特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):321.328,2013特集●ぶどう膜炎の研究最前線2013あたらしい眼科30(3):321.328,2013Vogt-小柳-原田病とぶどう膜炎の新しい画像診断NewImagingTechniqueforVogt-Koyanagi-HaradaDiseaseandOtherUveitis山木邦比古*はじめにぶどう膜炎は脈絡膜や網膜色素上皮に病変の主体があるが,これまでの光学機器〔検眼鏡,蛍光眼底撮影,従来のOCT(光干渉断層法)など〕では直接観察困難な部位であるため炎症の存在は推測されるが,その存在を確認することは不可能であった.また,脈絡膜に炎症があれば網膜色素上皮,視細胞にも影響が及ぶことは容易に推測されるが,視細胞の微細な変化を直接捉えることは困難であった.近年開発された光学機器は脈絡膜,条件によっては強膜までを捉えることができるようになり,ぶどう膜に存在すると推定されてきた炎症像を画像として捉えることができる可能性が期待される.また,ぶどう膜に炎症があればこれにより栄養されている網膜視細胞には影響があることが推測されるが,視細胞の微細構築を画像として捉えることも,これまでは不可能であり,ぶどう膜炎を診察することの多い眼科医にとってもどかしい限りであった.I補償光学眼底カメラによるVogt-小柳原田病(VKH)患者,ぶどう膜炎患者の視細胞微細構造補償光学は宇宙空間から地球を偵察するために開発された技術で,地球を取り巻く大気の揺らぎによる画像のぶれを補正し,鮮明な画像を得る技術の応用である.この技術を眼底カメラにコンパクトに収めた眼底カメラが近年実用化された(図1).このカメラでは錐体細胞一つひとつを同定することができるが,一つの画角は4°と狭い(図2).また,中間透光体に強い混濁があると正確な画像を得ることができない.まだ正常コントロールを確定する作業と同時進行で,しかも炎症眼で,鮮明な画像を得るためには制約が多いが,脈絡膜での炎症の影響を一つひとつの錐体細胞レベルで解析が始められている.DistortedlightbeamDeformablemirrorCalculatorWavefrontanalyzer図1実際に使用されている補償光学眼底カメラと基本原理カメラに入射した光は生体眼球の光透過性の不均一(揺らぎ)があるためある程度以上は鮮明とならない.この揺らぎを瞬時に計算し,鏡をこの揺らぎを打ち消すように歪ませ(変形)鮮明な画像を得る.*KunihikoYamaki:日本医科大学千葉北総病院眼科〔別刷請求先〕山木邦比古:〒270-1694印西市鎌苅1715日本医科大学千葉北総病院眼科0910-1810/13/\100/頁/JCOPY(35)321SLOAdaptiveoptics2~4μmAdaptiveopticsSLOAdaptiveoptics2~4μmAdaptiveoptics20μm図2Scanninglaserophthalmoscope(SLO)(走査レーザー検眼鏡)とadaptiveoptics(AO)(補償光学)との画像比較SLOでは視細胞一つひとつは観察できないが,AOでは錐体細胞が観察される.1.VKHを含むぶどう膜炎ではフルオレセイン蛍光造影(FA)などで消炎後も視細胞に障害が残存するこれまではVKHでは急性期炎症が消炎すればconvalescentstage(回復期)とされ,FAでも炎症に伴う漏出はみられなくなる.しかし,インドシアニングリーン(ICG)ではこの時期でも脈絡膜に炎症が存在し,ダークスポットとその周囲からのICGの漏出として捉えられることがある.この時期での網膜変化の詳細は把握することが困難であった.補償光学眼底カメラによる定時的観察ではVKH急性炎症消炎後も比較的長期にわたり視細胞数に影響が残ることが明確となった(図3).VKH以外のぶどう膜炎でも同様の変化がみられ,ぶどう膜にある炎症は長期にわたり視細胞に影響を与えることが判明した.2.SweptsourceOCTによるぶどう膜炎病態観察SweptsourceOCTは網膜色素上皮を透過し,脈絡膜まで,一部では強膜まで観察することができる(図4).ぶどう膜にあると推測される炎症の存在は網膜色素上皮にブロックされ,炎症により網膜色素上皮が萎縮,瘢痕化した部位以外通常の眼底検査,FAなどでは十分な情報は得られなかった.SweptsourceOCTは波長1,050nmを用いることにより色素上皮にブロックされることなく色素上皮より後方にある病巣を描出することが可能となった.3.ぶどう膜炎のぶどう膜OCT画像これまでに網膜のOCT画像は多数蓄積され,他の検査との突き合わせも確立しつつある.しかし,脈絡膜のOCT画像についてはまだ蓄積がなく,ICGなどの他の322あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(36)3週4週10週5カ月錐体細胞密度図3補償光学眼底カメラによる原田病患者視細胞の計時的変化同一患者,同一部位を発症3週間,4週間,10週間,5カ月後に撮影し,桿体細胞密度を計測した.上段は原画,下段は錐体細胞密度を計測し,カラー表示させている.網膜下滲出物が完全に吸収された5カ月後でも錐体細胞密度の低い部分が残存している.図4SweptsourceOCTによる後眼部所見網膜,脈絡膜,強膜まで描出されている.検査や組織像との突き合わせにより,病態の把握を進めなければならない.筆者らのこれまでの蓄積からは炎症の存在様式,存在部位が徐々に判明しつつあるが,確定したものではなく,あくまでも私見であることを念頭においていただきたい.図5VKH急性期OCT所見脈絡膜が肥厚し,びまん性の細胞浸潤と推測される像がみられ,脈絡膜大血管層がこれにより一部圧排されている.4.VKHの脈絡膜変化a.VKH急性期変化急性期変化はこれまでにも報告があるように著明な脈絡膜の肥厚である.肥厚する部位は脈絡膜全層にわたり,部位を特定することは困難であった.これは組織学的にも脈絡膜の固有組織構築がまったく判別不可能なほ(37)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013323ABABC図7ConvalescentstageでのsweptsourceOCT画像肥厚した脈絡膜に高輝度像が網膜側から強膜側までびまん性にみられ,脈絡膜大血管像が不鮮明となっている.おそらく脈絡膜大血管も炎症性細胞の浸潤により圧排されているものと推測される.また,正常では強膜側に接して存在する脈絡膜大血管層よりも強膜側にもびまん性の高輝度像がみられ,炎症性細胞の浸潤が推測される.網膜色素上皮細胞にも炎症による変化がみられる.324あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013図6ConvalescentstageでのFA,ICG所見A,B:FA所見.造影後期となっても蛍光色素の漏出はみられない.C:ICG所見.多数のダークスポットとその周囲からの漏出がみられる.どに肥厚するのによく一致していた.急性期組織所見でみられる無数のリンパ球のびまん性浸潤と細胞の集簇したと推測される形態が描出されているが,組織学的裏付けがなく,さらなるデータの蓄積によって所見を確定しなければならない(図5).また,他のぶどう膜炎でもみられる所見であるが,脈絡膜大血管の拡張はぶどう膜炎時の共通の所見と思われる.b.VKH亜急性期OCT所見急性期(眼病期)の後convalescentstageとなるが,このステージでは炎症は消退期であり,初期ステロイドパルスあるいは大量療法後の減量を行えば良いと考えられていた.しかし,約60%もの患者が夕焼け状眼底に進展することに加え,この時期にやはり眼外症状が出現することとは矛盾すると思われる.まったく炎症がない状態で脈絡膜,網膜色素上皮が萎縮し,夕焼け状眼底に進展するのは論理的にはありえないが,これまでは炎症の存在を確認できなかった.近年ICG検査によりこのステージにも脈絡膜に炎症があり,治療継続の指標として使用することが推奨されつつある(図6).ICG検査が有用な検査であることは論を俟たないが,脈絡膜の炎症を直接画像としてみることはできなかった.この時期で(38)BBDもsweptsourceOCTでは脈絡膜炎,網膜色素上皮に炎症の存在が示され,補償光学眼底カメラによる観察でも錐体数の減少や形態異常が検出される(図3,7).5.視神経乳頭変化VKHでは急性炎症期,亜急性期,炎症の持続する症例では慢性期に及ぶ視神経乳頭の発赤腫脹がみられることが多い.この所見は炎症の存在を示唆するものである図8SweptsourceOCT視神経所見視神経乳頭浮腫がみられ,網膜色素上皮直上視神経周囲に炎症性細胞の集簇と推測される陰影が観察される.強膜貫通部後方にも炎症性細胞が存在すると推測されるが,この画像では特定困難である.AE図9夕焼け状眼底を呈し,長期間経過するが,炎症を繰り返している症例の炎症消退時SD-OCT所見A:通常のSD-OCTでも強膜まで描出できる.脈絡膜はほとんど構築をもたない1枚の紙のように描出される.脈絡膜厚は37μmである.B:同じ症例の前眼部炎症出現時の脈絡膜厚は147mmと炎症消退時に比較して著明な肥厚を示す.C:同じ症例にケナコルトRTenon.内注射を行った3カ月後の脈絡膜厚は61μmに戻った.D:眼底所見.夕焼け状眼底を通りすぎ,むしろ強膜が透見され,白色調をきたしつつある.E:前眼部炎症出現時FA所見.FAでは造影後期となっても蛍光の脈絡膜からの漏出はみられない.しかしSD-OCTでは脈絡膜の肥厚があり,後眼部にも炎症が存在することが推測される.(39)あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013325ことは明らかであるが,視神経所見のみが長期に残存することも多く,その組織像や周囲の組織の炎症との関連などが不明である.臨床的にも他の炎症が消退後も長期間持続する場合の病態をどのように評価するかはいまだ一定の見解がない.それは視神経乳頭の色調,境界の明瞭さなどは個人差が多く,VKH発病前の所見がなければ比較ができないため,また長期間視神経乳頭の発赤腫脹が持続しても徐々に消退していく場合と再発する場合があり区別が困難であったためである.SweptsourceOCTではかなり鮮明に視神経乳頭とその周囲組織の画像を得られる.視神経乳頭の浮腫の程度については鮮明に判定できるが,画像から得られるその他の詳細な所見については現時点では定まったものはない.さらなる症例の蓄積が必要であるが,参考となると思われる所見を示す(図8).6.慢性期,遷延期所見VKH遷延期あるいは慢性期には明らかな炎症の再燃,持続する症例も含め夕焼け状眼底に進展する症例は約60%とされている.これらの症例のうち前眼部や眼底に明らかな炎症が持続する場合は積極的な治療の対象とされてきた.しかし,多くの症例では前眼部の弱い炎症のみが持続し,後眼部には炎症がないように観察される.この時期でもICGではダークスポットとその周囲からの蛍光の漏出がみられ,前眼部に炎症があれば必ず後眼部にも炎症が存在するとされるようになった.前眼部に微弱な炎症があり,夕焼け状眼底が長期間続く症例では,病巣部を的確に捉えれば,この時期ではsweptsourceOCTでなくともspectral-domainOCT(SDOCT)でも炎症の存在が示唆される所見が観察されることも多い.脈絡膜はおおむね萎縮,菲薄化し,固有の組織構築を失い,1枚の菲薄な膜のごとき像を呈している.また,1枚の紙のような脈絡膜でも治療による炎症の消退,再燃に一致して脈絡膜厚が変化する(図9).また,眼底の灰白色斑部は脈絡膜が萎縮し,強膜が網膜に直接接するような像がみられ,萎縮斑のことが多いが,これにDalen-Fuchsと思われる肉芽腫性変化も混じり,眼底検査のみでは判別困難である.夕焼け状眼底と灰白色萎縮斑が多数みられ,荒廃した眼底様像を呈する症例でも比較的強い炎症が持続する場合には脈絡膜は肥厚し,炎症の程度に一致して増減する(図10).前眼部に炎症のあるVKHでは必ず後眼部を含む眼球全体に炎症が存在することがICG所見からすでに得られているが,sweptsourceOCTを含むOCT所見でもこのことが確認された.また,夕焼け状眼底を呈するのは炎症の消退した後の萎縮によるものでありこの時期には炎症は存在しないとされてきたが,sweptsourceOCTでは炎症の存在が示唆された.これらの事実はVKHのこれまでの治療方針を見直さなければならないことを示A図10適切な初期治療が行われず,遷延した症例A:ステロイドパルス,シクロスポリン,免疫抑制薬にも抵抗して炎症が発症以来長期間持続している.このような症例でも炎症が存在すると脈絡膜は肥厚していることがわかる.B:眼底はやはり長期間の炎症持続により夕焼け状眼底を通り越し白色調を帯び,脈絡膜萎縮部位に強膜が白色に透見される.B326あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(40)ABABC図11他病院から転移性脈絡膜腫瘍として紹介された症例A:眼底所見ではいかにも転移性脈絡膜腫瘍と思われる.B:ICG眼底造影.ICGでも腫瘍部に血管陰影は描出されなかった.C:SweptsourceOCT像.SweptsourceOCTでは血管陰影と推唆しているように思える.さらに症例を蓄積し,各病期における治療指針となるようなスタンダードなOCT所見を確立する必要がある.IIVKH以外のぶどう膜炎(ぶどう膜疾患)のsweptsourceOCTと補償光学眼底カメラによる視細胞変化補償光学眼底カメラではMEWS(multipleevanescentwhitedotsyndrome)のwhitedotが検眼鏡的には消失した後にも視細胞数の減少がみられ,障害が持続することが判明した.また,OCTにても病巣が消失したように観察される部位でも網膜色素上皮の障害と脈絡膜での炎症を示唆する所見がみられる.炎症以外のぶどう膜疾患でもsweptsourceOCTは脈絡膜の組織構築を推測可能な像を得られると思われる.たとえば,脈絡膜血管腫では脈絡膜悪性黒色腫や転(41)測される低輝度の集簇がみられる.眼球以外にも良性血管腫があり,経過観察とした.この症例ではsweptsourceOCTが診断の決定に必要であった.移性脈絡膜腫瘍との鑑別などに有用である(図11).おわりに一般にぶどう膜に炎症が存在すればぶどう膜は肥厚する.これは炎症性細胞の脈絡膜への浸潤と炎症性サイトカインによる脈絡膜固有層の浮腫によるものと推測されるが,細胞浸潤と固有組織の浮腫とを鑑別することはいまだ困難である.炎症時には現時点では脈絡膜大血管が腫脹することが原因の如何を問わずみられることが多い.今後症例を蓄積すれば炎症の有無だけでなく,それぞれ固有の疾患に特異的あるいは比較的多い画像の特徴を特定することができるものと期待している.また,これまではぶどう膜炎での網膜への波及は詳細には触れられなかった.今後補償光学眼底カメラによる定時的観察などにより,視機能への影響を考慮した治療も検討できる可能性がある.文献1)HerbortCP,MantovaniA,BouchenakiN:IndocyaninegreenangiographyinVogt-Koyanagi-Haradadisease:angiographicsignsandutilityinpatientfollow-up.IntOphthalmol27:173-182,20072)KnechtPB,MantovaniA,HerbortCP:Indocyaninegreenangiography-guidedmanagementofVogt-Koyanagi-Harあたらしい眼科Vol.30,No.3,2013327adadisease:differentiationbetweenchoroidalscarsandactivelesions.IntOphthalmol2013Jan1〔Epubaheadofprint〕3)CheeSP,JapA,CheungCM:TheprognosticvalueofangiographyinVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol150:888-893,20104)daSilvaFT,SakataVM,NakashimaAetal:Enhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyinlong-standingVogt-Koyanagi-Haradadisease.BrJOphthalmol97:70-74,20135)NakayamaM,KeinoH,OkadaAAetal:EnhanceddepthimagingopticalcoherencetomographyofthechoroidinVogt-Koyanagi-Haradadisease.Retina32:2061-2069,2012328あたらしい眼科Vol.30,No.3,2013(42)