特集●角膜診療MinimumRequirementsあたらしい眼科31(3):347.352,2014特集●角膜診療MinimumRequirementsあたらしい眼科31(3):347.352,2014角膜浮腫をみたらDiagnosticandTherapeuticStrategyforCornealEdema小泉範子*I角膜浮腫とは角膜全体の厚みのおよそ90%を占める角膜実質は,コラーゲンとプロテオグリカンからなる組織であり,水分を吸収して膨潤しやすい性質を持つ.角膜内皮細胞はイオンの能動輸送によるポンプ機能と,タイトジャンクションやギャップジャンクションによるバリア機能を持つことによって,角膜実質の含水率を一定に保つ役割を果たしている(図1).正常角膜では,角膜実質の膨潤圧と眼圧の差(吸水圧)を角膜内皮機能によって補うことができるため,角膜厚が一定に保たれ,角膜の透明性を維持することができる.このバランスが崩れて,角膜実質層あるいは上皮層に過剰な水分がたまり,組織の肥厚と透明性の低下を生じた状態が角膜浮腫である.II角膜浮腫の種類角膜浮腫には,上皮浮腫と実質浮腫がある.上皮浮腫では,角膜上皮細胞間や細胞内,上皮細胞の下に水疱が認められる.細隙灯顕微鏡による観察では,徹照法やスクレラル・スキャタリングなどの手法を用いると角膜上皮浮腫の範囲を明瞭に捉えることができる(図2左).角膜上皮内の小水疱はフルオレセイン染色で点状の染色パターンを示すため点状表層角膜症との鑑別が必要である(図2右).Microcystが癒合すると水疱(bulla)を形成する.水疱を伴う上皮浮腫では,上皮びらんを生じて眼表面の炎症や痛みを伴うことが多い.実質浮腫では角角膜上皮角膜実質角膜内皮バリアポンプ図1角膜内皮細胞の機能膜実質が膨潤して厚くなり,Descemet膜皺襞を伴う(図3).円板状角膜炎や角膜内皮炎などの炎症性疾患による角膜浮腫では,細隙灯顕微鏡で角膜後面沈着物や前房内炎症細胞を認めることがある.実質浮腫の診断と定量には,超音波パキメータや前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)などを用いて角膜厚を測定する.角膜内皮機能を評価するために角膜内皮スペキュラー検査が有用であるが,すでに角膜浮腫を生じている症例では撮影できないことが多い.III角膜浮腫と眼圧一般的に眼圧が正常で角膜内皮機能が障害された水疱性角膜症では,実質浮腫と上皮浮腫の両方が認められる.一方,角膜内皮機能が正常であっても,眼圧が極端に高くなると上皮浮腫を生じる.急性緑内障発作ではび*NorikoKoizumi:同志社大学生命医科学部医工学科〔別刷請求先〕小泉範子:〒610-0321京田辺市多々羅都谷1-3同志社大学生命医科学部医工学科0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(43)347★★★★★★★★図2角膜上皮浮腫角膜上皮浮腫のため角膜がすりガラス状に混濁している(左).フルオレセイン染色では小水疱(矢印)や,水疱(星印)に特有の染色パターンが認められる(右).図3角膜実質浮腫角膜実質の肥厚によるDescemet膜皺襞を認める.まん性の角膜上皮浮腫を生じて角膜が混濁するが,実質浮腫は伴わないことが特徴である.眼球癆による低眼圧では上皮浮腫は生じず,実質浮腫のみを生じる.IV角膜浮腫をきたす代表的な疾患1.急性緑内障発作角膜内皮機能が正常でも,約50mmHgを超える高眼圧では前房からの水圧が高いために角膜組織に水分が移動する.上皮バリアがあるために角膜上皮層内に水が貯留して上皮浮腫を生じるが,前房からの水圧が実質の膨潤圧よりも高くなるために実質浮腫は生じない.速やかに眼圧下降のための治療を行う.2.コンタクトレンズによる急性上皮浮腫酸素透過性の低いハードレンズやソフトレンズの長時間装用や固着により,急激な酸素不足による角膜上皮浮腫を生じることがある.激しい疼痛や羞明,流涙,視力低下を生じ,スリットランプでは上皮浮腫と上皮細胞のタイトジャンクションの障害によるフルオレセインの透過性亢進を認める.角膜全体がフルオレセインに染色されるため,全上皮欠損と見間違うことがあるが上皮は脱落していない.コンタクトレンズの装用中止により数日間で改善する場合が多い.低濃度ステロイド薬を使用すると速やかに浮腫と自覚症状の改善が得られるが,角膜感染症を合併している場合にはステロイド薬の使用は禁忌であり見きわめが重要である.3.水疱性角膜症角膜内皮障害による角膜浮腫を水疱性角膜症とよぶ.上皮浮腫と実質浮腫の両方を認める.原因は多岐にわたるが,ジストロフィ,内眼手術や外傷,炎症によるものがあり,代表的な疾患を以下に説明する.根本的な治療法はドナー角膜を用いるDSAEK(Descemet’sstrippingautomatedendothelialkeratoplasty)などの角膜内皮移植術である.実質混濁を伴う水疱性角膜症では全層角膜移植術を行う.348あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(44)図4Fuchs角膜内皮ジストロフィ角膜中央部に実質および上皮浮腫を生じている.4.Fuchs角膜内皮ジストロフィFuchs角膜内皮ジストロフィは角膜内皮細胞が異常コラーゲンなどからなる細胞外マトリクスを過剰に産生し,Descemet膜の肥厚と滴状角膜(guttata)を生じる疾患である.Guttataは角膜内皮細胞にストレスがかかったときに生じる所見といわれており,健常眼や外傷後の角膜内皮障害などで認められることがある.Fuchs角膜内皮ジストロフィでは,両眼性にguttataを認め,進行すると角膜浮腫を生じて視力低下をきたす(図4,5).初期には朝方の視力低下を自覚し,上皮浮腫,実質浮腫を生じると急激な視力低下を自覚する.進行すると角膜上皮下,表層実質に瘢痕性の角膜混濁を生じることがある.欧米では40歳以上の3.5%が罹患していると報告されており,DSAEKやDMEK(Descemet’smembraneendothelialkeratoplasty)などの角膜内皮移植術の主要な原因疾患である.COL8A2,SLC4A11,ZEB1,TCF4などの遺伝子変異が関与することが報告されている.欧米に比べると頻度は低いが,日本でもかなりの患者数がいると推測されている.5.レーザー虹彩切開術後緑内障発作の解除あるいは予防を目的としたレーザー虹彩切開術(LI)の晩期合併症として角膜内皮障害を生じることがあり,角膜実質および上皮浮腫を生じる(図6).日本における全国調査では,角膜移植を行った水疱(45)図5滴状角膜(guttata)Fuchs角膜内皮ジストロフィ患者のスリットランプ所見とスペキュラーマイクロスコープ写真.図6レーザー虹彩切開術後の角膜浮腫上方に虹彩切開がされているが下方から角膜浮腫が進行し,Descemet膜皺襞を認める.性角膜症のなかで,LI後の水疱性角膜症は23.4%を占めることが報告されている1).また本疾患は,欧米では問題になることは少なく,アジア,なかでも日本で特に多い疾患であるとされる2).LI施行後6.7年で角膜浮腫を生じる症例が多いとされる.角膜浮腫のパターンはさまざまで,LI施行部位の角膜上方から,あるいは下方から局所的に浮腫が発症し,経過とともに角膜全体に及ぶ場合が多い.治療はDSAEKなどの角膜内皮移植を行う.6.内眼手術後白内障などの内眼手術によって角膜内皮細胞が障害さあたらしい眼科Vol.31,No.3,2014349れることがある.通常の手術では術中に多少の角膜内皮細胞が脱落しても問題となることはないが,角膜内皮疾患や多重手術の既往により,術前から角膜内皮細胞が減少している症例では術後に角膜浮腫を生じることがある.角膜内皮細胞が手術によって部分的に欠損すると周囲の内皮細胞が拡大,伸展して欠損部を修復するため,角膜内皮密度が保たれれば角膜浮腫は消失する.一方で,角膜内皮密度が約500個/mm2以下になると,不可逆性の角膜内皮機能不全となり水疱性角膜症となる.治療はDSAEKなどの角膜内皮移植を行う.白内障手術後の水疱性角膜症は日本における水疱性角膜症の4割以上を占め,原因疾患の第一位であると報告されている1).7.後部多形性角膜ジストロフィ後部多形性角膜ジストロフィ(posteriorpolymorphouscornealdystrophy:PPCD)は,角膜内皮細胞が分化異常により上皮細胞様に変化し,帯状や水疱様,あるいはびまん性の角膜内皮面の混濁を生じる疾患である.症例の多くは両眼性であり,内皮細胞密度が正常のものから低下するものもある.通常は無症状であり進行もきわめて緩徐であるが,変性が高度な場合には角膜浮腫による視力低下を自覚する.周辺虹彩前癒着や眼圧上昇をきたす場合があり,緑内障に注意する.無症状の場合は経過観察でよいが,角膜浮腫が進行して水疱性角膜症となった場合には角膜内皮移植の適応がある.常染色体優性遺伝であり,原因遺伝子としてVSX-1,COL8LA2,TCF8が同定されている.8.先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ生下時から両眼性の水疱性角膜症を生じる疾患として,先天性遺伝性角膜内皮ジストロフィ(congenitalhereditaryendothelialdystrophy:CHED)がある.胎生期の角膜内皮の変性あるいは欠損によるとされ,Descemet膜の肥厚と角膜内皮機能不全による実質浮腫,上皮浮腫を生じる.血管侵入はなく眼圧は正常である.生後2,3年以内に発症し,ゆっくり進行する常染色体優性遺伝のタイプ(CHED1)と,生下時より角膜混濁があり視力予後が不良な常染色体劣性遺伝のタイプ(CHED2)があり,CHED2ではSLC4A11遺伝子の変350あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014異が報告されている.また近年,CHED1とPPCDの相同性が議論されている.9.円板状角膜炎単純ヘルペスウイルスによる角膜実質炎でみられる.表層から中層に及ぶ角膜実質の浮腫と細胞浸潤,混濁を生じる.また病変部に一致して角膜後面沈着物を生じることが特徴である.immunering(免疫輪)を伴うことがある(図7).上皮型ヘルペスの経過中に発症する場合と,実質病変のみを生じる場合がある.表層実質へのウイルス抗原の沈着に対するIV型アレルギー反応と考えられており,抗ヘルペスウイルス薬とステロイド薬を併用した治療が必要である.進行すると角膜組織の壊死による強い混濁と,血管侵入を伴う壊死性角膜炎に移行することがある.壊死性角膜炎の治療後の瘢痕性角膜混濁に対しては,全層角膜移植術が行われるが,移植後のヘルペス性角膜炎の再燃に注意が必要である.10.ウイルス性角膜内皮炎角膜内皮炎は,角膜内皮をターゲットとした炎症により,限局性の角膜浮腫と角膜後面沈着物を生じる疾患であり,進行性の角膜内皮障害を生じる(図8).単純ヘルペスウイルスがおもな原因とされているが,水痘・帯状疱疹ウイルスやムンプス感染症でも生じることがある.近年,サイトメガロウイルスによる角膜内皮炎が日本やシンガポールなどのアジア諸国から報告され注目されている3).角膜内皮炎では,円板状角膜炎とは異なり角膜実質への細胞浸潤を伴わない.円形に配列する角膜後面沈着物様の病変(コインリージョン)や拒絶反応線様の角膜後面沈着物が特徴的であり,再発性の虹彩毛様体炎,眼圧上昇を伴う症例では,サイトメガロウイルス角膜内皮炎が疑われる.診断には前房水を用いたウイルスPCR(polymerasechainreaction)が有用で,抗ウイルス薬とステロイド薬の併用療法を行う.11.急性水腫円錐角膜の進行により,角膜中央からやや下方が突出してDescemet膜が断裂することがある.Descemet膜の断裂部位から流入した前房水が角膜実質に貯留するこ(46)図7円板状角膜炎実質浮腫と上皮浮腫を認め,実質内に細胞浸潤が認められる.免疫輪(immunering)を伴う.図8ウイルス性角膜内皮炎周辺部から角膜中央へ向かう進行性の実質浮腫と上皮浮腫,コインリージョンを伴う角膜後面沈着物を認める.眼圧上昇,再発性虹彩毛様体炎の既往があり,前房水からサイトメガロウイルスDNAが検出された.とにより著明な角膜実質浮腫と,急激な視力低下を生じる(図9).圧迫眼帯と感染予防のための抗菌薬眼軟膏の点入を行う.数カ月で徐々に浮腫の軽減が得られる.瘢痕性の角膜混濁が残る場合が多いが,混濁が瞳孔領にかからなければハードコンタクトレンズの装用により良好な視力が得られる.下方周辺部の角膜が菲薄化するペルーシド角膜変性でも急性水腫を生じることがある.12.内皮型拒絶反応角膜移植後の拒絶反応で臨床的に最も重要なものは,角膜内皮細胞に対する拒絶反応である.再移植眼や血管(47)図9急性角膜水腫Descemet膜断裂により著明な実質浮腫と上皮浮腫を生じる.侵入を伴う症例などは拒絶反応を生じやすい.臨床的には拒絶反応線(Khodadoust線)とよばれる線状に配列する角膜後面沈着物を伴って周辺部から角膜中央に向かう角膜浮腫を伴う典型例と,多数の角膜後面沈着物がびまん性に生じる例がある.早期にステロイド薬および免疫抑制薬による集中的な治療を行うことにより角膜内皮細胞障害の拡大を防ぐことができれば,移植片の透明性を維持することができるが,角膜内皮細胞の脱落が広範囲に及んだ場合には不可逆性の角膜浮腫と混濁を伴う移植片不全となる.あたらしい眼科Vol.31,No.3,201435113.分娩時外傷鉗子分娩などにより出生時にDescemet膜破裂を生じることがある.片眼性で左眼に多く,垂直からやや斜め方向に走行する帯状のDescemet膜破裂と病変部に一致した角膜浮腫を認める.軽症の場合は出生後しばらくの間に浮腫が消失することもあるが,浮腫が遷延し水疱性角膜症となる症例もある.V治療円板状角膜炎や角膜内皮炎などのウイルス感染症による角膜浮腫に対しては,抗ヘルペスウイルス薬とステロイド薬を併用した治療を行う.角膜内皮炎では原因ウイルスの同定に前房水を用いたウイルスPCRが有用である.治療が奏効すれば角膜浮腫は消失するが,角膜内皮障害が高度な場合には不可逆性の水疱性角膜症となる.水疱性角膜症に対する根本治療はドナー角膜を用いた角膜移植であり,実質混濁のない症例ではDSAEKやDMEKなどの角膜内皮移植の適応である.初期の角膜内皮障害では,朝方に角膜浮腫が強くかすみや視力低下を自覚することがある.対症療法として5%食塩軟膏の眠前使用や,日中に5%食塩水を点眼することにより浮腫が軽減して自覚症状が改善されることがある.水疱性角膜症による上皮接着不良を伴う症例では,抗菌薬の眼軟膏と低濃度ステロイド点眼薬を使用することにより上皮びらんによる疼痛と炎症を予防する.近年,角膜内皮細胞を増殖させる点眼治療や培養角膜内皮細胞移植による再生医療の研究が行われており,角膜浮腫に対する新しい治療法の開発が期待される4).文献1)ShimazakiJ,AmanoS,UnoTetal:NationalsurveyonbullouskeratopathyinJapan.Cornea26:274-278,20072)AngLP,HigashiharaH,SotozonoCetal:Argonlaseriridotomy-inducedbullouskeratopathyagrowingprobleminJapan.BrJOphthalmol91:1613-1615,20073)*KoizumiN,*SuzukiT,UnoTetal(*co-firstauthors):Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology115:292-297,20084)KoizumiN,OkumuraN,UenoMetal:Rho-associatedkinaseinhibitoreyedroptreatmentasapossiblemedicaltreatmentforFuchscornealdystrophy.Cornea32:11671170,20135)OkumuraN,KoizumiN,KayPEetal:TheROCKinhibitoreyedropacceleratescornealendotheliumwoundhealing.InvestOphthalmolVisSci54:2439-2502,2013352あたらしい眼科Vol.31,No.3,2014(48)