0910-1810/11/\100/頁/JCOPYに対して,それを標的とした治療法を開発し,その結果をもとにヒトへ応用されてきた.また,近年では遺伝子や蛋白質の網羅的解析による手段の増加により,患者検体から直接治療標的分子の同定が可能となり,ヒトで得られた知見を再び動物実験や試験管内の研究に還元し,新規治療法の開発につながるトランスレーショナルリサーチも行われている.ぶどう膜炎は多岐にわたるため,本稿では誌面の都合上,自己免疫機序が証明されているぶどう膜炎の基礎研究について最新の知見をまとめ,今後の研究の方向性を考えてみたい.はじめに近年の基礎研究の急速な進歩と臨床研究から得られるエビデンスの蓄積により,ヒトぶどう膜炎の臨床を取り巻く環境もinfliximabを代表とする治療薬の登場により劇的な変貌を遂げつつある.Infliximabはぶどう膜炎においてはじめての単一分子を標的とした免疫治療であり,このような新規治療法の開発にあたってはモデル動物や試験管内を基盤とした基礎研究に寄与することが大きい.現在までのぶどう膜炎における基礎研究は,実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(experimentalautoimmuneuveoretinitis:EAU)(図1)に代表されるぶどう膜炎の動物モデルを用いて同定した病因となる分子や免疫細胞(39)495*YoshihikoUsui:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕臼井嘉彦:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室特集●ぶどう膜炎診療の新たな動向あたらしい眼科28(4):495.499,2011ぶどう膜炎における基礎研究の進歩─病態解析から新規治療法の開発へ─ProgressinBasicResearchonUveitis:FromAnalysisofPathophysiologytoDevelopmentofNewTreatment臼井嘉彦*ABC図1実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)EAUマウスの網膜に血管炎(A)および白色滲出斑(B)がみられる.EAUの病理組織像(C)では好中球やリンパ球など多数の炎症細胞の浸潤がみられる.496あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(40)要であるToll-likereceptorの異常においてヒトぶどう膜炎の関与が見出され,実験的自己免疫性ぶどう膜炎やヒトぶどう膜炎は自然免疫と獲得免疫の両者の破綻と捉える考え方が進んできた.IIEAU,ヒトぶどう膜炎におけるTh1細胞とTh17細胞(図3)実験的自己免疫性ぶどう膜炎では,インターフェロン(IFN)-gノックアウトマウスでは劇症化するという報告があり,EAUのTh1仮説における矛盾であった.その後,IL-23にはCD4+T細胞のIL-17産生を増加させる作用があることが明らかとなり,それがTh1やTh2細胞とは異なるTh17細胞としてEAUやヒトぶどう膜炎におけるTh17細胞の役割に注目が集まるようになった4).さらにIL-17欠損マウスやIL-17の中和抗体を投与したマウスではEAUが軽減されることが示されている.ヒトぶどう膜炎においてはTh1サイトカインとTh17サイトカインがVogt-小柳-原田病,Behcet病,サルコイドーシスの病態形成に重要な役割を果たしていることが数多く報告されている.マウスTh17細胞の分化がナイーブCD4+T細胞をトランスフォーミング増殖因子(TGF)-bとIL-6の存在下で抗原に曝露させることで誘導される.これに対し,ヒトTh17細胞分化にはIL-1bやIL-23が重要な役割を果たす可能性が報告されている.Th17細胞の特徴とIぶどう膜炎における自己免疫機序ぶどう膜炎の炎症機序には,自己免疫機序が証明されているものもあれば,いまだ明らかでないものもある.Behcet病ではレンサ球菌1),サルコイドーシスではアクネ菌や抗酸菌2),Vogt-小柳-原田病ではtyrosinase3)が自己抗原となって発症する可能性が示唆されている.さらにその発症機構に活性化CD4+T細胞が中心的な役割を果たし,病態形成に重要な役割を果たしていると考えられている.EAUにおいてもヒトぶどう膜炎と同様にCD4+T細胞が重要な役割を果たしている(図2).ひと昔前には,EAUやヒトぶどう膜炎の病態を獲得免疫応答の異常,なかでもCD4+T細胞から産生されるヘルパーT細胞(Th)1/Th2サイトカインバランスの異常で考えるのが主流であり確固とした地位を築いてきた.このTh1/Th2パラダイムにも近年,大きな変革が押し寄せている.Th1,Th2細胞につぐ第3のエフェクターT細胞サブセットとして同定され,強力な炎症惹起能を有するインターロイキン(IL)-17を産生するTh17細胞やエフェクターT細胞の機能を抑制するCD25+CD4+制御性T細胞の発見,自然免疫応答に重図2Invitroにおける抗原刺激によるCD4+T細胞の増殖マウスの頸部にIRBP(interphotoreceptorretinoidbindingprotein)ペプチドを免疫すると,所属リンパ節でCD4+T細胞は活性化される.この活性化CD4+T細胞が所属リンパ節から眼内に浸潤し,抗原刺激をうけて分裂増殖する.Invitroにおいても抗原刺激によりCD4+T細胞が分裂・増殖している.……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………..図3抗原提示細胞とCD4+T細胞の相互作用多種多様な免疫の相互作用は抗原特異的レセプターを介するシグナル(第1シグナル)に加え,免疫反応を増大させる活性型補助シグナルと減弱させる抑制型補助シグナルがある.(41)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011497う活性型補助シグナル分子が最も有意な発現差異を認めた7).また,ICOS経路を阻害することで活動期Behcet病患者の末梢血単核球やEAUの発症期を抑制することから新規治療法の可能性も考えられる8).さらに,CD4+T細胞上に発現するICOSがBehcet病患者のTh1およびTh17サイトカイン産生に関与し,疾患活動性の指標になりうる可能性がある.眼局所における補助シグナル分子がぶどう膜炎の病態や病因の解明に有用であるとする報告も近年増加している9.11).このように免疫細胞のみならず眼局所の細胞に補助シグナル分子が発現していることは大変興味深く,補助シグナル分子の基礎研究と臨床応用へのトランスレーションがぶどう膜炎の解明や治療にさらなる進歩をもたらすことが期待される.IVぶどう膜炎における制御性T細胞の関与活性型T細胞の増殖やサイトカイン分泌を抑制するCD4+CD25+制御性T細胞が免疫寛容において重要な役割を果たし,その数や機能の異常によってさまざまな自己免疫現象が観察される.近年ではこの細胞のマーカーで機能分化を司る転写因子Foxp3が同定されている.EAUにおいても,この細胞が病気の抑制に関わることが証明されている.抗CD25抗体でCD4+CD25+制御性T細胞を除去してからEAUを誘導すると,その発症率や重症度の悪化が認められ12),またEAUの発症期にCD4+CD25+制御性T細胞を移入すると,軽症化することが知られている13).これらのことから,EAUの重してケモカインレセプターCCR6を発現することが知られているが,これはヒトとマウスのTh17細胞で共通している5).この結果はヒト,マウスともにCCR6がTh17分化に重要である点は一致しているものの,マウスの実験結果がヒトにおいて必ずしも当てはまらないことを意味している.しかし,EAUの実験結果をそのまま鵜呑みにするわけにはいかないものの,もしヒトぶどう膜炎でのTh17の重要性が明らかになれば,infliximabとは異なる作用機序をもつCCR6を標的とした分子阻害薬が適用できる可能性は十分にあると考えられる.さらに,近年ではIL-9やIL-10を産生する新規のCD4+T細胞群であるTh9細胞にも注目が集まっている.しかし,ヒトぶどう膜炎の病態におけるTh9細胞の意義は明らかにされておらず,今後の主要な検討課題の一つである6).IIIぶどう膜炎における活性型リンパ球上の補助シグナル分子Th1またはTh17サイトカインを産生するCD4+T細胞の活性化には,抗原受容体であるT細胞受容体(TCR)からの第1シグナルに加え,抗原提示細胞からの種々の補助シグナル分子を介したシグナルが必要であり,この補助シグナルによって多様な免疫反応が惹起される.また,CD4+T細胞は補助シグナルなしにTCRからのシグナルのみが加わると,単に活性化されないだけでなく,再びその抗原によって刺激が加わった際に活性化されなくなるアナジーという状態や制御性T細胞に分化することが知られている.このように,補助シグナル分子にはT細胞を活性化させる活性型の補助シグナルとT細胞を抑制する抑制型補助シグナルがある(図4).前者は,抗原特異的なT細胞増殖や,Th1やTh17への分化を促すことによって免疫応答をひき起こす.抑制型の補助シグナル分子は抗原特異的なT細胞のアポトーシスやアナジーなどを誘導することにより,免疫反応を抑制する.補助シグナル分子は現在30種類以上報告されているため,筆者らはマイクロアレイによりBehcet病患者末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析を行い,健常者と比較して発現亢進する遺伝子群の同定を試み,その結果,ICOS(induciblecostimulator)とい………………………………………………………………図4マウスCD4+T(Th)細胞の分化と機能IFN-gやTNF(腫瘍壊死因子)-aを産生するTh1細胞とIL-17を産生するTh17細胞が病態をひき起こす病原性T細胞群であると考えられており,これらの細胞機能を制御することで疾患の発症予防や再発における新規治療法となる可能性がある.498あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(42)療の探索はますます重要になってくると思われる.文献1)DireskeneliH:Behcet’sdisesase:infedtiousaetiology,newautoantigens,andHLA-B51.AnnRheumDis60:996-1002,20012)GrunewaldJ:Clinicalaspectsandimmunereactionsinsarcoidosis.ClinRespirJ1:64-73,20073)YamakiK,GochoK,HayakawaKetal:TyrosinasefamilyproteinsareantigensspecifictoVogt-Koyanagi-Haradadisease.JImmunol165:7323-7329,20004)LugerD,CaspiRR:Newperspectiveoneffectormechanismsinuveitis.SeminImmunopathol30:135-143,20085)AnnunziatoF,CosmiL,RomagnaniS:HumanandmurineTh17.CurrOpinHIVAIDS5:114-119,20106)AnnuziatoF,RomagnaniS:HeterogeneityofhumaneffectorCD4+Tcells.ArthritisResTher11:257,20097)UsuiY,TakeuchiM,YamakawaNetal:ExpressionandfunctionofinduciblecostimulatoronperipheralbloodCD4+TcellsinBehcet’spatientswithuveitis:anewactivitymarker?Inves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