第154回◆眼科医のための先端医療a0.5e/104M-1眼科領域におけるイリジウム錯体を利用したイメージングを目指して向井亮(群馬大学医学部眼科学講座)はじめにイリジウム錯体(iridiumcomplex)は,腫瘍領域における腫瘍細胞のイメージングを目指して開発されてきたSNNIrSOOCH3H3CbIntensity(arbitaryunit)-111化合物です1).そのイメージングの基本原理は,低酸素状態でのみリン光を発しエネルギー状態を変遷させることができるイリジウム錯体の性質を利用したものです.腫瘍細胞では,著明な低酸素環境が生じていることが知られており,その結果,低酸素に対する生体応答であるcm0.500HIF-1aを介した転写因子により調節される系が働き,VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)やGlut-1などの標的遺伝子が誘導されます.従来のイメージングではこれらの因子をターゲットにし,ラジオアイソトープを用いた基材,PET(positronemissiontomography)による検出を目指した低酸素細胞の検出方法が開発されてきました.一方,イリジウム錯体を用いた低酸素領域の検出は,リン光の出現をイメージングする方法であり,従来の方法に比べ,安全に基材を調整することが可400500600700Wavelength/nmす3).眼灌流量の低下により網膜組織での酸素分圧の減弱がもたらされることが予想されますが,現在の一般検査機器では網膜内の低酸素状態をリアルタイムで検出することはできません.能です.また,検出器械の設備が簡素化するために,大変大きなメリットが見込まれます.今回,筆者らはこのイリジウム錯体を用いて,眼科領イリジウム錯体を用いた眼内のイメージングを行う実域における虚血性疾患での眼底イメージングの実現を目際のプロセスは,イリジウム錯体の静脈内投与を行い,指した基礎実験について紹介させていただきます.その後,眼底自発蛍光(fundus:FAF)のカメラを用い,500.600nmの励起光を用いて眼内を撮影する,という簡便な方法です.イリジウム錯体を投与前にFAFカ眼科領域における虚血性疾患としては,網膜動脈閉塞症を始め,網膜静脈閉塞症,糖尿病網膜症,未熟児網膜症,虚血性視神経症,眼虚血症候群などが,そして脈絡膜レベルでの虚血が関与する疾患として加齢黄斑変性などがあげられます.糖尿病網膜症においては,レーザードップラーの方法により,網膜動脈の血流が低下することが報告されています2).眼内への全血流量が低下する疾患がある一方で,網膜動脈分枝閉塞症では眼内の局所での網膜血流の減弱が生じていることが報告されていま(65)0910-1810/13/\100/頁/JCOPYメラにて撮影した像が図2であり,イリジウム錯体が励起されているのがわかります.その後静脈内投与を行い,眼底を撮影することで,血管内に広がるイリジウム錯体をFAFカメラにて検出することが可能です.図3は正常家兎に対しイリジウム錯体の静脈内投与を行い数分後に眼底を撮影したものです.血管内と一部硝子体内に播種しているのがわかります.現在,筆者らは網膜血管の灌流領域内に虚血状態を作製し,その部位での低酸素状態に関しイリジウム錯体をあたらしい眼科Vol.30,No.10,20131409用いて検討しております.眼科領域での虚血性動物実験モデル作製には,網膜血管を直接に光凝固する方法4),眼動脈を直接遮断する方法5)がありますが,現在,筆者らは前者の方法を利用して,眼虚血モデルを作製したうえでイリジウム錯体を静脈内投与し,その後低酸素領域にあるイリジウム錯体から放射されるリン光をFAFカメラにより検出することを試みています.現在までのところ,日本白色家兎を用い網膜血管の直接光凝固を行い,その翌日にイリジウム錯体を耳静脈から投与し,FAFカメラにて眼底撮影を行ったところ,レーザー領域に一致した部位で,眼底自発蛍光の増強が確認されています.図3正常家兎にイリジウム錯体を静注し眼底自発蛍光カメラにて観察した眼底像文献1)ZhangS,HosakaM,YoshiharaTetal:Phosphorescentlight-emittingiridiumcomplexesserveasahypoxia-sens-ingprobefortumorimaginginlivinganimals.CancerRes70:4490-4498,20102)NagaokaT,SatoE,TakahashiAetal:Impairedretinalcirculationinpatientswithtype2diabetesmellitus:reti-nallaserdopplervelocimetrystudy.InvestOphthalmolVisSci51:6729-6734,20103)大前恒明,高橋淳士,長岡泰司ほか:【症例】網膜動脈循環動態変化を測定した網膜動脈分枝閉塞症の1例.日眼会誌113:800-807,20094)HillDW,YoungS:Retinalvascularocclusioninthecatbyphotocoagulation:trialofanewinstrument.ExpEyeRes16:467-473,19735)FujinoT,HamasakiDI:Theeffectofoccludingthereti-nalandchoroidalcirculationsontheelectroretinogramofmonkeys.JPhysiol180:837-844,1965■「眼科領域におけるイリジウム錯体を利用したイメージングを目指して」を読んで■今回は向井亮先生(群馬大学眼科)の意欲的な眼行うことにより,リアルタイムに網膜が低酸素状態に科検査法開発についての解説です.網膜の虚血によりあるかどうかを臨床的に調べることができる可能性を多くの疾患,糖尿病網膜症,網膜静脈閉塞症などが発示したことに大きな意義があります.今後,ヒトに投症することはよく知られ,虚血網膜から産生される血与することのできる安全で有効な検査薬が開発されれ管内皮増殖因子(VEGF)が網膜血管バリアー機能障ば,いままで困難であった直接的な網膜の低酸素状態害や血管新生を引き起こす分子病態が明らかになってを検出することができるようになります.きているのは,眼科医の常識になりつつあります.網現在の網膜循環障害に対する治療法開発のトピック膜の虚血を調べる臨床検査は,実は「網膜が低酸素状スは抗VEGF薬の開発です.今後,糖尿病網膜症の態にあるか?」を調べているのではなく血流が低下し特に黄斑浮腫や網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫の治療ている状態を調べています.向井先生のユニークな研薬として期待されている抗VEGF薬の大きな問題は,究は,イリジウム錯体を用いた眼内のイメージングをどのような症例にどのようなプロトコールで投与する1410あたらしい眼科Vol.30,No.10,2013(66)かという問題を臨床検査をもとにエビデンスをもって清水弘一教授,岸章治教授と続く網膜疾患研究の解決することです.網膜が現時点で低酸素状態にあるメッカであり,このような教室から新しい網膜疾患検ことが明確に示されれば治療法決定に大きな助けとな査法が開発されることは偶然ではなく大きな意義を有ります.また,治療ターゲットを低酸素状態にするこすると考えます.この研究がぜひ,臨床現場で使用可とで新しい発想の治療薬の開発が進むかもしれませ能な検査法として確立されることを願ってやみません.ん.今回の向井先生の所属しておられる群馬大学眼科は山形大学医学部眼科山下英俊☆☆☆(67)あたらしい眼科Vol.30,No.10,20131411