特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1495~1502,2013特集●緑内障性視神経症の鑑別診断あたらしい眼科30(11):1495~1502,2013【総論】視神経形態からみた緑内障性視神経症の鑑別診断DiagnosingGlaucomatousOpticNeuropathyfromtheOpticNerveHead廣岡一行*はじめに緑内障の診断は,視神経の構造変化を検出することが第一であるので,正常視神経乳頭を熟知する必要がある.緑内障性視神経症は表1に挙げるような特徴的な変化を,視神経乳頭とその近傍および網膜神経線維に認める(図1).しかし,これらの所見は緑内障に特異的な変化ではなく,他の視神経症にもみられるため,緑内障,なかでも眼圧および隅角や前眼部に異常を認めない正常眼圧緑内障(NTG)との鑑別に注意を必要とすることがある.緑内障性視神経症と鑑別が必要な疾患として,視神経疾患では虚血性視神経症,Leber病,視神経炎などが,網膜疾患では網膜動脈閉塞症,網膜静脈閉塞症などが挙げられる.本稿では眼底検査,画像解析の視点から緑内障性視神経症と鑑別すべき視神経疾患,眼底疾患について症例を提示しながら概説する.I生理的陥凹拡大乳頭陥凹拡大・リムの菲薄化を認めるもののうち,緑内障と紛らわしいものとして,巨大乳頭であるために相対的な乳頭陥凹拡大を呈する症例がある(図2).視神経乳頭の大きさは約0.8~6mm2までと個人差が大きく,大きな視神経乳頭では生理的陥凹は大きく,小さな乳頭では陥凹が明瞭でない場合が多い.生理的陥凹拡大では,一見緑内障のようにみえるが,視野に異常はみられない.緑内障の初期では垂直の陥凹のほうが大きくなっていくという原則とは異なり,リムは全周に同じように表1緑内障性視神経症に特徴的所見C/D(陥凹乳頭)比が0.7より大きい左右のC/D比の差が0.2より大きい露出血管主幹網膜血管の乳頭鼻側への偏移ラミナドットサインリムがISNTの法則に従わないノッチング網膜神経線維層欠損乳頭出血傍乳頭網脈絡膜萎縮保たれている.また網膜神経線維層欠損も認めない.正常乳頭の陥凹の大きさは乳頭径に比例するため,緑内障性か否かを診断する際には,乳頭の大きさを念頭におきながら評価することが重要である.乳頭径の目安としてDM/DD(乳頭中心と中心窩間距離/乳頭径)比がある.通常この比は2.4~3.0の間であるとされるので,それより小さい場合は大乳頭,大きい場合は小乳頭であると言える.II上方視神経低形成上方視神経低形成(superiorsegmentaloptichypoplasia:SSOH)は先天性の乳頭形態異常である.SSOHは①網膜中心動脈の上鼻側変位,②上鼻側の網膜神経線維層の菲薄化,③上方乳頭周囲の強膜のハロー,④上方視神経乳頭の蒼白,が特徴とされる(図3a).視神経乳頭の上方が欠損することにより,乳頭陥凹が上方*KazuyukiHirooka:香川大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕廣岡一行:〒761-0793香川県木田郡三木町大字池戸1750-1香川大学医学部眼科学講座0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(3)1495abc図1右眼緑内障a:眼底写真.耳下側に網膜神経線維層欠損がみられる(矢印).対応するリムも菲薄化している.b:Humphrey視野.眼底写真の網膜神経線維層欠損の部位に対応した,上方の感度低下がみられる.c:OCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚測定結果.眼底写真と対応する6時から7時の位置で正常眼データベースと比較し菲薄化がみられる(矢印).DMDD↑図2a→図2b1496あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(4)に拡大しているように観察され,緑内障と診断される場合がある.図3aは陥凹が上鼻側に拡大しており,上鼻側のリムの狭小化があり血管も急峻に屈曲している.Goldmann視野計で,網膜神経線維層欠損部と対応した部位に外部イソプターが著明に障害され,緑内障に比べてより周囲に流れた視野欠損を示すことが多い(図3b).光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,網膜神経線維層の菲薄部位の同定の検出に優れており(図3c),またNTGとの鑑別における有用性も報告されている1).40歳以上の日本人におけるSSOHabc図3上方視神経低形成a:眼底写真.上方の広範な網膜神経線維層欠損と上鼻側のリムの菲薄化,網膜中心動脈の上鼻側変位を認める.b:Goldmann視野計.外部イソプターが著明に障害されている.c:上方11,12,1時の部位の乳頭周囲網膜神経線維層厚の菲薄化を認める(矢印).OCTによる本検査は網膜神経線維層厚の菲薄化の範囲を容易に同定できる.の有病率は0.3%と報告されており,決して稀な疾患ではない2).部分低形成は上方だけでなく,下方や鼻側低形成を呈する症例もあるので,注意深い乳頭の形状観察が必要である.III視神経炎抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎は再発を繰り返し,ステロイドパルス治療を行っても視機能回復率は不良で失明率が高い.視野異常の75%は中心暗点であるが,25%に両耳側半盲,非協調性同名半盲,水平半盲←図2巨大乳頭a:眼底写真.DM/DD(乳頭中心と中心窩間距離/乳頭径)比が2.2と乳頭径が比較的大きいために相対的な乳頭陥凹拡大を呈している.b:Humphrey視野.異常を認めない.(5)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131497図4抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎a(上左):発症4年後の左眼眼底写真.上方のリムの蒼白化を認める.b(上右):OCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚測定結果.リムの蒼白部と一致した部位の網膜神経線維層厚の菲薄化を認める(矢印).c(下):HumphreyとGoldmann視野計.水平半盲様視野障害を認める.がみられる3).のがわかる(図5b,c).急性期は自覚症状や眼底所見か図4aは抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の眼底写ら診断は容易であるが,慢性期になると視神経乳頭の色真であるが,上方のリムが蒼白しているのがわかる.調にだけとらわれてしまうと診断を誤る可能性がある.OCTではリムの蒼白している部位に一致して乳頭周囲通常緑内障性視神経症では乳頭蒼白部よりも乳頭陥凹が網膜神経線維層厚の菲薄化を認める(図4b).大きいが,視神経萎縮では乳頭陥凹よりも乳頭蒼白部が図5は右眼の視神経炎(多発性硬化症)である.急性大きくなり,リムが蒼白となるため,リムの色調は緑内期には乳頭は腫脹・発赤を認めるが(図5a),慢性期に障性視神経症と鑑別するうえで重要なポイントである.なるとリムは健眼である左眼に比べてやや蒼白しているリムの蒼白化は94%で緑内障以外の視神経萎縮に特異1498あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(6)aabc図5視神経炎a:急性期の右眼眼底写真.b:発症1年後の右眼眼底写真.c:健眼である左眼眼底写真.的であるが,局所あるいはびまん性のリムの途絶は87%で緑内障に特異的であると報告されている4).またOCTによる乳頭周囲網膜神経線維層厚は,視神経炎の(7)発症直後は厚くなるが,発症後3~6カ月で網膜神経線維層厚は最も薄くなり,以後持続する.IV網膜動脈分枝閉塞症網膜動脈分枝閉塞症の発症直後では,自覚症状や眼底所見から診断は容易であるが,発症から数カ月経つと,網膜内層と視神経の萎縮を残して落ち着くので,そのときに初めて診察をすると,緑内障との鑑別が問題となる場合がある.図6a,bは正常眼圧緑内障疑いにて近医を定期的に受診していたが,視野障害を自覚するようになったため,精査目的で当院紹介受診となった43歳,女性の眼底写真とHumphrey視野計(SITAStandard30-2)の結果である.乳頭陥凹の拡大は認めるものの,リムは比較的均一に全周保たれている.眼底には明らかな網膜神経線維層欠損を認めず,またOCTでも乳頭周囲網膜神経線維層厚の菲薄化は認めない(図6c).Humphrey視野計(30-2)では左眼の固視点下側に暗点があるようだがはっきりしないため(図6b),中心視野10°以内で再度検査を施行した.本症例では眼底との対比をわかりやすくするため眼底視野計を用いて検査を行ったところ感度が低下している部を認め(図6d),その箇所に一致してGCA(GanglionCellAnalysis:網膜神経節細胞層+内網状層)は薄くなっている(図6e).一見するとごく早期の緑内障かと思われるが,GCAで上方と耳上側の厚みのみが他の部位に比べ極端に薄いことに気付く.Heidelberg社のSpectralisで網膜感度が低下している部の断面をみてみると網膜神経節細胞のみならず,網膜内層全体が障害されており(図6f),網膜動脈分枝閉塞症による視野障害と考えられる.この症例のように緑内障かどうか診断に迷ったときは,網膜感度の低下している部の断面をOCTで観察することにより,どの細胞層が障害されているのかがわかり,診断の一助となることがある.V網膜静脈分枝閉塞症網膜静脈分枝閉塞症も網膜動脈分枝閉塞症と同様発症直後は眼底所見から診断は比較的容易であるが,陳旧化すると視神経乳頭近傍での網膜静脈分枝閉塞症では,そあたらしい眼科Vol.30,No.11,20131499→→ab←ca:眼底写真.b:Humphrey視野所見.c:OCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚測定結果.d:眼底視野計.網膜感度の低下を認める(赤丸).e:OCTのGCAプログラム.f:Spectralisによる観察.網膜感度が低下している箇所に一致して網膜内層の障害がみられる(赤丸).図6陳旧性網膜動脈分枝閉塞症の部位にはリムの蒼白化と網膜神経線維層欠損が生じる場合があり,緑内障のようにみえる場合がある.しかし,図7でもわかるように散瞳下で眼底検査を行うと治療後の瘢痕や白鞘化した血管が観察される.逆に言うと,こういった症例では視神経乳頭とその近傍のみの診察では,緑内障と誤って診断してしまう可能性がある.網膜静脈閉塞症と緑内障との関連については,高血圧や糖尿病といった共通の背景による影響や血管系の制御調節機構の異常が網膜血管病変と緑内障の両者の病態に関わっている可能性が示唆されており,両疾患には共通した全身の危険因子や病態が存在する可能性が考えられる.したがって,陳旧性の網膜静脈閉塞症は緑内障の鑑別を要するが,一方で両者が合併した症例も存在することを念頭に置く必要がある.おわりに詳細な病歴の聴取(たとえば突然の視野異常や急激な視力低下といった自覚症状)は緑内障性視神経症とその類似疾患を鑑別するうえで大切である.視神経乳頭が近視性変化や低形成などを伴っている場→図7陳旧性網膜静脈分枝閉塞症a:眼底写真.網膜神経線維層欠損(矢印)を認める.b:OCTの乳頭周囲網膜神経線維層厚測定結果.眼底写真と同部位に網膜神経線維層の菲薄化を認める.1500あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(8)↑d→e→f図6のつづき↑図7a→図7b(9)あたらしい眼科Vol.30,No.11,20131501合,1回の診察で緑内障性視神経症を鑑別することはむずかしい.眼底写真や画像解析装置で記録を残しておくことが大切である.画像解析装置では,視神経乳頭や網膜神経線維層厚を定量的かつ客観的に評価することが可能であるが,視神経乳頭の形態や網膜神経線維層厚には個人差があり,そのため正常眼と緑内障眼の間で測定された数値の重複がみられる.視野結果と眼底所見,さらに画像解析装置で得られた結果に矛盾がないかどうかを検証することが大切である.また一度の診察で診断を下す必要はなく,経過をみていくことも大切であり,疑わしい症例では視野や乳頭所見に変化がみられた時点で再度検討することが望ましい.経過観察中に急速な視野障害の進行を認める場合にはMRI(磁気共鳴画像)で頭蓋内病変を確認することも大切である.1つの疾患にさらに緑内障が合併していることも当然ありうることなので,鑑別診断した疾患にさらに緑内障を合併しているのではないかと疑ってみることも必要である.■用語解説■ISNTの法則:通常リムの一番広い部分は乳頭下方(inferior)であり,ついで上方乳頭(superior),鼻側乳頭(nasal)の順で薄くなり,一番薄いのは耳側乳頭部分(temporal)である.文献1)YamadaM,OhkuboS,HigashideTetal:Differentiationbyimagingofsuperiorsegmentalopticalhypoplasiaandnormal-tensionglaucomawithinferiorvisualfielddefectsonly.JpnJOphthalmol57:25-33,20132)YamamotoT,SatoM,IwaseA:SuperiorsegmentaloptichypoplasiafoundinTajimiEyeHealthCareProjectparticipants.JpnJOphthalmol48:578-583,20043)中尾雄三,山本肇,有村英子ほか:抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎の臨床的特徴.神経眼科25:327-342,20084)TrobeJD,GlaserJS,CassadyJetal:Nonglaucomatousexcavationoftheopticdiscs.ArchOphthalmol98:10461050,19801502あたらしい眼科Vol.30,No.11,2013(10)