屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─監修=木下茂●連載145大橋裕一坪田一男145.フェムトセカンドレーザーによる神谷和孝北里大学医学部眼科近視矯正手術(ReLEx)フェムトセカンドレーザーによる近視矯正手術Refractivelenticuleextraction(ReLEx)は,フラップを作製するFemtosecondlenticuleextraction(FLEx)とフラップを作製しないSmallincisionlenticuleextraction(SMILE)に分類される.初期臨床成績では,安全性・有効性が高く,予測性にも優れており,本来のprolate角膜形状を比較的保持し,球面収差増加が少ない.術式の理論的背景から考えてもポテンシャルが高く,新たな屈折矯正手術の選択肢の一つとして期待される.●ReLExとは?マイクロケラトームを用いた角膜実質除去による近視矯正手術は,1996年にBarraquerらによって開発されたが,十分な精度が得られず,広く臨床応用されるに至らなかった.フェムトセカンドレーザーの登場によって任意の深さや方向で自由自在に角膜組織をアレンジできるようになり,これまで術者の経験や技量に負うところが大きかった眼科手術が少なからず変貌を遂げようとしている.従来LASIK(laserinsitukeratomileusis)におけるフラップ作製に使用されてきたが,現在ではさまざまな角膜移植,角膜内リング,老視矯正から白内障手術にまで適応が拡大している.屈折矯正手術分野においては,エキシマレーザーを使用せず,角膜実質の一部をレンチクルとして抜去する屈折矯正手術Refractivelenticuleextraction(ReLEx)が開発されている.ReLExは,Femtosecondlenticuleextraction(FLEx)およびその亜型であるSmallincisionlenticuleextrac-tion(SMILE)の総称として用いられており,CarlZeissMeditec社のフェムトセカンドレーザーVisuMaxTMを使用して行う.●Femtosecondlenticuleextraction(FLEx)まず,フェムトセカンドレーザーを用いてフラップとレンチクル作製のベースとなる切開を行う(図1).つぎに,フラップ辺縁からスパーテルを用いてフラップを鈍的に.離する.その後,レンチクル後面も同様にして.離し,鑷子によりレンチクルを抜去する(図2).最後に,LASIKと同様に洗浄を行いフラップの接着を確認して手術を終了する.LASIKと異なり,①エキシマレーザーを必要とせず患者の移動が不要,②手術室の室内環境に影響を受けにくい,③レーザー照射による個体差の(71)図1ReLExフェムトセカンドレーザーを用いてフラップとレンチクル作製のベースとなる角膜切開を行う.図2FLExレンチクル後面も同様に.離し,鑷子によりレンチクルを引き.がす.ある角膜創傷治癒反応の影響を受けにくい,④眼球運動の影響や周辺部レーザー照射効率の悪化がなく,眼球高次収差への影響が少ない,⑤しかもその変化が矯正量に依存しない,ことがメリットとして考えられる.2006年にBlumやSekundoらのグループにより,最初のReLExの臨床試験は弱視眼を対象として開始された.その後2008年にSekundoらは,近視および近視性乱視(術前等価球面度数.4.73±1.48D)を有する10例10眼を対象として,術後6カ月までの初期臨床成績を報告している1).その結果,達成矯正度数が予測矯正度数の±0.5D以内が40%,±1.0D以内が90%であり,2段階以上の視力低下を認めた症例はなかったとしている.つぎに,角膜形状と眼球球面収差の変化に注目したい.通常,LASIKに代表されるエキシマレーザー屈折矯正手術は,矯正量に依存して角膜がprolateからあたらしい眼科Vol.29,No.6,20127930910-1810/12/\100/頁/JCOPYoblate形状へと変化し,高次収差が増加することが知られているが,本手術では,周辺部角膜レーザー照射効率の悪化に伴うoblate化がなく,優れた眼球光学特性が維持可能と考えられる.コントラスト感度については検討されていないが,高次収差については,瞳孔径5mmにおける全収差が0.18±0.07μmから0.21±0.09μmへ,コマ収差が0.09±0.05μmから0.14±0.09μmへ,球面収差が0.08±0.08μmから0.06±0.08μmへといずれも有意な変化を認めず,矯正量にも依存しないと報告している.2010年Blumらは,近視および近視性乱視(術前等価球面度数.4.59±1.3D)を有する56例107眼を対象として,達成矯正度数が予測矯正度数の±0.5D以内が74.8%,±1.0D以内が98.1%,屈折安定性も良好であり,97.1%の患者満足度が得られたと報告している2).術後合併症としては,一過性上皮下混濁(術後1週以内)が20.3%に,Diffuselamellarkeratitis(DLK)が0.9%に,周辺部におけるmicrostriaeが15.7%に,それぞれ認められたものの全例経過とともに軽快したとしている.さらに,Blumらは,近視性乱視31例62眼を対象として,術後1年の臨床成績も報告しており,平均裸眼視力が術前0.12から術後1.10へと改善し,術後6カ月以降の屈折安定性も良好であった3).北里大学病院においても倫理委員会の承認を得て,国内初となるFLExを2010年10月から開始しており,優れた初期臨床成績が得られている(神谷ら,第65回日本臨床眼科学会発表).ただし,LASIKに比較して術後早期の裸眼視力の回復がやや遅い傾向があり,現在ではエネルギー設定や術後投薬の見直しを行って,早期回復が得られている.●Smallincisionlenticuleextraction(SMILE)SMILEはFLExをさらに改良した術式であり,フラップそのものを作製しない.したがって,角膜に対する侵襲はより少ないであろうと考えられる.まず,フラップに該当する辺縁に弧状切開を加え,FLExと同様にしてスパーテルを用いてレンチクル前面と後面を鈍的に.離する.その後,鑷子を用いて遊離したレンチクルを切開創より引き抜いて,最後に創間を洗浄して手術を終了する(図3).FLExと比較してもフラップ作製に伴う角膜生体力学特性の低下やドライアイも起こりにくいことが理論的に期待されている.2011年Sekundoらは,48例91眼に対してSMILEを施行したところ,術後6カ月の時点での達成屈折度数が予測屈折度数の±0.5D以内が80.2%,±1.0D以内が95.6%であり,FLExと794あたらしい眼科Vol.29,No.6,2012図3SMILE約60°の弧状切開創より遊離したレンチクルを引き抜く.同様にして高次収差の増加は少なく,93.7%の患者満足度が得られたと報告している4).Shahらは,41例51眼に対してSMILEを施行し,術前屈折度数が.4.87±2.16Dから術後6カ月の時点で+0.03±0.30Dへと改善し,予測屈折度数の±0.5D以内が91%,±1.0D以内が100%,裸眼視力0.8以上の割合が79%であったとしている5).いずれの結果もノモグラムを使用せずに得られたものである.FLExと比較してドライアイの自覚・他覚的所見が有意に少ない点や予測性がわずかながらも良好である点に注目したい.フェムトセカンドレーザーを用いてどんなに正確にフラップを作ったとしても,フラップ作製そのものが屈折安定性やオキュラーサーフェスに何らかの影響を与えるリスクファクターとなり得るのかもしれない.自験例による検討でも,術後疼痛が有意に低下し,オキュラーサーフェスへの影響も少ないことが明らかになっている.従来の角膜屈折矯正手術と異なり,本術式はフラップレスサージェリーとしてのアドバンテージがあり,今後の普及が期待される.文献1)SekundoW,KunertK,RussmannCetal:Firstefficacyandsafetystudyoffemtosecondlenticuleextractionforthecorrectionofmyopia:six-monthresults.JCataractRefractSurg34:1513-1520,20082)BlumM,KunertK,SchroderMetal:Femtosecondlenticuleextractionforthecorrectionofmyopia:preliminary6-monthresults.GraefesArchClinExpOphthalmol248:1019-1027,20103)BlumM,KunertKS,EngelbrechtCetal:Femtosecondlenticuleextraction(FLEx)─Resultsafter12monthsinmyopicastigmatism.KlinMonblAugenheilkd227:961965,20104)SekundoW,KunertKS,BlumM:Smallincisioncornealrefractivesurgeryusingthesmallincisionlenticuleextraction(SMILE)procedureforthecorrectionofmyopiaandmyopicastigmatism:resultsofa6monthprospectivestudy.BrJOphthalmol95:335-339,20115)ShahR,ShahS,SenguptaS:Resultsofsmallincisionlenticuleextraction:All-in-onefemtosecondlaserrefractivesurgery.JCataractRefractSurg37:127-137,2011(72)