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ぶどう膜炎における基礎研究の進歩―病態解析から新規治療法の開発へ―

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYに対して,それを標的とした治療法を開発し,その結果をもとにヒトへ応用されてきた.また,近年では遺伝子や蛋白質の網羅的解析による手段の増加により,患者検体から直接治療標的分子の同定が可能となり,ヒトで得られた知見を再び動物実験や試験管内の研究に還元し,新規治療法の開発につながるトランスレーショナルリサーチも行われている.ぶどう膜炎は多岐にわたるため,本稿では誌面の都合上,自己免疫機序が証明されているぶどう膜炎の基礎研究について最新の知見をまとめ,今後の研究の方向性を考えてみたい.はじめに近年の基礎研究の急速な進歩と臨床研究から得られるエビデンスの蓄積により,ヒトぶどう膜炎の臨床を取り巻く環境もinfliximabを代表とする治療薬の登場により劇的な変貌を遂げつつある.Infliximabはぶどう膜炎においてはじめての単一分子を標的とした免疫治療であり,このような新規治療法の開発にあたってはモデル動物や試験管内を基盤とした基礎研究に寄与することが大きい.現在までのぶどう膜炎における基礎研究は,実験的自己免疫性ぶどう膜網膜炎(experimentalautoimmuneuveoretinitis:EAU)(図1)に代表されるぶどう膜炎の動物モデルを用いて同定した病因となる分子や免疫細胞(39)495*YoshihikoUsui:東京医科大学眼科学教室〔別刷請求先〕臼井嘉彦:〒160-0023東京都新宿区西新宿6-7-1東京医科大学眼科学教室特集●ぶどう膜炎診療の新たな動向あたらしい眼科28(4):495.499,2011ぶどう膜炎における基礎研究の進歩─病態解析から新規治療法の開発へ─ProgressinBasicResearchonUveitis:FromAnalysisofPathophysiologytoDevelopmentofNewTreatment臼井嘉彦*ABC図1実験的自己免疫性ぶどう膜炎(EAU)EAUマウスの網膜に血管炎(A)および白色滲出斑(B)がみられる.EAUの病理組織像(C)では好中球やリンパ球など多数の炎症細胞の浸潤がみられる.496あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(40)要であるToll-likereceptorの異常においてヒトぶどう膜炎の関与が見出され,実験的自己免疫性ぶどう膜炎やヒトぶどう膜炎は自然免疫と獲得免疫の両者の破綻と捉える考え方が進んできた.IIEAU,ヒトぶどう膜炎におけるTh1細胞とTh17細胞(図3)実験的自己免疫性ぶどう膜炎では,インターフェロン(IFN)-gノックアウトマウスでは劇症化するという報告があり,EAUのTh1仮説における矛盾であった.その後,IL-23にはCD4+T細胞のIL-17産生を増加させる作用があることが明らかとなり,それがTh1やTh2細胞とは異なるTh17細胞としてEAUやヒトぶどう膜炎におけるTh17細胞の役割に注目が集まるようになった4).さらにIL-17欠損マウスやIL-17の中和抗体を投与したマウスではEAUが軽減されることが示されている.ヒトぶどう膜炎においてはTh1サイトカインとTh17サイトカインがVogt-小柳-原田病,Behcet病,サルコイドーシスの病態形成に重要な役割を果たしていることが数多く報告されている.マウスTh17細胞の分化がナイーブCD4+T細胞をトランスフォーミング増殖因子(TGF)-bとIL-6の存在下で抗原に曝露させることで誘導される.これに対し,ヒトTh17細胞分化にはIL-1bやIL-23が重要な役割を果たす可能性が報告されている.Th17細胞の特徴とIぶどう膜炎における自己免疫機序ぶどう膜炎の炎症機序には,自己免疫機序が証明されているものもあれば,いまだ明らかでないものもある.Behcet病ではレンサ球菌1),サルコイドーシスではアクネ菌や抗酸菌2),Vogt-小柳-原田病ではtyrosinase3)が自己抗原となって発症する可能性が示唆されている.さらにその発症機構に活性化CD4+T細胞が中心的な役割を果たし,病態形成に重要な役割を果たしていると考えられている.EAUにおいてもヒトぶどう膜炎と同様にCD4+T細胞が重要な役割を果たしている(図2).ひと昔前には,EAUやヒトぶどう膜炎の病態を獲得免疫応答の異常,なかでもCD4+T細胞から産生されるヘルパーT細胞(Th)1/Th2サイトカインバランスの異常で考えるのが主流であり確固とした地位を築いてきた.このTh1/Th2パラダイムにも近年,大きな変革が押し寄せている.Th1,Th2細胞につぐ第3のエフェクターT細胞サブセットとして同定され,強力な炎症惹起能を有するインターロイキン(IL)-17を産生するTh17細胞やエフェクターT細胞の機能を抑制するCD25+CD4+制御性T細胞の発見,自然免疫応答に重図2Invitroにおける抗原刺激によるCD4+T細胞の増殖マウスの頸部にIRBP(interphotoreceptorretinoidbindingprotein)ペプチドを免疫すると,所属リンパ節でCD4+T細胞は活性化される.この活性化CD4+T細胞が所属リンパ節から眼内に浸潤し,抗原刺激をうけて分裂増殖する.Invitroにおいても抗原刺激によりCD4+T細胞が分裂・増殖している.……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………..図3抗原提示細胞とCD4+T細胞の相互作用多種多様な免疫の相互作用は抗原特異的レセプターを介するシグナル(第1シグナル)に加え,免疫反応を増大させる活性型補助シグナルと減弱させる抑制型補助シグナルがある.(41)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011497う活性型補助シグナル分子が最も有意な発現差異を認めた7).また,ICOS経路を阻害することで活動期Behcet病患者の末梢血単核球やEAUの発症期を抑制することから新規治療法の可能性も考えられる8).さらに,CD4+T細胞上に発現するICOSがBehcet病患者のTh1およびTh17サイトカイン産生に関与し,疾患活動性の指標になりうる可能性がある.眼局所における補助シグナル分子がぶどう膜炎の病態や病因の解明に有用であるとする報告も近年増加している9.11).このように免疫細胞のみならず眼局所の細胞に補助シグナル分子が発現していることは大変興味深く,補助シグナル分子の基礎研究と臨床応用へのトランスレーションがぶどう膜炎の解明や治療にさらなる進歩をもたらすことが期待される.IVぶどう膜炎における制御性T細胞の関与活性型T細胞の増殖やサイトカイン分泌を抑制するCD4+CD25+制御性T細胞が免疫寛容において重要な役割を果たし,その数や機能の異常によってさまざまな自己免疫現象が観察される.近年ではこの細胞のマーカーで機能分化を司る転写因子Foxp3が同定されている.EAUにおいても,この細胞が病気の抑制に関わることが証明されている.抗CD25抗体でCD4+CD25+制御性T細胞を除去してからEAUを誘導すると,その発症率や重症度の悪化が認められ12),またEAUの発症期にCD4+CD25+制御性T細胞を移入すると,軽症化することが知られている13).これらのことから,EAUの重してケモカインレセプターCCR6を発現することが知られているが,これはヒトとマウスのTh17細胞で共通している5).この結果はヒト,マウスともにCCR6がTh17分化に重要である点は一致しているものの,マウスの実験結果がヒトにおいて必ずしも当てはまらないことを意味している.しかし,EAUの実験結果をそのまま鵜呑みにするわけにはいかないものの,もしヒトぶどう膜炎でのTh17の重要性が明らかになれば,infliximabとは異なる作用機序をもつCCR6を標的とした分子阻害薬が適用できる可能性は十分にあると考えられる.さらに,近年ではIL-9やIL-10を産生する新規のCD4+T細胞群であるTh9細胞にも注目が集まっている.しかし,ヒトぶどう膜炎の病態におけるTh9細胞の意義は明らかにされておらず,今後の主要な検討課題の一つである6).IIIぶどう膜炎における活性型リンパ球上の補助シグナル分子Th1またはTh17サイトカインを産生するCD4+T細胞の活性化には,抗原受容体であるT細胞受容体(TCR)からの第1シグナルに加え,抗原提示細胞からの種々の補助シグナル分子を介したシグナルが必要であり,この補助シグナルによって多様な免疫反応が惹起される.また,CD4+T細胞は補助シグナルなしにTCRからのシグナルのみが加わると,単に活性化されないだけでなく,再びその抗原によって刺激が加わった際に活性化されなくなるアナジーという状態や制御性T細胞に分化することが知られている.このように,補助シグナル分子にはT細胞を活性化させる活性型の補助シグナルとT細胞を抑制する抑制型補助シグナルがある(図4).前者は,抗原特異的なT細胞増殖や,Th1やTh17への分化を促すことによって免疫応答をひき起こす.抑制型の補助シグナル分子は抗原特異的なT細胞のアポトーシスやアナジーなどを誘導することにより,免疫反応を抑制する.補助シグナル分子は現在30種類以上報告されているため,筆者らはマイクロアレイによりBehcet病患者末梢血単核球の網羅的遺伝子発現解析を行い,健常者と比較して発現亢進する遺伝子群の同定を試み,その結果,ICOS(induciblecostimulator)とい………………………………………………………………図4マウスCD4+T(Th)細胞の分化と機能IFN-gやTNF(腫瘍壊死因子)-aを産生するTh1細胞とIL-17を産生するTh17細胞が病態をひき起こす病原性T細胞群であると考えられており,これらの細胞機能を制御することで疾患の発症予防や再発における新規治療法となる可能性がある.498あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(42)療の探索はますます重要になってくると思われる.文献1)DireskeneliH:Behcet’sdisesase:infedtiousaetiology,newautoantigens,andHLA-B51.AnnRheumDis60:996-1002,20012)GrunewaldJ:Clinicalaspectsandimmunereactionsinsarcoidosis.ClinRespirJ1:64-73,20073)YamakiK,GochoK,HayakawaKetal:TyrosinasefamilyproteinsareantigensspecifictoVogt-Koyanagi-Haradadisease.JImmunol165:7323-7329,20004)LugerD,CaspiRR:Newperspectiveoneffectormechanismsinuveitis.SeminImmunopathol30:135-143,20085)AnnunziatoF,CosmiL,RomagnaniS:HumanandmurineTh17.CurrOpinHIVAIDS5:114-119,20106)AnnuziatoF,RomagnaniS:HeterogeneityofhumaneffectorCD4+Tcells.ArthritisResTher11:257,20097)UsuiY,TakeuchiM,YamakawaNetal:ExpressionandfunctionofinduciblecostimulatoronperipheralbloodCD4+TcellsinBehcet’spatientswithuveitis:anewactivitymarker?InvestOphthalmolVisSci51:5099-5104,20108)UsuiY,AkibaH,TakeuchiMetal:TheroleoftheICOS/B7RP-1Tcellcostimulatorypathwayinmurineexperimentalautoimmuneuveoretinitis.EurJImmunol36:3071-3081,20069)SugitaS,StreileinJW:IrispigmentepitheliumexpressingCD86(B7-2)directlysuppressesTcellactivationinvitroviabindingtocytotoxicTlymphocyte-associatedantigen4.JExpMed198:161-171,200310)UsuiY,OkunukiY,HattoriHetal:FunctionalexpressionofB7H1onretinalpigmentepithelialcells.ExpEyeRes86:52-59,200811)SugitaS,UsuiY,HorieSetal:Humancornealendothelialcellsexpressingprogrammeddeath-ligand1(PD-L1)suppressPD-1+Thelper1cellsbyacontact-dependentmechanism.InvestOphthalmolVisSci50:263-272,200912)TakeuchiM,KeinoH,KezukaTetal:Immuneresponsestoretinalself-antigensinCD25(+)CD4(+)regulatoryT-cell-depletedmice.InvestOphthalmolVisSci45:1879-1886,200413)KeinoH,TakeuchiM,UsuiYetal:SupplementationofCD4+CD25+regulatoryTcellssuppressesexperimentalautoimmuneuveoretinitis.BrJOphthalmol91:105-110,200714)SugitaS,YamadaY,KanekoSetal:InductionofregulatoryTcellsbyinfliximabinBehcet’sdisease.InvestOphthalmolVisSci,inpress15)MizukiN,MeguroA,OtaMetal:Genome-wideassociationstudiesidentifyIL23R-IL12RB2andIL10asBehcet’sdisesasesusceptibilityloci.NatGenet42:703-706,201016)RemmersEF,CosanF,KirinoYetal:Genome-wideassociationstudyidentifiesvariantsintheMHCclassI,症度や発症,また予防に関しては制御性T細胞が一定の抑制的役割を有していることがわかっている.ヒトぶどう膜炎においては,infliximabによる治療後にぶどう膜炎患者の末梢血CD4+T細胞内のFoxp3の発現量が上昇し,Foxp3の発現が低いと眼炎症発作が起こりやすいことから,制御性T細胞の機能低下がぶどう膜炎の病態に何らかの関与があることが考えられる14).Vぶどう膜炎と遺伝子異常2010年にゲノムワイド相関解析(GWAS)の手法を用いた大規模コホート解析で,Behcet病における関連一塩基多型(singlenucleotidepolymorphism:SNP)と関連候補遺伝子群が報告された15,16).それによりIL-10およびIL23R-IL12RB遺伝子座の2つの領域がBehcet病と強く関連することがわかった.また,GWAS研究ではBehcet病と同様のIL23R-IL12RB2遺伝子座がある染色体1p31に炎症性腸疾患17,18),尋常性乾癬19),強直性脊椎炎20)などでも多数のSNPが明らかとなり,標的とする遺伝子や治療薬による効果が同じである可能性が高い.今後多数のゲノム研究で得られたデータをもとに病態解明や新規治療へと向かうことが期待される.おわりに眼は,従来,「免疫学的特権部位(immuneprivilege)」とされてきたが,そのような部位になぜ自己免疫疾患が起きるかは明確ではなく,いまだに不明な点が多い.実験的自己免疫性ぶどう膜炎の病態の理解に関しては,数々の基礎研究により明らかになりつつある.さらにぶどう膜炎の進行を阻止する治療薬の開発が進んでいるが,動物モデルで有効でもヒトでは十分な効果が認められないことが多い.それぞれのヒトぶどう膜炎により近い適切な動物モデルの開発が望まれるとともに,異なる作用点をもつ新規治療薬による総括的な治療も必要とされる.さらに自己免疫的機序でぶどう膜炎が生じている場合は,抗原特異的T細胞を標的とする必要があり,抗原特異的T細胞を制御しない限りぶどう膜炎の再発はまぬがれないであろう.今後infliximab治療に抵抗を示す症例も現れると思われるため,現在までに得られている数々の基礎研究による知見をもとにした新規治(43)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011499geneticassociationstudyconfirmsIL12BandleadstotheindentificationofIL23Raspsoriasis-riskgenes.AmJHumGenet80:273-290,200720)WellcomeTrustCaseControlConsortium;Australo-Anglo-AmericanSpondylitisConsortium(TASC),BurtonPR,ClaytonDG,CardonLRetal:Associationscanof14,500nonsynonymousSNPsinfourdiseasesidentifiesautoimmunityvariants.NatGenet39:1329-1337,2007IL10,andIL23R-IL12RB2regionsassociatedwithBehcet’sdisesase.NatGenet42:698-702,201017)DuerrRH,TaylorKD,BrantSRetal:Agenome-wideassociationstudyidentifiesIL23Rasaninflammatoryboweldiseasegene.Science314:1461-1463,200618)BarrettJC,HansoulS,NicolaeDLetal:Genome-wideassociationdefinesmorethan30distinctsusceptibilitylociforCrohn’sdisease.NatGenet40:955-962,200819)CargillM,SchrodiSJ,ChangMetal:Alarge-scale

外科的治療

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYIぶどう膜炎に対する硝子体手術の歴史ぶどう膜炎に対する硝子体手術の報告は1970年代後半からである1).当初の報告の多くはトキソプラズマ,トキソカラ,細菌性眼内炎などの感染性ぶどう膜炎に対するものであり,診断的治療が主たる目的であった.非感染性ぶどう膜炎に対する治療として硝子体手術は1978年のDiamondらの報告からであり2),このときすでに併発白内障に対する水晶体摘出術を併用した硝子体手術が行われていた.そしてこの後より,ぶどう膜炎治療に対する硝子体手術が多く報告されるようになった.II手術目的と適応時期硝子体手術の適応時期は,ぶどう膜炎の原因,これまで施行してきた治療,ぶどう膜炎の活動性により異なるが,その目的は以下の3つに大別される.1.合併症の治療炎症が鎮静化しているにもかかわらず残存している硝子体混濁(OCV)や黄斑上膜(ERM),薬物治療に反応しない黄斑浮腫(ME),黄斑円孔(MH)などにより視力障害が生じた場合,遷延性の硝子体出血(VH),牽引性あるいは裂孔原性網膜.離(RD)を生じた場合,ときには網膜.離を予防する目的で早期に硝子体手術を施行することもある.はじめにぶどう膜炎は眼内炎症性疾患の総称であり,その治療の基本は内科的手法による消炎である.しかし,慢性炎症や反復する再発により内科的治療に抵抗性の器質的変化を生じ,その視機能の維持,改善には外科的治療が必要となる場合がある.併発白内障に対しては超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,続発緑内障にはマイトマイシンC(MMC)を用いた線維柱帯切除術,後眼部の器質性障害に対しては経毛様体扁平部硝子体手術がおおむねスタンダードとなっている.しかし,手術そのものによる機械的刺激,および眼の解剖学的バリアの破綻が眼内炎症の活動性を高めることから,術後成績は手術手技の達成度と同等,もしくはそれ以上に術後炎症をコントロールできるか否かに依存し,非ぶどう膜炎眼に対する手術とは一線を画して挑まなければならない.そのため,必要不可欠な症例以外への適応は避けるべきであり,適応症例に関しても術前にぶどう膜炎の活動性を知り,手術・周術期計画を綿密に立て,早急な手術が必要な症例以外では十分な消炎のもとに施行することが大切である.併発白内障手術,続発緑内障手術に関しては,「本誌Vol.21,No.1,2004」に詳しく記され,現在も同様の手法が行われているため,本稿では手術手技の改善,手術機器・器具の開発,改良により安全性の向上,手術時間の短縮化,手術侵襲の軽減が今なお発展段階にあり,ぶどう膜炎においてもその適応が広げられている硝子体手術について,私見を交えながら述べていきたい.(33)489*SayuriFujii&MasaruTakeuchi:防衛医科大学校眼科学講座〔別刷請求先〕藤井さゆり:〒359-0042所沢市並木3-2防衛医科大学校眼科学講座特集●ぶどう膜炎診療の新たな動向あたらしい眼科28(4):489.494,2011外科的治療SurgicalManagementofUveitis藤井さゆり*竹内大*490あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(34)(BBG)を用いて内境界膜を染色し,内境界膜.離を行う.7)トロッカールを丁寧に抜去した後,ずらした結膜でポートを被覆することにより硝子体の脱失を防ぐ.縫合のストレスはあるが,少しでも硝子体脱出があれば縫合したほうが無難である.IVぶどう膜炎に対する硝子体手術の術後成績Beckerらは,1981年.2005年にかけて報告されたぶどう膜炎に対する硝子体手術44編をまとめ,1,575例1,762眼の術後成績を報告している3).ぶどう膜炎疾患全体では視力改善が68%,変化なしは20%,悪化は12%であり,ぶどう膜炎の活動性については,ほとんどの報告で術後軽減しており,術前術後の炎症がコントロールできれば硝子体手術の術後成績は比較的良好であると結論づけている.筆者らは,これまでに30例38眼の内因性ぶどう膜炎に対してMIVS(23Gシステム)を施行した.平均年齢は51±18.5歳,病理組織学的内分けは,肉芽腫性ぶどう膜炎26眼,非肉芽腫性ぶどう膜炎12眼であった.適応眼所見(表1)は,OCV15眼,ERM15眼,ME7眼,VH7眼,MH2眼,RD1眼,PVR5眼であった.疾患別(表2)には,Behcet病,サ2.眼内液の採取感染または悪性腫瘍が原因として疑われるぶどう膜炎に対する診断目的.3.ぶどう膜炎の治療ステロイド薬や免疫抑制薬による治療に抵抗性のぶどう膜炎で,手術を施行しなければ高度の視機能障害に至る可能性が考えられる場合.III術式ぶどう膜炎以外の疾患に対する硝子体手術も同様であるが,より手術侵襲が少ない手技,術式が望まれる.大きくは20ゲージ(G)システムと23G,25Gシステムの小切開硝子体手術(minimallyincisionvitrectomysystem:MIVS)に分けられるが,MIVSではトロッカールにより硝子体の嵌頓,手術器具の出し入れによる毛様体への負担を少なくさせることができ,小切開により手術侵襲の軽減,手術時間の短縮化が図れるため,筆者らは第一選択としている.基本的な術式を,以下に記す.1)硝子体の脱出による術後感染を予防するため,トロッカーブレイド刺入部位の結膜を可動範囲の多い方向にずらし,トラッカーブレイドを斜めに刺入し,垂直にしてトロッカーを完全挿入する.2)眼底観察レンズ台リングの縫合による侵襲,出血を避けるため,非接触型広角眼底観察システム(WAVS)を用いてcorevitrectomyを行い,細部の処理はフローティングレンズを用いる.3)トリアムシノロンアセトニドにより硝子体を可視化させ,後部硝子体をある程度薄くさせた後,視神経乳頭近傍より硝子体カッターまたはバックフラッシュニードルで吸引をかけ後部硝子体.離(PVD)を作製する.4)PVD作製後の硝子体を周辺部まで切除する.WAVSを用いることにより強膜圧迫などの侵襲を加えることなくある程度の周辺部まで切除可能である.5)黄斑部およびその周囲の硝子体皮質(posteriorthinhyaloids)をダイアモンドイレイザーで擦り取る.6)MH,ME,ERMの症例では,インドシアニングリーン(ICG)より毒性が少ないブリリアントブルーG表1筆者らが施行した23G硝子体手術のぶどう膜炎タイプと適応眼所見非肉芽腫性肉芽腫性総計硝子体混濁(OCV)51015黄斑上膜(ERM)51015黄斑浮腫(ME)527硝子体出血(VH)257黄斑円孔(MH)022裂孔原性網膜.離(RD)101増殖硝子体網膜症(PVR)145(重複を含む)表2筆者らが施行した23G硝子体手術の適応疾患と眼所見全体OCVERMMEVHMHPVRBehcet病9642201サルコイドーシス9652020結核性ぶどう膜炎6010501原因不明12762002(重複を含む)(35)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011491という報告までさまざまである.このような報告の違いは,症例数,対象とした疾患,および眼所見に起因するものであるが,1990年代の報告と2005年以降の報告とで視力,CMEの有無でみた改善率に大きな差異がみられていない.このことから,これらの報告における術後成績の相違は,硝子体手術そのものの進歩による術後成績の向上を凌駕するものであるとともに,ぶどう膜炎に対する硝子体手術はいまだ模索段階にあるといえるかもしれない.1.サルコイドーシスに対する硝子体手術術後成績表3にあげた論文におけるサルコイドーシスの術後成績(表4)をみてみると,視力改善率は45.100%である.CME治癒率も60.100%と良好であり,ぶどう膜炎のなかでは術後の予後が最も期待できる疾患の一つであり,硝子体手術の良い適応である.ルコイドーシスが最も多くそれぞれ9眼,閉塞性血管炎をきたし,新生血管,VHを生じる結核性ぶどう膜炎が多くみられた.術前術後の炎症程度をIUSG(InternationalUveitisStudyGroup)が定めるぶどう膜炎炎症スコア基準4)により評価すると,前眼部,後眼部ともに炎症スコアは低下しており,後眼部では有意に改善されていた(図1).矯正視力も38眼中27眼で術後向上し(図2),MEも7眼中5眼(71%)で改善していた.疾患別にみてもサルコイドーシス,Behcet病それぞれで術後視力は術前視力よりも良好であり,サルコイドーシスにおいては有意であった(図3).Behcet病の眼炎症発作回数も2.89回/年から1.56回/年に減少していた(図4).しかし,これまでの内因性ぶどう膜炎に対する硝子体手術術後成績の報告をそれぞれでみてみると(表3)5.23),視力改善率は28.83%,.胞様黄斑浮腫(CME)の改善率もまったく変わらなかった報告から100%改善した**p<0.0001前眼部□:術前■:術後炎症スコア0.7110.553後眼部1.8290.69721.81.61.41.210.80.60.40.20図1硝子体手術を施行された症例の術前術後の眼炎症スコア21.510.5000.511.52術前視力術後視力図2硝子体手術を施行された症例の術前術後の矯正視力**p<0.01□:術前視力■:術後視力0.2070.811サルコイドシース1.210.80.60.40.200.3130.589Behcet病矯正視力図3硝子体手術を施行されたサルコイドーシス,Behcet病の術前術後の矯正視力術前眼炎症発作回数(回/年)2.89術後1.563.532.521.510.50図4硝子体手術を施行されたBehcet病患者の術前術後の眼炎症発作回数492あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(36)2.Behcet病に対する硝子体手術術後成績一方,同様に表3にあげた論文からBehcet病の術後成績を抜粋してみると,視力改善率は50.67%であり,サルコイドーシスの術後成績と比較して十分なものではない(表5).また,CME治癒率も筆者らの症例では100%であるが2症例の結果であり,症例数が最も多く最近のAhnらの報告17)では38%であり,50%以下である.どの論文においても疾患の活動性は硝子体手術により減少し,改善しているが,術後の視機能改善が得られない原因としては,すでに先行している黄斑変性,網膜・視神経萎縮があげられる.筆者らの結果を含め術後の新生血管が5編中3編で報告されており,その後の増殖硝子体網膜症(PVR)への進展が術後経過不良の大きな要因の一つとなっている.V硝子体手術により視力改善がみられないぶどう膜炎の検討ならびに今後の展望自験例の38眼中,硝子体手術後も視力は不変,または悪化した症例が11眼みられた(表6).このうちの半数以上の55%は30歳代以下の若年者であった.若年者表3ぶどう膜炎に対する硝子体手術術後成績の比較報告者報告年症例数症例眼視力改善(率)CME改善(率)ぶどう膜炎の活動性Dugeletal5)19929117/11(64%)9/11(82%)Heiligenhausetal6)1994222823/28(83%)3/6(50%)10例でステロイド薬内服中止Verbraekenetal7)1996202514/25(56%)10/25(40%)3例(12%)で再発Boveyetal8)2000515141/51(80%)Kiryuetal9)2001141810/18(56%)14/18(78%)炎症の増悪なしOzerturketal10)2001212615/26(58%)3眼不変Behcet眼発作回数減少,発作間隔延長Soyluetal11)20019105/10(50%)術後Behcet眼発作なしKiryuetal12)200311115/11(45%)4/7(60%)すべての症例で炎症軽減Scottetal13)2003384125/41(61%)10/18(56%)中間部,後眼部で炎症軽減Sonodaetal14)2003665/6(83%)すべての症例で炎症軽減Iekietal15)20048117/11(64%)7例でステロイド薬内服中止Sulluetal16)2005152010/20(50%)3/5(60%)11例(73%)で免疫抑制薬中止Ahnetal17)2005212114/21(67%)5/13(38%)58%で免疫抑制薬中止,52%でステロイド薬内服中止Androudietal18)2005343626/36(72%)Tranosetal19)200612128/12(67%)4/12(33%)1例でステロイド薬内服減量,1例で免疫抑制薬中止Gutfleischetal20)200719195/18(28%)11/19(58%)外間ら21)2007172415/24(63%)16/24(67%)Soheilianetal22)2008191914/19(74%)4/16(25%)Quinonesetal23)20109110.92lines改善3/3(100%)9/11(82%)自験例2011(submission)303827/38(71%)5/7(71%)後眼部で有意に炎症が減少報告者備考Dugeletal5)CME改善しても視力あがらないHeiligenhausetal6)新たにCME1眼,RD3眼Verbraekenetal7)MH2眼,ERM4眼,PVR1眼Boveyetal8)RD・CME合わせて7眼Kiryuetal9)白内障7眼,緑内障4眼,視神経萎縮1眼,ERM1眼,RD1眼,すべてサルコイドーシス症例Ozerturketal10)VH2眼,CME3眼すべてBehcet病症例Soyluetal11)すべてBehcet病症例Kiryuetal12)白内障4眼,緑内障5眼,再発ERM3眼,すべてサルコイドーシス症例Scottetal13)白内障1眼,RD1眼,黄斑萎縮3眼Sonodaetal14)高眼圧1眼Iekietal15)白内障5眼,高眼圧3眼,ERM1眼,CNV1眼Sulluetal16)すべてBehcet病症例Ahnetal17)RD1眼,緑内障1眼,術前に新生血管ある症例は予後不良,すべてBehcet病症例Androudietal18)新たにCME10眼,RD1眼,レンズ入れ替え2眼,後発白内障でYAG19眼(52%)Tranosetal19)すべてCME症例Gutfleischetal20)すべてCME症例外間ら21)すべてCME症例ERM合併群がCME改善効果あるSoheilianetal22)緑内障3眼,黄斑萎縮2眼,視神経萎縮1眼,眼球ろう1眼,すべて25G硝子体手術で施行Quinonesetal23)内科的治療のみと硝子体手術で比較硝子体手術のほうが治療成績よい自験例VH1眼,CME1眼,PVR3眼(37)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011493きるものではなく,適応は十分に慎重であるべきである.一方,結核性ぶどう膜炎,原因不明ぶどう膜炎では,若年者で,VH,PVRといった眼所見によりぶどう膜炎の消炎を待つことなく早急な硝子体手術が必要とされた症例が予後不良となっている.今後はこのような症例に対する硝子体手術,周術期治療の確立が大切かつ必要である.文献1)AlgvereP,AlankoH,DickhoffKetal:Parsplanavitrectomyinthemanagementofintraocularinflammation.ActaOphthalmol(Copenh)59:727-736,19812)DiamondJG,KaplanHJ:Lensectomyandvitrectomyforcomplicatedcataractsecondarytouveitis.ArchOphthalmol96:1798-1804,19783)BeckerM,DavisJ:Vitrectomyinthetreatmentofuveitis.AmJOphthalmol140:1096-1105,20054)Bloch-MichelE,NussenblattRB:InternationalUveitisStudyGrouprecommendationsfortheevaluationofintraocularinflammatorydisease.AmJOphthalmol103:234-235,19875)DugelPU,RaoNA,OzlerSetal:Parsplanavitrectomyforintraocularinflammation-relatedcystoidmacularのぶどう膜炎は原因不明であることが多く,表6におけるPVR2症例はともに若年者である.この11例中,早急の硝子体手術を必要としたため十分なぶどう膜炎の消炎を術前得られなかった症例が6例(55%)あった.予期されるように,若年者,もしくはぶどう膜炎の非寛解期における硝子体手術は術後経過不良であることが今回の検討によっても示された.Behcet病,結核性ぶどう膜炎,および原因不明のぶどう膜炎では,1/3の症例で視力改善がみられていない.Behcet病に対する硝子体手術の術後予後は,先にも述べたように必ずしも期待で表4サルコイドーシスに対する硝子体手術術後成績の比較報告者報告年症例数症例眼視力改善(率)CME改善(率)ぶどう膜炎の活動性備考Kiryuetal9)2001141810/18(56%)14/18(78%)炎症の増悪なし白内障7眼,緑内障4眼,視神経萎縮1眼,ERM1眼,RD1眼Kiryuetal12)200311115/11(45%)4/7(60%)すべての症例で炎症軽減白内障4眼,緑内障5眼,再発ERM3眼Sonodaetal14)2003333/3(100%)高眼圧1眼Iekietal15)20048117/11(64%)5/5(100%)7例でステロイド薬内服中止白内障5眼,高眼圧3眼,ERM1眼,脈絡膜新生血管1眼Tranosetal19)2006111/1(100%)1/1(100%)CME1症例のみ自験例2011(submission)998/9(89%)2/2(100%)後眼部で有意に減少MH症例を含む表5Behcet病に対する硝子体手術術後成績の比較報告者報告年症例数症例眼視力改善(率)CME改善(率)ぶどう膜炎の活動性備考Ozerturketal10)2001212615/26(58%)3眼不変Behcet眼発作回数減少,発作間隔延長VH2眼,CME3眼Soyluetal11)20019105/10(50%)術後Behcet眼発作なしSulluetal16)2005152010/20(50%)3/5(60%)11例(73%)で免疫抑制薬中止Ahnetal17)2005212114/21(67%)5/13(38%)58%で免疫抑制薬中止52%でステロイド薬内服中止RD1眼,緑内障1眼術前に新生血管のある症例は予後不良自験例2011(submission)996/9(67%)2/2(100%)VH,PVR1眼表6硝子体手術により術後視力改善がみられなかった症例割合(率)術前所見術後合併症Behcet病3/9(33%)OCV(2例)VH+PVR(1例)治癒VH,PVRサルコイドーシス1/9(10%)MH(1例)治癒結核性ぶどう膜炎2/6(33%)VH+PVR(1例)ERM(1例)VH,ERM治癒JIA関連ぶどう膜炎1/1(100%)DME(1例)治癒原因不明4/12(33%)OCV+ME(1例)ERM(1例)OCV+PVR(2例)治癒治癒PVR(2例)494あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(38)vitreousopacityassociatedwithocularsarcoidosisresistanttomedicaltreatment.OculImmunolInflamm12:35-43,200416)SulluY,AlotaibyH,BedenUetal:ParsplanavitrectomyforocularcomplicationsofBehcet’sdisease.OphthalmicSurgLasersImaging36:292-297,200517)AhnJK,ChungH,YuHG:VitrectomyforpersistentpanuveitisinBehcet’sdisease.OculImmunolInflamm13:447-453,200518)AndroudiS,AhmedM,FioreTetal:Combinedparsplanavitrectomyandphacoemulsificationtorestorevisualacuityinpatientswithchronicuveitis.JCataractRefractSurg31:472-478,200519)TranosP,ScottR,ZambarakjiHetal:Theeffectofparsplanavitrectomyoncystoidmacularoedemaassociatedwithchronicuveitis:arandomised,controlledpilotstudy.BrJOphthalmol90:1107-1110,200620)GutfleischM,SpitalG,MingelsAetal:Parsplanavitrectomywithintravitrealtriamcinolone:effectonuveiticcystoidmacularoedemaandtreatmentlimitations.BrJOphthalmol91:345-348,200721)外間英之,後藤浩,石川友昭:ぶどう膜炎の黄斑浮腫に対する硝子体手術の効果.眼臨101:340-343,200722)SoheilianM,MirdehghanSA,PeymanGA:Suturelesscombined25-gaugevitrectomy,phacoemulsification,andposteriorchamberintraocularlensimplantationformanagementofuveiticcataractassociatedwithposteriorsegmentdisease.Retina28:941-946,200823)QuinonesK,ChoiJY,YilmazTetal:Parsplanavitrectomyversusimmunomodulatorytherapyforintermediateuveitis:aprospective,randomizedpilotstudy.OculImmunolInflamm18:411-417,2010edemaunresponsivetocorticosteroids.Apreliminarystudy.Ophthalmology99:1535-1541,19926)HeiligenhausA,BornfeldN,FoersterMHetal:Longtermresultsofparsplanavitrectomyinthemanagementofcomplicateduveitis.BrJOphthalmol78:549-554,19947)VerbraekenH:Therapeuticparsplanavitrectomyforchronicuveitis:aretrospectivestudyofthelong-termresults.GraefesArchClinExpOphthalmol234:288-293,19968)BoveyEH,HerbortCP:Vitrectomyinthemanagementofuveitis.OculImmunolInflamm8:285-291,20009)KiryuJ,KitaM,TanabeTetal:Parsplanavitrectomyforcystoidmacularedemasecondarytosarcoiduveitis.Ophthalmology108:1140-1144,200110)OzerturkY,BardakY,DurmusM:VitreoretinalsurgeryinBehcet’sdiseasewithsevereocularcomplications.ActaOphthalmolScand79:192-196,200111)SoyluM,DemircanN,PelitA:ParsplanavitrectomyinocularBehcet’sdisease.IntOphthalmol24:219-223,200112)KiryuJ,KitaM,TanabeTetal:Parsplanavitrectomyforepiretinalmembraneassociatedwithsarcoidosis.JpnJOphthalmol47:479-483,200313)ScottRA,HaynesRJ,OrrGMetal:Vitreoussurgeryinthemanagementofchronicendogenousposterioruveitis.Eye(Lond)17:221-227,200314)SonodaKH,EnaidaH,UenoAetal:Parsplanavitrectomyassistedbytriamcinoloneacetonideforrefractoryuveitis:acaseseriesstudy.BrJOphthalmol87:1010-1014,200315)IekiY,KiryuJ,KitaMetal:Parsplanavitrectomyfor

内科的治療

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYにステロイド薬全身投与を受けている患者のみならず,ステロイド薬点眼でも誘発される.2.局所ステロイド薬治療ぶどう膜炎治療の基本はステロイド薬の局所投与である.局所投与法としては点眼,結膜下注射などが一般的であるが,ときにTenon.下,球後注射,硝子体腔注射なども行われる.おもに前眼部病変に対しては点眼・結膜下注射,中間部ぶどう膜炎や後眼部病変に対しては後部Tenon.下注射で対応する.加えて適切な瞳孔管理がきわめて重要である.眼局所投与は全身的な副作用が少ないが,それでもステロイド緑内障,白内障などを起こすことがある.使われるステロイド薬の種類は局所投与用としてはリン酸ベタメタゾン,デキサメタゾン,プレドニゾロン,フルオロメトロンなどで,点眼,眼軟膏製剤として使われる.現在日本で使用できるステロイド点眼薬の種類は大きく制限されている.単一の点眼薬をむやみに長く処方するのではなく,効果の強い製剤から徐々に弱い製剤に移行させながら治療するのが本来の姿である.皮膚科などで,さまざまな強さの数十種のステロイド製剤が存在し,さまざまな治療の選択肢が存在するのに比べると明らかに見劣りする.また,点眼薬のなかで最強のリン酸ベタメタゾン(リンデロンR)ですら全ステロイド製剤のなかでは効果の点で中間の部類に属しており,真に重篤な炎症をコントロールできる点眼薬が日本には存在しはじめにぶどう膜は眼球内で唯一豊富な血流を有する部位である.単位体積当たりの血管が多く,さまざまな全身血管病に伴う眼炎症の起炎部位になりやすい.ぶどう膜炎といっても単にぶどう膜の炎症のみを指すのではなく,眼球内炎症の総称である.ゆえに,最近は広く眼全体の炎症状態を代表する呼び名として国際的にも「内眼炎(intraocularinflammation)」といわれるようになってきた.ぶどう膜炎は大きく自己免疫病などの内因性のものと,感染症などの外因性のものに分類できる.本稿では特に内因性ぶどう膜炎の内科的治療について,副腎皮質ステロイド薬とそれ以外に分けて概説する.I副腎皮質ステロイド薬の使用法1.全般的留意点眼科領域におけるステロイド薬投与法には大きく分けて全身投与と局所投与がある.いずれの投与法であれ,ステロイド薬は副作用の明らかな薬剤であり,投与する際に常にそのリスクとベネフィット比を考えなくてはならない.ぶどう膜炎治療では大量のステロイド薬を使う機会もあり,その場合全身管理の面から他科との連携は不可欠である.感染症(結核,ウイルス性肝炎など),糖尿病,骨粗鬆症,精神疾患など全身基礎疾患がある患者への投与は慎重に行う必要がある1).また,ステロイド薬投与による白内障と緑内障といった眼合併症にも留意する必要がある.眼合併症は喘息・膠原病などで長期(27)483*KoheiSonoda:山口大学大学院医学系研究科情報解析医学系学域眼科学分野〔別刷請求先〕園田康平:〒755-8505宇部市小串1144山口大学大学院医学系研究科情報解析医学系学域眼科学分野特集●ぶどう膜炎診療の新たな動向あたらしい眼科28(4):483.487,2011内科的治療MedicalTherapyforUveitis園田康平*484あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(28)プレドニゾロン1,000mgを3日間点滴静注し,その後プレドニゾロン内服40.60mg/日から漸減するパルス療法も行われることがある.いずれにせよ初回治療が非常に大切で,発症後早期に十分量のステロイド薬が投与されないと再発をくり返す,いわゆる遷延型に移行し,不可逆的な視機能障害に至る可能性が出てくる.Vogt-小柳-原田病以外のぶどう膜炎に関しては,前述したとおり,治療の大原則はステロイド薬局所投与である.しかし,局所治療に反応せず,強い硝子体混濁や広範囲にわたる網膜血管炎,汎ぶどう膜炎に付随する黄斑浮腫などが存在する場合にはステロイド薬全身投与が適応となる.その投与量や投与期間については個々の症例に応じた匙加減が必要で,画一的な処方はない.たとえば重症のサルコイドーシスなどではプレドニゾロン30.60mg/日の内服から開始し,所見の改善に合わせて20.30mg/日までは早めに減量し,その後は1カ月から2カ月ごとに5mgずつ減量する.原因不明の急性劇症型ぶどう膜炎で,毛様体機能が著しく低下して低眼圧をきたしている症例などでは短期間のステロイドパルス療法が有効なことがある.前述のメチルプレドニゾロン500mg/日の点滴静注を3日間施行する.こうしたステロイド薬の全身投与を行った際は,副作用の発現に注意が必要である.消化管潰瘍,骨粗鬆症,感染症,精神症状など多くの点に注意を払わなくてはならない.特に中高年の症例にステロイド薬の長期投与を余儀なくされた場合に問題となるのが骨粗鬆症である.最近はこのステロイド骨粗鬆症に対し,ビスホスホネートという薬剤が有効であることがわかってきた.整形外科に依頼して骨密度を定期的に測定しながら,必要に応じて内科や整形外科での加療を早めに依頼することも肝要である.IIステロイド薬以外の治療薬の使用法1.非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidalantiinflammatorydrugs:NSAIDs)ぶどう膜炎に伴う眼内炎症抑制に効果的エビデンスのあるNSAIDs内服薬はない.眼炎用に疼痛を伴う場合や大量のフィブリンの析出がみられるときに,短期間適切なNSAIDsを処方することがある.ない.副作用を恐れるため,有望な新薬の開発ならびに上市がなかなか承認されないのが問題であるが,眼科医側からも草の根的な要望を出し続ける必要がある.最近,遷延性のぶどう膜炎症例に対して全身投与を行う前に,まずはトリアムシノロンなどの持続性デポ型ステロイド製剤(10.20mg)の経Tenon.下球後投与などが行われることが多くなった2,3).その結果,全身投与が施行される頻度が減少しており,副作用軽減の立場からも喜ばしいことである(トリアムシノロンは厳密には現行の保険でぶどう膜炎に使用できない.眼局所注射用の製剤の承認が待たれる).眼内にインプラントを設置し,長期間にわたり有効濃度のステロイド薬を眼内に徐放させる各種製剤の開発・治験も行われている.外科的な手技を必要とするので,すべての症例に勧められる治療法ではないが,以下のようなケースは良い適応であろう.①後眼部の炎症が主体で,ステロイド薬の点眼だけでは炎症をコントロールできない慢性のぶどう膜炎,②慢性のぶどう膜炎で,ステロイド薬の全身投与にはよく反応するが,漸減や中止のたびに再発するため,ステロイド薬を中止できない症例,③糖尿病などの合併性があり,長期間のステロイド薬投与が躊躇される症例,④ステロイド薬を処方してもコンプライアンスが良好でない症例,などである.この治療法は眼内にステロイド薬を貯留させるため,白内障や緑内障を起こす可能性はある.しかし,すでに白内障の手術が終わり,ステロイドレスポンダーでないことが確認されている症例には有効であろう.高齢者などに対するステロイド薬全身投与のリスクを考えると,全身的副作用を軽減できる点からも有用な治療法の一つになりうると考えられる.3.全身ステロイド薬治療ステロイド薬を発症初期から大量に投与する必要のある代表的な疾患にVogt-小柳-原田病がある.初期量としてベタメタゾンなどの長期間持続性のあるステロイド薬をプレドニゾロン換算で200.240mg/日から点滴静注として投与する.眼所見の改善を確認しながら徐々に漸減し,プレドニゾロン換算で50.60mg/日となったところで同量のプレドニゾロン内服に切り替える.その後,3.4カ月かけて内服量を漸減する.一方,メチル(29)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011485従来の薬物治療は,一定の効果をあげてきたとはいえ,残念ながら治療に反応せず失明に至る症例が数多く存在した.また,全身副作用のため長期で投与できないケースもある.患者はBehcet病に伴う臓器障害に加え,薬物副作用による症状にも苦しんできた.薬剤のメリット・デメリットの割合で考えると,必ずしも患者にとって有益な治療とならない場合も多い.3.生物製剤インフリキシマブ(レミケードR)が,わが国での3つの治験を経て4),2007年1月よりBehcet病による難治性網膜ぶどう膜炎に適応認可された.インフリキシマブはあらゆる炎症の起点となるサイトカインTNF(腫瘍壊死因子)aに対する抗体製剤で,マウス由来抗ヒトTNFaモノクローナル抗体のうち,TNFaへの結合部(可変部)のみを残し,定常領域をヒトIgGに変換したキメラ抗体である.TNFaを中和するだけでなく,TNFa産生細胞をも傷害することにより,炎症を抑制する5).具体的にはインフリキシマブ(5mg/kg)を0,2,6,14週(以後8週おき)で点滴投与する(図1).インフリキシマブがBehcet病による網膜ぶどう膜炎に適応承認されて以来,各施設で発作を頻回にくり返す難治性の眼Behcet病患者に順次導入され,結果報告が出て来つつある.それによるとおおむね眼発作の頻度は激減し,眼科的には著効しているといえるようである.インフリキシマブは非常に有効な薬剤ではあるが,現2.免疫抑制薬現在日本で使用できるぶどう膜炎に対しての免疫抑制薬は,Behcet病に対するシクロスポリンのみである.しかし諸外国では,メトトレキサート,アザチオプリン,シクロホスファミドなどの代謝拮抗薬が使用され,ある程度の効果をあげている.日本で免疫抑制薬・代謝拮抗薬の処方が制限されていることが診療に及ぼす影響は計り知れない.特にステロイド薬の全身副作用のある症例に有効である可能性が高い.わが国でも,今後ぶどう膜炎に対する免疫抑制薬・代謝拮抗薬の保険適用を広げていく必要がある.免疫抑制薬の具体的な使用方法を述べる.Behcet病は,①口腔内難治性アフタ潰瘍,②結節性紅斑などの皮膚症状,③虹彩毛様体炎・網脈絡膜炎(ぶどう膜炎),④外陰部潰瘍を主症状とする原因不明疾患である.なかでも眼症状は重篤で失明に至るケースが多く,本症患者のQOL(qualityoflife)を著しく低下させている.最大の特徴は「発作と緩解をくり返すこと」であり,急性期眼炎症管理に加えて,長期でいかに眼発作回数を減らすかが治療のポイントとなる.Behcet病に伴うぶどう膜炎では急性発作が落ち着いた緩解期に,「発作頻度減少を目的とした治療として」免疫抑制薬や生物学的製剤が使用される.まずコルヒチンを0.5.1.5mg経口投与する.コルヒチン単独で無効の場合,シクロスポリンを併用内服する.5mg/kg/日を目安に投与を開始し,特に投与初期は血中トラフ値(シクロスポリンの血中最低濃度)が高くならないように気を配りながら投与量を加減する(通常100ng/ml以下).副作用として肝腎障害や神経Behcet病の誘発があり,特に後者は生命予後にも関わる問題であるため,本薬剤の使用開始にあたっては十分な注意が必要である.コルヒチン・シクロスポリンに反応して発作頻度が減少する症例があるために,現在でも最初に導入されることが多い.一方で,これらの投薬は予防目的であるため,中止や減量のタイミングがむずかしい.しばらく発作がないということで減量すると,前にも増して大きな発作を起こすことがあるため,結果として長期投与になってしまう.ゆえに,造血系,腎臓,肝臓,中枢神経系などに障害をきたす副作用がしばしば出現する.Behcet病眼発作予防に行われてきた図1インフリキシマブ(レミケードR)治療の実際インフリキシマブ(5mg/kg)を0,2,6,14週(以後8週おき)で点滴投与する.効能・効果Behcet病による難治性網膜ぶどう膜炎(既存治療で効果不十分な場合)用法・用量通常,体重1kg当たり5mgを1回の投与量とし点滴静注する.初回投与後,2週,6週に投与し,以後8週間の間隔で投与を行う.01020304050週02614223038468週間隔486あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(30)抗二本鎖DNA抗体の上昇例が報告されている7).投与後のループス様症候群を思わせる徴候が認められ,さらに抗二本鎖DNA抗体陽性化が認められた場合には投与を中止しなければならない.インフリキシマブはいわゆる生物製剤とよばれる新しい治療薬であり,全身投与をする以上,投与前には投与可能かどうかの全身検査が必須であり,投与後も全身的な副作用に常に注意を払うことが必要である.まず本製剤ならびにマウス由来蛋白質に対する過敏症の既往歴,脱随疾患およびその既往歴,うっ血性心不全,重篤な感染症,活動性結核,がある場合は投与禁忌である.問診で結核既往歴を聴取し,ツベルクリン反応の検査を行う.胸部X線,必要に応じて胸部CT(コンピュータ断層撮影)も追加する.これらの検査の結果,既感染が疑われる場合には必要に応じて抗結核薬の同時投与も検討しなければならない.B型肝炎ウイルスキャリアの患者においてB型肝炎ウイルスの再活性化が報告されている.HBs抗原(B型肝炎表面抗原)を調べ,陽性であった場合には定期的な肝機能検査や肝炎ウイルスマーカーのモニターを行う.C型肝炎も同様である.現時点ではインフリキシマブは緩解期に発作予防の目的で使用される.しかし急性発作期の迅速な消炎にも効果を発揮するとも考えられる.今後,本症での使用症例が増えるなかで,急性期発作に対する使用法も確立され時点ではBehcet病治療の第一選択ではない.それは後述するさまざまなリスクがあるからである.Behcet病と診断したらまずはコルヒチン・シクロスポリンといった従来どおりの治療を行う.従来の治療に抵抗する,または副作用でコルヒチン・シクロスポリンの投与ができない症例に限り,インフリキシマブ投与を検討する.今後症例数が増え安全性がより確立されるようなら,リウマチ治療で行われつつあるようにインフリキシマブがBehcet病治療の第一選択になる可能性はある.インフリキシマブの副作用として,抗体製剤であることによる副作用と,TNFaを抑制することによる副作用,の2つに大別される.前者の代表として投与時反応(infusionreaction)が重要である.即時型過敏症のことで,投与開始から投与後2時間以内に認められた副作用をいう.頭痛,発熱,めまい,血圧上昇,掻痒,嘔吐などがある.軽度のものでは点滴速度を下げるなどで対応するが,中等度以上のものでは点滴中止や抗ヒスタミン薬やステロイド薬追加投与などで対応する.一方,長期的にTNFaを極端に抑制すると,腫瘍増大や感染症をひき起こす危険性が指摘されている.結核は投与前のスクリーニングや抗結核薬の予防投与により発症を抑えることができる.投与後の悪性リンパ腫や皮膚癌などが報告されてはいるが,自然発症頻度と差はなく,関連性は明らかではない.また,海外で結節性紅斑の悪化例6)や,図2各種抗TNFa製剤ヒトTNFaとの結合部Fabマウス蛋白質製剤構造模式図ヒト蛋白質FcヒトTNFaとの結合部FabFcヒトTNFaとの結合部TNFR-2(p75)Fc製剤名インフリキシマブアダリムマブエタネルセプト構造キメラ型抗TNFa抗体完全ヒト型TNFa抗体ヒトIgG融合蛋白用法用量静脈注射(0,2,6,以後8週おき)5mg/kg皮下注射(1回/2週)1回400mg皮下注射(2回/週)1回25mg他剤併用RAではMTX必須なしなし副作用注射時反応非ヒト成分含まず少ない注射部位反応(31)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011487に,ステロイド薬剤の眼科における使用法.眼科27:1009-1019,19852)YoshikawaK,KotakeS,IchiishiAetal:Posteriorsub-Tenoninjectionsofrepositorycorticosteroidsinuveitispatientswithcystoidmacularedema.JpnJOphthalmol39:71-76,19953)OkadaAA,WakabayashiT,MorimuraYetal:Trans-Tenon’sretrobulbartriamcinoloneinfusionforthetreatmentofuveitis.BrJOphthalmol8:968-971,20034)OhnoS,NakamuraS,HoriSYetal:Efficacy,safety,andpharmacokineticsofmultipleadministrationofinfliximabinBehcet’sdiseasewithrefractoryuveoretinitis.JRheumatol31:1362-1368,20045)稲森由美子,水木信久:ベーチェット病の抗TNFa抗体療法.眼科48:489-503,20066)YuselAE,Kart-KoseogluH,AkovaYAetal:FailureofinfliximabtreatmentandoccurrenceoferythemanodosumduringtherapyintwopatientswithBehcet’sdisease.Rheumatology43:394-396,20047)KatsiariCG,TheodossiadisPG,KaklamanisPGetal:Succesfullong-termtreatmentofrefractoryAdamantiades-Behcet’sdisease(ABD)withinfliximab.AdvExpMedBiol528:551-555,20038)Diaz-LlopisM,Garcia-DelpechS,SalomDetal:Adalimumabtherapyforrefractoryuveitis:apilotstudy.JOculPharmacolTher24:351-361,2008てくると思われる.インフリキシマブ以外にも同じTNFa拮抗薬として,エタネルセプトやアダリムマブといった製剤のぶどう膜炎治療への応用が今後進む可能性がある(図2)8).他のサイトカインや細胞表面分子をターゲットにした製剤が次々に開発されている.今後はどの生物学的製剤を取捨選択し,どの時期にどのような形で使用するか?という臨床プロトコール作りが課題になってくると思われる.おわりに現時点のわが国で内因性ぶどう膜炎に対して行われている内科的治療を概説した.ステロイド局所治療の幅が広がり,生物製剤の導入によって難治性ぶどう膜炎の治療に光明がみえてきた感がある.治療選択肢の幅をもち,患者にとって最適の治療を選択できるようにすることが,ますます重要になってくると考えられる.文献1)臼井正彦,坂井潤一:眼科薬物治療法─卒後研修医のため

画像検査

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYIIおもなぶどう膜炎疾患のOCT像の特徴ぶどう膜炎の診断は,その症例の眼所見と臨床経過,全身所見,血液検査,ツベルクリン反応,胸部X線撮影,眼内液の検査〔培養,ウイルスDNAのPCR(polymerasechainreaction)検査,細胞診など〕などの結果と,各ぶどう膜炎疾患の診断基準や特徴的な臨床像を照らし合わせて行うことを常とする.しかし,眼底に病変をもつぶどう膜炎患者では,OCTを用いて網脈絡膜における病巣の深さ(網膜内,網膜下,色素上皮層,色素上皮下など)を確認することが,ぶどう膜炎の鑑別診断を考えるうえでの重要な情報となりうる.本稿では,おもなぶどう膜炎疾患で比較的典型的と考えられる眼底所見のOCT像について述べる.1.Vogt.小柳.原田病(図1)急性期には両眼性に黄斑部,視神経乳頭周囲を中心とした漿液性網膜.離がみられる.原田病はしばしば中心性漿液性網脈絡膜症との鑑別が問題となるが,両者のOCT像の違いは,原田病のOCT像では網膜色素上皮の直上に膜状の反射があること,網膜下液の貯留が隔壁によってしばしば区画されることである.Yamaguchiらは急性期の原田病患者のOCT像ではしばしば漿液性網膜.離のなかに膜状の隔壁がみられ,ステロイド大量投与により隔壁は消失することから,フィブリンなどが隔壁を形成していると推測した1).Ishiharaらはこの隔はじめにぶどう膜炎患者に対して行われる画像検査には,前眼部撮影,眼底撮影,フルオレセイン蛍光眼底造影,インドシアニングリーン蛍光眼底造影,Bモードエコー,胸部X線撮影,頭部CT(コンピュータ断層撮影)・MRI(磁気共鳴画像)検査,高周波超音波生体顕微鏡(ultrasoundbiomicroscopy:UBM),光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)などがある.このなかで本稿では,近年進歩の著しく,ぶどう膜炎領域でも診断や病態の把握,治療効果の判定などに欠かせない検査になりつつあるOCTを取り上げ,おもなぶどう膜炎疾患のOCT像の特徴について述べる.IOCTで何がわかるかOCTは,820nm前後の近赤外線低干渉波を眼内に向かって発振し,光の干渉現象を利用して網膜の組織断面像を撮影する装置である.網膜の層構造が非侵襲的にわかるほか,病的な組織についても,網膜出血や網膜内瘢痕病巣,脈絡膜由来新生血管などは高反射信号(高輝度)に写り,網膜浮腫,網膜下液,網膜内.胞(.胞様黄斑浮腫など)は低反射信号(低輝度)に写る.ぶどう膜炎では,網膜内の炎症病巣,硝子体内の混濁や網膜前膜,黄斑浮腫,網膜下液の貯留,脈絡膜の肥厚などさまざまな病態を呈しうるため,眼底の病態の把握にOCT像は有用である.(21)477*ToshikatsuKaburaki:東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学〔別刷請求先〕蕪城俊克:〒113-8655東京都文京区本郷7-3-1東京大学大学院医学系研究科外科学専攻眼科学特集●ぶどう膜炎診療の新たな動向あたらしい眼科28(4):477.482,2011画像検査ImagingTest蕪城俊克*478あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(22)3.サルコイドーシス(図3)サルコイドーシスによるぶどう膜炎では,網膜周辺部に多発性の.様網脈絡膜滲出斑がよく観察される.この部位を高画質のOCTで観察すると,外顆粒層から神経線維層にわたる高輝度の塊状病巣が描出され,網膜内肉芽腫と考えられる4).この肉芽腫を経時的に観察すると,網膜内の肉芽腫が時間経過とともに硝子体側に突出し,硝子体中へと進展する様子が観察された4).以前より.様網脈絡膜滲出斑が経過とともに網膜前肉芽腫,雪玉状硝子体混濁へと変化することが推測されていたが,この報告はOCTを使ってこのことを証明したことになる.また,サルコイドーシスでは,.胞様黄斑浮腫(cystoidmacularedema:CME)をきたすことが多いが,黄斑浮腫,斑状滲出病巣,網膜血管周囲炎以外の部位では網膜への炎症細胞浸潤は乏しく,網膜層構造はよく保たれている.壁の一部は視細胞内節外節接合部(IS-OSline)と連続しており,フィブリン膜の牽引によりIS-OSlineの.離が起こっていると推測している2).また,約半数の症例でOCTにより脈絡膜皺襞がみられ,色素上皮層および脈絡膜の隆起として観察される3).2.Behcet病(図2)Behcet病ぶどう膜炎による眼底の炎症発作では,閉塞性網膜血管炎による白斑や眼底出血がみられる.また,慢性的に持続する黄斑浮腫がみられることがある.網膜白斑の部位をOCTで観察すると,網膜内は炎症細胞浸潤のため表層付近から高反射となっており,網膜は浮腫により肥厚し,網膜深層はシャドーとなって詳細はわかりにくい.炎症消退後には,網膜の菲薄化,視細胞層の不鮮明化などが観察されることがあり,網膜障害が示唆される.図1原田病のOCT像漿液性網膜.離の中にフィブリン析出と推測される像(△)がみられる.図2Behcet病の眼発作時の眼底像網膜白斑がみられる部位では,網膜内は炎症細胞浸潤のため表層付近から高反射となる.網膜浮腫により網膜深層はシャドーとなって詳細はわかりにくい.(23)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011479と,網膜実質内への炎症細胞浸潤のため網膜表層から深層まで全層にわたり高輝度に描出される6).また,急性期にはOCTで100.150μm大の灰色,球状の沈着物が網膜動脈周囲や網膜表面~硝子体中に観察され,炎症細胞塊と考えられる6).瘢痕期のOCT像でも感覚網膜の高輝度は持続するが,網膜浅層の菲薄化,色素上皮層の肥厚,色素上皮萎縮に伴う後方散乱の増加による脈絡膜内の高輝度化がみられる.6.眼トキソカラ症(眼イヌ回虫症)(図6)眼トキソカラ症では,炎症性肉芽腫が後極部あるいは周辺部網膜に現れる.網膜上膜を伴うことも多い.OCT像では,脈絡膜内で増殖して脈絡膜由来新生血管のような像を呈する場合7)と,網膜の神経線維層へ虫体が移動して網膜表層近くから高輝度な炎症性隆起性病変として観察される場合8)があると報告されている.4.急性網膜壊死,サイトメガロウイルス網膜炎(図4)急性網膜壊死,サイトメガロウイルス網膜炎では黄白色の網膜滲出病巣が出現し,癒合しながら拡大する.病巣が拡大する部位では細かい顆粒状の黄白色の滲出斑の集合が観察されることが多い.滲出病巣をOCTで観察すると,網膜内への高度の炎症細胞浸潤により網膜表層から深層まで全層にわたる高輝度病巣として観察される.網膜浮腫は比較的少ないことが多い.炎症の消退期では,その部位の網膜は萎縮巣となり,網膜の層構造は完全に破壊され,菲薄化している5).5.トキソプラズマ網膜炎(図5)トキソプラズマ網膜炎の急性期では,黄斑部または網膜周辺部に通常1つの黄白色滲出病巣が出現する.色素を伴った陳旧性瘢痕病巣の周囲に新しい滲出病巣が再発する場合もある.新しい滲出性病巣をOCTで観察する図3サルコイドーシスの眼底像網膜全体に多発した.様網脈絡膜滲出斑は,外顆粒層から神経線維層にわたる網膜内肉芽腫であり,肉芽腫が硝子体側に突出している様子が観察された.図4帯状疱疹ウイルスによる急性網膜壊死の眼底像網膜内への高度の炎症細胞浸潤により網膜表層から深層まで全層にわたる高輝度病巣として観察される.網膜浮腫は少ないことが多い.480あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(24)退するが,一部の症例では滲出斑は拡大し,硝子体にまで炎症が進展する.真菌性眼内炎のOCT像については,Imagoらが経時的な経過を報告している9).早期には脈絡膜側から色素上皮層をドーム状に持ち上げる像がみられる.その後,病巣はBruch膜や網膜色素上皮を破壊7.真菌性眼内炎(図7)真菌性眼内炎は中心静脈大量栄養療法(intravenoushyperalimentation:IVH)の留置カテーテルを2週間以上続けた場合に起こりやすく,後極部の網膜深層に白色の小さい滲出斑が多発する形で発症する.多くは自然消図6眼トキソカラ症の眼底像網膜表層から高輝度な隆起性病変として観察される.深部網膜はシャドーのため描出されていない.図5トキソプラズマ網膜炎の眼底像網膜実質内への高度の炎症細胞浸潤のため,網膜表層から深層まで全層にわたり高輝度に描出される.図7真菌性眼内炎の眼底像自験例では脈絡膜側から色素上皮層をドーム状に持ち上げている像とともに,網膜色素上皮を破壊して網膜内にまで炎症が波及している様子が観察された.(25)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011481常広範囲に網脈絡膜が隆起するため,OCT像が傾斜して写る.網膜皺襞部では,網膜,網膜色素上皮,脈絡膜が一体となって凸凹に波打っている像になることが多い.漿液性網膜.離を伴うことも多い.しかし,後部強膜炎の診断にはOCTよりもBモードエコー,頭部造影MRIがより有用であり,Bモードエコーで2mm以上の厚さの眼球後壁の肥厚が観察される.9.眼内悪性リンパ腫(図9)眼内悪性リンパ腫の眼底所見は,濃淡のあるびまん性硝子体混濁を主体とする硝子体型と,眼底に黄白色で斑状の網膜下浸潤病巣が孤立性あるいは複数出現して徐々して網膜下へと浸潤し,網膜全層にわたる高反射病巣が描出されるようになる.さらに時間が経過すると高反射の腫瘤が網膜浅層から硝子体中に突出する像が観察される.これらのOCT像は,過去に報告された真菌性眼内炎の病理組織像とよく一致すると報告されており9),興味深い.このように真菌は脈絡膜に感染し,網膜,硝子体へと炎症が波及していくと考えられる.8.後部強膜炎(図8)後部強膜炎は後眼部の強膜の炎症による強膜,脈絡膜の肥厚と,それに伴う網膜の隆起,網膜皺襞,漿液性網膜.離をきたすまれな疾患である.後部強膜炎では,通図8後部強膜炎の眼底像OCT像は傾斜し,網膜,網膜色素上皮,脈絡膜が一体となって凸凹に波打っている様子が観察される.図9眼内悪性リンパ腫の眼底像多発性の網膜下浸潤病巣は,色素上皮層のドーム状の隆起として観察される.482あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(26)も,経時的に撮影を行うことで病像の進展や治療効果の判定にも威力を発揮する検査であることを強調しておきたい.文献1)YamaguchiY,OtaniT,KishiS:TomographicfeaturesofserousretinaldetachmentwithmultilobulardyepoolinginacuteVogt-Koyanagi-Haradadisease.AmJOphthalmol144:260-265,20072)IshiharaK,HangaiM,KitaMetal:AcuteVogt-Koyanagi-Haradadiseaseinenhancedspectral-domainopticalcoherencetomography.Ophthalmology116:1799-1807,20093)ZhaoC,ZhangM,WenXetal:ChoroidalfoldsinacuteVogt-Koyanagi-Haradadisease.OculImmunolInflamm17:282-288,20094)WongM,JanowiczM,TesslerHHetal:High-resolutionopticalcoherencetomographyofpresumedsarcoidretinalgranulomas.Retina29:1545-1546,20095)SuzukiJ,GotoH,MinodaHetal:Analysisofretinalfindingsofacuteretinalnecrosisusingopticalcoherencetomography.OculImmunolInflamm14:165-170,20066)GallagherMJ,YilmazT,Cervantes-CastanedaRAetal:Thecharacteristicfeaturesofopticalcoherencetomographyinposterioruveitis.BrJOphthalmol91:1680-1685,20077)HigashideT,AkaoN,ShiraoEetal:Opticalcoherencetomographicandangiographicfindingsofacasewithsubretinaltoxocaragranuloma.AmJOphthalmol136:188-190,20038)SuzukiT,JokoT,AkaoNetal:FollowingthemigrationofaToxocaralarvaintheretinabyopticalcoherencetomographyandfluoresceinangiography.JpnJOphthalmol49:159-161,20059)ImagoM,ImaiH,NakanishiYetal:OpticalcoherencetomographyformonitoringtheprocessofCandidaendophthalmitis.ActaOphthalmol87:680-682,200910)FardeauC,LeeCP,Merle-BeralHetal:Retinalfluorescein,indocyaninegreenangiography,andopticcoherencetomographyinnon-Hodgkinprimaryintraocularlymphoma.AmJOphthalmol147:886-894,2009に拡大癒合する眼底型があり,両者が混在することも多い.眼内悪性リンパ腫患者の42%でOCT検査により色素上皮層のドーム状あるいは結節状の隆起が観察される10).漿液性網膜.離を伴うこともある.網膜下浸潤病巣の部位では,通常網膜内への浸潤性変化は乏しく,OCT像でも網膜の層構造は良好に保たれていることが多い.眼底病巣の病理像の報告では,悪性リンパ腫は色素上皮層とBruch膜の間から生じてくるとされていることから,このようなOCT像になるものと思われる.ただし,病期が進行すると網膜内,脈絡膜,視神経乳頭などにも浸潤することがある.おわりにこのように,眼底に所見を有するぶどう膜炎のOCT像にはその原因疾患によってある程度特徴があり,ぶどう膜炎の鑑別診断を考えるうえでの一助になりうると思われる.本稿で述べた各疾患のOCT像は,炎症所見が比較的強い症例での典型的なOCT像と考えていただきたい.したがって,炎症所見が軽度の症例では特徴的なOCT像がみられないこともありうるし,ぶどう膜炎の所見は一般に多彩で,症例ごとの違いも大きいことから,症例によっては例外的なOCT像を呈することもありうる.したがって,すべての症例でOCTが鑑別診断に役立つ訳ではない,とご承知いただきたい.冒頭で述べたように,ぶどう膜炎の診断はあくまでその症例の眼所見と臨床経過,全身所見,血液検査,ツベルクリン反応,胸部X線撮影,眼内液の検査(培養,ウイルスDNAのPCR検査,細胞診など)などの結果と,各ぶどう膜炎疾患の診断基準や特徴的な臨床像を照らし合わせて下すべきものである.最後に,OCT検査の最大の利点は,短時間で非侵襲的に行えるためにくり返し行いやすいことにある.したがってぶどう膜炎での利用法としては,鑑別診断以外に

検体検査

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY正確な診断とそれに合う適切な治療を行うことを検討している.眼感染症は失明,眼内リンパ腫は生命予後に関わるので正確,迅速,かつ網羅的な診断検査システム開発は必要不可欠であると思われる.本稿では,この新しい検査の動向を含めてぶどう膜炎などの眼炎症疾患の眼局所の検体検査を紹介する.I新しいPCR検査:マルチプレックスPCRとリアルタイムPCR近年,新しいPCR(polymerasechainreaction)検査として多項目迅速定性PCR(別名,マルチプレックスPCR)と定量PCR(リアルタイムPCR)が出現した.筆者らは,ヒトヘルペスウイルス1.8型のマルチプレックスPCRとリアルタイムPCRを組み合わせた遺伝子検査システムを確立し,その有効性についての報告を行った1,2).PCRの具体的な方法は,マルチプレックスPCRはそれぞれの抗原となる特異的プライマーを用いて,ロッシュ社のLightCyclerという機械でPCRを行う(図1).PCR後,プローブの混合液とPCR産物を混合し,グラフ(meltingcurve)解析を行い,ウイルスなどの抗原DNAの検出を行う.これらはTm値(meltingtemperature,融解温度)が重ならないように設定したプローブによってその種類を判定するのが特徴である(図2).以前の定性PCRではゲル内の増幅バンドで判定していたが,それとは異なり図2のような融解曲線グラフで判はじめに眼科の失明原因となる代表疾患にぶどう膜炎や感染性眼内炎がある.また,これらの疾患と鑑別がむずかしい眼内リンパ腫は生命予後に直結する疾患である.近年,ウイルス学や分子生物学の進歩により眼科領域でも原因不明の疾患に多岐にわたる外来性抗原(ウイルス,細菌,真菌,寄生虫,腫瘍など)が関与していることが判明してきた.これらの眼炎症性疾患の誤った診断に基づく不適切な治療は重大な視機能障害を残すが,適切な診断・治療は容易ではない.また,眼の検体を用いた診断にいくつかの問題があるのが現状である.たとえば,眼検体を用いた診断のジレンマとして常に微量な検体量であること,原因となる抗原が多種多様であること,感染性眼炎症性疾患(眼内炎,角膜炎など)は進行が急激なケースがあり診断および治療は時間との闘いであること,リンパ腫は生命予後に直結する疾患であるがその診断が容易ではないこと,などがあげられる.このように正確かつ迅速であり,また多岐にわたる外来性抗原を網羅する包括的な眼検体を用いた診断が必要であった.加えて,ぶどう膜炎や眼内炎などの眼炎症性疾患の全身検査所見は参考程度にしかならない場合があり,その診断のために眼局所の直接的な状況証拠(=原因抗原の同定,特異抗体の同定など)を得る必要があるのは事実である.筆者らの施設では,その微量な検体を用いて,これらの難治性眼炎症疾患の病因となる多様な外来抗原を網羅的にスクリーニングし診断する検査システムを開発し,(13)469*SunaoSugita:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野〔別刷請求先〕杉田直:〒113-8519東京都文京区湯島1-5-45東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野特集●ぶどう膜炎診療の新たな動向あたらしい眼科28(4):469.475,2011検体検査ExaminationofOcularSamples杉田直*470あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(14)数が高値であったことから,このPCR結果が診断だけではなく治療方針の参考になった症例である.今までは国内外での眼検体を用いたPCRは眼局所の各病原体の定性または定量PCR検査のみで,この検査のように多項目を同時にかつ迅速に眼の微量検体から行う報告はほとんどなされていない.さらに,原因不明の難治性眼炎症疾患の検体から多種類の外来性抗原感染の有無をスクリーニングができるので,感染症が除外でき,症例によってはステロイド中心の抗炎症療法を行えるようになる.II新しいPCR検査:ブロードレンジPCR近年,細菌全般を網羅するための細菌保存領域を増幅させるブロードレンジPCR(細菌16SrRNAgene)が行えるようになった(図4).真菌全般保存領域の増幅は,真菌28SリボゾームRNA領域のブロードレンジPCR(真菌28SrRNAgene)が行われる.ブロードレンジPCRは,リボゾーマルRNA(rRNA)遺伝子を標的にしたPCRで,原核生物では16SrRNA,真核生物では18S/28SrRNAといったそれぞれの種で保存された遺伝子を標的にしたものである.ほとんどの細菌が保有する遺伝子であるハウスキーピング遺伝子,16SrRNA定する.このPCRの利点は,陽性曲線グラフが大きい場合は眼局所の抗原量が多いことがわかり半定量できること,サンプル調整からPCRにかかる所要時間はわずか1時間40分程度ととても迅速であること,10項目以上の外来性抗原DNAが同時に陽性か陰性かの判定ができ,スクリーニング検査として使用できること,などがあげられる.その他の利点は,眼表面炎症性疾患(角膜炎,結膜炎など)の涙液検体は複数の外来性抗原が検出される可能性があり,このPCRは有用である.上記定性PCRスクリーニング検査で陽性であった外来抗原に関してその定量化を行うが,リアルタイムPCRを用いて解析する.PCRの機械はいろいろ販売されているが,筆者らはLightCyclerもしくはABI社7300systemで定量PCRを行っている.偽陽性を避ける目的で,プライマーとプローブ配列はマルチプレックスPCRとは異なるように設定している.定量リアルタイムPCRの最大の利点は,治療前に眼局所のDNAコピー数を把握できるために治療薬の量の決定,使用タイミングの参考になる.また,何度か検体を採取できる場合,眼局所コピー数の推移によって治療薬の用法の参考となる.定量PCRで診断された真菌性眼内炎のPCR結果を図3に示した.眼局所の真菌28SrRNAのコピーマルチプレックスPCR(LightCycler)プローブ液と混合融解曲線分析(グラフ判定)検体からDNA抽出(自動DNA抽出機)プローブ液PCR後融解曲線分析へ遠心PCR反応液LightCyclerキャピラリーPCR反応陽性は定量リアルタイムPCRへ図1マルチプレックスPCR検査法マルチプレックスPCR(multiplexPCR:多項目迅速PCR)検査は,数種類(多い場合は10種類以上が可)のウイルスなどの外来性抗原を同時に迅速に検出できる新しいPCR検査システム.眼局所検体からDNAを抽出後,accuprimeTaqを用いてそれぞれの抗原DNA特異的プライマーを混合して,マルチプレックスPCRを行う.数種類の抗原を数本のキャピラリーを用いて同時に検査する.PCR反応後,ハイブリダイゼーションプローブの混合液とPCR産物を混合し,融解曲線分析を行い,抗原DNAの同定を行う.(15)あたらしい眼科Vol.28,No.4,20114710:000:562:253:515:166:423:143:334:014:304:585:275:51Time(h:mm:ss)Temperature(℃)Time(h:mm:ss)TemperaturehistoryFluorescencehistory4045505560657075Temperature(℃)CMVTm値:61℃HSV-2Tm値:71℃(d/dT)Fluorescence(705/530)Fluorescence(640/530)(d/dT)Fluorescence(640/530)4045505560657075Temperature(℃)MeltingpeaksMeltingpeaks0.0010.0010.0010.0010.0010.0000.00000.0010.0010.0000.000-0.001-0.0010.1550.150.1450.140.13510095908580757065605550453530図2マルチプレックスPCR結果のグラフ融解曲線カーブで陽性か陰性かの判定を行う.たとえばCMV-DNAはTm値が約61℃で曲線が検出されるように設定している.HSV2-DNAのTm値は71℃で,この場合は検体内にHSV2-DNAが検出されていることがわかる.同時にHSV2以外の他のヘルペスウイルスDNA(HSV1,VZV,EBV,CMV,HHV6,HHV7,HHV8)はすべて陰性であることが判明する.Sample1.0E+041.0E+031.0E+02Negative硝子体:真菌28SrRNAgene(6.5×105copies/ml)AmplificationcurvesControlDNA1.0E+05Fluorescence(530)Cycles24681012141618202224262830323436384042444648501.61.41.210.80.60.40.20図3定量リアルタイムPCRで診断された代表症例のPCR結果定量PCRで診断された真菌性眼内炎のPCR結果のグラフ.コピー数の算出方法は,未知DNA濃度のテストサンプル(眼検体)と検量線作成のためのスタンダードサンプル(controlDNA)を同じ条件下でPCRをかけて解析し,サンプルのCt値を算出して検量線に当てはめることでそのサンプル内のDNA濃度を知ることができる.この硝子体液の真菌28SrRNAのコピー数は6.5×105copies/mlと高値であった.472あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(16)(用語解説)を行い菌の同定までを行う.このブラスト解析は多少の問題はあるが,今後一般的な細菌培養検査より迅速に菌の同定まで行えるようになることが期待されている.筆者らは,この細菌16SPCRとリアルタイム定量PCR,およびブラスト解析を組み合わせた遺伝子検査システムを確立し,細菌性眼内炎検査に応用し,その有効性についての報告を行っている3).III検体を用いた検査の流れ具体的な眼局所の検体検査の流れを図5にまとめた.対象疾患は,眼炎症疾患すべてとなる.感染性ぶどう膜炎,網膜血管炎,感染性眼内炎,眼内リンパ腫などの活動性眼内炎症を有する患者からインフォームド・コンセントを得て前房水,硝子体,場合によっては虹彩や網膜などの眼内組織を採取する.角膜炎,結膜炎などの眼表面炎症性疾患では,角膜擦過物や涙液,結膜組織などを採取する.検体量は,眼内液0.1mlあれば図5に示すほとんどの検査を行うことが可能である.検体の処理は,検体を遠心分離し,沈渣の細胞成分は核酸DNAを抽出,もしくは鏡検(スメア),検体の上清はPCR以外の検査(サイトカイン測定,特異抗体測定,培養など)に使用する.眼内リンパ腫では一部の細胞を一般的な病理検査,フローサイトメトリーを用いた細胞表面抗原解析に使用する.また,サルコイドーシスなどの非感染性ぶどう膜炎でも感染を否定する目的で検体を採取する場合がある.いずれの場合も検体量が少ないので効率的に使用する必要がある.(リボゾームの蛋白合成に関与,真菌の場合は18S/28S)はよく用いられるハウスキーピング遺伝子の一つであり,これを検出することで菌の存在が証明できる.このブロードレンジPCRを用いて,検体から細菌や真菌を迅速に検出できるようになった.また,定量PCRを組み合わせることで菌の定量化ができ,さらにこの遺伝子のシークエンス解析を行うことで,菌の同定までが可能である.たとえば細菌では,菌すべてが共通で保有する遺伝子領域(保存領域)と菌種によって異なる遺伝子領域(非保存領域:可変領域)が交互に存在し,その領域に16SrRNAがあり,その保存領域を使用してPCRを行うと理論的には細菌すべてを検出できる(図4).実際には,世の中に存在する3万種以上の細菌の約60.80%を網羅できるとされ,眼科以外の臨床の場でも非常に重要な検査になっている.このPCR陽性検体は,16SrRNA領域を増幅させて,直接シークエンスして,その結果をGenBankデータベースでブラスト解析保存領域可変領域V1V2V3V4V5V6V7V8V9V1002004006008001,0001,2001,4001,542bp保存領域を用いてPCRをかけることで細菌すべてを検出可能Senseprimer(Bac349F):5¢-AGGCAGCAGTDRGGAAT-3¢Antisenseprimer(Bac806R):5¢-GGACTACYVGGGTATCTAAT-3¢.TaqManprobe(Bac516F):5¢-FAM-TGCCAGCAGCCGCGGTAATACRDAG-TAMRA-3¢.図4ブロードレンジ定量PCRの原理,方法細菌16SrRNA領域の特異的なプライマーとTaqManプローブを設計し,定量PCR検査を構築した.細菌の配列には保存領域(非可変領域)と可変領域が交互に存在し,保存領域をPCRで増幅させる.■用語解説■ブラスト解析:細菌16S定量PCRでの陽性検体は,菌の同定目的でブラスト解析(BLAST:basiclocalalignmentsearchtool)を行っている.細菌16SrRNA遺伝子のPCRによる増幅は,25Fプライマーを用いて16SrDNAの前半約500bpを解析する.その増幅したPCR産物をGenBankデータベースでダイレクトシークエンスする.シークエンシングにはABIアナライザーを用いて配列を解析し,その後GenBankBLASTで一致性を検索する.100%一致(あるいは98%以上)する菌を同定菌としている.この検査を用いれば一般的な細菌培養検査より早期に菌の同定まで行えるようになる.(17)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011473関連性が高いと思われるカンジダ,アスペルギルス,フザリウムのそれぞれの定量PCRも行う.3.ウイルス性ぶどう膜炎の診断ウイルスの診断は,ヘルペスウイルス属1型から8型〔HSV(herpessimplexvirus)-1,HSV-2,VZV(varicella-zostervirus),EBV(Epstein-Barrvirus),CMV(cytomegalovirus),HHV(humanherpesvirus)6,HHV7,HHV8〕までとレトロウイルスでぶどう膜炎の原因のhumanT-cellleukemiavirus1:HTLV-I(proviralDNA)の検索を行う(図5).オプション検査として,アデノウイルス,エンテロウイルス,コクサッキーウイルス,風疹ウイルス,また眼科関連性は不明のBKウイルス,JCウイルス,パルボウイルスB19,イ1.細菌性眼内炎の診断細菌性眼内炎の診断には,一般的な培養,グラム染色,ギムザ染色に加えて,PCRを行う.PCRは,細菌保存領域を増幅させるブロードレンジPCR(細菌16SリボゾームRNA領域)にて行う(図5).このPCR陽性検体は,16SrRNA領域を増幅させて,直接シークエンスして菌の同定までを行う.眼科の遅発性眼内炎の代表細菌Propionibacteriumacnes(アクネ菌)は培養検査では嫌気性菌のため同定されにくい,あるいは培養結果に時間を要することから定量PCR検査が有用である.2.真菌性眼内炎の診断真菌が疑われる場合,真菌培養,スメアおよびブロードレンジPCR(真菌全般保存領域の増幅:真菌28SリボゾームRNA領域)が行われる(図5).その他,眼科眼内液,網膜組織など:ぶどう膜炎/眼内炎/リンパ腫/網膜血管炎検体採取涙液,角膜組織など:角膜炎/結膜炎DNA抽出マルチプレックスPCRブロードレンジ定量PCRリアルタイム定量PCRヘルペスウイルス属(HHV1~8)結核,梅毒,トキソカラトキソプラズマ,バルトネラクラミジアなど細菌全般:細菌16SrRNA領域真菌全般:真菌28SrRNA領域カンジダ:18SrRNA領域アスペルギルス:18SrRNA領域,アクネ菌など眼の検体(微量)BLAST解析(菌種同定)定性PCRBリンパ腫(Tリンパ腫)PCR以外の検査Bリンパ腫─サイトカイン測定Flowcytometry病理検査トキソカラ─ToxocaraCHECK感染性眼内炎─培養,スメアその他リアルタイムPCRHTLV-I風疹ウイルスアデノウイルスエンテロウイルスコクサッキーウイルスインフルエンザウイルスBK/JCウイルスパルボウイルスクリプトコッカスアカントアメーバフザリウムなど図5眼炎症性疾患に対する網羅的PCR診断システムの検査の流れ眼炎症性疾患から検体を採取して,細胞成分は核酸DNAを抽出,上清はPCR以外の検査(サイトカイン測定,特異抗体測定,培養など)に使用する.PCRは2つのステップでスクリーニングを行う.①ウイルスおよびぶどう膜炎マルチプレックスおよびリアルタイムPCR,また②細菌全般(細菌16S)および真菌全般定量PCR(真菌18S/28S)をブロードレンジ定量PCRで行う.その他,必要な場合のみ各種ウイルスなどの定量PCRを施行する.眼内リンパ腫では一部の細胞を一般的な病理検査,フローサイトメトリーを用いた細胞表面抗原解析に使用し,上清はサイトカイン測定を行う.PCRスクリーニング検査は迅速(24時間以内)に行う.その後の別の検査も48時間以内を目標とする.474あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(18)れらの外来性抗原の定性および定量PCRを用いてゲノムの同定を行うが,全身検査も有効(たとえば,結核ではツベルクリン皮内テスト)である.アカントアメーバ角膜炎の症例検体では,角膜擦過物の鏡検が有用で,加えて定量PCRを補助検査として用いる.6.眼内腫瘍の診断仮面症候群を呈する眼内リンパ腫と白血病眼内浸潤の診断は重要である.一般的な病理診断以外に,眼内液を利用したPCRでIg(免疫グロブリン)H再構築(B細胞系)およびTCR(T細胞受容体)再構築(T細胞系)を行う(図5).PCRで陽性の検体はサザンブロットで二重解析を行う.同時に検体の上清を使用してELISA(enzyme-linkedimmunosorbentassay)によるサイトカイン測定を行うが,このIL-10,IL-6の値も補助診断として有用である.IVPCRが診断に有用であった代表症例〔症例1〕53歳,男性.芝刈り後の眼内炎疑いで紹介,受診.右眼手動弁,前房蓄膿の激しい眼内炎症がみられた(図6).硝子体を用いた検査では,培養でエンテロコッカス属が検出され,塗抹でグラム陽性球菌が同定された.硝子体の細菌16SPCRで,細菌DNAが高コンフルエンザウイルスに関してもPCRを用いて検討する場合がある.ヘルペスウイルス属はいずれもマルチプレックスPCRでスクリーニングして,陽性ウイルスのみリアルタイムPCRを用いてゲノムの眼局所の定量を行う.ウイルス感染の場合はPCR検査が最も有効で,疾患によってはQ値測定(眼内特異抗体測定)を行う.4.眼内寄生虫の診断眼内寄生虫の診断には,代表的なトキソプラズマとトキソカラの検査を行う.眼トキソプラズマ症は定性・定量PCRを用いて眼内ゲノムの同定を,眼トキソカラ症(イヌ回虫,ネコ回虫)はトキソカラチェック(ToxocaraCHECK,簡易抗体定性検査)を用いて眼内特異抗体の同定およびPCRも行う(図5).トキソプラズマの場合PCRが有効であるが,トキソカラは筆者らの経験ではPCRでゲノムを同定するよりも眼内特異抗体の証明が有用である.5.その他ぶどう膜炎.角膜炎.結膜炎の原因となる疾患の診断ぶどう膜炎の原因となる病原体で,結核,梅毒トレポネーマ,バルトネラ菌(ネコひっかき病),角膜炎に梅毒トレポネーマ,結膜炎にクラミジアがある(図5).こ前房蓄膿硝子体を用いた検査培養:Enterococcusfaecalis塗抹:グラム陽性球菌最終診断:外傷性細菌性眼内炎ControlDNA1.0E+051.0E+041.0E+031.0E+02SampleNegative細菌16SPCR:細菌16SrRNAgene1.4×106copies/mlBLAST解析:EnterococcusfaecalisAmplificationcurvesCyclesFluorescence(465-510)51015202530355.6235.1234.6234.1233.6233.1232.6232.1231.6231.1230.6230.1234045図6外傷性細菌性眼内炎の症例硝子体検体の細菌16SPCRで,細菌DNAが1.4×106copies/mlと高コピー数検出されていた.あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011475ピー数を示していた.手術時の所見や画像上では眼内異物が発見できなかったが,最終診断は外傷性細菌性眼内炎とした.その後のブラスト解析にてEnterococcusfaecalisが同定された.〔症例2〕33歳,男性.ヘルペス性角膜炎/ぶどう膜炎の疑いで紹介,受診.右眼光覚弁,前房蓄膿,激しい毛様充血,角膜浸潤のみられる眼内炎症がみられた(図7).角膜擦過物の検査では,直接検鏡にてパーカーインクKOH法でアカントアメーバのシストが同定された.同時期の角膜擦過物,涙液の定量PCRで,アカントアメーバDNAが陽性で,補助診断に有用であった.その後,数回の角膜擦過物の検査でDNA陽性が続いたが,治療に反応し炎症が沈静化したころPCRで陰性となった.おわりにこの新しい検体検査システムの期待される効果として,眼炎症の原因となる外来性抗原を迅速に短時間で同定することができ,早期治療へとつながる.また,眼局所の遺伝子の定量化を行い治療薬の決定や量の参考となる.そのうえ原因不明の眼炎症性疾患から新しい外来性抗原の同定される可能性があり,筆者らもHHV6関連汎ぶどう膜炎の報告を行った4).さらには原因特定以外に感染性疾患や腫瘍性疾患を除外することができることから,臨床の場で重要な検査となることが期待される.文献1)杉田直,岩永洋一,川口龍史ほか:急性網膜壊死患者眼内液の多項目迅速ウイルスPCRおよびリアルタイムPCR法によるヘルペスウイルス遺伝子同定.日眼会誌112:30-38,20082)SugitaS,ShimizuN,WatanabeKetal:UseofmultiplexPCRandreal-timePCRtodetecthumanherpesvirusgenomeinocularfluidsofpatientswithuveitis.BrJOphthalmol92:928-932,20083)SugitaS,ShimizuN,WatanabeKetal:Diagnosisofbacterialendophthalmitisbybroad-rangequantitativepolymerasechainreaction.BrJOphthalmol95:345-349,20114)SugitaS,ShimizuN,KawaguchiTetal:Identificationofhumanherpesvirus6inapatientwithsevereunilateralpanuveitis.ArchOphthalmol125:1426-1427,2007(19)輪状浸潤R)毛様充血前房蓄膿ControlDNA1.0E+051.0E+04Sample1.0E+031.0E+02Negative最終診断:アカントアメーバ角膜炎角膜組織:アカントアメーバDNA6.7×102copies/μg・DNA涙液:アカントアメーバDNA3.1×103copies/mlAmplificationcurvesFluorescence(530)151015202530354.443.63.22.82.421.61.20.80.40404550Cycles図7アカントアメーバ角膜炎の症例前房蓄膿がみられるアカントアメーバ角膜炎のまれな症例.当初近医ではヘルペス性ぶどう膜炎の疑いで治療を受けていた.角膜擦過物,涙液の定量PCRで,アカントアメーバDNAがそれぞれ6.7×102copies/μg・DNA,3.1×103copies/mlと陽性を示した.また,その他の外来性抗原(ヘルペスウイルスDNAなど)はいずれも陰性であった.

疫学

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY海外における疫学報告についてまとめてみた.Iわが国におけるぶどう膜炎の特徴1.最新の疫学調査の結果(大学病院)2002年に日本でぶどう膜炎を診察しているおもな大学病院41施設の臨床統計から算出したぶどう膜炎疾患別患者数とその割合を表1に示す1).最も頻度の高い疾患はサルコイドーシス(13.3%),ついで,Vogt-小柳-原田病(6.7%),Behcet病(6.2%),細菌性内眼炎(3.8%),ヘルペス性虹彩炎(3.6%)と続いている.分類不能例は38.9%であった.分類可能であった症例の炎症部位別の解剖学的分類を図1に示す.全症例の16%が感染性ぶどう膜炎であった.地域差の存在する例として,HTLV-I関連ぶどう膜炎とトキソプラズマ症があげられた.全体でのHTLV-Iぶどう膜炎の頻度は1.5%であったのに対し,九州地方5施設での頻度は5.1%と3.4倍であった.また,全体でのトキソプラズマ症の頻度は1.1%であったのに対し,九州地方5施設での頻度は2.7%と約2.5倍であった.その他の疾患では地域差はみられなかった.2.大学病院と市中病院の比較2000.2002年に同じ地域の大学病院と市中病院に受診したぶどう膜炎症例の患者背景および疾患背景を比較した報告2)によると,大学病院受診患者の年齢(55.1±17.4歳)は,市中病院受診患者の年齢(47.0±18.2歳)はじめに疫学調査というのは疾患研究の基本であり,地域間や年代間における違いを検討することで疾患の原因解明の糸口になることが少なからずある.また,その地域における疾患頻度を理解しておくことは診断上有益である.特に,ぶどう膜炎ではその原因が多彩であるため,疫学的特徴を十分理解しておく必要がある.ぶどう膜炎の疫学には,年齢,性別,人種,免疫学的背景などの内因性因子と,気候,地域,公衆衛生,食習慣,周囲の微生物などの外因性因子が関与している.国際的には,欧米諸国とアジア諸国では疾患構成がまったく異なっているとともに,衛生状態の違いはそのまま感染性ぶどう膜炎の頻度と関連している.国内でみても,たとえばヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-I)関連ぶどう膜炎は西南日本(特に九州南部)に多いことが知られている.Behcet病などは,以前は北日本に多いとされていたが,最近の報告をみるとそうでもないようである.一方で,新しい疾患概念,診断基準の確立,ぶどう膜炎の原因検索の精度の向上というようなことが原因となって,年代別疾患構成に変化が生じてくることがある.たとえば,polymerasechainreaction(PCR)の臨床応用により多くのウイルス性疾患が近年同定されるようになった.また,サルコイドーシスや原田病の国際診断基準の確立により,疾患頻度に変化がみられる可能性がある.本稿では,わが国における疫学動向およびその変遷,(7)463*ChiharuIwahashi:大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座**NobuyukiOguro:大阪厚生年金病院眼科〔別刷請求先〕岩橋千春:〒565-0871吹田市山田丘2-2大阪大学大学院医学系研究科眼科学講座特集●ぶどう膜炎診療の新たな動向あたらしい眼科28(4):463.467,2011疫学EpidemiologyofUveitis岩橋千春*大黒伸行**464あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(8)Behcet病とVogt-小柳-原田病が大学病院受診患者で有意に多いことに関係していると思われる(表2).この報告は,大学病院主体で行われているぶどう膜炎の疫学調査は,必ずしもぶどう膜炎患者の全体像が捉えられているわけではないことを示唆しており,市中病院や診療所を受診する患者の動向とは必ずしも一致しないことに注意を要する.3.年代別変遷(三大ぶどう膜炎を中心に)2002年のわが国のぶどう膜炎の疫学2)の報告における三大ぶどう膜炎の頻度は,サルコイドーシス13.3%,Vogt-小柳-原田病6.7%,Behcet病6.2%であり,サルコイドーシスおよびVogt-小柳-原田病は不変であるが,Behcet病は減少傾向にある.さらに古い報告には日本全体の疫学をまとめたものは少ないが,各施設,各地域と比較して有意に高かった.男性/女性比は大学病院受診患者64/119,市中病院受診患者233/317と有意差を認めなかった.患者背景の相違は,糖尿病性虹彩炎とヘルペス性虹彩炎が市中病院受診患者で有意に多く,図1炎症部位別分類前眼部ぶどう膜炎21%後眼部ぶどう膜炎汎ぶどう膜炎11%68%表12002年の臨床統計サルコイドーシス407例(13.3%)原田病205例(6.7%)Behcet病189例(6.2%)細菌性内眼炎115例(3.8%)ヘルペス性虹彩炎110例(3.6%)Posner-Schlossman症候群57例(1.9%)糖尿病虹彩毛様体炎48例(1.6%)HLA-B27関連ぶどう膜炎46例(1.5%)急性網膜壊死41例(1.3%)トキソプラズマ症36例(1.1%)トキソカラ症35例(1.1%)HTLV-I関連ぶどう膜炎35例(1.1%)真菌性内眼炎32例(1.0%)悪性リンパ腫32例(1.0%)膠原病に関連したぶどう膜炎31例(1.0%)サイトメガロウイルス網膜炎24例(0.8%)結核性ぶどう膜炎20例(0.7%)炎症性腸疾患に関連したぶどう膜炎18例(0.6%)若年性関節リウマチ関連以外の若年ぶどう膜炎17例(0.5%)Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎15例(0.5%)若年性関節リウマチ関連ぶどう膜炎15例(0.5%)その他341例(11.1%)分類不能1,191例(38.9%)計3,060例(100%)(文献1より)表2市中病院と大学病院の比較市中病院大学病院p値有病率年齢(歳)男性/女性183/7,210(2.54%)55.1±17.464/119550/25,608(2.15%)47.0±18.2233/317NS<0.001NS前部ぶどう膜炎中間部ぶどう膜炎後部ぶどう膜炎汎ぶどう膜炎119(65.0%)5(2.7%)14(7.7%)45(24.6%)254(46.2%)35(6.4%)104(18.9%)157(28.5%)<0.0001NS0.0005NS診断確定例118(64.5%)310(64.5%)頻度別1位頻度別2位頻度別3位頻度別4位頻度別5位糖尿病性虹彩炎(n=30)ヘルペス性虹彩炎(n=13)サルコイドーシス(n=11)急性前部ぶどう膜炎(n=10)強膜炎に伴うぶどう膜炎(n=7)サルコイドーシス(n=55)Vogt-小柳-原田病(n=40)Behcet病(n=38)急性前部ぶどう膜炎(n=29)HLA-B27陽性急性前部ぶどう膜炎(n=17)(9)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011465う膜炎の年間発症率は10万人当たり4人,有病率は10万人当たり28人であると報告されている.子供のぶどう膜炎は診断,治療が困難で,慢性化しやすく合併症の割合が多いため,1/3程度で重度の視覚障害に陥いる.大人の場合と同様に,前部ぶどう膜炎が最も多いが,子供の場合には背景疾患の30~40%が若年性関節リウマチである.トキソプラズマ網脈絡膜炎による後部ぶどう膜炎もつぎに多くみられるが,これは成人と同様である.また,特定の年齢層に多くみられるぶどう膜炎として,若年性関節リウマチに関連する慢性前部ぶどう膜炎は子供に多く,ヒト白血球抗原(HLA)-B27関連急性前部ぶどう膜炎は35歳前後の若者に多く,散弾状網脈絡膜炎は50歳前後に多く,そして悪性リンパ腫などの仮面症候群は高齢者層に多い.性差に関しては,おおむね男女差はないが,例外的にHLA-B27関連急性前部ぶどう膜炎は男性は女性の3倍を占め,若年性関節リウマチに関連する慢性前部ぶどう膜炎は女性が男性の5倍を占める.炎症部位別に分けて,各地域からの報告をまとめたものを表3に示す.1.前部ぶどう膜炎(表4)前部ぶどう膜炎は西欧諸国で多くみられ,専門施設の50~60%,開業施設の90%を占める.HLA-B27抗原の保有率が急性前部ぶどう膜炎の危険因子であり,白人全体では8~10%であるのに対し,白人の急性前部ぶどう膜炎の患者では55%にみられる.また,アジアでは西欧諸国に比べてHLA-B27抗原の保有率が低く,このことが前部ぶどう膜炎がやや少ないことと関連しているものと思われる.からの報告では同様の傾向である.たとえば,1998~2000年は1981~1983年の統計と比べ,Behcet病が有意に減り(13.7%→7.5%),サルコイドーシスが有意に増えた(11.8%→19.0%)と東京大学から報告されている3).Behcet病に関しては,1990年代の患者層は1980年代の患者層より軽症になっているという報告もある4).一方で,昭和40年代まではこれら三大ぶどう膜炎と同様に頻度が多かったトキソプラズマ網脈絡膜炎(これら4つを四大ぶどう膜炎とよんでいた時代もある)は,衛生状態の改善とともに減少してきている.II世界におけるぶどう膜炎疫学報告これまでに世界各国からの統計をまとめた報告5)によると,ぶどう膜炎の年間新規発症患者数は10万人当たり17~52人,有病率は10万人当たり38~714人である.西欧諸国では,ぶどう膜炎患者が視覚障害の約10%を占め,ぶどう膜炎患者の35%が重度の視覚障害あるいは社会的失明となっている.年齢は20~59歳に多く,16歳以下の子供は5~10%と少ない.フィンランドでの調査によると,子供のぶど表3世界のぶどう膜炎の統計(炎症部位別)前部(%)中間部(%)後部(%)汎(%)北アメリカ(n=5)22~6111~1515~489~38南アメリカ(n=1)3491937ヨーロッパ(n=9)52~921~126~261~20アジア(n=6)29~501~172~3215~69アフリカ(n=2)13~4102~2828~63オーストラリア(n=1)762184nは報告論文数.(文献5より)表4前眼部ぶどう膜炎の統計HLA-B27血清反応陰性脊椎関節炎(%)Fuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎(%)ヘルペス虹彩炎(%)サルコイドーシス(%)若年性関節リウマチ陽性(%)陰性(%)(%)北アメリカ(n=5)6~1931~4910~222~73~181~62~11南アメリカ(n=1)4313811─2ヨーロッパ(n=9)7~2928~424~421~171~220~62~5アジア(n=5)2~1346~743~93~61~114~111~3アフリカ(n=1)88─────オーストラリア(n=1)17521376─1nは報告論文数.(文献5より)466あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(10)は免疫抑制薬使用中の患者にみられるまれな疾患であったが,後天性免疫不全症候群(AIDS)患者の増加に伴い,最近は増加傾向にある.世界で推定4,000万人がヒト免疫不全ウイルス(HIV)陽性であり,13,000人が毎日感染しているとされている.サイトメガロウイルス網膜炎はAIDS患者の20~25%に発症するとされており,ぶどう膜炎の原因として増加が予想される.最近,HIV陽性患者に対するHAART(highlyactiveantiviraltherapy)の導入により,北アメリカや西欧諸国ではサイトメガロウイルス(CMV)網膜炎の発症頻度が減っているが,一方で免疫回復ぶどう膜炎(immunerecoveryuveitis)が増加している.眼ヒストプラズマ症はほとんどがアメリカのオハイオ州ミシシッピ川流域で発生しており,この地域でヒストプラズマ皮膚テストの陽性反応者が多いことを反映している.散弾状網脈絡膜炎は後部ぶどう膜炎のまれな原因であり,北ヨーロッパからの報告が多い.HLA-A29抗原の保有者では非保有者に対して50倍から224倍の発症率であるとされている.4.汎ぶどう膜炎(表6)汎ぶどう膜炎は西欧諸国に比べて,南アメリカ,アフ2.中間部ぶどう膜炎中間部ぶどう膜炎は,世界のどの地域においても最も少なく,ほとんどが特発性である.また,HTLV-I関連ぶどう膜は中間部ぶどう膜炎の形をとることが多い.HTLV-Iに感染したT細胞がHTLV-Iぶどう膜炎の患者の前房内に検出され,ウイルスが病原となって炎症を惹起しているとされている.HTLV-Iは日本の南西部やカリブ海,中央アフリカ,南アメリカにみられる.それを反映して,HTLV-I関連ぶどう膜炎は日本で最も多く報告され,フランス領西インド諸島やブラジルからの報告もみられる.3.後部ぶどう膜炎(表5)後部ぶどう膜炎は多くの国で2番目に多いぶどう膜炎であり,おおよそ15~30%を占める.原因が明らかなもののなかでは,トキソプラズマ網脈絡膜炎が最も多い.南アメリカで特に多く,アルゼンチンではすべてのぶどう膜炎のなかでトキソプラズマ網脈絡膜炎が最も多い.トキソプラズマの.胞を含んだ非加熱の豚肉の摂取が原因と考えられる.トキソプラズマ原虫の宿主であるネコが少ないアジアではトキソプラズマ網脈絡膜炎は比較的少ない.また,サイトメガロウイルス網膜炎は以前表5後眼部ぶどう膜炎の統計トキソプラズマ症(%)特発性(%)サルコイドーシス(%)Behcet病(%)北アメリカ(n=5)8~429~320~80~3南アメリカ(n=1)60300ヨーロッパ(n=9)30~6019~331~110~4アジア(n=6)9~2841~7800~3アフリカ(n=1)*4336──オーストラリア(n=1)22271316*オンコセルカ症を除く.nは報告論文数.(文献5より)表6汎ぶどう膜炎の統計特発性(%)サルコイドーシス(%)Behcet病(%)原田病(%)トキソプラズマ症(%)北アメリカ(n=4)22~455~214~122~250南アメリカ(n=1)3353823ヨーロッパ(n=9)30~780~203~180~130~15アジア(n=6)9~510~222~3711~330~2アフリカ(n=1)*36───43オーストラリア(n=1)4401100*オンコセルカ症を除く.nは報告論文数.(文献5より)(11)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011467関連が日本,ギリシア,イタリアの患者で報告されている.文献1)GotoH,MochizukiM,YamakiKetal:EpidemiologicalsurveyofintraocularinflammationinJapan.JpnJOphthalmol51:41-44,20072)SakaiJI,UsuiY,SakaiMetal:Clinicalstatisticsofendogenousuveitis:comparisonbetweengeneraleyeclinicanduniversityhospital.IntOphthalmolClin30:297-301,20103)AkiyamaK,NumagaJ,YoshidaAetal:StatisticalanalysisofendogenousuveitisatTokyoUniversityHospital(1998-2000).JpnJOphthalmol50:62-80,20064)YoshidaA,KawashimaH,MotoyamaYetal:ComparisonofpatientswithBehcet’sdiseaseinthe1980sand1990s.Ophthalmology111:810-815,20045)WakefieldD,ChangJH:Epidemiologyofuveitis.IntOphthalmolClin45:1-13,2005リカ,アジアで多い(表3).オンコセルカ症は回旋糸状虫という寄生虫によりひき起こされる疾患でブユによって媒介される.赤道直下のアフリカや中南米でみられ,シェラレオネでは,ぶどう膜炎のなかでオンコセルカ症が最も多く,汎ぶどう膜炎の形をとる.Vogt-小柳-原田病はアルゼンチン,日本,韓国,インドにおいて,原因が明らかな汎ぶどう膜炎のなかでは最も多い疾患であり,11~38%を占める.Vogt-小柳-原田病の原因は明らかではないが,アジア人,ヒスパニック,アメリカ先住民,アジアンインディアンなどの有色人種に多く,白人にはほとんどみられない.Behcet病は,日本,韓国では汎ぶどう膜炎のなかで頻度の高い疾患であるのに対し,地中海を除いた西欧諸国ではまれな疾患である.Behcet病患者の地理的分布は,北緯30.45度の地中海,アジア,ヨーロッパであり,シルクロードと一致している.病因は明らかではないが,HLA-B51との強い

命名法:診断基準の国際化

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYだけ多くの患者を同定し,適切に治療することが目的になる.そのため,診断基準を多少緩くする,すなわち,検出感度(sensitivity)を高くする必要がある.無論,特異度,検出感度とも高いほうが望ましいが,これは一つの診断基準ではなかなか得られない.さまざまな診断基準が存在し,あるいはこれから発表されるが,どのような目的で作成されたかをよく理解したうえで基準を利用する必要がある.II国際的な診断基準実際のところ,国際学会や国際グループなどにより広く認められた診断基準はそれほど多くない.Behcet病1),小児特発性関節炎(juvenileidiopathicarthritis,以前はjuvenilerheumatoidarthritisとよばれていた)2)あるいは強直性脊髄炎(ankylosingspondylitis)3)において,全身症状・所見には基準が存在するものの,眼科症状・所見については具体的な基準がない.眼内炎症疾患領域では,急性網膜壊死(acuteretinalnecrosis)4),進行性網膜外層壊死(progressiveouterretinalnecrosis)5),原田病(Vogt-Koyanagi-Haradadisease)6),間質性腎炎ぶどう膜炎症候群(tubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome)7),散弾脈絡網膜症(birdshotchorioretinopathy)8),サルコイドーシス9)においては国際基準が存在する.原田病の基準では,疾患検出率,偽陽性率および偽陰性率についての検討(validation)がなされている10).また,サルコイドーシスの診断基準についてはじめに疾患に関する基礎研究の成果により,わが国におけるぶどう膜炎の治療はこの10年間において著しく進歩した.特に目立つのは,生物学的療法の使用により従来難治であったBehcet病の予後が改善できるようになったことであろう.また無作為臨床試験(randomizedclinicaltrial:RCT)がグローバルに運行される動きが顕著になり,結果的にわが国での新薬認可プロセスが促進され,新しい治療薬が現場に登場するスピードもいくらか速くなった.これらの傾向は,学者,政府機関の薬剤担当者など関係するセクター間での素早く正確なコミュニケーションが欠かせなくなったことを意味する.その観点から,まず疾患の診断基準を世界的に統一する必要性が高まっている.本稿では,ぶどう膜炎分野における国際的な診断基準作成の動きについて述べたい.I診断基準の目的についてまず初めに,「診断基準」という用語自体にも注意が必要である.何のために診断基準を利用するのかということが重要になる.たとえば,新薬開発の臨床試験に利用する場合は,できるだけ「真」の疾患群を研究したいわけであるから,注目の疾患をもたない患者(誤診されている患者)のエントリーを少なくするために診断基準を厳しくする必要がある.すなわち,診断基準の特異度(specificity)を高めたいということになる.一方,研修医の教育,あるいは臨床現場で利用する場合は,できる(3)459*AnnabelleAyameOkada:杏林大学医学部眼科学教室〔別刷請求先〕岡田アナベルあやめ:〒181-8611三鷹市新川6-20-2杏林大学医学部眼科学教室特集●ぶどう膜炎診療の新たな動向あたらしい眼科28(4):459.461,2011命名法:診断基準の国際化InternationalizationofDiagnosticCriteria岡田アナベルあやめ*460あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(4)中のシステムである.米国の医療制度や世界保健機関(WHO)の疫学調査などで採用されたInternationalStatisticalClassificationofDiseasesandRelatedHealthProblems(WHOによる最新版はICD-10),産業分野の標準を国際レベルで定義するInternationalOrganizationforStandardization(ISO)など,すでに存在する用語システムとの統合も指向されている.将来的に広くSNOMEDが採用されるようになると,診療録から得られるデータが標準化され,世界のどの医療機関や医療関係者でも共通の理解が可能になると期待される.さらには医療データを読み込んだコンピュータが,人工知能(artificialintelligence:AI)を用いて意思決定プロセス(decisionmakingprocess)に活用する可能性も生まれる.近代の医学,医療は,進歩のスピードが速く,加えて患者情報は急激な増加傾向を示しており,それがミスの原因にもつながる.最善,最適な治療を行うためには,AIのようなテクノロジーの助けが有益といえる.SNOMEDは英語をはじめとして,スペイン語とドイツ語のバージョンも開発されており,言語ごとに用語の統一を図っている.ぶどう膜炎分野では,早い時期からSNOMEDの開発に参加すべきとの共通認識がもたれていた.その背景の一つには,眼科医が利用するPubMed(医学文献検索サービス)などで,そもそも検索可能な眼科用語がきわめて限定的であり,にもかかわらず適切と言えない用語が数多く含まれるという事情もあった.SUNWorkingGroupはぶどう膜炎領域で用語,診断などの基準における国際的コンセンサスをまとめつつあり,SNOMEDに対して,その成果の採用を求めるとしている.おわりに本稿では,ぶどう膜炎領域における国際的な診断基準づくりの動向について紹介した.診断基準の目的によって,基準が広くも,また狭くもなることを理解する必要がある.すなわち,作成の背景を考慮したうえで診断基準を利用するべきということである.ぶどう膜炎疾患の国際診断基準はすでに多数存在している.今後はSUNWorkingGroupからSNOMEDでの使用を目的とした新たな診断基準の発表が期待される.は,国際的なvalidationstudyが進行中である.しかし,これら以外に診断基準の評価(正確性)が研究されているものはない.IIISUNWorkingGroupの診断基準他にも紹介されているが,StandardizationofUveitisNomenclature(SUN)WorkingGroupという国際組織がある11).世界のぶどう膜炎専門家を代表する約50名の研究グループであり,ぶどう膜炎におけるさまざまな交流(学術論文や臨床試験による情報交換)を国際的に標準化することを主な目的としている.日本からも3名が参加しているが,2004年に行われた第1回国際ワークショップの成果に基づき,2005年に臨床データを報告するための所見グレーディングや経過を記述する用語の定義を発表した12).現在SUNWorkingGroupが力を入れているのは,ぶどう膜炎において新たな診断基準を作成するプロジェクトである.原田病やBehcet病のようにすでに国際診断基準が存在しているものも含めて,約25の感染性あるいは非感染性のぶどう膜炎疾患を定義する予定である.すでに国際診断基準が存在している疾患も対象になっていることに疑問を呈する向きもあろう.理由は,SUNによる診断基準には,最近開発中のSNOMED-CTという医療情報システムに採用されるという特別な目標があるためである.IVSNOMED.CTについて電子カルテが普及し,1人の患者の臨床データを複数施設の医師,薬剤師,あるいは看護師が利用できるような情報システムも開発されつつある.保険適用や保険請求もこの「電子カルテ」システムに基づくべく検討が進んでいる国もある.このようなデジタル化された情報を正しく管理するために,2002年にSystemizedNomenclatureofMedicine-ClinicalTerms(SNOMED-CT,あるいは短くSNOMEDということが多い)という国際システムが設立された13).SNOMEDは,疾患や所見,処置,あるいは微生物,薬剤など,医学において利用されるすべての記述語を定義し,コンピュータが処理可能にすることを目的に開発(5)あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011461mol131:647-652,20017)MandevilleJTH,LevinsonRD,HollandGN:Thetubulointerstitialnephritisanduveitissyndrome.SurvOphthalmol46:195-208,20018)LevinsonRD,BrezinA,RothovaAetal:Researchcriteriaforthediagnosisofbirdshotchorioretinopathy:resultsofaninternationalconference.AmJOphthalmol141:185-187,20069)HerbortCP,RaoNA,MochizukiM,membersoftheScientificCommitteeoftheFirstInternationalWorkshoponOcularSarcoidosis(IWOS):Internationalcriteriaforthediagnosisofocularsarcoidosis:resultsofthefirstinternationalworkshoponocularsarcoidosis(IWOS).OculImmunolInflamm17:160-169,200910)RaoNA,GuptaA,DustinLetal:FrequencyofdistinguishingclinicalfeaturesinVogt-Koyanagi-Haradadisease.Ophthalmology117:591-599,201011)岡田アナベルあやめ(編集):眼科プラクティス16,眼内炎症診療のこれから.文光堂,200712)TheStandardizationofUveitisNomenclature(SUN)WorkingGroup:Standardizationofuveitisnomenclatureforreportingclinicaldata.Resultsofthefirstinternationalworkshop.AmJOphthalmol140:509-516,200513)InternationalHealthTerminologyStandardsDevelopmentOrganization:AboutSNOMEDCT.http://www.ihtsdo.org/snomed-ct/.accessedonMarch1,2011文献1)InternationalStudyGroupforBehcet’sDisease:CriteriafordiagnosisofBehcet’sdisease.Lancet335:1078-1080,19902)PettyRE,SouthwoodTR,MannersPetal:InternationalLeagueofAssociationsforRheumatologyclassificationofjuvenileidiopathicarthritis:secondrevision,Edmonton,2001.JRheumatol31:390-392,20043)GoieTheHS,StevenMM,vanderLindenSMetal:Evaluationofdiagnosticcriteriaforankylosingspondylitis:acomparisonoftheRome,NewYorkandmodifiedNewYorkcriteriainpatientswithapositiveclinicalhistoryscreeningtestfoankylosingspondylitis.BrJRheumatol24:242-249,19854)HollandGN,theExecutiveCommitteeoftheAmericanUveitisSociety:Standarddiagnosticcriteriafortheacuteretinalnecrosissyndrome.AmJOphthalmol117:663-666,19945)EngstromREJr,HollandGN,MargolisTPetal:Theprogressiveouterretinalnecrosissyndrome.AvariantofnecrotizingherpeticretinopathyinpatientswithAIDS.Ophthalmology101:1488-1502,19946)ReadRW,HollandGN,RaoNAetal:ReviseddiagnosticcriteriaforVogt-Koyanagi-Haradadisease:reportofaninternationalcommitteeonnomenclature.AmJOphthal

序説:ぶどう膜炎診療の新たな動向

2011年4月30日 土曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY底病変を正確に新たにその深さで捉えられることが可能である.PCRは,従来の診察で感染性ぶどう膜炎,特にウイルス性ぶどう膜炎が疑われたときに行われる確定診断のための検査であり,複数の原因検索を一度に行うことは不可能であり,微量な眼内液で複数回解析することも困難であった.MultiplexPCRの開発により,従来のPCRと同量の眼内液を用いて複数の標的DNAを一度に解析することが可能となり,今後はウイルス性ぶどう膜炎,細菌性ぶどう膜炎のスクリーニングとして新たに使用されることが期待される.これらの検査の導入,普及により,診断率の向上,新たなぶどう膜炎疾患の提唱,さらにはこれまでの疾患概念そのものの再検討が考えられる.ぶどう膜炎の原因となる疾患に関しては,そのぶどう膜炎の特徴が診断基準となっているものもあればないものもあり,できればVogt-小柳-原田症候群のように国際的診断基準の制定が望ましい.また,その命名法に関しても国際的議論がなされ,再確認される必要がある.治療に関しては,細胞,分子を標的とした抗体による生物製剤治療があげられ,21世紀の医療として注目されている.2007年から抗TNF(腫瘍壊死因子)a抗体であるインフリキシマブ(レミケードR)がBehcet病ぶどう膜炎の治療に認可され,わぶどう膜炎の診療に大切なことは,適確に診断し,適切に治療を施すことにより視機能障害を最小限にとどめることであるが,将来的には障害組織を再生できることが最終目標である.診断に重要なことは,検眼鏡的眼所見,蛍光眼底造影所見,全身一般検査所見から鑑別疾患をあげ,特殊検査により確定診断することであり,治療に関しては,副腎皮質ステロイドを中心とした抗炎症療法をぶどう膜炎の活動性を観ながらいかに効果的に調整していくかである.しかし,このようなぶどう膜炎のスタンダードな診療およびその理解に関してはおおむねこの20年以上大きな変化はなく,他分野との比較において停滞感は否めなかったが,近年,そのターニングポイントとも言える大きな変化が現れた.診断では,光干渉断層計(opticalcoherenttomography:OCT)の改良,multiplexPCR(polymerasechainreaction)の開発,治療については生物製剤を用いた新たな抗炎症療法,そして外科的治療の普及である.OCTは非侵襲性に短時間で網膜の断層像を抽出可能な装置であり,timedomainOCTからspectraldomainOCTに改良されたことにより,病理組織切片とほぼ同程度の高解像度で網膜断面像を観察できるようになった.これによりぶどう膜炎の眼(1)457*MasaruTakeuchi:防衛医科大学校眼科学教室**ManabuMochizuki:東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科眼科学分野●序説あたらしい眼科28(4):457.458,2011ぶどう膜炎診療の新たな動向NewCurrentoftheUveitisPractice竹内大*望月學**458あたらしい眼科Vol.28,No.4,2011(2)が国でも800例以上のBehcet病患者に投与されている.今後は,その他の生物製剤を含めより多くの難治性ぶどう膜炎治療への適応が望まれる.一方,外科的治療は,手術による機械的侵襲がぶどう膜炎の活動性に多少なりとも影響を及ぼすことは必発であるため,その適応,術式,周術期治療に関しては慎重であるべきだが,手術手技の進歩,手術機器,手術用材の開発・改良,臨床データの蓄積などから,より安全で侵襲が少ない手術が可能となり,ぶどう膜炎に対してもその適応のハードルは下がってきている.このように,ぶどう膜炎診療はまさに黎明期にあると言えるが,その支柱は地道な基礎研究の積み重ねであり,生物製剤治療はまさに近年のぶどう膜炎研究の成果である.動物モデルでの病態解明,新たな診断法,治療法の開発は,トランスレーショナルリーサーチとしてヒトに応用され,その結果がまた動物実験にフィードバックされる.このいわゆる“benchtobed,bedtobench”のサイクルが円滑に回ることが理想であり,基礎と臨床の偏ったバランスでは両者の健全な発展を望むことはできない.ぶどう膜炎の基礎研究は,網膜に局在する自己抗原を強化免疫することによりぶどう膜網膜炎を特異的に発症させたモデル動物を用いておもに行われ,他の疾患と同様,またはそれ以上の成果をあげてきた.しかし,わが国では,トランスレーショナルリサーチの制約が欧米諸国と比較して高いのが実情である.本特集では,「ぶどう膜炎診療の新たな動向」と銘打ち,「ぶどう膜炎の命名法・診断基準の国際化」について岡田アナベル先生,「ぶどう膜炎の疫学(年代別・国別)」を岩橋千春先生・大黒伸行に解説いただき,上述した本序説の内容について「画像検査(OCT)」を蕪城俊克先生,「検体検査(multiplexPCR)」を杉田直先生,「内科的治療(インフリキシマブ)」を園田康平先生,「外科的治療」を藤井さゆり先生,そして「基礎研究」を臼井嘉彦先生に執筆をお願いした.日常診療にすぐに応用できるといった内容ではないが,本特集が一般眼科医ならびに眼科研修医の先生方に啓発的なものであることを心より願う.

血管抽出機能を用いたレーザースペックルフローグラフィーの視神経乳頭微小循環測定

2011年3月31日 木曜日

448(14あ0)たらしい眼科Vol.28,No.3,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(3):448.451,2011cはじめに眼内微小循環を評価することは,種々の眼疾患の病態を理解するうえで,きわめて重要であると考えられる.今日,最も一般的な眼内微小循環の評価法は,フルオレセインなどの造影剤を用いた色素希釈法であり,走査型レーザー検眼鏡との併用により,網膜動静脈の血流速度を定量的に測定することも可能である.しかしながら,色素希釈法では,視神経乳頭(乳頭)や網脈絡膜における定量的な微小循環の評価や短〔別刷請求先〕坪井明里:〒951-8510新潟市中央区旭町通一番町757番地新潟大学大学院医歯学総合研究科感覚統合医学講座視覚病態学分野Reprintrequests:AkariTsuboi,M.D.,DivisionofOphthalmologyandVisualSciences,NiigataUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,1-757Asahimachi-dori,Niigata951-8510,JAPAN血管抽出機能を用いたレーザースペックルフローグラフィーの視神経乳頭微小循環測定坪井明里*1白柏基宏*1八百枝潔*2,1阿部春樹*1*1新潟大学大学院医歯学総合研究科感覚統合医学講座視覚病態学分野*2眼科八百枝医院OpticNerveHeadMicrocirculationasMesuredbyLaserSpeckleFlowgraphywithVascularExtractFunctionAkariTsuboi1),MotohiroShirakashi1),KiyoshiYaoeda2,1)andHarukiAbe1)1)DivisionofOphthalmologyandVisualSciences,NiigataUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,2)YaoedaEyeClinic目的:健常眼を対象として,血管描出機能を用いたレーザースペックルフローグラフィー(laserspeckleflowgraphy:LSFG)による視神経乳頭(乳頭)微小循環測定について検討した.対象および方法:20例20眼を対象とした.散瞳下でLSFGを3回連続して行い,LSFGAnalyzer(バージョン3.0.20.0)で乳頭血流マップを作成した.乳頭の上下耳鼻側におけるmeanblurrate(MBR)の測定を,検者が大血管のない部位を主観的に選択して行う旧手法と血管描出機能を用いて大血管のない部位を自動的に決定して行う新手法の両者で行った.旧手法と新手法により測定したMBRおよびMBRの変動係数を比較検討した.結果:乳頭の上側と鼻側において,新手法により測定したMBRは,旧手法により測定したMBRに比して高値であった(各々p<0.001).MBR測定の変動係数は,旧手法6.4.8.2%,新手法3.8.4.9%で,すべての測定部位において,後者が前者に比して有意に低値であった(p=0.015.0.044).結論:LSFGの乳頭微小循環測定の再現性は,新手法のほうが旧手法に比し良好であった.Purpose:Weevaluatedopticnervehead(ONH)microcirculationinnormalsubjects,usinglaserspeckleflowgraphy(LSFG)withvascularextractfunction.SubjectsandMethods:Westudied20eyesof20subjects,performingLSFGontheONH3timesconsecutively,andacquiredtheirperfusionmaps.Wemeasuredmeanblurrate(MBR)atsuperior,inferior,temporalandnasalregionsoftheONHusingboththeconventionalmethod,inwhichmeasurementregionswithoutmajorvesselsweresubjectivelydetermined,andthenewmethod,inwhichmeasurementregionswithoutmajorvesselswereautomaticallydeterminedbyvascularextractfunction.Results:MBRasmeasuredbythenewmethodwashigheratthesuperiorandnasalregionsthanasmeasuredbytheconventionalmethod.MBRmeasurementscoefficientsofvariationsweresmallerwiththenewmethodthanwiththeconventionalmethodatallregions.Conclusion:ThereproducibilityofONHmicrocirculationmeasurementwithLSFGusingthenewmethodwasbetterthanthatusingtheconventionalmethod.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):448.451,2011〕Keywords:健常者,眼内循環,視神経乳頭,レーザースペックルフローグラフィー,再現性.normalsubjects,intraocularbloodflow,opticnervehead,laserspeckleflowgraphy,reproducibility.(141)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011449時間の反復的測定は不可能であり,また,造影剤による全身的な副作用の合併も否定できない.レーザースペックルフローグラフィー(laserspeckleflowgraphy:LSFG)は,レーザースペックル法を応用した眼血流測定装置であり,乳頭や網脈絡膜における微小循環を非侵襲的,半定量的に評価することが可能である1~7).新しいLSFGであるLSFG-NAVITMでは,血管抽出解析機能が搭載され,大血管を除外した組織血流を評価することが可能となった.今回,筆者らは,健常眼を対象として,血管抽出解析機能を用いたLSFGによる乳頭微小循環の測定値および測定再現性の相違について検討した.I対象および方法対象は健常20例20眼〔男/女=13/7眼,年齢(平均±標準偏差,範囲):33.6±8.0歳,24~49歳〕である.全例で高血圧,糖尿病,心疾患などの血管病変がなく,矯正視力≧0.7,屈折≦±5D,眼圧≦21mmHgであり,軽度屈折異常以外明らかな眼疾患を認めなかった.LSFGによる乳頭微小循環測定の原理,方法は既報のごとくである1.7).本研究に際し,新潟大学医歯学総合病院医薬品・医療機器臨床研究審査委員会の承認を受け,被験者から事前に文書による同意を得たうえで研究を実施した.任意に選択した片眼を0.4%トロピカミド点眼液(ミドリンRM点眼液0.4%,参天製薬,大阪,日本)を用いて散瞳させ,LSFG-NAVITM(ソフトケア,飯塚,日本)による測定を3回連続して行い,LSFGAnalyzer(バージョン3.0.20.0)を用いて3枚の乳頭の血流マップを作成した.乳頭微小循環の評価のため,作成された血流マップ(図1)から,乳頭上下耳鼻側における血流パラメータmeanblurrate(MBR)を算出した.乳頭上下耳鼻側におけるMBRの算出につき,検者が矩形指定領域(ラバーバンド)を用いて大血管のない部位を主観的に選択して行う旧手法(図1a)と,楕円ラバーバンドを用いて乳頭領域を決定した後,LSFGAnalyzer(バージョン3.0.20.0)に備わっている血管抽出解析機能を用い,乳頭内の大血管のMBRを自動的に除外して行う新手法(図1b,2)を用いて行った.血管抽出解析は,楕円ラバーバンド内の大血管における血ab図1LSFGAnalyzerを用いて作成した血流マップa:矩形ラバーバンド,b:楕円ラバーバンド.ab図2LSFGAnalyzerによる血管抽出解析図1と同一乳頭における血管抽出解析の結果を示す.視神経乳頭上の大血管に該当する白い部位を除外して(a),乳頭上側,乳頭鼻側,乳頭耳側,乳頭下側におけるmeanblurrateを算出した(b).血管抽出レベルの決定はaの右下に示すバーを用いて行った.450あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(142)流と,大血管を除外した組織血流を分離して解析する方法である.乳頭における血流解析においては,楕円ラバーバンドを乳頭縁に乳頭上下耳鼻側に合わせて指定し,任意の血管抽出レベルを用いて大血管を抽出する(図2).血管抽出レベルを最高にする場合には組織血流は算出されず,また,同レベルは段階的ではなく連続的に決定されるので,最低にしない限りは主観的要素が含まれる.楕円ラバーバンド内の分割領域としては,上下耳鼻側の4分割のほか,6,8,12分割による解析が可能である.旧手法において,乳頭上下耳鼻側の矩形ラバーバンド作製は,ラバーバンドデータを保存せず,測定領域ごとにその都度指定して行った.3枚の血流マップ間についても,ラバーバンドデータを保存せず,測定領域ごとにその都度指定して行った.新手法についても旧手法と同様に,楕円ラバーバンドは血流マップごとに指定した.乳頭縁の決定は検査1年以内に取得した眼底写真を基に行った.血管抽出のレベルについて,検者の主観的要素を除外するため,抽出レベルは常に最低として大血管のMBRを除外した.楕円ラバーバンド内の分割領域としては,乳頭上下耳鼻側の4分割を選択した.旧手法および新手法につき,乳頭内の各測定部位におけるMBRの3回連続測定の平均,標準偏差,変動係数を算出した.MBR測定の再現性は変動係数および級内相関係数により評価した.2群間の値の比較はWilcoxonの符号付順位検定により行い,相関はSpearman相関係数により評価した.危険率5%未満を統計学的有意とした.II結果旧手法および新手法によるMBRの3回連続測定の平均値の平均,標準偏差および範囲につき表1に示す.乳頭の上側と鼻側において,新手法で測定したMBRは,旧手法で測定したMBRに比し,有意に高値であった.各測定部位において,旧手法と新手法によるMBRに有意な相関があった(Rs=0.553~0.842,p≦0.011).旧手法および新手法によるMBRの3回連続測定の変動係数につき表2に示す.各測定部位において,新手法における変動係数(3.8~4.9%)は,旧手法における変動係数(6.4~8.2%)に比し,有意に低値であった(p≦0.015).3回連続測定の級内相関係数は,旧手法(0.744~0.960),新手法(0.902~0.958)とも高値であった(表3).III考按今回のLSFGを用いた乳頭微小循環測定においては,旧手法と新手法による測定値の間に有意な相関があったが,乳頭の上側と鼻側において,新手法により測定したMBRが旧手法により測定したMBRに比して有意に高値であった.旧手法と新手法では,測定部位は重なるものの,測定領域が異なるため,MBRにある程度の相違があることは予想されたが,測定部位により新手法によるMBRが旧手法によるMBRよりも高値であった.これは,旧手法では主観的に微小血管を避けて矩形ラバーバンドを指定するため,結果としてMBRが低値になりやすいこと,新手法では大血管周囲のMBRが高い領域を測定領域に含みやすいことに加え,今回の検討において,血管抽出解析における抽出レベルを一定にするために,レベルを最低にしてMBRを算出したことなどが原因となっているものと考えた.今後,高い測定再現性を保たせながら,大血管の影響を除外した乳頭微小循環測定を行うために,どのレベルで血管を抽出するべきかを十分に検討する必要があると考えられる.従来より,乳頭微小循環は種々の眼血流測定装置を用いて検討されてきたが,乳頭微小血管の複雑な構造と,測定時のフォーカシングのむずかしさなどから,高い測定再現性を得ることが困難であった8).乳頭微小循環連続測定の変動係数表3旧手法および新手法によるmeanblurrateの3回連続測定の級内相関係数旧手法*新手法*乳頭上側0.907(0.817~0.959)0.958(0.914~0.982)乳頭下側0.878(0.763~0.945)0.958(0.915~0.982)乳頭耳側0.960(0.919~0.983)0.953(0.905~0.980)乳頭鼻側0.744(0.808~0.957)0.902(0.808~0.957)n=20.*括弧内は95%信頼区間.表1旧手法および新手法によるmeanblurrateの3回連続測定の平均値旧手法*新手法*p**Rs***p***乳頭上側11.3±3.2(6.4~16.0)13.2±3.2(8.6~20.0)<0.0010.804<0.001乳頭下側11.1±2.7(6.5~15.3)11.4±3.2(4.8~17.1)0.6540.5530.011乳頭耳側8.3±3.1(4.4~14.8)8.9±2.7(4.8~15.5)0.1450.842<0.001乳頭鼻側12.1±2.2(7.9~16.4)14.3±2.0(11.5~19.0)<0.0010.823<0.001*AU,平均±標準偏差(範囲),n=20.**Wilcoxonの符号付順位検定のp値.***Spearman相関係数とp値.表2旧手法および新手法によるmeanblurrateの3回連続測定の変動係数の平均値旧手法新手法p*乳頭上側7.7%4.4%0.015乳頭下側7.7%6.4%0.025乳頭耳側6.4%4.9%0.044乳頭鼻側8.2%3.8%0.025n=20.*Wilcoxonの符号付順位検定のp値.(143)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011451について,laserDopplerflowmeterを用いた検討でJoosら9)は18~24%,Grunwaldら10)は18~21%,scanninglaserDopplerflowmeterを用いた検討でYaoedaら3)は18~20%,心拍や異成分の影響を除外した測定アルゴリズムであるfull-fieldperfusionanalysisを用いた検討でHafezら8)は11~18%と報告している.一方,LSFGによる乳頭微小循環連続測定の変動係数について,従来機による旧手法を用いた過去の報告では,新家5)は7.5%,Yaoedaら3)は9.7%,前田ら6)は9.5%と変動係数が10%を下回るものが多く,LSFGは他の眼血流測定装置に比し,良好な測定再現性を有すると考えられる.今回の検討においても,LSFG-NAVITMを用いた乳頭微小循環測定の再現性は,旧手法で6.4~8.2%,新手法で3.8~4.9%と良好な結果が得られた.また,連続測定の級内相関係数は,旧手法,新手法とも高値であった.LSFGと他の眼血流測定装置における測定再現性の相違については,測定時間や測定深度の相違などが原因であると考えられている3).今回の検討では,乳頭の上下耳鼻側の各測定領域において,新手法による測定の変動係数は,旧手法によるもの(6.4~8.2%)に比し,有意に低値であった.この原因としては,旧手法に比し,新手法では測定領域が広いこと,血管抽出解析における抽出レベルを一定にすることが可能であることのほか,旧手法では,各測定において一定の測定部位にラバーバンドを指定するためには,周囲の血管の位置関係を眼底写真や血流マップで確認したり,ラバーバンドの大きさを半透明紙で記録したりするなど,主観的要素や二次的な作業が必要である一方,新手法では自動的に乳頭を4,6,8,12分割にして測定部位を指定することが可能であることなどが考えられた.しかしながら,今回の検討では,従来のLSFGを用いた測定再現性の検討と比較するために矩形ラバーバンドを保存せずにMBRを算出したが,LSFGAnalyzer(バージョン3.0.20.0)では,ラバーバンドデータを保存してMBRを算出することが可能であり,後者の方法を用いることにより,測定再現性を向上させることは可能と考えられる.また,新手法では血管抽出解析を用いても大血管を除外できない例がある一方,旧手法では視覚的に大血管を避けてラバーバンドを指定することが可能であり,新手法のほうが旧手法に比し乳頭微小循環測定に適しているとは結論づけ難い.前述したとおり,新手法における血管抽出レベルの決定については最低にしない限り検者の主観的要素が含まれるため,段階的なレベル設定の新設の必要があるものと考えられた.また,楕円ラバーバンドは楕円近似で定義されているため,種々の乳頭縁を忠実に決定するためにはスプライン曲線を用いるなどの改善点があるものと考えられた.LSFG-NAVITMを用いた乳頭微小循環測定は,新手法では高い測定再現性があり,種々の眼疾患の評価に有用と考えられるが,血管抽出機能の抽出レベルの設定方法についてさらなる検討が必要である.文献1)SugiyamaT,UtsumiT,AzumaIetal:Measurementofopticnerveheadcirculation:comparisonoflaserspeckleandhydrogenclearancemethods.JpnJOphthalmol40:339-343,19962)TamakiY,AraieM,TomitaKetal:Real-timemeasurementofopticnerveheadandchoroidcirculation,usingthelaserspecklephenomenon.JpnJOphthalmol41:49-54,19973)YaoedaK,ShirakashiM,FunakiSetal:MeasurementofmicrocirculationintheopticnerveheadbylaserspeckleflowgraphyandscanninglaserDopplerflowmetry.AmJOphthalmol129:734-739,20004)YaoedaK,ShirakashiM,FunakiSetal:Measurementofmicrocirculationinopticnerveheadbylaserspeckleflowgraphyinnormalvolunteers.AmJOphthalmol130:606-610,20005)新家眞:レーザースペックル法による生体眼循環測定─装置と眼研究への応用─.日眼会誌103:871-909,19996)前田祥恵,今野伸介,松本奈緒美ほか:CCDカメラを用いた新しいレーザースペックルフローグラフィーによる健常人における視神経乳頭および網脈絡膜組織血流測定.眼科48:129-133,20067)岡本兼児,高橋則善,藤居仁:LaserSpeckleFlowgraphyを用いた新しい血流波形解析手法.あたらしい眼科26:269-275,20098)HafezAS,BizzarroRL,RivardMetal:ReproducibilityofretinalandopticnerveheadperfusionmeasurementsusingscanninglaserDopplerflowmetry.OphthalmicSurgLasersImaging34:422-432,20039)JoosKM,PillunatLE,KnightonRWetal:ReproducibilityoflaserDopplerflowmetryinthehumanopticnervehead.JGlaucoma6:212-216,199710)GrunwaldJE,PiltzJ,HariprasadSMetal:Opticnervebloodflowinglaucoma:effectofsystemichypertension.AmJOphthalmol127:516-522,1999***

ラタノプロスト単独投与への点眼治療薬変更による眼圧下降効果の多施設検討

2011年3月31日 木曜日

444(13あ6)たらしい眼科Vol.28,No.3,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(3):444.447,2011cはじめにラタノプロストは1999年に日本で発売されて以来,その優れた眼圧下降効果の臨床試験は多数報告され1),b遮断薬を上回る眼圧下降効果が期待できる薬剤と考えられている2,3).2003年に発表された緑内障診療ガイドラインでは,「薬剤の効果が不十分な場合,あるいは薬剤耐性が生じた場合は,薬剤の追加ではなく薬剤の変更をまず考える.また,その場合,視神経障害の進行を阻止しうると考えられる眼圧レベル〔別刷請求先〕高井保幸:〒693-8501出雲市塩冶町89-1島根大学医学部眼科学講座Reprintrequests:YasuyukiTakai,M.D.,DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversitySchoolofMedicine,89-1Enya,Izumo,Shimane693-8501,JAPANラタノプロスト単独投与への点眼治療薬変更による眼圧下降効果の多施設検討高井保幸*1谷戸正樹*1市岡博*2高梨泰至*3舩田雅之*4八田史郎*5河合公子*6小松直樹*7大平明弘*1*1島根大学医学部眼科学講座*2市岡眼科クリニック*3松江赤十字病院眼科*4魚谷眼科医院*5前嶋眼科*6山陰労災病院眼科*7鳥取大学医学部視覚病態学EffectofSwitchtoLatanoprostMonotherapyonIntraocularPressureReduction:MulticenterStudyYasuyukiTakai1),MasakiTanito1),HiroshiIchioka2),TaijiTakanashi3),MasayukiFunada4),ShirouHatta5),KimikoKawai6),NaokiKomatsu7)andAkihiroOhira1)1)DepartmentofOphthalmology,ShimaneUniversitySchoolofMedicine,2)IchiokaEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,MatsueRedCrossHospital,4)UotaniEyeClinic,5)MaejimaEyeClinic,6)DepartmentofOphthalmology,SaninRosaiHospital,7)DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,FacultyofMedicine,TottoriUniversity多施設において,他剤点眼にて目標眼圧(初期~中期:15mmHg,後期:15mmHg,末期:12mmHg)以下に達していない原発開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障症例52例99眼をラタノプロスト単独投与に変更した後の眼圧下降率および目標眼圧到達度を検討した.点眼変更前平均眼圧は17.5±4.0mmHgで,点眼変更2週後14.6±2.5mmHg,4週後14.2±2.8mmHg,8週後14.2±2.9mmHg,12週後13.9±2.6mmHgであり,変更前と比較して有意(p<0.01,pairedt-test)に下降し,12週後の平均眼圧下降率は20.9%であった.目標眼圧到達度は,点眼変更12週後において71.4%であった.単剤および多剤からラタノプロスト単独投与への変更は,視神経障害の進行を阻止しうると考えられる眼圧レベルに到達させるうえで有用な治療法と考えられる.Westudiedtheeffectofswitchingtolatanoprostmonotherapyonintraocularpressurereductionandtargetintraocularpressure(IOP)achievement.Subjectscomprised99eyesof52glaucomapatients,includingcasesofprimaryopen-angleandnormal-tensionglaucoma,whohadnotachievedtargetIOP(earlytomoderatestage:15mmHg,latestage:15mmHg,advancedstage:12mmHg)usingotheranti-glaucomaagents.TheIOPat2,4,8and12weeksaftertheswitchtolatanoprost(14.6±2.5mmHg,14.2±2.8mmHg,14.2±2.9mmHgand13.9±2.6mmHg,mean±SD,respectively)wassignificantlylowerthanthebaselineIOPof17.5±4.0mmHg(p<0.01forallcomparisons,pairedt-test).At12weeksafterswitching,themeanreductionofIOPwas20.9%andthetargetIOPachievementratewas71.4%.SwitchingtolatanoprostmonotherapycouldbeusefulforcontrollingIOPinpatientswhohavenotachievedthetargetIOPwithotheranti-glaucomaagents.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):444.447,2011〕Keywords:緑内障点眼治療,ラタノプロスト単独治療,目標眼圧,眼圧下降,多施設検討.anti-glaucomaagents,latanoprostmonotherapy,targetintraocularpressure(IOP),IOPreduction,multicenterstudy.(137)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011445(目標眼圧)を設定することは合理的な方法である.」と記載されている4).これまで,ラタノプロスト単独投与への変更による眼圧下降効果について報告がなされている5~7)が,多施設において,個々の患者に対し目標眼圧を設定し,目標眼圧到達度を検討した報告は見当たらない.これらの観点から,ラタノプロスト単独への薬剤変更により十分な眼圧下降を得られるか,また,どの程度目標眼圧に到達できるか,他剤点眼において目標眼圧に達していない患者を対象に,薬剤変更試験によって検討したので報告する.I対象および方法多施設(7施設),前向き研究.平成2004年4月から平成2008年3月までの間に,各施設においてラタノプロスト以外の他剤点眼にて目標眼圧(初期~中期:15mmHg,後期:15mmHg,末期:12mmHg,病期分類はHumphrey視野における平均偏差が,.10dB≦平均偏差を早期~中期,.20dB≦平均偏差<.10dBを後期,平均偏差<.20dBを末期とした)以下に達していない原発開放隅角緑内障(POAG),正常眼圧緑内障(NTG)症例52例99眼(男性22例,女性30例,年齢74.2±9.2歳)について,washout期間を設けずにラタノプロスト単独投与に変更し,変更前・2週・4週・8週・12週・24週後の眼圧値を,症例単位で時刻を統一してGoldmann圧平式眼圧計で測定し,眼圧下降率および目標眼圧到達度を検討した.目標眼圧については,CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyによる30%眼圧下降(治療前21mmHgで目標眼圧15mmHg)の有効性8),あるいはShirakashiらによる15mmHg未満の眼圧下降の有効性についての報告9)を参考に,初期~中期,後期両者において15mmHgを目標眼圧と設定した.末期緑内障については,岩田の分類10)を参考として,12mmHgと設定した.変更前との眼圧は統計手法paired-t検定を用いて比較した.前治療薬の影響を除外するためには4週間前後のwash-out期間が必要であるが,その間の眼圧上昇によって視機能障害が進行する可能性を考慮し,今回はwash-out期間を設けなかった.表1に変更前の薬剤の組み合わせ,眼数を示す.単剤からの切り替えが85眼,2剤からの切り替えが14眼であった.ただし,本剤に対して過敏症である,レーザー照射術の既往がある,6カ月以内の内眼手術歴,眼感染症・ぶどう膜炎・眼症状を伴う全身疾患(糖尿病,自己免疫疾患)合併症例,妊婦または妊娠している可能性がある,その他主治医が不適当と判断した患者は除外した.ラタノプロスト点眼開始時に本研究の趣旨,点眼薬の効果・副作用を説明し,患者の同意を得た.II結果全症例の平均眼圧の経過(図1)は,投与前17.5±4.0mmHg(平均±標準偏差),点眼変更2週後14.6±2.5mmHg,4週後14.2±2.8mmHg,8週後14.2±2.9mmHg,12週後13.9±2.6mmHgであり,眼圧下降値は3.6±1.4mmHg,眼圧下降率20.8%であった.投与24週後には,14.6±2.7mmHg,眼圧下降値は2.9±1.3mmHg,眼圧下降率は16.8%であった(12週後および24週後p<0.01).個々の症例の眼圧下降率については図2に示す.単剤からの切り替え群では,平均眼圧は,投与前17.7±4.2mmHg,切り替え12週後13.9±2.7mmHg,眼圧下降値は3.8±1.5mmHg,眼圧下降率は21.5%であった.投与24週後には,平均眼圧は15.0±2.8mmHg,眼圧下降値は2.7±1.4mmHg,眼圧下降率は15.3%であった(12週後および24週後p<0.01).2剤からの切り替え群では,平均眼圧は,投与前16.3±2.9mmHg,切り替え12週後13.9±2.1mmHg,眼圧下降値は2.4±0.8mmHg,眼圧下降率は14.7%であった.投与24週後には,平均眼圧は12.3±0.9mmHg,眼圧下降値は4.0±2.0mmHg,眼圧下降率は24.5%であった(12週後および24週後p<0.01).目標眼圧到達度は,12週後は71.4%,24週後は56.3%であった.さらに今回は,病期別目標眼圧到達度を検討しており,特に後期緑内障患者での目標眼圧到達度が良好であった(表表1ラタノプロスト単独投与に変更前の点眼薬剤変更前の薬剤眼数ウノプロストンチモロールベタキソロールカルテオロールニプラジロールドルゾラミドブナゾシンウノプロストン+ブナゾシンチモロール+ブナゾシンウノプロストン+レボブノロール38眼30眼5眼4眼4眼2眼2眼6眼4眼4眼20.0018.0016.0014.0012.0010.008.006.00投与前2週後4週後6週後8週後12週後16週後20週後24週後(99)(49)(24)(62)(75)(83)(50)(45)(51)*pairedt-test:p<0.01眼圧(mmHg)********図1ラタノプロスト単独投与に変更後24週までの平均眼圧の経過446あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(138)2).III考按一般に緑内障視野障害の進行は非常に緩徐で,眼圧下降治療による視野障害進行の抑制効果を検出するには,治療開始から数年間の経過観察が必要とされる.可能な限りの低眼圧を達成するために,治療開始時から最大許容薬物量を投与すれば,少なくない症例で過剰治療となり,また薬物の副作用,生涯にわたる薬物治療のコストの点においても適切ではない.そこで,治療開始時において患者のqualityoflifeの十分な維持が期待できる眼圧レベル(目標眼圧)を設定するという考え方が推奨されている.薬物の単剤療法と多剤併用療法を比較した場合,眼局所・全身性副作用,あるいは,コンプライアンス・アドヒアランスの観点において単剤療法が優れていると予想されるため,初期治療で目標眼圧に到達しない症例,あるいは薬物耐性により眼圧上昇をきたした症例では,薬物の追加ではなく,薬物の変更をまず考慮すべきであると推奨されている4).これまで,いくつかの報告により,ラタノプロストが単剤あるいは多剤からの切り替え薬としての有効性が示されている5~7).今回筆者らは,比較的多数例を対象とした多施設前向き検討により,目標眼圧に達していないPOAG,NTG症例において,単剤および2剤からラタノプロスト単剤への変更の眼圧下降効果,目標眼圧到達度について検討した.高田らの報告5)では,単剤からの変更群では12週後に3.4±2.2mmHg,24週後に3.8±2.6mmHgの眼圧下降が得られ,2剤からの変更群では12週後に3.3±1.7mmHg,24週後に4.2±2.9mmHgの眼圧下降が得られている.今回の検討においても,単剤からの変更群において同様の眼圧下降率を認め,2剤併用療法よりもラタノプロスト単独投与のほうが眼圧下降値が大きいという結果を得た.単剤からの切り替え群が多数占めていたため12週後には20.8%の良好な眼圧下降効果を得られたと考えられるが,2剤併用からの切替え群でも,眼圧下降率は高くはないが,1眼を除き全眼で眼圧下降し,12週後には約15%のさらなる眼圧下降を得ることができた.個々の症例で眼圧下降率を検討すると,12週後に10%以上の眼圧下降率を得たのが51眼,逆に10%以上の眼圧上昇をきたしたのは2眼であった.2003年に発表された緑内障診療ガイドラインでは,緑内障管理において,個々の症例における目標眼圧の設定が推奨された.目標眼圧を設定する利点として,眼圧管理がより計画的で厳密になることや,患者と医師が共通の目に見える目標をもつことによって治療意欲が向上することなどがあげられる.1999年のラタノプロスト発売以降,その優れた眼圧下降効果についての報告がなされている5~7)が,多施設において,個々の患者に対し目標眼圧を設定し,目標眼圧到達度を検討した報告は見当たらない.目標眼圧の設定方法には,緑内障の病期によりある特定表2病期別の目標眼圧到達度目標眼圧への到達度目標眼圧への到達度目標眼圧への到達度初期~中期後期末期眼数12週目標眼圧到達眼数眼数24週目標眼圧到達眼数眼数12週目標眼圧到達眼数眼数24週目標眼圧到達眼数眼数12週目標眼圧到達眼数眼数24週目標眼圧到達眼数533638191312884220率67.9%率50.0%率92.3%率100.0%率50.0%率0.0%図2各症例の眼圧下降率(12・24週後)6050403020100-10-2016111621263136414651566166717681眼圧下降率(%)眼圧下降率(%)161116212631364146514035302520151050-5-1012週後24週後(139)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011447の眼圧値まで下降させる方法と,ベースライン眼圧の一定割合に下降させる方法がある.今回,筆者らはwash-out期間を設けておらず,ベースライン眼圧の把握が困難であったため,病期により目標眼圧を設定した.設定した目標眼圧(初期~中期:15mmHg,後期:15mmHg,末期:12mmHg)は岩田分類10)よりも若干厳しいものとなっているが,それでも,12週後には約70%の目標眼圧到達度を得ることができた.平均年齢が74歳と比較的高齢者を対象とした研究であり,ラタノプロストそのものの眼圧下降効果に加えて,1日1回点眼によるコンプライアンス・アドヒアランスの改善効果が本研究の結果に影響した可能性が高いと推測される.本研究開始当時(2004年),ラタノプロストの強力な眼圧下降効果に関する報告5~7)に加えて,緑内障診療ガイドラインの発表(2003年)により,“最少の薬剤”による“目標眼圧の達成”が重要であるという認識が一般臨床にも拡大しつつあった.しかし,治療効果の判定に長期間を要する,視野変化が軽度で視野の悪化が許容できる範囲である,副作用・コンプライアンスなどの認容性に明らかな問題がなかった,他院からの紹介患者であったなどの理由で以前からの治療が継続され,治療薬変更までにはある程度の時間が経過してしまうことはしばしばであり,2004年の時点において“目標眼圧の設定”と“最少の薬剤”による治療がすべての患者において実践されていたわけではなかった.本研究において,初期~中期症例が相対的に多く含まれていることも,視野変化が軽度で悪化が許容できる範囲であったなどの理由からと考えられる.また,末期の4症例についても,従来の点眼で眼圧下降は得られていたものの,本研究により設定した目標眼圧には達していなかった症例であり,単剤でより強力な薬剤への変更でさらなる眼圧下降が期待される症例であった.今回の検討では,変更前薬物としてウノプロストン以外のプロスタグランジン(PG)製剤を含んでいない.近年,ラタノプロストとほぼ同等の眼圧下降効果を有するPG製剤が,臨床において使用可能となっており,これらのPG製剤を変更前薬物として含んだ場合には,本研究の結果は異なったものとなる可能性がある.症例ごとに,それぞれのPG製剤に対する反応性が異なる可能性も指摘されているため,PG製剤から他のPG製剤への切り替えも,今後,目標眼圧到達のための重要な選択肢となるかもしれない.慢性疾患である緑内障の治療は,しばしば長期間に及ぶため,眼圧下降薬は,その安全性と強力な眼圧下降効果を維持し,さらにコンプライアンスの良いものが望まれる.ラタノプロストは1日1回点眼で,眼圧下降効果が強力であり,単独療法は安全かつ24時間を通した良好な眼圧コントロールが期待されるため,漠然と多剤併用療法で眼圧コントロールされていた症例や,多剤併用療法によるコンプライアンス低下が疑われる症例には,試みる価値がある治療方法と考えられる.本論文の要旨は第20回日本緑内障学会(2009年11月,沖縄県)において発表した.文献1)植木麻里,川上剛,奥田隆章ほか:ラタノプロストの短期使用経験.あたらしい眼科17:415-418,20002)CamrasCB,WaxMB,RitchR:Latanoprosttreatmentforglaucoma:effectsoftreatingfor1yearandofswitchingfromtimolol.AmJOphthalmol126:390-399,19983)湯川英一,新田進人,竹谷太ほか:開放隅角緑内障におけるb遮断薬からラタノプロストへの切り替えによる眼圧下降効果.眼紀57:195-198,20064)日本緑内障学会:緑内障診療ガイドライン(第2版).日眼会誌110:778-814,20065)高田園子,橋本茂樹,有村英子ほか:ラタノプロスト単独への変更投与の検討.あたらしい眼科19:353-357,20026)斎藤昌晃,八子恵子:複数点眼使用例におけるラタノプロスト単独治療への切り替え.眼臨97:1965-1068,20037)小川美幸,庄司信行,林良子ほか:複数点眼症例におけるラタノプロスト単剤への変更の有用性.あたらしい眼科20:1011-1014,20038)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19989)ShirakashiM,IwataK,SawaguchiSetal:Intraocularpressure-dependentprogressionofvisualfieldlossinadvancedprimaryopen-angleglaucoma:a15-yearfollow-up.Ophthalmologica207:1-5,199310)岩田和雄:低眼圧緑内障および原発開放隅角緑内障の病態と視神経障害機構.日眼会誌96:1501-1531,1992***