0910-1810/11/\100/頁/JCOPY素イオン線7)である.このような荷電粒子線には体内に入ってある程度深い位置まで到達するが,その粒子の停止する直前でエネルギーがピークとなり(Braggピーク),その後急速にエネルギーが衰退するという特性がある.このような特性より,体内の深部にある腫瘍に対する治療において,腫瘍にエネルギーを集中させ,かつ周辺組織への障害を少なくするという照射が可能である.荷電粒子線のこのような物理学的な特徴は眼内腫瘍の治療には適するものと思われる.また生物学的効果に関しては,陽子線はg線と比較して1.1倍程度の効果しかないのに対して炭素イオン線ではg線の2?3倍程度の効果があり,細胞周期の影響を受けにくい,腫瘍細胞の虚血による放射線感受性の変化が少ない,などの特徴があり,悪性黒色腫のように,従来放射線治療に対して抵抗性の腫瘍といわれているものに対しても効果が期待できるものと思われる8).このような前提のもとに,脈絡膜悪性黒色腫に対する炭素イオン線治療が行われている.現在のところ脈絡膜悪性黒色腫に対する荷電粒子線の治療としては,世界的にみて,陽子線の治療に関しては数千例を対象とした報告などもみられるまでに普及しており3?5),ヘリウムイオン線に関しての報告もみられる6).炭素イオン線に関しては今のところ日本の独立行政法人放射線医学総合研究所で行われているのみである7).脈絡膜悪性黒色腫に対する炭素イオン線治療に関しては,その照射の方法の確立のために,似たような線量分はじめに成人における,眼球原発の代表的な悪性腫瘍は,脈絡膜悪性黒色腫で,眼科においては数少ない生死とかかわるような疾患である.その発生頻度はかなり人種差はあるとされている.以前の報告では日本人では本腫瘍の発生率が1年間に人口100万人当たり0.3人程度,と報告されていた.白人における同様の統計では発生頻度はその20?30倍である1).その治療に関しては,以前は診断がついたら,眼球摘出というようなことが多かったが,症例の多い欧米では,眼球温存を目的にさまざまな治療が試みられた.現在欧米で行われている眼球摘出以外のおもな治療は,125Iや106Ruなどを用いた小線源治療2),陽子3?5),ヘリウムイオン6),炭素イオン7)などの荷電粒子による治療,gナイフやサイバーナイフによる放射線治療,経瞳孔温熱療法(TTT),強膜側あるいは硝子体側からの腫瘍切除などである.これらの治療の選択に関してはその腫瘍のサイズなども関係している.小線源療法やTTTは腫瘍の厚いものに関しては腫瘍の内部まで効果が及ばないことから適応とはならない.まず重粒子線とは電子よりも大きな荷電粒子を加速して照射する治療法であり,広義には水素の原子核である陽子も含めるが,陽子線治療としてすでに確立した治療であるので,通常重粒子線というときは陽子よりも大きい粒子,すなわちヘリウムイオン以上の粒子線を意味することが多い.実際に脈絡膜悪性黒色腫の治療として報告のあるのは陽子線3?5),ヘリウムイオン線6)そして炭(37)1405*AtsushiMizota,YujiNemoto&HiroyukiKaneko:帝京大学医学部眼科学講座〔別刷請求先〕溝田淳:〒173-0003東京都板橋区加賀2-11-1帝京大学医学部眼科学講座特集●眼の腫瘍¦最近の考え方¦あたらしい眼科28(10):1405?1412,2011ぶどう膜悪性黒色腫に対する重粒子線治療の適応と限界IndicationsandLimitationsofAcceleratedHeavyParticleIrradiationforUvealMalignantMelanoma溝田淳*根本裕次*金子博行*1406あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(38)て照射が決定してからの手順としては,まず直径2mm程度の薄いチタン製のマーカーを強膜に2カ所縫着する.その位置は基本的には,腫瘍に近くかつ照射の妨げにならないような位置である.その後に頭部固定用のマスクを個々の顔に合わせて作る.X線CT(コンピュータ断層撮影)の画像をもとにチタン製マーカーと腫瘍の位置を確認し,照射範囲を決定する.実際の照射室ではマーカーを目印に照射を行う.眼球の固定に関しては実際照射している時間は10秒程度なので,固視点を見ていてもらい,その間に眼球をビデオカメラでモニターしている.眼球運動などが起こった際は照射が瞬時に停止するようになっている.照射は5回分割照射で行われている.照射線量は当初は治験として,70GyE(g線における線量相当)から始め,その後線量を77,85GyEと増加し,その後には60GyEに減少させた.それらのデータをもとに,最終的に先進医療となった時点で,小さな腫瘍(腫瘍の厚さが5mm以内,かつ直径が10mm以内)に対しては60GyEで中くらい以上の大きさの腫布をもちかつ欧米で多数例の治療の報告のある陽子線による治療方法を確立し,そのうえで炭素イオン線照射が行われた.脈絡膜悪性黒色腫の炭素イオン線照射は2001年4月より行われて,2004年4月より先進医療として認可されている.今回このような治療の結果に関して述べる.I照射方法炭素イオン線の照射は前述した独立行政法人放射線医学総合研究所にあるHeavyIonMedicalAcceleratorinChiba(HIMAC)で行われており,全体としては1994年4月から照射が始まり2011年2月までに計5,874例の悪性腫瘍の症例が照射を受けている.脈絡膜悪性黒色腫はその2%程度を占めている.全部のなかで最も多いのは前立腺がんである.II対象および方法2011年2月の時点で炭素イオン線照射治療を受けた脈絡膜悪性黒色腫の症例は109例(109眼)で,毎年10名前後と,あまり大きな変動はない.109例の内訳は男性54例,女性55例で年齢は22?83歳,平均55.0歳である.基本的な照射方法は,それ以前に放射線医学総合研究所で行っていた陽子線治療の方法を基にしている.診断に関してはここでは誌面の関係で省略する.診断がつい表1照射線量の分布60GyE70GyE77GyE85GyE:14(3)例:70(59)例:13例:7例合計104例()内の数字は先進医療として行った症例数.AB図1垂直ビームのみの1門照射法(A)と水平ビームを加えた2門照射法(B)(39)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111407積がみられるが,6カ月後には集積がほぼ消失している.他の症例も同様の経過を示すものが多く,照射直後には網膜?離などが一過性に増悪し時間の経過とともに徐々に吸収していくことが多い(図3).PETでは短期では変化があまりなく,半年から1年で集積が消失する.腫瘍の大きさに関してはあまり変化のないことが多い(図4).何年も経過してから徐々に縮小していく.ただ,まれに腫瘍が急速に小さくなっていく症例(図5)もあり,何らかの遺伝子的な違いがあるのかもしれない.IV照射後の経過ここで炭素イオン線照射後6カ月以上経過した104例(104眼)に関して検討を行った.Eggerらの分類4)で行うとSサイズが3例,Mサイズが6例,Lサイズが67例,XLサイズが28例となる.約70%の症例が70GyEの照射を受けている(表1).瘍に関しては70GyE照射することとなった.治験として行われたのはこのうちの42例である.当然のことながら70GyEの症例が最も多くみられている(表1).少数だが60GyEの症例も少しずつ増えてきてはいる.照射に関しては当初は垂直ビームのみの1門で照射していた(図1A)が,その後緑内障などの合併症を減らす目的で,症例によっては水平ビームも加えた2門照射を行っている(図1B).III具体的症例典型的な症例のMRI(磁気共鳴画像)とメチオニンPET(陽電子放射断層撮影)の経過を図2に示す.照射1カ月後には腫瘍自体は小さくなっていないが,網膜?離が後極部に広範囲にみられる.6カ月後には網膜?離は消失している.腫瘍自体の大きさの変化はほとんどみられない.PETでは照射前,照射1カ月後では強い集ABC図2典型例のMRIとメチオニンPETA:照射前,B:照射1カ月後,C:照射半年後.1408あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(40)とそれより小さい腫瘍で比較してみると5年で転移のない率はXLでは62.8%,それ未満のサイズでは75.4%であった.腫瘍の位置による違いでは,腫瘍が視神経と接しているほうが転移する率が高く,生存率は有意に低い値となっていた.照射による合併症に関しては,皮膚反応や,睫毛消失などがあるが,最も重篤なものは照射による緑内障である.ほとんどが血管新生緑内障であるが,新生血管のはっきりしない症例も存在する.図8に照射後の緑内障の発生頻度を示す.5年の率では全体で36%,特にXLサイズの腫瘍は70%近くの症例で緑内障が発生する.腫瘍の位置と緑内障の発生率の関係は,腫瘍が視神経乳頭に接しているような症例では有意に緑内障の発生率が高くなっている.当初垂直ビームの1門のみで照射を行っている際に緑内障の発生の危険因子を検討したところ,これまでのところ眼球内に局所再発がみられた例が6例あった.そのうち2例は照射野内再発で4例は眼内の照射野外の部位である.再発の判明した時期は12?49カ月,平均29カ月となっていた.眼球摘出に至った症例は再発した6例に加えて血管新生緑内障で眼痛が強くやむなく摘出した3例を加えて計9例である.これらのことをKaplan-Meier生存曲線で検討すると,照射後5年における局所制御率は92.1%となる(図6).脈絡膜悪性黒色種で死亡する症例は他臓器への転移の症例で,転移例の80?90%は肝転移である.過去の報告では,眼球摘出をしても,陽子線などの治療を行っても,生存率に関しては,ほとんど差はないとされている.今回照射した症例の生存率に関しては図7のようになり,5年での生存率は他因死を含めても約80%で,転移もない症例の率は約70%となる.XLサイズの腫瘍ACBD図3典型例の眼底所見A:照射前,B:照射半年後,C:照射1年後,D:照射1年半後.(41)あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111409ACBD図4典型例の眼底所見A:照射前.B:照射1年後.C:照射3年後.D:照射7年後.AB図5急速に腫瘍が縮小した例のMRIとメチオニンPETA:照射前.B:照射3カ月後.1410あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011(42)実で単純にこの数値を鵜呑みにはできない.XLサイズのものでは緑内障の発生率に関しては1門でも2門でも差はみられず,いずれも高い値を示している.照射野に視神経乳頭が含まれることと,前眼部への照射線量が高い,腫瘍が大きいなどの要素が緑内障発生に関係あるというデータが出た9).視神経乳頭への照射に関しては腫瘍の位置により避けえないものであるし,腫瘍の大きさに関しても調整しがたいものであるが,前眼部への照射線量を減らすことに関しては,症例によっては水平ビームを組み合わせた2門で照射することにより可能である(図9).たとえば,Lサイズ以下の腫瘍に関しては1門のみで照射をした場合と,2門で照射した場合とで比較を行ってみると,2門のほうの観察期間がまだ短いため3年の率しか出てはいないが有意に2門のほうが緑内障の発生率は低くなっている(図10).ただし,2門での照射の適応となるものはその部位が,視神経の耳側のものあるいは上下に離れているもの,などのもともとの条件があるので,バイアスがかかっているのは事01224364860728496108120100806040200照射後期間(月)制御率(%)n=104照射野内制御率局所制御率眼球温存率97.0%92.1%92.0%図6照射による局所制御率数字は5年での率を表している.01224364860728496108120100806040200照射後期間(月)生存率(%)n=104Cause-specificOverallMetastasis-freerate81.5%79.3%70.8%図7照射後の生存率数字は5年での率を表している.01224364860728496108120100806040200照射後期間(月)緑内障発生率(%)p=0.000166.8%36.0%26.2%XL(n=29)全体(n=104)S~L(n=75)図8照射後の緑内障の腫瘍サイズ別発生率AB図9腫瘍が耳側にある際の1門照射(A)と2門照射(B)による前眼部への照射される線量の比較あたらしい眼科Vol.28,No.10,20111411視力に関しては前述の緑内障や,網膜症,網膜?離などさまざまな要素が関係しているが,現時点で0.1以上の視力を維持できているのが37例であった.経過観察期間が短いこともあるが,1.0以上の症例も10例あって,それなりに視機能は保持できている.V考按炭素イオン線のデータを他の治療と比較すると,まず全身的な問題,つまり転移に関しては,眼球摘出と眼球温存療法でほとんど差はみられないとされており10),今回の炭素イオン線に関しても同様であると思われる.転移している腫瘍はすべてではないが,染色体異常が関与しているとされている11).また発見された段階ですでに転移している可能性が高いなどともされている.今回は手技の関係からも生検は行っていないので,腫瘍内の染色体異常との関連は不明である.腫瘍局所に対する効果に関しては,小線源治療と比較すると局所再発は少ない12).陽子線治療との比較では,腫瘍の大きさの違いなども関係するが,もともと90%以上と良好な制御率なのでほとんど差はみられない.今回筆者らの症例では腫瘍の大きな症例が他の報告と比較して多くみられたが,同様の大きな症例に対して陽子線治療を行っている結果と比較しても勝るとも劣らない結果である.おわりに以前は眼球摘出しか考えられなかったような,黒色腫に対しての新たな治療の開発により選択肢が広がった.ただし,予後の良い症例も悪い症例もあるが,全身的には摘出と比較して差はなく,眼球温存という整容的な面のみならず,ある程度機能の温存の可能性もある.今回の結果などから,Lサイズ以下の症例で視神経からある程度の距離があり,かつ前眼部への線量が少なくでき,毛様体とも距離があるような中間周辺部で,2門照射のやりやすい,耳側あるいは上方,下方にあるものに関しては非常に良い適応になると思われる.今のところは転移の予防などに対しての有効な方法は報告がない.現在は先進医療とのことで自己負担額が300万円以上となる.今後,近い将来に,転移に対しての有効な予防法や治療法の開発と,本治療が健康保険の対象となることを期待したい.文献1)SinghAD,TophamA:IncidenceofuvealmelanomaintheUnitedStates:1973-1997.Ophthalmology110:956-961,20032)WilkinsonDA,KolarM,FlemingPAetal:Dosimetriccomparisonof106Ruand125Iplaquesfortreatmentofshallow(<or=5mm)choroidalmelanomalesions.BrJRadiol81:784-789,20083)GragodasES,SeddonJM,EganKetal:Long-termresultsofprotonbeamirradiateduvealmelanomas.Ophthalmology94:349-353,19874)EggerE,SchalenbourgA,ZografosLetal:Maximizinglocaltumorcontrolandsurvivalafterprotonbeamradiotherapyofuvealmelanoma.IntJRadiatOncolBiolPhys51:138-147,20015)EggerE,ZografosL,SchalenbourgAetal:Eyeretentionafterprotonbeamradiotherapyforuvealmelanoma.IntJRadiatOncolBiolPhys55:867-880,20036)CharDH,CastroJR,QuiveyJMetal:Heliumionchargedparticletherapyforchoroidalmelanoma.Ophthalmology87:565-570,19807)TsujiH,IshikawaH,YanagiTetal:Carbon-ionradiotherapyforlocallyadvancedorunfavorablylocatedchoroidalmelanoma:aPhaseI/IIdose-escalationstudy.IntJRadiatOncolBiolPhys67:857-862,20078)山本信冶,溝江純悦,長谷川安都佐ほか:頭頸部悪性腫瘍に対する重粒子線治療の途中解析.放射線医学46:345-349,20039)HirasawaN,TsujiH,IshikawaHetal:Riskfactorsfor(43)100806040200緑内障発生率(%)01224364860728496108120照射後期間(月)p=0.00041門照射(n=41)40.6%0%(at3y)2門照射(n=34)図10Lサイズ以下の腫瘍の1門照射と2門照射の緑内障の発生率の違い数字は1門照射では5年で,2門照射では3年での発生率.1412あたらしい眼科Vol.28,No.10,2011neovascularglaucomaaftercarbonionradiotherapyofchoroidalmelanomausingdose-volumehistogramanalysis.IntJRadiatOncolBiolPhys67:538-543,200710)DamatoB:Doesoculartreatmentofuvealmelanomainfluencesurvival?BrJCancer103:285-290,201011)SinghAD,TubbsR,BiscottuCetal:Chromosomal3and8statuswithinhepaticmetastasisofuvealmelanoma.ArchPatholLabMed133:1223-1227,200912)CharDH,PhillipsT,DaftariI:Protonteletherapyofuvealmelanoma.IntOphthalmolClin46:41-49,2006(44)