特集●眼とブルーライト,体内時計あたらしい眼科31(2):175.182,2014特集●眼とブルーライト,体内時計あたらしい眼科31(2):175.182,2014ブルーライトによる網膜障害RetinalDamagebyBlueLight谷戸正樹*はじめに視覚は,視細胞外節膜上に局在する視物質(オプシン)内のレチナールが光子により構造変化をきたすことを起点としている.網膜は,光を感受することを役割とする組織であるため,光曝露を避けることができない.急性あるいは慢性の光曝露により,網膜のなかでも視物質の代謝(視サイクル)に関連する視細胞と網膜色素上皮細胞の機能低下が引き起こされる可能性が指摘されている.また,光線の波長特性から,可視光線のなかでも波長の短いブルーライトと網膜疾患の関係が推測されている.I光による網膜障害と光線波長電磁波のなかで,波長400(380).800nmの光線は,網膜に到達し,視覚情報の源として利用されることから,可視光線といわれる(図1).可視光線より波長の短い紫外線(UV)のうち,UVB(290.320nm)の波長域は角膜で,UVA(320.400nm)の波長域は水晶体で吸収されるため,ヒトの眼では網膜へは到達せず,また,視覚情報として利用されない.可視光線より波長の長い赤外線も水晶体で吸収される.幼若サル眼における急性光障害実験から得られた,光線波長ごとの網膜障害度を図2に示す.有水晶体眼では,波長440nmの青色光領域で最も障害度が高く,500nmより長波長の緑色光や赤色光では障害度が低いことがわかる.マウスへの光照射実験でも,青色光照射で視細胞・網膜色素上皮細胞の選択的な脱落が観察される(図3).一方で,無水晶体眼では,より障害度の高いUVAや一部UVBによる網膜障害も惹起されうる.無水晶体眼といった特殊な状況を除いて,光による網膜障害は可視光線のなかでも特に青色光(ブルーライト)による網膜機能低下と捉えることができる.II光酸化ストレスマウスやラットへの光照射実験では,抗酸化剤・ラジカルトラップ剤の投与や視サイクルの回転を低下させる薬剤により網膜障害が抑制されること1)から(図4),見ることそのものが眼にとって酸化ストレス(用語解説参照)要因であると考えられている.光酸化ストレスには,タイプI経路とタイプII経路の2経路が推測されている(図5).いずれの経路も,光増感物質Sが特定の波長の光(hv)を吸収することで開始される.光を吸収したSは,一重項励起状態(1S)となり,項間交差現象により三重項励起状態(3S)となる.タイプI経路では,3Sが脂質などから電子を引き抜くことでラジカル(S・.)となり,酸素存在下でO2.を発生させる.タイプII経路では,3Sと3O2の衝突により熱と電子の交換反応が起こり,活性酸素種(用語解説参照)の1種である一重項酸素(1O2)が発生する(光増感反応).視細胞とその周囲では,酸素要求性が非常に高いことや,水素引き抜きのターゲットとなる多価不飽和脂肪酸が多いといった種々の要因で,酸化ストレスを受けやすい環境が整っている*MasakiTanito:島根大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕谷戸正樹:〒693-8501出雲市塩治町89-1島根大学医学部眼科学講座0910-1810/14/\100/頁/JCOPY(15)175UVB(290~320nm)UVA(320~400nm)可視光(400~800nm)可視光(400~800nm)赤外線(800nm~)角膜水晶体網膜図1光線波長と眼球組織の透過度UVBは角膜で,UVAと赤外線は水晶体で吸収され,網膜には主として可視光のみが到達する.AINLONLONLINLB0.120.100.080.060.040.020.0076543210200300400500600700800網膜障害係数太陽光の分光放射照度(3)有水晶体眼の障害係数(1,2)無水晶体眼の障害係数(1,2)太陽分光放射照度(mW/cm2/nm)波長(nm)図2光線波長ごとの網膜障害係数と太陽光の分光放射照度以下の(1).(3)より作図.(1):ACGIH(米国産業衛生専門家会議)ガイドライン(2):ICNIRP(国際非電離放射線防護委員会)ガイドライン(3):ASTM(米国工業試験協会)太陽光線照射量波長420nm照射波長500nm照射図3マウス網膜における網膜光障害白色マウスに対して網膜面上での総エネルギーが500J/cm2となるように青色光(420nm)(A)または緑色光(540nm)(B)を照射した7日後の網膜像.青色光照射眼では,視細胞・網膜色素上皮細胞が選択的に脱落している.INL:内顆粒層,ONL:外顆粒層,バー:50μm.写真は島根大学眼科学講座・海津幸子先生よりご提供いただいた.(図6).ンの構成成分として同定されたN-retinyl-N-retiIII加齢黄斑変性におけるブルーライトハザードセオリーnylideneethanolamine(A2E)は,リン脂質と視物質に含まれるレチナールの反応代謝物であるが,青色領域(430nm)に強い吸収特性があり,可視光による網膜障加齢黄斑変性の前駆病変として,しばしばドルーゼン害の光増感物質(ブルーライトハザード)として注目さとよばれる黄白色の自発蛍光物質(リポフスチン)の網れている.前述の通り,角膜と水晶体は,網膜にとって膜色素上皮下への沈着が観察される(図7).リポフスチ紫外線フィルターとしての機能を有するが,加齢に伴い176あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(16)ONLINLRPEAONLINLRPEARPEONLINLBINLONLRPEC光未照射光照射7日目PBN前投与+光照射7日目図4Phenyl.N.tert.butylnitrone(PBN)による網膜光障害の抑制効果白色ラットに白色蛍光灯(5,000ルクス)を3時間照射した後,7日後の網膜像.光未照射眼(A)に比較して,光照射眼(B)では著明な網膜障害が惹起されている.ラジカルトラップ剤かつ視サイクルの回転を抑制する薬剤(PBN)を前投与したラット(C)では光障害が抑制されている.INL:内顆粒層,ONL:外顆粒層,RPE:網膜色素上皮.1SS+hv(光)1S3S項間交差3S+LHS・-+L・+H+3S+O2S+1O2S・-+O2S+O2-1O2+LHLOOHタイプⅠ経路(スーパーオキシド経路)タイプⅡ経路(一重項酸素経路)図5光酸化ストレスの開始経路タイプI経路とタイプII経路が存在する.LH:脂質,LOOH:脂質過酸化物.核白内障が進行して黄色味を帯びた水晶体は,青色光フィルターとしての役割も有するようになる.加えて,ドルーゼンでは,光照射により視細胞外節で生成される4-ヒドロキシノネナールやCEPなどの脂肪酸の酸化終産物により修飾された蛋白の異常蓄積が認められること(図8)2,3)や,CEP修飾蛋白質に対する免疫反応や活性酸素消去酵素の欠損により進出型の加齢黄斑変性にみられる血管新生を再現しうること4)から,光照射による視細胞の外節の変性脱落が,ドルーゼンの蓄積そのものの要因となる可能性が指摘されている(図9).(17)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014177視細胞・高い代謝活性(単位体積あたりの酸素消費>脳実質)・流動性に富んだ細胞膜(多価不飽和脂肪酸組成が体内で最大)・ロドプシン(=光増感物質)網膜色素上皮細胞・外節の貪食(種々の酸化酵素)・ドルーゼンの蓄積(=光増感物質)脈絡膜・高酸素濃度(=単位あたりの組織血流量体内で最大)図6視細胞周囲の酸化ストレス要因網膜外層(視細胞層・網膜色素上皮細胞層)は酸化ストレスの好発要因が揃っている.IV光による急性網膜障害光による急性眼障害として太陽による網膜障害(日光網膜症)が知られている.2009年の皆既日食,2012年の金環日食と,近年,日本において大規模な天体イベントが続いたことから,特に注目されるようになった.世界天文年2009日本委員会の調査によれば,2009年7月の皆既日食では14例5),日本眼科学会の調査によれば,2012年5月の金環日食では958例(http://www.nichigan.or.jp/news/043.jsp)の日光網膜症が報告されている.典型例では,中心窩近傍に黄色斑が認められ,光干渉断層計(OCT)による観察では視細胞内外節の不整像として観察される.日光網膜症は,適切な遮光フィルターなしに太陽を直視した場合,数秒間で惹起されうる.通常の瞳孔径では,太陽光による眼内の温度上昇はごくわずかであり,光化学反応による細胞障害が,日光178あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014網膜症の本態と考えられている.また,玩具の発光ダイオード(LED)ブラックライト(波長410nm)の眼前1cm,数十秒の直視による光化学反応で網膜障害の報告もある6).ただし,人工照明やパソコン,タブレット端末などから発せられる光線のエネルギーは,太陽光線と比較して2桁低い7)ため,上記のような特殊な条件でない限り急性障害要因とはなりえない.V光曝露と加齢黄斑変性種々の疫学調査により,日光の曝露量と加齢黄斑変性の関係について報告されている.最近のメタアナリシスによる解析では,調査対象となった14の論文のうち12の論文が,これまでの生活における日光曝露量が多い(野外活動量,日光浴の習慣など)ことが加齢黄斑変性のリスクとなりうることを示唆しており,このなかの6の論文で統計学的に有意な関連を見いだしている(全体(18)ABCABC図7加齢によるドルーゼンの沈着A:黄斑部への黄白色のドルーゼンが集簇している.B:ドルーゼンに一致した自発蛍光が観察される.C:ドルーゼンの沈着は,網膜色素上皮下に観察される.写真は島根大学眼科学講座・小山泰良先生よりご提供いただいた.図8網膜内での酸化脂質の沈着A:光照射したラット網膜では,酸化脂質(4-ヒドロキシノネナール)修飾蛋白が視細胞層(矢印)と網膜色素上皮細胞層(矢頭)に局在する.B:サルドルーゼンでは,網膜色素上皮(矢頭)下に,酸化脂質(4-ヒドロキシノネナール)修飾蛋白(矢印)が沈着する.ONL:外顆粒層,RPE:網膜色素上皮.ONLRPEAB(19)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014179光ストレスと加齢黄斑変性光曝露(加齢)光(特にブルーライト)視細胞外節の光酸化・外節蛋白の酸化修飾↑・RPE貪食↑・RPEでの酸化蛋白の消化異常プロテアソームオーバーロードERストレス・酸化蛋白の蓄積~ドルーゼン蓄積ドルーゼン・光増感反応・視細胞,RPE細胞死・Bruch膜損傷~脈絡膜新生血管図9加齢黄斑変性におけるブルーライトハザードの概念図ドルーゼンにブルーライトが吸収されることで光増感反応による組織細胞傷害が惹起される.また,ドルーゼンの沈着そのものにも,慢性の光曝露が関与する可能性がある.0.1〈有病率〉Threepopulation-basedstudy加齢黄斑変性AndhraPradesheyediseasestudy加齢黄斑変性LosAngelsLatinoEyeStudy加齢黄斑変性〈発症率〉BeaverDameyestudy(10yrs)萎縮型加齢黄斑変性慘出型加齢黄斑変性BeaverDamandBlueMountains(5yrs)加齢黄斑変性BlueMountainsEyeStudy(10yrs)加齢黄斑変性慘出型加齢黄斑変性RotterdamStudy(5yrs)萎縮型加齢黄斑変性慘出型加齢黄斑変性Age-RelatedEyeDiseaseStudy(11yrs)萎縮型加齢黄斑変性慘出型加齢黄斑変性オッズ比1101.11.72.61.573.795.261.012.87.81.333.187.61.714.3110.92.45.713.61.193.39.91.13.410.90.380.951.823.432.336.490.610.81.060.821.21.75図10光曝露と加齢黄斑変性の有病率・発症率種々の疫学調査により,日光曝露が加齢黄斑変性の発症に関与することが示唆されている.180あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(20)のオッズ比1.379)8).わが国においても,顔の皺の量を定量することで推定した生涯光曝露量と加齢黄斑変性との有意な関係が報告されている9).また,白内障手術後の横断研究による加齢黄斑変性の有病率調査10.12)では,白内障手術が行われた群で加齢黄斑変性の有病率が高いことが報告されている(オッズ比1.7.3.8)(図10).5.10年間の前向き研究による発症率調査において,BeaverDameyestudy,BlueMountainsEyeStudyでは13.17),白内障手術が加齢黄斑変性発症の有意なリスク要因として報告されている(オッズ比3.2.5.7).ただし,Age-RelatedEyeDiseaseStudyでは,萎縮型,滲出型加齢黄斑変性の両者とも有意な関係が見いだされていない17).混濁した水晶体除去による網膜光曝露量増加が,加齢黄斑変性の発症に関与することが推測されている.おわりに種々の疫学調査や実験的事実から,光,特に過度のブルーライトが網膜の機能低下をきたしうることが証明されている.一方で,慢性に経過する疾患について波長ごとの障害係数・曝露許容量や障害閾値は明らかになっておらず,そのため,急性障害を除いて,どの程度の光を遮断すべきかの明確な基準は存在しない.今後の研究の進展が待たれる.文献1)MandalMN,MoiseyevGP,ElliottMHetal:Alpha-phenyl-N-tert-butylnitrone(PBN)preventslight-induceddegenerationoftheretinabyinhibitingRPE65proteinisomerohydrolaseactivity.JBiolChem286:3249132501,20112)TanitoM,KaidzuS,AndersonRE:Protectiveeffectsofsoftacrylicyellowfilteragainstbluelight-inducedretinaldamageinrats.ExpEyeRes83:1493-1504,20063)CrabbJW,MiyagiM,GuXetal:Drusenproteomeanalysis:anapproachtotheetiologyofage-relatedmaculardegeneration.ProcNatlAcadSciUSA99:1468214687,20024)HollyfieldJG,BonilhaVL,RaybornMEetal:Oxidativedamage-inducedinflammationinitiatesage-relatedmaculardegeneration.NatMed14:194-198,20085)尾花明,高橋淳,大西浩次ほか:2009年皆既日食による眼障害の発生状況.日眼会誌115:589-594,2011■用語解説■酸化ストレス:HelmutSiesは,酸化ストレスを「prooxidantとantioxidantのバランスが崩れprooxidantが過剰となること」と定義した.酸化ストレスに伴う分子変化が明らかになるにつれて,酸化ストレスは,「生体内の高分子(脂質,蛋白質,核酸)が,酸化還元反応(電子引き抜き)により修飾を受け,その機能が変化すること」と捉えられるようになった.加齢や悪性新生物をはじめとする,種々の病態の発症・増悪に酸化ストレスが関与することが報告されており,一般臨床的には,「酸化ストレス=酸化ストレスを分子基盤とした組織・細胞レベルの機能障害」と捉えられている.活性酸素種:呼吸により細胞内に取り込まれた酸素(三重項酸素:3O2)は,4電子還元され水(H2O)となる(図2).3O2が1,2,3電子還元された分子種が,それぞれ,スーパーオキシド(O2.),過酸化水素(H2O2),ヒドロキシラジカル(OH・)である.これら3種の中間体と,励起酸素分子である一重項酸素(1O2)は,他の分子との反応性が高く,活性酸素種(reactiveoxygenspecies:ROS)とよばれる.生理的状態では呼吸により還元される酸素分子の約1%が遊離ROSとなり,酸化ストレスの起点となる.6)尾花明,植田俊彦:光・レーザーによる眼傷害事例.日本レーザー医学会誌32:452-455,20127)衛藤憲人,坪田一男,田中太一郎ほか:疫学応用に向けた可視─紫外光個人曝露量測定システムの開発.日本衛生学雑誌68:118-125,20138)SuiGY,LiuGC,LiuGYetal:Issunlightexposureariskfactorforage-relatedmaculardegeneration?Asystematicreviewandmeta-analysis.BrJOphthalmol97:389-394,20139)HirakawaM,TanakaM,TanakaYetal:Age-relatedmaculopathyandsunlightexposureevaluatedbyobjectivemeasurement.BrJOphthalmol92:630-634,200810)FreemanEE,MunozB,WestSKetal:Isthereanassociationbetweencataractsurgeryandage-relatedmaculardegeneration?Datafromthreepopulation-basedstudies.AmJOphthalmol135:849-856,200311)KrishnaiahS,DasT,NirmalanPKetal:Riskfactorsforage-relatedmaculardegeneration:findingsfromtheAndhraPradesheyediseasestudyinSouthIndia.InvestOphthalmolVisSci46:4442-4449,200512)Fraser-BellS,ChoudhuryF,KleinRetal:Ocularriskfactorsforage-relatedmaculardegeneration:theLosAngelesLatinoEyeStudy.AmJOphthalmol149:735740,201013)KleinR,KleinBE,WongTYetal:Theassociationofcataractandcataractsurgerywiththelong-termincidence(21)あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014181ofage-relatedmaculopathy:theBeaverDameyestudy.ArchOphthalmol120:1551-1558,200214)WangJJ,KleinR,SmithWetal:Cataractsurgeryandthe5-yearincidenceoflate-stageage-relatedmaculopathy:pooledfindingsfromtheBeaverDamandBlueMountainseyestudies.Ophthalmology110:1960-1967,200315)CugatiS,MitchellP,RochtchinaEetal:Cataractsurgeryandthe10-yearincidenceofage-relatedmaculopathy:theBlueMountainsEyeStudy.Ophthalmology113:20202025,200616)HoL,BoekhoornSS,Lianaetal:Cataractsurgeryandtheriskofagingmaculadisorder:theRotterdamstudy.InvestOphthalmolVisSci49:4795-4800,200817)ChewEY,SperdutoRD,MiltonRCetal:Riskofadvancedage-relatedmaculardegenerationaftercataractsurgeryintheAge-RelatedEyeDiseaseStudy:AREDSreport25.Ophthalmology116:297-303,2009182あたらしい眼科Vol.31,No.2,2014(22)