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3 種のプロスタグランジン製剤の眼圧下降効果の比較検討

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(133)441《原著》あたらしい眼科28(3):441.443,2011cはじめに高眼圧は緑内障の発症,進行の最大の危険因子であり,緑内障治療においては,眼圧下降が唯一の科学的根拠のある治療法とされている1~5).緑内障点眼薬のなかでは眼圧下降効果が強力かつ持続的で全身副作用の少ないプロスタグランジン(PG)製剤が第一選択薬として広く用いられている6,7).わが国では1999年に0.005%ラタノプロスト点眼液(Lat)が上市されたが,その後,2007年には0.004%トラボプロスト点眼液(Tra),2008年には0.0015%タフルプロスト点眼液(Taf)が上市され,PG製剤の選択肢が広がった.一方でこれらのPG製剤を使い分ける明確な基準はまだ存在しない.今回,筆者らはこの3種のPG製剤の眼圧下降効果の差異につき比較検討したので報告する.I対象および方法コンタクトレンズ非装用の健常者ボランティア37名74眼(男性20名,女性17名,平均年齢20.8±1.6歳)を対象とした.左右眼には3種のPG製剤,Lat,Tra,Tafのうち異なる2剤をランダムに割り振り,1日1回1週間点眼した.点眼開始前(点眼前),初回点眼開始1時間後(1時間後),初回点眼開始1週間後(1週間後),および点眼を中止してから1週間後(中止1週間後)にGoldmann圧平眼圧計を用いて眼圧を測定した.同一例左右眼における異なる2剤のPG製剤の1週間後の眼圧下降率(点眼前眼圧から1週間後眼圧を差し引き点眼前眼圧で除したもの)について二重盲検法によって検証した.異なる2剤のPG製剤間の比較は,Latと〔別刷請求先〕木村健一:〒629-0392京都府南丹市日吉町保野田ヒノ谷6-1明治国際医療大学眼科学教室Reprintrequests:KenichiKimura,M.D.,DepartmentofOphthalmology,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine,6-1Hinotani,Honoda,Hiyosi-cho,Nantan-shi,Kyoto629-0392,JAPAN3種のプロスタグランジン製剤の眼圧下降効果の比較検討木村健一*1長谷川謙介*2寺井和都*1*1明治国際医療大学眼科学教室*2明治国際医療大学健康予防鍼灸学部IntraocularPressure-LoweringEffectof3KindsofProstaglandinAnalogsKenichiKimura1),KensukeHasegawa2)andKazutoTerai1)1)DepartmentofOphthalmology,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine,2)DepartmentofHealthPromotingandPreventiveAcupunctureandMoxibustion,MeijiUniversityofIntegrativeMedicine健常者37名の左右眼それぞれに異なるプロスタグランジン製剤を1週間点眼した.点眼前,点眼開始1時間後,点眼開始1週間後および点眼を中止してから1週間後に眼圧測定を行い,眼圧下降効果について二重盲検法によって検証した.左右眼にはラタノプロスト(Lat),トラボプロスト(Tra),タフルプロスト(Taf)のうち2剤をランダムに割り振り,Lat-Tra群(n=10),Tra-Taf群(n=14),Taf-Lat群(n=13)とした.統計的解析は対応のあるt検定を用いた.いずれのプロスタグランジン製剤も点眼開始1週間後には点眼前と比較して有意に眼圧が下降したが,各プロスタグランジン製剤の眼圧下降率に有意差は認められなかった.3剤の眼圧下降効果はほぼ同等であることが確認された.Toevaluatetheintraocularpressure-loweringeffectof3kindsofprostaglandinanalogs,weadministeredvariouscombinationsoflatanoprost(Lat),travoprost(Tra)andtafluprost(Taf)totheeyesofhealthyvolunteers(n=37)inonce-dailyapplicationsfor1week.Thesubjectswererandomizedinto3groups:Lat-Tra(n=10),Tra-Taf(n=14)andTaf-Lat(n=13)groups.Intraocularpressure(IOP)wasmeasuredatbaseline,at1hour,1weekand2weeksafterinitiation.StatisticaldifferenceswereanalyzedbyStudent’spaired-ttest.ResultsshowedsignificantdecreaseinIOPafteroneweek.NosignificantIOPreductionrateswereobservedineithereyeofanyvolunteerineachgroupafter1week.WeconcludedthateachprostaglandinanalogcanachievesimilarIOP-loweringeffects.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):441.443,2011〕Keywords:プロスタグランジン関連薬,眼圧下降効果,ラタノプロスト,トラボプロスト,タフルプロスト.prostaglandinanalogs,intraocularpressure-loweringeffect,latanoprost,travoprost,tafluprost.442あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(134)Traを割り振った群をLat-Tra群,TraとTafを割り振った群をTra-Taf群,TafとLatを割り振った群をTaf-Lat群とした.なお,データはすべて平均±標準偏差で示した.統計的解析は対応のあるt検定を用いた.また,すべての被験者に本研究の目的,意義,方法,予測される危険性について医師が説明し,文書による同意を得た後に行った.II結果対象の背景を表1に示す.Lat-Tra群の眼圧変化を図1に示す.Lat点眼では点眼前12.6,1週間後10.0mmHgで,眼圧下降率は20.8±10.2%であった.Tra点眼では点眼前12.8,1週間後9.5mmHgで,眼圧下降率は25.8±12.0%であった.2剤の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.2237).Tra-Taf群の眼圧変化を図2に示す.Tra点眼では点眼前14.7,1週間後10.5mmHgで,眼圧下降率は28.6±16.2%であった.Taf点眼では点眼前15.3,1週間後11.0mmHgで,眼圧下降率は27.5±14.7%であった.2剤の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.7548).Taf-Lat群の眼圧変化を図3に示す.Taf点眼では点眼前12.8mmHg,1週間後9.2mmHgで,眼圧下降率は28.7±13.0%であった.Lat点眼では点眼前12.5mmHg,1週間後9.7mmHgで,眼圧下降率は23.1±11.0%であった.2剤の眼圧下降率に有意差を認めなかった(p=0.0623).III考按今回,Lat,Tra,TafのいずれのPG製剤においても1週間後には点眼前と比較して有意な眼圧下降が認められた.一方で,各PG製剤間の眼圧下降率には有意差を認めなかった.この3剤は緑内障治療薬の第一選択薬として広く用いられているが,使い分けるための明確な基準がないため,日常診療においてはいずれのPG製剤を用いるべきか判断するのが困難である.Latはわが国で10年以上の使用経験がある使い慣れた点眼薬で,その安定した眼圧下降効果は報告されている7).しかし,眼圧下降率には個人差があり,期待された眼圧下降の得られないいわゆるノンレスポンダーの存在も指摘されている8~10).このためTra,Tafにおいても眼圧下降率には個人差が生じ,十分な眼圧下降が得られない可能性も考えられる.緑内障治療における薬物療法は生涯にわたって点眼が必要であり,視機能を維持するためには1mmHgでも大きな眼圧下降が望まれるため5),点眼の導入にあたってはいずれのPG製剤を用いるべきかの選択が重要である.緑内障ガイドライン11)では,「点眼の導入にあたって,できれば片眼に投与してその眼圧下降や副作用を判定(片眼トライアル)し,効果を確認の後両眼に投与を開始することが望ましい」とされ,臨床的にレスポンダー,ノンレスポンダーを見分ける方法として点眼薬の片眼トライアルが推奨されてきた.片眼トライアルを成立させるためには,「1.トライアルの開始時に両眼とも同じ眼圧,2.両眼は同様な日内変動をする,3.片眼に投与する薬剤は他眼に影響を及ぼさないも表1対象の背景年齢(歳)(mean±SD)性別(男/女)全体(n=37)20.8±1.620/17Lat-Tra群(n=10)20.1±1.74/6Tra-Taf群(n=14)21.1±2.05/9Taf-Lat群(n=13)20.8±1.611/216.014.012.010.08.06.04.02.00.0点眼前1時間後1週間後中止1週間後■:Lat■:Tra*,#:p=0.0001眼圧(mmHg)*#図1Lat.Tra群の眼圧変化16.014.012.010.08.06.04.02.00.0点眼前1時間後1週間後中止1週間後■:Taf■:Lat眼圧(mmHg)***#*,#:p<0.0001**:p<0.01図3Taf.Lat群の眼圧変化20.018.016.014.012.010.08.06.04.02.00.0点眼前1時間後1週間後中止1週間後■:Tra■:Taf眼圧(mmHg)*###*,#:p<0.0001**,##:p<0.01**図2Tra.Taf群の眼圧変化(135)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011443のであること」という前提条件がある12).この前提条件の3.に関しては,Latは非点眼側の眼圧は変化させなかった13)という報告があるため,PG製剤の導入にあたっては片眼トライアルが可能であると考えられている14).しかし,日常診療においては厳密に前提条件が満たされた理想的条件で評価できるとは限らないため,今回は両眼に異なる2剤のPG製剤を用いて眼圧下降効果を比較検討した.なお,副作用に関しては他で報告する予定である.今回の検討は対象が正常者で,点眼期間も1週間であり,眼圧下降率を評価するための眼圧測定も1回のみという問題点があるため,個々の症例にPG製剤を導入するにあたってはより理想的な条件のもとで,いずれのPG製剤で最大の眼圧下降効果が得られるかを確認することが重要であると考えられた.IV結論今回の検討では種類の異なるPG製剤間の眼圧下降効果には有意差を認めなかった.本論文の要旨は第20回日本緑内障学会(2009年11月,沖縄県)において発表した.文献1)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Comparisonofglaucomatousprogressionbetweenuntreatedpatientswithnormaltensionglaucomaandpatientswiththerapeuticallyreducedintraocularpressures.AmJOphthalmol126:487-497,19982)CollaborativeNormal-TensionGlaucomaStudyGroup:Theeffectivenessofintraocularpressurereductioninthetreatmentofnormal-tensionglaucoma.AmJOphthalmol126:498-505,19983)TheAGISInvestigators:TheAdvancedGlaucomaInterventionStudy(AGIS)7:Therelationshipbetweencontrolofintraocularpressureandvisualfielddeterioration.AmJOphthalmol130:429-440,20004)LichterPR,MuschDC,GillespieBWetal:fortheCIGTSStudyGroup:InterimclinicaloutcomesintheCollaborativeInitialGlaucomaTreatmentStudycomparinginitialtreatmentrandomizedtomedicationsorsurgery.Ophthalmology108:1943-1953,20015)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment:theearlymanifestglaucomatrial.ArchOphthalmol121:48-56,20036)O’ConnorDJ,MartoneJF,MeadA:Additiveintraocularpressureloweringeffectofvariousmedicationswithlatanoprost.AmJOphthalmol133:836-837,20027)KashiwagiK,TsumuraT,TsukaharaS:Long-termeffectsoflatanoprostmonotherapyonintraocularpressureinJapaneseglaucomapatients.JGlaucoma17:662-666,20088)RossettiL,GandolfiS,TraversoCetal:Anevaluationoftherateofnonresponderstolatanoprosttherapy.JGlaucoma15:238-243,20069)井上賢治,泉雅子,若倉雅登ほか:ラタノプロストの無効率とその関連因子.臨眼59:553-557,200510)IkedaY,MoriK,IshibashiTetal:Latanoprostnonresponderswithopen-angleglaucomaintheJapanesepopulation.JpnJOphthalmol50:153-157,200611)阿部春樹,北澤克明,桑山泰明ほか:緑内障ガイドライン(第2版).日眼会誌110:777-814,200612)SmithJ,WandelT:Rationalefortheone-eyetherapeutictrial.AnnOphthalmol18:8,198613)TakahashiM,HigashideT,SakuraiMetal:Discrepancyoftheintraocularpressureresponsebetweenfelloweyesinone-eyetrialsvs.bilateraltreatment:verificationwithnormalsubjects.JGlaucoma17:169-174,200814)杉山和久:緑内障治療薬の片眼トライアルの方法と評価のポイントは?.あたらしい眼科25(臨増):154-156,2008***

前眼部光干渉断層計(RTVue-100®)を用いた線維柱帯切除術後濾過胞の観察

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(127)435《原著》あたらしい眼科28(3):435.439,2011cはじめに光干渉断層計(opticalcoherencetomography:OCT)は,おもに眼底観察,特に黄斑疾患の観察や,その病態評価での有用性が認められ著しく発展した.最近は,前眼部光干渉断層計(前眼部OCT)により前眼部観察にも適応が拡大され,角膜,結膜,前房,隅角の定量的,客観的解析が可能となり,さまざまな前眼部疾患の病態解明に貢献している.また,前眼部OCTは従来から前眼部観察に用いられてきた超音波生体顕微鏡とは異なり,眼組織に接触せず非侵襲的に前眼部断層像を取得できるという特徴がある.RTVue-100R(Optovue社製)は眼底観察用として開発されたスペクトラルドメインOCTであり,おもに網膜疾患や緑内障の病態評価に用いられているが,前眼部撮影用レンズ(corneaanteriormodule:CAM)を装着することで前眼部〔別刷請求先〕清水恒輔:〒078-8510旭川市緑が丘東2条1丁目1-1旭川医科大学眼科学講座Reprintrequests:KosukeShimizu,M.D.,DepartmentofOphthalmology,AsahikawaMedicalCollege,2-1-1-1Midorigaokahigashi,Asahikawa078-8510,JAPAN前眼部光干渉断層計(RTVue-100R)を用いた線維柱帯切除術後濾過胞の観察清水恒輔*1川井基史*1花田一臣*2坪井尚子*1山口亨*1阿部綾子*1吉田晃敏*1*1旭川医科大学眼科学講座*2同医工連携総研講座EvaluationofTrabeculectomyBlebsUsingAnteriorSegmentOpticalCoherenceTomography(RTVue-100R)KosukeShimizu1),MotofumiKawai1),KazuomiHanada2),NaokoTsuboi1),ToruYamaguchi1),AyakoAbe1),andAkitoshiYoshida1)1)DepartmentofOphthalmology,2)DepartmentofMedicineandEngineeringCombinedResearchInstitute,AsahikawaMedicalCollege線維柱帯切除術後濾過胞(濾過胞)をRTVue-100R(Optovue社製)に前眼部撮影用レンズ(corneaanteriormodule:CAM)を装着して観察した.RTVue-100Rは波長840nmの眼底観察用光源を使用しているため,波長1,310nmの光源を使用する前眼部光干渉断層計と比較して組織深達度は低いが,解像度が高いという特徴がある.本装置を用いて房水漏出のある術後早期濾過胞を観察すると,房水漏出部位において濾過胞結膜と角膜輪部との離開が観察できた.また,縫合閉鎖により房水漏出が消失すると,同部位が濾過胞結膜上皮と角膜上皮で覆われる所見が得られた.RTVue-100Rを用いると,濾過胞結膜上皮と角膜上皮が描出でき,濾過胞表層における組織構造の観察が可能であった.WeimagedtrabeculectomyblebsusingtheRTVue-100R(Optovue,Inc.,Fremont,CA)withthecornealanteriormodule.Becausethisopticalcoherencetomography(OCT)instrument,whichwasdevelopedforfundusimaging,employsan840-nmwavelengthlightsource,tissuepenetrationislessthanthatofotheranterior-segment(AS)-OCTinstrumentsemployinga1,310-nmwavelengthlightsource.However,imagesofhigheraxialresolutionmaybeobtainedusingtheRTVue-100R.Inacaseofleakingbleb,theconjunctivawasseparatedfromthecorneallimbusatthesiteoftheblebleakintheearlypostoperativeperiod.Aftertheblebleakwasresolvedbysuturerepair,weobtainedanimageofthesite,coveredbyconjunctivalandcornealepithelium.UsingthisAS-OCTinstrument,weobtainedimagesoftheblebandcornealepitheliumandhistologicimagesofsuperficialfeaturesinthebleb.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):435.439,2011〕Keywords:緑内障,前眼部光干渉断層計,線維柱帯切除術,濾過胞.glaucoma,anteriorsegmentopticalcoherencetomography,trabeculectomy,bleb.436あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(128)OCTとしても使用可能である.本装置は波長840nmの眼底観察用光源を使用しているが,これは前眼部に特化した他の前眼部OCT(波長1,310nm)と比較して短波長である.前眼部は眼底とは異なり組織表面の凹凸が多く,さらに強膜や結膜,虹彩といった不透明組織を含んでいる.したがって,短波長光源を使用する本装置を用いて前眼部を撮影した場合,組織深達度が不足するため十分な観察を行えない可能性がある.しかし一方で,本装置は解像度が高いという特徴があり,花田ら1)は本装置を用いて糖尿病角膜症での上皮の治癒過程を詳細に観察した.近年,前眼部OCTを用いて細隙灯顕微鏡では観察に限界のある線維柱帯切除術後濾過胞(濾過胞)の内部構造を非侵襲的に評価できることが報告2,3)されているが,本装置を用いて濾過胞を観察した報告はない.今回筆者らは,RTVue-100Rを前眼部OCTとして用い,濾過胞の観察を行ったので報告する.I対象および方法対象は,円蓋部基底結膜弁を用いて線維柱帯切除術を施行後,房水漏出が認められず良好な眼圧が長期間維持されている濾過胞(機能性濾過胞)を有する1例(症例1)と,術後早期濾過胞を有する2例である(症例2,3).濾過胞の観察には,細隙灯顕微鏡とRTVue-100RにCAMを装着した前眼部OCT(図1)を用いた.眼圧はGoldmann圧平眼圧計で測定した.II症例〔症例1〕68歳,女性.続発閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切除術後64日目の所見である.眼圧は8mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,濾過胞形状はびまん性であった(図2a).角膜輪部に対して垂直に長さ6mmのラインスキャンを行ったところ(図2b),広い強膜弁上腔と濾過胞壁内のマイクロシストが観察された.また,結膜切開部位における濾過胞結膜と角膜輪部の接触幅は長く,同部位は濾過胞結膜上皮と角膜上皮で覆われていた(図2c).〔症例2〕71歳,男性.全層角膜移植術後に発症した続発閉塞隅角緑内障に対する線維柱帯切除術後10日目の所見である.眼圧は9mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,濾過胞はびまん性であった(図3a).Seidel試験は陰性であった(図3b).角膜輪部に対して垂直に長さ6mmのラインスキャンを行ったところ(図3c),症例1と同様に,結膜切開部位における濾過胞結膜と角膜輪部の接触幅は長く,同部位は濾過胞結膜上皮と角膜上皮で覆われていた(図3d).〔症例3〕74歳,男性.原発開放隅角緑内障に対する線維柱帯切除術後9日目の所見である.眼圧は4mmHgであった.細隙灯顕微鏡検査では,濾過胞はやや縮小していた*SS250μmabc図2症例1(機能性濾過胞)の細隙灯顕微鏡およびRTVue-100Rによる画像所見a:細隙灯顕微鏡所見.濾過胞はびまん性である.b:撮影部位(ラインスキャンの長さは6mmで角膜輪部に垂直である).c:広い強膜弁上腔,マイクロシスト(矢頭)が観察できる.濾過胞結膜と角膜輪部の接触幅は長く(破線矢印),結膜切開部位は上皮によって覆われている(*).SS:強膜弁上腔.図1前眼部撮影用レンズ(corneaanteriormodule:CAM)を装着したRTVue-100R(Optovue社製)の外観(129)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011437abcd*SS250μm図3症例2(房水漏出のない術後早期濾過胞)の細隙灯顕微鏡およびRTVue-100Rによる画像所見a:細隙灯顕微鏡所見.濾過胞はびまん性である.b:Seidel試験.房水漏出は認められない.c:撮影部位(ラインスキャンの長さは6mmで角膜輪部に垂直である).d:濾過胞結膜と角膜輪部の接触幅は長く(破線矢印),結膜切開部位は上皮によって覆われている(*).SS:強膜弁上腔.abcdefSSSSSS250μm250μm250μm図4症例3(房水漏出のある術後早期濾過胞)の細隙灯顕微鏡およびRTVue-100Rによる画像所見a:細隙灯顕微鏡所見.濾過胞はやや縮小している.b:Seidel試験.房水漏出を認める.c:撮影部位(ラインスキャンの長さは6mmで角膜輪部に垂直である).d:濾過胞結膜と角膜輪部は離開している(矢印).e:房水漏出部位を縫合閉鎖後翌日の所見.縫合部位における濾過胞結膜上皮と角膜上皮の再生は不完全である(矢印).f:縫合閉鎖後9日目の所見.縫合部位は再生した上皮で覆われている(矢印).SS:強膜弁上腔.438あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(130)(図4a).Seidel試験は陽性であった(図4b).角膜輪部に対して垂直に長さ6mmのラインスキャンを行ったところ(図4c),症例1,2とは異なり,房水漏出部位において濾過胞結膜と角膜輪部は離開していた(図4d).その後,同部位からの房水漏出が遷延したため10-0ナイロン糸で縫合閉鎖したところ,翌日のSeidel試験は陰性となり,眼圧は15mmHgに上昇した.このときの画像所見では,縫合部位における濾過胞結膜上皮と角膜上皮の描出は不鮮明であった(図4e)が,縫合閉鎖9日後の所見では,同部位における上皮の存在が確認できた(図4f).Seidel試験は陰性を維持しており,眼圧は18mmHgであった.III考按RTVue-100Rを前眼部OCTとして用いた報告には,角膜厚4),涙液メニスカス5,6)を対象としたものがあるが,濾過胞を対象とした報告はない.前眼部OCTを用いた濾過胞観察では,Singhら2)はプロトタイプの前眼部OCT(CarlZeiss社製)を用いて,機能性濾過胞では濾過胞壁が厚く,機能不全の濾過胞では濾過胞の丈が低く,強膜窓が閉塞していたと報告した.またMullerら3)は,スリットランプに接続した前眼部OCT(Heidelberg社製)を用いて濾過胞を観察し,機能性濾過胞では低信号で,マイクロシスト,粗な内部構造が観察されたと報告した.今回筆者らは,RTVue-100Rを用いて濾過胞を観察したところ,濾過胞深部の描出は不鮮明であったが,濾過胞壁とその内部に存在するマイクロシスト,強膜弁上腔の描出が可能であった.さらに,本装置を用いて得られた画像所見で特徴的であったのは,濾過胞結膜上皮と角膜上皮を描出でき,それらの経時変化を観察できたことである.OCTには1,310nmと840nmの波長を採用する様式がある.波長1,310nmのOCTは解像度が25μm以下と低いが,組織深達度は7mmと高く,おもに前眼部観察用に使用されている.一方,波長840nmのOCTは,組織深達度が2~2.3mmと低いが解像度は5μmと高いため鮮明な画像が得られるという特徴があり7),おもに眼底観察用として使用されている.Singhら8)は,前眼部OCTである波長840nmのCirrusHD-OCTR(CarlZeiss社製)と,波長1,310nmのVisanteOCTR(CarlZeiss社製)を用いて得られた濾過胞所見を比較したところ,前者では濾過胞内腔,強膜弁,強膜弁下腔,強膜窓など濾過胞深部の検出力は劣っていたが,濾過胞壁内部構造の検出には優れていたと報告しており,短波長光源を使用する前眼部OCTは濾過胞壁の観察に有用であると考えられる.今回,筆者らが用いたRTVue-100RはSinghらが使用した前眼部OCTと同じ波長840nmの光源を使用している.したがって,長波長光源を使用する前眼部OCTでは検出困難な濾過胞表層の組織構造が観察できたと考えられた.また,本装置はスペクトラルドメインOCTであるためタイムドメインOCTと比較して撮影時間が0.01~0.15秒と短く,被験者の眼球運動に左右されにくいという特徴もある.そこで,濾過胞結膜上皮と角膜上皮の所見について着目すると,症例1,2に示した機能性濾過胞と房水漏出のない術後早期濾過胞では,結膜切開部位が濾過胞結膜上皮と角膜上皮で覆われている様子が観察できた.このような所見を認める場合,症例2のように術後早期であっても房水漏出が生じにくく,良好な濾過胞が維持されることが示唆された.一方,症例3に示した房水漏出のある術後早期濾過胞では,房水漏出部位において濾過胞結膜と角膜輪部は離解していた.本症例では保存的に経過観察を行ったが,同部位からの房水漏出が遷延したため,10-0ナイロン糸で縫合閉鎖した.翌日の所見では縫合部位における濾過胞結膜上皮と角膜上皮の再生は不完全であったが,9日後には再生した上皮で覆われていた.その後も房水漏出は再発せずに良好な濾過胞が維持された.本症例では,房水漏出部位の縫合閉鎖により房水漏出が減少または消失すると,同部位において濾過胞結膜上皮と角膜上皮の再生が促進される様子を観察できたと考えられた.このように,RTVue-100Rを前眼部OCTとして使用すると,濾過胞表層の組織構造を観察することが可能であった.しかし先にも述べたとおり,眼底観察用に開発された本装置を用いて濾過胞深部を観察するのには限界があり,本装置を濾過胞観察に適応する際には観察部位を限定する必要があると思われる.以上,RTVue-100Rを用いて濾過胞観察,特に濾過胞表層の組織構造を観察できることが確認できた.今後症例を積み重ね,本装置を線維柱帯切除術後早期管理の補助装置として活用できるか否かを検討していきたい.本稿の要旨は第20回日本緑内障学会(2009年11月,沖縄県)において発表した.文献1)花田一臣,五十嵐羊羽,石子智士ほか:前眼部光干渉断層計を用いて観察した糖尿病角膜症.あたらしい眼科26:247-253,20092)SinghM,ChewPT,FriedmanDSetal:Imagingoftrabeculectomyblebsusinganteriorsegmentopticalcoherencetomography.Ophthalmology114:47-53,20073)MullerM,HoeraufH,GeerlingGetal:Filteringblebevaluationwithslit-lamp-adapted1310-nmopticalcoherencetomography.CurrEyeRes31:909-915,20064)IshibazawaA,IgarashiS,HanadaKetal:CentralCornealThicknessMeasurementswithFourier-DomainOpticalCoherenceTomographyversusUltrasonicPachymetry(131)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011439andRotatingScheimpflugCamera.Cornea,inpress5)WangY,ZhuangH,XuJetal:Dynamicchangesinthelowertearmeniscusafterinstillationofartificialtears.Cornea29:404-408,20106)KeechA,FlanaganJ,SimpsonTetal:TearmeniscusheightdeterminationusingtheOCT2andtheRTVue-100.OptomVisSci86:1154-1159,20097)川名啓介,大鹿哲郎:前眼部OCT検査の機器機器一覧.あたらしい眼科25:623-629,20088)SinghM,SeeJL,AquinoMCetal:High-definitionimagingoftrabeculectomyblebsusingspectraldomainopticalcoherencetomographyadaptedfortheanteriorsegment.ClinExperimentOphthalmol37:345-351,2009***

落屑緑内障眼の角膜内皮細胞所見の検討

2011年3月31日 木曜日

430(12あ2)たらしい眼科Vol.28,No.3,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《原著》あたらしい眼科28(3):430.434,2011cはじめに落屑症候群は虹彩瞳孔縁や水晶体前面にふけ様の偽落屑物質(PEX)が沈着する結合組織疾患である.このPEXはさまざまな眼組織だけでなく全身で検出されることから,現在では落屑症候群は全身性疾患と考えられている.一般に落屑症候群に高眼圧開放隅角緑内障を合併した場合,落屑緑内障とよばれる.落屑症候群は角膜内皮細胞障害の原因の一つと考えられており,落屑角膜症(pseudoexfoliationkeratopathy)ともよばれている.病理学的には角膜内皮細胞にPEXの産生所見や変性脱落所見が報告されている1,2).角膜内皮細胞数の減少だけでなく,形態異常や細胞接着障害の報告もみられ〔別刷請求先〕坂上悠太:〒951-8510新潟市中央区旭町通一番町757番地新潟大学大学院医歯学総合研究科感覚統合医学講座視覚病態学分野Reprintrequests:YutaSakaue,M.D.,DepartmentofOphthalmologyandVisualScience,NiigataUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences,757Asahichodoori-ichiban-cho,Chuo-ku,Niigata-shi951-8510,JAPAN落屑緑内障眼の角膜内皮細胞所見の検討坂上悠太福地健郎関正明田中隆之栂野哲哉芳野高子上田潤原浩昭白柏基宏阿部春樹新潟大学大学院医歯学総合研究科感覚統合医学講座視覚病態学分野CornealEndothelialExaminationofExfoliationGlaucomaYutaSakaue,TakeoFukuchi,MasaakiSeki,TakayukiTanaka,TetsuyaTogano,TakaikoYoshino,JunUeda,HiroakiHara,MotohiroShirakashiandHarukiAbeDivisionofOphthalmologyandVisualScience,NiigataUniversityGraduateSchoolofMedicalandDentalSciences目的:落屑緑内障眼の角膜内皮細胞所見について検討した.対象および方法:対象は緑内障手術の適応となった落屑緑内障患者47例で,手術眼を落屑緑内障手術群(XFG手術群)とし,その僚眼を落屑緑内障非手術群(XFG非手術群)とした.原発開放隅角緑内障患者63例63眼(OAG群),加齢白内障患者47例47眼(CAT群)と比較した.スペキュラーマイクロスコープにより細胞密度(CD),平均細胞面積,六角形細胞出現率,変動係数を計測し比較した.結果:XFG手術群,非手術群,OAG群,CAT群のCDはそれぞれ2,408±236,2,514±254,2,601±295,2,829±306(cells/mm2)で,XFG非手術群とOAG群間以外のすべての群間で有意差がみられた.XFG手術群のCDと発見時眼圧,経過観察期間との間に有意な相関がみられた.結論:落屑緑内障眼ではCDは有意に小さかった.発見時眼圧が高く経過観察期間が長いほどCDが小さい傾向がみられた.Purpose:Weexaminedcornealendothelialcellsofexfoliationglaucoma.Methods:Cornealendothelialcellswereexaminedin47eyeswithexfoliationglaucomaforwhichsurgerywasindicated(surgeryXFGgroup),theirfelloweyes(non-surgeryXFGgroup),63eyeswithprimaryopen-angleglaucoma(OAGgroup)and47eyeswithage-relatedcataract(CATgroup).Specularmicroscopicobservationwasperformedandcornealendothelialcelldensity(CD),meanarea,hexagonalityandcoefficientofvariationincellareaweredetermined.Results:CDinthesurgeryXFGgroup,non-surgeryXFGgroup,OAGgroupandCATgroupwas2,408±236,2,514±254,2,601±295and2,829±306cells/mm2,respectively;thereweresignificantdifferencesotherthanbetweenthenon-surgeryXFGgroupandtheOAGgroup.ThereweresignificantcorrelationsbetweenCDinthesurgeryXFGgroupandintraocularpressurewhendiagnosedorfollow-upduration.Conclusions:AstatisticallysignificantreductionofCDwasobservedinexfoliationglaucoma.Thehighertheintraocularpressurewhendiagnosed,orthelongerthefollow-upduration,thelowertheCD.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):430.434,2011〕Keywords:落屑緑内障,角膜内皮細胞,偽落屑物質,スペキュラーマイクロスコープ.exfoliationglaucoma,cornealendothelialcell,pseudoexfoliation,specularmicroscope.(123)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011431る1~3).落屑緑内障では眼内手術などの処置を受ける機会が多く,その予後を考慮するうえでも角膜内皮所見の観察と評価は重要と考えられる.そこで今回,筆者らは落屑緑内障患者の角膜内皮細胞所見について観察し,眼圧その他の臨床的因子との関係について検討した.I対象および方法対象は新潟大学医歯学総合病院および関連病院で何らかの緑内障手術の適応となった落屑緑内障患者47例である.平均年齢は71.5±7.7歳(平均±標準偏差,以下同様)で男性31例,女性16例である.手術眼を落屑緑内障手術群(XFG手術群)とし,その僚眼を落屑緑内障非手術群(XFG非手術群)とした.さらにXFG非手術群をPEXの有無でPEX(+)群20例(18例が落屑緑内障,2例が落屑症候群)とPEX(.)群27例(10例が広義・原発開放隅角緑内障:OAG)とに分けた.XFG手術群の術式は線維柱帯切除術19例,白内障手術(超音波乳化吸引術+眼内レンズ挿入術,以下同様)+線維柱帯切除術2例,線維柱帯切開術4例,白内障手術+線維柱帯切開術20例,白内障手術のみが2例であった.同時期に緑内障手術を行ったOAG患者63例63眼をOAG群とし,XFG手術群と年齢および性別を一致させた加齢白内障患者47例47眼をCAT群として比較した.OAG群の平均年齢は68.4±8.5歳で男性32例,女性31例で,CAT群の平均年齢は71.6±7.6歳で男性31例,女性16例であった.OAG群の術式は線維柱帯切除術45例,白内障手術+線維柱帯切除術3例,線維柱帯切開術1例,白内障手術+線維柱帯切開術9例,白内障手術のみが5例であった.CAT群では全例が白内障手術を行った.いずれの群においても,手術時年齢50歳以上90歳未満で,レーザー治療や内眼手術の既往がなく初回手術となり,角膜疾患やぶどう膜疾患など明らかな眼疾患の既往を認めない患者を対象とした.術前にスペキュラーマイクロスコープで計測した細胞密度(CD),平均細胞面積(AVE),六角形細胞出現率(6A),変動係数(CV)をXFG手術群と各群間で比較した.CDについてはXFG非手術群,OAG群,CAT群間でもそれぞれ比較し,XFG非手術群をPEX(+)群とPEX(.)群とに分けた場合も比較検討した.また,XFG手術群の発見時眼圧,Humphrey静的自動視野計中心プログラム30-2の平均偏差値(MD),年齢,経過観察期間についてCDとの相関を検討した.各群の比較にはMann-WhitneyのU検定を用い,相関の検討にはSpearmanの順位相関係数の検定を用いた.有意水準p<0.05で検定した.II結果XFG手術群,非手術群,OAG群,CAT群のCDはそれぞれ2,408±236,2,514±254,2,601±295,2,829±306(cells/mm2)で,XFG非手術群とOAG群間以外のすべての群間において有意差がみられた.CDと同様にAVEでも有意差がみられた(表1,2).XFG非手術群においてPEX(+)群のCDは2,428±245(cells/mm2),PEX(.)群のCDは2,574±248(cells/mm2)であり有意差がみられた.XFG手術群と非手術PEX(+)表1各群のスペキュラーマイクロスコープ所見XFG手術群(n=47)XFG非手術群(n=47)p値OAG群(n=63)p値CAT群(n=47)p値年齢(歳)71.5±7.771.5±7.768.4±8.50.07771.6±7.60.958性別(男/女)31/1631/1632/3131/16CD(cells/mm2)2,408±2362,514±2540.027*2,601±295<0.01**2,829±306<0.01**AVE(μm2)419±40.9402±40.80.027*389±45.5<0.01**357±37.1<0.01**6A(%)57.1±10.356.2±10.80.47752.7±13.20.08954.0±8.10.053CV35.7±6.734.5±5.00.63336.6±5.90.50937.3±6.00.195p値:各群とXFG手術群との比較で,Mann-WhitneyのU検定による.*:p<0.05,**:p<0.01.表2各群間のCDの比較CDの比較XFG非手術群OAG群CAT群XFG手術群p=0.0269*p=0.0005**p<0.0001**XFG非手術群─p=0.0903p<0.0001**OAG群──p=0.0006**Mann-WhitneyのU検定による.*:p<0.05,**:p<0.01.表3CDの比較:XFG手術群と非手術群PEX(+).PEX(-)手術群非手術群(n=47)PEX(+)群(n=20)PEX(.)群(n=27)性別(男/女)31/1616/415/12CD(cells/mm2)2,408±2362,428±2452,574±248p=0.7824p=0.0191*CAT群との比較p<0.0001**p<0.0001**p=0.0010**Mann-WhitneyのU検定による.*:p<0.05,**:p<0.01.432あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(124)群間には有意差はみられなかった.PEX(.)群とCAT群の間には有意差がみられた(表3).XFG手術群のCDと発見時眼圧,経過観察期間との間に有意な相関がみられたが,MD,年齢との間には相関はみられなかった(表4).6A,CVについてはいずれの群間でも有意差はみられなかった.III考按落屑緑内障のわが国での頻度は40歳以上で0.25%,70歳以上では0.82~0.86%と多治見スタディで報告されている4).落屑緑内障は続発緑内障の一型ではあるが原因治療は不可能で,治療は狭義のOAGに準ずる.しかし,落屑緑内障をOAGと比較した場合に,初診時眼圧はより高値で,視野障害も重篤なことが多い.EMGT(theEarlyManifestGlaucomaTrial)の結果ではPEXの存在は開放隅角緑内障の視野障害進行の非常に強いリスクファクターであると報告されている5,6).したがって,薬物治療によっても高眼圧が持続する場合には積極的に手術治療を考慮する必要がある.内眼手術による合併症の点でも落屑緑内障眼では角膜内皮細胞所見に対する配慮は重要と考えられる.今回の検討でXFG手術群,OAG群,CAT群のCDを比較するといずれの群間でも有意差がみられた.XFG手術群がOAG群よりもCDが有意に小さかったことから,PEXが角膜内皮細胞減少に関係しているのではないかと考え,XFG非手術群をPEX(+)群とPEX(.)群とに分けて比較した.XFG手術群のCDはXFG非手術群のCDより有意に小さかったが,PEX(+)群とXFG手術群間に有意差はみられず,PEX(+)群はPEX(.)群に比較してCDが有意に小さかった.このことから手術適応の有無は関係なく,CDはPEXの有無に依存すると考えられた.片眼性落屑緑内障とその僚眼,片眼性落屑症候群とその僚眼の比較で,いずれもPEXを有する眼のほうが有意にCDの減少を認めたという報告もあり7),やはりPEXが角膜内皮細胞減少に関係している可能性が示唆された.落屑緑内障や落屑症候群における角膜内皮細胞障害の原因は明らかではないが,房水性状の変化や血液房水柵の破綻が原因の一つではないかと考えられる.Brooksらは正常な虹彩血管循環が角膜内皮細胞の維持に関与すると報告している8)が,落屑症候群や落屑緑内障では血液房水柵が障害されるという報告があり1,9,10),血液房水柵の障害が角膜内皮細胞障害の一因となりうることが示唆される.また,Naumannらは病理学的に角膜内皮細胞によるPEXの産生,変性や脱落が認められたと報告しており,細胞密度減少や接着障害につながる可能性を指摘している.PEXが角膜実質浮腫,混濁の原因となることがあり落屑角膜症とよばれている1,2).これまでにも落屑症候群,緑内障の角膜内皮細胞に関して検討した研究は多くみられる.既報におけるCDの検討については表5にまとめた.服部らの報告11)では,片眼性落屑症候群とその僚眼および正常眼とを比較し,患眼とその僚眼は正常眼よりCDが小さく,患眼と僚眼との間には差がなかった.落屑症候群の正常眼圧群と高眼圧群でもCDに差はなかった.CVに差は認めないが,6Aは患眼・僚眼とも正常眼より減少していた.河野らの報告12)では,落屑症候群眼と片眼性落屑症候群の僚眼とでCD,AVE,6A,CVに差はみられないが,正常眼と比較するとCD,6Aは減少し,AVEは増加していた.CVには差がみられなかった.Wangらの報告13)では,落屑症候群眼と片眼性落屑症候群の僚眼および正常眼とを比較し,前二者は正常眼よりCDが小さく,前二者の間には差がなかった.落屑症候群眼の正常眼圧群と高眼圧群でCDに差はなかった.CDと前房フレア値は逆相関を示した.Inoueらの報告14)では,落屑症候群眼は正常眼と比較してCDは小さく,中心角膜厚は薄かった.6A・CVには差がみられず,落屑症候群眼において眼圧上昇の有無で各値に差はみられなかった.粟井らの報告7)では,落屑緑内障眼はOAG眼よりCDが小さく,OAG眼と正常眼表4XFG手術群におけるCDとの相関相関係数p値発見時眼圧0.30360.0380*MD.0.18260.2193年齢.0.01020.9456経過観察期間.0.41510.0070*Spearmanの順位相関係数の検定による.*:p<0.05.表5既報におけるCDの検討服部ら11)XFS≒僚眼<正常眼XFS正常眼圧群と高眼圧群の間に有意差なし河野ら12)XFS≒僚眼PEX(.)<正常眼Wangら13)XFS≒僚眼<正常眼XFS正常眼圧群と高眼圧群の間に有意差なしInoueら14)XFS<正常眼粟井ら7)XFG≒XFS<OAG≒正常眼片眼性XFS/XFGでは患眼で有意に小さいWailら3)XFS≒正常眼XFS:落屑症候群眼,XFG:落屑緑内障眼.A≒BはAとBのCDに有意差なし,A<BはAのCDが有意に小さいことを表す.(125)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011433のCDに差は認めなかった.落屑緑内障眼と眼圧上昇を伴わない落屑症候群眼のCDに差を認めず,片眼性のものでは患眼は僚眼よりCDが小さかった.Wailらの報告3)では,落屑症候群では正常眼と比較してCDに差はないが形態異常を認め,特に60歳以下の男性や落屑緑内障眼に形態異常が強い傾向があった.結果として,落屑症候群のCDは正常眼より小さく,患眼とその僚眼では有意差を認めない,眼圧上昇の有無で有意差を認めない,と結論する研究が多い11~14).本検討ではXFG手術群と僚眼PEX(.)群との間に差を認めた点が既報とは異なっている.今回の結果では6AやCVには差がみられなかったことから,細胞形態には異常はみられなかった.さらに,角膜内皮細胞密度が「発見時眼圧」「経過観察期間」と有意な相関があった点もこれまでの研究では指摘されたことがない.これらの理由として,今回の研究の対象は「手術適応となったXFG症例,OAG症例」であり,これまでの多くの研究の対象であった落屑症候群の症例よりも,PEXの影響を受けた症例,かつより高眼圧の症例を選択している可能性がある.また,経過観察期間と負の相関がみられた点については,長期間にわたる緑内障治療の影響を受けている可能性を考える必要がある.緑内障点眼薬が角膜内皮細胞減少に関与する可能性を指摘する報告もある15,16).今回の研究では内皮細胞密度と発見時眼圧の間に負の相関がみられた.既報では落屑症候群眼において正常眼圧群と高眼圧群で比較すると内皮細胞数に有意差は認められないという報告が多い7,11,13,14).一般にOAGでは角膜内皮細胞に対して眼圧上昇が及ぼす影響は少ない17)と考えられている.一方,閉塞隅角緑内障発作眼やPosner-Schlossman症候群では高眼圧眼で角膜内皮細胞減少が示されている18~20).落屑緑内障の角膜内皮細胞はOAGのそれとは異なりPEXの影響を受けている可能性がある.したがって,緑内障手術の対象となりうる高眼圧を伴う落屑緑内障という条件下では,眼圧による角膜内皮細胞への影響も考慮する必要があるのかもしれない.この点に関してはさらに高眼圧を伴わない落屑症候群の症例と比較する必要がある.今後,症例を増やして検討する予定である.一方,非手術PEX(.)群はCAT群に比較して有意にCDが小さかった.片眼性の落屑緑内障および落屑症候群の僚眼は,正常眼に比べ角膜内皮細胞が減少していると報告されており11~13),Mizunoらのcycloscopyにおける報告21)によると,片眼性落屑症候群の僚眼に77%の高頻度で毛様突起にPEXがみられたとされている.このことから細隙灯顕微鏡検査では片眼性とされる症例にも,両眼性の症例が多く含まれている可能性が考えられる.PEX(.)群27例中10例がOAGであったが,片眼性落屑緑内障眼の僚眼のうち約4割に緑内障に関連した異常(開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,高眼圧症など)を認めるという報告22)もあり,片眼性落屑緑内障眼においては僚眼も注意深く経過観察を行うべきと考えられる.今回の検討で,手術による減少でなく,偽落屑物質の有無が角膜内皮細胞減少に関係している可能性が示唆された.落屑緑内障では角膜内皮細胞減少の可能性があり,特に手術など侵襲を伴う際には注意を払う必要があると考えられた.本論文の要旨は第20回日本緑内障学会(2009年11月,沖縄県)において発表した.文献1)NaumannGOH,Schlotzer-SchrehardtU,KuchleM:Pseudoexfoliationsyndromeforthecomprehensiveophthalmologist.Intraocularandsystemicmanifestations.Ophthalmology105:951-968,19982)NaumannGOH,Schlotzer-SchrehardtU:Keratopathyinpseudoexfoliationsyndromeasacauseofcornealendothelialdecompensation.Aclinicopathologicstudy.Ophthalmology107:1111-1124,20003)WailUK,Bialasiewicz,AA,RizviSGetal:Invivomorphometryofcornealendothelialcellsinpseudoexfoliationkeratopathywithglaucomaandcataract.OphthalmicRes41:175-179,20094)YamamotoT,IwaseA,AraieMetal:TheTajimiStudyreport2;prevalenceofprimaryangleclosureandsecondaryglaucomainaJapanesepopulation.Ophthalmology112:1661-1669,20055)LeskeMC,HeijlA,HusseinMetal:Factorsforglaucomaprogressionandtheeffectoftreatment;theEarlyManifestGlaucomaTrial.ArchOphthalmol121:48-56,20036)LeskeMC,HeijlA,HymanLetal:PredictorsoflongtermprogressionintheEarlyManifestGlaucomaTrial.Ophthalmology114:1965-1972,20077)粟井奈々子,布田龍佑,宮川朋子ほか:落屑症候群における角膜内皮細胞数の変化.あたらしい眼科23:801-803,20068)BrooksAMV,GrantG,RobertsonIFetal:Progressivecornealendothelialcellchangesinanteriorsegmentdisease.AustNZJOphthalmol15:71-78,19899)萱澤文男,三宅武子,三宅謙作:眼内手術適応決定時の指標としての血液房水柵機能.眼臨81:2066-2068,198710)多田博行,高橋直人,木村保孝ほか:偽落屑症候群での血液房水柵.臨眼42:698-699,198811)服部靖:偽落屑症候群の角膜内皮細胞所見.日眼会誌94:957-963,199012)河野琢哉:落屑症候群における色素分散スコアと角膜内皮細胞障害.臨眼47:697-700,199313)WangL,YamasitaR,HommuraS:Cornealendothelialchangesandaqueousflareintensityinpseudoexfoliationsyndrome.Ophthalmologica213:387-391,199914)InoueK,OkugawaK,OshikaTetal:Morphologicalstudyofcornealendotheliumandcornealthicknessin434あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(126)pseudoexfoliationsyndrome.JpnJOphthalmol47:235-239,200315)星野美佐子,山田利津子,真鍋雄一ほか:開放隅角緑内障に対するピロカルピン及びチモロール点眼治療の角膜内皮に及ぼす影響.眼臨88:1842-1844,199416)井上賢治,庄司治代,若倉雅登ほか:ブリンゾラミドの角膜内皮への影響.臨眼60:183-187,200617)藤沢久美子,福田薫,大久保潔:生体で眼圧上昇が角膜内皮に与える影響.あたらしい眼科6:1709-1711,198918)星野美佐子,山田利津子,真鍋雄一ほか:眼圧上昇の角膜内皮に及ぼす影響.眼臨88:1839-1841,199419)目谷千聡,中村昌弘,小原喜隆:緑内障眼の角膜内皮障害の検討.眼紀43:306-310,199220)BigarF,WitmerR:Cornealendothelialchangesinprimaryacuteangle-closureglaucoma.Ophthalmology89:596-599,198221)MizunoK,MuroiS:Cycloscopyofpseudoexfoliation.AmJOphthalmol108:49-52,198922)布田龍佑:落屑症候群と緑内障.落屑症候群─その緑内障と白内障─(布田龍佑編),p81-104,メディカル葵出版,1994***

培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(117)425《原著》あたらしい眼科28(3):425.429,2011cはじめにドライアイ患者の眼表面では,涙液の分泌低下あるいは蒸発亢進により,涙液3層(水層・ムチン層・油層)構造が崩れ,涙液層の安定性の低下が認められている.涙液層は,水層だけでなく,油層およびムチン層の働きによってその表面張力が下げられることで安定化している.なかでも,ムチン層は,粘性の高い分泌型ムチンと角結膜上皮の表面に発現している膜結合型ムチンが相互に作用し,水層の眼表面への広がりおよび保持に貢献している1).これまでに,眼表面上皮の膜結合型ムチンとして,蛋白質の発現が確認されているのは,MUC1,MUC4およびMUC16であり,ドライアイ治療を考えるうえで,これら3〔別刷請求先〕七條優子:〒630-0101生駒市高山町8916-16参天製薬株式会社研究開発センターReprintrequests:YukoTakaoka-Shichijo,Research&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.,8916-16Takayamacho,Ikoma,Nara630-0101,JAPAN培養ヒト角膜上皮細胞におけるジクアホソルナトリウムの膜結合型ムチン遺伝子の発現促進作用七條優子中村雅胤参天製薬株式会社研究開発センターStimulatoryEffectofDiquafosolTetrasodiumontheExpressionofMembrane-BindingMucinGenesinCulturedHumanCornealEpithelialCellsYukoTakaoka-ShichijoandMasatsuguNakamuraResearch&DevelopmentCenter,SantenPharmaceuticalCo.,Ltd.SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T)における膜結合型ムチン遺伝子(MUC1,MUC4およびMUC16)の発現に及ぼすP2Y2受容体作動薬であるジクアホソルナトリウムの影響について定量的real-timepolymerasechainreaction(RT-PCR)法を用いて検討した.その結果,HCE-Tに100μMジクアホソルナトリウムを処理することにより,MUC1,MUC4およびMUC16,いずれの遺伝子の発現量も,添加3時間後には一過性に上昇し,その後定常レベルまで減少した.MUC1,MUC4およびMUC16において,添加3時間後の各遺伝子発現促進作用は,無処置群に比べていずれも有意であった.また,ジクアホソルナトリウムは,濃度依存的にMUC1,MUC4およびMUC16の遺伝子発現を促進し,100μMジクアホソルナトリムによるMUC1,MUC4およびMUC16の促進作用は,薬剤無添加群に比べて有意であった.以上から,ジクアホソルナトリウムは,角膜上皮細胞における膜結合型ムチンの遺伝子発現を促進させることが明らかとなった.ThisstudyinvestigatedtheeffectoftheP2Y2receptoragonistdiquafosoltetrasodiumontheexpressionofmembrane-bindingmucingenes(MUC1,MUC4andMUC16)inSV-40-immortalizedhumancornealepithelialcells(HCE-T),usingthequantitativereal-timepolymerasechainreaction(RT-PCR)method.GeneexpressionofMUC1,MUC4andMUC16increasedtransientlywith100μMdiquafosoltetrasodiumfor3h,thendecreasedaswellasconstitutivelevel.ThisenhancementofMUC1,MUC4andMUC16geneexpressionat3hwassignificantlydifferentfromthatseenintheno-treatmentgroup.DiquafosoltetrasodiumincreasedgeneexpressionofMUC1,MUC4andMUC16inaconcentration-dependentmanner,thestimulatoryeffectsofmucingeneexpressionby100μMdiquafosoltetrasodiumdifferingsignificantlyfromthoseseeninthevehicle-onlygroup.Theseresultsrevealedthatdiquafosoltetrasodiumstimulatesgeneexpressionofmembrane-bindingmucininhumancornealepithelialcells.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):425.429,2011〕Keywords:ジクアホソルナトリウム,P2Y2受容体作動薬,膜結合型ムチン遺伝子,ヒト角膜上皮細胞.diquafosoltetrasodium,P2Y2receptoragonist,membrane-bindingmucingenes,humancornealepithelialcells.426あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(118)種の膜結合型ムチンの眼表面への発現亢進について関心が高まっている2).ドライアイ治療薬の一つで,P2Y2受容体作動薬であるジクアホソルナトリウムは,結膜上皮組織,特に杯細胞からの分泌型ムチンの分泌を促進することが報告されている3,4).一方,ジクアホソルナトリウムの角結膜上皮における膜結合型ムチンの発現に対する作用については明らかにされていない.そこで今回,培養ヒト角膜上皮細胞を用いて,これら膜結合型ムチン(MUC1,MUC4およびMUC16)の発現に及ぼすジクアホソルナトリウムの影響について検討した.I実験方法1.細胞SV40不死化ヒト角膜上皮細胞(HCE-T,RCBNo.2280:理化学研究所より供与)は,培養培地〔15%ウシ血清(FBS),5μg/mLinsulin,10ng/mLhumanEGF,40μg/mLgentamicinを含むDMEM/F-12〕にて培養,継代維持した.HCE-Tは,75cm2フラスコ内に播種し,サブコンフルエントまで培養培地にて培養し,0.05%トリプシン.0.53mMEDTAにて.離し,培養培地に回収した.回収した細胞を24穴プレートの各穴に1mL(2.0×104/well)ずつ播種し,37℃,5%CO2インキュベーター内でコンフルエントまで培養した.その後,培養培地を除去し,DMEM/F-12培地に交換し,CO2インキュベーター(37℃,5%CO2)内で24時間培養した.その後,DMEM/F-12培地に溶解した種々濃度のジクアホソルナトリウム(ジクアホソル:ヤマサ醤油)を一定時間処理をした.2.総RNA抽出およびreal.timepolymerasechainreaction(RT.PCR)反応HCE-Tの総RNAの抽出は,RNeasyProtectCellminikit(QIAGEN)を使用し,製造元推奨プロトコールに従い行った.MUC1,MUC16およびGAPDH(グリセルアルデヒド3リン酸脱水素酵素)遺伝子には,50ngの総RNA,MUC4遺伝子には,100ngを用い,QuantiFastSYBRGreenRT-PCRKit(QIAGEN)を使用し,逆転写反応により,初期cDNA合成後,引き続きRT-PCRを行った.PCRには,宝酒造が設計した各種プライマー(表1)1μMを用いて,40サイクル〔50℃:10分,95℃:5分,95℃:10秒.60℃:30秒(40サイクル),95℃:15秒,65℃:1分〕の条件でABIPrism7500FastReal-TimePCRSystemにて増幅させた.3.解析a.相対定量解析検量線用あるいは未知サンプルのPCR増幅産物がある一定量に達したときのサイクル数(thresholdcycle:Ct値)を求め,Ct値と初期cDNA量間の相関式にて,未知サンプル中のcDNA量を算出した.GAPDHの遺伝子発現量により各膜結合型ムチン遺伝子の発現量を補正して相対的に定量化した.最終的に同条件下の薬剤無添加群に対する相対比で表した.b.統計解析EXSAS(アーム)を用いて,時間的変化の検討では,各処理時間におけるジクアホソルの効果を無処理(0時間処理)群に対するDunnettの多重比較検定法,濃度依存性の検討では,薬剤無添加群に対するDunnettの多重比較検定法にて,5%を有意水準として解析した.II結果1.PCR産物の確認HCE-T由来のmRNA(50ng,MUC4に限り100ng)を各種プライマーおよびQuantiFastSYBRGreenRT-PCRKitを用いて増幅させた各種ムチン遺伝子産物の電気泳動像を図1に示す.各種ムチン遺伝子産物(MUC1,MUC4およびMUC16)は,1本のバンドとして増幅され,サイズも予測値と一致しており,良好な増幅条件での反応であると判断できた.表1各種プライマープライマー名配列サイズTakaraPrimersetIDMUC1forwardprimerCCGGGATACCTACCATCCTATGAG124bpHA138064MUC1reverseprimerGCTGCTGCCACCATTACCTGMUC4forwardprimerGAAGACGTGCGCGATGTGA73bpHA057958MUC4reverseprimerCCTTGTAGCCATCGCATCTGAAMUC16forwardprimerCTGCAGAACTTCACCCTGGACA121bpHA125114MUC16reverseprimerCCAAGCCGATGAGGATGACAGAPDHforwardprimerGCACCGTCAAGGCTGAGAAC138bpHA067812GAPDHreverseprimerTGGTGAAGACGCCAGTGGA(119)あたらしい眼科Vol.28,No.3,20114272.MUC1遺伝子発現量最初に,ジクアホソルのHCE-TにおけるMUC1遺伝子発現に対する作用を検討した.図2に示すように,MUC1遺伝子の発現量は,100μMジクアホソルの添加により,添加3時間後に薬剤無添加群に比して約1.5倍に増加し,無処理群に比して有意であった.その後定常レベルまで減少した.また,ジクアホソルの添加3時間後のMUC1遺伝子の発現量は,濃度依存的に増加し,100μMでは,薬剤無添加群に比して有意であった.3.MUC4遺伝子発現量次に,ジクアホソルのHCE-TにおけるMUC4遺伝子発現に対する作用を検討した.基礎検討により増幅効率がMUC1あるいはMUC16に比して低かったので,2倍量の総RNAを用いた.図3に示すように,MUC4遺伝子の発現量は,100μMジクアホソルの添加により,添加3時間後に薬剤無添加群に比して一過性に約2倍まで増加し,無処理群に比して有意であった.その後,定常レベルまで減少した.また,ジクアホソルの添加3時間後のMUC4遺伝子の発現量も,濃度依存的に増加し,100μMでは,薬剤無添加群に比して有意であった.4.MUC16遺伝子発現量図4にジクアホソルのHCE-TにおけるMUC16遺伝子発現に対する作用を示す.MUC16遺伝子の発現量は,100μMジクアホソルの添加により,添加3時間後に薬剤無添加群に比して一過性に約2.5倍まで増加し,無処理群に比して有意であった.その後,定常レベルまで減少した.また,ジクアホソルの添加3時間後のMUC16遺伝子の発現量は,MUC1およびMUC4と同様,濃度依存的に増加し,100μMでは,薬剤無添加群に比して有意であった.III考按眼表面での蛋白質発現が認められている膜結合型ムチン,MUC1,MUC4およびMUC16は,細胞内ドメインと多量の糖鎖をもつ高分子蛋白質の細胞外ドメインより成る.これらムチンの細胞外ドメインは,3種間に若干の構造上の差異はあるものの,その機能は類似しており,親水性の糖鎖による保潤・保水効果,非接着分子機能による閉瞼時の眼瞼結膜上皮と角膜上皮の癒着防止効果,分泌型ムチンとの糖衣バリアーの形成による感染防御効果およびローズベンガル染色液に対しての拡散障壁効果などを担っており,眼表面から膜結合型ムチンが欠乏することは,ドライアイの発症および悪化をもたらすと考えられている2).今回,ジクアホソルが,培養ヒト角膜上皮細胞において,MUC1,MUC4およびMUC16,いずれの膜結合型ムチン遺伝子の発現を亢進する123451,000bp500bp200bp100bp図1各種プライマーを用いたPCR増幅産物の電気泳動パターンレーン1:マーカー,レーン2:MUC1(124bp),レーン3:MUC4(73bp),レーン4:MUC16(121bp),レーン5:GAPDH(138bp).ab01230110100ジクアホソル(μM)MUC1遺伝子発現量(薬剤無添加群に対する相対比)**01230361224培養時間(時間)MUC1遺伝子発現量(薬剤無添加群に対する相対比)**図2ジクアホソルのHCE.TにおけるMUC1mRNA発現促進作用各値は,薬剤無添加群に対する比率として算出した.a:100μMジクアホソル溶液を処理.各値は4例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,無処理(0時間処理)群との比較(Dunnettの多重比較検定).b:各濃度のジクアホソル溶液を3時間処理.各値は4例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,薬剤無添加(0μMジクアホソル)群との比較(Dunnettの多重比較検定).428あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(120)ことを明らかにした.ジクアホソルは,2つのヌクレオチドから成る分子量約880の化合物である.成長因子などの生理活性物質が眼表面に作用を示すinvitroとinvivoの濃度差は100.1,000倍であるという報告5)を参考に,今回(invitro)の膜結合型ムチン遺伝子の発現亢進を示す濃度(100μM)を,実際の臨床(invivo)で効果を発現すると考えられる濃度に換算すると0.88.8.8%(10.100mM)となる.ラット眼窩外涙腺摘出ドライアイモデルでのジクアホソルの角膜上皮障害改善作用は1%(11mM)で最大効果を示すこと4)から,今回の得られたinvitroの濃度は実際のinvivoでの効果にも十分反映しているものと考えられ,臨床的にも1%以上のジクアホソル濃度であれば臨床効果に寄与するものと考えられた.横井6)は,ドライアイの病態の構築は,涙液層および角結膜上皮層異常の慢性化,すなわち①瞬目の摩擦,②涙液の減少,③涙液の安定性の低下,④炎症および⑤涙液動態の障害にあるとしている.これらリスクファクターへの治療の切り口として,②に対しては,涙液の分泌を促進するあるいは眼表面の水分量を増加させること,③に対しては,涙液3層の質あるいは量を正常化すること,④に対しては,原因となるリスクファクター(マイボーム腺機能不全症,Sjogren症候群,アレルギー性結膜炎あるいは感染による炎症など)を看破することあるいは涙液の浸透圧を正常化することをあげている.また,①に対しては,摩擦の原因と考えられる眼表面の凹凸を減少させるための外科的治療に加え,角結膜の癒着を減少させる潤滑作用を示すムチン層の正常化を目的にした治療がなされている7).現在,ドライアイの治療には,人工涙液あるいはヒアルロン酸ナトリウム点眼液が用いられている.人工涙液は,涙液の減少に対して一時的な水分補給あるいは一部涙液のクリアランスを促進するウォッシュアウト(上記②,⑤に対する治療)に,ヒアルロン酸ナトリウム点眼液は,角結膜上皮障害改善作用に加えて,涙液の減少に対する水分補給あるいはその三次構造に基づく保水性による涙液層の安定化作用(上記01230110100ジクアホソル(μM)MUC4遺伝子発現量(薬剤無添加群に対する相対比)*01230361224培養時間(時間)MUC4遺伝子発現量(薬剤無添加群に対する相対比)*ab図3ジクアホソルのHCE.TにおけるMUC4mRNA発現促進作用各値は,薬剤無添加群に対する比率として算出した.a:100μMジクアホソル溶液を処理.各値は,3あるいは4例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,無処理(0時間処理)群との比較(Dunnettの多重比較検定).b:各濃度のジクアホソル溶液を3時間処理.各値は4例の平均値±標準誤差を示す.*:p<0.05,薬剤無添加(0μMジクアホソル)群との比較(Dunnettの多重比較検定).012340361224培養時間(時間)MUC16遺伝子発現量(薬剤無添加群に対する相対比)**012340110100ジクアホソル(μM)MUC16遺伝子発現量(薬剤無添加群に対する相対比)**ab図4ジクアホソルのHCE.TにおけるMUC16mRNA発現促進作用各値は,薬剤無添加群に対する比率として算出した.a:100μMジクアホソル溶液を処理.各値は,3あるいは4例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,無処理(0時間処理)群との比較(Dunnettの多重比較検定).b:各濃度のジクアホソル溶液を3時間処理.各値は4例の平均値±標準誤差を示す.**:p<0.01,薬剤無添加(0μMジクアホソル)群との比較(Dunnettの多重比較検定).(121)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011429②,③に対する治療)に期待されている.しかし,これら治療に対しても十分な効果が得られない症例もある.ジクアホソルは,これまでに報告されている涙液の分泌促進作用4,8,9),分泌型ムチンの分泌促進作用3,4)に加えて,今回新たに膜結合型ムチンの発現促進作用を有する可能性が示唆された.このことは,ジクアホソルを含む点眼液が上記②,③ばかりでなく,非接着分子による摩擦の低下作用あるいは感染源の眼表面への侵入防止作用により①あるいは④のリスクファクターに対しても治療効果をもたらすと考えられる.今後,さらに細胞膜上の蛋白質発現量に及ぼす影響を検討する必要があるものの,今回の結果は,ジクアホソルが,分泌型ムチンの分泌促進作用3,4)だけでなく,膜結合型ムチンの角結膜上皮細胞上の蛋白質発現を促進している可能性を示唆している.したがって,ジクアホソル点眼液は,既存薬では,十分効果を示さない症例に対して有効性を示す可能性が考えられ,ドライアイ患者に対する有用な新しい治療剤として期待される.文献1)渡辺仁:ムチン層の障害とその治療.あたらしい眼科14:1647-1633,19972)GovindarajanB,GipsonIK:Membrane-tetheredmucinshavemultiplefunctionsontheocularsurface.ExpEyeRes90:655-663,20103)FujiharaT,MurakamiT,NaganoTetal:INS365suppresseslossofcornealepithelialintegritybysecretionofmucin-likeglycoproteininarabbitshort-termdryeyemodel.JOculPharmacolTher18:363-370,20024)FujiharaT,MurakamiT,FujitaHetal:ImprovementofcornealbarrierfunctionbytheP2Y(2)agonistINS365inaratdryeyemodel.InvestOphthalmolVisSci42:96-100,20015)SotozonoC,InatomiT,NakamuraMetal:Keratinocytegrowthfactoracceleratescornealepithelialwoundhealinginvivo.InvestOphthalmolVisSci36:1524-1529,19956)横井則彦:ドライアイ.あたらしい眼科25:291-296,20087)加冶優一,横井則彦,大鹿哲郎:結膜疾患とドライアイ.あたらしい眼科22:317-322,20058)YerxaBR,DouglassJG,ElenaPPetal:PotencyanddurationofactionofsyntheticP2Y2receptoragonistsonSchirmerscoresinrabbits.AdvExpMedBiol506:261-265,20029)MurakamiT,FujitaH,FujiharaTetal:Novelnoninvasivesensitivedeterminationoftearvolumechangesinnormalcats.OphthalmicRes34:371-374,2002***

市販多目的用剤とコンタクトレンズの組み合わせによる細胞毒性の比較検討

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(113)421《原著》あたらしい眼科28(3):421.424,2011cはじめにわが国のコンタクトレンズ(CL)使用者は,1,500万人を超えるといわれており,ソフトコンタクトレンズ(SCL)装用者のなかでは頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)の使用が最も多い1).一方で,多目的用剤(マルチパーパスソリューション:MPS)をはじめとするCL消毒剤の種類は,眼科医でもすべてを把握することが困難なほど増加している.特に,MPSはSCLに対して使用される消毒剤の約90%を占める2).MPSは1剤で,消毒,洗浄,すすぎ,保存ができる簡便性の高いケア用剤であるが,煮沸消毒や過酸化水素消毒などに比べ消毒効果が弱いといわれている3).近年,それぞれのMPSの消毒効果や眼表面組織への細胞毒性に違いがあることが報告されている4).このような状況のなかで,FRSCLとMPSの適合性によって発生したと思われる角膜〔別刷請求先〕伊勢ノ海一之:〒241-0811横浜市旭区矢指町1197-1聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科Reprintrequests:KazuyukiIsenoumi,M.D.,DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicineYokohamaCitySeibuHospital,1197-1Yasashicho,Asahi-ku,Yokohama-shi,Kanagawa241-0811,JAPAN市販多目的用剤とコンタクトレンズの組み合わせによる細胞毒性の比較検討伊勢ノ海一之*1工藤昌之*2松澤亜紀子*3井出尚史*1上野聰樹*3*1聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院眼科*2工藤眼科クリニック*3聖マリアンナ医科大学医学部眼科学教室ComparisonofCytotoxicEffectsofCombinationsofCommercialMultipurposeSolutionsandContactLensesKazuyukiIsenoumi1),MasayukiKudo2),AkikoMatsuzawa3),NaofumiIde1)andSatokiUeno3)1)DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicineYokohamaCitySeibuHospital,2)KudoEyeClinic,3)DepartmentofOphthalmology,St.MariannaUniversitySchoolofMedicine目的:各種頻回交換ソフトコンタクトレンズ(FRSCL)を用いて,各種市販多目的用剤(マルチパーパスソリューション:MPS)処理後のレンズからの抽出物の細胞毒性を比較検討した.方法:V79細胞にMPS製剤処理後のレンズからの抽出物を加え培養した.その後,ギムザ染色でコロニーを染色しその数を数えた.結果:レニューRマルチプラスで処理した2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物100%では,他のMPS(エピカコールド,ピュラクルR,オプティ・フリーR)と2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物100%に比べてコロニー形成率が有意に低かった.他のレンズ(O2オプティクス,アキュビューRアドバンスTM,アキュビューRオアシスTM)と各MPSにおけるレンズ抽出物のコロニー形成率に有意差は認めなかった.結論:消毒剤とSCLの組み合わせにより細胞毒性が異なる可能性が示唆された.Objective:Tocomparethecytotoxicitiesofsolutionsextractedfromsoftcontactlenses(CL)processedwithvariouscommercialmultipurposesolutions(MPS).Methods:WeextractedsolutionsfromCLprocessedwithvariousMPS,addedtheextractsolutionstoV79cells,andculturedthem.WethenusedGiemsastainingtocountthecoloniesthatformed.Results:Platingefficiencywassignificantlylowerin100%extractsolutionfromamediumof2-weekAcuvueRprocessedwithRenuRMultiplusthanin100%extractsolutionfrommediaofotherMPSand2-weekAcuvueR.WefoundnosignificantdifferencesbetweentheplatingefficienciesofextractsolutionsfromotherlensesandfromlensesprocessedwithvariousMPS.Conclusion:TheresultsofthisstudysuggestthatdifferentcombinationsofdisinfectantsandCLmayhavedifferenttoxicities.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):421.424,2011〕Keywords:ソフトコンタクトレンズ,市販多目的用剤,細胞毒性,V79細胞.softcontactlens,multipurposesolutions(MPS),cytotoxicity,V79cells.422あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(114)障害の報告が散見される5,6).工藤らは,シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(SHCL)であるO2オプティクスのレンズケアに塩酸ポリヘキサニド(PHMB)を主成分とするMPSを使用すると,過酸化水素消毒や塩化ポリドロニウムを主成分とするMPSに比べて,角膜ステイニングの発生率が高いという結果を報告し,その原因は,レンズに残留しているMPSが影響していると考えた7).そこで今回筆者らは,4種類のFRSCLを用いて各種MPS処理後のレンズからの抽出物の細胞毒性を比較検討した.I方法試験レンズには,従来素材の含水性SCL(ハイドロゲルSCL)とSCHLを用いた.ハイドロゲルSCLはFDA(米国食品・医薬品局)グループIVレンズ(イオン型高含水レンズ)の1種(2ウィークアキュビューR),SHCLはFDAグループⅠレンズ(非イオン型低含水レンズ)の3種(O2オプティクス,アキュビューRアドバンスTM,アキュビューRオアシスTM)を用いた(表1).MPSにはレニューRマルチプラス,エピカコールド,ピュラクルR,オプティ・フリーRを用いた.MPSの消毒成分とその濃度を表2に示す.ブリスターパックからレンズを取り出し,余分な水分を取って包埋カセット内に静置した.カセットに入れた16枚を100mlのHDPE(高密度ポリエチレン)滅菌ボトルに入れた.このボトルにMPSを添加し,25℃で48時間浸漬した後,MPSを破棄した.その後レンズを取り出し,各検体の表面積6cm2に対してM05培地を1mlの割合で加えて,37℃の5%CO2インキュベータで2時間抽出した.抽出した液を100%レンズ抽出物とし,M05培地で2倍希釈したものを50%レンズ抽出物とした.細胞株はJCRB0603(以下,V79細胞)を用いた.V79細胞をトリプシン処理して培地に播種した.培地を37℃の炭酸ガス培養器内に入れ,24時間静置した後に培地を破棄し,100%と50%のレンズ抽出物を加えて,さらに炭酸ガス培養器で7日間培養した.その後,10%ホルマリン溶液を加えて固定し,ギムザ染色でコロニーを染色しコロニー数を計測した.MPS処理していないレンズの抽出物で培養したものをコントロールとした.それぞれのレンズにおいて,各MPS群の平均コロニー数をコントロール群の平均コロニー数で除して100%換算しコロニー形成率とした.レンズごとに各MPSのコロニー形成率を比較検討した(n=3).統計解析はFisherのPLSD(protectedleastsignificantdiffence)検定を採用した.p値が0.05以下を統計学的な有意差があると判定した.表3各レンズとMPSの抽出物における平均コロニー数(コロニー数/ウェル)抽出液濃度(%)2ウィークアキュビューRO2オプティクスアキュビューRアドバンスTMアキュビューRオアシスTMレニューRマルチプラス5078.377.381.777.710059.372.077.076.0エピカコールド5078.382.380.078.010094.387.387.385.0ピュラクルR5071.780.377.374.310080.080.379.382.3オプティ・フリーR5077.076.379.372.710084.784.782.776.0M05培地5078.783.085.373.310087.082.085.371.3表1使用したコンタクトレンズの材質分類(米国FDA)低含水性高含水性非イオン性グループIO2オプティクスアキュビューRアドバンスTMアキュビューRオアシスTMグループIIイオン性グループIIIグループIV2ウィークアキュビューR表2各MPSの消毒成分濃度レニューRマルチプラスエピカコールドピュラクルRオプティ・フリーR販売メーカーボシュロム・ジャパンメニコン日油株式会社アルコン消毒成分0.00011%塩酸ポリヘキサニド0.0001%塩酸ポリヘキサニド0.0001%塩酸ポリヘキサニド0.0011%塩化ポリドロニウム(115)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011423II結果実験結果を表3および図1.4に示す.レニューRマルチプラスで処理した2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物100%は,他のMPSで処理した2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物100%に比べてコロニー形成率が有意に低かった.他のレンズ(O2オプティクス,アキュビューRアドバンスTM,アキュビューRオアシスTM)と各MPSにおけるレンズ抽出物のコロニー形成率に有意差は認めなかった.III考察MPSとSHCLの適合性による角膜障害の報告は,工藤らのO2オプティクスとMPSの組み合わせによって角膜ステイニングが異なるという報告7)や,植田らの各種MPSとO2オプティクスとの組み合わせのうちレニューRマルチプラスは角膜ステイニングが強く認められるという報告8)がある.今回の筆者らの実験でも,レニューRマルチプラスで処理したO2オプティクス,アキュビューRアドバンスTM,アキュビューRオアシスTMの抽出物は,他のMPSで処理した同じ3種類のSHCLの抽出物に比べて,コロニー形成率に有意差は認められないもののコロニーの大きさが小さく染色の程度が薄い傾向があった.さらに,今回の筆者らの結果では,レニューRマルチプラスで処理した2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物100%は,他のMPSで処理した2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物100%に比べて有意にコロニー形成率が低下しており,MPSとSCLの組み合わせによる細胞毒性の違いは,SHCLに限った変化ではないことが示唆された.レニューRマルチプラスで処理した2ウィークアキュビューRのレンズ抽出物が,他のSCLからのレンズ抽出液に比べてコロニー形成率が低く細胞毒性が高い原因としては,PHMBはプラスに帯電しているためイオン性のレンズは非イオン性のレンズと比べてPHMBがレンズ内に取り込まれやすいこと,レニューRマルチプラスのPHMBの濃140120100806040200レニューRマルチプラスエピカコールドピュラクルRオプティ・フリーR□:抽出物50%■:抽出物100%n=3コロニー形成率(%ofcontrol)図4アキュビューRオアシスTMと各MPSの抽出物におけるコロニー形成率(%)120100806040200**p*p**pレニューRマルチプラスエピカコールドピュラクルRオプティ・フリーR□:抽出物50%■:抽出物100%n=3*p<0.05**p<0.01コロニー形成率(%ofcontrol)図12ウィークアキュビューRと各MPSの抽出物におけるコロニー形成率(%)120100806040200レニューRマルチプラスエピカコールドピュラクルRオプティ・フリーR□:抽出物50%■:抽出物100%n=3コロニー形成率(%ofcontrol)図3アキュビューRアドバンスTMと各MPSの抽出物におけるコロニー形成率(%)120100806040200レニューRマルチプラスエピカコールドピュラクルRオプティ・フリーR□:抽出物50%■:抽出物100%n=3コロニー形成率(%ofcontrol)図2O2オプティクスと各MPSの抽出物におけるコロニー形成率(%)424あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(116)度が他のMPSに比べて高いことが関係していると考えられる.MPSの消毒成分には,PHMBと塩化ポリドロニウムの2種類があり,大部分のMPSにはPHMBが使用されている.PHMBの特徴としては広い抗菌スペクトルをもち,以前より点眼薬の防腐剤やプールの消毒剤として使用されていることから,人体への安全性が高いことが知られている9).MPSには,消毒成分以外にも界面活性剤,キレート剤,緩衝剤,等張剤,粘稠剤などの成分が配合されており,消毒成分の濃度はメーカーによって異なることから,MPSの種類により消毒効果や角膜上皮への影響が異なる可能性が考えられる.今回の結果からMPSとFRSCLの組み合わせによりレンズ抽出物の細胞毒性に差が認められた.消毒剤の細胞毒性により角膜上皮のバリアが障害された場合は,そのバリア破綻部から角膜感染をきたす可能性があるためMPSとFRSCLの組み合わせには注意が必要である可能性が示唆される.しかし,SCL使用時に角膜上皮障害を起こす原因は,消毒剤の毒性のほかに,SCLの機械的刺激,SCLの汚れ,角膜上皮の代謝異常,酸素不足などさまざまな要因が関係しており,実際には各因子別の評価はむずかしい.今回の筆者らの実験は,MPS処理後のレンズ抽出物を使用して細胞毒性を観察することにより,通常使用しているのに近い状態のMPSにおける細胞毒性を各レンズに対して比較検討できたと考えられる.しかし,invitroの実験であるため生体内での反応とは異なる可能性はある.ケア方法を選択する場合にまず消毒効果が重要であるが,今回の結果から消毒剤とSCLの組み合わせも考慮にいれる必要があると考えられた.今回は,invitroでの評価として各MPS処理後のレンズからの抽出物における細胞毒性を比較検討したが,今後はこの試験の結果と生体における影響との相関を検討する必要がある.文献1)日本コンタクトレンズ協議会:インターネットを利用したコンタクトレンズ装用者のコンプライアンスに関するアンケート調査.日本の眼科81:394-407,20102)水谷由紀夫:海外のマルチパーパスソリューションの現状.あたらしい眼科23:873-878,20063)水谷聡:MPS使用者にみられるコンタクトレンズトラブルについて教えてください.あたらしい眼科20(臨増):166-168,20034)柳井亮二,植田喜一,西田輝夫ほか:市販多目的用剤の消毒効果と細胞毒性の比較.日コレ誌49:13-18,20075)JonesL,MacDougallN,SorbaraLG:Asymptomaticcornealstainingassociatedwiththeuseofbalafilconsiliconehydrogelcontactlensesdisinfectedwithapolyaminopropylbiguanidepreservedcareregimen.OptomVis79:753-761,20026)KhorWB,AungT,SawSMetal:AnoutbreakofFusariumkeratitisassociatedwithcontactlenswearinSingapore.JAMA295:2867-2873,20067)工藤昌之,糸井素純:シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと消毒との相性.あたらしい眼科22:1349-1355,20058)植田喜一,稲垣恭子,柳井亮二:化学消毒剤による角膜ステイニングの発生.日コレ誌49:187-191,20079)白石敦:マルチパーパスソリューション(MPS)の現状と問題点.日本の眼科79:727-732,2008***

急性細菌性結膜炎の起炎菌と疫学

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(107)415《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(3):415.420,2011cはじめに急性細菌性結膜炎は一般診療で遭遇しやすい眼感染症の一つである.これまでにも起炎菌に関する疫学調査は数多く報告されているが,そのほとんどは検出菌の分布を報告するものであった1~4).当然のことながら,結膜.は無菌環境ではないため検出菌が必ずしも起炎菌とは限らない.臨床的には検出菌の網羅的な分布だけではなく,症例ごとに一つの起炎菌を診断することによって得られる起炎菌分布も重要である.このような起炎菌分布を知ることができれば,より適切な初期抗菌点眼薬を選択することが可能となる.また,起炎菌ごとの疫学的特徴を知ることも重要である.過去には,小児と成人の結膜炎検出菌の相違5~7)や,季節性についての報告1,2)がある.しかしながら,細菌性結膜炎の感染源や感染経路の特徴について調査した報告はない.起炎菌ごとの感染源や感染経路の特徴がわかれば,感染伝播を予防することが可能となるかもしれないし,初診時の診断材料にすることができるかもしれない.今回筆者らは,1症例1菌種とした急性結膜炎の起炎菌分布を把握することを目的として疫学調査を行った.さらに感染源と感染経路を明らかにするため,起炎菌ごとの患者背景〔別刷請求先〕星最智:〒426-8677藤枝市駿河台4-1-11藤枝市立総合病院眼科Reprintrequests:SaichiHoshi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,4-1-11Surugadai,Fujieda-shi,Shizuoka426-8677,JAPAN急性細菌性結膜炎の起炎菌と疫学星最智*1卜部公章*2*1藤枝市立総合病院眼科*2町田病院ClinicalEpidemiologyandCausativeOrganismsofAcuteBacterialConjunctivitisSaichiHoshi1)andKimiakiUrabe2)1)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,2)MachidaHospital急性細菌性結膜炎の起炎菌分布と背景因子について調査した.2009年1月から2010年1月までに,急性細菌性結膜炎疑いの外来患者に対して結膜.と鼻腔の培養検査を実施した.初診時に感冒症状と小児接触歴について聴取した.その結果,全52症例のうち,結膜.検出菌により40.4%の症例が黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌による結膜炎と診断可能であった.他の59.6%の症例では,白内障術前患者よりも黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌率が有意に高かった(p<0.001).肺炎球菌とインフルエンザ菌の結膜炎では黄色ブドウ球菌に比べて小児接触率が有意に高かった(それぞれp<0.001,p=0.024).鼻腔保菌を加味すると,急性結膜炎症例のおよそ7割は黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌のいずれかが関与するものと推定された.Weinvestigatedthedistributionofcausativeorganismsandbackgroundfactorsofacutebacterialconjunctivitis.TheconjunctivalsacsandnasalswabsofoutpatientswithsuspectedacutebacterialconjunctivitiswerebacteriologicallyexaminedfromJanuary2009toJanuary2010.Wehadheardaboutcoldsymptomsandcontacthistoryforchildrenatfirstexamination.Asaresultofconjunctivalexamination,40.4%ofthepatientswerediagnosedwithconjunctivitisduetooneofthreemainbacteria:Staphylococcusaureus,StreptococcuspneumoniaeorHaemophilusinfluenzae.Staphylococcusaureusnasalcarriageratesintheremaining59.6%ofpatientsweresignificantlyhigherthaninpreoperativecataractsurgerypatients(p<0.001).Children’scontactratesforStreptococcuspneumoniaeandHaemophilusinfluenzaeconjunctivitisweresignificantlyhigherthanforStaphylococcusaureus(p<0.001,p=0.024,respectively).Withnasalbacteriatakenintoaccount,about70%ofcasesmightinvolvethesethreemainbacteria.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):415.420,2011〕Keywords:細菌性結膜炎,黄色ブドウ球菌,インフルエンザ菌,肺炎球菌,鼻腔常在菌.bacterialconjunctivitis,Staphylococcusaureus,Haemophilusinfluenzae,Streptococcuspneumoniae,nasalbacterialflora.416あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(108)の特徴についても検討した.I対象および方法2009年1月から2010年1月までに高知市の町田病院を外来受診した急性結膜炎患者を対象とした.対象基準は,2週間以内の発症で,眼球結膜の充血を認め(程度は問わない),眼脂の自覚症状または前眼部所見で眼脂を認める症例とした.当院初診時すでに抗菌点眼薬を使用している症例,コンタクトレンズ装用者,5歳以下のいずれかに該当する場合は対象から除外した.5歳以下を対象から除外したのは,小児結膜炎の検出菌が成人とは大きく異なりHaemophilusinfluenzae(インフルエンザ菌)やStreptococcuspneumoniae(肺炎球菌)が主体となるため,対象患者に占める小児の割合によって起炎菌の構成が影響を受けると判断したためである5~7).つぎに患者背景を調査するため,初診時から2週間以内の発熱・咽頭痛・咳嗽などの感冒症状の有無および小学生以下の小児との接触歴について聴取した.培養検査は下眼瞼結膜.および同側の鼻前庭に対して行った.両眼性の結膜炎の場合は,症状の強いほうから検体を採取した.検体採取方法は,輸送培地に付属するスワブの先を滅菌生理食塩水で湿らせてから被検部位を擦過した.検体は衛生検査所に送付し,好気培養,増菌培養,菌種同定を依頼した.Staphylococcusaureus(黄色ブドウ球菌),肺炎球菌,インフルエンザ菌の3菌種は三井らのいう結膜炎の特定起炎菌の一部であり,結膜.から複数の菌種が検出されても,それ自体が結膜炎の起炎菌とみなすことができる8).したがって,検討方法としてはまず,結膜.検出菌が黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌のいずれかである場合は急性結膜炎の起炎菌と診断し,この基準に基づいて起炎菌の構成をグラフ化した.本論文では,これら3菌種をまとめて急性結膜炎の三大起炎菌とよぶこととする.つぎに,先の診断方法で三大起炎菌と診断できなかった結膜炎症例(結膜.非三大起炎菌症例)の鼻腔細菌叢と,結膜炎ではない白内障術前患者の鼻腔細菌叢を比較した.後者は町田病院の白内障術前患者295名〔年齢の中央値77歳(範囲:41~95歳),男性116名,女性179名〕の鼻腔培養結果を用いた(第114回日本眼科学会総会において報告).さらに,結膜炎の月別発生頻度について,起炎菌ごとに特徴がみられないかを検討した.最後に,三大起炎菌のそれぞれに特徴的な患者背景がないかを調査した.まず黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌者と非保菌者間で,結膜.の黄色ブドウ球菌検出率に差がないかを比較検討した.つぎに,起炎菌ごとの感冒症状の割合(感冒率)および小児との接触歴の割合(小児接触率)について比較検討した.2群間の比較はFisherの直接確率検定法を用い,p<0.05を有意と判定した.II結果1.対象患者の特徴対象は52例(男性22例,女性30例)であった.年齢の中央値は60歳(範囲:6~88歳)であった.結膜.の培養陽性率は75.0%,鼻腔の培養陽性率は100%であった.全52例の結膜.と鼻腔検出菌の詳細および患者背景の一覧を表1に示す.2.結膜.検出菌に基づく三大起炎菌の構成結果を図1に示す.黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌が検出された症例はそれぞれ21.2%,11.5%,7.7%であり,40.4%が三大起炎菌による結膜炎であった.一方,三大起炎菌以外が検出された症例は34.6%,培養陰性例は25.0%であった.三大起炎菌以外が検出された症例の多くは,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌やコリネバクテリウム属が検出された.3.結膜.非三大起炎菌症例と白内障術前患者の鼻腔細菌叢の比較鼻腔培養で検出菌数の多かったコリネバクテリウム属,メチリシン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MS-CNS),メチリシン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌(MR-CNS)および黄色ブドウ球菌の保菌率について比較したグラフを図2に示す.コリネバクテリウム属,MS-CNS,MR-CNSに関しては2群間で有意差を認めなかったが,黄色ブドウ球菌に黄色ブドウ球菌21.2%肺炎球菌11.5%インフルエンザ菌その他7.7%34.6%陰性25.0%図1結膜.検出菌に基づく三大起炎菌の構成71.0%51.6%41.9%18.3%18.0%58.0%69.5%16.1%020406080100コリネバクテリウム属MS-CNSMR-CNS黄色ブドウ球菌保菌率(%):白内障術前患者(295例):結膜.非三大起炎菌症例(31例)p<0.001図2結膜炎と白内障術前患者における鼻腔細菌叢の比較MS-CNS:メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌.(109)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011417表1細菌検査結果と患者背景症例番号年齢(歳)性別患眼検体採取日結膜.検出菌鼻腔検出菌感冒症状小児接触歴18FR2009.1.9─MSSA,MS-CNSありなし251MR2009.2.26肺炎球菌,MS-CNSMSSA,コリネなしあり361ML2009.3.2MSSAMSSA,MR-CNSなしなし488FL2009.3.2─MSSAなしなし576ML2009.3.9MSSA,コリネMSSA,バチルス属,MS-CNSなしなし628ML2009.3.10MR-CNSMR-CNS,コリネなしなし76ML2009.3.25MSSA,a溶連菌MSSA,a溶連菌,MR-CNSなしなし865FR2009.3.30肺炎球菌肺炎球菌,MS-CNS,コリネありあり948MB2009.5.7─MS-CNSなしなし1076FB2009.5.15─MSSA,MS-CNS,コリネありなし1126MB2009.5.19MS-CNSヘモフィルス属,MS-CNS,コリネなしなし1223FB2009.5.22MS-CNSMS-CNSありあり1367FL2009.5.22コリネMS-CNSなしなし1477FL2009.6.8MS-CNSMS-CNS,コリネなしなし1519FB2009.6.10─MSSAなしなし1617FB2009.6.20─MS-CNS,コリネなしなし178FB2009.6.22HIa溶連菌,ナイセリア属,コリネなしあり1873MB2009.6.29MS-CNSバチルス属,コリネなしなし1971MB2009.7.2HI,コリネMSSA,コリネなしなし2077FR2009.7.13HIa溶連菌,MR-CNS,コリネありあり2125FB2009.7.21MS-CNSMSSA,MS-CNS,コリネなしなし2219FB2009.7.22MS-CNS,コリネMSSA,MR-CNS,コリネありなし2323MB2009.7.24EnterobactercloacaeMSSA,a溶連菌,コリネなしなし2464FB2009.7.24MSSAMR-CNS,コリネなしなし2540MB2009.8.6HIHI,MS-CNS,コリネありなし2680ML2009.8.13MSSAコリネなしなし277FB2009.8.15肺炎球菌MRSAなしあり2875ML2009.8.31G群溶連菌,コリネMSSA,a溶連菌,コリネなしなし2959MB2009.9.1MR-CNS,コリネa溶連菌,MR-CNS,コリネなしなし3013FB2009.9.3─MSSA,MS-CNS,コリネありなし3159FL2009.9.5コリネMS-CNS,コリネなしなし3247FB2009.9.24バチルス属,コリネMSSA,コリネなしなし3367FR2009.10.19─MR-CNS,コリネなしあり3468ML2009.10.19MS-CNS,コリネMSSAなしあり3580ML2009.10.27MSSAMS-CNS,コリネなしなし3635FB2009.11.6.肺炎桿菌,MS-CNS,コリネありなし3778FL2009.11.9緑膿菌,MR-CNSMS-CNS,コリネなしなし3872FL2009.11.16MSSAMR-CNSなしなし3968FR2009.11.17─MS-CNS,コリネありなし4067ML2009.11.27大腸菌MSSAなしなし4130FR2009.12.10肺炎球菌ナイセリア属,MR-CNSありあり4255ML2009.12.15MSSAMS-CNS,コリネなしなし4377ML2009.12.15MSSAMSSA,MS-CNSなしなし4458FR2009.12.17コリネa溶連菌,コリネなしあり4578FB2009.12.17肺炎球菌a溶連菌,MR-CNSありあり4676FR2009.12.24コリネMSSA,a溶連菌,MS-CNSなしなし4784MR2010.1.4MSSA,コリネMS-CNS,コリネなしなし4870MR2010.1.5─肺炎球菌,コリネなしあり4967FB2010.1.12肺炎球菌,コリネ肺炎球菌,MR-CNS,MS-CNSなしあり5058FL2010.1.13─MR-CNS,コリネなしなし5155MB2010.1.25─HI,MS-CNS,コリネありあり5254FR2010.1.26MSSAMSSA,MS-CNSなしありF:女性,M:男性,R:右眼,L:左眼,B:両眼.MS-CNS:メチシリン感受性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MR-CNS:メチシリン耐性コアグラーゼ陰性ブドウ球菌,MSSA:メチシリン感受性黄色ブドウ球菌,MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌,コリネ:コリネバクテリウム属,HI:インフルエンザ菌.418あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(110)関しては,白内障術前患者が18.0%に対して結膜.非三大起炎菌症例では41.9%と有意に高い保菌率であった(p<0.001).さらに,白内障術前患者の鼻腔からは肺炎球菌やインフルエンザ菌は検出されなかったが,結膜炎の5例ではこれら2菌種のいずれかを保菌していた(症例番号:8,25,48,49,51).この結果から三大起炎菌,特に黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌が結膜炎の発症に関与している可能性が示唆された.そこで,三大起炎菌の鼻腔保菌も加味して結膜炎の起炎菌の構成を再分類すると図3のようになり,急性細菌性結膜炎のおよそ7割が三大起炎菌と関連していると推定された.4.起炎菌ごとの月別発生頻度三大起炎菌による結膜炎の月別発生頻度では,黄色ブドウ球菌では1年を通してほぼ一定の頻度で発生する傾向(endemic)がある一方,インフルエンザ菌と肺炎球菌は夏や冬に流行する傾向(epidemic)を認めた(図4).5.三大起炎菌ごとの患者背景の特徴黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌の有無で黄色ブドウ球菌の結膜.検出率を比較すると,鼻腔保菌者の結膜.陽性率は23.8%,鼻腔非保菌者の結膜.陽性率は19.4%となり有意差を認めなかった(p=0.739).つぎに,結膜.と鼻腔培養の結果から起炎菌を診断した場合の感冒率をみると,黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌,その他の結膜炎ではそれぞれ,16.7%,42.9%,60.0%,18.3%であった.肺炎球菌とインフルエンザ菌の感冒率は高い傾向を認めたが,各群間で有意差を認めなかった.しかしながら,有意差はないもののインフルエンザ菌は黄色ブドウ球菌と比べて感冒率が高くなる傾向を認めた(p=0.075).最後に,結膜.と鼻腔培養の結果から起炎菌を診断した場合の小児接触率をみると,黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌,その他の結膜炎ではそれぞれ,8.3%,100%,60.0%,18.8%であった.肺炎球菌は黄色ブドウ球菌やその他の結膜炎と比べて小児接触率が有意に高かった(ともにp<0.001).さらに,インフルエンザ菌は黄色ブドウ球菌と比べて小児接触率が有意に高かった(p=0.024).III考按結膜.は外界に接しているため,検出菌が必ずしも起炎菌とはならない.しかし,これまでの結膜炎の疫学に関する報告は,検出菌の分布から考察を行うものがほとんどであった1~4).細菌性結膜炎患者の結膜.からはしばしば複数の菌種が検出され,このなかには健常結膜.でもよく検出されるコリネバクテリウム属やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌などが含まれる.検出菌の構成を調査する場合,検出菌すべてを把握できるという利点がある一方,常在細菌の分離率が高くなるため,病原菌が過小評価される恐れがある.さらに,検出率がまれな菌種も多く含まれるため,広域抗菌薬を支持する傾向がでてしまう.一方,1人の細菌性結膜炎症例から複数の菌種が分離されても,臨床診断として1つの起炎菌を確定すれば起炎菌の構成グラフは人数が単位となり,臨床現場を反映した実感しやすいものとなる.今回筆者らは,可能な限り個々の症例について起炎菌の特定を行うことにした.そしてまずは特定起炎菌である三大起炎菌に限って,結膜.検出菌から診断を行った.その結果,黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌はそれぞれ21.2%,11.5%,7.7%の症例から検出され,およそ40%の症例は三大起炎菌と診断可能であった.しかしながら,残りの症例の多くはコリネバクテリウム属やコアグラーゼ陰性ブドウ球菌などの常在細菌で占められており,結膜.培養結果だけでは起炎菌が特定できない症例も多く存在した.そこで筆者らは別の観点から結膜炎の病態をとらえることを考えた.三大起炎菌は咽頭炎,中耳炎,肺炎などの上気道感染症においても重要な起炎菌であることから,鼻咽頭の病原細菌が結膜炎の病態に関与している可能性を考えた.そして結膜.培養で確定診断できなかった31症例の鼻腔細菌叢を白内障術前患者の鼻腔細菌叢と比較したところ,高率に黄色ブドウ球菌を保菌していることが判明した(p<0.001).黄色ブドウ球菌21.2%黄色ブドウ球菌(鼻のみ)25.0%肺炎球菌11.5%肺炎球菌(鼻のみ)1.9%インフルエンザ菌7.7%インフルエンザ菌(鼻のみ)1.9%その他30.8%図3結膜炎と鼻腔検出菌に基づく三大起炎菌の構成012345発生頻度(人):黄色ブドウ球菌:肺炎球菌:インフルエンザ菌:その他1月2月3月4月5月6月7月8月9月10月11月12月2010年1月2009年図4起炎菌ごとの月別発生頻度(111)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011419この結果から,黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌が結膜炎の発症に関与している可能性が示唆された.黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌がどのように結膜炎の発症に関与しているかは不明である.考えられる機序としては,鼻腔で活発に増殖した黄色ブドウ球菌が手指を介して眼部へ自家感染して発症する可能性が考えられる.その他には,黄色ブドウ球菌はカタル性角膜潰瘍などの感染アレルギーの原因とも考えられていることから,鼻粘膜から血流感染を生じて全身性に免疫感作され,その後手指を介して眼部に黄色ブドウ球菌が混入した際に感染アレルギーによる結膜炎が生じる可能性も考えられる.インフルエンザ菌や肺炎球菌についても,白内障術前患者では分離されなかったが結膜炎患者の鼻腔の一部では検出されたことから,三大起炎菌の鼻腔保菌も加味して結膜炎の起炎菌を推定すると,図3に示すようにおよそ7割の症例が三大起炎菌に関連していると考えられた.細菌性結膜炎の発症には感染源と感染経路が必要である.そこで三大起炎菌ごとの患者背景を比較検討したところ,肺炎球菌またはインフルエンザ菌による結膜炎では黄色ブドウ球菌と比べて小児接触率が有意に高いことが判明した(それぞれp<0.001,p=0.024).特に肺炎球菌による結膜炎では,すべての症例が小児との接触歴を有していた.また,インフルエンザ菌は黄色ブドウ球菌と比べて有意差はないものの,感冒症状を伴いやすい傾向があった(p=0.075).結膜炎の随伴症状としての感冒症状については,青木らはHaemophilus属(インフルエンザ菌まで菌種同定していない)による結膜炎の80%が感冒症状を主とした全身症状を認めると報告しており1),筆者らの調査もこれと類似した結果となっている.このようにインフルエンザ菌と肺炎球菌による結膜炎が小児との接触と強く関係し,感冒症状を伴いやすい理由としては,これらの菌がともに小児の鼻咽頭常在菌であり,成人の健常保菌者はまれであるという疫学的背景が基礎にあると考えられる.わが国における鼻咽頭常在菌の疫学調査によると,0~6歳では肺炎球菌とインフルエンザ菌の保菌率はそれぞれ47.1%と55.7%であるのに対し,7~74歳では肺炎球菌とインフルエンザ菌の保菌率はともに7.6%となっている9).したがって,小児以外でこれら2菌種による結膜炎が成立する機序としては,小児の鼻咽頭に存在する肺炎球菌やインフルエンザ菌が飛沫により成人の鼻咽頭や結膜に感染することで上気道炎や結膜炎を発症すると考えられる.患者背景別の起炎菌構成をみてみると,小児接触歴がある場合,肺炎球菌またはインフルエンザ菌による結膜炎は全体の66.7%を占める一方,小児接触歴がない場合は,黄色ブドウ球菌が59.5%と大部分を占めていることがわかる(図5).したがって,小児接触歴の聴取は起炎菌のおおまかな推定に役立つと考えられる.さらに,小児からの飛沫感染がおもな原因と考えると,これら2菌種による結膜炎が季節性を有する理由をうまく説明することができる.過去の報告では,Haemophilus属は初夏と冬に多く,肺炎球菌は冬から春にかけて多いといわれている1,2).筆者らの調査でも同様の現象を認めているが,これは夏休みなどの長期休暇の時期に成人,特に高齢者が小児に接触する機会が増えるためと考えられ,季節性という表現よりもepidemicな現象と捉えるほうが適切と思われる.本調査における問診の際も,連休中に孫をあずかったなど,小児との接触をはっきりと記憶しているケースが目立った.飛沫感染は1m以内に接近するような状況で成立するため,患者は小児との接触を記憶にとどめやすいものと推測される.一方,黄色ブドウ球菌に関しては小児接触との関連性は認めなかった.さらに,黄色ブドウ球菌を鼻腔に保菌しているからといって結膜.からの検出率が高くなるわけではなかった.調査期間を通しての発生頻度では,肺炎球菌やインフルエンザ菌とは異なり,ほぼ1年を通して発生した.堀らも黄色ブドウ球菌による結膜炎は季節性が不明瞭で通年性にみられると報告している2).したがって,黄色ブドウ球菌は肺炎球菌やインフルエンザ菌とは異なった感染様式をもっていると考えられる.健常者の約2割は鼻咽頭に黄色ブドウ球菌を保菌しており,肺炎球菌やインフルエンザ菌のような年齢による保菌率の違いは認めない9).考えられる感染経路としては,黄色ブドウ球菌の鼻腔保菌者から非保菌者へ接触伝播して結膜炎を発症する場合と,鼻腔保菌者自身が自家感染で結膜炎を発症する場合とが考えられる.さらに,先述したように黄色ブドウ球菌結膜炎の病態として,狭義の感染(眼部で増殖)と感染アレルギー(鼻腔で増殖)という2つの機序が単独または複合して関与していると考えられるため,結膜.からの検出菌だけでは黄色ブドウ球菌による結膜炎の全体像を捉えきれない可能性がある.結論としては,急性結膜炎症例の約7割は黄色ブドウ球菌,肺炎球菌,インフルエンザ菌の三大起炎菌が関与してい0%20%40%60%80%100%あり(13例)なし(39例)あり(15例)なし(37例)感冒症状小児接触歴:黄色ブドウ球菌:肺炎球菌:インフルエンザ菌:その他図5患者背景別の起炎菌構成420あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011ると推定された.黄色ブドウ球菌による結膜炎はendemicに発生し,一部の症例では鼻腔の黄色ブドウ球菌が結膜炎の発症に関与している可能性がある.肺炎球菌とインフルエンザ菌による結膜炎はepidemicに発生し,おもに小児からの飛沫が感染リスクと考えられた.文献1)青木功喜:急性結膜炎の臨床疫学的ならびに細菌学的研究.あたらしい眼科1:977-980,19842)堀武志,秦野寛:急性細菌性結膜炎の疫学.あたらしい眼科6:81-84,19893)東堤稔:眼感染症起炎菌─最近の動向.あたらしい眼科17:181-190,20004)松本治恵,井上幸次,大橋裕一ほか:多施設共同による細菌性結膜炎における検出菌動向調査.あたらしい眼科24:647-654,20075)西原勝,井上慎三,松村香代子:細菌性結膜炎における検出菌の年齢分布.あたらしい眼科7:1039-1042,19906)水本博之,五十嵐広昌,秋葉純ほか:乳幼児における細菌性結膜炎の検出菌について.眼紀44:1373-1376,19937)秋葉真理子,秋葉純:乳幼児細菌性結膜炎の検出菌と薬剤感受性の検討.あたらしい眼科18:929-931,20018)三井幸彦,北野周作,内田幸男ほか:細菌性外眼部感染症に対する汎用性抗生物質等点眼薬の評価基準,1985.日眼会誌90:511-515,19869)KonnoM,BabaS,MikawaHetal:Studyofupperrespiratorytractbacterialflora:firstreport.Variationsinupperrespiratorytractbacterialflorainpatientswithacuteupperrespiratorytractinfectionandhealthysubjectsandvariationsbysubjectage.JInfectChemother12:83-96,2006(112)***

感染性心内膜炎から転移性眼内炎を発症し,治癒後に硝子体黄斑牽引症候群を発症した1 例

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(103)411《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(3):411.414,2011cはじめに転移性眼内炎は,眼以外の部位にある感染巣から血行性に真菌や細菌が眼内に転移し発症する疾患である.転移性眼内炎で最も多い起炎菌はカンジダを初めとした真菌性眼内炎であるが,細菌性眼内炎も転移性眼内炎の25~31%を占めている1,2).いずれも重篤であれば失明率が高い.筆者らは比較的若年で元来健康な成人に,抜歯後に感染性心内膜炎を発症してほぼ同時期に転移性眼内炎を生じ,眼内炎治癒後に硝子体黄斑牽引症候群(vitreomaculartractionsyndrome:VMTS)を発症し,手術療法にて治癒した症例を経験したので報告する.〔別刷請求先〕盛秀嗣:〒573-1191枚方市新町2丁目3番1号関西医科大学枚方病院眼科Reprintrequests:HidetsuguMori,M.D.,DepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital,2-3-1Shinmachi,Hirakata,Osaka573-1191,JAPAN感染性心内膜炎から転移性眼内炎を発症し,治癒後に硝子体黄斑牽引症候群を発症した1例盛秀嗣山田晴彦石黒利充髙橋寛二関西医科大学枚方病院眼科ACaseofMetastaticEndophthalmitisandSubsequentVitreomacularTractionSyndromeSecondarytoInfectiveEndocarditisHidetsuguMori,HaruhikoYamada,ToshimitsuIshiguroandKanjiTakahashiDepartmentofOphthalmology,KansaiMedicalUniversityHirakataHospital目的:感染性心内膜炎が原発巣である転移性細菌性眼内炎の症例報告.症例:37歳,女性.抜歯が原因と考えられる感染性心内膜炎のため内科治療中に左眼の視力低下と飛蚊症を自覚した.初診時の左眼の矯正視力は0.15で,前房内に炎症細胞,網膜にRoth斑,滲出斑を認めた.経過から感染性心内膜炎による転移性眼内炎と診断した.血液培養の結果,Streptococcussanguisが検出されたが,薬物治療のみで眼内炎は治癒し,矯正視力は0.7まで回復した.その後左眼に硝子体黄斑牽引症候群を生じ,矯正視力は0.4まで低下したため,硝子体切除術を行い,術後視力は0.7まで回復した.結語:Streptococcussanguisによる感染性心内膜炎が原因であった転移性細菌性眼内炎の報告はまれである.感染性心内膜炎の症例においては眼症状の発現の有無に十分注意する必要がある.Purpose:Toreportacaseofmetastaticendophthalmitisduetoinfectiveendocarditis.Case:A37-year-oldfemalenoticedlossofvisioninherlefteyeandconsultedourclinic.Shehadbeentreatedinthedepartmentofcardiologyforinfectiveendocarditisfollowingtoothextraction.Atthefirstconsultationthebest-correctedvisualacuity(BCVA)inherlefteyewas0.15andtherewerecellsintheanteriorchamber.Severalhemorrhagesandexudatesintheretinawereobservedinbotheyes.Accordingtosystemicsymptomsandophthalmologicfindings,shewasdiagnosedwithmetastaticendophthalmitissecondarytoinfectiousendocarditis.Streptococcussanguiswasfoundinherbloodspecimen.Asshehadalreadybeensystemicallytreatedwithantibioticagents,themetastaticendophthalmitisresolvedandBCVArecoveredto0.7OS.Threeweekslater,vitreomaculartractionsyndromedevelopedinherlefteye,andBCVAdecreasedto0.4OS.Wethenperformedvitrectomyonherlefteye.Postoperatively,BCVAinthelefteyerecoveredto0.7.Conclusion:Metastaticendophthalmitiscausedbyinfectiveendocarditisisrare.Inapatientwhohasendophthalmitiscomplicatedwithendocarditis,metastaticendophthalmitiscanresult.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):411.414,2011〕Keywords:感染性心内膜炎,細菌,転移性眼内炎,緑色レンサ球菌,硝子体黄斑牽引症候群.infectiveendocarditis,bacillus,metastaticendophthalmitis,Streptococcussanguis,vitreomaculartractionsyndome.412あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(104)I症例患者:37歳,女性.初診日:2009年2月24日.主訴:左眼視力低下,飛蚊症.既往歴・家族歴:特記すべき事項なし.現病歴:2008年9月に歯科で抜歯を受けたあと,12月から発熱・関節痛を認め,抗菌薬を処方され内服したが軽快しなかった.発熱が持続し,全身倦怠感が続くため2009年2月23日関西医科大学枚方病院総合診療科を受診した.感染性心内膜炎が疑われたため,同日循環器内科にて心エコー検査の結果,感染性心内膜炎と診断され,CCU(集中治療室)に即日入院となった.入院日に左眼の視力低下および飛蚊症を訴えたため,翌日の2月24日に当科を受診した.眼科初診時所見:視力は右眼0.3(1.5p×sph.3.00D(cyl.1.25DAx10°),左眼0.05(0.15p×sph.1.00D(cyl.3.25DAx10°)であった.眼圧は右眼16mmHg,左眼15mmHg.前眼部は,角膜は両眼ともに透明平滑であったが,前房には右眼に浮遊細胞を少数,左眼に浮遊細胞をやや多数認めた.虹彩,隅角,中間透光体は両眼ともに異常所見を認めなかった.両眼の眼底に視神経乳頭の発赤・腫脹と多数の網膜滲出斑およびRoth斑,左眼の黄斑部には内境界膜下出血を認めた(図1).全身所見として感染性心内膜炎に特徴的なJaneway斑点,Osler結節と四肢の関節痛を認めた.また,僧帽弁閉鎖不全に特徴的な心尖部の収縮期雑音を聴取した.血液検査では白血球数10,700/ml(好中球80.2%)と増多があり,CRP(C反応性蛋白)は6.2mg/dlと強陽性を呈した.心エコーでは僧帽弁前尖に10mmを超える大きさの細菌性疣贅を認め,心ドップラーエコーでは軽度の僧帽弁閉鎖不全(図2)を認めた.脳のMRI(磁気共鳴画像)のT1強調画像(図3)では大脳深部白質・右前頭葉,側脳室下角の白質に複数の点状高図1初診時の眼底所見上:右眼.視神経乳頭の発赤腫脹,網膜の滲出斑(白矢印)を認めた.下:左眼.視神経乳頭の発赤腫脹,滲出斑およびRoth斑(黄矢印),さらに黄斑部に滲出斑と内境界膜下出血(白矢印)を認めた.図2心エコー(上)および脳MRI(下)上:僧帽弁前尖に10mm以上の疣贅(白矢印)を認め(右図),心ドップラーエコー(図左)では左室にモザイクパターンを示し,僧帽弁閉鎖不全症の所見を認めた.下:右前頭葉,側脳室下角の白質に複数の点状高信号域を認めた(白矢印).(105)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011413信号域を認め,ラクナ梗塞の所見がみられた.血液培養では後日,口腔内常在菌である緑色レンサ球菌の一種であるStreptococcussanguisが検出された.以上の所見より,眼科的には感染性心内膜炎に伴う両眼の転移性眼内炎と診断した.臨床経過:眼科初診時よりすでに循環器内科にてゲンタマイシンおよびペニシリンGの静脈内投与が行われており,眼内炎症所見も軽微であったことから,これらの薬物治療に追加治療を行うことなく経過観察を行った.眼内炎の所見は徐々に消失し,3月初旬には左眼の矯正視力は0.15から0.7まで改善した.また,僧帽弁部の疣贅と僧帽弁閉鎖不全に対して,3月中旬に循環器外科で僧帽弁形成術が行われ,術後の経過は良好であった.しかし,3月下旬に左眼の視力は0.4と再び低下した.右眼の視神経乳頭の発赤・腫脹は消失し,網膜滲出斑,Roth斑も消失していた.左眼も同様に視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜滲出斑,Roth斑・内境界膜下出血は消失していたが,黄斑上膜の発生と網膜皺襞がみられた.2009年6月の左眼の光干渉断層計(OCT)所見では,肥厚した後部硝子体膜が中心窩網膜を牽引しており,一部網膜分離を認めた(図4).これらの所見から続発性にVMTSを生じたと診断した.2009年7月28日,左眼に経毛様体扁平部硝子体切除術と内境界膜.離術を行った.術後経過は良好で,自覚症状も著しく改善した.術後4カ月の左眼のOCT所見では中心窩網膜の牽引は消失し,中心窩陥凹は回復して解剖学的治癒が得られた(図5).同年10月13日の再診時には左眼視力は0.7まで改善し,その後眼内炎やVMTSの再燃をみていない.II考按転移性眼内炎は眼以外の部位にある全身の感染巣から血行性に真菌や細菌が眼内に転移し発症する疾患である.転移性眼内炎のうちで起炎菌として最も多いのは,Candidaalbi図3初診3週間後の眼底所見(上:右眼,下:左眼)両眼とも視神経乳頭の発赤・腫脹,網膜滲出斑・Roth斑は消失していた.左眼の黄斑部では内境界膜下出血は吸収していたが,黄斑上膜と網膜皺襞を認めた.図5術後4カ月の右眼OCT所見中心窩網膜の牽引は消失し,網膜形態は回復した.図4術前1カ月の右眼OCT所見肥厚した後部硝子体膜による中心窩網膜の牽引を認めた.414あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(106)cansで29%と最も多く,つぎにKlebsiella16%,大腸菌13%とグラム陰性細菌が続く3).真菌性眼内炎は悪性腫瘍・膠原病・大手術後・血液透析などの免疫抑制状態や中心静脈高カロリー輸液(IVH)のためのカテーテル留置,ステロイド使用などが要因となり4),経過も細菌に比べ緩慢で両眼性のことが多い2).細菌性転移性眼内炎は原疾患として肝膿瘍が最も多く,ついで尿路感染症が多い.そして起炎菌はグラム陰性菌によるものが多いが,病原性が強いため,一旦発症すれば症状は急激に進行し,経過も早い.片眼性が多く,失明率が高く予後不良の疾患である5).感染性心内膜炎に眼内炎を合併する報告例はわが国で数例6~8)と少なく,検出された菌はそれぞれB群溶連菌,肺炎球菌,B群レンサ球菌であった.眼内炎の起炎菌としてStreptococcussanguisが検出された症例は,わが国では白内障術後に認めた外因性眼内炎の1例9)があるのみで,転移性眼内炎をひき起こした症例は筆者らが検索した限りでは本報告が初めてであった.両眼ほぼ同時に発症しているという点も本症例は非常にまれな症例であったといえる.Streptococcussanguisは口腔内常在菌であるため,感染性心内膜炎の起炎菌としては最もよくみられる菌10)で,抜歯後に発症しやすいという点で本症例は典型的であった.全身所見として,心エコーにより疣贅が証明され,感染性心内膜炎の診断基準であるDuke基準10)の大項目2個を満たし,かつJaneway斑,Osler結節,ラクナ梗塞などの塞栓症や38℃以上の発熱を認めたためDuke基準の小項目3個を満たした.これらのことから感染性心内膜炎の診断がほぼ確定しているところに抜歯後の発熱という典型的な病歴から感染性心内膜炎の診断が迅速かつ的確に可能であった.その後に当科を受診し,前眼部に軽度の炎症所見と網膜にRoth斑と滲出斑を認めたことから,眼科的にも感染性心内膜炎を原発巣とする転移性眼内炎と早期に確定診断が可能であった.転移性眼内炎は早期診断・早期治療が視力予後に大きく影響する.転移性眼内炎の起炎菌の同定には時間がかかることが多く,治療としてはこれらをカバーする広域の抗菌薬の全身投与および局所投与,硝子体手術などがある.しかし実際には,感染性眼内炎の診断やその原発巣の同定には苦慮することも多く,失明率は高いことが認識されている2).本症例では感染性心内膜炎と診断した後すぐに抗生物質の静脈内投与が開始されていたこと,眼内炎が常在菌で弱毒性グラム陽性菌によるもので,細菌の網膜浸潤が起こりかけた早期に発見できたことなどから良好な予後を得た.VMTSに対しては,手術治療を行って黄斑上膜と内境界膜を.離することで解剖学的治癒と視機能回復を得ることができた.VMTSを生じた原因として,以下の発生機序を考察した.まず最初に,網膜内への細菌の浸潤により局所的炎症を生じ,そのために病巣での網膜血管壁の障害がひき起こされて内境界膜下血腫を生じた.その後局所的な炎症や内境界膜下血腫が消失する過程で黄斑部に接していた後部硝子体皮質に何らかの細胞増殖が起こって硝子体皮質が肥厚し,その結果黄斑上膜が発生した.続いて硝子体ゲルの液化変性を生じて部分的後部硝子体.離を生じたため,黄斑部への牽引がかかりVMTSを生じたと推察した.Canzanoら11)も続発性硝子体黄斑牽引症候群を生じた症例報告のなかで筆者らと同様の考察を行っているが,今後,詳しい組織学的検討や病態解明が期待される.本症例は典型的な病歴や症状をもって内科的診断が迅速に可能で,診断がついたうえで眼科を受診したため,眼科的診断は比較的容易であった.かつ起炎菌が弱毒であったため,速やかに治癒して良好な視力予後を得た.このように全身的な感染症の徴候に眼症状を伴う場合には,転移性眼内炎の可能性が常にあることを忘れず,血液培養などによって原因菌を特定しつつ,迅速に眼科での診断を行って集学的治療を行うことが視力予後に大きく影響することを認識する必要がある.文献1)藤関義人,高橋寛二,松村美代ほか:過去5年間の内因性細菌性眼内炎の検討.臨眼56:447-450,20022)武田佐智子,馬場高志,井上幸次ほか:肝膿瘍由来Citrobacterfreundiiによると考えられる両眼眼内炎の1例.あたらしい眼科24:1261-1264,20073)村瀬裕子,吉本幸子,上田幸生ほか:B群b溶連菌による転移性眼内炎を合併した糖尿病の1例.糖尿病42:215-219,19994)山田晴彦,星野健,松村美代:アトピー性皮膚炎患者に発症した内因性感染性眼内炎の1例.臨眼62:1667-1671,20085)秦野寛,井上克洋,北野周作ほか:日本の眼内炎の現状(発症動機と起炎菌).日眼会誌95:369-375,19916)小林香陽,藤関義人,高橋寛二ほか:B群溶連菌による心内膜炎が原因であった内因性転移性眼内炎.日眼会誌110:199-204,20067)宮里均,荒川幸弘,富間嗣勇ほか:肺炎球菌性心内膜炎により転移性眼内炎,恥骨結合炎をきたした一例.沖縄医学会雑誌40:65-67,20028)妹尾健,西上尚志,真鍋憲市ほか:両眼の細菌性眼内炎を合併した感染性心内膜炎の1例.JCardiol39:171-176,20029)中村秦介,萬代宏,古谷朱美ほか:Streptococcussanguisによる白内障術後眼内炎の2例.眼臨97:80,200310)宮武邦夫,赤石誠,石塚尚子ほか:感染性心内膜炎の予防と治療に関するガイドライン.循環器病の診断と治療に関するガイドライン.2007年度合同研究班報告書,p1-46,200811)CanzanoJC,ReedJB,MorseLS:VitreomaculartractionsyndromefollowinghighlyactiveantiretroviraltherapyinAIDSpatientswithcytomegalovirusretinitis.Retina18:443-447,1998

白内障術後遅発性眼内炎初診時における前眼部所見

2011年3月31日 木曜日

406(98あ)たらしい眼科Vol.28,No.3,20110910-1810/11/\100/頁/JC(O0P0Y)《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(3):406.410,2011c〔別刷請求先〕佐々木香る:〒860-0027熊本市西唐人町39出田眼科病院Reprintrequests:KaoruAraki-Sasaki,MD.,Ph.D.,IdetaEyeHospital,39Nishi-tojincho,Kumamoto,Kumamoto860-0027,JAPAN白内障術後遅発性眼内炎初診時における前眼部所見佐々木香る*1刑部安弘*2中村真樹*3園山裕子*1佐藤智樹*4川崎勉*1出田隆一*1*1出田眼科病院*2東京医科大学分子病理学*3東邦大学生物学*4佐藤眼科CharacteristicsofSlitLampExaminationinDelayedOnsetPostoperativeEndophthalmitisatFirstReferencetoHospitalKaoruAraki-Sasaki1),YasuhiroOsakabe2),MasakiNakamura3),HirokoSonoyama1),TomokiSatoh4),TsutomuKawasaki1)andRyuichiIdeta1)1)IdetaEyeHospital,2)DepartmentofPathology,TokyoMedicalUniversity,3)DepartmentofBiology,TohoUniversity,4)SatohEyeClinic目的:遅発性術後眼内炎において,診断の補助とすべく,初診時前眼部所見の出現頻度を急性と比較してレトロスペクティブに検討した.対象および方法:出田眼科病院にて平成18~22年に術後眼内炎と診断された症例のうち,専門医の判断の下に硝子体手術もしくは抗菌薬の硝子体内注射を施行された16例16眼(男性8例,女性8例,平均年齢69.7歳)を対象とした.初診時における写真とカルテ記載事項をもとに検討した.結果:眼内採取物から菌が検出されたのは16眼中7眼であった.初診時所見は,急性眼内炎(平均術後5.3日発症)8眼では,豚脂様角膜後面沈着物(mf-KP)0眼,前房蓄膿5眼,フィブリン析出8眼であった.一方,遅発性眼内炎(平均術後4.3カ月発症)8眼では,mf-KP7眼(80%),前房蓄膿3眼,フィブリン析出3眼であった.また,眼内レンズと前.の間に白色プラークを認めたものは7眼(80%)であり,実験的に調整した菌液に浸漬した前.の所見と酷似していた.考按:遅発性術後眼内炎の初診時前眼部所見として,mf-KPや白色プラークは,フィブリン析出や前房蓄膿に比して,より初期により高率(約80%)に認められる.Purpose:Fordiagnosisofdelayedonsetpostoperativeendophthalmitis,weretrospectivelycomparedthecharacteristicsofslitlampobservationbetweendelayedonsetandacuteonsetpostoperativeendophthalmitis.MaterialsandMethods:Subjectsofthisstudycomprised16eyesof16cases(8male,8female,averageage:69.7yrs)diagnosedwithpostoperativeendophthalmitisbyophthalmicspecialistsatIdetaEyeHospitalfrom2008to2010.Thesecasesweretreatedbyantibioticintravitreousinjection,withorwithoutvitrectomy.Additionally,indelayedonsetendophthalmitis,casestreatedbyantibioticintravenousinjectionwererecruited.Photographsofslitlampexaminationsanddescriptionsofmedicalrecordswerereferredtoforanalysis.Result:Thecausativebacteriawasidentifiedin7ofthe16eyes.Intheacuteonsetpostoperativeendophthalmitiscases(8eyes),whichoccurredonanaverageof5.3daysaftersurgery,muttonfatkeratoprecipitate(mf-KP)wasobservedin0cases,hypopyonin5casesandfibrinmembranein8cases.Ontheotherhand,inthedelayedonsetpostoperativeendophthalmitiscases(8eyes),whichoccurredonanaverageof4monthsaftersurgery,mf-KPwasobservedin7cases(80%),hypopyonin3casesandfibrinmembranein3cases.Whiteplaquebetweenintraocularlensandanteriorcapsulewasobservedin7cases(80%)andwassimilarinappearancetodepositiononacapsulesoakedexperimentallyinbacterialsolution.Conclusion:Ascharacteristicsoftheanteriorsegmentoftheeyeindelayedonsetpostoperativeendophthalmitis,mf-KPandwhiteplaquecanbeobservedathigherpercentages(80%)andearlierthanhypopyonandfibrinmembrane.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):406.410,2011〕Keywords:術後眼内炎,遅発性眼内炎,Propionibacteriumacnes,白色プラーク,豚脂様角膜後面沈着物(mf-KP).postoperativeendophthalmitis,delayedonsetendophthalmitis,Propionibacteriumacnes,whiteplaque,muttonfatkeratoprecipitate(mf-KP).(99)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011407はじめに白内障術後眼内炎(以下,術後眼内炎)の治療には,迅速な臨床診断が不可欠である.従来から術後眼内炎を疑う前眼部所見として,前房内炎症を伴う充血,前房蓄膿,豚脂様角膜後面沈着物(mf-KP),フィブリン析出が知られている1).しかし,元来頻度の少ない疾患であることに加え,術者にとっては遭遇したくない疾患でもあり,迅速な判断ができず診断に躊躇することもある.特に,遅発性眼内炎については1990年代に話題となり多くの報告がなされ,その特徴が報告されている2~17)が,まとまった報告が少ない.また認識が広まった今日では議論される場も少なくなった.しかし,現在でも疾患の発現頻度には変わりがなく,実際の臨床現場では依然としてその診断に躊躇することが多いと思われる.近年,改めてその前眼部所見,特にmf-KPの意義について,感染の活動性を表すものとして提案する報告もなされており17),30年ほど経過した今,遅発性の前眼部所見の出現頻度を明らかにして特徴を数値化して提示することは有用と考えた.そこで,今回,遅発性眼内炎の初診時前眼部所見の出現頻度を急性と比較してレトロスペクティブに検討した.I対象および方法1.前眼部所見の観察出田眼科病院(以下,当科)にて平成18~22年に術後眼内炎と診断された症例のうち,専門医の判断の下に硝子体手術もしくは抗菌薬の硝子体内注射を施行された16例16眼(男性8眼,女性8眼,平均年齢69.7歳)を対象とした.文献に従って手術から発症までの期間で1カ月を境に急性と遅発性に分けた1).遅発性に関しては,ステロイド抵抗性であること,ぶどう膜炎の既往および関連全身疾患の既往がないこととし,上記の外科的加療症例以外に,抗菌薬点滴加療を行った症例も加えた.初診時における写真とカルテ記載事項をもとに,mf-KP,白色プラーク,前房蓄膿,フィブリン析出の有無について検討した.2.実験的白色プラークの観察患者の同意を得たうえで,白内障手術時に前.を無菌的に採取した.15mlconicaltube内に調整したコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)(5ml生理食塩水に1コロニー接種)の菌液に浸漬し,37℃で7日間培養した.コントロールとして生理食塩水に同様に浸漬した.細隙顕微鏡にて患者の白色プラークを観察する際と同じ倍率(×16)にて観察し,写真撮影をした.同様の観察を3回くり返した.3.前房水polymerasechainreaction(PCR)前房水を標品としてNested-PCRを行い,16SrRNA遺伝子断片を増幅した.反応には,DNApolymerase(KODFX:東洋紡)を使用し,以下のプライマーを用いた.1stPCRでは細菌汎用プライマー(Forward:5¢-ACTCCTACGGGAGGCAGCAGT-3¢,Reverse:5¢-GTGACGGGCGGTGTGTACAAG-3¢),2ndPCRではPropionibacteriumacnes特異的プライマー(Forward:5¢-GGGTTGTAA(A/T)CCGCTTTCGCCTG-3¢とReverse:5¢-GGGACACCCATCTCTGAGCAC-3¢)を用いた.反応条件は,98℃2分間ののち,98℃10秒間,50℃30秒間,68℃60秒間を30サイクルで増幅した.1stPCRの鋳型には50℃12時間のプロテイナーゼK処理後の前房水1μlを,2ndPCRの鋳型には1stPCR増幅反応液の1/1,000希釈液1μlを用いた.増幅された断片のシークエンス(484塩基)をBLAST(basiclocalalignmentsearchtool)検索により同定した.II結果遅発性8眼では発症は術後平均4カ月(1~8カ月),急性8眼では発症は術後平均5.4日であった.検出菌は遅発性でPropionibacteriumacnes3眼,CNS1眼,前房水採取にて陰性が2眼,未施行が2眼であった.また急性ではStaphylococcussp.3眼,未施行5眼であった.以下に代表症例として遅発性2例と急性1例を示す.〔遅発性症例1〕73歳,女性.既往歴:他院にて2006年3月29日に左眼超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行された.術3カ月後に霧視を自覚した.抗菌薬とステロイドの局所投与にて軽快せず,同年8月24日に前部硝子体切除を施行されるも炎症が再燃し,同年12月4日に当科紹介となる.全身疾患としては糖尿病および高血圧を認めた.初診時所見:細隙灯顕微鏡所見を図1aに示す.前房炎症とともに軽度充血を認めた.角膜下方全面にmf-KPを,水晶体.には白色プラークを認めた.前房蓄膿は初診時認められなかったが,4日後受診時に軽度出現した.フィブリンの析出は認めなかった.眼底所見としては糖尿病による軽度網膜出血および白斑を認めた.経過:硝子体茎切除術,眼内レンズ摘出術および抗菌薬(セフタジジム,塩酸バンコマイシン)硝子体内注射にて消炎を得た.手術時,採取された水晶体.は,好気培養では陰性であったが,嫌気培養にてP.acnesが検出された.〔遅発性症例2〕75歳,女性.既往歴:他院にて平成22年3月4日,左眼超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行された.術後経過は良好であったが,同年3月22日に霧視を自覚した.抗菌薬とステロイドの局所投与にて軽快せず,4月3日に当科紹介となる.全身疾患の既往はなかった.初診時所見:細隙灯顕微鏡所見は図1bのとおりであった.前房炎症とともに軽度充血を認めた.角膜下方全面にmf-KPを,水晶体.には白色プラークを認めた.前房蓄膿は認408あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(100)められなかったが,4日後受診時にフィブリンの析出を認めた.眼底所見としては軽度硝子体混濁を認めた.経過:抗菌薬(セフタジジム,塩酸バンコマイシン)硝子体内注射および灌流下に前房および水晶体.洗浄を施行し,消炎を得た.手術時,採取された前房水のPCRにてP.acnesが検出された.〔急性症例〕70歳,女性.既往歴:硝子体出血にて2008年10月1日に右眼硝子体茎切除術および超音波乳化吸引術と眼内レンズ挿入術を施行された.術翌日は特に異常所見を認めなかったが,術後2日目に高度のフィブリン析出を認めた.高血圧にて内服中であった.初診時所見:細隙灯顕微鏡所見は図2のとおりであった.高度の毛様充血を認め,高度フィブリン析出とともに前房蓄膿を認めた.mf-KPは認められず,高度前房内炎症のため,水晶体.における白色プラークの有無は観察不能であった.また眼底所見は観察困難であったが,網膜出血および白斑を観察することができた.経過:2008年10月3日に抗菌薬(セフタジジム,塩酸バンコマイシン)硝子体内注射および灌流下に前房洗浄を施行し,消炎を得た.手術時,採取された硝子体液の培養にてStaphylococcussp.が検出された.遅発性と急性の前眼部所見出現頻度についてまとめたものを表1に示す.遅発性ではmf-KPが7眼(80%)に認められ,白色プラークも7眼(80%)の症例でカルテに陽性所見が記載されていた.mf-KPと白色プラークは急性では認められなかった.一方,初診時における前房蓄膿やフィブリン析出は,急性で各々63%,100%と多く認められたのに対して,遅発性ではいずれも3眼(38%)と低い頻度であった.実験的白色プラークCNS菌液に浸漬した前.を細隙灯顕微鏡で観察したところ,同倍率で観察した実際の眼内炎患者の白色プラークに形状の類似した白色沈着物を認めた(図3).III考按今回の結果から,遅発性の前眼部所見として,mf-KPおよび白色プラークは,前房蓄膿やフィブリン析出に先行して,非常に高率(80%)に認められることが明らかとなった.ab図1遅発性眼内炎の前眼部所見a:遅発性代表症例1の前眼部所見.角膜下方に大きな豚脂様角膜後面沈着物を認める.b:遅発性代表症例2の前眼部所見.同じく豚脂様角膜後面沈着物を認める.表1急性と遅発性眼内炎の初診時前眼部所見の発現頻度遅発性(8眼)急性(8眼)豚脂様角膜後面沈着物7眼(88%)0眼(0%)前房蓄膿3眼(38%)5眼(63%)フィブリン析出3眼(38%)8眼(100%)白色プラーク6眼で記載あり(75%)図2急性代表症例の前眼部所見フィブリンの高度析出と前房蓄膿を認めるが,角膜後面沈着物は認めない.(101)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011409なかには特に大きなmf-KPを認めた症例もあり,眼内炎の活動性を示唆するものと思われた.mf-KPを認めなかった1例ではやや小さめの色素性角膜後面沈着物を認めており,検出菌はCNSであった.症例数が少ないので,明らかではないが,従来の報告18)からmf-KPはアジュバント作用のあるP.acnesによる眼内炎で,特異的であった可能性がある.文献的にはActinomycesによる眼内炎もP.acnes同様に遅発性で大きなmf-KPを生じるとされている19).今回の症例ではActinomycesは検出されなかったが,P.acnesと同様に弱毒菌であり,長期に存在する菌では同様の免疫反応を惹起する可能性があると思われる.mf-KPをみた場合,まず肉芽腫性のぶどう膜炎を考えるのが一般的ではあるが,眼内レンズ挿入眼では遅発性眼内炎も可能性の一つであることも頭の隅に置いておくべきだと思われる.白色プラークはすでにバイオフィルムを伴った細菌コロニーであることが電子顕微鏡で確認されている20)が,今回の実験的プラークもその形状が非常に類似していることが確認された.遅発性眼内炎では,この白色プラークの出現頻度も高率であることから,mf-KPを認めた際は,続いて白色プラークの確認を行うことが診断補助となると考えられた.今回の検討で問題となるのは,全例において菌の検出ができていないことである.しかし,術後眼内炎そのものの症例数が少ないこともあり,術後眼内炎として報告されている既報をみても必ずしも菌は検出されていない.本結果を裏付けするために,P.acnesが分離されている既報2~16)における前眼部所見を表2にまとめた.その結果,ほぼ同様に,mf-KPは80%,前房蓄膿は34%,白色プラークは80%との記載がab図379歳,男性.遅発性眼内炎の症例a:矢印は水晶体前.裏面に沈着した白色プラーク.観察倍率×16.b:CNS菌液に浸漬して37℃7日間培養した前.を細隙灯顕微鏡で観察したもの.aの白色プラークに類似した白色の小沈着物が集合して認められる(矢印).観察倍率×16.表2P.acnesによる遅発性眼内炎の前眼部所見―既報のまとめ―報告者報告年発症(術後)mf-KP前房蓄膿西ら2)19899M○遅れて+萩原ら3)19892Mベタ注○小泉ら4)19921~6M○村尾ら5)19921M○遅れて+中井ら6)19954M○○粟田ら7)19955M○○岩瀬ら8)19963M○遅れて+田辺ら9)199911M○Jaffeら10)19867M○○Meislerら11)19866M3M○3M○3M○Piestら12)198714M○遅れて+10M○遅れて+4M○16M○Rousselら13)19874M○2.5M○遅れて+Carlsonら14)1988不明○○Al-Mezaineら16)20095M○○9M○4M○2M○5M○8M○2M○○ベタ注:ベタメタゾン結膜下注射により消失.410あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(102)あり,筆者らの結果は妥当であると思われた.より早期の所見として,虹彩反応としての瞳孔径の変化や,内皮反応としての角膜厚の変化などが出る可能性もあると思われるが,手術手技による影響を受けやすく,実際の臨床の場では,患者が異常を訴えて来院する際の初診時前眼部所見が重要だと思われる.以上,白内障術後遅発性眼内炎における初診時前眼部所見について検討した.文献1)原二郎:発症時期からみた白内障術後眼内炎の起因菌─Propionibacteriumacnesを主として─.あたらしい眼科20:657-660,20032)西佳代,西興史,AppleDJほか:水晶体.外摘出術後に見られたPropionibacteriumacnesと表皮ぶどう球菌感染による限局性眼内炎の1例.臨眼42:931-935,19883)萩原博実,今井正之,野近裕美子ほか:後房レンズ移植後に発生した持続眼内炎の3例.眼紀40:1734-1739,19894)小泉閑,井戸雅子,川崎茂ほか:眼内レンズ挿入後の感染性眼内炎.臨眼46:846-847,19925)村尾多鶴,井上博,小山内卓哉ほか:後房レンズ移植後に発生した遅発性眼内炎の2例.眼臨86:2433-2437,19926)中井義秀,北大路浩史,北大路勢津子ほか:眼内レンズ術後細菌性眼内炎3例について.眼紀46:619-623,19957)粟田正幸,田中香純,秦野寛ほか:白内障術後Propionibacteriumacnes眼内炎の1例.あたらしい眼科12:649-651,19958)岩瀬剛,柳田隆,山下陽子ほか:眼内レンズ挿入術後に発症したPropionibacteriumacnesによる遅発性眼内炎の1例.臨眼50:1669-1674,19969)田辺直樹,伊藤逸毅,堀尾直市ほか:Propionibacteriumacnesによる白内障術後眼内炎の1例.眼臨93:1652-1655,199910)JaffeGJ,WhitcherJP,BiswellRetal:Propionibacteriumacnesendophthalmitissevenmonthsafterextracapsularcataractextractionandintraocularlensimplantation.OphthalmicSurg17:791-793,198611)MeislerDM,PalestineAG,VastineDWetal:ChronicPropionibacteriumendophthalmitisafterextracapsularcataractextractionandintraocularlensimplantation.AmJOphthalmol102:733-739,198612)PiestKL,AppleDJ,KincaidMCetal:Localizedendophthalmitis:Anewlydescribedcauseofthesocalledtoxiclenssyndrome.JCataractRefractSurg13:498-510,198713)RousselTJ,CulbertsonWW,JaffeNS:ChronicpostoperativeendophthalmitisassociatedwithPropionibacteriumacnes.ArchOphthalmol105:1199-1201,198714)CarlsonAN,KochDD:EndophthalmitisfollowingNd:YAGlaserposteriorcapsulotomy.OphthalmicSurg19:168-170,198815)OrmerodLD,PatonBG,HaafJetal:Anaerobicbacterialendophthalmitis.Ophthalmology94:799-808,198716)Al-MezaineHS,Al-AssiriA,Al-RajhiA:Incidence,clinicalfeatures,causativeorganisms,andvisualoutcomesofdelayed-onsetpseudophakicendophthalmitis.EurJOphthalmol19:804-811,200917)RousselT,OlsonER,RiceTetal:ChronicpostoperativeendophthalmitisassociatedwithActinomycesspecies.ArchOphthalmol109:60-62,199118)JaveyG,AlbiniTA,FlynnHW:ResolutionofpigmentedkeraticprecipitatesfollowingtreatmentofpseudophakicendophthalmitiscausedbyPropionibacteriumacnes.OphthalmicSurgLasersImaging9:1-3,201019)MaguireHCJr,CiprianoD:ImmunopotentiationofcellmediatedhypersensitivitybyCorynebacteriumparvum(Propionibacteriumacnes).IntArchAllergyApplImmunol75:34,198320)BusinM,CusumanoA,SpitznasM:Intraocularlensremovalfromeyeswithchroniclo-gradeendophthalmitis.JCataractRefractSurg21:679-684,1995***

爪真菌症の関与を疑ってテルビナフィン内服の併用療法を行った角膜真菌症の1 例

2011年3月31日 木曜日

0910-1810/11/\100/頁/JCOPY(93)401《第47回日本眼感染症学会原著》あたらしい眼科28(3):401.405,2011cはじめに爪真菌症はTrichophyton属(白癬菌)によるものが多いが,非白癬菌性もまれに存在する1).非白癬菌によるものでは,原因としてAspergillus属,Fusarium属,Candida属などがあるが,これらの菌種は角膜真菌症の原因菌としてもよく知られた菌種である.爪真菌症の罹患率はわが国ではおよそ10%といわれており2),爪真菌症がリザーバーとなって角膜外傷などで易感染性となった角膜に感染症を生じる可能性も無視できない.しかしながら,爪真菌症が角膜真菌症に関与していることを示唆した報告はほとんどない.今回筆者らは,Aspergillus爪真菌症が関与したと考えられる角膜真菌症を経験し,さらに爪からの真菌分離株の形態学的・遺伝学的同定と薬剤感受性検査からいくつかの知見が得られたので報告する.〔別刷請求先〕星最智:〒426-8677藤枝市駿河台4-1-11藤枝市立総合病院眼科Reprintrequests:SaichiHoshi,M.D.,Ph.D.,DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,4-1-11Surugadai,Fujieda-shi,Shizuoka426-8677,JAPAN爪真菌症の関与を疑ってテルビナフィン内服の併用療法を行った角膜真菌症の1例星最智*1戸田祐子*2大塚斎史*3卜部公章*3*1藤枝市立総合病院眼科*2国立病院機構高知病院眼科*3町田病院ACaseofKeratomycosisThoughttobeRelatedtoOnychomycosis,TreatedwithCombinationTherapyofOralTerbinafineSaichiHoshi1),YukoToda2),YoshifumiOhtsuka3)andKimiakiUrabe3)1)DepartmentofOphthalmology,FujiedaMunicipalGeneralHospital,2)DepartmentofOphthalmology,KochiNationalHospital,3)MachidaHospitalAspergillus爪真菌症が関与すると考えられた角膜真菌症を経験したので報告する.74歳,男性.眼外傷の3日後に国立高知病院眼科を受診した.角膜擦過を行ったところ糸状型真菌が検出されたため,ピマリシンとボリコナゾール点眼およびボリコナゾール全身投与による抗真菌薬治療を開始した.入院治療後,角膜潰瘍はいったん改善したものの徐々に悪化してきたため,町田病院に紹介となった.局所治療ではピマリシンを減量し,ボリコナゾール点眼を集中的に用いた.さらに,問診時に手足の爪真菌症を認めたことからテルビナフィン125mg/日の内服を併用したところ,20日後に角膜真菌症は沈静化した.患者の爪からはAspergillusterreusが分離された.本症例は爪真菌症が感染源となり角膜真菌症を悪化させたと考えられた.テルビナフィン内服の併用が有効と考えられた.WereportacaseofkeratomycosissuspectedofrelationtoAspergillusonychomycosis.Threedaysaftersufferingoculartrauma,a74-year-oldmaleconsultedKochiNationalHospitalforpaininhisrighteye.Topicalpimaricinandvoriconazoleeyedrops,andsystemicvoriconazole,wereinitiatedfollowingdetectionoffilamentousfungiincornealscrapings.Cornealulcerimprovedatthebeginningoftreatment,butgraduallywosened;thepatientwasthereforereferredtoMachidaHospital.Topicalpimaricinwasreducedandtopicalvoriconazolewasadministeredintensively.Oralterbinafine125mg/daywasalsoadministered,incombinationwithoralvoriconazole400mg/day,becauseoftheonychomycosiscomplication.Thekeratomycosisresolved20daysafterthetreatment.Aspergillusterreuswasdetectedfromhisfingernailspecimen.Onychomycosisasaninfectioussourcecouldaggravatekeratomycosis.Combinationtherapywithoralterbinafineshouldbeconsideredasatreatmentforkeratomycosis.〔AtarashiiGanka(JournaloftheEye)28(3):401.405,2011〕Keywords:角膜真菌症,爪真菌症,アスペルギルス属,テルビナフィン,ボリコナゾール.ketratomycosis,onychomycosis,Aspergillusspecies,terbinafine,voriconazole.402あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(94)I症例患者:74歳,男性.職業は農業である.主訴:右眼の眼痛.内科既往歴:高血圧とコントロール不良の糖尿病〔Hb(ヘモグロビン)A1C=9.3%〕を認める.眼科既往歴:両眼の増殖糖尿病網膜症と眼内レンズ挿入眼を認める.現病歴:3日前に梨の木の枝による右眼の外傷後,徐々に眼痛が増強したため,2010年1月12日に国立病院機構高知病院眼科を受診した.初診時,右眼矯正視力は0.15であった.前眼部所見では,右眼耳側の角膜輪部に異物が付着していたため,異物除去後にレボフロキサシンとセフメノキシムによる点眼治療を開始した(図1a).2日後の再診時,前房蓄膿と角膜潰瘍が出現したため,初診時の抗菌点眼薬に加え,エリスロマイシン・コリスチン点眼,トブラマイシン点眼を1時間ごとの点眼とし,セフォゾプラン1g/日の点滴も開始した.しかしながら翌日1月15日の診察では前房蓄膿の改善はなく,角膜裏面に白色の膜様物が出現したため,角膜真菌症を疑って角膜病巣擦過を行ったうえで入院治療を開始することとした(図1b).角膜擦過物のPAS(過ヨウ素酸Schiff)染色では,隔壁のあるやや分枝した菌糸を認めたが分生子は認めなかった(図2a).培養検査は陰性であった.抗真菌治療として,局所は1%ボリコナゾール点眼と5%ピマリシン点眼を1時間ごとに行った.全身はボリコナゾールを初日に体重1kg当たり6mgを1日2回,2日目からは体重1kg当たり3mgを1日2回の点滴とし,1月20日からボリコナゾール400mg/日の内服に切り替えた.抗菌点眼薬は少しずつ減量・中止し1月19日にレボフロキサシン1日4回として他は中止した.抗真菌薬開始2日後,前房蓄膿は消失し,角膜裏面の白色付着物も日ごとに減少した.しかしながら耳側角膜の実質浸潤病巣と角膜上皮欠損に関しては最初はゆっくりと改善してきたものの,やがて遷延化した.抗真菌薬開始10日後の1月25日,虹彩ルベオーシスと高眼圧を認めたため前房洗浄とボリコナゾール前房内投与(0.025%,0.05ml)を施行したが改善はなく,2月4日に角膜実質の浸潤病巣が拡大して2月5日に前房蓄膿が再び出現してきたたabcd図1前眼部所見a:耳側角膜輪部に異物を認める(矢印).b:前房蓄膿と角膜裏面の白色膜様物を認める.c:耳側周辺部と中間周辺部の角膜実質に境界不明瞭な白色浸潤病巣を認める(矢印).d:角膜実質混濁を残して感染症は沈静化している.(95)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011403め,2月5日に町田病院に紹介となった.町田病院の初診時,右眼視力は20cm指数弁(矯正不能)であった.前眼部所見では前房蓄膿を認め,上皮欠損部の角膜実質には浸潤病巣を2カ所認めた(図1c).薬剤性と思われるびまん性の角膜上皮障害も認めた.治療は,角膜擦過で糸状菌が検出されていたことから1%ボリコナゾール点眼を1時間ごとに行う一方,薬剤性角膜障害に対処するため5%ピマリシン点眼から1%ピマリシン眼軟膏に変更し,回数も1日3回に減らした.レボフロキサシン点眼を中止し,モキシフロキサシン点眼を1日4回とした.全身投与は,ボリコナゾール400mg/日の内服を継続した.さらに,町田病院入院時の問診で手足に爪真菌症を認めたため,白癬菌の関与を疑ってテルビナフィン125mg/日の内服を併用した.患者には手指で眼部を触らないように指導した.治療の変更後,2月8日には前房蓄膿は消失し,角膜実質の浸潤病巣も縮小傾向を認めた.さらに,フルオレセイン染色像では上皮欠損部の縮小と薬剤性角膜障害の改善を認めたため,そのままの治療を継続することとした.その後も日ごとに改善を認め,2月20日には2カ所あった角膜浸潤病巣のうち耳側周辺部の病変はほぼ消失し,角膜上皮欠損も消失した.もう1つの角膜浸潤病巣は2月25日の退院時にはほぼ消失した.4月17日の最終受診日の所見は,糖尿病網膜症による黄斑浮腫のため矯正視力は右眼0.03と不良であるものの,角膜は淡い瘢痕を残すのみで真菌症は沈静化している(図1d).爪真菌症を認めたことから,2月10日に国立病院機構高知病院皮膚科に紹介し,第1趾の爪の生検による培養同定と鏡検を依頼したところ,PAS染色にて角膜擦過物の鏡検像と同様の菌糸を認めた(図2b).培養では,PDA(PotatoDextroseAgar)培地に淡い土色のコロニーを形成し,ラクトフェノール・コットンブルー染色による分生子頭の所見からA.terreusと形態学的に同定した(図2c,d).念のため順天堂大学感染制御科学にb-tubulin遺伝子のDNAシークabcd図2真菌コロニーと鏡検像a:角膜擦過物のPAS染色像.隔壁を有する菌糸を認める.b:爪切片のPAS染色像.隔壁を有する菌糸を認める.c:PDA(PotatoDextroseAgar)培地による爪切片の培養.淡い土色のコロニーを認める.d:cのラクトフェノール・コットンブルー染色像.Aspergillusterreusの分生子頭を認める.404あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011(96)エンスによる菌種同定を依頼したが,遺伝学的にもA.terreusと同定された.分離されたA.terreusの各種抗真菌薬の感受性検査を微量液体希釈法で行ったところ,最小発育阻止濃度(MIC)は,アムホテリシンBが1μg/ml,ピマリシンが2μg/ml,ボリコナゾールが0.25μg/ml,テルビナフィンが0.06μg/mlであり,ポリエンマクロライド系のアムホテリシンBとピマリシンには低感受性傾向を示した.II考按爪真菌症はわが国では約10%の罹患率といわれており,まれな疾患ではない2).糖尿病患者では爪真菌症の罹患率が高くなるとの報告もある3,4).最近わが国で行われた爪真菌症の分子疫学的研究では,白癬菌が83.0%,Aspergillus属が25.5%,Fusarium属が17.0%,Candida属が8.5%の検出率であり,非白癬菌性のなかでも特にAspergillus属の単独分離症例は10.6%と比較的多かったと報告されている1).白癬菌と異なり,Aspergillus属は環境に生息する真菌である.本症例の爪真菌症が白癬菌によるものではなく,まれなAspergillus属であったのは,農作業を契機として感染した可能性が考えられた.さらに,宿主側の背景としてコントロール不良の糖尿病がリスク因子となったと考えられた.Aspergillus属のヒト臨床分離株はA.fumigatusが多いといわれているが,non-fumigatusAspergillusと総称されるA.flavus,A.niger,A.terreusもしばしば分離される.近年,侵襲性肺アスペルギルス症においてA.terreusの分離率が1996年の1.5%から2001年の15.4%へと増加傾向にあるといわれており5),わが国においてもA.terreusを含めたnon-fumigatusAspergillusの分離率の増加が報告されているため注意が必要である6).Non-fumigatusAspergillusのうちA.terreusはアムホテリシンBに自然耐性傾向があるといわれている.最近のA.terreus臨床分離株の薬剤感受性検査の報告7)では,平均MICは,アムホテリシンBが1.67μg/ml(範囲0.5.8),ボリコナゾールが1.54μg/ml(範囲0.5.4),テルビナフィンが0.28μg/ml(0.06.1)となっており,アムホテリシンBへの低感受性傾向だけでなく,ボリコナゾールにも低感受性傾向を認めている.本症例のA.terreus分離株も,アムホテリシンBとピマリシンのMICはそれぞれ1μg/mlと2μg/mlであり,ポリエンマクロライド系抗真菌薬に低感受性傾向を示していた.このことは,ピマリシンを減量してボリコナゾール点眼を主とした治療に変更した後,短期間で臨床所見が改善した理由の一つになっていると考えられた.爪真菌症の治療は,局所治療の反応が乏しい場合にイトラコナゾール400mg/日のパルス療法やテルビナフィン125mg/日の連続4~6カ月内服療法が行われる8).このうち,テルビナフィンはアリルアミン系抗真菌薬であり,スクアレンエポキシダーゼを阻害することで真菌細胞膜のエルゴステロール含量を低下させ,静真菌的に作用する.さらに,真菌細胞内にスクアレンを蓄積させることで殺真菌的にも作用する9).テルビナフィンの抗真菌スペクトラムは広く,白癬菌,non-fumigatusAspergillus,Pecilomyces属,Penicillium属などに抗真菌作用を示すが,A.fumigatusやFusarium属には感受性が不良といわれている10).眼科での本剤の使用例としては,Pecilomyceslilacinus角膜炎でボリコナゾールとテルビナフィンの併用が有効であったと報告がある11,12).本症例では,爪真菌症の治療のためにテルビナフィンを処方した.ピマリシン減量と同時にテルビナフィン内服を開始したため,その後の改善にどの程度寄与しているかは明確にできない.しかしながら,本症例のA.terreus分離株におけるテルビナフィンのMICが0.06μg/mlと最も優れていたこと,2カ所あった角膜浸潤病巣のうち輪部血管から近い耳側の病巣から先に改善していることなどから,テルビナフィン内服も有効に働いた可能性がある.抗真菌薬を併用する場合,薬剤間相互作用を考慮する必要がある.テルビナフィンのinvitroでの薬剤間相互作用では,アムホテリシンBやボリコナゾールを含めたトリアゾール系抗真菌薬との併用で相乗または相加作用を認めるとする報告13,14)がある一方,アムホテリシンBとの併用で拮抗作用を示すとする報告15)もある.さらに,ピマリシンとの併用で拮抗作用を示すとする報告もある14).本症例において,ピマリシン減量とテルビナフィン内服の追加によって改善が得られた別の理由として,ボリコナゾールとテルビナフィンの併用が相乗または相加的に働いた可能性も考えられる.しかしながら,薬剤間相互作用は菌種や菌株ごとに異なる可能性があるため,症例ごとに注意深い経過観察が必要である.角膜真菌症では重症例や遷延する症例を経験することも多く,抗真菌薬の全身投与を行う機会も多いと考えられる.本症例においては,ボリコナゾールとテルビナフィンの点滴または内服を行っているが,血液検査において肝腎機能障害などの全身副作用を認めず全身投与を継続することが可能であった.ボリコナゾールとテルビナフィンの全身副作用としては肝障害に特に注意が必要である16,17).さらに,ボリコナゾールの全身投与を行う際は一過性視覚障害についても説明しておく必要がある17).テルビナフィンは注射薬がないため,自家調整点眼薬を使用できないが,角膜真菌症に対する0.25%テルビナフィン点眼の有効性を示した報告18)もあり,今後の臨床応用が望まれる.結論としては,本症例はコントロール不良の糖尿病を背景因子として,農作業を契機に手足のAspergillus爪真菌症を発症したと考えられた.角膜真菌症の直接原因は外傷による真菌の接種なのか,爪真菌症からの接種なのかは明確にできないが,抗真菌薬の治療にいったん反応してから悪化してい(97)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011405ることから,爪真菌症からの持続的な眼部への真菌の供給が疑われた.したがって,角膜真菌症では手指の爪真菌症の有無についても確認する必要がある.最終的な治療として,ピマリシンの局所投与を減量してボリコナゾール点眼の効果を増強させたことが有効に働いたと考えられた.さらに,テルビナフィン内服は爪真菌症の治療だけでなく,ボリコナゾールの相乗効果を期待する補助療法としても有効と考えられたが,眼科領域での有用性についてはさらなる検討が必要である.文献1)EbiharaM,MakimuraK,SatoKetal:Moleculardetectionofdermatophytesandnondermatophytesinonychomycosisbynestedpolymerasechainreactionbasedon28SribosomalRNAgenesequences.BrJDermatol161:1038-1044,20092)仲弥,宮川俊一,服部尚子ほか:足白癬・爪白癬の実態と潜在罹患率の大規模疫学調査(FootCheck2007).日本臨床皮膚科医会雑誌26:27-36,20093)MayserP,FreundV,BudihardjaD:Toenailonychomycosisindiabeticpatients:issuesandmanagement.AmJClinDermatol10:211-220,20094)新井達,小中理会,脇田加恵ほか:糖尿病入院患者を対象とした皮膚症状の調査・検討.日本皮膚科学会雑誌119:2359-2364,20095)BaddleyJW,PappasPG,SmithACetal:EpidemiologyofAspergillusterreusatauniversityhospital.JClinMicrobiol41:5525-5529,20036)田代隆良:肺アスペルギルス症の病態と呼吸器検体より分離されるAspergillus属の臨床的意義.日本臨床微生物学雑誌19:67-75,20097)Lass-FlorlC,Alastruey-IzquierdoA,Cuenca-EstrellaMetal:InvitroactivitiesofvariousantifungaldrugsagainstAspergillusterreus:GlobalassessmentusingthemethodologyoftheEuropeancommitteeonantimicrobialsusceptibilitytesting.AntimicrobeAgentsChemother53:794-795,20098)FinchJJ,WarshawEM:Toenailonychomycosis:currentandfuturetreatmentoptions.DermatolTher20:31-46,20079)DarkesMJ,ScottLJ,GoaKL:Terbinafine:areviewofitsuseinonychomycosisinadults.AmJClinDermatol4:39-65,200310)Garcia-EffronG,Gomez-LopezA,MelladoEetal:Invitroactivityofterbinafineagainstmedicallyimportantnon-dermatophytespeciesoffilamentousfungi.JAntimicrobChemother53:1086-1089,200411)AndersonKL,MitraS,SaloutiRetal:FungalkeratitiscausedbyPaecilomyceslilacinusassociatedwitharetainedintracornealhair.Cornea23:516-521,200412)FordJG,AgeeS,GreenhawST:SuccessfulmedicaltreatmentofacaseofPaecilomyceslilacinuskeratitis.Cornea27:1077-1079,200813)RyderNS,LeitnerI:SynergisticinteractionofterbinafinewithtriazolesoramphotericinBagainstAspergillusspecies.MedMycol39:91-95,200114)LiL,WangZ,LiRetal:InvitroevaluationofcombinationantifungalactivityagainstFusariumspeciesisolatedfromoculartissuesofkeratomycosispatients.AmJOphthalmol146:724-728,200815)MosqueraJ,SharpA,MooreCBetal:Invitrointeractionofterbinafinewithitraconazole,fluconazole,amphotericinBand5-flucytosineagainstAspergillusspp.JAntimicrobChemother50:189-194,200216)原田敬之:各種薬剤の副作用とその予防対策─抗真菌剤の副作用とその対策.臨牀と研究83:1274-1280,200617)松浦正樹,戸澤亜紀,石川悦子ほか:添付文書だけではわからない薬の情報─ブイフェンド.薬局7:2496-2504,200618)LiangQF,JinXY,WangXLetal:Effectoftopicalapplicationofterbinafineonfungalkeratitis.ChinMedJ122:1884-1888,2009***

眼研究こぼれ話 15.医学講義について 生徒が先生を“採点”

2011年3月31日 木曜日

(83)あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011391医学講義について生徒が先生を“採点”バークレイのカリフォルニア大学動物学教室にイーケン教授という友人がいる.この先生は持っている素質と,若いときに受けた舞台役者としての訓練と経験を生かせて,本式のメンデルになったり,ダーウィンに化けたりして,遺伝学や分化論を講義するのである.服装,舞台装置ばかりでなく,言葉もその昔のものを使うのである.講義にあきあきしている学生も,イーケン教授の話には異常なほどの興味を見せたと聞いている.このような,例外的な名教授はさておき,カレッジ級の学校では,講義をする先生は,学生の興味をとらえるために,色々と努力をしている.全般的な知識を教えねばならない教養課程では,先生の質と技術によって,学生の将来を決定することさえある.教えることは,非常に重要な意義を持っているのである.ところが,医学部の学生となると,勉強の仕方は十分に知っているし,予備知識もふんだんに持っているから,だれでも知っているような教科書的なことを話したのでは,学生が相手にしてくれない.そこで,先生の方が頭痛はち巻となるのである.私はハーバード大学で長い間,教壇に立ち,今も,時間数を減らせはしたが,毎年教えているので,その経験を述べてみたい.ハーバード大学医学部では講堂で行われる本式の講義は,普通毎朝8~9時の1時間だけに限られている.学生数の約5倍いる教職員のなかから,数人の学生が選び出されて講義プログラムが作られ,あとの時間は全部小人数単位のセミナーの形で,方々で個々の学生と交わるようになっている.講堂での講義は現在の新しい考え方,特に教授自身の研究産物を披露するのがしきたりとなっていて,すでに教科書に書いてあることなどを話すと,学生からブーを言われるのである.また,たいへんなことは講義のあと,学生が,先生の点をつけることにもなっている.学期の終わり頃,教育委員会から点数が通知され,自分の講義の科学的なメリットももちろんながら,教え方の態度から,技術にいたるまで,細部にわたって批判を受けるのである.点が悪いと,翌年のプログラム編成の際,お声がかからない.20年以上このようなクラスで学生と付き合っていると,他校で教壇に立ったとき,ひどくとまどうことがある.ワシントン市に,最近の学識水準全米0910-1810/11/\100/頁/JCOPY眼研究こぼれ話桑原登一郎元米国立眼研究所実験病理部長●連載⑮▲レンズの細胞を体外で培養していると,細胞が集まって小さいレンズようの小体を作ることがある.これは,京都大学・岡田教授の発見である.この写真は,私の研究所で黄博士の観察したレンズ小体(1,000倍).392あたらしい眼科Vol.28,No.3,2011眼研究こぼれ話(84)ビリより2番目という医学部がある.ここで講義をしたときは,全く壁に向かって話をしているような気がしたことを思い出す.そうして,翌年からは,こちらから招待をお断りした.眼科の専門医となるための資格試験を目指す医者たちの集まる夏季コースがアメリカ全国に2,3ある.普通,高い授業料をとる商業コースである.その一つで,涼しいメイン州の湖畔のカレッジに宿かりをして,150人ばかりの医者が3カ月を過ごすコースがあって,私もそこの教授として,毎年,夏休みを兼ねて行くことにしている.ここでは本当に,ピンからキリまでの学生が集まっていて,専門医試験合格の目的に沿って,箇条書き的な話をパンフレットを追って話して行かねばならない.ここで,うっかりハーバード流の講義をすると,学生の半分はさっさと出て行ってしまう.これも面白くないが,私たちはいい謝礼をもらっているから文句は言えない.講義のあとで,質問に寄って来る学生と,メイン特産のロブスターに舌づつみを打つのである.私の現在働いているNIHは教育機関でないので,学生に対する講義はない.この研究所で歳を重ね,大学での講義をしたことのないような研究者が,黒板の前で,1,2の技術者に向かって高々と講義をしているのを見かける.ハーバードなどでは見られない景色である.少し偉くなると,人に教えたくなる本性の表れかもしれない.私の最近の楽しい思い出は,愛媛大学医学部での講義である.学生たちの輝かしい眼は,ちょうど,ハーバードでのように私を射たのである.昨年,日本を訪れたときの最も楽しいひと時であった.(原文のまま.「日刊新愛媛」より転載)☆☆☆