あたらしい眼科Vol.28,No.5,20116610910-1810/11/\100/頁/JCOPY●緑内障進行評価の意義緑内障による網膜神経節細胞の障害は,眼底検査によって視神経乳頭や網膜の形態変化として観察され,自覚症状として視野障害をきたし,ゆっくりと不可逆的に進行する.進行速度は症例によって大きく異なり,眼圧下降を主とした治療による進行抑制効果は予測できない.緑内障の進行を評価することは疾患の予後を予測し,治療効果を評価することであり,緑内障診療と臨床研究には必須のプロセスである.現在まで,緑内障の進行評価はおもに自動視野計の検査結果をもとに行われてきた.視野は緑内障眼の視機能を直接反映し,過去の長期間のデータを利用できるメリットがある.一方で,視野検査は自覚的検査であり結果の変動が大きく,比較的長い検査時間と被検者の協力を必要とするため,検査を頻繁に行うことはむずかしい.視野をエンドポイントとした臨床研究には長い観察期間が必要で,臨床の場面では信頼性のある視野検査結果が得られないために進行評価が困難な患者も少なくない.これに対し,光学的機器によって視神経乳頭や網膜の経時的な形態変化を解析する方法は,再現性や客観性に優れることが期待されている.形態変化は神経節細胞の細胞死や機能障害の変化と必ずしも一致しているわけではなく,初期の機器では測定精度や再現性の問題があり,特に進行評価においては信頼性が十分とはいえなかった.しかし近年,光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)が従来のタイムドメイン(TD)-OCTからスペクトラルドメイン(SD)-OCTに進歩し,緑内障の診断においてこれまでの画像解析装置より優れた能力をもつことが報告されている.緑内障進行評価においても,今後SD-OCTの有用性が期待される.●OCTによる進行評価の方法SD-OCTによる緑内障眼の評価方法として,①視神経乳頭(ONH)周囲の神経線維層(NFL)解析,②ONHの形状解析,③黄斑部網膜の解析,の3つが行われている(表1).ONH周囲のNFL厚を解析して神経線維層欠損を検出する方法はTD-OCTによる緑内障診断方法として確立されており,測定速度が大幅に高速化したSD-OCTでは,輪状の範囲を短時間で,あるいはONHを含んだ広い範囲を面状に撮影することができる.解像度の向上に加え,眼球運動などによる測定誤差の減少,広範囲の撮影によりONH位置を撮影後に同定することで再現性が向上し,診断における有用性が報告されてい(59)●連載131緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也131.光干渉断層計(OCT)による緑内障進行評価青山裕加間山千尋東京大学医学部附属病院眼科スペクトラルドメインOCTの進歩により視神経乳頭周囲の神経線維層厚,視神経乳頭の形態,黄斑部網膜内各層の層厚を詳細に評価することが可能になり,良好な再現性と視野検査結果との相関が認められている.今後さらに十分な検討が必要であるが,緑内障の診断に加え進行評価においてもOCTが利用できる可能性がある.表1SD.OCTによる緑内障性視神経症の評価方法と,考えられるメリット・デメリット緑内障性視神経症の評価方法メリットデメリットONH周囲網膜の解析ONHに収束するすべての神経線維を評価でき,緑内障に特徴的な眼底写真上のNFLDや視野障害との一致が確認しやすい大血管や近視眼におけるONHの傾斜の影響を受けやすいONHの形状解析ONH周囲の網膜と同時にデータを得られる個体差が大きく,微細な変化に対して鋭敏ではない黄斑部網膜の解析血管など個体差の影響が小さく,視野障害出現以前の障害を鋭敏に評価できる可能性がある緑内障以外の黄斑疾患や加齢変化の影響を受けやすく,黄斑部を通らない神経線維の障害は評価できないONH:視神経乳頭,NFLD:神経線維層欠損.662あたらしい眼科Vol.28,No.5,2011る1~3)が,進行評価の検討は不十分である.また,SDOCTでONHを含めた広範囲の撮影をすることで,上記のようなNFL厚に加えてONHのトポグラフィが同時に得られ,Heidelbergretinatomograph(HRT)で行われるようなONHの形状解析が可能となるが,病期との相関はNFL厚に劣る傾向があり,進行評価における有用性は高くないと思われる.これらに加えSD-OCTにより初めて,黄斑部を広範囲に解析し網膜内のNFLや神経節細胞層などの層厚を評価することが可能となった(図1).緑内障で黄斑部に視野障害が出現するのは比較的進行例であるが,むしろ明らかな視野障害のないpreperimetric期とよばれるごく早期の段階から層厚の減少が認められ,層厚と視野の感度が相関することが報告されている4,5).筆者らの行った検討でも黄斑部網膜内各層の層厚は,網膜全層や外層を除き緑内障の病期,視野のmeandeviation値と良好な相関を示し,特にNFLやNFL・神経節細胞層・内網状層の和(GCC)で相関が強かった(図2).●今後の展望OCTの進歩によって緑内障性視神経障害のより詳細な評価が可能になり,特に視野による評価の困難な症例や,preperimetric期を含む早期例では視野に代わる検査になりうる可能性がある.一方で長期にわたってOCTによる進行評価を行うには,データの再現性の確認や白内障,硝子体牽引などの加齢変化の影響,また病期を通じての視野と対応した進行様式の検討が十分になされる必要がある.病期や症例に応じてONH周囲と黄斑部のデータを併用することが有用と考えられ,今後ハードとソフトのさらなる進歩が期待できるが,長期の進行評価にはそれまで蓄積されたデータとの互換性を確(60)保する必要もある.文献1)SungKR,KimDY,ParkSBetal:ComparisonofretinalnervefiberlayerthicknessmeasuredbyCirrusHDandStratusopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:1264-1270,20092)ParkSB,SungKR,KangSYetal:ComparisonofglaucomadiagnosticCapabilitiesofCirrusHDandStratusopticalcoherencetomography.ArchOphthalmol127:1603-1609,20093)LeungCK,LamS,WeinrebRNetal:Retinalnervefiberlayerimagingwithspectral-domainopticalcoherencetomography:analysisoftheretinalnervefiberlayermapforglaucomadetection.Ophthalmology117:1684-1691,20104)KimNR,LeeES,SeongGJetal:Structure-functionrelationshipanddiagnosticvalueofmacularganglioncellcomplexmeasurementusingFourier-domainOCTinglaucoma.InvestOphthalmolVisSci51:4646-4651,20105)ChoJW,SungKR,LeeSetal:Relationshipbetweenvisualfieldsensitivityandmacularganglioncellcomplexthicknessasmeasuredbyspectral-domainopticalcoherencetomography.InvestOphthalmolVisSci51:6401-6407,2010図2緑内障の病期(上),視野のmeandeviation(MD)値と黄斑部網膜内各層厚(下)の相関神経線維層,神経節細胞層を中心とした黄斑部網膜内各層の層厚は,視野障害のないpreperimetric期を含む緑内障の病期や,視野のMD値と良好な相関を示す.350300250200150100500RetinaOuterretinaGCCGCL+GCLIPLNFLPreperimetric初期中期後期正常緑内障層厚(μm)50-5-10-15-20-25MD(dB)RetinaOuterretinaGCCGCLGCL+IPLNFL350300250200150100500層厚(μm)図1SD.OCTによる黄斑部網膜内の層厚の解析黄斑部を広範囲にスキャンし,網膜内の各層を区別して層厚を自動的に測定することができる.