0910-1810/12/\100/頁/JCOPYI視野の加齢変化と高齢者視野データの捉え方加齢によりさまざまな身体機能が低下するが,視野も加齢により沈下する.加齢による瞳孔径縮小や水晶体変化も影響はしうるが,視野の加齢変化の主因は,視細胞を含めたそれ以降の視覚に関わる神経系自体の変化にある.高齢者の視野データを読むために,まず正常な視野の加齢変化と,高齢者の正常値データについて理解しておきたい.1.静的視野の加齢変化と後期高齢者の正常値の問題自動視野計を用いて臨床で通常行われている明度識別静的視野の感度閾値は,年齢とともに低下し,視野の中央部よりも周辺で,下方よりも上方で,より低下が大きい1).また,測る機能により加齢変化は異なり,shortwavelengthautomatedperimetry(SWAP)は,明度識別視野などよりも加齢の影響が大きい2).さらに,明所視より暗所視のほうが,加齢の影響が大きい3).視野検査はその検査条件における反応をみているにすぎない.臨床検査としての通常の視野検査には表れない日常のさまざまな条件における加齢の影響にも注意を払うべきであろう.これまでに行われた正常視野の検討で,対象となった正常者の多くは80歳以下の成人である.後期高齢者については,データが少なく,データの個体差も大きい.はじめに緑内障診療の目標は患者の一生涯にわたるqualityoflife(QOL)の維持であり,QOLに影響の大きい視機能障害の現状と進行を評価するには,視野検査が不可欠である.日本の高齢者人口(65歳以上,平成23年9月15日現在総務省統計局推計)は総人口の23.3%で,75歳以上の後期高齢者だけでも11.6%に達している.日本緑内障学会多治見緑内障疫学調査(多治見スタディ)において70歳代の緑内障有病率は1割以上であったが,10年以上を経て,高齢者人口も割合も増加している.緑内障管理だけを考えても,高齢者に視野検査を行う機会は少なくない.高齢者の視野検査では,対象疾患(ここでは緑内障)の他に,さまざまな因子が結果に影響しうる.加齢による変化の程度には個人差がある.白内障など加齢で増える眼科疾患の併存も多い.検査視標への反応の遅れや検査姿勢を長く保てないなどの身体的要因や,意欲低下や認知障害から十分な理解と協力に基づいた的確な応答が得にくいなどの精神的要因が加わり,検査を円滑に行えない場合もある.検査結果の変動が大きいことも多い.そのような高齢者にみられる特徴や影響因子を理解し,複合的なデータとして視野検査の結果を読むことが,高齢者では大切である.また,高齢者一人ひとりの状況に応じて,知りたい視野情報を引き出すのに適した検査方法を選ぶことも必要である.(19)19*SachikoOkuyama:近畿大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕奥山幸子:〒589-8511大阪狭山市大野東377-2近畿大学医学部眼科学教室特集●小児と高齢者の緑内障:ここがポイントあたらしい眼科29(1):19?24,2012高齢者の視野検査VisualFieldTestingfortheElderly奥山幸子*20あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(20)II高齢者の視野データに影響しうる因子視野の検査データは,医師と検者と患者で作り上げるものである.高齢者では,加齢による視覚系の変化以外のさまざまな因子が検査結果に影響する場合が多い.検者は,患者の状態をよく見きわめて説明と検査を行い,検査中に気づいたことを記録してつぎの検査に活かすことが大切である.高齢者では,画一的な対応はそぐわないことも多い.医師は,患者が検査に十分適応できたかにまず注意を払い,もし適応が不十分で改善が見込めない状況であれば,検査の可能性と必要性から,より有用な情報を引き出せる検査方法を選ぶ必要がある.以下に,影響因子の具体例をあげる.1.易疲労性同じ検査姿勢を続けることが身体的疲労に,単調な作業を続けることが精神的疲労や眠気につながる.疲労により,検査中に頭位や開瞼の維持や固視が不十分となり,検査後半に応答が悪化して偽陰性が増え,本来より検査結果が悪化する.影響の程度はその時々で異なるので検査結果が変動し,悪化なのか変動なのかを容易に決め難いことが少なくない(図1).常に良い状況での測定を目指すことが,変動を少なくするために必要となる.患者には,良い状況で検査を受けて結果の変動を減らすことの大切さを説明し,協力を得る.検者がよく観察し,必要に応じて休みながら検査を進めることが大切である.疲労の影響が大きいと疑われる場合は,検査時間が短いストラテジでの検査結果と比べてみるのもよい.時間短縮型ストラテジは,得られる閾値や信頼性指標に期待する精度は理論的には低い.しかし疲労で結果が悪化し変動する程度と比べたうえで,その患者にとってより適した測定法を選ぶ必要はある.結果の再現性から検査の確からしさを確認することが大切である.熟練した検者が行うGPは,患者の反応をみながら対話しつつ進められるので,患者の受け入れがよく,高齢者では有用性が高い.患者によってはマニュアルどおりではなく,数本のイソプタに限定して短時間で測定する(図2),別の日に片眼ずつ行う,などの工夫も必要である.後期高齢者における正常の定義とは何かを考え,高齢正常ボランティアを実際に募るのは容易ではないことを考えれば,当然の結果であろう.現在臨床で使われている各自動視野計は,独自に検討された年齢別正常値データを解析に用いている.たとえばHumphreyFieldAnalyzer(HFA)の中心30-2SITAstandardの正常平均閾値は,自験によると,およそ?0.059dB/年の傾きをとる直線関数上にある.しかし,この加齢性低下が本来は非直線的で高齢でより低下が大きい可能性があり,その場合,内蔵する年齢別正常値データが直線関数の視野計では,高齢者に対して,正常値が本来より高いために感度低下と判定しやすくなることが指摘されている4).自動視野計は,実際には正常値を検討していない100歳などの非常に高齢な被検者に対しても,直線関数から推計した年齢別正常値をもとに,解析結果を表示する.したがって,特に後期高齢者では,正常値は誤差の大きい参考値と考え,正常値との差(偏差)をそのまま異常と評価するのは適当ではない.視野パターンの異常と,残存する生の閾値を読み,その患者にとって生活の質を落とさずに人生を全うするのに足りる状態かを考えることが大切である.2.動的視野の加齢変化と高齢者診療上の利点動的視野では,加齢によりイソプタが狭窄する.Octopus視野計の半自動動的視野測定を用い,被検者の反応時間で補正したイソプタを,10歳から80歳の正常者において検討した報告によれば,高齢者での反応時間の延長は加齢に伴うイソプタ狭窄の主因ではなく,視標サイズIII以上の輝度4eの視標では年齢には影響されず,視標サイズII以下,特に2e以下の視標輝度では40歳以上で加齢性狭窄を認め,年齢との関係は非直線的であった5).日本では,Goldmann動的視野測定(以下,GP)の最外側イソプタにはV/4e視標を用いている.一般に高齢者の視野は変動や個人差が大きく,評価に困ることが多い.V/4eイソプタが視覚系の加齢変化だけでは影響されにくいことは,高齢者診療では利点となる.V/4eイソプタの全周性狭窄があれば,さまざまなびまん性感度低下の原因をまず探る必要がある.(21)あたらしい眼科Vol.29,No.1,201221図1検査中に眠くなり,静的視野の変動が大きい例女性.74歳から82歳におけるOctopus視野計G2プログラムによる長期経過.悪化なのか変動なのか容易に決め難い.前回今回Ⅴ/4eⅠ/4eⅠ/2eⅤ/4eⅠ/4e図2長時間座れず,通常検査が困難になった例90歳,女性.車椅子で受診.前回は右眼検査途中で「しんどい」との訴えで中止になり,家族から,長時間は座れないが調子にむらがあるとの説明あり.来院時に調子が良ければ,V/4e,I/4e,I/2eのみを手早く測るように指示した.今回は両眼とも測定できて,全体に狭いが以前のパターンと著変はないことを確認した.22あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(22)子を介護者から聞き取り,残存視野を推測する.視機能についてケアに活かせる情報提供を介護者へ行うことが大切である.4.社会的要因高齢単身世帯の増加や経済的要因などから,疾患による失明への不安とともに,生活上の不安を抱える高齢患者が増えている.そのような独り暮らしの高齢患者で,あるとき,視力データが急に悪化し,視野にも著しい悪化を認めた(図4).他覚的所見や診察時の動作や対座法からは急な悪化は考えられず,話を聞いていくうちに,失明するのではないかと思うと今後の生活が不安で,介護がより受けやすくなれるかと思い,検査時に応答を控えてしまったためとわかった.必要なサポートが受けられるように支援していくこと,病状の正しい把握は治療2.身体的要因背が丸い,腰が痛いなどで,検査時に頭位を正しい位置に調整保持できない場合もある.頭位のずれはレンズ枠によるアーチファクトを生じるが,できる姿勢で測定し,検者はその記録を判断材料として残す.握力が弱くて応答ボタンをスムーズに押せなかったなど,さまざまな測定時の状況を検者と医師が聞き取って記録し,結果の判断とつぎの検査に活かすことが大切である.3.精神的要因視野計を用いる検査には,患者の理解と協力が欠かせない.認知症は進行すると,固視などの理解と協力が得難くなり,視力検査はできても,通常の視野検査は困難となる(図3).以前の検査結果があれば参考にして,診察時に視標に向かう眼の動きや行動を観察し,日常の様1年前今回,認知症進行LV=(1.0)RV=(1.0)LV=(1.0)RV=(1.0)図3認知症が進行し,検査困難となった例80歳,女性.視野検査の理解が難しく,固視も十分できずイソプタにならず,測定不能となった.応答チェックとコメントで状況を示すことは大切.視力検査は可能であった.1年前,物忘れを心配され初めて家族付き添いで来院したときは,視野測定可能であった.(23)あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012232カ月前「見えにくい」と…2カ月後RLRV=(0.6),LV=(0.01)RV=(0.3),LV=(10cm/nd)RV=(0.6p),LV=(0.02)図4失明と生活の不安が,検査に影響した例81歳,女性.独り暮らし.あるとき,視力と視野データが急に悪化した.他覚的所見や動作には変化なく,対座法では耳側60°で手の動きがわかった.話を伺うなかで,介護がより受けやすくなるかと思い,検査で応答を控えてしまったためとわかった.白内障術前LV=(0.4)白内障術後LV=(1.0)図5白内障と緑内障の併存例80歳,男性.白内障術後にびまん性感度低下が改善して明るくなり,視力も改善し,喜ばれた.しかし術前には,中心視野と視力がどの程度改善するかを判断することは困難であった.24あたらしい眼科Vol.29,No.1,2012(24)会生活を送るうえで非常に重要であり,その障害を予知あるいは早期に発見して対処していく必要がある.視野検査はその機能検査の一つとして重要である.高齢者では,多くの影響要因に注意を払って検査を行い,結果を判断し,検査結果には表れない視機能低下にも留意して,ケアに活かしていくことが大切である.文献1)HaasA,FlammerJ,SchneiderU:Influenceofageonthevisualfieldsofnormalsubjects.AmJOphthalmol101:199-203,19862)GardinerSK,JohnsonCA,SpryPG:Normalage-relatedsensitivitylossforavarietyofvisualfunctionsthroughoutthevisualfield.OptomVisSci83:438-443,20063)JacksonGR,OwsleyC:Scotopicsensitivityduringadulthood.VisionResearch40:2467-2473,20004)SpryPG,JohnsonCA:Senescentchangesofthenormalvisualfield:anage-oldproblem.OptomVisSci78:436-441,20015)VontheinR,RauscherS,PaetzoldJetal:Thenormalage-correctedandreactiontime-correctedisopterderivedbysemi-automatedkineticperimetry.Ophthalmology114:1065-1072,20076)LottLA,SchneckME,Haegerstrom-PortnoyGetal:Non-standardvisionmeasurespredictmortalityinelders:theSmith-KettlewellInstitute(SKI)study.OphthalomicEpidemiol17:242-250,20107)WestSK,HahnDV,BaldwinKCetal:Olderdriversandfailuretostopatredlights.JGerontolABiolSciMedSci65:179-183,2010上大切なので協力して欲しいことをお伝えし,後日,データは改善した.検査結果の急な変化には,社会的,心理的なサインが隠れていることもありうる.その見きわめとともに,背景にある高齢患者の生活の実情や不安にも十分に目を向けて,支えていくことが大切である.5.他の視野変化をきたす疾患の合併高齢者では緑内障以外にも,白内障や網脈絡膜の変性疾患や循環障害など,視野に影響する他の疾患の併存が多い(図5).視野の悪化が緑内障の悪化とは限らない.視野と他覚的眼所見との対応から広く視野悪化の原因を探り,適確に各疾患に対応する必要がある.III高齢者の日常視機能と臨床の視野データ視機能低下は,高齢者の生活機能や生活の質を下げるだけでなく,死亡率にも影響する6).高齢者の健康を考えるうえで,視機能の評価は重要である.しかし,高齢者の日常視機能を理解するうえで,臨床の視野検査や視力検査だけでは十分ではないことも理解しておきたい.高齢者が暗所視や低コントラストに弱いことも,通常の視野検査や視力検査は十分に反映しない.臨床の視野検査は片眼ずつ光の知覚を測るにすぎないが,日常視では,眼を常に動かして情報を探り,両眼の情報を合わせ,見えないところは多少埋め合わせ,経験に照らし,情報を認知している.何か見ながらの作業をしているときに,注視点の周囲で他の情報を認知できる範囲を有効視野というが,臨床の視野検査で得られる視野よりも,有効視野はかなり狭い(図6).たとえば,高齢者の運転中の信号無視には,有効視野の狭窄が関連していたと報告されている7).視覚弱者である高齢者のケアには,こうした特性への理解も必要である.おわりに超高齢化社会では,多くの高齢者がもっている社会に貢献できる力を十分に活かすことが求められている.しかし,高齢者は予備能が少なく,障害されれば容易に社会生活上の不具合につながりうる.視機能は自立して社有効視野視覚探索中の注視点臨床における視野検査で測定される周辺視野《影響要因》中心課題の種類背景ノイズ予期の可能性覚醒状態疲労加齢など図6臨床で測られる視野と有効視野の違い私達は,何かを注視して行動しながら,周囲の他の視覚情報を認知し,新たな行動をとることができる.注視点周囲で情報を認知できる範囲(有効視野)は限られ,さまざまな影響を受ける.有効視野の狭さは,高齢者の読書困難や運転時の信号無視などにも関連している.