眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎325.水晶体.内前房内フラッシュ法松浦一貴野島病院眼科前房内の予定最終濃度に希釈したモキシフロキサシンを用いて前房内を全置換し,眼内レンズ裏を含む水晶体.内も意識的に灌流するフラッシュ法を紹介する.耐性菌を含む眼内炎起因菌の最小発育阻止濃度を凌駕する濃度の抗菌薬の安定した投与が可能である.欧州を中心に白内障術後感染予防を目的とした前房内投与が一般的となっている1).筆者らは,水晶体.内前房内フラッシュ法(以下,フラッシュ法)2)による前房内投与を行っており,その特長を述べる.手術終了時の前房内には10.40%に細菌が存在するといわれているが,前房内には生理的・免疫的な抗菌作用があるため意外と感染が成立しにくいとされる.一方,眼内レンズ(IOL)裏や水晶体.赤道部などに閉じ込められ前房と隔離された細菌は,強毒菌であれば硝子体に波及し急性眼内炎の原因となるし,弱毒菌であれば長く.内にとどまり晩期感染をひき起こす.そこで感染予防のためには術中のIOL裏の洗浄が重要となるが,筆者らは粘弾性物質(OVD)除去の際にI/A(irrigation/aspiration)チップをIOL裏に挿入してもIOLタッピングを行っても,必ずしも十分な.内洗浄が行われていないことを示した3).IOLと後.は術後早期から密着しているため,術中にこのエリアに細菌が取り残された場合に菌の排出が行われず,十分な薬液の到達も望めない.すなわち,IOL裏は術中に洗浄および投薬図1前房内を全置換し,IOL裏を含む水晶体.内も意識的に灌流するフラッシュ法水を噴出しながらサイドポートより挿入し,前房内を数秒フラッシュする(a,b).反対側もしくはサイドのレンズエッジを持ち上げてIOL裏にも水流を回す(c).さらに前房内を数秒フラッシュし水を出しながらサイドポートより針を引き抜く(d,e).abcdeされる必要があるといえる.欧米で一般化している前房内投与法は高濃度セフロキシムの少量(0.1ml)投与である.これに対して,筆者らは前房内の予定最終濃度に希釈したモキシフロキサシンを用いてIOL裏を含む水晶体.内前房内を灌流し全置換する投与方法を採用している(図1).前房内に注入された灌流液は.内にも灌流するイメージがあるが,必ずしもそうではない.摘出豚眼の前房内にコンデンスミルクを注入したのち,前房内のみを灌流する実験を行ったが,前房圧によってCCC(continuouscurvilinearcapsulorrhexis)はIOLに押し付けられて閉鎖するため.内は灌流されなかった(図2).このため.内の十分な洗浄および投薬のためにはIOLエッジを持ち上げて意図的にIOL裏に薬液を灌流させる必要があった.フラッシュ法を用いれば,仮に手術終了時の前房内が汚染されていたとしても約20秒の注入で前房内がほぼ全置換されることがわかっている2).さらに少量投与法に比べて安定した濃度が得られる利点もある.(57)あたらしい眼科Vol.30,No.9,201312570910-1810/13/\100/頁/JCOPYaabdeセフロキシムは腸球菌に効果をもたず,また時間依存性の薬剤であるため薬液のターンオーバーの速い前房内には適しているとは言い難い.一方,モキシフロキサシンやレボフロキサシンなどのフルオロキノロンは濃度依存性であり,2時間程度有効濃度を保つことができれば効果があるとされている4).筆者らはハイドロダイセクションなどすべての操作を5mlシリンジに取り分けたモキシフロキサシン希釈液で行っている.わが国では大鹿らもレボフロキサシン希釈液を用いてハイドロダイセクションや手術終了時の前房形成,ハイドレーションを行っていると報告している.点眼や内服などによる投与は前房内への吸収や移行という生理的な制約を受けるが,前房内に直接投与する方法であれば術者の任意の前房内濃度を実現することが可能である.MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)を含む眼内炎起因菌の最小発育阻止濃度を凌駕する濃度の抗菌薬の投与を安定して行うことが可能であるフラッcf図2摘出豚眼にコンデンスミルクを注入したのち前房内のみを灌流する方法前房内に迷入した泡を通してIOL裏が観察可能であった(a).前房内のミルクは希釈されていくが,IOL裏の皺の中に取り残されたミルクは.内に隔離されており,希釈・排出されない(b,c).サイドのレンズエッジを持ち上げて意図的にIOL裏にも水流を回すことで初めてミルクは希釈洗浄される(d,e).シュ法による前房内投与は,術後感染予防の切り札となりうる手法である.文献1)FrilingE,LundstromM,SteneviUetal:Six-yearincidenceofendophthalmitisaftercataractsurgery:Swedishnationalstudy.JCataractRefractSurg39:1521,20132)MatsuuraK,SutoC,AkuraJetal:Bagandchamberflushing:anewmethodofusingintracameralmoxifloxacintoirrigatetheanteriorchamberandtheareabehindtheintraocularlens.GraefesArchOphthalmol251:81-87,20133)松浦一貴,三好輝行,吉田博則ほか:水晶体.と眼内レンズは密着している.IOL&RS27:63-66,20134)O’BrienTP,ArshinoffSA,MahFS:Perspectivesonantibioticsforpostoperativeendophthalmitisprophylaxis:potentialroleofmoxifloxacin.JCataractRefractSurg33:1790-1800,2007