします.さまざまな体位により眼圧変動が生じる機序は,完全には解明されていませんが,上強膜静脈圧の上昇と脈絡膜血流増加があいまって生じると推測されています.血圧変動などの要因,全身的薬物で変動する可能性もありますが,今のところ一部の眼圧下降薬投与では影響を及ぼさないことが報告されています3,4).古くは,Tarkkanenら5)が正常人37名を対象にMackay-Marg型眼圧計を用いてさまざまな体位で眼圧測定した報告があります(図1).右眼のみ記しますが,座位にて平均15.0mmHg,仰臥位にて16.5mmHg,30oの逆立ちにて23.8mmHg,75oの逆立ちにて35.8mmHgと記載されています.日常的に逆立ちの状態を持続することはありませんが,眼圧の体位による変動幅は,驚くことに20.8mmHgも存在しています.この報告からも明らかなように,座位での眼圧測定値は,体位による眼圧変動を考慮した場合,最低の値なのです.筆者らの施設では,Icareを用いて体位による眼圧変動を測定しています.この眼圧計は,Goldmann式圧平眼圧計と比較して0.5.2.0mmHg測定値が高くなりますが,再現性に優れると報告されています.ただ,仰臥あたらしい眼科Vol.30,No.1,201369 側臥位眼圧-座位眼圧(mmHg)1086420-2-4原発開放隅角正常人緑内障患者図2正常人と緑内障患者との眼圧体位変動幅の比較(文献6より改変)位での測定が不可という欠点があるため,側臥位での眼圧測定を行っています.一般的に正常人と比較し,緑内障症例において眼圧体位変動は大きいとする報告が多くされています.筆者らは,age-matchingした広義の原発開放隅角緑内障患者52眼と,正常人52眼に体位による眼圧変動(側臥位での眼圧値.座位での眼圧値)を測定し,比較検討しました6).側臥位による眼圧測定は,その姿勢を5分間保っていただいたのちに行っています.原発開放隅角緑内障症例では,体位による眼圧差が4.0±2.2mmHgであったのに対し,正常人では3.4±1.8mmHgであり,両群間で差は認めませんでした(p=0.134,図2).ただ図2に示すように,たかが5分間側臥位を維持するだけで,緑内障眼でも正常眼でも,5mmHg以上上昇する症例も珍しくはなく,個人差が大きいとはいえるのではないかと思います.おわりに臨床的に,Goldmann式圧平眼圧計による測定値が10mmHg程度であるにもかかわらず進行を認める緑内障症例に遭遇することがあります.こうした症例では,非眼圧依存因子による進行だと判断してしまうことも多いのではないでしょうか?しかしながら,もう一度原点に立ち戻って“眼圧は変動するものである”ということを再認識すれば,進行の手がかりがつかめることもあり得るのではと思います.文献1)CaprioliJ,ColemanAL:Intraocularpressurefluctuation.Ariskfactorforvisualfieldprogressionatlowintraocularpressuresintheadvancedglaucomainterventionstudy.Ophthalmology115:1123-1129,20082)Nouri-MahdaviK,HoffmanD,ColemanALetal:AdvancedGlaucomaInterventionStudy.PredictivefactorsforglaucomatousvisualfieldprogressionintheAdvancedGlaucomaInterventionStudy.Ophthalmology111:1627-1635,20043)ArmalyMF,SalamounSG:Schiotzandapplanationtonometry.ArchOphthalmol70:603-609,19634)KiuchiT,MotoyamaY,OshikaT:Influenceofocularhypotensiveeyedropsonintraocularpressurefluctuationwithposturalchangeineyeswithnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol143:693-695,20075)TarkkanenA,LeikolaJ:PosturalvariationsoftheintraocularpressureasmeasuredwiththeMackay-Margtonometer.ActaOphthalmol(Copenh)45:569-575,19676)SawadaA,YamamotoT:Posture-inducedintraocularpressurechangesineyeswithopen-angleglaucoma,primaryangleclosurewithorwithoutglaucomamedicationsandcontroleyes.InvestOphthalmolVisSci53:76317635,2012■「眼圧値の評価は現行で十分なのか?」を読んで■今回は澤田明先生による眼圧測定についての提言く言いますと,遺伝子はDNAでできており,生命活です.われわれ眼科医が毎日行っている眼圧測定につ動を支える蛋白質の合成のためには,DNA→メッセいて,本当に座位だけでいいのでしょうか?という,ンジャーRNA→蛋白質という道筋がセントラルドグ目から鱗の落ちるような提言,はっとする指摘をしてマといわれ,絶対のスキームでした.しかし,現在でいただきました.臨床医学に限らず現代のサイエンスは常識になっているレトロウイルスはRNAを遺伝子は先人の業績をもとに発展してきています.その際にとして使っており,細胞のゲノムに組み込まれるさい「あたりまえ」と思われること,思い込んでいることにはRNA→DNAという情報の流れが存在します.をもう一度思考の対象にすることは新しい概念,新しこれはハワード・マーティン・テミンとデビッド・ボい治療戦略を開発するうえできわめて重要です.大きルティモアの業績として1975年ノーベル生理学・医70あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013(70) 学賞で顕彰されていますリバーストランスクリプターしかしながら,もう一度原点に立ち戻って“眼圧は変ゼ(逆転写酵素)の作用による生命現象です.現在の動するものである”ということを再認識すれば,進行遺伝子治療,エイズウイルスなどウイルス感染症の病の手がかりがつかめることもあり得るのではと思いま態と治療を研究する細胞生物学では,このレトロウイす」という分析は本当に臨床眼科医学にとって,もうルスの存在は欠かせないものになっています.先人が一度チャレンジしてみる重要な問題提起をしていただ作った原理はそれそのもので存在意義がありますが,いていると考えます.この問題の解決に向けた研究か無謬ではありえませんので,それを訂正していく作業ら多くの成果が期待でき,今後の澤田先生の研究の発がいわば科学の発展ということになると考えます.澤展を期待します.田先生の解説の最後の「非眼圧依存因子による進行だ山形大学医学部眼科学山下英俊と判断してしまうことも多いのではないでしょうか?☆☆☆(71)あたらしい眼科Vol.30,No.1,201371

抗VEGF治療:網膜血管腫状増殖(RAP)に対する抗VEGF薬

2013年1月31日 木曜日

●連載⑧抗VEGF治療セミナー─病態─監修=安川力髙橋寛二6.網膜血管腫状増殖(RAP)に向井亮佐藤拓群馬大学大学院医学研究科病態循環再生学講座眼科学対する抗VEGF薬網膜血管腫状増殖(RAP)に対する抗VEGF薬併用光線力学的療法(PDT)は,網膜内新生血管と網膜血管との吻合血管(retina-retinaanastomosis)の閉塞率が高く,再発のリスクも少なく,また視機能の改善,黄斑部の形態学的改善も得られ有効な治療法である.はじめに網膜血管腫状増殖(retinalangiomatousproliferation:RAP)は,網膜内に発生する新生血管を起源とし,脈絡膜新生血管と吻合する形態が特徴的な加齢黄斑変性の一病型であり,2001年にYannuzziらによって初めて報告された1).その後,新生血管の起源については網膜からだけでなく,脈絡膜側から発生しているとも考えられている2).高齢女性の両眼に発生することが多く,眼底には網膜内に発生する新生血管からの網膜内出血がみられるほか,特徴的所見として,軟性白斑やreticularpseudodrusenを併発することが多い.広義の加齢黄斑変性の各種病型のうち,日本人では5%程度の頻度を占めていると報告されている3).難治性の病型であり,また再発例が多く,治療・再治療の方法,再治療の判断に苦慮することが多い.また,治療後には網脈絡膜の地図状萎縮(geographicatrophy:GA)が生じる例もあり4),診断・治療に当たっては患者への十分な説明を要する.治療RAPの治療は,ほかの加齢黄斑変性の病型と同様に抗VEGF(anti-vascularendothelialgrowthfactor)薬単独療法が行われたり(図1),薬剤併用の光線力学的療法(photodynamictherapy:PDT)による治療が選択されたりすることが多い(図2).RAPでは網膜内に新生血管を有し,その新生血管が網膜浮腫の発生源となるた治療前IA治療後IA図1網膜血管腫状増殖に対する抗VEGF薬単独療法90歳,男性.左眼眼底に網膜内出血を認め,インドシアニングリーン蛍光造影(indocyaninegreenangiography:IA)にて網膜血管と吻合を認める新生血管がある.SD-OCTでは網膜内に高反射塊を認め,同部位の下方に広がる網膜色素上皮.離(PED)では一部網膜色素上皮に断裂様所見を認める.新生血管の周囲網膜では.胞様黄斑浮腫を呈している.Ranibizumab硝子体内注射3回治療後,新生血管は縮小し,網膜浮腫は消失している.(67)あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013670910-1810/13/\100/頁/JCOPY 治療前IA治療後IA治療前IA治療後IA図2網膜血管腫状増殖に対する抗VEGF薬併用光線力学的療法66歳,女性.右眼眼底の視神経乳頭と黄斑間に0.5乳頭径大の網膜内出血を認め,IAにて網膜血管と吻合する新生血管を検出している.軟性ドルーゼンの多発もみられる.Ranibizumab硝子体内注射3回併用のPDT後2年のFAF像にて地図状の網膜萎縮があり経時的な拡大が観察される.め,抗VEGF薬の単独療法でも速やかに浮腫が軽快する例も多い.しかしながらRAPは,網膜浮腫・網膜内出血を繰り返しやすく難治性・易再発性の性質をもつためPDTとの併用療法が行われることもしばしばである.薬剤併用PDTでは抗VEGF薬との併用療法が施行される場合や,抗VEGF薬とトリアムシノロンアセトニドとの両薬剤を併用したPDTが選択される場合がある.国内での治療成績としてはSaitoらが,RAPに対する抗VEGF薬併用PDTの13眼での2年の成績を報告しており5),視力は初診時0.26から0.40へと有意な改善効果を示しており,中心窩網膜厚も431μmから142μmと有意に減少している.2年での平均PDT回数は2.8回で,平均の抗VEGF薬の投与回数は3.4回となっている.なお,GAは13眼中4眼で観察されているが,有意な視力障害は発生していない.このことからRAPに対する抗VEGF薬併用PDTでは抗VEGF薬単独療法に比し,網膜内新生血管と網膜血管との吻合血管(retina-retinaanastomosis)の閉塞率が高く,再発のリスクが少ない点で有利であると推察されている.治療の合併症としては加齢黄斑変性のoccultCNV(choroidal68あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013neovascuratization)やポリープ状脈絡膜血管症(polypoidalchoroidalvasculopathy:PCV)の治療時と同様に,網膜色素上皮裂孔の発生が生じうるため,治療後は眼底自発蛍光(fundusautofluorescence:FAF)などを用い注意深く経過観察を行う必要がある.文献1)YannuzziLA,NegraoS,IidaTetal:Retinalangiomatousproliferationinage-relatedmaculardegeneration.Retina21:416-434,20012)FreundKB,HoIV,BarbazettoIAetal:Type3neovascularization:theexpandedspectrumofretinalangiomatousproliferation.Retina28:201-211,20083)MarukoI,IidaT,SaitoMetal:Clinicalcharacteristicsofexudativeage-relatedmaculardegenerationinJapanesepatients.AmJOphthalmol144:15-22,20074)McBainVA,KumariR,TownendJetal:Geographicatrophyinretinalangiomatousproliferation.Retina31:1043-1052,20115)SaitoM,IidaT,KanoM:Two-yearresultsofcombinedintravitrealanti-VEGFagentsandphotodynamictherapyforretinalangiomatousproliferation.JpnJOphthalmol2012Dec4[Epubaheadofprint](68)

緑内障:緑内障における中心視野障害

2013年1月31日 木曜日

●連載151緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也151.緑内障における中心視野障害溝上志朗愛媛大学大学院医学系研究科医学専攻視機能再生学講座緑内障では多くの場合中心視野は後期まで維持される.この理由として乳頭黄斑線維は組織が堅牢な篩状板の耳側を通るためと考えられている.臨床で頻用される静的視野検査の中心30°,24°の測定プログラムは,中心視野障害の捕捉や進行評価には不向きであり,中心10°のプログラムを用いるのが望ましい.●緑内障と中心視野障害緑内障性視神経症では,多くの場合,視神経乳頭と黄斑を結ぶ乳頭黄斑束(papillomacularbundle:PMB)は維持され,中心視野は後期まで守られる(図1).その理由は,神経線維束が通過する篩状板孔の大きさが篩状板の上下方向で大きく,鼻側と耳側で小さいことに起因するとされ,篩状板の鼻側と耳側部は,上下側よりも組織的に堅牢であり眼圧による変形をきたしにくいからと考えられている.つまり,主として篩状板の耳側を通るPMBは機械的刺激から保護されやすいと想定されている1).緑内障患者の視野の評価には一般的に静的視野計測が行われるが,臨床で頻用される中心30°や24°の測定点配置は間隔が6°と粗く,中心10°内の測定ポイントも4点しかないため中心視野の正確な評価はむずかしい.このため,中心視野障害が疑われる症例では,測定点配置がより密な中心10°の測定プログラムを選択すべきである(図2).また,初期の症例で30°の視野では一見中心図1ある後期例の視野とOCT所見一般的に緑内障では,網膜神経節細胞複合体(ganglioncellcomplex:GCC)は後期までよく保たれ(矢印),中心視野が維持される.(65)0910-1810/13/\100/頁/JCOPY視野が正常のように見えても,中心10°の測定をすると微細な中心視野障害が検出されるケースもあり注意が必要である(図3).●実際の中心視野障害率中心30°,24°の視野検査において中心感度が正常である症例でも,意外と早い段階で中心10°内の視野に障害が及んでいることも筆者らの調査で明らかになった.視神経乳頭に明らかな緑内障性異常を示す原発開放隅角緑内障眼のうち,Humphrey視野計30-2プログラムで10°内の4点の感度が正常であった対象58症例の,10-2の各クラスター異常率を図4に示す.外側で48.1%と高頻度で障害されているが,真のPMB領域といえる内側のクラスターでも25.0%や32.7%などと障害が検出された.すなわち,中心視野は30-2で正常に見えても実際には早い時期より比較的高い頻度で障害されている可能性が示唆された.C(30-2)C(10-2)図2ある後期例の中心30°と中心10°の視野測定点配置の粗い中心30°の測定では中心視野障害の正確な評価は困難である.あたらしい眼科Vol.30,No.1,201365 視神経乳頭C(30-2)C(10-2)図3ある初期例の視神経乳頭と中心30°と中心10°の視野視神経乳頭は下方辺縁部の菲薄化(矢印)と網膜神経線維層欠損の所見を認めるものの,中心30°の測定では明らかな異常を認めず,初期の中心視野障害を捕捉できていない.48.1%M32.7%13.5%0.0%3.8%0.0%1.9%32.7%25.0%5.8%15202530354045505560302520151050症例数(眼)■:IPFS■:INS図4C(30.2)で中心4点が正常な症例のC(10.2)のクラスターの異常頻度(右眼,M:盲点)視神経乳頭に明らかな緑内障性異常を示す原発開放隅角緑内障眼のうち,Humphrey視野C(30-2)で10°内の4点(黒四角)の感度が正常であった症例のC(10-2)のクラスターが異常を示した頻度を示す.図5IPFS(initialparafovealscotoma)とINS(initialnasalstep)右眼C(24-2).点線内の半視野のみに異常を示した症例を選択し,初期に中心視野障害をきたした症例(initialparafovealscotoma:IPFS)(A)と,鼻側の障害をきたした症例(initialnasalstep)(B)を比較した.(文献2より改変)●初期に中心視野障害をきたす症例の特徴最近の報告によると,初期に中心視野障害をきたす症例(initialparafovealscotoma:IPFS)と,中心より鼻側の障害をきたす症例(initialnasalstep:INS)(図5)66あたらしい眼科Vol.30,No.1,2013無治療時最高眼圧(mmHg)図6IPFS(initialparafovealscotoma)とINS(initialnasalstep)の無治療時最高眼圧IPFS(initialparafovealscotoma)はINS(initialnasalstep)よりも無治療時の眼圧レベルが低い症例が多い.(文献2より改変)を比較すると,無治療時のIPFSの眼圧レベルは21.6±4.5mmHgとINSの28.3±9.6mmHgに比し有意に低く(図6),その他,乳頭出血の発症頻度や,低血圧,片頭痛,Raynaud現象,および睡眠時無呼吸などIPFSの全身的な危険因子を有する頻度はINSより有意に高かった2).これらの事実は,中心視野障害の進行要因として視神経乳頭の血流など眼圧以外の因子の関与が大きいことを示唆しているが,その詳細についてはまだ不明な点が多い.文献1)QuigleyHA,AddicksEM:Regionaldifferencesinthestructureofthelaminacribrosaandtheirrelationtoglaucomatousopticnervedamage.ArchOphthalmol99:137143,19812)ParkSC,DeMoraesCG,TengCCetal:Initialparafovealversusperipheralscotomasinglaucoma:riskfactorsandvisualfieldcharacteristics.Ophthalmology118:17821789,2011(66)