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2週間頻回交換遠近両用シリコーンハイドロゲルレンズの臨床試験

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1619.1627,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1619.1627,2011c植田喜一*1稲葉昌丸*2梶田雅義*3小玉裕司*4塩谷浩*5濱田恒一*6濱野保*7濱野孝*7濱野啓子*7*1ウエダ眼科*2稲葉眼科*3梶田眼科*4小玉眼科医院*5しおや眼科*6ハマダ眼科*7ハマノ眼科ClinicalStudyof2-WeekFrequentReplacementMultifocalSiliconeHydrogelLensKiichiUeda1),MasamaruInaba2),MasayoshiKajita3),YujiKodama4),HiroshiShioya5),TsunekazuHamada6),TamotsuHamano7),TakashiHamano7),KeikoHamano7)1)UedaEyeClinic,2)InabaEyeClinic,3)KajitaEyeClinic,4)KodamaEyeClinic,5)6)HamadaEyeClinic,7)HamanoEyeClinicShioyaEyeClinic,老視矯正を目的として新しく開発された遠近両用シリコーンハイドロゲルレンズの有効性,安全性,有用性を評価するために臨床試験を行った.対象は老視矯正を必要とする単焦点ソフトコンタクトレンズ,あるいは遠近両用ソフトコンタクトレンズを使用している129名258眼で,年齢は38.72歳であった.本レンズ装用による13週間後の両眼視による視力の平均値は,遠方視力が1.06,近方視力が0.80であった.本レンズ装用に伴う障害と判断されたものは38例72眼であったが,これらの程度は軽度であった.本レンズの見え方,つけごこち,取り扱いに対する被験者の満足度は高かった.本レンズは屈折異常および老視の矯正効果が高く,安全性ならびに被験者の満足度からも臨床上有用であると考える.Thisclinicalstudyevaluatedtheperformance,safetyandeffectofthenewmultifocalsiliconehydrogellensdesignedtocorrectpresbyopia.Enrolledinthisstudywere129subjects(258eyes)between38and72yearsofage,whoworesinglevisionsoftcontactlensesorbifocal/multifocalsoftcontactlensestocorrectpresbyopia.After13weeksoflenswear,theaveragevaluesofdistantandnearbinocularvisualacuitywere1.06and0.80,respectively.Difficultieswithlenswearwerejudgedby38subjects(72eyes),butthedegreewasslight.Thesubjectsratedthelensesashighlysatisfactoryregardingvision,wearingexperienceandhandling.Theresultsofthisstudysuggestthattheselensesarehighlyeffectiveinrefractiveandpresbyopiacorrections,andareclinicallyeffectivefromtheperspectivesofsafetyandsubjectsatisfaction.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1619.1627,2011〕Keywords:遠近両用ソフトコンタクトレンズ,老視,シリコーンハイドロゲルレンズ,臨床試験.multifocalsoftcontactlens,presbyopia,siliconehydrogellens,clinicalstudy.はじめに老視矯正を必要とする患者に対して遠近両用コンタクトレンズ(CL)を処方する機会が増えてきた1.3).CLは材質の面からソフトコンタクトレンズ(SCL)とハードコンタクトレンズに分けられるが,SCLにおいてはヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)素材を主体とした従来のハイドロゲルレンズに加えて,HEMAにシリコーンを共重合させた新しいシリコーンハイドロゲルレンズが登場した4.6).シリコーンハイドロゲルレンズは高い酸素透過性を有するため酸素不足による角膜障害が起こりにくく,従来のハイドロゲルレンズより乾燥感が少ない6)と考えられ,急速に普及しつつある.これまでの近視,遠視,乱視の矯正を目的とした単焦点のシリコーンハイドロゲルレンズに加えて,遠近両用シリコーンハイドロゲルレンズが発売されたことは,老視矯正を望む患者にとっては朗報である7).今回,筆者らはボシュロム・ジャパン株式会社が開発した〔別刷請求先〕植田喜一:〒751-0872下関市秋根南町1-1-15ウエダ眼科Reprintrequests:KiichiUeda,M.D.,UedaEyeClinic,1-1-15AkineMinamimachi,Shimonoseki751-0872,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(107)1619 遠近両用シリコーンハイドロゲルレンズの臨床試験を行ったので,その結果を報告する.遠近両用シリコーンハイドロゲルレンズの臨床試験を行ったので,その結果を報告する.法1.対象老視矯正を必要とする単焦点SCLまたは遠近両用SCLを装用している者で,球面レンズの矯正により片眼0.5以上の遠方視力が得られる.6.00D以下の近視眼,+3.00D以下の遠視眼,.1.25D以下の乱視眼の男性7例14眼,女性122例244眼の計129例258眼で,年齢は38.72歳(51.6±5.5歳平均値±標準偏差,以下同様)であった.ただし,無水晶体眼,人工眼内レンズ挿入眼の者は除外した.対象129例258眼のうち,以前に使用していたSCLは,単焦点SCLが72例144眼,遠近両用SCLが57例114眼であった.2.方法a.治験審査委員会およびインフォームド・コンセント本試験は美穂診療所治験審査委員会の承認を得た.本試験表1試験実施機関および試験担当医師試験実施機関試験担当医師稲葉眼科稲葉昌丸ウエダ眼科植田喜一梶田眼科梶田雅義小玉眼科医院小玉裕司*しおや眼科塩谷浩ハマダ眼科濱田恒一ハマノ眼科濱野保,濱野孝,濱野啓子*試験代表医師.の趣旨を理解し,自らの意志で参加同意書に署名した者を登録症例とした.試験代表医師,試験実施機関および試験担当医師を表1に示す.b.試験レンズ試験レンズとして販売名:ボシュロムメダリストプレミアFW(商品名:ボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカル)を用いた.試験レンズの物性,規格を表2に示す.試験レンズは同心円型,同時視型の遠近両用シリコーンハイドロゲルレンズで,中央部が近用光学部,周辺部が遠用光学部である.累進屈折力レンズとして働き,加入度数は+1.50D(LowAdd)と+2.50D(HighAdd)の2種類があるが,これらの光学デザインは異なる(図1).c.試験レンズの処方および装用方法試験レンズの処方にあたってのインフォームド・コンセントを行った後に,前眼部検査,涙液検査,他覚的および自覚的屈折検査,角膜曲率半径計測,裸眼および矯正視力の測定を行った.本レンズの適応であると判断した対象にトライアルレンズを装着し,フィッティングが良好であることを確認加入度数+1.50D加入度数+2.50D(LowAdd)(HighAdd)加入度数(+2.50D)(+1.50D)(0.00D)図1試験レンズの屈折力分布(イメージ図)表2試験レンズの物性,規格項目物性・規格販売名(商品名)ボシュロムメダリストプレミアFW(ボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカル)使用方法2週間頻回交換・終日装用材質(USAN*名)BalafilconAFDA**分類グループIII酸素透過係数(Dk値)91×10.11(cm2/sec)・(mLO2/mL×mmHg)含水率36%度数範囲遠用度数:+3.00D..6.00D(0.25Dステップ)加入度数:+1.50D(LowAdd)と+2.50D(HighAdd)ベースカーブ8.6mm直径14.0mm中心厚0.09mm(.3.00D)レンズカラーライトブルー製造販売会社ボシュロム・ジャパン株式会社*USAN:UnitedStatesAdoptedNames,**FDA:FoodandDrugAdministration.1620あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(108) した後に,遠方視力と近方視力の値を参考にして追加矯正屈折値を求め,処方レンズの規格を決定した.本レンズの処方の手順を表3に示す.第一選択として両眼にLowAddを選択して,近方と遠方の見え方を確認するした後に,遠方視力と近方視力の値を参考にして追加矯正屈折値を求め,処方レンズの規格を決定した.本レンズの処方の手順を表3に示す.第一選択として両眼にLowAddを選択して,近方と遠方の見え方を確認する装用方法は終日装用で,使用期間は最長2週間とした.試験レンズはマルチパーパスソリューションによるこすり洗い,すすぎ,消毒,保存を毎日行うよう指導した.マルチパーパスソリューションはレニューマルチプラスまたはレニューを推奨したが,担当医師がそれ以外の消毒剤が必要と判断した場合はその指示に従うこととした.d.調査期間と評価項目調査期間は2010年2月10日から2010年9月2日までで,調査日は初回検査,試験開始,1週間後,4週間後,8週間後,13週間後であった.4週間後,8週間後および13週間後の検査では,試験レンズを7日以上継続して装用した状態で来院するように被験者に指導した.評価項目は試験レンズによる片眼視の遠方視力と近方視力,両眼視の遠方視力と近方視力,試験レンズのフィッティング,試験レンズの加入度数,試験レンズの表面の性状,試験レンズの交換,細隙灯顕微鏡による前眼部所見,自覚症状であった(表4).自覚症状はアンケートで5段階の評価をした.さらに,試験レンズの一時中止例と中止例を確認した.自己都合で1日でも装用をしなかった症例も一時中止症例に含めた.II結果試験開始時129例258眼のうち試験開始1週間後で124例248眼,試験開始4週間後で122例244眼,試験開始8週間後で115例230眼,試験開始13週間後で106例212眼が各観察期間を満たした.表3試験レンズの処方手順1.両眼に+1.50D(LowAdd)のトライアルレンズを選択する(ステップ1)・遠用度数:完全屈折矯正値に+1.00D付加した遠用度数①見え方の確認:近方→中間→遠方の見え方を確認する②追加矯正の手順:見え方に不満がある場合は,両眼同時に遠用度数を追加矯正する・近方の見え方に不満がある場合は両眼の遠用度数をプラスよりにする・遠方の見え方に不満がある場合は両眼の遠用度数をマイナスよりにする2.見え方に不満がある場合は非利き目に+2.50D(HighAdd)のトライアルレンズを選択する(ステップ2)見え方に不満がある場合は,両眼同時に遠用度数を追加矯正する・近方の見え方に不満がある場合は両眼の遠用度数をプラスよりにする・遠方の見え方に不満がある場合は両眼の遠用度数をマイナスよりにする3.見え方に不満がある場合は両眼に+2.50D(HighAdd)のトライアルレンズを選択する(ステップ3)見え方に不満がある場合は,両眼同時に遠用度数を追加矯正する・近方の見え方に不満がある場合は両眼の遠用度数をプラスよりにする・遠方の見え方に不満がある場合は両眼の遠用度数をマイナスよりにする表4評価項目受診日評価項目初回検査試験開始1週間後4週間後8週間後13週間後(1)試験レンズによる視力1)片眼視の遠方視力と近方視力○○○○○2)両眼視の遠方視力と近方視力○○○○○(2)試験レンズのフィッティング○○○○○(3)試験レンズの加入度数○○○○○(4)試験レンズの表面の性状○○○○○(5)試験レンズの交換○○○○○(6)細隙灯顕微鏡による前眼部所見○○○○○○(7)自覚症状(アンケート)○○○○○○(109)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111621 11287(398(10490(11287(398(10490(75(86(36.90(3983(30.5)4)7.5)2(40.0)39.2)551(20.7)6(23.7)47(19.6)28(12.2)33(15.6)遠方視力眼(%)0204060801008(3.3)7(3.0)5(2.1)6(2.6)試験開始246眼1週間後236眼4週間後240眼8週間後230眼13週間後212眼6(2.8):1.0以上:0.7以上1.0未満:0.4以上0.7未満:0.4未満近方視力眼(%)02040608010021.8(8.5)17(7.2)15(6.3)試験開始246眼1週間後236眼4週間後238眼8週間後230眼13週間後212眼8(3.5)17(8.0):1.0以上:0.7以上1.0未満:0.4以上0.7未満:0.4未満図2試験レンズによる片眼視の遠方視力と近方視力の分布表5試験レンズによる片眼視の遠方視力と近方視力の平均値試験開始1週間後4週間後8週間後13週間後遠方視力0.810.770.820.860.84近方視力0.660.660.660.660.631.試験レンズによる視力(1)片眼視の遠方視力と近方視力遠方視力は1.0以上が36.9.45.5%,0.7以上1.0未満が30.5.40.0%,0.4以上0.7未満が12.2.23.7%,0.4未満が2.1.3.3%であった.近方視力は1.0以上が11.8.18.5%,0.7以上1.0未満が41.6.44.3%,0.4以上0.7未満が30.1.37.3%,0.4未満が3.5.8.5%であった(図2).遠方視力と近方視力の平均値を表5に示す.視力の平均値は,小数視力をlogMAR(logarithmicminimumangleofresolution)視力に変換して平均値を算出したのち小数視力に再度変換した値である.(2)両眼視の遠方視力と近方視力遠方視力は1.0以上が59.0.75.2%,0.7以上1.0未満が21.4.29.9%,0.4以上0.7未満が1.8.11.1%,0.4未満が0%であった.近方視力は1.0以上が28.3.38.3%,0.7以上1.0未満が44.7.50.9%,0.4以上0.7未満が12.6.20.8%,0.4未満が0.2.5%であった(図3).遠方視力と近方視力の平均値を表6に示す.1622あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011遠方視力眼(%)02040608010011(8.9)13(11.1)6(5.0)4(3.4)試験開始123眼1週間後117眼4週間後119眼8週間後117眼13週間後112眼(1.8):1.0以上:0.7以上1.0未満:0.4以上0.7未満:0.4未満近方視力眼(%)0204060801002(1.6)試験開始123眼1週間後115眼4週間後119眼8週間後115眼13週間後106眼3(2.5)(0.9):1.0以上:0.7以上1.0未満:0.4以上0.7未満:0.4未満図3試験レンズによる両眼視の遠方視力と近方視力の分布表6試験レンズによる両眼視の遠方視力と近方視力の平均値試験開始1週間後4週間後8週間後13週間後遠方視力0.990.961.031.051.06近方視力0.810.820.820.830.80表7試験レンズの安定位置と動き枚(%)安定位置動き中央1,314(93.3)ノーマル1,361(96.6)上方44(3.1)タイト25(1.8)耳側21(1.5)ルーズ23(1.6)下方20(1.4)耳側・下方6(0.4)耳側・上方2(0.1)鼻側1(0.1)鼻側・下方1(0.1)合計1,409(100.0)合計1,409(100.0)小数点以下2位を四捨五入したためパーセントの合計は必ずしも一致しない.2.試験レンズのフィッティング試験開始,1週間後,4週間後,8週間後,13週間後に検査した累積1,409眼のフィッティング状態を評価した.試験レンズの安定位置は,中央が93.3%,上方が3.1%,耳側が1.5%,下方が1.4%,耳側下方が0.4%,耳側上方が0.1%,鼻側が0.1%,鼻側下方が0.1%であった.試験レンズの動(110)78(63.4)69(59.0)79(66.488(7581(72.).2)3)34(2735(29.934(22.6))28.6)5(21.4)9(25.9)244(17.9)41(17.4)44(18.5)38(16.5)25(11.8)107(99(499(4102(491(42.943.5)1.9)1.6)4.3))74(30.79(33.80(3382(379(37.31)5).6)5.7))44(3539(3341(3444(330(28.3.8).9).5)8.3))55(454(4760(554(54(50.94.7).0)0.4)47.0))22(17.9)22(19.1)15(12.6)16(13.9)22(20.8)1 表表試験開始時例(%)40歳未満40.44歳45.49歳50.54歳55.59歳60歳以上合計被験者数1(0.8)5(3.9)45(34.9)46(35.7)20(15.5)12(9.3)129(100.0)両眼にLowAdd片眼にLowAddと反対眼にHighAdd両眼にHighAdd1(0.9)005(4.7)0043(40.6)2(28.6)043(40.6)2(28.6)1(6.3)10(9.4)1(14.3)9(56.3)4(3.8)2(28.6)6(37.5)106(100.0)7(100.0)16(100.0)13週間後40歳未満40.44歳45.49歳50.54歳55.59歳60歳以上合計被験者数03(2.8)36(34.0)40(37.7)16(15.1)11(10.4)106(100.0)両眼にLowAdd03(3.7)33(40.7)34(42.0)7(8.6)4(4.9)81(99.9)片眼にLowAddと反対眼にHighAdd002(28.6)3(42.9)1(14.3)1(14.3)7(100.0)両眼にHighAdd001(5.6)3(16.7)8(44.4)6(33.3)18(100.0)小数点以下2位を四捨五入したためパーセントの合計は必ずしも一致しない.表9屈折異常と試験レンズの組み合わせ試験開始眼(%).6.00..3.25D.3.00..0.25D+0.25.+3.00D合計LowAddHighAdd120(46.5)14(5.4)74(28.7)9(3.9)25(9.3)16(6.2)219(84.9)39(15.1)合計134(51.9)83(32.2)41(15.9)258(100.0)13週間後きはノーマルが96.6%,タイトが1.8%,ルーズが1.6%であった(表7).3.試験レンズの加入度数年齢と試験レンズの加入度数の組み合わせ(両眼にLowAdd,片眼にLowAddと反対眼にHighAdd,両眼にHighAdd)を表8に示す.年齢との関係をみると,45歳未満ではすべて両眼ともLowAddであるのに対して,45歳以上では片眼にLowAddと反対眼にHighAddがみられ,55歳以上では両眼ともHighAddの症例が多かった.試験開始時に処方された本レンズの加入度数はLowAddが219枚(84.9%),HighAddが39枚(15.1%)であった.13週間後の加入度数はLowAddが169枚(79.7%),HighAddが43枚(20.3%)と,対象眼の5.2%は近方の見え方を改善するためにLowAddからHighAddに変更されていた(表9).中等度近視群(.6.00..3.25D),軽度近視群(.3.00..0.25D)と遠視群(+0.25.+3.00D)に分けて,使用した(111).6.00..3.25D.3.00..0.25D+0.25.+3.00D合計LowAddHighAdd87(41.0)11(5.2)63(29.7)13(6.1)19(9.0)19(9.0)169(79.7)43(20.3)合計98(50.0)76(32.1)38(18.0)212(100.0)加入度数を表9に示す.HighAddの使用率が高くなっていたのは,試験開始時と13週間後を比較すると,中等度近視群では134眼中14眼(10.4%)から13週間後が98眼中11眼(11.2%),軽度近視群では83眼中9眼(10.8%)から13週間後が76眼中13眼(17.1%),遠視群では41眼中16眼(39.0%)から13週間後が38眼中19眼(50.0%)であった.4.試験レンズの表面の性状調査日に細隙灯顕微鏡により観察された試験レンズ1,164枚の汚れと傷の性状を確認した.正常が1,120枚(96.2%)で,軽度の汚れの付着が37枚(3.2%),中等度の汚れの付着が2枚(0.2%),傷があったものが3枚(0.3%),汚れの付着と傷があったものが2枚(0.2%)であった.5.試験レンズの交換試験レンズの処方交換を行ったものは106枚で,1週間後に最も交換率が高かった(表10).交換理由は遠方視力不良が57枚,近方視力不良が44枚,遠方視力不良と近方視力不良が4枚,遠方がよく見えすぎるが1枚であった.最も多あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111623 表表試験開始1週間後4週間後8週間後13週間後合計処方枚数(枚)2462362402302121,164交換レンズ枚数(枚)144824173106交換率(%)5.720.310.07.41.49.1表11試験レンズの交換理由枚(%)試験開始1週間後4週間後8週間後13週間後合計遠方視力不良遠方視力不良と近方視力不良近方視力不良その他(遠くが見えすぎる)82433141131103113357(53.8)4(3.8)44(41.5)1(0.9)合計14(13.2)48(45.3)24(22.6)17(16.0)3(2.8)106(100.0)表12細隙灯顕微鏡検査による前眼部所見(重複記載あり)初回検査試験開始1週間後4週間後8週間後13週間後例眼例眼例眼例眼例眼例眼129258129258124248122244115230106212所見「無」861728617281162751507414869138角膜上皮ステイニング程度1304730472852244319381936235712475712221241111SEALs,Epithelialdimple111112角膜血管新生111111111角膜輪部充血1612612485812眼瞼結膜充血112221222611142514269182321112球結膜充血12595947116101212上眼瞼結膜乳頭増殖123535348142310175812結膜下出血11かったのは1週間後に遠方視力不良で交換した33枚であった(表11).6.細隙灯顕微鏡による前眼部所見試験開始時に,角膜上皮ステイニングが30例47眼,眼瞼結膜充血が12例22眼,角膜輪部充血が6例12眼,球結膜充血が5例9眼,上眼瞼結膜乳頭増殖が3例5眼,角膜血管新生が1例1眼あったが,いずれも試験担当医師は本レンズ装用を可能と判断するような軽度なものであった.観察期間を通して,角膜上皮ステイニングが61例110眼,眼瞼結膜充血が23例43眼,上眼瞼結膜乳頭増殖が16例30眼,球結膜充血が11例20眼,角膜輪部充血が9例17眼,epithelialdimpleが1例2眼,角膜血管新生が1例1眼,1624あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011superiorepithelialarcuatelesions(SEALs)が1例1眼,結膜下出血が1例1眼であった.これらを認めた調査日を表12に示す.13週間の経過観察中に本レンズの装用に伴う障害と判断されたものは38例72眼であった.角膜上皮ステイニングが35例67眼,上眼瞼結膜乳頭増殖が1例2眼,epithelialdimpleが1例2眼,SEALsが1例1眼であったが,これらの程度は軽度であった.角膜上皮ステイニングを生じたもののうち15例30眼は試験レンズと使用したマルチパーパスソリューションとの適合性が問題であると判断され,他の製剤に変更すると再発しなかった.7.自覚症状試験レンズの見え方,つけごこち,取り扱いについての総(112) 見え方についてレンズの取り扱いについて*13.211.211.511.316.015.517.217.715.512.39.59.86.511.648.143.141.838.750.047.446.735.551.957.557.855.746.851.926.427.631.132.326424.124.627.425.66.623.618.118.021.06.627.910.415.512.314.510.37.417.712.914.87.86.221.0見え方についてレンズの取り扱いについて*13.211.211.511.316.015.517.217.715.512.39.59.86.511.648.143.141.838.750.047.446.735.551.957.557.855.746.851.926.427.631.132.326424.124.627.425.66.623.618.118.021.06.627.910.415.512.314.510.37.417.712.914.87.86.221.0試験開始020406080100(%)0.8129名1週間後4.8124名4週間後1.6122名8週間後1.7115名13週間後0.0106名つけごこちについて試験開始0.8129名1週間後1.6124名4週間後4.1122名8週間後2.6115名13週間後0.9106名1週間後3.2124名4週間後3.3122名8週間後2.6115名13週間後1.9106名:非常に満足している:やや満足している:どちらともいえない:あまり満足していない:全く満足していない*印については,1週間後,4週間後,8週間後,13週間後のみの質問.小数点以下2位を四捨五入したため,パーセントの合計は必ずしも一致しない.図4自覚症状(総合評価)合的に評価した結果を図4に示す.さらに,見え方については,距離(遠方,中間,近方),夜間(屋外)と暗所(室内),視線の変化による評価を図5に示す.取り扱いについては表裏がわかりやすい,つけはずしがしやすい,容器から取り出しやすいの評価を図6に示す.8.試験レンズの一時中止例と中止例一時中止は60例118眼で,中止期間は1日.39日(平均3.8日)であった.充血,眼脂,結膜浮腫,痛み,異物感,乾燥感,かゆみ,だぶり,レンズのくもりなどの症状を訴えた被験者のうち,細隙灯顕微鏡検査で所見を認めたものは,角膜上皮ステイニングが6例12眼,眼瞼結膜充血が1例1眼,角膜上皮ステイニング,角膜輪部充血および球結膜充血が2例4眼,角膜上皮ステイニング,眼瞼結膜充血および上眼瞼結膜乳頭増殖が1例2眼,角膜上皮ステイニング,角膜輪部充血,球結膜充血および眼瞼結膜充血が1例2眼,その他が2例3眼で,これらの13例24眼に対しては試験レンズの一時中止を指示した.一時中止例に対しては点眼治療などで症状ならびに所見が改善した後は試験レンズを再装用した.上記以外の一時中止は,軽度の自覚症状によるものが7例14眼と,外出することがなかったので装用しなかった,(113)遠方020406080100(%)試験開始129名0.81週間後124名0.84週間後122名0.88週間後115名0.013週間後106名0.0中間試験開始129名0.81週間後124名0.84週間後122名0.08週間後115名0.013週間後106名0.0近方試験開始129名0.01週間後124名0.84週間後122名0.08週間後115名0.013週間後106名0.0夜間(屋外)1週間後124名0.84週間後122名0.08週間後115名0.013週間後106名0.0暗所(屋内)1週間後124名0.84週間後122名0.08週間後115名0.013週間後106名0.0試験開始129名1.61週間後124名3.24週間後122名0.88週間後115名1.713週間後106名0.9:とてもよく見える:まあまあよく見える:どちらともいえない:あまりよく見えない:全く見えない13.210.37.47.314.02.83.45.74.02.85.26.65.614.216.422.125.826.417.921.617.216.117.112.312.19.88.913.250.050.045.941.144.244.343.41.033.947.246.643.435.566.056.947.550.058.967.958.654.956.566.761.362.154.150.852.722.624.127.029.032.634.936.237.744.434.931.30.337.912.314.720.514.510.98.512.925.414.511.617.013.818.912.917.813.213.818.919.47.817.917.215.616.915.117.219.720.27.512.19.8.93.95.76.92.512.13.99.412.116.426.615.5**視線を変えてもピントが良く合う*印については,1週間後,4週間後,8週間後,13週間後のみの質問.小数点以下2位を四捨五入したため,パーセントの合計は必ずしも一致しない.図5自覚症状(見え方)旅行のため装用しなかったなどの自己都合によるものが40例80眼であった.中止例は被験者の自己都合で中止したもので,転居のため,頸椎症の疑いで通院が困難であったなどが6例12眼あった.III考察ボシュロムメダリストプレミアFW(商品名:ボシュロムメダリストプレミアマルチフォーカル)は,同心円型,同時視型のレンズであるが,レンズデザインはすでに販売さあたらしい眼科Vol.28,No.11,20111625 表裏がわかりやすい表裏がわかりやすい16.016.416.411.315.114.714.816.112.310.36.635.837.126.232.352.850.944.346.831.128.423.829.828.328.432.033.925.525.05.730.325.02.627.635.221.017.016.421.316.98.68.210.527.423.86.631.54.329.410.77.310.5つけはずしがしやすい*容器から取り出しやすい*1週間後020406080100(%)124名4週間後122名8週間後115名13週間後106名1週間後1.6124名4週間後2.5122名8週間後0.9115名13週間後0.9106名1週間後5.6124名4週間後4.1122名8週間後1.7115名13週間後2.8106名:非常にそう思う:ややそう思う:どちらともいえない:あまりそう思わない:全くそう思わない*印については,1週間後,4週間後,8週間後,13週間後のみの質問.小数点以下2位を四捨五入したため,パーセントの合計は必ずしも一致しない.図6自覚症状(取り扱い)れているボシュロムメダリストマルチフォーカルと類似している.LowAddのレンズは周辺部から中央部に向かって度数が徐々に増加するのに対して,HighAddのレンズは周辺部から中央部に向かってプラス度数が増加するが,中心部はプラス度数が高く,その移行部が狭い.したがって,これら2つのレンズは加入度数が単に異なるというよりも,まったくデザインが異なると認識したほうがよい2,8).累進構造がなだらかに変化するLowAddのレンズは40.50歳代の初期老視の症例が,近用光学部が広いHighAddのレンズは調節力がかなり低下した症例が適応になると考える.本レンズの処方手順から考えると,LowAddを処方する割合が高くなる.第一選択のレンズを処方しても近方の見え方が悪い場合には遠用度数の変更だけでなく,加入度数の変更(HighAddの使用)を考える必要がある.年齢との関係をみると,45歳未満ではすべて両眼ともLowAddであるのに対して,45歳以上では片眼にLowAddと反対眼にHighAddの症例がみられ,55歳以上では両眼ともHighAddの症例が多かった.また,近視,遠視の程度との関係をみると,遠視眼ではHighAddのレンズを処方する割合が高かった.したがって,本レンズを処方する際には,第一選択とする加入度数(LowAddとHighAdd)は年齢と屈折異常の種類と程度を考慮したほうがよい.全経過中に試験レンズの交換を行ったものは106枚であ1626あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011ったが,遠方視力不良が57枚(53.8%)と近方視力不良が44枚(41.5%)が多かった.本レンズの処方手順では,近視過矯正や遠視低矯正を防ぐことを目的として遠用度数は完全屈折矯正値に+1.00D付加したトライアルレンズを選択しているため,遠方視力不良が多かったと考える.遠方視力不良に対しては遠用度数の交換,近方視力不良に対しては遠用度数の交換と加入度数の交換を行った.本レンズのベースカーブは8.6mm,サイズは14.0mmの1ベースカーブ1サイズである.本レンズの素材balafilconAはシリコーンハイドロゲル素材のなかではやや硬めであるので,このベースカーブとサイズだけではうまくフィットしない症例が多いかと推察したが,ほとんどの症例にフィットした.本レンズはやや硬めであるため,被験者は装用感(つけごこち)の悪さを訴える割合が高いと推察したが,「あまり満足していない」と「満足していない」と評価したものは,1週間後が19.3%と最も高く,13週間後には本レンズに慣れたこともあり,7.5%と少なくなった.本レンズによる屈折異常と老視の矯正効果については,視力検査や被験者のアンケート調査から満足度の高いものであった.遠近両用SCL装用眼は単焦点SCL装用眼に比してコマ収差,球面収差および全高次収差が増加するため,鮮明な像が得られないことが多い3).また,単焦点SCL装用眼に比してコントラスト感度が低下し,像が暗く見えることも多い1,9).したがって,遠近両用SCL装用当初はこうした見え方の悪さを気にする被験者がいるが,しだいに慣れてくることが多い.本試験でも時間の経過とともに被験者の見え方の満足度は高くなった.遠方,中間,近方の見え方について,「とてもよく見える」と「まあまあよく見える」の割合が高かったことは,累進構造がなだらかなLowAddのレンズを使用している被験者が多かったからだと考える.瞳孔径は照度によって変化するため,同時視型の遠近両用SCLは,そのデザイン(遠用光学部と近用光学部の面積や配置など)で見え方が大きく変化することがあるが,本レンズは夜間の屋外や暗い室内の見え方においても「よく見えない」と回答する被験者は少なかった.13週間の経過観察中に本レンズの装用に伴う障害と判断されたものは38例72眼で,そのうち角膜上皮ステイニングが35例67眼と最も多かったが,15例30眼は本レンズとマルチパーパスソリューションとの適合性が問題だと考えられたもので,他の製剤に変更すると再発しなかった.シリコーンハイドロゲルレンズはポリヘキサメチレンビグアニド(PHMB)を含有するマルチパーパスソリューションを使用すると角膜上皮ステイニングを生じることがあると報告されている10.12)ので,その使用には注意を払う必要がある.シリコーンハイドロゲルレンズでは角膜周辺部の上方に線状の角膜上皮障害(SEALs)を生じることがある4,5,13).本レンズ(114) は硬めの素材であるため,SEALsの発生が心配されたが,1例1眼のみであった.これはレンズの周辺部がなめらかにデザインされているためだと推察する.は硬めの素材であるため,SEALsの発生が心配されたが,1例1眼のみであった.これはレンズの周辺部がなめらかにデザインされているためだと推察する.シリコーンハイドロゲル素材は蛋白質はほとんど付着しないが,疎水性なので脂質が付着しやすい14).本レンズの表面の性状を検査すると,汚れが付着したものはわずかであった.本レンズの表面はイオン化した酸素ガスを直接衝突させるプラズマ加工が施されている15)が,この表面加工が脂質の付着を防いだと考える.本レンズの素材であるbalafilconAはシリコーンハイドロゲル素材のなかでも比較的硬く,中心厚は0.09mmと従来素材のSCLに比して厚いため,レンズに傷が入りにくかったと考える.以上の結果から,本レンズは屈折異常および老視の矯正効果の高い,安全性の高い遠近両用シリコーンハイドロゲルレンズで,自覚的にも高い満足度が得られることからも,臨床上非常に有用であると考える.文献1)植田喜一:遠近両用ソフトコンタクトレンズの特性.あたらしい眼科18:435-446,20012)塩谷浩:頻回交換遠近両用ソフトコンタクトレンズの選択法.あたらしい眼科24:711-716,20073)植田喜一,柳井亮二:新しい遠近両用コンタクトレンズの紹介.あたらしい眼科23:851-860,20064)宮本裕子:次世代のコンタクトレンズ─シリコーンハイドロゲルレンズを中心として─.あたらしい眼科21:757760,20045)植田喜一:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの臨床試験.あたらしい眼科22:1325-1334,20056)塩谷浩:従来型ソフトコンタクトレンズとシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの選択方法.あたらしい眼科25:907-912,20087)稲葉昌丸,梶田雅義,川端秀仁ほか:多焦点シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズの多施設比較臨床試験.日コレ誌52:31-38,20108)村岡卓:「ボシュロムメダリストマルチフォーカル」の紹介.日コレ誌50:161-165,20089)植田喜一,佐藤里沙,柳井亮二ほか:デザインの異なる遠近両用ソフトコンタクトレンズのコントラスト視力.日コレ誌44:211-215,200210)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒剤との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,200511)植田喜一:シリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズと化学消毒剤との適合性.臨眼60:707-711,200612)小玉裕司:ソフトコンタクトレンズ装用者における角膜ステイニング調査─ケア用品との関連性─.日コレ誌51:26-35,200913)植田喜一:多施設によるシリコーンハイドロゲルソフトコンタクトレンズの眼障害調査.日コレ誌48:161-165,200614)植田喜一,中道綾子,稲垣恭子:シリコーンハイドロゲルレンズの臨床における汚れの定量分析.日コレ誌52:180187,201015)松沢康夫:長期連続装用コンタクトレンズの表面の役割.日コレ誌46:27-29,2004***(115)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111627

結膜囊と鼻前庭の常在細菌の比較

2011年11月30日 水曜日

《原著》あたらしい眼科28(11):1613.1617,2011c《原著》あたらしい眼科28(11):1613.1617,2011c星最智*1大塚斎史*2山本恭三*2橋田正継*2卜部公章*2*1藤枝市立総合病院眼科*2旦龍会町田病院ComparisonofConjunctivalandNasalBacterialFloraSaichiHoshi1),YoshifumiOhtsuka2),TakamiYamamoto2),MasatsuguHashida2)andKimiakiUrabe2)1)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,2)MachidaHospital白内障術前患者295例を対象に,結膜.と鼻前庭の培養検査を施行した.コリネバクテリウム属,メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MR-CNS),黄色ブドウ球菌について結膜.と鼻前庭の保菌率を比較した.結膜.と鼻前庭検出菌の構成割合は類似していたが,鼻前庭から腸球菌は検出されなかった.メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の保菌率は結膜.が0.7%,鼻前庭が1.0%であり有意差を認めなかった.MR-CNSは結膜.よりも鼻前庭の保菌率が有意に高く(p=0.013),鼻前庭保菌者では結膜.保菌率が有意に高かった(p=0.026).メチシリン感受性黄色ブドウ球菌は結膜.よりも鼻前庭の保菌率が有意に高く(p<0.001),鼻前庭保菌者では結膜.保菌率が高くなる傾向を認めた(p=0.068).コリネバクテリウム属では,鼻前庭に比べ結膜.由来株のレボフロキサシン耐性化率が有意に高かった(p<0.001).Conjunctivalandnasalswabsweretakenfrom295preoperativecataractpatientsandculturedforbacteria.ConjunctivalandnasalcarriagerateswerecomparedforCorynebacteriumspecies,methicillin-resistantcoagulasenegativestaphylococci(MR-CNS)andStaphylococcusaureus.Althoughbacterialproportionsintheconjunctivaandnasalvestibuleweresimilar,Enterococcusfaecaliswasnotdetectedvianasalswab.Themethicillin-resistantStaphylococcusaureuscarriageratewas0.7%intheconjunctivaand1.0%inthenasalvestibule.TheMR-CNSnasalcarriageratewassignificantlyhigherthanthatofconjunctiva(p=0.013),theconjunctivalcarriagerateamongnasalcarriersbeingsignificantlyhigherthanamongnon-carriers(p=0.026).Themethicillin-susceptibleStaphylococcusaureusnasalcarriageratewassignificantlyhigherthanthatofconjunctiva(p<0.001),nasalcarrierstendingtohaveahigherconjunctivalcarriagerate(p=0.068).Thelevofloxacin-resistantrateforCorynebacteriumspecieswassignificantlyhigherinconjunctivalstrainsthaninnasalstrains(p<0.001).〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(11):1613.1617,2011〕Keywords:黄色ブドウ球菌,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,コリネバクテリウム属,結膜.常在細菌叢,鼻前庭常在細菌叢.Staphylococcusaureus,coagulase-negativestaphylococci,Corynebacteriumspecies,conjunctivalbacterialflora,nasalbacterialflora.はじめに健常結膜.からはコリネバクテリウム属,ブドウ球菌属,レンサ球菌属やEnterococcusfaecalis(腸球菌)が検出されることが多い.結膜.常在細菌に関する過去5年間の他施設からの報告1.5)をみても,各菌種の検出率に大きな違いは認められないことから,これらの菌種がおもに結膜.常在細菌叢を構成していると考えられる.さらに,結膜.常在細菌には菌種ごとに保菌リスクが存在する.白内障術前患者を対象に筆者らが行った調査では,たとえばメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-resistantcoagulasenegativestaphylococci:MR-CNS)では眼科通院,他科での手術歴やステロイド内服が保菌率を増加させる因子となり,コリネバクテリウム属では加齢と男性が保菌率を増加させる一方,緑内障点眼薬の使用は保菌率を減少させることなどが明らかとなっている6).しかしながらこの調査では,眼科感染症の起炎菌として重要な黄色ブドウ球菌の保菌リスクを見いだすことができなかった.黄色ブドウ球菌は鼻前庭に好んで生息する細菌である7).鼻前庭は外眼部と解剖学的に〔別刷請求先〕星最智:〒426-8677藤枝市駿河台4-1-11藤枝市立総合病院眼科Reprintrequests:SaichiHoshi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,4-1-11Surugadai,Fujieda-shi,Shizuoka426-8677,JAPAN0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(101)1613 も隣接していることから,黄色ブドウ球菌の鼻前庭保菌が結膜.の保菌に影響を与えている可能性が考えられる.さらに近年,結膜.常在細菌におけるフルオロキノロン耐性化が問題となっている.そのなかでも筆者らはMR-CNSとコリネバクテリウム属のフルオロキノロン耐性化率が特に高いことを報告したも隣接していることから,黄色ブドウ球菌の鼻前庭保菌が結膜.の保菌に影響を与えている可能性が考えられる.さらに近年,結膜.常在細菌におけるフルオロキノロン耐性化が問題となっている.そのなかでも筆者らはMR-CNSとコリネバクテリウム属のフルオロキノロン耐性化率が特に高いことを報告した.しかしながら,これら菌種のフルオロキノロン耐性化が外眼部に固有な現象であるかどうかの検討が十分になされていないため,眼科としての抗菌薬適正使用の判断材料が不足しているのが現状である.今回筆者らは,鼻前庭と結膜.の常在細菌叢の共通点や相違点を明らかにすることで,眼感染症の感染経路と眼科領域のフルオロキノロン耐性化問題を考察するうえで有用な知見を得たので報告する.I対象および方法2009年5月から8月までの4カ月間に,高知県の眼科専門病院である町田病院で白内障手術予定の外来患者295例295眼(男性116例,女性179例,平均年齢75.2±8.87歳)を対象とした.外眼部感染症を有する患者,抗菌薬の局所または全身投与を行っている患者は除外した.検体採取は文書による患者の同意を得たうえで行った.検体採取方法は,滅菌生理食塩水で湿らせたスワブで下眼瞼結膜.および同側の鼻前庭をそれぞれ擦過し,輸送培地(BDBBLカルチャースワブプラス)に入れた後にデルタバイオメディカルに送付した.培養はヒツジ血液/チョコレート分画培地,BTB乳頭加寒天培地(bromthymolbluelactateagar)培地,チオグリコレート増菌培地を用いた.結膜.擦過物は好気培養と増菌培養を35℃で3日間行った.鼻前庭擦過物は好気培養のみを35℃で3日間行った.薬剤感受性検査はKBディスク法で行い,レボフロキサシン(LVFX)に対する感受性をClinicalandLaboratoryStandardsInstitute(CLSI)の基準(M100-S19)に従って判定した.ただし,コリネバクテリウム属に対するLVFX感受性に関してはCLSIの判定基準が設定されていないため,昭和ディスク法の判定結果を参考にした.本検討では中間耐性は感受性に含めた.ブドウ球菌属のメチシリン耐性の有無はCLSIの基準(M100-S19)に従ってセフォキシチンのディスク法で判定した.本研究では保菌率をおもな検討項目としている.したがって1検体から同一菌種が2株以上検出された場合に限り,1)LVFX耐性株を優先する,2)どちらもLVFX耐性または感受性の場合は多剤耐性株を優先する,という条件の下1株に調整した.検討対象とする菌種は,コリネバクテリウム属,MR-CNS,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptibleStaphylococcusaureus:MSSA),メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistantStaphylococcusaureus:MRSA)の4菌種である.検討項目としては,1)菌種ごとの結膜.と鼻前庭の保菌率,2)結膜.と鼻前庭検出菌におけるLVFX耐性化率,3)結膜.と鼻前庭保菌の関連性,について比較検討した.統計学的解析はFisherの直接確率検定を用い,有意水準は5%とした.II結果1.結膜.と鼻前庭検出菌の構成結膜.からは全252株が検出され,培養陽性率は65.4%(193/295例)であった.鼻前庭からは全530株が検出され,培養陽性率は96.3%(284/295例)であった.結膜.からの検出菌は,多いものから順にコリネバクテリウム属が111株(44.0%),メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(methicillin-susceptiblecoagulase-negativestaphylococci:MS-CNS)が63株(25.0%),MR-CNSが32株(12.7%),MSSAが14株(5.6%)であった.鼻前庭からの検出菌は,多いものから順にコリネバクテリウム属が205株(38.7%),MS-CNSが171株(32.3%),MR-CNSが54株(10.2%),MSSAが50株(9.4%)であった.両部位の上位4菌種の構成割合は類似していたが,腸球菌に関しては結膜.から11株(4.4%)とMSSAと同程度検出されている一方,鼻前庭からは検出されなかった(図1).2.結膜.と鼻前庭の保菌率(菌種別)コリネバクテリウム属では,結膜.からのみ検出された症例は22例(7.5%),鼻前庭からのみ検出された症例は116例(39.3%),両部位から検出された症例は89例(30.2%)であった.MR-CNSでは,結膜.からのみ検出された症例は21例(7.1%),鼻前庭からのみ検出された症例は43例(14.6%),両部位から検出された症例は11例(3.7%)であった.MSSAでは結膜.からのみ検出された症例は9例(3.1%),結膜.検出菌鼻前庭検出菌:コリネバクテリウム属:MS-CNS:MR-CNS:MSSA:MRSA:Enterococcusfaecalis:a溶血性レンサ球菌:その他44.0%12.7%25.0%38.7%32.3%10.2%252株530株2.0%5.6%3.8%4.4%0.6%5.1%0.8%9.4%5.6%図1結膜.と鼻前庭検出菌の構成MS-CNS:メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌.1614あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(102) 01020304050607080保菌率(%)結膜.鼻前庭結膜.鼻前庭結膜.鼻前庭コリネバクテリウム属MR-CNSMSSAp<0.001p<0.05p<0.001図2結膜.と鼻前庭における保菌率の比較MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌.01020304050607080保菌率(%)結膜.鼻前庭結膜.鼻前庭結膜.鼻前庭コリネバクテリウム属MR-CNSMSSAp<0.001p<0.05p<0.001図2結膜.と鼻前庭における保菌率の比較MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌.3.結膜.と鼻前庭における保菌率の比較(菌種別)コリネバクテリウム属に関しては,結膜.の保菌率は37.6%,鼻前庭の保菌率は69.5%であり,鼻前庭のほうが有意に高かった(p<0.001).MR-CNSに関しては,結膜.の保菌率は10.9%,鼻前庭の保菌率は18.3%であり,鼻前庭のほうが有意に高かった(p=0.013).MSSAに関しては,結膜.の保菌率は4.8%,鼻前庭の保菌率は17.0%であり,鼻前庭のほうが有意に高かった(p<0.001).MRSAに関しては,両部位の保菌率の間に有意差を認めなかった(p=1.0)(図2).4.結膜.と鼻前庭検出菌におけるLVFX耐性化率の比較コリネバクテリウム属のLVFX耐性化率に関しては,結膜.では43.2%(48/111例),鼻前庭では14.6%(30/205例)であり,結膜.のほうが有意に高かった(p<0.001).MR-CNSのLVFX耐性化率に関しては,結膜.では62.5%(20/32例),鼻前庭では51.9%(28/54例)であり,両部位間で有意差を認めなかった(p=0.375).MSSAのLVFX耐性化率に関しては,結膜.では14.3%(2/14例),鼻前庭では4.0%(2/50例)であり,両部位間で有意差を認めなかった(p=0.205)(図3).5.結膜.と鼻前庭保菌の関連性鼻前庭のコリネバクテリウム属保菌の有無で結膜.のコリネバクテリウム属保菌率を比較すると,鼻前庭保菌なしでは24.4%(22/90例)であるのに対し,鼻前庭保菌ありでは43.4%(89/205例)と有意に高かった(p=0.002).鼻前庭のMR-CNS保菌の有無で結膜.のMR-CNS保菌率を比較すると,鼻前庭保菌なしでは8.7%(21/241例)であるのに(103)010203040506070LVFX耐性化率(%)結膜.鼻前庭結膜.鼻前庭結膜.鼻前庭MR-CNSコリネバクテリウム属MSSAp<0.001図3結膜.と鼻前庭検出菌におけるレボフロキサシン耐性化率の比較LVFX:レボフロキサシン,MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌.0102030405060結膜.保菌率(%)鼻保菌あり鼻保菌なし鼻保菌あり鼻保菌なし鼻保菌あり鼻保菌なしコリネバクテリウム属MR-CNSMSSAp<0.01p<0.05p=0.068図4結膜.と鼻前庭保菌の関連性MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌.対し,鼻前庭保菌ありでは20.4%(11/54例)と有意に高かった(p=0.026).鼻前庭のMSSA保菌の有無で結膜.のMSSA保菌率を比較すると,鼻前庭保菌なしでは3.7%(9/245例)であるのに対し,鼻前庭保菌ありでは10.0%(5/50例)となり,有意差はないものの結膜.保菌率が高くなる傾向を認めた(p=0.068)(図4).III考按結膜.常在細菌の代表としてコリネバクテリウム属,ブドウ球菌属,レンサ球菌属や腸球菌があげられるが,これらが眼表面に固有の菌種(residentflora)であるのか,あるいは他の部位から影響を受けながら構成されている(transientflora)のかは明らかでない.鼻前庭は眼部と涙道でつながっており,解剖学的にも隣接している.さらに鼻前庭は黄色ブドウ球菌をはじめとした病原細菌が定着しやすい部位でもあるため,鼻前庭との関連を明らかにすることは,眼感染症の感染経路を推測するために重要である.しかしながら,過去に多数例で健常結膜.と鼻前庭の検出菌を比較した報告はなあたらしい眼科Vol.28,No.11,20111615 い.今回筆者らは,健常結膜.と鼻前庭の検出菌を比較することで,結膜.常在細菌の独自性や鼻前庭との共通性を明らかにすることを目的に調査を行った.い.今回筆者らは,健常結膜.と鼻前庭の検出菌を比較することで,結膜.常在細菌の独自性や鼻前庭との共通性を明らかにすることを目的に調査を行った.1.5)では35.92%となっているので,本検討の検出力は他施設とほぼ同等であると考えられた.結膜.検出菌の構成では多い菌種から順に,コリネバクテリウム属,MS-CNS,MR-CNS,MSSAであった.これらは過去5年間の他施設からの報告1.5)と似た結果であった.結膜.擦過物の嫌気培養を行うとPropionibacteriumacnesが分離されることが知られている9)が,本検討では嫌気培養を行っていないため嫌気性菌の評価はできていない.つぎに,鼻前庭擦過物の培養陽性率は96.3%であった.鼻前庭検出菌の構成では多い菌種から順に,コリネバクテリウム属,MS-CNS,MR-CNS,MSSAであり,結膜.検出菌と構成割合が類似していた.したがって,コリネバクテリウム属とブドウ球菌属に関しては,結膜.と鼻前庭の間で菌の移動(自家感染)が行われている可能性が考えられた.特に鼻前庭は結膜.よりも培養陽性率が高く菌量が多い部位と予想されることから,接触感染などを契機に鼻前庭から結膜.に菌が伝播している可能性が考えられた.一方,結膜.と鼻前庭検出菌には相違点もあった.腸球菌は結膜.からは4.4%とMSSAの検出率に近い値であるのに対し,鼻前庭からは検出されなかった.腸球菌は消化管の常在細菌であり,その定着には凝集物質(aggregationsubstance:Agg),表面抗原蛋白(extracellularsurfaceprotein:Esp)やコラーゲン付着因子(adhesintocollagenofEnterococcusfaecalis:Ace)などが関与するといわれている10).他施設からの報告1.5)においても腸球菌は結膜.から3%程度検出されていることから,眼部にも親和性を有している可能性が考えられた.つぎに,コリネバクテリウム属の保菌率は結膜.よりも鼻前庭のほうが有意に高く,さらに鼻前庭のコリネバクテリウム属保菌者では,非保菌者に比べて結膜.のコリネバクテリウム属保菌率が有意に高かった.したがって,結膜.から検出されるコリネバクテリウム属の一部は鼻前庭が供給源になっている可能性が考えられた.しかしながら,両部位から検出されたコリネバクテリウム属のLVFX耐性化率を比較すると,鼻前庭由来株が14.6%であるのに対し,結膜.由来株では43.2%と有意に高かった.結膜.と鼻前庭のフルオロキノロン耐性化率が大きく異なることを考慮すると,両部位にはそれぞれ異なるクローンもしくは菌種が含まれている可能性も考えられた.コリネバクテリウム属に関する過去の報告では,眼部からはCorynebacteriummacginleyiという特定の菌種が検出されることが知られている11).さらに,日本における眼科由来コリネバクテリウム属ではフルオロキノロン耐性化率が高いことも指摘されている12).結膜.由来コリネバクテリウム属が眼部に固有な菌種であるとすれば,日本の結膜.由来コリネバクテリウム属のフルオロキノロン耐性化は抗菌点眼薬の汎用によるものと推測される.今回の検討ではコリネバクテリウム属の菌種同定を行っていないため,結膜.と鼻前庭由来株の菌種レベルでの比較ができていない.結膜.と鼻前庭の関係をさらに明確にするためには16SrRNAのシークエンスによる菌種同定が必要である.つぎに,結膜.のMR-CNS保菌率に関する過去の報告1.5)ではおよそ10.30%と幅がみられる.筆者らが行った結膜.の保菌リスク因子に関する調査では,結膜.のMR-CNS保菌はMS-CNSとは異なり,眼科通院歴,他科での手術歴やステロイド内服歴がリスク因子となることがわかっており,リスク因子が増えるに従って保菌率が約10%から30%へと上昇した6).したがって,施設ごとに結膜.のMR-CNS保菌率に差があるのは,患者層の違いを反映しているためと考えられた.本検討でMS-CNSを検討対象としなかったのは,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌の多くは表皮ブドウ球菌であり,この表皮ブドウ球菌はほとんどすべてのヒトに定着していること,さらに,ブドウ球菌属の多剤耐性化はメチシリン耐性,すなわちSCCmecの保有状況で大きく異なり,MSCNSでは多くの抗菌薬に感受性で臨床上問題となりにくいためである8).鼻前庭のMR-CNS保菌率に関する報告13.15)では19.65%程度といわれており,結膜.と同様に幅がみられる.鼻前庭のMR-CNS保菌リスク因子として,医療関係者や小児などが指摘されている14).今回の検討では,MR-CNS保菌率は結膜.で10.9%であるのに対し鼻前庭では18.3%と有意に高く,さらに鼻前庭のMR-CNS保菌者では,非保菌者に比べて結膜.のMR-CNS保菌率が有意に高かった.したがって,結膜.から検出されたMR-CNSの一部は,鼻前庭が供給源となっている可能性が示唆された.18.3%という鼻前庭のMR-CNS保菌率を考慮すると,術前結膜.培養だけでは保菌者を見逃す可能性がある.MRCNSに対する抗菌効果が不十分な抗菌点眼薬を術前に用いると,鼻前庭由来MR-CNSによる結膜.の菌交代現象が促進される可能性があるため注意が必要である.結膜.から検出されたMR-CNSにおけるフルオロキノロン耐性については,筆者らはすでに報告している8).そのなかで筆者らは,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌のなかでもメチシリン耐性菌のフルオロキノロン耐性化が問題であることを指摘した.今回の検討においても,結膜.由来MR-CNSのLVFX耐性化率は62.5%と検討対象の菌種のなかで最も耐性化率が高かった.しかしながら,結膜.と鼻前庭由来MR-CNSの間でLVFX耐性化率に差を認めなかったことはコリネバクテリウム属とは異なる点であり,これらの結果からMR-CNSのフルオロキノロン耐性化率の上昇は,抗菌薬の全身投与の影響を強く受けていると推測された.1616あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(104) つぎに,結膜.のMSSA保菌率は4.8%であった.過去の報告つぎに,結膜.のMSSA保菌率は4.8%であった.過去の報告によると2.8.6.8%の検出率であり,ほぼ同等の結果であった.黄色ブドウ球菌は鼻前庭が主たる生息部位といわれている.鼻前庭はアポクリン腺や脂腺が豊富な角化上皮組織であり,永続的な保菌者(persistentcarrier)では,アポクリン腺のような特別な部位に黄色ブドウ球菌が定着しているのではないかと推測されているが定かではない7).興味深いことは,健常者における鼻前庭の黄色ブドウ球菌保菌率は日本,欧米を問わずおよそ20.30%とほぼ一定であり,若年者と高齢者の間でも保菌率に大きな差を認めないことである7,17).本検討においても鼻前庭の黄色ブドウ球菌保菌率は17.0%であり20%に近い値となっている.つぎに,多剤耐性菌として重要であるMRSAの保菌率に関しては,結膜.と鼻前庭を合わせても1.7%と低かった.過去の報告では,結膜.1.5)では0.7.2.1%,鼻前庭13.16)では0.2%程度の検出率であることから,今回の筆者らの結果は市中のMRSA保菌率としては一般的な値であると考えられた.本検討では,結膜.と鼻前庭のMSSA保菌率を比較すると鼻前庭のほうが有意に高く,さらに鼻前庭のMSSA保菌者では,非保菌者に比べて結膜.のMSSA保菌率が高くなる傾向を認めた.したがって,結膜.から検出されたMSSAの一部は,鼻前庭が供給源となっている可能性が示唆された.木村らは,症例数は少ないものの前眼部MRSA保菌患者の鼻前庭MRSA保菌率は78%であり,前眼部MRSA非保菌患者の鼻前庭MRSA保菌率11%と比較して有意に高かったと報告している18).さらに,過去に筆者らが行ったStevensJohnson症候群や眼類天疱瘡患者からのMRSA分離株を用いた分子疫学的解析では,同一患者の結膜.と鼻前庭由来MRSAにおけるパルスフィールドゲル電気泳動のバンディングパターンが長期にわたり一致していた(第111回日本眼科学会総会,2007年).したがって,鼻前庭の黄色ブドウ球菌保菌の確認は,眼感染症の診断や治療効果の判定に有用と考えられる.今後は多数の眼感染症患者における鼻前庭の黄色ブドウ球菌保菌について調査を行い,眼感染症と鼻前庭の黄色ブドウ球菌保菌の関連を明確にしていく必要がある.結論としては,鼻前庭は結膜.よりも細菌が検出されやすい部位であり,結膜.のMR-CNSとMSSA保菌の一部は鼻前庭が供給源となっている可能性がある.コリネバクテリウム属のフルオロキノロン耐性化は結膜.検出菌に特徴的であり,フルオロキノロン系抗菌点眼薬の汎用が耐性菌の蔓延を促している可能性がある.今後は適切な抗菌点眼薬の使用を行うためのガイドライン作成が求められる.本論文は第114回日本眼科学会総会で報告した.文献1)岩崎雄二,小山忍:白内障術前患者における結膜.内細菌叢と薬剤感受性.あたらしい眼科23:541-545,20062)河原温,五十嵐羊羽,今野優ほか:白内障手術術前患者の結膜.常在細菌叢の検討.臨眼60:287-289,20063)白井美惠子,西垣士郎,荻野誠周ほか:術後感染予防対策としての術前結膜.内常在菌培養検査.臨眼61:11891194,20074)宮本龍郎,大木弥栄子,香留崇ほか:当院における眼科手術術前患者の結膜.内細菌叢と薬剤感受性.徳島赤十字病院医学雑誌12:25-30,20075)森永将弘,須藤史子,屋宜友子ほか:白内障手術術前患者の結膜.細菌叢と薬剤感受性の検討.眼科手術22:385388,20096)星最智,卜部公章:白内障術前患者における結膜.常在細菌の保菌リスク.あたらしい眼科28:1313-1319,20117)WertheimHF,MellesDC,VosMCetal:TheroleofnasalcarriageinStaphylococcusaureusinfection.LancetInfectDis5:751-762,20058)星最智:正常結膜.から分離されたメチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌におけるフルオロキノロン耐性の多様性.あたらしい眼科27:512-517,20109)InoueY,UsuiM,OhashiYetal:Preoperativedisinfectionoftheconjunctivalsacwithantibioticsandiodinecompounds:aprospectiverandomizedmulticenterstudy.JpnJOphthalmol52:151-161,200810)FisherK,PhillipsC:Theecology,epidemiologyandvirulenceofEnterococcus.Microbiology155:1749-1757,200911)FunkeG,Pagano-NiedererM,BernauerW:Corynebacteriummacginleyihastodatebeenisolatedexclusivelyfromconjunctivalswabs.JClinMicrobiol36:3670-3677,199812)EguchiH,KuwaharaT,MiyamotoTetal:High-levelfluoroquinoloneresistanceinophthalmicclinicalisolatesbelongingtothespeciesCorynebacteriummacginleyi.JClinMicrobiol46:527-532,200813)小森由美子,二改俊章:市中におけるメチシリン耐性ブドウ球菌の鼻腔内保菌者に関する調査.環境感染20:164170,200514)小森由美子,見田貴裕,二改俊章:メチシリン耐性ブドウ球菌の家族内伝播.日本環境感染学会誌23:245-250,200815)渡辺朱理,佐藤法仁,苔口進ほか:歯科衛生士学校生における市中感染型メチシリン耐性ブドウ球菌の保菌調査を通しての感染予防.日本歯科衛生学会雑誌5:69-76,201116)牧野弘幸,畠山秀子,赤沼益子ほか:長野県北信地区におけるMRSAの健常保菌について.医学検査57:11371143,200817)KonnoM,BabaS,MikawaHetal:Studyofupperrespiratorytractbacterialflora:firstreport.Variationsinupperrespiratorytractbacterialflorainpatientswithacuteupperrespiratorytractinfectionandhealthysubjectsandvariationsbysubjectage.JInfectChemother12:83-96,200618)木村直子,外園千恵,東原尚代ほか:前眼部におけるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の検出と鼻前庭保菌との関連.日眼会誌111:504-508,2007(105)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111617

わたしの工夫とテクニック

2011年11月30日 水曜日

あたらしい眼科28(11):1599.1601,2011わたしの工夫とテクニックあたらしい眼科28(11):1599.1601,2011わたしの工夫とテクニック豚眼による白内障モデルの試作と使用経験要約ジアテルミーを用いて,豚眼による白内障モデルを試作した.短時間で,ジアテルミー凝固による混濁を,水晶体中央部に適当な範囲の広さで,簡単に作製することができた.この模擬白内障を使って手術の練習を行った.水晶体中央部に限局した混濁なので,超音波乳化吸引術による水晶体の処理は容易であった.しかし,I/A(irigation/aspiration)チップと新川橋フックを利用して核片を吸引処理するなど,手術の練習方法を工夫すれば,2手法の上達につながると考えた.はじめに一般的に,白内障手術の練習にウェットラボ用の豚眼を使用するが,豚眼の水晶体は硬い核や混濁がなく,手術の練習は比較的容易に行える.これまでに,豚眼による白内障手術の練習効果を向上させるため,薬品などを使用した硬い水晶体核の作製や代用核素材などを用いた報告がある1.5).そのうち,電子レンジを利用する方法2)以外は,白内障モデル眼を作製するのに少々手間と時間を要する.今回,ジアテルミーを利用して,比較的短時間で豚眼の水晶体に混濁を作る方法を開発し,実際に手術の練習を行ったので報告する.I水晶体混濁の作製方法ウェットラボ用の豚眼を用意し,ジアテルミーを用いて水晶体の混濁を作製した.1.ジアテルミー装置今回使用したジアテルミーは,超音波白内障手術器械の一つであるOS3R(Oertli社,スイス)に標準装備されている装置である6,7).ジアテルミーの電極は結膜止血用バイポーラ鑷子を用いた.TrialManufactureofCataractModelinPigEyes上甲覚*2.豚眼の水晶体混濁作製方法1:スリットナイフで角膜切開を行い,前房内を粘弾性物質で満たした.連続円形切.術(continuouscurvilinearcapsulorhexis:CCC)を行った後に,バイポーラ鑷子電極のab図1水晶体混濁の作製方法(その1)a:前房内を粘弾性物質で満たし後にCCCを行い,バイポーラ鑷子を水晶体に挿入して,ジアテルミー凝固を行った.バイポーラ鑷子周囲の水晶体が白濁しているが,切開創も白濁してきている.b:水晶体の中央部に模擬白内障ができたが,角膜切開創も強く白濁して,皺ができている.水晶体の混濁部位では,CCCの切開縁の視認性が悪くなっている.*SatoruJoko:武蔵野赤十字病院眼科〔別刷請求先〕上甲覚:〒180-8610武蔵野市境南町1-26-1武蔵野赤十字病院眼科0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(87)1599 abab図2水晶体混濁の作製方法(その2)a:角膜サイドポートから灌流を行いながら,バイポーラ鑷子で水晶体をジアテルミー凝固した.b:模擬白内障が水晶体の中央部にできた.角膜切開創は,ジアテルミー凝固の影響をあまり受けていない.dabc図3模擬白内障の核分割と核片に対する処理a:模擬白内障に超音波チップで溝を掘り,新川橋フックを利用して核を2分割できた.b:模擬白内障の一部を意図的に残し,I/Aチップで核片の吸引を試みた.吸引圧を600mmHgにして,小さな核片を約1分間吸引したが,吸引口に残存している.c:大きい核片をI/Aチップで吸引し,新川橋フックでチップの吸引口に押しつける操作をくり返して,粉砕しながら吸引した.d:I/Aと新川橋フックで,大きい核片の処理が完了した.先端を水晶体内に挿入して,フットスイッチを押し凝固したい皺ができる欠点がある(図1b).その欠点を避ける方法を(図1a).約2分で,ジアテルミーによる水晶体の混濁を作つぎに述べる.ることができた(図1b).方法2:角膜にサイドポートを作り灌流用カニューラを挿ただし,角膜切開創も熱凝固により強く白濁し,角膜に強入し,灌流を行いながらバイポーラ鑷子の先端を水晶体内に1600あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(88) 挿入して混濁を作製した(図2a).挿入して混濁を作製した(図2a).II模擬白内障の使用経験1.超音波水晶体乳化吸引術(phacoemulsificationaspiration:PEA)による練習使用した超音波白内障手術器械はOS3Rである.超音波チップで,模擬白内障の中央部に溝を掘り,新川橋フックで核を2分割することができた(図3a).水晶体全体は硬くないので,PEAによる処置は容易であった.2.Irigation/Aspiration(I/A)チップと新川橋フックを利用した練習方法実際の手術では,ごくまれに小さな核片が残存して,I/A中にその処理を行う必要性が生じる.そのときの対処法の練習も行った.まず,PEAでは模擬白内障全体を処置せず,意図的に核片を残してI/Aチップのみで吸引除去できるか試した.小さな残存した核片は,最大吸引圧600mmHgで1分以上吸引しても,I/Aチップのみでは処理できなかった(図3b).模擬白内障は,ある程度の硬度があることがわかる.つぎに,新川橋フックを併用して,残存した核片の処理を行った.サイドポートから挿入した新川橋フックで,I/Aチップで吸引した大きな核片をチップの吸引口に押しつける操作をくり返した.核片を細かく粉砕しながら吸引処理することができた(図3c,d).実際の手術では,大きな核片はPEAで処理を行うのが一般的で,本来の新川橋フックを利用した2手法とは操作が異なる.しかし,顕微鏡下で,このような練習をくり返すことで,新川橋フックの使い方に慣れると考えた.おわりにジアテルミーを使用し短時間で,豚眼の水晶体中央部に,ヒト眼の白内障に類似した水晶体混濁を作製することができた.この混濁の影響で,徹照が悪くなることも確認できた.ただし,水晶体全体に混濁を作製するのは困難であった.この白内障モデル眼では,硬くて大きな核に対するPEAの練習はできないが,溝掘り,2分割といった基本的な手技の練習は可能であった.また,I/Aチップと新川橋フックを併用して,核片を吸引処理するなどの練習方法を工夫すれば,2手法の上達につながると考えた.したがって,本法で作製した模擬白内障は,初級者が手術の練習をするのに,有用なモデル眼の一つになると考えた.文献1)黒坂大次郎,杉浦毅,植月康:豚眼を用いた白内障手術練習法の改良─硬い核を作る試み─.眼科40:109-114,19982)VanVreeswijkH,PameyerJH:Inducingcataractinpostmortempigeyesforcataractsurgerytrainingpurposes.JCataractRefractSurg24:17-18,19983)八田史郎,松浦一貴,長田正夫ほか:代用核素材(昆布豆)と摘出豚眼を用いた超音波水晶体乳化吸引術の練習方法.眼科41:815-821,19994)MekadaA,NakajimaJ,NakamuraJetal:Cataractsurgerytrainingusingpigeyesfilledwithchestnutofvarioushardness.JCataractRefractSurg25:622-625,19995)德田芳浩:豚眼実習における模擬核の作り方─カートンNRによる核の作製─.眼科手術20:85-87,20076)上甲覚:白内障手術練習用の豚眼による角膜混濁モデルの試作.あたらしい眼科27:83-84,20107)上甲覚:白内障手術練習用の豚眼による角膜混濁モデルの作製と使用経験.臨眼64:465-469,2010☆☆☆(89)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111601

眼科医にすすめる100冊の本-11月の推薦図書-

2011年11月30日 水曜日

■11月の推薦図書■李陵・山月記中島敦著(新潮文庫)高村浩公立置賜総合病院眼科これは「文学」である.普段,読んでいるのは学術論文とか,医学評論とか,ドキュメンタリーやノンフィクションとか,断捨離のようなHowto本とか日常の仕事や生活に即応・直結するようなものが多い.それに対して文学本は何の役に立つのかよくわからないイメージがあるが,時に無性に読んでみたいと思うことがある.また,一字一句をおろそかにしない「精読」という読み方がある.昔,医学部の学生だった頃に分厚い内科の教科書を最初のページから熟読していた同期生がいた.彼の集中してじっくり読んでいる,一種「気高い」姿に憧れて真似をしてみたが,すぐ頓挫した.忙しい日々のなかで,文学に触れることができるのがこの中島敦の本である.本書には「山月記」,「名人伝」,「弟子」,「李陵」の4つの短編が収められている.特に「山月記」と「名人伝」は文庫本で10ページ前後の量なのでその字面だけを追うのであれば10分もあれば読了してしまう.ただし,中島敦は代々の漢学者の家系に生まれた素養の上に中国の古典を基にしているので作品は漢文調である.あまり聞いたこともない中国の地名や難解な言葉使いが満載で,本の後ろの脚注を見ながら読み進めなければ十分に理解できないので,いきおい自ずと精読せざるを得なくなる.脚注も内容豊富で,本文の言葉と合わせてその表現された状況を想像することでより作品に没頭し,文学に浸ることができる.「山月記」は詩人として名を残したいとすべてを犠牲にして詩業に打ち込むも叶わず,姿が虎に変わってしまうという芸術家の業の深さを描いた哀しい物語だが,一方,「名人伝」は激しい修行の末に弓矢の名人になり得たというサクセス・ストーリーである.「弟子」は粗野で粗暴な男が孔子に心酔して弟子入りし,後に立派な為政者となる物語で,「李陵」は匈奴の俘虜となった漢の(85)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY勇将李陵と蘇武,および史記を書いた司馬遷の3人のそれぞれの立場における心の有り様を描いたものである.これらのなかで「名人伝」では,主人公の紀昌が弓矢の名人になるべく修行を始めるが,その第一歩が何事があってもずっと目を見開いて瞬きをしないこと,および毛髪につないだ虱(しらみ)が馬のように大きく見えるようになるまで睨み続けることであった.弓矢の修行がまずは目の基礎訓練から始まるというのは面白いが,目前で何が起こっても瞬目をせず,また睡眠時も開瞼したままであるというのは眼科医の立場からはあまり好ましくないと思われた.紀昌は最初の師匠の飛衛の下で技術的に習熟すると,さらなる高みを目指して二番目の師匠の甘蠅老師の下でさらに修行に励んだ.修行を終えて帰ってきた時,紀昌の精悍だった顔つきは木偶(でく)のような,愚者のような表情のない容貌に変わっていた.二番目の師の甘蠅老師も羊のような柔和な目をしたよぼよぼの爺さんであった.しかし,その周囲には名人の放つオーラと言うか,殺気,妖気が漂い,邪心を抱く者どもを容易に近づけなかった.われわれ眼科の世界でも角膜,緑内障,網膜・硝子体,眼腫瘍など各分野の名人あるいは達人からはオーラが放たれ,その人達が発信するものには深くて重い意味が宿っているように感じられる.何事においてもそれを極めたという人は一概に静かで温厚であり,ことさら自分からアピールしなくてもその存在感は際立っている.修行から帰ってきた弓矢の名人の紀昌は弓矢も持たず,弓矢の話もしなくなった.甘蠅老師から授けられた「不射の射」という境地は弓矢という道具を使わずに標的を射落とすことである.名人になるともはや道具も不要となる.ハイテク化された検査・治療機器が溢れる眼科の場で「不射の射」は無理かもしれない.以前,緑内あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111597 障の大家の先生の「ローテクの勧め」という講演を拝聴した.細隙灯顕微鏡と90Dの前置レンズだけで視神経乳頭のサイズや陥凹の評価を行うというものであった.その評価は正確で,ハイテク機器を用いた検査結果と同等もしくはそれを凌駕するものであった.眼科における名人とはローテクの検査・治療機器でハイテク機器を用いたと同様の結果を導き出せる人と言えるかもしれない.ローテクをハイテクのレベルまで引き上げるのはその名人の豊富な知識と経験および鍛え抜かれた技量であろう.障の大家の先生の「ローテクの勧め」という講演を拝聴した.細隙灯顕微鏡と90Dの前置レンズだけで視神経乳頭のサイズや陥凹の評価を行うというものであった.その評価は正確で,ハイテク機器を用いた検査結果と同等もしくはそれを凌駕するものであった.眼科における名人とはローテクの検査・治療機器でハイテク機器を用いたと同様の結果を導き出せる人と言えるかもしれない.ローテクをハイテクのレベルまで引き上げるのはその名人の豊富な知識と経験および鍛え抜かれた技量であろう.としてはまったく正しいと考える.ただ,もとより名人は上から言われてなるもの,あるいはなれるものではなく,あくまで個人的な願望であると思う.あの名人のようになりたいという今より高い境地を目指す気概を持つことは個人的なレベルアップを果たすためにたゆみない努力を続けるモチベーションを維持するのに非常に重要ではないかと思われる.中島敦は33歳で夭逝したが,その代表作のほとんどが亡くなる8カ月前に集中的に書かれたという.日本でも名作を残して夭逝した作家は多い.また,作家に限らず,自然科学の分野でもノーベル賞に値する研究を行ったのは20.30歳代の若い時分であったという人が結構いる.若いその時期にあたかも神が降りてきたように才能が開花することがあるのかもしれない.若い先生方は今がその時かもしれないと考えてチャンスを逃さないように頑張ってほしい.☆☆☆1598あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(86)

後期臨床研修医日記 14.東京大学医学部眼科学教室

2011年11月30日 水曜日

●シリーズ⑭後期臨床研修医日記東京大学医学部眼科学教室寺尾亮東京大学医学部附属病院眼科・視覚矯正科では現在,計7名の専門研修医が研修に励んでいます.天野史郎教授をはじめ各専門の先生方の指導のもと,日々勉強に勤しんでいます.そんな当院での研修医生活の一端をご紹介させていただきたいと思います.研修制度1年目の専門研修医は大学病院で研修をします.各学年の専門研修医のうちの数名が大学病院に配属されており,学年間で協力し合いながら日々の業務をやりくりしています.研修開始の最初はオーベンの先生に付いて診療を行い,眼科の診察方法や基本的な知識などを手とり足とり教わります.専門研修医は「独り立ち試験」に合格すると自分の外来を持つことができ,独りで外来・入院患者さんを受け持つようになります.朝朝は早いです.患者さんが8時から朝食が開始となるので,それまでに朝の診察を済ませなければなりません.病棟患者さんはすべて研修医で担当を分担しており,多い時は独りで10.20人を受け持つことがあります.診察時間から逆算すると患者さんの起床時間より早くに診察を開始しないと終わらない時もあります.多くの症例を経験すること,限られた時間のなかで診察をテキパキとこなすことはとても大切なことと思いますので,朝眠い眼を擦りながら患者さんの眼を診ています.外来朝の診察が終わった後は,休む時間もなく外来が始まります.初診・再診患者さんを受け持ち,専門の先生方に診てもらいながら外来診療をしています.大学病院ではさまざまな疾患の患者さんがいらっしゃるので大変勉強になるのですが,外来を始めて半年程度の僕は上級医(81)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY▲眼科病棟にて(左から東,寺尾,杉本,譚,清水)の先生のように上手く捌くことができません.しっかり診ようとすると診察時間が長くなって滞ってしまったり,早くまわそうとすると所見に漏れが出てしまったり,まだまだ半人前です.手術手術日はいつもより朝早く病院に来なければなりません.朝一の手術が始まる前に機材や薬剤の準備をします.手術は4列同時に行っていますので,術中どの列でも人手が足りているか眼を配りながら各列のサポートをします.実際にはオーベンの先生の手術に助手や器械出しとして参加し,もちろん自分執刀の手術もあります.外来と同様手術もバラエティに富んでおり一つひとつの手術が勉強になります.「自分がoperatorだったらこうする」と頭のなかで思いながら介助を行い,手術がスムーズに進むように心がけています(実際にスムーズになっているかはわかりませんが).「使い勝手の良い」助手・器械出しになることをモットーに手術に臨んでいます.自分執刀のときはオーベンの先生に指導していただきながら行います.まだ手を動かすようになったばかりであたらしい眼科Vol.28,No.11,20111593 ▲医局カンファランスすが,自分の思い描いたように上手くいかず悩むばかりです.カンファランス毎週水曜日の夜はカンファランスがあります.翌週の手術予定症例のプレゼンや珍しい症例の経過報告,臨床検討会,勉強会などをしています.大勢の先生とdiscussionができる機会があるというのも大学病院ならではのメリットだと思います.おっとそんなことを思っている間に,ゆっくりと瞼が下がってきている研修医が….眼瞼下垂の患者さんの気持ちを体験しようとしているのでしょうか.段々とウトウトもしてきていますね.左右に揺れている頭の影が大画面プロジェクターに映っています.眼振のある白内障症例の手術が今日行われていたことを皆に教えてくれているのでしょう.研修医とは体を張った大変な仕事です.夜外来,手術の後は病棟業務に向かいます.病棟患者さんの診察をして,翌日手術の患者さんの診察やムンテラをします.症例によっては術前の眼底スケッチも描きます.一日の業務を終えた後,やっと自分の仕事に取りかかることができます.その日の外来や手術でわからなかったことを調べたり,参考書を読んだりなどします.また学会で発表をする機会を頂くことが多いので,それに向けての準備などをします.しかし夜になるとすでに疲労困憊なのでなかなか仕事が捗りません.朝早起きしてやったほうが仕事の効率が良くなるかな,と思うこともあるのですが,朝は朝で診察が早くから始まるのでそれも困難です.オーベンの先生方はこんな忙しいスケジュー1594あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011▲眼底スケッチを描く筆者ルのなかいつ論文を書いているのか,尊敬も然ることながら不思議でたまりません.休日土日は決まった業務はありませんが,有志で初診症例勉強会を開催しています.1週間に当科を受診した初診症例をチェックしてくださる先生がおり,レクチャーをしてくれます.どのような症例にはどんな検査が必要か,どういった治療方針を考えるべきかなどについてカルテを見ながら検討します.もちろん自分の診た症例もチェックされているので気が抜けません.まだまだ勉強が足りないなぁと毎週思い知らされます.おわりに当院での研修生活について一通りご紹介させていただきました.医局全体の雰囲気はとても良く,働きやすい環境だと思います.バリバリ働きたい人はがっつりと,段階を踏んでゆっくりと成長していきたい人は一段一段着実に,家庭のあるなどの人はその人の環境事情に合わせて,と個人のペースに沿って研修を行うことができ,懐が非常に深くどの研修医も居心地よく感じています.まだまだ未熟な点ばかりですが,一日でも早く「眼科医」になれるようにこれからも日々精進していきたいと思います.〈プロフィール〉寺尾亮(てらおりょう)平成20年筑波大学医学専門学群卒業,同学附属病院で初期臨床研修.平成22年4月より東京大学医学部眼科学教室専門研修医.(82) ら感じていましたが,今回の文章を読んでそのことが更によくわかりました.われわれの教室では研修医の先生たちが更に充実した研修が受けられることを目指して,外来,病棟,手術室での教育,そして診療終了後の自分が診た症例の検討,そして勉強会,クルズス,などのシステムの充実,視能訓練士などのパラメディカルスタッフの拡充に取り組んでいます.われわれの教室への参加をお待ちしております.(東京大学医学部眼科学・教授天野史郎)教授からのメッセージ☆☆☆(83)あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111595

眼研究こぼれ話 23.ビタミンEの研究 老化を防ぐ効果

2011年11月30日 水曜日

●連載眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長ビタミンEの研究老化を防ぐ効果万里の長城を造り,中国を統合した秦(しん)の始皇帝は3,000人の美女を従え,精力絶倫であった.変な学説など唱える学者は次々と首をはねられ,国は繁栄を続けた.しかし,ある日,彼はいささか疲れを感ずるようになったのであろう.国中の学者,賢者を集め,不老長寿の妙薬の探索を命じた.数百人(900人ともいう)の学者は出かけたまま帰って来なかった.この一団は東方に向かって海を渡って行ったことになっており,日本人の祖先だろうという説もある.日本には方々に長寿の村落があったりする.世界の他の地区でも同じであるが,長寿の人々は一般に粗食を取っているようである.最近,医学者たちは,人間の体は120歳位までは使えるともいっている.生物の命が長くなるためには,それを作っている個々の細胞が長命でなければならない.各細胞はそれぞれ特異な化学反応をしながら生命を保つと同時に,与えられた任務を遂行している.すなわち分泌物を出したり,動いたりしているのである.このような生命活動をして,エネルギーを産出すると,細胞は副産物として残渣(─さ)を出さざるを得なくなる.不要物は普通,水とか炭酸ガスとなって,排気や尿中に捨てられるが,残渣には脂を含んだものがあってどうしても細胞内にたまってくる.この残渣物質を老化顆(か)粒と呼び,老化現象の最小単位と考えるようになった.老化顆粒は茶褐(かっ)色の物質で,老人の内臓,特に腎(ジン),心,肝にたまり,また筋肉も褐色となってくる.若年者でも,ひどい熱病とか,慢性の病気にかかると,同様な顆粒がたくさん出てくることが知られている.ま(79)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY▲老人のことを語るさし絵にコーガン教授をもってきてはしかられるに決まっている.教授の70歳誕生日のディナーのあと,美しいフランス式ケーキを切る先生(左はキノシタ夫人).たこの残渣物質が多くたまった細胞は正常機能を完全に発揮することが出来にくくなって,臓器そのものの老化現象を表すようになる.この褐色物質を作らないように,残渣処理の機能を推し進めているのが,ビタミンEらしいのである.ビタミンEは半世紀以上も前に発見され,これを,ネズミの飼料から取り除くと,動物が妊娠しなくなるので,性に関係したビタミンであろうと考えられていた.現在では,どうも,性は第二次的影響であるように考えられている.多量のビタミンEを動物に与えると,細胞内の老化残渣が少なくなり,またこれを欠如させると,細胞が早く老化する.このEこそ,長寿の妙薬ではないかと思われるようになった.現在すでに,いろいろの病気の治療目的でビタミンEが使われている.眼の奥にある網膜の後ろ側に,色素上皮といわれる細胞があり,視覚に大切な役割を果たしている網あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111591 眼研究こぼれ話眼研究こぼれ話ビタミンEは胚(はい)芽,キノコまたは種々の植物性の油の中に多量に含まれている.また,このビタミンを細胞が有効に利用するためには,セレニウムという金属の微量が必要であることも分かってきた.この金属イオンが含まれている谷の水を飲んで,胚芽などを食べておれば,長寿を保つことが出来るわけで,美食をしていたに違いない始皇帝に,このような食生活の変更を献言する勇気は学者たちに持ち合わせがなかったに違いない.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆1592あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(80)

インターネットの眼科応用 34.医療のIT化で可能になること(4)-タブレット端末・ウェアラブル端末の可能性-

2011年11月30日 水曜日

インターネットの眼科応用シリーズインターネットの眼科応用シリーズ34章医療のIT化で可能になること④─タブレット端末・ウェアラブル端末の可能性─武蔵国弘(KunihiroMusashi)むさしドリーム眼科タブレット端末と医療インターネットの進化の方向性の一つは,人間と端末とのインターフェースをより感覚的に,身近にすることです.このコンセプトは,ユビキタスもしくはウェアラブルとよばれています.つまり,衣服を着るように端末に触れ,いつでもどこでもインターネットに接続できる世界です.画面に触れて操作するタッチパネルの革新性は,情報処理を直感的に行うことを可能にし,ユビキタス社会に近づけた点です.ニンテンドーDSなどのゲーム機から,iPadに代表されるタブレット端末,スマートフォンとよばれる多機能携帯電話にタッチパネルが搭載されています.これらの機器は,キーボード入力に頼らずに,原始的な操作で情報処理を行えます.タブレット端末に代表されるタッチパネル搭載機器(以下,タブレット端末)は,膨大な情報量を簡便にわかりやすく伝えるため,人材教育において最も威力を発揮します.タブレット端末により,定まったマニュアルを初心者にもわかりやすく伝えることができます.ある特定の個人がもっている特別なノウハウを文書ではなく画像で感覚的に他人に伝えることができます.文字通り,百聞は一見にしかず,を手の上の端末が実現します.この,人材教育という情報格差を埋める作業は従来,人手と時間をかけて行われていました.医療の現場も同様です.医師の手術教育,医療従事者の業務習得,患者への手術のインフォームド・コンセントなどはすべて,情報格差を埋める作業です.タブレット端末の効果が予想されます.実業界での成功例を紹介します.マクドナルドでは,スタッフ教育に「動機付け」をし「主体性」を重視し,ニンテンドーDSとゲーム感覚でマニュアルを学習できるソフト「eスマート」を利用しています.同じサービスを違う店舗でも提供するには,徹底したクオリティコントロールが求められますが,タブレット端末により,教育スピードのアップ,教育コストの削減を実現してい(77)0910-1810/11/\100/頁/JCOPYます1).タブレット端末の登場により,従来,文章化しにくかったノウハウを容易に伝承できるようになりました.医療現場においては特に,手術教育に効果を発揮しています.まず,端末を滅菌済みの清潔な袋で包むことにより,手術に必要な情報を術野に持ち込むことができます.先人の手術動画はもちろん,CT,MRIなどの画像を三次元構築して表示し,タッチパネルで表示すれば,術野の裏側から見た臓器を可視化できます.OsiriXという便利なアプリケーションがあります.このフリーソフトを用いれば,二次元の平面図を3D画像に変換できます.タッチパネルを用いて画像を拡大したり,見たい角度から自由に見たりできます.さらに,イスラエルObjetGeometries社の三次元プリンターの「Objet260Connex」を用いると,三次元画像を容易に短時間で模型化することができます.神戸大学医学部附属病院では,三次元プリンターで造形した生体モデルを実際の手術の現場に持ち込み,複数の手術を成功させました.2種類の材料を混ぜ合わせて造形できるため,一方の材料を透明な素材にすれば,人体内部の骨や腫瘍などの位置を外部から確認できる生体モデルを造形できます.そしてこの生体モデルを肝臓がんの手術や奇形手術図1三次元プリンターで印刷された肝臓模型あたらしい眼科Vol.28,No.11,20111589 などに活用しましたなどに活用しました(図1).このプリンターを使うと,実際の臓器を処置する前にシミュレーションが可能になります.「この断面で切開すれば,この血管を傷つけるだろう」ということが術前に予想できます.手術中に生体モデルと照らし合わせながらスタッフと議論し,最適な方法を選択できます.図1で示した実物大の肝臓模型は一晩で完成しますので,眼球ではより短時間で作製可能と考えられます.ウェアラブル端末の医療応用タブレット端末を発展させると,ユビキタス社会に繋がります.ユビキタス社会とは,「いつでも,どこでも,何でも,誰でも」がコンピュータネットワークを初めとしたネットワークに繋がることにより,さまざまなサービスが提供され,人々の生活をより豊かにする社会を意味します4).狭義には,ウェアラブルコンピューティング(以下,ウェアラブル)とも表現します.ウェアラブルの医療応用例をいくつか紹介します.ダイワハウスは,トイレの便座に座るだけでバイタルを測定し,排尿時に尿検査ができるインテリジェンストイレⅡというトイレを開発しました.便座から体表面の温度,脈拍,酸素飽和度を確認します.尿から蛋白質や糖を確認する通常の尿検査だけでなく,尿温度(深部体温)を測定します.このデータを医療機関にインターネットを介して伝えて,検査結果として保存することも可能でしょう.このトイレは,日常生活のなかで無理なく健康チェックができる非常にユニークな商品です5).また,ユビキタス社会へのステップとして,無人自動車に関する研究開発が進められています.無人自動車の技術はロービジョンケアに応用が可能です.時速60kmで走る車をコントロールするテクノロジーは,時速3kmで歩く人間をうまく目的地に導くでしょう.最先端のテクノロジーはぜひ,ヒューマンヘルスに還元されて欲しいと願います.日産自動車は,後方・側方の人・クルマ・道路を検知し,危険を判断して運転者に知らせる「リヤカメラを用いたマルチセンシングシステム」を開発しました.このシステムは2012年の新型車に搭載される予定です6).米Googleは2011年10月,自動車用自動運転システムを開発中であると発表しました.すでに米カリフォルニア州の公道で走行テストを実施しており,同システムを搭載した自動車を14万マイル(22万5,000km)以上走らせました.開発担当者のスラン氏はスタンフォード大学のコンピュータ・サイエンス学科と電気工学科の教授で,スタンフォード人工知能研究所の1590あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011所長も務めています.同プロジェクトには,米国防総省高等研究計画局(DARPA)主催のロボットカーレース「GrandChallenge」参加経験をもつ優秀な技術者が集まっています.無人自動車の実現は近い将来でしょう7).このようなIT技術を,ロービジョンケアに応用する,ITguidedlowvisioncareは,今後,われわれ眼科医が取り組む大きなテーマです.慶應義塾大学SFCは,盲導犬に代わる多機能の杖を開発しています.「NS_cane」とよばれる杖は,プロダクトデザイン,センサー技術,インタラクティブメディアなどの多様な要素を融合しています.デジタル技術により機能を拡張された杖は,盲導犬に代わる新たな情報の「相棒」となる可能性を秘めています8).私見としては,杖よりも眼鏡のほうが利用しやすいように感じますが,杖であれ眼鏡であれ,ウェアラブルな端末がロービジョン患者の眼となって,コンビニやスーパーの看板を画像認識し,信号を見分け,障害物をいち早く察知することは,大変有意義です.この端末にGPS機能や音声認識ソフトを搭載すれば,カーナビが自動車を導くように,ロービジョン患者を目的地までスムーズに導くでしょう.【追記】これからの医療者には,インターネットリテラシーが求められます.情報を検索するだけでなく,発信することが必要です.医療情報が蓄積され,更新されることにより,医療水準全体が向上します.この現象をMedical2.0とよびます.私が有志と主宰します,NPO法人MVC(http://mvc-japan.org)では,医療というアナログな行為を,インターネットでどう補完するか,さまざまな試みを実践中です.MVCの活動に興味をもっていただきましたら,k.musashi@mvcjapan.orgまでご連絡ください.MVC-onlineからの招待メールを送らせていただきます.先生方とシェアされた情報が日本の医療水準の向上に寄与する,と信じています.文献1)http://www.visualthinking.jp/archives/1192)http://techon.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20110701/193023/k1.JPG3)http://www.ktv.co.jp/anchor/feature/2011_09_26.html4)http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%93%E3%82%AD%E3%82%BF%E3%82%B95)http://www.daiwahouse.co.jp/release/20081224111714.html6)http://response.jp/article/2011/10/12/163681.html7)http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1010/10/news002.html8)http://sakainaoki.blogspot.com/2011/05/sfc-xd-2011.html(78)

硝子体手術のワンポイントアドバイス 102.シリコーンオイル注入時の注意点(初級編)

2011年11月30日 水曜日

●連載102102シリコーンオイル注入時の注意点(初級編)池田恒彦大阪医科大学眼科はじめにシリコーンオイルタンポナーデを施行する際に,注入量が少ないと術後のタンポナーデ効果が不十分となる.一方,無水晶体眼では注入量が多過ぎると前房内にシリコーンオイルが充満し,瞳孔ブロックをきたして眼圧が上昇することがある.シリコーンオイルを適量注入することは,手術成績を向上させるうえでも重要である.●空気灌流時のシリコーンオイル注入網膜.離例では気圧伸展網膜復位術後に,その他の疾患でも眼内液-空気同時置換術後に,インフュージョンポートを設置したまま灌流圧を低下させ,既存の強膜創からシリコーンオイルを注入するのが一般的な方法と考えられる.この際の注入量としては,有水晶体眼あるいは偽水晶体眼では,硝子体腔内に空気が残存しないように,また眼圧が上昇を防止するため,液体パーフルオロカーボンで網膜を伸展した後に,液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルを直接置換することが多い.このときは,房水よりも比重が重い液体パーフルオロカーボンが網膜面と接しているため,網膜面には房水はほとんど貯留していない.この状態で空気灌流時のように前房内までシリコーンオイルを注入すると,注入量が多過ぎて,術後も前房内にシリコーンオイルが充満したままとなり著明な眼圧上昇をきたす.この場合には前房内に必ず房水(あるいは空気)を残存させる必要がある(図2a,b).シリコーンオイルシリコーンオイル房水房水図1空気灌流時のシリコーンオイル注入a:眼内液-空気同時置換時にはすでに網膜面には一定量の房水が溜まっている.b:術後に伏臥位を保持すれば,術翌日に前房内へ房水が移動するので,前房内シリコーンオイルになることは少ない.しないようにシリコーンオイルを注入するのは比較的容易である.無水晶体眼で前房と硝子体腔が交通している症例では,必ず下方に虹彩切除を施行する必要がある.このときの注入量だが,やや多めに前房内を満たすようにシリコーンオイルを注入しても,その時点ですでに網膜面には一定量の房水が溜まっているので,術後に伏臥位を保持すれば,術翌日に前房内へ房水が移動しており,前房内シリコーンオイルになることは少ない(図1a,b).●液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルの同時置換時には注意!巨大裂孔網膜.離では網膜のスリッページ(75)あたらしい眼科Vol.28,No.11,201115870910-1810/11/\100/頁/JCOPYシリコーンオイルシリコーンオイル液体パーフルオロカーボン図2液体パーフルオロカーボンとシリコーンオイルの同時置換a:液体パーフルオロカーボンが網膜面と接しているため,網膜面には房水はほとんど貯留していない.b:この状態で前房内までシリコーンオイルを注入すると,術後も前房内にシリコーンオイルが充満したままとなり著明な眼圧上昇をきたす.

眼科医のための先端医療 131.眼免疫疾患に対する樹状細胞療法の可能性

2011年11月30日 水曜日

監修=坂本泰二監修=坂本泰二第131回◆眼科医のための先端医療山下英俊眼免疫疾患に対する樹状細胞療法の可能性服部貴明臼井嘉彦(東京医科大学眼科)樹状細胞は,細胞周囲に特異的な樹状突起をもつことにその名前が由来する免疫細胞です.この樹状細胞は体内に侵入した異物を捕食し,その異物の特徴をリンパ球に伝えることで,リンパ球が特徴を認識して異物を攻撃します.このように免疫を惹起するうえで,樹状細胞は欠かせない役割を担っています.近年,樹状細胞に関する研究が活発に行われ新しい知見が次々と発見されています.さらにこの細胞を用いて癌治療,ワクチンなどへの臨床応用が始まりつつあります.本稿では,樹状細胞ならびに制御性樹状細胞について解説し,眼科領域における樹状細胞の基礎研究から得た知見や臨床応用への可能性について述べていきます.樹状細胞1990年以前では樹状細胞は生体内にごく少数しか存在しないために,詳細な機能は解明できていませんでした.しかし,Inabaら1)の発見により骨髄細胞をGMCSF(granulocyte/macrophage-colonystimulatingfactor)とともに培養することで樹状細胞をinvitroで大量角膜上皮角膜実質図1Langerin蛍光標識マウスを用いた角膜内でのLangerhans細胞の分布解析角膜上皮内のみでなく角膜実質内にもLangerin陽性細胞(Langerhans細胞:黄色く標識された細胞)が存在している(青色は核染色).Bar=100μm.(73)に作製することが可能となり,研究が飛躍的に進みました.近年では,樹状細胞に特異的に発現する分子が特定されており,遺伝子改変技術を用いて,樹状細胞を特異的に欠損するマウスや,樹状細胞が特異的に蛍光標識されたマウスなどが開発され,実際の体内での樹状細胞の分布や働きが解明されつつあります.筆者らは,Langerinとよばれる樹状細胞に特異的に発現する分子が蛍光標識されたマウスを用いて,角膜内の樹状細胞,特にLangerhans細胞の分布を検討し,角膜上皮のみでなく角膜実質にもこれらの細胞が存在していることを解明しました2)(図1).さらに,樹状細胞はドライアイから脈絡膜新生血管までさまざまな眼科疾患の病態に関与していることが報告されています3.5).制御性樹状細胞このような樹状細胞に関する研究により,通常の樹状細胞と異なりリンパ球の活性化を促さず,むしろリンパ球の活性を抑制し免疫反応を制御する“制御性樹状細胞”の存在が明らかになってきました.筆者らは,この制御性樹状細胞を用いて実験的自己免疫性ぶどう膜炎の発症を抑制可能かどうか検討しました.Satoら6)の開発した方法によりマウス骨髄細胞から,GM-CSF,IL(インターロイキン)-10,TGF(形質転換成長因子)-bを用いて制御性樹状細胞を作製しました.自己抗原であるIRBP(interphotoreceptorretinoidbindingprotein)を強化免疫したマウスに作製した樹状細胞を投与したところ,ぶどう膜炎の発症が有意に抑制されました7)(図2).さらに筆者らは,この制御性樹状細胞をマウス角膜移植モデルに用いて,拒絶反応についても検討を行い,拒絶反応を抑制する結果を得ています.無処置群制御性樹状細胞投与群図2制御性樹状細胞による実験的自己免疫性ぶどう膜炎の抑制制御性樹状細胞を投与した群では,コントロール群に比較し,網膜の層構造の乱れも少なく,ぶどう膜炎が抑制されている.あたらしい眼科Vol.28,No.11,201115850910-1810/11/\100/頁/JCOPY おわりにおわりに文献1)InabaK,InabaM,RomaniNetal:Generationoflargenumbersofdendriticcellsfrommousebonemarrowculturessupplementedwithgranulocyte/macrophagecolony-stimulatingfactor.JExpMed176:1693-1702,19922)HattoriT,ChauhanSK,LeeHetal:CharacterizationofLangerin-expressingdendriticcellsubsetsinthenormalcornea.InvestOphthalmolVisSci52:4598-4604,20113)NakaiK,FainaruO,BazinetLetal:Dendriticcellsaugmentchoroidalneovascularization.InvestOphthalmolVisSci49:3666-3670,20084)ZhengX,dePaivaCS,LiDQetal:DesiccatingstresspromotionofTh17differentiationbyocularsurfacetissuesthroughadendriticcell-mediatedpathway.InvestOphthalmolVisSci51:3083-3091,20105)ForresterJV,XuH,KuffovaLetal:Dendriticcellphysiologyandfunctionintheeye.ImmunolRev234:282304,20106)SatoK,YamashitaN,YamashitaNetal:Regulatorydendriticcellsprotectmicefrommurineacutegraft-versushostdiseaseandleukemiarelapse.Immunity18:367379,20037)UsuiY,TakeuchiM,HattoriTetal:Suppressionofexperimentalautoimmuneuveoretinitisbyregulatorydendriticcellsinmice.ArchOphthalmol127:514-519,2009■「眼免疫疾患に対する樹状細胞療法の可能性」を読んで■本稿に取り上げられている樹状細胞に関した研究成いたものです.このコンセプトを用いた脳脊髄膜炎へ果により,本年のノーベル生理学賞をSteinman博士の治療は動物実験で成功していましたが,ぶどう膜炎が受賞されることが,2011年の10月3日に発表されについてはなされていませんでした.私は,実験的ぶました.本稿が提出されたのは,それ以前でしたのどう膜炎はきわめて強い炎症反応が起こるので,樹状で,ノーベル賞受賞を知っていたはずはないのです細胞による免疫反応制御だけでは,炎症抑制はむずかが,今回はきわめてタイムリーなテーマになりまししいのではないかと考えていましたが,臼井嘉彦先生た.報道されているように,Steinman博士はノーベたちは樹状細胞による免疫反応制御で十分にぶどう膜ル賞受賞発表の数日前に亡くなりました.通常ノーベ炎の抑制が可能であることを示しました.ぶどう膜炎ル賞は故人には授与されませんが,今回は授与されるに至る過程の一部を制御すれば,それ以後の強い炎症ことになったことや,Steinman博士が受賞対象となが完全に抑えられるという論理的なアプローチであった樹状細胞を用いた治療によって癌と闘っていたこり,見事な結果だといえます.激しい炎症に目を奪わとは,今回のノーベル賞を人々の記憶に強くとどめるれて,炎症すべての局面を抑えるステロイドのようなことになるでしょう.治療が必要と感じた私が誤りでした.さて,Steinman博士の癌治療で用いられた方法は,近年,抗TNF(腫瘍壊死因子)-a抗体薬などの生樹状細胞を操作することで癌細胞に対する免疫反応を物学的製剤の登場で,ぶどう膜炎の治療成績が飛躍的起こすという方法であり,広い意味の癌ワクチン療法に向上しました.しかし,新しい治療法が現れると,にあたります.その場合の樹状細胞の役割は,免疫をそれを回避した新しい病態が出現するのは避けられま強化するというもので,一般にはこのコンセプトで樹せん.その意味からも,今回の樹状細胞を用いた免疫状細胞が治療に用いられることが多いです.ところ反応抑制治療は,将来のぶどう膜炎治療において重要が,今回服部貴明先生たちが述べられている方法は,な位置を占める可能性が高いものといえます.樹状細胞により免疫反応を抑えるという逆の作用を用鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆1586あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(74)

新しい治療と検査シリーズ 202.コラーゲン液状涙点プラグ

2011年11月30日 水曜日

新しい治療と検査シリーズ新しい治療と検査シリーズプレゼンテーション:小島隆司慶應義塾大学医学部眼科学教室コメント:山口昌彦愛媛大学大学院感覚機能医学講座視機能外科学分野(眼科学).バックグラウンド涙点プラグは安全で確実なドライアイ治療方法として中等度から重症ドライアイに対して広く用いられている.わが国で入手可能な涙点プラグは素材という観点から大きく分けて2種類ある.1つめが従来からあるシリコーン製の固形のプラグで,2つめが今回紹介する新しくわが国で開発されたコラーゲン製の液状プラグである.固形プラグは確実な涙点閉鎖を得ることができるのがメリットであるが,肉芽の形成,涙点の位置によってはプラグが角膜および結膜に擦れて上皮障害を起こしたり,異物感などの症状を起こすデメリットがある.また,サイズ選択が必要で,サイズ不適合により早期に脱落してしまったり,肉芽形成を起こしたりする可能性がある..新しい治療法従来までコラーゲンプラグは固形状で,棒状のプラグを鑷子で涙点に挿入していたが,挿入しにくく,また完全な涙小管閉塞が得られるか確証がなかった.これを克図1コラーゲン液状涙点プラグキープティアR(71)0910-1810/11/\100/頁/JCOPY服したのがわが国で開発された液状涙点プラグキープティアR(高研,東京)である(図1).これは3%アテロコラーゲンを成分とする液状涙点プラグである.キープティアRは体温で温められることによって白色のゲルとなり涙点,涙小管閉鎖を起こすとされている.治療の有効性は濱野らによって報告されている1)..実際の使用方法製品は温度の上昇によるゲル化を防ぐために冷蔵保存(2.10℃)が必要である.対象となる患者があれば,キープティアRの箱を冷蔵庫から出し,シリンジをプラスチックの容器からも出して15分ほど室温に置いてから注入用の27ゲージ鈍針を装着し注入する.1本300μlで2涙点分である.シリンジに半分の量の場所に目印がつけてあり,そこまでが1涙点分である.挿入手技は通水検査などと同じで容易である.処置ベッドで行うと患者が動きにくく行いやすいが,スリット下で行うことも可能である.挿入途中で片方の涙点からのキープティアRの流出があったり,挿入している涙点から逆流がある場合は1涙点分注入していなくてもその時点で注入をやめる.注入は基本的に上下涙点に対して行う.注入後はキープティアRの流出を避けるために閉瞼させホットアイマスクを装着して15分ほど待つ.その後患者に起きてもらって眼周囲に付着したコラーゲンゲルを取り除く.キープティアRを使用していると,思いのほか効果が短時間でなくなってしまう患者に遭遇する.また注入直後にもかかわらず涙液メニスカスが十分高くならない場合にも遭遇したため,筆者らはアテロコラーゲンが完全にゲル化するまでに流出してしまう可能性があることを考えた.そこでキープティアRをあらかじめ温めて(ゲル化させて)注入する方法(プレヒーティング法,2011年角膜カンファランス)を報告し,この方法を用いるとあたらしい眼科Vol.28,No.11,20111583 通常の方法よりも持続効果が長続きし患者の自覚症状スコアもより改善することが示された.ただし,このキープティア通常の方法よりも持続効果が長続きし患者の自覚症状スコアもより改善することが示された.ただし,このキープティアに用いられているアテロコラーゲンは37℃付近でゲル化が始まり,それより温度が高くなり39℃を超えるとゲルの三次元構造が今度は崩壊しはじめて,また液状になってしまう.この変化は不可逆性であり,プレヒーティング法は温度が高くなりすぎると逆効果になってしまうので,行う際は十分注意が必要である..本治療の良い点液状涙点プラグによる治療の最大のメリットは肉芽形成,異物感がまったくない点である.またサイズ選択も必要ないため,さまざまなサイズを用意しておく必要がなく,開業医の先生にとっても使いやすいと思われる.一方,欠点としては,コラーゲンはその性質ゆえに時間とともに分解,流出してしまうために効果が一時的であることである.筆者らの印象では効果は1.2カ月ほどと考えている.このため,重症ドライアイを合併するSjogren症候群患者やGVHD(graft-versus-hotdisase)患者などには不向きである.一方,一時的な効果のプラグと考えて,冬場のドライアイの悪化に対して一時的に使用したり,LASIK(laserinsitukeratomileusis)術後ドライアイに対して使用するなどの方法がよいと思われる.また,コンタクトレンズ装用の際にドライアイ症状を訴える患者も良い適応である2).越智らはSchirmer試験が6mm以上の患者では自覚症状,涙液貯留量,角結膜染色スコアが改善したが5mm以下では改善しなかったと報告している3).このことよりキープティアRは軽度ドライアイに向くプラグであることがわかる.また,固形プラグには少し心理的に抵抗があって躊躇されているけれど,涙点プラグの効果があるかどうかを試したいというような患者にとっても良いプラグではないかと思われる.文献1)濱野孝,林邦彦,宮田和典ほか:アテロコラーゲンによる涙道閉鎖─涙液減少症69例における臨床試験.臨眼58:2289-2294,20042)濱野孝:ドライアイとコンタクトレンズ,特集コンタクトレンズ診療.眼科51:1765-1769,20093)越智理恵,白石敦,原祐子ほか:アテロコラーゲン液状プラグ(キープティアR)の治療効果とその適応.臨眼65:301-306,2011.本方法に対するコメント.コラーゲンプラグは,シリコーンプラグのデメリッである.ただ,筆者も本文で述べているように,プレトを補う反面,シリコーンプラグのように持続的な効ヒーティング法の精度を保つには,温度管理を慎重に果を期待できないのが現状である.液状プラグのキー行わなければならず,同手法の課題といえる.今後,プティアRは,注入の手順を遵守すれば,これまでのドライアイ罹患率はますます上昇すると予想され,涙コラーゲンプラグよりも持続的な効果が期待できる.点プラグ治療の適応も拡大していくものと思われる.筆者は,キープティアRの温度反応特性に着目し,プ液状プラグの安全性とシリコーンプラグの効果持続性レヒーティング法というユニークな手法を考案して,を兼ね備え,さらに簡便に行える,そんな理想的な涙注入直後からの固形化を図って効果を上げているよう点プラグの開発が待ち望まれる.☆☆☆1584あたらしい眼科Vol.28,No.11,2011(72)