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眼科医のための先端医療 130.サプリメント

2011年10月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.10,201114410910-1810/11/\100/頁/JCOPYサプリメントは食品から摂取すべき微量ミネラルやビタミン類を補う補完食品で,本来薬ではありません.しかし,疫学調査や加齢黄斑変性(age-relatedmaculardisease:AMD)に関する大規模前向き試験であるAge-RelatedEyeDiseaseStudy(AREDS)の報告1)により,その効果が大きく信頼され,眼科領域でも使用されるようになってきました.また,病態に酸化ストレスの関与が考えられるAMDで,抗酸化物質を含むサプリメントを摂取することは理にかなっているといえます.ここでは,AREDS関連サプリメントを中心とした眼科におけるサプリメントの現状と食品因子の有効性を検証するための基礎研究について報告します.AREDS?AREDS2AREDSは米国で行われた抗酸化ビタミン,亜鉛の摂取が白内障とAMDの発症,および進行予防に有効であるかを検討した多施設無作為比較対照試験です.AMDに関しては,55?80歳の3,640人が登録され,AMDの重症度を分類後,抗酸化ビタミン+亜鉛,亜鉛のみ,抗酸化ビタミンのみ,プラセボが投与され,5年以上経過観察後,摂取効果が検討されました.その結果,軟性ドルーゼンのある群,AMDの対側眼において,抗酸化ビタミン+亜鉛の摂取がAMD発症のリスクを25%減少,視力低下のリスクを19%減少させることが明らかとなり,摂取の有効性が示されました1).この結果は,CochraneCollaborationにレビューされており,現時点では,軟性白斑がある患者,片眼にAMDを発症している非喫煙患者には,抗酸化ビタミンと亜鉛の併用摂取を考慮すべきでしょう.しかし,この結果はNTT(numberneededtotreatment)13と,5年間サプリメントを内服した13人に1人が罹患を免れたにすぎず,より早期の軟性ドルーゼンのない群では予防効果は認められていません.患者にサ(73)◆シリーズ第130回◆眼科医のための先端医療監修=坂本泰二山下英俊サプリメント1.510.50ControlVehicleLuteinEIURhodopsin***1.510.50ControlVehicleLuteinEIUOSlength****ONLISOSControlVehicleLuteinEIUControlVehicleLuteinEIURhodopsina-Tubulin*p<0.05**p<0.01ACBD図1ルテインの網膜保護効果ルテインは,炎症による視物質ロドプシンの低下(A,B),視細胞外節の短縮(C,D)をともに,阻止した.EIU:網膜・ぶどう膜炎モデル,ONL:外顆粒層,IS:視細胞内節,OS:視細胞外節.(文献4より)佐々木真理子(慶應義塾大学医学部眼科/CenterforEyeResearchAustralia,UniversityofMelburne)1442あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011プリメントの摂取を勧める際には,これらの点に留意する必要があります.わが国でのAREDSサプリメント摂取の実態を筆者らの施設の網膜外来で調べたところ,AREDSの基準で摂取が推奨される患者のうち,摂取していた患者は34.5%2)と米国に比べ低いこと,摂取している患者のほぼすべてが担当医の勧めにより摂取していたことがわかりました.今後,進行中のルテイン/ゼアキサンチン,w-3系多価不飽和脂肪酸に関する臨床試験,AREDS2の結果など新しい情報に注意し,患者に正しい情報を提供していく必要があると思います.基礎研究による有効性の検証サプリメントの有効性は疫学研究や臨床研究により示されてきましたが,そのメカニズムはよく知られていませんでした.現在,生物学的な有効性が基礎研究により検証されています.たとえば,黄斑部に新生血管を生じる滲出型AMDの動物実験モデルとして,炎症が関与して新生血管を形成するlaser-inducedCNV(脈絡膜血管新生)モデルがあります.筆者らのグループはこのモデルマウスを用いて,ルテインが血管内皮で炎症性サイトカインの下流シグナル・nuclearfactor(NF)-kBを抑え,血管新生を抑制したことを報告しました3).これは,これまで数多く報告されてきたルテインのAMDにおける発症抑制効果の生物学的な根拠の一部を示すと考えます.さらに筆者らは,マウスの眼炎症モデルを用いて,炎症時に生じる網膜機能低下が,網膜内で増加した活性酸素種(reactiveoxygenspecies:ROS)が転写因子であるSTAT3を活性化し,蛋白分解系を亢進させ,視物質であるロドプシンを過剰に分解することにより生じることを明らかにしました4).ルテインはROSを抑制することによりこの経路を断ち,視機能を保持したと考えられ,炎症に対して直接的な網膜保護作用をもつことが示されました.このように,これまで臨床的に示された食品因子の有効性を検証するほかに,分子生物学的に機能を探り,新たな疾患への応用も試みられています.サプリメントの将来AMDにおいては,いくつかの有効な治療法が見出されましたが,その効果は満足できるものではなく,一度傷害された網膜の機能は回復しません.そのため,予防の意義は大きく,決め手となる予防法がない現在,サプリメントは重要な役割を担っています.AMD発症に遺伝子の関与が明らかなため,今後はRotterdamstudyの報告5)のように,サプリメント摂取においても,遺伝子解析が摂取対象者の選択や早期栄養指導などに生かされていくと考えられます.また,今回取り上げたAMD以外の多くの疾病の病態や加齢変化に,酸化ストレスが関与していることを考えると,長期摂取が可能なサプリメントは予防法として有望であり,今後も基礎研究とともに遺伝子解析を含む臨床研究を進めることにより,臨床に応用されていくものと考えています.文献1)Age-RelatedEyeDiseaseStudyResearchGroup:Arandomized,placebo-controlled,clinicaltrialofhigh-dosesupplementationwithvitaminsCandE,betacarotene,andzincforage-relatedmaculardegenerationandvisionloss:AREDSreportno.8.ArchOphthalmol119:1417-1436,20012)SasakiM,ShinodaH,KotoTetal:UsageofmicronutrientsupplementforpreventingadvancedAge-relatedMacularDegenerationinJapan.ArchOphthalmol,inpress3)Izumi-NagaiK,NagaiN,OhgamiKetal:Macularpigmentluteinisantiinflammatoryinpreventingchoroidalneovascularization.ArteriosclerThrombVascBiol27:2555-2562,20074)SasakiM,OzawaY,KuriharaTetal:Neuroprotectiveeffectofanantioxidant,lutein,duringretinalinflammation.InvestOphthalmolVisSci50:1433-1439,20095)HoL,vanLeeuwenR,WittemanJCetal:Reducingthegeneticriskofage-relatedmaculardegenerationwithdietaryantioxidants,zinc,andw-3fattyacids:theRotterdamstudy.ArchOphthalmol129:758-766,2011(74)■「サプリメント」を読んで■サプリメントの有効性多くの疾患形成には,遺伝因子と環境因子の両方が関与しています.遺伝因子は改変不能ですが,環境因子は制御可能ですので,それにより疾患予防をする試みがなされています.実際に成功したものの一つが,赤ワインによる心疾患予防です.これは意図されたも(75)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111443のではありませんでしたが,環境因子により疾患発症を制御できることを証明した大規模事象であり,現在はそのメカニズムまで解明されています.加齢黄斑変性の発症にも環境因子が関与しています.発症メカニズムから類推して抗酸化物質の摂取が発症抑制すると期待されたので,抗酸化サプリメントと加齢黄斑変性との関係についての大規模研究が行われました.その結果,本文中にも述べられているように,抗酸化ビタミンなどの摂取が加齢黄斑変性の発症をある程度抑制することが証明されました.今回の佐々木真理子先生の研究で優れているのは,そのメカニズムに踏み込んだ点です.赤ワインによる心臓疾患抑制効果は,フレンチパラドックスとよばれ,疫学的には知られていましたが,メカニズムが不明なために十分に信用されていませんでした.そこで,英仏の大学による長年の研究により,原因物質がプロシアニジンであることが突き止められた結果,赤ワインの効果が科学的に裏付けられ,その価値がさらに高まりました.これは産学農による共同事業の素晴らしい成功例といえます.佐々木先生たちの研究は,赤ワインの場合と同様に,サプリメントによる疾患の予防について,将来大きな果実を生む可能性のある素晴らしいものです.サプリメントの危険性ただし,サプリメントについては良いことばかりではありません.ほとんどのサプリメントは健康食品に分類されており,医薬品のように厳密な成分表示がされていません.成分表示があってもそれを証明する必要がないので,表示と実際が異なるケースが多く報告されています.また,現在の医学基準を満たす有効性の証明がなされていないものが大部分です.さらに,他医薬品との相互作用が不明であり,安全性担保も十分とはいえません.有名なものでは,疾患予防のためにbカロチンサプリメント摂取の効果を調べた研究の途上で,男性喫煙者に有意に肺がん罹患率上昇が認められたために,急遽研究が中止された話があります.これが危険であるのは,bカロチンは動物実験レベルでは疾病抑制効果が認められたにもかかわらず,人では逆の結果をひき起こした点です.現在,サプリメントの成分が細胞実験や動物実験で有効であったから,人間の疾病予防に有効であると大々的に宣伝されているケースが多々見受けられます(白内障,緑内障,飛蚊症に効果があるというサプリメントなど).これは学問的に間違っているのみならず,一般の人を危険に導く行為です.良心的で責任感のある医師であれば,効果が科学的に証明されたものについてのみ,そのように説明すべきでしょう.患者およびその家族は常に弱い立場にあります.治療法のない網膜変性に罹患していることがわかったときに,冷静な判断ができる人は多くいません.そのようなときに,正確な情報を伝えるのは医師の重要な役目です.サプリメントにはそのような危険性も内包されていることを知るべきでしょう.鹿児島大学医学部眼科坂本泰二☆☆☆

眼感染アレルギー:サイトメガロウイルス角膜内皮炎

2011年10月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.10,201114390910-1810/11/\100/頁/JCOPY角膜内皮炎は角膜内皮細胞に特異的な炎症を生じる疾患で,1982年にKhodadoustらによって報告された.当時は自己免疫疾患と考えられていたが,その後の研究により,単純ヘルペスウイルス(HSV)や水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)などのウイルス感染が関与していることが知られるようになった.最近になって,抗ヘルペス薬による治療が奏効しない難治性の角膜内皮炎のなかに,サイトメガロウイルス(CMV)によるものが少なからずあることが報告され,注目されている1?3).●CMV角膜内皮炎の臨床的特徴角膜内皮炎では,細胞浸潤や血管侵入を伴わない限局性の角膜浮腫と,浮腫の範囲に一致した角膜後面沈着物(keraticprecipitates:KPs)が認められる(図1,2)が,特にCMV角膜内皮炎では円形に配列したKPsからなる衛星病巣(コインリージョン)を伴うことが特徴である(図1).ヒト角膜内皮細胞は生体内における増殖能が乏しいため,角膜内皮細胞の障害によって角膜内皮細胞密度の低下を生じ,進行すると水疱性角膜症に至る.片眼性の症例が多いが両眼性症例も報告されている.CMV角膜内皮炎の症例では,虹彩毛様体炎や続発緑内障を合併していることが多い.CMV角膜内皮炎は免疫機能不全のない患者にも発症することが特徴である.●CMV角膜内皮炎の診断と治療診断には,PCR(polymerasechainreaction)を用いた前房水中のCMVDNAの検索が有用である.PCRは非常に感度が高いため,病態と無関係のウイルスDNAを検出する可能性があるため注意が必要で,PCRの結果と臨床所見,抗ウイルス治療に対する反応などを総合的に判断してCMV角膜内皮炎と診断する必要がある.平成22年度厚生労働省難治性疾患克服研究事業「特発性角膜内皮炎研究班」が提唱したCMV角膜内皮炎の診断基準を表1に示す.CMV角膜内皮炎に対する治療は,CMV網膜炎に準じた抗CMV療法と,消炎を目的としたステロイド療法を併用する.初期治療としてガンシクロビル全身投与(71)眼感染アレルギーセミナー─感染症と生体防御─●連載監修=木下茂大橋裕一30.サイトメガロウイルス角膜内皮炎小泉範子同志社大学生命医科学部医工学科近年,日和見感染症の原因として知られるサイトメガロウイルスが,免疫機能正常者における難治性の角膜内皮炎の原因となることが報告されている.本疾患では,コインリージョンとよばれる特徴的な角膜後面沈着物を認め,虹彩炎や高眼圧を伴うことが多い.水疱性角膜症に至る重症疾患であり,前房水PCR(polymerasechainreaction)を用いた早期診断と,抗ウイルス薬による治療が必要である.図1CMV角膜内皮炎(51歳,男性)上方周辺部から中央へと進行する角膜浮腫を認め,透明角膜側にはコインリージョンが存在する(矢印).前房水PCRでCMVDNAを検出し,ガンシクロビル治療が有効であった.(文献1より改変)図2角膜移植後に発症したCMV角膜内皮炎(78歳,女性)角膜混濁に対する角膜移植の5カ月後に,下方から中央へ進行する角膜浮腫と浮腫に一致した範囲の角膜後面沈着物を認めた.ステロイド治療には反応せず,前房水からCMVDNAを検出した.(文献5より)1440あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(10mg/kg/日,2回に分けて点滴)を10?14日間行い,維持治療として0.5%ガンシクロビル点眼(自家調整薬,1日4?6回)を行う.低濃度ステロイド点眼薬(0.1%フルオロメトロンなどを1日4回)を併用する.内服投与が可能なバルガンシクロビルも用いられる.本疾患に対するガンシクロビル,バルガンシクロビルの使用は保険適用外となるため,大学倫理委員会などで承認されたプロトコールに従って,患者の同意を得て行う必要がある.筆者らの症例では,発症後早期にガンシクロビル全身投与を行った場合には速やかに角膜浮腫やKPsが改善され,角膜内皮機能を維持することが可能であった.しかし,発症から確定診断までに長期間が経過した症例では,診断時にすでに著明な角膜内皮密度の低下を生じており水疱性角膜症となる場合があった.筆者らは,全身投与で角膜内皮炎が軽快した症例においても,再発を予防する目的でガンシクロビル点眼を使用することが望ましいと考えているが,いつまで継続する必要があるのかについては今後の検討が必要である.(72)【CMVは他の前眼部炎症性疾患の原因としても注目されている】再発性の虹彩毛様体炎,Posner-Schlossman症候群やFuchs虹彩異色性虹彩毛様体炎においてもCMVなどのウイルスの関与が報告されており,CMV虹彩毛様体炎の症例のなかに角膜内皮障害を合併するものがあることが報告されている.これらの前眼部炎症と角膜内皮炎は一連の疾患の異なる病期をとらえている可能性がある.Suzukiら4)は角膜内皮炎を含むウイルスが関与する前眼部炎症性疾患をanteriorchamber-associatedimmunedeviation(ACAID)-relatedsyndromeとして包括的にとらえる新しい概念を提唱しており,興味深い.【CMV角膜内皮炎の病態は不明である】日本の成人ではCMVに既感染である場合が多く,潜伏感染したウイルスが角膜内皮細胞,あるいは隅角組織など角膜内皮近傍の組織において再活性化されて角膜内皮細胞に感染し,炎症を惹起するものと推測されるが,病態は明らかにはされていない.HSVによる角膜内皮炎の発症には,ACAID(前房関連免疫偏位:anteriorchamber-associatedimmunedeviation)とよばれる前房の特殊な免疫状態が関連していることがOhashiらによって報告されており,CMV角膜内皮炎の発症にもACAIDが関与している可能性が高い.しかし骨髄前駆細胞やマクロファージなどに潜伏感染していると考えられているCMVがどのようなルートで角膜内皮細胞に感染を生じるのかについては不明で,今後の課題である.謝辞:本論文に記載した「サイトメガロウイルス角膜内皮炎診断基準」は平成22年度厚生労働省科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)の援助を受けて作成したものである.文献1)KoizumiN,YamasakiK,KawasakiSetal:Cytomegalovirusinaqueoushumorfromaneyewithcornealendotheliitis.AmJOphthalmol141:564-565,20062)KoizumiN,SuzukiT,UnoTetal:Cytomegalovirusasanetiologicfactorincornealendotheliitis.Ophthalmology115:292-297,20083)SuzukiT,HaraY,UnoTetal:DNAofcytomegalovirusdetectedbyPCRinaqueousofpatientwithcornealendotheliitisfollowingpenetratingkeratoplasty.Cornea26:370-372,20074)SuzukiT,OhashiY:Cornealendotheliitis.SeminOphthalmol23:235-240,20085)小泉範子:サイトメガロウイルス角膜内皮炎.あたらしい眼科24:1619-1620,2007表1サイトメガロウイルス角膜内皮炎診断基準(平成22年度特発性角膜内皮炎研究班)Ⅰ.臨床所見①小円形に配列する白色の角膜後面沈着物(コインリージョン)②①以外の角膜後面沈着物を伴う角膜浮腫③角膜内皮細胞密度の減少④再発性・慢性虹彩毛様体炎⑤眼圧上昇もしくはその既往Ⅱ.前房水PCR検査所見①CytomegalovirusDNAが陽性②HerpessimplexvirusDNAおよびvaricella-zostervirusDNAが陰性<診断基準>確定例I-①および,II-①,②に該当するもの.臨床的疑い例IのうちI-②を含む3項目以上,およびII-①,②に該当するもの.<注釈>1.角膜移植術後の場合は次のような点から拒絶反応が否定的であること.①臨床所見でhost側に角膜浮腫がある,あるいはgraft側にのみ角膜浮腫があるが,角膜浮腫と透明角膜の境界にhost-graftjunctionに一致した部分がない.②副腎皮質ステロイド薬あるいは免疫抑制薬による治療効果が乏しい.2.治療に対する反応も参考所見となる.①ガンシクロビルあるいはバルガンシクロビルにより臨床所見の改善が認められる.②アシクロビル・バラシクロビルにより臨床所見の改善が認められない.

緑内障:緑内障術後の眼圧体位変動

2011年10月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.10,201114370910-1810/11/\100/頁/JCOPY●緑内障患者の眼圧体位変動過去の論文では,眼圧測定にはPneumatonometerを使用しているものが多い.また体位については,座位から仰臥位での眼圧変化を評価しているものがほとんどである.さまざまな体位により眼圧変動が生じる機序は,完全には解明されていないが,上強膜静脈圧の上昇と脈絡膜血流増加があいまって生じると推測されている.一般的に正常人と比較し,緑内障患者において眼圧の体位変動は大きいとされる.筆者の施設では,眼圧測定にはICarereboundtonometer(ICare;TiolatOy,Helsinki,Finland)を用いている.この眼圧計は,Goldmann圧平眼圧計と比較して0.5?2.0mmHg測定値が高くなるが,再現性に優れると報告されている.また,仰臥位での測定が不可という欠点を有しているため,側臥位での眼圧測定を行っている(図1).Age-matchingした広義の原発開放隅角緑内障(OAG)患者36眼と,正常者37眼に体位による眼圧変動(側臥位での眼圧値マイナス座位での眼圧値)を測定し,比較した.OAG患者では,体位による眼圧差が3.4±2.2mmHgであったのに対し,正常者では3.1±1.9mmHgであった(p=0.4661;図2).緑内障患者のほうが,体位による眼圧変動幅はその平均をみると大きかったが,たとえ正常人であっても個人差もまた非常に大きいのは確かなようで(69)●連載136緑内障セミナー監修=岩田和雄山本哲也136.緑内障術後の眼圧体位変動澤田明岐阜大学医学部眼科古くから短期的あるいは長期的に眼圧変動が生じることは知られており,さまざまな生理的条件によりひき起こされる(表1).近年,眼圧値のみならず,眼圧の変動が緑内障性視神経障害の発症ならびに進行に深くかかわっていることが示され,注目を集めるようになってきている.眼圧変動を生じる因子は多岐にわたるが,そのなかで眼圧の体位変動は,評価がしやすいという臨床上の利点を有している.表1眼圧変動を生じる生理的条件年齢日内変動,日差変動ホルモン(閉経など)季節調節瞬目運動飲水体位など図1ICarereboundtonometerによる眼圧測定(左:座位での測定,右:側臥位での測定)1438あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011ある.●線維柱帯切除術による眼圧体位変動の抑制線維柱帯切除術後に,体位による眼圧変動が抑制されるか否かについてはいまだ議論のあるところである.しかしながら,線維柱帯切除術は眼圧体位変動幅を減少させるという報告が最近は相次いでいる1,2).筆者らは,OAG患者29症例について,手術前および術後12カ月に至るまで,眼圧体位変動を前述と同様な手法で評価した.線維柱帯切除術前は,体位変動の差が3.8±2.3mmHgであったが,術後1カ月の時点では1.3±1.7mmHgと統計学的に有意に減少した.この傾向は基本的に術後12カ月まで持続し,術後3および12カ月では各々0.9±1.5mmHg,1.7±2.2mmHgであった(図3).しかしながら,術後12カ月の時点では,濾(70)過胞が退縮する症例も認められ,そうした症例では眼圧体位変動の差は大きくなる傾向を認めた.筆者は,眼圧体位変動を評価することは,線維柱帯切除術後における濾過胞の機能評価にも役立つ手法であると理解している2).文献1)HirookaK,TakenakaH,BabaTetal:Effectoftrabeculectomyonintraocularpressurefluctuationwithposturalchangeineyeswithopen-angleglaucoma.JGlaucoma18:689-691,20092)WeizerJS,GoyalA,Ple-PlakonPetal:Blebmorphologycharacteristicsandeffectonpositionalintraocularpressurevariation.OphthalmicSurgLasersImaging41:532-537,2010☆☆☆図3線維柱帯切除術前後の眼圧体位変動幅図中の数値は平均を表している.眼圧(mmHg)0510152025術前1カ月3カ月12カ月座位:側臥位:17.221.09.610.99.110.010.512.2-50510側臥位眼圧-座位眼圧(mmHg)OAG正常人図2正常人と緑内障患者との眼圧体位変動幅の比較

屈折矯正手術:中高年者におけるモノビジョン法を用いたLASIK

2011年10月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.10,201114350910-1810/11/\100/頁/JCOPY現在,国内において屈折矯正手術としてlaserinsitukeratomileusis(LASIK)は最もポピュラーな手術となっている.LASIKを希望する患者はコンタクトレンズや眼鏡がわずらわしい20?30歳代の若年者がメインであるが,40歳以上のいわゆる中高年者の希望も一定にみられ,これらの年代には老視の注意が必要となる.そもそもLASIKは角膜の形状を変化させることで近視や乱視といった屈折異常を矯正する手術であり,加齢に伴う老視を改善させるものではない.そのため老視が自覚されはじめる中高年者に対しては十分な老視についての説明はもとより,いかに老視を補い日常生活を快適にさせるかが満足度向上のポイントとなる.老視の矯正法の一つとして,代表的な方法にモノビジョン法があげられる.モノビジョン法とは一眼を遠見,他眼を近見に矯正し,両眼視にて遠見から近見まで良好な視力を得ることを目的とする方法である.これまで当教室では白内障手術においてこのモノビジョン法の有用性や注意点を報告してきた1,2).また過去にLASIKにおけるモノビジョン法の応用も報告している3,4)が,今回は症例数を増やしより詳細なアンケートをもとにLASIKにおけるモノビジョン法の有用性について論じる.●北里大学および関連施設におけるモノビジョン法適応の流れ40歳以上の手術希望者に対しては全例,老視について説明したのち患者一人ひとりの生活習慣や仕事内容について問診する.その後,当院における一般的な術前検査を行ったのち,後日,実際にコンタクトレンズを用いて,正視ねらいおよびモノビジョン法をシミュレーションしてもらい総合的判断により適応および屈折差を決定する.もしもシミュレーションが不十分と判断した場合,使い捨てのソフトコンタクトレンズを数枚お渡しし日常生活での感想を聞くようにしている.(67)屈折矯正手術セミナー─スキルアップ講座─●連載137監修=木下茂大橋裕一坪田一男137.中高年者におけるモノビジョン法を用いたLASIK五十嵐章史清水公也北里大学医学部眼科中高年者に対するlaserinsitukeratomileusis(LASIK)において,モノビジョン法は高い満足度を得ることができ有用な方法である.しかし,長時間,車を運転する患者のなかには夜間視において不満を訴える例も存在するため,術前において十分なインフォームド・コンセントが必要である.表1術後アンケート質問事項回答1.手術を受けた後の気持ちを教えてください1)とても満足2)満足3)どちらともいえない4)やや不満5)不満1)7例(54%)2)3例(23%)3)2例(15%)4)1例(8%)5)0例(0%)2.今の見え方に対する満足度を100点満点で示してください84.2±13.0点(60~100点)3.見え方の日内変動はありますか1)なし2)昼間から見づらい3)夕方から見づらい4)夜間のみ見づらい1)5例(39%)2)0例(0%)3)2例(15%)4)6例(46%)4.手術前と比べ変化がありますかA.読書1)楽になった2)かわりなし3)困難になった1)4例(31%)2)6例(46%)3)3例(23%)B.パソコン1)楽になった2)かわりなし3)困難になった1)2例(15%)2)10例(77%)3)1例(8%)5.運転時の見え方はいかがですかA.昼間1)楽になった2)かわりなし3)困難になった1)8例(61%)2)5例(39%)3)0例(0%)B.夜間1)楽になった2)かわりなし3)困難になった1)6例(46%)2)4例(31%)3)3例(23%)6.もしも生まれかわり同じ状態であったなら,同じ手術をうけますか1)うける2)どちらともいえない3)うけない1)12例(92%)2)1例(8%)3)0例(0%)1436あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011●モノビジョン法を施行したLASIK患者の結果モノビジョン法を適用し,術後両眼とも矯正精度が±0.5D以内であった13例(男性8例,女性4例)を対象とした.今回の対象では全例,優位眼(DE)を遠方,非優位眼(NDE)を近方合わせとし,術前の平均年齢は47±4歳(40?54歳),等価球面度数は?5.24±1.74D(?2.25??8.00D),屈折差は白内障手術時とは異なり残余調節力が存在するため平均?0.85±0.19D(?0.50??1.00D)差と軽度の屈折差となった.術後6カ月における両眼開放下での裸眼視力はlogMAR(小数視力)で遠方が?0.13±0.09(1.35),近方が?0.09±0.08(0.81)と良好であった.●術後アンケート術後のアンケート結果を表1に示す.手術後の満足度は平均84.2点,全体の77%の患者から満足がいく結果を得ることができ,92%の患者は生まれ変わったとしてももう一度同じ手術を望むという結果を得た.しかし,46%の患者からは夜間の見づらさが自覚され,23%の患者は夜間の車の運転が困難になったという結果を得た.また手術前より読書が困難になったという例が23%でみられた.●術後合併症術後に重篤な合併症を認めた例はなかった.しかし,1例のみ夜間の運転が困難であることから,NDEを遠方合わせへ追加矯正を行い満足を得た.●LASIKにおけるモノビジョン法について老視の問題が生じてくる中高年層の屈折矯正手術患者において,モノビジョン法を用いたLASIKは遠見,近見とも視力は良好で満足度も高く有効な方法と考えられる.また残余屈折力により左右の屈折差も小さく,不快に感じられることもほとんどない.しかし今回の検討において約半数近くになんらかの夜間の見えづらさを訴えることがわかった.これらの訴えは夜間の車の運転の不自由さにもつながっており,全体の約2割の患者が運転の困難を訴えるという結果になった.従来の眼内レンズによるモノビジョン法では,夜間の見づらさや運転困難を訴える例はあまりない.これは対象が白内障患者より若年であることから車の使用頻度が多いことや見え方に関する捉え方が鋭敏であることが予想されるが,LASIK後の術後視機能にも関係があると考える.通常,LASIKでは矯正量が増加すると,角膜はoblate化をきたし高次収差は増加し,コントラスト感度が低下する傾向にある5).しかし眼内レンズによるモノビジョン法では白内障手術を行うことでコントラスト感度は上昇する.コントラスト感度という点においてLASIKでは散瞳時には高次収差はさらに増大するため,より夜間での訴えが強くなるのかもしれない.このようにLASIKによるモノビジョン法は夜間視の不満を訴える例もあるが,術前に車に乗る頻度や職業を聞き,十分なインフォームド・コンセントを行うことで不満を減らすことができると予想される.また術後にどうしても不自由を訴える場合は,近見合わせとした眼を遠見へ再矯正することで不満は改善される.中高年者における屈折矯正手術では,老視に対してなにも考慮せずに手術を行った場合,強い不満を訴える例も存在する.近視や乱視と老視を同じに考えている患者も少なくないため,手術の際には老視について十分な説明を行う必要があり,もし希望する場合にはモノビジョン法は安全で有効であると考える.文献1)清水公也:白内障術後における老視の克服.IOL&RS18:30-35,20042)ItoM,ShimizuK,AmanoRetal:Assessmentofvisualperformanceinpseudophakicmonovision.JCataractRefractSurg35:710-714,20093)中島純子,新田任里江,神垣久美子ほか:LASIKによるモノビジョン法を施行した4症例.あたらしい眼科20:385-389,20034)清水公也:モノビジョンLASIK.あたらしい眼科22:51-52,20055)IgarashiA,KamiyaK,ShimizuKetal:Visualperformanceafterimplantablecollamerlensandwavefrontguidedlaserinsitukeratomileusisforhighmyopia.AmJOphthalmol148:164-170,2009(68)

多焦点眼内レンズ:単焦点眼内レンズ挿入眼へのピギーバック法

2011年10月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.10,201114330910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼内レンズ(IOL)のピギーバック法は,通常,水晶体摘出後に1枚のIOLを挿入するところ,もう1枚追加,すなわちIOLを2枚挿入する.IOLの厚さは水晶体よりかなり薄いため,2枚挿入するスペースは十分である.従来,強度遠視において市販されているIOL度数で足りない場合やIOL挿入後の屈折が大幅にずれた場合に利用されてきた方法である.多焦点IOLの普及に伴い,これらの方法に加え,単焦点IOL挿入眼で多焦点IOLへの交換を希望する症例にもピギーバック法が用いられるようになった.水晶体?内固定用の多焦点IOLをピギーバック挿入する報告がある1,2)が,近年,球面度数がゼロないしは低い度数で,水晶体?内固定ではなく毛様溝固定用にデザインされたピギーバック用多焦点IOLが登場し,その良好な臨床成績が報告されている3).ピギーバック用多焦点IOLピギーバック法を用いる場合,IOLを2枚とも水晶体?内固定した際にIOL間に水晶体上皮細胞が増殖し視力低下を起こすinterlenticularopacification(ILO)が報告され4),ピギーバックIOLは毛様溝固定をすることが推奨されている.このため,ピギーバック用多焦点IOLは水晶体?内固定用デザインに比べIOLの全長が長く,13.5?14.0mmのものが多い.また,瞳孔ブロックが危惧され,光学径も通常より大きな6.5?7.0mmとなっている(図1).ピギーバック用多焦点IOLは,Diffractiva社,Rayner社,HumanOptic社といったヨーロッパの会社から販売されている(図2)が,残念ながらわが国で承認を得ていないので,実際に使用する場合は自費手術となる.このような未承認IOLを臨床に用いる場合,基本的には各施設の倫理委員会で承認を得,患者に十分な説明をした後に同意を取得して挿入すべきである.ピギーバック法の利点と問題点利点は,すでに挿入されているIOLを摘出する必要がないことである.IOL摘出は粘弾性物質を用い,光学(65)●連載多焦点眼内レンズセミナー監修=ビッセン宮島弘子22.単焦点眼内レンズ挿入眼へのピギーバック法ビッセン宮島弘子東京歯科大学水道橋病院眼科多焦点眼内レンズ(IOL)の普及に伴い,すでに単焦点IOLが挿入されている症例で多焦点IOLへの交換を希望する例がある.この場合,挿入されたIOLを摘出する操作が予想以上に困難な場合がある.このような症例に,単焦点IOLを温存したままピギーバック用多焦点IOLを挿入する方法を紹介する.図1ピギーバック用眼内レンズ上側のピギーバック用眼内レンズは,毛様溝固定用に光学径,全長が大きいデザインである.図2ヨーロッパで開発されたピギーバック用多焦点眼内レンズ左:Sulcoflex(Rayner社),右:AddOn(HumanOptic社).1434あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011部は水晶体?との癒着を容易に?離できるが,支持部の周りをトンネル状に包んでいる水晶体前後?の癒着をうまく?離することが困難である.このような場合,支持部を光学部から切断することで,支持部の摘出が容易になるが,眼内でこのような操作を行うには,ある程度の手術経験が必要である.一方,IOLを温存したまま,もう1枚追加挿入するピギーバック法は,粘弾性物質で前房および虹彩と水晶体?の間に空間を作り,白内障手術時のIOL挿入に準じてIOLを眼内に挿入するため,技術的にはむずかしくない.問題点は,挿入後である.現在,IOLの理想的な固定場所が水晶体?内で,毛様溝は特殊な場合のみである.2枚目のIOLを毛様溝固定するピギーバック法で起こりうる合併症は,従来のIOLを毛様溝固定する場合の合併症と同じで,支持部の刺激による虹彩色素脱落,慢性炎症,眼圧上昇,IOLが虹彩面に近いための瞳孔ブロック,ILOである4,5).臨床成績単焦点IOL挿入眼への多焦点IOLピギーバック挿入後の視機能は,多焦点IOL挿入眼と類似している.すなわち,眼鏡に依存せず遠方と近方は見えるが,コントラスト感度が単焦点IOL挿入後よりも低下している例がある5).筆者自身もすでに10眼以上挿入しているが,1年以上の経過観察で慢性炎症,眼圧上昇などの合併症は経験していない.今後の展開本セミナーでは単焦点IOLが挿入された症例への多(66)焦点IOLピギーバック挿入を中心に述べたが,すでに多焦点機能にトーリック機能が加わったものが開発されている.本セミナーで紹介した方法以外に,多焦点IOLが挿入された症例における球面および円柱度数の追加矯正をエキシマレーザーで行う方法がタッチアップとよばれ,近年,症例数が増えている.多焦点IOL挿入後に単焦点あるいはトーリックIOLを用いたピギーバック法による矯正は,高価なレーザーを持っていない施設でも導入可能なため,今後,IOLの毛様溝固定における長期予後を再検討したうえで,適応の拡大が期待される.文献1)AkashiL,TzelikisPF:PrimarypiggybackimplantationusingtheReSTORintraocularlens:caseseries.JCataractRefractSurg33:791-795,20072)AkashiL,TselikisPF,CondimJetal:PrimarypiggybackimplantationusingtheTecnisZM900multifocalintraocularlens:caseseries.JCataractRefractSurg33:2067-2071,20073)ビッセン宮島弘子,大木伸一,野中亮子:回折型多焦点眼内レンズのピギーバック挿入.あたらしい眼科28:577-581,20114)GuytonJL,AppleDJ,PengQetal:Interlenticularopacification:Clinicopathologicalcorrelationofacomplicationofposteriorchamberpiggybackintraocularlenses.JCataractRefractSurg26:330-336,20005)ChangWH,WernerL,FryLLetal:Pigmentarydispersionsyndromewithasecondarypiggyback3-piecehydrophobicacryliclens.Casereportwithclinicopathologicalcorrelation.JCataractRefractSurg33:1106-1109,2007☆☆☆

眼内レンズ:安宅氏リファレンスマーカーToric用

2011年10月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.10,201114310910-1810/11/\100/頁/JCOPYToricIOL(眼内レンズ)の登場により,IOLによって角膜乱視を軽減することが可能になってきた.術者の惹起乱視を考慮した術後予測角膜強主経線にtoricIOLの弱主経線(toric軸)を合わせることにより,乱視を軽減させる.従来のnon-toricIOL挿入術と異なる点は,toricIOLを挿入後にIOLを水晶体?内で回転させて軸合わせを行うことである.このため,術後予測角膜強主経線が角膜上のどの位置に当たるのか測定する必要がある.仰臥位から座位に体位変動すると,約8%に10°以上の眼球回旋がみられた1)との報告があるため,術中の仰臥位における眼球の位置を基準にして軸角度を測定すると軸ずれを起こす危険性がある.このため,座位での基準点を術前に計測しておかなければならない.基準点を作成する方法としては,0?90°法がオリジナルの方法であるが,その他に6時マーク法,前眼部写真法,IOLマスター法,AxisRegistration法,前眼部OCT(光干渉断層計)法,トーリック軸画像識別システ(63)ムを用いる方法などがある.0?90°法で使用する3点式リファレンスマーカーを用いて角膜にマーキングする際,下方の角膜輪部と半円状のマーカー先端部の曲線を同心円状に合わせるようにして位置決めするため,270°の基準点は比較的正確にマーキングできる.しかし,0°,180°の位置決めでは,目安となるものがないため,検者の主観で決めることになり,位置ずれを起こす可能性がある.安宅氏リファレンスマーカーtoric用は,3点式リファレンスマーカーの先端部を円状に改良したものである2).マーカー先端部および角膜ともに円形であるため,これら2つの円を同心円状に重ねるようにして,基準点を作成する(図1).安宅氏リファレンスマーカーtoric用のマーカー先端部は,内径が9mm,外径が10.8mmであり,症例によっては,角膜径より大きい場合や逆に小さい場合もあるが,わずかに大きさの異なる2つの円を同心円状に重ねることは容易であり,また再現性も高い.角膜外周全周を目安にしながらマーキングできるた安宅伸介大阪市立大学大学院医学研究科視覚病態学眼内レンズセミナー監修/大鹿哲郎302.安宅氏リファレンスマーカーToric用乱視矯正用眼内レンズ(toricIOL)を挿入する際,術前検査で決められた角膜乱視軸にIOLのtoric軸を合わせるように固定する.座位から仰臥位に体位変動すると眼球が回旋するため,術中の仰臥位での眼位を基準にして軸を決定することはできない.このため,術前に座位での基準点を作成しなければならない.図1安宅氏リファレンスマーカーtoric用によるマーキング(左)とマーキング後の前眼部写真(右)め,270°のみならず,0°,180°の基準点も比較的正確にマーキングできる.また,マーカー先端部が円状であるため,90°の位置も同時にマーキングできるため,上方切開の術者にとっては角膜切開の位置決めも容易になる.安宅氏リファレンスマーカーtoric用と3点式リファレンスマーカーを用いて位置決めをした症例を比較検討したので報告する.各マーカーで角膜にマーキングした後に,顕微鏡下にて角膜外縁に角度ゲージを合わせて,角度ゲージの中心とマーキングされた水平方向2点のなす角度を求め,軸ずれを測定した(図2).安宅氏リファレンスマーカーtoric用では,すべてが5°以内に収まっていたが,3点式リファレンスマーカーでは,平均7.9°のずれがあり,また,ばらつきもみられた(表1).先端部を半円状から円状に改良することにより,マーキングの精度は良くなったが,先端部が大きくなった分,瞼裂幅の狭い患者に対してはマーキングしにくくなることがこのマーカーの欠点である.ただし,ソフトコンタクトレンズの直径が13?14.5mmであることを考慮しても,大きすぎてマーキングできない大きさではないと考えている.文献1)SwamiAU,SteinertRF,OsborneWFetal:Rotationalmalpositionduringlaserinsitukeratomileusis.AmJOphthalmol133:561-562,20022)安宅伸介,矢寺めぐみ,山口真ほか:トーリック眼内レンズ用リファレンスマーカーの試作.あたらしい眼科28:273-276,2011表1各リファレンスマーカーを用いて作成した水平方向2点の軸ずれの検討3点式リファレンスマーカー安宅氏リファレンスマーカー症例角度(°)軸ずれ(°)症例角度(°)軸ずれ(°)12002011800218002180031755318554195154185551800518006185561855717557175581855818009185591800101901010185511190101118551219515121755平均7.9°の軸ずれがあり,軸ずれのばらつきがある平均2.9°の軸ずれであり,すべてが5°以内であるp<0.05Mann-Whitney’sUtest.水平軸基準点マーク基準点マーク12時6時図2角度ゲージの中心とリファレンスマーカーで作成した水平方向2点のなす角度の測定方法赤矢印の角度を測定し,軸ずれを求めた.本来の水平軸にマーキングできた場合は180°になり,軸ずれは0°になる.

コンタクトレンズ:コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】 フルオレセインパターン判定法(2)

2011年10月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.10,201114290910-1810/11/\100/頁/JCOPYフルオレセインパターンを,単にフラット,パラレル,スティープと判断していたのでは,円錐角膜や角膜移植術後などの難症例に対してハードコンタクトレンズ(HCL)を処方することはむずかしい.今回はフルオレセインパターンをより有効に利用するための具体的な評価方法について述べる.●評価は角膜中央部で行う通常,HCLの静止位置が角膜中央部になるように処方するが,HCLの静止位置が必ずしも角膜中央部に一致するとは限らない.評価は静止位置ではなく,HCLを角膜中央部へ誘導して行う.●中央部,中間周辺部,最周辺部(ベベル部分)に分けて評価するフルオレセインパターンを正確に評価するためには,レンズの中央部,中間周辺部,最周辺部(ベベル部分)と3つの区域に分けて,それぞれを別々に評価する(図1).1.中央部中央部ではCL後面と角膜中央部との関係をアピカルタッチ(頂点接触),アライメント,アピカルクリアランスという表現を用いて評価する.アピカルタッチ(頂点接触)はレンズ後面中央部が角膜中央部に接触した状態(図2),アライメントはレンズ後面中央部のカーブが角膜中央部の形状にほぼ沿った(パラレルの)状態,アピカルクリアランスはレンズ後面中央部が角膜中央部に接触していない状態である(図3).2.中間周辺部中間周辺部の評価は処方レンズのベースカーブを決定するうえで最も重要となる.レンズ後面のカーブが角膜の形状よりも緩やかなことをフラット(図4),ほぼ並行に沿った状態をパラレル,きついことをスティープ(図5)と表現する.この部分がスティープであるときレンズの動きがタイトになることが多く,フラットであるときルーズとなることが多い.(61)3.最周辺部(ベベル部分)最周辺部の評価も,中間周辺部と同様,重要である.中間周辺部のフィッティングが良好でも,最周辺部のフィッティングが不良であれば,さまざまなトラブルの糸井素純道玄坂糸井眼科医院コンタクトレンズセミナー監修/小玉裕司渡邉潔糸井素純コンタクトレンズ基礎講座【ハードコンタクトレンズ編】328.フルオレセインパターン判定法(2)図1フルオレセインパターンの部位別判定A:中央部,B:中間周辺部,C:最周辺部(ベベル部分).図2中央部アピカルタッチ(頂点接触).図3中央部アピカルクリアランス.1430あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(00)原因となる.最周辺部ではレンズエッジ(ベベル)のデザインが評価に大きく影響する(図6,7).この部分ではレンズエッジと角膜との距離(エッジリフト),ベベル部分の幅,ベベル部分とベースカーブの移行部のブレンド状態を正確に判定する.ベベル部分の涙液クリアランスが不十分だと,コンタクトレンズの動きが少なくなり,良好な涙液交換が得られない.逆に多すぎるとレンズの動きが大きすぎたり,ずれたり,はずれやすくなったりする.涙液クリアランスが多すぎても,少なすぎても装用感の不良の原因となる.ベベルのデザインはメーカーによって大きく異なり,処方するHCLのベベルのデザインを把握する必要がある.●その他の確認事項1.レンズの動きに伴うフルオレセインパターンの変化瞬目時のHCLの移動により,HCL下の涙液が交換され,涙液を介して角膜に酸素が供給される.フィッティング状態にもよるが,フルオレセインで涙液を染色すれば,HCLの移動に伴うフルオレセインパターンの変化により,この涙液交換を確認することができる.同時にレンズの動きに伴うベベル部分の涙液クリアランスの変化についても確認する.2.静止位置でのフルオレセインパターン理想的なレンズフィッティングでは,角膜中央部付近がレンズの静止位置となる.しかし,必ずしも角膜中央部がレンズの静止位置とは限らない.下方固着,上方偏位を生じているときは,何が原因であるかを確認するために,レンズの静止位置でのフルオレインパターンについても確認する.3.HCLが移動する際のレンズエッジと周辺部角膜,結膜との関係HCLが移動する際のレンズエッジと周辺部角膜,結膜との関係の評価も重要である.瞬目や眼球運動とともに,HCLが上下左右に移動したときに,レンズエッジが周辺部角膜や結膜に圧迫やこすれなどの機械的障害が生じていないかを確認する.図4中間周辺部フラット.図6最周辺部ベベル幅が狭く,エッジリフトも低い.図7最周辺部ベベル幅,エッジリフトともに適正.図5中間周辺部スティープ.

写真:巨大な隆起性角膜真菌症

2011年10月31日 月曜日

あたらしい眼科Vol.28,No.10,201114270910-1810/11/\100/頁/JCOPY(59)写真セミナー監修/島﨑潤横井則彦329.巨大な隆起性角膜真菌症中村由美子細谷友雅兵庫医科大学眼科図1初診時前眼部写真(79歳,男性)角膜耳下側に境界明瞭な巨大白色隆起性病変を認める.結膜充血は軽度でendothelialplaqueは認めない.①図2図1のシェーマ①:巨大な白色隆起性病変.図3術中写真白色塊は角膜との癒着がほとんどなく,一塊として容易に?離除去できた.図4白色塊のファンギ・フローラYR染色黄緑色の蛍光に染まった分節を伴う多数の糸状菌を認め,白色塊は糸状菌の集合体と考えられた.1428あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(00)糸状菌による角膜真菌症は植物の枝や葉による外傷が誘因となることが多く,起炎菌としてはFusariumsp.が多い.Fusariumsp.による角膜真菌症は角膜実質深層から内皮面へ病巣が拡大しやすく,治療に抵抗する例も多いため視力予後不良な例が多い1).外傷後に約2カ月間副腎ステロイドを(以下,ステロイド)投与されていたにもかかわらず,病巣が表層に留まっていたため,予後が良好であったと考えられる症例を紹介する.〔症例〕79歳,男性.主訴:視力低下・右眼白濁.現病歴:右眼に栗のイガが落下し受傷した.受傷2日後に近医を受診し,右眼の角膜耳下側にイガの刺入を認めたため抜去された.角膜穿孔は認めなかった.経過中,刺入部角膜に細胞浸潤を認めたため,抗菌薬とステロイドの点眼加療が行われたが改善しなかった.受傷40日後より眼痛が出現し,病変部は白色の隆起性病変となった.その後も抗菌薬とステロイドの点眼加療が継続されたが,病変が増大したため受傷68日後に兵庫医科大学病院眼科を受診した.職業:農業.全身疾患:糖尿病など特記すべき異常なし.初診時所見:VD=0.1(矯正不能)で,右眼耳下側に境界明瞭な巨大白色隆起性病変を認め,白色塊周辺部角膜には軽度の細胞浸潤を伴っていた.白色塊上に上皮はなかった.前房内炎症細胞は認めなかった.生体レーザー共焦点顕微鏡にて白色塊の全層にわたり無数の分節した菌糸を強く疑わせる所見を認めたため,角膜真菌症と診断し治療を開始した.経過:前医処方の0.1%フルオロメトロン点眼を直ちに中止し,ピマリシンR眼軟膏1日6回,自家調整0.1%ミカファンギン(ファンガードR)点眼液1日6回およびミカファンギン点滴,その後ボリコナゾール(ブイフェンドR)内服による治療を開始したが改善に乏しかったため,治療開始28日目にミカファンギン点眼を自家調整0.2%ミコナゾール(フロリードR)点眼液2時間ごとに変更したところ,改善を得た.白色塊を?離除去しファンギ・フローラYR染色を行い,分節を伴う多数の糸状菌を認めた.病巣擦過物の分離培養試験は陰性で,起炎菌を同定することはできなかった.7カ月後,VD=(0.5×sph+1.25D(cyl+0.75DAx135°)となり,白内障の進行は認めたが瘢痕治癒した.考按:今回の症例は,外傷後に約2カ月間ステロイドを投与されていたにもかかわらず,病巣が表層に留まっていたため,予後が良好であったと考えられる.糸状菌のなかには長期間角膜実質の表層に病巣が限局し,緩慢な経過をたどる例がある.宇野は,Alternariasp.に代表される“表層型”の糸状菌は,体温より低い32℃好気性条件でのみ培養可能であったと報告している2).今回起炎菌の同定は不能であったが,低温好気条件で成長する“表層型”の糸状菌であった可能性が高いと考えられる.角膜上に真菌塊を形成する角膜真菌症の報告はまれであり,長期のステロイド点眼投与が真菌塊の形成を助長したと考えられる.最後に,ご校閲いただきました三村治教授に深謝いたします.文献1)鈴木崇,宇野敏彦,宇田高広ほか:糸状菌による角膜真菌症13例の臨床的検討.眼科45:1183-1188,20032)宇野敏彦:眼科真菌症.真菌誌49:175-179,2008

時の人 稲谷 大 先生

2011年10月31日 月曜日

1426あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(58)本年(2011年)7月,福井大学医学部眼科学教室の新しい教授に稲谷大先生が就任された.福井大学医学部は,1978年に福井医科大学として創設されたのち,2003年に福井大学との統合により,福井大学医学部となった.統合前の医科大学時代から数えて,初代教授は深見嘉一郎先生,2代目教授が赤木好男先生で,この度の稲谷先生は3代目となる.*福井大学眼科学教室ではこれまで,糖尿病網膜症とその合併症としての白内障の進行を研究テーマとして取り組んでこられた.そのため,教室の年間手術件数約1,500件のうち,硝子体手術と白内障手術が大部分を占めている.そのような教室の環境の中で講師の高村佳弘先生は,日本糖尿病眼学会の理事も務められており,学術的にも優れた研究業績を残しておられる.*稲谷先生の経歴を振り返ると,先生は,1995年に京都大学医学部を卒業し,1997年から同大学大学院に入学された.そのときの指導教員が,のちのちまで大きな影響を受けることになる現在の熊本大学教授の谷原秀信先生である.大学院在学中は,緑内障の臨床研究と緑内障視神経症の研究に従事された.その後2000年には京都大学医学部に助手として勤務,2001年からは米国カリフォルニア州のバーナム研究所に留学された.その留学中には,視神経の軸索投射の研究がScience誌に掲載された.2003年に帰国後は,現在の愛知淑徳大学教授の柏井聡先生が部長をされていた大阪赤十字病院眼科に勤務し,さまざまな眼科疾患の診療経験を積まれた.2005年には,熊本大学の助手となり,2006年からは講師として勤務された.また,2009年には,日本眼科学会総会の評議員指名講演(宿題報告)において,これまでの緑内障の動物疾患モデルの研究について発表された.そして本年7月,最初に紹介したように,福井大学眼科学教室の教授に就任された.*稲谷先生は,研究テーマとして,京都大学の大学院生のときの指導教員であった谷原秀信先生の影響もあり,緑内障の基礎研究と臨床研究を一貫して行ってこられた.基礎研究では,緑内障の神経保護研究や視神経の軸索誘導の研究に従事され,今年,軸索輸送が停止すると網膜神経節細胞の細胞死がひき起こされることを報告され,緑内障視神経症の病態解明に貢献された.一方,臨床研究では,続発緑内障の手術治療の研究を行い,日本の眼科医には常識であったステロイド緑内障に対するトラベクロトミーの有効性を多施設共同研究で発表し,日本の臨床エビデンスを世界へ情報発信された.今後は,福井大学の以前からの研究テーマであった糖尿病網膜症に合併する血管新生緑内障などの難治性緑内障の研究に取り組んでいきたい,とその抱負を語られた.*先生の信条は,挑戦し続けること.誰もやっていないことは行き着くところまで試しにやってみる.目標に向かって挑戦する習慣を養うことが自己研鑽につながり,同僚や患者からも信頼される高潔な人格をもった医師が育成される,との考えを強調された.*現在,新しい体制の教室で本腰を入れて取り組むために,すでにご家族(奥様と二人のお子様)とともに福井県に引っ越してこられた.趣味は,愛犬のフレンチブルドッグの廉次郎の散歩とのこと.尚,只今,新入医局員を募集中であり,ホームページの作成に力を注いでおられる.興味のある方はぜひご覧になってください.0910-1810/11/\100/頁/JCOPY時の人福井大学医学部感覚運動医学講座眼科学・教授稲いな谷たに大まさる先生

総説:第16回 日本糖尿病眼学会 特別講演 糖尿病網膜症に対する治療適応の諸問題

2011年10月31日 月曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPYofvision)を目指す」治療,また「増殖糖尿病網膜症」から「糖尿病性黄斑症」の治療へと変わってきて久しい.これらの治療法の進歩にもかかわらず,わが国におけるDRによる失明患者は約2割を占め(表1),視覚障害に占めるDRの頻度は世界的にも減少傾向がみられない.このことは糖尿病患者の激増に加え,内科的および眼科的治療が対症療法に止まること,さらに内科的治療の中断や適切な時期での眼科治療の遅れが関係していると思われる.ここでは現在までのDR治療の現況とDMEを中心とする治療選択の問題を中心に述べる.I糖尿病網膜症の現況わが国における久山町での疫学的研究(40歳以上)集計9)では1998年度の網膜症有病率は16.9%で,2007年では15.0%と変化がなく,病型としては前増殖型および増殖型は減少したが,単純型に増加がみられた.DRの早期発見,早期治療については,大学,総合病院,診療所を含め北海道の眼科についての筆者らのアンはじめに糖尿病網膜症(DR)は糖尿病,血圧,脂質など長期にわたる内科的厳格なコントロールによる失明予防が可能な疾患である1?8).眼科的にはDRに対して,1971年以降にレーザー光凝固および硝子体手術が導入され,増殖糖尿病網膜症(PDR)だけでなく,糖尿病黄斑浮腫(diabeticmacularedema:DME)にも使われている.最近では抗VEGF(vascularendothelialgrowthfactor)薬(bevacizumab,ranibizumab)およびtriamcinoloneacetonide(TA)など薬物眼局所注射が使用され,パターンスキャンレーザー光凝固装置も実用化された(図1).眼科的な治療目標が「失明に対する緊急避難的な治療」から,「社会生活が可能な視力,いわゆるQOV(quality(45)1413*MuneyasuTakeda:桑園むねやす眼科〔別刷請求先〕竹田宗泰:〒060-0010札幌市中央区北10条西15丁目1-4ブランズ桑園駅前イースト1階桑園むねやす眼科あたらしい眼科28(10):1413?1424,2011c第16回日本糖尿病眼学会特別講演糖尿病網膜症に対する治療適応の諸問題ProblemsinIndicationforTreatmentofDiabeticRetinopathy竹田宗泰*総説1971アルゴンレーザー光凝固1971硝子体手術1980色素レーザー(Coherent社)2006Semiautomatedpatternedscanninglaser200725ゲージ硝子体手術2007薬物治療(triamcinoloneacetonide,bevacizumab)眼科治療法の進化薬物治療レーザー光凝固硝子体手術図1眼科治療法の進化表1失明原因(厚生労働省)1991年(2,161名)2005年(2,034名)1糖尿病網膜症18.3%緑内障20.7%2白内障15.6%糖尿病網膜症19.0%3緑内障14.5%網膜色素変性13.7%4網膜色素変性12.2%黄斑変性9.1%5強度近視10.7%強度近視7.8%6視神経・網脈絡膜萎縮9.8%1414あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(46)ケートによるDRの実態調査(1999年,2,320名)10)によると,内科医の紹介56%で,自覚症状による受診が22%にのぼり,初診時,すでに約40%にDRを認めた(図2).初診後,眼科へは継続通院48.7%,中断20.4%,1回のみ受診30.8%で,半数以上は経過観察がされず,中断例での54%,1回のみの受診患者の22%にDRがみられた(図3).したがってDRの早期発見,継続的治療のため,患者に対する経過観察の必要性,糖尿病眼手帳による内科との連携強化,さらに持続可能な家族や仕事,経済環境を含めた個々の患者の課題を解決する必要がある.II内科的治療との関係1.糖尿病腎症と糖尿病網膜症の関係DRの発生には血糖,糖尿病罹病期間,血圧,脂質,喫煙などが危険因子とされ,体内でVEGF,エリスロポエチンなどが関与し,microangiopathyからmacroangiopathyをひき起こすことが知られている.臨床的には強力な血糖コントロールが1型糖尿病(DCCT:DiabetesControlandComplicationsTrial/EDIC:EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplicationsResearchGroup)2?5)だけでなく,2型糖尿病6)のDRの進行抑制に有効で,高血圧コントロール(UKPDS:UnitedKingdomProspectiveDiabetesStudy)7,8)の効果も実証された.その後10年以降でも強化インスリン療法で進行抑制(EDICstudy)5)が可能とされている.糖尿病(DM)の三大合併症として,網膜症(DR),腎症および神経症があげられる.なかでも腎症と網膜症は強い関係が示唆され,Caldwellら11)は病因が同じではないが,腎症が網膜症に影響すると述べている.実際,DRは蛋白尿12),DR頻度と腎症の程度13)にも相関し,単純型で腎症がある例ではDMEの合併が高率との報告もある14).しかし,増殖型でも14%に微量アルブミン尿(?)例14)もあり,黄斑部蛍光漏出は短期(透析後4週)では影響がないとの意見15)があり,透析からの期間や臓器間特異性を考慮する必要がある.全身浮腫とDMEとの関係について,宮部ら16)は短期的には3カ月間程度全身浮腫の増減とともにDMEが増減し,totalmacularvolumeは約9カ月にわたり,全身浮腫との相関を認め(図4),体重の増減はDMEに対する治療の指標となりうると述べた.2.透析導入による糖尿病網膜症への影響最近,DMは生命予後が改善され,その結果,透析導入に占める最大の疾患になっている.一般に透析導入に至る患者には網膜症合併率が高いこと,導入前後に血糖,血圧コントロールが不良なことが多く,末期の腎症により網膜症が悪化することが多い.しかし,透析導入直後に網膜症が急速に進行することが多い17)ものの,0%10%20%30%40%50%60%70%80%90%100%継続n=1,091中断n=4571回のみn=69255467826261399153154424:停止:増殖:増殖前:単純:(-)図3初診後の眼科の通院状況(文献10より)内科治療中断例の50%に網膜症がみられた.010203040506056221421受診動機2,320名(不明5名)%内科の紹介自覚症状眼科の紹介他科の紹介偶然初診時網膜症2,317名(不明8名)01020304050607061718113%なし増殖前単純増殖停止図2北海道における糖尿病網膜症の実態調査(12施設,1999年)自覚症状で受診したものも22%.初診時,約40%に網膜症がみられた.(文献10より)(47)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111415竹田ら18)は6カ月以降安定化するとし,徳山ら19)は導入時,増殖前と増殖網膜症が50%,数カ月で安定化を示し,2年でburnedoutretinopathyになるとしている.石井ら20)も増殖網膜症の悪化は導入後1年以内に約10%で,最近は導入前の光凝固,硝子体手術よりDRは安定化し,高度視力障害の頻度は減少しているとしている.III増殖糖尿病網膜症(PDR)に対するレーザー光凝固DRに対するレーザー光凝固についてはDiabeticRetinopathyStudy(DRSNo.1,1976?No.14,1987)21?23)がおもにPDRに対する汎網膜光凝固の効果,副作用(prospective,randomizedstudy)を検討し,その後,EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRSNo.1,1985?No.24,1999)が汎網膜光凝固の時期およびDMEに対する局所光凝固の有効性について,各々10年以上の長期研究により,EBM(evidence-basedmedicine)を確立した.DRS21)では1眼がPDRあるいは両眼重症非増殖網膜症で視力両眼20/100以上の症例について,汎網膜光凝固群では5年で重症視力障害(0.025以下)はそれぞれ,未治療群に比べ,50%から20%に減少したと報告した(図5).特にハイリスク増殖網膜症(HRC)である,硝子体出血や網膜前出血を伴う中等度あるいは重症乳頭外新生血管(NVE)および乳頭部新生血管(NVD),中等度以上のNVD23)には汎網膜光凝固(PRP)を推奨している.PRPの合併症であるDMEでは,術前,黄斑肥厚に対し局所凝固を行うべきとしている.しかし,現在なおPRPの適切な時期を逃したり,凝固不足のため,硝子体出血や網膜?離により失明する症図4体重に対する中心窩厚,totalmacularvolume(TMV)の関係(文献16より一部改変)両眼とも初診から9カ月まで体重とTMVは相関がみられた右眼:初診から3カ月まで体重と中心窩厚は相関がみられた左眼:初診から硝子体手術まで〃〃中心窩厚体重4.94.215.55.196.26.166.302004年2005年2006年R858075706560体重(kg)700600500400300200100(μm)※6/23ケナコルト・Tenon?下注射汎光凝固術右眼中心窩厚L中心窩厚体重4.94.215.55.196.26.166.302004年2005年2006年V5.18858075706560体重(kg)1,4001,2001,000800600400200(μm)汎光凝固術※5/26ケナコルト・Tenon?下注射左眼中心窩厚体重TMVR4.206.208.2010.2012.2090858075706560体重(kg)13.012.512.011.511.010.59.59.08.58.0(mm3)MacularvolumeTMV体重L4.206.208.2010.2012.2090858075706560体重(kg)13.012.512.011.511.010.59.59.08.58.0(mm3)※硝子体手術5/18Macularvolumeキセノン治療群キセノン群コントロールアルゴン群コントロールアルゴン治療群0481216202428323640444852566064687240302010経過観察期間(月)重症視力障害/100図5増殖糖尿病網膜症に対する汎網膜光凝固群における高度視力低下の頻度(文献21より一部改変)1416あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(48)例が跡を絶たない.日本糖尿病眼学会で虚血の著明な症例に対し,新生血管出現に先行し,無血管領域の散発光凝固の効果について試験を実施し,調査開始3年で施行群(13例)が非施行群(23例)に対して,PDRの発生が有意に低率との新しい知見を報告した(第114回日本眼科学会総会講演).PRPについては,vasculararcade外から周辺部まで1スポットあけて,隈なく凝固を行う.しかし,NVD,多発するNVE,虹彩ルベオーシス,網膜?離,硝子体出血などの重症例,通常の凝固で改善しない例はときにvasculararcade内,最周辺部の無血管領域を含め,癒合した凝固も必要である.IV増殖糖尿病網膜症に対する硝子体手術の変遷PDRに対する硝子体手術は広範な(特に黄斑部を含む)網膜?離,裂孔併発型網膜?離,広範な網膜前出血,吸収しない再発性硝子体出血,虹彩ルベオーシスなどに対して実施される.手術時期については,VitrectomyStudyGroup25)によると,0.05以上の活動性新生血管を伴う症例370眼で,ただちに硝子体手術を行う早期手術群,6カ月後手術する経過観察群を比較し,4年後,0.5以上の視力は早期手術群44%,経過観察群28%であった.しかし,高度視力低下は両群に差がなかった.しかし,現在まで十分な硝子体ゲルの切除,シリコーンオイル,眼内レーザー,高速カッター,25,23ゲージ(G)による小切開硝子体手術,triamcinoloneacetonide(TA)による硝子体可視化,照明系(キセノン,水銀灯光源)や新しい広角観察系(ワイドフィールド)の改良,およびbevacizumab術前投与などPDRに対する早期手術が確立したといえる.この点について約20年間(1980年代から2008年度)における硝子体手術の手術適応および治療成績の変化を検討してみた.1980年代26),1990年代27),2000年代初め28),25G手術システムに移行した2008年度の4群に分けて(表2,3)調査した.術前の主要病変は網膜?離(硝子体出血を含む)がそれぞれ60%,59%,48%,33%で,網膜?離は2000年以降に減少し,2008年には硝子体出血が65%と両者の比率が逆転した(図6).1980年代は合併症が多く,緊急避難的に行う例が多いため,術前視力0.01以下の症例は67%であったが,1992年以降早期手術に移行し,38?46%となった(図7).術前後の視力変化も1980年代は視力改善43%,不変34%,悪化23%であった.それ以降は改善が1990年代52%,2000年代初期60%,2008年では77%と格段に向上した(図8).最終視力も,1980年代は高度の視力障害(0.1以下)が8割に対し,1990年代では48%,2000年代初めは38%,2008年では35%と減少している.しかし,視力0.5以上は1980年代10%に対して,その後,33%,26%,34%と25G手術システム後もそれほど変化がない(図9).術後合併症については,2008年の25Gシステム導入後,高眼圧,血管新生緑内表2増殖糖尿病網膜症(対象症例n=784眼)1986~891992~972000~012008例数(例)14528711996眼数(眼)171342149122男/女比1.21.31.272平均年齢(歳)53.153.154.859.1観察期間(月)19.115.717.618.1表3治療術式,実施病院,術者年度1986~891992~972000~012008使用システム20ゲージ20ゲージ20ゲージ25ゲージPEA+IOL32%*34%63%60%SO47%17%15%10%輪状締結31%16%2%2%実施病院札幌医大市立札幌市立札幌市立札幌術者筆者筆者4名6名PEA+IOL:水晶体超音波浮化吸引術+眼内レンズ挿入,SO:シリコーンオイル注入.*主としてカッターによる水晶体切除または全摘(IOL挿入なし).01020304050607080901001986~89n=1711992~97n=3422000~01n=1492008n=12236405065605948334122*硝子体出血は網膜?離を伴わないもの%:その他:網膜?離:硝子体出血*図6増殖糖尿病網膜症における術前の主たる手術対象病変網膜?離の比率は1980年代に比べ,66%から33%へ低下した.(49)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111417障,網膜?離などの合併症も減少傾向がみられた(図10).このようにPDRに対する硝子体手術は比較的早期に行われ,安全かつ容易で,適切な治療が行われるようになったことを示している.V糖尿病黄斑浮腫(DME)に対する治療1.DMEによる視力障害DMEは非増殖型(NPDR),増殖型(PDR)に関係なく発生し,現在も治療困難な病変である.DMEの発生には全身的因子(血糖,血圧,脂質コントロール)を基盤にして,網膜血管内皮が障害され,網膜虚血,VEGF産生,白血球の血管壁吸着,炎症,網膜色素上皮ポンプ機能の低下,血管内外の静水圧差,浸透圧勾配の影響,硝子体や網膜上膜による牽引などが複雑に絡んで発生すると推定されている(表4).具体的にDRの病態としては,実験的にはアルドース還元酵素により,ソルビトールが細胞内に蓄積して網膜毛細血管の周皮細胞壊死と基底膜肥厚が起こるとされ,硝子体内では炎症による01020304050607080901001986~89n=1711992~97n=3422000~01n=1492008n=122%:0.2以上:0.02~0.167:0.01以下423846274539446132310図7術前視力術前視力は1980年代に比べ,0.01以下が67%から2008年に46%へ低下した.01020304050607080901001986~89n=1711992~97n=3422000~01n=1492008n=122%:悪化:不変:改善(小数視力2段階)43526077342828232019124図8治療前後の視力変化改善の割合は1980年代に比べ,43%から77%と向上し,25ゲージシステムになって悪化が4%に減少した.表4DMEの発生に関与する因子1)全身コントロール状態─血糖,血圧,脂質コントロール─罹病期間2)病因─炎症,VEGF,白血球の接着など─網膜色素上皮のポンプ機能の低下─血管内外の静水圧・浸透圧勾配─硝子体あるいは網膜上膜の牽引01020304050607080901001986~89n=1711992~97n=3422000~01n=1492008n=122%:0.5~:0.2~0.4:0.02~0.1:0.01以下3621161247272223821363110332634図9術後最終視力術後0.01以下は1980年代に比べ,36%から1/3へ減少し,術後視力0.5以上は10%から1990年代以降が約3割となった.0102030405060701986~89n=1711992~97n=3422000~01n=1492008n=122%:高眼圧:NVG:網膜?離:硝子体出血261814815510612109588114図10術後合併症の変遷1990年代および2000年前半に比べ,25ゲージシステム後,合併症が減少.特に各年代群で硝子体出血の頻度の減少が認められる.1418あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(50)VEGF,pigmentepithelium-derivedfactor(PEDF)29),ICAM-1(inter-cellularadhesionmolecule1),IL(インターロイキン)-6,MCP-1(monocytechemoattractantprotein-1)などのサイトカインがDMEをひき起こすとされている30,31).最近,高速,高解像度(水平解像度約5μm)のスペクトラルドメインOCT(光干渉断層計)が導入され,中心窩網膜厚(centralretinalthickness:CRT)および肥厚の範囲と程度の数値的表示が可能となり,三次元的解析もできるようになった.OCT所見によるDMEの性状について,Ootaniら32)は網膜膨化,?胞状変化,漿液性網膜?離(図11a,b)に分類した.しかし,網膜膨化のみの例はきわめて稀で,硬性白斑(図12),硝子体による黄斑牽引(図13),網膜上膜など重複した病変の合併(図11c)が少なくない.治療後の視力予後はIS/OS(視細胞内節外節接合部)や外境界膜の欠損が視力予後に関係していること,外境界膜と?胞の接触および網膜外層厚との相関など33)が指摘されている.DMEに対する硝子体の関与について,荻野ら34)は3D-OCTによりBスキャンで後部硝子体膜が検出不能でも,硝子体手術前に全例で後部硝子体?離の有無が確認でき,乳頭黄斑接着群と広範接着群に分けて,その癒着部分に牽引,肥厚が起きている(図14)とし,DMEへの硝子体牽引の関与を示唆した.網膜血管透過性亢進とDMEの解剖学的変化との関係について,DMEはOCTで網膜外層に著明で,その程度はFA(フルオレセイン蛍光眼底造影)による蛍光漏出と関係があり,網膜内層の消失は毛細血管閉塞と相関がみられた35).このように治療選択に対して,重複病変,視力改善不能な虚血性黄斑症(図15)および血管透過性亢進の検出にFAは必須の検査である.2.DMEに対する各種治療法の位置づけDMEについてはレーザー光凝固,薬物眼局所注射,硝子体手術が行われる.一般的には限局性およびびまん性でも軽度のDMEは光凝固,高度のものは眼局所薬物治療(bevacizumab,triamcinolone),あるいは硝子体手術が行われる.bca図11DMEの形態学的変化a:?胞状浮腫(CME),b:漿液性網膜?離(SRD),c:黄斑牽引症候群(MTS).図12中心窩下硬性白斑による高度の視力低下67歳,女性.視力0.04.OCT(右上)では色素上皮と一体化した隆起,蛍光造影(右下)では黄斑部にびまん性蛍光漏出.(51)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111419a.薬物治療網膜症の全身的な薬物療法にはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)であるカンデサルタン36)あるいはロサルタン内服,アンジオテンシン変換酵素阻害薬エナラプリル37)などが効果的との報告がある.眼局所治療としては,抗VEGF薬のranibizumab(IVR)38),bevacizumab硝子体注射(IVB)39),ステロイド剤triamcinoloneacetonide(triamcinolone)の硝子体内注射(IVT)40?44),あるいはテノン(Tenon)?下注射(SBT)などの有効性(図16)が報告されている.Gilliesらは光凝固に反応しない例に対するIVTにより5年以上の長期にわたり,偽薬群34眼中11眼(32%)に比べ,図13黄斑牽引のみの症例52歳,女性.視力0.7.FA(右上)では蛍光漏出はみられず,B-スキャン(左下)に比べ,3D画像(右下)では牽引の全体像が明瞭に検出できる.T:耳側を示す.ERM毛細血管閉塞網膜上膜?胞様黄斑浮腫IS/OS外境界膜図15虚血性黄斑症を伴うDME(ischemicDME)63歳,男性.視力0.08.OCT(右上)ではCME,網膜上膜(ERM),IS/OS(視細胞内節外節接合部)の断裂を認める.FA(右下)では黄斑部に著明な毛細血管閉塞があり,蛍光漏出はほとんどない.図143D?OCTによる硝子体と網膜境界面の関係硝子体による網膜付着部に網膜の牽引・肥厚がみられる.N:鼻側を示す.1420あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(52)33眼中14眼42%に5文字以上の改善を認めた44).一般にIVTは眼圧上昇と白内障の副作用があるものの,bevacizumabに比べ,DMEに対してより効果的とされ45,46),投与法としては,SBTよりIVTが有効との意見がある47).しかし,薬物治療は浮腫の再発に対し追加投与が必要なため,長期に作用するfluocinoloneacetonideの硝子体内徐放剤が試みられている.Campochiaroら48)は光凝固に反応しないDMEに対し,低用量群(0.2μg/day,375眼),高用量群(0.5μg/day,393眼)の徐放剤を偽薬群(185眼)と2年間で比較した.その結果,視力改善(15文字以上)は偽薬群16.2%に対し,治療群はそれぞれ,28.7%,28.6%,平均改善文字数は偽薬群1.7%に対してそれぞれ4.4%および5.4%と良好であった.白内障手術例は治療群に多いが,中心窩厚(FTH)も有意に改善したと述べた.以上の結果から,光凝固が困難な高度のDMEでは薬物局所注射が現段階で第一選択と考えられる.b.硝子体手術びまん性DMEに対する硝子体手術49?54)についてYamamotoら51)によるとDMEの73眼を術後1年間経過観察し,視力,中心窩網膜厚は有意に改善,2年後も視力が維持した.Kumagaiら53)は網膜牽引がない356眼を5年以上観察し,改善52.7%,不変31.3%,悪化16%,平均視力が術前0.19から最終時0.3へと良好な結果を報告している.しかし,硝子体手術は長期の効果が期待されるが,欧米ではほとんど実施されておらず,EBMも確立していない.そのうえ,効果のない例もあり,患者への負担,副作用〔網膜?離,眼内炎,NVG(血管新生緑内障)など〕も考慮し,薬物治療および光凝固に反応しない症例で行うことが望ましい.c.レーザー光凝固EarlyTreatmentDiabeticRetinopathyStudy(ETDRS)の大規模無作為比較試験によって,DMEに対する黄斑(局所およびgridpattern)凝固の有効性が確立された55,56).このため限局性のCSME(clinicallysignificantmacularedema)ではレーザー光凝固が現在でも第一選択と考えられる.CSME55)とは①黄斑中心から500μm以内の網膜肥厚,②この付近の網膜肥厚を伴う硬性白斑,③黄斑中心から1乳頭径以内で1乳頭径以上の肥厚と定義されている.これに対して,後に述べるようにDRCR.netでは光凝固により視力改善効果を認め,現在なおgoldstandardとしている.ETDRSでは①凝固対象は毛細血管瘤,IRMA(intraretinalmicrovascularabnormality),漏出部の凝固(直像レンズで凝固条件50?100μm,0.05?0.1秒で中等度(網膜白濁)とし,硬性白斑内は約200μm,蛍光漏出部は中心から2乳頭径以上も凝固する.②Gridpattern凝固はびまん性漏出と毛細血管閉塞を伴う場合,中心から500μm以上離れて50?200μmで2乳頭径まで1スポット空けて凝固する.DiabeticRetinopathyClinicalResearchNetwork(DRCR.net)57,58)では①視力障害の原因となる中心窩肥厚(OCTで250μm以上)のある症例で,②凝固条件は1回で毛細血管瘤,中心窩から500?3,000μmの網膜肥厚,毛細血管閉塞部を照射径50μm,弱凝固(淡い白濁)に修正した(後述).しかし,黄斑光凝固は有効性,手技的困難性,atrophiccreepや黄斑誤凝固の副作用があり,異論も少なくない.最近,黄斑付近の網膜障害を最小限にするためsubthresholdmicropulsediodelaserの有効性59?61)が報告され,さらに疼痛の少ない,超短時間(0.01秒前後),小スポット(100μm)での正確な格子状凝固およびPRPが可能なパターンスキャンレーザー光凝固装置62,63)が市販され,DMEへの応用が試みられている.3.DMEに対する各種治療の比較試験少数例での短期前向き試験64)では,ranibizumabはDMEの局所/格子状凝固に比べ,有意に視力が良好とba図16Triamcinoloneacetonideテノン?下注射によるCMEの消失59歳,女性.a:左眼術前視力0.3,b:術後2カ月0.5.(53)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111421された.しかし,前述したDRCR.net57,58)による長期の大規模試験では,びまん性を含むDMEに対するmodifiedgridpattern凝固はIVT(intravitrealtriamcinoloneacetonide硝子体注射)に比べ,長期の視力改善効果が高く,副作用も少ないとの報告を2007?2009年にかけて発表した.試験は術前視力20/40?20/320,中心窩を含むDME693例840眼に対し,focal/grid光凝固群に対し,IVT1-mg群,4-mg群を比較した.平均視力は4カ月までIVT4-mg群が良好だが,2年間ではレーザー治療群がIVT各群より良好な改善がみられ,有意な視力低下,眼圧上昇,白内障の副作用も少なかった.その後,3年間追跡した306眼でもIVT各群は視力がベースラインに止まったが,レーザー群で5文字改善した58).Bevacizumab硝子体注射(IVB)について,Soheilianら65)によるDMEに対するIVB(1.25mg)群,IVB/IVT(2mg)群,MPC(macularlaserphotocoagulation:focalormodifiedgridlaser)群(各群50眼)の比較で36週間での視力変化,中心窩網膜厚(centralmacularthickness:CMT)は各群間に差がなかった.しかし,少数例ではあるが,1年の経過観察でレーザー群に比べ,IVBのほうが視力,網膜肥厚に対して効果的との報告66)もある.硝子体手術とgridpattern光凝固との比較ではYanyaliら67)は1回のgridpattern光凝固に対して,ILM(内境界膜)?離を伴う硝子体手術がより効果的であるとした.4.現時点でのDMEに対する治療選択以上のようにDMEに対する治療選択にはEBMが確立したとはいえないが,現段階で通常,図17にあげた治療選択が行われている.個々の症例に即して,今までの報告,各自の経験から,患者への負担,risk/benefit,経費などを考慮して治療を行うことになる.私見としては,1)限局性CSMEでは毛細血管瘤と網膜肥厚部の局所光凝固,軽度のびまん性DMEでは強い漏出部,毛細血管閉塞部のgridpattern光凝固を実施する.2)高度のびまん性DMEでは,triamcinolone(硝子体注射:IVT,あるいはテノン?下:SBT)またはbevacizumab硝子体注射(IVB)を行う.無効あるいは再燃をくり返す場合は硝子体手術を実施する.3)単独治療の無効例には,併用・追加治療として,①PRP後のCME予防のため,IVB68),SBT69),②黄斑凝固(MPC)前のSBT使用70),③IVT後の残存DMEに対するMPC71),逆にMPC後72)あるいは硝子体手術後71)残存DMEへのIVT,④初回から薬物治療,局所凝固あるいは硝子体手術との併用73)が有効との報告がある.併用療法は今後の検証を必要とするが,難治例では試みる価値がある.4)DRは十分な内科的コントロールにより,多くは予防可能で,眼科的にも,一部の症例を除き,治療可能となった.内科における継続的治療とともに,DRを早期に発見し,眼科的に適切な時期に治療のため,内科など他科との連携はもちろん,糖尿病予備軍を含め,一般への啓蒙が必要である.三大合併症の一つである腎症は網膜症悪化との相関があることが多く,一例として,体重と網膜症の悪化・改善と密接な相関を示す症例についての報告を取り上げた.5)眼科的治療についてはPDRに対し,十分なPRPが行われており,25G,23G極小切開硝子体手術システムが普及し,比較的副作用が少なく,良好な視力維持,停止性とすることが可能になった.6)DME(CSME)は限局性DMEでは局所光凝固で改善,停止性にすることができる.眼局所薬物治療はすでにoff-labelではあるが,bevacizumabが増殖網膜症や血管新生緑内障(NVG)に対する硝子体手術,光凝固に対する術前投与として使用されている.びまん性高度のDMEに対してもtriamcinoloneあるいは抗VEGF薬(off-label使用)が有効であるが,長期的には追加投与および徐放剤の開発が期待される.びまん性DMEに対する硝子体手術およびレーザー光凝固についても治療選択には明確な適応基準は確立していない.これらの適切?????????????????????????????????????????????????????????????????????????ProliferativeNon-Proliferative??????????????????????????????????????????PRP(または区画状)TriamcinoloneacetonideBevacizumab図17現段階での糖尿病網膜症に対する治療適応1422あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011な単独治療の方法,併用あるいは追加治療の適応を含め,個々の症例に応じた治療選択についての現状と課題を述べた.執筆にあたり,荻野哲男,今泉寛子,奥芝詩子,木下貴正,佐藤唯,宮本寛知,渡邊真弓(以上,市立札幌病院眼科),宮部靖子,静川紀子(萬田記念病院眼科)の各先生にご協力いただきました.心から感謝いたします.文献1)畑快右:糖尿病硝子体網膜症の予防的治療戦略.日眼会誌113:379-402,20092)TheDiabetesControlandComplicationsTrialGroup:Theeffectofintensivetreatmentofdiabetesonthedevelopmentandprogressionoflongtermcomplicationsininsulin-dependentdiabetesmellitus.NEnglJMed329:977-986,19933)TheDiabetesControlandComplicationsTrialResearchGroup:Theeffectofintensivediabetestreatmentontheprogressionofdiabeticretinopathyininsulin-dependentdiabetesmellitus.ArchOphthalmol113:36-51,19954)TheDiabetesControlandComplicationsTrial/EpidemiologyofDiabetesInterventionsandComplicationsResearchGroup:Retinopathyandnephropathyinpatientswithtype1diabetesfouryearsafteratrialofintensivetherapy.NEnglJMed342:381-389,20005)WhiteNH,SunW,ClearyPAetal;DCCT-EDICResearchGroup:Effectofpriorintensivetherapyintype1diabeteson10-yearprogressionofretinopathyintheDCCT/EDIC:comparisonofadultsandadolescents.Diabetes59:1244-1253,20106)OhkuboY,KishikawaH,ArakiEetal:IntensiveinsulintherapypreventstheprogressionofdiabeticmicrovascularcomplicationsinJapanesepatientswithnon-insulindependentdiabetesmellitus.Arandomizedprospective6-yearstudy.DiabetesResClinPract28:103-117,19957)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Intensivebloodglucosecontrolwithsulphonylureaorinsulincomparedwithconventionaltreatmentandriskofcomplicationsinpatientswithtype2diabetes(UKPDS33).Lancet352:837-853,19988)UKProspectiveDiabetesStudyGroup:Effectofintensiveblood-glucoseco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